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新型コロナワクチンで再注目、必須抗菌薬の国内生産体制をどう維持するか

 2019年、抗菌薬のセファゾリンが原薬の異物混入等の理由から一時製造中止となり、供給不足が医療現場に大きな混乱をもたらした。これにより、原薬供給が海外の特定国とメーカーに集中している現状では、いったん不測の事態が生じれば医療現場に必須の薬剤が供給不能になる、という問題点が明らかになった。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)においても、流行初期のマスク不足やワクチン確保の局面において、医薬品の国内生産の重要性が改めて注目されている。 厚生労働省はセファゾリン供給不足の事態を受け、「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議」を立ち上げ、1)供給不安の予防、2)供給不安への早期対応、3)実際に供給不安に陥ったときの対応という側面から、対応策を検討してきた。 2021年1月、AMRアライアンス・ジャパン「抗菌薬の安定供給に向けたフォーラム」 が行われ、関係者会議の座長を務める清田 浩氏が「抗菌薬の安定供給について」と題した発表を行った。冒頭に清田氏は「公衆衛生は国防である」と訴え、国として一定のコストを割いたうえで取り組んでいくべき問題だと強調した。そして、2020年のあいだに関係者会議が議論し、まとめた活動として、安定確保にとくに配慮を要する「キードラッグ」の選定と国内生産への援助・備蓄についての提言、キードラッグの薬価維持、不採算抗菌薬の薬価引き上げ要望を紹介した。 続いて、厚生労働省の林 俊宏氏が関係者会議の提言を受けた政府側の具体的な取り組み予定を紹介。1)供給不安の予防として、製造工程の把握、製造の複数ソース化、薬価上の処理(不採算品目の薬価引き上げと基礎的医薬品の薬価維持)、2)供給不安への早期対応として、薬品安定供給に関するチェックリスト作成とメーカー各社による自己評価、供給不安事案の報告態勢の整備、3)供給不安に陥ったときの対応として、増産・出荷調整、迅速な承認審査、安定確保スキームの整備を行っていくことを紹介した。

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ASCO- GI 2021 会員レポート

レポーター紹介2021年1月15日~17日にかけてASCO-GI2021が行われた。例年、サンフランシスコで行われているシンポジウムであったが、今年は新型コロナウイルスの影響でvirtual開催となった。総論的にはPractice changingな発表はなかったものの、ASCO2020やESMO2020で発表された重要データのfollow upがなされ、evidenceがさらに補強されたように感じた。食道がん2020年は食道がんにとってpractice changingなデータが発表された年であった。1つはStage II/IIIに対する術前治療としてのCisplatin+5-FU (CF)+radiation、その後のadjuvantとしてのnivolumabの有効性を証明したCheckMate-577試験である。ASCO-GI 2021 においては、nivolumabによるadjuvantがQoLの低下を招かないことが示された(abstract#167)。Stage II/III食道がんに対する術前治療として欧米ではCF+radiationによる術前化学放射線治療が標準的であるのに対し、本邦においてはCFが標準治療である。しかし奏効率は40%と術前補助化学療法としては物足りない数字であり、すでに先鋭的な施設ではdocetaxelを加えた3剤療法であるDCFを、いわばcommunity standardとして用いている現状がある。Stage II/III食道がんに対する術前治療として果たしてDCFはCFよりも優れた治療なのか、またCF+radiationはどうなのか?という食道がんを診ている医療関係者が持つclinical questionに結論を出すべく行われてきたのが「JCOG 1109(NExT)試験」である。主要評価項目の解析は2023年に予定されているが、今回のASCO-GIでは安全性部分だけが先んじて報告された(abstract#162)。2012年12月~2018年7月に、601例が無作為化された(CF/DCF/CF-RT;199/202/200)。対象患者589例のうち、546例が手術を受けた(185/183/178)。CF-RTを受けた患者のリンパ節摘出数の中央値は、CFを受けた患者よりも有意に低く(49 vs.58、 p<0.0001)、DCFを受けた患者におけるgrade2の周術期合併症の発生率は、CFを受けた患者よりも低いという結果であった(44.8% vs.56.2%、p=0.036)。DCFおよびCF-RTを受けた患者の再手術および院内死亡の発生率はCFを受けた患者と差がなかったものの、CF-RTを受けた患者におけるグレード2の乳糜胸の発生率は、CFを受けた患者よりも高いという結果であった(5.1% vs.1.1%、p=0.032)。上述のようにstage II/III食道がんに対する術前治療として、本邦でstandardと言い切れないCF-RTを行ってnivolumabを投与するCheckMate-577をただちに日常診療に外挿すべきか、はたまたDCFを使用して良いものか、大変に混沌とした状況であり、JCOG1109試験で決着がつくことを期待したい。昨年発表されたもう一つの最重要な試験として、切除不能進行再発食道がんの1次治療としてFPに対するpembrolizumabの上乗せ効果を証明したKEYNOTE-590試験がある。今回のASCO-GIでCF+pembrolizumab群がCF群と比較して差がなかったというQoLデータが報告された(abstract#168)が、前述のabstract#167同様にpembrolizumabによる治療効果や毒性はQoLの違いには反映されなかったという結果であった。本邦における1日も早い1st lineでの承認が待たれる。現在2次治療として使用可能なnivolumabについてはATTRACTION-03試験(abstract#204)や前相試験であるATTRACTION-01試験(abstract#207)のそれぞれ3年、5年のfollow up dataが報告され、過去に報告された胃がん同様に奏効例で長期生存が得られることが示された。またATTRACTION-01試験における5年の無増悪生存割合が6.8%という驚くべき数字が報告され、いわゆるtail plateauが実証された形となった。このラインに対する注目される新たな治療開発としては2次治療におけるcamrelizumab(抗PD-1抗体)/apatinib(VEGFR-2を含むmulti kinase inhibitor)phase II試験を取り上げたい(abstract#215)。1次治療に不応となった食道扁平上皮がん46例に対して主要評価項目をORRとして治験治療が行われた。評価対象となった30例のORRは43.3%、median PFSは 4.07ヵ月(95%CI、3.75-NA)、3、6、9ヵ月時点での生存割合は82.2%、67.6%、61.5%であった。ICI+αが現在のトレンドであるが、1st lineからICIが使用可能な状況となる今後の開発の行方に注目が集まる。胃がん今年のASCO-GIの目玉の一つが、FGFR2bに対する抗体であるbemarituzumabの有効性を探索したphaseII試験(FIGHT)である(abstract#160)。学会前にすでにpositive resultとのプレスリリースがなされておりその結果に注目が集まっていた。FIGHT試験では、FGFR2b陽性の切除不能な局所進行性転移性胃もしくは胃食道接合部がん155例を、bemarituzumab+mFOLFOX6とplacebo+mFOLFOX6に無作為に割り付けた。主要評価項目はPFSであった。結果、bemarituzumab群はplacebo群と比較して、PFSを有意に延長することが示された(9.5ヵ月[ 95%CI:7.3~12.9] vs.7.4ヵ月[95% CI:5.8~8.4]、HR:0.68[95% CI:0.44~1.04、p=0.0727])。副次的評価項目であるORRは47% vs.37%であった。またOSについてはNR (95% CI:13.8~NR)vs. 12.9ヵ月(95% CI:9.1~15.0)であり、 p=0.0268、HR0.58 (95%CI:0.35-0.95)とbemarituzumab群で統計学的に有意に良好であったことは、過去の胃がんのphaseII試験を振り返ってみても特筆すべきである。またFGFR2bの免疫染色での強さ(IHC intensity)とbemarituzumabの治療効果が相関することも示された。注意すべき有害事象としては角膜障害と胃炎が報告された。以上のように期待の持てる結果であるが、ICIが1st lineの標準治療となる今後の開発をどうするか。さらには胃がんにおいてphaseIIで有望であった薬剤の多くがphaseIIIで成功できなかった過去がある。FGFR2bによる患者選択のassayとしてIHCが良さそうに見える結果ではあるが個人的には同じくligandを有する受容体型チロシンキナーゼであるMETに対する開発を思い出してしまう。今後の動向に注目したい。胃がんにとっても2020年は重要なデータ報告が相次いだ1年であった。特に1st lineからのICI使用を決定づけるCheckMate-648試験の結果は重要であり、胃がんに対するICI治療開発は多剤との併用にて加熱していくであろう。こういう状況下、nivolumab単剤での大規模なバイオマーカー探索を行ったJACCRO GC-08(DELIVER)試験の価値は日に日に大きくなっている。今回、本試験の目玉であるmicrobiomeに関するデータの一部が公表された(abstract#161)。training cohortおよびvalidation cohortにでは、それぞれ200例中188例、301例中257例で大規模なメタゲノム解析および臨床データが利用可能であった。nivolumab治療を行いnon-PDであった症例ではPDであった症例と比較して、より多様なmicrobiomeが観察された。今回の解析ではKEGG pathwayにて上皮細胞の細菌浸潤がnivolumabの臨床転帰(初回評価でのPD)と関連していることが示され(training cohort[p=0.057]、validation cohort[p=0.014])、探索的解析により、両コホートにおいて、OdoribacterおよびVeillonellaがNivoに対する腫瘍反応と関連していることが示された。本試験では血液検体の採取も行われており、胃がんに対するnivolumabのバイオマーカーが今後の解析でより詳細に解明されることが期待される。ICIの開発は化学療法との併用から、分子標的薬や他のICI製剤などへの併用へと興味が移っている。LEAP005試験はpembrolizumabとmulti-tyrosine kinase inhibitorであるlenvatinibとの併用を複数のがん種コホートで検討したphase II試験である。胃がんコホートでは少なくとも2種類の前治療歴を有する症例が適格であった。ORRを主要評価項目としてlenvatinib 20mg 1日1回投与とpembrolizumab 200mg Q3W投与を、最大35サイクル(約2年間)投与するスケジュールで行われた。31例が登録され1例のCRを含む奏効例は3例でありORRは10%(95%CI:2~26)でDCRは48%(95%CI:30~67)であった。PFS中央値は2.5ヵ月(95%CI:1.8~4.2)。OS中央値は5.9ヵ月(95%CI:2.6~8.7)であった。28例(90%)に治療関連AEが発生し、そのうち13例(42%)にグレード3~5のAEが発生した。このpembrolizumab-lenvatinibの併用はLEAP試験として胃がんを含めさまざまながん種で展開されていく予定である。今年のASCO-GI2021で最も個人的に物議を醸しているのがstage III胃がんに対する術後補助化学療法としてのdocetaxel+S-1(DS) vs.S-1を検証したJACCRO-GC07試験のupdate報告である(abstract#159)。本試験は中間解析にてdocetaxel+S-1がS-1に対する優越性が証明できたため有効中止となっていた(Yoshida K et al. J Clin Oncol. 2019;37:1296-1304.)。その結果、DSはstage III胃がんに対する標準治療と位置付けられている。今回は試験計画通り最終登録後3年経過した時点でのRFS(relapse free survival)の解析を行ったものである。Stage III全体での解析では3年RFSにおいてDS群の67.7%がS-1群の57.4%を有意に上回った(HR:0.715、95%CI:0.587~0.871、p=0.0008)。3y年OSにおいてもDS群が77.7%、S-1群が71.2%(HR:0.742、95%CI:0.596~0.925、p=0.0076)であった。興味深いのはここからである。Stage IIIA, IIIB, IIICの3年RFSでサブグループ解析を行ったところ、Stage IIIAおよびIIICは全体集団を反映し有意にDSが勝る結果であり無再発生存曲線も一貫して開いていたが、Stage IIIBではDS群とS-1群では3年時点のRFSでこそわずかにDSが高く見えるが(66.14% vs. 61.61%)、見た目の生存曲線がほぼ重なるという現象がみられ(HR:0.881、95%CI:0.629~1.234、p=0.46)、さらにOSでは逆転したかのように見える (3年RFS:73.09% vs.77.23%、HR:0.988、95%CI:0.68~1.434、p=0.95)。サブグループ解析であり、これがDSの優越性を否定するものではないが、現時点でこの現象に対する合理的な説明はなされておらず、さらなる研究が必要である。大腸がん抗VEGF抗体や抗EGFR抗体の登場により、飛躍的に生存期間が延長した大腸がんであるが、これら薬剤の登場から10年が経過し、大きく治療体系が変わるほどの治療法の登場はないものの後方ラインの充実によって少しずつ生存期間を伸ばしてきた。こうした中、2020年大腸がんで発表されたpractice changingなデータといえばKEYNOTE-177であろう(Andre T, et al. N Engl J Med. 2020;383:2207-2218.)。未治療のMSI-H大腸がんに対するpembrolizumabが標準的な化学療法よりも有意にPFSを延長しQoLを維持することが報告され、本邦でも承認を待っている状況である。今年のASCOでは追加解析としてPFS2(無作為化から次の治療ラインでの進行または死因のいずれかに該当するまでの時間)のデータが報告された(abstract#6)。32.4ヵ月(24.0~48.3ヵ月)の追跡期間にてPFS2はpembrolizumabのほうが長い傾向にあることが示された(中央値未到達 vs.23.5ヵ月[HR 0.63;95%CI:0.45~0.88])。本試験は化学療法群のIIT症例のうち59%が後治療としてICIを受けている(crossover)が、ICIを1st lineで使用することの意義が改めて示された。MSI-Hに対するICI治療として注目されるのが、nivolumabと抗CTLA-4抗体ipilimumabの併用療法である。非ランダム化マルチコホートphaseII試験であるCheckMate142の1st line cohortにおいて、nivolumab(3mg/kg)Q2W+low dose ipilimumab(1mg/kg)Q6Wというスケジュールでの高い治療効果(ORR 69%、24ヵ月PFS 74%、24ヵ月OS 79%)が報告されてきた。今回そのupdateとしてさまざまなサブグループでの治療成績が報告された(abstract#58)。KEYNOTE-177試験のサブグループ解析においてpembrolizumabはKRAS mutation、PS-1を苦手とする結果であったが、nivolumab+low dose ipilimumabではそのような傾向は見られなかった。どういった対象で最もこの併用療法のbenefitがあるのかが明らかになれば、今後のICI単剤もしくは併用の使い分けにおいて重要である。胃がんの項でも触れたLEAP005試験の大腸がんコホートのデータも報告された(abstract#94)。2次治療に不応となったMSS大腸がん32例がpembrolizumab-lenvatinibによる治療を受けた(年齢中央値56歳[範囲36~77歳]、男性81%、3L 91%)。初回投与からデータカットオフ(2020年4月10日)までの追跡中央値は10.6ヵ月(範囲5.9~13.1)。主要評価項目であるORRは22%(95%CI:9~40)、DCRは47%(95%CI:29~65)であった。中央値で見るとPFS、OSは2.3ヵ月(95%CI:2.0~5.2)、7.5ヵ月(95%CI:3.9~NR)であったがDuration of responseは中央値未到達であり、いったん奏効すればその効果は長期持続する傾向がうかがえた。これまであまり有望なICI治療がなかったMSS大腸がんであるが、すでにICIが承認されているLEAP005胃がんコホートと比較しても期待の持てるデータに思えた。以上、数ある今年の発表の中から、小生の独断と偏見で選んだ注目演題をレポートした。2020年ASCOやESMOでも感じたが、virtual meetingは日本にいながらにしてon timeで情報が得られるメリットがある一方で、日常診療と並行して参加しなければならないというデメリットがある。こうしたvirtual meetingがnew normalなのかもしれないが、旧人類的な小生は従来のように海外に長期出張して参加するという、日常とは空間的、時間的に隔離された条件で新しい情報に没頭するという環境を懐かしく思うし、そもそも学会とはそういうものであるべきだと考えている。ワクチン摂取によって集団免疫が獲得され、コロナが収束し、皆さんとrealにお会いして自由にdiscussionできるようになる日が1日でも早く来ることを願ってやまない。それまで元気でいましょうね!

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第44回 新型コロナ治療薬アビガンの承認に立ちはだかる日本特有のバイアス

新型コロナウイルス感染症に対する最初のワクチン承認は2月12日に厚生労働省の薬事・食品衛生審議会(薬食審)医薬品第二部会で審議されることが決まり、ここでの承認は確実とみられている。ところが同じ厚労省薬食審医薬品第二部会は昨年12月21日の審議で富士フイルム富山化学が有する抗インフルエンザ薬ファビピラビル(商品名:アビガン)の新型コロナに対する適応拡大について承認を見送った。実はこの一件、今でもネットでは話題となっており、一部には「富士フイルム富山化学が厚労省の天下りを受け入れないから、嫌がらせをされた」などという見当違いな陰謀論まで展開されている。また、そこまでひどくはないものの、中には医療従事者が必ずしも科学的とは言えない見地から、今回の承認先送りを批判しているケースも見受けられる。承認先送りにはなんの矛盾もないそもそもアビガンの適応拡大に関する承認先送りに関しては、厚労省から記者向けに「薬食審で単盲検試験という設定が結果に与えた影響について議論され、現時点で得られたデータから有効性を明確に判断することは困難との結論になった」旨が説明されている。加えて承認不可ではなく、富士フイルム側が中国、ロシア以外での製造販売ライセンスを供与しているインドの製薬大手ドクター・レディーズ・ラボラトリーズがアメリカやクウェートで実施しているプラセボ対照の二重盲検試験の結果を待って判断する方針を示している。ただ、この直後に富士フイルム側が単盲検試験という設定について、一部の報道機関の取材に「審査機関に提示して合意を得たもの」とコメントしたことが、「お役所の手続きに従ったのになぜ?」というあらぬ憶測を呼んだとみられる。ちなみにここで言う審査機関とは、製薬企業が新薬の製造承認を申請した際に提出したデータの1次的審査をする厚労省所管の独立行政法人「医薬品医療機器総合機構(PMDA)」のことである。PMDAは製薬企業が新薬候補の動物実験やヒトでの臨床試験を行う際の法令への適合や科学的妥当性などを助言する事前相談業務も行っているのは周知のこと。今回のような緊急性の高い医薬品では、製薬企業はほぼ確実にPMDAに事前相談するはずであり、富士フイルム側の「合意を得たもの」というコメントも事前相談でのことを指すと思われる。ただ、これまで分かっている断片的な情報から判断したとしても、事前相談でPMDAが単盲検試験での臨床試験実施に同意していたことと、今回の承認先送りは何ら矛盾しない。まず、事前相談に当たって富士フイルム側は国内外も含めた臨床試験計画の全貌、つまり国内で単盲検試験、アメリカ、クウェートで二重盲検試験を実施することはPMDAに説明していたはずである。そう考えると、国内の単盲検試験はあくまで海外で二重盲検試験を行うという「保険」がついてのPMDAの「同意」であったことは想像に難くない。そもそも多くの医療従事者がご存じのように、歴史的に日本は新薬候補の臨床試験環境が良好とは言えない。たとえば、アメリカは医療保険が民間保険中心で一部には無保険者もいるため、臨床試験参加で治療機会を得ようとする人もいる。この結果、臨床試験実施の最大の難関である患者確保が従来から比較的容易である。しかし、国民皆保険制度の中で、有病者は安価に最善の治療を行われるのが当たり前の日本では、従来から実質無治療のプラセボ投与の可能性がある二重盲検試験は容易に実行できなかったのが実状だ。そして今回の新型コロナは致死率2%とはいえ死ぬ感染症。昨年来、タレントの志村 けんさんや岡江 久美子さんがこの感染症で命を落としたニュースに多くの人が接している。臨床試験環境が良くないベースの上に、死ぬかもしれない感染症という明確なイメージが流布されている中で、無治療に当たってしまうかもしれないプラセボ対照の二重盲検試験では感染者は参加をかなり尻込みしてしまうはずである。一方で中等症から数時間で一気に重症化することがある新型コロナの特性を考えると、二重盲検試験では医師もが試験参加に躊躇する可能性もある。これは臨床試験参加中の患者で急速な重症化が起きた場合、医師は最短で最適な対処法を模索しなければならず、急変する患者を目の前に関係各方面に連絡を取り、対象患者の試験脱落とキーブレイクを要請する手間暇が必要になるからだ。さらに生活習慣病などと違って、いつどこで患者が発生するかわからない感染症では、臨床試験の実施そのもののハードルがもともと高い。さらに世界的に見ると感染者が少ないという日本の現状は公衆衛生上好ましいことだが、この感染症に対する臨床試験環境としては好ましくないという皮肉な現実もある。いずれにせよ緊急性も踏まえ、日本で円滑な臨床試験を実施するためには単盲検試験という設定は致し方なかったと考えるのが順当だ。こうしたことなどを考えると、富士フイルム富山化学もPMDAも日本国内では単盲検試験という、とりあえず走り出しやすいスキームで先行し、そこで極めて良好な結果が得られた場合はその段階で、そうでなかった場合は二重盲検試験の結果を待って薬食審が適切に判断してくれるだろうという腹積もりがあったと思われる。臨床試験での気になるバイアスさてそこで行われた臨床試験だが、新型コロナウイルスのPCR検査で陽性となり、重篤ではないが胸部画像での肺病変(いわゆる肺炎)や37.5℃以上の発熱がある20~74歳までの入院患者156人が対象となった。患者全員に標準的な肺炎治療を行いながら2群に分け、一方にアビガン、もう一方にプラセボをそれぞれ追加投与した。主要評価項目は「症状(体温、酸素飽和度、胸部画像所見)の軽快かつPCR検査で陰性化するまでの期間」、副次評価項目は「有害事象」と「7段階スケールによる患者状態推移」である。主要評価項目はより具体的には▽体温の改善(37.4℃以下)▽酸素飽和度の改善(96%以上)▽胸部画像所見が最悪の状態から改善、の3条件が満たされた症例で1回目のPCR検査を実施し、そこからさらに48時間後に2回目のPCR検査を実施して2回とも陰性だった患者だけを選び出し、アビガンあるいはプラセボの投与開始から1回目のPCR検査陰性までの期間を比較するというものだ。この結果は論文では公表されていないが、富士フイルム側が公表したプレスリリースでは主要評価項目はアビガン投与群で11.9日、プラセボ投与群では14.7日となり、調整後ハザード比(HR)は1.593 (95%信頼区間[CI]:1.024~2.479、p=0.0136) となり、アビガン投与群で有意に症状を改善する可能性が示された。きわめておおざっぱな言い方をすれば、アビガン群で症状改善までの期間が3日弱短縮したわけだが、単盲検試験である前提で気になるのがPCR検査前の3条件のうちの「胸部画像所見判定」である。論文未発表のため画像判定の際、画像診断の評価を主目的とする臨床試験のように評価者2人以上での判定を突き合わせているかは定かではない。ただ、この感染症に対する労力、緊急性、医療現場のマンパワーの現状などを考えると、シンプルな主治医判定になっている可能性が十分考えられる。となると、わずか3日弱の差にこの「バイアス」が含まれているという非常に微妙な結果になる。この結果を前提に、催奇形性という重大な副作用の可能性が指摘されていることも加味すると、薬食審の委員が承認に慎重になってしまうのは不自然ではなく、むしろ当然とさえいえるだろう。承認を海外試験に託して良いものかそして薬食審で承認先送りにした際に結果を待つとされていた二重盲検試験のうち、クウェートでの試験結果の一部を1月27日、ドクター・レディーズ・ラボラトリーズがニュースリリースで公表している。試験は中等症から重症で入院中の新型コロナ患者353人を対象に症状改善までの時間を評価したが、アビガンを投与されたグループとプラセボを投与されたグループでは統計学的有意差が認められなかったとのこと。ただ、参加患者をよりリスクの低い(おそらく中等症)患者181人のみに絞って解析すると、アビガンを投与されたグループではプラセボを投与されたグループに比べて退院までの期間が3日短縮したという。もっとも一般的にエンドポイントの設定で「退院」はバイアスが入る余地があるソフトエンドポイントに分類されるため、これまた何とも微妙な結果となっている。残るはアメリカでの二重盲検試験だが、同試験が軽症から中等症者を対象に症状改善や入院・ICU入りリスクの軽減を評価する目的で行っているというと聞くと、正直ややため息が出てしまう。何でもかんでも難癖をつけるつもりはないのだが、新型コロナの軽症者はほぼ無治療でも回復するのが常識と言われている中で、この設定が妥当と言えるのか、そしてはたまたこの設定で劇的な効果は示せるのか、との疑念がわいてくる。いずれにせよ、何とも悩ましい「メード・イン・ジャパン・メディスン」なのである。

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医師の8割が新型コロナワクチンを希望、その本音は?/医師1,000人に聞きました

 新型コロナウイルスのワクチン接種が世界中で始まり、接種者は1億人を突破した。2月下旬より医療者を対象に接種が始まる日本でも、さまざまな新型コロナワクチンに関する情報が次々と飛び込んできており、そんななかで医師のワクチンに対する心境に変化はあるのだろうかー。 今回、医師の接種希望に関する心境の変化やその理由を探るため、昨年10月に会員医師へ行った新型コロナワクチン接種に関するアンケートの回答者1,027人に対し、2回目のアンケートを実施した[1月27日(木)~2月3日(水)]。980人から回答を得た結果より、医師のワクチン接種希望者は1回目のアンケートでは61.2%だったのが、2回目では82%に増加したことが明らかになった。 本アンケートでは30代以上の医師(勤務医、開業医問わず)を対象とし、新型コロナワクチン接種希望の有無や現状での懸念点などについて調査。集計結果を年代や病床数、診療科で比較した。また、今回のアンケートでは新型コロナ患者の対応有無で接種希望に違いがあるのかも比較するため、Q1では新型コロナ患者の対応状況を確認した。ワクチン接種希望の本音と建前 ワクチン接種の希望について質問(「Q2:ワクチンを接種したいとお考えですか?」)したところ、82%(799人)の医師が「はい」と回答。10月時点のアンケートと比較して、各年齢や各診療科で希望者が増加していた。とくに糖尿病・代謝・内分泌内科(46%→75%)、救急科(36%→79%)、脳神経外科(44%→81%)での伸びが顕著であり、主な理由として「接種に伴う問題が少しずつ明らかになってきた(50代、救急科)」「若干の有害事象はあるが大きな問題でないこと(50代、糖尿病・代謝・内分泌内科)」「ワクチンの効果が見え始めているので接種しようと考えを改めた(50代、脳神経外科)」など、安全性に関する情報が入手できるようになってきた影響が大きいようだ。一方で、「医療従事者が接種しなければ誰も接種しないと思う(30代、内科)」「医療従事者は仕方ない(60代、脳神経外科)」など、職務上やむを得ないというコメントもみられた。新型コロナ患者の対応有無で接種希望に差 さらに、新型コロナ対応医師(510人)の接種希望者が86%(440人)であったのに対し、未対応医師(470人)では76%(359人)と、対応状況によって接種意向に10%の差がみられた。 このほか、アンケート結果ではワクチンを希望しない医師に対し「どのような状況になったら接種したいか」を、10月と比べて心境に変化のあった医師に対し「その理由はなにか」を尋ね、回答を得た。アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。「新型コロナワクチン接種に対する1月時点の意向をお聞かせください」

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新型コロナ感染症に対する回復期血漿療法は有効か?(解説:山口佳寿博氏)-1353

 新型コロナに対する治療の一環として自然感染から回復した患者血漿を投与する療法が試みられている。これと同様の治療法はS蛋白の種々なる領域に対するMonoclonal抗体治療である(本誌論評-1326参照)。しかしながら、Monoclonal抗体製剤は高価であり世界のすべての地域で簡単に施行できる方法ではなく、費用対効果の面から安価な回復期血漿療法(一種のPolyclonal抗体療法)が多くの国で試みられている。 患者の回復期に得られた血漿を新たな患者に輸血する方法はエボラ出血熱、SARS、MERS、鳥インフルエンザなど種々の感染症において施行されてきた。新型コロナにあっても、ニューヨーク州Andrew Cuomo知事は回復期血漿を新たな感染者に投与することを表明した(2020年3月24日)。これを受け、米国FDAは回復期血漿の緊急使用を承認した。米国における動向を受け本邦の厚生労働省も回復期血漿投与を保険適用外治療として承認した。 非盲検化観察研究では回復期血漿投与を有効とする報告が多いが(Shen C, et al. JAMA. 2020;323:1582-1589.、Liu STH, et al. Nat Med. 2020;26:1708-1713. )、RCTによる検討結果は本法の臨床的効果を必ずしも肯定するものではなかった。インド39施設におけるRCT(PLACID trial、中等症の患者が対象、対照群:229人、血漿投与群:235人、輸血:ランダム化時と24時間後の2回に分けて200mLずつ投与)では、輸血後7日以内のウイルス陰性化率は血漿投与群で有意に高く臨床所見も改善することが示された(Agarwal A, et al. BMJ 2020;371:m3939.)。しかしながら、経過観察中の中和抗体価、種々の炎症マーカー(LDH、CRP、D-dimer、Ferritin)、28日以内の重症化率、死亡率は両群間で有意差を認めず、回復期血漿投与の臨床的効果は非常に限られたものであることが示唆された。アルゼンチンの12施設で施行されたRCT(PlasmAr trial、肺炎を認めた中等症患者が対象、対照群:105人、血漿投与群:228人、輸血:IgG抗体価が800倍以上のものを500mL、症状発現後8日以内)では、血中のウイルスに対するIgG抗体価は輸血後2日目において血漿投与群で有意に高値であったものの、それ以降では対照群との間で有意差を認めなかった(Simonovich VA, et al. N Engl J Med. 2020 Nov 24. [Epub ahead of print])。輸血30日後の臨床所見、死亡率は両群で差がなく、血漿投与の臨床的に意義ある効果は確認されなかった。一方、PlasmAr trialと同様にアルゼンチンで施行された入院高齢者を対象とした別のRCT(75歳以上、あるいは、65~74歳で危険因子としての併存症を少なくとも1つ有する高齢者を対象、対照群:80人、血漿投与群:80人、輸血:症状発現より3日以内)では、回復期血漿投与が呼吸不全への進展(SpO2:93%以下 or RR:30/min以上)を阻止したと報告された。しかしながら、Life-threating state(ARDS、MOF、死亡など)への進行は、対照群と血漿投与群で有意差を認めなかった。以上のように、回復期血漿治療を有効とも無効ともいえない状況が続いていたが、各試験における解析対象者数が少なかったことが回復期血漿治療に関する是非の判断を困難にした要因の一つであった。 以上の問題を解決するため、2021年1月13日、米国Mayo Clinic主導で施行された多数例(PCR確定、18歳以上の入院患者3,082人)を対象とした観察研究の結果が報告された(Joyner MJ, et al. N Engl J Med. 2021 Jan 13. [Epub ahead of print])。この観察研究では、S蛋白に対する特異的IgG抗体価がウイルスに対する中和抗体価と比例するものと仮定し、輸血したIgG抗体価をもとにLow titer群(n=561)、Middle titer群(n=2,006)、High titer群(n=515)の3群に分類してS蛋白を標的としたPolyclonal IgG抗体の効果が解析された。重要な知見として、輸血後30日以内の死亡率は、Low titer群に比べHigh titer群で有意に低く、その効果は機械呼吸を導入されていなかった比較的重症度の低い症例で顕著であったことが示された。さらに、早期に輸血した対象(診断後3日以内)の生命予後は、遅く輸血した対象(診断後4日以上)に比べて有意によかった。Mayo Clinicの治験結果は、回復期血漿治療はできる限り早く感染初期の比較的軽症の時点で導入すべきもので、かつ、S蛋白に対するIgG抗体価が高い血漿を輸血すべきであることを示唆している。Mayo Clinicの試験結果は、回復期血漿治療の本質が生体内ウイルス量の制御であることを考えると十分に納得いくものであり、回復期血漿治療の臨床的有効性を確実に示したものと評価できる。 回復期血漿治療において今後注意しなければならない問題は、ウイルスの変貌(遺伝子変異)である。武漢原株に始まり、2020年春から秋ごろまではD614G変異株(S蛋白の614部位のアミノ酸がアスパラギン酸[D]からグリシン[G]に置換)が世界に流布するウイルスの主体を占めていた。それ故、現状の回復期血漿はD614G変異株のS蛋白に対するPolyclonal抗体を保有する血漿だと考えなければならない。2020年12月以降、英国、南アフリカ、ブラジルにおいてD614G株からさらに変異したN501Y変異株(S蛋白の501部位がアスパラギン[N]からチロシン[Y]に変異)が世界の多くの地域で検出されるようになった(Kirby T. Lancet Respir Med. 2021;9:e20-e21.)。N501Y株に関する正式名称は、英国株:B.1.1.7、南アフリカ株:B.1.351、ブラジル株:P.1である。これら3種類のN501Y変異株は互いに独立したウイルスであり、各地域でD614G株から独自に進化を遂げたものである。これら3種類のN501Y変異株にあって、南アフリカ株、ブラジル株のS蛋白における変異は相同性が高く、“免疫回避変異”を有することが判明している(Ho D, et al. Res Sq. 2021 Jan 29. [Epub ahead of print])。すなわち、南アフリカ株、ブラジル株に対しては、D614G株に罹患した人から集積した回復期血漿のウイルス予防効果が低く、今後は、流行しているウイルス株に対応した血漿を集積していく必要がある。この点は、種々のMonoclonal抗体製剤、現行のワクチンに関しても同様に成立する内容であり、ウイルス制御を目的とする各治療分野にあって新たな変異株を標的とした治療法の確立を目指す必要がある。 2020年の夏、オランダ、デンマークのミンク農場で人からミンクへの感染、ミンクから人への逆感染が発生した(214例)。コロナはほぼすべての哺乳動物に感染し(Lam SD, et al. Sci Rep. 2020;10:16471.)、他の哺乳動物から人へ逆感染する場合には予測できない遺伝子変異を有している可能性がある。それ故、人類の中でのウイルス変異に加え他の哺乳動物内での変異についても細心の注意を払う必要があることを付け加えておきたい。

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第44回 新型コロナ専門家コメンテーターに疑念残る「製薬マネー」

新型コロナウイルス感染症に関するコメンテーターとして、毎日のようにテレビで見る医療者達。お茶の間ではすでに顔なじみの人物もいるだろう。新型コロナの治療薬やワクチンが話題になる中、その発言は製薬企業の利害得失にも影響を及ぼすはず。両者の関係は実際どうなのだろうか。病院勤務医や東北大学の医学生らが、製薬企業から医療者が受け取った謝金、いわゆる「製薬マネー」を調査したところ、出演番組数ベスト10の新型コロナ関連専門家で、新型コロナ関連の治療薬・ワクチンを開発・販売している製薬企業から受け取っていた謝礼金の合計金額は約2,450万円に上ることがわかった。調査チームはこのほど、日本製薬工業協会(製薬協)に加盟する製薬会社73社による公開データを集計・解析した。2020年上半期にテレビ出演回数上位10位であった専門家11人中(同率10位2人)7人に対し、2017年度に製薬企業から支払われた謝礼金は総額3,557万円であった。新型コロナ関連の治療薬・ワクチンを開発・販売している製薬企業から、これらの専門家に支払われた製薬マネーは、1社当たり平均で223万円。一方、開発・販売していない製薬企業から支払われた製薬マネーは、1社当たり平均139万円だった。11人の専門家のうち、54.5%(11人中6人)が医師として診療を行っており、91%は男性で、新型コロナウイルスに関して学術論文を発表していたのは、わずか1人であった。調査チームは、今回の結果について「テレビ出演の多い専門家の発言が、治療薬やワクチンなどに関してエビデンスに基づく発言であるか、また新型コロナ感染症に立ち向かう現場の声を反映しているかについて疑問が残った」と述べている。現場の医療人が感染の危機と差別にさらされながら、日々新型コロナと戦っているだけに、彼らにはいま一度、医療人として疑念をもたれない身の処し方を求めたい。参考1)Murayama A, et al. Clin Microbiol Infect. 2020 Dec 11. [Epub ahead of print]

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中国製COVID-19ワクチン、アジュバント併用で免疫反応増大/Lancet

 中国のバイオテクノロジー企業Clover Biopharmaceuticalsが開発中の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン「SCB-2019」について、免疫増強剤(AS03またはCpG/Alum)の配合投与(アジュバントワクチン)により、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対する強力な液性免疫および細胞性免疫が認められ、高い中和抗体価も得られたことが示された。西オーストラリア大学のPeter Richmond氏らによる第I相無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果で、著者は、「いずれのアジュバントワクチンとも忍容性は良好であり、さらなる臨床開発に適する」と述べている。SARS-CoV-2ワクチンの開発加速の一手段として、アジュバントワクチンの検討が進められている。著者らは、2つの異なるアジュバントを組み合わせたスパイクタンパク質安定化三量体(S-Trimer)を含有する、タンパク質サブユニットワクチン候補SCB-2019の用量設定とアジュバントの正当性を検証した。Lancet誌オンライン版2021年1月29日号掲載の報告。18~54歳、55~75歳に21日間隔で2回投与 試験はオーストラリアの臨床試験センター1施設を通じ、18~54歳(若年成人)、55~75歳(高齢者)の健康成人ボランティアを登録し、SCB-2019について試験を行った。被験者は、研究資金提供者(Clover Biopharmaceuticalsと感染症流行対策イノベーション連合[CEPI])が作成したリストを使用して、ワクチン群またはプラセボ群に無作為に割り付けられ、SCB-2019(3μg、9μg、30μgのいずれか)またはプラセボ(0.9%塩化ナトリウム)の投与を21日間隔で2回受けた。 SCB-2019群については、アジュバントなし(S-Trimerタンパク質単独)またはアジュバントあり(AS03またはCpG/Alum)の3通りで接種した。接種は、割り付けマスキングを維持するため、不透明な注射器を用いて行われた。 各ワクチン投与後7日間、反応性を評価。液性免疫反応はSCB-2019結合IgG抗体とACE2競合阻害IgG抗体をELISA法で測定し、中和抗体は野生株SARS-CoV-2マイクロ中和試験法で測定した。さまざまなSタンパク質ペプチドに対する細胞反応については、フローサイトメトリー細胞内サイトカイン染色法で測定した。SCB-2019+免疫増強剤で、年齢問わず免疫反応 2020年6月19日~9月23日に、151人の健康成人ボランティアが登録された。試験を中止したのは3人(個人的理由2人、治療とは無関係の重篤有害事象[下垂体腺腫]1人)。2回接種後4週間以上追跡を受けた148人が本解析に包含された(データベースロック2020年10月23日)。 ワクチン接種の忍容性は良好で、非自発的に報告されたGrade3の有害事象は2件報告された(9μg AS03アジュバント群と9μg CpG/Alumアジュバント群での疼痛)。ほとんどの局所有害事象は注射部位の軽度の痛みで、局所イベントはSCB-2019+AS03群(44~69%)が、SCB-2019+CpG/Alum群(6~44%)またはSCB-2019単独群(3~13%)よりも発生頻度が高かった。全身性有害事象の発現頻度は、初回接種後では若年成人(38%)が高齢者(17%)に比べ高かったが、2回接種後にはそれぞれ34%と30%で、同レベルに高かった。 SCB-2019+アジュバント群では、若年成人、高齢者ともに結合IgG抗体および中和抗体の高い力価とセロコンバージョン率が得られた。36日時点の抗SCB-2019・IgG幾何平均抗体価(GMT)は、SCB-2019+AS03群1,567~4,452、SCB-2019+CpG/Alum群174~2,440だった。一方で、アジュバントなしのSCB-2019単独群では、免疫反応性の誘発は最小限で、50日目までにセロコンバージョンが認められた被験者は3人のみだった。 SCB-2019+AS03の全用量群と、SCB-2019+CpG/Alum 30μg群の力価は、COVID-19患者からの回復期血清サンプルよりも高かった。また、いずれのアジュバントSCB-2019においても、Tヘルパー1バイアスCD4+ T細胞反応性が誘発された。

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副反応は大丈夫?新型コロナワクチンの疑問に答えるLINEボット

 国内でも新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が月内にもはじまる見込みだが、新しいワクチンであることから副反応等を理由に、接種をためらう人も多い。 こうした状況を憂慮した医師を中心に、ワクチンに関するよくある質問に答えるLINEのチャットボットを利用した情報提供がはじまった。 この「コロワくんの相談室」はLINEに友達追加することで、無料で利用できる。 ・ワクチンの接種方法 ・ワクチンの効果 ・ワクチンの仕組み ・ワクチンの副反応という画面のメニューから、自分の知りたい内容を選んでいくと、ボットが事前に用意された回答を提示する。回答の下には関連する厚生労働省サイトや、回答の根拠となる論文誌へのリンクもつけられており、医療従事者が患者に説明する際にも利便性が高そうだ。 このボットは、米国マウントサイナイ医科大学に勤務する内科医、山田 悠史氏の発案でつくられたもの。氏は米国でいち早くワクチンを接種し、自身のSNSを使って日本人向けにワクチンに関する情報を提供してきた。しかし、多くの情報を発信しても質問が絶えず、誤った情報も多く出回っている状況を改善したいとボット開設を思い立ち、日本の医師やエンジニアの協力を得て、発案からわずか2週間で完成させたという。 ワクチン接種が進む米国でも、ワクチンに関する相談窓口となるコールセンターができたものの、多くの問い合わせからパンク状態が続き、副反応を疑った患者が医療機関に押し寄せるなど、混乱が続いているという。山田氏は「医師が発信する正しい情報を多くの人に届けることで日本のワクチン接種が進み、医療現場の負担軽減につながれば」とする。 現在は賛同・協力するメンバーが運営費用を負担している状況で、ボットのリリースとあわせ、クラウドファンディングを使った資金調達も行っている。〈医師サポーター〉代表:山田 悠史(マウントサイナイ医科大学 老年医学・緩和医療科)副代表:高橋 宏瑞(順天堂大学医学部 総合診療科)内科一般担当:原田 洸(岡山大学病院 総合内科・総合診療科)感染症担当:小林 孝照(アイオワ大学 感染症科)呼吸器担当:田中 希宇人(川崎市立川崎病院 呼吸器内科)小児・アレルギー担当:堀向 健太(東京慈恵会医科大学葛飾医療センター 小児科)公衆衛生担当:仁科 有加(OECD 雇用労働社会政策局 医療課)免疫学担当:石原 純(インペリアルカレッジロンドン バイオエンジニアリング専攻 講師/免疫創薬研究室主宰)産婦人科担当:稲葉 可奈子(関東中央病院 産婦人科)監修:紙谷 聡(エモリー大学 小児感染症科/米国立アレルギー感染症研究所主導 ワクチン治療評価部門)<技術開発サポーター>金子 穂積(Sun Asterisk CTOs’)坂元 麻貴子(xenodata lab. CDO)大山 晋輔(Spir CEO)◆LINEボットの利用・クラウドファンディングへの参加は下記より◆https://corowakun-supporters.studio.site/#project

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遺伝子ワクチンの単回接種は新型コロナ・パンデミックの克服に有効か?(解説:山口佳寿博氏)-1352

 現在、新型コロナに対する世界のワクチン争奪戦は熾烈を極め、ワクチンが世界全域に満遍なく配布されるかどうかは微妙な問題である。本邦にあってもPfizer社、Moderna社、AstraZeneca社と総計3.14億回分(2回接種として1億5,700万人分で全国民に行き渡る量)のワクチンが契約されているが、各製薬メーカーのワクチン生産能力には限界があり、契約されている全量が滞りなく納入されるという保証はない。それ故、世界全体で新型コロナのパンデミックを乗り切るためにはワクチンの2回接種ではなく1回接種を考慮する必要がある。少なくとも、2回目のワクチン接種を各ワクチンの第3相試験で推奨された時期(Pfizer社のBNT162b2:1回目接種より21日後、Moderna社のmRNA-1273:28日後、AstraZeneca社のChAdOx1:28日後)よりも遅らせて接種することを考える必要がある(cf. 米国CDC 1/21, 2021)。 1回接種に適したワクチンは、アデノウイルス(Ad)のDNA鎖にコロナのS蛋白に関する塩基配列情報を封入し宿主細胞に導入する遺伝子ワクチンである(Ad-vectored vaccine)。以下にその理由を述べる。Adをベクターとしたワクチンを生体に接種すると、生体はAdを異物として認識、それに対する特異抗体を産生する。この抗体産生はAdの種類によらず発現する。その結果、ブースター効果を意図して投与される2回目のワクチン接種時には遺伝子情報を封入したAdが1回目のワクチン投与時に形成された特異抗体の攻撃を受け、その一部は破壊される。そのため、Adをベクターとするワクチンでは2回目のワクチン接種時、遺伝子情報封入Adの一部しか宿主に導入されずブースター効果が不十分で液性/細胞性免疫賦活化が阻害される(Ramasamy MN, et al. Lancet. 2021; 396: 1978.)。それ故、Adをベクターする遺伝子ワクチンは2回目のワクチン接種の意義が薄く、単回接種を基本とするワクチンだと定義すべきだと論評者は考えている。 この原則に則って第II相試験が施行されたのがCanSinoBIO社のヒトAd5型をベクターとするAd5-nCoVであり、ワクチン単回接種1ヵ月後には有意な液性/細胞性免疫が惹起されることが報告された(Zhu FC, et al. Lancet. 2020; 396: 479-488)。同様に、Johnson & Johnson社のヒトAd26型をベクターとするAd26.COV2.Sも単回投与を意識して開発が進められてきた(Sadoff J, et al. N Engl J Med. 2021 Jan 13. [Epub ahead of print])。2021年1月29日、Johnson & Johnson社はAd26.COV2.Sの単回接種に関する第III相試験(ENSEMBLE study)の結果をPress Releaseで公表し、本ワクチンの単回接種1ヵ月後の感染予防有効性は全対象で66%、重症化阻止率は85%に達すると報告した(PRNewswire 1/29, 2021)。Ad26.COV2.Sの第III相試験は、米国、中南米、南アフリカを対象地域として施行されたが(n=43,783)、米国における感染予防有効性が72%であったのに対し、南アフリカでのそれは57%と低値であった。南アフリカでの有効性が低かった理由は、治験が施行された時期の南アフリカでは“免疫回避変異”を有するN501Y(S蛋白の501部位のアミノ酸がN[アスパラギン]からY[チロシン]に置換)変異株の1つである南アフリカ株が流布していたウイルスの95%を占めていたためである(Tegally et al. medRxiv. December 22, 2020. [Epub ahead of print])。にもかかわらず、Ad26.COV2.Sの単回接種後の感染予防有効性は中国Sinovac Biotech社の不活化ワクチン(CoronaVac)の2回接種後の感染予防有効性(50.4%)を凌駕し(The New York Times 2/2, 2021)、かつ、WHOのワクチン有効性に関する最低ラインを満足するものであった。 ENSEMBLE studyによって得られた重要な知見は、Ad26.COV2.Sが免疫回避変異を有する南アフリカ株に対しても臨床的に有用な感染予防効果を示したことである。南アフリカ株は、自然感染後の液性免疫、Monoclonal抗体製剤、ワクチンによる液性免疫効果を減弱させる免疫回避変異を発現しており、このウイルスが世界を席巻するようになると現在開発されているすべてのワクチンの抜本的見直しが必要になる可能性がある。しかしながら、その変異株に対して、Ad26.COV2.Sが低いながらも有効域の感染予防効果を示したことは人類にとって大きな福音である。以上の治験結果をもとに、Johnson & Johnson社は、2021年2月4日、Ad26.COV2.Sの単回接種に関する緊急使用許可を米国FDAに申請した(The New York Times 2/6, 2021)。残念なことに、Adをベクターする先行遺伝子ワクチンであるAstraZeneca社のChAdOx1における単回接種の効果は報告されていない。 基本的には2回接種を原則とするRNAワクチンにおいても単回接種における感染予防有効性が報告されている。Pfizer社のBNT162b2の1回接種後の感染予防有効性は52%(Polack FP, et al. N Engl J Med. 2020; 383: 2603-2615.)、Moderna社のmRNA-1273のそれは50.8%(FDA Briefing Document 12/17, 2020)と報告された。以上のように、少なくとも3種類の遺伝子ワクチン(Ad26.COV2.S、BNT162b2、mRNA-1273)は1回接種でWHOの基準を上回る感染予防効果を発揮することが判明したので、世界的にワクチン量が不足している現在、2回接種ではなく緊急避難的に1回接種を奨励すべきだと論評者は考えている。しかしながら、問題点は、単回接種による生体の液性/細胞性免疫の賦活がどの程度の期間維持されるかの見極めである。Ad26.COV2.Sでは少なくとも単回ワクチン接種後2.5ヵ月目まではウイルスに対する中和抗体形成の中心的役割を担うS蛋白特異的IgG抗体が安定して高値を維持することが判明している(Sadoff J, et al. N Engl J Med. 2021 Jan 13. [Epub ahead of print])。Sadoffらによって報告された図を見る限りもっと長期にIgG抗体価は維持されるように見えるが、確実な経過観察のデータ集積が必要である。

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第46回 COVID-19ワクチンをほとんどが接種済みのイスラエル、高齢者の感染がおよそ半減

【修正のお知らせ:文献2)を見直して一部表現を修正しました。ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません。文献2)は当初GitHubで公開されており、記事作成後の2月9日にMedRxivに掲載されました。】新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染(COVID-19)予防ワクチン普及が進むイスラエルでその普及のおかげとみられる高齢者全般の感染減少が認められています1)。イスラエルでは去年12月20日からファイザーの2回投与ワクチンBNT162b2の接種が始まり、まずは高リスク集団への接種が優先されました。優先対象の60歳以上の高齢者は2月6日までに9割近く(89.9%)が1回目、ちょうど8割(80%)は2回目の接種も済ませており、その2月6日までの21日間にそれら高齢者のSARS-CoV-2感染はおよそ半減(49%減少)しました。また、COVID-19入院も4割近く(36%)減少しました2)。ワクチン接種率がまだ半分に満たない45%ほどの59歳未満の年齢層の同時期の感染減少は18%ほどで、COVID-19入院は11%ほど増加していました。イスラエルは1月にロックダウンを実施しているので感染や入院の減少はすべてワクチンのおかげとは言い切れないかもしれません。しかしイスラエルのワイツマン科学研究所(Weizmann Institute)の計算科学者Eran Segal氏は高齢者の感染や入院の減少はワクチンのおかげと考えています1)。というのも、高齢者の感染や入院はワクチン接種率がまだ比較的低い若い人とは対照的により大幅かつ速やかに減少しているからです。それに、1月の早くにワクチン1回目の接種を済ませた高齢者の割合が85%超の都市では60歳を過ぎた高齢者とそれより若い人の減少の差が最も顕著でした1)。また、ワクチン接種が始まる前の去年9月のロックダウンのときには今回のような減少傾向は認められておらず、ワクチンは確かに効き始めているとSegal氏は言っています。ワクチン普及の効果はイスラエルの医療従事者への接種データ解析でも確認されています。その解析はBNT162b2の1回目が接種された医療従事者50万人超を対象とし、第III相試験結果によると予防効果がほとんどあるいは全く期待できない接種後12日までの感染率(PCR検査陽性率)は0.57%でした。一方、接種後13~24日の感染率は12日までの感染率の約半分の0.27%であり、1回目接種後13~24日の感染予防効果はおよそ51%と結論されました3)。英国の医療従事者へのBNT162b2接種の解析でも同様の効果が示されています。ワクチンが接種された約13,000人と非接種の約33,000人が比較され1)、ワクチン接種1回目から12日を経た医療従事者の感染率は非接種医療従事者に比べて53%低く抑えられていました1,4,5)。参考1)Vaccines are curbing COVID: Data from Israel show drop in infections / Nature2)Patterns of COVID-19 pandemic dynamics following deployment of a broad national immunization program. medRxiv. February 09, 20213)The effectiveness of the first dose of BNT162b2 vaccine in reducing SARS-CoV-2 infection 13-24 days after immunization: real-world evidence. medRxiv. January 29, 20214)COVID Vaccines: What we know so far(Tim Spector氏等が設立した健康科学企業ZOEのYouTubeチャンネル)5)Vaccine after effects more likely if you had COVID before(上記オンラインセミナーの予告).

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新型コロナ、20歳未満は感染しにくいが感染させやすい

 新型コロナウイルスの家庭内感染の調査から、20歳未満の若年者は高齢者より感染しにくいが、いったん感染すると人にうつしやすいことが、中国・武漢疾病予防管理センターのFang Li氏らの後ろ向き研究で示唆された。また感染力は、症状発現前の感染者、症状発現後の感染者、無症状のままだった感染者の順で高かった。Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2021年1月19日号に掲載。 本研究は、2019年12月2日~2020年4月18日に検査もしくは臨床的に確認されたCOVID-19症例と、検査で確認された無症状の感染者の家庭内感染について、後ろ向きに調査したコホート研究。本研究での家庭内感染とは、家族および必ずしも同居していなかった近親者も含めたものとし、共通接点を共有する家庭は疫学的な関連があるとみなした。統計学的伝達モデルを用いて家庭内2次感染率を推定し、他者への感染力と感染感受性に関連する危険因子を定量化した。さらに介入政策による家族内感染への影響も調べた。 主な結果は以下のとおり。・1次感染者2万9,578例を有する2万7,101世帯と家庭内接触者5万7,581人を特定した。・平均潜伏期間を5日、最大感染期間を22日と仮定した場合、推定される2次発病率は15.6%(95%信頼区間[CI]:15.2~16.0)であった。・60歳以上は他の年齢層よりも感染リスクが高かった。・0〜1歳では、2〜5歳(オッズ比[OR]:2.20、95%CI:1.40~3.44)および6〜12歳(OR:1.53、95%CI:1.01~2.34)に比べて感染リスクが高かった。・曝露時間が同じ場合、20歳未満の若年者は60歳以上よりも他者にうつすリスクが高かった(OR:1.58、95%CI:1.28~1.95)。・無症状のままだった感染者は症状のある感染者より他者にうつすリスクが低かった(OR:0.21、95%CI:0.14~0.31)。・症状が発現した感染者では、症状発現前のほうが発現後よりも他者にうつすリスクが高かった(OR:1.42、95%CI:1.30~1.55)。・2次発病率と推定家庭内再生産数(感染者が感染させうる家庭内接触者数の平均)は、軽症患者の多くが自宅で隔離されていた2020年1月24日~2月10日は、1月24日以前とほぼ変わらなかった。しかし、感染者の集団隔離・家庭内接触者からの隔離・移動制限が実施された2月11日以降、家庭内再生産数は1次感染では0.25(95%CI:0.24~0.26)から0.12(同:0.10~0.13)と52%減少し、2次感染では0.17(同:0.16~0.18)から0.063(同:0.057~0.070)と63%減少した。 著者らは、「子供が感染すると家族に感染させるリスクがあるため、学校再開を決定する際は子供たちの高い感染力を慎重に検討する必要がある。また、乳児の感染しやすさを考えると保護者へのワクチン接種が優先されるべき」としている。

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高血圧DNAワクチンの第I/IIa相試験で抗体産生確認/アンジェス

 アンジェスが開発している高血圧DNAワクチンの第I/IIa相臨床試験(オーストラリアで実施中)において、投与後の経過観察期間を経た初期の試験結果から、重篤な有害事象はなく安全性に問題がないこと、また、アンジオテンシンIIに対する抗体産生を認められたことを、2月4日、アンジェスが発表した。今後、安全性、免疫原性および有効性を評価する試験を継続的に行っていく予定。 高血圧DNAワクチンは、アンジオテンシンIIに対する抗体を体内で作り出し、その働きを抑えることで高血圧を治療するために開発が進められている。現在、多く使用されている経口降圧薬は毎日忘れずに服用する必要があるが、注射剤であるDNAワクチンは一度の投与で長期間にわたって効果が持続することが期待されている。とくに経口剤の服用が難しい高齢者を中心に利便性が向上する。 今回の第I/IIa相試験は、安全性、免疫原性および有効性の評価を目的としたプラセボ対照二重盲検比較試験で、対象は高用量のアンジオテンシンII受容体拮抗薬による血圧のコントロールが必要な高血圧患者24例(高血圧ワクチン18例、プラセボ6例)。観察期間は12ヵ月である。

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第43回 副反応に匹敵!?新型コロナワクチンのもう1つの不安要素とは

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)のワクチン接種に関して、医療従事者の優先接種が早ければ今月中旬にも始まると言われている。各自治体や接種を受け付ける受託医療機関も含め、私の耳にはさまざまな情報が飛び込んできていて、円滑な接種の遂行に向けて現場が数多くの難題を抱えていることは承知している。新興感染症のパンデミックによるワクチン接種と言えば、2009年の新型インフルエンザ以来となるが、今回の新型コロナは感染症として社会全体に与えたダメージは測り知れず、なおかつワクチンの接種対象もほぼ全国民に及ぶため、2009年の経験はあまり役に立たない。そうした中ある自治体(都道府県レベル)では、副反応が起きた際にその患者に対応する専門チームを創設すると耳にした。いわばリスクコミュニケーションの一環である。この動きはその自治体独自のものらしいが、私はとくに今回のワクチン接種に関しては、この患者に直接対応する副反応対策チームの存在が大きな役割を果たすと思っている。そもそも新型コロナのワクチン接種に関しては、ご存じのように日本で最初に接種が開始されるのは米・ファイザー/独・ビオンテック、米・モデルナのメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン。この種のワクチンが実用化されたのは世界初である。原理だけを見れば、安全性はむしろ既存の不活化ワクチンなどに比べて高いとも思えるのだが、これ以前に実績のないものゆえに逆に不安に思ってしまう接種対象者が出てきてしまう点は否めない。また、このmRNAワクチンはいずれも筋肉内注射である。といっても医療従事者の皆さんにとっては「それが何か?」と思われるだろう。少なくともワクチン接種全体で考えれば、筋肉内注射は珍しくもなんともないが、こと日本人に関していえば予防接種法に基づく定期接種に含まれているワクチンの中で筋肉内注射が標準となっているのは、副反応問題(個人的にはこのワクチンが原因とは思っていないが)で接種率低下が著しい、あのヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンのみである。ちなみに2016年10月から定期接種となったB型肝炎ワクチンは、成人の場合は筋肉内注射が一般的だが、日本国内で定期接種対象となった幼児の場合は皮下注射である。つまるところインフルエンザワクチンも含め筋肉内注射が一般的となっている欧米と比べ、この点は大きく異なる。で、それでも「だから何なの?」と言われてしまうかもしれない。だが、非医療従事者の間ではアメリカでのワクチン接種映像が放映されたことをきっかけにSNSをはじめ各所で「なんで注射針を腕に垂直に刺してるの?」などとおびえている人たちは少なからずいるのだ。先日も電車内で若い女性2人が「あのさ、新型コロナのワクチンって腕の筋肉に針指して注射するんだって」、「えー、マジ。痛そう。嫌だなあ」というやり取りをしていたのを聞いたばかりだ。未知のワクチンを経験のない方法で接種しなければならないことに怖さを感じるほうがむしろ自然である。ちなみにワクチン接種を冗談半分で「趣味」と公言し、国内承認・未承認も含め20種類のワクチンを接種済みの私は、A型肝炎、B型肝炎、腸チフス、帯状疱疹(商品名:シングリックス)、髄膜炎菌(B群以外)、髄膜炎菌B群、ダニ媒介性脳炎、HPVで筋肉内注射を経験しているが、はっきり言って筋肉内注射に伴う痛みは一定程度注射を行う人の手技に左右されている側面があると感じる。そうなると、副反応という点ではほとんど問題がないとしても(1)未知のワクチンへの怖さ、(2)未経験の筋肉内注射への怖さ、(3)人によって痛さが異なることによる疑問・不信感、というネガティブ要素がどうしても避けられない。その前提がある中で、国が主体となってこのワクチンを接種している以上、国や地方自治体、医療従事者の側にどうしても副反応が生じた際に接種者により親身に対応する窓口があることが望ましいと考える。これは単なる形式的意見ではなく、日本での過去のワクチンの負の歴史を踏まえてのことだ。負の歴史とはまさに前述したHPVワクチンの件である。この件についてメディア関係者が言及すると「お前が言うか」と言われるのは百も承知している。HPVワクチンの接種率の低下にメディアが大いに影響を及ぼしたことは事実であるからだ。ちなみに言い訳がましいかもしれないが、念のために言っておくと、私は医療以外の領域の取材・執筆も行っており、ちょうどHPVワクチンの定期接種化とそれに伴う副反応騒動の時期は、医療そのものの取材がほとんどストップしていた時期だった。あの時はただ横目で事態を眺めていたが、あれよあれよという間に事態は悪い方向に転がって行った。とはいえ、もしあの時、騒動の渦中にいたら自分が適切な報道ができていたと断言できる自信はない。その意味では今も忸怩(じくじ)たる思いを抱き続けている。そしてまさにあの時期、渦中におらずにたまたま横眼で眺めていたがゆえに、他の報道関係者と比べれば、どのようにして悪い方向に転んで行ったかをある程度は概説できる。ざっくり説明する構図は以下のようなものだ。まず、接種後に副反応を訴えた女児の親御さんたちの一部は、当然ながら医療従事者などにその状況を訴えた。そこでは概ね「ワクチンの副反応ではないと考えられる」旨の説明がなされている。こうした症状に関しては後に「機能性身体症状」という言葉で説明されるようになったのは今では周知のことである。ところが症状が改善しない女児とその親御さんの一部は、そうした医療従事者の説明に納得せず、行き場のない不安を抱えたまま社会をさまよい続けた。それを「受け止めた」のが弁護士などの法曹関係者や市民運動の活動家などだ。こうして受け止めた側には対外広報戦術に長け、大手メディアでキーマンとなる社会部記者とつながりを持つ人たちも少なくなかった。こうして、被害を訴える人たち → 法曹関係者・市民活動家 → 大手メディア社会部記者、という情報の流通ルートが成立し、一気に報道に火が付くことになった。実はこの当時、大手メディアの中でも科学部記者などは、副反応騒動にかなりクールに反応していたと記憶している。いわば医療従事者とほぼ同じような見解である。ところが大手新聞社などを中心とするレガシーメディアの社内権力構造は、おおむね社会部のほうが科学部よりも圧倒的に上位にある。その結果、社内ではあまりブレーキがききにくく、今のような事態に至っている。もっとも報道を事細かく見ていけば分かるが、最近の大手新聞ではHPVワクチン接種者での機能性身体症状をワクチンの副反応と報じる記事はほとんどないといっていいほど姿勢は転換している。さて話を戻そう。行政がリスクコミュニケーションの一環としてワクチン接種者の注射部位反応なども含めた副反応に対処することのメリットは何かだが、それは前述のHPVワクチンのケースで経験した、副反応を訴える人たちの声の流通のうち「医療従事者 → 弁護士・市民活動家」が「医療従事者・行政の専門チーム → 弁護士・市民活動家」と言う形で川上が強化される。このことはワクチンと因果関係が薄いと思われる有害事象に関する情報の川下(弁護士・市民活動家、メディアの社会部系記者)への流通量を劇的に減らせる効果を期待できる。それだけでもHPVワクチン騒動の二の舞となる確率は減らすことができるだろう。こうした観点から、自治体の副反応対策チームの取り組みが、私の耳にした自治体以外へも水平方向にも広がってほしいと切に願うのだ。ここで「じゃあお前たちメディアは何をするんだ?」と問われることだろう。私が考えるのは主に2つだ。1つは副反応対策チームの存在とその役割を積極的に報じ、不安を感じた人にその存在を知ってもらうこと、もう1つは「可能性がゼロではないリスク」なる迷信を安易に報じないことである。その意味ではメディアにとって今回の新型コロナワクチンの接種にかかわる報道は、今後の医療報道の分水嶺になる可能性があると考えている。

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パンデミック再び、ICUで苦悩するコロナ治療・その2【臨床留学通信 from NY】第17回

第17回:パンデミック再び、ICUで苦悩するコロナ治療・その2前回でも書きましたが、レジデントのローテーションで、12月上旬から中旬にコロナの第2波がニューヨークにやってきたタイミングでICU勤務をしました。そこでは、4月のパンデミック時と何も変わっていない、コロナという病気で重症化してしまうと本当に打つべき手がないということを実感しました。レムデシビルは軽症であれば効くのかもしれませんが、重症になってしまうとウイルスそのものより全身の炎症がメインであり、もはや効かない印象です1)。当院はECMOがないため、必要があれば他院への転院となりますが、100%酸素の人工呼吸器設定で酸素飽和度が80%辺りになると、残るは腹臥位に変えるかどうかくらいですが、医療従事者数人がかりでコロナ患者の体位を変えるのは本当に大変です。有効性ははっきりしないものの、どうしようもない低酸素の人に対し一酸化窒素を使うこともあります2)。RCTでは当初否定的でしたが、回復期血漿療法は継続して使用しており、最近になってNEJMに有効性を証明した論文が発表されました3、4)。トリシズマブに関しては、ネガティブスタディが出たこともあって第1波のころと異なりこの冬は下火となっていましたが5)、Mount Sinaiから人工呼吸器治療を受けていない患者であれば人工呼吸器もしくは死亡を回避する可能性が高いというデータが発表された6)ため、プラクティスが再び変わるかもしれません。サンクスギビング後の第2波は、2020年末にかけて一気に増えることはありませんでしたが、病院としてはクリスマス後や年始の増加に備え、いつでもICUを増やせる体制で臨みました。そんな訳で、レジデントとして最後のクリスマスと年末年始は、ICUで休みなしの勤務となりました。勤務は朝7時から夜7時半までをロングコール、朝7時から夕方4時前後までをショートコール、夜間7時から朝7時半~9時までをナイトフロートと呼び、それらをレジデント4人によるシフトで回し、計16人のICU患者をカバーしました。シフト制とはいえ、例えばロングコールをした後、24時間の休憩後にナイトフロートを3~4日連続勤務し、24時間弱の休憩を挟んで昼間のシフトに戻ったりするので、体力的にかなりつらく、ナイトフロート中は実質寝られません。卒後1年目のインターンが患者の約半分ずつを担当し、私はレジデントとして彼らを管理・監督をします。Physician AssistantたちもICU管理のために専門的に教育されてはいますが、慣れ・不慣れの程度が人によって異なるため、彼らを監督しなければいけないこともあります。日中はアテンディングと呼ばれる指導医の人が1人ずつ回診していくのですが、朝8時過ぎから昼の12時、場合によっては13~14時近くまで行ったうえ、患者1例ずつディスカッションをして治療方針を決めていきます。1症例ごとプレゼンテーションするのはインターンの役目ですが、それをうまくできるようにサポートする必要があります。どうしても重症な症例が多いので時間が掛かり、その合間にも容赦なくICU入院者が来るため、そこをいかにまとめるかがレジデントの仕事となります。参考1)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32827627/2)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33347987/3)https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2033700?query=featured_home4)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33232588/5)https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa20288366)https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2030340?query=featured_homeColumn画像を拡大する私はICU配属だったこともあり、医療従事者の中でも比較的早い1月7日に2回目のワクチンを接種しました。さらにわれわれの施設では、1月11日から高齢者や教職員、交通機関の職員に対してもワクチン接種を開始したのですが、供給不足となってしまって一時中止しています。一刻も早くパンデミックからの収束を願います。写真は、昨年末に撮影したロックフェラーセンターのクリスマスツリーです。今年は“密”を避けるため、遠目からの観賞となりました。

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1回接種のコロナワクチンの有効率66%/J&J

 米国ジョンソン・エンド・ジョンソンは、現地時間の1月29日に第III相ENSEMBLE臨床試験から得られたトップライン有効性・安全性データを発表し、同社の医薬部門であるヤンセンで開発中のCOVID-19単回投与ワクチン候補(以下「ワクチン候補」という)が、すべての主要評価項目および主な副次評価項目を満たしたと発表した。 第III相ENSEMBLE試験は、18歳以上の成人を対象に、1回接種ワクチンの安全性と有効性をプラセボと比較して評価するために設計された無作為化、二重盲検、プラセボ対照臨床試験。被験者の45%が女性、55%が男性であり、参加者の41%は、重症化するリスク増加に関連する併存疾患を有していた(肥満が28.5%、2型糖尿病が7.3%、高血圧が10.3%、HIVが2.8%)。 このトップラインにおける有効性および安全性のデータは、43,783例の被験者(468例のCOVID-19症候性症例を含む)で行われ、この試験では本ワクチン候補が中等症から重症のCOVID-19感染症を予防する有効性と安全性を評価するよう設計され、ワクチン1回接種後14日以降と28日以降の評価を2つの主要評価項目(コプライマリ・エンドポイント)として設定した。 新興ウイルス変異株への感染例を含むさまざまな地域の被験者で、本ワクチン候補による接種後28日以降の中等症から重症のCOVID-19感染症の予防効果は、全体で66%だった。また、その予防効果は、接種後14日という早い段階で確認された。中等症から重症のCOVID-19感染症の予防率は、ワクチン接種後28日以降では、米国で72%、ラテンアメリカで66%、南アフリカで57%だった。重症例を予防し、2~8℃で安定保存もできる このワクチン候補は、1回接種後28日以降の、全試験対象地域の全成人被験者(18歳以上)において、重症疾患への予防効果が85%だった。重症疾患に対する有効性は経時的に増加し、49日目以降は、ワクチン接種者において重症例は報告されなかったま。また、本ワクチン候補は、COVID-19感染症による入院および死亡に対して、ワクチン接種後28日以降に被験者の全員に予防効果を示した。医学的介入を要するCOVID-19の症例(入院、集中治療室(ICU)入室、人工呼吸器、体外式膜型人工肺(ECMO)使用)に対するワクチンの明らかな効果が認められ、1回接種後28日以降で、本ワクチン候補の接種を受けた被験者に、そのような症例は報告されなかった。 なお、本ワクチン候補は標準的なワクチン流通手段に対応し、承認された場合、ワクチン候補は-20℃で2年間安定保存可能と想定され、少なくとも3ヵ月間は2~8℃で安定保存することができる。 同社では「できる限り多くの人に簡便で効果的な解決策を生み出し、パンデミックの終息にむけて最大限に貢献したい」と目標を語っている。

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第45回 南ア株にワクチンは確かに効き難く、先立つ感染も通用しなさそう/エボラ潜伏の恐れ

南アフリカ変異株にワクチンは確かに効き難く、先立つ感染も通用しなさそう世界屈指の製薬会社Johnson & Johnson(J&J)と米国メリーランド州のバイオテクノロジー企業Novavax(ノババックス)社の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)予防ワクチンそれぞれの試験結果が先週末に相次いで発表され、南アフリカで最初に見つかってとりわけ心配されている変異株B.1.351への効果はどちらのワクチンもだいぶ低めでした1)。J&JのワクチンJNJ-78436735(Ad26COVS1)の第III相試験における米国での予防効果は72%、南アフリカでは57%であり、南アフリカでの感染のほぼすべて(95%)は変異株B.1.351によるものでした2)。NovavaxのワクチンNVX-CoV2373は英国での第III相試験結果と南アフリカでの後期第II相試験結果が報告され、英国試験での効果は大変有望な89%でした。しかし南アフリカ試験での効果はJ&Jのワクチンと同様に低く49%(HIV陰性被験者では60%)であり、ウイルス配列が調べられた感染のほぼすべて(93%)はJ&Jワクチンの試験と同様に変異株B.1.351によるものでした3)。Novavaxワクチンの南アフリカでの試験に組み入れられた被験者のおよそ3分の1は先立つ感染経験があることを裏付ける抗体保有者(seropositive)でした。上述の解析ではそれら3分の1の被験者は除外されていますが、それら被験者を含めたプラセボ群のCOVID-19発現率は抗SARS-CoV-2抗体を有していようといまいと変わらず、変異前のウイルスに感染したところで変異株B.1.351の感染は防げないようです4)。効果は低めとはいえワクチンがB.1.351に有効なことは朗報ですが、先立つ感染がどうやら通用しないというのは心配です。米国の有力なアナリスト会社Leerinkの見通しは不吉で、B.1.351のような厄介な変異株はこれから世界に広がり、先立つ感染やワクチンの普及は新たな変異株の出現をひたすら後押しするだろうと予想しています1)。Novavaxのワクチンは先月中頃に英国での承認申請がすでに始まっており、J&Jのワクチンは今月中に米国に認可申請されます。どちらも世に出ることになるでしょうが、変異株への対応などに追われ、ワクチン開発の一段落まではまだまだ長い時間がかかりそうです。Moderna社がB.1.351に対するワクチンの開発に着手したのと同様にNovavaxも変異株を標的とする新たなワクチンの開発を先月の早くから開始しています3)。その臨床試験がまもなく今春(第2四半期)に始まる予定です。Pfizerも同様です。新たに出回る変異株が見つかったらワクチンの効果をその都度検証し、必要とあらば変異株に対応できるようにワクチンに手を加えていくと同社CEO・Albert BourlaはBloombergニュースに話しています5)。エボラ感染後の抗体が周期的に増減~潜伏ウイルスの仕業?エボラウイルス(EBOV)感染を切り抜けてもはや健康な115人の感染後30~500日の血液中の抗EBOV抗体を調べたところその量がどうやら周期的に増減を繰り返しうると示唆されました6,7)。その理由はこれから調べる必要がありますが、一つの可能性として眼・中枢神経系・精巣などの免疫が手加減(immunologically privileged)する組織で細々と増える潜伏EBOVが抗体減少につけ込んでその都度引き起こす小ぶりな感染が周期的な抗体反応をもたらすことによるのかもしれません7)。COVID-19を経た人がそうであるようにEBOV感染を経た人の多くも頭痛、疲労、視覚障害、筋肉痛などを特徴とする長患い・エボラ後症候群(post-Ebola syndrome)に陥ります。アフリカのリベリアでの試験(PREVAIL)によるとEBOVのRNAはおよそ3人に1人の精液から検出され、その検出は最長で発症から40ヵ月後にも認められました8)。免疫が手加減する組織・精巣は感染を繰り返し引き起こして抗体生成を突発させるEBOVの潜伏先かもしれません7)。PREVAIL試験の結果はEBOVの細々とした複製が抗体の時おりの急増を招くという考えを支持しています。しかしPREVAIL試験では抗体量とエボラ後症候群の症状の関連は認められておらず、抗体分泌細胞(プラズマ細胞)や抗体量の維持に寄与するまだよく分かっていない仕組みが存在しているようです。今回の研究を実施した英国リバプール大学のチームはCOVID-19を経た人の抗体の推移も調べ始めています9)。参考1)Novavax and J&J join the Covid-19 vaccine push / Evaluate2)Johnson & Johnson Announces Single-Shot Janssen COVID-19 Vaccine Candidate Met Primary Endpoints in Interim Analysis of its Phase 3 ENSEMBLE Trial / PRNewswire3)Novavax COVID-19 Vaccine Demonstrates 89.3% Efficacy in UK Phase 3 Trial / GlobeNewswire4)Announcement of UK and South Africa Trial Results / Novavax5)Pfizer to Deliver U.S. Vaccine Doses Faster Than Expected / Bloomberg6)Adaken C, et al.Nature. 2021 Jan 27:1-5.7)Antibodies periodically wax and wane in survivors of Ebola / Nature8)PREVAIL III Study Group, N Engl J Med. 2019 Mar 7;380:924-934.9)Antibody highs and lows in survivors of Ebola / Eurekalert

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第40回 日本医師会が示す緊急事態宣言の解除条件

<先週の動き>1.日本医師会が示す緊急事態宣言の解除条件2.ワクチン接種体制の確立に追われる医療機関と地方自治体3.第3次補正予算、病床確保などで医療機関を支援4.地域医療構想、重点支援区域に山形県・置賜と岐阜県・東濃を追加5.積極的なコロナ患者受け入れで黒字化に成功した徳洲会病院G1.日本医師会が示す緊急事態宣言の解除条件日医・中川 俊男会長は、2月7日に予定されている緊急事態宣言の解除について、現状では厳しいとの見方を定例記者会見で述べた。今回の措置によって、一定の感染拡大防止効果が表れているようにもみえるが、「決して気を抜ける状況ではない」という。中川会長は、緊急事態宣言の解除について、都道府県の医療提供体制などの状況の判断に用いる6つの指標を示した。1)病床のひっ迫具合2)療養者数3)PCR検査陽性率4)感染者の新規報告数5)直近1週間と前の週の感染者数の比較6)感染経路不明割合上記のすべてがステージ2相当となるか、ステージ3ではあるものの、この状況が続けばステージ2になるのが確実となった時点で検討を開始すべきであると主張した。(参考)新型コロナウイルス感染症に関する最近の動向について(日本医師会)2.ワクチン接種体制の確立に追われる医療機関と地方自治体各都道府県の医療機関と地方自治体は、この2月から開始される新型コロナワクチン接種開始に向けて体制作りに動いているが、情報不足と医師不足に直面している。厚労省はワクチンについての情報ページに資料を掲載するなど、情報提供を行っているが、集団接種の会場手配や医師・看護師など人手のほか、ワクチンの供給についてさまざまな問題がある。地域の医師会や看護協会と連携しながら、対応が急がれる。(参考)新型コロナワクチンについて(厚労省)自治体9割、医師確保できず 7割が情報提供不十分 新型コロナワクチン、全国調査(毎日新聞)3.第3次補正予算、病床確保などで医療機関を支援1月28日の参議院本会議にて、コロナなど追加対策19兆円を含む、20年度3次補正予算が成立した。厚労省の予算は、新型コロナウイルス感染の拡大防止策を含む、追加額4兆7,330億円。さらなる感染拡大防止対策の支援、検査体制の充実、ワクチン接種体制や情報収集・分析体制の整備などが含まれた。ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現のためには、雇用就業機会の確保や、子供を産み育てやすい環境作りのほか、介護・福祉分野におけるデジタル化の推進など、デジタル改革の実現を狙う内容となっている。(参考)令和2年度厚生労働省第三次補正予算案の概要(厚労省)医療機関への支援などで1兆6千億円余り増額 20年度第3次補正予算(CBnewsマネジメント)4.地域医療構想、重点支援区域に山形県・置賜と岐阜県・東濃を追加厚労省も2025年までの地域医療構想の実現に向けて、国が集中的な支援を行う重点支援区域として、昨年1月から重点支援区域を2回に分けて指定していた。今年に入ってさらに山形県・置賜と岐阜県・東濃の2区域を追加した。各都道府県は、域医療構想調整会議において、重点支援区域申請を行う旨合意を得た上で、「重点支援区域」に申請することになっており、地域医療介護総合確保基金の優先配分や新たな病床ダウンサイジング支援を一層手厚く実施することとなっている。今後も重点支援区域申請は随時募集されることで、地域医療構想の実現に向け、促進されることになる。(参考)公立と民間の3病院を再編、国の支援対象に 山形・米沢(日経新聞)重点支援、山形県・置賜と岐阜県・東濃の2区域追加 地域医療構想の実現へ、厚労省(CBnewsマネジメント)当面の地域医療構想の推進に向けた取組について(厚労省)重点支援区域の状況について(第25回 地域医療構想に関するWG)5.積極的なコロナ患者受け入れで黒字化に成功した徳洲会病院G2020年度の病院業界は、コロナウイルス感染拡大により、多くの医療機関が経営悪化に陥った。一方、大手民間病院グループである徳洲会病院グループでは、当初は受診抑制や救急車の搬送件数減少に見舞われたものの、その後、湘南鎌倉病院や千葉西総合病院、羽生総合病院などにコロナ専門病棟を開設することで、重症患者と棲み分けしつつ、急性期医療を継続することで、黒字経営を維持している。感染拡大により、国は「5疾病・5事業および在宅医療」に2024年度からの第8次医療計画には新たに「感染症」を加えることとしており、地域医療構想の実現には感染症対策は重要課題となると考えられる。(参考)鎌倉の臨時医療施設、最後の1棟患者受け入れ開始 県(神奈川新聞)大手の民間病院がコロナ患者を積極的に受け入れる理由(東洋経済オンライン)

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新型コロナ対応、現状の打開に何が必要か~東京都医師会尾崎会長インタビュー

 1都3県を皮切りに各地で2度目の緊急事態宣言が発令され、医療体制がひっ迫した状況が続いている。患者の急増で病床は不足。自宅・宿泊療養者のケアや回復後の転院調整などについて課題が指摘され、ワクチン接種への体制整備も求められる中、東京都医師会としてその役割をどのように捉え、どのような対策をとっていくのか。尾崎 治夫会長に聞いた。民間病院がもっと受け入れるべき? 1年あれば医療体制は整備できた? 連日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する情報が報道される中で、「民間病院がコロナ患者をほとんど受け入れていない」「医療崩壊というが1年あれば準備できたのではないか」などの意見もみられるようになった。「第1波のときから一貫して発信しているのは、日本の医療体制はCOVID-19のような感染症に対応できるようには作られていない。対応するには患者数の増加速度をできるだけゆるやかにして乗り越えていくしかないということ」と尾崎会長。コロナ前の東京都の指定感染症医療機関は15医療機関、118床。保健所も含め、無症状や軽症が多く感染力も強くて市中に急速に拡がって行くCOVID-19のような感染症に対応できる仕組みにはなっていなかった。 そのような枠組みの中では、通常医療を提供しながら、状況に応じて対応病床を増やすしかないが、急峻な患者数増加には対応できない。何度か波が来ることは避けられないが、その波の上がり方をできるだけゆるやかにして、その都度医療側も準備を整えて対応していくしかない。「そのためには国民の協力が欠かせないし、政府には一時経済を止めるという判断も含め、状況を的確に把握して指示を出す強力なリーダーシップが必要で、今後の課題としてパンデミック時の指示系統を担う新組織を立て、指揮系統をより明確にすることも必要だと考える」と同氏。公民の病院も診療所も高齢者施設も、一丸となって乗り越えるしかない 東京都では第1波以降、医師会主導で各地区にPCRセンターを設置し、インフルエンザとの同時流行に備え検査を担う診療所が約2,300、検査はできないが発熱患者を診療できる診療所も含めると診療検査医療機関が3千強設置されている。尾崎氏は、「民間病院も、現状ですでにある程度の病床数を持つところは受け入れてくれている」と話す。都立・公社3病院が重点医療機関となることで、今後病床数は一定数拡充できると考えられるが、それでも十分とは言えない。 「これ以上病床を増やす余地があるとしたら、やはり規模の大きい公的病院にもう一歩協力してもらうしかないだろう」と指摘。「民間病院は、経営が厳しくなれば本当に潰れてしまいかねない。コロナ後の医療を保つためにも、民間病院にはコロナ以外の医療と、感染力のない回復後患者の受け入れにまわってもらうのが現実的だと考えている」。 第3波で高齢者の感染が増えたことで、“コロナは軽症あるいは治ったが、体力低下などで自宅には帰れない”患者の受け入れ先がないことが課題となっている。「後方病院がない、あるいはこれまで急性期後の高齢患者の受け皿となっていた高齢者施設で受け入れてもらえないという問題が発生している」。これらの連携がスムーズにいくよう、仕組みづくりに着手しているという。宿泊療養施設はなぜフル活用されないのか? 現場で起こっていること 東京都の宿泊療養施設の運用について、1月中旬時点では利用率が3割程度に留まっていることが報道された。これに大きく影響しているのが、患者本人の希望だという。現状、陽性となって無症状または軽症の場合、保健所職員が電話で状況を確認する。自宅か宿泊療養を二択で提示すると、自宅を選ぶ患者が多いという。「無症状者は宿泊あるいは自宅療養でかかりつけ医や訪問看護で見守る体制を作り、軽症者については、場合によっては宿泊療養を義務づけるような法制整備も有効かもしれない」と指摘した。 また、検査の結果、陽性となった患者はすべて一度保健所で管理され、入院調整も保健所が行う。保健所の負担が増す中、地域によっては陽性後2~3日連絡を待つという状況も発生してしまっている。この間のプロセスに、法的には医師が関与できない仕組みとなっている。普段から診ているかかりつけ医がフォローすることで、異変を早期に察知できる可能性もある。トリアージのプロセスに制度として医師を加えてもらえないかと働きかけている、と同氏。「陽性が判明後、かかりつけ医がトリアージを行い、それに基づき保健所が受け入れ先を調整する仕組みにできないかと考えている」。 「東京都では現在、保健師や医師が常在し、急変時に対応するフォローアップセンターの設立を準備しており、それを地区医師会が支援する仕組みを作りたい。しかし、急変したことがわかっても受け入れ先がなければ意味がない。23区、そして多摩地区でそれぞれ数床ずつ、必ず空きベッドを用意する体制整備も必要」と話した。医療従事者へのワクチン接種、可能な限り自院で ワクチン対応について、まず目前に迫るのが医療従事者への接種だ。「どこか一ヵ所に集めて接種するというのは現実的ではない」と同氏。各地域で保管場所を作って、基本的には病院は自院で接種、診療所についても自院で接種するか地域のある程度スぺースのある診療所・病院で接種という形を現時点では想定しているという。 続く高齢者への接種についても、集団接種よりはかかりつけ医が実施するほうが望ましいとの見解を示した。「いま、日本の高齢者の多くがかかりつけ医をもっている。このシステムの良い部分を生かして、予診や接種後のフォローを含め、かかりつけ医が役割を果たしていけるのではないか」と話した。また、「医療者がどれだけワクチンの効果と副反応の可能性をわかりやすく説明できるかが大きなポイント」と指摘。副反応としてどんなものが起こる可能性があるのかをあらかじめわかりやすく伝え、理解してもらうことの重要性を強調した。尾崎 治夫(おざき はるお)氏東京都医師会会長・おざき内科循環器科クリニック院長1951年東京都生まれ。77年順天堂大卒。87年同大循環器内科講師。90年東久留米市・おざき内科循環器科クリニック開設。2002年東久留米医師会会長、11年東京都医師会副会長を経て15年より現職。

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Modernaの新型コロナワクチン、400万人でのアレルギー反応/CDC

 米国で2020年12月21日~2021年1月10日に初回投与されたModernaのCOVID-19ワクチン接種404万1,396回で、10例(2.5例/100万回)にアナフィラキシーが発現し、9例は15分以内、1例は45分後に発現したことを、米国疾病予防管理センター(CDC)が2021年1月22日に発表した。 米国では2021年1月10日の時点で、ModernaのCOVID-19ワクチンの1回目の投与が404万1,396人(女性246万5,411人、男性145万966人、性別不明12万5,019人)に実施され、1,266例(0.03%)に有害事象が報告された。そのうち、アナフィラキシーを含む重度のアレルギー反応の可能性がある108例を調査した。これらのうち10例(2.5例/100万回)がアナフィラキシーと判断され、うち9例はアレルギーまたはアレルギー反応の既往(薬剤6例、造影剤2例、食物1例)があり、そのうち5例はアナフィラキシーの既往があった。 アナフィラキシー発現例の年齢中央値は47歳(範囲:31~63歳)。接種から症状発現までの中央値は7.5分(範囲:1〜45分)で、9例が15分以内、1例が45分後であった。10例すべてがアドレナリン(エピネフリン)を筋肉内投与された。6例が入院(うち集中治療室が5例、そのうち4例が気管内挿管を要した)し、4例が救急科で治療を受けた。その後の情報が入手可能な8例は回復もしくは退院した。アナフィラキシーによる死亡は報告されていない。 アナフィラキシーではないと判断された98例のうち、47例は非アナフィラキシー性のアレルギー反応、47例は非アレルギー性の有害事象と判断され、4例は評価に十分な情報が得られなかったという。

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