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血小板無力症〔GT:Glanzmann thrombasthenia〕

1 疾患概要■ 定義血小板無力症(Glanzmann thrombasthenia:GT)は、1918年にGlanzmannにより初めて報告された1)一般的な遺伝性血小板障害(Inherited platelet disorders:IPD)であり、その中でも最もよく知られた先天性血小板機能異常症である。血小板インテグリンαIIbβ3(alphaIIbbeta3:いわゆる糖蛋白質[glycoprotein:GP]IIb/IIIaとして知られている)の量的欠損あるいは質的異常のため、血小板凝集機能の障害により主に中等度から重度の粘膜皮膚出血を伴う出血性疾患である。インテグリンαIIbβ3機能の喪失により、血小板はフィブリノーゲンや他の接着蛋白質と結合できなくなり、血小板による血栓形成不全、および多くの場合に血餅退縮が認められなくなる。 ■ 疫学血液凝固異常症全国調査では血液凝固VIII因子の欠乏症である血友病Aが男性出生児5,000人に約1人,また最も頻度が高いと推定される血漿蛋白であるvon Willebrand factor(VWF)の欠損症であるvon Willebrand病(VWD)については出生児1,000人に1人2、3)と報告される(出血症状を呈するのはその中の約1%と考えられている)。IPDは、これらの遺伝性出血性疾患の発症頻度に比べてさらに低くまれな疾患である。UK Haemophilia Centres Doctors Organisation(UKHCDO)に登録された報告2)では、VWDや血友病A・Bを含む凝固障害(87%)に比較して血小板数・血小板機能障害(8%)である。その8%のIPDの中ではGTは比較的頻度が高いが、明らかな出血症状を伴うことから診断が容易であるためと想定される(GT:5.4%、ベルナール・スーリエ症候群:3.7%、その他の血小板障害:90.1%)。凝固異常に比較して、IPDが疑われる症例ではその分子的な原因を臨床検査により正確に特定できないことも多く、その他の血小板障害(90.1%)としてひとくくりにされている。GTは、常染色体潜性(劣性)遺伝形式のために一般的にホモ接合体変異で発症し、ある血縁集団(民族)ではGTの発症頻度が高いことが知られている。遺伝子型が同一のGT症例でも臨床像が大きく異なり、遺伝子型と表現型の相関はない1、4)。血縁以外では複合ヘテロ接合によるものが主である。■ 病因(図1)図1 遺伝性血小板障害に関与する主要な血小板構造画像を拡大するインテグリンαIIbサブユニットをコードするITGA2B遺伝子やβ3サブユニットをコードするITGB3遺伝子の変異は、インテグリンαIIbβ3複合体の生合成や構造に影響を与え、GTを引き起こす。片方のサブユニットの欠落または不完全な構造のサブユニット生成により、成熟巨核球で変異サブユニットと残存する未使用の正常サブユニットの両方の破壊が誘導されるが、例外もありβ3がαvと結合して血小板に少量存在するαvβ3を形成する5)。わが国における血小板無力症では、欧米例とは異なりβ3の欠損例が少なく、αIIb遺伝子に異常が存在することが多くαIIbの著減例が多い。また、異なる家系であるが同一の遺伝子異常が比較的高率に存在することは単民族性に起因すると考えられている6)。このほかに、血小板活性化によりインテグリン活性化に関連した構造変化を促す「インサイドアウト」シグナル伝達や、主要なリガンドと結合したαIIbβ3がさらなる構造変化を起こして血小板形態変化や血餅退縮に不可欠な「アウトサイドイン」シグナル伝達経路を阻害する細胞内ドメインの変異体も存在する。細胞質および膜近位ドメインのまれな機能獲得型単一アレル変異体では、自発的に受容体の構造変化が促進される結果、巨大血小板性血小板減少症を引き起こす。「インサイドアウト」シグナルに重要な役割を果たすCalDAG-GEFI(Ca2+ and diacylglycerol-regulated guanine nucleotide exchange factor)[RASGRP2遺伝子]およびKindlin-3(FERMT3遺伝子)の遺伝子変異により、GT同様の臨床症状および血小板機能障害を発症する。この機能性蛋白質が関与する他の症候としては、CalDAG-GEFIは他の血球系、血管系、脳線条体に存在し、ハンチントン病との関連も指摘されており、Kindlin-3の遺伝子変異では、白血球接着不全III(leukocyte adhesion deficiency III:LAD-III)を引き起こす。LAD-III症候群は常染色体潜性(劣性)遺伝で、白血球減少、血小板機能不全、感染症の再発を特徴とする疾患である5)。■ 症状GTでは鼻出血や消化管出血など軽度から重度の粘膜皮膚出血が主症状であるが、外傷・出産・手術に関連した過剰出血なども認める。男女ともに罹患するが、とくに女性では月経や出産などにより明らかな出血症状を伴うことがある。実際、過多月経を訴える女性の50%がIPDと診断されており、さらにIPDの女性は排卵に関連した出血を起こすことがあり、子宮内膜症のリスクも高いとされている7)。■ 分類GTの分類では、インテグリンαIIbβ3の発現量により分類される。多くの症例が相当するI型では、ほとんどαIIbβ3が発現していないため、血小板凝集が欠如し血餅退縮もみられない。発現量は少ないがαIIbβ3が残存するII型では、血小板凝集は欠如するが血餅退縮は認める。また、非機能的なαIIbβ3を発現するまれなvariant GTなどがある1、5)。■ 予後GTは、消化管出血や血尿など重篤な出血症状を時折引き起こすことがあるが、慎重な経過観察と適切な支持療法により予後は良好である。GTの出血傾向は小児期より認められその症状は顕著であるが、一般的に年齢とともに軽減することが知られており、多くの成人症例で本疾患が日常生活に及ぼす影響は限られている。診断された患者さんが出血で死亡することは、外傷や他の疾患(がんなど)など重篤な合併症の併発に関連しない限りまれである1)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)血小板機能障害は1次止血の異常であり、主に皮膚や粘膜に発現することが多い。出血症状の状況(部位や頻度、期間、再発傾向、出血量)および重症度(出血評価ツール)を評価することは、出血症状を呈する患者の評価における最初の重要なステップである。出血の誘因が年齢や性別(月経)に影響するかどうかを念頭に、患者自身および家族の出血歴(術後または抜歯後の出血を含む)、服薬状況(非ステロイド性抗炎症薬)について正確な問診を行う。また、IPDを疑う場合は、出血とは無関係の症状、たとえば眼病変や難聴、湿疹や再発性感染、各臓器の形成不全、精神遅滞、肝腎機能など他器官の異常の可能性に注意を払い、血小板異常機能に関連した症候群型の可能性を評価できるようにする7)。【遺伝性血小板障害の診断】症候学的特徴(出血症状、その他症状、家族歴)血小板数/形態血小板機能検査(透過光血小板凝集検査法)フローサイトメトリー免疫蛍光法、電子顕微鏡法分子遺伝学的解析(Boeckelmann D, et al. Hamostaseologie. 2021;41:460-468.より作成)出血症状に対するスクリーニング検査は、比較的簡単な基礎的な臨床検査で可能であり非専門施設でも実施できる。血液算定、末梢血塗抹標本での形態観察、血液凝固スクリーニング、VWDを除外するためのVWFスクリーニング(VWF抗原、VWF活性[リストセチン補因子活性]、必要に応じて血液凝固第VIII因子活性)などを行う(図2)。上記のスクリーニング検査でIPDの可能性を検討するが、IPDの中には血小板減少を伴うものもあるので、短絡的に特発性血小板減少性紫斑病と診断しないように注意する。末梢血塗抹標本の評価では、血小板の大きさ(巨大血小板)や構造、他の血球の異常の可能性(白血球の封入体)について情報を得ることができ、これらが存在すれば特定のIPDが示唆される。図2 遺伝性血小板障害(フォン・ヴィレブランド病を含む)での血小板凝集のパターン、遺伝子変異と関連する表現型画像を拡大する血小板機能検査として最も広く用いられている方法は透過光血小板凝集検査法(LTA)であり、標準化の問題はあるもののLTAはいまだ血小板機能検査のゴールドスタンダードである。近年では、全自動血液凝固測定装置でLTAが検査できるものもあるため、LTA専用の検査機器を用意しなくても実施できる。図3に示すように、GTではリストセチンを除くすべてのアゴニスト(血小板活性化物質)に対して凝集を示さない。GTやベルナール・スーリエ症候群などの血小板受容体欠損症の診断に細胞表面抗原を測定するフローサイトメトリー(図4)は極めて重要であり、インテグリンαIIbβ3の血小板表面発現の欠損や減少が認められる。インテグリンαIIbβ3活性化エピトープ(PAC-1)を認識する抗体では、活性化不全が認められる8)。図3 血小板無力症と健常者の透過光血小板凝集検査法での所見(PA-200を用いて測定)画像を拡大する図4 血小板表面マーカー画像を拡大するGTでは臨床所見や上記の検査の組み合わせで確定診断が可能であるが、その他IPDを診断するための検査としては、顆粒含有量および放出量の測定(血小板溶解液およびLTA記録終了時の多血小板血漿サンプルの上清中での血小板因子-4やβトロンボグロブリン、セロトニンなど)のほか、血清トロンボキサンB2(TXB2)測定(アラキドン酸由来で生理活性物質であるトロンボキサンA2の血中における安定代謝産物)、電子顕微鏡による形態、血小板の流動条件下での接着および血栓形成などの観察、細胞内蛋白質のウェスタンブロッティングなどが参考となる。遺伝子検査はIPDの診断において、とくに病態の原因と考えられる候補遺伝子の解析を行い、主に確定診断的な役割を果たす重要な検査である。今後は、次世代シーケンサーの普及によるジェノタイピングにより、遺伝子型判定を行うことが容易となりつつあり、いずれIPDでの第一線の診断法となると想定される。ただしこれらの上記に記載した検査については、現段階では保険適用外であるもの、研究機関でしか行えないものも数多い。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)予防や治療の選択肢は限られているため、日常生活での出血リスクを最小限に抑えること、出血など緊急時の対応に備えることが必要である(図5)。図5 出血性疾患に対する出血の予防と治療画像を拡大する罹患している病名や抗血栓薬など避けるべき薬剤などの医療情報(カード)を配布することも有効である。この対応方法は、出血性疾患でおおむね同様と考えられるが、たとえばGTに対しては血小板輸血による同種抗体生成リスクを可能な限り避けるなど、個々の疾患において特別な注意が必要なものもある。この抗血小板抗体は、輸血された血小板除去やその機能の阻害を引き起こし、輸血効果を減弱させる血小板不応の原因となる。観血的手技においては、出血のリスクと処置のベネフィットなど治療効率の評価、多職種(外科医、血栓止血専門医、看護師、臨床検査技師など)による出血に対するケアや止血評価、止血対策のためのプロトコルの確立と遵守(血小板輸血や遺伝子組み換え活性化FVII製剤、抗線溶薬の使用、観血術前や出産前の予防投与の考慮)が不可欠である。IPD患者にとって妊娠は、分娩関連出血リスクが高いことや新生児にも出血の危険があるなどの問題がある。最小限の対策ですむ軽症出血症例から最大限の予防が必要な重篤な出血歴のある女性まで状況が異なるために、個々の症例において産科医や血液内科医の間で管理を計画しなければならない。重症出血症例に対する経膣分娩や帝王切開の選択なども依然として難しい。4 今後の展望出血時の対応などの臨床的な役割を担う医療機関や遺伝子診断などの専門的な解析施設へのアクセスを容易にできるようにすることが望まれる。たとえば、血友病のみならずIPDを含めたすべての出血性疾患について相談や診療可能な施設の連携体制の構築すること、そしてIPD診断については特殊検査や遺伝子検査(次世代シーケンサー)を扱う専門施設を確立することなどである。遺伝性出血性疾患の中には、標準的な治療では対応しきれない再発性の重篤な出血を伴う若い症例なども散見され、治療について難渋することがある。こうした症例に対しては、遺伝性疾患であるからこそ幹細胞移植や遺伝子治療が必要と考えられるが、まだ選択肢にはない。近い将来には、治療法についても革新的技術の導入が期待される。5 主たる診療科血液内科(血栓止血専門医)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター 血小板無力症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)国立成育医療研究センター 先天性血小板減少症の診断とレジストリ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)大阪大学‐血液・腫瘍内科学 血小板疾患研究グループ山梨大学大学院 総合研究部医学域 臨床検査医学講座(医療従事者向けのまとまった情報)1)Nurden AT. Orphanet J Rare Dis. 2006;1:10.2)Sivapalaratnam S, et al. Br J Haematol. 2017;179:363-376.3)日笠聡ほか. 日本血栓止血学会誌. 2021;32:413-481.4)Sandrock-Lang K, et al. Hamostaseologie. 2016;36:178-186.5)Nurden P, et al. Haematologica. 2021;106:337-350.6)冨山佳昭. 日本血栓止血学会誌. 2005;16:171-178.7)Gresele P, et al. Thromb Res. 2019;181:S54-S59.8)Gresele P, et al. Semin Thromb Hemost. 2016;42:292-305.公開履歴初回2023年3月30日

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第38回 「救急搬送困難」が日常の風景に

救急搬送困難例は第5波水準COVID-19の陽性者数は、日ごとに減少していますが、ここからリバウンドが始まるのではないかという懸念があります。1日当たりの感染者数をみていると、なんとなく増加に転じているのではという地域もチラホラあります。さて、救急搬送困難は、ピーク時の3分の1程度に落ち着いていますが、まだかなり高い状態が続いています。東京ルールの適用となる事案(救急隊による5つの医療機関への受入要請または選定開始から20分以上経過しても搬送先が決定しない事案)は、第8波が収束した現時点でも1日100件以上です(図)。画像を拡大する図. 3月27日時点での東京ルールの適用件数(筆者作成)これは、東京オリンピックの裏で医療逼迫に苦しんでいた第5波のピーク時とそう変わらない水準なんです。医療従事者はもう救急搬送困難に慣れてしまいましたが、コロナ禍前では到底考えられない逼迫状態にもかかわらず、世間は「新型コロナはもう終わった」と思っているわけです。医療リソースに対するギャップはなかなか埋まりません。救急医療のDX化を救急隊や医療機関において搬送に関するリアルタイム情報を共有する救急医療情報システムである「Smart119」1)が自治体の間で広がってきました。これによって、複数の医療機関へ同時に搬送受入要請を行い、現在アナログになっている搬送交渉を省エネ化することができます。また、帰署前に救急活動記録が不要になるタブレット入力の仕組みを構築しました。いまだにアナログ時代の医療逼迫にメスを入れ、業務を時短化することが期待されます。いわば「搬送マッチングシステム」であり、救急隊員だけでなく医療機関の業務負荷も軽減するかどうか、現在検証されています。実はこうした救急医療搬送支援システムは10年以上前に構想が練られていたのですが、うまく進まなかった過去があります。今度こそ、救急搬送困難問題が解決できることを祈っています。参考文献・参考サイト1)救急医療情報サービスSmart119

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看護施設スタッフの検査強化で、入所者のコロナ関連死減少/NEJM

 米国の高度看護施設(skilled nursing facilities)において、職員に対する新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)サーベイランス検査の強化は、とくにワクチン承認前において、入所者の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発症および関連死の、臨床的に意味のある減少と関連していた。米国・ロチェスター大学のBrian E. McGarry氏らが、メディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)のデータベースを用いた後ろ向きコホート研究の結果を報告した。高度看護施設の職員へのCOVID-19サーベイランス検査は広く行われているが、施設入所者のアウトカムとの関連性についてのエビデンスは限定的であった。NEJM誌2023年3月23日号掲載の報告。高度看護施設1万3,424施設について、77週間調査 研究グループは、CMSのCOVID-19 Nursing Home Databaseにおける2020年11月22日~2022年5月15日のデータを用い、ワクチン承認前、B.1.1.529(オミクロン)株優勢前、オミクロン株優勢中の3つの期間における、高度看護施設1万3,424施設の職員のSARS-CoV-2検査と入所者のCOVID-19について後ろ向きコホート研究を行った。同データベースは、高度看護施設が米国疾病予防管理センター(CDC)の医療安全ネットワーク(NHSN:National Healthcare Safety Network)に週単位で提出するデータを含んでいる。 主要アウトカムは2つで、潜在的アウトブレイク(COVID-19症例が2週間なかった後にCOVID-19が発生と定義)時におけるCOVID-19発症およびCOVID-19関連死の週間累積例数(潜在的アウトブレイク100件当たりの件数として報告)で、検査回数の多い施設(検査数の90パーセンタイル)と少ない施設(10パーセンタイル)で比較した。スタッフ検査回数が多い施設で、少ない施設よりCOVID-19発症/関連死が減少 77週間の調査期間において、潜在的アウトブレイク100件当たりのCOVID-19症例は、スタッフへの検査回数が多い施設が519.7例に対し、少ない施設は591.2例であった(補正後群間差:-71.5、95%信頼区間[CI]:-91.3~-51.6)。また、潜在的アウトブレイク100件当たりのCOVID-19関連死は、多い施設42.7例に対し、少ない施設49.8例であった(-7.1、-11.0~-3.2)。 ワクチン承認前においては、潜在的アウトブレイク100件当たりのCOVID-19症例は、スタッフへの検査回数が多い施設759.9例、少ない施設1,060.2例(補正後群間差:-300.3、95%CI:-377.1~-223.5)、COVID-19関連死はそれぞれ125.2例、166.8例(-41.6、-57.8~-25.5)であった。 オミクロン株優勢前は、スタッフへの検査回数が多い施設と少ない施設でCOVID-19症例数、COVID-19関連死数のいずれも同程度であった。オミクロン株優勢中は、多い施設でCOVID-19症例数が減少した。しかし死亡数は両群で同程度であった。

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子宮内避妊具の装着、産後早期vs.標準/JAMA

 子宮内避妊具(IUD)の産後2~4週での装着は産後6~8週での装着と比較し、完全脱落に関して非劣性が認められた。部分脱落については認められなかった。米国・カリフォルニア大学のSarah Averbach氏らが、無作為化試験の結果を報告した。IUDの装着は、エビデンスではなく先例に基づき、通常産後6週で行われる。産後2~4週の産褥期には妊娠しないことが知られていることや、米国産婦人科学会では産後3週以内での受診が推奨されており、通常よりも早期である産後2~4週でのIUD装着について検討が行われた。結果を踏まえて著者は、「これら装着時期による脱落リスクを理解することは、IUD装着のタイミングについての患者および臨床医のインフォームド・チョイスに役立つと考えられる」とまとめている。JAMA誌2023年3月21日号掲載の報告。IUDの完全脱落について無作為化試験 研究グループは、2018年3月~2021年7月に、米国の4施設において経腟分娩または帝王切開で出産しIUD装着を希望すると回答した産後10日以内の18歳以上の女性を登録し、産後14~28日(早期群)または42~56日(標準群)にIUDを装着するよう施設で層別化して1対1の割合で無作為に割り付け、6ヵ月間追跡調査した。IUDの種類(銅付加IUD、レボノルゲストレル放出IUD)は、参加者が選択した。 主要アウトカムは、産後6ヵ月までの完全脱落率(非劣性マージン6%)で、盲検化された臨床医が経膣超音波検査でIUDの存在と位置を確認した。副次アウトカムは、部分脱落、IUD抜去、骨盤内感染症、患者満足度などであった。完全脱落率は2.0% vs.0%、部分脱落率は9.4% vs.7.6% 642例がスクリーニングを受け、適格基準を満たした404例が早期群(203例)と標準群(201例)に割り付けられた。404例の平均(±SD)年齢は29.9±5.4歳、46例(11.4%)が黒人、228例(56.4%)が白人、175例(43.3%)がヒスパニック系であった。 404例中53例(13%)がIUDを装着せず、57例(14%)が追跡不能で、解析対象はIUDを装着し産後6ヵ月間の追跡調査を完了した294例(73%)であった。 完全脱落は、早期群で149例中3例、(2.0%、95%信頼区間[CI]:0.4~5.8)、標準群で145例中0人(0%、0.0~2.5)、群間差は2.0%(95%CI:-0.5~5.7、p=0.04)であり、早期群の標準群に対する非劣性が認められた。 部分脱落は、早期群では14例(9.4%、95%CI:5.2~15.3)、標準群では11例(7.6%、95%CI:3.9~13.2)に発生した(群間差:1.8%、95%CI:-4.8~8.6)。6ヵ月後のIUD使用率は、早期群141例(69.5%、95%CI:62.6~75.7)、標準群139例(67.2%、95%CI:60.2~73.6)であり、両群で同程度であった。 骨盤内感染症が、早期群で3例報告された。(2023年3月31日 記事内容を修正いたしました)

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第154回 日本はパワハラ、セクハラ、性犯罪に鈍感、寛容すぎる?WHO葛西氏解任が日本に迫る意識改造とは?(前編)

休職中だったWHO西太平洋地域事務局の葛西 健・事務局長とうとう解任こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。ワールド・ベースボール・クラシック (WBC)が終わってしまいました。日本代表の優勝に終わった今大会ですが、栗山 英樹監督以下、コーチ陣のほとんどが北海道日本ハムファイターズ(以下、日ハム)の在籍経験者で占められていたことは特筆に値します(代表の投手コーチだった吉井 理人・ロッテ監督も日ハムの投手コーチ時代にダルビッシュ 有選手、大谷 翔平選手を指導)。時折映るブルペンには、かつて日ハムでダルビッシュ選手の球を受けていた鶴岡 慎也氏もいました(ブルペンキャッチャーとして帯同)。首脳陣や裏方の組織編成に、栗山監督が日ハム時代に一緒に働き、自身の考えや戦い方を熟知している人間たちを招集したということでしょう。今回のWBCは、野球というスポーツを超えて、組織づくりという面でもとても参考になりました。ちなみに今回日本代表にスタッフとして参加した大谷選手の通訳の水原 一平氏(元日ハム通訳)は決勝戦直後、自身のインスタグラムに「日ハム組」と題して、コーチ陣に大谷 翔平選手、ダルビッシュ 有選手、近藤 健介選手、伊藤 大海選手らの出場選手も加わった集合写真を掲載しました。総勢なんと13人、全員がにこやかに笑う写真はまるで日ハムが世界で優勝したかのようでした。さて今回は、同じ”世界”ということで、WBCならぬWHO(世界保健機関)の西太平洋地域事務局(フィリピン・マニラ)の葛西 健・事務局長が解任されたニュースを取り上げます。昨年8月から休職となっていた葛西氏、日本政府の強力なロビー活動も虚しく、正式に解任となってしまいました。「調査の結果、不適切な行為があったことが判明した」とWHOWHOは3月8日、職員らへの人種差別的な発言などがあったとして内部告発され、昨年8月から休職中だった葛西・西太平洋地域事務局長を解任したと発表しました。WHOが地域事務局長を解任したのは初めてだそうです。共同通信などの報道によると、葛西氏の処遇を決める地域委員会の投票では解任賛成が13票、反対が11票、棄権が1票とほぼ拮抗。その結果を踏まえ、WHOは「調査の結果、不適切な行為があったことが判明した」とし「(葛西氏の)任命を取消した」と発表しました。不適切な行為の詳細は明らかにしていません。匿名の職員30人以上がWHO執行部に苦情を申し立て内部告発についてはAP通信が昨年1月に最初に報じました。それらの報道によれば、葛西氏は部下の職員に人種差別的な発言をしたり、「攻撃的なコミュニケーションや公然の場で恥をかかせる行為」を繰り返したり、一部の太平洋地域における新型コロナウイルスの感染拡大は「文化や人種のレベルが劣ることによる能力不足」などと述べたりしたとのことです。さらに、機密情報を日本政府に漏らしたという疑いも浮上していました。匿名の職員30人以上がWHO執行部に苦情を申し立て、WHOは告発内容について調査を開始、葛西氏を休職扱いとしました。葛西氏は、調査開始当初、声明で「部下に厳しく接したことは事実だが、特定の国籍の人を攻撃したことはない。機密情報を漏洩したとの非難にも異議がある」と告発内容を否定していました。テドロス事務局長の後任の最有力候補だった葛西氏葛西氏は慶應大学医学部出身の医師で、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院を修了後、岩手県庁で働いた後、厚生省(当時)に入省しました。同省保健医療局結核感染症課の国際感染症専門官などを経て2000年からWHO西太平洋地域事務局に感染症対策医官として勤務、西太平洋地域の結核対策や、SARS対応に取り組みました。その後、厚生労働省の大臣官房国際課課長補佐としていったん日本に戻り、宮崎県福祉保健部次長などを務め、地域の医療や感染症対策などに取り組みました。2006年に再びWHOに戻り、西太平洋地域事務局感染症対策課長、WHOベトナム代表などを務め順調に出世、2019年2月、日本政府の強力な支援を受けて、地域委員会の選挙でWHO西太平洋地域事務局長に選ばれました。WHOの西太平洋地域事務局は、世界に6ヵ所あるWHOの地域事務局の一つで、日本や中国、オーストラリアなどを管轄しています。西太平洋地域事務局長には、新型インフルエンザ等対策有識者会議の会長を務める尾身 茂氏も1999年から2006年まで就いていました。葛西氏は、WHOのトップ、テドロス・アダノム事務局長の後任の最有力候補とも目されていました。2006年の選挙で尾身 茂氏が苦杯を舐めたWHO事務局長のポストの獲得は、日本政府にとっても悲願と言えることでした。今回の解任は、WHOをはじめとする国際機関のポスト獲得に注力してきた日本政府には非常に大きな痛手となりました。この方面に詳しい知人に話を聞くと、「いろいろな国際機関があるが、WHOは将来日本がトップを取れるかもしれない数少ない機関の一つだった。告発が表沙汰になってから、日本は嘆願書を出し、尾身氏をマニラに送り込むなど、強力なロビー活動を展開したがダメだった。葛西氏は否定し続けてきたが、告発が事実だった可能性は高い」と話していました。なお、松野 博一官房長官は解任が決まった翌日、9日の記者会見で、WHOが葛西氏を解任したことについて、「選挙で選ばれた局長に対する処分であり、調査・事実認定は公正公平に行われ、地域委員会、加盟国がコミットした上で行われる必要があると一貫して主張してきた」と述べる一方、「日本政府は人種差別やハラスメントを容認しないWHOの政策を支持する立場だ」とも語りました。歴代の厚労大臣がWHOに「嘆願書」ところでこの件に関し、雑誌「集中」2023年1月号は「WHO葛西 健氏の処分、対応巡り政府与党内に波紋」という記事を掲載、2022年10月に歴代の厚生労働大臣がWHOのテドロス事務局長に「嘆願書」を送っていたと報じています。同記事によれば、嘆願書は田村 憲久・元厚労相、塩崎 恭久・元厚労相、根本 匠・元厚労相、後藤 茂之・前厚労相、武見 敬三・元厚労副大臣、古川 俊治・自民党参院議員、橋本 岳・元厚労副大臣、丸川 珠代・元厚労政務官の8人の連名で、「私達は日本の国会議員として、グローバルヘルスやWHOと密接な関わりを持って来ました。私達は、WHO西太平洋事務局長の葛西 健先生に対する疑念に対するWHOの対応について懸念を共有する為に、この連名で書簡を送ります」として、「私達はこの疑惑について直接知っている訳ではないので、特にコメントしません。しかし、葛西 健先生を長年知っている私達にとって、これらの疑惑は真実から遠く離れたものでしかありません」と葛西氏に対する疑惑に疑問を呈しています。その上で、加藤 勝信厚労相が、22年9月に開催された西太平洋地域の地域委員会において、今回の内部告発や調査などについて十分な情報開示と正式な議論を求める意見を表明したにも関わらず、それに対して具体的な行動が取られていないことに懸念を表明しています。葛西氏は今回のような疑惑を招くような人物ではない、調査結果を公表してほしい、葛西氏の言い分も聞くべきだ…。歴代の厚労大臣らによる異例の嘆願書がWHOに送られたものの、結局は解任に至ってしまいました。一体、何が悪かったのでしょうか。パワハラが表沙汰になった段階でほぼほぼアウトの欧米先進国WHO内でのさまざまな事情やパワーバランスももちろん大きいと思いますが、一つにはパワハラやセクハラなどに鈍感、寛容過ぎる日本人の特性が災いした可能性があります。欧米先進国では、パワハラやセクハラについては表沙汰になった(訴えられた、告発された)段階で、ほぼほぼアウトというのが常識と言われています。そもそも複数(30人!)の人間から告発された段階で、仕事の能力以前にその人の人間性に疑問符が付けられてしまいます。ましてや多様性の象徴とも言える国際機関での差別発言は、たとえそこに悪意がなかったとしてもアウトでしょう。そのアウトさがAP通信で報道されたのは2022年1月。すぐさま火消しに入らなかった日本政府や頑なに告発内容を否定し続けた葛西氏にも非がありそうです。「解任理由が不明確」との批判もありますが、国際的には今回の解任、歓迎の声も大きいようです。医学雑誌の「The Lancet」は3月18日、「Global health experts welcome Kasai dismissal」(グローバルヘルスの専門家たち葛西氏解任を歓迎)と題する記事を掲載しているのです。(この項続く)

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コロナ疾患後症状患者、1年以内の死亡/重篤心血管リスク増

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染から1年間のコロナ罹患後症状(Post-COVID-19 Condition:PCC[いわゆるコロナ後遺症、long COVID])について、米国の商業保険データベースを用いて未感染者と比較した大規模調査が、保険会社Elevance HealthのAndrea DeVries氏らによって実施された。その結果、コロナ後遺症患者は心血管疾患や呼吸器疾患のリスクが約2倍上昇し、1年間の追跡期間中の死亡率も約2倍上昇、1,000人あたり16.4人超過したことが明らかとなった。JAMA Health Forum誌2023年3月3日号に掲載の報告。コロナ後遺症群の死亡率は2.8%で未感染群は1.2% 米国50州の18歳以上の健康保険会員において、2020年4月1日~7月31日の期間にCOVID-19に罹患し、その後コロナ後遺症と診断された1万3,435例と、未感染者2万6,870例をマッチングし、2021年7月31日まで12ヵ月追跡してケースコントロール研究を実施した。評価項目は、心血管疾患、呼吸器疾患、死亡など。コロナ後遺症の診断は、疲労、咳嗽、痛み(関節、喉、胸)、味覚・嗅覚の喪失、息切れ、血栓塞栓症、神経認知障害、うつ病などの症状に基づいて行われた。統計学的有意性はカイ2乗検定とt検定で評価し、相対リスク(RR)と95%信頼区間(CI)を算出した。Kaplan-Meier法を用いて死亡率を算出した。 コロナ後遺症について未感染者と比較した大規模調査の主な結果は以下のとおり。・コロナ後遺症群(1万3,435例)の平均年齢は50.1歳(SD 15.1)、女性7,874例(58.6%)。PCC群のうち3,697例がCOVID-19診断後1ヵ月以内に入院していた(平均年齢57.4歳[SD 13.6]、女性44.7%)。未感染群(2万6,870例)の平均年齢は50.2歳(SD 15.4)、女性1万5,672例(58.3%)。・コロナ後遺症群はCOVID-19を発症する前に、高血圧(39.2%)、うつ病(23.7%)、糖尿病(20.5%)、COPD(19.1%)、喘息(中等症/重症)(13.3%)、高度肥満(10.3%)などの慢性疾患を有する人が多かった。・コロナ後遺症群の追跡期間中によく観察された症状は、息切れ(41%)、不安(31%)、筋肉痛/脱力(30%)、うつ病(25%)、疲労(21%)だった。・コロナ後遺症群において、未感染群と比較して医療利用が増加した疾患は次のとおり。 -不整脈の発症率:PCC群29.4% vs.未感染群12.5%、RR:2.35(95%CI:2.26~2.45) -肺塞栓症:8.0% vs.2.2%、RR:3.64(95%CI:3.23~3.92) -虚血性脳卒中:3.9% vs.1.8%、RR:2.17(95%CI:1.98~2.52) -冠動脈疾患:17.1% vs.9.6%、RR:1.78(95%CI:1.70~1.88) -心不全:11.8% vs.6.0%、RR:1.97(95%CI:1.85~2.10) -末梢血管疾患:9.9% vs.6.3%、RR:1.57(95%CI:1.48~1.70) -COPD:32.0% vs.16.5%、RR:1.94(95%CI:1.88~2.00) -喘息(中等症/重症):24.2% vs.12.4%、RR:1.95(95%CI:1.86~2.03)・追跡期間中の死亡率はコロナ後遺症群2.8% vs.未感染群1.2%で、コロナ後遺症群は1,000人あたり16.4人の超過死亡となる。・COVID-19発症初期に入院を経験したコロナ後遺症群において、未感染群と比較して医療利用が増加した疾患は次のとおり。 -不整脈:51.7% vs.17.4%、RR:2.97(95%CI:2.81~3.16) -肺塞栓症:19.3% vs.3.1%、RR:6.23(95%CI:5.36~7.15) -虚血性脳卒中:8.3% vs.2.7%、RR:3.07(95%CI:2.59~3.66) -冠動脈疾患:28.9% vs.14.5%、RR:1.99(95%CI:1.85~2.15) -心不全:25.6% vs.10.1%、RR:2.53(95%CI:2.32~2.76) -末梢血管疾患:17.3% vs.8.9%、RR:1.94(95%CI:1.75~2.15) -COPD:43.1% vs.19.2%、RR:2.24(95%CI:2.11~2.38) -喘息(中等症/重症):31.6% vs.14.7%、RR:2.15(95%CI:2.00~2.31) コロナ罹患後症状に関する米国での最大規模の追跡調査において、コロナ後遺症患者は死亡率だけでなく心血管疾患や呼吸器疾患のリスクが有意に増加し、とくにCOVID-19発症初期に入院した人では肺塞栓症が6倍、脳卒中が3倍以上など、さらにリスクが高くなることが示された。また、本研究はワクチン利用可能以前のサンプルを用いているため、ワクチン普及後では、ワクチンのコロナ後遺症緩和効果により、個人の医療利用パターンが変化する可能性もあると著者は指摘している。

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第156回 コロナ感染後の脳のもやもやがADHD薬グアンファシンで改善

日本で承認済みの注意欠如・多動症(ADHD)治療薬「グアンファシン(商品名:インチュニブ)」が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状(long COVID)の1つとして知られる脳のもやもや(brain fog)に有効かもしれないことが12例への投与試験で示唆されました1)。脳のもやもやは頭の働きの低下が続くことの俗称であり、脳の前頭前皮質(PFC)が担う実行・記憶・注意力、やる気を損なわせ、仕事や日常生活を妨げます。COVID-19患者の脳ではNMDA受容体(NMDAR)を阻害するキヌレン酸が多いことが知られています。脳のもやもやに似た症状を呈する外傷性脳損傷(TBI)の治療薬として検討されているN-アセチルシステイン(NAC)はキヌレン酸生成酵素を阻害してNMDAR伝達を回復させるらしく、グアンファシンはその伝達を後押ししてPFCの神経連結を強化する働きが期待できます。幸いにもグアンファシンとNACはどちらも忍容性が良好であり、long COVIDへの可能性を見出したエール大学の精神神経科医Arman Fesharaki-Zadeh氏らはそれら2剤を脳のもやもやを訴える患者に投与することを試みました。その結果、コロナ感染から3~14ヵ月経つものの認知障害が治まらず、複数作業の同時遂行(multi-tasking)・専念・集中などの遂行機能が低下していた12例のうち8例の脳のもやもやが投与の甲斐あって軽減しました。ただし、両剤の忍容性は良好とはいえ無害というわけではなく、2例はグアンファシンで生じうることが知られる低血圧症やめまいで服用を止める必要がありました。また、追跡が不可能になった患者が2例いました。残りの8例は作業記憶、集中、遂行機能の改善を示し、何例かは日常をいつもどおり過ごせるほどに回復しました。long COVIDのせいで看護師の仕事時間を大幅に短縮せざるを得ずにいた女性被験者1例の経過は示唆に富んでいます。彼女の作業記憶、遂行機能、頭の回転の速さ(cognitive processing speed)はグアンファシン治療でだいぶ良くなっていつもの仕事をこなせるようになりました。しかし急な低血圧症事象(めまい)の発生を受けてその治療を止めたところ認知機能や集中が悪化しました。そこでグアンファシンを再開したところ脳のもやもやが首尾よく再び治まり、めまいの再発なく同剤の服用を無事続けることができました。多くの患者を募ってグアンファシンとNACを検討するプラセボ対照試験の資金が今回の12例の治療報告を契機にして集まることをFesharaki-Zadeh氏らは望んでいます2)。long COVIDの治療手段の検討は他にもあり3)、たとえばファイザーの飲み薬ニルマトレルビル・リトナビル(商品名:パキロビッドパック)の運動、認知、自律神経症状への効果を調べている試験があります4)。また、脳のもやもやや疲労に対する気分安定薬リチウムの試験5)、動悸や慢性疲労を引き起こす体位性起立性頻拍症候群(POTS)に対する重症筋無力症治療薬エフガルチギモド アルファ(日本での商品名:ウィフガート)の試験6)が進行中です。参考1)Fesharaki-Zadeh A, et al. Neuroimmunology Reports. 2023;3: 1001542)Yale Researchers Discover Possible 'Brain Fog' Treatment for Long COVID / Yale Medicine3)Long COVID Clinical Trials May Offer Shortcut to New Treatments / MedScape4)PASC試験(Clinical Trials.gov)5)Effect of Lithium Therapy on Long COVID Symptoms(Clinical Trials.gov)6)POTS試験(Clinical Trials.gov)

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水素吸入で院外心停止患者の救命・予後改善か/慶大ほか

 心停止の際に医療従事者が近くにいないなど、即座に適切な処置が行われなかった場合、1ヵ月の生存率は8%とされる。また、生存できた場合でも、救急蘇生により臓器に血液と酸素が急に供給されることで、非常に強いダメージが加わり(心停止後症候群と呼ぶ)、半数は高度な障害を抱えてしまう。このような心停止後症候群を和らげる治療として、体温管理療法があるが、その効果はいまだ定まっていない。そこで、東京歯科大学の鈴木 昌氏(慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート特任教授)らの研究グループは、病院外で心停止となった後に循環は回復したものの意識が回復しない患者を対象に、体温管理療法と水素吸入療法を併用し、効果を検討した。その結果、死亡率の低下と後遺症の発現率の低下が認められた。本研究結果は、eClinicalMedicine誌2023年3月17日号に掲載された。 HYBRID II試験は、日本国内の15施設で2017年2月~2021年9月に実施された多施設共同二重盲検プラセボ対照比較試験である。心臓病のために病院外で心停止となり、心肺蘇生により循環が回復したものの意識が回復しない20~80歳の患者73例が対象となった。対象患者を体温管理療法と同時に、2%水素添加酸素を吸入する群(水素群:39例)、水素添加のない酸素を吸入する群(対照群:34例)に分け、18時間吸入させた。主要評価項目は、90日後に主要評価項目は脳機能カテゴリー(CPC)1~2(脳神経学的予後良好)を達成した患者の割合、副次評価項目は90日後のmodified Rankin Scale(mRS)スコア(0[まったく症候がない]~6点[死亡]で評価)、90日後の生存率などであった。 主な結果は以下のとおり。・主要評価項目の90日後にCPC 1~2を達成した患者の割合は、対照群が39%であったのに対し、水素群では56%であった(リスク比[RR]:0.72、95%信頼区間[CI]:0.46~1.13、p=0.15)。・副次評価項目の90日後のmRSスコアの中央値は、対照群が5点(四分位範囲[IQR]:1~6)であったのに対し、水素群は1点(IQR:0~5)であり、有意に低かった(p=0.01)。・mRSスコア0点の達成率は、対照群が21%であったのに対し、水素群は46%であり、有意に高率であった(RR:2.18、95%CI:1.04~4.56、p=0.03)。・90日後の生存率は、対照群が61%であったのに対し、水素群が85%であり、有意に生存率が上昇した(RR:0.39、95%CI:0.17~0.91、p=0.02)。・90日後までの有害事象の発現率は、対照群88%、水素群95%であった。重篤な有害事象の発現率は、対照群21%、水素群18%であった。有害事象は、いずれも水素吸入に起因するものではないと判断された。 研究グループは、「新型コロナウイルス感染症による救急医療のひっ迫の結果、本研究は早期終了となったため、目標症例数の90例には到達しなかった。そのため、水素吸入療法の有効性を検証するには至らなかった。しかし、水素吸入療法により90日後の生存率や症状や障害がない患者の割合が有意に上昇したことから、水素吸入療法は、心停止後症候群に陥った患者の意識を回復させ、神経学的後遺症を残さないようにする画期的な治療法になることが期待できる」とまとめた。

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経鼻投与の百日咳ワクチン、単回でも感染抑制の可能性/Lancet

 経鼻投与型の弱毒生百日咳ワクチンであるBPZE1は、鼻腔の粘膜免疫を誘導して機能的な血清反応を引き起こし、百日咳菌(Bordetella pertussis)感染を回避し、最終的に感染者数の減少や流行の周期性の減弱につながる可能性があることが、米国・ILiAD BiotechnologiesのCheryl Keech氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌2023年3月11日号で報告された。米国の無作為化第II相試験 研究グループは、BPZE1の免疫原性と安全性を破傷風・ジフテリア・沈降精製百日咳ワクチン(Tdap)と比較する目的で、米国の3施設で二重盲検無作為化第IIb相試験を行った(ILiAD Biotechnologiesの助成を受けた)。 年齢18~50歳の健康な成人が、次の4つの群に2対2対1対1の割合で無作為に割り付けられた。1日目にBPZE1を接種し、85日目に弱毒BPZE1を接種する群(BPZE1-BPZE1群)、同様にBPZE1接種後にプラセボを接種する群(BPZE1-プラセボ群)、Tdap接種後に弱毒BPZE1を接種する群(Tdap-BPZE1群)、Tdap接種後にプラセボを接種する群(Tdap-プラセボ群)。 1日目には、凍結乾燥したBPZE1に滅菌水を加えて鼻腔内に投与し、Tdapは筋肉内に投与された。マスキングを維持するために、BPZE1群では生理食塩水が筋肉内投与され、Tdap群では凍結乾燥プラセボが鼻腔内投与された。 免疫原性の主要エンドポイントは、29日目または113日目における少なくとも1つのB. pertussis菌抗原に対する鼻腔の分泌型IgAのセロコンバージョン(抗体陽転)が得られた参加者の割合であった。忍容性も良好 2019年6月17日~10月3日の期間に280例が登録された。BPZE1-BPZE1群に92例(平均年齢35.6歳、男性39%)、BPZE1-プラセボ群に92例(35.2歳、50%)、Tdap-BPZE1群に46例(34.6歳、43%)、Tdap-プラセボ群に50例(34.2歳、46%)が割り付けられた。 29日目または113日目における少なくとも1つのB. pertussis菌特異的な鼻腔の分泌型IgAのセロコンバージョンは、BPZE1-BPZE1群が84例中79例(94%、95%信頼区間[CI]:87~98)、BPZE1-プラセボ群が94例中89例(95%、95%CI:88~98)、Tdap-BPZE1群が42例中38例(90%、95%CI:77~97)、Tdap-プラセボ群は45例中42例(93%、95%CI:82~99)で得られ、幾何平均比および幾何平均倍率ではBPZE1群がTdap群よりも高率であった。 BPZE1群では、B. pertussis菌特異的な粘膜の分泌型IgA応答が広範かつ一貫して認められたのに対し、Tdap群ではこのような一貫性は誘導されなかった。 2つのワクチンは共に忍容性が良好で、反応原性は軽度であり、ワクチン関連の重篤な有害事象は認められなかった。1日目の接種後7日以内に非自発的に報告されたGrade1以上の鼻腔および呼吸器の有害事象では、鼻詰まり(BPZE1群39%、Tdap群35%)、鼻水(36%、34%)、くしゃみ(33%、29%)の頻度が高かったが、85日目の接種以降は前回のワクチンの種類を問わず、鼻腔および呼吸器の反応原性イベントは頻度、重症度共に悪化することはなかった。 接種後7日以内のGrade1以上の全身性有害事象では、頭痛(BPZE1群37%、Tdap群36%)、倦怠感(34%、22%)の頻度が高かったが、85日目の接種以降は前回のワクチンの種類を問わず、全身性有害事象の頻度、重症度共に悪化しなかった。 著者は、「本研究は、BPZE1の単回鼻腔投与により、百日咳菌に対する分泌型IgA応答が誘導されることを示したヒトで初めての概念実証試験であり、安全な次世代の百日咳ワクチンとしてのBPZE1のさらなる開発を支持するものである」としている。

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3回接種後の効果、ファイザー製/モデルナ製各160万人で比較/BMJ

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のデルタ変異株~オミクロン変異株の流行期において、BNT162b2(ファイザー製)ワクチンまたはmRNA-1273(モデルナ製)ワクチンによるブースター接種はいずれも、接種後20週以内のSARS-CoV-2感染および新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による入院に関して適度な有益性があることが、英国・オックスフォード大学のWilliam J. Hulme氏らのマッチドコホート研究で明らかとなった。BMJ誌2023年3月15日号掲載の報告。両ワクチン各々約161万9千例で比較 研究グループは、OpenSAFELY-TPPデータベースを用いてコホート研究を行った。本データベースは英国の一般診療所の40%をカバーし、国民保健サービス(NHS)番号を介して救急外来受診記録、入院記録、SARS-CoV-2検査記録および死亡登録と関連付けられている。 解析対象は、BNT162b2またはChAdOx1(アストラゼネカ製)ワクチンを2回接種(プライマリ接種コース)しており、2021年10月29日~2022年2月25日にブースター接種プログラムの一環としてBNT162b2またはmRNA-1273の3回目接種を受けた、ブースター接種前28日以内にSARS-CoV-2感染歴のない18歳以上の成人(介護施設入所者および医療従事者は除外)であった。BNT162b2接種者とmRNA-1273接種者を、3回目接種日、プライマリ接種コースのワクチンの種類、2回目接種日、性別、年齢などに関して1対1でマッチングした。 主要アウトカムは、ブースター接種後20週間におけるSARS-CoV-2検査陽性、COVID-19関連入院、COVID-19関連死、非COVID-19関連死であった。 BNT162b2群、mRNA-1273群で各々161万8,959例がマッチングされ、合計6,454万6,391人週追跡された。相対的有効性はmRNA-1273が良好? 20週間のSARS-CoV-2検査陽性リスク(1,000人当たり)は、BNT162b2群164.2(95%信頼区間[CI]:163.3~165.1)、mRNA-1273群159.9(95%CI:159.0~160.8)、BNT162b2と比較したmRNA-1273のハザード比(HR)は0.95(95%CI:0.95~0.96)であった。 同様に、COVID-19関連入院リスク(1,000人当たり)は、BNT162b2群0.75(95%CI:0.71~0.79)、mRNA-1273群0.65(95%CI:0.61~0.69)、HRは0.89(95%CI:0.82~0.95)であった。 COVID-19関連死はまれで、20週間のリスク(1,000人当たり)はBNT162b2群0.028(95%CI:0.021~0.037)、mRNA-1273群0.024(0.018~0.033)、HRは0.83(95%CI:0.58~1.19)であった。 3回目接種後のCOVID-19関連入院/死亡はまれであったが、SARS-CoV-2検査陽性も含めてmRNA-1273よりBNT162b2のほうがリスクは高いと推定され、これらの結果は、プライマリ接種コースのワクチンの種類、年齢、SARS-CoV-2感染歴、英国予防接種に関する共同委員会(JVCI)の定義による臨床的脆弱性のサブグループ間で一貫していた。

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第152回 Yahoo!の見出しで勘違い続出?「HIV感染報告、過去20年で最少に」

最近、ニュースを紙の新聞やテレビではなく、インターネットで見る人は格段に増えていると思う。それも新聞社などのニュースページではなく、ポータルサイトを通じて見るケースのほうが圧倒的に多いのではないだろうか? この傾向は若年層になればなるほど顕著と言われる。ポータルサイトで見る場合、地方紙や外電も含め多様な報道機関から発信されたニュースが1ヵ所にまとまっているため非常に便利である。中でも日本の場合はYahoo!ニュースが圧倒的に強く、月間ページビューが200億ページビュー超のガリバーだ。かくいう私自身も1日に数回アクセスする。Yahoo!ニュースでは、ニュースが「国内」「国際」「科学」など9領域に分類される。この各領域の中で常時8本の注目すべきニュース、通称Yahoo!トピックス(ヤフトピ)が掲載され、さらにYahoo!ニュースのトップページには、これらすべての領域をまたがって注目すべきニュース8本が「総合」という項目で表示されている。このトップページの「総合」に掲載される8本は「ヤフトピトップ」と言われ、1日約6,000本のニュースが配信される中での王者となる。一部にはヤフトピやヤフトピトップが特殊なアルゴリズムで選ばれていると思っている人もいるようだが、実は新聞社勤務などを経たYahoo!ニュース編集者がこれらを選んでいる。自分も過去に一般向けに執筆した記事が何本かヤフトピトップに取り上げられたことがあるが、そうした際は記事を見た知り合いから「読んだよ」と何本も連絡が入る。そのぐらい影響力のあるこのヤフトピトップの最上段に、つい最近、次のようなニュースが取り上げられた。エイズ発症者数、HIV感染報告数が過去20年で最少に 新型コロナ影響で検査機会減少(日テレNEWS)ちなみにYahoo!ニュースは見出しが15.5文字(半角も含む)以内という規定があるため、ヤフトピでは「HIV感染報告、過去20年で最少に」となっている。ヤフトピの見出しだけを見れば、きわめてポジティブなニュースにも思えるが、実際のニュースは、検査機会の減少があるために本当の意味での感染者数が減ったかどうかは不明という、ごくごく慎重な内容となっている。おおむね減少トレンドにあるかもしれないが、今回の過去最少が潜在的な感染者も含め本当に過去最少なのかについては、正直、私個人は現時点でやや疑っている。まず、記事中にもあるHIV検査の件数だが、コロナ禍に入る前の2019年から過去10年間は年間約12~15万件だったのに対し、2020年には6万8,998件とほぼ半減。2021年には5万8,172件に落ち込み、2022年は多少持ち直したとはいえ7万3,104件である。これほどの検査件数の落ち込みがある以上、やはり拾い上げられていない感染者のことを想定しなければならない。そして献血検体でのHIV抗体陽性頻度は2022年の速報値で10万件当たり0.661。過去約10年の国内の献血件数がほぼ横ばいの中で、確かにこの数字は最低値である。ただし、ここ5、6年の献血でのHIV抗体陽性頻度はおおむね0.7~0.8の間で推移していることを考えれば、まだ誤差範囲と言える。少なくとも2022年が減少したと断言しきれる状況ではないだろう。一方、もう一つ気になるのは、感染経路の中心が性交渉という点で同じ梅毒が近年急増している点だ。2019~20年には一時的に減少傾向を見せたものの、2010年以降、増加傾向はほぼ一貫して続いている。直近の2022年の年間報告数は1万2,966例で、1999年施行の感染症法での全数報告以降最多であるばかりか、旧・性病予防法での全数報告時代も含めて最多であるのが現状だ(旧・性病予防法時代の最多は1967年の約1万1,000例)。とりわけ感染者報告が急増している東京都では、この3月に臨時検査場を設置。しかもこの臨時検査場の予約枠がすぐに埋まり、検査日程を新設する事態になっている。現在判明している感染者は20~50代、とりわけ20代の男女で突出して多いのが特徴だ。報告される感染者は性風俗産業の従事者や利用者が一定の割合を占めているものの、現在の感染拡大はそのほかのクラスターにも感染が広がっていることがすでに指摘されている。ご承知のように梅毒の場合、おおむね感染から3週間、3ヵ月、3年の周期で症状発現があるため、感染者はそれなりに検査を受ける機会がある。これに対して、HIV感染症は感染から発症までは平均10年と言われる無症候期がある。近年、アメリカでは感染から1年以内に後天性免疫不全症候群(AIDS)を発症する人の割合が3割超との報告もあるが、それでもなお梅毒と比べれば、感染者は自身の感染に気付きにくい状況である。詳細な感染経路で見れば、HIV感染症の場合、感染経路が判明しているケースでは同性間性接触の割合が7割以上を占めるものの、異性間性接触も1割以上。何より年齢別の感染報告数は20代前半から30代前半にボリュームゾーンがあるため、この辺は現在の梅毒流行の動態と重なる。加えて言えば、HIV感染症が社会問題になり始めた1980年代からHIV感染症と梅毒の併発事例はかなり報告されている。こうした中でコロナ禍の影響が濃厚と思われるHIV検査件数の減少が今後復活するかどうかはかなり微妙と言わざるを得ない。これに限らず、世の中すべての事象に共通して言えることは、何らかのきっかけで一旦減少トレンドに入ったものを元に戻すのは非常に困難であるということだ。しかも、見た目の感染者報告数が減少トレンドにある中では、恐怖訴求による検査勧奨もほぼ無効である。東京都の梅毒臨時検査場の設置のような機会に同じ会場でHIV検査を受けるよう呼びかける手もあるが、先日マスク問題でも触れたように「梅毒とHIVは同一感染経路で、どちらか一方のリスクがある人はもう一方のリスクも…」というやや回りくどい呼びかけは、一般には届きにくい。そもそも前述したようなYahoo!ニュースの見出し文字数制限の影響で、見出しだけを見てわかったつもりになる人(むしろ大多数はそうかもしれないが)にとっては「HIV感染症は減った」というイメージしか残らない。そんなこんなで今回のニュースは、本来懸念しなければならない、あるいは記事が訴えたいことから考えると、逆効果になりかねないというリスクを含んでいる。

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3月24日 世界結核デー【今日は何の日?】

【3月24日 世界結核デーの日】〔由来〕ドイツのロベルト・コッホが結核菌を発見し演説した日にちなみ、世界保健機関(WHO)が1997年に制定。世界中でこの日の前後に結核撲滅や結核の啓発について、イベントが開催されている。関連コンテンツ結核菌特異的IFN-γ産生能とは【患者説明用スライド】マンガ喫茶で結核集団感染!【Dr. 倉原の”おどろき”医学論文】終わらない結核、結核菌の新たな生き残り戦略未治療HIV結核患者、検査に基づく治療が有益/NEJMリファンピシン耐性結核に短期レジメンが有望/NEJM

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第153回 閣議決定、法案提出でマイナ保険証への一本化と日本版CDC創設がいよいよ始動

マイナ保険証関連法案と日本版CDC法案を閣議決定こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。大きな盛り上がりを見せたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)ですが、この原稿を書いている段階ではまだ優勝は決まっていません。個人的に衝撃を受けたのは、3月15日(現地時間)、1次ラウンド・プールDの第4戦のプエルトリコ対ドミニカ共和国の戦いです。プエルトリコは9回にクローザー、エドウィン・ディアス投手を投入、3者連続三振に打ち取って見事勝利を収めました。しかし、ディアス投手はその直後、マウンド上で選手たちと喜び過ぎて右膝の膝蓋腱を断裂、今季絶望となってしまったのです(プエルトリコは準々決勝でメキシコに破れました)。ディアス投手はニューヨーク・メッツの”守護神”で一度聴いたら耳から離れない独特の登場曲・Narcoも有名です。昨シーズン終了後には救援投手では史上最高の5年1億200万ドル(約136億円)で契約延長したばかり。WBC出場がMLB選手にとってどれだけリスクがあるのかをまざまざと示す結果になってしまいました。今回のWBCには大谷 翔平投手やダルビッシュ 有投手などが参加していますが、今後はこうしたスター選手の出場が抑えられる可能性もありそうです。さて、今回は3月7日に政府が閣議決定した2つの法案について書いてみたいと思います。一つはマイナンバーカード関連、そしもう一つは日本版CDC、国立健康危機管理機構関連の法案です。2024年秋に健康保険証を廃止しマイナ保険証に一体化政府は3月7日、2024年秋に健康保険証を廃止し、マイナンバーカードに一体化する関連法改正案を閣議決定しました。カードを持たない人には保険証の代わりに「資格確認書」を健保組合などの保険者が発行します。ただ、有効期限が1年の更新制となるだけでなく、医療機関を受診する際は現行と同様、マイナ保険証に比べて窓口負担が重くなります。マイナンバーカードを保険証として使うマイナ保険証については、昨年10月、河野 太郎デジタル大臣が一本化を表明して以来、この連載でも「第132回 健康保険証のマイナンバーカードへの一体化が正式決定、『懸念』発言続く日医は『医療情報プラットフォーム』が怖い?」などで度々書いてきました。今年2月には全国保険医団体連合会(保団連)が「健康保険証を廃止する理由は一つもない」として、法案撤回を厚生労働大臣に求める動きもありました。しかし、この閣議決定によって、マイナ保険証の普及・定着が加速されると共に、マイナンバーカード取得の事実上の義務化もなされたことになります。マイナンバーの利用範囲拡大で気になるHPKIカードの今後関連法案は、健康保険法やマイナンバー法など13の法律の改正案からなり、国会では束ね法案としてまとめて審議されます。マイナンバーは、利用できる範囲が法律で社会保障と税、それに災害対策の3分野に限定されていますが、今回の改正案によって国家資格の手続きや自動車に関わる登録、外国人の行政手続きなどの分野にも範囲が広がるとしています。さらに、こうした分野について、すでに法律に規定されている事務に「準ずる事務」であれば、法律を改正しなくてもマイナンバーの利用が可能になるとのことです。「国家資格の手続き」で思い出したのは、「第146回 病院・診療所16施設、薬局138施設と低調な滑り出しの電子処方箋、岸田首相肝いりの医療DXに暗雲?」で書いたHPKIカードの存在です。電子処方箋の発行に必要とされるHPKIカードは、厚生労働省が所管する医師をはじめとする27個の医療分野の国家資格を証明するためのシステムです。電子処方箋を発行する医師・歯科医師、そして電子処方箋を調剤済みにする薬剤師ごとにHPKIカードによる電子署名が必要とされています。ただ、2022年12月末時点で取得しているのは医師の11%、薬局の薬剤師の7%に留まっており、1月26日から運用開始となった電子処方箋が低調なスタートになった一因として指摘されていました。素人考えですが、マイナンバーカードも国家資格の手続きに使えるとなれば、HPKIカードはもう必要ないのではないでしょうか。厚生労働省の意向を汲んでHPKIカード導入の旗振りをしてきた医療関係団体への配慮はもちろん必要ですが、このデジタル社会、あえて古い仕組みに拘泥する理由はありません。この際、医療現場での医療者の資格確認も、基本マイナンバーカードに一本化すべきだと思いますが、皆さんいかがでしょう。国立健康危機管理研究機構設置は2025年以降同じ日、医療関連の政策でもう一つ閣議決定されたのは、国立感染症研究所と国立国際医療研究センターを統合し、新たな専門家組織として「国立健康危機管理研究機構」を設立する新法案です。米国で感染症対策を中心的に担う疾病対策センター(CDC)をモデルとする国立健康危機管理研究機構については、この連載でも「第140回 次のパンデミックに備え感染症法等改正、そう言えば感染症の『司令塔機能』の議論はどうなった?」でも書きました。いよいよ法案ができ、実現に向けて動き出したというわけです。なお、設立するための国立健康危機管理研究機構法案のほか、現在の両組織の業務を引き継ぎ、新たな業務を加えるため、感染症法や新型インフルエンザ等対策特別措置法、地域保健法も改正するとのことです。国立健康危機管理研究機構はCDCをモデルに、感染研の基礎研究と、国立国際医療研究センターの臨床医療のそれぞれの機能を併せ持つ、感染症研究の拠点を目指すとしています。内閣官房に設置する内閣感染症危機管理統括庁(内閣官房に秋ごろ設置予定)の求めに応じ、政策決定に必要な知見を提供したり、治療薬などの研究開発力を強化したりするとのことです。設置は2025年度以降としています。科学的根拠に基づいて政府に物が言える日本版CDCにこの連載の140回を書いた時点では不明だった法人形態ですが、特別の法律により設立される法人(特殊法人)で、政府が全額出資する形となります。厚生労働大臣による広範な監督権限が付与される予定で、理事長・監事は厚労大臣が任命、副理事長・理事は厚労大臣の認可を得て理事長が任命することとなりました。新型コロナウイルス感染症のパンデミックで政策のご意見番として機能してきた「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」は、時として政府や厚労省が上手くコントロールできない状況もあったようです。そうした反省も踏まえての厚労省管轄の特殊法人と考えられます。しかし、新たに設立される国立健康危機管理研究機構では、逆に感染症対策において専門家を国がコントロールし過ぎたり、政府判断を追認するだけの専門家組織になってしまうのではないかという危険性も指摘されています。国の組織であっても、科学的根拠に基づいて政府にきちんと物が言えるような日本版CDCができることを願っています。

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日本におけるオミクロン期のコロナワクチンの有効性は?/長崎大

 長崎大学熱帯医学研究所の前田 遥氏らの多施設共同研究チームは、2021年7月1日より、日本国内における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン効果のサーベイランス「VERSUS(Vaccine Effectiveness Real-time Surveillance for SARS-CoV-2)」を実施している。オミクロン株BA.1/BA.2の流行期における新型コロナmRNAワクチンの効果についてVERSUSのデータを基に評価したところ、初回シリーズの接種により緩やかな予防効果が得られ、さらに、有症状感染を防ぐにはブースター接種がより効果的であったことが明らかとなった。本結果は、Expert Review of Vaccines誌オンライン版2023年3月8日号に掲載された。 本研究では、2022年1月1日~6月26日のオミクロン株BA.1/BA.2の流行期に、11県の医療機関14施設に、COVID-19の徴候または症状(発熱[37.5℃以上]、咳嗽、疲労、息切れ、筋肉痛、咽頭痛、鼻づまり、頭痛、下痢、味覚障害、嗅覚障害)があって受診した7,931例(16歳以上)が登録された。ワクチン効果を多施設共同test-negative case-control研究で評価した。初回シリーズ(1次接種)とブースター接種ともにmRNAワクチンのファイザーの1価ワクチン(BNT162b2)もしくはモデルナの1価ワクチン(mRNA-1273)について評価し、それ以外の新型コロナワクチン接種者は試験結果から除外した。 主な結果は以下のとおり。・サーベイランスに登録された7,931例のうち、検査陽性3,055例、検査陰性4,876例を解析対象とした。年齢中央値39歳(四分位範囲:27~53)、男性3,810例(48.0%)、基礎疾患のある人が1,628例(20.5%)、COVID-19罹患歴がある人が142例(1.8%)であった。・対象者のワクチン接種歴は、ワクチン未接種13.8%、1次接種60.1%、ブースター接種20.1%であった。65歳以上では、未接種5.8%、1次接種49.7%、ブースター接種34.8%であった。検査陽性者の割合は、未接種52.7%、1次接種42.2%、ブースター接種20.3%であった。・未接種と比較した1次接種のSARS-CoV-2有症状感染への効果は、16~64歳では、接種完了から90日以内で35.6%(95%信頼区間[CI]:19.0~48.8)、91~180日で32.3%(20.7~42.2)、180日超で33.6%(18.5~45.8)であった。・未接種と比較したブースター接種の効果は、16~64歳では、ブースター接種完了から90日以内で68.7%(95%CI:60.6~75.1)、91~180日で59.1%(37.5~73.3)であった。・65歳以上では、未接種と比較した1次接種の効果は31.2%(95%CI:-44.0~67.1)、ブースター接種では76.5%(46.7~89.7)に上昇した。・1次接種、ブースター接種ともに、mRNA-1273のほうがBNT162b2よりも効果が高かったが有意差はなかった。・1次接種(接種から180日超)と比較したブースター接種のSARS-CoV-2有症状感染への効果は、16~64歳では、接種から90日以内で52.9%(95%CI:41.0~62.5)、91~180日で38.5%(6.9~59.3)であった。・65歳以上では、1次接種と比較したブースター接種の効果は65.9%(95%CI:35.7~81.9)であった。 本結果について著者は、デルタ株流行期での日本における1次接種のSARS-CoV-2有症状感染への効果は、16~64歳では、接種完了から90日以内で91.8%(95%CI:80.3~96.6)、91~180日で86.4%(56.9~95.7)、65歳以上では90.3%(73.6~96.4)と非常に高かったが、オミクロン株流行時には1次接種の有効性はかなり低下しており、有症状感染を防ぐにはブースター接種が必要だと指摘している。

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第155回 コロナ罹患後症状をメトホルミンが予防 / コロナで父親の顔がわからなくなった女性

long COVIDを糖尿病治療薬メトホルミンが予防昔ながらの糖尿病治療薬メトホルミンの新型コロナウイルス感染症罹患後症状(long COVID)予防効果が米国の無作為化試験で認められ1)、「画期的(breakthrough)」と評するに値する結果だと有力研究者が称賛しています2)。COVID-OUTと呼ばれる同試験では駆虫薬として知られるイベルメクチンとうつ病治療に使われるフルボキサミンも検討されましたが、どちらもメトホルミンのようなlong COVID予防効果はありませんでした。COVID-OUT試験は2020年の暮れ(12月30日)に始まり、被験者はメトホルミン、イベルメクチン、フルボキサミン、プラセボのいずれかに割り振られました。被験者、医師、その他の試験従事者がその割り振りを知らない盲検状態で実施されました。また、被験者をどこかに出向かせることがなく、試験従事者と直接の接触がない分散化(decentralized)方式の試験でもあります。募ったのは肥満か太り過ぎで年齢が30~85歳、コロナ発症から7日未満、検査でコロナ感染が判明してから3日以内の患者です。箱に入った服用薬一揃いは試験参加決定の当日または翌日に被験者に届けられ、結果的に試験参加同意から最初の服用までは平均して1日とかかりませんでした。メトホルミンの服用日数は14日間で、用量は最初の日は500mg、2~5日目は500mgを1日に2回、6~14日目は朝と晩にそれぞれ500mgと1,000mgです。メトホルミン投与群とプラセボ群合わせて1,125例がlong COVIDの検討に協力することを了承し、1ヵ月に1回連絡を取ってlong COVIDの診断があったかどうかが300日間追跡されました。その結果、およそ12例に1例ほどの8.4%がその診断に至っていました。肝心のメトホルミン投与群のlong COVID発生率はどうかというと約6%であり、プラセボ群の約11%に比べて40%ほど少なく済んでいました。発症からより日が浅いうちからのメトホルミン開始はさらに有効で、発症から4日未満で開始した人のlong COVID発現率は約5%、4日以上経ってから開始した人では約7%でした。上述のとおりイベルメクチンやフルボキサミンのlong COVID予防効果は残念ながら認められませんでした。COVID-OUT試験のlong COVID結果報告はまだプレプリントであり、The Lancet on SSRNに提出されて審査段階にあります。メトホルミンの効果はlong COVIDの枠にとどまらずコロナ感染の重症化予防も担いうることが他でもないCOVID-OUT試験で示されています。その結果はすでに査読が済んで昨夏2022年8月にNEJM誌に掲載されており、第一の目的である低酸素血症、救急科(ED)受診、入院、死亡の予防効果は認められなかったものの、メトホルミン投与群のED受診、入院、死亡は有望なことにプラセボ群より42%少なくて済みました3)。さらに試験を続ける必要はあるものの、値頃で取り立てるほど副作用がないことを踏まえるにメトホルミンが用を成すことは今や確からしいことをCOVID-OUT試験結果は示していると米国屈指の研究所Scripps Research Translational Instituteの所長Eric Topol氏は述べています2)。Topol氏はbreakthroughという表現を安易に使いませんが、安価で安全なメトホルミンのCOVID-OUT試験での目を見張る効果はその表現に見合うものだと讃えています。メトホルミンの効果を重要と考えているのはTopol氏だけでなく、たとえばハーバード大学病院(Brigham and Women's Hospital)の救急科医師Jeremy Faust氏もその1人であり、「コロナ感染が判明したらすぐにメトホルミン服用を開始する必要があるかと肥満か太り過ぎの患者に尋ねられたら、COVID-OUT試験結果を根拠にして “必要がある”と少なくとも大抵は答える」と自身の情報配信に記しています4)。コロナ感染で顔がわからなくなってしまうことがあるコロナ感染で匂いや味がわからなくなることがあるのはよく知られていますが、顔が区別できなくなる相貌失認(prosopagnosia)が生じることもあるようです。神経系や振る舞いの研究結果を掲載している医学誌Cortexに相貌失認になってしまった28歳のコロナ感染女性Annie氏の様子や検査結果などをまとめた報告が掲載されました5,6)。Annie氏は2020年3月にコロナ感染し、その翌月4月中ごろまでには在宅で働けるほどに回復しました。コロナ感染してから最初に家族と過ごした同年6月に彼女は父親が誰かわからず、見た目で叔父と区別することができませんでした。そのときの様子をAnnie氏は「誰か知らない顔の人から父親の声がした(My dad's voice came out of a stranger's face)」と説明しています。相貌失認に加えて行きつけのスーパーまでの道で迷うことや駐車場で自分の車の場所が分からなくなるという方向音痴のような位置把握障害(navigational impairment)もAnnie氏に生じました。また、long COVIDの主症状として知られる疲労や集中困難などにも見舞われました。Annie氏のような症状はどうやら珍しくないようで、long COVID患者54例に当たってみたところ多くが視覚認識や位置把握の衰えを申告しました。脳損傷後に認められる障害に似た神経精神の不調がコロナ感染で生じうるようだと著者は言っています。参考1)Outpatient Treatment of COVID-19 and the Development of Long COVID Over 10 Months: A Multi-Center, Quadruple-Blind, Parallel Group Randomized Phase 3 Trial. The Lancet on SSRN :Received 6 Mar 2023.2)'Breakthrough' Study: Diabetes Drug Helps Prevent Long COVID / WebMD3)Carolyn T, et al. N Engl J Med. 2022;387:599-610.4)Metformin found to reduce Long Covid in clinical trial. Jeremy Faust氏の配信5)Kieseler ML, et al. Cortex. 9 March 2023. [Epub ahead of print]6)Study Says Long COVID May Cause Face Blindness / MedScape

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2歳までの下気道感染、成人期の呼吸器疾患死リスク約2倍/Lancet

 幼児期に下気道感染症に罹患すると、肺の発達が阻害され、成人後の肺機能の低下や慢性呼吸器疾患の発症リスクが高まるといわれている。そのため、幼児期の下気道感染症の罹患は、呼吸器疾患による成人早期の死亡を引き起こすのではないか、という仮説も存在する。しかし、生涯を通じたデータが存在しないことから、この仮説は検証されていなかった。そこで、英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのJames Peter Allinson氏らは、1946年の出生コホートを前向きに追跡した。その結果、2歳未満での下気道感染があると、26~73歳の間に呼吸器疾患によって死亡するリスクが、約2倍となることが示された。Lancet誌オンライン版2023年3月7日号の報告。 1946年3月にイングランド、ウェールズ、スコットランドで出生した5,362例を前向きに追跡した。26歳まで生存し、適格基準(2歳未満での下気道感染や、20~25歳時の喫煙歴に関するデータが得られているなど)を満たした3,589例について、2歳未満での下気道感染の有無別に、26歳時点をベースラインとして生存分析を実施した。また、研究対象コホート内の死亡とイングランド・ウェールズの死亡を比較し、試験期間中の超過死亡を推定した。 主な結果は以下のとおり。・26歳時点からの追跡期間は最大47.9年であった。・追跡の対象となった3,589例のうち、2019年末時点で生存が確認されたのは2,733例であった(死亡:674例、移住:182例)。・2歳未満での下気道感染のある群(913例)は、下気道感染のない群(2,676例)と比べて呼吸器疾患による死亡リスクが高かった(ハザード比[HR]:1.93、95%信頼区間[CI]:1.10~3.37、p=0.021)。・2歳未満での下気道感染の回数別にみると、下気道感染のない群(2,676例)と比べたHR(95%CI、p値)は、1回感染群(596例)が1.51(0.75~3.02、p=0.25)、2回感染群(162例)が2.53(0.97~6.56、p=0.057)、3回以上感染群(155例)が2.87(1.18~7.02、p=0.020)であった。・2歳未満での初回の下気道感染の年齢別にみると、下気道感染のない群(2,676例)と比べたHR(95%CI、p値)は、1歳未満群(648例)が2.12(1.16~3.88、p=0.015)、1歳以上2歳未満群(256例)が1.52(0.59~3.94、p=0.39)であった。・2歳未満での初回の下気道感染時の治療別にみると、下気道感染のない群(2,676例)と比べたHR(95%CI、p値)は、未治療または外来治療群(856例)が1.79(1.00~3.19、p=0.051)、入院治療群(52例)が4.35(1.31~14.5、p=0.017)であった。・2歳未満での下気道感染は、1972~2019年のイングランド・ウェールズの呼吸器疾患による死亡の20.4%(95%CI:3.8~29.8)に関連していると推定され、これはイングランド・ウェールズにおける17万9,188例(95%CI:3万3,806~26万1,519)の超過死亡に相当した。 著者らは、「2歳までに下気道感染のある人は、呼吸器疾患による成人期の早期死亡のリスクが約2倍であり、2歳未満での下気道感染は成人期の呼吸器疾患による死亡の5分の1に関連していることが示唆された。幼児期の下気道感染と慢性閉塞性肺疾患などの成人呼吸器疾患の発症や予後との間には、特異な関連があると考えられる。成人呼吸器疾患の発症や子供の健康格差の発生を避けるためには、生涯にわたる予防戦略が必要である」とまとめた。

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生後6ヵ月~4歳児に、ファイザー2価ワクチン追加接種を承認/FDA

 米国食品医薬品局(FDA)は3月15日、ファイザーの新型コロナウイルスのオミクロン株BA.4/BA.5対応2価ワクチンについて緊急使用許可(EUA)を修正し、生後6ヵ月~4歳の小児において、同社の1価ワクチンの3回接種(初回シリーズ)が完了してから少なくとも2ヵ月後に、2価ワクチンによるブースター接種1回を行うことができることを発表した。 2022年12月に、生後6ヵ月~4歳の小児は、1価ワクチンの初回シリーズの2回目までを接種した者に対して、3回目に2価ワクチンを接種することが承認されていた。今回の生後6ヵ月~4歳への2価ワクチンブースター接種の承認では、上記の3回目に2価ワクチンを接種した小児は対象外となり、初回シリーズをすべて1価ワクチンで3回接種した者のみが対象となる。 FDAは、生後6ヵ月~4歳の小児に対する臨床試験で、ファイザーの1価ワクチンを3回接種し、同社の2価ワクチンのブースター接種を1回受けた60例の免疫応答データを評価した。2価ワクチンのブースター接種から1ヵ月後、被験者はSARS-CoV-2起源株とオミクロン株BA.4/BA.5の両方に対して免疫応答を示した。 安全性のデータは、55歳以上への2価ワクチンのブースター接種、生後6ヵ月以上への初回シリーズ接種、5歳以上への1価ワクチンのブースター接種を評価した臨床試験、1価および2価ワクチンの市販後の安全性データに基づいている。加えて、6ヵ月以上に対して、以下の2つの臨床試験が行われた。 1つの試験では、1価ワクチンを3回接種し、2価ワクチンのブースター接種を1回受けた生後6~23ヵ月の被験者24例において、主な副反応として、イライラ感、眠気、注射部位の発赤、痛みおよび腫脹、食欲低下、疲労感、発熱が報告された。5~11歳の113例の被験者では、主な副反応として、疲労、頭痛、筋肉痛、関節痛、悪寒、発熱、嘔吐、下痢、注射部位の痛み、腫脹、発赤、注射部位と同じ腕のリンパ節の腫脹などが報告された。 もう1つの試験では、1価ワクチンを2回、1価ワクチンのブースター接種を1回、2価ワクチンのブースター接種を1回受けた12歳以上の316例において、主な副反応は5~11歳の被験者で報告されたものと同じであった。

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第151回 マスク脱着による世論分断を防ぐため、知っておきたい人間の特性

政府の方針で3月13日から新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)対策を念頭に置いたマスクの着用は、原則個人の判断が基本となった。この日以降、街中を歩く際はマスク着用の動向を自分なりに眺めているが、確かに着用していない人は若干増えたようだ。もっともパッと見は着用していなくとも、手にマスクをぶら下げているなど様子見のような雰囲気がうかがえることも多い。私個人はというと、信号待ちで人が密集するなどの状況以外、屋外では原則マスクを外し、屋内ではマスクを着用するという元々の方針をほとんど変えていない。が、厳密に言うとむしろ屋外でマスクをするシーンが増えた。というのも、スギ花粉の飛散量が例年よりもかなり多いと言われる今シーズン、どうやら初めて本格的な花粉症を発症したようなのだ。日中、屋外にいる時間が短い場合はほとんど問題ないのだが、ノーマスクのままで数時間経つと、突如くしゃみが止まらなくなる。先日はたぶん人生で初のくしゃみ27連発を経験し(いちいち数えているのもどうかと思われるかもしれないが)、慌ててマスクを着用。それで症状が治まったため、さすがに花粉症なんだろうと思っている。そんなこんなで花粉症対策のマスクのありがたみを実感するとともに、このシーズンが終われば、マスクを外す人はそれなりに増えてくるのだろうと予測している。もっとも私個人は今のところ前述の着用原則を当面変えるつもりはない。新型コロナウイルスがいなくなったわけでもなく、重症化リスクを有する人にとっては相変わらずインフルエンザよりは明らかに恐ろしい感染症であるため、3月13日を「マスク外し記念日」と認識するのは時期尚早と考えるからである。私が屋内外とも全面的にマスクを外すようになるのは、たぶん有効性・抗体価持続期間が現在よりも大幅に改善した新型コロナワクチンが登場した時だろう。さてそんな中、この件に関して厚生労働省が開設した特設ページを見て、モヤモヤした気分になってしまった。書いている内容に間違いはないし、良い意味でお役所らしい「簡にして要」の原則は貫かれている。しかし、良くも悪くも真面目過ぎる。このページを作成した人たちは、おそらく読む人は冒頭から最後まできちっと目を通してくれるはず、あるいは目を通して欲しいと思ったのだろう。だが、メディアという世界に四半世紀以上も身を置いている自分は、多くの場合、そうした期待や願望は幻想に過ぎないという現実を嫌と言うほど経験している。具体例を挙げるならば、記事の見出しだけを見て、すべてをわかった気になっているSNS投稿などがそれだ。では、このページのどこが気になるのか? まず、原則個人の判断ではあるが、“医療機関や高齢者施設、混雑した公共交通機関では従来通りマスク着用が推奨される”というのが訴えたいメッセージのはずである。伝える側の本音として、個人の判断と今後も推奨が続くシーンという情報に本来ならば主従関係などないはずである。ところが、このページの見せ方は完全に主従関係となっている。まず冒頭のやや小さい字のお知らせは「これまで屋外では、マスク着用は原則不要、屋内では原則着用としていましたが令和5年3月13日以降、マスクの着用は、個人の主体的な選択を尊重し、個人の判断が基本となりました。本人の意思に反してマスクの着脱を強いることがないよう、ご配慮をお願いします」とあり、「個人の…基本」にアンダーラインが引いてある。また、後段の図示では「個人の主体的な選択を尊重し、個人の判断が基本となります。感染拡大防止対策として、マスクの着用が効果的である場面などについては、マスクの着用を推奨します」とあり、前文のみがやや大きい赤字フォントで目立つようにしてあり、後半はやや小さい黒字フォントで目立ちにくい。最初に目に入ったものに強く印象付けられるのが人の特性であり、この見せ方では「個人の判断」が及ばない今後も推奨されるシーンが霞んでしまう。「特設ページには前述の着用の推奨が継続するシーンについては大きなイラスト付きで示されているじゃないか」と声を大にしたくなる人もいるかもしれないが、実際こうした部分は良くて流し見、最悪、目すら向けられないことも結構あるのだ。たとえば、単語カードを使って英単語の意味を覚えようとする時、往々にして最初に覚えるのは1枚目のカードだ。1つの単語で複数の意味がある場合も、最初に覚えるのは一番目に表示される意味であることが多い。こうした現象は日常的に少なくないはずだ。ではどうするかというと、こうした人の特性を逆手にとって多少長くとも冒頭から「〇〇や××、あるいは△△のような場面では今後もマスク着用が推奨されますが、それ以外については個人の判断が基本になります」と記載するほうがベターである。また、この「最初に目にしたもの」の原則から気になった点がもう1つある。「本人の意思に反してマスクの着脱を強いることがないよう、ご配慮をお願いします」の「着脱」である。「着脱」は「着けること」と「外すこと」の両方を意味しているし、この使い方そのものは間違いではない。しかし、人は最初の「着」のほうに目が行きがちである。注意深く読まない人やマスクに否定的な人は「着脱」をシンプルに「着けること」のみに解釈しがちである。その結果起こると予想されることが、医療機関などに対して「なんでおたくはマスクを強要するのか」というお門違いのクレームである。その意味ではここでも回りくどくとも、「着けることや外すことを強いることがないよう」と表現するほうがベター。今回の私の指摘を非常に細かい「重箱の隅をつつく」ことと思われる方もいるかもしれない。しかし、少なからぬ国民が3年間のコロナ禍疲れを感じているはずで、原因の1つには、この間に推奨されてきたマスク着用も入っていると考えても差し支えないだろう。その中で今回のマスクに対する推奨の変更は1つの大きな転換点であることは間違いない。とはいえ、新型コロナウイルスがいなくなったわけでもなく、少なくとも日本人の3分の1以上は該当するであろう重症化リスクを有する人たちにとっては、いまだに油断ならない感染症である。だからこそこの局面で理性・論理性に欠くノイジー・マイノリティーのマスク否定派、あるいはそこに影響を受けかねない人たちに都合良く解釈されるかもしれない訴え方は、社会分断への「蟻の一穴」になりかねないものだと危惧している。

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パキロビッドパック600/300が薬価収載/ファイザー

 ファイザー(日本)は3月15日付のプレスリリースにて、同社の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する経口抗ウイルス薬の「パキロビッドパック600」および「パキロビッドパック300」(一般名:ニルマトレルビル/リトナビル)が薬価基準に収載されたことを発表した。パキロビッドパック600の薬価は19,805.50円 パキロビッドパックは、2022年1月14日に厚生労働省に製造販売承認を申請し、同年2月10日に、日本における製造販売に関し、医薬品医療機器等法第14条の3に基づく特例承認を取得している。本剤がパッケージ化されたパキロビッドパック600および同300は、2022年11月14日に製造販売承認を取得している。 薬価はそれぞれ、パキロビッドパック600(1シート)が19,805.50円、パキロビッドパック300(1シート)が12,538.60円となる。両パッケージともに、2023年3月22日から一般流通が開始される予定。 パキロビッドパック600は通常用のパッケージとなっている。通常、成人および12歳以上かつ体重40kg以上の小児に対して、ニルマトレルビル1回300mgおよびリトナビル1回100mgを同時に1日に2回、5日間経口投与する。 一方、パキロビッドパック300は中等度の腎機能障害患者用のパッケージとなっている。中等度の腎機能障害患者(eGFR[推算糸球体ろ過量]30mL/min以上60mL/min未満)には、ニルマトレルビル1回150mgおよびリトナビル1回100mgを同時に1日に2回、5日間経口投与する。 パキロビッドパックは、臨床試験において、症状発現から6日目以降に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていないため、SARS-CoV-2による感染症の症状が発現してから速やかに投与を開始することとしている。また、パキロビッドパックは併用薬剤と相互作用を起こすことがあるため、服薬中のすべての薬剤の確認が必要となる。また、パキロビッドパックで治療中に新たに他の薬剤を服用する場合、事前に相談するよう患者に指導することとしている。 日本も参加している国際共同第II/III相EPIC-HR試験では、外来治療の対象となる重症化リスクの高いCOVID-19患者において、パキロビッドパックはプラセボと比較して、入院または死亡のリスクを89%(症状発現から3日以内)、および86%(症状発現から5日以内)減少させることが示された。また、有害事象の発現割合は本剤(23%)とプラセボ(24%)と同程度であり、おおむね軽度だった。

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第36回 コロナ病棟を廃止する病院が続出か

病院経営をどうする?5月8日から新型コロナは「5類感染症」に移行します。そして、3月13日からマスク着用も緩和され、世間は通常モードへ移行することになりますが、いきなりウイルスの感染性が減るわけではなく、引き算をうまくやらないと、また医療逼迫が来るのではないかと懸念しています。私がとくに気になっているのが「コロナ病棟」の行く末です。多くの病院が、新型コロナの患者さんを受け入れる使命を背負い、3年間ずっと診療してきました。収支が潤った医療機関もあるかもしれませんが、通常診療に戻してコロナ前の病院経営に戻したいという気持ちを持っている施設も多いことでしょう。いやしかし、こればかりは自治体の要請に従うことになるのだろうか、いや「5類」化するのだから、そういった要請はなくなるのだろうか、などいろいろな憶測が飛び交っております。交付金が半減確保病床を持っている医療機関を補助する交付金が見直されることから、私が耳にする限り、新型コロナの専用病棟を廃止し、コロナ前の診療体制に戻す医療機関が出てきています。とくに大学病院などはその方向に動くのではないでしょうか。交付金を段階的に廃止していくとはいえ、損益分岐点近くで運用していた医療機関はもう通常診療に舵を切ることになるでしょう。実際、「令和5年度の病床確保料の取扱いについて」1)において、重点医療機関である一般病院では確保病床1床当たり36,000円/日(ICU・HCU以外)と、これまでの約半額に減額されています。となると、おそらく今後は、かかりつけの新型コロナ患者さんを優先して、一般病床の個室で受け入れるなどの体制を構築していくのではないかと思われます。このあたりは明言はしないでしょうが、新規の入院要請を受け入れる体制にしていくとは到底思えないので…。とはいえ、やはり感染者数が増えてしまうとこの目論見は外れてしまい、結局一部区画をまとめて新型コロナ対応に転用せざるを得ない状況になるかもしれません。PPEのダウングレードPPEは、これまでのフルPPEではなく、ある程度ダウングレードしてもよいのではないかと思いますが、そのぶん院内感染リスクが増えることが弱点です。3月8日のアドバイザリーボードからのQ&Aでは、PPEや個室管理については以下のような推奨となっております2)。「診療やケアにあたる方は、アイゴーグル、フェイスシールドなどにより目を保護するようにしてください。一方、身体密着することがなければ、ガウンやエプロンなどは必要ありません。接触時には使い捨ての手袋を使用することが望ましいですが、速やかにアルコール消毒や手洗いができるのであれば必須ではありません。施設内の感染者については、できるだけ個室または感染者を集めた部屋(コホート隔離)での療養を原則としてください。トイレも感染者専用とすることが望ましいです。」院内感染リスクを減らすため、逆にPPEはダウングレードせずに、医療機関内で徹底的にトレーニングするという方策もアリかもしれません。参考文献・参考サイト1)厚生労働省:令和5年度の病床確保料の取扱いについて2)資料3-10高山先生提出資料. 第118回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和5年3月8日)

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