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東京ドームキャッシュレス化と生ビール1杯900円の衝撃こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この日曜は、巨人と日本ハムの交流戦を観戦しに東京ドームに行ってきました。久々の東京ドームで驚いたのが、生ビールからお弁当、スナック菓子、各種グッズまですべてがキャッシュレス決済になっていたことです。クレジットカード、Suicaなどの電子マネー、スマホを用いたコード決済でしかモノが買えません。当然、観戦席を回るビールの売り子も現金は持たず、端末決済のみです。同行した巨人ファンの友人に、「これでは年寄りはビールも飲めないね」とこぼすと、「コロナもあって、ドームは2022年春からキャッシュレスを断行した。昨シーズンはトラブルも多かったようだが、今年はもうみんな慣れて定着したよ」と話していました。それにしても、東京ドームの生ビール1杯900円は高いですね。さて、先週はさまざまなニュースがありました。この連載でも取り上げた(「第153回 閣議決定、法案提出でマイナ保険証への一本化と日本版CDC創設がいよいよ始動」参照)、米国の疾病管理予防センター(CDC)をモデルとする国立健康危機管理研究機構を創設する法律が5月31日参議院本会議で可決・成立しました。翌6月1日には、政府の規制改革推進会議が「転換期におけるイノベーション・成長の起点」と題する答申書を取りまとめ、公表しました。この連載の前々回(「第162回 止められない人口減少に相変わらずのんきな病院経営者、医療関係団体 『看護師に処方権』『 NP国家資格化』の行方は?」参照)でも書いた、ナース・プラクティショナー(NP)創設は結局盛り込まれず、訪問看護ステーションでの配置可能薬拡大についても、実態調査を行ったうえで「必要な対応の検討を求める」方針となり、尻すぼみに終わりました(このニュースについては後日、改めて取り上げます)。また、「第160回 岡山大教授の論文不正、懲戒解雇で決着も論文撤回にはまだ応じず」で取り上げた論文不正ですが、元教授が2018年まで在籍していた国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)は5月31日、問題となった研究が同センター在籍時に行われていたとして、元教授に退職金の返還請求をしたと発表しました。調査を行った結果、岡山大と同様、懲戒解雇に相当すると結論付けたとのことです。健康保険証の廃止、マイナンバーカード一本化が正式決定こうしたニュースの中、すべての医療機関に影響が及ぶ大きな出来事は、何といっても改正マイナンバー法(マイナンバー法等の一部改正法)が6月2日参議院本会議で可決・成立したことでしょう。同法改正によって、2024年秋に現行の健康保険証を廃止してマイナンバーカードと一本化することが正式決定しました。廃止後、現行の健康保険証を最長で1年間有効とする経過措置が設けられます。マイナカードを申請したくない人や、申請が難しい高齢者などに対しては、健康保険組合などが「資格確認書」を発行できるようになりますが、こちらも期限は1年となる予定です。マイナ保険証、トラブルの主原因は情報紐づけ時の人為的ミスマイナンバーについては、法案審議が進む中、1)コンビニエンスストアで住民票などの証明書を他人に発行、2)マイナ保険証で別人情報を紐づけ、3)給付金などの受取口座を他人のマイナンバーに誤登録、4)カード発行で得られるポイントを他人に誤付与……など、さまざまなトラブルが発覚しました。原因は、システムを開発した富士通子会社の富士通Japan(ジャパン、東京・港)の仕様の不備と、健康保険組合や自治体での情報の紐づけ時の人為的ミスであることが判明しています。とくに医療機関で生じたマイナ保険証がらみのトラブルの主原因は、情報の紐づけ時の単純ミスでした。「『無保険』扱いとなる者を政策的につくり出す愚策」と全国保険医団体連合会マイナ保険証導入を巡っては、全国保険医団体連合会が反対キャンペーンを継続して展開してきました。法案成立直後の6月2日にも全国保険医団体連合会は緊急記者会見を開き、抗議の声明を公表しています。声明は「健康保険証廃止法案は、(中略)『無保険』扱いとなる者を政策的につくり出す愚策であり、国民皆保険制度を崩壊に導くものと言っても過言でない。(中略)マイナンバーカードを利用しない/できない者を医療から切り捨てるような施策は到底認められるものではない」と激しく糾弾しています。また声明と合わせて、医療現場のトラブル調査の最新情報も公表しました。それによれば、31都道府県(33保険医協会・保険医会、全体回答数4,725件)の調査では、トラブルありが2,481件(63.5%)ありました。トラブルの種類は「無効・該当資格なし」と表示1,575(63.5%)、マイナ保険証の不具合で読み取りできず500件(20.2%)、カードリーダー等の不具合でマイナ保険証を読み取りできず1,174件(47.3%)、患者から苦情を言われた303件(12.2%)でした。1億人超の国民の中でトラブル7,300人は少ないのでは?さて、大手紙、テレビ含め各マスコミも、法案成立前から全国保険医団体連合会の調査結果を報道し、ミスの多さを批判してきました。あるワイドショーではコメンテーターの芸能人が「ミスを完全になくしてから導入すべきだ」などと話していましたが、果たしてそうでしょうか。そもそもアナログ情報をデジタルに載せ替えるには、最初の段階ではどうしても手作業で行わなければなりません。そのミスをゼロにすることは、あいだに人が介在する以上、不可能です(優秀な科学者ばかりのJAXAのロケットですら失敗しています)。政権政党が自民・公明党でなく、仮に立憲民主党であったとしても、同じようなトラブルが起こっていたでしょう。ミスが起きた時のフォローアップ体制や、無保険時に医療費を一時全額自己負担する場合の対応、マイナンバーカードの発行や活用ができない高齢者などへの配慮(従来保険証との併用期間の延長など)、国民への周知・広報は十分に行う必要があるでしょう。ただ、今トラブルが多いからといってマイナ保険証導入を止める理由にはならないと思いますが、皆さんはどうお考えでしょうか。全国保険医団体連合会の調査結果を見れば、「トラブルだらけでどうしようもない」ともとれます。ただ、厚労省が5月に公表した数字では、マイナンバーカードと一体化した健康保険証に他人の情報が登録されていたケースは7,300件余りだったそうです。1億人超の国民の中でたった7,300人です。私自身は「トラブルの数はとても少ない」と感じました。皆さんご存知のように、全国保険医団体連合会は共産党系の団体です。自民党を支持する日本医師会の松本 吉郎会長は5月24日の記者会見でマイナ保険証のトラブルについて、「マイナ保険証によるオンライン資格確認は、今後の医療DXの基盤となる大変重要な仕組みであるが、言うまでもなく、正確なデータ登録がなされていることが大前提である。国民・患者の皆さんや医療機関に安心して利用してもらうためにも信頼性を高めることが最も重要であり、国や保険者、システムの運営主体である支払基金には、データの正確性の確保に全力で取り組んでもらいたい」と、至って冷静なコメントをしています。マイナ保険証“アレルギー”払拭に、トラブル対応の診療報酬を新設しては?マイナ保険証の当面の最大の活用目的は医療DXの推進、具体的には患者情報を共有する「全国医療情報プラットフォーム」の構築です。これについては本連載の、「第124回 医療DXの要『マイナ保険証』定着に向けて日医を取り込む国・厚労省の狙いとは(前編)未対応は最悪保険医取り消しも」、「第125回 (同後編)かかりつけ医制度の議論を目くらましにDX推進?」、「第132回 健康保険証のマイナンバーカードへの一体化が正式決定、『懸念』発言続く日医は『医療情報プラットフォーム』が怖い?」などでも度々書いてきました。「全国医療情報プラットフォーム」が稼働すれば、医療提供が今までより効率化されることが期待できます。重複受診、重複投与、ムダな薬剤投与、的外れの治療などが減れば、医療費(社会保障費)の削減にもつながります。また、診療報酬改定に関わる作業のDX化が進めば、医療機関における改定作業の負担も軽減されるでしょう。長い目で見れば、国民にとっても、患者にとっても、医療機関にとっても、メリットは少なくないはずです。それを、「『無保険』扱いとなる者を政策的につくり出す愚策」とは少し言い過ぎではないでしょうか。政府は改正マイナンバー法の可決、成立に合わせ、6月2日、医療分野のデジタル化を進めるための「医療DX」の工程表を発表しています。工程表では「全国医療情報プラットフォーム」を2024年度に順次運用を始めるとしています。「全国医療情報プラットフォーム」は、保健・医療・介護に関する患者のさまざまな情報を共有する仕組みです。同プラットフォームの一部を構成するオンライン資格確認等システムを基盤として、電子カルテの情報を電子カルテ情報共有サービス(仮称)に登録することで、医療機関や薬局の間で電子カルテ情報等を共有・交換する仕組みを構築するとしています。2023年度中にシステム開発に着手、2024年度中に電子カルテ情報の標準化を実現した医療機関から運用を開始するとしました。課題としては、中小病院や診療所における電子カルテの導入率が指摘されていますが、厚労省は、診療所などが使いやすい標準型の電子カルテの規格を定め、2030年までにほぼすべての医療機関での導入完了を目指すとしています。オンライン資格確認(いわゆるマイナンバーカードの保険証利用)を核とする医療DX推進はもはや抗えない流れです。その流れに中小病院や診療所をどううまく乗せるかが、これからの行政の重要な役割となります。電子カルテ導入を促すには、相応の補助金投入が必要になるでしょうし、マイナ保険証“アレルギー”払拭のためには、トラブル対応を評価する診療報酬の新設も考えられます。トラブル対応で“儲かる”となれば、マイナ保険証もスムーズに医療現場に浸透していくのではないかと思います。オールドファンが比較的多い巨人の本拠地球場の東京ドームですら1年でキャッシュレスが実現しました。単純に比較はできませんが、医療DXも動き出せば意外とあっさりと進んでいくかもしれません。工程表の進み具合に注目したいと思います。