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日本人高齢者の緊急入院で死亡率が高いのは? インフルvs.コロナvs.RSV

 50歳以上(平均年齢81.4歳)を対象とした前向きコホート研究において、急性呼吸器症状による緊急入院では、RSウイルス(RSV)陽性者がSARS-CoV-2やインフルエンザA/B陽性者と比較して、30日全死亡率が高かった。このことからRSV感染症は、高齢者の看過できない死亡リスク因子であることが示唆された。本研究結果は、森本 剛氏(兵庫医科大学)らによって、Clinical Microbiology and Infection誌オンライン版2026年1月10日号で報告された。 研究グループは、日本の3施設(島根県立中央病院、洛和会音羽病院、奈良市立病院)において、急性呼吸器症状または徴候を呈して緊急入院した50歳以上の成人を対象に、前向きコホート研究「EVERY study」を実施した。登録期間は2023年7月1日~2024年12月31日とした。入院後24時間以内に採取された鼻咽頭ぬぐい液を用いて、FilmArray呼吸器パネル2.1による多項目遺伝子検査を行い、RSV、SARS-CoV-2、インフルエンザA/Bの陽性割合と臨床転帰(30日全死亡、下気道疾患[LRTI]、modified LRTI[画像所見を組み込んだ定義])を検討した。また、ワクチン接種歴(COVID-19[新型コロナウイルス感染症]ワクチンとRSVワクチンは過去に1回以上接種で接種あり、インフルエンザワクチンは当該シーズンに1回以上接種で接種ありとした)も調べた。 主な結果は以下のとおり。・解析対象となった3,067例(平均年齢81.4歳、男性55.3%)において、各ウイルスの陽性割合は、インフルエンザA/Bが2.3%、SARS-CoV-2が18.0%、RSVが1.6%であった。・解析対象(3,067例)のワクチン接種割合は、インフルエンザワクチン37.9%、COVID-19ワクチン62.3%、RSVワクチン0%であった。・抗ウイルス薬の投与割合は、インフルエンザA/B群62.3%、SARS-CoV-2群71.8%、RSV群0%であった。・30日全死亡率は、インフルエンザA/B群が2.9%であったのに対し、SARS-CoV-2群8.4%、RSV群14.3%であった。・インフルエンザA/B群を対照とした場合の30日全死亡の調整オッズ比は、SARS-CoV-2群が2.9(95%信頼区間[CI]:0.83~17.9)、RSV群が5.2(95%CI:1.2~36.7)であり、RSV群が高かった。・入院時のLRTIの割合は、インフルエンザA/B群88.4%、SARS-CoV-2群82.8%、RSV群87.8%であった。modified LRTIは、それぞれ95.7%、93.1%、93.9%といずれも高率であった。 本研究結果について、著者らは「急性呼吸器症状で緊急入院する高齢者において、RSVはインフルエンザやCOVID-19よりも高い死亡率に関連するリスク因子であった」と結論付けている。また「RSV陽性者の高い死亡率の背景には、抗ウイルス薬の使用機会がないことやワクチン未接種が影響している可能性がある」と考察し、日常診療におけるRSVの認識向上とともに、ワクチン接種を含む予防の重要性を強調している。

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コロナワクチン接種を躊躇する理由を大規模解析についてのコメント(解説:栗原宏氏)

特徴・ワクチン接種に関して「どの階層」が「どんな理由で」ためらったかを明らかにし、経時的な変化と実際の接種行動を調査している。・自己申告ではなく、本当に接種したかまでNHSワクチン記録で追跡している。 本調査は、イギリスの一般住民を対象とした大規模COVID-19モニタリングプログラムに参加した成人113万人を対象として、COVIDワクチンに対する態度(ためらいや拒否など)とその後実際にワクチンを接種したかどうかをNHSワクチン記録と照合して分析したコホート研究である。 この研究のポイントは、ワクチン接種への考え方が変化しやすい群と拒否や不信が強く接種に至りにくい群を、理由・属性と併せて定量的に示した点にある。 多変量ロジスティック回帰の結果では、接種を躊躇する傾向が強いのは、若年層(18~24歳)、女性、白人以外の民族(とくに黒人)、社会経済的な不利、低学歴、失業・非労働人口、COVID既感染、うつ病・不安症、喫煙者であった。最終的に接種しなかったことと関連した要因として・学歴が低い・失業・非労働人口・COVID既感染歴・喫煙者・うつ病、不安症などの精神疾患(自己申告)が挙げられている。未接種の理由としては、・ワクチン全般に反対・COVIDの影響が誇張されていると認識している・ワクチン開発者を信頼していない・COVIDは自分にとってリスクではないと感じているといった回答と強く結びついていた。 COVIDワクチンへの躊躇の多くは「効果」「安全性」「長期的影響」に関する具体的な懸念に由来しており、これらは時間経過、情報提供によって解消されやすい。これに対して、「ワクチン全般への拒否感」「COVIDそのものへのリスク認識の低さ」「政府・専門科・情報への不信」を背景にした人たちは最後まで接種しない傾向が強い。 本研究よりも小規模な調査が日本国内でも実施されており、ほぼ同様に若年層や女性、低学歴・低所得・既感染・不信感の強い層では接種に躊躇する傾向が報告されている。イギリスでの調査ではあるが、日本においても属性による経時的な考えの変化があると推測される。ワクチン接種を推奨するに当たり、一律の情報提供では不十分で、理由・属性ごとに「変わりやすさ」が異なることを踏まえた対応が求められる。

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コロナ禍で新規診断が増えた疾患・減った疾患/BMJ

 英国・キングス・カレッジ・ロンドンのMark D. Russell氏らによる、OpenSAFELY-TPPを用いたコホート研究の結果、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以降、うつ病、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、乾癬、骨粗鬆症の新規診断は予測値を下回ったのに対し、慢性腎臓病は2022年以降に診断数が急増し、サブグループ解析ではとくに認知症に関して民族および社会経済的状況により新規診断数の回復パターンに差があることが示された。著者は、「本研究は、日常診療で収集される医療データを用いた疾病疫学のほぼリアルタイムのモニタリングの可能性を示すとともに、症例発見の改善や医療の不平等を検討するための戦略立案に寄与する」とまとめている。BMJ誌2026年1月21日号掲載の報告。イングランドの約3千万例対象、COVID-19パンデミック前後の慢性疾患の新規診断と有病率を解析 研究グループは、2016年4月1日~2024年11月30日に、OpenSAFELY-TPPプラットフォームにデータを提供している一般診療所に登録され、かつ診療所に対して直接の医療に関与しない組織への個人データの共有を希望しない旨の登録をしていない患者2,999万5,025例を対象として、19の慢性疾患について年齢・性別標準化発症(新規診断)率および有病率の経時推移を検討した。 19の慢性疾患は、喘息、アトピー性皮膚炎、冠動脈心疾患、慢性腎臓病(ステージ3~5)、セリアック病、COPD、クローン病、認知症、うつ病、2型糖尿病、てんかん、心不全、多発性硬化症、骨粗鬆症、リウマチ性多発筋痛症、乾癬、関節リウマチ、脳卒中/一過性脳虚血発作、潰瘍性大腸炎。 COVID-19パンデミックが、これら慢性疾患の診断に与えた影響を評価する目的で、パンデミック前のパターンから予測された期待診断率に基づく季節変動自己回帰和分移動平均(seasonal autoregressive integrated moving average:SARIMA)モデルを用い、パンデミック発生後の予測診断率と実際の観察診断率の差を比較した。パンデミック初年度に新規診断が急減、4年後もうつ病などは減少したまま パンデミック発生後の新規診断率はパンデミック前と比較し、初年度(2020年3月~2021年2月)に19疾患のすべてで急減した。ただし、その後の回復傾向は疾患ごとに異なった。 2024年11月時点でも、いくつかの疾患では新規診断数が予測値を下回っており、とくにうつ病(予測より-73万4,800件[-27.7%]、95%予測区間[PI]:-76万6,400~-70万3,100)で減少幅が最も大きく、喘息(-15万2,900件[-16.4%]、95%PI:-16万8,300~-13万7,500)、COPD(-9万100件[-15.8%]、-9万8,900~-8万1,400)、乾癬(-5万4,700件[-17.1%]、-5万9,200~-5万100)、骨粗鬆症(-5万4,100件[-11.5%]、-6万1,100~-4万7,100)も大きく減少した。 一方、慢性腎臓病の診断数は、パンデミック初期に減少したものの、2022年以降はパンデミック前の水準を上回る増加を示した(予測より35万9,000件[34.8%、95%PI:33万3,500~38万4,500]増加)。 人種および社会経済的状況で層別化したサブグループ解析の結果、パンデミック初期の減少後、白人および社会経済的困窮度が低い地域では、認知症の診断率がパンデミック前の水準を上回って増加したが、他の人種および困窮度が高い地域では増加しなかった。

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第300回 東大皮膚科教授、高級クラブやソープランドで約30回、約180万円の接待受け収賄で逮捕、国際卓越研究大学の認定に黄信号

消費税減税、自民党議員の中にも反対多数こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。先週末、とある医療・介護関係者向けのセミナーに参加し、いくつかの興味深い話を聞きました。1つは東北地方の病院長の話です。患者数減少などのため病床数を削減、診療科目も制限する中、地元の大学医学部からの医師派遣の申し出も断るようになった、とその病院長は話していました。医師の賃金に加え、交通費等も加えると1日当たり10万円近くとなり、年間では馬鹿にならない金額になるため、経費削減目的でもあるとのことです。地方では医師不足が叫ばれていますが、病床削減や再編・統合が今まで以上に進めば、医師のポストのみならず、派遣医の需要自体も減っていくことになります。近い将来、東北地方のみならず全国で、医局のジッツだけではなく大学の若手医師のバイト先も減りそうです。もう1つは、自民党の参議院議員(医系議員)の話です。高市 早苗総理大臣は衆議院解散の意向を発表した1月19日、「軽減税率が適用されている飲食料品については、2年間に限り消費税の対象としない」との方針を打ち出しました。しかし、この議員は、消費税減税について、減税分の財源の目処が立っていないことや、社会保障費への影響が大きいことなどを理由に「反対」の姿勢を明確に示していました。自民党内でも消費税減税に反対する声は多そうです。消費税減税について高市氏は「私自身の悲願」と語っていましたが、自民党の公約の記述には「財源やスケジュールの在り方など、実現に向けた検討を加速します」と書いてあるだけです。「検討を加速」は典型的な“霞ヶ関文学”で「何もしないという意味」と解釈するメディアもあります。衆院選で仮に与党が勝利したとしても、消費税減税の行方は当面は不透明、場合によっては実現しない可能性もありそうです。ほかの医師の逮捕が相次いでも「自分は大丈夫」と堂々と賄賂を受け取る医師たちところで、本連載も今回で無事300回を迎えることになりました。ちょうど新型コロナ感染症のパンデミックが本格化し始めた2020年4月1日に「第1回 医療関係者が医療関係者を『バイ菌』扱いしちゃダメだろ」でスタートした本連載、「無事」とはいうものの少々書き過ぎた回もあり、幾度かは“クレーム”や“反論”対応することもありました。幸いいずれもボヤ程度で済み、連載をなんとか続けてこられました。担当編集者と、鷹揚な読者の皆さまのおかげと言えます。深く感謝申し上げます。本連載でとくに多く取り上げて来たのは医師や医療機関が起こした不祥事です。中でも「第25回 三重大病院の不正請求、お騒がせ医局は再び崩壊か?」を皮切りに、幾度も取り上げた三重大臨床麻酔部の元教授が起こした贈収賄事件は、裁判の資料を入手するために三重の津地裁を訪れたりもしており、印象に残る事件です。医学部教授が自らの地位を利用して製薬会社や医療機器メーカーから現金を受け取っていたこの事件(裁判は最高裁まで行き、昨年有罪が確定)ですが、こうした他大学や病院の医師が逮捕される事件が相次いでも、「自分がやっていることは大丈夫」と堂々と賄賂を受け取る医師がいなくならないのはとても不思議です。先週末の1月24日にも、東京大学大学院医学系研究科のS教授(62、専門は皮膚科学)が収賄容疑で逮捕されました。東大は昨年11月にも整形外科医が逮捕されています。世の中は「また東大かよ」とあきれているに違いありません。「第298回 東大、国際卓越研究大学にまたまた選ばれず継続審査へ、その“敗因”はどこに?」でも書いたように、東大は国際卓越研究大学の選定において、2025年11月にも医学部の准教授が収賄容疑で立件されるなど不祥事が相次いだことで、大学トップを含む責任体制の構築が必要とされました。最長1年間審査は継続されますが、有識者会議は「継続審査中に、法人としてのガバナンスに関わる新たな不祥事が生じたと判断された場合、審査を打ち切る」としており、いよいよ「東大アウト」の宣告がなされることになるかもしれません。接待の自主規制ルールもなく、これ幸いと“金づる”のようにたかったか1月25日付の日本経済新聞等の報道によれば、S容疑者は2023年3月~2024年8月、研究相手の一般社団法人・日本化粧品協会(文京区)の代表理事の男(52)から銀座の高級クラブや吉原のソープランド(一部報道によれば1人約8万円)で約30回にわたり、計約180万円相当の接待を受けた疑いがあるとのことです。大麻に含まれる物質の効果について共同研究をする「臨床カンナビノイド学講座」の設置や研究の実施にあたって便宜を図った謝礼の趣旨だったとしています。S容疑者の部下だった同研究科の元特任准教授の男(46)についても、代表理事から約190万円相当の接待を受けた疑いがあるとして、警視庁は1月26日、書類送検しました。一方、警視庁は同日、接待をした代表理事も書類送検しました。なお、接待の総額は「10万円超のスーツケース含め、2人合わせて少なくとも490万円相当に上る」(1月26日付のNHKニュース)との報道もあります。前述の三重大臨床麻酔部事件や、「第291回 東大病院の整形外科医、収賄の疑いで逮捕 『国際卓越研究大学』の認定にも影響か?」で書いた東大病院の整形外科医の事件もそうですが、国立大学法人の職員らは、収賄罪の対象になる「みなし公務員」に当たります。それにしても、収賄の内容が「高級クラブやソープランドで約30回、計約180万円相当」という点は相当情けないですね。現在、製薬企業における医療従事者(医師など)への接待・飲食提供は、日本製薬工業協会の自主規制により、厳格に制限されています。かつての多くの不祥事を受けての対応です。そのため、医学部教授になったからといって、製薬企業から過剰な接待を受けることはほとんどないと言っていいでしょう。今回の日本化粧品協会は日本製薬工業協会に加盟しておらず、おそらく接待の自主規制ルールもないため、そこに目を付けたS教授らが、これ幸いと“金づる”のようにたかった、というのがことの真相ではないでしょうか。また、医薬品よりも化粧品を下に見る姿勢もあったかもしれません。2025年5月にはS容疑者らや東京大学を相手取り計4,200万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴1月25日付の朝日新聞等の報道によれば、共同研究は2023年4月に「臨床カンナビノイド学講座」を設置してスタート、S容疑者と元特任准教授はこの講座の運営のほか、研究内容の選定や研究の実施の権限があったとのことです。しかし、日本化粧品協会と代表理事の間で金銭トラブルが起き、講座は2025年3月に廃止されました。日本化粧品協会などは講座が突然廃止されたことなどから、2025年5月にS容疑者らや東京大学を相手取って、計4,200万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴、訴状で協会側は、S容疑者から高額な接待を強要され、研究も一方的に中止されたと主張していました。この協会とS容疑者とのトラブルについては、週刊文春が2025年3月に「東大皮膚科カリスマ教授が求めた1,500万円“違法エロ接待”」と題する記事で、すでに報じています。週刊文春はさらに5月11日に文春オンラインで配信した「《1,500万円“違法エロ接待”》東大医学部カリスマ教授が収賄容疑で逮捕、銀座クラブ接待写真を入手 共同研究者が実名で告発していた…『Tバック写真』と『証拠音声』も独占公開」と題する記事で、銀座のクラブや接待による熱海旅行の写真などとともに、恐喝まがいの金銭要求や、接待のおねだりぶりを詳細に報じています。同記事は「東大の倫理規程違反はもとより、国立大の教授はみなし公務員であるため『贈収賄』など法律違反にあたる可能性もある」と書いていますが、実際に警視庁が捜査に着手、今回の逮捕に至ったわけです。今回の逮捕を受けて東大の藤井 輝夫学長は1月25日、「度重なる教員の逮捕は痛恨の極みであり、言語道断で、遺憾であると言わざるを得ない。この事態を極めて重いものと受け止め、厳正に対処する」とのコメントを出しています。逮捕されるまで教授の地位を与えてきた体制こそガバナンス欠如の典型S教授の逮捕で私が驚いたのは、昨年トラブルが発覚し、事態が損害賠償事件にまで発展、贈収賄事件になる可能性が当初からあったにもかかわらず、S教授は教授のまま、さしたる処分も受けずにいたことです。日本化粧品協会が損害賠償を求める訴えを起こした後の昨年6月、東京大学は「社会連携講座等検証・改革委員会」を設置し、制度の検証を進めました。そして、10月には「民間企業等から資金等を受け入れて行う研究・教育における制度の改革策」を公表、その中で「一部教職員の倫理意識が欠如し、事案を未然に防げなかった」などとしていました。しかし、その倫理意識が欠如した教授を辞めさせることもせず(あるいはできず)、逮捕されるまで教授の地位を与えてきたのです。こうした体制こそがガバナンス欠如と言えるでしょう。1月26日付の日本経済新聞は「東大の卓越大認定 瀬戸際」と題する記事で、「容疑者の逮捕は審査結果の公表後だが、事案自体は25年に浮上しており有識者会議も把握していたとみられる。文科省幹部は『逮捕をもって直ちに審査打ち切りになる可能性は低い』とみる。ただ、東大が瀬戸際に立たされている状況に変わりはない」と書いています。組織の巨大さゆえ、医学部の不祥事は医学部任せで、大学全体としてガバナンスが効かない組織体制であることが問題視されています。東大は今春までに一連の不祥事を受けた再発防止策やガバナンス改革案をまとめる予定とのことですが、単なる「案」ではなく、実現性、実効性のある改革案であるかどうかが問われることになるでしょう。

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コロナワクチン接種を躊躇する理由を大規模解析/Lancet

 英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのMatthew Whitaker氏らは、同国の成人約114万人を対象とした大規模コホート研究において、国民保健サービス(NHS)のCOVID-19ワクチン接種記録データとの連携により、ワクチンの接種率や接種躊躇の要因を分析した。接種躊躇の大半は具体的で対処可能な懸念によるものであり、時間の経過や情報提供の充実によって克服可能であることを明らかにした。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する有効なワクチンが存在したにもかかわらず、パンデミック期間中、英国の一部集団ではワクチン接種を躊躇する傾向が続き、その割合や動機は人口統計学的グループによって異なっていた。著者らは、「今回の知見は、将来のワクチン接種の展開において、ワクチン受容を促進するのに役立つだろう」とまとめている。Lancet誌オンライン版2026年1月12日号掲載の報告。ワクチン接種を躊躇する理由や、ワクチン接種率を分析 研究グループは、まずベースラインでのワクチン接種躊躇について横断分析を行った後、続いて接種躊躇集団におけるワクチン接種率について縦断分析を実施した。 2020年5月1日~2022年3月31日に、NHSリストを用いて英国の一般診療所の登録患者から無作為に抽出した住民を、SARS-CoV-2ウイルス陽性率および抗スパイク抗体陽性率をモニタリングする「Real-time Assessment of Community Transmission:REACT研究(REACT-1およびREACT-2)」に定期的に招待した。参加者は、人口統計学的情報、併存疾患、行動(喫煙、マスク着用など)、COVID-19既往歴、ワクチン接種状況や接種に対する姿勢を含む詳細な調査に、オンラインまたは郵送で回答した。 COVID-19ワクチンの接種を拒否した、拒否する予定である、または接種するかどうか未定であると回答した参加者を「ワクチン接種躊躇集団」と分類した。自己申告では未接種と回答したものの、NHSの記録では接種済みと確認された参加者は、以降の解析から除外した。 主要アウトカムは、横断分析ではワクチン接種躊躇、縦断分析ではワクチン接種躊躇集団のうち調査後にNHSワクチン接種記録との連携に同意した参加者における調査後のワクチン接種であった。 ワクチン接種躊躇の理由はコンセンサスクラスタリング法を用いて分類し、横断分析および縦断分析ではロジスティック回帰モデルを用いてワクチン接種躊躇およびその後の接種の予測因子となる人口統計学的要因を特定した。ワクチン接種躊躇者の65%はその後にワクチンを接種 REACT研究の全参加者435万4,480人のうち、2021年1月6日~2022年3月31日に調査された18歳以上の成人113万7,927人が解析対象となった。 解析対象集団のうち3万7,982人(3.3%)が調査期間中にワクチン接種躊躇を示した。接種躊躇率は2021年1月の調査では7.9%と高かったが、2022年初頭には1.1%まで低下し、その後2022年2月および3月には再び2.3%に増加した。 ワクチン接種躊躇集団のうちNHSのワクチン接種記録との連携に同意した2万4,229人において、1万5,744人(65.0%)は1回以上のワクチン接種を受けていた。 クラスター分析の結果、ワクチン接種躊躇の理由として、有効性や副作用への懸念、COVID-19のリスクが低いとの認識、ワクチン開発者への不信感、ワクチンや副作用への恐怖など、8つのカテゴリーが特定された。有効性や副作用への懸念に関連する最も一般的な接種躊躇カテゴリーは、調査期間中に大幅に減少し、後のワクチン接種との強い関連性は認められなかった。信頼性の低さ、リスク認識の低さ、一般的なワクチン反対感情に関連する一部の接種躊躇形態はより抵抗性が高く、2022年に再燃し、その後のワクチン接種の可能性の低下と強く関連していた。

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ムコ多糖症II型、新たな酵素補充療法が有望な可能性/NEJM

 ムコ多糖症II型(MPS II、ハンター症候群)は、イズロン酸-2-スルファターゼ活性の欠損によって発生する進行性のX染色体連鎖型のライソゾーム病で、神経系を含む臓器機能障害や早期死亡をもたらす。tividenofusp alfaは、イズロン酸-2-スルファターゼと改変トランスフェリン受容体(TfR)結合Fcドメインから成る、血液脳関門の通過が可能な融合タンパク質で、MPS IIの神経学的および末梢症状の治療を目的に開発が進められている新たな酵素補充療法(ERT)である。米国・University of North Carolina School of MedicineのJoseph Muenzer氏らは、小児男性患者を対象に行った、本薬のヒト初回投与の臨床試験の結果を報告した。NEJM誌2026年1月1日号掲載の報告。国際的な非盲検第I/II相試験 研究グループは、tividenofusp alfaの安全性および中枢神経系、末梢症状に対する効果の評価を目的に、国際的な非盲検第I/II相試験を実施した(Denali Therapeuticsの助成を受けた)。年齢18歳までのMPS IIの男性患者を対象とした。 tividenofusp alfa(週1回、静脈内投与)を24週間投与した後、80週間の安全性に関する延長試験と157週間の非盲検延長試験を行った(全261週)。 47例(用量設定コホート20例、15mg/kg投与コホート27例)を登録した。年齢中央値は5歳(四分位範囲:0.3~13)だった。44例(94%)が神経症状を伴うMPS IIで、3例(6%)は神経症状を伴わないMPS IIであり、15例(32%)がERTを受けた経験があった。注入反応の頻度が高いが管理可能 47例の全例で、3段階の試験期間中に少なくとも1件の有害事象を認め、最も高い重症度は、中等度が68%、重度が28%であった。死亡例の報告はなかった。治療関連の重篤な有害事象は3例(注入反応[infusion-related reaction]2例、貧血1例)に認めたが、これらの患者はすべて治療を継続した。 41例(87%)で、試験期間中に少なくとも1件の注入反応が発現し、最も頻度の高い有害事象であった。中等度が55%、重度が6%だった。注入反応の症状では、発熱、蕁麻疹、嘔吐の頻度が高く、ルーチンに前投薬を行ったにもかかわらず40%以上の参加者に発現した。 注入反応は全般に、担当医の判断による前投薬、注入速度の減速、減量によって管理可能であった。注入反応の発生は時間の経過とともに減少し、グルココルチコイドを含む前投薬も試験の進行に伴い減少した。ヘパラン硫酸値が低下、適応行動、肝臓容積も改善 その他の一般的な有害事象として、上気道感染症(60%)、発熱(55%)、咳嗽(47%)、嘔吐(43%)、下痢(40%)、発疹(40%)、貧血(38%)、新型コロナウイルス感染症(38%)、鼻漏(38%)を認めた。ベースライン時に19%(47例中9例)で貧血がみられたが、貧血を理由に試験を中止した参加者はいなかった。また、尿中総グリコサミノグリカン(GAG)値が悪化することはなく、改善の傾向を示した。 バイオマーカーについては、ベースラインと比較した24週時の脳脊髄液(CSF)中および尿中のヘパラン硫酸が、それぞれ91%および88%減少した。ヘパラン硫酸濃度の低下は153週目まで持続し、適応行動は安定化または改善した。ベースライン時に、24%(21例中5例)で肝臓容積に異常を認めたが、24週時には、これらを含む全例(18例中18例)で正常化または正常を維持していた。 著者は、「MPS II小児男性患者に対する週1回15mg/kgの静脈内投与によるtividenofusp alfa治療では、ERTの既知のリスクである注入反応を含む有害事象が高頻度に発現した」「中央値で2年間の治療により、基質の蓄積および神経細胞損傷の、中枢神経系および末梢のバイオマーカーが減少傾向を示し、臨床エンドポイント改善の可能性が示唆された」としている。

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第301回 アルブミンの抗カビ作用を発見

血中のありふれたタンパク質であるアルブミンの抗カビ作用が発見されました1,2)。ケカビ(Mucorales)の類いの真菌が引き起こすムコール症は、場合によっては死に至りもする日和見感染症で、打つ手は限られ、発症の仕組みはあまりわかっていません。死と隣り合わせでもあり、患者全体の死亡率は50%を超え、播種性患者の死亡率は100%近くになります。ムコール症は組織の甚大な壊死を特徴とし、そのため抗真菌薬は感染病巣に到達できず、ひどく外観を損ねる手術をしばしば必要とします。他の真菌感染症と異なり、ムコール症はもっぱら代謝不調患者に発生します。具体的には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う免疫代謝不調、制御不良の糖尿病、アシドーシス、鉄過剰症、栄養失調などがムコール症を生じ易くします。半世紀以上も前3)からヒトの血清のケカビ阻止効果が報告されています。ギリシャのクレタ大学のAntonis Pikoulas氏らの新たな検討でもその効果が改めて確認され、健康なヒトの血清はケカビの増殖を防いだのに対して、ムコール症患者の血清のその効果はほぼ皆無でした。アルブミンは血清に最も豊富なタンパク質で、血管内、間質、粘膜表面で生理機能を担います。興味深いことに、ムコール症を生じ易くする種々の免疫代謝失調患者に低アルブミンがよく認められます。そこでPikoulas氏らはムコール症へのアルブミンの働きを詳らかにすることを思い立ち、まず初めに血清アルブミン濃度とムコール症の生じやすさやその経過との関連にあたりました。ムコール症を生じ易いことが知られる血液がん患者を調べたところ、実際に肺ムコール症に陥った患者のほとんどのアルブミンは、細菌性肺炎やアスペルギルス・フミガーツス(A. fumigatus)による肺炎患者に比べて有意に乏しいことが示されました。糖尿病やCOVID-19を主な危険因子とする肺ムコール症患者などでも同様の結果が得られ、さらには重度の低アルブミン(2.5g/dL以下)が調べたどのムコール症集団でも転帰不良と関連しました。アルブミンこそどうやらケカビ阻止に寄与するらしく、アルブミンを省いた健康なヒトの血清はケカビ阻止活性が低下していました。一方、A. fumigatus阻止活性は保たれていました。そして、アルブミンこそケカビの増殖を防ぐ作用を担うことが精製アルブミンやマウスを用いた実験で明らかになります。精製アルブミンはケカビの増殖に限って阻止し、他の主な病原性細菌や真菌への有意な活性はありませんでした。アルブミンを欠くマウスはムコール症に限って生じ易くなり、その血清にアルブミンを与えるとケカビを阻止できるようになりました。アルブミンがケカビを阻止する仕組みにはアルブミンを結合した遊離脂肪酸(FFA)の流通が貢献しています。アルブミンは抗真菌活性を失わせるFFAの酸化を防ぎ、アルブミンが結合したFFAはケカビのタンパク質合成を阻止することで病原因子の発現を制してケカビを無毒化します。ムコール症患者ではその仕組みが機能していないらしく、血清のFFAがより酸化されていました。FFAがケカビのタンパク質合成に限って阻止する仕組みの詳細が今後の研究で明らかになるだろうと著者は言っています。参考1)Pikoulas P, et al. Nature. 2026 Jan 7. [Epub ahead of print]2)Blood protein thwarts deadly fungal disease / Nature3)Gale GR, et al. Am J Med Sci. 1961;241:604-612.

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15分で判定可能なC型肝炎ウイルス迅速PCR検査を開発

 米ノースウェスタン大学が開発した迅速検査のおかげで、C型肝炎ウイルス(HCV)に感染しているかどうかを15分以内に判定できるようになった。この検査により、医師は診察中に感染症を診断し、その場で治療を開始できるようになる。ノースウェスタン大学フェインバーグ医学部グローバルヘルス研究所・グローバル感染症および新興感染症センターのClaudia Hawkins氏らが開発したこの検査に関する詳細は、「The Journal of Infectious Diseases」に12月10日掲載された。 Hawkins氏は、「この検査は、診断を劇的に改善し、治療の普及を加速させ、より多くの人に対するより早期の治癒を可能にすることで、米国および世界のHCV治療に革命をもたらす可能性がある」とニュースリリースで述べている。同氏はさらに、「遅延を減らし、検査に至るまでの流れを簡素化することで、未治療のHCVによる壊滅的な肝臓関連の合併症から何百万人もの命を救う可能性がある」と付け加えている。 C型肝炎は、世界中で推定5000万人に影響を与え、主に肝臓の瘢痕化と肝臓がんにより、毎年24万2,000人が死亡している。研究グループは背景情報の中で、C型肝炎は8~12週間の投薬で治癒できるが、治療率は依然として低いと述べている。 通常、活動性のHCV感染の有無を調べる検査では、血液サンプルを検査機関に送る必要がある。検査機関から医師のもとに結果が届くまでには、数日から数週間かかることもあるという。 今回、開発された検査は、DASH(Diagnostic Analyzer for Specific Hybridization〔特異的ハイブリダイゼーション診断解析装置〕)迅速PCRシステムと呼ばれるもので、装置に血液サンプルを入れるだけでPCR検査の結果が得られる。この装置は当初、鼻腔スワブで採取したサンプルから新型コロナウイルスを検出するために開発された。 現状で利用可能なHCVの迅速検査は、米食品医薬品局(FDA)が2024年6月に承認したXpert HCV検査である。この検査は、結果が出るまでに40~60分かかる。一方、Hawkins氏らが開発した検査の所要時間は15分であり、Xpert HCV検査よりも最大で75%速く結果が判明するという。 この検査の臨床での有用性を確認するために、米ジョンズ・ホプキンス大学の共同研究者らは、97個の血漿サンプルを用いて独自の評価を行った。その結果、本検査は既存の検査法との比較において、陽性一致率および陰性一致率がともに100%であった。 論文の上席著者であるノースウェスタン大学マコーミック工学部のSally McFall氏は、「患者の診察中にポイントオブケアで実施できる診断検査を開発することができた。これにより、HCV撲滅に向けた取り組みを支援するための即日診断と治療が可能になる」と述べている。 研究グループは、この検査は世界保健機関(WHO)が掲げる「2030年までにHCVを根絶する」という目標の達成において、重要な役割を果たす可能性があるとの期待を示している。

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妊娠前・中のコロナワクチン接種、母体の重症化および早産リスク低下/JAMA

 妊娠前および妊娠中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンの接種(新型コロナウイルス感染症[COVID-19]の診断前)は、変異株の流行時期にかかわらず母体の重症化リスクおよび早産リスクの低下と関連することが、カナダで行われたサーベイランスプログラムで示された。同国ブリティッシュ・コロンビア大学のElisabeth McClymont氏らCANCOVID-Preg Teamが報告した。COVID-19およびワクチン接種が妊娠アウトカムに及ぼす影響については、知見が不足していた。JAMA誌オンライン版2025年12月15日号掲載の報告。COVID-19関連入院、CCU入室および早産のリスクを解析 研究グループは、カナダのサーベイランスプログラム「CANCOVID-Preg」を用い、9つの州・準州にて2021年4月5日(デルタ株流行期開始およびカナダにおける妊娠中ワクチン接種推奨開始日)~2022年12月31日に診断されたSARS-CoV-2感染妊婦およびその乳児を特定し、2023年まで母体・周産期アウトカムの追跡調査を実施した。 主要アウトカムは、COVID-19関連入院、クリティカルケアユニット(CCU)入室および早産で、ワクチン接種の有無で分類して解析した。ワクチン接種で、入院、CCU入室および早産のリスクが低下 特定されたSARS-CoV-2感染妊婦2万6,584例のうち、ワクチン接種状況が判明していた1万9,899例が解析対象となった。大半は30~35歳(46.3%)および白人(55.9%)で、1万4,367例(72%)はCOVID-19診断前に少なくとも1回ワクチンを接種しており、未接種は5,532例(28%)であった。 ワクチン接種例のうち、80%(1万1,425例)は妊娠前に、20%(2,942例)は妊娠中に接種を受けており、接種からCOVID-19診断までの期間の中央値は18週(四分位範囲:11~25)であった。また、全対象のうち6,120例はデルタ株流行期、1万3,799例はオミクロン株流行期の症例であった。 ワクチン接種はCOVID-19関連入院リスクの低下と関連していた。デルタ株流行期における入院率は、ワクチン接種者4.8%、未接種者13.5%で、相対リスク(RR)は0.38(95%信頼区間[CI]:0.30~0.48)、絶対リスク差(ARD)は8.7%(95%CI:7.3~10.2)であった。オミクロン流行期ではそれぞれ1.5%と5.3%、0.38(0.27~0.53)、3.8%(2.4~5.2)であった。 CCU入室も同様の傾向を示し、デルタ株流行期ではRRは0.10(95%CI:0.04~0.26)、ARDは2.4%(95%CI:1.8~2.9)であり、オミクロン株流行期ではそれぞれ0.10(0.03~0.29)、0.85%(0.27~1.44)であった。 早産率は、ワクチン接種者(7.2%)と比較し未接種者(9.6%)で有意に高かった。デルタ株流行期ではRRは0.80(95%CI:0.66~0.98)、ARDは1.8%(95%CI:0.3~3.4)であり、オミクロン株流行期でそれぞれ0.64(0.52~0.77)、4.1%(2.0~6.2)であった。 多変量解析の結果、併存疾患を補正後もワクチン接種は両変異株流行期においてCOVID-19関連入院リスクの低下と関連していた。ワクチン接種者と比較し未接種者の補正後入院RRは、オミクロン株流行期で2.43(95%CI:1.72~3.43)、デルタ株流行期で3.82(2.38~6.14)であった。

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ナーシングホームでの感染症対策に関する新ガイダンスが公表される

 高齢者や病気からの回復期にある人、あるいは長期的な健康問題を抱えて暮らす人が多いナーシングホームでは、感染症が大きな懸念事項となっている。薬剤耐性菌、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスなどは、このような環境では急速に広がり、入居者の命を脅かす可能性がある。 こうした中、2008年に発行された、ナーシングホームにおける感染予防・管理(IPC)に関する国の推奨事項に代わるものとして、米国医療疫学学会(SHEA)や米国感染症学会(IDSA)など5つの主要学会や専門団体が共同で作成・承認した新しいガイダンスが、「Infection Control & Hospital Epidemiology」に10月28日公表された。 ガイダンスの筆頭著者である米ミシガン・メディシンの老年医学専門医であるLona Mody氏は、「ナーシングホームでの感染予防に特効薬はない。われわれが推奨する介入は全て複数の要素から成っている。全体的な効果は部分の総和よりも大きいからだ」とニュースリリースで述べている。 このガイダンスでは、重要な変更点の一つとして、全てのナーシングホームに感染予防を専門で担う職員を少なくとも1人配置することを求めている。規模が大きな施設の場合、この役割を担う職員が複数必要になる可能性がある。 また、以下のような取り組みも推奨されている。・臨床スタッフの教育を継続的に行うこと。・職員・患者・訪問者に対してワクチンの重要性を教育し、接種を受けやすい環境を整えること。また、清掃員やIT担当者などの医療従事者以外のスタッフを、手指衛生などの感染予防活動に参加させること。・感染症例が出た場合には、地域の病院や公衆衛生機関との連携を強化すること。・感染拡大時でも、訪問や社会的な活動、ケアやリハビリを含む日常的な活動を許可し、その間に患者、スタッフ、訪問者を保護するための予防措置を講じるなど、ナーシングホームの「家庭」としての側面を維持し、感染を予防しながら入居者の社会的孤立を防ぐこと。 さらにガイダンスでは、「スーパーバグ」と呼ばれる多剤耐性菌(MDRO)が増大し、問題となっていることを強調している。研究によれば、これらの細菌は病院からナーシングホームまで患者とともに移動するケースが多く、個室を越えて共有のジムや食堂にまで広がる可能性があるという。 Mody氏は、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、ナーシングホームが医療制度にとっていかに重要か、また、適切な保護措置が取られなければ入居者がいかに脆弱になり得るかが明らかになった。入院患者をナーシングホームに入居させれば全てがうまくいくと考えるわけにはいかない。ナーシングホームの中でも、入居者を保護することが必要だ」と強調している。 現在、多くの患者は、入院後すぐにナーシングホームに入居するようになり、これまで以上に複雑なケアが必要とされている。それに伴い、感染症のリスクも高まっている。Mody氏は、「感染症を防ぐことは患者とスタッフ双方にとって正しいことであり、長期的にはコスト削減にもつながる」と述べている。

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第297回 「子どもを医師にしますか?」2026(後編) 「人の命を救いたい」という単純な夢だけで医師を目指すのは、今やリスクが高過ぎる人生の選択

歴史的改定率の診療報酬、本体部分3.09%引き上げこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。年末年始もいろいろなことがありました。医療界の最大の関心事、2026年度の診療報酬改定率は、医師の技術料など医療行為の対価に当たる本体部分が3.09%引き上げられることが決定しました。賃上げ対応分1.70%と物価対応分0.76%で全体の半分以上を占めます。診療報酬本体の改定率が3%を超えるのは、1996年度の3.4%以来30年振りのことです。なお、今回決定した改定率の3.09%は、2026年度と2027年度の平均値であり、実際は2026年度で2.41%、2027年度で3.77%と変動させるとのことです。この歴史的とも言える改定率について医療界は沸き上がっています。日本医師会の松本 吉郎会長は12月24日、財務省と厚生労働省を訪れ、片山 さつき財務大臣、上野 賢一郎厚労大臣と相次いで会談。両大臣による折衝により、令和8年度の診療報酬の改定率が本体プラス3.09%に決定したことについて、深い謝意を伝えたとのことです。そして、同日開かれた定例会見では、「政府・与党をはじめ、多くの関係者に医療機関の厳しい経営実態をご理解いただけたものと実感し、深く感謝している」と語りました。改定率を上げることが高市首相の長期政権につながると片山財務相も判断か最終的に財務省が高市総理大臣、片山財務相、厚労省に押し切られる結果となったわけです。その経緯について、12月25日付の日本経済新聞は、「『3%ありき』政治の圧力 診療報酬、厚労省案丸のみ 財務相自ら接近」と題した記事で詳しく解説しています。同記事は、「日本医師会や自民党厚労族の意向を受けた厚労省が3%以上の引き上げを求める中、財務省は1%台で調整していた。通常は両者の綱引きの末に中間地点をにらんで落とし所を探るが、首相が決めたのは厚労省が提示した通りの3.09%だった」、片山財務相は当初「厚労省側に『野放図な財政運営はしない』との姿勢を示し」ていたものの、次第に「周囲に3%に近づけるべきだとの考えを隠さなく」なっていった、と書いています。そして同記事は、「医師会は自民党の有力な支持団体だ。発足間もない高市政権が距離を取るのは難しい。財務省幹部は『片山氏は高市政権の重要閣僚として、改定率を上げることが長期政権につながり最善と考えたのだろう』と漏らす」と、財務相自身が高市政権のために日本医師会に配慮した可能性を示唆しています。診療報酬については今後、「議論の整理」を経て「短冊」(個別改定項目)作成、「答申」(2月上旬)という流れで進みます。単なるバラマキで終わるのか、あるいは「第293回 佳境迎える診療報酬改定議論、「本体」引き上げはほぼ既定路線も、最大の焦点は病院と診療所間の『メリハリ』」でも書いた、相応のメリハリ(病院と診療所の差別化等)が付けられることになるのか、注目です。今、子どもを医師にする、医学部受験をさせるのは得策なのか?さて、前回の本連載では、テレビ朝日系「羽鳥慎一モーニングショー」でのコメンテーターの玉川 徹氏の「僕はこれから人口も減っていくし、AIもどんどん導入されるなかで、今のように医師の地位が社会的な地位とか収入とかも含めて、ずっと高いまま続いていくのかなと(疑問に)思っているのに、何でみんな医学部行こうとするのか不思議。なんでしょうね?」という問い掛けを紹介しつつ、今、子どもを医師にする、言い換えれば医学部受験をさせるのは得策なのかどうかについて考えました。同様の議論は昔もあり、私は今から17年前、まだ紙の雑誌だった日経メディカルの2009年1月号に掲載された「子どもを医者にしますか?」というタイトルの特集記事を思い出しました。同記事は、「過重労働、訴訟の増加、医療費抑制など医師を取り巻く環境が悪化する中、『子どもは医師にしたくない』という医師が目立つようになった」として、当時の子どもを持つ医師の本音をアンケートで調査するとともに、将来を予測しています。少々古い記事ですが、なかなか先見の明がある内容でしたので、簡単に紹介しておきましょう。17年前、「子どもに医師になってほしい」と考えていた医師は4割超いたが…同記事は、高校生以下の子どもを持つ医師1,000人にアンケート、773人の回答を得ています。「子どもに医師になってほしいか」との問いに対し、「なってほしい」「どちらかといえばなってほしい」と回答した医師は42.9%でした。それに対し、「なってほしくない」「どちらかといえばなってほしくない」と答えた医師は19.7%でした。「なってほしくない」理由としては、「患者とのトラブルに関する悩み」(57.9%)、「医療費抑制策による医療環境の悪化」(57.9%)、「過酷な長時間労働」(51.3%)、「訴訟リスクがますます高くなる」(50.7%)が上位を占めていました。現在ほど医療機関経営が悪化しておらず、医師の働く環境が改善されていなかった時代の回答としては、まあこんなものかなという数字と言えます。現在、医療機関を取り巻く経営環境は、人口減少、医療人材不足、新型コロナウイルス感染症禍後の患者数減少、物価高、円安、人件費高騰など、17年前に比べ桁違いに厳しさを増しています。さらに「働き方改革」スタート後も、外科系を中心に長時間労働は一向に改善されていません。おそらく、このアンケートを今改めて行ったら、「医師になってほしい」と「なってほしくない」の結果は逆転していると思われます。なお同記事は、「30年後、勤務医・開業医の世界はこう変わる」として、「外来需要は減少」し、「急性期病院の再編が始まり」、「科目別養成数に上限が設定」され、「総合医養成が強化」、医師にも「実力本位の格差社会がやってくる」と予想しています。2009年の30年後ですから2039年、「新たな地域医療構想」のほぼ目標年の状況というわけですが、なかなか鋭いところを突いた未来予想だったと言えるでしょう(美容外科等への逃散、直美はさすがに予想できていませんが)。「希少な人材の最適配分を実現する観点からも、医学部定員数の適正化は『待ったなし』」と財務省ということで、今、高校生以下の子どもを持つ医師の皆さんは子どもを医師にしようと考えるのでしょうか。そして、進学校の先生たちは、今後も「医学部偏重、東大至上主義」を貫いていくのでしょうか(東大は国際卓越研究大学になれないかもしれませんよ)。昨年、本連載の「第292回 藤田医科大の学費800万円値下げから見えてくる、熾烈を極める大学医学部サバイバル戦」では、「財務省は11月11日、財務相の諮問機関である財政制度等審議会の分科会を開き、教育の質を持続的に確保するために大学の統合や縮小、撤退を促進することが必要だと提言しました。また、厚生労働省は11月20日、医学部の入学定員を全体として『削減』する案を省内の検討会に提示しています。これまで『適正化』を進めるとしていましたが、減らす方針を初めて明確にしました」と、医師養成に関する国の方針も転換期に入ったと書きました。将来、医療機関を取り巻く環境が悪化するだけでなく、医師の数自体も過剰になっていくのです。財務省は12月2日に公表した「2026年度予算の編成等に関する建議」(通称、秋の建議)の中でも、図1、2に示すような資料を提示、「日本の社会経済全体における希少な人材の最適配分を実現する観点からも、医学部定員数の適正化は『待ったなし』と認識すべきであり、仮に、定員数の抑制が進まない場合には、国家試験の合格率により医師の供給数をコントロールすることも含めあらゆる選択肢を検討すべきではないか」と提言しています。図1画像を拡大する図2画像を拡大する財政制度等審議会・令和8年度予算の編成等に関する建議 資料IIより中学生、高校生の子どもをお持ちの医師の皆さんは、ぜひこうした資料も参考にしながら、お子さんの進路について家族会議を持たれることをお勧めします。「実家の医療法人を継がなければならない」という経済的な理由があるならば仕方ありませんが(ただ、その医療法人も2040年に生き残っているかどうかは微妙です)、「人の命を救いたい」という単純な夢だけで医師を目指すのは、今やリスクが高過ぎる人生の選択なのです。

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新生児に対するビタミンK投与を拒否する親が増加傾向

 米国では、1961年に全ての新生児に対するビタミンKの筋肉内投与が開始されて以来、ビタミンK欠乏性出血症がほぼ解消された。ビタミンKは、血液凝固を助ける目的で投与される薬剤であり、ワクチンではない。しかし新たな研究で、近年、新生児へのビタミンK注射を拒否する親が増えていることが明らかにされた。研究グループは、注射の拒否により新生児が深刻な出血リスクにさらされる可能性があると警告している。米フィラデルフィア小児病院の新生児専門医であるKristan Scott氏らによるこの研究結果は、「The Journal of the American Medical Association(JAMA)」に12月8日掲載された。 この研究でScott氏らは、2017年から2024年の間に米国50州にある403カ所の病院で、妊娠35〜43週で生まれた509万6,633人の新生児の医療記録を調べた。その結果、全体の3.92%に当たる19万9,571人がビタミンKの注射を受けていないことが明らかになった。注射を受けていない新生児の割合は、2017年の2.92%から2024年の5.18%へと有意に増加しており、特に新型コロナウイルス感染症パンデミック以降に急増していた。この結果についてScott氏は、「増加自体は驚くことではないが、増加の大きさには驚いた」とNBCニュースに語っている。 新生児のビタミンK体内濃度は非常に低い。米疾病対策センター(CDC)によると、ビタミンKの投与を受けない場合、危険な出血を起こす可能性が80倍以上高くなるという。出血は、生後6カ月までの間にあざや内出血などの形で現れる可能性があり、最も重篤な場合には障害や死亡につながる脳出血が生じることもある。 このことを踏まえてScott氏は、「われわれは、出血リスクのある新生児の集団を作り出しているに等しい。本当に心配なのは脳出血、つまり脳卒中だ。脳出血が起こると、最終的には死に至る可能性がある」と話している。 専門家らは、オンライン上の誤情報やビタミンK注射とワクチンの混同が、こうした傾向の根底にあるのではないかと疑っている。この研究には関与していない米テキサス小児病院の新生児科医であるTiffany McKee-Garrett氏は、「親は、ビタミンK注射をワクチン接種と同等に捉えている」とNBCニュースに語っている。 一部の国では、新生児に経口ビタミンKを投与している。しかし医師らは、経口ビタミンKは信頼性が低く、場合によっては複数回投与する必要があるのに対し、ビタミンKの注射は1回の投与で効果があるとしている。 米NYC Health + Hospitalsの新生児科医であるIvan Hand氏は、「ビタミンK欠乏性出血症は予防可能であり、そもそも発生していること自体が問題だ」と話す。医師らは、現状のようなビタミンK投与が拒否される状態が続けば、出血イベントの発生数が増加する可能性が高いとの見方を示している。Hand氏は、「ビタミンK投与は極めて効果的であるが、人々はそのことを十分に理解していない。重度の出血を起こした乳児を見たことがないため、そのようなことは起こらないと思っているのだ。しかし、それが見られないのは、われわれがそうした乳児の治療をしているからだ」と話している。

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「グーフィス」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第83回

第83回 「グーフィス」の名称の由来は?販売名グーフィス®錠5mg一般名(和名[命名法])エロビキシバット水和物(JAN)効能又は効果慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)用法及び用量通常、成人にはエロビキシバットとして10mgを1日1回食前に経口投与する。なお、症状により適宜増減するが、最高用量は1日15mgとする。警告内容とその理由設定されていない禁忌内容とその理由禁忌(次の患者には投与しないこと)1.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者2.腫瘍、ヘルニア等による腸閉塞が確認されている又は疑われる患者[腸閉塞を悪化させるおそれがある。]※本内容は2026年1月5日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2022年4月改訂(第6版)医薬品インタビューフォーム「グーフィス®錠5mg」

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飛行機や病院の空気中の微生物は皮膚由来の無害な細菌が優勢

 飛行機の中や病院内の空気が気になる潔癖症の人を少し安心させる研究結果が報告された。米ノースウェスタン大学土木・環境工学准教授のErica Hartmann氏らによる研究で、機内や病院内の空気に含まれている微生物は、主に人の皮膚に常在する無害な細菌で構成されていることが明らかになった。この研究結果は、「Microbiome」に12月4日掲載された。 この研究では、使用済みマスクの外側表面と航空機のエアフィルターから微生物を回収し、そこに含まれるDNAを抽出してショットガンメタゲノム解析を行った。解析には、8,039時間使用された後に回収された航空機のエアフィルター1つと、飛行機利用者10人と、勤務後の医療従事者12人から入手した使用済みマスクが用いられた。 Hartmann氏らがこの研究のアイディアを思い付いたのは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下の2022年1月だったという。同氏は、「当時、飛行機内での新型コロナウイルス感染リスクが深刻に懸念されていた。機内のHEPAフィルターは非常に高い効率で空気をろ過するので、空気中のあらゆるものを捕捉する優れた方法であると考えた」と話す。同氏はさらに、「ただし、これらのフィルターは、車や家庭に備え付けられているフィルターとは違う。何千ドルもする上、取り外すには航空機整備のために運休させなければならず、これには当然、莫大な費用がかかる。これは大きな驚きだった」と振り返る。 そこで、研究グループがはるかに安価な代替手段として目をつけたのがマスクであった。さらに、機内だけでなく病院も加えることにした。Hartmann氏は、「われわれは、マスクを、個人がどんな空気にさらされているのか、あるいは周囲の空気がどのような状態なのかを調べるための安価で簡便な空気サンプリング装置として使えることに気が付いた」とニュースリリースの中で述べている。 解析の結果、407種類の微生物種が確認された。飛行機のフィルターでも医療従事者や旅行者のマスクでも共通して高頻度で認められたのは、Cutibacterium acnes、Staphylococcus epidermidis、Staphylococcus hominisなどの皮膚常在菌であった。Hartmann氏は、「ある程度、予想されたことではあったが、検出された細菌の多くは屋内空間の空気に典型的に存在するタイプのものだった。つまり、屋内の空気は『屋内の空気らしい微生物構成』をしており、人の皮膚の常在細菌とよく似ていた」と話している。一方、Sphingomonas hankookensisやMethylobacterium radiotoleransなどの環境由来の細菌も、特にエアフィルターから高い頻度で検出された。さらに、大腸菌や緑膿菌、サルモネラ菌など、病原性を持つ可能性のある細菌もわずかに検出されたが、いずれも極めて低レベルであり、活性や感染の兆候は認められなかった。 このように、屋内の空気は比較的安全であることが示された一方で、感染性の微生物は他の経路、特に接触により広がることを研究グループは指摘している。Hartmann氏は、「今回の研究でわれわれは、空気中に何が含まれているのかだけを調べた。環境表面からの病原体の伝播を防ぐ上では、手指の衛生が依然として有効だ。われわれが関心を持ったのは、たとえ手を洗っていたとしても、人々が空気を通じて何に曝露されているのかという点だった」と話している。

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ワクチン接種率の低下により世界で麻疹患者が急増

 世界保健機関(WHO)は11月28日、麻疹(はしか)排除に向けた世界の進捗状況をまとめた報告書を発表した。それによると、2000年から2024年の間に、世界の麻疹による死亡者数は88%減少し、およそ5800万人の命が救われた。一方で、かつて麻疹排除を目前にした国々で再び感染が広がっている事実も明らかにされた。これは、麻疹ワクチンの定期接種を受けていない小児が増えていることを示唆している。報告書では、「世界的な麻疹排除の達成は、依然として遠い目標だ」と指摘されている。 2024年には、米州を除く全てのWHO地域(アフリカ、南東アジア、欧州、東地中海、西太平洋)の59カ国で麻疹の大規模または深刻な流行(アウトブレイク)が59件発生した。これらのうち、23件(39%)がアフリカ地域、20件(34%)が欧州地域、10件(17%)が東地中海地域、5件が西太平洋地域、1件が南東アジア地域で報告された。麻疹のアウトブレイク数は、2021年には21件、2022年には37件であり、2024年のアウトブレイク数は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの発生以降では最多で、2003年以来2番目に多かった。 WHOは、麻疹ワクチンの定期接種や感染監視体制がパンデミック以降、十分に回復していないことが、これまでの成果を危うくしていると警告している。 米国は2000年に麻疹排除を達成した。これは、「12カ月間以上、伝播を継続した麻疹ウイルス(国内由来、国外由来を問わず)が存在しない状態」と定義されている。しかし、米疾病対策センター(CDC)は今年、1,798件の麻疹確定症例を報告した。これは、排除達成以降で最多である。WHOは現在、米国やカナダをはじめ、かつて麻疹排除を達成したにもかかわらず感染が再燃している国々を注視している。 WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェソス事務局長は、「麻疹ウイルスは、依然として世界で最も感染力の強いウイルスだ。有効で低コストのワクチンがあるにもかかわらず、ウイルスは接種率のすき間を突いて広がる」とCNNに対して語っている。 WHOで予防接種プログラムを統括するDiana Chang Blanc氏によると、2024年に麻疹ウイルスに対する免疫が十分でなかった小児は、世界で3000万人以上に上ったという。2024年の世界全体での麻疹ワクチンの初回接種率は84%であり、ワクチンの効果を95%まで高めるために必要な2回目の接種率は76%でしかなかった。 一方で、前進も見られている。今年、カーボベルデ、セイシェル、モーリシャスがアフリカ地域で初めて麻疹排除を達成した。さらに、太平洋地域の21の島嶼国では、麻疹と風疹の両方の排除を達成した。 Blanc氏は、「麻疹排除に向けて確かな進展があるのは事実だ。それでも、症例数と死亡者数は今なお容認できないほど高水準だ」と話す。同氏は、麻疹による死亡はワクチンの2回接種を受けることで全て予防可能であることを強調する。 WHOによると、接種率低下の背景には、パンデミック中の接種機会の喪失やワクチンに関する誤情報、紛争地域などワクチンを届けることが困難な地域の存在、資金減少が要因だとしている。さらにWHOは、麻疹・風疹実験室ネットワークへの支援縮小など、近年のグローバルヘルス分野における資金削減により免疫ギャップが拡大し、今後さらに大規模なアウトブレイクが発生する可能性があると警告している。

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化学療法中のワクチン接種【かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ】第6回

化学療法中のがん患者は、化学療法の影響や原疾患により免疫力が低下しているため、感染症に罹患しやすく重症化しやすい傾向があります。国内のガイドラインやASCOガイドラインおいても、がん患者の治療やケアにおいて適切なワクチン接種がもたらす良い影響が述べられています。今回は固形がん化学療法中の患者を想定した、5つの主なワクチンの特徴や効果、推奨される接種時期についてお話しします。1)インフルエンザワクチン背景がん患者がインフルエンザに罹患した場合、死亡のリスクが高いことが複数の研究から報告されています。とくに肺がんや血液腫瘍患者はより重症化するリスクが高いことが知られています。インフルエンザワクチンは、A型(H3N2・H1N1)とB型の3株を含む混合ワクチンであり、世界的流行株とWHO推奨株に基づき毎年選定されるため、毎年の接種が推奨されます。健康な人における有効性は70~90%程度とされていますが、流行株との一致度により変動します。予防効果と安全性複数の研究から、血清学的な反応は健康な人と比較して劣る可能性はあるものの、予防医学的な意義は明らかであることがメタアナリシスにより示されています。近年、高用量インフルエンザワクチン(商品名:エフルエルダ筋注)が承認され、米国では65歳以上のがん患者に高用量ワクチン接種が推奨されています。化学療法中のインフルエンザワクチン投与に関してとくに重篤な有害事象が増加するという報告はありません。注意点リツキシマブやオファツムマブ、オビヌツズマブなどの治療後は、少なくとも半年間はワクチン効果が期待できない可能性があります。また、免疫抑制薬を服用中の患者でも効果が低い場合があります。接種時期インフルエンザワクチンは10~12月までの接種が推奨されています。化学療法の開始前(少なくとも2週間前)に接種するのが理想ですが、治療中に流行期を迎える場合は接種時期を調整する必要があります。化学療法中は骨髄抑制の最も低下した時期(nadir)を避けて接種することが望ましいです。2)肺炎球菌ワクチン背景日本の成人市中肺炎では、肺炎球菌が最も頻度の高い起炎菌です。65歳以上や糖尿病・心不全などの基礎疾患を有する場合には、重症感染症を起こしうるため、肺炎球菌ワクチン接種が推奨されています。国内データでは、侵襲性肺炎球菌感染症の死亡率は約19%と高く、患者の約7割は65歳以上です。また、固形がん患者や脾摘患者が肺炎球菌感染症に罹患した場合、非がん患者と比較して死亡のリスクが高いことが報告されています。予防効果と安全性肺炎球菌ワクチンによる抗体価の上昇は、化学療法中であっても健康な人と同等であると報告されています。化学療法中の肺炎球菌ワクチン投与に関してとくに重篤な有害事象が増加するという報告はありません。ワクチンの特徴ポリサッカライドワクチン(ニューモバックス[PPSV23]:定期接種)と結合型ワクチン(キャップバックス[PCV21]、プレベナー20[PCV20]、バクニュバンス[PCV15])の2種類があります。免疫力をつける力(免疫原性)はPCV21/20/15のほうがPPSV23より高いです。日本ワクチン学会・日本感染症学会・日本呼吸器学会では、がん患者へのPCV20の1回接種もしくはPCV15とPPSV23の連続接種を推奨しています。画像を拡大する接種時期肺炎球菌感染症は1年を通して発生するため、季節を問わず接種が可能です。化学療法開始前(少なくとも2週間前)に接種、もしくは化学療法中は骨髄抑制の最も低下した時期(nadir)を避けて接種することが望ましいです。3)帯状疱疹ワクチン背景水痘帯状疱疹ウイルス(ヘルペスウイルス3型)初感染は水痘として発症し、感染後に後根神経節に不活性状態で長期間潜伏します。その後、加齢・疲労・病気などで免疫が弱まるとウイルスが再活性化し、帯状疱疹として発症します。症状は片側に帯状に広がる発疹と刺すような痛みが典型的で、約10%の症例で帯状疱疹後神経痛が発生し、QOLを低下させる原因になります。免疫不全のない患者と比較して、固形がん患者は約5倍、血液がん患者は約10倍帯状疱疹の頻度が高いことが報告されています。画像を拡大する安全性化学療法中の帯状疱疹ワクチン投与に関してとくに重篤な有害事象が増加するという報告はありません。生ワクチンは、免疫低下患者(がん薬物療法中やステロイド使用中)には接種不可です。接種時期化学療法の開始前(少なくとも2週間前)に接種します。化学療法中は骨髄抑制の最も低下した時期(nadir)を避けて接種することが望ましいです。4)新型コロナ(COVID-19)ワクチン背景がん患者はCOVID-19に罹患すると重症化しやすいため、ワクチン接種の利益は大きいです。そのため、基本的には接種を検討すべきとされています。ただし、がんの種類や治療内容、免疫状態により、効果や副反応が異なる可能性があります。治療のタイミングにより接種時期を調整したほうがよい場合もあります。副反応が治療の有害事象と区別しにくい場合があるため注意が必要となります。総じて、患者ごとの状況に応じて主治医と相談して判断することが重要と考えられます。予防効果と安全性ワクチンを接種したがん患者約3万例を対象とした観察研究が報告されており、がん患者であってもCOVID-19ワクチンを2回接種することで感染リスクが低下することが示されています。一方でワクチンの感染リスク低下効果は58%(非がん患者:90%以上)であり、がん患者ではワクチンの効果が減弱する可能性が示唆されています。とくにワクチン接種前6ヵ月以内に化学療法を受けた場合はワクチンの効果が低いことが報告されています。定期的な追加接種が推奨され、感染時は早期の受診と抗ウイルス薬治療が重要となります。接種時期基本的に最新の推奨スケジュールに従った接種が推奨され、明確な最適時期はまだ不明ですが化学療法の開始前に接種して、化学療法中は骨髄抑制の最も低下した時期を避けて接種することが望ましいです。抗CD20抗体(リツキシマブやオビヌツズマブなど)治療後半年以内はワクチンの効果が乏しいことが示されています。注意事項ワクチン接種により、接種側の腋窩・鎖骨上窩・頸部リンパ節の腫大が報告されており、PETでも集積を認めることがあり、転移との鑑別が必要になる場合があります。画像検査の際にはワクチン接種歴と部位の情報を得ておくことが望ましいです。5)RSウイルスワクチン背景高齢者、慢性の基礎疾患(喘息、COPD、心疾患、がんなど)、免疫機能が低下している人は、RSウイルス感染症の重症化リスクが高く、肺炎、入院、死亡などの重篤な転帰につながる可能性があります。また、RSウイルス感染症は、喘息、COPD、心疾患などの基礎疾患の増悪の原因となることもあり、日本では約6万3,000例の入院と約4,500例の院内死亡が推定されています。米国での大規模データ研究では、がん患者がRSウイルス感染症に罹患した場合、非がん患者と比較して死亡のリスクが2倍以上高いことが報告されています。画像を拡大する接種時期化学療法の開始前(少なくとも2週間前)に接種します。化学療法中は骨髄抑制の最も低下した時期(nadir)を避けて接種することが望ましいです。1)Kamboj M, et al. JCO Oncol Pract. 2024;20:889-892. 2)日本癌学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会. 新型コロナウイルス感染症とがん診療について(医療従事者向け)Q&A:2021.3)国立がん研究センター:がん情報サービス4)日本乳癌学会. 乳癌診療ガイドライン2022年版. 金原出版:2022.5)アレックスビー筋注用添付文書6)アブリスボ筋注用添付文書

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Long COVIDの経過は8つのタイプに分かれる

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患後症状、いわゆるlong COVIDは、一般に、新型コロナウイルスへの感染後に、疲労感やブレインフォグ、めまい、動悸などのさまざまな症状が3カ月以上持続する慢性疾患とされている。このほど新たな研究で、long COVIDの経過は、症状の重症度、持続期間、経過(改善傾向か悪化傾向か)により8つのタイプに分類されることが示唆された。米ハーバード大学医学大学院のTanayott Thaweethai氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Communications」に11月17日掲載された。 Thaweethai氏らはこの研究で、RECOVER(Researching COVID to Enhance Recovery)イニシアチブへの参加成人3,659人(女性69%、99.6%は2021年12月以降のオミクロン株流行期に感染)を対象に、感染の3〜15カ月後に評価したlong COVIDの症状スコアに基づき、患者の縦断的経過パターンを解析した。対象者のうち、3,280人は最初の新型コロナウイルス感染から30日以内に試験に登録した急性期患者、残る379人は登録時には未感染であったがその後に感染したクロスオーバー群であった。 感染から3カ月時点で10.3%(374/3,644人)がlong COVIDの基準を満たしており、そのうち約81%が1年後も症状を有していた。解析の結果、long COVIDの経過として、以下の8つの異なるパターンが特定された。1)症状負担が持続的に重度(195人、5%):対象期間を通してlong COVIDの閾値を満たす。2)症状負担が断続的に重度(443人、12%):long COVIDの症状スコアが断続的に閾値を超える。3)改善傾向、症状負担が中等度(379人、10%):long COVIDの症状スコアが経時的に低下。4)改善傾向、症状負担は軽度(334人、9%):感染後3カ月時点の症状スコアが3)よりも低く、6カ月時点ではほぼ0。5)悪化傾向、症状負担は中等度(309人、8%):症状スコアが経時的に上昇。6)症状が遅れて悪化(217人、6%):感染後3〜12カ月の間の症状スコアは低いが、15カ月時点で増加。増加の一因は労作後の不調。7)一貫して症状負担が軽度(481人、13%):全体的に症状の負担は軽度だが、3〜15カ月の間に症状スコアが断続的に上昇する。ただし、いずれも閾値未満。8)一貫して症状負担は最小か無症状(1,301人、36%):一貫して症状スコアの閾値未満。 Thaweethai氏は、「われわれが特定したlong COVIDの経過の違いは、今後の研究において、患者ごとに回復期間が異なる理由の説明となり得るリスク因子やバイオマーカーの評価を可能にするとともに、潜在的な治療ターゲットの特定にも役立つだろう」とニュースリリースの中で述べている。 論文の上席著者である米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のBruce Levy氏は、「この研究は、COVID-19の長期的経過の多様なパターンを定義するという緊急の必要性に応えるものだ。得られた結果は、long COVID罹患者に対する臨床的および公衆衛生的サポートに必要なリソースを判断するのに役立つとともに、long COVIDの生物学的根拠を探る研究にも役立つだろう」と述べている。 なお、米疾病対策センター(CDC)によると、long COVIDの症状として200種類以上が確認されているという。

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避難所の感染対策、集団生活の場をどうマネジメントするか【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第12回

避難所の感染対策、集団生活の場をどうマネジメントするか大地震から1週間が経過しましたが、いまだ多数の住民が避難所生活を余儀なくされています。避難所には高齢者が多く、発熱や下痢を訴える避難者が出ており、地域の医師会を通じて避難所の衛生管理や感染対策を指導するように頼まれました。避難所での感染症対策は、集団生活による「密集・密接」と、限られた栄養状態、衛生環境が大きなリスクになります。高齢者が多い環境では、感染症の頻度は通常よりも高くなることが予想されます。とくに、発熱や嘔吐・下痢の症状を呈する避難者が出た場合は、感染性胃腸炎、インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症などを想定した早期対応が重要です。避難所を管理する医師にとって、感染対策は単に「患者を診る」だけでなく、集団生活の場全体をどう守るかという視点が重要になります。医師が中心となって組織的に対応することで、感染拡大を未然に防ぐことができます。ここでは、現場で意識したいポイントを具体的に解説します。指揮と啓発:医師が空気を作る避難所管理医師は「診療医」と同時に「感染管理責任者」の2つの役割を担います。まずは医師が中心となり、看護師、保健師、避難所スタッフ、ボランティアなどと連携して「感染対策担当班」を設置します。これが感染拡大を未然に防ぐためのチームとなります。手洗い・マスク着用・トイレ使用法・発熱時の行動などを「避難所ルール」として明文化し、掲示や放送で繰り返すことが大切です。避難者は「感染への恐怖」に敏感です。不安がパニックや風評被害につながらないよう、私たち感染対策チームが率先して手洗いやマスクを実践し、避難者に「感染対策の意味」を伝えていく姿勢が求められます。また、現場では物品管理も重要です。薬剤・消毒薬・マスクなどの在庫を確認し、不足が見込まれるときは早めに行政へ要請するのも、感染対策チームの役割です。予防の徹底:環境と食を守る災害時には、しばしば断水になり、手洗いがおろそかになります。水道・石鹸が不足する場合は、アルコール消毒液を要所に配置しましょう。段ボールベッドや仕切りを活用し、避難者同士の距離を可能な限り確保するように心掛けます。可能な場合は、定期的(午前と午後に1回など)に窓やドアを開けて換気を行うことも忘れないようにしたいです。避難所で出される食品の管理にも注意が必要です。調理が必要なものは十分に加熱し、調理者、盛り付けや配膳をする人はできるだけ少人数に限定して、手指衛生と使い捨て手袋の着用を徹底してもらいます。食器類の共用は避け、使い捨てにするのが理想です。また、給水車の水を汲み置きして飲用したり、食材や食器、調理器具の洗浄に使用する場合は、あらかじめ煮沸します。乳児の哺乳瓶は、次亜塩素酸ナトリウム(商品名:ミルトン、ミルクポンなど)もしくは熱湯を用いて消毒し、衛生的な環境で調乳するように指導しましょう。発症者への対応:早期発見と拡大防止発熱・下痢・嘔吐などの症状のある人は、発見次第、速やかに別室や専用区画に移動してもらいます。可能であれば専用トイレも用意しましょう。発症者の症状、接触者、発症時刻を記録し、集団感染が疑われる場合はすぐに保健所へ報告します。同居家族や近くにいた人は、2~3日間の体調観察が必要です。現場で最も注意が必要なのが、嘔吐物・下痢便の処理です。必ずマニュアルを作成し、徹底してもらいます。ケアや清掃に当たる人は、マスク・手袋・ガウンやエプロンなどを着用し、嘔吐物・便は使い捨てペーパーで覆ったうえで、0.1~0.2%次亜塩素酸ナトリウムを用いて処理します。廃棄物は密閉袋に入れて廃棄することが鉄則です。また、鼻水、咳、咽頭痛など比較的限局した上気道症状だけであれば、感染症だけでなく、アレルギーの存在も念頭に置いて診療に当たります。段ボールベッド自体がアレルゲンになる可能性は低いですが、付着していたカビなどが原因となる場合もあります。避難所全体の健康管理日々の管理としては、健康観察シートを活用し、毎日、避難者全員に体温や症状を記録してもらいます。とくに高齢者、乳幼児、基礎疾患がある避難者など、ハイリスク群を重点的にモニタリングしましょう。保健所や医療機関と定期的に連絡を取り、検査や医療搬送も必要なときに速やかに行えるよう準備しておきます。基本的な清潔を保つために、定期的に居住区域やトイレの清掃を行うことは大変重要です。トイレ清掃を行った際は、その都度マスクと手袋は廃棄し、流水と石鹸を用いて手を洗い、その後アルコール消毒剤を使います。最後に、心に留めておきたいことがあります。過去に、飲み水や寝るスペースの確保に難渋している避難所で、隔離や手洗いのことばかりを厳しく指導し、周囲と軋轢を生んでしまった医師がいました。感染対策はときに家族を引き離したり、地域のコミュニティを分断したりする側面もあります。時期や状況によっては、その対策がメンタルを含めた別の健康被害を助長する可能性もあります。頭の片隅に置きながら、「感染対策」と「避難所生活」のバランスを考えることも、医師として大切な姿勢です。まとめ避難所管理医師は「診療医」+「感染管理責任者」の2つの役割を担います。現場では以下の4本柱を軸に行動することが重要です。スタッフや避難者への啓発衛生ルールの徹底発症者の早期隔離健康観察体制の構築これらを守ることで、感染症の芽を早期に摘み、避難所全体の安全を確保することができます。

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AI時代の産業保健と法学をつなぐ―日本産業保健法学会第5回学術大会事務局長レポート【実践!産業医のしごと】

1. 「産業保健」と「法学」の接点を感じられる学会CareNet.comをご覧の医師の方、産業医の経験がある方でも、「産業保健法学の学会」と聞いて、イメージが湧くでしょうか?2025年9月、日本産業保健法学会の第5回学術大会が北里大学白金キャンパスで開かれ、著者の私は事務局長を務めさせていただきました。産業医、保健師、弁護士、社労士など、多職種が一堂に会し、「健康問題と法」を巡る実務の悩みを持ち寄った2日間でした。本学会の特徴は、「法知識をベースに多職種の知恵を借りて問題解決を図る」という趣旨を、実務の視点にまで落とし込んでいることです。具体的な特徴としては、1)各セッションに医学と法律の専門家をそれぞれ1名以上配置する2)各セッションのテーマを「マクロ・ミクロ/未然防止・事後解決」の4象限で整理し、学会全体でカバーするようにプログラムを組み立てるの2点です。産業医の日常業務で感じる「これは医療だけでは解決できない」というモヤモヤを、法学と実務でどう扱うのか、医学と法学の接点を感じられる学会といえます。2. AIを軸にした幅広いシンポジウム今回の大会の統一テーマは「AIと産業保健」でした。AIを1つの軸に据えつつ、AIを用いた労務管理やメンタルヘルス対応、健康情報の取り扱い、ハラスメント、障害者雇用、労災・安全配慮義務など、産業医が現場で直面する幅広いテーマを、法学と実務の視点から取り上げました。AIの話題も単なる未来予測にとどめず、AI活用に当たって、今の制度と何がかみ合っていないのか職場のルールや社内規程をどう書き換えるべきか産業医が面談や判定の場で、どこまでAIを活用でき、どこから人間の判断にすべきかといった、明日からの実務に持ち帰れる論点に落とし込めるよう、各セッションの先生方が努力してくれました。具体的には、下記のようなシンポジウムが開催されました。1)デジタルヘルスが産業保健にもたらすパラダイムシフトと法AIやDXが産業保健に与える変化を、単一視点では捉えきれない複合現象として整理し、法的含意も含め多面的に検討。2)生成AIは私たちの認知にどのようなインパクトを与えるか(法政策への示唆)AI時代の「認知のアップデート」を軸に、産業保健・法学・人類学の視点で対話し、人とAIが共に働く未来の視座を高める3)職場における新型コロナワクチン接種と被害者救済職域接種の社会的役割とともに、接種後健康被害救済・ハラスメント・労災認定等の法的課題を含めた「事実」を多角的に検証し、次のパンデミックへの教訓を議論。4)データ活用による健康経営推進と法的課題データ活用の期待と、個人情報保護等の法的・倫理的制約の実務ジレンマ(許容範囲が不明確)を問題意識として整理し、線引きを検討。参加者の感想を見ても、「AIというテーマから産業保健と法の『線引きの難しい領域』を正面から議論していた」「産業医として、どこまで責任を負うべきかを考えさせられた」といった声が多く、実務に沿った理解と課題解決といった目的を果たせたのではと感じています。3. 事務局の“裏側”レポートここからは少し学会運営に当たっての“裏側”の話です。これまでは学会に参加する側として、プログラムや会場運営が「当たり前に」回っているように見えていました。しかし運営側、とくに事務局の立場になって初めて、登壇者の調整、予算と採算の管理(各大会で独立採算)、後援・協賛・広報などの重要性を痛感しました。学会の肝となる登壇者の調整では、各セッションに医系と法学系の統括者が必ず登壇する「縛り」のほか、「テーマに人を当てる(=知り合いを呼ぶ)のではなく、テーマに合う人を探す」という原則を徹底するようにしました。結果として、候補者リストとにらめっこしながら「この先生はテーマの分野の法的論点をどこまで話してもらえるか」「この弁護士の方は労災問題に詳しいが、産業医向けの話にしてもらえるか」といった相談を重ねました。広報もまた地味ながら重要な仕事でした。学会のニュースレターやウェブサイトに加え、関連学会のバナー、社労士会や産業保健総合支援センターなどの後援団体にメーリングリストでの案内を依頼しました。申し込み人数の推移は常に気になります。学会は独立採算制ですから、参加者数はそのまま大会の収支に跳ね返ります。締め切りまでパソコンの前で、「今日は何人増えた」「この広報が効いたかもしれない」と一喜一憂しました。最終的に多くの先生方にご参加いただき、胸をなで下ろしました。4. 産業医へのメッセージ─線引きの難しい領域こそ一緒に考える場に大会を通じて、あらためて感じたのは、「産業保健と法学は、問題がこじれたときだけ出会うものではない」ということです。むしろ、業務起因性をどこまで見るか企業として復職・配置転換をどう判断するか健康情報をどう守りつつ、産業保健を最大化するかといった、産業医が日々悩んでいる「線引きの難しい領域」こそが、法学者や弁護士と一緒に考えるべき領域なのだと思います。産業保健法学会のセッションでは、「訴訟になったらどうなるか」だけでなく、「訴訟になる前に、どのような制度や運用を整えればよいか」「社内規程や合意形成をどう設計するか」といった、“予防としての法”の視点が繰り返し提示されました。これは、現場で奮闘する産業医にとって、大きな支えになるはずです。第5回大会の運営を担当した1人として、産業医の先生方には「困ったときの課題を解決する場」に加え、「迷っているテーマを一緒に言語化していく場」として、この学会を活用していただきたいと願っています。AIをはじめ、新しいリスクが次々と現れるこれからの時代、医療・法・実務が交差するこのプラットフォームが、働く人の健康を守る一助になればと願っています。

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認知症発症リスク、亜鉛欠乏で30%増

 亜鉛欠乏が神経の炎症やシナプス機能障害をもたらすことで認知機能低下の可能性が指摘されているが、実際に亜鉛欠乏と認知症の発症を関連付ける疫学的エビデンスは限られている。今回、台湾・Chi Mei Medical CenterのSheng-Han Huang氏らが、亜鉛欠乏が新規発症認知症の独立した修正可能なリスク因子であり、明確な用量反応関係が認められることを明らかにした。Frontiers in Nutrition誌2025年11月4日号掲載の報告。 研究者らは、亜鉛欠乏と認知症の新規発症リスクの関連を調査するため、TriNetXの研究ネットワークを用いて、2010年1月~2023年12月に血清亜鉛の検査を受けた50歳以上を対象とした後ろ向きコホート研究を実施。対象者を亜鉛濃度(欠乏症:70μg/dL未満、正常値:70~120μg/dL)で層別化し、認知機能障害の既往がある者、亜鉛代謝に影響を与える疾患を有する患者を除外後、人口統計学的特性、併存疾患、薬剤、臨床検査値に基づき1対1の傾向スコアマッチングを行った。主要評価項目は3年以内の新規認知症の発症とした。また、追加評価項目として認知機能障害を、本研究の解析アプローチ検証のための陽性対照評価項目として肺炎を含めた。*原著論文では亜鉛濃度をμg/mLで表記しているが、診療指針等を考慮し本文ではμg/dLに修正。 主な結果は以下のとおり。・傾向スコアマッチング後、各群に3万4,249例が含まれた。・亜鉛欠乏は、認知症発症リスクを34%上昇させる(調整ハザード比[HR]:1.34、95%信頼区間[CI]:1.17~1.53、p<0.001)、肺炎発症リスクを72%上昇させる(調整HR:1.72、95%CI:1.63~1.81、p<0.001)ことと関連していた。・認知機能障害は、全期間を対象とした解析では有意な関連を示さなかった(調整HR:1.08、95%CI:0.92~1.28、p=0.339)が、新型コロナウイルス感染症パンデミック前の期間(2010~19年)の解析では、調整HRが1.38(95%CI:1.11~1.72、p=0.004)と有意な関連を示した。・軽度から中等度の亜鉛欠乏(50~70μg/dL)と重度の亜鉛欠乏(50μg/dL未満)をそれぞれ正常亜鉛レベルでの認知症新規発症リスクと比較した場合、軽度から中等度の亜鉛欠乏の調整HRは1.26(95%CI:1.10~1.46)、重度の亜鉛欠乏では調整HRは1.71(95%CI:1.36~2.16)と用量反応関係が明らかであった。 これらの知見より研究者らは、「認知症予防戦略において血清亜鉛の状態を評価し、最適化することの重要性を支持する。因果関係を明らかにし、最適な介入プロトコルを決定するためにランダム化比較試験の実施が期待される」としている。

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