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COVID-19後の眼症状、通常検査では見逃される異常が明らかに

 軽症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後に12週間以上持続する目の症状に関する新たな知見が、リンショーピング大学(スウェーデン)実験眼科学教授のNeil Lagali氏らにより、7月8日付で「Nature Communications」に報告された。この研究によると、軽症のCOVID-19罹患後12週間以上、最長3年にわたり、強い目の痛みや光過敏(まぶしさ)、読書時の見えづらさ、ピントの合わせにくさといった症状に悩まされる患者が存在し、通常の眼科検査ではこうした症状の原因となる異常は見つからないものの、特殊な検査で神経や免疫の異常が確認されたという。Lagali氏は、「こうした患者が訴える眼症状の原因は、標準的な眼科検査では確認できず、異常を見つけるには特殊な検査を行う必要があった。その結果、パズルのピースがつながるように症状の原因が明らかになった」と述べている。 今回の研究では、軽症のCOVID-19罹患後に12週間以上持続する眼症状(persistent ocular symptom;POS)を有する患者100人と、COVID-19に罹患したもののPOSは発症していない対照者32人の目を調べた。 その結果、通常の眼科検査では両群に大きな違いは認められなかった。しかし、近見時の両眼の協調運動を詳しく調べたところ、POS群では、眼球がわずかに内側へずれる「内斜位」が認められ、眼球のずれを補正する能力(融像予備力)も低下していた。また、光刺激に対する動的瞳孔測定では、暗順応後の瞳孔径と光刺激後の最小瞳孔径はいずれも対照群より大きく、瞳孔が収縮するまでの時間も延長していた。研究グループは、POSの一つである光過敏について、瞳孔反射の異常によって眼内に入る光量を十分に調節できなくなっていることが一因である可能性を指摘している。さらに、内斜位については、眼球運動を制御する神経がCOVID-19の影響を受けた可能性があると考察している。 さらに、生体共焦点顕微鏡(IVCM)などを用いた詳細な検査では、POS群では角膜上皮基底下神経叢の神経線維密度の低下や、活性化した樹状細胞・T細胞の増加が認められ、角膜で炎症や免疫活性化が生じていることが示唆された。涙液のプロテオーム解析では、これらの所見を裏付ける神経障害やT細胞の制御異常、炎症に関連するタンパク質の発現パターンの変化が確認された。研究グループは、これらの結果はCOVID-19による長期的な神経炎症を示唆するものと考察している。 研究グループによると、POSを有する患者の症状は日常生活に大きな支障を及ぼしており、患者の3人に1人が休職または時短勤務を余儀なくされていると回答したという。Lagali氏は、「こうした患者は日常生活で本当に大変な思いをしている。今回の研究によって目に何が起きているのかが分かり、COVID-19がどのようにしてこれらの問題を引き起こしたのかを示す重要な手がかりも得られた」と話している。 研究チームは、今回の研究成果が、COVID-19罹患後のPOSのより適切な診断法や有効な治療法の開発につながることを期待している。

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働き方改革で研修医のバーンアウトは減ったのか~2万5千人を調査

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行時、世界中で医師、とくに臨床研修医においてバーンアウトが大幅に増加した。一方、わが国では、医師の過重労働を減らし健康状態を改善するため、2023年に医師の働き方改革の準備を開始し、2024年4月に施行した。今回、千葉大学/英国・グラスゴー大学の小野 亮平氏らは、COVID-19流行時および国の働き方改革の準備期・施行期における、研修医のバーンアウトと労働環境の経時的変化について、多施設共同反復横断研究で調査した。その結果、臨床研修医のバーンアウトは2020年度に最も高く、その後、仕事への満足度、勤務時間、診療負担の改善に伴い減少したことが示された。BMJ Open誌2026年7月21日号に掲載。 本研究の対象は、日本医療教育プログラム推進機構(JAMEP)による2020年度・2022年度・2023年度・2024年度の基本的臨床能力評価試験(GM-ITE)を受験した1年目および2年目の臨床研修医である。自己記入式アンケートにより、週当たり勤務時間、救急当直回数、受け持ち入院患者数、自己学習時間、バーンアウトに関するデータを収集した。人口統計学的特性および施設特性を調整後、多変量ロジスティック回帰分析により働き方改革の各時期とバーンアウトとの関連を評価した。 主な結果は以下のとおり。・計2万5,368人の臨床研修医が参加した(2020年度:6,816人、2022年度:6,063人、2023年度:6,584人、2024年度:5,905人)。・バーンアウトの割合は、COVID-19流行初期の2020年度に最も高かった(21.7%)が、2024年度には13.3%に低下した。・仕事への満足度の割合は、2020年度の62.3%と比較して、働き方改革開始後の2024年度には75.4%まで改善した。・週80時間以上勤務していた臨床研修医の割合は、2020年度の19.9%から2024年度には2.3%に減少した一方、週45時間未満は2.5%から24.7%に増加した。・働き方改革前の2020年度・2022年度と比べたバーンアウトの調整オッズ比は、準備期の2023年度で0.60(95%信頼区間:0.55~0.66)、施行期の2024年度で0.67(同:0.61~0.74)であった。 著者らは「これらの結果は、業務負荷のバランスを改善するためのシステムレベルの取り組みが、臨床研修医のウェルビーイングの向上と関連している可能性を示唆している」と結論した。ただし、本研究が各年度で異なる臨床研修医を調査した反復横断研究であることやCOVID-19流行の収束と働き方改革の準備・施行時期が重なっていることなどから、働き方改革が原因と断定するには慎重な解釈が必要としている。

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新型コロナ・インフルワクチンの同時接種で有害事象は増えず

 この秋は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とインフルエンザの対策が一度で済むかもしれない。新たな研究で、新型コロナウイルスワクチン(以下、新型コロナワクチン)とインフルエンザワクチンを同時接種しても、インフルエンザワクチンのみを接種した場合と比べて安全上のリスクは増加しないことが示された。米ワシントン大学医学部および米VA St. Louis Health Care SystemのYan Xie氏らによるこの研究は、「Annals of Internal Medicine」に6月30日掲載された。 この研究では、米国の退役軍人(VA)約250万人の電子医療記録データを用いて、新型コロナワクチン(二価ワクチン、XBB対応ワクチン、およびKP対応ワクチン)とインフルエンザワクチンを同時接種した場合とインフルエンザワクチンを単独接種した場合とで、接種後90日以内の有害事象の発生について比較・評価した。2022年9月1日から2025年8月26日の間に70万5,124人が2種類のワクチンを同時接種し、181万3,205人はインフルエンザワクチンのみを接種していた。 有害事象は46種類を対象とし、重症度に応じて、1)重症で生命を脅かす事象(Tier 1)、2)臨床的に重要な事象(Tier 2)、3)比較的軽度または自己限定性の事象(Tier 3)の3段階に分類した。有害事象の具体的な例は、Tier 1では脳静脈洞血栓症や心筋梗塞、肺塞栓症など、Tier 2では心房細動や心房粗動、深部静脈血栓症など、Tier 3ではベル麻痺、失神、耳鳴りなどである。 解析の結果、重症度のレベルにかかわりなく、有害事象リスクについて同時接種群と単独接種群の間に統計学的な有意差は認められなかった。リスク比は、Tier 1で1.03(95%信頼区間0.99~1.09)、Tier 2で0.99(同0.96~1.03)、Tier 3で0.99(同0.96~1.02)であった。3種類の新型コロナワクチンが使用された期間別に解析しても、同時接種は有害事象のリスク増加と関連していなかった。 著者らは、「今回の結果は、新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンを同時接種することの短期的な安全性を支持するものであり、今後のワクチン接種に関する推奨を策定する際にも役立つ可能性がある」と述べている。

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第306回 無医地区が575地区に増加 医師不足エリア再拡大/厚労省

<先週の動き> 1.無医地区が575地区に増加 医師不足エリア再拡大/厚労省 2.高額療養費、8月から患者負担増 長期療養者には年間上限/厚労省 3.24年度の社会保障給付費138兆円 医療はコロナ費減で1.9%減/社人研 4.ドクターヘリの安定運航へ財政支援 広域搬送網の再設計も/厚労省 5.自由診療の再生医療に行政処分 患者死亡受け改善命令/厚労省 6.移植患者の術後管理置き去り 有償あっせんの元NPO理事長を再逮捕/警視庁 1.無医地区が575地区に増加 医師不足エリア再拡大/厚労省厚生労働省は、2025年10月末時点の「無医地区」が全国で575地区となり、2022年の前回調査から18地区増えたと公表した。無医地区人口も12万2,206人から13万4,753人へ1万2,547人増加した。国による定義では無医地区とは「医療機関がなく、中心地点からおおむね半径4キロ以内に50人以上が居住し、受診に長時間を要するなど医療機関を容易に利用できない地域」を指す。長期的には1984年の1,276地区から徐々に減少してきていたが、今回の調査で増加に転じ、医師不足地域が再び広がり始めた可能性が示された。都道府県別では、大分県が44地区で前回より6地区増え、岩手県、島根県、山口県、沖縄県が各4地区増加した。無医地区人口は大分県で5,852人、沖縄県で3,861人、山口県で1,920人増えるなど、地区数以上に住民への影響が拡大した地域もある。その一方で、福岡県は4地区、富山県と奈良県は各2地区減少した。山形県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、佐賀県には無医地区がなかった。厚労省は、診療所の閉院や高齢医師の引退後に後継者を確保できないことが増加の主因とみている。なお、これとは別に厚労省は7月31日に「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」を開き、2028年度以降、医学部臨時定員を全国で削減する方針を示している。厚労省としては医師少数県や全国の医師偏在指標を下回る県には削減幅を緩和する考えだが、定員増は想定していない。このため、医師不足を訴える自治体からは地域偏在が固定化・助長される懸念が出ており、単純な医師養成数だけでなく、地域枠医師の離脱防止、結婚や育児、介護を含む柔軟な勤務、キャリア形成を支える伴走型支援が重要となる。さらに、基幹病院とへき地診療所が医師を融通する地域医療連携推進法人、巡回診療、オンライン診療、搬送体制を組み合わせ、1人の医師に依存しない広域ネットワークへ転換する必要がある。無医地区の拡大は、慢性疾患の継続管理や予防接種だけでなく、救急受診の遅れ、在宅医療・看取りの空白、基幹病院への患者集中にもつながる。医師には、地域の診療所単位ではなく、2次医療圏全体で外来、救急、在宅、訪問看護、薬局をどう維持するかという視点が求められる。 参考 1) 令和7年度無医地区等及び無歯科医地区等調査の結果を公表します(厚労省) 2) 575地区で医療機関ゼロ 22年比18増、厚労省調査(共同通信) 3) 「無医地区」増加に転じる 25年10月末 18増の計575地区に(CB news) 4) 「全国値」未満は緩和検討 厚労省 医学部臨時定員、28年度は全都道府県で削減へ(同) 2.高額療養費、8月から患者負担増 長期療養者には年間上限/厚労省高額な医療費の患者負担を抑える高額療養費制度が8月1日から見直された。所得区分ごとの月額自己負担上限は、住民税非課税世帯で4~5%、それ以外でおおむね7%引き上げられる。たとえば70歳未満で年収約370~770万円の場合、従来の「8万100円+医療費の一定部分の1%」から「8万5,800円+(総医療費-28万6,000円)×1%」となり、定額部分で5,700円増える。さらに2027年8月には所得区分を細分化し、年収約650~770万円では定額部分が11万400円となるなど、現行制度と比べ最大38%の負担増となる見通し。その一方で、長期療養者への配慮として、8月から年間自己負担上限が新設された。年収約370~770万円では年53万円で、所得に応じ18~168万円に設定される。直近12ヵ月で3回、月額上限に達すると4回目以降の負担が軽減される「多数回該当」の上限額は原則据え置く。これまで月ごとの上限にわずかに届かず、多数回該当の対象にならなかった患者も、年間上限により負担が抑えられる場合がある。ただし年間上限は償還払いとなるため、患者がいったん上限を超える金額を立て替えなければならない可能性がある。厚生労働省は今回の見直しにより、2027年度時点で保険料と公費による医療給付を年間約2,450億円削減できると試算する。このうち約1,070億円は、患者の受診行動の変化による医療費減少を見込んだものだ。厚労省は、長期療養者や低所得者に配慮しており、必要な受診が抑制されるとは想定していないと説明する。しかし、患者団体や医療関係者からは、がんや難病など高額な治療を継続する患者の受診控えや治療断念、生活困窮につながるとの懸念が出ている。また、今回の見直しによる患者側の負担増(所得区分や受療状況によって年間負担は異なる)に対し、保険料の軽減効果は1人当たり年約1,400円(月額約117円)にとどまり、負担増とのアンバランスさを疑問視する指摘もある。今回の見直しでは、高所得者ほど医療利用時の負担を重くする「応能負担」が強化された点も論点となる。保険料や税の段階ですでに所得に応じた負担を求める中、専門家からは給付を受ける際にも負担差を広げることが、国民皆保険を支える連帯を損なうとの意見もある。医療現場では、患者の年齢や所得区分、多数回該当、年間上限、加入する健康保険の付加給付を確認し、治療費の見通しを早期に説明する必要がある。また、マイナ保険証を利用すれば、原則として限度額適用認定証がなくても窓口負担を上限額までに抑えられる。がん相談支援センターや医療ソーシャルワーカーと連携し、経済的理由による治療の中断を防ぐ支援が一層重要となる 参考 1) 高額療養費制度 自己負担の上限額引き上げも 年間上限額を新設(NHK) 2) 高額療養費、負担上限が8月から最大7%増 来夏には最大38%増(朝日新聞) 3) 高額療養費見直し 政府説明をデータでたどると? ロジックに異論(同) 4) 所得高ければ医療費負担も重く…広がる「応能負担」、専門家は問題視(同) 5) 今日から変わる「高額療養費制度」 “年間上限”導入も自己負担増に患者団体「治療断念につながる」懸念(弁護士JPニュース) 3.24年度の社会保障給付費138兆円 医療はコロナ費減で1.9%減/社人研国立社会保障・人口問題研究所は、2024年度の社会保障費用統計を公表した。年金、医療、介護、子育て支援などに充てられた社会保障給付費(ILO基準)は138兆3,019億円で、前年度から2兆6,703億円、2.0%増加した。増加は3年ぶりで、新型コロナウイルス対策に伴う支出が膨らんだ2021年度の138兆7,544億円に次ぐ過去2番目の規模となった。人口1人当たりでは111万7,100円と、前年度より2万6,400円、2.4%増えた。部門別では、年金が57兆8,528億円と最も多く、前年度比1兆4,592億円、2.6%増加した。物価や賃金の動向を反映し、2024年度の年金改定率が+2.7%となったことなどが影響した。介護や子供・子育て、生活保護などを含む「福祉、その他」は35兆6,436億円で、2兆836億円の増加、6.2%増えた。介護報酬の+1.59%改定や児童手当の所得制限撤廃などが押し上げ要因となった。その一方で、医療は44兆8,055億円で、前年度から8,726億円、1.9%減少し、2年連続のマイナスとなった。新型コロナ対策費の縮小が主因で、医療需要そのものの減少を示すものではない。給付費全体に占める構成割合は、年金41.8%、医療32.4%、福祉その他25.8%だった。社会保障給付費の国内総生産(GDP)比は21.53%で、前年度より0.37ポイント低下した。給付費は増えたものの、GDPの伸びがそれを上回ったためで、2021年度の24.07%をピークに低下が続く。社会保障財源(ILO基準)は155兆6,896億円で、年金積立金の運用実績低下に伴う資産収入の減少により21.4%減少した。財源構成は社会保険料53.3%、公費37.5%など。高齢化に加え、物価・賃金、報酬改定、少子化対策が給付費を左右する構造が改めて示された。 参考 1) 令和6(2024)年度 社会保障費用統計の集計を公表します~社会保障給付費、3年ぶりに増加~(社人研) 2) 24年度の社会保障給付費138兆円 高齢化で2番目の水準 厚労省(時事通信) 3) 2024年度の社会保障給付費、過去2番目に多い138兆円 GDP比は低下(日経新聞) 4) 社会保障給付費が3年ぶりに増加 対GDP比は減少続く 24年度(朝日新聞) 5) 24年度の社会保障給付費、「医療」は1.9%減 社人研(MEDIFAX) 4.ドクターヘリの安定運航へ財政支援 広域搬送網の再設計も/厚労省厚生労働省は、整備士不足などで一部地域のドクターヘリが運休している問題を受け、「救急医療搬送体制等のあり方に関する検討会」を開催し、安定運航に向けた議論を始めた。ドクターヘリは、救急医療機器を備え、医師・看護師が同乗して現場や搬送中に診療を行う専用機で、一般的に操縦士、整備士、医師、看護師らが搭乗する。2022年までに京都府を除く46都道府県へ導入されたが、整備士の確保難から東京、大阪、徳島などで運休が発生している。運休地域では、近隣県のドクターヘリ、消防防災ヘリ、ドクターカー、救急車による代替や相互応援が行われ、例外的に整備士を同乗させず操縦士2人で運航する「ツーパイロット制」も検討されている。大阪府は新たにエアロトヨタへ委託し、8月24日から月10日程度の限定運航を再開する予定だが、予備機を利用するため不具合時には再び停止する可能性がある。厚労省によると、2025年度は46都道府県57機で事業を実施した一方で、2026年4月時点で運航を委託できていたのは43都道府県54機にとどまった。年間受諾件数は2024年度に2万8,405件で、救急医療の基盤として定着している。国は今年度の当初予算に100億円を確保し、飛行時間に応じた運航委託費の補助基準額を引き上げた。さらに、機体整備や資機材、整備士確保などを支援する緊急事業として補正予算22億円を計上した。検討会では、短期的には運航事業者への財政支援、共同運航、規制の見直しを進め、9月にも中間取りまとめを行う。中長期的には整備士、操縦士、医療従事者の必要数を推計し、養成・確保策を構築する。今後は、ヘリ単独の維持ではなく、地域の搬送距離や疾病構造を踏まえ、消防防災ヘリやドクターカーを含む広域救急搬送網として再設計する視点が求められる。 参考 1) 救急医療用ヘリコプター(ドクターヘリ)の現状について(厚労省) 2) ドクターヘリ安定運用に向けて必要な支援は何か、社会構造変化の中でドクターヘリの役割をどう考えるか-救急医療搬送体制検討会(Gem Med) 3) 大阪府のドクターヘリ、新たな委託先はエアロトヨタ 8月下旬から一部運航再開へ(産経新聞) 5.自由診療の再生医療に行政処分 患者死亡受け改善命令/厚労省厚生労働省は7月31日、自由診療の再生医療を提供していた「ネオポリス診療所銀座クリニック」(東京都中央区)と「大阪ベテスダクリニック」(大阪府泉佐野市)の管理者に対し、再生医療等安全性確保法に基づく改善命令を出した。銀座クリニックでは今年3月、慢性疼痛に対する治療として本人の脂肪由来細胞を投与された外国籍の60代女性が急変し、搬送先で死亡。厚労省は同月13日、治療の一時停止を命じ、その後、提供体制を調査していた。調査では、細胞加工を委託する事業者を介し、韓国の再生医療グループが患者ごとの投与細胞数や投与方法を指定したリストを作成し、クリニックがその内容に従って処置していたことが判明した。医師ではない第三者が実質的に治療内容を決定する体制が常態化し、治療で得た利益の大部分も同グループなどに渡っていたという。さらに、国に届け出た再生医療提供計画から逸脱した治療を行うなど、複数の法令違反が認められた。厚労省は、第三者の影響力を排除し、医療機関が自らの責任で適正な提供体制を構築するよう求めた。大阪ベテスダクリニックでも同様に第三者主導の提供体制が確認され、再生医療後に体調不良で入院を要した患者1人について必要な報告をしていなかったとして改善命令を受けた。銀座クリニックの死亡原因については引き続き調査中である。今回の事案は、患者死亡事故を契機とした立ち入り調査により、外部事業者主導の不適正な運営体制や計画逸脱が発覚し、法に基づく改善命令が出された(因果関係の調査は継続中)。さらに、高額な自由診療として拡大する再生医療で、治療の医学的妥当性だけでなく、指示系統、利益配分、有害事象報告、届け出内容との整合性を含む管理体制の検証が不可欠であることを示した。再生医療等安全性確保法では、医療機関が提供計画を作成し、認定再生医療等委員会の審査を経て国に届け出ることなどを求めている。外部の事業者が治療設計や集患、収益配分まで事実上支配すれば、医師の独立した判断や緊急時対応が損なわれる恐れがある。自由診療の再生医療を提供する医療機関は、委託先との契約関係や治療決定過程を点検し、重篤な有害事象を速やかに報告する体制の再確認が求められる。 参考 1) 再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づく改善命令等について(厚労省) 2) 不適切再生医療で銀座の診療所に改善命令 厚労省 細胞投与で外国籍の患者死亡(産経新聞) 3) 患者死亡の再生医療クリニックなどに改善命令 厚労省(NHK) 4) 「銀座クリニック」の黒幕/「再生医療」謳う自由診療に札付きの輩(FACTA online) 6.移植患者の術後管理置き去り 有償あっせんの元NPO理事長を再逮捕/警視庁警視庁などの合同捜査本部は7月28日、カンボジアでの生体腎移植を別の患者に有償であっせんしたとして、NPO法人「難病患者支援の会」の元理事長で、一般社団法人「国際医療相談室」を実質的に運営していた菊池 仁達容疑者(66)を臓器移植法違反の疑いで再逮捕した。再逮捕容疑は2025年、千葉県内の60代男性にカンボジアでの生体腎移植をあっせんし、医師への謝礼や手数料名目で約850万円を受け取った疑い。男性は渡航後、中国人コーディネーターに現地医療費などとして約13万ドル、当時約1,900万円を支払い、カンボジア人男性とみられるドナーから腎臓移植を受けたとされる。渡航前には、菊池容疑者と協力関係にあった大阪市内の病院で血液検査などを受け、病院長の紹介状が中国人コーディネーターを介して現地の中国人医師団に送られていた。その一方で、男性は「アフターケアも万全」と説明されていたにもかかわらず、帰国後の受け入れ先が確保されておらず、受診を断られるなどして10ヵ所余りの医療機関を転々とした。このため移植後に必要な処置を受けるまで2ヵ月以上かかったというが、現在の容体は安定している。捜査本部は、同法人が設立された2024年3月以降、少なくとも患者5人から計4,500万円以上を受け取り、その一部が菊池容疑者の保釈金調達に伴う借金返済へ充てられたとみている。患者ごとの請求額は約500~900万円と幅があった。菊池容疑者は過去にもベラルーシでの無許可移植あっせんで実刑判決を受けており、保釈中に今回の事業を主導した疑いがある。臓器移植法は、患者とドナーを対価により結び付ける行為や、無許可のあっせんを禁じている。今回の事件は、海外渡航移植の不透明な費用構造に加え、免疫抑制剤の投与や感染対策など、帰国後の国内医療への引き継ぎが整わないまま患者が置き去りにされる危険性も浮き彫りにしたが、海外での移植内容やドナー情報、感染症・免疫抑制療法に関する情報が不十分な場合、国内医療機関で安全な術後管理を引き継ぐことが困難になる問題も浮き彫りとなった。 参考 1) 臓器移植法違反事件 帰国後の男性 受診拒否で医療機関を転々(NHK) 2) 別の男性にも臓器移植手術あっせんか NPO元理事を再逮捕へ(同) 3) 臓器移植あっせん事件、別の患者からも対価か 元NPO理事再逮捕へ(朝日新聞) 4) 臓器有償あっせん、患者から受け取った現金を菊池被告が借金返済に…保釈金1,800万円の調達でできた借金(読売新聞)

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PSSA菌血症治療の常識は変わるか?(解説:栗原宏氏)

Strong point・PSSA治療に抗ブドウ球菌ペニシリン系薬という長年の慣習とリスク回避策に一石を投じた・多施設、国際共同RCTでエビデンスレベルが高い・主要評価項目を培養陰性化や解熱ではなく、90日全死因死亡率に設定し、実臨床に即した評価となっている・厳格な判定方法で真のPSSAのみが対象となっているWeak point・早期終了/オープンラベル/厳格な検査体制という条件付きの結果なので、一般化には注意が必要・PSSAの判定方法が厳密であり、日本で主に用いられている自動感受性試験のみでは本論文の内容を適用しづらい 現在のPSSA(Penicillin-Susceptible Staphylococcus aureus)を取り巻く環境は10年前とはかなり変化している。欧米を中心に、かつてはまれとされていたPSSAの割合が再増加傾向であることが本研究の背景となっている。PSSAであれば、治療としてペニシリンGは、最も狭域で抗菌活性が高く、内服アモキシシリンへの移行が容易、腎障害・肝障害・静脈炎が少ない可能性があるなど利点が多い。その一方で、低レベルペニシリナーゼ産生菌がPSSAと誤判定されていた場合の治療失敗リスクを踏まえて、抗ブドウ球菌ペニシリン系薬が第1選択とされていた。本研究はPSSAに対して「念のために抗ブドウ球菌ペニシリンを使う」という従来の治療戦略に再考を促す結果となった点で意義が大きい。 本研究は、世界8ヵ国67施設が参加した国際共同RCTであり、PSSA菌血症患者281例をペニシリンG群と抗ブドウ球菌ペニシリン群に1:1で割り付け、90日全死因死亡率を主要評価項目としてペニシリンGの非劣性を検証した。 ペニシリンG群の非劣性の事後確率は96.1%、優越性の事後確率は88.9%であった。事前に設定された非劣性判定基準(99%)には達しなかったものの、ペニシリンGを治療選択肢として支持する結果と考えられる。 PSSAの判定は日本の医療機関で主流の自動感受性試験とは異なり、ペニシリンディスク拡散試験、阻止円縁の評価、blaZ遺伝子PCRなどのペニシリナーゼ産生菌除外の厳密な判定が行われている点には注意が必要である。 本邦では、flucloxacillinおよびクロキサシリンは承認されておらず、PSSAを含むMSSA菌血症にはセファゾリンが標準的に使用されている。CloCeBa試験1)によればMSSA治療に関して、セファゾリンはクロキサシリンと比較して急性腎障害の発生リスクは低く、治療効果は非劣性であることが示されているが、PSSAに対するペニシリンGとセファゾリンを直接比較した研究はない。 現時点では、厳密なPSSA判定が可能な施設ではペニシリンGを選択肢として検討できる一方、日本の診療環境ではセファゾリンを第1選択とする従来の治療戦略も引き続き妥当と考えられる。

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第305回 「攻めの予防医療」公表 がん検診60%と国民皆歯科検診の実現へ検討/厚労省

<先週の動き> 1.「攻めの予防医療」公表 がん検診60%と国民皆歯科検診の実現へ検討/厚労省 2.日本人の平均寿命、男女とも延伸 女性は41年連続世界一/厚労省 3.高額療養費、8月から負担増 社会保障費膨張で改革圧力強まる/政府 4.電子カルテ、2030年にほぼ100%へ 国はクラウドと情報共有を標準に/政府 5.看護学生、10年で3割減 地域医療を脅かす看護師不足/厚労省 6.医療機関の倒産、上半期で過去2番目 後継者難が深刻化/東京商工リサーチ 1.「攻めの予防医療」公表 がん検診60%と国民皆歯科検診の実現へ検討/厚労省厚生労働省は、7月23日に健康寿命の延伸を目指す施策パッケージ「U.E.N.O.Plan」を公表した。従来のように国民の自主的な健康行動を促すだけでなく、行政や保険者が能動的に介入し、行動変容を後押しする「攻めの予防医療」への転換を掲げている。重点領域は、「がん・循環器病等、栄養・食生活、歯科保健、認知症、リハビリテーション、性差に由来するヘルスケア」の6分野である。がん対策では、2028年度までに胃、大腸、肺、乳房、子宮頸部の主要5がん検診の受診率目標を60%、精密検査受診率を90%としている。就業状況に応じた受診勧奨、職域と自治体の連携、受診率の見える化、未受診理由の調査、ポータルサイトの開設を進めるほか、事業者と保険者による「コラボヘルス」を強化する。要精密検査者への勧奨や相談支援も充実させ、検診を受けるだけでなく、診断・治療につなげる仕組みを重視する。歯科保健では、2027年度から「国民皆歯科検診」の実現に向け、現在10歳ごとの歯周病検診を5歳ごとに拡大し、希望者が唾液などによる簡易検査を毎年受けられる仕組みを検討する。栄養分野では、生活習慣病予防に向けた「食事ガイド」を2026年度中に作成する。リハビリテーションは、心身機能の回復にとどまらず、日常生活動作の改善、社会参加、健康増進を支える重点領域とされた。急性期での早期・休日リハビリ、地域の通いの場や短期集中予防サービス、訪問・通所リハビリなどを予防、医療、介護を通じて切れ目なく提供し、科学的根拠に基づくポータルサイトで本人の主体的参加を促す。ただし、新規施策は情報発信が中心で、実効性は今後の診療報酬・介護報酬や予算措置に左右される。日本慢性期医療協会は、この提言に関連して、高齢者の要介護化や重度化の大きな要因である転倒・骨折を防ぐ「攻めのリハビリ戦略」を提言した。理学療法士・作業療法士が、身体機能、住環境、栄養、服薬、骨粗鬆症を評価する「転倒リスク健診」、ICT・AIを用いた自宅環境評価、要介護前の予防的リハビリの制度化が柱である。「転倒させない、転倒しても骨折させない、骨折しても寝たきりにさせない」の3段階で介入し、健康寿命の延伸と医療・介護費の抑制を目指す。今後は、理念を現場で実行できる人員配置、財源、評価制度の具体化が焦点となる。 参考 1) U.E.N.O.Plan~攻めの予防医療厚生労働省関係施策~(厚労省) 2) 攻めの予防医療推進する「U.E.N.O.Plan」を公表 主要ながん検診受診率60%達成へ 28年度までに(CB news) 3) 日慢協、「攻めのリハビリ戦略」提言 骨折・転倒を防ぐリスク健診など(同) 4) 厚労省「攻めの予防医療」、リハビリを予防・医療・介護貫く重点領域に位置づけ(PT-OT-ST.net) 2.日本人の平均寿命、男女とも延伸 女性は41年連続世界一/厚労省厚生労働省は、7月24日に2025年の「簡易生命表」を公表した。それによると、日本人の平均寿命は男性81.35歳、女性87.33歳で、前年よりそれぞれ0.25歳、0.20歳延びた。男女とも前年を上回るのは2023年以来2年ぶり。女性は41年連続で世界1位を維持し、男性はスウェーデン、スイス、イタリアなどに次いで7位となり、前年から順位を1つ下げた。男女差は5.98年で、前年より0.05年縮小した。平均寿命は、その年の年齢別死亡率が今後も続くと仮定した場合に、0歳児が平均して何歳まで生きるかを示す指標である。今回の数値は、わが国に住む日本人を対象とした2025年の簡易生命表に基づく。わが国では男性が2020年まで9年連続、女性が8年連続で過去最高を更新していたが、新型コロナウイルス感染症による死亡増加の影響で2021年、2022年は男女ともに低下した。2023年にはいったん回復したものの、2024年は男性が横ばい、女性が0.01歳短くなっていた。今回の延伸には、がん、心疾患、新型コロナによる死亡率の低下が寄与した。男性ではがん、女性では新型コロナや心疾患による死亡率低下の影響がとくに大きかった。その一方で、肺炎や老衰による死亡割合は増加しており、高齢化に伴う死因構造の変化もみられる。国際比較では、女性は日本に続き韓国、スペインが上位となり、男性はスウェーデンが82.52歳で首位、スイスが82.40歳と続いた。ただし、各国の公表年や集計方法には違いがあり、順位は参考値として捉える必要がある。厚労省は、わが国の平均寿命は男女とも世界トップクラスで、保健福祉水準の高さを示す一方で、なおコロナ禍前の水準(2020年時点で男性81.56歳、女性87.71歳)には戻っていないとしている。今後は寿命の延伸だけでなく、健康寿命との差を縮め、フレイルや生活習慣病を予防し、要介護期間を短くする取り組みが一層重要となる。 参考 1) 令和7(2025)年簡易生命表の概況 2) 2025年の平均寿命 男女とも前年上回る 女性は世界1位(NHK) 3) 平均寿命、男女とも延び 昨年、女性は87.33歳で世界首位 厚労省まとめ(日経新聞) 4) 日本人の平均寿命、女性は41年連続「世界一」の87.33歳…男性81.35歳(読売新聞) 3.高額療養費、8月から負担増 社会保障費膨張で改革圧力強まる/政府政府は、7月24日に医療費の自己負担を一定額に抑える高額療養費制度について、2026年8月と2027年8月の2段階で患者負担の上限を引き上げる関連政令を閣議決定した。8月1日から所得区分ごとの月額上限を4~7%引き上げ、さらに2027年8月には所得区分を細分化したうえで、現行比最大38%まで引き上げる。年収約370~770万円では、現在の基準額8万100円が2026年8月から8万5,800円となり、2027年8月以降、年収約650~770万円では11万400円となる。その一方で、長期療養者への配慮として、2026年8月から所得に応じた年間上限を新設し、同年収帯では53万円とする。現行制度は、月ごとの自己負担限度額を超えた分を保険者が給付する仕組みで、直近12ヵ月で3回以上該当した場合、4回目以降の負担を軽減する「多数回該当」がある。今回、この多数回該当の限度額は原則据え置く。厚生労働省の資料では、健保組合の1,000万円以上の高額レセプトは2010年度の174件から2024年度には2,328件に増えており、高額医薬品や高度医療の普及を背景に制度の持続可能性が課題となっている。さらに70歳以上の外来通院の負担を抑える「外来特例」も見直し、一般区分の月額上限は現在の1万8,000円から2026年8月に2万2,000円、2027年8月に2万8,000円へ引き上げる。低所得層には据え置きや年間上限を設ける。政府は給付費を抑え、現役世代の保険料軽減につなげる狙いだが、患者団体は、がんや難病など継続治療が必要な患者の受診控えや治療中断を懸念する。背景には、膨張を続ける社会保障費がある。2026年度当初予算で社会保障費は39兆円と歳出の約3割を占め、財務省は2027年度の自然増を約4,000億円と見込む。政府・与党内では、70歳以上の窓口負担引き上げ、介護サービスの2割負担対象拡大、外来特例の廃止、OTC類似薬の追加負担などを巡り温度差がある。介護報酬改定による賃上げ対応も歳出増要因となる。さらに「骨太の方針」から例年の「財政健全化」の文言が消え、長期金利が一時2.9%に達するなど、市場は歳出膨張への警戒を強めている。制度の持続可能性と患者のセーフティーネットを両立できるかが焦点で、医療現場には所得区分、年間上限、多数回該当を踏まえた丁寧な説明と相談支援が求められる。 参考 1) 高額療養費制度の概要(厚労省) 2) 高額療養費、8月から負担増 月4~7%、年間上限額を新設(共同通信) 3) 高額療養費の上げ決定 負担上限、来月から2段階(日経新聞) 4) 社会保障費の膨張止まらず、自然増は0.4兆円 来年度の概算要求基準(日経新聞) 4.電子カルテ、2030年にほぼ100%へ 国はクラウドと情報共有を標準に/政府政府は7月21日に、新たな規制改革実施計画を閣議決定した。医療分野では、電子カルテを単に院内で保存する装置から、全国で医療情報を共有・活用する基盤へ転換する方針を打ち出している。政府目標として2028年度までに200床以上の病院、2030年までに全医療機関での普及率ほぼ100%を掲げる一方、上野 賢一郎厚生労働大臣は記者会見で法改正に基づく目標達成義務は「政府に課されたものであり、医療機関に導入を義務付けるものではない」との見解を示している。現在使用している電子カルテや紙カルテの継続利用も可能とされているが、政策の全体像としてはクラウド化と情報共有を軸としたデジタル化が加速している。中心となるのはクラウドネイティブ型電子カルテである。厚生労働省は一定の標準仕様、情報連携、セキュリティ要件を満たす製品の認証制度を2026年度中に整備し、2027年春の認証開始を目指す。多要素認証やペネトレーションテスト、電子処方箋・電子カルテ情報共有サービスとの接続を想定し、中小病院や診療所には認証製品の導入補助も検討する。院内サーバー中心の仕組みから、ベンダーが更新や防御を担うクラウド型へ誘導する狙いがある。政府の重点計画も、クラウドネイティブ型の認証制度と標準型電子カルテの普及を明記した。電子カルテ情報共有サービスは2026年度中に全国運用を開始し、以後はバイタル、画像、病理・画像診断レポートなど共有情報を拡大する。薬局、訪問看護、介護事業所との連携も視野に入り、診療情報は施設内で完結せず、患者を軸に流通する方向となる。保存期間も、先天性疾患や小児がんなど長期追跡が必要な疾患を念頭に延長が検討される。既存カルテの継続使用は当面可能だが、更新時には標準化、クラウド、外部連携への対応が事実上の選択条件になっていく。医師にとって電子カルテは単なる記録媒体ではなく、地域連携、救急、処方、研究、AI活用の入口となる。その一方で、システム障害時の診療継続、アクセス権限、情報漏えい対策、入力負担への備えは不可欠である。医療機関は「義務化されるまで待つ」のではなく、次回更新を見据え、データ移行性、標準規格、バックアップ、サイバー対策を早期に点検すべき段階に入った。 参考 1) 規制改革実施計画(内閣府) 2) デジタル社会の実現に向けた重点計画(デジタル庁) 3) 電子カルテ、厚労省が認証制度 中小病院や診療所の導入補助を検討(日経新聞) 4) 電子カルテデータの保存期間を延長へ 年内結論、規制改革実施計画(CB news) 5) 厚労相「医療機関に電子カルテ導入の義務はない」(保団連) 5.看護学生、10年で3割減 地域医療を脅かす看護師不足/厚労省看護師不足が、地方を中心に病床削減や病棟閉鎖という形で地域医療を直撃している。看護師養成課程の受験者は2025年度に14万1,234人で、10年間で30.8%も減少している。18歳人口の減少はこの期間に9.1%に過ぎず、単なる少子化だけでは説明できない。とくに専門学校の受験者は63.2%減り、宮城県、沖縄県を除く全都道府県で定員割れとなっている。さらに2030年度までに94課程が廃止される予定で、卒業生の8割超が地元で就職する専門学校の縮小は、地域の看護師不足に深刻な影響を与える。背景には、看護師の夜勤を含む不規則な勤務形態、責任の重さ、実習負担、学費、賃金の伸び悩みがある。看護師養成には102単位が必要で、そのうち約4分の1を実習が占める。SNSでは「実習がきつい」との印象も広がる。さらに50~54歳の看護師の平均月収は20~24歳より7万7,000円高い程度で、年齢や経験を重ねても処遇が伸びにくいこともある。購買力平価ベースの給与でも米国やオーストラリアを大きく下回り、診療看護師など公的なキャリアアップ制度が乏しいことも職業選択上の弱点となっている。影響はすでに顕在化している。岐阜県立下呂温泉病院では看護職員が約10年で50人減り、配置基準に合わせて実質稼働病床を130床まで縮小した。市立金山病院も看護師不足を一因に療養病棟を閉鎖した。青森県むつ市でも患者受け入れ制限が検討されるなど、看護師不足は医師不足と同様に、病院の診療機能そのものを規定する問題である。病院に空床があっても看護配置がなければ入院を受けられず、救急、手術、病棟運営、退院支援、在宅移行まで連鎖的に影響するため、地域にとって非常に重要な課題となる。また、医師の業務を看護師へ一方的に移すだけでは看護師の業務負担が増えるため、医師事務作業補助者や看護補助者を含む役割分担、指示の標準化、不要な慣行の見直しに医師も関与しなければならない。厚生労働省は2040年までの需要推計、新人研修の充実、ICT教材、遠隔授業、養成校の統廃合・サテライト化、教員配置基準の柔軟化を検討する。日本病院会からは、看護師偏在対策として卒後臨床研修や地域マッチングを導入する案も出ている。自治体による修学支援、地元勤務を条件とした学費給付、外国人看護補助者の活用も進む。ただし、確保策だけでなく、賃金、夜勤負担、教育支援、柔軟な勤務、専門性に応じた評価を一体で見直さなければ、看護師の志望者数減と離職の連鎖は止まらない。看護師の確保は、看護部門だけの課題ではなく、病院経営と地域医療構想の根幹に位置付けるべき大きな課題となっている。 参考 1) 消える看護学生、10年で3割減 地域医療の持続に黄信号(日経新聞) 2) 新人看護職員研修充実による看護師の資質向上、看護師養成校の人員体制柔軟化等による経営支援等を検討-看護職員養成・確保検討会(Gem Med) 3) 看護師の確保策にとどまらず「偏在対策」が必要、医師と同様の「卒後一定期間の臨床研修」制度を検討せよ-日病・相澤会長(同) 4) 看護師不足、人材確保へ模索 岐阜県下呂市、行政連携や外国人材活用(NHK) 6.医療機関の倒産、上半期で過去2番目 後継者難が深刻化/東京商工リサーチ東京商工リサーチによると、2026年上半期に倒産した病院、診療所、歯科医院は前年同期比15.1%増の38件と医療機関の経営悪化が一段と鮮明になっていることが明らかになった。上半期としては、2006年以降で2009年の39件に次ぐ2番目の高水準である。内訳は病院が4件と前年同期から半減した一方で、診療所は19件、歯科医院は15件に増加。診療所は過去20年間で最多となり、地域の身近な医療機関ほど厳しい状況に置かれている。倒産原因は、患者数や収入の減少など「販売不振」が22件、「既往のしわ寄せ」が8件で、合わせて約8割を占めた。さらに、後継者難による倒産は過去最多の11件に上り、全体の約3割を占めた。倒産の37件、97.3%が破産で、民事再生は1件だけだった。経営不振に陥った医療機関では、第三者への承継や再建が難しい実態がうかがえる。その一方で、裁判所への申し立てなどを伴う倒産には至らないものの、事業継続を断念し、廃業を選ぶ医療機関も急増している。帝国データバンクによると、2024年の休廃業・解散は722件だったが、2025年には823件へ増え、2年連続で過去最多を更新した。うち診療所が661件を占め、診療所経営者の56.7%が70歳以上とされる。2025年の倒産も66件で過去最多となった。背景には、光熱費、医薬品、医療材料、給食費、建設費、人件費の上昇に対し、公定価格である診療報酬へ十分に転嫁できない医療特有の構造がある。厚生労働省の調査でも、2024年度は一般病院の67.6%、医療法人の一般診療所の37.4%が赤字だった。患者数の減少、職員不足、施設の老朽化、後継者不在が重なれば、地域から医療機関が失われ、救急や在宅医療を含む残存施設への負担集中を招く。資金支援だけでなく、早期の事業承継、医療機関の再編・連携、物価や賃金を反映した診療報酬上の対応が急務となっている。 参考 1) 2026年上半期「医療機関」倒産 増勢続く 上半期で2番目の38件、「後継者難」は最多(東京商工リサーチ) 2) 日本の医療は崩壊寸前? 医療機関の休廃業・解散は過去最多722件(AERA)

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第323回 学会で質問殺到、コロナの予防投薬は誰にいつする?

INDEXコロナ治療薬、今はどうなっている?NEJM誌掲載の“今”の予防方法学会セッションでも質問殺到コロナ治療薬、今はどうなっている?新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)が感染症法上の5類に分類されてから3年以上が経過した。基礎疾患を有する高齢者にとってはいまだ脅威となる感染症だが、世間全般で見れば、もはやコロナ禍なぞどこ吹く風である。そしてやや酷な言い方をしてしまえば、コロナ禍中に世を賑わせた新型コロナに対する治療も“後退”を余儀なくされている。ご存じのようにコロナ禍中は、外資系のメガファーマを中心に国から特例・緊急承認を受け、その後に通常承認へと移行した治療薬も相次いだ。これまで何らかの形で承認されたのは以下の通りだ。抗ウイルス薬としては、第一弾で静脈注射のレムデシビル(商品名:ベクルリー)が登場し、経口薬のモルヌピラビル(ラゲブリオ)、ニルマトレルビル/リトナビル(パキロビッド)、エンシトレルビル(ゾコーバ)の順で上市された。また、これ以外にも中和抗体薬としてカシリビマブ/イムデビマブ(ロナプリーブ)を皮切りにソトロビマブ(ゼビュディ)、チキサゲビマブ/シルガビマブ(エバシェルド)、新型コロナによる肺炎に対して経口JAK阻害薬バリシチニブ(オルミエント)、ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体のトシリズマブ(アクテムラ)も承認された。しかし、mRNAワクチンの登場に加え、感染主流株が病原性の低いオミクロン株系統へと移行した結果、治療の景色は一変した。まず、デルタ株からオミクロン株への変遷で、ウイルス表面のスパイクタンパク質の変異が大きかったことから中和抗体薬はほぼ無効になり、事実上の退場となった。オミクロン株系統では肺炎患者が大幅に減ったことからバリシチニブ、トシリズマブも活用機会も激減した。そしてもっとも主力となる経口抗ウイルス薬の4種類については、いずれも公的な費用対効果分析ではネガティブな評価を下され、薬価が引き下げとなった。NEJM誌掲載の“今”の予防方法そのような中で新型コロナの治療に関して比較的明るい話題としては、今年3月にエンシトレルビルが新型コロナ感染者との接触者に対する予防投与の適応で承認追加となったことぐらいだろう。この承認のもとになった臨床試験結果は今年5月にNEJM誌に論文1)が掲載されている。COVID-19患者の同居家族、エンシトレルビルで発症予防/NEJM本連載を過去から長らくお読みの方は、私個人がエンシトレルビルの緊急承認時の有効性にはかなり懐疑的だったことをご記憶の方もいるかもしれないが、この点は今でもほぼ変わっていない。一方でこの曝露後予防に関する結果については、ほぼ額面通りに受け止めている。以前、本連載で新型コロナの治療なども含め現在地を取りまとめたことがあった(第280回、第281回)が、その当時はこのエンシトレルビルに関して、いわばトップジャーナルでの掲載論文がほとんどないことがやや悩みだった。ほかの治療薬と比べて、エビデンス上、アンバランス感が否めなかったからだ。しかし、今回は堂々のNEJM誌掲載であり、一定の評価はしている。もっとも敢えて言うならば、この数字を適用すれば、新型コロナ感染者に接触した人が100人いる場合、何もせずにいれば9人が発症し、エンシトレルビルを5日間服用すればそれが3人に抑えられる計算になる。そしてうち91人はもともと発症しない。そのうえで適応が承認されたとはいえ予防投与の薬剤費は、5日間で4万9,630円の全額自己負担。個人的感想としては「高齢者で新型コロナ感染時に重症化因子となる基礎疾患が複数ある人などを除けば、効果の割にはかなり高額の自己負担が必要」とややネガティブな評価になる。これが現在の季節性インフルエンザに対する抗ウイルス薬・オセルタミビル(タミフルほか)くらいの薬価なら、かなりコスパが良いとなるのだが…。もっとも医療機関を受診して新型コロナ感染が判明した人の家族や同居者が予防投与を開始するか否かは、インフォームド・コンセント(IC)を行ったうえで本人たちの意思に委ねれば、おおむね解決できると言えるだろう。ただ、入院患者で発症した場合、院内感染対策として同室患者に処方するか否かという場面が生じた際には、医療機関にとってかなり悩ましいことになる。インフルエンザについては、多床室で感染者が発生した場合、少なからぬ病院では持ち出しで同室者にオセルタミビルを予防処方しているのが実態だ。それもこれもジェネリック品ならば、1カプセルの薬価は104.1~108円であり、予防内服は7~10日間で薬剤費は最大1人1,080円で済むからである。現在の多床室で一般的な4人部屋で考えると、最初にインフルエンザに感染した人は保険診療で対応し、残る3人を持ち出しで予防内服をさせても、支出は3,240円である。先発品を使ったとしても5,169円にとどまる。最悪、患者に事情を説明し、自己負担をお願いしたとしても「まあ、しょうがないか」と応じてくれる人もそれなりにいるだろう。しかし、エンシトレルビルではそうはいかないことは明らかだ。同じように4人部屋で1人感染者が発生し、ほかの患者への予防内服を病院持ち出しにすると、その金額はオセルタミビルの実に28倍超の14万6,670円となる。昨今の物価・人件費の高騰により、経営苦境が極度に顕在化している現状では、病院側がすんなり持ち出しをできる金額ではない。そして患者に負担をお願いするとしても約5万円という金額を即答で応じてくれる人は皆無ではないだろうか?学会セッションでも質問殺到実は先日、横浜市で開催された第41回日本環境感染学会総会・学術集会では「緊急企画・医療機関におけるCOVID-19伝播に対する抗ウイルス薬の予防投与」と題したセッションでこのことが話題となった。同セッションで登壇した泉川 公一氏(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 臨床感染症学分野 教授)は「理想的には同室者全員に投与することが望ましいとは思うが、より現実的には重症化リスクの重み付けなどを検討してもよいのかもしれない。たとえば糖尿病、慢性腎臓病、慢性閉塞性肺疾患などの基礎疾患、あるいは免疫不全の有無などをスコアリングし、よりスコアの高い患者を優先的にという考え方、さらにこれに加えワクチン未接種者、施設入所者といったファクターも加味させてもよいのかもしれない」との見解を示した。理論上は筋が通っているものの、この時会場にいた人の中で、この発言に歯切れの悪さを感じたのは自分だけではないだろう。もちろんこれは泉川氏のせいではなく、薬価も含めて極めて悩ましい外部環境があるからである。また、同じくこのセッションに登壇した掛屋 弘氏(大阪公立大学大学院医学研究科 臨床感染制御学教授)は、「現状でエンシトレルビルを採用していない病院はあるかもしれないものの、予防投与の適応が承認された以上、病院としてはやはり準備(採用)しておくことは必要」との認識を強調。そのうえで予防投与の院内ルールの検討を行うべきとの見解を示した。掛屋氏によると、大阪公立大学医学部附属病院の場合、総務企画課、医事運営課、血液内科、感染制御部が合同で予防投与の運用検討会議を開催している。現在までの予防投与の院内ルール検討では、事務方から一律病院負担で広く予防投与することの了承は得られていないという。そのうえで掛屋氏は私案として病室での孤発例の場合は患者自己負担、クラスター発生時はその拡大を防ぐという意味での病院負担という考え方の一例を提示した。具体的には孤発、クラスターいずれのケースでも、まず陽性者確認の段階で接触者の抽出と個々の接触者の重症化リスク評価を実施。患者自己負担が原則の孤発ケースでは、接触者全員にエンシトレルビルによる予防投与の手段があること、予防投与を選択しなくても発症した場合は迅速に対応することを説明する。また、クラスター対応時の接触者の病室管理については、原則としては個室収容が望ましいものの、同室者の中で予防投与患者と非予防投与患者が混在した場合、予防投与のメリットが低減することを考慮し、予防投与した患者を優先的に個室収容するという対応もあり得るとした。このセッションでは会場からも数多くの質問が寄せられた。その一部を要約して紹介したい。―古い病院では、大部屋にトイレがなくて洗面所や休憩室も一緒な場合がある。この場合、予防投与の範囲をどう考えるべきか?「非常に難しいが、トイレですれ違ったなどのレベルでは感染が成立する可能性は低いと考えられるので、やはり同室の方(の予防)が中心になると思う」(掛屋氏)―ワクチンの追加接種歴があれば、曝露しても重症化リスクが低下する。重症化リスクではワクチン接種歴をどの程度加味するべきか?「原則、ワクチン接種歴は勘案しない。というのも従来から行われているインフルエンザの院内感染対策での予防内服の場合、ワクチン接種歴を考慮していない。また、ワクチン接種で100%予防できるわけではないので、改めて予防投与での判断要素とはしない」(登壇者:國島 広之氏[聖マリアンナ医科大学感染症学講座 主任教授])「私も基本的に國島先生と同じ考え。ケースバイケースで半年以内の接種有無、最新流行株のワクチン接種歴は聴取するかもしれないが、昨年の定期接種での65歳以上の新型コロナワクチン接種率は約10%と言われているので、ほぼ全員が接種していない前提で考えている」(掛屋氏)―(新型コロナ陽性の)スタッフと患者との接触では、その日に(そのスタッフの)受け持ちだった(患者)ということになると、かなり広範囲の患者(が対象)になってしまう。マスク着用の有無も含め、そこをどのように判断するのか「マスクをせずに接触する事態はあるかもしれないが、まずは私たちの側に明らかな非を作らないことが大事。今、一部にはもう皆でマスクを外しても良いのではないかという考えもあるようだが、むしろ院内感染リスクの観点では逆の考え方もあると思う」(掛屋氏)正直、これら質疑応答のやり取りにも絶対の正解はないのだろう。いずれにせよ技術革新、医療の進歩が新たなジレンマを生み出したことだけは確かである。参考1)Hayden FG, et al. N Engl J Med. 2026;394:1905-1915.

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重症感染症患者の遠隔モニタリング、自宅で過ごす日数は改善せず

 ウェアラブル機器やスマートフォンによる通信技術の進歩により、病院では患者を早期退院させ、自宅療養中の状態を遠隔モニタリングする取り組みが進められている。このアプローチは、例えば心不全など一部の疾患では有効性が示されている。しかし、新たな研究で、敗血症や下気道感染症などに対して遠隔モニタリングを行っても、患者が自宅で過ごす日数が増えることはなく、高齢患者ではむしろ日数が減る可能性が示唆された。米ピッツバーグ大学集中治療医学分野教授のSachin Yende氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に6月11日掲載された。 研究の背景情報によると、米国では毎年300万人を超える患者が、インフルエンザや敗血症、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などの重篤な感染症で入院している。また、敗血症や下気道感染症から回復した患者では、その後1年以内の死亡率が約40%に達し、再入院の60%超は感染症の再発や心疾患・肺疾患の悪化によるものとされる。 研究グループによると、米国のメディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)は、医療へのアクセス向上と医療費削減の両立を目指す戦略として遠隔モニタリングを推進している。その結果、2019年から2022年にかけて、メディケア受給者における遠隔モニタリングの利用は10倍に増加した。Yende氏はニュースリリースで、「医療機関、保険会社、政策立案者はいずれも再入院の減少を望んでいるし、多くの患者も安全に自宅で回復することを希望している。遠隔モニタリングはその解決策として期待されており、CMSによる保険償還の対象にもなっているため利用が拡大している。しかし、一部の疾患を除けば、遠隔モニタリングが再入院の減少につながることを示す質の高いデータは極めて乏しい」と指摘する。 今回の研究では、19施設で敗血症または下気道感染症の治療を受けた21歳以上の患者1,286人(年齢中央値63歳、女性51.7%)を対象に、遠隔モニタリングの有効性を検証した。主要評価項目は、退院後90日間の自宅滞在日数であった。患者は、遠隔モニタリングを受ける群(887人)と通常のケアを受ける対照群(399人)にランダムに割り付けられた。遠隔モニタリングは質問票を用いた介入であり、質問票の強度(低強度〔短い〕/高強度〔長い〕)と、対応体制(通常のナースチームによる標準対応/多職種による強化対応)を組み合わせた4種類の介入が用いられた。 その結果、遠隔モニタリング群では対照群と比較して、退院後90日間の自宅滞在日数に改善は認められなかった。また、再入院率についても有意な改善は認められなかった。一方、65歳以上の患者では、遠隔モニタリング群では対照群と比較して自宅滞在日数が少ないことが示された。 研究グループは、「これらの結果は、CMSが再入院抑制における遠隔モニタリングの役割を再評価する必要があることを示唆している。また、重篤な感染症後の急性期後のケアでは、患者ごとの状況に応じた遠隔モニタリングを行うことの重要性を示している」と述べている。 さらに研究グループは、「今回の結果は、遠隔モニタリングを医療システム全体へ導入・拡大することの難しさを浮き彫りにしている。また、重篤な疾患から回復中の患者は、薬物治療やフォローアップ受診の予約、持続する症状への対応など複雑なケアを必要としており、そのような患者に遠隔モニタリングを適用することの課題を示してもいる」と結論付けている。

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再発・難治性B細胞NHL、CAR-T細胞療法の10年追跡結果/NEJM

 再発または難治性のB細胞非ホジキンリンパ腫(NHL)患者において、チサゲンレクルユーセルの単回投与により、大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)患者では約3分の1、濾胞性リンパ腫(FL)患者では約半数が、10年に及ぶ寛解(リンパ腫無再発生存)を得たという。米国・ペンシルベニア大学のMarco Ruella氏らが、同大学で実施した第II相試験の10年追跡調査の結果を報告した。抗CD19キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法は、再発・難治性B細胞NHLに対する標準治療であるが、長期アウトカムや治癒の可能性は依然として不明であった。NEJM誌2026年6月25日号掲載の報告。チサゲンレクルユーセル投与の患者38例を10年追跡 研究グループは、CD19を標的とし、4-1BB共刺激ドメインを有するキメラ抗原受容体を発現する自家T細胞であるCTL019(現在のチサゲンレクルユーセル)の投与を受けた、再発または難治性のB細胞NHL患者について、10年の長期アウトカムを評価した。 49例が登録され、このうち38例(LBCL患者24例、FL患者14例)がチサゲンレクルユーセルの投与を受け、長期有効性および安全性の評価対象となった。 評価項目のリンパ腫無再発生存期間は、チサゲンレクルユーセル注入からリンパ腫の再発またはリンパ腫関連死亡までの期間と定義した。非再発死亡および2次原発がんの発生率は、Aalen-Johansen法を用いて推定した。 本研究は2014年1月~2019年9月に実施され、長期追跡調査のデータカットオフ日は2025年10月1日であった。10年リンパ腫無再発生存率はLBCL32%、FL47%、奏効例の半数以上は奏効が持続 追跡期間中央値10.1年(範囲:7.9~11.5)の時点で、患者の約3分の1が寛解を維持しており、LBCLでは5.4年を超えて、FLでは2.7年を超えての再発は認められなかった。 10年リンパ腫無再発生存率は、LBCL患者で32%(95%信頼区間[CI]:14~51)、FL患者で47%(95%CI:20~71)であった。 全死因死亡を含めた10年無増悪生存率は、LBCL患者で17%(95%CI:5~34)、FL患者で29%(95%CI:9~52)、10年全生存率はそれぞれ17%(95%CI:5~34)および50%(95%CI:23~72)と推定された。 奏効例における10年時点での奏効持続率は、全患者では57%(95%CI:35~74)、 LBCL患者で54%(95%CI:25~77)、FL患者で60%(95%CI:25~83)であった。 長期的な造血機能の回復を評価したところ、慢性貧血または血小板減少は認められず、38例中36例で好中球数の回復が安定しており、2例(5%)でGrade2または3の好中球減少症が持続していた。 9例に2次原発がんが発生し(10年累積発生率21%)、2次がん診断までの期間の中央値は4.7年(範囲:0.7~10.8)であった。 非再発関連死の10年累積発生率は18%(新型コロナウイルス感染症関連死を除外した場合は14%)であった。 CAR導入遺伝子の持続性が、長期的な奏効に関連していると考えられた。長期奏効例の44%において、B細胞無形成が持続していた。

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SCORPIO-PEP試験:エンシトレルビルはCOVID-19家族内発症を予防できるか(解説:小金丸 博氏)

 NEJM誌2026年5月14日・21日合併号に掲載されたSCORPIO-PEP試験は、エンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)をCOVID-19患者の同居家族に対して曝露後予防に用いた第III相試験である。主要評価項目である「症候性COVID-19発症」は、エンシトレルビル群2.9%、プラセボ群9.0%で、リスク比0.33と有意な抑制効果を示した。絶対リスク減少は約6%であり、NNT(治療必要数)は17と計算される。家庭内感染という高曝露環境を考慮すると、かなり良好な成績といえる。 本試験の強みは、二重盲検ランダム化比較試験であること、多国籍試験であること、さらにオミクロン株流行期に実施された点にある。参加者の大多数が既感染あるいはワクチン接種由来の抗体を保有しており、現在の実臨床に近い集団で有効性が示された意義は大きい。また、有害事象発現率はプラセボ群と同等であり、安全性に関しても大きな問題を認めなかった。 一方で、臨床実装に向けては慎重な解釈も必要である。本試験のエンドポイントは「感染予防」ではなく「症候性COVID-19発症予防」であり、無症候感染自体は一定数認められている。つまり、ウイルス伝播抑制効果を直接証明した試験ではない。また、観察期間は10日間が中心であり、long COVIDの抑制や入院予防への寄与は評価されていない。 さらに重要なのは、ベースラインのイベント発生率が比較的低い点である。プラセボ群でも発症率は9%にとどまり、オミクロン株流行期以降の免疫保有集団においては、家庭内曝露があっても発症する者は限られる。このため、接触者全員への一律予防投与は費用対効果に乏しい可能性がある。真に恩恵を受けるのは、高齢者、免疫不全者、重症化リスクを持つ家族を抱える世帯などに限られるかもしれない。 耐性変異の問題も未解決である。論文中では明確な耐性伝播は確認されなかったが、3CLプロテアーゼ阻害薬は理論上耐性化リスクを抱える。とくに軽症例や予防投与への広範な使用は、選択圧を高める可能性がある。COVID-19が季節性感染症化しつつある現状では、抗ウイルス薬をどこまで「予防」に用いるべきかという抗菌薬適正使用に近い視点が必要になる。 本試験は「COVID-19家庭内曝露後の予防」という新しい戦略の有効性を示した点で画期的である。ただし、その適応は接触者への一律投与ではなく、高リスク接触者へのターゲット使用として考えるべきであり、長期アウトカム、耐性化、費用対効果を含めた今後の検討が不可欠である。

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ほこりの中にウイルス流行の手がかり

 ほこりには、オフィスや学校などの建物の中で流行しているウイルスに関する手がかりが含まれていることが、米オハイオ州立大学環境保健科学准教授のKaren Dannemiller氏らによる研究で明らかになった。Dannemiller氏は、「こうした研究は、懸念されるさまざまな問題について幅広い種類の建物をモニタリングする上で有用だ」とニュースリリースの中で述べている。詳細は、「Building and Environment」に5月15日掲載された。 排水などの廃棄物は、地域社会におけるウイルス拡散を追跡するために以前から利用されてきた。今回の研究によると、どこにでもあるほこりから採取した試料が、将来的には特定の場所において同様の役割を果たす可能性があるという。Dannemiller氏は、「本研究は、さまざまな感染症を建物レベルで監視する上で、技術をどう活用できるのかを理解するための第一歩となるものだ。最終的には、より適切な予防措置を講じることや、より的確な資源の配分を行うことにつながる」と述べている。 Dannemiller氏らは今回、学校、大学の学生寮、オフィスなど27カ所からほこりの試料を採取した。次に、全ゲノムを対象としたハイブリッドキャプチャー法による次世代シーケンス解析を行い、その結果を約200種類の病原体の遺伝子配列データベースと照合した。これにより、ウイルスが分解された後も環境中に残存する可能性のあるRNA分子などを特定した。 その結果、ほこりの試料から新型コロナウイルス、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、サイトメガロウイルス、エプスタイン・バール・ウイルス(EBウイルス)など54種類のウイルス由来の遺伝子断片(以下、ウイルス断片)が検出された。 本研究では、検出されたウイルス断片の感染性については調べていないものの、研究グループは、ほこりの中に残ったウイルス断片が実際に感染力を持っている可能性は低いとしている。しかし、そうしたウイルス断片の有無を調べることで、特定の傾向が明らかになることがある。例えば、小児の感染症との関連が知られている3種類のウイルスは、主に成人が利用する環境と比べて、子どもが利用する環境で有意に多く検出された。また、この研究では、収集された全試料の85%から一般的な風邪の原因となるライノウイルスが検出された。 Dannemiller氏は、「地域社会における感染症を追跡するさまざまな方法を理解することは極めて重要だ。大規模なレベルで感染症のクラスターを追跡する下水モニタリングと同様に、より小規模な集団に対して同様の効果をもたらす中間的なツールをわれわれは開発した」と説明している。 Dannemiller氏はまた、今回の研究は「画期的な取り組み」だったとしている。それは、これまでにも科学者らがほこりの中のウイルスを遺伝子レベルで追跡したことはあったものの、「その範囲はかなり限定的であり、ウイルスを追跡するサーベイランスのツールとして提案されたことはなかった」からだ。 現時点では、ウイルス検査に用いる標準的なほこりの採取技術はまだ確立されていない。研究グループは次の段階の研究で、今回使用した技術がより広範囲の環境に適用できるかどうかを検証する予定だという。  なお、本研究は米空軍研究所(AFRL)、米国立衛生研究所(NIH)、米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)の支援を受けて実施された。

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美容目的でのチルゼパチド使用に伴う正常血糖ケトアシドーシス

 糖尿病や肥満のない若年女性が、美容目的でチルゼパチドを使用した後、正常血糖ケトアシドーシスを来したという症例報告がなされた。監物 諒相氏、沖田 朋憲氏(大阪けいさつ病院)らが、JCEM Case Reports誌2026年4月8日号で報告した。監物氏、沖田氏らは、チルゼパチド使用後の食欲低下や重度の消化器症状に伴う急性のカロリー不足が、ケトアシドーシス発症に関与した可能性を指摘し、美容目的の適応外使用に注意を促している。2回目投与後に悪心・嘔吐・下痢が発現 症例は20代の日本人女性。糖尿病、飲酒歴、糖質制限食の実施はなかった。身長156cm、体重58.9kg、BMI 24.2kg/m2であった。美容目的の体重減少を目的に、美容クリニックを通じてチルゼパチドを使用し、継続的な医学的管理を受けないまま、チルゼパチド2.5mgを週1回、計2回自己投与した。 初回投与後から食欲低下と摂食量低下を認め、2回目投与後に強い悪心、嘔吐、下痢が発現した。症状は4日間持続し、近医でブドウ糖含有輸液を受けた後、大阪けいさつ病院へ搬送された。来院時の体重は53.8kg、BMI 22.1kg/m2であり、約10日間で約5kg減少していた。身体所見では蒼白、疲労感に加え、発熱(38.4℃)を認めた。pH正常でもアニオンギャップ開大 入院時検査では、pH 7.41、HCO3- 17.7mmol/L、アニオンギャップ25.9mmol/L、β-ヒドロキシ酪酸5.5mmol/L、アセト酢酸1.4mmol/L、血糖196mg/dL、HbA1c 5.5%であった。pHは正常範囲内であったが、HCO3-低下、アニオンギャップ開大、ケトン体著明高値といった所見から、高アニオンギャップ性代謝性アシドーシスと判断され、嘔吐に伴う代謝性アルカローシスの合併も示唆された。 血糖値は196mg/dLと軽度高値を示したが、正常血糖ケトアシドーシスの血糖基準である250mg/dL以下であった。インフルエンザウイルスおよび新型コロナウイルス抗原検査は陰性で、画像検査や血液・尿・便の細菌学的検査でも明確な感染は同定されなかった。以上から、チルゼパチド使用と時間的に関連した正常血糖ケトアシドーシスと判断された。輸液とインスリンで速やかに改善 治療として、生理食塩水による補液の後、ブドウ糖含有輸液、電解質補正、持続静注インスリンが行われた。インスリン投与は24時間継続され、入院翌日には代謝性アシドーシスが改善し、血清ケトン体も速やかに基準範囲内まで低下した。一方、悪心・嘔吐はしばらく持続した。輸液は5日間継続され、入院4日目に通常食を再開、入院6日目に薬剤なしで退院した。 退院2週間後の外来では、消化器症状の再燃はなく、食欲も回復していた。75g経口ブドウ糖負荷試験では、空腹時血糖88mg/dL、120分値101mg/dLであり、耐糖能は正常であった。このため、搬送時の軽度高血糖は、身体ストレスや搬送前のブドウ糖含有輸液の影響と考えられた。急性のカロリー不足が誘因か 著者らは、本症例の病態について、チルゼパチドによる食欲低下と重度の消化器症状により急性の異化状態が生じたことが関与している可能性を指摘した。加えて、発熱や生理的ストレス、脱水、急激な体重減少、さらにGIP受容体作動を介した脂質代謝への影響が、ケトーシスを増幅した可能性もあると考察している。 本症例報告について、筆頭著者および共同著者である監物氏、沖田氏にコメントを求めたところ、以下の回答が得られた。【監物氏・沖田氏のコメント】 本症例は1例の症例報告であり、チルゼパチド使用との因果関係を直接証明するものではありません。一方で、チルゼパチド使用中に強い消化器症状や摂食低下が持続する場合には、正常血糖ケトアシドーシスを念頭にケトン体やアニオンギャップも確認する必要があることを示唆しています。 チルゼパチドは適正使用下では重要な治療薬ですが、美容・痩身目的での安易な使用は重篤な健康被害につながる可能性があります。本報告が、チルゼパチドの適正使用の推進と、重篤な有害事象の早期発見・早期対応に役立つことを期待しています。

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第319回 終息見えぬエボラ・ブンディブギョ株、ワクチンと治療薬の開発状況

INDEXヒトに感染するエボラウイルスとその特徴ワクチン候補は2つ治療薬候補は4つ以前、本連載でもお伝えしたコンゴ民主共和国(以下、コンゴ)を中心とするエボラウイルスのアウトブレイクにおいて、その後も事態は悪化の一途をたどっている。最新の世界保健機関(WHO)の発表によると、6月24日現在、コンゴでは確定報告が累計1,094例、うち277例が死亡。隣国ウガンダでは6月18日現在、確定報告が19例、うち死亡2例のほか、死亡に至った疑い症例1例が報告されている。ウガンダでは、6月5日以降、新たな症例は報告されておらず、確定症例中14例がコンゴからの輸入例、残りが接触者や医療者の2次感染と分類されている。ウガンダでの感染は終息しつつあると言えそうだ。問題はコンゴのほうである。6月13日以降、新たに220例の確定症例(うち死亡96例)が報告され、WHOは「検査と診断能力の拡大により、以前に収集された検体の検査が可能になったことが一因」としているものの、終息の兆しは見えていない。現在のコンゴ国内での感染報告地域は、ウガンダ国境に接する東部のイツリ州が91.1%。これ以外は同州の南に接する北キブ州、さらにその南の南キブ州に分布している。WHOも発表の中で「複雑な人道危機と紛争の影響を受けた環境下で発生」と評しているように、以前の連載でも触れた紛争による政情不安定さがアウトブレイクの終息を阻んでいる。さらに悩ましいのは今回のアウトブレイクの原因が、エボラウイルスの中のブンディブギョ株である点だ。ヒトに感染するエボラウイルスとその特徴エボラウイルス(正確にはフィロウイルス科エボラウイルス属に分類されるウイルス)は6種類が確認されており、ヒトで感染が報告されているのは、アフリカのシエラレオネでコウモリから分離されたボンバリ株を除く5種類(スーダン株、ザイール株、タイフォレスト株、ブンディブギョ株、レストン株)である。5種類のうち、1994年にコートジボワールで確認されたタイフォレスト株の感染報告1)は、同地でチンパンジーの解剖に当たっていたスイス人の1例のみで、発熱、頭痛、悪寒、筋肉痛、咳で発症し、その後、腹痛、下痢、嘔吐、発疹を認めたものの、スイスへ搬送後に回復し、後遺症もなく退院している。また、1989年に米国・バージニア州レストンの動物飼育施設でフィリピン産のサルを感染源として初めて確認されたレストン株は、これまで100例超の感染事例が報告されているものの、いずれも抗体陽性が確認されただけで発症者の報告はない。感染したヒトで発症し、かつ致死的な病態をもたらすのが残るザイール株、スーダン株、ブンディブギョ株だが、過去の感染確定報告累計はザイール株が数万例、スーダン株が数千例の規模であるのに対し、ブンディブギョ株は今回のアウトブレイク以前の確定例は200例未満であるため、結果としてワクチンや治療法の開発が最も立ち遅れている。前出の「悩ましい」とはこのことを意味する。その意味では、現在のワクチンと治療薬の開発状況は気になるところ。そこでこの現状を可能な限りまとめてみた。ワクチン候補は2つまずワクチンだが、WHOとGaviワクチンアライアンス(Gavi, the Vaccine Alliance)などが中心となって進めている提言で、ワクチン候補として最も有望視されているのが、国際エイズワクチンイニシアティブが開発を主導している「rVSV-Bundibugyo」。これはすでにザイール株向けに米国・メルク社が製造・販売しているエボラウイルスワクチン「rVSV-ZEBOV(商品名:Ervebo)」と同じプラットフォームを利用したワクチン候補である。Erveboは主にウシ、ウマ、ブタなどの家畜に感染するものの、ヒトでの病原性は低い水疱性口内炎ウイルスを改変したベクターに、ザイール株の表面にある糖タンパク質の遺伝子を挿入したウイルスベクターワクチンである。一方のrVSV-Bundibugyoは、挿入する遺伝子をブンディブギョ株の糖タンパク質の遺伝子に置換している。動物実験レベルだが、Erveboのプラットフォームにザイール株、タイフォレスト株の糖タンパク質の遺伝子を挿入したものを接種したサルにブンディブギョ株を曝露させて交叉防御を検討した研究2)では、今のところ良好な結果が得られている。また、テキサス大学のグループが行ったブンディブギョ株曝露後のサルへのrVSV-Bundibugyoの接種に関する研究3)でも有意な生存効果が認められている。このワクチン候補に関しては、2026年中に第I相臨床試験が開始される見込みだという。もう1つの候補がオックスフォード大学とインド血清研究所が共同開発している「ChAdOx1-Bundibugyo」。これはすでに多くの医療者の中で記憶の彼方に過ぎ去ったかもしれない、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に対するアストラゼネカ社製のワクチン「バキスゼブリア」のブンディブギョ株版である。バキスゼブリアのサルアデノウイルスベクターにブンディブギョ株の糖タンパク質の遺伝子を挿入したウイルスベクターワクチンである。現在は前臨床データを収集中だという。さらに、同様に新型コロナに対するmRNAワクチンで名を馳せた米国・モデルナ社がブンディブギョ株対応のmRNAワクチンを開発中である。治療薬候補は4つ一方、治療薬についても現在開発が模索されている。最有力視されているのが米国・マップ・バイオファーマシューティカルの抗体カクテル「MBP134」である。エボラウイルス感染症から回復したヒトのメモリーB細胞に由来する数百種類の抗体をスクリーニングして得られた2種類のヒトモノクローナル抗体「ADI-15878」と「ADI-23774」を利用したものだ。ADI-15878はエボラ属ウイルス全体でほぼ共通しているfusion machinery(膜融合機構)を認識する抗体であるため、理論上はウイルス株に依存しない効果が期待できるとみられている。また、ADI-23774もウイルス株に依存しない糖タンパク質結合能を有するが、元となったモノクローナル抗体のスーダン株への結合能がやや低かったため、この部分に改良を加えている。2つの作用ポイントを持つため、ウイルスの変異にも対応でき、より有効性が高いと期待される。動物実験の結果4)では、ザイール株、スーダン株、ブンディブギョ株をそれぞれ曝露させたフェレットに対し、曝露から3~4日後に3日おきに2回投与し、いずれのウイルス株でも投与群のフェレットは全例生存したのに対し、コントロール群では全例死亡した。サルの実験では感染後7日目の単回筋肉注射を行い、生存率は投与群が83%、コントロール群が0%だった。また、米国・ヴァンダービルト・ワクチンセンターのグループが報告5)したブンディブギョ株感染からの生存者のメモリーB細胞に由来する遺伝子組み換えヒトモノクローナル抗体「mAb BDBV289-N」も抗体療法の候補となっている。サルによる実験結果では、ブンディブギョ株曝露後8、11日目の投与により、15日目までにウイルスRNA量は急速に減少。21日目には接種されたすべてのサルの血中でウイルスが検出限界以下となり、死亡例は認められなかった(未治療のコントロール群の致死率は40%)。さらに抗ウイルス薬として候補薬に挙げられているのが、RNAウイルスに対して抗ウイルス効果がある2種類の治療薬(候補)である。1つはすでに新型コロナの治療薬として知られるレムデシビルである。同薬が新型コロナ治療薬として注目される前の2016年に「Nature」に公表された論文6)では、ザイール株を使ったサルでの実験でウイルス曝露直後、2日後、3日後に2種類の投与量で1日1回12日間筋肉注射した各群のサルは全例生存していたのに対し、無治療のコントロール群では全例が死亡したと報告されている。現在、前出の抗体カクテル「MBP134」との併用の臨床試験が計画中と一部では報じられている。もう1つ抗ウイルス薬候補として注目されているのが、米国・ギリアド・サイエンシズが新型コロナやRSウイルス感染症に対して臨床試験中の経口抗ウイルス薬のobeldesivirである。ザイール株を使ったサルでの実験では、ウイルス曝露24時間後から10日間の連日経口投与を行った結果、投与されたサルでの生存率は80~100%に対し、コントロール群では全例死亡した。決して面白半分で見ているわけではないが、この中からどのワクチン・治療薬候補が抜け出すかは、今後の新興感染症対策を占ううえでは注目に値すると考えている。参考1)Formenty P, et al. J Infect Dis. 1999;179 Suppl 1:S48-53.2)Falzarano D, et al. J infect Dis. 2011;204 Suppl 3:S1082-1089.3)Woolsey C, et al. J Infect Dis. 2023;228(Suppl 7):S712-S720.4)Bornholdt ZA, et al. Cell Host Microbe. 2019;25:49-58.e5.5)Gilchuk P, et al. J Infect Dis. 2018;218(suppl_5):S565-S573.6)Warren TK, et al. Nature. 2016;531:381-385.

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メル・ギブソン氏の発言後、イベルメクチンの併用処方が倍増

 俳優のメル・ギブソン(Mel Gibson)氏が、著名なポッドキャストで抗寄生虫薬イベルメクチンを「がんに有効な適応外治療」として宣伝して以降、同薬を含む併用処方数が倍増したことが、新たな研究で報告された。2025年1月、ギブソン氏はジョー・ローガン(Joe Rogan)氏のポッドキャスト番組「The Joe Rogan Experience」で、ステージ4のがんに罹患していた3人の友人が、イベルメクチンとフェンベンダゾールの併用療法により回復したと語った。フェンベンダゾールは、動物用としてのみ承認されている駆虫薬である。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)デイヴィッド・ゲフィン医学部のKatherine Kahn氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に5月12日掲載された。 研究グループによれば、イベルメクチンや、フェンベンダゾールのようなベンゾイミダゾール系駆虫薬は、実験室レベルや動物実験では抗がん作用を示しているものの、人間のがん治療において安全性や有効性を示す臨床試験は存在しない。Kahn氏は、「たとえ馴染みのある人や影響力のある人から発信されたものであっても、広く共有されている健康情報が全て正確とは限らない。効果が証明されていない治療法の使用は、実際にリスクを伴う。特に、有効性が確認されている治療の開始が遅れてしまう場合にはなおさらだ。医師や医療機関は、患者が情報を正しく理解し、適切な判断を下せるよう支援する重要な役割を担っている」とニュースリリースで述べている。 イベルメクチンは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック時に注目を集め、一部のインフルエンサーがCOVID-19の治療薬として宣伝した。しかし、こうした主張が裏付けられたことはなく、米国立衛生研究所(NIH)もCOVID-19に対する使用を推奨していない。 今回の研究でKahn氏らは、2018年1月1日~2025年7月31日の間に米国の67の医療機関で診療を受けた6837万3,949人の患者の電子カルテデータを用いて、18~90歳の患者に処方されたイベルメクチンとベンゾイミダゾール系駆虫薬の併用処方を特定した。併用処方は、同じ日にイベルメクチンとベンゾイミダゾール系駆虫薬(アルベンダゾール、フェンベンダゾール、メベンダゾール、およびチアベンダゾール)がそれぞれ1回以上処方された場合と定義し、月単位で1,000人当たりの併用処方率を算出した。 その結果、イベルメクチンとベンゾイミダゾール系駆虫薬の併用処方率は、2024年1月1日~2024年7月31日と比べて、ギブソン氏の発言後に当たる2025年1月1日~2025年7月31日には約2倍に上昇していた(率比1.97)。がん患者では、この併用処方率の上昇がさらに大きく、2.5倍以上に達していた(同2.63)。この傾向は、女性より男性(女性:同1.93、男性:同2.79)、また、65歳以上と比べて18~64歳(65歳以上:同1.61、18~64歳:同2.68)で、より明確であった。地域別では、米国南部での増加が特に顕著で、併用処方率は約3.9倍に上昇していた(同3.91)。 論文の上席著者であるUCLA医学部のJohn Mafi氏は、「私はプライマリ・ケア医として、全ての人が、より長く健康に生きることに役立つことが示されている治療を受ける機会を持ってほしいと思っている。たった1本のポッドキャストをきっかけに、有効性が証明されていないがん治療の処方が2倍以上に増えたこと、それが特に男性や米国南部で顕著だったことは、患者が実証済みの治療を回避したり後回しにしたりして、有効性が確認されていない治療法に頼っている可能性を示しており、懸念される」と語った。 研究グループは、「本研究結果は、不確かな医療情報が、特に有名人によって広められた場合、どれほど急速に拡散するかを示している」と指摘している。論文の筆頭著者である米バージニア工科大学のMichelle Rockwell氏は、「われわれは普段、エビデンスをいかに効率よく医療現場へ普及させるかに注目している。しかしこの結果は、別の力が極めて短期間のうちに医療行動に影響を与え得ることを改めて示した。医療システムの課題は、患者に適切なタイミングで迅速かつ信頼できる情報を届ける方法を見つけることだ」とニュースリリースで述べている。

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iPS細胞由来の人工心筋移植、心不全治療に有望/NEJM

 生物学的心室補助組織(BioVAT)は、同種の人工多能性幹細胞(iPS細胞)由来の心筋細胞と間質細胞から成る人工心筋の移植片であり、心不全および左室駆出率(LVEF)が低下した患者における心筋再筋肉化を目的とする。ドイツ・University Medical Center GottingenのWolfram-Hubertus Zimmermann氏らBioVAT-HF Investigatorsは「BioVAT-HF研究」において、BioVAT移植は3ヵ月の時点で有意な標的壁厚の増加とLVEFの上昇をもたらし、健康状態も有意に改善したと報告した。研究の成果は、NEJM誌2026年5月28日号に掲載された。ドイツの第I/II相研究 研究グループは、心不全患者における外科的なBioVAT移植による組織工学的な心臓修復法の安全性と有効性の評価を目的に、ドイツの2施設で非盲検第I/II相研究を実施した(German Center for Cardiovascular ResearchおよびRepaironの助成を受けた)。今回は、事前に規定された3ヵ月時の中間解析の結果を公表した。 対象は、LVEF 35%以下の症候性心不全で、少なくとも1つの左室セグメントに壁運動の低下または異常を認め、ガイドラインに基づく薬物療法に抵抗性の年齢18~80歳の患者であった。 被験者は、5、10、20単位の人工心筋から成るBioVAT移植片による治療を受けた。全例に免疫抑制療法を行った。3例が死亡、移植とは関連なし 26例(平均年齢59[SD 10]歳、男性23例[88%]、平均罹患期間4.6年[範囲:0.4~16])を登録し、20例がBioVAT移植による治療を受けた。 移植を受けた全患者で有害事象が発現した。196件の有害事象のうち57件が重篤な有害事象であった。3例(5件)で心室性頻拍を認めたが、いずれもBioVAT移植とは関連がない可能性が高かった。また、心室細動が発生した患者はいなかった。 研究期間中に3例が死亡し(血管麻痺を伴う全身性炎症反応症候群[SIRS]、新型コロナウイルス感染症、大動脈解離)、いずれもBioVAT移植とは関連がないと判定された。また、1例が心臓移植を受けた。 4例で免疫抑制療法が中止された。中止理由は、植込み型左室補助人工心臓(LVAD)の装着が2例、腎不全が1例、尿路上皮がんが1例であった。3つの主要エンドポイントが改善 BioVATの安全な最大用量(人工心筋20単位)による治療を受けた16例のうち、12例が事前に規定された中間解析のための3ヵ月間の追跡調査を完了した。 3つの有効性の主要エンドポイントは、以下のとおり3ヵ月の時点でいずれも有意に改善した(事前に規定された両側有意水準p<0.10を満たした場合に有意差ありと判定)。 標的壁厚の最小二乗平均の値は4.5mm(90%信頼区間[CI]:3.7~5.4、p<0.001)増加し、LVEFは3.9%ポイント(0.9~6.8、p=0.04)上昇した。また、カンザスシティ心筋症質問票の全体の要約スコア(KCCQ-OSS:0~100点、高点数ほど健康状態が良好)は6.7点(1.0~12.5、p=0.06)上昇した。 著者は、「これらの知見を確定するには、より長期の追跡調査とさらなる臨床評価が必要である」としている。 また、「概念的には、BioVAT移植による、収縮力が低下した領域への収縮性心筋の追加は、収縮機能と拡張機能の両方をサポートする可能性があり、またラプラスの法則により標的壁厚の増加は壁応力を低下させると考えられる。これらの効果が、左室のリモデリングの逆転に寄与する可能性がある」と考察している。

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小柴胡湯~胸脇苦満と往来寒熱~【Dr.伊東のストーリーで語る漢方薬】第6回

小柴胡湯~胸脇苦満と往来寒熱~これまで解説してきた葛根湯(かっこんとう)、麻黄湯(まおうとう)、桂枝湯(けいしとう)は、いずれも感冒の初期に使うものでした。言い換えると、これらの薬は感冒を患ってから5~6日経った時に使うものではないということです。では、時間が少し経った感冒には何を使えばいいかというのが、今回のお話です。導入として、西洋医学の話をさせてください。感冒に対して西洋医学では、どんな時でも症状に合わせてアセトアミノフェンやデキストロメトルファンなどを使うと思います。つまり、西洋医学では一見すると感冒初期とそれ以降とをそんなに区別していないわけです。しかし、COVID-19の場合はちょっと違いますね。罹患初期には抗ウイルス薬、たとえばレムデシビルなどを使って、ウイルス量を減らしにいきます。少し時間が経ってからは、ウイルスそのものよりも炎症反応によって肺炎が悪化していくため、それを抑えるためにステロイドが重要になってきます。このような感じで、COVID-19では感冒初期とそれ以降を区別します。じつは、漢方薬の考え方もこれにちょっと似ています。葛根湯、麻黄湯、桂枝湯の解説をしている時に、やたら汗の話が出てきたのを覚えているでしょうか(図1)。じつは、感冒初期ではこれらの漢方薬を使うことで発汗を調整して、汗とともに悪いものを体表から体外へと追い出すイメージを昔の人は考えていたんです。図1 感冒初期に対する漢方薬の選び方画像を拡大する一方で、発症してから時間が経ってくると「悪いもの」、要はウイルスのことですね。それが体表や喉のあたりから肺、胃といった横隔膜レベルの臓器まで侵入してしまい、そこでも炎症を起こしてくるわけです。そこまで侵入されると、汗とともに追い出すことができなくなります。そこで、肺や胃のあたりの炎症を鎮静化するために、漢方では柴胡(さいこ)を含む漢方薬を使うことになるわけです。いわゆる柴胡剤。「東洋のステロイド」のイメージです(図2)。図2 COVID-19治療イメージ:西洋医学と漢方医学の比較画像を拡大する柴胡剤柴胡を含む漢方薬を柴胡剤と呼んでいて、その代表格が小柴胡湯(しょうさいことう)です。これを「こしば」なんとかと読まなくなったら、漢方の初心者卒業かなと勝手に思っています。冗談はさておき、小柴胡湯は、柴胡、半夏(はんげ)、黄芩(おうごん)、大棗(たいそう)、人参(にんじん)、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)の7種類の生薬で構成されます。大棗と生姜は以前紹介したように、胃腸に優しい生薬ですが、半夏と黄芩は胃のむくみや熱を除いてくれて、人参も胃を温めて支える生薬のため、構成生薬の作用点が胃に集中しているのが特徴的です。また、感冒初期の漢方薬には桂皮(けいひ)が必ずといっていいほど入っていましたが、小柴胡湯ではなくなりました(図3)。桂皮は気逆といって頭のほうに向かう症状を抑えてくれる生薬です。要は頭痛です。感冒初期では頭痛が症状として出やすいですが、少し時間が経つと頭痛はあまり目立たなくなってきますよね。そのため桂皮は要らなくなるのです。図3 小柴胡湯の構成生薬画像を拡大する小柴胡湯は虚実中間の患者に使う漢方薬です。結構幅広い体力の患者さんに使うことができます。一方で、世の中には実証の患者も虚証の患者もいて、その両極に対応する形で柴胡剤の派生処方が存在します。たとえば、実証であれば、便秘を目安に使う大柴胡湯(だいさいことう)、イライラを目安に使う柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)があります。虚証であれば、寒がっているのを目安に使う柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)が該当します。また、症状から桂枝湯と小柴胡湯の中間、つまり過渡期に位置する患者には、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)という漢方薬もあります(図4)。たくさん薬が出てきましたが、ここは無理に覚えず、軽く流しておきましょう。図4 柴胡剤の派生処方画像を拡大する胸脇苦満と往来寒熱ここまで柴胡剤というもの紹介しましたが、これらの共通点として「胸脇苦満(きょうきょうくまん)」というお腹の所見を覚えてください。これは、肋骨弓の下に手を差し入れようとすると強い抵抗がある状態で、柴胡剤を使う目安として重要です(図5)。現代人はストレスを抱えて胃に負担をかけているので、この胸脇苦満が出ている人が結構多いです。ご自身の体に手を入れて確認してみてください。図5 胸脇苦満画像を拡大する日本漢方ではお腹の所見が大事で、個人的には再現性もあるため、学び始めの段階から勉強する価値があると思っています。たとえば、前回まで桂枝湯、桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)、建中湯(けんちゅうとう)の話をしましたが、こういった「芍薬が要になる漢方薬」が効く人のお腹は腹直筋が張っています。これを「腹直筋攣急(ふくちょくきんれんきゅう)」と呼ぶのですが、昔の人は「お腹に2本の棒を触れる」と表現しています(図6)。図6 腹直筋攣急画像を拡大する最後に、古典で小柴胡湯の話を締めておきましょう。こちらの条文は、長いですね(図7)。図7 小柴胡湯の古典条文画像を拡大する胸脇苦満はさっき出てきましたね。ここで注目してほしいのが「往来寒熱(おうらいかんねつ)」という言葉で、これは潮の満ち引きのように、熱が1日のなかで出たり引いたりすることを指しています。ときどきいませんか? かぜをひいてしばらくたった後に「夜だけ熱が出る」といって受診する方。医者目線だと少し説明に困るものです。これこそが往来寒熱ですね。そういう方は、倦怠感や食欲不振も訴えてくることが多いため、この条文通りの症状になってくるんです。また、この条文にはないですが「口の中が苦い」というのも柴胡剤を使うヒントになります。胃が悪いと舌苔が分厚くなってきて、舌の見た目もちょっと変わってきます。まとめ漢方の世界では感冒初期とそれ以降を区別します。治療のコンセプトも薬の選択肢も異なります。感冒初期が終わってからは、東洋のステロイドこと柴胡剤の出番です。ここでは、小柴胡湯を覚えておきましょう。使用にあたっては、胸脇苦満の存在を確認しておくと、勝率が上がってくると思います。胸脇苦満以外にも往来寒熱という言葉を覚えました。こういう独特の用語を知っていると、漢方の上達が早くなるため、もし余裕があれば、こちらも覚えていってください。次回は、これまでの内容をもう少し俯瞰的におさらいして、漢方の世界ならではの病気の捉え方を一緒にみていきましょう。それでは、お楽しみに!

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COVID-19患者の同居家族、エンシトレルビルで発症予防/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の症状発現後72時間以内に、患者の同居家族に対してエンシトレルビルを投与することにより、接触者のCOVID-19発症を抑制できることが示された。米国・バージニア大学のFrederick G. Hayden氏らSCORPIO-PEP(Stopping Covid-19 Progression with Early Protease Inhibitor Treatment for Post-Exposure Prophylaxis) Study Teamが、日本を含む5ヵ国共同で行われた無作為化二重盲検プラセボ対照試験「第III相SCORPIO-PEP試験」の結果を報告した。エンシトレルビルは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)3CLプロテアーゼの経口阻害薬であり、本邦においては軽症~中等症COVID-19の治療薬として承認されている。これまで、COVID-19患者の同居家族に対する曝露後予防薬として承認された抗ウイルス薬はなかった。NEJM誌2026年5月14・21日合併号掲載の報告。COVID-19発症後72時間以内に、家庭内接触者を無作為化 研究グループは、COVID-19患者(指標患者)の同居家族で試験実施機関においてSARS-CoV-2陰性が確認された12歳以上の家庭内接触者を、指標患者の症状発現後72時間以内にエンシトレルビル(1日目に375mg、2~5日目に125mgを1日1回経口投与)群またはプラセボ群に無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、修正ITT集団(mITT集団:無作為化され、中央検査機関においてベースラインでSARS-CoV-2のRT-PCR検査が陰性、かつ試験薬を少なくとも1回投与されたすべての参加者)における、試験薬投与後10日以内のCOVID-19発症(中央検査機関でRT-PCR検査が陽性、かつ事前に規定された14のCOVID-19の症状のうち少なくとも1つが48時間以上持続と定義)とした。エンシトレルビル群はプラセボ群と比較しCOVID-19発症リスク67%減 試験は、2023年6月~2024年9月中旬に、米国、アルゼンチン、日本、南アフリカ共和国、ベトナムで行われた。 計2,387例の家庭内接触者が無作為化され(エンシトレルビル群1,194例、プラセボ群1,193例)、このうち中央検査機関においてベースラインでSARS-CoV-2陰性が確認されたエンシトレルビル群1,030例、プラセボ群1,011例が有効性解析対象集団(mITT集団)となった。 試験参加者の平均年齢は42.4歳で、71.1%は指標患者の症状発現後48時間以内に無作為化され、37.0%は重症COVID-19の危険因子(肥満、喫煙、65歳以上など)を少なくとも1つ有していた。 mITT集団における10日目までのCOVID-19発症率は、エンシトレルビル群2.9%、プラセボ群9.0%であり、エンシトレルビル群で有意に低かった(リスク比:0.33、95%信頼区間:0.22~0.49、p<0.001)。 試験中の有害事象の発現割合は両群で類似しており(エンシトレルビル群15.1%、プラセボ群15.5%)、主な有害事象は頭痛、下痢、鼻咽頭炎、咳、疲労、およびインフルエンザであった。重篤な有害事象の発現割合も同じで(各群0.2%)、COVID-19に関連する入院や死亡は報告されなかった。 なお、著者らは、家庭内感染の可能性には世帯の規模、マスク着用習慣、社会的距離の確保など複数の要因が影響する可能性があるが、これらのデータを収集できなかった点で結果は限定的だとしている。

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第62回 コンゴでエボラ流行、87人死亡。私たちが知らない落とし穴

2026年5月17日、世界保健機関(WHO)は、アフリカ・コンゴ民主共和国の東部イトゥリ州で発生しているエボラ出血熱の流行を、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」に該当すると宣言しました1)。アフリカ連合によれば、すでに87例が亡くなり、疑い例を含めると336例の感染が判明しているとされています。隣国ウガンダではコンゴ人男性の死亡例もすでに報告されており、周辺国への波及が強く警戒される事態となっています2)。「またエボラ?」と思った方も多いかもしれません。「エボラのワクチンはあるって聞いたけど、どうして今も流行を抑えられないんだろう?」そんな素朴な疑問を抱いた方もいるかもしれません。実は、今回のニュースを少し立ち止まって整理してみると、その「あるはずのワクチン」の話に、知っておきたい大切な落とし穴が隠れています。そもそもエボラとは、どんな病気?エボラウイルス病は、フィロウイルス科に属するエボラウイルスによって引き起こされる感染症です。潜伏期間はおよそ6〜12日(最短2日、最長21日)で、発症後は突然の発熱、激しい頭痛、筋肉痛、倦怠感など、決して特徴的とはいえない症状から始まります3)。数日のうちに嘔吐や下痢が加わり、大量の体液の喪失をきたすことが、その病態の中心になります。「出血熱」という名前が独り歩きしている感がありますが、実際には出血が目立つ患者さんは少数派で、多くは脱水と臓器の障害、ショックで命を落とします3)。致死率は流行ごとに大きく異なります。1976~2022年までの集計によれば、ザイールウイルスで約66.6%、スーダンウイルスで約48.5%、そして今回コンゴで検出されたブンディブギョウイルスでは約32.8%とされています4)。「3割」と聞くと低く感じるかもしれませんが、新型コロナウイルス感染症の致死率が1%前後であったことを思えば、いかに恐ろしい数字かが分かるかと思います。感染は、症状のある患者さんや亡くなった方の血液・体液との直接接触によって起こります。空気感染はしません。つまり、感染拡大の主役となるのは、家族の看病、葬儀での遺体への接触、そして十分な防護具なしで治療にあたる医療者です3)。逆にいえば、「症状のない人」からはうつらない。これも知っておきたい大切なポイントです。なぜ「緊急事態宣言」がそんなに重い意味を持つのかWHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言するのは、その感染症が「国境を越える拡大リスクがあり、国際協調的な対応が必要」と判断されたときに限られます。これまでに発令されたのは、新型インフルエンザ(H1N1)、ポリオ、エボラ(西アフリカ流行、東部コンゴ流行)、ジカウイルス、新型コロナウイルス、エムポックスなど、ごく限られた事例です。つまりPHEICは、「世界中で警報を共有しましょう」「物資、人材、検査体制を国際的に動かしましょう」という、最上位レベルの号令です。今回もWHOは、コンゴと国境を接するウガンダや南スーダンへの飛び火を念頭に、検査強化や接触者追跡の必要性を強く訴えています2)。日本に直接的な影響が及ぶ可能性は現時点では高くはないものの、グローバル化した現代において、こうした宣言を「対岸の火事」と片付けるのは適切ではないと、私は考えています。エボラに対する承認済みのワクチンは?実は、エボラに対しては承認済みのワクチンがあります。「rVSV-ZEBOV(商品名:Ervebo)」と呼ばれるもので、2019年に欧米で承認され、その後アフリカ複数カ国でも使用が認められました。すでに30万人を超える人に接種されています5)。流行が発生すると、患者の接触者と、そのまた接触者にワクチンを打つ「リング・ワクチネーション」という戦略が用いられ、実際の流行抑制に効果を上げてきました6)。では、なぜ今回はそれができないのでしょうか。実は、承認されているErveboは、エボラウイルスの中の「ザイールウイルス」専用のワクチンであり、今回検出された「ブンディブギョ株」に対する有効性は確立されていないのです5)。エボラウイルス属にはザイール、スーダン、ブンディブギョ、タイフォレストなど複数の種が含まれ、それぞれ抗原性(ウイルスの顔立ち)が異なります。実験動物のデータでも、ザイールウイルス向けワクチンはスーダンウイルスにはうまく反応しないことが示されており、ウイルスが違えば効果はなくなる、というのが現実です5)。承認されている治療薬(atoltivimab/maftivimab/odesivimab[商品名:Inmazeb]やansuvimab[商品名:Ebanga]など)も同様に、ザイールウイルスにのみ有効性が確認されている薬剤です5)。ではなぜ、ブンディブギョ向けのワクチンが整備されてこなかったのか。理由は単純で、これまでブンディブギョの流行が散発的かつ小規模で、製薬開発の優先順位がどうしても下がってきたからです。2014年の西アフリカ大流行(約2万9,000例感染)が世界を震撼させ、Erveboの開発が一気に進んだことを思えば、対照的な状況といえます5)。これは「市場原理だけにワクチン開発を委ねるとどうなるか」という、グローバルヘルスにおける古くて新しい問題でもあります。流行が起きるまで開発の動機が生まれず、いざ流行すれば「ワクチンがない」と慌てる。この繰り返しを断ち切るために、CEPI(感染症流行対策イノベーション連合)など国際的な枠組みが動いてはいますが、まだ十分とは言いがたいのが実情です。日本に住む私たちが今すぐエボラそのものを過剰に恐れる必要はないでしょう。感染経路は限定的で、症状のない人からは感染しないからです。ただ、海外渡航前後の発熱を安易に放置しないこと、そして「アフリカで起きていることは、いずれ自分たちの問題にもなり得る」という視点を持つことは、パンデミックの時代に大切な姿勢かもしれません。今回のニュースは、感染症が今なお人類にとって克服しきれない相手であること、そして国家間で協力してワクチン開発を進める難しさを、改めて教えてくれているように思います。 1) WHO. Epidemic of Ebola Disease caused by Bundibugyo virus in the Democratic Republic of the Congo and Uganda determined a public health emergency of international concern. 2026 17 May. 2) 共同通信. コンゴのエボラ熱、緊急事態宣言 WHO、東部の州で死者87人. 2026年5月17日. 3) Bray M, et al. Clinical manifestations and diagnosis of Ebola disease. UpToDate. Waltham, MA: UpToDate Inc. Accessed May 17, 2026. 4) Izudi J, et al. Case fatality rate for Ebola disease, 1976-2022: A meta-analysis of global data. J Infect Public Health. 2024;17:25. 5) Chertow DS, et al. Treatment and prevention of Ebola and Sudan virus disease. UpToDate. Waltham, MA: UpToDate Inc. Accessed May 17, 2026. 6) Muyembe JJ, et al. Ebola Outbreak Response in the DRC with rVSV-ZEBOV-GP Ring Vaccination. N Engl J Med. 2024;391:2327.

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インフルエンザmRNAワクチンの予防効果を臨床症状で判定(解説:栗原宏氏)

Strong point・インフルエンザmRNAワクチンの有効性を、実臨床に即した「PCR+臨床症状」を基準として大規模な第III相試験で示した・mRNAワクチンが従来型ワクチンに比して、非劣性にとどまらず優越性まで証明したWeak point・ハイリスク患者に対して従来型ワクチンより有効性が示されている高用量ワクチン、アジュバント添加ワクチンとの比較がなされていない・インフルエンザB型に対しては十分な解析ができていない 本調査は、50歳以上を対象とした4万人規模のインフルエンザmRNAワクチン(モデルナの開発製品mRNA-1010)の第III相試験である。効果判定を抗体価ではなく、RT-PCRでインフルエンザ陽性に加え、全身症状(37.2℃超の発熱、悪寒、発熱感、倦怠感、頭痛、筋肉痛)および呼吸器症状(咽頭痛、咳、喀痰、喘鳴、呼吸困難)を有するという実臨床に即した症候を基準としてその発症予防に設定しており、臨床的な意義が大きいものとなっている。 本論文によれば、従来型ワクチンの症候性インフルエンザ発症率2.8%に比してmRNAワクチンでは2.0%であり、本論文で事前規定された非劣性基準および優越性基準はいずれも達成された。重症化の評価に関しては本調査の主題ではなく、症例数自体も少ないが、医療機関受診を伴うイベント80例(従来型120例)、高次医療22例(同42例)、入院4例(同8例)と全体的にmRNAワクチンのほうが少ない傾向があることが示されている。 一方で副反応も高率に出現し、注射部位の痛み65.8%(従来型29.8%)、倦怠感45.1%(同20.3%)、筋肉痛35.4%(同11.6%)となっている。これらの症状は軽症~中等度であり、多くは1~2日で消失し、重大な有害事象の発生率には差がなかった。 筆者個人としては、統計学的には有意な差が示されたとしてもNNT(治療必要数)は約137と効果自体は大きいとは言い難く、副反応の発生割合が高い点は気になるところである。加えて、インフルエンザワクチンは毎年実施する、対象者数が多い、大多数は軽症で自然軽快する、おそらくワクチンの価格が高いことを踏まえると費用対効果に乏しいと思われる。 今後、すでにメタ解析によって高齢患者を対象として有効性が示されている高用量ワクチン、アジュバント添加ワクチンとmRNAワクチンと罹患予防、重症化予防の直接比較や、年次比較による効果の安定性が明らかになることが期待される。【用語】高用量ワクチン 高齢者・基礎疾患のある患者など、免疫応答が弱い患者に従来型ワクチンより数倍の高用量の抗原を投与する。入院リスクを減少させることが示されている。アジュバント添加ワクチン ワクチンに対する免疫応答を高めるために免疫賦活剤を添加したもの。外来受診、入院リスクを減少させることが示されている。

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第295回 MMRワクチン、約30年ぶり国内使用へ 麻しん拡大下で定期接種化を検討/厚労省

<先週の動き> 1.MMRワクチン、約30年ぶり国内使用へ 麻しん拡大下で定期接種化を検討/厚労省 2.備蓄手袋を医療機関向けに供給 18日から申請開始/厚労省 3.がん拠点病院の整備指針見直しへ 2030年度から実績要件を強化/厚労省 4.東京都で麻しん急増、緊急ワクチン接種開始 接触後72時間以内が鍵/JIHS 5.電子カルテ停止で診療一時停止 市立奈良病院、再発防止へ検証/奈良県 6.病院再編に現場反発、4割が退職希望 静岡市立清水病院/静岡県 1.MMRワクチン、約30年ぶり国内使用へ 麻しん拡大下で定期接種化を検討/厚労省厚生労働省は5月11日、第一三共の麻しん・おたふくかぜ・風しん混合ワクチン「ミムリット皮下注用」を承認した。3疾患を1度に予防するMMRワクチンで、効能・効果は「麻しん、おたふくかぜ及び風しんの予防」。国内でMMRワクチンが使用されるのは約30年ぶりとなる。ミムリットは、現在定期接種の対象となっている第一三共の麻しん・風しん2種混合ワクチンに、世界で広く用いられているおたふくかぜワクチン株を組み合わせた3種混合の弱毒生ワクチンである。添付の溶剤0.7mLで溶解し、その0.5mLを1回皮下に注射する。接種対象は生後12ヵ月以上で、性別や年齢にかかわらず接種可能とされるが、具体的な接種年齢は学会などの最新情報を踏まえ総合的に判断する。明らかな発熱がある人、免疫機能に異常がある人や免疫抑制治療中の人、妊娠していることが明らかな人などは接種不適当者とされる。わが国では1989年に別のMMRワクチンが定期接種に導入されたが、含有されていたおたふくかぜワクチンによる無菌性髄膜炎の発生が社会問題となり、1993年に事実上中止された。今回のミムリットについて厚労省は、国内第III相臨床試験で小児約400例に無菌性髄膜炎の発現は認められなかったこと、含まれるムンプスウイルス株がWHOで事前認定された株の1つであること、海外で豊富な使用実績があり、無菌性髄膜炎の発現率が相対的に低いとの報告がある株を選択したことなどを踏まえ、リスクは許容可能と判断した。現在、麻しん・風しんはMRワクチンとして定期接種の対象だが、おたふくかぜワクチンは任意接種で自己負担となっている。おたふくかぜは無菌性髄膜炎、脳炎、難聴などの合併症を起こし得る。2015~16年の流行では成人を含め少なくとも359例がムンプス難聴と診断され、医学系学会が定期接種化を要望してきた。海外では120ヵ国以上で定期接種化されており、ミムリットの承認により、接種回数の削減と保護者負担の軽減、さらにおたふくかぜ対策の前進が期待される。 参考 1) 麻疹・おたふく・風疹のMMRワクチン承認 約30年ぶり使用へ(毎日新聞) 2) MMRワクチン、国内でも使用可能に-第一三共の「ミムリット」承認取得(日本医事新報) 3) 第一三共の3種混合ワクチン承認 はしかと風疹におたふく追加(日経新聞) 4) 厚労省 第一三共のMMRワクチン・ミムリット皮下注用を承認 2つの再生医療等製品も(ミクスオンライン) 2.備蓄手袋を医療機関向けに供給 18日から申請開始/厚労省厚生労働省は、中東情勢悪化による医療用物資の供給不安を踏まえ、国が備蓄する医療用手袋のうち、まず5,000万枚を医療機関向けに放出する。医療用手袋は現時点で全体としてただちに不足する状況ではないが、通常量を超える発注や一般のネット通販で取引が停止されており、歯科診療所など一部の医療機関で確保困難が生じている。国は新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき、非滅菌手袋などの個人防護具を備蓄しており、今回の放出は需給の偏在を緩和する措置となる。要請は医療機関等情報支援システム「G-MIS」を通じて行う。医療機関は週次調査で在庫量、1週間の想定消費量、1週間の購入見込み量を入力し、あわせて販売業者であるアスクルの専用サイトに施設名、住所、医療機関コード、メールアドレスなどを登録する。都道府県が要請内容と配布要否、枚数を確認し、厚労省が承認した後、対象医療機関のリストが販売業者に送られ、医療機関は案内メールを受けて購入手続きを行う。G-MISでの申請が困難な場合は、都道府県への相談による個別シート対応も用意されている。対象となるのは、在庫量が「今後1週間の想定消費量から購入見込み量を差し引いた量の4週間分」を下回る医療機関である。購入可能数は想定消費量2週間分を基準に1,000枚単位で切り上げ、1セット1,000枚から購入できるほか、セット単位でサイズ指定も可能とされる。第1弾は5月18日午前9時から20日午後5時まで申請を受け付け、以後も毎週水曜午後5時締めで受け付ける予定。感染対策資材の不足は、病院、歯科、在宅、訪問看護など幅広い診療継続に直結する。医療機関には、在庫と使用量を踏まえた適正申請が求められ、国と都道府県には配送状況や追加放出の情報を迅速に示す対応が求められる。 参考 1) 中東情勢を踏まえた医療用手袋の放出について(厚労省) 2) 上野厚労相「国備蓄の手袋5千万枚を放出」 中東情勢影響による医療機関での不足受け(産経新聞) 3) 医療用手袋 5月18日から購入申請受け付け開始 政府備蓄放出分(NHK) 4) 国備蓄の医療用手袋放出発表うけ 看護現場からは安堵の声(日本テレビ) 3.がん拠点病院の整備指針見直しへ 2030年度から実績要件を強化/厚労省厚生労働省は5月14日に「がん診療連携拠点病院等の指定要件に関するワーキンググループ」を開き、がん診療連携拠点病院などの整備指針見直し案を示した。柱となるのは、がん医療の高度化と人口減少を踏まえた「集約化」と「均てん化」の切り分けである。2026年夏ごろに新たな整備指針を取りまとめ、2027年度から新体制を始める見通し。とくに注目されるのは、がんゲノム医療体制の強化である。厚労省は2026年度の指針改定で、がん診療連携拠点病院などが「がんゲノム医療中核拠点病院」「同拠点病院」「同連携病院」のいずれかに指定されていることを「望ましい要件」とし、2029年度の改定時には必須要件化する方針を示した。がんゲノム医療の進展により、患者ごとに最適な薬物療法を選択する重要性が高まっているためである。ただ、2026年4月1日時点で地域がん診療連携拠点病院357施設のうち、がんゲノム医療中核拠点病院などの指定を受けているのは7割弱にとどまる。別資料でも、2026年3月時点で拠点病院等463施設のうち指定済みは295施設(63.7%)とされ、遺伝カウンセリング体制、C-CATへのデータ登録、エキスパートパネル実施などが課題となっている。手術療法と放射線療法についても、実績要件の厳格化が進む。現行指針では、地域拠点病院の要件として、悪性腫瘍の手術年400件以上、放射線治療の延べ患者年200人以上などの絶対数要件がある一方で、同一がん医療圏に1施設のみの場合は、地域患者の約2割を診療していれば要件を満たす「カバー率要件」も認められている。厚労省は2029年度の見直しでこの緩和要件を廃止し、2030年度から手術年400件以上、放射線治療年200人以上を必須要件とする方向。現在、手術件数を満たさず、カバー率で指定されている施設は13施設、放射線治療の基準を下回る地域拠点病院は38施設ある。また、手術、放射線治療、薬物療法の実績や専門職配置、機器情報などを都道府県に報告し、都道府県がん診療連携協議会の求めに応じて情報提供すること、診療実績をウェブサイトなどで公表することも必須要件とする。協議会には、地域でどの医療を集約し、どの医療を身近に提供するかを議論する役割が期待される。その一方で、ワーキンググループでは、拠点病院が減少した場合の地域医療の質や患者アクセスへの影響を懸念する意見も出た。集約化は質の維持や人材確保には不可欠だが、患者や住民に必要性をわかりやすく説明し、地域がん診療病院や周辺医療機関との連携を強めることが求められる。今回の見直しは、がん医療を「どこでも同じ」から「高度医療は集約し、継続診療は地域で支える」体制へ再編する転換点となる。 参考 1) 第10回がん診療連携拠点病院等の指定要件に関するワーキンググループ(厚労省) 2) がん拠点病院、ゲノム中核指定を「望ましい要件」に 整備指針改定で 29年度からは必須要件化(CB news) 3) がん診療連携拠点病院、2030年度から「ゲノム中核拠点病院等であること」を必須要件へ-がん拠点病院指定要件WG(Gem Med) 4.東京都で麻しん急増、緊急ワクチン接種開始 接触後72時間以内が鍵/JIHS国立健康危機管理研究機構(JIHS)によると、2026年第18週(4月27日~5月3日)の麻しん(はしか)報告数は23例で、年初からの累計は462例となった。過去10年で患者数が最多だった2019年の同時期467例に迫る水準で、感染は首都圏を中心に広がっている。累計では東京都226例が最多であり、神奈川県41例、鹿児島県34例、埼玉県33例、千葉県28例、愛知県25例と続く。東京都では5月14日までに239例の患者が確認され、現在の集計方法となった2008年以降で過去2番目、過去10年では最多となった。麻しんは空気感染する極めて感染力の強い感染症で、免疫を持たない人が同じ空間にいれば、ほぼ感染するとされる。発熱、咳、発疹などを来し、肺炎、中耳炎、脳炎などを合併し、重症化すれば死亡することもある。国内は麻しんウイルスが定着していない「排除状態」とされるが、今年の患者の約7割は国内感染とみられ、海外から持ち込まれたウイルスが国内で連鎖している可能性がある。5月5日には埼玉県所沢市のベルーナドームで野球観戦した来場者の麻しん陽性が判明し、ゴールデンウイーク後の拡大が警戒されている。東京都は感染拡大を受け、保健所が接触者と特定した都民のうち、接触から72時間以内で、麻しんの既往がなく、接種歴が不明または1回以下の人を対象に、5月18日から都内8ヵ所の感染症指定医療機関で無料の緊急ワクチン接種を始める。接触後72時間以内の接種により、発症を予防できる可能性があるためだ。厚生労働省も、子どもの定期接種の徹底に加え、乳幼児や渡航者と接する機会の多い職種で未接種者に接種検討を呼びかけている。医療機関での対応も重要になっている。国立国際医療センターでは、病棟勤務の医療従事者2人と外来受診患者1人の麻しん陽性が判明した。職員2人は麻しん含有ワクチンを複数回接種済みで、修飾麻しんでは典型例より症状や感染性が低い傾向があるとされるが、同院は通常の麻しん発生時に準じ、接触者調査、免疫確認、健康観察を実施している。疑い患者には事前連絡を求め、一般患者と動線や診察時間を分け、医療従事者はN95マスクを着用するなど、院内感染対策の徹底が求められる。背景には、世界的なワクチン接種率の低下がある。新型コロナ禍で接種機会が失われ、医療資源もコロナ対応に偏った。麻しん流行国は2024年に59ヵ国と2022年の1.6倍に増え、集団免疫に必要とされる95%以上の接種率を1回目接種で達成した国・地域は、2019年の84から2024年には69に減少した。わが国でも麻しんワクチン1回目の接種率は2024年度に92%と、2008年度以降で最低となった。ワクチン供給の混乱に加え、否定的な印象の拡大も指摘されており、麻しん対策は国内流行への対応にとどまらず、予防接種への信頼回復を含む公衆衛生上の課題となっている。 参考 1) 世界でワクチン離れ、接種率「コロナ前」遠く はしか流行1.6倍の59カ国(日経新聞) 2) 麻疹報告数462例に、過去10年で最多だった2019年同時期に迫る(日経メディカル) 3) はしか感染者 過去10年で最多の2019年に迫るペースで増加(NHK) 4) 東京都 はしか感染拡大で接触者に無料ワクチン接種の緊急対策(同) 5) はしか患者10年で最多の東京都、ワクチン緊急接種の開始を発表…患者との接触者が対象(読売新聞) 6) 当院職員の麻しん発症に関するご報告(国立国際医療センター) 7) 当院受診患者の麻しん発症に関するご報告(同) 5.電子カルテ停止で診療一時停止 市立奈良病院、再発防止へ検証/奈良県奈良市の市立奈良病院で4月に電子カルテなどのシステムに異常が検知され、外来診療や救急受け入れが一時停止した問題で、市は原因究明と再発防止に向け、情報セキュリティーの専門家らによる第三者委員会を設置する方針を明らかにした。病院では4月21日夜、ネットワーク監視装置が異常な通信を検知。電子カルテなどに関係するサーバーをネットワークから切り離したため、電子カルテの入力や閲覧ができなくなった。これを受け、同病院は翌22日から2日間にわたり、救急患者と一般外来患者の新規受け入れを停止した。外来診療や救急搬送の受け入れは4月24日朝から通常通り再開したが、その後も受付、会計、一部診療、診療報酬関連システムなどで復旧作業が続き、業務に遅れが生じていた。奈良市は5月13日午後、残っていたシステムを含め、すべての復旧作業が完了したと発表した。現時点で、異常の原因は明らかになっていない。サイバー攻撃の疑いも含めて検証が必要とされており、市は6月初めごろにも第三者委員会を開き、病院側の分析の妥当性を外部の専門家が確認する。仲川 げん市長は記者会見で、「日常の病院業務がいとも簡単に止まってしまうリスクを今回感じた」と述べ、原因を分析した上で国に報告し、全国の自治体にも事例を共有できるよう取り組む考えを示した。今回の障害は、電子カルテや会計、診療報酬請求など、病院運営の基盤となる情報システムが停止した場合、地域の救急・外来機能にただちに影響が及ぶことを改めて示した。医療機関では、サイバー攻撃対策だけでなく、異常検知後の初動対応、ネットワーク遮断時の診療継続体制、紙運用への切り替え、復旧手順、自治体や国への報告体制などを含めた事業継続計画の実効性が問われている。第三者委員会の検証結果は、自治体病院を含む全国の医療機関にとっても重要な教訓となりそうだ。 参考 1) サイバー攻撃疑いで診療停止の市立奈良病院 原因究明に向け、奈良市が第三者委員会設置へ(産経新聞) 2) 市立奈良病院のシステム障害 完全復旧し原因解明へ(NHK) 3) 電子カルテシステムの大規模障害、市立奈良病院は全てのシステムが復旧したと明らかに…第三者委員会で検証(読売新聞) 6.病院再編に現場反発、4割が退職希望 静岡市立清水病院/静岡県静岡市は、20年連続で赤字が続く市立清水病院について、清水厚生病院との一体的運用と指定管理者制度の導入により、市立病院としての存続を図る方針を示した。開始目標は2027年4月。市立清水病院は463床、29診療科を持つ総合病院だが、稼働病床は291床にとどまる。2025年度の赤字額は29.5億円、赤字率は29.9%に達する見込みで、市は従来型の改善策では再建困難と判断した。背景には、清水区全体の医療需要の縮小がある。市立清水病院のほか、154床の清水厚生病院、159床の清水さくら病院が存在するが、人口減少下で各病院が同じ機能を維持すれば、患者と症例が分散し、医師確保や若手医師育成にも悪影響を及ぼす。市は「共倒れ」を避けるため、清水厚生病院の入院機能を市立清水病院に集約し、約400床規模で一体運用する計画。清水厚生病院は外来診療所として地域医療を継続し、指定管理者の最有力候補には同院を運営するJA静岡厚生連が挙がっている。その一方で、現場の反発は大きい。労働組合のアンケートでは、指定管理導入後も継続勤務を希望する職員は12.0%にとどまり、「退職したい」が41.4%、「悩んでいる」が44.1%を占めた。退職希望の理由は「給与が下がる可能性」が95.5%、「手当がなくなる可能性」が87.2%と、処遇悪化への不安が中心となっている。職員からは、「説明が突然で、行政から見放されたようだ」との声もある。難波 喬司市長は説明不足を認め、職員説明会や個別相談窓口の設置を表明した。市は、指定管理者への転籍に際して数年間の給与水準保障や、市職員としての配置転換も検討する。病院再編は地域医療を守るための選択肢となり得るが、医療提供体制の根幹である職員の納得と定着を欠けば、かえって診療機能の低下を招きかねない。今回の事例は、再編の成否が病床数の最適化だけでなく、雇用不安への対応と現場との合意形成に左右されることを示している。 参考 1) 静岡市、指定管理で赤字病院の存続図る 清水区の市立・公的病院を一体的運用(CB news) 2) 市立病院で職員の4割が「退職したい」 突然の方針表明に「あまりに突然。行政から見放されたような思い」 指定管理者制度の導入で待遇面の悪化を危惧 不十分な説明に怒りと困惑(FNNプライムオンライン) 3) 民営化待遇低下不安視 「退職したい」4割 職員向け説明会へ 静岡市立清水病院(読売新聞) 4) 市立清水病院・清水厚生病院の一体的運営方針発表の静岡市…病院職員反発に市長“説明不足”を謝罪し詳細説明会開催へ(静岡第一テレビ)

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