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死に至る薬剤耐性菌感染症、最も多い疾患と原因菌は/Lancet

 薬剤耐性(AMR)は、世界中で人々の健康を脅かす主要な原因となっている。これまでのAMR研究は、特定の地域における限られた病原体と薬剤の組み合わせについて、感染症の発生率や死亡数、入院期間、医療費に及ぼすAMRの影響の評価を行い、広範な地域や、病原体と薬剤の網羅的な組み合わせに関する包括的な検討は行われていないという。米国・ワシントン大学のMohsen Naghavi氏らAntimicrobial Resistance Collaboratorsは、今回、AMR負担に関して現時点で最も包括的な検討を行い、2019年に世界で495万人が細菌のAMRに関連する感染症で死亡し、このうち127万人は薬剤耐性菌感染症が直接の原因で死亡したことを明らかにした。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2022年1月18日号に掲載された。204の国と地域で、88件の病原体と薬剤の組み合わせを評価 研究グループは、2019年時点の204の国と地域における、23種の病原体および、88件の病原体と薬剤の組み合わせについて、細菌のAMRに起因する死亡と、これによる障害調整生存年数(DALY)などを推算した(ビル&メリンダ・ゲイツ財団などの助成を受けた)。 データは、文献の系統的レビュー、病院やサーベイランスのシステム、その他の情報源から収集された。解析には4億7,100万件の患者記録や分離株が含まれ、調査地の数×年数は7,585であった。 予測統計モデルを用いて、データのない場所を含むすべての地域のAMR負担の推定値が算出された。AMR負担には、次の5つの一般的な要素が含まれた。(1)感染症に起因する死亡数、(2)特定の感染性症候群に起因する感染性の死亡の割合、(3)特定の病原体に起因する感染性症候群による死亡の割合、(4)対象となる抗菌薬に対する特定の病原体の耐性の割合、(5)この耐性に関連する死亡または感染期間の過剰リスク。 これらの要素を用いて、2つの反事実的シナリオ(AMR菌に起因する死亡、AMRに関連する死亡)に基づく疾病負担が推定された。世界全体および地域別の最終的な推定値とその95%不確実性区間(UI)が算出された。負担は下気道感染症、関連死は大腸菌、死亡はMRSAで多い 2019年、世界全体における細菌のAMRに関連する死亡数は495万件(95%UI:3.62~6.57)であり、このうちAMR菌に直接起因する死亡数は127万件(91万1,000~171万)と推定された。 地域別のAMR負担は、サハラ以南のアフリカ西部で最も高く、AMR関連の全年齢死亡割合は10万人当たり114.8件、AMR菌に起因する死亡割合は10万人当たり27.3件であった。これに対し、AMR負担が最も低かったのはオーストララシアで、AMR関連の死亡割合は10万人当たり28.0件、AMR菌に起因する死亡割合は10万人当たり6.5件だった。 また、2019年の世界全体のAMR負担は、主に3つの感染性症候群(下気道感染症/胸部感染症、血流感染症、腹腔内感染症)の割合が大きく、AMR菌に起因する死亡の78.8%をこれらが占めた。さらに、下気道感染症だけで、AMR関連死亡が150万件以上、AMR菌に起因する死亡は40万件以上に達し、最も負担の大きい感染性症候群だった。 世界全体のAMR関連死亡の最も多い原因となった病原体は大腸菌で、次いで黄色ブドウ球菌、肺炎桿菌、肺炎球菌、Acinetobacter baumannii、緑膿菌の順であった。これら6つの主要な病原体による2019年のAMR関連死亡は357万件(全495万件中)で、AMR菌に起因する死亡は92万9,000件(全127万件中)に達していた。 一方、2019年にAMR菌に起因する死亡数が10万件を超え、DALYが350万年以上であった病原体と薬剤の組み合わせは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)(12万1,000件)だけであった。 また、AMR菌に起因する死亡数が5万~10万件の組み合わせは6つあり、死亡数が多い順に、超多剤耐性菌(XDR)を除く多剤耐性(MDR)結核菌(6万4,600件)、第3世代セファロスポリン耐性大腸菌(5万9,900件)、カルバペネム耐性Acinetobacter baumannii(5万7,700件)、フルオロキノロン耐性大腸菌(5万6,000件)、カルバペネム耐性肺炎桿菌(5万5,700件)、第3世代セファロスポリン耐性肺炎桿菌(5万100件)であった。 著者は、「AMRは、世界各地で主要な死因であり、低医療資源環境では最大の負担となっている。AMR負担と、その原因となる病原菌と薬剤の組み合わせを理解することは、とくに感染予防や管理計画、必須抗菌薬の評価、新たなワクチンや抗菌薬の研究開発に関して、十分な情報を得たうえで地域ごとの施策を決定する際にきわめて重要である。低所得国の多くでは深刻なデータ不足があり、この重要な健康上の脅威に関する理解を深めるためには、微生物学研究所の能力とデータ収集システムの拡充が必要である」と指摘している。

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なぜ抗菌薬をやめて酪酸菌とカゼイ菌?【処方まる見えゼミナール(大和田ゼミ)】

処方まる見えゼミナール(大和田ゼミ)なぜ抗菌薬をやめて酪酸菌とカゼイ菌?講師:大和田 潔氏 / 秋葉原駅クリニック院長動画解説前医で感染性胃腸炎の抗菌薬治療を受けていた患者さんに対して、大和田先生が処方したのは抗菌薬ではなく、酪酸菌(宮入菌)とカゼイ菌でした。この組み合わせがベストという先生の経験とは? 下痢のメカニズムや懸念すべき病態、薬剤選択のコツを解説します。

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急性中耳炎に抗菌薬を処方しないのはなぜ?【処方まる見えゼミナール(三澤ゼミ)】

処方まる見えゼミナール(三澤ゼミ)急性中耳炎に抗菌薬を処方しないのはなぜ?講師:三澤 美和氏 / 大阪医科大学附属病院 総合診療科動画解説急性中耳炎と診断された男児。当然抗菌薬…と思いきや、三澤先生は解熱鎮痛薬だけを処方しました。急性中耳炎の病態や抗菌薬の適正使用について、実体験を交えながら解説します。

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抗菌薬1日3回飲ませられないのですが…【スーパー服薬指導(2)】

スーパー服薬指導(2)抗菌薬1日3回飲ませられないのですが…講師:近藤 剛弘氏 / 元 ファイン総合研究所 専務取締役動画解説「昼の薬を保育園で飲ませてくれない」と訴える母親。相談を受け抗菌薬の服用回数を減らすために薬剤師が出した答えとは?

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イチゴ腫根絶に向けたアジスロマイシン集団投与3回の効果/NEJM

 イチゴ腫(yaws、framboesia)の治療において、アジスロマイシンの集団投与を6ヵ月間隔で3回行う方法は、標準治療である集団投与を1回行ってからイチゴ腫様病変がみられる集団に標的治療を2回行う方法に比べ、地域有病率が大幅に低下し、小児の潜在性イチゴ腫の有病率も低くなることが、パプアニューギニア保健省のLucy N. John氏らの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌2022年1月6日号に掲載された。イチゴ腫は梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)の亜種であるpertenueに起因する感染症で、主に熱帯地方の貧しい農村に住む子供の皮膚や長骨が侵される。撲滅キャンペーンを行わなければ、2015~50年の間に160万の障害調整生存年数が失われるとされる。ナマタナイ地区38行政区のクラスター無作為化第III相試験 本研究は、イチゴ腫の治療において、標的治療に切り換える前にアジスロマイシンの集団投与を3回行う方法の有用性を示唆する仮説の検証を目的に、パプアニューギニアのニューアイルランド州ナマタナイ地区で行われた地域住民ベースの非盲検クラスター無作為化第III相試験であり、2018年4月~2019年10月の期間に実施された(“la Caixa”財団などの助成を受けた)。 地区内の38の行政区(クラスター)に居住する生後1ヵ月以上の全住民が対象となった。38行政区は、アジスロマイシンの集団投与を3回行う群(試験群)または同集団投与を1回行った後に標的治療を2回行う群(対照群)に無作為に割り付けられた。 集団投与は、ベースラインで1回目が行われ、6ヵ月後に2回目、12ヵ月後に3回目が実施された。アジスロマイシンは、WHOのガイドラインで推奨されている年齢別の用量が投与された。標的治療は、参加者全員にイチゴ腫の有無を確認するスクリーニングを行い、イチゴ腫様病変を有する参加者とその同居者、学校での接触者に対して実施された。 複合主要エンドポイントは2つで、試験集団全体における活動性イチゴ腫の有病率(ポリメラーゼ連鎖反応[PCR]法で確定)と、1~15歳の無症状の小児サブグループにおける潜在性イチゴ腫の有病率(血清検査で確定)であった。有病率の評価は18ヵ月の時点で行われ、群間差が算出された。試験群の3例でマクロライド耐性 38行政区の住人5万6,676例が対象となった。試験群と対照群に19区ずつが割り付けられ、参加者はそれぞれ2万6,238例および3万438例だった。全体で、4万2,362例(74.7%)が1回目(ベースライン)の投与を受け、6ヵ月後に3万6,810例(64.9%)、12ヵ月後には4万8,488例(85.6%)が投与を受けた。 アジスロマイシンは、試験群で5万9,852回、対照群では2万4,848回(1回目の集団投与は2万2,033回、2回目と3回目の標的治療は2回の合計でイチゴ腫様病変を有する参加者に207回、その接触者に2,608回)投与された。 試験期間中に、PCR検査で297例がイチゴ腫と確定され、1,026個の潰瘍が同定された。活動性イチゴ腫の有病率は、試験群ではベースラインの0.43%(87/2万331例)から18ヵ月時には0.04%(10/2万5,987例)へと低下し、対照群では0.46%(102/2万2,033例)から0.16%(47/2万9,954例)に減少した。クラスターの割り付けを補正した相対リスクは4.08(95%信頼区間[CI]:1.90~8.76、p<0.001)であり、試験群で有病率の減少効果が優れた。 活動性イチゴ腫の有病率は15歳未満の小児で高く、再燃例はとくに対照群の6~10歳の小児で多い傾向がみられた。 18ヵ月の時点で、試験群の小児945例と対照群の小児994例で血清検査による潜在性イチゴ腫の有病率の評価が行われた。潜在性イチゴ腫の有病率は、試験群が3.28%(95%CI:2.14~4.42)と、対照群の6.54%(5.00~8.08)に比べ低かった(クラスター割り付けと年齢を補正した相対リスク:2.03、95%CI:1.12~3.70、p=0.02)。 18ヵ月時に、試験群の3例で、マクロライド耐性と関連するA2058G変異のあるイチゴ腫が認められた。 著者は、「これらのデータは、イチゴ腫根絶の一環として、複数回の薬剤の集団投与を検討する必要があることを示唆する。また、3回の集団投与後に抗菌薬耐性がみられ、イチゴ腫の根絶には至らなかったことから、臨床および分子レベルで抗菌薬耐性の出現と拡大を慎重に監視する必要がある」としている。

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肺炎球菌ワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第11回

ワクチンで予防できる疾患:肺炎球菌感染症肺炎球菌感染症とは肺炎球菌の感染による疾病の総称であり、肺炎、中耳炎、副鼻腔炎、髄膜炎などが含まれる。肺炎球菌は主に鼻腔粘膜に保菌され、乳幼児では40〜60%と高頻度に、成人ではおよそ3〜5%に保菌されている1)。感染経路は飛沫感染であり、小児の細菌感染症の主な原因菌の1つである。また、成人の市中肺炎の起因菌では38%と最も多い2)。肺炎球菌が髄液や血液などの無菌部位に侵入すると、菌血症を伴う肺炎、髄膜炎、敗血症などの侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal disease:以下「IPD」)を引き起こす。治療は抗菌薬投与および全身管理であるが、近年は薬剤耐性菌の出現も問題となっている3)。わが国の成人IPDの好発年齢は60~80代で4,5)、基礎疾患があることは発症や重症化のリスクとなる3,6)。65歳以上の成人(以下「高齢者」)の罹患率はおよそ5/10万人・年であり、致命率は6%台と高い1)。成人の肺炎球菌感染症とりわけIPDの発症や重症化の予防には、日常診療における基礎疾患の管理とともに肺炎球菌ワクチンの接種が重要である3,6)。ワクチンの概要肺炎球菌の病原因子の中で最も重要なものは、菌の表層全体を覆う莢膜である。この莢膜は多糖体からなり、97種類の型が報告されている3)。ある莢膜型の肺炎球菌に感染するとその型に対する抗体が獲得され、同じ型には感染しなくなるが、別の型には抗体がないため感染が成立し、発症する7)。そのため肺炎球菌による発症や重症化を予防するには、さまざまな莢膜型の抗体をあらかじめ獲得しておく必要があり7)、肺炎球菌ワクチンは莢膜多糖体を抗原としている。国内では以下の2つのワクチンが承認されているが、それぞれカバーする莢膜型の数や種類、免疫応答の方法などが異なる(表)。以下に2つのワクチンの特徴を述べる。1)23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)〔商品名:ニューモバックスNP〕23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(以下「PPSV23」)は、莢膜多糖体からなる不活化ワクチンで、23種類の莢膜型を有する。PPSV23接種による免疫応答では、T細胞を介さないため免疫記憶は獲得されず、B細胞の活性化によりIgG抗体のみが獲得される。IgG抗体は経年的に減弱し、減弱するとワクチン血清型の菌に対して予防効果は期待できなくなる3)。PPSV23の予防効果としては、接種により高齢者のワクチン血清型のIPDを39%減少させ8)、すべての肺炎球菌による市中肺炎を27.4%、ワクチン血清型の肺炎球菌による市中肺炎を33.5%減少させたと国内より報告されている9)。PPSV23は2006年に販売開始となり、2014年から5年間限定で65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳および100歳になる人を対象に定期接種となった。2019年度以降はさらに5年間の期限で、同年齢を対象に定期接種が継続されている10)。初回接種後の予防効果は3〜5年で低下する11)。再接種による予防効果について明確なエビデンスは報告されていないが、再接種後の免疫原性は初回接種時と同等であり、初回接種時と同等の予防効果が期待されている12)。また、再接種時の局所および全身性の副反応の頻度は初回接種時より高いことに注意が必要だが、いずれも軽度で許容範囲と考えられている12)。以上より症例によっては追加接種を繰り返してもよいと考えられ、接種後5年以上の間隔をおいて再接種することができる12)。2)沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)〔同:プレベナー13水性懸濁注〕沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(以下「PCV13」)は、莢膜多糖体に無毒化したジフテリア蛋白を結合させた蛋白結合型の不活化ワクチンで、13種類の莢膜型を有する。PCV13接種による免疫応答は、T細胞とB細胞を介している。まず、樹状細胞に抗原が提示されてT細胞の活性化を誘導する(T細胞依存型)。ついで活性したT細胞とB細胞の相互作用によりB細胞が活性化する。その後、形質細胞によるIgG抗体の産生とメモリーB細胞による免疫記憶が獲得される。そのため記憶された莢膜型の菌が侵入すると速やかにIgG抗体産生能が誘導(ブースター効果)され免疫能が高まる3)。小児に対する7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)は2010年より販売開始となり、同年に接種費用の公費助成が開始された。2013年4月より定期接種となり、同年11月よりPCV13に切り替えられた。予防効果として、PCV7・PCV13の導入により小児のIPD、とくに髄膜炎は87%も激減したと報告されている4)。一方、2014年より高齢者に対しても適応が拡大され、任意接種することが可能となった。PCV13接種により高齢者のワクチン血清型のIPDを47〜57%減少させ、ワクチン血清型の肺炎(非侵襲型)を38〜70%、すべての原因の肺炎を6〜11%減少させたとの予防効果が諸外国より報告されている13)。さらに2020年5月からは、高齢者のみならず全年齢に適応が拡大され、全年齢の「肺炎球菌感染症に罹患するリスクが高い人」に接種が可能となった。また、PCV13接種には集団免疫効果が認められており、小児へのPCV7およびPCV13接種の間接効果(集団免疫)により、成人IPD症例のPCV13血清型(莢膜型)は劇的に減少した3)。その一方で、PCV13に含まれない血清型が増加するなど血清型置換が報告されている3)がこの問題は後述する。表 肺炎球菌ワクチン(PPSV23とPCV13)の比較画像を拡大する接種のスケジュール1)23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)〔商品名:ニューモバックスNP〕【定期接種】これまでにPPSV23を1回も接種したことがなく、以下(1)(2)にあてはまる人は定期接種として1回接種できる。(1)2019年度から2023年度末までの5年間限定で65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳および100歳になる人。なお、2023年度以降は65歳になる年度に定期接種として1回接種できる見込みである。(2)60〜64歳で、心臓、腎臓、呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限されている人。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)で免疫機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な人。【任意接種】2歳以上で上記以外の人。接種後5年以上の間隔をおいて再接種することができる12)。2)沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)〔同:プレベナー13水性懸濁注〕【定期接種】小児(2ヵ月以上5歳未満)以下のように接種開始時の月齢・年齢によって接種間隔・回数が異なることに注意する。(〔1〕1回目、〔2〕2回目、〔3〕3回目、〔4〕4回目)[接種開始が生後2ヵ月~7ヵ月に至るまでの場合(4回接種)]〔1〕〔2〕〔3〕の間は 27 日以上(27~56日)、〔3〕〔4〕の間は 60日以上の間隔をあけて(12~15ヵ月齢で)接種する 。[接種開始が生後7ヵ月~12ヵ月に至るまでの場合(3回接種)]〔1〕〔2〕の間は 27日以上(27~56日)、〔2〕〔3〕の間は 60日以上の間隔をあけて(12ヵ月齢以降で)接種する。[接種開始が12ヵ月~24ヵ月に至るまでの場合(2回接種)]〔1〕〔2〕の間は 60日以上の間隔をあけて接種する。[接種開始が24か月-5歳の誕生日に至るまでの場合(1回接種)]1回のみ接種する。【任意接種】5歳以上の罹患するリスクが高い者:1回1回のみ接種する。日常診療で役立つ接種ポイント1)PPSV23の推奨(1)2歳以上の脾臓を摘出した患者肺炎球菌感染症の発症予防として保険適用されるが、より確実な予防のためには摘出の14日以上前までに接種を済ませておくことが望ましい。(2)2歳以上の脾機能不全(鎌状赤血球など)の患者(3)高齢者(4)心臓や呼吸器の慢性疾患、腎不全、肝機能障害、糖尿病、慢性髄液漏などの基礎疾患がある患者(5)免疫抑制作用がある治療が予定されている患者。治療開始の14日以上前までに接種を済ませておくことが望ましい。2)PCV13の推奨(1)乳幼児(生後2ヵ月~5歳未満:定期接種)IPDは、とくに乳幼児でリスクが高く、5歳未満の致命率はおよそ1%と報告され14)、後遺症を残す危険性もある。そのため乳児であっても、接種が可能となる生後2ヵ月以上ではワクチン接種をされることを強く勧める。(2)基礎疾患がある5〜64歳の人2017年時点のIPDの致命率は、6〜44歳で6.2%、45〜64歳で19.5%と高く、基礎疾患を有することがリスクとなることが報告されている6)。基礎疾患(先天性心疾患、慢性心疾患、慢性肺疾患、慢性腎疾患、慢性肝疾患、糖尿病、自己免疫性疾患、神経疾患、血液・ 腫瘍性疾患、染色体異常、早産低出生体重児、無脾症・脾低形成、脾摘後、臓器移植後、髄液漏、人工内耳、原発性免疫不全症、造血幹細胞移植後など6,15)がある人には、本人・保護者と医師との話し合い(共有意思決定)に基づいてワクチン接種をされることを勧める。詳しくは「6歳から64歳までのハイリスク者に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方」(2021年3月17日)を参照。(3)基礎疾患がある高齢者、高齢者施設の入所者 基礎疾患(慢性的な心疾患、肺疾患、肝疾患、糖尿病、アルコール依存症、喫煙者など)がある高齢者では、本人・家族と医師との話し合い(共有意思決定)に基づいてワクチン接種することを勧める11)。とくに、髄液漏、人工内耳、免疫不全(HIV、無脾症、骨髄腫、固形臓器移植など)の患者には接種を勧める11)。高齢者施設の入所者も医師と相談して接種することを勧める11)。3)高齢者に対するPPSV23とPCV13の接種に関する考え方これまで高齢者に対するPPSV23とPCV13の接種について国内外で議論されてきたが、現時点での日本呼吸器学会・日本感染症学会の合同委員会による「考え方」16)を紹介する。【PPSV23未接種者に対して】(1)まず定期接種としてPPSV23の接種を受けられるようにスケジュールを行う。(2)PPSV23とPCV13の両方の接種をする場合には(1)を考慮しつつPCV13→PPSV23の順番で接種し、PCV13接種後6ヵ月〜4年以内にPPSV23を接種することが適切と考えられている。この順番の利点は、成人ではPCV13接種後に、被接種者に13の血清型の莢膜抗原特異的なメモリーB細胞が誘導され、その後のPPSV23接種により両ワクチンに共通した12の血清型に対する特異抗体のブースター効果が期待されることである。ただし、この連続接種については海外のデータに基づいており、日本人を対象とした有効性、安全性の検討はなされていない。【PPSV23既接種者に対して】PPSV23接種から1年以上あけてからPCV13接種を行う。詳細は以下の図1と「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第3版)」を参照。図1 65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方(2019年10月)(日本感染症学会/日本呼吸器学会 合同委員会)画像を拡大する今後の課題・展望小児へのPCV7およびPCV13接種の間接効果(集団免疫)により、成人IPD症例のPCV13血清型(莢膜型)は劇的に減少したが、一方でPCV13に含まれない血清型が増加し、血清型置換が報告されている3)(図2)。図2 小児へのPCVs導入後のIPD由来株の莢膜型変化画像を拡大する2018年の厚生労働省の予防接種基本方針部会では、国内のIPDや肺炎原因菌の血清型分布などを検討しPCV13を高齢者に対する定期接種に指定しないと結論された17)。また、米国予防接種諮問委員会(ACIP)において、PPSV23はこれまで同様に推奨されたが、小児へのPCV13定期接種の集団免疫効果により高齢者の同ワクチン血清型の感染が劇的に減少したことから費用対効果も考慮し、高齢者へのPCV13の定期接種や一律のPCV13-PPSV23の連続接種は推奨しない方針に変更され、患者背景を考慮してPCV13接種を推奨することとされた13)。PCV13は高齢者の定期接種には指定されていないものの、接種しないことが勧められているわけではなく、その効果や安全性は確認されており13)、患者背景を考慮して接種する必要があることに注意する。とくに基礎疾患がある高齢者、高齢者施設の入所者には積極的に接種を勧めたい。また、2016年時点の高齢者のPPSV23接種率は40%ほど1)に留まっており、接種率のさらなる向上が必要である。基礎疾患を有することはIPDの重症化のリスクであり、日常診療における基礎疾患の管理とともに、適切にPPSV23やPCV13の接種を勧め、被接種者と共有意思決定を行い(shared decision making)、接種を実施し患者や地域住民をIPDから守りたい。わが国では成人IPDの調査・研究に限界があるが、前述の通りIPD症例の莢膜型の変化が報告4)されており、将来的にはさらに多くの血清型をカバーするワクチンやすべての肺炎球菌に共通する抗原をターゲットとした次世代型ワクチンの開発が望まれ、今後の動向にも注目したい3,6,18)。参考となるサイト(公的助成情報、主要研究グループ、参考となるサイト)1)23 価肺炎球菌莢膜ポリサッカライド ワクチン(肺炎球菌ワクチン) ファクトシート. 平成30(2018)年5月14日.国立感染症研究所.2)13価肺炎球菌コンジュゲートワクチン(成人用)に関するファクトシート. 平成27年7月28日.国立感染症研究所. 3)65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第3版 2019-10-30)日本呼吸器学会呼吸器ワクチン検討WG委員会/日本感染症学会ワクチン委員会・合同委員会4)「6歳から64歳までのハイリスク者に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方」(2021年3月17日).日本呼吸器学会呼吸器ワクチン検討委員会/日本感染症学会ワクチン委員会/日本ワクチン学会・合同委員会.5)こどもとおとなのワクチンサイト1)国立感染症研究所. 23 価肺炎球菌莢膜ポリサッカライド ワクチン(肺炎球菌ワクチン) ファクトシート. 平成30(2018)年5月14日. 2018.(2021年8月9日アクセス)2)Yoshii Y, et al. Infectious diseases. 2016;48:782-788.3)生方公子,ほか. 肺炎球菌感染症とワクチン. 2019.(2021年8月10日アクセス)4)Ubukata K, et al. Emerg Infect Dis. 2018;24:2010-2020.5)Ubukata K, et al. J Infect Chemother. 2021;27:211-217.6)Hanada S, et al. J Infect Chemother. 2021;27:1311-1318.7)生方公子, ほか. 肺炎球菌. 重症型のレンサ球菌・肺炎球菌感染症に対するサーベイランスの構築と病因解析、その診断・治療に関する研究.(2021年8月10日アクセス)8)新橋玲子, ほか.成人侵襲性肺炎球菌感染症に対する 23 価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチンの有効性. 2018; IASR 39:115-6.(2021年8月10日アクセス) 9)Suzuki M, et al. Lancet Infect Dis. 2017;17:313-321.10)厚生労働省. 第27回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会 資料. 2019.(2021年8月10日アクセス)11)World Health Organization. Releve epidemiologique hebdomadaire. 2008;83(42):373-384.12)肺炎球菌ワクチン再接種問題検討委員会. 肺炎球菌ワクチン再接種のガイダンス(改訂版). 感染症誌. 2017;9;:543-552.(2021年8月10日アクセス)13)Matanock A, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2019;68:1069-1075.14)国立感染症研究所. 資料3 13価肺炎球菌コンジュゲートワクチン(成人用)に関するファクトシート. 平成27年7月28日. 第1回厚生科学審議会予防接種・ワクチン文科会予防接種基本方針部会ワクチンに関する小委員会資料. 2015.(2021年8月9日アクセス)15)日本呼吸器学会呼吸器ワクチン検討委員会/日本感染症学会ワクチン委員会/日本ワクチン学会・合同委員会. 「6歳から64歳までのハイリスク者に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方」(2021年3月17日). (2021年8月9日アクセス)16)日本呼吸器学会呼吸器ワクチン検討WG委員会/日本感染症学会ワクチン委員会・合同委員会. 65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第3版 2019-10-30). 2019.(2021年8月9日アクセス)17)厚生労働省. 第24回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会 資料 2018.(2021年8月9日アクセス)18)菅 秀, 富樫武弘, 細矢光亮, ほか. 13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)導入後の小児侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の現状. IASR Vol. 39 p112-113. 2018.(2021年8月10日アクセス)講師紹介

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「五輪の裏で現場はギリギリまで追い詰められていた」感染症内科医・岡秀昭氏インタビュー(前編)

 2021年も残すところあと数週間。昨年の年明け早々に始まった新型コロナウイルス感染症との闘いは、2年近くになる。医療現場のみならず、社会全体を激変させたコロナだが、その最前線で治療に当たってきた医師は、最大の患者数を出した第5波を乗り越え、今ようやく息をつける状態となった。この休息が束の間なのか、しばらくの猶予となるのかは不明だが、諸外国の状況やオミクロン株の出現などを鑑みると、それほど悠長に構えていられないのが現在地点かもしれない。 第6波は来るのか。これまでのコロナ政策で今後も闘い続けられるのか―。地域のコロナ拠点病院で重症患者治療に奔走した感染症内科医・岡 秀昭氏(埼玉医科大学総合医療センター)に話を伺った。******* 今現在(11月8日)、コロナが始まって以来、一番落ち着いている。ここひと月近く、コロナの入院患者はいない。夏休みも取れなかった部下たちが、ようやく交代で休みを取ることができた。――最大のピークとなった第5波はどのような推移を辿り、減少傾向はいつごろから? まず、8月の上旬から逼迫感が出てきて、8月いっぱいはしんどかったと記憶している。それが9月に入り、患者が急激に減ってきた。8月と9月とでは状況がまったく違った。私自身、9月中旬には第5波の振り返りをする余裕も出てきて、9月後半にはずいぶん落ち着いていた。 過去の記録を見ると、9月7日時点で、入院数よりも退院数のほうが上回っている。9月13、20、27日と1週間ごとに、いくつかあったコロナ病棟を、患者の退院で空床化し、いったん閉鎖状態にしたのがこの時期だった。 振り返ると、五輪開幕の直前辺りから五輪期間中が最も大変だった。時期的にも、メディアでは五輪ばかりが話題になって、コロナの状況が取り上げられなくなっていた。 われわれの現場では、7月ごろからかなり危機感が募っていた。しかし一部の人が、重症者数は多くないので、医療体制は問題ないとメディアで公言し、五輪開催の機運が高まった。われわれもできる限りメディアの取材に応え、「重症者のピークは遅れてやってくるので、むしろこれから増える。楽観視しないでほしい」と切実な状況を訴えていたにもかかわらず、それは聞き届けられなかった。 私の主張はただ1つ、「五輪の延期」だった。今になってみてわかることだが、ワクチン接種が進んで落ち着いて来る時期、せめて10月以降になれば有観客でも開催できるはずだっただろうと思う。これは“後出しじゃんけん”ではなく、SNSでもたびたび発信していた。 しかし、菅 義偉前首相は、五輪開催を強行した。それが原因で感染者が増えたのかどうか、本当のところはわからない。しかし、五輪の裏で多くのコロナ患者が重症化し、医療が逼迫した結果、本来失わずに済んだ命が失われたことが紛れもない事実であることを伝えたい。 感染者数が減少にシフトしたかなりの要因は、言うまでもなくワクチンの普及によるものだろう。もうこれ以上の患者数になれば終わりだ……というギリギリまで追い詰められたところで、急速にブレーキが掛かった感覚だった。言い換えれば、われわれが治療に当たったそのころの重症患者のほとんどがワクチン未接種者、死亡も(免疫がつきにくい重篤な基礎疾患を有するなどの一部例外を除いて)、いずれも未接種者だった。五輪を強行開催した菅前首相に関して評価する点を挙げるなら、ワクチンを五輪に何とか間に合わせようと、かなりテコ入れしたことだろう。明らかにワクチン接種の急加速が入った。仮に五輪開催がなかったとしたら、あれほど接種が進まなかったかもしれない。そうなれば、第5波は高齢者を中心に重症者が増え、さらに大きなピークになっていた可能性がある。事実、第5波ピーク時の患者はワクチン未接種の40~50歳代が多かった。ワクチンが広がっていなかったら、さらに高齢者層が大きく上乗せされただろう。そうなれば死亡も格段に増えた可能性がある。 もう1つ、日本人の感染予防に対する意識の高さは、大いに評価されるべきだと思う。海外メディアが報じる現地の状況を見ると、マスクを着けていない人がいかに多いかがわかる。日本人の同調圧力とまでは言わないが、相互監視的に「ほかの人が着けてるから自分も着けなくては」という意識からか、外では皆がきちんとマスクを着用している。 この、ワクチン完遂率の高さと予防意識が、かなり第5波のブレーキには貢献したと考える。――第5波の渦中では、五輪開催と緊急事態宣言の発令などの相反する行動に多くの国民が矛盾と戸惑いを感じた。 さかのぼるが、第4波(2021年3月1日~6月20日)は、緊急事態宣言がスムーズかつ早く、大型連休前に発令された。あの発令については、医療者の中では高く評価されている。中には、「タイミングとして早過ぎるのでは」という指摘もあったようだが、先手を打って出せたのが第4波の宣言だった。ちょうど、より感染力の強いアルファ株に置き換わるタイミングだったにもかかわらず、少なくとも関東地域では比較的“ボヤ”程度で済んだ。ところが、第5波は違った。五輪という目標があり、そこに政治家たちが惑わされた。「そうたやすく宣言は出せない」という政府の思惑があったと思う。しかも、現場からの訴えを聞かず、「重症者は増えていない」というストーリーまで語ったのは間違いだった。あの時点で、すでに静観している場合ではなかった。 さらに、感染力が強いデルタ株の出現があり、より重症化しやすい特性もあった。そして、長らく続いた自粛ムードへの疲れと抑制効果の低下。国民はすでに相当な疲れと緩みを覚えていたし、そういう状況下にもかかわらず五輪は開催されるという。それなら、もう大丈夫なんじゃないかという形で、世論を割ることになってしまった。つまり、五輪開催と感染対策が矛盾し合うことになり、国民にうまく伝わらなかったのが、あの時期の日本だったと思う。――ワクチンに関して、ブレークスルー感染については現場で影響が? 自院では重症や中等症IIの治療がもっぱらで、在宅療養の軽症者は送られて来ない。つまり、ブレークスルー感染が起きていたとしても、現在の状況から推測できるのは、軽症で済んでいる、つまり重症化には至っていないということだ。したがって、ワクチンの90%の予防効果というのは、完全に100%防ぎ切るということではないにせよ、かなり予防できていて、ブレークスルー感染も想定の範囲内だということ。それでも重症化して送られてくるのは、重症化リスクを有するのにワクチン未接種の人とみて、第5波ではほぼ間違いなかった。 ワクチンが接種者のためだけと考えると、重症化しにくい年齢層にはその意義がなかなか見出しにくいかもしれない。ただ、これだけ効果があることがわかってきているコロナワクチンなので、自分も接種者となることで、社会の集団免疫を作る一員になるということ、それに協力することになる。今後、子どもへのワクチンも議論になってくるだろう。子ども個人の健康を守るという側面もあるが、もし第6波で重症者が多く出て来たら、子どもまで接種していかないと抑制できないのではないかと考える。それは子ども自身の現在だけでなく、成人した後の未来も守ることになり、ひいてはその周りの家族をも守ることになる。――米国ではすでに5~12歳まで接種対象が引き下げられている。 日本での導入には議論が必要になると思うが、ポイントとしては、子どもが感染したとしても重症化リスクは小さいということと、人種として多系統炎症症候群(MIS-C)を起こすアジア人が相対的に少ないという点がある。そして大人から子どもへの感染は多いが、その逆は少ないというのもある。その点で、周りを守るというワクチンの意義が、子供に関してはそこまで大きくないのではないかという指摘もある。治験では一定の効果が示されているが、副反応もあり、そこまでして子供に接種させるべきなのかというと、微妙だという意見もある。ワクチン供給量とのバランスという観点も考える必要があるだろう。もしくは、追加接種も含め途上国とのバランスという問題もあり、そこが崩れると輸入感染症になるという危惧が出てくる。 コロナに関しては、ある1つの国が“ひとり勝ち”というわけにいかない。今後、世界的に経済活動が再び活発化してきた時、海外との人流増加は避けられない。ビジネス相手国となるワクチン接種が遅れている一部のアフリカや南米、アジア諸国との行き来が増えれば、確実に入って来る。そうした点でも、世界のバランスをとってワクチン接種を進めていく必要がある。 抗体価は接種から半年で低下するのはすでに知られているが、デルタ株でも重症化を減らす効果は依然続いており、そこまで追加接種を慌てなくてもよいのではないかとは思う。一方で、ワクチンを2回打っていても免疫不全者、とくに抗がん剤治療中の患者や臓器移植患者には抗体が2回では十分につかず、ワクチンの予防効果が下がることがわかっている。今、追加接種が優先的に必要なのはそうした患者、もしくはその周りにいる医療従事者や家族だろう。更なる展望としては、抗体カクテル、モノクローナル抗体治療薬、経口薬も出てくるだろうが、高額な薬価の問題がある。抗体カクテルの重症化リスクがある患者への早期治療投与が有用ということはデータに示されているが、それも7割の重症阻止効果ということで、単純比較だがワクチンのほうが効果が高いことがわかる。また、曝露後予防には9割近い効果があるとされているが、推定薬価は30万前後と高額だ。これらの治療薬の効果が証明されているのは、重症化リスクがある患者に対してであり、リスクのない患者にはコストパフォーマンスも含め効果は不透明である。ワクチンが数千円ということを考えると、未接種者でも、万一感染したら皆が抗体カクテルや経口薬の治療が受けられ、効果もあるという理屈は間違っているという認識が必要だ。抗体カクテルは受動免疫で、一時的に外部から抗体を入れるという仕組み。つまり、入れた抗体がなくなれば無効になる。一方、ワクチンの免疫は接種によって能動的に免疫をつけるという仕組みなので、減弱するものの、長く効果が続く。しかもコストパフォーマンスも良い。抗体カクテルや治療薬が、ワクチンに置き換わるものでは決してないことも理解してほしい。 一部からは、「コロナを5類感染症に」という声が上がっているが、医療費が現在の全額公費負担から3割負担になるのだというところまで理解して言っているのかと問いたい。例えば、レムデシビルは1本6万円。入院初日はそれを2倍量使うので、2本で12万円。さらにその後4日間使うので、薬剤費だけで40万円近く掛かる。レムデシビルが必要な人は酸素やステロイド剤、場合によってはICUに入り、人工呼吸器が必要なケースもある。状況によっては、高価な生物学的製剤や抗菌薬も使う。相当額になる治療費を、現在は公費で全額負担しているのに、5類となった場合にはどうなるのか。高額療養費が適用されるかもしれないが、それでもかなりの額を患者自身が負担することになる。自己負担が大きく増えるということは、全員が望む治療を受けられるかどうかという観点からもかなり危惧する。それだけ最近の治療薬は高コスト。今後続いていくコロナ治療薬も、内服であってもそれなりに高額な薬価となるだろう。 また、コロナ治療薬に関しては、現在のところすべてが特例承認で迅速化が優先されているが、今までもガチフロキサシンやテリスロマイシンなどの抗菌薬などでIII相試験まで治験が進んで効果が確認されたにもかかわらず、いざ承認されて多くの患者に投与したら、低血糖や意識消失などの思わぬ副作用が確認されて使われなくなった例が複数ある。さらにもう1つの懸念は、感染症治療薬は、多用すればいずれは耐性化するのが常であるという問題がある。選択肢が増えてくるのはいいが、その裏にはたくさんの課題があることも忘れてはならない。 コロナに関して、ワクチンの副作用は気にする人が多いのに、治療薬だとなぜウェルカムなのかは疑問だ。治療薬にも副作用があって、新薬が怖いという点はワクチンと同じだ。治療薬を投与するのは、つまりコロナに罹患したということなので、後遺症の問題もある。やはり、感染するより未然に防げたほうがよいのは自明だ。したがって、治療薬が出てきたらワクチンは不要ということには決してならないということは強調したい。<後編に続く>

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第27回 有名だけれども意外と見落とされがちな意識障害の原因は?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)意識障害の原因は主軸を持って対応を!2)忘れがちな意識障害の原因を把握し対応を!【症例】62歳男性。意識障害仕事場の敷地内で倒れていた。●受診時のバイタルサイン意識20/JCS血圧128/51mmHg脈拍95回/分(整)呼吸20回/分SpO295%(RA)体温36.0℃瞳孔4/4 +/+既往歴高血圧内服薬定期内服薬なし所見麻痺の評価は困難だが、明らかな左右差なし意識障害の原因は?1)救急外来では意識障害患者にしばしば遭遇します。以前に取り上げた意識障害のアプローチに準じて対応しますが、今回の原因は何らしいでしょうか。意識障害というとどうしても頭蓋内疾患を考えがちですが、一般的に頭蓋内疾患が原因の意識障害では血圧は高くなるため、この時点で明らかな麻痺も認めないことから脳卒中は積極的には疑いません。クモ膜下出血の多くは左右差を認めないため、突然発症であった場合には注意が必要ですけどね。それでは原因は何でしょうか?意識障害の原因は多岐に渡り、“AIUEOTIPS”などの語呂合わせで覚えている人も多いのではないでしょうか。急性発症の意識障害であれば、低血糖を除外し、その後頭部CTを検査するというのは一般的な流れかと思います。診療の場において頻度は異なりますが、救急外来を受診する患者では感染症、脳卒中、痙攣、薬剤性、外傷が多く、その他、血糖異常やアルコール、電解質異常などもそれなりに経験します。今回はその中でも見逃しがちな意識障害の原因を見逃される理由と併せて整理しておきましょう。細菌性髄膜炎2)頻度として高くはありませんが、病態として敗血症が考えられる状況においては常に考える必要があります。見逃してしまう理由は、そもそも鑑別に挙げることができない、鑑別に挙げても発熱がない、項部硬直を認めないなどから除外してしまう、その他腰椎穿刺は施行したものの細胞数の上昇を認めなかったため除外してしまったなどが一般的でしょう。ワクチンの普及によって、以前と比較し細菌性髄膜炎は減少傾向にあるものの、毎年私の施設でも数例を経験します。忘れた頃にやってくる疾患といったイメージでしょうか。救急外来では、qSOFA陽性患者では鑑別に挙げ、他のフォーカスが明らかでない場合には積極的に腰椎穿刺を施行し、たとえ細胞数が上昇していなくてもグラム染色所見や培養結果で根拠を持って否定できるまでは、細菌性髄膜炎として対応するようにしています。髄膜刺激徴候は重要ですが、ケルニッヒ徴候やブルジンスキー徴候など特異度が比較的高い所見はあるものの、感度が高い身体所見は存在しないことに注意が必要です(項部硬直は感度46.1%、特異度71.3%)。単一の指標ではなく、総合的な判断が必要であるため、髄膜刺激徴候は1つ1つ確認しますが、結果の解釈を誤らないようにしましょう。細菌性髄膜炎は内科的エマージェンシー疾患であり、安易な除外は禁物です。レジオネラ症(legionellosis)「レジオネラ肺炎」。誰もが聞いたことがある病気ですが、早期に疑い適切な介入を行うことは簡単なようで難しいものです。呼吸困難を主訴に来院し、低酸素血症を認め、X線検査所見では明らかな肺炎像、尿中抗原を提出して陽性、このような状況であれば誰もが考えると思いますが、実臨床はそんなに甘くはありません。肺炎球菌と並んで重症肺炎の代表的な菌であるため、早期発見、早期治療介入が重要ですが、入り口を把握し疑うポイントを知らなければ対応できません。レジオネラ肺炎を見逃してしまう理由もまた同様であり、そもそも鑑別に挙がらない、疑ったものの温泉入浴などの感染経路がなく否定してしまった、尿中抗原陰性を理由に除外してしまったなどが挙げられます。市中肺炎患者に対して肺炎球菌をカバーしない人はいないと思いますが、意外とレジオネラは忘れ去られています。セフトリアキソン(CTRX)やアンピシリン・スルバクタム(ABPC/SBT)などの抗菌薬は、しばしば救急外来で投与されますが、これらはレジオネラに対しては無効ですよね。重症肺炎、喀痰グラム染色で起因菌が見当たらない、紹介症例などでCTRXなどβラクタム系抗菌薬が無効な場合には積極的にレジオネラ肺炎を疑う必要があります。難しいのは入り口が肺炎を示唆する症状ではない場合です。レジオネラ症の初期に認めうる肺外症状を頭に入れておきましょう(表)。これらを認める場合、他に説明しうる原因があれば過度にレジオネラを考える必要はありませんが、そうではない場合、「もしかしてレジオネラ?!」と考え、改めて病歴や身体所見をとるとヒントが隠れているかもしれません。また、意識すれば発熱の割に脈拍の上昇が認められない比較的徐脈にも気付くかもしれません。尿中抗原は診断に多々利用されていますが、これも注意が必要です。特異度は比較的高いとされますが、偽陽性の問題もあります。また、感度は決して高くないため陰性であっても否定できません。(1)重症肺炎、(2)βラクタム系抗菌薬が効かない肺炎、(3)グラム染色で有意な菌が認められない場合、(4)肺外症状を認める場合、(5)比較的徐脈を認める場合、このような場合にはレジオネラを意識して対応するようにしています。表 レジオネラ肺炎の肺外症状画像を拡大するウェルニッケ脳症4)アルコール多飲患者では鑑別に挙げ対応することが多いと思いますが、それ以外の場合には忘れがちです。フレイル患者など低栄養の患者さんでは常に考えるべき疾患であると思います。ウェルニッケ脳症が見逃されがちな5つの誤解があります。それは、「(1)非常にまれである、(2)慢性アルコール患者のみに起こる、(3)3徴(意識障害、眼球運動障害、歩行失調)が揃っていなければならない、(4)チアミンを静注するとアナフィラキシーのリスクが高い、(5)他の診断があれば除外できる」です。正確な頻度は不明であるものの、私たちが行わなければならないのはウェルニッケ脳症を診断すること以上に治療介入のタイミングを逃さないことです。意識障害患者に対するビタミンB1の投与は経静脈的に行いますが、迷ったら投与するようにしましょう。典型的な症状が揃うまで待っていてはいけません。重要なこととして(5)の他の診断があれば除外できるという誤解です。フレイル患者が脳梗塞を起こした場合、肺炎を起こした場合、その場合にビタミンB1が欠乏している(しかけている)ことも考え対応するようにしましょう。意識すると撮影した脳梗塞のMRIに典型的な所見が映っているかもしれませんよ。今回の症例の最終診断は「レジオネラ肺炎」でした。診断へのアプローチは紙面の都合上割愛しますが、意識障害のアプローチは主軸を持ちつつ、そのアプローチで見逃しがちな点を把握し、対応することが重要です。私は重度の意識障害患者に対するアプローチ方法を決め、そこから目の前の患者さんでは必要のない項目を引く形で対応しています。これもあれもと足し算で対応すると忘れたり、後手に回ることがありますからね。1)坂本 壮、安藤 裕貴著. 意識障害。あなたも名医!. 日本医事新報社;2019.2)Akaishi T, et al. J Gen Fam Med. 2019;20:193-198.3)Cunha BA. Infect Dis Clin North Am. 2010;24:73-105.4)坂本 壮 編著. 救急外来、ここだけの話. 医学書院;2021.

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小児市中肺炎、退院後の経口アモキシシリン投与量と期間/JAMA

 救急部門または入院病棟から退院(48時間以内)した市中肺炎の小児患者において、外来での経口アモキシシリン投与は、低用量群は高用量群に対して、また3日間群は7日間群に対して、いずれも非劣性であることが示された。英国・ロンドン大学セントジョージ校のJulia A. Bielicki氏らが、患児824例を対象に行った多施設共同2×2要因デザイン非劣性無作為化試験の結果を報告した。なお著者は、「今回の試験結果の解釈については、重症度、治療環境、抗菌薬投与歴、非劣性マージンの受容性について考慮する必要がある」と指摘している。JAMA誌2021年11月2日号掲載の報告。英国28ヵ所、アイルランド1ヵ所で小児824例を対象に試験 研究グループは、英国28ヵ所、アイルランド1ヵ所の医療機関を通じ、市中肺炎の臨床診断を受け、救急部門・入院病棟からの退院後に外来でアモキシシリン治療を受けた月齢6ヵ月以上の小児824例を対象に試験を行った。 被験児を、アモキシシリン低用量(35~50mg/kg/日、410例)、または高用量(70~90mg/kg/日、404例)投与群と、両群について投与期間を3日間(413例)、7日間(401例)とする群に、それぞれ無作為化した。 主要アウトカムは、無作為化後28日以内の、呼吸器感染症に対する抗菌薬再投与(非劣性マージン8%)。副次アウトカムは、保護者の9項目の市中肺炎症状の報告に基づく重症度/期間、3項目の抗菌薬関連有害事象、肺炎球菌分離株のコロニー形成における表現型耐性などだった。重症市中肺炎児の再投与発生率も有意差なし 被験児824例が4群のいずれか1群に無作為化され、814例(年齢中央値2.5歳[IQR:1.6~2.7]、男児421例[52%])が少なくとも1回の試験薬投与を受けた。主要アウトカムは789例(97%)で入手できた。 低用量群vs.高用量群の主要アウトカムの発生率は12.6% vs.12.4%(群間差:0.2%[片側95%信頼区間[CI]:-∞~4.0])、3日間投与群vs.7日間投与群の同発生率はともに12.5%だった(0.1%[-∞~3.9])。投与量、投与期間ともに非劣性が示され、投与量と投与期間に有意な交互作用は認められなかった(p=0.63)。 事前に規定した14項目の副次アウトカムのうち、有意差が認められたのは、3日間投与群vs.7日間投与群の咳症状の期間(それぞれ、中央値12日vs.10日、ハザード比[HR]:1.2[95%CI:1.0~1.4]、p=0.04)と、咳による睡眠障害の期間(中央値4日vs.4日、HR:1.2[95%CI:1.0~1.4]、p=0.03)だった。 また、サブグループ解析での重症市中肺炎児の主要アウトカム発生率も有意差は示されなかった。低用量群17.3% vs.高用量群13.5%(群間差:3.8%[片側95%CI:-∞~10]、交互作用に関するp=0.18)、3日間投与群16.0% vs.7日間投与群14.8%(1.2%[-∞~7.4]、p=0.73)だった。

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ステロイド投与に関連する臨床試験の難しさ:心肺蘇生の現場から(解説:香坂俊氏)

(1)敗血症性ショック症例に対するステロイド投与今回のテーマはVAM-IHCA試験という院内の心停止症例に対してバソプレシン+メチルプレドニゾロンを投与するかどうかというRCTなのであるが(JAMA誌掲載)、このテーマに関しては少し昔の話から始めさせていただきたい。ステロイドが集中治療の現場に登場したのは、2002年くらいからではないだろうか。Annane氏らによってフランスで敗血症性ショック症例を対象としたRCTが行われ(300例)、ACTH負荷不応だった患者に対して・ヒドロコルチゾン50mg(6時間ごと)+フルドロコルチゾン50mg(24時間ごと)を7日間実施すると、プラセボと比較して、ICU死亡(58% vs.70%)や院内死亡(61% vs.72%)が減少したと報告された。この研究を契機に、敗血症性ショックにはACTH試験を行い不応性であればステロイド投与を行うというのが普及した。当時自分はニューヨークで内科のレジデントをやっていたが、ICUのことが詳しかった同僚※に「これどうなの?」とか聞いたりして、四苦八苦しながらそのプロトコールを実施していた記憶がある。しかし、このフランスのRCTは小規模なものであり、プロトコール外で副腎ステロイド複合体阻害薬が投与されていた症例が少なからずいたこと、フルドロコルチゾンが単なる交絡因子であった可能性、そして対照群で抗菌薬投与の遅れがあったなど、議論の余地が結構残されていた。その後、さまざまな小規模あるいは中規模の試験が行われたが、明確な結論を得るに至らず、2018年にようやく満を持してADRENAL試験(3,800例)の結果が報告された。その結果であるが、Among patients with septic shock undergoing mechanical ventilation, a continuous infusion of hydrocortisone did not result in lower 90-day mortality than placebo. というものであった。(2)心停止症例に対するステロイド投与前置きが長くなったが、今回デンマークで行われたVAM-IHCA試験の結果を拝読し、Annane氏らの敗血症性ショックに対するRCTの結果が重なった。VAM-IHCAは501人の院内心停止症例を対象としており、蘇生時にバソプレシン+メチルプレドニゾロン(40mg)、あるいは通常どおりエピネフリンを投与するかどうかをランダム化したものであり(Annane氏らの研究と異なりメチルプレドニゾロンの投与は蘇生時の1回のみ)、結果としてROSC(return of spontaneous circulation)の率は改善したものの(42% vs.33%)、30日生存率の改善には至らなかった(10% vs.12%)。VAM-IHCAではAnnane氏らの研究と同様にさまざまな交絡が指摘されており、たとえば24時間生存したプラセボ群の患者の実に46%が何らかのステロイドの投与が行われていた。また、プライマリエンドポイントはあくまでROSCであり、生存率を検証するための症例数はこの研究ではそもそも担保されていなかったという限界もある。今後この領域でADRENALのような決定的な臨床試験が行われるか? そこはかなり難しいように思われるが、デンマークを含む北欧諸国の成熟したregistry-based RCTのシステムを用いればもしかすると可能かもしれない(3)今後心肺蘇生のプロトコールは変更されるか?敗血症性ショックに対するステロイド治療の歴史を体験してきた身としては、この領域の試験の難しさは身に染みてわかっているつもりである。ステロイドにはα受容体をアップレギュレートする効果があり、また全身的な炎症反応が不活化されている状況下で相対的な副腎機能低下を補うことも期待される。しかし、このように「想定されるベネフィット」も臨床試験の検証があってのものであり、VAM-IHCA試験の結果を踏まえて、すぐにASLSなどの心肺蘇生のプロトコールが変更されることはないだろう。ステロイド治療は、一部のCPR-refractoryの患者群のみに用いられるべき、と捉えるのが現段階での最適解ではなかろうか。※現Intermountain LDS HospitalのICU Directorである田中 竜馬氏

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『がん治療におけるアピアランスケアガイドライン 2021年版』が発刊

 日本がんサポーティブケア学会が作成した『がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版』が10月20日に発刊した。外見(アピアランス)に関する課題は2018年の第3期がん対策推進基本計画でも取り上げられ、がんサバイバーが増える昨今ではがん治療を円滑に遂行するためにも、治療を担う医師に対してもアピアランス問題の取り扱い方が求められる。今回のがん治療におけるアピアランスケアガイドライン改訂は、分子標的薬治療や頭皮冷却法などに関する重要な臨床課題の新たな研究知見が蓄積されたことを踏まえており、患者ががん治療に伴う外見変化で悩みを抱えた際、医療者として質の高い治療・整容を提供するのに有用な一冊となっている。 がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版は、これまで“がん患者に対するアピアランスの手引き 2016年版”として公開してきたものをMinds診療ガイドライン作成マニュアル2017に準拠し作成、ガイドラインに格上げされたものだが、この作成委員長を務めた野澤 桂子氏(目白大学看護学部 看護学科/国立がん研究センター中央病院 アピアランス支援センター)に注目すべき点やアピアランスケアにおける患者への寄り添い方について伺った。アピアランスケアガイドラインと医学的エビデンス 今回、がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版を発刊するにあたり、野澤氏は「僅少の研究からエビデンスとなるものを抽出し推奨度を決定するのは困難を極めた。さらに、下痢や発熱などの副作用と異なり、直接は命に関わらない外見の副作用に対するケアを患者QOLと医学的エビデンスとのバランスの中でどうアピアランスケアガイドラインに反映させるか、今回の課題だった」と言及した。その一方で、エビデンスを重視し過ぎる医療者に危機感も感じたという。「支持療法の評価を、がん治療の効果を評価するのとまったく同じ手法で評価する必要がどこまであるのだろうか。ハードルが高すぎて、同じ労力なら支持療法より治療法の研究をしようとする研究者も増えるかも知れない」とし、「医療者は、ゼロリスクにするために少しでも危険を避けようとするが、たとえば、日用整容品の注意事項に書かれている“病中病後の使用はお控えください”という言葉もがん患者のエビデンスがあるとは限らない」と指摘した。また、「炎症や肌荒れがなく患者さんの希望があれば挑戦してほしい。医療者は、患者さんがその挑戦のメリットデメリットを判断できるような情報を提供することが重要」と説明した。アピアランスケアガイドラインが医療者のエビデンス呪縛を解く また、同氏は医療者のアピアランスケアの現状について「医療者は根拠なく患者さんの生活を限定させるような指導を行うべきではない。人間は息をするためだけに生きているのではない。その人らしく豊かに過ごすための時間にできなければ、患者さんにとって意味がないともいえる」と強調した。 そんな野澤氏も以前はざ瘡様皮疹が出現した患者さんには、当時言われていたように、症状の悪化を懸念してフルメイクではなくポイントメイクを推奨していた。しかし、ある患者さんの一言でケアの在り方を見直したのだという。“ポイントメイクでは隠したいブツブツが隠せない。私は可愛いおばあちゃんと言われることが生きがいだったのに、これでは孫に会えない。効いてる限り死ぬまで使う薬なのに、そもそも生きている意味がないじゃない”と患者さんに迫られた経験談を話し、「その時にケアに対する認識の転換期を迎えた。アピアランスケアがほかの副作用対策と異なるのは、“命に直接関わらない”ということ。ケアに挑戦して何かあってもそれに対する対策はある。重要なのは、患者さんが納得した選択ができること、その人らしさを表現できることではないか」と語った。がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版はある意味、医療者のエビデンス呪縛を解くための指南書の役割もあるのだろう。アピアランスケアガイドライン、治療に応じた患者管理がスムーズに 今回のがん治療におけるアピアランスケアガイドライン改訂では、各章の項目がひと目でわかる「項目一覧」というページが追加されている。ここでは分類(症状や部位)、番号(BQ:background question、CQ:clinical question、FQ:future research question)の項目分類が一覧になっており、研究の状況がわかると同時に、気になるページにすぐたどり着くようになっている。また、各章に総論が設けられており、治療ごとの現状など、本書の読者の理解が促される仕様になっている。たとえば、化学療法編では、「レジメン別脱毛の頻度」や「レジメン別の手足症候群の頻度」が表として掲載され副作用の発現率に注目することで、実際の治療に応じた患者管理がしやすくなっている。 各章の変更点については、5月に開催された日本がんサポーティブケア学会の特別シンポジウム『アピアランスケア研究の現状と課題~アピアランスケアガイドライン2021最新版を作成して~』にて、作成委員会の各領域リーダーらがトピックを解説。そこで挙げられた注目すべき点やアピアランスケアガイドラインの改訂にて変更されたquestionを以下に示す。<アピアランスケアガイドライン項目ごとの追加・改訂点>―――治療編(化学療法)・CQ1:化学療法誘発脱毛の予防や重症度軽減に頭皮クーリングシステムは勧められるか(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:B[中]、合意率:100%)→周術期化学療法を行う乳がん患者限定。また、レジメンごとの脱毛治療の成功・不成功を踏まえた上で患者指導やケアが必要とされる。・CQ8:化学療法による手足症候群の予防や重症度の軽減に保湿薬の外用は勧められるか(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:D[とても弱い]、合意率:94%)・CQ10:化学療法による手足症候群の予防や発現を遅らせる目的で、ビタミンB6を投与することは勧められるか(推奨の強さ:3、エビデンスの強さ:B[中]、合意率:94%)治療編(分子標的療法)・CQ17:分子標的治療に伴うざ瘡様皮疹の予防あるいは治療に対してテトラサイクリン系抗菌薬の内服は勧められるか(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:B[中]、合意率:100%)→皮膚障害のなかで代表的なのが「ざ瘡様皮疹」だが、無菌性であることが特徴。テトラサイクリン系は抗菌作用のみならず抗炎症作用を持ち合わせており、この効果を期待して使用される。・FQ16:分子標的治療に伴うざ瘡様皮疹に対して過酸化ベンゾイルゲルの外用は勧められるか。治療編(放射線療法)・CQ28:放射線治療による皮膚有害事象に対して保湿薬の外用は勧められるか(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:C[弱]、合意率:乳がん-100%、頭頸部-94%)→強度変調放射線治療(IMRT)の普及に伴い、線量に関する規定が削除され、“70Gy相当”の文言が削除された。・FQ31:軟膏等外用薬を塗布したまま放射線治療を受けてもよいか日常整容編スキンケア(洗顔やひげ剃りなど)、カモフラージュとしてのメイクやつけまつげに関する項目は漠然としていたので今回は項目より削除。また、手術瘢痕へのテーピングについてはカモフラージュという表現から“顕著化を防ぐ方法”に変更されている。・BQ32:化学療法中の患者に対して、安全な洗髪等の日常的ヘアケア方法は何か→頭皮を清潔→決まった回数は存在せず、臭いや痒みに応じてでも構わない。シャンプーも指定品があるわけではないので患者の嗜好に応じたものをアドバイスする。・BQ37:がん薬物療法中の患者に対して勧められる紫外線防御方法は何か→前回あまり触れられていなかった衣服について盛り込まれた。・FQ42:乳房再建術後に使用が勧められる下着はあるか――― 今回は43項目(FQ:19、CQ:10、BQ:14)が出来上がったものの、患者の生命に直接関わるわけではない点がボトルネックとなりエビデンスレベルの高い研究が今後望まれる。次回の課題として「研究の蓄積、免疫チェックポイント阻害剤の皮膚障害に関する項目が盛り込まれること」と同氏は話した。アピアランスケア実践でがん患者を治療ストレスから開放 アピアランスケアを実践することは患者の自己表現を容認するものであり、治療効果ひいては生存率にもかかわってくるのではないだろうか。同氏は「患者さんにはもっと安心して治療をしてもらいたい。今は外見の副作用コントロールのための休薬・減量のスキルも進歩してきており、不安なことはケア方法含めて医療者に聞いて欲しい。そして、医療者はエビデンスをベースとしつつも、個々に応じた対応を心がけることが必要」と締めくくった。

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やせ過ぎは尿路感染症の死亡の危険因子に/国立国際医療研究センター

 尿路感染症のために入院している患者は年間約10万人と推定され、高齢になるほど患者は増え、90歳以上では1年間で100人に1人が入院し、その入院医療費は年間660億円にのぼると見積もられている。その実態はどのようなものであろう。 国立国際医療研究センターの酒匂 赤人氏(国府台病院総合内科)らは、東京大学などとの共同研究により、尿路感染症で入院した23万人の大規模入院データをもとに、尿路感染症による入院の発生率、患者の特徴、死亡率などを明らかにすることを目的に調査を行い、今回その結果を発表した。 その結果、年間約10万人が入院し、患者平均年齢は73.5歳で、女性が64.9%を占め、入院中の死亡率は4.5%だった。また、年代や性別にかかわらず、夏に入院患者が多く、冬と春に少ないという季節変動がみられた。23万人のデータを解析【研究の背景・目的】 尿路感染症は敗血症やDIC(播種性血管内凝固症候群)といった重篤な状態に至ることもあり、死亡率は1~20%程度と報告され、高齢、免疫機能の低下、敗血症などが死亡の危険因子だと言われているが、日本での大規模なデータはなかった。わが国の大規模入院データベースであるDPCデータを利用し、尿路感染症による入院の発生率などを明らかにすることを目的に研究を行った。【方法】 DPCデータベースを用い、2010~15年に退院した約3,100万人のうち、尿路感染症や腎盂腎炎の診断により入院した15歳以上の患者23万人のデータを後ろ向きに調査(除く膀胱炎)。年間入院患者数を推定し、患者の特徴や治療内容、死亡率とその危険因子などを調査した。【結果】・患者の平均年齢は73.5歳、女性が64.9%を占めた・年代や性別にかかわらず、夏に入院患者が多く、冬と春に少ないという季節変動がみられた・尿路感染症による入院の発生率は人口1万人当たりで男性は6.8回、女性は12.4回・高齢になるほど入院の発生率が高くなり、70代では1万人当たり約20回、80代では約60回、90歳以上では約100回・15~39歳の女性のうち、11%が妊娠していた・入院初日に使用した抗菌薬はペニシリン系21.6%、第1世代セフェム5.1%、第2世代セフェム18.5%、第3世代セフェム37.9%、第4世代セフェム4.4%、カルバペネム10.7%、フルオロキノロン4.5%・集中治療室に入ったのは2%、結石や腫瘍による尿路閉塞に対して尿管ステントを要したのは8%だった・入院日数の中央値は12日で、医療費の中央値は43万円・入院中の死亡率は4.5%で、男性、高齢、小規模病院、市中病院、冬の入院、合併症の多さ・重さ、低BMI、入院時の意識障害、救急搬送、DIC、敗血症、腎不全、心不全、心血管疾患、肺炎、悪性腫瘍、糖尿病薬の使用、ステロイドや免疫抑制薬の使用などが危険因子だった尿路感染症の死亡の危険因子で体型が関係 今回の調査を踏まえ、酒匂氏らは次のようにコメントしている。「尿路感染症は女性に多いことが知られているが、高齢者では人口当たりの男性患者は女性と同程度であることもわかった。夏に尿路感染症が多いことが、今回の研究でも確かめられ、さらに年代や性別によらないことがわかった。また、冬に死亡率が高いこともわかった。一方で、なぜ季節による変化があるのかについてはわからず、今後の他の研究が待たれる。患者一人当たりの平均入院医療費は約62万円(日本全体で年間約660億円と推定)がかかっており、医療経済的な観点でも重要な疾患であることが確かめられた。尿路感染症には軽症から重症なものまであり、死亡率は1~20%とかなり幅があるが、今回の研究では4.5%だった。死亡の危険因子として、従来わかっている年齢や免疫抑制などのほかにBMIが低いことも危険因子であることがわかった。近年、さまざまな疾患で太り過ぎよりもやせ過ぎていることが体によくないということがわかってきたが、今回の研究でもBMI18.5未満の低体重ではそれ以上と比べて死亡率が高いことがわかった」。 なお、今回の研究にはいくつかの限界があり、内容を解釈するうえで注意を要するとしている。

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肺炎での不要な抗菌薬、プロカルシトニン+肺超音波の診療現場検査で減らせるか/BMJ

 プライマリケアにおける下気道感染症患者への抗菌薬処方に関して、プロカルシトニンによるpoint-of-care検査は通常治療と比較して、28日の時点で患者の安全性に影響を及ぼさずに抗菌薬処方を26%減少させるが、これに肺超音波によるpoint-of-care検査を加えても、それ以上の処方率の減少は得られないとの研究結果が、スイス・ローザンヌ大学病院のLoic Lhopitallier氏らによって報告された。研究の詳細は、BMJ誌2021年9月21日号に掲載された。3群を比較するスイスの総合診療施設のクラスター無作為化試験 本研究は、プライマリケアの下気道感染症患者における、プロカルシトニンpoint-of-care検査と肺超音波point-of-care検査は安全性を保持しつつ不要な抗菌薬処方を削減できるかの検証を目的とする、スイスの実践的な非盲検クラスター無作為化試験であり、2018年9月に開始されたが、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染爆発の影響で、2020年3月10日に早期中止となった(スイス国立科学財団[SNSF]などの助成による)。 本試験には、スイスの60の総合診療施設から、それぞれ1人の総合診療医(肺炎の診断にプロカルシトニンpoint-of-care検査や肺超音波point-of-care検査を使用した経験がない医師)が参加した。総合診療医は、急性咳嗽(≦21日)を呈する年齢18歳以上の患者をスクリーニングし、臨床的肺炎(急性咳嗽のほか、4日以上持続する発熱、呼吸困難、頻呼吸[>22回/分]、異常肺音の聴診のうち1つ以上を呈する)と診断した患者を選出した。 60の総合診療施設は、次の3つの群に20施設ずつ無作為に割り付けられた。(1)プロカルシトニンpoint-of-care検査を行い、濃度上昇(≧0.25μg/L)がみられた場合は、引き続き肺超音波point-of-care検査を行い、肺のコンソリデーションを認めた場合にのみ、抗菌薬の処方を推奨する群(UltraPro群)、(2)プロカルシトニンpoint-of-care検査を行い、濃度上昇(≧0.25μg/L)がみられた場合にのみ、抗菌薬の処方を推奨する群(プロカルシトニン群)、(3)通常治療群。 主要アウトカムは、28日の時点における抗菌薬処方が行われた患者の割合とされた。副次アウトカムは、14日以内における下気道感染症による活動制限の期間などであった。抗菌薬処方率:41% vs.40% vs.70%、活動制限の非劣性は証明できず 各群20人の総合診療医のうち、女性医師はUltraPro群が8人、プロカルシトニン群が8人、通常治療群が9人で、10年以上の臨床経験を持つ医師はそれぞれ8人、11人、10人だった。 解析に含まれた患者は469例(UltraPro群152例、プロカルシトニン群195例、通常治療群122例、intention-to-treat集団)で、このうち435例(93%)が電話によるフォローアップを完了した。全体の年齢中央値は53歳(IQR:38~66)、59%が女性であった。 UltraPro群では、9例(6%)がプロカルシトニン濃度≧0.25μg/Lであり、引き続き肺超音波検査を受けた。6例(67%)で肺浸潤影が確認された。肺超音波検査の所要時間中央値は15分(IQR:15~20)だった。プロカルシトニン群では、19例(10%)がプロカルシトニン濃度≧0.25μg/Lであった。 プロカルシトニン群は通常治療群に比べ、28日までの抗菌薬処方率が低かった(0.4[78/195例]vs.0.7[86/122例]、クラスター補正後群間差:-0.26[95%信頼区間[CI]:-0.41~-0.10]、オッズ比[OR]:0.29[95%CI:0.13~0.65]、p=0.001)。 UltraPro群とプロカルシトニン群には、28日の時点での抗菌薬処方率に差は認められなかった(0.41[62/152例]vs.0.40[78/195例]、クラスター補正後群間差:-0.03[95%CI:-0.17~0.12]、OR:0.89[95%CI:0.43~1.67]、p=0.71)。 14日までの活動制限日数中央値は、プロカルシトニン群が4日、通常治療群は3日であり(群間差:1日[95%CI:-0.23~2.32]、ハザード比[HR]:0.75[95%CI:0.58~0.97])、95%CIの上限値が事前に規定された非劣性マージンを超えたためプロカルシトニン群の通常治療群に対する非劣性は証明されなかった。UltraPro群とプロカルシトニン群にも差はみられなかった(4日vs.4日、群間差:0日[95%CI:-1.48~1.43]、HR:1.01[95%CI:0.80~1.29])。 抗菌薬の処方が減少しても、患者の臨床アウトカムや満足度に影響はなかった。 著者は、「肺超音波point-of-care検査からは、さらなる抗菌薬処方の減少は得られなかったが、CIの範囲が広いことから、肺超音波が新たな価値をもたらす可能性は排除できない」としている。

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従業員であっても「処方箋なしで処方箋医薬品を販売」で業務停止【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第77回

先月、従業員に対して処方箋なしで処方箋医薬品を販売したことで、富山県の薬局が行政処分を受けました。この2年くらいで同様の違反に対する処分が立て続けに起こっていますので紹介したいと思います。富山県は9月21日、医薬品医療機器等法に基づき、調剤薬局を手掛けるビッグライム(富山市)に対し、同社が運営する「ハート薬局滑川店」(富山県滑川市)の業務停止を命じたと発表した。業務停止は24日から10月7日までの14日間となる。県によると、同店では処方箋の交付を受けていない従業員に処方箋医薬品を販売するなどしていたという。ビッグライムは県内で10店の調剤薬局を運営している。(日本経済新聞 2021年9月22日付)富山県のホームページにおいて、行政処分の理由が掲載されています。1.上記薬局において、医師などから処方箋の交付を受けていない従業員に対して、正当な理由なく、処方箋医薬品を販売した。(薬機法第49条第1項違反)2.上記薬局において、薬局医薬品の販売にあたり、必要事項の書面への記載を怠った。(薬機法第9条第1項の規定に基づく法施行規則第14条第3項違反)3.上記薬局において、向精神薬処方箋を所持する者以外の者に対して、向精神薬を譲り渡した。(麻薬及び向精神薬取締法第50条の16第4項違反)4.上記薬局の管理薬剤師は、処方箋の交付を受けていない者に対して処方箋医薬品を販売するなど管理者の義務を怠った。(薬機法第8条第1項違反)富山県では2020年9月にも別の薬局チェーンで同じような不正販売が明らかになり、複数の薬局の行政処分が行われました。これを踏まえて調査を強化したのだと思われますが、2020年10月に中部厚生センターの薬事監視員がハート薬局に定期立ち入り調査を実施したところ、従業員に対して処方箋なしで処方箋医薬品を販売していたことが明らかになりました。その後の県と警察の合同調査で、薬局の事務員に対して抗菌薬や抗アレルギー薬を、薬剤師に対して向精神薬を販売していたことが判明しました。なお、これらの薬剤はすべて自らが使用する目的だったとのことで、一般の方への譲渡はなく、健康被害も確認されていないとのことです。実は、富山県だけではなく、今年の3月には三重県の薬剤師会が運営する薬局でも同様の違反で行政処分が行われています。従業員への処方箋医薬品の販売はしばしば聞くため、おそらく悪気なくやっているのだと思います。依頼が断りにくい、使用方法や副作用をよく知っている、廃棄するよりはまし…などの理由があるのかもしれませんが、だめなものはだめです。開設者だけでなく、開設者に意見を申し立てる義務のある管理薬剤師が責務を果たしていないことも行政処分の理由になっています。薬局や従業員が違法であるという認識が低く、行政側は簡単に調査できる内容であるため、今後も調査が強化されるのだろうと推察します。「薬局で働いたら処方箋医薬品が入手できる」などのうわさが立たぬよう、薬局内であっても処方箋医薬品を処方箋なしで販売しては違法だということをいま一度確認してほしいと思います。もしこのような慣例があるとすれば、この行政処分の事例を共有して断ち切りましょう。参考1)富山県|薬局開設者に対する行政処分(業務停止)について(pref.toyama.jp)2)三重県|薬局開設者に対する行政処分について(pref.mie.lg.jp)

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CRP POCT、介護施設入居者の抗菌薬処方を削減/BMJ

 下気道感染症が疑われる介護施設入居者において、C反応性蛋白(CRP)の臨床現場即時検査(point-of-care testing:POCT)は通常ケアと比較して、完全回復率や全死因死亡率、入院率には差がないものの、抗菌薬の処方を安全に削減することが、オランダ・アムステルダム自由大学医療センターのTjarda M. Boere氏らが実施した「UPCARE試験」で示された。研究の成果は、BMJ誌2021年9月21日号で報告された。オランダの11施設のクラスター無作為化対照比較試験 研究グループは、介護施設入居者に対するCRP POCTが、下気道感染症への抗菌薬処方を安全に削減できるかを検証する目的で、実践的なクラスター無作為化対照比較試験を行った(オランダ・保健研究開発機構[ZonMw]の助成による)。 本試験には、オランダの11の介護施設(平均入居者数400人)が参加し、CRP POCT(QuikRead go、フィンランド・Aidian製)を行う介入群に6施設、CRP POCTを行わずに通常ケアを実施する対照群に5施設が無作為に割り付けられた。これらの施設に所属する医師84人が、2018年9月~2020年3月の期間に、下気道感染症が疑われる参加者241例の診療に当たった。 初診時(=ベースライン)、1週後、3週後に、臨床的状態や新たな診断結果、管理法のデータが収集された。また、介入群では、診断検査の一環としてCRP POCTを行うかの決定は治療医の裁量に委ねられ、CRP POCTは必須ではなかった。 主要アウトカムは初診時の抗菌薬処方とされた。副次アウトカムは3週時の完全回復などであった。初診時抗菌薬の非処方率、介入群は対照群の4.93倍に 参加者241例(平均年齢84.4歳、女性64%)のうち、162例が介入群、79例は対照群に割り付けられた。全体で慢性閉塞性肺疾患が32%、うっ血性心不全が29%、認知症が29%にみられ、77%は中等度の病態であった。初診時に咳が73%、異常肺音が63%、呼吸困難が60%に認められた。介入群の87.4%でCRP POCTが行われ、ベースラインのCRP値中央値は32.5mg/L(IQR:13~82)だった。 初診時に抗菌薬が処方されたのは、介入群が84例(53.5%)、対照群は65例(82.3%)であった。治療医とベースラインの背景因子で補正した、初診時の介入群の対照群に対する抗菌薬非処方のオッズは、4.93(95%信頼区間[CI]:1.91~12.73、p=0.001)であった。 初診からフォローアップ期間(1週後、3週後)のすべての時点での初回抗菌薬処方開始の割合は、介入群が62.5%、対照群は86.1%であり、その差は23.6%であった。 初診時の抗菌薬の処方率は、CRP値が低い患者では低値(0~20mg/L:6.38%、20~40mg/L:35.00%)であったが、40~60mg/Lの患者(66.67%)で増加し始め、60mg/L以上ではほとんどの患者で処方されていた(60~80mg/L:100%、80~100mg/L:100%、100~200mg/L:96.00%)。 両群間の3週時の完全回復率(介入群86.4% vs.対照群90.8%、オッズ比:0.49、95%CI:0.21~1.12、p=0.09)の差は4.4%、初診からフォローアップ期間(1週後、3週後)のすべての時点での全死因死亡率(3.5% vs.1.3%、2.76、0.32~24.04、p=0.36)の差は2.2%、すべての時点での入院率(7.2% vs.6.5%、1.12、0.37~3.39、p=0.85)の差は0.7%であり、いずれも有意な差はなかった。 著者は、「これらの知見により、介護施設におけるCRP POCTの実施は抗菌薬使用の削減に寄与し、抗菌薬耐性の対策として有効となる可能性が示唆される」としている。

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プロバイオティクス、ICUでの人工呼吸器関連肺炎を抑制せず/JAMA

 人工呼吸器を要する重症患者において、プロバイオティクスであるLactobacillus rhamnosus GGの投与はプラセボと比較して、集中治療室(ICU)における人工呼吸器関連肺炎(VAP)の発生に関して有意な改善効果はなく、有害事象の頻度は高いことが、カナダ・トロント大学のJennie Johnstone氏らの検討で示された。研究の詳細は、JAMA誌2021年9月21日号で報告された。3ヵ国の44のICUの無作為化プラセボ対照比較試験 本研究は、ICUにおけるVAPや新たな感染症、その他の臨床的に重要なアウトカムの予防におけるL. rhamnosus GG投与の有効性の評価を目的とする無作為化プラセボ対照比較試験であり、2013年10月~2019年3月の期間にカナダと米国、サウジアラビアの44のICUで患者登録が行われた(カナダ健康研究所[CIHR]などの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、ICUの治療チームによって72時間以上の機械的換気を要すると予測された患者であった。被験者は、ICUで1日2回、L. rhamnosus GG(1×1010コロニー形成単位)を投与する群またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、二重盲検下の中央判定によるVAPの発生とされた。VAPは、2日以上の機械的換気の後に、胸部X線上で新たな進行性または持続性の浸潤所見がみられ、次の3項目のうち2つ以上を満たした場合とされた。(1)発熱(中核体温>38℃)または低体温(体温<36℃)、(2)白血球数<3.0×106/Lまたは>10×106/L、(3)膿性痰。感染症、死亡、ICU入室日数などにも差はない 2,650例(平均年齢[SD]59.8[16.5]歳、女性40.1%)が登録され、プロバイオティクス群に1,318例、プラセボ群に1,332例が割り付けられた。平均APACHE IIスコア(ICU入室の指標0~71点、点数が高いほど重症度および死亡リスクが高い)は22.0(SD 7.8)点で、61.2%が強心薬または昇圧薬を投与され、8.1%は腎代替療法を受けていた。82.5%が、無作為化の日に抗菌薬を処方または投与されていた。試験薬の投与期間中央値は9日(IQR:5~15)だった。 VAPの発生率は、プロバイオティクス群が21.9%(289/1,318例)、プラセボ群は21.3%(284/1,332例)であり、両群間に有意な差は認められなかった(ハザード比[HR]:1.03、95%信頼区間[CI]:0.87~1.22、p=0.73、絶対群間差:0.6%、95%CI:-2.5~3.7)。 約20項目の副次アウトカム(ICU関連感染症、下痢、死亡、ICU入室日数など)のうち、統計学的に有意な差がみられたものはなかった。 また、有害事象(無菌部位の培養でのL. rhamnosus単離、非無菌部位の培養での単独または優勢な微生物)は、プロバイオティクス群が15例(1.1%)、プラセボ群は1例(0.1%)で発現した(オッズ比:14.02、95%CI:1.79~109.58、p<0.001)。 著者は、「今回の結果は、機械的換気を要する重篤な病態の患者における、VAPの予防を目的とするL. rhamnosus GGの使用を支持しない。これらの知見は、日常診療や施策に影響を及ぼすもので、重篤な病態へのプロバイオティクスの処方には慎重さが求められることが示唆される」としている。

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グラム染色本の最高峰【Dr.倉原の“俺の本棚”】第46回

【第46回】グラム染色本の最高峰私がグラム染色を一番やっていたのは研修医時代でした。京都府の洛和会音羽病院というところで研修させていただいて、当時、私と一緒に救急部でグラム染色を教えてくれた先生や同僚たちは、皆さんいろいろな分野で活躍しています。『グラム染色診療ドリル〜解いてわかる! 菌推定のためのポイントと抗菌薬選択の根拠』林 俊誠/著. 羊土社. 2021年6月30日発行医学部のときからずっと着ている白衣がクリスタルバイオレットまみれになって、なんか太陽の光を数年間浴びていない地下研究者みたいな恰好をしていました。「さすがにクリスタルバイオレットこぼしすぎやろ」と怒られたのは、もう15年も前の話。そういえば、バイオセーフティキャビネットではなく、救急外来でPPEをつけずに染めていた気がします。また、上手に染色できた肺炎球菌や大腸菌のスライドグラスを永久標本にして、自分のコレクションにしていました。ここらへんが現在では許されるのかどうかはわかりませんが、いずれも時効ということで……。グラム染色の本はいくつか出版されていますが、この本の素晴らしいところは、「至言が至言過ぎる」点です。書かれている全てが医師に心に突き刺さるメッセージ。たとえば緑膿菌の見た目、『「E. coliよりも細い」と気づける感覚を養う』、こりゃあ至言です。緑膿菌ってヒョロっとしているので、太い大腸菌とは違いますよね。その他、『グラム染色鏡検で「見えない」からこそ見えてくるものがある』など、なんかボクの人生をグラム染色してくださいみたいな「至言」がてんこ盛りで、読んでいてテンションが上がってきます。グラム染色に限った本ではなく、臨床における判断についても丁寧に記載されています。例えば、ESBL感染症でカルバペネムを温存しなきゃだめだよ、というICTとしても重要なメッセージも書かれています。グラム染色に偏った本ではないので、感染症診療に従事するすべての医療従事者にとって満足度が高いと思います。何より、安いです。『グラム染色診療ドリル〜解いてわかる! 菌推定のためのポイントと抗菌薬選択の根拠』林 俊誠/著.出版社名羊土社定価本体3,600円+税サイズB5判刊行年2021年

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「セレニカR」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第65回

第65回 「セレニカR」の名称の由来は?販売名セレニカR顆粒40%セレニカR錠200mgセレニカR錠400mg一般名(和名[命名法])バルプロ酸ナトリウム(JAN)効能又は効果○各種てんかん(小発作・焦点発作・精神運動発作ならびに混合発作)およびてんかんに伴う性格行動障害(不機嫌・易怒性等)の治療。○躁病および躁うつ病の躁状態の治療。○片頭痛発作の発症抑制。用法及び用量〈各種てんかん(小発作・焦点発作・精神運動発作ならびに混合発作)およびてんかんに伴う性格行動障害(不機嫌・易怒性等)の治療、躁病および躁うつ病の躁状態の治療〉通常、バルプロ酸ナトリウムとして400~1200mgを1日1回経口投与する。ただし、年齢、症状に応じ適宜増減する。〈片頭痛発作の発症抑制〉通常、バルプロ酸ナトリウムとして400~800mgを1日1回経口投与する。なお、年齢、症状に応じ適宜増減するが、1日量として1000mgを超えないこと。警告内容とその理由設定されていない禁忌内容とその理由禁忌(次の患者には投与しないこと)〈効能共通〉1.重篤な肝障害のある患者2.カルバペネム系抗生物質を投与中の患者3.尿素サイクル異常症の患者[重篤な高アンモニア血症があらわれることがある。]〈片頭痛発作の発症抑制〉4.妊婦又は妊娠している可能性のある女性※本内容は2021年8月18日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2020年9月改訂(第20版)医薬品インタビューフォーム「セレニカ®R顆粒40%、セレニカ®R錠200mg/R錠400mg」2)興和株式会社:製品情報検索

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下痢症状から急性胃腸炎を診断、ゴミ箱診断を防ぐには?【Dr.山中の攻める!問診3step】第5回

第5回 下痢症状から急性胃腸炎を診断、ゴミ箱診断を防ぐには?―Key Point―下痢症状から急性胃腸炎の診断をするときは、本当に診断が正しいのかどうか後ろめたい気持ちにならなければならない。なぜなら、ゴミ箱診断の可能性があるからである。48歳男性が動悸を主訴に救急室を受診。1週間前から臥位で寝ると息苦しいという。3日前に下痢と発熱が出現。昨日は37.9℃、水様便10回と嘔吐20回あり。意識清明で38.2℃、血圧230/102mmHg、心拍数132回/分(絶対性不整脈)、呼吸回数22回/分だった。ベラパミル(商品名:ワソラン)5mgを2回静注しても頻脈は変化なし。甲状腺機能を調べるとTSH:0.01μIU/mL(基準値:0.3~4.0)、 FT4:8ng/dL(基準値:0.9~1.7)であった。このとき優秀な後期研修医が「発熱+下痢+嘔吐+頻脈+心不全、これって甲状腺クリーゼじゃないの」と気が付いてくれた。◆今回おさえておくべき疾患はコチラ!経口摂取や消化液の分泌により、毎日7.5Lの水分が消化管に流れ込む。小腸でほとんどの水分が吸収され、1.2Lの水分が大腸に到達する。大腸は1Lの水分を吸収するため、正常の便は200mLの水分を含む。したがって、大量の下痢は小腸に病変があることを示す1)急性下痢は感染症、慢性下痢は感染症以外で起こることが多い急性下痢では脱水になっていないかの評価が重要である就寝中に起こる下痢は器質的疾患の存在を示唆する大腸がんでは便秘のみならず下痢となることもある【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】疾患の緊急性を見極める下痢は腸管以外の原因から考える。下痢の原因は腸管にあると考えがちだが、緊急性が高い腸管以外の疾患から考えるようにするとよい。●緊急性が高い“腸管以外”の疾患甲状腺クリーゼ、アナフィラキシー、トキシックショック症候群(TSS)、敗血症、腹膜炎、膵炎、薬剤●うんちしたい症候群(しぶり腹)大動脈瘤の切迫破裂、直腸がん、異所性妊娠、虚血性腸炎、炎症性腸疾患、細菌性大腸炎、急性虫垂炎、憩室炎、直腸異物*しぶり腹とは激しい便意にもかかわらず、ほとんど便が出ない状態*S状結腸や直腸に刺激が加わるとしぶり腹になる●血便が出る感染性下痢症腸管出血性大腸菌、赤痢菌、サルモネラ、カンピロバクター、赤痢アメーバ【分類】■急性下痢(1)炎症性(大腸型)下痢腸管出血性大腸菌、赤痢菌、サルモネラ、カンピロバクター、赤痢アメーバ*発熱、少量頻回(8~10回/日)の血性下痢、しぶり腹(2)非炎症性(小腸型)下痢ノロウイルス、ロタウイルス、コレラ、ウェルシュ、ランブル鞭毛虫*軽度の発熱、多量の水様下痢(3~4回/日)、悪心嘔吐、脱水■慢性下痢2)(1)浸透圧性下痢乳糖不耐症、下剤*乳糖不耐症は大人になって起こることがある*絶食により下痢は軽快する(2)炎症性下痢炎症性腸疾患、顕微鏡的大腸炎、放射線照射性腸炎、好酸球性腸炎、悪性腫瘍(大腸がん、悪性リンパ腫)*NSAIDsやプロトンポンプ阻害薬は顕微鏡的大腸炎を起こす*炎症性腸疾患は30~40代で多く、顕微鏡的大腸炎は70~80代に多い。(3)吸収不良症候群慢性膵炎、small intestinal bacterial overgrowth(SIBO、小腸内細菌異常増殖症)、短腸症候群*脂肪便は悪臭を伴い、便器に付着したり水に浮いたりする(4)分泌性下痢神経内分泌腫瘍(カルチノイドやVIPoma)、胆汁酸による下痢(5)腸管運動の異常過敏性腸症候群、糖尿病、甲状腺機能亢進症、強皮症(6)慢性感染症ランブル鞭毛虫、アメーバ赤痢、Clostridium difficile【STEP3】検査で原因を突き止める●急性下痢のほとんどは自然治癒するので検査は不要●以下の症状があれば検査が必要発熱(38.5℃超)、血便、脱水、ひどい腹痛、免疫力が低下している、高齢者(70歳超)、衛生状態が悪い外国から帰国症状に応じて血算、生化学、ヘモグロビン、便中白血球、便培養、CD毒素/抗原、寄生虫、大腸カメラを考慮する。●薬が原因の下痢は多い(薬剤性下痢)化学療法薬、抗菌薬、NSAIDs、アンギオテンシンンII受容体拮抗薬(とくにオルメサルタン)、プロトンポンプ阻害薬、ジゴキシン、メトホルミン、コルヒチン、ジスチグミン*、人工甘味料、アルコール*ジスチグミン(商品名:ウブレチド)はコリン作動性クリーゼを起こす<参考文献>1)Mansoor AM. Frameworks for Internal Medicine. p.176-197.2)Alguire PC, et al. MKSAP18 Gastroenterology and Hepatology. 2018. p.26-35.

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事例032 蜂窩織炎の治療で査定【斬らレセプト シーズン2】

解説右上腕蜂窩織炎の患者に、「K001 皮膚切開術」を2回算定したところB事由(医学的に過剰・重複と認められるものをさす)として査定になりました。査定理由を確かめるために、診療録を確認しました。初診来院時に右上腕の近位と遠位の2ヵ所に腫脹と痛みの訴えがあり、「蜂窩織炎」と診断されていました。経過には、初診時に右上腕近位の切開排膿を行い、抗生物質を投与、2日後の来院時に遠位の蜂窩織炎が増悪していたため切開排膿されたことが記載されていました。会計・レセプトの担当者は、それぞれの切開の距離が離れているため、別部位として算定できると考え、念のためとして医師にコメントを記載してもらっていました。皮膚切開術の算定留意事項には「長径10cmとは、切開を加えた長さではなく、膿瘍、せつ又は蜂窩織炎等の大きさをいう」とあります。また、「多発性せつ腫等で近接しているものについては、数か所の切開も1切開として算定する」ともあります。傷病名や発生原因が同一であれば、散在している対象それぞれに治療を提供しても合算して一連として算定するというルールです。事例では、傷病名が1つでコメントも時間経過のみでした。同一傷病名に対する数日内の切開は一連の治療であり、1回が妥当としてB査定になったことが推測できます。診療録の写しを添えて再審査請求しましたが原審通りでした。ただ、同様の他事例では、複数ヵ所の切開それぞれに病名を付け、医学的にやむを得ない治療経過であったことを記載して請求したところ査定とならなかった例があります。そこで、医師と会計担当者には、同一傷病名での近接複数回の切開などは、原則として合算して1回のみの算定となることを伝え、医学上にて複数回の算定が妥当と考えられる場合には、あらかじめにそれぞれにかかる病名に加え、時間的経過と医学的必要性を補記して審査支払機関に判断を委ねていただくようにお願いしました。

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