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ニルマトレルビル/リトナビル、オミクロン下の外来患者リアルワールドデータ

 ニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッドパック)は、コロナウイルス感染症(COVID-19)重症化リスクの高い患者において、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)デルタ株および初期のオミクロン株に対する重症化抑制効果が示されている。重症化リスクの高いワクチン未接種の成人を対象とした、ランダム化比較試験「EPIC-HR試験」では、重症化リスクを89%低下させたことが報告されている1)。しかし、EPIC-HR試験はデルタ株流行期に行われた試験であり、オミクロン株流行期に主流となったBA.4系統、BA.5系統などに対する効果は明らかになっていない。そこで、米国・コロラド大学医学部のNeil R. Aggarwal氏らは、コロラド州の医療システムの記録を用いて、オミクロン株流行期の実臨床におけるニルマトレルビル/リトナビルの外来患者に対する有用性を検討した。その結果、SARS-CoV-2検査陽性後28日間の入院、全死亡、救急受診を減少させ、SARS-CoV-2検査陽性後28日間の入院の減少は、ワクチン接種状況や年齢、感染時期などに関係なく認められた。Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2023年2月10日掲載の報告。 本研究は、コロラド州の医療システムの記録を用いて、2022年3月26日~8月25日の期間にSARS-CoV-2に感染した外来成人患者を対象として、後ろ向きに追跡した試験である。対象患者は、SARS-CoV-2検査陽性またはニルマトレルビル/リトナビルが処方された患者2万1,493例であった。SARS-CoV-2検査陽性から10日以内にほかのCOVID-19治療薬が処方または投与された患者や、SARS-CoV-2検査陽性時に入院していた患者、ニルマトレルビル/リトナビルの処方から10日以上前に検査陽性であった患者などは除外された。主要評価項目はSARS-CoV-2検査陽性後28日間の入院、副次評価項目はCOVID-19に関連するSARS-CoV-2検査陽性後28日間の入院であった。その他の副次評価項目として、SARS-CoV-2検査陽性後28日間の全死亡、SARS-CoV-2検査陽性後28日間の救急受診などが評価された。解析は、ニルマトレルビル/リトナビルが投与された患者(ニルマトレルビル群)とCOVID-19治療薬が投与されなかった患者(非投与群)の傾向スコアをマッチングさせて行われた。 主な結果は以下のとおり。・対象患者2万1,493例の内訳は、ニルマトレルビル群9,881例、非投与群1万1,612例であった。・SARS-CoV-2検査陽性後28日間の入院は、ニルマトレルビル群0.9%(61/7,168例)、非投与群1.4%(135/9,361例)であり、ニルマトレルビル群で有意に減少した(調整オッズ比[aOR]:0.45、95%信頼区間[CI]:0.33~0.62、p<0.0001)。・SARS-CoV-2検査陽性後28日間の全死亡は、ニルマトレルビル群0.1%未満(2/7,168例)、非投与群0.2%(15/9,361例)であり、ニルマトレルビル群で有意に減少した(aOR:0.15、95%CI:0.03~0.50、p=0.0010)。・臨床的に重要な再発の代替指標として救急受診を用いたところ、SARS-CoV-2検査陽性後28日間の救急受診は、ニルマトレルビル群3.9%(283/7,168例)、非投与群4.7%(437/9,361例)であり、ニルマトレルビル群で有意に減少した(aOR:0.74、95%CI:0.63~0.87、p=0.0002)。・SARS-CoV-2検査陽性後28日間の入院に関するサブグループ解析では、ワクチン接種状況(0回、1または2回、3回以上)、年齢(65歳未満、65歳以上)、感染時期(BA.4系統、BA.5系統の出現前、出現後)などの交互作用は認められなかった。 本論文の著者らは、本研究結果について「ニルマトレルビル/リトナビルは、BA.4系統、BA.5系統が主流となった期間を含むオミクロン株流行期において、SARS-CoV-2検査陽性後28日間の入院および全死亡を大幅に減少させた。また、ニルマトレルビル/リトナビル投与後のリバウンド症状が重篤化することはほとんどないと考えられることは、心強いことである。BA.4系統、BA.5系統を含むオミクロン流行期において、外来患者に対するニルマトレルビル/リトナビルの有効性を示唆した初めてのデータである」とまとめている。

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5歳未満へのコロナワクチン、3回接種の発症予防効果73.2%/NEJM

 生後6ヵ月~4歳児に対する新型コロナウイルスワクチン「BNT162b2」3μgの3回接種は安全で免疫原性があり、症候性COVID-19に対し有効であることを、米国・Baylor College of MedicineのFlor M. Munoz氏らが、約4,500例を対象とした試験の結果を報告した。3回目接種後1ヵ月時点の、免疫ブリッジング成功基準も満たし、反応原性イベントの大部分が軽度~中等度で、Grade4のイベントは認められなかった。NEJM誌2023年2月16日号掲載の報告。接種後1ヵ月時点の免疫応答を評価 研究グループは、6ヵ月~11歳の健康な小児を対象にBNT162b2ワクチンの第I相用量設定試験を完了し、現在第II~III相の安全性・免疫原性・有効性試験を行っている。 本稿では、6ヵ月~2歳未満と2~4歳の小児について、データカットオフ日(安全性と免疫原性については2022年4月29日、有効性については2022年6月17日)までの結果について報告した。 第II~III相試験では、被験者を無作為に2対1の割合で2群に割り付け、一方にはBNT162b2の3μgを2回接種し、もう一方にはプラセボを接種した。3回目接種については、2回目接種後8週間以上空け、免疫原性の予備的結果に基づいて3μg接種を2022年1月から開始した。同時期に、B.1.1.529変異株(オミクロン株)が出現した。 6ヵ月~2歳未満、2~4歳の小児の、2、3回目接種後1ヵ月時点における免疫応答について、ピボタル試験でBNT162b2(30μg)接種を受けた16~25歳の2回目接種後の応答と免疫ブリッジングして評価した。3回目接種後1ヵ月時点の免疫ブリッジング成功基準、6ヵ月~4歳児で達成 第I相用量設定試験では、BNT162b2(3μg)を6ヵ月~2歳未満の小児16例と、BNT162b2(3μgまたは10μg)を2~4歳の小児48例に21日間隔で2回接種した。 第II~III相試験では、3μg用量を採用し、BNT162b2を6ヵ月~2歳未満の小児1,178例と、2~4歳の小児1,835例に接種し、プラセボをそれぞれ598例、915例に接種した。 3回目接種後1ヵ月時点での幾何平均比と血清反応に基づく免疫ブリッジングの成功基準は、両年齢群で達成した。 BNT162b2の反応原性イベントの大部分は軽度~中等度で、Grade4のイベントは認められなかった。接種後の発熱の頻度は低く、両群とも同程度で、BNT162b2群では6ヵ月~2歳未満が7%、2~4歳が5%、プラセボ群ではそれぞれ6~7%と4~5%だった。 6ヵ月~4歳の、症候性COVID-19に対するワクチンの全体的有効性の34症例に基づく観察値は、3回目接種後7日以降で73.2%(95%信頼区間[CI]:43.8~87.6)だった。

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第33回 オミクロン株とインフルエンザ、どちらが強い?

小波で終わるか?インフルエンザの流行、どうやら小波で終わりそうです。ピークが後ずれする可能性はありますが、3年前の水準をやや下回る程度の定点医療機関あたりの報告数に落ち着いています(図)。2月17日速報分で、全国平均で12.91人、沖縄県も30.25人と少しピークアウトし、落ち着いてきたみたいです。反面、石川県と福井県が40人以上と多い状況です。いずれの3県も「警報レベル」を超えているため、注意が必要です。とはいえ、さすがに3月にピークが来るとは思ってないので、過去のインフルエンザの波よりは低く終わると予想しています。予想が外れたらごめんなさい。画像を拡大する図. 定点医療機関あたりのインフルエンザ報告数(参考資料1より作成)インフルエンザvs.オミクロン株インフルエンザとオミクロン株、どちらにも感染したくないのですが、どのくらい公衆衛生学的なインパクトがあるかを比較した論文が出ています2)。スイスの15医療機関で実施された研究で、2022年1月15日~3月15日に入院したオミクロン株優勢時期の入院COVID-19例と、2018年1月1日~2022年3月15日までの入院インフルエンザ例を比較検討したものです。それぞれの院内死亡率とICU入室率を評価項目としています。3,066例のCOVID-19と2,146例のインフルエンザが登録されました。解析の結果、オミクロン株例はインフルエンザ例よりも死亡率が高いことがわかりました(7.0% vs.4.4%、調整ハザード比:1.54、95%信頼区間:1.18~2.01、p=0.002)。ICU入室率はオミクロン株8.6%、インフルエンザ8.3%と有意差はありませんでした。ハザード比もこれについては上昇していません。どちらにも感染したくないですが、やはり新型コロナのほうが公衆衛生学的なインパクトはまだ大きいのかなと思っています。参考文献・参考サイト1)インフルエンザに関する報道発表資料 2022/2023シーズン2)Portmann L, et al. Hospital Outcomes of Community-Acquired SARS-CoV-2 Omicron Variant Infection Compared With Influenza Infection in Switzerland. JAMA Netw Open. 2023 Feb 1;6(2):e2255599.

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行政・学校・病院が連携して行う疾患啓発~糸魚川ジオパーク頭痛啓発キャンペーン

 頭痛は、一般的な公衆衛生上の問題である。その負荷を軽減するためには、頭痛に関する意識を高め、急性症状の管理や予防可能な薬剤を適切に使用することが求められる。しかし、一般の人々における頭痛に関する意識向上の研究は、これまでほとんど行われていなかった。新潟・糸魚川総合病院の勝木 将人氏らは、2021年8月~2022年6月に、2つの介入による「糸魚川ジオパーク頭痛啓発キャンペーン」をプロスペクティブに実施し、有効性の評価を行った。著者らは、本キャンペーンの実施により一般の人々の頭痛に関する認知率が向上したとし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響でほぼすべての住民が集まるワクチン集団接種会場や、学校を基盤とした対面のないオンデマンドe-ラーニングでの疾患啓発活動は、きわめて効果的な方法であると報告している。Headache誌オンライン版2023年1月27日号の報告。 15~64歳の一般の人々を対象に、次の2つの介入を実施した。介入1では、COVID-19ワクチン接種会場で頭痛に関するリーフレットの配布および紙面アンケートを実施。介入2では、学校を通じたオンデマンドe-ラーニングおよびオンライン調査を実施した。これらの介入は、『頭痛の診療ガイドライン2021』に記載されている、一般の人々にとって重要な6つのトピックで構成した。2つの介入のそれぞれの回答は実施の前と後に収集し、キャンペーン前後の6つのトピックの認知度を評価した。 主な結果は以下のとおり。・糸魚川市の生産年齢人口2万458人中6,593人(32.3%)が、2つの介入のいずれかに参加した(介入1:ワクチン接種を受けた6,382人のうち有効回答が得られた4,016人、介入2:高校生1,085人のうち594人と保護者3,699人のうち1,983人を含む2,577人)。・6つのトピックは以下のとおりであった。 Topic1:頭痛による経済損失は大きい Topic2:アブセンティズム(頭痛による欠勤・欠席)よりプレゼンティズム(頭痛によるパフォーマンス低下)のほうが損失は大きい Topic3:頭痛の治療は可能かつ必要 Topic4:月に2回以上の片頭痛があれば受診する Topic5:頭痛の治療は急性期治療薬と予防治療の2本立てである Topic6:薬剤の使用過多による頭痛がある・6つのトピックの認知率は、介入前は6.6(39/594)~40.0%(1,606/4,016)の範囲であったのに対し、介入後は64.1(381/594)~92.6%(1,836/1,983)の範囲へ有意な増加が認められた(すべて、p<0.001)。【介入1(対象:ワクチン接種会場4,016人)】 Topic1:介入前:27%→介入後:70% Topic2:介入前:25%→介入後:72% Topic3:介入前:40%→介入後:84% Topic4:介入前:33%→介入後:80% Topic5:介入前:27%→介入後:75% Topic6:介入前:27%→介入後:72%【介入2(対象:高校生594人)】 Topic1:介入前: 7%→介入後:64% Topic2:介入前:11%→介入後:69% Topic3:介入前:28%→介入後:79% Topic4:介入前:23%→介入後:76% Topic5:介入前:24%→介入後:76% Topic6:介入前:19%→介入後:75%【介入2(対象:保護者1,983人)】 Topic1:介入前: 7%→介入後:80% Topic2:介入前: 8%→介入後:84% Topic3:介入前:35%→介入後:90% Topic4:介入前:32%→介入後:92% Topic5:介入前:24%→介入後:93% Topic6:介入前:34%→介入後:92%

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第149回 医師免許はそんなに簡単に不正取得できるのか?ALS嘱託殺人で発覚した厚生労働省の“謎ルート”

厚生労働省の手続きの瑕疵を批判する声は意外と少ないこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末、関東は寒気が去って暖かい陽気となりました。近所にある梅も七分咲きとなり、春が近づいているのを感じました。同時に花粉も飛び始めたようで、早速アレロックを飲む羽目となりました。ただ、今年は花粉症と新型コロナウイルス感染症の鑑別云々といった報道はほとんどみられません。こちらもやっと“春到来”ということのようです。さて、今回は難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の嘱託殺人事件の捜査途上で発覚した、医師免許の不正取得事件について書いてみたいと思います。20年ほど前に事件となった大学医学部の裏口入学や、5年前に事件となった女性や複数年浪人生に対する不当な差別入試は大々的に報道され、社会問題ともなりました。しかし、この医師免許の不正取得については、厚生労働省の手続きの瑕疵を批判する声は意外と少なく、あまり話題になっていません。謎です。嘱託殺人事件の捜査の過程で医師免許不正取得も明らかに2月7日、京都地方裁判所は、難病のALSの患者を本人の依頼で殺害したとして嘱託殺人の罪で起訴された元医師・山本 直樹被告(45)に対し、この事件とは別に自分の父親を殺害した罪に問われた裁判員裁判において、懲役13年を言い渡しました。山本被告は20日までにこの判決を不服として控訴しました。山本被告は12年前、ALS患者の嘱託殺人の罪で同じく起訴されている医師の大久保 愉一被告(44)と自分の母親と共に、父親(当時77)を入院先の病院から連れ出し、何らかの方法で殺害したとして、殺人の罪に問われていました。山本被告と大久保被告が2019年に、難病のALSを患っていた京都市の女性から依頼を受けて殺害した嘱託殺人事件については、事件発覚当時、本連載の「第17回 安楽死? 京都ALS患者嘱託殺人事件をどう考えるか(前編)」、「第18回 同(後編)」でも書きました。各紙報道等によれば、山本被告と大久保被告は学生時代に知り合ったそうです。その後、病死に見せかけて高齢者を殺害する方法を説く電子書籍を共著で出版。大久保被告はブログなどで安楽死を肯定する持論を展開するなどし、ALS患者の嘱託殺人へとつながっていったと見られています。この嘱託殺人事件の捜査の過程で、山本被告の父親の殺人事件が浮上し、さらに山本被告の医師免許不正取得も明らかとなりました。医政局医事課に務めていた大久保被告のアドバイス山本被告は灘高校卒業後、浪人を経て東京医科歯科大学に入学するも、2006年に学費未納で中退しています。その後、韓国の医師免許を取得したとして、2009年10月付で日本の医師国家試験の受験資格認定を受け、翌2010年の国家試験に合格し、医師免許を取得しました。報道等によれば、医師免許の不正取得は、当時厚労省医政局医事課に試験専門官として務めていた大久保被告のアドバイスに従ったとのことです。山本被告は裁判で「恥ずかしく申し訳ないことだが、大久保被告の提案で、韓国の医大を卒業したという嘘の書類を厚労省に提出して資格を得た」と話しています。国外の医学部を卒業し医師国家試験を受けるルートとは山本被告は、「韓国の医大を卒業した」という嘘の書類で日本の医師国家試験の受験資格を得て同試験を受験、見事合格して医師免許を得たわけです。少なくとも国家試験に合格するだけの医学知識、学力等はあったということになります。さすが灘高出身です。そもそも海外の医大の卒業資格で日本の医師国家試験を受けるというのは、どんな仕組みなのでしょうか。日本で医師の資格を得るには、通常国内の医学部で6年間学んで卒業し、国家試験を受ける必要があります。一方、海外の医学部を卒業した場合、厚生労働大臣の受験資格認定が必要となります。その場合、現状では2つのルートがあります。1)医師国家試験の受験資格認定を受け、医師国家試験を受ける。2)医師国家試験予備試験受験資格認定を受け、その後医師国家試験予備試験を受験、同試験に合格してから、さらに1年以上の診療及び公衆衛生に関する実地修練の後に、医師国家試験を受験する。2)の予備試験受験資格は、先進国並みの医師養成カリキュラムがない後進国で医師教育を受けた人向けで、予備試験、本試験と関門が2つあることになります。なお、受験資格認定には医師教育を受けた国の医師免許が必要ですが、予備試験受験資格認定には医師教育を受けた国の医師免許がなくても受けられるようです。ちなみに2022年2月に実施された第116回医師国家試験では1万61人の受験者のうち合格者は9,222人、合格率は91.7%でした。このうち、前者の受験資格認定と後者の予備試験受験資格認定からの受験者は160人で合格者は78人、合格率48.8%と国内医学部からの受験生の合格率の約半分でした。海外医学部卒業証明書や海外医師免許証の写しが欠落、医師免許取り消しに山本被告については、韓国の医師免許を取得したとして受験資格を得ているので、2)ではなく、認定されれば受験できる1)のルートを取ったとみられます。ただ、煩雑な書類作成に加え、厚労省の厳格な書類審査もあるため、医政局医事課の試験専門官だった大久保被告がどのような手順で山本被告に受験資格を与えることができたか、多くの謎が残ります。事件発覚後の2021年12月24日、厚労省は「医師国家試験の受験資格を満たしていなかった」として、厚生労働大臣の職権で山本被告の医師免許を取得した2010年5月7日まで遡って取り消した、と発表しました。報道等によれば、厚労省が受験資格認定申請書を改めて確認したところ、山本被告の海外医学部卒業証明書や海外医師免許証の写しが欠落していたとのことです。また、韓国で大学に通えるだけの出国期間も確認できませんでした。厚労省は当時の医事課職員に調査したものの受理した職員を特定できず、さらに山本被告は同省の聞き取りを拒んだとのことです。厚労省は、「海外医学部の卒業証明書は複数の職員で原本を確認するなど、再発防止に努める」としましたが、受験資格認定がずさんだった理由についてはきちんと説明がされていません。まだ他にも受験資格認定を不正に受け、医師免許を不正取得した医師がいる可能性はあります。もし、そうだとしたら大問題です。ひょっとしたら、厚労省はこの問題がうやむやになるのを待っているのかもしれません。本丸である大久保被告の裁判で、そのあたりの謎も解明されることを願います。メキシコから帰国して国家試験をすべり続けた友人の教訓とここまで書いてきて、高校時代のある友人のことを思い出しました。彼は医師の子弟でしたが、日本の医学部に合格できるだけの学力がつかず、数年浪人した後、メキシコの医大に入学しました。そこで無事医師となり、現地で心臓カテーテル治療の名医となりました。メキシコで結婚し、奥さんもできたのですが、日本の父親から家を継げと懇願されて渋々帰国。日本の病院でカテーテル検査の“手伝い”をしながら、日本の医師国家試験の受験勉強をしました。25年ほど前、メキシコの医師免許が受験資格認定対象だったのか予備試験受験資格だったのかはわかりませんが、何度かすべり、最終的に彼は医師国家試験に合格できず、日本で医師として働く道は閉ざされてしまいました。もう10年以上会っていないので、彼が今何をしているかわかりません。ただお金を積んで海外で医師になっても、最終的に日本の医師国家試験を合格できるだけの“頭”がないと、その後は大変だなと感じた次第です。ちなみに最近では、医師志望者向けのハンガリーの医大の広告を度々見かけますが、厚労省の「医師国家試験受験資格認定について」のサイト1)には、こんな注意書きが赤字で書かれてあります。最近、卒業後に日本の医師国家試験の受験資格が得られる旨認可を厚生労働省から受けていること等を示して、外国の医学校への入学を勧誘する広告を行っている例が見受けられますが、厚生労働省は、外国の医学校を卒業した方から、医師国家試験の受験資格認定の申請があった後に、当該申請者個々人の能力や、当該申請者が受けた教育等を審査することとなっており、海外の医学校等に対し、当該医学部の卒業生への医師国家試験の受験資格を一律に認定することはありません。このため、こうした外国の医学校等を卒業されても、日本の医師国家試験の受験資格が認められないことが十分想定されますのでご注意下さい。現在、2023年の医学部入試がたけなわです。メキシコの医大に行った私の友人のように、どれだけ勉強しても学力がつかない子供をどうしても医学部に入れたい、医師にしたい、と考えている親御さんは重々お気を付けください。参考1)医師国家試験受験資格認定について/厚生労働省

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自己注射可能な週1回投与のMTX皮下注「メトジェクト皮下注シリンジ」【下平博士のDIノート】第115回

自己注射可能な週1回投与のMTX皮下注「メトジェクト皮下注シリンジ」今回は、抗リウマチ薬「メトトレキサート(MTX)皮下注(商品名:メトジェクト皮下注7.5mgシリンジ0.15mL/同10mgシリンジ0.20mL/同12.5mgシリンジ0.25mL/同15mgシリンジ0.30mL)、製造販売元:日本メダック」を紹介します。本剤は、国内初の自己注射可能なMTX皮下注製剤であり、関節リウマチ患者の服薬アドヒアランスの向上に加え、誤投与・過剰投与リスクの軽減が期待されています。<効能・効果>本剤は、関節リウマチの適応で、2022年9月26日に製造販売承認を取得し、同年11月16日より発売されています。<用法・用量>通常、成人にはMTXとして7.5mgを週に1回皮下注射します。患者の状態や忍容性などに応じて適宜増量できますが、15mgを超えることはできません。4週を目安に患者の状態を十分に確認し、増量は2.5mgずつ行います。<安全性>国内第III相臨床試験(MC-MTX.17/RA試験)において、83.8%(93/111例)に臨床検査値異常を含む有害事象が認められました。5%以上に認められたものは、悪心16.2%、口内炎14.4%、関節リウマチ11.7%、上咽頭炎10.8%、ALT増加9.9%、肝機能異常9.9%、白血球数減少8.1%、上腹部痛5.4%、高血圧5.4%などでした。なお、重大な副作用として、ショック/アナフィラキシー(頻度不明)、骨髄抑制(5%以上)、感染症(0.1~5%未満)、結核、劇症肝炎/肝不全、急性腎障害/尿細管壊死/重症ネフロパチー、間質性肺炎/肺線維症/胸水、中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)/皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、出血性腸炎/壊死性腸炎、膵炎、骨粗鬆症、脳症(白質脳症を含む)、進行性多巣性白質脳症(PML)(いずれも頻度不明)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、異常な状態となっている免疫反応や炎症反応を抑えることで、関節リウマチによる関節の腫れや痛みを改善します。2.通常、週に1回、特定の曜日に皮下注射してください。3.注射部位は大腿部・腹部・上腕部の毎回異なる部位を選び、短期間に同一部位へ繰り返して投与しないでください。4.この薬を投与している間は、生ワクチン(麻疹、風疹、おたふく風邪、水痘・帯状疱疹、BCGなど)の接種ができません。接種の必要がある場合は医師に相談してください。5.発熱、倦怠感が現れた場合や、口内炎、激しい腹痛、嘔吐、下痢などの症状が現れた場合は直ちに医師に連絡してください。6.(妊娠可能年齢の女性やパートナーが妊娠する可能性のある男性に対して)この薬を投与中および投与終了後一定の期間は、適切な方法で避妊を行ってください。7.(授乳中の女性に対して)薬剤が乳汁中へ移行する可能性があるため、本剤の投与中は授乳しないでください。<Shimo's eyes> 関節リウマチ(RA)治療の基本は、疾患活動性を低く抑え、早期の臨床的寛解を達成・維持することです。MTXはRAの病態形成に関与する種々の細胞に対して、複数の分子作用機序を介して免疫および炎症性反応を抑制し、抗RA作用を発揮すると考えられています。日本リウマチ学会、米国リウマチ学会(ACR)、欧州リウマチ学会(EULAR)のガイドラインではMTXが第1選択薬として推奨されています。わが国においては、RAに対するMTXはこれまで経口薬のみが発売されていましたが、本剤は週1回の皮下投与のプレフィルドシリンジです。医師の管理・指導のもと、自己注射も可能です。2022年9月時点で、本剤は欧州を中心に世界49の国または地域で承認されており、2019年には欧州医薬品庁はMTXの誤投与の危険性を回避するため、RAなどの治療に対して週1回投与のMTX皮下注製剤を推奨しています。MTX経口薬から切り替えの際の投与初期量は、1週間当たりの投与量を対比させた添付文書の表などを参考に決定されます。安全性プロファイルは、注射部位反応を除いてMTX経口薬と同様と考えられています。主な副作用は白血球数減少、肝機能障害、悪心、口内炎などであり、重大な副作用である骨髄抑制、感染症、結核、劇症肝炎、肝不全、急性腎障害、尿細管壊死、重症ネフロパチー、間質性肺炎、肺線維症、出血性腸炎などに注意する必要があります。2020年10月の「医療安全情報No.167」では、MTXの過剰投与による骨髄抑制の事故が後を絶たないことを注意喚起しています。本剤の普及によって医療現場での投与過誤、あるいは患者さんの服用過誤が減少することを期待します。

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第151回 勃起時の陰茎が長くなっている / コロナの嗅覚消失が濃縮血漿注射で改善

男性の勃起時の陰茎が長くなっている~ここ29年間で24%増加精子の質や男性ホルモン・テストステロンの濃度がここ数十年で低下していることが男性の生殖指標の推移で示されています。スタンフォード大学医学部(Stanford Medicine)の泌尿器科の教授Michael Eisenberg氏は他にも心配なことがあるかもしれないと考え、陰茎の長さの変化をこれまでの試験結果を渉猟して調べてみました1,2)。80年ほど前の1942年から一昨年2021年に結果が報告された75試験で集められた17歳以上の男性5万5,761人の測定結果が解析され、まずは陰茎の長さの平均を測定したところ普段の緩んだ状態では8.7cm、勃起時は13.93cmと推定されました。本連載の第51回で紹介したメタ解析の結果(緩んだ状態で9.16cm、勃起時13.12cm)とおおむね一致する結果となりました。そして本題の長さの変化のほどはというと、地域・年齢・集団の違いを考慮した後の勃起時の陰茎長がそれを調べた最初の試験から29年間に12.27cmから15.23cmへと24%増加していました。陰茎長の増加傾向は世界的なものであり、日々接する環境汚染物質や座りがちな生活習慣などの環境要因が生殖指標の変化を引き起こしていることの新たな表れかもしれません。今回の研究では17歳以上の男性が調べられましたが、小児などではどうかを調べる必要があるとEisenberg氏は言っています。毎年測定される体重や身長のようにやろうと思えば計画的に測定できそうです。小児のデータが揃えばヒトの発達の変化を早くに察知できるかもしれません。また陰茎を長くしている原因や女性の生殖器でも同様の変化があるのかどうかも調べる必要があります。コロナ感染後に失われた嗅覚が濃縮血漿注射で回復新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の長く続く嗅覚消失が鼻の奥への多血小板血漿(PRP)注射により改善しました3,4)。ウイルス感染で生じる嗅覚消失を長年調べてきたスタンフォード大学医学部の耳鼻咽喉学教授Zara Patel氏などによるプラセボ対照無作為化試験の結果です。多血小板血漿は血液から細胞などを取り除いた液体部分である血漿を濃縮して作られます。その名のとおり血小板に富みますが、とくに肝要なのは組織の再生を助ける増殖因子も豊富なことです。これまでに多血小板血漿注射は軽度の関節炎の治療、顔のシワ取り、頭髪再生などを目的として試された経緯を有します。そもそもPatel氏はそういった多血小板血漿の万能さを訝しんでいましたが、手関節の神経の圧迫や損傷で生じる手根管症候群の治療で手術と同程度有効だったという試験結果が同氏をやる気にさせました。COVID-19患者の嗅覚消失も神経絡みであり、鼻の奥の神経が新型コロナウイルスの仕業でうまく再生できなくなることと関連します。それら神経は脳に通じており、通常は3~4ヵ月ごとに入れ替わっています。Patel氏はまず小規模の下調べ試験(pilot study)5)で鼻腔への多血小板血漿注射が安全なことを確認し、続いて今回のプラセボ対照無作為化試験へと歩みを進めました。Patel氏らの他にも2チームによって嗅覚障害患者への多血小板血漿使用の安全性が裏付けられています6,7)。Patel氏らの今回の試験には新型コロナウイルスに感染して嗅覚消失が6~12ヵ月間続く患者35例が参加し、そのうち26例が試験を完遂しました。試験参加の条件には嗅覚の訓練やステロイドで鼻をゆすぐなどの他の治療を試した経験を有することが含まれます。多血小板血漿の効果がそれらのいつもの治療を上回ることを示したくもあったからです。被験者の半数には被験者ごとに作った多血小板血漿が鼻の奥の粘膜下に2週間ごとに3回注射され、残りの半数にはプラセボが同様に注射されました。嗅覚機能を把握するのに試験で使われた「匂いスティック検査(Sniffin’ Sticks)」は花の匂いや腐った卵の匂いなどの幾つかの匂いを被験者に嗅いでもらい、匂いの強さ、匂いの違いの識別、何の匂いかの同定がどれだけできるかを点数で表します。その点数はそれら3項目の英語名称のThreshold、Discrimination、Identificationの頭文字をとってTDIと呼ばれており、満点は46点です。3ヵ月後に調べたところ、多血小板血漿注射群のTDI点数はもとに比べて有意に6.25点上昇しており、プラセボ群の2.58点上昇を3.67点上回りました。多血小板血漿注射群では60%近い57%の被験者が奏効の基準であるTDI点数5.5点以上向上を示しました。プラセボ群でのその割合は10%に満たない約8%でした。ただし、0(全然匂うことができない)~10(完全に匂うことができる)の目盛りを使って患者に自己評価してもらう主観的検査(Visual Analogue Scale)での嗅覚改善のほどは匂いスティック検査での客観的評価とは対照的に多血小板血漿注射群とプラセボ群で有意差がありませんでした。また、匂いスティック検査を項目ごとに比較したところ多血小板血漿がプラセボに有意に勝ったのは匂いの識別(Discrimination)のみでした。コロナウイルス絡みの嗅覚消失の主観的な改善は客観的検査での回復に遅れてもたらされることが知られており、より長期間追跡すれば主観的な改善もよりはっきりするかもしれません。長期の追跡を含めてこれからの課題は多く、多血小板血漿が最適な患者の同定、効果のさらなる検討、治療手順の標準化のための大規模試験が必要と著者は結論しています3)。参考1)Federico Belladelli, et al. World J Mens Health. 2023 Feb 15. [Epub ahead of print]2)Is an increase in penile length cause for concern? / Stanford Medicine3)Yan CH, et al. Int Forum Allergy Rhinol. 2022 Dec 12. [Epub ahead of print]4)Nasal injections could treat long-term COVID-19-related smell loss / Stanford Medicine5)Yan CH, et al. Laryngoscope Investig Otolaryngol. 2020;5:187-193.6)Mavrogeni P, et al. Int Tinnitus J. 2017;20:102-105.7)Steffens Y, et al. Eur Arch Otorhinolaryngol. 2022:279:5951-5953.

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糖尿病対策で外来指導強化など中間とりまとめ公表/厚労省

 「厚生労働省の腎疾患対策及び糖尿病対策の推進に関する検討会」は、2月13日に「糖尿病対策に係る中間とりまとめ」を発表した。 中間とりまとめによると、診療提供について「外来療養指導や外来栄養食事指導の強化」が謳われ、高齢者の糖尿病患者の低血糖予防や在宅看護など地域ケアの取り組みが追記された。また、糖尿病対策に係る指標の見直しでは、「糖尿病の予防」「糖尿病の治療・重症化予防」「糖尿病合併症の発症予防・治療・重症化予防」の3項目を軸とすることが記述された。 主な中間とりまとめの概要は下記の通り。【1 糖尿病対策に係る他計画との連携等を含めた診療提供体制について】1)見直しの方向性(1)健康日本21や医療費適正化計画の見直しにかかる検討状況、重症化予防や治療と仕事の両立支援に係る取組状況などを踏まえる。(2)厚生労働科学研究の内容などを踏まえる。2)具体的な内容(1)引き続いての推進事項として・地域の保健師・管理栄養士などと連携した糖尿病発症予防の取組や、保健師・管理栄養士などと医療機関の連携、健診後の受診勧奨・医療機関受診状況などに係るフォローアップなど予防と医療の連携。・研究班や関係学会で整理された、かかりつけ医から糖尿病専門医への紹介基準、その他関係する専門領域への紹介基準なども踏まえ、合併症の発症予防・重症化予防に係る医療機関間連携や関連機関などとの連携。・糖尿病対策推進会議や糖尿病性腎症重症化予防プログラムなど、保険者と医療機関などの連携。・「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」に基づく治療と仕事の両立支援を含め、産業医などと連携した職域における糖尿病対策。・周術期や感染症入院中の血糖コントロールなど、糖尿病を併存している他疾患を主たる病名として治療中の患者の血糖管理体制。・患者およびその家族などに対する教育や、国民に対する正しい知識の普及啓発。・糖尿病の動向や治療実態を把握するための取組や、取組評価の適切な指標の検討。(2)追記事項として・治療などに係る記載について、更新された糖尿病に係るガイドラインにおける記載内容や調査・研究の結果などを踏まえ、内容を更新する。また、外来療養指導、外来栄養食事指導の強化、運動指導の重要性について。・高齢者糖尿病に関しては、高齢者糖尿病におけるコントロール目標などが設定されたことにも留意し、低血糖予防、フレイル対策、併存症としての心不全に関する実態把握、在宅医療・在宅訪問看護や介護・地域包括ケアとの連携などの要素も含め、糖尿病の治療や合併症の発症予防・重症化予防につながる取組について。【2 新型コロナウイルス感染症拡大時の経験を踏まえた今後の糖尿病医療体制について】1)見直しの方向性(1)今回の新型コロナウイルス感染症拡大時の経験も踏まえ、地域の実情に応じ、多施設・多職種による重症化予防を含む予防的介入、治療中断対策などを含む、より継続的な疾病管理に向けた診療提供体制の整備などを進める観点から必要な見直しを行う。2)具体的な内容(1)感染症流行下などの非常時においても、切れ目なく糖尿病患者が適切な医療を受けられるような体制整備を進める。(2)ICTの活用やPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)の利活用、在宅医療との連携を含めた継続的・効果的な疾病管理に係る検討を進めるとともに、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」にそって、オンライン診療による対応が可能な糖尿病患者の病態像についても整理を進める。【3 糖尿病対策に係る指標の見直しについて】1)見直しの方向性(1)第8次医療計画における糖尿病対策に係る指標については見直しを行う。(2)具体的な方向性は、以下の通りとする。・「糖尿病の予防」「糖尿病の治療・重症化予防」「糖尿病合併症の発症予防・治療・重症化予防」の3項目を軸として整理。・「専門家数」または「専門医療機関数」のいずれも用いうる指標については、医療提供体制の整備という観点から「専門医療機関数」を採用。【4 今後検討が必要な事項について】(1)高齢者の糖尿病の実態把握や、ICTなどを活用した糖尿病対策のあり方。(2)糖尿病対策の取組の評価に係る適切な指標。

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過渡期に差し掛かったコロナ感染症:今後の至適ワクチンは?(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

 本論評ではWinokur氏らの論文をもとに先祖株(武漢原株)とOmicron株BA.1に対応する2価ワクチンの基礎的知見を整理すると共に先祖株/BA.5対応2価ワクチンの基礎的、臨床的意義に言及する(BA.4とBA.5のS蛋白塩基配列は同じで、厳密には“BA.4/5対応”という表現が正しいが本論評では“BA.5対応”と簡略表記する)。さらに、今後のコロナ感染制御に必要な近未来のワクチンについても考察する。2023年におけるコロナ感染症の動向 2021年11月頃からOmicron原株(B.1.1.529)の世界的播種が始まった。2022年の初頭にはBA.1、次いでBA.2、夏場にはBA.5、年末にはBA.2とBA.5から派生した変異株の播種が始まったが、2023年2月現在、感染者数は減少しつつある。遺伝子系統図からは、BA.4、BA.5はBA.2の姉妹株であり、それらから種々の変異株が派生した。2022年10月、WHOはOmicron Subvariants under Monitoring(OSUMと略記)なる新たな分類を提唱し、Omicron派生株の世界的播種に対して注意を喚起した(WHO. Tracking SARS-CoV-2 variants. 10/12, 2022)。OSUMを構成するのはBA.2とBA.5からの派生株であり、BA.2系統としてBA.2.75(BA.2.75.2、BN.1を含む)とXBB(XBB.1、XBB.1.5を含む)、BA.5系統としてBQ.1(BQ.1.1を含む)とBF.7が注目された。世界の状況はWHOのOSUM分類によってすべてが説明されるわけではなく、各地域の特異的分布を考慮する必要がある。たとえば、米国の2023年1月中旬における現状は、BA.5原株がほぼ消失、BA.5系統のBQ.1とBQ.1.1が計27%、BA.2系統のXBB.1とXBB.1.5が計69%を占め、これらの派生株がコロナ感染全体の96%を占めている。とくにXBB.1.5の経時的増加が顕著であり、今後数ヵ月の間にXBB.1.5が米国におけるコロナ感染のほぼ全てを占めるものと予測されている(CDC. COVID Data Tracker. 2/8, 2023)。XBBはBA.2.10.2とBA.2.75.3の遺伝子組み換え体であり、BA.2原株に比べ感染性は高いが病原性はほぼ同等に維持されている。 本邦(東京都)においては、2023年2月2日現在、BA.5原株は45%と明確に低下、BA.5系統の派生株が計38%(BQ.1:4.1%、BQ.1.1:17.0%、BF.7:16.6%)、BA.2系統の派生株が計16%(BA.2.75:3.3%、BN.1:12.5%)と共に増加傾向を示している。一方、BA.2系統のXBBは0.3%と増加していない(東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議・分析資料. 2/2, 2023)。すなわち、本邦では、米国と異なり、XBBによる感染拡大の可能性は低く、BA.5系統のBQ.1.1とBF.7、BA.2系統のBN.1による感染拡大に注意する必要がある。これらの派生株の感染性は各原株(BA.2、BA.5)よりも高いが病原性はほぼ同等とされている。BA.1対応2価ワクチンから得られた知見 コロナ感染症に対する予防ワクチンとしてはファイザー製、モデルナ製の先祖株(武漢原株)対応1価ワクチン(BNT162b2、mRNA-1273)が中心的役割を果たしてきた。しかし、現在のOmicron派生株に対しては先祖株対応1価ワクチンの追加接種(3回目以降の接種:Booster接種)では十分なる感染予防、重症化予防が得られないことが判明し、先祖株mRNAに加えOmicron株mRNAを同時に封入したOmicron株対応2価ワクチン(BA.1、BA.5対応)が開発された。BA.1対応2価ワクチンがまず承認され、欧州、本邦などで追加接種用として使用されているが(米国では未承認)、BA.1は2022年春頃にはほぼ消滅、かつ、BA.1からの有意な派生株はBA.1.1のみであり、世界でBA.1対応2価ワクチンの追加接種を受けた人の数は限られている。しかし、BA.1対応2価ワクチン接種による中和抗体形成能は詳細に検討され、BA.1対応2価ワクチンはBA.5対応2価ワクチンの臨床的重要性を担保する“象徴的ワクチン”として意義がある。 Winokur氏らによると、BA.1対応2価ワクチンを4回目Booster接種として使用した場合のBA.1に対する中和抗体価は先祖株対応1価ワクチン接種後に比べ1.6倍高かった。一方、両ワクチン接種後のBA.5とBA.2系統の派生株BA.2.75に対する中和抗体価はほぼ同等であり、BA.1対応2価ワクチンのほうが優れているわけではなかった。これらの結果は、標的ウイルスを効果的に中和するためにはウイルスS蛋白特異的mRNAを封入したワクチンが必要であることを意味する。本論文で示されたもう一つの重要な知見はBA.1対応2価ワクチンと先祖株対応1価ワクチンの副反応に明確な差を認めなかったことである。この結果は、今後、種々なるOmicron派生株に対応するmRNAワクチンが開発されたとしても安全性に問題がないことを示唆する。BA.5対応2価ワクチンの液性免疫、細胞性免疫、予防効果 先祖株/BA.5対応2価のワクチンを用いたBooster接種は、2022年秋以降、本邦を含め世界の先進国で開始された。2023年に入り、当ワクチンをBooster接種として用いることの正しさを支持する知見が集積されつつある。Collier氏らはファイザー製、モデルナ製の先祖株対応1価ワクチンを3回接種終了した対象に追加Booster接種として先祖株対応1価ワクチンあるいはBA.5対応2価ワクチンを接種した場合のBA.5を中心とする複数のOmicron派生株に対する中和抗体価(液性免疫)、BA.5特異的記憶B細胞、CD4-T細胞、CD8-T細胞の活性化(細胞性免疫)について検討した(Collier ARY, et al. N Engl J Med. 2023;388:565-567.)。その結果、BA.1、BA.2、BA.5に対する中和抗体価はBA.5対応2価ワクチンのBooster接種後により高い値を示すことが判明した。一方、BA.5特異的記憶B細胞、CD4-T細胞、CD8-T細胞の賦活化には先祖株対応1価ワクチンとBA.5対応2価ワクチンのBoosterで著明な差を認めなかった。以上の結果は、BA.5対応2価ワクチンのBooster効果は主として液性免疫の賦活化に起因するもので細胞性免疫の賦活化の関与は少ないことを示唆する。 Zou氏らはXBB.1、BA.2.75、BQ.1.1など今後世界を席巻する可能性があるOmicron派生株を中心にPfizer社のBA.5対応2価ワクチンのBooster接種による中和抗体形成能を報告した(Zou J, et al. N Engl J Med. 2023 Jan 25. [Epub ahead of print])。彼らの解析によると、BA.5対応2価ワクチンのBooster接種はBA.5系統の派生株BQ.1.1、BA.2系統の派生株BA.2.75に対しては比較的高い中和抗体価を示すがBA.2系統の派生株XBB.1に対する中和抗体は低値であった。 Miller氏らは本邦にとって重要なBA.5系統の派生株BF.7に対するBA.5対応2価ワクチンのBooster効果を検討し、BF.7に対する中和抗体価はBA.5に対する値よりも少し低いものの(BA.5の1/1.5倍)BA.2系統のBA.2.75に対する値の2.7倍、XBB.1に対する値の14倍と高い中和抗体価を示すことを報告した(Miller J, et al. N Engl J Med. 2023;388:662-664.)。Zou氏、Miller氏らの報告は、BA.2ならびにBA.5系統の派生株感染が主流になるであろう2023年度にあってはBA.2とBA.5に対応したワクチンの開発が必要になる可能性を示唆する。 Link-Gelles氏らはBA.2、BA.5系統の派生株感染に対するBA.5対応2価ワクチンの感染予防効果について報告した(Link-Gelles R, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2023;72:119-124.)。BA.5対応2価ワクチンのBooster接種によりBA.2系統派生株に対する感染予防効果は37~52%、BA.5系統派生株に対する感染予防効果は40~49%であり、BA.5対応2価ワクチンの感染予防効果はBooster接種後少なくとも3ヵ月は維持された。 Lin氏らは、入院ならびに死亡を指標としてBA.5対応2価ワクチンの重症化予防効果を評価した(Lin DY, et al. N Engl J Med. 2023 Jan 25.[Epub ahead of print])。観察時期に蔓延していたウイルスはBA.4.6、BA.5、BQ.1、BQ.1.1であった。以上の状況下でBA.5対応2価ワクチンのBooster接種後の重症化予防効果は54~64%であったが、その効果はBooster接種1ヵ月後から低下した。コロナ感染症に対する今後の至適ワクチン 2023年2月8日、厚労省は厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会を開催し、2023年度以降のコロナワクチン接種に関して以下の議論を開始した;(1)2023年度は全世代に対してワクチンの公費負担を継続、(2)2023年度のワクチン接種は秋から冬にかけて施行、(3)ワクチンの種類として幅広い抗原に対する免疫を獲得するためのもの、あるいは、流行株に特化したものが考えられるとした。幅広い抗原に対するワクチンとしては現行のBA.5対応2価ワクチンが該当するが、武漢原株の重要性が消失しつつある現在、武漢原株mRNAをワクチンに組み込む必然性はないはずである。本邦において流行株に特化したワクチンとしては、BA.5系統のBQ.1.1、BF.7、BA.2系統のBN.1に特化した1価あるいは2価ワクチン、米国においては、BA.2系統のXBBに特化した1価ワクチンが考えられるが、流行株に特化し過ぎるとウイルス播種の状況が現在と乖離した場合にワクチンが無効となり忌々しき社会問題を引き起こす。それゆえ、現在の流行ウイルスがBA.2、BA.5由来の派生株が主体であることを鑑み、2023年度においては、汎用性が担保された至適ワクチンとしてBA.2とBA.5に対応する2価ワクチンを開発すべきではないだろうか? 2024年度以降は流行株の厳密なモニターから新たなワクチンを模索する必要性を念頭に置くべきであろう。

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第135回 ポスト2025年の医療・介護提供体制の確立に向けた総合確保方針を改定/厚労省

<先週の動き>1.ポスト2025年の医療・介護提供体制の確立に向けた総合確保方針を改定/厚労省2.医療情報システムをサイバー犯罪から守れ、ガイドライン改定へ/厚労省3.マイナ保険証を持たない人に1年有効の「資格確認書」を発行へ/デジタル庁4.新型コロナウイルス接触確認アプリの開発、不備を認める/デジタル庁5.入院患者への暴行で、精神病院に立ち入り検査/東京都6.「サル痘」の名称を「エムポックス」に変更へ/厚労省1.ポスト2025年の医療・介護提供体制の確立に向けた総合確保方針を改定/厚労省厚生労働省は2月16日に「医療介護総合確保促進会議」を開催し、「団塊の世代」がすべて75歳以上となる2025年、さらにその後の医療・介護提供体制を見据えて、患者・利用者・国民の視点に立った医療・介護の提供体制を構築する必要があるとして「総合確保方針」の見直し案を討議し、承認された。この中で、入院医療については、令和7年に向けて地域医療構想を推進して、さらに医療機能の分化・連携を進めることで「地域完結型」の医療・介護提供体制の構築を目指す。また、外来医療・在宅医療については、外来機能報告制度を用いて紹介受診重点医療機関の明確化を図り、かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行っていくことが重要としている。厚生労働省は新たな「総合確保方針」を、今年度内に告示する見通し。(参考)第19回医療介護総合確保促進会議(厚労省)医療と介護の総合確保方針、改定案を大筋了承 3月中に告示、厚労省(CB news)医療・介護計画の上位指針となる総合確保方針を見直し!2025年から先を見据え「柔軟なサービス提供」目指す!-医療介護総合確保促進会議(Gem Med)厚労省、介護事業者の協働化・大規模化を推進 事業計画の指針に明記(JOINT)2.医療情報システムをサイバー犯罪から守れ、ガイドライン改定へ/厚労省厚生労働省は第14回健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループを持ち回りで開催し、昨年4月に改定した医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6版の骨子案を示した。昨年、発生した大阪急性期・総合医療センターや徳島県つるぎ町立半田病院へのサイバー攻撃事件をきっかけに厚生労働省は医療機関に対して、医療機関へのサイバー攻撃に対してセキュリティー対策を呼びかけている。また、「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版」に対するパブリックコメントの募集を開始しており(締切は2023年3月7日)、募集を経て4月には公表したいとしている。なお、厚生労働省は、医療法を改正しており、令和5年4月より医療法第25条第1項の規定にされている立入調査の実施の際は、病院、診療所の管理者がサイバーセキュリティの確保を講じているかを確認するとしている。(参考)「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版」の骨子(案)について〔概要〕(厚労省)「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版」の骨子(案)に関する御意見の募集について(同)セキュリティー対策、役割ごとに整理 安全管理指針(CB news)3.マイナ保険証を持たない人に1年有効の「資格確認書」を発行へ/デジタル庁デジタル庁は2月17日に「マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会」を開き、中間とりまとめを発表した。来年の秋に、従来の健康保険証が原則廃止となるため「マイナ保険証」を持たない人に対して、無料で有効期間1年の「資格確認書」を発行するとともに「更新も可能」となる見込み。また、マイナンバーカードの取得についても、交付申請者が庁舎などに出向くことが困難な人については診断書、障害者手帳などを用いて、柔軟に代理交付の仕組みを活用することで交付をスムーズに行えるように自治体向けに指導するとした。このほか、マイナカードの紛失など緊急時には最短で5日で発行できる体制を作ることとした。(参考)マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会 中間とりまとめ(デジタル庁)マイナンバーカード、再発行最短5日で 24年秋までに(日経新聞)マイナカード最短5日で発行へ、保険証廃止で政府が中間取りまとめ(朝日新聞)4.新型コロナウイルス接触確認アプリの開発、不備を認める/デジタル庁厚生労働省とデジタル庁は、昨年11月に機能を停止した新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」の取組に関する総括報告書をまとめて、公表した。同アプリは、陽性者と接触した可能性を利用者に伝え、検査や保健所のサポートを早く受けることで、感染拡大の防止が期待されていたが、Android端末で接触通知が到達していないなどの不具合が発覚した。原因には、アプリの開発や運用などで体制の整備が十分でなかったことなどが指摘されており、さらにアプリの効果を検証できないなどの課題があった。デジタル庁は、将来のパンデミックに備えて、今後のアプリ開発などに活用していく方針であるとした。(参考)新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)の取組に関する総括報告書(デジタル庁)河野デジタル相、「COCOA」開発不備認める…「政治のリーダーシップが欠如していた」(読売新聞)接触確認アプリ「COCOA」“課題あった” デジタル庁など報告書(NHK)5.入院患者への暴行で、精神病院に立ち入り検査/東京都2月14日に入院患者への暴行が行われたとして、東京都八王子市にある精神病院の滝山病院(288床)の看護師の男性職員が逮捕された。これまでも入院患者に対して、違法な身体拘束が行われているとして関係者から告発があり、翌日、警察は病院を家宅捜索した。また、厚生労働省は東京都に対して立ち入り調査を行うよう指導した。事件に対して、加藤厚生労働大臣は記者会見で「精神科病院での患者に対する虐待など人権侵害はあってはならない」とし、来年の4月に改正される精神保健福祉法では、精神科病院で虐待を発見した場合に都道府県などへの通報を義務付けられており、今後、指導していくことを明らかにしている。(参考)精神科病院 看護師逮捕“虐待疑われる場合 行政指導”厚労相(NHK)東京 八王子の精神科病院“少なくとも10人以上が虐待”弁護士(同)小池都知事「今後も立ち入り検査」 八王子の精神科病院患者暴行事件(産経新聞)精神科の入院患者に暴行か 看護師の男逮捕-警視庁(時事通信)6.「サル痘」の名称を「エムポックス」に変更へ/厚労省厚生労働省は、2月17日に天然痘に似た感染症「サル痘」の名称を、世界保健機関(WHO)が2022年11月28日に“mpox”の使用を推奨することを公表したため、これに従って「エムポックス」に変更する方針を決めた。サル痘は2022年5月以降、国際的に市中感染が拡大しており(110ヵ国・8万人以上)、2023年2月16日時点で国内でも20例の症例が確認されているが死者はなく、海外でも感染者の多くは軽症で回復している。(参考)サル痘の名称変更について(厚労省)「サル痘」を「エムポックス」に変更へ 厚生労働省(NHK)サル痘の名称、「エムポックス」に WHO推奨で変更へ(日経新聞)サル痘の名称を「エムポックス」に…厚労省が変更方針(読売新聞)

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オミクロン株XBB.1.5に対する治療薬と2価ワクチンの効果は?/東大

 東京大学医科学研究所の河岡 義裕氏らの研究グループは、新型コロナウイルスのオミクロン株XBB.1.5系統に対して、既存の抗体薬、抗ウイルス薬、並びにmRNAワクチンの有効性をin vitroで検証した。その結果、患者から分離したXBB.1.5に対して、4種類の抗体薬はいずれも効果が見られなかったが、4種類の抗ウイルス薬は高い増殖抑制効果を示したことが明らかとなった。また、2価ワクチン接種者の血漿が、XBB.1.5に対する中和活性を有していることが確認された。本結果は、Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2023年2月8日号のCORRESPONDENCEに掲載された。 試験薬剤は、4種類の抗体薬のソトロビマブ、bebtelovimab、カシリビマブ/イムデビマブ、チキサゲビマブ/シルガビマブ、および4種類の抗ウイルス薬のレムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル/リトナビル、エンシトレルビルである。抗体薬について、FRNT50(ライブウイルス焦点減少中和アッセイで50%のウイルスを中和する血清希釈)を用いて感染阻害効果を評価した。また、抗ウイルス薬について、ウイルスの増殖を阻害するかどうかを、IC50(50%阻害濃度)を用いて評価した。 mRNAワクチンの効果については、1価ワクチン4回接種者(4回目接種から33~57日経過)17例、1価ワクチン4回接種+BA.4/5対応2価ワクチン1回接種者(5回目接種から18~59日経過)18例、1価ワクチン3回接種後にBA.2に感染した人(感染から29~89日後)10例の3群において、被験者から採取された血漿のXBB.1.5に対する中和活性を評価した。接種したワクチンは、ファイザー製もしくはモデルナ製である。 主な結果は以下のとおり。【抗体薬・抗ウイルス薬】・XBB.1.5に対して、4種類のいずれの抗体薬も、本試験におけるFRNT50最大値(>5万ng/mL)で中和活性しなかった。・4種類のすべての抗ウイルス薬が、XBB.1.5に対して高い増殖抑制効果を示し、従来株(武漢由来の株)やBA.2、XBBに対する効果と同程度の効果を維持していた。【ワクチン】・1価ワクチン4回接種者のXBB.1.5に対する中和活性は、従来株やBA.2に対する中和活性より著しく低下していた。17検体中9検体(53%)が検出限界以下であった。・5回目にBA.4/5対応2価ワクチンを接種した人のXBB.1.5に対する中和活性は、従来株やBA.2に対する中和活性より著しく低下していたが、低いながらも中和活性を有していた。・1価ワクチン3回接種後にBA.2にブレークスルー感染した人のXBB.1.5に対する中和活性は、従来株やBA.2に対する中和活性より著しく低下していたが、低いながらも中和活性を有していた。・3群ともに、XBB.1.5に対する中和活性の低下は、XBBに対する中和活性と同程度であった。 本研究により、XBB.1.5は、抗ウイルス薬が有効であり、ワクチンや感染によって誘導される免疫を効果的に回避するが、BA.4/5対応2価ワクチンによって免疫応答を改善できることが示唆された。研究チームによると、XBB.1.5の受容体結合ドメインはACE2に対して高い親和性を有するが、XBBとXBB.1.5は同様の免疫回避能力を示しているため、ACE2結合親和性が、高い感染性と米国における急速な拡大の要因である可能性があると述べている。米国疾病予防管理センター(CDC)が発表したデータによると、2023年2月11日時点での米国におけるXBB.1.5の割合は74.7%で、前週から約10%上昇している。

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ペグIFN-λ、高リスクCOVID-19の重症化を半減/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種者を含むCOVID-19外来患者において、ペグインターフェロンラムダ(IFN-λ)単回皮下投与は、COVID-19進行による入院または救急外来受診の発生率をプラセボ投与よりも有意に減少させた。ブラジル・ミナスジェライスカトリック大学のGilmar Reis氏らTOGETHER試験グループが報告した。NEJM誌2023年2月9日号掲載の報告。ブラジルとカナダで、入院/救急外来受診の発生を比較 TOGETHER試験は、ブラジルとカナダで実施された第III相無作為化二重盲検プラセボ対照アダプティブプラットフォーム試験である。研究グループは、ブラジルの12施設およびカナダの5施設において、SARS-CoV-2迅速抗原検査が陽性でCOVID-19の症状発現後7日以内の18歳以上の外来患者のうち、50歳以上、糖尿病、降圧療法を要する高血圧、心血管疾患、肺疾患、喫煙、BMI>30などのリスク因子のうち少なくとも1つを有する患者を、ペグIFN-λ(180μg/kgを単回皮下投与)群、プラセボ群(単回皮下投与または経口投与)または他の介入群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、無作為化後28日以内のCOVID-19による入院(または三次病院への転院)または救急外来受診(救急外来での>6時間の経過観察と定義)の複合とした。主要評価のイベント発生率、ペグIFN-λ群2.7% vs.プラセボ群5.6%、有意に半減 2021年6月24日~2022年2月7日の期間に、計2,617例がペグIFN-λ群、プラセボ群および他の介入群に割り付けられ、ペグIFN-λ群のプロトコール逸脱2例を除外したペグIFN-λ群931例およびプラセボ群1,018例が今回のintention-to-treat集団に含まれた。患者の83%はワクチンを接種していた。 主要アウトカムのイベントは、ペグIFN-λ群で931例中25例(2.7%)に、プラセボ群で1,018例中57例(5.6%)に発生した。相対リスクは0.49(95%ベイズ信用区間[CrI]:0.30~0.76、プラセボに対する優越性の事後確率>99.9%)であり、プラセボ群と比較してペグIFN-λ群で、主要アウトカムのイベントが51%減少した。 副次アウトカムの解析結果も概して一貫していた。COVID-19による入院までの期間はプラセボ群と比較しペグIFN-λ群で短く(ハザード比[HR]:0.57、95%ベイズCrI:0.33~0.95)、COVID-19による入院または死亡までの期間もペグIFN-λ群で短い(0.59、0.35~0.97)など、ほとんどの項目でペグIFN-λの有効性が示された。また、主な変異株の間で、およびワクチン接種の有無で有効性に差はなかった。 ベースラインのウイルス量が多かった患者では、ペグIFN-λ群のほうがプラセボ群より、7日目までのウイルス量減少が大きかった。 有害事象の発現率は、全GradeでペグIFN-λ群15.1%、プラセボ群16.9%であり、両群で同程度であった。

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第147回 インフル流行、ウイルス干渉説は間違いだった?

この3年間、一般的には感染症と言えば新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)のことばかりが取り上げられ、切り口によっては世論が分断するかのようなやり取りがあちこちで繰り広げられてきた。そうした中で私が友人などからよく「医療関係者の言うことはオオカミ少年」と何度か指摘されてきたテーマがある。それは「新型コロナ・インフルエンザ同時流行予測」である。確かにこれは新型コロナ・パンデミックが始まった2020年から言われてきたことだが、少なくとも2022年春までは杞憂に終わっている。しかし、国立感染症研究所の発表によれば、季節性インフルエンザの2023年第4週の定点当たり報告数は10.36人と注意報レベルとなり、第5週はさらに12.66人まで上昇している。第5週時点で都道府県レベルでは沖縄県が47.18人、福井県が35.46人とすでに警報レベルに達しており、大阪府も29.91人と警報レベル目前である。一方、新型コロナの第8波はすでにピークを越え、ここ数日の全国の新規陽性者報告数が3万人を切る状況になっている。とはいえ、この数字が第5波のピークよりも多いことを考えれば、現在の状況は「新型コロナ・インフルエンザ同時流行」と言っていいだろう。では、なぜここに来て同時流行状態となったのだろう?以前よく語られていた新型コロナ・パンデミック後のインフルエンザ流行下火の原因は、ある種のウイルスが流行すると他のウイルスが流行しない、いわば宿主の争奪戦で勝ったものが流行する「ウイルス干渉説」である。しかし、現状を見ればこの説が正しかったとは言えない。また、アメリカでは一足先に昨年10月くらいからインフルエンザが流行し始めた。12月上旬には新型コロナの流行も相まって、米・保健福祉省が「全米の病床使用率が80%超となった」と発表。同月下旬には米政府が抗インフルエンザ治療薬オセルタミビル(商品名:タミフル)の国家備蓄分を各地に配布し始めたほどである。このことをどのように考えれば良いのだろうかと思っていたが、先日ある専門家があくまで私見として次のように語ってくれた。「もし事実だとすれば教科書を書き換えなければならない話ともいえるが、実は日本にとってインフルエンザは土着感染症ではなく、輸入感染症だったのかもしれない」この専門家の話を聞いてから、私も改めていろいろと調べてみた。まず参照したのは世界保健機関(WHO)が公表している全世界的インフルエンザ・サーベイランスデータ「Flunet」である。これを見ると、2019~20年秋冬シーズン以降、最近までインフルエンザが定期的に流行している地域があった。インド、ネパール、バングラデシュなどのいわゆる南アジア地域である。これらの国の中でも若干流行の度合いは異なり、バングラデシュはほぼコロナ以前と同様の流行の波があり、インド、ネパールは2020年夏から2021年冬にかけてはほとんど流行が認められなかったが、それ以外の時期はほぼコロナ禍以前と同様の流行が起きている。ちなみにこれらの国はネパールやインド北部などを除くと、気候上は熱帯に属するため、冬という季節がない。このためインフルエンザの流行は雨季で人が屋内で密集しやすい6~10月くらいに起こる。それを踏まえて出入国管理統計を見ると、2019年はこれらの3ヵ国からの日本入国者は約26万人。これが2020年には約5万4,000人、2021年には約2万7,000人程度まで減少している。2022年6月に岸田 文雄首相は、水際対策としてそれまで停止していた外国人観光客の受け入れを段階的に緩和し始め、最新の2022年11月の出入国管理統計月報を見ると、この南アジア3ヵ国からの入国者はこの月だけで2万人を超えている。ちなみに前述のように、これらの国々では6月ごろからインフルエンザ報告数が増加するのが常だが、やはり2022年もこれは同様だった。日本が入国緩和策を取り始めた6月というのも同時期であったことを考えると、確かに状況的には相関があるし、少なくとも「ウイルス干渉説」よりは説得力があると言えそうである。もっともそれでも現状では「インフルエンザ輸入感染症説」は仮説の域を出てはいない。しかし、もしこの仮説が証明されたとしても、私たちは何らかの具体的な防衛策を立てようもないという現実も悩ましい。だからと言って、こうした地域からの入国者に対する検疫の強化や入国制限はとても合理的とは言えないことは、ほぼ衆目の一致することではないだろうか?結局のところ、われわれには、これまで新型コロナ対策を通じて明らかになった、手指消毒、ワクチン接種、状況に応じたマスク着用を淡々とかつ着実に実行するしかないという着地点しか見いだせない。自分を含む浮気な大衆に、これらの地味で時には鬱陶しいと思う努力を日常生活にどれだけ自然に定着させるか、という課題がより難易度を高めるだけかもしれない。そう思うと、この仮説が証明されることはこれまでの日常的な感染対策に飽き飽きしている今の社会にさらなる分断を生み出すだけかもしれないと、やや暗澹たる気持ちにさえなってしまう。

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高齢者・小児のマネジメントを追加、COVID-19診療の手引き9.0版/厚労省

 2月10日、厚生労働省は「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第9.0版」を公開し、全国の自治体や関係機関に通知を行った。 今版の主な改訂点は以下のとおり。■診療の手引き9.0版の主な改訂点【1 病原体・疫学】・病原体/国内発生状況/海外発生状況の内容を更新【2 臨床像】・臨床像/重症化リスク因子/合併症/小児例の特徴/妊婦例の特徴の内容を更新【3 症例定義・診断・届出】・症例定義/血清診断/届出の内容を更新【4 重症度分類とマネジメント】・序文/軽症/中等症/重症/ECMO/血液浄化療法/妊産婦の管理・図の内容を更新・薬物療法のポイントをレイアウト上新設・高齢者の管理/小児の管理を独立して追加【5 薬物療法】・抗ウイルス薬/中和抗体薬/免疫抑制/調節薬/妊婦に対する薬物療法/日本国内で開発中の主な薬剤の内容を更新【6 院内感染対策】・序文/個人防護具/環境整備/廃棄物/死後のケア・職員の健康管理/医療従事者が濃厚接触者となった場合の考え方・感染予防策を実施する期間/妊婦および新生児への対応の内容を更新【7 退院基準・解除基準】・退院基準/宿泊療養等の解除基準の表をわかりやすく修正※これらのほか個々の文献情報なども更新。

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妊娠中のコロナワクチン接種、出生児の感染/入院を予防/BMJ

 妊娠中の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン2回接種は、出生児の生後6ヵ月間における新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)デルタ株への感染と入院に対し高い有効率を示し、オミクロン株の感染と入院に対しても中等度の予防効果が認められた。また、3回目のワクチン接種によりオミクロン株に対する有効率が上昇したこと、ワクチン2回接種の有効率は、母親の妊娠第3期での接種で最も高く、生後8週を過ぎると低下していた。カナダ・トロント大学のSarah C. J. Jorgensen氏らが、オンタリオ州の地域住民を対象とした検査陰性デザイン研究の結果を報告した。SARS-CoV-2中和抗体は、妊娠中の感染やワクチン接種により臍帯血、母乳、乳児血清に存在することが明らかになっており、妊娠中のCOVID-19ワクチン接種が、乳児のSARS-CoV-2感染および入院リスクを低下する可能性を示唆する新たなエビデンスが示されていた。BMJ誌2023年2月8日号掲載の報告。生後6ヵ月未満児約8,800例について、母親の妊娠中のワクチン接種との関連を解析 研究グループは、ICES(旧名称:Institute for Clinical Evaluative Sciences)のデータベースを用い、カナダで最も人口の多いオンタリオ州において2021年5月7日~2022年3月31日の期間に生まれ、2021年5月7日~2022年9月5日の期間にSARS-CoV-2の検査を受けた生後6ヵ月未満児を特定し解析を行った。COVID-19ワクチン接種データベース(COVaxON)を用いて母親の妊娠中のワクチン接種状況を調べ、デルタ株またはオミクロン株の感染が検査で確認された乳児を症例群、検査が陰性であった乳児を対照群として、乳児のデルタ株またはオミクロン株の感染または入院に対するワクチン有効率を多変量ロジスティック回帰モデルにより解析した。 乳児8,809例が適格基準を満たし、症例群はデルタ株99例、オミクロン株1,501例、対照群はそれぞれ4,365例、4,847例が含まれた。妊娠中の2回接種、乳児のオミクロン株感染/入院に対する有効率は45~53% 母親が妊娠中にワクチンを2回接種した場合の有効率は、乳児のデルタ株感染に対して95%(95%信頼区間[CI]:88~98)、デルタ株感染による入院に対して97%(73~100)であり、オミクロン株感染に対しては45%(37~53)、オミクロン株感染による入院に対しては53%(39~64)であった。 また、妊娠中のワクチン3回接種の有効率は、オミクロン株感染に対して73%(95%CI:61~80)、オミクロン株感染による入院に対して80%(64~89)であった。 乳児のオミクロン株感染に対するワクチン2回接種の有効率は、妊娠第1期(47%、95%CI:31~59)または第2期(37%、24~47)と比較して、妊娠第3期で最も高かった(53%、42~62)。また、出生~生後8週までは57%(44~66)であったが、生後16週以降には40%(21~54)へ低下していた。

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第32回 マスク緩和論を巡り再び世論分断

世論分断の波が再来3月13日からマスク着用は個人判断に委ねることを基本とする方針が示されました。コロナ禍も後半戦、あるいはもう9回表くらいでしょうか。そのあたりは誰にもわかりませんが、とにもかくにも緩和される方針になりました。ただし、医療機関、高齢者施設、通勤ラッシュ・混雑した場所ではマスク着用が推奨されています。厚生労働省は、上記の考え方を事務連絡「マスク着用の考え方の見直し等について(令和5年3月13日以降の取扱い)」として示しています1)。医学的な弱者に感染させてしまうリスクがあるため、きわめて妥当な推奨なのですが、これで世論がまた分断されているようです。コロナ禍で何度か見た風景がまた始まってしまった。卒業式のマスク問題なぜ再びマスク問題が過熱しているかというと、「卒業式でマスク着用どうする問題」が急浮上したからです。文部科学省は2023年2月10日、卒業式におけるマスクの取扱いについて、各都道府県の教育委員会等に通知を出しています2,3)。これによると、「児童生徒と教職員は式典全体を通じてマスクなし、来賓や保護者等はマスク着用を基本」として示しています。簡単に言えば、感染対策はゼロにしたくないけど、子供の思い出のためのマスク緩和はやむなしということですよね。さらに通知では、児童生徒と教職員は、入退場、式辞・祝辞等、卒業証書授与、送辞・答辞の場面を含めて、式典全体を通じてマスクなしを基本とする、としています。しかし、来賓や保護者等はマスクを着用し、座席間の距離を確保するとされています。またさらに、壇上で式辞や祝辞等を述べる場合に関しては、来賓はマスクなしを許可しています。そして、国歌・校歌等の斉唱や「6年間で楽しかったことー!」などの「呼びかけイベント」についてはマスク着用を求めています。こ、細かい…細かすぎる……!「5類」化なのに厳格化そもそも、マスクを巡ってここまで重箱の隅をつつくような議論が必要なのでしょうか。日本ってこれほどルールが必要でしたっけ。あるいは、コロナ禍がそうさせてしまったのか…。全国知事会は、加藤 勝信厚生労働大臣に対して「全部が個人の判断と言われても困る」と伝えています。この意見もわからなくもないのですが、もう大人ですから、当初提示されたように「個人の判断に委ねる」でいいんじゃないか、と私自身は思っています。各業界団体は、業種別にガイドラインの見直しを行う方針になっています。飲食店で中間管理職をやっている私の友人も、「仕事が増えた」と激オコでした。5月8日から「5類感染症」にするというのに、逆に細かい規定でがんじがらめになってしまう現象って、本末転倒な気もします。具体的な場面を挙げるとなると、新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身 茂会長もおっしゃっていたように、100万の場面があるのでキリがありません。もちろん、具体的な場面例を通達してもよいですが、分断を生む火種になることは目に見えているので、国民に対しては「感染が流行しているので常識的なマスク着用を」程度の啓発で、押し通せばよかったのでは、とも感じます。参考文献・参考サイト1)厚生労働省:マスク着用の考え方の見直し等について(令和5年3月13日以降の取扱い)2)文部科学省:永岡文部科学大臣臨時会見(令和5年2月10日)【動画】3)文部科学省:卒業式におけるマスクの取扱いに関する基本的な考え方について(通知)(令和5年2月10日)

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5~11歳児へのコロナワクチン、MIS-C低減/筑波大

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック初期では、小児が感染しても、成人より軽い症状を呈する傾向があることが研究で示されていた。しかし、パンデミックの進行に伴い、呼吸不全、心筋炎、COVID-19 に続発する小児多系統炎症性症候群(MIS-C)など、重症化や合併症を発症するリスクがあることが新たに示唆されている。5~11歳の小児への新型コロナウイルスmRNAワクチンの有効性と安全性を評価するため、筑波大学附属病院 病院総合内科の渡邊 淳之氏らの研究グループにより、系統的レビューとメタ解析が行われた。本研究の結果、ワクチン接種により新型コロナ感染、入院およびMIS-Cなどのリスク低減が認められ、ワクチン接種による局所的な有害事象の発現率は高かったが、心筋炎を含む重篤な有害事象の発現頻度は低く、ほとんどの有害事象が数日以内に消失したことが明らかとなった。本研究は、JAMA Pediatrics誌オンライン版2023年1月23日号に掲載された。 本研究では、2022年9月29日までの小児におけるコロナワクチンの有効性または安全性を評価するすべての無作為化比較試験(RCT)および観察研究を、PubMedとEmbaseのデータベースから検索し、さらに、特定した論文の参考文献を含む2次資料を追加検索し、関連する論文を包括的に収集した。コロナワクチンについては、ファイザー製またはモデルナ製のmRNAワクチンに限定し、投与量を抽出した。主要評価項目は、症状の有無にかかわらないSARS-CoV-2感染、副次評価項目は、有症状のSARS-CoV-2感染、COVID-19関連疾患による入院、MIS-C、ワクチン接種による有害事象とした。有効性と安全性の評価項目の未調整/調整オッズ比を抽出し、ランダム効果モデルで統合した。有害事象については発現率の詳細を評価した。 主な結果は以下のとおり。・2件のRCT、15件の観察研究(コホート研究12件、ケースコントロール研究3件)の合計17件を解析した。ワクチン接種児1,093万5,541例(平均年齢または中央値:8.0~9.5歳、女性:46.0~55.9%)、ワクチン未接種児263万5,251例(同:7.0~9.5歳、女性:44.3~51.7%)であった。追跡期間の中央値は7~90日。・ワクチン2回接種児は未接種児と比較して、次の評価項目のリスク低下と関連していた。 -症状の有無にかかわらないSARS-CoV-2感染(オッズ比[OR]:0.47、95%信頼区間[CI]:0.35~0.64) -有症状のSARS-CoV-2感染(OR:0.53、95%CI:0.41~0.70) -COVID-19関連疾患による入院(OR:0.32、95%CI:0.15~0.68) -MIS-C(OR:0.05、95%CI:0.02~0.10)・ワクチン接種はプラセボと比較して、あらゆる有害事象のリスク上昇と有意に関連した(OR:1.92、95%CI:1.26~2.91)。日常生活を妨げる有害事象のリスク上昇との関連は非有意だった(OR:1.86、95%CI:0.39~8.94)。・ワクチン接種による有害事象について、ほとんどのワクチン接種児は、1回目の接種(5万5,949例中3万2,494例[86.3%、95%CI:74.1~93.3%])と2回目の接種(4万6,447例中2万8,135例[86.3%、95%CI:73.8~93.4%])で少なくとも1つの局所有害事象を経験した。接種児の約半数が全身性有害事象を発現した。・日常生活に支障を来す有害事象は、1回目の接種で4.9%(95%CI:3.1~7.7%)、2回目の接種で8.8%(95%CI:5.4~14.2%)確認された。・心筋炎は、1回目の接種で100万分の1.3(929万1,923例中12例)、2回目の接種で100万分の1.8(731万6,924例中13例)の確率で認められた。

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北京では22年11月以降、新たな変異株は認められず/Lancet

 中国・北京市で2022年11月14日以降に流行している新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、その大部分がBA.5.2とBF.7で、新たな変異株出現のエビデンスはないことを、中国・Beijing Center for Disease Prevention and Control(北京市疾病予防管理センター)のYang Pan氏らが報告した。約3,000件のSARS-CoV-2について完全ゲノムシークエンスを行い明らかにした。著者は、「今回のデータは北京市のみのものだが、人流の頻度および伝染力が強い系統が循環していたことから、結果は“中国の現状”とみなすことができる」とまとめている。Lancet誌オンライン版2023年2月8日号掲載の報告。2022年採取のSARS-CoV-2をゲノム解析、系統発生学的・人口動態的分析を実施 研究グループは、本検討の背景について次のように述べている。「中国でのダイナミックな国家的ゼロCOVID戦略によって、2022年12月以前の北京市では、SARS-CoV-2の持続的局地的感染は起きていなかった。しかし、外来ケースは過去3年にわたり、たびたび検出されてきた。最近、中国ではCOVID-19症例が急増しており、SARS-CoV-2の新たな変異株出現が懸念されているが、北京市では3年の間、ウイルスゲノムの監視をルーチンに行ってきている。なお続くCOVID-19パンデミックへの世界的対応には、世界的に収集された最新のウイルスゲノムシークエンスをローカルデータのそれと比較した時空間解析が重要である」。 本検討では過去3年間にルーチンに採取が行われた、北京市で発生したSARS-CoV-2(国内症例・外来症例の両者をカバー)の呼吸器検体の中から、2022年1月~12月の収集サンプルを用い、その中から無作為に抽出して分析を行った。 次世代シークエンシングによりSARS-CoV-2をゲノム解析し、さらに質の高い完全シークエンスを用いて、系統発生学的・人口動態的分析を行った。11月14日以降の国内症例、90%がBA.5.2またはBF.7 2,994件の完全SARS-CoV-2ゲノムシークエンスが得られ、そのうち2,881件について質の高い完全シークエンスとさらなる分析を行った。加えて2022年11月14日~12月20日にかけて、413件の新たな検体(国内症例350、外来症例63)のシークエンシングを行った。 シークエンシングを行ったSARS-CoV-2ゲノムは、すべて123 PANGO系統に属しており、それ以外の持続的優勢株や新系統は見つからなかった。北京市では、現在SARS-CoV-2のBA.5.2とBF.7が主流で、11月14日以降の国内症例の90%(350例中315例)を占めており、11月14日以降に、BA.5.2とBF.7の株保有者数が増加していた。

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コクランレビューが導き出したマスク着用効果

 2020年の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)流行以前にも新型インフルエンザ(H1N1)や重症急性呼吸器症候群(SARS)の感染拡大が問題視され、その度にコクランレビューがなされてきた。今回、新型コロナ流行に関する研究を盛り込み更新されたシステマティックレビューがThe Cochrane Database of Systematic Reviews誌2023年1月30日号に掲載された。コクランレビューではマスクの効果について不確実性 オックスフォード大学のTom Jefferson氏らは急性呼吸器感染症に影響するウイルスの拡散阻止または軽減のための身体的介入の有効性を評価することを目的に論文データベース(CENTRAL、PubMed、Embaseほか)および2022年10月に登録された2試験から、後方引用と前方引用によるシステマティックレビューを行った。論文の選択基準として、呼吸器系のウイルス感染を防ぐための物理的介入(入国時スクリーニング、隔離/検疫、物理的距離、個人保護具、手指衛生、マスク、眼鏡、うがい)を調査したランダム化比較試験(RCT)およびクラスターに関するRCTを検討した。 急性呼吸器感染症に影響するウイルスの拡散阻止または軽減のための身体的介入の有効性を評価したコクランレビューの主な結果は以下のとおり。・今回のコクランレビューには、既存の67件に最新のRCTとクラスターに関するRCT(登録者61万872例)11件を加え、78件を検討した。新たな試験のうち、6件は新型コロナ流行時に実施されたものだった。・多くの研究は、インフルエンザが流行していない時期に実施され、いくつかの研究は2009年の新型インフルエンザ流行時に実施されていた。また、そのほかの研究は2016年までのインフルエンザの流行期に実施されていたため、多くの研究は新型コロナ流行時と比較して、下気道のウイルス感染が拡大している時期に実施されていた。・分析した研究の置かれた環境はさまざま(郊外の学校、高所得国の病棟、低所得国の都心部など)で、多くの研究では介入群のアドヒアランスが低く、RCTとクラスターに関するRCTのバイアスのリスクは非常に高いか不明確であった。・医療用/サージカルマスクとマスクなしを比較した12件(うち10件はクラスターRCT、医療従事者による2件と地域での10件)によると、マスクを着用していない場合と比較し、地域社会でのマスク着用はインフルエンザ様疾患(ILI)/新型コロナ様疾患の転帰にほとんどあるいはまったく差がなく、試験9件(27万6,917例)のリスク比[RR]は0.95(95%信頼区間[CI]:0.84~1.09、証拠の確実性:中程度)だった。また、試験6件(1万3,919例)のRRは1.01(95%CI:0.72〜1.42、証拠の確実性:中程度)だった。・手指衛生に関する試験19件(うち9件の5万2,105例)によると、手指衛生の介入はコントロール(介入なし)と比較し、急性呼吸器感染症の患者数が相対的に14%減少した(RR:0.86、95%CI:0.81~0.90、証拠の確実性:中程度)。・ガウンと手袋、フェイスシールド、入国時スクリーニングに関するRCTは見つからなかった。 ただし、研究者らは「試験における偏りのリスクが高く、結果の測定値にばらつきがあり、研究時の介入群でのアドヒアランスが比較的低いため、確固たる結論を導き出すことはできなかった。そのため、マスクの効果については不確実性が残っている。エビデンスの確実性が低~中程度であることは、効果の推定値に対する信頼性が限られていること、および実際の効果が観察された効果の推定値と異なる可能性があるため、複数の設定や集団におけるこれらの介入の多くの有効性、それに対するアドヒアランスの影響に対処する、適切に設計された大規模なRCTが必要」と記している。

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モデルナ製コロナワクチン、対象年齢引き下げに向け承認事項一部変更申請

 モデルナ・ジャパンは2023年2月9日付のプレスリリースで、スパイクバックス筋注(一般名:コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン[SARS-CoV-2])の接種対象年齢を、現在の「12歳以上」から「6歳以上」に引き下げるため、厚生労働省に承認事項一部変更申請を行ったことを発表した。 今回の承認事項一部変更申請は、「スパイクバックス筋注(1価:起源株)」の6~11歳における初回免疫、「スパイクバックス筋注(2価:起源株/オミクロン株BA.1)」と「スパイクバックス筋注(2価:起源株/オミクロン株BA.4-5)」の6~11歳における追加免疫を対象としたものである。 同社代表取締役社長の鈴木 蘭美氏は、「COVID-19は日本の公衆衛生にとって引き続き脅威となっています。接種対象の年齢を拡大し、より幅広い世代にワクチンをお届けし、COVID-19から守れるようにすることは大変重要と考えております。一刻も早く国民の皆さまにお届けできるよう、厚生労働省などと協力し、全力を尽くしてまいります」と述べている。

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