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1.

筋層浸潤性膀胱がんにおけるデュルバルマブの役割:NIAGARA試験からの展望

 膀胱がんは筋層に浸潤すると予後不良となる。筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)の治療にはアンメットニーズが多く、新たな治療戦略が求められる。そのような中、デュルバルマブのMIBCにおける術前・術後補助療法が承認された。都内で開催されたアストラゼネカのプレスセミナーで、富山大学の北村 寛氏がMIBC治療の現状と当該療法の可能性について紹介した。SragII/III MIBCにおける術前化学療法の限界とICIの登場 膀胱がんの5年生存割合は、筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)では70~80%であるのに対して、MIBCでは20~30%と低い。また、病期が進行するにつれ予後不良となり、II期のMIBCでは46.6%、III期では35.7%、IV期では16.6%である。 StageIIとIIIのMIBC治療におけるゴールドスタンダードは膀胱全摘術±CDDPベースの術前補助療法である。膀胱全摘への術前化学療法の導入により治療成績は向上し、5年生存割合は5%上がる。この成績はさまざまな試験で立証され確立したものである。半面、恩恵を受けられる患者は5%にとどまる。StageIIとIIIのMIBCに対する新たな治療法の開発が必要であった。 このような状況で、 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が登場し、MIBC治療への導入が検討され始める。周術期においては、高リスクの根治切除後MIBCに対するニボルマブ術後補助療法の有効性を評価したCheckMate-274試験が行われている。同試験において、ニボルマブの術後補助療法は、プラセボと比較して無病生存期間などを有意に改善している。デュルバルマブによる術前・術後補助療法を評価する「NIAGARA試験」 CheckMate 274の結果から、ICIのさらなる有効活用が検討されはじめる。 NIAGARA試験はMIBCに対するデュルバルマブを上乗せした周術期療法を評価するために行われた。対象は膀胱全摘術の対象となる高リスクのMIBCで、治療標準治療である術前ゲムシタビン+CDDP(GC)療法とデュルバルマブ周術期療法(術前GC・デュルバルマブ併用+術後デュルバルマブ)を比較する第III相非盲検無作為化試験である。主要評価項目は病理学的完全奏効率(pCR)、無イベント生存期間(EFS)である。 その結果、主要評価項目であるpCR(データ更新後再解析)は、デュルバルマブ・GC群37.3%、GC群27.5%で、デュルバルマブ・GC群で有意に高かった(オッズ比:1.60、95%信頼区間[CI]:1.227~2.084、p=0.0005)。また、EFSのHRは0.68(95%CI:0.56~0.82、p<0.001)、2年EFS割合はデュルバルマブ・GC群で67.8%、GC群59.8%で、デュルバルマブ・GC群で有意に改善した。 デュルバルマブ・GC群の有害事象プロファイルはGC療法単独群と大きく変わらず、免疫関連有害事象 の頻度も限定的であった。 NIAGARA試験の結果から、StageII/III MIBCに対するデュルバルマブ併用周術期治療はNCCNガイドラインで推奨されている。

2.

ESMO2025 レポート 消化器がん(下部消化器編)

レポーター紹介2025年10月17~21日に、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)がドイツ・ベルリンで開催され、後の実臨床を変えうる注目演題が複数報告された。国立がん研究センター東病院の坂東 英明氏が消化器がん領域における重要演題をピックアップし、結果を解説する。上部消化器編は こちら4.【大腸がん】CheckMate 8HW試験のupdate(#LBA29)切除不能MSI-H/dMMR大腸がんに対してNIVO+IPIの有効性を検証したランダム化第III相試験であるCheckMate 8HW試験。各施設で行われたMSI/MMR判定より中央判定でMSI-H/dMMRと判定された症例における解析では、NIVO+IPIの化学療法もしくはNIVO単剤と比較したPFSの有効性の差がより明らかになっていた。今回は、事前に計画されていた、中央判定でMSI-H/dMMRと判定された症例における1次治療におけるNIVO+IPI vs.NIVOのPFS最終解析と、すべての治療におけるNIVO+IPI vs.NIVOのOS最終解析の結果が報告された。1次治療におけるNIVO+IPI vs.NIVOのPFSは事前に設定されたp<0.0383の閾値に到達しなかったものの、HRは0.69(95%CI:0.48~0.99、p=0.0413)と臨床的に意義のある差を認めた。OSにおいてもすべての治療ラインにおけるNIVO+IPI vs.NIVOのOSはHR:0.61(95%CI:0.45~0.83)と良好な結果であったが、予測されていたイベントの69%しか発生しておらず、immatureな結果であった。いずれにしても、これらの結果はNIVO+IPIがMSI-H/dMMR大腸がんにおける標準治療であることを支持するものである。5.【大腸がん】BREAKWATER試験のctDNA解析(#729MO)切除不能BRAF V600E変異大腸がんの1次治療としてmFOLFOX6+エンコラフェニブ+セツキシマブ(EC)とECと化学療法+ベバシズマブの3群を比較したBREAKWATER試験では、すでに奏効率(ORR)、PFS、OSにおいて有効性が検証されている。今回は事前に設定されていたBRAFの変異アレル頻度(variant allele frequency:VAF)に基づくctDNA検査と組織検査の一致、治療効果、治療に対する耐性との関係を解析した。ctDNA検査はGuardant Infinityが用いられた。組織のBRAF変異とctDNAのBRAF変異は高い一致が認められ、tumor burden(転移巣の腫瘍径の総和)とctDNAの検出には関連性が認められた。ctDNAのVAFにかかわらず、mFOLFOX6+ECは他治療と比較して良好なORRとOSを認めた。経時的な測定ではmFOLFOX6+EC症例で最も速やかなVAFの低下とその後の治療経過でも低下の維持が認められ、2コース目Day15におけるctDNA未検出が良好なOSと関連するとともに、そのような症例がmFOLFOX6+EC症例で最も多く認められた。mFOLFOX6+EC症例はEC症例より長期の治療が可能であったにもかかわらず、治療終了時のKRAS、NRAS、MAP2K1変異、MET遺伝子増幅など耐性獲得変異などの検出がより少なかった。これらの結果は、mFOLFOX6+ECの標準治療としての地位をより強化するものである。6.【大腸がん】DESTINY-CRC02試験の最終解析(#737MO)切除不能HER2陽性大腸がんに対して抗HER2抗体薬物複合体であるトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)の有効性を検討した多施設共同第II相試験であるDESTINY-CRC02試験は、HER2陽性(IHC 3+またはIHC 2+/ISH+)122例を対象に、T-DXd 5.4mg/kgおよび6.4mg/kg(各40例、追加42例)を3週ごとに投与し、主要評価項目は独立中央判定による確定奏効率(confirmed ORR:cORR)であった。最終解析では、追跡期間中央値が5.4mg/kg群14.2ヵ月、6.4mg/kg群12.7ヵ月に延長され、主要評価項目のcORRはそれぞれ37.8%(95%CI:27.3~49.2)および27.5%(14.6~43.9)と、5.4mg/kg群でより高い奏効率を示した。PFSは中央値5.8ヵ月vs.5.5ヵ月、OSは15.9ヵ月(12.6~18.8)vs.19.7ヵ月(9.9~25.8)であり、奏効期間(duration of response:DOR)は両群とも5.5ヵ月であった。安全性では、Grade3以上の有害事象が5.4mg/kg群で42.2%、6.4mg/kg群で48.7%に認められ、間質性肺疾患(ILD)はそれぞれ9.6%(主にGrade1~2)、17.9%と用量依存的な増加を示したが、新たな安全性シグナルは確認されなかった。これらの結果から、T-DXd 5.4mg/kgが有効性と安全性のバランスに優れた推奨用量と結論付けられた。この結果は標準治療後のHER2陽性大腸がんにおけるT-DXdの有用性を確立するものである。7.【大腸がん】STELLAR-303試験(#LBA30)現時点でMSI-H/dMMR以外の転移を有する大腸がんに対して免疫チェックポイント阻害薬がOSを有意に改善した第III相試験は存在しない。zanzalintinibはTAM kinase、MET、VEGFレセプターを阻害するマルチキナーゼ阻害薬であり、STELLAR-001試験でzanzalintinibとアテゾリズマブ(Atezo)の併用で良好な治療効果と許容される毒性を認めていた。その結果に基づき、ランダム化非盲検第III相試験であるSTELLAR-303試験が前治療のある転移性大腸がんに対して実施された。MSI-H/dMMR以外の標準治療終了後の転移性大腸がん901例をzanzalintinib+Atezo群(451例)とレゴラフェニブ群(450例)に1:1に割り付け、主要評価項目は、ITT症例におけるOSと肝転移を持たない症例におけるOSとdual primaryとなっていた。ITT症例におけるOS中央値でzanzalintinib+Atezo群10.9ヵ月vs.レゴラフェニブ群9.4ヵ月(HR:0.80、95%CI:0.69~0.93、p=0.0045)と統計学的に有意な差を認めた。肝転移のない症例においても中間解析でOS中央値15.9ヵ月vs.12.7ヵ月(HR:0.79、95%CI:0.61~1.03、p=0.087)と良好な傾向が認められた。サブグループ解析でもすべてのサブグループで試験治療が良好な傾向であり、肝転移ありの症例でも良好な結果であった。PFSにおいても、中央値でzanzalintinib+Atezo群3.7ヵ月vs.レゴラフェニブ群2.0ヵ月(HR:0.68、95%CI:0.59~0.79)と良好な結果であった。安全性においてはGrade3の有害事象がzanzalintinib+Atezo群56%vs.レゴラフェニブ群33%であったが、治療関連死は両群ともにまれであった。zanzalintinib+AtezoはMSI-H/dMMR以外の転移性大腸がんにおいて今後の治療オプションとなりうるが、治療効果の上乗せは大きくなく(中央値で1.5ヵ月)、日本は参加していない試験であり、今後各国での承認および本邦における導入の動向が注目される。8.【結腸がん】DYNAMIC-III試験(#LBA9)StageIII切除後結腸がんの標準治療は、リスクに応じて3~6ヵ月のオキサリプラチンベースの術後補助化学療法である。DYNAMIC-III試験はctDNAの結果を基にStageIIIの結腸がんに対してctDNA-positive症例には治療のescalation(ASCO 2025で報告済み)、ctDNA-negative症例には治療のde-escalationを実施する治療の有効性を検証するランダム化第II/III相試験である。今回、ctDNA-negative症例に治療のde-escalationを実施するコホートの結果が報告された。ctDNAの情報を基に治療を実施する群(事前に治療を規定して、ctDNAの結果を基にde-escalation)と主治医判断の下に治療を実施する群(ctDNAの結果はブラインド)に1:1に割り付けた。主要評価項目は3年RFSであり、非劣性マージンを7.5%とし、750例が必要と算出された。ctDNA-negative症例が75%と想定され、トータルで1,002例がランダム化された。ctDNA-negative cohortでは752例が対象となり、3~6ヵ月のオキサリプラチンベースの治療が行われた症例がde-escalation群で34.8%、標準治療群で88.6%(RR:0.41、p<0.001)と有意に少なく、治療関連の入院、Grade3~4の治療関連の有害事象も有意に少ない結果であった。3年RFSはde-escalation群で85.3%、標準治療群で88.1%であり、非劣性マージンである7.5%の95%CIの下限を満たさない結果であった。臨床的なLow Risk(T1-3N1)とHigh Risk(T4 and/or N2)の比較では、High Risk群でde-escalation群がより不良な結果であった。ctDNA陰性例と陽性例の比較では、陰性→陽性群でctDNA量が少ない群の順番でRFSが良好であった。ctDNAの情報を基にしたde-escalationの戦略はさらなる検討が必要と結論付けられた。

3.

ESMO2025 レポート 消化器がん(上部消化器編)

レポーター紹介2025年10月17~21日に、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)がドイツ・ベルリンで開催され、後の実臨床を変えうる注目演題が複数報告された。国立がん研究センター東病院の坂東 英明氏が消化器がん領域における重要演題をピックアップし、結果を解説する。1.【食道がん】SKYSCRAPER-07試験(#2094O)食道扁平上皮がんにおいて、切除不能症例および切除可能症例の術後治療としての免疫チェックポイント阻害薬は、すでに本邦で薬事承認されている。一方、切除不能局所進行症例(遠隔転移はないが、局所進行のため切除できない症例)の標準治療は根治的な化学放射線療法であるが、免疫チェックポイント阻害薬を追加することによる有効性の上乗せはまだ検証されていなかった。TIGITは活性化T細胞、NK細胞、制御性T細胞に発現する共抑制因子というものであり、その阻害抗体薬であるtiragolumab(Tira)はPD-L1抗体であるアテゾリズマブ(Atezo)との併用で治療効果が期待されていた。ランダム化二重盲検第III相試験であるSKYSCRAPER-07試験では、StageII~IVAおよび鎖骨上リンパ節転移のみのIVBの食道扁平上皮がん症例を、根治的化学放射線療法の後にTira+Atezo、Atezo+プラセボ、プラセボ+プラセボに1:1:1に割り付けて、1年間の維持療法を実施した。主要評価項目はTira+Atezo群とプラセボ群の主治医が判断した無増悪生存期間(progression-free survival:PFS)と全生存期間(overall survival:OS)、Atezo+プラセボ群とプラセボ群のOSであり、Tira+Atezo群とプラセボ群の主治医が判断したPFS→OS→Atezo+プラセボ群とプラセボ群のOS、の順番で検定を行う計画であった。結果は、残念ながらTira+Atezo群とプラセボ群の主治医判定のPFSが中央値20.8ヵ月vs.16.6ヵ月(ハザード比[HR]:0.82、p=0.0942)、OSが中央値38.6ヵ月vs.36.4ヵ月(HR:0.91、p=0.4772)と有効性を検証することができなかった。一方でAtezo+プラセボ群とプラセボ群では、主治医判定のPFSが中央値29.1ヵ月vs.16.6ヵ月(HR:0.74、p=0.0113)、OSが中央値未到達vs.36.4ヵ月(HR:0.69、p=0.0085)と有意な治療効果の上乗せを認めた。Tiraの追加による免疫関連有害事象の増加が認められたが、許容される範囲であった。根治的放射線化学療法後のAtezoによる治療効果の上乗せが認められたが、残念ながら統計学的に検証することはできなかった。TIGITの阻害はdetrimentalな効果があることが示唆され、TIGIT阻害薬のこの対象における開発はしばらく進まなそうである。一方でAtezo単剤の有効性は示されており、実臨床での使用が強く望まれる。2.【胃がん】MATTERHORN試験(#LBA81)切除可能胃・胃食道接合部がんを対象としたFLOT+デュルバルマブとFLOT+プラセボを比較したランダム化二重盲検第III相試験であるMATTERHORN試験は、すでに主要評価項目である無イベント生存期間(event-free survival:EFS)が有意に改善したことが報告されている。OSについても中間解析で良好な結果が報告されているが、今回、OSの最終解析結果が報告された。併せて病理学的な効果とEFSの関係についても報告された。3年OSが68.6%vs.61.9%と改善を認め、両群ともに中央値に到達していなかった(HR:0.78、p=0.021)が、事前に設定されたP値(p<0.0499)に到達しており、OSにおいても有効性が検証された。サブグループ解析でも一貫して効果が認められ、PD-L1発現にかかわらず治療効果の上乗せが認められた。病理学的完全奏効(pCR)、主要病理学的奏効(MPR)が得られた症例は一貫してEFSが良好である一方で、ypNにかかわらず、EFSの上乗せが認められた。今後本邦でも、デュルバルマブが胃がん周術期治療に組み込まれる見込みである。本邦においてはFLOT療法の臨床現場での導入が課題である。3.【胃がん】FORTITUDE-101試験(#LBA10)進行胃・胃食道接合部がんにおいてFGFR2bが高発現していることが報告されており、bemarituzumabはFGFR2bを標的とした抗体薬である。第II相試験であるFIGHT試験でbemarituzumab+mFOLFOX6はFGFR2b高発現のHER2陰性胃・胃食道接合部がんにおいて良好な治療効果が認められており、今回第III相試験であるFORTITUDE-101試験の結果が報告された。本試験では、FGFR2bが免疫染色で2+/3+と高発現した(後に≧10%発現の症例に適格性変更)HER2陰性の前治療のない胃・胃食道接合部がんを対象に、bemarituzumab+mFOLFOX6(全体で275例、FGFR2b≧10%が159例)vs.プラセボ+mFOLFOX6(全体で267例、FGFR2b≧10%が165例)に1:1で割り付けが行われた。主要評価項目はFGFR2b≧10%症例におけるOSであり、観察期間中央値11.8ヵ月でbemarituzumab+mFOLFOX6群で中央値17.9ヵ月vs.プラセボ+mFOLFOX6で中央値12.5ヵ月(HR:0.61、p=0.005)と中間評価の時点で優れた結果であった。PFSにおいてもbemarituzumab+mFOLFOX6群で中央値8.6ヵ月vs.プラセボ+mFOLFOX6で中央値6.7ヵ月(HR:0.71、p=0.019)と優れた結果である一方、奏効割合では45.9%vs.44.8%と両群で大きな差を認めなかった。観察期間中央値19.4ヵ月のフォローアップの結果では、bemarituzumab+mFOLFOX6群で中央値14.5ヵ月vs.プラセボ+mFOLFOX6で中央値13.2ヵ月、HR:0.82(0.62~1.08)で治療効果の上乗せが検証できなかった。安全性においては視力障害、角膜障害、貧血、好中球減少、吐き気、corneal epithelial defect(角膜上皮障害)、ドライアイなどが高く認められたが、全体的には許容されるものであった。今後、FOLFOX+ニボルマブにbemarituzumabの上乗せを検証するFORTITUDE-102の結果が報告され、bemarituzumabの有効性と安全性の情報がさらに充実することが期待される。

4.

がん治療のICI、コロナワクチン接種でOS改善か/ESMO2025

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、多くのがん患者の生存期間を延長するが、抗腫瘍免疫応答が抑制されている患者への効果は限定的である。現在、個別化mRNAがんワクチンが開発されており、ICIへの感受性を高めることが知られているが、製造のコストや時間の課題がある。そのようななか、非腫瘍関連抗原をコードするmRNAワクチンも抗腫瘍免疫を誘導するという発見が報告されている。そこで、Adam J. Grippin氏(米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンター)らの研究グループは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するmRNAワクチンもICIへの感受性を高めるという仮説を立て、後ろ向き研究を実施した。その結果、ICI投与前後100日以内にCOVID-19 mRNAワクチン接種を受けた非小細胞肺がん(NSCLC)患者および悪性黒色腫患者は、全生存期間(OS)や無増悪生存期間(PFS)が改善した。本研究結果は、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)で発表され、Nature誌オンライン版2025年10月22日号に掲載された1)。 本発表では、切除不能StageIIIまたはStageIVのNSCLC患者884例および転移を有する悪性黒色腫患者210例を対象とし、ICI初回投与の前後100日以内のCOVID-19 mRNAワクチン接種の有無で分類して解析した結果が報告された。また、COVID-19 mRNAワクチン接種が抗腫瘍免疫応答を増強させ得るメカニズムについて、前臨床モデル(マウス)を用いて検討した結果とその考察も紹介された。 主な結果は以下のとおり。【後ろ向きコホート研究】・NSCLC患者(接種群180例、未接種群704例)において、ICI初回投与の前後100日以内にCOVID-19 mRNAワクチンを接種した群は、StageやPD-L1発現状況にかかわらずOSが延長した。各集団のハザード比(HR)、95%信頼区間(CI)は以下のとおり(全体およびStage別の解析は調整HRを示す)。 全体:0.51、0.37~0.71 StageIII:0.37、0.16~0.89 StageIV:0.52、0.37~0.74 TPS 1%未満:0.53、0.36~0.78 TPS 1~49%:0.48、0.31~0.76 TPS 50%以上:0.55、0.34~0.87・悪性黒色腫患者(接種群43例、未接種群167例)においても、ICI初回投与の前後100日以内にCOVID-19 mRNAワクチンを接種した群は、OS(調整HR:0.37、95%CI:0.18~0.74)およびPFS(同:0.63、0.40~0.98)が延長した。・NSCLC患者において、生検前100日未満にCOVID-19 mRNAワクチンを接種した群は、未接種群、100日後以降接種群と比較してPD-L1 TPS平均値が高かった(31%vs.25%vs.22%)。同様に、生検前100日未満にCOVID-19 mRNAワクチンを接種した群はPD-L1 TPS 50%以上の割合も高かった(36%vs.28%vs.25%)。【前臨床モデル】・免疫療法抵抗性NSCLCモデルマウス(Lewis lung carcinoma)と免疫療法抵抗性悪性黒色腫モデルマウス(B16F0)において、COVID-19 mRNAワクチンとICIの併用は、ICI単独と比較して腫瘍体積を縮小した。・COVID-19 mRNAワクチンは、IFN-αの産生を増加させた。・悪性黒色腫モデルマウスにおいて、IFN-αを阻害するとCOVID-19 mRNAワクチンとICIの併用の効果は消失した。・COVID-19 mRNAワクチンは、複数の腫瘍関連抗原について、腫瘍反応性T細胞を誘導した。・COVID-19 mRNAワクチン接種によりCD8陽性T細胞が増加し、腫瘍におけるPD-L1発現も増加した。 COVID-19 mRNAワクチン接種が抗腫瘍免疫応答を増強させ得るメカニズムについて、Grippin氏は「免疫学的にcoldな腫瘍に対して、COVID-19 mRNAワクチンを接種するとIFN-αが急増し、腫瘍局所での自然免疫が活性化される。その活性化により腫瘍反応性T細胞が誘導され、これらが腫瘍に浸潤して腫瘍細胞を攻撃すると、腫瘍はT細胞応答を抑制するためにPD-L1の発現を増加させる。そこで、COVID-19 mRNAワクチンとの併用でICIを投与し、PD-1/PD-L1の相互作用を阻害することで、患者の生存期間の改善が得られるというメカニズムが示された」とまとめた。 なお、今回示された効果を検証するため、無作為化比較試験「Universal Immunization to Fortify Immunotherapy Efficacy and Response(UNIFIER)試験」が計画されている。

5.

第290回 慢性疲労症候群の正確な血液検査を開発

慢性疲労症候群の正確な血液検査を開発原因がはっきりしない難病の筋痛性脳脊髄炎(ME)の血液検査が開発され、少人数の試験でかなり優秀な性能を示しました1-3)。重い疲労感、動作後の倦怠感、認知障害、自律神経機能障害を特徴とし、患者をひどく弱らせるMEは慢性疲労症候群(CFS)とも呼ばれ、しばしばME/CFSと表記されます。最もよく使われる定義によるとME/CFSの有病率は1%弱(0.89%)と推定され4)、それが本当なら世界人口80億人のうち実に7千万例強がME/CFSを患っています5)。しかし、報告されている有病率は手段によって大きく異なり、より客観的な診断基準の確立が急務です4)。ME/CFSを引き起こす根本的な仕組みは不明ですが、顕著な特徴の1つとして免疫不調を示すことが知られており、免疫系の一員の末梢血単核細胞(PBMC)を使ってその病理や発症の仕組みが検討されています。英国のOxford BioDynamics社のEpiSwitchという技術を使った先立つ研究で、筋萎縮性側索硬化症、関節リウマチ、前立腺がん、大腸がんに特有のPBMCの染色体構造(chromosomal conformation、CC)が同定されています。同社は同郷の大学University of East Anglia(UEA)と組み、EpiSwitchを使ってME/CFSに特有のDNAの折り畳まれ方、つまりCCを探すことを試みました。重度のME/CFS患者47例と健康な61例の血液検体を調べたところ、期待どおりME/CFSに特有のCCが見つかり、200のCC特徴に基づく検査Episwitch CFSが開発されました。ME/CFS患者24例とそうでない45例の合計69例で検証したところ、Episwitch CFSの検出感度は92%、特異度は98%、そして正確度は96%でした。すなわち69例のうち誤診は3例のみでした。ME/CFSが示す免疫不調の病状と一致し、免疫や炎症の伝達と強く関連する一連のゲノム変化も見つかっています。それらの変化は治療手段の開拓や治療の向き・不向きを予想するのに役立ちそうです。EpiSwitchを利用した検査はすでに販売されています。1つは前立腺がん診断用で、94%の正確度を誇ります。もう1つはがんの免疫チェックポイント阻害薬(PD-1/PD-L1阻害薬)の効果を予測するもので、正確度は85%です。Episwitch CFSは健康な人とME/CFS患者をかなり正確に区別できることが示されましたが、他の慢性炎症疾患と区別できるかは不明であり、今後調べる必要があります。また、今回の試験は重度ME/CFS患者を対象としており、軽度~中等度のME/CFS患者でもEpiswitch CFSが通用するかどうかも調べなければなりません。Episwitch CFSがどれだけ頼りになるかは、それらの課題を踏まえたより大人数を募っての多施設試験で判明するでしょう。やがてEpiswitch CFSが現場で活用され、それぞれの患者により適した効果的な治療が実現することを願うと今回の研究を率いたUEAのDmitry Pshezhetskiy氏は言っています2)。 参考 1) Hunter E, et al. J Transl Med. 2025;23:1048. 2) Revolutionary blood test for ME / Chronic Fatigue unveiled University of East Anglia in Norwich 3) First proposed blood test for chronic fatigue syndrome: what scientists think / Nature 4) Lim EJ, et al. J Transl Med. 2020;18:100. 5) Vardaman M, et al. J Transl Med. 2025;23:331.

6.

第285回 コロナワクチンがICI治療のOSを有意に延長

INDEXええええ!ESMO2025のProffered Paper session新型コロナmRNAワクチンへの新たな期待ええええ!ここ半月以上、自民党の総裁選とそれに伴う政局のドタバタに振り回されてしまい、何とも言えないもどかしさを感じている。本来ならばコロナ禍の影響を受けて、今やオンラインでも視聴可能になった欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)にプレス登録して聴講するはずだったが、その機会も逃してしまった。とはいえ、悔しいのでここ数日、時間を見つけては同学会の抄録を眺めていたが、その中で個人的に「ええええ!」と思う発表を見つけた。演題のタイトルは「SARS-CoV-2 mRNA vaccines sensitize tumors to immune checkpoint blockade」。端的に結論を言えば、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)のワクチン接種が免疫チェックポイント阻害薬による抗腫瘍効果を高める可能性の研究1)だ。抄録ベースだが、この研究内容を取り上げてみたい。ESMO2025のProffered Paper session発表者は米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのAdam J. Grippin氏である。mRNA関連創薬は、もともとはがんをターゲットとした治療ワクチンの開発を主軸としていて、米国・モデルナ社もこの路線でのパイプラインが形成され、たまたまコロナ禍が起きたことで、新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンという形で日の目を見たことはよく知られている。Grippin氏らは、mRNAがんワクチンの研究から、同ワクチンが炎症性サイトカインへの刺激を通じて免疫チェックポイント阻害薬の抗腫瘍効果の増強が得られることをヒントに、「もしかしたらがんに非特異的なmRNAワクチンでも同様の効果が得られるのではないか」と考えたらしい。そこで同センターで2017年1月~2022年9月までに生検で確定診断を受けた非小細胞肺がん(NSCLC)、2019年1月~2022年12月までに治療を受けた悪性黒色腫の臨床データを抽出し、カプランマイヤー曲線、傾向スコアマッチング、およびCox比例ハザード回帰モデルを利用して全生存期間(OS)を評価したとのこと。ちなみに抄録レベルでは症例数は未記載だが、MDアンダーソンがんセンターのレベルでいい加減な臨床研究の可能性は低い。実際、抄録では研究にあたって同センターの倫理審査委員会の承認を受けていることが記載されている。その結果によると、免疫チェックポイント阻害薬による治療開始から100日以内の新型コロナmRNAワクチン接種有無で比較したOS中央値は、NSCLCで非接種群が20.6ヵ月、接種群が37.3ヵ月。3年OS率は非接種群が30.6%、接種群が55.8%だった。調整ハザード比[HR]は0.51(95%信頼区間[CI]:0.37~0.71、p<0.0001)であり、有意差が認められた。また、悪性黒色腫ではOS中央値は非接種群が26.67ヵ月、接種群が未到達。3年OS率は非接種群が44.1%、接種群が67.5%。調整HRは0.34(95%CI:0.17~0.69、p=0.0029)でこちらも有意なOS延長が認められたという。新型コロナmRNAワクチンへの新たな期待研究は明らかに後ろ向きではあるが、NSCLCでOS中央値が10ヵ月も違うことに個人的には正直驚きを隠せない。しかも、抄録によると、NSCLCではPD-L1検査(TPS)で低発現(TPS<1%)の症例でも新型コロナmRNAワクチン接種によるOSの延長効果が認められたとある。また、動物モデルでは、新型コロナmRNAワクチン接種によりI型インターフェロンの急増が誘発され、複数のがん抗原を標的とするCD8陽性T細胞のプライミングとがん細胞のPD-L1発現を上方制御することがわかった。さらに複数の動物がんモデルでも新型コロナmRNAワクチンと免疫チェックポイント阻害薬の併用で、免疫チェックポイント阻害薬の効果増強を確認したという。いずれにせよこの研究結果を見る限り、がんに特異的ではない新型コロナmRNAワクチンががん特異的抗原の発現を促すということになる。現在、モデルナは日本国内でもNSCLCと悪性黒色腫の個別化がん治療ワクチンの臨床試験中だが、今回の研究で示された可能性が前向き試験でも確認されれば、結構安上がり(あくまで個別化がん治療ワクチンや昨今発売された各種がんの治療薬との比較だが)ながん治療になるのではないか。個人的にはそこそこ以上に期待してしまうのだが。1)Grippin AJ, et al. Nature. 2025 Oct 22. [Epub ahead of print]

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リンパ節腫脹の鑑別診断【1分間で学べる感染症】第36回

画像を拡大するTake home messageリンパ節腫脹の原因は「MIAMI」という語呂合わせを活用して5つのカテゴリーに分けて整理しよう。リンパ節腫脹は、内科、外科、小児科、皮膚科など、さまざまな診療科で遭遇する重要なサインです。感染症など一過性で自然軽快するものも多い一方で、悪性疾患や自己免疫疾患、薬剤性、肉芽腫性疾患などが隠れている場合もあります。鑑別診断の挙げ方は多くありますが、網羅的に大まかにカテゴリー化する方法として、「MIAMI」(Malignancies・Infections・Autoimmune・Miscellaneous・Iatrogenic)という語呂合わせが提唱されています。今回は、この5つのカテゴリーに沿って、一緒に整理してみましょう。M:Malignancies(悪性腫瘍)悪性疾患によるリンパ節腫脹は、持続性・進行性・無痛性のことが多く、とくに高齢者や全身症状(発熱、体重減少、寝汗)を伴う場合には常に念頭に置く必要があります。代表的な疾患としては、悪性リンパ腫、白血病、転移性がん、カポジ肉腫、皮膚原発の腫瘍などが挙げられます。固定性で硬く、弾力のない腫脹がみられた場合は、早期の精査が推奨されます。I:Infections(感染症)感染症は最も頻度の高い原因です。細菌性では、皮膚粘膜感染(黄色ブドウ球菌、溶連菌)、猫ひっかき病(Bartonella)、結核、梅毒、ブルセラ症、野兎病などがあり、これらは病歴聴取と局所所見が診断の手掛かりとなります。ウイルス性では、EBウイルス、サイトメガロウイルス、HIV、風疹、アデノウイルス、肝炎ウイルスなどが含まれ、とくに伝染性単核球症では頸部リンパ節腫脹が目立ちます。まれですが、真菌、寄生虫、スピロヘータなども原因となることがあり、ヒストプラズマ症、クリプトコッカス症、リケッチア症、トキソプラズマ症、ライム病などが鑑別に挙がります。A:Autoimmune(自己免疫疾患)関節リウマチ(RA)やSLE(全身性エリテマトーデス)、皮膚筋炎、シェーグレン症候群、成人スティル病などの自己免疫疾患もリンパ節腫脹を来すことがあります。これらは多くの場合、他の全身症状や検査所見(関節炎、発疹、異常免疫グロブリンなど)と合わせて判断する必要があります。とくに全身性疾患の初期症状としてリンパ節腫脹が出現することもあるため、見逃さないよう注意が必要です。M:Miscellaneous(その他)まれではあるものの、Castleman病(血管濾胞性リンパ節過形成)や組織球症、川崎病、菊池病(壊死性リンパ節炎)、木村病、サルコイドーシスなども鑑別に含まれます。これらは一見すると感染症や自己免疫疾患と似た臨床像を呈することがあるため、病理診断や経過観察を要することがあります。I:Iatrogenic(医原性)薬剤による反応性リンパ節腫脹や血清病様反応なども存在します。とくに抗てんかん薬、抗菌薬、ワクチン、免疫チェックポイント阻害薬などが関与することが知られており、最近の薬剤歴の確認が不可欠です。また、ワクチン接種後の一時的なリンパ節腫脹(とくに腋窩)は、画像上の偽陽性を招くこともあるため注意が必要です。リンパ節腫脹は多彩な疾患のサインであり、その背景を見極めるためには、構造的かつ網羅的なアプローチが求められます。「MIAMI」というフレームワークを活用することで、見逃してはならない悪性疾患や慢性疾患の早期発見につながります。必要な検査や専門科紹介のタイミングを逃さないようにしましょう。1)Gaddey HL, et al. Am Fam Physician. 2016;94:896-903.

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免疫療法の対象とならない進行TN乳がん1次治療、Dato-DXdがPFSとOSを延長(TROPION-Breast02)/ESMO2025

 免疫チェックポイント阻害薬の対象とならない局所進行切除不能または転移のあるトリプルネガティブ乳がん(TNBC)の1次治療で、ダトポタマブ デルクステカン(Dato-DXd)が化学療法に比べ有意に全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)を延長したことが第III相TROPION-Breast02試験で示された。シンガポール・National Cancer Center SingaporeのRebecca Dent氏が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)で発表した。・試験デザイン:国際共同ランダム化非盲検第III相試験・対象:免疫チェックポイント阻害薬の対象とならない未治療の局所再発切除不能/転移TNBC・試験群:Dato-DXd(3週ごと6mg/kg点滴静注)323例・対照群:治験責任医師選択化学療法(ICC)(nab-パクリタキセル、カペシタビン、エリブリン、カルボプラチンから選択)321例・評価項目:[主要評価項目]OS、盲検下独立中央判定(BICR)によるPFS[副次評価項目]治験担当医師評価によるPFS、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性 主な結果は以下のとおり。・データカットオフ時(2025年8月25日)の追跡期間中央値は27.5ヵ月で、PFSイベントが63%に、OSイベントは54%で発生していた。被験者の再発までの期間(DFI)別の割合は、de novoが34%、0~12ヵ月が21%(0~6ヵ月は15%)、12ヵ月超が約45%であった。・BICRによるPFS中央値は、Dato-DXd群が10.8ヵ月とICC群(5.6ヵ月)より有意に延長した(ハザード比[HR]:0.57、95%信頼区間[CI]:0.47~0.69、p<0.0001)。この傾向は、臨床的に重要なサブグループで一貫していた。・OS中央値は、Dato-DXd群が23.7ヵ月でICC群18.7ヵ月より5ヵ月延長し、有意に延長した(HR:0.79、95%CI:0.64~0.98、p=0.0291)。この傾向はほとんどのサブグループで一貫していた。・BICR評価によるORRは、Dato-DXd群が62.5%とICC群(29.3%)の2倍以上、完全奏効率(CR)は3倍以上であった。この傾向はすべてのサブグループで一貫していた。・DOR中央値は、Dato-DXd群12.3ヵ月、ICC群7.1ヵ月であった。・治療期間中央値は、Dato-DXd群(8.5ヵ月)がICC群(4.1ヵ月)の2倍以上だったが、Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)の発現割合は両群で同程度であり、中止率はICC群より低かった。Dato-DXd群の主なTRAEはドライアイ、口内炎、悪心であった。 Rebecca Dent氏は「本試験の結果は、免疫療法の対象とならない局所進行切除不能または転移のあるTNBC患者における新たな1次治療の標準治療としてDato-DXdを支持する」と結論した。

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HER2変異陽性NSCLCの1次治療、ゾンゲルチニブの奏効率77%(Beamion LUNG-1)/ESMO2025

 ベーリンガーインゲルハイムは、2025年9月19日にゾンゲルチニブについて「がん化学療法後に増悪したHER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん(NSCLC)」を適応として、厚生労働省より製造販売承認を取得した。本承認は、国際共同第Ia/Ib相試験「Beamion LUNG-1試験」の既治療コホートの結果に基づくものである。本承認により、ゾンゲルチニブは既治療のHER2遺伝子変異陽性NSCLCに対する治療選択肢の1つとなったが、1次治療における有用性は明らかになっていなかった。そこで、Sanjay Popat氏(英国・Royal Marsden Hospital)が、本試験の1次治療コホートの結果を欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)で発表した。HER2遺伝子変異陽性の進行NSCLCの1次治療は、免疫チェックポイント阻害薬±化学療法が標準治療であり、1次治療におけるHER2標的療法の有用性は確立していない。 本試験は第Ia相と第Ib相で構成され、第Ib相の中間解析の結果から1日1回120mgの用量が選択された。今回は、第Ib相の未治療のHER2遺伝子変異(チロシンキナーゼドメインの変異)陽性NSCLC患者コホート(コホート2)のうち、1日1回120mgの用量で投与された患者74例の結果が報告された。有効性の主要評価項目は中央判定による奏効率(ORR)とし、副次評価項目は病勢コントロール割合(DCR)、奏効期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)とした(いずれも中央判定)。 主な結果は以下のとおり。・ゾンゲルチニブ 1日1回120mgによる治療を受けた患者(74例)の年齢中央値は67歳(範囲:35~88)、65歳以上75歳未満の割合は40%、75歳以上の割合は18%であった。女性の割合は50%、アジア人の割合は46%であった。元/現喫煙者の割合は35%、脳転移を有する割合は30%であった。・有効性の主要評価項目である中央判定によるORRは77%(CRは8%)であり(期待値40%に対する片側p<0.0001)、主要評価項目を達成した。DCRは96%であった。・奏効が認められた患者(57例)のうち、データカットオフ時点で47%がゾンゲルチニブによる治療を継続していた。・6ヵ月PFS率は80%、6ヵ月DOR率は79%であった。・Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)の発現割合は18%であった。主なTRAEは下痢(54%)、皮疹(23%)、ALT増加(18%)、AST増加(16%)、味覚異常(16%)であり、多くがGrade1~2であった。Grade4/5のTRAEは認められず、間質性肺疾患(ILD)/肺臓炎は2例に発現した(いずれもGrade2)。減量に至った有害事象(AE)の発現割合は15%、治療中止に至ったAEの発現割合は9%と低かった。 本結果について、Popat氏は「ゾンゲルチニブは、未治療のHER2遺伝子変異陽性の進行NSCLC患者において、統計学的有意かつ臨床的に意義のある治療効果を示した」とまとめた。なお、HER2遺伝子変異(チロシンキナーゼドメインの変異)陽性NSCLCの1次治療におけるゾンゲルチニブの有用性を検証する国際共同第III相無作為化比較試験「Beamion LUNG-2試験」が進行中である。

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副作用編:副腎不全(irAE)【かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ】第5回

今回は、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)治療中の「副腎不全」についてです。副腎不全はICIにより引き起こされる内分泌関連の免疫関連有害事象(irAE)の1つです。副腎不全が進行すると倦怠感、食欲不振、低血圧、低Na血症などを呈し、場合によっては急性副腎クリーゼに至ることもあります。治療機関が遠方の場合には、自宅近くのクリニックを受診するケースもあります。今回は、副腎不全で受診された際に有用な鑑別ポイントや、患者さんへの対応にフォーカスしてお話しします。【症例1】65歳、男性主訴倦怠感、食欲低下病歴進行胃がんに対し、SOX+ニボルマブ療法を開始。3コース終了後より、全身倦怠感、食欲低下を自覚し、かかりつけ医(クリニック)を受診。バイタルサイン血圧 92/60mmHg、脈拍 96/分、体温 36.3℃身体所見皮膚冷感あり、軽度の脱水徴候を認める。ステップ1 鑑別と重症度評価は?抗がん剤治療中の倦怠感や食欲不振のほとんどが使用中の抗がん剤によるものですが、ICI使用時はさまざまなirAEを念頭におく必要があります。他の要因も含めて押さえておきたいポイントを挙げます。(1)倦怠感や食欲不振の原因服用中または直近に投与された抗がん剤の種類と投与日を確認。他の原因(感染、腫瘍進行、代謝性疾患ほか)との鑑別。倦怠感以外の症状やバイタルの変動を確認。鑑別疾患とポイント画像を拡大する(2)症状からirAEを推察する(逆引きマニュアル)クリニックなど一次診療の場では、詳細な画像検査や内分泌・免疫関連の特殊検査を行うことは困難です。そのため、まず症状から「もしかするとirAEかもしれない」と推測することが大切になります。たとえば、倦怠感や食欲不振といった一見よくある症状でも、その背景に副腎不全や甲状腺のトラブルといった免疫関連の副作用が隠れていることがあります。以下の表は症状から想定されるirAEを逆引きマニュアルとして作成しました。逆引きマニュアル画像を拡大するステップ2 対応は?では、冒頭の患者さんの対応を考えてみましょう。来院時は倦怠感が強く、血圧も低下傾向でした。化学療法はSOX+ニボルマブ療法をすでに3コース実施していましたが、詳しく問診すると最初の2コースはそれほどの倦怠感や食欲不振はありませんでした。わずかに冷汗もあり、血糖測定を実施したところ低値であったため、グルコースを含んだ輸液を行い、治療機関へ救急搬送を行いました。搬送先の病院で精査が行われ、下垂体前葉機能低下による副腎皮質機能低下症(irAE)と診断されました。ホルモン補充療法を実施され、現在も化学療法を継続中です。副腎皮質機能低下症患者における急性副腎不全(副腎クリーゼ)の対応急性副腎不全(副腎クリーゼ)は、副腎ホルモンが急激に不足し、放置すれば致死的となる緊急病態です。主な原因は、(1)慢性副腎不全患者に感染や外傷などのストレスが加わり、必要量が急増した場合、(2)長期ステロイド治療中の患者で不適切な減量・中止を行った場合、の2つが多いです。発症の誘因としては、とくに胃腸炎などの感染症の頻度が高く、そのような場合は通常量の1.5~3倍のヒドロコルチゾン(コートリル)の補充が必要となります。もし、コルチゾール補充療法を行っている患者が発熱などを主訴に来院した場合は、副腎クリーゼの可能性を勘案し、医療機関の指示どおり手持ちのコートリルを通常用量より多く内服したか確認を行い、直ちに治療機関へ受診もしくは連絡するよう指導いただければ幸いです。1)柳瀬 敏彦. 日本内科学会雑誌.2016;105:645-646.2)日本肺癌学会. 肺癌. 2021;61.

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PS不良の小細胞肺がん、デュルバルマブ+化学療法の有用性は?(NEJ045A)/ERS2025

 『肺癌診療ガイドライン2024年版』において、PS0~1の進展型小細胞肺がん(ED-SCLC)の標準治療は、プラチナ製剤/エトポシド併用療法+PD-L1阻害薬であるが1)、PS不良例での有効性・安全性は明らかになっていない。そのため、PS2ではプラチナ製剤+エトポシドまたはイリノテカン併用療法、PS3ではカルボプラチン+エトポシド療法またはsplit PE療法が標準治療とされている1)。そこで、PS2~3のED-SCLC患者を対象に、デュルバルマブ+カルボプラチン+エトポシドの有効性・安全性を検討する国内第II相単群試験「NEJ045A試験」が実施された。その結果、PSに応じて用量調節を行うことで、半数以上が導入療法を完遂し、良好な治療成績が得られた。欧州呼吸器学会(ERS Congress 2025)において、渡部 聡氏(新潟大学医歯学総合病院 呼吸器・感染症内科)が本試験の結果を報告した。なお、本結果はLancet Respiratory Medicine誌オンライン版2025年9月28日号に同時掲載された2)。試験デザイン:国内第II相単群試験対象:未治療のPS2~3、20歳以上のED-SCLC患者投与方法:[PS2集団]デュルバルマブ(1,500mg)+カルボプラチン(AUC4)+エトポシド(80mg/m2)を3~4週ごと4サイクル※→デュルバルマブ(1,500mg)を4週ごと(43例)[PS3集団]デュルバルマブ(1,500mg)+カルボプラチン(AUC3)+エトポシド(60mg/m2)を3~4週ごと4サイクル※→デュルバルマブ(1,500mg)を4週ごと(13例)評価項目:[主要評価項目]忍容性(4サイクルの導入療法の完遂割合)[副次評価項目]中央判定に基づく奏効割合(ORR)、全生存期間(OS)、1年OS率、無増悪生存期間(PFS)、PSの改善、安全性※:2サイクル目以降は、カルボプラチンAUC5、エトポシド100mg/m2まで増量可とした 主な結果は以下のとおり。・対象患者の年齢中央値は、PS2が74歳(四分位範囲:69~77)、PS3が73歳(同:72~78)で、男性がそれぞれ74%、92%であった。併存疾患を有する割合はそれぞれ65%、69%であった。・主要評価項目である4サイクルの導入療法の完遂割合は、PS2が66.7%、PS3が50.0%であった。いずれも事前に規定した基準(PS2:33%、PS3:20%)を上回り、主要評価項目が達成された。・OS中央値は、PS2が11.3ヵ月、PS3が5.1ヵ月であった。1年OS率はそれぞれ50.0%、18.2%であった。・PFS中央値は、PS2が4.8ヵ月、PS3が4.6ヵ月であった。・ORRは、PS2が52.4%、PS3が45.5%であった。・PSが改善した患者の割合は、PS2が55%、PS3が46%であった。・PSの改善の有無別にみたOS中央値は、PSが改善した集団が9.2ヵ月、PSの改善がみられなかった集団が7.0ヵ月であり、両集団に有意差はみられなかった。・導入療法の完遂の有無別にみたOS中央値は、完遂集団が15.0ヵ月、未完遂集団が3.8ヵ月であり、完遂集団が良好であった(p<0.001、post-hoc解析)。・Charlson Comorbidity Index(CCI)別にみたOS中央値は、CCI=0集団が13.9ヵ月、CCI≧1集団が4.8ヵ月であり、CCI=0集団が良好であった(p=0.012、post-hoc解析)。・Grade3以上の治療関連有害事象の発現割合は93%(PS2:93%、PS3:92%)であった。G-CSF製剤の予防的投与は41%に行われたが、発熱性好中球減少症は16%(それぞれ12%、31%)に発現した。貧血は14%(それぞれ12%、23%)に発現した。 本試験結果について、渡部氏は「治療上の課題の多いPS不良の患者に対し、化学療法に免疫チェックポイント阻害薬を上乗せすることを支持するものである」とまとめた。

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adagrasib:KRAS G12C変異陽性NSCLCに対する2次治療の新たな選択肢(解説:田中希宇人氏/山口佳寿博氏)

 「KRYSTAL-12試験」の結果は、KRASG12C変異陽性NSCLCに対する2次治療の新たな標準選択肢が確立した点が重要と捉えられる。従来、1次治療であるプラチナ併用化学療法+免疫チェックポイント阻害薬による治療後に病勢進行したNSCLCに対しては、ドセタキセル±ラムシルマブなどが標準的であった。しかし、本試験ではKRASG12C変異を有する集団では従来の殺細胞性抗がん剤よりも標的治療adagrasibのほうが無増悪生存期間を延長し、腫瘍縮小効果も高いことが明確に示された。安全性プロファイルの観点でも、adagrasibは経口薬である利便性や重篤な骨髄抑制などが少ない点で有利と考えられる。消化器症状や肝機能上昇といった副作用はあるものの、治療継続困難となる症例割合は少ない。実際、治療関連有害事象による中止はadagrasib群で8%にとどまり、ドセタキセル群(14%)より少ない結果であった。 脳転移への有効性という点も注目される。本試験では安定した脳転移症例を含めて登録され、adagrasib群で頭蓋内病変の縮小効果(頭蓋内奏効)が確認された。ドセタキセル群では脳転移に対する奏効率が11%に対し、adagrasib群では24%と倍以上の奏効が認められた点も評価したい。この差は、基礎データで示されていたadagrasibの中枢神経系への移行性の高さを裏付けるものと考えられる。 2025年時点で実臨床で活用されているKRAS阻害薬ソトラシブは、第III相試験である「CodeBreaK 200試験」でドセタキセルとの直接比較が行われている。この試験ではPFS中央値5.6ヵ月vs.4.5ヵ月で、ハザード比0.66(p=0.0017)と、ソトラシブの有意なPFS延長が報告されている。しかしOSに関しては有意差が出ず、ソトラシブは「生存期間の延長」を明確に証明されなかった経緯がある。 今回の「KRYSTAL-12試験」でもPFSや奏効率の改善はソトラシブと同等に良好な結果であったが、OSが未成熟である点は共通しており今後の結果が待たれる。 現時点でソトラシブとadagrasibを直接比較した試験はないが、PFSのハザード比(ソトラシブ0.66 vs.adagrasib 0.58)やORR(28%vs.32%)はおおむね近い水準であり、臨床効果は同程度であると推測する。adagrasibは1日2回投与で作用が持続的であることが考えられ、安定した効果発現や脳内移行に利点がある可能性がある。 本論文でも指摘されているが、対照群レジメンの選択としてドセタキセル単剤が選ばれた点には議論の余地がある。現在2次治療の選択肢としては、ドセタキセル+ラムシルマブの併用レジメンが広く使われている。ドセタキセル単剤に比べ生存期間の延長(中央値+1.4ヵ月)を示した実績がある。本論文では、国際汎用性の観点からドセタキセル単独を対照群としたと説明されている。また、本試験ではOSの有意差は確認できておらず、ソトラシブが使用できる現在、adagrasibが生存に寄与するかは結論が出ていない。ドライバー遺伝子全般的に言えることであるが、クロスオーバーが倫理的にも妥当な措置と考えられ、最終的なOS解析で群間差が出にくいことが予想される。患者側から考えると生存期間の延長が最も重要な指標ではあるが、PFS延長や奏効率の高さも症状緩和やQOL維持につながると考え評価すべきと私は考えている。 本論文で示された中央追跡期間は約7~9ヵ月と短いため、まだ長期生存や毒性の評価が不十分であるが、中枢神経系転移への効果や耐性獲得の問題など、今後の解析結果が期待され注目すべき薬剤であることは間違いない。

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高齢者がん診療のキホン【高齢者がん治療 虎の巻】第2回

(2)高齢者がん診療のキホン、治療開始前に患者を評価―GAの実際と活用―<今回のPoint>高齢者がん患者にはGAMが推奨されているGAは初回薬物療法前に、スタッフ誰でもが実施できる体制作りが理想GAの結果は、治療方針や介入の判断に役立つ前回は、構造化された意思決定プロセスを辿ることで、Shared Decision-Making(SDM)の質が高まり、さらにGeriatric Assessment(GA)の実施や結果の解釈にもつながることをお伝えしました。今回は、がん薬物療法を予定する高齢患者に対するGAの実際について解説したいと思います。GAはニューノーマルになっている薬物療法を予定する高齢がん患者に対するGAおよびその結果に基づく介入(GA-guided management:GAM)は、すでに国内外のガイドラインで強く推奨されています。たとえば、米国臨床腫瘍学会(ASCO)のガイドラインでは、「65歳以上のすべてのがん患者に対して、PSなどの従来の腫瘍学的評価だけでは把握しきれない問題点をGAで明らかにし、その結果に応じた介入を行い、意思決定に反映させるべきである」と記載されています(Evidence quality:High / Strength of recommendation:Strong)1)。また日本でも、「高齢者総合機能評価(CGA)に基づく診療・ケアガイドライン2024」において、薬物療法を予定する高齢悪性腫瘍患者へのCGAの実施は、「エビデンスの強さA、推奨度1、合意率100%」で推奨されています(図1)2)。これは、GAMによって患者のアウトカムが改善されたとするランダム化比較試験が多数報告されていることが背景にあります。(図1)画像を拡大する加えて、令和5年度からはがん診療連携拠点病院の施設要件3)に「意思決定能力を含む機能評価を実施すること」という項目が追加されており、GAを導入する施設は着実に増加しています。2024年秋の調査(日本臨床腫瘍学会老年腫瘍WG)では約40%の施設がGAを実施していると報告されています。GAはいつ・誰が・どう使う?GAツールとしては、Geriatric8(G8)とCGA7が代表的です。とくにG8は栄養状態に関する評価に優れており、ある程度包括的な機能評価も可能なことから、スクリーニング目的で広く用いられている印象があります(表1)。(表1)G8スクリーニングシート画像を拡大するそして、現場でよく聞かれるのが、「GAはいつ、誰が、どのように評価し、どう活用するのか?」という点です。●いつ?GAMの有効性を示した臨床試験の多くは、初回薬物療法の前にGAを実施しています。したがって、外来または入院時にGAを行い、カンファレンスで結果を共有し、治療レジメンを検討する流れが望まれます。私自身は、病理診断確定後に患者さんへ告知したタイミングで、いったん待合へ移動していただき、その場でGAを実施することが多くあります。●誰が?GAは、医師・看護師・薬剤師など多職種で柔軟に実施できる体制を整えることが理想です。2024年のCGAに基づく診療・ケアガイドラインでは、とくに看護師による実施が強く推奨されています(図2)が、特定の職種に限定されるものではなく、関わるすべての医療者が一定のスキルをもって対応できる環境づくりが重要です。その上で、医師はGAの構成項目や評価の意義を理解しておくことが不可欠です。治療方針を決定する際に、GAの結果がどう活用できるかを判断する力は、まさに医師の重要な役割となります。●どう使う?たとえばG8で15点以上であれば「perfect health」と判断し、標準治療も検討可能です。一方、14点未満であれば、どの項目でスコアを失点しているかを確認し、追加の詳細なGAを行うか、必要な介入を検討する流れとなります。以上の話を踏まえ、前回の症例にGAを実施してみましょう。<症例>(第1回と同じ患者)88歳、女性。進行肺がんと診断され、本人は『できることがあるなら治療したい』と希望している。既往に高血圧症、糖尿病と軽度の認知機能低下があり、パフォーマンスステータス(Performance Status:PS)は1〜2。診察には娘が同席し、『年齢的にも無理はさせたくない。でも本人が治療を望んでいるなら…』と戸惑いを見せる。遺伝子変異検査ではドライバー変異なし、PD-L1発現25%。告知後、看護師が待合でG8を実施したところ、スコアは10.5点(失点項目:年齢、併用薬数、外出の制限など)。改訂長谷川式簡易知能評価(HDS-R)は20点で認知症の可能性あり。多職種カンファレンスでは、免疫チェックポイント阻害薬の単剤投与を提案。薬剤師には併用薬の整理を、MSWには家庭環境の支援を依頼し、チームで治療準備を整えることとした(次回に続く)。GAの結果がカンファレンスで患者情報の一部として共有されるだけでも、必要な介入が可視化され、治療方針の検討がスムーズになることが実感できたのではないでしょうか。次回は、老年医学の視点から見た高齢者がん診療の考え方について、さらに深掘りしてお伝えします。高齢者がん診療でよく登場するGeriatric-8(G8)とは何か?G8はもともと栄養状態の評価を目的に開発されたMNA(Mini Nutritional Assessment)をベースに、Belleraら4)により2005年に開発された高齢がん患者向けの簡便なスクリーニングツールです。CGAで2項目以上の脆弱性のある項目を有する高齢がん患者を感度82%・特異度63%で識別できると報告されており5)、簡便で臨床現場で扱いやすいことから広く用いられています。一方で、日本人やがん種別でのカットオフ値の適正化や、得られた結果をどのように利用すべきかなど、現場での課題も少なくありません。たとえば、日本人の75歳以上の高齢肺がん患者におけるG8陽性率は80%を超えるとの報告もあります。私自身は、G8スコアが15点以上の患者は“perfect health”と判断し、若年者と同様の治療を検討可能と考えています。一方、14点以下の場合は失点項目を確認し、必要な介入を加えたうえで、高齢者に特化したエビデンスのあるレジメンの選択や、full doseで若年者と同様のレジメンを選択する場合には十分な支持療法を必ず併用するなど、対応を検討するようにしています。1)Dale W, et al. J Clin Oncol. 2023;41:4293-4312.2)老年医学会ほか編. 高齢者総合機能評価(CGA)に基づく診療・ケアガイドライン2024. 2024. 南山堂.3)厚生労働省:がん診療連携拠点病院等の整備について4)Bellera CA, et al. Ann Oncol. 2012;23:2166-2172.5)Bruijnen CP, et al. J Geriatr Oncol. 2021;12:793-798.講師紹介

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irAE治療中のNSAIDs多重リスク回避を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第68回

 今回は、免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象(irAE)の治療でステロイド投与中の高齢がん患者に対し、NSAIDsによる多重リスクを評価して段階的中止を提案した事例を紹介します。複数のリスクファクターが併存する患者では、アカデミック・ディテーリング資材を用いたエビデンスに基づくアプローチが効果的な処方調整につながります。患者情報93歳、男性基礎疾患肺がん(ニボルマブ投与歴あり)、急性心不全、狭心症、閉塞性動脈硬化症、脊柱管狭窄症ADL自立、息子・嫁と同居喫煙歴40本/日×40年(現在禁煙)介入前の経過2020年~肺がんに対してニボルマブ投与開始2025年3月irAEでプレドニゾロン40mg/日開始、その後前医指示で中止2025年6月3日irAE再燃でプレドニゾロン40mg/日再開処方内容1.プレドニゾロン錠5mg 8錠 分1 朝食後2.テルミサルタン錠40mg 1錠 分1 朝食後3.クロピドグレル錠75mg 1錠 分1 朝食後4.エソメプラゾールカプセル10mg 2カプセル 分1 朝食後5.フロセミド錠20mg 1錠 分1 朝食後6.スピロノラクトン錠25mg 1錠 分1 朝食後7.フェブキソスタット錠10mg 1錠 分1 朝食後8.リナクロチド錠0.25mg 2錠 分1 朝食前9.ジクトルテープ75mg 2枚 1日1回貼付本症例のポイント本症例は、93歳という超高齢で複数の基礎疾患を有するがん患者であり、irAE治療のステロイド投与とNSAIDsの併用が引き起こす可能性のある多重リスクに着目しました。患者は肺がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の副作用であるirAEに対して、プレドニゾロン40mg/日という高用量ステロイドの投与を受けていました。同時に疼痛管理としてNSAIDsであるジクトルテープ2枚を使用していました。一見すると症状は安定していましたが、薬剤師の視点で患者背景を詳細に評価したところ、見過ごされがちな重大なリスクが潜んでいることが判明しました。第1に胃腸障害リスクです。高用量ステロイドとNSAIDsの併用は消化性潰瘍の発生率を相乗的に増加させることが知られており、93歳という高齢に加え、既往歴も有する本患者ではとくにリスクが高い状況でした。第2に心血管リスクです。患者には急性心不全や狭心症の既往があり、さらに閉塞性動脈硬化症も併存していました。NSAIDsは心疾患患者において心血管イベントのリスクを増加させるため、この併用は極めて危険な状態といえました。第3の最も注意すべきは腎臓リスク、いわゆる「Triple whammy」の状況です。NSAIDs、ループ利尿薬(フロセミド)、ARB(テルミサルタン)の3剤併用は急性腎障害の発生率を著しく高めることが報告されており、高齢者ではとくに致命的な合併症につながる可能性がありました。これらの多重リスクは単独では見落とされがちですが、患者の全体像を包括的に評価することで初めて明らかになる重要な安全性の問題です。医師への提案と経過患者の多重リスクを評価し、服薬情報提供書を用いて医師に処方調整を提案しました。現状報告として、irAE治療でプレドニゾロン40mg/日投与中であり、ジクトルテープ2枚使用で疼痛は安定しているものの、複数のリスクファクターが併存していることを伝えました。懸念事項については、アカデミック・ディテーリング※資材を用いて消化性潰瘍リスク(ステロイドとNSAIDsの併用は潰瘍発生率を有意に増加)、心血管リスク(NSAIDsは既存心疾患患者で心血管イベントリスクを増加)、Triple whammyリスク(3剤併用による急性腎障害発生率の増加)について説明しました。※アカデミック・ディテーリング:コマーシャルベースではない、基礎科学と臨床のエビデンスを基に医薬品比較情報を能動的に発信する新たな医薬品情報提供アプローチ 。薬剤師の処方提案力を向上させ、処方の最適化を目指す。提案内容として段階的中止プロトコールを提示し、ジクトルテープ2枚から1枚に減量、2週間の疼痛評価期間を設定、疼痛悪化がないことを確認後に完全中止するという方針を説明しました。将来的な疼痛悪化時のオピオイド導入準備と疼痛モニタリング体制の強化についても提案しました。医師にはエビデンス資料の提示により多重リスクの危険性について理解が得られ、段階的中止プロトコールが採用となり、患者の安全性を優先した方針変更となりました。経過観察では1週間後にジクトルテープ1枚に減量しましたが疼痛悪化はなく、2週間後も疼痛コントロールが良好であることを確認し、3週間後にジクトルテープを完全中止しましたが疼痛の悪化はありませんでした。現在も疼痛コントロールは良好で、多重リスクからの回避を達成しています。参考文献1)日本消化器病学会編. 消化性潰瘍診療ガイドライン2020(改訂第3版). 南山堂;2020.2)Masclee GMC, et al. Gastroenterology. 2014;147:784-792.3)Lapi F, et al. BMJ. 2013;346:e8525.

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人工甘味料はがん免疫療法の治療効果を妨げる?

 マウスを用いた新たな研究で、一般的な人工甘味料であるスクラロースの使用は、がん患者の特定の免疫療法による治療を妨げる可能性のあることが示唆された。この研究ではまた、マウスに天然アミノ酸であるアルギニンのレベルを高めるサプリメントを与えると、スクラロースの悪影響を打ち消せる可能性があることも示された。米ピッツバーグ大学免疫学分野のAbby Overacre氏らによるこの研究結果は、「Cancer Discovery」に7月30日掲載された。 Overacre氏は、「『ダイエットソーダを飲むのをやめなさい』と言うのは簡単だが、がん治療を受けている患者はすでに多くの困難に直面しているため、食生活を大幅に変えるよう求めるのは現実的ではないだろう」と話す。同氏はさらに、「われわれは、患者の現状に寄り添う必要がある。だからこそ、アルギニンの補給が免疫療法におけるスクラロースの悪影響を打ち消すシンプルなアプローチとなり得るのは非常に喜ばしいことだ」と述べている。 研究グループによると、がん治療における免疫チェックポイント阻害薬の効果は患者の腸内細菌の組成と関連付けられている。しかし、食事がどのように腸内細菌や免疫反応に影響を及ぼすのかについては明確になっていないという。今回の研究では、一般的な人工甘味料であるスクラロースの摂取が腸内細菌叢やT細胞の機能、免疫療法に対する反応に与える影響を、マウスおよび進行がん患者を対象に検討した。 まず、抗PD-1抗体による治療を受けた進行性メラノーマ患者91人と、進行性非小細胞肺がん(NSCLC)患者41人、および術前に抗PD-1抗体とTLR9アゴニスト(vidutolimod)による治療を受けた高リスク切除可能メラノーマ患者25人を対象に、スクラロースの摂取が抗PD-1抗体による治療効果に与える影響を検討した。自記式食事歴法質問票(DHQ III)を用いて評価したスクラロース摂取量に基づき、対象者を高摂取群と低摂取群に分類し、客観的奏効率(ORR)と無増悪生存期間(PFS)を評価した。 解析の結果、高摂取群ではメラノーマ患者でORRの低下傾向が認められ、NSCLC患者ではORRが有意に低下していた。PFSについては、メラノーマ患者(低摂取群:中央値13.0カ月、高摂取群:同8.0カ月、P=0.037)とNSCLC患者(低摂取群:同18.0カ月、高摂取群:同7.0カ月、P=0.034)の双方で有意な短縮が認められた。一方、高リスク切除可能メラノーマ患者では、病理学的奏効率(MPR)の低下、およびPFSの有意な短縮(低摂取群:中央値25.0カ月、高摂取群:同19.0カ月、P=0.012)が確認された。 次に、マウスを用いた実験で、腺がんやメラノーマなどのがんを意図的に発症させたマウスの食事にスクラロースを加え、その影響を観察した。その結果、マウスの腸内細菌叢の組成に変化が生じ、免疫機能の向上に重要なアミノ酸であるアルギニンが腸内細菌により代謝されて減少し、その結果、抗PD-1抗体による治療が阻害されて腫瘍の増大と生存率の低下につながることが示された。一方、スクラロースを摂取したマウスに、アルギニンや、より効率的に血中アルギニン濃度を上げると考えられているシトルリンを投与したところ、免疫療法の効果が回復した。 Overacre氏は、「スクラロースが引き起こした腸内細菌叢の組成の変化によってアルギニンレベルが低下すると、T細胞は正常に機能しなくなる。その結果、スクラロースを摂取したマウスでは免疫療法の効果が低下した」と説明する。 もちろんマウスでの実験と同じ結果が人間でも得られるとは限らない。それでも、論文の共著者であるピッツバーグ大学医学部のDiwakar Davar氏は、「これらの結果は、高レベルのスクラロースを摂取する患者に的を絞った栄養補給など、プレバイオティクスによる介入の設計を検討すべきことを示唆している」との見方を示している。同氏によると、シトルリンの補給が、がん免疫療法におけるスクラロースの有害な影響を逆転させ得るかを検討する試験を計画中であるという。

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がん免疫療法の効果に自己抗体が影響か

 がんに対する免疫チェックポイント阻害薬(CPI)を用いた治療は、一部の患者では非常に高い効果を示す一方でほとんど効果が得られない患者もおり、その理由は不明である。しかし、その解明につながる可能性のある知見が得られたとする研究結果が報告された。患者自身の自己抗体(自分の細胞や組織の成分を標的として産生される抗体)が、CPIに対する反応に極めて大きな影響を及ぼしている可能性のあることが示されたという。米フレッド・ハッチンソンがんセンターの免疫療法学科長であるAaron Ring氏らによるこの研究結果は、「Nature」に7月23日掲載された。 Ring氏は、「われわれの研究は、体内で自然に産生される自己抗体が腫瘍を縮小させる可能性を劇的に高め得ることを示している。自己抗体によって患者がCPIに反応する確率が5~10倍も高まるケースがいくつか確認された」と同センターのニュースリリースで述べている。 CPIは、メラノーマや特定の種類の肺がんを含む幅広いがんの治療に革命をもたらしたが、全ての患者がこれらの薬剤に反応するわけではない。そこでRing氏らは今回、CPIによる治療を受けたがん患者374人と健康な対照者131人から採取した血液サンプルを用い、Rapid Extracellular Antigen Profiling(REAP)法によって、6,172種類の細胞外および分泌タンパク質に対する自己抗体の結合パターンを調べた。Ring氏は、「長年、自己抗体は自己免疫疾患の原因となる悪玉と見なされてきた。しかし近年では、体内に備わった強力な治療薬として作用する可能性も明らかにされつつある。われわれの研究室では、自己抗体のこのような薬理作用を解明し、これらの天然分子をがんなどの疾患に対する新たな治療薬として応用することを目指している」と話す。 その結果、がん患者の血液では、健康な人に比べて自己抗体のレベルが著しく高いことが示された。また、特定の自己抗体が患者の予後改善と関連していることも判明した。例えば、サイトカインの一種であるインターフェロン(IFN)のシグナル伝達を遮断する自己抗体は、CPIによる抗腫瘍効果の改善と関連していた。この知見は、IFNが多過ぎると免疫系が疲弊し、CPIによる治療効果が制限される可能性があることを意味すると研究グループは説明している。 Ring氏は、「一部の患者では、免疫系が自ら併用薬を作り出したかのようだ。その自己抗体がIFNを中和することでCPIの効果を増強している。この発見は、全ての患者に対し、IFNのシグナル伝達経路を意図的に調節する併用療法を考案するための明確な指針となるだろう」と述べている。 一方で、いくつかの自己抗体は患者の予後悪化と関連していた。これは、がんと闘うために不可欠な免疫系の重要な経路を自己抗体が阻害するためだと考えられた。研究グループは、「こうした自己抗体を排除したり、その作用を打ち消したりする方法を見つけることでCPIの有効性を高められる可能性がある」と述べている。 Ring氏は、「これはまだ始まりに過ぎない。現在われわれは、他のがんや治療法にも対象を広げ、自己抗体を活用あるいは回避することで、より多くの患者に免疫療法を届けられるよう取り組んでいるところだ」と話している。

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副作用編:発熱(抗がん剤治療中の発熱対応)【かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ】第3回

今回は化学療法中の「発熱」についてです。抗がん剤治療において発熱は切っても切り離せない合併症の1つです。原因や重症度の判断が難しいため、抗がん剤治療中の患者さんが高熱を主訴に紹介元であるかかりつけ医に来院した場合は、多くが治療施設への相談になると思います。今回は、かかりつけ医を受診した際に有用な発熱の鑑別ポイントや、患者さんへの対応にフォーカスしてお話しします。【症例1】72歳、女性主訴発熱病歴局所進行大腸がん(StageIII)に対する術後補助化学療法を実施中。昨日から38.5度の発熱があったため、手持ちの抗菌薬(LVFX)の内服を開始した。解熱傾向であるが、念のためかかりつけ医(クリニック)を受診。診察所見発熱なし、呼吸器症状、腹部症状なし。食事摂取割合は8割程度。内服抗がん剤カペシタビン 3,000mg/日(Day11)【症例2】56歳、男性主訴発熱、空咳病歴進行胃がんに対して緩和的化学療法を実施中。3日前から38.2度の発熱と空咳が発現。手持ちの抗菌薬(LVFX)内服を開始したが、改善しないためかかりつけ医(クリニック)を受診。診察所見体温38.0度、SpO2:93%、乾性咳嗽あり、労作時呼吸苦軽度あり。腹部圧痛なし。食事摂取は問題なし。抗がん剤10日前に免疫チェックポイント阻害薬を含む治療を実施。ステップ1 鑑別と重症度評価は?抗がん剤治療中の発熱の原因は多岐にわたります。抗がん剤治療中であれば、まず頭に浮かぶのは「発熱性好中球減少症(FN:febrile neutropenia)かも?」だと思いますが、他の要因も含めて押さえておきたいポイントを挙げます。(1)発熱の原因が本当に抗がん剤かどうか確認服用中または直近に投与された抗がん剤の種類と投与日を確認。他の原因(主に感染:インフルエンザや新型コロナウイルス感染症、尿路感染症など)との鑑別。発熱以外の症状やバイタルの変動を確認。画像を拡大するFNは、末梢血の好中球数が500/µL未満、もしくは48時間以内に500/µL未満になると予想される状態で、腋窩温37.5度(口腔内温38度)の発熱を生じた場合と定義されています。FNは基本的には入院での対応が必要ですが、外来治療を考慮する場合には、下記のようなリスク評価が重要です。1)MASCC( Multinational Association for Supportive Care in Cancer)スコアMASCCスコアは、FN患者の重症化リスクを予測するための国際的に認知されたスコアリングシステムであり、低リスク群(21点以上)は外来加療が可能と判断されることがあります。画像を拡大する※該当する項目でスコアを加算し、スコアが高いほど低リスク。21点以上で低リスクとなる。2)CISNE(Clinical Index of Stable Febrile Neutropenia)スコア臨床的に安定している固形腫瘍患者では、CISNEスコアによる評価も推奨されています。画像を拡大する※低リスク群(0点)、中間リスク群(1~2点)、高リスク群(3点以上)。高リスクでは入院治療を考慮する。低リスク群:合併症1.1%、死亡率0%、中間リスク群:合併症6.2%、死亡率0%、高リスク群:合併症36%、死亡率3.1%。ステップ2 対応は?では、冒頭の患者さんの対応を考えてみましょう。【症例1】の場合、すでに抗菌薬を内服開始しており、解熱傾向でした。Vitalも安定しており、胸部X線写真でも異常陰影を認めませんでした。念のためインフルエンザおよび新型コロナウイルス感染症抗原検査を実施しましたが陰性でした。このケースでは抗菌薬の内服継続と解熱薬(アセトアミノフェン)処方、および抗がん剤の内服中止と治療機関への連絡(抗がん剤の再開時期や副作用報告)、経口補水液の摂取を説明して帰宅としました。【症例2】の場合、免疫チェックポイント阻害薬が投与されていて、SpO2:93%と低下しています。インフルエンザおよび新型コロナウイルス感染症抗原検査は陰性。胸部X線検査を実施したところ、両肺野に間質影を認めました。ただちに治療機関への連絡を行い、irAE肺炎の診断で即日入院加療となりました。画像を拡大する抗がん剤治療中の発熱対応フロー抗がん剤治療中の発熱は原因が多岐にわたるため、抗がん剤治療中に発熱で受診した場合は治療機関への受診を促してください。上記のケースはいずれも「低リスク」へ分類されますが、即入院が必要なケースが混在しています。詳細な検査や診察を行った上でのリスク評価が重要です。内服抗がん剤を中止してよいか?診察時に患者さんより「発熱しても抗がん剤を継続したほうがよいか?」と相談を受けた場合、基本的に内服を中止しても問題ありません。当院でも、「38度以上の発熱が発現した場合は、その日はお休みして大丈夫です」と説明しています。抗がん剤の再開については受診翌日に治療機関へ問い合わせるよう、患者さんへ説明いただけますと助かります。<irAEと感染>免疫チェックポイント阻害薬の普及した現代では、irAEはもはや日常的な有害事象となってしまいました。重篤なirAEに対して高用量のステロイド治療を導入することは年間で複数回経験します。その中で、最も注意が必要なのは、ステロイド治療中の感染症は発熱が「マスク」されるということです。採血検査ではCRPもあまり上昇しません。日々の身体診察がいかに重要であるかを痛感します。先日もirAE腎炎を発症した胆道がんの患者さんに対して、入院で高用量のステロイドを導入しました。順調に腎機能も改善し、ステロイド漸減に伴い外来へ切り替えてフォローしていましたが、ある日軽い腹痛で来院されました。発熱もなく、採血検査では炎症反応もさほど上昇していません。しかし、「何かおかしいな…」と思い、しつこく身体診察をすると右季肋部痛をわずかに認めました。胆管ステントを留置していたこともあり、念のためCT検査を実施してみると、以前存在した胆管内ガス(pneumobilia)の消失を認め、胆管ステント閉塞が疑われました。黄疸は来していないものの、ステント交換を依頼してドレナージをしてもらうと胆汁とともに膿汁が排液されました。初歩的なことですが、ステロイドカバー中は発熱もマスクされ、採血検査もアテにならないことが多いです。やっぱり基本は身体診察ですね。1)日本臨床腫瘍学会編. 発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン(改訂第3版). 南江堂;2024.2)Klastersky J, et al. J Clin Oncol. 2000;18:3038-3051. 3)Carmona-Bayonas A, et al. J Clin Oncol. 2015;33:465-471.

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肺がんに対する免疫療法、ステロイド薬の使用で効果減か

 非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対しては、がんに関連した症状の軽減目的でステロイド薬が処方されることが多い。しかし新たな研究で、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による治療開始時にステロイド薬を使用していると、ICIの治療効果が低下する可能性のあることが示された。米南カリフォルニア大学(USC)ケック・メディシンの腫瘍内科医であり免疫学者でもある伊藤史人氏らによるこの研究の詳細は、「Cancer Research Communications」に7月7日掲載された。伊藤氏は、「がんの病期や進行度といった複数の要因を考慮しても、ステロイド薬の使用は特定の免疫療法で効果が得られないことの最も強い予測因子であった」と話している。 伊藤氏らはこの研究で、ICI単独、またはICIと他の治療法の併用のいずれかによる治療を受けたNSCLC患者277人(USCの患者189人、ロズウェルパーク総合がんセンターの患者88人)の医療記録を分析した。これらの患者のうちの21人(8%)は、ICI開始時にステロイド薬を使用していた。ステロイド薬はがん患者の倦怠感や嘔吐、脳の腫れ、肺の炎症といった症状を軽減するために広く使用されており、免疫系を抑制することで炎症を軽減する作用がある。 分析の結果、ICIによる治療開始時にステロイド薬を使用していることは奏効率の低下と関連することが明らかになった。また、ICIによる治療開始時にステロイド薬を使用していた患者では、使用していなかった患者に比べて無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)が有意に短いことも示された。さらに、ICIによる治療開始時のステロイド薬の使用はPFSとOSの独立した予後不良因子であり、ステロイド使用者では非使用者と比べて、病態の進行リスクが2.7〜4.3倍、死亡リスクが2.4〜3.2倍高かった。 ステロイド薬を使用している患者では、ベースライン時にがん進行の指標となる血液中を循環する免疫のバイオマーカー(CX3CR1+CD8+T細胞)が有意に少ないことも示された。伊藤氏は、「この血中バイオマーカーがないと、がんの治療方針を判断する手がかりを得ることができず、腫瘍内科医は最適な治療を行えなくなる。その結果、患者が最善の治療を受けられなくなる可能性がある」と言う。このほか、実験用マウスを用いた検討からは、ICIによる治療前または治療中にステロイド薬を投与すると、T細胞が成熟する過程が妨げられることも示された。 伊藤氏は、「この研究結果から、ステロイド薬は体にもともと存在している免疫細胞であるT細胞の成熟を妨げることが明らかになった。その結果、T細胞は通常のようにがん細胞を攻撃することができず、患者の予後が悪化するのだ」と言う。同氏はまた、「ステロイド薬が免疫療法に干渉する可能性があることは他の研究でも示されているが、本研究は、その推定される因果関係を示した最初の研究の一つだ」と話している。 伊藤氏らは、本研究で認められた関連性をより深く理解するためには、さらなる研究が必要であるとの見解を示している。伊藤氏は、「患者によっては、がんの症状を管理する上でステロイド薬が不可欠だ。ステロイド薬が今後も肺がん治療において重要な役割を果たすことは間違いないが、その限界についても理解しておくことが重要である。自身のニーズに最も適した治療計画を立てるために、どの患者も主治医とよく話し合うべきだ」と助言している。

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群馬大学医学部 腫瘍内科【大学医局紹介~がん診療編】

高張 大亮 氏(教授)櫻井 麗子 氏(助教)山田 真紀子 氏(助教)大崎 洋平 氏(助教)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴群馬大学腫瘍内科では、外来化学療法センター、緩和ケアセンター、がんゲノム外来を一体的に運用し、がんとともに生きる患者さんを包括的に支える体制を整えています。治療に伴う身体的・精神的な負担にも丁寧に対応し、患者さん一人ひとりに最適ながん医療を提供しています。また、日常診療に加えて、企業治験や臨床試験、ゲノム医療にも積極的に取り組み、最先端のがん治療を実践できる環境を備えていることが、私たちの大きな強みです。地域のがん診療における医局の役割当科は群馬県内のがん薬物療法の中核として、院内の各診療科や地域の医療機関と緊密に連携し、がん医療の質の向上に取り組んでいます。さらに、がんゲノム医療連携病院として、がん研有明病院をはじめとする中核拠点病院と協力しながら、北関東全体の高度ながん医療を支える役割も担っています。地域におけるアクセス格差や情報格差の解消にも力を注ぎ、患者さんが適切な医療につながるための支援体制を整えています。医師の育成方針診療・研究・教育のすべてにバランスよく関わることができる環境の中で、腫瘍内科医としての専門性だけでなく、人間性をも高めていける医師の育成を目指しています。技術や知識に加え、患者さんに寄り添う姿勢を大切にすることを重視しています。内科専門医やがん薬物療法専門医の取得はもちろん、大学院進学、基礎研究、がん専門病院への国内外の留学、企業での薬剤開発、医系技官としての医療行政への参画など、多彩なキャリアパスを提案できる点も当科の魅力です。同医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力臨床試験・治験を行うことにより今後の標準治療を確立するための一助を担うこと、日常診療では他科と連携して最新の治療を行っていくこと、がんゲノム医療連携病院として県内の患者さんへのゲノム治療へ貢献すること、緩和ケアにて疼痛コントロールや気持ちのサポートをすることといった、個々の患者さんにとって最善最適ながん診療を提供していけることが当医局のやりがい・魅力であり、かつ私たちの最大の使命と考えております。医局の雰囲気、魅力それぞれの得意とする専門性から活発な意見交換がされ、また他の診療科や多職種との関わり合いからも、臓器横断的に集学的に、がん診療について多くのことが学べる環境です。医学生/初期研修医へのメッセージ腫瘍内科学の分野は、免疫チェックポイント阻害薬・遺伝子異常に基づいたがん分子標的治療・がんゲノム医療の開発とその臨床導入など大きく進歩してきており、今後もさらに発展していく分野です。その担い手になる皆さんをお待ちしています。まずは見学から! お待ちしています。同医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力腫瘍内科に設置されている緩和ケアセンターで、緩和ケアの担当医をしております。院内のさまざまな診療科から痛みや嘔気などの体のつらさや気持ちのつらさに対してコンサルテーションをいただきます。「まさか自分ががんになるなんて」とがん診断時の心理的つらさを抱えた状態から、がん治療がスムーズに進んでいくための心と体を整えるサポートを緩和ケア認定看護師さんたちと提供しています。現在、がん治療にはさまざまな選択肢があり、またがん薬物療法にも本当にたくさんの治療薬があり、患者さんに適した治療を提供するには高い専門性が必要となります。そのための腫瘍内科において、治療の副作用を和らげる対応や治療を頑張っていこうとする患者さんのお気持ちを支えるサポートに非常にやりがいを感じています。がん治療を総合的に提供できる当医局は非常に魅力的なところです。医学生/初期研修医へのメッセージ私は現在子供3人を育てつつ、仕事と育児の両立、研究活動やキャリアアップを目指しながら日々取り組んでいます。やりがいを感じ、自己実現していくための選択肢の1つとして当医局にまずは見学に来ませんか? お待ちしております。医学生/初期研修医へのメッセージ私は血液内科を専門として医師の道をスタートして、がん薬物療法専門医を取得、現在に至ります。昨今のがん薬物療法の進歩は目覚ましく、より複雑化・高度化しています。がんゲノム医療も現場に導入され、特定のがん種だけではないがん薬物療法の専門家への需要は今後益々高まっていくと考えます。同医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力当院では、各診療科とのキャンサーボードに腫瘍内科医師が参加し、複雑な合併症を持つ症例や、新薬の登場時などは腫瘍内科が薬物療法を担当するといった協力体制が整っています。そのため、多様ながん種の多様なレジメンを経験することができます。薬物療法をメインに行っていますが、受け持った患者さんが手術をすることもあれば、放射線療法が適応となる場合もあります、患者さんを通じて、臓器横断的・集学的ながん診療を学ぶことができるのは、当科の特徴です。医局の雰囲気、魅力2024年に設立された新しい診療科です。僕自身も子育てをしながらの毎日を過ごしていますが、子育てに限らず、ライフイベントをサポートしながらのキャリア形成にはとても理解の深い医局だと思っています。ぜひ、一度見学にお越しください!群馬大学大学院医学系研究科 腫瘍内科住所〒371-8511 群馬県前橋市昭和町三丁目39番15号問い合わせ先医会長 大崎洋平(yosaki@gunma-u.ac.jp)医局ホームページ群馬大学大学院医学系研究科 腫瘍内科専門医取得実績のある学会日本内科学会(総合内科専門医)日本臨床腫瘍学会(がん薬物療法専門医)日本がん治療認定医機構(がん治療認定医)臨床遺伝専門医制度委員会(臨床遺伝専門医)研修プログラムの特徴(1)地域に根差した一貫した医療の実践県内の医学科を有する大学は群馬大学のみであり、大学での教育・診療が、地域の医療にダイレクトに結びついているのは群馬県の特徴の1つです。県下から集まる一人ひとりの患者さんの診断から治療、治験や臨床試験に至るまでを一貫して経験することができます。(2)学位取得、研究のサポート本学にはさまざまな学位取得に向けたプランがあり、在学中、初期研修、後期研修と並行した学位取得が目指せます。研究資金の獲得、臨床試験の立案から運営、研究発表まで、当科スタッフがサポートします。現在は、在学中の学生とアピアランスケアに関連した臨床研究、がん患者さんのQOLを上げる商品開発を企業と共同で行っています。(3)多様なキャリア形成、ライフイベントのサポート当科で腫瘍内科医としてのキャリアをスタートした後、現場で働く医師としてのキャリアアップだけでなく、国内国外企業における創薬への挑戦、医系技官として医療行政へと携わる道などさまざまな進路を選択、提示が可能です。またライフイベントに合わせた働き方の調整にも柔軟に対応いたします。

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ペムブロリズマブがHER2陽性切除不能胃がん1次治療に承認、14年ぶりのパラダイムシフト

 2025年5月、HER2陽性の治癒切除不能な進行・再発胃がんの1次治療において免疫チェックポイント阻害薬(ICI)ペムブロリズマブ併用療法が承認された。これまでもHER2陰性胃がんには化学療法+ICI併用療法が使われてきたが、今回の適応拡大によりHER2発現にかかわらず、ペムブロリズマブが1次治療の選択肢として加わることになる。 6月23日にMSDが開催したメディアセミナーでは、愛知県がんセンターの室 圭氏が登壇し、「胃がん一次治療の新たな幕開け~HER2陽性・陰性にかかわらず免疫チェックポイント阻害薬が使用可能に~」と題した講演を行った。室氏 今回新たに承認されたペムブロリズマブ併用レジメンは、CAPOXまたはFP+トラスツズマブ+ペムブロリズマブという「4剤併用療法」だ。承認の根拠となったのは第III相国際共同KEYNOTE-811試験であり、未治療のHER2陽性胃がん患者を対象に、これまでの標準治療であるトラスツズマブ+化学療法(CAPOXまたはFP)にペムブロリズマブを上乗せする群と、プラセボ群を上乗せする群を比較した。 結果として、ペムブロリズマブ群は全生存期間(OS)・無増悪生存期間(PFS)ともに有意な延長が確認された。具体的には、CPS1以上の集団におけるOSのハザード比(HR)は0.79、PFSのHRは0.70と、いずれも統計学的有意差をもってICI併用の有用性が証明された。免疫関連有害事象として甲状腺機能低下、肺臓炎、大腸炎などが報告されたが、おおむねマネジメント可能な範囲だった。 ただし、本試験ではCPS1未満の患者には有効性が認められず、今回の承認もHER2陽性かつCPS1以上の症例に限定された。バイオマーカーとして、HER2およびPD-L1の両方を測定し、いずれも陽性であることが投与条件となる。とくにPD-L1はコンパニオン診断薬として22C3抗体を用いたCPS測定が必須となる点には注意が必要だ。 HER2陽性胃がんにおいては、ToGA試験でトラスツズマブ+化学療法が承認された2011年以降、長年1次治療が変わっていなかった。今回の改訂により、初めてICIが1次治療に組み込まれ、14年ぶりのパラダイムシフトが起きたといえる。4バイオマーカー同時検査が一層重要に ほかのがん種同様、胃がん診療においてもバイオマーカー検査が非常に重要となっている。現在の胃がん治療では、「HER2」「PD-L1」「MSI」「Claudin18.2」の4つのバイオマーカー検査が推奨されている。 日本胃癌学会では2024年4月に「切除不能進行・再発胃癌バイオマーカー検査の手引き」を発出し、1次治療開始前に4つのバイオマーカー検査を同時実施するよう推奨してきた。同時実施が難しい場合には1次治療の決定に直結するHER2とClaudin18.2検査を優先するよう推奨したが、今回のペムブロリズマブ承認を受け「手引き」を改訂し、PD-L1検査とMSI/MMR検査もできる限り一緒に検査すること(4検査同時)を強く推奨するかたちとなった。加えて、施設や患者さんの事情等でそれがかなわない場合もあるため、状況に応じて適宜適切に対応するように、との旨が付記された。 また、PD-L1検査にはニボルマブに対する28-8検査とペムブロリズマブに対する22C3検査の2種類がある。1次治療前のPD-L1検査はペムブロリズマブのコンパニオン診断薬である22C3検査に限定されるが、ペムブロリズマブ非適応の場合には、この検査値を読み替えることでニボルマブ投与も検討できるとした。新規治療で大きな変化、バイオマーカー二重陽性など治療選択の難しさも残る 今回、切除不能胃がんの1次治療は、HER2陽性・陰性にかかわらずICIを含むレジメンが標準の選択肢となった。日本における胃がん罹患率・死亡率はともに減少傾向にあるが、それでも依然として高い水準にあり、とくに高齢者層での罹患が増加している。実臨床では70歳以上の患者が大半を占め、90代も珍しくない印象だ。高齢・多疾患併存の患者に対し、治療選択には柔軟性と個別化が求められる中で、ICI+抗HER2療法の1次治療導入により、HER2陽性例における免疫治療の地位が確立されたことは治療戦略に大きな変化をもたらすと考えられる。 一方、HER2陽性かつCPS1以上という適応は、全体の胃がん患者の約10~15%と限られており、HER2陰性であればICI+化学療法やClaudin18抗体ゾルベツキシマブ+化学療法など、多様なレジメンから選択する必要がある。また、HER2陽性かつClaudin 18.2陽性など、バイオマーカーがオーバーラップする症例における治療選択の難しさもある。こうした依然残る臨床上の課題に対し、今後の議論や一層の治療開発が待たれる。

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