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HPVワクチン接種と33の重篤な有害事象に関連なし、韓国/BMJ

 韓国のヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種を受けた11~14歳の女子において、コホート分析では33種の重篤な有害事象のうち片頭痛との関連が示唆されたものの、コホート分析と自己対照リスク間隔分析(self-controlled risk interval[SCRI] analysis)の双方でワクチン接種との関連が認められた有害事象はないことが、同国・成均館大学校のDongwon Yoon氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2021年1月29日号に掲載された。HPVワクチン接種後の重篤な有害事象は、このワクチンの接種に対する大きな懸念と障壁の1つとなっている。HPVワクチンの安全性に関する実臨床のエビデンスは、西欧では確立しているが、アジアのエビデンスは十分ではないという。韓国の大規模データベースを用いたコホート研究 研究グループは、韓国の思春期女子におけるHPVワクチン接種と重篤な有害事象の関連を評価する目的で、コホート研究を実施した(韓国Government-wide R&D Fund project for infectious disease research[GFID]などの助成による)。 韓国予防接種登録情報システムと国立保健情報データベースのデータを統合し、2017年に11~14歳だった女子の同年1月~2019年12月の大規模データベースを構築した。 44万1,399人のデータが解析に含まれた。このうち、38万2,020人が42万9,377回のHPVワクチン接種を受け(HPVワクチン接種群)、残りの5万9,379人はHPVワクチン接種を受けず、8万7,099回の日本脳炎ワクチンまたは破傷風・ジフテリア・無細胞性百日咳混合ワクチンの接種を受けた(HPVワクチン非接種群)。 主要アウトカムは、33種の重篤な有害事象とした。重篤な有害事象には、内分泌(グレーブス病、橋本甲状腺炎など)、消化器(クローン病、潰瘍性大腸炎など)、心血管(レイノー病、静脈血栓塞栓症など)、筋骨格・全身性(強直性脊椎炎、ベーチェット症候群など)、血液(特発性血小板減少性紫斑病、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病)、皮膚(結節性紅斑、乾癬)、神経系(ベル麻痺、てんかんなど)の疾患が含まれた。 主解析はコホートデザインで行い、SCRI分析を用いて2次解析を実施した。4価ワクチン接種者で片頭痛が増加 ワクチン接種時の平均年齢は、HPVワクチン接種群が12.42(SD 0.82)歳、HPVワクチン非接種群は11.84(0.56)歳であった。接種群のうち38.7%は1回、61.3%は2回のHPVワクチン接種を受け、29万5,365人が4価、8万6,655人は2価ワクチンの接種を受けた。合計51万6,476回のHPVワクチン接種が行われた。 コホート分析では、たとえば橋本甲状腺炎(10万人年当たりの発生率:接種群52.7 vs.非接種群36.3、補正後率比[RR]:1.24、95%信頼区間[CI]:0.78~1.94)や、関節リウマチ(168.1 vs.145.4、0.99、0.79~1.25)などではHPVワクチン接種との関連はみられず、唯一の例外として片頭痛(1,235.0 vs.920.9、1.11、1.02~1.22)で関連が認められた。 SCRI分析による2次解析では、片頭痛(補正後相対リスク:0.67、95%CI:0.58~0.78)を含め、HPVワクチン接種と重篤な有害事象には関連がないことが確かめられた。 フォローアップ期間の違いやHPVワクチンの種類別でも、結果の頑健性は高かった。また、2価ワクチン接種者では、片頭痛の有意な増加はみられなかった(補正後RR:1.07、0.96~1.20)が、4価ワクチン接種者では非接種者に比べ片頭痛が有意に増加していた(1.13、1.03~1.24)。 著者は、「これらの結果は、西欧の集団でHPVワクチン接種の安全性を示した試験と一致する」とまとめ、「片頭痛に関する矛盾した知見については、その病態生理と関心対象の集団を考慮して慎重に解釈すべきである」と指摘している。

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脳腱黄色腫症〔CTX:CerebrotendinousXanthomatosis〕

1 疾患概要■ 概念・定義脳腱黄色腫症は、CYP27A1遺伝子変異を原因とする常染色体劣性の遺伝性代謝疾患である。■ 疫学「脳腱黄色腫症の実態把握と診療ガイドライン作成に関する研究班」が実施した全国調査では、2012年9月~2015年8月の3年間に日本全国で40例の脳腱黄色腫症患者の存在が確認された1)。また、これまでにわが国から約60例の本症患者の報告がある。一方、ExAC(The Exome Aggregation Consortium)のゲノムデータベースを用いた検討による本症の頻度は、東アジア人で64,267~64,712人に1人と推測されており、わが国の潜在的な患者数は1,000人以上である可能性がある。■ 病因脳腱黄色腫症の原因遺伝子であるCYP27A1は、27-水酸化酵素をコードしており、本症の患者では遺伝子変異により本酵素活性が著しく低下している。27-水酸化酵素は、肝臓における一次胆汁酸の合成に必須の酵素であり、酵素欠損によりケノデオキシコール酸などの胆汁酸の合成障害を来す(図1)。また、ケノデオキシコール酸によるコレステロール分解へのネガティブフィードバックが消失するため、コレスタノール・胆汁アルコールの産生が助長される(図1)。上昇したコレスタノールが脳、脊髄、腱、水晶体、血管などの全身臓器に沈着し、さまざまな臓器障害を惹起する。下痢や胆汁うっ滞は、ケノデオキシコール酸の欠乏や胆汁アルコールの上昇などの機序によると推測される。図1 脳腱黄色腫症の病態画像を拡大する■ 症状・分類脳腱黄色腫症の臨床症状は、腱黄色腫、新生児期の黄疸・胆汁うっ滞、小児期発症の慢性下痢、若年性白内障、若年性冠動脈疾患、骨粗鬆症といった全身症状と、精神発達遅滞・認知症、精神症状、錐体路徴候、小脳性運動失調、てんかん、末梢神経障害、錐体外路症状といった神経症状に大別される。臨床病型は、多彩な臨床症状を呈する古典型、痙性対麻痺を主徴とする脊髄型、神経症状を認めない非神経型、新生児胆汁うっ滞型に分類される(表1)。古典型は、小児期に精神発達遅滞/退行、てんかん、歩行障害、慢性の下痢、白内障などで発症することが多い。腱黄色腫(図2)は20歳代に生じることが多くアキレス腱に好発するが、黄色腫を認めない例もまれではない。表1 脳腱黄色腫症の病型画像を拡大する図2 脳腱黄色腫患者のアキレス腱黄色腫画像を拡大する(A)肉眼所見 (B)単純X線所見 (C)MRI所見 T1強調像(文献3の図1A-Cを転載)■ 予後未治療のまま経過すると進行性の神経症状により、高度の日常生活動作障害を呈する。2 診断 (検査・鑑別診断を含む)腱黄色腫、進行性の神経症状または精神発達遅滞、若年発症の白内障・下痢・冠動脈疾患・骨粗鬆症、新生児~乳児期の遷延性黄疸・胆汁うっ滞など本症を疑う症状を認めた場合、血清コレスタノールの測定を行う。血清コレスタノールは外注検査が可能であるが保険収載はされていない。血清コレスタノールが上昇しており、他疾患が否定されればProbable、さらにCYP27A1遺伝子の変異が証明されればDefiniteの診断となる。遺伝子検査は、脳腱黄色腫症の実態把握と診療ガイドライン作成に関する研究班のホームページから申し込みが可能である。2018年に改訂された本症の新しい診断基準1,2)を表2に示す。表2 脳腱黄色腫症の診断基準画像を拡大する3 治療治療の基本は、著減しているケノデオキシコール酸の補充(保険適用外)である。ケノデオキシコール酸投与により胆汁酸合成経路の律速酵素であるコレステロール7α-水酸化酵素へのネガティブフィードバック(図1)が正常化し、血清コレスタノールの上昇などの生化学的検査異常が改善する。また、その結果として組織へのコレスタノールの蓄積が抑制される。早期治療により臨床症状の改善も期待できる。ケノデオキシコール酸の投与量は成人例では750mg/日、小児例では15mg/kg/日が推奨されている2)。HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン製剤、保険適用外)も血清コレスタノールの低下作用を有するが、臨床的な有用性のエビデンスは十分に蓄積されていない。LDLアフェレシス(保険適用外)も血清コレスタノールを低下させることが可能であるが、約2週間で治療前値に戻ってしまうことからケノデオキシコール酸やスタチン製剤による治療効果が不十分な例に実施を検討する。4 今後の展望現在わが国で、脳腱黄色腫症に対するケノデオキシコール酸の治験が進行中であり、近い将来保険適用になる可能性がある。わが国で実施した全国調査の結果では、本症の発症から診断までに平均で16.5±13.5年を要しており、特に小児期の未診断例が多いことが明らかになっている1)。現状では、診断の遅れにより重篤な神経系の後遺症を残している患者が多いが、発症早期に治療介入することで本症患者の予後が改善すると期待される。5 主たる診療科脳神経内科、小児神経科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報脳腱黄色腫症の実態把握と診療ガイドライン作成に関する研究班(医療従事者向けのまとまった情報)原発性高脂血症に関する調査研究班(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 脳腱黄色腫症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Sekijima Y, et al. J Hum Genet.2018;63:271-280.2)脳腱黄色腫症の実態把握と診療ガイドライン作成に関する研究班、原発性高脂血症に関する調査研究班編. 脳腱黄色腫症診療ガイドライン 2018. 2018.3)Yoshinaga T, et al. Intern Med.2014;53:2725-2729.公開履歴初回2021年2月15日

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ジフテリア、破傷風、百日咳【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第7回

今回はジフテリア、破傷風、百日咳がテーマである。現在この3疾患のいずれかをカバーしうる国産ワクチンは、破傷風トキソイド、二種混合(DT:ジフテリア/破傷風混合トキソイド)、三種混合(DPT:ジフテリア/百日咳/破傷風混合)、四種混合(DPT-IPV:ジフテリア/百日咳/破傷風/不活化ポリオ)ワクチンの計4種類がある。DPT-IPVワクチンは乳幼児期(0~1歳)に計4回、DTワクチンは学童期(11~12歳)に1回、定期接種で使用されているが、その他のDPTワクチンと破傷風トキソイドは、制度として定められた接種時期はなく、主にキャッチアップワクチンとして使用されている。諸外国と比較し、わが国の現行の小児定期接種スケジュールの問題点は何だろうか。また、破傷風トキソイドおよびDPTワクチンのキャッチアップとして、接種タイミングをどう考えればよいかについては、意外に知られていない。そこで本稿では、それぞれの疾患とワクチンに触れながら、上記ポイントについて述べる。ワクチンで予防できる疾患 ~ジフテリア・百日咳・破傷風の概要~まず、ジフテリア・百日咳・破傷風、3疾患を比較して外観する。ジフテリア、百日咳、破傷風の疾患頻度は、百日咳>破傷風>>>ジフテリアの順で多く、百日咳は年間1万5,000例以上(うち入院264例、死亡は1例:2019年1))、破傷風は年間数十~100例前後2)(うち死亡は10例前後3))である。百日咳、破傷風ともに、追加接種を行わなければ、乳幼児期の予防接種の効果が減弱するため、小児や成人での感染が問題となっている。これら2疾患の追加接種については今回のメインテーマであり、次項で述べる。ジフテリアの感染事例は国内では20年以上発生していない4)。しかし、諸外国では、感染が流行している地域があるため、海外渡航時または渡航者からの輸入感染に備えるべく、ワクチンにより免疫を獲得しておくことが重要である。以下、各疾患について概説する(詳細は成書を参照)。1)ジフテリアとはジフテリアはジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)による感染症で、主に上気道粘膜に感染する4)。鼻ジフテリア、咽頭ジフテリア、喉頭ジフテリアなどの病型があり、その他眼瞼結膜、中耳、陰部、皮膚などに感染することもある。わが国では1945年に約8万6 千人(うち約10%が死亡)の届出患者がいたが、ワクチン接種の普及と共に患者数は減少し、1991~2000 年の10年間では21人(うち死亡が2人)にまで激減。2類感染症・全数報告届出疾患であるが、1999年の1例(死亡例)を最後に届出はみられていない。わが国では流行がみられないジフテリアであるが、ロシアでは政権崩壊の煽りをうけて、1990年代にワクチン供給が不足した。それに伴い、住民の免疫低下から、12万5,000人の患者が発生し、4,000人以上が死亡して、欧州を巻き込むなど国際的問題となった事例がある。予後に関わる合併症としては心筋炎があり、無治療の場合の致命率は5~10%と高い。諸外国では散発的に発生していることから、ルーチンワクチンとして接種を推奨することが大切である。2)百日咳百日咳は百日咳菌による急性気道感染症で、長期にわたり続く咳が特徴である。特に新生児や乳児が罹患すると、無呼吸発作などを来たし致死的となることから、乳児の周囲の人がワクチンを接種することにより、乳児に感染させないことが大切である。また、意外に知られていないのが、百日咳の感染経路は飛沫感染だが、基本再生産数※は16-21と非常に高く、空気感染する麻疹とほぼ同等の強い感染力を持つ(麻疹の基本再生産数:12-18)。特に成人の感染者は症状が軽いため、本人が気付かないうちに、乳幼児の感染源となりうる。※基本再生産数集団にいるすべての人間が感染症に罹る可能性をもった(感受性を有した)状態で、1人の感染者が何人に感染させうるか、感染力の強さを表す。つまり、数が多い方が感染力がより強いということになる百日咳は2018年1月から全数報告指定疾患となり、診断した場合は全例届出が必要となった5)。2018~2019年の届出症例数はそれぞれ年間11,190例1)、15,974例6)であった。5~15歳が全体の6割強と多く、成人の中では30~40代が最も多かった(図参照)。乳幼児期の予防接種の効果は最終接種から4~12年で低下することがわかっており、追加接種プログラムがないわが国の課題となっている。図 届け出ガイドラインの診断基準を満たした百日咳患者症例の年齢分布画像を拡大する百日咳はアジスロマイシンにて治療が可能であるが、しばしばその他ウイルス性上気道炎やマイコプラズマなどとの鑑別が困難なことから、診断されていないケースも多いことが推測される。診断するための検査方法としてLAMP法が2016年に保険収載されたため、後鼻腔(咽頭)ぬぐい液にて診療所でも検査・診断がしやすくなっている。後述する百日咳ワクチンの国内での追加接種の必要性を検討するためにも、疫学調査が重要となるため、積極的に検査・診断したい疾患といえる。3)破傷風破傷風は破傷風菌が産生する神経毒素により強直性痙攣を引き起こし、最悪の場合、呼吸筋麻痺を来たし致死的となる7)。破傷風の治療薬として抗破傷風ヒト免疫グロブリン(TIG)とペニシリンがあるが、診断早期に投与する必要があり、しばしば早期診断が難しいことから、予防することが大切である。破傷風は芽胞の状態で土壌内に潜み、外傷や土いじりなどを契機に傷口から侵入する。侵入部位が特定されていない破傷風の症例も多く、軽微な創傷部位からも感染しうる。また、破傷風菌の芽胞は土壌内に広く分布するため、接触を避けることは日常生活上ほぼ不可能である。これらのことから、ワクチン接種以外の方法で完全に破傷風感染から予防するのは難しいことがわかる。破傷風は小児期に複数回の破傷風含有(二種/三種/四種混合)ワクチンを接種していても、追加接種を行わなければ、最終接種から10年ほどで抗体価は低下する。わが国では破傷風ワクチンの追加接種プログラムがなく、任意接種となっていることから免疫を持たない成人が多数いる。そのため、破傷風感染事例の95%以上が小児期に破傷風含有ワクチンの定期接種制度が存在しなかった40歳以上の成人である。ワクチンの概要と接種スケジュール破傷風トキソイド、および二種/三種/四種混合ワクチンいずれのワクチンも安全で、ワクチン特異的な副反応はない。三種/四種混合ワクチンは、他のワクチンに比し副反応として発熱を呈することがやや多いが、2~3日の経過観察で自然に解熱する。ここでは、特に重要性の高い、破傷風トキソイドおよび三種混合ワクチンの追加接種について述べる。1)破傷風トキソイド(表1)罹患すれば効果的な治療薬がなく致死的な疾患のため、先進国であるわが国においてもすべての人が接種推奨対象者である。1967年以前に出生した人は、小児期に破傷風を含むワクチンが定期接種化されていなかった年代のため、まずは破傷風トキソイドを3回接種することにより基礎免疫を付け(0、1、6ヵ月後)、その後10年毎の追加接種(ブースト)を推奨する。1968年以降の生まれの人は、小児期に基礎免疫が終了しているため、最終接種から10年毎のブースト(追加接種)を推奨する。特に、「土」などに接触する機会の多い農作業者や工事現場の従事者、不衛生な環境に曝露しやすい被災地域での支援や災害などの際も、破傷風トキソイドの追加接種の重要性は高い。破傷風トキソイドを含むワクチンの中でも、11~12歳に定期接種とされているDTワクチンの接種率は、7~8割と定期接種ワクチンの中でも低い。破傷風の9割以上は成人発症だが、このDTワクチンを接種しなかった高校生が破傷風を発症した事例も報告されており8)、定期接種をしっかり完了させることも非常に重要である。外傷時は、傷の深さや汚染度によって、破傷風トキソイドに加え、免疫グロブリン投与の必要性を検討する9)。表1 破傷風トキソイド ワクチンの概要画像を拡大する(こどもとおとなのワクチンサイト.破傷風トキソイドの表より引用)2)百日咳含有ワクチン(三種/四種混合ワクチン)現在、小児の定期接種で使用されている百日咳含有ワクチンといえば四種混合(DPT-IPV)ワクチンであるが、2012年11月以前は三種混合(DPT)ワクチンと不活化ポリオワクチン(2012年8月までは経口ポリオワクチン)が用いられていた。現在は、三種混合ワクチンとしてトリビック(商品名)が流通しており、後述する百日咳の追加接種として、わが国で用いることができる唯一の国産ワクチンである。しかし、定期接種として使用される四種混合ワクチンとは違い、制度として接種プログラムに組み込まれていないため、三種混合ワクチンの使い所は、あまり知られていない。なお、海外にはTdap(ティーダップ)という成人用の三種混合ワクチンが広く使用されているが、わが国でも2016年2月にトリビックの添付文書が改定され、成人への接種が可能となっている。では、トリビックはどういう状況で推奨すべきだろうか。百日咳含有ワクチンは、わが国では生後3ヵ月以降にしか接種できず、複数回の接種が必要な不活化ワクチンである。そのため、免疫が付けられない新生児や乳児をケアする母親やその家族など、乳児の周りの人がワクチン接種をすることで乳児を守る“コクーン(繭)戦略”という概念が最も重要とされているワクチンの1つである。わが国では、0~1歳時に定期接種として四種混合ワクチンを4回定期接種するが、それ以降、百日咳含有ワクチンを接種する機会は、制度としては存在しない。一方、多くの諸外国では4歳以降で百日咳含有ワクチンの追加接種を行っている(表2)。その理由は、百日咳の抗体は最終接種から4~12年で低下し、再度感染しうる状態まで免疫が低下することがわかっているからである。実際にわが国でも先述の百日咳感染者の報告で、5~15歳の感染者の8割以上は、乳幼児期に4回の百日咳含有ワクチン接種していたにも関わらず、百日咳に罹患している1,6)。つまり、わが国も諸外国にならい、学童期の追加接種を行うことで、この年代の感染者を減らすことが期待できる。さらに、欧米などでは妊婦に対する百日咳含有ワクチンの接種も推奨している。実際、妊婦(妊娠後期)に対し百日咳含有ワクチンを接種することで、乳児の百日咳感染数が減少したという研究報告もある10)。乳児をケアする母親およびその同居家族は、年代に関わらず、百日咳含有ワクチンの追加接種を行うことで、乳児を百日咳から守ることが望ましい。表2 諸外国における百日咳ワクチンの接種スケジュール 接種時期と回数画像を拡大する日常診療で役立つ接種のポイント(例:ワクチンの説明方法や接種時の工夫)破傷風トキソイド軽微な傷を契機に、土壌中に存在する芽胞がいつ侵入してくるかわからないこと、また有効な治療法がないことからも、全年齢に免疫を付けておくことが推奨される。1967年以前に生まれた人は、3回接種(0、1ヵ月以降、6ヵ月以降)の基礎免疫を行い、その後は、1968年以降に生まれた人と同様、10年ごとの追加接種を推奨する。特に土などに接触する機会や外傷を負うリスクの高い人(農作業者、工事現場、被災地支援など)には積極的に推奨したい。三種混合ワクチン(トリビック)前述の通り、百日咳については追加接種がなければ3~4回の最終接種後、4~12年で抗体は低下し、百日咳に感染しうる状態となる。感染すると致命的となりうる乳児をケアする可能性のある家族(同居家族も含む)への追加接種を推奨する。また、2018~2019年の発生報告で最も感染者の多いことがわかっている学童期への追加接種も積極的に行うことが大切である。具体的には、下記3つの推奨タイミングがある(いずれも任意接種としての扱い)。(注:トリビックの添付文書に記載のある適応年齢は、11~12歳および成人である。つまり(1)は添付文書外使用となることに注意する)(1)5~6歳(年長):MR 2期を接種するタイミングに合わせて、トリビックの接種を推奨する(抗体価が最も低下する9歳11)の前に接種が可能なこと、2019年までの感染者報告では5~15歳が全体の8割を占めることから、接種タイミングとして理にかなっている)(2)11~12歳:DTワクチンの定期接種に相当する年代であり、DTワクチンの代わりにトリビック(三種混合ワクチン)の接種を推奨する。(3)成人:特にこれから妊娠予定や乳児をケアする家族、妊娠可能年齢の女性など(妊婦に対しての接種は、わが国の添付文書上、有益性投与となっている)今後の課題・展望今後、わが国でも諸外国のように、百日咳含有ワクチン(トリビック)の学童期に対する追加接種が定期接種化されることが望まれる。さらに、欧米のように、妊婦に接種推奨が可能な整備がされると、より早期乳児を百日咳から守ることに繋がる可能性がある。また、成人のキャッチアップワクチンとして、破傷風トキソイドを広く推奨できるよう、プライマリケア医および一般市民に対する啓発を続けることが重要と考える。参考となるサイト(公的助成情報、主要研究グループ、参考となるサイト)こどもとおとなのワクチンサイト予防接種啓発ツール 厚生労働省百日咳ワクチン接種推奨ポスター 日本小児科学会1)全数報告サーベイランスによる国内の百日咳報告患者の疫学-2019年疫学週第1週~52週-[2020年1月8日現在](国立感染症研究所)2)発生動向調査年別報告数一覧(その1:全数把握)[2013年2月16日現在報告数](国立感染症研究所)3)破傷風 2008年末現在(IASR.2009;30;p.65-66.)4)ジフテリアとは[2020年10月27日 改訂](国立感染症研究所)5)感染症法に基づく医師届出ガイドライン(初版)百日咳 [平成30年4月25日](国立感染症研究所)6)全数報告サーベイランスによる国内の百日咳報告患者の疫学-2018年疫学週第1週~52週-[2019年1月7日現在](国立感染症研究所)7)破傷風とは[2021年1月12日 改訂](国立感染症研究所)8)2期のDTが未接種であった10代の破傷風発症事例(IASR.2018;39:p.27.)9)外傷後の破傷風予防のための破傷風トキソイドワクチンおよび抗破傷風ヒト免疫グロブリン投与と破傷風の治療(IASR.2002;23:p.4-5.)10)海外の百日せき含有ワクチンの予防接種スケジュールと百日咳対策(IASR.2017;38:p.37-38.)11)年齢/年齢群別の百日咳抗体保有状況.2018年~2018年度感染症流行予測調査より(国立感染症研究所)講師紹介

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副反応は大丈夫?新型コロナワクチンの疑問に答えるLINEボット

 国内でも新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が月内にもはじまる見込みだが、新しいワクチンであることから副反応等を理由に、接種をためらう人も多い。 こうした状況を憂慮した医師を中心に、ワクチンに関するよくある質問に答えるLINEのチャットボットを利用した情報提供がはじまった。 この「コロワくんの相談室」はLINEに友達追加することで、無料で利用できる。 ・ワクチンの接種方法 ・ワクチンの効果 ・ワクチンの仕組み ・ワクチンの副反応という画面のメニューから、自分の知りたい内容を選んでいくと、ボットが事前に用意された回答を提示する。回答の下には関連する厚生労働省サイトや、回答の根拠となる論文誌へのリンクもつけられており、医療従事者が患者に説明する際にも利便性が高そうだ。 このボットは、米国マウントサイナイ医科大学に勤務する内科医、山田 悠史氏の発案でつくられたもの。氏は米国でいち早くワクチンを接種し、自身のSNSを使って日本人向けにワクチンに関する情報を提供してきた。しかし、多くの情報を発信しても質問が絶えず、誤った情報も多く出回っている状況を改善したいとボット開設を思い立ち、日本の医師やエンジニアの協力を得て、発案からわずか2週間で完成させたという。 ワクチン接種が進む米国でも、ワクチンに関する相談窓口となるコールセンターができたものの、多くの問い合わせからパンク状態が続き、副反応を疑った患者が医療機関に押し寄せるなど、混乱が続いているという。山田氏は「医師が発信する正しい情報を多くの人に届けることで日本のワクチン接種が進み、医療現場の負担軽減につながれば」とする。 現在は賛同・協力するメンバーが運営費用を負担している状況で、ボットのリリースとあわせ、クラウドファンディングを使った資金調達も行っている。〈医師サポーター〉代表:山田 悠史(マウントサイナイ医科大学 老年医学・緩和医療科)副代表:高橋 宏瑞(順天堂大学医学部 総合診療科)内科一般担当:原田 洸(岡山大学病院 総合内科・総合診療科)感染症担当:小林 孝照(アイオワ大学 感染症科)呼吸器担当:田中 希宇人(川崎市立川崎病院 呼吸器内科)小児・アレルギー担当:堀向 健太(東京慈恵会医科大学葛飾医療センター 小児科)公衆衛生担当:仁科 有加(OECD 雇用労働社会政策局 医療課)免疫学担当:石原 純(インペリアルカレッジロンドン バイオエンジニアリング専攻 講師/免疫創薬研究室主宰)産婦人科担当:稲葉 可奈子(関東中央病院 産婦人科)監修:紙谷 聡(エモリー大学 小児感染症科/米国立アレルギー感染症研究所主導 ワクチン治療評価部門)<技術開発サポーター>金子 穂積(Sun Asterisk CTOs’)坂元 麻貴子(xenodata lab. CDO)大山 晋輔(Spir CEO)◆LINEボットの利用・クラウドファンディングへの参加は下記より◆https://corowakun-supporters.studio.site/#project

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限局性皮質異形成〔FCD:Focal cortical dysplasia〕

1 疾患概要■ 概念・定義限局性皮質異形成(Focal cortical dysplasia:FCD)は、1971年にTaylorらが“Focal dysplasia of the cerebral cortex in epilepsy”として報告し、その後、難治性てんかんの外科切除病変で認められる特異的な病理像を呈する疾患単位として確立された。FCDは、単なる“限局した皮質の形成異常”ではなく、特徴的な臨床症状と画像を呈し、病理学的に確定診断がなされる独立した1つの疾患単位である。FCDの一部と片側巨脳症は病態が共通しており、病変の大きさは異なるが、連続した疾患として位置付けられている。■ 疫学国内、海外ともに正確な頻度は不明である。日本てんかん外科学会による主要な施設を対象とした2005年から2011年のアンケート調査では、1年間に30件程度の皮質形成異常が登録されていた。海外ではてんかん外科手術例の25%がFCDと報告されている。手術に至っていない例も多いと思われ、国内では数千例と見積もられている。■ 病因後述する病理所見の違いによりI〜III型に分類され、型(タイプ)によって病因は異なる。脳の発生段階による区分では、I型とIII型は神経細胞の移動後の発生異常に分類され、II型は異常な細胞増殖に伴う皮質形成異常に分類される。I型ではCOL4A1、SCN1A、STXBP1などの遺伝子変異が症例として報告されているが、共通の病態は不明であり、病因は多様であると推測される。II型では細胞内の信号伝達を担うmTOR経路の遺伝子変異によるmTOR機能の活性化が主要な病因である1)。III型は併発病変により病因が異なると推測される。■ 症状主要な症状である薬剤抵抗性のてんかん発作は乳幼児期に発症することが多く、約60%の症例は4歳まで、約90%の症例は12歳までに発症する。組織学的な変化が軽度(IA型)の場合は60歳以上での成人発症も報告されている。発症時には強直発作・強直間代発作が比較的多く認められる。年齢が上がると病変部位に応じた焦点起始発作が認められる。群発する症例が多く、重積発作は10%程度に認められる。症状が進行すると、認知機能の障害や片麻痺など局所症状の出現を伴う。■ 予後発作は薬剤抵抗性である。17%の症例は薬剤に反応するが、効果は一時的である。焦点切除術により約半数で発作消失が得られる。FCDのタイプによって発作消失率は異なり、I型では43%、II型では75%である。10年間の長期予後では、手術から1年後の発作消失率は61%、5年後42%、10年後33%である。MRIで病変が検出される方が手術成績は良い。1歳未満の発症、てんかん性スパズムの既往、頻回の発作、長い罹病期間、群発や重積発作は知的障害の併発リスクとなる。国内のてんかん専門施設におけるFCD 77例の調査では、53%に知的障害を認め、発達・知能指数の平均は60であった2)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)FCDの確定診断は病理所見によって行われ、国際抗てんかん連盟(ILAE)により細分類されている(表)3)。表 限局性皮質異形成の 病理組織 診断分類画像を拡大するMRIは術前評価の非侵襲的な基本検査である。I型の大多数でMRIは正常であり、術前の診断は困難である。II型では局所的な皮質の肥厚、脳回異常、T2もしくはFLAIRの高信号、皮質と白質の境界不明瞭化が認められる。IIa型で3割程度、IIb型ではほぼ全例でMRIの異常所見が得られる。IIb型では病巣直下の白質内に脳室周囲から脳表に向けてT2とFLAIRで高信号を呈する線状の所見が認められ、“transmantle sign”と呼ばれる。脳波でI型を診断することは困難である。II型では発作間欠期に病変の解剖学的分布範囲と関連して焦点性の律動性てんかん発射が認められる。脳溝深部に限局するbottom-of-sulcus型では頭皮表面の脳波では異常を検出できないこともある。その他に、局在性の多型性徐波polymorphic delta activity、低振幅性速波、多棘波、二次性両側同期棘徐波が認められる。切除範囲を決める術前検査として、SPECT、FDG-PET、SISCOMが有用である。画像で病変範囲が不明確な場合は、頭蓋内電極の埋め込み術を行い皮質脳波を記録する。鑑別診断として、結節性硬化症、ラスムッセン脳炎、low-grade glioma(神経節膠腫、神経節細胞腫、胚芽異形成性神経上皮腫瘍など)が挙げられる。結節性硬化症は、病変が多発性でありCTで石灰化を伴う。また、FCDに比べグリオーシスが強く、皮質下白質のT2高信号が目立つ。ラスムッセン脳炎は、病変が進行性で、初期に脳回の腫大を認めることがあるが、萎縮性変化が主体である。Low-grade gliomaでは、皮質の肥厚は少なく、病変の高信号は不均一である。FCDでは、脳室に向かって皮質下白質の高信号が減弱するが、low-grade gliomaでは同所見は10%にしかみられない。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)発作型に応じ薬剤を選択し、2剤以上の適切な抗てんかん薬を使用しても発作が消失しないときは、発作焦点の皮質切除術を行う。発作焦点が運動野など一次領野にかかっていないことを確認する。発作再発のリスクは焦点の取り残しであり、病変が一次領野から離れ、術後に神経学的脱落症状を来すリスクが低ければ完全切除を目指す。4 今後の展望FCDII型の病因診断として研究レベルで遺伝子解析が行われる。MTOR、PIK3CA、AKT3、TSC1/2などの体細胞モザイク変異とDEPDC5、NPRL2、TSC1/2などの生殖細胞系列変異があり、前者は手術標本の脳組織から、後者は血液からDNAを抽出し、次世代シーケンス技術を用いた変異解析が行われる。FCDII型の主要な病態がmTOR活性の亢進であることが判明し、mTOR阻害剤がてんかん発作の抑制に期待され、医師主導の臨床研究が行われている。5 主たる診療科小児科、神経小児科、脳神経外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)限局性皮質異形成(FCD)研究会(臨床研究を含む一般利用者向けのまとまった情報)てんかん診療ネットワーク(てんかんの診療を行っている施設の検索)1)Nakashima M, et al. Ann Neurol. 2015;78:375-386.2)Kimura N, et al. Brain Dev. 2019;41:77-84.3)Blumcke I, et al. Epilepsia. 2011;52:158-174.公開履歴初回2021年02月09日

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優秀だけど給与高く圧強め…、そのスタッフ雇用継続すべき?【ひつじ・ヤギ先生と学ぶ 医業承継キソの基礎 】第11回

第11回 優秀だけど給与高く圧強め…、そのスタッフ雇用継続すべき?漫画・イラスト:かたぎりもとこ医業承継の買い手の方からしばしばある質問が「現状のスタッフを雇用継続すべきでしょうか?」というものです。弊社の成約実績を基にした調査では、雇用継続するケースが8割以上となっています。雇用を継続する主な理由は、下記の3点です。(1)即戦力となるスタッフに残ってもらうことで、院内フローや規定などをゼロから構築する必要がなく、安定した医院運営が可能になる(2)一定数の患者がスタッフに付いている(スタッフが変わった場合の患者離反が不安)(3)スタッフを新規採用できるかどうかが不安一方で、雇用を継続しない、という選択の背景には、主に下記の2点があります。(1)スタッフ間の人間関係が悪化しており、改善策が見いだせない(2)スタッフの給与水準が高く、経営を圧迫する。もしくは(医療法人が買い手となった際は)本院と人件費の水準が合わない(1)人間関係の悪化スタッフ間の人間関係の把握に際しては「スタッフ内のキーパーソン」を知ることが重要です。キーパーソンの影響によって人間関係が悪化しているケースも存在するので、売り手の院長や複数のスタッフから、各人の評価を確認して判断する必要があります。(2)給与水準もう1つの要因である給与水準の問題も重要です。たとえば、看護師の場合、30代前半の看護師の平均年収は476万円である一方、50代後半の看護師の平均年収は534万円となっています1)。医院の引き継ぎを行う場合、院長が引退する年齢の診療所では、スタッフも40~50代のベテラン層が多くなります。経営者としては、こうした固定費の水準をきちんと認識しておく必要があります。給与に見合う能力があれば問題ありませんが、場合によっては、引き継ぎ前にスタッフと面談し、給与条件の変更を伝え、無理のない給与に設定し直すことも必要となるでしょう。参考1)令和元年賃金構造基本統計調査/厚生労働省

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治療が変わる!希少疾病・難病特集 ~血友病~

かつて第VIII因子(FVIII)製剤投与が中心だった血友病治療だが、FVIII製剤には「短い半減期」、あるいは「インヒビターの出現」という問題の存在が明らかとなった。そのため、半減期を延長したFVIII製剤(アディノベイト)が登場すると同時に、FVIII補充ではなく、別機序でFVIII活性を補う、抗活性型第IX因子(FIXa)/第X因子(FX)バイスペシフィック抗体のエミシツマブ(ヘムライブラ)が開発され、今日、世界で頻用されている。これに続く新薬として現在、以下のように、単鎖干渉(si)RNA核酸医薬と抗TFPI抗体、遺伝子治療薬の3種類の開発が進んでいる。siRNA核酸医薬としては、肝臓におけるアンチトロンビンを標的とするフィツシラン(fitusiran)が、唯一、臨床応用に向けて開発が進んでいる。第II相試験における脳静脈洞血栓症による死亡1例を受け、2017年9月に試験中止となるも同年12月の再開を経て、現在は "ATLASプログラム"という複数の第III相試験が進んでおり、2021年上半期には終了予定だという [Sanofi Press Relase 2020 June 19 ] 。抗TFPI抗体は、アンチトロ ンビンと並ぶ主要な抗凝固因子であるTFPI(組織因子経路インヒビター)の阻害を介して止血を改善する。コンシズマブ(concizmab)が先頭を切って第III相試験に入ったが、2020年3月には3例で非致死性血栓塞栓症が報告されたため試験は中止。同年8月には再開されたものの、終了予定時期は明らかにされていない [Novo Nordisk Press Release 2020 Aug. 13] 。あとを追っていたBAY1093884は、第II相試験が血栓症増加のため中止となり [THSNA2020抄録]、2019年9月に安全性を理由とした開発中止が発表された [2019 Bayer Annual Report] 。一方、マルスタシマブ(marstacimab [PF-06741086])は第II相試験で血栓症を含む重篤有害事象が観察されなかったため、2020年11月、第III相試験が開始された。終了予定時期は不明である [Pfizer Press Rleasae 2020 Nov 23]。遺伝子治療の研究も進んでおり、血友病の原因である「血液凝固因子の異常」そのものへの介入を試みられている。 Fidanacogene elaparvovec(PF-06838435)は、血友病B患者に対する第IX因子遺伝子導入薬であり、2018年7月に第III相試験が始まっている [Pfizer Press Release 2018 Jul 16] 。血友病Aに対しては、第VIII因子遺伝子を導入するvaloctocogene roxaparvovec(BMN 270)が今年に入り、第III相試験の予備解析による有意な有用性を報告した [BioMarin Press Release 2021 Jan 10] 。追いかける形となったSPK-8011もすでに予備的第III相試験が走っており、2021年中には本格的な第III相試験が始まる予定である [Spark Therapeutics Press Release 2020 Jul 12] 。

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治療が変わる!希少疾病・難病特集 ~潰瘍性大腸炎~

潰瘍性大腸炎の治療は従来、5-ASA製剤と免疫抑制剤に不応であれば、TNFα抗体が用いられてきた。しかしTNFα抗体不応例も少なくないため、現在、TNF-α以外の経路に介入して炎症を抑制すべく、以下のような薬剤の開発が進められている。まず注射剤としては、IL-23p19モノクローム抗体のリサンキズマブである。中等症以上の活動性潰瘍性大腸炎を対象に、維持療法としての有用性を検討する第III相試験が、2013年末の終了を目指してわが国で進行中である [参考] 。同じくIL-23阻害剤のグセルクマブも、同様の第IIb/III相試験が国内で走っており、'24年夏の終了を見込んでいる。同様にミリキズマブでも第III相試験が進んでいるが、終了予定時期不明である[参考]。一方、IL-36モノクローム抗体のSpesolimabは、中等症以上の活動性潰瘍性大腸炎を対象とした第II/III相試験が2020年3月に終了している [NCT03482635]。新規免疫抑制剤の開発も進んでいる。TLR9アゴニストであるコビトリモド(cobitolimod)は治療抵抗性左側潰瘍性大腸炎を対象とした第IIb相試験で、プラセボに比べ、臨床的寛解が有意に多かった [Lancet GH 2020; 5: 1063]。経口薬では、JAK阻害薬と抗α4β7インテグリン抗体製剤が先頭を走っている。まずJAK阻害薬のウパダシチニブは、中等症以上例を対象とした第III相試験において、プラセボを上回る臨床的寛解が得られた [Abbvi Press Release 2020 Dec. 24] 。フィルゴチニブも現在、第III相試験が進んでいる[Gilead Press Release 2020 May 20]。一方抗α4β7インテグリン抗体製剤であるベドリズマブは、中等症以上の活動期潰瘍性大腸炎患者において、アダリアマブを上回る臨床的寛解率がすでに報告されている [NEJM 2019; 381:1215] 。なお、ベドリズマブと異なり、経口投与が可能なカロテグラストメチル(AJM300)は本年1月、第III相試験においてプラセボを上回る臨床的寛解率を達成したと公表された [Kissei Press Release 2021 Jan 13]。消化管へのリンパ球動員抑制を介した抗炎症作用が期待されるスフィンゴシン-1-リン酸(S1P1)受容体1、5アゴニストは、オザニモド(RPC1063)による寛解率がプラセボを上回り [NEJM 2016; 374: 1754]、寛解例を延長介入した試験も昨年10月に終了したが、本年になり長期間の寛解維持作用が報告された [Sandborn WJ et al. J Crohns Colitis. 2021 Jan 13]。またIL-12や23情報系を下流でブロックするチロシンキナーゼ 2(TYK2)の阻害剤は現在、BMS-986165を用いた第II相試験が始まっており、2023年夏に終了予定である [NCT03934216] 。また、すでに注腸製剤として潰瘍性大腸炎に用いられているブデソニドは、経口投与による有用性も検討されており、メサラジンに対する非劣性を調べたわが国における第III相試験が、2020年5月に終了している [NCT03412682] 。

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治療が変わる!希少疾病・難病特集 ~パーキンソン病~

今日でも、パーキンソン病治療に対する薬物治療のメインは「ドパミン受容体の活性化」による運動症状の改善である。そのため基本的にドパミン前駆物質(レポドパ製剤)や直接的ドパミン受容体刺激薬、あるいはドパミン分解阻害薬が用いられてきた。これまでドパミン分解酵素であるMAO-Bの阻害薬としてはセレギリンとラサギリンが用いられてきたが、2019年11月、サフィナミド(エクフィナ)が新たに用いうるようになった。サフィナミドの特徴は、「脳内グルタミン酸放出抑制作用」という非ドパミン作用をあわせ持つ点である。このため、レポドパ製剤への併用により"wearing off" 現象の抑制が期待されている。一方、レポドパ製剤の代謝酵素であるCOMTを阻害する薬剤としては、2020年8月、オピカポン(オンジェンティス)が加わった。COMT阻害薬初の長時間作用型であり、1日1回服用を可能にした。ドパミンアゴニストとしては2種の新薬が登場した。一つは非麦角系ドパミンアゴニストである "KDT-3594" である。D 2 /D 3 受容体刺激のバランスを調節し、有効性を損なわず有害事象減少を目指していると思われる [参考] 。現在、第II相試験が走っている [KISSEI’s Company Profile 2020 Feb.] 。もう一つの新たなドパミンアゴニストは、ロピニロールの貼付剤ハルロピである。これまで唯一の貼付剤だったニュープロパッチよりも、作用時間が長い。一方、レポドパ製剤による"wearing off" 現象そのものの抑制を目的とする薬剤の開発も進んでいる。"PF-05251749"はその一つで、レポドパ製剤への併用により、中枢神経系透過性低分子カゼインキナーゼ1(CK1)阻害を介した、概日リズムの維持を目指す。すでに第Ia相試験は、2020年に終了している [Biogen Press Release] 。これら薬剤を用いた介入に加え近年、遺伝子導入による運動症状の改善を目指す試みも進んでいる。2011年3月には、2型アデノ随伴ウイルス(AVV -2)用いた、GAD(GABA合成酵素)の視床下核移植による運動症状改善が、ランダム化二重盲検試験の結果として報告された [Lancet Nerol 2021; 10: 309] 。また2019年には第 I 相試験だが、AADCコードDNAをAVV-2ベクターを用いて被殻に移植した結果、運動機能とQOLの改善が報告されている [Ann Neurol 2019; 85: 704] 。これら遺伝治療には安全性の懸念がつきまとうが、2014年に短期有用性が報告された [Lancet 2014, 383: 1138]、3種のドパミン合成酵素をコードしたProSavinベクター線条体移植は、4年間継続後も安全性と有効性が確認されている [Hum Gene Ther Clin Dev. 2018; 29: 148] 。なお、パーキンソン病に伴う日中の過度の眠気に対しては、モダフィニルとフレカイニド(抗不整脈薬)の配合剤である"THN102"、ヒスタミン3受容体拮抗剤 "Bavisant" を用いた第II相試験がそれぞれ[NCT03624920、NCT03194217]、すでに終了している。これ以外にも、運動症状以外のパーキンソン病随伴症状をターゲットとした創薬は進められている。

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恫喝や暴言も、医療者への風評被害の実態/日医

 日本医師会・城守 国斗常任理事が、3日の記者会見で「新型コロナウイルス感染症に関する風評被害の緊急調査」について、結果を公表した。これは、昨年11月に開催された都道府県医師会長会議で問題提起され、各地域の被害状況について全47都道府県医師会が調査したもの。全国から698件の報告、「近寄るな」「責任を取れ」など心ない言葉も 風評被害を受けた対象としては、総回答数698件のうち「医師以外の医療従事者」に対する被害が277件(40%)と最も多かった。次いで「医療機関」が268件(38%)、「医師または医療従事者の家族」が112件(16%)、「医師」が21件(3%)、「その他」が20件(3%)という内訳だった。「医師以外の医療従事者」に対する風評被害は、主に看護師に対するものが多かったという。《具体的な事例1:医師》・濃厚接触者ではなく、新型コロナ患者の対応をしていないにもかかわらず、自治体より乳児健診前の2週間は勤務しないように要望された。・検死に赴いたにもかかわらず、当該関係者から、あたかも自分が新型コロナに罹患しているかのような対応を受けた。・防護服着用で診察などの対応をしていると、その格好を揶揄するような指摘をされた。・このような時だから、医師は遠出をするべきではないとを言われた。・医師が近隣に引っ越してくると知った住人から、「窓も開けられなくなる」「引っ越しを延期してもらえないか」といったクレームが出た。《具体的な事例2:医師以外の医療従事者》・新型コロナを診ている医療機関か否かにかかわらず、医療機関に勤務しているだけで、「近寄るな」「(集まりや習い事に)来ないで欲しい」「(美容院などの)予約を受けられない、しばらく利用を控えて欲しい」「一緒にエレベーターに乗るのが怖い」などの扱いや暴言を受けた。・保育園などに子供の預かりを拒否され、新型コロナの対応に当たっていないことを説明しても聞き入れられず、仕事を休むことを強いられた。・勤務先医療機関に初めて新型コロナ患者が入院した際、ほかの通院患者から「自分の家族は大丈夫なのか。何かあったら責任を取ってもらう」と言われた。・病院職員に陽性者が出たため、PCR検査を受けた。陰性だったが、自宅待機をしていたところ、近隣住民から電話が殺到、嫌がらせのようなものもあった。・買い物に行くと、知人である従業員から「何しに来たの?早く帰って」と言われた。・感染拡大地域から通勤していることで、同僚から避けられ、車が県外ナンバーであることで肩身の狭い思いをすることがあった。《具体的な事例3:医療機関》・「診療・検査医療機関」であることが県ホームページに掲載されると、受診患者数が大きく減少した。・近隣医療機関で新型コロナ患者が出たことを受け、「(当院でも)患者が出た」「スタッフが感染している」など、SNSに誤った情報を書き込まれた。・病院敷地内にユニットハウスを建て、発熱外来として利用していると、近隣住民から「窓を開けるな」など、クレームがあった。・医療機関に勤務していることを職員の家族らが心配し、職員の退職の原因となった。・「お前らのせいで学校が再開できなくなった。どうしてくれるんだ」「感染拡大の責任を取れ」「職員を外出させるな」「職員の住んでいる場所を教えろ」など、恫喝めいた問い合わせがあった。《具体的な事例4:医療従事者の家族》・子供が「学校に来てもいいのか?お母さんは看護師だろ?」と言われるだけでなく、本人が新型コロナに感染しているかのような扱いを受けた。・医療従事者の子供というだけで、別室保育や別室授業などの対応をされたほか、登園や登校をしばらく控えるように要望された。・子供の地域活動(友達付き合い、習い事、クラブ活動など)が、直接的・間接的に拒否され、子供が精神的に不安定となった。・家族が新型コロナを診療している医療機関に勤務しているため、親のデイサービス利用が断られたり、取引先から「取引を止める」と言われたり、会社内で「お前の家族はコロナじゃないのか」「お前も感染してるんじゃないのか」と言われた。 このように、新型コロナウイルス感染症に対する過剰な心配と思われる事例が多く見られた。中には、家族や親戚から交流を避けられるといった事例も散見され、医療従事者が精神的にも大きなダメージを受けていることが心配される。城守氏「風評被害というよりも“いわれなき差別”」 風評被害への対応としては、「不安で通院できないといった問い合わせがあった際は、保健所の指導の下、感染対策をしっかり行っているので安心して通院してほしいと説明した」「慢性疾患により定期的な通院が必要な患者には個別に連絡し、病院内では感染対策を行っていること、定期的な受診が重要であることを説明した」「周辺住民を対象に勉強会を開催し、正しい情報が広まるよう努めた」など、その多くが繰り返し丁寧に説明し、医療従事者・医療機関への理解を求めていた。 城守氏は、「全国規模で風評被害が発生していることが明らかとなった。中には、医療従事者に対する“いわれなき差別”とも言える事例が多く見られ、由々しき事態であると考えている。国に対しても何らかの早急な対応を求めたい」と述べた。なお、被害状況に地域差などは見られず、報告がなかった県は7つほどあったという。調査概要1.名称:新型コロナウイルス感染症に関する風評被害の緊急調査2.目的:令和2年度第2回都道府県医師会長会議(2020年11月17日開催)で新型コロナウイルス感染症に関する医療従事者などへの風評被害について問題提起されたことを受けて、日本医師会として医療従事者などに対する風評被害の実態を把握し、その結果を基に、医療の最前線で奮闘している医療従事者の置かれている状況について、国民に理解を求める。3.対象:2020年10月1日~12月25日までに各地域で起こった風評被害4.内容:風評被害の対象者(医療機関、医師、医師以外の医療従事者、医療従事者の家族、その他)、具体的事例、対応策5.方法:都道府県医師会の協力のもと、各地域の被害状況について調査し、その結果を、2021年1月15日を期限としてメールで回答いただいた。6.回答:47都道府県医師会すべてより回答(総回答数698件)

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小児アトピー性皮膚炎、精神障害との関連は?

 小児アトピー性皮膚炎(AD)と精神障害との関連について、デンマークで行われた大規模な調査結果が発表された。デンマーク・コペンハーゲン大学のI. Vittrup氏らによる検討で、病院でADと診断された児において、病院で精神障害を診断されるリスクは高くなかったが、治療リスクは高く、AD児における精神的問題は一過性で可逆的であり、軽度~中等度である可能性が示唆されたという。これまで、成人ADは不安症やうつ病との関連が示されているが、小児ADは注意欠陥多動性障害(ADHD)との関係が示唆されているものの、他の精神障害との関連性はほとんどわかっていなかった。British Journal of Dermatology誌オンライン版2021年1月16日号掲載の報告。 研究グループは、1995年1月1日~2012年12月31日にデンマークで誕生したすべての児を対象に、小児におけるADと小児精神障害の診断および治療との関連を調べた。病院でADと診断された児(1万4,283例)と、ADと診断されなかった児を1対10の割合で適合抽出して分析した。 評価項目は、向精神薬の使用、病院で診断されたうつ病、不安症、ADHD、または自傷行為、不慮の死/自殺、および精神科医または心理学者への受診(コンサルテーション)であった。 主な結果は以下のとおり。・病院でのAD診断と有意な関連が観察されたのは、抗うつ薬(補正後ハザード比[aHR]:1.19、95%信頼区間[CI]:1.04~1.36)、抗不安薬(1.72、1.57~1.90)、中枢神経系の交感神経作用薬(1.29、1.18~1.42)であった。・精神科医(aHR:1.33、95%CI:1.16~1.52)または心理学者の(1.25、1.11~1.41)受診も、ADとの関連性がみられた。・一方で、うつ病(aHR:0.58、95%CI:0.21~1.56)、不安症(1.47、0.98~2.22)、自傷行為(0.88、0.27~2.88)は関連性が認められなかった。・しかし、ADHDはADとの顕著な関連が認められた(aHR:1.91、95%CI:1.56~2.32)。・絶対リスクは概して低かった。

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神経線維腫症1型〔NF1:Neurofibromatosis1〕

1 疾患概要■ 概念・定義神経線維腫1型(NF1)は、1882年にレックリングハウゼン氏により初めて報告されたため、「レックリングハウゼン病」とも呼ばれる。カフェ・オ・レ斑、神経線維腫という特徴的な皮膚病変を生じ、そのほか中枢神経系、骨などさまざまな臓器に多彩な病変を合併する母斑症である。■ 疫学人種に関係なく出生約3,000人に1人の割合で発症する。浸透率は100%で、わが国の患者数は約40,000人と推定されている。常染色体優性の遺伝性疾患であるが、半数以上は家族歴のない孤発例である。出現する症状は時期により異なる。■ 病因原因遺伝子は17番染色体上に位置し(NF1遺伝子)、その蛋白産物はニューロフィブロミンと呼ばれる。ニューロフィブロミンはRAS蛋白の機能を負に制御しており、細胞増殖を抑制する作用を持つ(がん抑制遺伝子)。そのため本遺伝子に異常を来すとRAS/MAPK経路やPI3K/AKT経路の活性化が生じ、病変を生じると推測されている。NF1ではもともと一方のallele(アレル)に変異があるが、さまざまな病変部でもう片方にも異常を来していることが確認されている。■ 症状症状は多彩であり、同一家系内においても合併する症状は異なる。以下に代表的な症状を列挙する。1)カフェ・オ・レ斑出生時からみられるミルクコーヒー色の長円形色素斑で(図1)、6個以上あれば最終的にほとんどの例でNF1と診断される。2)神経線維腫皮膚の神経線維腫は淡紅色の柔らかい腫瘍で(図2)思春期頃から生じ、年齢とともに増加する。時に数百から数千に及ぶことがある。一方、びまん性(蔓状)神経線維腫は生下時から存在する腫瘍で、小児期から急速に増大し、日常生活に支障を与える場合が多い。痛みを生じたり、悪性化(悪性末梢神経鞘腫瘍)する可能性がある。3)雀卵斑様色素斑主に腋窩や鼠径に多発するそばかす様の小褐色斑である。4)中枢神経系の病変視神経膠腫(7%)や脳腫瘍を生じることがある。また、小児では知的障害、限局性学習症、注意欠如多動症、自閉スペクトラム症を合併する頻度が健常人と比較して高い。5)骨病変出生時から頭蓋骨の部分欠損(5%)や四肢骨の変形(3%)がみられる場合がある。また、10歳頃から脊椎の変形を来すことがある(10%程度)。6)NF1モザイク(部分的なNF1)上記の症状が体表の一部に限局してみられる例があり、モザイクと呼ばれる(頻度は全体の10%程度)。体細胞突然変異によるものと考えられている。図1 カフェ・オ・レ斑の皮膚所見画像を拡大する図2 神経線維腫の皮膚所見画像を拡大する■ 分類わが国では皮膚病変(D)、神経症状(N)、骨病変(B)の程度に応じて、重症度が5段階に分類されており、重症度が3以上であれば公的補助の対象となる。海外ではRiccardiによる重症度分類(4段階)が用いられている。■ 予後NF1では悪性腫瘍を合併する割合が健常人と比較して約3倍高く、平均寿命は10~15年短いとの報告がある。特に合併頻度の高い腫瘍は悪性末梢神経鞘腫瘍(100倍以上)であるが、女性では乳がんのリスクも4~5倍高くなると報告されており、注意が必要である。2 診断 (検査・鑑別診断を含む)次世代シーケンサーを用いた変異の検出率は90%以上である。しかしながら、わが国では遺伝子診断は保険適用外であり、検査が可能な施設もほとんどない(2020年11月から外注検査が可能になったが、各施設の専門医による遺伝カウンセリングを受けたのちに必要に応じて遺伝学的検査を行うことが望ましい)。そのため、通常は臨床的診断基準(表1)を用いて診断を行う。7項目中2項目以上当てはまれば、NF1と診断される。しかしながら、NF1の診断基準を満たした患者の1~2%程度はレジウス症候群の可能性がある。レジウス症候群では色素斑の合併はみられるが、腫瘍性病変を生じることはない。皮膚の神経線維腫は、多くの場合、思春期頃から出現するため、家族歴がなければ臨床症状のみで小児期に診断するのは難しい。その他、RAS/MAPK経路に関わる遺伝子の変異により発症するRasopathyと呼ばれる疾患群では、カフェ・オ・レ斑を合併する場合があり、時に鑑別を要する。小児では脳のMRI検査で70%近くにT2強調画像で高信号を呈するunidentified bright objectが認められるが、自然消退するため、治療の必要はない。まれに脳腫瘍の合併がみられるが、スクリーニングのためだけに闇雲に画像検査を繰り返すべきではない。小児では検査に鎮静(全身麻酔)が必要であるため、身体所見で何らかの異常が疑われる場合に検査を行う。3歳頃から眼科的検査で80%以上の例で虹彩小結節がみられるようになるため、診断の一助となる。各々の検査で異常がみられれば各領域の専門医と相談し、治療方針を決定する。表1 神経線維腫症1型の臨床的診断基準(日本皮膚科学会)1)6個以上のカフェ・オ・レ斑2)2個以上の神経線維腫(皮膚の神経線維腫や神経の神経線維腫など)またはびまん性神経線維腫3)腋窩あるいは鼠径部の雀卵斑様色素斑(freckling)4)視神経膠腫(optic glioma)5)2個以上の虹彩小結節(Lisch nodule)6)特徴的な骨病変の存在(脊柱・胸郭の変形, 四肢骨の変形, 頭蓋骨・顔面骨の骨欠損)7)家系内(第1度近親者)に同症上記の7項目中2項目以上で神経線維腫症1型と診断する。(吉田雄一、ほか. 日皮会誌. 2018;128:17-34.より引用・改変)3 治療現時点ではわが国において発症を予防する根治的な治療薬はないため、対症療法が行われている(表2に治療の概略を示す)。カフェ・オ・レ斑や雀卵斑様色素斑は整容的な面で問題となるが、レーザー治療の有用性は明らかではない。皮膚の神経線維腫は数が増えると整容的あるいは社会生活を行う上で支障となるため、希望に応じて外科的切除が行われる。しかしながら、びまん性(蔓状)神経線維腫は根治的な切除が難しい場合が多い。骨病変(骨欠損・骨変形)は必要に応じて外科的治療が行われる。その他、脳腫瘍、小児期の限局性学習症、注意欠如多動症などNF1に合併するさまざまな症状に対して、各領域の専門医により必要に応じて対症療法が行われる。表2 神経線維腫症1型の治療の概略1)皮膚病変色素斑(カフェ・オ・レ斑、雀卵斑様色素斑:希望に応じてレーザー治療、カバーファンデーションの使用など)神経線維腫(1)皮膚の神経線維腫:希望に応じて外科的切除(2)神経の神経線維腫:必要に応じて外科的切除(3)びまん性神経線維腫:可能であれば、増大する前に外科的切除(4)悪性末梢神経鞘腫瘍:広範囲外科的切除、放射線療法、化学療法2)中枢神経系の病変脳腫瘍:脳神経外科専門医へ紹介し、必要に応じて治療を考慮Unidentified bright object(UBO):通常治療は必要としない3)骨病変脊椎変形:変形が著しくなる前に整形外科専門医へ紹介し、必要に応じて治療を考慮四肢骨変形(先天性脛骨偽関節症):整形外科専門医へ紹介し、外科的治療頭蓋骨・顔面骨の骨欠損:脳神経外科専門医へ紹介し、外科的治療を考慮4)眼病変虹彩小結節:通常治療は必要としない視神経膠腫:小児科、眼科、脳神経外科専門医へ紹介し、必要に応じて治療を考慮(吉田雄一、ほか. 日皮会誌. 2018;128:17-34.より引用・改変)4 今後の展望2020年4月に米国で小児のびまん性(蔓状)神経線維腫に対してMEK阻害薬(セルメチニブ)が認可され、現在わが国においても臨床試験が行われている。また、皮膚の神経線維腫に対してAMED(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)の支援を受け、シロリムスゲル(外用薬)による医師主導治験が進行中である。これらの薬剤の安全性および有効性が確認されれば、将来的にわが国で使用される可能性がある。5 主たる診療科皮膚科、小児科、形成外科、整形外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本レックリングハウゼン病学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 神経線維腫症I型(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾病情報センター レックリングハウゼン病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報社会福祉法人復生あせび会(患者とその家族および支援者の会)1)吉田雄一、ほか. 日皮会誌. 2018;128:17-34.公開履歴初回2021年2月1日

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1型DM患者へのインスリンポンプ、従来型vs.次世代型/Lancet

 血糖管理がチャレンジングである1型糖尿病の青年および若年成人患者において、既存のMedtronic製のMiniMed 670Gハイブリッド型クローズドループ・システム(HCL)と比べて、その進化版である開発中のアドバンスハイブリッド型クローズドループ・システム(AHCL)は、低血糖症を増やすことなく高血糖症を抑制することが示された。米国・HealthPartners InstituteのRichard M. Bergenstal氏らが、4ヵ国7医療機関を通じて行った無作為化クロスオーバー試験「Fuzzy Logic Automated Insulin Regulation:FLAIR試験」の結果を発表した。著者は、「今回示されたAHCLの効果を確認するためにも、社会経済的要因で十分サービスを受けられない集団や、妊娠中および低血糖症に対する認識が低い患者における長期試験の実施が必要と思われる」と述べている。Lancet誌2021年1月16日号掲載の報告。 14~29歳の1型DM患者113例を対象に試験 FLAIR試験は2019年6月3日~8月22日に、米国、ドイツ、イスラエル、スロベニアの7つの内分泌系治療施設を通じて、診断後1年以上の14~29歳の1型糖尿病患者113例を対象に行われた。被験者は、インスリンポンプまたは頻回インスリン注射法を行っており、HbA1c値は7.0~11.0%(53~97mmol/mol)だった。 試験ポンプの使用法習得のためのrun-in期間の後、被験者は無作為に2群に割り付けられ、一方は既存のHCLを、もう一方は開発中のAHCLを、それぞれ12週間使用し、その後クロスオーバーを受け(washoutなし)もう一方のインスリンポンプを12週間使用した。AHCLは、HCLと比べて、人工膵臓アルゴリズムの機能が強化され、5分ごとに自動修正ボーラスが配信されるなど新たな技術が施されている。 主要評価項目は2つで、日中(6時00分~23時59分)の血糖値180mg/dL超の時間の割合(優越性を評価)と、24時間の血糖値54mg/dL未満の時間の割合で(非劣性を評価、マージン2%)とした。解析は、intention to treat法にて実施。安全性は、治療割り付け全対象者について評価した。日中血糖値180mg/dL超の割合、従来型37%に対し次世代型は34% 被験者113例は、平均年齢19歳(SD 4)、女性70例(62%)だった。 日中血糖値180mg/dL超(>10.0mmol/L)の平均時間割合は、ベースライン42%(SD 13)、HCL使用期間37%(9)、AHCL使用期間34%(9)だった(AHCL-HCLの平均群間差:-3.00%、95%信頼区間[CI]:-3.97~-2.04、優越性のp<0.0001)。 24時間の血糖値54mg/dL未満の割合は、ベースライン0.46%(SD 0.42)、HCL使用期間0.50(0.35)、AHCL試用期間0.46%(0.33)だった(AHCL-HCLの平均群間差:-0.06%、95%CI:-0.11~-0.02、非劣性のp<0.0001)。 AHCLで重症低血糖症1例が発生したが、試験治療とは無関係と判断された。HCLでは発生は報告されなかった。

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診療所の後継者探し、自分だけで「質」と「量」確保できますか?【ひつじ・ヤギ先生と学ぶ 医業承継キソの基礎 】第10回

第10回 診療所の後継者探し、自分だけで「質」と「量」確保できますか?漫画・イラスト:かたぎりもとこ後継者をご自身で探したもののなかなか見つからず、私たちのところにいらっしゃる方がいます。お話を伺ってみると、うまくいかないポイントは大きく分けて2つあるようです。(1)譲渡額が相場から外れている、具体的な引き継ぎ方法が決まっていない=質の問題(2)知り合いの紹介などに頼り、そもそもコンタクトしている数が少ない=量の問題(1)質の問題個人経営の診療所の場合には下記のような公式で譲渡額を算定します。譲渡額=年間所得(利益)の1年分+固定資産額(医療機器などの簿価額)さらに、上記の金額を、根拠をもって説明できるかどうかも重要な点です。一般的に、売り手の院長が自ら後継者探しをしている場合、上記の相場よりも割安な設定にしているケースが多いのですが、このような相場の考え方を説明できる方が少ないため、割安なのにもかかわらず、候補者が不安になって辞退してしまうケースがあります。また、譲渡時の具体的な引き継ぎ方法をわかりやすく候補者に伝えられるかどうかも大事な点です。たとえば、医療法人が経営する病院・診療所を承継する場合には、買い手本人ではなく、医療法人側が銀行から融資を受けたうえで、売り手の院長に退職金を支払うスキームで引き継ぐケースがあります。このようなお金の流れや、なぜそのようなスキームが最良の選択なのかを細かく説明し、双方が納得する必要があります。魅力的な話であるにもかかわらず、こうした点がわからないために不安になって買い手が辞退してしまうケースが多くあるのです。(2)量の問題「なるべく知っている人に譲りたい」という思いから、限られた方にしかコンタクトしていない、というケースもあります。でも、承継という大きな話をご自分のルートだけで探すというのは効率の悪い話ではないでしょうか。可能性のある候補者に広く告知できるかどうかが成功確率に大きく影響するのです。弊社が医業承継のご相談を受けた案件のうち、成約まで行き着くのは3分の1程度です。ケアネットの医師会員18万人から候補者を探してこの割合なのですから、母数が少なければ成功確率が下がるのは当然のことでしょう。このように医業承継は案件の「質」と相手を探す「量」を上げる必要があり、双方の点で私たちのような専門家を頼っていただいたほうが、効率がよいはずです。

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コロナ受け入れ病院の緊急支援金、申請は2月まで/日医

 日本医師会・松本 吉郎常任理事が、新型コロナ患者受け入れ病床のさらなる確保を目的とした緊急支援事業補助金について記者会見で解説した。なお、この補助金は昨年末に厚労省から通知が出され、1月7日に緊急事態宣言の発令を受け改正されたもの。この度、対象条件などを明確化したリーフレットが発行された。申請期限は2月28日まで。コロナ患者用の最大確保病床数に応じた補助上限(基準)額 補助金の対象医療機関は、病床が逼迫している都道府県において新型コロナ患者・疑い患者の受け入れ病床を割り当てられている医療機関とされ、12/25~2/28までの最大確保病床数に応じて補助額の上限が計算される(12/24以前から継続している確保病床も対象となる)。《補助上限額》(1)確保病床数に応じた補助(1~3の合計額) 1.新型コロナ患者の重症者病床数×1,500万円 2.新型コロナ患者のその他病床数×450万円 3.協力医療機関の疑い患者病床数×450万円(2)緊急的に新たに受け入れ病床を確保する観点からの加算(新型コロナ患者の重症者病床およびその他病床)○緊急事態宣言が発令された都道府県・12/25~2/28までに新たに割り当てられた確保病床数×450万円を加算○上記に該当しない都道府県・12/25~2/28までに新たに割り当てられた確保病床数×300万円を加算 なお、(2)について、協力医療機関の疑い患者病床数は対象とならない。人件費、コロナ対応手当て、雇用関連費、外部委託費などに幅広く活用 補助の対象としては、12/25~3/31までにかかる以下の経費とされる。1.新型コロナ患者などの対応を行う医療従事者の人件費(新型コロナ対応手当て、新規職員雇用にかかる人件費など、処遇改善・人員確保を図るもの) 支給額や範囲は、治療への関与や院内感染・クラスター防止の取り組みへの貢献度合いなどを考慮しつつ、医療機関側で決定できる。従前から勤務する職員を含めた新型コロナ対応手当てなどが該当し、一日ごとの手当て、特別賞与、一時金などの支給方法が想定されている。2.院内などでの感染拡大防止対策や診療体制確保などに要する次の経費(従前から勤務している者および通常の医療の提供を行う者に係る人件費は除く) 例えば、看護師が消毒・清掃・リネン交換などを行っている場合は、負担軽減の観点から、医療機関はこれらの業務を民間事業者に委託するような使い方もできる。なお、2については補助基準額(上限額)の3分の1までとされる。  本補助金の対象は新型コロナ患者を受け入れる病棟の医療従事者に限られず、外来部門、検査部門など、すべての新型コロナおよび疑い患者の対応を行う医療従事者が対象となりうる。医療資格の有無は問わない。時間外勤務手当ても対象となり、雇用形態による限定もない。 松本氏は、「申請期限は2月28日まで。概算で申請できるので、早めの検討をお願いしたい。上限はあるが、十分に医療機関で活用しうる補助金。コロナと闘う医療機関の本当の助けになる支援が実現されるよう、今後も政府に働きかけを行うと同時に、経営体制の確保について、地域の医師会や医薬関係団体にも協力を呼び掛けたい」とまとめた。《申請はこちらから》厚労省「令和2年度新型コロナウイルス感染症患者等入院受入医療機関緊急支援事業補助金」について

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日本人成人ADHD患者に対するグアンファシン徐放製剤の有効性と安全性

 塩野義製薬の納谷 憲幸氏らは、日本人成人の注意欠如多動症(ADHD)患者に対するグアンファシン徐放製剤(GXR)の有効性と安全性を評価した第III相二重盲検プラセボ対照ランダム化試験の事後分析を行い、ADHDサブタイプ(混合型、不注意優勢型)、年齢(31歳以上、30歳以下)、性別、体重別(50kg以上、50kg未満)のGXRの有効性および安全性について、検討を行った。Neuropsychopharmacology Reports誌オンライン版2020年12月10日号の報告。 有効性の主要エンドポイントは、成人用ADHD評価尺度ADHD-RS-IV with adult prompts日本語版合計スコアのベースラインから10週目までの変化とした。 主な結果は以下のとおり。・有効性の分析は、200例(GXR群:100例、プラセボ群:100例)で実施した。・ADHD-RS-IV合計スコアのエフェクトサイズは、すべてのサブグループで類似していた。 ●全体:0.52 ●ADHD混合型:0.51 ●ADHD不注意優勢型:0.52 ●31歳以上:0.61 ●30歳以下:0.47 ●男性:0.50 ●女性:0.57・治療による有害事象(TEAE)の発生率や種類は、サブグループ間で大きな違いは認められなかった。・重大なTEAE(男性:10.6%、女性:34.3%)およびTEAEによる治療中止(男性:12.1%、女性:34.3%)の発生率は、男性よりも女性において約3倍高かった。・体重別のTEAE発生率は、用量調節期間、維持期間でそれぞれ以下のとおりであった。 ●50kg未満:100%(用量調節期間)、40%(維持期間) ●50kg以上:73.6%(用量調節期間)、24.4%(維持期間) 著者らは「本事後分析の結果では、ADHDサブタイプ、年齢、性別に関係なくGXRの有効性および安全性が裏付けられており、必要に応じてTEAEとGXRの用量最適化を注意深くモニタリングする必要がある」としている。

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インフルエンザ【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第6回

今回は、ワクチンで予防できる疾患、VPD(vaccine preventable disease)として、「インフルエンザ」を取り上げる。ワクチンで予防できる疾患インフルエンザは、インフルエンザウイルスによる急性呼吸器感染症であり、わが国では毎年12月〜3月頃に流行する。感染経路は飛沫感染や接触感染であり、発熱、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛や関節痛が出現し、鼻汁や咳などの呼吸器症状が続くが、いわゆるかぜ症候群と比較して、全身状態が強いことが特徴である。多くは自然回復するが、肺炎、気管支炎、中耳炎、急性脳症などを合併し重症化することもある。免疫が不十分な乳幼児や高齢者、基礎疾患のある場合は、特に重症化しやすいため注意が必要である。手洗いや咳エチケットによる感染対策に加え、ワクチンによる予防が重要な疾患である。ワクチンの概要インフルエンザワクチンの概要を表1に示す。インフルエンザは毎年流行する株が異なることから、WHO(世界保健機関)が推奨する株の中から、期待される有効性や供給可能量などを踏まえた上で、A型2亜型とB型2系統による4価ワクチンが製造されている。表1 インフルエンザワクチン画像を拡大する1)ワクチンの効果インフルエンザウイルスが体内に侵入し(感染)、体内でウイルスが増殖することによって一定の潜伏期間を経た後に症状が出現(発病)する。多くは自然回復するが一部は重い合併症を起こし死亡する場合もある(重症化)。インフルエンザワクチンは、ウイルスの“感染”を完全に抑えることは難しく、“発病”については一定の効果が認められているが麻疹風疹ワクチンのような高い効果はない。最も大きな効果は“重症化”を予防することである。国内の研究では、65歳以上の高齢者福祉施設に入所している高齢者において34〜55%の発病を予防し、82%の死亡を阻止する効果があるとされており、6歳未満の小児を対象とした2015/16シーズンの研究では発病防止に対するインフルエンザワクチンの有効性は約60%と報告されている1)。2)集団免疫による効果図1はある集団における感染症の広がりを示している2)。青は免疫を持っていなくて健康な人、黄は免疫を持っていて健康な人、赤は免疫を持っていなくて感染してしまい感染力のある人である。すべての人が免疫を持っていない集団では、感染力のある人が加わるとあっという間に感染は拡大してしまう(上段)。数名しか免疫を持っていない集団では、感染症は免疫を持っていない人を介して拡大する(中央)。しかし、免疫を持っている人が大多数を占める集団では、感染は広がりにくく、免疫を持っていない少数の人にも感染しにくくなる(下段)。この効果を“集団免疫”という。インフルエンザワクチンには個々の感染、発病予防に対する効果は限定的であるが、多くの人がワクチン接種を行うことにより、集団における感染拡大、重症化予防につながるのである。図1 集団免疫による効果画像を拡大する3)接種対象者生後6ヵ月以上のすべての人が接種対象となるが、乳幼児、高齢者、基礎疾患のある人は重症化リスクが高いため特に推奨される。また、これらの人にうつす可能性がある人(家族、医療従事者、介護者、保育士など)に対しても接種が推奨される。わが国においては、65歳以上の高齢者、もしくは60〜64歳未満で心臓、腎臓もしくは呼吸器の機能障害があって身の回りの生活が極度に制限される人、あるいはヒト免疫不全ウイルスにより免疫機能に障害があって日常生活がほとんど不可能な人は、予防接種法に基づく定期接種の対象となっている。4)接種禁忌と卵アレルギーへの対応インフルエンザワクチンによるアナフィラキシーの既往がある場合を除いて、ほとんどの人が問題なく接種可能である。ワクチンの製造過程で卵白成分が使用されていたため、以前は卵アレルギーがある場合には要注意とされていたが、卵アレルギーのある人に重度のアレルギー反応が起こる可能性が低いことがわかっており、現在では軽度の卵アレルギーでは通常通り接種でき、重症卵アレルギーのある場合でもアレルギー対応可能な医療機関であれば接種可能とされている3)。接種スケジュール(接種時期・接種回数)インフルエンザワクチンの効果持続期間は2週間〜5ヵ月程度である。毎年流行するピークの時期は異なるが、おおよそ12月〜3月に流行するため、10月〜11月頃に接種することが望ましい。わが国におけるインフルエンザワクチン接種量と接種回数については表2の通りである。6ヵ月〜13歳未満は2回接種、13歳以上は1回接種が基本とされているが、諸外国における接種方法とは異なっている。世界保健機関(WHO)においては9歳以上の小児および健康成人では1回接種が適切である旨の見解が示されており、米国予防接種諮問委員会(ACIP)も、9歳以上は1回接種とし、生後6ヵ月〜8歳未満の乳幼児についても前年度2回接種していれば、次年度は1回のみの接種で良いとされている4)。なお、接種回数と効果に関しては、日本のインフルエンザワクチン添付文書において、6ヵ月〜3歳未満では2回接種による抗体価の上昇が認められたものの、3〜13歳未満では1回接種と2回接種とで免疫にほぼ差がなかったというデータが示されている(図2)。表2 わが国におけるインフルエンザワクチン接種量と接種回数画像を拡大する図2 年齢別中和抗体陽転率画像を拡大する日常診療で役立つポイント「ワクチン接種してもインフルエンザにかかったため、効果がないのではないか?」「一度もインフルエンザにかかったことがないから自分は大丈夫」などという理由で、ワクチン接種を希望しないケースも少なくない。前述のように個人免疫としての効果は限定的であるが、重症化しやすい集団を守るためにも、集団免疫の効果について丁寧に説明してワクチン接種につなげていきたい。接種回数については意見が分かれるところであるが、9歳以上は1回接種でも問題がなく、9歳未満の小児においても、3歳以上の場合には前年2回接種していれば1回接種でも良いかもしれない。このあたりについては、本人および家族の希望に加えて、ワクチンの需要と供給のバランスをふまえて、できるだけ多くの人がワクチン接種を受けられるように個々での判断が求められる。今後の課題・展望2020/21シーズンにおいては、インフルエンザと新型コロナウイルス感染症との同時流行が危惧されており、発熱患者の判断について困難が生じてくるものと予想される。現時点において新型コロナウイルス感染症はワクチンでの予防が難しいため、ワクチンのあるインフルエンザの流行をできる限り抑えることが重要である。インフルエンザの感染拡大、重症化予防のためにも、できるだけ多くの人に対して積極的にワクチン接種を行い、地域における集団免疫を獲得できるようにして頂きたい。参考となるサイトこどもとおとなのワクチンサイト予防接種に関するQ&A集.日本ワクチン産業協会1)インフルエンザQ&A.厚生労働省2)Building Trust in Vaccines.NIH(アメリカ国立衛生研究所).3)Flu Vaccine and People with egg allergies.CDC(米国疾病管理予防センター).4)Grohskopf LA,et al. MMWR Recomm Rep.2020;69:1-24.5)インフルエンザHAワクチン(商品名:ビケンHA)添付文書講師紹介

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母の子宮頸がん細胞が子に移行、国立がん研究センターが発表/NEJM

 国立がん研究センター中央病院の荒川 歩氏らは、小児の肺がん2例について、腫瘍組織と正常組織のペアサンプルを用いたルーチン次世代シークエンスで偶然にも、肺がん発症は子宮頸がんの母子移行が原因であることを特定したと発表した。移行したがん細胞の存在は同種の免疫応答によって示され、1例目(生後23ヵ月・男児)では病変の自然退縮が、2例目(6歳・男児)では腫瘍の成長速度が遅いことがみられたという。また、1例目は、免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブを投与することで、残存するがん細胞の消失に結び付いたことも報告された。腫瘍組織と正常組織のペアサンプルを用いたルーチン次世代シークエンスは、わが国の進行がん患者を対象とした前向き遺伝子プロファイリング試験「TOP-GEAR」の一環として行われた解析で、114のがん関連遺伝子の変異を検出することを目的とする。1例目の患児に対するニボルマブ(3mg/kg体重を2週ごと)投与は、再発または難治固形がんを有する日本人患児を対象としたニボルマブの第I相試験で行われたものであった。症例の詳細は、NEJM誌2021年1月7日号で報告されている。HPVワクチン未接種の母親から生まれ、生後23ヵ月で肺がんを発症 1例目(生後23ヵ月・男児)は、湿性咳嗽が2週間続き地元の病院を受診。CTにて両肺気管支に散在する複数の腫瘍が確認され、VATS肺生検で限局性の腺分化を伴う肺神経内分泌がんであることが確認された。 母親は35歳でHPVワクチン未接種。出産前7ヵ月に行った子宮頸がん検査では陰性だったが、妊娠39週で経膣分娩、3ヵ月後に子宮頸部扁平上皮がんの診断を受けた。当時は組織学的特徴が一致せず、出生児へのがんの移行は疑われなかったが、両親の懸念に応じて頻繁にフォローアップを実施。ただし治療は行われなかった。 生後23ヵ月時に肺神経内分泌がん診断後1年で病勢が進行。3歳時に研究グループの病院に紹介され入院加療を受けた。驚くべきことに、その時点で病変の自然退縮が認められたという。残存病変は化学療法で一部は退縮したが、その他は進行。ニボルマブの第I相試験に組み込まれ、4サイクル投与後、病変の退縮を確認。用量を低減し計14サイクルを投与して7ヵ月間、新たな病変は認められなかった。その後、肺葉切除術を受け、12ヵ月時点で再発のエビデンスはみられていない。 一方、母親は最終治療(放射線+化学療法)から3年間で、肺・肝臓・骨転移がみられた。そして肺腫瘍の組織学的検査で、男児の肺と非常に類似した所見が認められたという。 その後、母子別々に行われた次世代シークエンスで、それぞれの腫瘍組織に複数の同じ遺伝子変異が存在することが確認され、またサンガーシークエンスで、両者の腫瘍組織がタイプ18のHPV陽性であることも認められた。子宮頸がんの母親から生まれた男児、6歳時に肺がんを発症 2例目(6歳・男児)は、左胸部疼痛で地元の病院を受診。左肺に6cmの腫瘤を認め粘液性腺がんと診断された。男児は化学療法を受けたが再発。左肺を全摘し15ヵ月のフォローアップ時点で再発は認められていない。 母親は、妊娠中に子宮頸がんが検出されたが、細胞診は陰性で、介入不要のがん細胞の安定化が認められたことから、妊娠38週で経膣分娩した。出産後、生検で子宮頸部の腺がんが判明し、分娩3ヵ月後に研究グループの病院に紹介され子宮および両側卵管の全摘手術を受けたが、術後2年後に死亡に至っている。 6歳時に男児が肺がんと診断された際、がんの母子感染は疑われなかったが、母親の子宮頸がん組織と男児の肺がん組織を用いた次世代シークエンスで同様の遺伝子プロファイルが認められ、また、タイプ16のHPV陽性であることも認められた。 なお、次世代シークエンスで、ほかにも母子移行が認められたケースはあったが、研究グループは、この2つのケースでは肺にのみがん細胞が観察されたことに着目。「母親のがん細胞は、羊水、分泌物、または子宮頸部からの血液に存在し、経膣分娩時に新生児が吸引した可能性がある」と指摘。子宮頸がんの母親には帝王切開を推奨する必要があることを提言している。

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