サイト内検索

検索結果 合計:2953件 表示位置:1 - 20

1.

今年も「ワクチン虎の穴セミナー」を開催/プライマリ・ケア連合学会

 日本では、今年も麻しん流行や肺炎球菌ワクチンのPCV20への変更など、感染症やワクチンに関係する話題が多い。また、海外ではハンタウイルス、エボラ出血熱などの再興感染症の流行も危惧されている。 こうした環境の中、「こどもとおとなのワクチンサイト」を運営する日本プライマリ・ケア連合学会 感染症委員会 ワクチンチームは、10月に医師・医療従事者向けに「ワクチン虎の穴セミナー」を開催する。 本セミナーは、ワクチンの基本から応用、新しいワクチンのアップデート、渡航ワクチンに至るまで、盛りだくさんの内容を専門医などが講義するもので、初学者からアドバンスドな実践者までが学べる機会となる。 開催の概要は以下のとおり。【2026年(第9回)ワクチン虎の穴セミナー】■日時:10月11日(日) 13:00~18:00(終了後懇親会あり)10月12日(月・祝) 8:45~13:00■会場:アットビジネスセンター東京八重洲通りまたはオンラインのハイブリッド開催 ※参加日数は選択制であり、たとえば1日目はオンライン、2日目は会場参加も可能■対象:医師、医学生、メディカルスタッフ(看護師・薬剤師など)■主な内容(講義時間割は下記のサイトを参照): 日々の外来で遭遇する事例を交え、基本的な考え方から最新情報までを深掘り。明日からすぐに使えるエビデンスを網羅する。【先行動画】ワクチンの基本など・ワクチンの基本(種類、スケジュール、副反応など)・小児ワクチンのUpdate、医療従事者・免疫不全者のワクチン・抗体価の考え方、ワクチンコミュニケーション【1日目】外来で「よくある疑問」を徹底解説・肺炎球菌ワクチン、20価と21価どちらを勧める?・RSVワクチン、誰に打つのが正解?・帯状疱疹の罹患歴がある人にも、ワクチンは勧めるべき?・来年度定期接種予定の高用量インフルエンザワクチンの特徴は?【2日目】体験型ワークショップ(現地参加推奨)・外来でのワクチン推奨シミュレーション・痛みの少ないワクチン接種ワークショップ・ワクチン接種を躊躇する患者の対応、ロールプレイ【オプション】要申込:渡航ワクチン動画 2025年度ver.のアーカイブ配信・渡航医学と渡航ワクチンの総論・各論・渡航地別ワクチンスケジュール作成・旅行保険、基礎疾患をもつ患者の注意ポイントなど■参加費:1日参加・2日間通し参加、現地/オンライン参加、ともに同料金。【医師(研修医を除く)】A 現地参加/オンライン参加(参加日数は問わない) 参加費 会員:8,000円/非会員:1万円/懇親会費:2,000円B アーカイブ視聴のみ(募集開始は2026年11月以降)参加費 会員:7,000円/非会員:9,000円【学生・研修医・医師以外】参加形態によらず一律参加費 会員・非会員:5,000円(特別価格)/懇親会費:2,000円【オプション(希望者のみ)】渡航ワクチン2025年度講義動画のアーカイブ視聴参加費 2,000円■定員(1)現地参加者:両日ともに48名(2)リモート参加者:定員なし■申込方法 下記フォームよりお申し込みください。・現地参加者の交通費・宿泊費は各自で手配・負担。・注)【いずれか1日のみ現地参加希望】の場合は【現地参加を希望の方】のフォームからお申し込みください。・現地参加者の応募者が多数の場合、現地参加からリモート参加への変更をお願いする場合がありますので、あらかじめご了承ください。◆現地参加を希望の方◆リモート参加を希望の方◆アーカイブ視聴を希望の方 セミナー開催後(2026年11月〜)に改めて参加者を募集する予定 (詳しくは下記のワクチンサイトを参照のこと)【詳細はこちら】 こどもとおとなのワクチンサイト 日本プライマリ・ケア連合学会【セミナーに関するお問い合わせ】office@primary-care.or.jp(日本プライマリ・ケア連合学会 学会本部)

2.

第334回 京大病院、高知大病院などで相次いだ手術部位の誤認事故、執刀医の「確証バイアス」をどう防ぐかも課題に

第2次高市改造内閣が発足、厚生労働大臣は上野賢一郎氏続投こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。高市 早苗首相は、9月17日に内閣改造を実施、第2次高市改造内閣が発足しました。厚生労働大臣は上野 賢一郎氏が続投となりました。高市首相が各閣僚に出した指示書の全文が明らかになっており、厚労大臣への指示には、すべての世代で能力に応じて負担し支え合う「全世代型社会保障」の構築、データに基づく医療行政のメリハリ強化、「攻めの予防医療」などが挙げられています。当面の重要課題は70歳以上の医療費の窓口負担引き上げということになります。医療関係者が注目していた古川 俊治参議院議員の初入閣は、厚労大臣ではなくデジタル大臣になりました。医師であり弁護士でもある古川氏は、医療政策に精通、自民党の新型コロナウイルスワクチン対策プロジェクトチームの座長を務めたこともあります。高市首相の指示書には「国・自治体のAX・DX基盤の高度化・強靱化」が挙げられており、前任の松本 尚氏に続き、医師が日本のデジタル政策を引っ張ることになります。さて今回は、最近の医療事故報道で気になっていることを書いてみます。それは外科手術において、臓器、器官、手術部位の取り違えの事故が増えているのではないか、ということです。さすがに今の時代、患者取り違えの重大事故はほとんど起こっていないようですが、病変でない部位やまったく違う臓器を間違って切除する事故の報告が相次いでいます。いったいどんな理由、経緯で起きたのでしょうか。脳腫瘍手術で「腫瘍ではない可能性がある」との診断にもかかわらず誤って正常な部位を摘出京都大学医学部附属病院(京都市)は8月7日、脳腫瘍の手術中、誤って正常な部位を摘出する医療事故が起きたと発表しました。患者の50代女性は術前には通常の生活を送っていましたが、術後は自発呼吸ができず、手足が動かない状態とのことです。8月8日付の読売新聞等の報道によれば、女性は小脳や脳幹の周囲に良性の腫瘍が見つかり、放置するとリスクが高まるとの判断から、摘出手術をすることになりました。手術は今年7月末に実施され、術中に組織の一部を採取し顕微鏡検査による病理診断をした際、「腫瘍ではない可能性がある」という診断でしたが、執刀医である脳神経外科所属の40代男性医師は自らの経験などから「腫瘍の端を採取した」と判断、その部位の摘出手術を続行しました。手術後、女性の意識と呼吸が回復せずMRI検査を実施したところ、腫瘍は残っている一方、脳幹の損傷が判明、誤った部位を摘出したことがわかったそうです。同紙報道によれば、7日の記者会見で高折 晃史病院長は「心よりおわび申し上げる。患者の治療に最善を尽くす」と陳謝、脳神経外科の荒川芳輝科長は「執刀医の判断ミスや思い込みがあったのではないかと思う」と述べたとのことです。京大病院は今後、外部の有識者による事故調査委員会を設置して原因究明を進めるそうです。横行結腸人工肛門造設術で誤って胃を切離同様の事故は高知大学医学部附属病院(高知県南国市)でも起こっています。高知大学病院は8月31日、横行結腸手術で、誤って胃を切離するという医療事故が発生したと発表しました。患者は 80代の女性で、腹腔鏡下横行結腸人工肛門造設術において、本来人工肛門を造設する予定であった横行結腸ではなく、誤って胃を持ち上げ切離してしまったとのことです。術中に誤りに気づき、直ちに開腹手術に移行し、 切離した胃は速やかに再吻合した後、当初の目的であった横行結腸人工肛門造設術を完了したとしています。同病院は事故後の報告を受けて医療問題調査委員会を開催し事故原因等の調査を行いました。その結果、今回の事故は、術中の臓器確認の不徹底、術者・助手が抱いた違和感の確認不足、そして手術チーム内でのコミュニケーション不足が複合的に重なったことによるものであると結論づけました。そして再発防止策として、1)人工肛門造設術における臓器確認手順をより詳細に定め、結腸の解剖学的特徴の確認やマーキングの徹底、腹腔鏡下での複数回確認など、多重のチェック体制を導入すること、2)手術や治療において違和感があった場合には、その違和感の解決を最優先にし、解決できるまで先に進まないことを徹底すること、3)医療スタッフが遠慮なく意見を言い合える心理的安全性の高いチームづくりを進めること──の3点を挙げました。左脚の大腿骨頸部骨折なのに右脚に人工骨頭を挿入愛知県では左右の脚を間違える事故も起こっています。一宮市立市民病院は8月26日、左脚の大腿骨頸部を骨折した80代女性に対し、手術で誤って右脚の大腿骨頸部に人工骨頭を挿入する医療事故があったと発表しました。同病院は女性に損害賠償金として550万円を支払うことで和解に合意したとのことです。8月27日付の中日新聞等の報道によれば、女性は2024年12月、転倒によるけがで受診し、左大腿骨頸部骨折と診断され、人工骨頭を入れる手術を受けることになりました。しかし、入院後に担当となった整形外科医は手術承諾書に誤って「右大腿骨頸部骨折」と記入し、骨折していない右大腿骨を手術してしまいました。術後のX線撮影で左右の誤りに気づき、後日骨折した左大腿骨の手術を行いました。女性はリハビリで歩行器を使えば歩けるレベルに回復したとのことです。同病院は、手術前に複数人で手術承諾書を確認したが間違いに気付けなかった点を問題視、再発防止策として今後は手術前に複数人で電子カルテと手術部位の照らし合わせを徹底するとしています。執刀医が「腫瘍の端の組織を採ったため腫瘍が含まれていなかった」と考えた理由とは?以上、いずれも8月に公になった医療事故ですが、どの手術も複数の確認機会をすり抜けて手術部位の誤認にまで至ったことに驚きます。1999年1月に横浜市立大学医学部附属病院で発生した患者取り違え事故(心臓手術予定の患者と肺がん手術予定の患者を取り違えて手術を行い、手術が終わるまで誰も取り違えに気づかなかった事故)以降、医療機関での患者確認の徹底が進み、今では手術における患者取り違えはほぼ起こっていません。その一方、臓器や病変、器官の取り違えがなぜ今でも頻繁に起こっているのでしょうか?京大病院の事故については、8月22日付のデイリー新潮が「〈京大病院で医療ミス〉ベテラン執刀医が失敗した原因は…」と題する記事を配信、事故が起こった背景を詳しく報じています。同記事によれば、女性患者の疾患は小脳や脳幹に隣接する小脳橋角部にある3cmほどの良性腫瘍だったそうです。同記事にコメントを寄せた脳神経外科医は、「小脳橋角部は脳の中でもアプローチが難しい領域の1つです。さらに、今回の手術は患者さんが横向きの姿勢だったため、術前に撮影した画像データと実際の手術部位を照らし合わせるナビゲーションシステムの精度が十分でなく、“腫瘍への道筋”は執刀医の経験が優先される状況だったとみられます」と話すとともに、病理診断で腫瘍ではないとの結果が出たにもかかわらず、執刀医が「腫瘍の端の組織を採ったため腫瘍が含まれていなかった」などと考えた理由について、「この誤認は“確証バイアス”と呼ばれます。自分の思い込みが正しいと証明するため、反対の情報を無視してしまう脳のクセです」と語っています。確証バイアスによって突き進む執刀医が1人いたとしても、それを押し止める医師や医療スタッフがいれば…確証バイアス(confirmation bias)とは、認知心理学などの分野で使われる用語で、自分の信念や仮説を裏付ける情報ばかりを集め、それに反する情報を無意識に無視または軽視してしまう認知の偏りのことです。意思決定や評価の場面で非合理的な判断を引き起こすため、医療事故においても医師の確証バイアスが原因となるケースは少なくないと言われています。それにしても、確証バイアスによって突き進む執刀医が1人いたとしても、それを押しとどめる医師や医療スタッフが現場にいなかった、というのも不思議です。高知大のケースでも「医療スタッフが遠慮なく意見を言い合える心理的安全性の高いチームづくりを進めること」を再発防止策に挙げているのも、こうした確証バイアス対策と言えるかもしれません。もっとも、先述のデイリー新潮の記事は、京大病院の関係者の「会見で診療科長が口にした“判断ミスや思い込み”はつまり、経験からくる慢心です。手術の過程で違和感を覚えたスタッフもいたと思われます。ですがチームでもっとも場数を踏んでいる執刀医の判断を覆すのは難しい。それが現実です」というコメントを紹介しており、実際の手術で執刀医に意見することの困難さがうかがえます。今後、日本の医療現場で「遠慮なく意見を言い合える心理的安全性の高いチーム」が普及・定着していかない限り、臓器、器官、手術部位の取り違え事故はいつまで経っても減っていかないでしょう。

3.

香り付きの清掃製品が室内空気汚染の原因に?

 掃除したばかりの部屋に漂う柑橘系や松、花の香りには、予想外のものが伴っている可能性がある。それは、目に見えない空気汚染である。新たな研究で、一般的な香り付きの製品か植物由来成分の製品かにかかわらず、清掃製品から放出される香料成分が室内の空気中のオゾンと反応してナノ粒子を形成することが示された。この粒子を吸い込むと、肺の奥深くまで到達する可能性があるという。米パデュー大学土木・建設工学分野のBrandon Boor氏らによるこの研究は、米国化学会主催の秋季国際会議(ACS Fall 2026、8月23~27日、米シカゴ)で発表された。研究グループは、曝露を減らすため、無香料の製品を選ぶことや使用中に換気扇を使うこと、洗浄中はオゾン発生装置を使用しないことを推奨している。 Boor氏らは、新型コロナウイルス感染症のパンデミック中に、洗浄剤や化学消毒剤が室内環境に与える影響について研究を始めた。研究を進める中で、同氏らはこれらの製品の多くに強い香料が含まれていることに気付いた。Boor氏は、「香料を入れる目的は多くの場合、室内を心地良い香りの空間にするためだ。しかし、きれいな空気は強い柑橘系の香りなどしない。実際には、何もにおいがしないはずだ」と述べる。 過去の研究では、松の木から放出されるピネンなどの植物由来のテルペン類がオゾンと反応して大気中のナノ粒子を生成することが明らかにされている。これらのナノ粒子は凝集し、最終的には雲の種となるほど大きくなる。しかし、森林ではテルペン類の濃度が比較的低いため、粒子形成はゆっくりと進行するという。 一方、室内で香り付きの製品を使用すると、香料成分が環境表面や噴霧された液滴から蒸発する際にテルペン類が放出される。洗浄液に含まれていることが多いテルペン類は、ピネン、リモネン(レモンなどの柑橘類に含まれる香気成分)、チモール(タイムに含まれる香気成分)、リナロール(ラベンダーなどに含まれる香気成分)などで、その濃度は自然界に存在する濃度よりもはるかに高いとされている。その結果、清掃中に空気中のテルペン類濃度は、森林での濃度の数十倍から数百倍にも達する可能性があるとBoor氏は指摘する。 日常的な清掃の過程で何が起きるのかを調べるため、研究グループは、キッチンや浴室などを備えた小さなモデルハウスで、従来の香り付きの液体製品と植物由来成分を含む消毒スプレーやウェットティッシュを使い、空気中の揮発性有機化合物とナノ粒子の粒径分布をリアルタイムで測定した。 その結果、環境表面の洗浄や消毒を行うと、テルペン類およびテルペノイド類の混合比は10~1,000 ppbまで急上昇し、しばしば屋外の森林環境で観測されるレベルを上回った。これらの化合物は、特にオゾンなどの室内酸化剤と反応し、ナノ粒子の核生成と成長を引き起こした。その核生成速度は1 cm3当たり毎秒約10万個、凝縮成長速度は1時間当たり最大300 nmで、屋外で一般的に観測される値を大幅に上回った。その結果、室内ナノ粒子数濃度は、一時的に1 cm3当たり10万~1億個に達した。さらに、これらのナノ粒子は、急速に成長することで呼吸器系のさまざまな部位に効率よく沈着する大きさに達し、その結果、単位時間当たりの吸入量は、自動車からの排出ガスなどの一次燃焼源による曝露と同程度かそれを上回った。 Boor氏は、「重要なのは、清掃によって環境表面からウイルスや細菌を除去できる一方、目に見えない空気汚染が生じる可能性があるという点だ。空気中に目に見えるほこりや煙はなくとも、こうした粒子は形成されている」と述べている。研究グループは、ナノサイズの粒子は、呼吸器への刺激や炎症の一因となったり、血流に入り込んだりする可能性があると警告している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

4.

第77回 「もう打たなくていい」は本当か?最新155本の研究が示すコロナワクチンの効果と安全性

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンは、今も打つ意味があるのでしょうか。JAMA誌に発表された最新の系統的レビュー論文は、2025年8月以降に公表された155本の研究を総ざらいし、ワクチンが高齢者・妊婦・乳幼児・持病のある人で入院リスクをおおむね半分に減らし続けていること、そして新たな安全性の懸念は見つからなかったことを報告しました1)。いまも「風邪」で終わらない病気新型コロナは、すでに「ただの風邪」になったと感じている方も多いかもしれません。しかし、米国の2024~25年シーズンだけで、推定1,040万~1,670万例が感染し、29万~45万例が入院、3万4千~5万3千例が亡くなったと報告されています。入院率が最も高いのは75歳以上で、次いで生後6ヵ月未満の赤ちゃんです。そしてコロナ関連死の88.4%は65歳以上に集中しています。つまり「重症化しやすい人」がはっきりしている病気なのです。今回のレビューは、米国の研究チームが2025年8月~2026年6月末に発表された論文1万1,829本から、質の基準を満たした155本を選び、最新の流行に合わせて更新されたワクチンの効果と安全性をまとめたものです。入院リスクは「およそ半分」結果をそれぞれ数字で見てみましょう。ワクチンの有効率(VE)とは、「接種した人が、しなかった人と比べて発症などのリスクをどれだけ減らせたか」を示す割合です。65歳以上の高齢者:2025~26年シーズンのワクチンで、コロナ関連の入院リスクが53.0%低下。集中治療室(ICU)入室に対しては57.0%、人工呼吸や院内死亡に対しては73.0%の減少が報告されています。18〜64歳の成人:入院リスクが54.0%低下(2024~25年シーズン)。妊娠中の接種:妊婦本人の救急外来受診が58.0%減少。さらに生まれてきた赤ちゃんの生後2ヵ月間のコロナ関連の受診も50〜54%減りました。妊娠のどの時期に打っても効果がみられています。生後9ヵ月~4歳の乳幼児:救急外来受診が76.0%減少。免疫能が低下している人(透析患者など):ICU入室や死亡といった重篤な結果が32~53%減少。医療従事者:3~5回接種した人は2回だけの人に比べ、検査で確認された感染が41.0%、いわゆる「コロナ後遺症」も57.0%少なくなっていました。注意すべきは、これらは「感染そのものをゼロにする」数字ではないことです。ワクチンの主な役割は、たとえ感染しても入院や死亡といった深刻な事態を避けることにあり、その効果は「おおむね半分に減らす」と覚えておくとよいでしょう。安全性はどうだったかワクチンの話題になると必ず出てくるのが副反応の懸念です。今回のレビューでは、心筋炎・心膜炎、心筋梗塞、ギラン・バレー症候群、脳卒中、血栓症といった「特に注目すべき有害事象」について、150万例を超える米国退役軍人のデータを含む複数の大規模研究を検証しました。結論は「新たな安全性の懸念は見つからなかった」というものです。心筋炎については、若い男性で2回目接種後にリスクが上がるという報告が以前からあり、米国では2022年2月に接種間隔を延ばす指針の変更が行われています。今回のレビューで心筋炎リスクの上昇を報告した研究は、いずれもこの変更前に接種した人を対象としたもので、変更後に限って調べた研究では新たなリスク上昇は報告されていません。妊婦では、死産、早産、低出生体重児のいずれも増加はみられず、むしろ早産はわずかに少ないという結果でした。インフルエンザワクチンとの同時接種でもリスク上昇は確認されていません。もちろん限界もあります。多くが観察研究であり、接種する人としない人の背景の違いを完全には取り除けません。また、これは米国のデータであり、接種状況や流行が異なる日本にそのまま当てはまるとは限りません。それでも、私たちが知っておきたいのは以下の点です。コロナは今も高齢者や乳幼児にとって重い病気であり、更新されたワクチンは重症化リスクをおおむね半分に減らし、その安全性は膨大なデータで裏付けられ続けている、ということです。とくに65歳以上の方、妊娠中の方、持病で免疫が下がっている方は、秋の流行シーズン前にかかりつけ医と接種について相談する価値があるでしょう。1)Lipson RA, et al. COVID-19 vaccine effectiveness and safety for the 2026-2027 respiratory season. JAMA. 2026 Sep 2. [Epub ahead of print]2)Wiegand RE, et al. Interim estimated effectiveness of 2025-2026 COVID-19 vaccines in adults using a test-negative design. JAMA Netw Open. 2026;9:e2625152.3)Ma KC, et al. Estimated effectiveness of 2024-2025 COVID-19 vaccination against severe COVID-19. JAMA Netw Open. 2026;9:e2557415.4)Eide HN, et al. COVID-19 mRNA vaccination in pregnancy and risk of infection in early childhood. Pediatrics. 2026;157:e2025073661.5)Irving SA, et al. Effectiveness of 2024-2025 COVID-19 vaccines in children in the United States-VISION, August 29, 2024-September 2, 2025. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2025;74:607-614.

5.

同種iPS細胞由来の心筋細胞と間質細胞から成るパッチ型心筋移植片BioVATは心不全治療に有望かも(解説:原田和昌氏)

 BioVATは同種iPS細胞由来の心筋細胞と間質細胞から成るパッチ型心筋移植片で、LVEFが低下した心不全患者における心筋再筋肉化を目的とする。ドイツ・ゲッチンゲン大学のZimmermann氏らはBioVAT-HF研究において、ドイツの2施設で非盲検第I/II相研究を実施し、外科的なBioVAT移植が3ヵ月の時点で有意な標的壁厚の増加とLVEFの上昇、健康状態の改善をもたらしたと報告した。 対象はLVEF 35%以下の症候性の重症心不全で、少なくとも1つの左室セグメントに壁運動の低下または異常を認め、ガイドラインに基づく薬物療法に抵抗性である年齢18~80歳の患者であった。被験者は、5、10、20単位の人工心筋から成るBioVAT移植片による治療を受け、全例に免疫抑制療法を行った。26例(平均年齢59歳、男性23例、平均罹患期間4.6年)を登録し、20例がBioVAT移植による治療を受けた。 全患者で有害事象が発現し、196件の有害事象のうち57件が重篤な有害事象であった。3例(5件)で心室性頻拍を認めたが、BioVAT移植と関連がない可能性が高かった。また、心室細動が発生した患者はいなかった。研究期間中に3例が死亡し(血管麻痺を伴うSIRS、新型コロナウイルス感染症、大動脈解離)、BioVAT移植と関連がないと判定された。また、1例が心臓移植を受けた。4例で免疫抑制療法が中止された。中止理由は、植込み型左室補助人工心臓(LVAD)の装着が2例、腎不全が1例、尿路上皮がんが1例であった。BioVATの安全な最大用量による治療を受けた16例のうち、12例が事前に規定された中間解析のための3ヵ月間の追跡調査を完了した。3つの有効性の主要エンドポイントは3ヵ月の時点でいずれも有意に改善した。標的壁厚の最小二乗平均の値は4.5mm(90%信頼区間:3.7~5.4、p<0.001)増加し、LVEFは3.9%ポイント(0.9~6.8、p=0.04)上昇した。また、KCCQ-OSSは6.7点(1.0~12.5、p=0.06)上昇した。 心筋再生医療において、自己の骨格筋芽細胞シートを用いた「ハートシート」は10年を経て有効性の基準を満たさず販売中止となった。しかし、同種iPS細胞由来の心筋細胞をシート状に加工した心筋細胞シート「リハート」が最近、条件および期限付き製造販売承認を取得した。これには短期間の免疫抑制療法を併用する。一方、同種iPS細胞由来の心筋細胞を球状の微小組織にした心筋球を移植する「ハートシード」(免疫抑制療法の併用が必要)を用いた第I/II相試験であるLAPiS試験の結果がESC2026で発表された。BioVATは同種iPS細胞由来の心筋細胞と間質細胞から成るパッチ型心筋移植片(オルガノイド)を用いたという新味はあるものの、小規模な単群試験であり有効性もサロゲートエンドポイントであることから、本試験にて効果の持続性や長期的安全性を判断することは難しい。

6.

第310回 インフル異例の早期流行 新型コロナも増加、同時流行に注意/厚労省

<先週の動き> 1.インフル異例の早期流行 新型コロナも増加、同時流行に注意/厚労省 2.OTC類似薬77成分に25%の特別負担 がん・難病患者への配慮を/患者団体 3.医療費5年連続最高、49.2兆円に 75歳以上が4割、介護費も12兆円に/厚労省 4.来年度の概算要求、過去最大36兆5,803億円 医療DXに約930億円/厚労省 5.医療DX工程表を提示 28年度に200床以上病院の電子カルテほぼ100%へ/厚労省 6.「9月の給与払えない」公立病院の資金繰り危機が表面化/日野市 1.インフル異例の早期流行 新型コロナも増加、同時流行に注意/厚労省厚生労働省は8月28日、インフルエンザが全国的な流行シーズンに入ったと発表した。8月17~23日の第34週に全国約3,000ヵ所の定点医療機関から報告された患者数は4,094人、定点当たり1.11人となり、流行開始の目安である1.00人を上回った。感染症法施行後の1999年以降では、前年から流行が継続していた2023年を除き、2009年に次いで2番目に早い流行入りで、昨年の第39週より5週早い。全国の定点当たり報告数は第30週0.24人、第31週0.37人、第32週0.52人、第33週0.69人、第34週1.11人と、7月下旬以降増加が加速している。都道府県別では沖縄県4.43人が最多で、岩手県2.10人、青森県2.08人、神奈川県1.99人、埼玉県1.83人、千葉県1.80人などで高かった。東京都は1.49人で、患者の5割弱を10歳未満、8割弱を20歳未満が占めており、夏休み明けの学校・家庭内での感染拡大が懸念される。その一方で、愛知県は0.74人と現時点では流行開始目安を下回っている。厚労省の資料によると、第34週には全国約500ヵ所の基幹定点からインフルエンザによる入院患者167人が報告され、うちICU入室9人、人工呼吸器使用5人だった。高齢者や基礎疾患のある人では重症化リスクが高く、医療機関受診時や高齢者施設訪問時などにはマスク着用が推奨される。手洗い、咳エチケットなど基本的感染対策も重要となる。インフルエンザワクチンには発症抑制および重症化予防の効果があり、とくに高齢者や基礎疾患保有者への接種が重要とされる。定期接種の対象は(1)65歳以上の高齢者、(2)60~64歳で心臓・腎臓・呼吸器の機能障害やHIVによる免疫機能障害など(日常生活が極度に制限される障害)を有する者であり、新型コロナワクチンとの同日接種も可能である。 専門家は10月以降の速やかなワクチン接種を推奨している。また、新型コロナも同週に定点当たり1.18人と前週(1.12人)から増加傾向にあり、医療機関においては例年より早いインフルエンザ対応と重複流行への備えが求められる。 参考 1) インフルエンザの発生状況をお知らせいたします(厚労省) 2) インフルエンザ、全国で流行入り 2009年に次ぎ2番目の早さ(産経新聞) 3) インフルエンザが流行入り、1999年以降で2番目に早く・沖縄が最多…専門家「ワクチンを受けにいって」(読売新聞) 4) 昨年より5週早く、インフル流行開始目安到達東京都(CB news) 2.OTC類似薬77成分に25%の特別負担 がん・難病患者への配慮を/患者団体2027年3月から、OTC医薬品と同一成分などの医療用医薬品「OTC類似薬」について、患者に薬剤費の25%を特別料金として求める一部保険外療養制度が始まる。対象は2026年8月時点で77成分1,042品目(解熱鎮痛薬ロキソプロフェン、抗アレルギー薬フェキソフェナジン、保湿剤ヘパリン類似物質など)。残る75%部分には従来通り保険給付と自己負担が適用される。中間とりまとめでは、がん患者、指定難病患者、公費負担医療の対象者、入院患者、一定の長期使用などは条件付きで特別負担の対象外とする方針。ただし、がん治療終了後の短期・中期使用は扱いが曖昧で、患者団体から見直しを求める声が出ている。全国がん患者団体連合会は、乳房切除後疼痛症候群、リンパ浮腫に伴う疼痛、薬物療法後の関節痛や末梢神経障害、皮膚障害など、治療終了後にも鎮痛薬や外用薬、保湿剤などが必要となるケースを提示した。とくに問題となるのが「年間おおむね50週以上」とされる長期使用の判定である。同じ病態でも頓用・間欠投与となる患者では基準を満たさず、追加負担となる可能性がある。また、皮膚科や整形外科、かかりつけ医など、がん診療医以外が処方する場合に「がん治療との関連性」を判断しにくい点も指摘されているほか、処方時点で将来の使用期間を予測することも困難である。小児がん経験者は、治療終了後も内分泌障害や神経障害、心腎機能障害などの晩期合併症を長期間抱え、頓用薬を生涯使用する例もある。患者団体は、50週という期間だけでなく、治療歴、臓器機能、医師管理下での使用、代替可能性などを総合的に判断するよう求めている。厚労省は9月中に対象外となる患者の範囲などを取りまとめる予定。医療現場では、対象判定に加え、患者説明、処方箋・レセプト対応、システム改修も必要となるため、実務上分かりやすい基準作りが求められる。 参考 1) OTC類似薬の保険給付の見直しの実施について(厚労省) 2) OTC類似薬の保険給付の見直しの実施に向けた中間とりまとめ(同) 3) 全国がん患者団体連合会提出資料(同) 4) 対象外の範囲設定で「柔軟運用」求める声 医療保険部会 OTC類似薬の一部保険外療養巡る議論で(CB news) 5) 「OTC類似薬を使用する場合、患者特別負担がいくらになるのか」の具体例提示し、国民の不安を軽減せよ-社保審・医療保険部会(Gem Med) 3.医療費5年連続最高、49.2兆円に 75歳以上が4割、介護費も12兆円に/厚労省厚生労働省は、2025年度の概算医療費(速報値)が前年度比2.6%増の49兆2,000億円となり、5年連続で過去最高を更新したと発表した。受診延べ日数は0.7%減少した一方で、医療技術の高度化や抗がん剤など高額薬剤の使用増加が医療費を押し上げた。増加率2.6%の内訳は、医療技術の高度化など「それ以外の影響」が2.9%増、高齢化の影響が0.6%増、人口増の影響が0.5%減、診療報酬改定などの影響が0.39%減となった。診療種類別では、入院が2.3%増、入院外が1.6%増、歯科が3.5%増、調剤が3.9%増。歯科では貴金属価格上昇(歯科用貴金属医療費が10.1%増)、調剤では腫瘍用薬やホルモン剤などの使用増が影響した。年齢別では、75歳以上の医療費が20兆3,000億円(3.9%増)で全体の41.3%を占め、1人当たり医療費は98万9,000円と、75歳未満(26兆5,000億円、1人当たり26万1,000円)の3.8倍に達した。その一方で、2024年度の介護費は、高額介護サービス費などを含め12兆952億円となり、前年度比3.2%増加した。介護保険制度開始時の2000年度と比べると3.3倍の規模で、要介護・要支援認定者は720万7,000人に達した。介護給付費は居宅サービス3.4%増、地域密着型2.6%増、施設3.6%増となり、施設サービスの伸びも目立った。第1号被保険者の認定率は19.7%で、都道府県別では大阪府24.3%、茨城県16.5%と1.47倍の差がある。1人当たり介護給付費も29万6,300円と3.5%増えた。団塊世代が全員75歳以上となり、今後は85歳以上人口の比率上昇と現役世代の減少が同時に進む。医療・介護の複合ニーズが増す中、サービス確保や人材確保、質の向上に加え、給付の効率化と地域差の検証など、制度の持続可能性をどう確保するかが一段と重要になる。2027年度には介護報酬改定も予定されており、増大する需要と担い手不足をどう両立させるかが焦点となる。 参考 1) 医科医療費(電算処理分)の動向 ~令和7年度版~(厚労省) 2) 医療費総額49.2兆円、5年連続で過去最高を更新…高齢化・医療技術の高度化など要因(読売新聞) 3) 25年度の概算医療費、2.6%増49.2兆円 医療高度化で増加(日経新聞) 4) 2024年度の介護費、高額介護サービス費など含めれば12兆952億円で、前年度から3.2%の増加-介護保険事業状況報告(Gem Med) 4.来年度の概算要求、過去最大36兆5,803億円 医療DXに約930億円/厚労省厚生労働省は2027年度予算の概算要求として、2026年度当初予算比1兆5,370億円増の36兆5,803億円を計上した。要求段階では過去最大で、このうち年金・医療などの社会保障関係費は33兆6,872億円。高齢化などによる自然増として3,397億円を見込む。今回の特徴は、要求上限のない「『強く豊かな日本』投資枠」に1兆337億円を計上した点である。重点分野として、創薬・先端医療分野に約1,969億円(うち創薬スタートアップ支援・人材育成に355億円、治験・臨床試験体制強化に155億円、AI創薬環境整備に541億円)、感染症危機対応医薬品等の確保支援に2,129億円を要求した。医療DXの推進には934億円を要求し、標準仕様準拠の認証電子カルテの普及支援(604億円)やクラウドネイティブ化、全国的なデータ連携基盤整備を進める。さらに医療機関のサイバーセキュリティ対策や、医療・福祉分野におけるAI・ICTを活用した生産性向上・データ共有推進(829億円)などを盛り込んだ。その一方で、医療機関にとって最大の焦点となる物価・人件費高騰への対応は、診療報酬上の加算を含め金額を示さない「事項要求」とされた。2027年度の介護・障害福祉報酬改定も同様で、具体額は年末の予算編成で決まる。前年度の概算要求でも、物価高など重要政策は予算編成過程で検討する仕組みが示されており、病院経営が厳しさを増す中、年末にどこまで実効性ある財政支援が盛り込まれるかが注目される。 参考 1) 厚労省予算要求、最大の36兆円 創薬強化や福祉人材確保(共同通信) 2) 厚生労働省 概算要求で過去最大の36兆5,803億円を計上(NHK) 3) 厚労省概算要求、過去最大の36兆5千億円 投資枠で創薬力強化(朝日新聞) 4) 厚労省の概算要求は過去最大の33兆7,929億円に-『強く豊かな日本』投資枠に1兆337億円(日本医事新報) 5.医療DX工程表を提示 28年度に200床以上病院の電子カルテほぼ100%へ/厚労省厚生労働省は8月27日の社会保障審議会医療部会・医療保険部会を開き、医療DXの今後の工程を示す「医療情報化推進方針(案)」と電子カルテ情報共有サービスの進捗を報告した。第1期の対象期間は2026年10月1日~2030年3月31日までの3年半で、9月末までに厚生労働大臣が官報告示する予定。社会保険診療報酬支払基金は10月1日に「医療情報基盤・診療報酬審査支払機構(DX審査支払機構)」へ改組され、同方針に基づく中期計画を策定する予定。電子カルテ情報共有サービスは現在、全国10地域でモデル事業を実施中で、2026年度冬をめどに全国運用を開始する。共有対象はまず診療情報提供書、退院時サマリ、健診結果報告書の3文書と、傷病名、アレルギー、感染症、薬剤禁忌、検査、処方の6情報。モデル事業では、感染症情報を患者への説明前に共有する場合の扱いや、院内コードと共有用コードの対応などの課題を検証している。運用開始時には、全国721の地域医療支援病院を対象に、電子診療録等情報の提供・利用体制の整備を努力義務とする方針であり、冬までに省令で規定する。運用開始後は普及状況を踏まえて対象を拡大する考えで、医療部会では特定機能病院や災害拠点病院、救急病院などへの拡大を求める意見も出された。厚労省の資料でも、まず地域医療支援病院を指定し、その後、普及計画の効果を見ながら努力義務の対象拡大を検討するとしている。同時に電子カルテ自体の普及も加速する。2027年度から共有サービスなどに対応する「認証クラウドネイティブ型電子カルテ」および「標準型電子カルテ(導入版)」の導入を進め、2028年度までに療養病床等が中心の病院を除く200床以上病院で普及率約100%、2030年末までに全医療機関で普及率約100%を目指す。オンプレミス型からクラウド型への移行により、業務効率化、セキュリティ強化、データの二次利用を含めた共有を推進する。医療・介護情報の連携も段階的に拡大する。2026年度から介護情報基盤を標準化対応済み自治体から順次開始し、2028年度をめどに全自治体へ広げる。あわせて2028年度には医科・DPC向け共通算定モジュールの請求支援機能や労災版モジュールの運用開始、電子カルテ情報を創薬等に二次利用するデータベースの運用開始を目指す。電子カルテ情報共有サービスでは2027年度に訪問看護指示書・計画書・報告書等を共有対象に加え、2029年度には歯科情報にも拡大する予定である。その一方で、医療部会では電子カルテの新規導入・更新費、クラウド利用時の通信費、停電や回線断絶時の事業継続性などへの懸念が相次いだ。厚労省は2027年度予算概算要求で、新規導入だけでなく更新・買い替えも含む支援を盛り込む方針。医療DXは構想段階から全国実装へ移りつつあり、医療機関には今後数年間で、システム更新時期や費用、地域連携、災害・サイバー対策を一体的に見据えた対応が求められる。 参考 1) 医療情報化推進方針案等について(厚労省) 2) 医療DXの進捗状況等について(同) 3) 2028年度までに療養除く200床以上病院で、30年度までに全医療機関で「電子カルテ導入率100%」を目指す-社保審・医療部会等(Gem Med) 4) 電子カルテ情報共有、地域医療支援病院に努力義務運用開始後に対象拡大検討 厚労省方針(CB news) 6.「9月の給与払えない」公立病院の資金繰り危機が表面化/日野市東京都日野市は、市立病院で9月の給与支払いに必要な資金が不足するとして、緊急に1億円を貸し付ける。医師、看護師ら約700人の給与は約2億7,000万円。9月の5連休で給与支給が18日に前倒しされる一方で、診療収入の入金は24日となるため、一時的に資金がショートする見通しとなった。ただし、朝日新聞の報道で原因とされている連休は直接のきっかけにすぎず、背景には長年の経営悪化がある。日野市立病院は300床の地域医療支援病院で、二次救急、周産期、災害・感染症医療などを担う。2023年策定の経営強化プランでは、病床利用率を高めて経常黒字化を目指していた。しかし、2026年5月の経営再建支援報告書によると、コロナ禍では補助金により黒字を維持したものの、補助金終了と人件費増で2023年度の経常利益率はマイナス15.2%、2024年度はマイナス18.6%、約14億円の赤字に悪化した。医業収支の赤字も約17億7,200万円で、同規模病院と比べ下位4分の1を下回る水準だった。収益面では、2024年度の病床稼働率は62.0%、DPC症例の1日単価は5万8,453円。黒字化には、単価を維持したままなら稼働率89.5%、稼働率を維持するなら1日単価8万4,401円が必要と試算され、現状との差は大きい。救急応需率も2024年度55.2%にとどまり、東京消防庁からの搬送要請を約半分断っていた。さらに、2024年度の経常収益約77億円に対し、損益分岐点は約90億円で、黒字化には約13億円の増収が必要とされた。赤字の積み重ねで手元資金が細り、市は昨年度10億円を貸し付け、今年度も別途10億円を支援する方針だった。そこへ入出金の6日間のずれが重なり、追加融資が必要となった。今回の事例は、低い病床稼働率(62.0%)、低水準の救急応需率、診療単価の低迷と高い固定費により、短期の資金ギャップを吸収できない財務体質に陥っていた結果といえる。日野市立病院は2026年4月に地方公営企業法「全部適用」へ移行して経営強化を進めていたが、全国自治体病院協議会の2025年度決算調査でも自治体病院の84%(有効回答494病院中)が経常赤字に陥っている実態が示されており、公立病院の経営難が決算上の赤字にとどまらず、日々の運転資金や給与支払いに直結する危機的局面を迎えていることを示している。 参考 1) 日野市立病院経営強化プラン(日野市立病院) 2) 令和7年度日野市立病院 経営再建支援業務委託報告書(日野市) 3) 日野市立病院「9月の給与払えない」財政難に連休も影響、市が支援へ(朝日新聞)

7.

結核治療へのデジタル服薬支援の導入、治療成功率・脱落率を改善/BMJ

 薬剤感受性結核患者の治療において、多面的双方向性のデジタル服薬支援ツール「結核治療支援ツール(TB-TST)」は治療成功率および脱落率を改善させ、とくに若年層や女性でその効果が大きく、資源の限られた環境下での結核治療の服薬順守支援における実現可能性と有効性が示された。アルゼンチン・Instituto de Efectividad Clinica y SanitariaのFernando Rubinstein氏らが、ブエノスアイレスにある公立基幹病院4施設において実施したプラグマティックな無作為化比較試験の結果を報告した。著者は、「今後の研究では、アプリの利用状況、新型コロナウイルス感染症の流行などの状況的要因、費用対効果、および結核以外の慢性疾患の管理における本ツールの活用について評価すべきである」とまとめている。BMJ誌2026年8月6日号掲載の報告。モバイルアプリを用いた服薬支援+標準治療vs.標準治療で治療成功率を比較 研究グループは、初発薬剤感受性結核と診断されている、または薬剤感受性不明の結核に対する治療を開始している16歳以上の患者で、スマートフォンを定期的に利用でき、かつ独力または支援を受けてスマートフォンを操作できる患者を、標準治療群(対照群)または標準治療+TB-TST群(介入群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 TB-TSTは、スペイン語対応の患者用モバイルアプリと医療チームメンバー用のダッシュボードで構成され、毎日の服薬順守状況の報告、双方向コミュニケーション、教育リソース、および服薬順守確認のためのイソニアジドの尿中代謝物を検出する自宅尿検査を統合した新しいデジタル服薬支援ツールで、患者、医療従事者、バイオエンジニアおよび結核専門家により開発された。 介入の性質上、患者および支援者は割り付けに関して盲検化されていないが、医師は患者から知らされない限り盲検下にあり、追跡調査および解析を行う研究スタッフも盲検を維持した。 主要評価項目は治療成功(WHOの定義による治癒または治療完了)、副次評価項目は追跡調査からの脱落(2ヵ月以上連続する治療中断)であった。治療成功率は82%vs.74% 2020年11月~2023年7月に1,017例がスクリーニングを受け、適格基準を満たした555例が登録および無作為化された(対照群278例、介入群277例)。 患者背景は、280例(50%)が女性で、平均年齢33歳(SD 13)、年齢中央値30歳(範囲:17~85)であった。 登録後に薬剤耐性結核が判明あるいは入院などプロトコールから逸脱した30例を除外した525例(登録患者の94.6%)が解析対象となった。 ITT解析の結果、治療成功率は介入群82%(208/255例)、対照群74%(201/270例)で介入群が高かった(リスク群間差:7.1%[95%信頼区間[CI]:0.1~14.1]、粗リスク比:1.10[95%CI:1.00~1.20]、p=0.05)。 追跡調査からの脱落率は、介入群で低かった(それぞれ17%、24%、リスク比:0.70、95%CI:0.50~0.98、p=0.04)。 探索的なサブグループ解析の結果、女性および35歳未満の患者で良好な結果がみられた。

8.

第73回 インフルエンザワクチンが変わる? 米国で世界初の「mRNAインフルワクチン」承認

新型コロナワクチンでおなじみになった「mRNAワクチン」という技術。これをインフルエンザに応用したモデルナのワクチン「mRNA-1010(商品名:mFLUSIVA)」が、この夏、米国で承認されました1)。対象は50歳以上の成人で、米国では2026~27年シーズンからの接種開始が見込まれています。製造期間が「6ヵ月」から「6週間」に皆さまご存じのとおり、従来のインフルエンザワクチンの多くは、鶏の卵の中でウイルスを育てて作られています。この方法では製造に約6ヵ月かかるため、「今年はどの型が流行するか」という予測を、流行の半年も前、2~3月頃には決めてしまわなければなりません。ところがインフルエンザウイルスは絶えず姿を変えるため、秋になってみたら別の型が流行していて、ワクチンとの「ミスマッチ」が起きてしまうことがあります。一方、mRNAワクチンはウイルスの設計図にあたる遺伝情報を合成して作るため、製造は約6週間で済むとされます。流行の直前まで中身を調整できるわけですから、予測が外れるリスクを減らせるのではと期待されているのです。「27%減」は何を意味するのか承認の根拠となった臨床試験には、米国を含む11ヵ国で50歳以上の約4万1,000人が参加しました。半分の方がmRNAワクチンを、残り半分が従来型ワクチンを接種し、約半年間の経過をみたところ、検査で確定したインフルエンザの発症はmRNA群で約2.0%、従来型群で約2.8%。相対的にみてmRNA群が約27%少なかった、という結果です2)。ここで少し立ち止まってみたいのですが、この「27%」は割合の比較であって、「接種した人の27%が発症を免れる」という意味ではありません。100人当たりでいえば、発症が約0.8人減った計算になります。小さな差に見えるかもしれませんが、社会全体でみれば入院や死亡の減少につながりうる差ですし、リスクの高い65歳以上に限った解析でも同程度の効果が確認されています。副反応は、注射部位の痛みや倦怠感、頭痛などが従来型よりやや多かったものの、大半は軽度から中等度で、一時的なものだったと報告されています。まだわからないこと、私たちにできることもちろん、限界もあります。データはまだ1シーズン分だけで、米国で65歳以上の標準とされる「高用量ワクチン」との直接比較は行われていません。免疫能の低下した方やフレイルのある高齢者での効果も、まだ確立していません。そのため65歳以上への承認は条件付きの「迅速承認」で、今後2シーズンかけて約40万人規模の市販後試験で効果が検証される予定です。ソーシャルメディアなどでは「mRNAワクチンは効かない」といった根拠のない主張も聞かれますが、mRNAワクチンが中心だった新型コロナワクチンは、控えめに見積もっても世界で250万人以上の命を救ったと推計されており、データはむしろ逆の結果を示しています3)。日本では、インフルエンザに対するmRNAワクチンはまだ承認されていません。当面は従来型ワクチンでの接種が続きますが、米国では65歳以上は人口の2割弱ながら、インフルエンザ関連死亡の70~85%を占めるとされます。高齢の方にとって毎年の接種が大切であることは、これまでと変わりません。新しい技術の続報を待ちながら、今シーズンもまずは現行のワクチンで備えましょう。1)Rubin R. What to know about the mRNA flu vaccine, newly approved by the FDA. JAMA. 2026 Aug 14. [Epub ahead of print]2)Leroux-Roels I, et al. Efficacy and safety of an mRNA seasonal influenza vaccine in adults. N Engl J Med. 2026;394:1803-1813.3)Ioannidis JPA, et al. Global estimates of lives and life-years saved by COVID-19 vaccination during 2020-2024. JAMA Health Forum. 2025;6\:e252223.

9.

第308回 手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS

<先週の動き> 1.手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS 2.千葉の豪雨で25市町に災害救助法、マイナ保険証なくても受診可能に/厚労省 3.地域ごとに「推奨薬」選定へ 地域フォーミュラリ普及を本格化/厚労省 4.チルゼパチドの薬価25%減 低価格化による不適正使用を懸念/リリー 5.MMR混合ワクチンを個別接種へ 接種率低下と感染拡大に懸念/米国 6.沢井製薬が46品目販売中止、低薬価・設備老朽化で安定供給が課題に/沢井 1.手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS国立健康危機管理研究機構(JIHS)の感染症動向調査によると乳幼児を中心に流行する手足口病が、東北各県で高い水準となっている。青森県では8月3~9日の患者報告数が257人で、6週間ぶりに減少したものの、1定点医療機関当たり7.56人と警報基準の5人を上回った。県内6保健所管内のうち5管内が警報レベルで、青森市・東津軽では10.33人、八戸市・三戸では9.14人だった。その一方で、岩手県では同期間の患者数が415人と前週から69人増加。1定点当たり15.37人で10週連続の増加となり、警報基準の3倍を超えた。一関27.0人、中部26.5人、県央25.0人など、10管内中7管内が警報レベルとなっている。宮城県も1定点当たり10.45人と今季最多を更新し、4週連続で警報基準を超えた。同じく福島県でも9.71人と2週連続で今季最多となり、警報レベルが4週続いている。全国では7月27日~8月2日の定点当たり報告数は6.03人。2週連続で減少したものの、25都道県で警報基準を超えており、依然として広範な流行が続いている。手足口病はエンテロウイルスなどによる感染症で、多くは軽症だが、まれに脳炎などの中枢神経合併症を来す。飛沫や接触のほか便を介して感染し、症状消失後も数週間にわたり便中へウイルスが排泄されることがある。医療現場では乳幼児の発熱、口腔内病変、手足の発疹に加え、意識障害、けいれんなど重症化を示唆する症状に注意が必要である。家庭や保育施設では石けんと流水による手洗い、タオルの共用回避、おむつ交換時の排泄物処理の徹底が求められる。 参考 1) 手足口病の減少続くも、感染性胃腸炎やコロナは増転【感染症動向調査第31週:7月27日~8月2日】(Medical Tribune) 2) 青森「手足口病」感染者数減少も依然5保健所管内で警報レベル(NHK) 3) 岩手県内「手足口病」患者数さらに増加 警報基準の3倍余に(同) 4) 福島県内 「手足口病」今季最多に お盆休みの感染対策徹底を(同) 2.千葉の豪雨で25市町に災害救助法、マイナ保険証なくても受診可能に/厚労省8月13日に千葉県を中心に発生した記録的豪雨で、県内の医療機関にも浸水や停電などの被害が広がっている。厚生労働省によると、14日午前10時時点で大規模病院を含む22医療機関から被害報告があり、千葉市、柏市、八千代市などを中心に影響が確認された。内閣府は多数の住民が生命・身体に危害を受ける、またはその恐れがあるとして、千葉県の21市4町、計25市町に災害救助法を適用した。厚労省は14日、被災者の保険診療や診療報酬に関する特例措置を通知した。避難時にマイナンバーカードや資格確認書を紛失、または自宅に残した場合でも、氏名、生年月日、連絡先に加え、被用者保険では事業所名、国保・後期高齢者医療では住所などを申し立てれば保険診療を受けられる。医療機関は可能な限り保険者を確認した上でレセプト請求するが、特定できない場合も住所や事業所名、連絡先などを記載して請求できる。被災者受け入れに伴う診療報酬上の特例も適用される。許可病床数を超えて患者を受け入れても減額措置を適用せず、DPC病院も従来通り診断群分類点数表による算定が可能となる。患者急増や災害支援への職員派遣によって看護配置や夜勤時間などの施設基準が一時的に満たせなくなった場合も、一定範囲では変更届を不要とする。また、被災医療機関からの転院患者については、平均在院日数や重症度、医療・看護必要度などの算定から除外できる場合があり、ICU・HCUにやむを得ず本来の対象外患者を収容した場合も特例が設けられた。そのほか、避難所で継続的な診療が必要な通院困難患者には、条件を満たせば在宅患者訪問診療料の算定も認められる。その一方で、保団連は医療機関や介護施設、在宅人工呼吸器・酸素療法、人工透析患者への電力・水供給の早期確保、医薬品・医療材料の供給、被災者の医療費窓口負担免除などを政府に要望した。豪雨災害では直接的な外傷だけでなく、停電・断水による透析や在宅医療の継続困難、慢性疾患治療の中断も重要な課題となる。 参考 1) 令和8年8月13日からの大雨に伴う災害に係る災害救助法の適用について(内閣府) 2) 令和8年8月13日からの大雨に伴う災害の被災者に係るマイナ保険証又は資格確認書の提示等について(厚労省) 3) 千葉豪雨 県内の22の医療機関から被害報告 厚労省(テレビ朝日) 4) 千葉の大雨、死者8人に…被災者の“医療費免除”と“最大850万円の支給”を医師団体が国に緊急要望(弁護士JPニュース) 5) 2026年8月13日からの千葉県を中心とする大雨被害、保険診療受診や診療報酬算定に関する特例を適用-厚労省(Gem Med) 3.地域ごとに「推奨薬」選定へ 地域フォーミュラリ普及を本格化/厚労省厚生労働省は、地域ごとに使用を推奨する医薬品を定める「地域フォーミュラリ」の普及を本格化させる。今秋をめどに、医療関係者らを対象とした全国説明会を開き、制度への正確な理解を広げる方針。地域フォーミュラリは、高血圧、脂質異常症、胃潰瘍などの治療薬について、有効性、安全性、費用、供給状況などを踏まえ、地域で推奨する医薬品をリスト化する仕組み。院内フォーミュラリと異なり、病院だけでなく診療所や薬局も含む地域全体で運用する。医師の処方権を制限するものではなく、標準的な薬物療法の共有、後発医薬品の適正使用、医薬品の安定供給を目的とする。日本フォーミュラリ学会によると、2026年2月時点で18都道府県30地域に導入が済んでおり、31地域が準備中。大阪府八尾市ではスタチンなど10薬効群、茨城県つくば地域では14薬効群について策定している。学会も31薬効群の「モデルフォーミュラリ」を公開しており、各地域はこれを参考に独自の事情を加味して策定できる。2026年度診療報酬改定では、医科・調剤の施設基準に、地域の医療機関、薬局、関係団体と医薬品の品目情報を共有し、安定供給に向けた事前の取り決めを行うことが望ましいとの考え方が盛り込まれた。現時点では努力目標だが、国が地域フォーミュラリを政策的に後押しする姿勢が鮮明になった。厚労省は全都道府県に医師会や薬剤師会などが参画する検討会の設置を求める。普及の背景には医療費適正化に加え、後発薬の供給不安や災害対応がある。健保連は2019年、高血圧、脂質異常症、糖尿病で後発薬への切り替えが進めば、全国で年間3,100億円の薬剤費削減につながると試算している。また、地域で使用薬をある程度集約すれば、薬局の在庫負担軽減や供給途絶時の代替、災害時の備蓄・配送にも役立つ。今後は、地域の実情を反映しながら、医師の処方判断とどう両立させるかが普及の鍵となる。 参考 1) 地域フォーミュラリ、厚労省が「全国説明会」今秋、医療関係者ら向けも(MEDIFAX) 2) 高血圧・脂質異常症・胃潰瘍…地域ごとに異なる「使用が推奨される医薬品」、リスト作りを国が推進(読売新聞) 3) 報酬改定も策定を後押し、広がる地域フォーミュラリ(日経メディカル) 4.チルゼパチドの薬価25%減 低価格化による不適正使用を懸念/リリー日本イーライリリーは、2型糖尿病治療薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ皮下注)の薬価が8月1日付で25%引き下げられたことを受け、「画期的な医薬品に対する不当に不利益な対応」とする声明を発表した。今回の引き下げは、販売額が想定を上回った医薬品の価格を調整する「持続可能性特例価格調整」の適用によるもの。厚生労働省によると、同薬の保険診療での年間販売額は1,000~1,500億円規模に達している。薬価は2.5mg製剤で1本1,443円、15mg製剤で8,658円となった。リリーは、日本の価格は従来からG7で最も低い水準にあり、今回の引き下げにより同規模の経済圏でも最低水準になるとしている。同社は低価格化により、適応外となる痩身目的での不適正使用、海外からの医療ツーリズム、利益目的の買い占めや海外転売が拡大し、本来治療を必要とする2型糖尿病患者への安定供給に影響する可能性があると警告。政府に海外転売を厳格に規制する措置を求めている。チルゼパチドは週1回投与のGIP/GLP-1受容体作動薬で、食欲を抑制する作用も有する。わが国では2023年に2型糖尿病治療薬として発売されたほか、2025年には肥満症治療薬として別製品が発売されている。その一方で、糖尿病治療用製剤を美容・ダイエット目的で自由診療に使用する例が広がっており、適応外使用に伴う健康被害や、医薬品副作用被害救済制度の対象外となる可能性も指摘される。リリーは、今回の薬価引き下げについて、研究開発や国内投資の予見可能性を損ない、将来的なドラッグラグ・ドラッグロスにつながる恐れもあると主張している。高額な革新的医薬品による医療費増大への対応と、適正使用、安定供給、創薬イノベーションをどう両立させるか、薬価政策のあり方が改めて問われている。 参考 1) マンジャロの大幅な薬価引き下げに対する声明を発表~国際競争下における日本への長期的投資の持続のために、そして患者さんがイノベーションを享受するためには、予見可能で透明性の高い政策環境が不可欠~(日本イーライリリー) 2) 糖尿病薬マンジャロ「インドより安い」 不適正使用の助長に懸念(日経新聞) 3) 英アストラゼネカCSO 革新医薬への支出「先進国で公平負担を」(同) 4) リリー、マンジャロ薬価引き下げは「不当に不利益な対応」(AnswersNews) 5.MMR混合ワクチンを個別接種へ 接種率低下と感染拡大に懸念/米国米国のトランプ大統領は8月10日、小児のワクチン接種方針を見直す大統領令に署名した。麻しん、おたふく風邪、風しんを予防するMMR混合ワクチンについて、それぞれを別の機会に接種することを推奨するとともに、すべての小児に一律で推奨するワクチンを従来の17種類から11種類に縮小する方針を示した。A型・B型肝炎、ロタウイルス、髄膜炎菌、インフルエンザ、新型コロナワクチンなどは、医師と保護者による個別判断に移行するとしている。トランプ氏はワクチン接種数の増加と自閉症との関連を示唆しているが、米国小児科学会は「数百万人を対象とした多くの研究で関連がないことが示されている」と反論し、今回の見直しを「危険で誤解を招く」と批判している。WHOも、ワクチンと自閉症との因果関係を示す証拠はなく、MMRを単独接種に分ける医学的利点を裏付ける根拠もないとしている。さらに、麻しん・風しん・おたふく風邪の単独ワクチンは現在米国内では入手ができず、分割接種には製造体制の整備が必要となる。接種回数や受診回数の増加により、接種完遂率が低下するとの懸念も強い。米国では今年、8月6日時点で麻疹患者が2,465人に達しており、専門家はワクチン忌避の拡大がさらなる流行につながる可能性を警告している。なお、接種義務の決定権は各州にあり、大統領令のみでただちに接種スケジュールや保険適用が変更されるわけではない。 参考 1) 米、混合ワクチンを個別接種に 推奨対象も削減(共同通信) 2) 「ワクチンと自閉症が関連」が持論のトランプ氏、混合ワクチンを別々に接種する方針打ち出す…感染リスク拡大の恐れ(読売新聞) 3) 米医師ら、トランプ氏の大統領令に懸念 家庭でのワクチン離れにつながるか(CNN) 6.沢井製薬が46品目販売中止、低薬価・設備老朽化で安定供給が課題に/沢井沢井製薬は、後発医薬品22成分46品目について、在庫がなくなり次第、順次販売を中止すると医療関係者に通知した。大半は安定供給体制の構築と生産効率改善を目的とした製品構成の見直しによるもので、一部は協業する日医工グループ製品などへ統合する。対象にはアテノロール、アマルエット配合錠、アルファカルシドール、エバスチン、クアゼパム、テルミサルタンOD錠、ドネペジル、ニフェジピン、フルボキサミン、ブロナンセリン、メマンチンなど、日常診療で処方される薬剤も多数含まれる。沢井製薬は各品目について代替品・代替候補品を提示している。たとえばアマルエット配合錠はアムロジピンとアトルバスタチンの単剤、セチリジンOD錠は通常錠、ドネペジル錠は同社OD錠への切り替えが候補とされている。在庫消尽時期は品目ごとに異なり、多くは2027年4月だが、プロブコールは2026年10月、ザルトプロフェンやプロピベリン20mgは同年11月、ニフェジピンカプセルは2028年3月とされる。その一方で、アテノロールやアルファカルシドール、クアゼパムなどはすでに供給停止中となっている。経過措置期間の満了は2028年3月の予定。背景には後発薬業界の構造的な供給問題がある。日本製薬団体連合会の調査では、医療上の必要性が高い2,882品目のうち255品目、約9%で将来の供給継続が困難と回答された。主因は薬価低下や製造設備の老朽化であり、なかには全身麻酔薬や注射用抗菌薬など重要薬も含まれている。臨床現場では今後、単なる銘柄変更だけでなく、剤形や規格、配合剤から単剤への変更が必要となるケースもあり、処方時には院内採用品や地域薬局の在庫状況を含めた確認が求められる。 参考 1) 販売中止品目のお知らせ(沢井製薬) 2) 沢井製薬、後発薬46品目を販売中止へ 供給安定へ製品構成見直し(日経新聞) 3) 沢井製薬が46品目、高田製薬が31品目を販売中止に(日経メディカル) 4) 重要度高い薬「供給継続できず」1割 低薬価や老朽化で、日薬連調査(日経新聞) 5) 医療用医薬品供給状況報告(厚労省)

10.

第325回 予防接種法改正へ、水面下で起きていた反対論説

INDEX予防接種法改正の目的RSVの罹患率と重症化率ニルセビマブの効果、海外での位置付け法改正、地味に反対されていた理由予防接種法改正の目的先日閉会した国会では皇室典範改正や副首都法案が世を賑わせたが、医療界にとってはある重要な法案が6月30日に衆院、7月24日に参院で可決成立した。予防接種法の一部改正である。今回の法改正の要点は、従来の同法第二条で「予防接種」に用いる手段をワクチンと定めていたが、これを特定医薬品とし、その区分としてワクチンに加え、「モノクローナル抗体を有効成分として含有し、かつ、ワクチンと同程度にその効果が長期間にわたる医薬品」を含むとした点である。この法令条文だとややわかりにくいが、要は感染予防目的で使用する抗体製剤も予防接種法でカバーするということだ。ここで多くの医療者は「RSウイルス(RSV)に対する抗体製剤・ニルセビマブ(商品名:ベイフォータス)のことだろう?」と想像するに違いない。率直に言ってしまえば、ほぼ当たりである。"ほぼ"と付けたのは、あくまで厚生労働省は「将来的に登場する感染防止目的の抗体製剤も念頭に」と説明しているためだ。これについてはより詳細な説明として、参院厚生労働委員会で厚生労働大臣の上野 賢一郎氏自ら次のように語っている。「まず予防接種の対象については、すでに先進諸国ではRSV感染症を予防できる新たな手段として抗体製剤が用いられております。また、わが国においても同様の抗体製剤が薬事承認をされているにもかかわらず、現行法(予防接種法)ではワクチンのみが対象と規定され、抗体製剤に係る定期接種に向けた議論などをさらに行うことが困難となっているところであります。こうした中、審議会の提言では抗体製剤が予防接種法上の予防接種に用いる医薬品の1つの例、早期に定期接種において抗体製剤を使用できる環境が整備されることが求められているところであります。このように今般の法改正は、RSV感染症に対する抗体製剤がいわば1つの例として想定されるものでありますが、直ちに個別の製剤を定期接種に位置付けることを目的としたものではなく、当該抗体製剤を定期接種に用いることに関して審議会における議論を行うことを可能にするものであるというふうに考えております」要は各国ではすでにニルセビマブを定期予防接種の中に位置付けているにもかかわらず、現行の予防接種法の定義に沿えば、日本では議論すらできないため、まずは法改正をしたという理屈である。RSVの罹患率と重症化率日本ではニルセビマブは2024年3月、「RSVによる重篤化のおそれがある新生児、乳児、幼児での生後初回または2回目のRSV感染流行期のRSVによる下気道疾患の発症抑制、あるいは重篤化リスクのない新生児・乳児での生後初回のRSV感染流行期のRSV感染による下気道疾患の発症抑制」を適応として承認された。EU、英国では2022年11月、カナダでは2023年4月、米国では2023年7月に承認されており、日本はG7の中では最も承認が遅かった国である。ご存じのようにRSV感染症は小児ではほぼ必発の感染症で、生後1歳までに50%以上、2歳までにほぼ100%の乳幼児が最低でも1度は感染する。感染から2~8日の潜伏期間後、発熱、鼻水、咳などの症状が数日続き、初感染した乳幼児の約7割は数日のうちに軽快するが、約3割では喘鳴や呼吸困難、さらに細気管支炎の症状が出るなどの下気道症状が重症化する。2010年代には、2歳未満の乳幼児12~18万人(年間)がRSV感染症と診断され、3~5万人が入院を要したと推計されている。また、入院例の7%がなんらかの人工換気を必要としたとする報告もある。2017年にLancet誌に掲載されたシステマティックレビューに基づく推計1)によると、全世界では生後6ヵ月未満児の約4.6万人を含む、5歳未満の約10.1万人がRSV感染により死亡し、その大部分は低・中所得国で起きている。ニルセビマブの効果、海外での位置付けさて、そのニルセビマブの効果だが、在胎期間29週以上35週未満の健康な早産児を対象に行った50mg単回投与群とプラセボ投与群を比較した無作為化二重盲検第IIb相試験では、投与後150日間に受診を要した下気道感染の発現率は、ニルセビマブ群が2.6%、プラセボ群が9.5%で、ニルセビマブ群での発現率は70.1%(95%信頼区間[CI]:52.3~81.2)も有意に低下した。また、RSV感染流行期を初めて迎えた健康な正期産児および後期早産児(在胎35週以上)を対象に行われた無作為化プラセボ対照二重盲検第III相MELODY試験でも、投与後150日間に受診を要した下気道感染の発現率は、ニルセビマブ群が1.2%、プラセボ群が5%で、ニルセビマブ群での発現率は74.9%(95%CI:50.6~87.3、p<0.001)低下した2)。ご存じのようにRSVに関しては母子免疫を目的に妊婦が接種をする組換えRSVワクチン・アブリスボがすでに承認されており、過去の本連載(第289回)でも触れたように2026年4月からは妊娠28~36週の妊婦を対象に定期接種が開始された。こうした小児のRSV感染予防に向け、母子免疫ワクチンと抗体製剤が並立するのは、日本以外の先進国も同様である。ちなみに米国では、米国疾病予防管理センター(CDC)の低所得層や無保険の子供にワクチンを無償提供する連邦プログラム「Vaccines for Children(VFC)」の推奨予防接種スケジュールにニルセビマブが組み込まれた3)際、VFCでのワクチンの定義を抗体製剤も含む形に変更、また、欧州各国では医薬品の扱いのまま公的予防接種プログラムに組み込んでいる。母子免疫ワクチンと抗体製剤の相互の位置付け、使い分けに関しては、米国、欧州、オーストラリアなどでは原則どちらか一方を選択するとしている。母子免疫ワクチンを接種している母親から産まれた新生児・乳幼児には、原則は抗体製剤を投与せず、母子免疫ワクチンを接種していない場合は抗体製剤を選択できるという形だ。ただし、母親が出産直前にワクチンを接種したため抗体が十分移行していないと考えられるケースや早産で生まれてきた場合、出生児が重度の心疾患を有している場合などでは例外的に二重接種を認めている国もある。法改正、地味に反対されていた理由さて、実は今回の法改正については、衆院では「起立総員」すなわち全会一致、参院では賛成多数での可決だった。ここで「衆院は全会一致で、参院は賛成多数とは、参院では反対した政党がいたのか?」という疑問が湧く人もいるだろう。その通りである。衆院の採決結果も全会一致と記述したが、これは厳密に言えば、議場に出席した議員全員の賛成ということであり、欠席者は含まない。実際、当日の衆院本会議の議場の映像を見ると、議長に向かって右端方向に空席が目立つ。ちなみに衆参両院とも議長席に向かって左端から議席数の多い政党の議員席が配置される。さらに参院では個別議員の採決結果4)が公表されており、ここで衆院を欠席した政党・議員がほぼ予測可能になる。参院で同法改正に反対したのは参政党の15人とれいわ新選組の5人である。実際、参政党では、衆参両院の厚生労働委員会、れいわについては参院厚生労働委員会で所属議員が反対の立場から討論を行っている。以下に反対討論で述べられた理由について要約の上で箇条書きする(各人の反対理由は通し番号で列挙する)。◯牧野 俊一氏(衆院厚生労働委員会:参政党・北海道大学医学部卒)(1)高額なニルセビマブを国、自治体、保護者の負担割合が不明確なまま制度のみを先行させることには慎重であるべき(2)ニルセビマブの国際共同臨床試験では投与者の6.2%が抗薬物抗体(ADA)陽性であり、これが人体組織や細胞の一部と交差性を持ち、予期せぬ有害事象につながる可能性は否定しきれない(3)新たなモダリティを予防接種法に適用する以前に新型コロナワクチンやHPVワクチンの副反応で揺らいでいる予防接種行政への信頼回復が先決◯岩本 麻奈氏(参院厚生労働委員会 参政党・東京女子医科大学卒)(4)健康な乳幼児を含む、すべての乳幼児を対象とする根拠が十分に示されていない(5)ニルセビマブの非接種対比増分費用効果比(ICER)は643万8,000円/QALYで、日本で費用対効果の判断目安である500万円/QALYを超えている(6)新規抗体製剤ゆえ投与の有無に関連した乳幼児の安全性を継続的に検証する仕組みづくりが不可欠◯天畠 大輔氏(参院厚生労働委員会 れいわ新選組)(7)安全性の検証と被害救済が不十分(8)立法事実が曖昧なまま、ワクチンとは採用基準が異なる抗体製剤を予防接種法の対象に加えることへの懸念(9)妊婦向けの母子免疫ワクチンの安全性検証や副反応発生状況のデータが揃う前に次の抗体製剤の承認を進める二重推進への懸念以上は一見すると、一定の妥当性がある主張に見える人もいるだろう。ただ、私個人は公党の反対論拠としては疑問に感じるものが少なくない。まず、(3)と(7)の主張はかなり類似点が多い。たとえば新型コロナウイルス感染症ワクチンについては、これまで1万5,000件以上の健康被害救済制度への申請があり、その審査に時間を要し、なおかつ結果として「判定不能」となるものが多いのは事実であり、牧野、天畠氏とも反対討論前の質疑でこの点について言及している。制度のより円滑な運用を求める主張自体は妥当である。しかし、コロナワクチンに関しては、新規モダリティかつ日本国内で承認されたワクチンの中ではおそらく最も多くの国民が短期間のうちに接種したものであり、過剰反応や漠然とした不安も含め健康被害救済制度申請が多くなったやや異例の事態である。ゆえにそこでの審査遅れをもって制度全体が機能不全であるかのような指摘は、やや揚げ足取りの印象がある。また、そもそもワクチンと有害事象の因果関係を正確に判定するならば、たとえばワクチン接種者全員に対して接種前の検体採取などをしなければ、「判定不能」を減らすことはできない。しかし、そのようなオペレーションが現場でできるかは、医師である牧野氏ならばわかるはずである。そもそも新たな抗体製剤を予防接種法に位置付けるか否かという医学的な議論と予防接種に伴う健康被害救済制度の運用議論は、ある意味別次元のものでもある。そしてもし、今回の参政党やれいわの主張に沿うならば、健康被害救済制度の運用が改善されるまでは、国民は有効なワクチンや抗体製剤の恩恵を享受できないことになり、その間に感染症そのものの被害が拡大してしまう恐れがある。こちらのほうが政治としては失策である。一方、(2)、(6)、(7)、(9)はいずれも抗体製剤そのものの安全性に関する一抹の不安としては理解しうるが、これも揚げ足取りに映る。まず、岩本氏が主張する(6)は、ニルセビマブの場合、承認申請時に提出したプラセボ対照比較試験で一定程度立証済みである。このように書くと「それでは十分とは言えない」との反論もありそうだが、そもそも「どれだけの症例数・期間で、どのような結果ならば安全性が担保された」と言えるのだろうか? この問いは、よくありがちな「臨床試験上は短期的な安全性は確保されていると思われるが、長期ではわからない」という主張にも適用できるだろう。おおむねこの手の主張をする側は自分たちからは明確なエンドポイントは示さない。これでは揚げ足取りと言われても仕方ないのではと思う。また、牧野氏が主張する(2)で指摘するデータは事実だが、ADA陽性者と陰性者の抗体血中濃度は150日まではほぼ同等で、RSV感染率や安全性にも明らかな差は認められないと報告5)されている。さらに、米国食品医薬品局(FDA)の抗微生物薬専門委員会のニルセビマブに関する評価6)では、「2シーズン連続でニルセビマブを投与された被験者では、初回投与が第2シーズンの記憶ADA反応を誘導した、あるいは第1シーズンにADAを有していた被験者のADA反応を増強したことを示す証拠は認められなかった」と明記している。(1)と(5)はわかりやすく言えば、コスパである。この(5)で示されたICERは2025年10月に開催された厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会ワクチン評価に関する小委員会で報告された数字で、死亡と罹患中のQOL低下のみを考慮した結果である。このICERの500万円/QALYは、国内での過去の研究7)や国際比較などにより、日本での目安となった経緯があるが、金科玉条のものではない。ちなみに参考にされた研究では、日本での許容額は約500~600万円/QALYと幅のある計算になっていた。この目安に沿えば、ニルセビマブのICERはやや高めだが、前述のようにあくまで死亡と罹患中の患児のQOL低下のみを考慮し、たとえば子供が重症RSV感染症で入院したことに伴う親の経済損失などは考慮されていない。また、小委員会で示された試算では、RSV流行期直前に接種できた時のICERは274万円/QALYまで低下することも示されている。つまり使いようによってはかなり高いコスパが得られるということでもある。一方、牧野、岩本両氏が委員会審議でかなり追及したのが、このICER算定ではニルセビマブの接種費用を用量にかかわらず1回約4万5,000円としている点だ。これには驚く人もいるかもしれない。というのも、現在の国内でのニルセビマブの薬価は、体重5kg未満児向け50mgシリンジが約46万円、5kg以上児向け100mgシリンジが約90万円だからである。これに対しては、委員会の場で厚生労働省感染症対策部長の鷲見 学氏が、企業にヒアリングした結果、この算定価格を設定した旨を説明している。この価格は実は欧米の公的接種向けの卸売価格とほぼ同等であり、実際の納入価格はこれよりも安価といわれている。現在の日本の薬価がなぜこれだけ高いのかは、現状の保険適応対象が非常に限定的であり、その対象患者数の少なさを考慮して薬価設定が行われたと考えればほぼ納得できるはずだ。また、岩本氏は委員会質疑の中で過去5年のRSV感染症の年間死者数が最大29人であり、国側がその年齢別内訳のデータを持ち合わせていないことにも疑問を呈した。かみ砕いて言えば、小児の死者は少なく、その中でも早産児ではない正期産児での死者はごくわずか、すなわち健常乳幼児を幅広く接種対象とするのはコスパが悪いと言いたかったのだろう。もっとも、この点については岩本氏との質疑応答で、鷲見氏が“すべての新生児に接種した場合、絶対リスク減少値を年間の出生者数に単純に当てはめて計算すると約8,200人の入院を防げる”との試算を示している。ニルセビマブの接種で防げる乳幼児の死者はごくわずかでも、これだけの入院を防げるならば子供、親、医療者にとってもメリットは少なくないだろう。このような理由から、私には参政党、れいわ新選組の反対主張は、枝葉末節にこだわり過ぎであり、本質を見失っていると映る。れいわの天畠氏は参院厚生労働委員会の質疑冒頭で「わが党としては、経済的格差による医療アクセスの違いを解消し、子育て世代や小児医療の現場の負担を軽減しようとする政策目的には深く共感する」と発言していたが、失礼ながら今回のような重箱の隅をつつくような指摘に基づく反対によりもし法案が否決・遅延されていたならば、本来助成されるはずだった乳幼児の保護者に対し、高額な自己負担を強いることになる点をどのように考えているのだろう。目的への賛同と採決での反対という結論の間に政策選択上の矛盾が生じているようにしか思えない。いずれにせよ両党の主張については、私個人はやや厳しい言い方になるが、その発言の割には党利党略的なニオイしか感じないのである。1)Shi T, et al. Lancet. 2017;390:946-958.2)MELODY試験(ClinicalTrials.gov)3)CDC:RSV Immunization Guidance for Infants and Young Children4)衆議院:本会議投票結果(第221回国会2026年 7月 24日投票結果)5)Griffin MP, et al. N Engl J Med. 2020;383:415-425.6)AstraZeneca:Advisory Committee Briefing Document_Nirsevimab7)Ohsusa Y, et al. Iryo To Shakai. 2006;16:157-165.

11.

COVID-19後の眼症状、通常検査では見逃される異常が明らかに

 軽症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後に12週間以上持続する目の症状に関する新たな知見が、リンショーピング大学(スウェーデン)実験眼科学教授のNeil Lagali氏らにより、7月8日付で「Nature Communications」に報告された。この研究によると、軽症のCOVID-19罹患後12週間以上、最長3年にわたり、強い目の痛みや光過敏(まぶしさ)、読書時の見えづらさ、ピントの合わせにくさといった症状に悩まされる患者が存在し、通常の眼科検査ではこうした症状の原因となる異常は見つからないものの、特殊な検査で神経や免疫の異常が確認されたという。Lagali氏は、「こうした患者が訴える眼症状の原因は、標準的な眼科検査では確認できず、異常を見つけるには特殊な検査を行う必要があった。その結果、パズルのピースがつながるように症状の原因が明らかになった」と述べている。 今回の研究では、軽症のCOVID-19罹患後に12週間以上持続する眼症状(persistent ocular symptom;POS)を有する患者100人と、COVID-19に罹患したもののPOSは発症していない対照者32人の目を調べた。 その結果、通常の眼科検査では両群に大きな違いは認められなかった。しかし、近見時の両眼の協調運動を詳しく調べたところ、POS群では、眼球がわずかに内側へずれる「内斜位」が認められ、眼球のずれを補正する能力(融像予備力)も低下していた。また、光刺激に対する動的瞳孔測定では、暗順応後の瞳孔径と光刺激後の最小瞳孔径はいずれも対照群より大きく、瞳孔が収縮するまでの時間も延長していた。研究グループは、POSの一つである光過敏について、瞳孔反射の異常によって眼内に入る光量を十分に調節できなくなっていることが一因である可能性を指摘している。さらに、内斜位については、眼球運動を制御する神経がCOVID-19の影響を受けた可能性があると考察している。 さらに、生体共焦点顕微鏡(IVCM)などを用いた詳細な検査では、POS群では角膜上皮基底下神経叢の神経線維密度の低下や、活性化した樹状細胞・T細胞の増加が認められ、角膜で炎症や免疫活性化が生じていることが示唆された。涙液のプロテオーム解析では、これらの所見を裏付ける神経障害やT細胞の制御異常、炎症に関連するタンパク質の発現パターンの変化が確認された。研究グループは、これらの結果はCOVID-19による長期的な神経炎症を示唆するものと考察している。 研究グループによると、POSを有する患者の症状は日常生活に大きな支障を及ぼしており、患者の3人に1人が休職または時短勤務を余儀なくされていると回答したという。Lagali氏は、「こうした患者は日常生活で本当に大変な思いをしている。今回の研究によって目に何が起きているのかが分かり、COVID-19がどのようにしてこれらの問題を引き起こしたのかを示す重要な手がかりも得られた」と話している。 研究チームは、今回の研究成果が、COVID-19罹患後のPOSのより適切な診断法や有効な治療法の開発につながることを期待している。

12.

働き方改革で研修医のバーンアウトは減ったのか~2万5千人を調査

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行時、世界中で医師、とくに臨床研修医においてバーンアウトが大幅に増加した。一方、わが国では、医師の過重労働を減らし健康状態を改善するため、2023年に医師の働き方改革の準備を開始し、2024年4月に施行した。今回、千葉大学/英国・グラスゴー大学の小野 亮平氏らは、COVID-19流行時および国の働き方改革の準備期・施行期における、研修医のバーンアウトと労働環境の経時的変化について、多施設共同反復横断研究で調査した。その結果、臨床研修医のバーンアウトは2020年度に最も高く、その後、仕事への満足度、勤務時間、診療負担の改善に伴い減少したことが示された。BMJ Open誌2026年7月21日号に掲載。 本研究の対象は、日本医療教育プログラム推進機構(JAMEP)による2020年度・2022年度・2023年度・2024年度の基本的臨床能力評価試験(GM-ITE)を受験した1年目および2年目の臨床研修医である。自己記入式アンケートにより、週当たり勤務時間、救急当直回数、受け持ち入院患者数、自己学習時間、バーンアウトに関するデータを収集した。人口統計学的特性および施設特性を調整後、多変量ロジスティック回帰分析により働き方改革の各時期とバーンアウトとの関連を評価した。 主な結果は以下のとおり。・計2万5,368人の臨床研修医が参加した(2020年度:6,816人、2022年度:6,063人、2023年度:6,584人、2024年度:5,905人)。・バーンアウトの割合は、COVID-19流行初期の2020年度に最も高かった(21.7%)が、2024年度には13.3%に低下した。・仕事への満足度の割合は、2020年度の62.3%と比較して、働き方改革開始後の2024年度には75.4%まで改善した。・週80時間以上勤務していた臨床研修医の割合は、2020年度の19.9%から2024年度には2.3%に減少した一方、週45時間未満は2.5%から24.7%に増加した。・働き方改革前の2020年度・2022年度と比べたバーンアウトの調整オッズ比は、準備期の2023年度で0.60(95%信頼区間:0.55~0.66)、施行期の2024年度で0.67(同:0.61~0.74)であった。 著者らは「これらの結果は、業務負荷のバランスを改善するためのシステムレベルの取り組みが、臨床研修医のウェルビーイングの向上と関連している可能性を示唆している」と結論した。ただし、本研究が各年度で異なる臨床研修医を調査した反復横断研究であることやCOVID-19流行の収束と働き方改革の準備・施行時期が重なっていることなどから、働き方改革が原因と断定するには慎重な解釈が必要としている。

13.

新型コロナ・インフルワクチンの同時接種で有害事象は増えず

 この秋は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とインフルエンザの対策が一度で済むかもしれない。新たな研究で、新型コロナウイルスワクチン(以下、新型コロナワクチン)とインフルエンザワクチンを同時接種しても、インフルエンザワクチンのみを接種した場合と比べて安全上のリスクは増加しないことが示された。米ワシントン大学医学部および米VA St. Louis Health Care SystemのYan Xie氏らによるこの研究は、「Annals of Internal Medicine」に6月30日掲載された。 この研究では、米国の退役軍人(VA)約250万人の電子医療記録データを用いて、新型コロナワクチン(二価ワクチン、XBB対応ワクチン、およびKP対応ワクチン)とインフルエンザワクチンを同時接種した場合とインフルエンザワクチンを単独接種した場合とで、接種後90日以内の有害事象の発生について比較・評価した。2022年9月1日から2025年8月26日の間に70万5,124人が2種類のワクチンを同時接種し、181万3,205人はインフルエンザワクチンのみを接種していた。 有害事象は46種類を対象とし、重症度に応じて、1)重症で生命を脅かす事象(Tier 1)、2)臨床的に重要な事象(Tier 2)、3)比較的軽度または自己限定性の事象(Tier 3)の3段階に分類した。有害事象の具体的な例は、Tier 1では脳静脈洞血栓症や心筋梗塞、肺塞栓症など、Tier 2では心房細動や心房粗動、深部静脈血栓症など、Tier 3ではベル麻痺、失神、耳鳴りなどである。 解析の結果、重症度のレベルにかかわりなく、有害事象リスクについて同時接種群と単独接種群の間に統計学的な有意差は認められなかった。リスク比は、Tier 1で1.03(95%信頼区間0.99~1.09)、Tier 2で0.99(同0.96~1.03)、Tier 3で0.99(同0.96~1.02)であった。3種類の新型コロナワクチンが使用された期間別に解析しても、同時接種は有害事象のリスク増加と関連していなかった。 著者らは、「今回の結果は、新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンを同時接種することの短期的な安全性を支持するものであり、今後のワクチン接種に関する推奨を策定する際にも役立つ可能性がある」と述べている。

14.

第306回 無医地区が575地区に増加 医師不足エリア再拡大/厚労省

<先週の動き> 1.無医地区が575地区に増加 医師不足エリア再拡大/厚労省 2.高額療養費、8月から患者負担増 長期療養者には年間上限/厚労省 3.24年度の社会保障給付費138兆円 医療はコロナ費減で1.9%減/社人研 4.ドクターヘリの安定運航へ財政支援 広域搬送網の再設計も/厚労省 5.自由診療の再生医療に行政処分 患者死亡受け改善命令/厚労省 6.移植患者の術後管理置き去り 有償あっせんの元NPO理事長を再逮捕/警視庁 1.無医地区が575地区に増加 医師不足エリア再拡大/厚労省厚生労働省は、2025年10月末時点の「無医地区」が全国で575地区となり、2022年の前回調査から18地区増えたと公表した。無医地区人口も12万2,206人から13万4,753人へ1万2,547人増加した。国による定義では無医地区とは「医療機関がなく、中心地点からおおむね半径4キロ以内に50人以上が居住し、受診に長時間を要するなど医療機関を容易に利用できない地域」を指す。長期的には1984年の1,276地区から徐々に減少してきていたが、今回の調査で増加に転じ、医師不足地域が再び広がり始めた可能性が示された。都道府県別では、大分県が44地区で前回より6地区増え、岩手県、島根県、山口県、沖縄県が各4地区増加した。無医地区人口は大分県で5,852人、沖縄県で3,861人、山口県で1,920人増えるなど、地区数以上に住民への影響が拡大した地域もある。その一方で、福岡県は4地区、富山県と奈良県は各2地区減少した。山形県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、佐賀県には無医地区がなかった。厚労省は、診療所の閉院や高齢医師の引退後に後継者を確保できないことが増加の主因とみている。なお、これとは別に厚労省は7月31日に「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」を開き、2028年度以降、医学部臨時定員を全国で削減する方針を示している。厚労省としては医師少数県や全国の医師偏在指標を下回る県には削減幅を緩和する考えだが、定員増は想定していない。このため、医師不足を訴える自治体からは地域偏在が固定化・助長される懸念が出ており、単純な医師養成数だけでなく、地域枠医師の離脱防止、結婚や育児、介護を含む柔軟な勤務、キャリア形成を支える伴走型支援が重要となる。さらに、基幹病院とへき地診療所が医師を融通する地域医療連携推進法人、巡回診療、オンライン診療、搬送体制を組み合わせ、1人の医師に依存しない広域ネットワークへ転換する必要がある。無医地区の拡大は、慢性疾患の継続管理や予防接種だけでなく、救急受診の遅れ、在宅医療・看取りの空白、基幹病院への患者集中にもつながる。医師には、地域の診療所単位ではなく、2次医療圏全体で外来、救急、在宅、訪問看護、薬局をどう維持するかという視点が求められる。 参考 1) 令和7年度無医地区等及び無歯科医地区等調査の結果を公表します(厚労省) 2) 575地区で医療機関ゼロ 22年比18増、厚労省調査(共同通信) 3) 「無医地区」増加に転じる 25年10月末 18増の計575地区に(CB news) 4) 「全国値」未満は緩和検討 厚労省 医学部臨時定員、28年度は全都道府県で削減へ(同) 2.高額療養費、8月から患者負担増 長期療養者には年間上限/厚労省高額な医療費の患者負担を抑える高額療養費制度が8月1日から見直された。所得区分ごとの月額自己負担上限は、住民税非課税世帯で4~5%、それ以外でおおむね7%引き上げられる。たとえば70歳未満で年収約370~770万円の場合、従来の「8万100円+医療費の一定部分の1%」から「8万5,800円+(総医療費-28万6,000円)×1%」となり、定額部分で5,700円増える。さらに2027年8月には所得区分を細分化し、年収約650~770万円では定額部分が11万400円となるなど、現行制度と比べ最大38%の負担増となる見通し。その一方で、長期療養者への配慮として、8月から年間自己負担上限が新設された。年収約370~770万円では年53万円で、所得に応じ18~168万円に設定される。直近12ヵ月で3回、月額上限に達すると4回目以降の負担が軽減される「多数回該当」の上限額は原則据え置く。これまで月ごとの上限にわずかに届かず、多数回該当の対象にならなかった患者も、年間上限により負担が抑えられる場合がある。ただし年間上限は償還払いとなるため、患者がいったん上限を超える金額を立て替えなければならない可能性がある。厚生労働省は今回の見直しにより、2027年度時点で保険料と公費による医療給付を年間約2,450億円削減できると試算する。このうち約1,070億円は、患者の受診行動の変化による医療費減少を見込んだものだ。厚労省は、長期療養者や低所得者に配慮しており、必要な受診が抑制されるとは想定していないと説明する。しかし、患者団体や医療関係者からは、がんや難病など高額な治療を継続する患者の受診控えや治療断念、生活困窮につながるとの懸念が出ている。また、今回の見直しによる患者側の負担増(所得区分や受療状況によって年間負担は異なる)に対し、保険料の軽減効果は1人当たり年約1,400円(月額約117円)にとどまり、負担増とのアンバランスさを疑問視する指摘もある。今回の見直しでは、高所得者ほど医療利用時の負担を重くする「応能負担」が強化された点も論点となる。保険料や税の段階ですでに所得に応じた負担を求める中、専門家からは給付を受ける際にも負担差を広げることが、国民皆保険を支える連帯を損なうとの意見もある。医療現場では、患者の年齢や所得区分、多数回該当、年間上限、加入する健康保険の付加給付を確認し、治療費の見通しを早期に説明する必要がある。また、マイナ保険証を利用すれば、原則として限度額適用認定証がなくても窓口負担を上限額までに抑えられる。がん相談支援センターや医療ソーシャルワーカーと連携し、経済的理由による治療の中断を防ぐ支援が一層重要となる 参考 1) 高額療養費制度 自己負担の上限額引き上げも 年間上限額を新設(NHK) 2) 高額療養費、負担上限が8月から最大7%増 来夏には最大38%増(朝日新聞) 3) 高額療養費見直し 政府説明をデータでたどると? ロジックに異論(同) 4) 所得高ければ医療費負担も重く…広がる「応能負担」、専門家は問題視(同) 5) 今日から変わる「高額療養費制度」 “年間上限”導入も自己負担増に患者団体「治療断念につながる」懸念(弁護士JPニュース) 3.24年度の社会保障給付費138兆円 医療はコロナ費減で1.9%減/社人研国立社会保障・人口問題研究所は、2024年度の社会保障費用統計を公表した。年金、医療、介護、子育て支援などに充てられた社会保障給付費(ILO基準)は138兆3,019億円で、前年度から2兆6,703億円、2.0%増加した。増加は3年ぶりで、新型コロナウイルス対策に伴う支出が膨らんだ2021年度の138兆7,544億円に次ぐ過去2番目の規模となった。人口1人当たりでは111万7,100円と、前年度より2万6,400円、2.4%増えた。部門別では、年金が57兆8,528億円と最も多く、前年度比1兆4,592億円、2.6%増加した。物価や賃金の動向を反映し、2024年度の年金改定率が+2.7%となったことなどが影響した。介護や子供・子育て、生活保護などを含む「福祉、その他」は35兆6,436億円で、2兆836億円の増加、6.2%増えた。介護報酬の+1.59%改定や児童手当の所得制限撤廃などが押し上げ要因となった。その一方で、医療は44兆8,055億円で、前年度から8,726億円、1.9%減少し、2年連続のマイナスとなった。新型コロナ対策費の縮小が主因で、医療需要そのものの減少を示すものではない。給付費全体に占める構成割合は、年金41.8%、医療32.4%、福祉その他25.8%だった。社会保障給付費の国内総生産(GDP)比は21.53%で、前年度より0.37ポイント低下した。給付費は増えたものの、GDPの伸びがそれを上回ったためで、2021年度の24.07%をピークに低下が続く。社会保障財源(ILO基準)は155兆6,896億円で、年金積立金の運用実績低下に伴う資産収入の減少により21.4%減少した。財源構成は社会保険料53.3%、公費37.5%など。高齢化に加え、物価・賃金、報酬改定、少子化対策が給付費を左右する構造が改めて示された。 参考 1) 令和6(2024)年度 社会保障費用統計の集計を公表します~社会保障給付費、3年ぶりに増加~(社人研) 2) 24年度の社会保障給付費138兆円 高齢化で2番目の水準 厚労省(時事通信) 3) 2024年度の社会保障給付費、過去2番目に多い138兆円 GDP比は低下(日経新聞) 4) 社会保障給付費が3年ぶりに増加 対GDP比は減少続く 24年度(朝日新聞) 5) 24年度の社会保障給付費、「医療」は1.9%減 社人研(MEDIFAX) 4.ドクターヘリの安定運航へ財政支援 広域搬送網の再設計も/厚労省厚生労働省は、整備士不足などで一部地域のドクターヘリが運休している問題を受け、「救急医療搬送体制等のあり方に関する検討会」を開催し、安定運航に向けた議論を始めた。ドクターヘリは、救急医療機器を備え、医師・看護師が同乗して現場や搬送中に診療を行う専用機で、一般的に操縦士、整備士、医師、看護師らが搭乗する。2022年までに京都府を除く46都道府県へ導入されたが、整備士の確保難から東京、大阪、徳島などで運休が発生している。運休地域では、近隣県のドクターヘリ、消防防災ヘリ、ドクターカー、救急車による代替や相互応援が行われ、例外的に整備士を同乗させず操縦士2人で運航する「ツーパイロット制」も検討されている。大阪府は新たにエアロトヨタへ委託し、8月24日から月10日程度の限定運航を再開する予定だが、予備機を利用するため不具合時には再び停止する可能性がある。厚労省によると、2025年度は46都道府県57機で事業を実施した一方で、2026年4月時点で運航を委託できていたのは43都道府県54機にとどまった。年間受諾件数は2024年度に2万8,405件で、救急医療の基盤として定着している。国は今年度の当初予算に100億円を確保し、飛行時間に応じた運航委託費の補助基準額を引き上げた。さらに、機体整備や資機材、整備士確保などを支援する緊急事業として補正予算22億円を計上した。検討会では、短期的には運航事業者への財政支援、共同運航、規制の見直しを進め、9月にも中間取りまとめを行う。中長期的には整備士、操縦士、医療従事者の必要数を推計し、養成・確保策を構築する。今後は、ヘリ単独の維持ではなく、地域の搬送距離や疾病構造を踏まえ、消防防災ヘリやドクターカーを含む広域救急搬送網として再設計する視点が求められる。 参考 1) 救急医療用ヘリコプター(ドクターヘリ)の現状について(厚労省) 2) ドクターヘリ安定運用に向けて必要な支援は何か、社会構造変化の中でドクターヘリの役割をどう考えるか-救急医療搬送体制検討会(Gem Med) 3) 大阪府のドクターヘリ、新たな委託先はエアロトヨタ 8月下旬から一部運航再開へ(産経新聞) 5.自由診療の再生医療に行政処分 患者死亡受け改善命令/厚労省厚生労働省は7月31日、自由診療の再生医療を提供していた「ネオポリス診療所銀座クリニック」(東京都中央区)と「大阪ベテスダクリニック」(大阪府泉佐野市)の管理者に対し、再生医療等安全性確保法に基づく改善命令を出した。銀座クリニックでは今年3月、慢性疼痛に対する治療として本人の脂肪由来細胞を投与された外国籍の60代女性が急変し、搬送先で死亡。厚労省は同月13日、治療の一時停止を命じ、その後、提供体制を調査していた。調査では、細胞加工を委託する事業者を介し、韓国の再生医療グループが患者ごとの投与細胞数や投与方法を指定したリストを作成し、クリニックがその内容に従って処置していたことが判明した。医師ではない第三者が実質的に治療内容を決定する体制が常態化し、治療で得た利益の大部分も同グループなどに渡っていたという。さらに、国に届け出た再生医療提供計画から逸脱した治療を行うなど、複数の法令違反が認められた。厚労省は、第三者の影響力を排除し、医療機関が自らの責任で適正な提供体制を構築するよう求めた。大阪ベテスダクリニックでも同様に第三者主導の提供体制が確認され、再生医療後に体調不良で入院を要した患者1人について必要な報告をしていなかったとして改善命令を受けた。銀座クリニックの死亡原因については引き続き調査中である。今回の事案は、患者死亡事故を契機とした立ち入り調査により、外部事業者主導の不適正な運営体制や計画逸脱が発覚し、法に基づく改善命令が出された(因果関係の調査は継続中)。さらに、高額な自由診療として拡大する再生医療で、治療の医学的妥当性だけでなく、指示系統、利益配分、有害事象報告、届け出内容との整合性を含む管理体制の検証が不可欠であることを示した。再生医療等安全性確保法では、医療機関が提供計画を作成し、認定再生医療等委員会の審査を経て国に届け出ることなどを求めている。外部の事業者が治療設計や集患、収益配分まで事実上支配すれば、医師の独立した判断や緊急時対応が損なわれる恐れがある。自由診療の再生医療を提供する医療機関は、委託先との契約関係や治療決定過程を点検し、重篤な有害事象を速やかに報告する体制の再確認が求められる。 参考 1) 再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づく改善命令等について(厚労省) 2) 不適切再生医療で銀座の診療所に改善命令 厚労省 細胞投与で外国籍の患者死亡(産経新聞) 3) 患者死亡の再生医療クリニックなどに改善命令 厚労省(NHK) 4) 「銀座クリニック」の黒幕/「再生医療」謳う自由診療に札付きの輩(FACTA online) 6.移植患者の術後管理置き去り 有償あっせんの元NPO理事長を再逮捕/警視庁警視庁などの合同捜査本部は7月28日、カンボジアでの生体腎移植を別の患者に有償であっせんしたとして、NPO法人「難病患者支援の会」の元理事長で、一般社団法人「国際医療相談室」を実質的に運営していた菊池 仁達容疑者(66)を臓器移植法違反の疑いで再逮捕した。再逮捕容疑は2025年、千葉県内の60代男性にカンボジアでの生体腎移植をあっせんし、医師への謝礼や手数料名目で約850万円を受け取った疑い。男性は渡航後、中国人コーディネーターに現地医療費などとして約13万ドル、当時約1,900万円を支払い、カンボジア人男性とみられるドナーから腎臓移植を受けたとされる。渡航前には、菊池容疑者と協力関係にあった大阪市内の病院で血液検査などを受け、病院長の紹介状が中国人コーディネーターを介して現地の中国人医師団に送られていた。その一方で、男性は「アフターケアも万全」と説明されていたにもかかわらず、帰国後の受け入れ先が確保されておらず、受診を断られるなどして10ヵ所余りの医療機関を転々とした。このため移植後に必要な処置を受けるまで2ヵ月以上かかったというが、現在の容体は安定している。捜査本部は、同法人が設立された2024年3月以降、少なくとも患者5人から計4,500万円以上を受け取り、その一部が菊池容疑者の保釈金調達に伴う借金返済へ充てられたとみている。患者ごとの請求額は約500~900万円と幅があった。菊池容疑者は過去にもベラルーシでの無許可移植あっせんで実刑判決を受けており、保釈中に今回の事業を主導した疑いがある。臓器移植法は、患者とドナーを対価により結び付ける行為や、無許可のあっせんを禁じている。今回の事件は、海外渡航移植の不透明な費用構造に加え、免疫抑制剤の投与や感染対策など、帰国後の国内医療への引き継ぎが整わないまま患者が置き去りにされる危険性も浮き彫りにしたが、海外での移植内容やドナー情報、感染症・免疫抑制療法に関する情報が不十分な場合、国内医療機関で安全な術後管理を引き継ぐことが困難になる問題も浮き彫りとなった。 参考 1) 臓器移植法違反事件 帰国後の男性 受診拒否で医療機関を転々(NHK) 2) 別の男性にも臓器移植手術あっせんか NPO元理事を再逮捕へ(同) 3) 臓器移植あっせん事件、別の患者からも対価か 元NPO理事再逮捕へ(朝日新聞) 4) 臓器有償あっせん、患者から受け取った現金を菊池被告が借金返済に…保釈金1,800万円の調達でできた借金(読売新聞)

15.

PSSA菌血症治療の常識は変わるか?(解説:栗原宏氏)

Strong point・PSSA治療に抗ブドウ球菌ペニシリン系薬という長年の慣習とリスク回避策に一石を投じた・多施設、国際共同RCTでエビデンスレベルが高い・主要評価項目を培養陰性化や解熱ではなく、90日全死因死亡率に設定し、実臨床に即した評価となっている・厳格な判定方法で真のPSSAのみが対象となっているWeak point・早期終了/オープンラベル/厳格な検査体制という条件付きの結果なので、一般化には注意が必要・PSSAの判定方法が厳密であり、日本で主に用いられている自動感受性試験のみでは本論文の内容を適用しづらい 現在のPSSA(Penicillin-Susceptible Staphylococcus aureus)を取り巻く環境は10年前とはかなり変化している。欧米を中心に、かつてはまれとされていたPSSAの割合が再増加傾向であることが本研究の背景となっている。PSSAであれば、治療としてペニシリンGは、最も狭域で抗菌活性が高く、内服アモキシシリンへの移行が容易、腎障害・肝障害・静脈炎が少ない可能性があるなど利点が多い。その一方で、低レベルペニシリナーゼ産生菌がPSSAと誤判定されていた場合の治療失敗リスクを踏まえて、抗ブドウ球菌ペニシリン系薬が第1選択とされていた。本研究はPSSAに対して「念のために抗ブドウ球菌ペニシリンを使う」という従来の治療戦略に再考を促す結果となった点で意義が大きい。 本研究は、世界8ヵ国67施設が参加した国際共同RCTであり、PSSA菌血症患者281例をペニシリンG群と抗ブドウ球菌ペニシリン群に1:1で割り付け、90日全死因死亡率を主要評価項目としてペニシリンGの非劣性を検証した。 ペニシリンG群の非劣性の事後確率は96.1%、優越性の事後確率は88.9%であった。事前に設定された非劣性判定基準(99%)には達しなかったものの、ペニシリンGを治療選択肢として支持する結果と考えられる。 PSSAの判定は日本の医療機関で主流の自動感受性試験とは異なり、ペニシリンディスク拡散試験、阻止円縁の評価、blaZ遺伝子PCRなどのペニシリナーゼ産生菌除外の厳密な判定が行われている点には注意が必要である。 本邦では、flucloxacillinおよびクロキサシリンは承認されておらず、PSSAを含むMSSA菌血症にはセファゾリンが標準的に使用されている。CloCeBa試験1)によればMSSA治療に関して、セファゾリンはクロキサシリンと比較して急性腎障害の発生リスクは低く、治療効果は非劣性であることが示されているが、PSSAに対するペニシリンGとセファゾリンを直接比較した研究はない。 現時点では、厳密なPSSA判定が可能な施設ではペニシリンGを選択肢として検討できる一方、日本の診療環境ではセファゾリンを第1選択とする従来の治療戦略も引き続き妥当と考えられる。

16.

第305回 「攻めの予防医療」公表 がん検診60%と国民皆歯科検診の実現へ検討/厚労省

<先週の動き> 1.「攻めの予防医療」公表 がん検診60%と国民皆歯科検診の実現へ検討/厚労省 2.日本人の平均寿命、男女とも延伸 女性は41年連続世界一/厚労省 3.高額療養費、8月から負担増 社会保障費膨張で改革圧力強まる/政府 4.電子カルテ、2030年にほぼ100%へ 国はクラウドと情報共有を標準に/政府 5.看護学生、10年で3割減 地域医療を脅かす看護師不足/厚労省 6.医療機関の倒産、上半期で過去2番目 後継者難が深刻化/東京商工リサーチ 1.「攻めの予防医療」公表 がん検診60%と国民皆歯科検診の実現へ検討/厚労省厚生労働省は、7月23日に健康寿命の延伸を目指す施策パッケージ「U.E.N.O.Plan」を公表した。従来のように国民の自主的な健康行動を促すだけでなく、行政や保険者が能動的に介入し、行動変容を後押しする「攻めの予防医療」への転換を掲げている。重点領域は、「がん・循環器病等、栄養・食生活、歯科保健、認知症、リハビリテーション、性差に由来するヘルスケア」の6分野である。がん対策では、2028年度までに胃、大腸、肺、乳房、子宮頸部の主要5がん検診の受診率目標を60%、精密検査受診率を90%としている。就業状況に応じた受診勧奨、職域と自治体の連携、受診率の見える化、未受診理由の調査、ポータルサイトの開設を進めるほか、事業者と保険者による「コラボヘルス」を強化する。要精密検査者への勧奨や相談支援も充実させ、検診を受けるだけでなく、診断・治療につなげる仕組みを重視する。歯科保健では、2027年度から「国民皆歯科検診」の実現に向け、現在10歳ごとの歯周病検診を5歳ごとに拡大し、希望者が唾液などによる簡易検査を毎年受けられる仕組みを検討する。栄養分野では、生活習慣病予防に向けた「食事ガイド」を2026年度中に作成する。リハビリテーションは、心身機能の回復にとどまらず、日常生活動作の改善、社会参加、健康増進を支える重点領域とされた。急性期での早期・休日リハビリ、地域の通いの場や短期集中予防サービス、訪問・通所リハビリなどを予防、医療、介護を通じて切れ目なく提供し、科学的根拠に基づくポータルサイトで本人の主体的参加を促す。ただし、新規施策は情報発信が中心で、実効性は今後の診療報酬・介護報酬や予算措置に左右される。日本慢性期医療協会は、この提言に関連して、高齢者の要介護化や重度化の大きな要因である転倒・骨折を防ぐ「攻めのリハビリ戦略」を提言した。理学療法士・作業療法士が、身体機能、住環境、栄養、服薬、骨粗鬆症を評価する「転倒リスク健診」、ICT・AIを用いた自宅環境評価、要介護前の予防的リハビリの制度化が柱である。「転倒させない、転倒しても骨折させない、骨折しても寝たきりにさせない」の3段階で介入し、健康寿命の延伸と医療・介護費の抑制を目指す。今後は、理念を現場で実行できる人員配置、財源、評価制度の具体化が焦点となる。 参考 1) U.E.N.O.Plan~攻めの予防医療厚生労働省関係施策~(厚労省) 2) 攻めの予防医療推進する「U.E.N.O.Plan」を公表 主要ながん検診受診率60%達成へ 28年度までに(CB news) 3) 日慢協、「攻めのリハビリ戦略」提言 骨折・転倒を防ぐリスク健診など(同) 4) 厚労省「攻めの予防医療」、リハビリを予防・医療・介護貫く重点領域に位置づけ(PT-OT-ST.net) 2.日本人の平均寿命、男女とも延伸 女性は41年連続世界一/厚労省厚生労働省は、7月24日に2025年の「簡易生命表」を公表した。それによると、日本人の平均寿命は男性81.35歳、女性87.33歳で、前年よりそれぞれ0.25歳、0.20歳延びた。男女とも前年を上回るのは2023年以来2年ぶり。女性は41年連続で世界1位を維持し、男性はスウェーデン、スイス、イタリアなどに次いで7位となり、前年から順位を1つ下げた。男女差は5.98年で、前年より0.05年縮小した。平均寿命は、その年の年齢別死亡率が今後も続くと仮定した場合に、0歳児が平均して何歳まで生きるかを示す指標である。今回の数値は、わが国に住む日本人を対象とした2025年の簡易生命表に基づく。わが国では男性が2020年まで9年連続、女性が8年連続で過去最高を更新していたが、新型コロナウイルス感染症による死亡増加の影響で2021年、2022年は男女ともに低下した。2023年にはいったん回復したものの、2024年は男性が横ばい、女性が0.01歳短くなっていた。今回の延伸には、がん、心疾患、新型コロナによる死亡率の低下が寄与した。男性ではがん、女性では新型コロナや心疾患による死亡率低下の影響がとくに大きかった。その一方で、肺炎や老衰による死亡割合は増加しており、高齢化に伴う死因構造の変化もみられる。国際比較では、女性は日本に続き韓国、スペインが上位となり、男性はスウェーデンが82.52歳で首位、スイスが82.40歳と続いた。ただし、各国の公表年や集計方法には違いがあり、順位は参考値として捉える必要がある。厚労省は、わが国の平均寿命は男女とも世界トップクラスで、保健福祉水準の高さを示す一方で、なおコロナ禍前の水準(2020年時点で男性81.56歳、女性87.71歳)には戻っていないとしている。今後は寿命の延伸だけでなく、健康寿命との差を縮め、フレイルや生活習慣病を予防し、要介護期間を短くする取り組みが一層重要となる。 参考 1) 令和7(2025)年簡易生命表の概況 2) 2025年の平均寿命 男女とも前年上回る 女性は世界1位(NHK) 3) 平均寿命、男女とも延び 昨年、女性は87.33歳で世界首位 厚労省まとめ(日経新聞) 4) 日本人の平均寿命、女性は41年連続「世界一」の87.33歳…男性81.35歳(読売新聞) 3.高額療養費、8月から負担増 社会保障費膨張で改革圧力強まる/政府政府は、7月24日に医療費の自己負担を一定額に抑える高額療養費制度について、2026年8月と2027年8月の2段階で患者負担の上限を引き上げる関連政令を閣議決定した。8月1日から所得区分ごとの月額上限を4~7%引き上げ、さらに2027年8月には所得区分を細分化したうえで、現行比最大38%まで引き上げる。年収約370~770万円では、現在の基準額8万100円が2026年8月から8万5,800円となり、2027年8月以降、年収約650~770万円では11万400円となる。その一方で、長期療養者への配慮として、2026年8月から所得に応じた年間上限を新設し、同年収帯では53万円とする。現行制度は、月ごとの自己負担限度額を超えた分を保険者が給付する仕組みで、直近12ヵ月で3回以上該当した場合、4回目以降の負担を軽減する「多数回該当」がある。今回、この多数回該当の限度額は原則据え置く。厚生労働省の資料では、健保組合の1,000万円以上の高額レセプトは2010年度の174件から2024年度には2,328件に増えており、高額医薬品や高度医療の普及を背景に制度の持続可能性が課題となっている。さらに70歳以上の外来通院の負担を抑える「外来特例」も見直し、一般区分の月額上限は現在の1万8,000円から2026年8月に2万2,000円、2027年8月に2万8,000円へ引き上げる。低所得層には据え置きや年間上限を設ける。政府は給付費を抑え、現役世代の保険料軽減につなげる狙いだが、患者団体は、がんや難病など継続治療が必要な患者の受診控えや治療中断を懸念する。背景には、膨張を続ける社会保障費がある。2026年度当初予算で社会保障費は39兆円と歳出の約3割を占め、財務省は2027年度の自然増を約4,000億円と見込む。政府・与党内では、70歳以上の窓口負担引き上げ、介護サービスの2割負担対象拡大、外来特例の廃止、OTC類似薬の追加負担などを巡り温度差がある。介護報酬改定による賃上げ対応も歳出増要因となる。さらに「骨太の方針」から例年の「財政健全化」の文言が消え、長期金利が一時2.9%に達するなど、市場は歳出膨張への警戒を強めている。制度の持続可能性と患者のセーフティーネットを両立できるかが焦点で、医療現場には所得区分、年間上限、多数回該当を踏まえた丁寧な説明と相談支援が求められる。 参考 1) 高額療養費制度の概要(厚労省) 2) 高額療養費、8月から負担増 月4~7%、年間上限額を新設(共同通信) 3) 高額療養費の上げ決定 負担上限、来月から2段階(日経新聞) 4) 社会保障費の膨張止まらず、自然増は0.4兆円 来年度の概算要求基準(日経新聞) 4.電子カルテ、2030年にほぼ100%へ 国はクラウドと情報共有を標準に/政府政府は7月21日に、新たな規制改革実施計画を閣議決定した。医療分野では、電子カルテを単に院内で保存する装置から、全国で医療情報を共有・活用する基盤へ転換する方針を打ち出している。政府目標として2028年度までに200床以上の病院、2030年までに全医療機関での普及率ほぼ100%を掲げる一方、上野 賢一郎厚生労働大臣は記者会見で法改正に基づく目標達成義務は「政府に課されたものであり、医療機関に導入を義務付けるものではない」との見解を示している。現在使用している電子カルテや紙カルテの継続利用も可能とされているが、政策の全体像としてはクラウド化と情報共有を軸としたデジタル化が加速している。中心となるのはクラウドネイティブ型電子カルテである。厚生労働省は一定の標準仕様、情報連携、セキュリティ要件を満たす製品の認証制度を2026年度中に整備し、2027年春の認証開始を目指す。多要素認証やペネトレーションテスト、電子処方箋・電子カルテ情報共有サービスとの接続を想定し、中小病院や診療所には認証製品の導入補助も検討する。院内サーバー中心の仕組みから、ベンダーが更新や防御を担うクラウド型へ誘導する狙いがある。政府の重点計画も、クラウドネイティブ型の認証制度と標準型電子カルテの普及を明記した。電子カルテ情報共有サービスは2026年度中に全国運用を開始し、以後はバイタル、画像、病理・画像診断レポートなど共有情報を拡大する。薬局、訪問看護、介護事業所との連携も視野に入り、診療情報は施設内で完結せず、患者を軸に流通する方向となる。保存期間も、先天性疾患や小児がんなど長期追跡が必要な疾患を念頭に延長が検討される。既存カルテの継続使用は当面可能だが、更新時には標準化、クラウド、外部連携への対応が事実上の選択条件になっていく。医師にとって電子カルテは単なる記録媒体ではなく、地域連携、救急、処方、研究、AI活用の入口となる。その一方で、システム障害時の診療継続、アクセス権限、情報漏えい対策、入力負担への備えは不可欠である。医療機関は「義務化されるまで待つ」のではなく、次回更新を見据え、データ移行性、標準規格、バックアップ、サイバー対策を早期に点検すべき段階に入った。 参考 1) 規制改革実施計画(内閣府) 2) デジタル社会の実現に向けた重点計画(デジタル庁) 3) 電子カルテ、厚労省が認証制度 中小病院や診療所の導入補助を検討(日経新聞) 4) 電子カルテデータの保存期間を延長へ 年内結論、規制改革実施計画(CB news) 5) 厚労相「医療機関に電子カルテ導入の義務はない」(保団連) 5.看護学生、10年で3割減 地域医療を脅かす看護師不足/厚労省看護師不足が、地方を中心に病床削減や病棟閉鎖という形で地域医療を直撃している。看護師養成課程の受験者は2025年度に14万1,234人で、10年間で30.8%も減少している。18歳人口の減少はこの期間に9.1%に過ぎず、単なる少子化だけでは説明できない。とくに専門学校の受験者は63.2%減り、宮城県、沖縄県を除く全都道府県で定員割れとなっている。さらに2030年度までに94課程が廃止される予定で、卒業生の8割超が地元で就職する専門学校の縮小は、地域の看護師不足に深刻な影響を与える。背景には、看護師の夜勤を含む不規則な勤務形態、責任の重さ、実習負担、学費、賃金の伸び悩みがある。看護師養成には102単位が必要で、そのうち約4分の1を実習が占める。SNSでは「実習がきつい」との印象も広がる。さらに50~54歳の看護師の平均月収は20~24歳より7万7,000円高い程度で、年齢や経験を重ねても処遇が伸びにくいこともある。購買力平価ベースの給与でも米国やオーストラリアを大きく下回り、診療看護師など公的なキャリアアップ制度が乏しいことも職業選択上の弱点となっている。影響はすでに顕在化している。岐阜県立下呂温泉病院では看護職員が約10年で50人減り、配置基準に合わせて実質稼働病床を130床まで縮小した。市立金山病院も看護師不足を一因に療養病棟を閉鎖した。青森県むつ市でも患者受け入れ制限が検討されるなど、看護師不足は医師不足と同様に、病院の診療機能そのものを規定する問題である。病院に空床があっても看護配置がなければ入院を受けられず、救急、手術、病棟運営、退院支援、在宅移行まで連鎖的に影響するため、地域にとって非常に重要な課題となる。また、医師の業務を看護師へ一方的に移すだけでは看護師の業務負担が増えるため、医師事務作業補助者や看護補助者を含む役割分担、指示の標準化、不要な慣行の見直しに医師も関与しなければならない。厚生労働省は2040年までの需要推計、新人研修の充実、ICT教材、遠隔授業、養成校の統廃合・サテライト化、教員配置基準の柔軟化を検討する。日本病院会からは、看護師偏在対策として卒後臨床研修や地域マッチングを導入する案も出ている。自治体による修学支援、地元勤務を条件とした学費給付、外国人看護補助者の活用も進む。ただし、確保策だけでなく、賃金、夜勤負担、教育支援、柔軟な勤務、専門性に応じた評価を一体で見直さなければ、看護師の志望者数減と離職の連鎖は止まらない。看護師の確保は、看護部門だけの課題ではなく、病院経営と地域医療構想の根幹に位置付けるべき大きな課題となっている。 参考 1) 消える看護学生、10年で3割減 地域医療の持続に黄信号(日経新聞) 2) 新人看護職員研修充実による看護師の資質向上、看護師養成校の人員体制柔軟化等による経営支援等を検討-看護職員養成・確保検討会(Gem Med) 3) 看護師の確保策にとどまらず「偏在対策」が必要、医師と同様の「卒後一定期間の臨床研修」制度を検討せよ-日病・相澤会長(同) 4) 看護師不足、人材確保へ模索 岐阜県下呂市、行政連携や外国人材活用(NHK) 6.医療機関の倒産、上半期で過去2番目 後継者難が深刻化/東京商工リサーチ東京商工リサーチによると、2026年上半期に倒産した病院、診療所、歯科医院は前年同期比15.1%増の38件と医療機関の経営悪化が一段と鮮明になっていることが明らかになった。上半期としては、2006年以降で2009年の39件に次ぐ2番目の高水準である。内訳は病院が4件と前年同期から半減した一方で、診療所は19件、歯科医院は15件に増加。診療所は過去20年間で最多となり、地域の身近な医療機関ほど厳しい状況に置かれている。倒産原因は、患者数や収入の減少など「販売不振」が22件、「既往のしわ寄せ」が8件で、合わせて約8割を占めた。さらに、後継者難による倒産は過去最多の11件に上り、全体の約3割を占めた。倒産の37件、97.3%が破産で、民事再生は1件だけだった。経営不振に陥った医療機関では、第三者への承継や再建が難しい実態がうかがえる。その一方で、裁判所への申し立てなどを伴う倒産には至らないものの、事業継続を断念し、廃業を選ぶ医療機関も急増している。帝国データバンクによると、2024年の休廃業・解散は722件だったが、2025年には823件へ増え、2年連続で過去最多を更新した。うち診療所が661件を占め、診療所経営者の56.7%が70歳以上とされる。2025年の倒産も66件で過去最多となった。背景には、光熱費、医薬品、医療材料、給食費、建設費、人件費の上昇に対し、公定価格である診療報酬へ十分に転嫁できない医療特有の構造がある。厚生労働省の調査でも、2024年度は一般病院の67.6%、医療法人の一般診療所の37.4%が赤字だった。患者数の減少、職員不足、施設の老朽化、後継者不在が重なれば、地域から医療機関が失われ、救急や在宅医療を含む残存施設への負担集中を招く。資金支援だけでなく、早期の事業承継、医療機関の再編・連携、物価や賃金を反映した診療報酬上の対応が急務となっている。 参考 1) 2026年上半期「医療機関」倒産 増勢続く 上半期で2番目の38件、「後継者難」は最多(東京商工リサーチ) 2) 日本の医療は崩壊寸前? 医療機関の休廃業・解散は過去最多722件(AERA)

17.

第323回 学会で質問殺到、コロナの予防投薬は誰にいつする?

INDEXコロナ治療薬、今はどうなっている?NEJM誌掲載の“今”の予防方法学会セッションでも質問殺到コロナ治療薬、今はどうなっている?新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)が感染症法上の5類に分類されてから3年以上が経過した。基礎疾患を有する高齢者にとってはいまだ脅威となる感染症だが、世間全般で見れば、もはやコロナ禍なぞどこ吹く風である。そしてやや酷な言い方をしてしまえば、コロナ禍中に世を賑わせた新型コロナに対する治療も“後退”を余儀なくされている。ご存じのようにコロナ禍中は、外資系のメガファーマを中心に国から特例・緊急承認を受け、その後に通常承認へと移行した治療薬も相次いだ。これまで何らかの形で承認されたのは以下の通りだ。抗ウイルス薬としては、第一弾で静脈注射のレムデシビル(商品名:ベクルリー)が登場し、経口薬のモルヌピラビル(ラゲブリオ)、ニルマトレルビル/リトナビル(パキロビッド)、エンシトレルビル(ゾコーバ)の順で上市された。また、これ以外にも中和抗体薬としてカシリビマブ/イムデビマブ(ロナプリーブ)を皮切りにソトロビマブ(ゼビュディ)、チキサゲビマブ/シルガビマブ(エバシェルド)、新型コロナによる肺炎に対して経口JAK阻害薬バリシチニブ(オルミエント)、ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体のトシリズマブ(アクテムラ)も承認された。しかし、mRNAワクチンの登場に加え、感染主流株が病原性の低いオミクロン株系統へと移行した結果、治療の景色は一変した。まず、デルタ株からオミクロン株への変遷で、ウイルス表面のスパイクタンパク質の変異が大きかったことから中和抗体薬はほぼ無効になり、事実上の退場となった。オミクロン株系統では肺炎患者が大幅に減ったことからバリシチニブ、トシリズマブも活用機会も激減した。そしてもっとも主力となる経口抗ウイルス薬の4種類については、いずれも公的な費用対効果分析ではネガティブな評価を下され、薬価が引き下げとなった。NEJM誌掲載の“今”の予防方法そのような中で新型コロナの治療に関して比較的明るい話題としては、今年3月にエンシトレルビルが新型コロナ感染者との接触者に対する予防投与の適応で承認追加となったことぐらいだろう。この承認のもとになった臨床試験結果は今年5月にNEJM誌に論文1)が掲載されている。COVID-19患者の同居家族、エンシトレルビルで発症予防/NEJM本連載を過去から長らくお読みの方は、私個人がエンシトレルビルの緊急承認時の有効性にはかなり懐疑的だったことをご記憶の方もいるかもしれないが、この点は今でもほぼ変わっていない。一方でこの曝露後予防に関する結果については、ほぼ額面通りに受け止めている。以前、本連載で新型コロナの治療なども含め現在地を取りまとめたことがあった(第280回、第281回)が、その当時はこのエンシトレルビルに関して、いわばトップジャーナルでの掲載論文がほとんどないことがやや悩みだった。ほかの治療薬と比べて、エビデンス上、アンバランス感が否めなかったからだ。しかし、今回は堂々のNEJM誌掲載であり、一定の評価はしている。もっとも敢えて言うならば、この数字を適用すれば、新型コロナ感染者に接触した人が100人いる場合、何もせずにいれば9人が発症し、エンシトレルビルを5日間服用すればそれが3人に抑えられる計算になる。そしてうち91人はもともと発症しない。そのうえで適応が承認されたとはいえ予防投与の薬剤費は、5日間で4万9,630円の全額自己負担。個人的感想としては「高齢者で新型コロナ感染時に重症化因子となる基礎疾患が複数ある人などを除けば、効果の割にはかなり高額の自己負担が必要」とややネガティブな評価になる。これが現在の季節性インフルエンザに対する抗ウイルス薬・オセルタミビル(タミフルほか)くらいの薬価なら、かなりコスパが良いとなるのだが…。もっとも医療機関を受診して新型コロナ感染が判明した人の家族や同居者が予防投与を開始するか否かは、インフォームド・コンセント(IC)を行ったうえで本人たちの意思に委ねれば、おおむね解決できると言えるだろう。ただ、入院患者で発症した場合、院内感染対策として同室患者に処方するか否かという場面が生じた際には、医療機関にとってかなり悩ましいことになる。インフルエンザについては、多床室で感染者が発生した場合、少なからぬ病院では持ち出しで同室者にオセルタミビルを予防処方しているのが実態だ。それもこれもジェネリック品ならば、1カプセルの薬価は104.1~108円であり、予防内服は7~10日間で薬剤費は最大1人1,080円で済むからである。現在の多床室で一般的な4人部屋で考えると、最初にインフルエンザに感染した人は保険診療で対応し、残る3人を持ち出しで予防内服をさせても、支出は3,240円である。先発品を使ったとしても5,169円にとどまる。最悪、患者に事情を説明し、自己負担をお願いしたとしても「まあ、しょうがないか」と応じてくれる人もそれなりにいるだろう。しかし、エンシトレルビルではそうはいかないことは明らかだ。同じように4人部屋で1人感染者が発生し、ほかの患者への予防内服を病院持ち出しにすると、その金額はオセルタミビルの実に28倍超の14万6,670円となる。昨今の物価・人件費の高騰により、経営苦境が極度に顕在化している現状では、病院側がすんなり持ち出しをできる金額ではない。そして患者に負担をお願いするとしても約5万円という金額を即答で応じてくれる人は皆無ではないだろうか?学会セッションでも質問殺到実は先日、横浜市で開催された第41回日本環境感染学会総会・学術集会では「緊急企画・医療機関におけるCOVID-19伝播に対する抗ウイルス薬の予防投与」と題したセッションでこのことが話題となった。同セッションで登壇した泉川 公一氏(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 臨床感染症学分野 教授)は「理想的には同室者全員に投与することが望ましいとは思うが、より現実的には重症化リスクの重み付けなどを検討してもよいのかもしれない。たとえば糖尿病、慢性腎臓病、慢性閉塞性肺疾患などの基礎疾患、あるいは免疫不全の有無などをスコアリングし、よりスコアの高い患者を優先的にという考え方、さらにこれに加えワクチン未接種者、施設入所者といったファクターも加味させてもよいのかもしれない」との見解を示した。理論上は筋が通っているものの、この時会場にいた人の中で、この発言に歯切れの悪さを感じたのは自分だけではないだろう。もちろんこれは泉川氏のせいではなく、薬価も含めて極めて悩ましい外部環境があるからである。また、同じくこのセッションに登壇した掛屋 弘氏(大阪公立大学大学院医学研究科 臨床感染制御学教授)は、「現状でエンシトレルビルを採用していない病院はあるかもしれないものの、予防投与の適応が承認された以上、病院としてはやはり準備(採用)しておくことは必要」との認識を強調。そのうえで予防投与の院内ルールの検討を行うべきとの見解を示した。掛屋氏によると、大阪公立大学医学部附属病院の場合、総務企画課、医事運営課、血液内科、感染制御部が合同で予防投与の運用検討会議を開催している。現在までの予防投与の院内ルール検討では、事務方から一律病院負担で広く予防投与することの了承は得られていないという。そのうえで掛屋氏は私案として病室での孤発例の場合は患者自己負担、クラスター発生時はその拡大を防ぐという意味での病院負担という考え方の一例を提示した。具体的には孤発、クラスターいずれのケースでも、まず陽性者確認の段階で接触者の抽出と個々の接触者の重症化リスク評価を実施。患者自己負担が原則の孤発ケースでは、接触者全員にエンシトレルビルによる予防投与の手段があること、予防投与を選択しなくても発症した場合は迅速に対応することを説明する。また、クラスター対応時の接触者の病室管理については、原則としては個室収容が望ましいものの、同室者の中で予防投与患者と非予防投与患者が混在した場合、予防投与のメリットが低減することを考慮し、予防投与した患者を優先的に個室収容するという対応もあり得るとした。このセッションでは会場からも数多くの質問が寄せられた。その一部を要約して紹介したい。―古い病院では、大部屋にトイレがなくて洗面所や休憩室も一緒な場合がある。この場合、予防投与の範囲をどう考えるべきか?「非常に難しいが、トイレですれ違ったなどのレベルでは感染が成立する可能性は低いと考えられるので、やはり同室の方(の予防)が中心になると思う」(掛屋氏)―ワクチンの追加接種歴があれば、曝露しても重症化リスクが低下する。重症化リスクではワクチン接種歴をどの程度加味するべきか?「原則、ワクチン接種歴は勘案しない。というのも従来から行われているインフルエンザの院内感染対策での予防内服の場合、ワクチン接種歴を考慮していない。また、ワクチン接種で100%予防できるわけではないので、改めて予防投与での判断要素とはしない」(登壇者:國島 広之氏[聖マリアンナ医科大学感染症学講座 主任教授])「私も基本的に國島先生と同じ考え。ケースバイケースで半年以内の接種有無、最新流行株のワクチン接種歴は聴取するかもしれないが、昨年の定期接種での65歳以上の新型コロナワクチン接種率は約10%と言われているので、ほぼ全員が接種していない前提で考えている」(掛屋氏)―(新型コロナ陽性の)スタッフと患者との接触では、その日に(そのスタッフの)受け持ちだった(患者)ということになると、かなり広範囲の患者(が対象)になってしまう。マスク着用の有無も含め、そこをどのように判断するのか「マスクをせずに接触する事態はあるかもしれないが、まずは私たちの側に明らかな非を作らないことが大事。今、一部にはもう皆でマスクを外しても良いのではないかという考えもあるようだが、むしろ院内感染リスクの観点では逆の考え方もあると思う」(掛屋氏)正直、これら質疑応答のやり取りにも絶対の正解はないのだろう。いずれにせよ技術革新、医療の進歩が新たなジレンマを生み出したことだけは確かである。参考1)Hayden FG, et al. N Engl J Med. 2026;394:1905-1915.

18.

重症感染症患者の遠隔モニタリング、自宅で過ごす日数は改善せず

 ウェアラブル機器やスマートフォンによる通信技術の進歩により、病院では患者を早期退院させ、自宅療養中の状態を遠隔モニタリングする取り組みが進められている。このアプローチは、例えば心不全など一部の疾患では有効性が示されている。しかし、新たな研究で、敗血症や下気道感染症などに対して遠隔モニタリングを行っても、患者が自宅で過ごす日数が増えることはなく、高齢患者ではむしろ日数が減る可能性が示唆された。米ピッツバーグ大学集中治療医学分野教授のSachin Yende氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に6月11日掲載された。 研究の背景情報によると、米国では毎年300万人を超える患者が、インフルエンザや敗血症、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などの重篤な感染症で入院している。また、敗血症や下気道感染症から回復した患者では、その後1年以内の死亡率が約40%に達し、再入院の60%超は感染症の再発や心疾患・肺疾患の悪化によるものとされる。 研究グループによると、米国のメディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)は、医療へのアクセス向上と医療費削減の両立を目指す戦略として遠隔モニタリングを推進している。その結果、2019年から2022年にかけて、メディケア受給者における遠隔モニタリングの利用は10倍に増加した。Yende氏はニュースリリースで、「医療機関、保険会社、政策立案者はいずれも再入院の減少を望んでいるし、多くの患者も安全に自宅で回復することを希望している。遠隔モニタリングはその解決策として期待されており、CMSによる保険償還の対象にもなっているため利用が拡大している。しかし、一部の疾患を除けば、遠隔モニタリングが再入院の減少につながることを示す質の高いデータは極めて乏しい」と指摘する。 今回の研究では、19施設で敗血症または下気道感染症の治療を受けた21歳以上の患者1,286人(年齢中央値63歳、女性51.7%)を対象に、遠隔モニタリングの有効性を検証した。主要評価項目は、退院後90日間の自宅滞在日数であった。患者は、遠隔モニタリングを受ける群(887人)と通常のケアを受ける対照群(399人)にランダムに割り付けられた。遠隔モニタリングは質問票を用いた介入であり、質問票の強度(低強度〔短い〕/高強度〔長い〕)と、対応体制(通常のナースチームによる標準対応/多職種による強化対応)を組み合わせた4種類の介入が用いられた。 その結果、遠隔モニタリング群では対照群と比較して、退院後90日間の自宅滞在日数に改善は認められなかった。また、再入院率についても有意な改善は認められなかった。一方、65歳以上の患者では、遠隔モニタリング群では対照群と比較して自宅滞在日数が少ないことが示された。 研究グループは、「これらの結果は、CMSが再入院抑制における遠隔モニタリングの役割を再評価する必要があることを示唆している。また、重篤な感染症後の急性期後のケアでは、患者ごとの状況に応じた遠隔モニタリングを行うことの重要性を示している」と述べている。 さらに研究グループは、「今回の結果は、遠隔モニタリングを医療システム全体へ導入・拡大することの難しさを浮き彫りにしている。また、重篤な疾患から回復中の患者は、薬物治療やフォローアップ受診の予約、持続する症状への対応など複雑なケアを必要としており、そのような患者に遠隔モニタリングを適用することの課題を示してもいる」と結論付けている。

19.

再発・難治性B細胞NHL、CAR-T細胞療法の10年追跡結果/NEJM

 再発または難治性のB細胞非ホジキンリンパ腫(NHL)患者において、チサゲンレクルユーセルの単回投与により、大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)患者では約3分の1、濾胞性リンパ腫(FL)患者では約半数が、10年に及ぶ寛解(リンパ腫無再発生存)を得たという。米国・ペンシルベニア大学のMarco Ruella氏らが、同大学で実施した第II相試験の10年追跡調査の結果を報告した。抗CD19キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法は、再発・難治性B細胞NHLに対する標準治療であるが、長期アウトカムや治癒の可能性は依然として不明であった。NEJM誌2026年6月25日号掲載の報告。チサゲンレクルユーセル投与の患者38例を10年追跡 研究グループは、CD19を標的とし、4-1BB共刺激ドメインを有するキメラ抗原受容体を発現する自家T細胞であるCTL019(現在のチサゲンレクルユーセル)の投与を受けた、再発または難治性のB細胞NHL患者について、10年の長期アウトカムを評価した。 49例が登録され、このうち38例(LBCL患者24例、FL患者14例)がチサゲンレクルユーセルの投与を受け、長期有効性および安全性の評価対象となった。 評価項目のリンパ腫無再発生存期間は、チサゲンレクルユーセル注入からリンパ腫の再発またはリンパ腫関連死亡までの期間と定義した。非再発死亡および2次原発がんの発生率は、Aalen-Johansen法を用いて推定した。 本研究は2014年1月~2019年9月に実施され、長期追跡調査のデータカットオフ日は2025年10月1日であった。10年リンパ腫無再発生存率はLBCL32%、FL47%、奏効例の半数以上は奏効が持続 追跡期間中央値10.1年(範囲:7.9~11.5)の時点で、患者の約3分の1が寛解を維持しており、LBCLでは5.4年を超えて、FLでは2.7年を超えての再発は認められなかった。 10年リンパ腫無再発生存率は、LBCL患者で32%(95%信頼区間[CI]:14~51)、FL患者で47%(95%CI:20~71)であった。 全死因死亡を含めた10年無増悪生存率は、LBCL患者で17%(95%CI:5~34)、FL患者で29%(95%CI:9~52)、10年全生存率はそれぞれ17%(95%CI:5~34)および50%(95%CI:23~72)と推定された。 奏効例における10年時点での奏効持続率は、全患者では57%(95%CI:35~74)、 LBCL患者で54%(95%CI:25~77)、FL患者で60%(95%CI:25~83)であった。 長期的な造血機能の回復を評価したところ、慢性貧血または血小板減少は認められず、38例中36例で好中球数の回復が安定しており、2例(5%)でGrade2または3の好中球減少症が持続していた。 9例に2次原発がんが発生し(10年累積発生率21%)、2次がん診断までの期間の中央値は4.7年(範囲:0.7~10.8)であった。 非再発関連死の10年累積発生率は18%(新型コロナウイルス感染症関連死を除外した場合は14%)であった。 CAR導入遺伝子の持続性が、長期的な奏効に関連していると考えられた。長期奏効例の44%において、B細胞無形成が持続していた。

20.

SCORPIO-PEP試験:エンシトレルビルはCOVID-19家族内発症を予防できるか(解説:小金丸博氏)

 NEJM誌2026年5月14日・21日合併号に掲載されたSCORPIO-PEP試験は、エンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)をCOVID-19患者の同居家族に対して曝露後予防に用いた第III相試験である。主要評価項目である「症候性COVID-19発症」は、エンシトレルビル群2.9%、プラセボ群9.0%で、リスク比0.33と有意な抑制効果を示した。絶対リスク減少は約6%であり、NNT(治療必要数)は17と計算される。家庭内感染という高曝露環境を考慮すると、かなり良好な成績といえる。 本試験の強みは、二重盲検ランダム化比較試験であること、多国籍試験であること、さらにオミクロン株流行期に実施された点にある。参加者の大多数が既感染あるいはワクチン接種由来の抗体を保有しており、現在の実臨床に近い集団で有効性が示された意義は大きい。また、有害事象発現率はプラセボ群と同等であり、安全性に関しても大きな問題を認めなかった。 一方で、臨床実装に向けては慎重な解釈も必要である。本試験のエンドポイントは「感染予防」ではなく「症候性COVID-19発症予防」であり、無症候感染自体は一定数認められている。つまり、ウイルス伝播抑制効果を直接証明した試験ではない。また、観察期間は10日間が中心であり、long COVIDの抑制や入院予防への寄与は評価されていない。 さらに重要なのは、ベースラインのイベント発生率が比較的低い点である。プラセボ群でも発症率は9%にとどまり、オミクロン株流行期以降の免疫保有集団においては、家庭内曝露があっても発症する者は限られる。このため、接触者全員への一律予防投与は費用対効果に乏しい可能性がある。真に恩恵を受けるのは、高齢者、免疫不全者、重症化リスクを持つ家族を抱える世帯などに限られるかもしれない。 耐性変異の問題も未解決である。論文中では明確な耐性伝播は確認されなかったが、3CLプロテアーゼ阻害薬は理論上耐性化リスクを抱える。とくに軽症例や予防投与への広範な使用は、選択圧を高める可能性がある。COVID-19が季節性感染症化しつつある現状では、抗ウイルス薬をどこまで「予防」に用いるべきかという抗菌薬適正使用に近い視点が必要になる。 本試験は「COVID-19家庭内曝露後の予防」という新しい戦略の有効性を示した点で画期的である。ただし、その適応は接触者への一律投与ではなく、高リスク接触者へのターゲット使用として考えるべきであり、長期アウトカム、耐性化、費用対効果を含めた今後の検討が不可欠である。

検索結果 合計:2953件 表示位置:1 - 20