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副作用編:下痢(抗がん剤治療中の下痢対応)【かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ】第2回

今回は化学療法中によく遭遇する「下痢」についてです。私自身が消化器内科医でもあるので下痢はお手のもの! と言いたい所ですが、下痢は非常に奥が深く、難渋することもあります。このコラム1回分ではとても語り尽くせませんので、抗がん剤治療中に下痢を生じた患者さんが、紹介元であるかかりつけ医を受診した際に有用な下痢の鑑別ポイントや、患者さんへの対応にフォーカスしてお話しします。【症例1】64歳、女性主訴下痢病歴進行胃がん(StageIV)に対して緩和的化学療法を実施中。昨日から水様性下痢が発現し、回数が増えてきた(2→4回)ため、かかりつけ医(クリニック)を受診。診察所見発熱なし、腹部圧痛なし。食事摂取割合は6割程度。内服抗がん剤S-1 120mg/日(Day12)【症例2】80歳、男性主訴尿量減少病歴進行直腸がん術後再発に対して緩和的化学療法を実施中。昨日からストーマ排泄量が増加した。口渇感と尿量減少を自覚し、かかりつけ医(クリニック)を受診。診察所見発熱なし、腹部圧痛なし。食事摂取問題なし。抗がん剤10日前にイリノテカンを含む治療を実施。ステップ1 鑑別と重症度評価は?抗がん剤による下痢は、早発性の下痢と遅発性の下痢に大きく分類できます。早発性の下痢は抗がん剤投与中または投与直後~24時間程度にみられることが多い一方で、遅発性の下痢は投与後数日〜数週間程度でみられることが多いため、鑑別が難しいこともあります。抗がん剤以外の他の要因も含めて押さえておきたいポイントを挙げます。(1)下痢の原因が本当に抗がん剤かどうか確認服用中または直近に投与された抗がん剤の種類と投与日を確認。他の原因(感染性腸炎、食事内容、他の薬剤など)との鑑別。抗がん剤による免疫抑制中は、感染性腸炎の可能性(発熱、血便、白血球減少時の腸炎など)を常に考慮。また、抗がん剤治療中は治療機関(大学病院や高次医療機関)から発熱時に抗菌薬を処方されていることがあり、抗菌薬内服後の場合は、クロストリジオイデス・ディフィシル関連腸炎も鑑別に挙げる。下痢を生じやすい抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬など画像を拡大する(2)重症度の評価回数(例:1日5~6回以上)、持続時間、血便、発熱、脱水症状の有無を確認。食事摂取状況や全身状態もチェック。脱水所見(口渇、皮膚乾燥)があれば、経口補水や点滴を検討。高齢者や併存疾患がある患者はより注意が必要。CTCAE ver5.0画像を拡大するステップ2 対応は?では、冒頭の患者さんの対応を考えてみましょう。【症例1】の場合、下痢回数はCTACEという化学療法中の重症度分類でGrade1相当の下痢となります。発熱はなく、食事摂取も減少しているものの経口補液も可能でした。症状としては軽度であり、感染性腸炎を疑う現病歴がなければ、治療機関から下痢時の対応薬(ロペラミド)などが処方されている場合は内服を勧めてもよいと思います。このケースでは、受診時に輸液を実施し、抗がん剤の内服中止と治療機関への連絡(抗がん剤再開時期や副作用報告)、経口補水液の摂取を説明して帰宅としました。【症例2】の場合、患者申告ではCTACEでGrade1相当の下痢で食事摂取も問題ありませんが、口渇や尿量減少から高度の脱水が示唆される所見です。直ちに治療機関への連絡を行い、入院加療となりました。ストーマ排泄量は患者さん自身では把握が難しい場合もあるため、脱水所見の有無やストーマ排泄量*の確認が重要です。*ストーマから1日2,000mL以上排泄される場合、排液過多とみなす。抗がん剤治療中の下痢対応フロー画像を拡大する内服抗がん剤を中止してよいか?診察時に患者さんより「抗がん剤を継続したほうがよいか?」と相談を受けた場合、基本的に内服を中止しても問題ありません。当院でも、「食事が半分以上食べられない場合や下痢が5回以上続く場合は、その日はお休みして大丈夫です」と説明しています。抗がん剤の再開については受診翌日に治療機関へ問い合わせるよう、患者さんへ説明いただけますと助かります。下痢に対して輸液や整腸剤を投与してもよいか?軽度の下痢であれば、輸液や整腸剤の支持的な治療を行っていただいて問題ありません。軽度の下痢のみでも長期に続く場合や、十分な食事を数日間摂取できていない場合は電解質異常を来している可能性もあるため、治療機関へご紹介ください。また、クリニックで輸液を実施しても翌日も症状が改善しない場合は治療機関への受診を勧めてください。なお、イリノテカンによる遅発性下痢の場合は整腸剤による増悪やロペラミド高用量療法が必要なこともあるため、主治医への確認が望ましいです。下痢だと思ったら腸閉塞寸前!?婦人科がんや胃がんの腹膜播種症例、直腸がん症例の中には骨盤底部の播種病変の増悪や原発狭窄により直腸狭窄を来し、少量の下痢が持続することがあります。患者さんからの「下痢が多い」という訴えをよく確認すると、「少量の下痢」が「1日に十数回あり、制御できない」という症状で、腸閉塞の一歩手前であったという症例を時折経験します。狭窄した腸管の脇から漏れ出るようにしか水様便が排出されないために起こる症状です。もし、そのような患者さんがいればすぐに治療機関へ相談してください。画像を拡大する<奥深い下痢>先日、下痢で難渋した患者さんの話です。免疫チェックポイント阻害薬を使用していた患者さんで、免疫関連有害事象で1型糖尿病と甲状腺機能低下症になってしまい、緊急入院となりました。さまざまな内分泌補充療法を実施して何とか退院したものの、今度は下痢で再入院…。短絡的に「まさか大腸炎も併発したのか!?」と思い、下部内視鏡検査や各種検査を実施してもまったく問題ありません。入院後は速やかに改善したので退院しましたが、数日経つと「下痢が治らない。食べたらすぐに下痢をする」と言って来院しました。結局、同期の大腸エキスパート医師に泣きついて診察してもらうと、CT検査で経時的に萎縮していた膵臓に目をつけ、「免疫関連有害事象からの膵萎縮に伴う膵酵素分泌低下に伴う下痢」と診断してくれました。早い話が慢性膵炎の下痢のようなものです。慢性膵炎に準ずる治療で下痢はすぐに改善し、今も元気に通院治療されています。免疫関連有害事象に伴う新たな下痢のカタチかも知れず、下痢はやはり奥が深いと実感した最近の一例でした。1)日本癌治療学会編. 制吐薬適正使用ガイドライン 2023年10月改訂 第3版. 金原出版;2023.2)Lafferty FW. J Bone Miner Res. 1991;6:S51-59.3)Ratcliffe WA, et al. Lancet. 1992;339:164-167.4)Stewart AF. N Engl J Med. 2005;352:373-379.5)NCCN Guidelines:Palliative Care(Version 2. 2025)

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ASCO2025 レポート 泌尿器科腫瘍

レポーター紹介米国臨床腫瘍学会(ASCO)の年1回の総会は、今年も米国イリノイ州のシカゴで行われ、2025年は5月30日から6月3日まで行われた。昨今の円安(5月30日時点で1ドル=143円台)および物価高は現地参加に対するモチベーションを半減させるほどの勢いであり、今年もOn-lineでの参加を選択した。泌尿器腫瘍の演題は、Oral abstract session 18(前立腺9、腎4、膀胱5)、Rapid oral abstract session18(前立腺8、腎4、膀胱5、陰茎1)、Poster session 221で構成されており、昨年と比べて多くポスターに選抜されていた。毎年の目玉であるPlenary sessionは、Practice changingな演題が5演題選出されるが、昨年に引き続き今年も泌尿器カテゴリーからは選出がなかった。Practice changingな演題ではなかったが、他領域に先駆けてエビデンスを創出した免疫チェックポイント阻害薬関連の研究の最終成績が公表されたり、新規治療の可能性を感じさせる報告が多数ありディスカッションは盛り上がっていた。今回はその中から4演題を取り上げ報告する。Oral abstract session 前立腺#LBA5006 相同組み換え修復遺伝子(HRR)変異を有する去勢感受性前立腺がんに対するニラパリブ+アビラテロン、rPFSを延長(AMPLITUDE試験)Phase 3 AMPLITUDE trial: Niraparib and abiraterone acetate plus prednisone for metastatic castration-sensitive prostate cancer patients with alterations in homologous recombination repair genes.Gerhardt Attard, Cancer Institute, University College London, London, United Kingdomニラパリブは、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)-1/2の選択性が高く強力な阻害薬であり、日本では卵巣がんで使用されている。HRR遺伝子変異を有する転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)ではMAGNITUDE試験で、ニラパリブ+アビラテロン+prednisone併用(Nira+AP)による画像上の無増悪生存期間(rPFS)の延長が示されている。ASCO2025において、HRR遺伝子変異を有する転移性去勢感受性前立腺がん(mHSPC)に対するNira+AP療法の有効性を検証したAMPLITUDE試験(NCT04497844)の結果が報告された。この試験のHRR遺伝子変異の定義は、BRCA1、BRCA2、BRIP1、CDK12、CHEK2、FANCA、PALB2、RAD51B、RAD54Lの生殖細胞系列または体細胞変異が含まれていた。患者はアビラテロン1,000mg+prednisone 5mgに加えて、ニラパリブ200mgあるいはプラセボを内服する2群にランダム化され、主要評価項目はrPFS、副次評価項目に症候性進行までの期間、全生存期間(OS)、安全性などが設定されていた。ランダム化された696例のうち、BRCA1/2変異は55.6%、High volume症例は78%であった。追跡期間中央値30.8ヵ月時点のrPFS中央値はNira+AP群で未到達、プラセボ+AP群で29.5ヵ月であり、ハザード比(HR)は0.63、95%信頼区間(CI):0.49~0.80、p=0.0001であった。BRCA1/2変異群でもHR=0.52(95%CI:0.37~0.72)、p<0.0001であった。OSは中間解析であるがHR=0.79(95%CI:0.59~1.04)、p=0.10と報告された。重篤な有害事象は、Nira+AP群で75.2%、プラセボ+AP群で58.9%であり、非血液毒性では貧血(29.1%vs.4.6%)、高血圧(26.5%vs.18.4%)が多く、治療中止割合はそれぞれ11.0%と6.9%であった。AMPLITUDE試験は、HRR遺伝子を有する症例に絞って実施した第III相ランダム化比較試験で、mHSPCにおいてもNira+AP併用療法はrPFSを有意に改善し、OSにおいても良好な傾向を示した。日本は本試験に参加しておらず、Nira+AP療法が保険適用を取得する可能性はないが、同じくmHSPCを対象に実施中のTALAPRO-3試験(タラゾパリブ+エンザルタミドvs.プラセボ+エンザルタミド)の結果に期待が広がる内容であった。#5003 転移性前立腺がんにおけるPTEN遺伝子不活化はADT+DTX治療の効果予測因子(STAMPEDE試験付随研究)Transcriptome classification of PTEN inactivation to predict survival benefit from docetaxel at start of androgen deprivation therapy (ADT) for metastatic prostate cancer: An ancillary study of the STAMPEDE trials.Emily Grist, University College London Cancer Institute, London, United Kingdomドセタキセル(DTX)は転移性の前立腺がんに対して有効な治療法であるが、その効果が得られる症例にはばらつきがある。STAMPEDE試験のプロトコルに参加し(2005年10月〜2014年1月)ADT単独vs.ADT+DTX±ゾレドロン酸またはADT単独vs.ADT+アビラテロン(Abi)に1:1でランダム化された転移性前立腺がん患者の腫瘍サンプルを用いて、全トランスクリプトームデータによりPTENの不活化が治療アウトカムに与える影響を検討した報告である。PTENの不活化は、既報のスコアリング手法(Liuら, JCI, 2021)に基づいて定義された(活性あり:スコア≦0.3、活性なし:スコア>0.3)。また、Decipherスコアは高リスク>0.8、低リスク≦0.8と定義した。Cox比例ハザードモデルを用い、治療割り付けとPTEN活性との交互作用を評価し、年齢、WHO PS、ADT前PSA、Gleasonスコア、Tステージ、Nステージ(N0/N1)、転移量(CHAARTED定義によるHigh volume/ Low volume)で調整した。主要評価項目はOSであり仮説の検定には部分尤度比検定を用いた。全トランスクリプトームプロファイルを832例の転移性前立腺がん患者から取得し、これは試験全体の転移性前立腺がんコホート(n=2,224)と代表性に差はなかった。PTEN不活性腫瘍は419例(50%)に認められ、PTEN mRNAスコアの分布はHigh volumeとLow volumeで差はなかった(p=0.310)。ADT+Abi群(n=182)では、PTEN不活性はOS短縮と有意に関連(HR=1.56、95%CI:1.06~2.31)し、ADT+DTX群(n=279)では、有意な差は認められなかった(HR=0.93、95%CI:0.70~1.24)。PTEN不活化とDTX感受性は有意な交互作用(p=0.002)があり、PTEN不活性腫瘍ではDTX追加により死亡リスクが43%低下(HR=0.57、95%CI:0.42~0.76)し、PTEN活性腫瘍では有意差なし(HR=1.05、95%CI:0.77~1.43)であった。この傾向は転移量にかかわらず一貫しており、Low volume患者(n=244)ではPTEN不活性:HR=0.53、PTEN活性:HR=0.82、High volume患者(n=295)ではPTEN不活性:HR=0.59、PTEN活性:HR=1.23であった。一方、アビラテロン群ではPTENの状態によらず治療効果は一定であり、PTEN不活性:HR=0.52、PTEN活性:HR=0.55(p=0.784)であった。また、PTEN不活性かつDecipher高リスク腫瘍にDTXを追加した場合、死亡リスクが45%低下(HR=0.55、99%CI:0.34~0.89)と推定された。このバイオマーカーの併用による層別化は、ADT+アビラテロン+ドセタキセルの3剤併用療法の適応を検討する際の指標として今後の臨床応用が期待されると演者は締めくくった。日本ではmHSPCへのupfront DTXはダロルタミドとの併用に限られるが、PTEN遺伝子に注目した戦略が重要と考えられ、ますます診断時からの遺伝子パネル検査の保険償還が待たれる状況となってきた。Oral abstract session 腎/膀胱#4507 VHL病関連悪性腫瘍におけるベルズチファンの長期効果 (LITESPARK-004試験)Hypoxia-inducible factor-2α(HIF-2α)inhibitor belzutifan in von Hippel-Lindau(VHL)disease-associated neoplasms: 5-year follow-up of the phase 2 LITESPARK-004 study.Vivek Narayan, Hospital of the University of Pennsylvania, Philadelphia, PAHIF-2α阻害薬のベルズチファンは、VHL病に関連する腎細胞がん(RCC)、中枢神経血管芽腫、膵神経内分泌腫瘍(pNET)を対象に、即時の手術が不要な症例に対して治療薬として日本でも2025年6月に承認された。これは、非盲検第II相試験のLITESPARK-004試験(NCT03401788)の結果に基づくものであるが、ASCO2025では5年以上の追跡期間を経た最新の結果が報告された。対象は以下を満たす症例であった:生殖細胞系列のVHL遺伝子異常を有する測定可能なRCCを1つ以上有する即時の手術が必要な3 cm超の腫瘍なし全身治療歴なし転移なしPS 0~1治療はベルズチファン120mgを1日1回経口投与で、病勢進行、不耐容、または患者自身の希望による中止まで継続された。主要評価項目は、VHL病関連RCCにおける奏効率(ORR)であった。追跡期間中央値は61.8ヵ月、ベルズチファンの投与を受けた61例中35例(57%)が治療継続中であった。ORRは、RCCで70%、中枢性神経血管芽腫で50%、pNETで90%、網膜血管芽腫(18眼/14例)では100%の眼において眼科的評価で改善を確認。奏効期間中央値は未到達(範囲:8.5~61.0ヵ月)であった。重篤な治療関連有害事象は11例(18%)に認められた。最も多かった貧血はAny gradeで93%、Grade 3以上で13%と報告された。そのマネジメントとしてエリスロポエチン製剤(ESA)のみを使用したのは11例(18%)、輸血のみは2例(3%)、ESAと輸血を用いたのは5例(8%)であり、その他の治療が39例(64%)で選択されていた。5年間の追跡後も、ベルズチファンは持続的な抗腫瘍効果と管理可能な安全性プロファイルが報告され、多数の患者が治療を継続していた。即時手術を要しないVHL病関連のRCC、中枢神経血管芽腫、pNET患者において有用な治療選択肢であり、今後われわれも使いこなさなければいけない薬剤である。Rapid Oral abstract session 腎/膀胱#4518 MIBCに対する術前サシツズマブ ゴビテカン+ペムブロリズマブ併用療法と効果に応じた膀胱温存療法(SURE-02試験)First results of SURE-02: A phase 2 study of neoadjuvant sacituzumab govitecan (SG) plus pembrolizumab (Pembro), followed by response-adapted bladder sparing and adjuvant pembro, in patients with muscle-invasive bladder cancer (MIBC).Andrea Necchi,Department of Medical Oncology, IRCCS San Raffaele Hospital,Vita-Salute San Raffaele University, Milan, Italy筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)の標準治療は、術前化学療法を伴う膀胱全摘除術(RC)である。術前ペムブロリズマブ(Pem)やサシツズマブ ゴビテカン(SG)の単剤療法は、それぞれPURE-01試験およびSURE-01試験においてMIBCに対する有効性を示している。SURE-02試験(NCT05535218)は、術前SG+Pem併用療法および術後Pemを用いた第II相試験であり、臨床的奏効に応じた膀胱温存の可能性も含んでいる。ASCO2025ではその中間解析の結果が報告された。cT2~T4N0M0のMIBCと病理診断され、化学療法の適応がない、もしくは化学療法を拒否し、RC予定の患者を対象に、Pem 200mgをDay1に、SG 7.5mg/kgをDay1およびDay8に3週間間隔で4サイクル投与した。手術後はPemを3週間間隔で13サイクル投与した。臨床的完全奏効(cCR)を達成した患者(MRI陰性かつ再TUR-BTでviableな腫瘍が検出されない[ypT0]症例)については、RCの代わりに再TUR-BTが許容され、その後Pem 13サイクルを投与した。主要評価項目はcCR割合で、閾値30%、期待値45%としてα=0.10、β=0.20で検出するための症例数は48例と設定された。2段階デザインであり、1段階目を23例で評価し、cCR7例以上であれば2段階目に進む計画であった。ASCO2025では、SURE-02試験の中間報告がなされた。2023年10月~2025年1月までに40例が治療を受け、31例が有効性評価対象となった。cCR割合は12例(38.7%)、95%CI:21.8~57.8であり、全員が再TUR-BTを施行された。ypT≦1N0-x割合は16例(51.6%)であった。重篤な有害事象は4例(12.9%)で、SGの投与中止2例、1週間の投与延期1例があったが、SGの減量は不要であった。23例でトランスクリプトーム解析が行われ、病理学的完全奏効(ypT0)について、Luminal腫瘍では非Luminal腫瘍に比べてypT0率が高かった(73%vs.25%、p=0.04)。Lund分類においては、ゲノム不安定型では67%、尿路上皮型では57%、基底/扁平上皮型では20%、神経内分泌型では0%であった。間質シグネチャーが高い症例では非ypT0である割合が高く(p=0.004)、一方でTrop2(p=0.15)およびTOP1(p=0.79)の発現はypT0との関連を示さなかった。周術期におけるSG+Pembro療法は、良好なcCR率と許容可能な安全性プロファイルを示し、約40%の症例で膀胱温存が可能であった。本試験において、このまま主要評価項目を達成するかどうかは現時点で期待値以下であるため少し不安はあり、また得られる結果も決して確定的なものではない。しかしながら、中間報告の時点で膀胱温存の可能性を40%の症例で達成していることは非常に興味深い内容であった。今後、検証的な第III相試験においても膀胱温存が重要なアウトカムとして設定され、再発や死亡といった腫瘍学的に重要なアウトカムを損なわない結果が達成できる日が訪れることを期待したい。

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既治療進行胃がんに対するCLDN18.2特異的CAR-T細胞療法(satri-cel)と医師選択治療との比較:第II相試験(解説:上村直実氏)

 切除不能な進行胃がんおよび食道胃接合部がん(以下、胃がん)に対する化学療法のレジメはHER2陽性(20%以下)とHER2陰性(約80%)に区別されている。HER2陰性の進行胃がんに対する標準的1次治療はフルオロピリミジンとプラチナベースの化学療法であるFOLFOXやCAPOXなどが推奨されてきたが、全生存期間(OS)の中央値が12ヵ月未満であり、無増悪生存期間(PFS)の中央値は約6ヵ月程度と満足できる成績ではなかった。最近になって、標準化学療法にドセタキセルを上乗せしたFLOT療法(3剤併用化学療法)さらに免疫チェックポイント阻害薬(ICI)や抗claudin-18.2(CLDN18.2)抗体のゾルベツキシマブ(商品名:ビロイ)を組み合わせた新しい併用療法の有効性が報告されている。しかしながら、これらのレジメを用いた国際的共同試験におけるOSの中央値は12~18ヵ月程度にとどまっているのが現状である。 今回、既治療のCLDN18.2陽性進行胃がん症例を対象として自家CLDN18.2特異的キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法(satri-cel)の有効性と安全性の評価を目的とする非盲検無作為化実薬対照比較第II相試験の結果が2025年6月のLancet誌に掲載された。CAR-T細胞療法は、患者自身の免疫細胞であるT細胞に遺伝子導入して作成されたCAR-T細胞を患者に再び投与する治療法であり、日本でも2019年から悪性リンパ腫再発後の治療が保険適用となっているが、固形がんに対するCAR-T細胞療法に関するランダム化比較試験は本研究が世界初の報告である。 少なくとも2回の前治療が奏効せず、腫瘍組織がCLDN18.2陽性であった症例を対象として、CAR-T群と担当医が選択した標準治療群を比較した結果、主要評価項目のPFS中央値(3.25ヵ月vs.1.77ヵ月)およびOS中央値(7.92ヵ月vs.5.49ヵ月)は共にCAR-T群が有意に延長した。一方、安全性に関しては、CAR-T群はGrade3以上の有害事象が99%にみられ、血球減少、消化器症状、頻脈、肝障害、電解質異常、蛋白尿、皮疹、腹痛、体重減少など広範な臓器にわたり30〜90%の頻度で出現していたが、「サイトカイン放出症候群」の重篤化により死亡した症例は皆無であった。 種々の治療法によっても手術不能胃がん患者の生存率の飛躍的向上が認められていない現状では、新たな治療法であるCAR-T細胞療法に期待したいところである。しかしながら、報告された第II相試験の結果からは臨床現場における有効性と安全性を担保できるものとはいえず、今後予定されている精緻な研究デザインによる第III相試験の結果を待つ必要があると思われた。

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ASCO2025 レポート 肺がん

レポーター紹介ASCO Lung、Lung ASCOと呼ばれるほど、肺がんに関しては当たり年であった2024年のASCOとは異なり、2025年のASCOは肺がんのPlenary演題もないなど、やや小ぶりな前評判であった。ただ、実際に演題が発表されてみると、DeLLphi-304試験では小細胞肺がん(SCLC)の二次治療において初めて全生存期間(OS)を延長したタルラタマブの成績が報告され、肺がんのコミュニティとしてはPlenaryセッションでもよかったのではとの声も聞こえてきた。さらに日本では未承認であるが、進展型SCLC(ES-SCLC)の維持療法として、lurbinectedinが、無増悪生存期間(PFS)、OSともに延長を示したIMforte試験にも注目が集まった。IMforte試験の演者はスペインのLuis Paz-Ares先生で、くしくもPARAMOUNT試験において非小細胞肺がん(NSCLC)におけるペメトレキセドの維持療法をASCOで発表したのもPaz-Ares先生であり、印象的であった。これらの日常診療を変えうる発表に加え、将来につながる発表が、周術期領域、抗体医薬品の開発に関連して複数発表されている。周術期領域においては、EGFR遺伝子変異陽性肺がんに対してNeoADAURA試験の結果が、ALK遺伝子転座陽性肺がんに対してALNEO試験の結果が報告された。抗体医薬品の開発は引き続き盛んであり、抗体薬物複合体(ADC)、T-cell Engager(TCE)、さらにはCAR-T療法など、今後に期待が持たれる発表が、とくに中国から続いた。そんななか、新薬を使うのでも、手術をするのでもなく、免疫チェックポイント阻害薬の投与タイミングにより、治療効果に大きな違いをもたらした臨床試験の結果が中国から発表された。免疫チェックポイント阻害薬の奥の深さを感じるとともに、このようなタイムリーな研究成果が中国から報告されることに、新規薬剤の開発だけでなく、臨床試験の実施体制としても中国の成熟が感じられた。[目次]DeLLphi-304試験IMforte試験NeoADAURA試験ALNEO試験CheckMate 816試験HERTHENA-Lung02試験抗体医薬品の展開Time-of-Day試験最後にDeLLphi-304試験再発SCLCに対する治療選択肢の1つとして期待されているDLL3とCD3を標的としたTCEであるタルラタマブの有効性と安全性を評価した第III相試験がDeLLphi-304試験である。本試験は、プラチナ製剤ベースの初回化学療法を終了後、病勢進行を経験した再発SCLC患者を対象に、タルラタマブ(0.3mgで開始後、10mgを2週ごと投与)と化学療法(トポテカン、lurbinectedin、アムルビシン)を比較する国際共同多施設無作為化比較試験で、全体で509例が登録された。主要評価項目はOS、副次評価項目にはPFSや奏効割合(ORR)、安全性が設定された。主要評価項目であるOSにおいて、タルラタマブ群は化学療法群と比較して有意な生存期間延長を示し、OSの中央値はタルラタマブ群で13.6ヵ月、化学療法群で8.3ヵ月であり、ハザード比は0.60(95%CI:0.47~0.77)、p<0.001と統計学的に有意であった。PFSについても良好な傾向が認められ、中央値は4.2ヵ月と3.7ヵ月、ハザード比は0.71(95%CI:0.59~0.86)であった。ORRについても40%と17%とタルラタマブ群で良好であった。安全性の観点では、タルラタマブ群に特徴的なサイトカイン放出症候群(CRS)は56%にみられたが、大半はGrade1~2で管理可能であり、免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)などの神経学的有害事象も既知のプロファイルと一致した。治療関連死亡はなかった。今回のDeLLphi-304試験の成功により、20年以上にわたって進展のなかった再発SCLC治療において、新たな標準治療の登場が視野に入った意義深い試験結果である。DLL3はSCLCに特異的かつ高発現する治療標的として注目されており、新たなモダリティとしてTCEが治療の基軸になる状況が現実となった。今後、初回治療や限局型への展開、あるいは他がん腫への応用など、免疫系を活用した治療開発の広がりが期待される。IMforte試験ES-SCLCでは一次治療後の病勢進行率が高く課題とされてきた。lurbinectedinはアルキル化作用を持つ転写阻害剤であり、プラチナ製剤ベース化学療法後に病勢進行したSCLC患者において抗腫瘍活性が示されてきた。IMforte試験は、ES-SCLC患者において一次導入化学療法(アテゾリズマブ+カルボプラチン+エトポシド)後に病勢進行しなかった患者を対象として、アテゾリズマブによる維持療法にlurbinectedinを上乗せすることの意義を検証する国際共同多施設無作為化非盲検第III相試験である。患者はlurbinectedin(3.2mg/m2)とアテゾリズマブ(1,200mg)を3週ごとに併用投与する試験治療群、またはアテゾリズマブ(1,200mg)を3週ごとに単独投与する標準治療群に1:1の割合で無作為に割り付けられた。主要評価項目はIRF-PFS(独立画像判定によるPFS)およびOSとされた。試験治療群には242例、標準治療群には241例が登録された。試験治療群はIRF-PFSにおいて標準治療群に対して、PFS中央値5.4ヵ月と2.1ヵ月、ハザード比0.54(95%CI:0.43~0.67)、pNeoADAURA試験EGFR遺伝子変異陽性の切除可能なNSCLCに対する術前治療として、オシメルチニブ単剤または化学療法併用の有効性と安全性を検証する第III相試験がNeoADAURA試験である。本試験は、StageII~IIIB(N2)に相当する切除可能EGFR遺伝子変異陽性(Exon19delまたはL858R)NSCLCを対象に、術前オシメルチニブ単剤群、オシメルチニブ+化学療法併用群、化学療法単独群を比較する国際共同無作為化試験で、全体で358例が登録された。主要評価項目はmajor pathologic response(MPR)であり、副次評価項目には無イベント生存期間(event-free survival;EFS)、病理学的完全奏効割合(pCR)、ORR、手術実施率、R0切除率、安全性などが含まれた。MPRにおいては、化学療法群で2%であったのに対して、オシメルチニブ単剤、併用群では25%、26%であり、オシメルチニブ併用による統計学的な優越性が確認された。pCRにおいては、化学療法群が2%であったのに対して、併用群で4%、オシメルチニブ単剤群で9%という結果であった。R0切除率はいずれの群でも90%以上と高率であり、手術遅延や手術不能例も少なく、安全に根治切除に導ける治療であることが示唆された。まだイベント数が少ない状態ではあるがEFSについても報告され、化学療法群に対して、ハザード比は併用療法群で0.50、オシメルチニブ単剤群で0.73であった。術後治療としては全例にオシメルチニブによる補助療法が予定されており、長期予後の追跡が期待される。ADAURA試験で術後オシメルチニブの有効性が示されて以来、EGFR遺伝子変異陽性NSCLCの治療パラダイムは大きく変化したが、本試験は術前段階からEGFR-TKIを導入することの意義を検討している。免疫チェックポイント阻害薬において病理学的奏効割合は高めだが画像上の奏効は50%程度にとどまっているという課題を有しており、画像上の高い奏効割合が期待できるEGFR-TKIの立ち位置については、今後さまざまな議論が展開されることになる。ALNEO試験ALNEO試験では、アレクチニブ600mgを1日2回術前に投与し、手術後も術後療法として継続することの有効性と安全性を検討する第II相試験である。主要評価項目はBICRによるMPRとされた。本試験にはイタリアの20施設が参加し、2021年5月から2024年7月にかけて患者が登録された。33例が登録され、全例が術前治療を完了し、28例が手術を受け、26例が術後療法を開始した。手術を受けなかった5例のうち、2例は患者の拒否、2例は臨床的判断、1例は臨床的進行のためであった。術後療法を受けなかった2例は、いずれもR0切除が得られなかったことがその理由であった。主要評価項目であるBICRによるMPRは42%(95%CI:28~58)であり、信頼区間の下限が事前に設定された閾値の20%を超えたことから、統計学的にも有意な結果であった。pCRは12%であった。副次評価項目として、ORRは67%であった。特筆すべきは、同時に報告されたNeoADAURA試験やこれまでのオシメルチニブによる術前治療において、pCRが0~10%未満にとどまっているのに対して、アレクチニブにおいては若干高めのMPRやpCRが報告されており、同じドライバー陽性肺がんにおいても標的や薬剤によって病理学的奏効に違いがあることが示唆されている点にある。今後、術前治療にドライバー遺伝子変異に伴うTKIを中心とした治療が導入されていくことが期待されているが、他の標的、他の薬剤による病理学的効果を含む効果についても注目したい。CheckMate 816試験すでに実臨床に導入されているCheckMate 816試験は、切除可能なStageIB(腫瘍径4cm以上)~IIIAのNSCLC患者(TNM分類第7版による)を対象とした第III相試験で、既知のEGFR遺伝子変異またはALK転座がない患者が登録された。患者はニボルマブ360mgと化学療法を3週間ごとに3サイクル併用するニボルマブ群、または化学療法単独を3週間ごとに3サイクル行う化学療法群に1:1の割合で割り付けられた。主要評価項目は、独立中央病理審査(BIPR)によるpCRおよびEFSで、OSは有意水準αも割り付けられた主要な副次評価項目として設定され、今回、最低5年間の追跡期間で最終解析が行われた。ニボルマブ群は化学療法群に対して、ハザード比0.72(95%CI:0.523~0.998)、p=0.0479と統計学的に有意なOSの改善を示し、5年OS割合も65%と55%であり、10%の上乗せを示した。ニボルマブと化学療法の併用は、肺がん特異的生存期間においても化学療法単独と比較して継続的な効果を示した。安全性プロファイルはこれまでの報告と一貫していた。CheckMate 816試験は、切除可能な固形がんにおいて、術前化学免疫療法のみ(3サイクル)が統計学的に有意なOSのベネフィットを示すことを検証した唯一の第III相試験であり、術前+術後化学免疫療法によるKEYNOTE-671試験に続いて、周術期免疫チェックポイント阻害薬においてOSの延長を示した重要な試験となった。術前のみ、術前+術後いずれの免疫チェックポイント阻害薬による補助療法においてもOSの延長が示された状況は肺がんにおいてのみであり、術前+術後の治療方法しか存在しない他のがん腫との明らかな違いが生じている。今後その違いに基づき、さらなる議論が展開されることは間違いないと考えられる。HERTHENA-Lung02試験HERTHENA-Lung02試験は、第3世代EGFR-TKI後に病勢進行した局所進行または転移を有するEGFR変異陽性NSCLC患者を対象とした国際共同多施設無作為化非盲検第III相試験である。患者は、HER3-DXd(5.6mg/kg、3週ごと)群または標準治療(シスプラチンまたはカルボプラチンを3週ごとに4サイクル投与後、ペメトレキセド維持療法実施)群に1:1の割合で割り付けられた。主要評価項目は、BICRによるPFSとされ、主要な副次評価項目はOS、それ以外の副次評価項目として安全性、頭蓋内PFS、HER3タンパク発現と有効性の関連性評価とされた。本試験には586例の患者が登録され、HER3-DXd群に293例、標準治療群に293例が割り付けられた。HER3-DXd群のPFS中央値は5.8ヵ月であったのに対し、標準治療群は5.4ヵ月であり、ハザード比は0.77(95%CI:0.63~0.94)、p=0.011で、統計学的に有意な結果であった。ただ、中央値での差異は0.4ヵ月にとどまっていた。さらに、今回OSの解析結果として、OSの中央値がHER3-DXd群、標準治療群それぞれで16.0ヵ月、15.9ヵ月、ハザード比0.98(95%CI:0.79~1.22)であり、OSについてはNegative trialであることが明らかになった。ポジティブな結果が多かった今年のASCOにおいて、期待されていたADCについてNegativeな結果が報告されたことのインパクトは大きかった。DXd(デルクステカン)ベースのADCとしては、昨年TROP2-ADCであるDato-DXdが、同様の肺がん二次治療において、全体集団でのOSでNegativeであったことが報告されている。Dato-DXdについてはTROP2の発現についてAIも用いたタンパク発現の評価方法TROP2 QCS-NMR(Normalized Membrane Ratio of TROP2 by Quantitative Continuous Scoring)が効果予測になりうることが報告されている。そのため、HER3-DXdにおいても、HER3の発現について今後同様の試みがされることに期待したい。抗体医薬品の展開BL-B01D1(iza-bren)は、EGFRとHER3の二重特異性ADCであり、新規のトポイソメラーゼI阻害薬(Ed-04)をペイロードとしている。EGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対しては、63.2%のORRを示したことがすでに報告されている。今回は、上記以外のドライバー遺伝子変異を持つNSCLC患者83例が登録され、EGFR exon20挿入変異・Uncommon mutation(14例)、HER2変異(19例)、ALK/ROS1/RET融合(24例)、KRAS/BRAF/MET変異(26例)を有する患者が登録された。全患者のORRは46.2%、PFS中央値は7.0ヵ月であった。ORRはそれぞれ、EGFR exon20挿入変異・Uncommon mutation 69.2%、HER2変異52.9%、KRAS/BRAF/MET変異40%、KRAS G12C変異44.4%、ALK/ROS1/RET融合34.8%であった。ABBV-400(Telisotuzumab Adizutecan、Temab-A)はc-Met標的抗体(Telisotuzumab)とトポイソメラーゼIペイロードを組み合わせたものである。今回、プラチナベース化学療法およびTKIによる治療を受けた進行固形がん患者を対象とし、3ライン以上の治療歴のあるEGFR変異非扁平上皮NSCLCコホートのデータが報告された。その結果、ORRは63%であり、耐性変異の有無にかかわらず幅広い効果が確認された。ABBV-706は、高悪性度神経内分泌腫瘍(NENs)に発現しているSEZ6(Seizure-Related Homolog Protein 6)を標的としたTop1阻害薬をペイロードとしたADCである。NEN全体を対象としたコホートでは、ORRが36.9%、PFS中央値が7.62ヵ月であり、LCNECに限定した解析結果では、ORRが33.3%、PFS中央値が5.78ヵ月であることが報告された。低酸素応答性CEA CAR-T細胞療法の再発NSCLCに対する第I相試験についても報告された。ORRは47%、DCRは87%であり、一定の効果が示されたが、奏効期間(DoR)中央値は2ヵ月であり、この点についてはまだまだ改善の余地があることが示された。PRを達成した患者では、ベースライン血清CEAレベルが有意に高いなどのサブグループ解析も報告された。Time-of-Day試験Time-of-Day(ToD)試験は、進行NSCLC患者における化学免疫療法を、早めの時間(15:00より前)と遅い時間(15:00以降)で投与した場合の比較を行った無作為化第III相試験である。概日リズムは睡眠、疾患、治療に影響を与えることが知られており、前臨床試験では概日リズムと免疫細胞機能・分布の関連性、および免疫療法の有効性への影響が示唆されていた。また、20報以上の後ろ向き研究のメタ解析では、免疫チェックポイント阻害薬の投与が「遅い時間」よりも「早い時間」に行われた場合に効果の改善が示されている。StageIIIC~IV期のNSCLC患者210例が、標準化学療法と免疫チェックポイント阻害薬(ペムブロリズマブまたはsintilimab)の初回4サイクルについて、早めの時間(15:00より前)または遅い時間(15:00以降開始)に無作為に割り付けられた。主要評価項目はBICRによるPFS、副次評価項目はOS、BICRによるORR、全血リンパ球サブセット解析であった。早い時間に投与した場合のPFS中央値は11.3ヵ月であったのに対し、遅い時間では5.7ヵ月であり、ハザード比は0.42(95%CI:0.31~0.58)、p<0.0001で、統計学的に有意に早い時間に投与することの優越性が示された。OSにおいても、中央値がNot reachedと16.4ヵ月、ハザード比は0.45(95%CI:0.30~0.68)、p<0.0001であり、明らかに早い時間の投与で延長することが示された。有害事象発現割合については、若干の違いは認めるものの大きな違いは認められなかった。循環T細胞の解析では、早い時間群でCD8+T細胞とCD4+T細胞の有意な増加が示された一方で、遅い時間群では減少傾向がみられ、今回の試験結果を裏打ちする情報として示された。高額の薬剤を用いて新たな治療方法が模索されるなかで、投与時間の調整のみで大きなPFS、OSの違いをもたらした結果が、中国で実施された臨床試験から得られたことを会場の参加者は驚きをもって受け止めた。今後おそらくいくつかの追試が実施されるとともに、最適な投与時間のカットオフ(15時が最適か)についても検討が進められる見込みである。最後に今年のASCOは、肺がんによるPlenary演題はなかったものの、Plenaryであってもおかしくないインパクトを有する演題は複数発表された。注目すべきは、抗体医薬品を中心とした新たな薬剤の発表が続いたことだけでなく、周術期や免疫チェックポイント阻害薬の投与タイミングなど、肺がんの治療開発が実に幅広い領域で展開していることである。引き続き目が離せない状態が続くと考えられる。

5.

ASCO2025 レポート 消化器がん

レポーター紹介2025年5月30日~6月3日に、米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)が米国・シカゴで開催され、後の実臨床を変えうる注目演題が複数報告された。高知大学の佐竹 悠良氏が消化器がん領域における重要演題をピックアップし、結果を解説する。胃がんMATTERHORN試験:周術期FLOTにおけるデュルバルマブ追加の意義(LBA5)切除可能II~IVA期の胃がん・食道胃接合部腺がんを対象に、欧米における標準治療である周術期FLOT(フルオロウラシル、ロイコボリン、オキサリプラチン、ドセタキセル)療法に対する抗PD-L1抗体であるデュルバルマブ追加(D-FLOT療法)の有用性を検証したMATTERHORN試験。D-FLOT療法により病理学的完全奏効の改善がすでにESMO2023で報告され(19%vs.7%、オッズ比:3.08、p<0.00001)、主要評価項目である無イベント生存期間(EFS)における統計学的優越性もプレスリリースされていたが、今回学会にて正式に報告され、同時にNEJM誌でpublishされた。患者は術前・術後に2サイクルずつFLOT療法+プラセボもしくはD-FLOT療法を受け、その後プラセボもしくはデュルバルマブを10サイクル(術後補助化学療法として1年間)受けた。主要評価項目のEFS中央値はD-FLOT群未到達vs.プラセボ群32.8ヵ月であり、統計学的優越性を示した(ハザード比[HR]:0.71、95%信頼区間[CI]:0.58~0.86、p<0.001)。24ヵ月EFS率はD-FLOT群67%vs.プラセボ群59%であった(観察期間中央値:D-FLOT群31.6ヵ月vs.プラセボ群31.4ヵ月)。副次評価項目である全生存期間(OS)においても改善傾向(HR:0.78、95%CI:0.62~0.97、p=0.025)がみられたが、現時点では統計学的有意差には至っていない(観察期間中央値:D-FLOT群34.6ヵ月vs.プラセボ群34.6ヵ月)。免疫介在性有害事象はGrade3/4をD-FLOT群7%vs.プラセボ群4%に認めた。胃がん周術期治療における免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、KEYNOTE-585試験およびATTRACTION-5試験において有意な結果を示すことができなかったが、本試験において主要評価項目であるEFSでの有意な改善を認め、今後の標準治療となることが見込まれる。一方、本邦では周術期FLOT療法の経験は十分とは言えず、大型3/4型胃がんに対する術前FLOT療法およびDOS(ドセタキセル+オキサリプラチン+S-1)療法を検討する第II相試験であるJCOG2204が進行中であり、結果が期待される。DESTINY-Gastric04試験:HER2陽性胃がんの2次治療におけるT-DXdの有効性を確立(LBA4002)HER2陽性(IHC3+またはIHC2+/ISH+)の進行・再発胃がんまたは食道胃接合部腺がんに対し、抗HER2抗体薬物複合体(ADC)であるトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd、6.4mg/kgを3週ごと)が、現在の標準2次治療であるラムシルマブ+パクリタキセル併用(RAM+PTX)療法と比較してOSを有意に延長することが国立がん研究センター東病院の設楽 紘平氏から報告され、こちらも同時にNEJM誌でpublishされた。本試験は前治療のトラスツズマブ不応後の生検によるHER2陽性例が対象であり、1,088例に腫瘍組織検体スクリーニングが実施され、450例(41%)は組織スクリーニングで脱落し、最終的に494例が1:1に割り付けされた。前治療としてICIの投与歴がある患者は両群ともに15%程度であり、後治療として抗HER2治療を受けた割合はT-DXd群3.2%vs.RAM+PTX療法群25.8%であった。主要評価項目のOS中央値は、T-DXd群14.7ヵ月vs.RAM+PTX療法群11.4ヵ月であり、統計学的優越性を示した(HR:0.70、p=0.0044)。副次評価項目の無増悪生存期間(PFS)および奏効率(ORR)においてもT-DXd群で有意に改善を示した(PFS中央値:6.7ヵ月vs.5.6ヵ月、HR:0.74、p=0.0074、ORR:44.3%vs.9.1%、p=0.0006)。Grade3以上の薬剤関連有害事象の割合も両群で同等であった(T-DXd群50.0%vs.RAM+PTX療法群54.1%)。ただし、間質性肺疾患はT-DXd群で13.9%(Grade3は1例のみ、0.4%)と、重篤例は多くないものの注意が必要である。今後、HER2陽性かつCPS陽性の進行・再発胃がんに対しては、KEYNOTE-811試験の結果から初回治療よりペムブロリズマブ併用が見込まれるが、本試験のサブグループ解析においては前治療ICI投与の有無にかかわらず、一貫してT-DXdによる生存改善傾向を認めており、HER2陽性胃がんにおける2次治療としてT-DXdが今後の標準治療の位置付けとされた。一方、本結果は試験組み入れ時のHER2再確認(再生検)により結果が導かれているが、40%前後は前治療不応時にHER2 lossが生じている可能性が示唆された。大腸がんATOMIC試験:StageIII dMMR大腸がん術後補助療法におけるアテゾリズマブ追加の意義(LBA1)StageIIIのdMMR結腸がんに対する術後補助療法として、mFOLFOX6化学療法にPD-L1阻害薬であるアテゾリズマブを追加することで、無病生存期間(DFS)を有意に延長することが国際第III相試験ATOMIC試験により示された。試験治療群は術後補助化学療法としてmFOLFOX6+アテゾリズマブ併用療法を6ヵ月受けた後にアテゾリズマブ単剤を6ヵ月(計12ヵ月)投与され、対照群はmFOLFOX6療法を6ヵ月投与された。主要評価項目である3年DFS率はアテゾリズマブ併用群86.4%vs.対照群76.6%(HR:0.50、95%CI:0.34~0.72、p<0.0001)であり、統計学的有意差を認めた。Grade3/4の治療関連有害事象(TRAE)は併用群72.3%vs.対照群59.2%とアテゾリズマブ併用群でやや多く、免疫関連有害事象として高血糖や甲状腺機能低下、大腸炎に伴う下痢や皮膚炎を認めたが、重篤なものは少なかった。本試験により、StageIIIのdMMR結腸がんにおいて術後免疫療法導入が長期予後を改善することが明らかとなり、補助療法の新たな標準となる可能性を示した。現在、本邦を含め切除可能なStage IIIまたはT4N0のdMMR/MSI‑High陽性結腸がん患者に対する周術期dostarlimabの有効性を検証する第III相試験であるAZUR-2試験が進行中である。同薬剤はすでに直腸がん領域で良好な有効性が確認されており、新しい治療ストラテジー確立が期待される。BREAKWATER試験:BRAF V600E変異陽性大腸がんに対する1次治療としてのEC+mFOLFOX6併用療法(#3500)進行・未治療のBRAF V600E変異陽性大腸がん患者を対象に、BRAF阻害薬エンコラフェニブ(E)+抗EGFR抗体セツキシマブ(C)に化学療法(mFOLFOX6)を加えた3剤併用療法(EC+mFOLFOX6)の標準治療(FOLFOX/FOLFOXIRI/CAPOX±BEV)に対するORRおよびOS(初回中間解析)における良好な結果は、一足先にASCO-GI 2025で発表されていたが、今回主要評価項目の1つであるPFSの結果が報告され、PFS、ORR、OSにおける改善が明らかとなり、同時にNEJM誌でpublishされた。主要評価項目であるPFS中央値はEC+mFOLFOX6群12.8ヵ月vs.標準治療群7.1ヵ月であり、統計学的優越性を示した(HR:0.53、95%CI:0.407~0.677、p<0.0001)。OS中央値(2回目の中間解析)はEC+mFOLFOX6群30.3ヵ月vs.標準治療群15.1ヵ月(HR:0.49、p<0.0001)だった。もう1つの主要評価項目であるORRの追加報告もあり、EC+mFOLFOX6群65.7%vs.EC群45.6%vs.標準治療群37.4%と良好であった。TRAE(Grade3/4)はEC+mFOLFOX6群76.3%vs.EC群15.7%vs.標準治療群58.5%であり、関節痛(29%)、皮疹(29%)に注意が必要である。本試験により、BRAF V600E変異大腸がんの1次治療として、EC+mFOLFOX6が新たな標準と位置付けられた。また、EC療法はmFOLFOX6療法などの抗がん剤治療が適応とならないフレイル症例に対する治療選択肢となる可能性が示唆された。AGITG DYNAMIC-III試験:術後ctDNA陽性は高リスク再発マーカー(#3503)術後StageIII結腸がん患者を対象に、circulating tumor DNA(ctDNA)の有無による再発リスクを評価した第II/III相試験であるDYNAMIC-III試験において、ctDNA陽性が強力な再発予測因子であることが示された。StageIII結腸がん患者を対象に術後4週時点でctDNAを評価し、ctDNA結果に基づいたマネジメント群(ctDNA-informed群、ctDNA陰性例ではde-escalation、ctDNA陽性はescalation[より強力な術後補助療法]を実施)と標準マネジメント群(主治医選択によるマネジメント、ctDNA結果は盲検)に無作為化して割り付けされた。全体で1,002例が登録され、それぞれctDNA-informed群502例vs.標準マネジメント群500例に割り付けられ、ctDNA陽性は各群129例(27%)vs.130例(27%)であった。ctDNA陽性例のうち、ctDNA-informed escalation群では3ヵ月以上のFOLFOXIRI実施が50%、6ヵ月のオキサリプラチンダブレット(FOLFOX/CAPOX)が44%に実施され、一方の標準マネジメント群では3ヵ月FOLFOX/CAPOXが45%、6ヵ月FOLFOX/CAPOXが41%に術後補助療法として実施された。3年無再発生存期間はctDNA-informed escalation群48%vs.標準マネジメント群52%であり、ctDNA結果に基づいた術後補助化学療法強化による再発抑制改善は認めなかった(HR:1.11、p=0.57)。後解析としてFOLFOXIRIとFOLFOX/CAPOXの無再発生存比較がなされたが、差を認めず(HR:1.09、p=0.662)、ctDNAクリアランス割合も同等であった(60%vs.62%)。術後補助化学療法終了時点におけるctDNAクリアランスの有無(HR:11.1)および術後ctDNA測定時のctDNA量が再発と相関することが示唆された(p<0.001)。既報と同様に、術後ctDNA検査のバイオマーカーとしての有用性および術後ctDNA量と再発リスクとの相関やctDNA陽性例に対する術後補助化学療法によるctDNAクリアランスの重要性が報告された。一方で、 ctDNA陽性例に対してはオキサリプラチン併用レジメンからFOLFOXIRIへの治療強化では不十分である可能性も示唆され、今後さらなる治療開発の必要性が示唆された。本邦における臨床実装が待たれる。NCCTG N0147後方解析:ctDNAによるMRD評価が術後再発リスクを鋭敏に予測(#3504)術後StageIII結腸がんに対する術後補助FOLFOX±セツキシマブを検証した第III相試験であるNCCTG N0147試験におけるctDNAの後解析により、ctDNA評価は再発リスクを高精度に層別化できることが明らかとなった。術後補助療法開始前10週以内に血漿ctDNAをGuardant Reveal/Guardant360で測定(中央値42日)。 ctDNAは20.4%で検出可能であり、より進行例(T/Nステージ)やBRAF変異例、閉塞例や穿孔例などの術後再発高リスク例において検出されることが示唆された。ctDNA陽性例は陰性例に比し、DFS、OSともに大きく劣っていた(DFS-HR:3.74、p<0.0001、OS-HR:3.17、p<0.001)。一般的に術後予後良好とされているdMMR症例においても、ctDNA陽性例はpMMR例と比較してもDFSおよびOSが不良であった(DFS-HR:1.54、p=0.0114、OS-HR:1.77、p=0.0026)。術後病理評価による再発リスクとctDNA検出の有無による層別化ならびにctDNA検出量とDFSの相関性も示唆された。既報と同様に、術後ctDNA MRD評価の有用性が再確認され、早期の再発予測や治療強度決定に活用できる可能性を示した。TRIPLETE試験:初回治療でのmFOLFOXIRI+パニツムマブがOSを有意に延長(#3512)切除不能なRAS/BRAF野生型転移を有する大腸がん(mCRC)初回治療において、mFOLFOX+パニツムマブに対しmFOLFOXIRI+パニツムマブは、主要評価項目のORRおよびPFSは改善を認めないことがすでに報告されていた。一方、本邦で実施されたJACCRO CC-13(DEEPER試験)においては、RAS/BRAF野生型かつ左側原発例においてmFOLFOXIRI+セツキシマブ療法のmFOLFOXIRI+BEVに対する治療成績改善が示唆されていた。今回TRIPLETE試験におけるOSが報告され、mFOLFOXIRI+パニツムマブによる有意な生存期間延長が報告された(観察期間中央値:60.2ヵ月)。OS中央値はmFOLFOXIRI+パニツムマブ群41.1ヵ月vs.mFOLFOX6+パニツムマブ群33.3ヵ月であり、有意に改善を認めた(HR:0.79、95%CI:0.63~0.99、p=0.049)。一方で、アップデートされたORRやPFS、奏効期間(DoR)、早期腫瘍縮小(ETS)およびR0切除割合は群間差を認めなかった。PPS(病勢進行後生存)はmFOLFOXIRI群で有意に延長(HR:0.73、p=0.012)しており、OS延長の主因と考えられた。トリプレット+抗EGFR抗体はDEEPER試験と同様にTRIPLETE試験でも、標準治療に対する良好な生存延長効果が示唆され、RAS/BRAF野生型mCRCの治療戦略においてトリプレット療法を選択肢の1つとして再評価する根拠と考えられる。ただし、PFSやORRに差がなかったことから、有効性の本質はPPSの改善に依存している可能性があり、治療強度と毒性のバランスに配慮した個別化治療が求められる。胆道がんGAIN試験:胆道がんに対する周術期GC療法の有効性が示唆(#4008)切除可能局所進行胆道がんに対して、本邦ではASCOT試験により切除後のS-1補助化学療法が標準治療とされているが、今回ドイツより術前・術後にゲムシタビン+シスプラチン(GC)を用いた周術期治療が、標準治療(手術+術後補助療法)と比較してOSおよびEFS、R0切除率を大きく改善する可能性が報告された。ドイツの21施設による第III相試験であり、登録数不足により68例の登録時点で早期終了となった。NEO群(周術期GC群)は術前GC 3サイクル後に切除がなされ、その後3サイクルの術後補助GC療法がプロトコール治療として規定されており、標準治療群は切除後に術後補助化学療法24週(主治医選択)が規定されていた。早期中止のためNEO群(32例)、標準治療群(30例)での報告。NEO群の術前GC療法平均投与コース数は2.8サイクルだが、術後補助療法の平均投与コース数は1.4サイクルであった。一方の標準治療群における術後補助療法はカペシタビン20%、ゲムシタビン3.3%、GC療法3.3%であった。OS中央値はNEO群(周術期GC群)27.8ヵ月vs.標準治療群14.6ヵ月と周術期GC療法による良好な結果が示唆された(HR:0.463、95%CI:0.222~0.964、p=0.0395)。 EFS(HR:0.351、p=0.0047)や R0切除率(NEO群83.3%vs.標準治療群40.0%)も大きな差を認めた。本試験は登録数の制限から統計的限界があるものの、術前GC療法が切除率や生存期間の向上に寄与しうる可能性を示した点で意義深く、今後の大規模前向き試験の展開が強く期待される。一方で現在、本邦では進行・再発胆道がんに対してGC+S-1(GCS)療法とGC+ICI併用療法の治療効果を検討するKHBO2201-YOTSUBA試験が進行中であり、周術期治療への応用が期待される。膵がんPANOVA-3試験:切除不能局所進行膵がんにおける腫瘍治療電場(TTFields)の有効性と安全性(LBA4005)切除不能局所進行膵腺がん(LA-PAC)に対する新たな治療戦略として、腫瘍治療電場(Tumor Treating Fields:TTFields)の有効性が注目を集めた。PANOVA-3試験は、TTFieldsをGEM+nab-PTX(GnP)に追加することで、標準治療単独(GnP)と比較し全生存期間(OS)を有意に延長することを示した初の第III相試験である。本試験は本邦を含む20ヵ国198施設、571例を対象に1対1に割り付けて実施。主要評価項目であるOS中央値はTTFields群16.2ヵ月vs.GnP群14.2ヵ月であり、優越性を示した(HR:0.82、95%CI:0.68~0.99、p=0.039)。副次評価項目では、無痛生存期間(HR:0.74)、遠隔転移PFS(HR:0.74)、QOLにおいてもTTFields群が有意に良好な結果を示した。安全性に関しては、TTFields群で局所の皮膚関連有害事象が多くみられたが、主にGrade1/2で管理可能であり、有害事象でTTFieldsが中止となったのは8.4%であった。TTFieldsは非侵襲的かつ局所的な電場療法であり、がん細胞の分裂阻害効果や抗腫瘍免疫増強効果が報告されている。膠芽腫や悪性胸膜中皮腫・非小細胞肺がんに続く膵がんへの応用が今回初めて本格的に示され、遠隔転移制御効果も示唆された。今後の膵がん治療における集学的治療の一環として、TTFieldsの位置付けが期待される。

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「ICIの投与は早い時間が良い」をRCTで再現/ASCO2025

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の投与は、午前中などの早い時間が良いという報告が多数存在する。しかし、これらは後ろ向き解析やそれらのメタ解析に基づくものであり、無作為化比較試験により検討された報告はこれまでにない。そこで、Yongchang Zhang氏(中国・中南大学湘雅医学院)らの研究グループは、ICIの投与時間が非小細胞肺がん(NSCLC)患者の予後へ及ぼす影響を検討する無作為化比較試験「PACIFIC15試験」を実施した。米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)において本試験の結果が報告され、早い時間にICIを投与した群は無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)が良好であったことが示された。・試験デザイン:海外第III相無作為化比較試験・対象:ICI+化学療法を開始するドライバー遺伝子陰性のStageIIIC~IV NSCLC患者・試験群(早時間帯群):15時以前にICIの投与を開始 105例・対照群(遅時間帯群):15時1分以降にICIの投与を開始 105例・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)評価によるPFS[副次評価項目]OS、安全性など 主な結果は以下のとおり。・全体として男性の割合が高く、早時間帯群90.5%、遅時間帯群90.5%であった。PD-L1発現状況は、PD-L1 1%未満/1~49%/50%以上/不明が、それぞれ39.0%/29.5%/24.8%/6.7%、44.8%/27.5%/21.0%/6.7%であった。ICIの内訳は、sintilimab/ペムブロリズマブが、それぞれ77.1%/22.9%、78.1%/21.9%であった。・追跡期間中央値23.2ヵ月時点において、主要評価項目のBICR評価によるPFS中央値は、早時間帯群11.3ヵ月、遅時間帯群5.7ヵ月であり、早時間帯群が有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.42、95%信頼区間[CI]:0.31~0.58、p<0.0001)。PD-L1発現状況によらず、PFSは早時間帯群が良好な傾向にあった。・OS中央値は、早時間帯群未到達、遅時間帯群16.4ヵ月であり、早時間帯群が有意に良好であった(HR:0.45、95%CI:0.30~0.68、p<0.0001)。PD-L1発現状況によらず、OSも早時間帯群が良好な傾向にあった。・ICI投与開始後、早時間帯群はCD8陽性T細胞がベースライン時より増加したが、遅時間帯群は減少した。・活性化T細胞(CD38陽性HLA-DR陽性CD8陽性T細胞)の疲弊T細胞(TIM3陽性PD-1陽性CD8陽性T細胞)に対する比率(活性化/疲弊比)は、ICI投与後に上昇したが、上昇幅は早時間帯群が遅時刻帯群と比べて大きかった。 本結果について、Zhang氏は「早時間帯群と遅時間帯群を比較すると、末梢血中のCD8陽性T細胞の状態に違いが認められた。サーカディアンリズムが免疫療法に及ぼす潜在的影響を考慮すると、免疫療法に関する臨床研究では投与時刻を記録することや投与時間で層別化することが推奨されるだろう」とまとめた。

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軽症の免疫チェックポイント阻害薬関連肺臓炎へのステロイド、3週vs.6週(PROTECT)/ASCO2025

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が広く使用されるようになり、免疫関連有害事象(irAE)マネジメントの重要性が高まっている。irAEのなかで比較的多いものの1つに、薬剤性肺障害(免疫関連肺臓炎)がある。免疫関連肺臓炎の治療としては、一般的にステロイドが用いられるが、適切な治療期間は明らかになっていない。そこで、免疫関連肺臓炎に対するステロイド治療の期間を検討する無作為化比較試験「PROTECT試験」が本邦で実施された。米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)において、藤本 大智氏(兵庫医科大学)が本試験の結果を報告した。本試験において、ステロイド治療期間を3週間とする治療レジメンは、6週間の治療レジメンに対する非劣性が示されなかった。 軽症の免疫関連肺臓炎に対する治療について、各種ガイドラインに記載されているステロイド治療期間は無作為化比較試験によって評価されたものではなく、専門家の意見により4~6週間と設定されている。また、軽症の免疫関連肺臓炎は死亡率が低く、長期のステロイド治療はICIの効果を損なう可能性が考えられ、有害事象を増加させる懸念がある。そこで、PROTECT試験では、ステロイド治療期間を3週間に短縮することが可能であるか検討した。・試験デザイン:国内無作為化比較試験・対象:ICIを投与中または投与後に、Grade1/2の免疫関連肺臓炎(CTCAE第5版)が認められた患者・試験群(3週群):プレドニゾロンを3週間かけて漸減・中止 51例・対照群(6週群):プレドニゾロンを6週間かけて漸減・中止 55例(1例は解析から除外)・評価項目:[主要評価項目]治療成功割合(ステロイド治療開始から8週後までSpO2≧90%[room air]、かつステロイドの増量・延長が必要な免疫関連肺臓炎の悪化・再燃なし)[副次評価項目]ステロイド中止までの期間、全生存期間(OS)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・全体として男性の割合が高く、3週群76%、6週群85%であった。喫煙歴のある患者も多く、過去喫煙または現喫煙の割合は、それぞれ88%、83%であった。PS0/1/2の割合は、それぞれ27%/65%/8%、20%/72%/7%であった。肺がんの割合は、それぞれ59%、56%であった。・主要評価項目の治療成功割合は、3週群66.7%、6週群85.2%であり、3週群の6週群に対する非劣性は検証されなかった(群間差:-18.5%、80%信頼区間[CI]:-29.0~-7.9、非劣性のp=0.629[非劣性マージン:-16%])。・試験全体期間中における肺臓炎の再燃または悪化割合は、3週群41.1%、6週群24.1%であり、3週群が多かった(p=0.046)。・ステロイド治療中止までの期間中央値は、3週群25日(95%CI:21~30)、6週群41日(同:41~42)であり、有意差はみられなかった(ハザード比[HR]:0.98、95%CI:0.63~1.52)。3週群では肺臓炎の再燃や悪化により、ステロイドの再開や増量に至った患者が多く、両群の生存曲線は交差した。・OS中央値は両群共に未到達で、有意差はみられなかった(HR:1.03、95%CI:0.46~2.29)。・Grade3以上の有害事象の発現割合は、3週群12%、6週群24%であり、3週群のほうが少ない傾向にあった。ステロイドの中止や減量に至った有害事象、死亡に至った有害事象はいずれの群にも認められなかった。高血糖(35%vs.50%)、皮膚障害(2%vs.13%)は6週群に多い傾向にあった。・間質性肺疾患に関する簡易健康状態質問票「K-BILD(King’s Brief Intestinal Lung Disease)質問票」に基づくQOLは、3週群と比べて6週群のほうが良好な傾向にあった。 本結果について、藤本氏は「ガイドラインに採用されている6週間のステロイド治療レジメンは、エビデンスに基づく免疫関連肺臓炎に対する標準治療であることを支持するものである」とまとめた。

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昭和医科大学 腫瘍内科【大学医局紹介~がん診療編】

堀池 篤 氏(教授)大熊 遼太朗 氏(講師)村 英美子 氏(助教)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴昭和医科大学腫瘍内科は、肺がんや消化器がんはもちろん、軟部肉腫や原発不明がんといった希少がんも含め、あらゆる固形がんの治療を担う国内有数の腫瘍内科講座です。最新の薬物療法に加え、患者さんに寄り添う緩和ケア・支持療法にも力を注いでいます。腸内細菌やバイオマーカーを用いた独自の臨床研究や、医師主導治験を企画・実施するなど、学際的な活動も精力的に行っています。生成AIの活用により、診療・研究の質と効率の向上を図るとともに、週休3日制や夏季2週間の休暇など、働きやすさにも配慮した環境を整備しています。日々の診療から教育・研究へとつなげる体制を構築し、がん医療のさらなる発展に貢献しています。医師の育成方針私たちは、「がんを診る」総合診療医、そして臨床に根ざした研究者の育成を目指しています。入局1年目から主治医として診療に携わり、患者さんと向き合う中で実践力を養っていただきます。カンファレンスやCancer Boardにも主体的に参加し、若手のうちから診療の中心を担える環境が整っています。がん薬物療法専門医や総合内科専門医の取得に加え、大学院進学や海外留学など、それぞれの希望に応じた幅広いキャリア形成にも対応しています。多様な価値観や働き方を尊重し、ライフワークバランスにも配慮した体制のもと、安心してキャリアを築ける環境を整えています。がん医療に誠実に、前向きに取り組みたい方を、私たちは心より歓迎します。力を入れている治療/研究テーマ昭和医科大学腫瘍内科では、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)に関する研究を中心に、がん免疫のメカニズム解明や、治療効果を予測するバイオマーカーの探索、さらに新規免疫療法の開発に取り組んでいます。2022~24年にかけてフランスに留学し、子宮頸がんや悪性黒色腫を対象としたトランスレーショナル研究を遂行した経験も活かし、国内外で通用する研究の実施を目指しています。大学院進学や海外留学など、個々のキャリアに応じた柔軟な研究支援体制が整っています。同医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力腫瘍内科は、臓器横断的に固形がん全般の薬物療法を担う、がん診療の中核的存在です。周術期から進行・再発症例まで幅広く関わり、生命予後を延ばすだけでなく、患者さんが元気に過ごす時間や大切な人と過ごす時間を支えることを重視しています。昭和医科大学は4つの大学病院を有し、多くのがん腫・希少がんに触れられる豊富な症例経験に加え、がん診療に関する情報を統括することにより、臨床データを活用した研究活動にも積極的に関わることができる環境が整っています。診療と研究の両方をバランス良く学べる環境で、腫瘍内科医としての専門性を着実に高めることが可能です。医学生/初期研修医へのメッセージ腫瘍内科では、専門的な知識とともに人間性も求められる場面が多く、緩和ケアから看取りまで患者さんと深く向き合えるのが特徴です。医局内は風通しがよく、若手の意見を歓迎する文化が根付いており、丁寧な指導と柔軟なキャリア支援が受けられる点も魅力です。腫瘍内科医を目指す先生方と出会える日を楽しみにしています。これまでの経歴都内の高校を卒業後、山形大学に進学し、3年生の実習で腫瘍内科の存在を知りました。もともとがん診療や総合内科に興味があった私にとって、臓器の垣根を越えてStageIVの患者さんたちに真剣に向き合う先生方の姿は非常に印象的でした。腫瘍内科のある病院で初期研修をしようと思い、卒後は地元の昭和医科大学病院に就職しました。同医局を選んだ理由カンファレンスで若手の先生方が活躍しているのを見て、風通しの良い医局だと思いました。出身大学もさまざまで、これまでの経歴も人それぞれで多様性があるため、いろいろなロールモデルがあって魅力的に感じました。また、それほど大所帯ではないので指導医や症例を独り占めできる環境です。学びやすい環境は人それぞれですが、私にはそういった環境が合っていると思い入局を決めました。実際、2年間の研修で患者さんの治療方針の決定、副作用のマネジメント、病状説明や終末期のケアなど、非常に多くの経験を積むことができました。現在学んでいること現在は内科専門研修の一環として、連携施設での研修を行っています。通常は医局の指定した連携施設に行くことがほとんどですが、昭和医科大学病院腫瘍内科では自分の学びたい施設・診療科を自由に選ぶことができます。私はこの機会に以前から興味のあった緩和ケアと総合診療を学びたいと思い、茨城の市中病院で研修をしています。こういった自由が利くところもこの医局の良いところです。ご興味のある方はぜひ見学にいらしてください!昭和医科大学 腫瘍内科住所〒142-8666 東京都品川区旗の台1-5-8問い合わせ先reikosawa@cnt.showa-u.ac.jp医局ホームページ昭和医科大学病院 腫瘍内科腫瘍内科プライベートサイト専門医取得実績のある学会日本内科学会(内科専門医)日本臨床腫瘍学会(がん薬物療法専門医)研修プログラムの特徴(1)臓器横断的ながん診療と専門医資格の取得あらゆる固形がんに対する薬物療法を主軸とし、幅広いがん診療のスキルが習得できますがん薬物療法専門医の取得に必要な症例を、当院だけで網羅的に経験可能経験豊富な専門医・指導医による丁寧なサポートのもと、専門医取得を着実に目指せます(2)活発なトランスレーショナルリサーチと学位取得企業治験に加え、大学主導の医師主導治験にも積極的に取り組んでいます昭和医科大学臨床薬理研究所と連携し、臨床と基礎をつなぐ研究活動が可能な環境です大学院進学による学位取得のためのサポート体制も充実しています(3)出身や経歴を問わないオープンな職場環境昭和医科大学の中でも最も新しい科の1つであり、学閥のない自由な雰囲気です初期研修後はもちろん、他科で専門医取得後の入局実績も豊富で、多様なキャリアに柔軟に対応しています

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胃がん周術期、FLOTにデュルバルマブ上乗せでEFS改善(MATTERHORN)/ASCO2025

 欧米において、化学療法FLOT(フルオロウラシル、ロイコボリン、オキサリプラチン、ドセタキセル)は切除可能な胃がんにおける術前術後の標準治療だが、再発率は依然として高い水準にある。胃がんにおける免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、切除不能例において化学療法との併用で承認されているが、術前術後療法では承認されていない。 MATTERHORN試験は切除可能な胃がん患者を対象に、術前術後療法としてFLOTにICIであるデュルバルマブ上乗せの有用性をみた試験である。すでに病理学的完全奏効(pCR)率を有意に改善したことが報告されているが、米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)プレナリーセッションにおいてYelena Y. Janjigian氏(米国・メモリアルスローンケタリングがんセンター)が、主要評価項目である無イベント生存期間(EFS)を含む第2回中間解析の結果を報告した。この結果はNEJM誌オンライン版2025年6月1日号に同時掲載された。・試験デザイン:国際共同二重盲検ランダム化第III相試験・対象:切除可能なStageII~IVA期局所進行胃がん/食道胃接合部腺がん 948例・試験群:術前術後にFLOT+デュルバルマブ1,500mgを4週ごと2サイクル、術後にデュルバルマブ1,500mg 4週ごと10サイクル(デュルバルマブ群)474例・対照群:術前術後にFLOT+プラセボを4週ごと2サイクル、術後にプラセボを10サイクル(プラセボ群)474例・評価項目:[主要評価項目]EFS[副次評価項目]全生存期間(OS)、pCR、安全性など・データカットオフ:2024年12月20日 主な結果は以下のとおり。・計948例がデュルバルマブ群474例、プラセボ群474例にランダム化された。追跡期間中央値は31.5ヵ月だった。・デュルバルマブ群はプラセボ群と比較して、EFSで統計学的に有意な改善を示した(ハザード比[HR]:0.71、95%信頼区間[CI]:0.58~0.86、p<0.001)。EFS中央値はデュルバルマブ群では未到達(95%CI:40.7~未到達)、プラセボ群で32.8ヵ月(95%CI:27.9~未到達)だった。2年EFS率は、デュルバルマブ群でプラセボ群よりも高かった(67%対59%)。・OS中央値は、デュルバルマブ群で未到達、プラセボ群で47.2ヵ月(HR:0.78、95%CI:0.62~0.97、p=0.025)であった。・pCR率はデュルバルマブ群で19%、プラセボ群で7%だった。・Grade3/4の有害事象の発生率は両群で類似していた。デュルバルマブ群はプラセボ群と比較して手術や補助療法の開始を遅らせなかった。 Janjigian氏は「デュルバルマブ+FLOTは、プラセボ+FLOTと比較してEFSで統計学的に有意な改善を示し、OSの有望な傾向を示した。これらの結果は、デュルバルマブを切除可能な胃がん周術期の新たな標準治療として支持するものだ」とした。 現地で聴講した相澤病院・がん集学治療センターの中村 将人氏は「EFS、OSが改善したポジティブな結果だった。一方で、日本におけるStageII/III胃がんの術後化学療法はS-1が中心でFLOTレジメンは使われていない。また、サブグループ解析ではアジア人においては両群に有意差がなかった。こうした点から、この治療戦略を日本の臨床に取り入れるべきかどうかは意見の分かれるところであり、さらなるデータが必要となりそうだ。今年のASCOの消化器がん演題の中で、最も議論を呼ぶ結果ではないか」とコメントした。

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局所進行膵腺がん、腫瘍治療電場療法(TTフィールド)の上乗せでOS延長(PANOVA-3)/ASCO2025

 切除不能局所進行膵腺がん(LA-PAC)患者において、腫瘍電場治療(TTフィールド)と化学療法の併用が全生存期間(OS)の改善を示した。 LA-PAC患者を対象にTTフィールドとゲムシタビン+nabパクリタキセル(GnP)の有用性を評価する第III相PANOVA-3試験の結果が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)において、米国・Virginia Mason Medical CenterのVincent Picozzi氏から発表された。 LA-PACは5年生存率8%と予後不良であり、現在の治療法ではアンメットニーズが高い。LA-PACの30〜35%は局所進行だが根治切除対象は10〜15%にとどまり、残りの患者は治癒不能で消耗性の痛みを訴える。TTフィールドはさまざまな機序で腫瘍細胞の分裂を阻害する電場療法。化学療法、放射線、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)、PARP阻害薬などとの併用により、一部の固形がんで抗腫瘍効果を高めることが認められていた。米国と欧州では膠芽腫、悪性胸膜中皮腫、非小細胞肺がんに承認されている(日本では膠芽腫のみ)。膵腺がんでは、進行ステージにおいてGnPレジメンとの併用で、有効性と忍容性が示されている。試験デザイン:無作為化非盲検第III相試験対象:局所進行膵腺がん試験群:TTフィールド+GnPレジメン(TTFields+GnP群)285例対照群:GnPレジメン(GnP群)286例評価項目[主要評価項目]OS[副次評価項目]無増悪生存期間(PFS)、無痛生存期間、奏効率(ORR)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・OS中央値は、TTFields+GnP群16.2ヵ月、GnP群で14.2ヵ月と、TTFields+GnP群で有意に延長した(ハザード比[HR]:0.82、95%信頼区間[CI]:0.68~0.99、p=0.039)。・PFS中央値はTTFields+GnP群10.6ヵ月、GnP群9.3ヵ月であった(HR:0.85、95%CI:0.68〜1.05、p=0.137)。・無痛生存期間中央値はTTFields+GnP群15.2ヵ月、GnP群9.1ヵ月であった(HR:0.74、95%CI:0.56〜0.97、p=0.027)。・有害事象(AE)はTTFields+GnP群の97.8%、GnP群の89.9%に発現し、重篤なAE発現は、TTFields+GnP群53.6%、GnP群47.6%であった。・TTFields+GnP群の機器関連AEは81.0%に発現した。主なものは皮膚障害であるが、ほとんどがGrade1/2であった(Grade3は7.7%)。TTフィールドに起因する死亡例はなかった。 PANOVA-3試験は、切除不能LA-PACにおけるTTフィールドとGnPの併用療法が、OSおよび無痛生存期間において有意なベネフィットを示すことを初めて実証した。同レジメンが新たな標準治療となる可能性を示す結果となった。 この試験結果はJournal of Clinical Oncology誌2025年5月31日号に掲載された。

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全医師が遭遇しうる薬剤性肺障害、診断・治療の手引き改訂/日本呼吸器学会

 がん薬物療法の領域は、数多くの分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬(ICI)、抗体薬物複合体(ADC)が登場し、目覚ましい進歩を遂げている。しかし、これらのなかには薬剤性肺障害を惹起することが知られる薬剤もあり、薬剤性肺障害が注目を集めている。そのような背景から、2025年4月に『薬剤性肺障害の診断・治療の手引き第3版2025』が発刊された。本手引きは、2018年以来の改訂となる。本手引きの改訂のポイントについて、花岡 正幸氏(信州大学病院長/信州大学学術研究院医学系医学部内科学第一教室 教授)が第65回日本呼吸器学会学術講演会で解説した。いま薬剤性肺障害が注目される理由 花岡氏は、「いまほど薬剤性肺障害が注目を集めているときはない」と述べ、注目される理由として以下の5点を挙げた。(1)症例数の増加ICIなどの新規薬剤の登場に伴って薬剤性肺障害の報告が増加している。(2)人種差国際比較により、日本人で薬剤性肺障害の発症率が高い薬剤が存在する。(3)予後不良な病理組織パターン重症化するびまん性肺胞傷害(DAD)を呈する場合がある。(4)多様な病型非常に多くの臨床病型が存在し、肺胞・間質領域病変だけでなく気道病変、血管病変、胸膜病変も存在する。(5)新たな病態ICIによる免疫関連有害事象(irAE)など、新規薬剤の登場に伴う新たな病態が出現している。改訂のポイント8点 本手引きでは、改訂のポイントとして8点が挙げられている(p.viii)。これらについて、花岡氏が解説した。(1)診断・検査の詳説 今回の改訂において「図II-1 薬剤性肺障害の診断手順」が追加された(p.13)。薬剤性肺障害の疑いがあった場合には、(1)しっかりと問診を行って、原因となる薬剤の使用歴を調査し、(2)諸検査を行って他の原因疾患(呼吸器感染症、心不全、原病の悪化など)を否定し、(3)原因となる薬剤での既報を調べ、(4)原因となる薬剤の中止で改善するかを確認し、(5)再投与試験によって再発するか確認するといった流れで診断を実施することが記載されている。 肺障害の発症予測や重症化予測に応用可能なバイオマーカーの確立は喫緊の課題であり、さまざまな検討が行われている。そのなかから国内で報告されている3つのバイオマーカー候補分子(stratifin、lysophosphatidylcholine[LPC]、HMGB1)について、概説している。(2)最新の画像所見の紹介 薬剤性肺障害の画像所見が「表II-3 薬剤性肺障害の一般的なCT所見」にまとめられた(p.21)。薬剤性肺障害の代表的な画像パターンは、以下の5つに分類される。・DADパターン・OP(器質化肺炎)パターン・HP(過敏性肺炎)パターン・NSIP(非特異性間質性肺炎)パターン・AEP(急性好酸球性肺炎)パターン なお、今回の改訂において、特定の薬剤の肺障害としてALK阻害薬、ADCに関する画像所見が追加された。(3)薬物療法の例の追加 薬物療法のフローについて「図III-2 薬剤性肺障害の薬物療法の例」が追加された(p.50)。重症度別にフローを分けており、すべての症例でまず被疑薬を中止するが、無症状・軽症の場合は中止により改善がみられれば経過観察とする。被疑薬の中止による改善がみられない場合や中等症の場合は、経口プレドニゾロン(0.5~1.0mg/kg/日)を投与する。これで改善がみられる場合はプレドニゾロンを漸減し、2~3ヵ月以内に中止する。経口プレドニゾロンで改善がみられない場合や重症・DADパターンでは、ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1,000mg/日×3日)を行い、経口プレドニゾロンに切り替える。改善がみられる場合は漸減し、改善がみられない場合はステロイドパルスを繰り返すか、免疫抑制薬の追加を行う(ただし、免疫抑制薬に薬剤性肺障害に対する保険適用はないことに注意)。(4)予後不良因子の追加 薬剤性肺障害の予後を規定する要因として報告されているものを以下のとおり列挙し、解説している。・背景因子(高齢、喫煙歴、喫煙指数高値、既存の間質性肺炎、喘息の既往[ICIの場合]など)・発症様式(低酸症血症、PS2~4など)・胸部画像所見(DADパターンなど)・血清マーカー(KL-6、SP-D、stratifinなど)・気管支肺胞洗浄液(BALF)所見(剥離性の反応性II型肺上皮細胞)・ICIによる肺障害と抗腫瘍効果 ICIについては、irAEがみられた集団で抗腫瘍効果が高いこと、ニボルマブによる肺障害が生じた症例のうち、腫瘍周囲の浸潤影を呈した症例は抗腫瘍効果が高かったという報告があることなどが記されている。(5)患者指導の項目の追加 薬剤の投与中に新たな症状が出現した場合は速やかに医療機関や主治医に報告するよう指導すること、とくに抗悪性腫瘍薬や関節リウマチ治療薬を使用する場合には、既存の間質性肺疾患の合併の有無を十分に検討することなどが記載された。また、抗悪性腫瘍薬の多くは医薬品副作用被害救済制度の対象外である点も周知すべきことが示された。(6)抗悪性腫瘍薬による肺障害を詳説 とくに薬剤性肺障害の頻度が高いチロシンキナーゼ阻害薬、ICI、抗体製剤(とくにADC)について詳説している。(7)irAEについて解説 ICIによって生じた間質性肺炎では、BALF中のリンパ球の増加や制御性Tリンパ球の減少、抗炎症性単球の減少、炎症性サイトカインを産生するリンパ球・単球の増加など、正常分画とは異なる所見がみられることが報告されている。このようにirAEに特異的な所見がみられる場合もあることから、irAEの発症機序について解説している。(8)医療連携の章の追加 本手引きについて、花岡氏は「非専門の先生や診療所の先生にも使いやすい手引きとなることを目指して作成した」と述べる。そこで今回の改訂で「第VI章 医療連携」を新設し、非呼吸器専門医が薬剤性肺障害を疑った際に実施すべき検査について、「図VI-1 薬剤性肺障害を疑うときの検査」にまとめている(p.123)。また、専門医への紹介タイミングや、かかりつけ医・非呼吸器専門医と呼吸器専門医のそれぞれの役割について「図VI-2 かかりつけ医と専門医の診療連携」で簡潔に示している(p.124)。すべての薬剤が肺障害を引き起こす可能性 花岡氏は、薬剤性肺障害の定義(薬剤を投与中に起きた呼吸器系の障害のなかで、薬剤と関連があるもの)を紹介し、そのなかで「薬剤性肺障害の『薬剤』には、医師が処方したものだけでなく、一般用医薬品、生薬、健康食品、サプリメント、非合法薬などすべてが含まれることが、きわめて重要である」と述べた。それを踏まえて、薬剤性肺障害の診療の要点として「多種多様な薬剤を扱う臨床医にとって、薬剤性肺障害は必ず鑑別しなければならない。すべての薬剤は肺障害を引き起こす可能性があることを念頭において、まず疑うことが重要であると考えている」とまとめた。

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術前PD-1阻害薬療法、広範なdMMR固形腫瘍で手術を回避/NEJM

 ミスマッチ修復機能欠損(dMMR)の局所進行直腸腫瘍では、免疫チェックポイント阻害薬を用いた術前補助療法により高率に手術の必要性がなくなったとの報告があり、これを腫瘍部位を問わずにあらゆる早期dMMR固形腫瘍に適用可能ではないかとの仮説が提唱されている。米国・Memorial Sloan Kettering Cancer CenterのAndrea Cercek氏らは、根治手術が可能な早期dMMR固形腫瘍患者において、PD-1阻害薬dostarlimabを用いた術前補助療法が、高い割合で当該臓器の温存をもたらすことを示した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年4月27日号に掲載された。米国の2つのコホートの第II相試験 研究グループは、早期dMMR固形腫瘍の非手術的管理の根拠を検証する目的で、治癒切除可能な広範な部位の早期MMR固形腫瘍におけるdostarlimabによる術前補助療法の有効性と安全性を評価する第II相試験を行った(Swim Across Americaなどの助成を受けた)。 米国の3施設でスクリーニングを受け、新たに診断されたI、II、III期の固形腫瘍で、治癒を目的とする手術が可能であり、免疫組織化学染色でMLH1、MSH2、MSH6、PMS2の発現がないdMMRの患者を対象とした。 これらの患者に対し、術前補助療法としてdostarlimab(500mg)を3週ごとに6ヵ月間(9サイクル)静脈内投与し、2つのコホート(コホート1:dMMR局所進行直腸がん、コホート2:直腸以外のdMMR固形腫瘍)で評価を行った。臨床的完全奏効が得られた患者は非手術的管理による治療の継続を選択することができ、残存病変を有する患者は切除術を受けることとした。 コホート1の主要エンドポイントとして、手術を受けなかった患者または手術を受け病理学的完全奏効を達成した患者におけるdostarlimab療法(±化学放射線療法)終了から12ヵ月の時点での持続的な臨床的完全奏効を評価し、コホート2では探索的解析を行った。解析には、2019年12月~2025年4月に得たデータを使用した。治療終了患者の臨床的完全奏効は82%、80%で手術回避 117例を解析の対象とした。コホート1が50例(年齢中央値51.0歳[範囲:26~78]、女性56%)、同2が67例(67.0歳[28~87]、43%)であった。103例が治療を終了した(コホート1:49例、コホート2:54例)。コホート2の主な腫瘍の部位は、結腸(33例)、胃(15例)、尿路上皮(7例)、食道(3例)、胃食道接合部(3例)などであった。 コホート1では、治療を終了した49例のすべてが臨床的完全奏効を達成し、全例が非手術的管理による治療継続を選択した。12ヵ月の時点で、37例が持続的な臨床的完全奏効を維持しており、有効性の基準を満たした。 コホート2では、治療を終了した54例中35例(65%)が臨床的完全奏効を得て、このうち33例(61%)が非手術的管理による治療継続を選択した。残りの2例(胃がん1例、尿路上皮がん1例)は手術を選択し、いずれも切除検体にがんの証拠は認めなかった。 両コホートを合わせた治療終了患者103例では、84例(82%[95%信頼区間[CI]:72~88])で臨床的完全奏効が得られ、このうち82例(80%[70~87])が手術を受けなかった。また、原発腫瘍が治療中または治療後に進行したり、切除不能となった患者はなく、死亡例の報告もなかった。 全117例における2年時の無再発生存率は92%(95%CI:86~99)で、再発までの期間中央値は20.0ヵ月(範囲:0~60.8)であった。コホート1の50例では、それぞれ96%および30.2ヵ月、同2の67例では、85%および14.9ヵ月だった。全体で再発は5例のみで、1例は原発腫瘍(直腸)の再増殖であったが、残りの4例はリンパ節に限局した再発であった。有害事象発現率は65%、可逆性のGrade1、2が60% dostarlimabの投与を少なくとも1回受けた患者の65%に有害事象が発現した。60%は可逆性のGrade1または2の有害事象であった。最も頻度の高いGrade1または2の有害事象は、疲労感(全体の23%)、皮疹または皮膚炎(同21%)、そう痒(同19%)であった。Grade3の有害事象として、糖尿病、肺感染症、甲状腺機能低下症、脳炎、好中球減少症を各1例に認めた。Grade4の発熱性好中球減少症が1例にみられた。 著者は、「免疫チェックポイント阻害薬の効果は、腫瘍の原発部位よりもdMMRの表現型に主に依存していると思われた」「今後の大きな課題は、腫瘍反応を監視する最良の方法を確立することである」「本研究は、早期dMMR固形腫瘍の従来の治療パラダイムに変更をもたらし、多くの患者において手術や他の治療の必要性をなくすための基礎を提示するものである」としている。

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免疫チェックポイント阻害薬の治療効果、年齢による差は認められず

 人の免疫システムが加齢に伴い衰えていくことはよく知られている。しかし、そのような免疫機能の低下が、がんに対する免疫療法の効果を妨げることはないようだ。がん患者に対する免疫チェックポイント阻害薬による治療は年齢に関わりなく有効であることが、新たな研究で明らかにされた。米ジョンズ・ホプキンス大学医学部腫瘍学分野のDaniel Zabransky氏らによるこの研究結果は、「Nature Communications」に4月21日掲載された。Zabransky氏は、「高齢患者に対する免疫療法の効果は、若年患者と同等か、場合によってはそれ以上だ」と述べている。 がん細胞は、免疫チェックポイントと呼ばれる正常な免疫システムを利用して免疫細胞の攻撃を回避することが知られている。免疫チェックポイント阻害薬は、この免疫システムのブレーキを解除し、免疫細胞ががん細胞をより効果的に攻撃できるようにする薬剤である。研究グループによると、がんと診断される患者の大半は65歳以上だという。がん治療における全体的な治療成績は高齢患者の方が悪い傾向にあり、免疫システムの老化が原因の一部と考えられている。しかし、免疫療法がこのような老化の影響の克服に役立つのかは明確になっていない。 本研究では、免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けた104人のがん患者(男性67.3%)を対象に、治療後の免疫反応を比較した。対象者のうち54人が65歳以上だった。免疫反応は、試験開始時と治療から1〜5カ月後に採取した末梢血サンプルを用いて評価した。追跡期間中央値は8.8カ月だった。 その結果、無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)において年齢による有意な差は認められなかった。奏効率は、高齢患者で35.4%、若年患者で23.1%であり、この差も統計学的に有意ではなかった。 一方で、免疫反応については高齢患者と若年患者の間に違いが見られた。例えば、高齢患者では、ナイーブT細胞(特定の抗原に曝露したことのないT細胞)が少なく、免疫チェックポイント阻害薬による増強がなければ、がんなどの新たな脅威に対応する準備ができていない可能性が示唆された。研究グループは、「このような違いは、免疫療法薬が高齢患者にとって特に有益なものになる可能性があることを示唆している」と述べている。 研究グループは次の研究で、腫瘍内部で見つかった免疫細胞の違いに注目し、年齢層間で比較して免疫療法に対する反応を調べる予定だとしている。Zabransky氏は、「現行の治療では、免疫システムによるがん細胞の認識能力に年齢差がある点をあまり考慮せずに、免疫チェックポイント阻害薬をどの患者にも同じように投与している。われわれは、加齢に伴う免疫システムの変化に対する理解を深めることで、新たな治療戦略を特定し、患者ごとに異なる重要な因子に基づく個別化治療を進めていきたいと考えている」との展望を示している。

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グローバルなリアルワールドエビデンスに期待(解説:田中希宇人氏/山口佳寿博氏)

 本研究は、進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者のうち、PD-L1陽性(TPS≧1%)でEGFR変異やALK転座がない症例を対象に、免疫チェックポイント阻害薬ペムブロリズマブと、新規の二重特異性抗体ivonescimab(PD-1+VEGFに対する抗体)の有効性と安全性を比較した多施設ランダム化第III相試験「HARMONi-2試験」の報告である。中間解析時点での主要評価項目は無増悪生存期間PFSで、ivonescimab群で有意に延長が認められた(中央値11.1ヵ月vs.5.8ヵ月、HR:0.51、p<0.0001)。このPFSの改善効果はPD-L1 TPS 1~49%、TPS≧50%、扁平上皮がん、非扁平上皮がんを含む主要なサブグループで一貫していた。また奏効率ORRはivonescimab群で50%、ペムブロリズマブ群で39%、病勢コントロール率DCRはそれぞれ90%と71%であった。重篤な免疫関連有害事象(irAE)は両群で同程度であり、高血圧や蛋白尿などのVEGFに関連する有害事象はivonescimab群でやや多いものの管理可能な範囲であった。とくにベバシズマブが従来禁忌とされてきた扁平上皮がんでも、出血性合併症の増加は認められなかった。 本研究の最大のメリットは、「免疫治療の単剤療法」においてペムブロリズマブを上回る有効性を示した点である。とくに、PD-L1 TPS 1~49%の集団で有効性を示した初の免疫単剤であること、扁平上皮がんにも使用可能な抗VEGF併用薬であること、速い奏効と高い病勢コントロール率の3点は肺がん診療において重要かつ実践的であると考えられる。 PD-L1陽性肺がんに対するペムブロリズマブの初回治療の効果を検証した「KEYNOTE-042試験」ではTPS 1~49%の患者でPFS延長は示されなかったが、本試験では同群に対してHR 0.54と有意なPFS延長を示した。これにより、これまで「PD-L1低発現群で免疫治療の単剤治療は避けるべき」とされてきた症例に対する新たな選択肢の可能性を示した。また従来血管新生阻害薬であるベバシズマブは出血リスクから扁平上皮がんでは禁忌とされていたが、ivonescimabは同様の抗VEGF作用を有しながら出血性合併症は問題とならなかった。扁平上皮がんの1stラインにおける免疫薬単剤治療の選択肢が広がる点は、臨床的に非常に有用と考えられる。そして本研究におけるivonescimab群の奏効までの期間中央値は1.5ヵ月であり、治療早期に効果を期待したい症例に有利に働く。 本研究の有用性は十分に示されていると考えられるが、日本の実臨床で活かすためにはまだまだ問題点がある。まずすべての症例が中国人であり、外的妥当性に課題がある。薬物代謝や腫瘍の特性、人種差を考慮すると、日本人を含むグローバルな症例に対して本研究と外挿するには慎重な姿勢が求められる。また現時点で評価期間が短く、OSは未成熟な点である。他の臨床試験でも同様であるがPFS延長=延命とは限らず、今回の中間解析ではPFSの延長がそのまま予後改善につながるかどうかは現時点では不明である。比較対象がペムブロリズマブ単剤であることも問題である。昨今の進行非小細胞肺がんの標準治療は、プラチナ製剤を含む化学療法と免疫治療を組み合わせる複合免疫療法がスタンダードである。グローバルな標準治療と乖離しており、本試験の比較対象がペムブロリズマブ単剤であることは、比較の「厳しさ」に欠ける可能性がある。 ivonescimab群では目立った免疫関連有害事象こそ認められないものの、Grade3以上の高血圧や蛋白尿といった抗VEGFに由来する有害事象は一定数認められた。実臨床では、とくに腎障害リスクのある症例や高齢者では慎重な管理が必要と考えられる。 さまざまな問題点が指摘される本研究であるが、扁平上皮肺がんやPD-L1低発現群など治療選択肢が限られる症例に対しては期待できる結果が報告された。今後のグローバルなリアルワールドエビデンスに期待が持てる新規薬剤となるのであろう。

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間質性肺炎合併肺がん、薬物療法のポイント~ステートメント改訂/日本呼吸器学会

 2017年10月に初版が発行された『間質性肺炎合併肺癌に関するステートメント』について、2025年4月に改訂第2版が発行された。肺がんの薬物療法は、数多くの分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬(ICI)、抗体薬物複合体(ADC)が登場するなど、目覚ましい進歩を遂げている。そのなかで、間質性肺炎(IP)を合併する肺がんの治療では、IPの急性増悪が問題となる。そこで、近年はIP合併肺がんに関する研究も実施され、エビデンスが蓄積されつつある。これらのエビデンスを含めて、本ステートメントの薬物療法のポイントについて、池田 慧氏(神奈川県立循環器呼吸器病センター)が第65回日本呼吸器学会学術講演会で解説した。NSCLCへの細胞傷害性抗がん薬 細胞傷害性抗がん薬によるIP合併非小細胞肺がん(NSCLC)の1次治療の中心は、カルボプラチンに(nab-)パクリタキセルまたはS-1を併用するレジメンである。これは、本邦で実施された複数の前向き研究や後ろ向き研究の多数例の報告に基づき、比較的安全に投与可能と判断されることによるものである。一方で2次治療以降の検討は少なく、標準治療は確立していない。これについて、池田氏は「後ろ向きの報告から、S-1が比較的安全に投与可能と判断され、用いられているのではないか」と述べた。 IP合併肺がん患者への細胞傷害性抗がん薬の使用について、『特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版)』では投与を提案しているが(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:C[低])、「一部の患者には合理的な選択肢でない可能性がある」ことも記載されている。そのため、池田氏は急性増悪のリスク評価が重要であると述べる。リスク評価については、後ろ向き研究においてHRCTでの線維化範囲の広さ、UIP(通常型間質性肺炎)パターン、%FVC(努力肺活量の予測値に対する実測値の割合)低値、%DLco≦50%などが急性増悪のリスク因子として挙げられている。また、ILD-NSCLC-GAPスコア/modified GAPスコア、Glasgow Prognostic Scaleが急性増悪のリスク評価に有用である可能性も報告されている。ただし、確立されたリスク評価方法は存在せず、本ステートメントでは「治療前に急性増悪発症リスクを評価する方法は複数提案されているが確立していない」としている。SCLCへの細胞傷害性抗がん薬 IP合併小細胞肺がん(SCLC)について、本ステートメントの作成にあたり検索に含まれた介入研究は、国内の17例を対象としたカルボプラチン+エトポシドのパイロット試験のみである。本試験では、急性増悪の発現割合は5.9%と比較的低かったことが報告されている。また「びまん性肺疾患に関する調査研究」班(びまん班)の調査では、急性増悪の発現割合がカルボプラチン+エトポシドで3.7%、シスプラチン+エトポシドで11.0%であったことも報告されている。以上から、本ステートメントでは「プラチナ製剤とエトポシド併用療法がIP合併症例においても標準的治療とするコンセンサスが得られている」としている。分子標的薬 EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)のゲフィチニブ、エルロチニブ、オシメルチニブは、既存肺のIPが肺臓炎発現のリスク因子となることが報告されている。これらのことから、『特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版)』では、IP合併肺がんに対して分子標的薬を投与しないことを推奨または提案するとされている。ただし、池田氏は「実際のところ、EGFR-TKI以外の分子標的薬については、既存肺のIPと肺臓炎リスクの関連は十分に検討されていない」と指摘する。近年では、KRAS、BRAF、METなどを標的とする分子標的薬が登場しており、これらの分子の遺伝子異常を有する患者には喫煙者が多いことから、肺気腫や間質性肺炎の合併が多い可能性も考えられる。そこで、びまん班が「間質性肺炎合併非小細胞肺癌におけるドライバー遺伝子変異/転座検索の実態と分子標的治療薬の安全性・有効性に関する多施設共同後方視的研究」を実施しており、すでに1,250例を超える症例が集積されているとのことである。池田氏は「かなり興味深い結果になっていることが期待され、近いうちに学会でデータを示し、IP合併肺がん患者でもドライバー遺伝子変異を調べることの意義を共有したい」と述べた。抗線維化薬 特発性肺線維症(IPF)合併NSCLC患者を対象に、カルボプラチン+nab-パクリタキセルへのニンテダニブの上乗せ効果を検討した国内第III相無作為化比較試験「J SONIC試験」では、主要評価項目であるIPF無増悪生存期間(PFS)の優越性は示せなかったものの、非扁平上皮がんに限定するとPFSとOSの延長傾向がみられた。また、IPF合併SCLC患者を対象とした国内第II相試験「NEXT SHIP試験」では、カルボプラチン+エトポシドにニンテダニブを上乗せすることで、間質性肺炎の急性増悪の発現割合を3.0%に抑制したことが報告されている。以上から、ニンテダニブはIP合併の非扁平上皮NSCLC、SCLCにおいて抗線維化作用と抗腫瘍作用の双方を期待でき、1次治療の選択肢の1つになる可能性がある。ADC、モノクローナル抗体 HER2を標的とするADCのトラスツズマブ デルクステカンは肺臓炎の発現が多く、胃がんの市販後調査では既存肺のIPが肺臓炎リスク因子となることが報告されている。そのため、本ステートメントではIP合併肺がんでの使用に際して注意が必要であることが記載されている。ICI ICIは、予後不良なIP合併進行肺がん患者に長期生存をもたらしうる現状で唯一の治療選択肢である。しかし、複数の観察研究において、既存肺に間質性肺疾患を有する場合は免疫関連有害事象(irAE)としての肺臓炎の発現割合が高いことが報告されている。そのため、IP合併肺がん患者へICIを投与する場合は肺臓炎リスクの低い患者の絞り込みが重要となる。 そこで、本邦では複数の介入研究が実施されている。HAVクライテリア(蜂巣肺なし、自己抗体なし、%VC[肺活量の予測値に対する実測値の割合]≧80%)を満たす軽症のIPを合併した肺がん患者に対してICIを投与することで、肺臓炎の発現が抑制されることが示唆されている。一方、HAVクライテリアより緩い基準(蜂巣肺を許容、%FVC≧70%など)で実施した試験では、Grade3以上の肺臓炎が23.5%に認められている。これらの結果を受け、本ステートメントでは「既存肺に蜂巣肺を有すると判断された症例に関しては、とくに肺臓炎のリスクが高いものとして慎重な姿勢で臨むべきである」ことが記載されている。また、これらの結果について、池田氏は「軽症のIPであれば比較的安全な可能性があるが、蜂巣肺を有している場合は、現状の介入研究のデータをみると肺臓炎リスクが高い可能性が示唆されている。ただし、有効性に関する良好なデータも示されており、細胞傷害性抗がん薬では長期生存が見込めない予後不良な集団であることも考慮すると、現状ではICIはIP合併肺がんに対して長期生存をもたらしうる唯一の選択肢であるため、リスクベネフィットを患者に共有し、一緒に考えながら治療を選択していく必要がある」と述べた。

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切除不能進行胃がんに対するPD-L1抗体sugemalimab+化学療法の有用性(解説:上村直実氏)

 食道胃接合部腺がんを含む手術不能な進行胃がんに対する第1選択の薬物療法とは、従来、5-FUを代表とするフッ化ピリミジン系薬剤とシスプラチンなどのプラチナ系薬剤の併用療法が標準化学治療となっていた。最近、細胞増殖に関わるHER2遺伝子の有無により、HER2陽性胃がんに対しては抗HER2抗体であるトラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)を追加した3剤併用レジメンが第1選択の標準治療として推奨されており、さらに免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を追加した4剤併用療法の有用性も報告されている。一方、胃がんの80%を占めるHER2陰性胃がんに対しては、標準化学療法にICIであるPD-1(programmed cell death-1)抗体薬であるニボルマブ(同:オプジーボ)やペムブロリズマブ(同:キイトルーダ)を加えた3剤併用療法が第1選択の標準治療レジメンとして確立し、さらにHER2陰性かつClaudin(CLDN)18.2陽性胃がんに対してはCLDN18.2を標的とした抗体薬(ゾルベツキシマブ)も承認されている。このように、手術不能進行胃がんに対する薬物療法が劇的に変化している。 未治療の切除不能な局所進行または転移を有する胃・食道胃接合部腺がんの治療に対して、PD-L1の複合発現スコア(CPS)が5以上の高値を示すアジア人の患者を対象として、標準化学療法単独とPD-L1抗体薬であるsugemalimabの併用を比較した海外無作為化試験が施行された結果、sugemalimab併用の全生存率(OS)中央値15.6ヵ月がプラセボ群の12.6ヵ月に比べて有意に延長していた。とくにCPSが10以上の高値を示す症例のOSはさらに延長していた(2025年2月のJAMAオンライン)。 ICIに関しては、2018年にノーベル賞を受賞した京都大学の本庶 佑博士と米国テキサス大学のジェームズ・P・アリソン博士がそれぞれに発見したPD-1遺伝子とCTLA-4(細胞殺傷性Tリンパ球抗原4)に対する抗体に続いて今回報告されたPD-L1の抗体薬が開発されている。それぞれのICIは異なる機序を有しており、ほかにも新たなICIが次々と開発されつつあるのが現状である。 ICIに関する課題も判明しつつある。すなわちICIが有効性を示す患者もいる一方、効果のない患者もあり、さらに重篤な副作用の出現を認める症例も報告されていることから、今回使用された腫瘍細胞のPD-L1の発現量を示すCPSなど、実際の治療に対する反応性を予測するバイオマーカーの確立が急務であろう。なお、2024年に日本胃癌学会はバイオマーカーとしてHER2、PD-L1、MSI/MMR、CLDN18の4検査を同時に実施することを推奨している。 今後、切除不能胃がんに対する1次治療にICIを含むレジメンが一般的になるものと思われる。わが国において胃がんに対して使用されるICIはニボルマブやペムブロリズマブなどのPD-1抗体が主流であるが、今回の報告から近いうちにPD-L1抗体も臨床の現場に現れると思われる。

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高齢NSCLCへのICI、2次治療への移行率と治療成績(NEJ057)/日本臨床腫瘍学会

 高齢の非小細胞肺がん(NSCLC)患者における免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による治療後の2次治療への移行率や、2次治療の有効性に関する報告は乏しい。そこで、75歳以上の進行・再発NSCLC患者を対象とした後ろ向きコホート研究(NEJ057)1)において、ICIによる治療後の2次治療への移行率および2次治療の治療成績が検討された。山口 央氏(埼玉医科大学国際医療センター)が、第22回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2025)で本結果を報告した。・試験デザイン:多施設(58施設)後ろ向きコホート研究・対象:未治療の75歳以上の進行・再発NSCLC患者のうち、ICI+化学療法、ICI単剤、プラチナダブレット、単剤化学療法のいずれかで2018年12月~2021年3月に治療を開始した患者(初回治療に分子標的薬を使用した患者とEGFR遺伝子変異ALK融合遺伝子を有する患者は除外)・評価項目:全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)、安全性など 今回は、ICI+化学療法またはICI単剤で治療を開始したNSCLC患者を対象として解析された。主な結果は以下のとおり。・解析対象患者(779例)の内訳は、ICI+化学療法群354例、ICI単剤群425例であった。・全身状態はICI+化学療法群のほうが良好な傾向にあった。ECOG PS0/1/2以上/不明の例数は、ICI+化学療法群が137/199/17/1例、ICI単剤群が100/223/102/0例であった。・PD-L1発現はICI単剤群のほうが高発現の傾向にあった。PD-L1 1%未満/1~49%/50%以上/不明の例数は、ICI+化学療法群が111/129/75/39例、ICI単剤群が12/111/297/5例であった。・データカットオフ時点(2021年12月31日)において、病勢進行はICI+化学療法群82%、ICI単剤群77%に認められ、Best Supportive Care(BSC)以外の2次治療への移行率はそれぞれ39.3%、23.8%であった。各群の2次治療の内訳は以下のとおり。-プラチナ併用化学療法:5%、13%-単剤化学療法:39%、16%-ICI単剤:3%、1%-その他:1%未満、1%未満-BSC:52%、69%・2次治療のレジメンは、ICI+化学療法群ではドセタキセル(52例)、S-1(32例)、ドセタキセル+ラムシルマブ(23例)が多く、ICI単剤群ではS-1(21例)、カルボプラチン+ペメトレキセド(18例)、カルボプラチン+nab-パクリタキセル(18例)が多かった。・2次治療のPFS中央値、奏効割合は以下のとおり。 <ICI+化学療法群> プラチナ併用化学療法:2.5ヵ月、13% 単剤化学療法:3.7ヵ月、11% <ICI単剤群> プラチナ併用化学療法:5.3ヵ月、26% 単剤化学療法:3.7ヵ月、13%

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胸腺がんにおけるアテゾリズマブ+化学療法の有効性と安全性(MARBLE):多施設共同単群第II相試験/Lancet Oncol

 胸腺がん(TC)は、年間0.15例/10万人とされる胸腺上皮性腫瘍の15%と、非常にまれな疾患である。進行TCの1次治療は、カルボプラチン+パクリタキセルなどのプラチナ併用化学療法である。しかし、奏効割合(ORR)は30%、無増悪生存期間(PFS)の中央値は約5.0~7.6ヵ月である。既治療の進行TCに対する免疫チェックポイント阻害薬(ICI)単剤の試験でもORRは0〜22.5%に留まる。一方、ICI+化学療法の有効性を検討した試験はない。そのような中、順天堂大学の宿谷 威仁氏らは未治療の進行TCに対するICI+化学療法の国内15施設によるオープンラベル単群第II相試験を行った。 ・対象:未治療の切除不能再発進行(III、IVA、IVB期)TC・介入:アテゾリズマブ(1,200mg)+カルボプラチン(AUC6)+パクリタキセル(200mg/m2)3週ごと4〜6サイクル→アテゾリズマブ(1,200mg)3週ごと忍容できない有害事象の発現または進行(PD)まで・評価項目[主要評価項目]独立中央判定(ICR)評価のORR[副次評価項目]試験担当医評価のORR、全生存期間(OS)、PFS、病勢コントロール率(DCR)、奏効期間(DOR)、安全性など 主な結果は以下のとおり・2022年6月14日〜2023年7月6日に48例が登録され、有効性および安全性の分析対象となった。・患者の年齢中央値は67.5歳で、全員アジア人であった。・追跡期間中央値15.3ヵ月でのORRは56%であった。・頻度の高いGrade3以上の有害事象は好中球減少症(56%)、白血球減少症(33%)、発熱性好中球減少症(23%)、斑状丘疹状発疹(13%)であった。治療関連死亡はなかった。 進行再発胸腺がんは予後不良であるにもかかわらず、希少性により、新たな薬物療法の開発と導入が遅れている。アテゾリズマブ+カルボプラチン+パクリタキセルは、未治療の進行または再発胸腺がんに対する実施可能な治療選択肢となる可能性がある。

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第254回 肥満症治療薬の販売が絶好調!おかげで販売元は豊満に?

海外企業の多くは12月末が決算である。このため5月以降に佳境を迎える日本と違い、すでに主要企業の決算はほぼ出そろっている。医療に関係する企業で言うならば、やはり一番大きいのが製薬業界である。2023年実績で世界ランキング20位までの製薬企業のうち、日本企業ゆえにまだ決算が発表されていない武田薬品、大塚ホールディングスと非上場のためまだ発表されていない独・ベーリンガー・インゲルハイム以外の17社はすでに決算を発表済みだ。これら各社の決算結果では当然、各社の主要製品の売上高も公表されている。この各社発表の医療用医薬品の売上高をランキング化すると、改めて近年の傾向が見えてくる。そのトップ10を見ていきたい。なお、売上高はドル換算だが、各薬剤を円換算に表示すると、やや読みづらいと思うので、100億ドル=約1兆5,000億円を軸に各読者が概算で捉えていただければと思う。売上高トップ5、2024年で変わったことまず、2024年の売上高トップの医薬品は抗PD-1モノクローナル抗体のペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)の294億8,200万ドルである。近年、免疫チェックポイント阻害薬ががん治療の主流を占める中で、2023年からこの薬が世界売上高トップにつけている。第2位が抗凝固薬のアピキサバン(同:エリキュース)の206億9,900万ドル(併売するブリストル・マイヤーズスクイブとファイザーの合算)。以下順に第3位がGLP-1受容体作動薬のセマグルチドの注射薬(同:オゼンピック)の176億4,200万ドル、第4位が抗IL-4/13受容体モノクローナル抗体のデュピルマブ(同:デュピクセント)の139億4,700万ドル、第5位が抗HIV薬のビクテグラビルナトリウム・エムトリシタビン・テノホビル アラフェナミドフマル酸塩の配合剤(同:ビクタルビ)の134億2,300万ドル。このトップ5は2023年とほぼ順位は同じなのだが1点だけ異なる点がある。2023年は第3位に抗TNFαモノクローナル抗体のアダリムマブ(同:ヒュミラ)がランクインしていた。同薬は免疫疾患に広く使われ、ペムブロリズマブが同年にトップになるまで、医療用医薬品売上高の王座だった。で、2024年にはどうなったのかというと、売上高89億9,300万ドルでトップ10圏外の第11位までランクダウンした。それもこれも2023年に特許が失効し、バイオ医薬品版ジェネリックのバイオシミラーが登場し始めたからである。ちなみに特許失効前の2022年の売上高は212億3,700万ドル。実に過去2年間で57.7%の減収である。製薬業界ではこの特許失効時期を境に該当製品の売上が急減することを「パテントクリフ」、日本語で直訳すると「特許の崖」と評するが、まさにその状況である。もっともこれでもアダリムマブはまだましなほうである。というのも、低分子の経口薬ならば、特許失効後半年程度で売上高の6割がジェネリック医薬品に置き換わるからである。ご存じのように低分子の経口薬と違い、培養が必要なバイオ医薬品では完全に同一条件で製造ができないため、バイオシミラーは先発のバイオ医薬品の同一成分ではなく同等・同質の成分。この結果、経口薬のジェネリック医薬品に比較的寛容な欧米の医師でも処方には慎重になりがちだ。6~10位にもある変化がさて第6位以降はどうだろう。第6位が抗IL-23p19モノクローナル抗体のリサンキズマブ(同:スキリージ)の117億1,800万ドル、第7位が抗CD38モノクローナル抗体のダラツムマブ(同:ダラザレックス)の116億7,000万ドル、第8位が持続性GIP/GLP-1受容体作動薬のチルゼパチド(同:マンジャロ)の115億4,000万ドル、第9位が抗IL-12/23p40モノクローナル抗体のウステキヌマブ(同:ステラーラ)の103億6,100万ドル、第10位が抗PD-1モノクローナル抗体のニボルマブ(同:オプジーボ)の93億400万ドル(ブリストル・マイヤーズスクイブ分のみの売上高)だった。第6~10位を2023年と比べると、トップ5と同じくある医薬品がトップ10外にランクダウンしている。それは一般人にとってはもはや喉元過ぎた熱さと言えるかもしれない、ファイザーの新型コロナウイルス感染症ワクチンのコミナティである。2023年には112億2,000万ドルの売上高だったが、2024年は53億5,300万ドルで52.3%の減収となった。もっとも新型コロナに限らず、感染症ワクチンはある種季節もの的な側面はあるため、取り立てて驚くような話でもない。一方、アダリムマブとコミナティのランクダウンに代わって2024年に新たにトップ10入りしたのが第6位のリサンキズマブと第8位のチルゼパチドである。前者はアダリムマブの製造販売元のアッヴィが戦略上、アダリムマブの後継品の1つに位置付けている医薬品である。現状、両薬で共通する適応症は乾癬と炎症性腸疾患だが、今後、新規患者では企業側自体がリサンキズマブに注力する可能性が高いため、アダリムマブの後退に代わって、より伸長していく可能性が高いだろう。そして第8位のチルゼパチドは前年比2.24倍という驚異的な売上伸長で初めてトップ10入りした。もともとは2型糖尿病治療薬として発売(同:マンジャロ)され、2025年4月11日に肥満症治療薬(同:ゼップバウンド)として発売が決定している。ちなみに第3位のセマグルチドも商品名としてのオゼンピックは2型糖尿病が適応だが、同一成分で肥満症を適応とするウゴービがある。ただ、以前の本連載でも触れたが、オゼンピック、マンジャロとも純粋に2型糖尿病治療薬として使われているとは言い難く、実際にはいわゆるダイエット目的の自由診療で相当程度使われ、今回の両製品の公式売上高もその分が相当含まれていると思われる。そして公式の肥満症治療薬としての2024年の製品売上高は、ウゴービが85億3,300万ドル、ゼップバウンドが49億2,600万ドルだった。それぞれ2023年比で1.86倍、24.6倍も売上高が伸長している。この調子だとウゴービ、ゼップバウンドともに2025年もかなりの売上伸長となりそうだ。ウゴービの場合は今回の集計では第12位で、2025年売上高はトップ10にGLP-1受容体作動薬関連が4製品もランクインする事態が現実味を帯びている。もちろんこれが適応症に沿って医学的に正しく使われているのならば何も問題はないが、そうではないことを否定できる人は誰もいないはずだ。もはや世界的に“なんだかなあ?”と言いたくなるような状況なのである。

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免疫チェックポイント阻害薬治療中の生存率にインスリン分泌能が独立して関連

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による治療を受けているがん患者において、インスリン分泌能が良好であることが、全生存期間(OS)や無増悪生存期間(PFS)の延長に独立して関連しているとする研究結果が報告された。岡山大学大学院医歯薬学総合研究科腎・免疫・内分泌代謝内科の渡邉真由氏、江口潤氏らが行った前向きコホート研究によるもので、詳細は「Frontiers in Endocrinology」に12月11日掲載された。 ICIは種々のがんに対してしばしば著効を示すが、従来の抗がん剤とは異なる副作用があり、糖尿病を有する場合はインスリン分泌能低下リスクのあることが知られている。ただし、糖尿病でないがん患者に関しては、まれに劇症1型糖尿病を引き起こすリスクがあることを除き、糖代謝へどのような影響が生じるのかという点の知見は限られている。 渡邉氏らはこの点について、同大学病院の患者を対象とする前向きコホート研究により検討した。解析対象は、2017年6月~2019年8月に進行がんと診断され、ICIによる初回治療が行われた87人。ベースライン以前および研究期間中に糖尿病と診断・治療された患者、および糖代謝に影響を及ぼし得るステロイドが処方された患者などは除外されている。 主な特徴は、年齢中央値(以下、連続変数は全て中央値)が65歳(四分位範囲56~72)、男性67.8%、BMI19.2。がん種は頭頸部がん52人、胃がん19人、その他16人であり、全身状態を0~4で表すECOG PSは0~1(比較的良好なパフォーマンス)が80.5%を占めていた。糖代謝に関しては、HbA1c5.6%、空腹時血糖値97mg/dL、インスリン分泌能を表すHOMA-βが59.4(四分位範囲37.1~85.3)、Cペプチドが1.52ng/dL(同1.01~2.24)、インスリン抵抗性を表すHOMA-IRが1.11(0.72~2.34)であり、腎機能(eGFR)は70.9mL/分/1.73m2(63.5~87.2)と良好だった。投与されたICIは、ニボルマブが78人、ペムブロリズマブが10人、イピリムマブが1人だった(2人は2剤併用)。 ICI投与開始1カ月後、HbA1cの有意な低下(P=0.018)とCペプチドの有意な上昇(P=0.022)が観察され、ICIは非糖尿病患者の糖代謝にも影響を及ぼし得ることが示唆された。 観察期間中に82人(94.3%)が死亡し、OSは中央値7カ月、PFSは同3カ月だった。OSの中央値で2群に分けて比較すると、HOMA-βはベースラインおよび投与1カ月後の両時点で有意差があり、OSが7カ月以上の群のほうが高値だった。その他の糖代謝関連指標の群間差は非有意だった。ROC解析により、OSが7カ月以上であることを予測するHOMA-βの最適なカットオフ値は64.24と計算され、AUCは0.665だった。また、PFSが3カ月以上であることを予測するHOMA-βの最適なカットオフ値は66.43、AUCは0.582だった。 次に、年齢、性別、BMI(最適なカットオフ値である18.58以上)、eGFRおよびHOMA-β(64.24以上)を独立変数、OSの短縮(中央値である7カ月未満)を従属変数とする多変量ロジスティック回帰分析を施行。その結果、BMI(ハザード比〔HR〕0.481〔95%信頼区間0.299~0.772〕)とHOMA-β(HR0.623〔同0.393~0.989〕)の2項目が、OS延長に独立して関連していることが明らかになった。続いて行ったPFSの短縮(中央値である3カ月未満)を従属変数とする解析からは、HOMA-β(66.43以上の場合にHR0.557〔0.339~0.916〕)のみが、PFS延長に独立して関連していることが明らかになった。 著者らは本研究が単施設の患者データに基づく解析であり、サンプルサイズも十分でないことなどを限界点として挙げた上で、「得られた結果は、ICI治療を受ける非糖尿病患者において、インスリン分泌能の高さがOSやPFSの延長に独立して関連することを示している。HOMA-βは、ICI投与が予定されるがん患者の予後予測指標となり得るのではないか」と結論。また、「ICIが膵β細胞機能に影響を及ぼすメカニズムの解明が期待される」と付け加えている。

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