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コロナ関連の小児急性脳症、他のウイルス関連脳症よりも重篤に/東京女子医大

 インフルエンザなどウイルス感染症に伴う小児の急性脳症は、欧米と比べて日本で多いことが知られている。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症においても、小児に重篤な急性脳症を引き起こすことがわかってきた。東京女子医科大学附属八千代医療センターの高梨 潤一氏、東京都医学総合研究所の葛西 真梨子氏らの研究チームは、BA.1/BA.2系統流行期およびBA.5系統流行期において、新型コロナ関連脳症とそれ以外のウイルス関連脳症の臨床的違いを明らかにするために全国調査を行った。その結果、新型コロナ関連脳症は、他のウイルス関連脳症よりもきわめて重篤な脳症の頻度が高く、27%の患者が重篤な神経学的後遺症または死亡という転帰であったことが判明した。Journal of the Neurological Sciences誌2025年2月15日号に掲載。 本研究では、日本小児神経学会会員を対象としたWebアンケートを用い、2022年1~5月のBA.1/BA.2系統流行期と2022年6~11月のBA.5系統流行期において、新型コロナ関連脳症を発症した18歳未満の103例の患者を対象に臨床症状について調査した。 主な結果は以下のとおり。・全103例のうち、BA.1/BA.2系統流行期の患者は32例(0~14歳、中央値5歳)、BA.5系統流行期の患者は68例(0~15歳、中央値3歳)だった。103例中95例(92.2%)が新型コロナウイルスワクチンを接種していなかった。・オミクロン株BA.1/BA.2系統流行期とBA.5系統流行期で新型コロナ関連脳症の臨床症状に有意差は認められないものの、BA.5系統流行期は新型コロナ関連脳症の発症時にけいれん発作を起こす患者が多く、68例中50例において、発症時にけいれん発作が認められた。・急性脳症症候群のタイプとして、けいれん重積型(二相性)急性脳症(AESD)が最も多く、103例中27例(26.2%)を占めた。・103例中6例が劇症脳浮腫型脳症(AFCE)、8例が出血性ショック脳症症候群(HSES)という最重度の急性脳症症候群であり、他のウイルス関連脳症と比べて高頻度だった。AFCEおよびHSESの患者はすべて新型コロナワクチンを接種していなかった。・新型コロナ関連脳症の転帰は、完全回復が45例、軽度から中等度の神経学的後遺症は28例、重度の神経学的後遺症は17例、死亡は11例であった。新型コロナ関連脳症は他のウイルス関連脳症と比べて予後不良の転帰となる患者が多かった。 著者らは本結果について、「AFCEやHSESは脳浮腫が急速に進行し致死率が高い疾患である一方、発症がきわめてまれであるため診断法や治療法が十分に解明されていない。今後は、新型コロナ関連脳症の中でもこれら2つに注目し、詳細な臨床経過を把握し、迅速診断のためのバイオマーカーや有効な治療開発に向けてエビデンスを構築していきたい。小児に対する新型コロナワクチンの接種が急性脳症の予防につながるかどうかも確かめる必要がある」としている。

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大規模研究が示した、SNSの使いすぎによるリスク【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第276回

大規模研究が示した、SNSの使いすぎによるリスク現代社会において、SNSは私たちの日常生活に深く染みついたコミュニケーションツールです。これまで、SNSのメンタルヘルスへの影響については、主にうつ病や不安との関連で議論されてきました。しかし、最新の研究により、「イライラ」との関連性が明らかになってきています。米国の研究チームが2023年11月~2024年1月にかけて実施した4万2,597人を対象とする大規模調査です。この調査で、SNSの利用頻度が高いほど、「イライラ」の度合いが強くなる傾向が確認されました。特筆すべきは、この関連性が年齢や性別、教育レベル、収入などの要因を考慮しても有意性が残存していたことです。 Perlis RH, et al.Irritability and Social Media Use in US Adults.JAMA Netw Open. 2025 Jan 2;8(1):e2452807.調査によると、対象者の約78%が少なくとも1つのソーシャルメディアプラットフォームを毎日利用しており、そのうち約14%が1日1回、39%が1日数回、25%が1日中利用していると回答しています。いや、多すぎやろ。利用頻度が高くなるほど、イライラの度合いを測るBrief Irritability Testのスコアも上昇する傾向が見られました。とくに興味深かったのは、単なるSNSの閲覧ではなく、投稿などの積極的な関与をする人ほど、イライラの度合いが強くなる傾向が確認されたことです。投稿頻度が高い医療従事者は注意しないといけませんね。プラットフォーム別では、TikTokとFacebookの利用者で最も顕著な関連性が見られ、TwitterやInstagramではやや控えめな傾向が確認されました。しかし、ユーザーが減っているSNSもあるので、「このSNSが危ない」とまでは断言できないでしょう。どのSNSもそれなりにリスクがあると理解すべきです。政治的な話題への関与度との関連も調査され、政治的な議論に頻繁に参加する人ほどイライラの度合いが強く、1日数回政治的な議論をする人では、そうでない人と比べてイライラスコアが1.20ポイント高くなっていました。確かに、政治・宗教・ワクチン、このあたりの話題で火力が強いポストをしているインフルエンサーは、結構イライラしている印象ですね…。みなさんも明日はわが身、気を付けましょう。

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抱腹絶倒!? “クセ強め”なお見合い相手たち〜第1弾【アラサー女医の婚活カルテ】第8回

アラサー内科医のこん野かつ美です☆前回は、結婚相談所(以下、相談所)でのお見合いに望む際、筆者なりに心掛けていたことについて書きました。今回は、筆者がお見合いで遭遇した、“クセ強め”な男性の皆さんを振り返ってみます。肩の力を抜いて、読み物としてお楽しみいただけると幸いです。(※個人の特定を防ぐため、大筋に影響しない程度の脚色を加えています)“瓶底メガネ”の丸尾さん1人目は、丸尾さん(仮名)です。32歳、会社員。収入、学歴、居住地などが私の希望条件と合っていたことから、お見合いの申し込みをお受けしました。写真を見ると、取り立てて特徴のない、善良そうなお顔立ちでした。プロフィールの中で、とくに私の目を引いたのは丸尾さんの学歴でした。某有名中高一貫校から一流の大学へ進んでおり、私が医師であることに対して、変に身構えることはなさそうな気がしました。話が合うといいな、と期待が膨らみました。しかし……「こん野さんですか?」当日、私より遅く待ち合わせ場所に現れたご本人を目にして、衝撃を受けました。分厚いレンズのメガネを掛け、さらにその上から、花粉症対策なのかゴーグルまで掛けていて、お顔を見通すのが難しいほどだったのです(そういう訳で、瓶底メガネがトレードマークの『ちびまる子ちゃん』のキャラクターにちなんで、丸尾さんと命名しました)。しかも、髪は伸ばしっぱなしのクセ毛で、使い込まれたジャンパーに、毛玉の目立つセーターという服装でした。清潔感という言葉とは対極です。(見た目はちょっとアレだけど、中身はいい人かもしれないし……)早々に回れ右して帰りたくなった気持ちにフタをして、お見合いのためのカフェに入りました。席に着くなり話し始めた丸尾さん。その内容がまたぶっ飛んでいたのです。「3年間同棲していた彼女と先月別れたばかりなんです。別れた理由は……」初対面でいきなり、元交際相手との生々しいエピソードを延々と聞かされた私は、いったいどういう顔をしていれば良かったのでしょうか…。「お見合いは1時間を目安に」というルールがあったので耐えましたが、人生で最も長く感じた1時間だったかもしれません。丸尾さんは、終始メガネもゴーグルも着けたままだったので、素顔はついぞ拝めずじまいでした。ちなみに、相談所のお見合いでは“お茶代は男性負担”というやや前時代的なルールがあるのですが、丸尾さんとのお見合いは10円単位の割り勘でした(「6円、負けときますね!」と言われました)。お別れしてすぐに、相談所にお断りの連絡を入れたのは言うまでもありません。いろいろな意味で“ハジケ過ぎ”なコーさん2人目はコーさん(仮名)です。35歳、年収1,000万超(私の住む地方ではかなり高いほうです)、肩書は「会社経営者」となっていました。プロフィール写真は、ビジネススーツに黒髪をビシッとセットした、硬派な雰囲気でした。しかし、お見合い当日、待ち合わせ場所にコーさんらしき人はなかなか姿を見せません。私のほかにその場にいたのは、DJ KOOさんのような金髪の男性ただ1人。腹回りが少々ぽっちゃり気味なため、茶色いジャケットのボタンが弾け飛ばんばかりになっています。あれ?まさか……「こん野さんですか?」写真とかなり印象の違うその方こそが、コーさんご本人だったのです(DJ KOOの「KOO」からとって、「コー」さんです)!私の職業について、「いやぁ、お姉さん、この地方の女性会員の中で、年収ぶっちぎりトップだったからさぁ。聞く前から、絶対医者だろって思っていたよ」と、なんともまあフランクな感想を頂きました。お見合い相手から「お姉さん」呼ばわりされたのは初めてでした(笑)。「お姉さん、いいね! お姉さんみたいな人と結婚したら、人生もっと楽しめそう!」ご縁はありませんでしたが、刺激的な1時間で、これも人生経験と思えば、なかなか面白かったです。番外編:個性的過ぎるプロフィールの2人番外編として、お見合いはしなかったものの印象に残ったお相手を2人ご紹介して、締めくくりたいと思います。番外編その1は、某県在住の開業医の先生です。おそらく私のプロフィールから、同業者であることを察して申し込んでくださったのだろうと思うのですが……なんと御年60代。実に2倍以上の年齢差があったので、丁重にお断りさせていただきました。近隣の県にお住まいだったので、もしかしたら今後いつか、患者さんを紹介したりされたりすることがあるかもしれません。番外編その2は、30代のイケメンサラリーマン。年収や学歴など申し分のないプロフィールをお持ちでしたが、自己PRの最後の1文が強烈でした。「ワクチンを一度も打っていない、清らかな女性と巡り合いたいです」これを読んで、プロフィールページをそっと閉じたのは言うまでもありません。世の中には、多種多様な価値観をお持ちの方がいらっしゃるものですね。お見合いに真の“ハズレ”なし以上、相談所での活動で出会った、パンチの効いた男性の皆さんをご紹介しました。ただ、こんなふうに一見“ハズレ”にみえるお見合いも、実は決して無駄ではない……と、思うようにしていました。(私は、こういう男性とは合わないんだな)ということが浮き彫りになるので、自分が求める結婚相手像を改めて確認することができたからです。つくづく、面白い経験をさせてもらったなぁと思います。なお、ここに挙げた“クセ強め”男性陣はほんの一握りで、大多数は礼儀正しい方々だったことを付け加えておきます。次回も引き続き、印象深かったお見合い相手を振り返りたいと思います。お楽しみに。

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米国ではCOVID-19が依然として健康上の大きな脅威

 新型コロナウイルスは依然として米国人の健康に対する脅威であり、インフルエンザウイルスやRSウイルスよりも多くの感染と死亡を引き起こしていることが、新たな研究で示唆された。米国退役軍人省(VA)ポートランド医療システムのKristina Bajema氏らが「JAMA Internal Medicine」に1月27日報告したこの研究によると、2023/2024年の風邪・インフルエンザシーズン中に米国退役軍人保健局(VHA)で治療を受けた呼吸器感染症患者の5人中3人(60.3%)が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患していたという。 この研究でBajema氏らは、呼吸器感染症の2022/2023年シーズンと2023/2024年シーズンのVHAの医療記録を後ろ向きに解析し、COVID-19、インフルエンザ、RSウイルス感染症の重症度を比較した。対象は、2022年8月1日から2023年3月31日、または2023年8月1日から2024年3月31日の間に、COVID-19、インフルエンザ、RSウイルス感染症の検査を同日に受け、いずれかの診断を受けたが入院はしなかった退役軍人とした。 その結果、2022/2023年コホート(6万8,581人)の66.2%、2023/2024年コホート(7万2,939人)の60.3%がCOVID-19の診断を受けていたことが明らかになった。一方、インフルエンザとRSウイルス感染症の診断を受けた割合は、2022/2023年コホートでそれぞれ24.7%と9.1%、2023/2024年コホートで26.4%と13.4%であった。2023/2024年シーズンにおける診断から30日間での入院リスクは、COVID-19で16.2%、インフルエンザで16.3%と同程度であった(RSウイルス感染症では14.3%)。 2022/2023年シーズンにおける診断から30日間の死亡率は、COVID-19で1.0%、インフルエンザで0.7%、RSウイルス感染症で0.7%であり、COVID-19の死亡率はインフルエンザやRSウイルス感染症をわずかに上回った。しかし、2023/2024年シーズンでの同死亡率は、それぞれ0.9%、0.7%、0.7%であり、COVID-19の死亡率はインフルエンザやRSウイルス感染症と類似していた。 一方、180日間の累積死亡率は、両シーズンともCOVID-19で最も高く、2022/2023年シーズンでは3.1%、2023/2024年シーズンでは2.9%に達した。2022/2023年シーズンでは、COVID-19とインフルエンザの180日間の死亡リスク差(RD)は1.1%(95%信頼区間0.6〜1.5)、COVID-19とRSウイルス感染症のRDも1.1%(同0.6〜1.4)、2023/2024年シーズンでは、それぞれ0.8%(同0.3〜1.2)、0.6%(同0.1〜1.1)と推定された。これに対し、インフルエンザとRSウイルス感染症の180日間の死亡リスクに有意な差は見られなかった。 このほか、両シーズンとも、COVID-19ワクチンの未接種者は、インフルエンザワクチンの未接種者よりも死亡リスクが高い傾向にあったことも示された。一方、ワクチン接種者の間では、COVID-19とインフルエンザの死亡リスクに有意な差は認められなかった。 Bajema氏は、「新型コロナウイルスはインフルエンザウイルスやRSウイルスよりもはるかに多くの感染者を出し、短期入院リスクや死亡リスクの上昇など、より重篤な転帰をもたらした」と話す。研究グループは、「ワクチン接種は今も、ウイルス性の呼吸器疾患、特に新型コロナウイルスのオミクロン株の影響を最小限に抑えるための重要な戦略である」と結論付けている。

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脳の健康維持のために患者と医師が問うべき12の質問とは?

 米国神経学会(AAN)の「脳の健康イニシアチブ(Brain Health Initiative)は、人生のあらゆる段階において脳の健康に影響を与える12の要因についてまとめた論文を、「Neurology」に2024年12月16日発表した。論文には、神経科医が患者の脳の健康を向上させるために活用できる、スクリーニング評価や予防的介入の実践的アプローチに関する内容も含まれている。 脳の健康に関わる12の要因、およびそれを評価するための質問は、以下の通りである。これらについて自分自身に問うとともに、医師とも話し合うとよいだろう。1. 睡眠:「睡眠により十分に体を休めることができていますか?」 日中の眠気、シフトワークの影響、夜間の痛み、不眠症、昼寝の習慣などについて医師と話し合おう。2. 感情、気分、メンタルヘルス:「自分の感情、気分、ストレスについて心配がありますか?」 医師は患者の抑うつや不安を評価するべきだが、患者が自分から相談できるよう準備しておくことも大切だ。3. 食品、食事、サプリメント:「十分な量の食品や健康的な食事の確保に心配がありますか?サプリメントやビタミンの摂取について聞きたいことはありますか?」4. 運動:「生活の中に運動を取り入れられていますか?」 身体活動に加え、動き、バランス、自立性を維持する方法について医師と相談しよう。5. 支えとなる社会的つながり:「親しい友人や家族と定期的に連絡を取り合っていますか?周りの人から十分なサポートを受けていますか?」6. 事故や外傷の回避:「運転時にシートベルトやヘルメットを着用していますか?子どもがいる人はチャイルドシートを使用していますか?」 職業上のリスクがある人は、それについて話し合うことも重要だ。7. 血圧:「自宅で高血圧に気付いたり、病院で高血圧を指摘されたりしたことはありますか?血圧の治療や家庭用血圧計について疑問がありますか?」 高血圧の二次的原因や薬と血圧の関係について医師に相談しよう。8. 遺伝的リスクと代謝的リスク:「血糖値やコレステロール値のコントロールに問題がありますか?神経疾患の家族歴がありますか?」 遺伝的リスクを調べて認識し、必要に応じて脂質や糖尿病の管理、健康的な体重の維持について質問すること。9. 医療のアフォーダビリティ(支払いのしやすさ)とアドヒアランス:「薬代が大きな負担になっていませんか?」 保険の支払いに関わり得る年齢の変化については医師が確認を取るはずだが、保険内容に変更がある場合は必ず医師に伝えること。10. 感染症:「ワクチンは最新のものを接種していますか?また、それらのワクチンについて十分な情報を持っていますか?」11. 悪影響のある曝露:「喫煙、1日に1~2杯以上の飲酒、市販薬の使用、井戸水の摂取、空気や水の汚染が知られている地域に居住、これらの中に該当するものはありますか?」 毎回の診察は、喫煙、飲酒、市販薬の使用に関する問題を評価する機会となる。12. 健康の社会的決定要因:「住居、交通手段、医療や医療保険へのアクセス、身体的または精神的な安全性について心配がありますか?」 この論文の筆頭著者である米ミシガン大学アナーバー校のLinda Selwa氏は、「科学的研究への資金提供や医療へのアクセス改善などに向けた神経科医の継続的な取り組みは、国家レベルで脳の健康を改善する。われわれの論文は、脳の健康を個人レベルで改善する方法が数多くあることを示している。新年に脳の健康改善を決意することは、素晴らしい第一歩だ」とAANのニュースリリースで述べている。

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妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチン 前編【今、知っておきたいワクチンの話】総論 第7回

本稿では「妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチン」について取り上げる。これらのワクチンは、女性だけが関与するものではなく、その家族を含め、「彼女たちの周りにいる、すべての人たち」にとって重要なワクチンである。なぜなら、妊婦は生ワクチンを接種することができない。そのため、生ワクチンで予防ができる感染症に対する免疫がない場合は、その周りの人たちが免疫を持つことで、妊婦を守る必要があるからである。そして、「胎児」もまた、母体とその周りの人によって守られる存在である。つまり、妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチンは、胎児を守るワクチンでもある。VPDs(Vaccine Preventable Diseases:ワクチンで予防ができる病気)は、禁忌がない限り、すべての人にとって接種が望ましいが、今回はとくに妊娠可能年齢の女性と母体を守るという視点で、VPDおよびワクチンについて述べる。ワクチンで予防できる疾患(疾患について・疫学)妊娠可能年齢・妊婦にとってワクチン接種が重要な理由は下記3つである。(1)妊婦がVPDに感染すると、重症化しやすい感染症がある。また、胎児に感染すると胎児に健康問題が生じ、最悪の場合、流産/早産を含め、胎児の生命に関わることがある。(2)一方で、あらかじめワクチンで予防できていれば、高確率でVPDによる上記の事態を免れる。(3)しかし、妊婦は生ワクチンを接種できないため、「妊娠前」に(計画的な)接種が必要である。上記の理由以外に、妊婦が免疫をつけておくと新生児のVPD感染や、それによる重症化を予防することにもつながるVPDもある。つまり、女性1人のワクチン接種の有無が、その女性(妊婦)以外に、胎児、産後の新生児の健康問題にまで関りうるという点において、本稿の重要性は高い。妊娠前に免疫をつけておくべきVPDを表に示す。表 感染症に罹患した場合の胎児および母体への影響画像を拡大する上記以外のあらゆる感染症でも、流早産のリスクが伴うどのワクチンも世界的に安全性と有効性が確かめられているワクチンの概要(効果・副反応・生または任意・接種方法)妊婦に生ワクチンの接種は禁忌である。そのため妊娠可能年齢の女性には、事前に計画的なワクチン接種が必要となる。しかし、妊娠は予期せず突然やってくることもある。そのため、日常診療やライフステージの変わり目などの機会を利用して、予防接種が必要なVPDについての確認が重要となる。一方、不活化ワクチンは妊娠中でも接種が可能である(詳細は後編で詳述する)。以下に生ワクチン(麻疹、風疹、水痘、ムンプス)について説明する。1)麻疹、風疹、水痘、ムンプス(生ワクチン)これら4つの生ワクチンはしばしばMMRV(Measles Mumps Rubella Varicella)と略して表現されることが多い、重要性の高いVPDである。MMRVそれぞれのワクチンについての共通点としては、1歳以上でそれぞれ計2回の接種を受けていることが必要であることが挙げられる。また、感染症としても基本再生産数(R0)*1が高く、麻疹・水痘は空気感染するなど、その感染性の高さも共通項といえる(R0:麻疹12-18、風疹6-7、水痘8-10、ムンプス4-7)。いずれも子供の感染症であるという印象を持つ医師も少なくないかもしれないが、現代においては、小児は定期接種で予防されている割合が格段に増えた。そして、幼少期に定期接種になっていなかったがために、ワクチンを接種する機会がなく、かつ、感染機会もないまま、キャッチアップの機会に恵まれなかった、「置いてけぼりの成人」が主に罹患する感染症であると心得たい。*1基本再生産数(R0:アールノート)集団にいるすべての人間が感染症に罹る可能性をもった(感受性を有した)状態で、1人の感染者が何人に感染させうるか、感染力の強さを表す。つまり、数が大きいほど感染力が強い。それぞれの疾患やワクチンの詳細については、本コンテンツのバックナンバーを参照していただきたい。MRワクチン(麻疹・風疹)水痘、帯状疱疹ワクチン流行性耳下腺炎(ムンプス)妊婦に関連する内容を下記に述べる。(1)麻疹麻疹は先進国でも死亡率0.1%の重症感染症である。また、命をとり止めたとしても、呼吸器(肺炎、中耳炎など)や消化器(下痢、口内炎)の合併症が多い。頻度は少ないが神経系合併症は予後不良で、感染してから数週間、数年、数十年後に発症するものもある。胎児が麻疹に感染しても奇形などを来すことはないが、妊婦が感染することで、妊婦の重症化やそれに伴う流・早産のリスクが伴う。わが国での麻疹発生数は、コロナ禍はその感染対策の影響で年間10例以下であったが、いわゆる「コロナ明け」に伴いその数は徐々に増加傾向にある。世界全体では継続的に毎年12~15万人の死者が出ている。麻疹感染の発端はそのほとんどが輸入麻疹(海外から持ち込まれた麻疹のこと:日本人が渡航先で感染して帰国するパターンや、麻疹に感染した海外の人がわが国で発症するパターンなどが代表例)である。インバウンド(海外からの旅行客)が確実に回復し、増加傾向である以上、再度感染者数が増えるのは想像に難くない(図)。図 麻疹累積報告数の推移 2017~2024年(第1~47週)画像を拡大する感染症発生動向 2024年第47週(2024/11/27) 国立感染症研究所より引用麻疹の年代別感染者の割合は、例年20~30代が約半数以上を占めており、女性では妊孕性の高い年代といえる。2000(平成12)年4月2日以降に生まれた人(2024年4月1日時点で23歳以下)は、予防接種制度で2回のワクチン接種を推奨されていた年代であるが、それ以外(24歳以上)は、接種回数が不足している可能性がある*2。妊娠可能年齢の女性には、日常診療での積極的なワクチン接種歴の確認が望ましい。*2 2008(平成20)年4月1日から行われた特例措置(5年間)では、1990(平成2)年4月2日~2000(平成12)年4月1日生まれの人に対して、MRワクチン2回目接種が行われた。そのため、この24~33歳(2024年4月1日時点)で特例措置を受けている人は2回接種していることになる。(2)風疹妊婦が妊娠初期に風疹に感染すると、高い確率で胎児にも感染し、先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome:CRS)の赤ちゃんが生まれる可能性がある。CRSの3大症状は、難聴、心疾患、白内障だが、その他、精神や身体の発達の遅れなどもある。感染時期が、妊娠初期であればあるほど胎児に異常が認められる確率は高くなるが、妊娠20週以降では異常がないことが多いと報告されている1)。また、成人でも15%程度不顕性感染があるため、母親が無症状であってもCRSは発生し得ることにも留意したい。2012~13年の風疹大流行時には45例のCRSの赤ちゃんが生まれた。その後のフォローアップ調査でCRS児の致命率は24%、CRSを出生した母親の中で風疹含有ワクチンを2回接種した人は0人であった2)。CRSを出生した母親の多くは、単に「風疹ワクチンの必要性や重要性について知らなかった」「誰かが教えてくれていたら…」という、自身の無知に対する後悔の念を述べている3)。妊娠可能年齢の女性やそのパートナーへの事前の情報提供がいかに重要か、また、他人事ではなく、自分事として考えることの難しさについて考えさせられる体験談をぜひご一読頂きたい。なお、風疹流行時の首座は、幼少期に予防接種の機会がなかった40~50代の成人男性である。その年代に対して2019年4月から実施された風疹第5期定期接種は2024年度末まで延期されたが、2024年11月時点で抗体検査を受けた人は500万人弱(対象男性人口の32.4%)、ワクチン接種を受けた人は107万人強(対象男性人口の7.0%)*3と、目標には程遠い結果である。残りの期間(抗体検査は2月末、定期接種は3月末まで)でどこまで接種率が伸びるか、これにはわれわれ医療従事者の啓発力が試されるかもしれない。*3 風疹に関する疫学情報 2025年1月29日現在(3)水痘水痘は2014年10月に1~2歳児での2回の接種が定期接種化され、患者数は大幅に減少した。しかし、そんな中でも国立感染症研究所(感染研)のレポートでブレイクスルー水痘による集団感染事例が報告されるなど、気が抜けない感染症である。水痘は小児に比し、成人で重症化しやすく、中でも妊婦は重症化しやすいハイリスク者である。風疹は妊娠初期の感染でCRSとなるリスクが高いと述べたが、水痘は妊娠中だけでなく、周産期の母児に対しても大きな影響を及ぼす。たとえば、水痘に対する免疫がない妊婦が妊娠中に初感染すると、10~20%で水痘肺炎を発症し、時に致死的となる。その他、妊娠中期の感染で胎児が先天性水痘症候群(Congenital Varicella Syndrome:CVS)を発症するリスク(2%程度の頻度で出生)があり、周産期(分娩5日前~2日後)では重篤な新生児水痘を生じ得る。妊娠前のブライダルチェックなどで、麻疹・風疹についてはよく議論に上がりやすいが、水痘はなぜか忘れられがちである。妊娠前に接種記録を確認し、1歳以降で2回の接種歴が確認できない場合は不足分の接種を推奨したい。次回、後編では、不活化ワクチンなどの概要、接種のスケジュール、接種時のポイントなどを説明する。参考文献・参考サイト1)病原微生物検出情報 (IASR) 先天性風疹症候群に関するQ&A(2013年9月)2)2012~2014年に出生した先天性風疹症候群45例のフォローアップ調査結果報告. 国立感染症研究所.3)体験談「妊娠中に風疹になって~予防の大切さを伝えたい!~」(風疹をなくそうの会 「hand in hand」)講師紹介

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2月14日 予防接種記念日【今日は何の日?】

【2月14日 予防接種記念日】〔由来〕1790(寛政2)年の今日、秋月藩(福岡県朝倉市)の藩医・緒方春朔が、初めて天然痘の人痘種痘を行い成功させたことから、「予防接種は秋月藩から始まった」キャンペーン推進協議会が制定した。関連コンテンツわが国初の経鼻弱毒生インフルワクチン「フルミスト点鼻液」【最新!DI情報】インフルワクチン、小児の救急外来・入院を50%減少/CDC高齢者への2価RSVワクチン、入院/救急外来受診リスクを低減インフルワクチン接種と急性腎障害の関連~高齢者での検討ワクチン接種、50年間で約1億5,400万人の死亡を回避/Lancet

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適切な感染症管理が認知症のリスクを下げる

 認知症は本人だけでなく介護者にも深刻な苦痛をもたらす疾患であり、世界での認知症による経済的損失は推定1兆ドル(1ドル155円換算で約155兆円)を超えるという。しかし、現在のところ、認知症に対する治療は対症療法のみであり、根本療法の開発が待たれる。そんな中、英ケンブリッジ大学医学部精神科のBenjamin Underwood氏らの最新の研究で、感染症の予防や治療が認知症を予防する重要な手段となり得ることが示唆された。 Underwood氏によると、「過去の認知症患者に関する報告を解析した結果、ワクチン、抗菌薬、抗ウイルス薬、抗炎症薬の使用は、いずれも認知症リスクの低下と関連していることが判明した」という。この研究結果は、同氏を筆頭著者として、「Alzheimer's & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions」に1月21日掲載された。 認知症の治療薬開発には各製薬企業が注力しているものの、根本的な治療につながる薬剤は誕生していない。このような背景から、認知症以外の疾患に使用されている既存の薬剤を、認知症治療薬に転用する研究が注目を集めている。この方法の場合、薬剤投与時の安全性がすでに確認されているので、臨床試験のプロセスが大幅に短縮される可能性がある。 Underwood氏らは、1億3000万人以上の個人、100万症例以上の症例を含む14の研究を対象としたシステマティックレビューを行い、他の疾患で使用される薬剤の認知症治療薬への転用可能性について検討を行った。 文献検索には、MEDLINE、Embase、PsycINFOのデータベースを用いた。包括条件は、成人における処方薬の使用と標準化された基準に基づいて診断された全原因認知症、およびそのサブタイプの発症との関連を検討した文献とした。また、認知症の発症に関連する薬剤(降圧薬、抗精神病薬、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬など)と認知症リスクとの関連を調べている文献は除外した。 検索の結果、4,194件の文献がヒットし、2人の査読者の独立したスクリーニングにより、最終的に14件の文献が抽出された。対象の文献で薬剤と認知症リスクとの関連を調べた結果、ワクチン、抗菌薬、抗ウイルス薬、抗炎症薬が認知症リスクの低減に関連していることが明らかになった。一方、糖尿病治療薬、ビタミン剤・サプリメント、抗精神病薬は認知症リスクの増加と関連していた。また、降圧薬と抗うつ薬については、結果に一貫性がなく、発症リスクとの関連について明確に結論付けられなかった。 Underwood氏は、「認知症の原因として、ウイルスや細菌による感染症が原因であるという仮説が提唱されており、それは今回得られたデータからも裏付けられている。これらの膨大なデータセットを統合することで、どの薬剤を最初に試すべきかを判断するための重要な証拠が得られる。これにより、認知症の新しい治療法を見つけ出し、患者への提供プロセスを加速できることを期待する」と述べた。 また、ケンブリッジ大学と共同で研究を主導した英エクセター大学のIlianna Lourida氏は、ケンブリッジ大学のプレスリリースの中で、「特定の薬剤が認知症リスクの変化と関連しているからといって、それが必ずしも認知症を引き起こす、あるいは実際に認知症に効くということを意味するわけではない。全ての薬にはベネフィットとリスクがあることを念頭に置くことが重要である」と付け加えている。

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第229回 高額療養費制度の自己負担の引き上げ案、政府が修正を検討/政府

<先週の動き>1.高額療養費制度の自己負担の引き上げ案、政府が修正を検討/政府2.医療存続のためJA県厚生連に19億円支援、経営改革が課題/新潟県3.東京女子医大元理事長を再逮捕 不正支出1.7億円、還流の疑い/警視庁4.若手医師の過労死、甲南医療センターの院長ら不起訴処分に/神戸地検5.維新の会、医療費4兆円削減と社保料6万円減を提案/国会6.28億円の診療報酬不正請求発覚、訪問看護で虚偽記録横行/サンウェルズ1.高額療養費制度の自己負担の引き上げ案、政府が修正を検討/政府政府は、高額な医療費の自己負担を軽減する「高額療養費制度」の見直し案について、修正を検討している。政府案では、2025年8月から3段階に分けて自己負担の上限額を引き上げる方針だったが、長期治療を必要とするがん患者などから「受診抑制につながる」との懸念が相次ぎ、負担軽減に向け、見直し案の修正が求められていた。高額療養費制度は、医療費が一定額を超えた場合に、患者の自己負担額に上限を設ける仕組み。政府の見直し案では、70歳未満の年収約370~770万円の層で、1ヵ月の自己負担限度額が現行の8万100円から最終的に13万8,600円に引き上げられる予定だった。さらに、12ヵ月以内に3回以上限度額を超えた場合、4回目以降は負担を軽減する「多数回該当」制度についても、上限額が4万4,400円から7万6,800円に引き上げられることになっていた。この見直し案に対し、全国がん患者団体連合会などの患者団体が強く反発し、12ヵ月以内に6回以上限度額を超えた場合、7回目以降の負担を現行水準に据え置く案を提案。政府はこれを参考に、長期治療を受ける患者の負担増を抑える方向で修正を検討している。また、患者団体からの意見聴取が行われなかったことも問題視され、国会では見直し案の凍結や再検討を求める声が上がった。これを受け、石破 茂首相は「患者の理解を得ることが必要」とし、福岡 資麿厚生労働大臣が患者団体との意見交換を行う方針を示した。野党側も見直し案に強く反対し、立憲民主党は高額療養費の負担引き上げを凍結する修正案を国会に提出予定。新型コロナウイルスワクチンの基金や予備費を財源に充当できると主張している。一方、政府は「制度の持続可能性を確保するために負担増は必要」との立場を維持しており、今後の調整が注目される。全国保険医団体連合会の調査では、がん患者の約半数が自己負担増による「治療の中断」を検討し、6割以上が「治療回数の削減を余儀なくされる」と回答。生活面では、8割以上が「食費や生活費を削る」とし、子供の教育への影響も懸念されている。政府は今後、長期治療を受ける患者の負担軽減を含めた修正案をまとめるが、財源確保の問題もあり、与野党の調整は難航する可能性が高い。高額療養費制度の持続性と患者負担のバランスをどう取るか、引き続き議論が続く見通し。参考1)「治療諦めろというのか」子育て中のがん患者 高額療養費見直し案に(毎日新聞)2)高額療養費引き上げ凍結を 立民、財源はコロナ基金(日経新聞)3)高額療養費の負担増なぜ見直し? 政府・与党、患者に配慮(同)4)高額療養費、負担引き上げで「治療断念」検討も がん患者ら調査(朝日新聞)5)子どもを持つがん患者さんに高額療養費アンケート 記者会見で中間報告(保団連)2.医療存続のためJA県厚生連に19億円支援、経営改革が課題/新潟県新潟県内で11病院を運営するJA県厚生連が経営危機に直面し、2025年度中にも運転資金が枯渇する恐れがあることを受け、県と病院所在の6市が総額19億円の財政支援を行う方針を決定した。6日に県庁で開かれた会合で、新潟県は国の交付金を活用しながら10億円程度を負担し、6市は約9億円を拠出することを表明。これにより、当面の資金不足は回避される見込みとなった。県厚生連は、人口減少に伴う患者数の減少が影響し、2023年度決算で35億9,000万円の赤字を計上。2024年度は職員の賞与削減など緊急対策を実施しているが、12月時点で45億6,000万円の赤字が見込まれている。病院運営に必要な運転資金は月額90億円に上るため、早急な財政支援が求められていた。会合では、県の花角 英世知事が「持続可能な経営には抜本的な改革が必要」と述べ、病院再編を含めた地域医療の効率化を求めた。6市を代表して糸魚川市の米田 徹市長は、「県として3ヵ年の財政支援を継続して欲しい」と要望し、国に対しても診療報酬制度の見直しを求める姿勢を示した。県厚生連の塚田 芳久理事長は「さらなる経営改革を進め、県民に安心できる医療を提供しながら安定経営の確保に努める」と表明。年度内に2025年度から3年間の経営計画を策定し、経営改善を図る方針という。しかし、長期的な経営安定には根本的な改革と継続的な財政支援が不可欠であり、今後の動向が注目されている。参考1)県厚生連へ19億円支援 県と6市方針 病院運営危機受け(読売新聞)2)JA県厚生連に19億円 25年度分 県と6市が支援表明(毎日新聞)3)新潟県、病院経営危機のJA県厚生連への支援を10億円規模で調整 2025年度の運転資金枯渇は回避できる見通し(新潟日報)3.東京女子医大元理事長を再逮捕 不正支出1.7億円、還流の疑い/警視庁東京女子医科大学の建設工事を巡る背任事件で、警視庁は3日、元理事長の岩本 絹子容疑者(78)を再逮捕した。岩本容疑者は2020年から翌年にかけて、足立区に新設された大学付属病院「足立医療センター」の建設工事に関連し、「建築アドバイザー報酬」名目で約1億7,000万円を大学から1級建築士の男性に支払わせ、損害を与えた疑いが持たれている。うち約5,000万円が岩本容疑者に還流されていたとみられる。岩本容疑者は1月、新校舎建設を巡る背任容疑で逮捕されていた。警視庁の調べによると、同様の手口で1億1,700万円の不正支出が行われ、そのうち約3,700万円が還流されたとされる。これにより、架空の「建築アドバイザー報酬」による大学の損害は総額3億円超に上る可能性がある。捜査関係者によると、建築士の男性は大学から受け取った資金の一部について元女子医大職員を通じて岩本容疑者に現金で渡していた。元職員の女性は岩本容疑者の直轄部署に所属しており、容疑者の指示の下、資金移動を担っていたとみられる。大学側が承認した建設に関係する稟議書によると、建築士への支払いは施工費(約264億円)の0.7%に相当し、理事会で承認されていた。しかし、実際には業務実態が乏しく、大学関係者からは「理事会での異議申し立てが困難な状況だった」との証言も出ている。さらに、内部文書の解析から、理事長自らが申請者兼承認者となっていたことも判明し、不正の組織的な側面が浮かび上がっている。警視庁は、還流資金がブランド品購入など私的な用途に充てられた可能性もあるとみており、資金の流れや関係者の役割について捜査を進めている。岩本容疑者の認否は明らかにされていないが、背任の疑いは一層強まっている。参考1)本日2/3(月)元理事長の再逮捕について(女子医大)2)東京女子医大元理事長、背任容疑で再逮捕…業務実態ない男性への報酬で1・7億円の損害与えた疑い(読売新聞)3)東京女子医大の女帝再逮捕 内部文書で明らかになった“デタラメやりたい放題”の仕組み「女子医大には元理事長の手足となって動いた人間たちがたくさんいる」(文春オンライン)4.若手医師の過労死、甲南医療センターの院長ら不起訴処分に/神戸地検2022年に神戸市の甲南医療センターで勤務していた専攻医・高島 晨伍さん(当時26歳)が長時間労働を苦に自殺した問題で、神戸地検は4日、労働基準法違反の疑いで書類送検されていた病院運営法人「甲南会」と院長ら2人を不起訴処分とした。検察は不起訴の理由を明らかにしていない。西宮労働基準監督署の調査では、高島さんの亡くなる直前の1ヵ月間の時間外労働が113時間を超えていたと認定されていた。高島さんの母は「非常に残念。この結果が若手医師の労働環境改善を阻むものであってはならない」とコメント。病院側は「事実に基づく捜査を経ての判断」と述べるにとどまった。この問題は、医師の働き方改革とも密接に関係し、2024年4月から医師の時間外労働に上限規制が導入され、基本的には年間960時間(月80時間)が上限とされた。しかし、研修医や特定の医療機関では、最大で年間1,860時間(月155時間)までの時間外労働が認められており、現場の実態との乖離が指摘されている。また、医療現場では「自己研鑽」として学会準備や研究活動が労働時間に含まれず、事実上の無償労働が横行しているとの批判もある。厚生労働省の通達では「上司の指示がある場合は労働」とされるが、実際には上司の関与が曖昧なケースも多く、勤務時間の過少申告につながる恐れがあると指摘されている。さらに、病院側は「宿日直許可制度」を利用し、夜間の長時間勤務を労働時間に含めない運用を行っている。この制度の適用件数は2020年の144件から2023年には5,000件を超え、病院経営の抜け道として使われているのが実情である。若手医師の過重労働は、医療の安全性や医師不足の深刻化にも影響を及ぼす。すでに「地域医療の維持よりも働きやすさを求め、美容医療などに転職する若手医師が増えている」との指摘もあり、医療界全体のモラルハザードが懸念さている。医師の長時間労働は、単なる労働問題ではなく、患者の安全にも直結する。自己犠牲を前提とした医療制度の見直しが急務となっている。参考1)甲南医療センター若手医師の過労自死 労基法違反疑いの院長ら不起訴処分 神戸地検(神戸新聞)2)若手医師の過労死、労基法違反疑いの病院運営法人や院長ら不起訴 神戸地検、理由明かさず(産経新聞)3)医師不足に拍車をかける「偽りの働き方改革」(東洋経済オンライン)5.維新の会、医療費4兆円削減と社保料6万円減を提案/国会日本維新の会は2月7日、政府の2025年度予算案への賛成条件として、医療費の年間約4兆円削減と国民1人当たりの社会保険料を約6万円引き下げる改革案を提示した。これにより、高校授業料無償化と並び、社会保障制度の見直しを求める構え。自民・公明両党は慎重な対応をみせており、今後の協議の行方が注目されている。維新の青柳 仁士政調会長は、自民・公明両党の政調会長との会談で、医療費削減策として「市販薬と類似する医薬品(OTC類似薬)の保険適用除外」「医療費窓口負担の見直し」「高額療養費の自己負担限度額の判定基準再検討」などを提案。さらに、社会保険加入が義務付けられる「年収106万円・130万円の壁」問題への対応も要請した。維新は、これらの改革を2025年度から実施すれば、年間4兆円の医療費削減が可能であり、国民の社会保険料負担を1人当たり年間6万円減らせると主張している。とくに、OTC類似薬の保険適用除外については、湿布や風邪薬など、処方薬として購入すれば1~3割の自己負担で済むが、全額自己負担とすることで約3,450億円の医療費削減が見込まれると試算。さらに、窓口負担割合の見直しでは、所得に加え、預貯金や株式などの金融資産を考慮する仕組みを導入し、資産の多い高齢者の負担を増やすことを提案した。また、電子カルテと個人の健康情報を統合する「パーソナル・ヘルス・レコード(PHR)」の普及促進も掲げ、医療コストの効率化を狙う。一方、維新は医療費削減策だけでなく、社会保険料負担軽減のための年収の壁問題にも言及。現在、51人以上の企業に勤めるパート労働者は年収106万円を超えると社会保険加入が義務付けられ、130万円を超えると企業規模に関係なく加入が求められる。この制度が労働時間の抑制を生み、人手不足を助長しているとの指摘もあり、維新は政府に対策を求めた。自民党は、まずは高校授業料無償化の議論を優先し、維新の予算案への賛成を取り付けたい考えだが、維新は「高校無償化と社会保険料引き下げの両方が必要条件」と主張し、交渉は難航する可能性がある。自民・公明両党は改革案の具体的な影響を精査するとして回答を留保しており、維新の提案が実現するかは不透明だ。政府は社会保障費の増大に対応するため、医薬品の公定価格(薬価)引き下げによる財源捻出を続けている。しかし、薬価改定による削減効果は限界に達しつつあり、新たな医療費抑制策が求められる状況。維新の提案がこの課題にどう影響を与えるのか、今後の国会審議に注目が集まる。参考1)維新が医療費4兆円削減、社会保険料は6万円引き下げ提案 新年度予算案賛成の条件に(産経新聞)2)「市販品類似薬を保険外に」維新、社保改革で具体案 自公に提案、予算賛成の条件(日経新聞)3)高額療養費の「自己負担の上限引き上げ」見直しへ…政府・与党、がん患者らに反発広がり(読売新聞)4)少数与党国会、厚労省提出法案の「熟議」を注視(MEDIFAX)6.28億円の診療報酬不正請求発覚 訪問看護で虚偽記録横行/サンウェルズパーキンソン病専門の有料老人ホーム「PDハウス」を運営する東証プライム上場のサンウェルズ(金沢市)が、全国のほぼ全施設で診療報酬の不正請求を行っていたことが、7日に公表された特別調査委員会の報告書で明らかになった。調査の結果、不正請求額は総額28億4,700万円に上ると試算されている。報告書によると、サンウェルズは全国14都道府県で約40ヵ所の「PDハウス」を運営。訪問看護事業において、実際には数分しか訪問していないにもかかわらず、30分間訪問したと虚偽の記録を作成し、診療報酬を請求するなどの不正が横行していた。また、実際には1人で訪問しているにもかかわらず、2人で訪問したと装い、加算報酬を請求するケースも確認された。さらに、特定の入居者に対し、必要がないにもかかわらず毎日3回の訪問を行い、過剰な請求を行っていたことも判明。現場の職員の間では「訪問回数を減らせばペナルティーが科される」という認識が広まり、不正が慣例化していた可能性が高い。経営陣はこうした問題について複数回の内部通報を受けていたものの、実態把握に動かなかったとされる。サンウェルズは当初、不正の疑惑を全面否定していたが、昨年9月の報道を受けて特別調査委員会を設置。今回の調査結果を受け、「多大なご迷惑をおかけし、深くお詫び申し上げます。再発防止策を速やかに策定し、信頼回復に努める」と謝罪のコメントを発表した。一方で、同社の経営陣にはインサイダー取引の疑惑も浮上している。昨年7月、サンウェルズは不正の指摘を受けながらも、東証プライム市場へ移行し、野村證券を主幹事とする株式の売り出しを実施。社長の苗代 亮達氏は個人で34億円の売却益を得ていた。市場関係者からは「不正を認識したまま株式を売却した可能性がある」として、金融商品取引法違反の疑いも指摘されている。今回の不正請求問題は、サンウェルズだけでなく、業界全体にも波紋を広げる可能性がある。ホスピス型老人ホームの需要が高まる中で、制度の見直しや行政のチェック体制の強化が求められている。参考1)特別調査委員会の調査報告書の受領に関するお知らせ(サンウェルズ社)2)約28億4,700万円の不正請求と調査委が試算…金沢市に本社の「サンウェルズ」の訪問看護事業めぐり(石川テレビ)3)老人ホームのサンウェルズ、ほぼ全施設で不正請求 調査委が報告書(毎日新聞)4)ほぼ全施設で不正請求 PDハウス運営サンウェルズ 調査委報告書 過剰訪問看護で28億円(中日新聞)5)東証プライム上場サンウェルズが老人ホームほぼ全てで介護報酬不正請求!社長の「インサイダー取引」疑惑に発展か(ダイヤモンドオンライン)

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ワクチン接種後の免疫抑制療法患者のリスクを抗体の有無で評価(解説:栗原宏氏)

本研究のまとめ・免疫抑制療法患者において、抗SARS-CoV-2スパイク抗体(抗S Ab)陽性者は感染・入院リスクが低い・感染リスク要因:年齢が若い(18~64歳)、子供との同居、感染対策の実施・入院リスク要因:併存疾患の存在強み(Strong Points)・3つの異なる免疫抑制患者群におけるCOVID-19リスクを大規模データで解析・抗S Abの有無と感染・重症化リスクの関連を明確化・実臨床データとリンクし、健康アウトカムに関する実証的な証拠を提供限界(Limitations)・因果関係ではなく相関関係の分析に留まる・治療介入(抗ウイルス薬、モノクローナル抗体)の影響が不明確・ワクチンの種類や接種時期の詳細な分析が不足・行動要因(マスク着用、社会的距離)の影響が考慮されていない可能性 本研究は、免疫抑制患者におけるSARS-CoV-2スパイク抗体の有無が、感染および入院率にどのような影響を与えるかを評価する約2万人規模のコホート研究である。 免疫抑制療法では、ワクチン接種後の免疫応答が低下する可能性があり、COVID-19感染リスクが高いと考えられる。 英国の全国疾病登録データを用い、以下の3つの免疫抑制患者群において抗体の影響を評価した。1)固形臓器移植(SOT)2)まれな自己免疫性リウマチ疾患(RAIRD)3)リンパ系悪性腫瘍(lymphoid malignancies)主な結果と臨床的意義 いずれの群でも、抗体陽性者のCOVID-19感染率・入院率は、年齢・人種・既存疾患などを調整しても有意に低かった。より具体的には、抗体陰性者の感染リスクは1.5〜1.8倍、入院リスクは2.5〜3.5倍高かった。 これらの結果から、免疫抑制患者に対し抗体検査を活用することで、高リスク群を特定し、追加ワクチン接種や早期治療などの対応を提供できる可能性が示唆された。 しかし、本研究は相関関係の分析に留まるため、・「抗体ができやすい人=健康状態が良く感染リスクが低い」・「抗体ができにくい人=強力な免疫抑制療法を受けており感染・重症化リスクが高い」といった因果関係の逆転の可能性も考慮する必要がある。 また、本研究では、ワクチンの種類・接種回数の影響、抗体価の高低、行動習慣(通勤・外出頻度)の影響は評価されていない。感染リスク要因の考察 感染リスク要因として、年齢が若いこと、子供との同居、感染対策の実施が挙げられた。「感染対策をしている人の感染リスクが高い」という結果は直感的に意外だが、これは 「感染リスクが高い人ほど対策をしているが、免疫が弱いため、それでも感染しやすい」という背景を反映しているという可能性がある。 本研究は、免疫抑制患者における抗S Abの有無とCOVID-19感染・入院リスクの相関を示し、免疫抑制患者のCOVID-19管理戦略を考えるうえで重要な知見を提供していると考えられる。

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コロナワクチン、免疫抑制患者への接種継続は必要か?/Lancet

 英国・NHS Blood and TransplantのLisa Mumford氏らは、英国の全国疾病登録を用いた前向きコホート研究において、免疫抑制状態にあるすべての人は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防戦略を継続的に受ける必要があることを示した。英国では、免疫が脆弱と考えられる人々に対し、年2回のCOVID-19ワクチンブースター接種が推奨されている。著者らは、3回以上のワクチン接種を受けた免疫抑制状態にある患者において、抗SARS-CoV-2スパイク蛋白IgG抗体(抗S抗体)と感染リスクおよび感染の重症度との関連を集団レベルで調査した。結果を踏まえて著者は、「大規模に実施可能な抗S抗体の評価は、免疫抑制状態にある人々のうち最もリスクの高い人々を特定可能で、さらなる個別化予防戦略のメカニズムを提供するものである」とまとめている。Lancet誌2025年1月25日号掲載の報告。固形臓器移植、希少自己免疫性リウマチ性疾患、リンパ系悪性腫瘍患者を対象に評価 研究グループは、英国の全国疾病登録を用いて固形臓器移植(SOT)患者、希少自己免疫性リウマチ性疾患(RAIRD)患者、リンパ系悪性腫瘍患者を特定して研究への参加者を募集した。抗S抗体のラテラルフロー検査を行うとともに社会人口学的および臨床的特性に関するアンケート調査を実施した後、英国国民保健サービス(NHS)のデータを用いて6ヵ月の追跡調査を行った。 アウトカムは、SARS-CoV-2感染およびCOVID-19関連入院とした。SARS-CoV-2感染は主に英国健康安全保障庁(UKHSA)のデータを用いて特定し、COVID-19による入院および治療に関する記録で補完した。COVID-19関連入院は、検査陽性から14日以内の入院と定義した。抗S抗体陽性、COVID-19の感染や入院のリスク低下と関連 2021年12月7日~2022年6月26日に登録された適格患者2万1,575例を解析対象とした(SOT患者8,466例、RAIRD患者6,516例、リンパ系悪性腫瘍患者6,593例)。 抗S抗体陽性率は、SOT患者77.0%(6,519/8,466例)、RAIRD患者85.9%(5,594/6,516例)、リンパ系悪性腫瘍患者79.3%(5,227/6,593例)であった。 抗S抗体検査後6ヵ月間のSARS-CoV-2感染は、全体で3,907例(18.1%)に認められ、COVID-19関連入院は556例(2.6%)に発生した。そのうち17例(<0.1%)が感染後28日以内に死亡した。 感染率は社会人口学的および臨床的特性によって異なるが、多変量補正解析の結果、抗S抗体の検出は感染発生率の低下と独立して関連しており、発生率比(IRR)はSOT患者集団で0.69(95%信頼区間[CI]:0.65~0.73)、RAIRD患者集団で0.57(0.49~0.67)、リンパ系悪性腫瘍患者集団で0.62(0.54~0.71)であった。 また、抗S抗体陽性はCOVID-19関連入院のリスク低下とも関連しており、IRRはSOT患者集団で0.40(95%CI:0.35~0.46)、RAIRD患者集団で0.32(0.22~0.46)、リンパ系悪性腫瘍患者集団で0.41(0.29~0.58)であった。

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rabies(狂犬病)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第19回

言葉の由来「狂犬病」は英語で“rabies”といいます。この病名は、ラテン語の“rabies”に由来し、これは「狂気」や「激怒」を意味します。さらにさかのぼると、ラテン語の“rabere”(激怒する)という動詞に関連しており、これは狂犬病に感染した動物や人間が示す過度の攻撃性や不安定な行動を反映して付けられたとされています。また、古代ギリシャでは、この病気を“lyssa”または“lytta”と呼んでいました。これは「狂乱」や「狂気」を意味する言葉で、狂犬病ウイルスの属名である“Lyssavirus”はこのギリシャ語に由来しています。歴史的には、紀元前5世紀ごろのギリシャの哲学者デモクリトスが狂犬病について記述しており、同時代のヒポクラテスも「狂乱状態の人々は水をほとんど飲まず、不安になり、最小の物音にも震え、痙攣を起こす」と記録しています。狂犬病は致死率がきわめて高く、長年にわたって恐れられていた病気ですが、19世紀後半にフランスの化学者ルイ・パスツールによって狂犬病ワクチンが開発され、予防可能な感染症になりました。併せて覚えよう! 周辺単語神経症状neurological symptoms恐水病hydrophobia予防接種vaccination興奮状態agitationこの病気、英語で説明できますか?Rabies is a viral disease that causes inflammation of the brain in humans and other mammals. It is typically transmitted through the bite of an infected animal. Early symptoms often include fever, headache, and a tingling at the site of exposure. As the disease progresses, symptoms can include violent movements, uncontrolled agitation, fear of water, and inability to move parts of the body.講師紹介

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血液検査でワクチン効果の持続期間が予測できる?

 幼少期に受けた予防接種が、麻疹(はしか)や流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)から、われわれの身を守り続けている一方、インフルエンザワクチンは、毎年接種する必要がある。このように、あるワクチンが数十年にわたり抗体を産生するように免疫機能を誘導する一方で、他のワクチンは数カ月しか効果が持続しない理由については、免疫学の大きな謎とされてきた。米スタンフォード大学医学部の微生物学・免疫学教授で主任研究員のBali Pulendran氏らの最新の研究により、その理由の一端が解明され、ワクチン効果の持続期間を予測できる血液検査の可能性が示唆された。 Pulendran氏は同大学が発表したニュースリリースで、「われわれの研究では、ワクチン接種後数日以内に現れる特徴的な分子パターンを特定することにより、ワクチン反応の持続期間を予測できる可能性が示唆された」と述べている。同氏らの研究結果は、「Nature Immunology」に1月2日掲載された。研究グループの説明によると、ワクチン効果の持続性は血液凝固に関与する巨核球と呼ばれる血小板の前駆細胞と密接な関係があることが示されたという。 この研究では、H5N1型鳥インフルエンザワクチンを接種した健常なボランティア50人を対象に追跡調査を行った。ワクチン接種後100日間の間に血液サンプルを12回採取し、各被験者の免疫反応に関連する全ての遺伝子、タンパク質、抗体を解析した。 その結果、ワクチンの接種から数カ月後の抗体反応の強さと、血小板に含まれる巨核球由来のRNA小片の量に正の相関があることが示された。血小板は、骨髄に存在する巨核球から分離された後、血流に乗って全身に運ばれる。この過程で、血小板中には巨核球由来のRNAの一部が含まれる。 研究グループはさらに、巨核球がワクチン効果の持続性に関係していることを証明するため、実験用マウスに鳥インフルエンザワクチンとトロンボポエチン(TPO)を投与した。TPOには骨髄内の活性化した巨核球の数を増やす働きがある。その結果、TPOを投与したマウスでは、2カ月以内に鳥インフルエンザに対する抗体産生量が6倍に増加したことが確認された。追加の研究で、巨核球が、抗体産生を担う骨髄細胞の生存を助ける物質を生成していることも判明した。 研究グループは、また、季節性インフルエンザ、黄熱病、マラリア、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)など7種類の感染症に対するワクチンを接種した244人のデータを収集解析した。その結果、いずれのワクチンにおいても、巨核球活性化の兆候が抗体産生期間の延長と関連していることが示された。 この結果は、巨核球の活性化を評価することで、どのワクチンの効果がより長く持続するか、またどのワクチン接種者がより長期にわたり免疫反応を持続できるかを予測できる可能性を示している。研究グループは、ワクチンによる巨核球の活性化レベルの違いを解明するため、さらなる研究を予定しているという。その研究から得られる知見は、より効果的で長期間効果が持続するワクチンの開発に貢献する可能性がある。 Pulendran氏は、「巨核球の活性化をターゲットとした簡易なPCR検査法が開発されれば、追加接種が必要な時期が予測できるため、個々人に個別化されたワクチン接種スケジュールを立てることも可能になるのではないか」と述べている。また、同氏はワクチン効果の持続期間は多くの複雑な要因に影響される可能性が高く、巨核球の役割はその全体像を構成する一部分にすぎないのではないかと付言している。

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Austrian症候群【1分間で学べる感染症】第20回

画像を拡大するTake home messageAustrian症候群は、肺炎球菌による肺炎、髄膜炎、感染性心内膜炎の3つがそろった症候群。とくに脾臓摘出後の患者を中心に液性免疫低下患者では、脾臓摘出後重症感染症(overwhelming postsplenectomy infection:OPSI)と呼ばれる致死率の高い重症感染症を引き起こすことがある。皆さんは、Austrian症候群という言葉を聞いたことがありますか。Austrian症候群は、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)を原因菌とする肺炎、髄膜炎、感染性心内膜炎の3つが、同時または短期間に発生することを特徴とする疾患です。疾患名を覚えることは必須ではありませんが、肺炎球菌による感染症はこれまで取り上げた感染症の中でも頻度が高い感染症であり、肺炎球菌は世界的にも重要な菌の1つです。今回は、Austrian症候群を入口として、肺炎球菌感染症について学んでいきます。背景Austrian症候群はRichard Heschlがドイツで最初に提唱したとの記述がありますが、正式には1881年にWilliam Oslerによって「Osler's triad(オスラーの3徴)」として報告されました。そして、1957年にRobert Austrianが詳細な臨床報告を発表したことから、その名を取ってAustrian症候群という疾患名で広く認知されています。リスク因子肺炎球菌は、市中肺炎や細菌性髄膜炎、さらに菌血症の原因菌として最も頻度が高い病原体の1つです。リスク因子を持つ患者では、通常よりも侵襲性感染症に進行する可能性が高くなります。具体的には、アルコール多飲、高齢、脾摘後や脾機能低下、免疫抑制(HIV感染者や化学療法中の患者など)が主なリスク因子として挙げられます。臨床症状近年では、Austrian症候群の「オスラーの3徴」がすべてそろうことはまれですが、3つの中で最も頻度の高い肺炎球菌による肺炎患者において、頭痛、発熱、意識障害、項部硬直など髄膜炎を疑う症状を合併する、心雑音、塞栓症状、持続的菌血症などを伴い感染性心内膜炎を疑う所見を合併する、といった場合には、血液培養のみならず髄液検査、心エコー検査(とくに経食道エコー)など、それぞれの診断のための精査を進めることが求められます。治療法、予防Austrian症候群は致死率が高いため、迅速な治療が求められます。臨床的に髄膜炎を疑った段階では、抗菌薬の髄液移行性とペニシリン耐性肺炎球菌の可能性を考慮し、セフトリアキソンとバンコマイシンの併用療法をただちに開始します。とくに脾摘後患者を中心に液性免疫低下患者では、致死率が高い脾臓摘出後重症感染症を引き起こすことがあります。こうしたリスクのある患者に対しては、肺炎球菌感染症の予防のために、積極的な肺炎球菌ワクチン接種やペニシリンの予防内服が推奨されます。1)AUSTRIAN R. AMA Arch Intern Med. 1957;99:539-544.2)Rakocevic R, et al. Cureus. 2019;11:e4486.3)Rubin LG, et al. N Engl J Med. 2014;371:349-356.

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ベースアップ評価料の届出様式を大幅に簡素化/日医

 日本医師会(会長:松本 吉郎氏[松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長])は、1月22日に定例会見を開催した。 はじめに松本氏が阪神・淡路大震災から30年を迎え、これまでの医師会の活動を振り返った。この大震災から得た教訓が現在のさまざまな災害対策の基礎となったこと、日本医師会災害医療チーム(JMAT)の発足とともにチーム運営のためにさまざまな研修や関係政府機関や学会とも連携を進めていることなどを説明し、「南海トラフ地震に備え、医師会では地域の医師会とともに今後も取り組んでいく」と災害対策への展望を語った。 次に今冬のインフルエンザの流行について副会長の釜萢 敏氏(小泉小児科医院 院長)が、流行状況を説明するとともに、現在もインフルエンザの治療薬や検査キットが地域によっては不足していること、代用薬で工夫をしてほしいとお願いしていることを語った。インフルエンザの予防には、基本的な感染対策である「マスク着用、室内の換気、うがい・手指衛生」を励行するとともに、人混みへの注意のほか、高齢者の重症化予防にもワクチン接種の検討をお願いするとともに、医師会としても適切な情報を提供していくと説明を行った。低いクリニックのベースアップ評価料の届出へ追い風 つぎに「ベースアップ評価料の届出様式の大幅な簡素化について」をテーマに担当常任理事の長島 公之氏(長島整形外科 院長)が、今回の届出様式の変更点を説明した。 2024年6月の診療報酬改定で新設された医療関係職種(医師・歯科医師、事務職員除く)の賃上げを目的にした「ベースアップ評価料」は、各地域の厚生局への届出により算定が可能になる点数である。しかし、現状、病院の8割は届出ているものの、クリニックなどではまだ2割程度しか届出がなされていない。その原因として申請書式の煩雑さと作成の負担の大きさが指摘されていたが、医師会と厚生労働省との協議により今回簡素化されたことが説明された。今回変更された事項では、基本的には、直近1ヵ月間の初・再診料などの算定回数を調べるだけで、届出ができるようになった。長島氏は、この届出は職員の原資となる大事なものなので、できるだけ多くの医療機関やクリニックが届出をしてほしいと述べた。 最後に「医師資格証保有者10万人達成について」をテーマに担当常任理事の佐原 博之氏(さはらファミリークリニック 理事長)が、医師資格証(HPKIカード)の発行の現状と展望を説明した。HPKIカードは、2023年の電子処方箋の導入から急激に発行数が伸び、現在10万人が保有している(医師会員では34.5%、医師全体では29.1%)。HPKIカードは、今後「診療情報提供書」や「主治医意見書」、「死亡診断書」などの活用で重要なアイテムとなる。本カードは「医療DXのパスポート」となるので、今後も全医師に向けての普及とともに国にも利活用の働きかけを行っていきたいと展望を語った。

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第246回 WHOが封じ込めてきた“ある感染症”、アメリカの脱退で水の泡か?

1月20日、アメリカではドナルド・トランプ氏がついに第47代大統領に就任した。就任前から大統領令を乱発するだろうと予想されていたが、就任当日いきなり世界保健機関(WHO)から脱退することを定めた大統領令に署名した。もっともご存じのように、トランプ大統領のWHO脱退宣言は今回が初めてではない。前回の第45代大統領期(2017~2021)の2020年4月、新型コロナウイルス感染症に関連し、WHOが意図して中国寄りの姿勢をとっていると批判。その姿勢が対応の遅れと全世界的なパンデミックを招いたとして同年7月、1年後の2021年7月にWHOから脱退する大統領令に署名した。だが、この年に行われた大統領選でジョー・バイデン氏に敗退し、翌2021年1月にバイデン大統領が就任すると、トランプ氏によるWHO脱退の大統領令は即刻撤回され、実現には至らなかった。ちなみに、なぜトランプ氏の大統領令が1年後の脱退だったかというと、1948年に米国連邦議会上下両院合同会議で採択されたWHOからの脱退については、1年前の通告と分担金の支払いを終えることが条件となっていたからだ。さすがのトランプ氏も過去の決議を破ることまではできなかったということだ。しかし、今回はこれから4年の大統領任期があるため、脱退が現実のモノとなるのは必至の情勢である。トランプ大統領が新型コロナ対応でWHOの姿勢を非難した根拠となったのが、2019年12月末という早い段階で台湾当局がWHOに提供していた中国・武漢での新型コロナ発生状況の文書だ。2020年4月に台湾当局はこの文書を公開したが、そこには確認された患者が隔離措置を受けていると記述されていた。これについてWHOは「ヒトからヒトへの感染について言及はなかった」とし、一方の台湾当局は「隔離措置を受けているという情報からヒト・ヒト感染は容易に想像できたはず」と主張。ほぼ水掛け論となっている。結果責任だけを問うならば、少なくとも3月までパンデミック宣言を行わなかったWHOの危機意識は適切でなかったと言えるが、実のところ当時のトランプ大統領も新型コロナの脅威を意図的に軽視していたことは、後に米紙ワシントン・ポストの編集委員であるボブ・ウッドワード氏が本人にインタビューして出版した書籍で明らかにされている。そもそも2020年2月段階では中国の対応を半ば評価していたトランプ大統領が“豹変”するのは、アメリカに感染が拡大して大混乱となった2020年4月以降で、どうみても他責である。アメリカのWHO脱退が招く問題さて今回、アメリカのWHO脱退が現実になると、まず予算が直撃を受ける。WHOの予算は各国の分担金と任意の拠出金などから構成されているが、アメリカから提供された資金は22~23年時を見ると予算総額の約15%にあたる12億8,400万ドル(日本円でおよそ2,000億円)。これがなくなると多方面に影響が出ると考えられるが、その際たるものとして個人的に危惧するのが、「ポリオウイルス封じ込めのための世界的行動計画(GAP)」への影響である。GAPはWHOでもっとも多くの予算がつぎ込まれている事業の1つだ。すでにポリオ撲滅に関しては、ほぼ最終段階にきている。現時点で野生株ポリオウイルス(1型)の常在国はアフガニスタンとパキスタンの2ヵ国のみ。2022年の両国での野生株による発症確認はアフガニスタンが2例、パキスタンが20例で、ほかにこの地域から伝播したとみられる症例がアフリカのモザンビークやマラウイでごく少数確認されたのみ。むしろ全世界的に見ると、現在は生ワクチン由来のウイルス株による感染確認のほうが多く報告されている。このため現在のポリオ撲滅作戦は常在2ヵ国での封じ込めと各国での不活化ワクチンへの切替えや保管中の不要なウイルス株の廃棄に移行している。しかし、ここでの不安要素は少なくない。まず、常在国のアフガニスタンは今も政情不安定で、疫学データの信頼性にも疑問符が付く。さらにワクチン株の感染者が多数報告されている中部・南部アフリカの各国は、公衆衛生関連の行政機関はまだ脆弱である。その意味でいずれも先進国が提供する資金と人材は欠かせない。こうした最終局面でアメリカの資金がWHOに入らなくなれば、GAPが行う事業は先細りしかねない。そんなこんなもあり、私自身は胸騒ぎがしてならないし、今後ポリオの感染動向は今まで以上に注視していこうと考えている。

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第250回 エムポックス薬の日本承認に専門家が驚いている

エムポックス薬の日本承認に専門家が驚いているエムポックスに適応を有する抗ウイルス薬tecovirimatをこの年末に日本が承認したことに専門家が驚いています1)。というのも、昨年に結果が判明した無作為化試験2つ・PALM007試験とSTOMP試験のどちらでもエムポックス治療効果が認められなかったからです。東京の日本バイオテクノファーマが先月12月27日に日本でのtecovirimatの承認を手にしました2,3)。日本での商品名はテポックスで、適応にはエムポックスに加えて、痘そう、牛痘、痘そうワクチン合併症の治療を含みます。コンゴ民主共和国(Democratic Republic of the Congo)での無作為化試験であるPALM007試験の結果は昨夏2024年8月に発表され、クレードIのエムポックスの小児や成人の病変消失の比較で残念ながらtecovirimatはプラセボに勝てませんでした4)。PALM007試験で対象としたクレードIはコンゴ民主共和国やコンゴ共和国(Republic of the Congo)などの中央アフリカのいくつかの国で多く5)、感染の病状はより重く、西アフリカで広まるクレードIIに比べて死亡率が高いことが知られます(クレードIIの死亡率は約4%、クレードIは約11%6))。先月12月に結果が速報されたもう1つの無作為化試験であるSTOMP試験はクレードIIのエムポックス患者を対象とし、病変消失までの期間がtecovirimat群とプラセボ群でやはり差がありませんでした7)。ヒトへ安全に投与しうるが効果のほどはわかっていなかった2022年に、欧州連合(EU)と英国は男性と性交する男性(MSM)におけるエムポックス蔓延を受けてtecovirimatを承認しています。その承認時にEUは新たな試験結果が判明したらその扱いを見直すとしており、実際PALM007試験とSTOMP試験の結果を俎上に載せると欧州医薬品庁(EMA)の部門長Marco Cavaleri氏は言っています1)。また、ブラジル、スイス、アルゼンチンで進行中の試験結果も検討されます。そういう状況で日本がtecovirimatを承認したことはなんとも不可解だとCavaleri氏は話しています。エムポックスの疫学、ワクチン、治療、政策に関する論文8)を昨年11月に発表したメリーランド大学の薬理学者John Rizk氏は、承認の経緯が不可解なことが多いのは承知しているが、それでも日本のtecovirimat承認には驚愕した(shocker to me)と言っています。EUと同様に2022年にtecovirimatを承認した英国はというと、異例な事態の下で承認された薬すべてを毎年見直すことにしているとScienceに伝えています1)。米国FDAはエムポックスへのtecovirimat使用を承認していません。しかし、生物兵器として悪用される恐れがある痘そう(smallpox)への使用を日本と同様に承認しています。tecovirimatのエムポックスと痘そうに対する効果の仕組みは同じであり、痘そうへの同剤の承認も再考が必要かもしれません。生物兵器の襲来に備えた治療は必要だと思うが、tecovirimatに頼るのは気乗りしないとSTOMP試験リーダーTimothy Wilkin氏は言っています1)。参考1)In a ‘shocker’ decision, Japan approves mpox drug that failed in two efficacy trials / Science 2)新医薬品として承認された医薬品について / 厚生労働省3)テポックスカプセル 200mg(Tecovirimat)製造販売承認を取得 / 日本バイオテクノファーマ株式会社4)NIH Study Finds Tecovirimat Was Safe but Did Not Improve Mpox Resolution or Pain / NIH 5)Epidemiology of Human Mpox ‐ Worldwide, 2018-2021 / CDC 6)Bunge EM, et al. PLoS Negl Trop Dis. 2022;16:e0010141.7)The antiviral tecovirimat is safe but did not improve clade I mpox resolution in Democratic Republic of the Congo / NIH8)Rizk Y, et al. Drugs. 2025;85:1-9.

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第226回 インフルエンザ流行深刻化、医療現場は逼迫 子供の脳症にも注意/厚労省

<先週の動き>1.インフルエンザ流行深刻化、医療現場は逼迫 子供の脳症にも注意/厚労省2.新型コロナ感染拡大に歯止めかからず、5年間で死者13万人、高齢者が96%/厚労省3.民間病院に300億円超の財政支援、物価高騰や人件費上昇に対応/東京都4.東京女子医大元理事長を逮捕 1億円超の背任容疑で/東京女子医大5.カテーテル治療後死亡の10件、病院側は医療事故を否定/神戸徳洲会病院6.2度の救急受診も適切な対応取らず後遺障害、病院に5,000万円賠償命令/彦根市立病院1.インフルエンザ流行深刻化、医療現場は逼迫 子供の脳症にも注意/厚労省現在、全国的にインフルエンザが流行し、医療現場は逼迫した状況にある。国立感染症研究所のデータによると、2024年12月29日までの1週間の感染者数は、1医療機関当たり64.39人と過去最多を記録した。年末年始を挟んで感染者数は減少したものの、依然として高い水準で推移しており、予断を許さない状況となっている。今冬の流行の要因として、コロナ禍でインフルエンザの流行が抑制されていたことにより、集団免疫が低下していることが考えられている。とくに、コロナ禍の間に生まれた0~4歳の抗体保有率が低いという調査結果も出ており、今後の感染拡大が懸念されている。現在流行しているウイルスは、2009年に「新型」として流行した「A型」(H1N1)だが、2月以降は「B型」が広がる可能性もあり、型が異なると再度感染する恐れもある。インフルエンザの感染拡大を受け、厚生労働省は治療薬の在庫状況を公表した。1月12日時点で、全国の医療機関における治療薬の在庫は約1,110万人分あり、当面の需要に対応できる見込み。ただし、インフルエンザ治療薬のオセルタミビル(商品名:タミフル ドライシロップ)は供給不足の状態が続いており、厚労省は、同カプセルを調整して使用する場合には「院内製剤加算を算定できる」という見解を示している。インフルエンザの流行により、救急搬送が困難な事例も増加している。群馬県では、1月第2週(6~12日)の救急搬送困難事案が過去最多の159件に上った。また、インフルエンザ患者の増加により、多くの医療機関で病床が逼迫しており、東京都や島根県では、一部の病院で入院制限を行うなど、医療体制に影響が出ている。小児では、インフルエンザ脳症の発症に注意が必要である。けいれんや意識障害、異常行動などがみられる場合は、速やかに医療機関を受診する必要がある。また、高齢者や基礎疾患を持つ患者においても、インフルエンザは重症化のリスクが高いため、注意が必要。インフルエンザの流行は、今後もしばらく続く可能性があり、専門家は、今からでもワクチン接種などを推奨している。参考1)インフルエンザ流行レベルマップ 第2週(国立感染症研究所)2)2025年1月17日 直近1ヶ月間の通常流通用抗インフルエンザウイルス薬の供給状況について[1月12日時点](厚労省)3)インフルエンザ感染者、2週ぶり増加…現在流行の「A型」に続き2月以降は「B型」広がる可能性(読売新聞)4)子どものインフルエンザ脳症に注意を 意識障害や異常行動、重症化も(朝日新聞)5)「一気に増えた」インフル入院 コロナも増加、病院「高齢者に脅威」(同)6)インフルで病床逼迫 救急搬送困難最多159件、状況深刻 群馬県内(上毛新聞)7)インフル流行でタミフルドライシロップ等不足、タミフルカプセル調整使用で【院内製剤加算】等認める(Gem Med)2.新型コロナ感染拡大に歯止めかからず、5年間で死者13万人、高齢者が96%/厚労省新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者が再び増加傾向にある。厚生労働省によると、1月12日までの1週間における定点1医療機関当たりの患者報告数は7.08人で、前の週から1.33倍に増加した。新規感染者数が増加するのは2週ぶりで、全国的な流行期に入ってから患者数が増加するのは4週連続。都道府県別では、岩手県が12.82人と最も多く、次いで宮城県(11.99人)、徳島県(11.51人)と続いている。1月12日までの1週間に、新たに入院した患者数は2,889人で、前の週と比べて295人増えた。厚労省は、冬休みが終わったことで、学校などで感染がさらに広がる恐れもあるとして、引き続き対策の徹底を呼びかけている。COVID-19の感染者が国内で初めて確認されてから、1月15日で5年になる。この5年間で、感染者数は7,000万人以上、死者は13万人に上ると推計され、このうち96%が高齢者となっている。専門家は、COVID-19は依然として脅威であり、高齢者や基礎疾患を持つ人にとってはとくに危険であると指摘している。また、若い人でも後遺症のリスクがあることから、引き続き感染対策を継続する必要があると呼びかけている。具体的には、手洗い、マスクの着用、咳エチケットなどの基本的な感染対策に加え、ワクチン接種も有効な予防策となる。参考1)新型コロナ患者数 前の週の1.33倍に 厚労省“対策徹底を”(NHK)2)新型コロナ患者が前週比1.6倍増 約3.5万人に-定点報告数は3割増の7.08人 厚労省(CB news)3)新型コロナ国内初確認から5年、死者13万人・高齢者が96%(読売新聞)3.民間病院に300億円超の財政支援、物価高騰や人件費上昇に対応/東京都東京都は、2025年度予算案に、都内の全民間病院を対象とした総額321億円の財政支援を盛り込む方針を固めた。コロナ禍後の病院経営は、物価高や人件費の上昇、患者数の減少により厳しさを増しており、医療提供体制の安定確保が課題となっている。都は、都内に約600あるすべての民間病院に対し、入院患者1人当たり1日580円を給付するほか、高齢患者の受け入れや小児科、産科、救急医療の体制確保に対する支援を行う。1病院当たりの給付額は最大で2億円に達する見込みで、いずれの支援も1~3年間の時限措置となる。小池 百合子知事は、「本来は国が診療報酬の改定などで対応すべきものだが、緊急的、臨時的な対応として都内の物価を考慮した支援を行う」と述べている。病院経営は、物価高騰による光熱費や食材費の増加、人手不足による人件費の上昇、コロナ禍の収束後も続く患者の受診控えなどにより、悪化の一途をたどっており、都病院協会のアンケート調査によると、2023年度上半期に赤字だった都内の病院は49.2%に上り、前年同期より17.2ポイント上昇していた。こうした環境を踏まえ都は、安定的な医療体制を支えるには、民間病院への早急な財政支援が不可欠と判断し、今回の財政支援を決定した。高齢化が進む中、医療需要は増加が見込まれる一方、医療従事者の不足や病院の経営難など、医療提供体制の維持には多くの課題がある。都では、今回の財政支援により、医療機関の経営安定化を支援し、都民への医療提供体制の確保を目指すとしている。参考1)東京都 物価高騰対策等で民間病院に321億円支援 来年度予算は約9兆1,500億円(テレビ朝日)2)東京都、都内の全民間病院に総額300億円超の財政支援へ…医療提供体制の安定確保へ(読売新聞)4.東京女子医大元理事長を逮捕 1億円超の背任容疑で/東京女子医大東京女子医科大学元理事長の岩本 絹子容疑者(78)が、大学の資金約1億1,700万円を不正に流用したとして、1月13日に背任容疑で警視庁に逮捕された。岩本容疑者は、2014年に副理事長に、2019年には理事長に就任し、大学病院で起きた医療事故の影響で赤字に転落した大学の経営再建を主導した。しかし、その過程で、人事や経理などの権限を集中させ、「女帝」と呼ばれるほどの強権的な体制を築き、不透明な資金運用を行っていた疑いが持たれている。具体的には、2018年7月~2020年2月にかけて、新校舎建設工事を巡り、1級建築士の男性に実態のないアドバイザー業務の報酬として、大学に約1億1,700万円を支払わせ、その一部が岩本容疑者に還流していたとみられている。警視庁は、2023年3月に大学関係者から告発を受け捜査を開始し、2024年3月には大学本部や岩本容疑者の自宅などを家宅捜索した。その後、押収した資料などを分析した結果、今回の逮捕に至った。大学側は、岩本容疑者の逮捕を受け、謝罪し、再発防止に努めるとしている。警視庁では、岩本容疑者が、大学に他にも損害を与えた疑いがあるとみて、捜査を進めている。参考1)元理事長の逮捕について(東京女子医大)2)東京女子医大の岩本絹子元理事長を逮捕、新校舎工事で不正支出疑い 費用の一部還流か(産経新聞)3)東京女子医科大 元理事長 足立区の病院建設でも5,000万円還流か(NHK)4)岩本絹子容疑者が「5,000万円狙い」で東京女子医大理事会で「工作」(東京新聞)5)東京女子医大元理事長、不正資金送金用の専用口座作らせる…3,700万円自身に還流(読売新聞)5.カテーテル治療後死亡の10件、病院側は医療事故を否定/神戸徳洲会病院神戸徳洲会病院は、カテーテル治療後に患者が死亡した事例など10件について、外部専門家を含む院内検証の結果、医療事故には該当しないと発表した。同病院では2023年1月以降、カテーテル治療後に患者が死亡するなどの事例が12件発生し、うち3件は医療過誤と認められていた。今回検証された10件のうち9件は死亡事例だったが、病院側は「カテーテル検査や治療が死亡の原因になったものはない」と結論付けた。また、治療中に冠動脈損傷の合併症を引き起こした1件についても、処置は適切だったとしている。その一方で、患者や家族への説明が不十分だったことや、医師1人で治療方針を決めていた体制などについては問題があったと認めた。また、残る2件については、第三者による調査などを行い、引き続き医療事故に当たるかどうか検証を進めるとしている。検証対象のうち、唯一の生存例である80代女性は、カテーテル手術後に血管損傷が起こり、術後は息苦しさに襲われたと証言している。病院側は報告書で、血管損傷について「合併症として想定されるもの」と結論付けたが、女性は病院の説明に納得していない様子。カテーテルの専門医は、女性の血管損傷について「合併症は非常にまれで、あっても血がにじむ程度。医師は明らかに訓練不足」と指摘し、報告書でその点への言及がないことを問題視している。神戸徳洲会病院では、2023年7月に循環器内科の男性医師が関わったカテーテル治療後、複数の患者が死亡していたことが発覚し、神戸市から改善命令を受けていた。その後、病院側は改善計画を提出しているが、今回の検証結果を受け、さらなる改善が必要となる可能性もある。参考1)調査報告 循環器内科カテーテル治療・検査に関する事例(神戸徳洲会病院)2)神戸徳洲会病院_カテーテル検査治療個別検証報告(同)3)神戸徳洲会病院 カテーテル治療10件“医療事故にあたらず”(NHK)4)死亡など10件「事故あたらず」…神戸徳洲会がカテーテル報告書公表(読売新聞)5)神戸徳洲会病院、10件「医療事故該当せず」患者死亡問題で見解公表(産経新聞)6.2度の救急受診も適切な対応取らず後遺障害、病院に5,000万円賠償命令/彦根市立病院彦根市立病院(滋賀県彦根市)で2019年、頭痛を訴えて2度にわたり救急受診した高齢女性に対し、医師が適切な検査を行わなかったため、慢性硬膜下血腫の診断が遅れ、女性に高度意識障害などの後遺症が残ったとして、大津地裁は1月17日、彦根市におよそ5,000万円の損害賠償を命じる判決を言い渡した。女性は2度の受診時に「今までに経験したことがない頭痛」などと訴えていたが、医師は鎮痛剤などを処方し、帰宅させていた。2度目の受診の翌日、女性は意識障害を起こして救急搬送され、慢性硬膜下血腫などと診断されて手術を受けたが、後遺症が残ったという。判決で、大津地裁の池田 聡介裁判長は、女性が訴えていた症状や服用していた薬などから、医師は脳の病気などを疑うべきだったと指摘。遅くとも2度目の受診時にCT検査などを行っていれば、後遺症を回避できた可能性が高いとして、病院側の過失を認めた。女性は提訴後の2022年に老衰で死亡しており、遺族が訴訟を引き継いでいた。彦根市立病院は、「判決文が届いていないため、現時点ではコメントを差し控えます」としている。参考1)頭痛で受診した高齢女性めぐり病院運営する市に賠償命令 大津地裁「後遺症、回避できた可能性高い」(京都新聞)2)市に5,000万円賠償命令 彦根市立病院、診断ミスで重い後遺症 地裁(毎日新聞)

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第245回 レプリコンワクチンを求め上京した知人、その理由と副反応の状況は?

前回も触れた新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に対する次世代mRNAワクチンのコスタイベだが、インターネット上でネガティブな情報が氾濫する一方、逆にこのワクチンを接種したいと希望する一般人もいる。もっとも現在のコスタイベは1バイアルが16回接種分であり、接種前調整で生理食塩水10mLに溶解して6時間以内に使い切らねばならない。つまり医療機関側がこのワクチンを使おうとすると、あらかじめ16人という大人数を集めておかねばならないのだ。これは大規模医療機関でも至難の業である。実は私も次の接種ではこれを選択しようと思っており、コスタイベの接種希望者をほぼ常時募集しているある医療機関を知っている。しかし、インターネット隆盛のこの時代でも一般人がこのワクチン選択をするならば、多くは“接種可能な医療機関探し”という入口で壁にぶち当たるのが常である。とりわけコスタイベの場合、昨秋からスタートした定期接種から対象ワクチンに加わったばかりで、1バイアル16回接種分を棚上げしても、医療機関の多くは使い慣れたファイザー製やモデルナ製を選択しがちである。さらに前回でも触れたように、このワクチンに対する懐疑派の人たちがこのワクチンを接種しようとする医療機関に嫌がらせを行ってしまうため、余計に医療機関側は奥手になってしまうだろう。実は秋冬接種が始まった昨年10月、私はある人から「コスタイベを接種したいが、医療機関が見つからず難渋している」と相談を受けた。実はこの方は、以前に本連載で取り上げた、仙台市内からさいたま市まで新幹線代をかけて新型コロナワクチンを接種しに行った大学教員のA氏だ。A氏は結局、私が知っていたコスタイベ接種可能な医療機関で無事接種を終えた。ということで、再びA氏に接種に至る経緯から、接種終了後までの話を聞いてみた。SNS炎上をきっかけにコスタイベを希望まず、A氏は以前の本連載で紹介したように2024年6月に任意接種で新型コロナワクチンを接種。この時から「半年に1度くらいの頻度で接種できれば」と漠然と考えていたという。そうした中で10月初旬、“コスタイベは比較的長期間、高い抗体価が持続する”というLancet Infectious Diseases誌に公表された論文1)を目にした。畑違いではあるが、英語論文を読み慣れているA氏は、それならばコスタイベを接種しようと思い立った。「実はコスタイベに興味を持ったきっかけは、むしろ懐疑的な人たちがSNS上で騒いでいたことがきっかけなんですよ。彼らが『効果が長い間残る』と書いていて、自分の場合は新型コロナワクチンを定期的に受けたいと思っていたので、効果が長く続くなら逆にありがたいと思ったんです。そこで医師や研究者の方の発信を辿って、割と簡単に(前述の)論文1)にたどり着いたというわけです。その意味では懐疑的な人たちの情報発信は私にとっては、逆効果でしたね(笑)」A氏は早速ネット上で接種可能な医療機関を検索。コスタイベ接種希望者を募っていた都内のクリニックをみつけ、仮予約をした。仮予約とは、16人の接種希望者が集まり次第実施の最終決定ということである。当時をA氏は次のように振り返る。「反対派の嫌がらせを避けるため、接種希望者同士でまるで違法薬物の裏取引のように、ネットで隠語や非公開のダイレクトメッセージで接種の情報をやりとりしているのが稀有な経験でした」実際、定期接種の開始当時、私もX(旧Twitter)などを見ていたが、新型コロナワクチンの接種情報を積極的に発信しているインフルエンサー的なアカウントでは、明らかにコスタイベを指すと思われる「あれ」という用語が盛んに使われていた。しかし、ここで災難が起こった。まさに前回の連載でも触れたようにコスタイベ接種を公言したこのクリニックに嫌がらせが殺到し始めたのだ。このため、A氏の仮予約翌日にクリニック側のホームページはコスタイベ接種の予約受付中止を宣言。同時に接種そのものを中止することを示唆するお知らせを掲載し、コスタイベ接種の試みは半ばふりだしに戻ってしまった。対応施設の検索から接種まで2週間しかし、ここからA氏は本領を発揮。新たなコスタイベの接種可能な医療機関を見つけるべく、仙台市の新型コロナウイルスワクチン定期接種登録医療機関に片っ端から問い合わせの電話を入れたという。「最初は仙台市役所にコンタクトを取りましたが、すでに仙台市新型コロナウイルスワクチン接種専用コールセンターは廃止されたので、仙台市総合コールセンター『杜の都おしえてコール』に電話をしました。ですが、定期接種登録医療機関が掲載されていることは教えてもらえましたが、個別医療機関で採用しているワクチンの種類はわかりませんとのことでした」結果的に休診日などで不通も含め約200件に連絡したが、コスタイベの取り扱いは皆無だった。ちなみにこの約200件の発信履歴は、取材時にA氏に見せてもらっている。「医療機関の受付がコスタイベという商品名を知らないことも多く、コスタイベという単語を聞き取ってもらえないことも当たり前でした。結局、『そちらで接種できるコロナワクチンの種類はなんですか』と聞くのが一番早いとわかりましたが、多くはファイザーかモデルナ、時に第一三共や武田薬品のワクチンが打てる医療機関はありましたが、コスタイベを接種できる医療機関はありませんでした」最終的に、私が教えた医療機関に仮予約し、状況確認の連絡をしたところ「このペースなら多分ほぼ確実に16人の枠は埋まるでしょう」と言われ、最終的に10月16日にこの医療機関へ16人の接種希望者が集まったことから、最終意志確認の電話連絡を経て正式予約となり、10月22日に接種となった。10月22日、A氏は新幹線で上京。当該医療機関には午後1時半ごろに窓口に顔を出した。目の前には複数の診察室があり、A氏がしばらくして入るよう指示を受けたのは、そのうちただ1つ担当医の名札が下げられていない診察室だった。診察室に入ると、担当医からワクチン接種前の問診を受け、A氏が「これを打ちたくて仙台から来ました」と話を振ると、担当医からは「住所を見て、あれ?って思いました」と返答された。副反応、他剤と比べると?接種後の副反応について、A氏は最初に接種したモデルナ製ワクチンでは、「翌日に38.5℃の発熱なのにつらくない」という不思議な体験をし、以後はファイザー製を選択して強い副反応はほとんど経験してこなかったそうだが、今回のコスタイベではどうだったのか? あくまで個人的な感想として次のように語った。「翌日に1時間弱、寒気を感じたのと、接種部位が数日間、少しズキズキした程度で終わりました」前回の任意接種よりは接種医療機関探しは楽だったものの、「今回はコスタイベを選ぼうとしたことで自ら苦労してしまった」と苦笑いするA氏。前回の接種のきっかけとなった新型コロナ感染後の後遺症とみられる咳喘息は、今は小康状態。そして以前は年1回、風邪を引いた直後に使用する程度だった吸入薬は、現在も毎日1回の使用を続けている。参考1)Oda Y, et al. Lancet Infect Dis. 2024;24:e729-e731.

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第130回 年始、「肺炎」大暴れ

歴史的流行ご存じのとおり、今年のインフルエンザ感染者数は想像を超えるレベルに達しています。抗インフルエンザ薬が出荷調整を強いられています。2025年第1週になってようやく報告数が減りましたが、年末年始で正しい統計が取れているかどうかはよくわからないです1)。とりあえず、このままピークアウトしてくれると助かるところです。ただ、不気味なのは、数は多くないものの新型コロナウイルスが暗躍していることです。「当院かかりつけの患者さまで、39度の発熱で来られました」というコールを、この2週間で何度受けたことか。そんなとき、まず頭に浮かぶのはインフルエンザ。しかし、同時に新型コロナの検査もすると、意外にも新型コロナが陽性になることがあります。症状だけでは、もはや判別が難しいという現実を痛感しています。さらに、「左右両肺に肺炎があるので紹介させていただきます」といった紹介状を持って来院する患者さんも急増中です。胸部CTを撮影してみると、細気管支炎パターンが見られ、「これはマイコプラズマか?」と疑って迅速検査をしても陰性。代わりに肺炎球菌尿中抗原が陽性、さらに血液培養からも肺炎球菌が検出されるケースがありました。ダマシか!この年末年始の呼吸器臨床を端的に表すと、「肺炎大暴れ」です。インフルエンザも過去こんなに肺炎の頻度は高くなかったのに、感染中も感染後も肺炎を起こす事例が多いです。新型コロナも相変わらず器質化肺炎みたいなのをよく起こす。そして、そのほかの肺炎も多い。細菌性肺炎や膿胸も多い。もともと冬はこういった呼吸器感染症が多かったとは思います。だがしかし、いかんせん度が過ぎておる。ワシャこんな呼吸器臨床を約20年経験した記憶がないぞ。「感染症の波」は、いったい何が理由なのか?この異常事態の背景には、何があるのでしょうか。コロナ禍で国全体が感染対策に力を入れていた時期と比べると、確かに感染対策は甘めではあります。交絡要因が多いので、これによって感染症が増えているか判然としませんが、感染対策の緩和と感染症の流行には一定の相関がみられているのは確かです。長期間にわたってウイルス曝露が減り、免疫防御機能が低下するという「免疫負債説」を耳にしていましたが、新型コロナ流行から4年が経過し、むしろ「免疫窃盗」されているという考え方が主流でしょうか。感染症免疫は神々の住まう領域であり、言及するとフルボッコの懸念があるため、この議論はやめておきます。昨年のように二峰性の流行曲線になる可能性はありつつも、インフルエンザはさすがにピークアウトすると予想されます。しかし、新型コロナもマイコプラズマも含めて、呼吸器感染症に関してはまだ予断を許しません。今シーズンは新型コロナのワクチン接種率が低いことも懸念材料です。自己負担額が高いため、接種を見送る人が増えました。当院の職員も、接種率がかなり落ちました。いずれ混合ワクチンとなり、安価となればインフルエンザと同時に接種していく時代が来るかもしれません。ちなみに、年末年始に「中国でヒトメタニューモウイルスが流行している」という報道がありましたが、冬季に流行しやすいウイルスで、それほど肺炎合併例も多くなく、世界保健機関(WHO)も「異常な感染拡大はない、過度に恐れる必要はない」とコメントしています2)。参考文献・参考サイト1)厚生労働省:インフルエンザ・新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移(2025年1月14日)2)WHO:Trends of acute respiratory infection, including human metapneumovirus, in the Northern Hemisphere(2025 Jan 25)

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