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帯状疱疹ワクチンは動脈硬化性疾患患者の主要心血管イベントリスク低下と関連

 動脈硬化性疾患(ASCVD)と診断された50歳以上の成人において、帯状疱疹(HZ)ワクチンの接種は、主要心血管イベント(MACE)およびその他の心血管アウトカムのリスク低下と関連するという研究結果が、米国心臓病学会年次総会(ACC.26、3月28~30日、米ニューオーリンズ)で発表された。 米カリフォルニア大学リバーサイド校のRobert Nguyen氏とAditya Desai氏は、米国のTriNetXデータベースを用い、2018年1月1日~2024年1月1日にASCVDと診断された50歳以上の成人を対象とした後ろ向きコホート研究を実施し、この集団において帯状疱疹ワクチン接種が心血管リスクを低減するかどうかを検討した。傾向スコアマッチング後、HZワクチン接種群27万5,304人と非接種群27万5,304人が解析対象となった。 解析の結果、HZワクチン接種は、MACE、全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中のリスク低下と有意に関連していた(ハザード比はそれぞれ、0.54、0.39、0.73、0.73)。さらに、HZワクチン接種は、静脈血栓塞栓症、心不全、心房細動または心房粗動のリスク低下とも関連していた(同0.63、0.67、0.70)。 Nguyen氏は、「このワクチンは、心筋梗塞、脳卒中、死亡のリスク低減に対する心血管保護作用を繰り返し示している。既に心血管疾患を有する高リスク集団では、その効果は一般集団よりもさらに大きい可能性がある」と述べている。

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B群髄膜炎菌ワクチン、淋菌感染症を予防せず/NEJM

 淋菌感染症リスクが高い男性間性交渉者(MSM)において、B群髄膜炎菌ワクチン(4CMenB)はプラセボと比較して、淋菌感染症の発生率の低下をもたらさなかった。オーストラリア・Griffith UniversityのKate L. Seib氏らGoGoVax Study Teamが、多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照試験の結果を報告した。現状、淋菌感染症の予防として承認されているワクチンはない。淋菌と髄膜炎菌は近縁な細菌であり、観察研究において、4CMenBが淋菌感染症のリスクを低下させる可能性が示唆されていた。NEJM誌オンライン版2026年7月8日号掲載の報告。淋菌感染症または梅毒既往のMSMを対象に、4CMenB vs.プラセボ 本試験の対象は、HIV陰性でHIV曝露前予防(PrEP)を受けている、またはHIV陽性の年齢18~50歳のMSMで、直近18ヵ月以内に淋菌感染症または梅毒の診断記録があることを適格条件とした。 研究グループは対象者を、4CMenBまたはプラセボ(生理食塩水)を受けるよう1対1の割合で無作為に割り付け、3ヵ月の間隔を空けて2回の筋肉内投与を行った。無作為化は、Webベースシステムを用い、試験施設ごとに層別化した順列ブロック法にて実施した。 四半期ごと2年間にわたり、泌尿生殖器、肛門直腸、中咽頭から採取した検体を用いた核酸増幅検査で淋菌を含む性感染症のスクリーニングを実施した。 主要アウトカムは、ワクチンまたはプラセボ投与後の初発の淋菌感染症とした。解析は、per-protocol集団(4CMenBまたはプラセボを受け、2回投与後、予定されていたスクリーニングを少なくとも2回受け、有効性の評価に関する除外基準をいずれも満たさなかった参加者)で評価した。淋菌感染症の発生率比は1.01 2021年7月~2023年5月に、654例が無作為化され、587例が主要解析の対象に含まれた(4CMenB群296例、プラセボ群291例)。ベースラインの患者特性は両群で類似しており、平均年齢は34.2歳、HIV陽性者は9.5%、淋菌感染症の診断既往者は89.6%であり、61.4%(データが入手できた565例のうち347例)が直近6ヵ月に10人超と性交渉を持っていた。 淋菌感染症の発生率は100人年当たり、4CMenB群48.1件(296例において160件)、プラセボ群47.8件(291例において155件)であり(発生率比:1.01、95%信頼区間[CI]:0.80~1.26、p=0.97)、ワクチンの有効率([1-発生率比]×100で算出)は-0.5%(95%CI:-26.2~19.9、p=0.97)であった。 ワクチン有効率は、症候性感染症に対しては5.5%(95%CI:-56.0~42.8)、無症候性感染症は-6.4%(95%CI:-47.5~23.2)であり、部位別では、泌尿生殖器に対しては-20.0%(95%CI:-90.2~23.9)、肛門直腸は-1.2%(95%CI:-33.0~23.0)、中咽頭は2.6%(95%CI:-27.7~25.7)であった。 重篤な有害事象は、4CMenB群の4.7%、プラセボ群の2.8%で発現した(p=0.20)。

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PPI、P-CABなどに「低マグネシウム血症」の重大な副作用追加/厚労省

 2026年7月14日、厚生労働省より添付文書の改訂指示が発出され、PPIやP-CABなどの消化性潰瘍治療薬の「重大な副作用」および「重要な基本的注意」の項に、「低マグネシウム血症」に関する注意が追加された。  各製剤における低マグネシウム血症関連事象を評価した結果、PPI含有製剤と低マグネシウム血症との因果関係が否定できない症例*1が集積したことから、使用上の注意を改訂することが適切と判断された。ただし、PPI単剤で因果関係の否定できない症例が複数確認できるため、一部のパック剤および配合剤*2についての集積状況は未確認であるという。*1:医薬品医療機器総合機構(PMDA)副作用等報告データベースに登録され、MedDRA PT「低マグネシウム血症、血中マグネシウム減少、マグネシウム欠乏」で当局報告された症例のうち、CTCAE(ver.6.0)におけるGrade3以上の症例かつPPI中止後に複数点での血中マグネシウム値が測定されている症例を抽出したもの。*2:アスピリン・ランソプラゾール配合剤、アスピリン・ボノプラザンフマル酸塩配合剤、ボノプラザンフマル酸塩・アモキシシリン水和物・クラリスロマイシン、ボノプラザンフマル酸塩・アモキシシリン水和物・メトロニダゾール 改訂内容は以下のとおり。【重要な基本的注意】 プロトンポンプインヒビター等の長期投与により低マグネシウム血症があらわれることがあるので、本剤を長期投与する際は、定期的に血中マグネシウム濃度を測定すること。 【重大な副作用】 低マグネシウム血症:プロトンポンプインヒビターの長期投与により、QT延長、痙攣、しびれ等を伴う低マグネシウム血症があらわれることがある。また、低マグネシウム血症に起因した低カルシウム血症、低カリウム血症等の電解質異常を伴う場合がある。これらの電解質異常が疑われる症状があらわれた場合には、血中マグネシウム濃度の測定を行い、異常が認められた場合は、マグネシウムの補充等の適切な処置を行うこと。 <医療用医薬品> ・オメプラゾール(商品名:オメプラール錠ほか) ・オメプラゾールナトリウム(オメプラゾール注射用20mg「日医工」ほか) ・ラベプラゾールナトリウム(パリエット錠ほか) ・ランソプラゾール(経口/注射、タケプロンほか)・エソメプラゾールマグネシウム水和物(ネキシウムほか)・ボノプラザンフマル酸塩(タケキャブほか) ・アスピリン・ボノプラザンフマル酸塩(キャブピリン配合錠)・アスピリン・ランソプラゾール(タケルダ配合錠)・ボノプラザンフマル酸塩・アモキシシリン水和物・クラリスロマイシン(ボノサップパック) ・ボノプラザンフマル酸塩・アモキシシリン水和物・メトロニダゾール(ボノピオンパック)OTCの胃腸薬にも「相談すること」として追加 また、一般用医薬品で要指導医薬品として販売されているオメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾールナトリウム含有製剤についても「相談すること」の項に改訂がなされた。服用後に副作用として、「吐き気、嘔吐、食欲不振、体がだるい、顔や手足の筋肉がぴくつく、一時的にボーっとする、意識の低下、手足の筋肉が硬直しガクガクと震える、しびれ、めまい、動悸、気を失う等があらわれる」可能性が追記され、症状があらわれた場合は直ちに医師の診療を受けるよう注意が追加された。 その他の医薬品における重大な副作用等の追加  また、同日付で以下の薬剤等についても改訂が行われたほか、インスリン アスパルト(フィアスプ注)においては、「37℃を超える高温下でのゲル化によるインスリンポンプ内部の閉塞(重篤な高血糖や糖尿病性ケトアシドーシスの発現リスク)」に関する記載が「重要な基本的注意」に追加となった。<重大な副作用などが追加された製剤>・免疫チェックポイント9成分*3:血管炎・グセルクマブ(トレムフィア):肝機能障害・ドキソルビシン塩酸塩(リポソーム製剤、ドキシル):腎臓限局型血栓性微小血管症・イキサゾミブクエン酸エステル(ニンラーロ):血栓性微小血管症・カルボプラチン(カルボプラチン点滴静注液50mg「NK」):抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)・組換えRSウイルスワクチン(アブリスボ):ギラン・バレー症候群・抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン(サイモグロブリン):血栓性微小血管症*3:アテゾリズマブ、アベルマブ、イピリムマブ、セミプリマブ、チスレリズマブ、デュルバルマブ、トレメリムマブ、ニボルマブ*4、レチファンリマブ)*4:血栓性微小血管症も追加

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発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH:paroxysmal nocturnal hemoglobinuria)

1 疾患概念■ 定義発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria:PNH)は、glycosylphosphatidylinositol(GPI)アンカー生合成に関わるPIGA遺伝子などに後天的変異を獲得した造血幹細胞が、クローン性に拡大することで発症するまれな造血幹細胞疾患である1)。GPIアンカー型タンパク質の欠損により、赤血球表面の補体制御因子であるCD55およびCD59の発現が低下・欠損し、補体による血管内溶血を来す。PNHは単なる溶血性貧血ではなく、血管内溶血、血栓症、造血不全を三主徴とする疾患として理解する必要がある。■ 疫学PNHは希少疾患であり、わが国では指定難病に含まれる。2024(令和6)年度の特定医療費(指定難病)受給者証所持者数は1,264人であり、人口10万人当たり約1.0人に相当する。ただし、これは医療費助成制度に基づく患者数であり、軽症例、未申請例、subclinical PNH、骨髄不全に伴う微小PNHクローンなどは含まれにくいため、実際の有病者数を過小評価している可能性がある。PNHは若年から中年期の成人に多いが、小児から高齢者まで幅広く発症しうる。わが国での診断時年齢中央値は45歳で、20~60代と均等に分布する。欧米では溶血や血栓症を主体とする古典的PNHが多いのに対し、わが国を含むアジアでは、再生不良性貧血など骨髄不全を背景とするPNHが比較的多いとされる2)。■ 病因PNHの直接的な原因は、PIGA遺伝子などGPIアンカー生合成関連遺伝子の後天的変異である。ただし、PIGA変異を有する微小なPNHクローンは健康な人にも検出されることがあり、変異の獲得だけでは臨床的PNHの発症を十分に説明できない。PNHクローンの拡大には、再生不良性貧血に代表される免疫学的骨髄不全の環境が重要と考えられている。すなわち、免疫学的機序により正常造血が抑制される一方で、GPIアンカー欠損造血幹細胞が相対的に生存優位性を獲得し、PNHクローンとして拡大する。このためPNHは、補体介在性溶血と骨髄不全が併存する疾患である(図1)。図1 補体活性化経路とPNH古典経路、レクチン経路、第2経路の3つの活性化経路はいずれもC3の活性化を経て、C5から始まる終末補体経路の活性化に至る。健康な人では、CD55によりC3転換酵素(C4b2b、 C3bBb)とC5転換酵素(C4b2b3bとC3bBb3b)の形成が抑制、崩壊が促進され、CD59によりC5b-9(MAC)の形成が阻害され、過剰な補体活性化が抑制されているが、これらを欠損したPNH型赤血球では、補体による溶血が進行する。画像を拡大する■ 症状PNHの症状は多彩である。典型的には、貧血に伴う倦怠感、息切れ、動悸、黄疸、ヘモグロビン尿を認める。血管内溶血により遊離ヘモグロビンが血中に放出されると、平滑筋弛緩作用を持つ一酸化窒素が消費され、平滑筋攣縮に伴う腹痛、嚥下困難がしばしばみられるほか、勃起障害、肺高血圧症などを来すことがある。また、遊離ヘム、破壊された赤血球に由来する膜成分、血小板活性化、血管内皮障害、組織因子発現、好中球細胞外トラップ形成などが複合的に関与し、血栓傾向をもたらす3)。血栓症はPNHの生命予後を左右する重要な合併症であり、肝静脈、門脈、脳静脈洞など非典型部位に生じることがある。慢性のヘモグロビン尿により鉄欠乏、尿細管障害、慢性腎臓病を来すこともある。■ 分類PNHは、臨床像により(1)溶血を主体とする古典的PNH、(2)再生不良性貧血や骨髄異形成症候群などに合併する骨髄不全型PNH、(3)両者の性質を併せ持つ混合型PNHの3つに分類される。ただし実臨床では、溶血と造血不全の要素を併せ持つ症例が多く、分類名にこだわるよりも、個々の患者で溶血、血栓症、造血不全のどれが臨床的に問題となっているかを評価することが重要である。■ 予後PNHの予後は、C5阻害薬の登場により大きく改善した。エクリズマブおよびラブリズマブは、血管内溶血を強力に抑制し、血栓症リスクを低下させ、PNH患者の生命予後を、健康な人に近い程度にまで改善した。その一方で、貧血の改善が十分でない症例や、骨髄不全や腎障害の合併、血栓症の既往のほか、抗補体薬治療中の溶血(breakthrough hemolysis:BTH)の問題は、長期予後や生活の質に影響する。したがって、現在のPNH診療では、生命予後の改善に加え、貧血、倦怠感、輸血依存、治療負担をどこまで改善できるかが重要な課題となっている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)PNHは、溶血性貧血を疑う所見(血清LDH値高値、ハプトグロビン低下、網赤血球増加、間接ビリルビン上昇)があり、Coombs陰性の場合にまず鑑別疾患に挙がる。また、ヘモグロビン尿、原因不明の血栓症、あるいは再生不良性貧血や低リスク骨髄異形成症候群に伴うPNH血球の検出を契機に疑う。確定診断には、フローサイトメトリーによるGPIアンカー型タンパク質欠損血球の検出と定量が必須である。『発作性夜間ヘモグロビン尿症診療の参照ガイド 令和4年度改訂版』では、臨床的PNHの基準として、PNHタイプ赤血球(II型+III型)が1%以上、かつ血清LDH値が正常上限の1.5倍以上であることが明確化された。赤血球ではCD55、CD59の欠損を評価し、type II、type III赤血球の割合を確認する。顆粒球や単球ではFLAERを用いた高感度解析が有用であり、輸血の影響を受けにくい。鑑別診断としては、自己免疫性溶血性貧血、遺伝性球状赤血球症をはじめとする先天性溶血性貧血、発作性寒冷ヘモグロビン尿症、血栓性微小血管症(TTP、HUS、補体介在性TMAなど)、機械弁関連溶血などが挙げられる。また、骨髄不全を伴う場合には、再生不良性貧血、低形成性MDS、MDS/AMLへの進展を鑑別する必要があり、骨髄検査、染色体検査、遺伝子検査を併用する。3 治療(図2)図2 補体活性化経路とPNH治療薬C5阻害薬は、補体終末経路を阻害することで血管内溶血を速やかかつ持続的に抑制し、貧血を改善し、血栓症リスクも低下させる。しかし、補体活性化経路の上流に位置する補体成分C3がPNH型赤血球上に蓄積し(オプソニン化)、肝臓や脾臓のマクロファージに貪食される(血管外溶血)ことで、貧血が残存する患者が存在する。こうした患者に対しては、補体上流(近位補体)を阻害する薬剤であるペグセタコプラン(C3阻害薬)、イプタコパン(B因子阻害薬)、ダニコパン(D因子阻害薬、ただしC5阻害薬と併用)が適応となる。画像を拡大する治療は溶血、血栓症、骨髄不全のそれぞれに対する対症療法が中心となる。骨髄不全の治療は、再生不良性貧血に準じて行う。軽症例では経過観察、葉酸補充、鉄欠乏への対応などを行い、subclinical PNHでは背景にある骨髄不全の評価・管理を行う。慢性溶血に対する長期ステロイド投与は推奨されない。鉄欠乏を伴う場合、抗補体療法が導入されていない症例では、鉄補充によりPNH型赤血球の産生が増加し、溶血が増悪することがあるため注意を要する。高度貧血には赤血球輸血を行うが、通常、洗浄赤血球を用いる必要はない。臨床的に問題となる溶血、輸血依存、血栓症またはその既往、腎障害、平滑筋攣縮症状を有する例では、抗補体療法を検討する。わが国では初回治療として、C5阻害薬であるエクリズマブ(商品名:ソリリス)およびラブリズマブ(同:ユルトミリス)、クロバリマブ(同:ピアスカイ)が使用可能である。これらのC5阻害薬は、終末保体経路を阻害することで血管内溶血を速やかかつ持続的に抑制する。これにより、貧血症状や輸血依存の改善に加えて、PNHの重大な合併症である血栓症リスクの低減にもつながる。ラブリズマブは長時間作用型であり、8週に1度の点滴投与、クロバリマブは、リサイクリング抗体技術を用いたC5阻害薬であり、4週ごとの皮下投与が可能である。エクリズマブ、ラブリズマブからクロバリマブに切り替える、あるいはその逆の場合、drug-target-drug complexに関連する一過性の免疫反応に注意する必要がある。C5阻害薬によりLDHが十分抑制されても、C3沈着に伴う血管外溶血、骨髄不全、腎性貧血などにより貧血や倦怠感が残存することがある。C5阻害薬による適切な治療でも十分な効果が得られないPNHに対し、近位補体阻害薬が適応となっている。C3阻害薬ペグセタコプラン(同:エムパベリ)は、C5阻害薬で効果不十分な症例においてHb改善、輸血回避、倦怠感改善を示した。D因子阻害薬ダニコパン(同:ボイデヤ)は、C5阻害薬に併用する経口薬であり、血管外溶血が残存する症例で貧血改善が期待される。B因子阻害薬イプタコパン(同:ファビハルタ)は、補体第2経路を阻害する経口単剤治療薬であり、血管外溶血を引き起こさずに血管内溶血を阻害する。骨髄不全型PNHでは、抗補体薬のみでは血球減少が十分改善しないため、再生不良性貧血に準じた免疫抑制療法を検討する。ATG投与時には補体活性化により溶血発作を来す可能性があり、溶血が強い症例では抗補体療法を先行または併用することが望ましい。同種造血幹細胞移植は根治療法であるが、治療関連死亡や合併症のリスクが高いため、抗補体療法後も反復する血栓症、重症造血不全、MDS/AMLへの進展例などに限って慎重に検討する。4 今後の展望PNH治療は、C5阻害薬による血管内溶血の制御を基盤としつつ、残存貧血、血管外溶血、倦怠感、輸血依存、治療負担を改善する方向へ進展している。今後は、LDHを正常上限の1.5倍未満に抑えることに加え、Hb値の改善、輸血回避、QOL改善、BTH予防を含めた総合的な治療目標が求められる。その一方で、近位補体阻害薬単剤では、感染、ワクチン接種、手術、服薬アドヒアランス不良などを契機としたBTHに注意が必要である4,5)。とくに経口薬では、飲み忘れや中断が生じた場合に補体制御が不十分となり、溶血が再燃する可能性がある。また、感染対策は薬剤ごとの電子添付文書に従う。C5阻害薬では髄膜炎菌、近位補体阻害薬では髄膜炎菌に加えて肺炎球菌、インフルエンザ菌b型などへの感染対策が必要となる。治験中の薬剤としては、抗C5抗体pozelimabと、肝臓でのC5産生を抑制するsiRNA製剤cemdisiranを組み合わせた治療が挙げられる。わが国でも活動性PNH患者を対象とした第III相臨床試験が実施されており、血中C5の直接阻害とC5産生抑制を組み合わせることで、持続的なC5制御と治療負担の軽減が期待される。その一方で、抗C5抗体に補体制御因子Factor Hの機能を組み合わせたKP104のような二重機能性薬剤も海外で開発が進められているが、現時点でわが国におけるPNH治験の実施は確認できない。MASP-3阻害抗体zaltenibart(OMS906)は、pro-factor Dからfactor Dへの成熟を阻害し、補体第2経路を抑制する薬剤で、海外では第III相開発が進められている。今後は、このような新規薬剤に加え、既存薬間のスイッチ、併用療法、妊娠・周術期管理、長期安全性、医療経済性に関する実臨床データの蓄積が重要となる。診断面では、PNHクローンサイズ、赤血球C3沈着、補体活性、BTHリスク、骨髄不全の程度を組み合わせた評価により、患者ごとに最適な抗補体薬を選択する個別化医療が進むと考えられる。PNHは希少疾患であるが、補体制御異常、骨髄不全、クローン性造血が交差する疾患であり、その診療の進歩は他の補体関連疾患の理解にも波及することが期待される。5 主たる診療科血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 発作性夜間ヘモグロビン尿症(指定難病62)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)発作性夜間ヘモグロビン尿症診療の参照ガイド 令和4年度改訂版(医療従事者向けのまとまった情報)一般社団法人日本PNH研究会(医療従事者向けのまとまった情報) 1) Hill A, et al. Nat Rev Dis Primers. 2017;3:17028. 2) 三谷絹子ほか. 発作性夜間ヘモグロビン尿症診療の参照ガイド 令和4年度改訂版. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 特発性造血障害に関する調査研究班 2023. 3) Rother RP, et al. JAMA. 2005;293:1653-1662. 4) Notaro R, et al. N Eng J Med. 2022;387:160-166. 5) Fattizzo B, et al. Blood. 2025;146:411-421. 公開履歴初回2026年7月10日

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第321回 糖尿病予防ワクチンの開発支援は患者の寄付、国はどう見る?

INDEX患者団体から大学への寄付IDDMの原因と研究背景佐賀大学での研究成果と日本IDDMネットワークの思い患者が身銭を切る現実、医療者は、政府はどう感じるか患者団体から大学への寄付世の中とはまだまだ知らないことにあふれている。最近、そう思わされることがあった。それはネットで流れてきた「糖尿病予防ワクチン開発へ1,000万円助成 佐賀大学が2029年完成目指し研究」というニュースだ。関係者には申し訳ないが、最初はネットニュースなどでありがちなin vitroのデータを基に「〇〇が××に効く」的に大げさに報じられたレベルのニュースかと思ったが、よく記事を読み、その内容を調べてみると、なかなかに面白い。糖尿病専門医ならばもはや周知のことなのかもしれないが、私自身は初耳だった。ニュースの概略は、1型糖尿病(IDDM)の発症に関与する可能性があるウイルスの感染を予防するワクチン研究に取り組んでいる佐賀大学の研究に対し、IDDMの患者団体である認定NPO法人・日本IDDMネットワークが1,000万円の研究助成金を提供したというものだ。患者団体が研究機関や研究者を支援するために、寄付を行うことは日本でも珍しいとまでは言えないが、私が知る範囲では、寄付金額は高くとも百万円単位。ちなみに寄付文化が日本より盛んな欧米などでは、患者団体が億単位の研究助成金を提供することもある。その意味では今回のケースは珍しい部類に入るだろう。IDDMの原因と研究背景さてIDDMとウイルス感染との関連だが、その端緒は半世紀以上前の1969年、英国からの研究報告1)である。余談ながら、同年は私が生まれた年である。この研究は、0~19歳のIDDMの新規発症が夏から秋・冬にかけて増加し、10月頃に緩やかなピークを迎えた後、翌夏にかけて減少していくパターンを示し、四半期単位でみると、統計学的に有意な変動があったというもの。研究者側は発症に季節性がある疾患は感染症に起因することが多いとの仮説に基づき、IDDM新規発症数の季節変動・年次推移と当時の英国公衆衛生研究所(現・英国健康安全保障庁)のウイルスの流行データを調べ、コクサッキーB群ウイルス(B1〜B5型)のB4型ウイルスの流行と若年のIDDMの年間新規発症数との間に有意な正の相関が認められたと報告した。もっともこの時点で論文に記述された結論は「私たちは、今回の結果が感染症と若年性糖尿病との関連性を示すさらなる証拠を提供するものであると結論付けるが、これらの知見の病因論的な(因果関係における)重要性については、いまだ不確実なままである」というものだった。そして同じ研究者が1973年に発表した研究2)はさらに一歩進んでおり、IDDM新規発症患者と非糖尿病かつ直近でウイルス感染症に罹患歴がない対照群との比較で、IDDM患者ではコクサッキーB4型ウイルスに対する中和抗体値が有意に高いと報告した。この件がより確信度が高くなったのは、さらに6年後の1979年に米国からもたらされた報告である。これは糖尿病性ケトアシドーシスで亡くなった10歳男児の膵臓ホモジネートを培養細胞に接種したところ、細胞へのウイルス感染が確認され、解析結果からそのウイルスがコクサッキーB4型ウイルスだと判明したとの症例報告である。コクサッキーB4型ウイルスが膵臓に感染している事実が判明したということだ。これが1症例の報告にもかかわらず、NEJM誌に掲載された3)という事実からも、その衝撃度は当時としても相当なものだったことが窺い知れる。その後、小児を対象にした複数の前向きコホート研究からコクサッキーB群ウイルスによる感染が、IDDMの発症に関与する自己抗体の陽性化に先行して起こることも確認された。後に、とくに発症への関与度が強いのは「コクサッキーB1型ウイルス」であることも判明している。佐賀大学での研究成果と日本IDDMネットワークの思いこうしたさまざまな研究から、現在推定されているコクサッキーB群ウイルスによるIDDM発症の機序は、ヒトに感染したコクサッキーB群ウイルスが膵β細胞に感染・増殖すると、β細胞で炎症が起き、β細胞のタンパク質が免疫細胞に提示され、自己反応性T細胞が活性化することで自己免疫反応が慢性化して発症に至るというものである。もっとも、現状でもコクサッキーB群ウイルスは、IDDMの原因と証明されたわけではなく、有力な環境因子ということでコンセンサスを得ている。そこで、今回の本丸である「日本IDDMネットワークが研究助成金を提供した研究」だが、佐賀大学医学部肝臓・糖尿病・内分泌内科特任教授(九州大学名誉教授)の永淵 正法氏らが取り組んでいるものである。永淵氏らは、ヒトのコクサッキーB群ウイルスが感染できる特殊な遺伝子改変マウスの作製に成功した。また、前述のようにコクサッキーB群ウイルスは、あくまで有力な環境因子という位置付けだが、永淵氏らはコクサッキーB群ウイルス感染でIDDMを発症しやすいのは、ウイルス感染時に感染拡大を食い止めるインターフェロンにかかわるインターフェロン受容体関連シグナル伝達分子のチロシンキナーゼ2遺伝子(TYK2)に変異がある場合であることを突き止めている。今後はコクサッキーB群ウイルス内でさらに糖尿病発症に関与度が高いウイルスの特定やワクチンデザインと動物実験での効果検証を経て臨床試験開始を目指しているという。そしてさらに驚いたのが、日本IDDMネットワークがこの研究に助成したのは、これが9回目で、提供した研究助成金は累計1億770万円。それほどまでに患者の期待は高いということだ。患者が身銭を切る現実、医療者は、政府はどう感じるか今回、この件で私がふと思い出したのが、記者になりたての1990年代後半、ある新聞で読んだ海外の糖尿病患者団体トップのインタビューである。記事でこのトップが語っていた「私たちが本当に望んでいるのは、良好なコントロールが得られることではなく治癒」という言葉に私は相当な衝撃を受けた。当時の私は、周囲の人間より医学知識が増えていたがゆえに、どこか得意になっていたところがある。たとえば、医学的な知識に乏しい人々が「〇〇の水を飲んだら、がんが消えたらしい」という話などをしていると、「がんが水ごときで治るはずはないだろう」と得意げに反論していた。当時、同じようなケースを糖尿病患者で目の当たりにしていれば、「糖尿病は一生治らないよ」と上から目線で話していたに違いない。前述の糖尿病患者団体トップの記事はそんな自分の慢心に冷や水を浴びせたものだった。たとえ医学的に不可能と言われようと、患者とは常に治癒を願うもの。以来、それを前提にどう報じるかが自分のミッションだと考えてきた。しかしだ、冒頭の書き出しを読めばわかる通り、私は再びそのことを忘れかけていたようである。そのうえであえて不遜な物言いをすれば、これは医療者にも少なからず共通することとは言えないだろうか?一方、今回の件を通じてもう1つ考えさせられたのは、一日千秋の思いで、より良い治療を待つ患者が身銭を切って研究者を支える現実である。本来これは公がやるべきことではないだろうか? 幸い(?)にも首相の高市 早苗氏は「責任ある積極財政」「先端技術を花開かせる成長投資を大胆かつ戦略的に進める」「攻めの予防医療」などを政権公約に掲げている。この言葉通りなら、ぜひとも全国津々浦々で行われている今回のような地道な研究にも目を向け、支援をしてもらいたいものである。参考1)Gamble DR, et al. Br Med J. 1969;3:631-633.2)Gamble DR, et al. Br Med J. 1973;4:260-262.3)Yoon JW, et al. N Engl J Med. 1979;300:1173-1179.

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ASCO2026 レポート 泌尿器腫瘍

レポーター紹介[目次]PROTEUS試験TALAPRO-3試験RAMPART試験SARC041試験SAKK 06/19試験米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology;ASCO)の年1回の総会は、今年も米国イリノイ州シカゴで開催され、2026年は5月29日から6月2日まで5日間の日程で行われた。昨今の円安はさらに進み、5月29日時点で1ドル=160円前後と、現地参加へのモチベーションをそぐには十分な水準であり、今年もオンラインでの参加を選択した。泌尿器腫瘍領域では、前立腺がんを中心に、Oral Abstract Session、Rapid Oral Abstract Session、Poster Sessionで多数の演題が報告された。毎年の目玉であるPlenary SessionにはPractice changingな演題が選出されるが、今年は高リスク限局性/局所進行前立腺がんに対する周術期アパルタミド+ADTを検証したPROTEUS試験がLBA1として選出され、泌尿器腫瘍領域にとっても注目度の高い総会となった。今年のASCOでは、手術を中心とした限局性前立腺がん治療への全身療法の導入に加え、転移を有する前立腺がんにおける分子異常に基づく治療強化、腎細胞がん術後補助療法における免疫療法の位置付けなど、日常診療への影響を考えさせる報告が相次いだ。また、しばしば後腹膜腫瘍として携わる脱分化型脂肪肉腫に対する新たなエビデンスとして、アベマシクリブのSARC041試験もPlenary Sessionで報告された。膀胱がんの免疫併用療法の新時代を感じさせる報告も含め、PROTEUS、TALAPRO-3、RAMPART、SARC041、SAKK 06/19の5演題を取り上げて報告する。目次に戻るPlenary Session 前立腺がん#LBA1 高リスク限局性/局所進行前立腺がんに対する周術期アパルタミド+ADTは病理学的奏効とMFSを改善(PROTEUS試験)Perioperative(neoadjuvant and adjuvant) apalutamide(APA)+androgen deprivation therapy(ADT)vs placebo(PBO)+ADT with radical prostatectomy(RP) in high-risk localized or locally advanced prostate cancer(HR LPC/LAPC): Final analysis of the PROTEUS phase 3 study.Mary-Ellen Taplin(Dana-Farber Cancer Institute, Boston, MA, United States)高リスク限局性/局所進行前立腺がんでは、根治的前立腺全摘術後も一定割合で再発や遠隔転移を来すが、手術に全身療法を組み合わせる周術期治療は標準治療として確立していなかった。PROTEUS試験は、根治的前立腺全摘術を予定する高リスク限局性/局所進行前立腺がんを対象に、術前6サイクルおよび術後6サイクルのアパルタミド+ADTとプラセボ+ADTを比較した国際共同二重盲検ランダム化比較第III相試験である。主要評価項目は、病理学的完全奏効または微小残存病変(pCR/MRD)および中央判定による無転移生存期間(MFS)であった。2,109例が登録され、追跡期間中央値約5年時点で、pCR/MRDはアパルタミド+ADT群で8.9%、プラセボ+ADT群で1.0%(オッズ比:10.17、p<0.0001)と有意に改善した。5年MFS率は78.2%と73.5%であり、ハザード比[HR]:0.80(95%信頼区間[CI]:0.67~0.96、p=0.02)と、遠隔転移または死亡リスクを20%低下させた。無イベント生存期間(EFS)も57.1ヵ月と38.4ヵ月で延長し、次治療開始までの期間も約3年遅延したと報告された。Grade 3/4有害事象は39.6%と31.0%で、主な差は皮疹などアパルタミドに関連する毒性であった。本試験は、手術を予定する高リスク前立腺がんにおいて、周術期のアンドロゲン受容体経路阻害薬+ADTが病理学的奏効だけでなくMFSも改善することを示した初の第III相試験であり、前立腺がん周術期治療の考え方を変える報告であった。日本でもアパルタミドは転移を有する去勢感受性前立腺がん(mHSPC)および転移のない去勢抵抗性前立腺がん(nmCRPC)で使用可能であり、本試験に日本人も含まれており承認される可能性が高い。高リスク限局性前立腺がんの治療は放射線治療も選択肢となり、PROTEUS試験では従来非切除アプローチを優先してきたN1症例も含まれる。術前においても泌尿器科と腫瘍内科、放射線治療科が連携して全身療法を検討する流れが必要かもしれない。本試験の結果を解釈するためのハードルは以下の3点である。1.現在の標準治療である手術単独との比較ではなく両群にADTが行われていたこと2.試験参加およびフォローアップにPSMA-PETが用いられていたこと3.全生存期間(OS)は主要/副次評価項目に入っていないこと、また、この治療を適用するに当たり術後治療まで行う必要性があるかどうか目次に戻るOral abstract session 前立腺、精巣、陰茎#LBA5007 HRR遺伝子異常を有するmHSPCに対するタラゾパリブ+エンザルタミドはrPFSを延長(TALAPRO-3試験)TALAPRO-3: Talazoparib(TALA)+enzalutamide(ENZA) compared with placebo (PBO)+ENZA for the treatment of patients(pts) with metastatic castration-sensitive prostate cancer(mCSPC) harboring homologous recombination repair(HRR) gene alterations.Neeraj Agarwal(Huntsman Cancer Institute[NCI-CCC], University of Utah, Salt Lake City, UT)タラゾパリブはPARP阻害薬であり、エンザルタミドとの併用は転移を有する去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)を対象としたTALAPRO-2試験で有効性が示されている。ASCO2026では、この併用療法をmHSPCに前倒しし、HRR遺伝子異常を有する症例に対象を絞って検証したTALAPRO-3試験(NCT04821622)の結果が報告された。本試験は国際共同二重盲検ランダム化比較第III相試験で、対象となるHRR遺伝子はATM、ATR、BRCA1、BRCA2、CDK12、CHEK2、FANCA、MLH1、MRE11A、NBN、PALB2、RAD51Cの12遺伝子であった。患者はタラゾパリブ+エンザルタミド+ADT群とプラセボ+エンザルタミド+ADT群にランダム化され、主要評価項目は治験担当医判定による画像上の無増悪生存期間(rPFS)であった。599例が登録され、84%がde novo転移、71%がhigh-volume diseaseであり、アジア人は約39%を占めていた。rPFSはタラゾパリブ群で有意に改善し、3年rPFS率は77%と56%、HR:0.48(95%CI:0.36~0.65、p<0.001)であった。BRCA変異例ではHR:0.37、non-BRCA HRR変異例でもHR:0.57と、一貫した改善が示された。OSは中間解析時点でHR:0.77(95%CI:0.56~1.04)と未成熟であった。安全性については、重篤な有害事象はタラゾパリブ群42%、対照群32%であり、Grade3/4の貧血は51%、輸血は40%に認められた。TALAPRO-3試験は、mHSPCにおいてHRR陽性集団をPARP阻害薬併用による治療強化の対象として確立した試験である。日本人を含む試験であり、承認されればmHSPC診断時からHRR検査を行い、分子異常に基づいて初回治療を選択する診療へ移行する可能性がある。一方で、治療期間が長くなりうるmHSPCでは、貧血を中心とした血液毒性管理と、OS成熟後のベネフィットの評価が今後の課題である。目次に戻るClinical Science Symposium -腎&膀胱-#LBA4511 切除後腎細胞がんに対する術後デュルバルマブ単剤はDFSを有意に改善せず(RAMPART試験)Durvalumab monotherapy versus active monitoring for resected primary renal cell carcinoma in RAMPART: An international, phase 3, randomized controlled trial. James Larkin(The Royal Marsden NHS Foundation Trust, London, United Kingdom)腎細胞がんに対する術後補助療法では、KEYNOTE-564試験によりペムブロリズマブが無病生存期間(DFS)およびOSを改善し、日本でも再発リスクの高い淡明細胞型腎細胞がんに対する標準治療となっている。一方、術後免疫療法の有効性は試験間で一貫しておらず、免疫チェックポイント阻害薬の種類や併用療法の意義は重要な臨床疑問であった。RAMPART試験は、腎摘除後に再発リスクを有する腎細胞がんを対象に、active monitoring、デュルバルマブ単剤、デュルバルマブ+トレメリムマブを比較した国際共同ランダム化比較第III相試験である。対象はLeibovich scoreで中間または高リスク、あるいは完全切除後(M1 NED)症例で、主要評価項目はDFSであった。ASCO2026では、デュルバルマブ単剤とactive monitoringの比較結果が報告された。追跡期間中央値3.5年時点で、3年DFS率はデュルバルマブ単剤群78%、active monitoring群72%であり、HR:0.74(95%CI:0.53~1.04、片側p=0.041)と数値上は改善したものの、事前に規定された有意水準には到達しなかった。一方、既報のデュルバルマブ+トレメリムマブ群では、3年DFS率80%と72%、HR:0.65(95%CI:0.45~0.93、片側p=0.0094)と有意な改善を認めた。OSは未成熟であり、3年OS率はデュルバルマブ+トレメリムマブ群96%、デュルバルマブ単剤群98%、active monitoring群96%で、明らかな差は認められていない。安全性では、Grade3/4有害事象はデュルバルマブ+トレメリムマブ群41%、デュルバルマブ単剤群30%、active monitoring群9%であり、重篤な有害事象はそれぞれ34%、19%、6%であった。まれではあるが、致死的な免疫関連有害事象として重症筋無力症や心筋炎も報告された。RAMPART試験は、デュルバルマブ単剤を術後補助療法の新たな標準とする結果ではなかった。一方で、CTLA-4抗体を加えた併用療法ではDFS改善が示され、とくに高リスクまたはM1 NED症例で利益が大きい可能性がある。日本の日常診療では、すでにOS延長を示したペムブロリズマブ術後療法が標準であり、RAMPARTの結果をただちに診療へ反映する場面は限られるが、術後補助免疫療法におけるリスク選択、併用療法の意義、毒性とのバランスを再考させる重要な報告であった。目次に戻るPlenary Session 脱分化型脂肪肉腫#LBA2 進行脱分化型脂肪肉腫に対するアベマシクリブはPFSを有意に延長(SARC041試験)SARC041: A phase 3 randomized double-blind study of abemaciclib versus placebo in patients with advanced dedifferentiated liposarcoma.Mark Dickson(Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY)脱分化型脂肪肉腫(dedifferentiated liposarcoma;DDLS)は、後腹膜原発として診療に携わることも多いまれな軟部肉腫であり、再発・転移例では薬物療法の選択肢が限られている。DDLSではCDK4を含む12番染色体領域の増幅が高頻度に認められることから、CDK4/6阻害薬による治療開発が進められてきた。SARC041試験は、再発または転移を有するDDLSを対象に、アベマシクリブとプラセボを比較した二重盲検ランダム化第III相試験である。アベマシクリブは日本では乳がんに対して使用されている経口CDK4/6阻害薬であり、連日投与可能であることが特徴である。本試験では、進行DDLS 108例がアベマシクリブ200mg 1日2回またはプラセボに1:1で割り付けられた。ベースラインで前治療歴0の患者が両群で約50%ずつ含まれた。主要評価項目はPFSであり、病勢進行後はプラセボ群からアベマシクリブへのクロスオーバーが許容された。PFS中央値はアベマシクリブ群9.7ヵ月、プラセボ群1.5ヵ月であり、HR:0.38、p<0.001と有意な延長が示された。6ヵ月PFS率は60%と22%、12ヵ月PFS率は39%と13%であった。奏効率は9%と高くはないものの、プラセボ群では奏効例がなく、DDLSにおいて病勢制御を得る治療としての意義が示された。OS中央値はアベマシクリブ群で未到達、プラセボ群で25.5ヵ月、HR:0.55、p=0.07であり、プラセボ群の85%がクロスオーバーしたことを踏まえると良好な傾向であった。有害事象は下痢、血球減少、悪心など、既知のアベマシクリブの安全性プロファイルに沿うものであった。アベマシクリブ群の39%で減量を要したが、忍容性は管理可能と報告された。SARC041試験は、DDLSにおいて初めて明確なPFS改善を示した第III相試験であり、希少肉腫における分子標的治療の開発として重要な報告であった。ただし、本試験では腫瘍量が多く緊急に細胞障害性化学療法を要する症例や、プラセボ対照試験に適さないほど急速に進行する症例は除外されており、ドキソルビシンなど既存の細胞障害性化学療法に置き換わる治療と位置付けるには慎重な解釈が必要である。また、米国のみで行われた試験であり、日本を含め各国で承認を得られるかどうかは不透明である。目次に戻るOral abstract session -腎&膀胱-#4503 筋層浸潤性膀胱がんに対する膀胱内rBCG+chemo-IO周術期治療は高いpCR率を示す(SAKK 06/19試験)Intravesical recombinant BCG combined with chemo-immunotherapy (chemo-IO) as perioperative therapy for patients with muscle-invasive bladder cancer (MIBC): Primary analysis of SAKK 06/19.Richard Cathomas(Division of Oncology, Cantonal Hospital Graubunden, Chur, Switzerland)筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)では、根治的膀胱全摘術にシスプラチン併用術前化学療法を組み合わせることが標準治療であり、近年はNIAGARA試験により周術期化学療法と免疫療法の併用(chemo-IO)の有効性も示されている。一方で、pCR率はなお十分とはいえず、さらなる治療強化の余地がある。BCG膀胱内注入療法は筋層非浸潤性膀胱がんで広く用いられ、局所免疫反応を誘導する治療であるが、MIBCに対する使用は全身性合併症への懸念もあり十分に検討されてこなかった。SAKK 06/19試験では、免疫原性の増強と安全性改善を目的に開発された組換えBCGワクチンVPM1002BC(rBCG)を、周術期chemo-IOに組み合わせる治療戦略が検討された。本試験は、シスプラチン適格で根治的膀胱全摘術を予定するcT2-T4aN0-1 MIBCを対象とした、オープンラベル単群第II相試験である。rBCGはday 1、8、15に週1回計3回膀胱内注入され、アテゾリズマブ1,200mgはday 1から3週ごとに計4回投与された。ゲムシタビン+シスプラチン療法はday 22から3週ごとに4サイクル行われ、その後に根治的膀胱全摘術が実施された。術後病理でypT2以上またはypN陽性の場合には、アテゾリズマブを術後13サイクル追加する設定であった。主要評価項目は中央病理判定によるpCR(ypT0N0)であり、副次評価項目には病理学的奏効(PaR、ypT1N0以下)、EFS、OS、実施可能性、安全性が含まれた。2022年4月から2025年4月までにスイス国内10施設で47例が登録され、このうち40例が根治的膀胱全摘術を受けた。手術例の臨床病期はcT2が53%、cT3が37%、cT4が10%であり、cN1は12%であった。rBCGは95%の症例で投与され、78%が3回すべての投与を受けた。アテゾリズマブ4回投与は98%、プラチナ併用化学療法4サイクルは95%で実施され、20%ではカルボプラチンへ変更された。中央病理判定による手術例のpCR率は65%(26/40)、PaR率は80%(32/40)であり、登録例全体でみてもpCR率は55%(26/47)であった。治療関連有害事象は、rBCG関連では全Gradeが48%、Grade3が9%、アテゾリズマブ関連では全Gradeが55%、Grade3が15%、Grade4が2%、化学療法関連では全Gradeが98%、Grade3が38%、Grade4が17%であった。治療関連死亡は認められず、追跡期間中央値11.8ヵ月時点で1年EFS率は88%、1年OS率は95%であった。本試験は、chemo-IOにさらに膀胱内rBCGを加えることで、非常に高い病理学的奏効を示した。これは、従来の化学療法単独で期待されるpCR率27~33%を30%程度上回る数値でありChemo+IOで+10%程度、抗体薬物複合体製剤+IOで+20%程度であることを考慮すると、膀胱がんにおいて腫瘍局所の免疫賦活がいかに重要であるかを示唆する貴重な報告である。BCGにより膀胱局所の自然免疫・獲得免疫を刺激し、全身の免疫チェックポイント阻害薬および化学療法と相乗効果を狙うという発想は、MIBC治療開発の新たな方向性として興味深い。もちろん、本試験は単群第II相試験であり、NIAGARA試験やEV+ペムブロリズマブを用いた第III相試験との直接比較ではない。また、EFSやOSの追跡期間はまだ短く、pCRの高さが長期予後改善につながるかは今後の検証が必要である。それでも、MIBCにおいて局所免疫療法を全身治療に組み込むというコンセプトを示した点で、今後のランダム化比較試験や膀胱温存療法への応用に期待が膨らむ内容であった。目次に戻る

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家庭血圧測定値の遠隔モニタリングで心血管イベントリスクが低下

 動脈硬化性疾患(ASCVD)と診断された50歳以上の成人において、帯状疱疹(HZ)ワクチンの接種は、主要心血管イベント(MACE)およびその他の心血管アウトカムのリスク低下と関連するという研究結果が、米国心臓病学会年次総会(ACC.26、3月28~30日、米ニューオーリンズ)で発表予定である。 米カリフォルニア大学リバーサイド校のRobert Nguyen氏とAditya Desai氏は、米国のTriNetXデータベースを用い、2018年1月1日~2024年1月1日にASCVDと診断された50歳以上の成人を対象とした後ろ向きコホート研究を実施し、この集団において帯状疱疹ワクチン接種が心血管リスクを低減するかどうかを検討した。傾向スコアマッチング後、HZワクチン接種群27万5,304人と非接種群27万5,304人が解析対象となった。 解析の結果、HZワクチン接種は、MACE、全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中のリスク低下と有意に関連していた(ハザード比はそれぞれ、0.54、0.39、0.73、0.73)。さらに、HZワクチン接種は、静脈血栓塞栓症、心不全、心房細動または心房粗動のリスク低下とも関連していた(同0.63、0.67、0.70)。 Nguyen氏は、「このワクチンは、心筋梗塞、脳卒中、死亡のリスク低減に対する心血管保護作用を繰り返し示している。既に心血管疾患を有する高リスク集団では、その効果は一般集団よりもさらに大きい可能性がある」と述べている。 自宅で血圧を測定するよう患者に促すことで、心血管イベントの発生リスクを低減できる可能性を示した新たな研究が報告された。家庭血圧を測定し、その結果を医師と共有した人では、急性冠症候群(ACS)、脳卒中、心不全による入院や死亡のリスクが約34%低かったという。英エディンバラ大学プライマリケアeヘルス分野名誉教授のBrian McKinstry氏らによるこの研究の詳細は、「European Heart Journal-Digital Health」に5月26日掲載された。 McKinstry氏は、「本研究は、家庭血圧測定値の遠隔モニタリングが血圧を低下させるだけでなく、脳卒中や心筋梗塞の発生も減少させることを示した、これまでで最も強力なエビデンスである」とニュースリリースで述べている。 今回の研究では、2019年3月1日から2021年2月28日の間に第一選択の降圧薬を処方された高血圧患者45万4,180人を対象に、2022年3月1日まで追跡し、家庭血圧測定値の遠隔モニタリングと心血管アウトカムとの関連を評価した。心血管アウトカムは、ACS、脳卒中、コントロール不良の心不全による入院または死亡を対象とした。 対象者のうち9,465人が「Connect Me BP」と呼ばれる遠隔モニタリングサービスを利用していた。このモニタリングサービスでは、患者に家庭血圧の測定を促すショートメッセージが送信され、その測定値が収集される。その後、毎週・毎月・3カ月ごとの測定値の報告書が主治医に送られ、必要に応じて医師が患者に連絡を取る仕組みとなっている。 その結果、遠隔モニタリング群では開始から3カ月以内に血圧の低下が認められ、その効果は1年以上にわたって維持された。この遠隔モニタリングサービスを1年以上にわたり利用した患者と一度も利用しなかった患者(通常ケア群)を対象に、3年間の心血管イベントの発生率を比較したところ、ACSは遠隔モニタリング群で2.7%、通常ケア群で4.0%、心不全はそれぞれ1.1%と3.6%、脳卒中は1.4%と2.2%であった。年齢や性別、降圧薬数などの因子を一致させた遠隔モニタリング群5,297人、対照群18万7,232人を対象に解析した結果、遠隔モニタリング群でACS、脳卒中、心不全による入院または死亡のリスクが33.5%低く(調整オッズ比0.665、95%信頼区間0.501~0.884)、全死因死亡リスクも約40%低かった(同0.602、0.392~0.925)。 論文の筆頭著者であるエディンバラ・ネピア大学のJanet Hanley氏は、「脳卒中、心筋梗塞、心不全は死亡や障害の主要な原因であり、そのリスクを低減できるのであれば大きな意義がある。血圧の遠隔モニタリングは、血圧コントロールの改善を支援することで、このリスク低減に役立つ。その上、このシステムには、簡便で使いやすいという利点もある」とニュースリリースで述べている。 研究グループは今後、心血管リスクがより高い患者において、遠隔モニタリングによりさらに大きな利益が得られるのかを検証する必要があるとしている。 英国心臓財団(BHF)の研究部門ディレクターであるJames Leiper氏は、「高血圧は心筋梗塞や脳卒中のリスクを高める。高血圧と診断された患者は、治療が適切に行われていることを確認するため、綿密なモニタリングを受ける必要がある」と述べている。同氏はまた、「本研究は、自宅で定期的に血圧を測定し、その結果を医師に送信するとともに、測定を促す定期的なリマインダーを受けることが、血圧コントロールの改善に役立つ効率的なアプローチであることを示す新たなエビデンスである」と評価した。さらに同氏は、「今回の研究で示された、重篤な心血管イベントによる入院や死亡リスクの低下は心強い結果である。このような革新的なアプローチは、人々がより長く健康に生活することに貢献する可能性がある」と結論付けている。

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新規作用機序の蕁麻疹経口薬「ラプシド錠25mg」【最新!DI情報】第66回

新規作用機序の蕁麻疹経口薬「ラプシド錠25mg」今回は、慢性蕁麻疹治療薬「レミブルチニブ(商品名:ラプシド錠25mg、製造販売元:ノバルティスファーマ)」を紹介します。本剤は慢性蕁麻疹の新規経口薬であり、既存治療で効果不十分な慢性蕁麻疹患者にとってより利便性の高い治療選択肢となると期待されています。<効能・効果>特発性の慢性蕁麻疹(既存治療で効果不十分な患者に限る)の適応で、2026年6月19日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人にはレミブルチニブとして1回25mgを1日2回経口投与します。<安全性>副作用として、上気道感染、点状出血(いずれも1~5%未満)、紫斑、挫傷、斑状出血、鼻出血、歯肉出血(いずれも1%未満)、結膜出血(頻度不明)があります。<患者さんへの指導例> 1.この薬は、蕁麻疹の症状を誘発する原因が特定されない蕁麻疹に用いられる治療薬です。ブルトン型チロシンキナーゼを阻害することで、蕁麻疹の症状を引き起こす物質や炎症を起こす物質の放出を抑えて症状を緩和します。 2.抗ヒスタミン薬の増量など適切な治療を行っても、日常生活に支障を来すほどの症状を繰り返して継続的に認められる場合に追加で使用します。 3.妊娠する可能性がある人は、この薬を使用している間および最後に使用してから1週間は、適切な避妊をしてください。 4.この薬を使用している間は生ワクチン(麻しん、おたふくかぜ、風しん、水痘など)の接種はできません。 <ここがポイント!> 慢性特発性蕁麻疹(CSU)は、明確な原因や誘因が特定できない蕁麻疹が6週間以上持続する疾患です。蕁麻疹による紅斑やそう痒、膨疹などの症状は、肥満細胞からヒスタミンなどの炎症性ケミカルメディエーターが放出されることによって引き起こされます。蕁麻疹の治療には、原因や悪化因子の除去・回避が重要となりますが、これらが不明なCSUでは薬物療法が治療の中心となります。薬物療法では、主に第2世代ヒスタミンH1受容体拮抗薬が用いられますが、一部の患者では症状が残存することがあります。第2世代抗ヒスタミン薬で効果不十分な場合には、生物学的製剤であるオマリズマブやデュピルマブが治療の選択肢となります。しかしながら、これらの薬剤はいずれも皮下投与製剤であり、自己注射や通院に伴う身体的・心理的負担が生じる場合があります。レミブルチニブは、ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)に対して高い選択性を示すBTK阻害薬です。本剤はIgEまたはIgG自己抗体によりFcイプシロン受容体Iの架橋が誘発されて生じるシグナル伝達を阻害することで、肥満細胞および好塩基球からのヒスタミンなどの炎症性メディエーターの放出を抑制します。本剤は1日2回服用の経口薬であるため、既存の生物学的製剤で必要となる自己注射や定期的な通院に伴う負担はなく、患者にとってより利便性の高い治療選択肢となり得ます。第2世代抗ヒスタミン薬で効果不十分な18歳以上のCSU患者を対象とした国際共同第III相試験(A2301試験、REMIX-1試験)において、主要評価項目である投与12週後の週間蕁麻疹活動性スコア(UAS7)のベースラインからの変化量は、本剤群で-20.02±0.716、プラセボ群で-13.79±0.980でした。本剤群とプラセボ群の群間差は-6.22(95%信頼区間:-8.45~-4.00)であり、本剤群はプラセボ群と比較して蕁麻疹症状(そう痒および膨疹)を統計学的に有意に低減しました(反復測定混合モデル、調整済みp<0.001)。

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SCORPIO-PEP試験:エンシトレルビルはCOVID-19家族内発症を予防できるか(解説:小金丸博氏)

 NEJM誌2026年5月14日・21日合併号に掲載されたSCORPIO-PEP試験は、エンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)をCOVID-19患者の同居家族に対して曝露後予防に用いた第III相試験である。主要評価項目である「症候性COVID-19発症」は、エンシトレルビル群2.9%、プラセボ群9.0%で、リスク比0.33と有意な抑制効果を示した。絶対リスク減少は約6%であり、NNT(治療必要数)は17と計算される。家庭内感染という高曝露環境を考慮すると、かなり良好な成績といえる。 本試験の強みは、二重盲検ランダム化比較試験であること、多国籍試験であること、さらにオミクロン株流行期に実施された点にある。参加者の大多数が既感染あるいはワクチン接種由来の抗体を保有しており、現在の実臨床に近い集団で有効性が示された意義は大きい。また、有害事象発現率はプラセボ群と同等であり、安全性に関しても大きな問題を認めなかった。 一方で、臨床実装に向けては慎重な解釈も必要である。本試験のエンドポイントは「感染予防」ではなく「症候性COVID-19発症予防」であり、無症候感染自体は一定数認められている。つまり、ウイルス伝播抑制効果を直接証明した試験ではない。また、観察期間は10日間が中心であり、long COVIDの抑制や入院予防への寄与は評価されていない。 さらに重要なのは、ベースラインのイベント発生率が比較的低い点である。プラセボ群でも発症率は9%にとどまり、オミクロン株流行期以降の免疫保有集団においては、家庭内曝露があっても発症する者は限られる。このため、接触者全員への一律予防投与は費用対効果に乏しい可能性がある。真に恩恵を受けるのは、高齢者、免疫不全者、重症化リスクを持つ家族を抱える世帯などに限られるかもしれない。 耐性変異の問題も未解決である。論文中では明確な耐性伝播は確認されなかったが、3CLプロテアーゼ阻害薬は理論上耐性化リスクを抱える。とくに軽症例や予防投与への広範な使用は、選択圧を高める可能性がある。COVID-19が季節性感染症化しつつある現状では、抗ウイルス薬をどこまで「予防」に用いるべきかという抗菌薬適正使用に近い視点が必要になる。 本試験は「COVID-19家庭内曝露後の予防」という新しい戦略の有効性を示した点で画期的である。ただし、その適応は接触者への一律投与ではなく、高リスク接触者へのターゲット使用として考えるべきであり、長期アウトカム、耐性化、費用対効果を含めた今後の検討が不可欠である。

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7月6日 ワクチンの日【今日は何の日?】

【7月6日 ワクチンの日】〔由来〕1885年の今日、細菌学者のルイ・パスツール(フランス)が開発した狂犬病ワクチンが、少年に接種されたことを記念し、ワクチンの大切さを多くの人に知ってもらうことを目的に日本ベクトン・ディッキンソンが制定。関連コンテンツ今、知っておきたいワクチンの話麻しん・おたふくかぜ・風しんの3種混合生ワクチン「ミムリット皮下注用」【最新!DI情報】ワクチン接種率向上のための介入、有効な要素は?/BMJ新規インフルワクチンの第III相試験、mRNA-1010 vs.従来型ワクチン/NEJM市中肺炎で検出された肺炎球菌、ワクチンカバー率は?/感染症学会・化学療法学会

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日本におけるがん薬剤費は10年で3倍に、総医療費最大は肺がん

 日本の全国レセプトデータベース(NDB)を用いて、2011~22年にがん診療を受けた約2,320万人を対象とした大規模解析が実施された。その結果、がん診療に伴う医療費は日本の経済成長率を大きく上回るペースで増加しており、とくに免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を中心とする新規抗がん薬が医療費増加の主要因であることが明らかになった。京都大学の福山 啓太氏らによる研究はScientific Reports誌オンライン版2026年6月15日号に掲載された。 本後ろ向きコホート研究では、2011年4月~2022年3月に悪性腫瘍と診断された患者をがん種別に分類し、月ごとの保険請求額と適用薬剤を分析した。対象は悪性腫瘍患者約2,320万人(男性:約1,203万人、女性:約1,118万人)で、95%以上の電子レセプトを網羅する全国データを利用し、がん種別、年齢別、薬剤別に医療費を評価した。また、薬価改定を反映した独自のマスターデータを構築し、薬剤価格の経年変化も考慮した。 主な結果は以下のとおり。・患者数では乳がんが最多で、胃がん、大腸がん、肺がん、前立腺がんが続いた。・総医療費が最も高額だったのは肺がんだった。肺がんの患者数は減少傾向にあるにもかかわらず、診療費は解析期間を通じて増加を続け、2022年には全がん種で最大となった。一方、患者1人当たりの月額医療費では多発性骨髄腫が最も高く、2022年3月時点で約40万9,000円に達した。・研究期間中、がん患者の月当たり人数は612万人から544万人へ約68万人減少したにもかかわらず月額総請求額は5,590億円から7,100億円へ約1,510億円増加しており、1人当たり医療費の増加が認められた。・薬剤費の解析では、ICIの増加が際立った。肺がんではPD-1/PD-L1阻害薬が急速に普及し、分子標的薬やVEGF阻害薬とともに薬剤費増加の主因となっていた。乳がんではHER2標的薬やCDK4/6阻害薬、胃がんではPD-1/PD-L1阻害薬およびVEGF阻害薬、前立腺がんでは新規ホルモン療法薬の使用増加が確認された。・抗がん薬全体の薬剤費は、2011年の月347億円から2022年には1,090億円へと約3.1倍に増加した。なかでもICI関連薬剤は薬価改定により一部価格が引き下げられたものの、新規適応拡大や使用患者数の増加により、総薬剤費は増加を続けた。 同期間における日本の実質GDPは約8.5%の増加にとどまった。これに対し、がん診療費は約1.27倍、抗がん薬剤費は約3.1倍に増加しており、研究者らは「がん診療費の伸びは経済成長を大きく上回っている」と指摘する。一方で研究者らは、「本研究は高額薬剤の使用抑制を提案するものではない。ICIや分子標的薬は臨床試験で有効性が示され、患者予後の改善に大きく寄与している。しかし、公的保険制度の持続可能性を考えると、個々の薬剤の増分費用効果比(ICER)のみでは十分とは言えず、国家経済や医療財政全体を踏まえた新たな評価指標の構築が必要だ」としている。さらに、がん検診による早期発見やワクチンによる予防は、高額な薬物療法を回避できる可能性があり、医療経済の観点からも重要な介入となる可能性が示唆された。

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帯状疱疹、感染部位も認知症リスクに影響する可能性/日本皮膚科学会

 近年、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の罹患が認知症の発症リスクを上昇させる可能性や、帯状疱疹ワクチンの接種がそのリスクを低減させる可能性を示す研究が相次いで報告されている。下畑 享良氏(岐阜大学)らは、「VZVの罹患は認知症の危険因子か?」という臨床疑問を検討することを目的に、21論文を対象としてスコーピングレビューを実施1)。このレビューからみえてきたVZV罹患と認知症発症の関連や、ワクチンが及ぼす影響などについて、最新の研究結果も踏まえて下畑氏が第125回日本皮膚科学会総会で講演した。システマティックレビューではVZV罹患との関連を肯定・否定する報告が混在 下畑氏はまず、スコーピングレビューの対象論文に含まれた3編のシステマティックレビュー/メタ解析の結果について解説した。 1つ目の論文(対象9研究)では、VZV罹患は認知症発症のリスク因子であり、ハザード比(HR)は1.11であることが示された。さらに、VZV罹患後に抗ウイルス薬を使用した場合、発症リスクはHR:0.84となり、16%のリスク抑制効果が認められた。 2つ目の論文(対象6研究)は、帯状疱疹ワクチン接種歴が認知症発症率に与える影響を検討したものであり、ワクチン接種歴は認知症のオッズ低下と関連し、統合オッズ比は0.76であった。 一方、3つ目の論文(対象9研究)では、全体としてVZV罹患と認知症発症に関連は認められず(HR:0.99、p=0.89)、アルツハイマー病のバイオマーカー(アミロイドβなど)との関連性も確認されなかった。しかし、「眼部帯状疱疹」の罹患に関しては認知症と強く関連する(HR:6.26)ことが示されており、感染部位によるリスクの違いが注目される。 ただし、これらの研究はいずれも無作為化比較試験ではなく前向き試験は1つのみであることから、現状のエビデンスには限界があることも示されている。個々の検討から背景因子を探る システマティックレビュー/メタ解析以外の研究についてみると、VZV罹患と認知症発症率について検討した研究は12研究存在した。うちVZV罹患が認知症発症率を増加させるとしたのは6研究、増加させないとしたのは3研究、またVZV罹患が認知症発症率を低下させるとしたものも3研究存在した。下畑氏は、この背景にワクチンの公的補助の有無がある可能性を指摘し、VZV罹患が認知症の危険因子とはならなかった研究の実施国は公的補助があり、ワクチン接種率の高い国が多く、対象者の抗ウイルス薬の処方率が高い傾向があったことを指摘した。 ワクチン接種歴と認知症発症率について検討した6研究では、接種したワクチンの種類によらず、いずれも、VZVワクチン接種歴が認知症または認知機能障害の少なさと関連することを示した。 帯状疱疹発症後の抗ウイルス薬使用と認知症発症率の関係については、検討した4研究のうち3研究で、抗ウイルス薬の使用は認知症発症率を低下させると報告している。 VZVの感染部位に注目した研究では、VZV罹患後1年以内の認知症発症率は全体では増加しなかったが、脳神経感染がある場合にはHR:1.83、中枢神経感染ではHR:6.83というデータが報告されている。また、別の研究でも、皮膚に限局した感染者と比較して、眼部感染、中枢神経感染、複雑性感染者の場合ではいずれも認知症発症リスクが有意に上昇してHR:1.28~1.44と報告されている。一方で、1つの研究では、眼部感染でも認知症発症率の増加を認めなかった。基礎研究でみえてきたメカニズムとは VZV感染はどのようなメカニズムで認知機能に影響を及ぼすのだろうか。VZV罹患に伴う認知症発症の病態について検討した研究は3つあり、単純ヘルペスウイルス(HSV)やVZVに感染した患者の脳脊髄液を調べると、VZV感染が潜伏HSV-1の再活性化を誘発し、アルツハイマー病様変化や神経炎症につながる可能性を示す仮説が提唱されている。さらに、リン酸化タウやミクログリアの活性化マーカーであるTREM2の上昇など、ウイルス感染を契機として脳内にアルツハイマー病に似た変化が惹起されることが示されている。 VZV罹患によるHSV-1再活性化が認知症発症の原因である可能性を検討した研究では、VZV単独の感染ではアミロイドβやリン酸化タウの蓄積は生じないが、あらかじめHSVに感染させて抗ウイルス薬で静止化させた後にVZV感染させると、HSV-1が再活性化し、結果としてアミロイドβやタウの蓄積が確認されるという。現在、VZV感染が潜伏しているHSV-1の再活性化を誘発し、それがアルツハイマー病様変化やミクログリアの活性化をもたらして認知症につながるという仮説が有力視されている。 また、水痘に罹患しやすい遺伝的要因(7つのSNP)を持つ人は認知症リスクが上昇するという報告もあり、遺伝的背景とウイルス感染の複雑な交絡も示唆される。帯状疱疹ワクチンによる認知症リスクの低減効果:最新の大規模コホート研究 ワクチンの認知症予防効果に関する大規模な疫学データが、相次いで発表されている。生年月日によるワクチン制度の適用の違いを利用し、カナダで行われた自然実験研究では、生ワクチン接種による認知症発症の減少効果が確認された2)。また、米国で約33万人を対象とした組換えワクチンの大規模コホート研究では、未接種群と比較して2回接種群で認知症発症ハザードが51%低く、強い関連が示された3)。 これらの報告を総合すると、複数回のワクチン接種で最大の効果が得られること、効果は年齢や人種間で一貫しているものの、女性においてより強い効果が得られる傾向がみられるという。一方で、生ワクチンの効果は時間の経過とともに減弱する可能性も指摘されている。VZVは皮膚症状だけでなく神経症状の有無にも着目を 下畑氏は講演の結びとして、「VZVは皮膚だけで完結するウイルスではなく、皮膚に現れた神経感染症と捉えてもよいのかもしれない。高齢者や免疫不全者、反復例においては、皮疹や疼痛だけでなく、頭痛、髄膜刺激徴候、片麻痺、構音障害、ふらつきといった神経症状の有無にも注意を払い、これらを認めた場合はぜひ脳神経内科へコンサルトしていただきたい」とした。 帯状疱疹ワクチンの接種による認知症発症リスクの低減については、今後のさらなる臨床研究とエビデンスの蓄積が期待される。

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第319回 終息見えぬエボラ・ブンディブギョ株、ワクチンと治療薬の開発状況

INDEXヒトに感染するエボラウイルスとその特徴ワクチン候補は2つ治療薬候補は4つ以前、本連載でもお伝えしたコンゴ民主共和国(以下、コンゴ)を中心とするエボラウイルスのアウトブレイクにおいて、その後も事態は悪化の一途をたどっている。最新の世界保健機関(WHO)の発表によると、6月24日現在、コンゴでは確定報告が累計1,094例、うち277例が死亡。隣国ウガンダでは6月18日現在、確定報告が19例、うち死亡2例のほか、死亡に至った疑い症例1例が報告されている。ウガンダでは、6月5日以降、新たな症例は報告されておらず、確定症例中14例がコンゴからの輸入例、残りが接触者や医療者の2次感染と分類されている。ウガンダでの感染は終息しつつあると言えそうだ。問題はコンゴのほうである。6月13日以降、新たに220例の確定症例(うち死亡96例)が報告され、WHOは「検査と診断能力の拡大により、以前に収集された検体の検査が可能になったことが一因」としているものの、終息の兆しは見えていない。現在のコンゴ国内での感染報告地域は、ウガンダ国境に接する東部のイツリ州が91.1%。これ以外は同州の南に接する北キブ州、さらにその南の南キブ州に分布している。WHOも発表の中で「複雑な人道危機と紛争の影響を受けた環境下で発生」と評しているように、以前の連載でも触れた紛争による政情不安定さがアウトブレイクの終息を阻んでいる。さらに悩ましいのは今回のアウトブレイクの原因が、エボラウイルスの中のブンディブギョ株である点だ。ヒトに感染するエボラウイルスとその特徴エボラウイルス(正確にはフィロウイルス科エボラウイルス属に分類されるウイルス)は6種類が確認されており、ヒトで感染が報告されているのは、アフリカのシエラレオネでコウモリから分離されたボンバリ株を除く5種類(スーダン株、ザイール株、タイフォレスト株、ブンディブギョ株、レストン株)である。5種類のうち、1994年にコートジボワールで確認されたタイフォレスト株の感染報告1)は、同地でチンパンジーの解剖に当たっていたスイス人の1例のみで、発熱、頭痛、悪寒、筋肉痛、咳で発症し、その後、腹痛、下痢、嘔吐、発疹を認めたものの、スイスへ搬送後に回復し、後遺症もなく退院している。また、1989年に米国・バージニア州レストンの動物飼育施設でフィリピン産のサルを感染源として初めて確認されたレストン株は、これまで100例超の感染事例が報告されているものの、いずれも抗体陽性が確認されただけで発症者の報告はない。感染したヒトで発症し、かつ致死的な病態をもたらすのが残るザイール株、スーダン株、ブンディブギョ株だが、過去の感染確定報告累計はザイール株が数万例、スーダン株が数千例の規模であるのに対し、ブンディブギョ株は今回のアウトブレイク以前の確定例は200例未満であるため、結果としてワクチンや治療法の開発が最も立ち遅れている。前出の「悩ましい」とはこのことを意味する。その意味では、現在のワクチンと治療薬の開発状況は気になるところ。そこでこの現状を可能な限りまとめてみた。ワクチン候補は2つまずワクチンだが、WHOとGaviワクチンアライアンス(Gavi, the Vaccine Alliance)などが中心となって進めている提言で、ワクチン候補として最も有望視されているのが、国際エイズワクチンイニシアティブが開発を主導している「rVSV-Bundibugyo」。これはすでにザイール株向けに米国・メルク社が製造・販売しているエボラウイルスワクチン「rVSV-ZEBOV(商品名:Ervebo)」と同じプラットフォームを利用したワクチン候補である。Erveboは主にウシ、ウマ、ブタなどの家畜に感染するものの、ヒトでの病原性は低い水疱性口内炎ウイルスを改変したベクターに、ザイール株の表面にある糖タンパク質の遺伝子を挿入したウイルスベクターワクチンである。一方のrVSV-Bundibugyoは、挿入する遺伝子をブンディブギョ株の糖タンパク質の遺伝子に置換している。動物実験レベルだが、Erveboのプラットフォームにザイール株、タイフォレスト株の糖タンパク質の遺伝子を挿入したものを接種したサルにブンディブギョ株を曝露させて交叉防御を検討した研究2)では、今のところ良好な結果が得られている。また、テキサス大学のグループが行ったブンディブギョ株曝露後のサルへのrVSV-Bundibugyoの接種に関する研究3)でも有意な生存効果が認められている。このワクチン候補に関しては、2026年中に第I相臨床試験が開始される見込みだという。もう1つの候補がオックスフォード大学とインド血清研究所が共同開発している「ChAdOx1-Bundibugyo」。これはすでに多くの医療者の中で記憶の彼方に過ぎ去ったかもしれない、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に対するアストラゼネカ社製のワクチン「バキスゼブリア」のブンディブギョ株版である。バキスゼブリアのサルアデノウイルスベクターにブンディブギョ株の糖タンパク質の遺伝子を挿入したウイルスベクターワクチンである。現在は前臨床データを収集中だという。さらに、同様に新型コロナに対するmRNAワクチンで名を馳せた米国・モデルナ社がブンディブギョ株対応のmRNAワクチンを開発中である。治療薬候補は4つ一方、治療薬についても現在開発が模索されている。最有力視されているのが米国・マップ・バイオファーマシューティカルの抗体カクテル「MBP134」である。エボラウイルス感染症から回復したヒトのメモリーB細胞に由来する数百種類の抗体をスクリーニングして得られた2種類のヒトモノクローナル抗体「ADI-15878」と「ADI-23774」を利用したものだ。ADI-15878はエボラ属ウイルス全体でほぼ共通しているfusion machinery(膜融合機構)を認識する抗体であるため、理論上はウイルス株に依存しない効果が期待できるとみられている。また、ADI-23774もウイルス株に依存しない糖タンパク質結合能を有するが、元となったモノクローナル抗体のスーダン株への結合能がやや低かったため、この部分に改良を加えている。2つの作用ポイントを持つため、ウイルスの変異にも対応でき、より有効性が高いと期待される。動物実験の結果4)では、ザイール株、スーダン株、ブンディブギョ株をそれぞれ曝露させたフェレットに対し、曝露から3~4日後に3日おきに2回投与し、いずれのウイルス株でも投与群のフェレットは全例生存したのに対し、コントロール群では全例死亡した。サルの実験では感染後7日目の単回筋肉注射を行い、生存率は投与群が83%、コントロール群が0%だった。また、米国・ヴァンダービルト・ワクチンセンターのグループが報告5)したブンディブギョ株感染からの生存者のメモリーB細胞に由来する遺伝子組み換えヒトモノクローナル抗体「mAb BDBV289-N」も抗体療法の候補となっている。サルによる実験結果では、ブンディブギョ株曝露後8、11日目の投与により、15日目までにウイルスRNA量は急速に減少。21日目には接種されたすべてのサルの血中でウイルスが検出限界以下となり、死亡例は認められなかった(未治療のコントロール群の致死率は40%)。さらに抗ウイルス薬として候補薬に挙げられているのが、RNAウイルスに対して抗ウイルス効果がある2種類の治療薬(候補)である。1つはすでに新型コロナの治療薬として知られるレムデシビルである。同薬が新型コロナ治療薬として注目される前の2016年に「Nature」に公表された論文6)では、ザイール株を使ったサルでの実験でウイルス曝露直後、2日後、3日後に2種類の投与量で1日1回12日間筋肉注射した各群のサルは全例生存していたのに対し、無治療のコントロール群では全例が死亡したと報告されている。現在、前出の抗体カクテル「MBP134」との併用の臨床試験が計画中と一部では報じられている。もう1つ抗ウイルス薬候補として注目されているのが、米国・ギリアド・サイエンシズが新型コロナやRSウイルス感染症に対して臨床試験中の経口抗ウイルス薬のobeldesivirである。ザイール株を使ったサルでの実験では、ウイルス曝露24時間後から10日間の連日経口投与を行った結果、投与されたサルでの生存率は80~100%に対し、コントロール群では全例死亡した。決して面白半分で見ているわけではないが、この中からどのワクチン・治療薬候補が抜け出すかは、今後の新興感染症対策を占ううえでは注目に値すると考えている。参考1)Formenty P, et al. J Infect Dis. 1999;179 Suppl 1:S48-53.2)Falzarano D, et al. J infect Dis. 2011;204 Suppl 3:S1082-1089.3)Woolsey C, et al. J Infect Dis. 2023;228(Suppl 7):S712-S720.4)Bornholdt ZA, et al. Cell Host Microbe. 2019;25:49-58.e5.5)Gilchuk P, et al. J Infect Dis. 2018;218(suppl_5):S565-S573.6)Warren TK, et al. Nature. 2016;531:381-385.

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第67回 「長生き」を買おうとする富豪たち、その方法に科学はあるのか

「死なない男」として知られる起業家ブライアン・ジョンソン氏は、2019年から、寿命を延ばす目的で、ある薬を毎日のように自分に注射し続けてきました。本来は臓器移植の拒絶反応を防ぐために使う免疫抑制薬「ラパマイシン」です。ところが2024年9月、彼はこの「実験」をやめます。皮膚の感染症や血糖値の上昇、脂質の異常などが現れ、利益よりも害が上回ると判断したからでした。彼のように、自分の体を「ハッキング(改造)」して数年でも長く生きようとするIT長者たちが増えています。そして、その試みをSNSなどで世界中に発信しています。今回は、こうした「バイオハッキング」ブームの実態を伝えたNature誌の記事1)をもとに、ご紹介します。富豪たちが試す、さまざまな「若返り術」ジョンソン氏は「ブループリント」と名づけた自己流の健康法を公開し、多くの追随者を生んでいます。彼が取り入れている方法の1つが、若い人から血液をもらう「若年血漿(けっしょう)輸血」です。これは米国食品医薬品局(FDA)が2019年と2024年に「効果の根拠がなく危険」と警告したものでした。ほかにも、別の富豪が「120歳まで生きたい」と成長ホルモンを使っていることを公言したり(医療機関は健康な大人への効果を疑問視しています)、集中力を高めるとして染料由来の物質やニコチン製品を勧めたりと、その種類はさまざまです。これらに共通するのは、効果や安全性がはっきりしないまま広まっている点です。科学的な裏づけは、どこまであるのかもちろん研究者たちは慎重です。老化そのものに働きかけて人の寿命を延ばすと明確に証明された方法は、いまのところ1つもないからです。ある専門家は、わずかなデータの中に「期待できそうな兆し」と「雑音」が入り交じり、一般の人にはその区別が難しいと指摘します。たとえば話題のラパマイシンは、マウスの寿命を23~60%延ばしたという研究があります2)。しかし、ヒトで同じことを示すのは簡単ではありません。ヒトでの研究はごくわずかで、65歳以上の200人余りでワクチンの効きがよくなったという2014年の報告3)や、高齢者の呼吸器感染症が減ったという2018年の報告4)がある程度です。研究者が333人の使用者を調べた2023年の調査では「生活の質が上がった」との声が多かったものの、本人の自己申告に頼っており、悪い経験をしてやめた人が含まれていない可能性が高いと、研究チーム自身が限界を認めています5)。一方で、糖尿病薬のメトホルミンや、肥満症で使われるGLP-1受容体作動薬(セマグルチドなど)のように、加齢に伴う病気を遅らせる可能性が期待され、臨床試験が進んでいる薬もあります。「自分1人のデータ」という落とし穴最大の問題は、富豪たちが自分1人の体で試した結果が、そのまま一般の人へと「正しい基準」のように広まってしまうことです。本来、薬の効果を確かめるには、数千人規模で慎重に比較する臨床試験が欠かせません。「科学は『1人(n=1)』では成り立たない」のです。しかし、健康長寿を支援するクリニックには「ブループリントをやりたい」「あの成分が欲しい」と、検査も受けないうちに名指しで求める人が増えているそうです。また、影響力のあるインフルエンサーの中には、自分のブランドのサプリメントを売る人もいますが、商売上の利害がからんでいることが、見ている側には伝わりにくい構造もあります。きちんとした臨床試験には大規模な費用がかかりますが、それは富豪たちの資産からすればごく一部にすぎません。しかし、その熱意と資金は本物の科学に向けられているとは言えない実情があります。日本でも、海外の健康トレンドはSNSを通じてすぐに入ってきます。「海外の有名人がやっているから」は、効果や安全の証拠にはまったくならない。そんな冷静な視点を、私たち一人ひとりが持っておきたいものです。1)Stokel-Walker C. Tech tycoons are biohacking for a longer life: is there science behind their methods? Nature. 2026;654:589-591.2)Miller RA, et al. Rapamycin-mediated lifespan increase in mice is dose and sex dependent and metabolically distinct from dietary restriction. Aging Cell. 2014;13:468-477.3)Mannick JB, et al. mTOR inhibition improves immune function in the elderly. Sci Transl Med. 2014;6:268ra179.4)Mannick JB, Morris M, Hockey HP, et al. TORC1 inhibition enhances immune function and reduces infections in the elderly. Sci Transl Med. 2018;10:eaaq1564.5)Kaeberlein TL, Green AS, Haddad G, et al. Evaluation of off-label rapamycin use to promote healthspan in 333 adults. GeroScience. 2023;45:2757-2768.

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複合がん免疫療法の近未来/日本臨床腫瘍学会

 がん免疫療法は、複数の免疫療法を組み合わせることで治療効果を最大化する新たなフェーズへと進展しつつある。2026年3月26~28日に開催された第23回日本臨床腫瘍学会学術集会では、「複合がん免疫療法の近未来」をテーマとしたシンポジウムが企画され、次世代の治療戦略が議論された。腫瘍免疫の理解が深化する中で、がん免疫応答の多面的なメカニズムを考慮した新たな複合がん免疫療法の確立が期待される。持続型T細胞免疫システムとCD4陽性T細胞療法 冒頭、各務 博氏(埼玉医科大学国際医療センター)は、近年のがん免疫療法の進歩を背景に、免疫応答をいかに持続させるかが重要な課題となっていることを指摘した。そのうえで、腫瘍微小環境内に形成される三次リンパ様構造(TLS)を基盤とした持続型T細胞免疫システムと、CD4陽性T細胞を活用した新たな治療戦略について講演した。 TLSは腫瘍局所に形成されるリンパ組織様構造で、抗原特異的T細胞の増殖や機能維持を担う場として機能する。ここでは、前駆疲弊CD8陽性T細胞(Tpex)が中心的役割を果たしている。TpexはPD-1を発現しつつも自己複製能を保持し、抗原特異的T細胞を継続的に供給する貯蔵プールとして働く。PD-1阻害薬の投与によりTpexが増殖し、抗腫瘍効果を引き起こすことが知られている。 さらに、Tpexの維持には特定のCD4陽性T細胞群が関与することが明らかとなっている。Tpexと連動して長期的な免疫応答を維持する重要な細胞集団であるTh7Rは、Tpexと類似した遺伝子発現を示し、腫瘍内で近接して分布する。解析の結果、Th7RとTpexの細胞数は相関しており、CD4陽性T細胞がTpexの形成および維持に寄与する可能性が示唆されている。 モデルマウスを使用した研究では、Th7Rを投与することで腫瘍内のTpexが増加し、抗腫瘍効果の増強が確認された。また、PD-1やCTLA-4阻害薬との併用により、その効果が持続することも示された。これは、Tpex/Th7R相互作用の維持を目的とした細胞療法として、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)治療の有望な戦略となる可能性を示唆している。 臨床的にもCD4陽性T細胞の存在は予後と関連し、PD-1阻害薬による治療前後で血中のTh7Rが減少していない患者さんで5年生存例が多いことが報告されている。一方で、これらの細胞が減少すると再発や死亡につながる可能性がある。このため、CD4陽性T細胞を継続的に補充する細胞療法により、腫瘍微小循環を維持し、免疫応答を長期にわたって持続させる治療戦略が重要であると各務氏は指摘する。 総じて、腫瘍微小循環にはTLS・Tpex/Th7R相互作用に代表される持続型抗腫瘍細胞メカニズムが存在し、持続的ながん免疫の基盤となっている。腫瘍微小循環を維持する細胞療法の併用は、今後のICI治療の発展において重要な方向性になることが期待されている。ICIとADC併用療法の現状と展望 続いて、清水 俊雄氏(関西医科大学附属病院 新薬開発科)はICIと抗体薬物複合体(ADC)の併用療法について、その作用機序、臨床的課題、今後の展望などについて概説した。 ADCは、標的に特異的に結合する抗体、細胞障害作用を担うペイロード、そして両者を連結するリンカーの3要素から構成される。これら各要素の設計は、有効性と安全性を大きく左右する。とくにリンカーの安定性や薬物抗体比(DAR)は体内動態(PK/PD)や毒性に強く影響する。また、ペイロードの疎水性や膜透過性は、腫瘍細胞内での作用に加え、周囲細胞へも影響する重要な因子である。 臨床的課題としては、標的抗原を発現する正常組織にも作用するオンターゲット毒性と、非特異的にほかの組織へ影響を及ぼすオフターゲット毒性が挙げられる。さらに、ADCは体内で単一の形態として存在するわけではなく、完全体、ペイロードが解離した抗体、遊離ペイロードなど複数の分子種が時間とともに変動する。このような動的な分布が薬効と毒性のバランスを規定するため、PK/PDの理解と最適化が重要となる。 免疫学的観点では、ADCによる腫瘍細胞障害は腫瘍抗原の放出を促し、免疫応答を活性化する。これにより樹状細胞およびT細胞が活性化され、腫瘍細胞では主要組織適合複合体(MHC)クラスI分子やPD-L1の発現が増加する。その結果、CD8陽性T細胞の腫瘍への浸潤が促進される。このような背景から、ICIとの併用による相乗的な抗腫瘍効果が期待されており、ADCとPD-1阻害薬の併用による有望な臨床試験の成績が報告されている。 一方で、併用療法の最適化にはいくつかの重要な課題がある。具体的には、標的抗原発現の維持、毒性の重複回避、ならびにADCの非特異的取り込みの抑制が挙げられる。さらに近年では、二重特異性抗体や二重ペイロードの導入、腫瘍特異的に活性化される設計、免疫刺激型ペイロードの活用など、機能を拡張した次世代ADCの開発が進んでいる。これらの新規ADCはまだ早期開発段階にあるものの、バイオマーカーの確立と臨床的有用性の検証が進めば、より精緻な個別化治療の実現が期待される。 最後に清水氏は、ADCとICIの併用療法は大きな可能性を有する一方で、その成功には分子設計、薬物動態、免疫学的作用、臨床戦略を統合的に理解することが不可欠となることを強調した。加えて、適切な薬剤選択や投与タイミングの最適化、さらには構造の改良による安全性と有効性の向上が、今後の治療成績を左右すると締めくくった。肺がん領域における二重特異性抗体の最前線 ICIの登場により、肺がん、とくに非小細胞肺がんの治療成績は大きく向上した。しかし、すべての患者さんに十分な効果が得られるわけではなく、新たな治療戦略の開発が求められている。こうした中で、最近は二重特異性抗体が注目されている。吉田 達哉氏(国立がん研究センター中央病院 呼吸器内科/先端医療科)は、肺がん領域における二重特異性抗体の臨床的展開について、最近の動向を報告した。 二重特異性抗体は、異なる2つの分子を同時に標的とすることを特徴とし、デュアルチェックポイント阻害型とT細胞誘導型(T細胞エンゲージャー)とに大きく分類される。前者は複数の免疫抑制シグナルを同時に阻害することで免疫応答を増強し、後者は腫瘍抗原とT細胞上の分子を橋渡ししてT細胞を直接腫瘍へ誘導・活性化する。造血器腫瘍ではT細胞エンゲージャーの成功例が多く報告されている一方、固形腫瘍である肺がんでは、これらを単独あるいはICIと組み合わせて用いる戦略が活発に検討されている。 肺がん領域では、特定のドライバー変異に関連する受容体を同時に標的とするアプローチや、腫瘍特異的抗原とT細胞を結び付けるT細胞エンゲージャーが臨床開発の段階から実臨床へと移行しつつある。前者は分子標的薬との併用により生存期間の延長が示唆され、後者は小細胞肺がんにおいて化学療法との併用で良好な治療成績が報告されており、新たな標準治療となる可能性がある。 一方で、患者選択の指標として用いられてきたPD-L1発現のみでは、ICIによる治療効果を十分に予測することが難しく、腫瘍変異量、抗原提示細胞や制御性T細胞の分布など、免疫微小環境をより詳細に解析する必要がある。こうした多面的なバイオマーカーの開発が、今後の個別化医療の鍵を握ると吉田氏は指摘する。 また、二重特異性T細胞エンゲージャーは腫瘍内の局所的なT細胞浸潤と免疫チェックポイント分子の発現を誘導し、ICI併用の有効性を示唆する一方で、抗原喪失などの免疫逃避が課題となる。 現在、T細胞エンゲージャーとICIの併用を検証する後期臨床試験が進行中であり、最適な併用方法や投与タイミングの確立が期待されているという。肺がん治療は、免疫療法のさらなる進展により新たな段階へと移行しつつあると、吉田氏は講演をまとめた。ICIとネオ抗原ワクチンの併用療法 近年、感染症領域におけるmRNAワクチンの成功を契機として、個別化がんワクチンの開発が大きく加速している。北野 滋久氏(がん研究会有明病院 先端医療開発科/がん免疫治療開発部)は、免疫学の観点からICIとネオ抗原ワクチンとの併用療法について概説した。 従来のがん抗原は自己由来成分に近く、十分な免疫応答を誘導できないことが多く、ワクチン療法としての成功例は限られてきた。これに対し、ネオ抗原は腫瘍細胞に特異的に生じた遺伝子変異に由来する新規タンパク質断片であり、後天的に獲得されるため免疫寛容の影響を受けにくく、高い免疫原性を持つ可能性がある。 ネオ抗原は、がん細胞内で産生された変異タンパク質が分解され、ヒト白血球抗原(HLA)に提示されることでT細胞に認識される。主にクラスIではCD8陽性T細胞、クラスIIではCD4陽性T細胞を活性化する。この過程には個人ごとのHLA型や遺伝子変異の違いが大きく影響するため、治療には患者さんごとの個別化が不可欠となる。近年では、DNAおよびRNAのシーケンシングと計算アルゴリズムを組み合わせることで、有望なネオ抗原候補を予測する技術が進歩し、個別化ワクチン開発が現実味を帯びてきた。 ワクチンにはペプチド、mRNA、DNA、ウイルスベクターなど多様な種類があり、とくにmRNAワクチンは柔軟性と開発の速さから注目されている。早期臨床試験ではネオ抗原特異的な免疫応答が確認され、ICIとの併用により抗腫瘍効果の向上が期待される。免疫応答は主にCD8陽性T細胞が担い、CD4陽性T細胞も補助的に関与する。安全性については、腫瘍特異的標的であるため理論上重篤な副作用はほとんどないと考えられる。 さらに、従来は注目されていなかったイントロンを含む非コード領域(いわゆるダークゲノム)や、スプライシング異常に由来するネオ抗原の存在も明らかになりつつあり、抗原候補の幅が大きく広がっている。全ゲノム解析を活用することで、これまで見逃されていた免疫標的の同定が進み、新たな治療戦略につながる可能性がある。 北野氏は、こうした科学的進展に加え、産学連携や国家レベルの研究基盤整備も進展しており、個別化ネオ抗原ワクチンと免疫療法の統合的アプローチは、がん治療の新たな柱として実用化に向けた期待が高まっていることを強調した。

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インフルワクチン、感染後も心血管イベントリスクを抑制

 ワクチンを接種していてもインフルエンザに感染してしまうことがある。しかし、たとえ感染したとしても、感染に伴う心筋梗塞や脳卒中といった心血管イベントのリスク上昇が抑制されることを示すデータが報告された。欧州疾病対策センター(ECDC)のRoberto Croci氏らの研究によるもので、詳細は「Eurosurveillance」4月号に掲載された。 研究者らによると、インフルエンザ感染によって引き起こされる全身性の炎症が、短期的に心血管イベントのリスクを高める。それに対してワクチン接種は、感染リスクを抑制することを介して心血管イベントのリスクも抑制することが既に知られていた。しかし、ワクチンを接種してもインフルエンザに感染することがあり、その場合の心血管イベントへの影響についてはこれまで明らかでなかったという。 Croci氏らは、2014~2025年にデンマークでインフルエンザ感染が確認され、かつ、心筋梗塞または脳卒中の治療を受けた40歳以上の入院患者1,221人(1,231件)のデータを解析に用いた。この集団の主な特徴は、年齢中央値が75歳(四分位範囲66~82歳)、男性54%で、35%が心筋梗塞、65%が脳卒中であり、全体として半数(50%)がワクチン接種済みの患者だった。 解析の結果、インフルエンザの感染が確認された後1週間以内の心血管イベントのリスクは、その他の期間(感染前または感染から1週間以上経過後)に比べて有意に高いことが確認されたが、ワクチン接種済みの場合はそのリスクの上昇がほぼ半減することが示された。具体的には、季節の影響を調整後、ワクチン未接種の場合はインフルエンザ感染から1週間以内の心血管イベントリスクがそれ以外の期間に比べて4.7倍に上るのに対して(調整発生率比〔aIRR〕4.7〔95%信頼区間3.3~6.6〕)、ワクチン接種済みの場合は2.4倍だった(aIRR2.4〔同1.5~3.8〕)。 研究者らは、「今回の研究結果は、インフルエンザワクチンの接種が心血管イベントの予防に有効だとするエビデンスを支持するものだ」としている。Croci氏らも、「この結果が別の環境での追試で確認されたなら、心臓病や脳卒中のリスクが高い人たちに対するインフルエンザワクチンの接種を優先すべきだという考え方が、より強固なものとなるだろう」と述べている。 なお、研究の限界点の一つとして、ワクチンのインフルエンザ感染抑制効果はシーズンごとに異なり、その有効性の違いが心血管イベントリスクの差につながる可能性があるが、その点を考慮できていないことが挙げられるという。また、患者の性別やワクチン接種のタイミングが、心血管イベントのリスクにも影響を及ぼすのかといった点も、残された検討課題としている。

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麻しん・おたふくかぜ・風しんの3種混合生ワクチン「ミムリット皮下注用」【最新!DI情報】第65回

麻しん・おたふくかぜ・風しんの3種混合生ワクチン「ミムリット皮下注用」今回は、「乾燥弱毒生麻しんおたふくかぜ風しん混合ワクチン(商品名:ミムリット皮下注用、製造販売元:第一三共)」を紹介します。乾燥弱毒生麻しん風しん混合ワクチンに、おたふくかぜワクチンを混合することで、接種回数が減少して非接種者の負担軽減につながることが期待されています。<効能・効果>麻しん、おたふくかぜおよび風しんの予防の適応で、2026年5月11日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>本剤を添付の溶剤(日本薬局方注射用水)0.7mLで溶解し、その0.5mLを1回皮下に注射します。生後12月以上の者であれば性、年齢に関係なく接種できます。接種年齢は、学会などの最新の情報を考慮して総合的に判断します。<安全性>重大な副反応として、ショック、アナフィラキシー、免疫性血小板減少症、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、脳炎・脳症、けいれん(熱性けいれんを含む)、無菌性髄膜炎、難聴、精巣炎、急性膵炎(いずれも頻度不明)があります。その他の副反応として、発熱(33.6%)、注射部位の紅斑(22.5%)、腫脹、疼痛(いずれも注射部位、5%以上)、内出血、硬結(いずれも注射部位)、嘔吐、湿疹、発疹、上咽頭炎(いずれも0.5~5%未満)、注射部位のそう痒感、下痢、鼻漏、上気道の炎症、紅斑、丘疹、斑状丘疹状皮疹、蕁麻疹(いずれも0.5%未満)があります。<患者さんへの指導例> 1.このワクチンは、麻しん、おたふくかぜ、風しんの混合ワクチンです。麻しんウイルスとムンプスウイルス、風しんウイルスを弱毒化した生ワクチンで、接種後に体の中でワクチンウイルスが増え、それぞれの抗体ができます。 2.生後12月以上の者であれば性別、年齢に関係なく接種できます。 3.ワクチン接種に伴う副反応として、接種部位が接種直後から数日中に赤くなる、硬くなる、腫れることがありますが、通常、一過性で消失します。 4.妊婦は接種できません。 5.妊娠可能な女性は、あらかじめ約1ヵ月間避妊した後に接種します。また、ワクチン接種後約2ヵ月間は妊娠しないように注意してください。 <ここがポイント!>麻しんは、麻しんウイルスによって引き起こされる感染症で、「はしか」とも呼ばれています。感染後、10〜12日の潜伏期間を経て、38℃前後の発熱、発疹、咳、鼻汁などの症状が現れます。重症化した場合には、肺炎や脳炎を引き起こすこともあります。流行性耳下腺炎は、ムンプスウイルスによって引き起こされる感染症で、「おたふくかぜ」とも呼ばれています。感染後、2〜3週間の潜伏期間を経て、片側または両側の耳下腺部に炎症や疼痛が生じ、発熱、頭痛、倦怠感などの症状が現れます。通常は1~2週間で軽快しますが、合併症として無菌性髄膜炎、精巣炎、卵巣炎、膵炎、難聴などを引き起こすことがあります。とくに難聴は高度となることが多く、発症すると不可逆的な聴覚障害が残ることがあります。従来はまれな合併症とされていましたが、近年では0.1〜0.25%程度の発症率という報告があります。風しんは、風しんウイルスによって引き起こされる感染症です。感染後、2~3週間の潜伏期間を経て、発熱、発疹、リンパ節の腫れなどの症状が現れます。風しんに対する免疫力が不十分な妊婦が感染すると、出生児に心疾患、白内障、感音性難聴、精神運動発達遅延などの先天性異常が認められることがあります。妊娠中は弱毒生ワクチンを接種できないため、抗体を持たない、あるいは抗体価の低い妊婦は、風しん流行時における感染に十分注意することが重要です。ミムリットは、麻しん/おたふくかぜ/風しん(measles/mumps/rubella:MMR)ワクチンであり、麻しん、おたふくかぜおよび風しんの各原因ウイルスを弱毒化した生ウイルスを含む3種混合ワクチンです。本邦では、1989年から4年間にわたってMMRワクチンが小児の予防接種に使用されていましたが、当時のおたふくかぜワクチンの副反応として発熱、嘔吐、けいれんなどを伴う無菌性髄膜炎が高頻度に発生し、大きな社会問題となりました。そのため、MMRワクチンは使用が中止され、以降は麻しんおよび風しんの予防には単独ワクチンまたはMRワクチンの定期接種が、おたふくかぜの予防には単独ワクチンの任意接種が行われてきました。しかし、その結果、国内のおたふくかぜワクチンの接種率は30〜40%程度にとどまり、数年ごとにおたふくかぜの流行が繰り返されてきました。こうした状況を受け、2013年12月に厚生労働省から一般社団法人日本ワクチン産業協会に対して安全性の高いMMRワクチンの開発要請が出されました(健感発1216第1号)。さらに2018年5月には、予防接種推進専門協議会から「おたふくかぜワクチンの定期接種化に関する要望」が厚生労働省健康局(現健康・生活衛生局)に提出されました。このような背景から、MMRワクチンの開発が進められ、弱毒生麻しんウイルス(AIK-C株)、弱毒生風しんウイルス(高橋株)および弱毒生ムンプスウイルス(RIT4385株)を混合した本剤が承認されました。なお、RIT4385株は、無菌性髄膜炎の発現頻度が低いムンプスウイルス株として、海外では小児の定期接種に用いられるMMRワクチンに広く使用されています。 日本人健康小児を対象とした国内第III相臨床試験(VN0102-A-J301試験)において、主要評価項目である治験薬接種42日後の麻しんウイルスに対する抗体保有率は、本剤群99.8%(95%信頼区間[CI]:98.7~100.0)および対照群100.0%(95%CI:99.1~100.0)で、群間差は−0.2%(95%CI:−1.3~0.7)でした。また、風しんウイルスに対する抗体保有率は、本剤群99.5%(95%CI:98.3~99.9)および対照群99.5%(95%CI:98.3~99.9)で、群間差は0.0%(95%CI:−1.3~1.3)でした。麻しんウイルスおよび風しんウイルスに対する抗体保有率は、群間差の95%CIの下限値(いずれも−1.3%)が非劣性マージンである−10%を上回ったことから、本剤の対照薬に対する非劣性が検証されました。一方、ムンプスウイルス(Genotype D)に対する抗体保有率は、本剤群80.6%(95%CI:76.5~84.4)および対照群88.1%(95%CI:84.6~91.0)で、群間差は−7.5%(95%CI:−12.5~−1.9)でした。群間差の95%CIの下限値(−12.5%)が非劣性マージンである−10%を下回ったことから、本剤の対照薬に対する非劣性は検証されませんでした。しかしながら、本剤のムンプスウイルスに対する抗体保有率は80.6%であり、おたふくかぜの発症予防効果が確認されている海外MMRワクチンの試験成績と比較しても遜色のない結果でした。また、J302試験(低力価および高力価製剤の国内第III相臨床試験)およびJ303試験(ワクチンを1回接種したことが明らかな小児を対象とした国内第III相臨床試験)におけるムンプスウイルスに対する抗体保有率はいずれもおおむね95%以上でした。

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米国、麻疹排除国の地位を失う瀬戸際に

 米国が麻疹(はしか)排除国としての地位喪失に急速に向かっていることが、新たな研究で示された。米国は2000年に麻疹排除の達成を宣言したが、同年に米疾病対策センター(CDC)が設定した麻疹排除状態の維持の7つの指標のうち4項目を満たせていない状況にあるという。この研究は米ボストン小児病院の小児科医で博士研究員のAnne Bischops氏らのグループによるもので、詳細は、「The Lancet」に5月2日掲載された。Bischops氏は、「米国が2026年中に麻疹排除国の地位を失う可能性は極めて高いと考えられる」と結論付けている。 世界保健機関(WHO)によると、重症の麻疹感染は命に関わる肺炎や脳炎を引き起こす可能性がある。また、視力や聴力に長期的な障害が残ることもある。論文の上席著者であるボストン小児病院のMaimuna Majumder氏は、「麻疹は回復したとしても、生涯にわたる問題が残る可能性がある。特に1歳未満の乳児は重篤な合併症のリスクが極めて高い。この流行で感染した子どもが受ける真の影響は何年も経過してから初めて明るみに出るかもしれない」とニュースリリースで述べている。  本研究の背景情報によると、米国で最近相次いでいるアウトブレイクは2025年1月にテキサス州から始まり、その後45州に広がった。研究グループは今回、現在の米国の状況を、CDCの国家予防接種プログラムが定めた、麻疹排除状態が維持されているかを評価する7指標と照らし合わせた。その結果、7項目のうち4項目が既に排除維持の基準を満たしていないことが明らかになった。・麻疹罹患率が低い:患者数は人口1000万人当たり1例未満米国では2026年初頭の時点で人口1,000万人当たり93.2例が報告されている・麻疹症例の大多数を国外から持ち込まれた症例が占めている2025年初頭以降、国外由来の症例は全体の6~7%に過ぎず、大半は国内感染例であった。・アウトブレイクの発生数が少なく(中央値が年間4件以内)規模が小さい(1回のアウトブレイクの症例数が中央値6例)米国では2025年には48件のアウトブレイクが発生し、2,000例超の感染例が報告された。今年もすでに19件のアウトブレイクが発生し、1,600例超の感染例が報告されている。・伝播レベルが低い:1人の感染者が平均して1人未満に感染させる2025年初頭以降の期間の75%以上でこの基準を超えていた。 また、残る3つについても悪化傾向が認められた。・感染源不明症例が4週連続で発生していない2025年1月の最初の感染例以降、米国では4週連続で症例報告がなかった期間は一度もなく、また全体の90%が国内感染例だった。・ワクチン接種による集団免疫集団免疫の達成には95%の人々が2回の麻疹ワクチン接種を受ける必要があるが、2024~2025年度の米国の幼稚園児の平均接種率は92.5%、6~59歳における麻疹抗体保有率(2017~2020年)は95.7%だった。・国内に定着して持続的に感染を広げている麻疹ウイルス株がない大多数の症例でウイルスの遺伝子型が同一であり、多くが同一配列を有していることから、同じ系統のウイルスが国内で伝播している可能性が示唆されている。 この研究結果は、今後開催予定の汎米保健機関(PAHO)の感染症専門家委員会にも影響を及ぼす可能性がある。同委員会は11月の会議で米国の麻疹排除国としての地位の再評価を予定している。なお、研究グループによると、カナダは2025年11月に麻疹排除国の地位を失っている。 「こうした流れを食い止めるには、ワクチン接種の取り組みを強化し、接種免除率を低下させ、現在も広がりつつある地域内感染を断ち切ることが不可欠だ」と研究グループは主張している。

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細菌性髄膜炎・HSV脳炎GL改訂、経験的治療の薬剤選択を見直し/日本神経学会

 2026年3月、『細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014』と『単純ヘルペス脳炎診療ガイドライン2017』を統合した『細菌性髄膜炎・単純ヘルペス脳炎診療ガイドライン2026』(日本神経学会・日本神経感染症学会監修、南江堂)が発刊された1)。今回の改訂では、ワクチン定期接種化による起炎菌の変遷、薬剤耐性菌の動向、FilmArray髄膜炎・脳炎パネルに代表される遺伝子検査の普及などを反映し、初期治療から退院後のフォローアップに至る一連の流れが大幅に刷新されている。 5月20~23日に開催された第67回日本神経学会学術大会の生涯教育セミナーにおいて、本ガイドライン作成委員会委員長を務めた中嶋 秀人氏(日本大学医学部内科学系神経内科学分野 主任教授)が「細菌性髄膜炎・単純ヘルペス脳炎診療ガイドライン2026の改訂のポイント」と題して講演を行った。講演レポートとして、前編では「細菌性髄膜炎」、後編では「単純ヘルペス脳炎」について、2回にわたって紹介する。ガイドライン改訂の主なポイント【細菌性髄膜炎】初期の経験的治療(エンピリックセラピー)のレジメン変更と迅速性 今回の改訂では、経験的治療の薬剤選択が見直された。髄液由来肺炎球菌では第3世代セフェム耐性率・メロペネム(MEPM)耐性率がともに上昇傾向にあり、2023年のJANIS(厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業)データではMEPM耐性率が18.2%に上昇している。一方でバンコマイシン(VCM)は感性を維持している。そのため、第3世代セフェム(セフォタキシム[CTX]/セフトリアキソン[CTRX])またはMEPMのいずれを用いる場合もVCMを併用することが推奨され、年齢・免疫状態に応じた迅速な薬剤選択が求められる。年齢・免疫状態別のレジメン例・免疫正常(16〜49歳):肺炎球菌(60%以上)、髄膜炎菌 第3世代セフェム(CTXまたはCTRX)+VCM MEPM+VCM ・免疫正常(50歳以上):肺炎球菌が最多。リスクの高まるリステリア菌をカバーするためABPCを追加 アンピシリン(ABPC)+第3世代セフェム(CTXまたはCTRX)+VCM MEPM+VCM ・慢性消耗疾患・免疫不全:肺炎球菌・リステリア菌に加え、グラム陰性桿菌(GNR)やMRSAも考慮 ABPC+セフタジジム(CAZ)+VCM MEPM+VCM ・頭部外傷後・外科手術後:ブドウ球菌に加え、緑膿菌を含むGNRを考慮 MEPM+VCM CAZ+VCMTime is Brainの原則 細菌性髄膜炎は「Time is Brain」の病態であり、病院到着から1時間以内の抗菌薬投与開始を目標とする。頭部CTや腰椎穿刺によって投与が遅れる場合は、検査の完了を待たずに抗菌薬を先行投与する。なお、古典的三徴(発熱・項部硬直・意識障害)が揃う例は成人全体でも33%にすぎず、とくに高齢者では発熱が目立たないことや、意識障害が認知症・せん妄と誤認されやすいことから、厳重な警戒を要する。デキサメタゾン併用による炎症反応の抑制 炎症抑制による予後改善のため、すべての成人患者にデキサメタゾンの併用(最初の抗菌薬投与の前または同時開始、4日間)が推奨される。死亡率・神経学的後遺症・聴力障害の減少が期待できる。ただし、起炎菌が肺炎球菌・インフルエンザ菌以外なら中止し、とくにリステリアが起炎菌として判明した場合は死亡率悪化のエビデンスがあるため直ちに中止する。診断技術のアップデート:FilmArray髄膜炎・脳炎パネル 約1時間で主要病原体14種を同定できるマルチプレックスPCR遺伝子検査「FilmArray髄膜炎・脳炎パネル」が2022年10月に保険収載され、診断フローに位置づけられた。従来は培養検査やグラム染色の結果判明まで数日を要していたが、本検査による迅速な病原体同定は、経験的に開始したアシクロビル(ACV)の投与期間短縮など医療資源の適正使用に寄与する。起炎菌・感受性が判明した後は、速やかに狭域スペクトラムの抗菌薬へ変更する(De-escalation)。FilmArray検査のピットフォール 一方で、FilmArray検査には実臨床上の限界(ピットフォール)があり、結果は臨床症状・髄液所見と合わせて総合的に判断する必要がある。細菌性髄膜炎では、本検査で薬剤感受性(耐性菌の有無)が判別できないため、培養検査・グラム染色を省略せず必ず並行して実施しなければならない。また、結核菌はパネルに含まれず、院内感染や基礎疾患を有する例、脳外科術後の髄膜炎例には不向きである点にも注意を要する。抗補体薬を使用する患者への対応 重症筋無力症や視神経脊髄炎スペクトラム障害など神経疾患への抗補体薬(C5阻害薬:エクリズマブ、ラブリズマブ、ジルコプランなど)の適応拡大を反映し、抗補体薬使用患者への対応が新設された。抗補体薬使用患者では侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)のリスクが1,000〜2,000倍に上昇し、劇症型を呈しうる。本邦のIMD致命率は10〜12%と高く、発症から24〜48時間で致命的合併症を来しうるため、予防と早期対応がきわめて重要である。投与開始の2週間前までに4価髄膜炎菌ワクチン(販売名:メンクアッドフィ)を接種する(B群髄膜炎菌は本ワクチンの対象外で、B群ワクチンは国内未承認)。発熱時には髄膜炎症状がなくてもIMDを念頭に血液培養2セットを採取し、結果を待たずに第3世代セフェム(CTRXなど)を直ちに開始する。(後編「単純ヘルペス脳炎」に続く)

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インフルワクチンによるアルツハイマー病リスク低下、高用量ワクチンでより有効

 高用量のインフルエンザワクチンは、高齢者におけるアルツハイマー病のリスクを低下させる可能性があるとする研究結果が報告された。高用量ワクチンを接種した高齢者は、標準用量ワクチン接種者と比べ、アルツハイマー病リスクが有意に低かったという。米国でのアルツハイマー病の患者数は2025年時点で700万人以上に上り、2050年までにこの2倍以上に増加すると予測されている。米テキサス大学ヒューストン健康科学センターの神経学教授であるPaul Schulz氏らによるこの研究結果は、「Neurology」に4月1日掲載された。 この高用量ワクチンは、標準用量の約4倍のインフルエンザウイルス抗原を含んでいる。これまでの研究でも、インフルエンザワクチンの接種は未接種と比べてアルツハイマー病リスクを約40%低下させることが示されていたが、本研究では、高用量ワクチン接種者では、標準用量接種者と比べてアルツハイマー病リスクが有意に低いことが示された。ただし、この高用量ワクチンの存在は、医療従事者を含め、まだ広く知られていないとSchulz氏は指摘している。同氏は、「医師である自分ですら、高用量ワクチンの存在を知らなかったことに驚いた」とニュースリリースで述べている。 今回の研究では、高用量不活化インフルエンザワクチンを接種した12万775人の高齢者(平均年齢74.4歳、女性57.3%)と、標準用量不活化インフルエンザワクチンを接種した高齢者4万4,022人(平均年齢73.0歳、女性56.4%)を対象に、アルツハイマー病リスクを比較した。解析は、初回の接種群に基づいてその後の接種状況にかかわらず追跡するITT解析と、追跡中に他のインフルエンザワクチンを接種した場合に打ち切るPP解析の両方で行われた。 その結果、高用量ワクチン接種群では標準用量接種群と比べて、PP解析では接種後1~25カ月、ITT解析では接種後1~28カ月においてアルツハイマー病リスクが有意に低いことが示された。25カ月時点では、PP解析では185人、ITT解析では270人に高用量ワクチンを接種するとアルツハイマー病の発症が1人減ると推定された。また、このリスク低下は女性でより長期間にわたり認められ、PP解析では1~13カ月、ITT解析では1~17カ月にわたり有意差が認められた。一方、男性では、ITT解析で17~24カ月においてのみ有意差が認められ、PP解析ではいずれの期間でも有意差は認められなかった。 Schulz氏は、「本研究で、高用量ワクチンを接種した65歳以上の人を探し始め、最終的には数千人規模のデータを集めて、高用量と標準用量の接種効果を比較することができた。当然のことながらアルツハイマー病は加齢とともにリスクが高まるため、高齢者は検証に適しており、両者の違いを評価できた」と述べている。 ただし、この研究では、なぜインフルエンザワクチンがアルツハイマー病のリスク低下に寄与するのかは解明されておらず、因果関係を直接示すものではない。研究グループは、ワクチンがなぜアルツハイマー病の予防に効果があるのか、またなぜ高用量の方がより有効なのかを明らかにするために、さらなる研究が必要だとしている。

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