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日本人のCOVID-19による血栓症発症率は?

 合同COVID-19関連血栓症アンケート調査チームによる『COVID-19関連血栓症に関するアンケート調査』の結果が12月9日に発表された。それによると、日本人での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連血栓症の発症率は、全体では1.85%であることが明らかになった。 この調査は、COVID-19の病態の重症化に血栓症が深く関わっていることが欧米の研究で指摘されていることを受け、日本人COVID-19関連血栓症の病態及び診療実態を明らかにすることを目的として行われたもの。2020年8月31日までに入院したCOVID-19症例を対象とし、全国の病院399施設のうち109施設からCOVID-19患者6,082例に関する回答が寄せられた。なお、合同調査チームは厚生労働省難治性疾患政策研究事業「血液凝固異常症等に関する研究」班、日本血栓止血学会、日本動脈硬化学会の3組織合同によるもの。 主な調査結果は以下のとおり。・Dダイマーは症例全体の72%で測定され、入院中に基準値の3~8倍の上昇を認めたのはそのうちの9.5%、8倍以上の上昇を認めたのは7.7%と、多くの症例で血栓傾向がみられた。・血栓症は1.85%(血栓症に関する回答のあった5,687例のうち105例)に発症し、発症部位は(重複回答を可として)、症候性脳梗塞22例(血栓症症例の21.0%)、心筋梗塞7例(同6.7%)、深部静脈血栓症41例(同39.0%)、肺血栓塞栓症29例(同27.6%)、その他の血栓症21例(同20.0%)であった。・血栓症は、軽/中等症の症例での発症が31例(軽/中等症症例の0.59%)、人工呼吸器/ECMO使用中の発症が50例(人工呼吸/ECMO症例まで要した重症例の13.2%)であった。・症状悪化時に血栓症を発症したのは64例だったが、回復期にも26例が血栓症を発症していた。・抗凝固療法は、76病院で6,082例のうち880例(14.5%)に実施された。治療法の主な内訳は、未分画ヘパリン591例(880例中の67.2%)、低分子量ヘパリン111例(同13.0%)、ナファモスタット234例(同26.6%)、トロンボモジュリンアルファ42例(同4.8%)、前述の薬剤併用138例(同15.7%)、直接経口抗凝固薬[DOAC]91例(同10.3%)、その他42例(同4.8%)だった。・予防的抗凝固療法の実施について回答した49施設によると、予防的投与を行った患者背景として、Dダイマー高値、NPPV(非侵襲的陽圧換気)/人工呼吸患者、酸素投与患者などが挙げられた。

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再び複数形で祝福だ!高齢者を国の宝とするために【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第30回

第30回 再び複数形で祝福だ!高齢者を国の宝とするために日本で行われた素晴らしい臨床研究であるELDERCARE-AF試験の結果がNEJM誌に掲載されました(N Engl J Med 2020;383:1735-1745)。心房細動があるとはいえ、通常用量の抗凝固療法がためらわれるような、出血リスクが高い80歳以上の高齢日本人を対象とした試験です。低用量NOACによる抗凝固療法が、大出血を増やすことなく脳卒中/全身性塞栓症を抑制することを示しました。この研究の参加者の平均年齢は86.6歳で、過半数の54.6%が85歳超えでした。このような高齢者は、ランダマイズ研究の除外基準に該当するのが常でした。高齢者に適応可能なエビデンスが存在しない中で、現場の医師は高齢の心房細動患者への対応を迫られています。脳卒中の減少と出血増加のバランスにおいて、試験の結果を慎重に解釈する必要がありますが、高齢者を対象としたエビデンスが登場したことは高く評価されます。日本社会は、高齢化において世界のトップランナーです。65歳以上の高齢者が全人口に占める割合である高齢化率が、7%を超えると「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」、21%を超えると「超高齢社会」とされます。日本は1970年に高齢化社会、1994年に高齢社会、2007年に超高齢社会へと突入しました。高齢化社会から高齢社会となるまでの期間は、ドイツは42年、フランスは114年を要したのに対し、日本はわずか24年で到達しています。今後も高齢化率は上昇し、2025年には約30%、2060年には約40%に達すると予測されます。ある日の小生の外来診察室の風景です。「昨日、誕生日だったんですね。おめでとうございます!」電子カルテの年齢欄に、87歳0ヵ月と表示された女性患者さんに誕生祝いの声がけをしたのです。電子カルテは、誕生日を迎えたばかりの方や、間もなく誕生日の方が簡単にわかるので便利です。「87歳にもなって、めでたくなんかないですよ。これ以上、年はとりたくない」患者さんは、一見ネガティブな返答をしますが満面の笑みです。「今日まで長生きできてよかったね。年をとれることは素晴らしいことですね。おめでとう」外来では、誕生日の患者さんに必ず祝意を伝えることにしています。誕生日を祝福する意味はなんでしょうか。その意味は、その方の存在を肯定することにあります。子供の誕生日に成長を祝うこととは、少し意味合いが違います。自己の存在を肯定されることは、人間にとって最も満足度の高いことで、その節目が誕生日です。高齢人口が急速に増加する中で、医療、福祉などをどのように運用していくかは喫緊の課題です。逃げることなく正確に現状を把握し、次の方策を練ることは大切です。その議論の過程で、負の側面を捉えて嘆いていてもはじまりません。歴史上に類を見ない超高齢化社会の日本を世界が注目しています。対応に過ちがあれば同じ轍を踏むことがないようにするためです。今、必要なのは高齢者の存在を肯定する前向き思考です。高齢者を国の宝として活用するのです。その具体的成功例が、このELDERCARE-AF試験ではないでしょうか。高齢者医療のエビデンスを創出し、世界に向けて発信していくことは、高齢化社会のトップランナーである日本であるからこそ可能であり、むしろ責務です。あらためて、ELDERCARE-AF試験に関与された皆様に敬意を表し、複数形で祝福させていただきます。Congratulations!

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がん患者、抗凝固薬の中止時期を見極めるには/日本癌治療学会

 がん患者は合併症とどのように付き合い、そして医師はどこまで治療を行うべきか。治療上で起こりうる合併症治療とその中止タイミングは非常に難しく、とりわけ、がん関連血栓症の治療には多くの腫瘍専門医らは苦慮しているのではないだろうかー。 10月23日(金)~25日(日)にWeb開催された第58回日本癌治療学会学術集会において、会長企画シンポジウム「緩和医療のdecision making」が企画された。これには会長の弦間 昭彦氏の“decision makingは患者の治療選択時に使用される言葉であるが、医療者にとって治療などで困惑した際に立ち止まって考える機会”という思いが込められている。今回、医師のdecision makingに向けて発信した赤司 雅子氏(武蔵野赤十字病院緩和ケア内科)が「合併症治療『生きる』選択肢のdecision making-抗凝固薬と抗菌薬-」と題し、困惑しやすい治療の切り口について講演した。本稿では抗凝固療法との向き合い方にフォーカスを当てて紹介する。医師のバイアスがかからない意思決定を患者に与える がん治療を行いながら並行して緩和医療を考える昨今、その場に応じた1つ1つの細やかな意思決定の需要性が増している。臨床上のdecision makingは患者のリスクとベネフィットを考慮して合理的に形成されているものと考えられがちであるが、実際は「多数のバイアスが関係している」と赤司氏は指摘。たとえば、医師側の合理的バイアス1)として1)わかりやすい情報、2)経験上の利益より損失、3)ラストケース(最近経験した事柄)、4)インパクトの大きい事象、などに左右される傾向ある。これだけ多数のバイアスのかかった情報を患者に提供し、それを基にそれぞれが判断合意する意思決定は“果たして合理的なのかどうか”と疑問が残る。赤司氏は「患者にはがん治療に対する意思決定はもちろんのこと、合併症治療においても意思決定を重ねていく必要がある」と述べ、「とくに終末期医療において抗凝固薬や抗菌薬の選択は『生きる』という意味を含んだ選択肢である」と話した。意思決定が重要な治療―がん関連血栓症(CAT) 患者の生死に関わる血栓症治療だが、がん患者の血栓症リスクは非がん患者の5倍も高い。通常の血栓症の治療期間は血栓症の原因が可逆的であれば3ヵ月間と治療目安が明確である。一方、がん患者の場合は原因が解決するまでできるだけ長期に薬物治療するよう現時点では求められているが、血栓リスク・出血リスクの両方が高まるため薬剤コントロールに難渋する症例も多い。それでも近年ではワーファリンに代わり直接経口抗凝固薬(DOAC)が汎用されるようになったことで、相互作用を気にせずに食事を取ることができ、PT-INR確認のための来院が不要になるなど、患者側に良い影響を与えているように見える。 しかし、DOACのなかにはP糖タンパクやCYP3A4に影響する薬物もあることから、同氏は「終末期に服用機会が増える鎮痛剤や症状緩和の薬剤とDOACは薬物相互作用を起こす。たとえば、アビキサバンとデキサメタゾンの併用によるデキサメタゾンの血中濃度低下、フェンタニルやオキシコドン、メサペインとの相互作用が問題視されている。このほか、DOACの血中濃度が2~3倍上昇することによる腎機能障害や肝機能障害にも注意が必要」と実状を危惧した。DOACの調節・中止時の体重換算は今後の課題 また、検査値指標のないDOACは体重で用量を決定するわけだが、悪液質が見られる場合には筋肉量が低下しているにも関わらず、浮腫や胸水、腹水などの体液の貯留により体重が維持されているかのように見えるため、薬物投与に適した体重を見極めるのが難しい。これに対し、同氏は「自施設では終末期がん患者の抗凝固療法のデータをまとめているが、輸血を必要としない小出血については、悪液質を有する患者で頻度が高かった。投与開始時と同量の抗凝固薬を継続するのかどうか、検証するのが今後の課題」と話した。また、エドキサバンのある報告2)によると、エドキサバンの血中濃度が上昇しても大出血リスクが上昇するも脳梗塞/塞栓症のリスクは上昇しなかったことから、「DOACの少量投与で出血も塞栓症も回避することができるのでは」とコメント。「ただし、この報告は非がん患者のものなので、がん患者への落とし込みには今後の研究が待たれる」とも話した。 さらに、抗凝固薬の中止タイミングについて、緩和ケア医とその他の医師ではそのタイミングが異なる点3)、抗凝固薬を開始する医師と中止する医師が異なる点4)などを紹介した。 このような臨床上での問題を考慮し「半減期の短さ、体内での代謝などを加味すると、余命が短め週の単位の段階では、抗凝固療法をやめてもそれほど影響はなさそうだが、薬剤選択には個々の状況を反映する必要がある」と私見をまとめ、治療の目標は「『いつもの普段の自分でいられること』で、“decision making”は合理的な根拠を知りながら、その上で個別に考えていくことが必要」と締めくくった。

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持続的腎代替療法時の抗凝固療法、クエン酸 vs.ヘパリン/JAMA

 急性腎障害を伴う重症患者への持続的腎代替療法施行時の抗凝固療法において、局所クエン酸は全身ヘパリンと比較して、透析フィルター寿命が長く、出血性合併症は少ないが、新規感染症が多いことが、ドイツ・ミュンスター大学病院のAlexander Zarbock氏らが行った「RICH試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2020年10月27日号で報告された。欧米の現行ガイドラインでは、重症患者への持続的腎代替療法時の抗凝固療法では局所クエン酸が推奨されているが、この推奨のエビデンスとなる臨床試験やメタ解析は少ないという。ドイツの26施設が参加、試験は早期中止に 研究グループは、持続的腎代替療法施行時の局所クエン酸投与が透析フィルター寿命および死亡に及ぼす影響を、全身ヘパリンと比較する目的で、多施設共同無作為化試験を実施した(ドイツ研究振興協会の助成による)。本試験はドイツの26施設が参加し、2016年3月~2018年12月に行われた。 対象は、年齢18~90歳、KDIGOステージ3の急性腎障害または持続的腎代替療法の絶対適応とされ、重症敗血症/敗血症性ショック、昇圧薬の使用、難治性の体液量過剰のうち1つ以上がみられる患者であった。 被験者は、持続的腎代替療法施行時に、局所クエン酸(イオン化カルシウムの目標値1.0~1.40mg/dL)または全身ヘパリン(活性化部分トロンボプラスチン時間の目標値45~60秒)の投与を受ける群に無作為に割り付けられた。 フィルター寿命と90日死亡率を複合主要アウトカムとした。副次エンドポイントには出血性合併症や新規感染症が含まれた。 本試験は、596例が登録された時点で、中間解析の結果がプロトコールで事前に規定された試験終了に達したため、早期中止となった。フィルター寿命が15時間延長、死亡への影響の検出力は低い 638例が無作為化の対象となり、596例(93.4%、平均年齢67.5歳、183例[30.7%]が女性)が試験を終了した。局所クエン酸群が300例、全身ヘパリン群は296例だった。 フィルター寿命中央値は、局所クエン酸群が47時間(IQR:19~70)、全身ヘパリン群は26時間(12~51)であり、有意な差が認められた(群間差:15時間、95%信頼区間[CI]:11~20、p<0.001)。90日の時点での全死因死亡は、局所クエン酸群が300例中150例、全身ヘパリン群は296例中156例でみられ、Kaplan-Meier法による推定死亡率はそれぞれ51.2%および53.6%であり、両群間に有意な差はなかった(補正後群間差:-6.1%、95%CI:-12.6~0.4、ハザード比[HR]:0.79、95%CI:0.63~1.004、p=0.054)。 38項目の副次エンドポイントのうち34項目には有意差がなかった。局所クエン酸群は全身ヘパリン群に比べ、出血性合併症(15/300例[5.1%] vs.49/296例[16.9%]、群間差:-11.8%、95%CI:-16.8~-6.8、p<0.001)が少なく、新規感染症(204/300例[68.0%] vs.164/296例[55.4%]、12.6%、4.9~20.3、p=0.002)が多かった。 局所クエン酸群は、重度アルカローシス(2.4% vs.0.3%)および低リン血症(15.4% vs.6.2%)の頻度が高く、全身ヘパリン群は、高カリウム血症(0.0% vs.1.4%)および消化器合併症(0.7% vs.3.4%)の頻度が高かった。これら以外の有害事象の頻度は両群間に差はなかった。 著者は、「本試験は早期中止となったため、抗凝固療法戦略が死亡に及ぼす影響に関して、結論に至るに十分な検出力はない」としている。

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RCTの評価はどこで行うか? ELDERCARE-AF試験の場合(解説:香坂俊氏)-1302

今回解説させていただくELDERCARE-AFはわが国で実施された試験であるが、出血ハイリスクの心房細動患者に対して抗凝固療法(ただし低用量)の有用性を確立させたという点で画期的であった。高齢者で基礎疾患のある心房細動患者には抗凝固療法(最近ではワルファリンよりもNOACと呼ばれるクラスの薬剤が使われることが多くなっている)を用いた脳梗塞予防が広く行われているが、抗凝固を行えばそれだけ出血するリスクも高くなるわけであり、そこのバランスをどう保つかということは大きな課題であった。この試験では従来からの基準ではNOACを用いることができない「出血ハイリスク」患者を対象として、何もしないか(プラセボ投与)あるいは低用量のエドキサバン(NOACの1つ、通常の1日量が60㎎ 1xであるところを15mg 1xとして用いた)を用いるかというところの比較を行った。出血ハイリスクというところをどう規定するかというところに工夫があり、この試験では80歳以上ということをまず組み入れ基準とし、そのうえで以下のうちのいずれか1つ以上を満たす患者を対象とするとした(かなり条件は厳しい):・低腎機能(creatinine clearanceが15から30mL/min)・出血の既往・低体重(45kg以下)・NSAIDを使用・抗血小板剤を使用ただこの条件の設定の仕方はなかなか見事であり、これならば誰もが「出血ハイリスク」であることに納得がいき、かつ現場で抗凝固薬の処方をためらうというところに異論がないのではないかと思われる([1])。試験の結果として、脳卒中/全身性塞栓症の発生は低用量のエドキサバン群で少なく(the annualized rate of stroke or systemic embolism was 2.3% in the edoxaban group and 6.7% in the placebo group (hazard ratio, 0.34; 95% confidence interval [CI], 0.19 to 0.61; P

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非心臓手術後に生じる新規発症心房細動がその後の脳卒中・一過性脳虚血発症に関連(解説:今井靖氏)-1290

 一般的に心房細動の存在は脳梗塞や一過性脳虚血発作のリスクとなることは周知のことであるが、非心臓手術の際に生じた新規心房細動が脳梗塞・一過性脳虚血発作のリスクとなるか否かについては必ずしも明らかではない。本研究は、米国ミネソタ州のオルムステッド郡において2000~13年の間に非心臓手術を施行した際に術後30日以内に新規に心房細動を発症した550例を対象に行われた。そのうち452例については年齢、性別および外科手術日、手術内容が一致したコントロール群を設定し、主要臨床転帰は脳梗塞または一過性脳虚血発作発症、副次的臨床転帰はそれに引き続く心房細動発作、死亡、心臓血管死としている。中央値75歳、男性が51.8%の904例間の比較において心房細動を生じた患者では有意にCHA2DS2-VAScスコアが高く(中央値4[IQR:2~5] vs.3[IQR:2~5]、p<0.001)、中央値5.4年の追跡期間において71例が脳梗塞または一過性脳虚血発作を認め(ハザード比2.69[1.35~5.37])、266例で心房細動のエピソードを認めた(ハザード比7.94)。571例が死亡(ハザード比1.66)したが、172例が心臓関連死であった。 周術期の新規発症心房細動は外科的侵襲に伴う交感神経活性化、体循環血液量・心負荷の急激な変化に伴いもたらされる。非心臓手術時においても心臓手術、たとえば冠動脈バイパス手術においてもβ遮断薬を適宜投与し、輸液バランスに細心の注意を払いながら管理する。β遮断薬はハイリスク例においては心筋虚血の回避、不整脈イベントの減少により予後改善が得られるとの論文が過去複数報告されており、日本では必ずしも一般化されていないが、欧米では周術期管理においてβ遮断薬が多く使用される。日常診療下における心房細動発症あるいはその持続が脳血管障害のリスクになることは周知の事実であるが、侵襲によって誘発された心房細動がはたしてどの程度、脳血管障害や死亡へのインパクトがあるか必ずしも統計学的に明らかにされてこなかった。今回の研究ではこの非心臓血管外科周術期の新規発症心房細動が脳梗塞・一過性脳虚血発作の相当のリスクになることが示されたが、いかにそれを防ぐべきか、また術後の止血・再出血の観点から周術期にいかに抗凝固療法を行うべきかについては本研究からは回答を得ることができない。本研究に類似したものが今年POISE研究(Conen D, et al. Eur Heart J. 2020;41:645-651.)においても示されている。今後、抗凝固療法を含めた心房細動を周術期管理について新たな臨床試験・研究で検証する必要性がある。

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日本人超高齢の心房細動、エドキサバン15mgは有益/NEJM

 標準用量の経口抗凝固薬投与が適切ではない、非弁膜症性心房細動(AF)の日本人超高齢患者において、1日1回15mg量のエドキサバンは、脳卒中または全身性塞栓症の予防効果がプラセボより優れており、大出血の発生頻度はプラセボよりも高率ではあるが有意差はなかったことが示された。済生会熊本病院循環器内科最高技術顧問の奥村 謙氏らが、超高齢AF患者に対する低用量エドキサバンの投与について検討した第III相多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照イベントドリブン試験の結果で、NEJM誌オンライン版2020年8月30日号で発表された。超高齢AF患者の脳卒中予防のための経口抗凝固薬投与は、出血への懸念から困難と判断されることが少なくない。エドキサバン15mgを標準用量が懸念される超高齢AF患者で試験 試験は、非弁膜症性AFを有する日本人超高齢患者(80歳以上)で、いずれも脳卒中予防のために承認用量での経口抗凝固療法について適切ではないと見なされる患者であった。 被験者を1対1の割合で無作為に割り付け、エドキサバン15mgを1日1回またはプラセボを投与し追跡した。 主要有効性エンドポイントは、脳卒中・全身性塞栓症の複合とし、主要安全性エンドポイントは、国際血栓止血学会の定義に基づく大出血とした。エドキサバン15mgが脳卒中・全身性塞栓症を有意に抑制 2016年8月5日~2019年11月5日に984例の患者が無作為化を受け、エドキサバン1日1回15mg(492例)、またはプラセボ(492例)を投与された。被験者の平均年齢は86.6±4.2歳、低体重(平均50.6±11.0kg)、腎機能は低下(平均クレアチニンクリアランス36.3±14.4mL/分)、40.9%の被験者がフレイルに分類された。最終フォローアップは2019年12月27日。試験期間中央値は466.0日(IQR:293.5~708.0)であった。 681例が試験を完了し、303例は試験を中止した(158例が中止、135例が死亡、10例がその他の理由による)。試験を中止した患者数は2群で同等であった。 脳卒中または全身性塞栓症の年間発現頻度は、エドキサバン15mg群2.3%/年、プラセボ群6.7%/年(ハザード比[HR]:0.34、95%信頼区間[CI]:0.19~0.61、p<0.001)であった。また、大出血の年間発現頻度は、エドキサバン15mg群3.3%/年、プラセボ群1.8%/年(1.87、0.90~3.89、p=0.09)であった。 エドキサバン15mg群はプラセボ群に比べて、消化管出血イベントが有意に多かった。あらゆる原因による死亡については、両群間で実質的な違いはみられなかった(エドキサバン15mg群9.9%、プラセボ群10.2%、HR:0.97、95%CI:0.69~1.36)。

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非心臓手術後の新規AF、脳卒中リスクを増大/JAMA

 非心臓手術を受けた患者において、術後30日間に新規の心房細動(AF)を発症した患者は非発症患者と比較して、虚血性脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)のリスクが有意に増大することが、米国・メイヨー・クリニックのKonstantinos C. Siontis氏らによる550例を対象とした後ろ向きコホート試験で示された。非心臓手術後に発症したAFのアウトカムについて明らかになっていない中で今回の試験は行われたが、得られた所見について著者は「抗凝固療法の必要性など、今回の所見を術後AFの治療に適用するには、無作為化試験による検討が必要である」と述べている。JAMA誌2020年9月1日号掲載の報告。非心臓手術後の新規AF群vs.非発症対照群の非致死的・致死的アウトカムを評価 研究グループは、非心臓手術後のAF新規発症vs.非発症の、非致死的・致死的アウトカムリスクとの関連を調べるため、米国ミネソタ州オルムステッド郡で、2000~13年に、非心臓手術後30日以内に記録された新規AFを発症した550例を対象に、後ろ向きコホート試験を行った。 対象患者のうち452例について、年齢、性別、手術実施年、手術の種類でマッチングを行い、非心臓手術後30日以内に新規AFを診断されなかった患者(非AF群)452例を対照群と設定。両群のアウトカム発生を2018年12月31日まで追跡した。 主要アウトカムは、虚血性脳卒中またはTIAの発症だった。副次アウトカムは、術後30日超に発症し記録されたAF、全死因死亡、心血管死だった。非心臓手術後AF発症群、非発症群に比べ高CHA2DS2-VAScスコア 合計904例を対象にマッチング解析を行った。被験者の年齢中央値は75歳(IQR:67~82)、患者の51.8%は男性だった。また、非心臓手術後AF群は非AF群に比べ、CHA2DS2-VAScスコア中央値は有意に高かった(術後AF群4[IQR:2~5]、非AF群3[2~5]、p<0.001)。 中央値5.4年(IQR:1.4~9.2)の追跡期間中に、虚血性脳卒中またはTIAは71件、術後30日超のAFは266件、死亡は571件で、うち172件が心血管関連死だった。 非AF群の虚血性脳卒中・TIAの発症率は10.0/1,000患者年だったのに対し、非心臓手術後AF群は18.9/1,000患者年と統計学的に有意にリスクが高かった(5年時の絶対リスク差[RD]:4.7%[95%信頼区間[CI]:1.0~8.4]、ハザード比[HR]:2.69[95%CI:1.35~5.37])。 また、非心臓手術後30日超のAF発症率も、非AF群21.6/1,000患者年に対し、非心臓手術後AF群は136.4/1,000患者年(5年時絶対RD:39.3%[95%CI:33.6~45.0]、HR:7.94[95%CI:4.85~12.98])、全死因死亡率はそれぞれ86.8/1,000患者年と133.2/1,000患者年(5年時絶対RD:9.4%[4.9~13.7]、HR:1.66[1.32~2.09])とAF群のリスクが統計学的に有意に高かった。心血管死発症率は25.0/1,000患者年と42.5/1,000患者年(5年時絶対RD:6.2%[2.2~10.4]、HR:1.51[0.97~2.34])で有意差は認められなかった。

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抗凝固薬非適応TAVI例、アスピリン単独 vs.DAPT/NEJM

 経口抗凝固薬の適応がない経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)を受けた患者では、3ヵ月間のアスピリン投与はアスピリン+クロピドグレル併用に比べ、1年後の出血や出血・血栓塞栓症の複合の発生が有意に少ないことが、オランダ・St. Antonius病院のJorn Brouwer氏らが実施したPOPular TAVI試験のコホートBの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2020年8月30日号に掲載された。長期の抗凝固療法の適応のない患者におけるTAVI後の出血や血栓塞栓症イベントに及ぼす効果について、抗血小板薬2剤併用(DAPT)と比較した1剤の検討は十分に行われていないという。抗凝固薬非適応の患者のTAVI施行後3ヵ月間に抗血小板薬投与 本研究は、欧州の17施設が参加した医師主導の非盲検無作為化試験であり、2013年12月~2019年3月の期間に患者登録が行われた(オランダ保健研究開発機構の助成による)。 対象は、TAVIが予定されており、長期の経口抗凝固薬投与の適応のない患者であった。被験者は、TAVI施行後の3ヵ月間に、抗血小板薬アスピリン単独(80~100mg、1日1回)またはアスピリン(80~100mg、1日1回)+クロピドグレル(75mg、1日1回)の抗血小板薬2剤併用の投与を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、12ヵ月以内の全出血(小出血、大出血、生命を脅かす/障害を伴う出血)、および非手技関連出血の2つであった。TAVI穿刺部位出血の多くは非手技関連出血とされた。副次アウトカムは、1年後の心血管死、非手技関連出血、脳卒中、心筋梗塞の複合(第1複合副次アウトカム)、および心血管死、脳梗塞、心筋梗塞の複合(第2複合副次アウトカム)の2つの非劣性(非劣性マージン7.5%ポイント)および優越性とした。抗凝固薬非適応TAVI例は抗血小板薬1剤で出血イベントが有意に少ない 抗凝固薬の適応のない患者のTAVI施行665例が登録され、アスピリン単独の抗血小板薬1剤群に331例、アスピリン+クロピドグレルの抗血小板薬2剤併用群には334例が割り付けられた。全体の平均年齢は80.0±6.3歳、女性が48.7%であった。 出血イベントは、アスピリン単独群では50例(15.1%)、併用群では89例(26.6%)に認められ、単独群で有意に少なかった(リスク比[RR]:0.57、95%信頼区間[CI]:0.42~0.77、p=0.001)。また、非手技関連出血は、それぞれ50例(15.1%)および83例(24.9%)にみられ、単独群で有意に少なかった(0.61、0.44~0.83、p=0.005)。 第1複合副次アウトカムは、単独群で76例(23.0%)、併用群では104例(31.1%)に発現し、単独群の併用群に対する非劣性(群間差:-8.2%、95%CI:-14.9~-1.5、非劣性のp<0.001)および優越性(RR:0.74、95%CI:0.57~0.95、優越性のp=0.04)が確認された。 第2複合副次アウトカムは、それぞれ32例(9.7%)および33例(9.9%)で発現し、単独群の併用群に対する非劣性(群間差:-0.2%、95%CI:-4.7~4.3、非劣性のp=0.004)は認められたが、優越性(RR:0.98、95%CI:0.62~1.55、p=0.93)は示されなかった。 試験期間中に、経口抗凝固薬の投与を開始したのは、アスピリン単独群が44例(13.3%)、アスピリン+クロピドグレル併用群は32例(9.6%)で、TAVI施行後の投与期間中央値はそれぞれ12日(IQR:4~59)および6日(3~66)だった。経口抗凝固薬開始の主な理由は、心房細動の新規発症であった。 著者は、「これらの結果は、大出血の発生(2.4% vs.7.5%、RR:0.32、95%CI:0.15~0.71)の差が、主な要因であった」としている。

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AFIRE試験が世界に投げかけたこと(解説:香坂俊氏)-1281

AFIRE試験がNEJM誌に発表された。そのデザインや主要な結果に関しては、さまざまな学会や研究会で議論がなされており、その解釈に関しても広く議論がなされている。AFIREのデザインと主要な結果・心房細動を持つ安定冠動脈疾患の患者さんを対象に「リバーロキサバン(経口抗凝固 薬)単独」と「リバーロキサバン+抗血小板薬併用」との比較を行ったわが国の多施 設共同のランダム化比較研究。・2017年9月末までに2,240例が登録され、2年以上の観察期間を予定していたが、データ 安全性モニタリング委員会の勧告に基づき2018年7月に研究を早期終了。・最終的に2,215例(1,107例の単独療法vs.1,108例の併用療法)が研究解析対象となり、 患者さんの平均年齢は74歳、男性79%、PCI施行70.6%[CABG施行11.4%]) であった。・有効性主要評価(脳卒中、全身性塞栓症、心筋梗塞、血行再建術を必要とする不安定 狭心症、総死亡の複合エンドポイント)では、リバーロキサバン単独療法群がsuperior (優越)であり、さらに安全性主要評価(重大な出血性合併症)においても、 リバーロキサバン単独療法群が優越であった。さまざまなメッセージを含んでいる試験であるが、自分としては日本独自の用量設定を行った試験で世界に向けて結果を出した、というところに注目したい。リバーロキサバンは薬効動態評価の結果を踏まえて15mgあるいは10mgという日本独自の用量設定で認可されている(国際的には20mgあるいは15mgという用量設定)。自分はこうした国別の独自の用量設定というのにかなり懐疑的な人間であったのだが(国際的なRCTの結果のほうを信用する傾向がある)、ただ抗凝固薬や抗血小板薬が日本人に効きすぎるというのは帰国してからの日常臨床でも経験し、また自分達で出したデータでも確かにそのような傾向がみられた(Numasawa Y, et al. J Clin Med. 2020;9:1963.)。AFIRE試験は、このような事情を踏まえてわが国独自の用量設定を用いて行われた試験であるが、その結果がNEJMという最高峰のジャーナルに取り上げられたことの意義は大きい。とくに抗凝固療法・抗血小板薬(抗血栓薬として総称される)に関してはGlobalにも個別の用量設定を考えていかなければならないということを語ってくれているように思われる。この試験は、いろいろな場面における抗凝固療法の使い方に指針を示してくれたことも事実であるが、自分としてはわが国独自の抗血栓薬のDosingについて「世界はどう思うのか?」というより幅広い側面での議論の活性化も期待したい。

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VTEへのリバーロキサバン、日本の実臨床での有効性(J'xactly Study)/日本循環器学会

 日本における静脈血栓塞栓症(VTE)患者は欧米ほど多くないが、増加傾向にある。VTE治療および再発抑制に対して、直接作用型第Xa因子阻害薬リバーロキサバンが2015年に承認され使用されているが、その実臨床データは十分ではない。VTE治療における日本の実臨床でのリバーロキサバンの有効性と安全性を前向きに評価したJ'xactly Studyの結果を、日本大学の奥村 恭男氏が、第84回日本循環器学会学術集会(2020年7月27日~8月2日)で発表した。 J'xactly Studyは、深部静脈血栓症(DVT)および肺血栓塞栓症(PE)患者を対象に、リバーロキサバンの有効性と安全性を検討した多施設共同前向き観察コホート研究。国内の152施設が参加した。・対象:[登録基準]VTEの治療および再発抑制を目的に、リバーロキサバンが処方された症候性または無症候性のVTE(DVTおよびPE)患者[除外基準]リバーロキサバンの禁忌に該当する患者、慢性血栓塞栓性肺高血圧症の患者、活動性出血を認める患者・評価項目:[主要有効性評価項目]ITT解析集団における症候性VTEの再発/増悪[主要安全性評価項目]on treatment解析集団におけるISTH大出血基準による重大な出血事象[副次評価項目]症候性DVTおよびPEの再発/増悪、全死因死亡、VTE関連死、心血管死、出血事象、致死的出血など 主な結果は以下のとおり。・2016年12月~2018年4月、全体で1,039例が組み入れられた(ITT解析集団:1,016例、on treatment解析集団:1,017例)。観察期間中央値は21.3ヵ月。・ITT解析集団におけるベースライン時の患者特性は、平均年齢68.0歳、女性が59.0%、平均体重60.3kg(<50kg:22.6%)、外来患者41.5%、担がん患者19.0%、腎機能低下(CrCl<50mL/min)症例22.4%、抗血小板薬服用10.2%であった。・DVTのみを有する患者が58.8%(597例)、(DVTの有無にかかわらず)PEを有する患者が41.2%(419例)であった。・DVTのみを有する患者では、66.0%(394例)が症候性、近位DVTが51.8%、遠位DVTが48.2%であった。21.9%(131例)に治療歴があり、抗凝固療法(15.6%)、下大静脈フィルター(7.9%)、血栓溶解療法(2.3%)、カテーテル法(1.3%)などを受けていた。・PEを有する患者では、53.0%(222例)が症候性、非広範型が59.2%、亜広範型が29.4%を占めた。48.4%(203例)に治療歴があり、抗凝固療法(40.8%)、下大静脈フィルター(9.5%)、血栓溶解療法(7.9%)、カテーテル法(1.0%)、PCPS(0.7%)などを受けていた。・DVTのみを有する患者では、初期用量30mg/日が54.6%、15mg/日が36.5%であった。20.9%は3週間以上30mg/日の投与を続けていた。30mg/日投与群と10~20mg/日投与群を比較すると、30mg/日投与群でより若く(75歳以上が35.3% vs. 50.9%)、体重が標準的で(<50kgが20.2% vs. 28.0%)、CrCl値が良好(<50mL/minが20.9% vs. 33.2%)、近位DVT(62.3% vs. 39.1%)および症候性(72.4% vs. 58.3%)が多い傾向がみられた。・PEを有する患者では、初期用量30mg/日が81.4%を占め、17.3%は3週間以上30mg/日の投与を続けていた。30mg/日投与群でより若く(75歳以上が30.8% vs. 41.0%)、体重が標準的で(<50kgが17.6% vs. 25.6%)、CrCl値が良好(<50mL/minが15.0% vs. 25.7%)、広範型(4.4% vs. 1.3%)および亜広範型(31.7% vs. 19.2%)が多い傾向がみられた。・主要有効性評価項目である症候性VTEの再発/増悪は、観察期間中に43例(4.2%)発生し、その発生率は2.6/100人年であった。・主要安全性評価項目である重大な出血事象は、観察期間中に29例(2.9%)発現し、その発現率は2.9/100人年であった。重大出血事象は、初期治療期間中の3週間で多く発現し、その後は段階的に増加した。・症候性DVTおよびPEの再発/増悪の発生率に差はなく(1.5/100人年 vs. 1.2/100人年)、全死因死亡の発生率は5.5/100人年。致死的出血は0.3/100人年と非常に少なかった。

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COVID-19、医療者の心を支えるオンライン会議ツールと市民の励まし【臨床留学通信 from NY】番外編6

COVID-19、医療者の心を支えるオンライン会議ツールと市民の励ましCOVID-19治療は依然として模索が続いています。当初使用していたヒドロキシクロロキンについてはネガティブデータが続いており、現状使用していません1,2,3)。アジスロマイシンも同様です。レムデシビルに関しては、トライアルベースでの使用に留まり、RCTに参加する必要があります。また当院では、シングルアームで回復期患者の血漿を使用したトライアルベースの治療を行っています。このほか、トシリズマブをオフラベルで使用しています。当院の関連病院であるMount Sinai Hospital(大学病院)ではMesenchymal stem cell treatmentをやっているようです4)。また、当院のプロトコールにおいては入院患者の中等度~重症例(低酸素血症またはD-dimer、Creatinine、CRP上昇例など)に対しては、アピキサバンや(低分子)ヘパリンを投与しています。実際に、Mount Sinaiのデータベースを使用した抗凝固療法を支持する後ろ向き研究のデータが出ていますが、RCTの結果が待たれますし、あくまで患者さんの出血のリスクとの兼ね合いとなります5)。いずれにせよ、確固たる治療法がない現状が続いています6)。今回のCOVID-19に関連して、途方もない数の方々が病院で亡くなりました。ニューヨーク州においては、5月30日現在で、約37万人の感染者と2万3,000人の死亡者、ニューヨーク市においては、20万の感染者に対し1万5,000人の死亡者でした。当初は、感染の危険性から死ぬ間際であっても面会を禁止していました。自らが感染するリスクを抱えるだけでもストレスでありましたが、まったくの孤独で亡くなる患者さん達を目の当たりにし、患者さんの家族には電話でしか伝えることができず、医療従事者の心身には想像以上の負荷がかかっていました。そのようなつらい状況下の医療従事者を、多くのニューヨーカーが称え、鼓舞してくれました。マンハッタンの日本料理屋などからfood donationをいただいたり7)、毎晩7時になると、市内のあちらこちらから拍手が起こったりして、心が温まります8)。依然として家族の面会は禁止のままですが、病院ではiPadを使用してZoomなどのテレビ通話アプリを介して患者さんと家族が会話できるよう環境を整え、亡くなる間際もZoomを利用して最期を迎えられるように行なっています。実際に、米国では家族が離れて暮らすことはよくあり、国内であっても飛行機で簡単に移動もできない現状もあり、そういった手段は非常に有用であると考えます。1)https://www.carenet.com/news/journal/carenet/501362)https://www.carenet.com/news/journal/carenet/501113)https://www.carenet.com/news/journal/carenet/500954)https://www.mountsinai.org/about/newsroom/2020/mount-sinai-leading-the-way-in-innovative-stem-cell-therapy-for-covid19-patients-pr5)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32387623/?from_term=jacc+fuster+covid&from_sort=date&from_pos=26)https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMcp2009575?articleTools=true7)https://www.mifune-restaurant.com8)https://www.nytimes.com/interactive/2020/04/10/nyregion/nyc-7pm-cheer-thank-you-coronavirus.htmlColumn画像を拡大するこの写真は、文中でも触れたfood donationでいただいたものです。とくに右側に写っているマッシュルームスープは最高においしく、多くの治療や看取りに疲れ切った心身に染み入りました。予想もしなかった留学先でのCOVID-19は厳しい体験の連続ですが、人々の温かさを知る機会にもなりました。

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抗血栓療法受難の時代(解説:後藤信哉氏)-1246

 20世紀の後半からアスピリン、クロピドグレル、DOACsと抗血栓療法が世界の注目を集めた。心筋梗塞、脳梗塞、静脈血栓症などは致死的イベントの代表であった。抗血栓薬にて多少出血が増えても、「心血管死亡」が減るのであれば、メリットが大きいと考えられた。冠動脈ステントなど人工物では血栓性が高いとされ、アスピリン・クロピドグレルの抗血小板薬併用療法も推奨されてきた。血栓イベント予防のために抗凝固薬と抗血小板薬を併用している症例も実臨床では多数見掛けた。 21世紀になって体重コントロール、運動習慣、食事への配慮が普及した。世界的に見れば血栓イベントは重要な死因の1つであるが、教育の行き届いた先進諸国での血栓イベントが目に見えて減少した。体内に入れる医療材料の血栓性も制御されるようになった。抗血栓薬による血栓イベント低下効果よりも、抗血栓薬による出血イベントが注目されるようになった。 本研究では、すでに抗凝固薬を服用中のTAVIの症例が対象となった。本研究の対象症例は326例と多くない。80歳以上で、ほとんどの症例が心房細動を合併したリスクの高い症例である。しかし、心血管死亡・総死亡、虚血性脳卒中いずれもクロピドグレルの追加により減少のサインすらない。出血はクロピドグレル群で多い。重篤な出血には有意差はないが、傾向としてクロピドグレルの追加により増加する。心房細動にてDOACと強いマーケット活動が持続しているが、実臨床ではワルファリン使用が一般的である。本研究の対象も多くはワルファリン治療下である。TAVIでは一般に抗血小板薬併用療法が施行されているが、抗凝固療法施行中の症例に抗血小板薬を追加する必要はない。重篤な出血を惹起する抗血栓薬は使わずに済めば使わないほうがよい。抗血栓薬にとっては受難の時代になった。

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COVID-19による静脈血栓症、入院前に発症か/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症患者では、Dダイマーと凝固系での凝固促進変化、この感染症に関連する静脈および動脈血栓症の上昇率が報告されている。現時点でのさまざまな論文報告によると、ICUに入室したCOVID-19患者の死亡率は50%と高い。とくに動脈・静脈での血栓イベント発症の報告は多く、末梢静脈血栓塞栓症は27~69%、肺塞栓症は最大23%も発生している。 フランス・CCN(centre cardiologique du nord saint denis)のJulien Nahum氏らが観察研究を行った結果、深部静脈血栓症の発症割合は79%と高く、早期発見と抗凝固療法を迅速に開始することで予後を改善する可能性が示唆された。また、抗凝固薬を予防投与したにもかかわらず、ICU入室後わずか2日で患者の15%が深部静脈血栓症を発症したことから、COVID-19のICU患者すべてにおいて系統的に抗凝固療法を評価する必要があるとしている。JAMA Network Open 2020年5月29日号のリサーチレターに報告した。 研究者らは、2020年3月中旬~4月初旬、フランス・パリ郊外にある病院の集中治療室(ICU)に入室したCOVID-19重症患者(急性呼吸窮迫症候群を起こし、人工呼吸を要した)を対象に深部静脈血栓症の系統的な評価を行う目的で観察研究を実施した。 研究者らは、ICU入室時、過去に炎症マーカー値の上昇を示したデータや入院時の静脈血栓症の発症率が高いことを考慮し、COVID-19患者全症例に対して下肢静脈エコーを実施。入院時の検査値が正常でも48時間後に下肢静脈エコーを行い、COVID-19の全入院患者に抗凝固療薬の予防投与を推奨した。統計分析はグラフパッドプリズム(ver.5.0)とExcel 365(Microsoft Corp)を用い、両側検定を有意水準5%として行った。 主な結果は以下のとおり。・計34例が組み込まれ、平均年齢±SDは62.2±8.6歳で、25例(78%)が男性だった。・COVID-19患者のうち26例(76%)がPCR法で診断された。 ・8例(24%)はPCR法で陰性だったが、CT画像でCOVID-19肺炎の典型的なパターンを示した。・主な併存疾患は、糖尿病(15例[44%])、高血圧症(13例[38%])、肥満(平均BMI±SD:31.4±9.0)で、深部静脈血栓症を最も発症していたのは、糖尿病(12例/15例)、次いで高血圧(9例/13例)だった。・ 26例(76%)は入院時にノルアドレナリンを、16例(47%)は腹臥位管理を、4例(12%)は体外式膜型人工肺(ECMO)を必要とした。・入院前に抗凝固療法を受けていた患者はわずか1例(3%)だった。・深部静脈血栓症は、入院時に22例(65%)、ICU入室48時間後に下肢静脈エコーを行った際5例(15%)で見られ、入院から48時間経過時点で計27例(79%)に認められた。 ・血栓症の発症部位は、両側性が18例(53%)、遠位が23例(68%)で、近位が9例(26%)だった。 ・過去に報告されたデータと比較して、今回の集団ではDダイマー(平均±SD:5.1±5.4μg/mL)、フィブリノーゲン(同:760±170mg/dL)およびCRP(同:22.8±12.9mg/dL)の値が高かった。一方、プロトロンビン活性(同:85±11.4%)と血小板数(同:256×103±107×103/μL)は正常だった。

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新型コロナ危機に直面した米国ニューヨークの今【臨床留学通信 from NY】番外編3

番外編:新型コロナ危機に直面した米国ニューヨークの今(3)コロナの激震地となったニューヨークの患者総数は、4月22日現在で25万人を超えています1)。しかしながらクオモ知事の声明によりますと、総入院患者がマイナス傾向になったということで、ようやくピークを超えつつあるようです2)。また、ようやく(?)ニューヨークにおいてもマスクが義務付けられました。通常のマスクは、防御機構に関しては不明ですが、ウイルスを拡散しないという効果はあると私は思います。もちろん市民に対し早めに声明を出したかったのだとは思いますが、医療従事者への確保が先決であり、それがようやく担保されたためとも考えられます。当院(Mount Sinai Beth Israel)の現状は、相変わらずの病床拡大傾向ですが、それがそのままレジデントの労働時間の負担になっている訳ではなく、外部から委託することで人員を確保しているという状況です。実際に、待機的な一般病院や開業医の不要不急の外来はすべて閉鎖されており、そこから人的資源を確保していると考えられます。現在、市内中心部のマンハッタンよりも郊外に位置するクイーンズ地区などで医療崩壊が起きており、ピークを超えていても当院がいまなお病床拡大傾向にあるのは、そこの負担を軽減するための措置であります。確かに、マンハッタンには多くの病院がありますが、実際に住んでいるのは郊外のほうが多く、患者さんの数も同様に多いため、医療の需要と供給のアンバランスが起きやすいのです。それは東京都23区とそれ以外の関係にも似ているように思えますし、関東でパンデミックが起きると、人口が多く医者の数が少ない郊外エリアで医療崩壊が起きる懸念があります。私の病院はMount Sinai医科大学系列なので、経営母体が同じグループ内で疲弊している病院があれば、それらの患者を受け入れるたり人的資源を派遣することは合理的であり、経営的にも好ましいとも言えます。そのような協力は日本においてはなかなか難しく、パンデミックではない地区からのボランティアでしか成り立たないのかもしれませんが、一般病院だけでなく開業医の先生方の協力もニューヨークのように必要なのかもしれません。肝心の治療方法については、依然として模索状態が続いています。前稿で紹介したヒドロキシクロロキンおよびアジスロマイシンについては、ウイルス量を減らすかもしれないと言われていますが3)、あまり効果がないように思いつつ使い続けているというのが正直なところです。QT延長が双方に副作用があり、心電図を何度も取ることで医療従事者への曝露を助長しているようにも思われ、大規模な研究が待たれます。アクテムラ(トシリズマブ)は重症例に使用しておりますが、当院でRCTが始まったのは、同じIL-6 inhibitorのサリルマブでした。抗ウイルス薬のremdesivirについてもRCTも始まりましたが、観察研究の結果を見る限り、ある程度の期待は持てるのかなと思います4)。しかし、これらの治療法が正しいのかどうかも、やはり大規模な研究を待たなければわからない部分も多いです。また、D-Dimerが高値ならば、死亡率が上昇するというデータが出ており5)、D-Dimer高値の重症例については、当院では抗凝固療法を開始しておりますが6)、ほかの施設では推奨していないなど、まったくのエビデンス不足であり、欧米人より出血が多いと言われる日本人に当てはまるかどうかも不明です。ただ、治療に当たった実感としては、COVID-19の重症患者では凝固系が更新しているのだとは思います。ステロイドも予後を改善するというデータが出たため7)使い始めたところ、その後、真菌感染が発症したため、現時点では使用を控えております。ECMOについては、パンデミックになってしまうと医療資源の兼ね合いで推奨されるものではないように思えます8)。また、一度挿管すると抜管は非常に厳しく、低めの酸素飽和度であったとしても、なるべく避けたほうがいいのではないかという印象があります。いざ挿管が必要となった場合、管理は通常のARDSと異なるのかもしれません9)。以上は個人的見解が含まれており、治療法は刻一刻と変化すること、また当院の意見を代表するものではありませんので、その点をご了承ください。1)https://en.wikipedia.org/wiki/2020_coronavirus_pandemic_in_New_York_(state)2)https://twitter.com/NYGovCuomo3)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/322052044)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/322758125)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=Lancet+2020%3B+395%3A+10546)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=322201127)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/321675248)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/322790189)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32228035

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TAVI後の出血リスク、抗凝固薬単独vs. 抗血小板薬併用/NEJM

 経口抗凝固薬内服中に経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)を受ける患者において、術後1ヵ月または12ヵ月にわたる重篤な出血の発生率は、経口抗凝固薬+抗血小板薬(クロピドグレル)併用療法と比較し経口抗凝固薬単独療法のほうが低いことが示された。オランダ・St. Antonius HospitalのVincent J. Nijenhuis氏らが、欧州の17施設で実施した研究者主導の無作為化非盲検並行群間比較試験「POPular TAVI試験」の2つのコホートのうち、コホートBの結果を報告した。TAVI後の抗凝固療法については、抗凝固薬の単独療法または抗血小板薬との併用療法の役割に関する検証がこれまで十分ではなかった。NEJM誌オンライン版2020年3月29日号掲載の報告。TAVI予定患者約300例で、術後の経口抗凝固薬単独と抗血小板薬併用を比較 研究グループは、2013年12月~2018年8月の期間に、TAVIを実施する予定で適切な適応症に対する経口抗凝固薬の投与を受けている患者326例を登録し、TAVI施行前にクロピドグレル非投与(経口抗凝固薬単独)群と、3ヵ月間のクロピドグレル投与(抗血小板薬併用)群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は、12ヵ月間の全出血および非手技関連出血の2つであった。BARC出血基準タイプ4の重篤な出血を手技関連出血と定義し、穿刺部位出血のほとんどは非手技関連出血として計算した。 副次評価項目は、12ヵ月時点での心血管死・非手技関連出血・脳卒中・心筋梗塞の複合(副次複合エンドポイント1)と、心血管死・虚血性脳卒中・心筋梗塞の複合(副次複合エンドポイント2)で、いずれも非劣性(マージン:7.5ポイント)と優越性を検定した。統計解析にはCox比例ハザードモデルおよびlog-rank検定を用い、修正intention-to-treat解析を行った。TAVI後は経口抗凝固薬単独のほうが重篤な出血の発生率が低い 12ヵ月間の全出血発生率は抗凝固薬単独群21.7%(34/157例)、抗血小板薬併用群34.6%(54/156例)(リスク比:0.63、95%信頼区間[CI]:0.43~0.90、p=0.01)で、多くの出血イベントはTAVIのアクセス部位で確認された。非手技関連出血はそれぞれ34例(21.7%)および53例(34.0%)に確認された(0.64、0.44~0.92、p=0.02)。ほとんどの出血は、最初の1ヵ月に発生し、軽度であった。 副次複合エンドポイント1のイベントは、抗凝固薬単独群49例(31.2%)、抗血小板薬併用群71例(45.5%)に確認された(群間差:-14.3ポイント、非劣性の95%CI:-25.0~-3.6、リスク比:0.69、優越性の95%CI:0.51~0.92)。副次複合エンドポイント2のイベントは、それぞれ21例(13.4%)、27例(17.3%)に確認された(群間差:-3.9ポイント、非劣性の95%CI:-11.9~4.0、リスク比:0.77、優越性の95%CI:0.46~1.31)。 なお、著者は研究の限界として、非盲検試験であること、従来と異なり手技関連出血をBARC出血基準タイプ4と定義しており、穿刺部位出血の多くが重篤な出血から除外された可能性があることなどを挙げている。

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第34回 ワルファリン服用時PT-INR2.0~3.0の根拠を説明できますか?【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 ワルファリンはあまりにも有名な抗凝固薬であり、直接経口抗凝固薬(DOAC)もワルファリンとの非劣性試験を行っており、血栓塞栓症の予防薬としてのベンチマークとなっています。多くの薬剤師がその説明に慣れているのではないかと思いますが、スタンダードとされるその効果はどの程度で、なぜPT-INRを2.0~3.0くらいで管理する必要があるのか根拠を示しながら服薬指導できているでしょうか。今回は、意外に正確に即答するのが難しいワルファリンに関するエビデンスを紹介します。ワルファリンは脳卒中リスクを対照群に比べて60%、抗血小板薬に比べて40%低下ワルファリンの血栓塞栓症予防効果は、数多くの試験で示唆されています。非弁膜症性心房細動患者の脳卒中予防効果についてまとめたメタ解析がありますので、押さえておくとよいでしょう1)。この解析には29試験、合計2万8,044例の被験者が含まれており、その平均年齢は71歳で、平均フォローアップ期間は1.5年です。6試験、2,900例の解析によるワルファリン服用群の脳卒中の相対リスクは、抗血栓薬を服用していない対照群と比べて64%低下(95%信頼区間[CI]:49%~74%)、死亡率は26%低下しています。一方、8試験、4,876例の解析による抗血小板薬服用群の脳卒中の相対リスクは、対照群と比べて22%低下(95%CI:6%~35%)しています。また、12試験、1万2,963例の解析によるワルファリン群の脳卒中の相対リスクは、抗血小板薬群と比べて39%低下(95%CI:22%~52%)しています。対照群と比べて約60%、抗血小板薬群と比べて約40%の脳卒中リスク低減というのはとても大きな効果で、DOACが出るまでスタンダードとされていた理由もうなずけます。ただし、試験の前提としてワルファリンの用量が調整されていたことは留意しておくべきで、現実においても当然同様に必要です。上記解析では、抗血小板薬はワルファリンより小さいとはいえ、一定の脳卒中予防効果を示しています。しかし、日本人の非弁膜症性心房細動患者において、アスピリン150~200mg/日投与群と抗血小板薬や抗凝固薬を服用しないプラセボ群を比較した試験(JAST)では、アスピリンは脳卒中予防に対して有効でなかったうえに、中間解析で重篤な出血が増加して試験中止になっているため、推奨されているわけではありません2)。不整脈により生じる脳卒中予防でワルファリンがよく用いられるのにそういった背景があることを知っていると、説明で役に立つかもしれません。PT-INR 2.0~3.0管理群は1.5~1.9管理群よりも有意に深部静脈血栓塞栓症再発が少ないワルファリンの薬効評価では、血液の凝固速度を表すPT-INRの数値をみます。日本血栓止血学会によれば、ワルファリンによる一般的な抗凝固療法では2.0~3.0に管理するとあります。通常の標準値は1.0前後で、それより数値が大きいほど血が止まりにくくなるため、内出血や鼻血、歯茎からの出血などが生じやすくなります。なぜ2.0~3.0がよいのかについては、静脈血栓塞栓症予防におけるINRコントロールの最適値を検討した研究があります3)。ワルファリン治療を3ヵ月以上行っている静脈血栓塞栓症患者738例を、INR 1.5~1.9の低強度管理群とINR 2.0~3.0の通常強度管理群に1:1に割り付け、有効性と安全性を比較しています。主要アウトカムは静脈血栓塞栓症再発および出血です。その結果、深部静脈血栓塞栓症の再発は、INR 1.5~1.9管理群では16回(1.9/100人・年)、INR 2.0~3.0管理群では6回(0.7/100人・年)と有意差があり、ハザード比は2.8(95%CI:1.1~7.0)でした。一方で、重大な出血、全出血発生頻度はともに両群間に有意差はありませんでした。管理が不十分だと塞栓症リスクが3倍近く上昇することは知っておくとよいでしょう。さらに、PT-INRの目標値1.5~2.0と2.0~3.0で比較した別の研究においても、一貫性のある結果が得られており、目標値の妥当性がよくわかります。逆に3.0を超えても予防効果が用量依存的に上がるわけではなく、出血性リスクが高くなるのであくまでも基準値を目指すのがよいということになります4)。抗凝固療法などの予防薬は患者さん自身に治療効果が見えづらくてアドヒアランスが低下しがちです。どの程度の出血傾向があれば注意すべきなのかという目安を伝えることはもちろん重要ですが、治療しない場合と比べてどの程度の効果が期待できて、どのくらいの目標値で管理するとそれがリスクを避けながら最大化されるのかをしっかりと説明できるとよいと思います。そのようなときに、これらの知見をお役立ていただければ幸いです。1)Hart RG, et al. Ann Intern Med. 2007;146:857-867. 2)Sato H, et al. Stroke. 2006;37:447-451. 3)Kearon C, et al. N Engl J Med. 2003;349:631-639. 4)Crowther MA, et al. N Engl J Med. 2003;349:1133-1138.

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TAVRの術後は抗血小板療法?抗凝固療法?(解説:上妻謙氏)-1191

 経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)は、重症大動脈弁狭窄症に対する治療として標準治療となったが、術後の抗血栓療法についての十分なエビデンスが存在しない。今までTAVR後の抗血栓療法としては3~6ヵ月のアスピリンとクロピドグレルによる2剤併用抗血小板療法(DAPT)が標準とされてきたが、この抗血小板療法についての大規模研究は少なく、とくにランダマイズトライアルは皆無である。TAVR後に抗血小板療法が良いのか抗凝固療法が良いのかが疑問であったため、低用量アスピリンに加えてリバーロキサバン10mgとクロピドグレル投与を無作為で比較するGALILEO試験が行われ、結果はすでに発表された。 この試験ではリバーロキサバンを用いた抗凝固療法は有効性の複合エンドポイントで抗血小板療法群に劣り、出血のエンドポイントである安全性エンドポイントでも劣る傾向にあった。したがって、TAVR後の抗血栓療法は抗血小板療法が標準ということが守られた形になっている。一方、TAVRでも外科的手術の生体弁でも、術後早期からの弁尖肥厚と可動性低下が4D-CTを使用することによってレポートされていて、これが血栓の付着によるものと考えられ、生体弁の耐久性を低下させる原因となっているとされていた。 そこで、GALILEO試験の主なサブスタディとして、このGALILEO 4-D試験がデザインされた。4-D CTとは3-Dに加え時間の要素を加えた実際の弁尖の厚みと可動性を評価できるもので、それぞれ5段階に半定量化されて評価された。GALILEO試験1,644例の患者のうち、このサブスタディには231例がエンロールされた。115例がリバーロキサバン群、116例が抗血小板療法群に割り当てられ、実際に4-D CTで評価できたのはそれぞれ97例と101例であった。結果は術後90日の時点で評価され、プライマリーエンドポイントである少なくとも1つの弁尖の可動性低下がグレード3以上であった割合は、リバーロキサバン群2.1%に対し抗血小板療法群10.9%と有意にリバーロキサバン群が良好であり、弁尖肥厚についても12.4%対32.4%とリバーロキサバン群が良好であった。これらの所見はエコーでも評価されたが、エコーでは検出されなかった。 このスタディの結果から言えることは、生体弁の耐久性を向上させるためには抗凝固療法が良い可能性があるが、抗凝固療法による短期臨床イベントの上昇のデメリットが今のところ上回っているということである。このスタディの問題点は抗凝固に低用量のDOACがアスピリンと組み合わされて使用されていることだろう。アスピリンと抗凝固の併用は心房細動でも最もイベントの多い組み合わせであり、出血リスクの高い患者の多いTAVRに適さなかったと考えられる。DOAC単剤であればどうだったのかが検証されることが望ましい。

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慢性血栓塞栓性肺高血圧症〔CTEPH:chronic thromoboembolic pulmonary hypertension〕

1 疾患概要■ 概念・定義慢性肺血栓塞栓症とは、器質化した血栓により肺動脈が閉塞し、肺血流分布および肺循環動態の異常が6ヵ月以上にわたって固定している病態である。また、慢性肺血栓塞栓症において、平均肺動脈圧が25mmHg以上の肺高血圧を合併している例を、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromoboembolic pulmonary hypertension:CTEPH)という。■ 疫学正確な疫学情報はない。わが国において、急性例および慢性例を含めた肺血栓塞栓症の発生頻度は、欧米に比べ少ないと考えられている。剖検輯報にみる病理解剖を基礎とした検討でも、その発生率は米国の約1/10と報告されている。米国では、急性肺血栓塞栓症の年間発生数が50~60万人と推定され、急性期の生存症例の約0.1~0.5%がCTEPHへ移行するものと考えられてきた。しかしその後、急性例の3.8%が慢性化したとも報告され、急性肺塞栓症例では、常にCTEPHへの移行を念頭におくことが重要である。わが国における指定難病CTEPHの患者数は3,790名(2018年度)である。■ 病因肺血管閉塞の程度が肺高血圧症成立機序になる。しかし、画像所見での肺血管の閉塞率と肺血管抵抗の相関は良いとは言えない。この理由として、血栓反復、肺動脈内での血栓の進展が関与していることも考えられており、さらに、(1)肺動脈性肺高血圧症でみられるような亜区域枝レベルの弾性動脈での血栓性閉塞、(2)血栓を認めない部位の増加した血流に伴う筋性動脈の血管病変、(3)血栓によって閉塞した部位より遠位における気管支動脈系との吻合を伴う筋性動脈の血管病変など、small vessel disease の関与も示唆されている。また、わが国では女性に多く、深部静脈血栓症の頻度が低いHLA-B*5201やHLA-DPB1*0202と関連する病型がみられことが報告されている。これらのHLAは、急性例とは相関せず、欧米では極めて頻度の少ないタイプのため、欧米例と異なった発症機序を持つ症例の存在が示唆されている。■ 症状1)労作時の息切れ2)急性例にみられる臨床症状(突然の呼吸困難、胸痛、失神など)が、以前に少なくとも1回以上認められている3)下肢深部静脈血栓症を疑わせる臨床症状(下肢の腫脹および疼痛)が以前に少なくとも1回以上認められている。4)肺野にて肺血管性雑音が聴取される5)胸部聴診上、肺高血圧症を示唆する聴診所見の異常(II音肺動脈成分の亢進など)が挙げられる■ 分類CTEPHの肺動脈病変の多くは深部静脈からの繰り返し飛んでくる血栓が、肺葉動脈から肺区域枝、亜区域枝動脈を閉塞し、その場所で血栓塞栓の器質化が起る。この病変は主肺動脈から連続して肺区域枝レベルまで内膜肥厚が起っている場合(中枢型)と、主に区域枝から内膜肥厚が始まっている場合(末梢型)がある。血栓塞栓の部位によらず薬物療法は必要であるが、侵襲的治療介入戦略が異なるため、部位により次のように大別している。1)中枢型:肺動脈本幹から肺葉、区域動脈に病変を認める(肺動脈内膜摘除術:PEAの適用を考慮)2)末梢型:区域動脈より末梢の小動脈の病変が主体である(バルーン肺動脈形成術:BPAの適用を考慮)■ 予後平均肺動脈圧が30mmHgを超える症例では、肺高血圧は時間経過とともに悪化する場合も多く、一般には予後不良である。CTEPHは肺動脈内膜摘除術(PEA)によりQOLや予後の改善が得られる。また、最近ではカテーテルを用いたバルーン肺動脈形成術(balloon pulmonary angioplasty:BPA)が比較的広く施行されており、手術に匹敵する肺血管抵抗改善が報告されている。また、手術適用のない症例に対して、肺血管拡張薬を使用するようになった最近のCTEPH症例の5年生存率は、87%と改善がみられている。一方、肺血管抵抗が1,000~1,100dyn.s.cm-5を超える例の予後は不良である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断診断は(肺動脈内の血栓・塞栓の存在診断)+(肺高血圧症の存在診断)である(図1、2)。1)右心カテーテル検査で肺高血圧症の存在診断(1)肺動脈圧の上昇(安静時の平均肺動脈圧が25mmHg以上)(2)肺動脈楔入圧(左心房圧)が正常(15mmHg以下)2)肺換気・血流シンチグラム所見で肺動脈内の慢性血栓・塞栓の存在診断換気分布に異常のない区域性血流分布欠損(segmental defects)が、血栓溶解療法または抗凝固療法施行後も6ヵ月以上不変あるいは不変と推測できる。3)肺動脈造影所見、胸部造影CT所見で肺動脈内の慢性血栓・塞栓の存在診断慢性化した血栓による変化が証明される。図1 CTEPH症例の画像所見画像を拡大するCTEPH症例の胸部X-Pおよび胸部造影CT(自験例)胸部X-Pで肺動脈陰影の拡大を認める胸部造影CTで肺動脈主幹部に造影欠損(慢性血栓塞栓症の疑い)を認める図2 CTEPH症例のシンチグラフィ所見画像を拡大する慢性血栓塞栓性肺高血圧症 症例の肺血流シンチおよび肺換気シンチ(自験例)換気分布に異常のない区域性血流分布欠損(segmental defects)が認められる■ 鑑別診断肺高血圧症を来す病態を除外診断する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)本症に対し有効であることがエビデンスとして確立されている治療法としては、肺動脈血栓内膜摘除術(PEA)がある。わが国では手術適応とされなかった末梢側血栓が主体のCTEPHに対し、カテーテルを用いたバルーン肺動脈形成術(balloon pulmonary angioplasty:BPA)の有効性が報告されている。さらに、手術適用のない末梢型あるいは術後残存あるいは再発性肺高血圧症を有する本症に対して、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬であるリオシグアト(商品名:アデムパス)が用いられる。CTEPHの治療方針としては、まず確定診断と重症度評価を行うことである(図3)。ついで病状の進展防止を期待して、血栓再発予防と二次血栓形成予防のための抗凝固療法を開始する。抗凝固療法が禁忌である場合や抗凝固療法中の再発などに対して、下大静脈フィルターを留置する場合もある。低酸素血症対策、右心不全対策も必要ならば実施する。重要な点は、本症の治療に習熟した専門施設へ紹介し、PEAまたはBPAの適応を検討することである。図3 CTEPHの診断と治療の流れ画像を拡大する4 今後の展望PEAの適用やBPAの適用に関してさらなる症例集積が必要である。可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬であるリオシグアト以外の肺血管拡張薬が承認される可能性がある。5 主たる診療科循環器内科、呼吸器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)Mindsガイドラインライブラリ 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)診療ガイドライン(日本肺高血圧・肺循環学会)(医療従事者向けのまとまった情報)難治性呼吸器疾患・肺高血圧症に関する調査研究(医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2020年02月03日

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