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1.

ワクチン接種率の低下により世界で麻疹患者が急増

 世界保健機関(WHO)は11月28日、麻疹(はしか)排除に向けた世界の進捗状況をまとめた報告書を発表した。それによると、2000年から2024年の間に、世界の麻疹による死亡者数は88%減少し、およそ5800万人の命が救われた。一方で、かつて麻疹排除を目前にした国々で再び感染が広がっている事実も明らかにされた。これは、麻疹ワクチンの定期接種を受けていない小児が増えていることを示唆している。報告書では、「世界的な麻疹排除の達成は、依然として遠い目標だ」と指摘されている。 2024年には、米州を除く全てのWHO地域(アフリカ、南東アジア、欧州、東地中海、西太平洋)の59カ国で麻疹の大規模または深刻な流行(アウトブレイク)が59件発生した。これらのうち、23件(39%)がアフリカ地域、20件(34%)が欧州地域、10件(17%)が東地中海地域、5件が西太平洋地域、1件が南東アジア地域で報告された。麻疹のアウトブレイク数は、2021年には21件、2022年には37件であり、2024年のアウトブレイク数は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの発生以降では最多で、2003年以来2番目に多かった。 WHOは、麻疹ワクチンの定期接種や感染監視体制がパンデミック以降、十分に回復していないことが、これまでの成果を危うくしていると警告している。 米国は2000年に麻疹排除を達成した。これは、「12カ月間以上、伝播を継続した麻疹ウイルス(国内由来、国外由来を問わず)が存在しない状態」と定義されている。しかし、米疾病対策センター(CDC)は今年、1,798件の麻疹確定症例を報告した。これは、排除達成以降で最多である。WHOは現在、米国やカナダをはじめ、かつて麻疹排除を達成したにもかかわらず感染が再燃している国々を注視している。 WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェソス事務局長は、「麻疹ウイルスは、依然として世界で最も感染力の強いウイルスだ。有効で低コストのワクチンがあるにもかかわらず、ウイルスは接種率のすき間を突いて広がる」とCNNに対して語っている。 WHOで予防接種プログラムを統括するDiana Chang Blanc氏によると、2024年に麻疹ウイルスに対する免疫が十分でなかった小児は、世界で3000万人以上に上ったという。2024年の世界全体での麻疹ワクチンの初回接種率は84%であり、ワクチンの効果を95%まで高めるために必要な2回目の接種率は76%でしかなかった。 一方で、前進も見られている。今年、カーボベルデ、セイシェル、モーリシャスがアフリカ地域で初めて麻疹排除を達成した。さらに、太平洋地域の21の島嶼国では、麻疹と風疹の両方の排除を達成した。 Blanc氏は、「麻疹排除に向けて確かな進展があるのは事実だ。それでも、症例数と死亡者数は今なお容認できないほど高水準だ」と話す。同氏は、麻疹による死亡はワクチンの2回接種を受けることで全て予防可能であることを強調する。 WHOによると、接種率低下の背景には、パンデミック中の接種機会の喪失やワクチンに関する誤情報、紛争地域などワクチンを届けることが困難な地域の存在、資金減少が要因だとしている。さらにWHOは、麻疹・風疹実験室ネットワークへの支援縮小など、近年のグローバルヘルス分野における資金削減により免疫ギャップが拡大し、今後さらに大規模なアウトブレイクが発生する可能性があると警告している。

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化学療法中のワクチン接種【かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ】第6回

化学療法中のがん患者は、化学療法の影響や原疾患により免疫力が低下しているため、感染症に罹患しやすく重症化しやすい傾向があります。国内のガイドラインやASCOガイドラインおいても、がん患者の治療やケアにおいて適切なワクチン接種がもたらす良い影響が述べられています。今回は固形がん化学療法中の患者を想定した、5つの主なワクチンの特徴や効果、推奨される接種時期についてお話しします。1)インフルエンザワクチン背景がん患者がインフルエンザに罹患した場合、死亡のリスクが高いことが複数の研究から報告されています。とくに肺がんや血液腫瘍患者はより重症化するリスクが高いことが知られています。インフルエンザワクチンは、A型(H3N2・H1N1)とB型の3株を含む混合ワクチンであり、世界的流行株とWHO推奨株に基づき毎年選定されるため、毎年の接種が推奨されます。健康な人における有効性は70~90%程度とされていますが、流行株との一致度により変動します。予防効果と安全性複数の研究から、血清学的な反応は健康な人と比較して劣る可能性はあるものの、予防医学的な意義は明らかであることがメタアナリシスにより示されています。近年、高用量インフルエンザワクチン(商品名:エフルエルダ筋注)が承認され、米国では65歳以上のがん患者に高用量ワクチン接種が推奨されています。化学療法中のインフルエンザワクチン投与に関してとくに重篤な有害事象が増加するという報告はありません。注意点リツキシマブやオファツムマブ、オビヌツズマブなどの治療後は、少なくとも半年間はワクチン効果が期待できない可能性があります。また、免疫抑制薬を服用中の患者でも効果が低い場合があります。接種時期インフルエンザワクチンは10~12月までの接種が推奨されています。化学療法の開始前(少なくとも2週間前)に接種するのが理想ですが、治療中に流行期を迎える場合は接種時期を調整する必要があります。化学療法中は骨髄抑制の最も低下した時期(nadir)を避けて接種することが望ましいです。2)肺炎球菌ワクチン背景日本の成人市中肺炎では、肺炎球菌が最も頻度の高い起炎菌です。65歳以上や糖尿病・心不全などの基礎疾患を有する場合には、重症感染症を起こしうるため、肺炎球菌ワクチン接種が推奨されています。国内データでは、侵襲性肺炎球菌感染症の死亡率は約19%と高く、患者の約7割は65歳以上です。また、固形がん患者や脾摘患者が肺炎球菌感染症に罹患した場合、非がん患者と比較して死亡のリスクが高いことが報告されています。予防効果と安全性肺炎球菌ワクチンによる抗体価の上昇は、化学療法中であっても健康な人と同等であると報告されています。化学療法中の肺炎球菌ワクチン投与に関してとくに重篤な有害事象が増加するという報告はありません。ワクチンの特徴ポリサッカライドワクチン(ニューモバックス[PPSV23]:定期接種)と結合型ワクチン(キャップバックス[PCV21]、プレベナー20[PCV20]、バクニュバンス[PCV15])の2種類があります。免疫力をつける力(免疫原性)はPCV21/20/15のほうがPPSV23より高いです。日本ワクチン学会・日本感染症学会・日本呼吸器学会では、がん患者へのPCV20の1回接種もしくはPCV15とPPSV23の連続接種を推奨しています。画像を拡大する接種時期肺炎球菌感染症は1年を通して発生するため、季節を問わず接種が可能です。化学療法開始前(少なくとも2週間前)に接種、もしくは化学療法中は骨髄抑制の最も低下した時期(nadir)を避けて接種することが望ましいです。3)帯状疱疹ワクチン背景水痘帯状疱疹ウイルス(ヘルペスウイルス3型)初感染は水痘として発症し、感染後に後根神経節に不活性状態で長期間潜伏します。その後、加齢・疲労・病気などで免疫が弱まるとウイルスが再活性化し、帯状疱疹として発症します。症状は片側に帯状に広がる発疹と刺すような痛みが典型的で、約10%の症例で帯状疱疹後神経痛が発生し、QOLを低下させる原因になります。免疫不全のない患者と比較して、固形がん患者は約5倍、血液がん患者は約10倍帯状疱疹の頻度が高いことが報告されています。画像を拡大する安全性化学療法中の帯状疱疹ワクチン投与に関してとくに重篤な有害事象が増加するという報告はありません。生ワクチンは、免疫低下患者(がん薬物療法中やステロイド使用中)には接種不可です。接種時期化学療法の開始前(少なくとも2週間前)に接種します。化学療法中は骨髄抑制の最も低下した時期(nadir)を避けて接種することが望ましいです。4)新型コロナ(COVID-19)ワクチン背景がん患者はCOVID-19に罹患すると重症化しやすいため、ワクチン接種の利益は大きいです。そのため、基本的には接種を検討すべきとされています。ただし、がんの種類や治療内容、免疫状態により、効果や副反応が異なる可能性があります。治療のタイミングにより接種時期を調整したほうがよい場合もあります。副反応が治療の有害事象と区別しにくい場合があるため注意が必要となります。総じて、患者ごとの状況に応じて主治医と相談して判断することが重要と考えられます。予防効果と安全性ワクチンを接種したがん患者約3万例を対象とした観察研究が報告されており、がん患者であってもCOVID-19ワクチンを2回接種することで感染リスクが低下することが示されています。一方でワクチンの感染リスク低下効果は58%(非がん患者:90%以上)であり、がん患者ではワクチンの効果が減弱する可能性が示唆されています。とくにワクチン接種前6ヵ月以内に化学療法を受けた場合はワクチンの効果が低いことが報告されています。定期的な追加接種が推奨され、感染時は早期の受診と抗ウイルス薬治療が重要となります。接種時期基本的に最新の推奨スケジュールに従った接種が推奨され、明確な最適時期はまだ不明ですが化学療法の開始前に接種して、化学療法中は骨髄抑制の最も低下した時期を避けて接種することが望ましいです。抗CD20抗体(リツキシマブやオビヌツズマブなど)治療後半年以内はワクチンの効果が乏しいことが示されています。注意事項ワクチン接種により、接種側の腋窩・鎖骨上窩・頸部リンパ節の腫大が報告されており、PETでも集積を認めることがあり、転移との鑑別が必要になる場合があります。画像検査の際にはワクチン接種歴と部位の情報を得ておくことが望ましいです。5)RSウイルスワクチン背景高齢者、慢性の基礎疾患(喘息、COPD、心疾患、がんなど)、免疫機能が低下している人は、RSウイルス感染症の重症化リスクが高く、肺炎、入院、死亡などの重篤な転帰につながる可能性があります。また、RSウイルス感染症は、喘息、COPD、心疾患などの基礎疾患の増悪の原因となることもあり、日本では約6万3,000例の入院と約4,500例の院内死亡が推定されています。米国での大規模データ研究では、がん患者がRSウイルス感染症に罹患した場合、非がん患者と比較して死亡のリスクが2倍以上高いことが報告されています。画像を拡大する接種時期化学療法の開始前(少なくとも2週間前)に接種します。化学療法中は骨髄抑制の最も低下した時期(nadir)を避けて接種することが望ましいです。1)Kamboj M, et al. JCO Oncol Pract. 2024;20:889-892. 2)日本癌学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会. 新型コロナウイルス感染症とがん診療について(医療従事者向け)Q&A:2021.3)国立がん研究センター:がん情報サービス4)日本乳癌学会. 乳癌診療ガイドライン2022年版. 金原出版:2022.5)アレックスビー筋注用添付文書6)アブリスボ筋注用添付文書

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Long COVIDの経過は8つのタイプに分かれる

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患後症状、いわゆるlong COVIDは、一般に、新型コロナウイルスへの感染後に、疲労感やブレインフォグ、めまい、動悸などのさまざまな症状が3カ月以上持続する慢性疾患とされている。このほど新たな研究で、long COVIDの経過は、症状の重症度、持続期間、経過(改善傾向か悪化傾向か)により8つのタイプに分類されることが示唆された。米ハーバード大学医学大学院のTanayott Thaweethai氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Communications」に11月17日掲載された。 Thaweethai氏らはこの研究で、RECOVER(Researching COVID to Enhance Recovery)イニシアチブへの参加成人3,659人(女性69%、99.6%は2021年12月以降のオミクロン株流行期に感染)を対象に、感染の3〜15カ月後に評価したlong COVIDの症状スコアに基づき、患者の縦断的経過パターンを解析した。対象者のうち、3,280人は最初の新型コロナウイルス感染から30日以内に試験に登録した急性期患者、残る379人は登録時には未感染であったがその後に感染したクロスオーバー群であった。 感染から3カ月時点で10.3%(374/3,644人)がlong COVIDの基準を満たしており、そのうち約81%が1年後も症状を有していた。解析の結果、long COVIDの経過として、以下の8つの異なるパターンが特定された。1)症状負担が持続的に重度(195人、5%):対象期間を通してlong COVIDの閾値を満たす。2)症状負担が断続的に重度(443人、12%):long COVIDの症状スコアが断続的に閾値を超える。3)改善傾向、症状負担が中等度(379人、10%):long COVIDの症状スコアが経時的に低下。4)改善傾向、症状負担は軽度(334人、9%):感染後3カ月時点の症状スコアが3)よりも低く、6カ月時点ではほぼ0。5)悪化傾向、症状負担は中等度(309人、8%):症状スコアが経時的に上昇。6)症状が遅れて悪化(217人、6%):感染後3〜12カ月の間の症状スコアは低いが、15カ月時点で増加。増加の一因は労作後の不調。7)一貫して症状負担が軽度(481人、13%):全体的に症状の負担は軽度だが、3〜15カ月の間に症状スコアが断続的に上昇する。ただし、いずれも閾値未満。8)一貫して症状負担は最小か無症状(1,301人、36%):一貫して症状スコアの閾値未満。 Thaweethai氏は、「われわれが特定したlong COVIDの経過の違いは、今後の研究において、患者ごとに回復期間が異なる理由の説明となり得るリスク因子やバイオマーカーの評価を可能にするとともに、潜在的な治療ターゲットの特定にも役立つだろう」とニュースリリースの中で述べている。 論文の上席著者である米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のBruce Levy氏は、「この研究は、COVID-19の長期的経過の多様なパターンを定義するという緊急の必要性に応えるものだ。得られた結果は、long COVID罹患者に対する臨床的および公衆衛生的サポートに必要なリソースを判断するのに役立つとともに、long COVIDの生物学的根拠を探る研究にも役立つだろう」と述べている。 なお、米疾病対策センター(CDC)によると、long COVIDの症状として200種類以上が確認されているという。

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避難所の感染対策、集団生活の場をどうマネジメントするか【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第12回

避難所の感染対策、集団生活の場をどうマネジメントするか大地震から1週間が経過しましたが、いまだ多数の住民が避難所生活を余儀なくされています。避難所には高齢者が多く、発熱や下痢を訴える避難者が出ており、地域の医師会を通じて避難所の衛生管理や感染対策を指導するように頼まれました。避難所での感染症対策は、集団生活による「密集・密接」と、限られた栄養状態、衛生環境が大きなリスクになります。高齢者が多い環境では、感染症の頻度は通常よりも高くなることが予想されます。とくに、発熱や嘔吐・下痢の症状を呈する避難者が出た場合は、感染性胃腸炎、インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症などを想定した早期対応が重要です。避難所を管理する医師にとって、感染対策は単に「患者を診る」だけでなく、集団生活の場全体をどう守るかという視点が重要になります。医師が中心となって組織的に対応することで、感染拡大を未然に防ぐことができます。ここでは、現場で意識したいポイントを具体的に解説します。指揮と啓発:医師が空気を作る避難所管理医師は「診療医」と同時に「感染管理責任者」の2つの役割を担います。まずは医師が中心となり、看護師、保健師、避難所スタッフ、ボランティアなどと連携して「感染対策担当班」を設置します。これが感染拡大を未然に防ぐためのチームとなります。手洗い・マスク着用・トイレ使用法・発熱時の行動などを「避難所ルール」として明文化し、掲示や放送で繰り返すことが大切です。避難者は「感染への恐怖」に敏感です。不安がパニックや風評被害につながらないよう、私たち感染対策チームが率先して手洗いやマスクを実践し、避難者に「感染対策の意味」を伝えていく姿勢が求められます。また、現場では物品管理も重要です。薬剤・消毒薬・マスクなどの在庫を確認し、不足が見込まれるときは早めに行政へ要請するのも、感染対策チームの役割です。予防の徹底:環境と食を守る災害時には、しばしば断水になり、手洗いがおろそかになります。水道・石鹸が不足する場合は、アルコール消毒液を要所に配置しましょう。段ボールベッドや仕切りを活用し、避難者同士の距離を可能な限り確保するように心掛けます。可能な場合は、定期的(午前と午後に1回など)に窓やドアを開けて換気を行うことも忘れないようにしたいです。避難所で出される食品の管理にも注意が必要です。調理が必要なものは十分に加熱し、調理者、盛り付けや配膳をする人はできるだけ少人数に限定して、手指衛生と使い捨て手袋の着用を徹底してもらいます。食器類の共用は避け、使い捨てにするのが理想です。また、給水車の水を汲み置きして飲用したり、食材や食器、調理器具の洗浄に使用する場合は、あらかじめ煮沸します。乳児の哺乳瓶は、次亜塩素酸ナトリウム(商品名:ミルトン、ミルクポンなど)もしくは熱湯を用いて消毒し、衛生的な環境で調乳するように指導しましょう。発症者への対応:早期発見と拡大防止発熱・下痢・嘔吐などの症状のある人は、発見次第、速やかに別室や専用区画に移動してもらいます。可能であれば専用トイレも用意しましょう。発症者の症状、接触者、発症時刻を記録し、集団感染が疑われる場合はすぐに保健所へ報告します。同居家族や近くにいた人は、2~3日間の体調観察が必要です。現場で最も注意が必要なのが、嘔吐物・下痢便の処理です。必ずマニュアルを作成し、徹底してもらいます。ケアや清掃に当たる人は、マスク・手袋・ガウンやエプロンなどを着用し、嘔吐物・便は使い捨てペーパーで覆ったうえで、0.1~0.2%次亜塩素酸ナトリウムを用いて処理します。廃棄物は密閉袋に入れて廃棄することが鉄則です。また、鼻水、咳、咽頭痛など比較的限局した上気道症状だけであれば、感染症だけでなく、アレルギーの存在も念頭に置いて診療に当たります。段ボールベッド自体がアレルゲンになる可能性は低いですが、付着していたカビなどが原因となる場合もあります。避難所全体の健康管理日々の管理としては、健康観察シートを活用し、毎日、避難者全員に体温や症状を記録してもらいます。とくに高齢者、乳幼児、基礎疾患がある避難者など、ハイリスク群を重点的にモニタリングしましょう。保健所や医療機関と定期的に連絡を取り、検査や医療搬送も必要なときに速やかに行えるよう準備しておきます。基本的な清潔を保つために、定期的に居住区域やトイレの清掃を行うことは大変重要です。トイレ清掃を行った際は、その都度マスクと手袋は廃棄し、流水と石鹸を用いて手を洗い、その後アルコール消毒剤を使います。最後に、心に留めておきたいことがあります。過去に、飲み水や寝るスペースの確保に難渋している避難所で、隔離や手洗いのことばかりを厳しく指導し、周囲と軋轢を生んでしまった医師がいました。感染対策はときに家族を引き離したり、地域のコミュニティを分断したりする側面もあります。時期や状況によっては、その対策がメンタルを含めた別の健康被害を助長する可能性もあります。頭の片隅に置きながら、「感染対策」と「避難所生活」のバランスを考えることも、医師として大切な姿勢です。まとめ避難所管理医師は「診療医」+「感染管理責任者」の2つの役割を担います。現場では以下の4本柱を軸に行動することが重要です。スタッフや避難者への啓発衛生ルールの徹底発症者の早期隔離健康観察体制の構築これらを守ることで、感染症の芽を早期に摘み、避難所全体の安全を確保することができます。

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AI時代の産業保健と法学をつなぐ―日本産業保健法学会第5回学術大会事務局長レポート【実践!産業医のしごと】

1. 「産業保健」と「法学」の接点を感じられる学会CareNet.comをご覧の医師の方、産業医の経験がある方でも、「産業保健法学の学会」と聞いて、イメージが湧くでしょうか?2025年9月、日本産業保健法学会の第5回学術大会が北里大学白金キャンパスで開かれ、著者の私は事務局長を務めさせていただきました。産業医、保健師、弁護士、社労士など、多職種が一堂に会し、「健康問題と法」を巡る実務の悩みを持ち寄った2日間でした。本学会の特徴は、「法知識をベースに多職種の知恵を借りて問題解決を図る」という趣旨を、実務の視点にまで落とし込んでいることです。具体的な特徴としては、1)各セッションに医学と法律の専門家をそれぞれ1名以上配置する2)各セッションのテーマを「マクロ・ミクロ/未然防止・事後解決」の4象限で整理し、学会全体でカバーするようにプログラムを組み立てるの2点です。産業医の日常業務で感じる「これは医療だけでは解決できない」というモヤモヤを、法学と実務でどう扱うのか、医学と法学の接点を感じられる学会といえます。2. AIを軸にした幅広いシンポジウム今回の大会の統一テーマは「AIと産業保健」でした。AIを1つの軸に据えつつ、AIを用いた労務管理やメンタルヘルス対応、健康情報の取り扱い、ハラスメント、障害者雇用、労災・安全配慮義務など、産業医が現場で直面する幅広いテーマを、法学と実務の視点から取り上げました。AIの話題も単なる未来予測にとどめず、AI活用に当たって、今の制度と何がかみ合っていないのか職場のルールや社内規程をどう書き換えるべきか産業医が面談や判定の場で、どこまでAIを活用でき、どこから人間の判断にすべきかといった、明日からの実務に持ち帰れる論点に落とし込めるよう、各セッションの先生方が努力してくれました。具体的には、下記のようなシンポジウムが開催されました。1)デジタルヘルスが産業保健にもたらすパラダイムシフトと法AIやDXが産業保健に与える変化を、単一視点では捉えきれない複合現象として整理し、法的含意も含め多面的に検討。2)生成AIは私たちの認知にどのようなインパクトを与えるか(法政策への示唆)AI時代の「認知のアップデート」を軸に、産業保健・法学・人類学の視点で対話し、人とAIが共に働く未来の視座を高める3)職場における新型コロナワクチン接種と被害者救済職域接種の社会的役割とともに、接種後健康被害救済・ハラスメント・労災認定等の法的課題を含めた「事実」を多角的に検証し、次のパンデミックへの教訓を議論。4)データ活用による健康経営推進と法的課題データ活用の期待と、個人情報保護等の法的・倫理的制約の実務ジレンマ(許容範囲が不明確)を問題意識として整理し、線引きを検討。参加者の感想を見ても、「AIというテーマから産業保健と法の『線引きの難しい領域』を正面から議論していた」「産業医として、どこまで責任を負うべきかを考えさせられた」といった声が多く、実務に沿った理解と課題解決といった目的を果たせたのではと感じています。3. 事務局の“裏側”レポートここからは少し学会運営に当たっての“裏側”の話です。これまでは学会に参加する側として、プログラムや会場運営が「当たり前に」回っているように見えていました。しかし運営側、とくに事務局の立場になって初めて、登壇者の調整、予算と採算の管理(各大会で独立採算)、後援・協賛・広報などの重要性を痛感しました。学会の肝となる登壇者の調整では、各セッションに医系と法学系の統括者が必ず登壇する「縛り」のほか、「テーマに人を当てる(=知り合いを呼ぶ)のではなく、テーマに合う人を探す」という原則を徹底するようにしました。結果として、候補者リストとにらめっこしながら「この先生はテーマの分野の法的論点をどこまで話してもらえるか」「この弁護士の方は労災問題に詳しいが、産業医向けの話にしてもらえるか」といった相談を重ねました。広報もまた地味ながら重要な仕事でした。学会のニュースレターやウェブサイトに加え、関連学会のバナー、社労士会や産業保健総合支援センターなどの後援団体にメーリングリストでの案内を依頼しました。申し込み人数の推移は常に気になります。学会は独立採算制ですから、参加者数はそのまま大会の収支に跳ね返ります。締め切りまでパソコンの前で、「今日は何人増えた」「この広報が効いたかもしれない」と一喜一憂しました。最終的に多くの先生方にご参加いただき、胸をなで下ろしました。4. 産業医へのメッセージ─線引きの難しい領域こそ一緒に考える場に大会を通じて、あらためて感じたのは、「産業保健と法学は、問題がこじれたときだけ出会うものではない」ということです。むしろ、業務起因性をどこまで見るか企業として復職・配置転換をどう判断するか健康情報をどう守りつつ、産業保健を最大化するかといった、産業医が日々悩んでいる「線引きの難しい領域」こそが、法学者や弁護士と一緒に考えるべき領域なのだと思います。産業保健法学会のセッションでは、「訴訟になったらどうなるか」だけでなく、「訴訟になる前に、どのような制度や運用を整えればよいか」「社内規程や合意形成をどう設計するか」といった、“予防としての法”の視点が繰り返し提示されました。これは、現場で奮闘する産業医にとって、大きな支えになるはずです。第5回大会の運営を担当した1人として、産業医の先生方には「困ったときの課題を解決する場」に加え、「迷っているテーマを一緒に言語化していく場」として、この学会を活用していただきたいと願っています。AIをはじめ、新しいリスクが次々と現れるこれからの時代、医療・法・実務が交差するこのプラットフォームが、働く人の健康を守る一助になればと願っています。

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認知症発症リスク、亜鉛欠乏で30%増

 亜鉛欠乏が神経の炎症やシナプス機能障害をもたらすことで認知機能低下の可能性が指摘されているが、実際に亜鉛欠乏と認知症の発症を関連付ける疫学的エビデンスは限られている。今回、台湾・Chi Mei Medical CenterのSheng-Han Huang氏らが、亜鉛欠乏が新規発症認知症の独立した修正可能なリスク因子であり、明確な用量反応関係が認められることを明らかにした。Frontiers in Nutrition誌2025年11月4日号掲載の報告。 研究者らは、亜鉛欠乏と認知症の新規発症リスクの関連を調査するため、TriNetXの研究ネットワークを用いて、2010年1月~2023年12月に血清亜鉛の検査を受けた50歳以上を対象とした後ろ向きコホート研究を実施。対象者を亜鉛濃度(欠乏症:70μg/dL未満、正常値:70~120μg/dL)で層別化し、認知機能障害の既往がある者、亜鉛代謝に影響を与える疾患を有する患者を除外後、人口統計学的特性、併存疾患、薬剤、臨床検査値に基づき1対1の傾向スコアマッチングを行った。主要評価項目は3年以内の新規認知症の発症とした。また、追加評価項目として認知機能障害を、本研究の解析アプローチ検証のための陽性対照評価項目として肺炎を含めた。*原著論文では亜鉛濃度をμg/mLで表記しているが、診療指針等を考慮し本文ではμg/dLに修正。 主な結果は以下のとおり。・傾向スコアマッチング後、各群に3万4,249例が含まれた。・亜鉛欠乏は、認知症発症リスクを34%上昇させる(調整ハザード比[HR]:1.34、95%信頼区間[CI]:1.17~1.53、p<0.001)、肺炎発症リスクを72%上昇させる(調整HR:1.72、95%CI:1.63~1.81、p<0.001)ことと関連していた。・認知機能障害は、全期間を対象とした解析では有意な関連を示さなかった(調整HR:1.08、95%CI:0.92~1.28、p=0.339)が、新型コロナウイルス感染症パンデミック前の期間(2010~19年)の解析では、調整HRが1.38(95%CI:1.11~1.72、p=0.004)と有意な関連を示した。・軽度から中等度の亜鉛欠乏(50~70μg/dL)と重度の亜鉛欠乏(50μg/dL未満)をそれぞれ正常亜鉛レベルでの認知症新規発症リスクと比較した場合、軽度から中等度の亜鉛欠乏の調整HRは1.26(95%CI:1.10~1.46)、重度の亜鉛欠乏では調整HRは1.71(95%CI:1.36~2.16)と用量反応関係が明らかであった。 これらの知見より研究者らは、「認知症予防戦略において血清亜鉛の状態を評価し、最適化することの重要性を支持する。因果関係を明らかにし、最適な介入プロトコルを決定するためにランダム化比較試験の実施が期待される」としている。

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成人のRSウイルスワクチンに関する見解を発表/感染症学会、呼吸器学会、ワクチン学会

 日本感染症学会(理事長:松本 哲哉氏)、日本呼吸器学会(同:高橋 和久氏)、日本ワクチン学会(同:中野 貴司氏)の3学会は合同で、「成人のRSウイルスワクチンに関する見解」を12月9日に発表した。 Respiratory syncytial virus(RSV)感染症は、新生児期から感染が始まり、2歳を迎えるまでにほとんどの人が感染するウイルスによる感染症。生涯獲得免疫はなく、成人では鼻風邪のような症状、乳幼児では多量の鼻みずと喘鳴などの症状が現れる。治療薬はなく、対症療法のみとなるが、ワクチンで予防ができる感染症である。 RSV感染症は、基礎疾患を有する成人ではインフルエンザと同程度の重症化リスクを持つと考えられており、高齢者などはワクチンの任意接種対象となっている。2026年4月からは妊婦に対しRSVワクチンが定期接種になることもあり、今後、RSV感染症の予防対策の重要性はますます高まると考えられている。 3学会では、今般の見解について、「現時点でのRSVワクチンの科学的な情報であり、また接種の必要性を考える際の参考としていただきたい」と述べている。高齢者のRSV感染症の疾患負荷をワクチンで防ぐ1)主旨 RSV感染症は、国内外の研究報告をふまえると、高齢者、慢性呼吸器疾患、慢性心疾患などの基礎疾患を有する成人には、インフルエンザと同程度の重症化リスクを持つと考えられている。高齢者施設やハイリスク病棟での集団感染も報告されており、公衆衛生危機管理上の重点感染症にも分類されるRSV感染症の感染対策として、高齢者へのRSVワクチンの接種を推奨する。 今後、わが国でも死亡転帰など重症化に関する高齢者のRSV感染症の疫学情報のさらなる蓄積が望まれる。2)主なワクチン 現在、わが国で接種できるワクチンは任意接種として2つの組換えタンパク質ワクチンとmRNA(2025年5月承認、今後発売)がある。3)国内の高齢者における疾病負荷 2022年9月~2024年8月の2年間にわたり国内の4つの2次医療圏の急性期医療機関で実施された積極的サーベイランス研究で、RSV感染症による入院率は65歳以上人口10万人年当たり1年目29例、2年目36例、18歳以上のRSV感染症の院内死亡率は7.1%と報告されている。 わが国の2015~18年の医療保険データベースMedical Data Vision(MDV)を用いたRSV流行期と非流行期の時系列モデリング解析によって、全国のRSV関連入院率を推定した研究によると、65歳以上のRSV関連呼吸器疾患の入院率は10万人当たり96~157例と示されている。また、RSV感染症の文献をシステマティックレビューした報告によると、わが国の60歳以上の年間のRSVによる急性呼吸器感染症患者数は約69.8万人、入院患者数は約6.3万人、院内死亡者数は約4,500人と推定されている。4)慢性心肺疾患患者ではRSV感染症の重症化リスクが高まる 慢性心肺疾患を有する患者では、RSV感染症は重症化リスクが高まることが知られている。米国・ニューヨーク州のサーベイランス研究では、65歳以上のRSV入院率は1.37~2.56/1,000例であり、慢性閉塞性肺疾患、喘息、うっ血性心不全患者の入院率は、これらのない患者と比較して、それぞれ3.5~13.4倍、2.3~2.5倍、5.9~7.6倍高いことが報告されている1)。5)RSV感染症はインフルエンザと同程度の疾病負荷がある わが国の1,038例の呼吸器症状を有する救急入院患者を対象とした2023年7~12月に行われた前向き研究では、RSV感染症は22例が報告され、院内死亡率は13.6%(3/22)であったのに対して、インフルエンザは28例が報告され、院内死亡例はなかった2)。呼吸器症状を有しPCR検査を実施した外来および入院患者541例を対象に2022年11月~2023年11月の期間に実施された後ろ向き研究では、RSV感染症とインフルエンザの割合はそれぞれ3.3%と1.8%だった3)。また、30日間死亡率は、RSV感染症が5.6%(1/18)、インフルエンザでの死亡例はなかった。4つの2次医療圏における積極的サーベイランスの研究でも、18歳以上の肺炎または急性呼吸器感染症の入院患者におけるRSVとインフルエンザウイルスの陽性率は、それぞれ2.8%と3.3%であり、院内死亡率はそれぞれ7.1%と2.0%だった4)。6)高齢者施設ではRSVの集団感染が発生している 高齢者の介護施設などからRSVの集団感染の発生が複数報告され、重要な課題となっている。RSV感染症の小児における全国流行の時期に、高知県の老人保健施設の入所者110例中49例が発熱し、31例でRSV迅速検査が陽性を示し、基礎疾患を有する4例の高齢者がRSV感染を機に死亡した5)。また、富山県の介護老人保健施設では、入所者と職員あわせて49例に発熱や鼻汁などの症状がみられ、3人のPCR検査および遺伝子系統樹解析で同一のRSVが検出され集団感染と確定された6)。7)高齢者へのRSVワクチンの接種を推奨 RSV感染症は、高齢者および慢性呼吸器疾患・慢性心疾患などの基礎疾患を有する成人において、国内外でインフルエンザと同程度の重症化リスク(入院率や死亡率)があることが報告されている。RSVは、高齢者および基礎疾患を有する成人において、呼吸器感染症の主要な原因ウイルスと考えられるが、成人のRSV感染症には、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のような抗ウイルス薬は存在しない。現在、複数のRSVワクチンが承認されているが、いずれも高い有効性と良好な忍容性を示しており、予防接種のベネフィットはリスクを上回ると考えられる。公衆衛生危機管理上の重点感染症7)に指定されているRSV感染症の感染対策として、RSVワクチンの接種を推奨する。なお、わが国ではRSV感染症による死亡者数をはじめ全国的な疫学データが十分ではないことから、今後わが国でも、死亡転帰など重症化に関する高齢者のRSV感染症の疫学情報のさらなる蓄積が望まれる。■参考文献1)Branche AR, et al. Clin Infect Dis. 2022;74:1004-1011.2)Nakamura T, et al. J Infect Chemother. 2024;30:1085-1087.3)Asai N, et al. J Infect Chemother. 2024;30:1156-1161.4)Maeda H, et al. medRxiv. 2025 Jun 20. [Preprint]5)武内可尚、他. 臨床とウイルス. 2022;50:139-142.6)米田哲也、他. 病原微生物検出情報月報(IASR). 2018;39:126-127.7)第94回 厚生科学審議会感染症部会. 重点感染症リストの見直しについて(2025年3月26日)■参考成人のRSウイルスワクチンに関する見解

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降圧薬数漸減で、フレイル高齢者の死亡率は改善するか/NEJM

 介護施設に入居し、複数の降圧薬による治療を受けているフレイルの高齢者では、通常治療と比較して降圧薬数を漸減する治療法は、全死因死亡率を改善せず、転倒や骨折の頻度は同程度であることが、フランス・Universite de LorraineのAthanase Benetos氏らが実施した「RETREAT-FRAIL試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2025年11月20日号で発表された。降圧治療中の80歳以上の無作為化対照比較試験 研究グループは、フレイル高齢者における降圧薬中止の便益とリスクの評価を目的に、フランスの108の介護施設で非盲検無作為化対照比較試験を行った(フランス保健省などの助成を受けた)。2019年4月~2022年7月に参加者を登録し、2024年7月に追跡を終了した。 年齢80歳以上、介護施設に入居し、降圧治療として2種類以上の降圧薬の投与を受け、収縮期血圧が130mmHg未満の患者を対象とした。被験者を、プロトコールに基づき降圧薬の投与を段階的に中止する治療法を受ける群(漸減群)または通常治療を受ける群(通常治療群)に、1対1の割合で無作為に割り付け、最長で4年間追跡した。 漸減群では、無作為化の直後にプロトコールに基づき降圧薬の投与中止を開始し、その後は3ヵ月後および6ヵ月後、引き続き6ヵ月ごとの受診時に、急性期の内科的疾患がなく収縮期血圧が130mmHg未満であれば順次降圧薬の投与を中止することとした。 主要エンドポイントは全死因死亡とし、副次エンドポイントはベースラインから最終受診時までの降圧薬数の変化量、追跡期間中の収縮期血圧の変化量などであった。全死因死亡率、漸減群61.7%vs.通常治療群60.2%で有意差なし 1,048例(平均[±SD]年齢90.1[±5.0]歳、女性80.7%)を登録し、528例を漸減群に、520例を通常治療群に割り付けた。追跡期間中央値は38.4ヵ月(四分位範囲:30.0~48.0)と推定された。ベースラインの平均(±SD)収縮期血圧は、漸減群113±11mmHg、通常治療群で114±11mmHgであり、平均拡張期血圧は両群とも65±10mmHgであった。 平均(±SD)降圧薬数は、漸減群ではベースラインの2.6±0.7種類から最終受診時には1.5±1.1種類へ、通常治療群では2.5±0.7種類から2.0±1.1種類へと減少した。 また、追跡期間中における収縮期血圧の変化量の補正後平均値の群間差(漸減群-通常治療群)は4.1mmHg(95%信頼区間[CI]:1.9~5.7)であり、同様に拡張期血圧では1.8mmHg(0.5~3.0)であった。漸減群の7例で、収縮期血圧が160mmHg以上に上昇したため降圧薬を再導入した。 全死因死亡は、漸減群で326例(61.7%)、通常治療群で313例(60.2%)に発生し(補正後ハザード比:1.02、95%CI:0.86~1.21)、両群間に有意差を認めなかった(p=0.78)。MMSE、SPPB、QOLも同程度 副次エンドポイントである心血管系以外の原因による死亡(漸減群53.8%vs.通常治療群53.5%)、急性心不全(12.7%vs.11.0%)、転倒(50.0%vs.50.0%)、骨折(7.8%vs.9.2%)、新型コロナによる死亡(1.1%vs.3.1%)、主要心血管イベント(MACE、19.3%vs.17.3%)の発生率にも、両群間に有意な差はなかった。 ミニメンタルステート検査(MMSE)、Short Physical Performance Battery(SPPB)、日常生活動作(ADL)、生活の質(EQ-5D-3L質問票)、握力のベースラインからの変化量の最小二乗平均曲線下面積は、いずれも両群で同程度であった。また、主要および副次エンドポイントの定義に含まれない重篤な有害事象は、漸減群で132例、通常治療群で128例に発現し、両群間に大きな差はなかった。 著者は、「本試験では、この患者集団において降圧薬漸減戦略は通常治療より全死因死亡率を25%低下させるとの仮説は確認されなかった」「通常ケア群でも降圧薬数の減少が観察されたが、漸減群ほど顕著ではなかった。この知見は、患者が高齢化しフレイルが進むにつれて、医師が日常的に治療の強度を軽減する可能性があることを示唆する」「すべての併用薬の数はベースラインと最終受診時でほぼ同じであることから、通常治療群における降圧薬数の減少は、予期せぬクロスオーバー効果による可能性が高い。2つの群を診察する総合診療医(GP)が、通常治療群の患者ケアにおいて意図せずに漸減戦略を採用した可能性がある」としている。

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成人の肺炎球菌感染症予防の新時代、21価肺炎球菌結合型ワクチン「キャップバックス」の臨床的意義/MSD

 MSDは11月21日、成人の肺炎球菌感染症予防をテーマとしたメディアセミナーを開催した。本セミナーでは、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 呼吸器内科学分野(第二内科)教授の迎 寛氏が「成人の肺炎球菌感染症予防は新しい時代へ ―21価肺炎球菌結合型ワクチン『キャップバックス』への期待―」と題して講演した。高齢者肺炎球菌感染症のリスクや予防法、10月に発売されたキャップバックスが予防する血清型の特徴などについて解説した。高齢者肺炎の脅威:一度の罹患が招く「負のスパイラル」 迎氏はまず、日本における肺炎死亡の97.8%が65歳以上の高齢者で占められている現状を提示した。抗菌薬治療が発達した現代においても、高齢者肺炎の予後は依然として楽観できない。とくに強調されたのが、一度肺炎に罹患した高齢者が陥る「負のスパイラル」だ。 肺炎による入院はADL(日常生活動作)の低下やフレイルの進行、嚥下機能の低下を招き、退院後も再発や誤嚥性肺炎を繰り返すリスクが高まる。海外データでは、肺炎罹患群は非罹患群に比べ、その後の10年生存率が有意に低下することが示されている1)。迎氏は、高齢者肺炎においては「かかってから治す」だけでは不十分であり、「予防」がきわめて重要だと訴えた。 また迎氏は、侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の重篤性についても言及した。肺炎球菌に感染した場合、4分の1の患者が髄膜炎や敗血症といったIPDを発症する。IPD発症時の致死率は約2割に達し、高齢になるほど予後が不良になる。大学病院などの高度医療機関に搬送されても入院後48時間以内に死亡するケースが半数を超えるなど、劇症化するリスクが高いことを指摘した。 さらに、インフルエンザ感染後の2次性細菌性肺炎としても肺炎球菌が最多であり、ウイルスとの重複感染が予後を著しく悪化させる点についても警鐘を鳴らした。とくに、高齢の男性が死亡しやすいというデータが示された2)。定期接種と任意接種の位置付け 現在、国内で承認されている主な成人用肺炎球菌ワクチンは以下のとおりである。・定期接種(B類疾病):23価莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)対象:65歳の者(65歳の1年間のみ)、および60〜64歳の特定の基礎疾患を有する者。※以前行われていた5歳刻みの経過措置は2024年3月末で終了しており、現在は65歳のタイミングを逃すと定期接種の対象外となるため注意が必要である。・任意接種:結合型ワクチン(PCV15、PCV20、PCV21)21価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV21、商品名:キャップバックス)やPCV20などの結合型ワクチンは、T細胞依存性の免疫応答を誘導し、免疫記憶の獲得が期待できるが、現時点では任意接種(自費)の扱いとなる。最新の接種推奨フロー(2025年9月改訂版) 日本感染症学会、日本呼吸器学会、日本ワクチン学会の3学会による合同委員会が発表した「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第7版)」では、以下の戦略が示されている3)。・PPSV23未接種者(65歳など)公費助成のあるPPSV23の定期接種を基本として推奨する。任意接種として、免疫原性の高いPCV21やPCV20を選択すること、あるいはPCV15を接種してから1〜4年以内にPPSV23を接種する「連続接種」も選択肢となる。・PPSV23既接種者すでにPPSV23を接種している場合、1年以上の間隔を空けてPCV21またはPCV20を接種(任意接種)することで、より広範な血清型のカバーと免疫記憶の誘導が期待できる。従来行われていたPPSV23の再接種(5年後)に代わり、結合型ワクチンの接種を推奨する流れとなっている。 また、迎氏は接種率向上の鍵として、医師や看護師からの推奨の重要性を強調した。高齢者が肺炎球菌ワクチンの接種に至る要因として、医師や看護師などの医療関係者からの推奨がある場合では、ない場合に比べて接種行動が約8倍高くなるというデータがある4)。このことから、定期接種対象者への案内だけでなく、基礎疾患を持つリスクの高い患者や、接種を迷っている人に対し、医療現場から積極的に声を掛けることがきわめて重要であると訴えた。既存ワクチンの課題と「血清型置換」への対応 肺炎球菌ワクチンの課題として挙げられたのが、小児へのワクチン普及に伴う「血清型置換(Serotype Replacement)」である。小児へのPCV7、PCV13導入により、ワクチンに含まれる血清型による感染は激減したが、一方でワクチンに含まれない血清型による成人IPDが増加している5)。 迎氏は「現在、従来の成人用ワクチンでカバーできる血清型の割合は低下傾向にある」と指摘した。そのうえで、新しく登場したPCV21の最大の利点として、「成人特有の疫学にフォーカスした広範なカバー率」を挙げた。PCV21の臨床的意義:IPD原因菌の約8割をカバー PCV21は、従来のPCV13、PCV15、PCV20には含まれていない8つの血清型(15A、15C、16F、23A、23B、24F、31、35B)を新たに追加している。これらは成人のIPDや市中肺炎において原因となる頻度が高く、中には致死率が高いものや薬剤耐性傾向を示すものも含まれる。 迎氏が示した国内サーベイランスデータによると、PCV21は15歳以上のIPD原因菌の80.3%をカバーしており、これはPPSV23(56.6%)やPCV15(40.0%)と比較して有意に高い数値である6)。 海外第III相試験(STRIDE-3試験)では、ワクチン未接種の50歳以上2,362例を対象に、OPA GMT比(オプソニン化貪食活性幾何平均抗体価比)を用いて、PCV21の安全性、忍容性および免疫原性を評価した。その結果、PCV21は比較対照のPCV20に対し、共通する10血清型で非劣性を示し、PCV21独自の11血清型においては優越性を示した。安全性プロファイルについても、注射部位反応や全身反応の発現率はPCV20と同程度であり、忍容性に懸念はないと報告されている7)。コロナパンデミック以降のワクチン戦略 講演の結びに迎氏は、新型コロナウイルス感染症対策の5類緩和以降、インフルエンザや肺炎球菌感染症が再流行している現状に触れ、「今冬は呼吸器感染症の増加が予想されるため、感染対策と併せて、改めてワクチン接種の啓発が必要だ。日本は世界的にみてもワクチンの信頼度が低い傾向にあるが、肺炎は予防できる疾患だ。医療従事者からの推奨がワクチン接種行動を促す最大の因子となるため、現場での積極的な働き掛けをお願いしたい」と締めくくった。■参考文献1)Eurich DT, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2015;192:597-604. 2)Tamura K, et al. Int J Infect Dis. 2024;143:107024. 3)65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第7版)4)Sakamoto A, et al. BMC Public Health. 2018;18:1172. 5)Pilishvili T, et al. J Infect Dis. 2010;201:32-41. 6)厚生労働省. 小児・成人の侵襲性肺炎球菌感染症の疫学情報 7)生物学的製剤基準 21価肺炎球菌結合型ワクチン(無毒性変異ジフテリア毒素結合体)キャップバックス筋注シリンジ 添付文書

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WHOが結核の症例数や死亡者数の最新データを公表

 世界保健機関(WHO)が11月12日に公表した最新データによると、2024年の世界での結核の推定発症者数は2023年の1080万人から1%減の1070万人、結核による推定死亡者数は2023年の127万人から3%減の123万人といずれも減少した一方、新規診断数は2023年の820万件から微増して830万件であったという。2024年の新規診断数は推定発症者数の78%に当たり、いまだに多くの人が結核の診断を受けていないことが浮き彫りとなった。WHOは、診断、予防、治療において着実な進歩が見られる一方で、資金調達と医療への公平なアクセスにおける問題は残っており、これまでに得られた結核対策の成果が失われる恐れがあると指摘している。 結核は結核菌により引き起こされる感染症で、好発部位は肺である。結核の感染経路は、活動性結核の人の咳やくしゃみにより放出された菌を吸い込むことによる空気感染や飛沫感染である。世界人口の約4分の1が結核菌を保有しているが、実際に発病するのはごくわずかである。結核は、未治療で放置すると致命的になる可能性があり、依然として世界中で死亡原因の上位を占めている。 この報告書は、184のWHO加盟国・地域から報告されたデータに基づくもの。WHOは、新規診断数の増加は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中に減少した診断数の回復を反映している可能性があるとの見方を示している。 一部の国や地域では、政治的関与や投資による結核対策の成果が着実に現れている。2015年から2024年の間に、WHOアフリカ地域では結核発症率が28%、死亡者数は46%減少した。ヨーロッパ地域ではさらに大きな改善が見られ、発症率は39%、死亡者数は49%減少した。同期間中に、100カ国以上が結核発症率を20%以上、65カ国が結核による死亡者数を35%以上減少させた。 ただし、結核を世界的に終息させるには、依然として高負荷国での取り組みを加速させる必要がある。2024年には、世界での結核発症者の87%が30カ国に集中しており、特に上位8カ国(インド、インドネシア、フィリピン、中国、パキスタン、ナイジェリア、コンゴ共和国、バングラデシュ)だけで67%を占めている。 その他、結核の迅速検査実施率は、2023年の48%から2024年には54%に増加したことや、薬剤感受性結核の治療の成功率は88%と依然として非常に高いこと、薬剤耐性結核を発症する人は減少傾向にあり、治療成功率も2023年の68%から2024年には71%に改善したことなど、結核治療の向上も確認された。 このような進歩が確認されたものの、WHOは、世界全体の結核終息戦略の進捗状況は目標達成にはほど遠い状況だと警鐘を鳴らす。大きな障害となっているのは、2020年以降停滞している結核対策への国際的な資金であり、2024年時点で、予防、診断、治療に使うことができた資金はわずか59億米ドル(1ドル157円換算で9263億円)に過ぎず、2027年までに設定された目標額である年間220億米ドル(約3兆4540億円)の4分の1強にとどまっている。WHOは、米国における最近の予算削減により結核対策の進展はさらに遅れる可能性があるとの懸念を示している。

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【訂正】RSVワクチン─成人の呼吸器疾患関連入院を抑制(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

※2025年11月26日に配信しました内容に一部誤りがございました。ここに訂正しお詫び申し上げます。 2025年11月末現在、世界的規模で予防が推奨されているウイルス感染症としてはインフルエンザ、新型コロナ(COVID-19)の進化・変異株に加え呼吸器合胞体ウイルス(RSV:Respiratory Syncytial Virus)が注目されている。インフルエンザ、新型コロナ感染症に対しては感染制御効果を有する薬物の開発が進んでいる。一方、RSV感染、とくに成人への感染に対しては治療効果を期待できる薬物の開発が遅れており、ワクチン接種による感染予防が重要である。RSVワクチンの種類 RSV感染症に対するワクチン開発には長い歴史が存在するが、新型コロナに対するワクチン生産を可能にした種々なる蛋白/遺伝子工学的手法がRSVのワクチン開発にも応用されている。米国NIHを中心にRSVの蛋白構造解析が粘り強く進められた結果、RSVが宿主細胞への侵入を規定する“膜融合前F蛋白(RSVpreF)”を標的にすることが、ワクチン生成に最も有効な方法であると示された。RSVにはA型、B型の2種類の亜型が存在し、両者のRSVPreFは蛋白構造上差異を認める。GSK社のアレックスビー筋注用(商品名)はA型、B型のF蛋白の差を考慮しない1価ワクチンであり、2023年9月に60歳以上の高齢者(50歳以上で重症化リスクを有する成人を含む)に対するRSV感染予防ワクチンとして本邦で薬事承認された。一方、Pfizer社のアブリスボ筋注用(商品名)はA型、B型のF蛋白の差を考慮した2価ワクチンであり、本邦では2024年1月に母子用、すなわち、妊娠24~36週の母体に接種し新生児のRSV感染を抑制するワクチンとして薬事承認された。2024年3月には60歳以上の高齢者に対してもアブリスボ筋注用の本邦での接種が追加承認された。上記2種類のRSVワクチンはProtein-based Vaccine(Subunit Vaccine)と定義されるものでF蛋白に関する遺伝子情報を人以外の細胞に導入しF蛋白を生成、それを人に接種するものである。一方、Moderna社のmRNAを基礎として作成された1価ワクチン、エムレスビア筋注シリンジ(mRESVIA)(商品名)はRSV膜融合前F蛋白を標的としたGene-based Vaccineで2025年5月に高齢者用RSVワクチンとして本邦でも薬事承認されたが、先発のアレックスビー筋注用、アブリスボ筋注用とのすみ分けをどのようにするかは現在のところ不明である。各RSVワクチンの基礎的特徴に関しては、ジャーナル四天王 「高齢者RSV感染における予防ワクチンの意義」、「“Real-world”での高齢者に対するRSVワクチンの効果」の2つの論評に記載してあるのでそれらを参照していただきたい。2価RSVワクチンの呼吸器疾患重症化(入院)予防効果 今回論評の対象としたLassen氏らの論文では、RSV下気道感染に誘発された種々の呼吸器疾患の重症化(入院)に対する2価RSVワクチン(Pfizer社のアブリスボ筋注用)の予防効果が検討された。対象はデンマーク在住の60歳以上の一般市民13万1,379例(デンマーク高齢者の約8.6%に相当)であり、2024年11月から12月にかけて集積された。この対象をもとに2価RSVワクチンのReal-worldでの現実的(Pragmatic)、研究者主導の第IV相無作為化非盲検並行群間比較試験が施行され、追跡期間は初回来院日の14日後から2025年5月31日までの約6ヵ月であった。最終的にワクチン接種者は6万5,642例、ワクチン非接種対照者は6万5,634例であった。解析の主要エンドポイントは種々なる呼吸器疾患患者の重症化(入院)頻度で、この指標に対するワクチンの予防効果は83.3%と臨床的に意義ある結果が得られた。本研究の特色は2価のRSVワクチン接種による単なるRSV感染予防効果ではなく、種々なる呼吸器疾患を基礎疾患として有する対象の重症化(入院)抑制効果を観察したもので、臨床的・医療経済的に意義ある内容である。 一方、1価のRSVワクチン(GSK社のアレックスビー筋注用)のRSV感染に対する予防効果はPapi氏らによって報告された(Papi A, et al. N Engl J Med. 2023;388:595-608.)。Papi氏らは60歳以上の高齢者2万4,966例を対象としたアレックスビー筋注用に関する国際共同プラセボ対照第III相試験を施行した。アレックスビー筋注用のRSV感染に対する全体的予防効果は82.6%、重症化因子(COPD、喘息、糖尿病、慢性心血管疾患、慢性腎臓病、慢性肝疾患など)を有する対象におけるRSV感染予防効果は94.6%と満足のいく結果であった。しかしながら、Papi氏らの論文ではアレックスビー筋注用のRSV感染に起因する種々なる呼吸器疾患の重症化(入院)抑制効果については言及されていない。本邦におけるRSV感染症の今後を考える時、2価のRSVワクチンに加え1価のRSVワクチンを用いて呼吸器疾患を中心に種々なる基礎疾患を有する対象における重症化(入院)抑制効果を早期に解明する必要がある。 Lassen氏らは副次的・探索的解析として2価RSVワクチンによる心血管病変の重症化(入院)予防効果に関しても別論文で発表している(Lassen MCH, et al. JAMA. 2025;334:1431-1441.)。彼らの別論文によると脳卒中、心筋梗塞、心不全、心房細動による入院率には2価のRSVワクチン接種の有無により有意な差を認めなかった。すなわち、2価のRSVワクチンは呼吸器疾患の重症化(入院)を有意に抑制するが、心血管病変の重症化(入院)阻止には有効性が低いという興味深い結果が得られた。RSVワクチン接種に対する今後の施策 本邦においては、妊婦ならびに高齢者におけるRSVワクチン接種は公的補助の対象ではない(任意接種であり費用は原則自己負担。※妊婦については2026年4月から定期接種とすることが了承された)。しかしながら、完全ではないがRSVワクチンの臨床的効果(とくに、呼吸器疾患患者の重症化[入院]抑制効果)が集積されつつある現在、高齢者に対するRSVワクチンを定期接種とし公的補助の対象にすべき時代に来ているものと考えられる。 追加事項として、インフルエンザ、新型コロナに対するワクチンに関しても従来施行されてきた各ウイルスに対する単なる感染予防効果に加え、心肺疾患を中心に重症化(入院)阻止効果について前向きに検討されることを期待するものである。

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第271回 18.3兆円補正予算案、医療・介護1.4兆円を計上 病床削減基金と賃上げ支援を両立へ/政府

<先週の動き> 1.18.3兆円補正予算案、医療・介護1.4兆円を計上 病床削減基金と賃上げ支援を両立へ/政府 2.OTC類似薬を保険から外さず 選定療養型の負担上乗せを検討/厚労省 3.インフルエンザが記録的ペースで拡大、39都道府県で警報レベルに/厚労省 4.医師偏在是正へ、自由開業原則が転換点に 都市部抑制が本格化/政府 5.病院7割赤字・診療所も利益率半減の中、診療報酬改定の基本方針まとまる/厚労省 6.介護保険の負担見直し本格化 現役世代の保険料増に対応/厚労省 1.18.3兆円補正予算案、医療・介護1.4兆円を計上 病床削減基金と賃上げ支援を両立へ/政府政府は11月28日、2025年度補正予算案(一般会計18.3兆円)を閣議決定した。電気・ガス料金支援や食料品価格対策など物価高対応に加え、AI開発や造船業を含む成長投資、危機管理投資を盛り込んだ大型編成となった。歳入の6割超を国債追加発行で賄う一方、補正予算案は今後の国会審議で与野党の議論に付される。野党は「規模ありきで緊要性に疑問がある項目もある」とし、効果の精査を求める姿勢。厚生労働省関連では、総額約2.3兆円を計上し、その中心となる「医療・介護等支援パッケージ」には1兆3,649億円を充てる。医療現場では物価高と人件費上昇を背景に病院の67%超が赤字に陥っており、政府は緊急的な資金投入を行う。医療機関への支援では、病院に対し1床当たり計19.5万円(賃金分8.4万円・物価分11.1万円)を交付し、救急を担う病院には受入件数などに応じて500万円~2億円の加算を認める。無床診療所には1施設32万円、薬局・訪問看護にも相応の支援額を措置し、医療従事者の賃上げと光熱費上昇分の吸収を図る。介護分野では、介護職員1人当たり最大月1.9万円の「3階建て」賃上げ支援を半年分実施する。処遇改善加算を前提とした1万円に、生産性向上の取り組みで5千円、職場環境改善で4千円を積み増す仕組みで、慢性的な人材不足に対応する狙いとなっている。一方で、今回の補正予算案は「病床適正化」を強力に後押しする構造転換型の性格も持つ。人口減少に伴い全国で11万床超が不要になると見込まれるなか、政府は「病床数適正化緊急支援基金」(3,490億円)を新設し、1床削減当たり410万4千円、休床ベッドには205万2千円を支給する。応募が殺到した昨年度補正を踏まえ、今回はより広範な病院の撤退・統合を促す政策的メッセージが込められている。日本医師会は「補正は緊急の止血措置に過ぎず、本格的な根治治療は2026年度診療報酬改定」と強調するとともに、「医療機関の経営改善には、物価・賃金上昇を踏まえた恒常的な財源措置が不可欠」と訴えている。補正予算案は12月上旬に国会へ提出される予定で、与党は成立を急ぐ。一方で、野党は財源の国債依存や事業の妥当性を追及する構えで、賃上げ・病床再編など医療政策の方向性が国会審議で問われる見通し。 参考 1) 令和7年度厚生労働省補正予算案の主要施策集(厚労省) 2) 令和7年度文部科学省関係補正予算案(文科省) 3) 25年度補正予算案18.3兆円、政府決定 物価高対策や成長投資(日経新聞) 4) 補正予算案 総額18兆円余の規模や効果 今後の国会で議論へ(NHK) 5) 厚生労働省の今年度の補正予算案2.3兆円 医療機関や介護分野への賃上げ・物価高対策の「医療・介護等支援パッケージ」に約1.3兆円(TBS) 6) 令和7年度補正予算案が閣議決定されたことを受けて見解を公表(日本医師会) 7) 介護賃上げ最大月1.9万円 医療介護支援に1.3兆円 補正予算案(朝日新聞) 2.OTC類似薬を保険から外さず、選定療養型の負担上乗せを検討/厚労省厚生労働省は、11月27日に開催された「社会保障審議会 医療保険部会」において、市販薬と成分や効能が近い「OTC類似薬」の保険給付の在り方について、医療費適正化の一環として保険適用から外す方針を変更し、自己負担を上乗せとする方向を明らかにした。日本維新の会は自民党との連立政権合意書には、「薬剤の自己負担の見直しを2025年度中に制度設計する」と明記されていたため、維新側からは「保険適用から外すべき」との主張もあった。しかし、社会保障審議会・医療保険部会や患者団体ヒアリングでは、負担増による受診控えや治療中断への懸念が強く示され、11月27日の部会では「保険給付は維持しつつ、患者に特別の自己負担を上乗せする」案が厚労省から提示され、異論なく事実上了承された。追加負担の設計にあたっては、選定療養の仕組みを参考に、通常の1~3割負担に加え一定額を患者が負担するイメージが示されている。一方で、18歳以下、指定難病やがん・アレルギーなど長期的な薬物療法を要する患者、公費負担医療の対象者、入院患者などについては、特別負担を課さない、あるいは軽減する方向での配慮が必要との意見が相次いだ。低所得者への配慮と、現役世代の保険料負担抑制のバランスが論点となる。どの薬を特別負担の対象とするかも課題である。OTC類似薬といっても、有効成分が同じでも用量や効能・効果、剤形などが市販薬と異なる場合が多く、「単一成分で、用量・適応もほぼ一致し、市販薬で代替可能な医薬品」に絞るべきとの指摘が出ている。日本医師会からは、製造工程の違いによる効果の差や、個々の患者の病態に応じた代替可能性の検証が不可欠とされ、制度が複雑化して現場負担が過度に増えないよう、シンプルな設計を求める声も挙がった。同じ部会では、「効果が乏しいとのエビデンスがある医療」として、急性気道感染症の抗菌薬投与に加え、「神経障害性疼痛を除く腰痛症へのプレガバリン投与」を医療費適正化の重点として例示する案も提示された。高齢化と医療高度化で膨張する医療費のもと、OTC類似薬の特別負担導入と低価値医療の抑制を組み合わせ、保険財政の持続可能性を確保しつつ、必要な受診や治療をどう守るかが、今後の診療報酬改定・制度改革の大きな焦点となる。 参考 1) OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直しの在り方について(厚労省) 2) OTC類似薬“保険給付維持 患者自己負担上乗せ検討”厚労省部会(NHK) 3) OTC類似薬、保険適用維持へ 患者負担の追加は検討 厚労省(朝日新聞) 4) OTC類似薬の保険給付維持、厚労省が軌道修正 患者に別途の負担求める方針に(CB news) 3.インフルエンザが記録的ペースで拡大、39都道府県で警報レベルに/厚労省全国でインフルエンザの流行が急拡大している。厚生労働省によると、11月17~23日の1週間に定点約3,000ヵ所から報告された患者数は19万6,895人で、1医療機関当たり51.12人と今季初めて50人を突破。前週比1.35倍と増勢が続き、現在の集計方式で最多を記録した昨年末(64.39人)に迫る水準となった。都道府県別では宮城県(89.42人)、福島県(86.71人)、岩手県(83.43人)など東北地方を中心に39都道府県で「警報レベル」の30人を超えた。愛知県で60.16人、東京都で51.69人、大阪府で38.01人など大都市圏でも増加している。学校などの休校や学級・学年閉鎖は8,817施設と前週比1.4倍に急増し、昨季比で約24倍と際立つ。流行の早期拡大により、ワクチン接種が十分に行き届く前に感染が広がった可能性が指摘されている。また、国立健康危機管理研究機構が、9月以降に解析したH3亜型からは、新たな「サブクレードK」が13検体中12検体で検出され、海外でも報告が増えている。ワクチンの有効性に大きな懸念は現時点で示されていないが、感染力がやや高い可能性があり、免疫のない層が一定数存在するとの見方がある。小児領域では、埼玉県・東京都などで入院児が増加し、小児病棟の逼迫例も報告される。インフルエンザ脳症など重症例も散見され、昨季と同様の医療逼迫が年末にかけ迫る可能性が指摘されている。専門家は、学校での換気や症状時のマスク着用、帰宅時の手洗い徹底に加え、ワクチン接種の早期検討を促している。新型コロナの感染者は減少傾向にあるが、インフルエンザの急拡大に備え、社会全体での感染対策と医療体制の確保が急務となっている。 参考 1) 2025年 11月28日 インフルエンザの発生状況について(厚労省) 2) インフルエンザと新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移(同) 3) インフル全国で流行拡大、感染者は前週の1.35倍 新たな変異も(朝日新聞) 4) インフルエンザの患者数 1医療機関当たり 今季初の50人超え(NHK) 5) インフル感染19万人、2週連続で「警報レベル」 コロナは減少(産経新聞) 4.医師偏在是正へ、自由開業原則が転換点に 都市部抑制が本格化/政府政府は、深刻化する医師偏在を是正するため、医療法などを改正する法案を衆議院本会議で可決した。今国会中の成立が見込まれている。改正案では、都市部に集中する外来医師数を抑制し、医療資源の維持が難しい地域への医師誘導を強化する内容で、開業規制の導入は戦後初の本格的措置となる。背景には、2040年前後に85歳以上の高齢者人口が急増し、救急・在宅医療需要が著しく高まる一方、生産年齢人口は全国的に減少し、地域により医療提供体制の崩壊リスクが顕在化している構造的問題がある。改正案では、都道府県が「外来医師過多区域」を指定し、当該区域で新規開業を希望する医師に対し、救急・在宅などの不足機能への従事を要請できる仕組みを導入する。開業6ヵ月前の事前届出制を新設し、要請への不従事が続く場合は医療審議会で理由説明を求め、公表や勧告、保険医療機関指定期間の短縮(6年→3年)を可能とする強力な運用が盛り込まれた。一方、医師が不足する地域については「重点医師偏在対策支援区域」を創設し、診療所承継・開業支援、地域定着支援、派遣医師への手当増額など、経済的インセンティブを付与する。財源は健康保険者の拠出とし、現役世代の保険料負担の上昇が避けられない可能性も指摘されている。また、保険医療機関の管理者には、一定の保険診療経験(臨床研修2年+病院での保険診療3年)を要件化し、医療機関の質の担保を強化する。加えて、オンライン診療の法定化、電子カルテ情報共有サービスの全国導入、美容医療の届出義務化など、医療DXを基盤とした構造改革も並行して進める。今回の法改正は、「医師の自由開業原則」に制度的な調整を加える大きな転換点であり、診療所の新規開設や地域包括ケアとの連携、勤務環境整備に大きな影響を与えるとみられる。 参考 1) 医療法等の一部を改正する法律案の閣議決定について(厚労省) 2) 医師の偏在対策 医療法改正案が衆院本会議で可決 参院へ(NHK) 3) 医師偏在是正、衆院通過 開業抑制、DXを推進(共同通信) 5.病院7割赤字・診療所も利益率半減の中、診療報酬改定の基本方針まとまる/厚労省2026年度診療報酬改定に向け、厚労省は社会保障審議会医療部会を開き、令和8年度診療報酬改定の基本方針(骨子案)を明らかにした。これに加えて、医療経済実態調査、日本医師会からの要望が出そろい、改定論議が最終局面に入った。骨子案は4つの視点を掲げ、このうち「物価や賃金、人手不足等への対応」を「重点課題」と位置付ける。物価高騰と2年連続5%超の春闘賃上げを背景に、医療分野だけ賃上げが遅れ、人材流出リスクが高まっているとの認識だ。一方で、24年度医療経済実態調査では、一般病院の損益率(平均値)は-7.3%、一般病院の約7割が赤字と報告された。診療所も黒字は維持しつつ損益率は悪化し、医療法人診療所の利益率は前年度のほぼ半分に低下している。急性期ほど材料費比率が高く、物価高と医薬品・診療材料費の上昇が経営を直撃している構図が鮮明になった。日本医師会の松本 吉郎会長は、26年度改定では「単年度の賃金・物価上昇分を確実に上乗せする」対応を現実的選択肢とし、基本診療料(初再診料・入院基本料)を中心に反映すべきと主張する。ベースアップ評価料は対象職種が限定されており、現場の賃上げに十分つながっていないとの問題意識だ。さらに、改定のない奇数年度にも賃金・物価動向を当初予算に自動反映する「実質・毎年改定」を提案し、物価スライド的な仕組みの恒常化を求めているが、財源にも制約があるため先行きは不明。厚生労働省が示した骨子案には、物価・賃金対応に加え、「2040年頃を見据えた機能分化と地域包括ケア」「安心・安全で質の高い医療」「効率化・適正化による制度の持続可能性」を並列して掲げる。後発品・バイオ後続品の使用促進、OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直し、費用対効果評価の活用など、負担増や給付適正化を通じた現役世代保険料抑制も明記されており、医療側が求める「救済一色」とはなっていない。医療部会では、病院団体から「過去2年分の賃上げの未達分も含めた上積み」や、医療DXとセットでの人員配置基準の柔軟化を求める声が上がる一方、保険者・経済界からは「視点1だけを重点課題とするのは違和感」「経営状況に応じたメリハリ配分を」との意見も出された。地域医療については、在宅医療・訪問看護や「治し支える医療」の評価、過疎地域の実情を踏まえた評価、かかりつけ医機能の強化などを通じ、2040年の高齢化ピークと医療人材不足に耐え得る体制構築をめざす。しかし、医療経済実態調査が示すように、一般病院も診療所もすでに利益率は薄く、「診療所の4割赤字から7割赤字の病院へ財源を振り替えても地域医療は守れない」とする日本医師会の主張も重くのしかかる。補正予算での物価・賃金対応は「大量出血に対する一時的な止血」に過ぎず、26年度本体改定でどこまで「根治療法」に踏み込めるかが焦点となる。この骨子案をもとにして、12月上旬に基本方針が正式決定され、年末の改定率、来年以降の中医協個別項目論議へと舞台は移る。医療機関の経営と人材確保に直結するため、次期改定に向けて「真水」の財源確保と、DX・タスクシフトを含む構造改革のバランスに注視する必要がある。 参考 1) 令和8年度診療報酬改定の基本方針 骨子案(厚労省) 2) 2026年度診療報酬改定「基本方針」策定論議が大詰め、「物価・人件費高騰に対応できる報酬体系」求める声も-社保審・医療部会(Gem Med) 3) 医療人材確保が困難さを増す中「多くの医療機関を対象にDX化による業務効率化を支援する」枠組みを整備-社保審・医療部会(同) 4) 日医・松本会長 26年度改定で賃金物価は単年度分上乗せが「現実的」 27年度分は大臣折衝で明確化を(ミクスオンライン) 5) 厚労省・24年度医療経済実態調査 医業費用の増加顕著 急性期機能高いほど材料費等の上昇が経営を圧迫(同) 6) 24年度の一般病院の損益率は▲7.3%、一般診療所は損益率が悪化-医療経済実態調査(日本医事新報) 6.介護保険の負担見直し本格化 現役世代の保険料増に対応/厚労省高齢化による介護給付費の増大を背景に、厚生労働省は介護保険サービス利用時に「2割負担」となる対象者の拡大を本格的に検討している。介護保険は、現在、原則1割負担で、単身年収280万円以上が2割、340万円以上が3割負担とされているが、所得基準を280万円から230~260万円へ引き下げる複数案が示され、拡大対象者は最大33万人に達する。介護保険の制度改正によって、年間で40~120億円の介護保険料の圧縮効果が見込まれ、財政面では国費20~60億円、給付費80~240億円の削減に寄与するとされる。現役世代の保険料負担が増す中で、所得や資産のある高齢者に応分の負担を求める狙いがある。一方、新たに2割負担となる利用者では、1割負担時に比べ最大月2万2,200円の負担増が生じるため、厚労省は急激な負担増を避ける「激変緩和策」として、当面は増額分を月7,000円までに抑える案を提示。預貯金額が一定額以下の利用者(単身300~700万円、または500万円以下など複数案)については申請により1割負担を据え置く仕組みも検討されている。資産要件の把握には、特別養護老人ホームの補足給付で用いられている金融機関照会の仕組みを参考に、自治体が認定証を交付する方式が想定されている。介護保険の自己負担率引き上げは、2015年の2割導入、2018年の3割導入以降も議論が続いてきたが、高齢者の負担増への反発で3度先送りされてきた。政府は、2025年末までに結論を出す方針を示し、現役世代の急速な負担増への対応は喫緊の課題となっている。26年度からは少子化対策による医療保険料上乗せも始まり、改革の遅れは賃上げ効果を相殺し国民負担をさらに押し上げる懸念が指摘される。今回の試算と緩和策の提示により、年末の社会保障審議会での議論が加速するとみられる。 参考 1) 介護保険料40~120億円圧縮 2割負担拡大巡り厚労省4案(日経新聞) 2) 介護保険料120億円減も 2割負担拡大で厚労省試算(共同通信) 3) 介護保険サービス自己負担引き上げで増額の上限を検討 厚労省(NHK)

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家族の録音メッセージがICU入室患者のせん妄を防ぐ

 人工呼吸器を装着している集中治療室(ICU)入室患者では、5人中4人にせん妄が生じる。せん妄とは、治療による体への負担が原因で生じる異常な精神状態のことをいい、パニック、動揺、怒りなどの症状が現れる。新たな研究で、ICU入室患者に家族からの録音メッセージを聞かせることで、患者の意識を安定させ、せん妄を予防できる可能性のあることが明らかになった。米マイアミ大学看護健康学部のCindy Munro氏らによるこの研究結果は、「American Journal of Critical Care」に11月1日掲載された。 この研究でMunro氏らは、2018年4月から2020年11月にかけて(ただし、新型コロナウイルス感染症パンデミック中の3カ月間は中断)、南フロリダの2カ所の大規模病院の9つのICUで、人工呼吸器を装着している178人の患者を対象に、せん妄予防のための非薬理学的介入の有効性を検討した。 対象者は、家族からの録音メッセージを聞く群(89人)と通常のケアを受ける群(89人)にランダムに割り付けられた。計10種類の録音メッセージはいずれも2分間の長さで、午前9時から午後4時までの時間帯に、1時間ごとに再生された。内容は、医療従事者と家族が定期的に患者の様子を見に来ていることを思い出させることを意図したもので、患者の名前を呼び、今いる場所を思い出させ、人工呼吸器を装着していることや、回復を助けるためにワイヤーやチューブ類が設置されている可能性があることが伝えられた。 Munro氏は、「家族の関与がせん妄の予防と介入において重要な要素であることは、以前よりエビデンスによって示されている。しかし、家族がケアに全面的に関わるには、しばしば困難を伴うのが現状だ。そこでわれわれは、家族がそばにいなくても患者が家族の声を聞けるようにし、家族の存在感を補うための介入を考案した」と話している。 介入の結果、録音メッセージを聞いた群では通常のケアを受けた群と比べて、せん妄のない日数が有意に多いことが明らかになった。また、患者がメッセージを聞く頻度が高ければ高いほど、せん妄のない日数が有意に増えた(P<0.001)。 こうした結果を受けて研究グループは、「台本を使って家族が録音した音声メッセージは、人工呼吸器を装着しているICU入室患者のせん妄予防に役立つ、潜在的に効果が高く低コストの非薬理学的介入であることが明らかになった」と結論付けている。

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第269回 2026年度改定の主戦場は外来診療 かかりつけ医機能報告制度が“新たな物差し”に/財務省

<先週の動き> 1.2026年度改定の主戦場は外来診療 かかりつけ医機能報告制度が“新たな物差し”に/財務省 2.インフルエンザ12週連続増加 5県で警報レベル、過去2番目の早さで流行拡大/厚労省 3.医師少数区域を再定義、へき地尺度の導入で支援対象を拡大/厚労省 4.大学病院の医師処遇改善へ、給与体系見直しと研究時間確保に向け取りまとめ/政府 5.12月2日からマイナ保険証へ全面移行 期限切れ保険証は3月末まで有効に/厚労省 6.高齢者3割負担拡大も議論加速へ、金融所得の保険料反映が本格化/政府 1.2026年度改定の主戦場は外来診療 かかりつけ医機能報告制度が“新たな物差し”に/財務省2026年度の診療報酬改定に向け、財務省が「診療所・調剤薬局の適正化」を強く打ち出し、開業医を巡る環境が一段と厳しくなりつつある。焦点は、今年度スタートした「かかりつけ医機能報告制度」を土台に、機能を十分に果たしていない診療所の報酬を減算し、機能を発揮する診療所に評価を集中させる方向性だ。具体的には、報告制度上の「1号機能」を持たない医療機関の初診・再診料を減算し、【機能強化加算】【外来管理加算】は廃止、【地域包括診療料・加算】は認知症地域包括診療料などと統合し、発展的改組という案が財政制度等審議会で示されている。かかりつけ医機能報告制度では、研修修了や総合診療専門医の有無、17診療領域・40疾患の1次診療対応、患者からの相談対応などを「1号機能」として毎年報告し、時間外診療・在宅・介護連携などを「2号機能」として申告する。かかりつけ医機能報告制度は今年度始まったばかりで、初回報告が2026(令和8)年1月頃に予定されている。その結果が今後の加算要件・減算判定の「物差し」となる可能性が高い。これにより、機能強化加算と地域包括診療料などの加算要件が報告制度と整合的に整理される可能性がある。財務省は、診療所は過去に「高い利益率を維持してきた」とし、物価・賃上げ対応は病院に重点配分すべきと主張する一方、無床診療所などの経常利益率は中央値2.5%、最頻値0~1%と低水準であり、インフレ下で悪化しているとの日本医師会のデータも示されている。日本医師会の松本 吉郎会長は、開業医の高収入イメージを強調する財務省資料は「恣意的」と強く批判し、補助金終了後の厳しい経営実態を踏まえた「真水」の財源確保と十分な改定率を求めている。開業医にとって当面の実務ポイントは、「報告制度への対応」ならびに「収益構造の見直し」となる。まず、報告制度は、自院がどの診療領域・疾患まで1次診療を担うか、相談窓口としてどこまで責任を負うか、時間外・在宅・介護連携をどう位置付けるかを棚卸しするツールと捉えたい。1号機能の対応領域が限定的であれば、今後の診療報酬上の評価が縮小しかねない。研修修了者の配置や、地域包括診療料・生活習慣病管理料・在宅医療の組み合わせも含め、自院の「かかりつけ医像」を描き直す必要がある。同時に、機能強化加算・外来管理加算への依存度が高いクリニックは要注意となる。これらが縮小・廃止された場合に備え、地域包括診療料・加算への移行、逆紹介の受け皿としての役割強化、連携強化診療情報提供料や在宅関連の評価、オンライン診療(D to P with Nなど)の活用など、収益を強化する戦略が求められる。今年度始まったばかりの「かかりつけ医機能報告制度」、どのように対応するかが、次期改定以降の経営戦略の出発点になりそうだ。 参考 1) かかりつけ医機能報告制度にかかる研修(日本医師会) 2) かかりつけ医「未対応なら報酬減」 財務省、登録制にらみ改革提起(日経新聞) 3) 日医・松本会長 財政審を批判「医療界の分断を招く」開業医の高給与水準は「恣意的にイメージ先行」(ミクスオンライン) 4) 機能強化加算と地域包括診療料・加算を「かかりつけ医機能報告制度」と対応させ整理か(日経メディカル) 2.インフルエンザ12週連続増加 5県で警報レベル、過去2番目の早さで流行拡大/厚労省インフルエンザの感染拡大が全国で続いており、厚生労働省が発表した最新データでは、11月3~9日の1週間の患者数が1医療機関当たり21.82人と、前週の約1.5倍で12週連続の増加となった。注意報レベル(10人)を大きく上回り、宮城県(47.11人)、埼玉県(45.78人)など5県で警報レベル(30人)超。東京都も都独自基準で警報を発表した。全国で3,584校が休校・学級閉鎖となり、前週比1.5倍以上の増加と、教育現場での感染も拡大している。今年の流行は例年より1ヵ月以上早く、過去20年で2番目の早さ。近畿地方・徳島県でも注意報レベルに達する地域が急増し、地域差を超えて全国的に拡大している。クリニックでもワクチン接種希望者が急増しており、現場からは「1~2ヵ月早い流行」との声が上がる。流行の背景には、近年のインバウンドの増加に加え、各地で開催されるイベントや大阪万国博覧会など国際的な催事により、海外からのウイルス流入が増えた可能性が指摘されている。一方、新型コロナウイルスは全国で1医療機関当たり1.95人と前週比14%減で減少傾向にあるが、感染症専門家は「別系統のインフルエンザ流行やコロナ再増加もあり得る」とし、 来年2月までの警戒を継続すべきと警鐘を鳴らしている。厚労省でも引き続き、「手洗い・マスク・換気」など基本的感染対策の徹底を呼びかけている。 参考 1) 2025年 11月14日 インフルエンザの発生状況について(厚労省) 2) インフルエンザ・新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移(同) 3) インフルエンザ感染者が前週の1.46倍、感染拡大続く…新型コロナは減少(読売新聞) 4) インフルエンザ患者数は8.4万人に 万全な感染予防を(ウェザーニュース) 5) インフルエンザ流行警報、全国6自治体が発令…首都圏・東北で拡大(リセマム) 3.医師少数区域を再定義、へき地尺度の導入で支援対象を拡大/厚労省厚生労働省は、11月14日に開かれた「地域医療構想・医療計画等に関する検討会」で、次期医師確保計画(2025年度以降)で用いる医師偏在指標の見直し案を提示した。現行指標が抱える「地理的条件を十分に反映できない」という課題を踏まえ、人口密度、最寄り2次救急医療機関までの距離、離島・豪雪地帯といった条件を数値化し「へき地尺度(Rurality Index for Japan:RIJ)」を併用し、医師少数区域を再定義する方針。具体的には、現行の医師偏在指標で下位3分の1に該当する区域に加え、中位3分の1のうちへき地尺度が上位10%の区域を「医師少数区域」に追加する案が示された。RIJは(1)人口密度、(2)2次救急病院への距離、(3)離島、(4)特別豪雪地帯の4要素により構成され、へき地度の高い地域では、医師が対応すべき診療範囲が広がる傾向が明確になっている。構成員からは、地理的要素を反映できる点についておおむね評価が示され、一方で「算定式が複雑で現場への説明が難しい」との懸念も上がった。また、全国の医師数自体は増加しているため、偏在指標の下位3分の1基準を固定的に運用すると、多くの都道府県が基準外となる可能性も指摘された。厚労省は、次期計画では医師偏在指標とへき地尺度の双方を踏まえ、都道府県が「重点医師偏在対策支援区域」を設定し、医師確保に向けた重点支援を行う仕組みを強化する方針である。支援対象医療機関の選定においても、へき地医療・救急医療・在宅医療など地域の医療提供体制上の役割を考慮し、地域医療対策協議会および保険者協議会の合意を前提とする。医師偏在は、都市部と地方の医療格差を生み、地域住民のライフラインに影響するため政策課題である。今回の指標見直しは、「人数ベースの偏在」から「地理的ハンディキャップを加味した偏在」へと視点を転換する試みといえ、へき地を抱える地域にとっては実態に即した区域指定につながる可能性が高い。今後は、新指標の丁寧な説明と自治体の運用力が問われる局面となる。 参考 1) 医師確保計画の見直しについて(厚労省) 2) 医師偏在指標に「へき地尺度」併用へ 地域医療構想・医療計画検討会(CB news) 4.大学病院の医師処遇改善へ、給与体系見直しと研究時間確保に向け取りまとめ/政府高市 早苗総理大臣は11月10日の衆院予算委員会で、大学病院勤務医の給与水準や研究時間の不足が深刻な問題となっている現状を受け、「年度内に大学病院教員の処遇改善と適切な給与体系の方針をまとめる」と表明した。自民・維新の連立合意書に基づくもので、教育・研究・診療を担う大学病院の機能強化を社会保障改革の重要項目として位置付ける。質疑では、日本維新の会の梅村 聡議員が、53歳国立大学外科教授の手取りが33万円という給与明細を示し「収入確保のため土日や平日昼にアルバイトせざるを得ず、研究・教育に時間を割けない」と窮状を訴えた。医局員12人中常勤4人、非常勤8人で外来・手術を回す実態も示され、高市首相は「このままでは人材流出につながる」と強い危機感を示した。松本 洋平文部科学大臣は、国公私立81大学病院の2024年度の経常赤字が508億円に達し、診療偏重で教育・研究が圧迫されている現状を説明。大学病院の本来的な機能が損なわれているとの認識を共有した。大学の研究力低下も指摘され、自然科学系上位10%論文数が20年前の世界4位から13位へ後退したこと、医療関連貿易赤字が1990年の約2,800億円から2023年には4兆9,664億円に拡大したとのデータも示された。高市総理はこれらを受け、「大学に対する基盤的経費は必要な財源を確保する」とし、研究開発と人材育成は国の成長戦略そのものであると強調した。さらに、社会保障改革の議論の中で、高齢者層が多く負担する税(例:相続税)を含む財源の再設計についても「1つの提案として受け止める」と前向きな姿勢を見せた。今回の議論は、大学病院の経営改善だけでなく、診療・教育・研究の三位一体機能を再建し、医師の働き方・キャリア形成、ひいてはわが国の医学研究力の立て直しに直結する政策課題として位置付けられつつある。 参考 1) 高市首相、大学病院教員の処遇改善「年度内に方針」人材流出の懸念も表明(CB news) 2) 高市首相 「大学病院勤務医の適切な給与体系の構築含む機能強化」に意欲 経営状況厳しく(ミクスオンライン) 5.12月2日からマイナ保険証へ全面移行 期限切れ保険証は3月末まで有効に/厚労省12月2日から従来の健康保険証が廃止され「マイナ保険証」へ完全移行する中、厚生労働省は移行期の混乱回避を目的に、2026年3月末まで期限切れ保険証の使用を認める特例措置を全国の医療機関に通知した。昨年12月に保険証の新規発行が停止され、最長1年の経過措置が終了するため、12月1日をもって協会けんぽ・健保組合加入者約7,700万人の従来の保険証は形式上すべて期限切れとなるが、資格確認さえできれば10割負担を求めない。すでに7月に期限切れとなった後期高齢者医療制度・国保加入者に続き、今回の通知で全加入者が特例の対象となった。厚労省は医療機関に対し、期限切れ保険証を提示した患者がいた場合、保険資格の確認後、通常の負担割合でレセプト請求するよう要請。一方で、特例は公式な一般向け周知は行わず、原則は「マイナ保険証」または自動送付される「資格確認書」で受診する体制へ移行する方針は変わらない。資格確認書は保険証の代替として使用可能だが、「資格情報のお知らせ」とは異なり、後者では受診できない点を現場で説明する必要がある。背景には、周知不足による混乱リスクがある。国保で期限切れ直後の8月、18.5%の医療機関が「期限切れ保険証の持参が増えた」と回答しており、12月以降は同様の事例が増加することが確実視されている。さらに、マイナ保険証の利用率は10月時点で37.1%にとどまり、若年層や働き盛り世代では周知が届いていない。「期限を知らない」「カードを持ち歩かない」「登録方法を把握していない」といった声も多く、受診機会の確保には医療機関による実務的な対応が不可欠となる。マイナ保険証は、診療・薬剤情報の参照、限度額適用の自動反映、救急現場での活用など医療的メリットが期待される一方、制度への不信も根強く利用が伸びない。完全移行の初動は、現場負担の増加が避けられないが、厚労省は年度末までの特例運用を「移行期の安全策」と位置付けている。医療機関は、資格確認の確実な運用、窓口の説明強化、患者への資格確認書の案内など、年末から春にかけての実務準備が求められる。 参考 1) マイナ保険証を基本とする仕組みへの移行について(厚労省) 2) 「マイナ保険証」完全移行へ、26年3月末までは従来保険証でも使える特例措置…厚労省が周知(読売新聞) 3) 従来の健康保険証、期限切れでも10割負担にならず 26年3月まで(毎日新聞) 4) 12月1日で使えなく…ならない「紙の保険証」 政府が「特例」認めて来年3月末まで使用OK 周知不足で混乱必至(東京新聞) 6.高齢者3割負担拡大も議論加速へ、金融所得の保険料反映が本格化/政府政府・与党内で社会保障制度改革の議論が一気に加速している。最大の論点は、医療・介護保険料の算定に「金融所得」を反映させる新たな仕組みの導入である。現行制度では、上場株式の配当や利子収入などの金融所得は、確定申告を行った場合のみ保険料に反映される。一方、申告を行わない場合は算定から完全に外れ、金額ベースで約9割が把握されない状況だ。厚生労働省や各自治体は確定申告されていない金融所得を把握する手段がなく、「同じ所得でも申告の有無で負担が変わるのは不公平」との指摘が続いていた。これを受け、厚労省は証券会社などが国税庁へ提出する税務調書を活用し、市町村が参照できる「法定調書データベース(仮称)」を創設する案を提示。自民党および日本維新の会も協議で導入の方向性に一致しており、年末までに一定の結論をまとめる見通しだ。上野 賢一郎厚生労働大臣も「前向きに取り組む」と明言しており、制度化に向けた動きが本格化している。同時に議論が進むのが高齢者の医療費自己負担(現役並み所得の3割負担)の拡大である。現行では、単身年収383万円以上などの比較的高所得層が対象だが、高齢者の所得増や受診日数減少を踏まえ、基準の見直しを求める意見が厚労省部会で相次いだ。一方で「高齢者への過度な負担増」への懸念も根強く、慎重な検討が必要との声も大きい。加えて、自民・維新協議では「OTC類似薬」の保険適用見直しも初期の重要論点となっている。湿布薬や風邪薬など市販薬と効果が重複する医薬品を保険給付外とする案だが、利用者負担の増加や日本医師会などの反対もあり調整は難航が予想される。超高齢社会において、医療・介護費の伸びを抑え現役世代の負担をどう軽減するかは避けて通れない課題である。金融所得の把握強化と高齢者負担の見直しという2つの柱は、今後の社会保障制度改革の中核テーマとなり、年末に向けて政策の具体像が示される見込みだ。 参考 1) 社会保障(2)(財務省) 2) 社会保障制度改革 “新たな仕組み導入へ検討進める” 厚労相(NHK) 3) 金融所得、保険料に反映 厚労省検討 税務調書を活用(日経新聞) 4) 社会保障改革めぐる自民・維新の協議 どのテーマでぶつかる? OTC類似薬、高齢者の負担増、保険料引き下げ(東京新聞)

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尿検査+SOFAスコアでコロナ重症化リスクを早期判定

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のオミクロン株の多くは軽症だが、重症化する一部の患者をどう見分けるかは医療現場の課題だ。今回、東京都内の病院に入院した842例を解析した研究で、尿中L型脂肪酸結合蛋白(L-FABP)とSOFA(Sequential Organ Failure Assessment score)スコアを組み合わせた事前スクリーニングが、重症化リスク判定の精度を高めることが示された。研究は国立国際医療センター腎臓内科の寺川可那子氏、片桐大輔氏らによるもので、詳細は9月11日付けで「PLOS One」に掲載された。 世界保健機関(WHO)が2020年3月にCOVID-19のパンデミックを宣言して以来、ウイルスは世界中に広がり、変異株も多数出現した。現在はオミクロン株の亜系統が主流となっており、症状は多くが軽症にとどまる一方、一部の患者は酸素投与や入院を必要とし、死亡する例も報告されている。そのため、感染初期の段階で重症化リスクを予測する方法の確立が求められている。 著者らは以前、L-FABPの測定がCOVID-19重症化予測に有用であることを示したが、症例数が少なく、他の指標との併用は検討されていなかった。そこで本研究では、COVID-19患者の入院前スクリーニングとして、L-FABP値と血液検査から多臓器の機能障害を評価するSOFAスコアを組み合わせ、重症化リスクのある患者を特定する併用アプローチの有用性を評価した。 本研究は単施設の後ろ向き観察研究で、2020年1月29日から2022年4月6日までに国立国際医療センターに入院したCOVID-19陽性患者842名を対象とした。L-FABP値とSOFAスコアは、入院時および入院7日目に評価した。人工呼吸器管理を要した患者、または入院中に死亡した患者を「重症」と定義し、酸素療法を受けるが人工呼吸器を必要としない患者を「中等症」、それ以外を「軽症」と分類した。主目的は、入院時のL-FABP値から7日目の重症度を予測できるかどうかを評価することである。さらに、入院時のL-FABP値とSOFAスコアの予測性能を検討するため、ROC(受信者動作特性)曲線解析を実施した。 入院時の重症度分類は軽症536名、中等症299名、重症7名であった。入院中に32名が死亡した。入院7日目には、入院時中等症だった55名が軽症に改善する一方で、重症患者は7名から34名に増加した。解析対象患者全員のL-FABP値を入院時と入院7日目の2時点でプロットし、疾患重症度の経過を可視化したところ、入院時にL-FABP値が高かった患者の一部は、軽症から中等症、あるいは中等症から重症へと進行していた。同様に、SOFAスコアでも、入院時にスコアが高かった患者は7日後に重症化する傾向が認められた。 次にROC曲線解析を行い、L-FABP値とSOFAスコアの組み合わせが、重症例および重症・中等症例の識別にどの程度有効かを評価した。L-FABP値はカットオフ値11.9で重症例を特定する感度が94.1%と高く、SOFAスコアの82.4%を上回り、効果的なスクリーニングツールとなる可能性が示された。さらに、L-FABP値(AUC 0.81)とSOFAスコア(AUC 0.90)を組み合わせると、重症例検出のAUCは0.92に上昇した。このAUCの向上は、SOFAスコア単独との比較では統計学的に有意ではなかったが、L-FABP値単独との比較では有意であった(P<0.001)。一方、重症・中等症例の検出においては、L-FABP値(AUC 0.83)とSOFAスコア(AUC 0.83)の組み合わせによりAUCは0.88となり、いずれか単独の指標よりも有意にAUCを向上させた(それぞれP<0.001)。 著者らは、本予測モデルにさらなる検証と改良が必要と指摘しつつ、「まず低侵襲な尿検査でL-FABP値を測定し、低リスクの患者は不要な入院を回避する。次にL-FABP値が高い患者を対象にSOFAスコアで重症化リスクを精査し、入院が必要な患者を特定する。これにより、不要な入院の削減や重症化リスクの早期把握が期待され、医療資源の効率的な配分にもつながる」と述べ、二段階のスクリーニング戦略を提案している。

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第35回 コロナワクチンが「がん治療」の効果を劇的に向上させる可能性

がん治療の切り札として登場した「免疫チェックポイント阻害薬」は、多くの患者さんの命を救う一方で、すべての人に効果があるわけではありません。とくに、免疫細胞ががんを敵として認識していない「冷たいがん」と呼ばれるタイプの腫瘍には効果が薄いことが、大きな課題でした。しかし、この状況を一変させるかもしれない驚くべき研究結果が、Nature誌に発表されました1)。なんと、私たちが新型コロナウイルス対策で接種したmRNAワクチンが、がん細胞を標的とするものではないにもかかわらず、がんを免疫チェックポイント阻害薬に反応しやすい「熱いがん」に変え、治療効果を劇的に高める可能性が示されたのです。ワクチン接種と生存期間の延長が関連この研究では、米国のがん専門病院であるMDアンダーソンがんセンターの臨床データが分析されています。研究チームは、非小細胞肺がんや悪性黒色腫(メラノーマ)の患者さんで、免疫チェックポイント阻害薬を開始する前後100日以内にコロナのmRNAワクチンを接種したグループと、接種しなかったグループの予後を比較しました。すると、非小細胞肺がんの患者さんを比較したところ、ワクチンを接種したグループの3年生存率が55.7%であったのに対し、未接種のグループでは30.8%と、明らかな差がみられました。同様の生存率の改善は、メラノーマの患者でも確認されました。この効果は、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンを免疫チェックポイント阻害薬の前後で接種した患者さんではみられませんでした。このことは、観察された生存率の改善が、単に「ワクチンを接種する」という行為や、健康意識の高さだけによるものではなく、mRNAワクチンが持つ特有の強力な免疫反応によって引き起こされている可能性を示唆しています。なぜコロナワクチンががんに効くのか?では、なぜがんとは無関係のコロナウイルスを標的とするワクチンが、がんに対する免疫療法の効果を高めるのでしょうか? 研究チームは、動物モデルや健常人の血液サンプルを用いて、そのメカニズムを詳細に解明しました。鍵を握っていたのは、「I型インターフェロン」という物質でした。まず、mRNAワクチンが体内に投与されると、ウイルスに感染した時と似たような「偽の緊急事態」が引き起こされます。これにより、体内でI型インターフェロンが爆発的に放出されます。このI型インターフェロンの急増が、全身の免疫細胞、とくに「抗原提示細胞」と呼ばれる偵察役の細胞を「覚醒」させます。覚醒した偵察役の細胞は、リンパ節などの免疫器官に移動し、そこでT細胞(免疫の実行部隊)に対し、「敵(抗原)」の情報を伝達します。この時、偵察役の細胞はウイルスの情報(スパイクタンパク)だけでなく、体内に存在する「がん抗原」の情報も同時にT細胞に提示し始めることがわかりました。がんの情報をキャッチしたT細胞は、増殖して腫瘍組織へと侵入していきます。これにより、これまでT細胞が存在しなかった「冷たいがん」が、T細胞が豊富に存在する「熱いがん」へと変化します。しかし、T細胞の攻撃にさらされたがん細胞は、生き残るために「PD-L1」というバリアを表面に出して、T細胞の攻撃を無力化しようとします。しかし実際、ワクチンを接種した患者さんのがん組織では、このPD-L1の発現が著しく増加していることが確認されました。ここで免疫チェックポイント阻害薬が登場します。免疫チェックポイント阻害薬は、まさにこのPD-L1のバリアを無効化する薬剤です。つまり、mRNAワクチンがT細胞をがんへ誘導し、免疫チェックポイント阻害薬がそのT細胞が働けるように「最後のバリア」を取り除く。この見事な連携プレーによって、がんに対する強力な免疫応答が引き起こされ、治療効果が飛躍的に高まると考えられます。今後の展望と研究の限界この研究の最大の意義は、がん患者さんごとに製造する必要がある高価な「個別化mRNAがんワクチン」でなくても、すでに臨床で広く利用可能な「既製のmRNAワクチン」が、がん免疫療法を増強する強力なツールになりうることを示した点にあります。とくに、これまで免疫チェックポイント阻害薬が効きにくかったPD-L1陰性の「冷たいがん」の患者さんに対しても、生存期間を改善する可能性が示されたことは大きな希望です。一方で、この研究の限界も認識しておく必要があります。最も重要なのは、患者さんを対象とした解析が「後ろ向き観察研究」である点です。つまり、過去のデータを集めて解析したものであり、「mRNAワクチン接種」と「生存期間の延長」の間に強い関連があることは示せましたが、mRNAワクチンが原因となって生存期間が延びたという因果関係を完全に証明したわけではありません。たとえば、「治療中にあえてコロナワクチンも接種しよう」と考える患者さんは、全般的に健康意識が高く、それ以外の要因(たとえば、栄養状態や運動習慣など)が生存期間に影響した可能性(交絡因子)も否定できません。研究チームは、インフルエンザワクチンなど他のワクチンとの比較や、さまざまな統計的手法(傾向スコアマッチングなど)を用いて、これらの偏りを可能な限り排除しようと試みていますが、未知の交絡因子が残っている可能性があります。この発見をさらに確実なものとするためには、今後、患者さんをランダムに「mRNAワクチン接種+免疫チェックポイント阻害薬群」と「免疫チェックポイント阻害薬単独群」に分けて比較するような、前向きの臨床試験で有効性を確認することが不可欠です。とはいえ、mRNAワクチンががん治療の新たな扉を開く可能性を示した本研究のインパクトは大きいでしょう。感染症予防という枠を超え、がん免疫療法の「増強剤」として、既製のmRNAワクチンが活用されるという場面も、今後訪れるのかもしれません。 参考文献・参考サイト 1) Grippin AJ, et al. SARS-CoV-2 mRNA vaccines sensitize tumours to immune checkpoint blockade. Nature. 2025 Oct 22. [Epub ahead of print]

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第286回 医師も誤解している?マダニによるSFTSの傾向と対策

INDEXマダニによるSFTSの発生率、過去最高に冬も要注意!?SFTSに対するアンコンシャスバイアス治療薬への期待度マダニによるSFTSの発生率、過去最高に今年はダニ媒介感染症の重症熱性血小板減少症候群(略称・SFTS)の患者報告が過去最高を記録している。国立健康危機管理研究機構が発表している感染症発生動向調査週報1)の最新データとなる2025年第42週(10月13~19日)時点では、従来の過去最多である2023年の134例を上回る174例の患者が発生。また、今年はこれまで患者報告がなかった北海道、秋田県、栃木県、茨城県でも孤発的な事例が報告されている。改めて基礎知識を整理すると、SFTSは日本では2013年に初確認されたダニが媒介するSFTSウイルスを原因とする新興の人畜共通感染症である。潜伏期間は6~14日で、主な症状は発熱、消化器症状(嘔気、嘔吐、腹痛、下痢、下血)、頭痛、筋肉痛、神経症状(意識障害、けいれん、昏睡)、リンパ節腫脹。特徴的な点は、病名でもわかるように検査値での顕著な血小板減少(10万/mm3未満)である。そしてSFTSで何よりも恐ろしいのは致死率が10~30%で、国内に常在する感染症の中では劇症型溶血性レンサ球菌感染症の致死率約30%に次ぐことだ。徐々に患者報告数も報告地域も拡大する中、一般人、医療者ともに対岸の火事とは言えなくなっている。以前の本連載で新型コロナウイルス感染症が今も高齢者で猛威を振るっていることを記事化したが、この取材に応じてくれた岡山大学病院感染症内科准教授の萩谷 英大氏との取材時間は約2時間におよんだ。実はこのうちの約半分は新型コロナから脱線し、萩谷氏が日常診療で接するSFTSの話となった。これがきっかけで私が理事を務めるNPO法人・日本医学ジャーナリスト協会でも10月10日に萩谷氏にSFTSをテーマに講演をしてもらったが、その内容の中にはかなり示唆に富むものが多かったので、今回はその内容を紹介したい。冬も要注意!?講演では、萩谷氏が2013~22年までに国内報告されたSFTS803例の解析結果を紹介した。それによると、この10年間の都道府県別の報告増加率のトップ5は順に三重県、島根県、岡山県、大分県、熊本県。患者発生率と環境要因との関連を解析した結果では、西日本で有意差があった環境要因は農地面積と農業人口であり、2022年までの発生件数を2ヵ月単位で分析すると、発生ピークは5~6月で、流行期は5~10月だった。ここまでは医療者もおおむね違和感はなく受け入れられるだろう。しかし、今回の萩谷氏の講演ではSFTSの意外な一面も“明らか”にされた。まず、前出の解析結果のように一般的にSFTSはマダニの活動期である春から秋にかけて発生する感染症だと考えられているが、実は真冬でもSFTSは発生しているのだ。たとえば直近の2024年の感染症発生動向調査週報によると、第2週(1月8~14日)に島根県と山口県で各1例、年末の第51週(12月16~22日)に長崎県で1例が報告されている。春から秋の時期と比べれば数は少ないが、こと西日本では通年で警戒しなければならない感染症なのである。また、講演の中で紹介された和歌山県での野生(野生化)動物のSFTSウイルス抗体陽性率調査の結果によると、アライグマ、アナグマ、シカ、ノウサギでは30%以上、ハクビシンで20%以上にものぼる。一般的な理解は、こうした動物を吸血したマダニが動物の移動とともに人間の生活圏に近い藪や草むらなどで落下して定着し、そこに入り込んだ人間がこうしたマダニに咬まれることで患者が発生しているというもの。これはおおむね正しいだろうが、萩谷氏が講演内で提示した自験例2例はこの理解の範疇をやや超えるものだった。SFTSに対するアンコンシャスバイアス2例のうち1例は同じマダニが媒介する日本紅斑熱の患者、もう1例がSFTSである。前者の患者は岡山市中心部在住、後者の患者は岡山県西部在住で、ともに問診ではマダニに咬まれるような野山に入った形跡はなかったという。しかし、よくよく話してみると、日本紅斑熱の患者は「ちょうどそのころお墓参りに行きました…」と語り、聞き出してみると墓地のある場所はダニ媒介感染症の好発地域、そしてSFTSの患者は自宅住所を地図上で検索してみると、その自宅が山に隣接する形で存在していた。つまり実際の推定感染地点は、私たちが一見SFTSと無縁と思っている場所にも点在しているのである。ちなみに萩谷氏によれば、西日本地域でSFTSの診療経験が一定以上ある医師にとっては、風評被害などが考えられるため公には明らかにしないものの、周辺のダニ媒介感染症好発地域はほぼ頭に入っており、患者の居住地や移動先などの地名を聞くと、ある程度はSFTSの可能性が判別できるという。また、前出の野生動物のSFTS抗体陽性率のデータ提示の際、萩谷氏が併せて提示したのが複数のマダニに咬まれた鳥の写真。マダニは哺乳類だけでなく、鳥類や爬虫類まで吸血することは知られている。このことから北海道の孤発例については「渡り鳥などにくっついたマダニが本州から北海道に移動して上陸したのだろうと個人的には想像している」と話した。これらを総合すると、SFTSに対して私たちがおぼろげに抱く「マダニの活動が活発な春から秋にかけて野山に入ることで感染しやすく、西日本に多い感染症」というイメージは、半ばアンコンシャスバイアスになっていることを自覚しなければならない。治療薬への期待度一方、過去の本連載でも触れたが、SFTSについては2024年に抗ウイルス薬のファビピラビル(商品名:アビガン)が承認された。この点について萩谷氏は「ウェルカムな部分はあるものの、本当に良いのか?とも思っている」との見解を示した。その理由は▽薬価が1錠3万9,862円で10日間の標準治療(90錠)の薬剤費総額が約360万円▽これまでの臨床試験が単群で投与群の致死率が医師主導治験で17.4%、企業治験で13%にとどまる、からだ。萩谷氏は「今回の承認は既存の対症治療での致死率が最大30%で、それよりも低い致死率を達成したことでアビガンが承認されたと理解している。しかし、十分とは言えないエビデンスの中で360万円の治療を全例に行う気持ちにはなれないのが正直なところ」と話した。いずれにせよ患者報告が拡大する中で、今回の萩谷氏の話はSFTSが思った以上に厄介な疾患であり、決して油断が許されない現状があることを何よりも雄弁に物語っている。 参考 1) 国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト:感染症発生動向調査週報一覧

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がん治療のICI、コロナワクチン接種でOS改善か/ESMO2025

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、多くのがん患者の生存期間を延長するが、抗腫瘍免疫応答が抑制されている患者への効果は限定的である。現在、個別化mRNAがんワクチンが開発されており、ICIへの感受性を高めることが知られているが、製造のコストや時間の課題がある。そのようななか、非腫瘍関連抗原をコードするmRNAワクチンも抗腫瘍免疫を誘導するという発見が報告されている。そこで、Adam J. Grippin氏(米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンター)らの研究グループは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するmRNAワクチンもICIへの感受性を高めるという仮説を立て、後ろ向き研究を実施した。その結果、ICI投与前後100日以内にCOVID-19 mRNAワクチン接種を受けた非小細胞肺がん(NSCLC)患者および悪性黒色腫患者は、全生存期間(OS)や無増悪生存期間(PFS)が改善した。本研究結果は、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)で発表され、Nature誌オンライン版2025年10月22日号に掲載された1)。 本発表では、切除不能StageIIIまたはStageIVのNSCLC患者884例および転移を有する悪性黒色腫患者210例を対象とし、ICI初回投与の前後100日以内のCOVID-19 mRNAワクチン接種の有無で分類して解析した結果が報告された。また、COVID-19 mRNAワクチン接種が抗腫瘍免疫応答を増強させ得るメカニズムについて、前臨床モデル(マウス)を用いて検討した結果とその考察も紹介された。 主な結果は以下のとおり。【後ろ向きコホート研究】・NSCLC患者(接種群180例、未接種群704例)において、ICI初回投与の前後100日以内にCOVID-19 mRNAワクチンを接種した群は、StageやPD-L1発現状況にかかわらずOSが延長した。各集団のハザード比(HR)、95%信頼区間(CI)は以下のとおり(全体およびStage別の解析は調整HRを示す)。 全体:0.51、0.37~0.71 StageIII:0.37、0.16~0.89 StageIV:0.52、0.37~0.74 TPS 1%未満:0.53、0.36~0.78 TPS 1~49%:0.48、0.31~0.76 TPS 50%以上:0.55、0.34~0.87・悪性黒色腫患者(接種群43例、未接種群167例)においても、ICI初回投与の前後100日以内にCOVID-19 mRNAワクチンを接種した群は、OS(調整HR:0.37、95%CI:0.18~0.74)およびPFS(同:0.63、0.40~0.98)が延長した。・NSCLC患者において、生検前100日未満にCOVID-19 mRNAワクチンを接種した群は、未接種群、100日後以降接種群と比較してPD-L1 TPS平均値が高かった(31%vs.25%vs.22%)。同様に、生検前100日未満にCOVID-19 mRNAワクチンを接種した群はPD-L1 TPS 50%以上の割合も高かった(36%vs.28%vs.25%)。【前臨床モデル】・免疫療法抵抗性NSCLCモデルマウス(Lewis lung carcinoma)と免疫療法抵抗性悪性黒色腫モデルマウス(B16F0)において、COVID-19 mRNAワクチンとICIの併用は、ICI単独と比較して腫瘍体積を縮小した。・COVID-19 mRNAワクチンは、IFN-αの産生を増加させた。・悪性黒色腫モデルマウスにおいて、IFN-αを阻害するとCOVID-19 mRNAワクチンとICIの併用の効果は消失した。・COVID-19 mRNAワクチンは、複数の腫瘍関連抗原について、腫瘍反応性T細胞を誘導した。・COVID-19 mRNAワクチン接種によりCD8陽性T細胞が増加し、腫瘍におけるPD-L1発現も増加した。 COVID-19 mRNAワクチン接種が抗腫瘍免疫応答を増強させ得るメカニズムについて、Grippin氏は「免疫学的にcoldな腫瘍に対して、COVID-19 mRNAワクチンを接種するとIFN-αが急増し、腫瘍局所での自然免疫が活性化される。その活性化により腫瘍反応性T細胞が誘導され、これらが腫瘍に浸潤して腫瘍細胞を攻撃すると、腫瘍はT細胞応答を抑制するためにPD-L1の発現を増加させる。そこで、COVID-19 mRNAワクチンとの併用でICIを投与し、PD-1/PD-L1の相互作用を阻害することで、患者の生存期間の改善が得られるというメカニズムが示された」とまとめた。 なお、今回示された効果を検証するため、無作為化比較試験「Universal Immunization to Fortify Immunotherapy Efficacy and Response(UNIFIER)試験」が計画されている。

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帯状疱疹後神経痛、発症しやすい人の特徴

 帯状疱疹を発症すると、帯状疱疹の皮疹や水疱消失後に帯状疱疹後神経痛(post herpetic neuralgia:PHN)と呼ばれる合併症を伴う場合があり、3ヵ月後で7~25%、6ヵ月後で5~13%の人が発症しているという報告もある1)。今回、中国・Henan Provincial People's HospitalのJing Wang氏らは、PHNの独立した危険因子となる患者背景を明らかにした。Frontiers in Immunology誌2025年10月1日号掲載の報告。 本研究は、PHN高リスク患者の早期発見と予防戦略の最適化支援を目的として、PHNの独立した危険因子を特定するため、PubMed、Embase、Cochrane Libraryを検索。メタ解析にて人口統計学的特徴、臨床症状、治療計画、合併症、ウイルス学的因子などの評価を包括的に分析し、結果の堅牢性を検証するための感度分析も実施した。なお、研究間の異質性はI2統計量とコクランのQ検定を用いて評価し、閾値は低異質性(I2<30%)、中等度の異質性(I2=30~60%)、高異質性(I2>60%)と定義した。 主な結果は以下のとおり。・本システマティックレビューにて36件(前向き研究15件、症例対照研究5件、後ろ向き研究13件、システマティックレビュー3件)が特定され、そのうち24件をメタ解析した。・PHNの独立した危険因子として、以下のものが主に特定された。 ●60歳以上:オッズ比(OR) 1.16(95%信頼区間[CI]:1.15~1.17、高異質性) ●喫煙やアルコール摂取などの生活歴:OR 1.13(95%CI:1.07~1.20、高異質性) ●免疫抑制薬による治療:OR 1.94(95%CI:0.16~23.44、異質性なし) ●糖尿病:OR 1.29(95%CI:1.05~1.60、高異質性) ●慢性閉塞性肺疾患:OR 1.70(95%CI:1.23~2.35、異質性あり) ●高血圧症:OR 1.82(95%CI:1.28~2.58、異質性なし) ●悪性腫瘍:OR 1.99(95%CI:1.07~3.70、異質性なし) ●慢性腎臓病:OR 1.08(95%CI:0.99~1.17、異質性なし)・このほか、重度の発疹、前駆症状としての疼痛、アルコール乱用、検出ウイルス量の高さなども危険因子の可能性を示していた。・一方、性差および社会経済的地位はPHNの発症と有意な関連を示さず、十分なエビデンスが認められなかった(I2>50%、p>0.05)。 研究者らは「帯状疱疹の重症度が急性疼痛の強さとともにPHNの重要な危険因子であり、また、上記の危険因子以外にも新型コロナウイルスが潜在的な危険因子となる可能性があるため、さらなる調査が必要である」としている。

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世界最高齢者の長生きの秘密とは?

 マリア・ブラニャス・モレラ(Maria Branyas Morera)さんは、2024年8月19日に117歳で亡くなった当時、世界最高齢者であった。彼女は一つの情熱的な願いを抱いてこの世を去った。バルセロナ大学(スペイン)医学部遺伝学科長のManel Esteller氏は、「ブラニャスさんはわれわれに、『私を研究してください。そうすれば他の人を助けることができます』と言った。彼女のその希望は現実となった」と話す。Esteller氏らがブラニャスさんについて包括的な分析を行った結果、ブラニャスさんには、健康的なライフスタイル、微生物叢内の有益なバクテリア、長寿に関連する遺伝子など多くの利点があったことが判明した。この研究の詳細は、「Cell Reports Medicine」に9月24日掲載された。 Esteller氏は、「健康的な老化は、何か一つの大きな特徴が関与するのではなく、むしろ、多くの小さな要因が相乗的に作用する、非常に個人差のあるプロセスであることが分かった。不健康な老化ではなく、健康的な老化につながる特徴をこれほど明確に示すことができたことは、将来、老若男女を問わず全ての人にとって有益になると思われる」と述べている。 ブラニャスさんは、1907年3月4日に米サンフランシスコで生まれ、8歳のときにスペインに移住した。彼女は2つの世界大戦、スペイン内戦、そして、スペイン風邪と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の2つのパンデミックを生き延びた。事実、ブラニャスさんは113歳のときにCOVID-19に罹患したが、完全回復した。 研究グループは、ブラニャスさんの健康と長寿は、彼女のライフスタイルによるところが大きいと話す。彼女は地中海式ダイエットを実践し、脂肪や加工糖を過剰に摂取しないよう気を付けていたし、タバコやアルコールも一切摂取しなかった。高齢で歩行が困難になるまでは、定期的にウォーキングも行っていた。 血液サンプルの解析からは、極端に短いテロメアや炎症傾向の強い免疫系、高齢化したBリンパ球の集団など、明確な老化の兆候が見られた。一方で、ゲノム解析の結果、ブラニャスさんには他のヨーロッパ人には見られないまれな遺伝子変異が存在することが明らかになった。これらの変異は、免疫機能、認知機能、心機能、神経保護、脂質代謝などの経路に関与しており、これがブラニャスさんの高コレステロール、心臓病、がん、認知症などのリスクを低下させた可能性がある。 また、ブラニャスさんの腸内細菌叢には、抗炎症作用を持つ有益なビフィズス菌が豊富に含まれていたことも判明した。炎症は老化を促進する要因の一つである。研究グループによると、ブラニャスさんは、食生活の一環としてヨーグルトを多く摂取していたという。さらに、エピジェネティック解析によって測定されたブラニャスさんの生物学的年齢は実年齢よりも大幅に若いことも明らかになった。 Esteller氏は、「われわれの研究結果は、多くの高齢者がより長く、より健康的な生活を送る上で有益となり得る要因を特定するのに役立つ。例えば、健康長寿に関連する特定の遺伝子が判明したことから、これらが医薬品開発の新たなターゲットとなる可能性がある」と述べている。 ただし、本研究には関与していない米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のImmaculata De Vivo氏は、「1人の人間の人生から確かな結論を導き出すのはほぼ不可能だ。大規模でよく管理された集団研究とは対照的に、個々の症例の結果を解釈する際には、常に注意することが重要だ」と述べ、慎重な解釈を求めている。同氏は、「遺伝子やライフスタイルは健康に役立つかもしれないが、病気の原因は一般的に絶対的なものではなく確率の問題だ」と指摘し、ブラニャスさんと同程度に長生きするには、ある程度の幸運も必要なことをほのめかしている。

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