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第33回:「異常Q波」アップデート~最近の考え方~ここ何回かのレクチャーで扱った「異常Q波」。これまでの右前胸部誘導(V1~V3)は「存在」確認で診断できましたが、そのほかの誘導ではどうでしょうか? ちまたの教科書などではさまざまな「定義」が述べられ、やや混沌としている印象です。「心筋梗塞」の反映という観点から、波形の特徴はもちろん、誘導同士の組み合わせや個数まで、Dr.ヒロが最新の考え方を解説します。さぁ、知識をアップデートしましょう!【問題】陳旧性心筋梗塞を反映する「異常Q波」に関する診断条件のうち正しいものを2つ選べ。1)深さ:2mm以上2)深さ:同一誘導のR波高の1/3以上3)隣接する誘導グループのうち、3つ以上で認める4)QS型5)幅:0.03秒以上解答はこちら4)、5)解説はこちら心筋梗塞の診断に役立つ「異常Q波」の定義に関する問題です。今回は症例問題がありませんが、次回に扱おうと思います。選択肢として挙げたものは、いずれも教科書などで取り上げられるものを題材としています。2000年代に入ってから、「Q波」を用いた心筋梗塞の診断法はいくつか改良がなされました。少し前までの“当たり前”が、今は“そうじゃない”ってこともあるんです。今後も微修正される可能性はありますが、目下、最新の診断基準を共有したいと思います。“「異常Q波」な人ってどれくらいいる?”労働衛生協会のデータによると、2017年に健康診断で心電図検査を受けた13万6,000人のうち、「有所見」(要経過観察・受診・精査)とされたのは8.5%、そのうち「異常Q波」は5.4%(男性6.3%、女性3.5%)に認められました。つまり、「心電図異常」を理由に二次健康診断として医療機関を紹介された人は、20人に1人の確率で「異常Q波」の所見が認められるわけです。残念ながら、受診しない方もいますから、受け手側のわれわれが抱くイメージと若干ズレている可能性はありますが、「異常Q波」は割とコモンな所見だってことです。健康診断でこんな状況なのですから、心血管疾患の患者さんが集まる病院では「異常Q波」の出現頻度がもっと高いでしょう。“時代とともに変わる異常Q波の定義”ところで、「異常Q波」を指摘する意味は何だったでしょうか? それは死んで機能しなくなった心筋の反映で、その“代表選手”は「心筋梗塞」です。冠動脈閉塞により心筋梗塞が起こり「異常Q波」が記録された様子のイメージを、図1からつかんでみましょう。(図1)異常Q波と心筋梗塞の関係画像を拡大するところで、心筋梗塞のすべての患者さんが「強い胸痛」を発症し、カテーテル治療を受けて、自身の病名をその後も忘れずに完全に把握しているとしたら…心電図でQ波を探すよりもご本人に問診すれば済むはずです。しかし、患者さんの多くはメディカル・プロフェッショナルではありませんし、記憶があいまいなケースも多々あります(第32回)。それよりもっと重要なのは、自分の知らないうちに心筋梗塞を起こしている人がいるということです。まったく症状がなかったり、心筋梗塞だと思わずにガマンしてしまったり…後者は別にして、「無症候性」(silent)心筋梗塞が全体の1/3を占めるなんていうショッキングな論文1)、2)もあります。こうした “いつの間にか心筋梗塞”を見抜く術として心電図検査があり、とくに「異常Q波」がその役割を果たすと言えます。このへんで少し昔話。心電図が苦手でキライだった “ダメ医学生”の時代(第24回、第25回)、当時のボクが習った「異常Q波」の定義は、A) R波高≦1mm(0.1mV)なら「Q波」とみなして良い、B) 幅≧0.04秒(40ミリ秒[ms])、C) 深さ≧同一誘導でのR波高の25%(1/4)、でした。A)は「1mmなかったら、陽性波が“ない”のと同じ」ってこと。ごくごく小さいR波がわずかにあり「Q波」かな?と悩む場合には、今でも時おり参考にしています。B)は心電図波形の方眼紙では、横1mmが「0.04秒(40ミリ秒[ms])」に相当するので、これも“1mmつながり”です。最後のC)については、問題の選択肢2)のように「1/3」と記載している本もありました。『1/3とか1/4って言うけど、いちいちR波が何ミリ、Q波が何ミリとかって測るのが面倒だなぁ…』と思った記憶があります。一つずつR波高と比べるのも確かに大変ですし、早期にPCIがなされてR波の減高が軽度にとどまる場合、相当な深さのQ波でないと“異常”とはならず、現実をうまく説明できません。そんな“現場の声”が届いたのか、2000年に心筋梗塞の定義が見直されました。その後、約20年間に何度か改訂がなされ、現在の異常Q波の定義は次のものです。一昔前の定義がまったくダメというわけではありませんが、目下“最新版”というものをお示しします。■過去の心筋梗塞を示唆する心電図所見3)(左室肥大、左脚ブロックを除く)■V2~V3誘導:幅>0.02秒のQ波あるいはQS型それ以外:幅≧0.03秒 かつ 深さ≧1mmのQ波あるいはQS型(I、II、aVL、aVF、V4~V6誘導*1)が隣接する誘導グループ*2のうち2つ以上で認められる。V1~V2誘導:R波幅>0.04秒 かつ そろってR/S>1で陽性T波*1:V2、V3は別に定義されており、その心は「III、aVR、V1を除く」ということ(正常でも「異常Q波」様の波形が出る代表的なIII誘導)。*2:(1)I、aVL、(2)V1~V6、(3)II、III、aVFの3つ。“「V1~V3」と「それ以外」で考えよ”一見して気づくのは「V2、V3」と「それ以外」で分けている点でしょう。前回までは「V1~V3」で扱ったのに? 個人的には、この定義のようにV1誘導だけを“のけ者”にするような定義は好みません。現在の定義でV1誘導が除かれているのは、V1誘導では健常者でも「Q波」が出ることがあるためで、単独ではもちろん、人によっては「V1、V2にQ波あり」でも、心エコーなどでは左室「前壁」含めて何にも異常がない方もいます。ただ、同じパターンでホンモノの心筋梗塞の既往がある人もいます。なので、たとえV1誘導単独でもQRS波が陰性波から始まっていたら「Q波」と指摘して欲しいですし、その「異常」基準はV2、V3誘導と同じで結構です。“例外・特殊”、“~だけ”という言葉は、漏れのない判読を推奨するDr.ヒロ流の教えに反します。ちなみに「0.02秒」の条件はあまり気にしないでOKですよ。横幅で言ったら0.5mmですし、それ以下なら正常と言えるわけでもなく(「q波」としての指摘はすべき)、ひとまず「V1」も含めて“あるだけで異常“のスタンスは崩さないほうが良いでしょう。ですから、本質的な理解としては「V1~V3」と「それ以外」で良いと思います。そして、定義ではQS型が「あるいは」で並列しています。これは陽性(r/R)波がまったくないため、「Q波」とも「S波」とも決めがたいという意味で、実質的には「(異常な)Q波」と同義として扱って良いのでした(第17回)。次に、深さの「1/4(ないし1/3)以上」が「1mm」になったのはいいとして、幅はどうでしょう? 「0.03秒(30ms)」って、横1mmが0.04秒(40ms)なのに…って思いませんか? 個人的には、人の目を引くくらい“幅広”なら、ほぼ1mmでアウト、厳密に1mm以上じゃなくていいよっていう解釈です。このように「V1~V3“以外”」では深さも幅も「1mm」がキーワードですから、これをDr.ヒロは“1mm基準”ないし“1ミリの法則”と呼んでいます。ほかにも冒頭で紹介した一昔前の基準も含めて、「異常Q波」の世界では「1mm」が頻発するのです。では、もう一つの「隣接する」(contiguous)ってどういうことでしょう? 一見“n”と“g”を打ち間違えたように見えますが、“g”でOKです。意味的には“continuous”と似ていますがね。この「contiguous」という単語って、あまり英語が得意でないボクにはここ以外ではあまり使われない気がしますが、皆さんはどうでしょうか?胸部誘導の場合、電極を貼る位置が“隣同士”あるいは“お隣さん”、たとえば「V2、V3、V4」とか「V5、V6」とか。いずれにせよ2つ以上が大事。Dr.ヒロ流では“お隣ルール”という名称で解説しています。胸部誘導は、電極位置がそのまま左室壁の「どこ」に対応していましたし(第17回)、心筋梗塞は同じ血管で灌流される一定のゾーンがやられるわけで、「単独」とか「飛び飛び」のような誘導にはならないんです。これはわかりやすいですね。“肢誘導での「隣」に注意すべし”一方の肢誘導では、“お隣ルール”の理解に注意が必要です。標準様式の心電図では、用紙の左半分の上からI、II、III、aVR、aVL、aVFと並んでいますが、見た目通りの“IはIIの隣”や“aVRとaVLは隣同士”というのは間違いです。ややこしいことに、肢誘導では波形の並び順ではなく、「空間的・位置的」に、お隣なんです。『へ…?この人、何言ってんの?どういうこと?』と、思われる方がいるかもしれませんが、大丈夫。全然難しいことではないんです。ボクはすでに何度もレクチャーで扱っています。肢誘導の空間的な位置を示すものと言えば…そう、「肢誘導界」の円座標の世界です(第5回)。ここでは、「IとaVL」、そして「II・aVF・III」の組み合わせが“隣接誘導”*3になります。*3:Dr.ヒロ流では“仲良し誘導”という言い方をすることもある。■“お隣ルール”での隣接誘導群の考え方■胸部誘導は電極の貼り位置そのまま肢誘導は“円座標”の世界での話であることに注意!そして最後。気をつけていないと見過ごしてしまいそうですが、「異常Q波」の定義のはずが、3つ目にV1、V2誘導の「R波」が述べられています。なぜ「R波」が心筋梗塞なのか、聞いたことがあるでしょうか? こちらは“裏”ないし“鏡”の世界と言える、左室「後壁」という「前壁」の真反対の話です。「Q波」の話題から少しズレるので、今回は扱うのをやめておきます(軽く目をやる程度で済ませてください)。以上が最近の「異常Q波」の考え方のトレンドですので、しっかり理解しておきましょう。次回は、具体的な症例でこれらの知識を用いてみようと思いますので、ご期待あれ!Take-home Message異常Q波の診断基準をアップデートしよう。V1~V3誘導では「存在」ないし「QS型」、それ以外の誘導では“1mm”がキーワード(幅・深さ)単独ではなく、“お隣ルール”で「2つ以上」が本当の「異常Q波」杉山裕章. 心電図のみかた・考え方(応用編). 中外医学社;2014.p.80-124.1)Kannel WB, et al. N Engl J Med. 1984;311:1144–1147.2)De Torbal A, et al. Eur Heart J. 2006;27:729–736.3)Thygesen K, et al. Circulation. 2018;138:618-651.【古都のこと~鈴虫寺(華厳寺)】人生の岐路に立ったり悩んだりしたとき、われわれは神や仏に願うでしょう。“鈴虫寺*1”として有名な西京区の華厳寺(山号:妙徳山)*2は、京都でも有名な“ご祈願スポット”で、嵐山エリアで松尾大社や西芳寺(苔寺)のすぐ近くです。長めの石段を上ると、山門の左手に“幸福のお地蔵さま”*3に並ぶ行列が…。受付で志納料を払い、大書院に通されると周囲に鈴虫が飼育された木枠のガラスケース*4が! そして部屋中に響く鈴虫の音! 録音かと疑ってしまうくらいの見事な“大合唱”でした。当寺オリジナルスイーツ茶菓“寿々むし”とおいしいお茶をいただきながら*5、僧侶の“鈴虫説法”に耳を傾けます。自らの来し方を振り返り、行く末を思案するー妙に説得感があり、随所にシャレを効かせた“プレゼン”の上手さに脱帽しました。鈴虫の音はオスの求愛行動によるもので、メスが一緒にいることで初めて鳴くそうです。鈴虫の寿命は約100日。成虫となり最後の1ヵ月に精一杯鳴き、産卵後ほどなくオス・メスとも亡くなっていく話は“無常”ともリンクしたなぁ。受験合格、婚活、出世、起業…利己的な願いを胸に寺を訪れたとしても涙がちょっと出てきましょう。30分ほど話を伺い、鈴虫ケースをもう一周眺め、本尊である大日如来に手を合わせました。そして、最後にちゃっかりお地蔵さまにもお願いをして帰るDr.ヒロなのでした(笑)*1:鈴虫の英語表記は「bell(-ringing) cricket」で、欧米ではコオロギの一種と扱われている。石碑には「鈴蟲の寺 華厳禅寺」と書かれている。*2:鳳潭上人が華厳宗の復興のため享保8年(1723年)に開山。その後、臨済宗に改宗(明治元年[1868年])され、現在に至る。*3:「幸福地蔵大菩薩」。わらじスタイルは日本で唯一。たった一つだけ願い事を聞いてくれる(一願成就)。黄色の幸福御守を両手に挟み、心の中でお願い事を言うのがお約束。住所、氏名を先に言うのを忘れずに(お地蔵さまが家まで歩いて来てくれる)。*4:当日は約4,000匹とのことだったが、多い時はケース数が2倍(7,000~8,000匹)になることも。*5:禅宗の教えの一つに「茶礼」がある。