サイト内検索

検索結果 合計:2881件 表示位置:1 - 20

1.

WHO予防接種アジェンダ2030は達成可能か?/Lancet

 WHOは2019年に「予防接種アジェンダ2030(IA2030)」を策定し、2030年までに世界中のワクチン接種率を向上する野心的な目標を設定した。米国・ワシントン大学のJonathan F. Mosser氏らGBD 2023 Vaccine Coverage Collaboratorsは、目標期間の半ばに差し掛かった現状を調べ、IA2030が掲げる「2019年と比べて未接種児を半減させる」や「生涯を通じた予防接種(三種混合ワクチン[DPT]の3回接種、肺炎球菌ワクチン[PCV]の3回接種、麻疹ワクチン[MCV]の2回接種)の世界の接種率を90%に到達させる」といった目標の達成には、残り5年に加速度的な進展が必要な状況であることを報告した。1974年に始まったWHOの「拡大予防接種計画(EPI)」は顕著な成功を収め、小児の定期予防接種により世界で推定1億5,400万児の死亡が回避されたという。しかし、ここ数十年は接種の格差や進捗の停滞が続いており、さらにそうした状況が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックによって助長されていることが懸念されていた。Lancet誌オンライン版2025年6月24日号掲載の報告。WHO推奨小児定期予防接種11種の1980~2023年の動向を調査 研究グループは、IA2030の目標達成に取り組むための今後5年間の戦略策定に資する情報を提供するため、過去および直近の接種動向を調べた。「Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study(GBD)2023」をベースに、WHOが世界中の小児に推奨している11のワクチン接種の組み合わせについて、204の国と地域における1980~2023年の小児定期予防接種の推定値(世界、地域、国別動向)をアップデートした。 先進的モデリング技術を用いてデータバイアスや不均一性を考慮し、ワクチン接種の拡大およびCOVID-19パンデミック関連の混乱を新たな手法で統合してモデル化。これまでの接種動向とIA2030接種目標到達に必要なゲインについて文脈化した。その際に、(1)COVID-19パンデミックがワクチン接種率に及ぼした影響を評価、(2)特定の生涯を通じた予防接種の2030年までの接種率を予測、(3)2023~30年にワクチン未接種児を半減させるために必要な改善を分析するといった副次解析を行い補完した。2010~19年に接種率の伸びが鈍化、COVID-19が拍車 全体に、原初のEPIワクチン(DPTの初回[DPT1]および3回[DPT3]、MCV1、ポリオワクチン3回[Pol3]、結核予防ワクチン[BCG])の世界の接種率は、1980~2023年にほぼ2倍になっていた。しかしながら、これらの長期にわたる傾向により、最近の課題が覆い隠されていた。 多くの国と地域では、2010~19年に接種率の伸びが鈍化していた。これには高所得の国・地域36のうち21で、少なくとも1つ以上のワクチン接種が減っていたこと(一部の国と地域で定期予防接種スケジュールから除外されたBCGを除く)などが含まれる。さらにこの問題はCOVID-19パンデミックによって拍車がかかり、原初EPIワクチンの世界的な接種率は2020年以降急減し、2023年現在もまだCOVID-19パンデミック前のレベルに回復していない。 また、近年開発・導入された新規ワクチン(PCVの3回接種[PCV3]、ロタウイルスワクチンの完全接種[RotaC]、MCVの2回接種[MCV2]など)は、COVID-19パンデミックの間も継続的に導入され規模が拡大し世界的に接種率が上昇していたが、その伸び率は、パンデミックがなかった場合の予想よりも鈍かった。DPT3のみ世界の接種率90%達成可能、ただし楽観的シナリオの場合で DPT3、PCV3、MCV2の2030年までの達成予測では、楽観的なシナリオの場合に限り、DPT3のみがIA2030の目標である世界的な接種率90%を達成可能であることが示唆された。 ワクチン未接種児(DPT1未接種の1歳未満児に代表される)は、1980~2019年に5,880万児から1,470万児へと74.9%(95%不確実性区間[UI]:72.1~77.3)減少したが、これは1980年代(1980~90年)と2000年代(2000~10年)に起きた減少により達成されたものだった。2019年以降では、COVID-19がピークの2021年にワクチン未接種児が1,860万児(95%UI:1,760万~2,000万)にまで増加。2022、23年は減少したがパンデミック前のレベルを上回ったままであった。未接種児1,570万児の半数が8ヵ国に集中 ワクチン未接種児の大半は、紛争地域やワクチンサービスに割り当て可能な資源がさまざまな制約を受けている地域、とくにサハラ以南のアフリカに集中している状況が続いていた。 2023年時点で、世界のワクチン未接種児1,570万児(95%UI:1,460万~1,700万)のうち、その半数超がわずか8ヵ国(ナイジェリア、インド、コンゴ、エチオピア、ソマリア、スーダン、インドネシア、ブラジル)で占められており、接種格差が続いていることが浮き彫りになった。 著者は、「多くの国と地域で接種率の大幅な上昇が必要とされており、とくにサハラ以南のアフリカと南アジアでは大きな課題に直面している。中南米では、とくにDPT1、DPT3、Pol3の接種率について、以前のレベルに戻すために近年の低下を逆転させる必要があることが示された」と述べるとともに、今回の調査結果について「対象を絞った公平なワクチン戦略が重要であることを強調するものであった。プライマリヘルスケアシステムの強化、ワクチンに関する誤情報や接種ためらいへの対処、地域状況に合わせた調整が接種率の向上に不可欠である」と解説。「WHO's Big Catch-UpなどのCOVID-19パンデミックからの回復への取り組みや日常サービス強化への取り組みが、疎外された人々に到達することを優先し、状況に応じた地域主体の予防接種戦略で世界的な予防接種目標を達成する必要がある」とまとめている。

2.

第250回 高齢者薬物療法ガイドライン10年ぶり改訂、慎重投与薬と開始推奨薬を更新/老年医学会

<先週の動き> 1.高齢者薬物療法ガイドライン10年ぶり改訂、慎重投与薬と開始推奨薬を更新/老年医学会 2.転院搬送GLを改訂、病院救急車・民間搬送活用で救急逼迫緩和へ/厚労省 3.医療差し控えも選択肢、尊厳守る終末期ケアを/日本老年医学会 4.マイナ保険証スマホ対応拡大9月から本格化、導入費用も支援/厚労省 5.医療政策左右する参院選がスタート、診療報酬改定がカギに/日医ほか 6.高齢者世帯が3割超、単身900万世帯に、支援体制構築が急務/厚労省 1.高齢者薬物療法ガイドライン10年ぶり改訂、慎重投与薬と開始推奨薬を更新/老年医学会日本老年医学会は10年ぶりに『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025』を改訂し、「特に慎重な投与を要する薬物」と「開始を考慮するべき薬物」のリストを更新した。主に75歳以上の高齢者や要介護者を対象に、薬物有害事象のリスク軽減を目的とする。新たな知見や800を超える論文を基に改訂され、多職種連携や高齢者総合機能評価(CGA)の活用も重視されている。「特に慎重な投与を要する薬物」には、糖尿病治療で使用が広がるGLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬が追加され、吐き気・下痢・体重減少といった副作用がサルコペニアやフレイルを悪化させるリスクが指摘された。また、ベンゾジアゼピン系睡眠薬や抗不安薬、抗精神病薬、NSAIDs、利尿薬、抗糖尿病薬など28系統が慎重投与リストに含まれる。その一方で、H2受容体拮抗薬はリストから削除された。「開始を考慮するべき薬物」には、COPD治療薬のLAMA、LABA、副作用が少ないβ3受容体作動薬やPDE5阻害薬が追加された。ACE阻害薬やARB、DMARDsは削除された。さらに、「日本版抗コリン薬リスクスケール」が初めて導入され、抗コリン作用を持つ薬剤158種のリスクを3段階で評価。ポリファーマシー対策や服薬支援に役立つ指標となる。ガイドラインでは、患者のADL、認知機能、生活状況を多職種で共有し、処方の見直しや必要最小限の薬物療法への移行を推奨。漫然と処方し続けることによる健康リスクを防ぐことが求められている。医療現場では、薬剤の必要性を常に再評価し、患者個別の状況に応じた柔軟な対応が重要だ。 参考 1) 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025(日本老年医学会) 2) 「日本版抗コリン薬リスクスケール(JARS)WEB版評価ツール」 公開のお知らせ(同) 3) 高齢者に「慎重な投与を要する薬」リスト公表 老年医学会が改定(毎日新聞) 4) 10年ぶりに改訂された「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」、どう変わった?日経メディカル) 2.転院搬送GLを改訂、病院救急車・民間搬送活用で救急逼迫緩和へ/厚労省救急搬送件数が3年連続で過去最多の記録を更新する中、消防庁と厚生労働省は『転院搬送ガイドライン』を改訂し、救急車の適正利用を推進する新たな方針を示した。今回の改訂では、緊急性の低い転院搬送において、医療機関が病院救急車や救急救命士を活用し、医療主導で搬送体制を整備することを明記し、2024年度の診療報酬改定で新設された「救急患者連携搬送料」の活用も促している。一方、消防庁の調査では、民間の患者等搬送事業者による転院搬送が2024年度に35万7,265件となり、前年比11.7%増と大きく伸びた。事業所数も増加し、救急現場の逼迫緩和に一定の効果を示している。消防庁は、患者等搬送事業者の一覧を各消防本部のホームページに掲載するよう周知し、市民への認知度向上にも努めている。限られた救急資源を本当に必要な事案に投入するためには、医療機関・民間搬送事業者・消防の役割分担が不可欠であり、地域ごとの合意形成と搬送体制整備が喫緊の課題となっている。 参考 1) 転院搬送における救急車の適正利用の推進について(厚労省) 2) 転院搬送GL、病院救急車の活用追加 消防庁・厚労省が改訂(MEDIFAX) 3) 患者等搬送事業者の転院搬送、12%増の36万件 24年度 消防庁(CB news) 3.医療差し控えも選択肢、尊厳守る終末期ケアを/日本老年医学会日本老年医学会は6月27日、人生の最終段階における医療・ケアに関する「立場表明2025」を発表した。2001年、2012年に続く改訂で、75歳以上が2,000万人を超える超高齢社会を背景に、「すべての人が最期まで『最善の医療・ケア』を受ける権利を持つ」と明言した。病気や障害を問わず緩和ケアの推進を掲げ、医療やケアの選択は「本人の満足」を基準とすべきと訴えている。年齢による差別(エイジズム)に反対し、がん以外の心疾患、腎不全、認知症などでも緩和ケアの重要性が増していると指摘。とくに認知症では苦痛の訴えが困難なことから啓発の必要性を強調した。人生の最終段階は、病状や老衰が不可逆的で回復困難な状態にあり、医療・ケアチームが本人の意向を尊重した上で、人生の「最終章」と捉えられる場合と定義。本人の尊厳や苦痛への配慮から、医療行為の差し控えや終了も選択肢とし、その判断は安楽死や自殺ほう助とは異なるとした。胃ろうや人工呼吸器の使用については慎重な検討を求める一方で、急変時の治療は「生命の擁護」に必要と位置付けている。 参考 1) 高齢者の人生の最終段階における医療・ケアに関する立場表明2025(日本老年医学会) 2) 病気問わず緩和ケア推進を 人生の最終段階、学会見解(共同通信) 4.マイナ保険証スマホ対応拡大9月から本格化、導入費用も支援/厚労省厚生労働省は、マイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」をスマートフォンで利用できる仕組みの全国展開を進めている。7月から関東15の医療機関で実証実験が始まり、9月以降、環境が整った施設から順次導入される。専用のカードリーダー購入費用は8月から補助され、病院3台、薬局や診療所1台が目安となる。iPhone・Android双方が対応し、スマホ単体での本人確認と資格確認が可能となる。従来の保険証では他人利用や有効期限切れの問題があったが、スマホ化で厳密な本人確認と医療データ活用が期待される。一方、マイナンバーカード本体と電子証明書は2025年から大量の更新期限を迎え、更新忘れによる保険証利用不可や医療機関でのトラブルが懸念されている。政府は次期カードへの切り替えや周知も進め、マイナ保険証の利用率向上と医療DXの推進を目指す。利便性の向上とともに、制度理解と更新手続きの周知が急務となっている。 参考 1) スマホでマイナ保険証利用 医療機関の導入費用補助へ 厚労相(NHK) 2) スマホ搭載のマイナ保険証、受け付け機器導入費を補助 厚労省(日経新聞) 3) スマホを使った「マイナ保険証」の実証実験スタート スマホ1台で保険診療が受けられる(ITmedia) 4) マイナンバーカード2025年問題 迫る2つの期限切れ、何が起きる?(日経新聞) 5.医療政策左右する参院選がスタート、診療報酬改定がカギに/日医ほか2025年7月3日に公示された第27回参議院議員選挙は、医療・介護・福祉の未来を左右する重要な選挙として、医療関係団体が強い関心を寄せている。日本医師会の松本 吉郎会長は「わが国の医療・介護・福祉の未来を問う選挙」と位置付け、診療報酬改定や財源確保の必要性を訴えている。とくに2025年度補正予算や2026年度診療報酬改定に向け、物価高や賃金上昇に対応した医療機関経営の安定化が急務とされている。日本病院会の相澤 孝夫会長も、日病の提言に賛同する候補を積極的に支援する方針を示し、病院経営支援や入院基本料引き上げ、かかりつけ医機能強化を訴えた。また、釜萢 敏氏(日本医師会副会長)が組織内候補として比例区から出馬し、「医療施設の突然の崩壊防止」「医療従事者の処遇改善」に全力を尽くす決意を表明した。一方、政府は「骨太の方針2025」で社会保障費の伸びを一定程度容認しつつも、医療費抑制策を打ち出している。その一環としてOTC類似薬の保険適用除外が検討され、患者負担増加への懸念が高まっている。これに対し医療界からは、必要な治療薬の負担増が患者の健康や生活を脅かすと反対の声が上がっている。今回の選挙には医師資格保持者20人が立候補し、医療・介護・福祉に関する政策が争点となっている。とくに日本医師会の政治団体である日本医師連盟が擁立した釜萢氏は、新型コロナ対応や医療現場の声を政治に届ける実績を持ち、今後は「持続可能な医療提供体制」「限りある財源の公平な配分」に注力するとしている。日医は40万票超の得票を目指し、医療界の結束を呼び掛けている。OTC薬の保険適用除外による国民負担増問題や、診療報酬改定の行方など、参院選後も医療界と政治の関係は緊密な対応が求められる。医師としての視点からも、医療政策と財源確保への理解と関心が重要となる。 参考 1) 釜萢常任理事を次期参議院選挙比例区(全国区)の推薦候補者として擁立することを決定(日医) 2) 日医・松本会長 参院選は「我が国の医療・介護・福祉の未来を問う選挙」 医療財源の確保に決意(ミクスオンライン) 3) 石破政権「医療費改悪」でOTC類似薬が保険適用除外へ 解熱剤は40倍、湿布薬は36倍に自己負担額増加 “安く作れるクスリの保険適用”をなぜやめるのか(マネーポストWEB) 6.高齢者世帯が3割超、単身900万世帯に、支援体制構築が急務/厚労省厚生労働省が発表した2024年「国民生活基礎調査」によると、全国の世帯総数は約5,482万5,000世帯で、65歳以上の高齢者がいる世帯は約2,760万世帯と半数を超え、単身の高齢者世帯は初めて900万世帯を突破し、過去最多となった。とくに75歳以上の高齢者や女性の割合が高く、孤立や生活支援の必要性が指摘されている。一方、18歳未満の子供がいる世帯は約907万世帯と過去最少で、全体の16.6%に止まった。生活が「苦しい」と感じている世帯は全体の6割に上り、子供がいる世帯では64.3%ととくに高く、物価高の影響も背景にある。子育て世帯の母親の就業率は80.9%と過去最高となり、正規雇用34.1%、非正規36.7%と、生活維持のため女性就労が不可欠な状況が鮮明になっている。また、副業・兼業の普及は進まず、実施者は全体の3%に止まっており、労働時間管理の煩雑さが障壁となっている。政府は2026年の労働基準法改正を目指し、労働時間の通算管理の見直しを検討。高齢化、子育て世帯の減少、生活苦、人手不足など、多層的な社会課題が浮き彫りとなっている。 参考 1) 2024(令和6年) 国民生活基礎調査の概況(厚労省) 2) 高齢者世帯 数・割合とも過去最高-厚労省(CB news) 3) 子育て世帯「母親が仕事」8割超す 厚労省調査で過去最高(日経新聞) 4) 65歳以上の「単身高齢者」 初めて900万世帯超える 厚労省(NHK)

3.

高齢者の夜間頻尿、改善のカギは就寝時間か

 夜間頻尿は特に高齢者を悩ませる症状の一つであり、睡眠の妨げとなるなど生活の質(QOL)に悪影響を及ぼすことがある。今回、適切な時刻に規則正しく就寝する生活を送ることで、高齢者の夜間頻尿が改善する可能性があるとする研究結果が報告された。研究は、福井大学医学部付属病院泌尿器科の奥村悦久氏らによるもので、詳細は「International Journal of Urology」に4月26日掲載された。 夜間頻尿は、夜間に排尿のために1回以上起きなければならない症状、と定義されている。主な原因としては、夜間多尿、膀胱容量の減少、睡眠障害が知られている。疫学研究により、夜間頻尿はあらゆる年齢層における主要な睡眠障害の一因であり、加齢とともにその有病率が上昇することが示されている。加齢に伴う睡眠障害の一つの特徴として、就寝時間が早まる傾向がある。その結果、高齢者では総睡眠時間は延長するものの眠りが浅くなり、軽い尿意で覚醒するようになる。しかし、睡眠障害の治療が夜間頻尿の改善につながることを示唆する前向き臨床試験の報告は限られている。このような背景を踏まえ著者らは、就寝時刻を調整することで高齢者の夜間頻尿が改善するという仮説を立てた。 本研究では、睡眠・覚醒活動を測定するウェアラブルデバイスを患者に装着して就寝してもらった。得られた1週間分の就寝時刻、中途覚醒時間のデータから、最急降下法を応用して考案した独自のアルゴリズム(特許出願中)を用いて患者ごとに適切な就寝時刻を決定し、その時刻に就寝する生活を続けることによる夜間頻尿の変化を検証した。解析対象は、2021年4月~2023年12月にかけて、夜間頻尿を主訴として福井大学附属病院とその関連病院を受診した患者33名とした。患者を交互割り付けで4週間毎の介入→非介入群と非介入→介入群の2群に分け、それぞれに対し2週間のウォッシュアウト期間を設けるクロスオーバー試験を実施した。介入期間中は、上記方法で決定した個別の就寝時刻に就寝してもらい、排尿状態は各期間の前後3日に記録した排尿日誌を、睡眠の質はピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)を用いてそれぞれ評価した。主要評価項目は夜間排尿回数(Nocturnal urinary frequency;NUF)の変化量とし、副次評価項目は夜間尿量(Nocturnal urine volume;NUV)、就寝から第一覚醒までの時間(Hours of undisturbed sleep;HUS)、NUV(NUV per hour;NUV/h)、PSQIなどの変化量と設定した。変化量はrepeated measures ANOVAで評価した。 解析対象は、新型コロナウイルス感染症流行に伴う移動制限、生活習慣の変化などの理由により9名を除外した24名となった。対象の平均年齢は79.7±5.6歳であり、男性17名、女性7名であった。介入前の対象群の平均就寝時刻は21時30分で、介入後は22時11分となり、24人中22人が就寝時間を遅らせる結果となった。 介入期間中のNUFは、非介入期間と比較して有意に減少した(-0.90回 vs -0.01回、P<0.01)。さらに、Spearmanの順位相関検定の結果、NUFの変化量と就寝時間の変化量の間には有意な相関が認められた(r=-0.58、P=0.003)。 また非介入期間と比較して、介入期間においてHUSは有意に延長し(62.8分 vs. 12.7分、P=0.01)、NUVは有意に減少した(-105.6mL vs. 4.4mL、P=0.04)。特にHUSまでのNUV/hが有意に減少し(-28.4mL/h vs. -0.17mL/h、P=0.04)、さらにPSQIも有意な改善を認めた(-2.4 vs. 1.2、P=0.02)。 本研究の結果について著者らは、「夜間頻尿を有する高齢者は最適な就寝時刻より早く就寝している傾向にある可能性が高い。しかし、適切な時刻に規則正しく就寝する生活を送ることで、睡眠の質にとって非常に重要な要素であるといわれる『就寝から第一覚醒までの時間』が有意に延長され、これに伴い夜間尿量、特に『就寝から第一覚醒までの時間』における単位時間あたりの尿量が有意に減少し、結果として夜間排尿回数が有意に減少する可能性がある。これらの結果は、就寝時刻の調整が夜間頻尿に対する有効な行動療法となる可能性を示唆している。また、実際の就寝時刻と最適な就寝時刻の差が大きい患者ほど介入の有効性が高い可能性がある」と述べている。

4.

JN.1対応コロナワクチン、発症・入院予防の有効性は?(VERSUS)/長崎大

 2024年度秋冬シーズンの新型コロナワクチン定期接種では、JN.1系統に対応した1価ワクチンが採用された。長崎大学熱帯医学研究所の前田 遥氏らの研究チームは、2024年10月1日~2025年3月31日の期間におけるJN.1系統対応ワクチンの有効性について、国内多施設共同研究(VERSUS study)の第12報となる結果を、2025年6月11日に報告した1)。本結果により、JN.1系統対応ワクチンの接種により、発症予防、入院予防において追加的な予防効果が得られる可能性が示された。 VERSUS studyは、2021年7月1日より新型コロナワクチンの有効性評価を継続的に実施しており、2024年10月1日からはインフルエンザワクチンの有効性評価も開始している。今回の報告のうち、発症予防の有効性評価では、2024年10月1日~2025年3月31日に国内14施設を新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が疑われる症状で受診し、新型コロナウイルス検査を受けた18歳以上の患者を対象とした。また、入院予防の有効性評価では、同期間に国内11施設で、呼吸器感染症が疑われる症状または肺炎像を認めて入院した60歳以上の患者を対象とした。受診時に新型コロナワクチン接種歴およびインフルエンザワクチン接種歴が不明な場合は除外された。新型コロナウイルス検査陽性者を症例群、陰性者を対照群とする検査陰性デザイン(test-negative design)を用いた症例対照研究で、COVID-19の発症および入院に対するJN.1系統対応ワクチンの追加的予防効果を、JN.1系統対応ワクチンを接種していない場合と比較して評価した。JN.1系統対応ワクチンは、mRNAワクチン(ファイザー、モデルナ、第一三共)、組換えタンパクワクチン(武田薬品工業)、レプリコンワクチン(Meiji Seika ファルマ)の5種類が使用された。 主な結果は以下のとおり。【発症予防の有効性】・18歳以上の4,680例(検査陽性者990例、陰性者3,690例)が対象となった。年齢中央値51歳(四分位範囲[IQR]:34~72)、65歳以上が32.7%、男性48.1%、基礎疾患を有する人33.7%。・JN.1系統対応ワクチン接種なしと比較した、JN.1系統対応ワクチン(接種後7日以上経過)の発症予防有効性は54.6%(95%信頼区間[CI]:29.9~70.6)であった。・接種後の日数別有効性は、接種後7~60日では55.5%(95%CI:20.7~75.0)、接種後61日以上では53.5%(95%CI:12.8~75.2)。・年齢別では、18~64歳のJN.1系統対応ワクチン(接種後7日以上経過)の有効性は60.0%(95%CI:11.6~81.9)、65歳以上では52.5%(95%CI:15.9~73.2)。・新型コロナワクチン未接種と比較した場合の有効性は51.5%(95%CI:19.6~70.8)であった。【入院予防の有効性】・60歳以上の883例(検査陽性者171例、陰性者712例)が対象となった。年齢中央値83歳(IQR:76~89)、男性59.0%、基礎疾患を有する人98.3%、高齢者施設入所者29.9%。・JN.1系統対応ワクチン接種なしと比較した、JN.1系統対応ワクチン(接種後7日以上経過)の入院予防有効性は63.2%(95%CI:14.5~84.1)であった。・重症度別のワクチンの有効性は、入院時呼吸不全を伴う患者に限定した場合では68.3%(95%CI:1.1~89.8)、CURB-65スコア中等症以上の患者に限定した場合では53.9%(95%CI:-9.7~80.6)、入院時肺炎がある患者に限定した場合では67.4%(95%CI:7.4~88.5)。・新型コロナワクチン未接種と比較した場合の有効性は72.9%(95%CI:22.8~90.5)であった。 本研究により、既存のワクチン接種歴の有無にかかわらず、JN.1系統対応ワクチンの追加接種が発症および入院予防に対して追加的な有効性をもたらす可能性が示唆された。本報告は2025年5月30日時点での暫定結果であり速報値であるが、公衆衛生学的に意義があると判断され公開された。今後も研究を継続し経時的な評価を行うなかで、公衆衛生学的な意義を鑑みつつ結果について共有される予定。

5.

第248回 骨太方針の「OTC類似薬見直し」診療現場や患者からは懸念の声も/政府

<先週の動き> 1.骨太方針の「OTC類似薬見直し」診療現場や患者からは懸念の声も/政府 2.コロナワクチンの接種の遅れ、孤独感や誤情報、公衆衛生の新たな課題/東京科学大など 3.「かかりつけ医機能」の再設計へ、次期改定で評価を見直し/中医協 4.オンライン診療1.3万施設まで増加、精神疾患が主領域に/厚労省 5.病床転換助成、利用率わずか1%台 延長か廃止かで紛糾/厚労省 6.ハイフ施術でやけど多発、違法エステ横行に警鐘/厚労省 1.骨太方針の「OTC類似薬見直し」診療現場や患者からは懸念の声も/政府政府は、医療費削減の一環として「OTC類似薬(市販薬と成分・効果が類似する医療用医薬品)」の保険適用見直しを検討しており、6月13日に閣議決定された「骨太の方針2025」にその方針が盛り込まれた。自民・公明・日本維新の会の3党が合意し、社会保障費抑制と現役世代の保険料軽減を目的としている。見直し対象は、花粉症薬や解熱鎮痛薬、保湿剤、湿布などで、最大で7,000品目とされる。仮に保険給付から除外されれば、患者の自己負担は数千円~数万円単位で跳ね上がる。とくに慢性疾患や難病患者、小児、在宅患者への影響が懸念されている。日本医師会の松本 吉郎会長は18日の記者会見で、「医療提供が可能な都市部と異なり、へき地では市販薬へのアクセスも困難。経済性を優先しすぎれば、患者負担が重くなり、国民皆保険制度の根幹が揺らぐ」と指摘。医療機関での診療や処方の自由度が制限されることにも懸念を示した。また、現場の開業医からも、「処方薬が保険適用外となれば、治療選択肢が狭まり、医師としての判断が制限される」「市販薬への誘導が誤用や副作用を招きかねない」との声が上がっている。とくに皮膚疾患やアレルギー疾患、疼痛管理においては、治療の中核となる薬剤が影響を受けるとされる。6月18日には、難病患者の家族らが約8万5千筆の署名とともに厚生労働省に保険適用継続を要望。厚労省は「具体的な除外品目は未定で、医療への配慮を踏まえて議論する」としているが、今後の制度設計次第で現場への影響は甚大となる可能性がある。次期診療報酬改定との整合性も含め、制度の動向を注視しつつ、患者支援の観点から声を上げていくことが求められる。 参考 1) 経済財政運営と改革の基本方針2025(内閣府) 2) 市販薬と効果似た薬の保険外し、患者に懸念 医療費節約で自公維合意(日経新聞) 3) 日医会長、3党合意のOTC類似薬見直しに懸念 骨太方針は高評価、次期診療報酬改定に期待(CB news) 4) 「命に関わる」保湿剤・抗アレルギー薬などの“OTC類似薬”保険適用の継続を求め…難病患者ら「8.5万筆」署名を厚労省に提出(弁護士JPニュース) 5) 「OTC類似薬」保険適用の継続を 難病患者家族が厚労省に要望書(NHK) 2.コロナワクチンの接種の遅れ、孤独感や誤情報、公衆衛生の新たな課題/東京科学大など新型コロナウイルス感染症におけるワクチン接種の効果と課題が、複数の研究から改めて浮き彫りになっている。東京大学の古瀬 祐気教授らの推計によれば、2021年に国内で行われたワクチン接種がなければ、死者数は実際より2万人以上増えていたとされる。ワクチン接種の開始が3ヵ月遅れた場合、約2万人の追加死亡が生じた可能性があり、接種のタイミングが公衆衛生に与える影響の大きさが示された。一方、接種を妨げた要因として「誤情報」と「孤独感」の影響が注目されている。同チームの調査では、誤情報を信じた未接種者が接種していれば、431人の死亡を回避できたとの推計もなされている。さらに、東京科学大学らの研究では、若年層のワクチン忌避行動に「孤独感」が強く影響していたことが判明した。都内の大学生を対象とした調査では、孤独を感じる学生は、感じない学生と比べてワクチンをためらう傾向が約2倍に上った。社会的孤立(接触頻度)とは異なり、孤独感という主観的要因がワクチン行動に与える心理的影響が独立して存在することが示された。東京都健康長寿医療センターの研究でも、「孤独感」はコロナ重症化リスクを2倍以上高めるとの結果が示されており、孤独感が接種率の低下だけでなく、重症化リスクの増大にも寄与している可能性がある。今後の感染症対策では、誤情報対策だけでなく、心の健康や社会的つながりを強化する施策が、接種率の向上および重症化予防の両面において重要になると考えられる。次のパンデミックに備えるためにも、若年層に対する心理的支援や信頼形成のアプローチが不可欠である。 参考 1) 若年層のワクチン忌避、社会的孤立より“孤独感”が影響(東京科学大学) 2) ワクチン接種をためらう若者 孤独感が影響 東京科学大など調査(毎日新聞) 3) 接種遅れればコロナ死者2万人増 21年、東京大推計(共同通信) 4) 「孤独感」はコロナ感染症の重症化リスクを高める、今後の感染症対策では「心の健康維持・促進策」も重要-都健康長寿医療センター研究所(Gem Med) 3.「かかりつけ医機能」の再設計へ、次期改定で評価を見直し/中医協厚生労働省は、6月18日に中央社会保険医療協議会(中医協)総会を開き、2026年度の診療報酬改定に向け、「かかりつけ医機能」の診療報酬評価の見直しについて検討した。今年の医療法改正により医療機関機能(高齢者救急・地域急性期機能、在宅医療等連携機能、急性期拠点機能など)報告制度が始まったことを踏まえ、「機能強化加算」や地域包括診療料などの体制評価が現状に即しているかが問われている。厚労省は6月に開かれた「入院・外来医療等の調査・評価分科会」で、医療機関が報告する「介護サービス連携」「服薬の一元管理」などの機能は診療報酬で評価されているが、「一次診療への対応可能疾患」など一部機能は報酬上の裏付けがない点を指摘。これに対し支払側委員からは、既存加算は制度趣旨に適さず、17領域40疾患への対応や時間外診療など実態に即した再評価を求める声が上がった。また、診療側からは、看護師やリハ職の配置要件など「人員基準ありきの報酬」が現場に過度な負担を強いており、患者アウトカムや診療プロセスを評価軸とすべきとの意見も強調された。とりわけリハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算は基準が厳しく、取得率が1割未満に止まっている現状が報告された。今後の改定論議では、「構造(ストラクチャー)」評価から「プロセス」「アウトカム」重視への段階的な移行とともに、新たな地域医療構想や外来機能報告制度との整合性が問われる。かかりつけ医機能の再定義とそれを支える診療報酬のあり方は、地域包括ケア時代における制度の根幹をなす論点となる。 参考 1) 第609回 中央社会保険医療協議会 総会(厚労省) 2) 「かかりつけ医機能」の診療報酬見直しへ 機能強化加算など、法改正や高齢化踏まえ(CB news) 3) 診療側委員「人員配置の要件厳し過ぎ」プロセス・アウトカム重視を主張(同) 4) 2026年度診療報酬改定、「人員配置中心の診療報酬評価」から「プロセス、アウトカムを重視した診療報酬評価」へ段階移行せよ-中医協(Gem Med) 4.オンライン診療1.3万施設まで増加、精神疾患が主領域に/厚労省2025年4月時点でオンライン診療を厚生労働省に届け出た医療機関数が1万3,357施設に達し、前年より2,250件増加したことが厚労省の報告で明らかになった。届け出数は、初診からのオンライン診療が恒久化された2022年以降増加傾向にあり、対面診療全体に占める割合も2022年の0.036%から2023年は0.063%に上昇した。厚労省の分析によれば、オンライン再診では精神疾患の割合が高く、2024年7月の算定データでは「適応障害」が最多で8,003回(9.1%)、次いで高血圧症や気管支喘息、うつ病などが続いた。とくに対面診療が5割未満の施設では、再診での適応障害(22.2%)やうつ病、不眠症など精神科領域の算定が顕著だった。この結果から中央社会保険医療協議会(中医協)の分科会では、「オンラインと対面での診療内容の差異を調査すべき」との指摘もあった。こうした中、日本医師会は6月18日、「公益的なオンライン診療を推進する協議会」を発足。郵便局などを活用した地域支援型の導入モデルを想定し、医療関係4団体や自治体、関係省庁、郵政グループとともに初会合を行った。松本 吉郎会長は「利便性や効率性のみに偏らず、安全性と医療的妥当性を担保した導入が不可欠」と強調し、とくに医療アクセスに困難を抱える地域、在宅医療、災害・感染症時の手段としての有効性に言及した。郵便局のインフラを活用した実証事業も一部地域で始動しており、診療報酬制度の課題、患者負担への配慮、医師会・自治体との連携が今後の焦点となる。 参考 1) オンライン診療に1.3万施設届け出 厚労省調べ、4月時点(日経新聞) 2) オンライン再診、精神疾患の割合が高く 厚労省調べ(CB news) 3) オンライン診療で医産官学の協議会発足 郵便局など活用で連携を強化(同) 5.病床転換助成、利用率わずか1%台 延長か廃止かで紛糾/厚労省厚生労働省は6月19日、医療療養病床から介護施設などへの転換を支援する「病床転換助成事業」の今後の在り方について、社会保障審議会・医療保険部会で実態調査結果を報告した。2008年度に開始され、これまでに7,465床の転換に活用されたが、今後の活用予定医療機関は2025年度末時点で1.4%、2027年度末でも3.0%に止まり、活用実績も病院7.3%、有床診療所3.7%と低迷している。事業延長については委員の間で意見が分かれ、健康保険組合連合会の佐野 雅宏委員らは既存支援策との重複や利用率の低さを理由に廃止を主張。一方、日本医師会の城守 国斗委員は、申請手続きの煩雑さや認可の遅れがネックとなっていると指摘し、当面の延長と支援対象の拡大を提案した。今後、厚労省は部会の意見を整理し、年度内に方針を提示する見通し。地域医療の再編を進める上で、同事業の位置付けと実効性が改めて問われている。 参考 1) 病床転換助成事業について(厚労省) 2) 病床転換の助成事業、活用予定の医療機関1-3% 事業の延長に賛否 医療保険部会(CB news) 6.ハイフ施術でやけど多発、違法エステ横行に警鐘/厚労省痩身やリフトアップ目的で人気を集めるHIFU(高密度焦点式超音波)による美容医療で、違法施術により重篤な被害を受けた事例が再び注目を集めている。2021年に東京都内のエステサロンで医師免許のない施術者からHIFUを受け、重度のやけどを負った女性が損害賠償を求め提訴。2025年6月、エステ側が謝罪し、解決金を支払う形で和解が成立した。厚生労働省は2024年6月、「HIFU施術は医師による医療行為であり、非医師が行うことは医師法違反」と明確化したにもかかわらず、違法施術による健康被害は依然として後を絶たない。美容医療に起因する健康被害の相談件数は2023年度に822件と、5年前の1.7倍に増加。熱傷、重度の形態異常、皮膚壊死などの深刻な合併症が報告されている。こうした背景から、東京・新宿の春山記念病院では、美容医療トラブル専門の救急外来を本格的に開始。美容クリニックと施術情報の事前共有を行うなど、連携体制を整備している。厚労省も、美容医療を提供する医療機関に対し、合併症時の対応マニュアル整備や他院との連携構築、相談窓口の報告を義務化する方向で検討を進めている。医師が美容医療に携わる場合は、医療行為の厳密な定義のもと、適切な説明責任とアフターフォロー体制の構築が不可欠である。また、美容分野に参入する無資格者の排除に加え、トラブル患者の受け皿となる救急医療体制との連携も、今後の制度整備における重要課題となる。 参考 1) 「やせる」美容医療でやけど、エステ店側と和解 被害「氷山の一角」(朝日新聞) 2) 医師以外の「ハイフ施術」でやけど エステサロンと被害女性が和解(毎日新聞) 3) “美容施術 HIFUでやけど” 会社が謝罪し解決金で和解成立(NHK) 4) 美容医療トラブルに特化した救急外来が本格開始 東京 新宿(同)

6.

第267回 ワクチン懐疑派が集結、どうなる?米国のワクチン政策

やはり、トランプ氏より危険だった嫌な予感が的中してしまった。3回前の本連載で米国・トランプ政権の保健福祉省長官のロバート・F・ケネディ・ジュニア氏(以下、ケネディ氏)について言及したが、「ついにやっちまった」という感じだ。前述の連載公開10日後の6月9日、ケネディ氏は米国・保健福祉省と米国疾病予防管理センター(CDC)に対してワクチン政策の助言・提案を行う外部専門家機関・ACIP(予防接種の実施に関する諮問委員会)の委員全員を解任すると発表したからだ。アメリカでは政権交代が起こると官公庁の幹部まで完全に入れ替わる(日本と違い、非プロパーが突如、官公庁幹部に投入される)のが常だが、1964年に創設されたACIP委員が任期途中(任期4年)で解任された事例は調べる限りない模様である。一斉に解任された委員に代わって、ケネディ氏は新委員8人を任命した。このメンツが何とも香ばしい。ある意味、粒ぞろいの人選まず、ほぼ各方面から懸念を表明されているのが、国立ワクチン情報センター(National Vaccine Information Center:NVIC)ディレクターで看護師のヴィッキー・ペブスワース氏と医師で生化学者のロバート・W・マーロン氏の2人である。ペブスワース氏については、所属が「国立」となっているので公的機関のような印象を受けるが、完全な民間団体で従来からワクチン接種が自閉症児を増やすという、化石のような誤情報を声高に主張している。同センターによると、ペブスワース氏自身がワクチン接種で健康被害を受けた息子の母親であるという。マーロン氏は1980年代後半にmRNAの研究を行っていたとされ、今回の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に対するmRNAワクチンの発明者だと自称している。その後は大学で教鞭をとったり、ベンチャー系製薬企業の幹部に就任したりしている。mRNAワクチンの発明者を自称しながら、今回のファイザーやモデルナのワクチンには否定的で、「最新のデータによると、新型コロナワクチン接種者は未接種者に比べて感染、発症、さらには死亡する可能性が高くなることが示されている。そしてこうしたデータによると、このワクチンはあなただけでなく、あなたのお子さんの心臓、脳、生殖組織、肺に損傷を与える可能性があります」などと主張している人物である。どこにそんなデータがあるのか見せてもらいたいが。これ以外でも、mRNAワクチンは若年者で死亡を含む深刻な害悪があると主張するマサチューセッツ工科大学教授のレツェフ・レヴィ氏、コロナ禍中の2020年10月に全米経済研究所が若年者などは行動制限せずに集団免疫獲得を目指すべきと政策提言した「グレートバリントン宣言」の起草者に名を連ねた生物統計学者のマーティン・クルドルフ氏とダートマス大学ガイゼル医学部小児科教授のコーディ・マイスナー氏も含まれている。意味不明な選出もこれだけワクチンを含む新型コロナ対策における亜流・異端のような人物たちが過半数を占め、驚くべき状況である。ACIPはケネディ氏の“趣味”仲間の井戸端会議になり果ててしまったと言ってよいだろう。残るのは元米国立衛生研究所(NIH)の所員で精神科医のジョセフ・R・ヒッベルン氏、元救急医のジェームズ・パガーノ氏、慢性疾患患者向けの治療薬投与システムを開発するベンチャー企業の最高医療責任者(CMO)で産婦人科医のマイケル・A・ロス氏だが、ケネディ氏の志向と合致する前述の5氏と比べれば、この3氏はなぜ選出されたのかも意味不明である。ただ、もともと感染症学や予防医学や公衆衛生学などの専門家に加え、消費者代表を加えてバランスを取っていた以前のACIPとはまったく異なる組織になったことだけは確かである。これから考えれば、昨今国会でキャスティングボードを握り始めた某野党の参議院選比例代表候補者にワクチン懐疑派の候補者が1人含まれているなどという日本の状況は、まだましなのかもしれない(もちろん私自身はそれを許容するつもりはないが)。

7.

COVID-19パンデミック期の軽症~中等症患者に対する治療を振り返ってみると(解説:栗原宏氏)

Strong points1. 大規模かつ包括的なデータ259件の臨床試験、合計約17万例の患者データが解析対象となっており、複数の主要データベースが網羅的に検索されている。2. 堅牢な研究デザイン系統的レビューおよびネットワークメタアナリシス(NMA)という、臨床研究においてエビデンスレベルの高い手法が採用されている。3. 軽症~中等症患者が対象日常診療において遭遇する頻度の高い患者層が対象となっており、臨床的意義が高い。Weak points1. 元研究のバイアスリスク各原著論文のバイアスリスクや結果の不正確さが、メタアナリシス全体の精度に影響している可能性がある。2. 重大イベントの発生数が少ない非重症患者が対象であるため、入院・死亡・人工呼吸器管理といった重篤なアウトカムのイベント数が少なく、効果推定の精度が制限される可能性がある。3. アウトカム評価の不均一性「症状消失までの時間」などのアウトカムは、原著における測定方法や報告形式が不統一であり、統合評価が困難である。その他の留意点1. ワクチン普及の影響は考慮されていない。2. ウイルスのサブタイプは考慮されていない。――――――――――――――――――― 本システマティックレビューでは、Epistemonikos Foundation(L·OVEプラットフォーム)、WHO COVID-19データベース、中国の6つのデータベースを用い、2019年12月1日から2023年6月28日までに公表された研究が対象とされている。当時未知の疾患に対し、様々な治療方法が模索され、そこで使用された40種類の薬剤(代表的なもので抗ウイルス薬、ステロイド、抗菌薬、アスピリン、イベルメクチン、スタチン、ビタミンD、JAK阻害薬など)が評価対象となっている。 調査対象となった「軽症~中等症」は、WHO基準(酸素飽和度≧90%、呼吸数≦30、呼吸困難、ARDS、敗血症、または敗血症性ショックを認めない)に準じて定義されている。 入院抑制効果に関してNNTを算出すると、ニルマトレルビル/リトナビル(NNT=40)、レムデシビル(同:50)、コルチコステロイド(同:67)、モルヌピラビル(同:104)であり、いずれも劇的に有効と評価するには限定的である。 標準治療に比して、症状解消までの時間を短縮したのは、アジスロマイシン(4日)、コルチコステロイド(3.5日)、モルヌピラビル(2.3日)、ファビピラビル(2.1日)であった。アジスロマイシンが有症状期間を短縮しているが、薬理学的な作用機序は不明であること、耐性菌の問題も踏まえると、COVID-19感染を理由に安易に処方することは望ましくないと思われる。 パンデミック当時に一部メディアやインターネット上で有効性が喧伝されたイベルメクチンについては、症状改善期間の短縮、死亡率の低下、人工呼吸器使用率、静脈血栓塞栓症の抑制といったアウトカムにおいて、いずれも有効性が認められなかった。 著者らは、異なる変異株の影響は限定的であるとしている。COVID-19に対する抗ウイルス薬の多くはウイルスの複製過程を標的としており、株による薬効の変化は理論上少ないとされる。ただし、ウイルスの変異により病原性が低下した場合、相対的な薬効の低下あるいは見かけ上の効果増強が生じる可能性は否定できない。 本調査は、非常に多数の研究を対象とした包括的なシステマティックレビューであり、2019年から2023年当時におけるエビデンスの集約である。パンデミックが世界的に深刻化した2020年以降と、2025年現在とでは、COVID-19は感染力・病原性ともに大きく様相を変えている。治療法も、新薬やワクチンの開発・知見の蓄積により今後も変化していくと考えられるため、本レビューで評価された治療法はあくまでその時点での知見に基づくものであることに留意が必要である。

8.

第266回 尾身氏の「コロナ総括」が話題、その裏にあるTV出演の真意とは

尾身氏、とんだところに出演!?新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)が感染症法の5類に移行してから2年以上が経過した。「はや2年」と考えるか、「まだ2年」と考えるのかは人それぞれだろうが、私はどちらかと言えば後者である。ただ、より具体的に言うと、「まだ2年にもかかわらず、もっと昔のことのように捉えてしまっていた」のが実際だ。そんな最中、久しぶりにここ数日、この話題にかなり引っ張られた。というのもSNSで、かつて内閣官房の新型インフルエンザ等対策推進会議に置かれた新型コロナウイルス感染症対策分科会会長だった尾身 茂氏(現・公益財団法人結核予防会 理事長)が話題になっていたからだ。尾身氏は6月8日に放送された読売テレビの「そこまで言って委員会NP」の「新型コロナ総括」と題する番組に出演。そこでコロナ禍時代を振り返った出演者との議論に一部の人たちがかなり“過剰”反応したことがきっかけである。まず、SNS上ではどう話題になったかざっくり書くと、尾身氏が新型コロナワクチンに関して「感染予防効果がない」「若者は打つ必要がない」と言ったというのだが、これだけでは何ともわからない。実際の出演コメントをチェックそこで該当の放送が視聴できる民放公式テレビ配信サービス「TVer」で同番組を視聴した。件の発言は経済ジャーナリストの須田 慎一郎氏の「コロナワクチンの安全性はどの程度?」という疑問に対し、答えたものだ。より正確に引用すると以下のようになる。「私の私見を申し上げると、まず有効だったかどうかということを結論から言うと、感染防止効果、感染を防ぐ効果は残念ながらあまりないワクチンです。これリアリティです。だから、ワクチンをやったら絶対感染しないという保証はないし、実際に感染した人が多い。これは感染防止効果ですね。じゃあ今度もう1つの有効性の分野は、重症化・死亡をどれだけ防ぐのかってありますよね。(グラフを提示しながら)70代、80代、90代以上を見ると、グラフの縦線1回も打たなかった人。これを見ると明らかで、わかる通り、たくさん打った、5回打った人の死亡率は圧倒的に(低い)。これは埼玉県のデータですが、これは全国的に一緒」ここで示されたのは埼玉県新型感染症専門家会議で公表された資料である(同資料の「新規陽性者の致死率[ワクチン接種の有無・年齢別]」)。まず、率直に言ってこの尾身氏の発言に私はまったく違和感がない。より厳密に言えば、新型コロナに対するmRNAワクチンの感染予防効果は、デルタ株までは一定程度保たれていたがオミクロン株以降、急速に低下した。ただし、現在も“mRNAワクチンによる重症化予防効果が認められている”というのが一般的な見解であり、これ自体もごく当然の発言と言える。もっともSNS上では、変異株ごと有効性の変化や「あまりない」がすっ飛ばされ、「感染予防効果はなかった」という単純化された言説がワクチンに懐疑的な人を中心に鬼の首でも取ったように出回っているのが実態である。個人的には「今さら」感が強い話である。一方、若年者に対するワクチン接種については、どう言及したか?「それはもう私は私見だけじゃなくて、これは分科会の会長として公に何度も言っています。途中からこれは若い人は感染しても重症化しないし、比較的副反応が強いから、これについては、まあ本人たちがやりたいんならどうぞと」これについては出演者から「そのアナウンスは聞かなかったなあ」との発言が飛び出したが、尾身氏は「それはわれわれの記者会見では何度も言ってる。だけどテレビのなんとかショーでは、それをほかのほうをやるからということは結構(あった)。まあ、そのことはこれ以上言ってもしょうがないんで、ま、ファクトとして、それは私としては何度も言っている」と応じた。メディアが報じていない?発信しているメディアを見ていない?実はこちらの発言に関しては、私も出演者と同じく「えっ、言ってたっけ?」との感想である。もっとも自分自身、分科会や新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの発信内容をすべて追えていたわけではないので何とも言えない。むしろ報道あるいは情報発信の難しさを改めて思い知らされた一件でもある。私自身各所で書いたことがあるが、SNS上などでよく目にする「メディアは報じない」という事象は、実際には報じられていながら、そう発信した人が情報収集の対象とするメディアの範囲内で発信されていなかっただけということがよくある。ちなみにそれすらもない場合は、多くのメディアが報じるだけの高い価値がないと判断した場合である。もっともこの若年者のワクチン接種についての尾身氏の発言は、丁寧に読めば、若年者に対する新型コロナワクチンの必要性を否定しているわけではなく、“希望者は任意で接種すればよし”というプライオリティ的な問題でもある。ただ、これがSNS上では尾身氏が若年者に新型コロナワクチンは必要ないと認めたと喧伝されてしまっている。アウェーで情報を発信する意義「SNS上では日常茶飯事」と言えばそれまでだが、この件で私が気になったのは、一部の医療従事者が「あんな番組に出るから…」的な意見を発信していることだ。気持ちはわからなくもない。実際、今回の番組は新型コロナワクチンに懐疑的な出演者も一部おり、尾身氏にとって明らかにアウェーな場である。しかし、コロナ禍を通じ一定の社会分断が起きた現実を踏まえ、今後のパンデミック対策の在り方を考えるならば、ある程度はアウェーな場所も含め専門家が一般向けにしつこく発信を続ける必要性があると私は感じている。「言っても通じない」「○○なやつは放置」が、実は後々重大な結果を招くことを私自身は経験している。あえて具体名を出すが、故・近藤 誠氏による「がんもどき理論」である。ベストセラーとなった同氏の著書「患者よ、がんと闘うな」の出版直後、今の日本臨床腫瘍学会の前身である日本臨床腫瘍研究会に近藤氏が招かれ、当時の一線のがん専門医にパネルディスカッションでフルボッコにされるシーンを当時20代の記者だった私は目にした。これ以後、がん専門医から近藤氏の主張に真っ向から対決する意見は、私の記憶では一定期間なかったように思う。当時、私自身は複数のがん専門医に近藤氏が「がんもどき理論」を主張し続けることをどう思うか尋ねたが、皆一様に「かまうだけ無駄」との意見だった。中には「今度その名前を口にしたら出入り禁止にするぞ」とまで凄んだ専門医までいたが、私があえて尋ねたのは、若輩者ながらすでにこの時点で「ヒトは発信量が多い対象の言うことを真に受けがちである」と感じていたからだ。ナチス・ドイツの宣伝大臣だったヨーゼフ・ゲッベルスの言葉を借りれば「嘘も百回言えば真実となる」なのだ。そして2010年代後半に突如複数の近藤氏を批判する本が出版されたことを考えれば、この間の「がんもどき理論」信者のエコーチェンバー現象が医療現場では必ずしも無視できない状況となったことを強くにおわせるし、実際、私自身そうした話を何度も耳にした。もちろんワクチンに懐疑的な人たちの中には話しても無駄な人がいるのは確かである。だが、懐疑的な人たちの周囲には一定の動揺層がいる。医療者が懐疑的な人たちを単純に放置し続ければ、将来起こるかもしれないパンデミック時に大きな障害になることは必定だ。その意味で今回の尾身氏のテレビ出演は、切り取られリスクを考慮しても英断であると個人的には考えている。

9.

コロナワクチン、デマ対策より「接種開始時期」が死亡者数に大きく影響か/東大

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにおいて、世界中でさまざまな誤情報が拡散した。ワクチンの有効性や安全性に関する内容も多く、これらの誤情報がワクチン忌避につながったことが多くの先行研究で報告されている。東京大学国際高等研究所新世代感染症センターの古瀬 祐気氏と東北大学大学院医学系研究科の田淵 貴大氏の研究グループは、ワクチンに関する誤情報が、日本における新型コロナワクチン接種率およびCOVID-19による死亡者数に及ぼした影響について、数理モデルを用いた反実仮想シミュレーションによって解析した。その結果、誤情報対策による接種率の変動よりも、ワクチン導入のタイミングが、死亡者数抑制により大きな影響を与えた可能性が示された。本結果はVaccine誌2025年6月20日号に掲載。 本研究では、COVID-19感染者数、年齢層別ワクチン接種率、ワクチンの有効性、SARS-CoV-2変異株の種類といったデータを用い、COVID-19による死亡者数を予測する数理モデルを開発した。次に、「ワクチン接種記録システム(VRS)」と、2021年9~10月に15歳以上の3万1,000例を対象にオンラインで実施されたアンケート調査「日本における新型コロナウイルス感染症問題および社会全般に関する健康格差評価研究(JACSIS)」1)のデータを再解析した。 コロナワクチンは、2021年2月より医療従事者を対象に、4月より高齢者や基礎疾患のある人を対象に、6月より12歳以上のすべての人を対象に接種開始された。誤情報対策の失敗と成功の想定や、ワクチン導入タイミングの反事実シナリオを設定し、オミクロン株出現前の2021年1月1日~12月7日の期間において、数理モデルでCOVID-19による死亡者数の予測シミュレーションを行った。 主な結果は以下のとおり。・2021年の日本では、COVID-19による死亡者数は累計1万4,994例であった。2021年末時点での日本全体のワクチン接種率は83.4%であった。数理モデルのシミュレーションにより、実際のワクチン接種で死亡者数が3万117例回避されたことが示された。・ワクチンに関する7つの誤情報を信じているかについて、ワクチン受容者の8.5%、ワクチン忌避者の36.6%が少なくとも1つの誤情報を信じていた。・誤情報対策が失敗した場合、ワクチン接種率は83.4%から76.6%に低下し、死亡者数は1,020例増加した可能性がある。・誤情報対策が成功した場合、ワクチン接種率は83.4%から88.0%に上昇し、死亡者数は431例減少した可能性がある。・ワクチン接種開始が3ヵ月遅れていた場合、死亡者数は2万2,216例増加した可能性がある。・接種開始が3ヵ月早まった場合、死亡者数は7,003例減少した可能性がある。 著者らは本結果について、日本では2021年末までにワクチン接種率が比較的高かったため、誤情報管理を改善して接種率をさらに上昇させることによる死亡率への影響は、接種開始時期の変更による影響と比較して限定的であったと述べている。一方で、ワクチン接種開始が3ヵ月早ければ、COVID-19による死亡者数は半減した可能性も示唆された。誤情報対策による死亡者数の変動も決して無視できる数ではなく、パンデミックにおけるこれらの要因分析の重要性を強調している。

10.

がん患者のワクチン接種率を上げるカギは医療者からの勧め/日本がんサポーティブケア学会

 第10回日本がんサポーティブケア学会学術集会において、国立がん研究センター東病院の橋本 麻子氏は「がん患者を対象としたワクチン接種に関する2年間のアンケート調査」の内容をもとに、がん患者におけるワクチン接種の実態と課題について発表した。低い肺炎球菌、帯状疱疹のワクチン接種率 がん患者は、治療や疾患の進行に伴って免疫機能が低下していることが多く、感染症予防は非常に重要である。そのため、学会などでも季節性インフルエンザ、肺炎球菌、帯状疱疹、新型コロナウイルスワクチンの定期接種が推奨されている。 2023年および2024年に実施されたアンケート調査の結果から、がん患者のワクチン接種状況が明らかになった。がん種は乳がん、肺がん、大腸がん、その他さまざまながん患者が含まれていた。 ワクチン接種率(インフルエンザ、肺炎球菌、帯状疱疹、新型コロナウイルスのいずれかを接種したことがある患者)は2023年、2024年とも約9割にのぼる。しかし、内訳を見ると、インフルエンザワクチンは約50%、新型コロナワクチンは約60%の接種率を示しているものの、肺炎球菌ワクチンは約20%、帯状疱疹ワクチンは5%以下にとどまっている。医療者からの推奨が、がん患者のワクチン接種行動につながる 医療者からワクチン接種推奨があったかについて尋ねたところ、2023年、2024年とも約20%の患者が推奨があったと回答した。推奨者は、がん担当医が6〜7%、かかりつけ医が9〜10%で、かかりつけ医のほうが多かった。 ワクチンを推奨された患者が、その後ワクチン接種に至った割合は全体で80〜100%であった。インフルエンザワクチンを推奨された患者の接種率は76.2%、推奨されていない患者の接種率は10.4%であった。肺炎球菌ワクチン、帯状疱疹ワクチンともに推奨されていない患者に比べ、推奨された患者で高く、医療者からのワクチンの推奨は接種行動につながることが明らかになった。 また、家族など同居者の感染は患者の感染症発症に影響するため、同居者のワクチン接種も重要である。今後は多職種が連携し、がん患者および家族へのワクチン接種を推奨できるよう、医療者の教育の啓発継続も課題である。

11.

軽症~中等症COVID-19、40種の薬物療法を比較/BMJ

 非重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する40種の薬物療法のうち、ニルマトレルビル/リトナビルとレムデシビルは入院を減少させる可能性が高く、コルチコステロイド全身投与とモルヌピラビルは、この2剤ほどではないが同様の効果を有する可能性があり、アジスロマイシンなどは、症状の解消までの時間を短縮する可能性が高いことが、カナダ・McMaster UniversityのSara Ibrahim氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2025年5月29日号に掲載された。薬物療法の無作為化試験のネットワークメタ解析 研究グループは、軽症または中等症COVID-19の治療薬の有効性を比較する目的で、系統的レビューとネットワークメタ解析を行った(カナダ保健研究機構[CIHR]の助成を受けた)。 データの収集には、Epistemonikos Foundationが運営するCOVID-19 Living Overview of Evidence Repository(COVID-19 L-OVE)の、2023年1月1日~2024年5月19日のCOVID-19関連論文の公開・更新型のリポジトリを用いた。また、WHOのCOVID-19データベース(2023年2月17日まで)と中国の6つのデータベース(2021年2月20日まで)も検索した。 解析には、COVID-19の疑い例、その可能性が高い例、あるいは軽症または中等症のCOVID-19と確定された例を対象とし、薬物療法または標準治療かプラセボに割り付けた無作為化試験を含めた。アジスロマイシンで症状解消が4日短縮 軽症または中等症COVID-19患者において薬物療法の有効性を評価した259件(16万6,230例)の無作為化試験のうち、187件(72%)を解析の対象とした。 標準治療と比較して、次の2つの薬剤で入院を減少させる可能性が高かった。入院患者数を最も強く抑制したのはニルマトレルビル/リトナビル(1,000例当たり24.99例減少[95%信頼区間[CI]:-27.86~-20.19]、エビデンスの確実性:中)であり、次いでレムデシビル(20.93例減少[-27.79~-6.69]、中)であった。 コルチコステロイド全身投与(1,000例当たり15.99例減少[95%CI:-23.93~-2.63]、エビデンスの確実性:低)とモルヌピラビル(9.82例減少[-16.66~-2.28]、低)でも、入院数を減少させる可能性が示唆された。 また、標準治療に比べ、症状解消までの時間を最も大きく短縮させる可能性が高かったのはアジスロマイシン(平均群間差:4.060日短縮[95%CI:-5.270~-2.580]、エビデンスの確実性:中)であった。モルヌピラビル(2.340日短縮[-3.450~-1.070]、高)、コルチコステロイド全身投与(3.480日短縮[-5.320~-1.050]、中)、ファビピラビル(2.170日短縮[-3.150~-1.080]、中)、umifenovir(2.410日短縮[-3.850~-0.710]、中)でも、症状の持続時間を短縮する可能性が高かった。 ドキシサイクリンは、入院日数を標準治療より1.33日(95%CI:-2.63~-0.03)短縮する可能性が高かった(エビデンスの確実性:中)。異なる変異株の影響は考えにくい 標準治療と比較して、ロピナビル/リトナビル(1,000例当たり41.46例増加[95%CI:15.1~68.29])のみが、投与中止に至った有害事象のリスクが高かった。また、ロピナビル/リトナビルでは、入院日数を標準治療より1.77日(95%CI:0.340~3.190)延長するリスクがみられた。 他のアウトカム(死亡、機械換気導入、静脈血栓塞栓症、臨床的に重要な出血)への影響に関しては、いずれの薬剤もエビデンスが不確実で、標準治療と比較して明確な有益性を示す薬剤は認めなかった。 著者は、「本研究は、COVID-19の世界的流行のさまざまな段階における試験を対象としており、その多くはワクチン導入前の、COVID-19のアウトカムがより不良な時期に実施されている」「解析の対象となった試験には、COVID-19の異なる変異株に感染した患者が含まれているが、われわれの知る限り、ウイルスの亜型が本研究に含まれる薬剤の効果修飾因子であるという十分なエビデンスはないため、これが今回の結果に重大な影響を及ぼしたとは考えられない」としている。

12.

第265回 経験して実感、「副作用情報」の重要性と報告方法

「薬には主作用とともに副作用が付き物」とよく言われるが、よほど頻度が高い副作用でもない限り、未経験か経験しても気付いていない人がほとんどだろう。かく言う私の場合、ワクチンの副反応まで含めると、過去に経験したのは抗ヒスタミン薬による眠気、帯状疱疹ワクチンや新型コロナワクチンによる発熱ぐらいだ。副作用の範疇ではないが、禁煙補助療法中に薬剤師から「決して空腹中に服用しないでください」と注意を受けたバレニクリン(商品名:チャンピックス)を大したことはないだろうと勝手に思い込んで起床後の空腹時に服用し、強烈な胸やけに襲われ、ベッド上でのたうちまわったことがある。用法を念押しされた薬そのような私が最近、日常生活に支障を来すような「副作用」を経験した。きっかけは父親の介護のため、ゴールデンウイーク中に地元仙台に戻った時のことだ。椅子に座っていると左膝頭を中心に大腿~下腿の中ほどまで「まるで筋が詰まったような違和感」「電気ショックのような瞬間的な痛み」を感じたのだ。当初は一過性のことと高をくくっていたが、2日経っても改善せず、近所のドラッグストアでアセトアミノフェンを購入して服用した。それで幾分かは改善したが、違和感は消えない。結局、翌日にイブプロフェン配合の消炎鎮痛薬も購入し、併用することにした。立位や歩行時に症状はないが、薬の効果が薄れた時の座位では明確に違和感がある。こうなると仕事をするのも食事をするのもなかなか大変である。薬で症状を抑えながらようやく仕事を続け、ときどき横になるという生活が続いた。もっとも薬で抑え込んで逃げ切ろうとは思っておらず、きちんと原疾患特定のために受診は必要だと思っていたが、東京に戻ってからと決めていた。そして近所の整形外科を受診し、X線写真も撮影したうえで下された診断が「腰椎椎間板ヘルニア」。医師いわく、「おそらく長年の姿勢の悪さと筋トレの過大な負荷が原因」と言われた。ちなみに問診時には、筋トレ直後に似たような痛みを一過性で感じたことがあったと伝え、具体的な筋トレメニューも伝えた。どうやらレッグエクステンションマシン*で60kgの重量を用いていたことが私の体格(身長167cm、体重61kg)には過大だったらしい。*主に太ももの前側にある大腿四頭筋を鍛えるためのマシントレーニング器具とりあえず筋トレは当面中止で、コルセット着用と2種類の内服薬が処方された。そのうち1種類は「服用は寝る前ね。これ間違わないように」と厳しく念を押された。それは非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)のセレコキシブ(商品名:セレコックスほか)と神経疼痛治療薬のプレガバリン(商品名:リリカほか)で、医師に「就寝前に」と厳しく言い渡されたのは後者である。当時、処方を拒まれ続けた疼痛治療薬もちろんこの薬のことは、私も一通り以上に知っているつもりだ。実は私の父に関係して因縁のエピソードがある。いまから約10年前のことだ。当時70代だった父親が帯状疱疹を発症し、そのまま帯状疱疹後神経痛(PHN)に悩まされた。私は当時東京にいたが、母親が1日おきに私に「何とかならないものか」と電話をしてきたほどだ。母親に事情を聞くと、近所のかかりつけ医からはジクロフェナク(商品名:ボルタレンなど)は処方されているが、痛みが軽減した様子がないという。ちなみに当時の父親はADLも認知機能も保たれていた。この時、私は発売されて5年ほどのプレガバリンの話を伝え、かかりつけ医に処方を検討してもらうよう伝えてみてはどうかと提案した。しかし、母親によると、主治医からは「めまい・ふらつきの副作用頻度が高いので高齢者には使いたくない」と言われたという。確かに承認当時の国内第III相試験の結果でも、浮動性めまいの頻度が28.6%はあったので、かかりつけ医の言うこともわからなくはなかった。それから数日間、父親はジクロフェナクを服用しながら痛みを訴え続け、結局、ある深夜に痛みに耐えかねた父親の叫び声を聞いた近所の人が駆け付け、救急車で総合病院に搬送された。搬送先の当直医も、やはり「プレガバリンは使いたくない」とのことで、ロキソプロフェン、アセトアミノフェン、ラベプラゾール、レバミピド、ガバペンチン、ゾルピデムが処方された。この時、ここまでして処方を避けられる薬なのだから相当な副作用なのだろうと思った。ただ、当直医から「日中はペインクリニックの担当医がいるので、可能ならば受診してみてほしい」との提案があり、翌々日に再受診すると、ようやく最小用量のプレガバリンが処方され、父親を悩ませていたPHNは直後からピタリと治まった。プレガバリンの服用開始から1週間で処方薬は同薬単剤になり、さらにそれから2週間後にそれも中止となった。懸念されたふらつきやめまいの症状もなかった。これは…副作用?さてそんなこんなもあり、自分が服用するとなるとやや緊張した。初日就寝前に服用し、起床後にふらつき・めまいはなかった。が、実はすでに初日から異変はあった。私は元来寝つきもよく、6~7時間の睡眠で中途覚醒はほぼ経験がない。夜中にトイレに起きるのも年2回くらい。ところが、いつもの睡眠時間を念頭に目覚まし時計をかけても、朝にアラームに反応して目は一旦開くのだが、あっという間に目が閉じてしまう。最終的にすっきり目覚めるのはベッドに入ってから8~9時間後。つまり睡眠時間が1~2時間伸びてしまっているのだ。フリーランスの身でこの生活パターンは、実は業務時間が減るため意外とダメージが大きい。服用開始3日目には中途覚醒を経験し、以後、毎日ベッドに入ってから約4時間で中途覚醒が起こるようになった。その一方で椎間板ヘルニアの痛みはかなり沈静化していた。1週間後に主治医にこのことを伝えると、その瞬間、「ぼーっとするならプレガバリンは止めましょう」と言われ、あっさりセレコキシブ単剤へと変更された。そしてその処方箋を薬局に持っていくと、薬剤師からはプレガバリンが外された理由を尋ねられた。医師に伝えた内容をそのまま伝えると、薬剤師が「中途覚醒ですか? ちょっと待ってください」と調剤室に入っていった。どうやらPCで添付文書情報を確認したらしい。そのうえで「不眠症1%以上と記載されていました。正直、私も不勉強で知りませんでした。ありがとうございます」と言われた。これで1件落着と言いたいところなのだが、実はこの中途覚醒、その後1週間ほど引きずった。当初は半ば気のせいだろうと思っていたが、添付文書を精読したら「本剤の急激な投与中止により、不眠、悪心、頭痛、下痢、不安及び多汗症等の離脱症状があらわれることがあるので、投与を中止する場合には、少なくとも1週間以上かけて徐々に減量すること」と記載されていた。ということは、気のせいとも言い切れないだろう。副作用報告は未来の「ポジティブ情報」父親にとっては救世主だった薬が、私にとっては“功罪半ば”というのも不思議なものである。それとともに医療者はこういう事例には日常的に接しているのだろうが、副作用事例として報告されているのは氷山の一角なのだろうとも改めて思った。これは別に医療者を責めているわけではない。一般論としての各薬剤の副作用の種類とその頻度を把握しておけば、診療上ほぼ問題はないだろうし、細かな副作用すべてを報告していたら医療者は身が持たないはずだ。とはいえ、副作用として報告されない事例も含めれば、一般的に各薬剤で知られている副作用の頻度は相当変わるのではないだろうか? ということで、医療者や製薬企業のMR任せにせず、私は医薬品医療機器総合機構(PMDA)の「患者副作用報告」にオンラインで届け出た。別にプレガバリンが憎いわけではない。よく医薬品情報に関して「ポジティブ情報」「ネガティブ情報」という言葉が使われる。前者は有効性を示す研究報告などで、後者は副作用など安全性に関わる情報を指すが、実は私はこの言葉が大嫌いである。未知や重篤な副作用は、それに遭遇した患者にとってはたまったものではないが、「どんな人に投与してはいけないか」の情報こそが医薬品の適正使用に必須である。前述した「ネガティブ情報」こそが、究極の「ポジティブ情報」であると私個人は考えている。「n=1」「蟷螂之斧」に過ぎないかもしれないが、今回は改めて医薬品との付き合い方を考える機会となった。

13.

第14回 新型コロナ「NB.1.8.1」を世界各地で確認、症状や重症化リスクは?

最近の中国での感染者急増に関与しているとされる新型コロナウイルス(COVID-19)の新たな変異ウイルス「NB.1.8.1」が、米国内の複数箇所で確認されたと報道されています1)。米国での最初の症例自体は、2025年3月下旬から4月上旬にかけて、空港の国際線到着客を対象としたスクリーニング検査で検出されていました。米国疾病予防管理センター(CDC)は、中国でのNB.1.8.1の症例報告を認識しており、国際的な連携を取り合っていると述べています。NB.1.8.1の症状と感染伝播新たな変異ウイルスNB.1.8.1に関連する症状は、これまでのコロナで見られたものと「広範に類似している」とされています。具体的には、咳や喉の痛みといった呼吸器系の問題や、発熱、倦怠感などの全身症状が一般的に報告されています。喉の痛みがこれまでより強いと伝える医師たちもいます。気になる重症化リスクについては、「NB.1.8.1が以前の変異ウイルスと比較して、より重篤な疾患を引き起こすというデータはないが、感染がより容易に広がる可能性が示唆されている」と指摘されています。香港の保健当局も、この変異株が従来の株よりも重症であるという証拠はないとしています。中国や香港などでみられる入院患者数の増加については、病原性の高さというより、夏季の感染者の急増が入院患者の絶対数を増やした可能性が高いとの見方を示していますが、データはまだ予備的なものだとしています。米国の2025年ブースター接種の方針と専門家の懸念このような話題がある一方で、トランプ政権はブースター接種の対象を一部の人に制限する方針を計画していると報じられています。先週、米国食品医薬品局(FDA)は、高齢者や基礎疾患を持つ人に対するワクチンは引き続き承認するものの、それより広範な層への使用承認には、企業に大規模な新しい臨床試験の実施を義務付けると発表しました。これにより、基礎疾患のない多くのアメリカ国民は、この秋に最新のワクチンを接種できない可能性があります。米国の専門家らは、こうした変更が公衆衛生に重大な影響を及ぼす可能性があると警鐘を鳴らしています。さらに、FDAによる追加臨床試験の要件は、低リスク者のブースター接種を遅らせ、一部の人がワクチン接種をためらう原因となる可能性があり、ワクチン接種率を低下させる可能性がある、とも指摘されています。加えて、今年のワクチンにどの変異ウイルスが含まれるのか、どのような臨床試験が許可されるのかという点も不明確です。なお、これらの新しいCOVID-19ワクチン接種の要件は、ワクチンに対して公に疑問を呈してきたロバート・F・ケネディJr.保健福祉長官が率いるFDAの新指導部によって提示されたものです。私たちにできる予防策とは米国内では一般の人のワクチン接種に疑問符がつく中、引き続き私たちにできることは、咳やくしゃみエチケット、手洗い、体調が悪い場合は他の人にうつさないために家にいること、などです。また、先んじて流行が起こっている香港の当局は、感染者数の増加に伴い、公共交通機関や混雑した場所でのマスク着用を住民に呼びかけています。日本においても、海外の感染状況や新たな変異ウイルスの動向に応じて、感染予防策を強弱することが重要になるでしょう。参考文献・参考サイト1)Moniuszko S. COVID variant NB.1.8.1 hits U.S. What to know about symptoms, new booster vaccine restrictions. CBS NEWS. 2025 May 27.

14.

第245回 医師を襲うSNS誹謗中傷、ワクチンについての正しい情報発信が敵意の対象に

<先週の動き> 1.医師を襲うSNS誹謗中傷、ワクチンについての正しい情報発信が敵意の対象に 2.「宿直医の遠隔兼務」を検討へ、ICT活用で実現へ/政府 3.地域医療の“最後の砦”は誰が担う? 特定機能病院制度に再編の兆し/厚労省 4.「骨太の方針2025」で開業医狙い撃ち? 報酬適正化と負担増の両刃政策/政府 5.B型肝炎の既往歴を主治医が見落とし、リウマチ患者が死亡/名古屋大学 6.フランスで「死の援助」法案が下院可決、終末期医療の転換点に 1.医師を襲うSNS誹謗中傷、ワクチンについての正しい情報発信が敵意の対象に新型コロナウイルス感染拡大の時期に、メディアを通じて医療現場の実情やワクチンの有効性を発信してきた医師たちが、SNS上で激しい誹謗中傷にさらされたことをきっかけにネットでの医師の情報発信について法的対応が必要になってきた。埼玉医科大学総合医療センター教授の岡 秀昭医師は、SNSでの発信を始めた2020年以降、匿名アカウントからの罵詈雑言や容姿・家族への攻撃、自宅住所の晒し行為、さらには殺害予告まで受けた。岡医師は弁護士らと相談の上、2022年10月に制度化された「発信者情報開示命令」を活用し、人格攻撃に該当すると判断された投稿約50件について情報開示を申し立て、これまでに20人超を特定。投稿削除や謝罪、最大100万円の和解金支払いに至ったケースもある。その一方で、一部の対象者には民事訴訟や刑事告訴も進行中だ。投稿者の中には「感情的になり軽率だった」とする謝罪文を送る者もいたが、「殺意」などの過激な投稿もあり、深刻さは増している。同様に、コロナワクチン情報サイト「こびナビ」の元副代表・木下 喬弘医師も中傷被害に遭い、自宅住所の晒しや虚偽情報拡散を受け、法的対応を決断した。だが、情報開示には半年以上を要し、証拠収集や投稿精査に膨大な労力がかかったという。木下医師は「施策実行の妨げになる」との危機感から提訴に踏み切ったと述べる。発信者情報開示制度は、従来の二段階手続きを簡素化し、原則1件数千円・約100日で開示に至る。しかし、SNS事業者側が必要情報を持たない場合や、投稿者の支払い能力がない場合には、費用回収も困難となる。また、開示の可否は投稿が名誉毀損や人格攻撃に該当するか否かで左右されるため、慎重な証拠収集が求められる。投稿日時やURL入りのスクリーンショットの保存が有効とされる。最高裁判所によると、開示命令の申立件数は2023年で前年比1.7倍の6,779件に上るなど急増しており、社会に「反撃」意識が浸透しつつあることが背景にあるとみられる。国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの山口 真一准教授は、法制度だけでなくSNS運営会社による速やかな削除対応や、投稿者への啓発が今後の課題と指摘している。医師による科学的情報発信が敵意にさらされる現実に、医療従事者自身も直面する可能性がある。SNS上の発信には正確さと冷静さを求められると同時に、攻撃への備えとして法的手段や証拠の保存を知ることが、自身と社会を守る手段となり得る。 参考 1) テロリスト、戦犯…女性がXに不穏な投稿を続けた理由を語った 標的は「コロナ対策を呼びかける医師」(東京新聞) 2) ネットリンチ…1時間に30件の暴言にさらされ続けた岡秀昭医師 「発信者」たちを特定しようと決意した経緯(同) 3) コロナ解説きっかけ、SNS中傷5,000件被害の医師「萎縮すれば正しい情報伝わらない」(読売新聞) 4) SNSひぼう中傷受けた医師 投稿者20人超を特定した秘策(NHK) 2.「宿直医の遠隔兼務」を検討へ、ICT活用で実現へ/政府医師の宿直義務について、政府は今後、オンラインを活用した「遠隔兼務」を正式に制度化する方向で検討を開始する。規制改革推進会議の答申(5月28日付)では、2025年度上期から要件の検討を始め、遅くとも2027年度中に結論を得て、措置を講じると明記された。これは、とくに医師不足が深刻な地方病院において、夜間帯の宿直体制を効率化し、昼間の診療体制を確保する狙いがある。宿直対応を1人の医師が複数の病院で遠隔的に担うという新たな勤務モデルが導入されれば、医療資源の最適配置に大きく貢献できる可能性がある。この議論の背景には、谷田病院(熊本県甲佐町)をはじめとする慢性期医療機関の現場からの強い要望がある。谷田病院では2024年の平日夜間、宿直1回当たりの平均対応件数が0.78回と非常に少なく、大半のケースは電話やカルテ確認によるオンコール対応で済んでいた。実際に、夜間の発熱や軽度高血圧などに対しては、解熱剤処方や経過観察の指示で十分対応可能だったという。こうした現場の実情を踏まえ、厚労省は2025年に医療法第16条とその施行規則に基づく「宿直医義務」の例外規定について解釈の明確化を図る。これまで「電話による指示」に限定されていた部分を、「オンライン等の情報通信機器」による対応も含まれることを明確にし、ICT技術の進展を制度に反映させる。加えて、医療提供体制を維持する観点から、電子カルテの情報共有などを含めた技術的要件と、医師の駆け付け可能な距離・対応時間などの勤務条件を整備することが検討されている。地域間格差の拡大を避けるため、「ローカルルール」の発生を防ぐことも留意事項に盛り込まれている。今後の焦点は、実際に「遠隔兼務」が可能となる医療機関の条件整備と、緊急時対応の安全性確保にある。とりわけ、死亡診断や蘇生処置など現地での対応が必要なケースとの線引きが課題となる。少子高齢化が進行し、医療需要が高まる中、限られた人材で地域医療を維持するために、「常駐」から「最適配置」への転換が求められている。今回の制度改革は、そうした時代の要請に応える第一歩となるだろう。 参考 1) 宿直医、複数病院の掛け持ち可能に 人手不足解消へ厚労省が容認(日経新聞) 2) 宿直医のオンライン活用による「遠隔兼務」、遅くとも2027年度中に結論へ(日経メディカル) 3) 資料「地域における病院機能の維持に資する医師の宿直体制の見直し」について(規制改革推進会議) 4) 規制改革推進に関する答申(同) 3.地域医療の“最後の砦”は誰が担う? 特定機能病院制度に再編の兆し/厚労省厚生労働省は5月29日、「特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会」を開き、大学病院本院以外の特定機能病院の承認要件の見直しに着手した。現在、88の特定機能病院のうち79が大学病院本院である一方、それ以外の9病院は総合型(国立国際医療研究センター病院、聖路加国際病院)と特定領域型(がん・循環器など)に分類され、実績や機能にばらつきがあることが厚労省から示された。厚労省は、大学病院本院に対しては「基礎的基準」と「発展的(上乗せ)基準」の二段階で評価し、「高度医療・研究・教育・医師派遣」の4本柱を求める方針を提示。一方で、大学病院本院以外の施設は医師派遣や臨床研修医の受け入れが想定されておらず、実績も限定的であることがデータから明らかとなった。検討会では、こうした実態に配慮しつつ、大学病院本院以外を特定機能病院と同一に扱うべきか、あるいは「別枠」で評価すべきかが論点として浮上。構成員からは、要件満たさなくなる医療機関について経過措置の必要性や、従来の投資や安全体制への配慮を求める声も上がった。また、地域医療構想や医師偏在対策との整合性も重視され、都市部に集中する大学病院本院以外の施設が「地域の最後の砦」として機能していない現状を踏まえ、特定機能病院制度そのものの再定義も視野に入る。新承認要件の具体化と並行して、次回以降の検討会では該当病院からのヒアリングも行われる予定だ。2026年度の診療報酬改定への影響も見込まれる中、制度設計は医療提供体制の構造的見直しに発展する可能性がある。高機能病院の役割とその評価のあり方が、今、改めて問われている。 参考 1) 大学附属病院本院以外の特定機能病院の現状及びあり方等について(厚労省) 2) 第24回特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会 資料(同) 3) 大学本院以外の特定機能病院、承認要件見直し論点に 要件満たさなくなる医療機関の取り扱い慎重に 厚労省(CB news) 4) 大学病院本院「以外」の特定機能病院、大学病院本院とは異質で「特定機能病院と別の枠組み」での評価など検討へ-特定機能病院等あり方検討会(Gem Med) 4.「骨太の方針2025」で開業医狙い撃ち? 報酬適正化と負担増の両刃政策/政府政府は5月26日に経済財政諮問会議を開き、今年度の「骨太の方針」の骨子案を提示した。これをもとに6月に「骨太の方針2025」が閣議決定されるが、この中に医療・介護分野の職員の賃上げを明記するとともに、診療報酬や介護報酬など公定価格の引き上げが検討されている。一方で、社会保障制度の持続性確保の名の下に、医療界にとって見逃せない複数の構造改革も盛り込まれる方向となっている。民間議員や財政審は、診療報酬を用いて医療・介護現場の確実な賃上げに繋げる一方で、医療資源の偏在や無駄な医療提供の是正も主張。病床の適正化や外来機能の集約、さらには医師の開業シフトを抑制する報酬体系の再設計も求められている。また、医療法人に対する職種別給与情報の開示や経営情報の「見える化」も強化され、経営の透明性向上と報酬配分のメリハリが焦点になる。さらに、医療費の適正化策として薬剤の自己負担見直しやOTC薬へのスイッチ促進、市販品類似薬の保険外化などが検討されている。これらは高額療養費制度見直しとセットで実施される可能性があり、患者負担が現場の診療にも影響を及ぼす恐れが危惧されている。診療所の利益率が高いという財政審の分析を背景に、今後は病院と診療所の費用構造の違いを踏まえた報酬の差別化も想定される。医学部定員増世代の開業適齢期到来を踏まえ、診療所の過剰供給を防ぐ対策も検討課題に挙げられた。一方、医療界からは物価・人件費の高騰に即応できない診療報酬制度に対して強い危機感が示され、診療報酬の期中改定や柔軟な財政支援の必要性が訴えられている。財政審はこれに対し「どれだけ国民の理解があるか」と慎重な姿勢を崩していない。医療界にとって、「賃上げ」を名目とした制度改変が、実質的には財政再建と歳出抑制の手段と化すリスクも孕んでいる。制度の持続性と現場の実情をいかに調和させるかが、今後の診療報酬議論の中核となる。 参考 1) 経済財政運営と改革の基本方針2025骨子案 (内閣府) 2) 政府、骨太方針の骨子案に「公定価格の引き上げ」明記 医療・介護の賃上げ具体化を検討(JOINT) 3) 諮問会議で民間議員 診療報酬で「現場の確実な賃上げに」 薬剤自己負担見直しなど改革が「一層重要」(ミクスオンライン) 4) 財政審 基礎的財政収支の黒字化 “来年度にかけ早期に”(NHK) 5) 診療報酬の「適正化」求める建議、財政審 社会保障は「秋が主戦場」 増田氏(CB news) 6) 26年度予算の概算要求、最重要事項1項目のみ要望 物価・人件費高騰に対応できる報酬体系創設を 四病協(同) 7) 経営安定化や幅広い職種の賃上げに対応 厚労相 次期診療・介護報酬改定などで(同) 5.B型肝炎の既往歴を主治医が見落とし、リウマチ患者が死亡/名古屋大学名古屋大学医学部附属病院は5月28日、過去にB型肝炎ウイルス(HBV)感染歴のあった70代女性患者が、リウマチ治療中にHBV再活性化による急性肝不全を発症し、2021年に死亡した事例について、医療ミスを認め記者会見で謝罪した。女性は2008年に関節リウマチと診断され、免疫抑制療法が開始された。初診時の検査でHBV感染歴が判明しており、定期的なウイルス量測定および肝機能検査が予定されていたが、主治医は検査異常を薬剤性肝障害と誤認。2016年8月以降は患者の既往歴を失念し、一部の検査を中止していた。その結果、HBV再活性化を見逃し、2021年4月の肝機能悪化時にも詳細な評価を行わず、薬剤減量のみの対応に留めたことで病状が進行。同年6月に急性肝不全で死亡した。外部の事例調査委員会は、主治医が既往歴を考慮せず、肝障害の緊急性を正しく評価しなかったことを問題視。さらに、HBV再活性化リスクに関する病院内の情報共有体制や注意喚起機能の不備も指摘された。名古屋大学病院は遺族に謝罪し、損害賠償について協議している。再発防止策として、電子カルテへの感染歴表示、検査未実施時の警告アラート導入などを進めるとした。丸山 彰一病院長は会見で「当院の医療行為が不幸な結果を招いたことを深くおわび申し上げる」と述べた。今回の事例は、免疫抑制療法下におけるHBV再活性化対策の徹底と、診療科横断での患者情報共有の重要性を改めて浮き彫りにした。定期的な検査の実施や既往歴の把握、さらに肝機能障害時の鑑別診断が求められる。 参考 1) 関節リウマチの治療中、免疫抑制剤等によりB型肝炎ウイルスが 再活性化し、肝不全から死亡に至った事例について(名古屋大学) 2) 名大病院、誤診で女性死亡 肝炎患者に適切な治療せず(産経新聞) 3) 名古屋大附属病院 B型肝炎ウイルス感染の患者 医療ミスで死亡(NHK) 4) 名古屋大病院でB型肝炎の悪化見逃し70代女性死亡 医療ミス、遺族に謝罪(中日新聞) 6.フランスで「死の援助」法案が下院可決、終末期医療の転換点に5月27日、フランス国民議会(下院)は、終末期患者に対し致死薬の投与を認める「死の援助」法案を賛成305票、反対199票で可決した。本法案は、安楽死や自殺ほう助を禁じてきたフランスの政策を大きく転換するもので、今秋の上院審議を経て成立を目指す。対象は、「治癒不可能で耐え難い苦痛を抱える終末期の成人患者」に限定され、フランス国籍またはフランス在住の18歳以上に限定される。本人による致死薬の自己投与が原則で、身体的に不可能な場合に限り、医師や看護師による投与が例外的に認められる。マクロン大統領は2022年に市民会議を設置し、「死を迎える権利」に関する国民的議論を主導。その結果、多数の市民が死の援助に賛同し、今回の法案提出に至った。一方、カトリック教徒の多い同国では、宗教界や一部医療関係者の強い反対も根強く、国民投票の可能性も指摘されている。法案が成立すれば、フランスはドイツ、スペイン、スイスなどと並び、終末期医療において「死の援助」を制度的に認める欧州の少数国の1つとなる。 参考 1) フランス下院、「死の援助」法案を可決(AFPB) 2) フランス下院、終末期患者への「死の援助」法案を可決(毎日新聞) 3) 終末期「死の援助」法可決 仏下院、秋に上院審議へ(共同通信) 4) フランスで終末期患者に対する「死への援助」導入する法案が可決 フランス在住の18歳以上の成人のみ可能…患者自身で致死量の薬を投与(FNN) 5) フランス下院が自殺幇助法案を可決 妨害行為には禁錮、罰金刑も(産経新聞)

15.

コントロール不良の軽症喘息、albuterol/ブデソニド配合薬の頓用が有効/NEJM

 軽症喘息に対する治療を受けているが、喘息がコントロールされていない患者において、albuterol(日本ではサルブタモールと呼ばれる)単独の頓用と比較してalbuterol/ブデソニド配合薬の頓用は、重度の喘息増悪のリスクが低く、経口ステロイド薬(OCS)の年間総投与量も少なく、有害事象の発現は同程度であることが、米国・North Carolina Clinical ResearchのCraig LaForce氏らBATURA Investigatorsが実施した「BATURA試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年5月19日号に掲載された。遠隔受診の分散型無作為化第IIIb相試験 BATURA試験は、軽症喘息に推奨される薬剤による治療を受けているが喘息のコントロールが不良な患者における固定用量のalbuterol/ブデソニド配合薬の頓用の有効性と安全性の評価を目的とする二重盲検無作為化イベント主導型・分散型第IIIb相比較試験であり、2022年9月~2024年8月に米国の54施設で参加者を登録した(Bond Avillion 2 DevelopmentとAstraZenecaの助成を受けた)。本試験は、Science 37の遠隔診療プラットフォームを用い、すべての受診を遠隔で行った。 年齢12歳以上で、短時間作用型β2刺激薬(SABA)単独またはSABA+低用量吸入ステロイド薬あるいはロイコトリエン受容体拮抗薬の併用療法による軽症喘息の治療を受けているが、喘息のコントロールが不良な患者を対象とした。 これらの参加者を、albuterol(180μg)/ブデソニド(160μg)配合薬(それぞれ1吸入当たり90μg+80μgを2吸入)またはalbuterol単独(180μg、1吸入当たり90μgを2吸入)の投与を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付け、最長で52週間投与した。 主要エンドポイントは、on-treatment efficacy集団(無作為化された治療の中止前、維持療法の強化前に収集した治療期間中のデータを解析)における重度の喘息増悪の初回発生とし、time-to-event解析を行った。重度の喘息増悪は、症状の悪化によるOCSの3日間以上の使用、OCSを要する喘息による救急診療部または緊急治療のための受診、喘息による入院、死亡とし、治験責任医師によって確認された記録がある場合と定義した。 主な副次エンドポイントはITT集団(on-treatment efficacy集団のようなイベント[治療の中止や強化]を問わず、すべてのデータを解析)における重度の喘息増悪の初回発生とし、副次エンドポイントは重度の喘息増悪の年間発生率と、OCSへの曝露とした。年齢18歳以上でも、2集団でリスクが低下 解析対象は2,421例(平均[±SD]年齢42.7±14.5歳、女性68.3%)で、albuterol/ブデソニド群1,209例、albuterol単独群1,212例であった。全体の97.2%が18歳以上で、ベースラインで74.4%がSABA単独を使用していた。事前に規定された中間解析で、本試験は有効中止となった。 重度の喘息増悪は、on-treatment efficacy集団ではalbuterol/ブデソニド群の5.1%、albuterol単独群の9.1%(ハザード比[HR]:0.53[95%信頼区間[CI]:0.39~0.73]、p<0.001)に、ITT集団ではそれぞれ5.3%および9.4%(0.54[0.40~0.73]、p<0.001)に発生し、いずれにおいても配合薬群で有意に優れた。 また、年齢18歳以上に限定しても、2つの集団の双方で重度の喘息増悪のリスクがalbuterol/ブデソニド群で有意に低かった(on-treatment efficacy集団:6.0%vs.10.7%[HR:0.54、95%CI:0.40~0.72、p<0.001]、ITT集団:6.2%vs.11.2%[0.54、0.41~0.72、p<0.001])。 さらに、年齢12歳以上のon-treatment efficacy集団における重度の喘息増悪の年間発生率(0.15vs.0.32、率比:0.47[95%CI:0.34~0.64]、p<0.001)およびOCSの年間総投与量の平均値(23.2vs.61.9mg/年、相対的群間差:-62.5%、p<0.001)は、いずれもalbuterol/ブデソニド群で低い値を示した。約60%がソーシャルメディア広告で試験に参加 頻度の高い有害事象として、上気道感染症(albuterol/ブデソニド群5.4%、albuterol単独群6.0%)、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(5.2%、5.5%)、上咽頭炎(3.7%、2.6%)を認めた。 重篤な有害事象は、albuterol/ブデソニド群で3.1%、albuterol単独群で3.1%に発現し、投与中止に至った有害事象はそれぞれ1.2%、2.7%、治療関連有害事象は4.1%、4.0%にみられた。治療期間中に2つの群で1例ずつが死亡したが、いずれも試験薬および喘息との関連はないと判定された。 著者は、「分散型試験デザインは患者と研究者の双方にとってさまざまな利点があるが、患者が費用負担を避けることによる試験中止のリスクがあり、本試験では参加者の約19%が追跡不能となった」「特筆すべきは、参加者の約60%がソーシャルメディアの広告を通じて募集に応じており、近隣の診療所や地元で募集した参加者のほうが試験参加を維持しやすい可能性があるため、これも試験中止率の上昇につながった可能性がある」「青少年の参加が少なく、今回の知見のこの年齢層への一般化可能性には限界がある」としている。

16.

第264回 あの3医学誌を“腐敗”呼ばわり、トランプ氏より危険な人物

トランプ大統領の影で大暴れする人物各種報道で話題になっているように、米・ハーバード大学とトランプ政権の攻防はエスカレートする一方だ。きっかけはトランプ政権が同大学の「“反ユダヤ主義的な差別”への取り組みが不十分」だと非難し、「応じなければ助成金や政府との契約を見直す」と発表。この要求を同大学が拒否したため、政権側は約23億ドル分(4月15日時点)の助成金と契約を凍結すると明言した。これに対し、同大学は凍結取り消しを求めて4月21日にマサチューセッツ州連邦地裁へ提訴。しかし、政権側は同大学に対し5月2日に免税措置を取り消し、22日に留学生受け入れ資格の停止、27日には推定1億ドル(日本円で約144億円)とも言われる政府との全契約打ち切り公言など、相次ぐ報復に踏み切った。ちなみに留学生受け入れ資格の停止についても同大学は即座に提訴し、マサチューセッツ州連邦地裁は翌23日に政府による措置の一時差し止め決定を下した。人によって評価は分かれるかもしれないが、私個人のトランプ大統領のこの間の言動に対する評価は「常軌を逸している」の一言に尽きる。まるで漫画「ドラえもん」に登場するガキ大将・剛田 武、通称ジャイアン並みの傍若無人ぶりである。そして世界中がトランプ大統領の言動に視線が集まる中、もう1人の主役が“大暴れ中”である。トランプ政権の保健福祉省長官であるロバート・F・ケネディ・ジュニア氏(以下、ケネディ氏)である。米国の3医学誌を腐敗呼ばわりケネディ氏は以前から極端なワクチン懐疑主義を唱え、コロナ禍中はその治療薬として一部で妄信的とも言える“期待”が語られた抗寄生虫薬のイベルメクチン支持者だったことでも知られる。このためケネディ氏の保健福祉省長官への就任には根強い反対論があり、上院での採決では身内の共和党も造反し、賛成51票・反対48票でかろうじて長官人事が承認された経緯がある。さてそのケネディ氏は5月27日、ポットキャストでLancet、New England Journal of Medicine、JAMAの3誌を「製薬企業が資金提供した研究ばかりが掲載され、腐敗している」と批判。「国立衛生研究所(NIH)の研究者にこれらの雑誌で論文を発表するのを止めさせる」とまで語った。もっともご存じの人も多いと思うが、ケネディ氏の主張は100%間違っているわけではない。これら医学誌に製薬企業の資金提供による論文が数多く掲載されていることは事実であり、またコロナ禍中には査読の甘さゆえに信頼性の低いデータに基づく論文が撤回されたこともある。とはいえ、世界各国の研究者がこの3誌に論文投稿する価値は十分あり、同時に各国の多くの研究者たちが愛読している雑誌である。少なくともNIH関係者が投稿を止めねばならないほど腐敗があると認める人は、この世界では極めて少数派だろう。それをケネディ氏の一存で止めさせようというのだから、相当なトンデモである。しかも、ケネディ氏はこれに代わる新たな医学誌の創刊をぶち上げたらしいが、医学誌1つの創刊と発行継続に、どれだけの資金と人員が必要かについては無頓着のようである。トランプ政権が各種予算を驚くような勢いで削減している中で、そのような費用の支出を政権として承認するかどうかは甚だ疑問である。ここぞとばかりに、ワクチンスケジュール削除また、同日には健常な子どもと妊婦に対する新型コロナワクチン接種を米国疾病予防管理センター(CDC)が推奨するワクチン接種スケジュールから削除したと自身のSNSを通じて発表している。CDCの推奨ワクチンについては、外部専門家で構成されるACIP(予防接種の実施に関する諮問委員会)が年数回開催する公開会議で、データに基づき厳格な審議と投票が行われる。その結果にパブリックコメントも踏まえた勧告案をCDCに提出し、CDC所長による承認を経て正式決定と公表がなされる。今回こうしたプロセスは一切経ていない。もはやここまでいくと「リーダーシップ」のふりをした「ディクテイターシップ(独裁制)」である。米国小児科学会(AAP)はさっそく声明を発表。ケネディ氏の“決定”は「独立した医療専門家を無視し、子どもたちを危険にさらすもの」「保険福祉省が収集したデータをAAPが分析した結果、2024~25年の呼吸器ウイルス流行期に1万1,199人の子どもが新型コロナで入院し、うち7,746人が5歳未満だったことが判明した」「健康な妊婦を除外するという決定は、65~74歳の高齢者と妊婦が新型コロナによる入院率が同程度にもかかわらず、もはや生後6ヵ月未満の乳児が保護を受けられなくなることを意味する」などと述べ、反発を強めている。また、米国産婦人科学会(ACOG)も「妊娠中の新型コロナ感染は悲惨であるとともに、重大な障害につながる可能性があり、家族にとって壊滅的な結果をもたらす可能性があることは明らか。新型コロナワクチンは妊娠中に安全であり、ワクチン接種は患者と出生後の乳児を守ることができる」との声明を発表した。さらに保健福祉省は28日、バイデン政権期に決定していたモデルナ社による高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)のmRNAワクチン開発への助成を打ち切ると発表。同省は打ち切りについて、「連邦政府の投資継続に必要な科学的基準や安全性の期待を満たしていない」との見解を示したと報じられている。あくまで省として決定と伝わっているが、長官であるケネディ氏が「新型コロナのmRNAワクチンにはマイクロチップが含まれている」という陰謀説の出元と言われるだけに、同氏の関与をどうしても疑ってしまう。やりたい放題、いつまで続く?極めつきは5月22日に発表された「MAHA(Make America Healthy Again=米国を再び健康にする)委員会」の報告書だ。これは2月13日付でMAHA委員会を設置し、同委員会にアメリカ国民を不健康にしている原因究明とその解消策提言をするよう求めた大統領令に基づくもの。委員長はケネディ氏である。その内容を細かく取り上げるときりがないが、大雑把に要約すると「アメリカの子どもの慢性疾患は深刻で、その原因は加工食品や化学物質、薬の過剰投与、ワクチンの過剰接種が原因の可能性がある」というもの。トランプ政権入りする以前からのケネディ氏の主張そのままである。冒頭で触れたハーバード大学の留学生追放やすでに報じられている科学関連予算の大幅削減にこうしたケネディ色がトッピングされたら、4年後のアメリカはどうなってしまうのだろうか? 正直、嫌な予感しかないのだが…。

17.

世界の主要な20の疾病負担要因、男性の健康損失が女性を上回る

 2021年の世界疾病負担研究(GBD 2021)のデータを用いた新たな研究で、女性と男性の間には、疾病負担の主要な20の要因において依然として格差が存在し、過去30年の間にその是正があまり進んでいないことが示された。全体的に、男性は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)や交通事故など早期死亡につながる要因の影響を受けやすいのに対し、女性は筋骨格系の疾患や精神障害など致命的ではないが長期にわたり健康損失をもたらす要因の影響を受けやすいことが示されたという。米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のVedavati Patwardhan氏らによるこの研究の詳細は、「The Lancet Public Health」5月号に掲載された。 Patwardhan氏らは、GBD 2021のデータを用いて、1990年から2021年における10歳以上の人を対象に、世界および7つの地域における上位20の疾病負担要因の障害調整生存年(DALY)率について、男女別に比較した。DALYとは、障害や疾患などによる健康損失を考慮して調整した指標であり、1DALYとは1年間の健康な生活の損失を意味する。20の疾病負担要因は、COVID-19、心筋梗塞、交通事故、脳卒中、呼吸器がん、肝硬変およびその他の慢性肝臓病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、腰痛、うつ病、結核、頭痛、不安症(不安障害)、筋骨格系疾患、転倒、下気道感染症、慢性腎臓病、アルツハイマー病およびその他の認知症、糖尿病、HIV/エイズ、加齢性難聴およびその他の難聴であった。 その結果、2021年では、検討した20要因のうちCOVID-19や肝臓病など13要因で男性のDALYは女性よりも高いことが推定された。男女差が最も顕著だったのはCOVID-19で、年齢調整DALY(10万人当たり)は男性で3,978、女性で2,211であり、男性の健康負担は女性に比べて44.5%高かった。COVID-19の負担は地域を問わず男性の方が高かったが、特に差が大きかったのはサハラ以南のアフリカ、ラテンアメリカ諸国、カリブ海諸国だった。 DALYの男女差の絶対値が2番目に大きかった要因は心筋梗塞で、10万人当たりのDALYは男性で3,599、女性で1,987であり、男性の健康負担は女性より44.7%高かった。地域別に見ると、中央ヨーロッパ、東ヨーロッパ、中央アジアでは男女差が大きかった。 また、女性に比べて男性に多い要因は、年齢が低いほどリスク増加が小さい傾向が認められたが、交通事故による負傷は例外であり、世界中で10〜24歳の若い男性で不釣り合いに多く発生していた。 一方、女性は長期的な健康損失をもたらす疾患において男性よりもDALYが高い傾向が見られた。特にDALYの男女差が顕著だったのは、腰痛(絶対差478.5)、うつ病(同348.3)、頭痛(332.9)であった。また、女性には、人生の早い段階からより深刻な症状に悩まされ、その症状は年齢とともに悪化する傾向も認められた。 論文の共著者である米ワシントン大学保健指標評価研究所(IHME)のGabriela Gil氏は、「女性の健康損失の大きな要因、特に筋骨格系疾患と精神疾患は十分に注目されているとは言えない。女性のヘルスケアに対しては、性や生殖に関する懸念などこれまで医療制度や研究資金が優先してきた領域を超えた、より広範な取り組みが必要なことは明らかだ」と述べている。 論文の上席著者であるIHMEのLuisa Sorio Flor氏は、「これらの結果は、女性と男性では経時的に変動したり蓄積されたりする多くの生物学的要因と社会的要因が異なっており、その結果、人生の各段階や世界の地域ごとに経験する健康状態や疾患が異なることを明示している」との見方を示す。その上で、「今後の課題は、性別やジェンダーを考慮した上で、さまざまな集団において、早期から罹患率や早期死亡の主な原因を予防・治療する方法を設計して実施し、評価することだ」と述べている。

18.

第13回 コロナ・インフル「同時予防ワクチン」、その実力とは?

毎年、冬になると猛威を振るう季節性インフルエンザ。未だ世界中で散発的な流行を起こす新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。これら2つの感染症は、とくに50歳以上の人や基礎疾患を持つ人にとって、重症化や入院、時には死に至る危険性もはらんでいます。現在、これらの感染症を予防するためには、それぞれ別のワクチンを接種する必要があります。世界保健機関(WHO)やアメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、2つのワクチンの同時接種を推奨しており、これにより接種率の向上が期待されています。しかし、その推奨にもかかわらず、両方のワクチンの接種率は必ずしも高くないのが現状です。もし、1回の注射でインフルエンザと新型コロナの両方に対応できるワクチンがあれば、接種を受ける人の負担が減り、より多くの人が予防接種を受けやすくなるかもしれません。そんな期待を背負って開発が進められてきたのが、新しい混合ワクチンです。この記事では、季節性インフルエンザと新型コロナウイルスの両方に対応するmRNAワクチン「mRNA-1083」の安全性と免疫反応を評価した最新の研究論文1)について解説します。新しいmRNA多価ワクチン「mRNA-1083」とは?今回報告された「mRNA-1083」は、mRNAワクチンの一種です。mRNAワクチンは、ウイルスのタンパク質を作るための設計図(mRNA)を体内に送り込み、それをもとに体内でタンパク質の一部が作られます。すると、私たちの免疫システムがそのタンパク質を「異物」と認識し、それに対する抗体などを作り出すことで、本物のウイルスが侵入してきた際に備えることができる仕組みです。mRNA-1083には、インフルエンザウイルスの表面にあるヘマグルチニンというタンパク質と、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の一部の設計図が含まれています。これらは、それぞれインフルエンザワクチン(mRNA-1010)と新型コロナワクチン(mRNA-1283)の成分であり、過去の研究でそれぞれ良好な安全性と免疫反応が確認されています。ワクチンの効果と安全性をどうやって調べたのか?この研究は、mRNA-1083の有効性と安全性を評価するための第III相臨床試験として、アメリカ国内146施設で実施されました。参加者は50歳以上の成人で、「65歳以上」と「50~64歳」の2つの年齢層に分けられました。これは、推奨されるインフルエンザワクチンの種類がこれらの年齢層で異なるためです。参加者は、ランダムに2つのグループに分けられました。mRNA-1083群新しい多価ワクチンmRNA-1083と、プラセボ(生理食塩水)を接種(比較群が2つのワクチン接種を受けるため、あえてプラセボを1本接種しています)比較群インフルエンザワクチンと既存の新型コロナワクチンを同時接種試験は盲検化して行われました。これにより、結果に対する先入観を排除することができます。主な目的は、接種29日後に、mRNA-1083が既存のワクチンと同等以上の免疫反応(非劣性)を示すかどうか、そして安全性を評価することでした。この研究で何がわかったのか?合計8,015人がこの試験に参加し、ワクチンを接種しました。結果として、mRNA-1083は、対象となったすべての型のインフルエンザウイルスおよび新型コロナウイルス(XBB.1.5)に対して、既存のワクチンと同等以上の免疫反応を示し、非劣性基準を達成しました。さらに、mRNA-1083はいくつかの点で、既存のワクチンよりも優れた免疫反応(優越性)を示しました。50歳~64歳mRNA-1083は、標準用量のインフルエンザワクチンと比較して、4種類すべてのインフルエンザウイルスに対してより高い免疫反応を示しました。また、新型コロナウイルスに対しても同様の結果でした。 65歳以上mRNA-1083は、高用量のインフルエンザワクチンと比較して、3種類のインフルエンザウイルス(A/H1N1、A/H3N2、B/Victoria)に対してより高い免疫反応を示しました。ただし、B/Yamagata株に対する免疫反応は、優越性の基準には達しませんでした。新型コロナウイルスに対しても、mRNA-1083はより高い免疫反応を示しました。 なお、インフルエンザB/Yamagata株は、近年の流行がみられないため2024~25年シーズンのワクチンからは除外することがWHOから推奨されています。この点を考慮すると、mRNA-1083は重要な3種類のインフルエンザウイルス(A/H1N1、A/H3N2、B/Victoria)と新型コロナウイルスの両方に対して、既存の推奨ワクチンよりも優れた免疫反応を50歳以上の成人に誘導したといえます。安全性は?ワクチンの安全性は非常に重要です。この研究では、mRNA-1083接種後の副反応も詳しく調べられました。その結果、mRNA-1083を接種した群では、既存のワクチンを接種した群と比較して、副反応を報告した人の割合や重症度がわずかに高い傾向がみられました。たとえば、65歳以上では、mRNA-1083群の83.5%に対し、比較群では78.1%が副反応を報告しました。50~64歳では、それぞれ85.2%と81.8%でした。しかし、報告された副反応のほとんどは、軽度(Grade1)または中等度(Grade2)であり、短期間で回復するものでした。最も多かった副反応は、注射部位の痛み、倦怠感、筋肉痛、頭痛でした。重篤な副反応(Grade4、すべて発熱)は非常にまれで、両年齢層のmRNA-1083群で合計4人(0.1%未満)でした。試験期間を通じて、新たな安全性の懸念は確認されませんでした。また、この研究では、ワクチン接種後の数日間の生活の質(QOL)への影響も調査されています。その結果、mRNA-1083を接種したグループでは、接種後2日目に一時的なQOLスコアの低下が見られましたが、3日目には回復しました。この低下の度合いは、既存のインフルエンザワクチンや新型コロナワクチンで報告されているものと同程度か、それ以下であり、臨床的に意味のある大きな変化ではありませんでした。研究の限界この研究は重要な知見をもたらしましたが、いくつかの限界も認識しておく必要があります。まず、この研究では、ワクチンが実際にインフルエンザや新型コロナの発症をどの程度防ぐかという「有効性」は直接評価されていません。ただし、評価された免疫反応の指標(抗体価)は、それぞれインフルエンザと新型コロナワクチンの有効性と関連する信頼性の高い指標とされています。また、試験参加者はアメリカ国内の住民で、人種構成はアメリカの一般人口を反映していますが、他の地域や人種グループにそのまま結果を当てはめられるかはさらなる検討が必要です。今後の展望今回の第III相臨床試験の結果は、mRNA多価ワクチン「mRNA-1083」が、50歳以上の成人において、4種類のインフルエンザ株と新型コロナウイルス(XBB.1.5)に対して、既存の推奨ワクチンと同等以上の免疫反応を誘導し、安全性も許容範囲であることを示しました。とくに、臨床的に重要なインフルエンザウイルスと新型コロナウイルスに対しては、既存ワクチンよりも優れた免疫反応が確認された点は注目に値します。1回の接種で2つの主要な呼吸器感染症を予防できる可能性を秘めたこの新しいワクチンは、公衆衛生の観点からも大きな期待が寄せられます。今後の実用化に向けた取り組みが注目されます。参考文献・参考サイト1)Rudman Spergel AK, et al. Immunogenicity and Safety of Influenza and COVID-19 Multicomponent Vaccine in Adults ≥50 Years: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2025 May 7. [Epub ahead of print]

19.

モデルナ、プレフィルドシリンジ型コロナワクチンを新発売

 モデルナ・ジャパンは5月26日付のリリースにて、新型コロナウイルスワクチン「スパイクバックス(R)筋注シリンジ」を新たに発売したことを発表した。本ワクチンは、12歳以上を対象とした1回接種用0.5mLを充填したプレフィルドシリンジ製剤で、医療現場での調製時間を短縮し、投与準備を簡便化する。これにより、医療従事者の負担軽減と接種の効率化が期待される。本製剤は、オミクロン株JN.1系統に対応している。 なお、2025年春夏シーズンの任意接種においては、従来からのオミクロン株JN.1系統対応バイアル製剤「スパイクバックス(R)筋注」も引き続き使用可能となっている。

20.

バーチャル合唱プログラムで孤立した高齢者の気分やウェルビーイングが向上

 歌を歌うことが魂にとって救いとなることがあるが、バーチャルな集団の中で歌うことにも同様の効果はあるのだろうか? その答えは「イエス」であることが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のロックダウン中にバーチャル合唱団へ参加したことが高齢者の感情面あるいは精神面に良い影響をもたらしたのかどうかを検証した研究で示された。研究によると、孤立した高齢者からは、ZoomやFacebook Liveを介して合唱の練習に参加したことで不安が軽減され、社会とのつながりが深まり、感情的および知的な刺激を受けることができたとの評価が得られたという。米ノースウェスタン大学音楽療法プログラムのBorna Bonakdarpour氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of Alzheimer’s Disease」に4月22日掲載された。 Bonakdarpour氏は、「この研究は、バーチャル合唱団への参加が、農村部に住んでいる人や移動に制限のある人、社会的不安を感じている人に、パンデミックに関わりなく恩恵をもたらす可能性のあることを示唆している」とニュースリリースの中で述べている。 この研究は米イリノイ州を拠点とする合唱プログラムの「サウンズ・グッド・クワイア(Sounds Good Choir)」との協働で実施された。パンデミックによるロックダウンが続く2021年、同プログラムでは55歳超の参加者が、バーチャルで以下のいずれかの活動に参加した。1)なじみのある歌を用いた、週に1回、計52回の歌唱セッションを受けるシングアロングセッション、2)組織化された合唱団で週1回の練習を重ね、最後にバーチャルコンサートを行う合唱プログラム。参加者には、認知機能が正常な人と神経認知障害を持つ人の両方が含まれていた。なお、Bonakdarpour氏らによると、先行研究では歌うことは肺活量や姿勢、全体的な身体の健康を向上させるだけでなく、呼吸のコントロールや感情の調整、運動機能に関わる脳の働きも活性化させ、脳と身体に良い影響をもたらすことが示されているという。 プログラムの終了後、Bonakdarpour氏らは176人の参加者を対象に調査を行い、バーチャル合唱体験が与えた影響について調べた。その結果、参加者の86.9%がプログラムへの参加がウェルビーイングに良い影響をもたらしたことを報告していた。プログラム別に見ると、シングアロングセッションへの参加はポジティブな記憶を呼び起こし、感情的な共鳴を促す一方で、合唱プログラムへの参加は、知的な刺激や関与をもたらすことが示唆された。さらに自由記述回答では、全体の5%以上の回答で、以下の面にポジティブな影響がもたらされたことが報告されていた。感情的ウェルビーイング(36%)、社会的ウェルビーイング(31%)、知的ウェルビーイング(18%)、パンデミックによる混乱の中での正常性の感覚や秩序の感覚(12%)、精神的ウェルビーイング(11%)、身体的ウェルビーイング(7%)、過去とのつながり(5%)。 Bonakdarpour氏は、「認知症とともに生きる人では、周囲の環境がどのようなものであろうと正常性の感覚の喪失が自己認識に強く影響し、不安の原因となる。このことは、こうした介入が正常な感覚を取り戻す助けとなり、心理的ウェルビーイングをサポートし、安定した自己認識に再びつなげる方法となる可能性があることを示唆している」と述べている。 さらにBonakdarpour氏は、「パンデミック時のグループ合唱への参加者は、混乱が広がる中、この活動が正常性の感覚をもたらしてくれたと一貫して話していた。これは顕著なテーマとして浮かび上がった点であり、今後さらなる研究で検討する必要がある」と言う。研究グループは今後、米国立衛生研究所(NIH)の音楽認知症研究ネットワークが助成する全国規模の臨床試験で、このバーチャル合唱体験をさらに詳しく検証する予定だとしている。

検索結果 合計:2881件 表示位置:1 - 20