1231.
1 国内で使用可能な新型コロナウイルスワクチン現在、日本政府が特例承認している新型コロナワクチンは、(1)ファイザー社およびビオンテック社が開発したmRNAワクチン(コミナティ)(2021年2月14日特例承認)、(2)モデルナ社が開発し、武田薬品工業が国内で製造するmRNAワクチン(2021年5月21日特例承認)、(3)アストラゼネカ社およびオックスフォード大学が開発したウイルスベクターワクチン(バキスゼブリア)(2021年5月21日特例承認)の3種類である。厚生労働省によると、日本政府が各企業と契約を締結し、2021年に使用できる見込みのワクチンの接種回数は、それぞれ(1)1億9,400万回、(2)5,000万回、(3)1億2,000万回分で合計3億6,400万回分(1億8,200万人分)となるが、2021年6月時点では(3)アストラゼネカ社のウイルスベクターワクチンは使用されていないため、実際の流通は2億4400万回分(1億2200万人分)と見込まれている。国内企業における新型コロナウイルス感染症に対するワクチン開発に関しては、塩野義製薬が組換えタンパクワクチンを、第一三共がmRNAワクチンを、アンジェスがDNAワクチンを、KMバイオロジクスが不活化ワクチンを、それぞれ臨床試験を開始しているが、2021年7月時点において、最終臨床試験に進んでいる企業はない。2 新型コロナワクチンの接種体制国内では、予防接種法に基づき臨時接種として、新型コロナワクチンの接種が2021年2月17日から2022年2月28日まで実施されている。臨時接種とは定期接種と異なり新たな流行が生じた際に臨時で実施する予防接種プログラムであり、天然痘の再流行や新型インフルエンザの流行などを想定して規定されてきた。今回の流行に合わせて、2020年秋の国会にて、予防接種法が改正され、定期接種と同様に地域の住民に対して各市区町村が主体となり予防接種を実施し、すべての費用を国が負担すること、定期接種同様の制度を用いて有害事象の報告を収集し、健康被害救済に対応することなどが規定された。接種順位は[1]医療従事者など(約470万人)、[2]高齢者(約3,600万人)、[3]基礎疾患を有するもの(約1,030万人)、[4]高齢者施設などの従事者(約200万人)の順番に接種を行うことが想定されており、医療従事者に対しては5月中旬までに560万人分以上、高齢者などの接種用として7月下旬までに4,900万人分以上のワクチンが分配される見込みとなっている。加えて、2,500万人分のモデルナワクチンを職域接種に1,650万人分、自治体の大規模接種などに850万人分を配分する方針を示し、7月末までにすべての医療従事者および高齢者に2回の接種を終えることを目標としている。政府の公表データによると、7月6日までにのべ5,264万回の接種が実施され、約1,912万人が2回の接種を完了した。3 mRNAワクチン上述のように、2021年7月時点で、わが国で使用されているのは、ファイザー社およびモデルナ社のmRNAワクチンである。これは、ウイルスのスパイク蛋白質を生成する遺伝子情報(RNA)を脂質の膜で覆うことで体内の細胞へ送り込むことが可能とし、細胞内でウイルスの一部であるスパイク蛋白質が生成することで被接種者の免疫を誘導する、世界で初めて実用化された新たな手法のワクチンである。ウイルスの一部であるスパイク蛋白質が生成されるが、ウイルス自体ではないため感染は起こらない。また、遺伝子情報であるmRNAは細胞の核内に入らず自然に分解されるため、人の遺伝子に組み込まれることはない。ファイザーおよびモデルナによる新型コロナワクチンは、同様の有効性が報告されているが、両者ともに従来の新型コロナウイルスに対して、およそ95%の発症予防効果を認め、非常に高い有効性が確認されている1)。加えて、入院予防、重症化予防、死亡抑制、感染予防でも同様に高い効果が確認されている2)。変異体ウイルスに対して、中和抗体価が低下することが知られているが、現時点で2回の接種完了による重症化予防や死亡抑制効果は高い効果が維持されており3)、半年以上に渡って中和活性が持続4)することも確認されている。安全性については5)、一般的なワクチンと比較すると接種部位の痛みなどの局所反応は70~80%、倦怠感や頭痛などの全身反応も50%弱にみられるなど、有害事象の発現率は高く、重篤な症状は少ないものの中等度の症状の割合は高い傾向にある。一般に1回目より2回目の接種後に有害事象を多く認めるが、症状は数日以内に軽快することがほとんどである。ワクチン接種による副反応の多くは接種から1週間以内に生じ、長期間、安全性を評価したデータは限定的であるが、デング熱などで認められる既存の免疫により感染時に病態が悪化する抗体依存性増強も報告されていない。mRNAワクチンの開発段階で、妊婦や授乳婦における臨床試験データはないが、胎児や乳児への直接的な影響はないと考えられており、妊婦での被接種者からの有害事象報告においても妊娠に特異的な有害事象の増加は認めていない6)。一方で、妊婦が新型コロナウイルスに感染した際には重症化のリスクが高くなることが知られており、感染のリスクに応じて予防接種を受けておくことの意義は高い7)。また、自然経過においても妊娠に関連した問題が生じやすいことから、紛れ込みを避けるため、妊娠初期の接種を避けるとの考え方もある。授乳婦では母乳中に新型コロナウイルスに対する抗体が移行することから、母乳を通じて乳児での一定の予防効果が期待されている8)。上述のようにmRNAワクチンは弱毒生ワクチンのように病原体の感染性はないため、免疫不全者でも接種は禁忌とはならない。免疫不全者を含む基礎疾患がある者では、感染時の重症化のリスクが高くなるため、接種を積極的に検討する。免疫抑制薬を使用している場合、病態に応じて用量の調整や接種のタイミングを薬剤投与前に合わせることで、免疫原性を高めるなどの工夫も考えられる。mRNAワクチンの接種を行うことが禁忌となるのは、急性疾患の罹患者、37.5℃以上の明らかな発熱者、ワクチンに含まれる成分に対するアナフィラキシー反応の既往がある者などである。mRNAワクチン接種後のアレルギー反応は比較的多く報告されてきたが、ブライトン分類に基づきアナフィラキシー反応と規定される報告は日本国内においても6月27日までの報告で100万回接種当たり1~7件とまれである。集団接種であることから、事前にアナフィラキシー反応が生じた際の対応を、接種会場の規模や立地などに応じて、事前に取り決めておくことが重要である。また、過去に重篤なアレルギー反応や迷走神経反射の既往がある場合には、接種後の経過観察期間を15分から30分に延長する必要がある。この他、まれではあるがmRNAワクチンで報告されている有害事象として、心筋炎および心膜炎が知られている。米国における2021年6月時点での評価では、30歳未満での報告頻度は100万回接種当たり40.6件とされ、12~39歳と若年者に、女性よりも男性に、1回目よりも2回目の接種後に報告が多い。より長期間の継続的評価が必要であるが、症状のほとんどは軽症で、多くが自然軽快すること、実際に新型コロナウイルスに罹患した際にはさらに多くの心筋炎や心膜炎を認め、より重症化しやすいことなどから、予防接種後の心筋炎および心膜炎のリスク増加などのリスクよりも、ワクチンを接種することによる利益が明らかに高いと評価されている。4 ワクチン接種進展への課題世界保健機関(WHO)は現在4つの影響が懸念される変異株を指定しており、今後も新たな変異株が生じることにより、感染性や重症度が高まったり、ワクチンの有効性が低下したりすることが危惧されている。ワクチンの予防接種で獲得された免疫がどの程度の期間維持され、発症予防効果がいつまで持続するのかについては、まだ不明なことも多い。そのため、変異株に合わせた追加接種ワクチンの開発や異なる種類のワクチンによる接種を組み合わせる方法の有効性などが評価されている。英国のワクチン諮問委員会は、重症化のリスク高い70歳以上の高齢者や免疫不全者などにおいては、すでに2回の新型コロナワクチンを接種済みであっても、インフルエンザワクチンと同様に、9月以降に追加接種を推奨した。一方で、米国での諮問委員会での検討では、世界的供給も考慮し、現時点で追加接種を推奨する根拠に乏しいと評価されている。新型コロナウイルスの新たな変異株の出現や獲得された免疫による有効性の持続期間の評価と併せて、追加接種の必要性が今後も議論されていくと考えられる。また、生後6ヵ月以上の乳幼児を対象とした、小児での新型コロナワクチンの開発が進められている。一般に若年者では高齢者と比較して発症率や重症化リスクが低いことから、接種率が低い傾向がみられるが、小児においてもインフルエンザと比較して、より高い疾病負荷が確認されており、加えて、無症候性病原体保有者でも周囲に感染を拡大するリスクがあることなどから、社会全体として小児や若年者での予防接種を推進し、より強固な集団免疫を形成する必要性について、さらなる議論が必要である。5 おわりに世界的な新型コロンワクチンの進展により、予防接種対策が進んでいる国では高齢者を中心とした発症および重症化予防効果が認められている。一方で、マスク着用義務の撤廃やイベントの再開など、社会的活動の再開や感染対策の緩和感染力の高い変異体デルタ型の拡大に伴い、再び感染者の増加が認められている。世界ではこれまでに1.8億人以上で感染と、約400万人の関連死亡が確認されている。この新型コロナウイルス感染症のパンデミックを抑制し、社会活動を再開していくためには、できるだけ早期の予防接種完了が必要不可欠である。本稿が読者の基本的な理解促進とワクチン接種進展の一助となれば幸いである。引用文献1)Polack F, et al. N Engl J Med. 2020;383:2603-2615.2)Dagan N, et al. N Engl J Med. 2021;384:1412-1423.3)Julia Stowe J, et al. Effectiveness of COVID-19 vaccines against hospital admission with the Delta (B.1.617.2) variant.PHE.2021.(Preprint)4)Doria-Rose N, et al. N Engl J Med. 2021;384:2259-2261.5)Polack F, et al. N Engl J Med. 2020;383:2603-2615.6)Shimabukuro T, et al. N Engl J Med. 2021;384:2273-2282.7)Riley LE. N Engl J Med. 2021;384:2342-2343.8)Hall S. Nature. 2021;594:492-494.関連サイト厚生労働省 新型コロナウイルス感染症についてCareNet.com COVID-19関連情報まとめ診療よろず相談TV 第62回「知っておくべきCOVID-19ワクチン」