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初回訪問で服用薬の処方経緯を確認し、減薬を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第28回

 今回は、新しく担当することになった在宅患者さんの処方薬を整理した事例を紹介します。患者さんとの面談で、どのような経緯があって処方された薬剤なのかをよく確認してみると、減薬のヒントを見つけられることが多々あります。漫然処方を解消するためにも、薬剤師がヒアリングして情報収集することは非常に重要です。患者情報90歳、女性(個人在宅)基礎疾患高血圧症介護度要支援2既往歴半年前に血便あり(精査なし)訪問診療の間隔2週間に1回介護サービスの利用週1回、通所介護在宅訪問開始の理由前任の薬局が閉局したため、当薬局で引き継いだ。備考過去に降圧薬を後発医薬品に変更して血圧が上昇したことがあり、降圧薬は先発医薬品がいいというこだわりがある。処方内容1.アムロジピン錠5mg 1錠 分1 朝食後2.カンデサルタン シレキセチル錠8mg 1錠 分1 朝食後3.クエン酸第一鉄ナトリウム錠50mg 1錠 分1 朝食後4.クロチアゼパム錠5mg 1錠 分1 就寝前5.ファモチジン錠20mg 2錠 分2 朝夕食後6.ジフェニドール塩酸塩錠25mg 3錠 分3 毎食後7.ビフィズス菌製剤散 3g 分3 毎食後本症例のポイントこの患者さんは長年訪問診療を利用していましたが、前任の薬局が閉局したため、当薬局で引き継ぐことになりました。ご高齢者の独居ということで、これらの薬剤をしっかりと服用できているかどうか確認が必須だと考えました。初回訪問時に服薬管理状況と残薬を確認したところ、薬剤はピルケースに1週間分をセットしてご自身で管理されていました。しかし、降圧薬は飲み忘れなく服薬しているものの、他の薬剤は自己調節していました。服用理由は曖昧で、効果も評価もされないまま飲み続けていることもわかりました。そこで、患者さんとの面談で、各薬剤が処方された経緯や服薬状況、残薬を確認し、整理してみると下表のようになりました。画像を拡大するこのように、症状や処方の経緯、薬に対する考え方を聴取しました。減らせる薬剤があれば減らしたいという患者さんの想いも確認し、医師に処方整理を提案することにしました。処方提案と経過医師に、トレーシングレポートで残薬の状況と現在の服用状況を報告しました。ファモチジンとジフェニドールについては、服用していなくても症状が出ていないことから中止を提案し、クエン酸第一鉄ナトリウムについては一度血液検査をして貧血項目および血清鉄やフェリチン、総鉄結合能(TIBC)の評価を行うことを提案しました。医師より返事があり、ファモチジンとジフェニドールは中止の承認を得ることができ、クエン酸第一鉄ナトリウムについては採血して評価をするという返答がありました。患者さんからは、薬剤師に相談したことで薬剤数が減り、服薬の煩雑さが軽減されて良かったと喜んでもらえました。現在は降圧薬のみ定期内服しており、クロチアゼパム錠とビフィズス菌製剤散を頓用で継続しています。服薬アドヒアランスは維持できていて、経過も安定しています。

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COVID-19重症化予測する5つの血中マーカー同定/国際医療研究センター

 国立国際医療研究センターは9月24日、COVID-19患者から得られた経時的な採血検体により予後予測が可能な分子マーカーの探索を進めた結果、重症・重篤化するケースに共通する5つの因子を特定したと発表した。COVID-19を巡っては、患者の約8割が軽症のまま回復し、残りの約2割が重症・重篤化することがわかっているが、現段階では予後を予測する有効な手段がないため、COVID-19患者全員を隔離もしくは入院させて経過を観察する必要がある。本結果により、重症・重篤化予備軍に注力した経過観察が可能になり、医療資源の有効活用につながることが期待される。研究をまとめた論文は、2020年9月14日付(日本時間)でGene誌オンライン版に掲載された。 本研究では、COVID-19患者28例の採血検体を使い、病態の経過に沿った液性因子の経時的変化について網羅的解析を実施した。その結果、軽症回復者と重症化患者を分けることが可能な因子として、CCL17、IFN-λ3、CXCL9、IP-10、IL-6を同定した。CCL17は、将来の重症者では、感染初期の軽症時から基準値よりも低く、その後重症化するまで低い値が続いた。一方で、軽症者では健常者とほぼ同じ値だった。残りの4因子は、感染初期では軽症者と将来の重症者に違いはないものの、重症化した患者では、数日前から急激に値が上昇することがわかった。 併せて、これら5つの因子がCOVID-19重症化に特異的かどうかについて、ほかの疾患群(C型慢性肝炎、児童精神疾患、2型糖尿病、慢性腎不全、慢性心不全、間質性肺炎、関節リウマチ)から得られた血液で確認した。その結果、CCL17が低い値を取るのは、COVID-19重症者のみだった。IFN-λ3は、C型慢性肝炎で一部高い値を示したが、COVID-19重症者で統計学的に有意に高い値を示した。CXCL9とIP-10についても、COVID-19重症者で特徴的に高い値を示した。IL-6は関節リウマチで高い値を示すことがあったが、COVID-19重症者で統計学的に有意に高い値を示した。これらの結果からも、5つの因子がCOVID-19重症化患者を早期発見および囲い込みに有用である可能性が示された。 同センターでは今後、国内において多施設共同による前向き試験を実施し、実臨床での有効性についてさらに検証を進めていく予定。

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フロセミドによるK値低下 カリウム追加ではなく抜本的な解決を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第26回

 今回は、フロセミド服用中に血清カリウム値が低下した症例です。フロセミドなどのループ利尿薬は、作用機序由来の低カリウム血症を来しやすいため、カリウム値の補正のためにカリウム製剤が追加されることがあります。今回は、カリウム製剤の追加ではなく、原因となるループ利尿薬そのものを変更することでカリウム値の改善ができたケースを紹介します。患者情報70歳、男性(施設入居)基礎疾患高血圧症、糖尿病、慢性心不全(HFpEF)、心房細動、認知症既往歴50歳時に心筋梗塞のため左前下行枝(LAD)にステント留置副作用歴スピロノラクトンが女性化乳房による乳房痛で服用中止訪問診療の間隔2週間に1回服薬管理介護士が管理処方内容1.ベニジピン錠4mg 1錠 分1 朝食後2.カンデサルタン錠8mg 1錠 分1 朝食後3.テネリグリプチン錠20mg 1錠 分1 朝食後4.グリメピリド錠0.5mg 1錠 分1 朝食後5.フロセミド錠20mg 1錠 分1 朝食後6.エドキサバン錠30mg 1錠 分1 朝食後7.カルベジロール錠2.5mg 2錠 分2 朝夕食後8.ピタバスタチン錠2mg 1錠 分1 夕食後9.センノシド錠12mg 2錠 分1 夕食後本症例のポイントこの患者さんは、複数の基礎疾患に加え、慢性心不全を患っていました。認知症もあったため自宅での生活が困難となり、施設に入居して3年目です。2週間に1回の訪問診療で体調確認を行い、半年に1回血液検査を行っていました。訪問診療に同行した際に、医師より「筋力低下やふらつきなどの自覚症状の訴えはないが、利尿薬の影響もあってカリウム値が3.8mg/dLから3.3mg/dLに下がってきている。アスパラカリウム錠300mgを3錠 分3 毎食後で補正するのはどうか?」と相談がありました。そこで、いくつか考えるポイントがあったので整理することにしました。フロセミドの治療効果と代替薬の服薬負担を検討患者さんは、慢性心不全によるうっ血症状の浮腫を改善する目的でフロセミド錠を長期服用していました。低カリウム血症をこのままにした場合、不整脈などから心不全悪化の引き金になりかねないので、カリウムの補正は必須です。しかし、カリウム製剤は分3投与になるため患者さんの服薬負担が増すことから避けたいと考えました。また、フロセミド錠は作用時間が短く、バイオアベイラビリティ(生物学的利用能)も約50%と低いことから、利尿薬治療抵抗性などにつながると指摘されていることも気掛かりでした。そこで、同系統のループ利尿薬のトラセミド錠への変更を検討しました。トラセミド錠は、抗アルドステロン作用によるカリウム保持性があり、バイオアベイラビリティも外国人データで79~91%と高いため、長期的に服用しても安定感があると考えました。カリウム製剤を追加するのではなく、フロセミド錠をトラセミド錠に変更することでカリウムの補正にもつながります。なお、別の案としては、カリウム製剤ではなく、選択的アルドステロンブロッカーのエプレレノン錠を追加する方法もありましたが、今回は服用錠数を増やすことなく治療効果を維持することを優先して、トラセミド錠への変更を提案することにしました。処方提案と経過医師へカリウム製剤の追加投与ではなく、フロセミド錠からトラセミド錠への変更をすることでカリウムの補正が可能になることを提案しました。服用錠数や用法を変えずに対応できることが医師に評価され、2週間後に採血でモニタリングしてみようと処方提案が採用されました。フロセミド錠からトラセミド錠への変更後、下腿浮腫の増悪やうっ血症状の増悪はなく経過し、4週間後の採血結果は血清カリウム値が3.6mg/dLと補正されました。その後も電解質異常やうっ血症状の出現はなく経過しています。フロセミド錠10mg/20mg/40mg インタビューフォームトラセミド錠4mg/8mg インタビューフォーム

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成人アトピーは糖尿病を引き起こす?

 アトピー性皮膚炎(AD)は糖代謝に影響を及ぼすのか。デンマーク・コペンハーゲン大学のLise Gether氏らは、ADの成人において、インスリン感受性の低下やその他の糖代謝異常が認められるかを調べるため、経口糖負荷検査(OGTT)と高インスリン正常血糖クランプ法を用いて検討した。結果として、健康成人との間に違いはなかったことが報告され、著者は、「炎症性皮膚疾患であるADは、糖代謝にほとんどあるいはまったく影響しないことが示唆される」と述べている。疫学研究では、一般集団と比較して、ADの成人における2型糖尿病の発生の増加が示されている。Diabetes Obesity and Metabolism誌オンライン版2020年7月20日号掲載の報告。 検討では、非肥満、非糖尿病でADが軽症~中等症の成人16例(AD群)と、性別・年齢・BMI適合の健康成人16例(対照群)を対象とし、消化管・膵ホルモンについて頻回な採血による高インスリン正常血糖クランプ法(インスリン注入速度40mU/m2/分)とOGTTを行った。 主な結果は以下のとおり。・両群は、年齢(平均±平均の標準誤差:33±3 vs.33±3歳)、性別(女性:56%)、BMI(24.5±0.7 vs.24.4±0.7)、身体活動度、空腹時血糖値およびHbA1cが類似していた。・AD群は、EASI(Eczema Area and Severity Index)の平均スコア8.5±1.0(中等度)、ADの平均罹患期間28±3年であった。・OGTT中のcirculatingグルコース、インスリン、C-ペプチド、グルカゴン、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチドはそれぞれ両群間で同等であり、グルカゴン様ペプチド-1はAD群で上昇した。・クランプ法の結果は、インスリン感受性(M値:9.2±0.6 vs.9.8±0.8、p=0.541、95%信頼区間:-1.51~2.60)、circulatingインスリン、C-ペプチド、グルカゴンについて、両群間で差がないことを示した。

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研修医のポケットの中身、大公開!【森野コジカの研修医室からこんにちは!】第5回

第5回 研修医のポケットの中身、大公開!こんにちは! いよいよ夏らしく暑くなってきましたね! 皆さん、夏バテは大丈夫でしょうか? コジカはすでにバテバテです(汗)。今回は、スクラブのポケットの中身をお見せしたいと思います! いつもパンパンに入れるせいで、肩凝りに悩むようになってしまいました…。1.聴診器リッ〇マンのものを使っています。必携品ですが、結構重いので肩凝りの1番の原因な気がしています。2.アル綿採血などでとっさに必要になるときがあるので、サッと出せるとすごく便利です。3.ボールペン自分で購入したもの(無〇良品)を使っています。軽くて書きやすいですが、よく失くすので、ピッチ番号が書いてあります(笑)。4.ペンライト瞳孔確認や聴覚の確認(カチカチ音を鳴らす)などに使っています。5.ハンコ書類作成時に必須!インクの補充には要注意!!6.PHS1人1台! 病院からの貸与品。鳴るとドキドキします。7.駆血帯My駆血帯です。看護師さんに借りるのが申し訳なくて購入しました。8.メモ帳わからなかった薬や病態をメモして、後で確認しています。小さめサイズでソフトリングのものを選ぶと、座るときなども痛くないです。9.時計秒針のあるポケットウォッチ。同意書の時刻確認や点滴の速度確認のために使っています。これも自分で購入しました。10.スマホお昼休憩など、息抜きにツイッターをしていることが多いです。11.パスケース病院の自販機や売店がICカード対応なので、財布代わりに持ち歩いています。以上です。皆さんはどんなものをポケットに入れていますか?

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新型コロナ集団免疫は期待薄、感染者25万人のスペインでの調査/Lancet

 スペインで6万人超の国民を対象に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の血清疫学調査を行ったところ、感染蔓延(ホットスポット)地域でさえも大部分の人が血清反応陰性で、PCR検査で確認された大半の症例で検出可能な抗体が認められる一方、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関連した症状を有するかなりの人がPCR検査を受けておらず、血清反応陽性者のうち3分の1以上の人が無症状であることが明らかにされた。スペイン・National Centre for EpidemiologyのMarina Pollan氏らが、約3万6,000件の家庭を対象に行った調査の結果で、著者は、「スペインでは、COVID-19の影響が大きいにもかかわらず推定有病率は低いままで、集団免疫の獲得には明らかに不十分である。獲得には多くの死亡者や医療システムへの過度な負担なしにはなし得ない状況にある」と述べ、「今回の結果は、新たなエピデミックを回避するためには、公衆衛生上の対策を継続していく必要性を強調するものであった」とまとめている。Lancet誌オンライン版2020年7月3日号掲載の報告。スペイン6万1,075人を対象に調査 スペインは、ヨーロッパ諸国の中でCOVID-19のパンデミックによる影響が最も大きな国の1つであるが、無症状のケースが存在し、診断テストへのアクセスがほとんどないことから、エピデミックの程度の評価に有用なツールである血清学的調査を行った。全国的な住民ベースの調査によって、SARS-CoV-2の国および地域レベルの血清有病率を推定することを目的とした。 地方自治体名簿を基に、州および市の規模により層別化した2段階無作為抽出法を用いて3万5,883世帯を選択し、各世帯すべての住民に同調査への参加を促した。 2020年4月27日~5月11日にかけて、6万1,075人(選択世帯住民の75.1%)がCOVID-19に関連した症状の履歴やリスク因子に関する質問票に回答し、ポイント・オブ・ケア(POC)の抗体検査を受けた。さらに同意が得られた場合には、採血を行い化学発光微粒子免疫測定法(CMIA)を行った。IgG抗体の有病率は、サンプリング重み付け・事後層別法で補正を行い算出し、年齢群や性別、国勢統計区の所得に基づく非回答率の格差は許容した。 両方の検査結果から、特異度(両検査ともに陽性)または感度(いずれかの検査が陽性)を最大化する血清有病率の範囲値を求めた。各検査による血清有病率は5%前後、地域差大 血清有病率はPOC検査では5.0%(95%信頼区間[CI]:4.7~5.4)、CMIAでは4.6%(4.3~5.0)、特異度-感度の範囲値は3.7%(3.3~4.0、両検査陽性)~6.2%(5.8~6.6、いずれかの検査陽性)だった。性差は認められず、また10歳未満の子供の血清有病率は低かった(POC検査で3.1%未満)。 地域による差は大きく、マドリード周辺では10%超だったのに対し、沿岸部では3%未満だった。調査開始の14日以上前にPCR検査で陽性だった195人の血清有病率は、87.6%(95%CI:81.1~92.1、両検査陽性)~91.8%(86.3~95.3、いずれかの検査陽性)だった。 嗅覚消失または3つ以上の症状が認められた7,273人の血清有病率は、15.3%(95%CI:13.8~16.8、両検査陽性)~19.3%(17.7~21.0、いずれかの検査陽性)だった。 血清反応陽性者のうち約3分の1が無症状者で、21.9%(95%CI:19.1~24.9、両検査陽性)~35.8%(33.1~38.5、いずれかの検査陽性)だった。症状が認められた者のうち、POC抗体検査、CMIAともに血清反応陽性だったのは、わずかに19.5%(95%CI:16.3~23.2)だった。

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アビガン、ウイルス消失傾向も有意差示せず/多施設無作為化試験

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の無症状および軽症患者に対するファビピラビル(商品名:アビガン)のウイルス量低減効果を検討した多施設非盲検ランダム化臨床試験の最終結果の暫定的な解析から、通常投与群(1日目から投与)は遅延投与群(6日目から投与)に比べて6日までにウイルスの消失や解熱に至りやすい傾向が見られたが、統計学的に有意ではなかったことを、7月10日、藤田医科大学が発表した。本研究の詳細なデータを速やかに論文発表できるよう準備を進めるという。 本研究は、藤田医科大学を代表機関とし全国47医療機関で実施している「SARS-CoV2感染無症状・軽症患者におけるウイルス量低減効果の検討を目的としたファビピラビルの多施設非盲検ランダム化臨床試験」(研究責任医師:藤田医科大学医学部感染症科 教授 土井 洋平氏)。 3月上旬~5月中旬にCOVID-19患者89例が参加し、うち44例がファビピラビルの通常投与群、45例が遅延投与群に無作為割り付けされた。遅延投与群のうち1例が割り付け直後に不参加を希望したため、臨床的評価は通常投与群44例、遅延投与群44例を対象とした。またウイルス量に関する評価は、研究参加時に既にウイルスが消失していたことが後日判明した19例を除外し、通常投与群36例、遅延投与群33例を対象とした。研究参加中に重症化または死亡した患者はいなかった。 主な結果は以下のとおり。・主要評価項目である「6日目まで(遅延投与群が内服を開始するまで)の累積ウイルス消失率」は、通常投与群66.7%、遅延投与群56.1%で、調整後ハザード比(HR)は1.42(95%信頼区間[CI]:0.76~2.62、p=0.269)であった。・副次評価項目である「6日目までのウイルス量対数値50%減少割合」は、通常投与群94.4%、遅延投与群78.8%で、調整後オッズ比は4.75(95%CI:0.88~25.76、p=0.071)であった。・探索的評価項目である「37.5℃未満への解熱までの平均時間」は、通常投与群2.1日、遅延投与群3.2日で、調整後HRは1.88(95%CI:0.81~4.35、p=0.141)であった。・ファビピラビル投与に関連する有害事象については、血中尿酸値上昇が84.1%、血中トリグリセライド値上昇が11.0%、肝ALT上昇が8.5%、肝AST上昇が4.9%に見られた。これらの異常値は、内服終了後(16日目または28日目)に再度採血された患者(38例)のほぼ全員で平常値まで回復していた。また、痛風発症例はいなかった。

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血液による大腸がん術後再発リスク評価、医師主導治験開始/国立がん研究センター

 リキッドバイオプシーと遺伝子パネル検査を活用し、“見えないがん(術後微小残存病変)”を対象とした、大腸がんの新たな術後再発リスク評価手法の確立を目指す、世界最大規模の医師主導国際共同臨床試験が開始された。国立がん研究センターによる新プロジェクト「CIRCULATE-Japan」の一環として実施されるもので、同プロジェクトでは産学連携全国がんゲノムスクリーニング事業「SCRUM-Japan」の基盤を活用し、切除可能大腸がんにおける、遺伝子異常・臨床情報を大規模データベース化していく。 現在、大腸がんの術後再発リスク評価は術後の病理組織検査によるがんの術後ステージによって推定され、術後補助化学療法が行われる。しかし、ステージに基づく再発リスク推定だけでは、本来必要がない症例にも再発リスクの高い症例と同じ治療が実施され、末梢神経障害が後遺症として残るなど、副作用が発現する場合がある。 「CIRCULATE-Japan」では、5月8日より、根治的外科治療可能の結腸・直腸がんを対象としたレジストリ研究(GALAXY試験)の登録を開始。国内外約150施設(台湾1施設を含む)が参加している。 同試験では、根治的外科治療を予定しているステージ2期から4期を含む大腸がん患者約2,500名を対象に、術後2年間、リキッドバイオプシーを用いた再発のモニタリング検査(Signatera検査:米国・Natera社が開発中の、血液を用いた微小残存腫瘍検出専用の遺伝子パネル検査)を実施。手術で取り出した腫瘍組織を用いた全エクソーム解析の結果をもとに、患者さんごとにオリジナルの遺伝子パネルを作製する。その後、術後1ヵ月時点から定期的に血液を採取し、オリジナル遺伝子パネルを用いて、血液中のがん遺伝子異常の有無を調べる。 さらに、術後1ヵ月時点でがん遺伝子の異常が検出されないステージ2期から3期の患者さん1,240名を対象に、従来の標準的治療である術後補助化学療法群と経過観察群とを比較する第III相試験(VEGA試験)も同時に登録を開始している。 これらの研究を通してリキッドバイオプシーによる再発リスク評価精度とその臨床的有用性が示されれば、術後補助化学療法の効果がより期待される患者さんのみを選別することが可能となり、不要な治療を避けることで副作用や後遺症を軽減することができる。また、本検査は身体に負担の少ない採血で繰り返し測定可能となるため、がんの再発をより早期に発見できることが期待される。「CIRCULATE-Japan」では、今後他がん種への展開も予定している。

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新型コロナ危機に直面した米国ニューヨークの今【臨床留学通信 from NY】番外編

番外編:新型コロナ危機に直面した米国ニューヨークの今米国は3月30日現在、世界1位の感染者数であり、その中心はニューヨークです。私はいま、最前線でCOVID-19の患者を数多く診療しており、今回はニューヨークの現状と私が勤務するMount Sinai Beth Israelの最新の状況をお伝えします。まず、基本的に一般生活は外出禁止令が出ており、厳しく制限されています。原則、仕事は在宅勤務です。例外的に、ライフラインに関わる医療従事者や薬局、スーパーなどは勤務が許されています。外出禁止といっても、1人でのランニングはできます。レストランは、持ち帰りのみの営業が許可されています。なお、小学校でもリモートラーニングのシステム整備が急ピッチで進められ、子供の教育が停滞しないよう対策が取られ始めています。日常生活では、握手をしない(日本では日常的ではありませんが)、顔を触らない、手指消毒が推奨されています。マスクは個人的に効くと思いますが、CDCは推奨していません。おそらく、少しでも医療従事者が使う数を確保するためだと思われます。私は元々、主に私服で仕事をしていましたが、現在は病院ですべてスクラブに着替え、使用済みスクラブは持ち帰りません。幸い、院内にスクラブの自動販売機のようなものがあり、使用済を持っていくと新しいものに取り替えられるため、持ち帰って洗濯する必要がありません。そして、帰宅したら風呂に直行です。米国の病院では、基本的に自分の携帯電話を診療に使います(日本のように配備品がないのです)。 ご存じのように、携帯電話はかなり汚いので扱いが難しいのですが、アルコール消毒すると壊れてしまうかもしれないので、帰宅後はビニール袋に入れておくといいのかもしれません。当院はすべての医療資源をCOVID-19対策に注ぐため、待機的手術は全て中止し、人工呼吸器およびICUの人員を確保しています。また基本的には救急医、内科医、集中治療医が主担当となりますが、他科の医師も診療に加わっている病院もあるようです。人工呼吸器については、トランプ大統領が戦時中の法案を発動させ、ゼネラルモーターズ(GM)に製造を命じました。日本においても対岸の火事と思わず、人工呼吸器を製造して来たるパンデミックに備えるべきと考えます。また、現段階の日本においても医療従事者は診る患者さんは、基本的にCOVID-19と考えて対応すべきだと思います。感冒症状や発熱、呼吸困難があれば疑うのはもちろんですが、腹痛、下痢、頭痛などの症状で来院することもあります。COVID-19によるストレスで例えば心筋梗塞が誘発されることもあるでしょう。タコツボ型心筋症が発症することもあるようです。したがって、急性心筋梗塞だと思って急いで対応をする前に、ひと呼吸おいて、感染防御をしてから対応することも必要であり、医療従事者の暴露を考えると、さまざまな侵襲的処置もひとまず保存的処置にならざるを得ないケースもあると思います。当初、病院ではN95を推奨していませんでしたが、今はN95の上にサージカルマスクを被せ、N95を週1で交換するというルールになっています。ガウンは手術用ではなく、薄いガウンを使用しています。ゴーグルも使用していますが、挿管など暴露が多い場合は、顔全体を覆うフェイスシールドを使用しており、長時間の処置が必要な場合は、スペーススーツなども使います。病院としては、ICUベッドを2~3倍に増やして対応を強化しようとしています。救急医、内科医、集中治療医だけではこの人類の脅威に対応しきれず、他科の協力も必須です。当院のCOVID-19治療は3月30日現在、陽性でも症状が自宅レベルであればできるだけ自宅に帰し、Physician Assistantが電話で症状をフォローするという方針を取っています。入院レベルの患者で胸部X線で肺炎像もしくはSpO2≦94%の低下があれば、ヒドロキシクロロキン(抗マラリア薬)を400mg 1日2回、2回目の後QT(QTc)延長がないかを確認後、400mgを1日1回で4日続けています。アジスロマイシンも効果があるかもしれないと言われており、こちらもQT(QTc)に注意しながら投与しています。現在は500mgを1回投与、その後、250mgで4日投与しています。重症例にはアクテムラを使っており、当院でも今後おそらくRCTが行われると思われます。採血はCRP以外にFerritin、D-Dimer、LDHを取っており、2日後に再度採血しています(米国では基本的にCRPを取りません)。これらの治療内容は日々刻々と変わっており、この内容が正しいとは限りませんので、その点をご留意ください。工野先生へのご質問がありましたら、ぜひこちらへお寄せください。Twitter:@ToshikiKuno

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施設看護師から腎機能を聴取し抗菌薬の適正用量を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第17回

 今回は、患者さんの腎機能を考慮した処方提案についてです。腎排泄型の薬剤の投与量を提案するためには腎機能を評価する必要があります。しかし、その腎機能を評価するための検査値や体重、処方薬の追加の理由は処方箋からのみでは把握できません。今回は処方提案に至るまでの情報収集や連携方法について紹介します。患者情報80歳、女性(施設入居)基礎疾患:高血圧症、便秘症既 往 歴:とくになし処方内容<往診医からの処方>1.アムロジピン錠2.5mg 1錠 分1 朝食後2.酸化マグネシウム錠500mg 1錠 分1 朝食後3.酪酸菌配合錠 4錠 分2 朝夕食後<初めて受診した病院からの新規処方>1.レボフロキサシン錠500mg 1錠 分1 朝食後※病院からの処方箋には、検査値や体重・身長などの情報はなし。本症例のポイントある日の午前、施設スタッフより抗菌薬を本日中に配薬してほしいと電話連絡があり、レボフロキサシン錠500mg 1錠 分1 7日分の処方箋FAXが届いていました。第一印象として、高齢者に対する処方としてはレボフロキサシンの用量が多く、そもそもどこの感染なのかなども含めて情報が不足しているため注意が必要と感じました。そこで、この施設では日中は看護師が常勤していて、病院受診の際は看護師が同行していることを知っていたため、担当看護師に状況を確認することにしました。看護師に確認したのは、採血結果の腎機能に関わる項目(血清クレアチニン、BUN)と直近の身体測定の結果、今回の受診契機と診察時の状況です。その結果、昨夜から発熱、頻尿、倦怠感が強く生じて継続したため、本人および家族から病院受診の希望があり受診したとのことでした。複雑性膀胱炎が疑われ、本来であれば入院加療が必要な状態でしたが、本人と家族は施設に戻って治療することを希望したため、今回の処方薬になったそうです。また、受診時の採血と直近の身体測定の結果は、血清クレアチニン:0.8mg/dL、BUN:13.6mg/dL、身長:148cm、体重:45kgであったという情報も得ることができました。以前紹介した推算CCrの計算方法で腎機能を評価したところ、推算CCr:39.84mL/minと年齢相応に腎機能が低下していました。レボフロキサシンの腎機能に合わせた推奨用量処方提案と経過今回の処方用量では過剰投与になり、中毒症状であるめまいや痙攣などの神経症状、アキレス腱炎、低血糖などが懸念されることから減量が望ましいと判断し、医師に相談することにしました。また、この患者さんは便秘症にて酸化マグネシウムを朝食後に服用していたことから、効果減弱の相互作用を考慮して服用時点を昼食後で調整してよいかどうかも併せて確認することにしました。電話で、「患者さんのレボフロキサシンの用量について確認があります。維持用量を250mgに減量してはいかがでしょうか。80歳と高齢で、本日の採血結果を基に腎機能を評価したところ、推算CCrは50mL/min未満と年齢相応の低下がありました。現在の500mgを維持用量として継続した場合、中毒症状が出現する恐れもあるので減量が望ましいと考えます。初回負荷投与量500mg、維持用量250mgでいかがでしょうか。また、朝食後に施設の往診医から処方されている酸化マグネシウムを服用しているので、レボフロキサシンの効果減弱を避けるため、レボフロキサシンの服用時点を昼食後に変更してもよろしいでしょうか」と相談しました。医師からは、「症状がやや重めなのでFull Doseがいいかと思いましたが、腎機能をそこまで調べていませんでした。初回500mg、以降250mgに調整しましょう。用法は昼食後でよいです。初診なので酸化マグネシウムを服用していたことを把握できていませんでした。情報提供ありがとうございます」というお返事をいただきました。そこで、施設看護師にレボフロキサシンを減量かつ昼食後服用へ変更することをフィードバックし、同日中に配薬しました。患者さんにもその旨を説明し、レボフロキサシンを開始したところ、翌日には解熱して倦怠感や頻尿も改善していきました。また、レボフロキサシン服用期間中および終了後も下痢などの消化器症状、めまいなどの神経症状もなく経過しました。1)「透析患者に対する投薬ガイドライン」,白鷺病院.2)クラビット錠添付文書

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COVID-19肺炎初期~中期にシクレソニドで改善、国内3症例の詳細

 国内における新型コロナウイルス感染症の患者を多く出したダイヤモンドプリンセス号。患者の一部について治療に当たった神奈川県立足柄上病院は3月2日、喘息治療の第1選択薬である吸入ステロイド薬のシクレソニドの投与により症状が改善した3例について、日本感染症学会のホームページにその詳細を報告した。いずれもCOVID-19による酸素化不良やCT所見などが見られたが、薬剤投与により良好な経過を得ているという。 症例の臨床的特徴や経過については、以下のとおり。症例1:73歳女性 2020年1月20日にダイヤモンドプリンセス号乗船、25日に香港に上陸。2月4日より咽頭痛、 倦怠感、食欲不振を認め、7日には38℃の発熱が出現。翌8日に検体が提出され、10日にPCR検査にてSARS-CoV-2陽性の判定となり、11日下船後、当該病院に搬送された。 入院時の採血では抗核抗体1,280倍で、手指の色調不良もあり、強皮症が疑われた。胸部レントゲンでは右下肺野に浸潤影を認め、CTでは両側中下肺野にかけてすりガラス陰影(GGO)が胸膜に沿って認められた。 当初は倦怠感が強く、ほとんど臥床状態であり、食事もできない状態であった。疎通不良や見当識障害も見られた。維持輸液およびセフトリアキソン、アジスロマイシンを開始したが改善せず、ロピナビル・リトナビル(LPV/r)を開始。解熱し、酸素化も改善したが、食欲は改善せず倦怠感が著明。GGOの陰影が増強し、領域の拡大も認められた。LPV/rの有害事象と見られる症状も出現したため、LPV/r中止後、シクレソニド吸入(200μg、1日2回)を開始(入院10日目)。開始後2日程度で発熱および酸素化が改善。食欲の回復も著明で、全身倦怠感も改善し、室内独歩可能に。鼻腔拭いPCRでSARS-CoV-2陰性を確認し、退院となった(入院19日目)。症例2:78歳男性 2020年1月20日にダイヤモンドプリンセス号乗船。2月6日より乾性咳嗽、倦怠感、食欲不振、下痢が出現し、固形物はほとんど食べられなくなった。37.4℃の発熱も見られた。16日のPCR検査でSARS-CoV-2陽性となり、16日に当該病院に入院した。 初診時の身体所見では、咽頭発赤やリンパ節腫脹はなく、肺野呼吸音に異常雑音はなかった。入院当初の胸部レントゲンでは右下肺野に浸潤影が認められた。入院5日目よりシクレソニド吸入(200μg、1日2回)を開始。来院時より水様便が持続し、食事もほとんど摂れない状態だったが、入院6日目から食欲が徐々に改善。下痢も回復し普通便となった。入院6日目には酸素中止が可能となり、倦怠感も改善。食事もほぼ全量摂取できるまでに回復した。咽頭拭いPCRでは、入院12日目の施行時にも陽性となり、シクレソニドを1,200μg/日(400μg、1 日3回)に増量して継続中。症例3:67歳女性 2020年1月20日にダイヤモンドプリンセス号乗船。2月6日より乾性咳嗽、8日より倦怠感、関節痛が出現。9日には38.9℃の発熱あり、その後食欲不振および下痢が出現し、食事がほとんどとれなくなった。16日のPCR検査でSARS-CoV-2陽性となり、そのまま当該病院に入院となった。 初診時の身体所見では、咽頭発赤やリンパ節腫脹はなく、肺野呼吸音に異常雑音はなかった。入院当初の胸部レントゲンでは右中肺野肺門部に浸潤影が認められた。来院時より倦怠感を認め、ベッドで横になっていることが多かった。食事は半量程度。増悪予防を目的として入院5日目からシクレソニド開始。入院6日目には胸部聴診で背側部からfine crackleが聴取され、CTでは両側下肺野背側にGGOを認めた。引き続き、シクレソニド投与のみで経過観察したところ、入院7日目ごろにはほとんどの症状が改善した。咽頭拭いPCRでは、入院12日目の施行時にも陽性となり、シクレソニドを1,200μg/日(400μg、1日3回)に増量して継続中。現在までの知見および考察・COVID-19に対し、シクレソニドの抗ウイルス作用と抗炎症作用が、重症化しつつある肺炎治療に有効であることが期待される。ただし、シクレソニド以外の吸入ステロイドには、COVID-19の抗ウイルス作用は現時点では認められない。・これまでの研究で、COVID-19に対するステロイド治療は、ウイルス血症を遷延させる可能性や糖尿病等の合併症があり推奨されないと報告されているが、シクレソニドはプロドラッグの吸入薬であり、肺の表面に留まるため、血中濃度増加はごく微量である。・投与時期は重症化する前の、感染早期〜中期あるいは肺炎初期が望ましく、ウイルスの早期陰性化や重症肺炎への進展防止効果が期待される。・新型コロナウイルスの増幅時間は6~8時間と考えられ、シクレソニドを頻回投与かつ肺胞に充分量を到達させるため、高用量投与を推奨する。・残存ウイルスの再活性化および耐性ウイルスの出現を避けるため、開始後は14日程度以上継続するのが望ましい。・ウイルスは肺胞上皮細胞で増殖しているため、吸入はできるだけ深く行うことが効果を高めると考えられる。・これらの知見から、以下の投与方法を提案する。 適応:COVID-19陽性確定者の肺炎 用法容量: (1)シクレソニド200μgを1日2回、 1回2吸入、14日分 (2)シクレソニド200μgを1日3回、 1回2吸入、約9日分・(1)を基本とし、重症例、効果不十分例に対しては(2)を検討する。

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第3世代セフェムを愛用する医師への処方提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第11回

 今回は、蜂窩織炎に対する抗菌薬の処方提案を紹介します。広域抗菌薬はカバーが広くて使いやすいのですが、薬剤耐性菌が世界的に懸念されている昨今ではターゲットを絞って適正な抗菌薬を適正量用いることが求められています。薬剤師も医師の治療方針を確認しつつ、積極的に処方設計に参画して適正使用を推進しましょう。患者情報70歳、女性(施設入居)体  重:42kg基礎疾患:高血圧症、鉄欠乏性貧血、慢性便秘症、骨粗鬆症、足白癬既 往 歴:68歳時に腰椎圧迫骨折(手術)主  訴:左下肢腫脹、痛みあり直近の採血結果: 血清クレアチニン0.8mg/dL処方内容1.アムロジピン錠5mg 1錠 分1 朝食後2.アルファカルシドール錠0.5μg 1錠 分1 朝食後3.酪酸菌配合錠 3錠 分3 毎食後4.酸化マグネシウム錠330mg 3錠 分3 毎食後5.リセドロン酸17.5mg 1錠 起床時 毎週月曜日6.クエン酸第一鉄ナトリウム錠 2錠 分2 朝夕食後本症例のポイント施設の担当看護師さんから、患者さんが左下肢の腫脹と痛みを訴えたため、臨時往診が行われたという電話連絡がありました。その際、「蜂窩織炎を発症しているようで、医師が抗菌薬をどうするか迷っている」という話を聞きました。そこで、すぐに医師に電話すると、「左下肢の蜂窩織炎を疑っているけれど、セフジニル100mg 3錠 分3でいいかな?」と相談されました。抗菌薬の処方提案においては、(1)感染臓器、(2)想定される起炎菌(ターゲット)、(3)感受性良好な抗菌薬の理解が必要不可欠です。蜂窩織炎は、真皮〜皮下組織を感染部位とした皮膚軟部組織感染症で、想定される起炎菌はβ溶血性連鎖球菌(A、B、C、G群)と黄色ブドウ球菌(メチシリン感受性:MSSA)です。医師が処方を検討しているセフジニルは第3世代セフェム系抗菌薬で、一部の口腔内連鎖球菌や大腸菌、肺炎桿菌もカバーする広域スペクトラムの抗菌薬です。本症例において、セフジニルも選択肢として挙げることは可能ですが、広域抗菌薬のため耐性菌産生の懸念があり、ターゲットを絞って治療を開始することが望まれます。また、バイオアベイラビリティーが25%程度と低く、この患者さんの場合は服用中のクエン酸第一鉄ナトリウムとの相互作用により、キレートが形成されて吸収が著しく低下することから、有効抗菌薬量としては高用量が必要なため適切ではないと判断しました。皮膚への移行性と起炎菌を考慮すると、アモキシシリンかセファレキシンが有効かつ適正と考え、処方提案することにしました。また、患者さんの腎機能がCCr:43.4mL/minと低下していることから、処方設計も併せてお伝えすることにしました。処方提案と経過医師に重症度や想定している起炎菌を確認したところ、軽症の蜂窩織炎で溶連菌群をカバーして治療したいという希望を聞き取りました。そこで、アモキシシリン250mg 6錠 分3 毎食後の内服を提案しました。しかし、セフェム系でなんとかできないかとの返答がありました。この医師は、普段は広域をカバーして安全性も高いと考える第3世代セフェムをよく処方しており、経口ペニシリン系の治療経験が少なくて不安だったようです。次に、患者さんの腎機能低下を考慮して、第1世代セフェムであるセファレキシン錠250mg 4錠 分2 朝夕食後の処方を提案し、承認を得ることができました。その後、患者さんは10日間の服薬を終了し、蜂窩織炎は軽快しました。1)Gilbert DNほか編. 菊池賢ほか日本語版監修. <日本語版>サンフォード 感染症治療ガイド2019. 第49版. ライフサイエンス出版; 2019年.2)セフゾンカプセルインタビューフォーム

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ループス腎炎〔LN : lupus nephritis〕

1 疾患概要■ 概念・定義ループス腎炎(lupus nephritis: LN)は、全身性エリテマトーデス(SLE)患者でみられる腎炎であり、多くは糸球体腎炎の形をとる。蛋白尿や血尿を呈し、ステロイド療法、免疫抑制薬に反応することが多いが、一部の症例では慢性腎不全に進行する。SLEの中では、中枢神経病変と並んで生命予後に影響を及ぼす合併症である。■ 疫学SLEは人口の0.01~0.1%に発症するといわれ、男女比は約1:9で、好発年齢は20~40歳である。そのうち明らかな腎症を来すのは50%程度といわれている。通常の慢性糸球体腎炎では、尿所見や腎機能異常が発見の契機となるが、SLEでは発熱、関節痛や顔面紅斑、検査所見から診断されることが多い。しかし、尿所見や腎機能異常がない段階でも、腎生検を行うと腎炎が発見されることが多く(silent lupus nephritis)、程度の差はあるが、じつはほとんどの症例で腎病変が存在するという報告もある。■ 病因SLEにおける臓器病変は、DNAと抗DNA抗体が結合した免疫複合体が組織沈着するために起こる。しかし、その病因は不明である。LNでは、補体の活性化を介して免疫複合体が腎糸球体に沈着する。■ 症状SLE患者では、発熱、関節痛、皮疹、口腔内潰瘍、脱毛、胸水や心嚢水貯留による呼吸困難などを来すが、LNを合併すると蛋白尿や血尿が認められ、ネフローゼ症候群に進展した場合は、浮腫、高コレステロール血症が認められる。しかし前述のように、まったく尿所見、腎機能異常を示さない症例も存在する。LNが進行すると腎不全に陥ることもある。■ 分類長らくWHO分類が使用されていたが、2004年にInternational Society of Nephrology/Renal Pathology Society(ISN/RPS)分類が採用された1)(表1)。IV型の予後が悪いこと、V型では大量の蛋白尿が認められることなど、基本的にはWHO分類を踏襲している。画像を拡大する■ 予後早期に診断し治療を開始することで、SLEの予後は飛躍的に改善しており、5年生存率は95%を超えている。しかし、LNに焦点を絞ると、2013年の日本透析医学会の統計報告では、新規透析導入患者では、年間258人がLNを原疾患として新規に透析導入となっている。しかも、導入年齢がそれ以前よりも3~4歳ほど高齢化している2)。生命予後のみならず、腎予後の改善が望まれる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)SLEの診断は、1997年に改訂された米国リウマチ学会の分類基準に基づいて行われていた3)。しかし、SLEの治療を行った患者で、この分類ではSLEとならず、米国では保険会社が支払いを行わないという問題が生じ、SLICC(Systemic Lupus lnternational Collaborating Clinics)というグループが、National Institute of Health (NIH)の支援を受けて、より感度の高い分類基準を提案したが4)、特異度は低下しており、慎重に使用すべきと考えられる。この度、米国リウマチ学会、ヨーロッパリウマチ学会合同で、SLE分類基準が改訂されたため、今後はこの分類基準が主に使用されることが予想される(表2)5,6)。日常診療で行われる検査のほかに、抗核抗体、抗二本鎖DNA抗体、抗Sm抗体、抗リン脂質抗体(IgGまたはIgM抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラント)を検査する。さらにLNの診断には、尿沈渣、蓄尿をしての蛋白尿の測定や、クレアチニンクリアランス、腎クリアランスなどの腎機能検査を行うが、可能な限り腎生検によって組織的な診断を行う。図に、ISN/RPS分類class IV-G(A)の症例を示す7)。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ ステロイド1)経口ステロイド0.8~1.0mg/kg/日 程度のプレドニゾロン(PSL)〔商品名:プレドニゾロン、プレドニン〕が使用されることが多いが、とくに抗DNA抗体高値や低補体血症の存在など、疾患活動性が高い場合、ISN/RPS分類のIV型の場合、あるいはネフローゼ症候群を合併した場合などは、1.0mg/kg/日 の十分量を使用する。初期量を4~6週使用し、その後漸減し、維持量に持っていく。維持量については各施設で見解が異なるが、比較的安全な免疫抑制薬であるミゾリビン(商品名:ブレディニン)やタクロリムス(同:プログラフ)の普及により、以前よりも低用量のステロイドでの維持が可能になっているものと考えられる。2)メチルプレドニゾロン(mPSL)パルス療法血清学的な活動性が高く、びまん性の増殖性糸球体腎炎が認められる場合に行われる。長期的な有効性のエビデンスは少なく、またシクロホスファミドパルス療法(IVCY)の方が有効性に優るという報告もあるが、ステロイドの速効性に期待して、急激に腎機能が悪化している症例などに行われる。感染症や大腿骨頭壊死などの副作用も多く、十分な注意が必要である。mPSLパルス療法は各種腎・免疫疾患で行われるが、LNでは1日1gを使用するパルス療法と、500mgを使用するセミパルス療法は同等の効果を示すという報告もある。■ 免疫抑制薬1)シクロホスファミド静注療法(IVCY)1986年に、National Institute of Health(NIH)グループが、LNにおけるIVCYの報告を行ってから、難治性LNの治療として、IVCYは現在まで世界各国で幅広く行われている。NIHレジメンは、シクロホスファミド0.5~1.0g/m2を、月に1回、3~6ヵ月間投与するものであるが、Euro Lupus Nephritis Trial(ELNT)のレジメンは、500mg/日を2週に1回、6回まで投与するものである。シクロホスファミドの経口投与では、不可逆性の無月経が重大な問題であったが、IVCYとすることでかなり減少したとされる。しかし、20代の女性で10人に1人程度の不可逆性無月経が出現するとされており、年齢が上がるとさらにそのリスクは増大する。挙児希望のある場合は、十分なインフォームドコンセントが必要である。長らく保険承認がない状態で使用されていたが、2010年に公知申請が妥当と判断され、同時に保険償還も可能となった。2)アザチオプリン(商品名:イムラン、アザニン)LNの治療に海外、国内ともに幅広く使用されているが、シクロホスファミド同様長らく保険承認がない状態で使用されていた。やはり2010年に公知申請が妥当と判断され、同時に保険償還も可能となった。シクロホスファミドに比べ骨髄障害の副作用が少なく、また、妊娠は禁忌となっていたが、腎移植などでの経験から大きな問題はないと考えられ、2018年に禁忌が解除された。3)シクロスポリン(同:サンディミュン、ネオーラル)“頻回再発型あるいはステロイドに抵抗性を示す場合のネフローゼ症候群”の病名で保険適用がある。血中濃度測定が保険適用になっており、6ヵ月以上使用する場合は、トラフ値を100ng/mL程度に設定する。投与の上限量が定められていないので、有効血中濃度が得られやすいことが利点である。トラフ値を測定するには、入院時は内服前の早朝に採血し、外来では受診日だけは内服しないように指導することが必要である。アザチオプリン同様、2018年に妊娠時の使用禁忌が解除された。4)ミゾリビン(同:ブレディニン)1990年にLNの病名で保険適用が追加された。最近は血中濃度を上昇させることの重要性が提唱され、150mgの朝1回投与や、さらに多い量を週に数回使用するパルス療法などが行われているが、「保険で認められている使用法とは異なる」というインフォームドコンセントが必要である。比較的安全な免疫抑制薬であるが、妊娠時の使用は禁忌であることに注意する必要がある。5)タクロリムス(同:プログラフ)LNの病名で保険適用がある。血中濃度測定が保険適用になっており、投与12時間後の濃度(C12)をモニタリングし、10ng/mLを超えないように留意する。しかし、LNでの承認最大用量3mg/日を使用しても、血中濃度が上昇しないことの方が多い。臨床試験において、平均4~5ng/mL(C12)で良好な成績を示したが、5~10ng/mLが至適濃度との報告もある。内服が夕方なので、午前の採血で血中濃度を測定するとC12値が得られる。併用禁忌薬、慎重投与の薬剤、糖尿病の発症や増悪に注意をする。アザチオプリン同様、2018年に妊娠時の使用禁忌が解除された。6)ミコフェノール酸モフェチル(MMF)〔同:セルセプト〕MMFは生体内で速かに加水分解され活性代謝物ミコフェノール酸(MPA)となる、MPAはプリン生合成のde novo 経路の律速酵素であるイノシンモノホスフェイト脱水素酵素を特異的に阻害し、リンパ球の増殖を選択的に抑制することにより免疫抑制作用を発揮する。海外では、ACR(American College of Rheumatology)、EULAR(European League Against Rheumatism)、KDIGO(Kidney Disease: Improving Global Outcomes)LN治療ガイドラインにおいて、活動性LNの寛解導入と寛解維持療法にMMFを第1選択薬の一つとして推奨され、標準薬として使用されている8,9)。わが国では、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」において検討された「ループス腎炎」の公知申請について、2015年7月31日の薬事・食品衛生審議会の医薬品第一部会で事前評価が行われ、「公知申請を行っても差し支えない」とされ、保険適用となった。用法・用量は、成人通常、MMFとして1回250~1,000mgを1日2回12時間毎に食後経口投与する。なお年齢、症状により適宜増減するが、1日3,000mgを上限とする。副作用には、感染症、消化器症状、骨髄抑制などがある。また、妊娠時は禁忌であることに注意が必要である。2019年に日本リウマチ学会から発行された、SLEの診療ガイドラインでは、MMFがLNの治療薬として推奨された10)。7)multi-target therapyミゾリビンとタクロリムスの併用療法の有効性が報告されている11,12)。両剤とも十分な血中濃度を確保することが重要な薬剤であるが、単剤での有効血中濃度確保ができないような症例に有効である可能性がある。また、海外を中心にMMFとタクロリムスの併用療法の有効性も報告されている13-15)。■ ACE阻害薬(ACEI)、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)LNでの難治性の蛋白尿にACEIやARBが有効であるとの報告がある。筆者らは両者の併用を行い、さらなる有効性を確認している。特に、ループス膜性腎症で免疫抑制療法を行っても、難治性の尿蛋白を呈する症例では試みてもよいのではないかと考えている。4 今後の展望世界的に広く使用されていたシクロホスファミドとアザチオプリンが保険適用となり、使用しやすくなったため、わが国でのエビデンスの構築が望まれる。公知申請で承認されたMMFの効果にも、期待がもたれる。SLEに対する新規治療薬としては、BLysに対するモノクローナル抗体のbelimumabが非腎症SLEに対する有効性が認められFDAの承認を受け、さらにわが国でも使用可能になった。しかし、LNでの有効性についてはいまだ明らかではない。さらに、海外ではSLEの標準的治療薬であるハイドロキシクロロキンもわが国で使用可能になった。LNに対する適応はないが、再燃予防効果やステロイド減量効果が報告されており、期待がもたれる。5 主たる診療科リウマチ科・膠原病内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報全身性エリテマトーデス(難病情報センター)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)ACRガイドライン(WILEYのオンラインライブラリー)EULAR/ERA-EDTAリコメンデーション(BMJのライブラリー)KDIGO Clinical Practice Guideline for Glomerulonephritis(International Society of Nephrologyのライブラリー)公的助成情報全身性エリテマトーデス(難病ドットコム)(患者向けの医療情報)患者会情報全国膠原病友の会(膠原病患者と家族の会)参考文献1)Weening JJ, et al. Kidney Int. 2004;65:521-530.2)日本透析医学会統計調査委員会. 図説 わが国の慢性維持透析療法の現況(2013年12月31日現在);日本透析医学会.2014.3)Hochberg MC. Arthritis Rheum. 1997;40:1725.4)Petri M, et al. Arthritis Rheum. 2012;64:2677-2686. 5)Aringer M, et al. Ann Rheum Dis. 2019;78:1151-1159.6)Aringer M, et al. Arthritis Rheumatol. 2019;71:1400-1412.7)住田孝之. COLOR ATLAS 膠原病・リウマチ 改訂第3版. 診断と治療社;2016.p.30-53.8)Appel GB, et al. J Am Soc Nephrol. 2009;20:1103-1112.9)Dooley MA, et al. N Engl J Med. 2011;365:1886-1895.10)厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等 政策研究事業 自己免疫疾患に関する調査研究班.日本リウマチ学会編. 全身性エリテマトーデス(SLE)診療ガイドライン. 南山堂;2019.11)Kagawa H, et al. Clin Exp Nephrol. 2012;16:760-766.12)Nomura A, et al. Lupus. 2012;21:1444-1449.13)Bao H, et al. J Am Soc Nephrol. 2008;19:2001–2010.14)Ikeuchi H, et al. Mod Rheumatol. 2014;24:618-625.15)Liu Z, et al. Ann Intern Med. 2015;162:18-26.公開履歴初回2013年05月02日更新2019年12月10日

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甘草の重複から偽アルドステロン症を疑い、ただちに医師に電話【うまくいく!処方提案プラクティス】第9回

 今回は、整形外科領域で処方頻度の高い芍薬甘草湯による副作用の初期徴候と経過を把握することがキーとなった症例を紹介します。普段から症状や併用薬を確認することが副作用の早期発見に功を奏しました。処方提案後には、副作用が軽減したかモニタリングすることも重要です。患者情報80歳、女性(外来)、体重:70kg基礎疾患:腰部脊柱管狭窄症、高血圧症、脂質異常症血  圧:おおよそ130/70台を推移月1回整形外科を受診しており、薬剤は薬袋で自己管理している。処方内容(すべて継続処方薬)1.アムロジピン錠5mg 1錠 分1 朝食後2.フロセミド錠20mg 1錠 分1 朝食後3.リマプロストアルファデクス錠5μg 3錠 分3 毎食後4.メコバラミン錠500μg 3錠 分3 毎食後5.芍薬甘草湯7.5g 分3 毎食後6.ロスバスタチン錠5mg 1錠 分1 夕食後7.酸化マグネシウム錠500mg 2錠 分2 朝夕食後本症例のポイントこの患者さんは、腰部脊柱管狭窄症による下肢の痛みや冷えのため芍薬甘草湯が処方されていました。投薬対応中に普段と何か変わったことはないか確認したところ、「最近、手足がだるくて、筋肉痛やこむら返りが起きる。市販薬を購入して服用しているけれど、むしろひどくなっている気がする」と聴取しました。市販薬の内容を確認すると、こむら返りや筋肉の痙攣に良いと聞いて購入した芍薬甘草湯エキス2.4g(商品名:コムレケア)であり、処方されている芍薬甘草湯と重複(甘草として12.0g/日)していました。市販薬の名称からは同じ漢方薬であるとは思わなかったようです。処方薬の芍薬甘草湯を服用中に手足のだるさや筋肉痛、こむら返りなどの症状が生じていることから偽アルドステロン症の可能性が疑われ、さらに市販薬を追加服用したことで症状の増悪に至ったと考察しました。さらに、双方の芍薬甘草湯によって降圧コントロールで服用しているフロセミドによる低カリウム血症が生じて、筋力低下や筋肉痛が生じている可能性もあると考え、医師への連絡が必要と考えました。<偽アルドステロンの注意点>偽アルドステロン症は甘草に含まれるグリチルリチンの活性代謝物であるグリチルリチン酸が、ナトリウム貯留や血圧上昇などのミネラルコルチコイド様作用を発揮することにより生じる。主な初期徴候は、手足のだるさ、しびれ、ツッパリ感、こわばり、筋肉痛、四肢脱力など。甘草2.5g/日以上、グリチルリチン100mg以上で発生リスクが高まるが、それ未満でもリスクはあるので注意が必要。利尿薬(とくにカリウム排泄型)が投与されている場合には、低カリウム血症を生じやすく、重篤化しやすい。処方提案とその後の経過患者さんに事情を話して投薬対応を一旦待っていただき、医師へ電話連絡することにしました。継続処方されている芍薬甘草湯による偽アルドステロン症の可能性があり、市販薬の芍薬甘草湯を購入して服用したことでさらに症状を助長させている可能性について報告し、今後の対応を相談しました。また、フロセミド服用で低カリウム血症が生じている可能性も考えられるため、血清カリウムの採血も提案しました。その結果、医師より処方薬と市販薬の芍薬甘草湯を中止するよう指示があったうえで、患者さんはすぐに再診となり、血清カリウムの評価のため採血検査が行われました。その2週間後に診察フォローがありましたが、予想どおり血清カリウム値が2.6mEq/Lと低カリウム血症でした。血圧推移は安定しており、浮腫もないことからフロセミドも中止となりました。今回問題となった手足のだるさや筋肉痛、こむら返りについては、芍薬甘草湯を中止して症状は改善し、再燃なく経過しています。ポケット医薬品集2019年版重篤副作用疾患別対応マニュアル 偽アルドステロン症

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経口の糞便移植で死亡例、その原因は?/NEJM

 糞便微生物移植(FMT)の臨床試験に参加した被験者で、死亡1例を含む4例のグラム陰性菌血症が発生していたことが明らかにされた。米国・ハーバード大学医学大学院のZachariah DeFilipp氏らによる報告で、そのうち術後にESBL産生大腸菌(Escherichia coli)血症を発症した2例(1例は死亡)は、別々の臨床試験に参加していた被験者であったが、ゲノムシークエンスで同一ドナーのFMTカプセルが使用されていたことが判明したという。著者は、「有害感染症イベントを招く微生物伝播を限定するためにもドナースクリーニングを強化するとともに、異なる患者集団でのFMTのベネフィットとリスクを明らかにするための警戒を怠らない重要性が示された」と述べている。FMTは、再発性/難知性クロストリジウム・ディフィシル感染症の新たな治療法で、その有効性・安全性は無作為化試験で支持されている。他の病態への研究が活発に行われており、ClinicalTrials.govを検索すると300超の評価試験がリストアップされるという。NEJM誌オンライン版2019年10月30日号掲載の報告。使用されていたのは検査強化前の冷凍FMTカプセル 研究グループは、術後にESBL産生大腸菌血症を発症した2例(1例は死亡)について詳細な調査報告を行った。 まずドナースクリーニングと、カプセル製剤手順を検証したところ、ドナースクリーニングは施設内レビューボードと米国食品医薬品局(FDA)による承認の下で行われており、集められたドナー便はブレンダーでの液化や遠心分離などの処置を経て懸濁化され、熱処理などを受けて製剤化が行われていた。ただし、2019年1月にFDAの規制レビューを受けてドナースクリーニングを強化していたが、件の2例に使用されたFMTカプセルは2018年11月に製造されたものであったという。この時に強化された内容は、ESBL産生菌、ノロウイルス、アデノウイルス、ヒトTリンパ親和性ウイルス タイプ1およびタイプ2抗体を検査するというものであった。規制レビューを受けた後も、それ以前に製剤化・冷凍保存されていたFMTカプセルについて、追加の検査や廃棄はせず試験に使用されていた。FMT前の被験者の便検体からはESBL産生菌は未検出 患者(1)は、C型肝炎ウイルス感染症による肝硬変の69歳男性で、難治性肝性脳症の経口カプセルFMT治療に関する非盲検試験に参加した被験者であった。2019年3月~4月に、15個のFMTカプセルを3週間に5回にわたって移植。術後17日(2019年5月)までは有害事象は認められなかったが、発熱(38.9度)と咳を呈し、胸部X線で肺浸潤を認めレボフロキサシンによる肺炎治療が行われた。しかし、臨床的改善が認められず2日後に再受診。患者(1)は、その際に前回受診時での採血の血液培養の結果でグラム陰性桿菌が確認されたことを指摘され、ピペラシリン・タゾバクタムによる治療を開始し入院した。培養されたグラム陰性桿菌を調べた結果、ESBL産生大腸菌であると同定された。患者(1)の治療はその後カルバペネムに切り替えられ、さらに14日間のメロペネム投与(入院治療)、さらにertapenem投与(外来治療)を完了後、臨床的安定性を維持している。フォローアップ便検体のスクリーニングでは、ESBL産生菌は検出されなかった。 患者(2)は、骨髄異形成症候群の73歳男性で、同種異系造血幹細胞移植の前後に経口カプセルFMTを行う第II相試験に参加していた。15個のFMTカプセルを、造血幹細胞移植の4日前と3日前に移植。造血幹細胞移植の前日に、グラム陰性菌血症リスクを最小化するためのセフポドキシム予防投与を開始した。しかし、造血幹細胞移植後5日目(最終FMT後8日目)に発熱(39.7度)、悪寒、精神症状の異変を呈した。血液培養の採血後、ただちに発熱性好中球減少症のためのセフェピム治療を開始したが、その晩にICU入室、人工呼吸器装着となる。予備血液培養の結果、グラム陰性桿菌の存在が示され、メロペネムなど広域抗菌薬を投与するが、患者の状態はさらに悪化し、2日後に重篤な敗血症で死亡した。最終血液培養の結果、ESBL産生大腸菌が検出された。 なお患者(1)(2)とも、FMT前の便検体からESBL産生菌は検出されなかったという。

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第23回 病院の“日常”に潜入!? 病院探検隊の誕生【患者コミュニケーション塾】

 私たちCOMLで取り組んできた活動の一つに「病院探検隊」があります。病院探検隊とは、患者の立場であるCOMLのメンバーが医療機関に出向き、見学や受診を通して気付いたことや改善点を提言・提案する活動です。1994年に「プレ病院探検隊」を実施して方法を模索し、これまで25年間で100近い医療機関に“出動”してきました。出動は私たちの希望ではなく、あくまでも医療機関からの依頼に基づいています。受け入れ先の病院には“日常”を見せていただきたいとお伝えし、多くの病院では職員に対し、「いつか病院探検隊がやってくる」と伝えることはあっても、実施日や受診メンバーの名前や受診する診療科、あるいは受診メンバーがいることなどは一定の幹部までに情報を留めているようです。病院探検隊当日は、COMLスタッフやボランティアメンバー約10名が出向き、「案内見学」「自由見学」「受診」という3つの役割に分かれます。「案内見学」は病院の管理職に案内してもらって見学します。そばに病院管理職がいるので、徹底的に質問することが案内見学メンバーの役割です。質問で得られた回答は、自由見学や受診したメンバーが思い込みでフィードバックするのを防ぐにも役立ちます。「自由見学」は担当する役割を分担し、自由に見て回ります。受付付近で30分ほど座って患者の流れやスタッフの対応を見たり、実際に外来から採血室への動線を辿ってみたり。さらには、相談室が入りやすいか実際に入ってみて、中にいるスタッフにインタビューもします。案内表示や掲示板、投書箱の設置・回答状況なども見て回ります。許される範囲で、病院スタッフだけではなく、外来・入院患者、家族にインタビューすることもあります。そして「受診」は、まさしくほかの患者さんに交じって受診するのです。いわゆる“抜き打ちテスト”のようになってしまうので、病院側が拒否すれば無理に受診はしません。しかし、受診患者のフィードバックは管理職の最も関心があるところですから、ほぼ依頼があります。そこで、実際の持病や本当に生じている症状を使って受診します。初診受付から待合室、診察室、必要に応じて検査も受け、会計で支払いをする一連の流れを経験します。たった一度の受診でも、その医療機関の特徴や課題がかなり見えてくるものです。保険証を最初に提示して受診していますので、終了した時点で保険請求は止めてもらい、支払った医療費は返還してもらっています。このような見学と受診を午前中いっぱいかけておこなった後は、入院患者と同じ昼食をメンバー一人ひとりが実費を支払って試食します。普通食だけではなく、糖尿病食や潰瘍食、減塩食といった特別食も交えて用意してもらっています。ときにはミキサー食を試食することもあります。試食後、午後からは約2時間かけて病院管理職へのフィードバックとディスカッションをおこないます。その後、メンバー一人ひとりがリポートをまとめ、それをCOMLスタッフが総合フィードバックという10数ページに及ぶ文書にまとめ上げて、個人のリポートも資料として付けて病院に1ヵ月以内に提出、というのが一連の流れです。“虫の目”で病院のあり方を徹底チェック病院探検隊を始めるきっかけになったのは、1993年ごろ、現在の公益財団法人日本医療機能評価機構の設立が模索され、「第三者による病院の機能評価を実施しようとしているので、患者の立場から話を聴かせてほしい」という依頼が、機構の準備をおこなっている方々から届いたことです。機構はその後1995年に設立され、97年から訪問審査による病院機能評価事業を開始しています。発足する前にヒアリングを受けた際、機構で予定しているサーベイヤー(評価調査者)は事務職を含めた医療関係者で、患者の立場のサーベイヤーは予定されていないことがわかりました。私たちは当初、利用者である患者の視点を入れないことに疑問を抱き、批判していました。しかし「ほかの団体のおこなう内容を批判するのは失礼で無意味なこと。それよりも、COMLでできることを考えよう」と方向性を修正し、病院探検隊の企画につながりました。「日本医療機能評価機構が専門家の目で客観的に評価する“鳥の目”ならば、私たちは主観に過ぎないけれど、利用者の“虫の目”で病院を見て提言・提案をしよう!」と病院探検隊を始めることにしたのです。まず1994年に長野県にある諏訪中央病院でプレ病院探検隊を受け入れてもらい、頭の中で描いていた方法を修正。翌年から、知り合いの院長などに声をかけて、病院探検隊を受け入れてもらいました。その後、1999年ごろからは、まったく面識のない医療機関から依頼が入るようになり、2002年度には実に16の医療機関から依頼を受けました。この年度までは旅費交通費のみ医療機関に負担してもらっていましたが、一定の質の担保ができるようになったこともあって、2003年度からは派遣料と旅費交通費をいただいて有料化しています。次回は、具体的にどのような視点で見学、受診しているのかをお伝えします。

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大腸がん術後補助化学療法、ctDNAによる評価(A GERCOR-PRODIGE)/ESMO2019

 フランス・European Georges Pompidou HospitalのJulien Taieb氏は、StageIIIの結腸がんでの術後補助化学療法では血液循環腫瘍DNA(ctDNA)が独立した予後予測因子であり、ctDNAが陽性か否かにかかわらず、術後補助化学療法は6ヵ月のほうが無病生存期間(DFS)が良好な傾向が認められたと欧州臨床腫瘍学会(ESMO2019)で報告した。 今回の結果はIDEA FRANCE試験に参加した患者の血液検体を用いたA GERCOR-PRODIGE試験に基づくもの。IDEA FRANCE試験は、大腸がんの術後補助化学療法としてのFOLFOX療法またはCapeOX療法の投与期間について、3ヵ月間と6ヵ月間を比較した6つの前向き第III相無作為化試験を統合解析したIDEA collaborationに含まれる試験の1つ。 IDEA collaboration では全体として6ヵ月投与群に対する3ヵ月投与群の非劣性は確認されなかった。とくにCapeOX療法の患者の低リスク群では、3ヵ月投与は6ヵ月間投与と同様の有効性を示した。ただ、FOLFOX療法の患者の高リスク群では、6ヵ月間投与群でより高いDFSが得られたという結果になっている。 A GERCOR-PRODIGE試験の対象はIDEA FRANCE試験参加者のうち805例。検体採取は化学療法施行前にEDTA採血管を用いて行われている。検体の解析はWIF1遺伝子と神経ペプチドY(NPY)のメチル化マーカーをデジタルPCRによって解析した。最終的に805例のうち、ctDNA陰性群は696例、ctDNA陽性群は109例であった。 主な結果は以下のとおり。・2年DFS率はctDNA陽性群が64.12%、ctDNA陰性群が82.39%でctDNA陽性群は予後不良であった(ハザード比[HR]:1.85、95%信頼区間[CI]:1.31~2.61、p<0.001)。・多変量解析では、ctDNA陽性(HR:1.85、95%CI:1.31~2.61、p=0.0005)、N2(≧4)(HR:2.09、95%CI:1.59~2.73、p<0.0001)は予後不良因子であった。・治療期間別にみると、6ヵ月投与は3ヵ月投与に比べ予後が良好だった(HR:0.6、95%CI:0.45~0.78、p=0.0002)・ctDNA陽性・陰性別と治療期間の関係では、ctDNA陽性群で治療期間3ヵ月間でのDFS率が最も低かった(p<0.0001)。・T4またはN2(≧4)あるいはその両方を有する高リスクStage IIIではctDNA陽性群のDFS率が有意に低かった(p<00001)。・T1-3かつN1(1-3)の低リスクStage IIIではctDNA陽性群とctDNA陰性群の間でDFS率に有意差は認めなかった(p=0.07)。 今回の結果についてTaieb氏は「術後補助化学療法の3ヵ月間はとりわけctDNA陽性結腸がん患者では不十分なアウトカムに関連している可能性がある」と述べている。

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第31回 先入観に負けずに心電図を読め!~非典型的STEMIへの挑戦~【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第31回:先入観に負けずに心電図を読め!~非典型的STEMIへの挑戦~連載をはじめた当初、“2週に1回”の連載タイミングで、心電図の話題をいつまで続けられるかなぁ?…正直そう思っていましたが、気づけば前回で30回の“壁”を越えました。心電図って、本当に話題が尽きないんです(笑)。今回は、一見“なんてことない”状況が心電図と真正面から向かい合うことで一変する…そんな共体験をDr.ヒロとしましょう!症例提示89歳、女性。高血圧などで通院中。20XX年6月末、食事や入浴も平素と変わりなく、22時頃に就寝した。深夜1:30に覚醒し、強い悪心を訴え数回嘔吐した。下痢なし。嘔吐後、再び床に着くも喉元のつかえ感と悪心がおさまらず、早朝5:00に救急要請した(病着5:20)。前日の晩は家族と自宅でお好み焼きやキムチ、チャンジャを食べたが、同居家族に同様の症状の者はいない。来院時バイタルサイン:意識清明、顔色不良、体温36.2℃、血圧107/38mmHg、脈拍50~80拍/分・不整、酸素飽和度98%。来院時心電図を示す(図1)。(図1)救急外来時の心電図画像を拡大する【問題1】心電図所見として正しくないものを2つ選べ。1)心室内伝導障害2)ST低下3)ST上昇4)低電位(肢誘導)5)第1度房室ブロック解答はこちら1)、5)解説はこちら今回の症例は、悪心と嘔吐を主訴にやって来た高齢女性です。救急外来では“よくある状況”で、「感染性胃腸炎」や「食中毒」と判断してもおかしくない病歴かもしれません。でも、問題は心電図の読みです(笑)。救急外来の“ルーチン”か、はたまた「吐いた後にも喉のつかえ感が残る」という訴えがあったためか、いずれにせよ記録した以上はきちんと読む-これを徹底してください。もちろん「系統的判読」(第1回)を用いてね。1)×:「心室内伝導障害」(IVCD*1)とは「脚ブロック」をはじめ、QRS幅が幅広(wide)となる波形異常の総称です。後述するST-T部分が紛らわしいですが、今回はQRS幅としては正常(narrow)です。2)○:ST部分のチェックは、基線(T-P/T-QRS/Q-Qライン)とJ点(QRS波の切れ目)の比較でしたね。肢誘導ではI、aVL、そして胸部誘導ではV1~V5で1mm以上の「ST低下」が見られます。目を“ジグザグ運動”させることができたら、異常を漏れなく抽出できるはずです(第14回)。ちなみに自動診断では誘導が正しく拾い上げられていないことにも注目してください。3)○:この心電図では、広汎な誘導で「ST低下」が目立ちますが、ニサンエフ(II、III、aVF)では「ST上昇」が見られます。これも見逃してはなりません。4)○:「低電位(差)」は肢誘導と胸部誘導とで診断基準が異なります*2。「すべての肢誘導で振幅≦0.5mV」これが肢誘導の基準です。QRS波が5mm四方の太枠マスにすっぽり入れば該当し、今回は満たしています。5)×:これは、ボクの語呂合わせでは“バランスよし!”の部分に該当します。「PR(Q)間隔」とはP波とQRS波の“つかず離れず”の適度な距離感、これが“バランス”と表記した意味になります。上限値は200ms(0.2秒)ですが、「第1度房室ブロック」と診断するのは240ms(0.24秒)以上、すなわち小目盛り6個以上で、とボクは推奨しています。ただし、「P:QRS=1:1」である必要があり、普通、R-R間隔は整ですので、今回は該当しません。詳細は次問で解説します。*1:Intraventricular Conduction Disturbance*2:胸部誘導では2倍の1.0mV(1cm)がカットオフ値だが、肢誘導よりも圧倒的に少ない。【問題2】自動診断では「心房細動」となっている。これは正しいか?解答はこちら正しくない解説はこちらまた出た! Dr.ヒロの“自動診断いじり(笑)最近の心電計の診断精度は上がっているんですよ。ただ、時に機械は間違います。そんな時に信じられるのはただ一つ。そう、自分、人間の目です。“目立つ所見だけ言えてもダメ”心電図(図1)を見て目に飛び込んでくる華々しい「ST変化」…これだけに気をとられて、「調律」が何かを意識できなかった人はいますか? それじゃ、帽子をかぶって上着を着て、ズボンもはかずに外出するようなもの(下品な例えでスイマセン)。目立つものだけ指摘して、ほかの心電図所見を見落とすということは、それくらい“不十分”なことなんです。“レーサー(R3)・チェック”を活用すれば不整脈のスクリーニングにもなるんです*3。*3:1)R-R間隔:整、2)心拍数:50~100/分、3)洞調律のいずれか1つでも満たさなければ、その心電図には「不整脈」があると認識するのだった。R-R間隔は不整、心拍数は新・検脈法で60/分(第29回)。そして残りは“イチニエフの法則”ですね(第2回)。P波に注目です。QRS波ちょっと手前の“定位置”にP波がいない…?P波が「ある」ように見える部分と「ない」部分が…?「PR(Q)間隔」も伸びたり縮んだりしている…?イチニエフ…と見ていく過程で、こう感じた人は少なくないのではと思います。こういう時、まず当たりをつけるのに適した誘導はV1誘導です。右房に正対する位置で、距離的にも前胸壁で一番近くP波が見やすいです。さらに、この特徴に加え、二相性(陽性-陰性)のことが多く波形的にも目を引きやすいのもオススメな理由です。“P波探し”は不整脈の解析の肝であり、ちょっと慣れたら、次のようにビシッと指摘できるでしょう(図2)。(図2)V1誘導のみ抽出画像を拡大する大事なことですので、ぜひ拙著などでご確認ください(笑)。P波がコンスタントにある時点で「心房細動」ではないですよね? 実は、P波の間隔はほぼ一定で、1個目や5個目で「P-QRS」の順番が途切れており、これだけで「第2度房室ブロック」の「ウェンケバッハ(Wenckebach)型」と呼ばれるタイプだと指摘できる人は素晴らしい。5秒だと短いので、こういう時には、「手動(マニュアル)記録モード」にして長く記録すると良いでしょう。R-R不整が強く、心電計は「心房細動」と考えましたが、われわれはそれに釣られてはいけませんね。【問題3】来院後、再び嘔吐した。混血はなく、食物残渣・胃液様であった。心筋トロポニンT(cTnT):陰性、ヒト心臓由来脂肪酸結合蛋白(H-FABP):陽性であった。対応について正しいものを選べ。1)消化器症状が強いため、「“おなかの風邪”か“食あたり”でしょう」と説明して帰宅させる。2)制吐剤を含む点滴と内服処方を行い、後日外来での上部消化管内視鏡を薦める。3)H-FABPは偽陽性と考え、cTnTが陰性なことから急性冠症候群(ACS)は否定的と考える。4)救急外来で数時間待ってから採血と心電図を再検し、日中の通常業務の時間帯に入ってから循環器科にコンサルトする。5)自院で緊急心臓カテーテル検査が可能なら循環器医をコール、不可能なら即座に専門施設へ転送する。解答はこちら5)解説はこちら今回の高齢女性の主訴は悪心・嘔吐です。来院直後にベッドの上で嘔吐しました。90歳近い高齢であることを除けば“あるある”的な救急患者ですし、症状だけならば胃腸疾患と思えなくもありません。ただし、心電図を見てしまったらそうはならないはずです。「ST上昇」と「ST低下」が特定のコンビネーションで認められたら、何を考えますか? また、心筋バイオマーカーはどうでしょう?「ラピチェック® H-FABPなどの検査では偽陽性も多いし、トロポニン陰性だから大丈夫でしょ」そう考えるのもまたアウト。「何のために心電図をとったの!」ということになってしまいますね。“心電図をどう解釈するか”われわれ人間の性か、現行の心電図教育の関係かはわかりませんが、症状ごとに胸痛ならST変化に一点集中とか、心疾患っぽくなかったら心電図は見なくていいとか…さまざまな“決め打ち”や先入観が“心電図の語る真実”を見逃す原因になります。“とるなら見よ”、しかもきちんと―これがボクからのメッセージです*4。心電図を眺める時、いったんすべて忘れ去り、真っ白な心で読むのでしたね(第10回)。心電図(図1)で最も目立つのはST変化で、肢誘導ではII、III、aVF誘導の「ST上昇」、そしてI、aVL誘導の「ST低下」が認められます。ここで久しぶりに“肢誘導界”の円座標を登場させましょう。まずスタートは、aVLとIIIとが正反対に近い位置関係にあるということ(図3)。(図3)位置的に対側関係にある誘導は?画像を拡大する“大きな心”でとらえてくださいね。ST上昇のあるニサンエフ(II、III、aVF)とイチエル(I、aVL)って、心臓をはさんで反対の位置関係にありますよね? こうした真逆の2方向の組み合わせでST上昇・低下が見られた場合*5、“発言力”があるのは「ST上昇」のほうで、ほぼ確実にSTEMI(ST上昇型急性心筋梗塞)の診断となります。もちろん、できたら以前の心電図と比較して、過去にない「変化」が起きているのを確認できれば、なお確実性が高まります。今回の例は「下壁梗塞」疑いです。エフ(aVF)は“foot”ですから、何も覚えることなく「下壁」ですよね。加えて右冠動脈の近位部閉塞に伴う下壁梗塞の場合、時に房室ブロック(今回は第2度)を伴うという事実とも合います。ですから、心電図をとってDr.ヒロ流でキチンと読みさえすれば選択肢の5)が正しいとわかるでしょう。「STEMI=即、心カテ」はガイドラインでも銘記されています。ちなみに、選択肢3)は心筋バイオマーカーに関するものですが、汎用されるcTnTが陰性だから、ACSの可能性を否定してしまう選択肢4)のような対応もよくある誤りです(心電図を苦手にする人ほどこうしたミスを犯しがち)。STEMIでも発症後数時間のごく初期の段階ではトロポニン陰性も珍しくないんです。*4:その逆で“見ないならとるな”は間違い。さらに“見られないからとらない”は厳禁!…ちまたでは見かけるのも事実だが。*5:V1~V5の「ST低下」についても、V5はイチエルと“ご近所”(側壁誘導)、V1~V4は心臓の“前”で、II・III・aVFは“下≒後”と考えると対側性変化の一環として説明・理解できる。“「読めるか」より「とれるか」”心電図(図1)は波形異常と不整脈が混在し、それなりに読み甲斐のある心電図だと思います。ただ、この症例で一番難しいのは、心電図を「読めるか」より「とれるか」という点です。「気持ち悪い、吐きそう、吐いた、ノドのあたりがむかむか…」そんな訴えから胃腸疾患と決めつけてしまったり、看護師さんに「先生、これで心電図とるの?」と言われて“場の雰囲気”を重視したりすると痛い目にあいます。心筋梗塞の患者は、皆が皆、「強い前胸部痛」という典型症状で来院される方ばかりではありません。非典型例をいかに漏らさず拾えるかが、“できる”臨床医の条件の一つだとボクは思います。代表的な非典型的症状は、肩や歯の痛みですよね。また、今回の症例のように悪心や嘔吐なんかの消化器症状が目立って、心筋梗塞でテッパンの胸部症状がかすんでしまうこともあります。下壁梗塞の多くは、灌流域に迷走神経終末の多い右冠動脈の閉塞が原因であることから、胃部不快や嘔吐が多いと説明されています。心筋梗塞と嘔吐の関係を調べた古い文献によると、貫壁性(transmural)心筋梗塞の43%に嘔吐を伴い、前壁:下壁=6:4*6だったとのこと。時代やお国の違いこそあれ、さすがに普段の印象には合わない感じもしていますが…どうでしょう、皆さま?*6:重症の前壁梗塞によるショック状態で嘔吐が見られることがある。■非典型症状をきたす3大要因■(1)高齢者(2)女性(3)糖尿病今回の症例が難しいのは“何でもあり”の「高齢者」であること以外に「女性」であるわけです。女性の心筋梗塞は男性よりもわかりにくい症状なのは有名で、この連載でも扱ったことがあります(第6回)。“救急では心電図のハードルを下げよ”以上、消化器症状が強く出た高齢者の非典型的STEMI症例でした。『患者さんの訴えが心窩部より上のどこかで、それに対して“深刻感”を感じたならば心電図をとる』これをルーチンにすれば“見落とし”が少しでも減ると思います。とは言え、多忙な救急外来ではとかく“ハイ、胃腸炎ね”と片付けてしまい、ボク自身も反省すべき過去がないとは言えません。12誘導心電図は保険点数130点ですから、『3割負担の方でも“ほか弁”ないし“スタバのコーヒー”くらいの値段で大事な検査が受けられますよ』、と患者さんにも普段から説明するようにしています。多少は手間ですが、患者さんには無害な検査です。“空飛ぶ心電図”で谷口先生にお話を伺った際、「顎と心窩部にはさまれた部分」で一定の症状があったら、心電図を“とりにいく”姿勢の大事さを学びましたよね(第27回)。とくに救急現場では心電図はバイタルサインの次くらいに軽い気持ちでとるほうが無難です。くれぐれも心電図の苦手意識から「心電図をとるの、やめとこかな…」は“なし”にしましょう!! Take-home Message1)対側性変化で説明できるST上昇・低下が共存したらSTEMIと診断せよ。2)非典型症状に潜む“隠れ心筋梗塞”に注意せよ!~時に悪心・嘔吐が前面に出ることも~3)下壁梗塞では房室ブロックを合併することあり。1)杉山裕章. 心電図のはじめかた. 中外医学社;2017.p.128~137.【古都のこと~勧修寺雪見灯篭~】山科区の勧修寺(山号:亀甲山)は、前回・前々回と紹介した随心院からも徒歩10分圏内です。お恥ずかしながら、最近訪れるまでは「かんしゅうじ」と呼んでいましたが、実は「かじゅうじ」です*1。真言宗山階派の大本山で、醍醐天皇の母、藤原胤子(ふじわらの たねこ/いんし)の菩提を弔うため、平安中期の昌泰3年(900年)に創建されました。母方の実家である宮道(みやじ)家邸宅を寺に改め、父・藤原高藤*2の諡(おくりな)から「勧修寺」と命名されました。白壁の築地塀を横目に歩き山門から入って程なく、書院の庭には水戸光圀*3の寄進とされる「雪見灯籠」*4があります。周囲が樹齢約700年とも言われるハイビャクシンの枝葉に覆われているので、ボクは二、三度通り過ぎてようやくどれかわかりました(笑)写真はちょうど真裏から眺めた様子で、本当に前からは見えない! この灯籠のフォルムは「勧修寺型」と呼ばれ、灯籠の代表的パターンの一つらしいです。「京都へ来られたら見て通(トオ)ろう」というジョークが書かれた看板に微笑したのでした。*1:この辺りの住所は「かんしゅうじ○○町(ちょう)」というからややこしい。*2:高藤が山科で鷹狩りをした際、偶然雨宿りに訪れた宮道弥益(いやます)宅で娘の宮道列子を見初め、一夜の契りを交わした。後に列子を正室(妻)として迎え、娘の胤子は宇多天皇の女御(后)となって後醍醐天皇を産んだ。当時、中下流一家から皇族に入ることはあり得ず、『今昔物語』に記されたこの列子(「たまこ」とも読む)の成功譚が“玉の輿”の語源の一つともされる。ちなみに藤原高藤は紫式部の祖先であり、『源氏物語』に登場する光源氏と“明石の君”との恋バナは列子と高藤の話がモチーフだという話も。どれだけ奥深いんだ!…歴史って。*3:TVなどでお馴染みの“水戸黄門”とはその人。*4:「笠に積もった雪を鑑賞して楽しむためのもの」「笠の形に雪が積もった傘ように見える」「灯りを点すと(近江八景の)浮見堂に似ており、それが訛った」など諸説あるよう。

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異常値のわけ【Dr. 中島の 新・徒然草】(289)

二百八十九の段 異常値のわけ世の中にはいろいろな仕事があるもんだ、と外来をしていると思うことがあります。先日のこと。外来で診ている患者さん(50歳代、男性)のCK(クレアチンキナーゼ)が300台(基準値は59~248)と微妙に高かったのです。この方は、スタチンも服用していたので、「まさか横紋筋融解症とかではないよな。でも、もしそうだったら嫌だし、ちょっと中止してみよう」と思って止めることにしました。そして3ヵ月後に再検してみると、さらにCKが増加して500台になっているのです。ちなみに、LDLも91から137(基準値は65~163)と増加していましたが、そちらは何とか基準値内におさまっていました。スタチンを止めたのにCKが増加しているということは、ほかの薬剤が原因なのでしょうか。とはいえ、ほかにめぼしい薬を服用しておられる様子もありません。まさかマラソンをしているとか、きつい肉体労働をしているでしょうか? それにしてはスポーツマン体形でもなく、日焼けしているわけでもないし。中島「ところで〇〇さん。なにか肉体労働をしているとか、激しい運動をしているとか、そういうことはありませんか?」患者「仕事は無茶苦茶きついです」中島「は?」患者「ホテルの仕事なんですけどね」ホテルの無茶苦茶きつい仕事というと、うるさい人ばかり相手の接客とか、つい、そういうことを想像してしまうのですが、この方は違っていました。患者「夏休みなんで、外国人労働者が皆、国に帰ってしまいよるんですわ」中島「国に?」患者「『お盆なんで帰りま~す』って言われてもね。フィリピンやったらクリスチャンやろ、と言いたくなりますよ」中島「ますます話が見えないんですけど」どうやら、大勢の外国人が一時帰国したので、彼らが行っていた仕事を少数の日本人でする羽目になった、ということのようです。中島「あの、ホテルを建築しているとかでしょうか?」患者「そやなくてバス・トイレの清掃をしているんですよ」中島「ああ、そっちでしたか!」患者「それと洗面台ですね」ようやく光景が目に浮かんできました。中島「じゃあハウスキーピングになるんですか?」患者「それはメイクの仕事ですね。自分らが浴槽や洗面台の清掃を終わらせると、メイクがやってきてベッドメイキングをするんですよ。その後にチェッカーが来て点検するんです」つまり、お客さんがチェックアウトすると、清掃、メイク、チェッカーという人たちが順にやってきて、部屋の掃除をするのだそうです。そういえば学生時代に、友達がホテル清掃のアルバイトをしていたことを思い出しました。眉を吊り上げたオバチャンに「髪の毛1本、水1滴!」と厳しく指導されながら働いていたのだとか。中島「バスタブの清掃なんかは、かなりきつそうですね」患者「重労働ですよ。しかも10分で終わらせないと、すぐにメイクが来ますからね」それで、夏になって急にCKが増えていたのかも。中島「すると、フィリピンの人たちが戻ってきたら、少しは楽になりそうですか?」患者「ぜひそう願いたいです!」これは興味あるところなので、3ヵ月後にCKを再検することにしました。果たして、ホテルのバス・トイレ清掃は、CKを上昇させるほどの大変な仕事なのか? しかし、興味本位で患者さんの採血をたびたび行うのも申し訳ないような気が……患者「いやいや先生、ぜひ調べて下さい。自分も、原因を突き止めて安心したいです」つい思ったことが、そのまま口から出てしまった私に対し、患者さんが賛同してくれたのでホッとしました。ということで、肉体労働から解放されたら、果たしてCKは下がるのか否か?それにしてもいろんな仕事があるもんですなあ、世の中には。最後に1句検査値が 教えてくれた 世の仕組み

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