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高血圧の人では、コーヒーと緑茶のどちらが危ない?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第226回

高血圧の人では、コーヒーと緑茶のどちらが危ない?Pixabayより使用今回紹介する研究は、コーヒーあるいは緑茶の摂取が、高血圧の患者さんにおいて心血管疾患(CVD)の死亡リスクにどのような影響を及ぼすかを検討したものです。個人的にはコーヒーのほうがかなり好きなのですが、私はブラックコーヒーが飲めないので、寒い日は毎晩温かいカフェオレを飲んでいます。砂糖がたっぷり入った甘いカフェオレばかり飲んでいるので、「糖尿病になるわよ」と妻から注意されています。Teramoto M, et al. Coffee and Green Tea Consumption and Cardiovascular Disease Mortality Among People With and Without Hypertension.J Am Heart Assoc. 2022 Dec 21;e026477.これは、JACC(Japan Collaborative Cohort Study for Evaluation of Cancer)コホートにおいて、ベースライン時に40~79歳で、生活習慣、食事、病歴に関する質問票と健康診断に回答した1万8,609人(男性6,574人、女性1万2,035人)を2009年まで追跡調査した報告です。参加者を、至適・正常血圧、正常高値血圧、I度高血圧、II-III度高血圧、の4つの血圧カテゴリーに分類しました(現在の分類とは少し異なります)。そして、Cox比例ハザードモデルを用いて、CVD死亡のハザード比を算出しました。中央値18.9年の追跡期間中に、合計842人のCVD死亡が記録されました。コーヒー摂取は、コーヒーを飲まない人と比較して、II-III度高血圧の人のCVD死亡リスクの増加と関連していることがわかりました。CVD死亡のハザード比(95%信頼区間)は、1杯/日未満で0.98(0.67~1.43)、1杯/日で0.74(0.37~1.46)、2杯/日以上で2.05(1.17~3.59)という結果だったのです。ただし、I度高血圧以下の集団では、このような関連は観察されませんでした。反面、緑茶の摂取は、どの血圧カテゴリーにおいてもCVDのリスク上昇と関連しませんでした。というわけで、II度高血圧(診察室血圧が収縮期血圧160~179mmHgかつ/または拡張期血圧100~109mmHg、家庭血圧が収縮期血圧140~159mmHgかつ/または拡張期血圧90~99mmHg)以上の場合、コーヒーを飲み過ぎないほうがよいということになります。緑茶が循環器に対して良い効果をもたらすというのは、いろいろな研究で示されています。この機序として、(1)心・腎臓・大動脈におけるナトリウム-カリウムポンプの発現、(2)腎臓におけるレニン-アンジオテンシンII-アルドステロン系の活性化、(3)心・腎臓・大動脈における抗酸化・抗炎症作用、(4)血管内皮における一酸化窒素の合成促進、(5)脂質プロファイルの改善、が考えられています1)。1)Gao J, et al. Green tea could improve elderly hypertension by modulating arterial stiffness, the activity of the renin/angiotensin/aldosterone axis, and the sodium-potassium pumps in old male rats. J Food Biochem. 2022 Sep 30;e14398.

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性への関心と健康や寿命は関係があるのか/国内前向き研究

 性的関心が薄れることは、健康や寿命に関係するのであろうか。山形大学の櫻田 香氏らの研究グループは、性的関心の欠如と全死因死亡率との関連性について、山形県における前向き観察研究を行った。この研究は、山形県内の40歳以上の被験者2万969人を対象に行ったもので、性的関心を持たなかった男性では、全死亡率およびがん死亡率が有意に上昇した。PLoS One誌2022年12月14日号の報告。性的関心がない男性では全死亡率およびがん死亡率が有意に上昇 山形県内の年次健康診断に参加した40歳以上の被験者2万969人(男性8,558人、女性1万2,411人)を対象。性的興味は自己報告式の質問紙で評価した。性的関心と全死亡、心血管疾患死亡、がん死亡の増加との関連をCox比例ハザードモデルにより検討。 性的関心が健康や寿命に関係するかを研究した主な結果は以下のとおり。・追跡期間中(中央値:7.1年)、503人が死亡した(心血管疾患死亡:67人、がん死亡:162人)。・カプランマイヤー解析の結果、性的関心がない男性では、全死亡率(p<0.0001)およびがん死亡率(p<0.05)が有意に上昇した。・年齢、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、飲酒状況、BMI、教育、配偶者の有無、笑いの頻度、心理的苦痛を調整したCox比例ハザードモデル解析では、性的関心がない男性では、性的関心がある男性より全死亡のリスクが有意に高かった(ハザード比:1.69、95%信頼区間:1.17~2.44)。

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スマホアプリで食事のカリウム含有量を測定/AZ

 2022年12月8日、アストラゼネカは、都内にて「高カリウム血症合併慢性腎臓病(CKD)・透析患者さんの食事管理の進化」をテーマにメディアセミナーを開催した。CKDにおけるカリウム管理の重要性 カリウムは、生体内において細胞の環境維持や筋収縮の調節などの重要な役割を担っている。適切な血中濃度は3.5~5.0mmol/Lと安全域が非常に狭いため、適切に管理することが求められる。 東京医科大学 腎臓内科学分野 主任教授 菅野 義彦氏は、カリウム管理の重要性について「通常、カリウムは食事により摂取され、尿中に排泄される。しかしCKD患者ではカリウムの排泄量が少なくなることで高カリウム血症を起こし、比較的軽度の症状で手足のしびれ、重度なものでは致死的な不整脈などを来す恐れがある」と解説した。カリウムの定期的な検査と摂取量の見直しを さらに菅野氏は、一般の方では高カリウム血症に気付かないリスクがある、と続けた。高カリウム血症と密接な関係にある腎機能は、血清クレアチニン値を測定しeGFRを算出して評価される。しかし近年では、健康診断においてカリウムや血清クレアチニン値をルーチンに測定しないことが多く、CKDや高カリウム血症に気付かないことがある、という。一方で、カリウムが多く含まれる野菜や果物を健康のためと摂取し過ぎる方がいるため、「年齢によっては最低でも年1回は血液中のカリウム濃度をチェックしたほうがよい。そのうえで摂取量などバランスを考慮することが重要だ」と菅野氏は強調した。スマホで撮影するだけで測れる「ハカリウム」 CKD患者の食事療法におけるカリウムの管理については、東京医科大学病院 栄養管理科 科長 宮澤 靖氏が解説した。健康な成人におけるカリウム摂取の目安量は男性で1日2,500mg、女性で2,000mgであるが、CKDがステージ3bより進行している患者ではカリウム制限が必要である。そこで医療施設によっては、CKD患者に自宅での食事摂取量をノートなどに記録してもらい食事指導に活用している。しかしCKD患者は高齢であることが多く、細やかな記録が難しいため、より正確なカリウム摂取量の把握が課題であるという。 こうした背景の中、アストラゼネカとエクサウィザーズが共同で開発したアプリケーション「ハカリウム」に期待が寄せられている。ハカリウムはスマートフォンのカメラで食事を撮影するだけで、食事に含まれるカリウムなどの栄養素を測定することが可能である。「ハカリウムは、ノートの記録に比べてより正確なカリウム摂取量が把握できる。加えて、患者さんにとって食事の記録を取ることが手間となり、毎日の食の楽しみを損なう恐れがあったが、ハカリウムで簡単に記録できれば、食事本来の楽しみを損なうことなく食事・栄養管理に係る適切なコミュニケーションができると期待している」と宮澤氏は締めくくった。

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脳のエイジングはブラックボックス、画像で認知症予防を実現『MVision』

 脳画像のAI分析によるデータ解析ソフトの開発や医療機関向けの導入・運用サービス提供を行う株式会社エム(以下、エム社)は、第4回ヘルスケアベンチャー大賞において、「脳MRI画像解析に基づく全脳の構造別体積・健康状態の可視化、認知症予防」と題し、それらを実現できる技術を紹介して、見事に大賞を受賞した。本大賞は今年、5つの企業・団体と個人1名が最終審査会まで勝ち抜き、接戦を繰り広げた。 今回、エム社の創業者である森 進氏(ジョンズ・ホプキンズ大学医学部放射線科教授)に、開発経緯から技術提供の将来展望について話を聞いた。画像解析から認知症医療をアップデート 2025年、日本は超高齢化社会を迎える。これは軽度認知障害(MCI)の発症者が約5人に1人(約700万人)と過去最大にまで増加することを意味し、国も認知症対策として新オレンジプランを掲げている。また、先日にはエーザイ・バイオジェンがMCIとアルツハイマー病を対象とした第III相CLARITY AD検証試験で主要評価項目を達成するなど、症状抑制に対する動きは活発である。 しかし、海外で研究活動を行っている森氏は、認知症が生活習慣病の一種として認識が変わりつつあるにもかかわらず、高血圧症や肥満症のように予防対策が講じられておらず、認知症の予防は疎漏である点、日本だけが実施している脳ドックの画像データ、いわば健常者のデータが検査後にお蔵入りして画像価値を最大限に利活用できていない点から着想を得て、認知症の一次予防のために「脳の健康状態を可視化」させることに注目した。これについて同氏は「脳の萎縮状況というのは健康診断でも観察されず、医療において可視化されてこなかった」と述べ、「予防のための管理指標を存在させるべき」と認知症の一次予防がアンメット・メディカル・ニーズであることを強調した。 そこで、同氏らが開発したのが脳画像の自動解析技術である『MVision』だ。彼らは“日本のみに存在する健常者の巨大データ”を活用し、米国・ジョンズ・ホプキンズ大学の脳画像の自動解析技術を用いて、全脳をAI解析する世界初の認知症関連ソフトウェアの開発に成功した。このソフトウェアにより、画像分析を自動化させ、脳全体の構造物を505にセグメントすることで脳の体積や形状を数値化する。また、数値による客観評価により同年代との比較や経年評価できるため、患者の予防に対するやる気に繋がるという。現在、日本の5施設10万件以上の脳ドックから得られた健常者画像データを解析中で、年齢別の平均と分布から脳萎縮リスクの算出が可能だ。実際に若年層のデータを見ると、すでに萎縮が進行していた症例も見られたという。 また、同氏は今回の取材に対し、「認知症の解明には長期で良質のデータが必要。そして、それをいかに早く集め始めるかが大切。これらがスタートアップとして急速に事業を立ち上げた理由かもしれない」と開発および創業の経緯を吐露。導入した際に直面した問題点として、「実際の医療現場では、“脳の萎縮では認知症は診断できない”ことから、萎縮を見てもしょうがない、となってしまう。萎縮があれば認知症になるという個人レベルのエビデンスがないという意見は正しいが、これは目の前の患者に対し診断や治療を考えるときの概念」と、医療の壁を指摘した。その一方で、「萎縮は認知症患者に統計学的に非常に強く見られる特徴なのは確固たる事実であり、萎縮の強い人は認知症患者に多く見られるというのも統計学的事実である」とし「40~70歳の健康診断は、未病段階でのリスク検出と早期生活改善が主要な目的である。その観点から、自分の脳の萎縮を知るということは認知症の大切なリスクマネジメントと考える」と説明した。体重計で体重管理をするように、脳の管理を 将来のリスクの話より現在の病気が優先される時代がゆえに、せっかく脳MRIを撮っても既病の早期検出といった二次予防にしか使われていないことになる。「だが、健康管理のために体重計に乗り、体重を測っている。これと同じように考えたら、30代までに自分の“基礎値”を知り、脳の経時変化を追うこと、脳の健康管理をしないのは不条理なのではないだろうか。われわれが開発した『MVision』は1回だけ撮影するだけでも意味はあるが、脳萎縮は3年でも大きく変化が見られることから継続することで真価を発揮する。若いうちのベストの状態をログに残せるのは今のうちだけなので、若年層こそ一度は受けて欲しい」と強調した。そんな背景もあり、企業や病院施設だけではなく、若年層へのアプローチも大切にしていきたいと話した。その一方で、65歳を超える層にとっても、認知症発症の3~5年前から萎縮が急速に進む傾向が多くの研究で報告されていることから、1~2年に一度の測定を推奨している。 今後の展望として、主に医療機関に本システムを提供し、健診受診者のオプションを想定している。この一次予防のための撮影は通常の脳ドックに組み込まれているものを使用するため、受診者にも医療者にも負担が少ない。検査実績の目標受診者数は「23年5月までに月間3,000~4,000人、年間4万~5万人」を目指し、全国への普及のために「1~2年でまずは首都圏から地方中核都市を中心に全国で受診できる基盤づくりを達成したい」と同氏は意気込みを語った。

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日本人高齢者の睡眠時間と認知症リスクとの関係~NISSINプロジェクト

 大阪公立大学の鵜川 重和氏らは、身体的および社会的に自立した日本人高齢者における毎日の睡眠時間と認知症発症リスク(高血圧、糖尿病、心血管疾患などの併存疾患の有無にかかわらず)との関連を調査するため、日本人の年齢別コホートを行った。その結果、日々の習慣的な睡眠時間は、将来の認知症発症リスクの予測因子であることが示唆された。Sleep Medicine誌オンライン版2022年9月3日号の報告。 64~65歳の日本人1,954人(男性:1,006人、女性:948人)を含むプロスペクティブコホート研究を実施した。1日の睡眠時間、症状、人口統計学的因子、ライフスタイル特性に関するデータは、ベースラインアンケート調査および健康診断調査(2000~05年)より収集した。認知症発症は、厚生労働省が提唱する全国標準化認知症尺度を用いて確認した。認知症発症のハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出するため、競合リスクモデルを用いた。死亡例も競合イベントとして扱った。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間中央値は15.6年であり、その間に認知症を発症した人は260人であった。・併存疾患がなく、1日6~7.9時間の睡眠時間の人と比較し、認知症リスクが高かった人の特徴は以下のとおりであり、併存疾患と睡眠時間との間に有意な相関が認められた(いずれもp<0.001)。 ●1日の睡眠時間が6時間未満(HR:1.73、95%CI:1.04~2.88) ●併存疾患があり1日の睡眠時間が8時間未満(HR:1.98、95%CI:1.14~3.44) ●併存疾患があり1日の睡眠時間が8時間程度(HR:1.44、95%CI:1.03~2.00) ●併存疾患があり1日の睡眠時間が8時間以上(HR:2.09、95%CI:1.41~3.09)

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医師のがん検診受診状況は?/1,000人アンケート

 定番ものから自費で受ける最先端のものまで、検査の選択肢が多様化しているがん検診。CareNet.comが行った『がん検診、医師はどの検査を受けている?/医師1,000人アンケート』では、40~60代の会員医師1,000人を対象に、男女別、年代別にがん検診の受診状況や、検査に関する意見を聞いた。その結果、主ながん種別に受ける割合の多い検査が明らかとなったほか、今後受けたい検査、がん検診に感じる負担など、さまざまな角度から意見が寄せられた(2022年8月26~31日実施)。40代男性医師の約半数、がん検診を受けていない Q1「直近の健康診断や人間ドックで、どのがん検査を受けましたか?(複数選択)」では、男性ではどの年代でも、胃がん(40代41%、50代52%、60代59%)、大腸がん(同28%、同41%、同50%)の順に検査を受けた割合が多かった。「がん検診を受けていない」と回答した人は年代で大きく差があり、40代が47%、50代が31%、60代が23%となっており、40代男性の約半数が、がん検診を受けていないことが明らかになった。 女性では、40代と50代では、ともに乳がん(40代53%、50代47%)の検査を受けた割合が最も多く、次いで40代では子宮頸がん(52%)、胃がん(45%)、50 代では胃がん(45%)、子宮頸がん(44%)の順に多かった。60代は、胃がんが最多(64%)で、次いで乳がん(52%)、子宮頸がん(42%)の順となっている。「がん検診を受けていない」と回答した人は、どの年代も20%台で大きな差はなかった。女性の場合、乳がんや子宮頸がんといった若年層でも比較的リスクが高いとされるがんが多いことが、この結果に影響しているかもしれない。胃がん検診で最も多いのは経口内視鏡検査 Q2「胃がん検診の際に受けた検査はどれですか?(複数選択)」では、男女どの年代も経口内視鏡検査を受けた割合が最も多かった(男性29%、女性31%)。自由回答で、胃がん検診に対して寄せられたコメントとして、バリウムX線検査や内視鏡検査について、以下のようなものがあった。・バリウムではなくて内視鏡をファーストチョイスにしてほしい。(心臓血管外科、40代、女性)・胃のバリウム造影はあまり意味がないのではないでしょうか。(泌尿器科、40代、男性)・経口内視鏡の苦痛の軽減方法は鎮静以外にないものか、今後の技術の進歩に期待。(内科、60代、女性)・胃カメラは経鼻が入らないので、さらに細径の内視鏡開発を望みます。(泌尿器科、50代、男性)コメントが多く寄せられた「乳がん検診の痛み」 Q3では、男女で別の質問項目を設けた。男性に対しては前立腺がんについて聞いたところ、年代が上がるにつれて検査を受けた割合が増加し、40代ではわずか9%だが、50代では33%、60代では48%がPSA検査を受けていた。 女性に対しては乳がんについて聞いた。マンモグラフィ検査を受けた割合は各年代とも50%を超えており、超音波検査は30%前後であった。乳がん検診の痛みに対する以下のようなコメントが10件ほど寄せられた。・マンモグラフィはもっと痛みの少ない撮影法が開発されてほしい。毎回憂うつです。(眼科、40代、女性)・乳がん検診はMRIが最適だろうに、なぜ広がらないのかわかりません。そもそもマンモグラフィは非常に痛みが強く、その割に感度特異度とも不十分で改善点ありまくりなのに、まったく改善する見込みなし。(内科、50代、女性)・マンモグラフィが痛すぎるので、それに代わる痛くない検査がいい。(精神科、50代、女性)自費で受けた検査、今後受けたい検査 Q5では、自費で受けたことがある検査について聞いた。最も多かったのは腫瘍マーカー検査で、男女ともにどの年代も10%以上あり、最多の60代男性では24%だった。続いて脳ドックが男女ともに各年代10%前後であった。 Q6の自由回答のコメントでは、今まで受けたことはないが今後積極的に受けたい検査として、下部消化管内視鏡検査を挙げた人が14人、がん遺伝子検査が11人、がん線虫検査が10人、PET検査が9人、腫瘍マーカー検査が3人だった。ただし、線虫検査や腫瘍マーカー検査については、検査の精度に対して以下のような懐疑的な意見もいくつか寄せられた。・線虫検査などは偽陰性が問題だと思う。(泌尿器科、40代、女性)・腫瘍マーカーで早期発見は無理で、普段偽陽性ばかり見ているので、しっかりと有用性の評価をしないといけないと思う。(呼吸器内科、50代、男性)コロナ禍で検診を受けにくい状況も がん検診を受けにくい理由として、忙しくて受ける余裕がないという意見が多数寄せられた。具体的には、内視鏡検査や婦人科がんの検診は予約が取りづらいといったことや、週末に受診できる施設が少ないといった理由のほか、コロナ禍で検診を受けにくくなったという声も複数上がった。アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。がん検診、医師はどの検査を受けている?/医師1,000人アンケート

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低BMIの蛋白尿リスクに“朝食抜き”が影響

 蛋白尿は心血管疾患と死亡率の重要な予測因子であり、いくつかの研究では、朝食を抜くことと蛋白尿の有病率との関連性が報告1)されている。また、朝食を抜くと肥満のリスクが高まることも明らかになっている。そこで、村津 淳氏(りんくう総合医療センター腎臓内科)らは蛋白尿が肥満の人でよく見られることに着目し、朝食を抜くことによる蛋白尿の有病率とBMIとの関連について調査を行った。その結果、蛋白尿は低BMIと関連性が見られ、低BMIの人の場合には、朝食を抜くことに注意する必要があることが示唆された。本研究結果はFront Endocrinol誌8月19日号に掲載された。. 本研究者らは、正常な腎機能者における朝食抜きと蛋白尿の有病率との関連に対するBMIの臨床的影響を評価することを目的に、2008年4月~2018年12月までの期間に市中病院で健康診断を受け、腎疾患の既往がなく、推定糸球体濾過量(eGFR)が60mL/min/1.73m2 以上であった2万6,888例 (男性:1万5,875例、女性:1万1,013例) を対象に横断研究を実施した。 本研究では、週3日以上朝食を食べていない者を「朝食抜き」と定義。そのほか、対象者には喫煙、アルコール多飲、運動不足、睡眠不足、間食の有無、深夜/夕食時の生活行動、既往歴(高血圧・糖尿病・脂質異常症・脳卒中・高尿酸血症・冠動脈疾患)についてアンケートを行った。また、朝食抜きと蛋白尿の有病率との関連性はBMI(kg/m2)を3つのサブグループ(男性:

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第120回 滋賀医大生3人を強制性交で逮捕・起訴、“エリート”たちがいつまでたってもパーティーを止めない理由とは?

全国知事会、新型コロナを「2類相当」から引き下げるよう訴えこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。日本のオールスターゲームもコロナ感染による出場辞退が続出しものの、なんとか無事終わりました。個人的に楽しめたのは、7月27日に松山で行われた第2戦に登場した日本ハムファイターズの伊藤 大海投手です。伊藤投手は全パの8番手として8回から登板、スピードガンでも計測不能の超スローボールを投げ球場を沸かせました。とくに3人目に対戦した中日ドラゴンズの主砲ダヤン・ビシエド選手には、3球連続でスローボールを投げ、最後は見事レフトフライに打ち取りました。伊藤投手はオールスター選出時、千葉ロッテマリーンズの佐々木 朗希投手の超豪速球を意識してか、「オールスター“最遅”を狙う」と予告していたそうです。マウンドが白煙で見えないくらいになる、マシマシのロジンバックでも有名な伊藤投手の後半戦での好投に期待したいと思います。ちなみに、かつて超スローボールでMLBと日本球界を沸かせた多田野 数人投手は現在、伊藤投手の所属する日ハムで2軍投手コーチを務めています。そんなオールスターが終わったら案の定、「第118回 ランサムウェア被害の徳島・半田病院報告書に見る、病院のセキュリティ対策のずさんさ」でも書いたように、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の扱いを「2類相当」から「5類」に引き下げようという議論が本格化してきました。7月28日から奈良市で始まった全国知事会では、複数の知事が新型コロナウイルスについて感染症法上の分類を「2類相当」から引き下げるよう訴えました。神奈川県の黒岩 祐治知事は「いつまでも2類相当なら保健所は入院調整や健康観察などをやらねばならない。社会経済活動が止まろうとしている」と述べ、北海道の鈴木 直道知事も「オミクロン型は大半が軽症か無症状。感染者の全数把握について(見直しの)議論を進めることが重要だ」と訴えたとのことです。全国知事会は29日、新型コロナウイルスの感染防止策の緊急提言をまとめ、感染症法上の扱いを見直す方向を示す「ロードマップを早期に示すこと」を政府に求めました。こうした動きを受け、岸田 文雄首相は7月31日、感染症法上の分類を季節性インフルエンザの「5類」に近い扱いへ変える案について、時期や変異の可能性を見極めたうえで「2類(相当)として規定される項目について丁寧に検討していく」と述べました。第7波収束後の2類相当への見直しは、規定路線になりそうです。全国ニュースになりやすい医師のわいせつ事件さて今回は、医師や医学生によるわいせつ事件について書いてみたいと思います。厚生労働省は7月21日、刑事事件で有罪判決を受けるなどした医師と歯科医師計25人の処分を決め、公表しました。医道審議会の答申を受け決定したもので、1人を免許取り消し、計13人を業務停止3年~3ヵ月としました。最も重い免許取り消しの岡山市の医師(70)は非現住建造物等放火罪で既に有罪判決を受けています。医道審議会の処分には例年わいせつ関連の事件を起こした医師が入っていますが、今回は業務停止3年の処分を受けた4人のうち1人が準強制わいせつなどで有罪となった福岡市の医師(46)でした。最近もいくつかのわいせつ関連事件で医師が逮捕されています。警視庁新宿署は7月7日までに、強制性交の疑いで東京・歌舞伎町のクリニック院長で精神科医(52)を再逮捕しています。報道等によれば、20代の女性患者にわいせつな行為をしたとのことです。この精神科医は別の女性患者への傷害罪などで既に起訴されており、逮捕は6回目とのことです。また、7月25日には岡山市で内科・小児科を標榜するクリニックの院長(47)が、小学校でも盗撮をしていた疑いで再逮捕されています。この院長は中学校での健康診断中に女子生徒を盗撮したとして逮捕・起訴されていました。報道等によりますと、押収されたカメラなどからは児童・生徒約280人分の盗撮とみられる動画が見つかったとのことです。ちなみに再逮捕の罪状は、岡山県迷惑行為防止条例違反と、児童ポルノ禁止法違反の疑いです。こうしたニュースを読んで思うのは、医師がこうしたわいせつ事件を起こす比率は非医師に比べ決して高いわけではないのに、いったん事件を起こしてしまえば大きなニュースになるということです。聖職とまでは言いませんが、相当な税金を使って養成される医師ゆえに、世間が求める倫理観や高潔さも高いということなのでしょう。滋賀医大生3人が集団レイプ、一部始終を動画撮影医師になり時間が経つにつれ、その倫理観や高潔さが徐々に損なわれていくのはなんとなく理解できますが、医師の卵(医学生)の段階から高潔さが微塵もないのは大きな問題と言えます。2022年5月には国立大学法人・滋賀医科大学でこんな事件が起きました。滋賀県警大津署は2022年5月19日、滋賀医科大学・医学部6年生のA容疑者(24)と同6年生のB容疑者(24)が、知人の女子大生(21)に強制性交をした疑いで逮捕しました。同月26日には同大学6年生C容疑者(26)も強制性交をした疑いで逮捕しました。その後、大津地方検察庁は6月9日、容疑者3人を女子大生に集団で性的暴行を加えたとして起訴しました。起訴状によると、3人は共謀して女子大生に性的暴行を加え、さらにその一部始終をスマートフォンで動画撮影していたとのことです。役割分担などから事前の計画性が疑われる産経新聞などの報道によれば、事件のあらましは以下のようなものでした。3人は2022年3月15日夜、ほかの大学に通う女子大学生2人と飲食。その後、飲み直すためA被告の自宅マンションに向かいました。途中、B被告と女子大学生1人が飲み物などを買い出しに行きました。2人が買い出しに店に向かったあとの同日午後11時44分ごろ、A被告の自宅マンションのエレベーター内で、被害に遭った女子大学生にA被告が性交に応じるように脅迫。その様子をC被告が携帯電話で動画撮影していたとのことです。さらに、A被告は拒否する女子大学生に対し「身体および自由にいかなる危害をも加えかねない気勢を示して脅迫し」(起訴状記述)、室内に連れ込んで性的暴行を加え、その様子もC被告が動画撮影していたとのことです。買い出しに行っていた2人が戻り、その後、もう一人の女子大学生がA被告のマンションを離れた後も、翌16日午前2時半ごろまで3人の卑劣な犯行は続いたとのことです。報道では、被害者が警察に届け出て、犯行が明らかになったとのことです。また、3人の被告の役割分担などが行われていることから、事前の計画性が疑われるとしています。ちなみに、滋賀医大の3人の学生の容疑である強制性交罪は、かつて強姦罪と呼ばれていたものです(2017年6月に性犯罪に関する刑法の大幅改正で名称変更)。この時の改正で被害者の告訴がなくても起訴することができるようになり(非親告罪化)、法定刑の下限は懲役3年から5年に引き上げられています。滋賀医大はホームページで3度のお詫び滋賀医大は、学生2人の逮捕後、もう1人の逮捕後、そして3人の起訴後の計3回、ホームページに上本 伸二学長のコメントを掲載しています。起訴後の6月9日のホームページのコメントは以下のようなものです。被害に遭われた方とそのご家族、関係の皆様には、あらためて深くお詫び申し上げます。また、学生及び保護者、卒業生、本学関係者の皆さまにおかれましても、ご迷惑とご心配をおかけしておりますことを深くお詫び申し上げます。本学は、引き続き、司法手続に全面的に協力する所存です。また、本日起訴された本学学生3名につきましては、規程に則り、すでに謹慎処分に付し、調査委員会による調査を進めているところであり、今後、裁判の動向を注視しながら、確認できた事実に基づき厳正に対処いたします。本学は、今回の事件を極めて重く受け止めており、二度とこのような事件が起きないよう、再発防止の徹底に全力を挙げて取り組んで参ります。しかし、その後、2ヵ月近く経ちますが、調査委員会による調査結果や再発防止策は公表されていません。常識的に考えれば、謹慎どころか退学処分が妥当と考えられますが、果たして滋賀医大が今後どんな正式処分を下すのか、注目されます。繰り返される医学生による集団レイプ事件それにしてもひどい事件です。この事件については、週刊女性が2022年6月14日号で『起訴状で発覚した“動画撮影” 滋賀・医大生3人が21歳女子大生に性的暴行!エリートたちの「裏の顔」』のタイトルで詳細をレポートしています。同記事よれば、A被告の父親は医師、B被告の両親も医師とのことです。エリート層の子弟の医学生が犯した同様の犯罪ということで思い出したのが2016年に起こった千葉大医学部レイプ事件です。2016年9月に起こったこの事件では、千葉大学医学部5年生(当時)の3人が飲み会で酩酊した女性に集団で性的暴行を加えたとして、集団強姦致傷容疑で逮捕されました。後日、彼らを指導すべき立場だった千葉大学附属病院の研修医も準強制わいせつ容疑で逮捕されています。この事件は、彼らが超有名進学校出身であったことや、犯人の1人が4代続く弁護士家系の出身者だったこともあり、世間の注目を集めました。翌2017年1月に千葉地方裁判所で大学生3人の初公判が開かれ、5月には集団強姦罪で起訴された2人の大学生に懲役4年の有罪判決、準強姦罪で起訴された1人の大学生に懲役3年の有罪判決、準強姦罪で起訴された研修医に懲役2年執行猶予3年の有罪判決が言い渡されています。その後、千葉大学は3人の大学生を放学処分としています。『彼女は頭が悪いから』を学生のテキストに医学部生による類似の事件は慶應義塾大学医学部(1995年)、三重大学医学部(1999年)、東邦大学医学部(2016年)などでも起こっています。刑事事件として表沙汰になったのがこれだけあるということは、被害者が泣き寝入りしたり、お金で解決したりした事件はもっとあるに違いありません。医学部のエリートたちはなぜ、このような事件を繰り返すのでしょう。あるいは医学部だから事件が大きく報じられているのでしょうか。仮にそうだとしても、医学部生による強制性交(強姦)事件は、相当数起こっているのは事実です。「俺たちは女の子にモテて当然の医学部生」というエリート意識が、繰り返されるおぞましいパーティーの根底に流れているのかもしれません。医学部入試の小論文などで、医の倫理に関する問題をいくら出題しても、面接で人柄を見極めようとしても、邪悪で驕り高ぶったこうした若者を完全に排除することは不可能でしょう。滋賀医大が今回の事件を機に、同大で学ぶ医学生に向けて今後どのような教育や指導を行うかわかりませんが、一案として、姫野 カオルコ氏の小説『彼女は頭が悪いから』(文藝春秋)をテキストにするというのはどうでしょう。2016年に起きた東大生5人による強制わいせつ事件をモチーフにしたこの小説は、差別意識の強い東大生の若者たちが、自分より「下位」とみなす女性になぜ性暴力をふるうに至ったかを克明に描いています。若者たち一人ひとりの問題というより、そうした若者を生み出している社会の構造や背景を細かく描いているのが印象的です。滋賀医大の上本学長だけでなく、全国の医学部の学長の皆さんも、ぜひご一読されることをおすすめします。ちなみに姫野氏は滋賀県の出身です。

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認知症の初診はなぜ遅れる? 新たな評価ツールを開発【コロナ時代の認知症診療】第17回

なぜ、認知症の受診や初期診断が遅れるか2021年の日本の病院における入院者数は、1984年以来、約40年ぶりに最少を記録した。全国の医療機関における初診患者数についてもおそらく同様と思われる。さてAducanumabを始め、アルツハイマー病の疾患修飾薬の適応は、軽度認知障害やそれ以前の段階だと考えられている。まさに早期発見が早期治療につながる。ところが以前から、家族が認知症かなと感じても、実際に医療機関を受診する迄には、2年もかかるといわれてきた。それがコロナ禍による受診控えでさらに遅れていると思われる。ここは何とか打開する必要がある。そこでまず「なぜ、認知症の受診や初期診断が遅れるか」を調べてみた。この問題に関するレビュー1)によれば、介護者が認知症に気付き難いこと、それに関する教育不足が最初に指摘されている。また患者や介護者と担当医との間のコミュニケーションがまずいことも挙げられている。さらに注意不足や対処戦略が思いつかないこと、そして認知症などは考えたくない否認もある。多くの臨床医は、認知症患者さんが、いわゆる病態否認、つまり「自分の健忘をはじめとする認知機能障害に気づいてない、否定すること」をしばしば経験されているであろう。どうすれば受診してもらえるか?家族の試行錯誤ところで現実的に、このような場合に家族はただ指をくわえているだけであろうか? これまでに多くの方々から、当事者を専門家の元へ誘う方法についてそれぞれのやり方を伺ってきた。よくあるのは、「健康診断へ行こう」とか「血圧が高いから心配なので脳動脈硬化など診てもらおう」といったものである。経験的にはこれらはあまりうまくいかない。印象に残ったのが、あるジェネラリストによるものである。ご主人に認知症が疑われる場合、奥さんが「認知症が心配なので診てもらおうと思う。でも怖いからあなたもついてきて」というのである。これはかなり成功率が高い。なお奥様がそれとおぼしき例では、「行きたければあなたが行けばいい」と言われるケースもあるそうだ。筆者はこれまで、当事者もしくは医療関係者の意見しか知らなかった。けれども最近は、高齢者の悩み事に特化した社会福祉士の事務所もある。意外ながら、お金や家族関係、終活はもとより、こうした医療受診までも、医師や法律家に相談する以前の初期問い合わせが来るようになっていると聞く。幾つか具体的な台詞を教えてもらったが、医療関連法や倫理を基本とする私達とは異なる視点からの説得力がある。いずれにせよ、敷居の高い専門家よりも、まずは「困りごと相談」的で気安いことが普通の人には大切なようだ。目に見える行動からMCI状態を評価する新ツールところで初期診断までに必要とする時間を短くするには、新たにどんな手法があるだろうか? と私の周辺では何年も前から話題になっていた。そこで日本老年精神医学会の有志を中心に新たなチェック法を作成することになった。それが「目に見える行動からMCI状態を評価する」という新たな測定尺度である2)。さて認知症分野では、MMSE や改訂長谷川式に代表される認知機能の簡易スクリーニング検査がある。ところがこれらは、自分の知能を試されているという感じを当事者に与えてしまうことがある。そこで家族など観察者の報告による評価もある。たとえば記憶を評価するのに、「物忘れが多くなった」、注意力をみるのに「何かしていてもすぐに飽きてしまう」など行動から推察できる認知能力の低下をみるのである。同じように日常生活動作(ADL)から、「トイレに間に合わない」とか、「食事の動作が適切でない」等からの評価もある。また道具的ADLでは、「ガスコンロやリモコンがうまく使えない」、「ATM操作ができない」などもある。けれども認知機能やADLなど学問領域からの発想とは異なり、誰の目にも見える行動一般から初期状態を捉えようとする尺度はなかった。また基本的に認知症を把握しようというもので、 MCI を指摘しようとするものもなかった。しかも報告者は基本的に家族介護者である。ところが最近では、一人暮らしや知友のない高齢者は全く珍しくない。そこで「MCI-J」という、行動変化から初期に気づくための尺度を作成した。第1の特徴は、報告者は家族介護者のみならず、当事者でもまた医療機関のスタッフでも良い。けれども当事者は自分に甘く、介護者は厳しい。そこで、500人弱のデータから、当事者との続柄ごとに、同じ人をみても、どれくらい評価に差があるかを算出した。この数値を用いて重み付けしている。だからもし全く同じ回答内容であっても、誰が評価したかにより判定は異なる。対象とする疾患はアルツハイマー病、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症である。明らかな発作歴や麻痺のある脳血管性認知症は含まない。最終的に13の質問項目となった。それらによりこうした認知症疾患の前駆状態や初期認知症をかなり把握できた。ちなみに感受性は90%、特異性は57%だが、スクリーニングテストなので感受性が高ければ、特異性は少し低くても良いと考えている。なおこの尺度は、紙の上ではなく、スマホやタブレットなどのITデバイスに載せ、アルゴリズムを自動計算させるものである。終わりに。本尺度は認知症の見当付けに有用そうである。けれどもこれで認知症が疑われた場合には、早めに専門家を訪れることが不可欠である。参考1)Bradford A, et al. Alzheimer Dis Assoc Disord. 2009;23:306-314.2)Asada T, et al.Int J Griatr Psychiaty.2022 Aug;37.

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母親の育児ストレスと子供のADHDとの関連~日本の出生コホート研究

 注意欠如多動症(ADHD)は幼児期に発症し、その後、生涯にわたり影響を及ぼす疾患であるが、早期診断や介入により、臨床アウトカムの最適化を図ることができる。長期的または過度な育児ストレスは、ADHDなどの発達障害に先行してみられる乳児の行動の差異に影響している可能性があることから、幼少期の定期的評価には潜在的な価値があると考えられる。東京都医学総合研究所の遠藤 香織氏らは、母親の育児ストレスが子供のADHDリスクのマーカーとして利用可能かを明らかにするため、出産後1~36ヵ月間の母親の育児ストレスとその子供の青年期初期におけるADHDとの関連について、定期的に収集した自己報告を用いて調査を行った。その結果、出産後9~10ヵ月、18ヵ月、36ヵ月での育児ストレスと12歳時点での子供のADHD症状との関連が認められ、自己報告による育児ストレスのデータはADHDリスクの初期指標として有用である可能性が示唆された。このことから著者らは、ADHDの早期発見と介入を促進するためにも、幼少期の健康診断、育児ストレスの評価、家族のニーズに合わせた支援を行う必要があることを報告している。Frontiers in Psychiatry誌2022年4月28日号の報告。 子供の成長プロセスに関する調査「東京ティーンコホート」の人口ベース出生コホート研究から子供2,638人(女児:1,253人)のサンプルを抽出し、その母親には、母子健康手帳を用いた出産後1~36ヵ月間における育児ストレス5回の記録を求めた。9年後、「子供の強さと困難さアンケート(SDQ)」の多動性/不注意のサブスケールを用いて、12歳時点でのADHD症状を評価した。 主な結果は以下のとおり。・出産後36ヵ月間で、育児ストレスを報告していた母親は、約7.5%であった。・12歳時点でADHD症状のカットオフ値を超えていた子供は、6.2%であった。・1ヵ月および3~4ヵ月での育児ストレスと12歳時点での子供のADHD症状との関連は認められなかった。・12歳時点での子供のADHD症状と有意な関連が認められた育児ストレスの時期は、9~10ヵ月(未調整OR:1.42、p=0.047、95%CI:1.00~2.00)、18ヵ月(同:1.57、p=0.007、95%CI:1.13~2.19)、36ヵ月(同:1.67、p=0.002、95%CI:1.20~2.31)であった。・これらの関連には、子供の性別、月齢、世帯収入で調整した後でも、変化は認められなかった。

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事例048 内視鏡前検査と同時に行った心電図検査の査定【斬らレセプト シーズン2】

解説本事例は「会社の健康診断で胃のポリープ様の影を指摘された」と来院された患者です。食事をされていたため数日後に内視鏡検査下の生検を行うことで承諾を得て、内視鏡前検査として、感染症検査セットと心電図を実施したところ、心電図が不適当としてD事由(告示・通知の算定要件に合致していないと認められるもの)で査定となりました。診療録には、患者からの軽い不整脈があるとの訴えを受けて、内視鏡下の生検前に心電図をオーダーしたことが記載されていました。会計担当者は、内視鏡前検査には心電図が含まれないことを承知していましたが、この記載をみて、「生検が予定されるから観血的検査前検査に含まれる心電図検査を行った」と判断して入力していました。本来ならば、内視鏡前検査とは別に心電図検査を単独で算定して、病名依頼をすべきところでした。今一度、検査前検査には、血管カテーテル検査などのように皮膚切開が伴う観血的検査前検査のセットと、内視鏡のように皮膚切開を伴わないが体液に触れることによる感染を防ぐための内視鏡前検査のセットがあることを伝え、レセプトチェックシステムには検査内容と検査前検査の関係を登録して査定対策としました。

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NAFLDを併存する糖尿病患者の重症低血糖リスクは?

 2型糖尿病と併存する肝硬変では低血糖が起こりやすいことが知られているが、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)ではどうなのだろうか。今回、韓国・延世大学校医療院のJi-Yeon Lee氏らの研究によって、2型糖尿病患者におけるNAFLDと重症低血糖との関連が調査された。その結果、2型糖尿病を有するNAFLD患者は、肥満かどうかにかかわらず、救急搬送または入院を必要とする重症低血糖のリスクが26%増加することが報告された。2月23日、JAMA Network Openに掲載。 韓国の国民健康保険制度を用いた人口ベースの後ろ向きコホート研究において、2009年1月1日~2012年12月31日までの間に健康診断を受け、2型糖尿病と診断された20歳以上の個人が登録された。対象者は2015年12月31日まで追跡され、データは2019年1月1日~2021年2月2日に分析された。なお、B型・C型肝炎キャリア、肝硬変または肝臓・膵臓がん患者、アルコールの過剰摂取者は除外された。 重症低血糖は、低血糖の一次診断を伴う入院および救急科の受診として判断された。ベースラインの脂肪肝指数(FLI)を、NAFLDの代理マーカーとして使用した。 主な結果は以下のとおり。・2型糖尿病の参加者194万6,581例のうち、112万5,187例(57.8%)が男性だった。・追跡期間の中央値5.2年(IQR:4.1~6.1)の間に、4万5,135例(2.3%)が1回以上の重症低血糖イベントを経験した。・重症低血糖を起こした患者は、起こしていない患者に対して年齢が高く(平均年齢67.9歳[SD:9.9]vs.57.2歳[12.3]、p<0.001)、平均BMIが低かった(24.2[3.43]vs.25.1[3.4]、p<0.001)。・NAFLD患者は肥満状態を考慮しなくとも低血糖になる傾向があったが、BMIを含む複数の共変量調整をしたところ、FLIと重症低血糖の間にJ字型の関連があった(第5十分位数:調整されたハザード比[aHR]=0.86、95%CI:0.83-0.90/第9十分位数:aHR=1.02、95%CI:0.96-1.08/第10十分位数:aHR=1.29、95%CI:1.22-1.37)。・低血糖の推定リスクは、NAFLD患者でより高かった(aHR=1.26、95%CI:1.22-1.30)。また、この関連性は女性(aHR=1.29、95%CI:1.23-1.36)および低体重(aHR=1.71、95%CI:1.02-2.88)でより顕著だった。 研究者らは、「2型糖尿病を有するNAFLD患者は、肥満状態とは無関係に重症低血糖の高リスクと関連していた。2型糖尿病患者の低血糖に対する脆弱性を評価する場合は、NAFLDの存在を考慮する必要がある」と結論付けた。

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第97回 2022年診療報酬改定の内容決まる(後編)かかりつけ医、報酬は従来路線踏襲も制度化に向けた議論本格化へ

かかりつけ医関連の診療報酬に若干のテコ入れこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。NFLのスーパーボウル(ロサンゼルス・ラムズが第4クオーター残り6分から逆転のタッチダウンを決め、シンシナティ・ベンガルズを23対20で破って優勝)も北京オリンピック(女子スピードスケートだけ観戦していました)も終わっていよいよ球春到来、MLBと日本のプロ野球の開幕を待つばかりとなりました。が、心配なこともあります。米国のMLBの労使交渉が泥沼化し、まだ終わっていないのです。選手の年俸総額や最低保証額で溝が埋まっていないようです。労使間の新協定が締結できないため、広島からポスティング制度でメジャー移籍を目指す鈴木 誠也選手も、シアトル・マリナーズをフリーエージェントとなった菊池 雄星投手も入団交渉が進まず、所属チームが決まっていません。キャンプインも延期状態で、3月末の開幕に黄信号が灯っています。ロサンゼルス・エンジェルスの大谷 翔平選手の調整が今年もうまく進んでいるといいのですが…。さて、前回に引き続き、2月9日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会で答申が行われた2022年度診療報酬改定の内容のうち、このコラムでも触れてきた政策的な意味合いが大きい項目について、その内容を見てみたいと思います。今回は、若干のテコ入れが行われた「かかりつけ医関連の診療報酬」と、財務省が強く求めたものの実現が見送られた「かかりつけ医制度化」について考えてみます。財務省が提案する「かかりつけ医の制度化」このコラムでは、「第85回 診療報酬改定シリーズ本格化、「躊躇なくマイナス改定すべき」と財務省、「躊躇なくプラス改定だ」と日医・中川会長」で、財務省が強く導入を求めてきた「かかりつけ医の制度化」について書きました。今回の診療報酬の改定議論が本格化する直前の2021年11月8日、財務省主計局は、財政制度等審議会・財政制度分科会において2014年度診療報酬改定での地域包括診療料、地域包括診療加算の創設以降、かかりつけ医については診療報酬上の評価が先行して実体が伴っておらず、「算定要件が相次いで緩和され、かかりつけ医機能の強化という政策目的と診療報酬上の評価がますますかけ離れることになった」と現行制度の問題点を指摘しました。加えてコロナ禍の中、「我が国医療保険制度の金看板とされてきたフリーアクセスは、肝心な時に十分に機能しなかった可能性が高い」と“有事”での診療所の診療機能を強く批判しました。その上で、「受診回数や医療行為の数で評価されがちであった『量重視』のフリーアクセスを、『必要な時に必要な医療にアクセスできる』という『質重視』のものに切り替えていく必要がある」として、「かかりつけ医機能の要件を法制上明確化したうえで、これらの機能を担う医療機関を『かかりつけ医』として認定するなどの制度を設けること、こうした『かかりつけ医』に対して利用希望の者による事前登録・医療情報登録を促す仕組みを導入していくことを段階を踏んで検討していくべきである」と提言しました。第85回で私も、「もし、首相がかかりつけ医の制度化含め、医療提供体制の改革を真剣に行おうとするならば、ある程度プラスの改定率にして中川会長の面目を保ちつつ、かかりつけ医の制度化を一部飲ませる、というシナリオが一つの落とし所として考えられます」と書いたのですが、今回はかかりつけ医の制度化の議論は行われず、その予想は外れました。もっとも、財務省(と岸田政権)はもう一つの懸案事項でもあったリフィル処方導入を日本医師会にしっかり飲ませることができました。長年日本医師会が反対してきた政策がすんなり実現したという事実は、政府・財務省・厚労省・日医の関係性が微妙に変化していることを感じさせます。リフィル処方導入はひょっとしたら「かかりつけ医の制度化」という大きな改革に向けての楔となるかもしれません。機能強化加算の算定要件にかかりつけ医機能を明記というわけで、今回の診療改定では、かかりつけ医関連の診療報酬は、財務省が批判していた地域包括診療料、地域包括診療加算や機能強化加算など、従来路線の見直しに留まりました。ただ、「かかりつけ医関連の報酬が機能を評価したものであることが患者等に認識されていない」といった批判もあり、いくつかの要件や基準は厳格化されることになりました。まず、機能強化加算ですが、地域におけるかかりつけ医機能をより明確化するため、算定要件と施設基準が見直されます。算定要件では、かかりつけ医機能に関する対応として以下の5項目が明記されました。1)患者が受診する他の医療機関および処方薬を把握し、必要な管理を行い診療録に記載する2)専門医または専門医療機関への紹介を行う3)健康診断の結果等の健康管理に係る相談に応じる4)保健・福祉サービスに係る相談に応じる5)診療時間外を含む緊急時の対応方法等に係る情報提供を行うそして、施設基準では上記の対応について院内や医院のウェブサイト等に掲示することが要件に加わります。また、現行では地域包括診療料・地域包括診療加算や在宅時医学総合管理料・施設入居時等医学総合管理料(在宅療養支援診療所・在宅療養支援病院に限る)等の届け出があれば算定できましたが、今改定では訪問診療や往診を行った患者数等の実績要件が盛り込まれます。在宅医療のニーズが今後さらに増えることを想定し、外来中心の医療機関であっても訪問診療等に関わってもらおう、という狙いからです。そもそも、かかりつけ医機能を評価する報酬と言いながら、地域包括診療料、地域包括診療加算等の届け出を行っていれば、自動的に初診患者に加算できること自体に無理がありました。今改定での機能強化加算への5項目の算定要件新設や、訪問診療や往診等の実績要件の導入は、かかりつけ医というものの機能が患者にもある程度見えるようになるという意味で、理に適ったことだと言えるでしょう。なお、地域包括診療料・地域包括診療加算については、慢性疾患を抱える患者に対するかかりつけ医機能の評価を推進する観点から、対象疾患に慢性心不全、慢性腎臓病(慢性維持透析を行っていない者に限る)が追加されます。外来機能報告制度にあわせ定額負担を徴収する病院の対象を拡大今改定では、外来の診療報酬として、2022年4月からスタートする「外来機能報告制度」にあわせた地域における外来機能の分化と連携を促す見直しも行われました。具体的には、紹介状なしで受診した患者から定額負担を徴収する責務のある医療機関の対象範囲を、従来の「特定機能病院」と「一般病床200床以上の地域医療支援病院」に加えて、「外来機能報告制度における紹介受診重点医療機関のうち一般病床200床以上の病院」にも広げるとともに、該当医療機関の入院機能を評価する紹介受診重点医療機関入院診療加算(800点、入院初日)が新設されます。なお、紹介状なしで受診した患者から追加徴収する定額負担は初診7,000円、再診3,000円とし、現行から初診2,000円、再診500円引き上げられます。外来医療の実施状況を都道府県へ報告する外来機能報告制度外来機能報告制度とは、外来医療の実施状況を都道府県へ報告するよう病院などに義務づける制度です。従来からある病床機能報告制度の外来版という位置づけで、2021年5月の医療法改正で創設され、この4月からスタートします。同制度では、各病院に「医療資源を重点的に活用する外来」をどの程度実施しているかの報告を求めます。集めるデータは抗がん剤を使う外来の化学療法、日帰り手術、CTやMRI撮影の実施件数など。紹介・逆紹介率、外来における人材の配置状況、高額な医療機器・設備の保有状況などに関する報告も含まれます。これらのデータを基に、都道府県は「地域における協議の場」を通じて、各地域で高度な外来を担う基幹病院を明確化します。初診と再診の「医療資源を重点的に活用する外来」が占める割合が初診40%以上、再診25%以上という基準を満たす場合、その病院の意向を踏まえた上で「医療資源を重点的に活用する外来を地域で基幹的に担う医療機関:紹介受診重点医療機関」と見なされることになります。今改定では、この紹介受診重点医療機関のうち一般病床200床以上の病院も、定額負担を徴収する責務のある医療機関に加わったわけです。「首相≒財務省」vs.「厚労省≒日本医師会」の対立構造深まるか、追い込まれる日医はどうする外来機能報告制度は、外来医療においても入院同様に機能分化を進め、「かかりつけ医をまず受診し、そこから高機能の病院外来を紹介してもらう」という患者の流れを作るために創設されました。2022年度から外来機能報告制度がスタートすることで病院の外来機能の分化はある程度進みそうですが、その前の段階の「かかりつけ医」の制度化は今回の改定では手つかずで、議論もペンディングとなってしまいました。もっとも、財務省も手をこまぬいているわけではないようです。財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の財政制度分科会は2月16日、2021年12月にまとめた提言の22年度予算案への反映状況を確認、議論を交わしました。この中で、「かかりつけ医」の制度化について、引き続き推進を求める意見が出たとのことです。財政審は2021年11月の財政制度等審議会・財政制度分科会での提言に続き、12月3日にまとめた「令和4年度予算の編成等に関する建議」の中でも「かかりつけ医」の制度化を挙げていました。今改定では制度化は見送られたものの、政府の経済財政諮問会議が12月23日に取りまとめた新経済・財政再生計画(財政健全化計画)の「改革工程表2021」には、「かかりつけ医機能」を明確化し、それを有効に発揮するための具体策を2022〜2023年度に検討する、という方針が示されています。機能強化加算の算定要件として明示された5項目をベースとして、「かかりつけ医」の制度化に向けての議論がいよいよ本格化することになりそうです。「第80回 「首相≒財務省」vs.「厚労省≒日本医師会」の対立構造下で進む岸田政権の医療政策」でも書いた対立構造は、今後一層溝が深まっていくかもしれません。日医がそうした事態を避けるためには、自民党の安倍 晋三元首相や麻生 太郎自民党副総裁ら有力議員から自民党の政策に非協力的と見られている中川 俊男会長が次期会長選には出ず退陣、自民党とのパイプ作りに長けた人材を投入する、という手も考えられますが、さてどうなることか。参院選前、6月末に行われる予定の日医会長選の動きも気になります。

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COVID-19入院時の患者に糖尿病の診断をする重要性/国立国際医療研究センター

 糖尿病は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化リスクの1つであること、また入院中の血糖コントロールの悪化が予後不良と関連することが知られている。しかし、わが国では入院時点で新たに糖尿病と診断される患者の臨床的な特徴については、明らかになっていなかった。 国立国際医療研究センター病院の内原 正樹氏、坊内 良太郎氏(糖尿病内分泌代謝科)らのグループは、糖尿病を合併したCOVID-19患者の臨床的な特徴を分析し、その結果を発表した。この研究は2021年4月~8月に同院にCOVID-19と診断され入院した糖尿病患者62名を対象に実施された。 その結果、入院時に新たに糖尿病と診断された患者は19名で、糖尿病を合併した患者の約3割で、そのうち60歳未満の男性が12名(63.2%)と高い割合を占めた。また、この19名の患者では、糖尿病の既往や治療歴がある患者に比べて、入院中に重症化する割合が高く、入院初期の血糖コントロールが難しいことがわかった。重症化リスクの糖尿病を事前診療で察知することが重要【研究対象・方法】・2021年4月1日~8月18日までにCOVID-19と診断され、国立国際医療研究センター病院に入院した糖尿病患者62名・患者背景、重症度、血糖値の推移などのデータを集計・分析【研究結果】・62名の糖尿病患者のうち、入院時に新たに糖尿病と診断された患者は19名(30.6%)で、糖尿病の既往がある患者は43名(69.4%)。・新たに糖尿病と診断された患者のうち、60歳未満の男性は12名(63.2%)。・新たに糖尿病と診断された患者は、糖尿病の既往がある患者に比べて、入院中に重症化する割合が高い結果だった(52.6% vs. 20.9%、p=0.018)。・新たに糖尿病と診断された患者は、糖尿病の既往がある患者に比べて、入院後3日間の血糖値の平均が高く、糖尿病の初期の治療に難渋した。 今回の研究により診療グループは、「COVID-19の流行が続く状況でも、健康診断や人間ドックなどの受診を定期的に行い、糖尿病の早期発見や治療介入に繋げることが重要」と見過ごされていた点を指摘した。また、「『基礎疾患なし』と自己申告する患者の中に、一定数未診断の糖尿病患者が含まれていることが想定され、重症化リスクの高い患者の特定のため、今後はCOVID-19診断の段階で、可能な限り血糖値やHbA1cを評価することが望ましいと考える」と新規入院患者への対応にも言及している。

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第93回 公平さ欠いた恣意的な数字が見え隠れする「医療経済実態調査」

2022年度の診療報酬改定率は、本体がわずかながらプラスとなったものの、医療界はモヤモヤが解消していないようだ。診療報酬改定の基礎資料となる医療経済実態調査(実調)に対し、医療機関の経営実態を反映していないのではと疑問視する声が上がっている。調査対象数の少なさや偏りにより、全体が把握できていないというのだ。とくに個人診療所の多い歯科は、医科と比べて不利な評価を得やすく、なおさら不信感が強い。実調は、中央社会保険医療協議会(中医協)が2年ごとに実施している。抽出された約8,000の医療機関から、自費診療分を含む収入や給与、医材費、設備費など医業経費に関わる経営報告書を提出させるものだ。集計結果は各種医療機関の損益の代表値となり、診療報酬改定率の根拠として使われている。自費率の調査施設数が極端に少ない個人立の診療所では、開設者の報酬に相当する部分は「給与費」ではなく「医業損益差額」に含まれる。これには、借り入れ返済金、建物や設備更新のための引当準備金などのほか、退職金のない自身の引退後の生活費用も含まれる。開業医自身が自由に使える収入ではないが、診療報酬改定率は損益差額に左右される。歯科診療所は、自費収入が損益差額に含まれるため、改定率が抑えられがちだ。東京歯科保険医協会は、1月14日のメディア懇談会でこの問題に言及。歯科は医科に比べて自費診療が多いと言われるが、2020年度の歯科と医科の自費診療の構成比率を比較すると、歯科は13.5%。医科は、内科が7%、精神科が5.9%、外科が2.3%などと歯科より低いが、小児科は23.2%と高くなっている。一般的に自費というと、予防接種や健康診断などが含まれると思われるが、実調の調査項目の中で、予防接種や健康診断などは「その他の医業収益」に含まれており、自費診療などの金額である外来診療収益の「その他の診療収益」には含まれていない。小児科の自費率が高いことに疑問を持った同会が厚生労働省に確認したところ、「予防接種」「健康診断」「文書料」は含まれていないため、その他の自費診療にどのようなものがあるかは不明だとの回答を得たという。7施設の調査では実態はわからない対象施設について言えば、歯科は158施設、内科は111施設だったが、小児科はわずか14施設。精神科や外科にいたっては、いずれも7施設にすぎなかった。「7施設程度で実態調査とはいかがなものか。対象施設数が少なく特殊な医療機関に当たれば、それだけで自費率は大きく変動する。そうなると、どのようにして施設を選んだのか疑問が生じる。こういった数字を基に診療報酬の改定が行われるのはおかしい」と同会は疑問を呈する。次をにらんだ財源ありきの方針と恣意的な調査の布石2年後の診療報酬改定に向け、早くも財源ありきの方針や恣意的な調査の布石が打たれているのではないかと勘繰ってしまう。財務省の財政制度等審議会では、診療報酬を下げても高齢化社会で受診者が増えているので、医療機関の報酬自体は増えているとの論法を展開。また、2024年度改定では医療法人の全調査結果を使うという。前述の通り、歯科の場合は個人立診療所が多く法人調査の対象から外れるため、歯科経営の実態を掴みにくくなるだろう。これに対し、同会は「歯科では1日に診られる患者数は限られている。医療機関の報酬を増やすために、勤務する歯科医師の数を増やしたり診療時間を延ばしたりすればいいという話ではない。治療費である診療報酬が下げられると、経営的にはマイナスになる。財務省の論理は乱暴だ」と反論する。また、医療法人の全調査については、「歯科でも法人が増えており、都内でも二極化している。収入が高い医療法人が調査対象となると、歯科は経営的に問題がないと分析されてしまう。歯科については個人立診療所を主体に調査すべきでは」との見解だ。医療の実態を把握するというのであれば、しっかりしたデータに基づいて説明をしてもらいたい。コロナ・パンデミック以降、さんざんに引っ掻き回された医療機関の多くはシビアな経営を余儀なくされており、大きな不満を抱えている状況だ。公平さを欠く恣意的なデータを示されて、誰が納得できるというのだろう。

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認知症診断に関する日米間の比較

 認知症は、日米で共通の問題であるが、医療システムの異なる両国における認知症診断に関するプライマリケア医の診療および今後の展望について、浜松医科大学の阿部 路子氏らが、調査を行った。BMC Geriatrics誌2021年10月11日号の報告。 日本全国および米国中西部ミシガン州におけるプライマリケア環境において、半構造化面接および主題分析を用いて、定性的研究を実施した。参加者は、日米それぞれ24人のプライマリケア医(合計48人)。両群ともに地理的因子(地方/都市部)、性別、年齢、プライマリケア医としての経験年数が混在していた。 主な結果は以下のとおり。・日米ともに、認知症診断に対し同様の診療を実施しており、認知症診断のベネフィットについての見解も一致していた。・しかし、認知症診断を下す適切なタイミングについて違いが認められた。・日本のプライマリケア医は、家族が介護サービスを受けるうえで問題が発生した場合に診断を下す傾向があった。・米国のプライマリケア医は、健康診断で認知症をスクリーニングし、認知症の早期診断に積極的であり、事前指示書の作成などのために患者自身が意思決定可能な時期に診断を行えるよう努めていた。・日米における認知症診断の適切なタイミングに関する見解は、認知症の患者および家族をサポートするために利用可能な医療または介護サービスの影響を受けていると考えられる。 著者らは「認知症診断は、日本では介護サービス利用に際して行われるのに対し、米国では早期介入や事前指示書の作成などのために行われている。プライマリケア医による認知症の早期診断を確立するための検査は、利用可能な検査および治療選択肢に一部のみ関連していた」としている。

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肥大型心筋症〔HCM:hypertrophic cardiomyopathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy:HCM)は、主に遺伝的変異を原因として不均一な心肥大を左室や右室に来し、心機能低下をもたらすとされる特発性心筋症であり、わが国では指定難病とされている。臨床的には左室流出路閉塞を来す閉塞性obstructive HCMと来さない非閉塞性non-obstructive HCMに分類され、前者では収縮期に左室内圧較差が生じることが臨床的に問題となることが多いのに対し、後者は予後が比較的安定しているとされている。■ 疫学日本全国に推計患者数が2万1,900人、有病率は人口10万人あたり17.3人と報告されている(1998年の全国疫学調査)。男女比は2.3:1と男性に多い。■ 病因心筋収縮関連蛋白の遺伝子異常が主な病因であり、2019年時点では11の原因遺伝子と、サルコメアを構成するタンパク質をコードする遺伝子の1,500以上の変異が報告されている。しかし、遺伝子異常が特定されない症例も多くみられ(20~50%)、病因に関しては不明な点も多い。 ■ 症状閉塞性肥大型心筋症では胸部症状(労作時呼吸困難や相対的心筋虚血による胸痛・胸部絞扼感)や神経学的症状(起立時のめまい・ふらつき、眼前暗黒感、失神)が認められる。非閉塞性肥大型心筋症患者は無症候であることも多く、健康診断での心電図などを契機にわが国では発見される場合も多い。■ 分類肥大型心筋症は以下の5つのタイプに分類される:1.閉塞性肥大型心筋症(HOCM)HOCM(basal obstruction):安静時に30mmHg以上の左室流出路圧較差を認める。HOCM(labile/provocable obstruction):安静時に圧較差は30mmHg未満であるが、運動などの生理的な誘発で30mmHg以上の圧較差を認める。2.非閉塞性肥大型心筋症(non-obstructive HCM):安静時および誘発時に30mmHg以上の圧較差を認めない。3.心室中部閉塞性心筋症(MVO):肥大に伴う心室中部での30mmHg以上の圧較差を認める。4.心尖部肥大型心筋症(apical HCM):心尖部に限局して肥大を認める。5.拡張相肥大型心筋症(dilated phase of HCM; D-HCM):肥大型心筋症の経過中に,肥大した心室壁厚が減少・菲薄化し、心室内腔の拡大を伴う左室収縮力低下(左室駆出率50%未満)を来し、拡張型心筋症様病態を呈する。■ 予後1982年の厚生省特定疾患特発性心筋症調査研究班の報告では肥大型心筋症の5年生存率および10年生存率は、それぞれ91.5%と81.8%であった。死因として若年者では心臓突然死が多く、致死性不整脈、失神・心停止の既往、突然死の家族歴、左室最大壁厚>30mmのうち2項目以上で突然死リスクが高いとされる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 心エコー検査心室中隔の肥大、非対称性中隔肥厚(拡張期の心室中隔厚/後壁厚≧1.3)など心筋の限局性肥大、左室拡張能障害(左室流入血流速波形での拡張障害パターン、僧帽弁輪部拡張早期運動速度低下)を認める。閉塞性肥大型心筋症では、僧帽弁の収縮期前方運動、左室流出路狭窄を認める。■ 心臓MRI検査ガドリニウム造影剤を用いた遅延相でのガドリニウム増強効果(Late Gadolinium Effect)は心筋線維化の存在を反映する。■ 心臓カテーテル検査圧測定で左室拡張末期圧上昇、左室−大動脈間圧較差(閉塞性)、Brockenbrough現象(期外収縮発生後の脈圧減少)が認められる。■ 心内膜下心筋生検他の原因による心筋肥大を鑑別する上で重要であり、病理検体で肥大心筋細胞、心筋線維化(線維犯行および間質線維化)、心筋細胞の錯綜配列などが認められる。■ 運動負荷検査心肺運動負荷試験により、肥大型心筋症症例では症状の出現閾値、Peak VO2を評価することで適切な運動制限を設定することが可能となる。■ 遺伝子検査ルーチンでの遺伝子検査は推奨されていないが、左室肥大を引き起こすことが知られている他の遺伝的疾患(ファブリー病、ライソゾーム蓄積病など)の除外診断のため、あるいは患者の一等親血縁者などを対象として希望があれば実施されることが多い。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)閉塞性肥大型心筋症に対する現在の治療は、β遮断薬、非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬、ジソピラミドなどによる対症療法が中心であるが、後述のmavacamtenが近い将来使用可能になることが予想される。薬物療法に抵抗性を示す症例では、外科的中隔切除術やアルコールを用いた中隔焼灼術(percutaneous transluminal septal myocardial ablation:PTSMA)などの侵襲的中隔縮小療法を検討するが、リスクを伴うことから事前に入念な評価を要する。また、心臓突然死リスクを評価することは重要であり、心停止の既往、持続性心室頻拍、原因不明の失神、左室壁30mm以上、2014ESCガイドライン計算式(HCM Risk-SCD Calculator)でハイリスク(5年間のイベント予測が6%より大きい)、第1度近親者の突然死、運動時の血圧反応異常などが認められる場合には致死的不整脈による心臓突然死リスクが高く、植込み型除細動器の植え込みを検討する。4 今後の展望肥大型心筋症に対しての根本的治療として世界初の疾患特異的治療薬であるmavacamtenの登場によってパラダイム・シフトを迎えている。mavacamtenは、肥大型心筋症筋組織のアクチン・ミオシンの架橋形成を抑制する低分子選択的アロステリック阻害剤であり、心筋の過剰収縮を低下させ、心筋エネルギー消費を改善するまったく新しい機序の経口薬である。EXPLORER-HCM試験では、症候性の閉塞性肥大型心筋症(左室流出路における圧較差50mmHg以上)の成人患者を対象とし、mavacamtenまたはプラセボに1対1で無作為に割り付け、それぞれを30週間投与し、主要評価項目である(1)最高酸素摂取量(peak VO2)が1.5mL/kg/分以上増加し、かつNYHAクラスが1つ以上低下した場合、または(2)NYHAクラスの悪化を伴わずにpeak VO2が3.0mL/kg/分以上の増加が、プラセボ投与128例中22例(17%)に対し、mavacamten投与123例中45例(37%)で達成し、有意な改善を認めており、2022年以降米国などで市販が望まれている。5 主たる診療科循環器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 肥大型心筋症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン 心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版)(医療従事者向けのまとまった情報)2014 ESC HCM Risk-SCD Calculator(医療従事者向けのまとまった情報)1)Maron BJ. N Engl J Med. 2018;379:655-668.2)Ommen SR, et al. Circulation. 2020;142:e533-e557.3)Olivotto I,et al. Lancet. 2020;396:759-769.公開履歴初回2021年10月14日

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SGLT2阻害薬は主役か?それとも脇役か?【令和時代の糖尿病診療】第2回

第2回 SGLT2阻害薬は主役か?それとも脇役か?前回のGLP-1受容体作動薬に続き、今回はSGLT2阻害薬について、実話と私見に基づき述べていく。この薬剤もまた、生誕7年とまだまだ若い経口糖尿病治療薬である。発売当初は「尿に糖を捨てるだけの単純な薬」と認識され、糖尿病専門医の間でもあまり評価はされず、期待もされていない薬剤だったと記憶している。1つ、この薬剤があまり浸透していなかったためか、当時の面白いエピソードがあるので紹介させていただく。SGLT2阻害薬を服用中の患者さんで、会社の健康診断を受けた際、当然のことながら尿糖4+という結果が出た。本人はこの薬剤を飲んでいることを医師に告げたが、「“血糖コントロール不良”と言われた」と私に笑顔で伝えてくれた。さらに、本薬剤については私どもの施設でも、1型糖尿病への適応追加に関して治験を行ったが、専門医がいる病棟でも、ケトアシドーシスを恐れて参加しない施設が多く見られたという話があったくらいである。現在は経口薬として、α-GI薬に続いてSGLT2阻害薬の一部が1型糖尿病に適応追加を取得し、予想以上にいい効果が発揮されている。それどころか、昨年末に心不全に対する適応も加わり、さらには今年8月に透析予防の観点から現在大きな問題となっている慢性腎臓病(以下、CKDと略す)の適応まで追加になった。まさに、マルチな効能を兼ね備えた薬剤で、合併症を見据えた治療が可能になり、狭義の血糖降下薬を超えたとも言えるかもしれない。いろいろと話題の尽きない薬剤であるが、今回の話を進める中で、さらにいくつか述べていこうと思う。重要な3つのポイント:適応患者の選択、使い分け、心不全に対する効果ある日、恩師からの電話でSGLT2阻害薬について質問があった。内容は3点。(1)どのような患者がいい適応か?(2)多くの種類(国内承認は6成分)があるが、使い分けはどのようにしているのか?(3)循環器の先生が心不全に効果があると言っているがどのようなものか? といったもの。これらの質問に対し、答えた内容を順に紹介する。(1)どのような患者がいい適応か?これを語るには、まず分類・作用機序から簡単に確認する必要がある。SGLT2阻害薬は、糖尿病治療ガイド2020-20211)の中でインスリン分泌非促進系に分類され、主な作用としては腎臓でのブドウ糖再吸収阻害による尿中ブドウ糖排泄促進である。そして特徴として、単剤では低血糖を起こしにくく、体重減少効果があり(なお食欲増進に注意、詳しくは後述)、主な副作用として、性器・尿路感染症、脱水、皮疹、ケトーシスが知られている。使用上の注意として、「1型糖尿病患者において、一部製剤はインスリンと併用可能」「eGFR30未満の重度腎機能障害の患者では、血糖降下作用は期待できない」と記載され、さらには、主なエビデンスとして「心・腎の保護効果」「心不全の抑制効果」が示されている。上記からおのずと見えてくるいい適応症例は、「低血糖を起こしたくない肥満(とくに内臓肥満、いわゆるメタボ)で、尿路感染症がなく、腎機能が比較的保たれ脱水を引き起こしにくい患者」すなわち、(食事時間の不規則な)メタボ型の若年~中高年糖尿病患者ということになる。なお、それ以外の患者さんには使用できないのか? というと、そういうわけでもない。が、絶対に使用してはいけないのは、寝たきりの高齢者で水分もあまり摂れず、食事量も少ないインスリン分泌の落ち込んだ血糖コントロール不良の患者である。同様に、下痢や嘔吐で食事が摂れないシックデイや、脱水のときに服薬継続した場合は危険なため、処方する際はあらかじめ、休薬する条件をしっかり伝えておく必要がある。なぜならば、正常血糖ケトアシドーシスを起こすリスクがあるからである。これは、SGLT2阻害薬が上市されてからクローズアップされた医学用語であり、日本糖尿病協会からも「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」として出されている。また、本薬剤は、膵臓からのグルカゴン分泌を促進し、腎臓からの3-hydroxybutyrateとアセトアセテートの分泌を減少させることによりケトーシスのリスクを増大させるともいわれている2)。とくに経験年数の長い医師は、血糖値100mg/dL台でケトアシドーシスが起こるなんて今まで考えたこともない病態であろう。馴染みが薄いかもしれないが、現実にあちらこちらで起こっていて、決して頻度の低い珍しい病態ではないことを理解していただきたい。そして、内科以外の先生方にもぜひ覚えておいてほしい。また、たとえいい適応症例であったとしても、使用する際に重々注意してほしいことは、決して“痩せる薬”であることを前面に押し出し過ぎないことである。図1:エネルギー摂取量を減少させたときの体重の変化(理論計算結果)画像を拡大する薬の効果があっても、生活改善なくして体重は減らない。また、食事制限をしたとしても、現体重に合わせて目標を強化していかなくては、上記グラフのように1年あまりで下げ止まってしまうと考えられる。しかし、患者さんは、自分に都合のいいように考えるため、「(薬で痩せるなら)これでいくらでも食べられる」と勘違いして過食に走り、体重が落ちるどころかさらに増えてしまい、血糖コントロールが悪化する事態も起こりうる。そうなってしまうと、この薬剤に期待する効果が十分に得られないだけでなく、中止後のさらなる体重増加、血糖コントロール悪化につながる恐れまである。処方時には、食欲増進作用を併せ持つことに対する注意をぜひ伝えていただきたい。(2)薬の使い分けはどのようにしているのか?(class effectはあるのか?)この質問の答えとしては、SGLT1/2の受容体選択性や作用時間などで差異をつけ、いろいろな議論もあると思うが、私見として大差はないと考えている。副作用として、皮疹や下痢の頻度には若干の差があるが…。その中で、半減期と尿量に関して興味深い報告を1つ紹介する。入院中の2型糖尿病患者36例を対象に、トホグリフロジン20mg(商品名:アプルウェイ、デベルザ)を朝1回追加投与することで、日中の尿量は増加するものの、夜間の尿量増加はわずかにとどまり、夜間就寝中のQOLを損なうことは少ないことが示唆された3)。トホグリフロジンはSGLT2阻害薬のなかでは半減期が5.4時間と最も短く、健康成人に対する朝1回単回投与試験でも、夜間の尿糖排泄は少ないことが示されている4)。このような結果から、日中に比し、夜間の尿量増加が少なかったことは、トホグリフロジンの半減期が短いことによると推察される。夜間の尿意で眠れないといった患者さんには本剤の選択がいいかもしれない。表1:SGLT2阻害薬の作用持続時間画像を拡大する(3)心不全に対する効果ここに関しては私の出る幕ではないが、驚くべきことに昨年11月にダパグリフロジンが慢性心不全の標準治療に対する効能・効果の追加承認を取得した。この承認は、2型糖尿病合併の有無にかかわらず左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)を対象とした第III相DAPA-HF試験5)の良好な結果に基づいている。表2:DAPA-HF試験の主要評価項目(複合アウトカム)心不全悪化イベント発生(入院または心不全による緊急来院)までの期間または心血管死画像を拡大するさらには、糖尿病患者に多いといわれている左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)に対するエンパグリフロジンの有効性を検討した、EMPEROR-Preserved試験において、主要評価項目(心血管死亡または心不全による入院の初回イベント)の発生リスクは、エンパグリフロジン投与群で有意に抑制されたという。以上のことから、SGLT2阻害薬はこれからさらに、循環器内科の先生方にも注目されると思われる。SGLT2阻害薬は主役か? それとも脇役か?ここまで述べたように、SGLT2阻害薬は血糖降下作用を持つ糖尿病治療薬としてのみならず、心不全・CKDの治療薬としても認められたことは記憶に新しい。いずれの病態も糖尿病の重大な合併症であり、第1回(前回)の図3「2型糖尿病における血糖降下薬:総括的アプローチ(ADA2021)6)」でも提示ししたごとく、動脈硬化性心血管疾患やCKDの合併または高リスクの場合は、メトホルミンとは独立して検討すると記載されており、まさに主役になれそうな勢いのある薬剤である。しかし、わが国において高齢者糖尿病が急増している中で、今回示したとおり適正な症例を選ぶ能力も身に着けていただく必要があり、決して万能薬ではないことを最後に付け加えたい。私個人の意見として、この薬剤の立ち位置は“名脇役”ということにさせていただこう。1)日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド2020-2021. 文光堂;2020.2)A Pfutzner, et al. Endocrine. 2017;56:212-216.3)大工原 裕之. 診療と新薬. 2017;54:25-28.「SGLT2阻害薬投与前後の血糖ならびに尿量変化について」4)Hashimoto Y, et al. BMC Endocr Disord. 2020;20:98.5)John J V McMurray, et al. N Engl J Med. 2019;381:1995-2008.6)American Diabetes Association. Diabetes Care. 2021;44(Suppl 1):S111-S124.

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日本のウイルス肝炎診療に残された課題~今、全ての臨床医に求められること~

COVID-19の話題で持ち切りの昨今だが、その裏で静かに流行し続けている感染症がある。ウイルス肝炎だ。特に問題になるのは慢性化しやすいB型およびC型肝炎で、世界では3億人以上がB型、C型肝炎ウイルスに感染し、年間約140万人が死亡している。世界保健機関(WHO)は7月28日を「世界肝炎デー」と定め、ウイルス肝炎の撲滅を目的とした啓発活動を実施している。検査方法や治療薬が確立する中、ウイルス肝炎診療に残された課題は何か?今、臨床医に求められることは何か?日本肝臓学会理事長の竹原徹郎氏に聞いた。自覚症状に乏しく、潜在患者が多数―日本の肝がんおよびウイルス肝炎の発生状況を教えてください。日本では、年間約26,000人程度が肝がんで死亡しているという統計があります。その大半はウイルス肝炎によるもので、B型肝炎は約15%、C型肝炎は約50%を占めています。B型およびC型肝炎ウイルスに感染して慢性肝炎を発症しても、自覚症状はほとんど現れません。気付かぬうちに病状が進行し、肝がん発症に至るわけです。日本においてB型、C型肝炎ウイルスの感染に気付かずに生活している患者さんは数十万人程度存在すると考えられています。こうした患者さんを検査で拾い上げ、適切な医療に結び付けることが、肝がんから患者さんを救うことにつながります。検査後の受診・受療のステップに課題―臨床では、どのような場面で肝炎ウイルス検査が実施されるのでしょうか。臨床で肝炎ウイルス検査が実施される場面は様々ですが、(1)肝障害の原因を特定するために行う検査、(2)健康診断で行う検査、(3)手術時の感染予防のために行う術前検査などが挙げられます。(1)はそもそも肝障害の原因を特定するために行われているので問題ないのですが、(2)では、検査で異常が指摘されても放置される場合がありますし、(3)では、陽性が判明してもその後の医療に適切に活用されないことがあり、課題となっています。その要因は様々ですが、例えば他疾患の治療が優先され、検査結果が陽性であることが二の次になるケースや、長く診療している患者さんでは、変にその結果を伝えて不安にさせなくても良いのではないか、とされるケースもあるでしょう。また患者さんの中には、検査結果を見ない、結果が陽性であっても気にしない、陽性であることが気になっていても精密検査の受診を躊躇する、といった方も多いです。そのため医療者側にどのような事情があっても、陽性が判明した場合はその結果を患者さんに伝え、精密検査の受診を促すことが大事です。非専門の先生で、ご自身では精密検査の実施が難しいと思われる場合は、ぜひ近隣の肝臓専門医に紹介してください。そのうえで、最終的に治療が必要かどうかまで結論付け、治療が必要な場合には専門医のもとでの受療を促すことが重要です。目覚ましい進歩を遂げる抗ウイルス治療―ウイルス肝炎の治療はどのように変化していますか。近年、ウイルス肝炎の治療は劇的に変化しています。特にC型肝炎治療の進歩は目覚ましいものがあります。従来のC型肝炎治療はインターフェロン注射によるものが中心で、インターフェロン・リバビリン併用でウイルスを排除できる患者さんの割合は50%程度でした1)。また、インフルエンザ様症状やその他の副作用が多くの患者さんで出現し、治療対象の患者さんも限られていました1),2)。しかしここ数年、経口薬である直接作用型抗ウイルス剤(DAA)が複数登場し、その様相は変化しています。まず治療奏効率は格段に向上し、ほとんどの患者さんでウイルスが排除できるようになりました。そして従来ほど副作用が問題にならなくなり3)、患者さんにとって治療がしやすい環境になっています。治療対象が高齢の患者さんや肝疾患が進行した患者さんに広がったことも、大きな変化です。B型肝炎治療では、まだウイルスを完全に排除することはできないものの、抗ウイルス治療によってウイルスの増殖を抑え、肝疾患の進行のリスクを下げることができます。このように、現在は治療に進んだ後のステップにおける課題はクリアされてきています。そのため、日本のウイルス肝炎診療の課題は、やはり検査で陽性の患者さんを受診・受療に結び付けるまでのステップにあるといえるでしょう。術前検査などで陽性が判明した患者さんがいらっしゃいましたら、ぜひ検査結果を患者さんに適切に伝え、受診・受療を促すと共に、近隣の肝臓専門医に紹介していただきたいと思います。日本肝臓学会のウイルス肝炎撲滅に向けた取り組み―日本肝臓学会では、ウイルス肝炎撲滅に向けてどのような取り組みを実施されていますか。日本肝臓学会では「肝がん撲滅運動」という活動を20年以上にわたって行ってきています。具体的には、肝炎や肝がん診療の最新情報を患者さんや一般市民の皆さまに知っていただくための公開講座を、毎年全国各地で開催しています。3年ほど前からは、肝炎医療コーディネーターを育成するための研修会も設けています。肝炎医療コーディネーターとは、看護師、保健師、行政職員など多くの職種で構成され、肝炎の理解浸透や受診・受療促進などの支援を担う人材です。また最近では、製薬企業のアッヴィ合同会社と共同で、「AbbVie Elimination Award」を設立しました。肝臓領域の臨床研究において優れた成果を上げた研究者を表彰する、研究助成事業です。「Elimination」は「排除」という意味で、一人でも多くの患者さんから肝炎ウイルスを排除したい、という意図が込められています。このように、日本肝臓学会ではウイルス肝炎撲滅に向けて、啓発活動や研究助成事業など、様々な活動に取り組んでいます。世界の先陣を切ってWHOが掲げる目標の達成を目指す―ウイルス肝炎の治療にあたる肝臓専門医の先生方に向けて、メッセージをお願いします。WHOはウイルス肝炎の撲滅に向けて「2030年までにウイルス肝炎の新規患者を90%減らし、ウイルス肝炎による死亡者を65%減らすこと」を目標に掲げています。COVID-19の流行によって、受診控えや入院の先送りなどの問題が発生し、この目標への到達は困難に感じられることもあるかもしれません。しかし、日本のウイルス肝炎診療には、国民の衛生観念がしっかりしている、肝臓専門医の数が潤沢である、行政的な施策が整備されている、など様々なアドバンテージがあります。世界の先陣を切ってWHOが掲げる目標を達成できるよう、今後も取り組んでいきましょう。肝炎ウイルス検査で陽性の患者さんは、肝臓専門医に紹介を―最後に、非専門の先生方に向けてメッセージをお願いします。従来のウイルス肝炎の治療は、副作用が問題になる、高齢の患者さんでは治療が難しい、といったイメージがあり、現在もそのように思われている先生がいらっしゃるかもしれません。患者さんも誤解している可能性があります。しかし、ウイルス肝炎の治療はここ数年で劇的に変化しています。肝炎ウイルス検査を実施して陽性が判明した場合は、患者さんにとって良い治療法があるかもしれない、と思っていただいて、ぜひ近隣の肝臓専門医に紹介してください。日本肝臓学会のHPに、肝臓専門医とその所属施設の一覧を都道府県別に掲載していますので、紹介先に迷われた際は、参考にしていただければと思います。1)竹原徹郎. 日本内科学会雑誌. 2017;106:1954-1960.2)日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会 編「 C型肝炎治療ガイドライン(第8版)」 2020年7月, P16.3)日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会 編「 C型肝炎治療ガイドライン(第8版)」 2020年7月, P57,63.

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内科レジデントを終え次のステップへ、臨床留学医の挑戦はなお続く【臨床留学通信 from NY】第20回

第20回:内科レジデントを終え次のステップへ、臨床留学医の挑戦はなお続く全世界の死者が300万人を超える中、米国ではワクチン接種が進み、4月6日以降は16歳以上の全員が接種できるようになりました。それでもニューヨーク州は、変異株の影響で依然として1日5,000人程度の感染者数が続いています。しかしながらCOVID-19のために入院を要する高齢者の数は劇的に減少し、4月になってからは、ほぼ新規の入院はなくなりました。そんな中、私は7月よりAlbert Einstein Medical College/Montefiore Medical Centerという同じニューヨーク市にある病院でCardiology fellowをすることになり、その書類作業に追われております。日本と違って、入職前に健康診断を済ませる必要がある上、HIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act)の兼ね合いから、数多くのweb based moduleをこなさないと働かせてもらえないのです。さて、今回よりフェローシップのマッチングについて話をしていきたいと思います。レジデント同様、内科のサブスペシャリティのフェローについても、マッチングのアルゴリズムに則って、ウェブ上で出願する必要があります。誰もが希望する診療科に進める日本と異なり、そこは残酷な競争の原理が働いています。例えば、内科系で最も競争の激しい循環器内科は、全米で1,083のスポットしかありません。それは、1,000人強ほどのフェローに対し必要十分な研修が行えるように、国全体でspotの数を定めているからです。それに対し、通年ならば1,400人弱ほどの出願数があるのですが、昨年は新型コロナの影響でより多く循環器科などのフェローシップへの道に流れ、さらにzoomなどによるウェブ面接となったことで、強い候補者が例年ならあまり行かないような遠隔地にある病院の面接を数多く勝ち取った上、通常ならば出るキャンセル待ちもなくなってしまい、弱肉強食の原理が色濃く出る結果となりました。そのため昨年は例年より多い1,567人の出願者数に対し、3人に1人はアンマッチという現実でした。残念ながら私の同僚でほかに4人が循環器科に出願していましたがいずれもアンマッチという状況でした(例年ならば、当院からはアンマッチは循環器科にはありません)。詳しくはこちらのウェブサイトをご覧ください1,2)。このPDFを見ると具体的な数字がありますが、IMG (international medical graduates)は、AMG (American Medical Graduates)に比べてビザ保有という点で圧倒的に不利な中で、DOと呼ばれるMDとは違う医学部の医学教育を得て卒業した米国人や、主にカリブ海地域の医学部を卒業した米国人(US Foreign)と遜色のないマッチ率となっていますが、ここに至るまでには非常に熾烈な競争を余儀なくされます。次回以降、マッチのための準備やプロセス等について述べていきたいと思います。参考1)https://mk0nrmp3oyqui6wqfm.kinstacdn.com/wp-content/uploads/2020/12/MSMP-Match-Results-Report-AY2021.pdf2)https://mk0nrmp3oyqui6wqfm.kinstacdn.com/wp-content/uploads/2019/12/415_MRS.pdfColumn画像を拡大する日本よりも数週間遅れでニューヨークにも春が来て、セントラルパークで花見を楽しむ人の姿がありました。なかなか風情のある景色が都会のオアシスに広がっています。

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