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コロナの現状を鑑み、識者らが東京五輪の再考求め提言/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はここへ来て急拡大の様相を呈している。これに対し政府は、東京など4都府県に対し緊急事態宣言を発出。まん延防止等重点措置よりも強い規制力をもって感染拡大を抑え込みたい考えだ。それは今夏に延期・開催が予定されている東京オリンピックまで3ヵ月を切り、待ったなしの状況への強い憂慮にほかならない。そんな状況の中、4月14日付のBMJ誌に、「大会の安全管理には重大な疑問があり、再考すべき」と断じる論文(エディトリアル)が掲載された。 本稿は、英国・ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの清水 和希氏、同・エディンバラ大学メディカルスクールのDevi Sridhar氏、同・キングズカレッジロンドン人口衛生研究所の渋谷 健司氏、国立病院機構三重病院の谷口 清州氏の4人が連名で発表した。 著者らは、COVID-19の現状について「世界的に依然としてパンデミックの真っただ中にある。SARS-CoV-2変異種は国際的な関心事であり、公衆衛生および社会対策の維持、行動変化の促進、ワクチン普及、保健システムの強化により、パンデミックの封じ込めと終息に向けた取り組みを加速しなければならない」との認識を示した。さらに、「アジア太平洋地域諸国と異なり、日本はいまだCOVID-19の感染制御ができていない。日本における限られた試験能力とワクチン接種開始の遅れは、政治的リーダーシップの欠如に起因している」とし、「一般市民はいうまでもなく、医療従事者や高リスク人口に対してもオリンピック開始までにワクチンを接種できない」と指摘した。 その上で著者らは、「今夏のオリンピック・パラリンピック開催計画は、喫緊の課題として再考されるべきだ。国際社会全体が、コロナ・パンデミックを封じ込め、命を救う必要性を認識している。科学的・道徳的ルールを無視し、日本が自国の政治・経済目的で東京2020(オリンピック・パラリンピック)を開催することは、国際的な健康および安全保障に対する向き合い方と矛盾するものだ」と断じている。

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COVID-19を経験した男性は勃起不全になりやすい?

 勃起不全(ED)は、COVID-19の短期的または長期的な合併症の可能性がある。今回、イタリア・ローマ大学のAndrea Sansone氏らが、COVID-19と診断された被験者におけるEDの有病率を調査し、COVID-19とEDの関連を検討した。Andrology誌オンライン版2021年3月20日号に掲載。 本研究では、2020年4月7日~5月4日、イタリアで実施されたSex@COVIDオンライン調査(心理的、社会的、性的健康を調査する匿名のWebアンケート)に参加した18歳以上6,821例(女性4,177例、男性2,644例、平均年齢32.83±11.24歳)のデータから、性的に活発なイタリア人男性985例が抽出され、そのうち25例(2.54%)がSARS-CoV-2陽性だった。 被験者は、GAD-7(Generalized Anxiety Disorder-7)とPHQ-9(Patient Health Questionnaire-9)によって、心理的健康スコアが測定された。各テストでスコアが10以上の場合、全般性不安障害とうつ病性障害をそれぞれ示唆していると見なされた。勃起機能は、IIEF-5(国際勃起機能スコア)またはその簡易版SHIMによって測定された。スコア21以下はED、スコア22〜25は正常と見なされた。 主な結果は以下のとおり。・1:3の傾向スコアマッチングに従って、985例の性的に活発なイタリア人男性から、SARS-CoV-2陽性者25例(COVID+)とSARS-CoV-2感染歴のない75例(COVID-)がマッチングされた。・2つの群間の年齢、GAD-7およびPHQ-9スコア、BMIについて、統計的に有意な差は見られなかった。・EDの有病率は、COVID+群(7/25例、28%)のほうが、COVID-群(7/75例、9.33%)よりも高かった(p=0.0274)。・年齢、BMI、および心理的健康スコアを調整したロジスティック回帰モデルにより、SARS-CoV-2感染とED発症との関連を確認したところ、COVID-19既往歴を持つ男性におけるED発症のオッズ比は5.66(95%信頼区間[CI]:1.50~24.01)だった。・同じサンプルで、年齢とBMIを調整したロジスティック回帰モデルにより、ED診断後に SARS-CoV-2感染が発覚した場合を調査したところ、ED有病者におけるSARS-CoV-2感染のオッズ比は5.27(95%CI:1.49~20.09)で、有意な関連を示した。 研究者らは、「COVID-19発症リスクは、ED発症の危険因子と似ており、われわれの研究結果は、ED、血管内皮機能障害、およびCOVID-19に関連する病態生理学的メカニズムと一致している。ワクチンやマスクの着用は、おそらく性機能障害を防ぐという追加の利益をもたらす可能性がある」とコメントしている。

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英国株(B.1.1.7)の遺伝子変異、疫学、臨床、今後の重要性(解説:山口佳寿博氏)-1380

 2019年の末に発生した新型コロナの原型である武漢原株は、2020年2月末ごろからD614G株(S蛋白614位のアミノ酸がアスパラギン酸(D)からグリシン(G)に置換、その他、4個の遺伝子変異を伴う)に置換された。D614G変異は生体へのウイルス侵入量を増加させ武漢原株より高い感染性を示す(山口. 医事新報 No.5026:26-31, 2020)。2020年9月ごろまではD614G変異株が世界の中心的ウイルスであったが、9月以降、英国、南アフリカ、ブラジルを中心にD614G株からさらなる変異を遂げたN501Y株(S蛋白501位のアミノ酸がアスパラギン(N)からチロシン(Y)に置換)が蔓延するようになった。以上のような背景を鑑み、本論評ではD614G株を“従来株”と定義する。英国、南アフリカ、ブラジルで播種しているN501Y変異株は同じウイルスではなく互いに独立したものであるが3種の変異株の共通項がN501Y変異である(山口. 医事新報 No.5053:32-38, 2021)。PANGO lineageに則った名称として、英国株はB.1.1.7、南アフリカ株はB.1.351、ブラジル株はP.1と命名された。別名として、英国株はVOC 202012/01、20I/501Y.V1、南アフリカ株はVOC 202012/02、20H/501Y.V2、ブラジル株はVOC 202101/02、20J/501Y.V3とも呼称される。2021年4月13日現在、世界206ヵ国/地域の中で英国株は132ヵ国/地域(64%)、南アフリカ株は82ヵ国/地域(40%)、ブラジル株は52ヵ国/地域(25%)で検出され、N501Y株がD614G株を凌駕し世界に流布するコロナウイルスの中心的存在になりつつある(WHO 2021年4月13日)。これら代表的なN501Y変異株に加え、フィリピンではN501Y変異を有するが英国株、南アフリカ株、ブラジル株とは異なる変異株が同定されている(B.1.1.28.3/P.3)。以上のN501Y関連変異株以外にN501Y変異を有さない5種類の変異株が米国(B.1.427/B.1.429、B.1.526)、英国(B.1.525)、フランス(B.1.616)、ブラジル(B.1.1.28.2/P.2)、ナイジェリア(B.1.525)において同定されている。以上の変異株にあって英国株の流布範囲が最も広く、アフリカ、中南米の一部を除き多数の感染者が確認されている。アフリカ、中南米の一部で英国株が検出されていないのは、検査不十分である可能性が高く、実際は、これらの地域にも英国株は侵入しているものと考えなければならない。すなわち、今後の世界的ウイルス播種として、この数ヵ月の間に従来株が英国株を中心とするN501Y株に置換されていくものと推察される。 本邦においてもN501Y株の播種は始まっており、2020年12月25日に英国株が英国からの帰国者において、2020年12月28日に南アフリカ株が南アフリカからの帰国者において、2021年1月6日にはブラジルからの渡航者からブラジル株が検出された。2021年4月6日現在、1,038例のN501Y株の感染者(検疫:152例、国内発症:886人)が確認されている(厚生労働省2021年4月6日)。国内事例は、47都道府県の81%に当たる38都道府県で発生しているが、英国株が92%、南アフリカ株が1.7%、ブラジル株が6.3%を占めている。1週後の4月13日には、変異株の検出は42都道府県(89%)まで増加している(厚生労働省2021年4月13日)。N501Y株感染者の多くは、大阪府、兵庫県を中心とする関西圏で検出されており、北海道、関東圏がこれに続く。変異株陽性率(変異株陽性/変異株総検査数)は、3月初旬で6.6%であったものが3月下旬では20.1%に上昇しており、この傾向が持続するならば、この数ヵ月の間に英国株を中心とするN501Y株が従来株を凌駕し本邦で播種するウイルスの主流を占めるようになるものと予測される。英国では、9月末の発症から3ヵ月間でウイルスの75%が英国株に置換(Challen R, et al. BMJ. 2021;372:n579.)、カナダのトロント地域でも12月中旬より3ヵ月の間にウイルスの75%が英国株に置換された(Brown KA, et al. JAMA. 2021 Apr 8. [Epub ahead of print])。 以上のような播種ウイルスの質的変化を考えるならば、今後のコロナ感染症は従来株で明らかにされた内容から英国株を中心に考え直す必要がある。まず遺伝子配列の変化を考えていく。英国株は従来株から発生した変異株でD614G変異を含めウイルス全体で18個の非同義変異(アミノ酸配列の変化あり)と6個の同義変異(アミノ酸配列の変化なし)を発現している(Public Health England)。S蛋白にはD614G変異を除いて8個の非同義変異を有し、N501Y変異はS蛋白とACE2の親和性を高め感染性を増強する。同様に、P681H(S蛋白681位のアミノ酸がプロリン(P)からヒスチジン(H)に置換)は生体のserine proteaseによるS蛋白の切断力を高めN501Y変異と同様に感染性を増強する。69~70位のアミノ酸欠損(Δ69~70、69位、70位におけるヒスチジン(H)とバリン(V)の欠損)とY144変異(144位におけるチロシン(Y)の欠損)はS蛋白に対する抗体(自然感染、ワクチン接種により形成された抗体)の結合を阻害し“免疫回避反応”を惹起する(英国株の免疫回避反応は南アフリカ株に比べ弱い)。興味深い事実として、Δ69~70はS蛋白を標的としたPCR反応を阻害する(SGTF:S-gene test failure)。そこで、nucleocapsid(N)、open reading frame-1ab(ORF1ab)を標的としたPCRが陽性であるにもかかわらずSGTFを示す場合には、遺伝子解析を施行せずとも英国株感染と診断できる(診断精度:99.5%)。 上記の遺伝子変異を背景として英国株の臨床的特徴を従来株と比較しながら考察する:(1)英国株の播種性は従来株より43~90%高く(Davies NG, et al. Science. 2021;372:eabg3055.)、実効再生産数(R)は1.5~2.0倍に達する(Volz E, et al. Nature. 2021 Mar 25. [Epub ahead of print])。(2)本論評で採り上げたChallen氏らの論文(Challen R, et al. BMJ. 2021;372:n579.)では、英国株は従来株に比べ重症度が高く、死亡率を1.64倍上昇させると報告されたが、英国株が重症度、死亡率を変化させないという逆の報告もあり(Frampton D, et al. Lancet Infect Dis. 2021 Apr 12. [Epub ahead of print])、この問題に関してはさらなる検討が必要である。(3)英国株感染者の男女比、年齢分布は従来株とほぼ同様である(Public Health England)。(4)再感染率に関しても従来株と明確な差を認めない(従来株:0.2~0.65%、英国株:0.7%)(Boyton RJ, et al. Lancet. 2021;397:1161-1163.、Graham MS, et al. Lancet Public Health. 2021 Apr 12. [Epub ahead of print])。(5)mRNAワクチン(Pfizer社BNT162b2、Moderna社mRNA-1273)は、英国株に対する液性中和反応を維持した(Liu Y, et al. N Engl J Med. 2021 Feb 17. [Epub ahead of print]、Wu K, et al. N Engl J Med. 2021 Feb 17. [Epub ahead of print])。この基礎的結果を支持する知見として、データ集積時に英国株が80%を占めたイスラエルでの解析においてBNT162b2の発症予防効果は94%であり、従来株に対する発症予防効果(95%)と同一であることが示された(Dagan N, et al. N Engl J Med. 2021;384:1412-1423.)。(6)一方、AstraZeneca社のadenovirus-vectoredワクチン(ChAdOx1)の英国株に対する液性中和反応は従来株に比べ約9倍低かった。それにもかかわらず、ChAdOx1の英国株感染に対する実際の発症予防効果は70.4%であり、従来株に対する予防効果(81.5%)より低いものの有効な範囲に維持されていた(Emary KRW, et al. Lancet. 2021;397:1351-1362.)。ChAdOx1に関する液性中和反応と臨床的予防効果の解離は、T細胞性免疫の維持によって説明できる。ワクチン接種によって記憶T細胞を介する細胞性免疫が賦活されるが、このT細胞性免疫機能は限局した変異に規定されるものではない(山口. 医事新報 No.5053:32-38, 2021)。それ故、たとえ、遺伝子変異によって液性中和反応が低下したとしてもT細胞性免疫機能の賦活によって英国株に対する発症予防効果が維持されたものと考察される。 本邦においても小数例(n=874、92%までが英国株)であるが英国株を中心とするN501Y変異株感染に関する臨床的特徴が発表された(国立感染症研究所2021年4月5日)。内容は海外で報告されたものとほぼ一致し、実効再生産数は従来株の1.32倍であった。海外の報告と異なった点は、15~29歳の若年層におけるN501Y株感染率が従来株の場合に比べ少し高値であったことである。再感染率、入院率、死亡率などは検討されていない。英国株感染に起因する臨床像には人種差が存在する可能性があり、本邦を含め世界各国においてさらなる解析を期待するものである。

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第57回 運動が良いのはヒスタミンのおかげ/抗老化成分がヒト試験で効果/mRNAワクチンの威力

運動はおそらく骨格筋順応を介して体調を上向かせ、骨格筋の衰えは老化を招きます。そんな健康維持に不可欠な骨格筋にまつわる2つの研究成果を紹介します。また、mRNAワクチンの威力を示した介護施設での感染解析結果を簡単にお知らせします。運動はヒスタミン受容体を介して体を鍛えるヒスタミンに関わる研究といえば主にアレルギー・炎症・胃酸分泌ですが、運動とのおそらく重要な関わりが随分古くから知られており、今から遡ること100年近く前の1935年には犬の静脈血のヒスタミンが筋肉収縮で増えることが報告されています1)。そのおよそ20年後の1958年には人の血中のヒスタミンが運動で増えることを示した報告2)があり、同時期の報告では人の前腕や手の動脈でヒスタミンが血管拡張作用を担うことが確認されています3)。時代は進んで今世紀初めの2006年の報告では人の運動後の骨格筋の血流増加(postexercise hyperemia)にヒスタミンH1/H2受容体が携わることが示され、幾つかの報告をまとめるとヒスタミンは運動後の回復に与る血管拡張にどうやら寄与すると示唆されました4)。有酸素運動はなんであれ体によく、心疾患などの慢性疾患の治療や予防に大変役立ちます。運動が健康に良いことを支える仕組みはよく分かっていませんでしたが、Science Advances誌に今月中頃に発表された試験報告によるとヒスタミンは運動後の回復に与するのみならず運動の健康増進作用にもなくてはならない働きをどうやら担っているようです5,6)。ベルギーのゲント大学の運動生理学者Wim Derave氏らのチームは健康な男性20人を募り、きつめのインターバル運動を6週間にわたって週3回繰り返してもらいました。男性の半数は運動の1時間前にヒスタミン受容体H1とH2を遮断する薬フェキソフェナジンとラニチジンかファモチジンを服用し、残り半数はプラセボを服用しました。そうして6週間後、ヒスタミン受容体遮断薬を服用した男性はプラセボ服用男性に比べて運動性能指標やミトコンドリアのエネルギー生成の改善が劣りました。また、血中の糖を細胞に移すインスリンの働きはプラセボ群では改善していたのにヒスタミン受容体遮断薬服用群ではそうなっていませんでした。ヒスタミン受容体遮断薬服用群では脚の筋肉の毛細血管形成が少なく、内皮細胞の形成に不可欠な内皮型一酸化窒素合成酵素の上昇が見られませんでした。先達の研究でも示唆されている通りヒスタミンは運動後の筋肉血流の最適化に関わって運動への全身反応を指示するのかもしれないと著者は考察しています。ヒスタミンH1/H2受容体が体調を整える仕組みや慢性疾患がヒスタミン作用にどう影響するかを今後調べることで新たな薬の標的の発見や運動の最適化の道が開けそうです5)。抗老化成分NMNでヒトのインスリンの働きもマウスと同様に改善マウスの老化の弊害を食い止めて代謝を改善することが知られる細胞成分・ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)の元となるニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を糖尿病になりそうな太った女性に投与した無作為化試験で有望なことにインスリン感受性改善が認められました7)。糖尿病の水準には至っていないものの血糖値が高めで太り過ぎか肥満の女性25人が試験に参加しました。13人はNMN 250 mgを10週間毎日服用し、残り12人にはプラセボが同じように投与されました。その結果、骨格筋に糖を受け取らせるインスリンの働きがNMN投与で改善し、骨格筋の構えや作り変え(remodeling)に関わる遺伝子発現も向上しました。ただし、血糖値や血圧は残念ながら下がりませんでした。それに血液中の脂質や肝臓のインスリン感受性の改善も認められず、肝臓の脂肪も減りませんでした。骨格筋のインスリン感受性が改善すればたいてい他の代謝指標も同様に改善するのですが今回の試験ではそうなりませんでした。とはいえ今回の試験結果は抗老化治療の開発を確かに一歩前進させるものです。インスリンは筋肉の糖の取り込みや貯蔵を促し、その効果が衰えると2型糖尿病を生じ易くなります。その衰えをどうやら食い止めるらしいNMNが骨格筋でどう働くかを今後の研究で詳しく把握する必要があります。また、前糖尿病や糖尿病を予防したり乗り切るのにNMNが役立つかどうかを試験しなければなりません。NMNは雌のマウスにとくに有効なので今回の試験は女性を募りましたが、男性も含めた試験に研究者はすでに着手しています8)。介護施設でmRNA COVID-19ワクチン接種が威力を発揮Pfizer/BioNTechかModernaのmRNAワクチンを去年12月から接種し始めた米国イリノイ州シカゴの75の介護施設で3月末までに居住者7,931人と職員6,834人が2回目接種を済ませ、その期間に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染した627人のうちワクチン2回目接種から14日以降に感染したのはわずか22人(4%;22/627人)のみでした9,10)。感染したとはいえそれら22人の6割以上14人は無症状で、22人から施設の他の人への感染は認められませんでした。また、PCR検査結果によると22人のウイルス量は少なめでした。同国ケンタッキー州の介護施設1つでのCOVID-19感染流行を調べた別の報告でもPfizer/BioNTechのmRNAワクチンの効果を裏付ける結果が得られています。2回目のワクチン接種から2週間が過ぎた居住者や職員の感染率はおよそ87%低かったと推定されました11)。参考1)McCord JL,et al. J Appl Physiol (1985). 2006 Dec;101:1693-701. 2)DUNER H, et al. Scand J Clin Lab Invest. 1958;10. :394-6.3)DUFF F, et al. J Physiol. 1954 Sep 28;125:581-9.4)Luttrell MJ, et al.Exerc Sport Sci Rev. 2017 Jan;45:16-23.5)Van der Stede T, et al. Sci Adv. 2021 Apr 14;7:eabf2856.6)Regular HIIT Exercise Enhances Health via Histamine / TheScientist7)Yoshino M, et al. Science. 2021 Apr 22:eabe9985. [Epub ahead of print]8)Anti-aging compound improves muscle glucose metabolism in people / Eurekalert9)Postvaccination SARS-CoV-2 Infections Among Skilled Nursing Facility Residents and Staff Members - Chicago, Illinois, December 2020-March 2021. MMWR. April 21, 2021.10)US administers 200 million COVID-19 vaccine doses / University of Minnesota11)COVID-19 Outbreak Associated with a SARS-CoV-2 R.1 Lineage Variant in a Skilled Nursing Facility After Vaccination Program - Kentucky, March 2021. COVID-19 Outbreak Associated with a SARS-CoV-2 R.1 Lineage Variant in a Skilled Nursing Facility After Vaccination Program - Kentucky, March 2021. MMWR. April 21, 2021.

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新型コロナワクチン接種、間違い防止チェックリストの活用を/厚労省

 厚生労働省は各医療機関などが新型コロナワクチン接種を実施するにあたり、ホームページ内の「新型コロナワクチンの接種を行う医療機関へのお知らせ」「新型コロナワクチンに関する自治体向け通知・事務連絡等」ページにて『予防接種を適切に実施するための間違い防止チェックリスト』を公開している。 このリストは、「確認チェックリスト」「医師がチェックする確認事項の解説」「事故予防対策の例」の3つに項目立てされており、受付・問診から救急搬送措置に至るまで、注意すべきポイントが一連の流れに沿って記載されている。 医師がチェックする確認事項は多岐にわたり、ワクチンの種類(メーカー名)や接種量はもちろんのこと、受付で確認済みの診察券、予診票、母子健康手帳、予防接種済証も医師が再確認することになっている。また、現時点では16歳未満への接種は推奨されていないが、沖縄の離島で年齢確認を誤り15歳の高校生に接種してしまった事例が報告されており、「来場者がワクチンの対象接種年齢であるか」「直前の予防接種実施日(新型コロナワクチン以外の場合は、原則13日以上の間隔が空いていること)」などの確認について、医療者より知識の少ない一般市民への接種には十分な配慮が必要である。 以下はリストの項目のみ抜粋したもの。1 確認チェックリスト(医師、看護師、保健師等及び事務従事者が分担し、ダブルチェックを行う。)(1)個別接種A.受付時の確認事項B.問診時の確認事項C.接種時の確認事項D.接種後の確認事項E.ワクチン保管の確認事項I.救急搬送措置の確認事項(2)集団接種A.受付時の確認事項 B.問診時の確認事項 C.接種時の確認事項 D.接種後の確認事項については、(1)個別接種と同じ。F.事前の準備での確認事項G.当日の準備での確認事項H.予防接種液の調整I.救急搬送措置の確認事項2 医師がチェックする確認事項の解説 医師は、上記のチェックリストの「B.問診時の確認事項」「C.接種時の確認事項」「D.接種後の確認事項」「E.ワクチン保管の確認事項」について、看護師、保健師等及び事務従事者のチェックが適切に行われているか再確認する。 とくに、以下のBの1)、2)、3)、4)、5)及びCの4)については、慎重に確認する。B.問診時の確認事項C.接種時の確認事項D.接種後の確認事項E.ワクチン輸送・保管の確認事項3 事故予防対策の例1)予定外のワクチン接種(ワクチンの取り違え)2)接種量の誤り3)接種回数の誤り4)接種方法の誤り5)接種間隔の誤り6)接種開始時期の誤り7)予診票確認の不備8)有効期限切れワクチンや注射器での接種9)接種後の安全確保10)ワクチン保管の不備11)特設の接種会場における事故

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第52回 上がらないワクチン接種率、歯科医参入が打開策となるか?

<先週の動き>1.上がらないワクチン接種率、歯科医参入が打開策となるか?2.基礎疾患者のワクチン、高齢者の接種待たずに開始/厚労省3.元三重大の准教授、カルテ捏造で執行猶予4年の有罪判決4.75歳以上の医療費負担引き上げ法案、収入に応じた制度に5.コロナの影響大、けんぽ組合の8割が赤字に転落/健保連6.病室Wi-Fi導入は申請で全額補助、患者団体らの申し入れから1.上がらないワクチン接種率、歯科医参入が打開策となるか?厚労省は、全国1,741市町村のうち、集団接種を予定する会場で18.1%が医師不足、22.8%が看護師不足とする3月25日時点の調査結果をもとに、歯科医の協力なしに集団接種が困難であるとし、歯科医も(1)筋肉注射の経験がある、(2)必要な研修を受けている、(3)接種者の同意を得ている、などの条件を満たせば、新型コロナワクチンの実施を特例的に認める方針を決めた。首相官邸によると、22日時点で1回以上接種した医療従事者等は約162万人、高齢者は約5万人(全例1回接種)で、全人口に対する接種率は先進国と比べると極端に低い水準にある。(参考)新型コロナワクチン注射、歯科医も 厚労省が方針決定(朝日新聞)新型コロナワクチン 歯科医師が接種 特例で認める方針 厚労省(NHK)これまでのワクチン総接種回数(首相官邸)2.基礎疾患者のワクチン、高齢者の接種待たずに開始/厚労省厚労省は、新型コロナウイルスワクチンの接種について、65歳以上の高齢者向けの接種が完了する前でも、がんや慢性心臓病などの基礎疾患を持つ者に対しての接種を認める方針を示し、自治体にも通知を発出した。認知症の高齢者などで、意思確認が難しい場合についても、ほかの季節性インフルエンザなどの定期接種と同じく、状況に応じて、家族やかかりつけ医、高齢者施設の介護者などの協力を得て、本人の意向を丁寧にくみ取って行う。また、意思は確認できても、自署ができない場合には、家族などによる代筆を行うなど適切な運用を求めている。(参考)基礎疾患者の接種、高齢者の完了待たず可能 厚労省(日経新聞)コロナのワクチン優先接種の基礎疾患(NHK)資料 新型コロナウイルスワクチンに係る予防接種の高齢者に次ぐ接種順位の者(基礎疾患を有する者等)への接種の開始等について(事務連絡 令和3年4月21日)資料 新型コロナ予防接種の実施に係る留意事項について(事務連絡 令和3年4月23日)3.元三重大の准教授、カルテ捏造で執行猶予4年の有罪判決22日、津地方裁判所は、三重大学附属病院で行われた手術において、使っていない薬の電子カルテを改ざんし、診療報酬をだまし取ったとして詐欺罪などを問われた元准教授に、懲役2年6ヵ月、執行猶予4年の判決を言い渡した。判決理由は、「自らの立場を悪用した犯行で、医療現場での重要な記録に対する社会の信用が害された程度は大きい」と非難し、懲戒解雇された点などを考慮し、執行猶予となった。この事件を巡っては、被告の上司にあたる元教授も詐欺罪で起訴されている。(参考)カルテ改ざん有罪判決 津地裁、三重大元准教授に(日経新聞)当院臨床麻酔部における不正事案に対する取り組みについて(三重大学)4.75歳以上の医療費負担引き上げ法案、収入に応じた制度に菅総理大臣は23日に開催された衆議院厚生労働委員会で、75歳以上の医療費の自己負担を年収200万円以上の人を対象に2割に引き上げる医療制度改革関連法案について、「現在の社会保障制度を次の世代に引き継いでいくため、負担能力に応じた制度に改める必要がある」と述べ、理解を求めた。なお、法案は2022年1月1日からの施行を予定しており、単身世帯で年収200万円以上、複数世帯では75歳以上の年収合計が320万円以上の場合に対象となる者は約370万人。引き上げ後3年間は、激変緩和措置を設ける方針が打ち出されている。(参考)菅首相 社会保障制度「負担能力に応じた制度に改める必要」(NHK)全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案概要(衆議院)5.コロナの影響大、けんぽ組合の8割が赤字に転落/健保連22日、健康保険組合連合会(健保連)が、全国の大企業の社員が加入している健康保険組合の財政について、2021年度は77.9%の赤字が見込まれると推計を発表した。実質保険料率が初めて10%を超え、義務的経費に占める拠出金割合が50%超の健保組合が全体の26.2%を上回っている。加入者の所得減に伴う保険料収入の減少など、さらに厳しくなっている財政状況に、今後の展開が危ぶまれる。2022年以降は団塊世代が後期高齢者入りするため、さらに拠出金負担が増大することが見込まれ、想定より早く保健財政に危機が到来したと考えられる。国民皆保険制度の維持、現役世代の負担軽減のため、現在、国会で法改正について審議を行なっているが、後期高齢者2割負担導入による現役世代の負担軽減は必須とし、早期の施行を求めている。(参考)健保組合、8割が赤字の見通し 21年度予算を公表(毎日新聞)コロナ響き、健保組合の8割が赤字 保険料率引き上げも(朝日新聞)資料 令和3年度 健康保険組合の予算早期集計結果(概要)について(健保連)医療保険制度改革関連法案に関する資料(同)6.病室Wi-Fi導入は申請で全額補助、患者団体らの申し入れから23日、新型コロナ感染拡大時に闘病生活を送ったフリーアナウンサーの笠井 信輔氏を始め、神経難病患者らで作る団体や病院に入院中の患者らが、院内で無線LAN(Wi-Fi)を使えるようにしてほしいと厚労省に申し入れをした。これは、笠井氏が悪性リンパ腫を患って入院中、コロナの影響で友人などのお見舞いも受けられず孤立していた時に、スマホのデータ通信で毎月1万円近くの追加料金がかかったことや、オンラインでお見舞いの会を開いてもらったことなどをきっかけとして、難病患者らとともに病院がWi-Fiを設置できるよう国に政策として予算をつけてほしいと訴えた形。今回、補正予算で通信関連設備への補助がつき、上限はあるものの、申請があれば全額補助可能となった。電波環境協議会の2019年のサンプル調査によると、医療機関のうち81.1%がWi-Fiを導入し、電子カルテなどの医療系システムやインターネットサービスを利用しているが、患者にWi-Fiアクセスを提供しているのは27.3%に過ぎない。申請に当たっては、「令和3年度新型コロナウイルス感染症感染拡大防止・医療提供体制確保支援補助金に関するQ&A」を参照されたい。(参考)病室にWiFi「今やライフライン」 笠井アナら訴え(朝日新聞)#病室WiFi協議会 ホームページ【拡散希望】病室のWi-Fi開設に国の予算が付きました(笠井信輔氏のブログ)

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COVID-19感染流行下における血液疾患診療の指針まとめ/日本血液学会【Oncologyインタビュー】第32回

日本血液学会は3月半ば、「新型コロナウィルス感染症蔓延下における血液疾患診療について」と題した声明を発表した。血液腫瘍を専門とする医療者に向け、疾患別に分けたうえで新型コロナ流行下での診療方針と、患者へのワクチン接種の推奨について留意事項をまとめたものだ。この声明をまとめた日本血液学会理事、造血器腫瘍診療ガイドライン委員会委員長である筑波大学の千葉 滋氏(血液内科 教授)に作成の経緯と狙いを聞いた。インタビューはzoom形式で行われた―このタイミングで声明を出された経緯は?これまでも、学会としては米国血液学会(ASH)や欧州血液学会(EHA)が発表した情報(Q&Aなど)を紹介、アップデートしてきました。ただ、日本は感染蔓延状況が欧米に比べればマイルドであり、また治療を入院で行うか外来で行うかが異なることもあります。このため、欧米における危機対応の判断の中には必ずしも日本の現状にそぐわない点もある、という声がありました。そこで、作業のためのワーキングチームで議論を始めました。また、学会誌である「臨床血液」の2月号がCOVID-19の特集号となっており、こちらと相互補完的に情報共有ができればよい、とも考えました。―COVID-19の影響で血液疾患の治療にはどんな変化がありましたか?日本では感染者の絶対数が北米や欧州諸国ほど多くありません。日本で血液疾患を診療しているのは中〜大規模医療機関が主体ですが、こうした病院において血液疾患の診療を大幅に抑制せざるを得なくなったところはあまり多くないのではと思います。血液疾患には「急速に病態が進む」ものと「緩やかな経過をたどる」ものがあります。急速に病態が進む疾患は、COVID-19感染リスクを勘案したとしても、治療を待てないケースが大半です。一方で、緩やかな経過をたどる疾患では、計画どおり治療を進めるべきか、COVID-19感染リスクを考慮して計画を変更すべきか、慎重に判断すべき時期があります。血液疾患は疾患そのものが要因で免疫不全になり、さらに治療によって一段と深刻になるケースが多いため、治療のベネフィットと感染リスクの見極めが必要になるからです。たとえば悪性リンパ腫の中で緩やかな経過をたどる疾患における寛解後の維持療法では、ベネフィットがリスクと比して少ないと医師が判断した場合には、治療を延期・中断するなどの判断が行われると思います。日本血液学会のサイト上で公開されている声明他のがんでは、「COVID-19による受診控えでがんの診断や治療が遅れる」といった問題も指摘されてきました。しかし、血液腫瘍は病態進行の速さから何ヵ月も受診を控えることが現実的でない場合が多いですし、一般に血液腫瘍が疑われるとなるべく早く専門施設の受診を勧められるケースが大半です。ですから、COVID-19蔓延のための受診控えによって治療の遅れが多数のケースで生じた、ということはなかったのではないかと想像しています。血液学会で計画されている「COVID-19レジストリ―研究ワーキンググループ」の調査により、血液疾患を持つ新型コロナ感染者の実態の一部が明らかになると思います。―今回の声明では、ASH等の海外学会が発信しているQ&Aと違う意見が述べられているのでしょうか?米国はもともと人口当たりの病床数が日本に比べて圧倒的に少なく、入院費用も非常に高額であるため入院期間が短く、日本では入院となるような治療(たとえば自家造血幹細胞移植など)でも外来で行われてきたという実態がありました。ここに、日本よりも2桁多い累計3,000万人を超えるような数の新型コロナの感染者が発生したことから、外来・入院それぞれで病院機能が受けた影響は日本に比べ格段に大きかったと推察されます。このために、血液疾患の治療も平時の治療から変更せざるを得ないケースが出てきて、そのノウハウが情報発信されているものです。一方で、日本では先にお話ししたように、血液疾患の治療を平時のものから変更しなければならないような事態には必ずしも至っていないため、今回の声明でも「従来のガイドラインに沿った治療を継続すべき」との見解が多くなっています。ただ、一部には、通院間隔を空けるため投与間隔の長い薬剤に変更する、維持療法を見送る、等の提案をしている箇所もあります。―血液疾患患者に対するワクチン接種の推奨はどのようになっていますか?基本的には「打てる状況ならば、打っておいたほうがいい」というスタンスです。実際には、ワクチン開発中の治験に組み入れられた血液疾患の患者はおらず、エビデンスが蓄積されるのはこれからです。一般にがん患者がCOVID-19に罹患すると重症化リスクが高いとさまざまに報告されており、ワクチンの有効性のデータからも血液がんあるいは他の血液疾患で接種を推奨しない理由はありません。ただ、実際はそれほど単純ではありません。血液疾患患者は免疫不全状態にあることが多く、抗がん剤や免疫抑制剤による治療中であればさらにそれが顕著となります。結果として、一般の方よりもワクチンの効果が低くなることが予想されます。もともとワクチン接種による免疫獲得の成功率は100%ではありませんが、血液疾患患者の成功率はさらに下がる可能性が高い。とくに同種造血幹細胞移植後の患者さんは免疫がほとんど消えてしまいます。移植後に免疫が回復するには時間がかかりますので、これまでも移植後は6ヵ月経過し免疫抑制剤を中止した後に、肺炎球菌や麻疹・風疹などへの予防接種をしていました。生ワクチンは移植後1年経過してからです。新型コロナワクチンについては、移植後いつ接種すべきかが一層深刻な問題です。免疫回復を待っている間にも感染する危険がありますので。こうした点について声明では、欧米の推奨と共に、基本的な考え方を記述しています。一方、新型コロナワクチンを優先接種したすぐ後で抗がん剤治療や移植を実施すれば、ワクチンの効果が消えてしまう可能性もあります。「消えたら再接種ができるのか」という問題はまだ議論もされていない状況ですから、抗がん剤治療や移植が計画されている場合にいつ接種するかは、慎重な判断が求められるわけです。骨髄腫など治療が長期に及ぶ疾患においても、治療中のどのタイミングでワクチンを接種するのか、という別の判断が必要です。骨髄腫についてはつい先頃、日本骨髄腫学会が独自に留意点などを公表しています。こう見ていくと、大多数の血液疾患の患者さんにワクチン接種は推奨されるものの、実際にどのタイミングで接種するかは、個々の患者さんの疾患と治療の段階に応じて主治医と相談しながら決めていただく、という結論になるでしょう。血液疾患といっても多種多様です。血液学会のほかに移植・免疫療法、骨髄腫、血栓・止血、小児血液・がんなどの専門学会があるので、そちらからの声明もご確認いただければと思います。参考サイト日本血液学会「新型コロナウィルス感染症蔓延下における血液疾患診療について-留意事項-」日本骨髄腫学会「骨髄腫患者に対する新型コロナウイルス(COVID-19)ワクチン接種について」

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内科レジデントを終え次のステップへ、臨床留学医の挑戦はなお続く【臨床留学通信 from NY】第20回

第20回:内科レジデントを終え次のステップへ、臨床留学医の挑戦はなお続く全世界の死者が300万人を超える中、米国ではワクチン接種が進み、4月6日以降は16歳以上の全員が接種できるようになりました。それでもニューヨーク州は、変異株の影響で依然として1日5,000人程度の感染者数が続いています。しかしながらCOVID-19のために入院を要する高齢者の数は劇的に減少し、4月になってからは、ほぼ新規の入院はなくなりました。そんな中、私は7月よりAlbert Einstein Medical College/Montefiore Medical Centerという同じニューヨーク市にある病院でCardiology fellowをすることになり、その書類作業に追われております。日本と違って、入職前に健康診断を済ませる必要がある上、HIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act)の兼ね合いから、数多くのweb based moduleをこなさないと働かせてもらえないのです。さて、今回よりフェローシップのマッチングについて話をしていきたいと思います。レジデント同様、内科のサブスペシャリティのフェローについても、マッチングのアルゴリズムに則って、ウェブ上で出願する必要があります。誰もが希望する診療科に進める日本と異なり、そこは残酷な競争の原理が働いています。例えば、内科系で最も競争の激しい循環器内科は、全米で1,083のスポットしかありません。それは、1,000人強ほどのフェローに対し必要十分な研修が行えるように、国全体でspotの数を定めているからです。それに対し、通年ならば1,400人弱ほどの出願数があるのですが、昨年は新型コロナの影響でより多く循環器科などのフェローシップへの道に流れ、さらにzoomなどによるウェブ面接となったことで、強い候補者が例年ならあまり行かないような遠隔地にある病院の面接を数多く勝ち取った上、通常ならば出るキャンセル待ちもなくなってしまい、弱肉強食の原理が色濃く出る結果となりました。そのため昨年は例年より多い1,567人の出願者数に対し、3人に1人はアンマッチという現実でした。残念ながら私の同僚でほかに4人が循環器科に出願していましたがいずれもアンマッチという状況でした(例年ならば、当院からはアンマッチは循環器科にはありません)。詳しくはこちらのウェブサイトをご覧ください1,2)。このPDFを見ると具体的な数字がありますが、IMG (international medical graduates)は、AMG (American Medical Graduates)に比べてビザ保有という点で圧倒的に不利な中で、DOと呼ばれるMDとは違う医学部の医学教育を得て卒業した米国人や、主にカリブ海地域の医学部を卒業した米国人(US Foreign)と遜色のないマッチ率となっていますが、ここに至るまでには非常に熾烈な競争を余儀なくされます。次回以降、マッチのための準備やプロセス等について述べていきたいと思います。参考1)https://mk0nrmp3oyqui6wqfm.kinstacdn.com/wp-content/uploads/2020/12/MSMP-Match-Results-Report-AY2021.pdf2)https://mk0nrmp3oyqui6wqfm.kinstacdn.com/wp-content/uploads/2019/12/415_MRS.pdfColumn画像を拡大する日本よりも数週間遅れでニューヨークにも春が来て、セントラルパークで花見を楽しむ人の姿がありました。なかなか風情のある景色が都会のオアシスに広がっています。

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新型コロナワクチン、既感染者での効果は?/NEJM

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)既感染者にワクチンを接種すべきかどうか、まだはっきりしていない。これまでに既感染者が未感染者よりワクチンによる抗体応答が有意に高かった報告は少ない。今回、イタリア・シエナ大学のGabriele Anichini氏らが実施したコホート研究では、既感染者でのワクチン単回接種後の中和抗体価が、未感染者における2回接種後より有意に高いことが示された。NEJM誌オンライン版2021年4月14日号のCORRESPONDENCEに報告。 本研究では、SARS-CoV-2既感染者38人(男性9人と女性29人、平均年齢35.1歳、95%信頼区間[CI]:31.7~38.6歳、感染からワクチン接種までの平均日数:111日)と、未感染者62人(男性25人と女性37人、平均年齢44.7歳、95%CI:41.0~47.6歳)の計100人の医療従事者が参加した。 両群ともファイザー社製mRNAワクチンBNT162b2を接種。既感染者は初回接種の10日後に、未感染者は2回目接種の10日後に血清サンプルを採取した。すべての参加者において、化学発光微粒子免疫分析を用いて、特異的抗SARS-CoV-2スパイクIgGの有無を調べた。 主な結果は以下のとおり。・血中循環抗スパイクIgG抗体力価は、既感染者と未感染者で有意差はなかった。・特異的抗SARS-CoV-2中和抗体の幾何平均力価は、既感染者(569、95%CI:467〜670)と未感染者(118、95%CI:85〜152)に差がみられた(p<0.001)。年齢や性別による実質的な差はなかった。・既感染者(血中循環抗スパイクIgG抗体が検出されなかった1人を除く)を感染からワクチン接種までの期間が1〜2ヵ月(8人)、2〜3ヵ月(17人)、3ヵ月以上(12人)の3グループに分類したところ、血中循環IgG抗体の平均力価は、感染1〜2ヵ月後に接種したグループ(1mL当たり15,837任意単位)と2〜3ヵ月後に接種したグループ(同21,450任意単位)で差がみられた。感染2~3ヵ月後に接種されたグループと3ヵ月以降に接種されたグループ(同21,090任意単位)の間には有意差はみられなかった。中和抗体の幾何平均力価では、感染1〜2ヵ月後に接種されたグループが437(95%CI:231〜643)、2~3ヵ月後に接種されたグループが559(同:389~730)、3ヵ月以降に接種されたグループが694(同:565~823)であり、感染後3ヵ月以上以降に接種するとブースター反応がより効果的であることを示しているが、決定的な結論を下すには十分ではなかった。 著者らは、「これらの結果は、SARS-CoV-2既感染者のワクチン単回接種後は未感染者の2回目接種後より強い液性応答を示すというエビデンスを提供する」と述べている。

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イスラエルの新型コロナワクチンの効果、地域や年齢による差は?

 新型コロナワクチンの接種が各国にて急ピッチで進められているが、社会における実質的な効果の検証が求められている。イスラエル・ワイツマン科学研究所のHagai Rossman氏ら研究チームが、国内におけるワクチン接種の開始前後におけるCOVID-19症例数と入院数の経時的変化について分析したところ、ワクチン接種における年齢および地域の優先順に、COVID-19症例数および入院者数が大幅かつ速やかに減少傾向を示していたことがわかった。イスラエルでは、2020年12月20日から新型コロナワクチン接種が始まり、優先対象の60歳以上では、2月24日時点で85%が2回の接種済みだという。著者らは、本結果がコロナパンデミックに対する全国的なワクチン接種キャンペーンの実効性を示唆するものだと述べている。Nature Medicine誌オンライン版2021年4月19日号に掲載の報告。 本研究では、2020年8月28日~2021年2月24日に収集したイスラエル保健省のデータを後ろ向きに分析。2020年12月20日に開始されたファイザー社製ワクチン(BNT162b2 mRNAワクチン)接種キャンペーン後の新しいCOVID-19症例数と入院数の経時的変化を検証した。具体的には、(1)優先接種対象の60歳以上とそれ以下の年齢層(2)2020年9月のロックダウンと2021年1月のロックダウン(3)ワクチン接種の実施が早かった都市と遅い都市―の3項目について、ワクチン接種がどのように影響しているか調べた。 年齢層の検証では、ワクチン接種の優先順位の高かった60歳以上で、それ以下の年齢層よりもCOVID-19症例数および入院数が大幅かつ速やかな減少が見られた。この傾向は、国のワクチン接種優先スケジュールの順番と正比例していた。また、同様の減少傾向は2021年1月のロックダウン時には見られたが、ワクチン接種の実施前となる2020年9月のロックダウン時には観察されなかった。 地域の検証では、早期にワクチン接種を実施した都市において、60歳以上のCOVID-19症例数および入院数の大幅かつ速やかな減少が見られた。具体的には、早期に実施した都市では、ピーク値と比べCOVID-19症例数は88%、重症者入院率は79%減少したのに対し、後期に実施した都市ではCOVID-19症例数78%、重症者入院率66%の減少にとどまった。

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第54回 専門家コメントの揚げ足を取る奴ら、新型コロナ感染対策の赤点取るなよ

もう高校を卒業してから30年以上が経過しているが、先日同世代のある方と電話で話していて「赤点」という懐かしい言葉を耳にした。いうまでもなく学習の習熟度を測る基準点で、高校時代はこの点数を下回ると最低でも追試、最悪は留年となった。赤点ラインは学校によってかなり差があり、私の高校では全教科一律で50点未満が赤点。ちなみに大学入学後、この母校の赤点ラインは周囲と比べてかなり厳し目であることを初めて知った。かくいう私は2度の赤点経験者だが、なんとか無事に卒業はしている。そんなこんなを思い出しながら、ふと今のコロナ禍に思いが至った。というのも、この電話をしていた日に以下の記事が文藝春秋の運営する情報サイト「文春オンライン」に掲載され、話題を呼んでいたからだ。「『東京五輪1年再延期の検討を』 西浦教授が提言」西浦教授とは言うまでもなく、コロナ禍の当初、厚生労働省の新型コロナウイルス感染症クラスター対策班の一員として活動し、流行拡大を阻止のために人と人との接触を8割減にする必要があると繰り返し主張してきた通称「8割おじさん」こと、京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻教授(クラスター対策班当時は北海道大学大学院医学研究院教授)の西浦 博氏のことである。内容は何のことはない。「今の感染急増を踏まえると、ワクチン接種の機会が医師ですら不足する可能性もある。そのことを考慮して、国民に広くワクチンが行き渡るであろう来年に東京オリンピック・パラリンピックを再延期してはどうか」という西浦氏の提言が紹介された記事だ。この記事は「Yahoo!ニュース」で配信されると瞬く間にネット上で拡散され、4月21日時点で「Yahoo!ニュース」コメント欄には6000件超のコメントが寄せられている。コメントの多くは、おおむね西浦氏の主張には理解を示している。ただ、「延期はない。中止だろう」の趣旨のものが目立つ。私は西浦氏の本音は中止なのだろうが、大会関係者の意向も忖度して「再延期」と表現しているのだと勝手に推測している。ただ、このコメント欄や記事を引用したTwitterやFacebookの投稿の一部には、もはや誹謗中傷の域としか思えないコメントも見受けられる。この記事に対する反響は配信直後から良くも悪くも相当大きかったのだろう。西浦氏はTwitter上でお詫びも含めたツイートをしている。悪いほうの反響で多く見かけるのが、西浦氏が2020年4月に発表した数理モデルを利用した試算への批判だ。これは感染拡大に無対策だった場合、流行終息までに日本国内では約42万人が死亡するというもの。当時、社会に衝撃を与えた試算だったが、前述の批判とはこれを「大外れだったではないか」と指摘するものである。その多くは医療と無関係な一般人だが、ごく一部には医療従事者もいるようだ。私はこの批判は的外れだと思っている。そもそも試算は、「無対策ならば」などの条件付きであり、試算結果のようにならないために「人と人の接触8割減」が必要という提言もセットで発表されている。冒頭のテストに例えれば、私たちは予め問題と模範解答を示され、赤点を回避するよう迫られていたわけである。もし試算が的中したら政治、アカデミアも含め国民全員の敗北、言葉は汚いが日本は「国民総アンポンタン」との烙印を押されていたのである。この西浦氏の「人と人の接触8割減」提言について、政治の側で満額回答を示したわけではなかったが、インフルエンザ等特別措置法(特措法)に基づく初の緊急事態宣言発出とそれを根拠にした飲食店の時短営業や一部商業施設の休業、イベントの中止・延期、テレワークの推奨などといった対策に落とし込まれ、さらに国民には「3密の回避」「マスク着用」「手洗いの励行」などのメッセージが繰り返し伝えられた。その結果として一時的とはいえ感染拡大はかなり抑制できた。今現在、私たちは第4波とでも言うべき感染急増に晒されている。4月5日以降、特措法に基づく「まん延防止等重点措置」が10都府県に順次発出されたが、それでも連日1,000人を超える感染者が報告されている大阪府、感染拡大傾向を見せる東京都はともに緊急事態宣言発出が確実視されている。この感染急拡大の原因の一つとして英国株を中心とする感染力が強い変異株の流行が指摘されている。それは事実だろうが、改めて言うまでもなく、野生株だろうが、変異株だろうが、▽人と人との接触減(その中でもとりわけ3密の回避)▽マスク着用▽手洗いの励行といった感染拡大阻止の対策は変わらない。むしろその徹底がより必要となってくる。強いて言うならば、これらの対策に「接種できる人は速やかにワクチン接種をする」という対策が加わる。いずれにせよ西浦氏の最初の試算発表時から今まで、私たちは同じ問題とそれに対応したほぼ同じ模範解答が示され、その徹底を求められている。医療従事者と私たち報道関係者は、自分自身の徹底に加え、他者への呼びかけも今まで以上に求められることになる。最終的に東京オリンピック・パラリンピックが予定通り1年遅れで開催されるのか、再延期となるのか、それとも中止となるのか。この点は医学的な判断のみならず高度に政治的な判断も加わるため、今の時点で予測不可能だ。現在、緊急事態宣言発出を巡って、一部への休業要請も含めたより強い対策をどこまで行うのかは水面下で調整が行われている。が、まん延防止等重点措置にしろ緊急事態宣言にしろ、一度発出されてしまえばその後は単に政治家や医療従事者だけでなく、対象となる地域の住民も行動の真価が問われることになる。そして私たちに「赤点」が付くかどうかは数ヵ月以内に判明することになる。

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ファイザー製ワクチン、免疫チェックポイント阻害薬投与がん患者での安全性

 全身薬物療法で治療後もしくは治療中のがん患者は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死亡リスクが高いため、ワクチン接種の優先度が高いグループと見なされる。しかし、がん患者におけるワクチンの安全性および有効性データはない。また、一部の専門家から、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)投与患者において、ワクチンで免疫関連有害事象を誘発または増強する可能性が指摘されている。今回、イスラエル・Tel Aviv Sourasky Medical CenterのBarliz Waissengrin氏らは、ICIで治療されたがん患者におけるファイザー社製ワクチン(BNT162b2 mRNAワクチン)の安全性について調査した。Lancet Oncology誌オンライン版2021年4月1日号に掲載。 Tel Aviv Sourasky Medical CenterおよびBnei-Zion Medical Centerでは、積極的治療を受けているがん患者すべてに対し、病期、PS、余命に関係なくワクチン接種を推奨した(SARS-CoV-2感染歴のある患者、感染している患者、免疫関連有害事象が制御されていない患者は除外)。本調査では、この2施設において、ICIで治療された患者におけるBNT162b2mRNAワクチンの有害事象を対照群(性別および生まれ年をマッチさせた健康成人)と比較した。2021年1月11日~2月25日に、ICIで治療されていたがん患者170例のうち、副反応を恐れて接種を拒否した33例を除いた137例が初回のワクチン接種を受け、うち134例が2回目のワクチン接種を受けた。ワクチンは1日目と21日目に標準用量で接種し、アンケートは電話で行った。 主な結果は以下のとおり。・初回投与後に3例が死亡し、うちCOVID-19による死亡が1例、がんの進行による死亡が2例だった。初回投与後に最も多かった有害事象は注射部位の痛みで、134例中28例(21%)にみられた。全身性では倦怠感(4%)、頭痛(2%)、筋肉痛(2%)、悪寒(1%)などがみられた。・2回目の投与後の観察期間中に、134例中4例(3%)が入院した(がん関連の合併症3例、発熱1例)が、全例が治療後に退院した。初回より2回目のほうが、全身性および局所性の有害事象が多く観察された。主な有害事象は、局所性では注射部位の痛み(63%)、局所発疹(2%)、局所腫脹(9%)で、全身性では筋肉痛(34%)、倦怠感(34%)、頭痛(16%)、発熱(10%)、悪寒(10%)、消化器合併症(10%)、インフルエンザ様症状(2%)で、入院または特別な介入は必要な例はなかった。・がん治療はICIのみが116例(87%)、ICIと化学療法の併用が18例(13%)だったが、全身性の有害事象はどちらも同程度だった。免疫関連有害事象の新規発現、既存の免疫関連有害事象の悪化はみられなかった。・筋肉痛はがん患者で有意に多かったが、それ以外はがん患者群と対照群で類似していた。両群ともワクチン接種後に免疫関連筋炎はみられなかった。・ワクチン接種前に免疫関連有害事象を報告していた患者(54%)と報告しなかった患者で、2回目接種後に全身性の有害事象を報告した患者数に有意な差はなかった(p=0.94)。過去に免疫関連有害事象を経験した患者でもワクチン関連有害事象は軽度で、入院や治療中止に至らなかった。 著者らは、「これらのデータは、ICIで治療されたがん患者におけるBNT162b2 mRNAワクチンの短期的な安全性を示唆している」としている。

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第56回 COVID-19の自宅ステロイド治療が有望/血栓症はワクチン後よりCOVID-19後の方が多い

COVID-19のステロイド治療で回復が早まり、悪化を減らしうる非入院の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者が入院せずに済むようにしうる治療幾つかをまとめて調べている英国の無作為化試験PRINCIPLE1)でステロイド・ブデソニド(商品名:パルミコート)吸入の効果が判明しました。65歳以上か持病がある50歳以上のCOVID-19患者の回復までの日数は通常療法に加えてブデソニドを14日間1日2回吸入する群751人の方が通常療法のみの群1,028人に比べて約3日間(3.011日間)短かったのです2,3)。入院率はブデソニド吸入群では8.5%、通常療法のみの群では10.3%でした。その差のベイズ95%確信区間(-0.7%~+4.8%)上限は0を超えており、今回の途中解析では残念ながらブデソニドが入院を減らす効果は示せませんでした。しかしPRINCIPLE試験の担当医一覧にも名を連ねるMona Bafadhel氏等が率いた別の無作為化試験STOICでは有望なことにブデソニド治療で救急科(ED)受診や入院を含む急な医療動員を減らすことができました。Lancet Respiratory Medicine誌4)に最近掲載されたSTOIC試験はPRINCIPLE試験よりも小規模で被験者数は146人です。PRINCIPLE試験では重症化の恐れが大きい高齢者への効果が調べられたのとは違ってSTOIC試験の被験者はより若く、18歳以上の患者を対象としました。軽度のCOVID-19発症から7日以内のそれら被験者の住まいに看護師が出向いて同意を得、通常療法かブデソニド吸入群に無作為に振り分け、吸入器を渡し、PCR検査用の鼻喉の拭い液を回収しました。患者には研究チームが毎日電話して酸素飽和度や体温が確認され、有害事象が把握されました。患者とそのようにやり取りして28日間追跡した結果、咳には蜂蜜(honey)、発熱症状にはアセトアミノフェンやアスピリン等の解熱剤使用が指示された通常療法群73人では15%(11/73人)がED受診や入院を含むCOVID-19関連の急な医療の出番を要しました。一方、残り半分73人のブデソニド吸入群でのその割合は僅か3%(2/73人)で済みました。ブデソニド吸入はCOVID-19感染初期に有効な治療として世界で広く利用しうると著者は言っています。今後の課題の一つとしてSTOIC試験で示されたCOVID-19悪化予防効果がブデソニドに限るのかそれともどの吸入コルチコステロイドにもあまねく備わっているのかを調べる必要があります5)。稀な血栓症・脳静脈血栓症はCOVID-19後の方がワクチン後より生じ易いAstraZenecaやJohnson & Johnson(J&J)のワクチンの稀な血栓症・脳静脈血栓症が心配されていますが、ではそれらワクチンで防ぎうるCOVID-19後はどうなのか?米国の8,100万人を網羅する医療情報集TriNetX Analyticsを使った解析によると脳静脈洞血栓症(CVST)とも呼ばれる脳静脈血栓症はどうやらワクチン後に比べてCOVID-19の後の方がずっと生じ易いようです6)。TriNetX Analyticsに記録されたCOVID-19患者51万3,284人のうち20人がその診断から2週間以内に脳静脈血栓症を発現しました。Pfizer/BioNTechやModerna のmRNAワクチンを接種した48万9,871人での発現数は2人のみでした。100万人当たりに換算するとCOVID-19後2週間の脳静脈血栓症発現数は39例、かたやmRNAワクチン接種後2週間は僅か4例であり、COVID-19後はmRNAワクチン接種後より10倍ほど生じ易いことが示されました。著者が言及している最近の欧州医薬品庁(EMA)推定によるとAstraZenecaのCOVID-19ワクチン接種後の脳静脈血栓症の発生率は100万人あたり5人です。AstraZeneca と同じくアデノウイルスを下地とするJ&Jワクチンがどうかは今回の解析では言及されていません。Pfizerは今回の結果に納得しておらず、同社のmRNAワクチンと血栓塞栓症は無縁との見解を科学ニュースThe Scientistに送っています7)。米国の疾病管理センター(CDC)や英国の医薬品医療製品規制庁(MHRA)の最近の検討でもPfizerワクチンと血栓症の関連はないと判断されていると同社は言っています。参考1)PRINCIPLE Trial2)Asthma drug budesonide shortens recovery time in non-hospitalised patients with COVID-19 / PRINCIPLE Trial3)Inhaled budesonide for COVID-19 in people at higher risk of adverse outcomes in the community: interim analyses from the PRINCIPLE trial. medRxiv. April 12, 20214)Ramakrishnan S, et al. Lancet Respir Med. 2021 Apr 9:S2213-2600.00160-0. 5)Agusti A, et al. Lancet Respir Med. 2021 Apr 9:S2213-2600.00171-5.6)Cerebral venous thrombosis: a retrospective cohort study of 513,284 confirmed COVID-19 cases and a comparison with 489,871 people receiving a COVID-19 mRNA vaccine. Center for Open Science. 2021-Apr-157)Blood Clot Risk from COVID-19 Higher than After Vaccines: Study / TheScientist

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AZ社新型コロナワクチンによる血栓症、血小板減少の原因は?/NEJM

 英・アストラゼネカ社製の新型コロナウイルス感染症に対するアデノウイルスベクターワクチン(ChAdOx1 nCov-19、以下AZD1222)接種後、異常な血栓イベントや血小板減少症の発生が世界各国で相次いで報告されている。今回、ドイツ・グライフスヴァルト大学のAndreas Greinacher氏らがそれらを発症した患者について調査した結果、AZD1222接種者は、ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)を引き起こすHIT抗体(血小板第4因子[PF4]・ヘパリン複合体を抗原として作られる抗体)によって血小板減少症を発症する可能性があることを明らかにした。NEJM誌オンライン版4月9日号掲載の報告。 研究者らは ドイツとオーストリアでAZD1222接種後に血栓症または血小板減少症を発症した11例の臨床および検査値の特徴について、標準的酵素免疫法を用いて評価。さまざまな反応条件下で、血小板が活性化するHIT抗体とPE4・PVS複合抗体(PF4 Enhanced®)の検出を確認した。また、ワクチン関連の血栓イベント調査用の紹介患者の血液サンプルを含めて測定したところ、PF4-ヘパリン抗原・抗体検査で28件が陽性だった。 主な結果は以下のとおり。・11例のうち9例は女性、年齢中央値は36歳(範囲:22〜49歳)だった。・ワクチン接種5〜16日後から、致命的な頭蓋内出血を呈した1例を除き、1つ以上の血栓イベントが発生した。・1つ以上の血栓イベントを呈した患者のうち、9例は脳静脈血栓症(CVT)、3例は内臓静脈血栓症(STV)、3例は肺塞栓症(PE)、4例はその他の血栓症を発症した。・6例が死亡し、5例は播種性血管内凝固症候群(DIC)だったが、いずれも症状出現前にヘパリン投与はなかった。・HIT抗体陽性の28件の検査全例で、ヘパリンとは関係なくPF4の存在下、血小板活性化を示した。また、この活性化は高濃度ヘパリン、FcRレセプターブロッキングモノクローナル抗体および免疫グロブリン(10mg/mL)によって阻害された。・2例を対象としたPF4またはPF4-ヘパリン抗原アフィニティー精製された抗体を用いた追加研究では、PF4とは関係なく血小板の活性化が確認された。

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第51回 コロナワクチンの最新版手引き、1瓶から6回接種が前提に

<先週の動き>1.コロナワクチンの最新版手引き、1瓶から6回接種が前提に2.医師の働き方改革が衆議院通過、日医の見解は?3.接触確認アプリの杜撰な運用実態、業者が1,200万円を返納4.初の費用対効果評価で薬価引き下げ、類似品目も適用5.健康保険証の交付廃止、マイナンバーカード一体化を提案/財務省1.コロナワクチンの最新版手引き、1瓶から6回接種が前提に厚生労働省は、16日に新型コロナウイルス感染症にかかわる予防接種について、医療機関向け手引きの改訂版(2.1版)を公開した。今後、医療従事者の優先接種用として、1バイアルから6回分接種可能な注射針およびシリンジを配布する。また高齢者の優先接種についても、調整が順調に進めば、5月中には同注射器の配布が可能になることが明記された。優先接種順位については、居宅・訪問サービス事業所等の従事者も、高齢者以外で基礎疾患を有する患者と同じ優先対象とされた。なお、医療機関がワクチンを入手するためには、V-SYS(ワクチン接種円滑化システム)を導入しなければならない。(参考)資料 新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する医療機関向け手引き(2.1版)(厚労省)新型コロナワクチンの供給の見通し(同)「1瓶6回」の注射器、5月10日から供給 河野氏(日経新聞)2.医師の働き方改革が衆議院通過、日医の見解は?現在開催されている通常国会で、医師の働き方改革を含む医療法等の改正案が衆議院を通過し、参議院での法案審議が始まる。これを踏まえ、日本医師会は14日に記者会見を行った。大学病院・基幹病院における地域医療支援については、地方への医師派遣は「地域医療提供体制の観点からは必須である」とするとともに、「全国医学部長病院長会議とも連携し、継続されている大学病院からの医師派遣が妨げられることのないよう取り組んでいく」との考えを表明。医師の労働時間短縮計画については、各医療機関に対して「労働時間の把握など、36協定の締結、健康診断の実施などの基本的事項からしっかりと取り組んで欲しい」としたほか、評価機能の仕組みについては、医療機関を取り締まったり、罰則を与えたりするものではなく、体制が整備されていない医療機関に対し、取り組みの支援を行っていくものであることに理解を求めた。なお、4月14日の参議院本会議では医療法改正案について趣旨説明と質疑が行われ、その様子が川田 龍平参議院議員のブログに掲載されている。(参考)医師の働き方改革の進捗状況について(全国医学部長病院長会議との連携)(日本医師会)川田 龍平参議院議員ブログ3.接触確認アプリの杜撰な運用実態、業者が1,200万円を返納厚労省は、新型コロナウイルス感染者と濃厚接触した可能性を知らせるアプリ(COCOA)について、不具合の発生要因や再発防止策について、報告書を公開した。陽性者との接触通知が届かない状態のまま放置されたのは、アプリを管理する事業者と厚労省の間で認識が共有できていなかったと説明。また、短期スケジュールの中、アプリの開発ならびに保守運用を受託していたパーソルプロセス&テクノロジーが他社に再委託、再々委託することを容認し、事業者間の役割分担が不明確になったことや、厚労省の人員体制も不十分だったことが今回の不具合につながったと考えられる。厚労大臣は事務次官らを厳重注意処分しており、再発防止が求められる。また、パーソルプロセス&テクノロジーは、昨年8月以降の業務対価の1,200万円を自主返納することを発表した。(参考)接触確認アプリ「COCOA」の不具合の発生経緯の調査と再発防止の検討について(報告書)(厚労省)厚労省、COCOA不具合の検証結果を公表 業者任せ、多重下請けなどの課題が浮き彫りに(ITmedia)コロナ接触アプリ業者が対価返納 1200万円、COCOA不具合(共同通信)4.初の費用対効果評価で薬価引き下げ、類似品目も適用14日に行われた中央社会保険医療協議会総会において、費用対効果評価専門組織からの報告をもとに、CAR-T細胞療法(患者由来T細胞の遺伝子組み換えを行い、がん細胞を攻撃しやすくして患者の体内に戻す免疫細胞療法)に使われるチサゲンレクルユーセル(商品名:キムリア点滴静注)の価格調整が行われた。現行薬価3,411万3,655円から約146万円(約4.3%)引き下げられ、3,264万7,761円となる。なお、医療機関における在庫への影響などを踏まえ、調整後価格は7月1日付で適用。同日に、CAR-T細胞製品2番手のアキシカブタゲン シロルユーセル(商品名:イエスカルタ点滴静注)が薬価3,411万3,655円で承認されたが、21日の収載と同時に価格調整が適用され、保険償還価格は1番手と同じ3,264万7,761円となることが報告された。同様に、フルチカゾン/ウメクリジニウム/ビランテロール(商品名:テリルジー)の価格調整を受けて、類似品目のブデソニド/グリコピロニウム/ホルモテロール(同:ビレーズトリ)、インダカテロール/グリコピロニウム/モメタゾン(同:エナジア)も引き下げを受けた。(参考)中医協総会 イエスカルタの保険償還価格は3264万円 収載日に費用対効果評価結果を反映(ミクスonline)中医協総会 キムリアとテリルジーの薬価引下げを了承 初の費用対効果評価で7月1日から(同)資料 キムリアの費用対効果評価結果に基づく価格調整について(厚労省)資料 テリルジーの費用対効果評価結果に基づく価格調整について(同)5.健康保険証の交付廃止、マイナンバーカード一体化を提案/財務省13日に、首相が議長を務める経済財政諮問会議が総理大臣官邸で開催された。参加した民間議員からは、マイナンバーカードを健康保険証として使えるようにするため、単独交付を取りやめ、マイナンバーカードへの完全な一体化を実現すべきとの提案が示された。ほかにも、企業が希望する従業員に対して「選択的週休3日制」の導入を求める提言が出された。従業員のスキルアップや多様な働き方を支援し、育児や介護との両立を後押しするのが目的で、これらを「骨太の方針」に盛り込む見込み。ただし、マイナンバーカードとの一体化により、従来の健康保険証と異なり、受領には顔写真付きの身分証明書の提示が必須になるため、認知症や身体障害者などにも対応できる自治体の体制整備が必須となる。(参考)健康保険証の交付廃止を マイナンバーカードと一体化―民間議員が提言へ・諮問会議(時事通信)経済財政諮問会議 健康保険証の単独交付取りやめ マイナンバーカードへの一体化を民間議員が提案(ミクスonline)週休3日制、環境整備議論 諮問会議(日経新聞)資料 令和3年第4回経済財政諮問会議(内閣府)

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ワクチン接種後アナフィラキシー発症例、その特徴は/厚労省

 2021年2月17日~4月4日までに、日本国内で新型コロナワクチン接種後のアナフィラキシーとして医療機関から報告されたのは350例。これらの事例について専門家評価が行われ、実際にブライトン分類1~3に該当しアナフィラキシーとして判断されたのは79例であった。4月9日に開催された厚生労働省第55回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会1)では、この詳細が公開された2)。現時点での報告頻度は100万回当たり72 件 350例についての専門家評価の結果、ブライトン分類1*が14件(1回目接種:14件)、2が57件(1回目接種:53件/2回目接種:4件)、3が8件(1回目接種:8件)該当したことが報告された。 ブライトン分類レベル1~3の報告頻度は79 件/109万6,698 回接種(72 件/100万回)。米国での報告(4.7件/100万回)や英国での報告(17.7回/100万回)と比較すると高いようにもみられるが、米国の医療従事者調査では247回/100万回という報告も出ており、被接種対象者の違い、報告制度の違い等の理由から、単純な比較は難しい状況にあると検討部会では位置づけている。年齢別・性別・アレルギー歴別の報告数 ブライトン分類レベル1~3に該当した79例について年齢別・性別・アレルギー歴別に報告件数をみた結果は以下のとおり。[年齢別・性別]20~29歳:15件(男性6件/女性9件)30~39歳:20件(男性2件/女性18件)40~49歳:28件(男性0件/女性28件)50~59歳:13件(男性0件/女性13件)60~69歳:3件(男性0件/女性3件)[アレルギーの既往歴別(アナフィラキシーおよび薬剤アレルギーの既往歴の有無別)]ブライトン分類レベル1:既往歴有4件/既往歴なし9件/不明1件(計14件)ブライトン分類レベル2:既往歴有23件/既往歴なし32件/不明2件(計57件)ブライトン分類レベル3:既往歴有1件/既往歴なし7件/不明0件(計8件) なお、アナフィラキシーとして報告されたほぼ全ての症例で軽快したことが判明していると報告され、各症例の転帰や転帰日のほか基礎疾患などについての情報が、資料2)にまとめられている。日本アレルギー学会の専門委員による評価結果 今回の部会では、参考人として日本アレルギー学会理事の中村 陽一氏(横浜市立みなと赤十字病院アレルギーセンター センター長)を招聘。中村氏は、日本アレルギー学会 Anaphylaxis 対策委員会での検討結果3)について報告した。この検討は、3月11日までに医療機関からアナフィラキシーとして報告された35件について行われたもの(このうちブライトン分類1~3に該当とされたのは10件)。 11名の同委員会委員によるアレルギー学会ガイドラインに基づく重症度分類で、グレード1(軽症)としての評価が最も多かった事例は16例、グレード2(中等症)としての評価が最も多かった事例は10例、グレード3(重症)が9例となった。全体として重症度は低かったことになるが、アドレナリンを中心とする治療により重症への進展を防ぐことができた症例が含まれている可能性があると指摘している。β遮断薬使用者や高血圧患者でのアドレナリン使用の注意点 アドレナリン筋注の使用に関して、報告では使用された20例中「使用は適切であった」が15例、 使用されなかった11例は全て「使用しなかったのは適切であった」という結果であった。なお、4例ではアドレナリン使用の有無に関する記載がなかった。「アドレナリンの使用に関する記載が不十分ではあったものの、その使用については概ね適切な対応がなされていたのではなかったかと推察された」とまとめられている。世界的にもアナフィラキシーガイドラインでは一般的に、「現場の医師がアナフィラキシーと判断した場合はアドレナリン筋注を実施すべきであり、適切な実施がなされなかったために致命的となるリスクは過剰使用のリスクよりもはるかに大きい」と考えられている。 委員からは、β遮断薬使用者や高血圧患者でのアドレナリン使用、高齢者での接種開始にまつわる注意点についての質問が上がった。中村氏は、「β遮断薬使用者ではアドレナリンが効かない場合が多いので、グルカゴンの使用など、通常のルールに従って行われるべきではないか」と回答。「高血圧患者に対しては、例えば血圧が200近い場合などはアドレナリンの投与に躊躇するのではないかと思う。その場合、投与量を減らすのが一般的なアナフィラキシーに対する救急の処置になる。具体的には、通常、成人には0.3mgのところを0.2mgとするなどが考えられる」と説明した。投与量が少ないためにアナフィラキシーに対する効果が薄い場合には、例えば15分後に再投与するなどの工夫が必要になるとした。そのうえで、アナフィラキシーはその場で命に関わるものであり、高血圧はアドレナリン投与の絶対的な禁忌ではないことを補足した。 また高齢者の接種開始にまつわる注意点については、「コントロール不良の喘息患者さんでは、アナフィラキシーが重症化しやすい。そして重症喘息は高齢者に比較的多いので、注意が必要」と指摘した。*:ブライトン分類については、第53回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会(2021年3月21日)配布資料「国内でのアナフィラキシーの発生状況について」9ページ目に詳細が解説されている。

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新型コロナワクチン接種、51.7%が副反応に不安/MDV

 メディカル・データ・ビジョン(MVD)は4月13日、キャンサーネットジャパン(CNJ)と共同実施した新型コロナワクチン接種に関するアンケート結果をプレスリリースした。それによると、接種を希望する患者は80.0%で、全回答者のうち51.7%は副反応に不安を抱いていることが明らかになった。 本アンケートはMDVが3月25日~4月5日(CNJは4月6日~4月12日)にウェブを通じて実施、300人から回答を得た。「ワクチン接種に関して感じている不安」について聞いた結果、副反応に関して51.7%と最も多くの人が不安を感じ、次いで、効果が11.7%、供給体制は9.7%、他疾患に対する影響は9.0%だった。 自由記述の中には、「がんの進行に影響しないか」 「抗がん剤投与と併用しても効果があるのか」「ワクチン接種前に飲んではいけない薬などあるのか」「変異種にも効果があるのか」などがあった。そのほかに「いつになったら接種できるのか」「不安材料の情報ばかり伝わってくる」など、信頼できる情報が少ないことへの不安の声も寄せられていた。 今回アンケートを行ったCNJの理事を務める後藤 悌氏(国立がん研究センター中央病院 呼吸器内科)は「ワクチン接種による副反応を気にされている方が多い印象。どのような治療にも予防にもメリットデメリットがある。新型コロナウイルスに関する大量の情報が氾濫するなかで、不正確な情報や誤った情報が急速に拡散し、社会に影響を及ぼすと言われる”インフォデミック”の状況である。不安を背景に、科学的とは言えない対策がとられていることも多いようだが、ワクチン接種においても適切な情報を入手した上で判断いただきたい」とコメントしている。

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英国のEHR、COVID-19と心血管疾患の関連を解析可能なリソースに/BMJ

 イングランドではCOVID-19パンデミックを機に、研究者が全国の電子健康記録(EHR)にアクセスできるように、データリソースが改められた。パンデミック当初は認可を受けた研究者であっても、全国のEHRにアクセスはできず、医療や公衆衛生政策をサポートするための分析ができなかったからだという。データセキュリティーとプライバシーを確保し、国民の信頼を損なうことなくCOVID-19と心血管疾患に関する全国的な研究を可能とした新たなEHRのリソースについて、英国・ケンブリッジ大学のAngela Wood氏らがBMJ誌2021年4月7日号で報告している。全国民の健康関連情報にアクセス可能な、新たなデータリソースを構築 新たなデータリソースは、NHS Digitalが構築した信頼できる研究環境内で、イングランドの全健康関連施設からの個人レベルの記録にアクセスできるというものであった。具体的には、プライマリケアからのEHR、病院エピソード(入院、外来、救急救命)、死亡レジストリ、COVID-19検査施設の検査結果、地域薬局の調剤データなどであり、さらに今後は専門家による集中治療、心血管系の監査記録、病院の電子処方、COVID-19ワクチンデータを含むことが計画されており、イングランドのNHS一般開業医に登録の2020年1月1日時点で生存する5,440万人のデータが集約されるに至った。 研究グループはこの新たなデータリソースを使って、2020年1月1日~10月31日における、確認および疑われたCOVID-19診断記録、典型的な心血管症状(脳卒中または一過性脳虚血発作[TIA]および心筋梗塞)の発生、全死因死亡を評価した。心血管イベントとCOVID-19の関連はもとより幅広い研究も可能に リンクされたコホートには英国人の96%以上が含まれ、全国の健康関連施設の個人レベルのデータを集約することで、全人口の約95%の年齢、性別、民族性に関するデータを網羅できた。 脳卒中/TIAの診断歴のない5,330万人において、2020年1月1日~10月31日(評価対象期間)の初発脳卒中/TIA発症者は9万8,721人だった。そのうち30%がプライマリケアのみで記録されており、4%が死亡レジストリのみの記録だった。 心筋梗塞の診断歴のない5,320万人において、評価対象期間の心筋梗塞発症者は6万2,966人だった。そのうちプライマリケアのみで記録されていたのは8%で、死亡レジストリのみの記録は12%だった。 合計95万9,470人に、COVID-19と確認または疑いの診断記録があった(プライマリケアデータ71万4,162人、入院記録12万6,349人、COVID-19検査施設の検査データ77万6,503人、死亡レジストリの記録5万504人)。このうち58%がプライマリケアとCOVID-19検査施設の検査データ両方で記録されていたが、プライマリケアのみで記録されていたのは15%、検査施設の検査データのみで記録されていたのは18%だった。 これらの結果を踏まえて著者は、「この全国民を網羅したリソースは、主要な特性の完全性を最大化するために、また心血管イベントとCOVID-19の診断を確認するうえで、健康関連施設の個人レベルのデータを結び付けることの重要性を示すものであった」と述べるとともに、「今回構築したリソースは当初、COVID-19と心血管疾患の研究をサポートし、臨床ケアと公衆衛生に利益をもたらすことや医療政策への情報提供のために開発されたが、さらに幅広い研究を可能とするだろう」とまとめている。

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TNF阻害薬治療中のIBD患者でCOVID-19感染後の抗体保有率低下

 生物学的製剤であるTNF阻害薬を巡っては、これまでの研究で肺炎球菌やインフルエンザおよびウイルス性肝炎ワクチン接種後の免疫反応を減弱させ、呼吸器感染症の重症化リスクを高めることが報告されていた。ただし、新型コロナ感染症(COVID-19)ワクチンに対しては不明である。英国・Royal Devon and Exeter NHS Foundation TrustのNicholas A Kennedy氏らは、炎症性腸疾患(IBD)を有するインフリキシマブ治療患者のCOVID-19感染後の抗体保有率について、大規模多施設前向きコホート研究を実施した。その結果、インフリキシマブ治療群では、コホート群と比べ抗体保有率が有意に低いことがわかった。著者らは、「本結果により、COVID-19に対するインフリキシマブの免疫血清学的障害の可能性が示唆された。これは、世界的な公衆衛生政策およびTNF阻害薬治療を受ける患者にとって重要な意味を持つ」とまとめている。Gut誌オンライン版2021年3月22日号の報告。 研究グループは、2020年9月22日~12月23日に、英国の92医療施設に来院したIBD患者7,226例を連続して登録。このうち血清サンプルと患者アンケートが得らえた6,935例について調べた。被験者のうち67.6%(4685/6935例)がインフリキシマブによる治療を受け、32.4%(2250/6935例)がベドリズマブによる治療を受けた。 主な結果は以下のとおり。・インフリキシマブ治療群とベドリズマブ治療群において、SARS-CoV-2感染に関する割合は両群間で類似していた:疑い例(36.5%[1712/4685例] vs.39.0[877/2250例]、p=0.050)、PCR陽性(5.2%[89/1712例] vs.4.3%[38/877例]、p=0.39)、入院(0.2%[8/4685例] vs.0.2%[5/2250例]、p=0.77)。・血清有病率は、インフリキシマブ治療群のほうがベドリズマブ治療群よりも有意に低かった(3.4%[161/4685例] vs.6.0%[134/2250例])、p<0.0001]。・多変数ロジスティック回帰分析では、インフリキシマブ群(vs.ベドリズマブ群のOR:0.66、95%信頼区間[CI]:0.51〜0.87)、p=0.0027)および免疫抑制薬(同:0.70、95%CI:0.53〜0.92、p=0.012)において、より低い血清陽性と独立して関連していた。・SARS-CoV-2感染後、セロコンバージョンが認められた被験者は、インフリキシマブ治療群のほうがベドリズマブ治療群よりも少なかった(48%[39/81例] vs.83%[30/36例])、p=0.00044)。

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