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敗血症性ショックは指で評価!末梢灌流の評価が臓器障害を減らす【論文から学ぶ看護の新常識】第24回

敗血症性ショックは指で評価!末梢灌流の評価が臓器障害を減らす敗血症性ショックにおいて、今や重要な指標の1つとなっている「末梢灌流」。その臨床的有用性が注目されたきっかけは、Glenn Hernandez氏らが6年前に行った研究だった。今回は、JAMA誌2019年2月19日号掲載のこの報告を紹介する。末梢灌流状態と血清乳酸値を標的とした蘇生戦略が、敗血症性ショック患者の28日死亡率に与える影響:The ANDROMEDA-SHOCKランダム化比較臨床試験研究チームは、成人の敗血症性ショック時の末梢灌流を標的とした蘇生が、血清乳酸値を標的とする蘇生と比較して、28日死亡率を低下させるかどうかを検証することを目的に、多施設共同、非盲検ランダム化比較臨床試験を実施した。2017年3月から2018年3月にかけて南米5カ国28施設で行われ、最終追跡調査は2018年6月12日に完了した。対象は、敗血症性ショックと診断され、ICUに入室した成人患者424名。8時間の介入期間中に、毛細血管再充満時間(CRT)の正常化を目標とする群(末梢灌流群、212名)と、乳酸値を2時間あたり20%以上の割合で低下または正常化させることを目標とする群(乳酸値群、212名)に無作為に割り付けた。主要評価項目は、28日時点での全死因死亡率とした。副次評価項目は、90日時点での死亡、ランダム化後72時間時点での臓器機能不全(SOFAスコアによる評価)、28日以内の人工呼吸器非装着日数、腎代替療法非実施日数、昇圧薬非使用日数、集中治療室滞在期間および入院期間とした。主な結果は以下の通り。28日目までに、末梢灌流群では74名(34.9%)、乳酸値群では92名(43.4%)が死亡した。ハザード比:0.75(95%信頼区間[CI]:0.55~1.02)、p=0.06、リスク差:−8.5%(95%CI:−18.2%~1.2%)。末梢灌流を標的とした蘇生は、72時間後の臓器障害がより少ないことに関連していた。平均SOFAスコア:5.6 vs.6.6(SD:4.3 vs.4.7)、平均差:−1.00(95%CI:−1.97~−0.02)、p=0.045。末梢灌流群では、最初の8時間以内に投与された蘇生輸液の量がより少なかった。平均差:−408mL(95%CI:−705~−110)、p=0.01。その他の6つの副次評価項目に有意な差はなかった。敗血症性ショック患者において、毛細血管再充満時間の正常化を目標とした蘇生戦略は、血清乳酸値の正常化を目標とした戦略と比較して、28日時点での全死因死亡率を統計的に有意に低下させなかった。院内で誰もが遭遇しうる重篤な敗血症性ショック。その早期治療は極めて重要です。今回ご紹介する2019年発表の論文は、蘇生目標を「毛細血管再充満時間(CRT)の正常化」と「血中乳酸値の正常化」のどちらにおくべきかを比較した、重要な国際ランダム化比較試験です。結果として、主要評価項目である28日死亡率には統計的な有意な差は認めなかったものの、CRTを目標とした群では、72時間時点での臓器障害が有意に少なく、さらに蘇生初期の輸液量も少なかったという、興味深い結果でした。すなわち、特別な検査機器なしにベッドサイドで即座に判断できるCRTが、敗血症性ショック治療における重要な評価指針となる可能性が示されたのです。この研究におけるCRTの測定法は、右手人差し指の指先の腹(指紋側)をスライドガラスで10秒間圧迫し、色が戻るまでに3秒を超えた場合を異常と定義しています。日本で一般的に行われる「爪床を5秒以上圧迫し、色が戻るまでに2秒を超えると異常」とは異なる点には、ご注意を!本論文は2019年と少し古いですが、CRTの臨床的有用性を示唆した画期的な研究です。現在、さらに大規模な後続研究「The ANDROMEDA-SHOCK-2」が進行中であり、その結果が待たれます!論文はこちらHernandez G, et al. JAMA. 2019;321(7):654-664.

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「日本版敗血症診療ガイドライン2024」改訂のポイント、適切な抗菌薬選択の重要性

 2024年12月、日本集中治療医学会と日本救急医学会は合同で『日本版敗血症診療ガイドライン2024(J-SSCG 2024)』1)を公開した。今回の改訂では、前版の2020年版から重要臨床課題(CQ)の数が118個から78個に絞り込まれ、より臨床現場での活用を意識した構成となっている。5月8~10日に開催された第99回日本感染症学会総会・学術講演会/第73回日本化学療法学会総会 合同学会にて、本ガイドライン特別委員会委員長を務めた志馬 伸朗氏(広島大学大学院 救急集中治療医学 教授)が、とくに感染症診療領域で臨床上重要と考えられる変更点および主要なポイントを解説した。 本ガイドラインは、日本語版は約150ページで構成され、前版と比較してページ数が約3分の2に削減され、内容がより集約された。迅速に必要な情報へアクセスできるよう配慮されている。英語版はJournal of Intensive Care誌2025年3月14日号に掲載された2)。作成手法にはGRADEシステムが採用され、エビデンスの確実性に基づいた推奨が提示されている。また、内容の普及と理解促進のため、スマートフォン用アプリケーションも提供されている3)。CQ1-1:敗血症の定義 敗血症の定義は、国際的なコンセンサスであるSepsis-3に基づき、「感染症に対する生体反応が調節不能な状態となり、重篤な臓器障害が引き起こされる状態」とされている。CQ1-2:敗血症の診断と重症度 敗血症は、(1)感染症もしくは感染症の疑いがあり、かつ(2)SOFAスコアの合計2点以上の急上昇をもって診断する。敗血症性ショックは、上記の敗血症の基準に加え、適切な初期輸液療法にもかかわらず平均動脈圧65mmHg以上を維持するために血管収縮薬を必要とし、かつ血清乳酸値が2mmol/L(18mg/dL)を超える状態とされている。敗血症性ショックの致死率が30%を超える重篤な病態であり、志馬氏は「敗血症とは診断名ではなく、感染症患者の救命のための迅速な重症度評価指標であり、何よりも大事なのは、評価して認識するだけでなく、早期の介入に直ちにつながらなければならない」と述べた。CQ1-3:一般病棟、ERで敗血症を早期発見する方法は? ICU以外の一般病棟や救急外来(ER)においては、quick SOFA(qSOFA:意識変容、呼吸数≧22/min、収縮期血圧≦100mmHg)を用いたスクリーニングツールが提唱されている。qSOFAは、敗血症そのものを診断する基準ではなく、2項目以上が該当する場合に敗血症の可能性を考慮し、SOFAスコアを用いた評価につなげる。初期治療バンドル:迅速かつ系統的な介入の指針 敗血症が疑われる場合、直ちに実施すべき一連の検査・治療が「初期治療ケアバンドル」(p.S1171)にまとめられている。主要な構成要素は以下のとおり。これらの介入を、敗血症の認識から数時間以内に完了させることが目標とされている。―――――・微生物検査:血液培養を2セット。感染巣(疑い)からの検体採取。・抗菌薬:適切な経験的抗菌薬投与。・初期蘇生:初期輸液(調整晶質液を推奨)。低血圧を伴う場合は、初期輸液と並行して早期にノルアドレナリン投与。乳酸値と心エコーを繰り返し測定。・感染巣対策:感染巣の探索と、同定後のコントロール。・ショックに対する追加投与薬剤:バソプレシン、ヒドロコルチゾン。―――――抗菌薬治療戦略に関する重要な変更点と推奨事項 敗血症における抗菌薬治療のポイントは、「迅速性と適切性が強く要求される」という点が他の感染症と異なる。本ガイドラインにおける抗菌薬治療の項では、いくつかの重要な変更点と推奨が提示されている。CQ2-2:敗血症に対する経験的抗菌薬は、敗血症認知後1時間以内を目標に投与開始するか? 本ガイドラインでは、「敗血症または敗血症性ショックと認知した後、抗菌薬は可及的早期に開始するが、必ずしも1時間以内という目標は用いないことを弱く推奨する (GRADE 2C)」とされている。志馬氏は、投与の迅速性のみを追求することで不適切な広域抗菌薬の使用が増加するリスクや、1時間以内投与の有効性に関するエビデンスの限界を指摘した。メタ解析からは、1~3時間程度のタイミングでの投与が良好な予後と関連する可能性も示唆された4)。CQ2-3:経験的抗菌薬はどのようにして選択するか? 本ガイドラインでは「疑わしい感染巣ごとに、患者背景、疫学や迅速微生物診断法に基づいて原因微生物を推定し、臓器移行性と耐性菌の可能性も考慮して選択する方法がある(background question:BQに対する情報提示)」とされている。志馬氏は「経験的治療では、かつては広域抗菌薬から始めるという傾向があったが、薬剤耐性(AMR)対策の観点からも、広域抗菌薬を漫然と使用するのではなく、標的への適切な抗菌薬選択を行うことで死亡率が低下する」と適切な抗菌薬投与の重要性を強調した5)。 経験的治療の選択には、「臓器を絞る、微生物疫学を考慮する、耐性菌リスクを考慮する、迅速検査を活用する」ことによって、より適切な治療につなげられるという。敗血症の原因感染臓器は、多い順に、呼吸器31%、腹腔内26%、尿路18%、骨軟部組織13%、心血管3%、その他8%となっている6)。耐性菌リスクとして、直近の抗菌薬暴露、耐性菌保菌、免疫抑制を考慮し、迅速診断ではグラム染色を活用する。ガイドラインのCQ2-1では「経験的抗菌薬を選択するうえで、グラム染色検査を利用することを弱く推奨する(GRADE 2C)」とされている。グラム染色により不要な抗MRSA薬や抗緑膿菌薬の使用を削減できる可能性が示された7)。これらのデータを基に、本ガイドラインでは「原因微生物別の標的治療薬」が一覧表で示されている(p.S1201-S1206)。腎機能低下時、初期の安易な抗菌薬減量を避ける 講演では、敗血症の急性期、とくに初回投与や投与開始初日においては、腎機能(eGFRなど)の数値のみに基づいて安易に抗菌薬を減量すべきではない、という考え方も示された。志馬氏は、抗菌薬(βラクタム系)の用量調整は少なくとも24時間以後でよいと述べ、初期の不適切な減量による治療効果減弱のリスクを指摘した8)。これは、敗血症初期における体液量の変動や腎機能評価の困難性を考慮したものだ(CQ2-6 BQ関連)。βラクタム系薬の持続投与または投与時間の延長 CQ2-7(SR1)では、βラクタム系抗菌薬に関して「持続投与もしくは投与時間の延長を行うことを弱く推奨する(GRADE 2B)」とされている。これにより、死亡率低下や臨床的治癒率の向上が期待されると解説された9)。一方でCQ2-7(SR2)では、「グリコペプチド系抗菌薬治療において、持続投与または投与時間の延長を行わないことを弱く推奨する」とされている(GRADE 2C)。また、デエスカレーションは弱く推奨されている(GRADE 2C)(CQ2-9)。ただし、志馬氏は臨床でのデエスカレーションの達成率が約4割と低い現状に触れ、そもそも途中でデエスカレーションをしなくていいように、初期に適切な狭域の抗菌薬選択をすることも重要であることを再度強調した。治療期間の短縮化:7日間以内を原則とし、プロカルシトニンも活用 CQ2-12では、「比較的短期間(7日間以内)の抗菌薬治療を行うことを弱く推奨する(GRADE 2C)」としている。RCTによると、敗血症においても多くの場合1週間以内の治療で生命予後は同等であり、耐性菌出現リスクを低減できることが示されている10~12)。 抗菌薬中止の判断材料として「プロカルシトニン(PCT)を指標とした抗菌薬治療の中止を行うことを弱く推奨する(GRADE 2A)」とし(CQ2-11)、PCT値の経時的変化(day5~7に0.5μg/L未満またはピーク値から80%減少した場合など)を指標にすることが提案されている13)。 本講演では、近年の国内および世界の敗血症の定義の変化を反映し、敗血症を診断名としてだけでなく、感染症の重症度を評価するための指標として捉えることの重要性が強調され、主に抗菌薬にフォーカスして解説された。志馬氏は「本ガイドラインのアプリも各施設で活用いただきたい」と述べ講演を終えた。■参考文献・参考サイト1)志馬 伸朗, ほか. 日本版敗血症診療ガイドライン2024. 日本集中治療医学会雑誌. 2024;31:S1165-S1313.2)Shime N, et al. J Intensive Care. 2025;13:15.3)日本集中治療学会. 「日本版敗血症診療ガイドライン2024 アプリ版」公開のお知らせ4)Rothrock SG, et al. Ann Emerg Med. 2020;76:427-441.5)Rhee C, et al. JAMA Netw Open. 2020;3:e202899.6)Umemura Y, et al. Int J Infect Dis. 2021;103:343-351.7)Yoshimura J, et al. JAMA Netw Open. 2022;5:e226136.8)Aldardeer NF, et al. Open Forum Infect Dis. 2024;11:ofae059.9)Dulhunty JM, et al. JAMA. 2024;332:629-637.10)Kubo K, et al. Infect Dis (Lond). 2022;54:213-223.11)Takahashi N, et al. J Intensive Care. 2022;10:49.12)The BALANCE Investigators, et al. N Engl J Med. 2025;392:1065-1078.13)Ito A, et al. Clin Chem Lab Med. 2022;61:407-411.

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Capnocytophaga spp.【1分間で学べる感染症】第29回

画像を拡大するTake home messageCapnocytophaga spp.は、脾機能低下患者において敗血症性ショックと播種性血管内凝固症候群(DIC)を引き起こすことのある重要な起因菌である。今回は、とくに脾機能低下患者において重篤な病態を引き起こす可能性のあるCapnocytophaga spp.(カプノサイトファーガ属細菌)に関して一緒に学んでいきましょう。種類Capnocytophaga属にはC. canimorsus、C. sputigena、C. cynodegmiなどが含まれ、全部で9種類存在します。これらは動物由来(zoonotic)とヒト口腔内常在菌(human-oral associated)の2つに分類されます。C. canimorsusはイヌやネコの咬傷によってヒトに感染することが多い一方で、C. gingivalis、C. sputigenaはヒトの口腔内に存在します。微生物学的特徴Capnocytophaga spp.は通性嫌気性のグラム陰性桿菌であり、発育が遅いのが特徴です。また、グラム染色では特徴的な紡錘型を示すとされています。さらに、莢膜を持つことは微生物学的にも臨床上も重要なキーワードです。莢膜を持つことが、後から述べる解剖学的または機能的無脾症患者において重篤な病態を引き起こす理由となっています。リスク因子Capnocytophaga spp.による感染症のリスク因子として、解剖学的または機能的無脾症、血液悪性腫瘍、過度のアルコール摂取、肝硬変が挙げられます。無脾症患者や肝疾患のある患者は、脾臓が担う莢膜菌に対するオプソニン化と貪食促進の欠如により感染症が重症化しやすいため、早期の診断と治療が求められます。臨床像Capnocytophaga spp.は、動物由来であればイヌやネコなどの動物咬傷による皮膚軟部組織感染、また重篤な場合は敗血症性ショックや播種性血管内凝固症候群(DIC)を引き起こすことがあります。一方、ヒト口腔内常在菌によるものでは、血液悪性腫瘍患者における好中球減少性発熱やカテーテル関連感染症などを来します。それぞれのリスクに応じて、これらを鑑別疾患に挙げる必要があります。薬剤感受性Capnocytophaga spp.は一般的にβ-ラクタム/β-ラクタマーゼ阻害薬に感受性を示します。具体的には、アンピシリン/スルバクタムやタゾバクタム/ピペラシリン、また、セフトリアキソン、カルバペネム系抗菌薬も有効です。一方で、フルオロキノロン系抗菌薬に対しては50%の耐性を示すことが報告されているため、治療選択の際には注意が必要です。上記のリスクを有する患者で動物咬傷の病歴があったり、血液悪性腫瘍患者で血液培養からグラム陰性桿菌を見たりした際には鑑別疾患の1つとしてCapnocytophaga spp.による菌血症を挙げ、治療を遅らせないことが重要です。1)Jolivet-Gougeon A, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2000;44:3186-3188.2)Butler T. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2015;34:1271-1280.3)Chesdachai S, et al. Open Forum Infect Dis. 2021;8:ofab175.

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2日目のカレーは食中毒のリスク

翌日のカレーで多い食中毒はウエルシュ菌食中毒●原因と感染経路原因菌は、ヒトなどの大腸内常在菌で下水、耕地などに広く分布するウエルシュ菌(図)。ウエルシュ菌食中毒は、エンテロトキシンにより発症する感染型食中毒であり、年20~40件(平均28件)程度あるが、1事件当たりの平均患者数は83.7人で、他の細菌性食中毒に比べ、圧倒的に多く、大規模事例が多い。食中毒の発生場所は、給食施設などで、主な原因食品は、カレー、スープ、肉団子などがある。●主な症状潜伏時間は通常6~18時間(平均10時間)で、喫食後24時間以降に発病することはほぼない。主要症状は腹痛と下痢。下痢の回数は1~3回/日程度のものが多く、主に水様便と軟便。腹部膨満感が生じることもあるが、嘔吐や発熱などの症状はきわめて少なく、症状は一般的に軽く1~2日で回復する。●治療や予防法特別な治療方法はなく、治療は対症療法が主体。予防は食品中の菌の増殖防止であり、加熱調理食品は小分けするなどして急速冷却し、低温で保存する。保存後に喫食する場合は充分な再加熱を行う。また、前日調理、室温放置は避けるべきである。●その他注意する点ウエルシュ菌が産生する溶血毒のために急死する敗血症例もある。国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト ウエルシュ菌感染症より引用(2025年7月4日閲覧)https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ta/5th-disease/010/5th-disease.htmlCopyright © 2025 CareNet,Inc. All rights reserved.

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スタチンは敗血症の治療にも効果あり?

 スタチン系薬剤(以下、スタチン)は、高LDLコレステロール(LDL-C)血症の治療における第一選択薬であるが、この安価な薬剤は、別の病態において救命手段となる可能性があるようだ。新たな研究で、敗血症患者の治療において、抗菌薬、点滴、昇圧薬による通常の治療にスタチンを加えることで死亡リスクが低下する可能性のあることが明らかになった。天津医科大学総合病院(中国)のCaifeng Li氏らによるこの研究結果は、「Frontiers in Immunology」に6月6日掲載された。 敗血症は、感染症に対する過剰な免疫反応によって全身に炎症が広がり、複数の重要な臓器に機能不全が生じる病態である。研究グループによると、米国では毎年約75万人が敗血症で入院し、そのうち約27%が死亡している。敗血症患者の約15%には、血圧が危険なレベルまで低下する敗血症性ショックが生じる。敗血症性ショックの死亡リスクは30〜40%に上ると報告されている。 スタチンには、「悪玉コレステロール」とも呼ばれるLDL-Cとトリグリセライド(中性脂肪)の値を下げる一方で、「善玉コレステロール」とも呼ばれるHDLコレステロール(HDL-C)の値を上げる作用がある。しかしLi氏によると、スタチンには炎症を抑制し、免疫反応を調整し、血栓形成を抑制する効果があることも示されているという。 この研究でLi氏らは、2008年から2019年の間にボストンのベス・イスラエル・ディーコネス医療センターの集中治療室(ICU)で収集されたデータ(Medical Information Mart for Intensive Care-IV;MIMIC-IV)を用いて、スタチンにより敗血症患者の転帰が改善するのかを検討した。対象はこのデータから抽出した敗血症患者2万230人で、うち8,972人(44.35%)はスタチンを投与されていた。傾向スコアマッチングを行い、最終的に1万2,140人(スタチン群と非スタチン群が6,070人ずつ)を対象に解析を行った。 その結果、28日間での全死因死亡率はスタチン群で14.3%(870/6,070人)、非スタチン群で23.4%(1,421/6,070人)であり、スタチン投与は28日間の全死因死亡リスクの44%の低下と関連していた(ハザード比0.56、95%信頼区間0.52〜0.61、P<0.001)。また、スタチン群ではICU死亡リスク(オッズ比0.43、95%信頼区間0.37〜0.49、P<0.001)および院内死亡リスク(同0.50、0.45〜0.57、P<0.001)も有意に低かった。ただし、スタチン群では、人工呼吸器の装着期間と持続的腎機能代替療法を受ける期間が、非スタチン群よりも有意に長かった。 Li氏は、「これらの結果は、スタチンが敗血症患者に保護効果をもたらし、臨床転帰を改善する可能性があることを強く示唆している」と述べている。同氏は、本研究結果が過去の臨床試験の結果と矛盾していることを指摘し、その理由について、「これまでのランダム化比較試験では、敗血症の診断の報告不足、サンプル数の少なさ、スタチン投与と患者特性との複雑な相互作用を考慮していないことなどが原因で、敗血症患者に対するスタチンの有効性が認められなかった可能性がある」と考察している。 ただし研究グループは、本研究は観察研究であり、本格的な臨床試験で得られるような、スタチンと敗血症による死亡リスクの低下との間の直接的な因果関係を示すことはできないとしている。Li氏は、「これらの結果は、理想的には、大規模なサンプル数の敗血症患者を対象とし、スタチンの種類、投与量、治療期間に関する詳細な情報を含めたランダム化比較試験で検証されるべきだ。また、スタチン投与の開始時期と潜在的な交絡因子について慎重に検討することも必要だ」と述べている。

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高齢の進行古典的ホジキンリンパ腫、ニボルマブ+AVDがBV+AVDより有用(S1826サブ解析)/JCO

 進行古典的ホジキンリンパ腫に対する1次治療としてニボルマブ(N)+AVD(ドキソルビシン+ビンブラスチン+ダカルバジン)とブレンツキシマブ ベドチン(BV)+AVDを比較した第III相S1826試験における高齢者(60歳以上)のサブセット解析で、N+AVDはBV+AVDより忍容性および有効性が高いことが示された。米国・Weill Cornell MedicineのSarah C. Rutherford氏らがJournal of Clinical Oncology誌オンライン版2025年6月16日号で報告した。 第III相S1826試験は、StageIII~IVの古典的ホジキンリンパ腫と新たに診断された患者を対象に、N+AVD 6サイクルもしくはBV+AVD 6サイクルに無作為に割り付け、主要評価項目として無増悪生存期間(PFS)、副次評価項目として全生存期間(OS)、無イベント生存期間(EFS)、安全性を比較した試験である。 今回のサブセット解析の結果は以下のとおり。・60歳以上の登録患者103例のうち、99例が適格だった。・追跡期間中央値2.1年で、N+AVD群(50例)の2年PFS率は89%、BV+AVD群(49例)の2年PFS率は64%であった(ハザード比[HR]:0.24、95%信頼区間[CI]:0.09~0.63、層別片側log-rank検定p=0.001)。・2年OS率はN+AVD群で96%、BV+AVD群で85%であった(HR:0.16、95%CI:0.03~0.75、層別化片側log-rank検定p=0.005)。・N+AVD群は69%、BV+AVD群は26%が減量することなく6サイクル投与され、14%がニボルマブを中止し、55%がBVを中止した。・非再発死亡率はBV+AVD群で16%、N+AVD群で6%であった。・好中球減少はN+AVD群で多かったが、発熱性好中球減少症、敗血症、感染症はBV+AVD群で多く、末梢神経障害もBV+AVD群で多かった。・主要有害事象の患者報告アウトカムでは、N+AVDがBV-AVDより毒性プロファイルが改善されていることが確認された。 著者らは、「N+AVDはBV+AVDよりも忍容性が高く効果的であったことから、アントラサイクリン系薬剤の併用療法が適応となる高齢の進行古典的ホジキンリンパ腫患者に対する新たな標準治療となる」としている。

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COVID-19パンデミック期の軽症~中等症患者に対する治療を振り返ってみると(解説:栗原宏氏)

Strong points1. 大規模かつ包括的なデータ259件の臨床試験、合計約17万例の患者データが解析対象となっており、複数の主要データベースが網羅的に検索されている。2. 堅牢な研究デザイン系統的レビューおよびネットワークメタアナリシス(NMA)という、臨床研究においてエビデンスレベルの高い手法が採用されている。3. 軽症~中等症患者が対象日常診療において遭遇する頻度の高い患者層が対象となっており、臨床的意義が高い。Weak points1. 元研究のバイアスリスク各原著論文のバイアスリスクや結果の不正確さが、メタアナリシス全体の精度に影響している可能性がある。2. 重大イベントの発生数が少ない非重症患者が対象であるため、入院・死亡・人工呼吸器管理といった重篤なアウトカムのイベント数が少なく、効果推定の精度が制限される可能性がある。3. アウトカム評価の不均一性「症状消失までの時間」などのアウトカムは、原著における測定方法や報告形式が不統一であり、統合評価が困難である。その他の留意点1. ワクチン普及の影響は考慮されていない。2. ウイルスのサブタイプは考慮されていない。――――――――――――――――――― 本システマティックレビューでは、Epistemonikos Foundation(L·OVEプラットフォーム)、WHO COVID-19データベース、中国の6つのデータベースを用い、2019年12月1日から2023年6月28日までに公表された研究が対象とされている。当時未知の疾患に対し、様々な治療方法が模索され、そこで使用された40種類の薬剤(代表的なもので抗ウイルス薬、ステロイド、抗菌薬、アスピリン、イベルメクチン、スタチン、ビタミンD、JAK阻害薬など)が評価対象となっている。 調査対象となった「軽症~中等症」は、WHO基準(酸素飽和度≧90%、呼吸数≦30、呼吸困難、ARDS、敗血症、または敗血症性ショックを認めない)に準じて定義されている。 入院抑制効果に関してNNTを算出すると、ニルマトレルビル/リトナビル(NNT=40)、レムデシビル(同:50)、コルチコステロイド(同:67)、モルヌピラビル(同:104)であり、いずれも劇的に有効と評価するには限定的である。 標準治療に比して、症状解消までの時間を短縮したのは、アジスロマイシン(4日)、コルチコステロイド(3.5日)、モルヌピラビル(2.3日)、ファビピラビル(2.1日)であった。アジスロマイシンが有症状期間を短縮しているが、薬理学的な作用機序は不明であること、耐性菌の問題も踏まえると、COVID-19感染を理由に安易に処方することは望ましくないと思われる。 パンデミック当時に一部メディアやインターネット上で有効性が喧伝されたイベルメクチンについては、症状改善期間の短縮、死亡率の低下、人工呼吸器使用率、静脈血栓塞栓症の抑制といったアウトカムにおいて、いずれも有効性が認められなかった。 著者らは、異なる変異株の影響は限定的であるとしている。COVID-19に対する抗ウイルス薬の多くはウイルスの複製過程を標的としており、株による薬効の変化は理論上少ないとされる。ただし、ウイルスの変異により病原性が低下した場合、相対的な薬効の低下あるいは見かけ上の効果増強が生じる可能性は否定できない。 本調査は、非常に多数の研究を対象とした包括的なシステマティックレビューであり、2019年から2023年当時におけるエビデンスの集約である。パンデミックが世界的に深刻化した2020年以降と、2025年現在とでは、COVID-19は感染力・病原性ともに大きく様相を変えている。治療法も、新薬やワクチンの開発・知見の蓄積により今後も変化していくと考えられるため、本レビューで評価された治療法はあくまでその時点での知見に基づくものであることに留意が必要である。

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進行尿路上皮がん維持療法、アベルマブ+SGがPFS改善(JAVELIN Bladder Medley)/ASCO2025

 1次化学療法後に病勢進行のない切除不能の局所進行または転移を有する尿路上皮がん患者の維持療法として、アベルマブ+サシツズマブ ゴビテカン(SG)併用療法はアベルマブ単剤療法と比較して無増悪生存期間(PFS)を改善した。米国・Johns Hopkins Greenberg Bladder Cancer InstituteのJeannie Hoffman-Censits氏が、第II相国際共同無作為化非盲検比較試験(JAVELIN Bladder Medley試験)の中間解析結果を米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)で発表した。なお、この内容はAnnals of oncology誌オンライン版5月30日号に同時掲載された。・対象:切除不能の局所進行/転移を有する尿路上皮がん患者(≧18歳、プラチナペースの1次化学療法4~6サイクル後に病勢進行[PD]なし、ECOG PS0/1)・試験群:アベルマブ(800mg、2週ごと)+SG(21日サイクルで1・8日目に10mg/kg) 74例・対照群:アベルマブ単剤 37例・評価項目:[主要評価項目]RECIST 1.1による治験担当医師評価に基づくPFS※、安全性※有効性の境界値はHR≦0.60[副次評価項目]全生存期間(OS)、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)など・層別因子:1次化学療法開始時の内臓転移の有無 主な結果は以下のとおり。・ベースラインにおける患者特性は、年齢中央値が試験群70(42~85)歳vs.対照群67(53~89)歳、男性が82.4%vs.75.7%、アジア(台湾・韓国)からの参加がともに27.0%、ECOG PS1が31.1%vs.54.1%、PD-L1陽性が27.0%vs.35.1%、1次化学療法開始時の転移部位は内臓転移が50.0%vs.51.4%、1次化学療法レジメンはシスプラチン+ゲムシタビンが55.4%vs.67.6%(そのほかはカルボプラチン+ゲムシタビン)であった。・データカットオフ時点(2024年9月16日)において、試験群では51.4%、対照群では27.0%が試験治療を継続中であった。・治験担当医師評価に基づくPFS中央値は、試験群11.17ヵ月(95%信頼区間[CI]:7.43~NE)vs.対照群3.75ヵ月(95%CI:3.32~6.77)であった(層別ハザード比[HR]:0.49、95%CI:0.31~0.76)。・OS中央値は未成熟なデータであるが、試験群NR(95%CI:15.51~NE)vs.対照群23.75ヵ月(95%CI:18.79~30.82)であった(層別HR:0.79、95%CI:0.42~1.50)。・ORRは試験群24.3%(CR:6.8%、PR:17.6%) vs.対照群2.7%(CR:2.7%、PR:0%)、DORは11.9ヵ月vs.NEであった。・Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)の発生は、試験群69.9%vs.対照群0%であった。試験群におけるGrade3以上のTRAEで多くみられたのは、アベルマブ関連が疲労(4.1%)、下痢(2.7%)、SG関連が好中球減少症(39.7%)、好中球数減少(23.3%)、下痢(12.3%)などであった。試験群において、SG関連AE(敗血症および汎血球減少によるくも膜下出血)による死亡が1例確認された。 Hoffman-Censits氏は今回の結果から、「アベルマブと抗Trop-2抗体薬物複合体の組み合わせは、進行尿路上皮がんの転帰を改善する有望な戦略となる可能性がある」としている。

9.

ICU入室患者の鎮静、α2作動薬vs.プロポフォール/JAMA

 機械換気を受ける集中治療室(ICU)入室患者において、デクスメデトミジンまたはクロニジンをベースとした鎮静はプロポフォールをベースとした鎮静と比較して、抜管までの時間の短縮に関して優越性は示されなかった。英国・エディンバラ大学のTimothy S. Walsh氏らA2B Trial Investigatorsが行った無作為化試験の結果で報告された。α2アドレナリン受容体作動薬をベースとした鎮静が、プロポフォールをベースとした鎮静(通常ケア)と比較して、抜管までの時間を短縮するかどうかは不明であった。JAMA誌オンライン版2025年5月19日号掲載の報告。デクスメデトミジンまたはクロニジンvs.プロポフォールを評価 研究グループは、英国41のICUにて、デクスメデトミジンまたはクロニジンをベースとした鎮静が通常ケアと比較して、機械換気の時間を短縮するかについて検証するプラグマティックな非盲検無作為化試験を行った。 適格とした患者は、機械換気の開始(挿管)から48時間以内で、鎮静および鎮痛のためにプロポフォール+オピオイドの投与を受けており、48時間以上の機械換気が必要と予想されている18歳以上の成人。被験者の募集は2018年12月~2023年10月に行われ、自動ウェブベースシステムにより、デクスメデトミジンベース鎮静群、クロニジンベース鎮静群、プロポフォール鎮静群の3群に、1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。 臨床医がより深い鎮静を要求しない限り、ベッドサイドアルゴリズムの目標は、リッチモンド興奮鎮静スケール(RASS)スコア(範囲:-5~4)-2~1として鎮静介入が行われ、デクスメデトミジン/クロニジンベース鎮静群では漸増投与が、プロポフォール鎮静群では漸減投与が支持された。その他の鎮静薬の使用は推奨されず、必要に応じてプロポフォールの補助的使用は認められたが、主として割り付けられた鎮静薬による介入が、「抜管成功」「死亡」「転院(抜管前に試験非参加のICU施設に)」「機械換気期間が28日」のいずれかに到達するまで継続された。 主要アウトカムは、無作為から抜管成功までの時間であった。副次アウトカムは、死亡率、鎮静の質、せん妄発生率および心血管系の有害事象などであった。 挿管から無作為化までの時間中央値は21.0(四分位範囲:13.2~31.3)時間。また、最終フォローアップは2023年12月10日であった。無作為化から抜管成功までの時間に関して有意差は示されず 解析集団に組み入れられた1,404例(デクスメデトミジン群457例、クロニジン群476例、プロポフォール群471例)(平均年齢59.2[SD 14.9]歳、男性901例[64%]、平均Acute Physiology and Chronic Health Evaluation[APACHE]IIスコア20.3[SD 8.2])において、抜管成功までの時間に関する部分分布ハザード比(HR)は、デクスメデトミジン群vs.プロポフォール群では1.09(95%信頼区間[CI]:0.96~1.25、p=0.20)、クロニジン群vs.プロポフォール群では1.05(0.95~1.17、p=0.34)であった。 無作為化から抜管成功までの時間中央値は、デクスメデトミジン群136時間(95%CI:117~150)、クロニジン群146時間(124~168)、プロポフォール群162時間(136~170)であった。 事前に規定されたサブグループ解析において、年齢、敗血症の有無、Sequential Organ Failure Assessment(SOFA)スコア、せん妄リスクスコアとの相互作用は認められなかった。 副次アウトカムでは、興奮の発生率がプロポフォール群と比べて、デクスメデトミジン群(リスク比[RR]:1.54、95%CI:1.21~1.97)、クロニジン群(1.55、1.22~1.97)ともに高率であった。また、重度徐脈(心拍<50/分)の発生率が、プロポフォール群と比べて、デクスメデトミジン群(RR:1.62、95%CI:1.36~1.93)、クロニジン群(1.58、1.33~1.88)ともに高率であった。死亡率は、プロポフォール群と比べて、デクスメデトミジン群(HR:0.98、95%CI:0.77~1.24)、クロニジン群(1.04、0.82~1.31)ともに同程度であった。

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静注鎮静薬―機械呼吸管理下ARDSの生命予後を改善(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

 成人呼吸促迫症候群(ARDS:acute respiratory distress syndrome)の概念が提唱されて以来約70年が経過し、多種多様の治療方針が提唱されてきた。しかしながら、ARDSに対する機械呼吸管理時の至適鎮静薬に関する十分なる検討結果は報告されていなかった。本論評では、フランスで施行された非盲検無作為化第III相試験(SESAR試験:Sevoflurane for Sedation in ARDS trial)の結果を基に成人ARDSにおける機械呼吸管理時の至適鎮静薬について考察するが、その臨床的意義を理解するために、ARDSの病態、薬物治療、機械呼吸管理など、ARDSに関する臨床像の全体を歴史的背景を含め考えていくものとする。ARDSの定義と病態 ARDSは1967年にAshbaughらによって提唱され、多様な原因により惹起された急激な肺組織炎症によって肺血管透過性が亢進し、非心原性急性肺水腫に起因する急性呼吸不全を招来する病態と定義された(Ashbaugh DG, et al. Lancet. 1967;2:319-323.)。ARDSの同義語としてacute lung injury(ALI:急性肺損傷)が存在する。ALIは1977年にMurrayらによって提唱された概念で、ALIの重症型がARDSに相当する(Murray JF. Am Rev Respir Dis. 1977;115:1071-1078.)。 ARDS発症1週以内は急性期と呼称され、肺胞隔壁の透過性亢進に起因する肺水腫を主体とするびまん性肺組織損傷(DAD:diffuse alveolar damage)を呈する。発症より1~2週が経過すると肺間質の線維化、II型肺胞上皮細胞の増殖が始まる(亜急性期)。発症より2~4週以上が経過すると著明な肺の線維化が進行し、肺組織破壊に起因する気腫病変も混在するようになる(慢性期)。本論評では、ARDS発症より2週以内をもって急性期、2~4週経過した場合を亜急性期、4週以上経過した場合を慢性期と定義する。 ARDSにおける肺の線維化は特発性間質性肺炎(肺線維症)の末期像に相当するものであり、10年の経過を要する肺線維症の病理像がわずか数週間で確立してしまう恐ろしい病態である(急性肺線維症)。急性期ARDSの主たる死亡原因が急性呼吸不全(重篤な低酸素血症)であるのに対して、慢性期のそれは急性肺線維症に起因する慢性呼吸不全に関連する末梢組織/臓器の多臓器障害(MOF:multiorgan failure)である。以上のように、ARDSにおける急性期病変と慢性期病変は質的に異なる病態であり、治療方針も異なることに留意する必要がある。急性期ARDSの薬物治療―歴史的変遷 新型インフルエンザ、新型コロナなど、人類が免疫を有さない新たな感染症のパンデミック時期を除いて、ARDSの年間発症率は2~8例/10万例と想定されており、急性期の致死率は25~40%である。ARDS発症に関わる分子生物学的病態解明に対する積極的な取り組み、それらを基礎とした多種多様の急性期治療が試みられてきた。しかしながら、ARDSの急性期致死率は上記の値より少し低下してきているものの、2025年現在、明確な減少が確認されていないのが現状である。 世界各国において独自のARDS診療ガイドラインが作成されているが、本邦でも、日本呼吸療法医学会(1999年、2004年)、日本呼吸器学会(2005年、2010年)ならびに、日本集中治療医学会、日本呼吸器学会、日本呼吸療法医学会の3学会合同(2016年、2021年)によるARDS診療ガイドラインが作成された。これらの診療ガイドラインにあって2021年に作成された3学会合同のガイドラインには、成人ARDSに加え小児ARDSの治療、呼吸管理に関しても項目別にコメントが示されており臨床的に有用である(ARDS診療ガイドライン2021作成委員会編. 日集中医誌. 2022;29:295-332.)。 以上のARDS診療ガイドラインの臨床現場における有用性は、2020年3月~2023年5月の約3年間にわたる新型コロナパンデミックに起因する中等症II(呼吸不全/低酸素血症を合併)、重症(ICU入院、機械呼吸管理を要する)のARDSを基に検証が進められた。新型コロナ惹起性重症ARDSに対する薬物治療にあって最も重要な知見は、免疫過剰抑制薬としての低用量ステロイドによるARDS発症1ヵ月以内の生命予後改善効果である(RECOVERY Collaborative Group. N Engl J Med. 2021;384:693-704.)。以上に加え、低用量ステロイド併用下で免疫抑制薬であるIL-6拮抗薬トシリズマブ(商品名:アクテムラ)が新型コロナ関連ARDSの早期生命予後を改善することが報告された(RECOVERY Collaborative Group. Lancet. 2021;397:1637-1645.)。さらに、抗ウイルス薬レムデシビル併用下で免疫抑制薬JAK-STAT阻害薬であるバリシチニブ(商品名:オルミエント)が新型コロナによる早期ARDSの生命予後を改善することも示された(RECOVERY Collaborative Group. Lancet. 2022;400:359-368.)。 以上の結果を踏まえ、本邦における中等症II以上の重篤な新型コロナ感染症に対する急性/亜急性期の基本的薬物治療として上記3剤の使用が推奨されたことは記憶に新しい。しかしながら、以上の結果は、早期の新型コロナ感染に対する知見であり、感染後1ヵ月以上経過した慢性期(肺線維症形成期)に対するものではない。 ARDSの慢性期においてステロイドを持続的に投与すべきか否かに関する確実な検証(投与量、期間)はなされておらず、ARDSの慢性期を含めた長期生命予後に対してステロイドがいかなる効果をもたらすかは今後の重要な検討課題の1つである。さらに、ARDSの病態を呈しながら中/高用量のステロイド投与の効果が証明されているARDSも存在することを念頭に置く必要がある(脂肪塞栓、ニューモシスチス肺炎、胃酸の誤飲、高濃度酸素曝露、異型性肺炎、薬剤性、急性好酸球性肺炎などに起因するARDS)。一方、グラム陰性桿菌の敗血症に起因する重症ARDSに対しては、新型コロナ感染症の場合と同様に低用量ステロイド投与を原則とする(Bone RC, et al. N Engl J Med. 1987;317:653-658.)。以上のように、重症ARDSに対する初期ステロイドの投与量はARDSの原因によって異なることに留意する必要がある(山口. 現代医療. 2002;34(増3):1961-1970.)。ARDSの呼吸管理―静注鎮静薬による生命予後の改善 重症ARDSの呼吸管理は、非侵襲的陽圧換気(NPPV:non-invasive positive pressure ventilation)や高流量鼻カニュラ酸素療法(HFNC:high flow nasal cannula)など、気管挿管なしの非侵襲的呼吸補助から始まる。しかしながら、気管挿管の遅れはARDSの死亡リスクを上昇させる危険性が指摘されている。非侵襲的手段で呼吸不全が管理できない場合には、気管挿管下の呼吸管理に早期に移行する必要がある。 気管挿管下の呼吸管理は、一回換気量(TV:tidal volume)を抑制したlow tidal ventilation(L-TV、TV=4~8mL/kg)に比較的高い呼気終末陽圧呼吸(PEEP:positive end-expiratory pressure、PEEP=10cmH2O以上)を加味して開始される(肺保護換気)。L-TVはARDSで損傷した肺組織のさらなる損傷悪化を抑制すると同時に生体内CO2貯留を許容する換気法でpermissive hypercapniaとも呼称される。L-TVの効果を上昇させるものとして腹臥位呼吸法がある(肺の酸素化効率を上昇)。急性期ARDSに対するpermissive hypercapniaの臨床的重要性(早期の生命予後改善効果)は1990年から2000年代初頭にかけて世界で検証が試みられたが、確実に“有効”と結論できるものではなかった(cf. Acute Respiratory Distress Syndrome Network. N Engl J Med. 2000;342:1301-1308.)。人工呼吸器管理で酸素化が維持できない場合に、肺保護の一環として体外式膜型人工肺(ECMO:extracorporeal membrane oxygenation)が適用される。ECMOによる肺保護治療が注目されたのは、2009年の新型インフルエンザパンデミックの発生時であった。その教訓を生かし、2020年における本邦のECMO設置率は50病床に1台と、世界有数のECMO保有国に成長した。しかしながら、高額医療であるECMO導入によって急性期ARDSの生命予後が真に改善するかどうかに関する臨床データは不十分であり、今後の検証が望まれる。 以上のように、現在のところ、呼吸管理法としていかなる方法がARDSの生命予後改善に寄与するかを確実に検証した試験は存在しない。今回論評するSESAR試験は、フランス37ヵ所のICUで施行された侵襲的機械呼吸施行時における吸入鎮静薬(セボフルラン、346例)と静注鎮静薬(プロポフォール、341例)の比較試験である。SESAR試験は、新型コロナ感染症が猛威を振るった2020~23年に施行されたもので、試験対象の50%以上が新型コロナに起因する中等症以上の成人ARDSであった。しかしながら、敗血症、誤飲、膵炎、外傷など、他の原因によるARDSも一定数含まれ、ARDS全体の動向を近似的に反映した試験と考えてよい。本試験において、ARDSの重症度、抗菌薬、ステロイド、機械呼吸の内容を含め、鎮静薬以外の因子は両群でほぼ同一に維持された。primary endpointとして試験開始28日以内の機械呼吸なしの日数、key secondary endpointとして試験開始90日での死亡率が検討された。その結果、28日以内の機械呼吸なしの日数、90日での死亡率はともに、静注鎮静薬プロポフォール群で有意に優れていることが判明した(90日目の死亡率:プロポフォール群でセボフルラン群に比べ1.3倍低い)。以上の内容は、ARDS発症後の慢性期(ARDS発症後4週以上で肺線維症形成期)に対しても静注鎮静薬による急性期呼吸管理が有利に働くことを示したものであり、ある意味、驚くべき結果と言ってよい。 以上、静注鎮静薬による初期呼吸管理がARDS慢性期の生命予後を有意に改善することが示されたが、今後、多数の侵襲的呼吸管理法の中でいかなる方法が急性~慢性期のARDSの生命予後改善に寄与するかに関し、組織的な比較試験が施行されることを望むものである。

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DapaTAVI試験―構造的心疾患に対するSGLT2阻害薬の効果(解説:加藤貴雄氏)

 2025年ACCで発表されたDapaTAVI試験(Raposeiras-Roubin S, et al. N Engl J Med. 2025;392:1396-1405.)であるが、TAVI前に心不全および、中等度腎機能障害・糖尿病・左室駆出率低下のいずれかを持つ大動脈弁狭窄症患者が登録された試験である。左室駆出率<40%の患者は約18%で多くがHFmrEF/HFpEFの患者であり、平均年齢が82歳と高齢で、女性が約半数登録された。また、中等度~高度の左室肥大を伴う患者は約60%であった。 結果は、主要評価項目(全死亡または心不全増悪の複合エンドポイント)は、ダパグリフロジン追加群で有意に低い結果で、全死亡では有意な差がなく心不全増悪の差が主に結果に影響していた。主要な2次評価項目でも、心不全入院・心不全の緊急受診においてダパグリフロジン追加群で有意に低い結果であった。 試験結果を実臨床に生かすうえでのポイントは2点あり、1点目は、実臨床における大動脈弁狭窄症の患者層(高齢者・女性・左室肥大例)が登録され有効性を示した点である。安全性について、入院が必要もしくは敗血症につながる尿路感染症の頻度には差がなかったが、性器感染症・低血圧はダパグリフロジン追加群に多い結果であった点は、注意すべき点である。 2点目は、TAVI後の構造的異常として左室肥大がありNT-proBNPが5,300~6,300pg/mLと高い患者層で試験が開始され、心不全悪化を防止した点である。 SGLT2阻害薬は、心不全に対するガイドライン推奨薬の一角に位置付けられている薬剤であり、HFpEF/HFrEFに対する試験結果とも合致する。心不全の既往のある患者を除外した急性心筋梗塞患者対象のSGLT2阻害薬の試験(James S, et al. NEJM Evid. 2024;3:EVIDoa2300286., Butler J, et al. N Engl J Med. 2024;390:1455-1466.)では対照群も含めイベント率が低かった点を合わせて考えると、イベントを起こしやすい構造的心疾患を持つ、ハイリスクな患者へのしっかりとした薬剤の介入の必要性を示したと考えられる。

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熱中症の重症度が尿でわかる?

 昨年、5~9月に熱中症で搬送される人の数は過去最多を記録した。熱中症の重症度は、搬送先施設で血液検査により評価される。しかし、尿中の肝臓型脂肪酸結合蛋白(L-FABP)も熱中症の重症度と相関するという研究結果が報告された。L-FABPは熱中症の生理学的重症度や予後を予測するツールになり得るという。日本医科大学救急医学教室の横堀將司氏、関西医科大学総合医療センター救急医学科の島崎淳也氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に2月12日掲載された。 熱中症は、高温多湿環境下で体内の水分・塩分量のバランスが崩れ、体温調節機能や循環機能が破綻して発症する。熱中症に対する適切な介入と転帰の改善には重症度の迅速な評価が不可欠だが、救急外来(ER)であっても、血液検査では結果の確認に長い時間がかかる。このような背景から、熱中症の重症度の判断には、よりアクセスしやすい簡易迅速検査の開発が待たれていた。 L-FABPは、脱水による腎虚血性機能障害を反映する有望なバイオマーカーだ。近年、医療用検査キットにより、短時間でのL-FABP測定が可能になった。重度の熱中症では内臓の血流低下による虚血が伴うことから、研究グループは、その重症度を予測する指標としてこのL-FABPが適用できると考え、L-FABPの検査キットを用いた多施設の前向きコホート研究を行った。 研究には全国の三次救急医療センター10施設が参加し、2019~2021年の夏季に日本救急医学会の熱中症基準に従って「重症」と診断された、18歳以上の患者78名が組み入れられた。敗血症または感染症の疑われる患者は除外した。ERに搬送された78名の熱中症患者は、意識を取り戻す前に採血・採尿が行われた。血清サンプルは臨床検査値の測定に用いられ、多臓器不全評価(SOFA)スコア(0~24でスコアが高いほど重症度が高い)が決定された。尿サンプルは、検査キットを使用し半定性的なL-FABPの測定に用いられた。患者の転帰については、mRSスコア(0~6でスコアが高いほど予後が悪い)が用いられ、退院時、発症1カ月、発症3カ月で計測が実施された。 組み入れ時の患者の年齢は中央値で76歳、SOFAスコアは5.0(四分位範囲 IQR3.0~9.0)だった。患者はL-FABPの濃度に応じて、陰性群(N群;L-FABP<12.5ng/mL)、陽性群(P群;L-FABP≧12.5ng/mL)の2群に分けられた。 初期SOFAスコアはN群で4.0(2.0~7.0)、P群で6.0(4.0~9.3)であり、尿中L-FABP濃度が高かった群では初期SOFAスコアも高くなっていた(U検定、P=0.013)。退院時の転帰については、良好な転帰を示すmRS(0~2)の割合が、N群で62.1%、P群で38.8%であり、N群で有意に良好な転帰を示した(P=0.046)。発症後3カ月後には両群には有意な差は認められなかった(P=0.227)。なお、ROC解析により長期的な転帰を予測するためのカットオフ値は28.6ng/mL(AUC=0.732)と決定された。また、尿中L-FABP濃度と、脈拍数(r=0.300)および乳酸値(r=0.259)の間には弱い正の相関が認められた(各P<0.01)。 研究グループは、本研究について、「L-FABPの検査キットは、熱中症の重症度を予測するとともに、患者の転帰を反映するツールであることが示唆された。この検査キットは保険収載されており、侵襲性が低いことから、その有用性は高いのではないか」と述べた。また、想定される運用方法については、「搬送前に検査結果を特定することで、患者を三次救急医療センターに搬送するか否かの決定をタイムリーに行うことができるようになるだろう」と言及した。 本研究の限界点については、重症の症例に限定したこと、サンプルサイズ、高齢者が多かったことから一般化できない点などを挙げている。

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再発を伴わない二次性進行型多発性硬化症、tolebrutinibが障害進行リスク抑制/NEJM

 再発を伴わない二次性進行型多発性硬化症(SPMS)患者において、tolebrutinibによる治療はプラセボと比較し障害進行のリスクが低いことを、米国・クリーブランドクリニックのRobert J. Fox氏らHERCULES Trial Groupが、第III相二重盲検プラセボ対照試験「HERCULES試験」の結果で報告した。多発性硬化症(MS)では、経過中に徐々に神経学的症状の進行が生じることがあり、これは障害蓄積(disability accrual)と呼ばれている。現在のMSに対する疾患修飾療法は、再発とは関係のない障害蓄積に対する効果は限られており、その原因の一部は中枢神経系内での慢性、治療抵抗性の神経炎症にあると考えられている。tolebrutinibは、中枢移行性の高い経口ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬で、末梢および中枢神経系の両方の骨髄細胞(ミクログリアを含む)とB細胞を標的としている。これまで、再発を伴わないSPMSに対して承認された治療法はなかった。NEJM誌オンライン版2025年4月8日号掲載の報告。6ヵ月以上持続する障害進行をtolebrutinibとプラセボで比較 研究グループは、過去24ヵ月間に臨床的な再発がなく、過去12ヵ月間に神経学的症状進行の所見がみられ、総合障害度評価尺度(EDSS)(範囲:0~10.0、スコアが高いほど障害度合いが大きい)が3.0~6.5の18~60歳の再発を伴わないSPMS患者を、tolebrutinib群またはプラセボ群に2対1の割合で無作為に割り付け、1日1回60mgを経口投与した。 主要エンドポイントは、6ヵ月以上持続する障害進行(EDSSスコアがベースラインから1.0以上増加[ベースラインスコアが5.0以下の場合]または0.5以上増加[ベースラインスコアが5.0超の場合]と定義)で、ITT解析を行った。tolebrutinib群で障害進行のリスクが低い 2020年10月23日~2023年1月12日に、計1,131例が無作為化された(tolebrutinib群754例、プラセボ群377例)。 追跡期間中央値133週間において、6ヵ月以上持続する障害進行が確認された患者の割合は、tolebrutinib群で22.6%、プラセボ群で30.7%であり、tolebrutinib群で有意に低かった(ハザード比:0.69、95%信頼区間:0.55~0.88、p=0.003)。 重篤な有害事象は、tolebrutinib群で15.0%、プラセボ群で10.4%に発現した。主なものは、tolebrutinib群ではCOVID-19肺炎、多発性硬化症の再発、COVID-19、肺炎、プラセボ群では肺炎と尿路性敗血症であった。死亡率は両群で同程度であった。 また、tolebrutinib群で4.0%、プラセボ群で1.6%の患者で、ALT値の正常範囲上限の3倍を超える上昇が認められた。

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分娩後出血の最大原因、子宮収縮不全と特定/Lancet

 英国・バーミンガム大学のIdnan Yunas氏らは、システマティックレビューとメタ解析により、分娩後出血の原因で最も多くみられたのは子宮収縮不全であることを明らかにした。著者は、「この所見は、すべての出産した女性に対して予防的に子宮収縮薬を投与すべきという世界保健機関(WHO)の推奨を裏付けるものである」と述べている。分娩後出血の原因を明らかにすることは、適切な治療およびサービスの提供に必要であり、分娩後出血のリスク因子を知ることは、修正可能なリスク因子への対応を可能とする。研究グループは、分娩後出血の原因とリスク因子の特定および定量化を目的に本検討を行った。Lancet誌オンライン版2025年4月3日号掲載の報告。分娩後出血の発生率、リスク因子を評価 研究グループは、MEDLINE、Embase、Web of Science、Cochrane Library、Google Scholarにより、1960年1月1日~2024年11月30日に行われた分娩後出血のコホート研究を言語を問わず検索。2人以上の試験研究者が独立して、試験の選択、データ抽出、質の評価を行い、英語で入手できた住民ベースコホート研究を適格とした。 分娩後出血の発生率ならびにリスク因子に対する粗オッズ比(OR)および補正後ORを、ランダム効果モデルを用いて統合した。リスク因子は統合ORに基づき、関連性の強さ(弱い[OR>1~1.5]、中程度[OR>1.5]、強い[OR>2])で分類し評価した。子宮収縮不全70.6%、複数原因7.8% 年齢、人種または民族を問わない女性8億4,741万3,451例を対象とした327件の研究データを組み入れた。ほとんどの研究は方法論的な質が高かった。 分娩後出血の原因として報告された統合割合上位5つは、子宮収縮不全(70.6%[95%信頼区間[CI]:63.9~77.3]、83万4,707例、14研究)、産道損傷(16.9%[9.3~24.6]、1万8,449例、6研究)、胎盤遺残(16.4%[12.3~20.5]、23万5,021例、9研究)、胎盤の異常(3.9%[0.1~7.6]、2万9,638例、2研究)、血液凝固障害(2.7%[0.8~4.5]、23万6,261例、9研究)であった。 また、分娩後出血の原因を複数有する女性の統合割合は7.8%(95%CI:4.7~10.8、666例、2研究)であった。 分娩後出血の原因との関連性が強いリスク因子は、貧血、分娩後出血既往、帝王切開、女性器切除、敗血症、産前受診なし、多胎妊娠、前置胎盤、生殖補助医療の利用、出生体重4,500g超の巨大児、肩甲難産などであった。 分娩後出血の原因との関連性が中程度のリスク因子は、BMI値30以上、COVID-19、妊娠糖尿病、羊水過多、妊娠高血圧腎症、分娩前出血などであった。 分娩後出血の原因との関連性が弱いリスク因子は、黒人およびアジア人、BMI値25~29.9、喘息、血小板減少症、子宮筋腫、抗うつ薬の使用、分娩誘発、鉗子分娩、前期破水などであった。 これらの結果を踏まえて著者は、「分娩後出血との関連性が強いリスク因子に関する知識は、分娩後出血リスクの高い女性を特定するのに役立ち、それらの女性は強化された予防および治療の恩恵を受けることができるだろう」とまとめるとともに、分娩後出血の原因は複数で多重的に存在すると示されたことについて、「治療バンドルの活用が重要であることを裏付けるものである」と述べている。

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敗血症性ショックにおけるバソプレシンの最適な開始時期(OVISS強化学習研究)(解説:寺田教彦氏)

 敗血症性ショックは「急性循環不全により細胞障害・代謝異常が重度となり、ショックを伴わない敗血症と比べて死亡の危険性が高まる状態」と定義される(『日本版敗血症診療ガイドライン2024』)。早期診断のためのスコアリングやバンドルの整備、知識の広報などのキャンペーンにより、徐々に死亡率は改善しているものの、今でも重篤な病態である。 敗血症性ショックの初期蘇生では、蘇生輸液のみで目標血圧を維持できない場合、並行して血管収縮薬の投与も行われる。世界的な診療ガイドラインを参考にすると(Evans L, et al. Crit Care Med. 2021;49:1974-1982.)、第一選択薬としてノルアドレナリンが使用されているが、ノルアドレナリンのみで血圧が保てない場合に、第二選択薬としてバソプレシンが使用されている。本邦のガイドライン『日本版敗血症診療ガイドライン2024 』においても、「CQ3-7:敗血症性ショックに対して、血管収縮薬をどのように使用するか?」に対して、ノルアドレナリン+バソプレシンと第二選択薬としてバソプレシンの使用が弱く推奨されている。バソプレシンは、高価な薬剤ではなく国内でも広く使用されているが、使用開始のタイミングについては明確な基準がなく、現場では医師や医療機関ごとに判断されているのが実情である。 世界的にもバソプレシン使用開始のタイミングに関するコンセンサスはなく、本研究では、敗血症性ショック患者の電子カルテデータを用い、強化学習によりバソプレシンの最適な開始時期を導出し、外部データセットでその有効性と死亡率低下との関連を検証した。この強化学習は、医療におけるAI応用の中でも、動的な意思決定を必要とする分野で注目されており、与えられた環境内での「行動」と「報酬」の関係を学習して最適な行動方針を導出する手法である。 本研究結果の要約は、ジャーナル四天王「敗血症性ショック、強化学習モデルのバソプレシン投与で死亡率低下/JAMA 」に記載されている。 筆者らも指摘しているとおり、バソプレシンを早期に投与することで、カテコラミンの使用量を減少させ、頻脈性不整脈や心筋虚血のリスクを軽減できる可能性があり、また、バソプレシンの相対的欠乏の補正や糸球体濾過圧の改善といった理論的な利点も期待される。本研究結果は、敗血症性ショックに対してより早期にバソプレシンを併用することで予後が改善する可能性を示唆しており、今後のRCT(Randomized Controlled Trial)による検証が期待される。さらなるエビデンスが蓄積されれば、本研究で示唆されたような「より早期の併用」が新たな治療戦略として確立される可能性がある。 加えて、敗血症性ショックに対してノルアドレナリンとバソプレシンを併用した場合、血行動態が改善すれば昇圧薬の漸減が行われる。現時点では、両薬剤を併用中の患者において、ノルアドレナリンを先に漸減することで低血圧の発生頻度が低いとされており、これに関する系統的レビューとメタアナリシスが報告されている(Song JU, et al. J Korean Med Sci. 2020;35:e8.)。今後、昇圧薬の離脱戦略においても同様の機械学習を用いた最適化手法が提示されることで、現場の診療判断をさらに支援することが期待される。

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AIが早産児の完全静脈栄養を改善

 新生児集中治療室で治療を受けている早産児のうち、消化器系の発達が不十分で腸管で栄養を適切に吸収できない児には、点滴で栄養を与えられることがある。これを、完全静脈栄養(TPN)という。TPNの処方は医師が行うが、残念ながら、処方の適切性を判断するのは困難であり、間違いも起きやすい。こうした中、人工知能(AI)が、早産児の栄養管理を改善し、児が正常に成長し発達する可能性を高めるのに役立つことが、新たな研究で示唆された。米スタンフォード大学小児科准教授のNima Aghaeepour氏らによるこの研究結果は、「Nature Medicine」に3月25日掲載された。 新生児の約10%は、予定日より3週間以上前に早産で生まれる。研究グループによると、予定日より8週間以上早く生まれた場合、腸管から栄養を吸収する準備ができていないため、TPNが必要になることが多い。しかし、早産児が十分なカロリーを摂取しているかどうかを判断するための血液検査は存在しない上に、早産児は、必ずしも空腹時に泣いたり、満腹になると落ち着き、満足を示すわけでもない。そのため、TPNが適切に行われているかどうかの判断は難しい。Aghaeepour氏は、「世界中で、TPNは新生児集中治療室における医療ミスの最大の原因だ」と指摘する。 この問題を解決するためにAghaeepour氏らは、5,913人の早産児に対する7万9,790件のTPNの処方箋と、児の状態(治療やその効果など)に関する情報をリンクさせてAIアルゴリズムを訓練し、早産児に必要な栄養素とその量を予測することができるようにした。このアルゴリズムにより、無限のバリエーションを持ち得るTPN処方が15種類の標準的な処方に絞り込まれた。Aghaeepour氏は、「この15種類の処方は、医師、薬剤師、栄養士が推奨する内容とほぼ同じであることが判明した。しかし、AIによるこれらの処方を使えば、処方のスピードと安全性を大幅に向上できる可能性がある」と語る。 また、このAIアルゴリズムにより、早産児の医療データを用いて、15種類の処方のうちどれが必要なのかを予測できることも示された。さらに、児の成長や健康状態の変化に応じて、例えば「No.8の処方箋を5日続けた後、No.3を1週間、次いでNo.14を数日間」という具合に、毎日、推奨する処方箋を調整できることも確認された。 AIによるTPNの処方と実際の処方を比較するために、10人の新生児科医に、早産児の過去の臨床情報と、実際にその児が受けたTPN処方、およびAIが推奨したTPN処方を誰が作成したかを告げずに提示し、より良いと思う方を尋ねた。その結果、医師はAIが生成した処方の方を一貫して好ましく評価することが示された。 さらに、AIに過去の患者の電子カルテ情報を提示し、早産児が実際に受けたTPNがAIの推奨と大きく異なっていた事例について調べた。その結果、そのような児では、死亡率、敗血症、腸疾患のリスクが、AIの推奨と一致していた児よりも有意に高いことが判明した。最後に、米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のリアルワールドデータ(3,417人の早産児に処方された6万3,273件のTPN)を用いて検討しても、AIアルゴリズムは同様の予測能を示すことが確認された。 このような有望な結果が得られたものの、研究グループは、AIアルゴリズムが何かを見落としていないかどうかを確認するために、AIの推奨事項を医師や薬剤師が確認する必要があると指摘している。共著者の1人である、米スタンフォード・メディシン・チルドレンズ・ヘルスのエグゼクティブ・ディレクター兼最高薬剤責任者であるShabnam Gaskari氏は、「AIによる推奨は、電子カルテに追加された情報に基づいているため、記録に不足があると推奨は正確ではなくなる。よって、最終的には臨床医が推奨内容を検討する必要がある」と説明している。 研究グループは次の段階として、通常の方法でTPNを受けた早産児と、AIが推奨するTPNを与えられた早産児を比較する臨床試験の実施を計画している。

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強制的なランニングがストレスや抑うつ症状に及ぼす影響〜動物実験データ

 High mobility group box 1(HMGB-1)は主に有核細胞の核内に発現しているタンパクで、炎症性刺激時または細胞死に際して核内から細胞外に放出され、それが炎症応答を誘導し、敗血症や免疫疾患などの病態を増悪することが知られている。HMGB-1により媒介される炎症反応は、うつ病の病態生理学的メカニズムにおいて重要な役割を果たすと考えられる。Qian Zhong氏らは、海馬におけるHMGB-1の影響を評価し、うつ病の慢性予測不能軽度ストレス(CUMS)マウスモデルに対する強制的なランニング(FR)の抗うつ作用を調査した。Neuropsychobiology誌オンライン版2025年3月11日号の報告。 本研究では、FRまたは従来の広域スペクトル抗うつ薬であるfluoxetine(FLU)による単独または併用療法の潜在的なベネフィットを評価した。実験は、対照マウス、FR+FLUマウス、CUMS、CUMS+FRマウス、CUMS+FLUマウス、CUMS+FR+FLUマウスにより実施した。うつ病様行動の評価には、尾懸垂試験、強制水泳試験、ショ糖嗜好試験を用いた。実験後、海馬のHMGB-1および関連タンパク質、サイトカインレベルを測定した。 主な結果は以下のとおり。・4週間のFRにより、CUMSマウスにおけるうつ病様行動の有意な軽減が認められた。・また、HMGB-1関連炎症性タンパク質およびサイトカイン発現の減少が明らかとなった。・一方、FLUによるうつ病様行動の改善に対する作用は限定的であったが、海馬のHMGB-1関連炎症性タンパク質およびサイトカイン発現の減少が認められた。・FR+FLU併用は、統計学的に有意な抗うつ作用を示し、HMGB-1関連炎症性タンパク質およびサイトカイン発現の減少が認められた。また、FR単独と比較し、反応速度が向上した。 著者らは「FRは、HMGB-1関連の抗炎症反応の調節に対し潜在的なベネフィットをもたらす可能性がある。うつ病のマネジメントや治療において、身体活動の潜在的な役割が明らかとなった」としている。

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敗血症性ショック、強化学習モデルのバソプレシン投与で死亡率低下/JAMA

 すでにノルエピネフリンを投与されている敗血症性ショック患者において、臨床医による実際の平均的な治療パターンと比較して強化学習(reinforcement learning)モデルは、より多くの患者で、より早期に、ノルエピネフリンの用量がより少ない時点でのバソプレシンの投与開始を推奨し、これに準拠すると死亡率が低下することが、フランス・パリ・シテ大学のAlexandre Kalimouttou氏らが実施した「OVISS試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年3月18日号で報告された。強化学習モデルの妥当性を検証する米国のコホート研究 研究グループは、複数の電子健康記録のデータセットに強化学習を適用し、ノルエピネフリンの投与を受けている敗血症性ショックの成人の重症患者において、短期的アウトカムと入院中のアウトカムの両方を改善するよう最適化されたバソプレシンの投与開始規則の治療結果を導き出し、これを検証し、評価を行った(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成を受けた)。 強化学習モデルの作成には、2012~23年にカリフォルニア州の5つの病院で、Sepsis-3基準の敗血症性ショックの定義を満たした患者3,608例(モデル作成コホート)の電子健康記録を用いた。投与開始規則の評価には、カリフォルニア州のデータセットから628例と、米国の227病院の1万217例(検証コホート)から成る3つの外部データセットを用いた。投与開始時のSOFA、乳酸値も低い モデル作成コホート3,608例の年齢中央値は63歳(四分位範囲[IQR]:56~70)、2,075例(57%)が男性で、敗血症性ショック発症時のSOFAスコア中央値は5点(IQR:3~7)であった。検証コホート1万217例の年齢中央値は67歳(IQR:57~75)、5,743例(56%)が男性で、SOFAスコア中央値は6点(IQR:4~9)だった。 検証コホートでは、臨床医による実際のバソプレシン投与開始と比較して強化学習モデルによるバソプレシン投与開始は、適応となる患者の割合が高く(87%vs.31%、p<0.001)、発症からの時間中央値が短く(4時間[IQR:1~8]vs.5時間[1~14]、p<0.001)、ノルエピネフリンの用量中央値が少なかった(0.20μg/kg/分[IQR:0.08~0.45]vs.0.37μg/kg/分[0.17~0.69]、p<0.001)。 また、強化学習モデルによるバソプレシン投与開始は、開始時のSOFAスコア中央値(7点vs.9点、p<0.001)および血清乳酸値中央値(2.5mmol/L[IQR:1.7~4.9]vs.3.6mmol/L[1.8~6.8]、p<0.001)が低かった。院内死亡率が有意に低下 検証コホートでは、臨床医による実際のバソプレシン投与開始に比べ、強化学習モデルによる投与開始規則は報酬の期待値が高かった(重み付け重点サンプリングの差:31[95%信頼区間[CI]:15~52])。また、バソプレシンの投与開始がモデルによる投与開始規則と異なる場合と比較して、同規則と投与開始が同様である場合は院内死亡率(主要アウトカム)の補正後オッズ比(OR)が低かった(OR:0.81[95%CI:0.73~0.91])。 著者は、「バソプレシンの早期投与は、医師の臨床上の警戒心や積極的なモニタリングの増加につながり、アウトカムの改善をもたらした可能性があり、強化学習モデルによる規則はアウトカムと関連しているようにみえるものの、交絡が真の効果をあいまいにしている可能性もある」としている。

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Fusobacterium necrophorum【1分間で学べる感染症】第22回

画像を拡大するTake home messageFusobacterium necrophorumは、嫌気性のグラム陰性桿菌でLemierre症候群の原因菌として重要である。今回は、多彩な病状と重篤な病態を引き起こす可能性のあるFusobacterium necrophorumに関して一緒に学んでいきましょう。Fusobacterium necrophorumとはFusobacterium属は、偏性嫌気性のグラム陰性桿菌で、口腔内を中心に消化管や女性の生殖器に常在しています。グラム染色では長桿菌またはフィラメント状を呈することが多いです。Fusobacterium属の中でもFusobacterium necrophorumはとくに病原性が強く、壊死性・血栓形成性の感染症を引き起こしやすいとされています。どんな感染症を引き起こすかFusobacterium necrophorumは、咽頭炎を契機に内頸静脈血栓性静脈炎を引き起こすLemierre症候群の原因菌として知られていますが、それ以外にも歯周膿瘍や扁桃周囲膿瘍、肝膿瘍や脳膿瘍などの播種性転移性病変を合併することがあります。Lemierre症候群とはLemierre症候群とは、敗血症性内頸静脈血栓性静脈炎のことを指します。一般的に健康な成人に好発し、咽頭炎に続発して発症します。Fusobacterium necrophorumによる血流感染に伴い、両側化膿性肺塞栓症や時には化膿性関節炎、肝膿瘍、脳膿瘍などを合併することもあります。稀にFusobacterium necrophorum以外にA群β溶血性連鎖球菌やS. anginosus group、Porphyromonasなど、ほかの嫌気性菌や腸内細菌などが原因のこともあります。薬剤感受性・治療のポイントFusobacterium属は、β-ラクタマーゼを産生する株が4~23%と一定の割合で存在することが報告されています。また、メトロニダゾールには一般的に感受性を示し、マクロライド系(アジスロマイシンなど)やアミノグリコシド系には耐性を示すことが知られています。したがって、第1選択としては、アンピシリン・スルバクタム、タゾバクタム・ピペラシリン、またはカルバペネム系が推奨されます。またメトロニダゾールも検討されます。膿瘍形成の大きさによっては上記の抗菌薬に加え、外科的ドレナージ術を並行して行うことも重要です。Fusobacterium necrophorumは壊死性感染を引き起こすこともあります。健康な若年成人の咽頭炎後の頸部痛、敗血症を診たらLemierre症候群を疑い、血液培養を採取し、速やかに抗菌薬治療を開始することが重要です。1)Holm K, et al. Anaerobe. 2016;42:89-97.2)Nygren D, et al. Clin Microbiol Infect. 2020;26:1089.e7-1089.e12.

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切迫早産、オキシトシン受容体拮抗薬vs.プラセボ/Lancet

 妊娠30週0日~33週6日の切迫早産の治療として、子宮収縮抑制薬atosibanは新生児のアウトカム改善に関して、プラセボに対する優越性を示さなかった。オランダ・アムステルダム大学のLarissa I van der Windt氏らAPOSTEL 8 Study Groupが、国際多施設共同無作為化比較試験「APOSTEL 8試験」の結果を報告した。オキシトシン受容体拮抗薬のatosibanは、切迫早産の特異的な治療薬として欧州などで承認済みの子宮収縮抑制薬である。子宮収縮抑制薬は、国際ガイドラインで切迫早産の治療薬として推奨されており、出産を遅延することが示されているが、新生児アウトカムへのベネフィットは明らかにされていなかった。著者は、「子宮収縮抑制薬の主目的は新生児のアウトカム改善でなければならない。今回の結果は、妊娠30週0日~33週6日の切迫早産の治療薬としてatosibanを標準使用することに対して疑問を投じるものであった」と述べ、「われわれの試験結果は、国ごとの実践のばらつきを減らし、切迫早産の患者に対するエビデンスベースの治療提供に寄与するものになるだろう」とまとめている。Lancet誌オンライン版2025年3月3日号掲載の報告。妊娠30週0日~33週6日の切迫早産に投与、新生児の周産期死亡と6疾患を評価 APOSTEL 8試験は、オランダ、イングランド、アイルランドの26病院で行われ、妊娠30週0日~33週6日の切迫早産における子宮収縮抑制薬atosibanの新生児疾患および死亡の改善に関して、プラセボに対する優越性を評価した。 妊娠30週0日~33週6日の切迫早産を有する18歳以上の単胎または双胎妊娠の女性(インフォームド・コンセントに署名済み)を、atosiban群またはプラセボ群に無作為に1対1の割合で割り付けた(施設ごとに層別化)。 主要アウトカムは、周産期死亡(死産および出産後28日までの死亡と定義)および6つの重篤な新生児疾患(気管支肺異形成症[BPD]、グレード1超の脳室周囲白質軟化症[PVL]、グレード2超の脳室内出血[IVH]、Bell’sステージ1超の壊死性腸炎[NEC]、グレード2超またはレーザー治療を要する未熟児網膜症[ROP]、培養検査で確認された敗血症)の複合とし、ITT解析にて評価した。治療効果は相対リスク(RR)と95%信頼区間(CI)で推算した。主要アウトカムの相対リスク0.90 2017年12月4日~2023年7月24日に、計755例が無作為化され、752例がITT解析に組み入れられた(atosiban群375例、プラセボ群377例)。ベースライン特性は両群で類似しており、母体年齢中央値はatosiban群30.0歳、プラセボ群31.0歳、妊娠時BMI中央値は両群とも23.4、白人が両群ともに80%であり、妊娠中の喫煙者は両群とも12%、未経産婦は63%と65%、単胎妊娠が80%と85%などで、無作為化時の妊娠期間中央値は両群とも31.6週であった。ITT集団の新生児数はatosiban群449例、プラセボ群435例であった。 主要アウトカムは、atosiban群の新生児で37/449例(8%)、プラセボ群で40/435例(9%)に報告された(RR:0.90[95%CI:0.58~1.40])。 周産期死亡は、atosiban群3/449例(0.7%)、プラセボ群4/435例(0.9%)であった(RR:0.73[95%CI:0.16~3.23])が、全死亡例で試験薬との関連はおそらくないと見なされた。母体有害事象は両群で差異はなく、また母体の死亡の報告はなかった。

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