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第181回 「3た論法」と思しきエンシトレルビルの最新データ

ちょうど約1ヵ月前、薬剤師の祭典とでも言うべき日本薬剤師会学術大会が和歌山市で開催された。私は毎年、同大会に参加しており、顔見知りの薬剤師も多い。今回、そうした薬剤師に会うたびに、私は半ばあいさつ代わりにあることを尋ねていた。「〇〇って処方出てる?」その質問をすると、クールな表情のまま「ああ、そこそこに出てますよ」と言う人もいれば、ある人はニヤリとしながら「まあ出ていることは出ていますね」と答えてくれた。〇〇とは何か? ずばり国産の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)治療薬であるエンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)のことである。新型コロナのパンデミックで登場した治療薬は、ほとんどが外資系製薬企業からの導入品だが、これだけは薬機法改正で創設された緊急承認制度の第1号の国産治療薬として2022年11月に承認された。あれから間もなく1年が経つので、現場の実感を聞きたいというのが、このことを片っ端から尋ねた意図だった。「それならば医師に聞けばいいだろう」という声も聞こえてきそうだが、私の周囲の医師では、感染症の非専門医を含め、まったくと言って良いほど処方事例を聞かない。ご存じのように緊急承認時のデータは有効性がクリアに証明されたとは言えず、医師の間で評価が二分し、私の周りにはたまたま懐疑的な医師が多い。しかし、一説ではエンシトレルビルは新型コロナ経口薬の市場シェアで過半数を超えるとも伝わる。だからこそ、このギャップが何なのかを知りたかった。エンシトレルビルも含め、新型コロナの経口薬は外来処方が中心となるので、この辺の事情を薬局薬剤師に聞くのはあながち間違いではないだろうと考えたのだ結局、尋ねた薬剤師の答えを総合すると、そこそこ以上に処方はされていることはわかった。そしてこの質問を一番目に尋ねた薬剤師が重要な“ヒント”をくれた。「出ていることは出ているんですが、だいたい特定の医師の処方箋に集中してますね。ああ、もちろん感染症の専門医とかではなく、いわゆる一般内科医ですよ」彼にこの話を聞いてからは、「出てますよ」と答えた薬剤師には「処方元はどんな医師?」と尋ねるようにしたところ、ほぼ全員が処方元は特定の医師に集中しがちと答えてくれた。良いか悪いかは別にして、どうやら私はある種“偏った”環境にいるようだ(「それはあなたが偏っているから」との声も聞こえてきそうだが…)。そして私は無理を承知で、薬剤師の目から見た「処方感」、要は効果のほども尋ねてみた。この質問には「うーん、効いてるんですかね?」「よくわからないです」「目先の評価として3た論法(使った、治った、効いた)で言えば効いたことになるでしょうかね」と、何ともはっきりしない。関西地方のある薬剤師は、「そもそもこの薬を処方された患者さんは若い人が中心で、中には初めてお薬手帳を作ったという人もいるくらい。しかも、5日分の飲み切り終了ですから、処方された患者さんが再来することはないので、効いているかどうか確認のしようがないですよ」と話してくれた。まあ、ごもっとも。これは薬剤師だけでなく処方した医師も同じではないだろうか?そうした中で臨床実感ではないが、関東圏のある薬剤師が話してくれた事例は興味深かった。彼が話してくれたのは、在宅の認知症高齢者へのエンシトレルビルの処方事例。最初に聞いたときは「え?」となった。新型コロナは「高齢」が重症化の最大のリスクファクター。このため経口薬では、重症化予防効果のエビデンスがあり、適応上も重症化リスクがある人向けのモルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)、ニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッド)のいずれかが優先されるはずだ。このうちエビデンス上、重症化予防効果の数字上が高いのはニルマトレルビル/リトナビルのほうだが、併用禁忌薬が多いため使えないケースが少なくないことは良く知られている。しかし、この併用禁忌薬の多さは同じ作用機序であるエンシトレルビルも同じこと。ということは、この薬剤師が話してくれたケースは、ニルマトレルビル/リトナビルも処方できるはずで、医学的にもそのほうが妥当だと思われる。そう問うと、彼は「単純ですよ。分1(1日1回)なので、高齢者ではそのほうがアドヒアランスを確保しやすいですから。とくにこのケースは認知症ですからね」との答え。エビデンスを単純に当てはめられないという意味で、これは妙に納得がいった。もっとも、結果として知りたかった臨床実感は何ともぼんやりしたものしかないまま終わってしまった。そして後日、実際の専門医にも話を聞く機会があったが、そこでも実際の処方は数例で効果を判断できるレベルではないと告げられ、今も「詰んだ」状態である。ちょうど同じころ、塩野義製薬が重症化リスク因子のある患者での治療選択肢になりうる可能性があるとのデータをプレスリリースした。これは重症化リスク因子がある軽~中等症の新型コロナ入院患者で3日間以上レムデシビルを投与し、十分な抗ウイルス効果が確認されなかった21人(平均年齢78.0歳、ワクチン接種率76.2%)に対し、エンシトレビルの5 日間投与を行ったというもの。この結果、エンシトレルビル投与終了翌日までに66.7%の患者でウイルスクリアランス(鼻腔内抗原量

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胎児が母体に残す細胞が母親の将来の妊娠を支える可能性

 妊娠中の母親の体内では、母体と胎児との間で細胞が交換され、双方の組織に互いの細胞がわずかに定着することが、近年の研究で示されている。この現象は、マイクロキメリズムと呼ばれる。マイクロキメリズムは、妊娠中の母親の免疫系が、本質的には異物である胎児を攻撃しないように調節する一因と見なされているが、その全体像はいまだ明らかになっていない。こうした中、米シンシナティ小児病院医療センターのSing Sing Way氏らによるマウスを用いた研究で、この現象が考えられている以上に長期にわたって影響を及ぼし、母体の次の妊娠の成功に寄与する可能性が示唆された。この研究の詳細は、「Science」に9月21日掲載された。 今回の結果は、実験用マウスを用いて得られたものであるが、Way氏は、「マウスで観察された母子間のマイクロキメリズムがヒトでも見られることを示した研究報告はある」と説明し、今回の結果がヒトにも該当する可能性があることを強調する。同氏はまた、「『母体が胎児を拒絶しないようにするにはどうすればよいのか』という生殖にまつわる課題を抱えているのは、マウスに限らずどの種も同じだ」と話す。 今回の研究では、二つの興味深い現象を結び付ける結果が得られた。一つは、少数の胎児の細胞が子宮を離れて母体のさまざまな組織に定着するマイクロキメリズムである(同様に、母親の細胞も胎児の中に移動して定着する)。しかし、そのようにして母体の組織に定着した胎児の細胞が、その後、どのような働きをするのかは完全には解明されていない。 もう一つの現象は、Way氏らが2012年に「Nature」に報告したもので、正常な妊娠を経験した後の母親の体内には、同じ両親による次の胎児を認識し、免疫系の反応を抑える役割を果たす保護的な(protective)T細胞が、その後何年にもわたって供給され続けることが示された。ただ、そのメカニズムは不明だった。例えば、感染症において免疫系がその力を発揮するには、メモリーT細胞が病原体に低レベルでさらされる必要のあることが多い。 それらに対する答えを示したのが、今回の研究だ。Way氏の説明によると、最初の妊娠で母親マウスの体内に移行したマウス胎児の細胞が、少数ながらも妊娠後の母体の心臓、肝臓、腸、子宮やその他の組織に定着し、それらが将来の同胞のために「友好的な」免疫環境を維持する役割を果たしていることが示されたという。同氏は、「きょうだい愛のように思うかもしれないが、見方によっては、自分の遺伝子を増殖させようとする、やや利己的だが自然な衝動でもある」と語る。 さらにこの研究では、新たに妊娠した母親マウスでは、母体に残っていた年長のきょうだいマウスの細胞が新たな胎児マウスの細胞に完全に置き換わってしまうものの、それぞれの妊娠から得られた有益なT細胞はわずかに残存し続け、次の妊娠時に活性化されることも示された。 Way氏は、「前回の妊娠が将来の妊娠アウトカムにどのように影響するのか、言い換えれば、母体が自分の子どもをどのように記憶しているのかを調べることにより、われわれの研究結果は妊娠の仕組みの理解に新たな広がりをもたらした」と話す。そして、「得られた知見は、人間の妊娠合併症に見られるパターンと一致する。合併症は初回の妊娠では起こりやすいが、正常妊娠を経験した人では次の妊娠で合併症が生じるリスクが低下する。これとは対照的に、妊娠高血圧腎症、早産、死産などの合併症に見舞われた人では、次の妊娠での合併症の発症リスクが平均より高くなる」と話す。 Way氏はさらに、この研究により、「もし母親の免疫系が健康な妊娠を"記憶"しているとすれば、合併症を起こすような妊娠の記憶も保持しているのだろうか」という重要な疑問が提起されたとの見方を示す。そして、「もしこの疑問が解明されれば、妊娠合併症の再発を予防する方法につながる可能性がある」と話している。

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発症後の狂犬病を治療できる薬の開発は近い?

 狂犬病では、原因である狂犬病ウイルス(rabies virus;RABV)が中枢神経系(CNS)に侵入すると、ほとんどの場合死に至る。しかし、米ユニフォームド・サービス大学免疫学教授のBrian Schaefer氏らが、発症後の狂犬病でさえも治療可能な、効果的で簡単な治療法を開発したとする研究結果を、「EMBO Molecular Medicine」に9月28日発表した。マウスを用いた実験で、モノクローナル抗体F11により、致死量のRABVからマウスを守れることが示されたという。Schaefer氏は、「これは、狂犬病に対する初めての実用的な治療法と言えるだろう」と話している。 RABVは、人獣共通感染症を引き起こす病原体であるリッサウイルス属の一種。F11は、RABVの近縁種であるオーストラリアコウモリリッサウイルス(Australian bat lyssavirus;ABLV)から作られたもので、RABV感染を防ぎ、その拡散を阻止するように設計されている。Schaefer氏は、「この抗体は、全てのリッサウイルスの表面に存在し、ウイルスが標的細胞に付着してその細胞に侵入するのを可能にするタンパク質に対して特異的に作用するものだ」と説明する。 研究グループによる過去の研究では、実験室の培養細胞においてF11がリッサウイルスの感染を効果的に防ぐことが示されていた。今回の研究では、ABLVとRABVの特定の株(CVS-11)に感染させたマウスに対するF11投与の効果が検討された。 その結果、ABLVやCVS-11が中枢神経系に到達して神経疾患の兆候が現れた後であっても、F11を単回投与することで、これらのウイルスによる死亡を防げることが明らかになった。また、F11投与後も低レベルのABLVやCVS-11が残存していたが、ウイルス量がそれ以上増えることはなく、試験期間を通して狂犬病の兆候が再び現れることはなかった。 F11のようなモノクローナル抗体は、ウイルスに結合し、細胞や組織への感染を防ぐ(中和する)ことで作用すると考えられている。しかし、モノクローナル抗体は血液脳関門を通過できないため、CNSに感染したウイルスを中和することはできない。それにもかかわらず、F11の単回投与で、CNSにまで到達したウイルスによる狂犬病の進行を逆転させ得たという結果は、研究グループを驚かせた。 これは、どのように説明されるのだろうか。研究グループが仮説を立てて検討を続けたところ、F11は、中和とは異なる作用によってリッサウイルス感染から動物を守ることが示された。具体的には、F11は感染動物の脳内に存在する免疫細胞の組成を劇的に変化させることで防御効果を発揮しており、この防御効果には、特に、CD4陽性T細胞と呼ばれる免疫細胞の存在が必須なことが示されたという。 これらの知見を踏まえて研究グループは、「F11による治療は、ヒトの狂犬病においても有効な治療法となる可能性が高い」との見方を示している。狂犬病のほとんどの症例が、医療資源の乏しい国の農村部で発生していることを考えると、F11の単回投与は、このような人々にも効果的に行きわたる簡便な治療法となる可能性を秘めている。 ただし、Schaefer氏は、この治療法はまだ初期段階にあることを強調。次のステップは、ヒトに投与可能なF11を作成し、臨床試験でその効果を検証することだとしている。同氏は、「マウスを対象にした研究とヒトを対象にした研究は別物だ。それでも、これまで狂犬病に対しては信頼できる治療法がなかったことを考えると、今回の結果を得て、私は嬉しさでやや興奮している。マウスでの狂犬病治療に成功したのだから、他の動物でも検討する価値があることに間違いはない」と話している。

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有病率の高い欧州で小児1型糖尿病発症とコロナ感染の関連を調査(解説:栗原宏氏)

特徴・新規に出現したウイルスと自己抗体の関連を示した・追跡期間が長く、感染と自己抗体の発現の前後関係を区分できている・SARS-CoV-2抗体以外に、その他の呼吸器感染代表としてインフルエンザ抗体も調査・インフルエンザは著減しており、SARS-CoV-2の影響がメインと考えられる限界・対象は遺伝的ハイリスク群。かなり特殊で結果が一般化しづらい・日本国内での発症率は調査地域である欧州よりも格段に低い・因果関係が逆である可能性:自己抗体が発現する子供がコロナに感染しやすい? 本研究で対象となっている小児1型糖尿病は、発症率に人種差があり白人に非常に多い。欧州全般に発症者は多く、とくに多い北欧諸国、カナダ、イタリアのサルディニアでは年間約30/10万人と日本(1.4~2.2/10万人)に比して10倍以上の違いがある。1歳ごろに膵島細胞への自己抗体が発生するピークがあり、10年以内に臨床的な糖尿病を発症する。自己抗体の発生原因は不明ながら、呼吸器系ウイルス感染が関与している可能性があるとされている。 本研究はPrimary Oral Insulin Trial(POINT)のデータが使用されている。2018年2月~2021年3月のCOVID-19拡大前からパンデミック期にかけて、欧州5ヵ国の複数施設で、遺伝的に1型糖尿病リスクが高い乳児(4~7ヵ月)1,050人を対象として、SARS-CoV-2感染と膵島自己抗体の発現の時間的関係を明らかにするために実施されたコホート研究である。このうち、実際に対象となったのは885人である。 本研究は、SARS-CoV-2という新規に出現した疾患と自己抗体の出現との関連を自己抗体発現の可能性が高い乳児を対象として調査した点が特徴である。性別、年齢、国に調整後のSARS-CoV-2抗体陽性例における膵島自己抗体陽性のハザード比は3.5(95%信頼区間[CI]:1.6~7.7、P=0.002)となっており、遺伝子的ハイリスク群ではSARS-CoV-2感染はリスク因子であることが示されたことは意義が大きいと思われる。 SARS-CoV-2抗体出現後に自己抗体が発現する割合が有意に高いことが示された。一方、他のウイルス感染評価目的に実施されたインフルエンザA(H1N1)抗体では自己抗体発現はなかった。少なくともこの対象群においては、呼吸器系ウイルス全般で自己抗体が出現するわけではないことが示唆された。 自己抗体の出現がすぐさま臨床的1型糖尿病発症を意味するわけではない点には留意が必要である。SARS-CoV-2感染と膵島自己抗体出現には関連があるが、感染後の短期間での急激な糖尿病発症率の増加には影響しない可能性が高い。将来的な1型糖尿病発症率については当該地域でフォローが必要である。 前述のとおり、小児1型糖尿病は遺伝子的な問題で人種差が大きい。本研究はその中でもさらに遺伝子的なハイリスク群を対象としており、その結果は広く一般化できるものではない。日本国内では比較的まれな疾患であり、SARS-CoV-2感染の影響は非常に小さいと推測されるが、否定しうるものでもない。今後の本邦での小児1型糖尿病の発症率の推移をみていく必要がある。

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第66回 10ヵ月流行し続けるインフルエンザ

新型コロナは収まりつつあるが…Unsplashより使用インフルエンザの陽性が増えてきましたよね。「新型コロナかなと思って測定したらインフル陽性」というパターンがまたまたやってきました。新型コロナの定点医療機関当たりの感染者数は全国平均で8人台になっていますので、ひとまず足元の波は越えたかなと思われます1)。さて、現在、昨シーズンから一度も途切れることなくインフルエンザの流行期が続いています(図)2)。「10ヵ月連続流行期」というのは、1999年以降、初めてのことなので、現場としてはもう戸惑うしかありません。一体何が起こっているのか。図. インフルエンザの定点医療機関当たりの報告数(全国)推移(参考2を基に筆者作成)インフルエンザが流行する理由昨シーズンのインフルエンザが春まで継続して流行していたことから、現在発熱者に対しては両方の検査を行っている医療機関が多いかと思います。当院は、同じ検体を使って新型コロナは抗原定量検査、インフルエンザは抗原定性で検査していますが、病院によってはマルチプレックスPCR検査や、同時抗原検査キットなどを適用しているところもあるかもしれません。そのため、検査自体が行われやすいため、見かけの陽性者数が多い可能性があります。とはいえ、例年と比べると流行曲線の立ち上がりが早く、間違いなくインフルエンザの陽性者が増えてきているのは現場でも実感されるところです。多い年では、定点医療機関当たり50~60人というのがインフルエンザの恒例でしたから、定点医療機関当たり10人台だった昨シーズンの波は、ウイルス側としては不完全燃焼だったでしょう。ずっと私たちは感染対策を続けてきたため、「5類感染症」に移行してから、どのウイルス感染症もこれまでの常識が歪められつつあります。いつか落ち着くでしょうが、しばらく流行曲線が乱高下する時代と向き合うのかもしれません。参考文献・参考サイト1)内閣官房:新型コロナウイルス感染症 感染動向などについて2)厚生労働省:インフルエンザの発生状況

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早期静脈栄養なしのICU患者、厳格な血糖コントロールは有用か?/NEJM

 集中治療室(ICU)に入室した早期静脈栄養を受けていない重症患者では、非制限的で寛容な血糖コントロールと比較して厳格な血糖コントロールは、ICUでの治療を要した期間や死亡率に影響を及ぼさないことが、ベルギー・ルーベン・カトリック大学病院のJan Gunst氏らが実施した「TGC-Fast試験」で示された。研究の詳細は、NEJM誌2023年9月28日号に掲載された。ベルギーの医師主導型の無作為化対照比較試験 TGC-Fast試験は、ベルギーの2つの大学病院と1つの地区病院の11のICUで実施された医師主導型の無作為化対照比較試験であり、2018年9月~2022年8月に参加者のスクリーニングを行った(Research Foundation-Flandersなどの助成を受けた)。 早期静脈栄養を受けていないICU入室患者を、非制限的血糖コントロール群または厳格血糖コントロール群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。非制限的血糖コントロール群では、血糖値が215mg/dL(11.9mmol/L)を超えた場合にのみインスリンの投与を行い、厳格血糖コントロール群では、LOGICインスリンアルゴリズムを用い、目標血糖値を80~110mg/dL(4.4~6.1 mmol/L)に設定した。静脈栄養は両群とも、1週間実施しなかった。 主要アウトカムは、ICUでの治療を要した期間とし、ICUから生存退室するまでの期間に基づいて算出した。安全性アウトカムは90日死亡率であった。 9,230例を登録し、4,622例を非制限的血糖コントロール群(年齢中央値67歳[四分位範囲[IQR]:56~75]、男性62.8%)、4,608例を厳格血糖コントロール群(67歳[57~75]、63.6%)に割り付けた。ベースラインの血糖値中央値は、非制限的血糖コントロール群が143 mg/dL(IQR:120~170)、厳格血糖コントロール群は142mg/dL(121~168)であった。朝の血糖値が低く、1日インスリン用量が多い 非制限的血糖コントロール群に比べ厳格血糖コントロール群は、ICU入室中の朝の血糖値中央値が低く(140mg/dL[IQR:122~161]vs.107mg/dL[98~117]、群間差:-32mg/dL[95%信頼区間[CI]:-33~-32])、インスリンの用量中央値が高かった(0.0単位/日[IQR:0.0~5.6]vs.24.8単位/日[14.8~39.9]、群間差:21.0単位/日[95%CI:20.5~21.5])。 重症低血糖(<40mg/dL[<2.2mmol/L])の発生は、非制限的コントロール群のほうが少なかった(31例[0.7%]vs.47例[1.0%]、相対リスク:1.52[95%CI:0.97~2.39])。 ICUでの治療を要した期間(主要アウトカム)は、両群間に差を認めなかった(厳格血糖コントロールで生存退室が早くなるハザード比[HR]:1.00、95%CI:0.96~1.04、p=0.94)。また、90日死亡率にも差はなかった(非制限的血糖コントロール群468例[10.1%]vs.厳格血糖コントロール群486例[10.5%]、HR:1.04、95%CI:0.92~1.17、p=0.51)。 事前に規定された8項目の副次アウトカムの解析では、新規感染症の発生率、呼吸補助の時間、血行動態補助の時間、生存退院までの期間、ICU内死亡、院内死亡は、いずれも両群間に差はなかったのに対し、重症急性腎障害および胆汁うっ滞性肝機能障害は、厳格血糖コントロール群で少ないことが示唆された。 著者は、「本研究でICUに入室した早期静脈栄養を受けていない重症患者では、先行研究で静脈栄養を受けた重症患者に比べ、低血糖の重症度が軽度であった。また、コンピュータアルゴリズムによって空腹時血糖値を正常範囲に低下させることで、ICUでの治療を要した期間や死亡率に影響を及ぼさずに、医原性低血糖を回避できた」としている。

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C. difficile感染症の原因、大半は患者間の感染ではない?

 院内感染症の一つで、致死的にもなり得るClostridioides difficile感染症(CDI)の発生は、病院よりも患者自身に起因する可能性の大きいことが、新たな研究で示唆された。Clostridioides difficile(C. difficile)と呼ばれる細菌を原因菌とするCDIは、十分な院内感染対策を講じている病院でもよく起こるが、この研究結果はその原因解明の一助となる可能性がある。米ミシガン大学医学部微生物学・免疫学准教授のEvan Snitkin氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Medicine」に9月18日掲載された。 米疾病対策センター(CDC)によると、米国では年間約50万件のCDIが発生しており、1万3,000人~1万6,000人がこの細菌により死亡していると推定されている。CDIの罹患や死亡の多くは入院患者間での感染が原因と考えられてきた。しかし、最近の研究では、CDIの院内感染例の大部分は感染した他の入院患者からの感染では説明できないことが報告されているとSnitkin氏は言う。 今回の研究によると、米シカゴ、ラッシュ大学医療センターの集中治療室(ICU)に入室した1,111人(平均年齢62.7歳、ICU入室件数1,289件)の患者から採取した3,952点の直腸スワブおよび糞便検体の分析が行われた。その結果、研究期間中に毒素を産生するC. difficileが認められた患者の割合(期間有病率)は9.3%(120/1,289件のICU入室)であった。また、検体の中で、同一のC. difficile株はほとんど見つからなかったため、院内感染の可能性は低いと考えられた。患者間での感染が確認されたのはわずか6人で、無症状のC. difficileのキャリア(保有者)が症状を伴うCDIに移行するリスクの方が高いことが示された。実際、入院時にC. difficileが腸管に定着していることが確認されたキャリアでは、C. difficileの非キャリアと比べて医療機関でのCDIの発症リスクが24倍高かった(ハザード比24.4)。 ただし、これらの研究結果は、院内感染の予防対策が不要であることを示しているわけではない。実際、こうした対策のおかげで現在の低い感染率が維持されている可能性が高いとSnitkin氏は言う。同氏は、「この研究結果は、医療従事者の手指衛生の遵守率の高さの維持やC. difficileに有効な消毒薬による日常的な環境消毒、病室の個室化など、ICUで講じられていた感染対策が有効であったことを示唆している」と説明。その上で、「このことは、患者のCDI発症をさらに防ぐためには、無症状のC. difficileキャリアにCDIを発症させるきっかけとなるものが何なのかを解明する必要があることを意味する」と指摘している。 今回の研究には関与していない米レノックス・ヒル病院感染予防部門シニア・ディレクターを務めるHannah Newman氏は、「症状が現れていれば、見つけ出して感染拡大を防ぐための必要な予防対策を講じることは簡単だ。しかし、腸管にC. difficileが存在していても症状はない場合もある。この状態は、定着と呼ばれている」と説明する。C. difficileのキャリアで活動性の感染症が引き起こされる明確な要因は不明だが、抗菌薬使用の関与が疑われている。「今回の研究結果からは、現行の感染予防対策を続ける一方で、無症状のC. difficileのキャリアを見つけ出し、感染リスクを低下させる方法を明らかにする必要性が示唆された」とNewman氏は言う。 一方、Snitkin氏は、抗菌薬の使用だけが唯一の原因ではないことを強調。「抗菌薬による腸内細菌叢の乱れがCDI発症の引き金となっていることは支持されているが、原因が他にもあることは確実だ。なぜなら、抗菌薬が投与されたC. difficileのキャリア全てがCDIを発症するわけではないからだ」と指摘している。 今回の研究には関与していない米ノースウェル・ヘルスのDonna Armellino氏は、高齢患者と入院歴のある患者がC. difficileの保有リスクが高いことを強調した上で、「正常な消化管の細菌叢の多くは手術や抗菌薬の使用、あるいは他のメカニズムによって変化する可能性がある。そして症状が現れ、抗菌薬による治療が行われることになる」と説明。通常、CDIの発症を予防する目的で患者に抗菌薬が投与されることはないが、同氏は、「この点については、研究で検討する必要がある」と話している。また、多くの病院では患者たちが浴室を共有し、至近距離で過ごすが、今回の研究は個室のあるICUの患者を対象としていたことを指摘。そのことが、この研究で示された患者間の感染率の低さの要因となっている可能性があるとの見方を示している。

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鎮咳薬や去痰薬がひっ迫、国が節度ある処方・在庫確保を求める【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第119回

医薬品の流通不安や在庫不足がこんなに長く大変なものになるとは思ってもみませんでした。とくに鎮咳薬や去痰薬の品薄状態は顕著で、もう薬局の努力だけではどうにもならない状態まできています。その流通問題に関して、厚生労働省が9月29日に通知を発出しました。内容としては、鎮咳薬や去痰薬が安定的に供給されるまでの間、以下3点を各所にお願いする内容になっています。1.鎮咳薬(咳止め)・去痰薬については、初期からの長期での処方を控えていただき、医師が必要と判断した患者へ最小日数での処方に努めていただきたいこと。また、その際に残薬の有効活用についても併せて御検討いただきたいこと。2.薬局におかれては、処方された鎮咳薬(咳止め)・去痰薬について、自らの店舗だけでは供給が困難な場合であっても、系列店舗や地域における連携により可能な限り調整をしていただきたいこと。3.鎮咳薬(咳止め)・去痰薬について、必要な患者に広く行き渡るよう、過剰な発注は控えていただき、当面の必要量に見合う量のみの購入をお願いしたいこと。医師や薬剤師などに対して、過剰な処方や在庫確保、発注は控えるようにという通知です。この通知で節度ある処方や在庫確保となり、この混乱が少しでも落ち着けばよいのですが、そんなに甘くもないだろうなとも思います。今回の通知の前提として、「新型コロナウイルス感染症やインフルエンザなどの感染症の拡大に伴い鎮咳薬(咳止め)・去痰薬の需要が増加しており、製造販売業者からの限定出荷が生じている」と記されています。また、その具体的な数字も出されていて、「主要な鎮咳薬(咳止め)の供給量については、新型コロナウイルス感染症の流行以前の約85%まで生産量が低下しており、また主要な去痰薬の供給量については、新型コロナウイルス感染症の流行以前と同程度ではあるものの、メーカー在庫が減少している状況」とあります。え? ちょっと待って、と思いませんか? 今回のお願いの前提となっている「生産量がコロナ禍の前より減少している」という点に少し驚きました。需要が増えているから不足しているとばかり思っていましたが、生産量自体が減っているというのはちょっと意外です。今回の医薬品の流通問題は、先発医薬品も後発医薬品も含む薬価制度などの医薬産業の構造の問題である可能性もあります。その場合、今回の通知で節度ある行動がとられたとしてもその生産量は増えないと思われ、薬価の変更や薬価制度の見直しなどの抜本的な対応がとられない限り、残念ながらこの供給不足は解決しないだろうと想像します。また一方で、後発医薬品については、後発品調剤体制加算や後発品使用体制加算などに関する臨時的な取り扱いを延長するという通知「後発医薬品の出荷停止等を踏まえた診療報酬上の臨時的な取扱いについて」が発出されました。実績要件である後発医薬品の使用(調剤)割合を算出する際に算出対象から除外しても差し支えない、とするものです。今回の延長は前回と同様ですが、後発医薬品の供給停止や出荷調整が続いており、代替の後発品の入手が困難な状況となっていることを踏まえたものであるとされています。この後発医薬品の供給停止や出荷調整が始まって2年以上が経過し、この通知の延長は今回で3回目です。10月1日以降に除外対象となる医薬品は、2023年6月1日時点で医政局医薬産業振興・医療情報企画課に供給停止に関する報告があった85成分980品目で、今回示した供給停止品目と同一成分・同一投与形態の医薬品を除外しても差し支えないとしています。また、これまでと同様に、一部の成分の品目のみの除外は認められないこと、1ヵ月ごとに適用できること、加算などの施設基準を直近3ヵ月の新指標の割合の平均を用いる場合は当該3ヵ月にこの取り扱いを行う月と行わない月が混在しても差し支えない、などの注意点がありますので注意が必要です。加算算出方法の臨時的な取り扱いの延長などは助かりますが、やはり一番に望むことは適切な量の医薬品が安定的に流通することです。医薬品の流通問題については各所で議論されていますが、抜本的かつ効果的な対策が早急にとられることを切に願います。

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コロナ罹患後症状の患者、ワクチン接種で症状軽減か?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの接種は、COVID-19の重篤化を予防する。しかし、コロナ罹患後症状を有する患者に対するコロナワクチン接種が罹患後症状や免疫応答、ウイルスの残存に及ぼす影響は不明である。そこで、カナダ・Montreal Clinical Research InstituteのMaryam Nayyerabadi氏らの研究グループは、コロナ罹患後症状を有する患者を対象にコロナワクチンの効果を検討し、コロナワクチンは炎症性サイトカイン/ケモカインを減少させ、コロナ罹患後症状を軽減したことを明らかにした。本研究結果は、International Journal of Infectious Diseases誌オンライン版2023年9月15日号に掲載された。ワクチン接種はコロナ後遺症を軽減させる可能性 研究グループは、コロナ罹患後症状(世界保健機関[WHO]の定義※に基づく)を有する患者83例を対象とした前向きコホート研究を実施した。対象患者のコロナワクチン接種前後の罹患後症状数、罹患後症状を有する臓器数、心理的幸福度(WHO-5精神健康状態表[WHO-5]に基づく)を評価した。また、全身性炎症のバイオマーカーや血漿中のサイトカイン/ケモカイン量、血漿中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗原量、SARS-CoV-2由来のタンパク質に対する抗体量なども評価した。本記事では、組み入れ時にコロナワクチン未接種であった39例を対象に、ワクチン接種前後に評価した縦断的解析の結果を示す。※新型コロナウイルスに罹患した人にみられ、少なくとも2ヵ月以上持続し、他の疾患による症状として説明がつかないもの。 コロナ罹患後症状を有する患者を対象にワクチンの効果を検討した主な結果は以下のとおり。・ワクチン接種前後のコロナ罹患後症状数(平均値±標準偏差[SD])は、ワクチン接種前が6.56±3.1であったのに対し、ワクチン接種後は3.92±4.02であり、有意に減少した(p<0.001)。また、罹患後症状を有する臓器数(平均値±SD)はワクチン接種前が3.19±1.04であったのに対し、ワクチン接種後は1.89±1.12であり、こちらも有意に減少した(p<0.001)。・WHO-5スコア(平均値±SD)は、ワクチン接種前が42.67±22.76であったのに対し、ワクチン接種後は56.15±22.83であり、心理的幸福度が有意に改善した(p<0.001)。・コロナワクチン接種後において、16種類のサイトカイン/ケモカイン量がワクチン接種前と比較して有意に減少した。・ワクチン接種前において、血漿中からSARS-CoV-2スパイク(S)タンパク質とヌクレオカプシド(N)タンパク質がそれぞれ17.9%(7/39例)、38.5%(15/39例)に検出されたが、ワクチン接種前後において、血漿中濃度に有意な変化はみられなかった。・ワクチン接種前において、Sタンパク質、Nタンパク質、Sタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)に対するIgG抗体およびIgM抗体が検出された。ワクチン接種後において、Nタンパク質に対する血中のIgG抗体、IgM抗体の濃度が有意に減少したが、Sタンパク質、RBDに対する血中のIgG抗体の濃度は有意に増加した。 本研究結果について、著者らは「コロナ罹患後症状を有する患者は、コロナ罹患後症状に関連する炎症反応が亢進していることが示され、コロナワクチン接種は炎症反応を低下させることによってコロナ罹患後症状を軽減させる可能性が示された。また、コロナ罹患後症状を有する患者には、ワクチン接種とは関係なくウイルス産物が検出される患者が存在し、炎症の持続に関与している可能性がある」とまとめた。

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モデルナのインフル・コロナ混合ワクチン、第I/II相で良好な結果

 米国・Moderna社は10月4日付のプレスリリースにて、同社で開発中のインフルエンザと新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する混合ワクチン「mRNA-1083」が、第I/II相臨床試験において良好な中間結果が得られたことを発表した。同ワクチンは、インフルエンザおよびCOVID-19に対して強い免疫原性を示し、反応原性および安全性プロファイルは、すでに認可されている単独ワクチンと比較して許容範囲内であった。本結果を受けて、mRNA-1083は第III相試験に進むことを決定した。 第I/II相臨床試験「NCT05827926試験」は観察者盲検無作為化試験で、混合ワクチンmRNA-1083と、50~64歳への標準用量のインフルエンザワクチン(Fluarix)、および65~79歳への強化インフルエンザワクチン(Fluzone HD)とを比較し、安全性と免疫原性を評価した。また両年齢層において、mRNA-1083と、2価の追加接種用COVID-19ワクチン(Spikevax)とも比較して評価した。 主な結果は以下のとおり。・mRNA-1083は、4価インフルエンザワクチンと同等以上の赤血球凝集抑制抗体価が認められた。50~64歳へのmRNA-1083はFluarixと比較して、インフルエンザウイルスA型およびB型の全4株について、幾何平均力価(GMT)比が1.0以上だった。65~79歳へのmRNA-1083もFluzone HDと比較して、GMT比が1.0以上だった。・mRNA-1083は、Spikevax 2価ワクチンと同等のSARS-CoV-2中和抗体価が認められた。Spikevaxに対するmRNA-1083のGMT比は、50~64歳で0.9以上、65~79歳で1.0以上だった。・mRNA-1083投与後に報告された局所および全身性の副反応は、COVID-19単独ワクチン投与群と同程度だった。副反応の大部分は重症度がGrade1/2であった。・Grade3の局所/全身反応は、50歳以上の参加者の4%未満で報告された。・mRNA-1083については、単独ワクチンと比較して安全性に関する新たな懸念は確認されなかった。 同社は、2023年にmRNA-1083の第III相試験を開始する予定であり、2025年に本混合ワクチンの承認を目標としている。

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医療従事者、職種ごとの自殺リスク/JAMA

 米国の非医療従事者と比較した医療従事者の自殺のリスクについて、正看護師、医療技術者、ヘルスケア支援従事者の同リスクが高いことを、米国・コロンビア大学のMark Olfson氏らがコホート研究の結果で報告した。歴史的に医師の自殺リスクは高かったが、この数十年で減少した可能性が指摘されていた。一方で、他の医療従事者の自殺リスクに関する情報は、依然として不足していた。今回の結果を踏まえて著者は、「米国の医療従事者のメンタルヘルスを守るため、新たな計画への取り組みが必要である」とまとめている。JAMA誌2023年9月26日号掲載の報告。26歳以上の184万2,000人について解析 研究グループは、2008年の米国コミュニティ調査(American Community Survey:ACS)を国民死亡記録(National Death Index:NDI)に連携させた米国コミュニティ間の死亡率格差(Mortality Disparities in American Communities:MDAC)データを用い、26歳以上の雇用されているACS参加者184万2,000人を同定し解析した。調査期間は、2019年12月31日まで。 主要アウトカムは、年齢および性別で標準化した自殺率で、6つの医療従事者グループ(医師、正看護師、その他の医療診断または治療従事者、医療技術者、ヘルスケア支援従事者、社会/行動ヘルスワーカー)および非医療従事者について推定した。Cox比例ハザードモデルを用い、年齢、性別、人種/民族、配偶者の有無、教育、居住地(都市部または地方)で調整後、非医療従事者に対する医療従事者の自殺に関するハザード比(HR)を算出した。ヘルスケア支援従事者、正看護師、医療技術者で自殺のリスクが上昇 10万人(年齢中央値44歳[四分位範囲[IQR]:35~53]、女性32.4%[医師]~91.1%[正看護師])当たりの年間標準化自殺率は、ヘルスケア支援従事者21.4(95%信頼区間[CI]:15.4~27.4)、正看護師16.0(9.4~22.6)、医療技術者15.6(10.9~20.4)、医師13.1(7.9~18.2)、社会/行動ヘルスワーカー10.1(6.0~14.3)、その他の医療診断または治療従事者7.6(3.7~11.5)、非医療従事者12.6(12.1~13.1)であった。 非医療従事者に対する自殺の調整後HR(aHR)は、医療従事者全体が1.32(95%CI:1.13~1.54)、ヘルスケア支援従事者が1.81(1.35~2.42)、正看護師が1.64(1.21~2.23)、および医療技術者が1.39(1.02~1.89)で増加したが、医師は1.11(0.71~1.72)、社会/行動ヘルスワーカーは1.14(0.75~1.72)、その他の医療診断または治療従事者は0.61(0.36~1.03)で増加しなかった。 なお、著者は研究の限界として、死亡率のデータは2019年に終了しており新型コロナウイルス感染症時代の自殺リスクを反映していないこと、ICD-10の臨床修正コードに基づく死亡データは自殺死を正確に分類していない可能性があること、個々の調査の回答の正確性を検証する手段がないこと、ACSは雇用前の自殺未遂や精神障害など重要な自殺のリスク因子を調べていないこと、などを挙げている。

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イラン産の新型コロナワクチン、有用性は?/BMJ

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する不活化全ウイルス粒子ワクチンBIV1-CovIran(イラン・Shifa-Pharmed Industrial Group製)の2回接種は、有効率が症候性新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して50.2%、重症化に対して70.5%、重篤化に対して83.1%であり、忍容性も良好で安全性への懸念はないことを、イラン・テヘラン医科大学のMinoo Mohraz氏らが多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験の結果で報告した。BIV1-CovIranは、第I相および第II相試験において、安全で免疫原性のあるワクチン候補であることが示されていたが、症候性感染や重症化/重篤化あるいはCOVID-19による死亡に対する有効性は、これまで評価されていなかった。BMJ誌2023年9月21日号掲載の報告。2万例を対象に、有効性、安全性、免疫原性をプラセボと比較 研究グループは、イランの6都市(ブーシェフル、イスファハン、カラジ、マシュハド、シラーズおよびテヘラン)のワクチン接種センターにおいて、18~75歳の2万例をワクチン接種群とプラセボ群に2対1の割合で無作為に割り付け、5μg(0.5mL)を28日間隔で2回接種した。最初の接種は2021年5月16日(テヘラン)、最後の接種は2021年7月15日(イスファハン)であった。 主要アウトカムは、90日間の追跡調査期間におけるワクチンの有効性、安全性、探索的な免疫原性および試験期間中の変異株検出とした。有効率は症候性感染予防50.2%、重症化予防70.5%、重篤化予防83.1% 対象2万例のうち、ワクチン接種群は1万3,335例(66.7%)、プラセボ群は6,665例(33.3%)であり、平均年齢は38.3(標準偏差11.2)歳、女性が6,913例(34.6%)であった。 追跡調査期間(中央値83日)において、ワクチン接種群では症候性COVID-19が758例(5.9%)に認められ、144例(1.1%)が重症、7例(0.1%)が重篤であった。プラセボ群ではそれぞれ688例(10.7%)、221例(3.4%)、19例(0.3%)であった。 全体としてワクチンの有効率は、症候性COVID-19に対して50.2%(95%信頼区間[CI]:44.7~55.0)、重症COVID-19に対して70.5%(63.7~76.1)、重篤化に対して83.1%(61.2~93.5)であった。有効性解析対象集団において、プラセボ群で2例の死亡が報告されたが、ワクチン接種群で死亡の報告はなかった。 追跡調査中に有害事象が4万1,922件報告され、そのうち2万8,782件(68.7%)が副反応であった。副反応のうち1万9,363件(67.3%)がワクチン接種群でみられた。ほとんどの副反応は、軽度または中等度(Grade1または2)で自然軽快した。注射に関連した重篤な有害事象は確認されなかった。 SARS-CoV-2変異株陽性者は119例で、このうち106例(89.1%)がデルタ株陽性であった。

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第65回 男性へのHPVワクチンについに助成か

東京都がついに!Unsplashより使用ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンについて懐疑的な見解をいまだにSNSなどで耳にしますが、接種によって子宮頸がんの低減に効果的であることが徐々に認識されてきました。しかし、男性に対するHPVワクチン接種については「さすがにそれはいらんやろ」と思っている方が医療従事者でも数多く見受けられます。海外では男性のHPVワクチン接種率は高く、アメリカでは半数以上の男性が接種しています。HPVワクチンは、日本では9歳以上の女性のみが長らくその対象でしたが、2020年12月に4価HPVワクチンが9歳以上の男性へ適応となり、国内でも男性に対してHPVワクチンが接種できるようになっています。それでもまだまだ接種が少ない状況です。その足かせの1つに、全3回で5~6万円かかる費用的な問題もありました。東京都議会において、小池 百合子知事が「子宮頸がんの主たる原因となるHPVワクチンについて、女性だけでなく男性への接種が進むよう、行政への支援を検討する」という方針を示しました1)。いやー、これは歴史的な一歩です。男性に対するHPVワクチンのメリット男性へHPVワクチンを接種するメリットは、中咽頭がん、肛門がん、陰茎がんといったHPVが関連する悪性腫瘍のリスク低減につながること、尖圭コンジローマなどの性感染症の予防につながること、そして何より将来のパートナーの子宮頸がんのリスクを減らすことができることにあります。この中でも、中咽頭がんは軽視されがちな疾患で、HPV関連悪性腫瘍だけで見ると、子宮頸がんに匹敵する患者数となっています。失われる健康よりも、接種するメリットのほうが大きい疾患であることから、この流れがほかの自治体でも踏襲され、男性のHPVワクチンの助成が進めばよいなあと思っています。そのためには「子宮頸がんワクチン」という呼び方ではなく、「HPVワクチン」という形で啓発していく必要があるのですが、そのあたりの舵取りをうまくやらないと、なかなか接種率は上がらないかもしれません。参考文献・参考サイト1)小池知事 男性の「HPVワクチン」接種 費用補助も含め検討(NHK)

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複雑性黄色ブドウ球菌菌血症へのceftobiprole、ダプトマイシンに非劣性/NEJM

 複雑性黄色ブドウ球菌菌血症の成人患者において、ceftobiproleはダプトマイシンに対し、全体的治療成功に関して非劣性であることが示された。米国・デューク大学のThomas L. Holland氏らが、390例を対象に行った第III相二重盲検ダブルダミー非劣性試験の結果を報告した。ceftobiproleは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの複雑性黄色ブドウ球菌菌血症の治療に効果的である可能性が示されていた。NEJM誌オンライン版2023年9月27日号掲載の報告。ceftobiproleまたは、ダプトマイシンと必要に応じアズトレオナム投与 研究グループは、複雑性黄色ブドウ球菌菌血症の成人被験者を無作為に2群に分け、一方の群にはceftobiprole(500mgを静脈内投与、8日間は6時間ごと、その後は8時間ごと)、もう一方の群にはダプトマイシン(6~10mg/kg体重を静脈内投与、24時間ごと)を投与し、ダプトマイシン群では必要に応じてアズトレオナムも投与した。 主要アウトカムは、無作為化70日後の全体的治療成功(生存、血液培養陰性化、症状改善、新たな黄色ブドウ球菌菌血症関連の合併症がない、他の効果がある可能性のある抗菌薬を非投与)だった。非劣性マージンは15%とし、データ評価委員会が判断した。安全性についても評価した。全体的治療成功率、両群ともに69~70% 無作為化された390例のうち、黄色ブドウ球菌菌血症が確認され実薬を投与されたのは387例(ceftobiprole群189例、ダプトマイシン群198例)だった(修正ITT集団)。 全体的治療成功を達成したのは、ceftobiprole群189例中132例(69.8%)、ダプトマイシン群198例中136例(68.7%)であった(補正後群間差:2.0%ポイント、95%信頼区間[CI]:-7.1~11.1)。主なサブグループ解析および副次アウトカムの評価についても、両群の結果は一貫しており、死亡率はそれぞれ9.0%と9.1%(95%CI:-6.2~5.2)、菌消失率は82.0%と77.3%(-2.9~13.0)だった。 有害事象は、ceftobiprole群191例中121例(63.4%)、ダプトマイシン群198例中117例(59.1%)で報告された。重篤な有害事象は、それぞれ36例(18.8%)と45例(22.7%)で報告された。消化器関連の有害事象(主に軽度の悪心)は、ceftobiprole群でより発現頻度が高かった。

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動物咬傷(犬、猫)【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第7回

今回は動物咬傷の処置を紹介します。一概に動物といっても種類は無数にあり、Review報告の頻度が高いのは想像どおり犬や猫ですが、それ以外にも蛇やげっ歯類、馬、クモ、サメ、アリゲーター/クロコダイルなどが報告に挙がっています1)。私は医師3年目のときに、アメリカの救急医向けの著書「Tintinalli's Emergency Medicine」でアナコンダにかまれたときの対処法を学びましたが、「人生で遭遇する機会はないだろうなぁ」と思いながら読んでいました2)。実際に私が経験する機会の多い咬傷の第1位は犬で、次いで猫、そして人です。蛇咬傷については第5回をご参照ください。今回は犬咬傷で、創が比較的小さく(3cm未満)、四肢をかまれた場合の処置に限定します。犬と猫は基本的には治療は変わりませんが、しいて言えば猫のほうが歯が細くて鋭く、創が小さく深い傾向にあります。創が大きい、もしくは美容的に縫合が必要な場合(顔面など)はアプローチが別になります。<症例>72歳男性主訴飼い犬にかまれた高血圧、糖尿病で定期通院中。受診2時間前に飼い犬のマルチーズに手をかまれた。自宅にあった消毒液で消毒し、包帯を巻いた状態で定期受診。診察が終わったときに自分から「今日手をかまれて血が出て大変だったんだよ」と言い、犬咬傷が判明。既往歴糖尿病、高血圧アレルギー歴なしバイタル特記事項なし右前腕2ヵ所に1cm程度の創あり。発赤なし。内科外来をしていると上記のようなことを偶然聴取することがあります。さて、これは「そうなんだ。大変だったね~」とこのまま帰してよいのでしょうか?報告によると、犬咬傷は咬傷全体の80%を占め、若い男性に多く、餌を取り上げるなど犬に不快感を与えたときにかまれることが多いそうです3)。私が小さいころ、田舎の犬が食事をしていたときに、いつもは喜ぶ頭なでなでをしたら吠えられて驚いた記憶があります。この患者さんはとくに理由もなくほぼ毎日かまれているそうですが、ここまで深くかまれたのは初めてだったとのことです。ちなみに、犬咬傷の次に多いのが猫咬傷で全体の10%程度、若い女性に多いようです1)。咬傷で危険なのは、かみ傷が神経や血管を損傷することですが、感染も同等に危険です。口腔内には多種多様な菌がいて、感染のリスクが高いです。動物にかまれた後1~2日してから病院を受診した患者では、入院や外科的処置が必要になるリスクが3.5~7倍高くなるという報告があります4)。早期に適切な処置をして感染を防ぐことが重要ですので、治療をステップに分けて説明します。(1)鎮痛、創の深さ・異物の有無の確認創に対して処置を行うのでしっかりと鎮痛しましょう。動物咬傷は感染リスクが高いため可能な限り縫合は避けます。縫合しない場合は、私は鎮痛薬としてキシロカインの注射剤ではなく、ゼリー剤を用います。塗布してガーゼで覆い、5分ほど待ってから創の深さと異物の有無を確認しましょう。私はこういった小さな創に対しては眼科用ピンセットを用いて深さや異物の有無を確認しています。創部内の観察が困難な場合もありますが、動物咬傷で異物となるのは歯ですので、疑わしい場合はレントゲンを撮影しましょう。本症例は眼科攝子を入れたところ創は浅く、可視範囲に異物はないと判断しました。(2)洗浄、消毒この患者が自宅で行った処置は創に消毒液を塗ったことだけでした。非医療者はこういった処置で終わることが非常に多い印象があります。しかし、咬傷は創の入口が狭くて深いことが多く、唾液などの汚染物質が創部内に残ります。ですので、表面だけを洗ったり消毒したりするだけでは十分な処置とはいえません。汚染された創を洗浄するためには、8psi(Pound per Square Inch)の圧が理想とされていて、図1のように20mLのシリンジの先に20ゲージの静脈留置針の外套を付けるとちょうどよい値になります5)。図1 20mLのシリンジに20G静脈留置針を装着画像を拡大する私は創が小さい場合、眼科用ピンセットがあればピンセットで入り口を広げ、シリンジを用いて圧をかけながら外から洗浄します。創の入り口を広げるのが難しい場合は、そのまま外から圧をかけて洗浄します。この際に「針を創に入れて洗浄すればよいのでは?」と思われるかもしれませんが、かけた圧力の逃げ場がないため、皮下に大きな死腔を作ってしまうことがありますので控えてください(図2)。洗浄の量は傷1cm当たり100~200mLが推奨されています6)。図2 入り口が狭い創に圧をかけると皮下に死腔ができる画像を拡大する創の消毒に関して有効性が示唆された報告はなく、ポピドンヨードや次亜塩素酸ナトリウムは組織障害性が強いこともあり、すべて症例に積極的な推奨はされていません7)。しかし、創の汚染が強いときに消毒することを否定する根拠もありませんので、状況に合わせて消毒を行うことをお勧めします。私は、「創の汚染が強いとき」「初回のみ」消毒しています。水道水や生理食塩水の代わりに、消毒液を用いて洗浄することは効果的ではないので控えましょう。次に必要になるのは創の処置です。口腔内には嫌気性菌を含めた細菌が多数いるため、動物咬傷では口腔内の汚染物質が創に入り込みます。入り口を塞ぐと、(1)空気に触れない、(2)創内のドレナージができない、という事態が生じて感染リスクが上がるとされているので、可能であれば縫合しません。もし美容的に問題がある場合はリスク・ベネフィットを説明して縫合します。今回のような小さく深い創の場合は、ナイロン糸を用いたドレナージが有効です。私は1-0から3-0の太さのナイロン糸1本を図3のように先端が輪っかになるように結び、輪っか側の先端を創に挿入してテープで固定します。図3 ドレナージ用のナイロンの作り方とドレナージの方法画像を拡大する創には抗菌薬入りの軟膏を塗ったガーゼを被せ、1日1回水道水で洗浄してから軟膏ガーゼを交換するように指導しています。若手医師からドレナージ抜去のタイミングに関して聞かれることがありますが、私は受傷2~3日して感染兆候がなければ除去しています。ガーゼを頻回(1日2回以上)交換しなければならないほど浸出液が多い場合は留置を継続しますが、長くても1週間としています。本症例は、嫌気性菌のカバーを目的に、アモキシシリン・クラブラン酸配合剤250mg+アモキシシリン単剤250mgを3錠ずつ5日分処方して帰宅としました。また、破傷風の予防接種を受けたことがなかったため、破傷風トキソイドも投与しました。患者には3日後に来院してもらい創を観察したところ、ナイロン糸は残っており、浸出液は少量で感染兆候がなかったため、糸ドレナージを除去しました。抗菌薬は飲み切り終了し、毎日のガーゼ交換は継続してもらったところ、1週間後の診察で創はきれいになっていたため、咬傷に対する通院は終了としました。軟膏ガーゼは浸出液が付かなくなるまで継続してもらい、何かあれば再診を指示しましたが、次の定期受診までとくに問題はありませんでした。患者さんは相変わらず毎日犬にかまれているものの、「犬と接する際はなるべく手袋、長袖を着るようにした」と工夫していました。そもそも犬にかまれないようにする何かよい方法はないのかなと思いましたが、私は犬を飼ったことがないため何もアドバイスできませんでした…。軽症の動物咬傷は患者自身が処置して感染症を引き起こすことがあり、より大きな処置が必要になることがあります。適切な診断・加療が必要ですので参考にしてください。動物咬傷の豆知識感染してしまったとき今回の症例で、もし残念ながら感染してしまった場合はどうしましょうか? この場合、ドレナージが十分にできていない可能性があります。そのため、糸ドレナージは抜去して、創内を十分にドレナージできる程度に切開する必要があります。自信がなければ専門科に相談しましょう。十分なドレナージと抗菌薬でほとんどの動物咬傷の感染は改善します。感染が関節にかかっている場合感染が関節にかかっている場合は、化膿性関節炎の可能性や手の咬傷でカナベルの4徴(屈筋腱に沿った圧痛、患指の腫脹、患指の軽度屈曲位、受動的に患指を伸展すると激痛を訴える)を認める場合は化膿性屈筋腱炎の可能性があり、専門的な処置が必要なためコンサルトしましょう8)。1)Savu AN, et al. Plast Reconstr Surg Glob Open. 2021;9:e3778.2)Tintinalli JE, et al. Tintinalli’s Emergency Medicine: A Comprehensive Study Guide 8th edition. McGraw-Hill Education;2016.3)Basco AN, et al. Public Health Rep. 2020;135:238-244.4)Speirs J, et al. J Paediatr Child Health. 2015;51:1172-1174.5)Shetty R, et al. Indian J Plast Surg. 2012;45:590-591.6)Moscati RM, et al. Acad Emerg Med. 2007;14:404-409.7)Chisholm CD, et al. Ann Emerg Med. 1992;21:1364-1367.8)Kennedy CD, et al. Clin Orthop Relat Res. 2016;474:280-284.

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ノーベル生理学・医学賞、mRNAワクチン開発のカリコ氏とワイスマン氏が受賞

 2023年のノーベル生理学・医学賞は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンの開発を可能にしたヌクレオシド塩基修飾の発見に対して、カタリン・カリコ(Katalin Kariko)氏とドリュー・ワイスマン(Drew Weissman)氏に授与することを、スウェーデン・カロリンスカ研究所のノーベル委員会が10月2日に発表した。カリコ氏とワイスマン氏の画期的な発見は、mRNAがヒトの免疫系にどのように相互作用するかという理解を根本的に変え、人類に対して最大の脅威の1つとなったCOVID-19パンデミックにおいて、前例のないワクチン開発に貢献した。授賞式は12月10日にストックホルム市庁舎にて開催される。 ノーベル委員会はプレスリリースにて、カリコ氏とワイスマン氏の業績を紹介している1)。以下に抜粋して紹介する。「mRNAワクチン」という有望なアイデア ヒトの細胞では、DNAにコードされた遺伝情報がmRNAに伝達され、これがタンパク質生産の鋳型として使われる。1980年代、細胞培養なしにmRNAを生産する効率的な方法が導入された。この決定的な一歩は、いくつかの分野における分子生物学的応用の発展を加速させた。mRNA技術をワクチンや治療に利用するアイデアも浮上したが、その前に障害が待ち構えていた。in vitroで転写されたmRNAは不安定で、送達が困難であると考えられていたため、mRNAを脂質ナノ粒子によってカプセル化する必要があった。さらに、in vitroで産生されたmRNAは炎症反応を引き起こした。そのため、臨床目的のmRNA技術開発に対する熱意は、当初は限られたものであった。 ハンガリー出身の生化学者であるカリコ氏は、このような障害にも挫けずに、mRNAを治療に利用する方法の開発に力を注いだ。同氏が米国・ペンシルベニア大学の助教授だった1990年代初頭、自身のプロジェクトの意義について研究資金提供者を説得するのが困難であったにもかかわらず、mRNAを治療薬として実用化するというビジョンに忠実であり続けた。ペンシルベニア大学の同僚であった免疫学者のワイスマン氏は、免疫監視とワクチン誘発免疫応答の活性化において重要な機能を持つ樹状細胞に興味を持っていた。新しいアイデアに刺激され共同研究が始まり、異なるタイプのRNAが免疫系とどのように相互作用するかに焦点を当てた。ブレークスルー カリコ氏とワイスマン氏は、樹状細胞がin vitroで転写されたmRNAを異物として認識し、活性化と炎症シグナル分子の放出につながることに気付いた。哺乳類細胞からのmRNAは同じ反応を起こさないため、in vitroで転写されたmRNAはなぜ異物として認識されるのか疑問に感じ、何らかの重要な特性が、異なるタイプのmRNAを区別しているに違いないと考えた。 RNAにはA、U、G、Cの4つの塩基があり、DNAのA、T、G、Cに対応している。カリコ氏とワイスマン氏は、哺乳類細胞のmRNAの塩基は頻繁に化学修飾されるが、in vitroで転写されたmRNAの塩基は化学修飾されないことを認めており、in vitroで転写されたRNAの塩基が変化していないことが、好ましくない炎症反応の説明になるのではないかと考えた。これを調べるため、研究チームは塩基に独自の化学修飾を施したさまざまな変異型mRNAを作製し、樹状細胞に投与した。結果は驚くべきもので、mRNAに塩基修飾を加えると、炎症反応はほとんど消失した。これは、細胞がどのようにしてさまざまな形のmRNAを認識し、それに反応するかという理解にパラダイム変化をもたらすものであった。カリコ氏とワイスマン氏は自らの発見がmRNAを治療に利用するうえで重大な意味を持つことを理解し、この画期的な結果は2005年に発表された2)。これはCOVID-19が流行する15年前であった。 カリコ氏とワイスマン氏が2008年3)と2010年4)に発表したさらなる研究で、塩基を修飾して作成したmRNAを送達すると、修飾していないmRNAに比べてタンパク質産生が著しく増加することを示した。この効果は、タンパク質産生を制御する酵素の活性化が抑制されたことによるものであった。カリコ氏とワイスマン氏は、塩基修飾が炎症反応を抑制し、タンパク質産生を増加させるという発見を通して、mRNAの臨床応用に至る重要な障害を取り除いた。mRNAワクチンの可能性 mRNA技術への関心が高まり始め、2010年にはいくつかの企業が開発に取り組んでいた。ジカウイルスや、SARS-CoV-2と関連が深いMERS-CoVに対するワクチンの開発が進められていた。COVID-19パンデミック発生後、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質をコードする2つの塩基修飾mRNAワクチンが記録的なスピードで開発された。約95%の予防効果が報告され、両ワクチンとも2020年12月に承認された。 mRNAワクチンの驚くべき柔軟性と開発スピードは、この新たなプラットフォームをほかの感染症に対するワクチンにも利用する道をひらくものだ。将来的には、この技術は治療用タンパク質の送達や、ある種のがんの治療にも使用されるかもしれない。 SARS-CoV-2に対して、mRNAワクチンとは異なる方法論に基づくワクチンも急速に導入され、合わせて130億回以上のCOVID-19ワクチンが世界中で接種された。このワクチンによって何百万人もの命が救われ、さらに多くの人々の重症化を防ぐことができた。今年のノーベル賞受賞者たちは、mRNAにおける塩基修飾の重要性という根本的な発見を通じて、現代の最大の健康危機における変革的発展に大きく貢献した。 カタリン・カリコ氏は、1955年ハンガリーのソルノク生まれ。1982年にセゲド大学で博士号を取得後、1985年までセゲドにあるハンガリー科学アカデミーで博士研究員として勤務。その後渡米し、テンプル大学(フィラデルフィア)とUniformed Services University of the Health Sciences(USUHS)(ベセスダ)で博士研究員として勤務。1989年にペンシルベニア大学の助教授に任命され、2013年まで在籍。その後、BioNTech社副社長、後に上級副社長に就任。2021年よりセゲド大学教授、ペンシルベニア大学ペレルマン医学部非常勤教授。 ドリュー・ワイスマン氏は1959年米国マサチューセッツ州レキシントン生まれ。1987年にボストン大学で医学博士号を取得。ハーバード大学医学部のベス・イスラエル・ディーコネス医療センターで臨床研修を受け、米国国立衛生研究所(NIH)で博士研究員として研究。1997年、ペンシルベニア大学ペレルマン医学部に研究グループを設立。The Roberts Family Professor(ワクチン研究)、ペンシルベニア大学RNAイノベーション研究所所長。

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XBB.1.5対応コロナワクチン、新規剤形を申請/ファイザー

 ファイザーとビオンテックは9月29日付のプレスリリースにて、オミクロン株XBB.1.5系統対応新型コロナウイルス感染症(COVID-19)1価ワクチンの新規の剤形について、厚生労働省に承認申請したことを発表した。 今回申請した新規の剤形は以下のとおり。・12歳以上用:プレフィルドシリンジ製剤(希釈不要)・5~11歳用:1人用のバイアル製剤(希釈不要)・6ヵ月~4歳用:3人用のバイアル製剤(要希釈) また、12歳以上用の1人用バイアル製剤(希釈不要)については2023年9月1日に承認を取得している。 これらの製剤は2024年以降の接種に向けたものであり、2023年9月開始の予防接種法上の特例臨時接種において使用されることはない。

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膿疱性乾癬のフレア予防、高用量のスペソリマブが有効/Lancet

 膿疱性乾癬(汎発型)(GPP)の急性症状(フレア)の予防において、プラセボと比較して抗インターロイキン36受容体(IL-36R)モノクローナル抗体スペソリマブの高用量投与は、GPPの急性症状の発現を改善し、安全性プロファイルも良好であることが、名古屋市立大学の森田 明理氏らが実施した「Effisayil 2試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年9月19日号で報告された。20ヵ国の無作為化プラセボ対照第IIb相試験 Effisayil 2試験は、日本を含む20ヵ国60施設で実施された無作為化プラセボ対照第IIb相試験であり、2020年6月~2022年11月に患者のスクリーニングを行った(Boehringer Ingelheimの助成を受けた)。 対象は、年齢12~75歳、European Rare and Severe Psoriasis Expert Network基準でGPPの既往歴が証明され、過去に少なくとも2回のGPPの急性症状の発生を認め、スクリーニング時と無作為割り付け時に「医師による膿疱性乾癬(汎発型)の全般的評価(GPPGA)」のスコアが0または1点の患者であった。 これらの患者を、プラセボ、低用量スペソリマブ(負荷用量300mgを投与後に12週ごとに150mgを投与)、中用量スペソリマブ(負荷用量600mgを投与後に12週ごとに300mgを投与)、高用量スペソリマブ(負荷用量600mgを投与後に4週ごとに300mgを投与)を48週間皮下投与する群に、1対1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、48週の投与期間における初回GPP急性症状の発生までの期間とし、用量反応曲線がnon-flatであることとした。 123例を登録し、スペソリマブ群に92例(低用量群31例、中用量群31群、高用量群30例)、プラセボ群に31例を割り付けた。123例中79例(64%)がアジア人、44例(36%)が白人で、76例(62%)が女性であり、平均年齢は40.4(SD 15.8)歳であった。ベースラインの4群の平均GPPGAスコアは同程度(範囲:3.03~3.92点)だった。高用量群で有意差を確認 急性症状は、48週目までに35例で発生した(低用量群7例[23%]、中用量群9例[29%]、高用量群3例[10%]、プラセボ群16例[52%])。 主要エンドポイントの発生は、プラセボ群に比べ高用量群で有意に優れた(ハザード比[HR]:0.16、95%信頼区間[CI]:0.05~0.54、p=0.0005)。一方、プラセボ群と比較した低用量群のHRは0.35(95%CI:0.14~0.86、名目上のp=0.0057[正式の検定は行っていない])、中用量群のHRは0.47(0.21~1.06、p=0.027[事前に規定された有意水準0.019を満たさない])であり、いずれも統計学的に有意な差は確認されなかった。 主要エンドポイントに関して、プラセボ群との比較において、スペソリマブ群でnon-flatな用量反応関係を認め、各モデルで統計学的に有意な差を示した(線形モデル:p=0.0022、emax1モデル:p=0.0024、emax2モデル:p=0.0023、指数モデル:p=0.0034)。 乾癬症状尺度(PSS)および皮膚疾患特異的QOL尺度(DLQI)の悪化リスクは、48週間でプラセボ群よりもスペソリマブ群で改善したが、いずれの用量群でも有意な差は確認されなかった。 有害事象の頻度はスペソリマブ群(90%)とプラセボ群(87%)で同程度であり、スペソリマブ群では用量依存性のパターンはみられなかった。重度(Grade3/4)の有害事象(19% vs.23%)や試験薬関連の有害事象(40% vs.33%)の頻度も同程度だった。感染症の発生にも差はなかった(33% vs.33%)。また、死亡および試験薬の投与中止の原因となった過敏反応の報告はなかった。 著者は、「GPPの慢性化の特性を考慮すると、急性反応の予防治療は臨床アプローチの重要な転換点となり、最終的に患者における合併症の発生や生活の質の改善つながる可能性がある」と指摘している。

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日本人は肥満が重症コロナ転帰不良のリスク因子でない?

 アジア人の肥満は、人工呼吸器を要する重症新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者において、転帰不良のリスク因子ではないことを示唆するデータが、国内多施設共同研究の結果として報告された。東京医科大学病院救命救急センターの下山京一郎氏らによる論文が、「Scientific Reports」に7月24日掲載された。 COVID-19パンデミックの比較的初期の段階で、肥満が重症化リスク因子の一つであると報告された。しかし重症化して人工呼吸器を要した患者において、肥満が予後に影響を与えるのかは未解明であった。また、アジア人においては大規模なコホート研究がされておらず、知見がより少ない。これを背景として下山氏らは、国内のCOVID-19治療に関するレジストリである「J-RECOVER」のデータを用いた過去起点コホート研究により、ICUに収容され人工呼吸器を要した患者の転帰に肥満が関与しているか否かを検討した。J-RECOVERは国内66施設が参加して実施され、2020年1~9月に退院したCOVID-19症例4,700件の診療報酬包括評価(DPC)データや治療転帰などの情報が登録されている。 解析対象は、ICUにて侵襲的機械換気(IMV)が施行されていた580人から、BMIデータが記録されている477人とした。またアジア人の肥満の影響を検討するという目的から、アジア人以外は除外している。 この477人の年齢は中央値67歳(四分位範囲56~75)、男性78.4%、BMI中央値25.0(22.3~28.1)であり、BMI25未満の非肥満群が242人(50.7%)、BMI25以上の肥満群が235人(49.3%)。各群のBMI中央値は、非肥満群22.4、肥満群28.2だった。 肥満の有無で比較すると、年齢は肥満群のほうが若年で(中央値61対70歳、P<0.001)、糖尿病が多い(33.2対22.7%、P=0.014)という有意差が見られた。ただし、両群ともにチャールソン併存疾患指数(CCI)が中央値0、ICU患者の重症度の指標であるSOFAスコアは4、ICU滞在期間13日で、いずれも同等であり、慢性腎臓病、心不全の有病率も有意差がなかった。 主要評価項目として検討した院内死亡は、非肥満群が71人(29.3%)、肥満群は49人(20.9%)であり、肥満群の方が少なかった(P=0.035)。単変量解析の結果、肥満は院内死亡との有意な負の関連が見られた〔オッズ比(OR)0.634(95%信頼区間0.417~0.965)〕。ただし、説明変数に年齢、性別、CCIを加えた多変量解析では単変量解析で見られた負の関連は消失し、肥満は院内死亡との関連は見られなかった〔OR1.150(同0.717~1.840)〕。 副次的評価項目として検討した体外式膜型人工肺(VV-ECMO)の施行は、非肥満群が38人(15.7%)、肥満群は52人(22.1%)であり有意差がなかった(P=0.080)。単変量解析の結果、肥満は有意な関連因子でなく〔OR1.530(同0.960~2.420)〕、多変量解析の結果も非有意だった〔OR1.110(同0.669~1.830)〕。 著者らは、本研究が後方視的解析であることなどの限界点を述べた上で、「国内のICUにてIMVを要したCOVID-19患者では、肥満は院内死亡リスクと関連がないことが示された。肥満を有することは重症COVID-19転帰不良のリスク因子ではないのではないか」と結論付けている。 なお、欧米での一部の先行研究と異なる結果となった理由について、アジア人の肥満は欧米人ほどBMIが高くなく、本研究においても肥満群のBMIは中央値28.2であって欧米の過体重の範囲にあるという相違の影響を、考察として指摘している。また、肥満群のほうが若年であったこと、および、パンデミック当初に肥満が重症化リスク因子であると報告されていたため、肥満患者に対してより早期に積極的な治療が行われていた可能性の関与も考えられるという。

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