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COVID-19関連のPTSDリスク~6ヵ国の大学生を調査

 ポーランド・ワルシャワ工科大学のDominika Ochnik氏らは、欧州6ヵ国の大学生におけるCOVID-19パンデミックの第1波、第2波の影響および第2波期間中の心的外傷後ストレス障害(PTSD)リスクとその有病率との関連について調査を行った。Journal of Clinical Medicine誌2021年11月26日号の報告。 ドイツ、ポーランド、ロシア、スロベニア、トルコ、ウクライナの大学生を対象に、横断的研究を繰り返し実施した(第1波:1,684人、第2波:1,741人)。COVID-19への曝露は、8項目(COVID-19の症状、検査、COVID-19による入院、親族の感染、親族の死亡、失業、COVID-19パンデミックによる経済状況の悪化)について測定した。COVID-19関連のPTSDリスクの評価には、PTSD評価尺度(PCL-S)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・COVID-19の症状は、ドイツを除く5ヵ国において第1波よりも第2波の方が高かった。・COVID-19の検査は、すべての国において第1波よりも第2波の方が多く、その差はドイツが最も大きかった。・第2波でのCOVID-19による入院は、ポーランド、トルコ、6ヵ国全体の学生において入院率が高かった。・COVID-19の検疫を受けた学生の割合は、ポーランド、トルコ、ウクライナで高かった。・すべての国において、第1波よりも第2波において、友人、親族のCOVID-19感染および死亡を経験していた。・COVID-19による失業率の増加は、ウクライナのみで認められた。・第2波期間中の経済状況は、ポーランドで悪化が認められ、ロシアでは改善が認められた。この理由として、規制の厳しさが影響していると考えらる。・3つのカットオフ値(25、44、50)によるCOVID-19関連のPTSDリスクの有病率は、それぞれ78.20%、32.70%、23.10%であった。・PTSDリスクの重症度が異なる場合、予測モデルに違いが認められた。・COVID-19関連PTSDリスクと強いおよびとても強い関連が認められた因子は、女性、うつ病診断歴、友人、親族の死亡、失業、経済状況の悪化であった。・COVID-19関連PTSDリスクと中程度の関連が認められた因子は、女性、PTSD診断歴、COVID-19症状の経験、COVID-19の検査、友人、親族の感染、経済状況の悪化であった。

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アジアにおけるCOVID-19うつ病とそのリスク因子~メタ解析

 アジア太平洋地域におけるCOVID-19パンデミックに伴ううつ病の有病率やそのリスク因子について、マレーシア・マラヤ大学のVimala Balakrishnan氏らは、文献報告のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2021年11月18日号の報告。 2021年1月~3月30日までの文献をPubMed、Google Scholar、Scopusより検索した。PRISMAガイドラインに従ってシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。スクリーニングの結果、82文献(20万1,953人)が抽出された。 主な結果は以下のとおり。・プールされたうつ病の有病率は34%(95%信頼区間[CI]:29~38%、I2=99.7%)であった。コホート、タイムライン、地域間での有意な差は認められなかった(p>0.05)。・主なリスク因子は、COVID-19感染に対する恐怖(13%)、女性(12%)、基礎疾患の悪化(8.3%)であり、グループ間での差は認められなかった。・COVID-19感染に対する恐怖は、一般集団(研究数:14)および医療従事者(研究数:8)において最も報告されたリスク因子であった。・リスク因子として、医療従事者では女性(研究数:7)、作業負荷の増加(研究数:7)が報告されたのに対し、学生では教育の混乱(研究数:7)が報告された。・なお、今回のレビューは、3つの電子データべースからの論文に限定されている。 著者らは「COVID-19パンデミックは、アジア太平洋地域の一般集団、医療従事者、学生のうつ病発症に影響を及ぼしていることが示唆された。この問題に対処するためにも、関係当局による迅速な対応や介入が求められる」としている。

2263.

COVID-19パンデミック時の不眠症状とそれに関連する因子

 ノルウェー・オスロ大学のOyvind Halsoy氏らは、COVID-19パンデミック中の不眠症状に関連する因子について、調査を行った。Frontiers in Psychiatry誌2021年11月5日号の報告。 ノルウェーの成人4,921人を対象に、2020年3月31日~4月7日および2020年6月22日~7月13日の2つの期間において調査依頼を実施した。1回目の調査で関連するリスク因子や心理的相関を、2回目の調査で不眠症状を測定し、時間経過に伴う関連を含めた調査を行った。不眠症状の測定には、Bergen Insomnia Scale(BIS)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・COVID-19によるロックダウン中の不眠症状は、2008年に実施したパンデミック前の調査結果と比較し、平均レベルが高いことが明らかとなった(p<0.0001、Cohen's d=0.29)。・ソーシャルディスタンスを守った人は、そうでない人と比較し、不眠症状の平均レベルが高かった。・女性、教育水準の低い人、職を失った人、不特定の精神疾患診断歴を有する人は、最も多くの症状を報告していた。・回帰モデル(R2=0.44)では、身体運動が不眠症状の減少と関連が示唆された。・不眠症状レベルの高さと関連していた因子は、健康不安症状、抑うつ症状、役立たない対処法、仕事や経済への懸念、高齢者であった。 著者らは「本調査結果は、とくに脆弱なグループを特定しただけでなく、不眠症状に苦しんでいる患者を支援することへの重要性を改めて示している」としている。

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統合失調症患者およびその介護者に対するCOVID-19の影響

 チリ・タラパカ大学のAlejandra Caqueo-Urizar氏らは、統合失調症患者とその介護者に対するCOVID-19パンデミックの心理社会的影響について、分析を行った。Frontiers in Psychology誌2021年11月5日号の報告。 対象は、チリ北部の都市アリカに在住する統合失調症患者120例およびその介護者(対照群)。次の3点の仮説について検討を行った。(1)患者と介護者の間でCOVID-19パンデミックの影響に関する自己報告には正の相関が認められる、(2)介護者は、パンデミックが日常生活に及ぼす影響が大きいと感じている、(3)COVID-19に感染した患者は、メンタルヘルスの改善レベルが不良で、心理的苦痛レベルが高い。これらの仮説は、相関、平均差、エフェクトサイズ(Cohen's d)を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・約1年間隔離された統合失調症患者は、健康および日常生活について、介護者と同レベルの懸念を抱いていた。・介護者は、統合失調症患者と比較し、収入、懸念、雇用について有意な差が認められた。・COVID-19に感染した患者は、ウェルビーイングレベルが低く、精神的リカバリーの不良が認められた。 著者らは「本検討において、パンデミック時における統合失調症患者の介護者に対するメンタルヘルス介入の必要性が示唆された。また、COVID-19感染は、統合失調症患者のリカバリーやウェルビーイングに大きな影響を及ぼすことが示唆された」としている。

2265.

統合失調症の死亡率と関連するリスク因子

 統合失調症患者の死亡率に関連する因子を調査するため、トルコ・コジャエリ大学のHilmi Yasar氏らは、10年間のフォローアップ調査を実施した。Turk Psikiyatri Dergisi誌2021年秋号の報告。 2004~08年に大学病院の精神科を受診し、外来および/または入院にて治療を受けた統合失調症患者の記録を検索し、2018年末までの生存率を算出した。その結果は、同一期間の一般集団におけるすべての原因による死亡率と比較した。また、統合失調症患者の死亡率に影響を及ぼすリスク因子についても調査した。統合失調症の平均寿命は男性66.6歳、女性77.6歳と差が認められた 統合失調症の死亡率に関連する因子を調査した主な結果は以下のとおり。・登録された統合失調症患者626例のうち506例を本検討に含めた。・統合失調症患者の10年間の死亡率は10.6%、死亡時の平均年齢は53.1歳であった。・統合失調症患者の全体的な平均寿命は73.4歳であり、男性66.6歳、女性77.6歳と差が認められた。また、喫煙者の平均寿命は64.7歳、非喫煙者は76.5歳であった。・統合失調症患者の全体的な標準化死亡比(SMR)は3.7、男性3.9、女性3.3であった。・統合失調症患者の死亡に関連するリスク因子は、高齢、男性、喫煙者、無職、早期発症であった。 著者らは「統合失調症患者の死亡リスクに対し、喫煙は重大なリスク因子である。禁煙プログラムを優先し、患者が参加できるリハビリテーションサービスを支援することにより、死亡リスク減少が期待できるであろう」としている。

2266.

日本人の認知症リスクに対する身体活動の影響

 認知症リスクに対する身体活動の影響に関しては、逆因果律の可能性も考えられるため、その因果関係は疑問視されている。京都大学の佐藤 豪竜氏らは、認知症リスクの軽減に対する身体活動の潜在的な因果関係を調査するため、雪国の居住を操作変数(IV)として用いて評価を行った。International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity誌2021年10月29日号の報告。 2013年、65歳以上の高齢者を対象に、独立した身体的および認知機能に関するデータを登録した縦断的コホート研究である日本老年学的評価研究のコホートデータを用いて調査した。平均フォローアップ期間は、5.7年であった。本研究の対象には、日本の19の市町村に在住する7万3,260人が含まれた。身体活動に関するデータは、自己報告形式の質問票で収集し、認知症の発症率は、介護保険データベースより確認を行った。IVは、2段階回帰手順を用いて、piecewise Cox比例ハザードモデルより推定した。 主な結果は以下のとおり。・調査期間中に認知症を発症した高齢者は、8,714人であった(11.9%)。・IV分析では、1週間当たりの身体活動の頻度と認知症リスクとの間に負の関係が認められた。なお、この関連性は、時間経過とともに減少した。 ●1年目のハザード比(HR):0.53(95%信頼区間[CI]:0.39~0.74) ●4年目のHR:0.69(95%CI:0.53~0.90) ●6年目のHR:0.85(95%CI:0.66~1.10) 著者らは「認知症リスクに対する身体活動の影響は、少なくとも4年間は継続することが示唆された。そのため、高齢者の認知症リスクを軽減させるためにも、身体活動を推奨すべきであろう」としている。

2267.

精神科医、患者、介護者における統合失調症の治療目標

 米国のリアルワールドにおける精神科医、統合失調症患者、その介護者の治療目標の類似点および相違点について、米国・Lundbeck社のHeather M. Fitzgerald氏らが調査を行った。Neuropsychiatric Disease and Treatment誌2021年10月21日号の報告。 精神科医および成人統合失調症患者を対象として2019年6月~10月に実施した調査(Adelphi Schizophrenia Disease Specific ProgrammeTM)よりデータを収集した。精神科医は、連続した8例の外来患者および2例の選択基準に適合する入院患者についての情報を提供した。調査に参加した精神科医、患者、介護者は、調査の一環として治療目標に関する質問に回答した。 主な結果は以下のとおり。・精神科医124名は、統合失調症患者1,204例のデータを提供した。薬物療法に関するデータが1,135例(外来患者928例[82%]、入院患者207例[18%])分含まれていた。また、アンケートは患者555例および介護者135例より収集した。・最も重要な治療目標として、主要な症状の改善と回答した患者の割合は、患者自身は64%、精神科医は63%、介護者は68%であった。・患者、精神科医、介護者はいずれにおいても、性的問題が少ない、体重増加が少ないの項目を最も重要度の低い目標としていた。・患者は、現在投与されている薬剤が最も重要な目標達成のために必要であると感じていた(症状の改善:68%、思考の明瞭さ:39%)。・治療方法や年齢別の分析においても、治療目標に対する全体的な傾向は類似していた。 著者らは「主要な治療目標は、症状改善であることが明らかとなった。この調査結果は、患者、精神科医、介護者が話し合いをするうえで役立ち、効果的なマネジメント戦略や共通の意思決定を促進する可能性がある」としている。

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コロナ禍でさらに遅れる認知症の初診【コロナ時代の認知症診療】第10回

より早期の診断がもたらすものAducanumabが条件付きながら米国において承認されたことで、アルツハイマー病初期に診断される方々の人数が増えることが期待される。そもそもこうした疾患修飾薬は、アルツハイマー病によるMCIやその初期が適応範囲である。早期診断は、こうした新規薬の効果はもとより、当事者やその家族が将来設計をしたり今後の人生を考えたりする時間をもたらす。ところが以前から、認知症の方が医療機関を初めて受診するタイミングが遅すぎると指摘されてきた。私自身が認知症に関わるようになって40年近い。当時と最近を比べると、さすがにこの頃は軽度の段階で受診する人が増えた。当時は、重度に至りBPSDがどうにもならなくなって受診する例が多かった。介護保険の主治医意見書でいえば、IVやMといった重度のレベルである。大ざっぱな印象だと、40年前の初診者のMMSE平均が10点以下、今なら20点ぐらいというところだろうか。初期診断が遅れる原因、医師側/患者側とは言え、認知症においては、初期診断が行われなかったり誤った診断がなされたりすることが多いと報告され続けてきた。なぜこのような事が起こるかを検討した系統的なレビューもある。そこでは、医師、患者そして患者の家族に分けて、要因を分析している。医師の要因として特筆すべきは、認知症に関する教育やトレーニングの不足である。また神経心理学的検査など、どういう手順で検査してよいのかわかっていないとされる。さらにコミュニケーションの問題、とくに診断を得たとしても、それをどのように本人や家族に伝えてよいのかわからない事もある。これらについては、日本老年精神医学会と日本認知症学会の専門医を合わせても、今のところ実数4,000人以下だろうから、多くの非専門家にとってこのような事情は理解できる。次に本人や家族の要因としては、まず年齢や教育歴、居住地域といった基本属性がある。これらは認知症の知識に関わるのだろう。また大切なことは、異常に気づいたとしても、この程度のことは正常な老化に見られる現象だと認識することである。むしろそう思いたいのかもしれない。さらに否認も多いが、これは否定というより、自分はそうではないと考えること、またこうしたことを考えるのを拒むことである。さらに告知への恐怖感や拒否感、恐怖心もしばしばみられる。日常診療において、このような事を感じたり、患者・家族の言動から見て取ったりした経験をお持ちの方は、少なくないだろう。臨床現場では、こうした思いを集約するかのような、またよく耳にする当事者の質問がある。それは結果を説明した後に、「じゃ、先生、私が年齢相応ですか?」というものである。注目すべきは、説明した内容や、当事者の検査結果とは関係なく、こうした質問が寄せられる点である。こうなると私の場合、告知する気持ちが萎えてしまって言葉が濁る。もう一つ、医療機関へのアクセスという問題がある。そもそも認知症を専門とする医師は少ない。こうした医師を探し出し、そこの受診につなげることも難しい。コロナ禍はこのハードルをさらに上げているかもしれない。いかにして受診タイミングを早めるか2021年11月以降、コロナの感染者数が一息ついた状況にある。けれどもオミクロン株などにより、第6波が来る可能性が指摘されている。これまで様々な組織から、コロナ禍による自粛生活で認知症患者の心身機能が低下していることが報告されてきた。また自粛により、将来的には認知症パニックにも繋がるのではないかという警鐘もある。筆者自身は、2020年の2月頃から、初診患者数の変動に注目してきた。これまで5つのコロナ患者発生の波がある。この波の高まりに反比例して初診患者は減り、波の静まりとともに逆に増えるという基本的なリズムを繰り返してきた。つまりコロナ禍は、認知症の初期診察のタイミングに大きな影響をもたらしている。このような状況を考えた時、いかにして認知症の受診タイミングを早めるかの工夫が求められる。筆者はチェックリストを考えている。これは医療機関でMMSEや改訂長谷川式などの検査が行われる前に、当事者や家族がチェックするものである。記憶や注意などの認知機能テストをするのでなく、第三者が客観的に見てとれる当事者の言動(例:薬の自己管理ができない、何を言っても答えはハイかイイエ)をチェックする性質である。早期診断に役立つチェック項目には、このように客観的にわかることに加えて、よくある症状であること、また早期から出る症状であることが求められる。ここで注意すべきは、当事者は自分の症状を軽く評価し、周囲の人は重くみなすところである。だから週刊誌などによくある10質問のうち3つ以上該当なら軽度認知障害、5つ以上だと認知症といった単純な評価法では物足りない。誰が回答するか、また回答者の年齢・性別等を考慮したアルゴリズムを作り、その上で総合点が出るアプリ仕立てのようなものでないと有用性は期待できないだろう。こうしたものが活用できるようになり広まると、上記の認知症早期診断が遅れる要因を多少とも軽減し、早期の受診を促進してくれるかもしれない。

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COVID-19感染クロザピン使用患者における好中球数の変化

 クロザピンは、無顆粒球症・顆粒球減少症などの重篤な副作用リスクを有しているものの、治療抵抗性統合失調症の重要な治療選択肢である。そして、クロザピンのモニタリングシステムは、無顆粒球症の発生率や死亡率の低下に貢献している。しかし、COVID-19のパンデミックは、このモニタリングシステムに影響を及ぼしている。マレーシア・ケバングサン大学のFitri Fareez Ramli氏らは、COVID-19に感染したクロザピン治療患者における好中球の変化に関する現在のエビデンスより、各症例における、絶対好中球数(ANC)レベル、正常、低下、上昇に関する情報を収集し、評価を行った。International Journal of Environmental Research and Public Health誌2021年10月27日号の報告。 主な結果は以下のとおり。・無顆粒球症の報告は認められなかった。・中等度~重度のANCレベルであった1例については、クロザピン治療期間が18週であった。・最初の症例集積の累積分析では、決定的な結果は報告されなかった。・サンプルサイズの大きな最近の研究では、COVID-19感染によりANCレベルが有意に低下することが報告されている。しかし、ベースライン時と感染後のANCレベルに有意な差が認められないため、この影響は一時的なものであると考えられる。 著者らは「COVID-19は、ANCレベルの一時的な低下を引き起こす可能性が示唆された。本結果は、クロザピンモニタリングの頻度を減らすことをサポートするものであった」としながらも「研究デザイン、サンプルサイズ、統計分析などの制限を考慮すると、この結果を明らかにするためには、さらなるデータが必要とされる」としている。

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第82回 着任1年で医療事故8件の医師に1億円超の損害賠償請求

<先週の動き>1.着任1年で医療事故8件の医師に1億円超の損害賠償請求2.来春から不妊治療の保険適用、1回30万円の助成制度は廃止3.診療報酬改定、医師らの賃金増に0.43%の引き上げで調整4.医学部の地域枠、最大842万円と高額な違約金に批判5.大阪ビル放火事件でクリニック院長・患者など24人が死亡1.着任1年で医療事故8件の医師に1億円超の損害賠償請求兵庫県・赤穂市民病院の脳神経外科において、2019年7月に着任した医師によって行われた手術後に8件の医療事故が発生していたことが明らかになった。このうち2020年1月に手術を受けた70代女性は、腰椎の手術中に神経の一部を切断され、両足麻痺で歩行ができなくなるほどの後遺障害があるなどで、執刀医に対して約1億1,500万円の損害賠償を求め神戸地裁に訴えた。いずれの事故についても病院側は事実関係を認めているが、訴訟を受けた以外の7件については「外部有識者の検証を踏まえて検討した結果、医療過誤ではないと判断した」と説明。なお、当医師は20年3月以降、手術の執刀などを禁止される処分を受け、21年8月末に同病院を依願退職している。(参考)腰椎手術のドリルで神経切断、歩けなくなった女性が医師ら提訴…着任1年で医療事故8件(読売新聞)赤穂市民病院の医療事故 8件の事実関係認める、医療過誤は1件と判断(神戸新聞)男性医師手術、医療事故8件 兵庫・赤穂市民病院(日経新聞)2.来春から不妊治療の保険適用、1回30万円の助成制度は廃止厚生労働省は15日、中央社会保険医療協議会(中医協)の総会を開催し、体外受精などの不妊治療について、治療開始時に女性が43歳未満であることを条件に2022年4月から保険適用とすることを認め、事実婚の場合も対象とすることを了承した。具体的な価格設定については年明けに議論される。なお、体外受精や顕微授精に原則1回30万円を給付する国の助成制度は、年度をまたぐ場合を除き22年3月末で終了する。今回認められたのは日本生殖医学会が示したガイドラインで推奨度が高い「体外受精」「顕微授精」などであり、回数についても40歳未満の女性なら6回まで、40歳以上43歳未満なら3回までとなる。今後は、保険適用外となった治療法を医療機関の申請があれば保険診療と併用ができる「先進医療」に位置付けるかどうかなど、個別に議論される見込み。(参考)事実婚カップルも対象に 不妊治療の保険適用(日経新聞)不妊治療の保険適用、女性は43歳未満 厚労省、事実婚も対象へ(朝日新聞)不妊治療技術のうち学会が推奨度A・Bとするものを保険適用、推奨度Cは保険外だが先進医療対応を検討―中医協総会(Gem Med)3.診療報酬改定、医師らの賃金増に0.43%の引き上げで調整政府は2022年度の診療報酬改定について、焦点となっていた医師らの技術料や人件費にあたる「本体部分」の改定率0.43%の引き上げで最終調整を行っている。その分「薬価」を引き下げ、診療報酬全体ではマイナス改定とする方針。今回の診療報酬改定にあたって、保険者などの支払い側はマイナス改定、医師会側はプラス改定をそれぞれ求めてきたが、政府は新型コロナウイルスの影響で、医師会の求めるような大幅のプラス改定は難しいとの立場を崩していない。(参考)診療報酬「本体」0.43%引き上げ 政府最終調整(産経新聞)診療報酬本体0.43%上げ 22年度改定、全体はマイナスに(日経新聞)4.医学部の地域枠、最大842万円と高額な違約金に批判医師不足に悩む地方自治体で、医学生に将来的な地域医療への貢献を求める「研修資金貸与制度」に、違約金制度を導入した山梨県に対する報道があった。2018年衛生統計によれば、山梨県内の医師数は2,016人で、人口10万人当たり246.8人と全国平均258.8人を下回り、全国で30位。さらに県内での医師偏在も問題となっており、新しく導入されたのが「違約金制度」だ。2020年度の入学者からは、「山梨県地域枠等医師キャリア形成プログラム」に基づいて、卒業後15年間のうち9年間は県内の特定公立病院などにおいて臨床研修や勤務が義務付けられるほか、これらの義務違反に対した場合、年10%の利息を付して修学資金の返還が求められる内容となっており、一部の関係者からは医師の人権侵害だという批判が上がった。(参考)医学部地域枠、学生へムチ「違約金」最大842万円 人権侵害の声も(朝日新聞)資料 山梨県地域枠等医師キャリア形成プログラム(山梨県)山梨県の医師確保事業 医師修学資金について(同)5.大阪ビル放火事件でクリニック院長・患者など24人が死亡17日、大阪府北区の「西梅田こころとからだのクリニック(心療内科/精神科)」にて火災が発生し、28人が病院に搬送され、このうち24人が死亡した。身元が判明した中にはクリニック院長の西澤 弘太郎氏も含まれる。警察は、通院していた61歳の男性が可燃性の液体を持ち込んだ可能性があるとみて捜査。市内の自宅からは、容量1.5Lのガソリンタンクが押収され、タンク内の液体は少量使用されていたという。大阪市消防局によれば、死亡者の多くは外傷がなく一酸化炭素中毒と考えられる。なお、直近の消防署定期検査で防火上の不備は認められておらず、設置されていなかったスプリンクラーも法令上で設置義務はなかった。今回、唯一の避難経路である出入り口付近で出火したため、外に出られなかったとみられる。犠牲となった多くの医療従事者と患者さんのご冥福をお祈りするとともに、このような事件が二度と起こらないよう対策を望む。(参考)大阪 ビル火災 現場検証 微量の油検出 61歳男 殺人と放火疑い(NHK)容疑者宅からガソリンタンク押収 現場からはライター 大阪ビル放火(毎日新聞)大阪・北新地ビル火災 院長の死亡確認(産経新聞)

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日本における抗精神病薬の持続性注射剤と経口剤との併用に関する調査

 統合失調症の維持療法において、長時間作用型持続性注射剤(LAI)抗精神病薬の単剤療法は、選択肢の1つとして考えられているが、最近の報告では、LAI抗精神病薬と経口抗精神病薬との併用療法が一般的であるといわれている。この状況について、山梨県立北病院の三澤 史斉氏らが調査を行った。Journal of Clinical Psychopharmacology誌オンライン版2021年10月18日号の報告。 LAI第2世代抗精神病薬と経口抗精神病薬の併用療法の状況を調査するため、レトロスペクティブチャートレビューを実施した。また、処方医の併用療法に対する考えを調査するためのアンケート調査も実施した。LAI第2世代抗精神病薬を1ヵ月以上処方された患者を対象に、単剤療法群と併用療法群に分類した。年齢、性別、精神医学的診断、それに付随する向精神薬の併用に関する情報を収集した。 主な結果は以下のとおり。・132例中39例(29.5%)が、LAI第2世代抗精神病薬と経口抗精神病薬の併用療法を受けていた。・リスペリドンLAIは、アリピプラゾールLAIと比較し、併用療法の割合が有意に高かった。・LAI第2世代抗精神病薬との併用で最も処方された経口抗精神病薬は、オランザピンであった。・LAI第2世代抗精神病薬と同成分の経口抗精神病薬を処方された患者は8例(20.5%)であった。・患者の60%以上は、LAI第2世代抗精神病薬開始前に経口抗精神病薬の多剤併用を行っていた。・担当精神科医は、主にアドヒアランスを考慮しLAI第2世代抗精神病薬を処方していた。また、LAI第2世代抗精神病薬の投与量が不十分であると感じて経口抗精神病薬の併用療法を行っていた。・担当精神科医は、併用療法を行っている3分の2の患者は、経口抗精神病薬のアドヒアランスが80%以上であると考えていた。 著者らは「本研究により、LAI第2世代抗精神病薬と経口抗精神病薬の併用療法は、実際の臨床現場でしばしば行われていることが明らかとなった。臨床医は、LAI抗精神病薬の開始理由を今一度よく考え、併用療法で用いる経口抗精神病薬のアドヒアランスを注意深くモニタリングする必要がある」としている。

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統合失調症に対する抗精神病薬治療効果とテロメア長との関連

 統合失調症の重症度や認知機能障害に対する持続性注射剤(LAI)および経口剤の非定型抗精神病薬の有効性とテロメア長との関連について、インド・University College of Medical Sciences and Guru Teg Bahadur HospitalのNisha Pippal氏らが調査を行った。International Journal of Psychiatry in Clinical Practice誌オンライン版2021年10月29日号の報告。 18~50歳の性別を問わない統合失調症患者60例を対象に、12週間の研究を実施した。LAI抗精神病薬と経口抗精神病薬を、それぞれ30例に投与した。ベースライン時および12週間時点で、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)およびインド国立精神衛生神経科学研究所(NIMHANS)の神経心理学的テスト・バッテリーを用いた評価を行った。テロメア長は、ベースライン時に推定した。 主な結果は以下のとおり。・12週間の治療後、両群ともにPANSSスコアおよびNIMHANSテスト・バッテリーのスコアの有意な改善が認められた(p<0.001)。・ベースライン時の平均テロメア長は、LAI抗精神病薬治療群で407.58±143.93、経口抗精神病薬治療群で443.40±178.46であった。・テロメア長の短さと、治療後のPANSS陰性症状スコアの平均変化との有意な関係が認められた(r=-0.28、p=0.03)。 著者らは「LAI抗精神病薬は、統合失調症における重症度の軽減および認知機能障害の改善に対し、経口抗精神病薬と同様の効果を有していた。また、テロメア長が短い患者では、PANSS陰性症状スコアのより大きな改善が認められた。そのため、統合失調症患者に対する抗精神病薬の治療反応を予測するうえで、テロメア長は有用である可能性が示唆された」としている。

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円形脱毛症と認知症リスク~コホート研究

 円形脱毛症は、さまざまな併存疾患と関連しており、認知症と同様の徴候が認められる疾患である。また、円形脱毛症による心理社会的なマイナスの影響は、認知症のリスク因子である社会との関与の低下につながる可能性がある。しかし、円形脱毛症と認知症との関連は、これまであまり知られていなかった。台湾・台北栄民総医院のCheng-Yuan Li氏らは、円形脱毛症と認知症リスクとの関連を調査するため、コホート研究を実施した。The Journal of Clinical Psychiatry誌2021年10月26日号の報告。 1998~2011年の台湾全民健康保険データベースより、45歳以上の円形脱毛症(ICD-9診断コード:704.01)患者2,534例および、年齢、性別、居住地、収入、認知症関連併存疾患、全身性ステロイド薬の使用、毎年の外来通院でマッチさせた対照群2万5,340例を抽出し、2013年までの認知症発症状況を調査した。潜在的な交絡因子で調整した後、マッチさせた各ペアの層別Cox回帰分析を用いて、円形脱毛症患者と対照群の認知症リスクを評価した。 主な結果は以下のとおり。・円形脱毛症患者は、対照群と比較し、すべての認知症(調整ハザード比[aHR]:3.24、95%信頼区間[CI]:2.14~4.90)、アルツハイマー病(aHR:4.34、95%CI:1.45~12.97)、不特定の認知症(aHR:3.36、95%CI:2.06~5.48)の発症リスクが高かった。・年齢と性別による層別分析では、65歳未満および65歳以上、男性および女性のいずれにおいても、すべての認知症および不特定の認知症リスクが高く、男性においてはアルツハイマー病リスクおよび65歳以上での発症リスクの増加が認められた。・観察開始後最初の1年または3年を除外した感度分析においても、一貫した結果が示された。 著者らは「円形脱毛症患者は、認知症発症リスクが高いことが示唆された。円形脱毛症と認知症リスクとの間にある根本的な病態生理を解明するためには、さらなる研究が必要である」としている。

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ブロナンセリン経皮吸収型製剤への切り替えによる錐体外路症状への影響

 ブロナンセリンは、統合失調症治療に用いられる第2世代抗精神病薬であり、経口剤(錠剤、散剤)だけでなく経皮吸収型製剤としても使用可能な薬剤である。岐阜大学の大井 一高氏らは、統合失調症患者に対しブロナンセリンの経口剤から経皮吸収型製剤への切り替えを行うことにより、錐体外路症状(EPS)の減少および/または薬物動態安定による抗パーキンソン薬の投与量減少に寄与するかについて、52週間の非盲検試験の事後分析を実施し、評価を行った。Progress in Neuro-Psychopharmacology & Biological Psychiatry誌オンライン版2021年11月3日号の報告。 統合失調症患者155例をコホート1またはコホート2のいずれかにエントリーした。コホート1では、97例に対しブロナンセリンの錠剤8~16mg/日を6週間投与した後、同薬剤の経皮吸収型製剤40~80mg/日へ切り替えて1年間投与を行った。なお、経皮吸収型製剤の投与量は、錠剤の投与量に基づき決定した。コホート2では、ブロナンセリンの経口剤(錠剤、散剤)投与後の58例に対し、同薬剤の経皮吸収型製剤40mg/日から開始し40~80mg/日に切り替える治療を1年間継続した。3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月の時点での経皮吸収型製剤開始後のEPSの変化および抗パーキンソン薬の投与量の変化は、薬原性錐体外路症状評価尺度(DIEPSS)、抗パーキンソン薬のビペリデン換算量でそれぞれ評価した。 主な結果は以下のとおり。・155例中EPSにより経皮吸収型製剤を中止した患者は、コホート1の4例のみであった。・両コホートにおける経皮吸収型製剤開始後のDIEPSS合計スコアの平均変化では、統計学的に有意な改善が認められた。【コホート1】3ヵ月時点:-0.44±1.50(p=0.013)6ヵ月時点:-0.07±1.78(p=0.73)12ヵ月時点:-0.14±1.37(p=0.44)【コホート2】3ヵ月時点:-0.16±1.32(p=0.40)6ヵ月時点:-0.74±1.92(p=0.020)12ヵ月時点:-0.81±2.22(p=0.047)・抗パーキンソン薬のビペリデン換算量は、経皮吸収型製剤開始後、有意な変化は認められなかった。 著者らは「ブロナンセリンの経皮吸収型製剤は、同薬剤の錠剤や散剤と比較し、EPSのリスクを減少させるために効果的な投与経路であると考えられる」としている。

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抗精神病薬への治療反応と皮質厚との関係

 統合失調症では、クロザピン以外の抗精神病薬による治療で十分な効果が得られない治療抵抗性患者が一定数存在し、その割合は3分の1程度であるといわれている。昭和大学の板橋 貴史氏らは、治療抵抗性患者と治療反応患者において、異なる病態生理学的特徴が存在するかを調査した。NeuroImage: Clinical誌オンライン版2021年10月7日号の報告。 対象は、統合失調症患者110例(治療反応群:46例、治療抵抗性群:64例)および健康対照群52例。皮質厚に焦点を当て、MRIの国際マルチサイト断面データを用いて分析した。治療反応群または治療抵抗性群のいずれかに関連する脳領域を発見するため、L1正則化ロジスティック回帰を用いた。ネストされた10分割交差検証を行い、鑑別精度および曲線下面積(AUC)を算出した。次に、分類子の交換可能性を調査するため、治療反応群または治療抵抗性群の分類子をもう一方の群に適用させた。 主な結果は以下のとおり。・治療反応群と対照群の鑑別精度は65%、AUCは0.69であった(p=0.014、調整済み)。・治療抵抗性群と対照群の鑑別精度は78%、AUCは0.85であった(p<0.001、調整済み)。・治療反応群および治療抵抗性群のいずれにおいても、左側頭葉と左前島皮質/下前頭回の違いが認められた。・左縁上回の違いは治療反応群のみで認められ、右上側頭溝と右外側眼窩前頭皮質の違いは治療抵抗性群で認められた。・治療反応群の分類子によって対照群から治療抵抗性群を鑑別するためのAUCは0.78(p<0.001)、治療抵抗性群の分類子によって対照群から治療反応群を鑑別するためのAUCは0.69(p=0.015)であった。 著者らは「皮質厚によって、健康対照者から治療反応および治療抵抗性の統合失調症患者を鑑別可能である。治療反応および治療抵抗性の統合失調症患者において皮質厚に関する病理学的共通点が認められた。また、治療抵抗性患者では、特徴的な皮質厚所見が認められた」としている。

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日本人外来患者の片頭痛予防に対するフレマネズマブの長期安全性と忍容性

 従来の片頭痛に対する長期的な予防効果は、早期の治療中止やアドヒアランス不良による影響を受ける。そのため、長期にわたり安全性が良好な片頭痛予防薬が求められる。埼玉精神神経センターの坂井 文彦氏らは、日本人の慢性または反復性片頭痛患者に対するフレマネズマブによる予防的治療の長期的な安全性および忍容性を評価するため、検討を行った。Drug Safety誌2021年12月号の報告。 本研究は、52週間のランダム化非盲検並行群間試験として実施された。新たにエントリーされた日本人の慢性または反復性片頭痛患者を対象に、フレマネズマブを月1回投与する群と四半期ごとに投与する群にランダムに割り付けた。安全性は、注射部位の反応、検査値、バイタルサインを含む、治療による有害事象(TEAE)のモニタリングにより評価した。新たにエントリーされた患者、以前の第IIb/III相試験でフレマネズマブが投与されなかったロールオーバー患者、合計587例を免疫原性試験コホートに含めた。有効性アウトカムは、1ヵ月当たりの平均片頭痛日数のベースラインからの変化、1ヵ月当たりの中等度~高度の頭痛日数のベースラインからの変化などであった。その他の有効性アウトカムとして、障害スコアの変化を評価した。 主な結果は以下のとおり。・新たにエントリーされた日本人患者数は50例で、慢性片頭痛患者では、フレマネズマブ月1回投与群17例、フレマネズマブ四半期ごと投与群17例、反復性片頭痛患者では、フレマネズマブ月1回投与群8例、フレマネズマブ四半期ごと投与群8例であった。・最も多く認められたTEAEは、鼻咽頭炎(64.0%)、次いで注射部位の反応(紅斑:24.0%、硬結:10.0%、痛み:8.0%、そう痒:6.0%)であった。・治療中止率は低く(有害事象による中止:4.0%、有効性不十分による中止:2.0%)、死亡例は認められなかった。・抗薬物抗体の発生率は低かった(2.4%)。・フレマネズマブは、初回投与1ヵ月後から1ヵ月当たりの片頭痛日数および中等度以上の頭痛日数の減少が認められ、その効果は12ヵ月間持続していた。・フレマネズマブにより、12ヵ月時点での急性頭痛薬の使用および頭痛関連障害の持続的な減少が認められた。 著者らは「日本人の慢性または反復性片頭痛患者に対するフレマネズマブ使用は、十分に許容されており、12ヵ月間を通じて1ヵ月当たりの片頭痛日数および中等度以上の頭痛日数の持続的な減少が期待できる」としている。

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そして父になる(続編・その2)【子育ては厳しく? それとも自由に? その正解は?(科学的根拠に基づく教育(EBE))】Part 1

今回のキーワード行動遺伝学厳格な子育て放任的な子育て自律的な子育てグッド・イナッフ・マザー能力(心理的・行動的形質)癖になりやすさ(嗜癖性)高い感情表出前回(続編・その1)では、映画「そして父になる」を通して、英才教育によってとくに高まるとされる認知能力とそれ以外の非認知能力の違いを考えました。そして、その違いから、英才教育で親がハマる「罠」を明らかにしました。それでは、逆に、厳しい英才教育などをせず、自由にさせて温かく見守るだけの放任的な子育てが良いのでしょうか? そのリスクはないでしょうか?これらの答えを探るために、今回(続編・その2)は、引き続きこの映画を通して、伝統や経験則ではない科学的根拠に基づく教育(EBE)を行動遺伝学からご紹介します。そして、子育ての正解、そしてその根拠を一緒に探っていきましょう。なお、科学的根拠に基づく教育(EBE)とは、科学的根拠に基づく医療(EBM)と同じように科学的な根拠に重きを置いており、昨今の学校教育や子育ての分野で注目されつつあります。放任的な家庭環境のリスクは?野々宮家は厳格な家庭環境。そこで育った慶多は、非認知能力が育まれないリスクを前回ご説明しました。対照的に、斉木家は放任的な家庭環境。非認知能力が育まれるベネフィットをご説明しました。それでは、皆さんだったら、野々宮家よりも斎木家に生まれたいと思いますか? 野々宮家よりも斎木家のような子育てをしたいと思いますか? ここから、斎木家を通して、逆に放任的な家庭環境のリスクを、行動遺伝学的に3つ挙げてみましょう。なお、行動遺伝学とは、一卵性双生児(遺伝子一致率100%)と二卵性双生児(遺伝子一致率50%)の行動(心理的・行動的形質)の一致率(相関係数)を比較する双生児法を主に用います。簡単に言うと、一卵性双生児の行動の一致率が100%にならない場合、その差し引かれた分(それだけ似させまいとする要素)が家庭外環境(非共有環境)の影響と言えます。また、一卵性双生児の行動の一致率に二卵性双生児の一致率が50%を超えて迫ってきている場合、その迫ってきている分(それだけ似させようとする要素)が家庭環境(共有環境)の影響と言えます。ここから、ある行動における遺伝、家庭環境、家庭外環境のそれぞれの影響度(寄与率)を算出することができます。(1)認知能力が高まらない斎木家には、子どもの古い本が何冊かあるだけで、庭には古い犬小屋が放置されており、家の中は散らかって雑然としています。子育ての文化資本としては、必要最低限で、少な過ぎる印象があります。対照的に、野々宮家では、ピアノ・ギターなどの楽器や最新の英語の音声教材が置かれ、壁に地図が貼られており、家の中はきれいに片付けられ整然としています。斎木家の父親(雄大)は、汗だくになるまで子どもたちと一緒に遊んでいるだけです。母親(ゆかり)は、普段は温かく見守り、兄弟げんかやいたずらが過ぎた時だけ感情に任せて怒鳴ります。2人とも子どもたちに世の中の仕組みやルールの説明をしていません。そもそも親自身が世の中の常識に無頓着な様子です。もちろん、習い事をさせていません。1つ目のリスクは、認知能力が高まらないことです。行動遺伝学の研究において、認知能力を代表する知能指数(IQ)は、家庭環境の影響が約30%あることが分かっています。その家庭環境の1つとして、家の中の片付けの程度が挙げられます。実際に、家の中が片付いていない家庭ほど、その子どもの認知能力が低いことが分かっています。この訳は、家庭内が混沌としている状況(無法地帯)では、ルールを教えられても、頭の中も混沌としてしまい、集中できずに頭に入って行かないからと考えられています。逆に言えば、定位置などの一定のルールがある環境で、認知能力は高まっていくと言えます。また、家の中の本の多さも挙げられます。実際に、家の中の本の数が多い家庭環境ほど、その子どもの読書行動が高まることが分かっています。(2)嗜好品にハマりやすい斎木家では、幼児の子どもたち全員が、コーラ(カフェイン)を飲んでいます。琉晴は、携帯式のゲームを制限なくやっています。母親は、みんなの目の前でタバコを吸っており、受動喫煙のリスクもあります。夕食では、両親の目の前のテーブルにビールジョッキが置かれています。対照的に、野々宮家では、コーラ禁止、ゲームは1日30分までの制限があります。母親(みどり)は、父親(良多)のコレステロール値を気にして、卵などの食事を制限する声かけをしょっちゅうしています。そして、父親はあまり酒を飲みません。2つ目のリスクは、嗜好品にハマりやすいことです。行動遺伝学の研究において、アルコール、タバコ、ドラッグなどの物質依存は、家庭環境の影響が約15~30%あることが分かっています。これは、その依存物質が幼少期から目に入り、慣れ親しんでしまうからと考えられています。これは、非認知能力と同じように癖になりやすさ(嗜癖)があるとも言えます。だからこそ、現在の社会では、とくにタバコのCMやメディアの喫煙シーンは厳しく規制されています。なお、物質依存(嗜癖)のメカニズムの詳細については、関連記事1をご覧ください。(3)素行が悪くなる斎木家では、夕食の食事がテーブルに運ばれる直前に、父親とおじいちゃんが手拍子をしてはしゃぎ、それを子どもたちが真似します。父親は、ストローの先をかみ潰す癖があり、琉晴は父親を真似ていたことが分かります。野々宮家ではありえない食事風景であり、テーブルマナーです。また、父親は、自営業であることもあり、普段から家でごろごろしており、子どもたちとは全力で遊ぶことはあっても、あまり仕事を熱心にしていません。左肩に入れ墨があり、もともと勤め人をしていたとも考えにくいです。対照的に、野々宮家の父親(良多)は、仕事人間でほとんど家を空けています。斎木家の母親は、「早くって言ってるのに!」と怒鳴り、下の子の頭を平手打ちしたり、琉晴が慶多の飲み残したジュースを勝手に飲むと「なんで慶多くんの取るの!ブツからね!」と手を上げておどかす様子が映画のノベライズ版で描かれています。取り違えが発覚した時、病院関係者との面会で、夫婦揃って、すぐに賠償金の話を持ち出します。良く言えばずる賢い、悪く言えばがめついです。このがめつさは、先ほどの琉晴がジュースを横取りする行動に重なります。対照的に野々宮家の父親は「大事なのはお金より、どうしてそうなったのかという真相をですね」と真面目に指摘しています。3つ目のリスクは、素行が悪くなることです。素行の悪さとは、規範意識の低さであり、好き勝手な言動をしてしまうことです。これは、この先を含む社会よりも今この瞬間の個人(家族も含む)に重きを置いています。自分ではない誰かや、今ではないこの先に思いを馳せて客観視する認知能力は低いとも言えます。行動遺伝学の研究においても、非行などの問題行動(反社会的行動)は、家庭環境の影響が約20%あることが分かっています。これも、その行動パターン(認知パターン)が幼少期から目に入り、すり込まれてしまうからでしょう(内在化)。これは、非認知能力と同じように癖になりやすさ(嗜癖)がある、つまり行動の依存とも言えます。だからこそ、現在は、学校だけでなく、家庭での体罰も法的に禁止されるようになりました。また、メディアの性的なシーンは言うまでもなく、暴力シーンも厳しく規制されています。最近では、お笑いにおける暴力的なツッコミも自粛が進んでいます。なお、反社会的行動のメカニズムの詳細については、関連記事2をご覧ください。次のページへ >>

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そして父になる(続編・その2)【子育ては厳しく? それとも自由に? その正解は?(科学的根拠に基づく教育(EBE))】Part 2

子育ての正解とは?放任的な家庭環境のリスクは、認知能力が高まらない、嗜好品にハマりやすい、素行が悪くなることが分かりました。つまり、厳格過ぎるだけでなく、放任的過ぎても、子育てとしては正解にはならないことが分かります。それでは、これを踏まえて、子育ての正解とは何でしょうか?それは、厳し過ぎず、自由過ぎず、ほどほどに子育てをすることです。そうすることで、非認知能力をまず育んだ上で、認知能力を自ら高めることを促すことができます。これは、自律的な子育てです。発達心理学的にも、これは従来から「グッド・イナッフ・マザー(ほど良い母親)」と呼ばれてきました。家庭環境を国家システムに例えると、野々宮家のように認知能力に偏っている(非認知能力を軽視する)厳格な家庭環境は、独裁国家型と呼ばれます。斎木家のように非認知能力に偏っている(認知能力を軽視する)放任的な家庭環境は、ユートピア型と呼ばれます。ちなみに、続編・その1のヘックマンの研究でご紹介した貧困層のようにネグレクト(認知能力も非認知能力も軽視する)の子育ては無法地帯型と呼ばれます。そして、子育ての正解である、ほどほど(認知能力も非認知能力も軽視しない)の自律的な家庭環境は、民主国家型と呼ばれます。なお、それぞれの家庭環境のタイプの違いによる心理発達の詳細については、関連記事3をご覧ください。なんでそれが子育ての正解なの?子育ての正解とは、厳し過ぎず、自由過ぎず、ほどほどに子育てをすることであることが分かりました。ここから、再び行動遺伝学的に、その根拠を2つ挙げてみましょう。(1)実は非認知能力には家庭環境の影響がほぼない非認知能力についての行動遺伝学的な研究は現時点で見当たらず、家庭環境の影響度は不明です。そこで、これに近い心理的・行動的形質とされる性格(パーソナリティ)と自尊心(自尊感情)に置き換えて考えます。これまで、これらは家庭環境の影響が考えられてきました。たとえば、親が習いごとを頑張らせれば頑張る子どもになる(自発性)、我慢させれば我慢強い子どもになる(セルフコントロール)という考え方です。また、3歳までは母親が子育てに専念しなければ、成長(共感性)に悪影響を及ぼすという考え方もあります。いわゆる「3歳児神話」です。しかし、行動遺伝学の研究結果において、まったくそうではないことが判明しています。1つ目の根拠は、性格や自尊心と同じように考えれば、実は非認知能力は家庭環境の影響がほぼないことです。確かに、先ほど触れたように、口癖、しぐさ(癖)、嗜好(生活習慣)、素行などのもろもろの行動パターン(嗜癖傾向)には違いがみられます。しかし、実際は、どの性格の特性(ビッグ・ファイブなど)においても、遺伝、家庭環境、家庭外環境の影響度は、概ね50%:0%:50%であることが分かっています。また、自尊心(自尊感情)においても、遺伝、家庭環境、家庭外環境の影響度は、約30%:0%:70%であることが分かっています。つまり、性格や自尊心に影響があるのは、家庭環境ではなく、遺伝と家庭外環境です。子どもに習いごとを頑張らせたり、我慢を強いたり、母親が子育てに専念するなど、親が一般家庭よりも特別に何か取り組んだからと言って、一時的な変化はあっても、最終的に大人になった時の性格が変わることはほぼないということです。ただし、ここで誤解がないようにしたいのは、家庭環境の影響がほぼないというのは、厳密には家庭環境の「違い」に影響がない、つまりどの子どもも一般家庭のどの親に育てられても、その子どもが大人になった時の性格はほぼ変わらないという意味です。子育てをしなくてもいいという意味ではありません。また、親子関係が一貫しなくてもいいという意味でもありません。子育てをちゃんとしないのは、その1でもご説明しました、ネグレクトと教育虐待などです。これらのように、一般家庭の通常のレベルではなく、虐待のレベルの子育てにおいては、共有環境の影響が現れます。実際に、虐待を子どもへの暴力行為(反社会的行動)ととらえれば、先ほど素行が悪くなるリスクでご説明した通り、その家庭環境の影響度は20%程度であることが推測できます。つまり、虐待された子どもは親になって虐待をしてしまうリスクがあるということです。これは、以前から発達心理学で指摘されてきた「虐待の世代間連鎖」を裏付けます。虐待も、反社会的行動と同じく、嗜癖の要素があると言えるでしょう。(2)実は認知能力には家庭環境の影響がなくなっていく認知能力は、知能指数(IQ)や学力で代表されます。そして、これらは家庭環境の影響が考えられてきました。その1でもご説明しましたが、確かに、早期英才教育によって、知能検査の類似問題を解くトレーニングをしたり、先取り学習をすれば、知能指数や学力は高まります。しかし、行動遺伝学の研究結果において、それは時間経過によって極めて限定的になることが判明しています。2つ目の根拠は、実は認知能力(知能)は家庭環境の影響がなくなっていくことです。先ほどにも触れたように、知能指数(IQ)において、遺伝、家庭環境、家庭外環境の影響度は、概ね50%:30%:20%であることが分かっています。さらに、児童期、青年期、成人初期の各年齢でそれぞれ分けてみると、児童期は40%:35%:25%、青年期は50%:20%:30%、成人初期は60%:20%:20%となります。つまり、年齢が上がっていくにつれて、遺伝の影響は40%→50%→60%とどんどん増えていく一方、家庭環境の影響は35%→20%→20%と減ってしまうということです。ちなみに、家庭外環境の影響は25%→30%→20%と大きな変化はありません。一見、年齢が上がると、環境の影響が積み重なり、遺伝の影響が減っていくふうに考えがちです。しかし、研究の結果は逆でした。その理由として、2つの可能性が考えられています。1つ目の理由は、児童期までであれば、家庭で親から無理やり勉強(認知能力のトレーニング)をさせられることで、認知能力が一時的に高まるからです。そして、その1でもご説明しましたが、認知能力は本人がやり続けたいと思わなければ、そのまま身に付くものではない(嗜癖ではない)からです。2つ目の理由は、成人期までにはそしてそれ以降には、学校などの家庭外環境において様々な学習の刺激にさらされることで、まだ発現していなかった遺伝的な素質がようやくあぶり出され、遅れて引き出されるからです。実際に、先ほどご説明した子どもの読書行動への家庭環境の影響について、家庭に置かれている本の多さは関係があった一方で、親の読み聞かせの頻度については無関係であったことが分かっています。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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そして父になる(続編・その2)【子育ては厳しく? それとも自由に? その正解は?(科学的根拠に基づく教育(EBE))】Part 3

そもそもなんで家庭環境の影響が少ないの?子育ての正解は、厳し過ぎず、自由過ぎず、ほどほどに子育てをする自律的な子育てであることが分かりました。そして、その行動遺伝学的な根拠として、家庭環境の影響が、非認知能力にはほぼなく、認知能力には限定的であることをご説明しました。それでは、そもそもなぜ家庭環境の影響が少ないのでしょうか? ここで、能力(心理的・行動的形質)は古ければ古いほど癖になりやすい(嗜癖性が強い)という仮説を立てます。そして、この仮説のもと、家庭環境の影響が少ない原因を、進化心理学的に3段階に分けて掘り下げてみましょう。(1)非認知能力はとても古くからあるから約5億年前に魚類が誕生し、有性生殖をするように進化しました。この生殖本能は、セックスをする「能力」と言い換えることができます。そして、その能力は、性欲として、食欲と並び、最も嗜癖性が強いと言えます。約3億年前に哺乳類が誕生し、親が哺乳行動(育児行動)を、そして子どもが愛着行動をするように進化しました。この育児と愛着の習性も、育児をする「能力」と親に愛着を持つ「能力」と言い換えることができます。そして、これらの能力も、かなり嗜癖性が強いと言えます。この詳細については、関連記事4をご覧ください。約700万年前に人類が誕生し、約300万年前に家族をつくり、さらにその血縁から部族を作るようになりました。この時、狩りや子育てのために部族の中でお互いに協力し合うように進化しました(社会脳)。たとえば、それは、周りの人と心を通わせる力こと(共感性)、周りの人に対して自分を落ち着かせること(セルフコントロール)、そして周りの人とうまくやっていくために自分で考えて行動すること(自発性)です。これが、非認知能力の起源です。逆に言えば、それ以前の人類やそのほかの動物は、車に例えると、この向社会性というナビゲーションがなく、単純なアクセルである快感と単純なブレーキである恐怖だけで行動しており、非認知能力があるとは言えないでしょう。なお、社会脳のメカニズムの詳細については、関連記事5をご覧ください。1つ目の段階として、家庭環境の影響が非認知能力にほぼない原因は、セックス、育児、愛着ほどではないにしても、この能力がとても古くからあるからであることが考えられます。人類の最も古い能力の1つであり、その分、とても癖になりやすい(嗜癖性が強い)と言えるでしょう。そして、敏感に反応してしまうからこそ(遺伝形質が発現しやすいからこそ)、家庭環境の刺激の程度に違いがあっても、つまりどの親の関わりによっても、変わらない能力であると言えます。結果的に、家庭環境の影響に違いが出ず、影響度はほぼ0になってしまうのです。つまり、嗜癖性が強いものは、家庭環境の影響が入り込む余地がないと言えるでしょう。(2)言語的コミュニケーション能力は比較的最近に出てきたから約20万年前に現生人類が誕生して、喉の構造が変化して、複雑な発声ができるようになりました。この時、言葉を使う脳が進化しました。これが、言語的コミュニケーション能力の起源です。言語的コミュニケーション能力とは、発音、語彙の数、文法的な正確さなどの基本的な会話力であり、認知能力の基礎と言えます。この能力に限定した検査は、ウェクスラー式知能検査の下位項目の単語・類似・理解、京大NX知能検査の下位項目の単語完成・類似反対語・文章完成、日本語能力試験の下位項目の聴解などが挙げられます。しかし、現時点で、これらの検査の下位項目に限定した行動遺伝学的な研究は見当たらず、家庭環境の影響度は不明です。そこで、語学力(外国語の才能)で代用します。そうするのは、語学力は、日本語における方言と標準語、タメ語と敬語の使い分けの延長とも捉えられ、言語的コミュニケーション能力の1つと考えられるからです。語学力においての遺伝、家庭環境、家庭外環境の影響度は、50%:23%:27%であることが分かっています。つまり、家庭環境の影響が20%強と出てきます。2つ目の段階として、家庭環境の影響が言語的コミュニケーション能力(正確には語学力)にややあると考えられる原因は、この能力が比較的最近に出てきたからです。その分、やや癖になりにくい(嗜癖性が弱い)と言えるでしょう。非認知能力ほど敏感に反応する訳ではないので(遺伝形質がやや発現しにくいので)、言語環境(家庭環境)の刺激の程度に違いがあると、つまり親によって曝される言葉の数や質の違いによって、変わってしまう能力であると言えます。逆に言えば、言語環境が同じ家庭内では、言語的コミュニケーション能力が似ていく、つまり同じレベルになっていくと言えます。結果的に、家庭環境の影響に違いが出て、影響度が20%程度となってしまうのです。実際に、この嗜癖性の弱さは、語学力に7歳という臨界期がある点でも説明することができます。つまり、年齢とともに嗜癖性が弱くなっていくものは、家庭環境の影響が入り込む余地が出てくると言えるでしょう。たとえば、それが、親から伝えられる方言、敬語、外国語などの語彙の数や表現の仕方なのです。ちなみに、コミュニケーション能力には、この言語的コミュニケーション能力のほかに、準言語的コミュニケーション能力と非言語的コミュニケーション能力があります。これら3つは、それぞれ順に、言葉そのものの言語情報、声のトーンなどの聴覚情報、表情などの視覚情報に言い換えられます。これらの能力についての行動遺伝学的な研究は現時点で見当たらず、家庭環境の影響度は不明です。その代わりに、これらの心理的な影響度は、7%、38%、55%であるという実験結果があります(メラビアンの法則)。この影響度を、情報媒体としてより選ばれる、より好まれる、つまり嗜癖性が強いと解釈すると、この3つの能力の出現の順番は、非言語的→準言語的→言語的であることが推定できます。なお、メラビアンの法則の詳細については、関連記事6をご覧ください。(3)言語理解能力は最も最近に出てきたから約10万年前に現生人類は貝の首飾りを信頼の証にするなどシンボルを使うようになりました。この時、言葉によって抽象的に考えるようになりました。これが、概念化、つまり言語理解能力の起源です。さらに、約5千年前に、文字が発明されました。これが、読み書き、つまり学習能力の起源です。言語理解能力(京大NX知能検査の言語性知能)においての遺伝、家庭環境、家庭外環境の影響度は、14%:58%:28%であることが分かっています。つまり、家庭環境の影響が60%弱とかなり高まっています。3つ目の段階として、家庭環境の影響が言語理解能力にかなりある原因は、この能力が最も最近に出てきたからです。その分、とても癖になりにくい(嗜癖性がほとんどない)と言えるでしょう。あまり敏感に反応しないので(遺伝形質がとても発現しにくいので)、学習環境(家庭環境)の刺激の程度に違いがあると、つまり親の関わり(家庭学習)の程度の違いによって、かなり変わってしまう能力であると言えます。結果的に、家庭環境の影響に大きな違いが出て、影響度が60%程度となってしまうのです。ただし、先ほどの知能指数(IQ)においての家庭環境の影響度の変化でもご説明しましたが、この数値が高いのは一時的なもので、年齢とともに下がっていきます。つまり、嗜癖性がもともとほとんどないものは、家庭環境の影響が入り込む余地がかなりあると言えるでしょう。たとえば、それが、先ほどにもご説明した、本がたくさんある家庭環境なのです。なお、言語理解は、認知能力の1つです。認知能力を代表する知能指数(IQ)には、言語理解のほかに、ワーキングメモリー、知覚推理、処理速度があります。ほかの3つについての家庭環境の影響度は、どれも0%であることが分かっています。結果的に、知能指数(IQ)においての家庭環境の影響度は、トータルで評価されて、先ほど示した数値である約30%になってしまうのです。また、このことから、ワーキングメモリー、知覚推理、処理速度の3つの能力は、言葉が生まれる前に出現していたことが推定できます。そもそも、これらの能力は、視覚情報を介しており、言葉(聴覚情報)を介する必要がないです。たとえば、言葉が生まれる前の原始の時代を想像すると、人類は襲ってくる猛獣から身を交わしつつ、仲間と息を合わせて威嚇しつつ、自分の子どもを守りつつ、逃げ道を探したでしょう。これは、同時並行で作業を記憶するワーキングメモリーです。人類は、獲物を追いかけるために、野山を延々と駆け抜けたあと、道に迷わずに部族の集落に帰ってきたでしょう。これは、二次元の図形や三次元の立体を頭の中で思い描いて自在に回転するメンタルローテーション(知覚推理)です。ところで、知能指数(IQ)においての成人初期の家庭環境の影響度は、日本では約20%にとどまってしまうのに対して、欧米ではほぼ0%でなくなってしまうことが分かっています。これは、欧米人と比べて、日本人は成人しても実家暮らしが多いことが原因になっている可能性が指摘されています。しかし、嗜癖性の観点で考えると、欧米の言語よりも日本語のほうが難解であることが原因になっている可能性も指摘できます。なぜなら、それだけ学習に労力がかかり、嗜癖性がさらに弱くなるので、家庭環境の影響が残ってしまうからです。ちなみに、絶対音感(音楽の才能)や絵心(美術の才能)についても、家庭環境の影響度は0%であることが分かっています。このことから、これらの能力(才能)も、言葉が生まれる前に出現していたことが推定できます。とくに、音楽については、リズムやトーンが共通する点で、準言語的コミュニケーション能力と同時期に出現していた可能性が考えられるでしょう。そう考えると、準言語的、そして非言語的コミュニケーション能力は、音楽と同じく、言葉が生まれる前に出現しているため、家庭環境の影響は0%であることが推定できます。じゃあなんであの2つは家庭環境の影響があるのに癖になりやすいの?能力(心理的・行動的形質)は古ければ古いほど癖になりやすい(嗜癖性が強い)という仮説は、非認知能力(正確には性格と自尊心)、言語的コミュニケーション能力(正確には語学力)、言語理解能力の順番に、家庭環境の影響度が出てきて増えている点が傍証になりそうです。今後、厳密な意味での非認知能力や言語的コミュニケーション能力についての家庭環境の影響度の研究が望まれます。この仮説のもと、嗜癖性が弱い能力は、それだけ新しく出てきたものであり、家庭環境の影響が出てくることが分かりました。しかし、嗜癖性が強いのに家庭環境の影響が出ている心理的・行動的形質が、実は2つあります。それが、先ほど放任的な家庭環境のリスクでご説明した、素行の悪さ(反社会的行動)と嗜好品へのハマりやすさ(物質依存)です。ここから、この2つの形質に家庭環境の影響がある原因を、「能力」という視点で、再び進化心理学的に掘り下げてみましょう。(1)素行の悪さという「能力」を文化的に発現させないようになったから約300万年前に人類は部族社会をつくり、助け合うようになりましたが、やはり飢餓の時は生き残るために奪い合いになります。そう切り替えられる種が、生存の適応度を上げるでしょう。つまり、助け合う能力と同時に出し抜く「能力」が進化したのでした。これが、反社会的行動の起源です。これは、同じ時期に出現した非認知能力と同じくらい嗜癖性が強いと言えるでしょう。数万年前に、部族同士の交流が盛んになり、反社会的行動が増えていきました。その抑止のために、獲物を仕留める飛び道具を武器として人に向けて威嚇する治安隊が生まれました。これが、警察の起源です。こうして、反社会的行動が、文化的に禁じられ、罰せられるようになりました。素行の悪さ(反社会的行動)が癖になりやすい(嗜癖性がある)のに家庭環境の影響がある原因は、もともとあったその「能力」を文化的に発現させないようになったからです。言語的コミュニケーション能力や言語理解能力のようにその能力を家庭環境によって促進するのではなく、逆に、反社会的行動という「能力」を家庭環境によって抑制するようになったのです。たとえば、それが、野々宮家のようなしつけ(禁止行為の学習)です。逆に、そうしない斎木家のような家庭環境が、結果的に素行の悪さという「能力」を発現させてしまい、家庭環境の影響度が20%程度出てしまうのです。なお、反社会的行動の起源の詳細については、関連記事7をご覧ください。(2)嗜好品へのハマりやすさという「能力」を文化的に発現させないようになったからアルコールの製造は約1万年前、大麻は約5千年前、タバコは7世紀頃であると考えられており、比較的に最近です。当たり前の話ですが、これらの嗜好品は、ハマるように人工的に造られたため、ハマる(嗜癖性が強い)のです。嗜好品へのハマりやすさ(物質依存)が癖になりやすい(嗜癖性がある)のに家庭環境の影響がある原因は、そのハマる「能力」を文化的に発現させないようになったからです。反社会的行動と同じように、嗜好品にハマる「能力」を家庭環境によって抑制するようになったのです。たとえば、それが、野々宮家のようにコーラ(カフェイン)禁止、ゲームの時間制限などの家庭のルールです。逆に、そうしない斎木家のような家庭環境が、結果的に嗜好品へのハマりやすさという「能力」を発現させてしまい、家庭環境の影響度が15~30%程度出てしまうのです。たくさん本が目の前にある家庭環境が言語理解能力を促進するのと同じように、たくさんの嗜好品が目の前にある家庭環境はそれらにハマる「能力」を促進してしまうという訳です。なお、アルコール依存症の起源の詳細については、関連記事8をご覧ください。ちなみに、嗜好品ではないですが、嗜癖行動として、ギャンブルが挙げられます。この家庭環境の影響度は、嗜好品と同じように考えれば、ある程度の%があっても良さそうですが、0%であることが分かっています。この訳は、確かに、ギャンブルは、狩りをする能力(ギャンブル脳)として、太古の昔からすべての動物がやってきたことであり、嗜癖性が強いです。しかし、アルコールやタバコと違って家庭内に入り込むことが難しいため、結果的に家庭環境の影響が出なくなっています。もちろん、成人してから実際にパチンコ店に行くという家庭外環境によって刺激が繰り返されると、ハマる「能力」が発現するでしょう。なお、ギャンブルの起源の詳細については、関連記事9をご覧ください。ただし、昨今広がっているギャンブル性の高いゲームは別です。現時点で、これについての行動遺伝学的な研究は見たありません。家庭内に入り込むことができるギャンブルとして、ゲームは家庭環境の影響が出ることが推測できます。なお、ゲーム依存症の詳細については、関連記事10をご覧ください。癖になりにくいのに家庭環境の影響がある困った「能力」とは? その原因は?家庭環境とは、現代社会に望ましいながらも癖になりにくい(嗜癖性が弱い)能力を促進する文化的な「アゴニスト」(刺激薬)であると同時に、現代社会に望ましくないながらも癖になりやすい(嗜癖性が強い)「能力」を抑制する文化的な「アンタゴニスト」(遮断薬)であることが分かりました。ところが、現代社会に望ましくなく、癖にもなりにくいのに、家庭環境の影響が出てしまう、ある「能力」が例外的にあります。それは、統合失調症という心の病です。この遺伝、家庭環境、家庭外環境の影響度は、81%:11%:8%であることが分かっています。つまり、家庭環境の影響度が10%強と少ないながらあります。これは、なぜしょうか? その原因を、再び進化心理学的に掘り下げてみましょう。統合失調症の主症状は、幻聴と被害妄想です。このことから、その起源、つまり統合失調症という「能力」が完成したのは、言葉でコミュニケーションをして抽象的に考えるようになった約10万年前であることが推定されます。つまり、統合失調症は、言語理解能力と同じく、新しく出てきた「能力」であるため、嗜癖性は弱いことが分かります。当時から、幻聴は「神のお告げ」として、被害妄想は「神通力」として受け止められ、彼らは社会に溶け込んでいたでしょう。ところが、18世紀の産業革命によって合理主義や個人主義が世の中に広がっていきました。この価値観によって、その後、この「能力」は病としてネガティブに受け止められるようになりました。つまり、統合失調症は、現代社会で望ましくない「能力」になってしまいました。ここで、統合失調症の発症に影響を与える家庭環境が浮き彫りになってきます。それは、合理主義的ではない、個人主義的ではない親の関わりです。これが、10%強の家庭環境の影響度の正体であることが考えられます。たとえば、それは、信心深さ、スピリチュアリズム、勘ぐりの激しさなどの合理主義的ではない関わりでしょう。また、過保護、過干渉、巻き込み、バウンダリー(心理的距離)のなさなどの個人主義的ではない関わりでしょう。実際に、再発の研究においては、家族による高い感情表出が危険因子として挙げられています。つまり、統合失調症において家庭環境の影響が出てしまう原因は、このような親の関わりほうが文化的に制限されるまでに至っていないからでしょう。なお、統合失調症の起源の詳細については、関連記事11をご覧ください。ちなみに、統合失調症以外の精神障害については、家庭環境の影響が基本的に0%になっています。このことから、統合失調症以外のほとんどの精神障害は、統合失調症が出現する10万年前よりも以前にすでに出現していたことが推定できます。たとえば、自閉症は、男性に多く見られるシステム化という能力の遺伝形質を多く遺伝したため、その効果が強く出た結果と言えるでしょう。自閉症の起源の詳細については、関連記事12をご覧ください。ADHDは、瞬発力(衝動性)という「能力」の遺伝形質が強く出た結果と言えるでしょう。ADHDの起源の詳細については、関連記事13をご覧ください。うつ病は、周りからの援助行動を引き出す「能力」の遺伝形質が強く出た結果と言えるでしょう。うつ病の起源の詳細については、関連記事14をご覧ください。結局、家庭環境って何なの?結局のところ、家庭環境の影響とは、必ずしも親の関わりの単純な程度でなく、親の関わりへの子どものそれぞれの能力の反応の鈍さであったり、逆に鋭さであったりする訳です。そして、反社会的行動と物質依存を除くと、家庭環境の影響度の大きさの違いから、その能力がいつ出現したかがだいたい分かってしまうという訳です。そう考えると、家庭環境は、もはや純粋に家庭環境とは呼べないかもしれません。行動遺伝学においての家庭環境(共有環境)か家庭外環境(非共有環境)かの線引きは、家庭の内か外かという単純な家庭の問題を超えて、どちらにしてもその環境の影響に反応しやすいかどうかという子どもの能力の嗜癖性の問題でもあることが分かります。進化の歴史の中で、そんな能力の嗜癖性を高めてきた私たちの心は、まさに「癖になる脳」、“addictive brain”と言えるのではないでしょうか?1)日本人の9割が知らない遺伝の真実:安藤寿康、SB新書、20162)遺伝マインド:安藤寿康、有斐閣、20113)認知能力と学習 ふたご研究シリーズ1:安藤寿康、創元社、20214)家庭環境と行動発達 ふたご研究シリーズ3:安藤寿康ほか、創元社、20215)そして父になる 映画ノベライズ:是枝裕和、宝島社文庫、2013<< 前のページへ■関連記事酔いがさめたら、うちに帰ろう。(前編)【アルコール依存症】万引き家族(前編)【親が万引きするなら子どももするの?(犯罪心理)】Part 1クレヨンしんちゃん【ユーモアのセンス】Part 1そして父になる(その1)【もしも自分の子じゃなかったら!?(親子観)】Part 2インサイド・ヘッド(続編・その3)【意識はなんで「ある」の? だから自分がやったと思うんだ!】Part 1クレヨンしんちゃん【ユーモアのセンス】Part 3万引き家族(前編)【親が万引きするなら子どももするの?(犯罪心理)】Part 3酔いがさめたら、うちに帰ろう。(後編)【アルコール依存症】「カイジ」と「アカギ」(後編)【ギャンブル依存症とギャンブル脳】レディ・プレーヤー1【なぜゲームをやめられないの?どうなるの?(ゲーム依存症)】絵画編【ムンクはなぜ叫んでいるの?】ガリレオ【システム化、共感性】ドラえもん【注意欠如・多動性障害(ADHD)】ツレがうつになりまして。【うつ病】

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