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統合失調症患者の認知機能に対するNMDA受容体増強薬のメタ解析

 いくつかのN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体増強薬は、統合失調症の認知機能に対して有望な薬剤であるといわれている。しかし、その研究結果は矛盾している。台湾・中国医薬大学のChun-Hung Chang氏らは、認知機能に対するNMDA受容体増強薬の効果について、最新のメタ解析を実施した。Journal of Psychopharmacology誌オンライン版2019年2月7日号の報告。 統合失調症患者の認知機能に対するNMDA受容体増強薬の効果に関して、2018年9月までの研究を、PubMed、コクラン比較臨床試験レジストリおよびシステマティックレビューより検索した。認知機能評価尺度を用いた二重盲検ランダム化プラセボ試験を含んだ。追加のNMDA受容体増強薬との比較を行うため、ランダム効果モデルを用いた。認知機能スコアは、ベースライン時とその後のレベルを比較し、NMDA受容体陽性モジュレーターを、標準化平均差(SMD)、95%信頼区間(CI)を用いて評価した。ファンネルプロットとI2統計を用いて、不均一性を評価した。 主な結果は以下のとおり。・25件の研究より、1,951例が抽出された。・全体的な認知機能に対するNMDA受容体増強薬の効果は、プラセボと比較して小さく、有意ではなかった(SMD:0.068、95%CI:-0.056~0.193、p=0.283)。・30~39歳の患者を対象とした試験において、有意な効果が認められた(SMD:0.163、95%CI:0.016~0.310、p=0.030)。・男性において、全体的な認知機能に対するNMDA受容体陽性モジュレーターのより小さな効果が認められた。・認知領域のサブグループメタ解析では、N-アセチルシステイン(NAC)の作業記憶に対する有意な効果が認められた(相互作用に対するp値:0.038、SMD:0.679、95%CI:0.397~0.961、p<0.001)。 著者らは「本メタ解析では、全体的な認知機能に対するNMDA受容体増強薬の有意な効果は認められなかった。しかし、サブグループ解析では、比較的若い統合失調症患者に対するNMDA受容体増強薬の効果、およびNACの作業記憶に対する効果が示唆された。これらの認知領域を評価し、そのメカニズムを明らかにするためにも、より大規模なサンプルによる追加試験が求められる」としている。■関連記事統合失調症の認知機能に対するアセチルコリンエステラーゼ阻害薬2つのNMDA受容体拮抗薬、臨床像はなぜ異なるのか統合失調症の認知機能障害、コリン作動系薬の可能性

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第18回 花粉症患者に使える!こんなエビデンス、あんなエビデンス【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 インフルエンザがやっと落ち着いてきたと思ったら、花粉症が増える季節になりました。症状がひどい方は本当につらい季節で、身の回りでも花粉症の話題でもちきりとなっています。今回は、服薬指導で使える花粉症に関するお役立ち情報をピックアップして紹介します。アレルゲンを防ぐには?アレルギー性疾患では、アレルゲンを避けることが基本です1)。花粉が飛ぶピークタイムである昼前後と日没後、晴れて気温が高い日、空気が乾燥して風が強い日、雨上がりの翌日や気温の高い日が2~3日続いた後は外出を避けたり、マスクやメガネ、なるべくツルツルした素材の帽子などで防御したりしましょう。それ以外にも、鼻粘膜を通したアレルゲンの吸入を物理的にブロックするために、花粉ブロッククリームを直接鼻粘膜に塗布するという方法もあります。この方法は、ランダム化クロスオーバー試験で検証されており、アレルギー性鼻炎、ダニおよび他のアレルゲンに感受性のある成人および小児の被験者115例を、花粉ブロッククリーム群とプラセボ軟膏群に割り付けて比較検討しています。1日3回30日間の塗布で、治療群の鼻症状スコアが改善しています。ただし、必ずしも花粉ブロッククリームでないといけないわけではなく、プラセボ群でも症状改善効果が観測されています2)。ほかにも小規模な研究で鼻粘膜への軟膏塗布で有効性を示唆する研究3)がありますので、やってみる価値はあるかもしれません。症状を緩和する食材や栄養素は?n-3系脂肪酸大阪の母子健康調査で行われた、サバやイワシなどの青魚に多く含まれるn-3系脂肪酸の摂取量とアレルギー性鼻炎の有病率に関する研究で、魚の摂取量とアレルギー性鼻炎の間に逆の用量反応関係があることが指摘されています4)。ただし、急性の症状に対して明確な効果を期待できるほどの結果ではなさそうです。ビタミンEビタミンEがIgE抗体の産生を減少させる可能性があるとして、アレルギー性鼻炎患者63例を、ビタミンE 400IU/日群またはプラセボ群にランダムに割り付け、4週間継続(最初の2週間はロラタジン/プソイドエフェドリン(0.2/0.5/mg/kg)と併用)した研究があります。しかし、いずれの群も1週間で症状が改善し、症状スコアにも血清IgEにも有意差はありませんでした5)。カゼイ菌アレルギーは腸から起こるとよく言われており、近年乳酸菌やビフィズス菌が注目されています。これに関しては、カゼイ菌を含む発酵乳またはプラセボを2~5歳の未就学児童に12ヵ月間摂取してもらい、アレルギー性喘息または鼻炎の症状が改善するか検討した二重盲検ランダム化比較試験があります。187例が治療群と対照群に割り付けられ、アウトカムとして喘息/鼻炎の発症までの時間、発症数、発熱または下痢の発生数、血清免疫グロブリンの変化を評価しています。通年性の鼻炎エピソードの発生は治療群でやや少なく、その平均差は―0.81(―1.52~―0.10)日/年でした。鼻炎にわずかな効果が期待できるかもしれませんが、喘息には有効ではないとの結果です6)。薬物治療の効果は?薬物治療では、抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン薬、アレルゲン免疫療法が主な選択肢ですが、抗ヒスタミン薬にフォーカスして見ていきましょう。比較的分子量が小さく、脂溶性で中枢性の副作用を生じやすい第1世代よりも、眠気など中枢性の副作用が少ない第2世代の抗ヒスタミン薬がよく用いられています。種々の臨床試験から、第2世代抗ヒスタミン薬は種類によって効果に大きな差はないと思われます。たとえば、ビラスチンとセチリジンやフェキソフェナジンを比較した第II相試験7)では、効果はほぼ同等でビラスチンは1時間以内に作用が発現し、26時間を超える作用持続を示しています。なお、ルパタジンとオロパタジンの比較試験では、ルパタジンの症状の改善スコアはオロパタジンとほぼ同等ないしやや劣る可能性があります8)。また、眼のかゆみなど症状がない季節性のアレルギー性鼻炎であれば、抗ヒスタミン薬よりもステロイド点鼻薬の有効性が高いことや、ステロイド点鼻薬に抗ヒスタミン薬を上乗せしても有意な上乗せ効果は期待しづらいことから、点鼻薬を推奨すべきとするレビューもあります9)。副作用は?抗ヒスタミン薬の副作用で問題になるのがインペアード・パフォーマンスです。インペアード・パフォーマンスは集中力や生産性が低下した状態ですが、ほとんどの場合が無自覚なので運転を控えるようにすることなどの指導が大切です。フェキソフェナジン、ロラタジン、またそれを光学分割したデスロラタジンなどはそのような副作用が少ないとされています10)。口渇、乏尿、便秘など抗コリン性の副作用は、中枢移行性が低いものでも意識しておくとよいでしょう。頻度は少ないですが、第1世代、第2世代ともに痙攣の副作用がWHOで注意喚起されています11)。万が一、痙攣などが起こった場合には被疑薬である可能性に思考を巡らせるだけでも適切な対応が取りやすくなると思います。予防的治療の効果は?季節性アレルギー性鼻炎に対する抗ヒスタミン薬の予防的治療効果について検討した二重盲検ランダム化比較試験があります12)。レボセチリジン5mgまたはプラセボによるクロスオーバー試験で、症状発症直後の早期服用でも花粉飛散前からの予防服用と同等の効果が得られています。予防的に花粉飛散前からの服用を推奨する説明がされがちですが、症状が出てから服用しても遅くはないと伝えると安心していただけるでしょう。服用量が減らせるため、医療費抑制的観点でも大切なことだと思います。鼻アレルギー診療ガイドラインでも、抗ヒスタミン薬とロイコトリエン拮抗薬は花粉飛散予測日または症状が少しでも現れた時点で内服とする主旨の記載があります1)。以上、花粉症で服薬指導に役立ちそうな情報を紹介しました。花粉症対策については環境省の花粉症環境保健マニュアルによくまとまっています。また、同じく環境省による花粉情報サイトで各都道府県の花粉飛散情報が確認できますので、興味のある方は参照してみてください13)。1)鼻アレルギー診療ガイドライン2016年版2)Li Y, et al. Am J Rhinol Allergy. 2013;27:299-303.3)Schwetz S, et al. Arch Otolaryngol Head Neck Surg. 2004;130:979-984.4)Miyake Y, et al. J Am Coll Nutr. 2007;26:279-287.5)Montano BB, et al. Ann Allergy Asthma Immunol. 2006;96:45-50.6)Giovannini M, et al. Pediatr Res. 2007;62:215-220.7)Horak F, et al. Inflamm Res. 2010;59:391-398.8)Dakhale G. J Pharmacol Pharmacother. 2016 Oct-Dec 7:171–176.9)Stempel DA, et al. Am J Manag Care. 1998;4:89-96.10)Yanai K, et al. Pharmacol Ther. 2007 Jan 113:1-15.11)WHO Drug Information Vol.16, No.4, 200212)Yonekura S, et al. Int Arch Allergy Immunol. 2013;162:71-78.13)「環境省 花粉情報サイト」

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andexanet alfa、第Xa因子阻害薬による大出血に高い止血効果/NEJM

 andexanet alfaは、第Xa因子阻害薬の使用により急性大出血を来した患者において、抗第Xa因子活性を著明に低下させ、良好な止血効果をもたらすことが、カナダ・マックマスター大学のStuart J. Connolly氏らが行ったANNEXA-4試験で示された。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2019年2月7日号に掲載された。andexanet alfaは、第Xa因子阻害薬の中和薬として開発された遺伝子組み換え改変型ヒト第Xa因子不活性体で、2018年、米国食品医薬品局(FDA)の迅速承認プログラムの下、アピキサバンまたはリバーロキサバン治療中に出血を来し、抗凝固薬の中和を要する患者への投与が承認を得ている。本試験は2016年に中間解析の結果が発表され、現在、エドキサバン投与例を増やすために、継続試験としてドイツで患者登録が続けられ、2019年中には日本でも登録が開始される予定だという。andexanet alfa投与後の抗第Xa因子活性の変化と止血効果を評価 本研究は、北米および欧州の63施設が参加した非盲検単群試験であり、2015年4月~2018年5月の期間に、中間解析の対象となった67例を含む352例が登録された(Portola Pharmaceuticalsの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、第Xa因子阻害薬投与から18時間以内に急性大出血を発症した患者であった。被験者には、andexanet alfaが15~30分でボーラス投与され、その後2時間をかけて静脈内投与された。 主要アウトカムは2つで、(1)andexanet alfa投与後の抗第Xa因子活性の変化率、(2)静脈内投与終了から12時間後の止血効果が、事前に規定された基準で「きわめて良好」または「良好」と判定された患者の割合であった。 andexanet alfaの有効性の評価は、大出血が確認され、ベースラインの抗第Xa因子活性が75ng/mL以上(エノキサパリン投与例では0.25IU/mL以上)のサブグループで行った。andexanet alfaの止血効果は82%で良好以上、活性低下は効果を予測せず 対象の平均年齢は77歳で、48例(14%)が心筋梗塞、69例(20%)が脳卒中、67例(19%)が深部静脈血栓症、286例(81%)が心房細動、71例(20%)が心不全、107例(30%)が糖尿病の病歴を有していた。 また、128例(36%)がリバーロキサバン、194例(55%)がアピキサバン、10例(3%)がエドキサバン、20例(6%)がエノキサパリンの投与を受けていた。主な出血部位は、頭蓋内が227例(64%)、消化管が90例(26%)だった。254例(72%)が有効性評価の基準を満たした。 有効性評価では、アピキサバン群(134例)は抗第Xa因子活性中央値がベースラインの149.7ng/mLからandexanet alfaのボーラス投与終了時には11.1ng/mLへと、92%(95%信頼区間[CI]:91~93)低下し、リバーロキサバン群(100例)は211.8ng/mLから14.2ng/mLへと、92%(88~94)低下した。また、エノキサパリン群(16例)は0.48IU/mLから0.15IU/mLへと、75%(66~79)低下した。3剤とも、この効果が静脈内投与終了時まで、ほぼ維持されていた。 andexanet alfaの静脈内投与終了から4、8、12時間後の抗第Xa因子活性中央値のベースラインからの変化率は、アピキサバン群がそれぞれ-32%、-34%、-38%、リバーロキサバン群が-42%、-48%、-62%だった。 andexanet alfaの止血効果の評価は249例で行われた。このうち204例(82%)が、「きわめて良好」(171例)または「良好」(33例)と判定された。これには、アピキサバン群の83%、リバーロキサバン群の80%、エノキサパリン群の87%が含まれ、頭蓋内出血の80%、消化管出血の85%が該当した。 30日以内に49例(14%)が死亡し、34例(10%)に血栓イベントが認められた。全体として、抗第Xa因子活性の低下は止血効果を予測しなかった(AUC:0.53、95%CI:0.44~0.62)が、頭蓋内出血の患者ではある程度の予測因子であった(0.64、0.53~0.74)。 著者は、82%というandexanet alfaの止血効果は、ビタミンK拮抗薬治療に伴う大出血に対するプロトロンビン複合体製剤の試験で観察された72%に匹敵するとした。一方、抗第Xa因子活性低下は頭蓋内出血での臨床効果を予測したとはいえ、抗第Xa因子活性の測定は難しく、実臨床において有用となる可能性はほとんどないだろうと指摘している。

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入院患者の不眠症治療における催眠鎮静薬減量のための薬剤師介入

 多くの患者において入院は不眠症の原因となり、通常は対症療法で治療が行われる。しかし、催眠鎮静薬の誤った使用は、とくに高齢入院患者において合併症と関連している。この合併症には、めまい、転倒、過鎮静が含まれる。このような潜在的な危険性のため、とくに高齢者においては、不眠症に対する催眠鎮静薬の広範な使用は、多くの病院で推奨されていない。サウジアラビア・King Abdulaziz University Faculty of PharmacyのAisha F. Badr氏らは、処方パターンの検討および評価を行い、地域病院における日々の薬剤師介入を通じた催眠鎮静薬の使用最適化について検討を行った。Saudi Pharmaceutical Journal誌2018年12月号の報告。 本研究は、前後比較研究として催眠鎮静薬の使用や合併症発症などについて、薬剤師による介入前と介入後で比較を行った。催眠鎮静薬の使用に関するデータを2ヵ月間レトロスペクティブに収集し、分析のために100例の患者サンプルをランダムに選択した。2ヵ月間のフォローアップでは、薬剤師1名が日々の処方を検討し、必要に応じて不要薬の中止や催眠鎮静薬の新規処方の勧告を行った。介入前後における結果は、患者の人口統計学的要因の違い、複数の催眠鎮静薬の処方、合併症の記録について比較を行った。 主な結果は以下のとおり。・薬剤師の介入により、97例の患者の25%が催眠鎮静薬を中止した。・複数の催眠鎮静薬を投与されている患者数は、介入後のほうが介入前よりも有意に少なかった(15例 vs.34例、p=0.0026)。・合併症の発生率は、介入前後で有意な差は認められなかった(過鎮静:p=0.835、転倒:p=0.185、せん妄:p=0.697)。 著者らは「救命救急を除く入院患者において、催眠鎮静薬の使用は広まっている。また、多くの患者が複数の催眠鎮静薬を服用している可能性もあり、潜在的な問題が蓄積する可能性がある。薬剤師介入により、催眠鎮静薬を処方されている入院患者の25%が使用を中止し、複数の催眠鎮静薬使用患者も有意に減少した。入院患者に対する不必要な催眠鎮静薬の使用を避け、薬剤師によるモニタリングが最適化されるよう、さらなる努力を行うべきである」としている。■関連記事ベンゾジアゼピン系薬の中止戦略、ベストな方法は不眠症におけるデュアルオレキシン受容体拮抗薬とその潜在的な役割に関するアップデートメラトニン使用でベンゾジアゼピンを簡単に中止できるのか

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第7回 意識障害 その6 薬物中毒の具体的な対応は?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)ABCの安定が最優先! 気管挿管の適応を正しく理解しよう!2)治療の選択は適切に! 胃洗浄、血液浄化の適応は限られる。3)検査の解釈は適切に! 病歴、バイタルサイン、身体所見を重視せよ!【症例】42歳女性の意識障害:これまたよく遭遇する症例42歳女性。自室のベッド上で倒れているところを、同居している母親が発見し、救急要請。ベッド脇には空のPTP(press through pack[薬のシート])が散在していた。救急隊接触時のバイタルサインは以下のとおり。どのようにアプローチするべきだろうか?●搬送時のバイタルサイン意識:200/JCS血圧:102/58mmHg 脈拍:118回/分(整) 呼吸:18回/分 SpO2:97%(RA)体温:36.9℃ 瞳孔:3/3mm +/+この症例、誰もが急性薬物中毒を考えると思います。患者の周りには薬のシートも落ちているし、おそらくは過量に内服したのだろうと考えたくなります。急性薬物中毒の多くは、経過観察で改善しますが、ピットフォールを理解し対応しなければ、痛い目に遭いかねません。「どうせoverdose(薬物過量内服)でしょ」と軽視せず、いちいち根拠をもって鑑別を進めていきましょう。重度の意識障害で意識することは?(表1)このコーナーの10's Ruleの「1)ABCの安定が最優先!」を覚えているでしょうか。重度の意識障害、ショックでは気管挿管を考慮する必要がありました。意識の程度が3桁(100~300/JCS)と重度の場合には、たとえ酸素化の低下や換気不良を認めない場合にも、確実な気道確保目的に気管挿管を考慮する必要があることを忘れてはいけません。薬物中毒に伴う重度の意識障害、出血性ショック(消化管出血、腹腔内出血など)症例が典型的です。考えずに管理をしていると、目を離した際に舌根沈下、誤嚥などを来し、状態の悪化を招いてしまうことが少なくありません。来院時の酸素化や換気が問題なくても、バイタルサインの推移は常に確認し、気管挿管の可能性を意識しておきましょう。●Rule1 ABCの安定が最優先!●Rule8 電解質異常、アルコール、肝性脳症、薬物、精神疾患による意識障害は除外診断!画像を拡大する薬物中毒のバイタルサイン内服した薬剤や飲酒の併用の有無によってバイタルサインは大きく異なります。覚醒剤やコカインなど興奮系の薬剤では、血圧や脈拍、体温は上昇します。それに対して、頻度の高いベンゾジアゼピン系薬に代表される鎮静薬ではすべて逆になります。飲酒もしている場合には、さらにその変化が顕著となります。瞳孔も重要です。興奮系では一般的に散瞳し、オピオイドでは縮瞳します。救急外来では明らかな縮瞳を認める場合には、脳幹病変以外にオピオイド、有機リン中毒を考えます。「目は口ほどにものを言う」ことがあります。自身で必ず瞳孔所見をとることを意識しましょう。薬物中毒の基本的な対応は?急性薬物中毒の場合には、意識障害が遷延することが少なくないため、内服内容、内服時間をきちんと確認しましょう。内服してすぐに来院した場合と、3時間経過してから来院した場合とでは対応が大きく異なります。薬物過量内服においても初療における基本的対応は常に一緒です。“Airway、Breathing、Circulation”のABCを徹底的に管理します。原因薬剤が判明している場合には、拮抗薬の有無、除染・排泄促進の適応を判断します。拮抗薬など特徴的な治療のある中毒は表2のとおりです。最低限これだけは覚えておきましょう。除染や排泄促進は、内服内容が不明なときにはルーチンに行うものではありません。ここでは胃洗浄の禁忌、血液透析の適応を押さえておきましょう。画像を拡大する胃洗浄の禁忌意識障害患者において、確実な気道確保を行うことなしに胃洗浄を行ってはいけません。誤嚥のリスクが非常に高いことは容易に想像がつくでしょう。また、酸やアルカリを内服した場合も腐食作用が強く、穿孔のリスクがあるため禁忌です。胃洗浄を行い、予後を悪くしてはいけません。意識状態が保たれ、内服内容が判明している場合に限って行うようにしましょう。もちろん薬物が吸収されてしまってからでは意味がないため、原則内服から1時間を経過している場合には適応はないと考えておいてよいでしょう。CTを撮影し薬塊などが胃内に貯留している場合には、胃洗浄が有効という報告もありますが、薬物中毒患者全例に胸腹部CTを撮影することは現実的ではありません1)。エコー検査で明らかに胃内に貯留物がある場合には、考慮してもよいかもしれません。活性炭の投与もルーチンに行う必要はありません。胃洗浄の適応症例には、洗浄後投与すると覚えておけばよいでしょう。血液透析の適応となる中毒体内に吸収されたものを、体外に除去する手段として血液透析が挙げられますが、これもまたルーチンに行うべきではありません。多くの薬物は血液透析では除去できません。判断する基準として、分布容積と蛋白結合率を意識しましょう。分布容積が小さく、蛋白結合率が低ければ透析で除去しえますが、そういったものは表3のような中毒に限られます。診療頻度の高いベンゾジアゼピン系薬や非ベンゾジアゼピン系薬(Z薬)、三環系抗うつ薬は適応になりません。ベンゾジアゼピン系薬、Z薬の過量内服は遭遇頻度が高いですが、それらのみの内服であれば過量に内服しても、きちんと気道を確保し管理すれば、一般的に予後は良好であり透析は不要なのです。画像を拡大する薬物中毒の検査は?1)心電図心電図は忘れずに行いましょう。QT延長症候群など、薬剤の影響による変化を確認することは重要です。内服時間や意識状態を加味し、経時的に心電図をフォローすることも忘れてはいけません。以前の心電図の記録が存在する場合には、必ず比較し新規の変化か否かを評価しましょう。2)血液ガス酸素化や換気の評価、電解質や血糖値の評価、そして中毒に伴う代謝性アシドーシスを認めるか否かを評価しましょう。3)尿中薬物検査キットトライエージDOAなどの尿中薬物検査キットが存在し、診療に役立ちますが、結果の解釈には注意しなければなりません。陽性だから中毒、陰性だから中毒ではないとはいえないことを覚えておきましょう。偽陽性、偽陰性が少なくないため、病歴と合わせ、根拠の1つとして施行し、結果の解釈を誤らないようにしましょう。薬物中毒疑い患者の実際の対応“10's Rule”にのっとり対応することに変わりはありません。Ruleの1~4)では、重度の意識障害であるため、気管挿管を意識しつつ、患者背景を意識した対応を取ります。薬物過量内服患者の多くは女性、とくに20~50代です。また、薬物過量内服は繰り返すことが多く、身体所見では利き手とは逆の手にリストカット痕を認めることがあります。意識しておくとよいでしょう。バイタルサインがおおむね安定していれば、低血糖を否定し、頭部CTを撮影します。この場合には、脳卒中の否定以上に外傷検索を行います。薬物中毒の患者は、アルコールとともに薬を内服していることもあり、転倒などに伴う外傷を併発する場合があるので注意しましょう。また、採血では圧挫に伴う横紋筋融解症*を認めることもあります。適切な輸液管理が必要となるため、CK値や電解質、腎機能は必ず確認しましょう。アルコールの関与を疑う場合には、浸透圧ギャップからアルコールの推定血中濃度を計算すると、診断の助けとなります。詳細は、次回以降に解説します。*急性中毒の3合併症:誤嚥性肺炎、異常体温、非外傷性圧挫症候群急性薬物中毒の多くは、特異的な治療をせずとも時間経過とともに改善します。また、繰り返すことが多く、再来した場合には軽視しがちです。そのため、確立したアプローチを持たなければ痛い目をみることが少なくないのです。外傷や痙攣、誤嚥性肺炎の合併を見逃す、アルコールとともに内服しており、症状が遷延するなどはよくあることです。根拠をもって確定、除外する意識を常に持ちながら対応しましょう。症例の経過本症例では空のPTPの存在や40代の女性という背景から、第一に薬物過量内服を疑いながら、Ruleにのっとり対応しました。母親から病歴を聴取すると、来院3時間前までは普段どおりであり、その後患者の携帯電話の記録を確認すると、付き合っている彼氏とのメールのやり取りから、来院2時間ほど前に衝動的に薬を飲んだことが判明しました。内服内容もベンゾジアゼピン系の薬を中心としたもので致死量には至らず、採血や頭部CTでも異常がないことが確認できたため、モニタリングをしながら、家族付き添いの下、入院管理としました。時間経過とともに症状は改善し、翌日には意識清明、独歩可能となり、かかりつけの精神科と連携を取り、退院となりました。本症例は典型的な薬物中毒症例であり、基本的なことを徹底すれば恐れることはありません。きちんと病歴や身体所見をとること、バイタルサインは興奮系か抑制系かを意識しながら解釈し、瞳孔径を忘れずに確認すればよいのです。次回は、アルコールによる意識障害のピットフォールを、典型的なケースから学びましょう。1)Benson BE, et al. ClinToxicol(Phila). 2013;51:140-146.

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マルファン症候群〔MFS:Marfan syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義マルファン症候群(Marfan syndrome:MFS)は、結合組織の主要成分の1つであるfibrillinの質的あるいは量的異常による先天性の結合組織疾患である。心血管、眼、骨、関節、皮膚,肺を含む全身の結合組織において広範かつ多彩な表現型を呈するが、とくに大動脈瘤(基部拡張)・解離と水晶体偏位(亜脱臼)が重要な所見で、前者は90%以上、後者は50%以上の患者で認める。病名は、1896年にフランスの小児科医であったAntoine Marfan博士が、長く細い指(arachnodactyly:クモ指)が特徴的な少女の症例を報告したことに由来する。当初は、高身長・側弯・胸郭異常などの骨格症状のみが注目されたが、その後、重篤な大動脈解離を高頻度に合併することがわかり、循環器疾患として再認識されるようになった。常染色体優性遺伝による遺伝性疾患であるが、約25%では家族歴を認めず、突然変異によるとされる。■ 疫学発症頻度は、人種に関わりなく5,000~1万人出生に1人とされ、性差はない。■ 病因15番染色体長腕に位置するFBN1遺伝子の機能喪失型の変異により発症する。FBN1遺伝子がコードするfibrillinは弾性線維の骨格成分であるmicrofibrilの主成分であるため、弾性線維に富む筋・皮膚・肺などの臓器が障害される。また、fibrillinは眼球を保持するチン小帯の主成分でもあるため、チン小帯の断裂や弛緩により水晶体偏位を生じる。そのほか、fibrillinは、細胞増殖抑制や分化に関わるTGF-βの組織における活性制御に関与していることから、多彩な症状の背景にはTGF-βの機能亢進も関係していると推測されている。■ 症状臨床症状は、心血管系、眼系、骨格系、その他に大別される。1)心血管系:大動脈瘤・解離、僧帽弁逸脱、大動脈弁閉鎖不全、僧帽弁閉鎖不全MFSでは、大動脈中膜の平滑筋が障害されるため、大動脈全般で拡張や解離を来しやすく、実際、大動脈病変は、60歳までにはほぼ全例で認めるとされる最も重要な所見である。なかでも特徴的な所見は、大動脈基部(バルサルバ洞)の拡大(図1)である。画像を拡大する比較的早期から大動脈基部のバルサルバ洞部の洋梨状拡大を認めることが多いが、初期には自覚症状は乏しく、その後、上行大動脈や胸部下行大動脈にも拡大が及び、大動脈弁閉鎖不全や大動脈解離を合併して初めて自覚症状が現れる、という経過をたどることが多い。一般的に、軽度の基部拡張は小児期より認められるが、小児循環器科専門医でないと見過ごされやすい。大動脈基部径と大動脈解離のリスクには、ある程度の相関が見られ、拡大傾向が強くなる青年期以降に解離のリスクが高くなる。解離部位は、上行大動脈を含むことが多いが、胸部下行大動脈が初発部位となることもある。僧帽弁逸脱所見は約75%の患者で認め、粘液変性(myxomatous degeneration)所見も約25%で認める。僧帽弁逸脱は、MFSの特徴的症状のそろわない小児期でも認められることが多い。聴診の際の収縮中期クリック音で気付かれるが、確認には心臓超音波検査が最も有効である。重度の僧帽弁閉鎖不全は、新生児MFSを除くと病初期にはまれであるが、幼~小児期以降は、僧帽弁閉鎖不全による症状が前面に出てくる場合がある。その他、肺動脈基部の拡張や三尖弁逸脱もしばしば認めるが、治療の対象となることは少ない。2)眼系:水晶体偏位(亜脱臼・脱臼・振盪)、近視、乱視、網膜剥離、白内障、緑内障水晶体を支えるチン小帯の脆弱性により、水晶体偏位(亜脱臼・脱臼・振盪)や、水晶体性近視・乱視を発症する。また、眼軸が伸びることによる軸性近視もしばしば認める。水晶体偏位は、MFS患者の50~60%で認め、他の類縁疾患ではみられない特徴的所見であるため、診断的価値はきわめて高い。水晶体偏位は、外傷性の場合と異なり、両側性で上方にずれることが多いとされる。幼児期に高度の偏位を認める場合には、将来の弱視につながる可能性があるため、早期の治療を要する。一方、偏位が軽度の場合は、視力も正常に保たれるため、診断には散瞳下細隙灯検査が必要である。網膜剥離、白内障、緑内障も、一般に比べるとやや頻度が高い。3)骨格系:高身長、細く長い指、側弯、胸郭変形、扁平足ほか長管骨が長軸方向に伸びる結果、高身長で手足が長いdolichostenomeliaを認める。指が長く関節が柔らかいことによる親指徴候(サムサイン)・手首徴候(リストサイン)はarachnodactyly(クモ指)と称され、MFSの代表的身体所見で、幼少児期よりみられることが多い(図2)。漏斗胸、鳩胸、脊椎側弯、脊椎後弯などの胸郭病変も小児期より認める場合が多いが、成長期に増悪しやすい。その他、外反扁平足、高口蓋、叢生歯(歯列不正)も高率に認める。顔貌の特徴としては、長頭、頬骨低形成、眼球陥凹、下顎後退、眼瞼裂斜下などが傾向として挙げられる。画像を拡大する4)その他自然気胸は全体の約15%で認める。皮膚弾性組織の断裂による線状性皮膚萎縮(皮膚線条)も、成人には高頻度で認めるが、小児期には少なく、成長期以降に増加する。鼠径ヘルニアや瘢痕ヘルニアも一般に比べて高い頻度で認める。腰仙部の脊髄硬膜拡張もCTやMRIによる画像検査でしばしば認める所見であるが、自覚症状はない場合がほとんどである。■ 予後生命予後は、大動脈解離をはじめとする心血管系合併症に左右される。1986年に報告された大動脈基部置換術(Bentall手術)により生命予後は劇的に改善したが、その後、予防的自己弁温存大動脈基部置換術(David手術、Yacoub手術)など、解離前に脆弱な大動脈基部を人工血管に置換する術式の開発により、さらに生命予後は改善している。また、小児期よりβ遮断薬やアンギオテンシン受容体拮抗薬の内服が、大動脈拡張自体をある程度抑制できることも大規模臨床試験で示された。近年では、早期診断と早期からの医療管理により、健康な人と遜色ない生命予後が期待できるところまできている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)国際的診断基準である「ゲント診断基準(2010改訂)」に従う。診断は、(1)大動脈基部病変、(2)水晶体偏位、(3)遺伝学的検査、(4)全身徴候スコア、に基づいてなされる(表1)。診断に必要な項目は、家族歴の有無により異なる。この基準により、MFSの95%以上は診断可能とされる。表1 マルファン症候群(MFS)診断のための改訂ゲント基準(2010)【家族歴がない場合】(1)大動脈基部病変(Z≧2)1)+水晶体偏位 → MFS(2)大動脈基部病変+FBN1遺伝子異常2) → MFS(3)大動脈基部病変+全身徴候(7点以上) → MFS*(4)水晶体偏位+(大動脈病変との関係が既知の)FBN1遺伝子異常 → MFS【家族歴がある場合】(5)水晶体偏位+家族歴3) → MFS(6)全身徴候(7点以上)+家族歴 → MFS*(7)大動脈基部病変(Z≧2(20歳以上)、Z≧3(20歳未満))+家族歴 → MFS*・水晶体偏位があっても、大動脈病変と関連するFBN1遺伝子変異を認めない場合は、全身徴候の有無にかかわらず「水晶体偏位症候群(ELS)」とする。・大動脈基部病変が軽度で(バルサルバ洞径;Z<2)、全身徴候(≧5点で骨格所見を含む)を認めるが、水晶体偏位を認めない場合は「MASS」4)とする。・僧帽弁逸脱を認めるが、大動脈基部病変が軽度で(バルサルバ洞径;Z<2)、全身徴候を認めず(<5点)、水晶体偏位も認めない場合は「僧帽弁逸脱症候群(MVPS)」とする。・MFS*:この場合の診断は、類縁疾患であるShprintzen-Goldberg症候群、Loeys-Dietz症候群、血管型エ-ラスダンロス症候群との鑑別を必要とし、所見よりこれらの疾患が示唆される場合の判定は、TGFBR1/2遺伝子、COL3A1遺伝子、コラーゲン生化学分析などの諸検査を経てから行うこと。なお、鑑別を要する疾患や遺伝子は、将来変更される可能性がある。注1)大動脈基部径(バルサルバ洞径)の拡大(体表面積から算出された標準値との差をZ値で判定)、または大動脈基部解離注2)FBN1遺伝子異常の意義付けに関しては別に詳しく規定されている(詳細は省略)注3)上記の(1)~(4)により、個別に診断された発端者を家族に有する注4)MASS:近視、僧帽弁逸脱、境界域の大動脈基部拡張(バルサルバ洞径;Z<2)、皮膚線条、骨格系症状の表現型を有するもの(訳者注 MASSとは、“Mitral valve、Aorta、Skin、Skeletal features”をあらわす)■ 診断のための検査大動脈基部病変の評価は、心臓超音波検査、胸部CT(造影・非造影)検査、胸部MRI/MRA検査による。このうち心臓超音波検査は、大動脈基部の評価や心臓弁や心機能の評価に最も適しており、定期的フォローには欠かすことができない検査である。大動脈基部病変の定義は拡張および解離であるが、このうち拡張の評価は、バルサルバ洞径の実測値と体表面積から算出した標準値を比較して行われ、成人では、実測値が標準値の+2SD以上、小児では+3SD以上を有意な拡張とする。一方、弓部以降の大動脈や分枝動脈の評価には、CTやMRI検査が適しており、年齢や目的に応じて適宜使い分ける。水晶体偏位を含む眼病変は、通常の眼科的検査で評価する。水晶体偏位の有無は、散瞳薬により瞳孔を開いた状態で細隙灯(スリットランプ)下で確認する。遺伝学的検査では、FBN1遺伝子の病原性変異(バリアント)を検出する。FBN1遺伝子は巨大な遺伝子であり、病気の発症と関係しないバリアントや、MFS以外の疾患の原因となるバリアントも存在するため、病原性の判定には注意を要する。わが国ではMFSの診断のための遺伝学的検査は、2016年4月より保険診療として認められており、国内では、かずさDNA研究所などが検査を受注している。全身徴候スコアは、通常の理学的検査による身体所見やX線やCTなどの一般的画像所見を用いて評価するもので、項目別に点数化し、全20点中7点以上のスコアを陽性と判断する(表2)。ここには、旧ゲント基準に含まれていた、上記以外のほとんどが含まれる。項目の詳細は、画像付きで米国マルファン協会のHPの中で紹介されている。表2 改訂ゲント基準における全身徴候スコア画像を拡大する■ 鑑別診断大動脈瘤・解離を合併しやすい疾患および類似の骨格所見・眼所見を呈する疾患が鑑別の対象となる。いずれも、改訂ゲント基準により鑑別可能である。・ロイス・ディーツ症候群(Loeys-Dietz syndrome)・血管型エーラス・ダンロス症候群(Vascular Ehlers-Danlos syndrome)・家族性胸部大動脈瘤・解離症候群(Familial thoracic aortic aneurysm and dissection syndrome)・動脈蛇行症候群(Arterial tortuosity syndrome)・先天性拘縮性くも状指趾症(Congenital contractural Arachnodactyly/Beals syndrome)・ホモシスチン尿症(Homocystinuria)・スティックラー症候群(Stickler syndrome)3 治療 (治験中・研究中のものも含む)心血管系合併症に対する治療で最も重要なのは大動脈瘤・解離の予防である。内科的治療としては、β遮断薬あるいはアンギオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の内服で、基部の拡張を認めるときには、できるだけ早期に治療を開始することが推奨されている。大動脈基部径が45mmを超えると大動脈解離のリスクが高くなるため、予防的大動脈基部置換手術を考慮する。これには、自己弁温存手術(David手術、Yacoub手術)と生体弁や機械弁を用いたBentall手術があるが、それぞれ長所・短所があるため、患者の年齢・性別・生活歴などを考慮しながら、最善の方法を選択する。なお、女性患者の場合、将来の妊娠の可能性を踏まえた治療が大切である。つまり、大動脈基部径が40mmを超えると妊娠中の大動脈解離リスクが高くなるため、そのままでの妊娠は難しくなる。したがって、女児では、成長後の基部径が40mm以下に保てるように、小児期から適切に降圧薬治療を継続することが重要である。その他、僧帽弁閉鎖不全や不整脈に対する治療は、通常の場合と同様である。水晶体偏位を認める場合、軽症なら眼鏡などによる視力矯正のみで経過観察を行うが、偏位が重症で完全脱臼や弱視の可能性がある場合は水晶体摘出手術や眼内レンズ縫着手術が行われる。高度近視の場合や水晶体手術後は網膜剥離のリスクが高くなるので、定期的に眼科を受診する必要がある。側弯、漏斗胸、気胸、ヘルニアなど、上記以外の合併症に対しては、いずれも対症療法が基本である。4 今後の展望致死的合併症となりうる大動脈解離の予防には、早期診断および早期治療介入が必須である。内科的治療に関しては、大規模臨床試験で、小児期からのβ遮断薬とアンギオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)内服に大動脈基部拡張予防効果のあることが示され、標準的治療として定着してきた。また、外科的治療についても、致死的な大動脈解離の発症を防ぐための予防的大動脈基部人工血管置換手術も、手術手技の進歩により自己弁温存手術が標準的治療として定着しつつあり、術後のQOLも改善している。5 主たる診療科循環器内科、小児科、臨床遺伝科、眼科、心臓血管外科、整形外科※全身性疾患であり、各科専門医によるチーム診療が望ましい。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センタ- マルファン症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾病情報センタ- マルファン症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)GeneReviewsJapan  マルファン症候群(医療従事者向けのまとまった情報)GeneReviews “Marfan syndrome”(医療従事者向けのまとまった疾患情報:英語のみ)National Library of Medicine Genetics Home Reference(医療従事者向けのまとまった情報:英語のみ)National Marfan Foundation (NMF)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報:英語のみ)患者会情報マルファンネットワークジャパン(患者とその家族および支援者の会)日本マルファン協会(患者とその家族および支援者の会)1)Loeys BL, et al. J Med Genet. 2010;47:476-485.2)Neptune ER, et al. Nat Genet. 2003;33:407-411.3)Lacro RV, et al. N Engl J Med. 2014;371:2061-2071.公開履歴初回2018年11月27日

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拡張型心筋症の治療は回復後中止してよいか/Lancet

 症状および心機能が回復した拡張型心筋症患者では、薬物療法を中止すべきか否かが問題となる。英国・王立ブロンプトン病院のBrian P. Halliday氏らは、治療を中止すると再発のリスクが高まるとの研究結果(TRED-HF試験)を示し、Lancet誌オンライン版2018年11月11日号で報告した。拡張型心筋症患者のアウトカムはさまざまで、多くは良好な経過をたどる。回復した患者における治療中止を前向きに調査したデータはないため、専門家のコンセンサスは得られておらず、明確な推奨を記載したガイドラインはないという。中止と継続の再発リスクを比較する無作為化パイロット試験 本研究は、回復した拡張型心筋症患者における治療中止の安全性を評価する非盲検無作為化パイロット試験(英国心臓財団などの助成による)。 対象は、現在は無症状の拡張型心筋症で、左室駆出率が40%未満から50%以上に改善し、左室拡張末期容積(LVEDV)が正常化し、NT-pro-BNP濃度が250ng/L未満の患者であった。患者登録は、英国の病院ネットワークを通じて行われた。被験者は、治療を中止する群または継続する群に無作為に割り付けられた。 治療中止群は、4週ごとに臨床評価を行い、ループ利尿薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、β遮断薬、ACE阻害薬/ARBの順に投与を中止した。治療継続群は、6ヵ月後から同様の方法で治療を中止した。6ヵ月までを無作為割り付け期、6ヵ月以降は単群クロスオーバー期とした。 主要エンドポイントは、6ヵ月以内の拡張型心筋症の再発であった。再発の定義は、次の4つのうち1つ以上を満たす場合とした。1)LVEFの10%以上の低下かつLVEF<50%、2)LVEDVの10%以上の上昇かつ正常範囲を超える、3)NT-pro-BNP濃度がベースラインの2倍に上昇かつ400ng/L以上、4)徴候および症状に基づく心不全の臨床的エビデンス。全体の再発率は40%、再発予測因子の確立までは治療継続を 2016年4月21日~2017年8月22日の期間に51例が登録され、治療中止群に25例(年齢中央値:54歳[IQR:46~64]、男性:64%)、治療継続群には26例(56歳[45~64]、69%)が割り付けられた。 6ヵ月までに、治療中止群の11例(44%)が再発したのに対し、治療継続群では再発は認めなかった。Kaplan-Meier法による6ヵ月時の治療中止群のイベント発生率は45.7%(95%信頼区間[CI]:28.5~67.2、p=0.0001)であった。 6ヵ月以降、治療継続群は26例中25例(96%)で治療を中止した(1例は発作性心房細動が疑われたため中止できなかった)。このうち、単群クロスオーバー期の6ヵ月のフォローアップ期間中に9例が再発し、イベント発生率は36.0%(95%CI:20.6~57.8)であった。 したがって、治療を中止した50例中20例(40%)が再発したことになる。再発の原因は、LVEF低下が12例(60%)、LVEDV上昇が11例(55%)、NT-pro-BNP濃度上昇が9例(45%)、末梢浮腫の発現が1例(5%)であった。 両群とも死亡例の報告はなく、心不全による予定外の入院や主要有害心血管イベントもみられなかった。治療中止群で重篤な有害事象3件(非心臓性胸痛、尿路性敗血症、既存疾患への待機的手技のための入院)が認められた。 無作為割り付け期では、治療中止との関連が認められた因子として、LVEF低下(p=0.0001)、心拍数増加(p<0.0001)、拡張期血圧上昇(p=0.0083)、KCCQ(カンザスシティー心筋症質問票)スコア低下(p=0.0354)が挙げられた。 著者は、「再発の頑健な予測因子が確立されるまでは、期限を設けずに治療を継続すべきと考えられるが、患者が治療中止を希望する場合は、注意深く、かつさらなる情報を得るまでは無期限に、心機能の監視を行う必要がある」とし、「今後、心不全の薬物療法を安全に中止可能な患者や、一部の薬剤のみの継続投与によって心機能の恒久的な回復が維持できる患者のサブグループを同定する検討が必要である」と指摘している。

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新規NK1受容体拮抗薬fosnetupitantの可能性/癌治療学会

 新規NK-1受容体拮抗薬fosnetupitantは、NK1受容体に対して高い選択性を有するnetuspitantのプロドラッグである。また、長い半減期を有し、第I相試験で日本人患者に良好な成績を示している。第56回日本癌治療学会学術集会では、浜松医科大学 乾 直輝氏らが、第II相Pro-NETU試験の結果を発表した。 Pro-NETU試験は、シスプラチン(CDDP)ベースの化学療法を受けている患者における、fosnetupitant 81mgと235mgの有効性と安全性を評価する目的で行われた多施設二重盲検プラセボ対照用量決定試験。・対象:CDDP 70mg/m2以上のレジメンを受ける、20歳以上で、高度および中等度催吐性化学療法の治療歴のない患者・試験薬: [fosnetupitant 81mg群]fosnetupitant(81mg)+パロノセトロン(0.75mg)+デキサメタゾン(9.9/6.6/6.6/6.6mg) [fosnetupitant 235mg群]fosnetupitant(235mg)+パロノセトロン(0.75mg)+デキサメタゾン(9.9/6.6/6.6/6.6mg)・対象薬:プラセボ+パロノセトロン(0.75mg)+デキサメタゾン(13.2/6.6/6.6/6.6mg)・評価項目: [主要評価項目]全段階(化学療法開始0~120時間)における化学療法投与後0~120分後の完全奏効(CR:嘔吐なし、救済療法なし)率。 [副次評価項目]年齢、性別で無調整のCR率、Complete Protection Rate、安全性プロファイルなど。 仮説CR率はプラセボ50%、81mg群65%、235mg群65%であった。 主な結果は以下のとおり。・594例が、プラセボ群に197例、fosnetupitant 81mg群に199例、fosnetupitant 235mg群に198例に、無作為に割り付けられた。・全CR率は、プラセボ群54.7%、fosnetupitant 81mg群63.8%(p=0.061)、fosnetupitant 235mg群76.8%(p<0.001)と、235mg群で有意に改善した。・無調整のCR率は、fosnetupitant群は全用量群、急性期、遅発期のいずれにおいても、効果と用量は相関した。・fosnetupitant群における有害事象の発現傾向はプラセボと同等であった。また、インフュージョンリアクションの発現は1%で、すべてGrade1~2であった。 fosnetupitantの推奨用量は235mgであり、これは米国での承認用量と同様であった。

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抗肥満薬であるlorcaserinは日本でも使用できるのだろうか(解説:吉岡成人氏)-942

抗肥満薬は臨床の現場に出てこない 肥満治療の基本は、食事療法と運動療法であり、非薬物療法を3ヵ月をめどに行ったうえでも、改善が認められない場合に薬物治療が考慮される。しかし、日本で使用が可能な薬剤はマジンドールしかない。米国では、膵リパーゼ阻害薬で腸管からの脂肪吸収を抑制する作用を持ったorlistatも発売されているが、日本での発売の予定はない。脳内で摂食亢進や快楽・報酬系に作動するカンナビノイド受容体の拮抗薬であるrimonabantは、自殺企図を含む重篤な精神疾患を引き起こすことから2008年に開発が中止となっている。また、ノルアドレナリンとセロトニンの再吸収取り込み阻害薬であるsibutramineは、血圧の上昇や心筋梗塞、脳卒中のリスク増加のため2010年に欧米の市場から撤退している。このように、抗肥満薬は開発・中断を繰り返しており、臨床の現場で応用されることがきわめて難しい薬剤となっている。lorcaserin 今回、抗肥満薬として期待されていたlorcaserinが、肥満2型糖尿病患者に対して有用である可能性を示す論文がLancet誌に報告された(Bohula EA, et al. Lancet. 2018 Oct 3. [Epub ahead of print])。lorcaserinはセロトニン5-HT(5-hydroxy-triptamine)2c受容体のアゴニストである。セロトニンは脳内に存在するモノアミンで、5-HT受容体を介して摂食抑制、睡眠、鎮静、疼痛閾値の調整、母性行動などに関与している。5-HT2c受容体は視床下部に発現し、食欲抑制に関与しており、そのノックアウトマウスでは過食や肥満をもたらすことが知られている。5-HT2c受容体への選択性が強いlorcaserinは、2010年に前臨床試験段階で乳腺腫瘍と星細胞腫の発生を増加させるリスクが懸念され、米国食品医薬品局(FDA)で認可されなかった。しかし、その後の第III相試験で腫瘍発生の増加がなかったため、2012年にFDAが認可した薬剤である。lorcaserinの心血管安全性 lorcaserinの心血管系に対する安全性を評価した二重盲検試験であるCAMELLIA(Cardiovascular and metabolic effects of lorcaserin in overweight and obese patients)-TIMI 61試験の結果が、2018年8月26日にNEJM誌電子版に掲載されている(Bohula EA, et al. N Engl J Med. 2018;379:1107-1117.)。 心血管死亡、心筋梗塞、脳卒中を合わせた複合イベントを主要評価項目とし、有効性については主要評価項目に不安定狭心症、心不全、冠動脈血行再建術を追加した複合イベントについて評価している。中央値3.3年間の追跡で、主要評価項目についてはlorcaserin群6.1%、プラセボ群6.2%(ハザード比:0.99、99%信頼区間:0.85~1.14)であり、安全性が確認された。有効性については、lorcaserin群11.8%、プラセボ群12.1%(ハザード比:0.97、99%信頼区間:0.87~1.9714)でプラセボに勝る心血管イベントの減少は示されなかった。lorcaserinは糖尿病治療にも有用 CAMELLIA-TIMI 61試験の副次評価項目である、2型糖尿病患者における血糖コントロール、糖尿病発症前から2型糖尿病への移行の遅延、糖尿病発症阻止の可能性を検討した詳細な結果が、今回Lancet誌に掲載された論文である。 アテローム動脈硬化性心疾患、または複数の心血管リスクを保有するBMI 27以上の肥満者を対象として、lorcaserinを投与した群では、1年時において糖尿病患者で平均107.6kgの体重がプラセボ群に比較して2.6kg(95%信頼区間:2.3~2.9)減少し、HbA1c 5.7~6.5%未満、空腹時血糖値100~125mg/dL未満の「前糖尿病」状態の対象者が糖尿病に移行するリスクも19%減少(8.5% vs.10.3%、ハザード比:0.81、95%信頼区間:0.66~0.99)し、糖尿病の発症予防に対するNNTは3年で56であると報告している。糖尿病患者においては、細小血管障害(網膜症、持続アルブミン尿、末梢神経障害)の発症も抑止された(10.1% vs.12.4%、ハザード比:0.79、95%信頼区間:0.69~0.92)という。代謝の改善と心血管イベント lorcaserinは従来の抗肥満薬と同様に、体重の減少と糖尿病の発症予防、糖尿病の病態の改善に有用であり、かつ、心血管安全性も確認されたといえる。しかし、減量に成功し、血糖コントロールが改善しても、3.3年の期間では心血管イベントの発症に好影響をもたらさなかった。 はたして日本でも市場に登場する薬剤となるのかどうか、今後の展開が注目される。

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降圧薬の低用量3剤合剤は軽度から中等度の高血圧患者においても、安全に降圧目標への到達率を改善できる(解説:石川讓治氏)-939

 日本高血圧治療ガイドライン2014においては、カルシウムチャンネル拮抗薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(またはアンジオテンシン変換酵素阻害薬)およびサイアザイド利尿薬の3種類のいずれかを降圧薬の第1選択とし、降圧目標に達しなかった場合に他の降圧薬を追加することが推奨されている。英国のNICEガイドラインにおいても、年齢55歳と人種に応じてカルシウムチャンネル拮抗薬またはアンジオテンシン変換酵素阻害薬(または低価格のアンジオテンシンII受容体拮抗薬)のどちらかを第1選択とし、これらの併用でも目標降圧レベルに到達できないときにサイアザイド系利尿薬を追加することを推奨している。しかし、高リスクの高血圧患者においては、これらのステップに沿った降圧治療では目標レベルに達するまでに時間を要するため、その間の心血管イベントの発症が問題となっていた。そのため欧米の高血圧治療ガイドラインでは、高リスクの高血圧患者においては、第1選択薬として降圧薬の合剤を使用することが認められている。 本研究において、軽度から中等度の高血圧患者を対象とし、テルミサルタン20mg、アムロジピン2.5mgおよびchlorthalidone 12.5mgの低用量3剤合剤から降圧薬を開始(未治療患者において)または変更(単剤治療患者において)することによって、6ヵ月後の降圧目標への到達率が改善し、有害事象や降圧治療からの脱落も通常治療群と有意差が認められなかったことが報告された。本研究はスリランカで施行されており、通常治療群がどのような治療を行ったのかが明確ではなかったが、結果的に低用量3剤合剤群では錠剤数は少なく、降圧薬の種類は多かった。 この結果から、軽度から中等度高血圧患者においても降圧薬の低用量3剤合剤を使用の有効性と安全性が示されたが、現在のところわが国においては、降圧薬の合剤を第1選択薬として投与することは添付文書において制限されている。将来的には、これらのエビデンスがわが国でも普及することによって降圧薬の合剤を第1選択薬として使用できる時代が来るのかもしれない。しかし、高齢化が進み、欧米よりも肥満度の少ないわが国の高血圧の日常臨床においても、これらのエビデンスを当てはめることができるかどうかは、今後の検討が必要である。

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薬物治療抵抗性慢性不眠症に対する認知行動療法の有効性~日本における多施設ランダム化比較試験

 不眠症は、夜間の症状と日中の障害によって特徴付けられるのが一般的である。治療では、GABA-A受容体アゴニスト(GABAA-RA)がよく用いられているが、長期使用に関しては、薬物依存や潜在的な認知障害リスクの観点から、リスク-ベネフィット比が低い。精神保健研究所の綾部 直子氏らは、薬物治療抵抗性原発性不眠症患者における認知行動療法(cognitive behavioral therapy for insomnia:CBT-I)を併用したGABAA-RA漸減療法の有効性を評価した。Sleep Medicine誌2018年10月号の報告。 GABAA-RA治療に奏効しない原発性不眠症が持続している患者を対象に、CBT-I療法と通常療法(TAU)を比較したランダム化多施設2アーム並行群研究を実施した。睡眠日誌に基づき、31分以上の睡眠潜時または睡眠開始後の覚醒、3回/週の発生、不眠症重症度指数(Insomnia Severity Index:ISI)総スコア8以上についてスクリーニングを行った。主要アウトカム指標は、不眠症の重症度およびGABAA-RA漸減率とした。 主な結果は以下のとおり。・51例がランダム化され、49例(CBT-I群:23例、TAU群:26例)の分析を行った。・混合効果反復測定モデルでは、CBT-I群のISIスコアは、TAU群と比較し、介入後(10.91 vs.14.33、p<0.05)およびフォローアップ期間中(10.17 vs.14.34、p<0.01)のどちらにおいても、有意な改善が認められた。・CBT-I群におけるGABAA-RA漸減率は、フォローアップ期間中に約30%に達したが、両群間で有意な差は認められなかった。 著者らは「CBT-I併用療法は、GABAA-RA治療抵抗性不眠症患者の症状を改善した。本研究では、CBT-I併用療法によるGABAA-RA漸減率への影響は認められなかったが、プロトコールおよび治療期間を最適化することで、GABAA-RAの減量が可能であろう」としている。■関連記事睡眠薬の長期使用に関する10年間のフォローアップ調査不眠症治療における睡眠衛生教育のメタ解析不眠症におけるデュアルオレキシン受容体拮抗薬とその潜在的な役割に関するアップデート

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新たな薬剤、デバイスが続々登場する心不全治療(前編)【東大心不全】

急増する心不全。そのような中、新たな薬剤やデバイスが数多く開発されている。これら新しい手段が治療の局面をどう変えていくのか、東京大学循環器内科 金子 英弘氏に聞いた。後編はこちらから現在の心不全での標準的な治療を教えてください。心不全と一言で言っても治療はきわめて多様です。心不全に関しては今年(2018年)3月、「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」が第82回日本循環器学会学術集会で公表されました。これに沿ってお話ししますと、現在、心不全の進展ステージは、リスク因子をもつが器質的心疾患がなく、心不全症候のない患者さんを「ステージA」、器質的心疾患を有するが、心不全症候のない患者さんを「ステージB」、器質的心疾患を有し、心不全症候を有する患者さんを既往も含め「ステージC」、有効性が確立しているすべての薬物治療・非薬物治療について治療ないしは治療が考慮されたにもかかわらず、重度の心不全状態が遷延する治療抵抗性心不全患者さんを「ステージD」と定義しています。各ステージに応じてエビデンスのある治療がありますが、ステージA、Bはあくまで心不全ではなく、リスクがあるという状態ですので、一番重要なことは高血圧や糖尿病(耐糖能異常)、脂質異常症(高コレステロール血症)の適切な管理、適正体重の維持、運動習慣、禁煙などによるリスクコントロールです。これに加えアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、左室収縮機能低下が認められるならばβ遮断薬の服用となります。最も進行したステージDの心不全患者さんに対する究極的な治療は心臓移植となりますが、わが国においては、深刻なドナー不足もあり、移植までの長期(平均約3年)の待機期間が大きな問題になっています。また、重症心不全の患者さんにとって補助人工心臓(Ventricular Assist Device; VAD)は大変有用な治療です。しかしながら、退院も可能となる植込型のVADは、わが国においては心臓移植登録が行われた患者さんのみが適応となります。海外で行われているような植込み型のVADのみで心臓移植は行わないというDestination Therapyは本邦では承認がまだ得られていません。そのような状況ですので、ステージDで心臓移植の適応とならないような患者さんには緩和医療も重要になります。また、再生医療もこれからの段階ですが、実現すれば大きなブレーク・スルーになると思います。その意味では、心不全症状が出現したステージCの段階での積極的治療が重要になってきます。この場合、左室駆出率が低下してきた患者さんではACE阻害薬あるいはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)をベースにβ遮断薬の併用、肺うっ血、浮腫などの体液貯留などがあるケースでは利尿薬、左室駆出率が35%未満の患者さんではミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)を加えることになります。一方、非薬物療法としてはQRS幅が広い場合は心臓再同期療法(Cardiac Resynchronization Therapy:CRT)、左室駆出率の著しい低下、心室頻拍・細動(VT/VF)の既往がある患者さんでは植込み型除細動器(Implantable Cardioverter Defibrillator:ICD)を使用します。そうした心不全の国内における現状を教えてください。現在の日本では高齢化の進展とともに心不全の患者さんが増え続け、年間26万人が入院を余儀なくされています。この背景には、心不全の患者さんは、冠動脈疾患(心筋梗塞)に伴う虚血性心筋症、拡張型心筋症だけでなく、弁膜症、不整脈など非常に多種多様な病因を有しているからだと言えます。また、先天性心疾患を有し成人した、いわゆる「成人先天性心疾患」の方は心不全のハイリスクですが、こうした患者さんもわが国に約40万人いらっしゃると言われています。高齢者や女性、高血圧の既往のある患者さんに多いと報告されているのが、左室収縮機能が保持されながら、拡張機能が低下している心不全、heart failure with preserved ejection fraction(HFpEF)と呼ばれる病態です。これに対しては有効性が証明された治療法はありません。また、病因や併存疾患が複数ある患者さんも多く、治療困難な場合が少なくありません。近年、注目される新たな治療について教えてください。1つはアンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(Angiotensin Receptor/Neprilysin Inhibitor:ARNI)であるLCZ696です。これは心臓に対する防御的な神経ホルモン機構(NP系、ナトリウム利尿ペプチド系)を促進させる一方で、過剰に活性化したレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)による有害作用を抑制する薬剤です。2014年に欧州心臓病学会(European Society of Cardiology:ESC)では、β遮断薬で治療中の心不全患者(NYHA[New York Heart Association]心機能分類II~IV、左室駆出率≦40%)8,442例を対象にLCZ696とACE阻害薬エナラプリルのいずれかを併用し、心血管死亡率と心不全入院発生率を比較する「PARADIGM HF」の結果が公表されました。これによると、LCZ696群では、ACE阻害薬群に比べ、心血管死や心不全による入院のリスクを2割低下させることが明らかになりました。この結果、欧米のガイドラインでは、LCZ696の推奨レベルが「有効・有用であるというエビデンスがあるか、あるいは見解が広く一致している」という最も高いクラスIとなっています。現在日本では臨床試験中で、上市まではあと数年はかかるとみられています。もう1つ注目されているのが心拍数のみを低下させる選択的洞結節抑制薬のivabradineです。心拍数高値は従来から心不全での心血管イベントのリスク因子であると考えられてきました。ivabradineに関しては左室駆出率≦35%、心拍数≧70bpmの洞調律が保持された慢性心不全患者6,505例で、心拍数ごとに5群に分け、プラセボを対照とした無作為化試験「SHIFT」が実施されました。試験では心血管死および心不全入院の複合エンドポイントを用いましたが、ivabradineによる治療28日で心拍数が60bpm未満に低下した患者さんでは、70bpm以上の患者さんに比べ、有意に心血管イベントを抑制できました。ivabradineも欧米のガイドラインでは推奨レベルがクラスIとなっています。これらはいずれも左室機能が低下した慢性心不全患者さんが対象となっています。その意味では現在確立された治療法がないHFpEFではいかがでしょう?近年登場した糖尿病に対する経口血糖降下薬であるSGLT2阻害薬が注目を集めています。SGLT2阻害薬は尿細管での糖の再吸収を抑制して糖を尿中に排泄させることで血糖値を低下させる薬剤です。SGLT2阻害薬に関しては市販後に心血管イベントの発症リスクが高い2型糖尿病患者さんを対象に、心血管イベント発症とそれによる死亡を主要評価項目にしたプラセボ対照の大規模臨床試験の「EMPA-REG OUTCOME」「CANVAS」で相次いで心血管イベント発生、とくに心不全やそれによる死亡を有意に減少させたことが報告されました。これまで糖尿病治療薬では心不全リスク低下が報告された薬剤はほとんどありません。これからはSGLT2阻害薬が糖尿病治療薬としてだけではなく、心不全治療薬にもなりえる可能性があります。同時にHFpEFの患者さんでも有効かもしれないという期待もあり、そうした臨床試験も始まっています。後編はこちらから講師紹介

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不眠症におけるデュアルオレキシン受容体拮抗薬とその潜在的な役割に関するアップデート

 現在の不眠症に対する薬物治療は、すべての不眠症患者のニーズを十分に満たしているわけではない。承認されている治療は、入眠および睡眠維持の改善において一貫して効果的とはいえず、安全性プロファイルも複雑である。これらのことからも、追加の薬物療法や治療戦略が求められている。初期研究において、一部の不眠症患者に対して、デュアルオレキシン受容体拮抗薬(DORA)が追加の薬物治療選択肢として有用であると示されている。米国・セント・トーマス大学のKayla Janto氏らは、DORAとその潜在的な役割について、既存の文献を調査しアップデートを行った。Journal of Clinical Sleep Medicine誌2018年8月15日号の報告。 DORAに関する既存の文献は、PubMedデータベースより、「オレキシン受容体拮抗薬」「almorexant」「filorexant」「lemborexant」「スボレキサント」の検索キーワードを用いて検索を行った。検索対象は、英語の主要な研究論文、臨床試験、レビューに限定した。 主な結果は以下のとおり。・不眠症治療においてオレキシン受容体系を標的とすることは、より一般的に用いられるGABA作動性催眠鎮静薬治療に対する追加および代替的な薬物治療である。・現在の文献において、その有効性が示唆されているものの、まだ十分に確立されていない。・前臨床報告では、アルツハイマー病と不眠症を合併した患者に対する治療の可能性が示唆されている。 著者らは「DORAは、不眠症に対する追加の治療選択肢として使用可能である。いくつかの不眠症サブタイプにおいて、その安全性および有効性をきちんと評価するために、より多くの臨床試験が必要とされる。不眠症に対する既存治療とのhead-to-head比較研究が求められている」としている。■関連記事日本人高齢不眠症患者に対するスボレキサントの費用対効果分析不眠症へのスボレキサント切り替えと追加併用を比較したレトロスペクティブ研究不眠症患者におけるスボレキサントの覚醒状態軽減効果に関する分析

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高血圧患者への降圧と脂質低下療法、その長期的効果は?/Lancet

 高血圧患者における、降圧療法および脂質低下療法が心血管死、全死因死亡に及ぼす長期的な効果は十分には検証されていないという。英国・ロンドン大学クイーンメアリー校のAjay Gupta氏らは、ASCOT試験終了後に10年以上の長期フォローアップを行い(ASCOT Legacy試験)、Ca拮抗薬ベースの治療レジメンによる降圧療法と、スタチンによる脂質低下療法は、高血圧患者の死亡を長期に改善することを示した。Lancet誌オンライン版2018年8月26日号掲載の報告。英国の参加者を16年フォローアップ ASCOT Legacy試験では、ASCOT試験の英国からの参加者において、フォローアップ期間16年の死亡に関する調査が行われた(Pfizerの助成による)。 ASCOT試験は、1998年2月~2000年5月に北欧、英国、アイルランドで患者登録が行われた2×2ファクトリアルデザインの多施設共同無作為化試験。対象は、年齢40~79歳、心血管疾患のリスク因子を3つ以上有し、直近3ヵ月以内の冠動脈性心疾患や狭心症、脳血管イベントの既往歴がない高血圧患者であり、主要評価項目は非致死的心筋梗塞および致死的冠動脈性心疾患であった。 ASCOT試験の降圧療法アーム(BPLA)に登録された患者は、ベースライン時に、アムロジピンまたはアテノロールベースの降圧療法を受ける群に無作為に割り付けられた。さらに、BPLAのうち総コレステロール値が6.5mmol/L以下で脂質低下療法歴のない患者が、脂質低下療法アーム(LLA)として、アトルバスタチンまたはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられ、残りの患者は非LLAとされた。 2人の医師が独立に、全死因死亡、心血管死(冠動脈性心疾患死、脳卒中死)、非心血管死の判定を行った。Ca拮抗薬は脳卒中死を、スタチンは心血管死を抑制 ASCOT Legacy試験に含まれたのは、8,580例(ベースラインの平均年齢64.1歳[SD 8])で、3,282例(38.3%)が死亡した。内訳は、アテノロールベース治療群1,640/4,275例(38.4%)、アムロジピンベース治療群1,642/4,305例(38.1%)であった。 また、LLAの4,605例中1,768例が死亡した。内訳は、アトルバスタチン治療群865/2,317例(37.3%)、プラセボ群903/2,288例(39.5%)であった。 全死亡例のうち1,210例(36.9%)が心血管関連の原因によるものであった。BPLAの患者では、全死因死亡はアテノロールベース治療群とアムロジピンベース治療群に有意な差はなかったが(補正後ハザード比[HR]:0.90、95%信頼区間[CI]:0.81~1.01、p=0.0776)、脳卒中による死亡は、アムロジピンベース治療群がアテノロールベース治療群に比べ有意に少なかった(0.71、0.53~0.97、p=0.0305)。 BPLAとLLAに交互作用は認めなかったが、非LLAの3,975例では、アムロジピンベース治療群がアテノロールベース治療群に比べ心血管死が有意に少なかった(補正後HR:0.79、0.67~0.93、p=0.0046)。LLAの4,605例では有意な差はなく、2つの降圧療法の効果の差は、患者がLLAか非LLAかに依存していた(交互作用のp=0.0220)。 LLAでは、アトルバスタチン治療群がプラセボ群よりも心血管死が有意に少なかった(HR:0.85、0.72~0.99、p=0.0395)。 著者は、「全体として、ASCOT Legacy試験は、血圧とコレステロールへの介入が心血管アウトカムに長期的な利益をもたらすとの見解を支持するものである」としている。

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PPIで認知症リスクの増加みられず~大規模症例対照研究

 プロトンポンプ阻害薬(PPI)の長期使用とアルツハイマー病(AD)のリスク増加との関連がいくつかの観察研究で報告されているが、使用期間の影響や他の認知症でも当てはまるかどうか検討されていない。スイス・バーゼル大学のPatrick Imfeld氏らは、大規模な症例対照研究により、PPI(またはネガティブコントロールとしてのH2受容体拮抗薬[H2RA])の長期使用と、ADまたは血管性認知症(VaD)の発症リスクとの関連を検討した。その結果、PPIやH2RAに関連するADやVaDのリスク増加はみられなかった。Drug Safety誌オンライン版2018年8月27日号に掲載。 本研究は、英国を拠点とするClinical Practice Research Datalink(CPRD)での症例対照分析。1998~2015年に、新規にADまたはVaDと診断された65歳以上の4万1,029症例を同定し、対照群の非認知症者に、年齢・性別・暦時間・一般診療・病歴の年数で1対1にマッチさせた。それまでのPPIまたはH2RA使用に関連するADまたはVaD発症の調整オッズ比(aOR)および95%信頼区間(CI)を、条件付きロジスティック回帰分析を用いて薬剤使用期間ごとに算出した。 主な結果は以下のとおり。・長期PPI使用(100処方以上)は非使用と比べ、AD発症リスク(aOR:0.88、95%CI:0.80~0.97)、VaD発症リスク(aOR:1.18、95%CI:1.04~1.33)の増加と関連していなかった。・H2RAの長期使用(20処方以上)についても、AD発症リスク(aOR:0.94、95%CI:0.87~1.02)、VaD発症リスク(aOR:0.99、95%CI:0.89~1.10)の増加と関連していなかった。

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心房細動患者の認知症発症、降圧薬やワルファリンで2割減

 1万例以上の心房細動患者を対象とした研究で、サイアザイド/レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)阻害薬併用などの降圧薬処方やワルファリン使用が、認知症発症率の低下と関連していたことをスウェーデン・カロリンスカ研究所のPer Wandell氏らが報告した。International Journal of Cardiology誌オンライン版2018年7月21日号に掲載。 対象は、スウェーデンのプライマリケアで心房細動と診断された45歳以上の患者1万2,096例(男性6,580例、女性5,516例)。心房細動発症前に認知症と診断されていた患者は除外した。性別、年齢、社会経済的要因および併存疾患を調整し、Cox回帰を用いてハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・平均5.6年間の追跡期間(6万9,214人年)に750例(6.2%)が認知症を発症した。・サイアザイド処方患者(HR:0.81、95%CI:0.66~0.99)およびワルファリン処方患者(HR:0.78、95%CI:0.66~0.92)は、処方されていない患者に比べて認知症リスクが低かった。・異なる降圧薬(サイアザイド、β遮断薬、Ca拮抗薬、RAAS阻害薬)の1~4種類の使用は、認知症の減少と関連していた。1剤または2剤の処方患者では、降圧薬を処方されていない患者に比べてHRが0.80(95%CI:0.64~1.00)、3剤または4剤の処方患者のHRは0.63(95%CI:0.46~0.84)であった。・RAAS阻害薬とサイアザイドの併用は、併用処方されていない患者に比べて有意に認知症リスクが低かった(HR:0.70、95%CI:0.53~0.92)。

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第4回 GERDを発症・増悪させにくいCa拮抗薬は?【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 胃酸などの胃の内容物が食道に逆流して生じる胃食道逆流症(Gastroesophageal reflux disease:GERD)の原因の1つに、「下部食道括約筋(Lower esophageal sphincter:LES)」の機能低下があります。LESは胃と食道のつなぎ目にあり、胃酸の逆流を防ぐ筋肉ですが、加齢に伴う機能低下だけでなく、嗜好品や生活習慣および薬剤によっても緩まることがあります。GERDは頻度の高い疾患ですので、これらの悪化要因を把握しておくと服薬指導にとても有用です。MSDマニュアルには、下記の記載があります。「逆流をもたらす要因として、体重増加、脂肪食、カフェイン含有飲料、炭酸飲料、アルコール、喫煙、薬物がある。LES圧を低下させる薬物には、抗コリン薬、抗ヒスタミン薬、三環系抗うつ薬、カルシウム拮抗薬、プロゲステロン、硝酸薬がある」(参考文献1)より引用)実際、アムロジピンの服用開始後にGERDの症状が悪化したと訴え、医師からの指示でアムロジピンを中止したところ症状が改善した患者さんに、私も会ったことがあります。その件の因果関係は不明ですが、今回はCa拮抗薬とGERDの関連について検討した後ろ向きコホート研究を紹介します。Do calcium antagonists contribute to gastro-oesophageal reflux disease and concomitant noncardiac chest pain?Hughes J, et al. Br J Clin Pharmacol. 2007;64:83-89.対象となったのは、虚血性心疾患や硝酸薬の使用歴がなく、Ca拮抗薬を使用していた高血圧患者で、GERDの既往の有無および、Ca拮抗薬服用前と服用後でGERD症状に変化があったかどうかについてアンケート調査を行っています。15軒の薬局(地域薬局14軒、病院薬局1軒)から371例が登録され、平均年齢64歳、女性51.2%、男性48.8%でした。信頼度が高い方法というわけではありませんが、地域の薬局で研究を行うには現実的な方法ではないでしょうか。Ca拮抗薬服用前後におけるGERD症状の変化は下表のとおりです。画像を拡大するCa拮抗薬服用前からすでにGERDの症状がある130例中59例(45.4%)で、Ca拮抗薬服用により症状の悪化がみられています。症状の悪化の頻度がもっとも高かった薬剤がアムロジピン(61.3%、p<0.0001)で、もっとも低かったのがジルチアゼム(12.5%)という結果でした。Ca拮抗薬服用前にGERD症状がなかった241例においては、85例(35.3%)がCa拮抗薬服用によりGERDを発症しており、もっとも頻度が高かったのがベラパミル(39.1%、p=0.001)で、もっとも低かったのがジルチアゼム(30.7%)という結果でした。ニフェジピンの増悪リスクはジルチアゼムの4.22倍発症・増悪リスクがもっとも低かったジルチアゼムを基準とした場合の、GERD症状の増悪頻度のオッズ比は下表のとおりです。ニフェジピンやアムロジピンにおいて有意にGERDが増加しています。二フェジピンやアムロジピンの添付文書を参照すると、嘔気・嘔吐や腹部不快感、腹部膨満などGERDに類する副作用症状の記載はありますが、明示的にGERDの記載があるわけではないため見落としに注意が必要です。交絡因子を調整しきれる研究ではないため解釈に注意が必要ですが、血管平滑筋を緩めるCa拮抗薬がLESまで緩めてしまう可能性があることは、患者さんの症状を聞き取る際に頭の片隅に入れておくとよいでしょう。1)MSDマニュアル 胃食道逆流症(GERD)(2018年7月16日参照)2)Do calcium antagonists contribute to gastro-oesophageal reflux disease and concomitant noncardiac chest pain?Hughes J, et al. Br J Clin Pharmacol. 2007;64:83-89.

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スボレキサントの日本人高齢不眠症患者に対する費用対効果分析

 日本で最も幅広く使用されている睡眠薬であるベンゾジアゼピン受容体作動薬ゾルピデムとオレキシン受容体拮抗薬スボレキサントの費用対効果について、MSD株式会社の西村 晋一氏らが、比較検討を行った。Journal of Medical Economics誌2018年7月号の報告。スボレキサントはゾルピデムよりも費用対効果が優れている 本研究では、不眠症と高齢者に多大な影響を及ぼす股関節骨折リスクを考慮したモデルを用いて検討を行った。公表された論文より、データを収集した。65歳以上の日本人高齢不眠症患者の仮想コホートを対象として研究を実施した。費用対効果の評価には、質調整生存年(QALY)と増分費用効果比を用いた。調査は、医療従事者の視点で行った。 スボレキサントとゾルピデムの費用対効果を検討した主な結果は以下のとおり。・ベースケース分析では、日本人高齢不眠症患者に対するスボレキサント使用は、ゾルピデムと比較し、費用が抑えられており(スボレキサント:252.3ドル、ゾルピデム:328.7ドル)、QALY値が高く(スボレキサント:0.0641、ゾルピデム:0.0635)、スボレキサントがdominant(優位)であることが示唆された。・感度分析では、スボレキサントの股関節骨折の相対リスクにより、アウトカムが優位からdominated(劣位)に変化した。・他のパラメータを範囲の下限から上限まで変化させた場合でも、スボレキサントはゾルピデムと比較して優位であった。・本研究の限界として、本モデルで用いたスボレキサントの股関節骨折の相対リスクは、承認前の臨床試験データに基づいていることから、より正確なデータが必要となる可能性がある。 著者らは「スボレキサントは、ゾルピデムよりも費用対効果が優れており、高齢不眠症患者に対するゾルピデムの代替可能な治療薬である可能性が示唆された。また、感度分析によると、スボレキサントに関連する股関節骨折の相対リスクに応じて、アウトカムが異なる可能性がある」としている。

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心房細動患者の心筋梗塞リスク、DOAC vs. ビタミンK拮抗薬【Dr.河田pick up】

 長い間、心房細動患者の血栓塞栓症予防にはビタミンK拮抗薬が使用されてきた。直接経口抗凝固薬(DOAC)が、ビタミンK拮抗薬に有効性および安全性で劣らないことからDOACの使用が増えてきているが、DOACとビタミンK拮抗薬のどちらがより心筋梗塞の予防に有効かについてのエビデンスは一致しておらず、結論が出ていない。この研究はアピキサバン、ダビガトラン、リバーロキサバンそしてビタミンK拮抗薬を服用中の心房細動患者における、心筋梗塞リスクを調べることを目的に実施された。Journal of American College of Cardiology誌2018年7月3日号掲載の、デンマークのグループが発表した後ろ向き観察研究の結果より。デンマークのレジストリより3万1,739例の心房細動患者を抽出 心房細動の患者はデンマークヘルスケアレジストリを用いて同定され、最初に処方された抗凝固薬によって層別化された。標準化された1年間の絶対リスクとして、心筋梗塞による入院と死亡に対するハザード比がCox回帰分析を用いて求められた。経口抗凝固薬に対する絶対リスクは別々に報告され、患者の特徴に応じて標準化された。2013~16年の間に心房細動と診断され、抗凝固薬未使用の患者3万4,755例のうち、弁膜症による心房細動患者、30歳未満もしくは100歳を超える患者、および慢性腎不全の患者が除かれた。DOACはビタミンK拮抗薬よりも心筋梗塞リスクが低い 試験に組み入れられた3万1,739例(平均年齢:74歳、47%が女性)のうち、標準化された1年間の心筋梗塞リスクは、ビタミンK拮抗薬1.6%(95%信頼区間[CI]:1.3~1.8)、アピキサバン1.2%(95%CI:0.9~1.4)、ダビガトラン1.2%(95%CI:1.0~1.5)、そしてリバーロキサバン1.1%(95%CI:0.8~1.3)であった。DOACの種類で標準化された1年間の心筋梗塞リスクに有意な差は認められなかった〔ダビガトラン vs.アピキサバン(0.04%、95%CI:-0.3~0.4%)、リバーロキサバンvs.アピキサバン(0.1%、95%CI:-0.4~0.3%)、リバーロキサバン vs.ダビガトラン(-0.1%、95%CI:-0.5~0.2)〕。DOACとビタミンK拮抗薬の間ではいずれも有意な差が認められた〔ビタミンK拮抗薬 vs.アピキサバン-0.4% (95%CI:-0.7~-0.1)、 vs.ダビガトラン-0.4% (95%CI:-0.7~-0.03)、vs.リバーロキサバン-0.5% (95%CI:-0.8~-0.2)〕。 筆者らはDOACの種類では心筋梗塞リスクに違いはみられなかったが、ビタミンK拮抗薬と比べると、どのDOACも心筋梗塞のリスクが低かったと結論付けている。しかしながら、後ろ向き観察研究のため、なぜ医師がDOACでなくビタミンK拮抗薬を選んだかなどはわからず、交絡因子が隠されている可能性もあり、さらなる研究が必要と考えられる。(カリフォルニア大学アーバイン校 循環器内科 河田 宏)関連コンテンツ循環器内科 米国臨床留学記

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腎交感神経除神経降圧療法と降圧薬(解説:冨山博史氏)-885

研究の概要 研究対象は、カルシウム拮抗薬、利尿薬、レニン・アンジオテンシン系阻害薬、ベータ遮断薬のいずれか、または複数の降圧薬の最大容量の50%以上の服用でも血圧コントロールが十分でない症例80例である。高周波カテーテルによる腎交感神経除神経(RND)実施群(38例)および対照群(42例)の治療後6ヵ月の血圧変化を24時間血圧測定にて評価した。RND群では、対照群に比べて24時間収縮期血圧が7.4mmHg有意に低下し、RNDの有意な降圧効果を示した。研究の背景と臨床的意義 RNDの降圧効果を評価するには、3つの重要確認事項がある。第1に血圧評価方法であり、診察室血圧では変動する血圧の降圧効果を評価することは不十分である。本研究では24時間血圧測定の結果よりRNDの有意な降圧効果を報告した。第2は、併用する降圧薬の影響である。RNDの対象は、難治性高血圧例が適切と現時点では考えられている。本研究に先行するSPYRAL OFF研究は、降圧薬非服用症例にてRNDの有意な降圧効果を報告した。しかし、実臨床では降圧治療服用下でのRNDの有効性を確認することが重要である。2014年に発表されたSYMPLICITY HTN-3研究では、RNDで有意な降圧効果を認めなかったことを報告した。しかし、その背景として降圧薬服用アドヒアランス不良が結果に影響した可能性が指摘されている。本研究では、血圧・尿検査にて降圧薬服用アドヒアランスを確認し、RND群、対照群に服薬アドヒアランスに差がないことを確認している。このように、本研究はRNDの降圧効果を検証するための2つの事項が確認されている。 3つ目の重要事項は、RND実施確実性の確認である。本研究では、RND実施確実性は直接検証されていない。しかし、24時間血圧評価にて降圧薬の最も影響の少ない朝夕のThroughの時間帯でもRND群では、血圧・心拍数の2重積が対照群に比べて有意に小さいことを確認している。この所見から、RNDにより腎交感神経活性が低下したと推察している。研究の今後 本研究では、服薬アドヒアランス良好例の割合が60%と報告しているが、研究症例数は80例と少ない。今後、RNDの効果と服薬アドヒアランスの関係(アドヒアランス不良群でRNDはより有効か)および降圧薬の種類によるRND有効性の差異を検証する必要がある。

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