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第210回 GLP-1製剤の品薄状態、危惧する人と安堵する人

以前、こちらで取り上げたGLP-1受容体作動薬(以下、GLP-1製剤)のダイエット目的の濫用とそれが原因の1つであると思われる供給不安問題。品薄はダイエット目的で使いやすいであろう週1回製剤のセマグルチド(商品名:オゼンピックなど)、デュラグルチド(商品名:トリルシティ)、チルゼパチド(商品名:マンジャロ)に集中していたが、今年1月15日にセマグルチド、4月22日にデュラグルチドが限定出荷から通常出荷に切り替わり、残すはチルゼパチドのみが品薄状態となっている。そして2023年のメガファーマ各社の決算内容が明らかになっているが、この3製剤の中で最も売上高が高いセマグルチドの2型糖尿病に適応をもつ注射薬「オゼンピック」の2023年売上高は138億ドル(日本円換算で2兆1,126億円、ノボ ノルディスク社の決算はデンマーク・クローネでの発表のため、ドル・円の売上高は現行レートで換算)となった。ちなみに同じセマグルチドを成分とし、同じく2型糖尿病の適応をもつ経口薬「リベルサス」は27億ドル(同4,204億円)、肥満症の適応をもつ注射薬「ウゴービ」は45億ドル(同7,025億円)。セマグルチド成分括りにした2023年総売上高は210億ドル(同3兆2,355億円)である。2023年の医療用医薬品の製品別売上高は、世界第1位が免疫チェックポイント阻害薬ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)の250億ドル(同3兆8,911億円)、世界第2位が新型コロナウイルス感染症のmRNAワクチン「コミナティ」の153億ドル(同2兆3,814億円)で、オゼンピックが世界第4位。だが、セマグルチド括りでの売上高は世界第2位となる。日本の製薬企業で考えると、国内第2位のアステラス製薬と第3位の第一三共の2024年3月期決算で発表された売上高の合算を1成分の売上高で超えてしまっているのだ。なんとも驚くべきことである。オゼンピックは2017年末のアメリカでの発売から1年強で、全世界売上高10億ドル以上のブロックバスター入りを果たし、過去4年ほどで全世界売上高は9倍以上に急伸長している。糖尿病治療薬は患者数の多さゆえにブロックバスター入りしやすいが、オゼンピックは糖尿病治療薬としては、ほぼ史上最高売上高を記録している。糖尿病治療薬の売上高を更新、“注射製剤”のなぜこの背景には、これまでブロックバスター入りした糖尿病治療薬がほぼ経口薬であり、それと比べて注射薬のオゼンピックは薬価が高いという事情はあるだろう。しかし、それだけではないはずだ。余計な一言を言えば、オゼンピックの売上高が2型糖尿病患者への処方のみで形成されていると思うウブな関係者はいないだろう。たぶんここには世界的に見ても、ダイエット・美容目的の適応外処方による売り上げが含まれていると考えられる。さて、供給不安はかなり解消されたとは言え、現場ではまださまざまな不都合が生じている模様だ。たとえば薬局薬剤師に話を聞くと、実際の週1回GLP-1製剤の処方箋は1ヵ月分、すなわち製剤としては注射キット4本の処方が多いという。しかし、市中の保険薬局では今でも入庫がスムーズではなく、処方箋受け取り時には2本のみを患者に渡し、残り2本は後日に再来局をお願いするか、配送するケースも目立つという。この背景には通常出荷になっても供給が綱渡りということもあれば、自由診療クリニックへの横流しを警戒して必要量を医薬品卸が適宜配送しているという事情もあるらしい。このようなケースで薬局側が患者宅に配送をする際は、人が直接届けるかクール便を使うという。ある薬剤師は「(薬局への)納入価に配送の人件費やクール便費用を上乗せしたら赤字になる」とため息をついていた。この現状は患者にとっても薬局にとっても迷惑千万な話だろう。この状況の解消まで考えると、完全な通常流通まではまだ時間がかかりそうだ。しかし、あまのじゃくな私は、危惧すべきは完全な通常流通が実現した後ではないか? と考えてしまう。少なくとも現状はGLP-1製剤を必要とする2型糖尿病や肥満症の患者に薬が届かないという最悪の状況は避けられている。ただ、前述のように受け取りに多少の手間暇がかかっている。その一方で、いわば「メディカルダイエット」と称したダイエット・美容目的の自由診療でのGLP-1製剤の適応外処方が極端に廃れたなどという話は、少なくとも私個人はまったく耳にしていない。ネット広告では今でもこの手の広告がじゃんじゃん表示される。余談になるが、どうやら年齢・性別の属性では中高年男性もGLP-1製剤のターゲットにされているらしく、最近は私に対してもこの種の広告と薄毛治療の広告が頻繁に表示される。そして、ご存じのように自由診療での適応外処方を法令で取り締まることはできない。つまるところGLP-1製剤で完全な通常流通が実現するということは、本当に必要な患者が困らないだけではなく、適応外処方の自由診療も栄えるということだ。通常流通を危惧する理由こんなことを考えてしまったのは、先日ある開業医と話をしていて、ため息が出るような事例を聞いてしまったからだ。この医師は都内の繁華街近くで内科クリニックを開業している。そのクリニックに昨春、強い吐き気で路上にうずくまっていたという若い女性が通行人に付き添われて来院したという。「場所柄もあり『昨夜、かなり飲みましたか?』と尋ねても本人は元々飲めないと答えるし、昼時だったので食中毒を疑って直近の食事状況を聞いたら、朝からお茶を飲んだのみで、とくに何かを食べたわけでもないと言うんですよ。そこでピンと来ました」結局、問診の結果、オンラインの自由診療でGLP-1製剤の処方を受けていたことがわかった。医師は女性にGLP-1製剤では悪心・嘔吐の副作用頻度が高いことなどを伝え、中止を促すとともに、最低限の対症療法の処方箋を発行。女性は「こんなに副作用がひどいとは思わなかった。すぐに止めます」と応じたという。ちなみに問診時に身長、体重を尋ねたところBMIは18にも満たなかったとのこと。その後、女性は来院していないため、本当に彼女がGLP-1製剤を止めたかどうかは定かではない。この医師は私に「自由診療の副作用で苦しんでいる患者でも助けなければならないとは考える。でもね、それを保険診療で対応しなければならないのはねえ…」とぼやいた。至極真っ当な指摘である。この話を聞いて私が反応してしまったのは、「朝から何も食べていない」という話だった。痩身願望のある人が我流の食事制限などを行っていることは少なくない。GLP-1製剤は、その性格上、低血糖になりにくいことがウリの一つである。しかし、それはごく普通の食生活を送っていることが前提で、その場合でもほかの血糖降下薬を併用している場合には低血糖は発生している。ということは、今後、自由診療が野放しのまま完全流通が実現すれば、この医師が経験した副作用の悪心・嘔吐レベルだけではなく、重大な低血糖発作の報告事例が増加してしまうのではないだろうか?そしてオンライン診療でかなりの適応外処方が行われている実態を考えれば、車社会である地方都市在住者でも適応外で使われることが増えるだろう。運転の最中に低血糖発作が起きたらどうなるのだろうと考えてしまった。これは私の妄想だろうか? それとも考え過ぎだろうか?

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PD-L1高発現NSCLCに対するネシツムマブ+ペムブロリズマブの可能性(K-TAIL-202)/AACR2024

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は進行非小細胞肺がん(NSCLC)の標準治療となっている。KEYNOTE-024試験でみられるように、抗PD-1抗体であるペムブロリズマブはPD-L1発現≧50%の進行NSCLCにおいてPFS(無増悪生存期間)とOS(全生存期間)を有意に延長している1,2)。しかし、PD-L1陽性であってもICIが奏効しない症例は依然として存在する。 EGFRの発現はPD-L1のグリコシル化を介しPD-L1の発現を安定化させ、PD-1とPD-L1の結合を強化することが報告されており3)、抗EGFR抗体ネシツムマブと抗PD-1抗体ペムブロリズマブの併用療法は新しい治療コンセプトとして期待されている。K-TAIL-202試験はPD-L1高発現NSCLCの初回治療として、ネシツムマブとペムブロリズマブの併用を評価した第II相試験。昭和大学の堀池 篤氏が米国がん研究協会年次総会(AACR2024)で結果を発表した。・対象:未治療のPD-L1発現≧50%の進行NSCLC(EGFR、ALK変異なし)・介入:ネシツムマブ+ペムブロリズマブ 3週ごと2年間または35サイクル(n=50)・評価項目:[主要評価項目]奏効率(ORR)[副次評価項目]PFS、OSORR期待値の設定はKEYNOTE-024試験のORR44.8%1)を10ポイント上回る54.8%とした。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値は14.2ヵ月であった。・患者の年齢中央値は72歳、男性が76%、現・過去喫煙者が88%、腺がんが60%であった。・ORRは76.0%で、病勢コントロール率は86.0%(CR2%、PR74%、SD10%)であった。・58%の患者が50%以上の標的病変縮小を示した。・PFS中央値は15.7ヵ月、OS中央値は未到達であった。・ネシツムマブによる試験治療下における有害事象(TEAE)発現は全Gradeで98%、Grade≧3は40%で、頻度の高いTEAEは、ざ瘡様皮疹、低マグネシウム血症などであった。・治療中止に至ったTEAEは26%、死亡に至ったTEAEは2%(1例)に発現した。・Grade3の間質性肺疾患が10%(5例)で発現したが、ステロイド治療により改善した。 今回のK-TAIL-202試験結果から、PD-L1高発現進行NSCLC初回治療におけるネシツムマブとペムブロリズマブ併用の可能性が示唆される。

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免疫療法+個別化ワクチン、肝細胞がんの新治療法として有望

 標準的な免疫療法にオーダーメイドの抗腫瘍ワクチン(以下、個別化がんワクチン)を追加することで、肝細胞がんが縮小する患者の割合が、免疫療法のみを受けた場合の約2倍になることが、新たな研究で示された。米ジョンズ・ホプキンス・キンメルがんセンターの副所長であるElizabeth Jaffee氏らによるこの研究結果は、米国がん学会年次総会(AACR 2024、4月5〜10日、米サンディエゴ)で発表されるとともに、「Nature Medicine」に4月7日掲載された。研究グループは、肝細胞がんの診断後、5年間生存する患者の割合は10人に1人未満であるため、このワクチンは患者の生存の延長に役立つ可能性があると話している。 Jaffee氏らはこの研究に肝細胞がん患者36人を登録し、免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体)のペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)による通常の免疫療法に加え、個別化がんワクチンを投与して、その効果を調べた。個別化がんワクチンは、まず、生検で得た患者のがん細胞を分析し、コンピューターアルゴリズムにより変異が生じている遺伝子のうち、免疫系が認識できるタンパク質〔がん細胞で起こる遺伝子変異により新たに生じたがん抗原(ネオアンチゲン)〕を産生している遺伝子を特定した。この情報を基に、最大で40個のネオアンチゲンをコードするDNAを含む個別化がんワクチン(GNOS-PV02)を作成した。ワクチンが投与された患者では、免疫系がこれらのネオアンチゲンを認識し、それらを産生するがん細胞を攻撃するのを助ける。 個別化がんワクチンと抗PD-1抗体の組み合わせは、腫瘍に大きな打撃を与える。抗PD-1抗体は、腫瘍内で疲れ果て、がん細胞を破壊できなくなった免疫細胞のT細胞を再活性化する。このワクチンはまた、特定の変異タンパク質を標的とするT細胞を新たに呼び寄せて、この効果を補強する。 実際、抗PD-1抗体とともにこの個別化ワクチンを投与された患者の3分の1近く(30.6%)でがん細胞の縮小が認められた。この割合は、免疫療法のみを受けた場合の2倍に当たるという。さらに、8.3%の患者では、治療後の検査でがん細胞が見つからない完全奏効を達成した。 Jaffee氏は、「われわれは、開発中の個別化がんワクチンを使った治療で成果が得られて興奮している。この個別化がんワクチンは、治療の難しいがんに対する次世代の治療法として有望だ」と語っている。 一方、ジョンズ・ホプキンス大学医学部腫瘍学分野のMark Yarchoan氏は、「この研究は、個別化がんワクチンが抗PD-1抗体に対する臨床反応を高めることができるというエビデンスを提供するものだ」と話す。同氏は、「この知見を確認するためには、より大規模なランダム化比較試験が必要だ。それでも、今回の結果が非常に胸躍るものであることに変わりはない」と述べている。

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高齢NSCLC患者へのICI、化学療法の併用を検討すべき患者は?

 PD-L1高発現(TPS≧50%)の非小細胞肺がん(NSCLC)患者において、PD-1またはPD-L1を標的とする免疫チェックポイント阻害薬(ICI)単剤療法、ICIと化学療法の併用療法は標準治療の1つとなっている。しかし、高齢者におけるエビデンスは限られており、ICI単剤療法とICIと化学療法の併用療法のどちらが適切であるかは明らかになっていない。そこで、70歳以上のPD-L1高発現の進行NSCLC患者を対象とした多施設共同後ろ向き研究において、ICI単剤療法とICIと化学療法の併用療法が比較された。その結果、ECOG PS0または非扁平上皮がんの集団では、ICIと化学療法の併用療法が全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)を改善した。本研究結果は、京都府立医科大学の武井 翔太氏らによってFrontiers in Immunology誌2024年2月23日号で報告された。 本研究は、70歳以上でECOG PS0/1のPD-L1高発現の進行NSCLC患者のうち、初回治療でICI単剤療法による治療を受けた患者131例(単剤群)およびICIと化学療法の併用療法による治療を受けた68例(併用群)を対象とした。傾向スコアマッチングにより背景因子を調整し、両群のOSとPFSを比較した。 主な結果は以下のとおり。・OS中央値は、単剤群が25.2ヵ月であったのに対し、併用群が42.2ヵ月であったが有意差は認められなかった(p=0.116)。・PFS中央値は、単剤群が10.9ヵ月、併用群が11.8ヵ月であり、有意差は認められなかった(p=0.231)。・単剤群のサブグループ解析において、喫煙歴のない患者はOSが有意に短かった(ハザード比[HR]:0.36、95%信頼区間[CI]:0.16~0.78、p=0.010)。・併用群のサブグループ解析において、ECOG PS1の患者(HR:3.84、95%CI:1.44~10.20、p=0.007)、扁平上皮がんの患者(同:0.17、0.06~0.44、p<0.001)はOSが有意に短かった。・ECOG PS0の集団におけるOS中央値は、単剤群が26.1ヵ月であったのに対し併用群は未到達であり、併用群が有意に長かった(p=0.0031)。同様にPFS中央値は単剤群が6.5ヵ月であったのに対し併用群は21.7ヵ月であり、併用群が有意に長かった(p=0.0436)。・非扁平上皮がんの集団におけるOS中央値は、単剤群が23.8ヵ月であったのに対し併用群は未到達であり、併用群が有意に長かった(p=0.0038)。同様にPFS中央値は単剤群が10.9ヵ月であったのに対し併用群は17.3ヵ月であり、併用群が有意に長かった(p=0.0383)。 本研究結果について、著者らは「PD-L1高発現の高齢NSCLC患者の治療選択時には、ECOG PSと組織型を考慮すべきである」とまとめた。

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デュルバルマブ+化学療法±オラパリブが進行子宮体がんの生存改善(DUO-E)/SGO2024

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)+化学療法の1次治療とICI+PARP阻害薬の維持療法は、進行子宮体がんに対するさらなる抗腫瘍活性を示した。米国婦人科腫瘍学会(SGO2024)で米国・H. Lee MoffittがんセンターのHye Sook Chon氏が発表している。 ICI+化学療法はミスマッチ修復機能欠損(dMMR)子宮体がんに抗腫瘍活性を示している1,2)。ICIへのPARP阻害薬の追加は、さまざまながん種で有効性が期待されており、婦人科腫瘍においても、いくつかの臨床試験でPARP阻害薬とICIの併用療法が研究されている3)。 DUO-E(GOG-3401/ENGOT-EN10)試験は、進行・再発子宮体がんに対するデュルバルマブ・化学療法の併用1次治療へのデュルバルマブ±オラパリブ維持療法追加の有用性を評価する第III相3群無作為化二重盲検プラセボ対照多施設共同試験である。Chon氏はITT集団およびMMR状況ごとの無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)の初回カットオフの結果(主要評価項目の成熟度61%)を発表した。・対象:未治療の進行StageIII/IV(FIGO2009)または再発子宮体がん・試験群1: 化学療法(カルボプラチン+パクリタキセル:CP)+デュルバルマブ→デュルバルマブ(CP+D群)・試験群2:CP+デュルバルマブ→デュルバルマブ+オラパリブ(CP+D+O群)・対照群:CP→プラセボ(CP群)・評価項目:[主要評価項目]PFS[副次評価項目]全生存期間(OS)、ORR、DOR、安全性 主な結果は以下のとおり。[ITT集団]・PFS中央値はCP群9.6ヵ月に対し、CP+D群では10.2ヵ月(対CP群ハザード比[HR]:0.71、95%信頼区間[CI]:0.57〜0.89、p=0.003)、CP+D+O群では15.1ヵ月(対CP群HR:0.55、95%CI:0.43〜0.69、p<0.0001)で、CP+D群、CP+D+O群ともに有意に改善した。・ORRはCP群55.1%に対し、CP+D群61.9%(対CP群オッズ比[OR]:1.32、95%CI:0.89〜1.98、p=0.003)、CP+D+O群63.6%(対CP群OR:1.44、95%CI:0.95〜2.18、p=0.0001)で、CP+D群、CP+D+O群ともに有意に改善した。・DOR中央値はCP群7.7ヵ月に対し、CP+D群13.1ヵ月、CP+D+O群21.3ヵ月であった。[dMMR集団]・PFS中央値はCP群7.0ヵ月に対し、CP+D群では未到達(対CP群HR:0.42、95%CI:0.22~0.80)、CP+D+O群では31.8ヵ月(対CP群HR:0.41、95%CI:0.21~0.75)であった。・ORRはCP群40.5%、CP+D群71.4%(対CP群OR:3.68、95%CI:1.51~9.39)、CP+D+O群73.0%(対CP群OR:3.97、95%CI:1.57~10.65)であった。・DOR中央値はCP群10.5ヵ月、CP+D群未到達、CP+D+O群29.9ヵ月であった。[ミスマッチ修復機能正常(pMMR)集団]・PFS中央値はCP群9.7ヵ月に対し、CP+D群では9.9ヵ月(対CP群HR:0.77、95%CI:0.60~0.97)、CP+D+O群では15.0ヵ月(対CP群HR:0.57、95%CI:0.44~0.73)であった。・ORRはCP群59.0%に対し、CP+D群では59.4%(対CP群OR:1.02、95%CI:0.65~1.59)、CP+D+O群では62.1%(対CP群OR:1.10、95%CI:0.69~1.74)であった。・DOR中央値はCP群7.6ヵ月に対し、CP+D群では10.6ヵ月、CP+D+O群では18.7ヵ月であった。[安全性]・CP+D群、CP+D+O群とも忍容性は良好で管理可能であり、治療中止の頻度も低かった。 ITT集団においては、CP+D群、CP+D+O群ともにPFSの改善がみられた。MMRのサブグループを見ると、dMMRについては両群で、pMMRについてはCP+D+O群でPFSの改善傾向がみられた。

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ICIによる心臓irAE発症タイミングと危険因子~国内RWDより/日本循環器学会

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)とは、ご存じのとおり、近年注目されているがん薬物療法で、T細胞活性を増強することによって抗腫瘍効果をもたらし、多くのがん患者の予後を改善させている。しかし、副作用として心筋炎や致死性不整脈など循環器領域の免疫関連有害事象(irAE)の報告も散見される。そこで、稗田 道成氏(九州大学医学部 第一内科 血液・腫瘍・心血管内科)らがLIFE Study1)のデータベースを基に心臓irAEの発生率を調査し、3月8~10日に開催された第88回日本循環器学会学術集会Late Breaking Cohort Studies2において報告した。 稗田氏らは、大規模なリアルワールドデータを利用することで、心臓irAEを起こしやすい患者タイプ、発症タイミング、リスク因子を明らかにするため、LIFE Studyのデータベースを基にICI治療を受けた2,810例の解析を行い、実臨床で比較的頻度が高い心筋炎、心膜炎、死亡率の高い劇症型心筋炎や致死性不整脈の発症状況を調査した。 解析には、国内承認されているICIの6剤(抗PD-1抗体[ニボルマブ、ペムブロリズマブ]、抗PD-L1抗体[アテゾリズマブ、デュルバルマブ、アベルマブ]、抗CTLA-4抗体[イピリムマブ]の投与患者が含まれた。 主な結果は以下のとおり。・LIFE StudyデータベースからICI治療を受けた2,810例を抽出後、心臓irAEと診断された124例を同定した(ICI治療開始から心臓irAE発症までの期間 3ヵ月未満:69例、3ヵ月以上:55例)。・124例の平均年齢±SDは70.2±8.0歳、女性は39例(31.5%)であった。・全心臓irAEの発症率は4.41%で、その発生率は100人年当たり2.02人だった。・心臓irAEの主な病態として、心膜炎(2.17%)、心室頻拍(1.14%)、心筋炎(0.78%)、心室細動(0.32%)が挙げられた。・3ヵ月未満で心臓irAEを発症したのは69例(56%)で、その割合はICI治療患者の2.46%、発生率は100人年当たり10.16人であった。・多重ロジスティック回帰分析の結果、不整脈、慢性心不全、がん転移の有無が心臓irAE発生の独立した危険因子であることが示唆された。また、年齢が高齢になればなるほど心臓irAEのリスクは低下することが判明した。 同氏は「本解析で明らかになった心臓irAEの発生率は既報の海外データと類似する結果2,3)であったが、日本人の大規模なリアルワールドデータを活用することで、心臓irAEの発生ならびにICI治療患者のリスク因子を実証することができた」とコメントした。

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ソトラシブ、アジア人のKRAS G12C変異陽性肺がんに対する成績(CodeBreaK200)/日本臨床腫瘍学会

 既治療のKRAS G12C変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)に対するソトラシブの第III相CodeBreaK 200試験におけるアジア人サブグループ解析を、九州大学の岡本 勇氏が第21回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2024)で発表した。・対象:免疫チェックポイント阻害薬と化学療法薬の治療歴を有するKRAS G12C変異陽性のNSCLC(過去の脳転移治療例は許容)・試験群:ソトラシブ960mg/日(Soto群:171例)・対照群:ドセタキセル75mg/m2 3週ごと(Dtx群:174例)Dtx群からSoto群へのクロスオーバー投与は許容・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)による無増悪生存期間(PFS)[副次評価項目]全生存期間(OS)、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性、患者報告アウトカムなど 主な結果は以下のとおり。・アジア人集団は37例(日本24例、韓国13例)、Soto群18例、Dtx群19例であった。・アジア人患者の年齢中央値はSoto群65.0歳、Dtx群68.0歳で、ほとんどが現および前喫煙者であった。・BICR評価のPFS中央値はSoto群8.3ヵ月、Dtx群5.6ヵ月であった(ハザード比[HR]:0.46、95%信頼区間[CI]:0.18〜1.15)。・BICR評価のORRはSoto群 27.8%、Dtx群15.8%、病勢制御率はSoto群94.4%、Dtx群57.9%であった。・BICR評価による奏効に至るまでの期間はSoto群1.3ヵ月、Dtx群2.3ヵ月であった。・Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)はSoto群の44.4%、Dtx群の62.5%で発現した。・Soto群で頻度が高かったTRAEは下痢、悪心、肝機能障害(AST、ALT、ALP上昇)であった。

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irAE心筋炎の原因の一つに新たな知見が!!【見落とさない!がんの心毒性】第29回

免疫チェックポイント阻害薬(以下、ICI)の適応がますます広がっているが、同薬剤による免疫関連有害事象(以下irAE)による心筋炎の発症は臨床上の大きな問題となっている。これまで、irAE心筋炎の発症リスク・重症化リスクとして明らかなものはICI同士の併用療法だけであり、そのほかに女性のほうが男性より発症率が高いことも報告されている1)。ICI併用では単剤と比較して2〜6倍、女性は男性に比べて2〜3倍、心筋炎の発症率が高いとされてきた1)。致死的な合併症であるirAE心筋炎のリスクを把握することは安全ながん治療の実施のために極めて重要であるが、最近、irAE心筋炎の発症機序に関する新しい知見が発表された。2023年10月26日のNature Medicine誌オンライン版に胸腺異常がirAE心筋炎の発症に強く関与していることを明らかにした研究成果が掲載された2)ため、以下に紹介する。Thymus alterations and susceptibility to immune checkpoint inhibitor myocarditis.この論文はパリのソルボンヌ大学を中心としたグループからの発表である。グローバル副作用報告データベース(VigiBase)や臨床試験データなど、複数のデータベースを用いて、胸腺上皮性腫瘍(以下、TET)とほかのがん腫を比較したところ、TETの心筋炎や筋炎発症のオッズ比またはリスク比が15〜38倍であったことを明らかにした。VisiBaseの解析ではほかのがん腫では心筋炎の発症率が1%であったのに対して、TETでは16%と驚異的な発症率であったことも明らかにされた。また、VigiBaseデータより、TETに関連して有意に増加するirAEは重症筋無力症様症候群、筋炎、心筋炎、肝炎であり、ほかのirAEは有意な増加を認めなかった(ただし、肝炎の診断根拠はトランスアミナーゼの上昇のみであり、その背景には肝臓の炎症ではなくむしろ筋炎などがあったことが推察される)。また、ICI心筋炎の国際的レジストリデータから、TETに関連する心筋炎は発症がより早期で、筋炎や重症筋無力症様症候群の合併が多く、致死率も高いことが明らかにされた。さらに興味深いことに、非TET患者でも、ICI心筋炎を発症した患者ではCT画像上の胸腺の形態や大きさが心筋炎を来さなかった患者に比べて有意に異なっており、非TET患者のICI心筋炎の発症にも胸腺異常が関わっていることが示唆された。また、ICI心筋炎患者はICI心筋炎を発症しなかった患者と比べて抗アセチルコリンレセプター(AChR)抗体の陽性率が4〜9倍高く(16〜36% vs. 4%)、抗AChR抗体の存在は心筋炎の発症の独立した危険因子であり、致死性心イベントの増加とも関連していた。胸腺はT細胞が分化成熟するために必須の器官であり、自己抗原を強く認識するT細胞受容体を発現するT細胞を排除する(負の選択)ことにより、自己免疫寛容の成立に寄与する。しかし、一部のT細胞は負の選択をすり抜けて末梢に出現し、心臓に関しては、心筋αミオシンに反応するT細胞が健常人においても末梢に存在しているが3)、主にPD-1/PD-L1経路による末梢性自己免疫寛容が機能しており、自己免疫性心筋炎は滅多に生じることはない。ICI投与によりこの経路がブロックされることにより心筋炎が惹起されると考えられており4)、実際にICI心筋炎動物モデルやICI心筋症患者の末梢血中に心筋ミオシン反応性T細胞が存在することが最近明らかになってきている5,6)。今回の論文から胸腺異常が心筋炎の発症と密接に関わっていることが示されたことにより、ICI心筋炎の発症に胸腺で受けるべきT細胞の正常な分化成熟の阻害が関与していることが示唆され、胸腺をすり抜けたαミオシン反応性T細胞のような心筋反応性T細胞が心筋炎の発症に寄与していることが示唆される。この論文が持つ臨床的意義はとても大きい。抗AChR抗体の存在が有力な発症予測マーカーである可能性があり、そもそも胸腺腫の既往がある人やTETに対するICIの使用はハイリスクであることが明らかになった。また、これまで加齢に伴って生じる胸腺の生物学的および形態学的な変化や成人の免疫系における胸腺の役割に関して、あまり注目がされてこなかった。しかし、この論文においてCTによる胸腺の形態学的特徴がICI心筋炎の予測マーカーとなる可能性が示されたことは、今後がん免疫療法がますます発展していく中で、大きな発見であると考える。1)Yousif LI, et al. Curr Oncol Rep. 2023;25:753–763.2)Fenioux C, et al. Nat Med. 2023;29:3100–3110.3)Lv H, et al. J Clin Invest. 2011;121:1561–1573.4)Tajiri K, et al. Jpn J Clin Oncol. 2018;48:7–12. 5)Won T, et al. Cell Rep. 2022;41:111611.6)Axelrod ML, et al. Nature. 2022;611:818–826.講師紹介

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乳がん周術期ICI治療、最新情報を総括/日本臨床腫瘍学会

 近年、いくつかのがん種で免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を使用した周術期治療が開発されている。乳がん領域では2022年9月、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対するペムブロリズマブの術前・術後治療が承認されており、他のICIを用いた試験も実施されている。さらにHR+/HER2-乳がんに対する試験も進行中である。第21回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2024)で企画されたシンポジウム「ICIで変わる、周術期治療」で、乳がんの周術期ICI治療の試験成績や進行中の試験などの最新情報を、がん研究会有明病院の尾崎 由記範氏が紹介した。乳がん周術期ICI治療で現在承認されているのはペムブロリズマブのみ 近年、切除可能TNBCに対する治療は、術前化学療法を実施し、術後に病理学的に残存病変がある場合はカペシタビンとオラパリブ(BRCA変異がある場合)を投与することが標準治療となっている。そのような中、2022年9月、術前化学療法にペムブロリズマブを上乗せし術後にペムブロリズマブを投与する治療が、国際共同第III相KEYNOTE-522試験の結果を基に承認され、現在の標準治療となっている。KEYNOTE-522試験では、病理学的完全奏効(pCR)率、無イベント生存期間(EFS)が有意に改善し、Stage、PD-L1発現、pCR/non-pCRにかかわらず有効であったことが示されている。一方、non-pCR症例では予後不良であったことから、新たな治療戦略が検討されている(後述)。 KEYNOTE-522試験については、ペムブロリズマブ群における5年EFS割合の改善が9%であることと、Grade3以上の免疫関連有害事象(irAE)発現割合(術前薬物療法期)が13.0%ということが釣り合うのか、という議論がしばしば行われるが、尾崎氏は、TNBCの再発後の予後が約2年ということを考慮すると釣り合う、との理解だ。本試験では、ペムブロリズマブ群で薬物療法中止例が1割程度増えるが、手術実施割合の低下は1%未満である。これはirAEをしっかり管理することでほとんどの症例で手術可能であることを示しており、リスクベネフィットバランスを議論するうえで非常に重要なデータと考える、と尾崎氏は述べた。pCR症例の術後ペムブロリズマブは省略可能か?non-pCR症例の術後治療は? KEYNOTE-522試験では、術前化学療法+ペムブロリズマブでpCRが得られた症例は予後良好であることから、術後のペムブロリズマブは省略可能ではないかと考える医師が多い。この疑問を解決するために、現在、pCR症例にペムブロリズマブの投与と経過観察を比較するOptimICE-pCR試験が進行中である。 一方、non-pCR症例に対しては、ペムブロリズマブ単独で十分であると考える医師は少なく、従来使用されてきたカペシタビンやオラパリブ(BRCA変異がある場合)を逐次投与するという施設も増えているという。さらに、より有効な術後治療が検討されており、sacituzumab govitecan+ペムブロリズマブの効果を検討するASCENT-05/OptimICE-RD試験、datopotamab deruxtecan+デュルバルマブの効果を検討するTROPION-Breast03試験が進行中である。 また、ペムブロリズマブによる術前・術後治療後に再発した症例に対しては、西日本がん研究機構(WJOG)においてペムブロリズマブ+パクリタキセル+ベバシズマブの効果を検討するPRELUDE試験が計画中という。予後不良症例に対する新規治療戦略や、他のICIを用いた開発が進行中 TNBCの周術期ICI治療に現在承認されているのはペムブロリズマブのみだが、他の薬剤の試験も実施されている。 アテゾリズマブについては、術前・術後に投与したIMpassion031試験において、pCRの改善は認められたが、EFSは改善傾向がみられたものの統計学的に有意な改善が認められなかった。しかしながら、対照群がKEYNOTE-522試験と同様のGeparDouze/NSABP-B59試験が進行中であり、結果が注目される。 術前・術後の両方ではなく、どちらかのみICIを投与するレジメンも検討されている。術前のみの投与については、アテゾリズマブを用いたneoTRIP試験はnegativeだったが、デュルバルマブを用いたGeparNeuvo試験(第II相試験)において、pCRでは差がなかったもののEFSの改善が認められている。術後のみの投与については、アテゾリズマブを用いたAlexandra/IMpassion030試験ではEFSの改善が認められておらず、ペムブロリズマブを用いたSWOG1418/BR006試験は現在進行中である。尾崎氏は、これまでの成績からは術前・術後とも投与することが重要ではないかと考察している。HR+/HER2-乳がんに対する周術期ICI治療の開発 TNBCだけではなく、現在、他のサブタイプに対しても周術期ICI治療の開発試験が行われている。高リスクのHR+/HER2-乳がんに対して術前化学療法および術後内分泌療法へのICIの上乗せ効果を検討する試験として、ペムブロリズマブのKEYNOTE-756試験とニボルマブのCheckMate 7FL試験が進行中だが、どちらも有意なpCR率の改善が示されており、EFSの結果が期待される。 尾崎氏は、これらの開発状況を踏まえ、「乳がん領域においても、今後さらに周術期ICI治療が増えてくる」と期待を示し、講演を終えた。

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転移を有する腎細胞がん、ctDNAと予後の関連が日本人大規模データで示される(MONSTAR SCREEN)/日本臨床腫瘍学会

 転移を有する腎細胞がん(mRCC)における血中循環腫瘍DNA(ctDNA)の臨床的有用性が指摘されているが、大規模なデータは不足している。産学連携全国がんゲノムスクリーニングコンソーシアム(SCRUM-Japan)によるMONSTAR-SCREEN1の泌尿器がんグループから、大阪大学の加藤 大悟氏がmRCCにおけるctDNA解析結果を第21回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2024)で発表した。 2019年4月~2021年9月、mRCC患者124例を対象に治療前後のctDNA解析(商品名:FoundationOne Liquid CDx)を実施した。34例については組織検体を用いたゲノムプロファイリング(商品名:FoundationOne CDx)も実施された。 主な結果は以下のとおり。・患者特性は年齢中央値が66(21~83)歳、男性が76.0%、淡明細胞型が91.0%、IMDCリスク分類はIntermediateが61.2%、Poorが21.5%であった。・1次治療の症例が74.4%を占め、うち92.7%が免疫チェックポイント阻害薬併用療法を受けていた。・組織検体と血漿検体の検査結果の一致率は16.8%で、18%という過去の報告1)と同様であった。・治療前ctDNAにおけるtumor fraction(TF)中央値は1.15%(四分位範囲:0.62~2.85)であり、治療前TF>1.2%の症例と比較し治療前TF<1.2%の症例で有意に予後が良好であった(全生存期間中央値:28.3ヵ月vs.NR、p=0.0143)。・84.5%で何らかの病的変異が検出され、1症例当たりの変異数中央値は3であった。・治療前ctDNAにおけるBAP1(p=0.0003)およびTP53(p=0.025)の変異は予後不良と有意に関連していた。・治療前後のctDNAの一致率は54.6%で、TP53、VHLなどで治療後に新たに変異が発現あるいは発現頻度が増加した。・病勢進行までの期間について、新規遺伝子変異が認められた症例ではそれ以外の症例と比較して有意に短く(中央値:14.1週vs.44.8週、p=0.046)、新規遺伝子変異数が多いほど短かった(p=0.032)。・治療後の新規遺伝子変異のうち7つについては、FDA承認済の薬剤の対象となりうることが明らかとなった。 加藤氏は、「本データはアジア人mRCC患者における最初の大規模なctDNAを用いた遺伝子プロファイリングデータであり、臨床予後との関連が示された。今後はリファレンスデータとして活用されることが期待され、現在はアジア人とヨーロッパ人の間のctDNAにおける特徴の違いの評価にも取り組んでいる」とした。

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T-DXd中止後の乳がん治療、最も多いレジメンは?(EN-SEMBLE)/日本臨床腫瘍学会

 切除不能または転移を有するHER2陽性乳がん患者を対象に、T-DXd中止後に実施した治療レジメンの分布を調査したEN-SEMBLE試験の中間解析の結果、半数以上の患者が抗HER2療法を継続していたことを、愛知県がんセンターの能澤 一樹氏が第21回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2024)で発表した。 現在、T-DXdの後治療に関しては見解が割れており、間質性肺疾患などの有害事象や病勢進行によってT-DXdを中止した後の最適な治療の決定は喫緊の課題である。そこで、研究グループは、T-DXd中止後に使用される治療レジメンの分布とその有効性・安全性を検討するために多施設コホート研究を行った。今回は、中間解析としてT-DXd中止後の治療レジメンの分布に関するデータが発表された(データカットオフ:2023年5月31日)。 対象は、特定使用成績調査に登録し、切除不能または転移を有するHER2陽性の乳がんに対して2020年5月25日~2021年11月30日にT-DXdの投与を開始したものの、2023年5月31日までに中止し、後治療を開始した患者であった。主要評価項目は、T-DXd中止後の治療レジメンの分布、無増悪生存期間、治療成功期間、後治療に切り替えるまでの期間、全生存期間、全奏効率などで、T-DXdを中止した理由別に評価される予定。 主な結果は以下のとおり。・解析には664例が組み込まれた。65歳未満は62.5%、年齢中央値は60.0歳(範囲 30~89歳)、女性が99.5%であった。・T-DXdの後治療で多かったのは、(1)トラスツズマブ+ペルツズマブ(204例[30.7%])、(2)トラスツズマブ(157例[23.6%])、(3)ラパチニブ(104例[15.7%])を含むレジメンであった。・(1)のトラスツズマブ+ペルツズマブを含むレジメン(30.7%)にさらに併用された治療は、化学療法が23.0%(エリブリン11.6%、ビノレルビン2.7%、ドセタキセル2.0%、パクリタキセル2.0%、カペシタビン1.5%、S-1 1.2%など)、内分泌療法が2.7%(フルベストラント0.9%、レトロゾール0.9%、アナストロゾール0.5%など)で、併用薬なしは4.7%であった。・(2)のトラスツズマブを含むレジメン(23.6%)にさらに併用された治療は、化学療法が16.7%(エリブリン5.4%、ビノレルビン3.8%、S-1 2.0%、ゲムシタビン1.5%、カペシタビン1.4%、パクリタキセル1.2%など)、内分泌療法が2.7%(フルベストラント0.9%、アナストロゾール0.8%、タモキシフェン0.5%など)で、併用薬なしは4.2%であった。・(3)のラパチニブを含むレジメン(15.7%)にさらに併用された薬剤は、カペシタビン13.6%、レトロゾール0.6%、アナストロゾール0.5%などで、併用薬なしは0.3%であった。・エリブリンが投与された130例(19.6%)のうち、併用が多かったのはHER2抗体薬17.3%(トラスツズマブ+ペルツズマブ11.6%、トラスツズマブ5.4%、トラスツズマブ+ペルツズマブ+レトロゾール0.2%、トラスツズマブ+ペルツズマブ+その他の薬剤0.2%)、ドセタキセル0.2%で、併用薬なしは2.1%であった。・ベバシズマブが投与された53例(8.0%)のうち、パクリタキセルが併用されたのは7.8%、nab-パクリタキセルが併用されたのは0.2%であった。・CDK4/6阻害薬が投与された19例(2.9%)のうち、アベマシクリブとの併用が多かったのはフルベストラント1.2%、アナストロゾール0.5%、エキセメスタン0.2%、レトロゾール0.5%、LH-RHアゴニスト0.2%、パクリタキセル0.2%であった。パルボシクリブとの併用が多かったのはレトロゾール0.5%、フルベストラント0.5%であった。・化学療法の有無別にみると、化学療法を含む後治療は484例(72.9%)であった。化学療法との併用で多かったのは、抗HER2療法53.3%、化学療法のみ9.8%、分子標的薬(抗HER2療法以外)8.1%、抗HER2療法+内分泌療法0.9%、抗HER2療法+その他の薬剤0.3%、抗HER2療法+分子標的薬(抗HER2療法以外)0.3%、免疫チェックポイント阻害薬0.2%であった。・化学療法を含まない後治療は180例(27.1%)であった。抗HER2療法のみが11.1%で最も多かったが、抗HER2療法+内分泌療法6.8%、内分泌療法のみ4.2%、分子標的薬(抗HER2療法以外)+内分泌療法3.0%、分子標的薬(抗HER2療法以外)のみ0.5%、抗HER2療法+分子標的治療(抗HER2療法以外)0.2%などもあった。 これらの結果より、能澤氏は「T-DXd中止後の乳がん治療において、半数以上の患者が抗HER2療法を継続していたことが明らかになった。最終的な分析として、後治療のレジメンの有効性と安全性を調査する予定である。EN-SEMBLE試験の結果は、アンメット・メディカル・ニーズであるT-DXdの後治療の最適化に関する知見を提供できると考える」とまとめた。

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胃がん1次治療のzolbetuximab、2試験の日本人サブグループ解析結果(SPOTLIGHT・GLOW)/日本臨床腫瘍学会

 CLDN18.2陽性、HER2陰性で、未治療の切除不能な局所進行または転移のある胃腺がん/食道胃接合部腺がん患者において、CLDN18.2を標的とするモノクローナル抗体zolbetuximabは日本において保険承認申請中であり、近日中の承認が見込まれている。この承認申請の根拠となった第III相SPOTLIGHT試験およびGLOW試験の日本人サブグループの解析結果が、第21回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2024)で発表された。【SPOTLIGHT試験】 がん研有明病院の山口 研成氏がPresidential Session 4で発表した。・対象:CLDN18.2陽性、HER2陰性、PS0~1、未治療の切除不能な局所進行または転移のある胃腺がん/食道胃接合部腺がんの成人患者・評価項目: [主要評価項目]無増悪生存期間(PFS) [副次評価項目]全生存期間(OS)、奏効率(ORR)、安全性など・試験群:zolbetuximab(800mg/m2、その後600mg/m2を3週ごと)+mFOLFOX6(2週ごと):zolbetuximab群・対照群:プラセボ+mFOLFOX6(2週ごと):プラセボ群 [全体集団]zolbetuximab群(283例)、プラセボ群(282例)・PFS中央値:zolbetuximab群10.61ヵ月、プラセボ群8.67ヵ月(ハザード比[HR]:0.751)・OS中央値:zolbetuximab群18.23ヵ月、プラセボ群15.54ヵ月(HR:0.750)・ORR:zolbetuximab群60.7%、プラセボ群62.1%・有害事象:Grade3以上は、zolbetuximab群で279例中242例(87%)、プラセボ群で278例中216例(78%)。主なGrade3以上の有害事象は悪心、嘔吐、食欲減退で、治療関連死は、zolbetuximab群で5例(2%)、プラセボ群で4例(1%)報告された。 [日本人サブグループ]zolbetuximab群(32例)、プラセボ群(33例)・PFS中央値:zolbetuximab群18.07ヵ月、プラセボ群8.28ヵ月(HR:0.493)・OS中央値:zolbetuximab群23.10ヵ月、プラセボ群17.71ヵ月(HR:0.719)・ORR:zolbetuximab群70.8%、プラセボ群53.8%・有害事象:Grade3以上は、zolbetuximab群で31例中24例(77.4%)、プラセボ群で32例中22例(68.8%)。主な有害事象は嘔吐(zolbetuximab群90.3%対プラセボ群53.1%)、末梢神経障害(74.2%対46.9%)、食欲減退(71.0%対53.1%) 。Grade3以上の有害事象は好中球減少症(54.8%対50.0%)が多かった。【GLOW試験】 国立がん研究センター中央病院の庄司 広和氏がOral Session 3で発表した。・対象:CLDN18.2陽性、HER2陰性、PS0~1、未治療の切除不能な局所進行または転移のある胃腺がん/食道胃接合部腺がんの成人患者・評価項目: [主要評価項目]PFS [副次評価項目]OS、ORR、安全性など ・試験群:zolbetuximab(800mg/m2、その後600mg/m2を3週ごと)+CAPOX(21日ごと):zolbetuximab群・対照群:プラセボ++CAPOX(21日ごと):プラセボ群 [全体集団]zolbetuximab群(254例)、プラセボ群(253例)・PFS中央値:zolbetuximab群8.21ヵ月、プラセボ群6.80ヵ月(HR:0.687)・OS中央値:zolbetuximab群14.39ヵ月、プラセボ群12.16ヵ月(HR:0.771)・ORR:zolbetuximab群53.8%、プラセボ群48.8%・有害事象:zolbetuximab群で最も発現頻度の高かった有害事象は、悪心(68.5%)、嘔吐(66.1%対)、食欲減退(41.3%)だった。 [日本人サブグループ]zolbetuximab群(24例)、プラセボ群(27例)・PFS中央値:zolbetuximab群20.80ヵ月、プラセボ群8.28ヵ月(HR:0.352)・OS中央値:zolbetuximab群24.18ヵ月、プラセボ群14.69ヵ月(HR:0.494)・ORR:zolbetuximab群68.8%、プラセボ群61.9%・有害事象:多かった有害事象は末梢神経障害(zolbetuximab群79.2%対プラセボ群51.9%)、嘔吐(62.5%対55.6%)、食欲減退(54.2%対51.9%) だった。Grade3以上有害事象の発生率は大きな差はなかった(58.3%対63.0%)。 この2試験の結果を受け、Presidential Session 4では韓国・Yonsei Cancer HospitalのSun Young Rha氏がディスカッサントとなり、議論が行われた。Rha氏は「SPOTLIGHT試験とGLOW試験はほぼ同時期に同デザインで行われた試験である。SPOTLIGHT試験は全体集団と日本人集団で大きな傾向は同じだったが、日本人集団はPFSが良好だった。GLOW試験では日本人のPFSが全体集団と比較して非常に長く、両群に差も付いた。OSも全体集団より良好な結果だ。日本人の参加例が少ないためかもしれないが、これらの要因については今後の検討が必要だろう。胃がん1次治療は免疫チェックポイント阻害薬とzolbetuximabの比較など、多くの検討課題が出ている。人種間の比較やリアルワールドデータの検討も重要だ」とした。

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2030年末までにグローバル売上の3分の1をオンコロジーにする/ギリアド

 ギリアド・サイエンシズは2024年2月19日、都内でオンコロジーメディアラウンドテーブルを開催した。 社長のケネット・ブライスティング氏はオンコロジー領域の展開に関する全体像を説明した。 ギリアドはグローバル戦略として、2030年末までに売り上げの3分の1をオンコロジー領域にするという目標を掲げている。日本法人でも、従来のウイルスや炎症に加え、オンコロジーを新たな注力領域とした。すでに、2023年のAxi-Cel(商品名:イエスカルタ)販売承継、24年には抗Trop-2抗体薬物複合体sacituzumab govitecan(SG)の乳がんに対する国内製造承認を申請している。25年以降は、肺がんなど固形がんに対するSGの追加適応、急性リンパ性白血病およびメルケル細胞リンパ腫を適応とした同社2剤目となるCAR-T brexucabtagene autoleucel(Brexu-Cel)の上市を計画している。 開発本部長の表 雅之氏は固形がんにおけるSGの展開について説明した。Trop-2は上皮細胞の膜表面タンパクで細胞内シグナル伝達に関与する。さらにTrop-2高発現は、がんの予後不良因子であることが知られる。SGはTrop-2を標的とした抗体とイリノテカンの活性代謝物SN-38の抗体複合体として抗腫瘍活性を発揮する。 SGはトリプルネガティブ乳がん(TNBC)、HR+/HER2-乳がん、および尿路上皮がん治療薬として海外で承認されている。日本では2024年1月、第III相ASCENT試験1)および国内第II相ASCENT-J02試験2)の結果を基に、2ライン以上の治療歴のある進行TNBCに対する製造承認申請をした。乳がんに対してはさらに、TNBCの1次治療3)、HER2-例の術後補助療法4)、HR+例(3次治療および内分泌療法抵抗例)5)についての治験もグローバルで行われている。 SGの開発は非小細胞肺がん(NSCLC)でも進行中である。今年(2024年)1月にプレス発表された既治療のNSCLCにおける第III相EVOKE-01試験では、主要評価項目(全生存期間[OS])は未達であったものの、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)無効例では3ヵ月以上OSを延長したと発表している6)。NSCLCではさらに、1次治療での試験7)、ICIとの併用8)も進行中である。 そのほか胃・食道胃接合部がん、頭頸部がん、小細胞肺がん、子宮内膜がん、大腸がん、膵がんでSGのグローバル臨床試験が進行している。日本ではTNBC、HR+HER2-乳がん、膀胱がん、NSCLCで治験を実施中である。 ブライスティング氏は今後の開発について、多くの製薬企業やバイオテック企業と連携して開発を推進したいとしている。また、昨今問題となっているドラッグロス問題に関連して、グローバルの試験には日本法人として第III相から参加していきたいと述べた。■参考1)ASCENT試験(Clinical Trials.gov)2)ASCENT‐J02試験(jRCT)3)ASCENT-03試験(Clinical Trials.gov)4)SASCIA試験(Clinical Trials.gov)5)TROPiCS-02試験(Clinical Trials.gov)6)EVOKE-01試験(Clinical Trials.gov)7)EVOKE-02試験(Clinical Trials.gov)8)EVOKE-03試験(Clinical Trials.gov)

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新規抗体薬物複合体SG、既治療のNSCLCに対する第III相試験の結果(EVOKE-01)/ギリアド

 ギリアド・サイエンシズは2024年1月22日、既治療の進行または転移のある非小細胞肺がん(NSCLC)に関するsacituzumab govitecan(SG)の第III相EVOKE-01試験において、主要評価項目である全生存期間(OS)を達成できなかったと発表した。 EVOKE-01試験はプラチナベース化学療法や免疫チェックポイント阻害薬でPDとなった進行または転移のあるNSCLCを対象に、SGとドセタキセルを比較した試験である。 結果、主要評価項目であるOSは、SG群において良好な傾向が認められたものの、統計学的有意には至らなかった。もっとも、試験集団の60%超を占める、抗PD-1/L1抗体に奏効しなかったサブグループでは、対照群に比べてSG群で3ヵ月以上のOS延長が認められたとしている。 今回のデータは今後開催される医学学会で発表される。また、ギリアドは同試験の結果について規制当局との議論を予定している。 SGのNSCLCに関する臨床開発プログラムは、EVOKE-01以外にペムブロリズマブとの併用による第II相EVOKE-02試験、PD-L1高発現例の1次治療に関する第III相EVOKE-03試験が進行中である。

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腎臓がん患者でのニボルマブの皮下注は点滴静注に劣らず

 治療歴を有する腎細胞がん患者に対する免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブ(商品名オプジーボ)の皮下注は、点滴静注と比べて薬物動態と奏効率について非劣性であることが、米ロズウェルパーク総合がんセンターのSaby George氏らが実施した臨床試験で示された。研究グループは、「この結果は、がん患者の時間と医療費の削減につながる可能性がある」と述べている。この研究結果は、米国臨床腫瘍学会(ASCO)泌尿器がんシンポジウム(1月25~27日、米サンフランシスコ)で発表された。 George氏は、「ニボルマブの点滴静注は患者にとって大きな負担となる。ニボルマブを皮下注で投与できるのであれば、点滴椅子に1時間座っての治療が所要時間5分の注射で済むため、患者の治療体験は大幅に改善されるはずだ」と話す。 今回の試験では、ロズウェルパークを含む17カ国73カ所のがん治療センターで標準的な治療を受けた進行または転移性淡明細胞型腎細胞がん患者495人を、ヒトヒアルロニダーゼ配合のニボルマブを点滴静注で投与する群(247人、年齢中央値66歳)と皮下注で投与する群(248人、年齢中央値64歳)にランダムに割り付け、転帰を比較した。対象者は1〜2種類の標準的な化学療法をすでに受けていたが、免疫療法薬の使用は初めてだった。 その結果、ニボルマブの初回投与から28日目までの同薬の平均血中濃度と定常状態での同薬の最低血中濃度について、皮下注群は点滴静注群に対して非劣性であることが確認された(平均血中濃度:幾何平均比2.098、90%信頼区間2.001〜2.200、最低血中濃度:同1.774、1.633〜1.927)。また、盲検下独立中央判定委員会(BICR)が評価する客観的奏効率(ORR)は、皮下注群で24.2%、点滴静注群で18.2%であり、無増悪生存期間は前者で7.23カ月、後者で5.65カ月であった。 研究グループは、「ニボルマブは複数のがん種にわたって米食品医薬品局(FDA)の承認を受けている。そのため、今回、腎細胞がん患者に対して示された同薬の有効性は、他のがん治療にも適用できる可能性を示唆するものだ」との見方を示す。 一方George氏は、「これは患者にとっても医師にとっても画期的な成果だ。患者がニボルマブによる治療を容易に受けられるようになることは間違いない」とロズウェルパークのニュースリリースで述べている。同氏は、「ニボルマブの皮下注が可能になれば、クリニックでのニボルマブ投与が可能になり、患者を輸液センターに送る必要がなくなる。そうなれば、患者に薬剤が投与されるまでの時間も短縮されるだろう」と話す。また、クリニックでの投与が可能になれば、治療へのアクセスの問題も緩和されるため、都市部と地方のがん患者間の格差も縮小する可能性があると指摘している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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悪性黒色腫への個別化mRNAワクチン+ペムブロリズマブの効果は?(KEYNOTE-942)/Lancet

 完全切除後の高リスク悪性黒色腫に対する術後補助療法として、個別化mRNAがんワクチンmRNA-4157(V940)とペムブロリズマブの併用療法は、ペムブロリズマブ単剤療法と比較し、無再発生存期間(RFS)を延長し、安全性プロファイルは管理可能であった。米国・Laura and Isaac Perlmutter Cancer Center at NYU Langone HealthのJeffrey S. Weber氏らが、米国およびオーストラリアで実施した第IIb相無作為化非盲検試験「KEYNOTE-942試験」の結果を報告した。免疫チェックポイント阻害薬は、切除後のIIB~IV期悪性黒色腫に対する標準的な術後補助療法であるが、多くの患者が再発する。mRNA-4157は、脂質ナノ粒子製剤中に最大34個のネオアンチゲンをコードするmRNAを含む個別化ワクチンで、個人の腫瘍mutanomeとヒト白血球抗原(HLA)タイプに特異的に合わせて調製されている。著者は、「今回の結果は、mRNAに基づく個別化ネオアンチゲン療法の術後補助療法における有益性を示すエビデンスとなる」とまとめている。Lancet誌オンライン版2024年1月18日号掲載の報告。主要評価項目は無再発生存期間(RFS) 研究グループは、切除可能なIIIB~IV期(IIIB期は前回の手術から3ヵ月以内の再発のみ適格)の悪性黒色腫を有する18歳以上で、ペムブロリズマブ初回投与の13週間前までに完全切除術を受け、試験開始時に臨床的および放射線学的に無病であり、ECOG PSが0または1の患者を、mRNA-4157+ペムブロリズマブ併用療法(併用療法群)またはペムブロリズマブ単剤療法(単剤療法群)に、病期で層別化して2対1の割合で無作為に割り付け追跡評価した。mRNA-4157は1mgを3週間間隔で最大9回筋肉内投与、ペムブロリズマブは200mgを3週間間隔で最大18回静脈内投与した。 主要評価項目は、ITT集団におけるRFS、副次評価項目は無遠隔転移生存、安全性などであった。ペムブロリズマブ単剤に対するmRNA-4157併用のハザード比は0.561 2019年7月18日~2021年9月30日に、157例が併用療法群(107例)および単剤療法群(50例)に割り付けられた。追跡期間中央値は、それぞれ23ヵ月および24ヵ月であった。 データカットオフ時点(2022年11月14日)で、再発または死亡のイベントは併用療法群で24例(22%)、単剤療法群で20例(40%)に発生し、RFSは併用療法群が単剤療法群と比べて延長し(再発または死亡のハザード比[HR]:0.561、95%信頼区間[CI]:0.309~1.017、両側p=0.053)、18ヵ月RFS率はそれぞれ79%(95%CI:69.0~85.6)、62%(95%CI:46.9~74.3)であった。 治療関連有害事象の多くはGrare1または2であり、Grare3以上は併用療法群でmRNA-4157関連事象12例(12%)、ペムブロリズマブ関連事象24例(23%)、単剤療法群でペムブロリズマブ関連事象9例(18%)であった。 有害事象によりペムブロリズマブの投与を中止した患者は、併用療法群で26例(25%)、単剤療法群で9例(18%)であった。免疫関連有害事象は、併用療法群で37例(36%)、単剤療法群で18例(36%)に認められた。

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進行大腸がんでの免疫療法、治療中止後もその効果は持続か

 免疫チェックポイント阻害薬による治療を中止した進行大腸がん患者の多くは、治療中止から2年後でもがんが進行していないことが、新たな研究で確認された。本研究論文の上席著者である米テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの消化器腫瘍内科のVan Karlyle Morris氏は、「ほとんどの患者のがんが治療中止後も進行しなかったという事実は、医師から治療の中止を提案された患者を安堵させるはずだ」と話している。 免疫チェックポイント阻害薬は、多くの大腸がん患者に新たな希望をもたらしている。通常、この治療薬により腫瘍が収縮するか安定化した場合には、医師は患者に治療の中止を提案する。当然のことながら、患者は、効果が現れている上に副作用も少ない治療を中止することに不安を抱く。Morris氏は、「ステージ4の大腸がん患者が、治療を中止した場合の再発リスクを心配するのは当然だ。この研究に着手した当初、われわれはそのリスクがどの程度のものなのかを知らなかった」と米国がん学会のニュースリリースで述べている。 この研究では、DNAミスマッチ修復機能欠損(dMMR)/高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)の転移性大腸がんまたは進行大腸がんと診断され、2014年から2022年の間に免疫療法を受けて奏効が確認された患者64人(免疫療法開始時の年齢中央値64歳)の医療データが後ろ向きに評価された。これらの患者は、治療開始時にがんの切除は不可能と判断され、キイトルーダ(一般名ペムブロリズマブ)やオプジーボ(一般名ニボルマブ)などのヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体単剤での、あるいはヒト型抗ヒトCTLA-4モノクローナル抗体との併用による免疫療法を受け、治療効果(48人)または副作用(16人)を理由に免疫療法を中止していた。免疫療法を受けた期間の中央値は17.6カ月(範囲1.3〜51.9カ月)だった。 その結果、治療中止から中央値22.6カ月(範囲0.3〜71.7カ月)後でも88%(56/64人)の患者でがんは進行していないことが確認された。全患者での無増悪生存期間の中央値は53.9カ月であり、治療中止から1、2、3年後の無増悪生存率は、同順で98%、91%、84%と推定された。この結果は、免疫療法の中止理由にかかわりなく同様であった。8人の患者で認められた再発/進行は肺転移とのみ有意な関連を示し、共存変異や原発巣の位置、免疫療法との関連は有意ではなかった。再発/進行が認められた8人中7人で免疫療法が再開され、治療完了時には全員で奏効または病勢の安定が認められたという。最終的に2人が死亡したが、うち1人の死因はがんとは無関係だった。 Morris氏は、「BRAF遺伝子変異を持つ患者の治療を中止するのは気が進まないという話をがん専門医からよく聞くが、この研究では、変異の有無とがん再発の可能性との間に関連性は認められなかった」と述べている。 ただし、研究グループは、本研究が単施設で実施された小規模な後ろ向き研究である点を強調している。本研究は米国国立がん研究所(NCI)から資金提供を受けて実施された。

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高リスクHER2+乳がん、術前療法へのアテゾリズマブ追加でpCR改善は(APTneo)/SABCS2023

 HER2陽性高リスク乳がんに対する術前補助療法として、トラスツズマブ(H)+ペルツズマブ(P)+化学療法は標準治療となっている。また、抗HER2療法に対する免疫系の寄与を示すデータが報告され、免疫チェックポイント阻害薬と抗HER2抗体の組み合わせが裏付けられている。イタリア・Fondazione MichelangeloのLuca Gianni氏らは、HP+化学療法へのアテゾリズマブ(±アントラサイクリン)の追加を評価することを目的として、第III相APTneo試験を実施。サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2023)で病理学的完全奏効(pCR)についてのデータを報告した。・対象:HER2陽性の切除可能または局所進行乳がん患者(化学療法未治療)・試験群AC+アテゾリズマブ併用群:AC(ドキソルビシン+シクロホスファミド)+アテゾリズマブ(1,200mg 3週ごと静脈内投与)×3サイクル→HPCT(トラスツズマブ+ペルツズマブ+カルボプラチン+パクリタキセル)+アテゾリズマブ×3サイクル→手術→HP+アテゾリズマブ 218例アテゾリズマブ併用群:HPCT+アテゾリズマブ×6サイクル→手術→HP+アテゾリズマブ 220例・対照群:HPCT×6サイクル→手術→HP 223例・評価項目:[主要評価項目]試験群vs.対照群の無イベント生存期間(EFS)[副次評価項目]pCR、忍容性、予測マーカーの評価など 主な結果は以下のとおり。・ベースラインにおける患者特性は3群でバランスがとれており、年齢中央値は49~50歳、局所進行乳がんは44.1~45.3%、PD-L1陽性は29.8~30.9%、ホルモン受容体陽性は61.0~69.1%であった。・副次評価項目のpCR率は、対照群52.0%に対し試験群57.8%で有意な改善はみられなかった(p=0.091)。AC+アテゾリズマブ併用群のpCR率は61.9%で対照群と比較して有意に改善したが(p=0.022)、アテゾリズマブ併用群のpCR率(53.6%)と比較して有意な差はみられなかった(p=0.089)。・重篤な有害事象(SAE)は、対照群で6.8%、試験群で14.1%に発生した。AC療法による血液毒性のため、アテゾリズマブ併用群(11.6%)よりもAC+アテゾリズマブ併用群(16.7%)で頻度が高かった。・免疫関連のSAEはAC+アテゾリズマブ併用群で4.7%、アテゾリズマブ併用群で7.8%と頻度が高いわけではなく、臨床的にコントロール可能なものであった。 Gianni氏は、「HER2陽性の早期高リスクおよび局所進行乳がん患者において、HP+化学療法へのアテゾリズマブの追加は、数値としてpCR率の5.8%増加が確認されたものの統計学的有意差は得られなかった。探索的解析において、AC+アテゾリズマブ併用群におけるpCR率は統計学的に有意に高いことが示されており、アントラサイクリンの直接効果あるいはアテゾリズマブによるAC療法の機構的増強のいずれかが示唆されるのではないか」と結論付けている。同試験はEFSの解析まで現在も進行中。

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再発・進行子宮頸がん、アテゾリズマブ+ベバシズマブ+化学療法がOS・PFS改善(BEATcc)/Lancet

 転移、治療抵抗性、再発のいずれかを有する子宮頸がんにおいて、ベバシズマブ+プラチナ製剤を含む化学療法へのアテゾリズマブの上乗せは、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)ともに有意に延長することが、スペイン・バルデブロン腫瘍学研究所のAna Oaknin氏らが行った研究者主導の第III相無作為化非盲検試験「BEATcc試験」の結果で示された。転移のあるまたは再発の子宮頸がんに対しては、GOG240試験でベバシズマブ+化学療法が標準的な1次治療として確立されており、今回のBEATcc試験(ENGOT-Cx10/GEICO 68-C/JGOG1084/GOG-3030)ではこれに加えて免疫チェックポイント阻害薬の上乗せを評価した。結果を踏まえて著者は、アテゾリズマブの追加について「1次治療の新たな選択肢と見なすべきである」としている。Lancet誌オンライン版2023年12月1日号掲載の報告。日本、欧州、米国の医療機関92ヵ所で試験 BEATcc試験は、日本、欧州、米国の医療機関92ヵ所で行われた。対象は測定可能な病変を有し、転移(StageIVB)、治療抵抗性、再発のいずれかを認める子宮頸がんで、未治療、手術・放射線療法が非適応の18歳以上の患者であった。 被験者は1対1の割合で無作為に2群に分けられ、標準療法(シスプラチン50mg/m2またはカルボプラチンAUC5、パクリタキセル175mg/m2、ベバシズマブ15mg/kg、いずれも3週ごとに投与)、または標準療法にアテゾリズマブ1,200mg(3週ごとに投与)を上乗せするアテゾリズマブ併用療法を受けた。病勢進行、許容できない毒性、患者の離脱もしくは死亡まで治療を継続した。併用化学放射線療法歴の有無、組織学的分類(扁平上皮がん、腺扁平上皮がんを含む腺がん)、プラチナ製剤(シスプラチン、カルボプラチン)で層別化した。 主要評価項目は2つで、RECISTに基づく治験責任医師評価のPFSと、ITT集団におけるOSとした。PFS中央値、標準療法群10.4ヵ月、アテゾリズマブ併用群13.7ヵ月 2018年10月8日~2021年8月20日に、適格性の評価を受けた519例中410例が試験に登録された(アテゾリズマブ併用群206例、標準療法群204例)。ベースラインでの両群の特性は類似しており、年齢中央値はアテゾリズマブ併用群51.0歳(四分位範囲[IQR]:43.0~60.0)、標準療法群52.5歳(43.5~61.0)、ECOG PS0は67%と63%であった。また、410例のうち263例(64%)が手術の有無にかかわらず化学療法既往で、90例(22%)が試験登録時にStageIVBであった。日本人の参加は、アテゾリズマブ併用群30例(15%)、標準療法群26例(13%)。 主要解析のデータカットオフ時点(2023年7月17日)で、全集団の追跡期間中央値は32.9ヵ月(95%信頼区間[CI]:31.2~34.6)。同時点のPFS中央値は、アテゾリズマブ併用群13.7ヵ月(95%CI:12.3~16.6)、標準療法群10.4ヵ月(9.7~11.7)だった(ハザード比[HR]:0.62、95%CI:0.49~0.78、p<0.0001)。 また、中間解析(データカットオフ時点)でのOS中央値は、アテゾリズマブ併用群32.1ヵ月(95%CI:25.3~36.8)、標準療法群22.8ヵ月(20.3~28.0)だった(HR:0.68、95%CI:0.52~0.88、p=0.0046)。 Grade3以上の有害事象の発現は、アテゾリズマブ併用群79%、標準療法群75%。アテゾリズマブ併用群で発現増大が認められた有害事象は、Grade1~2の下痢、関節痛、発熱、発疹だった。

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HER2陽性胃がん・食道胃接合部腺がんの初期治療における免疫チェックポイント阻害薬と標準化学療法併用の有効性(解説:上村直実氏)

 手術不能な胃がん・食道胃接合部腺がんに対する薬物療法として、20年以上前から5-FUを代表とするフッ化ピリミジン系薬剤とシスプラチンやオキサリプラチンなどのプラチナ系薬剤の併用療法(FP療法)が標準的化学療法となっていた。その後、細胞増殖に関わるHER2遺伝子の有無による分類がなされ、HER2陽性の胃がん・食道胃接合部腺がんに対するFP療法に抗HER2抗体であるトラスツズマブを加えたレジメンが標準治療として確立している。 一方、最近、免疫チェックポイント阻害薬の登場に伴って、手術不能な消化器がんに対する薬物療法が大きく様変わりしており、切除不能なHER2陰性胃がんに対しては、FP療法に免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブやペムブロリズマブを加えた3剤併用治療が標準治療レジメンとして確立しつつある。今回は、HER2陽性の胃がん・食道胃接合部腺がんに対して、標準治療であるトラスツズマブ+FP療法に抗PD-1抗体ペムブロリズマブを併用する有用性を検証する試験結果が、2023年10月16日のLancet誌オンライン版に掲載された。この報告は中間解析であるが、ペムブロリズマブ群の無増悪生存期間がプラセボ群に比べて有意に延長された結果が示されている。なお、本試験は継続中であり、厳密に言えば、今後の最終結果を待つ必要もあるが、切除不能胃がんに対する1次治療に免疫チェックポイント阻害薬を含むレジメンが一般的になるものと思われた。 最後に、本年の3月、zolbetuximabに関する論文に対するコメントでも指摘したのだが、臨床現場では、通常の胃がんと食道胃接合部腺がんの両者は浸潤様式や発育速度において異なる生物学的特性を有することが多いことが知られていることから、両疾患をひとまとめにするのではなく、適切な臨床研究デザインによる精緻なエビデンスが期待される。

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