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人工股関節置換術前の検査【日常診療アップグレード】第18回

人工股関節置換術前の検査問題73歳女性。変形性股関節症の治療のため入院中である。3日後に左の人工股関節置換術が予定されている。出血量は300~500mLと予想される。既往歴として高血圧と甲状腺機能低下症がある。エナラプリル(ACE阻害薬)、アムロジピン(Ca拮抗薬)、レボチロキシン(甲状腺ホルモン薬)、アセトアミノフェン(鎮痛薬)を内服している。バイタルサインは異常なし。疼痛のため、左股関節の可動域に制限がある。2ヵ月前にTSH(甲状腺刺激ホルモン)を測定していて異常はない。術前検査として、全血球計算(CBC)と腎機能に加えTSHとFT4をオーダーした。

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MI後のスピロノラクトンの日常的使用は有益か?/NEJM

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けた心筋梗塞(MI)患者において、スピロノラクトンはプラセボと比較し、心血管死または心不全の新規発症/増悪の複合イベント、あるいは心血管死、MI、脳卒中、心不全の新規発症/増悪の複合イベントの発生を低減しなかった。カナダ・マクマスター大学のSanjit S. Jolly氏らCLEAR investigatorsが、14ヵ国の104施設で実施した無作為化比較試験「CLEAR試験」の結果を報告した。ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は、うっ血性心不全を伴うMI患者の死亡率を低下させることが示されているが、MI後のスピロノラクトンの日常的な使用が有益であるかどうかは不明であった。NEJM誌オンライン版2024年11月17日号掲載の報告。スピロノラクトンvs.プラセボ投与を比較 研究グループは、PCIを受けたST上昇型MIまたは1つ以上のリスク因子(左室駆出率[LVEF]≦45%、糖尿病、多枝病変、MIの既往または60歳以上)を有する非ST上昇型MI患者を、2×2要因デザインによりスピロノラクトン+コルヒチン、コルヒチン+プラセボ、スピロノラクトン+プラセボ、またはプラセボのみを投与する群に1対1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 コルヒチン群とプラセボ群を比較した結果は別途報告されている。本論ではスピロノラクトン群とプラセボ群の比較について報告された。 主要アウトカムは2つで、(1)心血管死および心不全の新規発症または増悪の複合と、(2)MI、脳卒中、心不全の新規発症または増悪および心血管死の複合であった。2つの主要アウトカムについて有意差なし 2018年2月1日~2022年11月8日に、7,062例が無作為化され、3,537例がスピロノラクトン、3,525例がプラセボの投与を受けた。今回の解析時点で、45例(0.6%)の生命転帰が不明であった。 追跡期間中央値3.0年において、1つ目の主要アウトカムである心血管死および心不全の新規発症または増悪の複合イベントは、スピロノラクトン群で183件(100患者年当たり1.7件)、プラセボ群で220件(100患者年当たり2.1件)が報告された。非心血管死の競合リスクを補正したハザード比は0.91(95%信頼区間[CI]:0.69~1.21、p=0.51)であった。 2つ目の主要アウトカムの複合イベントの発生率は、スピロノラクトン群で7.9%(280/3,537例)、プラセボ群で8.3%(294/3,525例)が報告され、競合リスク補正後ハザード比は0.96(95%CI:0.81~1.13、p=0.60)であった。 重篤な有害事象は、スピロノラクトン群で255例(7.2%)、プラセボ群で241例(6.8%)に報告された。

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高K血症または高リスクのHFrEF、SZC併用でMRAの長期継続が可能か/AHA2024

 ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)は、左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)患者の予後を改善することが報告されている。しかし、MRAは高カリウム血症のリスクを上げることも報告されており、MRAの減量や中断につながっていると考えられている。そこで、高カリウム血症治療薬ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物(SZC)をMRAのスピロノラクトンと併用することが、高カリウム血症または高カリウム血症高リスクのHFrEF患者において、スピロノラクトンの至適な使用に有効であるかを検討する無作為化比較試験「REALIZE-K試験」が実施された。本試験の結果、SZCは高カリウム血症の発症を減少させ、スピロノラクトンの至適な使用に有効であったが、心不全イベントは増加傾向にあった。本研究結果は、11月16~18日に米国・シカゴで開催されたAmerican Heart Association’s Scientific Sessions(AHA2024、米国心臓学会)のLate-Breaking Scienceで米国・Saint Luke’s Mid America Heart Institute/University of Missouri-Kansas CityのMikhail N. Kosiborod氏によって発表され、Journal of the American College of Cardiology誌オンライン版2024年11月18日号に同時掲載された。 本試験の対象は、高カリウム血症(血清カリウム値5.1~5.9mEq/LかつeGFR≧30mL/min/1.73m2)または高カリウム血症高リスクのHFrEF(左室駆出率40%以下、NYHA分類II~IV度)患者203例であった。本試験は導入期と無作為化期で構成された。導入期では、スピロノラクトンを50mg/日まで漸増し、必要に応じてSZCを用いて血清カリウム値を正常範囲(3.5~5.0mEq/L)に維持した。導入期の終了時において、スピロノラクトンを25mg/日以上の用量で継続、かつ血清カリウム値が正常範囲であった患者をSZC群とプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けた。無作為化期では、スピロノラクトンとSZCまたはプラセボを6ヵ月投与した。主要評価項目と主要な副次評価項目は以下のとおりで、上から順に階層的に検定した。【主要評価項目】・スピロノラクトンの至適な使用(スピロノラクトンを25mg/日以上の用量で継続し、血清カリウム値が正常範囲を維持し、高カリウム血症に対するレスキュー治療なし)【主要な副次評価項目】・無作為化時のスピロノラクトン用量での血清カリウム値正常範囲の維持・スピロノラクトンを25mg/日以上の用量で継続・高カリウム血症発症までの期間・高カリウム血症によるスピロノラクトンの減量または中止までの期間・カンザスシティ心筋症質問票臨床サマリースコア(KCCQ-CSS)の変化量 主な結果は以下のとおり。・主要評価項目のスピロノラクトンの至適な使用は、SZC群71%、プラセボ群36%に認められ、SZC群が有意に優れた(オッズ比[OR]:4.45、95%信頼区間[CI]:2.89~6.86、p<0.001)。・主要な副次評価項目の上位4項目はSZC群が有意に優れた。詳細は以下のとおり。<無作為化時のスピロノラクトン用量での血清カリウム値正常範囲の維持>SZC群58% vs.プラセボ群23%(OR:4.58、95%CI:2.78~7.55、p<0.001)<スピロノラクトンを25mg/日以上の用量で継続>SZC群81% vs.プラセボ群50%(OR:4.33、95%CI:2.50~7.52、p<0.001)<高カリウム血症発症までの期間>ハザード比[HR]:0.51、95%CI:0.37~0.71、p<0.001<高カリウム血症によるスピロノラクトンの減量または中止までの期間>HR:0.37、95%CI:0.17~0.73、p=0.006・KCCQ-CSSの変化量は、両群に有意差はみられなかった(群間差:-1.01点、95%CI:-6.64~4.63、p=0.72)。・心血管死・心不全増悪の複合は、SZC群11例(心血管死1例、心不全増悪10例)、プラセボ群3例(それぞれ1例、2例)に認められ、SZC群が多い傾向にあった(log-rank検定による名目上のp=0.034)。

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日本におけるアルツハイマー病への多剤併用と有害事象との関連〜JADER分析

 アルツハイマー病は、世界的な健康関連問題であり、有病率が増加している。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)やNMDA受容体拮抗薬などによる現在の薬物治療は、とくに多剤併用下において、有害事象リスクと関連している。香川大学の大谷 信弘氏らは、アルツハイマー病治療薬の組み合わせ、併用薬数と有害事象発生との関係を調査した。Medicina誌2024年10月6日号の報告。 日本の医薬品副作用データベース(JADER)より、2004年4月〜2020年6月のデータを分析した。対象は、AChEI(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)またはNMDA受容体拮抗薬メマンチンで治療された60歳以上のアルツハイマー病患者2,653例(女性の割合:60.2%)。有害事象とアルツハイマー病治療薬の併用および併用薬数との関連を評価するため、ロジスティック回帰モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・JADERに報告されたアルツハイマー病治療薬の使用状況は、ドネペジル単剤療法41.0%、リバスチグミン25.0%、ガランタミン17.3%、メマンチン7.8%、メマンチン+AChEI 8.9%であった。・併用薬数は、併用薬なし17.5%、1種類10.2%、2種類8.6%、3種類10.0%、4種類6.1%、5種類以上47.7%であった。・主な併存疾患の内訳は、高血圧35.2%、脂質異常症13.6%、糖尿病12.3%、脳血管疾患10.7%、睡眠障害7.4%、虚血性心疾患6.1%、うつ病4.7%、パーキンソン病4.3%、悪性腫瘍3.1%。・有害事象の頻度は、徐脈6.4%、肺炎4.6%、意識変容状態3.6%、発作3.5%、食欲減退3.5%、嘔吐3.5%、意識喪失3.4%、骨折3.4%、心不全3.2%、転倒3.0%。・メマンチン+AChEI併用療法は、徐脈リスク上昇と関連していた。・ドネペジル単独療法は、骨折、転倒リスク低下との関連が認められた。・多剤併用療法は、有害事象、とくに意識変容状態、食欲減退、嘔吐、転倒の発生率上昇と有意な相関が認められた。・5種類以上の薬剤を使用した場合としなかった場合の調整オッズ比は、意識変容状態で10.45、食欲減退で7.92、嘔吐で4.74、転倒で5.95であった。 著者らは「アルツハイマー病治療における有害事象発生率は、アルツハイマー病治療薬の既知の有害事象や併用パターンとは無関係に、併用薬数と関連している可能性が示唆された」と結論付けている。

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高リスクIgA腎症へのエンドセリンA受容体拮抗薬の重度蛋白尿改善効果は確定(解説:浦信行氏)

 エンドセリンA受容体拮抗薬の蛋白尿改善効果はIgA腎症をはじめとして、慢性腎臓病(CKD)や巣状糸球体硬化症等で次々に報告されるようになった。本研究(ALIGN研究)は高リスクIgA腎症を対象とし、エンドセリンA受容体拮抗薬atrasentanの36週での尿蛋白減少効果を偽薬投与群と比較した成績であるが、36.1%有意に減少させたと報告された。 同様の成績は昨年エンドセリンA受容体・アンジオテンシンII受容体デユアル拮抗薬のsparsentanの報告(PROTECT研究)があるので、結果を対比する(CLEAR!ジャーナル四天王-1666「IgA腎症の病態に根差した治療」と同1755「IgA腎症の新たな治療薬sparsentanの長期臨床効果」で解説)。まず、対象はeGFR30 mL/min以上で、尿蛋白1g/day以上であり、両者に差はない。使用薬剤はエンドセリンA受容体・アンジオテンシンII受容体デユアル拮抗薬とエンドセリンA受容体拮抗薬の違いはあるが、対照群が各々イルベサルタンと偽薬であり、本質的な差はないと考える。また、第III相、二重盲検、多国間試験であり、この点に関しても本質的な差はない。また有害事象の発生は2群間に有意差はなく、同様の成績である。ALIGN研究はエンドセリンA受容体拮抗薬と偽薬との対比であるため、より直接的にエンドセリンA受容体拮抗薬の尿蛋白減少効果を評価できたことが両者の違いである。ただし、PROTECT研究はより詳細に尿蛋白減少効果を評価しており、110週に至るまでの長期効果を0.3g/day未満の完全緩解率と1.0g/day未満の部分寛解率も良好な成績で報告されている。尿蛋白の多寡が腎機能障害の進行の程度に関連することを考慮すると、この点に関しても提示してほしかった。 本研究は132週まで継続し、eGFRの推移を2群間で対比する予定である。PROTECT研究は110週までのeGFRのスロープを対比しており、6週から110週までのそれに有意差があったが、1日目から110週までの全スロープでは、残念ながらp=0.058と傾向に留まった。ALIGN研究の今後の期待はこの点にある。

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肺動脈性肺高血圧症治療剤ユバンシ配合錠が発売/ヤンセン

 Johnson & Johnson(法人名:ヤンセンファーマ)は2024年11月20日、肺動脈性肺高血圧症治療薬として、エンドセリン受容体拮抗薬マシテンタン10mgとホスホジエステラーゼ5阻害薬タダラフィル40mgとの配合薬「ユバンシ配合錠」を発売した。 マシテンタン/タダラフィルは、国際共同第III相ピボタル試験(A DUE試験)の結果1)に基づき、9月24日に肺動脈性肺高血圧症を効能または効果として国内の製造販売承認を取得した、1日1回服用の配合錠である。 現在、肺動脈性肺高血圧症の治療については、欧州心臓病学会(ESC)および欧州呼吸器学会(ERS)による肺高血圧症治療ガイドライン2022において、エンドセリン受容体拮抗薬とホスホジエステラーゼ5阻害薬の併用療法が推奨されている。本薬剤は有効性・安全性プロファイルが示されているマシテンタンおよびタダラフィルの2つを配合錠にすることで、疾患管理の最適化や患者の服薬時の負担軽減などを期待できる可能性がある。<製品概要>商品名:ユバンシ配合錠一般名:マシテンタン/タダラフィル剤形:フィルムコーティング錠効能又は効果:肺動脈性肺高血圧症 用法及び用量:通常、成人には1日1回1錠(マシテンタンとして10mg及びタダラフィルとして40mg)を経口投与する。薬価:1万3,334.90円/錠製造基準収載日:2024年11月20日製造販売元:ヤンセンファーマ株式会社販売提携先:日本新薬株式会社

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フィネレノンによるカリウムの影響~HFmrEF/HFpEFの場合/AHA2024

 左室駆出率(LVEF)が軽度低下した心不全(HFmrEF)または保たれた心不全(HFpEF)患者において、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)のフィネレノン(商品名:ケレンディア)は高カリウム血症の発症頻度を高めたが、その一方で低カリウム血症の発症頻度を低下させたことが明らかになった。ただし、プロトコールに沿ったサーベイランスと用量調整を行った場合、プラセボと比較し、カリウム値が5.5mmol/Lを超えた患者でもフィネレノンの臨床的な効果は維持されていた。本研究結果は、米国・ミネソタ大学のOrly Vardeny氏らが11月16~18日に米国・シカゴで開催されたAmerican Heart Association’s Scientific Sessions(AHA2024、米国心臓学会)のFeatured Scienceで発表し、JAMA Cardiology誌オンライン版2024年11月17日号に同時掲載された。 本研究は日本を含む37ヵ国654施設で実施された二重盲検無作為化プラセボ対照イベント主導型試験多施設ランダム化試験であるFINEARTS-HF試験の2次解析である。FINEARTS-HF試験において、HFmrEFまたはHFpEFの転帰を改善することが示唆されていたが、その一方で、追跡調査では血清カリウム値上昇の関連が示されていたため、それを検証するために2020年9月14日~2023年1月10日のデータを解析した。追跡期間の中央値は32ヵ月だった(追跡最終日は2024年6月14日)。 研究者らは、 血清カリウム値が5.5mmol/L超(高カリウム)または3.5mmol/L未満(低カリウム)となる頻度とその予測因子を調査し、ランダム化後のカリウム値に基づきフィネレノンによる治療効果をプラセボと比較、臨床転帰に及ぼす影響を検討した。NYHAクラスII~IVの症候性心不全およびLVEF40%以上、ナトリウム利尿ペプチド上昇、左房拡大または左室肥大を有する、利尿薬を登録前30日以上使用しているなどの条件を満たす40歳以上の患者が登録され、フィネレノンまたはプラセボの投与が行われた。主要評価項目は心不全イベントの悪化または全心血管死の複合であった。 主な結果は以下のとおり。・対象者6,001例(平均年齢72歳、女性2,732例)はフィネレノン群3,003例、プラセボ群2,998例に割り付けられた。・血清カリウム値の増加は、1ヵ月後(中央値の差0.19mmol/L[IQR:0.17~0.21])および3ヵ月後(同0.23mmol/L[同:0.21~0.25])において、フィネレノン群のほうがプラセボ群より大きく、この増加は残りの追跡期間中も持続した。・フィネレノンは、高カリウムになるリスクを高め、そのハザード比(HR)は2.16(95%信頼区間[CI]:1.83~2.56、p<0.001)であった。また、低カリウムになるリスクを低下させた(HR:0.46[95%CI:0.38~0.56]、p<0.001)。・低カリウム(HR:2.49[95%CI:1.8~3.43])と高カリウム(HR:1.64[95%CI:1.04~2.58])の双方が両治療群における主要アウトカムのその後のリスクの上昇と関連していた。しかしながら、カリウム値が5.5mmol/L超であってもフィネレノン群はプラセボ群と比較して、主要評価項目のリスクがおおむね低かった。

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高リスクIgA腎症へのatrasentan、重度蛋白尿を改善/NEJM

 IgA腎症で重度の蛋白尿を有する患者は、腎不全の生涯リスクが高いとされる。オランダ・フローニンゲン大学のHiddo J.L. Heerspink氏らALIGN Study Investigatorsは「ALIGN試験」において、IgA腎症患者の治療ではプラセボと比較してエンドセリンA受容体の選択的拮抗薬atrasentanは、統計学的に有意かつ臨床的に意義のある蛋白尿の減少をもたらし、有害事象の発現は両群で大きな差はないことを示した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2024年10月25日号で報告された。国際的な第III相無作為化試験の中間解析 ALIGN試験は、20ヵ国133施設で実施した第III相二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2021年3月~2023年4月に患者を登録した(Novartisの助成を受けた)。 年齢18歳以上、生検で証明されたIgA腎症で、尿中総蛋白排泄量が1日1g以上、推算糸球体濾過量(eGFR)が30mL/分/1.73m2以上の患者を対象とした。被験者を、atrasentan(0.75mg/日)またはプラセボを132週間投与される群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、ベースラインから36週目までの24時間尿蛋白-クレアチニン比の変化率とし、患者登録開始から270例のデータを、事前に規定された中間解析において評価した。6週目には明らかな差 340例を登録し、このうち最初の270例を2つの群に135例ずつ割り付けた。270例の平均年齢は44.9歳、41.1%が女性であった。IgA腎症の平均罹患期間は5.6年、平均eGFRは58.9mL/分/1.73 m2、24時間尿蛋白-クレアチニン比中央値は1,433であり、98.5%の患者がACE阻害薬またはARBを使用していた。 ベースラインと比較した36週目の尿蛋白-クレアチニン比の幾何平均変化率は、プラセボ群が-3.1%であったのに対し、atrasentan群は-38.1%であり、幾何平均群間差は-36.1%ポイント(95%信頼区間[CI]:-44.6~-26.4)と有意差を認めた(p<0.001)。 6週目には、プラセボ群と比較して、atrasentan群における尿蛋白-クレアチニン比の減少が明らかとなり、この状態が36週目まで持続した。投与中止に至る体液貯留はなかった 36週の時点でのベースラインからの血圧の平均(±SD)変化量は、atrasentan群で収縮期が-3.94±11.90mmHg、拡張期は-4.25±8.96mmHgであり、プラセボ群ではそれぞれ2.67±12.25mmHgおよび2.25±10.70mmHgであった。また、36週目の体重の平均変化量はatrasentan群で-0.2±2.8kg、プラセボ群で-0.1±3.0kgだった。 2つの群で有害事象の発現率に大きな差はなかった(atrasentan群82.2% vs.プラセボ群84.7%)。頻度の高い有害事象は、COVID-19(20.7% vs.21.8%)、鼻咽頭炎(10.1% vs.5.9%)、末梢浮腫(8.9% vs.6.5%)であった。とくに注目すべき有害事象としては、体液貯留がatrasentan群11.2%、プラセボ群8.2%で報告されたが、試験薬の投与中止には至らなかった。また、明らかな心不全や重度の浮腫は発生しなかった。 著者は、「本試験で得られたatrasentanの有益性のデータは、対象が高リスクの患者集団(適切な支持療法にもかかわらずベースラインの尿中総蛋白排泄量が1日1g以上)で、安全性と副作用プロファイルが良好であったことを考慮すると、臨床的に意義のあるものと考えられる」としている。

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さじ加減で過降圧や副作用を調整している医師にとっては3剤配合剤の有用性は低い(解説:桑島巌氏)

 Ca拮抗薬、ARB/ACE阻害薬の単剤で降圧目標値に達しない場合には両者の併用、それでも降圧目標値に達しない場合には、サイアザイド類似薬またはサイアザイド系利尿薬の3剤併用とするのが『高血圧治療ガイドライン2019』である。その場合、3剤を1つの配合剤とすることで服薬コンプライアンスの改善が見込まれるが、本試験は、Ca拮抗薬アムロジピン2.5mg、ARB(テルミサルタン20mg)、サイアザイド類似薬(インダパミド1.25mg)の3剤を配合したGMRx2(本邦未発売)半量の有効性と安全性を、各成分2剤併用と比較した国際共同二重盲検試験である。12週間追跡の結果、3剤配合は2剤併用よりも家庭血圧の有意な降圧をもたらし、外来血圧の降圧率も優れ、かつ副作用による中断率においては2剤併用と差がなかったというのが結論である。 さて、この試験結果が本邦の実臨床にどの程度役立つかが問題である。 本試験の3剤配合、2剤併用に用いられているアムロジピン、テルミサルタンの用量は、日本の初期用量と同じである。インダパミドは、わが国では1mg錠が最小用量であるが、本試験の1.25mg錠とほぼ同じと見てよいであろう。注目すべきは、テルミサルタンとインダパミドの2剤併用は平均値で見ると130/80mmHgを下回る有効性を示し、十分な降圧効果をもたらしており、2剤併用でも十分な降圧効果が得られている点である。ARB/ACE阻害薬とサイアザイド系薬の併用は非常に有効ではあるが、とくに高齢者では低Na血症や低K血症による不整脈や脱力などの副作用に十分な注意が必要である。その場合、配合剤では微調整がしにくいという難点が生じる。とくに、さじ加減で血圧や副作用により用量を微調整している医師にとっては、3剤配合剤の有用性は低いと思われる。

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潰瘍性大腸炎に対する抗TL1Aモノクローナル抗体tulisokibartの第II相試験(解説:上村直実氏)

 潰瘍性大腸炎(UC)の治療は、軽症例には従来の治療法すなわち5-ASA製剤、ステロイド、アザチオプリン、6-MP等免疫抑制薬が使用されるが、寛解が困難である症例やステロイド依存症例の中等度から重度UCの治療には、生物学的製剤や低分子化合物を用いた治療が主流になっている。厚生労働省の難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班の治療指針によると、インフリキシマブやアダリムマブなどの抗TNF阻害薬、インターロイキン(IL)阻害薬のウステキヌマブやミリキズマブ、インテグリン拮抗薬であるベドリズマブ、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬のトファシチニブやフィルゴチニブなどの使用が推奨されている。しかし、UC症例の中には新たな薬剤でも十分な効果が得られない患者や副作用により治療が中断される患者が少なくなく、さらなるアプローチが必要となっている。 今回、ステロイド依存性または免疫抑制薬やTNF阻害薬などの生物学的製剤や低分子化合物による治療によっても寛解しない活動期UC患者を対象として、炎症性腸疾患の発症に対する関与が示唆されているヒト腫瘍壊死因子様サイトカイン1A(TL1A)に対するモノクローナル抗体であるtulisokibartの寛解導入に対する有効性と安全性を評価することを目的とした国際共同試験の結果が2024年9月のNEJM誌に掲載された。試験の結果、tulisokibartはプラセボと比べて安全性には差がなく、治療開始12週目の臨床的寛解および内視鏡的改善効果が有意に高率であったことが示されている。なかでも、プラセボの臨床的寛解率が1%であるのに対して実薬で26%と高率であった点は、対象症例が治療抵抗性の高い集団であったことを意味している。 一般の診療現場では、市販されている薬剤に抵抗性を示す患者を対象として本試験のようにプラセボ対応のRCTによる新規薬剤の臨床的寛解効果、内視鏡的粘膜改善効果、組織学的粘膜改善および粘膜治癒の有効性を検証する研究結果が重要であり、さらに、簡便に使用可能な高感度CRPや糞便中カルプロテクチンなど、炎症のバイオマーカーによる評価の結果は一般臨床現場のUC診療にとって大きな助けになると思われる。 なお、本試験は第II相試験であるが、症状の改善効果が非常に早い時期に確認されており、今後、より多くの症例を対象として、より長期の寛解導入および寛解維持効果を検証する第III相試験の結果からTL1A阻害薬が臨床の現場で使用可能となることが期待される研究結果と思われた。 最後に、クローン病や潰瘍性大腸炎など炎症性腸疾患に対する新規薬剤が次々と上市されていることから、ガイドラインの改訂方法も考慮すべきであると同時に感染症などの有害事象にも注意が必要であることを忘れてはならない。

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激しい興奮を伴うせん妄への対応【非専門医のための緩和ケアTips】第86回

激しい興奮を伴うせん妄への対応緩和ケアの実践で常に遭遇するせん妄ですが、とくに激しい興奮を伴うときは非常に大変です。今回は訪問看護師さんからご質問いただきました。今日の質問在宅で終末期患者をケアしていると、時々、非常に強い興奮を伴ったせん妄を経験します。患者さんは怒りとともに、殴りかかろうとするくらいの興奮です。こんな時、どうすれば良いのでしょうか。見ている家族もつらそうで、少しでもできることがないかと思います。強い興奮を伴うせん妄は、本当に大変ですよね。私も経験がありますし、なかなか難しい対応を強いられたことも多くあります。点滴を引きちぎり、手当たり次第にモノを投げようとするなど、本当に手が付けられないような状況もありました…。このような状況でわれわれに何ができるのでしょうか。まず大前提として、せん妄の対応は原因となっている「身体疾患の改善」と環境などの「非薬物療法」の検討が必要となります。とはいえ、緩和ケアの実践では終末期状態の方が多く、身体状況は不可逆なことが多いですよね。なので、なかなか根本解決が難しいのが苦しいところではあります。さて、そういった基本的なことを理解し、実践している前提で、今回の質問のような非常に激しい興奮を伴うせん妄にはどのように対応するのでしょうか?共通見解やエビデンスに乏しい分野ですが、私の対応例をご紹介します。まず、このような状況では、本人と周囲の人の安全確保を優先しましょう。その観点から、身体拘束をせざるを得ない、という判断も必要になります。身体拘束はもちろん好ましいことではないものの、本人が暴れてベッドから落ちて骨折する、周囲の人がけがをする、などのことも許容されません。ここはジレンマを抱えながらの実践になると思います。もちろん、身体拘束が必要なくなったらすぐに解除することは大前提です。このような興奮状態の場合、そのままでの投薬は現実的に困難です。よって、人手を集め、身体拘束などで安全を確保したうえで、薬剤の投与を検討します。基本的にはハロペリドールなどの抗精神病薬を用いて、効果を評価しながらベンゾジアゼピン系薬を用います。具体的にはハロペリドールを0.5mg投与し、そのうえでミダゾラムなどをゆっくり投与します。ミダゾラムは半減期が2時間程度と短く、好んで使用する専門家が多いと思います。また、ベンゾジアゼピン系薬には拮抗作用を持ったフルマゼニルがあることも重要な点ですので、覚えておきましょう。ベンゾジアゼピンによる鎮静が過剰になった場合にも、半減期の短さと拮抗薬の存在が強みになります。一方、せん妄への処方としては、抗精神病薬以外は適応外使用になりますので、ここはよく理解して使用する必要があります。適応外使用であっても使用禁忌というわけではないですし、患者負担が増えることもありません。ただ、有害事象の発現時などには、その使用判断の妥当性は問われることを理解しておく必要があるでしょう。ベンゾジアゼピン以外の選択肢として、クロルプロマジンを使う時もあります。クロルプロマジンは内服だけでなく、筋肉注射可能な注射薬もあり、せん妄の時には重宝します。これらの鎮静作用の強い薬剤の注意点は、先に述べた適応外使用となることに加え、これらの鎮静作用自体がせん妄の悪化要因になり得ることです。それもあって鎮静効果が遷延せず、かつ作用時間が短いベンゾジアゼピンであるミダゾラムを優先して使用している方が多いのでしょう。最後に、改めてせん妄を診る時は、治癒可能な原因を見逃さないことが大切です。とくに、経過中に生じた新たな興奮を伴うせん妄は、脱水や新規薬剤など新たな要因が関与していることも多いので、対応しながら再評価する必要があります。今回のTips今回のTips興奮を伴うせん妄には、場合に応じて身体抑制と鎮静作用の強い薬剤を使用し、原因を改めて検討、評価する。日本総合病院精神医学会せん妄指針改訂班編. せん妄の臨床指針 せん妄の治療指針 第2版.星和書店;2015.

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ESMO2024レポート 乳がん

レポーター紹介2024年9月13日から17日まで5日間にわたり、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)がハイブリッド形式で開催された。COVID-19の流行以降、多くの国際学会がハイブリッド形式を維持しており、日本にいながら最新情報を得られるようになったのは非常に喜ばしい。その一方で、参加費は年々上がる一方で、今回はバーチャル参加のみの会員価格で1,160ユーロ(なんと日本円では18万円超え)。日本から参加された多くの先生方がいらっしゃったが、渡航費含めると相当の金額がかかったと思われる…。それはさておき、今年のESMOは「ガイドラインが書き換わる発表です」と前置きされる発表など、臨床に大きなインパクトを与えるものが多かった。日本からもオーラル、そしてAnnals of Oncology(ESMO/JSMOの機関誌)に同時掲載の演題があるなど、非常に充実していた。本稿では、日本からの演題も含めて5題を概説する。KEYNOTE-522試験本試験は、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)を対象とした術前化学療法にペムブロリズマブを上乗せすることの効果を見た二重盲検化プラセボ対照第III相試験である。カルボプラチン+パクリタキセル4コースのち、ACまたはEC 4コースが行われ、ペムブロリズマブもしくはプラセボが併用された。病理学的完全奏効(pCR)と無イベント生存(EFS)でペムブロリズマブ群が有意に優れ、すでに標準治療となっている。今回は全生存(OS)の結果が発表された。アップデートされたEFSは、両群ともに中央値には到達せず、ハザード比(HR):0.75、95%信頼区間(CI):0.51~0.83、5年目のEFSがペムブロリズマブ群で81.2%、プラセボ群で72.2%であり、これまでの結果と変わりなかった。OSも中央値には到達せず、HR:0.66(95%CI:0.50~0.87、p=0.00150)、5年OSが86.6% vs.81.7%と、ペムブロリズマブ群で有意に良好であった(有意水準α=0.00503)。また、pCRの有無によるOSもこれまでに発表されたEFSと同様であり、non-pCRであってもペムブロリズマブ群で良好な結果であった。この結果から、StageII以上のTNBCに対してはペムブロリズマブを併用した術前化学療法を行うことが強固たるものとなった。 DESTINY-Breast12試験本試験は脳転移を有する/有さないHER2陽性転移乳がん患者に対するトラスツズマブ・デルクステカン(T-DXd)の有効性を確認した第IIIb/IV相試験である。脳転移を有するアームと脳転移を有さないアームが独立して収集され、主に脳転移を有する症例におけるT-DXdの有効性の結果が発表された。脳転移アームには263例の患者が登録され、うち157例が安定した脳転移、106例が活動性の脳転移を有した。活動性の脳転移のうち治療歴のない患者が39例、治療歴があり増悪した患者が67例であった。主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)、その他の評価項目として脳転移のPFS(CNS PFS)などが含まれた。脳転移を有する症例のPFS中央値は17.3ヵ月(95%CI:13.7~22.1)、12ヵ月PFSは61.6%と非常に良好な成績であり、これまでの臨床試験と遜色なかった。活動性の脳転移を有するサブグループでも同等の成績であったが、治療歴のないグループでは12ヵ月PFSが47.0%とやや劣る可能性が示唆された。12ヵ月時点のCNS PFSは58.9%(95%CI:51.9~65.3)とこちらも良好な結果であった。安定した脳転移/活動性の脳転移の間で差は見られなかった。測定可能病変を有する症例における奏効率は64.1%(95%CI:57.5~70.8)、測定可能な脳転移を有する症例における奏効率は71.7%(95%CI:64.2~79.3)であった。OSは脳転移のある症例とない症例で差を認めなかった。この結果からT-DXdの脳転移に対する有効性は確立したものと言ってよいであろう。これまで(とくに活動性の)脳転移に対する治療は手術/放射線の局所治療が基本であったが、今後はT-DXdによる全身薬物療法が積極的な選択肢になりうる。 CAPItello-290試験カピバセルチブは、すでにPI3K-AKT経路の遺伝子変化を有するホルモン受容体陽性(HR+)/HER2陰性(HER2-)転移乳がんに対して、フルベストラントとの併用において有効性が示され、実臨床下で使用されている。本試験は転移TNBCを対象として、1次治療としてパクリタキセルにカピバセルチブを併用することの有効性を検証した二重盲検化プラセボ対照第III相試験である。818例の患者が登録され、主要評価項目は全体集団におけるOSならびにPIK3CA/AKT1/PTEN変異のある集団におけるOSであった。結果はそれぞれ17.7ヵ月(カピバセルチブ群)vs. 18.0ヵ月(プラセボ群)(HR:0.92、95%CI:0.78~1.08、p=0.3239)、20.4ヵ月vs. 20.4ヵ月(HR:1.05、95%CI:0.77~1.43、p=0.7602)であった。PFSはそれぞれ5.6ヵ月vs. 5.1ヵ月(HR:0.72、95%CI:0.61~0.84)、7.5ヵ月vs. 5.6ヵ月(HR:0.70、95%CI:0.52~0.95)と、カピバセルチブ群で良好な傾向を認めた。奏効率もカピバセルチブ群で10%程度良好であった。しかしながら、主要評価項目を達成できなかったことで、IPATunity130試験(ipatasertibのTNBC1次治療における上乗せ効果を見た試験で、PFSを達成できなかった)と同様の結果となり、TNBCにおけるAKT阻害薬の開発は困難であることが再確認された。ICARUS-BREAST01試験本試験は抗HER3抗体であるpatritumabにderuxtecanを結合した抗体医薬複合体(ADC)であるpatritumab deruxtecan(HER3-ADC)の有効性をHR+/HER2-転移乳がんを対象に検討した第II相試験である。本試験はCDK4/6阻害薬、1ラインの化学療法歴があり、T-DXdによる治療歴のないHR+/HER2-転移乳がんを対象として行われた単アームの試験であり、主治医判定の奏効率が主要評価項目とされた。99例の患者が登録され、HER2ステータスは約40%で0であった。HER3の発現が測定され、約50%の症例で75%以上の染色が認められた。主要評価項目の奏効率は53.5%(95%CI:43.2~63.6)であり、内訳はCR:2%(0.2~7.1)、PR:51.5%(41.3~61.7)、SD:37.4%(27.8~47.7)、PD:7.1%(2.9~14.0)であった。SDを含めた臨床的有用率は62.6%(52.3~72.1)と、高い有効性を認めた。有害事象は倦怠感、悪心、下痢、好中球減少が10%以上でG3となり、それなりの毒性を認めた。探索的な項目でHER3の発現との相関が検討されたが、HER3の発現とHER3-DXdの有効性の間に相関は認められなかった。肺がん、乳がんでの開発が進められており、目の離せない薬剤の1つである。ERICA試験(WJOG14320B)最後に昭和大学先端がん治療研究所の酒井 瞳先生が発表した、T-DXdの悪心に対するオランザピンの有効性を証明した二重盲検化プラセボ対象第II相試験であるERICA試験を紹介する。T-DXdは悪心、嘔吐のコントロールに難渋することのある薬剤である(個人差が非常に大きいとは思うが…)。本試験では、5-HT3拮抗薬、デキサメタゾンをday1に投与し、オランザピン5mgまたはプラセボをday1から6まで投与するデザインとして、166例の患者が登録された。主要評価項目は遅発期(投与後24時間から120時間まで)におけるCR率(悪心・嘔吐ならびに制吐薬のレスキュー使用がない)とされた。両群で80%の症例が5-HT3拮抗薬としてパロノセトロンが使用され、残りはグラニセトロンが使用された。遅発期CR率はオランザピン70.0%、プラセボ56.1%で、その差は13.9%(95%CI:6.9~20.7、p=0.047)と、統計学的有意にオランザピン群で良好であった。有害事象として眠気、高血糖がオランザピン群で多かったが、G3以上は認めずコントロール可能と考えられる。制吐薬としてのオランザピンの使用はT-DXdの制吐療法における標準治療になったと言えるだろう。

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半減期が短く持ち越し効果が少ない不眠症治療薬「クービビック錠25mg/50mg」【最新!DI情報】第25回

半減期が短く持ち越し効果が少ない不眠症治療薬「クービビック錠25mg/50mg」今回は、オレキシン受容体拮抗薬「ダリドレキサント塩酸塩(商品名:クービビック錠25mg/50mg、製造販売元:ネクセラファーマジャパン)」を紹介します。本剤は新規のデュアルオレキシン受容体拮抗薬であり、不眠症患者の過剰な覚醒状態を抑制し、睡眠状態へと移行させることが期待されています。<効能・効果>不眠症の適応で2024年9月24日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人にはダリドレキサントとして1日1回50mgを就寝直前に経口投与します。患者の状態に応じて1日1回25mgを投与することもできます。入眠効果の発現が遅れる恐れがあるため、本剤の食事と同時または食直後の服用は避けます。<安全性>副作用には、傾眠(3%以上)、頭痛、頭部不快感、倦怠感、疲労、悪夢(いずれも1~3%未満)、浮動性めまい、睡眠時麻痺、悪心(いずれも1%未満)、幻覚、異常な夢、睡眠時随伴症(夢遊症、ねごとなど)、過敏症(発疹、蕁麻疹など)(いずれも頻度不明)があります。本剤は主に薬物代謝酵素CYP3Aによって代謝されるため、CYP3Aを強く阻害するイトラコナゾール、クラリスロマイシン、ボリコナゾール、ポサコナゾール、リトナビル含有製剤、コビシスタット含有製剤、セリチニブ、エンシトレルビルフマル酸を投与中の患者には禁忌です。また、中程度のCYP3A阻害作用を持つジルチアゼム、ベラパミル、エリスロマイシン、フルコナゾールなどは併用注意です。<患者さんへの指導例>1.この薬は、過剰に働いている覚醒システムを抑制して、より自然に近い睡眠を促します。2.必ず寝る直前に服用してください。3.アルコールと一緒に服用しないでください。4.食事と同時または食事の直後には、服用しないでください。5.他の睡眠薬と一緒に服用しないでください。<ここがポイント!>不眠症は罹患頻度の高い睡眠障害の1つです。不眠は、眠気や倦怠感による生産性の低下や、概日リズム障害による不登校やうつ病の発症などを引き起こすため、公衆衛生上の問題となっています。オレキシンは、覚醒と睡眠の調整に深く関わっている神経ペプチドであり、オレキシンがオレキシン受容体に作用すると覚醒が維持されます。オレキシン受容体のサブタイプであるオレキシン受容体タイプ1(OX1R)とオレキシン受容体タイプ2(OX2R)を阻害すると、脳の覚醒促進領域の活動が低下します。ダリドレキサント塩酸塩は、OX1RおよびOX2Rの活性化を阻害する新規のデュアルオレキシン受容体拮抗薬(DORA)であり、不眠症患者の過剰な覚醒状態を抑制し、睡眠状態へと移行させることが期待されます。ダリドレキサント塩酸塩は、ベンゾジアゼピン系睡眠薬にみられる依存や耐性、反跳性不眠が少なく、高齢に対してせん妄の発現の心配もありません。なお、日本ではDORAとしてスボレキサントおよびレンボレキサントが発売されていますが、ダリドレキサント塩酸塩は他のDORAと比較して半減期が6.5時間程度(非高齢者)と短く、翌日への眠気の持ち越しが少ないと考えられます。日本人不眠症患者を対象とした国内第III相試験(ID-078A304試験)において、総睡眠時間(sTST)のベースラインからの変化量について、本剤50mg群とプラセボ群との差は、4週時に20.30分(95%信頼区間[CI]:11.39~29.20)であり、プラセボ群と比較して50mg群で有意にsTSTを延長しました(p<0.001、線形混合モデル)。同様に、4週時における睡眠潜時(sLSO)のベースラインからの変化量の本剤50mg群とプラセボ群との差は-10.66分(95%CI:-15.78~-5.54)であり、プラセボ群と比較して50mg群で有意にsLSOを短縮しました(p<0.001、線形混合モデル)。

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寄り道編(10)Ca拮抗薬の適応【臨床力に差がつく 医薬トリビア】第59回

※当コーナーは、宮川泰宏先生の著書「臨床力に差がつく 薬学トリビア」の内容を株式会社じほうより許諾をいただき、一部抜粋・改変して掲載しております。今回は、月刊薬事64巻2号「臨床ですぐに使える薬学トリビア」の内容と併せて一部抜粋・改変し、紹介します。寄り道編(10)Ca拮抗薬の適応QuestionCa拮抗薬が最初に販売された当時の適応は?

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第234回 これまでにない作用の統合失調症治療薬を米国が承認

これまでにない作用の統合失調症治療薬を米国が承認ここ数十年なかった新しい作用機序の統合失調症治療薬Cobenfyが米国で先月末26日に承認されました1,2)。その承認により、統合失調症患者にこれまで処方されてきた薬剤とは一味違う抗精神病薬の使用が同国で可能になります。Cobenfyは神経伝達に携わるコリン作動性受容体の1つであるムスカリン受容体を標的とします3)。それらの受容体を活性化することは幻覚や妄想などの統合失調症を特徴づける症状の源である神経伝達物質ドーパミン放出に影響することが知られています。ムスカリン伝達は認知や感情の処理に携わる脳回路を調節することも知られています。ムスカリン伝達を手入れするCobenfyはそれゆえドーパミン活性の抑制を主とする他の統合失調症治療薬に比べてよりあまねく効果があるようです。Cobenfyの道のりCobenfyの歴史は古く、その始まりは米国の製薬会社Eli Lillyが1990年代の初めにキサノメリン(xanomeline)という化合物の開発を始めたことに端を発します3)。キサノメリンはムスカリン受容体の作動薬です。もっぱらアルツハイマー病患者の記憶の改善を目指して開発が始まりましたが、統合失調症の治療の可能性も検討されていました。幸いキサノメリンはアルツハイマー病患者や統合失調症患者を募った試験で認知機能や精神症状の改善効果を示しました4,5)。しかし、どうやら消化管のムスカリン受容体活性化のせいで、キサノメリン投与群には悪心や嘔吐などの胃腸有害事象が多く生じました。たとえばアルツハイマー病患者342例が参加した試験ではキサノメリン高用量投与群の半数強(52%)が有害事象で脱落しており4)、用量依存的な有害事象はもっぱら胃腸系でした。Lillyは最終的にキサノメリンの開発から手を引くことになります。Lillyが手を引いてからしばらくしてキサノメリンの復活を図る取り組みが始まります。2009年に米国のボストンにバイオテクノロジー企業Karuna Therapeuticsを設立したAndrew Miller氏は、ムスカリン受容体作動薬と脳の外でのその働きを打ち消す化合物を組み合わせた薬なら大した胃腸障害を生じることなく認知や精神症状への有益効果を保てるのではないかと思いつきました。そこでKarunaはLillyから権利を手に入れたキサノメリンと血液脳関門(BBB)を通過しないムスカリン受容体拮抗薬であるトロスピウム(trospium)を組み合わせた薬を作りました。それがCobenfyです。Cobenfyはキサノメリンが胃腸に手出しするのをトロスピウムによって防ぎ、脳に限って作用するようにすることを目指します。その後の臨床試験は順調に進み、最終的に2つの第III相試験(EMERGENT-2とEMERGENT-3)でCobenfyの統合失調症症状改善効果がプラセボを有意に上回りました。陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の合計点がCobenfy投与群5週時点ではベースラインに比べて21点ほど低く、プラセボ群の約12点低下を10点弱ほど上回りました6)。胃腸の有害事象はプラセボに比べてどうしても多かったものの、たいていは1週間か2週間で解消しました3)。Cobenfyとプラセボ群の有害事象での脱落率は似たりよったりでどちらも5%ほどです(それぞれ6%と4%)6)。Cobenfyで心配なことCobenfyはいくつか悩ましいことがあります。いまや抗精神病薬の多くは年に数回の注射で事足りる持効性製剤をそろえていますが、Cobenfyは1日2回の服用が必要です。頻繁な投与を要する薬は続けることが困難であり、中止してしまう統合失調症患者が多いようです7)。また、Cobenfyはご多分にもれずいい値段で、1ヵ月あたりの定価は1,850ドル、1年間では2万ドル強かかります。医療経済の専門家は他の薬剤に比べてその価格が効果に見合ったものかどうかを心配しています3)。そんな心配をよそに製薬業界のアナリストのほとんどはCobenfyの需要は大きいとみており、やがて数十億ドルの年間売り上げに達すると予想しています。そういう期待を背景にしてBristol Myers Squibb(BMS)は140億ドルも払ってKaruna Therapeuticsを今春3月に手中に収めました8)。BMSは米国の患者が今月遅くにCobenfyを入手できるようにするつもりです。長期効果は有望Cobenfyの長期使用の成績は有望で、この4月に発表された52週間のEMERGENT-4試験では同剤投与患者のPANSS合計点がベースラインと比べて約33点低下しました9)。EMERGENT-4試験は上述した5週間の二重盲検第III相試験2つのいずれかを完了した患者を募って実施されています。参考1)FDA Approves Drug with New Mechanism of Action for Treatment of Schizophrenia / PRNewswire2)U.S. Food and Drug Administration Approves Bristol Myers Squibb’s COBENFY? (xanomeline and trospium chloride), a First-In-Class Muscarinic Agonist for the Treatment of Schizophrenia in Adults / BUSINESS WIRE3)Revolutionary drug for schizophrenia wins US approval / Nature 4)Bodick NC, et al. Arch Neurol. 1997;54:465-473.5)Shekhar A, et al. Am J Psychiatry. 2008;165:1033-1039.6)OBENFY U.S.:Prescribing Information7)Zacker C, et al. Clinicoecon Outcomes Res. 2024;16:567-579.8)Bristol Myers Squibb Completes Acquisition of PureTech's Founded Entity Karuna Therapeutics for $14 Billion / BUSINESS WIRE9)Bristol Myers Squibb Presents New Interim Long-Term Efficacy Data from the EMERGENT-4 Trial Evaluating KarXT in Schizophrenia at the 2024 Annual Congress of the Schizophrenia International Research Society / BUSINESS WIRE

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第230回 迫る自民党総裁選、立候補者の言い分は?(後編)

自民党総裁選は本日、ついに投開票が行われ、新総裁が決定する。与党の自民党と公明党が衆参両院の過半数を占めている現状では、当然ながら自民党総裁=日本国総理大臣となる。巷の報道では、議員票や党員・党友票、都道府県連票の票読みが行われているが、今回は上位2人による決選投票が確実視されているだけに、その段階で一気に票読みの困難度が増す。とりわけ自民党の総裁選は過去から権謀術数が渦巻く世界だ。現在の推薦人制による立候補となった1972年以降、決選投票となったのは3回。初めての決選投票は、1972年の田中 角栄氏vs. 福田 赳夫氏。第1回投票では第1位の田中氏と第2位の福田氏はわずか6票差だったが、決選投票では票差が92票まで開き、田中氏が総裁に選出された。残る2回のうち1回は2012年。この時は党員・党友票の過半数を獲得した石破 茂氏が1回目で安倍 晋三氏に58票もの差をつけて1位となったが、決選投票では逆に安倍氏が石破氏を19票上回り、逆転で総裁となった。ちなみに1972年以前の自民党でも決選投票が2回あり、1956年の初の決選投票では同じく1回目の1位、2位の逆転が起きた。この時勝利したのは石橋 湛山氏、逆転負けを帰したのは“昭和の妖怪”の異名を持つ安倍氏の祖父・岸 信介氏である。最も直近の決選投票は前回2021年の総裁選で1位の岸田 文雄氏と2位の河野 太郎氏の1回目の票差はわずか1票。これが決選投票では87票差となり、岸田氏が勝利した。このように概観するだけでも自民党総裁選は魔物である。さて誰が当選するのか? 前回紹介しきれなかった自民党総裁選候補者(五十音順)である小林 鷹之氏、高市 早苗氏、林 芳正氏、茂木 敏充氏の社会保障、医療・介護政策を独断と偏見の評価も交えながら紹介する。小林氏(千葉2区)今回、真っ先に出馬表明した小林氏だが、閣僚経験があるとはいえ、最も世間的には知名度が低かったのではないだろうか? 小林氏は東大法学部卒業後、旧大蔵省に入省。2010年に退官し、自民党の候補者公募に応募して2012年の衆議院で初当選して現在に至っている。大蔵省・財務省在籍中にはハーバード大学ケネディ行政大学院に留学し、公共政策学修士号を取得している。小林氏の特設ページでは、「世界をリードする国へ」をキャッチフレーズに掲げている。政策については直ちに取り組む3本柱とこれも含めたより詳細な7項目ごとの政策を披露している。前者では“02.暮らしを明るく:中間層「ど真ん中」の所得向上を実現”として以下の2点を挙げている。地方や若者も多く従事する介護・看護・保育従事者の賃上げ(「物価を超える処遇改善ルール」導入)。若年層の保険料負担軽減を図る「第3の道」の具体化。「社会保障未来会議(仮称)」立ち上げ。介護関係者などの賃上げは、ほかの候補者も挙げているが「物価を超える処遇改善ルール」とより具体的なのは小林氏だけである。もっとも現在の物価高騰を考えれば、介護報酬改定などでは相当な引き上げが必要になる。後者については小林氏の特設ページの7項目のうちの「V. 教育・こども・社会保障」では以下のように記述している(下線は筆者によるもの)。「社会保障未来会議(仮称)では、(1)データに基づく人的物的資源の適正配分、(2)ロボット、AI、アプリ等による健康管理、(3)健診・予防・リハビリ・フレイル対策・軽度認知症対策などの「健康づくり」とその行動や成果へのインセンティブ付与、(4)DX による効果的・効率的なサービスの提供を通じた費用の抑制に資する取組、などを通した医療・介護需要の低減を進めます。あらゆるアイデアをすべて俎上に載せ、国民の皆様とともに広く社会保障制度を考え、方向性を共有して、新たな時代の社会保障制度を作り上げます」DX(Digital Transformation)、EBPM(Evidence based policy making、エビデンスに基づく政策立案)、PHR(Personal Health Record)などを通じて、まずは需要そのものを適正化したいということらしい。もっとも日本記者クラブの候補者討論会では、「若い世代の社会保険料の軽減を主張していますが、財源はどこにあるんですか。結局、一定以上の所得・資産のある高齢者に負担を求める、かなり抵抗が強い方向になると思いますが、そういった覚悟はありますか」と問われたのに対し、前述の社会保障未来会議の説明を平たく語っただけでスルーしてしまっている。高齢者の負担増に関しては今の時点で単にかわしたか、あるいは念頭にあるからこそ敢えてかわしたかのどちらかではないだろうか? (ちなみに私は高齢者の負担増に反対ではない)この項では、ほかに以下のような政策を列挙している。家族等にとって大きな不安の源となる現役世代の怪我や疾病に対しサポート体制を築き、医療サービスの面からも現役世代を支えます。また、DXやイノベーションを通じ、健康医療分野でも世界をリードします。医師の地域偏在と診療科偏在を是正し医療へのアクセスを確保していきます。また、公的サービスの安定供給を前提に、医療法人等の経営改革も進めます。医療・介護・障害福祉等の人材確保を進めます。地域特性に応じた地域包括ケア体制を確立し、住み慣れた場所で生き生きと暮らせる社会の実現を目指します。あらゆるがん対策や研究支援を分野横断で進めると共に、腎疾患、アレルギー疾患等の重症化予防、移植手術の利用推進等に努めます。このなかで個人的に注目したのは2番目である。「医師・診療科の偏在是正」「医療法人等の改革」は若さゆえに繰り出せるパワーワードだろうか? これに手を突っ込めば、医療界、とりわけ日本医師会からの最強度の抵抗を受けることを小林氏は承知して言っているのか定かではない。むしろ、具体的にこれらをどのように実現したいかの詳細があれば、ぜひ聞いてみたいものである。また、これらとは別に「II.経済」では“創薬産業の競争力強化”を掲げ、そこでは「官民の連携を強化し、創薬のエコシステムと政府の司令塔機能を強化します。医療・介護分野のヘルスケアスタートアップを大胆に支援します。『ゲノミクスジャパン』を早期に構築し、ゲノム医療で世界と伍する創薬産業にします」と記述している。これについては7月30日に岸田首相の肝入りで開催された「創薬エコシステムサミット」に酷似した政策である。同サミットは医薬品産業を成長産業と位置付け、必要な予算を確保し、国内外から優れた人材や資金を集結させることで、日本を世界の人々に貢献できる『創薬の地』としていくというものだ。政策の大枠について異論はないが、現行では国際レベルと大きく差が開いた日本の創薬力を引き上げるのは容易ではない。また、コロナ禍中に開催された2020年4月3日の衆議院厚生労働委員会での小林氏の質疑を読むと、新型コロナウイルス感染症のワクチン、治療薬の国産を強く促しているが、失礼ながら製薬業界の現在地に対する理解はやや甘いようである。高市氏(奈良2区)意外と知られていないようだが、高市氏はもともと野党出身の政治家である。神戸大学経営学部経営学科卒業後、松下政経塾に入塾し、その資金提供を受けて米・民主党下院議員のもとで研修を積み、帰国後は日本経済短期大学(後の亜細亜大学短期大学部)助手に就任するとともに、テレビ朝日、フジテレビの番組でキャスターを務めた。テレビ朝日の番組では立憲民主党の前参院議員の蓮舫氏、フジテレビでは日本維新の会の参院議員の石井 苗子氏も同じ番組のキャスターだったのは、今となればなんと因果な巡り合わせかと思う。1992年の参院選・奈良県選挙区で自民党に公認申請をするも公認は得られず、無所属で出馬して落選。翌1993年には中選挙区時代の衆院選奈良全県区から再び無所属で出馬して初当選した。高市氏の当選時は折しも自民党が下野し、細川 護熙政権が発足した時期である。その後高市氏は、自民党を離党した柿澤弘治氏らが結党した自由党に参加。さらに非自民の自由改革連合(代表:海部 俊樹元首相)、新進党を経て、96年に新進党を離党して自民党に入党している。これまで衆院選は9選しているが、自民党入党以降は小選挙区で2度落選している(うち1度は比例復活)。さて安倍 晋三氏の秘蔵っ子とも言われるほど、自民党内でも保守色の強い政治家として知られる高市氏だが、特設サイトでは「日本列島を、強く豊かに。」とのスローガンを掲げている。このスローガンの下、総合的な国力を強化するための6項目のポリシーを掲げており、全体として経済、安全保障に関する高市氏の思考が背骨となっている印象だ。このため社会保障、医療・介護に関する政策もいくつかの項目に散らばっている。政策集を読むと、明らかにもっとも注力しているのは、ポリシー01の「大胆な『危機管理投資』と『成長投資』で、『安全・安心』の確保と『強い経済』を実現。」である。端的に言うと、積極的な財政出動で経済浮揚を図るという考え。そもそもご本人は昨今の日本銀行による利上げを「アホやと思う」とまでこき落としているほど積極財政論者である。そしてポリシー01では、さらに6つの詳細プランを提唱。プラン05の「健康医療安全保障の構築」では、以下のような政策が箇条書きで示されている。国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が実施している「革新的がん医療実用化研究事業」「スマートバイオ創薬等研究支援事業」「医療機器開発推進研究事業」を促進します。AMEDが支援してきたiPS細胞由来の心筋細胞移植の臨床試験が大きく前進しました。「再生・細胞医療、遺伝子治療分野」における研究開発を推進し、その成果を早期に患者の皆様にお届けできるよう、取り組んでまいります。今後のパンデミックに備えるべき「重点感染症」の見直しと医薬品等の対応手段確保のための研究開発支援、有事において大規模臨床試験を実施できる体制の構築、緊急承認については新たな感染症発生時の薬事承認プロセスの迅速化に資する準備を進めます。CBRNEテロ(化学・生物・核・放射線兵器や爆発物を用いたテロ)の対策を検討する専門家組織を創設します。テロに悪用された微生物・化学物質などの特定と拮抗薬やターニケット(止血用の緊縛バンド)の使用が迅速に行われる体制の構築方法を検討します。「国民皆歯科健診」の完全実施に加え、PHRの活用と、「予防医療」や「未病」の取組へのインセンティブを組み込んだ制度設計を検討します。また、プラン06「成長投資の強化」では“工業製品、環境、エネルギー、食料、健康・医療など適用分野が広く、経済安全保障の強化にもつながる『バイオ分野の事業化・普及』に向けた取組を促進します”と謳っている。概観すると、成長が見込めそうな分野への財政出動を通じた徹底投資とそれに伴う製品の国産強化という方針だ。実はこの政策を列挙する前に「ワクチンや医薬品の開発・生産は、海外情勢に左右されてはならず、安全保障に関わる課題です。原材料・生産ノウハウ・人材を国内で完結できる体制を構築します」との基本的考えを示している。この辺は高市氏の保守色の強さを如実に表している。現在、世界水準からはかなり立ち遅れつつある創薬・バイオを安全保障の観点から捉えて強化する方針そのものに異論はない。むしろ日本に欠けているのは、安全保障の観点である。ただ、創薬・バイオは消費・貢献対象の多くが民生分野であり、安全保障視点が過度だと、逆に産業発展を阻害する面もある。また、コロナ禍での国政選挙の際の各政党の政策でも批判してきたことだが、創薬・バイオ技術のグローバル化が進展する今、国産にこだわり過ぎれば、国内での技術開発や社会還元はスピーディーさを欠く結果となる。ポリシー02「『全世代の安心感』を、日本の活力に。」で掲げているのは以下。私は、生涯にわたってホルモンバランス変化の影響を受けやすい女性の健康をサポートする施策の検討に平成25年に着手し、ようやく令和6年度新規事業として「『女性の健康』ナショナルセンター機能の構築」が開始されました。女性特有の疾患や不調について、予防・病態解明・治療・社会啓発の取組を推進します。人手不足の中でも就労時間調整の一因となっている「年収の壁」と「在職老齢年金制度」を大胆に見直し、「働く意欲を阻害しない制度」へと改革します。高齢者だけではなく、現役世代も将来に年金を受け取ることを踏まえ、年金に対する課税の見直しを検討します。物価が上昇する中で年金の手取りが減らないよう、公的年金等控除額の拡大を提案します。国民年金受給額と生活保護受給額の逆転現象を解消するため、低年金と生活保護の問題を一体的に捉えた新たな制度の在り方を検討します。ここに見える年金政策では、既存の制度内で負担と給付のバランスを取るというよりは、給付の拡充とそれによる消費拡大のほうに重点を置いているようだ。その意味で、高市氏は社会保障制度改革も経済政策の一環として捉える思考がほかの候補と比べても極度に強い「経済バカ一代」のような印象である。林氏(山口3区)旧大蔵相・旧厚生相を務めた林 義郎氏の長男。祖父・高祖父も衆院議員歴がある政治一家育ち。東大法学部卒業後、三井物産、サンデン交通(林家のファミリー企業)、山口合同ガスを経てハーバード大学ケネディ・スクールに入学、米・下院議員のスタッフや米・上院議員のアシスタントを経験した。父・義郎氏の大蔵相就任に伴い大学院を休学して帰国し、大臣秘書官を務めた(後に復学、修了した)。1995年の参院選で自民党公認として山口県選挙区で初当選し、同選挙区で連続5回当選。2021年の衆院選で鞍替えして当選。衆院議員としてはまだ1期目である。特設サイトでは「人にやさしい政治。」のキャッチフレーズの下で3つの安心を掲げる。このうちの1つ「底上げによる格差是正と、生活環境の改善・地域活性化を通じた、少子化対策」として「医療・介護DXの推進や医療・介護・福祉人材の処遇改善、医薬品の安定供給、医師の偏在是正、大学病院の派遣機能強化、歯科保健医療提供体制の構築、看護師確保対策などを推進します」と謳っている。概ねほかの候補と共通する政策だが、石破氏と同じく数少ない医薬品安定供給を掲げているほか、林氏の政策にのみ見られるのが「大学病院の派遣機能強化」である。もっとも後者に関して、そのためにどのようにするのかはわからない。また、日本記者クラブでの討論会では、林氏が出馬表明時にマイナ保険証に関して「皆さん納得の上でスムーズに移行してもらうための必要な検討をしたい」と述べたことの意味を問われた。以下は林氏の回答の要約である。林氏廃止という言葉でお伝えをしていたが、実際は新しい切り替えがなくなるということ。紙の保険証は12月3日以降、次の期限までは使え、その期限後は希望すれば資格確認書が発行される。聞くところによると、(資格確認証は)今の保険証とほぼ同じようなものであるとのことなので、私は廃止と言わずに新規発行がなくなることを丁寧に説明するだけで、かなりの不安は解消するのではないかと思っている。いや果たしてそうだろうか? デジタル慣れしていない高齢者などはそうかもしれないだろうが、若年者でマイナ保険証を躊躇する層は、これまでに明らかになったずさんな個人情報管理を問題視しているのが多数のように感じるのだが。この辺はやや危機感に欠けている印象は拭えない。茂木氏(栃木5区)東大経済学部卒業後、丸紅、読売新聞、マッキンゼー社を経て政界入りした茂木氏。政界入り前にはハーバード大学ケネディ行政大学院に留学し、行政学修士号も取得している。以前の立憲民主党代表選の時も触れたが、政界入りは政治改革を掲げた元熊本県知事の細川 護熙氏が立ち上げた日本新党を通じてであり、この時の当選同期が今回の立憲民主党代表に選出された元首相の野田 佳彦氏、野田氏と同代表選で決選投票を戦った枝野 幸男氏である(ほかに日本新党の当選同期は東京都知事の小池 百合子氏、名古屋市長の河村 たかし氏など)。日本新党が解党して新進党に合流した時に無所属となり、その後、自民党に入党して現在に至る。世間的には必ずしも知名度は高くないが、閣僚経験数は実は石破氏や高市氏よりも多い(もっともその多くは内閣府特命担当大臣ではあるが)。今回は「経済再生を、実行へ」をキャッチフレーズに掲げ、その下で6つの実行プランを掲げている。特設サイトを見ると、実行プラン3として「『人生100年時代』の社会保障改革 年齢ではなく経済力に応じた公平な負担へ」を謳っている。茂木氏の各実行プランは「何をする?」「具体的にどうする」の順で目指す政策の概念と具体的な施策を開示している点が特徴だ。実行プラン3の「何をする?」では、デジタル化で個々人の立場に応じた負担と給付へ。“余力のある人には払ってもらい、困難な人への負担軽減と支援拡大”。あらゆる世代が活躍し、生きがいを実感できる社会へ」とし、「具体的にどうする」では以下の3項目を列挙している。社会保障分野にデジタルを完全導入。“標準世帯”から“個々人のデータ”に基づく、負担と給付へ(標準報酬月額の上限も見直し)。在職老齢年金制度の見直しによる中高年層の労働意欲向上。給付手段の簡素化(スマホ搭載のマイナンバーカードにキャッシュレス決済機能を付与し、ここへの給付を可能に)。要はデジタル化で国民個々人の所得状況をガラス張りにし、そのデータを基に応分の負担を求めるということ。カッコ内でさらりと標準報酬月額上限の見直しに触れているが、前段で「余力のある人には払ってもらい」と書いている以上、上限見直しとは上限の引き下げ、すなわち高額所得者や高齢者を中心に保険料負担の引き上げを想定していると思われる。同時に年金の見直しの「中高年層の労働意欲向上」も聞こえを良くしただけで、素直に解釈すれば、給付開始年齢の引き上げや給付水準の引き下げで“労働意欲を持たざるを得ない”状況にするということではないだろうか?いずれにせよある程度“物は言い様”は確かだが、総理総裁を目指そうとするならば、それなりに意図していること臆せず表現する度胸も必要だと思うのだが…。さてさて9候補も紹介するとなると、なかなか骨が折れる。現時点での各社報道によると、上位3人は石破氏、小泉氏、高市氏だという。いずれにせよこの記事公開後、半日も経たずに日本の首相が決まることになる。

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HFpEFに2番目のエビデンスが登場―非ステロイド系MRAの時代が来るのか?(解説:絹川弘一郎氏)

 ESC2024はHFpEFの新たなエビデンスの幕開けとなった。HFpEFに対する臨床試験はCHARM-preserved、PEP-CHF、TOPCAT、PARAGONと有意差を検出できず、エビデンスのある薬剤はないという時代が続いた。 CHARM-preservedはプラセボ群の一部にACE阻害薬が入っていてなお、プライマリーエンドポイントの有意差0.051と大健闘したものの2003年時点ではmortality benefitがない薬剤なんて顧みられず、PEP-CHFはペリンドプリルは1年後まで順調に予後改善していたのにプラセボ群にACE阻害薬を投与される例が相次ぎ、2年後には予後改善効果消失、TOPCATはロシア、ジョージアの患者のほとんどがおそらくCOPDでイベントが異常に少なく、かつ実薬群に割り付けられてもカンレノ酸を血中で検出できない例がロシア人で多発したなど試験のqualityが低かった、PARAGONではなぜか対照にプラセボでなくARBの高用量を選んでしまうなど、数々の不運または不思議が重なってきた。 その後ここ数年でSGLT2阻害薬がHFmrEF/HFpEFにもmortality benefitこそ示せなかったが心不全入院の抑制は明らかにあることがわかり、初のHFpEFに対するエビデンスとなったことは記憶に新しい。今回のFinearts-HF試験は、スピロノラクトンやエプレレノンと異なる非ステロイド骨格を有するMRA、フィネレノンがHFmrEF/HFpEFを対象に検討された。ここで、ステロイド骨格のMRAとフィネレノンとの相違の可能性について、まず説明する。 アルドステロンが結合したミネラルコルチコイド受容体は、cofactorをリクルートしながら核内に入って転写因子として炎症や線維化を誘導する遺伝子の5’-regionに結合して、心臓や腎臓の臓器障害を招くとされてきた。ステロイド骨格のMRAではアルドステロンを拮抗的に阻害するものの、ミネラルコルチコイド受容体がcofactorをリクルートすることは抑制できず、わずかながらではあっても炎症や線維化を促進してしまうことが知られている。このことがステロイド系MRAに腎保護作用が明確には認めづらい原因かといわれてきた。 一方、フィネレノンはもともとCa拮抗薬の骨格から開発された非ステロイド系MRAであり、cofactorのリクルートはなく、アルドステロン依存性の遺伝子発現はほぼ完全にブロックされるといわれている。FIDELIO-DKD試験ですでに示されているように糖尿病の合併があるCKDに限定されているとはいえ、フィネレノンには腎保護作用が明確にある。さらに、フィネレノンの体内分布はステロイド系MRAに比較して腎臓より心臓に多く分布しているようであり、腎臓の副作用である高カリウム血症が少なくなるのではないかという期待があった。このような背景においてHFmrEF/HFpEF患者を対象に、心不全入院の総数と心血管死亡の複合エンドポイントの抑制をプライマリーとして達成したことはSGLT2阻害薬に続く快挙である。カプランマイヤー曲線はSGLT2阻害薬並みに早期分離があり、フィネレノン20mgをDKDに使用している現状では血圧や尿量にさほどの変化を感じないが、早期に効果があるということは、やはり血行動態的に作用しているとしか考えられず、40mgでの降圧や利尿に対する効果を今一度検証する必要があると感じた。またかというか、HFpEFでは心血管死亡の発症率が低いため、mortalityに差がついていないが、これはもともと6,000人2年の規模の試験では当初から狙えないことが明らかなので、もうあまりこの点をいうのはやめたほうがいいかと思われる。 ちなみに死亡のエンドポイントで事前に有意差を出すための症例数を計算すると、1万5,000人必要だそうである。しかし、高カリウム血症の頻度は依然として多く、非ステロイド系MRAとしての期待は裏切られた格好になっている。もっとも、プロトコル上、eGFR>60の症例にはターゲット40mg、eGFR<60ではターゲット20mgとなっており、腎機能の低い症例に高カリウムが多いのか、むしろ高用量にした場合に一定程度高カリウムになっているのか、など細かい解析は今後出てくる予定である。腎保護の観点でもAKIはむしろフィネレノンで多いという結果であり、DKDで認められたeGFR slopeの差などがHFpEFでどうなのかも今後明らかになるであろう。このように、現状では非ステロイド系という差別化にはいまだ明確なデータはないようであり、それもあってTOPCAT Americasとのメタ解析が出てしまうことで、MRA一般にHFpEFに対するクラスエフェクトでI/Aというような主張も米国のcardiologistから出ている。 しかし、前述のようにいかにロシア、ジョージアの症例エントリーやその後のマネジメントに問題があったとはいえ、いいとこ取りで試験結果を解釈するようになればもう前向きプラセボ対照RCTの強みは消失しているとしかいえず、あくまでもTOPCAT全体の結果で解釈すべきで、ここまで長年そういう立場で各国ガイドラインにも記述されてきたものを、FINEARTS-HF試験の助けでスピロノラクトンの評価が一変するというのは、さすがに多大なコストと時間と手間をかけた製薬企業に残酷過ぎると思う。 少なくともFINEARTS-HF試験の結果をIIa/B-Rと評価したうえで、今後フィネレノン自体がHFrEFにも有効であるのか、または第III相試験中の他の非ステロイド系MRAの結果がどうであるかなどを合わせて、本当に非ステロイド系MRAが既存のステロイド系MRAに取って代わるかの結論には、まだ数年の猶予は必要であろうか。

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下垂体性PRL分泌亢進症

1 疾患概要■ 定義希少疾病である「下垂体性プロラクチン(PRL)分泌亢進症」(指定難病74)は表1の診断基準にある「1の1)の(1)~(3)」のうち1項目以上を満たし、1の2)を満たし、2の鑑別疾患を除外したもの」と定義される。すなわち、表2-1-1)のPRL産生腫瘍(プロラクチノーマ)が本疾患に該当する(表2)。表1 下垂体性PRL分泌亢進症の診断基準<診断基準>1.主要項目1)主症候(1)女性:月経不順・無月経、不妊、乳汁分泌のうち1項目以上(2)男性:性欲低下、インポテンス、女性化乳房、乳汁分泌のうち1項目以上(3)男女共通:頭痛、視力視野障害(器質的視床下部・下垂体病変による症状)のうち1項目以上2)検査所見血中PRLの上昇*2.鑑別診断薬剤服用によるPRL分泌過剰、原発性甲状腺機能低下症、視床下部・下垂体茎病変、先端巨大症(PRL同時産生)、マクロプロラクチン血症、慢性腎不全、胸壁疾患、異所性PRL産生腫瘍3.診断のカテゴリーDefinite:1の1)の(1)~(3)のうち1項目以上を満たし、1の2)を満たし、2の鑑別疾患を除外したもの*血中PRLは睡眠、ストレス、性交や運動などに影響されるため、複数回測定して、いずれも施設基準値以上であることを確認する。マクロプロラクチノーマにおけるPRLの免疫測定においてフック効果(過剰量のPRLが、添加した抗体の結合能を妨げ、見かけ上PRL値が低くなること)に注意すること。難病情報センター 下垂体性PRL分泌亢進症より引用表2 高PRL血症を来す病態1.下垂体病変1)PRL 産生腫瘍(プロラクチノーマ)2)先端巨大症(GH-PRL同時産生腫瘍)2.視床下部・下垂体茎病変1)機能性2)器質性(1)腫瘍(頭蓋咽頭腫・ラトケ嚢胞・胚細胞腫・非機能性腫瘍・ランゲルハンス細胞組織球症など)(2)炎症・肉芽腫(下垂体炎・サルコイドーシスなど)(3)血管障害(出血・梗塞)(4)外傷3.薬物服用(腫瘍以外で最も多い原因は薬剤である。詳細は表3を参照)4.原発性甲状腺機能低下症5.マクロプロラクチン血症*6.他の原因1)慢性腎不全2)胸壁疾患(外傷、火傷、湿疹など)3)異所性PRL産生腫瘍*PRLに対する自己抗体とPRLの複合体形成による。高PRL血症の15~25%に存在し、高PRL血症による症候を認めない。診断には、ゲルろ過クロマトグラフィー法、ポリエチレングリコール(PEG)法、抗IgG抗体法を用いて高分子化したPRLを証明する。(間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン作成委員会、「間脳下垂体機能障害に関する調査研究」班、日本内分泌学会 編. 間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン2023年版. 日内分泌会誌. 2023;99:1-171.より引用・作成)■ 疫学平成11(1999)年度の厚生労働省研究班による全国調査では、1998年1年間の推定受療患者数が、PRL産生腫瘍を含むPRL分泌過剰症で1万2,400人と報告されている1)。2005~2008年の脳腫瘍統計によると、原発性脳腫瘍のうち、下垂体腫瘍は19%であり、非機能性が57%、機能性が43%(PRL産生は12%)であった2)。PRL産生腫瘍は、男女比は1:3.6と女性に多く、男性では大きい腫瘍サイズで診断されることが多い1)。発症年齢は、女性では21~40歳に多く、男性では20~60歳にかけて認められる1)。■ 病因下垂体腫瘍によるPRL産生亢進が本症の病因である。■ 症状先述の表1-1の主症候(1)、(2)に記した高プロラクチン血症による症状と、(3)に記した下垂体腫瘍による症状が認められる。高プロラクチン血症の状態では視床下部でのキスペプチン分泌が減少し、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)ニューロン(ゴナドトロピンニューロン)からのGnRHの脈動的分泌が抑制される。その結果、性腺刺激ホルモンおよび性ホルモンの分泌異常が生じて種々の症状が出現する。■ 予後脳腫瘍統計の追跡調査によると、2005~2008年のPRL産生腫瘍の5年生存率(および5年無増悪生存率)は98.7%(94.8%)だった2)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)間脳下垂体機能障害に関する調査研究班が策定した本症の診断基準は先述の表1を参照していただきたい。本症は高PRL血症を呈するが、高PRL血症は先述の表2に記された種々の病態によっても生じるため鑑別を要する。高PRL血症の病態把握のためにはPRLの分泌調節を知っておくことが重要である。PRLは下垂体前葉に存在するPRL産生細胞より分泌される。視床下部から分泌されるドパミンは、下垂体門脈を介して下垂体に直接流入し、PRL分泌を抑制的に調節している。また、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)はPRL放出因子の1つである。高PRL血症の原因として、下垂体病変、視床下部・下垂体病変、薬剤、原発性甲状腺機能低下症、マクロプロラクチン血症、その他(慢性腎不全、胸壁疾患、異所性PRL産生腫瘍)が挙げられる(表2)。下垂体病変では、PRL 産生腫瘍(プロラクチノーマ)と先端巨大症(GH-PRL同時産生腫瘍)によるPRL分泌亢進が認められる。視床下部・下垂体病変では、視床下部のドパミン産生低下あるいは下垂体門脈から下垂体へのドパミンの輸送障害を介したPRL分泌抑制の減弱によってPRL分泌が亢進する。薬剤性では、ドパミンD2受容体受容体拮抗薬、ドパミン産生抑制作用のある降圧薬、ドパミン活性の抑制作用があるエストロゲンなどによりPRL分泌が亢進する(表3)。原発性甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモンの低下により視床下部のTRH産生が亢進し、TRHによるPRL分泌亢進が生じる。表3 高PRL血症を来す薬剤画像を拡大する3 治療下垂体性PRL分泌亢進症の治療は、ドパミン作動薬による薬物療法が第1選択であり、PRL値の低下効果および腫瘍縮小効果が期待される3)。具体的には、カベルゴリン、ブロモクリプチン、テルグリドを使用する。カベルゴリンまたはブロモクリプチンを用いる。カベルゴリンの場合、週1回就寝前、0.25mg/回より開始し、PRL値により漸増する(上限は1mg/回)。ブロモクリプチンの場合、2.5mg/回、夕食後より開始しPRL値により5~7.5mg/日、分2~3に漸増する4)。注意すべき点としてドパミン作動薬には、嘔気、嘔吐、起立性低血圧に加え、病的賭博、病的性欲亢進、強迫性購買、暴食などを呈する衝動制御障害が報告されており、本障害を認めた場合、ドパミン作動薬の減量または投与中止を考慮する必要がある4)。また、患者および家族などに上記衝動制御障害の可能性について説明しておく。カベルゴリンを高用量で長期間投与する場合(週2.5mgを超える場合)には、心臓弁膜症の発生に注意する必要があり、心エコーで評価を行う。ドパミン作動薬は胎盤を通過するため、妊娠判明時に薬物療法を中止することが勧められる。薬物療法中止により腫瘍が増大する可能性があるため、妊娠前に腫瘍縮小、規則的月経発来まで薬物治療を行う。薬物療法に抵抗性の場合や副作用で服薬できない場合は、外科的治療を選択する。外科治療後には髄液鼻漏(髄膜炎)を来す可能性があることに注意する。4 今後の展望薬物治療が第1選択である本症において、薬物治療を終了する基準を明らかにすることが重要である。2011年に発表された米国内分泌学会のガイドラインでは、「最低2年間ドパミン作動薬にて治療され、血中PRLの上昇がなく、頭部MRI所見で上腫瘍残存を認めない場合、注意深い臨床的、生化学的な経過観察の下で、ドパミン作動薬の減量、中止ができる可能性がある」と記されている5)。しかしながら、ドパミン作動薬を中止すると血中PRL の再上昇を認める場合も多い。わが国の診療ガイドラインでは、「薬物療法の最少量で血中PRL値が正常に維持され、画像上腫瘍が認められなくなったミクロプロラクチノーマ(微小PRL産生腫瘍)の場合、薬物療法の中止を提案する。【推奨の強さ:弱(合意率100%)、エビデンスレベル:C】」4となっており、今後のエビンデンスの構築が期待される。5 主たる診療科内分泌内科、脳神経外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 下垂体性PRL分泌亢進症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)間脳下垂体機能障害に関する調査研究(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)難病情報センター 下垂体性PRL分泌亢進症2)横山徹爾. 下垂体疾患診療マニュアル 改訂第3版. 診断と治療社;2021.p.96-100.3)日本内分泌学会・日本糖尿病学会 編集. 内分泌代謝・糖尿病内科領域専門医研修ガイドブック. 診断と治療社;2023.p.5-30.4)間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン作成委員会、「間脳下垂体機能障害に関する調査研究」班、日本内分泌学会 編. 間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン2023年版. 日内分泌会誌. 2023;99:1-171.5)Melmed S, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2011;96:273-288.公開履歴初回2024年9月26日

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T-DXdによる遅発期・延長期の悪心・嘔吐抑制にオランザピン6日間併用が有効(ERICA)/ESMO2024

 HER2陽性/低発現の転移乳がんへのトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)治療による遅発期および延長期の悪心・嘔吐を、オランザピン6日間投与と5-HT3受容体拮抗薬およびデキサメタゾンの併用が抑制する可能性が、日本で実施された多施設無作為化二重盲検プラセボ対照第II相比較試験(ERICA)で示唆された。昭和大学の酒井 瞳氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)で発表し、Annals of Oncology誌オンライン版に同時掲載された。・対象:T-DXd治療を予定しているHER2陽性/低発現の転移/再発乳がん患者・試験群:T-DXd投与1~6日目にオランザピン5mg(1日1回)を5-HT3受容体拮抗薬およびデキサメタゾン(1日目に6.6mg静脈内投与または8mg経口投与)と併用・対照群:オランザピンの代わりにプラセボを投与・評価項目:[主要評価項目]遅発期(T-DXd投与後24~120時間)の完全奏効(嘔吐なし、レスキュー治療なし)割合[副次評価項目]急性期(0~24時間)/延長期(120~504時間)の完全奏効割合、急性期・遅発期・延長期の完全制御(嘔吐なし、レスキュー治療なし、悪心なし/軽度)割合、急性期・遅発期・延長期の総制御(嘔吐なし、レスキュー治療なし、悪心なし)割合、急性期・遅発期・延長期の悪心なし割合、1日毎の完全奏効割合、PRO-CTCAEによる患者報告症状、安全性など 主な結果は以下のとおり。・2021年11月~2023年9月に国内43施設で168例が登録され、162例(オランザピン群80例、プラセボ群82例)がプロトコールに組み入れられた。・遅発期の完全奏効割合は、オランザピン群(70.0%)がプラセボ群(56.1%)より有意に高く(p=0.047)、主要評価項目を達成した。・副次評価項目のすべての項目において、遅発期および延長期でオランザピン群のほうが高かった。・1日毎の完全奏効割合および悪心なし割合も、21日間の観察期間を通してオランザピンのほうが高かった。・初回の悪心発現までの期間中央値はオランザピン群6.5日/プラセボ群3.0日、悪心発現患者における悪心期間中央値はオランザピン群4.0日/プラセボ群8.0日、レスキュー治療を実施した患者割合はオランザピン群38.8%/プラセボ群56.6%だった。・PRO-CTCAEによる患者自身の評価では、食欲不振がオランザピン群で少なかった。・有害事象はオランザピンの以前の報告と同様で、新たな安全性シグナルはみられなかった(傾眠:オランザピン群25.0%/プラセボ群10.8%、高血糖:オランザピン群7.5%/プラセボ群0%)。 これらの結果から、酒井氏は「オランザピンをベースとした3剤併用療法は、T-DXd治療により引き起こされる遅発期および延長期の悪心・嘔吐を抑制する有効な制吐療法と思われる」とまとめた。

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HFpEF/HFmrEFに、フィネレノンが有効/NEJM

 左室駆出率が軽度低下の心不全(HFmrEF)または保たれた心不全(HFpEF)患者の治療において、プラセボと比較して非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬フィネレノンは、総心不全増悪イベントと心血管系の原因による死亡の複合アウトカムの発生を有意に抑制し、高カリウム血症のリスクが高いものの低カリウム血症のリスクは低いことが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のScott D. Solomon氏らFINEARTS-HF Committees and Investigatorsが実施した「FINEARTS-HF試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2024年9月1日号に掲載された。国際的な無作為化イベント主導型試験 FINEARTS-HF試験は、日本を含む37ヵ国654施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照イベント主導型試験であり、2020年9月~2023年1月に参加者のスクリーニングを行った(Bayerの助成を受けた)。 年齢40歳以上、症状を伴う心不全で、左室駆出率が40%以上の患者6,001例を登録した。通常治療に加え、フィネレノン(ベースラインの推算糸球体濾過量に応じて最大用量20mgまたは40mg、1日1回)を投与する群に3,003例(平均[±SD]年齢71.9[±9.6]歳、女性45.1%)、プラセボ群に2,998例(72.0[±9.7]歳、45.9%)を無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、総心不全増悪イベント(心不全による予期せぬ初回または再入院、あるいは緊急受診と定義)と心血管系の原因による死亡の複合とした。総心不全増悪イベント数も有意に少ない ベースラインにおける全体の平均(±SD)左室駆出率は53(±8)%で、69.1%がNYHA心機能分類クラスIIであった。84.9%がβ遮断薬、35.9%がACE阻害薬、35.0%がARB、8.5%がARNI、13.6%がSGLT2阻害薬の投与を受けていた。 追跡期間中央値32ヵ月の時点で、主要アウトカムのイベントは、フィネレノン群で3,003例中624例に1,083件、プラセボ群で2,998例中719例に1,283件発生し、率比は0.84(95%信頼区間[CI]:0.74~0.95)とフィネレノン群で有意に良好であった(p=0.007)。 心不全増悪イベントの総数は、フィネレノン群が842件、プラセボ群は1,024件であり、率比は0.82(95%CI:0.71~0.94)とフィネレノン群で有意に少なかった(p=0.006)。また、心血管系の原因で死亡した患者の割合は、フィネレノン群8.1%、プラセボ群8.7%であった(ハザード比[HR]:0.93、95%CI:0.78~1.11)。0.5%で入院に至った高カリウム血症が発現 重篤な有害事象はフィネレノン群で1,157例(38.7%)、プラセボ群で1,213例(40.5%)に発現した。また、死亡に至った高カリウム血症のエピソードはなく、入院に至った高カリウム血症はフィネレノン群で16例(0.5%)、プラセボ群で6例(0.2%)であった。低カリウム血症は、プラセボ群に比べフィネレノン群で少なかった。 6ヵ月時の平均収縮期血圧は、プラセボ群に比べフィネレノン群で低かったが(群間差:-3.4mmHg、95%CI:-4.2~-2.6)、1ヵ月時の血圧の変化で補正しても、主要アウトカムに関して観察された治療効果は減弱しなかった。 著者は、「フィネレノンは、患者報告による健康状態(カンザスシティ心筋症質問票[KCCQ]総症状スコア)の改善に関して中等度の有益性をもたらしたが、NYHA心機能分類クラスや腎複合アウトカムのリスクを改善しなかった」とし、「ベースラインでSGLT2阻害薬(この患者集団においてガイドラインで強く推奨されている唯一の治療薬)を使用していた患者の主要アウトカムの結果が、使用していなかった患者と同程度であったことは重要である」としている。

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