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第205回 アドレナリンを「打てない、打たない」医者たちを減らすには(後編) 「ここで使わなきゃいけない」というタイミングで適切に使えていないケースがある

インタビュー: 海老澤 元宏氏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター長)昨年11月8日掲載の、本連載「第186回 エピペンを打てない、打たない医師たち……愛西市コロナワクチン投与事故で感じた、地域の“かかりつけ医”たちの医学知識、診療レベルに対する不安」は、2023年に公開されたケアネットのコンテンツの中で最も読まれた記事でした。同記事が読まれた理由の一つには、この事故を他人事とは思えなかった医師が少なからずいたためと考えられます。そこで、前回に引き続き、この記事に関連して行った、日本アレルギー学会理事長である海老澤 元宏氏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター長)へのインタビューを掲載します。愛西市コロナワクチン投与事故の背景には何があったと考えられるのか、「エピペンを打てない、打たない医師たち」はなぜ存在するのか、「アナフィラキシーガイドライン2022」のポイントなどについて、海老澤氏にお聞きしました。(聞き手:萬田 桃)造影剤、抗がん剤、抗生物質製剤などなんでも起こり得る(前回からの続き)――「薬剤の場合にこうした呼吸器症状、循環器症状単独のアナフィラキシーが起こりやすく、かつ症状が進行するスピードも早い」とのことですが、どういった薬剤で起こりやすいですか。海老澤造影剤、抗がん剤、抗生物質製剤などなんでも起こり得ます。とくにIV (静脈注射)のケースでよく起こり得るので、呼吸器単独でも起こり得るという知識がないとアナフィラキシーを見逃し、アドレナリンの筋注の遅れにつながります。ちなみに、2015年10月1日〜17年9月30日の2年間に、医療事故調査・支援センターに報告された院内調査結果報告書476件のうち、死因をアナフィラキシーと確定または推定したのは12例で、誘引はすべて注射剤でした。造影剤4例、抗生物質製剤4例、筋弛緩剤2例などとなっていました。――病院でも死亡例があるのですね。海老澤IV(静脈注射)で起きたときは症状の進行がとても速く、時間的な余裕があまりないケースが多いです。また、心臓カテーテルで造影剤を投与している場合は動脈なので、もっと速い。薬剤ではないですが、ハチに刺されたときのアナフィラキシーも比較的進行が速いです。こうしたケースで致死的なアナフィラキシーが起こりやすいのです。2001~20年の厚労省の人口動態統計では、アナフィラキシーショックの死亡例は1,161例で、一番多かったのは医薬品で452例、次いでハチによる刺傷、いわゆるハチ毒で371例、3番目が食品で49例でした。そして、そもそもアナフィラキシーを見逃すことは致命的ですが、対応しても手遅れとなってしまうケースもあります。病院の救急部門などで治療する医師の中には、「ルートを取ってまず抗ヒスタミン薬やステロイドで様子を見よう」という方がまだいるようです。しかし、その過程で「ここでアドレナリンを使わなきゃいけない」というタイミングで適切に使えていないケースがあるのです。先程の死亡例の中にもそうしたケースがあります。点滴静注した後の経過観察が重要――いつでもどこでも起き得るということですね。医療機関として準備しておくことは。海老澤大規模な医療機関ではどこでもそうなっていると思いますが、たとえば当院では、アドレナリン注シリンジは病棟、外来、検査室、処置室などすべてに置いてあります。ただ、アドレナリンだけで軽快しないケースもあるので、その後の体制についても整えておく必要があります。加えて重要なのは、薬剤を点滴静注した後の経過観察です。抗がん剤、抗生物質、輸血などは処置後の10分、20分、30分という経過観察が重要なので、そこは怠らないようにしないといけません。ただ、処方薬の場合、自宅などで服用してアナフィラキシーが起こることになります。たとえば、NSAIDs過敏症の方がNSAIDを間違って服用するとアナフィラキシーが起こり、不幸な転帰となる場合があります。そうした点は、事前の患者さんや家族からのヒアリングに加えて、歯科も含めて医療機関間で患者さんの医療情報を共有することが今後の課題だと言えます。抗ヒスタミン薬とステロイド薬で何とか対応できると考えている医師も一定数いる――先ほど、「僕らの世代から上の医師だと、“心肺蘇生に使う薬”というイメージを抱いている方がまだまだ多い」と話されましたが、アナフィラキシーの場合、「最初からアドレナリン」が定着しているわけでもないのですね。海老澤アナフィラキシーという診断を下したらアドレナリン使っていくべきですが、たとえば皮膚粘膜の症状だけが最初に出てきたりすると、抗ヒスタミン薬をまず使って様子を見る、ということは私たちも時々やることです。もちろん、アドレナリンをきちんと用意したうえでのことですが。一方で、抗ヒスタミン薬とステロイド薬でアナフィラキシーを何とか対応できると考えている医師も、一定数いることは事実です。ルートを確保して、抗ヒスタミン薬とステロイド薬を投与して、なんとか治まったという経験があったりすると、すぐにアドレナリン打とうとは考えないかもしれません。PMDAの事例などを見ると、アナフィラキシーを起こした後、死亡に至るというのは数%程度です。そういった数字からも「すぐにアドレナリン」とならないのかもしれません。アナフィラキシーやアレルギーの診療に慣れている医師だと、「これはアドレナリンを打ったほうが患者さんは楽になるな」と判断して打っています。すごくきつい腹痛とか、皮膚症状が出て呼吸も苦しくなってきている時に打つと、すっと落ち着いていきますから。打てない、打たない医者たちを減らしていくには――打つタイミングで注意すべき点は。海老澤血圧が下がり始める前の段階で使わないと、1回で効果が出ないことがよくあります。「血圧がまだ下がってないからまだ打たない」と考える人もいますが、本来ならば血圧が下がる前にアドレナリンを使うべきだと思います。――「打ち切れない」ということでは、食物アレルギーの患者さんが所持している「エピペン」についても同様のことが指摘されていますね。海老澤文科省の2022年度「アレルギー疾患に関する調査」1)によれば、学校で子供がアナフィラキシーを発症した場合、学校職員がエピペン打ったというのは28.5%に留まっていました。一番多かったのは救急救命士で31.9%、自己注射は23.7%でした。やはり、打つのをためらうという状況は依然としてあるので、そのあたりの啓発、トレーニングはこれからも重要だと考えます。――教師など学校職員もそうですが、今回の事件で浮き彫りになった、アドレナリンを「打てない」「打たない」医師たちを減らしていくにはどうしたらいいでしょうか。海老澤エピペン注射液を患者に処方するには登録が必要なのですが、今回、コロナワクチンの接種を契機にその登録数が増えたと聞いています。登録医はeラーニングなどで事前にその効能・効果や打ち方などを学ぶわけですが、そうした医師が増えてくれば、自らもアドレナリン筋注を躊躇しなくなっていくのではないでしょうか。立位ではなく仰臥位にして、急に立ち上がったり座ったりする動作を行わない――最後に、2022年に改訂した「アナフィラキシーガイドライン」のポイントについて、改めてお話しいただけますか。海老澤診断基準の2番目で、「典型的な皮膚症状を伴わなくてもいきなり単独で血圧が下がる」、「単独で呼吸器系の症状が出る」といったことが起こると明文化した点です。食物によるアナフィラキシーは一番頻度が高いのですが、9割方、皮膚や粘膜に症状が出ます。多くの医師はそういったイメージを持っていると思いますが、ワクチンを含めて、薬物を注射などで投与する場合、循環器系や呼吸器系の症状がいきなり現れることがあるので注意が必要です。――初期対応における注意点はありますか。海老澤ガイドラインにも記載してあるのですが、診療経験のない医師や、学校職員など一般の人がアナフィラキシーの患者に対応する際に注意していただきたいポイントの一つは「患者さんの体位」です。アナフィラキシー発症時には体位変換をきっかけに急変する可能性があります。明らかな血圧低下が認められない状態でも、原則として立位ではなく仰臥位にして、急に立ち上がったり座ったりする動作を行わないことが重要です。2012年に東京・調布市の小学校で女子児童が給食に含まれていた食物のアレルギーによるアナフィラキシーで死亡するという事故がありました。このときの容態急変のきっかけは、トイレに行きたいと言った児童を養護教諭がおぶってトイレに連れて行ったことでした。トイレで心肺停止に陥り、その状況でエピペンもAEDも使用されましたが奏効しませんでした2)。アナフィラキシーを起こして血圧が下がっている時に、急激に患者を立位や座位にすると、心室内や大動脈に十分に血液が充満していない”空”の状態に陥ります。こうした状態でアドレナリンを投与しても、心臓は空打ちとなり、心拍出量の低下や心室細動など不整脈の誘発をもたらし、最悪、いきなり心停止ということも起きます。――そもそも動かしてはいけないわけですね。海老澤はい。ですから、仰臥位で安静にしていることが非常に重要です。とにかく医療機関に運び込めば、ほとんどと言っていいほど助けられますから。アナフィラキシーは症状がどんどん進んで状態が悪化していきます。そうした進行をまず現場で少しでも遅らせることができるのが、アドレナリン筋注なのです。(2024年1月23日収録)参考1)令和4年度アレルギー疾患に関する調査報告書/日本学校保健会2)調布市立学校児童死亡事故検証結果報告書概要版/文部科学省

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第203回 コロナワクチン有償化へ、最も弊害を受ける関係者とは

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の生後6ヵ月以上の国民に対する全額公費でのワクチン接種がついに3月31日に終了する。2024年4月1日から新型コロナはインフルエンザと同じく個人での予防を主眼とする予防接種法のB類疾病となり、ワクチン接種の対象者を65歳以上の高齢者および60~64歳で心臓、腎臓または呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される人、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染で免疫機能に障害があって日常生活がほとんど不可能な人とし、秋冬の定期接種へと切り替わる。これ自体は現状を考えれば、多くの医療従事者が納得するだろう。B類疾病となれば、ご存じのように定期接種対象者は無償とはいかない。厚生労働省が示した自己負担額の標準的な接種費用は7,000円である。ワクチン製造企業に対する非公開ヒアリングで希望小売価格を聞いた結果を踏まえ、ワクチン価格を1万1,600円とし、これに医師の手技料3,740円を加え、接種1回あたりの費用は1万5,300円程度と試算。国は接種1回あたり8,300円を助成金として自治体に交付する計画だ。また、従来からB類疾病の定期接種は、住民税非課税世帯や生活保護世帯の対象者は無償なため、これを念頭に市区町村には接種費用総額の3割を地方交付税として手当てする1)。ワクチン価格は私個人の予想からそう外れてはいなかったが、接種対象者の自己負担額はインフルエンザワクチンの約4倍。新規モダリティのワクチンであるため、この価格はある意味仕方ないが、消費者目線ではかなりに高いと言える。おそらく市区町村によっては、接種対象者の自己負担分も負担して無料にするところも出てくるだろうが、全体から見れば、おそらくそれは少数派ではないだろうか?こうなると定期接種対象者の中には接種の差し控えも増えてくるだろうと思われる。もっとも国内の高齢者の新型コロナワクチン接種率は3回目までで90%超、4回目以降の総接種回数も2024年3月17日現在9,364万7,589回であることを考えれば、この先1年程度の短期で見るならば、高齢者での感染拡大とそれに伴う重症者・死亡者の増加懸念はそれほど大きくはないだろうと個人的には受け止めている。ただ、長期的に見ると、やや違う見方ができる。とりわけ高齢者に関わる層の接種率の低下が不安要素の一つだ。代表格は若年の医療従事者と介護関係者だが、これまでのインフルエンザでの経験や個人あるいは所属組織の可処分所得から考えると、懸念すべきは後者の介護従事者である。医療従事者と比べても重症化リスクの高い高齢者に集中的に接する介護従事者の平均給与(手当・賞与を含む)は、厚生労働省の「令和4年度介護従事者処遇等調査結果」によると、同年12月時点で月額31万8,230円。国税庁による「令和3年分民間給与実態統計調査」の民間給与所得者の平均給与月額(同調査年額を月額換算)36万9,417円と比べれば、5万円以上の格差がある。ちなみに前述の介護職員の平均給与月額は、岸田 文雄首相が就任直後から介護・看護・保育従事者の賃上げを政権の重要方針に掲げ、介護従事者に関しては2022年2月から補助金、同年10月から介護職員等ベースアップ等支援加算を介護報酬に新設した後の結果である。実際、同調査結果からは前年同月と比べて平均給与月額は1万7,490円増えたが、それでもまだこれほどの格差があるのだ。この状態で介護従事者を任意接種にして1万5,000円以上の自己負担を求めるのはやや酷である。さらに今さら言うまでもなく、人によってはこの経済的負担に加え、接種後2~3日の倦怠感と発熱の副反応という肉体的負担を凌がなければならない。しかも、高齢者施設の経営状況は近年厳しさを増している。独立行政法人福祉医療機構が2月上旬に発表したデータによると、施設系サービスの代表格とも言える特別養護老人ホームのサービス活動収益対サービス活動増減差額比率(企業で言えば利益率に相当)は、2022年度で従来型が0.3%、ユニット型が4.1%。それぞれ前年度から1.1ポイント、0.7ポイント低下している。同年度の赤字施設割合は従来型が48.1%、ユニット型が34.5%で、いずれも前年度から拡大し、従来型の約半数が赤字となる極めて深刻な状況だ。施設側に介護従事者のワクチン接種を補助できる余裕はないと言ったほうがよいだろう。インフルエンザワクチンの接種に関しては、東京都目黒区のように高齢者施設を含む入所系福祉施設職員への接種補助を行っているケースもあるが、まだ稀な動きである。確かに現時点での高齢者の新型コロナワクチン接種率を考えれば、介護従事者の持ち込みによる感染・発症が発生しても、重症化は短期的には避けられるかもしれない。しかし、新型コロナでは感染・発症を繰り返すほど、後の重症化リスクが高まるとの報告もある。また、昨今の変異株に対し新型コロナワクチンの感染・発症予防効果は低下している。介護従事者などを通じて施設に繰り返し感染が持ち込まれれば、あまり良い結末は想像できないはずである。その意味で、とりわけ介護従事者の新型コロナワクチン接種に関しては、別枠の補助を設けたほうが望ましいのではないかと個人的には思わずにいられないのだが…。参考1)厚生労働省:新型コロナウイルスワクチンの接種について(令和6年3月15日)

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酒で顔が赤くなる人は、コロナ感染リスクが低い?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック時、日本は欧米などと比較して人口当たりの感染率・死亡率が低かったことが報告されている1,2)。この要因としては、手洗いやマスクなどの感染予防策が奏効した、日本の高い衛生・医療水準によるものなどの要因が考えられているが、アジア人に多い遺伝子型も一因となっている可能性があるとの報告がなされた。佐賀大学医学部 社会医学講座の高島 賢氏らによって国内で行われた本研究の結果は、Environmental Health and Preventive Medicine誌に2024年3月5日掲載された。 日本人をはじめとした東アジア人には、アルコールを分解するアルデヒド脱水素酵素2型(ALDH2)の活性が弱く、飲酒時に顔が赤くなる特性を持つ人(rs671変異体)が多い。研究者らは、遺伝子型と新型コロナウイルス感染の防御効果の関連を検証するため、rs671変異体の代替マーカーとして飲酒後の皮膚紅潮現象を用い、後ろ向きに解析した。調査はWebツールを使って2023年8月7~27日に行われ、参加者は感染歴、居住地、喫煙・飲酒歴、既往症などの質問に回答した。 主な結果は以下のとおり。・計807例(女性367例、男性440例)から有効回答を得た。362例が非紅潮群、445例が紅潮群だった。・2019年12月~23年5月の42ヵ月間の観察期間全体で、非紅潮群は40.6%、紅潮群は35.7%がCOVID-19に感染した。年齢、性別、居住地等で調整後、初感染までの時間は紅潮群のほうが遅い傾向があった(p=0.057)。・COVID-19による入院例は、非紅潮群は2.5%、紅潮群は0.5%であった。COVID-19感染および関連した入院リスクは、紅潮群で低かった(p=0.03および<0.01)。・日本人の多くがCOVID-19ワクチンの2回接種を終える前である2021年8月31日までの21ヵ月間では、紅潮群の非紅潮群に対するCOVID-19感染のハザード比は0.21(95%信頼区間:0.10~0.46)と推定された。 研究者らは、「本研究は、飲酒後の皮膚紅潮現象とCOVID-19の感染および入院のリスク低下との関連を示唆しており、rs671変異体が防御因子であることを示唆している。本研究は感染制御に貴重な情報を提供するとともに、東アジア人特有の体質の多様性を理解する一助となる」としている。

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ワクチン接種、腕を交互にすることで免疫力アップ?

 ワクチンを複数回接種する際には、接種する腕を同じ側にするのではなく交互にかえることで、より高い効果を得られる可能性があるようだ。新型コロナワクチンの2回目接種時に接種する腕を逆にした人の方が、同側の腕に接種した人よりも免疫力が高いことが確認された。米オレゴン健康科学大学の感染症専門医であるMarcel Curlin氏らによるこの研究結果は、「The Journal of Clinical Investigation」に1月16日掲載された。 研究グループは、「新型コロナワクチンに関しては、パンデミック時にすでに何百万人もの米国人が複数回の接種を受けたので、今回の研究で得られた知見はもはやさほど重要ではないかもしれないが、小児用予防接種を含む複数回接種のワクチン全てに影響を与える可能性がある」述べている。 今回の研究でCurlin氏らは、新型コロナワクチンを2回接種した947人(平均年齢44.5歳、女性73%)を対象に、2回目接種を初回と同じ腕に受けた場合(同側)と反対側の腕に受けた場合(対側)とで血清中の特定の抗体反応がどのように変わるのかを評価した。対象者のうち507人は同側に、440人は対側に接種を受けていた。 その結果、対側群では同側群に比べて新型コロナウイルスに特異的な抗体の抗体価(以下、総抗体価)が時間とともに有意に増加しており、2回目接種の後(約21日後)で1.2倍(P=0.020)、3回目接種の直前(0.5日前、2回目接種から約8カ月後)と接種後(2回目接種から約14カ月後)では1.4倍(P<0.001)であることが示された。新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の受容体結合部位(RBD)に特異的な抗体(IgG抗体)についても、3回目接種直前で同側群の1.2倍(P=0.004)、3回目接種後で1.3倍(P=0.021)と同様の傾向が認められた。 次に、年齢、性別、ワクチンの接種間隔を一致させた54組の抗体価の推移を検討した。その結果、対側群の総抗体価とIgG抗体価は、3回目接種直前で同側群の1.7倍と1.5倍、3回目接種後で1.3倍と1.7倍であることが示された。さらに、初期の新型コロナウイルスに近い擬似ウイルスと、南アフリカで2021年11月に最初に報告されたオミクロン変異株(B.1.1.529)に対する中和抗体価を調べたところ、3回目接種直前では擬似ウイルスに対する中和抗体価について対側群と同側群の間に有意差は認められなかった。しかし3回目接種後では、対側群での擬似ウイルスに対する中和抗体価は同側群の約2倍、また、B.1.1.529に対する中和抗体価は約3.5〜4倍、有意に高かった(いずれもP<0.001)。 Curlin氏は、「この結果についてはさらに詳しく調査する必要があるため、現時点で、2回目は初回と反対側の腕に接種するべきだと推奨するつもりはない」と述べつつも、「全ての条件が同じであれば、反対側の腕に接種することを検討すべきだ」と話している。 一方、トロント大学(カナダ)免疫学分野のJennifer Gommerman氏はNew York Times紙に対し、「カナダでの新型コロナワクチン接種で行われたように、接種間隔を3カ月から4カ月に延長する方が、接種する腕の切り替えを行うよりも大きなベネフィットをもたらす可能性がある」と語る。同氏はさらに、「免疫不全患者にとっては、免疫力を高める助けになることなら何であれ試してみて損はない」ため、こうした接種方法の効果を研究する価値はあるとの見方を示している。

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第204回 アドレナリンを「打てない、打たない」医者たちを減らすには(前編) アナフィラキシーが呼吸器系の症状や循環器症状が単独で起こった場合は判断が難しい

インタビュー: 海老澤 元宏氏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター長)昨年11月8日掲載の、本連載「第186回 エピペンを打てない、打たない医師たち……愛西市コロナワクチン投与事故で感じた、地域の“かかりつけ医”たちの医学知識、診療レベルに対する不安」は、2023年に公開されたケアネットのコンテンツの中で最も読まれた記事でした。同記事が読まれた理由の1つは、この事故を他人事とは思えなかった医師が少なからずいたためだと考えられます。そこで、今回と次回はこの記事に関連して行った、日本アレルギー学会理事長である海老澤 元宏氏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター長)へのインタビューを掲載します。愛西市コロナワクチン投与事故の背景には何があったと考えられるのか、「エピペンを打てない、打たない医師たち」はなぜ存在するのか、「アナフィラキシーガイドライン2022」のポイントなどについて、海老澤氏にお聞きしました。(聞き手:萬田 桃)アドレナリンは“心肺蘇生に使う薬”というイメージを抱いている方がまだまだ多い――この記事が多くの読者に読まれた理由について、先生はどうお考えですか。海老澤タイトルにあるように、「エピペンを打てない、打たない医師」は実際に少なくなく、そうした方が読んだということが1つ考えられます。また、ワクチンの集団接種会場ということで、医師会などから依頼されて医師等が接種を行うわけですが、アナフィラキシーなど、万が一のことが起こった場合に、その場ですぐに全身管理ができるような体制は多くの会場で整っていなかったと考えられます。そういった意味で、「自分にも起こり得た事件だった」と捉えた方も多かったのかもしれません。――「エピペン」こと、アドレナリンを「打てない、打たない医師」はまだ結構いるのでしょうか。海老澤アドレナリンの筋肉注射については、僕らの世代から上の医師だと、”心肺蘇生に使う薬”というイメージを抱いている方がまだまだ多い印象です。最近は、医師国家試験でもアナフィラキシーの時のアドレナリン筋注は第一選択だということが設問になるくらいで、若い医師たちには十分浸透していることだと思います。しかし、一方で少し世代が上になると、「まずアドレナリン筋注」とは考えない医師は存在します。使った経験がない人だと躊躇してしまうことはある――今回のコロナワクチンのアナフィラキシーに最初に対応した医師は、事故報告書によれば「内科医、医師歴5年以上10年未満」となっていました。海老澤比較的若い医師だったのですね。今回のケースに当てはまるかどうかはわかりませんが、アナフィラキシーの患者にこれまで遭遇したことがある医師は、アナフィラキシーの患者を目の前にして、すぐに筋注しても問題はないと理解していると思うのですが、使った経験がない人だと躊躇してしまうことはあると思います。これまでにアナフィラキシーの患者さんを1人も診たことがなく、対処法に慣れていない医師は全国で少なくないと思います。仮に病院での治療中に起きたアナフィラキシーだったら、筋注後すぐにICUに運びルートを取り、アドレナリンを希釈して投与することも可能です。酸素投与もできます。また、手術中であればすでにルートが取れているので、即時対応が可能です。しかし、アナフィラキシーの初期対応としてアドレナリン筋注(0.1%アドレナリンの筋肉内注射、またはアドレナリン自己注射用製剤〈エピペン0.3mg製剤の投与〉)が第一選択だというのは基本中の基本です。もちろん、糖尿病や高血圧、動脈硬化など基礎疾患があるような方だと、アドレナリンを打って血圧が急上昇して脳出血を起こしたりするリスクは全くゼロではありません。そうしたリスクとベネフィットを考えて投与するわけですが、打って害になることは少ないと思います。アナフィラキシーが呼吸器系の症状や循環器症状が単独で起こった場合は判断が難しい――報告書によれば、看護師の1人は、アナフィラキシーの可能性を考え、アドレナリン1mgプレフィールドシリンジに22ゲージ針を付け、医師の指示があればいつでも筋注できるよう準備をしていましたが、「医師の判断を尊重するため、アドレナリンの準備ができていることを積極的に伝えようとはしなかった」とのことです。海老澤なるほど。ただ、そこは医師の判断ですから難しいですね。あともう1つ考えられるのは、アナフィラキシーの症状が典型的なパターンではなく、それが見逃しにつながった可能性です。――報告書では、「接種前から体調不良、呼吸苦があったようだという看護師からの情報と、粘膜所見、皮膚所見、掻痒感、消化器症状など『アナフィラキシーで典型的な症状』がなかったことから、女性の病態はアナフィラキシーの可能性が低いと判断し、アドレナリンの筋肉内注射を第一治療選択から外した」と書かれています。海老澤アナフィラキシーが呼吸器系の症状や、血圧低下などの循環器症状が単独で起こった場合は、判断が難しいというのは確かにあります。2022年に改訂した「アナフィラキシーガイドライン」1)では、診断基準が2つに集約されました。1つは、「皮膚、粘膜、またはその両方の症状(全身性の蕁麻疹、瘙痒または紅潮、口唇・舌・口蓋垂の腫脹など)が急速に(数分~数時間)で発症した場合」。もう1つが「典型的な皮膚症状を伴わなくても、当該患者にとって既知のアレルゲンまたはアレルゲンの可能性が高いものに曝露された後、血圧低下または気管支痙攣または咽頭症状が急速に(数分〜数時間)で発症した場合」となっています。この2番目は、循環器症状と呼吸器症状の単独の場合を言っているわけです。アナフィラキシーの基本は皮膚症状なのですが、典型的な皮膚症状がなくても、アナフィラキシーを疑う場面で、血圧低下または気管支攣縮、咽頭症状などの呼吸器症状があればアドレナリンを打つ、というのが2022年改訂の大きなポイントです。ワクチンもそうですが、薬剤等の場合にこうした呼吸器症状、循環器症状単独のアナフィラキシーが起こりやすく、かつ症状が進行するスピードも早く時間的余裕もないので、そこはとくに注意が必要です。重症の方の場合、アドレナリン投与1回では効かないこともある――今回の事故で「打たなかった」背景にはいろいろな原因が考えられるわけですね。海老澤今回の事例に直接当てはまるかどうかは軽々に言えませんが、「アナフィラキシーの典型的な症状ではなく判断が難しかった」「アナフィラキシーに対する医療者の経験値、慣れが足りなかった」「何か起こった場合に対応する医療体制が乏しかった」ことなどが教訓として挙げられると思います。ただ、症状の進行はものすごく速かったと考えられるので、アドレナリンの1回の筋注で軽快していたかどうかはわかりません。重症の方の場合、アドレナリン投与1回では効かないこともあります。それでもダメな場合は、ルートを取って輸液したり、酸素を投与したりと全身管理が必要になってきます。救命できるかどうかは、そういった一連の流れの中で決まってきます。(この項続く)(2024年1月23日収録)【事故の概要】2022年11月、愛知県愛西市の集団接種会場で、新型コロナワクチンを接種した女性(当時42)が直後に容体が急変し死亡しました。愛西市がまとめた報告書2)によれば、接種4分後から女性に咳嗽と呼吸苦が発現したにもかかわらず、看護師らは「ワクチン接種前からマスク着用の圧迫感による過呼吸発作状態にあったもの」と解釈していました。また、体調不良者が出たことで対応を依頼された医師も「接種前から体調不良、呼吸苦があったようだ」という看護師からの情報と、粘膜所見、皮膚所見、掻痒感、消化器症状など「アナフィラキシーで典型的な症状」がなかったことから、女性の病態はアナフィラキシーの可能性が低いと判断し、アドレナリンの筋肉内注射を第一治療選択から外してしまいました。女性は接種14分後に心停止、3次救急病院に搬送されるも到着時にはすでに心肺停止状態で、心肺蘇生を試みた後、死亡が確認されました。報告書で愛西市医療事故調査委員会は、「ワクチン接種後待機中の患者の容体悪化(咳嗽、呼吸苦の訴え)に対し、看護師らがアナフィラキシーを想起できなかったこと、問診者に接種前の患者の状態を確認することなく、患者は接種前から調子が悪かったと解釈したことは標準的ではなかった。また、その情報に影響を受け、ワクチン接種後患者の容体変化に対し、アドレナリンの筋肉内注射が医師によって迅速になされなかったことは標準的ではなかった」とし、「本事例は、ワクチン接種後極めて短時間に患者が急変し、死亡に至ったものである。非心原性肺水腫による急性呼吸不全及び急性循環不全が直接死因であると考えられ、この両病態の発症にはアナフィラキシーが関与していた可能性が高い。本事例は短時間で進行した重症例であることから、アドレナリンが投与されたとしても救命できなかった可能性はあるが、特に早期にアドレナリンが投与された場合、症状の増悪を緩徐にさせ、高次医療機関での治療につなげ、救命できた可能性を否定できない」と結論付けました。参考1)アナフィラキシーガイドライン2022/日本アレルギー学会2)事例調査報告書/愛西市

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第186回 65歳以上のコロナワクチン定期接種、自己負担は7,000円に/厚労省

<先週の動き>1.65歳以上のコロナワクチン定期接種、自己負担は7,000円に/厚労省2.医師国家試験合格者、7年連続9,000人超え/厚労省3.進む医師の働き方改革、診療体制の縮小が課題に/厚労省4.地域医療構想の加速化、国がモデル推進区域を選定/厚労省5.ゲノム医療に共同提言、エビデンスなき遺伝子検査ビジネスに警鐘/医学会・日医6.労組結成後のストライキ、医療法人が職員に莫大な損賠を請求/大阪1.65歳以上のコロナワクチン定期接種、自己負担は7,000円に/厚労省厚生労働省は、2024年度から65歳以上の高齢者を中心とした新型コロナウイルスワクチンの定期接種開始について、自己負担額が最大7,000円程度に設定することを発表した。これまで無料で提供されていたワクチン接種が、4月からは季節性インフルエンザワクチン同様、一部自己負担が必要な定期接種へと移行する。接種費用は、1回当たり約1万5,300円と見積もられ、このうち8,300円を国が市町村に助成し、残額を個人が負担する形となる。ただし、市町村による独自の補助がある場合、実際の自己負担額はこれより低くなる可能性がある。定期接種の対象は、65歳以上の高齢者と60~64歳で基礎疾患がある人に限られ、それ以外の人は任意接種として全額自費負担となるが、低所得者に対しては無料接種が継続される。厚労省は、新型コロナワクチンの価格が想定より3倍以上高額になることを受け、急激な自己負担額の増加を緩和するために追加助成を行うことを上記のように決定した。今後、新型コロナウイルスワクチンの接種は、年1回秋冬の接種となり、65歳未満で健康な人は4月以降、定期接種の対象ではなく任意接種の扱いとなるため、自己負担額は7,000円を超える見込み。参考1)コロナ定期接種、自己負担7,000円程度 24年度65歳以上(日経新聞)2)新型コロナワクチン、自己負担7,000円程度に 4月から国の助成で(毎日新聞)3)新型コロナ ワクチン定期接種の自己負担額 最大約7,000円で決定(NHK)4)コロナ定期接種、最大7千円負担 4月から65歳以上対象 厚労省(産経新聞)2.医師国家試験合格者、7年連続9,000人超え/厚労省2024年3月15日、厚生労働省は、2月に実施された第118回医師国家試験の結果を発表した。合格率は92.4%に達し、前年比0.8ポイント上昇、過去10年で最高を記録した。合格者数は9,547人で、7年連続で9,000人を超える結果となった。とくに、新卒者の合格率は95.4%で、全体の合格者数の中で9,048人を占めた。女性合格者は3,307人(全体の34.6%)、男性は6,240人で、男女別の合格率はそれぞれ91.7%、93.6%だった。学校別の合格率では、自治医科大学が新卒・既卒共に100%の合格率を達成し、このほか群馬大学医学部、名古屋大学医学部、東海大学医学部も新卒者の合格率が100%だった。ほかに高い合格率を示した学校では、国際医療福祉大医学部99.2%、兵庫医科大学99.1%、産業医科大学99.0%などがあった。合格基準については、必修問題の採点に一般問題を1問1点、臨床実地問題を1問3点とし、200点満点中160点以上が合格ラインとされた。また、一般問題と臨床実地問題はそれぞれ1問1点で、300点満点中230点以上が必要となった。今回の医師国家試験は、過去10年間で最も高い合格率を記録し、医療界への新たな人材の供給が期待されている。また、性別や大学別のデータは、今後の医療教育の改善や方針策定に役立つ貴重な情報となる。参考1)第118回医師国家試験の合格発表について(厚労省)2)医師試験9,547人合格 厚労省発表(東京新聞)3)医師国家試験、合格率92.4% 新卒の合格者は9千人を突破(CB news)4)第118回医師国家試験(2024年)合格発表…合格率92.4%(リセマム)5)医師国家試験2024、自治医科大学100%合格…学校別合格率(同)3.進む医師の働き方改革、診療体制の縮小が課題に/厚労省2024年4月の医師の働き方改革施行を控え、厚生労働省は、労働時間の上限規制に関する「C水準」の上限見直しを検討している。C水準は、研修医や高度な技能を目指す医師に適用される特例で、現在は年間1,860時間の上限が設けられている。厚労省は、医師の労働時間短縮推進と、地域医療の提供体制と働き方改革の関係に焦点を当て、具体的な対応策の検討を進めている。その一方で、「医療機関勤務環境評価センター」が受け付けた医師の労働時間短縮の取り組みに対する評価の申し込みは、想定を下回る483件に留まっている。これは、タスクシフトや労働基準監督署長による宿直許可取得など、働き方改革が進んだ結果とみられている。厚労省は、診療体制の縮小や派遣医師の引き揚げによる地域医療への影響を調査することで、改革の実施に伴う課題に対応していきたいとしている。また、全国約7,000医療機関を対象にした調査では、49医療機関で派遣医師の引き揚げによる診療体制の縮小が見込まれ、地域医療への影響が懸念されている。これに対し、厚労省は、地域医療の維持に向けた支援策を強化する方針。働き方改革の影響調査や都道府県との連携による医療機関の支援は、改革の進展に伴い重要性を増している。労働時間の短縮だけでなく、地域医療の維持と医師のスキルアップを両立させるための施策が求められ、これらの取り組みは、医師の働き方改革が単なる時間規制に留まらず、より質の高い医療サービスの提供と医師自身のキャリア発展を促す方向に進むことを示している。参考1)第19回医師の働き方改革の推進に関する検討会(厚労省)2)派遣医師の引き揚げで49施設が診療体制縮小の可能性-働き方改革準備状況調査(医事新報)3)医師の働き方改革“地域医療への影響調査を”厚労省検討会(NHK)4)医師働き方改革に向け都道府県-医療機関の連携深化、2024年4月以降も勤務医の労働環境・地域医療への影響を注視-医師働き方改革推進検討会(Gem Med)5)医師の時短評価受審申し込み483件、想定下回る 厚労省「働き方改革が進んだため」(CB news)6)C水準の上限見直し検討へ、厚労省方針 働き方改革推進の課題に「縮減のあり方」(同)7)診療体制縮小の見込み「あり」457カ所 医師の残業上限規制で、厚労省調査(同)4.地域医療構想の加速化、国がモデル推進区域を選定/厚労省厚生労働省は、3月13日に第8次医療計画等に関する検討会の分科会の地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループを開き、地域医療計画の進捗などについて討論した。第8次医療計画の策定に向けて、各都道府県に対して「推進区域」と「モデル推進区域」を指定し、支援を実施する方針を固めた。この後ワーキンググループでの了承を経て、厚労省は今後の詳細な計画を策定し、通知として各都道府県へ発出する予定。人口動態の変更を加味し、2次医療圏ごとに病床の必要量と実際の見込み病床数の乖離、医療提供体制の課題解決に向けた工程表作成など、地域ごとの取り組みには差がある。国は、これらの課題に対して「地域の医療提供体制の見える化」「都道府県が行うべき事項のチェックリスト作成」などの支援を提供することで、2025年の目標実現を促進する。とくに注目されるのは、地域医療構想の実現に向けた具体的な支援策。これには、地域別の病床機能などのデータの可視化、都道府県および医療機関の好事例の共有、地域医療介護総合確保基金などの支援策の活用方法の周知、都道府県や医療機関の取り組みを評価するチェックリストの作成と公表が含まれる。また、モデル推進区域では、伴走支援として技術的、財政的支援を実施する。この新方針に対する構成員からの意見も考慮され、推進区域やモデル推進区域の選定、医師働き方改革の影響の検討、ポスト地域医療構想に向けた準備など、今後の地域医療の提供体制構築に向けた課題と解決策が議論されている。参考1)第14回地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ(厚労省)2)地域医療構想実現に向けた取り組みはバラつき大、国が「推進区域、モデル推進区域」指定し支援実施-地域医療構想・医師確保計画WG(Gem Med)5.ゲノム医療に共同提言、エビデンスなき遺伝子検査ビジネスに警鐘/医学会・日医日本医学会と日本医師会は、3月13日共同で記者会見を開き、「ゲノム医療の推進に関する共同提言」を発表した。ゲノム研究の国際競争が激化する中、わが国の国家的な体制整備の遅れに対する危機感を表明し、オープンサイエンスの推進と大規模な基盤構築の必要性を強調している。また、ゲノム情報の取り扱いに関し、不当な差別を防ぐための罰則を含む法整備も求めた。2023年6月に公布されたゲノム医療推進法は、良質かつ適切なゲノム医療の提供を目的としている。日本医学会は142の分科会の意見を取り入れ、提言ではゲノム医療が医学・医療分野全体に関わる事項であることを強調、国家レベルでの大規模データ収集とその利活用の進め方、オープンサイエンスの理念の重要性を指摘している。また、ゲノム医療の推進が厚生労働省だけでなく、総務省、文部科学省、経済産業省など関連するすべての省庁にまたがる課題でもあるとしている。具体的な提案としては、ゲノム医療に関する特別法の制定、遺伝・ゲノムリテラシーの向上、遺伝子検査ビジネスの規制などが挙げられている。また、遺伝カウンセリング体制の充実やゲノム情報に基づく不利益や差別の防止に向けた罰則のある法律の策定も求められている。そして、提言では、ゲノム医療の安心・安全な提供とその推進に向けた国家的な取り組みの加速を促すもので、わが国が新たな科学立国としての地位を世界に示し、サイエンス分野での地位の維持と向上に直結するものであるとの視点から、具体的な行動計画の策定と実施が急務であると訴えている。参考1)ゲノム医療推進のため大規模な基盤構築を-日本医学会と日医が提言(医事新報)2)「良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律」に関する提言について(日本医学会・日本医師会)6.労組結成後のストライキ、医療法人が職員に莫大な損賠を請求/大阪大阪地域合同労働組合は、大阪市で開かれた記者会見で、クリニックの待遇改善を求めてストライキを行った男性組合員とその労働組合に対し、運営する医療法人から約8,400万円の損害賠償を請求されたことを公表した。この訴訟提起は、組合活動を抑圧する目的で行われたスラップ訴訟(訴訟による嫌がらせ)に当たると主張し、「組合つぶしの意図が明らかで不当である」と非難している。被告の男性組合員は、大阪にある精神科「ブレインクリニック」の職員で、2022年10月に同僚らと合理性のない基本給の減給廃止、昇給制度廃止の撤廃などの待遇悪化および診療方針の改善を求めて労働組合を結成し、大阪地域合同労組に加盟した。しかし、団体交渉での応答がゼロだったため、2023年8~11月にかけて、大阪および名古屋で合計6回のストライキを実施した。また、原告のクリニックは、発達障害の専門外来として経頭蓋磁気刺激治療(TMS)などの保険適用外の自由診療を提供していることが明らかにされている。医療法人による損害賠償請求は、労働者の組合活動を支援する大阪地域合同労組によって強く反発されており、今後の展開が注目されている。参考1)医療法人がストに損賠提訴 8,400万円、組合側反発(中日新聞)2)発達障害外来、学会の指針逸脱 クリニックが高額治療(共同通信)

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第202回 麻疹感染が拡大、“真の死亡率”が報道されていない?

昨今、国内での麻疹患者の確認が話題だ。今年に入り3月13日までに確認された麻疹患者は11人。わずか3ヵ月弱で昨年の報告数28人の3分の1以上に達している。日本での麻疹はほぼ輸入感染症の様相を呈しているため、コロナ禍による入国制限があった2020~22年各年の報告数は10人以下だった。もっとも麻疹が感染症法で全数報告となった2008年からコロナ禍前の2019年までの年間報告数は、最大が2008年の1万1,013人、最小が2015年の35人、それ以外の年は200人弱から700人超だったことを考えれば、現状はまだコロナ禍の入国制限の影響を引きずった一過性の減少と言えるだろう。実際、出入国在留管理庁の統計を参照すると、日本の年間出入国者は2022年が約1,353万人、2023年が約7,052万人で、コロナ禍前の2019年の1億264万人までは復活していない。加えて世界保健機関(WHO)から麻疹の排除認定を受けていないインド、インドネシア、中国、ロシアなど、従来から日本への入国者が多い国からの入国者もいまだ2019年水準から見て数分の1というレベルである。一方、国内事情を考えると気になるのが麻疹ワクチンの接種状況である。現在の麻疹ワクチン接種は、いわゆる風疹との混合ワクチンの2回接種がスタンダードとなり、概して言えば、定期接種対象者の接種率は1回目接種が95%以上、2回目接種が90%台前半だが、2018~22年の接種率は経時的に漸減傾向にあり、この5年間で2~3%低下している。2022年度の1回目接種率は95.4%、2回目接種率は92.4%で、集団免疫獲得の目安とされる95%を超えるのは香川県のみ。続いて北海道、鹿児島県、沖縄県は90%未満である。その意味で現在の状況はかなり警戒度を高めなければならないことは疑いようがない。メディア各社もこの現状と麻疹ウイルスの感染力の強さ、ワクチン接種の有効率の高さなどを盛んに報じている。これ自体は非常に良い傾向だと思っている。もっとも各社の報道を見ているとバラツキを感じるのも現実だ。私が気になっているのは2点。1点目はワクチン接種に関してだ。現在では2回接種が基本となっているが、2000年4月以前に生まれた人は1回接種だったため*、免疫獲得が不十分な人がいる。麻疹ワクチン接種1回以下の世代は現時点で全員が成人であり、未成年よりも行動半径が広く、この世代の確実な免疫獲得は感染拡大阻止の成否に直結すると言っても過言ではない。しかも、麻疹の場合、子供の病気で成人にはあまり関係ないと思っている人は想像以上に多いのも問題である。*1990年4月2日~2000年4月1日に生まれた人は特例措置で中学1年生、高校3年生相当年齢に2回目接種が実施されているが、受けていない人もいる。2点目は麻疹の死亡率に関する報道である。国内の報道を散見する限り、感染者1,000人当たり1人が死に至るとの報道がほとんどだ。これ自体は先進国に関する一般論では正しいが、あくまで一般論である。国立感染症研究所が公表している日本国内の感染状況の年報と厚生労働省の人口動態統計をもとに試算すると、この数字は高い年度だと約250人に1人の時もある。「そこまで細かくなくとも…」というご意見はあるだろう。しかし、人とは不都合な情報ほど都合よく解釈するものである。たとえば100人に1人の確率で起こる悪い事象の場合、多くの人は“自分にはそれが起こらない、99人のほうだ”と勝手に思い込んでいる。その意味では危機を身近に感じてもらうためには、やや恐怖訴求になってしまっても、起きているよりワーストな現実を伝えることも必要である。麻疹のような極めて感染力が強い感染症の場合、とりわけこのシナリオを適用するほうが向いているとさえいえる。そんなこんなで巷の報道を横目で眺めながら、隔靴掻痒の感を抱いている(もちろんこの点を踏まえて自分も一般向け記事を執筆しようと思っているが)。

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新規2型経口生ポリオワクチン(nOPV2)、有効性・安全性を確認/Lancet

 新規2型経口生ポリオウイルスワクチン(nOPV2)は、ガンビアの乳幼児において免疫原性があり安全であることを、ガンビア・MRC Unit The Gambia at the London School of Hygiene and Tropical MedicineのMagnus Ochoge氏らが、単施設で実施した第III相無作為化二重盲検比較試験の結果を報告した。nOPV2は、セービン株由来経口生ポリオウイルスワクチンの遺伝的安定性を改善し、ワクチン由来ポリオウイルスの出現を抑制するために開発された。著者は、「本試験の結果は、nOPV2の認可とWHO事前認証を支持するものである」とまとめている。Lancet誌オンライン版2024年2月22日号掲載の報告。ガンビアの乳児および幼児で、有効性、ロット間の同等性、安全性を検討 研究グループは、ガンビアにおいて2021年2~10月に、生後18週以上52週未満の乳児と1歳以上5歳未満の幼児を登録した。 乳児は、nOPV2の3ロットのうちの1つ(各群670例)またはbOPVの1ロット(335例)の計4群に、2対2対2対1の割合で無作為に割り付けられた。また、nOPV2の3群のうち、それぞれ224例は2回投与群(1回目投与の28日後に同じロットのnOPV2を投与)に、bOPV群も同様に112例が2回投与群に無作為に割り付けられた。 幼児は、nOPV2(ロット1)群またはbOPV群に1対1の割合で無作為に割り付けられ、28日間隔で2回投与を受けた。 免疫原性の主要アウトカムは、乳児におけるnOPV2ワクチン1回目投与28日後のポリオウイルス2型のセロコンバージョン(抗体陽転)率で、nOPV2の3群のうち各2群間のセロコンバージョン率の差の95%信頼区間(CI)が-10%から10%の範囲内にある場合、各ロットは同等であるとみなした。 忍容性および安全性の主要アウトカムは、投与後7日までの特定有害事象(solicited adverse events)、28日後までの非特定有害事象(unsolicited adverse events)、および投与後3ヵ月までの重篤な有害事象の発現率で、便中のポリオウイルス排泄量も調査した。全体で2回投与後の抗体保有率は93~96% 乳児2,346例が無作為に割り付けられ、2,345例がワクチンの投与を受け、2,272例が1回投与後の解析対象集団に、また746例が2回投与後の解析対象集団に組み入れられた。幼児は600例が無作為に割り付けられ、全例がワクチン投与を受けた。 乳児の1回投与群におけるセロコンバージョン率は、ロット1が48.9%、ロット2が49.0%、ロット3が49.2%であった。2ロット間のセロコンバージョン率の差の95%CIは、ロット1とロット2の比較で-5.5~5.4、ロット1とロット3の比較で-5.8~5.1、ロット2とロット3の比較で-5.7~5.2であり、ロット間の同等性が示された。 ベースラインにおいて血清陰性であった乳幼児におけるセロコンバージョン率は、乳児で1回投与後が63.3%(316/499例)(95%CI:58.9~67.6)、2回投与後が85.6%(143/167例)(79.4~90.6)、幼児ではそれぞれ65.2%(43/66例)(52.4~76.5)、83.1%(54/65例)(71.7~91.2)であった。 ベースラインにおいて血清陰性および血清陽性であった乳幼児における2回投与後の抗体保有率(血清中和抗体価が≧8を抗体保有と定義)は、乳児で92.9%(604/650例)(95%CI:90.7~94.8)、幼児で95.5%(276/286例)(92.4~97.6)であった。 安全性に関する懸念は認められなかった。1回目投与の7日後にポリオウイルス2型の排泄を認めた乳児は、187例中78例(41.7%)(95%CI:34.6~49.1)であった。

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小児インフルワクチン接種は10月がおすすめ?(解説:栗原宏氏)

Strong point ・82万人を対象とした大規模調査・接種時期と診断率の大規模な検討は日本では非常に実施困難Limitation・国土の広い米国では、インフルエンザの蔓延ピークやワクチンの接種状況が地域によって異なる可能性がある・対象は民間保険に加入している小児であり、対象として一般化できない可能性がある・有意差があるとしても実感できるほど大きな差ではない? インフルエンザワクチン接種後の免疫獲得と持続期間を考慮し、米国では9~10月に接種することが推奨されている。 米国では民間保険に加入した小児のワクチン接種が行われており、誕生月に基づいてインフルエンザワクチンを含むワクチン接種スケジュールが組まれている。これを踏まえて本研究では、インフルエンザワクチン接種月とインフルエンザ感染率を比較し、インフルエンザワクチン接種の最適な時期を検討している。本調査では交絡の可能性はあるものの、10月生まれ(=10月にワクチン接種)群の感染率が他の月より有意に低く、推奨されている9~10月という接種時期の妥当性が裏付けられた。 日本国内におけるインフルエンザワクチン接種は任意であり、その接種の時期について公的な推奨時期は設けられていない。ワクチン接種は出荷されたワクチンが医療機関に出回り始めた10月頃から開始され、12月頃までに実施されているのが実情であろう。統計的には有意差があるとはいえ、実社会で有効性が体感できるかは不明だが、本調査を踏まえるならば、就学前の子供に関しては、10月の接種開始後なるべく早めの接種が望ましいと考えられる。※日本におけるインフルエンザワクチンは、1962年から推奨接種、1977年から予防接種法により接種が義務化され、小中学生に集団接種されるようになった。しかしながら副反応による訴訟が相次いだことから、1987年に保護者の同意を得た希望者に接種する方式に変更となり、1994年には任意接種となった。厚労省のデータによれば、1994年以降の数年は供給が激減したが、その後は増加傾向となっている。近年の小児へのインフルエンザワクチン接種率は50-60%程度とされている。

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第205回 コロナ感染で自己免疫性リウマチ性疾患が生じ易くなる

コロナ感染で自己免疫性リウマチ性疾患が生じ易くなる日本と韓国のそれぞれ1,200万例強と1,000万例強のデータを使った試験で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と自己免疫性炎症性リウマチ性疾患(AIRD)のリスク上昇が関連しました1,2)。自己抗原の許容が損なわれて生じる慢性の全身性筋骨格系炎症疾患一揃いがAIRDに属します3)。具体的には、関節リウマチ(RA)、強直性脊椎炎(AS)、全身性エリテマトーデス(SLE)、全身性硬化症(SSc)、シェーグレン症候群、特発性炎症性筋炎、全身性血管炎がAIRDに含まれます。COVID-19患者がAIRDに含まれるそれら自己免疫疾患をどうやらより生じ易いことが先立ついくつかの試験で示唆されています。それらの試験はいずれも新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染者と非感染者の比較に限られ、インフルエンザなどの他のウイルス感染ではどうかは調べられていません。また、COVID-19後の長期の合併症の予防に寄与しうるワクチン接種などの影響の検討もなされていません。今回新たに発表された試験では、COVID-19後のAIRD発生率が非感染者に加えてインフルエンザ感染者とも比較されました。COVID-19後のAIRD発生率上昇がもし認められたとして、それがCOVID-19に限ったことなのか呼吸器のウイルス感染症で一般的なことなのかをインフルエンザとの比較により推し量ることができるからです。また、COVID-19ワクチンにSARS-CoV-2感染後のAIRD予防効果があるかどうかも調べられました。試験ではCOVID-19かインフルエンザの患者のそれらの診断から12ヵ月までの経過とそれらのどちらも感染していない人(非感染者)の経過を追いました。その結果、先立つ試験と同様にCOVID-19患者は非感染者に比べてAIRDをより被っていました。また、COVID-19患者のAIRD発生率はインフルエンザ患者より高いことも示されました。韓国と日本のCOVID-19患者のAIRD発生リスクは非感染者をそれぞれ25%と79%上回りました。また、インフルエンザ患者との比較ではCOVID-19患者のAIRD発生率がそれぞれ30%と14%高いという結果となっています。軽症のCOVID-19患者ではワクチン接種とAIRD発生率低下の関連が認められましたが、中等症~重症のCOVID-19患者ではワクチン接種のAIRD抑制効果は認められませんでした。また、より重症のCOVID-19患者ほどAIRDをより被っていました。COVID-19を経た患者、とくに重症だった患者の診察ではAIRDの発生に注意する必要があると著者は言っています。参考1)Kim MS, et al. Ann Intern Med. 2024 Mar 5. [Epub ahead of print]2)COVID-19 associated with increased risk for autoimmune inflammatory rheumatic diseases up to a year after infection / Eurekalert3)Kim H, et al. Semin Arthritis Rheum. 2020;50:526-533.

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第185回 国内外で広がるはしかの脅威、予防接種の呼びかけ/厚労省

<先週の動き>1.国内外で広がるはしかの脅威、予防接種の呼びかけ/厚労省2.地域包括医療病棟の導入で変わる高齢者救急医療/厚労省3.電子処方箋の導入から1年、病院での運用率0.4%と低迷/厚労省4.公立病院の労働環境悪化、公立病院の勤務者の8割が退職願望/自治労5.見劣りする日本の体外受精の成功率、成功率を上げるためには?6.ALS患者嘱託殺人、医師に懲役18年の判決/京都地裁1.国内外で広がるはしかの脅威、予防接種の呼びかけ/厚労省厚生労働省の武見 敬三厚生労働省大臣は、関西国際空港に到着したアラブ首長国連邦(UAE)発の国際便に搭乗していた5人から、はしかの感染が確認されたことを3月8日に発表した。この感染者は、2月24日にエティハド航空EY830便で関空に到着し、岐阜県で1人、愛知県で2人、大阪府で2人が感染していることが判明している。武見厚労相は、はしかの感染疑いがある場合、公共交通機関の利用を避け、医療機関に電話で相談するよう国民に強く呼びかけた。また、はしかは空気感染するため、手洗いやマスクでは予防が難しく、ワクチン接種が最も有効な予防策であることを強調した。はしかは世界的に流行しており、2023年の感染者数は前年の1.8倍の30万人を超え、とくに欧州地域では前年の60倍に当たる5万8,114人と大幅に増加している。国内でも感染が広がる可能性があり、すでに複数の感染者が報告されている。はしかには10~12日の潜伏期間があり、発症すると高熱や発疹が出現し、肺炎や脳炎などの重症化リスクがある。武見厚労相は、国内での感染拡大を防ぐために、ワクチン接種を含む予防策の徹底を呼びかけ、2回のワクチン接種で95%以上の人が免疫を獲得できるとされ、国は接種率の向上を目指しているが、2回目の接種率が目標に達していない状況。参考1)はしか、厚労相が注意喚起 関空到着便の5人感染確認(毎日新聞)2)はしかの世界的流行 欧州で60倍 国内も感染相次ぐ 国が注意喚起(朝日新聞)3)麻しんについて(厚労省)2.地域包括医療病棟の導入で変わる高齢者救急医療/厚労省厚生労働省は、2024年度の診療報酬改定について3月5日に官報告示を行ない、新たに急性期病床として設けられる「地域包括医療病棟」の詳細について発表した。この病棟は、とくに高齢者の救急搬送に応じ、急性期からの早期離脱を目指し、ADL(日常生活動作)や栄養状態の維持・向上に注力する。この病棟は、看護師の配置基準が「10対1以上」で、かつリハビリテーション、栄養管理、退院・在宅復帰支援など、高齢者の在宅復帰に向けて一体的な医療サービスを提供することが求められている。また、理学療法士や作業療法士などのリハビリ専門職を2名以上、常勤の管理栄養士を1名以上配置することを求めている。地域包括医療病棟入院料は、DPC(診断群分類)に準じた包括範囲で設定され、手術や一部の高度な検査は出来高算定が可能とされ、加算ポイントとしては、入院初期の14日間には1日150点の初期加算が認められる。さらに、急性期一般入院料1の基準が厳格化され、急性期から地域包括医療病棟への移行を促す。この改定により、急性期病棟、地域包括医療病棟、地域包括ケア病棟という3つの機能区分が明確にされ、患者のニーズに応じた適切な医療提供の枠組みが整うことになる。この改革の背景には、高齢化社会における救急搬送患者の増加と、それに伴う介護・リハビリテーションのニーズの高まりがあり、地域包括医療病棟は、これらの課題に対応するため、急性期治療後の患者に対して継続的かつ包括的な医療サービスを提供することを目指す。参考1)地域包括医療病棟、DPC同様の包括範囲に 診療報酬改定を告示(CB news)2)新設される【地域包括医療病棟】、高齢の救急患者を受け入れ、急性期からの離脱、ADLや栄養の維持・向上を強く意識した施設基準・要件(Gem Med)3)令和6年度診療報酬改定の概要[全体概要版](厚労省)【動画】3.電子処方箋の導入から1年、病院での運用率0.4%と低迷/厚労省電子処方箋の運用開始から1年、全国の医療機関や薬局において導入が約6%にとどまっていることが明らかになった。とくに病院の運用開始率は0.4%と非常に低く、25道県では運用を始めた病院が1つもない状況。導入が進まない主な理由として、高額な導入費用、医療機関や薬局が緊要性を感じていないこと、さらには患者からの認知度の低さが挙げられている。電子処方箋は、医療のデジタル化推進の一環として導入され、医師が処方内容をサーバーに登録し、患者が薬局でマイナンバーカードか健康保険証を提示することで、薬剤師がデータを確認し、薬を渡す仕組み。これにより、患者の処方履歴が一元化され、重複処方の防止や薬の相互作用チェックなど、医療の質向上が期待されている。政府は、2025年3月までに約23万施設での電子処方箋の導入を目指しており、システム導入費用への補助金拡充などを通じて、その普及を後押ししていく。しかし、病院での導入費用が約600万円、診療所や薬局では55万円程度が必要であることが普及の大きな障壁となっている。3月3日時点で、電子処方箋の運用を始めた施設は計1万5,380施設に達しているが、そのうち薬局が全体の92.4%を占めており、医科診療所、歯科診療所、病院での導入は遅れている。厚労省は、診療報酬改定に伴うシステム改修のタイミングでの導入を公的病院に要請しており、導入施設数の増加を目指す。参考1)電子処方箋の導入・運用方法(社会保険診療報酬支払基金)2)電子処方箋導入わずか6% 運用1年、費用負担も要因(東京新聞)3)電子処方箋、病院の「運用開始率」0.4%-厚労省「緊要性を感じていない」(CB news)4.公立病院の労働環境悪化、公立病院の勤務者の8割が退職願望/自治労公立・公的病院で働く看護師、臨床検査技師、事務職員など約8割が現在の職場を辞めたいと考えていることが、全日本自治団体労働組合(自治労)の調査によって明らかになった。この調査は、47都道府県の公立・公的病院勤務者1万184人を対象に実施され、36%がうつ的症状を訴えていた。理由としては、業務の多忙、人員不足、賃金への不満が挙げられており、とくに「業務の多忙」を理由とする回答が最も多く、新型コロナウイルス感染症が5類へ移行した後も、慢性的な人員不足や業務の過多が改善されていない状況が背景にあると分析されている。新型コロナ関連の補助金減額による病院経営の悪化と人件費の抑制も、問題の一因とされている。自治労は、業務量に見合った人員確保や公立・公的医療機関での賃上げ実施の必要性を訴えているほか、医師の働き方改革に伴い、医療従事者全体の労働時間管理や労働基準法の遵守が必要だとしている。参考1)公立病院の看護師ら、8割が「辞めたい」 3割超がうつ症状訴え(毎日新聞)2)公立病院の看護師など 約8割“職場 辞めたい” 労働組合の調査(NHK)3)「職場を辞めたい」と感じる医療従事者が増加-衛生医療評議会が調査結果を公表-(自治労)5.見劣りする日本の体外受精の成功率、成功率を上げるためには?わが国は「不妊治療大国」と称されながらも、体外受精の成功率は10%台前半に留まり、米国や英国と比べ約10ポイント低い状況であることが明らかになった。日経新聞の報道によると、不妊治療に取り組むタイミングの遅れが主な原因とされている。不妊治療の開始年齢が遅いことによる成功率の低下は、出産適齢期や妊娠についての正確な知識の提供が不足していることと関係しており、わが国の「プレコンセプションケア(将来の妊娠を考えながら女性やカップルが自分たちの生活や健康に向き合うこと)」の取り組みが十分ではないことによる。わが国は、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療の件数が世界で2番目に多いにもかかわらず、出産数に対する成功率は低いままであり、この理由として年齢が上がるほど、成功に必要な卵子の数が減り、治療開始の遅れだけでなく、高齢になるにつれて卵子の質が低下することにも起因する。不妊治療の体験者からは、治療の長期化による心身への負担や、職場での理解不足による仕事と治療の両立の困難さが指摘されている。また、不妊治療について適切な時期に関する情報が不足していることも、問題として浮き彫りになっている。企業や自治体による不妊治療支援は徐々に広がりをみせているが、職場での不妊治療への理解を深め、支援体制を構築することが求められる。NPOの調査によれば、治療経験者の多くが職場の支援制度の不足を訴えており、不妊治療に関する休暇・休業制度や就業時間制度の導入が望まれている。参考1)不妊治療、仕事と両立困難で働き方変更39% NPO調査(日経新聞)2)不妊治療大国、日本の実相 体外受精の成功率10%台前半(日経新聞)3)プレコンセプションケア体制整備に向けた相談・研修ガイドライン作成に向けた調査研究報告書(こども家庭庁)6.ALS患者嘱託殺人、医師に懲役18年の判決/京都地裁京都地裁は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患う女性への嘱託殺人罪などで起訴された被告医師(45)に対し、懲役18年の判決を下した。女性の依頼に応えて行ったとされる殺害行為について、被告は「願いをかなえた」ためと主張し、弁護側は自己決定権を理由に無罪を主張したが、裁判所はこれを退け、「生命軽視の姿勢は顕著であり、強い非難に値する」と述べた。判決では、「自らの命を絶つため他者の援助を求める権利は憲法から導き出されるものではない」と指摘、また、社会的相当性の欠如やSNSでのやり取りのみで短期間に殺害に及んだ点を重視した。被告の医師は2019年、別の被告医師と共謀し、女性を急性薬物中毒で死亡させたとされ、さらに別の殺人罪でも有罪とされた。事件について、亡くなった女性の父親は「第2、第3の犠牲者が出ないことを願う」と述べ、ALS患者の当事者からは、「生きることを支えられる社会であるべき」という訴えがされていた。判決は、医療行為としての嘱託殺人の範囲や自己決定権の限界に関する議論を浮き彫りにした。参考1)ALS嘱託殺人、医師に懲役18年判決 京都地裁「生命軽視」(日経新聞)2)ALS女性嘱託殺人 被告の医師に対し懲役18年の判決 京都地裁(NHK)3)「命絶つため援助求める権利」憲法にない ALS嘱託殺人判決、弁護側主張退ける(産経新聞)

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新型コロナ公費支援、3月末で終了を発表/厚労省

 厚生労働省は3月5日付の事務連絡にて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の医療提供体制および公費支援について、予定どおり2024年3月末をもって終了し、4月以降は通常の医療体制とすることを発表した1)。新型コロナの医療提供体制については、2023年5月8日に5類感染症変更に当たり特例措置が見直され、同年10月に公費支援を縮小し、2024年3月末までが「移行期間」であった。4月以降、医療機関への病床確保料や、患者のコロナ治療薬の薬剤費および入院医療費の自己負担に係る支援、高齢者施設への補助などが打ち切りとなる。無料で行われてきた新型コロナワクチンの特例臨時接種も予定どおり3月末で終了する。新型コロナの特例的な財政支援の終了について記載された資料も公開された2)。医療提供体制の移行(外来・入院・入院調整) 外来医療体制については、移行期間に各都道府県が策定した移行計画に沿って、外来対応医療機関数のほか、かかりつけ患者以外に対応する医療機関数が拡充されてきた。4月以降は広く一般の医療機関による対応に移行し、外来対応医療機関の指定・公表の仕組みは3月末をもって終了する。 4月から病床確保料は廃止となる。2023年10月~2024年3月末の病床確保料の金額は、ICUの場合、特定機能病院等では1日17万4,000円、一般病院では1日12万1,000円。HCUの場合、一律1日8万5,000円。その他病床の場合、特定機能病棟等では1日3万円、一般病院では1日2万9,000円であった。 4月以降の新型コロナ患者の入院先の決定(入院調整)は医療機関間で行う。医療機関等情報支援システム(G-MIS)での受け入れ可能病床数および入院患者数が入力できる日時調査等の項目は残される。厚労省からの入力依頼は3月末で終了するが、4月以降は都道府県で必要に応じて管轄下の医療機関に対してG-MISの入力を依頼するなどの活用が可能だ。令和6年度診療報酬改定での感染症への対応 6月1日からの施行となる令和6年度診療報酬改定では、コロナに限らない感染症を対象とした恒常的な対策へと見直されるが、新型コロナを含む感染症患者への診療も一定の措置が取られる。新興感染症に備えた第8次医療計画に合わせ、診療報酬上の加算要件(施設基準)も強化される。 外来感染対策向上加算の医療機関を対象に、発熱患者等への診療に加算(+20点/回)や、とくに感染対策が必要な感染症(新型コロナ含む)の患者入院の管理を評価し、(1)入院加算の新設(+100~200点/日)、(2)個室加算の拡充(+300点/日)、(3)リハビリに対する加算の新設(+50点/回)が行われる。新型コロナ患者等に対する公費支援の終了 新型コロナ患者の治療費および入院医療費については、一定の自己負担ともに公費支援が継続されてきたが、3月末で終了する。4月以降は、他の疾病と同様に、医療保険の自己負担割合に応じて負担することとなるが、医療保険における高額療養費制度が適用され、所得に応じた一定額以上の自己負担が生じない取り扱いとなる。 3月末までは新型コロナ治療薬の薬剤費のうち、医療費の自己負担割合に応じて3割負担の人で9,000円、2割負担の人で6,000円、1割負担の人で3,000円という上限額が設けられ、これらの上限額を超える部分を公費で負担していたが、4月以降は公費負担を終了する3)。 4月以降の新型コロナ治療薬の1治療(5日分)当たりの薬価と自己負担額の目安は以下のとおり。・モルヌピラビル(ラゲブリオ):約9万4,000円 1割負担:9,400円、2割負担:1万8,800円、3割負担:2万8,200円・ニルマトレルビル/リトナビル(パキロビッド):約9万9,000円 1割負担:9,900円、2割負担:1万9,800円、3割負担:2万9,700円・エンシトレルビル(ゾコーバ):約5万2,000円 1割負担:5,200円、2割負担:1万300円、3割負担:1万5,500円 入院医療費については、3月末まで高額療養費制度の自己負担額限度額から最大1万円の減額が行われていたが、4月以降は他の疾病と同様に、医療保険の負担割合に応じた通常の自己負担と、必要に応じて高額療養費制度が適用となる。 高齢者施設等については、約9割が医療機関との連携体制を確保し、感染症の予防およびまん延防止のための研修と訓練を実施していることが確認されたため、3月末までで新型コロナに関わる高齢者施設等への支援も終了する。令和6年度介護報酬改定において、今後の新興感染症の発生に備えた高齢者施設等における恒常的な取り組みとして、新興感染症発生時に施設内療養を行う高齢者施設等を評価する加算の創設などを行う。ゲノムサーベイランスは継続 そのほかの措置として、各自治体が実施しているゲノムサーベイランスについては、実施方法を見直したうえで4月以降も継続する方針で、引き続き行政検査として取り扱われる。また、自治体が設置している相談窓口機能について、今後の対応は各自治体の判断によるが、厚労省では4月以降も新型コロナ患者等に対する相談窓口機能が設けられる予定だ。新型コロナ緊急包括支援交付金(医療分)終了 新型コロナへの対応として、都道府県の取り組みを包括的に支援することを目的として行われてきた「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(医療分)」については、3月末で終了する。救急で新型コロナ対応として使用する個人防護具(PPE)について、都道府県や市町村が購入する場合の費用も本措置の補助対象であった。

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第87回 「そもそも麻疹を診たことがない」

フタバのフリーイラストより使用世界保健機関(WHO)から「西太平洋諸国は予防接種とサーベイランスのギャップによって麻疹発生のリスクにさらされている」という衝撃的な記事が公開されました1)。輸入リスクが高い国として、日本も麻疹の知識を身に付けておく必要があるでしょう。「西太平洋地域では2023年、世界の他の地域でみられるような大規模な麻疹の流行は発生しなかったが、この地域で360万人の子供たちが2020~22年にかけて定期予防接種を受けられなかった。世界中で麻疹が再流行しており、麻疹の輸入リスクが増大している」定期的に観測される麻疹例2月26日、奈良市保健所が、外国人観光客の20代男性が麻疹に感染していると報告しました。19日に発熱・発疹があり、同感染症と診断されました。保健所は、その行動を細かく報告しています。いつ、どこの観光都市から奈良県にやって来たのか、移動手段は何を使ったのか、など。さらに、3月1日には東大阪市でも20代男性の麻疹感染例が確認されました。なぜここまで詳細なコンタクトトレースをするかというと、麻疹の基本再生産数(R0)は12~18といわれており、1人の発症者から多くの感染者を生み出すことで知られているためです。麻疹のR0はインフルエンザウイルスの約10倍で、免疫がない人が接触すると、ほぼ100%感染するといわれています。しかし、現在はワクチンのおかげで麻疹というものは流行しなくなりました。「なぜこんなに慌てるんですか?」と感じている医療従事者もいるかもしれません。私が子供のときは、麻疹にかかる人はそれなりにいたので、いやほんとジェネレーションギャップを感じます。麻疹が全数届出になった2008年の年間届出数は約1万例で、そのあとは激減の一途をたどっており、2022年はわずか6例でした。ここまで減るかというくらい、本当に減ったのです。もはやレアな疾患ですから、複数例アウトブレイクしようものなら、報道になるのです。ワクチン接種歴の確認を医療従事者に限ったことではありませんが、自身に麻疹ワクチン接種歴があるかどうか、母子手帳がある人はご確認ください。麻疹ワクチンが定期接種になったのは1978年で、当時1回の定期接種でした。1回の接種では十分な免疫がないため、2008年に特例措置によって、追加接種が行われました。そのため、2000年以降に生まれた方は、2回の定期接種を受けている可能性が高いでしょう。私みたいなオッサン世代が一番自分自身のワクチン接種歴を把握していなかったりするので、一度皆さんご確認ください(表)。追加接種は自費ですが、たいがい1万円以内で接種できますし、成人でも接種可能です。画像を拡大する表. 麻疹のワクチン接種歴(筆者作成)麻疹の臨床経過麻疹の症状についておさらいしておきましょう。教科書で知っていても、目の前にやって来ると診断できない可能性があります。まず潜伏期間ですが、10~12日と長いです。接触感染だけでなく、空気感染する点に注意が必要です。そのため、R0がむちゃくちゃ高いのです。初発症状は、発熱、咳、鼻水、のどの痛みなど感冒症状があります。いったん治癒すると思われた矢先、高熱と発疹が同時にやって来ます(図)。この激烈な「2峰性」が麻疹の特徴です。発疹が出てくる1~2日前に口の中の頬の裏側に、やや隆起した小さな白い斑点(Koplik斑)が出現することが特徴的といわれてきましたが、風疹や他のウイルス感染症でも出現することがわかっており、必ずしも特異度が高いとは言えません。画像を拡大する図. 麻疹の典型的経過(筆者作成)成人の場合、中途半端な免疫がある場合(1回接種者など)、軽症で非典型的な「修飾麻疹」になることがあります。そうなるとさらに診断が困難となります。何よりも、いざというときに麻疹の存在を疑えることが重要といえます。参考文献・参考サイト1)WHO:Western Pacific countries at risk of measles outbreaks due to immunization and surveillance gaps. 2024 Mar 1.

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小児インフルワクチンの最適な接種月/BMJ

 2~5歳の小児に対するインフルエンザワクチン接種の最適な時期について調べた住民ベースのコホート試験で、誕生月が予防健診受診の時期に影響を与えることからワクチン接種のタイミングと関連することが示され、その結果、10月生まれの小児は10月にワクチン接種を受ける可能性が最も高く、インフルエンザと診断される可能性が最も低かった。11月および12月に接種を受けた小児については、インフルエンザと診断される可能性が低かったが交絡因子の存在が示唆されたという。米国・ハーバード大学医学大学院のChristopher M. Worsham氏らが、米国でインフルエンザワクチン接種を受けた2~5歳の小児約82万人を対象に行ったコホート試験の結果を報告した。結果を踏まえて著者は、「10月のワクチン接種促進の推奨と一致した結果が得られた」とまとめている。BMJ誌2024年2月21日号掲載の報告。2011~18年にワクチン接種を受けた2~5歳について検証 研究グループは、2011~18年にインフルエンザワクチンの接種を受けた民間医療保険に加入する8月1日~1月31日に出生した2~5歳の小児を対象に、住民ベースコホート試験を行った。 主要アウトカムは、接種を受けた小児の誕生月別によるインフルエンザ診断率であった。10月生まれの小児、インフルエンザ診断率2.7%と最低 全体で、2~5歳の小児81万9,223例がインフルエンザワクチンの接種を受けていた。 11月および12月に接種を受けた小児は、インフルエンザと診断される可能性が最も低かった。ただしこの結果については、ワクチン接種の時期と、インフルエンザのリスクに影響を与える交絡因子が存在している可能性が示唆された。 ワクチン接種は概して、小児が予防的に受ける定期健診の際や誕生月に受けており、10月生まれの小児は10月にワクチン接種を受ける割合が高く、平均すると8月生まれの小児より遅く、12月生まれの小児より早くワクチン接種を受けていた。 また、10月生まれの小児は、インフルエンザ診断率が最も低かった。たとえば、8月生まれの小児のインフルエンザ診断率3.0%(6,462/21万2,622例)に対して、10月生まれの小児は2.7%(6,016/22万4,540例)だった(補正後オッズ比:0.88、95%信頼区間:0.85~0.92)。

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小児への15価肺炎球菌ワクチン、定期接種導入に向けて/MSD

 MSDが製造販売を行う15価肺炎球菌結合型ワクチン(商品名:バクニュバンス、PCV15)は、2022年9月に国内で成人を対象として承認を取得し、2023年6月には小児における肺炎球菌感染症の予防についても追加承認を取得した。小児への肺炎球菌ワクチンは、2013年4月に7価ワクチン(PCV7)が定期接種化され、2013年11月より13価ワクチン(PCV13)に切り替えられたが、2023年12月20日の厚生労働省の予防接種基本方針部会において、2024年4月から本PCV15を小児の定期接種に用いるワクチンとする方針が了承された。同社は2月22日に、15価肺炎球菌結ワクチンメディアセミナーを実施し、峯 眞人氏(医療法人自然堂峯小児科)が「小児における侵襲性肺炎球菌感染症の現状と課題」をテーマに講演した。集団生活に備え0歳からワクチンを 近年の子供の生活環境の変化として、年少の子供たちも家庭以外の集団の場所で過ごす時間が長くなっている。子供の集団生活の開始とともに急増する感染症への対策として、予防接種はきわめて重要だという。とくに、小児の侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)では、0~1歳にかけてかかりやすい肺炎球菌性髄膜炎や敗血症は、非常に重篤になりやすい。 峯氏は、かつて自身が経験した生後10ヵ月児の肺炎球菌性髄膜炎の症例について言及し、発症後まもなく救急を受診し処置をしても、死に至ることもまれではなく、回復後も精神発達や運動機能の障害、てんかん・痙攣といった後遺症が残る確率が高いと述べた。5歳未満の肺炎球菌性髄膜炎の死亡率は15%、後遺症発現率は9.5%だという1,2)。10年ぶりの新たな肺炎球菌ワクチン 2013年の小児肺炎球菌ワクチン定期接種導入後、小児の肺炎球菌性髄膜炎の患者数は、0歳児で83.1%、1歳児で81.4%減少したという2)。2024年4月から定期接種に導入される方針のPCV15は、PCV13と共通する血清型に対する免疫原性は非劣性を満たしたうえで、PCV13に含まれていなかった血清型の22Fと33Fが追加されている。これらの血清型は、小児でIPDを引き起こす頻度の高い24血清型のなかでも、33Fは2番目に、22Fは6番目に高い侵襲性であることが示されている3)。 峯氏は、IPDである肺炎球菌性髄膜炎が増加する生後5ヵ月までに、3回のワクチン接種を終了していることが望ましく、そのため生後2ヵ月からワクチンを開始する「ワクチンデビュー」と、さらに、3~5歳に一定数みられる肺炎球菌性髄膜炎を考慮して、1歳過ぎてからブースター接種を受ける「ワクチンレビュー」の重要性を述べた。また、すでにPCV13で接種を開始した場合も、途中からPCV15に切り替えることが可能だ。PCV15は筋注も選択可、痛みを軽減 PCV15の小児への接種経路は、皮下接種または筋肉内接種から選択可となっている。諸外国ではすでに筋注が一般的であるが、日本では筋注が好まれない傾向にあった。新型コロナワクチンにより国内でも筋注が一般化し、PCV15でも筋注が可能となった4,5)。峯氏によると、肺炎球菌結合型ワクチンは痛みを感じやすいワクチンだが、筋肉内は皮下よりも神経が少ないため、筋注のほうが接種時に痛みを感じにくく、接種後も発赤を生じにくいというメリットがあるという。筋注の場合は、1歳未満は大腿前外側部に、1歳以上は上腕の三角筋中央部または大腿前外側部に接種し、皮下注の場合は上腕伸側に接種する。 日本では、小児の定期接種として肺炎球菌ワクチンが導入されて以来、IPDは減少傾向にあり、大きな貢献を果たしてきた。峯氏は、ワクチンで防げる病気(VPD)は可能な限りワクチンで防ぐことが重要であることと、肺炎球菌は依然として注意すべき病原体であることをあらためて注意喚起し、とくにワクチンが導入されて10年以上経過したことで、実際にIPDの診療を経験したことがない小児科医が増えていることにも触れ、引き続き疾患に関する知識の普及が必要であるとまとめた。

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普段から活発な高齢者、新型コロナ発症や入院リスク低い

 健康のための身体活動(PA)は、心血管疾患(CVD)、がん、2型糖尿病やその他の慢性疾患の予防や軽減に有効とされているが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発症や入院のリスク低下と関連することが、米国・ハーバード大学ブリガム・アンド・ウィメンズ病院のDennis Munoz-Vergara氏らの研究により明らかになった。JAMA Network Open誌2024年2月13日に掲載の報告。 本研究では、COVID-19パンデミック以前から実施されている米国成人を対象とした次の3件のRCTのコホートが利用された。(1)CVDとがんの予防におけるココアサプリメントとマルチビタミンに関するRCT、65歳以上の女性と60歳以上の男性2万1,442人、(2)CVDとがんの予防におけるビタミンDとオメガ3脂肪酸に関するRCT、55歳以上の女性と50歳以上の男性2万5,871人、(3)女性への低用量アスピリンとビタミンEに関するRCT、45歳以上の女性3万9,876人。 本研究の主要アウトカムは、COVID-19の発症および入院とした。2020年5月~2022年5月の期間において、参加者はCOVID-19検査結果が1回以上陽性か、COVID-19と診断されたか、COVID-19で入院したかを回答した。PAは、パンデミック以前の週当たり代謝当量時間(MET)で、非活動的な群(0~3.5)、不十分に活動的な群(3.5超~7.5未満)、十分に活動的な群(7.5以上)の3群に分類した。人口統計学的要因、BMI、生活様式、合併症、使用した薬剤で調整後、SARS-CoV-2感染およびCOVID-19による入院について、多変量ロジスティック回帰モデルを用いて非活動的な群とほかの2群とのオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・6万1,557人(平均年齢75.7歳[SD 6.4]、女性70.7%)が回答した。そのうち20.2%は非活動的、11.4%は不十分に活動的、68.5%は十分に活動的だった。・2022年5月までに、COVID-19の確定症例は5,890例、うち入院が626例だった。・非活動的な群と比較して、不十分に活動的な群は感染リスク(OR:0.96、95%CI:0.86~1.06)または入院リスク(OR:0.98、95%CI:0.76~1.28)に有意な減少はみられなかった。・一方、非活動的な群と比較して、十分に活動的な群は感染リスク(OR:0.90、95%CI:0.84~0.97)および入院リスク(OR:0.73、95%CI:0.60~0.90)に有意な減少がみられた。・サブグループ解析では、PAとSARS-CoV-2感染との関連は性別によって異なり、十分に活動的な女性のみが感染リスクが低下している傾向があった(OR:0.87、95%CI:0.79~0.95、相互作用p=0.04)。男性では関連がなかった。・新型コロナワクチン接種状況で調整後に解析した場合も、非活動的な群と比較して不十分に活動的な群は、感染と入院のORはほとんど変化しなかった。・新型コロナワクチンは、PAレベルに関係なく感染と入院のリスクを大幅に減少させた。感染リスクはOR:0.55、95%CI:0.50〜0.61、p<0.001、入院リスクはOR:0.37、95%CI:0.30~0.47、p<0.001。

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5歳から17歳の小児および青年に対する2価新型コロナワクチンの有効性(解説:寺田教彦氏)

 本研究は、米国で行われた3つの前向きコホート研究のうち、2022年9月4日から2023年1月31日までの期間のデータを統合して、オミクロン株BA.4/5亜系統が主に流行していた時期の小児および青年期におけるCOVID-19に対する2価mRNAワクチンの有効性を推定している。本研究結果の要約は「小児・思春期の2価コロナワクチン、有効性は?/JAMA」にもまとめられているように、SARS-CoV-2感染症(COVID-19 RT-PCR陽性)に対するワクチンの有効性は54.0%(95%信頼区間[CI]:36.6~69.1)で、症候性COVID-19に対する同有効性は49.4%(95%CI:22.2~70.7)だった。本論文の著者らは、2価新型コロナワクチンは小児および青年に対して有効性を示し、対象となるすべての小児と青年は推奨されるCOVID-19ワクチン接種を最新の状況とする必要があると結論づけている。 さて、新型コロナワクチンは2024年3月末までは全額公費負担であったが、今後(2024年4月以降)は、今回の研究対象である5~17歳は任意接種のため、養育者と小児自身で接種の有無を判断する必要がある。 本邦では、小児への新型コロナワクチンについて、2023年10月3日に日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会から考え方が示されており「小児への新型コロナワクチン令和 5 年度秋冬接種に対する考え方」、日本小児科学会では、生後6ヵ月~17歳のすべての小児への新型コロナワクチン接種(初回シリーズおよび適切な時期の追加接種)を引き続き推奨している。理由には、(1)流行株の変化によって今後も感染拡大が予測される(2)今後も感染機会が続く(3)小児においても重症例・死亡例が発生している(4)小児へのワクチンは有効である(5)小児のワクチン接種に関する膨大なデータが蓄積され、より信頼性の高い安全性評価が継続的に行われるようになったことが挙げられており、根拠となるエビデンスもまとめられている。 現在も、新型コロナウイルスは変異と感染拡大の波を繰り返しており、少なくともしばらくの間はワクチン接種をするか否かの判断を各自でせざるを得ないだろう。ワクチン接種の是非は、「COVID-19の罹患率や重症度」の推移を勘案しながら、「発症(および感染)の予防効果」と「重症化の予防効果」や「接種後の副反応」といったメリットとデメリットを比較し、「ワクチン接種の費用負担」に見合った利益が享受できるかを、対象者が判断できるように、科学的な根拠となるデータを提供し続けることが好ましい。 本論文は、ワクチン接種のメリットである「発症(および感染)の予防効果」と「重症化の予防効果」が引き続き期待できることを示しており、現時点では、小児への新型コロナワクチン令和5年度秋冬接種に対する考え方で示されたデータを加味すると、小児へのワクチン接種は推奨されると私は考えるが、今後は被接種者の基礎疾患を含めた背景や「ワクチン接種の費用負担」に見合った利益が享受できるかも考えて、新型コロナワクチン接種の是非を養育者と小児に判断してもらう必要がある。

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第199回 「想定外を想定せよ」が活きた恵寿総合病院の凄すぎる災害対策

同じテーマが続いて恐縮だが、今回も能登半島地震のことについて触れたいと思う。敢えてこうして連続で触れるのは、ある考えがあってのことだからだ。一言で言うと、「とかく人は熱しやすくて冷めやすいもの」と思っている。これはメディアの世界に身を置いていると痛切に感じることである。ある種の大きな災害が起きると、人は一瞬その情報に釘付けになる。ところが早ければ1ヵ月、長くとも3ヵ月も経つと、たとえどんなに大きな災害であっても当事者以外にとっては他人事になってしまう。もっとも私は大上段から「常に能登半島のことを思え」などと言うつもりは毛頭ない。被災地以外の人が常に被災地のことを考え、心理的に落ち込んでしまえば、世の中は回らない。実はこの事は被災地の人も同じである。それに関連して思い出すのが、東日本大震災の取材中、ある避難所で出会った高齢男性のことだ。ちなみに私にとって災害取材で一番苦手な取材現場が避難所である。あの場所にズケズケ入って「お話聞かせてください」はかなり気が引ける。よく「メディアは無神経に…」と言われることが多いが、被災地で出会うメディア関係者同士の雑談でも「実は自分も苦手で」という人は少なくない。ただ、やはり時間に迫られながらインタビューを取る必要がある時はそうせざるを得ない。しかし、自分にとってはいつまで経っても慣れることはない。避難所取材の時、私が屋内に入る代わりに赴く場所がある。避難所屋外に設置された喫煙所である。そこにはたいてい数人がたむろしている。報道腕章を付けていくと、結構な確率で「あんたらもご苦労さんだね」とそこにいる被災者から声がかかる。それを糸口に会話を始めると、実質的に取材となることが多いのだ。私が時折、思い出す前述の高齢男性もそのような形で出会った。その時の喫煙所には彼しかいなかった。彼は私を見るなり、独り言のように語り始めた。「俺さ、母ちゃん(妻)が津波で流されてしまってさ。んでも、避難所で若い綺麗なボランティアの女の子を見ると、ついそっち見るしな、時間が経てば腹も減るんだよな。兄ちゃん、俺は頭おかしいのかね?」一瞬戸惑ったが、避難所が地元の宮城県だったこともあり、私は地元訛りで次のように返した。「ほだごとねえんでねえの(そんなことないんじゃないの)? 津波のことばっか考えていられねえべさ」男性は一瞬目を丸くした。経験上、地方での災害取材時に被災者は「報道記者=東京の人」のような思い込みがあり、記者が訛りのある言葉を話すとは思っていないのだ。男性は丸くした目を普通に戻して、タバコをもう一度口にして煙を吐きながらこう言った。「んだがもな(そうかもしれない)」発災時ですらその場にいる人は、今起きていることが異常ではないと考えようとする「正常性バイアス」が働くもの。まして発災から時間が経てば、個人差はあっても常に災害の事だけを考えているわけにはいかない。というか、過度に気落ちしないために意図的に考えようとしないことも多い。そして被災地から離れた場所では半ば“忘れてしまう”のも無理はないと思っている。それでも私が再び能登半島地震について触れようとするのは、被災地外の人に防災対策を伝えるためには、まだ記憶が生々しい時期のほうが頭に入りやすいと思うからだ。神野 正博氏が伝える災害に負けない病院経営さて前置きが長くなってしまったが、先日、私が所属する日本医学ジャーナリスト協会で「能登半島地震~災害でも医療を止めない!病院のBCPと地域のBCP」と題して、現地の七尾市にある恵寿総合病院理事長の神野 正博氏にオンライン講演をお願いした。神野氏と言えば、全日本病院協会の副会長でもあり、医療業界では著名人である。あの大地震で426床を有する能登半島唯一の地域医療支援病院である恵寿総合病院も無傷でいられるわけもなく、本館以外に2つある鉄筋コンクリート造の病棟は物品が散乱し、本館と各病棟をつなぐ連絡通路も各所で破損した。断水は講演時点の2月13日時点でも継続中だった。しかし、発災翌日の1月2日には産科での分娩を行い、4日に通常外来、6日に血液浄化センターを再開している。マグニチュード7クラスの地震の被災地で、これが可能だったことは極めて驚くべきことである。そしてその理由は「事業継続マネジメント(BCM)」「事業継続計画(BCP)」を策定し、事前に入念な対策をしていたからだった。神野氏の口から語られた事前対策の肝は「基本は二重化」。具体例を以下に列挙する。本館で免震建築+液状化対策水道と井戸水による上水の二重化2ヵ所の変電所より受電夜間離発着設備も有した屋上ヘリポートも含めて避難経路二重化全国の病院との非常時相互協力協定全国の医療物資物流センター31ヵ所とバックアップ協定免震棟上層階にサーバー室設置震度5以上で自動発信するALSOKの職員安否確認・非常招集システム採用ゼネコン系設備管理会社24時間365日常駐神野氏によると「井戸水は平時に保健所に定期的な水質検査を実施してもらい、水道停止後ただちに井戸水に切り替え、医療用水・生活用水にいつでも利用できるようにしておいた」という念の入れようだ。もっとも120人の透析を行う別棟は、井戸水を上水利用する設備がなく、陸上自衛隊による1日15トンの給水支援を受けて再開にこぎつけている。変電所も北陸電力に依頼し2回線受電をしており、今回、実際に1つの変電所が瞬停して非常用自家発電に切り替わったものの、すぐにもう1つの正常だった変電所からの受電に切り替えて事なきを得ている。また、ゼネコン系設備管理会社24時間365日常駐は一瞬何のことかわからない人もいるかと思うが、この点について神野氏は次のように語った。「常駐者がいることで水道管の破裂などはすぐに復旧した。また、大手ゼネコンなので1月2日にはゼネコンの関係者が駆付け、復旧には大きな役割を果たした。よく病院の経営コンサルタントは、医業収益改善のためにまず清掃会社と設備管理会社をより安価なところに変更することを提案するが、私たちはそういうことは聞かずにやってきて本当に良かったと思っている」このような対策を聞くと、「いったいそのお金はどこから?」との疑問が浮かんでくるだろう。神野氏は「あくまで平時の診療報酬による収益の範囲内で準備をしてきた。災害対策を予算化したのではなく、都度都度、非常時対策を考えてのメンテナンスの一環として行ってきた」という趣旨の発言をした。これについてはかなり頷いてしまった。こうした大規模災害が起こると「いざ災害対策を!」のような掛け声があちこちから挙がる。しかし、人という生き物は概して納得尽くでないとお金は投じられない生き物でもある。災害・防災関連もテーマとする私はこうした大災害発生時に週刊誌などからコメントを求められることが多いのだが、その際にいつも言うことは「どんな小さなことでも良いから思いついたときに思いついたことに手を染め、必ずその点については完遂し、可能ならば日常化する」と伝えている。これだけだと、よくわからない人もいるかもしれないので、具体例を挙げると、自分の場合、災害現場の取材も少なくないので、がれきなどを踏んで負傷することを防止するため、平時から履いている靴には踏み抜き防止インソールを入れっぱなしにしている。たまにそのことを忘れ、空港の金属探知機でブザーが鳴ってしまうこともあるが、これは忘れるほど日常化している証でもある。また、国内の大災害ニュースに接した際、過去2年間を振り返り、破傷風ワクチンを追加接種していない場合は、現場取材に赴くか否かにかかわらず、医療機関に追加接種に行く。これ以外にも行っている対策はいくつかあるがここでは省略しておく。いずれにせよ災害対策とは、それが効果的だったかの答え合わせは、被災時にしかできない無慈悲な世界である。やはり「思い立ったが吉日」なのだと、今回再認識させられている。

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Hibを追加した乳幼児の5種混合ワクチン「ゴービック水性懸濁注シリンジ」【最新!DI情報】第9回

Hibを追加した乳幼児の5種混合ワクチン「ゴービック水性懸濁注シリンジ」今回は、沈降精製百日せきジフテリア破傷風不活化ポリオヘモフィルスb型混合ワクチン(商品名:ゴービック水性懸濁注シリンジ、製造販売元:阪大微生物病研究会)」を紹介します。本剤は、既存の4種混合ワクチンの抗原成分にインフルエンザ菌b型(Hib)の抗原成分を加えた5種混合ワクチンであり、乳幼児期のワクチン接種回数が減少することで、乳幼児および保護者の負担軽減が期待されています。<効能・効果>百日せき、ジフテリア、破傷風、急性灰白髄炎およびHibによる感染症の予防の適応で、2023年3月27日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>初回免疫として、小児に通常0.5mLずつを3回、いずれも20日以上の間隔をおいて皮下または筋肉内に接種します。追加免疫では、初回免疫後6ヵ月以上の間隔をおいて、通常0.5mLを1回皮下または筋肉内に接種します。<安全性>国内第III相試験(BK1310-J03)において、皮下接種後の副反応は91.7%に認められました。そのうち、接種部位の主な副反応として、紅斑78.9%、硬結46.6%、腫脹30.1%、疼痛13.5%が認められました。全身性の主な副反応は、発熱(37.5℃以上)57.9%、易刺激性27.1%、過眠症24.1%、泣き23.3%、不眠症13.5%、食欲減退13.5%でした。<患者さんへの指導例>1.このワクチンは、5種混合ワクチンです。2.百日せき、ジフテリア、破傷風、急性灰白髄炎およびHibによる感染症の予防の目的で接種されます。3.生後2ヵ月から接種を開始し、計4回の定期接種を行います。4.明らかに発熱(通常37.5℃以上)している場合は接種できません。5.接種後30分間は接種施設で待機するか、ただちに医師と連絡がとれるようにしておいてください。6.接種後は健康状態によく気をつけてください。接種部位の異常な反応や体調の変化、高熱、けいれんなどの異常を感じた場合は、すぐに医師の診察を受けてください。<ここがポイント!>本剤は、既存の4種混合ワクチン(百日せき、ジフテリア、破傷風、不活性化ポリオ混合ワクチン)の成分に加えて、インフルエンザ菌b型ワクチンの成分を混合した5種混合ワクチンです。百日せきは、乳幼児早期から罹患する可能性があり、肺炎や脳症などの合併症を起こし、乳児では死に至る危険性があります。ジフテリアの罹患患者は、1999年以降は日本で確認されていませんが、致死率の高い感染症です。破傷風は、菌が産生する神経毒素によって筋の痙攣・硬直が生じ、治療が遅れると死亡することもあります。急性灰白髄炎(ポリオ)は、脊髄性小児麻痺として知られており、主に手や足に弛緩性麻痺が生じ、永続的な後遺症が残る場合や呼吸困難で死亡することもあります。インフルエンザ菌b型はヒブ(Hib)とも呼ばれ、この菌が何らかのきっかけで進展すると、肺炎、敗血症、髄膜炎、化膿性の関節炎などの重篤な疾患を引き起こすことがあります。これらの感染症はワクチンの接種によって予防が可能で、日本では予防接種法で定期接種のA類疾病に該当します。しかし、乳幼児期には、これら以外の感染症に対するワクチンの接種も必要なため、保護者の負担の大きさや接種スケジュール管理の煩雑さが問題となっています。本剤は、百日せき、ジフテリア、破傷風、ポリオおよびHib感染症に対する基礎免疫を1剤で同時に付与できるため、乳幼児への注射の負担および薬剤の管理を軽減できるメリットがあり、2024年4月から定期接種導入が予定されています。また、本剤は皮下接種だけでなく、筋肉内接種も可能です。生後2ヵ月以上43ヵ月未満の健康乳幼児267例を対象とした国内第III相試験(皮下接種)において、本剤接種後における初回免疫後の各抗体保有率は、ジフテリアが99.2%、その他は100%であり、追加免疫後はすべて100%でした。追加免疫後では、すべての抗原に対して初回免疫後よりも高い免疫原性を示すことが確認されました。

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新型コロナワクチンの国内での有効性評価、VERSUS研究の成果と意義

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンの有効性を評価するため、VERSUSグループは国内の13都府県の医療機関24施設で2021年7月から継続的に「VERSUS研究」1)を行っている。本研究は、新型コロナワクチンの国内での有効性を評価し、リアルタイムにそのデータを社会に還元することを目的としている。今後はCOVID-19のみならず、新たな病原体やワクチンを見据えたネットワークを整備・維持していく方針だ。VERSUS研究のこれまでの成果と意義について、2024年1月20日にウェブセミナーが開催された。長崎大学熱帯医学研究所呼吸器ワクチン疫学分野の森本 浩之輔氏と前田 遥氏らが発表した。なお、BA.5流行期のワクチン有効性の結果は、Expert Review of Vaccines誌2024年1~12月号に論文掲載された2)。 VERSUS研究では、COVID-19を疑う症状があり病院を受診した16歳以上の患者、または呼吸器感染症を疑う症状で入院した16歳以上の患者において、新型コロナウイルス検査陽性者を症例群、検査陰性者を対照群とした検査陰性デザイン(test-negative design)を用いた症例対照研究を行い、ワクチン効果(vaccine effectiveness)を推定している。研究におけるアウトカムは、COVID-19の発症予防および入院予防とした。今回の発表では、2021年7月~9月のデルタ株流行期、2022年1月~6月のオミクロン株BA.1/BA.2流行期、2022年7月~11月のオミクロン株BA.5流行期、2022年後半~2023年前半BA.5/BQ.1流行期(オミクロン株対応2価ワクチン開始)、2023年オミクロン株XBB/EG.5.1流行期を通して、ワクチンの未接種者と比較した新型コロナワクチンの有効性が、前田氏によりまとめられた。 主な結果は以下のとおり。・デルタ株流行期では、2回接種により発症予防に対してワクチンの高い有効性が認められた。・オミクロン株BA.1/BA.2流行期では、2回接種による有効性は十分ではなく、3回接種が必要であった。16~64歳において、2回接種から180日以上の人での発症予防に対してワクチンの有効性が33.6%に対し、3回接種から90日以内の人では68.7%だった。65歳以上でも同様の傾向で、2回接種の有効性は31.2%に対し、3回接種では76.5%だった。・オミクロン株BA.5流行期では、ブースター接種(3回目または4回目)により、発症予防におけるワクチンの有効性は上昇したが、時間経過により有効性の低下が認められた。16~59歳において、2回接種から181日以上の人での発症予防に対してワクチンの有効性が26.1%に対し、3回目接種から90日以内の人では58.5%と再度上昇した。60歳以上でも、3回目接種181日以上の人では16.5%まで低下したが、4回目接種から90日以内では44.0%まで上昇した。・BA.5流行期の60歳以上におけるワクチンの入院予防効果について、ブースター接種の高い有効性が認められた。呼吸状態の悪い患者など、重症な患者に限定した解析でも同様に高い有効性が認められた。・BA.5/BQ.1流行期では、オミクロン株対応2価ワクチンは、発症予防に中程度の有効性が認められたが、XBB/EG.5.1流行期以降は効果が十分ではなかった。16~64歳において、BA.5/BQ.1流行期では、接種から90日以内で発症予防における2価ワクチンの有効性は56.1%だったが、XBB/EG.5.1流行期では、接種から90日以内では12.3%だった。・BA.5/BQ.1流行期およびXBB/EG.5.1流行期では、65歳以上でも、発症予防については16~64歳と同様の傾向が認められたが、入院予防ではいずれの期間でも高い有効性が認められた。2価ワクチン接種90日以内の入院予防の有効性は、BA.5/BQ.1流行期で72.6%に対し、XBB/EG.5.1流行期では69.1%だった。・いずれの期間においても、ファイザー製とモデルナ製の両mRNAワクチンで有効性の差はみられなかった。・今後XBB.1.5対応ワクチンの評価も行われる予定。 本セミナーの後半では、横浜市立大学データサイエンス研究科/東京大学大学院薬学系研究科の五十嵐 中氏が、国内でのワクチンの定期接種化に向けた費用対効果の評価を行う際、日本とは医療環境の異なる海外でのデータに依拠するだけでは不十分で、国内でのデータを評価することの重要性を強調した。VERSUS研究によって、国内の有効性データの迅速推計の基盤が整備され、費用対効果やQOL評価に役立つデータの創出に貢献し、さらに、今回築かれた基盤は、今後、他のワクチンの政策決定においても継続的な情報提供が可能になるとまとめた。

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