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高齢者のがん、発症前に歩行速度が急激に減少

 高齢者におけるがん診断前と後におけるサルコペニアの尺度の減少度をがんではない高齢者と比較した場合、診断前に歩行速度の減少度が大きいことがわかった。米国・アラバマ大学のGrant R. Williams氏らが報告した。JAMA Network Open誌2020年5月1日号に掲載。 著者らは、サルコペニアの3つの尺度(四肢除脂肪量[ALM]、握力、歩行速度)について、がんと診断された高齢者の診断前の減少度と診断後の減少度を、がんではない高齢者の減少度と比較し、さらにサルコペニアの尺度とがん患者の全生存率および主な身体障害との関連を評価した。 このコホート研究は、Health, Aging, and Body Composition研究の参加者(ペンシルベニア州ピッツバーグおよびテネシー州メンフィスとその周辺の白人のメディケア被保険者とすべての黒人居住者のランダムサンプルから募集した70~79歳の地域住民3,075人)を対象とし、1997年1月から2013年12月まで17年間観察した。データは2018年5月~2020年2月に分析した。年に一度、ALM、握力、歩行速度を調査し、線形混合効果モデルを使用して、それぞれの変化についてがん発症者の診断前と診断後、非がん発症者で比較した。さらに、サルコペニアの尺度とがん診断日からの全生存および主な身体障害との関連について、多変量Cox回帰を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・3,075人のうち、男性が1,491人(48.5%)、黒人が1,281人(41.7%)、平均年齢は74.1(SD:2.9)歳であった。・研究開始から7年の間に515人(16.7%)ががんを発症した。多いがんは前立腺がん(117人、23.2%)、大腸がん(63人、12.5%)、肺がん(61人、12.1%)、乳がん(61人、12.1%)で、165人(32.0%)に転移が認められた。・がん発症者の診断前の各尺度の減少率は、非がん発症者と比べ、歩行速度では大きかった(β=-0.02、95%CI:-0.03~-0.01、p<0.001)が、ALM(β=-0.02、95%CI:-0.07~0.04、p=0.49)、握力(β=-0.21、95%CI:-0.43~0、p=0.05)は差がなかった。・がん発症者の診断後の各尺度の減少率は、非がん発症者に比べ、ALMでは大きかった(β=-0.14、95%CI:-0.23〜-0.05、p<0.001)が、握力(β=-0.02、95%CI:-0.37〜0.33、p=0.92)、歩行速度(β=0、95%CI:-0.01〜0.02、p=0.51)は差がなかった。・転移のある患者では、がん診断後のALMの減少率が最も大きかった(β=-0.32、95%CI:-0.53〜-0.10、p=0.003)。・歩行速度が遅いと、死亡率が44%増加(HR:1.44、95%CI:1.05〜1.98、p=0.02)、身体障害が70%増加(HR:1.70、95%CI:1.08〜2.68、p=0.02)したが、ALMや握力が低い場合には死亡率と身体障害の増加は認められなかった。

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第17回 メタボ対策からフレイル対策へシフトするタイミング【高齢者糖尿病診療のコツ】

第17回 メタボ対策からフレイル対策へシフトするタイミングQ1 食事療法を“個別化”するときの指針とは? どの時点でメタボ対策からフレイル対策へシフトしますか?栄養成分の予後に及ぼす影響は年齢によって異なってきます。一般住民の縦断調査では65歳以下ではタンパク質摂取が増えるほど死亡リスクが高くなりますが、66歳以上ではタンパク質摂取が少ないほど死亡リスクが上昇しています1)。また、メタ解析で健康的な食事パターンは65歳以上でのみ、フレイルのリスクを減らすことが報告されています2)。J-EDIT研究では、75歳以上の高齢糖尿病患者でのみ、野菜や魚が多い“健康食事パターン”は、肉や脂肪の摂取が多い“肉食食事パターン”と比べて死亡が少ないという結果が得られています3)。また、75歳以上の糖尿病患者では、地中海食のアドヒアランスが良好になるにつれて歩行能力やバランスの能力が改善するのに対して、60~74歳ではその関連が認められないという報告もあります4)。したがって、高齢糖尿病患者の食事療法は高齢期のどこかの時点で、メタボ対策からフレイル対策にシフトする必要があります。メタボ対策からフレイル対策へシフトする目安としては(1)後期高齢者、(2)低栄養、(3)フレイル・サルコペニアがあります。低栄養はBMI低値、体重減少、食事摂取量低下などで判断します。フレイルの評価にはJ-CHS基準(3項目以上)か基本チェックリスト(8点以上)を用います。サルコペニアはAWGS2019に基づいた筋力、骨格筋量などの評価によって診断します。認知機能やADLを同時に評価できるDASC-8も使用できます(第7回参照)。DASC-8の11点以上のカテゴリーIIが、フレイル対策の食事療法を行う患者の候補となります。フレイル対策のための高齢糖尿病患者の食事療法では、十分なエネルギー量、タンパク質、緑黄色野菜の摂取を勧め、低栄養を防ぐような食事を勧めます。2020年には高齢者のフレイル検診が始まり、地域の自治体や医師会によるフレイル対策が計画されています。運動療法とともに食事療法においてもフレイル対策を行うことで、健康寿命の延伸とQOLの維持・向上につながることが期待されます。Q2 認知症合併の場合、どのような対策を立てたらよいでしょうか?認知機能障害を合併した糖尿病患者の場合、低栄養を防ぎ、バランスを重視した食事療法を行います。低栄養は前臨床期を含めたさまざまな認知症の段階で認知機能を悪化させます。体重減少やBMI低値は糖尿病における認知症発症の危険因子になっています5)。また、食品の多様性が乏しくなり、その結果、低栄養となって、認知機能が悪化することに注意する必要があります。過度の食事制限は興奮や易怒性などの行動・心理学的徴候(BPSD)をきたしやすくします。間食などを無理にやめさせるのではなく、できるだけカロリーの少ない食品を用意して食べてもらう方がいいように思います。認知機能障害のある糖尿病患者では炭水化物に偏り、タンパク質や野菜の摂取が低下しやすくなります。調理しないで済む菓子パンなどが多くなる傾向があります。生活のリズムが乱れ、朝食または昼食の欠食がみられることもあります。介護者に対してこうした食事指導を行うことも必要ですが、介護保険などのサービスを利用し、ヘルパーによる調理や買い物などの援助を得ることも大切です。宅配食の利用などもいいですが、デイサービス・デイケアを利用することが、介護者の負担を軽減し、規則正しい生活リズムを保ち、昼食を確保することにつながり、食事療法の面からも大切であると思います。1)Levine ME, et al. Cell Metab 19:407-417, 2014.2)Fard NRP, et al. Nutrition Reviews 77:498–513, 2019.3)Iimuro S, et al. Geriatr Gerontol Int 12 (Suppl. 1): 59-67, 2012.4)Tepper S, et al. Nutrients 10: E767, 2018.5)Nam GE et al. Diabetes Care 42:1217-1224, 2019.

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第16回 新ガイドラインで総エネルギー摂取量の設定法はどう変わったか【高齢者糖尿病診療のコツ】

第16回 新ガイドラインで総エネルギー摂取量の設定法はどう変わったかQ1 高齢糖尿病患者の総エネルギー摂取量の決め方は?1)高齢者の栄養状態をどうとらえるか高齢糖尿病患者の栄養状態は個人差が大きく、低栄養と過栄養が混在しています。J-EDIT研究によると、高齢糖尿病患者の実際の総エネルギー摂取量は、男性で1,802±396kcal(31.0±6.8 kcal/kg体重)、女性で1,661±337kcal(33.7±6.9kcal/kg体重)であり、指示量よりも多くとっていました1)。この値は、これまで高齢者に指示していた標準体重当たりエネルギー指示量の25~30kcal/kg体重と乖離しています。一方、高齢糖尿病患者は低栄養を起こしやすく、体重減少やBMI低値となり、総エネルギー摂取量が低下している人もいます。これまでの考え方では、(身長)2×22で求めた標準体重に活動係数をかけて総エネルギー量を求めていました。その根拠は、高齢者を除いた一般住民の疫学調査から、死亡のリスクが最も低いBMIが22であることに基づいています。また、JDCSとJ-EDITの糖尿病患者のプール解析では、最も死亡リスクが低いBMIは22.5以上、25前後であるという結果でした。一方、75歳以上ではBMI 18.5未満の群の死亡リスクが8.1倍と75歳未満と比べて高くなり、後期高齢者では低栄養が死亡リスクに及ぼす影響が著しいことが示されました2)。高齢糖尿病患者ではサルコペニアやフレイルをきたしやすくなりますが、これらの成因には低栄養が大きく関わっており、とくにエネルギー摂取量とタンパク質摂取量の低下が関係しています。2)総エネルギー摂取量の設定の仕方は?上記のことから、高齢糖尿病患者の総エネルギー摂取量は過栄養だけでなく、低栄養やサルコペニア・フレイル予防の観点も考慮しながら決める必要があります。日本糖尿病学会は「糖尿病診療ガイドライン2019」で食事療法について改訂を行い、標準体重ではなくて、年齢を考慮した目標体重を用いた新たな総エネルギー摂取量の設定法を提案しました3)。総エネルギー摂取量(kcal/日)は目標体重(kg)にエネルギー係数(kcal/kg)をかけて求めます(表1)。目標体重の目安は65歳未満では従来通り[身長(m)]2×22ですが、前期高齢者は[身長(m)]2×22~25、後期高齢者も[身長(m)]2×22~25となっています。身体活動レベルと病態によるエネルギー係数(kcal/kg)は、(1)軽い労作:25~30、(2)普通の労作:30~35、(3)重い労作:35~のように設定します。肥満症やフレイルがある場合は、エネルギー係数を柔軟に変えることができるとされています。画像を拡大する3)目標体重当たりのエネルギー摂取と死亡の関係高齢糖尿病患者の追跡調査であるJ-EDIT研究では、目標体重当たりのエネルギー摂取量と6年間の死亡リスクとの間にU字型の関連が認められました(図1)4)。すなわち、約25kcal/kg体重未満の群と約35kcal以上の群で死亡リスクが上昇し、高齢糖尿病患者のエネルギー摂取量は25~35kcal/目標体重が最も死亡のリスクが低いという結果です。目標体重にかけるエネルギー係数は高齢者では25~35になることがほとんどですので、この結果は目標体重をもとにしたエネルギー量の設定が妥当であることを示唆しています。標準体重当たりの摂取エネルギー量の場合も、同様にU字型の関係が認められました。しかし、最も死亡リスクが小さい摂取エネルギー量は31.5~36.4kcal/kgであり、25~30kcal/kg標準体重で摂取エネルギー量を設定すると、摂取量不足になる可能性があります。また、目標体重当たりのエネルギー摂取と死亡の関係は、実体重と死亡との関係に近似していますので、これも目標体重当たりで考えた方がいいという理由の1つになります。画像を拡大する4)従来よりも指示量は増える? 実際に総エネルギー量を算出してみる目標体重による計算法では、従来の標準体重による計算法と比べて総エネルギー摂取量の指示量が多くなることが予想されます。身長150cm、体重53kgの76歳の女性で、目標体重が1.5×1.5×24=54.0kgとなったとき、軽い運動を行っている場合には30をかけてエネルギー摂取量は1,620kcalとなり、1,600kcalを処方することになります。従来であれば標準体重49.5 kgから28をかけて1,386kcalとなり、1,400kcalの食事を処方したと思われ、200~300kcal多い食事を処方することになります。こうした目標体重によるエネルギー量の設定法は、高齢者においてメタボ対策から低栄養・フレイル対策にシフトしていく観点からみると有用である可能性があります。しかし、現在の食事量や体重をみながら段階的に設定することと、身体機能、心理状態、体重、血糖コントロール状況、食事内容などの推移を見ながら、適宜変更していく必要があります。また、十分に摂取できない高齢者に対して、エネルギー摂取量を増やす方法についても個別に検討すべきであると思います。Q2 タンパク質摂取量はどのように決めますか?1)フレイル・サルコペニア予防の観点からは?フレイルやサルコぺニアの発症や進行を予防するためには、十分なタンパク質の摂取が大切です。欧州栄養代謝学会(ESPEN)のガイドラインでは、高齢者の筋肉の量と機能を維持するためには少なくとも1.0~1.2 g/kg体重/日のタンパク質摂取が推奨されています5)。また、急性疾患または慢性疾患がある高齢者では1.2~1.5 g/kg体重のタンパク質摂取が勧められています。高齢糖尿病女性の3年間の追跡調査でも1.0g/kg体重以上のタンパク質摂取の群の方が1.0g/kg体重未満の群と比べて膝進展力低下や身体機能低下が少ないという結果が得られています6)。2)タンパク質摂取を勧める理由タンパク質を十分にとる理由は、タンパク質中のアミノ酸であるロイシンが、筋肉のタンパク質合成に働くためです。ロイシンは肉類だけでなく、魚、乳製品、卵、大豆製品にも多いので、さまざまなタンパク質をバランス良くとるよう勧めることが大切です。なかなかタンパク質がとれない高齢者には、温泉たまご、魚の缶詰、プロセスチーズなどタンパク質やロイシンの多い食品を付加するような指導を行います。朝のタンパク質摂取の割合が低いとフレイル・サルコペニアになりやすいという報告もあるので、朝にタンパク質をとることを勧めるといいと思います。3)タンパク質摂取と腎機能との関係一方、タンパク質の摂取量を増やした場合には腎機能の悪化が懸念されます。しかしながら、高齢者のタンパク質摂取増加と腎機能低下との関係は明らかではありません。高齢者の追跡調査ではタンパク質摂取量とシスタチンCから求めたeGFRcys低下との関連は認められませんでした7)。顕性アルブミン尿がない2型糖尿病患者6,213人(平均年齢65歳)の追跡調査でもタンパク質摂取の最も低い群ではむしろ、CKDの悪化が見られています8)。高齢者のタンパク質制限に関してもエビデンスが乏しく、13のRCT研究のメタ解析ではタンパク質制限がeGFR低下を抑制しましたが9)、うち高齢者の研究は2件のみです。進行したCKDを合併した糖尿病患者のタンパク質制限は腎機能の悪化を抑制したという報告もありますが10)、MDRD trialのようにタンパク質制限群では死亡率の増加が認められた報告もあります11)。また、本邦の糖尿病を含むCKD患者にタンパク質制限を行った報告では65歳以上ではタンパク質摂取が最も多い群で死亡リスクが減少しています12)。したがって、重度の腎機能障害がなければ、フレイル・サルコぺニア予防のためには充分なタンパク質を摂ることが望ましいように思われます。腎症4期の患者では腎機能、骨格筋量、筋力などの変化をみながら、タンパク質制限か十分なタンパク質摂取の確保かを個別に判断する必要があります。また、高齢者ではタンパク質制限のアドヒアランスが不良であることが多いことにも注意する必要があります。1)Yoshimura Y, et al. Geriatr Gerontol Int. 2012; Suppl: 29-40.2)Tanaka S, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2014;99: E2692-2696.3)日本糖尿病学会 編著.糖尿病診療ガイドライン2019.南江堂,東京, 31-55, 2019.4)Omura T, et al. Geriatr. Gerontol. Int. 2019;1–7.5)Deutz NE, et al. Clin Nutr. 2014; 33:929-936.6)Rahi B, et al. Eur J Nutr. 2016; 55:1729-1739.7)Beasley JM, et al. Nutrition. 2014; 30:794-799.8)Dunkler D, et al. JAMA Intern Med. 2013; 173:1682-1692.9)Nezu U, et al. BMJ Open. 2013 May 28 [Epub ahead of print].10)Giordano M, et al. Nutrition. 2014 Sep;30:1045-9.11)Menon V, et al. Am J Kidney Dis. 2009 Feb;53:208-17.12)Watanabe D, et al. Nutrients. 2018 Nov 13;10: E1744.

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フレイル施策を掲げる、国の本当の狙いとは/日本医師会

 2020年度から75歳以上の健康診査にフレイルが追加される。高齢者の低栄養に医師の介入が求められることから、国からのプライマリケア医に対する期待は大きいであろう。2019年11月28日、「人生100年時代の健康と栄養を考える-フレイル予防対策における日本型食生活の役割-」が開催(日本医師会、米穀安定供給確保支援機構主催)。本稿では飯島 勝矢氏(東京大学高齢社会総合研究機構 教授)による基調講演の内容についてお届けする。フレイルは疾患から派生するだけではない 基調講演において、『健康長寿 鍵は“食”-人生100年時代を元気で乗り切るためのフレイル予防-』について講演した飯島氏は、少子高齢化問題が沸騰していた2014年、日本老年医学会の一員として『フレイル』を提唱し、この言葉の定着に貢献した。 フレイルとは、サルコペニアやロコモティブシンドロームなど、病気依存性のものと考えられがちであるが、実は、社会的、心理的、認知的と非常に多面的な事象が相絡み合うことによって生じる概念である。同氏は「とくに、社会的フレイル(孤食、経済的困窮など)の側面から負のスパイラルが生じ、心理的、認知的フレイルに影響が及んでいるケースが散見される」とし、「フレイルの状態は十人十色。複合的に読み解いていかなければならず、フレイル健診では単に筋肉量を測定しているだけではいけない」と、診察時の姿勢について呼びかけた。また、近年では、口の働きの衰えを示すオーラルフレイルにも注目が寄せられており、オーラルフレイル群では正常群と比して総死亡リスクが2.09倍にもなることが報告されている。 今では、国をはじめ多くの自治体がフレイルについて注目しているわけだが、その理由について、同氏は「国の施策であるのはもちろんのこと、フレイルは可逆性であり“頑張れば健康に近い状態に戻れる”ため、心に響きやすい」と、説明した。高齢者が高齢者を支える時代 ところが、フレイルを含む介護予防への事業者の参加率や継続率の低さが問題視されている。それでも、これからフレイル・認知症予防についてしっかり策を講じた場合、2034年までに介護費用の伸びを抑制する効果は、対策を行わなかった場合と比較して“約3兆円”にのぼることが経済産業省の試算で示されている。このことから、少子高齢化で互いを支え合うためには、「高齢者のなかでも元気な方の場合、支えられる側ではなく、支える側になることが求められる」とし、「フレイル予防を通じて、支える側の高齢者を増やすことが、国の目指す方向性の一つ」と解説した。高齢者のやる気を奮い立たせるには? 支える側の高齢者を増やしていくには、食事指導をはじめ、医師による患者指導が肝心である。しかし、国民はフレイルに関する基本的な情報をすでに収集している。それ踏まえ、「国民は食に関して何の情報を求めているのか。医師は国民が本当に知りたい情報・ソリューションは何かを理解しておかないといけない。でなければ、患者は情報の乱れ打ちにあってしまう」と、同氏は患者の心を動かす指導を推奨している。 たとえば、フレイル予防として患者に歩行を呼びかけたい場合、『歩かないと歩けなくなりますよ』という説明をしても患者には響かない。この説明を『2週間寝たきりになると、7年分の筋肉が落ちます』のように、科学的根拠を盛り込みつつもわかりやすく言い換えることで、「患者に響く指導になる」と同氏は述べた。フレイルには人とのつながりと栄養が活力 同氏はこのような指導を、地域高齢者を対象とした柏スタディ(コホート研究)1)において実践している。このほか、サルコペニアの予後予測に有用な“指輪っかテスト”も発案し、縦断追跡を行っている。また、この研究から、「1人暮らしよりも“孤食”かどうか」「食事内容」などがフレイル予防におけるポイントであることを示し、地域での人とのつながり2)が多い人や日本型食事パターンの人(魚・大豆製品・野菜・果物を多く摂取)、食事炎症性指数(炎症誘導性食事)の低さが、フレイル予防やサルコペニアの有病率低下に影響することも明らかにしている。 最後に同氏は、健康長寿に向けたフレイル予防のための『3つの柱』(栄養・身体活動・社会参加)を掲げ、これを体現するフレイルサポーターについて紹介。彼らは全国68自治体でフレイルチェック事業を行う団体で、地域の集いの場を“気づきの場”へ、そして真の“活躍の場”としている。「黄緑色のポロシャツが全国共通のユニフォームで、そこにも高齢者と呼ばれる年齢の方が活躍し、フレイルサポーターとして食支援サポーターを兼任するなど、専門職では出せない能力を発揮している」と、彼らのさらなる活躍を期待した。

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第5回 サルコペニアを合併する高齢患者に必要な心リハとは?【今さら聞けない心リハ】

第5回 サルコペニアを合併する高齢患者に必要な心リハとは?今回のポイント高齢心不全患者では半数以上でサルコペニアを合併しているサルコペニアは生活の質を低下させるだけでなく、生命予後の不良因子である高齢心不全患者こそ、心リハでの積極的介入が重要第2回でも紹介しましたが、心臓リハビリテーション(以下、心リハ)は、現在、心筋梗塞や狭心症だけではなく心不全患者にも保険適用となっています。日本人口の高齢化に伴い、心不全患者が増加し続けており、2020年には120万人を超えると予想されています。最近の日本の急性心不全入院患者の多施設前向き研究では、心不全入院患者の年齢中央値は80歳でした1)。さて、読者の皆さまは、高齢の急性心不全入院患者に心リハを行うべきと考えるでしょうか? よく内科医の方から、『高齢の急性心不全患者では足腰の問題もあり、エルゴメータやトレッドミルの運動ができないので、心リハは適応外ではないですか?』『急性心不全入院患者では循環動態が不安定なので、できるだけ負担をかけないために安静にしているほうがいいのでは?』といった質問を受けます。果たして、高齢の急性心不全入院患者では安静が良いのでしょうか? このような患者は、退院後も運動療法が適応外なのでしょうか?心リハ=エルゴメータ運動ではない通常、心リハの運動療法では、大腿四頭筋群を中心に使う律動的な運動を行いやすいエルゴメータ運動が用いられます。しかし、当然ながらエルゴメータの上で座位を保持できるバランス力に加え、自転車こぎ運動ができる最低限の筋力・持久力が必要になります。エルゴメータでは負荷量を調整できますが、通常のエルゴメータには機器の重みとして最低10W(ワット)の負荷がかかります。このため、10Wの負荷で持久的な自転車こぎ運動ができる患者でなければ、通常のエルゴメータによる有酸素運動の適応にはなりません。高齢者に限らず、重症心不全患者などで運動耐容能が高度に低下し通常のエルゴメータ運動ができない場合には、椅子からの立ち上がり運動(スクワット)やつま先立ち運動(カーフレイズ)などのごく軽度の筋力トレーニングを行ってもらいます。このような筋力トレーニング5~10回を1セットとして1日に頻回に行う方法により、体幹・下肢の筋量増加を目指します(「少量頻回」の原則)。また、このような患者では、歩行をはじめ日常生活動作(ADL)が不安定な患者も多いので、歩行訓練や移乗訓練などADL訓練を行います。いわゆる廃用症候群のリハビリと似たトレーニング内容となりますが、心不全患者ではリスク管理が重要です。リハビリを実施する際には、心電図モニタリング・血圧・Borg指数を確認し、専門医の監督のもとで行います。急性心不全では安静臥床が適切か?急性心不全により循環動態が悪化している際には安静が必要です。病状によっては、トイレ動作ですら、さらなる循環動態の悪化を招くことがあります。しかし、最近では循環動態のモニタリング機器の性能が格段に向上し、循環器救急患者のリハ中のリスク管理が容易になりました。そのような中で、リスク管理下での超急性期リハの安全性や有効性が検討された結果、現在では急性心不全患者でも「初期治療により循環動態の改善が認められれば、速やかに心リハを開始すべきである」と考えられています。安静臥床は筋萎縮だけでなく、せん妄や・無気肺・肺炎・自律神経機能異常などの合併症を来しやすく、それらの合併症により、治療は一層複雑化してしまいます。したがって、超急性期の心リハでは、初期治療により循環動態および自覚症状の改善傾向を認めたら速やかに(できれば治療開始後48時間以内に)リハ介入し、ベッド上あるいはベッド周囲での運動を開始することを目指します。循環動態・自覚症状の速やかな改善は心不全患者の長期予後とも関連することが知られており、早期の循環動態改善を目指した治療薬も開発が進められています。これらの治療に並行した早期リハ介入は、とくにサルコペニアに陥りやすい高齢心不全患者にとって重要です。近年の臨床研究にて、心不全患者の体重減少、すなわちサルコペニアはADLを低下させるだけではなく、生命予後不良因子であることがわかっています2)。心リハでサルコペニアの進行を予防することは、心不全患者のADLのみならず生命予後にも関わる重要な介入であるといえます。とくに高齢心不全患者では同化抵抗性によりトレーニングを行っても筋肉量が増加しにくいことや社会的事情により回復期の通院心リハへ参加することが困難なことも多いため、入院中に低下した筋量・身体機能を退院後に回復させることは容易ではありません。介護を要する高齢患者の増加を防ぐために、また介護負担を少しでも軽減するために、入院中の心リハがカギとなると考えられます。最後に臨床の現場では、入院中に積極的なリハがないまま、退院日前日まで“原則安静”とされている心不全患者が多いようです。退院後、患者は必要に応じて身体を動かす必要がありますが、医師の大半はそれに無関心で、「きつい活動は控えましょう」の一言のみ。疾患管理において安静や運動制限が本当に重要と考えるのであれば、入院中から患者がどの程度の身体活動を症状・循環動態の悪化なく行えるのかを医学的に評価した上で、退院時に「あなたはここまでの活動は問題なくできますが、これ以上のきつい活動は控えてくださいね」というように具体的に指導するべきではないでしょうか。高齢者診療に関わる医療者は、安静のもたらす功罪について今以上に意識を高める必要がありそうです。<Dr.小笹の心リハこぼれ話>「心リハ=エルゴメータ運動ではない」と書きましたが、運動耐容能の低下した高齢心不全患者では通常のエルゴメータ運動が困難でも、ストレングスエルゴ8®(アシスト機能付きエルゴメータ)や、てらすエルゴ®(仰臥位用負荷量可変式エルゴメータ)などを用いれば、自転車こぎ運動が可能になることも多く、当院でもこれらの機器を用いて高齢心不全患者に対して有酸素運動の指導を行っています3)。また、当院では導入していませんが、アームエルゴ®など上肢を使うエルゴメータもあります。患者ごとに適切な運動の種類を検討することも運動処方のポイントです。運動に用いる器具はいくつかバリエーションを用意し、どのような器具を用いるのか、患者ごとに指導できると良いですね(図1)。画像を拡大する1)Yaku H, et al. Circ J. 2018;82:2811-2819.2)Anker SD, et al. Lancet. 2003;361:1077-1083.3)Ozasa N, et al. Circ J. 2012;76:1889-1894

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深刻度高い膵がんの悪液質 シリーズがん悪液質(6)【Oncologyインタビュー】第13回

固形がんの中でも予後が悪いとされる膵臓がん。この膵臓がんと悪液質の関係について、国立がん研究センター東病院 肝胆膵内科医長 兼 先端医療開発センター バイオマーカー探索トランスレーショナルリサーチ分野に所属する光永 修一氏に話を聞いた。膵臓がんでの悪液質の特徴を教えていただけますか。膵臓がんでの悪液質の特徴としてまずあげられるのは、合併頻度の高さです。初診時、つまり新たに膵臓がんと診断された時点ですでに5~6割の患者さんが悪液質を合併しているとの報告があります。アメリカでの観察研究では膵臓がん患者は、診断前から悪液質の兆候が認められると報告されていますし、治療経過中に膵臓がんの全体の8割に悪液質が合併するという報告もあります。悪液質が発症すると、患者さんのQOLは著しく低下するといわれています。従来から膵臓がんは予後がきわめて不良ながんとして知られていますので悪液質の合併による深刻度は、ほかのがん種に比べても、さらに高いといえます。膵臓がんでの悪液質の原因や病態進行との関係については現在どのようなことがわかっているのでしょうか。悪液質の原因としては、炎症性サイトカインの活性化やホルモンの異常が指摘されています。炎症性サイトカインにはインターロイキン-1(IL-1)、インターロイキン-6(IL-6)、腫瘍壊死因子(TNF-α)があります。これら炎症性サイトカインを阻害する治療に関する研究も行われていますが、その結果は必ずしも良好だとはいえません。たとえばIL-1を阻害する治療に関する研究報告は非常に解釈がむずかしい結果でした。また、ホルモンの分泌異常についてもいくつかの研究報告はありますが、やはり確定的な結果とはいえません。結局、実験的なレベルで認められる悪液質の原因が治療応用に結びつく形にはなっていないのが現状なのです。そうした中、われわれが行った研究では、食欲を促進するホルモンである活性化グレリンの比率が低下している膵臓がん患者さんでは、食欲不振が著しいという結果がわかりました。この結果から、グレリンの活性化の低下、グレリンの分泌量低下が悪液質に関わっているのかもしれないとも推察しています。膵臓がんでは悪液質の合併が実際の治療にどのような影響を及ぼすのでしょうか。悪液質では全身状態が低下しています。具体的な研究報告はありませんが、一般的に全身状態が低下している患者さんでは、抗がん治療の毒性が強く出やすく、またその頻度が高いことが知られています。その観点からは膵臓がんでも抗がん治療による毒性が強く出やすいと考えられます。その毒性の中でも抗がん剤による消化器毒性と全身状態の低下には相関関係があることがわかっています。膵臓がんでも悪液質を合併している患者さんでは抗がん剤による消化器毒性が強く出る可能性が高いと考えられます。膵臓がんで悪液質を合併しているかを見分けるポイントはあるのでしょうか。悪液質以外で膵臓がんの患者さんに体重減少が起こる原因は、主に3つあります。1つは外分泌機能の異常、簡単に言えば消化吸収の能力が落ちてしまうことで体重が減少してしまうというものです。2つ目は膵臓がんそのものの増大による、とくに十二指腸などの上部消化管の閉塞、3つ目は膵臓がんの増大で上部消化管の動きが悪くなるというものです。基本的にこれら3つの原因による体重減少と悪液質による体重減少は合併していることが多く、どちらが体重減少の原因かを見分けることはきわめてむずかしいのが現状です。悪液質が優勢で体重減少が起きているか否かを見極める手段としては、炎症反応、具体的にはCRP値を測定することだと思います。実際、悪液質を合併している膵臓がん患者さんではCRP値の上昇が認められます。しかし、具体的なCRP値の基準はありません。膵臓がんでは胆管炎が起こりやすく、その場合もCRP値が上昇しますので、胆管炎の治療をしてもCRP値が改善しない場合は悪液質と診断するという流れになります。そもそも悪液質では炎症性サイトカイン活性化と同様に代謝異常が起こっています。この悪液質による代謝異常を見分けられるバイオマーカーがあれば、診断は容易になるでしょうが、現時点では代謝異常の適切なバイオマーカーはありません。さまざまな除外診断をして、悪液質か否かを判断するのが臨床現場での方策だと考えています。最近では高齢進行非小細胞肺がん/膵臓がんに対する早期栄養・運動介入の前向き単群の第I相試験(NEXTAC-ONE試験)が行われましたが、この結果についてはどのように受け止めていますか。NEXTAC-ONE試験では非小細胞肺がんと膵臓がんを分けた解析は行っていませんが、全体で見た場合に早期の栄養・運動介入で体組成や筋力は維持されているという結果が得られました。ただ、同試験は2つのがん種を併せて30例と症例数が少なく、膵臓がんのみで何らかの有用な示唆を得られる状況にはないと考えています。現在、目標症例数を130例に設定した多施設無作為化比較試験である第II相試験「NEXTAC-TWO試験」が行われていますので、この結果で非小細胞肺がんと膵臓がんで層別解析した際に膵臓がんでの栄養・運動介入の意義がわかるでしょう。悪液質に関する臨床研究はどのような方向に進むでしょうか。現在、悪液質に関する臨床研究の流れは、原因に対する治療法の研究と悪液質の症状に対する支持療法の研究の2つに大別されます。支持療法についてはNEXTAC試験に代表されるような栄養療法、運動療法で、現時点ではこの2つが最も効果が高いと考えられていますので、日本では前述したNEXTAC-TWO試験を適切に実施しながら今後の方向性を検討していくことになります。一方、原因に対する治療としては炎症性サイトカインの活性化や骨格筋の減少を抑制する薬剤が開発されています。現時点では良好な成績が認められているものはありませんが、徐々に開発が進みつつある状況です。こうした薬剤で臨床試験に至っているものはまだ年間数件ですが、世界中で開発が模索されています。がん治療に関わる医療従事者へのメッセージがあればお願いします。がんでは、がんそのものが原因で悪液質以外にもさまざまな症状が発現するため、症状が悪液質によるものなのか、判断が難しいことが少なくありません。これまでわかっていることを総合すれば、なるべく早めに悪液質の傾向が強いかどうかを判断し、悪液質の優勢が疑われれば、早期に筋力の維持に有効な運動・食事療法を提案するといった介入を検討することで望ましい結果を生む可能性があると思います。がん悪液質の診断基準では、過去6ヵ月間の体重減少が5%以上を1つの基準としていますが、海外で医療従事者を対象にしたアンケートでは、多くの回答者が体重減少15%程度で悪液質と判断するという結果が明らかになっています。その意味ではもう少し早めの介入を検討してほしいと思います。こうした認識の違いは、早期に診断をしても現時点では決定的な治療法がない、あるいは悪液質を改善した時にどんなベネフィットがあるかが明確ではないことに起因しているのだとも考えられます。一方で運動療法や栄養療法への信頼性が高まってきています。海外の取り組みや国内でのNEXTAC試験の取り組みで、早期介入がどのような良い結果をもたらすのか…介入による臨床的意義を示すための努力が、われわれスペシャリストに求められていると思います。本試験は2019年3月に全予定症例の登録が完了しました。現在は追跡期間中であり、2021年に主要評価項目に関する解析を予定しています。参考わが国の膵臓がん悪液質、7割に発症、有害事象発現も高く/日本癌治療学会がん悪液質に対する早期の栄養・運動介入…NEXTAC試験 シリーズがん悪液質(5)高齢者進行非小細胞肺がん、膵がん患者に対する早期運動・栄養介入の多施設共同ランダム化第II相試験(NEXTAC-TWO)

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第13回 糖尿病合併症の管理、高齢者では?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第13回 糖尿病合併症の管理、高齢者では?高齢糖尿病患者は罹病期間が長い例が多く、進行した合併症を有する例も多く経験します。今回はいわゆる三大合併症について解説します。合併症の進展予防には血糖管理だけではなく、血圧、脂質など包括的な管理が必要となりますが、すべてを厳格にコントロールしようとするがあまり“ポリファーマシー”となり、症例によっては、かえって予後を悪化させる場合もありますので、実際の治療に関しては個々の症例に応じて判断していくことが重要になります。Q1 微量アルブミン尿が出現しない場合も? 糖尿病腎症の管理について教えてください。高齢糖尿病患者でも、高血糖は糖尿病腎症の発症・進展に寄与するため、定期的に尿アルブミン・尿蛋白・eGFRを測定・計算し、糖尿病腎症の病期分類を行うことが推奨されています1)。症例にもよりますが、血液検査は外来受診のたび、尿検査は3~6カ月ごとに実施していることが多いです。高齢者では筋肉量が低下している場合が多く、血清Cre値では腎機能をよく見積もってしまうことがあり、BMIが低いなど筋肉量が低下していることが予想される場合には、血清シスタチンCによるeGFR_cysで評価します。典型的な糖尿病腎症は微量アルブミン尿から顕性蛋白尿、ネフローゼ、腎不全に至ると考えられており、尿中アルブミン測定が糖尿病腎症の早期発見に重要なわけですが、実際には、微量アルブミン尿の出現を経ずに、あるいは軽度のうちから腎機能が低下してくる症例も多く経験します。高血圧による腎硬化症などが、腎機能低下に寄与していると考えられていますが、こういった蛋白尿の目立たない例を含め、糖尿病がその発症や進展に関与していると考えられるCKDをDKD (diabetic kidney disease;糖尿病性腎臓病)と呼びます。加齢により腎機能は低下するため、DKDの有病率も高齢になるほど増えてきます。イタリアでの2型糖尿病患者15万7,595例の横断調査でも、eGFRが60mL/min未満の割合は65歳未満では6.8%、65~75歳で21.7%、76歳以上では44.3%と加齢とともにその割合が増加していました2)。一方、アルブミン尿の割合は65歳未満で25.6%、 65~75歳で28.4%、76歳以上で33.7%であり、加齢による増加はそれほど目立ちませんでした。リスク因子としては、eGFR60mL/min、アルブミン尿に共通して高血圧がありました。また、本研究では80歳以上でDKDがない集団の特徴も検討されており、良好な血糖管理(平均HbA1c:7.1%)に加え良好な脂質・血圧管理、体重減少がないことが挙げられています。これらのことから、高齢者糖尿病の治療では、糖尿病腎症の抑制の面からも血糖管理だけではなく、血圧・脂質管理、栄養療法といった包括的管理が重要であるといえます。血圧管理に関しては、『高血圧治療ガイドライン2019』では成人(75歳未満)の高血圧基準は140/90 mmHg以上(診察室血圧)とされ,降圧目標は130/80 mmHg未満と設定されています3)。75歳以上でも降圧目標は140/90mmHg未満であり、糖尿病などの併存疾患などによって降圧目標が130/80mmHg未満とされる場合、忍容性があれば個別に判断して130/80mmHg未満への降圧を目指すとしています。しかしながら、こうした患者では収縮期血圧110mmHg未満によるふらつきなどにも注意したほうがいいと思います。降圧薬は微量アルブミン尿、蛋白尿がある場合はACE阻害薬かARBの使用が優先されますが、微量アルブミン尿や蛋白尿がない場合はCa拮抗薬、サイアザイド系利尿薬も使用します。腎症4期以上でARB、ACE阻害薬を使用する場合は、腎機能悪化や高K血症に注意が必要です。また「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」では、75歳以上で腎症4期以上では、CCBが第一選択薬として推奨されています4)。腎性貧血に対するエリスロポエチン製剤(ESA)の使用については、75歳以上の高齢CKD患者では「ESAと鉄剤を用い、Hb値を11g/dL以上、13g/dL未満に管理するが、症例によってはHb値9g/dL以上の管理でも許容される」となっています。高齢者ではESAを高用量使用しなければならないことも多く、その場合はHbA1c 10g/dL程度を目標に使用しています。腎臓専門医への紹介のタイミングは日本腎臓学会より示されており、蛋白尿やアルブミン尿の区分ごとに紹介基準が示されているので、ご参照ください(表)。画像を拡大するQ2 網膜症、HbA1cの目安や眼科紹介のタイミングは?高血糖が糖尿病網膜症の発症・進展因子であることは高齢者でも同様です。60歳以上の2型糖尿病患者7万1,092例(平均年齢71歳)の追跡調査では、HbA1c 7.0%以上の患者ではレーザー光凝固術の施行が10.0%以上となり、HbA1c 6.0%未満の患者と比べて約3倍以上となっています5)。また、罹病期間が10年以上の高齢者糖尿病では、10年未満の患者と比べて重症の糖尿病性眼疾患(失明、増殖性網膜症、黄斑浮腫、レーザー光凝固術施行)の頻度は高くなりますが、80歳以上ではその頻度がやや減少すると報告されています6)。このように、高齢糖尿病患者では罹病期間が長く、光凝固術の既往がある例も多く存在します。現在の血糖コントロールが良好でも、罹病期間が長い例では急激に糖尿病網膜症が進行する場合があり、初診時は必ず、その後も少なくとも1年に1回の定期受診が必要です。増殖性前網膜症以上の網膜症が存在する場合は急激な血糖コントロールにより網膜症が悪化することがあり、緩徐に血糖値をコントロールする必要があります。どのくらいの速度で血糖値を管理するかについて具体的な目安は明らかでありませんが、少なくとも低血糖を避けるため、メトホルミンやDPP-4阻害薬単剤から治療をはじめ、1~2ヵ月ごとに漸増します。インスリン依存状態などでやむを得ずインスリンを使用する場合には血糖目標を緩め、食前血糖値200mg/dL前後で許容する場合もあります。そのような場合には当然眼科医と連携をとり、頻回に診察をしていただきます。患者さんとのやりとりにおいては、定期的に眼科受診の有無を確認することが大切です。眼科との連携には糖尿病連携手帳や糖尿病眼手帳が有用です。糖尿病連携手帳を渡し、受診を促すだけでは眼科を受診していただけない場合には、近隣の眼科あての(宛名入りの)紹介状を作成(あるいは院内紹介で予約枠を取得)すると、大抵の場合は受診していただけます。また、収縮期高血圧は糖尿病網膜症進行の、高LDL血症は糖尿病黄斑症進行の危険因子として知られており、それらの管理も重要です。高齢者糖尿病の視力障害は手段的ADL低下や転倒につながることがあるので注意を要します。高齢糖尿病患者797人の横断調査では、視力0.2~0.6の視力障害でも、交通機関を使っての外出、買い物、金銭管理などの手段的ADL低下と関連がみられました7)。J-EDIT研究でも、白内障があると手段的ADL低下のリスクが1.99倍になることが示されています8)。また、コントラスト視力障害があると転倒をきたしやすくなります9)。Q3 高齢者の糖尿病神経障害の特徴や具体的な治療の進め方について教えてください。神経障害は糖尿病合併症の中で最も多く、高齢糖尿病患者でも多く見られます。自覚症状、アキレス腱反射の低下・消失、下肢振動覚低下により診断しますが、高齢者では下肢振動覚が低下しており、70歳代では9秒以内、80歳以上では8秒以内を振動覚低下とすることが提案されています10)。自律神経障害の検査としてCVR-Rがありますが、高齢者では、加齢に伴い低下しているほか、β遮断薬の内服でも低下するため、結果の解釈に注意が必要です。検査間隔は軽症例で半年~1年ごと、重症例ではそれ以上の頻度での評価が推奨されています1)。しびれなどの自覚的な症状がないまま感覚障害が進行する例もあるため、自覚症状がない場合でも定期的な評価が必要です。とくに、下肢感覚障害が高度である場合には、潰瘍形成などの確認のためフットチェックが重要です。高齢者糖尿病では末梢神経障害があると、サルコペニア、転倒、認知機能低下、うつ傾向などの老年症候群を起こしやすくなります。神経障害が進行し、重症になると感覚障害だけではなく運動障害も出現し、筋力低下やバランス障害を伴い、転倒リスクが高くなります。加えて、自律神経障害の起立性低血圧や尿失禁も転倒の誘因となります。また、自律神経障害の無緊張性膀胱は、尿閉や溢流性尿失禁を起こし、尿路感染症の誘因となります。しびれや有痛性神経障害はうつのリスクやQOLの低下だけでなく、死亡リスクにも影響します。自律神経障害が進行すると神経因性膀胱による排尿障害、便秘、下痢などが出現することがあります。さらには、無自覚低血糖、無痛性心筋虚血のリスクも高まります。無自覚低血糖がみられる場合には、血糖目標の緩和も考慮します。また、急激な血糖コントロールによりしびれや痛みが増悪する場合があり(治療後神経障害)、高血糖が長期に持続していた例などでは緩徐なコントロールを心がけています。中等度以上のしびれや痛みに対しては、デュロキセチン、プレガバリン、三環系抗うつ薬が推奨されていますが、高齢者では副作用の点から三環系抗うつ薬は使用しづらく、デュロキセチンかプレガバリンを最小用量あるいはその半錠から開始し、少なくとも1週間以上の間隔をあけて漸増しています。両者とも効果にそう違いは感じませんが、共通して眠気やふらつきの副作用により転倒のリスクが高まることに注意が必要です。また、デュロキセチンでは高齢者で低Na血症のリスクが高くなることも報告されています。1)日本老年医学会・日本糖尿病学会編著. 高齢者糖尿病診療ガイドライン2017.南江堂; 2017.2)Russo GT,et al. BMC Geriatr. 2018;18:38.3)日本高血圧学会.高血圧治療ガイドライン2019.ライフサイエンス出版;20194)日本腎臓学会. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018. 東京医学社会; 20185)Huang ES, et al. Diabetes Care.2011; 34:1329-1336.6)Huang ES, et al. JAMA Intern Med. 2014; 174: 251-258.7)Araki A, et al. Geriatr Gerontol Int. 2004;4:27-36.8)Sakurai T, et al. Geriatr Gerontol Int. 2012;12:117-126.9)Schwartz AV, et al. Diabetes Care. 2008;31: 391-396.10)日本糖尿病学会・日本老年医学会編著. 高齢者糖尿病ガイド2018. 文光堂; 2018.

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がん悪液質に対する早期の栄養・運動介入…NEXTAC試験 シリーズがん悪液質(5)【Oncologyインタビュー】第11回

初回化学療法開始時からがん悪液質に対する栄養・運動介入を行うNEXTAC試験が始まった。同試験の実務をリードする静岡県立静岡がんセンター 呼吸器内科の内藤 立暁氏に、同試験の内容を聞いた。がん悪液質の臨床研究試験について、がん治療の臨床研究とは異なる点を教えていただけますか。がん悪液質の患者に対する臨床試験の実施には、通常の抗がん剤の臨床試験と異なり、いくつかの障壁があることがわかっています。1つ目は単独介入の壁です。栄養療法、運動療法、薬物療法のいずれか単独で介入する臨床研究では、一貫した成果を証明できていません。多要因によって発生するがん悪液質にはこれらを組み合わせた治療が必要と考えられています。2つ目は脆弱性の壁です。たとえば、がん悪液質に対する栄養介入や薬物治療の臨床研究では、がんの増悪や病状悪化により治療の遵守率が悪化し、研究の脱落者が多発します。運動介入の研究においても、やはり病状悪化や骨転移による症状などで治療が中断してしまう症例が多く、多くの臨床試験がその脆弱性により妨げられてきました。3つ目は機能回復の壁です。いくつかの薬物治療の臨床研究では骨格筋を増加させることはできたものの、身体機能の回復は得られませんでした。現在も、さまざまな治療法が研究されていますが、現在のところ身体機能を改善した薬物治療は存在しません。そのような中、NEXTAC試験が開始されたのですね。NEXTAC(Nutrition and Exercise Treatment for Advanced Cancer)-ONEならびに-TWO試験は京都府立医科大学の高山浩一先生を研究代表者とした臨床研究であり、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の助成を受けて実施しています。前述の単独介入の壁、脆弱性の壁、機能回復の壁、この3つの悪液質の臨床研究を妨げる壁を乗り越えるために計画されました。NEXTACプログラムは、身体機能の回復を目的とし、進行がんの診断後に早期から運動療法と栄養療法を導入する集学的介入です。運動療法については、脆弱な高齢者のがん患者さんにもやり遂げられる低強度の在宅プログラムとし、下肢筋トレーニングと身体活動を促進するカウンセリングを取り入れています。栄養療法については、栄養カウンセリングを中心とし、分子鎖アミノ酸(BCAA)を含有したサプリメントを用いています。またいずれの治療においても、動機を維持し、行動変容を促進するような教育的なアプローチを取り入れています。第I相試験としてNEXTAC-ONE試験が行われましたが、どのようなものか具体的に教えていただけますか。NEXTAC-ONE試験は、NEXTACプログラムの実現可能性をみる前向き単群の第I相試験です。70歳以上の進行膵がんと肺がん患者さん30例に対し、初回化学療法と同時に、栄養・運動介入を開始し、試験期間は8週間です。海外の類似した集学的治療の研究では、多数の脱落者を出していたため、NEXTAC-ONE試験の実現可能性の主要評価は8週間のNEXTACプログラムへの参加割合としました。栄養・運動の介入が化学療法の開始時から始まるというのは従来では考えられないような早いタイミングではありませんか。従来は、化学療法開始の時期から始めるとは考えなかったかもしれないですね。しかし、進行肺がんや膵がんの患者さんは、診断の時点で半数以上が、すでにがん悪液質を有していることが疫学データで明らかになっており、その後は時間と共に悪液質の割合は増加します。従って、化学療法の開始時が最も適切な開始時期と考えました。NEXTAC-ONE試験の概要対象:1次治療としての化学療法を実施予定の進行期非小細胞肺がん、または膵臓がん患者。年齢70歳以上、PS 0~1、介護を要しない患者(Barthel Index 95点以上)介入:標準化学療法の開始とともに、BCAA含有サプリメント摂取(大塚製薬:インナーパワー®)と管理栄養士による栄養カウンセリング、理学療法士による低強度の在宅での下肢筋力トレーニングの指導、主に看護師による、身体活動量促進のカウンセリングを行う。8週間の治療期間で、3回の運動指導と3回の栄養指導の計6回のセッションで構成される。評価項目:[主要評価項目]実現可能性(治療期間の6回のセッションのうち4回以上参加した患者の割合[副次評価項目]安全性、コンプライアンス、アドヒアランスなど画像を拡大するNEXTACプログラムの詳細栄養介入:栄養カウンセリングでは自宅での食事の栄養組成と摂取量を調査し、体格から計算されたカロリー、蛋白、水分の一日所要量と比較して充足しているか否か評価し、不足分をいかに補うかを指導します。また化学療法中に生じる口腔粘膜炎、味覚障害、や下痢など「摂食に影響を及ぼす症状」Nutrition Impact Symptoms(NIS)に対する対策を指導します。サプリメントは骨格筋の材料となるBCAA含有の製品(大塚医薬:インナーパワー®)を提供しました。低強度下肢筋力トレーニング:がんの治療では、遠方より通院されている方も多いですので、運動療法のために通院が必要となる方法は参加率を低下させます。従って運動処方は自宅で実施できる内容となっています。過去の研究では、上肢・下肢を含めた総合的な筋力トレーニングが用いられてきたのですが、進行がん患者の臨床試験では脱落者が多発します。従って、NEXTACプログラムの運動介入では、歩行に関連した下肢筋力トレーニング絞った低強度の介入としています。画像を拡大する身体活動促進プログラム:身体活動量促進プログラムは、加速度計付き歩数計を用い、歩数目標のゴールを決めて、毎日達成することを目指すものです。その際、抗がん剤の皮疹など外見的要因、下痢などの身体的要因といった外出を妨げる症状のコントロールや転倒防止の指導もカウンセリングプログラムの中に含めています。NEXTAC-ONE試験の結果について教えていただけますか。主要評価項目の参加率(栄養・運動3回ずつのセッションのうち4回以上参加した患者)は30人中29人で参加率は97%と良好でした。コンプライアンスは、サプリメントの服用、筋トレ実施、歩数計装着日はいずれも9割を超えており良好でした。また、介入の成果は行動変容にも出ており、約7割の患者さんが屋外活動を増やし、約8割の患者さんが屋内活動を増やしました。6分間歩行、握力などの身体機能について、化学療法中も維持されている傾向がありました。従って、NEXTACプログラムは実現可能性があり、安全性の問題もなく、身体機能についても効果が期待されるということから、現在はNEXTAC-TWO試験を実施中です。NEXTAC-Two試験はどのようなものか教えていただけますか。NEXTAC-TWO試験は、対象患者の選択基準はNEXTAC-ONE患者とほぼ同じですが、無作為化試験であり、コントロール群と、NEXTAC介入群の各群65名の計130名に参加いただきます。治療期間は12週間です。主要評価項目は介護不要生存期間(Disability-free Survival)、つまり要介護にならずに生存している期間としています。NEXTAC-TWO試験の概要対象:1次治療として化学療法実施予定の進行期非小細胞肺がん(NSCLC)または膵臓がん患者。年齢70歳以上、PS 0~2で、介護を要しない患者(Barthel Index 95以上)介入群:標準化学療法の開始とともに、BCAA含有サプリメント摂取(大塚製薬:インナーパワー®)と管理栄養士による栄養カウンセリング、理学療法士による低強度の在宅での下肢筋力トレーニングの指導、主に看護師による、身体活動量促進のカウンセリングを行う。12週間の治療期間で、4回の運動指導と4回の栄養指導の計8回のセッションで構成される。対照群:標準化学療法のみでNEXTAC介入なし。評価項目:[主要評価項目]無障害生存期間(Disability-free Survival)[副次評価項目]栄養状態、除脂肪体重、運動機能、ADL、QOL、全生存期間、安全性など画像を拡大する本試験は2019年3月に全予定症例の登録が完了しました。現在は追跡期間中であり、2021年に主要評価項目に関する解析を予定しています。参考NEXTAC-ONE試験1.Naito T, et al. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2019;10:73-83. 2.Mouri T, et.al. Asia Pac J Oncol Nurs. 2018;5(4):383-390.3.立松典篤他. 日本緩和医療学会誌 2018;13(4):373-381.NEXTAC-TWO試験1.Miura S, et.al. BMC Cancer. 2019;19(1):528.

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診断時に6割が悪液質の基準満たす!高齢者肺がん シリーズがん悪液質(4)【Oncologyインタビュー】第10回

近年、肺がん治療は急速に進化し、生命予後も顕著に改善している。しかし、肺がん患者におけるがん悪液質の発症頻度は高く、その生命予後への影響は現在においても大きい事が報告されている。肺がんと悪液質の発現と、その弊害について、静岡県立静岡がんセンターの内藤 立暁氏に聞いた。肺がんにおける悪液質はどのような形で現れるのでしょうか。進行肺がんを有する患者さんは、診断の時点で半数以上ががん悪液質を有していますが、そのことは本人も、家族も、診療している医療従事者も気づいていない場合が多いようです。がん悪液質を有する肺がん患者さんは、身体機能が低下し、化学療法の副作用が多く、生存期間が短いことがわかっています。したがって、化学療法などによって腫瘍を制御することはできても、全体的にみると臨床転帰は悪いということをしばしば経験するのです。このような患者さんにおいては、がん悪液質の存在をできるだけ早く診断し、適切な栄養療法や運動療法などの支持療法を併用することで、がん治療を長く継続でき、身体機能も維持されるのではないかと考えられています。肺がんと悪液質について今までの研究について教えていただけますか。私たちは、70才以上の高齢の進行肺がんの患者さん60例の体重、骨格筋量、身体機能、日常生活動作を定期的に測定する観察研究「進行肺癌を有する高齢者の日常生活動作の観察研究」(UMIN000009768)を実施しました。画像を拡大するその結果、がんの診断の時点で約6割(58%)の患者さんが悪液質の基準(スライド参照)を満たし、3割(28%)の患者さんが前液質の状態(2~5%の体重減少)にありました。つまり、約9割は初診時に前悪液質以上の状態だったことになります。表に示すように、診断の時点において、前悪液質あるいは悪液質の患者さんは、PS良好で、食欲もあり、体格や食欲についても非悪液質の患者さんと大差はなく、外見上は非常に鑑別の難しい状態にあります。体重減少という簡単な指標に注目することで、これだけ多くの患者さんで栄養障害が潜在的に存在していることがわかるのです。ちなみに、1年後には状況はさらに悪化し、8割程度が悪液質の基準を満たしてしまいます。画像を拡大するこの研究の副解析で、高齢の肺がん患者さんにおいて、がんの診断から死亡に至るまで、どのような順序で体の変化が生じるかを調査しました。体重減少以外にどのような身体的なイベントが起きるのでしょうか。さまざまイベントが起きますが、その発現には順番があります。各イベント発現の中央値をみると、体重減少は進行がんの早期、最初のイべントとして起きます。それに続いて起こるのが歩行機能障害です。抗がん剤治療開始後3ヵ月の段階で、半数以上の患者さんに歩行機能障害が起きています。約半年で筋力(握力)低下し、約1年後には要介護状態となります。また要介護から約半年後に、死亡の最終イベントが生じます。画像を拡大する画像を拡大するがんの治療では生存に目が行きがちですが、その間に体重減少から始まるさまざまな身体的イベントが起こっていることが、この観察研究でおわかりいただけるのではないかと思います。悪液質が起こることによる弊害は?同じ研究のステージIVの集団の解析から、診断時に悪液質であった患者さんは、そうでなかった患者さんに比べると、同じ生存期間であっても要介護状態の方が顕著に多いことがわかります。つまり、悪液質の患者さんは健康寿命も短いのです。画像を拡大するまた、がん悪液質の存在は医療依存度にも関連があります。非悪液質患者さんの診断から1年間の入院日数は60日間であるのに対し、悪液質患者さんは92日間も入院しています。1年間で1ヵ月も入院期間が長いことが明らかになりました。それに伴い、悪液質患者さんの医療費は年間150万円、非悪液質患者さんよりも多くなります。その医療費の追加分の内訳は、合併症による予定外受診や緊急入院、緩和治療に対する用途が多くを占めていました。このようなところにも悪液質の弊害は表れています。画像を拡大する肺がんの中でも悪液質の発現には違いがあるのでしょうか。腫瘍熱を有していたり、血清CRP値の高い症例では、慢性的炎症とそれに伴うサイトカインの分泌などから、がん悪液質を起こしやすいと考えられています。高齢者の肺がんでは、悪液質をケアし身体機能を良好に保ちつつ、がん治療を行うことが必要ですね。その通りです。これらの研究結果から、特に高齢者の担がん患者さんにおいては、管理栄養士、理学療法士、看護師、医師が連携し、栄養サポートやリハビリを組み合わせた支持医療を提供していくことが重要と考えています。このようながん悪液質に対する集学的支持医療は、患者さんの生命予後の延長だけでなく、機能予後の改善も期待できるのではないかと思います。1)内藤立暁, 髙山浩一, 田村和夫 日本がんサポーティブケア学会2019年3月2)森 麻理子, 青山 高, 内藤 立暁ほか 日本病態栄養学会誌.2017:20:205-213.3)Naito T. Evaluation of the True Endpoint of Clinical Trials for Cancer Cachexia. Asia Pac J Oncol Nurs.2019;6:227-233.4)Naito T, Okayama T, Aoyama T, et.al. Unfavorable impact of cancer cachexia on activity of daily living and need for inpatient care in elderly patients with advanced non-small-cell lung cancer in Japan: a prospective longitudinal observational study. BMC Cancer.2017;17:800.5)Naito T, Okayama T, Aoyama T, et.al. Skeletal muscle depletion during chemotherapy has a large impact on physical function in elderly Japanese patients with advanced non-small-cell lung cancer. BMC Cancer.2017;17:571.

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第12回 低血糖、シックデイ、アドヒア―注射剤にまつわる問題への対処法【高齢者糖尿病診療のコツ】

第12回 低血糖、シックデイ、アドヒア―注射剤にまつわる問題への対処法前回に引き続き、GLP-1受容体作動薬とインスリンそれぞれについて、高齢者での使い方のポイントをご紹介します。低血糖や、GLP-1受容体作動薬での消化器症状、そしてきちんと打てているかが心配な注射剤のアドヒアランスについて、状態を確認する方法と対処法をまとめます。Q1 低血糖や消化器症状、シックデイが心配。どのようにコントロールしますか?1)低血糖について高齢者では発汗・動悸といった典型的な低血糖症状が出づらく、めまいや脱力感が前面に出る場合が多く、低血糖症状が見逃されることがあります。また、低血糖症状がせん妄として現れることもあり、注意が必要です。インスリン使用者あるいはGLP-1製剤にSU薬やグリニド薬を併用している例では、低血糖のリスクがあるため、定期受診時に非典型的な症状も含めて症状の有無を確認します。また、HbA1cの下限も意識し、過度のコントロールにならないようにインスリンやSU薬、グリニド薬を減量します。2)消化器症状について肥満の非高齢者では好ましいGLP-1受容体作動薬の食欲低下作用ですが、高齢者では脱水やサルコペニアを惹起する可能性があり、食思不振や過度の体重減少に注意が必要です。そのため、筋肉量が少ないと予想される「やせ型」の高齢者にはあまりいい適応ではありません。週1回のGLP-1受容体作動薬は消化器症状が比較的出づらいといわれていますが、リスクはあるため、定期外来受診時は食欲と体重の推移に注意する必要があります。3)シックデイについて水分や炭水化物の摂取などの一般的なシックデイ対応が前提ですが、ここでは注射製剤の取扱いについて記述します。GLP-1受容体作動薬は血糖依存性にインスリン分泌を促進するため、基本的には食事量が少なくても中止する必要はありませんが、嘔気などの消化器症状が強い場合は増悪させる危険性があるため中止します。持効型や中間型などの作用時間の長いインスリンは中止しないことが原則です。とくに、1型糖尿病などインスリン依存状態の場合は、たとえ食事摂取ができなくとも持効型製剤は絶対に中止しないように指導します。2型糖尿病でインスリン分泌能が保たれている場合には投与量を減量する場合もあります。超即効型製剤は、食事(炭水化物)量に応じ調整(例:食事摂取量が半量ならインスリン半量など)するように指導し、紙に書いて渡していますが、高齢者では対応困難な場合が多く、強い症状が半日以上続く、24時間以上経口摂取ができないなどといった場合1)は医療機関を受診するように指導しています。Q2 手技指導のポイントがあれば、教えてください。1)自己注射の可否の判断認知機能の低下した高齢者にとって新たに注射手技を獲得することは非常に困難です。DASC-8や時計描画試験を含むMini-Cogなどを用いて認知機能をスクリーニングし(第4回参照)、本人への指導を行うかを検討します。本人が難しい場合には介護者への指導を行うことになりますが、老々介護の世帯も多く、介護者への指導も難しいこともあり、インスリン分泌能が保たれている場合には、訪問看護やデイケアの看護師が行う週1回のGLP-1製剤が有用な選択肢として考えられます。また、注射自体は患者本人が可能なものの、インスリンの準備やその単位設定が困難な場合があるので、注射手技の一部を介護者に依頼することもよくあります。2)自己血糖測定本人や介護者が注射手技は獲得できても、自己血糖測定が困難な場合もあるため、指導状況をみながら自己血糖測定の指導を行うかどうか検討します。GLP-1製剤のみを使用している場合で、低血糖リスクが少ないと判断した場合は、血糖測定は必須ではありません。インスリン注射の場合で血糖測定が困難なときには、低血糖回避のため、やむを得ず血糖コントロール目標を緩和することがあります。自己血糖測定が可能な場合には、低血糖を回避するために、食前または眠前の血糖値100mg/dL未満が継続する場合にその前の責任インスリンの減量(1~2単位)を考慮します。また、血糖値の変動が大きい場合には、インスリンボールができていないかどうかを確認し、固くない場所に注射するように指導します。3)注射のアドヒアランス自己注射を行えていた例でも、加齢に伴って打ち忘れがあったり、注射の実施が困難になったりする場合もあります。明らかな誘因がなくコントロールが悪化したときは、注射の打ち忘れと注射手技を確認します。とくに眠前の持効型インスリンは、つい早く寝てしまって、打ち忘れが起こりやすいので、朝食前や夕食後に変更することがあります。外出や旅行の際のインスリンの打ち忘れも起こりやすいので、あらかじめバッグに予備の注射薬を入れておくように指導します。インスリン注射は実施できていても単位を間違えることが懸念される場合は、多少の血糖上昇には目をつぶり、毎回のインスリン量を同じにする、10単位など覚えやすい単位数に設定するなどの工夫をすることもあります。インスリン単位数は処方箋の記載だけでなく、必ず紙に書いて(多くは自己血糖記録用紙に)渡すようにし、外来受診時に何単位打っているかを患者さんに答えてもらって、単位数の間違えがないかを確認しています。独居で介護者がいない場合は低血糖リスクを極力下げるため、血糖管理目標を緩和します。訪問看護を導入すると、インスリンの残量を確認することで実際に打てているかどうかをわかることがあります。インスリン注射が必要であるが、自己管理が困難で、かつ介護者が不在の場合は外来での対応は困難であり、入院あるいは短期入所のうえ環境調整が必要です。入院・入所を拒否された場合でも、説得を続けながら地域包括支援センターなどに相談します。1)日本老年医学会・日本糖尿病学会編著. 高齢者糖尿病診療ガイドライン2017.南江堂;2017.

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第11回 高齢者でも!注射剤の活用法【高齢者糖尿病診療のコツ】

第11回 高齢者でも!注射剤の活用法高齢者は個人差が大きく、ひとくくりに高齢者といっても、認知機能が保たれており、予後が10年以上見込まれる75歳の方と、認知症など多くの並存疾患があり、予後不良が予想される65歳の方では治療方針が異なります。注射剤の使用で問題となるのは自己管理が困難な高齢者だと思いますので、そうした方々を念頭に、私が普段の診療で行っていることを中心に記述します。なお、インスリン依存状態や、注射製剤(とくにインスリン)の導入や中止の判断に迷う場合には専門医への紹介をぜひご検討ください。また、GLP-1受容体作動薬とインスリンは同じ注射薬ではありますが、効果や使用目的が根本的に異なるため、分けて考える必要があります。Q1 高齢者でのインスリン注射のはじめどきは?高齢者でも、インスリン注射の適応は非高齢者と同様です1)。(1) インスリン分泌能の低下、(2)抗GAD抗体陽性あるいは抗IA-2抗体陽性、(3) 経口血糖降下薬3剤でも血糖コントロール不良、(4) 重度の肝障害、腎症4期以降で使用できる経口血糖降下薬が少なく、血糖コントロール不良、(5) ステロイドの使用、(6)感染症などの急性期、(7)高血糖が持続し、積極的に糖毒性の解除を行うときなどの場合に、インスリン注射を検討します。インスリン療法では、超即効型製剤を各食前と持効型製剤による強化インスリン療法が血糖管理のうえでは理想的ですが、インスリン分泌能や本人・介護者の能力・実行力に応じて、注射回数を決定し、それに応じたインスリン製剤を選択します。頻回注射は難しいことが多く、持効型製剤を1回、介護者が可能な時間帯に打つか、本人の注射手技を確認してもらいます。インスリン グラルギン(商品名:ランタスXR)では±3時間、インスリン デグルデク(商品名:トレシーバ)では±8時間の注射時刻のずれは効果・安全性に影響しないことが示されており、日による注射時刻の変動は許容できます。Q2 高齢者でのGLP-1受容体作動薬のはじめどきは?(1)インスリン分泌は保たれているが、経口血糖降下薬3剤でも血糖コントロール不良、(2)高齢者でも減量のメリットが得られる場合、(3)腎症4期以降で使用できる経口血糖降下薬が少なく、血糖コントロール不良、(4)認知機能障害などで服薬アドヒアランス不良、かつサポート不足があるなどの場合に、GLP-1受容体作動薬を検討します。とくに(4)の場合はアドヒアランスを重視し、週1回製剤を選択することが多いです。週1回の注射を介護者あるいは訪問看護師、デイケアなどの施設看護師が打つようにすると打ち忘れることもなく、複数回の経口薬と比べ、アドヒアランスが上がる場合があり、独居で注射手技の獲得が困難な高齢者でも使用できます。Q3 インスリンの注射の減量・中止を考えるとき注射製剤の中止を考える場合は、良好なコントロールが持続し、かつ注射管理が困難となった場合や、患者あるいは家族の強い希望があった場合などです。インスリンを中止する場合には、たとえ少量のインスリン使用で良好なコントロールが得られている場合でも、インスリン分泌能や抗GAD抗体を測定したうえで、中止を検討します。インスリン分泌能が保持されている場合は、経口薬を調整しながらインスリンを漸減し、インスリンの中止を試みます。一方、インスリン分泌能が高度に低下している場合には、インスリンを中止することは難しいため、介護サービスなどを利用し、持効型製剤1回でもどうにか注射できる体制を構築する必要がありますが、実際には外来診療ではなかなか時間がとれず、入院していただき環境調整を行うことも多くあります。入院ではまず、強化インスリン療法で糖毒性を解除します。インスリン依存状態でなければインスリンの中止、あるいは持効型1回打ちへの変更を目標として、忍容性があれば入院早期からメトホルミンを投与し、経過に応じてDPP-4阻害薬あるいはGLP-1受容体作動薬を検討します。GLP-1受容体作動薬を追加しても食後血糖がコントロールできない場合はグリニド薬やαグルコシダーゼ阻害薬(α‐GI)を考慮します。外来でのインスリン治療の簡略化は米国糖尿病学会のposition statementが参考になります(図)2)。強化インスリン療法を行っている場合には基礎インスリン(持効型・中間型インスリン)は継続し、空腹時血糖値が目標内(90~150mg/dL、個々の症例に応じて要調整)に入るように調整。SMBGにおける空腹時血糖値の半数が150mg/dL以上の場合は基礎インスリンを2単位増加し、血糖が80mg/dL以下の場合は2単位減量。食前インスリン(速攻型・超速効型インスリン)については、経口薬を追加し、10単位以下であればそのまま中止、10単位より多い場合は半量とするとされています。画像を拡大する本邦では、3単位以下ぐらいが追加インスリン中止の目安であろうと思います。追加する経口薬は、eGFR≧45mL/minで忍容性があればメトホルミン500mg分2を、すでにメトホルミンが投与されているか使用できない場合にはDPP-4阻害薬などを使用し、追加インスリンの中止を検討。混合型インスリンを使用している場合には総インスリン投与量の7割の持効型製剤に変更し、インスリン量、経口薬を調整するようにしています。Q4 GLP-1受容体作動薬の中止を考えるときGLP-1受容体作動薬もインスリンと同様に良好なコントロールが持続し、かつ注射管理が困難となったときに、DPP-4阻害薬等に変更し、中止を検討します。週1回のGLP-1受容体作動薬を使用している場合にはかえってアドヒアランスが落ちる場合もありますので、経口薬の管理が可能かを介護者や、場合によってはケアマネージャーに確認して中止しています。本人が自己管理困難になってきた場合には、連日投与から週1回製剤への切り替えを行います。また、GLP-1受容体作動薬の作用である食欲低下作用が強く出過ぎてしまい、過度の体重減少をきたし、サルコペニアが懸念される場合にも中止します。1)日本糖尿病学会編著. 糖尿病治療ガイド2018-2019.文光堂;2018.2)American Diabetes Association.Diabetes Care.2019;42:S139-147.

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ウェルナー症候群〔WS:Werner syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義ウェルナー症候群(Werner syndrome:WS)とは、1904年にドイツの眼科医オットー・ウェルナー(Otto Werner)が、「強皮症を伴う白内障症例(U[ウムラウト]ber Kataract in Verbindung mit Sklerodermie:Cataract in combination with scleroderma)」として初めて報告した常染色体劣性の遺伝性疾患である。思春期以降に、白髪や脱毛、白内障など、実年齢に比べて“老化が促進された”ようにみえる諸症状を呈することから、代表的な「早老症候群(早老症)」の1つに数えられている。■ 疫学第8染色体短腕上に存在するRecQ型のDNAヘリカーゼ(WRN)遺伝子のホモ接合体変異が原因と考えられる。これまで全世界で80種類以上の変異が同定されているが、わが国ではc.3139-1G>C(通称4型)、c.1105C>T(6型)、c3446delA(1型)の3大変異が症例の90%以上を占める。一方、この遺伝子変異が、本疾患に特徴的な早老症状、糖尿病、悪性腫瘍などをもたらす機序の詳細は未解明である。■ 病因希少な常染色体劣性遺伝病だが、日本、次いでイタリアのサルデーニャ島(Sardegna)に際立って症例が多いとされる。1997年に松本らは、全世界1,300例の患者のうち800例以上が日本人であったと報告している。症状を示さないWRN遺伝子変異のヘテロ接合体(保因者)は、日本国内の100~150例に1例程度存在し、WS患者総数は約2,000例以上と推定されるが、その多くは見過ごされていると考えられる。かつては血族結婚に起因する症例がほとんどとされたが、最近では両親に血縁関係を認めない患者が増え、患者は国内全域に存在する。遺伝的にも複合ヘテロ接合体(compound heterozygote)の増加が確認されている。■ 症状思春期以降、白髪・脱毛などの毛髪変化、両側性白内障、高調性の嗄声、アキレス腱に代表される軟部組織の石灰化、四肢末梢の皮膚萎縮や角化と難治性潰瘍、高インスリン血症と内臓脂肪蓄積を伴う耐糖能障害、脂質異常症、骨粗鬆症、原発性の性腺機能低下症などが出現し進行する。患者は低身長の場合が多く、四肢の骨格筋など軟部組織の萎縮を伴い、中年期以降にはほぼ全症例がサルコペニアを示す。しばしば、粥状動脈硬化や悪性腫瘍を合併する。内臓脂肪の蓄積を伴うメタボリックシンドローム様の病態や高LDLコレステロール(LDL-C)血症が動脈硬化の促進に寄与すると考えられている。また、間葉系腫瘍の合併が多く、悪性黒色腫、骨肉腫や骨髄異形成症候群に代表される造血器腫瘍、髄膜腫などを好発する。上皮性腫瘍としては、甲状腺がんや膀胱がん、乳がんなどがみられる。■ 分類WRN遺伝子の変異部位が異なっても、臨床症状に違いはないと考えられている。一方、WSに類似の症状を呈しながらWRN遺伝子に変異を認めない症例の報告も散見され、非典型的ウェルナー症候群(atypical Werner syndrome:AWS)と呼ばれることがある。AWSの中には、LMNA遺伝子(若年性早老症の1つハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候の原因遺伝子)の変異が同定された症例もあるが、WSに比べてより若年で発症し、症状の進行も早いことが多いとされる。■ 予後死亡の二大原因は動脈硬化性疾患と悪性腫瘍であり、長らく平均死亡年齢が40歳代半ばとされてきた。しかし、近年、国内外の報告から寿命が5~10年延長していることが示唆され、現在では60歳を超えて生活する患者も少なくない。一方、足部の皮膚潰瘍は難治性であり、疼痛や時に骨髄炎を伴う。下肢の切断を必要とすることも少なくなく、患者のADLやQOLを損なう主要因となる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)WSの診断基準を表1に示す。早老症候はさまざまだが、客観的な指標として、40歳までに両側性白内障を生じ、X線検査でアキレス腱踵骨付着部に分節型の石灰化(図)を認める場合は、臨床的にほぼWSと診断できる。診断確定のための遺伝子検査を希望される場合は、千葉大学大学院医学研究院 内分泌代謝・血液・老年内科学へご照会いただきたい。なお、本疾患は、難病医療法下の指定難病であり、表2に示す重症度分類が3度または「mRS、食事・栄養、呼吸の各評価スケールを用いて、いずれかが3度以上」または「機能的評価としてBarthel Index 85点以下」の場合に重症と判定し、医療費の助成を受けることができる。表1 ウェルナー症候群の診断基準画像を拡大する図 ウェルナー症候群のアキレス腱にみられる特徴的な石灰化像 画像を拡大する分節型石灰化(左):アキレス腱の踵骨付着部から近位側へ向かい、矢印のように“飛び石状”の石灰化がみられる。火焔様石灰化(右):分節型石灰化の進展した形と考えられる(矢印)。表2 ウェルナー症候群の重症度分類 画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 薬物療法WSそのものの病態に対する根本的治療法は未開発である。糖尿病は約6割の症例に見られ、高度なインスリン抵抗性を伴いやすい。通常、チアゾリジン誘導体が著効を呈する。これに対してインスリン単独投与の場合は、数十単位を要することも少なくない。ただし、チアゾリジン誘導体は、骨粗鬆症や肥満を助長する可能性を否定できないため、長期的かつ客観的な観察結果の蓄積が望まれる。近年、メトホルミンやDPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬の有効性を示唆する報告が増え、合併症予防や長期予後に対する知見の集積が期待される。高LDL-C血症に対しては、非WS患者と同様にスタチンが有効である。四肢の皮膚潰瘍に対しては、皮膚科的な保存的治療を第一とする。各種の外用薬やドレッシング剤に加え、陰圧閉鎖療法が有効な症例もみられる。感染を伴う場合は、耐性菌の出現に注意を払い、起炎菌の同定と当該菌に絞った抗菌薬の投与を心掛ける。足部の保護と免荷により皮膚潰瘍の発生や重症化を予防する目的で、テーラーメイドの靴型装具の着用も有用である。■ 手術療法白内障は手術を必要とし、非WS患者と同様に奏功する。40歳までにみられる白内障症例を診た場合、一度は、鑑別診断としてWSを想起して欲しい。四肢の皮膚潰瘍は難治性であり、しばしば外科的デブリードマンを必要とする。また、保存的治療で改善がみられない場合は、形成外科医との連携により、人工真皮貼付や他部位からの皮弁形成など外科的治療を考慮する。四肢末梢とは異なり、通常、体幹部の皮膚創傷治癒能はWSにおいても損なわれていない。したがって、甲状腺がんや胸腹部の悪性腫瘍に対する手術適応は、 非WS患者と同様に考えてよい。4 今後の展望2009年以降、厚生労働科学研究費補助金の支援によって研究班が組織され、全国調査やエビデンス収集、診断基準や診療ガイドラインの作成や改訂と普及啓発活動、そして新規治療法開発への取り組みが行われている(難治性疾患政策研究事業「早老症の医療水準やQOL向上をめざす集学的研究」)。また、日本医療研究開発機構(AMED)の助成により、難治性疾患実用化研究事業「早老症ウェルナー症候群の全国調査と症例登録システム構築によるエビデンスの創生」が開始され、詳細な症例情報の登録と自然歴を明らかにするための世界初の縦断的調査が行われている。一方、WSにはノックアウトマウスに代表される好適な動物モデルが存在せず、病態解明研究における障壁となっていた。現在、AMEDの支援により、再生医療実現拠点ネットワークプログラム「早老症疾患特異的iPS細胞を用いた老化促進メカニズムの解明を目指す研究」が推進され、新たに樹立された患者末梢血由来iPS細胞に基づく病因解明と創薬へ向けての取り組みが進んでいる。なお、先述の全国調査によると、わが国におけるWSの診断時年齢は平均41.5歳だが、病歴に基づいて推定された“発症”年齢は平均26歳であった。これは患者が、発症後15年を経て、初めてWSと診断される実態を示している。事実、30歳前後で白内障手術を受けた際にWSと診断された症例は皆無であった。本疾患の周知と早期発見、早期からの適切な管理開始は、患者の長期予後を改善するために必要不可欠な今後の重要課題と考えられる。5 主たる診療科内科、皮膚科、形成外科、眼科(白内障)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報千葉大学大学院医学研究院 内分泌代謝・血液・老年内科学 ウェルナー症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター ウェルナー症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)米国ワシントン州立大学:ウェルナー症候群国際レジストリー(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報ウェルナー症候群患者家族の会(患者とその家族および支援者の会)1)Epstein CJ, et al. Medicine. 1966;45:177-221.2)Matsumoto T, et al. Hum Genet. 1997;100:123-130.3)Yokote K, et al. Hum Mutat. 2017;38:7-15.4)Takemoto M, et al. Geriatr Gerontol Int. 2013;13:475-481.5)ウェルナー症候群の診断・診療ガイドライン2012年版(2019年中に改訂の予定)公開履歴初回2019年7月23日

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抗炎症効果が期待できる高齢者に適した食事療法とは?

 血糖値低下や体重減少を目的とした食事療法は数多い。その中で、最近注目を集めているトピックスが「抗炎症」。慢性炎症は生活習慣病などにつながる可能性があり、炎症を引き起こす栄養素を避け、炎症を抑える(抗炎症)作用を持つ栄養素を取る、という考え方だ。 2019年6月に行われた第19回日本抗加齢医学会総会において「抗炎症Diet」と題するシンポジウムが行われ、抗炎症作用を踏まえた食事療法として、山田 悟氏(北里大学北里研究所病院糖尿病センター センター長)が糖質制限食、古家 大祐氏(金沢医科大学医学部 教授)が低タンパク食を、最新の研究結果と共に紹介した。糖質制限の抗炎症作用は検証できる段階にはない 山田氏は、現時点で推奨すべきは糖質制限食という考えを示した。 その理由として、・カロリー制限食は、継続がきわめて困難かつ有効性がない(2型糖尿病発症予防のための介入試験[J-DOIT3]1)において調整後に全死因死亡や主要心血管イベントの発生率を有意に低下させることが実証されたが、介入から3年後には強化治療群・通常治療群ともにBMIが増加していた)。また、フレイルやサルコペニアにつながるリスクがある・タンパク制限食もフレイルやサルコペニアのリスクがあり、とくに筋肉の落ちやすい高齢者には不適という点を挙げた。 糖質制限食は、糖尿病患者の血糖値改善効果の研究ですでに多くのエビデンスがあり、これらの無作為化比較試験をメタ解析した9件の研究においても、血糖(HbA1c)・体重・脂質すべての数値がほかの食事療法より改善した、という結果を紹介した。一方、これらのメタ解析においてLDL-C値は全般的に改善効果が低く、極端な糖質制限はコレステロール値に悪影響を与える可能性があることに注意が必要とした。そして、注目の抗炎症作用については、糖質制限食とCRP値との関連を調べた研究が数件あるものの明確な結果は得られず、期待は持てるもののまだ検証できる段階にはない、と述べた。いわゆる地中海食に腎保護作用と抗加齢につながる可能性 続いて、古家氏が低タンパク食とメタボリックヘルスとの関連を調査した結果を発表した。ショウジョウバエを使ってカロリーと寿命の関係をみた過去の研究2)では、タンパク質制限は、カロリー制限と同等の延命効果が認められた。これを踏まえ、2型糖尿病モデルラットを使い、低タンパク食と腎障害・メタボリックヘルス改善との関連についての調査を実施。24週齢で腎障害が出ているラットを通常食群(タンパク質23.84%、脂質18.80%、炭水化物59.36%、エネルギー3.55kcal/g)と低タンパク食群(タンパク質5.77%、脂質16.48%、炭水化物77.75%、エネルギー3.54kcal/g)に割り付け、20週間の介入後に各数値の変化をみた。 結果として、低タンパク食群は血糖(HbA1c)・脂質が低下し、コレステロール値では有意差はなかったものの低下した。古家氏は「低タンパク食には腎保護効果とメタボリックヘルスの改善に関連が強く、寿命延伸につながる期待がもてる」と述べた。 また、低タンパク食は長期効果を疑問視する声やフレイルやサルコペニアを招くリスクが指摘されていることから、低タンパク食の量とともに「質」についても検討を行った。赤肉を多く取ると末期腎不全・腎死のリスクが高まり、赤肉をほかのタンパク質(鶏肉・魚・卵・豆類など)に換えることでリスクが減ったことから、「赤肉を減らし、魚や植物性タンパク質を多く取る、いわゆる地中海食が腎保護作用と抗加齢につながる可能性がある」とまとめた。■「卵コレステロール」関連記事特売卵のコレステロール量は?/日本動脈硬化学会

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持続する疲労感は成長ホルモン不全症(AGHD)のせい?

 ノボ ノルディスク ファーマ株式会社は、都内で成人の成長ホルモン分泌不全症(AGHD)に関するプレスセミナーを開催した。 セミナーでは「成人成長ホルモン分泌不全症(AGHD)とは」をテーマに、亀田 亘氏(山形大学医学部付属病院 第三内科 糖尿病・代謝・内分泌内科)を講師に迎え、なかなか診療まで結びつかない本症に関し、症状、診断と治療、患者へのフォローなどが紹介された。成長ホルモンが不足するとAGHDを来す 成長ホルモン(以下「GH」と略す)は下垂体で作られ、20歳くらいまで多く分泌され、それ以降は低下する。そして、下垂体で作られたGHは、静脈血に乗って、さまざまな標的器官に運ばれ、次のように作用する。・脳:思考力、意欲、記憶力を高める作用・軟骨・骨:正常な軟骨・骨の成長と強固な骨構造、骨量を維持する作用・心・骨格筋:心筋の強度・機能を高め、心臓の駆出機能を維持する作用・免疫系:免疫機能を亢進する作用・脂肪組織:脂肪代謝を促す作用・肝臓:糖新生作用の促進、IGF-1産生を促す作用・腎臓:水、電解質の調節作用・生殖器系:精巣・卵巣の正常な成長・発達を促進し、生殖機能を維持する作用 GHが不足するとAGHDを来し、亢進すると先端巨人症などの疾患を来すためにGHはバランスよく分泌される必要がある。AGHDは疲労感、集中力の低下などの日常の症状から疑う AGHDの主な症状として(詳細は『成人成長ホルモン分泌不全症の診断と治療の手引き(平成24年度改訂)』を参考)、疲労感、集中力の低下、うつ状態、皮膚の乾燥、体型の変化、骨量の低下、サルコペニア、脳腫瘍の合併などがある(小児発症では成長障害を来す)。 そして、AGHDの原因としては、脳の腫瘍や頭部外傷、中枢神経の感染症が考えられ、腫瘍によるものが多いという。 AGHD診断では、先述の臨床所見のほか、インスリン、アルギニン、L-DOPAなどの負荷によるGH分泌刺激試験の結果と合わせて診断されるほか、同時に重症度も判定される。 AGHD治療では、ソマトロピン(商品名:ノルディトロピンほか)などGH補充療法が行われている。わが国では、1975年から成長ホルモン分泌不全性低身長症の治療にGH補充療法が開始され、1998年にコンセンサスガイドラインができたことで世界的な治療へと拡大した。AGHDには 2006年から適応となり、現在もさまざまなGH関連疾患への適応が続いている。 患者フォローについては、AGHDは指定難病に指定され、医療費のサポートなどが受けられるほか、成長科学協会などの研究団体、下垂体患者の会などの患者会があり、疾患・治療に関する情報の提供・啓発などが行われている。

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1人でも多くの人に正しい理解を―『がん悪液質ハンドブック』発信。シリーズがん悪液質(3)【Oncologyインタビュー】第7回

昨今、がん悪液質に関しては認知度が徐々に高まっているが、決定打となる治療方針はないのが実情である。そのような状況下で日本がんサポーティブケア学会は、2019年3月より、同学会監修によるガイドブックのダイジェスト電子版を学会HPで公開している。こうした取り組みについて、同学会で作成の実務を担当した、静岡県立静岡がんセンター 呼吸器内科の内藤 立暁氏に聞いた。―まず『がん悪液質ガイドブック』電子版作成の経緯を教えていただけますか。がん悪液質に関するガイドライン、治療指針は、欧州のEuropean Palliative Care Research Collaborative(EPCRC)によるガイドラインを除くと、世界的にもほとんどないのが現状です。日本では日本緩和医療学会、日本静脈経腸栄養学会などの関連ガイドラインの中で一部言及がある程度で、やはりまとまったマニュアル、ガイドラインはありませんでした。こうした中、日本がんサポーティブケア学会(JASCC)代表理事である田村 和夫先生(福岡大学医学部 総合医学研究センター 教授)から、最新研究をまとめた英文学術書『Cancer cachexia: mechanisms and progress in treatment(がん悪液質:機序と治療の進歩)』(著者:Egidio Del Fabbroら)の翻訳書を学会から発行しようという提案があり、そこから、学会内に高山 浩一先生(京都府立医科大学 呼吸器内科 教授)を部会長としたJASCC Cachexia部会で翻訳が始まりました。その結果、学会監修で『がん悪液質:機序と治療の進歩』が発刊されましたが、非常に膨大なものなので読み切ることは難しく、コンパクトにまとめたものが欲しいとの要望がありました。その要望にお応えしたのが、2019年3月にJASCCより発刊された全16ページの『がん悪液質ハンドブック』(以下ハンドブック)です。―ハンドブック作成の目的、無料の電子版を公表した意図を教えていただけますか。ハンドブックを作成した目的は大きく3つあります。1つ目は、がん悪液質の正しい理解を広め、社会の認知度を高めることです。臨床現場では「がん悪液質は終末期の緩和病棟などで起こる症状」という誤った固定概念が根付いてしまっています。しかし最近、がんの種類によっては、手術で治癒が見込める症例であっても、術前の体重や骨格筋の減少が術後転帰を悪化させることが報告されています。つまり進行がんだけでなく、治癒可能な早期のがんでも悪液質はすでに共存しているのです。この事実を医療従事者が広く知り、イメージを変えてもらいたいのです。2つ目は、医療従事者に、がん患者さんの体重への関心を高めていただくことです。がん悪液質の診断には体重測定が重要ですが、がん治療を専門とする医療機関であっても、定期的な体重測定の習慣が根付いていないことが少なくありません。がん患者さんの体重減少の重要性が認知されていないのです。体重を定期的に測定することによって、医療従事者にも患者さんにも栄養状態の変化に関心を持っていただきたいのです。3つ目の目的は、医師以外の医療従事者にも気軽に読んでいただき、多職種の連携に役立てていただくことです。ハンドブックでも述べたように、がん悪液質の治療は医師の力だけでは難しいのです。栄養士の栄養管理、理学療法士による運動療法、看護師の生活指導、薬剤師の薬剤管理、心理療法士の心理介入など、がん悪液質の治療には多職種の協力が不可欠です。そのため、内容を絞り込み、図説を多用することで、多くの職種の皆さんに受け入れやすいハンドブックとなるよう心がけました。―ガイドブックの内容について簡単にご説明ください画像を拡大する内容は3章立てで、第1章ではがん悪液質がどのような症状で、臨床転帰にどのような影響を及ぼすかを解説しています。それは、がん悪液質は生命予後に影響するという大枠はもちろんのこと、悪液質があれば、化学療法の効果減弱と副作用増加を引き起こし、結果として治療の継続性に関わる疾患であるという点です。また、筋肉量の減少に伴う体重低下と食欲の低下は、外見の変貌なども相まって外出・外食を控える、その結果、家族との軋轢が生じるなど、心理面の影響も大きいのです。加えて、前述のEPCRCガイドラインで示されている悪液質のステージも紹介しています。このステージ分類では「前悪液質」→「悪液質」→「不応性悪液質」という段階を踏み、すでに「前悪液質」で集学的介入の必要性があることをうたっています。前述した悪液質に対する誤ったイメージは、「不応性悪液質」と呼ばれる最終段階のみを悪液質だと思い込んでいるためではないかと考えられます。画像を拡大する第2章では、悪液質の症状と現在わかっているそのメカニズムを解説しています。骨格筋減少では慢性的炎症とそれに伴うサイトカインの分泌物が特殊な代謝状況を引き起こしていること、また脂肪組織から分泌され食欲を抑えるホルモン「レプチン」と、胃から分泌され食欲を増進するホルモン「グレリン」のバランスが治療の鍵を握ることなど、図解を用いて説明しています。第3章では、現在までにわかっている各種治療の実態を解説しています。早期診断・早期介入の必要性、薬物だけでなく栄養、運動、社会心理面など、集学的介入の必要性を示しています。要は、がん悪液質の治療はどこか1つのスイッチを押せばよいというのではなく、多職種連携のもとで集学的に取り組む必要性があることが、この章でお伝えできればと思います。また、新規に開発されている薬物療法も紹介しています。―臨床現場でどのような活用を期待していますか?まずは病棟や外来で設置や配布し、看護師、薬剤師、理学療法士など多くの医療従事者に目を通していただき、がん悪液質の認知を広めてほしいということに尽きます。患者さんに見ていただいても差し支えないとも思っています。患者さんにとってはやや難しい内容かもしれませんが、「がん悪液質」という病名とその概要を大まかに知っていただき、医療スタッフと体重についてお話するきっかけになるかもしれません。医療現場でこのような対話が増えることが、がん悪液質の早期発見と早期治療の鍵となると考えています

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骨粗鬆症治療薬が筋力を左右する?

 骨粗鬆症治療を受けている患者は骨折リスクだけではなく、筋力の低下も問題である。そんな患者を抱える医師へ期待できる治療法の研究結果を紹介すべく、2019年6月14日、第19回日本抗加齢医学会総会にて宮腰 尚久氏(秋田大学大学院整形外科学講座 准教授)が「骨粗鬆症治療薬による筋力とバランスの変化」について講演した。骨粗鬆症治療薬が筋にも影響? 近年、骨粗鬆症治療薬である活性型ビタミンD3薬において、筋やバランスに対する効果が報告されている。骨粗鬆症治療には、骨折の予防だけではなく、転倒リスクの軽減も求められる。そのため、転倒予防として筋力の低下やバランス障害の改善も視野に入れなければならない。既存の骨粗鬆症治療薬においては、間接的作用として、骨折抑制による廃用予防や鎮痛作用による身体活動の維持が検証されてきた。宮腰氏は、「直接作用である筋・バランスに対する何らかの効果を検証する必要がある」とし、それらの臨床試験が実施された薬物(活性型ビタミンD3、アレンドロネート、ラロキシフェン)を提示した。 ラロキシフェンの場合、閉経後女性に対する投与後の体組成と筋力の変化をみた研究によると、Fat-free massと水分量でプラセボ群と有意な差がみられたが、膝の伸展筋力や握力には有意差がみられなかった。一方で、アレンドロネートを投与すると握力が増える、あるいはサルコペニアのバイオマーカーであるIL-6の減少が報告されているが、この効果を発揮させるためにビタミンDを併用する場合がある。同氏が今回引用した研究1)でも、アレンドロネートにカルシトリオールが併用されており、「筋力とIL-6の変化はビタミンDによる影響が大きい」とコメント。また、海外文献のメタアナリシスより天然型ビタミンD、活性型ビタミンD3で有意な転倒抑制効果があると報告した。日本人の骨粗鬆症患者にもビタミンD併用は有用か? このような海外データを踏まえ、同氏らは活性型ビタミンD3による影響を国内でも検証するために、『多施設共同研究による活性型ビタミンD3薬の転倒関連運動機能に対する効果の検討』を実施。75歳以上の閉経後骨粗鬆症患者のうち、易転倒性を有すると考えられる利き手の握力が18kg未満の患者を対象とし、転倒回数と転倒関連運動機能について6ヵ月間の活性型ビタミンD3製剤(カルシトリオール、アルファカルシドールのみ)投与の介入前後で比較した試験2)を行った。その結果、観察期間から最終評価時において握力と5m歩行速度、Timed up&goテストにおいて有意な改善が得られた。エルデカルシトールではどうか ビタミンDの筋に対する基礎研究から、ビタミンD受容体に作用して筋の同化に関わるジェノミック作用、カルシウム代謝などのさまざまな経路を介するラピッドエフェクト(ノンジェノミック作用)があり、それらをもって筋肉に作用することが明らかになっている。 しかし、エルデカルシトール(ELD)を用いた研究が世界的になされていないことから、同氏らはELDが筋力や動的バランスに有効性を発揮するか否かについて、ラットによる動物実験ののち、臨床試験にて検証。閉経後女性をアレンドロネート35mg/週単独群14例とELD0.75μg/日併用群17例に割り付け、握力、背筋力、腸腰筋力、動的座位バランスなどを測定した。その結果、動的バランス能力、外乱負荷応答の各指標であるTUGテスト、動的座位バランスが改善した。このことから同氏は「ELDは動的バランス能力の改善に寄与している可能性がある」と示唆した。 同氏はビタミンDと運動を併せた動物実験なども行ったうえで、骨粗鬆症治療薬における「ビタミンDの筋に対する効果を期待するためには“運動療法との併用”が実践的かもしれない」と締めくくった。

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サルコペニアは肺がん患者の約半数に合併し、OSを短縮する/Chest

 健康寿命を延ばすキーワードの1つとして注目されるようになったサルコペニア(骨格筋減少)だが、疾患予後との関連も注目されている。中国・四川大学のMing Yang氏らは、さまざまな報告がある肺がん患者の予後との関連について、コホート研究のメタ解析を行い、サルコペニアは、肺がん患者の約2人に1人と非常に多く認められること、小細胞肺がん(SCLC)患者および種々のStageの非小細胞肺がん(NSCLC)患者で全生存期間(OS)不良の重要な予測因子であることを明らかにした。Chest誌オンライン版2019年5月22日号の掲載報告。 研究グループは、肺がん患者におけるサルコペニアの予後に及ぼす影響を評価する目的で、MEDLINE、EmbaseおよびCochrane Central Register of Controlled Trialsを用い、2018年7月23日までに発表された後ろ向きまたは前向きコホート研究を特定し、システマティックレビューおよびメタ解析を行った。 個々の研究のバイアスリスクの評価には、Quality in Prognosis Study(QUIPS)を用いた。異質性および出版バイアスを調べ、サブグループ解析および感度解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・13件(計1,810例)の研究が解析に組み込まれた。・サルコペニアの有病率は、NSCLC患者で43%、SCLC患者で52%であった。・サルコペニアは、肺がん患者のOS不良と関連していた(HR:2.23、95%CI:1.68~2.94)。・この関連は、NSCLC(HR:2.57、95%CI:1.79~3.68)およびSCLC(HR:1.59、95%CI:1.17~2.14)のいずれにおいても認められた。・サルコペニアはNSCLCにおいて、StageI~II(HR:3.23、95%CI:1.68~6.23)およびStageIII~IV(HR:2.19、95%CI:1.14~4.24)における、OS不良の独立予測因子であった。・しかしながら、サルコペニアはNSCLC患者の無病生存(DFS)の独立予測因子ではなかった(HR:1.28、95%CI:0.44~3.69)。

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肺がん患者の7割が合併。食欲不振など悪液質の実態

 がん悪液質は、がん克服の重要な課題の1つとされており、肺がんでは死亡率上昇との関連も指摘されている。悪液質の定義と分類については2011年に、主に体重減少、サルコペニア(骨格筋量減少)、炎症および食欲不振に基づくものとの国際的なコンセンサスが発表されているが、フランス・パリ・サクレー大学のSami Antoun氏らは、非小細胞肺がん患者について初となるFearon基準に基づく分類を試みた。その結果、Fearon悪液質ステージ分類と、QOLの機能尺度および身体活動レベルはリンクしており、早期の悪液質を臨床的に検出するのに役立つ可能性が示されたという。Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle誌オンライン版2019年4月1日号掲載の報告。非小細胞肺がん患者がFAACT質問票の食欲不振/悪液質サブスケールに回答 研究グループは、Fearonらの基準と定量化パラメータを用い、非小細胞肺がん患者の悪液質のステージ分類を行う目的で、横断的な非介入の多施設共同研究を行った。非小細胞肺がん患者集団における悪液質の分布と、非小細胞肺がんの分子異常と悪液質の関連を示す初の研究である。 L3のCTスキャンにて骨格筋量を評価するとともに、患者にFAACT(Functional Assessment of Anorexia/Cachexia Therapy)質問票の食欲不振/悪液質サブスケール、EORTC QLQ-C30、および国際標準化身体活動質問票(International Physical Activity Questionnaire:IPAQ)に回答してもらい、分析評価した。 非小細胞肺がん患者の食欲不振など悪液質を調査した主な結果は以下のとおり。・56施設から非小細胞肺がん患者531例が登録され、312例が骨格筋量の測定を受けた。・非小細胞肺がん患者背景は、男性が66.5%で、平均年齢は65.2、79.9%がPS 0~1で、StageIIIB/IVが87.3%と大半を占めた。・非小細胞肺がん患者の38.7%が悪液質、33.8%が前悪液質、0.9%が不応性悪液質であった。・腫瘍の分子プロファイルは、悪液質の存在と有意に関連した。・EGFR、ALK、ROS1、BRAFまたはHER2陽性患者では悪液質の併存が23.9%であったが、K-RAS陽性では41.4%、分子異常のない患者では43.2%であった(p=0.003)。・悪液質のステージが進行しているほど、QOL(p<0.001)とIPAQ(p<0.001)の機能尺度が低下した。・サルコペニアは、悪液質の66.7%、および前悪液質患者の68.5%にみられた。・前悪液質の非小細胞肺がん患者の43.8%は、わずかな体重減少(2%以下)を伴うサルコペニアのみで、食欲不振はなかった。

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脳心血管病予防策は40歳からと心得るべき/脳心血管病協議会

 日本動脈硬化学会を含む16学会で作成した『脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャート2019』が日本内科学会雑誌第108巻第5号において発表された。2015年に初版が発行されてから4年ぶりの改訂となる今回のリスク管理チャートには、日本動脈硬化学会を含む14学会における最新版のガイドラインが反映されている。この改訂にあたり、2019年5月26日、寺本 民生氏(帝京大学理事・臨床研究センター長)と神崎 恒一氏(杏林大学医学部高齢医学 教授)が主な改訂ポイントを講演した(脳心血管病協議会主催)。脳心血管病予防が今後はますます求められる  2018年12月、「健康寿命の延伸などを図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」が成立した。2015年度国民医療費1)は42兆円を超え、内訳を見ると循環器疾患に対する医療費は全体の19.9%(5兆9,818億円)、次いで、悪性新生物が13.7%(4兆1,257億円)を占めていた。近年では医療の発展に伴い、病態の発症から死亡に至るまでの期間が伸びているものの、平均寿命と健康寿命の差はまだ大きい。死亡までに介護が必要となった主たる原因も、認知症を上回り、脳血管疾患が1位にランクインしている2)。このように、そのほか問題視されている肥満、糖尿病、喫煙などの現状を踏まえると、今後ますます、脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャートの活用が求められるようになる。脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャートの対象 厚生労働省による“人生100年時代構想”や高齢者のフレイル・介護問題を受け、今回の改訂でも高齢者の留意点が多く盛り込まれた。健康寿命を伸ばして要介護期間を短くする、つまり“不健康な期間”を短縮することがわれわれの使命、と考える両氏。神崎氏は、「65歳以上になってから努力するのではなく、中年期から努力することが健康寿命を延ばすためには必要。高齢者の場合は生活習慣病を管理しながら、多病に基づくポリファーマシーやサルコペニア/フレイルの発生にも注意する必要がある」とし、寺本氏は「高血圧などの危険因子を持たない段階での予防(0次予防)の患者に啓発することが重要」と、脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャートの対象者について言及。また、寺本氏は「定期的にチェックするために誕生日月に実施するのが有用。その旨を事前に患者に伝えておくと、患者自身も覚えている」と活用時期やその方法についてコメントした。脳心血管病リスクの管理状態の評価ツールとして活用可能 脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャートは、臨床現場で使用しやすいようにStep1~6までの順に従って診断・診療できるように設計されている。また、健康診断などで偶発的に脳心血管病リスクを指摘されて来院する患者を主な対象者とし、既に加療中の患者に対しても、管理状態の評価ツールとして活用可能になるようにも作成されている。 以下に脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャート各Stepにおける留意点を示す。◆Step1:スクリーニングと専門医等への紹介の必要性の判断基準a~cに分類。aでは家族歴や脈拍について重視、bの場合は空腹時血糖の測定が必要になるため、空腹時での来院を求める必要がある。また、アルドステロン症の見落としが散見されるため、この段階でしっかりチェックする必要がある。cでは、各専門医への紹介の必要性がある対象者を明確にしている。また、慢性腎臓病(CKD)の記載方法が変更している。◆Step2:各リスク因子の診断と追加評価項目脳心血管病の各リスク因子の診断と追加評価項目は各学会のガイドラインに準拠。◆Step3:治療開始前に確認すべきリスク因子喫煙リスクがある患者での禁煙指導が重要で、1回/年の確認が鍵となる。また、個々の病態に応じた管理目標について高齢者について加味している点がポイント。◆Step4:リスクと個々の病態に応じた管理目標の設定改訂前はリスク層別にNIPPON DATA80を使用していたが、今回は「吹田スコア」の使用を推奨。脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャートには危険因子を用いた簡易版が載っているので、それを基にリスクスコアを算出することが可能。◆Step5:生活習慣の改善食事摂取量は、日本人の食事摂取基準を参考にし、これまでのkcal重視からBMI重視に変更。身体活動を患者と共有できるよう詳細に記述。◆Step6:薬物療法の紹介と留意点実際の薬物療法については各疾患のガイドラインに従い、導入前には生活習慣の改善を基盤に患者とのコンセンサスを得ることが重要。 脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャートは、5年に1回のタイミングで更新を目指しており、大きな改訂はできなくとも各学会で改訂事項が発表された際には、それらを脳心血管病協議会で話し合い、対策を講じるという。最後に寺本氏は「このような類いの包括的な管理チャートは海外では作成されておらず、世界に一歩先立った活動である」と締めくくった。■「日本人の食事摂取基準」関連記事日本人の食事摂取基準2020年版、フレイルが追加/厚労省

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かかりつけ医のための適正処方の手引き(糖尿病)が完成/日本医師会

 2019年6月4日、日本医師会の江澤 和彦氏(常任理事)が、『超高齢社会におけるかかりつけ医のための適正処方の手引き(3)糖尿病』の完成を記者会見で発表した。高齢者糖尿病の現状をふまえたかかりつけ医のための手引きの作成 厚生労働省から発表された平成28年国民健康・栄養調査結果の概要によれば「糖尿病が強く疑われる者」は約1,000万人と推定され、その中で、65歳以上の高齢者が占める割合は約60%以上となっている。今後も高齢化に伴い65歳以上の糖尿病患者の増加が予想される。 高齢者糖尿病では、一般的に老化の特徴としての身体機能、認知機能などの個人差が大きくなる。また、75歳以上の高齢糖尿病患者ではとくに認知機能障害、ADL低下などの老年症候群や重症低血糖、脳卒中の合併症などを起こしやすいと言われている。 『超高齢社会におけるかかりつけ医のための適正処方の手引き(3)糖尿病』では、75歳以上の高齢者と老年症候群を合併した65歳から74歳の前期高齢者を「高齢者糖尿病」と想定し、日本老年医学会の協力により作成された。 今回のかかりつけ医のための適正処方の手引きは、2017年『(1)安全な薬物療法』、2018年『(2)認知症』に続く第3弾としての発刊。いずれも日本医師会のサイトに全ページがpdfで掲載されており、ダウンロード可能。超高齢社会におけるかかりつけ医のための適正処方の手引き(3)糖尿病《目次》1.糖尿病の現状と治療総論2.高齢者糖尿病における認知機能障害と身体機能障害(ADL低下、サルコペニア、フレイル)3.高齢者糖尿病の血糖コントロール目標設定4.高齢者糖尿病の治療 1)総論 2)高齢者糖尿病の食事療法 3)高齢者糖尿病の運動療法 4)シックデイの対策5.高齢者糖尿病の薬物療法(総論)6.高齢者糖尿病の薬剤使用の注意点7.高齢者糖尿病の低血糖 1)低血糖の特徴  2)低血糖の対策 8.糖尿病における高齢者総合機能評価(CGA)

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