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非小細胞肺がん、デュルバルマブ術前補助療法の成績/ESMO2020

 早期非小細胞肺がん(NSCLC)における免疫チェックポイント阻害薬の術前補助療法は、すでに幾つかの試験で検討され、有望な結果が得られている。欧州臨床腫瘍学会(ESMO Virtual Congress 2020)では、デュルバルマブの術前補助療法を評価する第II相多施設共同試験(IFCT-1601 IONESCO)の中間解析の結果を、フランス・Cochin病院のMarie Wislez氏が発表した。・対象:Stage1B(4cm以上)、2、3A(N2除く)の切除可能NSCLC・介入:デュルバルマブ750mg 2週ごと3サイクル投与後2〜14日目に手術・評価項目:[主要評価項目]完全(R0)切除の割合[副次評価項目]術後90日死亡率、安全性、全生存期間(OS)、無病生存期間(DFS)、奏効率、MPR(Major Pathologic Response、生存腫瘍細胞10%以下)、初回投与から手術までの期間 主な結果は以下のとおり。・2017年4月〜2019年8月に50例が登録され、46例がデュルバルマブ投与対象となった。・患者の年齢中央値61.0歳、 男性70%、喫煙者は94%であった。・R0切除割合は89.1%(46例中41例)と、仮説割合の85%を超え、主要評価項目を達成した。・46例中4例はPR、36例がSD、6例がPDで、MPRは43例中8例の18.6%であった。・術後90日の死亡率は9%(4例)。そのため、登録は中止となった。死亡した4例中3例は、心血管系などの併存疾患を有しており、デュルバルマブとの直接の関連はみられなかった。・全Gradeの有害事象(AE)は33.3%、すべてGrade2以下であった。 ・追跡期間23ヵ月におけるOSとDFSの中央値は未達、 1年OS率は89.7%、12ヵ月DFS率は78.2.%であった。

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ESMO2020レポート 肝胆膵腫瘍

レポーター紹介はじめにESMO VIRTUAL CONGRESS 2020はASCO 2020 Virtualに引き続き、オンラインでの開催となった。開催会場を模したトップページ上から各会場へとアクセスでき、これまでの開催のように人々が集う様子には新型コロナウイルス感染症の収束への願いが現れていた。本稿では肝胆膵領域からいくつかの演題を紹介したい。巨大肝細胞がんに対するFOLFOXを用いたHAICの有効性が示されるHepatic arterial infusion chemotherapy (HAIC) with oxaliplatin, fluorouracil, and leucovorin (FOLFOX) versus transarterial chemoembolization (TACE) for unresectable hepatocellular carcinoma (HCC): A randomised phase III trial 【Presentation ID:981O】Intermediate stageの手術不能でかつ穿刺局所療法の対象とならない多血性肝細胞がんに対して行われるTACEの有効性は、巨大な肝細胞がんに対しては病勢制御割合は50%未満、全生存期間は9~13ヵ月といまだ十分とは言えない。FOLFOXを用いたHAICの第II相試験での良好な抗腫瘍効果を受けて、巨大な切除不能肝細胞がん患者におけるFOLFOXを用いたHAICおよびTACEを比較する無作為化第III相試験の結果が報告された。最大径7cm以上で大血管への浸潤もしくは肝外転移のない切除不能肝細胞がんを有する、Child-Pugh分類A、ECOG PS0または1の患者が適格とされた。登録された患者はHAIC(オキサリプラチン130mg/m2、ロイコボリン400mg/m2、1日目にフルオロウラシルボーラス400mg/m2、およびフルオロウラシル注入2,400mg/m2を24時間、3週間ごとに繰り返し6サイクルまで投与)またはTACE(エピルビシン50mg、ロバプラチン50mg、リピオドールおよびポリビニルアルコール粒子)に1対1で割り付けられた。主要評価項目は全生存期間(OS)、副次評価項目として無増悪生存期間(PFS)、客観的奏効割合(ORR)および安全性が評価された。データカットオフは2020年4月でフォローアップは継続されている。HAIC群に159例、TACE群に156例が登録された。患者背景に大きな差はなく、HAIC群/TACE群のHBV陽性例が88.1/90.4%、AFP 400ng/mL以上は52.2/48.1%であった。最大腫瘍径の中央値はHAIC群9.9cm(範囲:7~21.3)、TACE群9.7cm(7~19.8)であり、腫瘍数が3個以下であった症例はHAIC群51.6%、TACE群47.7%であった。治療回数の中央値はHAIC群で4回(2~5)、TACE群で2回(1~3)であった。治療のクロスオーバーはTACE群で多く、HAIC群では後治療として切除が行われた症例が多かった(p=0.004)。RECIST ver.1.1によるHAIC群のORRは45.9%とTACE群の17.9%に比べ有意に高かった(p< 0.001)。Modified RECISTによる評価でも同様にHAIC群が有意に高い結果であった(48.4% vs.32.7%、p=0.004)。主要評価項目であるOS中央値はHAIC群23.1ヵ月(95%信頼区間:18.23~27.97)、TACE群16.07ヵ月(95%信頼区間:14.26~17.88)であり、HAIC群で有意な延長を認めた(HR=0.58、95%信頼区間:18.23~27.97、p<0.001)。PFS中央値は、HAIC群9.63ヵ月(95%信頼区間:7.4~11.86)、TACE群5.4ヵ月(95%信頼区間:3.82~6.98)であり、HAIC群で有意に延長した(HR=0.55、95%信頼区間:0.43~0.71、p<0.001)。Grade3以上の治療関連有害事象はHAIC群で19%、TACE群で30%とHAIC群で少なかった(p=0.03)。巨大な切除不能肝細胞がんを有する患者に対するFOLFOXを用いたHAICはTACEに比べて有効性および安全性ともに良好であった。これまで本邦では5-FUおよびシスプラチンを併用したHAICは外科的切除およびその他の局所治療の適応とならない肝細胞がんを対象としてソラフェニブへの上乗せ効果を第III相試験で示すことができなかったことなどを含めて、標準治療とされてこなかった。しかし、今回のような巨大肝細胞がんに対するHAICの有効性の報告、および門脈腫瘍栓を有する肝細胞がんに対するHAICの有効性の報告などが続いており、今後の開発に注目していきたい。転移を有する膵管腺がんおよび神経内分泌腫瘍(NEN)に対する免疫チェックポイント阻害薬の併用療法が検討されるThe Canadian Cancer Trials Group PA.7 trial: Results of a randomized phase II study of gemcitabine (GEM) and nab-paclitaxel (Nab-P) vs. GEM, Nab-P, durvalumab (D) and tremelimumab (T) as first line therapy in metastatic pancreatic ductal adenocarcinoma (mPDAC)【Presentation ID:LBA65】ゲムシタビンおよびnab-パクリタキセル併用療法(GnP)は転移を有する膵がんに対する標準的な1次治療として確立されている。一方で、DNAミスマッチ修復機構の欠損(mismatch repair deficient:dMMR)を呈する場合を除き膵がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の有効性は限られたものとされるが、線維芽細胞を含めた腫瘍環境因子による免疫チェックポイント阻害薬の耐性はゲムシタビンおよびnab-パクリタキセル併用により克服されるとの報告がある。これらを受け、抗PD-L1抗体であるデュルバルマブ(D)および抗CTLA-4抗体であるtremelimumab(T)をGnP療法に上乗せする4剤併用療法は、11例のsafety run-inコホートでの安全性が確認されたうえで、その有効性がランダム化第II相試験で検討された。試験はカナダ全域より28施設が参加し行われた。全身状態の保たれた未治療の転移のある膵管腺がんを有する患者が適格とされ、GnP群(ゲムシタビン、nab-パクリタキセルそれぞれ1,000mg/m2、125mg/m2を1日目、8日目、15日目に投与、28日を1サイクル)または4剤併用群(GnP療法に加えてD 1,500mgおよびT 75mgを1日目に投与)の2群に2対1の割合でランダム割り付けされた。ECOG PS、術後補助化学療法歴の有無により層別化が行われた。主要評価項目はOS、副次評価項目はPFS、安全性、ORRが設定された。OSの中央値をGnP群8.5ヵ月に対して4剤併用群13.1ヵ月(HR=0.65)、両側αエラー0.1、統計学的検出力0.8として150イベントが必要であると算出された。データカットオフは2020年3月15日とされた。4剤併用群に119例、GnP群に61例が割り付けられ、患者背景は両群に差はなかった。ECOG PS0/1は4剤併用群で22.7/77.3%、GnP群で23/77%、術後補助化学療法歴は4剤併用群で10.1%、GnP群で11.5%が有しており、アジア人が4剤併用群に8.4%、GnP群に9.8%含まれる集団であった。主要評価項目であるOSの中央値は4剤併用群9.8ヵ月(90%信頼区間:7.2~11.2)、GnP群8.8ヵ月(90%信頼区間:8.3~12.2)であり4剤併用群の優越性は示されなかった(層別HR=0.94、90%信頼区間:0.71~1.25、p=0.72)。PFSの中央値は4剤併用群5.5ヵ月(90%信頼区間:3.8~5.7)、GnP群5.4ヵ月(90%信頼区間:3.6~6.6)であった(層別HR=0.98、90%信頼区間:0.75~1.29、p=0.91)。ORRは4剤併用群30.3%、GnP群23.0%(オッズ比1.49、90%信頼区間:0.81~2.72、p=0.28)であり、PFS、ORRいずれも両群に有意な差はなかった。治療期間中のGrade3以上の有害事象は両群に差はなく4剤併用群で84%、GnP群で76%に認められ、倦怠感、血栓塞栓イベント、敗血症などが多かった。治療期間中のGrade3以上の検査値異常はおおむね同等であったが、リンパ球減少が4剤併用群で38%、GnP群で20%と4剤併用群で有意に高かった(p=0.02)。GnP療法へのデュルバルマブおよびtremelimumabの上乗せはOS、PFS、ORRいずれにおいても有意に改善することができなかった。現在cfDNAの網羅的遺伝子解析を用いて免疫学的観点からの有効性の探索が行われている。A multi-cohort phase II study of durvalumab plus tremelimumab for the treatment of patients (pts) with advanced neuroendocrine neoplasms (NENs) of gastroenteropancreatic or lung origin: The DUNE trial (GETNE 1601)【Presentation ID:1157O】TMB(tumor mutational burden)、PD-L1蛋白発現、およびリンパ球浸潤がいずれも低い、いわゆる「cold」な腫瘍である神経内分泌腫瘍(NEN)に対する免疫チェックポイント阻害の意義は限られたものである。しかしながら昨今、免疫チェックポイント阻害薬の併用がNENに対して良好な抗腫瘍効果を報告しており、今回抗PD-L1抗体であるデュルバルマブと抗CTLA-4抗体であるtremelimumabの併用療法がマルチコホート第II相試験で検討された。標準治療後に増悪した消化管、膵または肺を原発とする進行NENを有する患者が適格とされ、C1:ソマトスタチンアナログ(SSA)および分子標的薬または化学療法の治療歴を有する定型/非定型肺カルチノイド、C2:SSAおよび分子標的薬もしくは放射性核種療法の治療歴を有するGrade1/2消化管NEN、C3:化学療法、SSA、分子標的薬のうち2~4の治療歴を有するGrade1/2膵NENおよびC4:白金製剤を含む化学療法の治療歴を有するGrade3消化管および膵NENの4つのコホートに登録された。登録された患者はデュルバルマブ1,500mgおよびtremelimumab 75mgを4週ごとに4サイクルまで投与を受けた後、デュルバルマブ単剤療法を9サイクルまで継続して投与された。主要評価項目はC1からC3ではRECIST ver.1.1による9ヵ月時点の臨床的有効割合とされ、C4では9ヵ月時点の生存割合とされた。副次評価項目として安全性、PFS、OS、ORRおよび奏効期間(duration of response:DOR)が評価された。C1からC3では臨床的有効割合の閾値を30%、期待値を50%、C4では生存割合の閾値を13%、期待値を23%とし、片側αエラーを0.05、統計学的検出力を0.8として仮説検定に必要な症例数をそれぞれ28例および30例に設定された。C1/C2/C3/C4にそれぞれ27/31/32/33例が登録され、患者背景は以下のようであった。画像を拡大するC1からC3では主要評価項目である9ヵ月時点の臨床的有効割合はC1/C2/C3で7.4/32.3/25%であった。ORRはC1/C2/C3で0/0/6.9%(RECIST ver.1.1)および7.4/0/6.3%(irRECIST)であった。PFSはC1/C2/C3で5.3ヵ月(95%信頼区間:4.52~6.06)/8.0ヵ月(95%信頼区間:4.92~11.15)/8.1ヵ月(95%信頼区間:3.80~12.46)であった。C4では主要評価項目である9ヵ月時点の生存割合は36.1%(95%信頼区間:22.9~57)であった。ORRは7.2%(RECIST ver.1.1)および9.1%(irRECIST)であった。PFSは2.5ヵ月(95%信頼区間:21.5~2.75)であった。すべてのコホートにおける有害事象は倦怠感(43.1%)、下痢(31.7%)、掻痒(23.6%)などであった。進行消化管、膵および肺原発NETに対するデュルバルマブおよびtremelimumabの併用療法の抗腫瘍効果は十分なものではなかった。WHO grade3のNENに対する併用療法は事前に設定した統計学的設定を満たす結果であり、さらなる検討に資するものであった。これまで膵管腺がんおよび神経内分泌腫瘍はいずれもcold tumorとされ、免疫チェックポイント阻害薬の有効性は十分に示されていない。耐性克服のひとつの方向性として併用療法に大きな期待が寄せられていたが、今回の結果もまた厳しいものであった。免疫チェックポイント阻害薬の進行中のバイオマーカーの検討の結果が待たれるとともに、その他の薬剤との併用療法の開発などにも期待し、この領域における免疫療法の開発が継続していくことに期待したい。1次治療中にも転移を有する膵がん患者のQOLは損なわれているThe QOLIXANE trial - Real life QoL and efficacy data in 1st line pancreatic cancer from the prospective platform for outcome, quality of life, and translational research on pancreatic cancer (PARAGON) registry【Presentation ID:1525O】転移を有する膵がんは病勢が早く予後は不良である。GnP療法(ゲムシタビン+nab-パクリタキセル)はMPACT試験などの結果により転移を有する膵がんに対する1次治療として確立されているが、これを受ける患者のQOLに関する報告はいまだなかった。本研究は独95施設が参加する多施設共同前向き観察研究として行われ、GnP療法を受ける転移を有する膵がんが対象とされた。主要評価項目はITT集団における3ヵ月時点でのEORTC QLQ-C30のQoL/Global Health Status(GHS、全般的健康)が維持された患者の割合とされた。ベースラインと比較してスコアの変化が10ポイント未満であった場合に「QoL/GHS Scoreは維持された」と定義された。600人が登録され、患者背景は年齢の平均は68.7歳、男性/女性が58.2/41.8%、ECOG PS 0/1/2/3が32.0/48.7/12.3/1.5%、進行/再発は85.1/13.7%、膵頭部/体部/尾部は48.7/18.2/19.2%であった。GnP療法の投与サイクル数中央値(範囲)は4.0サイクル(0~12)で、45.7%で用量調整が行われており、後治療移行割合は48.5%であった。無増悪生存期間中央値は5.85ヵ月(95%信頼区間:5.23~6.25ヵ月)、全生存期間中央値は8.91ヵ月(95%信頼区間:7.89~10.19ヵ月)であった。Grade3以上の治療関連有害事象は貧血3.9%、好中球減少症5.1%、白血球減少4.3%などで、22例(3.8%)の治療関連死亡が報告された。EORTC QLQ-C30はベースラインでは588例(98%)、3ヵ月時点、293例(48.8%)で評価が可能であった。主要評価項目である3ヵ月時点でQoL/GHS Scoreが維持された患者の割合は61%であった。QoL/GHS Scoreが維持された期間の中央値は4.68ヵ月(95%信頼区間:4.04~5.59ヵ月)であった。単変量解析ではその他のサブスケールと同様にベースラインのQoL/GHS Scoreは生存に有意に寄与した(HR=0.86、p<0.0001)。多変量解析ではEORTC QLQ-C30の各サブスケールのうち、機能スケールでは身体機能(HR=0.86、0.82~0.96、p=0.004)、症状スケールでは悪心・嘔吐(HR=1.06、1.01~1.13、p=0.33)がそれぞれ生存に有意に寄与するものであった。これまでゲムシタビン単剤療法、mFOLFIRINOX療法およびオラパリブなどの第III相試験におけるQOLに関する報告はされていたものの、GnP療法を受ける転移を有する膵がん患者のQOLの情報は不足していた。今回はリアルワールドデータとしてGnP療法を受ける患者のQOLに関する検討が報告された。実臨床でも実感することであるかもしれないが、GnP療法を継続できている患者においても病勢増悪より先にQOLが低下している。転移を有する膵がんに対して、本邦でも今年ナノリポソーム型イリノテカンが承認されるなど治療の選択肢は着実に広がっている。治療をつなぐためにも、このような検討がさらに進んでいくことに期待したい。おわりに今回紹介しきれなかったが、胆道がんにおけるmFOLFIRINOX療法の有効性の報告や、欧州らしく免疫チェックポイント阻害薬以外にも多くの神経内分泌腫瘍に関する演題が多く報告されていた。ASCOに引き続くオンライン開催であったが、世界の最新のエビデンスに日本にいながらにして触れることができるなどオンラインだからこそのメリットもある。新型コロナウイルス感染症の早い収束を願うとともに、がん克服に向けた努力がさらに加速することに期待したい。

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ESMO2020レポート 消化器がん(上部下部消化管)

レポーター紹介本年度の欧州臨床腫瘍学会(ESMO Virtual Congress 2020)は、昨今の新型コロナウイルス感染症の社会情勢を鑑み、完全バーチャル化して2020年9月19日~21日まで開催された。消化管がん領域における注目演題についてレポートする。CheckMate-649試験本邦の実臨床が大きく変わるであろう臨床試験結果の演題として、未治療のHER2陰性進行胃・食道胃接合部がん・食道腺がんにおける化学療法+ニボルマブ併用療法の化学療法に対する優越性が検証されたCheckMate-649試験を報告する。HER2陰性進行胃・食道胃接合部がん・食道腺がんでは、フッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ系薬剤の併用療法を行うことが標準治療として位置付けられている。また、本邦では後方ラインの治療としてすでにニボルマブが実地臨床でも使用されている。そこで、HER2陰性進行胃・食道胃接合部がん・食道腺がんを対象に化学療法群(カペシタビン+オキサリプラチン併用療法または、FOLFOX療法)に対して、化学療法+ニボルマブ併用療法群、またはイピリムマブ+ニボルマブ併用療法群のそれぞれの優越性を検証したCheckMate-649試験が行われた。今回のESMOでの報告では、化学療法+ニボルマブ併用療法群および、化学療法群を比較した結果が公表された。主要評価項目は化学療法+ニボルマブ併用療法群の化学療法群に対する、CPS5以上のPD-L1陽性例でのOSとPFSだった。副次評価項目は、CPS1以上のPD-L1陽性例でのOS、ランダム化された症例でのOSなどであった。ランダム化1,581例のうちCPS5以上のPD-L1陽性例は955例(60%)であった。両群の患者背景に差はなかった。アジア人は化学療法+ニボルマブ併用療法群が25%、化学療法群が24%、MSSは化学療法+ニボルマブ併用療法群が89%、化学療法群が88%であった。後治療移行割合は、全体で39%、化学療法+ニボルマブ併用療法群で38%、化学療法群で41%であった。後治療として免疫療法を受けたのは、化学療法+ニボルマブ併用療法群が2%、化学療法群が8%であった。主要評価項目であるCPS5以上のPD-L1陽性例におけるOS中央値は、化学療法+ニボルマブ併用療法群で14.4ヵ月(95%CI:13.1~16.2)、化学療法群で11.1ヵ月(95%CI:10.0~12.1)、HR 0.71(98.4%CI:0.59~0.86)、p<0.0001と化学療法+ニボルマブ併用療法群が有意に良好であった。CPS1以上のPD-L1陽性例においても同様に、化学療法+ニボルマブ併用療法群で化学療法群よりもOSが良好であった。さらに、全ランダム化症例におけるOS中央値も、化学療法+ニボルマブ併用療法群が化学療法群よりも有意に良好であった(OS中央値:13.8ヵ月vs.11.6ヵ月、HR:0.80、p=0.0002)。CPS5以上のPD-L1陽性例の奏効割合は、化学療法+ニボルマブ併用療法群で60%、化学療法群で45%と、化学療法群+ニボルマブ併用療法群で有意に高かった(p<0.0001)。完全奏効は化学療法+ニボルマブ併用療法群で12%、化学療法群で7%に認められた。化学療法+ニボルマブ併用療法群で安全性に関する新たな情報はなかった。以上の結果から、演者らは、HER2陰性進行胃・食道胃接合部がん・食道腺がんにおける化学療法+ニボルマブ併用療法は標準治療の1つと考えられると結論付けた。ATTRACTION-4試験現在、本邦では胃がん領域において免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブが実地臨床で用いられている。本試験は、HER2陰性の切除不能進行再発胃がん/食道胃接合部がんにおける1次化学療法として、化学療法+ニボルマブ併用療法と化学療法をHead-to-Headで比較した第III相試験として日本・韓国・台湾で実施された。主要評価項目は、PFSとOSに設定され、副次評価項目は奏効割合、安全性などであった。統計学的に、最終解析においてPFS、OSでそれぞれ両側α=0.01、0.04として設定された。化学療法(SOXまたはCapOX)+ニボルマブ併用療法、化学療法にそれぞれ1:1に割り付けられた。2017年3月から2018年5月までに724例が登録され、化学療法+ニボルマブ併用療法群に362例、化学療法群に362例が割り付けられた。患者背景に両群で差は認めなかった。後治療移行割合は、化学療法+ニボルマブ併用療法群で64%、化学療法群で68%であった。後治療としてニボルマブあるいはペムブロリズマブを受けたのは、化学療法+ニボルマブ併用療法群が10%、1%、化学療法群が25%、2%であった。主要評価項目であるPFS中央値は、化学療法+ニボルマブ併用療法群で10.45ヵ月(95%CI:8.44~14.75)、化学療法群で8.34ヵ月(95%CI:6.97~9.40)、HR 0.68(98.51%CI:0.51~0.90)、p=0.0007と有意に化学療法+ニボルマブ併用療法群で良好な成績であった。OSについては、OS中央値が化学療法+ニボルマブ併用療法群で17.45ヵ月(95%CI:15.67~20.83)、化学療法群で17.15ヵ月(95%CI:15.18~19.65)、HR 0.90(95%CI:0.75~1.08)、p=0.257と統計学的有意差は示せない結果となった。カプランマイヤー曲線をみると、全体としてわずかに化学療法+ニボルマブ併用療法群が上回っていた。奏効割合は、化学療法+ニボルマブ併用療法群で57.5%、化学療法群で47.8%と化学療法+ニボルマブ併用療法群で有意に高かった(p=0.0088)。完全奏効は、化学療法+ニボルマブ併用療法群で19.3%、化学療法群で13.3%であった。安全性に関しては、化学療法+ニボルマブ併用療法群で新たな情報はなかった。CheckMate-649試験の結果を受けて、日本の実地臨床でも近い将来、初回化学療法から免疫チェックポイント阻害薬を併用する治療が標準治療となっていくものと考えられる。しかしながら、これまで進行胃がんの1次治療における化学療法+免疫チェックポイント阻害薬併用療法の有用性を検証した臨床試験として、KEYNOTE-062試験、CheckMate-649試験、ATTRACTION-04試験の3つの大規模試験が示されているが、全体集団のOSにおいて、化学療法+免疫チェックポイント阻害薬の有効性を示したのはCheckMate-649試験のみとなっている。なぜこのような結果となったのか。異なる臨床試験間の比較をすることは御法度だが、ATTRACTION-04試験はアジアで行われた試験であること(標準治療群のOSが17ヵ月というのは驚異的な成績である)、後治療の移行割合(免疫チェックポイント阻害薬を含む)の違い、併用backboneレジメンの違い、CPSの評価方法の違い、あるいは胃がん特有のheterogeneityなのか、検討すべき点は多々あると思われる。昨今は胃がんにおいても次々と新規薬剤が承認される時代に突入したが、予後不良の胃がん患者において実際に「薬の使い切り」を行える症例は少ないのが現状である。より効果の高い治療をより効果の高い患者へ最適に届けることが今後の課題といえよう。KEYNOTE-590試験進行食道がんの初回化学療法は、フルオロピリミジン+プラチナ系薬剤併用(FP)療法が標準治療として用いられている。ペムブロリズマブ単独療法は、KEYNOTE-181試験において、CPS10以上のPD-L1陽性の既治療食道扁平上皮がん症例で化学療法との比較が行われ、奏効割合22% vs.7%、OS中央値10.3ヵ月 vs.6.7ヵ月と報告されている。本試験は、腺がんを含む進行食道がんの初回化学療法における化学療法+ペムブロリズマブ併用療法の化学療法に対する優越性を検証した、無作為化二重盲検第III相試験である。治療は、化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群は5-FU+CDDP+ペムブロリズマブを3週ごと、化学療法+プラセボ群は5-FU+CDDP+プラセボを3週ごとに投与された。主要評価項目は、OS(扁平上皮がん患者、扁平上皮がんかつCPS10以上のPD-L1陽性、CPS10以上のPD-L1陽性、全登録患者)とPFS(扁平上皮がん患者、CPS10以上のPD-L1陽性、全登録患者)であった。副次評価項目は、奏効割合、安全性などであった。2017年7月から2019年6月までに749例が登録され、化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群に373例、化学療法+プラセボ群に376例が無作為に割り付けられた。患者背景に両群で差はなかった。アジア人は化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群が53%、化学療法+プラセボ群が52%、扁平上皮がんは化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群が74%、化学療法+プラセボ群が73%、CPS10以上のPD-L1陽性例は化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群が50%、化学療法+プラセボ群が52%であった。 扁平上皮がん患者におけるOS中央値は、化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群が12.8ヵ月(95%CI:10.2~14.3)、化学療法+プラセボ群が9.8ヵ月(95%CI:8.6~11.1)、HR 0.72(95%CI:0.60~0.88)、p<0.0001と化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群で有意に良好だった。CPS10以上のPD-L1陽性患者におけるOS中央値は、化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群が13.5ヵ月(95%CI:11.1~15.6)、化学療法+プラセボ群が9.4ヵ月(95%CI:8.0~10.7)、HR 0.62(95%CI:0.49~0.78)、p<0.0001と化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群で有意に良好だった。全登録患者におけるOS中央値は、化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群が12.4ヵ月(95%CI:10.5~14.0)、プラセボ群が9.8ヵ月(95%CI:8.8~10.8)で、HR 0.73(95%CI:0.62~0.86)、p<0.0001と化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群で有意に良好だった。PFS中央値も、扁平上皮がん患者、CPS10以上のPD-L1陽性患者、全登録患者において、それぞれで化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群が化学療法+プラセボ群と比較して有意に良好であった。奏効割合は、全登録患者において、化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群が45.0%、化学療法+プラセボ群が29.3%と化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群で有意に高かった(p<0.0001)。安全性に関しては新たな問題は認められなかった。以上の結果から、演者らは食道胃接合部腺がんを含む進行食道がんに対する初回化学療法として、化学療法とペムブロリズマブ併用療法を第1選択に考慮すべきと結論付けている。今回の試験の結果をもって、本邦でも進行食道がんの初回化学療法として免疫チェックポイント阻害薬を併用する治療が標準治療となるだろう。本邦で最も頻度の高い組織型である食道扁平上皮がんに対する初回化学療法として、FP療法、FP+ニボルマブ併用療法、イピリムマブ+ニボルマブ併用療法を比較するCheckMate648試験の結果も今後報告されてくる。また、最近では、FOLFOX療法が食道がんに対して実施が認められており、オキサリプラチンと免疫チェックポイント阻害薬の併用療法なども開発が進んでいくものと思われる。現在はまさに食道がん化学療法の転換期に当たるといわれ、今後の展開に期待したい。

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ニボルマブ+化学療法の非小細胞肺がん術前補助療法がpCRを向上(CheckMate-816)/BMS

 ブリストル マイヤーズ スクイブは、2020年10月7日、切除可能な非小細胞肺がん(NSCLC)を対象とした第III相CheckMate-816試験において、ニボルマブと化学療法の併用療法が主要評価項目である病理学的完全奏効(pCR)を達成したと発表。 同試験において、術前にニボルマブと化学療法の併用療法を受けた患者群では、化学療法を受けた患者群と比較して、切除組織にがん細胞を認めない患者数が有意に多かった。 CheckMate-816試験は、非進行NSCLCの術前補助療法で、免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用療法がベネフィットを示した初めてかつ唯一の第III相試験となる。 CheckMate-816試験では、現在、もう一つの主要評価項目である無イベント生存期間(EFS)の評価のため盲検下で維持し、主要な副次評価項目も評価するため進行中である。

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ESMO2020レポート 肺がん

レポーター紹介今年はCOVID-19の影響で、ASCOをはじめ多くの学会がvirtual meeting開催となり、ESMO2020も例にもれずvirtual meetingとして、2020年9月16日~21日に開催された。肺がん領域においては注目の演題が多数存在し、Presidential SymposiumにおいてはADAURA試験およびCROWN試験の報告がされた。日本人演者においては、先ほどのADAURA試験において坪井先生、@Be試験の瀬戸先生、WJOG8715L試験の戸井先生がOral Presentationに選出されている。重要な試験のフォローアップの報告を含め、いくつか注目の演題を紹介したい。ADAURA試験ASCO2020で大幅な無病生存期間(DFS)の改善を示したADAURA試験であるが、ESMO2020においては中枢神経系(CNS)を含む再発パターンについて国立がん研究センター東病院の坪井 正博先生によって報告された。ADAURA試験は、StageIB~IIIA期の切除可能な上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異(Del-19/L858R)を有する非小細胞肺がん(NSCLC)を対象に、術後補助療法として第三世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)オシメルチニブとプラセボを比較した第III相試験である。Stage(IB/II/IIIA)、EGFR遺伝子変異(Del-19/L858R)および人種(アジア人/非アジア人)によって層別化され、オシメルチニブ群およびプラセボ群には1:1で割付された。オシメルチニブの投与は3年間または再発まで行われた。今回の報告では、CNSを含む再発パターンについての内容であった。CNS転移再発はEGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者において比較的高頻度に認められる遠隔転移の再発形式の1つであり、予後不良因子である。オシメルチニブは既存のEGFR-TKIに比べ血液脳関門通過性が高いことが報告されており、脳転移への効果が期待された。全体の再発割合はオシメルチニブ群において11%、プラセボ群において46%であり、そのうち遠隔転移再発はオシメルチニブ群で38%、プラセボ群で61%であった。主な再発部位は、オシメルチニブ群では肺が6%、リンパ節が3%、CNSが1%、プラセボ群では肺が18%、リンパ節が14%、続いてCNSが10%となっており、期待されていたとおりオシメルチニブ群におけるCNS再発は低かった。CNS DFS中央値は、プラセボ群の48.2ヵ月(95%CI:NC~NC)に対し、オシメルチニブ群では未到達(NR)(95%CI:39~NC)、ハザード比(HR)0.18(95%CI:0.10~0.33)、p<0.0001と有意な延長が示された。1年/2年/3年CNS DFS率はプラセボ群ではそれぞれ97%/85%/82%と低下傾向を示したのに対し、オシメルチニブ群では100%/98%/98%とほぼ低下は認めなかった。また、試験開始後18ヵ月時のCNS再発率はオシメルチニブ群で1%未満(95%CI:0.2~2.5%)、プラセボ群で9%(95%CI:5.9~12.5%)と、CNS再発率もオシメルチニブ群において低かった。今回の報告より、術後補助療法としてのオシメルチニブを投与することにより、局所および遠隔転移の再発リスクが減少することが示された。術後補助療法の再発予防としてオシメルチニブを使うべきか、術後再発としてオシメルチニブを使用すべきか、今後の全生存期間のさらなるフォローアップの報告が期待される。WJOG8715L試験現在初回治療でオシメルチニブを選択する機会も増えており、2次治療で使用する機会が少なくなってきたが、そもそものオシメルチニブの適応であるEGFR-TKI不応となったT790M陽性NSCLCに対して、オシメルチニブ・ベバシズマブ併用療法とオシメルチニブを比較した第II相試験がWJOG8715L試験である。未治療のEGFR遺伝子変異陽性NSCLCにおいてはエルロチニブ+VEGF阻害薬によりPFSの延長効果が示されており、今回の結果も期待された。主要評価項目はPFS、副次評価項目はORR、治療成功期間(TTF)、OS、安全性であり、当院の戸井 之裕先生によって発表された。PFSは、ベバシズマブ併用群が9.4ヵ月、単剤群が13.5ヵ月、HR 1.44(95%CI:1.00~2.08)、p=0.20でベバシズマブ併用群のほうがむしろ短い結果となった。前治療でVEGF阻害薬の治療歴有無別でのPFSの解析も行われており、VEGF(-)-オシメルチニブ(37例)13.7ヵ月、VEGF(+)-オシメルチニブ(4例)15.1ヵ月、VEGF(-)-ベバシズマブ併用(32例)11.1ヵ月、VEGF(+)-ベバシズマブ併用(8例)4.6ヵ月、とVEGF阻害薬の治療歴のある併用群の成績がとくに短かった。併用群で多く認められたGrade3以上の副作用は蛋白尿および高血圧であり、間質性肺炎は両群で10%程度に認められた。今回の報告では、残念ながらベバシズマブを併用することの意義は示せなかった。PFSが延びなかった理由として、VEGF阻害薬の治療歴のある症例に対する併用群の成績が良くなかったのが影響している可能性があるが、VEGF阻害薬の治療歴のない症例の比較においてもベバシズマブを上乗せする効果はみられていない。オシメルチニブとベバシズマブとの相性の問題か、EGFR-TKI既治療という腫瘍周囲環境がある程度整った状況によるものなのか、議論に尽きない結果となった。未治療EGFR遺伝子変異陽性肺がんを対象にオシメルチニブ・ベバシズマブ併用療法の有効性を検討するWJOG9717L試験、またオシメルチニブ・ラムシルマブ併用療法の有効性を検討するTORG1833試験がそれぞれ登録終了しており、それらの結果と合わせ、オシメルチニブにVEGF阻害薬を併用することの意義が結論付けられることとなるだろう。CROWN試験CROWN試験は未治療のALK転座陽性進行NSCLCを対象に、初回治療としてロルラチニブとクリゾチニブを比較した第III相試験である。EGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対しオシメルチニブが初回治療として承認されたように、ALK転座陽性NSCLCに対しての初回治療になるかが期待される。本試験は多くの試験において脳転移症例が除外される中、治療済または症状のない未治療の脳転移を有する患者の登録が認められていた。しかしながら、クロスオーバーは認められていなかった。今回は中間解析の結果が報告された。主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)はロルラチニブ群でNE(95%CI:NE~NE)、クリゾチニブ群で9.3ヵ月(95%CI:7.6~11.1)、HR 0.28(95%CI:0.19~0.41)、p<0.001と有意な延長が示された。1年PFS率はロルラチニブ群が78%(95%CI:70~84)、クリゾチニブ群が39%(95%CI:30~48)と大きな開きをみせている。PFSは、脳転移の有無も含めてすべてのサブグループで有意にロルラチニブ群が良かった。奏効率はロルラチニブ群で76%、クリゾチニブ群で58%であった。ロルラチニブは頭蓋内移行性が高く、今回の報告では脳転移に対する効果も検討されている。頭蓋内奏効率は、ベースラインで測定可能または測定不能な脳転移があった患者で、ロルラチニブ群(38例)が66%(95%CI:49~80)、クリゾチニブ群(40例)が20%(95%CI:9~36)とロルラチニブ群での高い奏効が示された。脳転移の増悪までの期間は、ロルラチニブ群(149例)がNE(95%CI:NE~NE)、クリゾチニブ群(147例)が16.6ヵ月(95%CI:11.1~NE)、HR 0.07(95%CI:0.03~0.17)、p<0.001で有意にロルラチニブ群が良かった。OSはインマチュアであり、両群ともに中央値はNEであった。副作用はロルラチニブ群において高脂血症、高TG血症、浮腫、体重減少、末梢神経障害を高頻度に認めている。中間解析の結果ではあるが、PFSは有意な改善が期待できる。ALK肺がんは現時点でも長期のOSが示されているが、ロルラチニブを初回に使うことによってさらなるOSの改善が期待できるのか、今後の報告が気になるところである。WJOG10718L/@Be試験@Be studyはEGFR/ALK/ROS1陰性、PD-L1強陽性(Daco 22C3)の未治療非扁平上皮非小細胞肺がんに対して、アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法の有効性を検証する単群第II相試験である。免疫チェックポイント阻害薬に血管新生阻害薬を上乗せする試験は近年いくつか報告されており、本試験は肺がんにおいてベバシズマブを上乗せする初めての試験である。主要評価項目は奏効率(ORR)、副次的評価項目はPFS、DoR、OS、安全性であり、試験事務局である九州がんセンターの瀬戸 貴司先生により結果が報告された。登録された40例中、39例が適格であり、TPS 50~75%が13例(33.3%)、75~100%が26例(66.7%)であった。主要評価項目であるORRは64.1%(90%CI:49.69~76.83)と統計学的にメットしており、9割以上の症例において腫瘍縮小が認められた。PFSは15.9ヵ月(95%CI:5.65~15.93)、1年PFS率は54.9%(95%CI:35.65~70.60)であり、これまでのPD-L1強陽性に対する報告を上回る結果となり、今後が期待される。副作用は、23件/12例においてGrade3の副作用を認め、Grade4以上は認めなかった。副作用中止は2例に認め、硬化性胆管炎と脳症によるものだった。今後、PD-L1強陽性に対して免疫チェックポイント単剤(IMpower110 or KEYNOTE-024)か免疫チェックポイントに血管新生阻害薬を上乗せする(@Be)か、さらには殺細胞性抗がん剤も併用する(IMpower150)か、第III相試験が興味深いところである。KEYNOTE-024試験KEYNOTE-024試験は、PD-L1強陽性(TPS≧50%)の未治療進行NSCLCに対する初回治療におけるペムブロリズマブ単剤治療と化学療法(プラチナ併用療法)を比較した第III相試験である。化学療法群ではPDを認めた場合にペムブロリズマブ群へのクロスオーバーが認められていた。これまでPFS、OSにおいて有意な延長効果が示されてきたが、今回は5年フォローアップのデータの報告となった。2020年6月1日にデータカットオフされ、追跡期間中央値は59.9ヵ月であった。化学療法群のペムブロリズマブへのクロスオーバーは66.0%であった。OSはペムブロリズマブ群で26.3ヵ月(95%CI:18.3~40.4)、化学療法群で13.4ヵ月(95%CI:9.4~18.3ヵ月)、HR 0.62(95%CI:0.48~0.81)と既報と大きな変わりは認めなかった。3年OS率はペムブロリズマブ群で43.7%、化学療法群で19.8%、5年OS率はペムブロリズマブ群で31.9%、化学療法群で16.3%と、3年以上の症例ではtail-plateauの傾向もみられ、5年たった時点でも生存率は約2倍維持されている。化学療法群において高いクロスオーバーがあったにもかかわらず、ペムブロリズマブ群は5年OS率においても有意な延長効果が示され、初回治療で投与することは重要と考える。さらには、35サイクル(2年間)ペムブロリズマブを投与できた症例(39例)の奏効率は82%と高率であった。多くは治療早期に奏効が得られており、免疫チェックポイント阻害薬においても、縮小効果がある症例においては長期の治療効果が期待できることが示された。現在、PD-L1強陽性に対しては単剤で十分ではないかという議論がされるが、今回の長期フォローアップのデータはそれを裏付ける結果の1つであるといえる。PD-L1強陽性に対する単剤とコンビネーションの比較試験も進行中であり、その結果にも注目したい。CheckMate-9LA試験EGFR/ALK陰性の未治療進行NSCLCを対象に初回治療としてニボルマブ(Nivo)+イピリムマブ(Ipi)に化学療法2サイクルを併用するNivo+Ipi+化学療法群と化学療法群を比較する第III相試験である。ASCO2020において有効性が公表され、すでに米国・オーストラリア・シンガポール・カナダでは承認されており、日本でも承認間近と伺っている。今回は、アジア人サブグループの結果が報告された。9LA登録例のうち、アジア人は日本人患者(50例)と中国人患者(8例)であった。Nivo+Ipi+化学療法群が28例、化学療法群が30例であった。OSは、アジア人サブグループでも全集団と同様の傾向がみられ、Nivo+Ipi+化学療法群でNR(15.4ヵ月~NR)、化学療法群で13.3ヵ月(8.2ヵ月~NR)、HR 0.33(95%CI:0.14~0.80)と併用群で良好な結果が示された。組織型(Sq/non-Sq)、PD-L1発現(≧1%/<1%)でみた解析においても、少数ながらNivo+Ipi+化学療法群において改善傾向が認められた。気になる副作用であるが、アジア人における全体およびGrade3/4の頻度、そして副作用中止の頻度が高い傾向があるが、とくにアジア人集団で新たに認められたものはなかった。今回の報告でもあるように9LAレジメンは副作用が懸念点であり、今後実臨床においてどのように評価されていくのかが気になるところである。さいごに今回のESMO2020もvirtualではあったものの、肺がん領域においてはいくつもの重要な報告があった。日本においてはいくらかCOVID-19の蔓延が落ち着きつつあり、現地とwebのハイブリッド開催が行われるようにもなってきたが、世界的には落ち着いておらず国際学会に行くのはまだまだ先になるだろう。国際学会の刺激は現地でないと味わえないところもあり、一刻も早い現状の改善を期待している。

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新規抗体薬物複合体SG、尿路上皮がんに有望(TROPHY-U-01)/ESMO2020

 プラチナ系抗がん剤と免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の治療歴を有する転移のある尿路上皮がんに対する新規抗体薬物複合体Sacituzumab Govitecan(SG)の有用性は、昨年のESMO2019で中間解析結果が発表されている(35例での奏効率は29%)。今回の欧州臨床腫瘍学会(ESMO Virtual Congress 2020)では、その最終解析結果が、フランス・Institut de Cancerologie Gustave RoussyのYohann Loriot氏より報告された。 このSGは、多くの固形腫瘍の細胞表面に発現するタンパクTrop-2を標的としており、ヒト化抗Trop-2モノクローナル抗体とイリノテカン系抗がん剤の抗体薬物複合体(ADC)である。TROPHY-U-01試験は、複数のコホートからなるオープンラベルの第II相試験であり、今回はそのコホート1集団の発表である。・対象:プラチナ系抗がん剤とICI既治療(治療ライン数は問わず)の転移のある尿路上皮がん(mUC)患者、PSは0~1・試験群:SG 10mg/kgをday1、8、3週ごと[主要評価項目]中央判定による奏効率(ORR)[副次評価項目]無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、奏効期間(DOR)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・今回の最終解析の対象は、113例(ITT)。年齢中央値は66歳で75歳以上は23%、内臓転移有りは62%(肝転移は28%)だった。・前治療ライン数の中央値は3.0だった。・データカットオフ2020年5月、追跡期間中央値6.3ヵ月の時点で、治療継続症例は16例(14%)だった。・ORRは27%で、CR 5%、PR 22%であった。これは、試験設計時の統計学的なORR閾値12%を上回っていた。・DOR中央値は5.9ヵ月であった。・PFS中央値は5.4ヵ月、OS中央値は10.5ヵ月であった。・主な治療関連有害事象(TRAE)は、下痢:65%(Grade3は9%、4は1%)悪心:58%(同4%、0%)、好中球減少症:46%(同22%、12%)、倦怠感:50%(同4%、0%)、脱毛:47%(同0%、0%)、発熱性好中球減少症:10%(同7%、3%)などであった。・TRAEによる治療中止は6%で、原因は好中球減少症などであった。治療関連死は発熱性好中球減少による敗血症の1例だった。 SGは、米国FDAによりmUCにおけるファストトラック指定を受けており、トリプルネガティブ乳がんでは迅速承認を取得している。現在、mUCを対象とした第III相試験TROPiCS-04(NCT04527991)が進行中である。

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アテゾリズマブ+パクリタキセル、TN乳がん1次治療でPFS改善せず(IMpassion131)/ESMO2020

 転移を有する/切除不能な局所進行トリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者に対する1次治療として、アテゾリズマブ+パクリタキセルの併用療法は、無増悪生存期間(PFS)の有意な改善を認めなかった。英国・Mount Vernon Cancer CentreのDavid Miles氏が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Virtual Congress 2020)で二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験IMpassion131の結果を報告した。IMpassion131ではアテゾリズマブ+パクリタキセル併用でPFS有意に改善せず・対象:進行乳がんに対する化学療法または全身療法歴のない、転移を有する/切除不能な局所進行TNBC患者([ネオ]アジュバント化学療法後≧12ヵ月、ECOG PS≦1)・試験群:以下の2群に2対1の割合で無作為に割り付けアテゾリズマブ併用群:28日を1サイクルとし、アテゾリズマブ(840mgを1、15日目投与)、パクリタキセル(90mg/m2を1、8、15日目投与) PD-L1陽性191例/ITT集団431例※各サイクル少なくとも最初の2回は、デキサメタゾン8~10mgを投与プラセボ群:28日を1サイクルとし、プラセボ+パクリタキセル(90mg/m2を1、8、15日目投与) PD-L1陽性101例/ITT集団220例・層別化因子:タキサン治療歴、VENTANA PD-L1 SP142アッセイによるPD-L1発現状況(<1% vs.≧1%)、肝転移の有無、地域(北米 vs.西欧/オーストラリア vs.東欧/アジアvs.南米)・評価項目:[主要評価項目]PD-L1陽性患者およびITT集団における治験責任医師評価によるPFS(PD-L1陽性患者で達成された場合にITT集団で解析を行うことを事前に規定)[副次評価項目]PD-L1陽性患者およびITT集団における全生存期間(OS)、客観的奏効率(ORR)、安全性など IMpassion131の主な結果は以下のとおり。・両群のベースライン特性はバランスがとれており、PD-L1≧1%の患者は全体の45%であた。・2019年11月15日データカットオフ時点におけるPD-L1陽性患者でのPFS中央値は併用群6.0ヵ月 vs.プラセボ群5.7ヵ月(層別ハザード比[HR]:0.82、95%CI:0.60~1.12、ログランク検定p=0.20)で、併用による有意な改善はみられなかった。・ITT集団でのPFS中央値は併用群5.7ヵ月 vs.プラセボ群5.6ヵ月(層別ハザード比[HR]:0.86、95%信頼区間[CI]:0.70~1.05、p値は検出せず)であった。・タキサン治療歴やPD-L1発現状況、肝転移の有無などPFSのサブグループ解析結果も、PD-L1陽性患者全体と同様の傾向で、併用によるベネフィットがみられる因子はみられなかった。・治験責任医師評価による未確定のORRは、PD-L1陽性患者で併用群63.4% vs.プラセボ群55.4%、ITT集団で53.6% vs.47.5%であった。・2020年8月19日データカットオフ時点におけるOS中央値は、PD-L1陽性患者で併用群22.1ヵ月 vs.プラセボ群28.3ヵ月(層別HR:1.12、95%CI:0.76~1.65)。ITT集団で19.2ヵ月 vs.22.8ヵ月(層別HR:1.11、95%CI:0.87~1.42)であった。・安全性プロファイルは各薬剤の既知のリスクと一致していた。 ディスカッサントを務めた米国・UNC Lineberger Comprehensive Cancer CenterのLisa Carey氏は、PD-L1陽性患者でベネフィットを示したアテゾリズマブ+ナブパクリタキセル併用のIMpassion130試験とIMpassion131試験との間でなぜ結果に差が生じたのかについて考察。試験対象の患者背景に大きな差異はみられず、パクリタキセル投与時に前投与されるステロイドが免疫チェックポイント阻害薬の効果に影響を及ぼす可能性に言及した。しかし、ペムブロリズマブ+化学療法(ナブパクリタキセル、パクリタキセル、ゲムシタビン/カルボプラチンのうちいずれか)併用の有効性を評価したKEYNOTE-355試験ではPFS改善が報告されており、引き続き検討が必要とした。

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EGFR変異肺がんに新規抗HER3抗体薬物複合体U3-1402が有望/ESMO2020

 濃厚な治療歴を有するEGFR変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)に対し、HER3を標的とする抗体薬物複合体(ADC)が、臨床的に意義のある効果と管理可能な安全性を示した。この第I相試験の結果が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Virtual Congress 2020)で、米国・メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターのHelena A. Yu氏より発表された。・対象:EGFR変異陽性の転移を有するNSCLC患者57例(用量漸増パートから12例+用量拡大パートから45例)。PSは 0〜1・試験群:Patritumab Deruxtecan(U3-1402)を用量漸増パートでは3.2mg/kg~6.4mg/kg、用量拡大パートでは5.6mg/kgを3週間ごと点滴・評価項目:[主要評価項目]抗腫瘍効果(盲検下中央判定での奏効率、奏効期間など)[副次評価項目]安全性と忍容性 主な結果は以下のとおり。・症例の年齢中央値は65歳、女性が63%、アジア人が47%、白人が44%だった。脳転移も47%の症例で認められた。・前治療ライン数の中央値は4。全員がEGFR TKIの治療を受けており(オシメルチニブ86%含む)、90%でプラチナ化学療法が、40%で免疫チェックポイント阻害薬の投与歴があった。・追跡期間中央値は5ヵ月で全奏効率25%(CR 2%、PR 23%)、3例の未確定PR例があった。・病勢コントロール率は70%、奏効期間中央値は6.9ヵ月だった。・Grade3以上の治療関連有害事象(TEAE)は、血小板減少28%、好中球減少19%、倦怠感9%、貧血9%であった。・TEAEによる治療中止は9%で、その要因は、倦怠感、食欲低下、間質性肺疾患、肺臓炎などであり、治療関連死はなかった。 最後に演者は「この抗HER3の新規ADCはEGFR C797S変異、MET増幅、HER2変異、BRAF融合、PIK3CA変異などのさまざまなEGFR-TKI耐性にも有効性を示した。次の第II相試験も計画されている」と結んだ。

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新規抗体薬物複合体SG、TN乳がんのPFSとOSを延長(ASCENT)/ESMO2020

 転移を有するトリプルネガティブ乳がん(mTNBC)に対する新規の抗体薬物複合体(ADC)sacituzumab-govitecan (SG)の国際第III相試験の結果が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Virtual Congress 2020)で、米国・マサチューセッツ総合病院がんセンターのAditya Bardia氏から発表された。 このSGは、多くの固形腫瘍の細胞表面に発現するタンパクTrop-2を標的とするADCで、複数の治療歴を有するmTNBCに対し、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)を有意に改善することが報告された。・対象:mTNBCに対する化学療法剤治療を2ライン以上(中央値4ライン)受けている患者529例で、免疫チェックポイント阻害薬やPARP阻害薬の既治療例も含まれる。・試験群:SG 10mg/kgをday1、8に投与し、1週休薬の3週間隔での点滴投与(SG群)・対照群:主治医選択の単剤化学療法(エリブリン、カペシタビン、ゲムシタビン、ビノレルビン)(CT群)・評価項目:[主要評価項目]脳転移のない症例を対象にした盲検下中央判定によるPFS[副次評価項目]脳転移がある症例を含む全症例のPFS、脳転移のない症例を対象にしたOSと奏効率、安全性、奏効期間など なお、本試験はデータ安全性モニタリング委員会の勧告により、早期の有効中止となっている。 主な結果は以下のとおり。・SG群には、脳転移あり32例を含む267例が、CT群には脳転移あり29例を含む262例が登録された。・脳転移なし集団におけるPFS中央値は、SG群5.6ヵ月、CT群1.7ヵ月で、HRが0.41(95%CI:0.32~0.52、p<0.0001)と、有意にSG群で良好であった。・OS中央値は、SG群で12.1ヵ月、CT群6.7ヵ月、HRが0.48(95%CI:0.38~0.59、p<0.0001)と、同様に有意にSG群で良好であった。・奏効率は、SG群35%、CT群5%と、有意にSG群で高かった(p<0.0001)。・SG群の安全性プロファイルは過去の報告と同様であり、忍容性は良好であった。・Grade3以上の主な治療関連有害事象は、好中球減少症がSG群で51%、CT群で33%、下痢が10% vs.1%未満、発熱性好中球減少症が6% vs.2%であった。・SG群では、治療中止となった有害事象の発現率は、4.7%であり(CT群は5.4%)、重度の心血管系毒性はなく、治療関連死もなかった。CT群では治療関連死が1例に発生した。 Bardia氏は「SGは既治療のmTNBC患者に対する新たな標準治療として考慮すべきである」と結んだ。

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免疫チェックポイント阻害薬、1次治療は75歳以上の高齢者でも有効

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)について、75歳以上の高齢者にも有効であることが、フランス・ソルボンヌ・パリ・ノール大学のThierry Landre氏らによる無作為化比較試験のメタ解析の結果、示された。ICIの有効性に対する加齢の影響については議論の余地があり、75歳以上の高齢者についてはこれまでほとんど知られていなかった。なお結果について著者は、「生存に対するベネフィットは主に1次治療で観察されたものであり、2次治療については不明なままである」と述べている。Drugs & Aging誌オンライン版2020年7月17日号掲載の報告。 研究グループは、75歳以上の高齢患者におけるICIの有効性を評価するメタ解析を実施した。進行固形がん患者を対象に、ICI(単独療法または併用療法)と標準治療を比較した無作為化比較試験のうち、2010年1月~2020年1月までの間に発表された論文を適格とした。 主要評価項目は、高齢患者(75歳以上)と非高齢患者(75歳未満)で比較した全生存(OS)期間。ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)値を収集・プールして評価。副次評価項目は、1次治療および2次治療別のICI治療の影響とした。 主な結果は以下のとおり。・抗PD-1抗体(ニボルマブ、ペムブロリズマブ)、抗PD-L1抗体(アテゾリズマブ、アベルマブ)、または抗CTLA-4抗体(イピリムマブ)を評価した、15件の第III相臨床試験を解析に組み込んだ。・登録患者は、非小細胞肺がん、腎細胞がん、悪性黒色腫、頭頸部扁平上皮がん、または胃がんであった。・15件のうち、1次治療に関する試験が8件、2次治療に関する試験が7件であった。・患者背景は、年齢中央値64歳、75歳以上が906例(1次治療552例、2次治療354例)、75歳未満が8,741例(1次治療4,992例、2次治療3,749例)であった。・1次治療における死亡HRは、75歳以上群0.78(95%CI:0.61~0.99)、75歳未満群0.84(95%CI:0.71~1.00)であった。・2次治療における死亡HRは、75歳以上群1.02(95%CI:0.77~1.36)、75歳未満群0.68(95%CI:0.61~0.75)であり、サブグループ間で統計学的に有意差が観察された(相互作用のp=0.009)。

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「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン」6年ぶりの改訂

 『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版』が7月22日に発刊された。今回の改訂は2014年版が発刊されてから6年ぶりで、ヒドロモルフォン(商品名:ナルサスほか)、トラマドール塩酸塩の徐放性製剤(商品名:ワントラム)などの新規薬物の発売や新たなエビデンスの公表、ガイドライン(GL)の作成方法の変更などがきっかけとなった。本書の冒頭では日本緩和医療学会理事長の木澤 義之氏が、「分子標的薬ならびに免疫チェックポイント阻害薬をはじめとするがん薬物療法が目覚ましい発展を遂げていることなどを踏まえて改訂した」と述べている。 がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版の主な改訂点については、8月9日~10日にWeb開催された「緩和・支持・心のケア 合同学術大会」での教育講演「『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2020年版)』の概要」でも発表され、馬渡 弘典氏(横浜南共済病院 緩和支持療法科)が解説した。がん疼痛の薬物療法に関するガイドラインとして必要な情報に絞る まず、がん疼痛の薬物療法に関するガイドラインの改訂版は作成方法の変更により計325ページから185ページへと大幅にボリュームダウン。大幅に絞られた臨床疑問は65項目から28項目に絞られ、Appendixには委員会で討論したが根拠が乏しく解説文に記載しなかったこと、現場の臨床疑問・現在までの研究と今後の検討課題が記載された。以前まで取り上げられていた「麻薬に関する法的・制度的知識」「がん疼痛マネジメントを改善するための組織的な取り組み」「薬物療法以外の痛み治療法(放射線療法、神経ブロック、骨セメント)」はがん疼痛の薬物療法に関するガイドラインの枠組みでは扱いづらくなったとのことで2020年版では割愛されたが、「大切な事項なので書籍などで確認を」と述べた。2020年版では突出痛の定義が近年の考えを加味して変更された 馬渡氏はがん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版を作成する際に生じたエビデンスと推奨のギャップについて解説した上で、疼痛強度に応じた鎮痛薬の使用方法を説明した。まず、中等~高度のがん疼痛についてはCQ3~7*を示し、「中等~高度の疼痛がある患者に対して、強オピオイド間の優劣については今回のシステマティックレビューでは認められなかったため、本ガイドラインではどの薬剤を選択しても良いと結論付けられている」と説明。CQ6(がん疼痛のある患者に対して、フェンタニルの投与は推奨されるか?)については、今年6月末にフェンタニルの貼付剤(商品名:フェントステープ)がオピオイド鎮痛剤未使用のがん疼痛患者へ適応となったことにも触れた。また、それ以前に決定稿になったことを断ったうえで、フェンタニルによる初回投与は、『投与後に傾眠、呼吸抑制の重篤な有害作用の有無を継続して観察出来るとき』の条件付き推奨となったことを述べた。さらに、「添付文書にも 増量時の注意事項が書かれているので、注意して経過観察してほしい」と述べた。*CQ3~7は、「がん疼痛のある患者に対して、各薬剤(モルヒネ、ヒドロモルフォン、オキシコドン、フェンタニル、タペンタドール)の投与は推奨されるか?」について記載。 次に、2018年のWHOのガイドライン改訂で、3段階ラダーの表現が本文から付録に相当するANNEXに移ったが、がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版でも中等度のがん疼痛では「強い推奨が弱オピオイドから強オピオイドに変更された」点について説明。CQ8(がん疼痛のある患者に対して、コデインの投与は推奨されるか?)やCQ9(がん疼痛のある患者に対して、トラマドールの投与は推奨されるか?)、CQ23(がん疼痛のある患者に対して、初回投与のオピオイドは、強オピオイドと弱オピオイドのどちらが推奨されるか?)の内容に反映されている。 突出痛については、「突出痛の定義は国際的に決まったものはないが、『持続痛の有無や程度、鎮痛薬治療の有無にかかわらず発生する一過性の痛みの増強』から『定期的に投与されている鎮痛薬で持続痛が良好にコントロールされている場合に生じる、短時間で悪化し自然消失する一過性の痛み』へと、近年の考えを加味して変更された」と解説した。また、がん疼痛の薬物療法に関するガイドラインにおける突出痛に投与するオピオイドの薬剤の用語の統一についても触れ、総称区分を以下のように示した。●速放性製剤:経口モルヒネ、ヒドロモルフォン、オキシコドンなど●経粘膜性フェンタニル:フェンタニル口腔粘膜吸収製剤●レスキュー薬:突出痛に投与するオピオイドの経口薬、注射剤、坐剤すべてがん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版の変更点 このほか、がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版の変更点として、腎機能低下時の投与や便秘時について解説。CQ17(オピオイドが原因で、便秘のあるがん患者に対して、下剤、その他の便秘治療薬の投与は推奨されるか?)やCQ22(がん疼痛のある、高度の腎機能障害患者に対して、特定のオピオイドの投与は推奨されるか?)を示し、「高度の腎機能障害患者にフェンタニルやブプレノルフィンの“注射剤”を推奨していること。コデイン、モルヒネを投与する場合は短期間で少量から投与すること。軽度から中等度の腎障害では減量すればどのオピオイドも投与可能。ただし、ブプレノルフィンは高度の腎機能障害がある時や、ほかの強オピオイドが投与できない時に限定する」と述べた。<今回からがん疼痛の薬物療法に関するガイドラインに追加された主な新規薬剤>・ヒドロモルフォン(商品名:ナルサス、ナルラピド、ナルペイン)・オキシコドン塩酸塩水和物徐放錠(同:オキシコンチンTR錠)[オキシコンチン錠の販売中止に伴う]・トラマドール塩酸塩(同:トラマールOD錠、ワントラム)とアセトアミノフェン配合剤(同:トラムセット)[カプセル剤の販売中止に伴う]・ミロガバリン(同:タリージェ)・ナルデメジン(同:スインプロイク)とその他の便秘治療薬(ポリエチレングリコール製剤、リナクロチド[同:リンゼス]、エロピキシバット[同:グーフィス])<がん疼痛の薬物療法に関するガイドラインから削除された主な薬剤>・モルヒネ製剤の一部(同:カディアン、ピーガード)・エプタゾシン(同:セダペイン)、ジヒドロコデインリン酸塩(同:リン酸ジヒドロコデイン)、ペチジン塩酸塩(同:ペチジン塩酸塩「タケダ」) 今後の予定として、同氏は2020年版のガイドライン作成過程で用いた各種のテンプレートを掲載した詳細資料を作成し、『本ガイドライン作成の経過やより詳細な内容を知りたい読者がインターネット上で閲覧できるようにする』『CQ、ステートメントを英文化し、国際紙に掲載する』などを掲げた。また日本緩和医療学会より一般市民向けに2017年に出版されている「患者さんと家族のためのがんの痛み治療ガイド 増補版」も改訂が必要とされれば速やかに改訂を行うこととすると述べ、「教科書などとうまく使い分けて役立ててもらえれば」と締めくくった。

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がん治療で心疾患リスクを伴う患者の実態と対策法/日本循環器学会

 第84回日本循環器学会学術集会(2020年7月27日~8月2日)で佐瀬 一洋氏(順天堂大学大学院臨床薬理学 教授/早稲田大学医療レギュラトリーサイエンス研究所)が「腫瘍循環器診療の拡がりとCardio-Oncology Rehabilitation(CORE)」について発表。がんを克服した患者の心血管疾患発症リスクやその予防策について講演した。循環器医がおさえておくべき、がん治療の新たなる概念-サバイバーシップ がん医療の進歩により、がんは不治の病ではなくなりつつある。言い換えるとがん治療の進歩により生命予後が伸びる患者、がんサバイバーが増えているのである。とくに米国ではがんサバイバーの急激な増加が大きな社会問題となっており、2015年時点で1,500万人だった患者は、今後10年でさらに1,000万人の増加が見込まれる。 たとえば小児がんサバイバーの長期予後調査1)では、がん化学療法により悪性リンパ腫を克服したものの、その副作用が原因とされる虚血性心疾患(CAD)や慢性心不全(CHF)を発症して死亡に繋がるなどの心血管疾患が問題として浮き彫りとなった。成人がんサバイバーでも同様の件が問題視されており、長期予後と循環器疾患に関する論文2)によると、乳がん患者の長期予後は大幅に改善したものの「心血管疾患による死亡はその他リスク因子の2倍以上である。乳がん診断時の年齢が66歳未満では乳がんによる累計死亡割合が高かった一方で、66歳以上では心血管疾患(CVD)による死亡割合が増加3)し、循環器疾患の既往があると累計死亡割合はがんとCVDが逆転した」と佐瀬氏はコメントした。心疾患に影響するがん治療を理解する この逆転現象はがん治療関連心血管疾患(CTRCD:Cancer Therapeutics-Related Cardiac Dysfunction)が原因とされ、このような患者は治療薬などが原因で心血管疾患リスクが高くなるため、がんサバイバーのなかでも発症予防のリハビリなどを必要とする。同氏は「がん治療により生命予後が良くなるだけではなく、その後のサバイバーシップに対する循環器ケアの重要性が明らかになってきた」と話し、がんサバイバーに影響を及ぼす心毒性を有する薬を以下のように挙げた。●アントラサイクリン系:蓄積毒性があるため、生涯投与量が体表面積あたり400mg/m2を超えるあたりから指数関数的にCHFリスクが上昇する●分子標的薬:HER2阻害薬はアントラサイクリン系と同時投与することで相乗的に心機能へ影響するため、逐次投与が必要。チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)は世代が新しくなるにつれ血栓症リスクが問題となる●免疫チェックポイント阻害薬:PD-1阻害薬とCTLA-4阻害薬併用による劇症心筋炎の死亡報告4)が報告されている これまでのガイドラインでは、薬剤の影響について各診療科での統一感のなさが問題だったが、2017年のASCOで発表された論文5)を機に変革を迎えつつある。心不全の場合、日本循環器学会が発刊する『腫瘍循環器系の指針および診療ガイドライン』において、がん治療の開始前に危険因子(Stage A)を同定する、ハイリスク患者とハイリスク治療ではバイオマーカーや画像診断で無症候性心機能障害(Stage B)を早期発見・治療する、症候性心不全(Stage C/D)はGLに従って対応するなど整備がされつつある。しかしながら、プロテアソーム阻害薬や免疫チェックポイント阻害薬のような新規薬剤は未対応であり、今後の課題として残されている。循環器医からがんサバイバーへのアプローチが鍵 がん治療が心機能へ影響する限り、これからの循環器医は従来型の虚血性心疾患と並行して新しい危険因子CTRCDを確認するため「がん治療の既往について問診しなければならない」とし、「患者に何かが起こってから対処するのではなく腫瘍科医と連携する体制が必要。そこでCardio-Oncologyが重要性を増している」と述べた。 最後に、Cardio-Oncologyを発展させていくため「病院内でのチームとしてなのか、腫瘍-循環器外来としてなのか、資源が足りない地域では医療連携として行っていくのか、状況に応じた連携の進め方が重要。循環器疾患がボトルネックとなり、がん治療を経た患者については、腫瘍科医からプライマリケア医への引き継ぎ、もしくは心血管疾患リスクが高まると予想される症例は循環器医が引き継いでケアを行っていくことが求められる。これからの循環器医にはがんサバイバーやCTRCDに対するCORE6)を含めた対応が期待されている」と締めくくった。■参考1)Armstrong G, et al. N Engl J Med. 2016;374:833-842.2)Ptnaik JL, et al. Breast Cancer Res. 2011 Jun 20;13:R64.3)Abdel-Qadir H, et al. JAMA Cardiol. 2017;2:88-93.4)Johnson DB, et al. N Engl J Med. 2016;375:1749-1755.5)Almenian SH, et al. J Clin Oncol. 2017;35:893-911.6)Sase K, et al. J Cardiol.2020 Jul 28;S0914-5087(20)30255-0.日本循環器学会:心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2012年改訂版)

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第20回 薬剤承認は金次第!?薬事審議会委員への「製薬マネー」詳細明らかに

「製薬マネー」について研究している医師たちのチームがこのほど、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の委員に対する製薬企業からの支払いを調べた研究論文を発表した1)。医薬品承認の議決権に制限が生じる「1企業から50万円以上の受け取り」が過小に申告されているケースもあり、同委員が定められたルールに反しながらも医薬品承認の議決権を得ていた可能性があることが明らかになった。本研究を進めているのは、公益財団法人仙台市医療センター仙台オープン病院の澤野 豊明医師らのチームである。澤野医師らは各製薬企業が公表するデータに基づき、薬事・食品衛生審議会のうち、医薬品の承認に関わる医薬品第一部会、医薬品第二部会、再生医療等製品・生物由来技術部会、薬事分科会、薬事・食品衛生審議会総会の2017・18年度の委員に対し、製薬企業各社から16年度に提供された謝礼等の金額(C項目支払い)について、個人単位で解析した。主な研究結果は以下の通り。薬事・食品衛生審議会委員108人のうち、51人(47%)が謝金などを受け取り、総額は1億1,576万円だった。1委員あたりの受取金額の平均値は107万円だったが、32人(30%)が合計50万円以上を受け取っていた。500万円以上受け取っていた委員は8人(7%)で、いずれも大学教授だった。8,530件におよぶ寄附金・契約金などの自己申告を解析したところ、少なくとも409件(4.8%)が過小に申告されていたことがわかった。そのうち112件(27.4%)では、医薬品承認の議決権に制限が生じる「1企業から50万円以上の受け取り」を過小に申告しており、定められたルールに反して委員が医薬品承認の議決権を得ていた可能性がある。1人の委員に対する支払額が最も高かったのは1,086万3,404円だった。また、全委員への支払い総額の67.3%(7,794万3,585円)が講演料だった。また、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬など、製薬企業に莫大な利益をもたらす医薬品の命運を握る医薬品第二部会の委員への支払いが全体の57%を占めていた。澤野医師は「利益相反についてのガバナンスが厳格に監視・運用されていない場合、現状のルールでは不十分。医薬品の承認メカニズムと関係者の現状を徹底的に調査し、プロセス全体の包括的な見直しが急務だ。増え続ける医療費も減らせるかもしれない」と述べる。2016年度のデータを基にした調査だが、現在も同様の状況だろう。コロナ禍のあおりを受けてボーナス無支給や給与カットの憂き目に遭う医療者が少なからずいるこのご時世、一部とはいえオイシイ思いをしている医師や製薬企業がいるようでは、医療全体に対する国民の不信を招きかねない。参考1)Toyoaki T, et al. Clinical pharmacology and therapeutics. 2020 May 18

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肺がん1次治療における抗PD-1抗体sintilimab+化学療法の成績(ORIENT-11)/WCLC2020

 新たな抗PD-1抗体sintilimabの非扁平上皮非小細胞肺がん(NSCLC)における有効性は、第Ib相試験で示された。この結果を基に、無作為化二重盲検第III相ORIENT-11試験が行われ、その初回解析の結果を中国・Sun Yat-Sen University Cancer Centreの Zhang Li氏が、世界肺癌学会WCLC2020Virtual Presidential Symposiumで発表した。sintilimabがPFSを有意に延長・対象:未治療の局所進行または転移のあるNSCLC患者・試験群:sintilimab(200mg)+ペメトレキセド(500mg/m2)+シスプラチン(75mg/m2)またはカルボプラチン(AUC5) 3週ごと4サイクル投与→sintilimab+ペメトレキセド維持療法(sintilimab群)・対照群:プラセボ+ペメトレキセド+プラチナ 3週ごと4サイクル投与→ペメトレキセド維持療法(化学療法群) 化学療法群のsintilimab群へのクロスオーバーは許容された。・評価項目: [主要評価項目]独立放射線審査委員会評価の無増悪生存期間(PFS) [副次評価項目]全生存期間(OS)、客観的奏効期間(ORR)、効果発現までの時間、安全性 sintilimabのNSCLCにおける有効性を評価した主な結果は以下のとおり。・対照患者397例はsintilimab群266例、プラセボ群131例に2対1で無作為に割り付けられた。プラセボ群のsintilimabへのクロスオーバーは35例(31.3%)であった。・追跡期間中央値8.9ヵ月でのPFS中央値は、sintilimab群8.9ヵ月、化学療法群5.0ヵ月と、sintilimab群で有意に長かった(HR:0.482、95%CI:0.362〜0.643、p<0.00001)。・OS中央値は、両群とも未達であった(HR:0.609、95CI:0.400〜0.926、p=0.01921)。・ORRは、sintilimab群51.9%、化学療法群で29.8%であった。・Grade3以上の有害事象発現率は、sintilimab併用群61.7%、プラセボ併用群58.8%であった。 Discussantである米国・Karmanos Cancer Canterの長阪 美沙子氏は、当試験が東アジアのデータであることを重要であるとした。また、PFS、OSは他の免疫チェックポイント阻害薬のNSCLC1次治療のデータと匹敵するものだとしながら、PFSの改善がOSの改善に結びつかないこともあることから、長期のフォローアップの必要性を強調した。 この試験の結果は、Journal of Thoracic Oncology誌2020年8月8日オンライン版にも同時掲載された。

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IO+Chemoへのベバシズマブ add onは有用か:APPLE Study【肺がんインタビュー】 第48回

第48回 IO+Chemoへのベバシズマブ add onは有用か:APPLE Study出演:九州大学病院 呼吸器科 白石 祥理氏非小細胞肺がん1次治療において免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用にベバシズマブを上乗せすることの有効性と安全性を検討するWJOG11218L試験(APPLE Study)が進行中である。この試験の研究事務局の九州大学病院 呼吸器科 白石 祥理氏に試験実施の背景と臨床的意義について聞いた。

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免疫チェックポイント阻害薬の未来―がん免疫療法の耐性とその克服【そこからですか!?のがん免疫講座】最終回

はじめに「がん免疫の基礎を…」ということで始まったこのシリーズは、当初5回くらいで終わる予定でしたが、いろいろ盛り込んで増えてしまい、計7回になりました。まだまだトピックスはありますが、込み入った話はあまりせず、がん免疫療法の将来像を「個人的」な想像(妄想?)も交えてお話しすることで、終わりにしたいと思います(あくまで「個人的」な見解であり、承認されていない薬剤や使用方法についても記載がありますが、ご容赦ください)。ICIはどんどん早い段階で使われるように現在、臨床応用されている免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、抗PD-1/PD-L1抗体と抗CTLA-4抗体です。ご存じのように、これらは当初の適応がん種であった悪性黒色腫や肺がんだけでなく、さまざまながんで効果が証明され、使用が広がっています。免疫応答ががん細胞に対してしっかり起きていれば(とくにT細胞がしっかり攻撃できれば)、がん種に関係なく効く、というわけなのです。「ネオ抗原を反映する体細胞変異数が重要」という話をバイオマーカーの話題の回で紹介しましたが、体細胞変異数が多いMSI highというくくりや、最近では体細胞変異数が多いがんというくくりにおいても、ICIの効果が証明されつつあります。今まで臓器別で承認されてきた抗がん剤ですが、ここに来てがん種横断的な承認・使用ができるようになってきています。似たようなことはゲノム医療が進む分子標的薬の世界でも広がっていますね。そして、遅いラインでの使用よりもファーストラインでの使用、さらには早期がんでの周術期、というように、ICIはどんどん早い段階で使用する方向に向かっています。患者さんの検体を解析していて感じますが、やはり早期の小さいがんほど「(俗っぽい表現ですが)免疫状態がよく」、がん免疫療法もそういった小さな、早期のものほど効く可能性が高いと感じます。マウスの実験でも、小さい腫瘍のほうが明らかによく効きます(図1)1)。とくに最近の術前補助化学療法としてICIを使う効果は特筆すべきものがあり2)、今後「術前ICI」という治療が、いろいろながん種で臨床に入ってくるかもしれません。画像を拡大する今後を占うのは、ICIの「3つの耐性機序」今までの分子標的薬治療の開発史においても、耐性機序を解明することによって次の治療が登場してきました。たとえば、第1世代EGFR-TKIに耐性を示すEGFR T790M変異が見つかったことで第3世代EGFR-TKIが開発されたわけです。ICIについても今後の治療開発には耐性機序が非常に重要ですので、ここでも少し触れたいと思います。今までのデータを見ると、ICIの耐性機序はEGFRのT790M変異のような特定の機序というよりは、さまざまな耐性機序が複雑に絡み合っていると考えられます。このシリーズでは耳にタコができるくらい繰り返しご紹介してきましたが、ICIはT細胞を活性化させる治療ですので、代表的な耐性機序をT細胞活性化の7つのステップに準じてA~Cの3つにまとめました(図2)3)。画像を拡大する A がん抗原の認識に関わる耐性:T細胞活性化は抗原の認識から始まります。たとえば、ネオ抗原がない(≒体細胞変異が少ない)とT細胞も強く活性化できず、ICIは耐性となります。ほかにも、がん抗原を乗せるお皿であるMHCに異常があって抗原を提示することができない場合は、T細胞ががん細胞を認識しようがありませんので、耐性化してしまいます4)。 B T細胞の遊走・浸潤に関わる耐性:活性化したT細胞ががん細胞を攻撃するためには、がん細胞のいる攻撃の場へ遊走・浸潤していく必要があります。しかし、遊走・浸潤に関わるケモカインという物質などが妨害されてしまうと耐性化する、とされます。これはさまざまな機序で起きているとされており、たとえば、がん化に寄与する重要ながん側の因子がケモカイン産生を低下させていることが報告されています5)。 C 細胞傷害に関わる耐性:活性化したT細胞ががん細胞を攻撃する最終段階において、がん細胞を傷害できずに耐性化してしまうこともあります。たとえば、PD-1やCTLA-4以外の免疫チェックポイント分子がT細胞を強く抑制している場合や、免疫を抑制してしまう細胞が関与することなどが報告されています6)。耐性克服のカギはPrecision Medicineこれらの耐性を克服するために抗がん剤や放射線治療との併用や、ほかの免疫チェックポイントに作用する薬剤との併用などが試みられています。とくに、抗がん剤併用は肺がんでは効果が証明され、すでに臨床応用されています7)。また、承認済みのPD-1/PD-L1やCTLA-4を組み合わせるだけでなく、ほかの免疫チェックポイント分子を標的にした抗LAG-3抗体や抗TIGIT抗体などとの併用療法が現在開発されており、その結果が待たれます。しかしながら、開発中のものにはあまり生物学的な根拠がないものもあります。個人的には、もう少し耐性機序を考慮したうえで個々の組み合わせを考えることが必要だと考えています。がん免疫療法もゲノム医療のようにPrecision Medicineに進むべきです。がん細胞に対してT細胞がまったく攻撃している気配がない患者さん(「砂漠」と表現されます)には、どんなに併用をしようともICIの効果は出ないのではないか?ともいわれています。たとえば、MHCの異常で抗原が提示できない場合には、病理学的にもT細胞がまったく見られず(まさに「砂漠」)4)、どんなにT細胞を活性化させようとも、攻撃するT細胞がそこに存在せず、かつ、がん細胞を認識すらできませんので治療効果は期待できません。「砂漠」にも可能性を感じる細胞療法前回は、CAR-T細胞療法の話題を取り上げました8)。まだ血液腫瘍だけではありますが、このような治療が有効というのは非常に興味深く、示唆に富んだ結果だと思っています。「砂漠」に近い患者さんに対しても、外から攻撃するT細胞を入れることで効果が期待できるかもしれません。実際に、前回紹介したTIL療法はICIが効かないような例でも効果が報告されています9)。似たような発想で、がん細胞の表面に出ている分子を認識する抗体と、T細胞を活性化させる刺激抗体をくっつけたBispecific抗体というものがあります。抗体の片方はがん細胞にくっついて、もう片方がT細胞を活性化させます。つまり表現が少し悪いかもしれませんが、「無理やりにでもT細胞をがん細胞に対して攻撃するように仕向ける」ことができるわけです。おわりに2012年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)でのICIの報告から8年が経ち、がん免疫療法はここまで臨床に広がりました。ICI登場まで、(私も含めて)がん免疫を「うさんくさい」と思っていた方が多いかもしれません。ご存じのようにPD-1は日本で見つかり研究が進んだもので10)、こういった基礎研究の成果がここまで臨床応用されていることに非常に感銘を受け、「うさんくさい」と思っていた自分を恥じました。しかしながら、その有効性は不十分で、まだまだ不明な点が多いのも事実です。マウスで進んできた研究ですが、ヒトでの証明が不十分なものも多いのです。今後の新しい治療開発のためにも、実際の患者さんの検体での解析がますます重要になってくるでしょう。こうした成果を積み重ねれば、将来的には進行がんでも「完治」に近い状態を実現できるのではないかと思います。ややこしい内容も多い中、最終回までお付き合いいただき、ありがとうございました。ケアネット編集部の方には理解しにくい部分をいろいろご指摘いただいて、何とか読める内容になったと思います。そして、私にがん免疫の「いろは」をご教授くださった国立がん研究センター/名古屋大学の西川先生にも、併せて深謝申し上げて本シリーズを終わりにしたいと思います。1)Umemoto K,et al.Int Immunol.2020;32:273-281.2)Forde PM, et al. N Engl J Med. 2018;378:1976-1986.3)冨樫庸介.実験医学増刊.2020;38.4)Inozume T, et al. J Invest Dermatol. 2019;139:1490-1496.5)Sugiyama E, et al. Sci Immunol. 2020;5:eaav3937.6)Togashi Y, et al. Nat Rev Clin Oncol. 2019;16:356-371.7)Gandhi L, et al. N Engl J Med. 2018;378:2078-2092.8)Singh AK, et al. Lancet Oncol. 2020;21:e168-e178.9)Zacharakis N, et al. Nat Med. 2018;24:724-730.10)Ishida Y, et al. EMBO J. 1992;11:3887-3895.

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進行胃がんに対する薬物療法が大きく変わる―免疫チェックポイント阻害薬と抗体薬物複合体(解説:上村直実氏)-1260

 本論文では既治療に対して抵抗性のHER2陽性進行胃がんを対象として、抗HER2抗体であるトラスツズマブに新規トポイソメラーゼI阻害薬のデルクステカンを結合させた抗体薬物複合体であるトラスツズマブ デルクステカンの有効性が示されている。すなわち、抗体薬物複合体により薬物の抗腫瘍効果を大きく引き上げることが証明された研究成果は特筆される。 最近、わが国における手術不能の進行胃がんに対する薬物療法が大きく変化している。TS-1を用いる1次治療の効果が少ない患者に対して行う、第2次・第3次治療におけるニボルマブ(商品名:オプジーボ)などの免疫チェックポイント阻害薬と抗体薬物複合体の登場により、従来と大きく異なる成果すなわち生存率の延長や完全寛解を示す患者を認めるようになっている。 HER2陽性胃がんは約20%を占めるが、日本で開発されたトラスツズマブ デルクステカンが米国と日本において薬事承認されたことは、根治不能とされてきた進行胃がん患者に朗報である。ただし、効果のある薬剤には重篤な副作用があることも忘れてはいけないことで、本薬剤にも骨髄抑制および間質性肺疾患の副作用が顕著にみられたことから、医療現場では注意深い投与が必須である。 このように、がんに対する有効な薬剤が盛んに開発されているが、新規薬物が非常に高価であり、日本の医療費を圧迫しつつあり、今後、国民皆保険制度の維持に大きな影を落としつつあることも事実である。さらに、がんに対する薬物の臨床試験での被検者は、薬理試験の性格上、仕方ないものと思われるが、performance status(PS)0ないしは1という日常生活にほぼ支障を認めない元気な症例でかつ75歳未満かつ肝機能や腎機能に異常を認めないというエントリー基準が多いが、薬事承認後、臨床現場で遭遇する胃がん患者は75歳以上ないしはPSが2以上であったり、腎機能の低下を認めるケースが多い。すなわち、これらの薬剤を高齢者のがん患者に対して使用する行為は科学的な根拠に基づく医療ではないことにも十分に注意しておく必要があろう。さらに言うならば、今後、臨床試験の対象者を臨床現場を考慮した基準に改めるべきと思われる。

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ASCO2020レポート 乳がん

レポーター紹介2020年5月29日から6月2日まで5日間にわたり、ASCO2020が例年どおりシカゴマコーミックプレイスで開催される予定であった。しかしながら、COVID-19の流行により、今年は初のVirtual Annual Meetingが行われた。5月29日より一般演題やポスターはオンデマンドで視聴できるようになり、ハイライトセッションおよびプレナリーセッションは、ライブ配信+オンデマンドで視聴できた。2020年のテーマは“Unite & Conquer: Accelerating Progress Together”であった。プレナリーセッションを中心に、標準治療が変わる演題が多数報告された。乳がんにおいてもプレナリーセッション1題、口演17演題が発表され、標準治療を変えるもの、標準治療を変えないものの長年の臨床的疑問に一定の答えを出すものが発表された。乳がんの演題について、プレナリーセッションの1題、Local/Adjuvant口演から1演題、Metastaticから2演題を紹介する。初発IV期乳がんに対する原発巣切除の全生存期間に対する影響(E2108試験)日常臨床においては初発IV期乳がんに対して原発巣切除が行われている場合もある。後ろ向き研究では切除した場合に全生存期間が良好な傾向が示されているが、バイアスを含んでおり前向き試験が複数計画された。インドで行われた試験では、全身治療を行った後に手術群と非手術群にランダム化された。この試験では全生存期間(overall survival:OS)の差は認められなかった。さらに、トルコで行われた試験では全身治療前にランダム化され手術群で5年生存割合が良好な傾向を認めた。このように相反する結果であり、原発巣切除の意義については結論が出ていない状況であった。E2108試験は1次登録をした後に4〜8ヵ月の全身治療を行い、病勢進行が認められなかった症例を手術群と全身治療継続群に1対1にランダム化された。368例が登録され、258例がランダム化され、125例が手術群に、131例が全身治療継続群に割り付けられた。主要評価項目はOSで、53ヵ月の観察期間中央値で、生存期間中央値が54ヵ月、ハザード比1.09(90%CI:0.80~1.49、p=0.63)で両群間に有意差は認められなかった。副次評価項目の無増悪生存期間(progression-free survival:PFS)でも両群間の差は認められず、生存曲線もほぼ重なっている状態であった。サブタイプ別のサブグループ解析ではホルモン受容体陽性HER2陰性、HER2陽性では差を認めなかったが、トリプルネガティブ乳がん(triple negative breast cancer:TNBC)ではハザード比3.50(95%CI:1.16~10.57)で、手術群で有意に悪かった。これはおそらく進行の速いTNBCにおいては全身治療の継続が重要であるということを示唆しているのであろう。局所の病変進行については手術群で良好な傾向であった。QOLは両群で変化がなかった。今回の試験はネガティブであったが、この結果をもって初発IV期乳がんに対する原発巣切除に意義がないと判断することはできない。E2108は開始後に進捗が悪く、プロトコール改訂が行われサンプルサイズが減らされた。JCOG1017(研究事務局:岡山大学 枝園 忠彦氏)は同様の試験であるが、570例が1次登録され、全身治療で進行しなかった407例がランダム化されている。また、ランダム化までの期間が日常臨床で効果判定を行うことの多い3ヵ月に設定されている。JCOG1017の試験結果が得られた後に、あらためてこれまでの試験を総括し、原発巣切除の意義について議論する必要があるだろう。HER2陽性乳がんの術後化学療法におけるT-DM1+ペルツズマブとトラスツズマブ+ペルツズマブ+タキサンの比較第III相試験(KAITLIN試験)HER2陽性乳がんにおけるペルツズマブの術後化学療法における上乗せ効果はAPHINITY試験で示されており、リンパ節転移陽性であればペルツズマブを上乗せすることが現在の標準治療となっている。本試験は、トラスツズマブに微小管阻害薬であるエムタンシンを結合した抗体医薬複合体であるT-DM1の術後化学療法における有用性(トラスツズマブ+タキサンと置き換えることが可能であるか)を検証した第III相試験である。本試験ではHER2陽性でリンパ節転移陽性(N+)もしくはリンパ節転移陰性でホルモン受容体陰性かつT2以上の症例を対象として、1,846例が3~4サイクルのAC療法とトラスツズマブ+ペルツズマブ+タキサン(THP群)またはT-DM1+ペルツズマブ群(KP群)にランダム化された。主要評価項目はリンパ節転移陽性例およびITT集団における無浸潤疾患生存(invasive disease-free survival:IDFS)の2つとされた。918例がTHP群、928例がKP群に割り付けられた。約90%がN+であった。腫瘍経はT1が約30%、T2が約60%であった。ホルモン受容体は56%程度で陽性であった。1つ目の主要評価項目であるN+における3年IDFSはTHP群で94.1%、KP群で92.8%(HR:0.97、95%CI:0.71~1.32、p=0.8270)でありKP群の優越性は示せなかった。ITT集団でも同様の結果であった。PROではKP群で良好な傾向を認めたが、有害事象中止、グレード3/4の肝障害、神経障害はKP群で多かった。心毒性はTHP群で多かった。本試験は2014年の1月から2015年の6月まで登録されている。T-DM1とタキサン+トラスツズマブをHER2陽性転移乳がんの初回治療で検討したMARIANNE試験は2015年に最初の解析結果が発表されており、T-DM1のタキサン+トラスツズマブに対する優越性は示せていなかった。イベントの多く発生する転移乳がんにおいてネガティブであったことを考えると、よりハイリスクのN+が多く含まれるとはいえ、術後のセッティングで優越性を示すことは困難であったと予想される。また、APHINITY試験のときにも感じたことであるが、HER2陽性早期乳がんの予後はかなり良くなっているため、このセッティングにおける術後治療のエスカレーションは限界が来ていると考えても良いかも知れない。今後はKATHERINE試験やTNBCにおけるCREATE-X試験などのように、術前治療で治療感受性を判断し、治療効果が不十分な対象に対して別の治療アプローチを行うことがエスカレーションにおいては重要であろう。TNBC1次治療における化学療法へのペムブロリズマブの上乗せ(KEYNOTE-355試験)2018年の欧州臨床腫瘍学会でTNBC1次治療におけるアルブミン結合パクリタキセル(nab-PTX)に対する抗PD-L1抗体であるアテゾリズマブの上乗せを検討したIMpassion130試験の結果が発表され、ITT集団とPD-L1陽性群においてPFSの延長を示し、PD-L1陽性群におけるOS延長の期待が示された。これを受けて、わが国においてもPD-L1陽性TNBCに対しアテゾリズマブが承認された。他がん種ではすでに広く使われるようになっていた免疫チェックポイント阻害薬が、乳がんの日常臨床に登場した。ペムブロリズマブは抗PD-1抗体であり、TNBC初回化学療法へのペムブロリズマブの有効性を検証した試験がKEYNOTE-355試験である。847例がランダム化され、566例がペムブロリズマブ群に、281例がプラセボ群に2対1に割り付けられた。化学療法として、タキサン(nab-PTXまたはパクリタキセル)およびゲムシタビン+カルボプラチンが許容され、それぞれ約45%と55%であった。割り付け調整因子にPD-L1陽性細胞割合(CPS)1%以上または未満が含まれた。主要評価項目はPD-L1陽性集団(CPS≧1%および10%)とITT集団におけるPFS、ならびに同OSとされた。両群において、CPS≧1%は約75%、CPS≧10%は40%弱であった。CPS≧10%集団において、PFSは9.7ヵ月vs.5.6ヵ月(HR:0.65、95%CI:0.49~0.86、p=0.0012)と統計学的有意差をもってペムブロリズマブ群で良好であった。CPS≧1%集団においては7.6ヵ月vs.5.6ヵ月(HR:0.74、95%CI:0.61~0.90、p=0.0014※)と統計学的有意差は示せなかった。ITT集団においてもペムブロリズマブの上乗せを示すことはできなかった。有害事象のプロファイルは両群間で大きな差は認めなかったが、甲状腺機能障害や肺臓炎など、免疫関連有害事象と考えられるものについてはペムブロリズマブ群で多い傾向にあった。これは、これまでに他がん種でみられた、もしくはTNBCにおけるアテゾリズマブでみられたものと同様の傾向であった。本試験の結果を受けて、TNBC初回治療の際にはアテゾリズマブまたはペムブロリズマブを化学療法と併用することが選択肢として加わった。これら2剤はPD-L1の評価方法が異なっていることに注意が必要である。また、アテゾリズマブ、ペムブロリズマブいずれもTNBCに対する術前化学療法に併用することで病理学的完全奏効率を改善することが示されており、将来術前(および術後)に免疫チェックポイント阻害薬を使用した後に再発した場合、どのような治療戦略を取っていくかが今後の課題の一つとなる。※p<0.00111で有意ホルモン受容体陽性HER2陰性進行・再発乳がん1次治療におけるフルベストラント+パルボシクリブとレトロゾール+パルボシクリブを比較するランダム化第II相試験(PARSIFAL試験)ホルモン受容体陽性HER2陰性進行・再発乳がんの1次治療においては、アロマターゼ阻害薬(AI)とCDK4/6阻害薬(パルボシクリブ[Palbo]、アベマシクリブ、ribociclib)の併用がPFSを延長することが示されており、現在の標準治療となっている。また、内分泌療法で進行した場合、2次治療でフルベストラント(Ful)とCDK4/6阻害薬の併用が標準治療である。内分泌療法単剤では初発IV期乳がんを対象とした第III相試験であるFALCON試験においてFulとAI(アナストロゾール)が比較され、ITT集団でFulがAIと比較してPFSにおいて優っていることが示された。これらの試験結果から、1次治療においてCDK4/6阻害薬と併用すべきはAIか、それともFulであるか、という臨床疑問が生まれた。PARSIFAL試験はこの仮説の可能性を探ることを目的として計画されたランダム化第II相試験である。転移・再発乳がんに対する治療歴のない症例が対象となり、486例がFul+Palbo群243例とレトロゾール(LET)+Palbo群243例に1対1に割り付けられた。閉経前も登録可能で、卵巣機能抑制の併用が求められたが、割合としては7〜8%しか含まれなかった。PFSにおいてFul+Palbo群で9.3ヵ月の上乗せを仮定し、優越性を検証するデザインとされたが、優越性が検証できなかった場合には非劣性(非劣性マージン1.21)を検証するとされた。主要評価項目である研究者評価PFSにおいて、LET+Palbo群で32.8ヵ月、Ful+Palbo群で27.9ヵ月(HR:1.13、95%CI:0.89~1.45、p=0.321)であり、優越性はおろか、非劣性を示すこともできなかった(95%CIの上限が非劣性マージンである1.21を上回っている)。FALCON試験においてはサブグループ解析において臓器転移がある場合は有意差がなく、臓器転移がない場合に有意であったことから同様の解析が行われたが、いずれも差は認めず、臓器転移がある場合にはLET+Palboで良い傾向を認めた。再発と初発IV期のサブグループ解析でも両群間の差は認めなかった。副次評価項目である3年OSにおいて、LET+Palbo群で77.1%、Ful+Palbo群で79.4%(HR:1、95%CI:0.68~1.48、p=0.986)であり、こちらも両群間の差は認めなかった。有害事象も大きな差はみられなかった。Ful+CDK4/6阻害薬は初回治療として最強なのではないか、と期待して行われた第II相試験であるが、残念ながらその傾向を感じることすらできなかった。サブグループ解析では前治療(すなわち術後治療)としてAIが行われていた場合にFul+Palboが良い傾向を示したが(有意差なし)、これはAIに長期に曝露されることで約30%程度でESR1の変異を獲得するからと考えられる。AIによる治療歴がないとESR1の変異は数%でしか検出されない。エストロゲン受容体そのものの発現量を減らすというFulの作用機序は、ホルモン感受性が低下してから本領を発揮するのかもしれない。

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肝細胞がんに対するレンバチニブ・ペムブロリズマブ併用療法/ASCO2020

 米国・マサチューセッツ総合病院がんセンターのAndrew X. Zhu氏は、切除不能に対する肝細胞がんに対するマルチキナーゼ阻害薬レンバチニブと免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体)ペムブロリズマブの併用療法の第Ib相試験の結果を米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO20 Virtual Scientific Program)で発表。この併用療法が良好な抗腫瘍効果と安全性を示したと報告した。・対象:Barcelona Clinic Liver Cancer(BCLC)ステージングシステムでStage B/C、Child-Pugh Aの切除不能肝細胞がん・介入:レンバチニブ8mg/日または12mg/日(連日)+ペムブロリズマブ200mg(day1)3週ごと・評価項目:[主要評価項目] Part 1(用量制限毒性コホート) 安全性・忍容性、Part 2(拡大コホート) 独立画像審査(IIR)評価によるmRECISTおよびRECIST v1.1による奏効率(ORR)、奏効期間(DoR) [副次評価項目・探索的評価項目]無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、無増悪期間(TTP)、薬物動態、抗ペムブロリズマブ抗体の発現状況 主な結果は以下のとおり。・評価はPart 1 6例、Part 2 98例で行った。・Grade3以上の治療関連有害事象(AE)発現率は67%、Grade3以上の主な副作用は高血圧の17%であった。・AEによる投与中止はレンバチニブ14%、ペムブロリズマブ10%、両剤とも中止は6%であった。・mRECISTでのORR は46%、DoR中央値は8.6ヵ月、奏効までの期間(TTR)中央値は1.9ヵ月、病勢制御率は88%であった。・RECIST v1.1でのORR は36%、DoR中央値は12.6ヵ月、TTR中央値は2.8ヵ月、病勢制御率は88%であった。・mRECISTでのPFS中央値は9.3ヵ月(95%信頼区間[CI]:5.6~9.7)、RECIST v1.1では8.6ヵ月(95%CI:7.1~9.7)であった。・OS中央値は22.0ヵ月(95%CI:20.4~評価不能)であった。 Zhu氏は、「レンバチニブとペムブロリズマブの併用は高い奏効率と病勢制御率を示し、新たな毒性や予期せぬ毒性も認められなかった」と結論付けた。

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ASCO2020レポート 泌尿器科腫瘍

レポーター紹介2020 ASCO Virtual Scientific ProgramCOVID-19の影響で初のバーチャル開催となったASCO2020。オープニングセッションでは2019~20年のプレジデントであるDr. Howard A. “Skip” Burris IIIは冒頭のあいさつで、本会の約1年前に“Unite & Conquer: Accelerating Progress Together”というテーマを掲げた際には現在の世の中の在り方を想像だにしていなかったが、われわれの働き方、社交の仕方にとどまらず、ものの見方まで変えてしまったパンデミック状況下で、このテーマが新たな意味を持つことになったと述べています。確かに地域・人種・民族・性別・職種の多様性を超えて団結し進歩を加速することの必要性は、COVID-19という喫緊の課題を前により明確になりました。「われわれは今年の年次総会では同じ部屋にいませんが、これまで以上に団結しています」という言葉が印象的でした。さて、Scientific Programの中から注目の演題をピックアップして紹介するこのレポート、前立腺がん領域では新規ホルモン治療薬の臨床試験結果とPSMA-PET関連の報告が、尿路上皮がんと腎細胞がんでは免疫チェックポイント治療の話題が中心となっています。経口LHRHアンタゴニストは進行前立腺がんに対する抗アンドロゲン療法を変えるか経口LHRHアンタゴニストの安全性・有効性を検証したHERO試験(NCT03085095)の結果が口演発表で報告されました(Abstract#5602)。従来の進行性前立腺がんにおけるアンドロゲン除去療法(ADT)では、LHRHアゴニストあるいはアンタゴニストの注射が中心でしたが、1ヵ月から6ヵ月ごとの注射が必要になる点や、アゴニスト製剤の場合にはLHサージが起こる点などの問題点がありました。国際第III相HERO試験では初の経口GnRH受容体アンタゴニスト製剤であるレルゴリクスの安全性・有効性を、従来臨床で用いられている酢酸リュープロライド注射製剤と比較しました。本試験では去勢感受性進行性前立腺がん患者934例を2:1の比率で経口レルゴリクス(120mg/日)あるいは酢酸リュープロライド皮下注射(3ヵ月ごとに11.25あるいは22.5mg)に無作為割付を行いました。主要評価項目である血清テストステロン(T)値の去勢レベル(<50ng/dL)への抑制(29日目時点)とその維持(48週間)は、レルゴリクス群では96.7%(95%CI:94.9~97.9%)で、酢酸リュープロライド群の88.8%(84.6~91.8%)と比較して、非劣性・優位性ともに統計学的に証明されました。副次的評価項目として、4日目の去勢達成率も56対0%でレルゴリクス群が優れており、治療中断後のT回復を検討した184例の検討では、治療中止90日後のTレベルの中央値は、270.76対12.26ng/dLとレルゴリクス群が有意に優れていました。さらに、心血管イベントの発生率もレルゴリクス群において低いという結果が示されました(2.9対6.2%)。そのほかの点では、安全性と忍容性のプロファイルはほぼ同等でした。著者らは、酢酸リュープロライド皮下注射と比較してレルゴリクスは、素早く(4日目までに去勢達成率)より確実に(48週間にわたる去勢域維持)血清Tを抑制し、中止後はより早期にT回復をもたらし、心血管イベントを50%減少するなどの優位性を示し、今後進行性前立腺がん患者に対するADTにおいて新しい標準治療になる可能性があると結論付けています。なおレルゴリクスは本邦でも「子宮筋腫に基づく諸症状(過多月経、下腹痛、腰痛、貧血)の改善」を適応としてすでに承認を受けています(用量は40mg/日)。本試験の結果はASCO2020における発表に合わせてNEJM誌(Shore ND, et al. N Engl J Med. 2020;382:2187-2196.)に発表されました。PSMA関連診断/治療モダリティは前立腺がんマネージメントのGame Changerとして期待PSMA関連では、3演題が口演発表に採択され、その注目度の高さがあらためて浮き彫りになったかたちです。診断関連では、根治治療後の生化学的再発(BCR)を来した前立腺がん患者の病巣部位確定における18F-DCFPyL(PyL)を用いたPSMA-PET/CT検査の有用性を検証した前向き第III相CONDOR試験(NCT03739684)の結果が紹介されました(Abstract#5501)。根治的治療後にPSAが上昇(PSA中央値0.8ng/mL[範囲:0.2~98.4])し、CT、MRI、骨シンチグラフィーなどの標準的な画像検査では病巣がはっきりしなかった208例の前立腺がん患者がエントリーされ、PyL-PET/CTの所見を3人の評価者によって検討した結果、病巣が認められた患者の割合は69.3%(142/208例)でした。主要評価項目である病巣部位特定率は84.8%~87.0%で、63.9%の患者でPyL-PET/CTの所見を基に治療方針が変更されました。重篤な有害事象が認められたのは1例(過敏症)のみで、最も頻度が高かった有害事象は頭痛(4例)でした。PyL-PET/CTは、BCR患者において従来の画像検査では描出できない病巣の特定と、それに基づく治療方針決定に有用であると結論付けられています。また、診断関連ではもう1演題、前立腺全摘除術+骨盤内リンパ節郭清を受ける中〜高リスクの限局性前立腺がんの患者を前向きにエントリーし、術前の68Ga-PSMA-11 PETのリンパ節転移の診断精度を郭清リンパ節の病理所見(pN診断)を参照標準として評価した研究の結果が公表されました(Abstract#5502)。その結果、68Ga-PSMA-11 PETの感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率(95%CI)はそれぞれ、0.40(0.34~0.46)、0.95(0.92~0.97)、0.75(0.70~0.80)、0.81(0.76~0.85)だったとのことです。治療関連では、PSMAを発現する腫瘍に治療用β線を照射する放射性標識された小分子LuPSMAの安全性と治療効果を検証したランダム化第II相TheraP試験(NCT03392428)の結果も報告されました(Abstract#5500)。本試験ではドセタキセル不応性転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)を対象とし、まず68Ga-PSMA-11および18F-FDG PET/CTを施行しました。両検査の結果、(1)PSMA強陽性の病変があること、(2)FDG陽性かつPSMA陰性の病変がないこと、という2つの条件を満たした患者をLuPSMA(6週ごと×最大6サイクル)あるいはカバジタキセル(20mg/m2/3週×10サイクル)による治療に無作為に割り付けました。主要評価項目は、PSAの50%以上の低下(PSA50-RR)で、副次的有効性エンドポイントには、PSA無増悪生存期間(PSA-PFS)および全生存期間(OS)が含まれていました。1次スクリーニングを受けた291例のうち200例がエントリー基準を満たし、LuPSMA群(n=99)あるいはカバジタキセル群(n=101)に割り付けられました。追跡期間の中央値は11.3ヵ月でした。PSA50-RRは、LuPSMA群のほうがカバジタキセル群よりも良好でした(65/99[66%、95%CI:56~75]vs.37/101[37%、95%CI:27~46]、p<0.001)。PSA-PFSにおいてもLuPSMAは有意に良好な結果を示しました(HR:0.63、95%CI:0.45~0.88、p=0.007)。OSデータは規定のイベント数に達していないため今回は示されていません。安全性に関して、Grade3〜4の有害事象(AE)発生率は、LuPSMA群で32%(31/98)に対し、カバジタキセル群では49%(42/85)でした。毒性による治療中止は、LuPSMA群で1%(1/98)、カバジタキセル群で4%(3/85)に認められました。治療に関連した死亡はありませんでした。著者らは上記要件を満たすmCRPC患者において、LuPSMAはカバジタキセルに比べてより治療活性が高く、AEが少ない治療法であると結論付けています。nmCRPC 3試験はだんご3兄弟かそれとも…前立腺がん領域ではこれ以外に、非転移性去勢抵抗性前立腺がん(nmCRPC)を対象とした新規アンドロゲン受容体(AR)シグナル阻害薬治療のOSアウトカムに関する報告がありました。ARAMIS試験(NCT02200614, Abstract#5514)、PROSPER試験(NCT02003924, Abstract#5515)、SPARTAN試験(NCT01946204, Abstract#5516)はそれぞれPSA倍化時間(PSA-DT)<10ヵ月のnmCRPC患者を対象に、それぞれダロルタミド、エンザルタミド、アパルタミドを投与する実薬群とプラセボ(PBO)群に2:1の比で割り付け、無転移生存(MFS)を主要評価項目としてその効果を検証するデザインで、すでにいずれの試験もMFSの延長を報告しています(ARAMIS試験 HR:0.41、95%CI:0.34~0.50、p<0.001 Fizazi K, et al. N Engl J Med. 2019;380:1235-1246.)(PROSPER試験 HR:0.29、95%CI:0.24~0.35、p<0.001 Hussain M, et al. N Engl J Med. 2018;378:2465-2674.)(SPARTAN試験 HR:0.28、95%CI:0.23~0.35、p<0.001 Smith MR, et al. N Engl J Med. 2018;378:1408-1418.)。今回発表されたOSに関する成績もMFSと同様、3試験ともほぼ同等と言ってよい結果でした(ARAMIS試験 未到達 対 未到達、HR:0.69、p=0.003)(PROSPER試験 67.0対56.3ヵ月、HR:0.73、p=0.0011)(SPARTAN試験 73.9対59.9ヵ月、HR:0.784、p=0.0161)。SPARTAN試験は2次治療後のデータ(2nd PFS)を報告しているという点で後続治療も考慮した、実臨床における治療選択に有用な情報を提供しているといえますが、ARAMIS試験はダロルタミドの有害事象(AE)プロファイルとしてPBO群とまったく遜色ない成績を報告しており、腫瘍学的転帰に関する成績がほぼ同等な3薬剤の選択に当たってはダロルタミドに有利なデータであると考えられます。切除不能/転移性尿路上皮がん:免疫チェックポイント阻害薬はこう使え!?尿路上皮がん(UC)では免疫チェックポイント阻害薬を従来の全身治療のさまざまなセッティングで用いる試みが報告され、今後の標準治療を考えるうえで大きな影響を与える可能性を感じさせる内容でした。なかでもLate-breaking abstractとしてプレナリーでJAVELIN Bladder 100試験(NCT02603432)の中間解析結果が報告され、大きな注目を集めました(Abstract#LBA1)。この無作為化第III相試験ではプラチナベースの1次化学療法(4~6コースのG-CDDPあるいはG-CBDCA)によって奏効(CR/PR)または安定(SD)を示した進行UC患者を、抗PD-L1抗体製剤であるアベルマブによる維持療法(10mg/kg IV 2週間ごと)+支持療法(BSC)とBSCのみのいずれかに割り付けました(n=350 vs.350)。その結果、主要評価項目であるOSはアベルマブ+BSC群で有意に良好でした(21.4 対 14.3ヵ月、HR:0.69、95%CI:0.56~0.86、片側p=0.0005)。サブグループ解析ではアベルマブ+BSC群の優位性に関して一様な傾向が示されました。副次的評価項目であるPFSも有意に良好でした(HR:0.62、95%CI:0.52~0.75、p<0.001)。Grade3以上のAEはアベルマブ+BSC群の47.4%、BSC群の25.2%で認められたと報告されています。現在のプラチナ適格・進行UCに対する標準治療は、1次治療がプラチナベースの化学療法、2次治療でペムブロリズマブという流れですが、本治験の結果に伴ってアベルマブが承認されると、1次治療がCR/PR/SDだった場合に維持療法としてアベルマブを投与するのか、いったんoff-treatmentとして再燃時にペムブロリズマブを投与する方針とするのか、選択を迫られることになります。今回公表されたデータによれば、JAVELIN Bladder 100試験のBSC群では進行時に2次治療を受けた患者は75.3%(PD-L1/PD-1阻害薬治療は52.9%)だったとのことです。一部患者において進行時に状態の悪化によって2次治療が受けられなかった結果なのか、あるいは本来実施可能であった適切な2次治療が施されなかった結果なのかによって、大きく解釈が変わる可能性があります。いずれにしても、ほかの切除不能/転移性尿路上皮がんに対する1次治療に関する治験で、免疫チェックポイント阻害薬単独あるいは免疫チェックポイント阻害薬+化学療法の併用レジメンが軒並み苦戦している現状で、本試験の結果は大きなインパクトがあり、1次治療からの治療シークエンスが大きく影響を受けることは間違いないと考えられます。周術期補助療法としての免疫チェックポイント阻害薬と効果予測バイオマーカーUCに関する口演発表では膀胱全摘除術後の術後補助療法としてのアテゾリズマブの効果を検証したIMvigor010試験(NCT02450331)の結果が公表されました(Abstract#5000)。本試験では膀胱全摘標本を用いた病理学的病期が、(1)ypT2-4aまたはypN+(ネオアジュバント化学療法を受けた患者の場合)もしくは(2)pT3-4aまたはpN+(ネオアジュバント化学療法を受けなかった患者の場合)と診断された患者を対象に、アテゾリズマブ(1,200mg IV 3週間ごと)あるいは経過観察の2群に1:1の無作為割付を行い、無再発生存(DFS)を主要評価項目としました。今回はDFSの最終解析とOSの中間解析の結果が示されましたが、いずれもアテゾリズマブ群の優位性を示すことができませんでした(DFS 19.4対16.6ヵ月、95%CI:15.9~24.8対11.2~24.8ヵ月、HR:0.89、95%CI:0.74~1.08、p=0.2466、OS 未到達 対 未到達、HR:0.85、95%CI:0.66~1.09、p=0.1951)。転移性UCを対象としたIMvigor130試験(Doctors' Picks 2020年5月20日もご参照ください)と比較して、AEによる治療中断率が高かったことが原因として示唆されています。今後このセッティングでの免疫チェックポイント阻害薬の位置付けがどうなるかについては不透明なままとなっています。周術期補助療法としての免疫チェックポイント阻害薬の話題としては、無作為第II相DUTRENEO試験(NCT03472274)の結果がClinical Science Symposiumで報告されています(Abstract#5012)。本試験では、シスプラチン適格の筋層浸潤性膀胱がん(MIBC,、cT2-T4a、N≦1、M0)と診断された患者を、まず腫瘍の炎症誘発性IFN-γシグネチャー(腫瘍免疫スコア、TIS)を基準に「ホット」あるいは「コールド」に分類しました。このTISは以前にPD-1経路阻害薬の効果を予測すると報告されています(Ayers M, et al. J Clin Invest. 2017;127:2930-2940.)。「ホット」と診断された患者は術前補助療法としてPD-L1阻害薬デュルバルマブ1,500mg+CTLA-4阻害薬tremelimumab 75mg×3サイクル(DU+TRE群)あるいはシスプラチンベースの化学療法(G-CDDPまたはdd-MVAC、標準CT群)に無作為割り付けされ、「コールド」と診断された患者は全例が化学療法に割り付けられました。合計61例がエントリーされ、「ホット」と診断された患者のうち22例が標準CTを、23例がDU+TREを受け、それぞれ36.4%(n=8)、34.8%(n=8)が主要評価項目であるpCRを達成しました(オッズ比:0.923、95%CI:0.26~3.24)。一方「コールド」と診断され標準CTを受けた16例の患者のうち68.8%(n=11)がpCRを達成しました。DU+TREの組み合わせは、MIBCに対する術前補助療法における効果的および安全なオプションであることが示されましたが、炎症誘発性IFN-γシグネチャーによる層別化では免疫チェックポイント阻害薬治療と標準化学療法のどちらから利益を得る可能性が高いかを予測することはできませんでした。免疫チェックポイント阻害薬治療の効果予測バイオマーカー研究としては、無作為第III相IMvigor130試験(NCT02807636)の患者における腫瘍の変異頻度(TMB)、PD-L1発現、Tエフェクター遺伝子発現(GE)および線維芽細胞TGF-β応答シグネチャー(F-TBRS)のバイオマーカーとしての有用性が報告されています(Abstract#5011)。これらのバイオマーカーは既報(Mariathasan S, et al. Nature. 2018;554:544-548.)によりアテゾリズマブ単独治療の効果予測因子として見いだされたものです。IMvigor130試験では転移性UC患者の1次治療としてアテゾリズマブ+プラチナベースの化学療法(PBC)、アテゾリズマブ単独、またはPBC単独に1:1:1で無作為割り付けされ、主要評価項目としてPFSとOSを検証しました(Doctors' Picks 2020年5月20日もご参照ください)。上記項目は本試験における探索的バイオマーカー分析の対象とされていました。全1,200例の組み入れ患者のうち851例でバイオマーカー解析が可能でした。PD-L1高発現(IC2/3)はアテゾリズマブ単独 対 PBCにおけるアテゾリズマブ群の良好なOSを予測し、さらにPD-L1高発現(IC2/3)と高TMB(>10変異/Mb)を組み合わせることによって、予測能が上昇しました。APOBEC関連変異は、アテゾリズマブ含有レジメンによるOSの改善と関連していました。このように、免疫チェックポイント阻害薬が進行性UCに対する1次治療あるいはMIBCに対する術前補助療法における治療オプションに入ってくるにつれて、治療効果予測に有用なバイオマーカーの重要性も高まってくることが予想されます。検体採取から検査を経て治療開始に至るまでの時間をいかに短縮できるかという点も、今後重要な課題となってくると思われます。腎細胞がん:免疫チェックポイント阻害薬+TKIの中長期予後腎細胞がん(RCC)領域は前立腺がん・尿路上皮がんに比べると今年はややおとなしい印象でしたが、その中で、KEYNOTE-426試験(NCT02853331)の追加フォローアップのデータが口演セッションで発表されたので取り上げたいと思います(Abstract#5001)。この試験では861例の進行性淡明細胞型RCC(cc-RCC)に対する1次治療としてのペムブロリズマブ+アキシチニブとスニチニブを、OSとPFSを主要評価項目として比較しました。今回、中央値27.0ヵ月(範囲:0.1~38.4ヵ月)のフォローアップで、ペムブロリズマブ+アキシチニブ群のOS(HR:0.68、95%CI:0.55~0.85、p<0.001、24ヵ月OS 74% vs.66%)およびPFS(HR:0.71、95%CI:0.60~0.84、p<0.001、24ヵ月PFS 38% vs.27%)の延長効果が示されました。これらのベネフィットはIMDCリスク分類やPD-L1発現にかかわらず認められたということです。追加解析の結果、ペムブロリズマブ+アキシチニブ群においては腫瘍縮小率がOSと相関していたことも示されました。また、RCC領域でも免疫チェックポイント阻害薬の治療効果予測因子に関する探索的研究の結果が散見されました(Abstracts#5009, 5010)。おわりに総じて、前立腺がんでは新規ARシグナル阻害薬のより早期ステップでの使用とPSMA関連核医学検査/治療(いわゆるTheranostics)の話題が、UCとRCCでは免疫チェックポイント阻害薬のさまざまなセッティングにおける有効性・安全性と治療効果予測のためのバイオマーカー探索が中心となった年であったと考えられます。来年になるとAntibody-conjugated drug(ACD)も登場し、各腫瘍いよいよ「役者」が出そろってくることになり、治療効果予測のバイオマーカー探索、さらにはバイオマーカーベースの治療方針を決める前向き試験等が登場することを期待しています。

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