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気管支内視鏡の生検で動脈性の出血が生じ、開胸肺切除を行ったが死亡したケース

呼吸器最終判決判例時報 1426号94-99頁概要グッドパスチャー症候群の疑いがもたれた52歳女性。確定診断のため経気管支肺生検(TBLB)が行われた。そのとき左舌区入口部に直径2~3mmの円形隆起性病変がみつかり、悪性病変を除外するために生検を行った。ところが、生検直後から多量の動脈性出血が生じ、ただちに止血処置を行ったがまもなくショック状態に陥り、人工呼吸、輸血などを行いながら開胸・左肺全摘手術が施行された。しかし意識は回復することなく、3週間後に死亡した。詳細な経過患者情報昭和42年3月28日生まれ32歳経過1987年3月腎機能障害のため某大学病院に入院し、血漿交換、人工呼吸器による呼吸管理、ステロイドなどの投与が行われた52歳女性。諸検査の結果、グッドパスチャー症候群が疑われた。4月10日精査治療目的で関連病院膠原病内科に転院。胸部X線写真では両肺野のびまん性陰影、心臓拡大、胸水などの所見がみられた。グッドパスチャー症候群に特徴的な症状(肺炎様の症状と血尿・蛋白尿)はみられたが、血中の抗基底膜抗体(抗GBM抗体)は陰性であったため、確定診断のために肺生検が予定された。4月20日経気管支肺生検(TBLB)施行。左下葉から4カ所、左上葉上腹側部から1カ所、合計5カ所から肺生検を行った。そのとき左舌区入口部に直径2~3mmの円形隆起性病変がみつかった。その性状から、良性粘膜下腫瘍、悪性新生物、肉芽腫性病変のうちいずれかであり、粘膜表面はやや赤みを帯び、表面は滑らかで、拍動はなく、やや硬い充実性の印象であったので、血管病変ではないと判断された。悪性病変を除外するために生検を行ったところ、直後から動脈性出血を生じ、気管支粘膜直下の気管支動脈を破ったことが判明した。ただちに気管支ファイバースコープを出血部位に押しつけながら出血を吸引し、アドレナリン(商品名:ボスミン)、トロンビンを局所散布した。しかし止血は得られず危篤状態に陥り、人工呼吸、心臓マッサージ、輸血、薬剤投与などの緊急措置が行われたが、動脈性の出血が持続した。4月21日止血目的の開胸手術、さらには左肺全摘術を施行したが、意識は回復せず。6月9日心不全により死亡。病理組織学的検査の結果、問題の気管支動脈は内腔約1mm以下の血管が、ループ状ないしガンマー字状になって気管支粘膜上皮に突出した病変であり、ゴムホースをねじったような走行異常であった。そして、血管壁がむき出しになっていたわけではなく、粘膜の表面が扁平上皮化生(粘膜の表面が本来その場所にはない普通の皮のようになってしまう現象)を起こしていたと推定された。このような気管支動脈の走行異常は、今まで報告されたことのない特殊な奇形であった。当事者の主張患者側(原告)の主張1.予見可能性左舌区入口部の円形隆起性病変が動脈であることを予見することは可能であり、また、予見する義務があった2.生検の必要性そもそも気管支鏡検査の目的はグッドパスチャー症候群の確定診断をつけることであり、出血の原因となった生検は予定外の検査である。しかも、生検の1ヵ月以上前から血液透析を行っており、出血性素因を有していたのだから、膠原病内科の担当医とあらためて生検の必要性を確認してから検査をするべきであり、この時点で検査をする必要性はなかった3.説明義務違反今回の大出血につながった生検は予定外のものであり、患者に対し何の説明もなく、患者の承諾もなく、さらにただちに生命・健康に重大な危険を及ぼす緊急の事情もなかった以上、TBLB終了後施術内容や危険性につき説明を加え、その承諾を得る義務があったのに怠った病院側(被告)の主張1.予見可能性下行大動脈から分岐する気管支動脈が気管支壁を越えて気管支粘膜内に存在することはきわめてまれであり、観察時には動脈性病変を示唆する所見はみられなかった。実際に本件のように非常に小さく、著明な発赤や拍動を欠いたものについては報告はないため、動脈であることの予見可能性はなかった2.生検の必要性TBLBを行った当時は透析中でもあり、肺出血による呼吸不全の既往もあったため、今後気管支鏡検査を実施できる条件の整う機会を得るのは容易ではなかった。しかも今回の病変が悪性のものであるおそれもあったから、生検を実施しないで様子をみるということは許されなかった3.説明義務違反患者から同意を得たTBLBを行う過程で、新たに緊急で生じた必要性のある検査に対し、とくにあらためて個別の説明を行わないでも説明義務違反には当たらない裁判所の判断予見可能性今回の病変は通常動脈があるとは考えられない場所に存在し、しかも扁平上皮化生によって血管の赤い色を識別することができず、血管性病変であることを予見するのは医学的にまったく不可能とは言い切れないとしても、その位置、形状、態様、色彩そのほかの状況からして、当時の医学水準に照らしても血管性病変であることを予見することは著しく困難であった。生検の必要性今回の病変は正体が不明であり、悪性腫瘍の可能性もあり、後日改めて気管支鏡検査をすることができないかもしれないという状況であった。しかも気管支鏡以外にはその病変を診断する的確な方法がなかったため、むしろそのまま放置した時は医師として怠慢であると非難されるおそれさえあったといえる。説明義務違反検査に当たってはあらゆる事態を想定してあらゆる事柄について事前に説明を施し、そのすべてについて承諾を得なければならないものとはいえない。今回の生検は当初予定していたTBLBの一部ではなく、不可避的な施術であるとはいえないが、新たに緊急に必要性の判明した検査であった。通常この生検が身体に与える影響は著しく軽微であり、TBLBの承諾を得たものであれば生検を拒否するとは到底考えられないため、改めて説明の上その承諾を得なければならないほどのものではなく、医師としての説明義務違反とはいえない。原告側合計4,516万円の請求を棄却考察今回の事案をご覧になって、多くの先生方(とくに内視鏡担当医師)は、複雑な感想をもたれたことと思います。「医療過誤ではない」という司法の判断こそ下りましたが、もし先生方が家族の立場であったのなら、なかなか受け入れがたい判決ではないでしょうか。いくら「不可抗力であった」と主張しても、結果的には気管支動脈を「動脈」とは認識できずに生検してしまい、出血大量となって死亡したのですから、「見立て違い」であったことにはかわりありません。おそらく担当医師にとってはきわめて後味の悪い症例であったと思います。同じようなケースとして、消化器内視鏡検査で食道静脈瘤を誤って生検してしまい、うまく出血をコントロールできずに死亡した事案も散見されます。消化管の内視鏡検査であれば、止血クリップを使うなどしてある程度出血のコントロールは可能ではないかと思いますが、本件のように気管支内視鏡検査で気管支腔に突出した動脈をつまんでしまうと、事態を収拾するのは相当困難であると思います。本件でも最終的には左肺を全摘せざるを得なくなりました。このように、たいへん難しい症例ではありますが、以下の2つの点については強調しておきたいと思います。1. われわれ医師がよかれと思って誠実に行った医療行為の結果が最悪であった場合に、その正当性を証明するには病理学的な裏付けがきわめて重要である本件では気管支動脈からの出血をコントロールするために左肺が全摘されたため、担当医師らが動脈とは認識できなかった「血管走行異常」を病理学的につぶさに検討することができました。その結果、「動脈とは認識できなくてもやむを得なかった」という重要な証拠へとつながり、無責と判断されたのだと思います。もしここで左肺全摘術、もしくは病理解剖が行われなかったとすると、「気管支動脈を誤認した」という事実だけに注目が集まり、まったく異なる判決になっていたかもしれません。ほかの裁判例でも、病理解剖が行われてしっかりと死亡原因が突き止められていれば、医療側無責となったかもしれない事案が数多くみられます。往々にして家族から解剖の承諾を得ることは相当難しいと思われますが、治療の結果が悪いというだけで思わぬ医事紛争に巻き込まれる可能性がある以上、ぜひとも病理学的な裏付けをとっておきたいと思います。2. 侵襲を伴う検査を行う際には細心の注意を払う必要があるという、基本事項の再確認今回の裁判では病院側の主張が全面的に採用されましたが、検査で偶然みつかった病変に対し、はたして本当に生検が必要であったのかどうかは議論のあるところだと思います。そもそも、気管支鏡検査の目的はグッドパスチャー症候群の診断を確定することにありました。そして、検査の直前には腎機能障害のため、血漿交換、人工呼吸器による呼吸管理まで行われていたハイリスク例でしたので、後方視的にみれば「診断をつける」という目的が達成されればそれで十分と考えるべきであったと思います。つまり、今回の生検は「絶対的適応」というよりも、どちらかというと「相対的適応」ではないでしょうか。偶然みつかった正体不明の病変については、「ついでだから生検しておこう、万が一でも悪性であったら、それはそれでがんをみつけてあげたのだから診断に貢献したことになる」と考えるのも同じ医師として理解はできます。しかし、この判決をそのまま受け取ると、「この患者は気管支鏡検査を受けると、ほとんどの医師は気管支内に突出した気管支動脈を動脈とは認識できず、がんの鑑別目的で『誤認』された動脈を生検されてしまい、出血多量で死亡に至る」ということになります。そもそもわれわれ医師の役目は患者さんの病気を治療することにありますので、病気を治す以前の医療行為が直接の原因となって患者さんが死亡したような場合には、いくら不可抗力といえども猛省しなければならないと思います。ぜひとも多くの先生方に本件のような危険なケースがあることを認識していただき、内視鏡検査では「ちょっとおかしいから組織を採取して調べておこう」と気軽に生検する前に、このようなケースがあることを思い出していただきたいと思います。裁判では「気管支鏡以外にはその病変を診断する的確な方法がなかったため、むしろそのまま放置した時は医師として怠慢であると非難されるおそれさえある」という考え方も首肯されはしましたが、もう一度慎重に検討することはけっして怠慢ではないと思います。われわれ医師の責務として、このような残念なケースから多くのことを学び、同じようなことがくり返されることがないよう、細心の注意を払いたいと思います。呼吸器

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NSAIDsにより消化性潰瘍が穿孔し死亡したケース

消化器概要肺気腫、肺がんの既往歴のある67歳男性。呼吸困難、微熱、嘔気などを主訴として入退院をくり返していた。経過中に出現した腰痛および左足痛に対しNSAIDsであるロキソプロフェン ナトリウム(商品名:ロキソニン)、インドメタシン(同:インダシン)が投与され、その後も嘔気などの消化器症状が継続したが精査は行わなかった。ところがNSAIDs投与から12日後に消化性潰瘍の穿孔を生じ、緊急で開腹手術が行われたが、手術から17日後に死亡した。詳細な経過患者情報肺気腫、肺がん(1987年9月左上葉切除術)の既往歴のある67歳男性。慢性呼吸不全の状態であった経過1987年12月3日呼吸困難を主訴とし、「肺がん術後、肺気腫および椎骨脳底動脈循環不全」の診断で入院。1988年1月19日食欲不振、吐き気、上腹部痛が出現(約1ヵ月で軽快)。4月16日体重45.5kg5月14日症状が安定し退院。6月3日呼吸困難、微熱、嘔気を生じ、肺気腫と喘息との診断で再入院。6月6日胃部X線検査:慢性胃炎、「とくに問題はない」と説明。6月7日微熱が継続したため抗菌薬投与(6月17日まで)。6月17日軟便、腹痛がみられたためロペラミド(同:ロペミン)投与。6月20日体重41.5kg、血液検査で白血球数増加。6月24日抗菌薬ドキシサイクリン(同:ビブラマイシン)投与。6月26日胃もたれ、嘔気が出現。6月28日食欲低下も加わり、ビブラマイシン®の副作用と判断し投与中止。6月29日再び嘔気がみられ、びらん性胃炎と診断、胃粘膜保護剤および抗潰瘍薬などテプレノン(同:セルベックス)、ソファルコン(同:ソロン)、トリメブチンマレイン(同:セレキノン)、ガンマオリザノール(同:オルル)を投与。7月4日嘔気、嘔吐に対し抗潰瘍薬ジサイクロミン(同:コランチル)を投与。7月5日嘔気は徐々に軽減した。7月14日便潜血反応(-)7月15日嘔気は消失したが、食欲不振は継続。7月18日体重40.1kg。7月19日退院。7月20日少量の血痰、嘔気を主訴に外来受診。7月22日腰痛および膝の感覚異常を主訴に整形外科を受診、鎮痛薬サリチル酸ナトリウム(同:ネオビタカイン)局注、温湿布モムホット®、理学療法を受け、NSAIDsロキソニン®を1週間分投与。以後同病院整形外科に連日通院。7月25日血尿が出現。7月29日出血性膀胱炎と診断し、抗菌薬エノキサシン(同:フルマーク)を投与。腰痛に対してインダシン®坐薬、セルベックス®などの抗潰瘍薬を投与。7月30日吐物中にうすいコーヒー色の吐血を認めたため外来受診。メトクロプラミド(同:プリンペラン)1A筋注、ファモチジン(同:ガスター)1A静注。7月31日呼吸不全、嘔気、腰と左足の痛みなどが出現したため入院。酸素投与、インダシン®坐薬50mg 2個を使用。入院後も嘔気および食欲不振などが継続。体重40kg。8月1日嘔吐に対し胃薬、吐き気止めの投薬開始、インダシン®坐薬2個使用。8月2日10:00嘔気、嘔吐が持続。15:00自制不可能な心窩部痛、および同部の圧痛。16:40ブチルスコポラミン(同:ブスコパン)1A筋注。17:50ペンタジン®1A筋注、インダシン®坐薬2個投与。19:30痛みは軽快、自制の範囲内となった。8月3日07:00喉が渇いたので、ジュースを飲む。07:30突然の血圧低下(約60mmHg)、嘔吐あり。08:50医師の診察。左下腹部痛および嘔気、嘔吐を訴え、同部に圧痛あり。腹部X線写真でフリーエアーを認めたため、腸閉塞により穿孔が生じたと判断。15:00緊急開腹手術にて、胃体部前壁噴門側に直径約5mmの潰瘍穿孔が認められ、腹腔内に食物残渣および腹水を確認。胃穿孔部を切除して縫合閉鎖し、腹腔内にドレーンを留置。術後腹部膨満感、嘔気は消失。8月10日水分摂取可能。8月11日流動食の経口摂取再開。8月13日自分で酸素マスクをはずしたり、ふらふら歩行するという症状あり。8月15日頭部CTにて脳へのがん転移なし。白血球の異常増加あり。8月16日腹腔内留置ドレーンを抜去したが、急性呼吸不全を起こし、人工呼吸器装着。8月19日胸部X線写真上、両肺に直径0.3mm~1mmの陰影散布を確認。家族に対して肺がんの再発、全身転移のため、同日中にも死亡する可能性があることを説明。8月20日心不全、呼吸不全のため死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張慢性閉塞性肺疾患では低酸素血症や高炭酸ガス血症によって胃粘膜血流が低下するため胃潰瘍を併発しやすく、実際に本件では嘔気・嘔吐などの胃部症状が発生していたのに、胃内視鏡検査や胃部X線検査を怠ったため胃潰瘍と診断できなかった。さらに非ステロイド系消炎鎮痛薬はきわめて強い潰瘍発生作用を有するのに、胃穿孔の前日まで漫然とその投与を続けた。病院側(被告)の主張肺気腫による慢性呼吸器障害に再発性肺がんが両肺に転移播種するという悪条件の下で、ストレス性急性胃潰瘍を発症、穿孔性腹膜炎を合併したものである。胃穿孔は直前に飲んだジュースが刺激となって生じた。腹部の術後経過は順調であったが、肺気腫および肺がんのため呼吸不全が継続・悪化し、死亡したのであり、医療過誤には当たらない。ロキソニン®には長期投与で潰瘍形成することはあっても、本件のように短期間の投与で潰瘍形成する可能性は少なく、胃穿孔の副作用の例はない。インダシン®坐薬の能書きには消化性潰瘍の可能性についての記載はあるが、胃潰瘍および胃穿孔の副作用の例はない。たとえ胃潰瘍の可能性があったとしても、余命の少ない患者に対し、腰痛および下肢痛の改善目的で呼吸抑制のないインダシン®坐薬を用いることは不適切ではない。裁判所の判断吐血がみられて来院した時点で出血性胃潰瘍の存在を疑い、緊急内視鏡検査ないし胃部X線撮影検査を行うべき注意義務があった。さらに検査結果が判明するまでは、絶食、輸液、止血剤、抗潰瘍薬の投与などを行うべきであったのに怠り、鎮痛薬などの投与を漫然と続けた結果、胃潰瘍穿孔から汎発性腹膜炎を発症し、開腹手術を施行したが死亡した点に過失あり。原告側合計4,188万円の請求に対し、2,606万円の判決考察今回のケースをご覧になって、「なぜもっと早く消化器内視鏡検査をしなかったのだろうか」という疑問をもたれた先生方が多いことと思います。あとから振り返ってみれば、消化器症状が出現して入院となってから胃潰瘍穿孔に至るまでの約60日間のうち、50日間は入院、残りの10日間もほとんど毎日のように通院していたわけですから、「消化性潰瘍」を疑いさえすればすぐに検査を施行し、しかるべき処置が可能であったと思います。にもかかわらずそのような判断に至らなかった原因として、(1)入院直後に行った胃X線検査(胃穿孔の58日前、NSAIDs投与の45日前)で異常なしと判断したこと(2)複数の医師が関与したこと:とくにNSAIDs(ロキソニン®、インダシン®)は整形外科医師の指示で投与されたことの2点が考えられます(さらに少々考えすぎかも知れませんが、本件の場合には肺がん術後のため予後はあまりよくなかったということもあり、さまざまな症状がみられても対症療法をするのが限度と考えていたのかも知れません)。このうち(1)については、胃部X線写真で異常なしと判断した1ヵ月半後に腰痛に対して整形外科からNSAIDsが処方され、その8日後に嘔吐、吐血までみられたのですから、ここですぐさま上部消化管の検査を行うのが常識的な判断と思われます。しかもこの時に、ガスター®静注、プリンペラン®筋注まで行っているということは、当然消化性潰瘍を念頭に置いていたと思いますが、残念ながら当時患者さんをみたのは普段診察を担当していない消化器内科の医師でした。もしかすると、今回の主治医は「消化器系の病気は消化器内科の医師に任せてあるのでタッチしない」というスタンスであったのかも知れません。つまり(2)で問題提起したように、胃穿孔に至る過程にはもともと患者さんを診ていた内科主治医消化器系を担当した消化器内科医腰痛を診察しNSAIDsを処方した整形外科医という3名の医師が関与したことになります。患者側からみれば、同じ病院に入院しているのだから、たとえ診療科は違っても医者同士が連絡しあい、病気のすべてを診てもらっているのだろうと思うのが普通でしょう。ところが実際には、フリーエアーのある腹部X線写真をみて、主治医は最初に腸閉塞から穿孔に至ったのだろうと考えたり、前日までNSAIDsを投与していたことや消化性潰瘍があるかもしれないという考えには辿り着かなかったようです。同様に整形外科担当医も、「腰痛はみるけれども嘔気などの消化器症状は内科の先生に聞いてください」と考えていたろうし、消化器内科医は、「(吐血がみられたが)とりあえずはガスター®とプリンペラン®を使っておいたので、あとはいつもの主治医に任せよう」と思ったのかも知れません。このように本件の背景として、医師同士のコミュニケーション不足が重大な影響を及ぼしたことを指摘できると思います。ただしそれ以前の問題として、NSAIDsを処方したのであれば、たとえ整形外科であっても副作用のことに配慮するべきだし、もし消化器症状がみられたのならば内科担当医に、「NSAIDsを処方したけれども大丈夫だろうか」と照会するべきであると思います。同様に消化器内科医の立場でも、自分の専門領域のことは責任を持って診断・治療を行うという姿勢で臨まないと、本件のような思わぬ医事紛争に巻き込まれる可能性があると思います。おそらく、各担当医にしてみればきちんと患者さんを診察し、(内視鏡検査を行わなかったことは別として)けっして不真面目であったとか怠慢であったというような事例ではないと思います。しかし裁判官の判断は、賠償額を「67歳男性の平均余命である14年」をもとに算定したことからもわかるように、大変厳しい内容でした。常識的に考えれば、もともと肺気腫による慢性呼吸不全があり、死亡する11ヵ月前に肺がんの手術を行っていてしかも両側の肺に転移している進行がんであったのに、「平均余命14年」としたのはどうみても不適切な内容です(病院側弁護士の主張が不十分であったのかもしれません)。しかし一方で、そう判断せざるを得ないくらい「医師として患者さんにコミットしていないではないか」、という点が厳しく問われたケースではないかと思います。今回のケースから得られる教訓として、自分の得意とする分野について診断・治療を行う場合には、最後まで責任を持って担当するということを忘れないようにしたいと思います。また、たとえ専門外と判断される場合でも、可能な限りほかの医師とのコミュニケーションをとることを心掛けたいと思います。消化器

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インフルエンザのリスク因子、エビデンスが弱い/BMJ

 インフルエンザ関連合併症のリスク因子を定義するエビデンスのレベルは低いことが、カナダ・マックマスター大学のDominik Mertz氏らによるシステマティックレビューの結果、明らかにされた。インフルエンザ発症において一部の患者集団では合併症の併発や重症化するリスクが報告され、ハイリスク集団にワクチン接種を優先する勧告がWHOおよび世界各国で行われている。しかし、これまで同集団を定義するエビデンスの質について包括的かつシステマティックなレビューは行われていなかったという。BMJ誌オンライン版2013年8月23日号掲載の報告より。234論文61万例データをメタ解析 研究グループは、季節性またはパンデミック・インフルエンザ患者における重症アウトカムのリスク因子の評価を目的にシステマティックレビューを行った。 Medline、Embase、CINAHL、Global Health、Cochrane Central Register of Controlled Trialsをデータソースに、2011年3月までに公表された論文について検索し、インフルエンザの罹患者でリスク因子とアウトカム(死亡、人工呼吸器装着、入院、ICU入室、肺炎、複合アウトカムなど)の組み合せについて興味深い報告がされていた観察研究を選定した。 エビデンスの評価は、バイアスリスクを評価するNewcastle-Ottawaスケールによる評価と、GRADEフレームワークを用いて行った。 検索の結果、6万3,537論文の中から、包含基準を満たした234論文、61万782例分のデータを特定し解析に組み込んだ。いかなるリスク因子もエビデンスレベルが低い 解析の結果、インフルエンザの重症アウトカムに関するリスク因子のエビデンス支持は、Newcastle-Ottawaスケール評価で限界値から0の範囲であった。これはとくに、2009H1N1パンデミック以外のデータおよび季節性インフルエンザの研究データが、相対的に不足していたことと関連していた。 また、公表論文は、検出力の不足と交絡因子についての補正の不足などが広範囲に及んでおり、解析には限りがあった。たとえば、補正後推定リスク値が得られたのは260試験のうち39例(15%)で、そのうちリスク因子とアウトカムの比較のデータが得られたのは5%のみにとどまった。 エビデンスのレベルは「いかなるリスク因子」においても低かった。死亡のオッズ比は、パンデミック・インフルエンザ2.77(95%信頼区間[CI]:1.90~4.05)、季節性インフルエンザ2.04(同:1.74~2.39)だった。同様に、肥満症については、パンデミック2.74(同:1.56~4.80)、季節性30.1(同:1.17~773.12)、心血管疾患は同2.92(1.76~4.86)と1.97(1.06~3.67)、神経筋疾患は同2.68(1.91~3.75)と3.21(1.84~5.58)だった。 その他のすべてのリスク因子に関してもエビデンスレベルは非常に低かった。よく言われる妊娠や民族性の性質をリスク因子として同定することはできなかった。一方で、分娩後4週未満の女性において、パンデミック・インフルエンザの死亡リスクが有意に高いことが認められた(4.43、1.24~15.81)。 上記の結果を踏まえて著者は、「インフルエンザ関連の合併症に関するリスク因子を支持するエビデンスレベルは低く、よく言われる妊婦や民族性のリスク因子もリスク因子として確認することはできなかった。厳密で十分検出力のある研究が必要である」と結論している。

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ジャクソンリースと気管切開チューブの接続不具合で死亡した乳児のケース

小児科最終判決平成15年3月20日 東京地方裁判所 判決概要生後3ヵ月乳児の気管切開術後に、a社製のジャクソンリース回路とT社製の気管切開チューブを接続して用手人工呼吸を行おうとしたところ、接続不具合のため回路が閉塞して換気不全に陥り、11日後に死亡した事故について、企業の製造物責任ばかりでなく、担当医師の注意義務違反が認定された。詳細な経過経過2000年12月8日体重1,645gで出生、呼吸障害がみられ、しばらく気管内挿管による人工呼吸器管理を受けた。2001年3月13日声門・声門下狭窄および気管狭窄を合併したため、手術室で気管切開術を施行。術後の安静を目的として筋弛緩薬が静脈注射され、自発呼吸がないままNICU病棟へ帰室することになった。その際、患児を病棟へ搬送するために、気管切開部に装着された気管切開チューブ(T社シャイリー気管切開チューブ小児・新生児用)にa社ジャクソンリース小児用麻酔回路を接続して用手人工呼吸を行おうとした。ところが、使用したジャクソンリースは新鮮ガス供給パイプが患者側接続部に向かってTピースの内部で長く突出したタイプであり、他方、シャイリー気管切開チューブは接続部の内径が狭い構造になっていたため、新鮮ガス供給パイプの先端が気管切開チューブの接続部の内壁にはまり込んで密着し、回路の閉塞を来した。そのため患児は換気不全によって気胸を発症し、全身の低酸素症、中枢神経障害に陥った。3月24日消化管出血、脳出血、心筋脱落・線維化、気管支肺炎などの多臓器不全により死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張1.企業の責任a社のジャクソンリースは、T社のシャイリー気管切開チューブに接続した時に呼吸回路が閉塞され、患者が換気不全に陥るという危険性を有していたにもかかわらず、適切な指示・警告を出さなかった。さらに1997年に愛媛大学医学部附属病院で、ジャクソンリースの新鮮ガス供給パイプとT社販売の人工鼻の閉塞による換気不全事故が2件発生している。人工鼻とジャクソンリース回路の接続の仕組みと、T社シャイリー気管切開チューブとジャクソンリース回路の接続の仕組みは同じであるから、a社、T社は閉塞の危険性を認識し得なかったとはいえない2.病院側の責任担当医師がジャクソンリースとシャイリー気管切開チューブの構造や特徴を理解し、組合せ使用時の構造や特徴に関心を持ち、呼吸回路の死腔量や換気抵抗を理解することに努めていれば、接続部の目視点検を行うことで接続部で閉塞していることを発見するのは可能かつ容易である。さらに今回使用したジャクソンリースとシャイリー気管切開チューブ以外の器具を選択する余地も十分にあったので、死亡という最悪の結果を回避することは可能であった本件事故と同一のメカニズムにより生じた接続不具合は、過去に麻酔科の専門誌や学会で発表され、ジャクソンリースの添付文書にも、不充分な内容ではあるが注意喚起がなされている。これらの情報を集約すれば、接続不具合は予見できない事象ではない。また、ジャクソンリース回路であればどれでも同じという発想で、医療器具の安全性よりも数を優先して導入したことが、被告病院の医療従事者らがジャクソンリースの構造や特徴を理解しないままに使用することにつながった医療器具製造業者側の主張a社の主張a社ジャクソンリースは、呼気の再吸入を防止するために新鮮ガス供給パイプを長くしたもので、昭和50年代終わり頃から同一仕様で販売されて10年以上も経過し、医療機関に広く採用されている。そのような状況で被告T社がシャイリー気管切開チューブを「標準型換気装置および麻酔装置と接続できる」と説明して販売したのであるから、a社ではなくT社がジャクソンリースとの不具合の発生回避対策を講じるべきであった。さらに病院が医療機関に通常要求される注意義務を尽くせば、不具合は容易に確認できたはずであるので、a社の過失はないT社の主張シャイリー気管切開チューブの接続部は、日本工業規格(JIS規格)に準拠し通常の安全性は満たしているから欠陥はない。シャイリー気管切開チューブは汎用性が高く、本国内はもとより世界中で数多く使用されている。また、当製品は接続する相手を特定して販売していたものではなく、a社ジャクソンリースのような特殊な形状を有した製品との接続は想定されていなかったまた愛媛大学の事故については、T社人工鼻と同様の接続部の形状をもつ製品はきわめて多いからその中のひとつにすぎないシャイリー気管切開チューブについて接続不具合を予見することは不可能であったさらに、医療現場において医療器具を創意工夫して使用することは医療従事者の裁量に任されており、その場合リスク管理上の責任も医療現場に委ねられるべきである。本件事故は、担当医師が基本的注意義務を怠り発生させたものであるから、医療器具の製造業者には責任がない。病院側(被告)の主張ジャクソンリース回路に気管切開チューブ類を接続して安全性を確認する点検方法は、一般には存在せず、いかなる医学専門書にもその方法に関する記載はない。また、気管切開チューブなどを接続した状態で点検を行えるテスト肺のような器具自体も存在しないうえ、器具を口に咥えて確認する方法も感染などの問題から行い得ない。したがって、ジャクソンリースと気管切開チューブとの組合せによる接続不具合を確認することは不可能であった。また、本件と類似の接続不具合事故についての安全情報は、企業からも厚生労働省からも医療機関に対し一切報告されなかった。また本件事故発生以前に、別の患児に対して同様の器具の組合せによる換気を600回以上行っているが、原疾患に起因すると考えられる気胸が2回発生した以外は何のトラブルもない。したがって担当医師は本件事故の発生を予見できなかった。裁判所の判断企業側の責任小児・新生児に対しジャクソンリース回路を用いて用手人工換気を行う場合、マスク、気管内チューブ(経口・経鼻用)、気管切開チューブなどの呼吸補助用具にジャクソンリース回路を組み合わせ、相互に接続して使用することが通常の使用形態であり、a社およびT社は、医療の現場においてジャクソンリース回路に他社製の呼吸補助用具が組み合わされて接続使用されている実態を認識していた。ところがa社の注意書には、換気不全が起こりうる組合せにつき、「他社製人工鼻など」と概括的な記載がなされているのみで、そこにシャイリー気管切開チューブが含まれるのか判然としないうえ、換気不全のメカニズムについての記載がないために、医療従事者が個々の呼吸補助用具ごとに回路閉塞のおそれを判断することは困難で、組合せ使用時の回路閉塞の危険を告知する指示・警告上の欠陥があったと認められ、製造物責任を負うべきである。同様にT社も、シャイリー気管切開チューブを販売するに当たり、その当時医療現場において使用されていたジャクソンリースと接続した場合に回路の閉塞を起こす危険があったにもかかわらず、そのような組合せ使用をしないよう指示・警告しなかったばかりか、使用説明書に「標準型換気装置および麻酔装置に直接接続できる」と明記し、小児用麻酔器具であるジャクソンリースとの接続も安全であるかのごとき誤解を与える表示をしていたので、シャイリー気管切開チューブには指示・警告上の欠陥があった。医療器具の製造・輸入販売企業には、医療現場における医療器具の使用実態を踏まえて、医療器具の使用者に適切な指示・警告を発して安全性を確保すべき責任があるので、たとえ医療器具を使用した医師に注意義務違反が認められても、企業が製造物責任を免れるものではない。病院側の責任小児科領域の呼吸管理においては、呼吸回路の死腔が大きいと換気効率が低下するため、死腔が小さい器具が用いられることが多いが、回路の死腔を小さくすると吸気・呼気の通り道が狭くなって換気抵抗が増加する関係にあることが知られている。そのため小児科医師は、ジャクソンリース回路と気管切開チューブを相互接続するに当たり、それぞれの器具につき死腔と換気抵抗に注意を払うのが一般的である。もし担当医師が、死腔を減らすために接続部内径が狭くなっているというシャイリー気管切開チューブの構造上の基本的特徴、および死腔を減らすために新鮮ガス供給パイプが患者側接続部に向かって長く伸びているというジャクソンリースの構造上の基本的特徴を理解していれば、両器具を接続した場合に、新鮮ガス供給パイプの先端が上記接続部の内壁にはまり込んで呼吸回路の閉塞を来し事故が発生することを予見することが可能であった。たとえ医学専門書に接続不具合の点検方法について記載がないからといって、ただちに結果回避の可能性がなかったということはできない。担当医師は、両器具が相互に接続された状態でその本来の目的に沿って安全に機能するかどうかを事前に点検すべき注意義務に違反したために起きた事故である。医師は人間の生命身体に直接影響する医療行為を行う専門家であり、その生命身体を委ねる患者の立場からすれば、医師にこの程度の知識や認識を求めることは当然であって、医師に理不尽や不可能を強いるものとは考えられない。原告側合計8,204万円の請求に対し、企業と連帯して合計5,063万円の支払い命令考察ジャクソンリースと気管切開チューブ接続不具合による死亡事故は、われわれ医療関係者からみて、当然医療器具を製造・販売した企業側がすべての責任を負うべきもの、と考えていたと思います。担当医師はミスとされるような間違った医療行為はしていませんし、どの医師が担当しても事故は避けられなかったと考えられます。もう一度経過を振り返ると、気管内挿管を継続していた生後3ヵ月の低出生体重児に、声門・声門下狭窄および気管狭窄がみられたため、全身麻酔下で耳鼻科医師が気管切開を行いました。手術後は安静を保つため筋弛緩薬を投与してNICUで管理することになり、小児科担当医師がNICUに常備していたジャクソンリースを携えて手術室まで出迎えにいきました。ところが、ジャクソンリースと気管切開チューブの接続不具合で気胸を起こしてしまい、最終的には死亡に至ったというケースです。ご遺族にとってはさぞかし無念であり残念な事故とは思いますが、出迎えにいった小児科医にとっても衝撃的な出来事であったと思います。あとから振り返ってみても、どこをどうすれば患児を助けることができたのか、という反省点を挙げにくいケースであると思います。小児科担当医師の立場では、筋弛緩薬により自発呼吸がない状態で帰室するため、用手人工喚気をする必要があり、となればNICUに常備していたジャクソンリースを用いるのが当然、ということになります。ジャクソンリースを携行する段階で、よもやこのジャクソンリースと気管切開チューブが接続不具合を起こすなど、100%考えていなかったでしょう。なぜなら、この医師がこの病院に勤務する以前から購入されていたジャクソンリースであったと思われるし、手術では耳鼻科医師がこの乳児に最適と思って選んだ気管切開チューブを装着したのですから、「接続がうまくいくのが当然」という認識であったと思います。まさか、接続がうまくいかない医療器具をメーカー側が作るはずはないし、製品として世に登場する前に、数々の臨床試験をくり返して安全性を確かめているはずだ、という認識ではないでしょうか。もし、この担当医師(小児科医師)がジャクソンリースを選定・購入する立場であったとしたら、院内で使用する呼吸器関連の器具との接続がうまくいくかどうか配慮する余地はあったと思います。しかし、もともとNICUに常備されているジャクソンリースに対し、「接続不具合が発生する気管切開チューブが存在するかどうか事前にすべて確認せよ」などということは、まったく医療現場のことを理解していない法律専門家の考え方としか思えません。ましてや、事故発生当時に企業や厚生労働省から、ジャクソンリースと気管切開チューブの接続不具合に関する情報は一切提供されていなかったのですから、事故前に確認する余地はまったくなかったケースであると思います。にもかかわらず、「医師は人間の生命身体に直接影響する医療行為を行う専門家であり、その生命身体を委ねる患者の立場からすれば、医師にこの程度の知識や認識を求めることは当然であって、医師に理不尽や不可能を強いるものとは考えられない」などという判断は、いったいどこに根拠があるのでしょうか、きわめて疑問に思います。本件のように、医師の過失とは到底いえないような医療事故でさえ、医師の注意義務違反を無理矢理認定してしまうのは、非常に由々しき状況ではないでしょうか。このような判決文を書いた裁判官がもし医師の道を選んで同様の事故に遭遇すれば、必ずや今回のような事態に発展したと思います。ただし本件ほどの極端な事例ではなくても、人工呼吸器関連の医療事故には、病院側に対して相当厳しい判断が下されるようになりました。なぜなら、呼吸器疾患などにより人工換気が必要な患者では、機器の不具合が生命の存続を直接脅かすような危険性を常に秘めているから思われます。たとえば、人工呼吸器が知らないうちにはずれてしまったがアラームを消音にしていた、人工呼吸器の回路にリークがあるのに気づくのが遅れた、あまりアラームがうるさいので警報域を低めにしておいたら呼吸が止まっていた、加湿器のなかに蒸留水以外の薬品を入れてしまった、などという事故が今までに報告されています。個々のケースにはそれなりに同情すべき点があるのも事実ですが、患者が病院というハイレベルの医療管理下にある以上、人工呼吸器に関連したトラブルのほとんどは過失を免れない可能性が高いため、慎重な対応が必要です。なお今回のような事故を防ぐためにも、院内で使用している医療機器(人工呼吸器、各種カテーテル類、輸液ポンプ、微量注入器など)については、なるべく一定のフローに沿って定期的な点検・確認を行うことが望まれます。同じメーカーの製品群を使用する場合にはそれほどリスクは高くないと思いますが、本件のように他社製品を組み合わせて使用する場合には、細心の注意が必要です。今回の事例を教訓として、ぜひとも院内での見直しを検討されてはいかがでしょうか。■日本麻酔科学会 麻酔機器・器具故障情報,薬剤情報,注意喚起 情報 より故障情報2001年2月28日都立豊島病院におけるジャクソンリース回路およびシャイリー気管切開チューブの組み合わせ使用による死亡事故に関して3月24日付きの毎日新聞およびインターネットの記事で紹介されました、a製ジャクソンリース回路(旧型)とマリンクロット社製シャイリー新生児用気管切開チューブを併用しての人工呼吸による患児の死亡事故について、現在まで判明した情報は次の通りです。a製旧型ジャクソンリース回路(現在まで新型と並行販売していた)では、フレッシュガス吹送用ノズルが、Lコネクターの中央湾曲部から気管チューブ接続口へ向けて深く挿入されています。一方、M社が発売しているシャイリー気管切開チューブの新生児用(NEO)と小児用(PED)はチューブの壁厚が厚く(従って内径が狭く)、この両者を併用すると、ジャクソンリース回路のノズルが気管切開チューブに嵌入して、フレッシュガスが肺のみへ送り続けられ、呼気および換気が不可能となったことが今回のおよび昨年11月の死亡事故の原因です。2001年4月6日ジャクソンリース回路と気管切開チューブの接続についてa製ジャクソンリース回路とM製シャイリーの気管切開チューブによる事故の続報をお知らせします。厚生労働省は日本医療器材工業会(代表 テルモ株式会社 山本章博氏)に対して、上記以外のジャクソンリース回路と気管切開チューブのあらゆる組み合わせについての危険性の調査を命じました。日本医療器材工業会は3月30日の時点で、リコーと小林メディカルを除く他社の製品の組み合わせについてチェックを終了しております。その結果、ジャクソンリースとしてはa製に加えて五十嵐医科工業製、気管切開チューブとしてはマリンクロット製に加えて泉工医科工業製、日本メディコ製の一部のものを組み合わせた時に、危険性のあることが判明しました。2001年5月2日ジャクソンリース回路と気管切開チューブの接続についてa製ジャクソンリース回路とM製シャイリー気管切開チューブによる事故後の日本医療器材工業会のその後の調査で、アネス(旧アイカ)取扱のデュパコ社製ノーマンマスクエルボに関しても、問題の生じる可能性があるということで、回収が開始されました。小児科

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エキスパートに聞く!「認知症診療」Q&A 2013 Part2

CareNet.comでは認知症特集を配信するにあたって、事前に会員の先生方から認知症診療に関する質問を募集しました。その中から、とくに多く寄せられた質問に対し、大阪大学 数井裕光先生にご回答いただきました。今回は、抗認知症薬の投与をやめる時期、症状による抗認知症薬の使い分け、独居患者や認認介護の場合の服薬指導方法、レビー小体型認知症に対する治療薬、開発中の抗認知症薬についての質問です。Part1(Q1~Q5)はこちら6 抗認知症薬の投与をやめる時期について教えてください。これは多くの先生方が悩む難しい問題です。現在の抗認知症薬は根本治療薬ではありませんので、これらの薬を投与する目的は、症状の進行抑制によって患者さんの生活の質を少しでもよい状態に維持することです。したがって、生活の質がよくなる可能性が非常に低い状態なら中止を検討します。たとえば、非常に進行して、自発運動や発語がなく、食事やアイコンタクトもとれない状態です。実臨床場面において、薬の中止を提案するのは、ご家族からであることがほとんどだと思います。したがって、私たち医師は、そのときの患者さんの状態を見て、薬が有用かどうかを考えます。それと同時に、ご家族がどうしてそのように思ったのか、ご家族は薬の中止について実際はどう思っているのか、ご家族の中で意見が分かれてはいないか、経済的な問題があるのかなどについて確認します。これらの情報も勘案して中止するか否かを決めます。また実際に中止するときには、まず2~3週間中止し様子を見て、もしも悪くなれば再投与するという方法もあります。この方法はご家族にも安心感を持っていただきやすいです。薬の中止の話題が出るときは、進行期であることが多く、ご家族は薬の中止以外にも、どんな準備をしておけばよいのか、どんなことに気を付けなければいけないのか、などについて悩んでいることが多いです。したがって、このような進行期の患者さんに対するご家族の心情、悩みなどを受け止めてあげることも重要です。また逆に、医師の側から食事がとれなくなった場合に胃瘻をどうするのか、もしも命が危うくなったときにどこまで治療をするのか、たとえば人工呼吸器の使用を希望するのか、などについてご家族で相談し始めておいてはどうかと提案することも大切だと思います。このような場面は、私たち専門医よりもかかりつけ医の先生の方が遭遇しやすいので、かかりつけ医の先生からお話しいただけたらと思います。7 症状による抗認知症薬の使い分けを教えてください。現在のところ、コリンエステラーゼ阻害薬3種類の認知機能低下の進行抑制効果については差がないとされています。したがって、これらの薬の使い分けは、服用回数、合併症、剤形、価格、行動・心理症状(Behavioral and Psychological symptoms of dementia: BPSD)などで決めることが多いと思います。さて、アルツハイマー病治療薬にはアルツハイマー病のBPSDに対する効果も報告されています。それぞれの薬剤のメタアナリシスによると、ドネペジルは抑うつ、不安、アパシーを軽減し、リバスチグミンは、幻覚と興奮を軽減します。ガランタミンは不安を軽減し、脱抑制の悪化を抑制します。メマンチンは妄想、興奮を軽減し、易刺激性の悪化を抑制します。Part1のQ3で説明したように、どの薬剤でも著効したときに目立つ症状は意欲や活動性、注意・集中力の改善です。すなわち精神機能が賦活される方向です。この賦活が焦燥や興奮という症状として現れる可能性もあります。したがって、焦燥や興奮が出現した患者さんは薬剤が大きく作用したと考えることもできますので、中止や減量をした後に、投薬量を調整したり環境を調整したりして治療薬の再投与ができないかと模索することも必要だと思います。8 独居患者や認認介護の場合の服薬指導方法について教えてください。近年、独居の認知症患者さんや認認介護の患者さんが増えてきました。認知症患者さんの多くは、軽症でも物忘れのために毎日正しく薬を服用することが困難になります。そのため、患者さん本人に対する服薬指導は非常に制限されます。たとえば、十分な病識のない患者さんに対しては、「ご本人さんは感じておられないかもしれませんが、少し物忘れがあるようです。そのために薬を飲みましょう」「物忘れがひどくならないように薬を飲みましょう」「ご家族も心配されていますので、薬に関してはご家族の手助けを借りましょう」などと診察のたびに繰り返しお願いする程度でしょうか。それよりは、服薬を支援してくれる人を設定することが重要です。たとえば、同居していなくても近くにご家族が住んでいれば、ご家族に支援してもらえないか検討します。また、介護保険サービスを利用してヘルパーさんに自宅に来てもらったり、デイケア中に職員から手渡しでもらったりできないか検討します。一方、医師としては、可能な限り、薬の量、種類、服薬回数、服薬方法、服薬のタイミング(食後服用、食間服用など)を減らしたり単純化したりするよう心がけます。このとき、ご家族やケア職員の都合に合わせて服薬のタイミングを工夫できないかも検討します。そして、たとえば、月・水・金曜日はデイケアに行き、昼食後に職員から薬を手渡してもらう、火・木曜日は昼食時にヘルパーさんに来ていただき、服薬を支援してもらう、土・日曜日はご家族が手渡す、というような予定を立てていただきます(ケアマネジャーが立ててくれることもあります)。内服時に毎回、誰かが付き添わなくても、朝に誰かが薬をセッティングすれば翌日までは間違えずに服用できるレベルの患者さんの場合は、たとえば、朝・昼・夜・寝る前それぞれの薬を入れる4つの箱からなるピルケースを用いて対応します。またカレンダーに1週間分、あるいは1ヵ月分の薬を貼っておけば、間違いなく服用できる患者さんの場合は、適当な間隔で誰かがチェックすることで対応できるかもしれません。抗認知症薬の中では、リバスチグミン貼付薬は、独居や認認介護の患者さんに使いやすいかもしれません。あらかじめ支援者が薬に日付を書いたり、正しく貼付するための指示をしたりすることは必要ですが、貼られている間は薬を服用しているということになり、確認がしやすいからです。9 レビー小体型認知症に対する治療薬の選択について教えてください。レビー小体型認知症(DLB)はアルツハイマー病、血管性認知症に次いで頻度の多い疾患であること、さまざまなBPSDを高頻度に呈すること、介護負担が大きいことなどから重要な疾患ですが、現時点では、保険適用のある治療薬はありません。しかし、ドネペジル、リバスチグミン、メマンチンには、DLB患者さんの認知機能、とくに注意機能に対する改善効果が示されています。これらの薬はDLB患者さんのBPSDに対しても有効で、コリンエステラーゼ阻害薬には、幻覚、妄想、アパシー、抑うつ、認知機能の変動に対する効果が報告されています。メマンチンには、幻覚、妄想、睡眠障害、食行動異常に対する効果が報告されています。わが国では、DLB患者さんに対しては、まずコリンエステラーゼ阻害薬を使用し、次にメマンチンの使用を検討することが多いと思います。しかし、これらの抗認知症薬では改善しなかったり、一時的に改善しても、疾患の進行に伴い再度悪化したりすることがあります。このような場合は抗精神病薬や漢方薬などを使用します。たとえば、非定型抗精神病薬であるクエチアピンには興奮、幻覚、妄想に対する効果が、オランザピンには幻覚、妄想に対する効果が、リスペリドンには興奮、妄想、猜疑心、幻覚に対する効果が示されています。抑肝散にも幻覚を軽減する効果が報告されています。また、レム睡眠行動障害にはクロナゼパムの眠前投与がしばしば有効です。DLBのパーキンソニズムに対してはレボドパが推奨されています。ただし、レボドパの反応はパーキンソン病と比較すると劣ります。また、レボドパで精神症状が出現したり悪化したりする可能性があります。以上の薬の投与は、少量から開始し、有害事象が生じていないかどうかをご家族に十分観察していただきながらゆっくり増量し、必要最低限の量を心がけます。抗コリン薬は認知機能を悪化させる可能性があるため、使用を避けるのが一般的です。10 認知症予防の薬剤を含めて、現在、開発中の抗認知症薬について教えてください。2013年1月のNATURE REVIEWS DRUG DISCOVERY誌によると、現在、102のアルツハイマー病治療薬の臨床研究が行われています。内訳は、第1相試験が43、第2相試験が52、第3相試験が7です。これらの新しい薬剤は作用機序によっていくつかに分類されますが、その一つは、現在使用可能な薬剤と同様の神経伝達物質に作用する治療薬です。これにはニコチン性アセチルコリン受容体拮抗薬、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬、5-HT4受容体作動薬、5-HT6受容体拮抗薬、ムスカリン受容体作動薬、ヒスタミン受容体拮抗薬が含まれます。タウ蛋白凝集阻害薬も第3相試験が開始されています。アミロイドβ(Aβ)をターゲットとした薬剤については31の試験が行われています。その中の9個はアミロイド前駆体蛋白(amyloid precursor protein:APP)をターゲットにしたαセクレターゼ促進薬、βセクレターゼ阻害薬、γセクレターゼ阻害薬または調整薬です。また能動免疫や受動免疫を利用してAβの重合、凝集を阻害したり、排泄を促進したりする免疫療法の試験も行われています。Aβ能動免疫療法としてはAβワクチンが、受動免疫療法としては、ヒトAβ抗体治療があります。しかし、現在までのところ、Aβをターゲットとした治療薬の中で認知機能や生活機能に対する効果が認められた薬はありません。この結果を受けて、アルツハイマー病の臨床症状が明らかになる前の早期の段階に髄液バイオマーカーやアミロイドPETを用いて診断し、これらの薬を投与する必要があるのではないかと考えられ始めています。アルツハイマー病以外の認知症に対する薬については、レビー小体型認知症に対するドネペジルの第3相試験が最近、わが国で行われました。結果についてはまだ報告されていませんが、ドネペジルがレビー小体型認知症に対して保険適用となる可能性があります。また、中年期の高血圧、糖尿病、脂質異常症は、血管性認知症、アルツハイマー病の危険因子です。したがって、これらの疾患を有する患者さんにとっては、これらの治療薬も認知症予防薬と呼べるでしょう。※2012年10月の認知症特集におけるQ&Aも併せてご覧ください。認知症のエキスパートドクターが先生方からの質問に回答!(Part1)認知症のエキスパートドクターが先生方からの質問に回答!(Part2)

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H7N9型鳥インフル、初のヒト間感染の可能性/BMJ

 新型鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスの初めてのヒト間感染と考えられる事例を、中国・江蘇省疾病管理予防センターのXian Qi氏らが確認し、BMJ誌オンライン版(2013年8月6日)で報告した。H7N9型ウイルス感染のほとんどは散発的に発生している。動物実験では、H7N9型ウイルスは飛沫を介して伝染する可能性が示唆されているが、これまでヒト間感染を示す明確なエビデンスはなかった。2番目の感染者に家禽との接触なし 2013年3月、江蘇省無錫市でH7N9型感染の家族内小集積(父親とその娘)が確認された。研究グループは、H7N9型ウイルスのヒト間感染の可能性とその影響を評価するために疫学調査を開始した。 2人の患者および家禽を含む生活環境から試料を採取し、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法、ウイルス培養、赤血球凝集抑制試験を実施した。ほかの家族や医療従事者など、発症前の患者と接触のあった者の調査も行った。 最初の感染例である60歳の男性は、家禽との接触から5~6日目に体調を崩した。2例目となったのは32歳の彼の娘で、病院で感染予防をせずに父親の看病をしており、家禽との接触は確認されなかった。彼女は父親との最後の接触から6日後に症状を発現した。パンデミックな流行の可能性も考慮すべき 父親には10年以上にわたる高血圧の既往歴があった。2013年3月8日、発熱、咳嗽、息切れを発症し、同11日、左肺上葉の炎症で入院した。進行性の呼吸窮迫、持続性の高体温症、低酸素血症がみられたため、同15日、ウイルス性肺炎および急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の診断でICUへ入室した。同18日、症状増悪のため別の3次病院のICUへ移送され、オセルタミビル(商品名:タミフル)治療が開始された。この間、下痢は認めなかった。5月4日、播種性血管内凝固症候群(DIC)および多臓器不全のため死亡。 娘は父親が3次病院ICUへ移送されるまで看病をしていた。3月21日、39.6℃の発熱と咳嗽を発症、同24日、左肺上葉の肺炎の診断で父親が転送された病院の呼吸器科に入院、白血球減少、リンパ球減少、軽度の低酸素症がみられた。同28日、持続性高体温症、呼吸不全、ARDSのためICU入室となり、人工呼吸、広域抗菌薬治療、オセルタミビル、免疫学的治療、蘇生輸液が行われたが、4月24日、多臓器不全および心停止にて死亡した。 2人の患者から分離されたウイルス株のゲノム解析では、8つの遺伝子はすべて遺伝学的にほぼ同一であった(類似性:99.6~99.9%)。また、系統樹解析では、2人の患者の分離株の8つの遺伝子はすべて同じ単系統群に属していた。 2人の患者と接触した43人のうち1人が軽度の症状を呈したが、rRT-PCRでH7N9型ウイルスは陰性であった。H7N9型ウイルスに特異的な血球凝集抑制抗体の検査では、43人のすべてが陰性だった。 著者は、「最初に感染した父親から娘へのヒト間感染の可能性が強く示唆され、伝染性は限定的で、非持続的であった」とし、「本研究は、H7N9型ウイルスのヒト間感染の可能性を示した初めての報告であり、パンデミックな流行の可能性も示唆される」と指摘している。

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鳥インフルエンザA(H7N9)感染、それほど重大ではなかった?/Lancet

 2013年3月に第1例が特定されヒトへの感染が明らかとなった、鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス感染症について、中国疾病管理予防センター(CDC)のHongjie Yu氏らが5月28日時点で行った臨床的重症度の評価結果を発表した。入院となった感染患者は123例で、そのうち37例(30%)が死亡、17例はなお入院中であり、回復したのは69例(56%)であったことなどを報告している。Lancet誌オンライン版2013年6月21日号掲載の報告より。2013年5月28日時点の入院患者は123例 鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス感染症の臨床的重症度の評価は、2013年5月28日時点で報告された、検査によって確定した症例の情報を、中国CDC統合データベースから入手して行われた。 医学上の理由で入院が必要となった患者について、死亡、人工呼吸器装着、ICU入室のリスクを調べた。また、インフルエンザ様疾患サーベイランスによって検出した感染確定症例の情報を用いて、症候性感染死亡リスクを推定した。 その結果2013年5月28日時点において、鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス感染症による入院患者は123例だった(60歳以上58%、男性71%)。症候性感染死亡リスクは10万症例当たり160~2,800例 123例のうち37例(30%)が死亡、69例(56%)が回復していた。回復までの期間中央値は18日(95%信頼区間[CI]:14~29)だった。また17例がいまだ入院中だった。それらを加味した全年齢入院患者の死亡リスクは36%(95%CI:26~45)と推定された。年齢別では、60歳未満患者では18%(同:6~29)、60歳以上患者は49%(同:36~63)だった。 人工呼吸器装着あるいは死亡のリスクは69%(95%CI:60~77)、ICU入室・人工呼吸器装着・死亡のリスクは83%(同:76~90)と高率であった。それぞれの60歳未満と60歳以上のリスクは、前者が53%、80%、後者が75%、89%だった。 症候性感染の死亡リスクは、10万症例当たり160例(95%CI:63~460)~2,800例(同:1,000~9,400)と推定された。 上記の結果を踏まえて著者は「鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスのヒトへの感染は、以前に報告したほど重大ではないようである。すでに軽症例が発生している可能性がある」と結論。そのうえで「ヒトへの感染リスクを最小とするために、引き続き警戒と継続的な介入コントールは必要である」とまとめている。

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デュシェンヌ型筋ジストロフィー〔DMD: duchenne muscular dystrophy〕

1 疾患概要■ 概念・定義筋ジストロフィーは、骨格筋の変性・壊死を主病変とし、臨床的には進行性の筋力低下をみる遺伝性の筋疾患の総称である。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)はその中でも最も頻度が高く、しかも重症な病型である。■ 疫学欧米ならびにわが国におけるDMDの発症頻度は、新生男児3,500人当たり1人とされている。有病率は人口10万人当たり3人程度である。このうち約2/3は母親がX染色体の異常を有する保因者であることが原因で発症し、残りの1/3は突然変異によるものとされている。まれに染色体転座などによる女児または女性のDMD患者が存在する。ジストロフィン遺伝子のインフレーム欠失により発症するベッカー型筋ジストロフィー(BMD:becker muscular dystrophy)はDMDと比べ、比較的軽症であり、BMDの有病率はDMDの1/10である。■ 病因DMDはX連鎖性の遺伝形式をとり、Xp21にあるジストロフィン遺伝子の異常により発症する。ジストロフィン遺伝子の産物であるジストロフィンは、筋形質膜直下に存在し、N端ではF-アクチンと結合し、C端側では筋形質膜においてジストロフィン・糖タンパク質と結合し、ジストロフィン・糖タンパク質複合体を形成している(図1)。ジストロフィン・糖タンパク質複合体に含まれるα-ジストログリカンは、基底膜のラミニンと結合する。したがって、ジストロフィンは、細胞内で細胞骨格タンパク質と、一方ではジストロフィン・糖タンパク質複合体を介して筋線維を取り巻く基底膜と結合することにより、筋細胞(筋線維)を安定させ、筋収縮による形質膜のダメージを防いでいると考えられている。DMDではジストロフィンが完全に欠損するが、そのためにジストロフィン結合糖タンパク質もまた形質膜から欠損する。その結果、筋線維の形質膜が脆弱になり、筋収縮に際して膜が破綻して壊死に陥り、筋再生を繰り返しながらも、徐々に筋線維組織が脂肪組織へと置き換わっていく特徴を持っている。画像を拡大する■ 症状乳児期に軽度の発育・発達の遅れにより、処女歩行が1歳6ヵ月を過ぎる例も30~50%いる。しかしながら、通常、異常はない。2~5歳の間に転びやすい、走るのが遅い、階段が上れないなど、歩行に関する異常で発症が明らかになる。初期より腰帯部が強く侵されるため、蹲踞(そんきょ)の姿勢から立ち上がるとき、臀部を高く上げ、次に体を起こす。進行すると、膝に手を当て自分の体をよじ登るようにして立つので、登はん性起立(Gowers徴候)といわれる。筋力低下が進行してくると脊柱前弯が強くなり、体を左右に揺するようにして歩く(動揺性歩行:waddling gait)。筋組織が減少し、結合組織で置換するため、筋の伸展性が無くなり、関節の可動域が減り、関節の拘縮をみる。関節拘縮はまず、足関節に出現し、尖足歩行となる。10~12歳前後で歩行不能となるが、それ以降急速に膝、股関節が拘縮し、脊柱の変形(脊柱後側弯症:kyphoscoliosis)、上肢の関節拘縮もみるようになる。顔面筋は初期には侵されないが、末期には侵され、咬合不全をみる。10代半ばから左心不全症状が顕性化することがあり、急性胃拡張、イレウス、便通異常、排尿困難などを呈することもある。外見的な筋萎縮は初期にはあまり目立たないが、次第に躯幹近位筋が細くなる。本症では、しばしば下腿のふくらはぎなどが正常よりも大きくなる。これは一部筋線維が肥大することにもよるが、主に脂肪や結合組織が増えることによるもので、偽(仮)性肥大(pseudohypertrophy)と呼ばれる。知能の軽度ないし中等度低下をみることがまれでなく、平均IQは80前後といわれている。しかし、病理学的に中枢神経系に異常はない。最終的に呼吸障害や心障害を合併するが、近年の人工呼吸器の進歩により40歳位まで寿命を保つことが可能となっている。■ 分類X連鎖性の遺伝形式をとる筋ジストロフィーとしては、DMDやジストロフィン遺伝子のインフレーム欠失によって発症するBMDのほかにX染色体長腕のエメリン遺伝子異常によって発症するエメリ・ドレフュス型筋ジストロフィー(EDMD:emery-dreifuss muscular dystrophy)がある。■ 予後発症年齢は2~5歳、症状は常に進行し10~12歳前後で歩行不能となる。自然経過では20代前半までに死亡する。わが国では呼吸不全、感染症などに対する対策が進み、40歳以上の生存例も増えている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断本症が強く疑われる場合は、遺伝子検査を遺伝カウンセリングの下に行う。MLPA(Multiplex ligation-dependent probe amplification)法では、比較的大きな欠失/重複(DMD/BMD患者の約70%)が検出できる。微細な欠失/重複・挿入・一塩基置換による変異(ミスセンス・ナンセンス変異)の検出には、ダイレクトシークエンス法が必要となる。遺伝子検査で異常がみつからない場合も、筋生検で免疫組織学的にジストロフィン染色の異常が証明されれば診断できる。■ 検査1)一般生化学的検査血清クレアチンキナーゼ(creatine kinase: CK)が中程度~高度上昇(そのほか、ミオグロビン、アルドラーゼ、AST、ALT、LDHなども上昇)する。発症前に高CK血症で気付かれるケースがある。そのほか、血清クレアチンの上昇、尿中クレアチンの上昇、尿中クレアチニンの減少をみる。2)筋電図筋原性変化(低振幅・単持続・多相性活動電位、干渉波の形成)を確認する。3)骨格筋CTおよびMRI検査4歳以降に大臀筋の脂肪変性、引き続き大腿、下腿の障害がみられる。大腿直筋、薄筋、縫工筋、半腱様筋は比較的保たれる。4)筋生検筋線維の変性・壊死、大小不同像、円形化、中心核線維の増加、再生筋線維、間質結合組織増加、脂肪浸潤の有無を確認する(図2(A))。ジストロフィン抗体染色で筋形質膜の染色性の消失(DMD)(図2(B))、低下がみられる。また、骨格筋のイムノブロット法で、DMDでは427kDaのジストロフィンのバンドの消失、BMDでは正常より分子量の小さい(もしくは大きい)バンドが確認される。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)DMDに対するステロイド治療以外は、対症的な補助治療にとどまっているが、医療の進歩と専門医の努力、社会的なサポート体制の整備などにより、DMDの寿命は平均で約10年延長した。このことはQOLや社会への参加など、患者の人生全体を見据えた取り組みが必要なことを強く示唆している。1)根本治療開発の状況遺伝子治療、幹細胞移植治療、薬物治療など精力的に基礎・臨床研究が進められている。モルフォリノや2'O-メチルなどのアンチセンス化合物を用いたエクソン・スキップ薬の開発に期待が集まっている。2011年初頭から、エクソン51スキップ薬開発のための国際共同治験に日本も参加し、これ以外のエクソンをターゲットにした治療も開発研究が進んでいる。また、リードスルー薬、遺伝子治療や幹細胞移植治療も北米・欧州を中心に、臨床研究がすでに始まっており、早期の臨床応用が望まれる。2)ステロイド治療DMDにおいてステロイド治療は筋力、運動能力、呼吸機能の面で有効性を認める。一般に5~15歳の患者に対して、プレドニゾロンの投与を行う。事前に水痘ワクチンを含む予防接種は済ませておくように指導する。ADL(日常生活動作)や運動機能、心機能、呼吸機能の評価と共に、ステロイドの副作用(体重増加、満月様顔貌、白内障、低身長、尋常性ざ瘡、多毛、消化器症状、精神症状、糖尿病、感染症、凝固異常など)についても十分評価を行う。ステロイドの投与量は必要に応じて増減する。なお、DMDに対するプレドニゾロンの効能・効果については、2013年2月に公知申請に係る事前評価が終了し、薬事承認上は適応外であっても保険適用となっている。3)呼吸療法DMDの呼吸障害の病態は、一義的には呼吸筋の筋力低下や側弯などの骨格変形による拘束性障害である。肺活量は9~14歳でプラトーに達し、以降低下する。深呼吸ができないため肺・胸郭の可動性(コンプライアンス)の低下によって肺の拡張障害と、さらに排痰困難のため気道閉塞による窒息のリスクが生じる。進行に応じ、呼吸のコンプライアンスを保つことが重要である。(1)舌咽頭呼吸による最大強制呼吸量の維持訓練に加え(2)気道クリアランスの確保(徒手的咳介助、機械的咳介助、呼吸筋トレーニングなど)を行うことは、換気効率の維持や有効な咳による喀痰排出につながる(3)車いす生活者もしくは12歳以降に車いす生活になった患者は定期的に(年に2回)呼吸機能評価を行う(4)必要に応じ、夜間・日中・終日の非侵襲的陽圧換気療法の導入を検討する4)心合併症対策1970年代には死因の70%近くが呼吸不全や呼吸器感染症であったが、人工呼吸療法と呼吸リハビリテーションの進歩により、現在では60%近くが心不全へと変化した。心不全のコントロールがDMD患者の生命予後を左右する。特徴的な心臓の病理所見は線維化であり、左室後側壁外側から心筋全体に広がる。進行すると心室壁は菲薄化、内腔は拡大し、拡張型心筋症様の状態となる。定期的な評価が重要で、身体所見、胸部X線、心電図、心エコー(胸郭の変形を念頭におく)、血漿BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)測定、心筋シンチグラフィー、心臓MRIなどを行う。薬物治療としては、心筋リモデリング予防効果を期待してACE阻害薬、β遮断薬の投与が広く行われている。5)栄養幼少期から学童初期は、運動機能低下と骨格筋減少によるエネルギー消費の低下、偏食による栄養障害の助長、ステロイド治療などによる肥満が問題となることが多い。体重のコントロールがとくに重要であり、体重グラフをつけることが推奨される。呼吸不全が顕著化する時期に急激な体重減少を認める場合、努力呼吸によるエネルギー消費量の増加、摂食量の減少など複数の要因の関与が考えられる。咬合・咀嚼力の低下に対しては、栄養効率の良い食品(チーズなど)や濃厚流動食を利用し、嚥下障害が疑われる場合は、嚥下造影などを行い状態を評価して対応を検討する。経鼻経管栄養は、鼻マスク併用時にエアーリークや皮膚トラブルの原因になることがある。必要に応じて経皮内視鏡的胃瘻造設術などによる胃瘻の造設を検討する。6)リハビリテーション早期からのリハビリテーションが重要である。筋力の不均衡や姿勢異常による四肢・脊柱・胸郭変形によるADLの障害、座位保持困難や呼吸障害の増悪、関節可動域制限を予防する。適切な時期にできる限り歩行・立位保持、座位の安定、呼吸機能の維持、臥位姿勢の安定を目指す。7)外科治療病気の進行とともに脊柱の側弯と四肢の関節拘縮を呈する頻度が高くなる。これにより姿勢保持が困難になるのみならず、心肺機能の低下を助長する要因となる。脊柱側弯に対して外科治療の適用が検討される。側弯の発症早期に進行予防的な外科手術が推奨され、Cobb角が30°を超えると適応と考えられる。脊柱後方固定術が一般的で、術後早期から座位姿勢をとるように努める。関節拘縮に対する手術も、拘縮早期に行うと効果的である。8)認知機能DMD患者の平均IQは80~90前後である。学習障害、広汎性発達障害、注意欠陥多動障害(ADHD)など、軽度の発達障害の合併が一般頻度より高い。健常者と比較して言語性短期記憶の低下がみられる傾向があり、社会生活能力、コミュニケーション能力に乏しい傾向も指摘されている。精神・心理療法的アプローチも重要である。4 今後の展望DMDの根本的治療法の開発を目指し、遺伝子治療、幹細胞移植治療、薬物治療などの基礎・臨床研究が進められているが、ここではとくに2013年現在、治験が行われているエクソン・スキップとストップコドン・リードスルーについて取り上げる。1)エクソン・スキップエクソン欠失によるフレームシフトで発症するDMDに対し、欠失領域に隣接するエクソンのスプライシングを阻害(スキップ)してフレームシフトを解消し、短縮形ジストロフィンを発現させる手法である。スキップ標的となるエクソンに相補的な20~30塩基の核酸医薬品が用いられ、グラクソ・スミスクライン社とProsensa社が共同開発中のDrisapersen(PRO051/GSK2402968)は2'O-メチル製剤のエクソン51スキップ治療薬として、現在日本も含め世界23ヵ国で第3相試験が進行中である。副作用として蛋白尿を認めるが、48週間投与の結果、6分間歩行距離の延長が報告されている。(http://prosensa.eu/technology-and-products/exon-skipping)また、Sarepta therapeutics社が開発中のEteplirsen(AVI-4658)はモルフォリノ製剤のエクソン51スキップ治療薬で、現在米国で第2a相試験が進行中である。これまで投与された被験者数はDrisapersenより少ないものの臨床的に有意な副作用は認めず、74週投与の時点で6分間歩行距離の延長が報告されている。(http://investorrelations.sareptatherapeutics.com/phoenix.zhtml?c=64231&p=irol-newsArticle&id=1803701)2)ストップコドン・リードスルーナンセンス点変異により発症するDMDに対し、リボゾームが中途停止コドンだけを読み飛ばす(リードスルー)ように誘導し、完全長ジストロフィンを発現させる手法である(http://www.ptcbio.com/ataluren)。アミノグリコシド系化合物にはこのような作用があることが知られており、PTC therapeutics社のAtaluren(PTC124)は、世界11ヵ国で行われた第2b相試験の結果、統計的に有意ではないもののプラセボよりも歩行機能の低下を抑制する作用を示した。現在欧州での条件付き承認を目的とした第3相試験が計画されている。なお、日本ではアルベカシン硫酸塩のリードスルー作用を検証する医師主導治験が計画されている。5 主たる診療科小児科、神経内科、リハビリテーション科、循環器科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本小児科学会(医療従事者向けの診療、研究情報)日本小児神経学会(医療従事者向けの診療、研究情報)日本神経学会(医療従事者向けの診療、研究情報)国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部(研究情報)患者会情報日本筋ジストロフィー協会(筋ジストロフィー患者と家族の会)

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重症インフルエンザへのオセルタミビル2倍量投与の効果を検討/BMJ

 重症インフルエンザに対し、オセルタミビルを通常の2倍量投与しても、治療効果は通常量投与の場合と同等であったことが示された。東南アジア感染症臨床研究ネットワーク(South East Asia Infectious Disease Clinical Research Network)が、インドネシアなど東南アジア4ヵ国13病院で重症インフルエンザ患者について行った、無作為化二重盲検試験の結果、報告した。BMJ誌5月30日号で発表した。4ヵ国13ヵ所の病院で326人の患者を無作為化 ガイドラインでは、重症インフルエンザに対し通常量よりも高用量を用いることが推奨されている。同ネットワークはその推奨の妥当性を調べることを目的に、インドネシア、シンガポール、タイ、ベトナムの13ヵ所の医療機関で無作為化二重盲検試験を行った。 重症インフルエンザの確定診断を受けた1歳以上の入院患者326例を無作為に2群に分け、一方にはオセルタミビルを通常の2倍量(165例)、もう一方には通常量(161例)を投与した。被験者のうち、15歳未満は246例(75.5%)だった。 主要アウトカムは、投与5日目の逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法によるウイルスの有無とした。投与5日目のインフルエンザ陰性率は両群とも約7割 被験者のうち、インフルエンザA型ウイルス感染者は260例(79.8%)、インフルエンザB型ウイルス感染者は53例(16.2%)だった。 5日目にRT-PCR陰性だった割合は、2倍量群が159例中115例(72.3%、95%信頼区間:64.9~78.7)、通常量群が154例中105例(68.2%、同:60.5~75.0)と、両群に有意差はなかった(群間格差:4.2%、同:-5.9~14.2、p=0.42)。 死亡率についても、2倍量群が165例中12例(7.3%)、通常量群が161例中9例(5.6%)と、有意差はなかった(p=0.54)。 酸素補充療法や集中治療室(ICU)での治療、人工呼吸器を利用した日数の中央値も、いずれも両群で有意差はなかった。 著者は「重症インフルエンザで入院した患者において、オセルタミビルの2倍量投与は通常投与と比べて、ウイルス学的にも臨床的にも利点は認められなかった」と結論している。

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重症ARDSへの早期の腹臥位治療、28日・90日死亡率を半分以下に減少/NEJM

 重症急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の患者に対し、腹臥位治療を連続16時間以上行うと、仰臥位に比べ、28日死亡リスクはおよそ6割、90日死亡リスクは5割強、それぞれ減少することが報告された。フランス・リヨン大学のClaude Guerin氏らが、重度ARDS患者500例弱について行った、多施設共同無作為化比較試験PROSEVAの結果で、NEJM誌オンライン版2013年5月20日号で発表した。急性ARDS患者を含む先行研究においては、人工呼吸器装着中の腹臥位治療について転帰の改善は示されなかったという。フランス・スペインのICU 27ヵ所、466例を対象に試験 PROSEVA(Proning Severe ARDS Patients)試験は、フランス26ヵ所、スペイン1ヵ所の集中治療室(ICU)を通じ、重症ARDSの患者466例を対象に行われた。研究グループは被験者を無作為に2群に分け、一方の群(237例)には腹臥位治療を連続16時間行い、もう一方の群(229例)は仰臥位のままで治療を行った。 重症ARDSの定義は、動脈血酸素分圧(PaO2)の吸入酸素濃度(FiO2)に対する割合が150mmHg未満で、FiO2が0.6以上、呼気終末陽圧(PEEP)が5cmH2O以上、1回換気量が予測体重の6mL/kgに近い場合とした。 主要アウトカムは、試験開始から28日後までの全死因死亡率だった。腹臥位治療で28日死亡リスクは0.39倍、90日死亡リスクは0.44倍に その結果、仰臥位群の死亡率は32.8%だったのに対し、腹臥位群は16.0%と、有意に低率だった(ハザード比:0.39、95%信頼区間:0.25~0.63、p<0.001)。 補正前90日死亡率も、仰臥位群41.0%だったのに対し、腹臥位群では23.6%と、有意に低率だった(ハザード比:0.44、同:0.29~0.67、p<0.001)。 合併症発症率については、心停止が仰臥位群で有意に高率だったことを除き、両群で同程度だった。

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海を飛ぶ夢【自殺、安楽死】

実話だからこそ伝わる真実―もしもあなたの大切な人が生きることを諦めたら?安楽死は日本でも古くからある社会的なテーマで、森鴎外の「高瀬舟」などが有名です。また、「苦しそうだから死なせてやろう」という本人の死ぬ意思の確認のない慈悲殺とイメージが重なってしまうこともあり、よりいっそう私たちは安楽死という言葉の響きに後ろめたさを感じてしまうのも事実です。この映画は、安楽死を願う四肢麻痺の主人公の生き様とその家族や恋人たちなどの周りのかかわりをストレートに描いた実話に基づくドラマです。主人公の死を望む気持ちが、穏やかで揺るぎないものであればあるほどほど、家族は受け入れ難い葛藤で揺れます。そして、私たちが主人公と同じ目線に立てば立つほど、私たちの心も揺れていきます。日本の自殺率は先進国で長年トップクラスというありがたくない記録を更新しており、自殺に手を貸す(自殺幇助)という安楽死について、私たちが独りよがりになって感情的にタブー視せず、いっしょになって理性的に向き合うのは意味のあることではないでしょうか?自殺念慮―なぜ生き生きと死を追い求めるのか?主人公のラモンは、青春時代、船乗りとして世界中を旅して、多くの女性たちと情熱的な出会いをしてきました。そんな彼にとっては、生きること=人生を楽しむ自由があることでした。しかし、25歳のある時、彼に悲劇が襲いました。人生の最高潮にいる彼は、婚約者の目の前でかっこいいところを見せるために、海辺の高い岩場から海面に飛び込みました。そして、引き潮に気付かず、浅瀬に激突し、首の骨を折ってしまったのでした。その後は、首から下の全身の自由を完全に奪われて、寝たきりになってしまいます。彼は、婚約者に一方的に別れを告げ、その後は実家で家族に支えられ、静かに暮らすことになります。海まで自由に飛び回れるという想像力だけを残して。身の回りの介護は、母親の死後、義姉である兄嫁が献身的に続けます。排泄の処理だけでなく、床ずれを防ぐため3時間ごとに姿勢を変えることまでやっています。体の自由を奪われて26年経った51歳の時、彼は意を決します。死を持って自分の運命に折り合いをつけようとしたのです。彼の死を望む理由は、「尊厳がないから」でした。彼にとっての尊厳、つまり自分らしさとは自立していること、自分で自分をコントロールできることだったのです。そして、自分らしく生き抜くため、死ぬことに一生懸命になっていくのでした。スピリチュアルペイン(実存的苦痛)―存在していることへの心の痛み彼は自らをこう形容します。「死んだ体にくっついた生きた頭」と。また、「なぜいつも笑顔なの?」と尋ねられた彼が、「人の助けに頼るしか生きる方法がないと自然に覚えるんだ」「涙を隠す方法をね」と答えるシーンは印象的です。彼の精神的な苦痛や苦悩を一言で物語っています。実話で明かされていることとして、母親がラモンの近くで倒れた時、動けないラモンは母親が死んでいくのをただ見守っていることしかできなかったことがありました。万能であった彼にとって無能で無力な状態に置かれることは惨め過ぎて耐えられなかったです。彼にとってのその後の人生は、動かない肉体に心を囚われ、飼い馴らされて生き続けるという生き地獄だったのでした。そして、死とは、囚われの身から解放されることなのでした。「唯一、死が自由をもたらしてくれる」と確信しているのです。このように、人生や存在していることに対する無価値感、家族などの他者への依存や罪悪感などから生まれる心の痛みは、スピリチュアルペイン(実存的苦痛)と呼ばれます。体の痛みとは違い、癒すのには一筋縄ではいかないようです。自殺の共感―なぜフリアは一緒に自殺することを一度決意したのか?ラモンと同居している家族は、義姉、兄、甥、そして父です。家長でもある兄は語気を強めて言い放ちます。「(自殺に)おれは絶対に手を貸さん。誰にもさせん」と。もともと兄も船乗りでしたが、ラモンの介護のために、農業に転業したというわだかまりや意地もありそうです。また、父は言います。「神様がお望みになる限り生を全うせねば」と。彼の自殺の手助けをする人は家族にはいません。かと言って、餓死や舌噛みによる自殺は望んでいません。彼はあくまで苦しまずに死にたい、安らかに死にたい、それが尊厳ある死だと考えているからです。そんな中、彼を支える人権団体の弁護士の1人であるフリアは、彼の考えを理解していきます。なぜなら、彼女自身、体も心もだんだん衰えていく難病(多発性硬化症)を患っていたのです。足腰が弱り、記憶があやふやになるという発作を繰り返し、自分が自分でなくなる恐怖を肌で感じていたのでした。彼女には夫がいますが、ラモンに共感し好意を寄せていくのでした。そして、彼の本ができたら、いっしょに自殺する約束をしたのです。ラモンが死を追い求めるのに対して、フリアは死に迫って来られるという境遇の違いがあります。彼女は頭がしっかりしている間に自分からその恐怖を終わりにさせたいと考えていました。しかし、最後には自殺を思い留まります。そのわけは、「それが人生」「任せよう」と言う夫の必死の説得により、夫の支えで生き続けることを心変わりしたからでした。自殺の受容―なぜロサは自殺の手助けをしたのか?ラモンは、テレビで自分のありのままの姿をさらけ出したことで、世の中に波紋を呼びます。個人の権利として安楽死を社会に訴えたのです。たまたまテレビで彼を知ったロサはたまらず彼を訪ねます。都会的で知的でクールなフリアと対照的に、ロサは子連れで離婚歴があり、田舎臭くておしゃべりで世話焼きな女性です。当初、ラモンに対するロサの思いは、愛情というより母性に溢れています。ラモンはロサの世話好きな母性本能をくすぐってしまい、ロサはとにかくラモンのお世話をしたい気持ちでいっぱいになります。「どんなに辛いことがあっても逃げちゃだめよ」と励ましてしまい、ラモンをイラつかせもします。 そんなロサでしたが、ラモンとのかかわりの中で少しずつ変わっていきます。辛い時に押しかけても話を聞いてくれてユーモア溢れるラモンに「あなたから多くのものをもらっていると深い感謝と情愛を寄せます。その後、「僕を本当に愛してくれる人は死なせてくれる人だ」とのラモンの言葉が彼女に心に響き、ついに彼を愛している証として、自殺の手助けを受け入れたのでした。それは、ラモンが死んでいなくなっても、自由になった彼の魂に抱きしめられて、彼の魂を愛し続けることができると悟ったからでした。支持的精神療法―反面教師的な神父の説教テレビに出演した四肢麻痺の神父はラモンについてコメントします。「彼の周りからの愛情が足りないからだ」と。これは、当時の教会の実際の声明のようで、家族はかなりのショックを受けています。その後、その神父はわざわざラモンの家まで訪ねてきて、説教を始めます。その様子はコミカルでもあり、シリアスでもあります。この映画での神父の描かれ方は、正論ぶって尊大で押しつけがましく、まさにメンタルヘルスのかかわり方において反面教師です。この神父を見て、単に「がんばれ」とか「信じれば救われる」などの一方的な激励、説教、議論、犯人探しが逆効果であることに気付かされます。有効なかかわりとしては、まずは患者の話に耳を傾けること(傾聴)です。患者の考え方に関心を寄せ、よく分かってあげることです。周りに理解され、その患者がそのまま周りに受け入れられていると実感できることで、心を開き、病気を受け入れていくことにつながります。このかかわりは、特に末期がんのメンタルヘルスなどで見受けられます。障害の受容―なぜラモンはありのままの自分を受け入れられないのか?ラモンは車椅子を嫌う理由を問われると、「失った自由の残骸にすがりつくことだ」と言い切り、車椅子生活などの他の選択肢を拒み続けました。そこには、自立的に生きることこそが全てであるという彼の強い信念が私たちに伝わってきます。と同時に、それは彼の頑固な一面でもあり、彼の新しい人生にチャレンジ(価値の範囲の拡大)するチャンスや、彼の劣等感を封じ込める方法(障害の与える影響の制限)を阻んでいます。例えば、彼は、聞き上手でユーモアがありました。彼にはカウンセラーとしての才能があり、人の役に立つことができました。そこから、その役割に打ち込むことが彼の喜びになりうるのです。これは、新しい自分らしさの発見(価値の転換)によって立ち直ること(障害の受容)です。また、兄とのやり取りの場面でラモンはこうも言います。「もしも明日兄さんが死んだら、僕は家族を養えるか?と。身体的な自立の他に、経済的な自立の問題、つまり生活の苦しさも陰にあります。生活に余裕がないため、心にも余裕がなくなっている可能性も考えられます。実存的精神療法―生きていることそのものに意味がある家族との最後の別れのシーンで、甥は、無言でラモンを抱き込みます。ここで、ラモンと甥の特別な関係が伺えます。もともとラモンが甥を言い諭す場面がたびたびある一方で、甥はラモンといっしょにテレビでサッカーの試合を見たがるなどかなり慕っていたのです。まさに父子の関係のような雰囲気を醸し出します。しかし、甥の実際の父はラモンの兄であり、そこにラモンと甥の間には完全には父子の関係になれない一線があることにも気付かされます。 もし仮にラモンに子どもがいたとしたら、どうでしょうか?彼にはすでに妻がいて、息子や娘がいたとしたら、彼はそれでも死を望み続けたでしょうか?興味深いことに、彼が執筆した本の一節に、生まれてこなかった息子への思いを綴った詩があります。それを甥に読ませ、どういう意味か問うシーンがあります。甥を我が子と重ね合わせているのです。ここから読み取れるのは、誰かに独り占めで愛されると同時に、その誰かを独り占めで愛することができたら、そんな誰かがいたとしたら、その愛自体が大きな希望になり、生きる原動力になり、彼の無力感から来る心の苦痛は乗り越えられていたのかもしれません。そもそも我が子の存在する喜びは本能的なものです。つまり、親子という特別な絆が存在していたとしたら、そこには、自分が生きなければならない責任感や義務感と同時に、生きて見守りたいという喜びが湧き起こってくるように思われます。どんなに辛くても生きていることそのものに意味がある、喜びがあると思えたのではないでしょうか? このような考え方は実存的精神療法と呼ばれます。また、実話によると、彼が死にたいという思いを口にするようになったのは、母親が亡くなってからでした。自分を生んでくれた母親を苦しめたくなかったのです。また、父親には死にたい気持ちを直接には一度も語っていません。つまりは、もし仮に母親が生き続けていたとしたら、彼は母の愛で死ぬことを踏み止まっていたようにも思えます。親子愛は、兄弟愛にも増した特別な絆があるようで、自殺を踏み止まらせる強い力があるようです。安楽死を合法化する文化―自由主義のオランダラモンは、わざわざ嫌いな車椅子に乗り、安楽死の権利を得るために裁判所に出向きます。ところが、法廷では「手続きの不備」を理由に取り合ってもらえません。また、挙句の果てに訴えを却下されてしまいます。ラモンのいるスペインの社会で、安楽死の是非は一筋縄ではいかず、判断すること自体がためらわれ、避けられてしまいます。日本を始め多くの国で、尊厳死は認められています。これは、リビングウィル(生前意思)により延命治療を開始しないことです。延命治療とは、例えば、呼吸が止まった時に人工呼吸器を装着することや食事を摂るのが難しくなった時にお腹に穴を空けること(胃瘻)によって直接栄養を胃に送ることです。一方、安楽死とは、ラモンが青酸カリを用意してもらったように、直接死なせる介入を行うことです。このように、尊厳死と安楽死には、一線があるのです。現在、安楽死が合法な国は、オランダを初めとしていくつかあります。オランダはもともと大麻、売春、賭博、同性結婚から安楽死までいち早く合法化しているお国柄です。ここまで自由で寛容な国になった理由は、オランダの風土や歴史に見出すことができます。オランダはもともと国土を干拓で増やした歴史があり、自然環境をコントロールする欲求がとても強い文化を育んでいます。また、中世に絶対君主がいなかったことで商業都市として自由貿易が栄えました。オランダの文化圏の人々は、世界一、合理的で自由主義的であり、自立性を重んじます。それは、自分の死についても同じで、死もコントロールすべきだという価値観が強いようです。安楽死の適応―誰が安楽死できるかの線引き安楽死を認めた場合、誰が安楽死していいかという線引きの問題が新たに出てきます。もともとは末期がんの身体的苦痛に対して適応となっていましたが、緩和ケアが進んだ現在はほとんどの身体的な痛みは取り除くことができるになりました。安楽死の適応は、精神的苦痛に広がり、オランダではリビングウィル(生前意思)による認知症患者への安楽死がすでに行われています。また、本人と両親の同意で未成年の安楽死も認められています。さらに、本人意思の確認のできない重度の障害を持った新生児に対する安楽死も条件付きで認められるようになりました。その根拠となったのは「人間的尊厳のない人生を続けさせるべきではない」という理由でした。これらのことから、安楽死が広がれば、自殺や慈悲殺を推し進めてしまう懸念があります。そもそも、命の価値を自分で決められることを社会が良しとしたら、「人の命は平等でかけがえのないもの」という価値観や倫理観による社会を形作る前提を覆してしまうおそれがあります。命に格差を付け、命のランキングを作ってしまうことになり、「生きていなくていい命」という発想が出てきてしまいます。人の命は平等だからこそ、私たちは社会から公平な扱いを受けることができるという社会システムの根幹を揺るがしてしまいかねない危うさをはらんでいます。安楽死の危うさ―集団主義の日本ラモンと兄の口論が印象的です。兄に安楽死を強く反対されたラモンは「僕を奴隷にするのか?」と訴えますが、兄は「おれこそお前の奴隷だ」「家族みんなお前の奴隷だ」と心中のわだかまりをぶちまけてしまいます。兄はラモンを養うために一生懸命になり過ぎていました。もともとラモンのいるスペインのガリシア地方は気候条件の厳しい地域で、そのためにガリシア人は無骨だが結束力が強いと言われています。ラモンの義姉は、介護に一生懸命で前向きです。介護を自分の役割だと言い、ロサとお世話を取り合うシーンもあります。ここから分かることは、義姉にとってラモンを支えることは喜びでもあるようです。そのことを、ラモンはもっと心を開いて感じ取ることができれば良かったのです。支えることも支えられることも喜びになりうるということです。これを確かめるには、家族の風通しの良いコミュニケーションが必要です。ガリシア人は、家族に気兼ねして息苦しい家庭生活を送る日本人と何か通じる点があるかもしれません。ラモンは「死は感染しやしない」と言っていますが、この日本においては、本当に「感染」しないでしょうか?もともと日本は、武士が切腹することから「死んでお詫びをする」という表現があり、トラブルを解決するための自殺を美学とするメンタリティが根付いていました。切腹の介錯は、安楽死とも受け止められます。特攻隊や集団自決を良しとした歴史もありました。心中や後追い自殺も独特です。現在でも私たちは流行りに気を配り過ぎます。つまり、私たちはいつも世間に気を遣い、とても流されやすく、世間と同じことをしていないと落ち着かない集団主義の文化(同調圧力)を持っています。ラモンは「生きる権利」を「生きる義務」ととらえて、そこから「死ぬ権利」を要求しています。日本人の集団主義の文化の中で「死ぬ権利」が広がっていけば、「同じ状況でなんでおまえは死なないんだ」という理屈で「死ぬ義務」が生まれるおそれが高いのです。同じ状況でも生きていたい人に無言のプレッシャーがかかりやすくなります。実際に「未亡人」という言葉は、「(夫ともに死ぬべきなのに)まだ死なない人」という意味合いがあります。他者配慮の強い日本人ならではの発想で、「周りに気を遣って死ぬ義務」が広がるおそれがあります。シネマセラピーラモンが安楽死を望んだ理由は、自立性の喪失だけではなかったのです。その背景には、頑固さから障害の受容ができず自分の役割を見出せなかったこと、生活の余裕のなさ、家族への気兼ね、特別な絆を持てる誰かがいなかったことなどがあります。これらのことから、自殺や安楽死に至らないようにするために私たちのメンタルヘルスの課題が見えてきます。それは、失った体の自立性を補える医療テクノロジーの進歩や社会が豊かになっていくことに期待しつつ、柔軟な考え方を持つこと、自分の役割を見出すこと、家族と風通しの良いコミュニケーションを通して支えられることを喜びに感じること、そして日々の絆を育んでいくことです。私たちは、ラモンに真っ向から自殺や安楽死について突き付けられました。彼から、単に彼が死ぬべきかどうかということだけでなく、私たち自身がどう生きるか、社会はどうあるべきかということについても様々に考えさせられました。死は忌むべきものではないのです。私たちが死についてもっとオープンにもっと深く語り合う心構えがあれば、私たちがより良く生きていくこと、社会がより良くなっていくことにつながっていくのではないでしょうか?1)「海を飛ぶ夢(地獄からの手紙)」 ラモン・サンペドロ アーティストハウスパブリッシャーズ2)「安楽死問題と臨床倫理」 日本臨床死生学会 青海社3)「安楽死のできる国」 三井美奈 新潮社4)「『尊厳死』に尊厳はあるか」 中島みち 岩波新書5)「僕に死ぬ権利をください」 ヴァンサン・アンベール NHK出版6)「標準リハビリテーション医学」 上田敏 医学書院

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ドクター力丸の人工呼吸管理のオキテ

第1回 「その挿管、なんのため?人工呼吸管理の目的」第2回 「サチュレーション100%なら安心?酸素化の正しい評価」第3回 「PF比を使いこなせ!正しい吸入酸素濃度の設定」第4回 「PEEPを上げろ!酸素化を改善するもう一つの方法」第5回 「上げ下げ簡単、PaCO2…換気の調整の仕方」第6回 「すぐわかる動脈血ガス分析…酸塩基平衡を見極めろ!」第7回 「換気するべき?しないべき?PaCO2コントロールの考え方」コラム1 「先生、“逆転”しました!」第8回 「知れば簡単!気道内圧波形…呼吸仕事量過多を見極める(1)」第9回 「気道内圧波形に異常あり!呼吸仕事量過多を見極める(2)」コラム2 「カプノメーターを使おう!」第10回 「意外と少ない選択肢 …換気モードの設定」コラム3 「初期設定総まとめ」第11回 「特殊病態に気をつけろ! …プラトー圧とAutoPEEP」 欧米では原則トレーニングコースを修了しないと扱うことができない人工呼吸器。しかし日本では特にトレーニングを受けることもなく、「何となく」使っているのが現状なのだ。そんなお粗末な人工呼吸管理の実体に一石を投じるべく、古川力丸先生は各地で講演を行っている。そのレクチャーをアニメ化して、より理解しやすくした本番組では、分かりやすい酸素化、換気の考え方、あっという間に理解できる血ガスの読み方、他に例のない完全オリジナルな呼吸仕事量の見極め方などを、研修医とナースとの対話形式で解説している。数式だらけの呼吸生理学を学ぶ必要は一切なし!オリジナリティに溢れた講義は、初心者でも簡単に理解できる実用的な内容だが、ベテラン呼吸器科医もメモを取るほど斬新だ。人工呼吸管理に関わるすべての医療従事者必見!【収録タイトル】第1回 その挿管、なんのため?…人工呼吸管理の目的人工呼吸器をつけていた患者さんがよくなってきたんだけど、人工呼吸器から離脱していいのかどうか、よくわからない…。あるいは、人工呼吸器はずしたとたん患者さんの容体が悪化、再び挿管…。そんなことありませんか?どうしてそんなことが起るかと言えば、人工呼吸管理を始めた目的がはっきりしていないからです。人工呼吸器には4つの目的があります。どの目的で挿管され、その目的は達成されたのか?患者さんに悪化を来していた原因は除去されたのか、しっかり確認する必要があります。難しくはないけど、ついつい忘れがちなこの事実。ここでしっかり学んでください。第2回 サチュレーション100%なら安心?…酸素化の正しい評価SpO2が100%、血ガスでPaO2も十分高かった。と言うことで安心してたら、いつの間にか患者さんの容体が悪化していた…。なんてことありませんか?それは酸素化の評価が正しくできていないからです。SpO2は持続評価が可能ですがPaO2と相関するのは一定範囲内。PaO2は一日に何度も計れませんし、高濃度酸素を吸入している患者さんでは酸素化の指標になりません。それでは何を見ればいいのか? 酸素化の正しい評価の仕方を学んでください。第3回 PF比を使いこなせ!…正しい吸入酸素濃度の設定人工呼吸管理下の患者さんの酸素化に用いるPF比には、もうひとつ便利な使い方があります。FiO2を下げたときの、PaO2が予測できたり、目標のPaO2に近づけるためのFiO2を簡単に計算することができるのです。これにより、患者さんのPaO2やSpO2を適切な値に調整することができ、高濃度酸素による吸収性無気肺を避けることができるのです。計算と言っても超簡単 ! 電卓があれば数秒です。これを見て正しい吸入酸素濃度が設定できるようになってください。第4回 PEEPを上げろ!…酸素化を改善するもう一つの方法人工呼吸管理下の患者さんの酸素化を上げる方法は二つ。ひとつは吸入酸素濃度FiO2を上げる方法。そしてもうひとつが今回のお話、PEEPです。実はこのPEEP、日本の施設では、著しく低めに設定されている嫌いがあります。それは高いPEEPをかけることで、循環障害を起こす心配を考えてのことですが、しかし、不適切なPEEPにより、患者さんがARDSに陥ってしまうこともあるのです。PEEPにより、どんな効果が期待できるのか、どのくらいの値に設定すればいいのか、分かりやすく解説します。第5回 上げ下げ簡単、PaCO2…換気の調整の仕方酸素化を理解したら、今度は換気を考えられるようになりましょう。換気、つまりPaCO2を調整するだけなら難しいことはありません。しかし、異常なPaCO2の値を全て、正常値にしてしまっていいかと言うと、それはまた別の問題になります。患者さんの病態、病期、重症度など、さまざまな要素を考えなければいけないからです。まずは、換気の調整の仕方と、基本的な考え方を覚えておきましょう。第6回 すぐわかる動脈血ガス分析…酸塩基平衡を見極めろ!「ドクターだけでなく、看護師や理学療法士、人工呼吸管理に携わる全てのスタッフは、最低限の血ガスの知識を理解して欲しい」と力丸先生は力説します。そうでなければ、患者さんを危険な状態にしてしまう可能性があるからです。しかし、「血ガス」と聞いて、苦手意識に苛まれる方も多いはず。ご安心ください。力丸先生の方法なら3ステップで簡単に血ガスの酸塩基平衡を読むことができます。必須の知識を是非身に付けてください。第7回 換気するべき?しないべき?…PaCO2コントロールの考え方第5回で、「異常なPaCO2を全て正常値に戻していいわけではない」ことを学びましたが、第6回のお話で、血ガスの読み方をマスターしていれば、ほとんどの場合で、PaCO2のコントロールに迷うことはありません。実際の症例を元に、具体的にどう対応して行けばいいか、実践的な換気調整の考え方を解説します。コラム1 先生、“逆転”しました!当直の仮眠中に「先生、逆転しました!」と言ってドクターコールされた力丸先生はちょっと不機嫌。PaCO2がPaO2より大きくなってしまったことを、「逆転」と言って慌てているのですが、果たしてこの「逆転」に意味はあるのでしょうか? 酸素化と換気が分かってきた皆さんなら、もう分かりますね。「逆転」恐るるに足らず、です!   第8回 知れば簡単!気道内圧波形…呼吸仕事量過多を見極める①人工呼吸管理の4つの目的のうち、「呼吸仕事量の軽減」は、臨床現場でもっとも曖昧に捉えられています。「患者さんが苦しそうだから挿管しちゃったけど、何が問題だったの?」そんなことがないように、呼吸仕事量過多の原因をしっかり把握できるようになりましょう。そのために理解しなければいけないのが人工呼吸器の気道内圧波形。難しい理論はいりません、波形のパターンを覚えるだけですぐに呼吸仕事量過多の原因がわかります!第9回 気道内圧波形に異常あり!…呼吸仕事量過多を見極める②呼吸仕事量過多の原因は、気道内圧波形から、「気道抵抗の上昇」、「コンプライアンスの低下」、「呼吸回数の増加」の3つのいずれかであることがわかります。では、それぞれに、どのような対応をすればいいのでしょう。原因となる疾患、病態はたくさんあって覚えるのは大変ですが、分類して考えれば難しくありません。人工呼吸器を使いこなすだけでなく、患者さんを悪くしている原因をアセスメントして、除去することができて初めて一人前です!コラム2 カプノメーターを使おう!ICUや手術の現場ではよく使われるカプノメーター。これを一般的な人工呼吸管理で使うことで、いくつかのメリットがあります。ACLSでも推奨されているカプノメーターの使用について、詳しく解説します。第10回 意外と少ない選択肢…換気モードの設定古川先生が講演会などで一番よく受ける質問が「換気モードは何を使ったらいいんですか?」だそうです。確かに換気モードの選択には頭を悩ませることがありますが、実はそれほど選択肢は多くありません。考え方も至って簡単。アシストコントロールとSIMV、PCVとVCVの違いを理解して、モードをきちんと選択できるようになりましょう。コラム3 初期設定総まとめこれまでの学習で、基本的な知識は習得できたはず。でも、いざ、人工呼吸器を設定するとなると腰が引けちゃいますよね。今回は、人工呼吸器の初期設定から、その後の調整までの流れを解説。これだけ覚えておけば、人工呼吸管理がすぐに始められます。第11回 特殊病態に気をつけろ!…プラトー圧とAutoPEEP人工呼吸器は患者さんの呼吸を助け、その命をつなぎ止める重要な医療機器ですが、使い方を間違えると逆に患者さんを傷つけてしまうことがあります。そうならないように最後に二つの注意点を学んでください。拘束性肺障害での高いプラトー圧、閉塞性肺障害でのAutoPEEPは危険な病態ですが、きちんと学んでいれば恐れることはありません。

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もしも先生自身に”万が一”のことがあったら…延命治療、どうしますか?

突然やってくる死、徐々に視界に入ってくる死、目の前をかすめて通り過ぎた死…と、医師の日常診療には様々な形の「死」があります。患者のもとに訪れる死に"一時停止"を出せるのが医師という立場。意識のない患者さん、取り巻く家族の嘆きを目にしながら、どうするのが正しいのか悶々とする先生方も多いのではないでしょうか。ではもし先生ご自身がその立場になったら?今回の「医師1,000人に聞きました!」では、"医師ならでは"の死生観があるのか、それを外部に表明しているのかを伺ってみました。コメントはこちら結果概要医師の7割が「自分の延命治療は控えてほしい」と回答"自分自身の延命治療"について70.8%の医師が「控えてほしい」と回答。『自分で思考できて初めて、"生きている"と考えている』『だんだん状態が悪くなる姿をさらしたくない』といった、自らの生き方に関する考えのほか、『家族の精神的・経済的負担が大きすぎるのを普段から見ているため』『(回復が見込めないなら)お金と医療資源は必要な人のために使わなければいけない』など、現場に立つ医師ならではの声が上がった。そのほか『救命救急センターで働いていた時は"延命治療をやめる基準"があったが、一般の病院でも広めるべき』といった意見も寄せられた。「家族の判断に任せたい」とする医師、『家族が納得することが重要』22.3%の医師が「家族の判断に任せたい」と回答。『死を家族が受け容れられるかどうかにかかっているから』『死は自分の問題ではなく、生者にとっての問題だから』といった意見のほか、『負担がかかるのは家族なので判断を任せたい』とする声も上がった。そのほか『家族の意思を尊重しないと、担当医が後で何を言われるか分からないので』など、日常診療で遭遇するケースから感じている意見も寄せられた。約半数の医師が、自分の延命治療に関する希望を外部に表明している延命治療に対する自分の考えについて、「希望はあるが表明していない」と回答したのは全体の43.4%。一方「書面に残している」医師は全体の6.4%、「家族に口頭で伝えている」医師は40.0%と、約半数が何らかの形で外部に表明しているという結果となった。年代別で見ても顕著な差はなく、30代以下の若手医師でも6.4%が書面にしていると回答。設問詳細延命治療についてお尋ねします。2007年、日本救急医学会の 「救急医療における終末期医療のあり方に関する特別委員会」にて救急医療の現場で延命治療を中止する手順についてのガイドライン案がまとめられています。一方「自分らしい最期を迎えたい」として、リビング・ウィルやエンディングノートといわれる文書に延命治療に関する希望を事前に書いておく取り組みも広がりつつあります。11月11日の朝日新聞によると『全国の救命救急センターの6割以上が、過去1年間に高齢者に対して人工呼吸器や人工心肺などの装着を中止したり、差し控えたりした経験のあることが、朝日新聞社の調査でわかった。救命医療で「最後の砦(とりで)」とされる救命センターでも、回復が見込めない患者に対し、家族や本人の希望があれば、延命治療を控える動きが広がっていた。最も重症の患者を診る3次救急を担う全国254の救命救急センターに10月、高齢者への終末期医療の実態を聞いた。57%の145施設から回答があった。この1年に救急搬送された65歳以上の高齢者に、人工呼吸器や人工心肺、人工透析などの積極的な治療を中止したり差し控えたりした経験の有無と件数を尋ねた。この結果、63%にあたる91施設が「ある」と回答した。呼吸器の中止・差し控えは計302件あり、このうち、患者の年齢や病気名など具体的データを挙げた中止例は14件あった。人工心肺の差し控え・中止は37件あった』とのこと。そこでお伺いします。Q1. 万が一先生ご自身が事故・病気などで判断力・意思疎通能力を喪失し、回復が見込めないとされた場合、延命治療についていかがお考えですか。延命治療は控えてほしい家族の判断に任せたい医師の判断に任せたい積極的治療をしてほしいわからないその他(          )Q2. Q1のお考えについて、当てはまるものをお選び下さい。書面に残している家族に口頭で伝えている希望はあるが表明していない考えたことがないQ3. コメントをお願いします(Q1・2のように考える理由やきっかけ、考えを表明している方はその理由、医師として日常診療で遭遇した具体的な場面など、どういったことでも結構です)2012年11月15日(木)~16日(金)実施有効回答数:1,000件調査対象:CareNet.com医師会員CareNet.comの会員医師に尋ねてみたいテーマを募集中です。採用させて頂いた方へは300ポイント進呈!応募はこちらコメント抜粋 (一部割愛、簡略化しておりますことをご了承下さい)「延命処置をして、後日家族から「こんなに苦しいのならやめておけばよかった」と言われたことがある」(50代,内科,一般診療所勤務)「本人には苦痛を理解する能力もなくなっていると思われる。であれば、家族の満足が重要。」(40代,循環器科,病院勤務)「判断力・意思疎通能力を喪失したらあとは家族に任せます。家族がどんな形でも生きていてほしいと望めば生かしてくれればいいし、延命を望まないならそれもいい。」(50代,外科,病院勤務)「身寄りの無い方がそういった状況に陥った場合、非常に困ることがよくある」(30代以下,内科,一般診療所勤務)「延命を家族の希望でのみ行うことがあるが、本人の希望は本当はどうであったか悩むことも多い。自分にはして欲しくない。」(60代以上,内科,病院勤務)「日常診療中、回復の見込めない患者の家族に延命治療について説明を行いながら、自分自身も毎回毎回受身になって考えている」(40代,腎臓内科,病院勤務)「医療費が大幅に上昇している現在、医師として自身の治療においては延命治療は遠慮したい。」(50代,外科,病院勤務)「心臓動いている=生きている とは思わない。 そう思う、思いたい家族の気持ちはわからないでもないが、心臓を動かすためだけに、安らかな最期を迎えられないケースを数多く診てきたので。」(30代以下,総合診療科,病院勤務)「延命した結果、家族関係が悪くなることをよく見る」(40代,総合診療科,病院勤務)「個人的には拒否したいのですが家族と相談していないので」(30代以下,消化器科,病院勤務)「お金と医療資源は必要な人のために使わないといけないと常に周囲に言っているので。この考え方がないと医療費の増大につながる。これは信念なので自ら実践したい」(50代,脳神経外科,病院勤務)「生まれてくる時は意思を発現出来ないのだから、 死ぬ時はせめて意思を尊重されたい」(50代,内科,一般診療所勤務)「回復不能な患者に,家族の希望で延命を行ったが,長期化し,家族が疲弊した上に,さんざん文句を言われた.」(40代,呼吸器科,病院勤務)「高齢患者を中心に多くの患者を看取った経験から、意思疎通不能でただ胃ろうやIVHで生かされているだけの寝たきり患者には自分自身はなりたくないし、そのような状況で家族に迷惑もかけたくない。」(40代,内科,病院勤務)「意味がなくても、残される家族が納得するまで頑張るのも、見送られる側の務めだと思います。 人と人とのつながり(まして家族間の絆など)は、意味があるないだけでは計り知れないはず。」(30代以下,呼吸器科,病院勤務)「医療経済面で悪影響。 ベジになった際の家族の負担。」(30代以下,血液内科,病院勤務)「控えてほしい。センチメンタルになっても仕方ない。医師なら冷静に考えたら、結果はこうなる。」(50代,消化器科,一般診療所勤務)「延命の期間は人生にとって何の意味もなく、意義があるとしたら家族が受け入れるための時間が必要なことがある場合だけでしょう。最初からそのような時の受け入れを家族が出来るのなら不必要でしょう。」(40代,内科,病院勤務)「延命治療を希望して、途中で中止する事は難しいから。」(50代,内科,病院勤務)「高齢者と若年者では異なるが、高齢者の場合は積極的治療は控えたい。」(40代,形成外科,病院勤務)「未来のことは正確には予測できません。文書を残すことはマイナスになることもあるので、家族にまかせます。」(50代,内科,一般診療所勤務)「点滴や呼吸器でつながれても短時間に抜去できれば社会復帰も可能であるが、時間の経過とともに「これは無理だな」という病態は救命医を経験したものなら判る。無理と思いながら患者さんのため、家族のためと言い聞かせながら延命を図ることが度々あった。もし自分がその様な状態になった場合延命処置は望まない。」(60代以上,循環器科,一般診療所勤務)「自分自身が何も分からなくなった場合、死を家族が受け容れられるかどうかにかかっていることから、家族の意向に任せたい。多分しばらく苦しんでから、納得したところで延命はしないと選択するとは思う。患者さんをみても、その死を家族が受け容れられるかどうかで処置が変わる。いずれ受け容れることにはなるが、本人意思だからと延命を全く行わないと、家族は受け容れる間もなく死と直面してしまう。本人が苦しむことはわかるが、残されることになる家族の考えは大事だと思う。」(40代,神経内科,病院勤務)「日々,そのような患者を面前にしているが,患者本人も浮かばれないし,家族も辛く,連れて帰ることもできず,病院のベッドも無駄に埋まっているのを黙って見ている。私自身はそういう患者に呼吸器などはつけずに看取っているが,病院全体では全く看取れず,寝たきり呼吸器+胃ろうが増えていっている。こういう状況はおかしいと思うので。」(50代,小児科,病院勤務)「眠るように死にたい。いつも疲れているので最後くらいは眠らせてほしい。」(40代,外科,病院勤務)「積極的な治療がかえって家族の負担になることを経験しているため」(40代,内科,一般診療所勤務)「書面に残している。判断できるときにしておく、 無駄なことはしない。いつかは死ぬのだから」(50代,内科,一般診療所勤務)「自分のことだけを考えれば延命治療は希望しないが 家族にとって自分が生きていること(心臓が動いていること)に意味があるなら延命してもらってもかまわない」(40代,内科,一般診療所勤務)「患者や家族の意思を尊重しないと、後で何を言われるか分からない。特に殆ど面会にすら来てない親族が後から文句を言って来る場合が多いので要注意である。」(40代,内科,一般診療所勤務)「その人の意思を無視して、ただ生きてて欲しいと願うのは家族のエゴだと思う。」(40代,泌尿器科,一般診療所勤務)「以前救命救急で働いていましたが、高齢者の場合、御家族に聞くとほぼ「もうこのまま楽に・・・」という答えが多く、 若くして突然となると、「やはり出来る限りのことは・・・」という答えが多い気がします。 私自身は、回復がみこめないのであれば、家族に負担をかけずにという思いが強いです。」(30代以下,消化器科,病院勤務)「死は自分にとっての問題ではなく、生者にとっての問題だから、他人の意思にゆだねるしかない。」(40代,産婦人科,病院勤務)「植物状態でいることは、初めのうちは少しでも長く生きてほしいという希望がかなえられるが、長期化することで家族も疲弊してくることがほとんどなので、延命治療は希望しない。」(30代以下,代謝・内分泌科,病院勤務)「命そのものの重大さについては言うまでもないが、その一方、いわゆる「生ける屍」として生き長らえることに「人間」としての尊厳があるのかどうか、疑問に思う」(50代,その他,その他)「本人が意思を失っていれば、家族が代役を務めるしかない。負担がかかるのは家族なので家族の判断を尊重したい。」(30代以下,整形外科,病院勤務)「長期療養型病院に15年勤務していますが、入院患者さんの平均年齢がこの15年で80代から90代に。認知症、経管栄養で寝たきり、意志の疎通が図れなくなった多くの患者さんの最期に立ち会う際、お元気に通院されていた姿を思い出し、自分は長生きしたくない、と切に感じる今日この頃です」(40代,循環器科,病院勤務)「自身が高齢となり長患いをしていた場合は延命治療を控えていただきたいが、突然の事故などの場合は家族に判断してもらいたい。」(40代,循環器科,病院勤務)「研修病院で延命治療をした経験から、延命をして喜ぶ結果になった人は(患者の)年金などを目当てにした人以外見たことがないから。医師、本人、家族とも負担になるだけだったから。」(30代以下,総合診療科,病院勤務)「呼吸器を外すと警察やマスコミにたたかれる可能性があるので、積極的に行うことを避けなければ仕事を続けることができないと思う。」(40代,内科,病院勤務)「積極的治療をしてほしい。どんな姿でも命は大切。」(50代,内科,病院勤務)「寝たきり10年以上、MRSAなどの感染も加わり、体も固まって、胃ろうになってボロボロになって、死んでいく高齢者が多いです。人間らしい生活が送れないなんてみじめ!です。そのころには周囲の親戚に『まだ死んでいなかったの?』なんて言われてしまうかも?実際、90歳の自分の祖母が一番年上の孫に言われていましたが・・・『税金泥棒』とも・・・葬式もなくなってしまいました。」(30代以下,代謝・内分泌科,病院勤務)「(書面に残しているが)今でも悩んでいます。今後方針が変わるかもしれません。」(40代,耳鼻咽喉科,病院勤務)「回復の見込みがなく、延命のみを目的とする自分の生には(自分としては)意義を感じられない」(40代,精神・神経科,その他)「実際その状態の患者を診ていて、延命治療のある意味残酷さが見えてきたから。」(40代,外科,病院勤務)「親と同居のため、 親の分の意思確認時に、自分のことについても同時に伝えた」(40代,産業医,その他)「自分の父がそうであったように、惨めな姿を見せたくない、家族に負担をかけたくない、そして残された者がそういう思いにいたったので。」(40代,泌尿器科,一般診療所勤務)「回復の見込みがなくても移植臓器を提供できれば良い。その為には延命は不都合」(40代,内科,病院勤務)「家族の希望で延命処置をすることがあるが、患者本人にとっては何もメリットはなく、家族が死を受け入れるまでの時間稼ぎでしかない。いつまでも生きていてほしいという心情は十分理解できるが、死を受け入れることは患者のためでもあることを理解してほしい」(50代,外科,病院勤務)「本当に、家族も延命治療を望んでいるのか疑わしいのにも関わらず、延命治療が行われている場面が多々ある。」(40代,産婦人科,病院勤務)「救命救急センターで働いていた時は延命をやめる基準というのがあったが、そういった基準を一般の病院でも広めるべきである。」(40代,整形外科,病院勤務)「胃ろう患者を毎日見ており、 家族を含め 無理な延命治療を避けるよう書面にしました」(50代,内科,病院勤務)「経済的な理由で苦しんでいる家族もある。杓子定規に判断基準があっても困る」(40代,内科,一般診療所勤務)「意識のない状態で点滴や呼吸器で治療されている方をたくさん見てきて、自分ではそういう治療は希望しないと判断した」(40代,内科,一般診療所勤務)「日常の診療でいつも以下の内容を患者家族に説明している。『いつまでも病院へは入院出来ない。いずれは自宅で家族が看なければならない。意思疎通も出来ない、寝たきりの患者の介護は非常に大変で、介護サービスを利用しても夫や妻だけでは必ずと言いよい程破綻する。子供も協力して、自分たちで介護出来る覚悟が無ければ安易に延命措置を望まないで欲しい。そうでなければ患者にも家族にとっても不幸である。 また、現在医療費は毎年増加し、膨大な額になっている。 そのため社会全体の考え方も、出来るだけ医療費を効率的に使う方向であり、将来性の見込めない方への多大な配分は望まれていない。 このような考えを踏まえて総合的に判断してほしい』」(40代,神経内科,病院勤務)「『回復の見込みのない患者』に対する積極的な治療は、本人だけでなく家族、親戚も不幸にしてしまうような気がする。自分自身は、回復の見込みがないのなら、そのまま看取ってもらいたい。(家族が延命を希望したとしても・・・)」(40代,小児科,病院勤務)「無駄な延命治療(ほとんどは家族が希望)のために、本人の意思に沿わないと思われる悲惨な症例をたくさん見てきたため。 自分の配偶者は医療従事者ではないので、どこまで理解しているか甚だ疑問です。 書面に残す必要性も感じていますが、具体的にはその時その時の状況で判断すべきことが多いため、なかなか難しいと感じています。」(50代,内科,一般診療所勤務)「医学的には延命治療は行うべきではないと考えるが、実臨床では関わっている家族などの人たちの考えを無視できない。」(50代,外科,病院勤務)「自分自身は長生きしようと思わないが、死とは周りの人が受け入れる過程も大切なので、結局家族の意向にそった治療にならざるを得ないのではないだろうか。」(40代,小児科,病院勤務)「延命だけで長く生きておられる人をたくさん見ているが、意味のない延命は自分のためにも、社会のためにも無駄な時間に感じる」(50代,代謝・内分泌科,病院勤務)「胃ろう、気管切開して延命を図っている人を見かけるが、その患者さん本人のためになっているのか疑問。自分が、そうなった場合は、少なくともこれらの処置はお断りします。」(40代,外科,病院勤務)「やはり自己で思考できて初めて意義ある人生と思うので。また、自分に意識や思考能力がない回復の見込みのない状態で、家族に負担のみかけさせるのには耐えられないから。」(50代,外科,病院勤務)「その状態では意識もなく自分自身の人生としてはすでに終わっている。もし、年金等の条件や心の準備のために家族が延命させて欲しいと望めばそれでもよいので任せたい」(40代,内科,病院勤務)「無駄な延命は人間の尊厳を害し、無駄な介護を発生させ、無駄な医療費をかけ、若い世代に負担をかけるのみ、だと思います。日常的に現場を見ていて、少しでも回復の見込みがあれば全力を尽くす価値を感じますが、回復の見込みがないのに挿管、人工呼吸器などつないで意識のない患者をひたすら輸液で栄養して…という場面を見るたびに、やるせない気持ちになります。徒労感も倍に感じます」(30代以下,代謝・内分泌科,病院勤務)「かつての延命と言われる処置を行っていたとき、患者の家族から「いつまでこんな状態が続くのか」と恨み節のように言われたことがあった。自分でも本当に必要な処置なのかと考えるきっかけになった」(40代,内科,一般診療所勤務)「積極的治療をしてほしい。回復が見込めないという判断が早計なことがあるので、とりあえず、全力を尽くすのが医師としての義務である。」(60代以上,産婦人科,病院勤務)「回復の見込みがないのであれば肌の色艶のいい時に死んでしまいたい」(40代,脳神経外科,病院勤務)「今や高齢者が、「胃ろう」「気切」「ポート」を持つのが、施設に入る条件になっていたりするのを見ると、そこまでして生かされるよりも、寿命と思って死んでいきたいと思う」(30代以下,神経内科,病院勤務)「患者本人としても、無駄に回復の見込みがないのに苦しみたくないと思うが、書面に残すような形で意思表示することまでは考えていなかった。」(40代,精神・神経科,病院勤務)「自分としては延命治療は望まない。しかし家族がどんな形でも生きていることを望む(もしくは何らかの精神的支えになりうる)場合は家族の判断にまかせたい。」(40代,腎臓内科,病院勤務)「私と家内は、生命末期には無駄な延命措置(治療ではない)をしないように書面に残し、家族にも伝えてあります。延命措置をするかしないかはあくまで本人の意思で、リビング・ウイル をきちんとしておくべきでしょう。延命措置を望む人はそれで結構でしょう。」(60代以上,整形外科,一般診療所勤務)「自分の祖母が認知症のある状態で昏睡状態になり、経鼻胃管からの栄養剤注入と酸素投与で生命を保ったまま、心臓の限界に達するまで生命を維持していたが、果たしてそれが本当に良かったのか7年経った今でもわからないので、自分は同じようにはしたくないから。」(30代以下,小児科,病院勤務)「面会などもなく、ただただ心肺が活動しているだけというのをたくさんみてきたから」(40代,消化器科,病院勤務)「通常自分でも経管などしますが、最後は結構悲惨です。高齢化進む中でこれらはもう一度考えてみる必要があります。両手を挙げて賛成ではありませんが、個人の意志を尊重した最期も必要かもしれません」(50代,内科,病院勤務)「伯母がくも膜下出血で植物状態になり、二年間見舞い、看病していた母の精神的負担をみていたから。」(50代,精神・神経科,病院勤務)「延命治療でだんだん状態が悪くなる姿を家族にさらしたくない。できるだけ自然な状態で亡くなりたい。」(50代,小児科,病院勤務)「一度延命治療を始めてしまうと、それを中止するのが家族も医師も難しい判断をせまられるから」(50代,小児科,一般診療所勤務)「『悲しいけど仕方ない』と惜しまれながら最期を迎えられたら幸せかと思っています。『やっと終わった』と思われての最期は避けたいです」(30代以下,内科,病院勤務)「延命治療を行い,した甲斐があったという症例が非常に少ない印象」(30代以下,外科,病院勤務)「父の死の直前、同じような状況になった。無理な延命は、かえって父を苦しめているような気がした」(50代,眼科,一般診療所勤務)「カルテに書く事はあるが、専用の用紙はない状態です。 トラブルなどが多い為、残した方が良いです」(30代以下,内科,一般診療所勤務)「そういう状況になったとき、自分の体はもう自分のものではなく、家族など残される人のものかと思いますので、家族に決めてもらえば十分です。 葬式なんかも故人のものではなく、生きている人のためのものだと考えていますし」(50代,泌尿器科,一般診療所勤務)「現状では、家族からの希望により途中で延命治療を中止すると、あとでややこしいことになる可能性があるから」(30代以下,消化器科,病院勤務)「10年前は、新生児集中治療室NICUに勤務で、超未熟児を必死で治療し、後遺症なき生存をめざして心血を注ぐ日々でした。 一生懸命救命しえた幼い命ですが、脳出血や脳性麻痺など後遺症も多く、一生人工呼吸器が必要だったり、よくても車椅子、寝たきりの状態の子も少なくありません。苦労や愚痴も口にせず、我が子のために一生介護する親御さんたちを数多くみてきましたが、やはり家族の負担はあまりに大きかったのを間近でみていたので、自分の時には延命を望まない思いが強いです」(30代以下,小児科,一般診療所勤務)「自身では控えてほしいと考えているが、家族とは相談していないので、急にこのような状態になったら現状では家族の判断通りになると思う。」(30代以下,外科,病院勤務)「やはり主治医がベストと思われる方法を選択してもらえればよいと考えます」(50代,消化器科,一般診療所勤務)「三次救急の現場を数年経験し、本人の意思と家族の意思の違いに悩むことが多かった」(30代以下,消化器科,病院勤務)

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出直し看護塾 呼吸管理に関する基礎知識

1.「おさえておくべき酸素療法の肝」2.「弱点克服!血液ガス」3.「楽しく学ぶ人工呼吸モードの基礎」4.「これで安心!人工呼吸器使用中の患者管理の基礎」 私たちにとって酸素は必要不可欠なものですが、高濃度の酸素を吸入することで呼吸が停止したり、取り返しのつかない合併症を引き起こしたりすることもあります。まずは、酸素療法についてわかりやすく解説します。人工呼吸器のグラフィックモニターやそれぞれの数字の意味、SIMVやCPAPといった各種モードの特徴、呼吸管理に必要な言葉の解説など、日常業務で使える知識が満載です。1.「おさえておくべき酸素療法の肝」人工呼吸器の管理方法について解説します。酸素は、医療において特別なものではなく、外来や病棟、手術室などすべての医療シーンで登場します。「酸素」と言うと、体にいいイメージがあるかもしれませんし、実際、酸素がなければ我々は生きていくことができません。しかし、必要不可欠な酸素も、高濃度の酸素を吸入すると呼吸が停止したり、取り返しのつかない合併症を引き起こすことがあります。色もなく、匂いもない酸素を安全に使用するために、しっかりとした知識を身につけておきましょう。呼吸器の解剖/呼吸器の生理/医療ガス/呼吸とは?/低酸素状態とCO2ナルコーシス/低流量システム(カヌラ、マスク、リザーバー付きマスク)/高流量システム(ベンチュリーマスク)/バッグバルブマスク2.「弱点克服!血液ガス」わけのわからない数字の羅列をスラスラ読んでいく先輩たち…「自分もああなれたら」と血液ガスの本を手に取った人は少なくないでしょう。ところが、実際に本を読んでもチンプンカンプンだったり…。確かに血液ガスは、難しいです。でも、すべてを理解する必要はありません。看護師の業務の中で必要な6つの検査項目だけを抽出し、そこにポイントを絞って解説します。pH の変動には必ず意味があるため、その意味を患者の呼吸状態や人工呼吸器の設定に絡めて判断していけば、「ちょっと二酸化炭素がたまってアシドーシスになっているかなぁ」とか、きっと呟けるようになりますよ。血液ガスの考え方/理解するために必要な正常値/呼吸性アシドーシス/呼吸性アシドーシスの代償反応/慢性呼吸性アシドーシス/呼吸性アシドーシスを呈する疾患とその治療/呼吸性アルカローシス/呼吸性アルカローシスを呈する疾患とその治療3.「楽しく学ぶ人工呼吸モードの基礎」人工呼吸器にグラフィックモニターがつくようになってから、人工呼吸器に詳しい人にとっては、より分かりやすくなりましたが、そうでない人にはより分かりにくくなってしまった、という現実があります。人工呼吸器から流れてくる空気には、色も臭いもありません。胸が上がっているのはわかっても、肺の膨らみを目で確認することはできません。そのために、空気の流れによって変化する気道の圧力や、気流のスピードを目に見えるようにしたのがグラフィックモニターなのですが、これらのことは、本を読んでもなかなか理解できるものではありません。実際に人工呼吸器を動かし、グラフや数字の意味、各種モードの特徴、人工呼吸器を管理していくうえで必要な略語を解説します。苦手だった人工呼吸器がきっと好きになると思いますよ。人工呼吸器の換気様式/グラフィックモニターの特徴/PEEP/I : E比/EIP/調節機械換気/補助調節換気/同期式間欠的強制換気/持続気道陽圧/圧支持換気/人工呼吸器の初期設定/ウィーニング

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重症敗血症、症例数の多さと良好なアウトカムは関連しない

英国の成人重症敗血症患者の一般集中治療室への入院症例数と患者アウトカムの間に関連はないことが、カナダ・McGill大学のJason Shahin氏らの検討で示された。過去30年以上にわたり、種々の外科的、内科的疾患において、治療例数と患者アウトカムの関連の評価が行われている。腹部大動脈瘤の修復や特定のがん種、小児の心疾患の手術など複雑な手技では、症例数とアウトカムの間に強い関連を認め、AIDSや心筋梗塞などの内科的疾患でも症例数の多い施設での治療はアウトカムの改善が確認されている。症例数と人工呼吸器の使用や重症敗血症との関連や、重症敗血症における症例数-アウトカム関連を示唆する研究結果もあるという。BMJ誌2012年6月16日号(オンライン版2012年5月29日号)掲載の報告。集中治療室入院症例数と患者アウトカムの関連を後ろ向きに評価研究グループは、英国の成人敗血症患者の一般集中治療室への入院における、症例数と患者アウトカムの関連について検討するために、統合データベースを用いたレトロスペクティブなコホート試験を実施した。客観的で標準化された重症敗血症の判定基準を満たし、2008~2009年に集中治療室に入院した患者を対象とし、救急病院からの最終的な退院時の死亡率について評価した。症例数と重症度、人工呼吸器装着との間にも関連なし一般化推定方程式を用いた多変量ロジスティック回帰分析で、入院症例数と院内死亡率の関連を評価したところ、英国の成人重症敗血症患者の一般集中治療室への入院症例数と患者アウトカムに関連はなかった。サブ解析にて症例数と疾患の重症度、人工呼吸器装着との交互作用の検定を行ったところ、これらの間にも有意な関連は認めなかった。著者は、「本試験では、成人重症敗血症患者の一般集中治療室への入院症例数と患者アウトカムに関連はみられなかった」とし、「今後は、症例数や一般集中治療室以外の要素に焦点を当てた検討を行うべき」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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亜鉛追加、乳児の重症細菌感染症に有効

重症細菌感染症が疑われる生後7~120日の乳児に対し、標準抗菌薬治療の補助療法として亜鉛を追加投与すると、治療不成功リスクが低減する可能性があることが、全インド医科学研究所(AIIMS)のShinjini Bhatnagar氏らの検討で明らかとなった。重症細菌感染症は開発途上国の乳児期早期の主要な死因である。標準的な抗菌薬治療に安価で入手しやすい介入法を追加することで、乳児死亡率の抑制が可能と考えられている。Lancet誌2012年6月2日号(オンライン版2012年3月31日号)掲載の報告。亜鉛追加の有効性をプラセボ対照無作為化試験で評価研究グループは、重症細菌感染症の可能性がある乳児に対する抗菌薬治療の補助療法としての亜鉛の有効性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化試験を実施した。2005年7月6日~2008年12月3日まで、インド・ニューデリー市の3つの病院に、重症細菌感染症が疑われる生後7~120日の乳児が登録された。これらの患児が、登録時の低体重や下痢の有無で層別化した上で、標準抗菌薬治療に加えて亜鉛10mgあるいはプラセボを毎日経口投与する群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は治療不成功率(割り付けから7日以内の抗菌薬の変更を要する病態、21日以内の集中治療[人工呼吸器装着もしくは血管作動薬投与]を要する病態あるいは死亡)とした。治療不成功率:10% vs 17%352例が亜鉛追加群に、348例がプラセボ群に割り付けられ、それぞれ332例、323例が評価可能だった。治療不成功率は、プラセボ群の17%(55/323例)に対し、亜鉛追加群は10%(34/332例)と有意に少なかった[相対リスク低下率:40%、95%信頼区間(CI):10~60%、p=0.0113、絶対リスク低下率:6.8%、95%CI:1.5~12.0、p=0.0111)。治療不成功を1例回避するのに要する治療例数は15例(95%CI:8~67)であった。死亡例は亜鉛追加群が10例で、プラセボ群は17例と、有意な差はなかったものの亜鉛追加群で低下する傾向を認めた(相対リスク:0.57、0.27~1.23、p=0.15)。著者は、「生後60日までの乳児に限ってもベネフィットが確認された。回復、体重増加、完全経口摂食までの期間には影響はなかった。亜鉛は、標準抗菌薬治療の補助療法として、重症細菌感染症が疑われる生後7~120日の乳児の治療不成功リスクを低減する可能性がある」と結論し、「亜鉛はすでに一般的に使用可能で、多くの低~中所得国で急性下痢の治療薬として市販されており、重症細菌感染疑いの乳児への介入に使用しても医療コストの増分はわずかだ」と指摘している。

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聖路加GENERAL 【Dr.香坂の循環器内科】

第1回「階段がつらいのは歳のせい ? 」第2回「夜間の呼吸困難は花粉症のせい ? 」第3回「心雑音と言われたのですが元気なんです」第4回「ためらってはいけないCAB」 第1回「階段がつらいのは歳のせい ? 」地下鉄階段昇降時などに胸部圧迫感を感じるようになった50歳男性。他の領域の胸痛疾患に比べてリスクの高い場合が多い循環器疾患。まずは、この患者が循環器疾患かどうかを確かめることが重要です。胸痛の鑑別において大切なのは、1にも、2にも問診です。問診は、3つのポイントをおさえればOK。このような典型的な狭心症患者の他、顎が痛い、歯が痛いと訴えてくる患者さんも放散痛によるもので、実は心筋梗塞や狭心症だった、という非典型的な例もOPQRST3Aを使って解説していきます。また、胸痛においては、ACS(急性冠動脈症候群)という概念が重要になってきます。その診断方法についても詳しくお伝えします。第2回「夜間の呼吸困難は花粉症のせい ? 」数年前から動悸を自覚していた44歳の男性。夜間に呼吸困難が出るようになり、起き上がってもすぐには改善しなくなってしまいました。呼吸困難の原因はさまざまですが、起き上がっても改善しないなど心疾患が疑われます。特に、発作性夜間呼吸困難や起座呼吸は、心不全である確からしさが高い症状です。頚静脈、心音などの身体所見、X線、心エコーなどの画像診断、血液検査として有用性の高いBNPによって心不全であるかどうかを確認した結果、この男性は心不全であることがわかりました。そして、その原因については驚くべき事実が・・・。III音の聞き分け方、薬剤の使い方については「北風と太陽」を引用するなど、香坂先生ならではのユニークな講義が展開されます。第3回「心雑音と言われたのですが元気なんです」長い間微熱が続いたため、病院を訪れた62歳の男性。健診で「心雑音がある」と言われましたが、スポーツもこなし元気に過ごしていました。心雑音をみたときには、まず経過観察でよいものか、それともすぐに処置が必要なものかを見分ける必要があります。最強点がどこにあるのか、収縮期か拡張期か、収縮期であれば駆出性か逆流性かという鑑別が重要になります。この患者は2年後に症状が出始め、重症のMRと診断され、手術を受けることになりました。重症のMRは、10年以内に死亡、または手術を実施する確率が90%と高く、フォローが重要となります。ポイントは、重症度によってスパンを短くして、心不全症状やEFの低下がないかなどを慎重に観察することです。また、僧帽弁、大動脈弁治療に関して、最新の弁膜症手術も紹介していきます。第4回「ためらってはいけないCAB」最近動悸がするということで診療所を訪れた32歳男性。待合室で診察を待っている時、突然倒れて心肺停止状態になってしまいました。今まで心肺停止というと、まずA(気道確保)、続いてB(人工呼吸)の後、C(心臓マッサージ)という手順が常識でしたが、ACLSのプロトコル改訂により、ABCからCABと変わってきました。すなわち、なにはなくとも即座に心臓マッサージを!ということです。そこで、本来求められる心肺蘇生法に対し、病院外で行われるCPRの現状や、心臓マッサージの基本原理をしっかりと見直していきます。また、改訂で変更された薬剤、その効果や投与のタイミングについても具体的に紹介します。心肺蘇生後は患者の状態をよくみて判断していくことが重要となりますが、具体的に何をすべきか、また、突然死を防ぐための方法、心電図から突然死の確率が高い疾患の読み方についてもご紹介します。

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ARDSに対するサルブタモール治療により死亡率が増加

急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に対する早期のサルブタモール静脈内投与による治療は、プラセボに比べ28日死亡率が有意に高く、転帰を悪化させると考えられることが、英国・Warwick大学のFang Gao Smith氏らが行ったBALTI-2試験で示された。人工呼吸器装着患者の約14%にARDSがみられ、その死亡率は40~60%に達し、生存例もQOLが大きく損なわれることが報告されている。ARDSの治療では、短時間作用性β2アドレナリン受容体刺激薬であるサルブタモールの最大7日間の静脈内投与により、肺血管外水分量やプラトー気道内圧が低下することが、無作為化対照比較第II相試験で示されている。Lancet誌2012年1月21日号(オンライン版2011年12月12日号)掲載の報告。サルブタモールの死亡率抑制効果を評価する無作為化試験BALTI-2試験の研究グループは、ARDSに対するサルブタモールの最大7日間静脈内投与の死亡率の抑制効果を評価する多施設共同無作為化プラセボ対照試験を実施した。2006年12月~2010年3月までに、イギリスの46の集中治療施設からARDS発症後72時間以内の16歳以上の人工呼吸器装着患者が登録され、サルブタモール(15μg/kg標準体重/時)あるいはプラセボを最大7日間投与する群に無作為に割り付けられた。患者、介護士、担当医には治療割り付け情報がマスクされた。主要評価項目は、無作為割り付けから28日以内の死亡とした。中間解析で28日死亡率が有意に高く、試験中止に326例が登録され、サルブタモール群に162例が、プラセボ群には164例割り付けられた。両群で1例ずつが同意を取り消したため、それぞれ161例、163例で評価が可能だった。2回目の中間解析の結果、安全性に関する懸念により登録は中止された。28日死亡率は、サルブタモール群が34%(55/161例)と、プラセボ群の23%(38/163例)に比べ有意に高かった(リスク比:1.47、95%信頼区間:1.03~2.08)。著者は、「ARDSに対する早期のサルブタモール静脈内投与による治療は忍容性が不良であった。効果が得られる可能性は低く、転帰を悪化させると考えられた」と結論し、「人工呼吸器装着ARDS患者に対するβ2作動薬によるルーチン治療は推奨されない」としている。(菅野守:医学ライター)

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新たなサーファクタント治療が早産児の人工呼吸器適応を低減

持続的気道陽圧法(CPAP)で自発呼吸が保持されている早産児では、細いカテーテルを用いたサーファクタント治療によって人工呼吸器の適応が低減することが、ドイツLubeck大学のWolfgang Gopel氏、Cologne大学のAngela Kribs氏らが実施したAMV試験で示された。サーファクタント治療は、通常、呼吸窮迫症候群の治療のために人工呼吸器を装着された早産児に気管内チューブを介して施行されるが、挿管せずに安定状態が保持されている早産児にはCPAPの不利益を考慮してこの治療は行われない。一方、ドイツの新生児集中治療施設では、気管内挿管や人工呼吸器を必要としないサーファクタント治療(治療中のみ気管内に細いカテーテルを留置してCPAPを行いながら施行)が広く普及しつつあるという。Lancet誌2011年11月5日号(オンライン版2011年9月30日号)掲載の報告。人工呼吸器の使用を回避して自発呼吸をうながす新たなサーファクタント治療AMV(Avoiding Mechanical Ventilation)試験の研究グループは、早産児において人工呼吸器の使用を回避して自発呼吸を促す新たなサーファクタント治療の有用性を評価するための無作為化対照比較試験を行った。2007年10月~2010年1月までに、ドイツの12の新生児集中治療施設に在胎週数26~28週、出生時体重1.5kg未満の早産児220人が登録された。これらの新生児が、生後12時間以内に標準治療群あるいは介入群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。すべての早産児はCPAPで安定状態を保持され、必要に応じてレスキュー挿管が行われた。介入群の早産児には、自発呼吸をうながすために吸入気酸素濃度(FiO2)が0.30以上となるよう、喉頭鏡で気管内に細いカテーテル(2.5~5 french)を留置して経鼻的CPAPが施行された。カテーテル留置後に喉頭鏡を外して1~3分間の気管内サーファクタント治療(100mg/kg体重)を行い、治療終了後は即座にカテーテルを抜去した。主要評価項目は、生後25~72時間において、人工呼吸器の適応もしくは人工呼吸器は使用しないが二酸化炭素分圧(pCO2)65mmHg(8.6kPa)以上かFiO2 0.60以上、あるいはその双方を要する状態が2時間以上に達した場合とした。生後2~3日および在院期間中の人工呼吸器適応率が有意に改善介入群に108人が、標準治療群には112人が割り付けられ、すべての新生児が解析の対象となった。生後2~3日における人工呼吸器の適応率は介入群の28%(30/108人)に対し標準治療群は46%(51/112人)であり、有意な差が認められた(絶対リスク低下:-0.18、95%信頼区間:-0.30~-0.05、p=0.008)。在院期間中の人工呼吸器適応率は介入群の33%(36/108人)に比べ標準治療群は73%(82/112人)と、有意差がみられた(絶対リスク低下:-0.40、95%信頼区間:-0.52~-0.27、p<0.0001)。人工呼吸器使用日数中央値は、介入群が0日、標準治療群は2日であり、生後28日までに酸素補給療法を要した早産児は30%(30/101人)、標準治療群は45%(49/109人)(p=0.032)であった。死亡数は介入群が7人、標準治療群は5人、重篤な有害事象はそれぞれ21人、28人であり、いずれも有意な差はなかった。著者は、「CPAPによって自発呼吸が保持されている早産児に対する細いカテーテルを用いたサーファクタント治療は、標準治療に比べ人工呼吸器の適応を低減させた」と結論したうえで、「鎮痛薬や鎮静薬の使用は主要評価項目に影響を及ぼさなかったが、極度な未熟児ではこれらの薬剤による血圧低下や脳灌流障害の有害な影響が指摘されており、介入群で使用頻度が低かったことがベネフィットにつながった可能性もある」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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腸管出血性大腸菌O104: H4感染による重度神経症状に免疫吸着療法が有効

腸管出血性大腸菌O104: H4感染に起因する溶血性尿毒症症候群(HUS)患者にみられる重篤な神経症状のレスキュー治療として免疫吸着療法が有効なことが、ドイツ、エルンスト・モーリッツ・アルント大学のAndreas Greinacher氏らの検討で明らかとなった。2011年5月の北ドイツ地方におけるShiga毒素産生性腸管出血性大腸菌O104: H4の感染拡大により、血漿交換療法や抗補体抗体(eculizumab)に反応しない腸炎後の溶血性尿毒症症候群や血栓性微小血管症が多発した。患者の中には、腸炎発症の1週間後に発現した重篤な神経学的合併症のために人工呼吸を要する者がおり、これは症状の発現機序に抗体が介在することを示唆するという。Lancet誌2011年9月24日号(オンライン版2011年9月5日号)掲載の報告。免疫吸着療法の有用性を評価するプロスペクティブな非対照試験研究グループは、大腸菌O104: H4感染に関連して重度神経症状がみられる患者に対する、レスキュー治療としての免疫吸着療法の有用性を評価するプロスペクティブな非対照試験を実施した。重篤な神経学的症状を呈し、大腸菌O104: H4感染が確認され、他の急性の細菌性感染症やプロカルシトニン値の上昇がみられない患者を対象とした。12Lの血漿量のIgG免疫吸着処置を2日間行った後、IgG補充(0.5g/kgの静脈内IgG投与)を実施した。連日、複合的神経症状スコア(低いほど良好)を算出し、免疫吸着療法前後の変化を評価した。12例中10例で神経症状、腎機能が完全回復初期症状として腸炎を発症したのち腎不全を来した12例が登録された。そのうち10例(83%)は、中央値8.0日(5~12日)までに腎代替療法を要した。神経学的合併症(患者の50%にせん妄、刺激感受性ミオクローヌス、失語、てんかん発作がみられた)の発症までの期間は中央値で8.0日(5~15日)であり、9例で人工呼吸を要した。免疫吸着療法開始の3日前の時点で3.0(SD 1.1、p=0.038)まで上昇した複合的神経症状スコアは、免疫吸着療法施行後3日目には1.0(SD 1.2、p=0.0006)まで改善した。人工呼吸を必要としなかった患者では、免疫吸着療法中に失語の消失など明らかな改善がみられた。人工呼吸を要した9例のうち5例は48時間以内に、2例は4日までに機器が外されたが、残る2例は呼吸障害のために人工呼吸が継続された。12例全例が生存し、10例は神経症状および腎機能が完全に回復した。著者は、「大腸菌O104: H4感染に起因する溶血性尿毒症症候群患者の重篤な神経症状の病因として抗体の関与が示唆される。免疫吸着療法は、これらの重篤な合併症を迅速に改善するレスキュー治療として安全に施行可能である」と結論している。(菅野守:医学ライター)

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