サイト内検索|page:16

検索結果 合計:434件 表示位置:301 - 320

301.

わかる統計教室 第4回 ギモンを解決!一問一答 質問13

インデックスページへ戻る第4回 ギモンを解決!一問一答質問13 重回帰式(モデル式)の予測精度は?前回から重回帰分析についての説明を開始しています。今回は重回帰分析で求められた重回帰式(モデル式)の予測精度について説明します。■残差前回の質問12の事例(ドラッグストアのサプリメントXの売上)で求めた重回帰式です。売上額=0.00786×広告費+0.539×店員数+1.148表1の重回帰分析では、左辺の売上額を実績値、右辺の計算値を理論値といいます。表1 前回の事例の重回帰式からみた売上額予想そして、表2のように「実績値」と「理論値」だけ抽出し、「残差」の欄を追加してみました。表2 事例の実績値、理論値、残差図1では実績値から理論値を引いた値である残差を示しています。図1 各年の売上額の残差■決定係数により予測精度を調べる重回帰分析は、実績値と理論値とが近くなるように重回帰式の係数を見つける手法であることを述べました。それでは、重回帰分析を適用すれば、どんな場合でも実績値と理論値が近くなるのでしょうか。結論からいうと、用いる説明変数が目的変数に関係のないものばかりであれば、理論値を実績値に近づけることはできません。「サプリメントXの売上事例」のデータを図2に示す相関図で表してみると、広告費が大きければ売上額が大きくなり、両者に高い相関があることがわかります。同様に店員数と売上額の相関図から、両者の間にも高い相関があることがわかります。図2 事例の売上の相関図※相関図、相関係数 ⇒ 質問10 その1このように、売上額と相関の高い説明変数を用いたので、実績値と理論値とは近づいたのです。仮に、売上額と相関がないと考えられる店員の平均体重や平均身長だけを説明変数にしたら、実績値と理論値とは近づきません。上手な説明変数の選択方法は後ほど説明することにして、ここでは、説明変数の選択が良ければ実績値と理論値が近づき、重回帰分析を首尾よく終了できることを理解してください。実績値と理論値が近くなるほど、「分析の精度」が良い、あるいは重回帰式の当てはまり具合が良いともいえます。予測は重回帰式を使って行うので、精度の悪い重回帰式では予測ができないということになります。分析の精度を1つの数値で表すことができれば、この尺度を用いて、求められた重回帰式が予測に使えるかどうかを判断することができます。では、「サプリメントXの売上事例」での分析精度を調べてみましょう。■残差平方和表3に「ドラッグストアのサプリメントXの売上事例」の残差と残差の2乗を示します。表3 売上事例の残差平方和残差が小さいほど分析精度が良いことは、おわかりいただけたと思います。次に、残差の合計を計算してみます。残差の合計は0になります。この例だけではなく、どのような場合も0になります。したがって残差の合計は、分析の精度を知る尺度としては使えません。そこで、統計学でよく使うテクニックですが、残差の2乗を計算し、これを合計してみます。この値を「残差平方和」といい、Seで表します。残差平方和Seは2.06で、0ではありません。したがってSeが分析の精度を知る尺度として使えそうです。次に表4で、「サプリメントXの売上事例」の「偏差平方和」を求めてみます。※偏差平方和 ⇒ 第3回 理解しておきたい検定 セクション3 データのバラツキを調べる標準偏差表4 事例の売上の偏差平方和■決定係数表4の売上額の偏差平方和は56です。偏差平方和をSyyで表します。Syyに対するSeの割合を求め、これを1から引いた値をR2とします。R2を「決定係数」といいます。表5のように当てはまり具合が最も悪い場合は、すべての営業所において理論値が目的変数の平均値と等しくなるときです。このとき、Se=Syyとなり、上式よりR2=0となります。表5 当てはまり具合の最も悪い場合表6のように当てはまり具合が最も良い場合は、すべての営業所において、理論値が実績値と等しくなるときで、Se=0となります。このとき、R2は上式より1となります。表6 当てはまり具合のもっとも良い場合今まで述べてきたことからおわかりのように、決定係数R2は分析の精度を表す尺度となります。「サプリメントXの売上事例」について、決定係数を求めてみます。「ドラッグストアのサプリメントXの売上事例」の実績値と理論値の単相関係数(この値を「重相関係数」という)を算出するとr=0.98です。 r2を計算すると0.96になり、R2=0.96に一致します。よく「決定係数はいくつ以上あれば良いか」と質問されますが、残念ながらいくつ以上あれば良いという統計的基準はありません。この基準は、分析者が経験的な判断から決めることになります。ちなみに筆者は、次のように決めていますが、皆さんはいかがでしょうか。決定係数(R2)重相関係数(r)・分析の精度が非常に良い……  0.8以上……  0.9以上・分析の精度が良い……  0.5以上……  0.7以上・分析の精度が良くない……  0.5未満……  0.7未満次回は、重回帰分析を行うときの説明変数の選び方について説明します。今回のポイント1)重回帰分析で算出した理論値、そして残差で個体を評価することができる!2)重回帰分析では、実績値と理論値が近くなるほど、「分析の精度」が良い、あるいは重回帰式の「当てはまり具合」が良い!3)重回帰式(モデル式)の決定係数はR2の値でみる!インデックスページへ戻る

302.

遺伝素因の血清Ca上昇で冠動脈疾患リスク増/JAMA

 遺伝子変異による血清カルシウム濃度上昇が、冠動脈疾患/心筋梗塞のリスク増加と関連していることが明らかとなった。ただし、冠動脈疾患と生涯にわたる遺伝子曝露による血清カルシウム濃度上昇との関連が、カルシウム補助食品(サプリメント)による短期~中期的なカルシウム補給との関連にもつながるかどうかは不明である。スウェーデン・カロリンスカ研究所のSusanna C. Larsson氏らが、血清カルシウム濃度上昇に関連する遺伝子変異と、冠動脈疾患/心筋梗塞のリスクとの間の潜在的な因果関係をメンデルランダム化解析により検証し、報告した。先行の観察研究において、血清カルシウムは心血管疾患と関連していることが認められており、無作為化試験でも血清カルシウム濃度を上昇させるサプリメントが心血管イベント、とくに心筋梗塞のリスクを増加させる可能性が示唆されていた。JAMA誌2017年7月25日号掲載の報告。GWASでカルシウム濃度関連SNPを特定し、冠動脈疾患との関連を解析 研究グループは、血清カルシウム濃度に関するゲノムワイド関連解析(GWAS)のメタ解析(最大6万1,079例)および、1948年より世界中の人口集団から収集された基準となる時点のデータがある冠動脈疾患/心筋梗塞患者と非患者(対照)を含む冠動脈疾患国際コンソーシアム(CARDIoGRAMplusC4D)の1,000ゲノムに基づくGWASメタ解析(最大18万4,305例)から特定された一塩基遺伝子多型(SNP)に関する要約統計量を用いて解析を行った。 各SNPと冠動脈疾患/心筋梗塞との関連は血清カルシウムとの関連によって重み付けをし、逆分散法により重み付けしたメタ解析を用いて推定値を統合した。遺伝的リスクスコアは、血清カルシウム濃度上昇と関連する遺伝子変異に基づいた。 主要評価項目は、冠動脈疾患および心筋梗塞のオッズ比であった。血清カルシウム濃度上昇に関連する6つのSNPが冠動脈疾患のリスク増加に関与 メンデルランダム化解析の対象となった18万4,305例(冠動脈疾患患者6万801例[心筋梗塞が約70%]、対照12万3,504例)において、潜在的交絡因子との多面的関連がなく血清カルシウム濃度と関連する6つのSNPが特定された。それらが、血清カルシウム濃度に関する遺伝子変異の約0.8%を占めていた。 逆分散法によるメタ解析(前述の6つのSNPの統合)の結果、遺伝的に予測される血清カルシウム濃度の0.5mg/dL上昇(約1SD)につき、冠動脈疾患のリスクは1.25倍(95%信頼区間[CI]:1.08~1.45、p=0.003)、心筋梗塞は1.24倍(95%CI:1.05~1.46、p=0.009)となることが示された。

303.

幼児へのビタミンDはかぜ予防に有用か?/JAMA

 健康な1~5歳児に、毎日のビタミンDサプリメントを2,000IU投与しても、同400IUの投与と比較して、冬期の上気道感染症は減らないことが、カナダ・セント・マイケルズ病院のMary Aglipay氏らによる無作為化試験の結果、示された。これまでの疫学的研究で、血清25-ヒドロキシビタミンDの低値とウイルス性上気道感染症の高リスクとの関連を支持するデータが示されていたが、冬期のビタミンD補給が小児のリスクを軽減するかについては明らかになっていなかった。結果を踏まえて著者は「ウイルス性上気道感染症予防を目的とした、小児における日常的な高用量ビタミンD補給は支持されない」とまとめている。JAMA誌2017年7月18日号掲載の報告。冬期の最低4ヵ月間、高用量(2,000IU) vs.標準用量(400IU)投与で評価 検討は、オンタリオ州トロント市(北緯43度に位置)で、複数のプライマリケアが参加する研究ネットワーク「TARGet Kids!」に登録された1~5歳児を対象とし、2011年9月13日~2015年6月30日に行われた。 研究グループは参加児703例を、2,000IU/日のビタミンDサプリメントを受ける群(高用量群349例)または同400IU/日を受ける群(標準用量群354例)に無作為に割り付けて追跡した。サプリメントの投与は保護者の管理の下、登録(9~11月)からフォローアップ(翌年4~5月)の間、冬期(9月~翌年5月)の最低4ヵ月間に行われた。 主要アウトカムは、冬期の間に、保護者によって採取された鼻腔用スワブ検体によりラボで確認されたウイルス性上気道感染症例とした。副次アウトカムは、インフルエンザ感染症、非インフルエンザ感染症、保護者報告による上気道疾患、初回上気道感染症までの期間、試験終了時の血清25-ヒドロキシビタミンD値であった。上気道感染症発症に有意差なし、初回発症までの期間も有意差みられず 無作為化を受けた703例(平均年齢2.7歳、男児57.7%)のうち、試験を完遂したのは699例(99.4%)であった。 小児1例当たりに確認された上気道感染症の報告数は、高用量群1.05回(95%信頼区間[CI]:0.91~1.19)、標準用量群1.03回(同:0.90~1.16)で、両群間に統計的有意差はみられなかった(発症率比[RR]:0.97、95%CI:0.80~1.16)。 初回上気道感染症までの期間についても、統計的有意差は示されなかった。具体的な同期間は、高用量群は3.95ヵ月(95%CI:3.02~5.95)、標準用量群3.29ヵ月(同:2.66~4.14)。また、保護者報告による上気道疾患についても有意差はなかった(高用量群625件 vs.標準用量群600件、発症RR:1.01、95%CI:0.88~1.16)。 試験終了時の血清25-ヒドロキシビタミンD値は、高用量群48.7ng/mL(95%CI:46.9~50.5)、標準用量群は36.8ng/mL(同:35.4~38.2)であった。

304.

わかる統計教室 第4回 ギモンを解決!一問一答 質問12

インデックスページへ戻る第4回 ギモンを解決!一問一答質問12 重回帰分析とは?質問11では多変量解析で取り扱うデータや解析の種類と解析手法名について、説明してきました。今回からは、医学統計でもよく用いられる重回帰分析について説明いたします。医学的な事例だと難しくなりがちですので、一般的でなじみやすい事例(質問11その1で取り上げたテーマ)で説明していきます。■解決したいテーマ●テーマドラッグストアでサプリメントなど、ある商品の売上をアップさせたいとき、どうすればよいでしょう表1は、あるドラッグストアのサプリメントXの売上額と広告費と店員数を示したものです。表のデータを見ると、投入する広告費や店員数が多かった年はサプリメントXの売上額も大きく、投入量が少ない年は売上額も小さくなっていることがわかります。この傾向を踏まえて、2017年の広告費を1,300万円、店員数を14人としたとき、売上額がどれほどになるかを予測したいと思います。表1 年別のサプリメントXの売上額/広告費/店員数この目的を解決してくれるのが重回帰分析です。予測したい変数、この事例ではサプリメントXの売上額を「目的変数(従属変数)」といいます。目的変数に影響を及ぼす変数、この事例では広告費と店員数を「説明変数(独立変数)」といいます。重回帰分析で適用できるデータは、目的変数、説明変数どちらも「数量データ」です。重回帰分析は、目的変数と説明変数の関係を「関係式」で表します。重回帰分析における関係式を「重回帰式」といいます(「モデル式」ともいいます)。この例の重回帰式は、次のようになります。売上額=0.00786×広告費+0.539×店員数+1.148重回帰分析はこの重回帰式を用いて、次の事柄を明らかにする解析手法です。(1)予測値の算出(2)関係式に用いた説明変数の目的変数に対する貢献度■回帰係数の算出の考え方重回帰式の係数を回帰係数といいます。まず初めに回帰係数が、どのような考え方で求められているかを説明します。回帰係数の算出方法を解説する前に、次のクイズにお答えください。いかがでしょうか。答えはいくつでもありますね。たとえば、ア=0.005、イ=0.3、ウ=3.7とすればが成立します。では、続けて次のクイズにお答えください。表2 年別のサプリメントXの売上額の年差分上の表2のように左辺(売上額)から右辺を引いた差分で一致度をみると、2011年と2012年はほぼ一致していますが、他の年の差分が1.0以上もあり、一致していません。ですから残念ながら、この答えは正解といえません。ご覧のように、手計算でこのクイズを解くのは大変です。これを解決してくれるのが重回帰分析なのです。それでは、重回帰分析が導いてくれた重回帰式に広告費と店員数を表3に代入してみます。求められた値(左辺)と売上額(右辺)との差分を調べてみましょう。※差分:左辺から右辺を引いた絶対値(マイナスはプラスにした値)です。※一致:差分が1.0未満の場合は一致していると考え「○」、1.0以上の場合を「×」としました。売上額=0.00786×広告費+0.539×店員数+1.148表3 重回帰式に広告費と定員数を代入左辺と右辺とはぴったり一致しませんが、どの年についてもほぼ近い値になっています。重回帰分析では、左辺の売上額を「実績値」、右辺の計算値を「理論値」といいます。重回帰分析は、実績値と理論値ができるだけ近くなるように、重回帰式の係数を見つける解析手法です。次回は、重回帰分析で求められた重回帰式(モデル式)の予測精度について説明していきます。今回のポイント1)重回帰分析で適用できるデータは、目的変数、説明変数どちらも数量データ!2)重回帰分析は、重回帰式(モデル式)を用いて、(1)予測値の算出、(2)関係式に用いた説明変数の目的変数に対する貢献度、を明らかにする解析手法!3)重回帰分析は、実績値と理論値ができるだけ近くなるように、重回帰式の係数を見つける解析手法!インデックスページへ戻る

305.

心不全の突然死、科学的根拠に基づく薬物療法で減少/NEJM

 収縮能が低下した心不全の外来患者では、突然死の発生率が経時的に大きく低下していることが、英国心臓財団グラスゴー心血管研究センターのLi Shen氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、NEJM誌2017年7月6日号に掲載された。ACE阻害薬、ARB、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬などの登場以降、科学的根拠に基づく薬物療法の使用が増えるに従って、収縮能が低下した症候性心不全患者の突然死のリスクは、経時的に低下している可能性が指摘されているが、その詳細の調査は十分ではないという。駆出率≦40%の症候性心不全患者約4万例を解析 研究グループは、駆出率≦40%の症候性心不全患者(NYHAクラスII~IV)を対象に、過去20年間に実施され、1,000例以上を登録した臨床試験の参加者(植込み型除細動器[ICD]装着例は除外)のデータを解析した(中国国家留学基金管理委員会と英国グラスゴー大学の助成による)。 重み付き多変量回帰を用いて、突然死の発生率の経時的な動向の検討を行った。また、Cox回帰モデルを用いて、各試験の突然死の補正ハザード比(HR)を算出した。突然死の累積発生率は、無作為化後の複数の時点(30、60、90、180日、1、2、3年)で、心不全の診断から無作為化までの期間別(≦3ヵ月、3~6ヵ月、6~12ヵ月、1~2年、2~5年、>5年)に評価した。 1995~2014年に実施された12件の臨床試験の参加者4万195例が、解析の対象となった。突然死は3,583例(8.9%)で発生した。突然死のリスクが19年間で44%低下 ベースラインの全体の平均年齢は65歳で、77%が男性であった。95%がNYHAクラスII/IIIの患者で、駆出率の平均値は28%(試験ごとの平均値の範囲:23~32%)、心不全の原因の62%が虚血性であった。 ACE阻害薬とARBは90%以上の患者が使用していた(ACE阻害薬非使用例を対象とした1試験を除く)。一般的な傾向として、より最近の試験ほど、β遮断薬とミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の使用例が多かった。 突然死を起こした患者は起こさなかった患者と比較して、高齢、男性、低い駆出率、高い心拍数、重い心不全症状、心不全の原因が虚血性、既往歴に心筋梗塞、糖尿病、腎機能障害、といった患者が多かった。また、突然死を起こした患者は、冠動脈血行再建術施行例が少なかった。 突然死の年間発生率は、最初期の試験(1998年に終了)の6.5%から、最近の試験(2014年に終了)の3.3%まで、経時的に低下した(傾向検定:p=0.02)。試験全体の突然死のリスクは、19年間で44%低下した(HR:0.56、95%信頼区間[CI]:0.33~0.93、p=0.03)。 無作為化後90日時の突然死の累積発生率は、最初期の試験が2.4%、最近の試験は1.0%であった。概して、180日時の突然死の累積発生率は90日時の約2倍となり、最近の試験になるほど、同様の傾向を示しつつ発生率が低下した。また、心不全の診断後の経過が短い患者は、長い患者と比較して、突然死の発生率は高くなかった。 駆出率別の解析では、どのサブグループも、試験全体と同様に突然死発生率が低下する傾向がみられ、駆出率が低いサブグループで突然死が多かった。 著者は、「これらの知見は、突然死に対するエビデンスに基づく薬物療法の蓄積されたベネフィットと一致する」としている。

306.

1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第37回

第37回:潜在性甲状腺機能亢進症はどのような時に治療すべきか?監修:表題翻訳プロジェクト監訳チーム TSH、Free T4を臨床の場や人間ドックで測定することはよくありますが、FreeT4が正常、TSHが基準値より低値を示す場合があり、稀に潜在性甲状腺機能亢進の状態を認める患者と遭遇することがあるかと思います。こういった場合にどのようなリスクを考え、どのような患者に対して治療や専門家への相談を行うべきでしょうか。今回の記事では、潜在性甲状腺機能亢進症に対する米国甲状腺学会の治療方針について紹介したいと思います。 以下、American Family Physician 2017年6月1日号より1) より<潜在性甲状腺機能亢進症とは>潜在性甲状腺機能亢進症はFreeT4とT3値が正常であるが、TSHが低値または検出されない状態と定義される。潜在性甲状腺機能亢進症はTSH値で2つのカテゴリーに分類される。1)TSH値が低値だが検出される(たいていは0.1~0.4mlU/L)2)TSH値が0.1mlU/L以下である潜在性甲状腺機能亢進症は、内因性に過剰に甲状腺ホルモンが作られたり、甲状腺がんを抑制するために甲状腺ホルモンの内服を行っていたり、甲状腺機能低下症の患者に対し過剰に甲状腺ホルモン補充療法を行った結果生じる。内因性の潜在性機能亢進症の最も頻度の高い原因としては、Graves(Basedow)病、中毒性甲状腺結節、中毒性多結節性甲状腺腫(プランマー病)が挙げられる。一時的な甲状腺TSHの抑制の原因としては、亜急性甲状腺炎、無痛性甲状腺炎、産後甲状腺炎が挙げられる。潜在性甲状腺機能亢進症の最も多い原因は、甲状腺ホルモン補充療法によるものである。低TSHが、潜在性甲状腺機能亢進症によるものか、その他の甲状腺の機能亢進と関係しない原因によるものかを病歴などから鑑別する必要があり、その他の原因としては、ドパミンやグルココルチコイドの使用、Sick Euthyroid Syndrome(低T3症候群)、TSH産生下垂体腺腫などが挙げられる。<どのような影響があるのか?>これまでの研究では、潜在性甲状腺機能亢進症と心血管系イベントや骨折のリスクについての関係性が示唆されている。最新の研究では、TSH値が0.1以下の潜在性甲状腺機能亢進症の患者で、とくに高齢者における心血管系イベントや骨折のリスクに対してのエビデンスが明らかとなってきている。<心血管系への影響>平均心拍数の増加、心房細動と心不全のリスク、心左室の腫瘤形成、拡張不全、心拍数の変動性を減少させる。とくに65歳以上の患者において、Euthyroidの患者と比較すると、潜在性甲状腺機能亢進症の患者は心血管系のイベントが多くなる。<骨・ミネラルの代謝への影響>すべての甲状腺機能亢進を来す病態において、骨代謝回転の増加や、骨密度(とくに皮質骨)の減少を認め、骨折のリスクとなることが明らかとなっている。<いつ治療を考慮するべきか?>米国甲状腺学会では、以下のような推奨を出している。治療を行うべき場合TSH値が持続的に0.1mlU/L未満の患者の中で、1)年齢が65歳以上の場合2)65歳未満においては、心疾患・骨粗鬆症の既往や、甲状腺機能亢進による症状を有する場合3)65歳未満、閉経後でエストロゲンやビスホスホネートの内服がない場合治療を考慮すべき場合TSH値が持続的に0.1mlU/L未満の患者の中で、1)TSH値が0.1~0.4mlU/Lである65歳以上の患者2)TSH値が0.1mlU/L未満で無症状の65歳未満の患者3)TSH値が0.1~0.4mlU/Lで無症状だが心疾患の既往がある、または甲状腺機能亢進による症状が存在する65歳未満の患者4)TSH値が0.1~0.4mlU/Lで無症状の閉経後女性で、エストロゲンやビスホスホネートの内服のない65歳未満の患者※本内容にはプライマリ・ケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、 詳細に関しては原著に当たることを推奨いたします。 1) DONANGELO I,et al. Am Fam Physician. 2017;95:710-716

307.

わかる統計教室 第4回 ギモンを解決!一問一答 質問11(その1)

インデックスページへ戻る第4回 ギモンを解決!一問一答質問11 多変量解析とは何か?(その1)質問9、質問10で多変量解析を学ぶ前のおさらいをしてきました。今回からいよいよ医学統計でよく用いられる多変量解析についてご説明します。医学や薬学で用いられるデータは、人間や動物といった多種多様なものが複雑に絡み合って得られるものがたくさんあり、多くの種類(3つ以上)のデータ、つまり、多変量データと考えられます。そのため医学や薬学の研究では、多変量解析を適用すべき場面がしばしばあるのです。■解決したいテーマ多変量解析とは何かを知ってもらうために、多変量解析で解決できるテーマを3つほど取り上げてみましょう。医学的な事例だと難しくなりがちですので、一般的でなじみやすい事例で説明していきます。●テーマ1ドラッグストアでサプリメントなど、ある商品の売上をアップさせたいとき、どうすればよいでしょういろいろなアイデアがあると思います。チラシを印刷して店の近隣エリアにある住宅のポストに投函するとか、タウン誌に広告を出すなど広告費を増やして、どんどん宣伝するというのも1つの方法でしょう。また、店舗アルバイトの人員を増やすことで売上アップを狙うのもよいかもしれません。もちろん、単に広告費を増額して、あるいは店員の数を増やして売上を伸ばすというだけのアイデアが採用されるほど、ドラッグストアの本部は甘くはありません。しかし、あなたが、「広告費やアルバイト店員数の売上に対する影響度」、具体的には「広告費を1万円使えば、売上がどれほど増えるかといった広告費の売上への貢献度」などを数値に表し、売上を予測できたとすれば、あなたのアイデアはすぐにGoサインが出るでしょう。それでは、売上に対する影響度、貢献度はどのように数値化し、予測値をどのように算出すればよいでしょうか。●テーマ2人間ドックでの患者さんへの簡単な問診票の回答結果から、ある疾患に罹患している可能性を診断する仕掛けはどのようになっているのでしょう最近、食欲がない、軽い腹痛など調子が優れないと感じているときに、毎年の定期健診で受診している人間ドックにいきました。さっそく簡単な問診票が渡され、その質問に答えたところ、人間ドックの担当医から、「がんの疑いがあるので精密検査が必要です」と診断されました。どうすれば、簡単なアンケートだけで、こんな大胆な診断ができるのでしょうか。できるとすれば、どんな方法で行っているのでしょうか。●テーマ3大学受験の前に学科の得意・不得意によって、文系クラスか理系クラスかを決める仕掛けはどのようになっているのでしょう皆様の中にもこのような経験をされた方がいるかもしれません。高校2年から3年に進級するとき、学科の得意・不得意によって文系クラスか理系クラスかを決められてしまうケースがあります。英語や国語の点数が高いから文系、数学や物理の点数が高いから理系と決められるのは、納得がいきません。なぜなら、英語には文法があり理系能力も要求されます。また数学には文章問題があり、文系能力も要求されるからです。「英語の得点のうち80%が文系能力、20%が理系能力」、「数学の得点のうち10%が文系能力、90%が理系能力」といったことが解析で導き出せないものでしょうか。もし、このようなことが数値化できれば、真の文系能力、理系能力がわかりますね。■多変量解析で解決するテーマ1~3について、多変量解析はどのような考え方で解決しているかを解説します。●テーマ1ドラッグストアでサプリメントなど、ある商品の売上をアップさせたいとき、どうすればよいでしょう予測したいサプリメントXの売上金額、広告費、店員数のデータを直近の6年間について調べ、表1としてパソコン(Excel)に入力し、多変量解析のソフトで処理します。多変量解析は、いろいろな数値を算出します。広告費を1万円使用したとき売上は8万円アップ、店員1人を投入すると売上は539万円アップするといった売上貢献度を算出します。広告費、店員数を0としたときの最少売上を算出します。その値は1,148万円です。2017年の広告費は1,300万円、店員数は14人です。表1 事例の売上金額、広告費、店員数などのデータ(1)広告費1万円に対する売上貢献度は8万円なので、2017年の広告費による売上は、広告費1,300万円に売上貢献度8万円を掛けた値である1億400万円だといえます。(2)店員数1人に対する売上貢献度は539万円なので、2017年の店員による売上は、店員数14人に売上貢献度539万円を掛けた値である7,546万円だといえます。(3)何もしなくても見込める最少売上は1,148万円です。図に示した1億400万円、7,546万円、1,148万円を加算することによって、2017年の売上ポテンシャル(予測値)は1億9,094万円となります。図 2017年の売上ポテンシャル(予測値)2017年は、広告費を1,300万円、販売員数を14人投入すれば、サプリメントXは1億9,094万円の売上を見込めるということがわかりました。●テーマ2人間ドックでの患者さんへの簡単な問診票の回答結果から、ある疾患に罹患している可能性を診断する仕掛けはどのようになっているのでしょうすでに確認されているがん患者のグループと、健康な人のグループとの問診票のアンケート回答結果から診断を行います。診断は、アンケートに回答してもらった、喫煙の有無、飲酒の有無などで行います。がんの有無と各質問項目との相関関係を調べ、がんであるかどうかを判別する関係式を作ります。がん判別得点=a1×質問(1)+a2×質問(2)+…+定数ここで示したa1、a2は、各質問ががん判定にとってどのくらい大事なのかを表した数値と考えてください。この関係式をパソコンにセットします。あとは人間ドックに来院した人の問診票の結果をパソコンに入力すると、その回答は関係式にインプットされ、がんの有無を調べる得点が計算されます。この値が「+」であればがんの可能性あり、「-」であれば可能性なしということになります。●テーマ3大学受験の前に学科の得意・不得意によって、文系クラスか理系クラスかを決める仕掛けはどのようになっているのでしょう表2で各科目の文系能力へのウエイトのa1、a2、…を求めます。同様に理系能力のウエイトb1、b2、…を求めます。表2 文系、理系ウエイトの算出生徒の各科目の得点をx1、x2、…とします。文系能力、理系能力は、次の関係式によって求められます。文系能力得点=a1x1+a2x2+a3x3+a4x4+a5x5理系能力得点=b1x1+b2x2+b3x3+b4x4+b5x5表3に、ある生徒の5科目が次の得点であるときの文系能力得点、理系能力得点を求めます。表3 ある生徒は文系か、理系か文系能力得点=0.8×80十0.1×50+0.9×90+0.3×60+0.4×70      =64+5+81+18+28=196 平均39.2理系能力得点=0.2×80+0.9×50+0.1×90+0.7×60+0.6×70      =16+45+9+42+42=154 平均30.8よって、この生徒の平均点は70点、そのうち文系能力は39.2点、理系能力は30.8点と求められ、文系能力のほうが高いことがわかりました。以上、解決方法を述べました。すべてのテーマに共通して言えることがあります。どのテーマも関係式(モデル式ともいう)を作り、この関係式を用いて解決しているということです。この関係式を作ること、すなわち「関係式に用いる係数を求めること」が、多変量解析の役割なのです。多変量解析の応用範囲は広く、最初の出発点は心理学でしたが、現在では、変数間の関係を取り扱うのであれば、あらゆる分野に応用されています。その分野は、人類学から、考古学、物理学、経済学、教育学、気象学、家政学、社会学までと多岐にわたり、研究所、行政省庁、企業、そしてマーケティング業務などと多様なシチュエーションで活用されています。どのジャンル、テーマも多変量解析を適用して解決する場合、関係式を用いています。ここまで、多変量解析とは何かを知ってもらうために、一般的でなじみやすい事例で説明しました。次回は、多変量解析で取り扱うデータや、解析の種類および解析手法名について説明していきます。今回のポイント1)多変量解析は関係式(モデル式)を作り、その関係式を使って、課題を解決する!2)多変量解析の役割は、この関係式に用いる係数を求めること!3)多変量解析の応用範囲は広く、変数間の関係を取り扱う場合であれば、医学はもちろんその他のあらゆる分野で応用されている!インデックスページへ戻る

308.

亜鉛欠乏症のあなどれない影響

 2017年4月26日、都内においてノーベルファーマ株式会社は、「見落とされがちな『亜鉛不足』の最新治療~日本初となる低亜鉛血症治療薬の登場~」と題してプレスセミナーを開催した。セミナーでは、2008年に承認された同社の酢酸亜鉛水和物(商品名:ノベルジン)が2017年3月に低亜鉛血症にも追加承認されたことから、小児に多い亜鉛欠乏症の概要を小児科専門医の視点から、そして、亜鉛が肝疾患に与える影響について消化器専門医の視点から講演が行われた。亜鉛欠乏症はサプリメントでは補えない はじめに「けっして稀ではない亜鉛欠乏」と題し児玉浩子氏(帝京平成大学健康メディカル学部健康栄養学科 学科長・教授/帝京大学医学部小児科)が、亜鉛欠乏症の概要を説明した。 亜鉛は、人にとり必須微量ミネラルであり、成人男性なら約2gが体内に存在、各種酵素の形成や造血機能、皮膚代謝、味覚維持などの働きを担っている。亜鉛が欠乏すると、皮膚炎や脱毛、貧血、味覚障害、下痢、食欲低下、骨粗鬆症などの症状がみられ、性腺機能低下やとくに小児であれば発育障害を引き起こす。 「こうした身近にあるはずの亜鉛欠乏について、一般臨床ではあまり知られておらず、主な教科書や論文でも本症の症状が鑑別診断の対象とされていない。そのため、多くの場合、医療現場で見逃されている可能性がある」と児玉氏は指摘する。 「亜鉛欠乏症の診断指針」では、一定の症状(たとえば皮膚炎、口内炎、食欲低下、発育障害、易感染性、味覚障害など)があり、血清アルカリホスファターゼ(ALP)が低値で、症状の原因となる他の疾患が否定され、血清亜鉛値が60μg/dL未満で、亜鉛補充により症状が改善する場合を本症と確定診断する。 そして、亜鉛欠乏症と診断された場合、食事療法やサプリメントの摂取では改善しないことが多く、亜鉛製剤による治療が必要となる。亜鉛欠乏症の治療薬であるノベルジンを使用する際は、患者の病状や血清亜鉛値を参考としながら、成人および体重30kg以上の小児ならば1回25~50mgを開始用量としつつ、1日2回食後に経口投与する(最大150mg/日)。体重30kg未満の小児(なお、新生児は、現在臨床試験中)であれば1回25mgを開始用量とし、1日1回食後に経口投与する(最大75mg/日)。また、投与時に気を付けたい有害事象としては、嘔気、腹痛などの消化器症状、銅欠乏による貧血、白血球減少がある。いずれも重篤なものではないが、投与中は定期的血清亜鉛値の測定とこれによる減量と中止、必要な銅や鉄の補充を行う必要がある。 最後に児玉氏は「小児で食欲不振、低身長があれば亜鉛不足が推定される。また、成人であれば味覚異常、脱毛、貧血、長期の薬剤使用などがあれば亜鉛欠乏症を疑うサインとなる。日常診療でも本症を思い浮かべてもらい、疑ったら血清亜鉛値を検査するなど診療に生かしてもらいたい」と思いを語った。亜鉛欠乏が肝疾患に与える影響 次に片山和宏氏(大阪国際がんセンター 副院長/臨床研究センター長 肝胆膵内科)が、「亜鉛と肝疾患」をテーマに亜鉛欠乏が肝疾患に与える影響について解説した。 亜鉛には、タンパク合成を行う重要な働きがあり、欠乏すると肝臓の代謝不良から慢性肝疾患へ至るとされている。実際、亜鉛が不足し、肝臓でタンパク質の代謝が鈍るとアンモニアの処理ができず、肝性脳症になることが知られている。 そこで、片山氏が肝硬変患者の亜鉛欠乏の度合いを調べた研究では、血中アルブミン濃度が3.5g/dLまで下がると亜鉛欠乏(<70μg/dL)率は約90%になったという。また、肝硬変のタンパク代謝(アルブミン)と生命予後の関係の調査では、タンパク質合成がうまく働かず血中アルブミン濃度が下がると3.5g/dLを境に5年生存率にも大きく影響する。 そのほか、C型肝炎患者に亜鉛製剤投与の長期間経過観察(2,500日超)では、亜鉛濃度が80μg/dL以上維持できた場合、有意に発がん率が少なかったこと、動物モデルではあるが亜鉛投与で肝臓の線維化が抑制されたことなどが報告された。 臨床現場で使用されている「肝硬変診療ガイドライン2015(栄養編)」の中では、亜鉛補充は「中等度のエビデンス」とされ、亜鉛の必要性は認識されているもののエビデンスレベルが低く、今後エビデンスの集積が待たれるという。 最後に片山氏は「次回の改訂では、ガイドラインの栄養療法の項目で、エネルギー低栄養を認めたら低亜鉛血症への診療へと移る項目ができることを期待したい」と抱負を述べ、レクチャーを終えた。

309.

授乳婦はビタミンD欠乏リスクが4倍

 授乳中の女性はそうでない女性と比較して、ビタミンD欠乏症になるリスクが有意に高いことがドイツの横断的研究から明らかになった。 ビタミンD欠乏症による健康への有害性は認知されてきているものの、授乳婦におけるビタミンDの状態に関する研究はこれまであまり実施されてこなかった。 2017年4月19日にInternational Breastfeeding Journalに掲載されたSandra Gellert氏(ドイツ・ハノーファー大学)らによる研究では、German“Vitamin and mineral status among German women”studyから、124例の授乳婦と同数の年齢およびサンプル採取時期をマッチさせた妊娠・授乳をしていない女性について横断的研究を実施した。参加者は2013年4月~2015年3月にかけて登録され、ビタミンDのサプリメントは摂取していなかった。 その結果、授乳婦におけるビタミンD欠乏症(血清25(OH)D濃度25.0nmol/L未満)は26.6%を占め、ビタミンD不足(50.0nmol/L未満)でみると75.8%であり、これらは対照群より有意に高かった(対照群はそれぞれ12.9%、p=0.007、58.9%、p=0.004)。多重ロジスティック回帰分析によると、授乳婦のビタミンD欠乏リスクは対照群の4倍であった(オッズ比[OR]:4.0、95%信頼区間[CI]:1.8~8.7)。 一方で、血清25(OH)D濃度が適正範囲内(75.0~124.9nmol/L)であった授乳婦はわずか5.6%しかいなかった。また、ビタミンD過剰症はいずれの群でも認められなかった。 ビタミンD不足および欠乏の発生にはいずれの群においても季節性が認められた。授乳婦では、夏が最も適正範囲内の値である割合が高く、冬と春は欠乏リスクが高かった(OR:2.6、p=0.029)。また、住んでいる地域によってもリスクに差がみられた。 著者らは、授乳婦のビタミンD欠乏は乳児に影響を与える可能性があるため、十分な摂取もしくは日照時間が得られない場合にはサプリメントで補うことも選択肢になりうることを指摘した。しかしながら、適切なビタミンD濃度を得るためにどのくらいの用量のビタミンDサプリメントが必要なのかについては、さらなる検討が必要である、と記している。

310.

膠芽腫〔GBM: glioblastoma multiforme〕

1 疾患概要 ■ 概念・定義 膠芽腫(glioblastoma multiforme: GBM)は、悪性脳腫瘍の中で最も頻度が高く、かつ生物学的にもっとも未分化な予後不良の悪性新生物(brain cancer)である。高齢者の大脳半球、ことに前頭葉と側頭葉に好発し、浸潤性増殖を特徴とする。 病理学的に腫瘍細胞は異型性が強く、未分化細胞、類円形細胞、紡錘形細胞、多角細胞および多核巨細胞より構成され、壊死を取り囲む偽柵状配列を特徴とする(pseudopalisading necrosis)。 WHO grade IVに分類され5年生存率は10%、平均余命は15ヵ月。分子生物学的特徴から2型に分類される。イソクエン酸脱水素酵素(IDH1: isocitrate dehydrogenase 1)遺伝子のコドン132のアルギニン(R)がヒスチジン(H)に点変異を有することにより、分化度の高いWHO grade II、IIIの星細胞腫から悪性転換(malignant transformation)した続発性膠芽腫(secondary GBM)とIDH1の変異を伴わない原発性膠芽腫(primary GBM)とに区別される。両者ともGBMとしての予後に差異はなく、半年から1年程度である(表)。 前者では、TP53 mutation(>65%)、ATRX mutation(>65%)に続いてLOH 19q(50%)、LOH 10q(>60%)、TERT mutation(30%)が引き起こされる。一方、後者の遺伝子異常とその頻度はTERT mutation(70%)、EGFR amplification(35%)、TP53 mutation(30%)、PTEN mutation(25%)、LOH 10p(50%)、LOH 10q(70%)である。 画像を拡大する Grade Iは、小児に多い分化型腫瘍で予後が良い(10年生存は80%以上)。 Grade II、IIIは、1年から数年でGrade IVに悪性転換する。これとは別に、初発から神経膠芽腫として発症するタイプがある。いずれの神経膠芽腫も予後はきわめて悪い(5年生存率10%)。 BRAF: B-Raf proto-oncogene、serine/threonine kinaseでRAS/RAF/MEK/MAPKシグナル伝達の主要な役割を担う。 TP53: p53をコードする遺伝子 G-CIMP: CpG island methylation phenotype DNA修復酵素MGMTのプロモーター領域のメチル化を示す表現型。この表現型ではMGMTの蛋白発現は抑制されるため、予後良好のマーカーとなる。GBM患者でCIMP+は若年者、腫瘍の遺伝子表現型がproneural typeに多く全生存期間の延長に寄与する。 ATRX: alpha-thalassemia/mental retardation syndrome x-linked geneで、この遺伝子の変異は、テロメアの機能異常からテロメアの伸長(alternative lengthening of telomeres: ATL)を来す。 なお、遺伝子表現型とグリオーマ予後との関連は、次の文献を参考にした。Siegal T. J Clin Neurosci. 2015;22:437-444. 欧州で施行された臨床試験においてテモゾロミド(TMZ[商品名:テモダール])併用群(2年生存率26.5%、平均全生存期間14.6ヵ月)が、放射線治療(RT)単独治療群(2年生存率10.4%、平均全生存期間12.1ヵ月)に比して、有意差をもって生存期間の延長が認められ、TMZ + RTがGBMの標準治療とされている。 GBMは、このように予後不良で“がんの中のがん”といい得るため、創薬の対象となり、さまざまな臨床試験や新規治療薬が開発されている。GBMの根本治療の創出が今後の大きな課題である。 ■ 疫学 国内における原発性脳腫瘍患者(年間2万人、人口10万人につき14人)のうち、GBMは2,220人で、悪性脳腫瘍の中で最も多く、11.1%を占める。 大脳半球白質に好発し(前頭葉35%、側頭葉25%、頭頂葉18%、後頭葉6%)、時に脳梁を介して対側半球へ浸潤する。平均発症年齢は60歳、45~75歳の中高年に多く、 原発性膠芽腫が9割を占め、その平均発症年齢は62歳、続発性膠芽腫は平均45歳と若い。男性が女性の1.4倍多く、小児ではまれであり、成人と異なり脳幹部、視床、基底核部に好発する。 ■ 病因 発生起源細胞の同定および腫瘍形成の分子機構は解明されていない。 BaileyとCushing(1926年)は、組織発生を念頭に起源細胞に基づいた組織分類を提唱し、脳腫瘍を16型に分類し、glioblastomaの起源細胞をbipolar spongioblast(双極性突起を持つ紡錘型細胞)とした。 WHO脳腫瘍分類に貢献した群馬大学の石田陽一は、膠芽腫を星細胞腫とともに星形グリアの腫瘍と定義した1)。石田の正常な星形グリアとグリオーマの電顕像での詳細な観察によると、 血管壁まで伸び足板を壁におく太い細胞突起には、8~9nmの中間径フィラメントと少量の20~25nmの微小管とグリコーゲン顆粒を有する星形グリアとしての形質が、分化型の星細胞種でよく保たれており、膠芽腫でも保持されていることから、グリオーマを腫瘍性グリアと考察した。さらに星芽細胞腫(astroblastoma)は、腫瘍細胞が血管を取り囲んで放射冠状に配列されていることから、血管足が強調された腫瘍型とした。このように多くの病理学者が、星細胞腫をアストロサイトの脱分化した腫瘍と定義している。 発生学的には、げっ歯類の観察から、成体脳においても脳室周囲の脳室下帯(SVZ)や海馬歯状回(DG)において、neural stem cell/glial progenitorの活発な嗅球や顆粒細胞層へのmigrationが確認されていた。James E Goldmanらは、グリオーマ細胞の特性である高い遊走能は、neural stem cell/glial progenitorの特性を反映していると推察している2)。Fred H Gageらは、ブロモデオキシウリジンをヒトに投与することで、高齢者においてもSVZとDGではDNA合成するNeuN陽性細胞を同定し、neural stem cell/neural progenitorの存在を確認したと報告した3)。Sanai Nらは、ヒトSVZ生検材料を用いた培養系の研究から、脳室壁ependyma直下のastrocyteが、neural progenitorであると判定した4)。状況証拠的には、 現時点で直接証明はなされていないがneural stem cell/glial progenitorが、グリオーマ細胞の起源細胞の有力な候補であると思われる。さらに原発性GBMと続発性GBMでは、前述したように遺伝子異常のパターンが異なるため、起源細胞が異なる可能性も示唆される5、6)。 以上のほか、歴史的にグリオーマの病因としては、グリア(アストロサイト)の脱分化とする考えと、前駆細胞のmaturation arrestとする説がある。 近年、携帯電話の普及に伴い、公衆衛生学的観点からは、ラジオ波電磁界の発がん性の懸念が提起されている。山口によると7)、携帯電話と神経膠腫に関する疫学調査では、デンマークの前向きコホート調査が実施されたが、10年以上の長期契約者でもリスクの上昇を認めなかった。スウェーデンにおける症例対照研究では、10年を超えて携帯電話端末を使用した群では、非使用群と比較して2.6倍のリスクが指摘された。日本も参加した国際共同研究「INTERPHONE研究」では、累積使用時間が1,640時間以上でオッズ比1.4倍と、有意な上昇を示した。 以上から、携帯電話は人にがんを生じさせる可能性があると判定されている。 ■ 症状 腫瘍塊周囲に脳浮腫を伴いながら急速に浸潤性に増殖するため、早ければ週単位で、少なくとも月単位で症状が進行する。初発症状としては頭痛(31%)が最も多く、次いで痙攣(18%)、性格変化(16%)や運動麻痺(13%)などの巣症状が多い。 症状は、腫瘍の発生した場所の脳機能の障害を反映するのが基本である。また、病変が進行し、広範に浸潤すると症状は顕著となる。たとえば両側前頭葉に浸潤する症例では、性格変化、意欲低下、尿失禁、下肢の麻痺が出現する。一側では、初期には徴候は目立たず、徐々に腫瘍塊を形成し、脳浮腫が顕著になると具現化する。側頭葉腫瘍では、優位半球の病変では失名詞などの失語症状や4分の1半盲などが出現しやすい。また、視野症状に、患者自身が気付いていないことが多い。 前述したように、腫瘍局在に応じた神経学的局在症状の出現が基本であるが、たとえば前頭葉に局在する腫瘍でも神経回路網(frontal-parietal networks)を介して、頭頂葉の症候が認められることがあるので注意しなければならない。 具体例として、右側前頭葉病変ではいつも通りに職場へ通勤できなくなるなどの空間認知能の低下や、左側前頭葉腫瘍では失書・失算や左右失認など優位半球頭頂葉症状としてのゲルストマン症状が認められるなどの例が挙げられる。このような症例では、画像検査で大脳白質を介する脳浮腫が顕著である場合が多い。 小児や若年者では、ひとたび頭痛や吐気などの頭蓋内圧亢進症状が出現すると、急速に脳ヘルニアへと進行し、致命的な事態になるので、時期を逸せず迅速に対応することが重要となる。時として脳腫瘍患者は、内科・小児科、精神科において感冒、インフルエンザ、下痢・嘔吐症、認知症、精神疾患として誤診されている場合もある。たまたま下痢・嘔吐症が、流行する時期に一致すると、症状のみの診断では見逃される可能性が高くなりやすい。 そのため、器質的疾患が強く疑わしい症例に限定して画像検査(MRI)を施行するのではなく、症状が軽快せず、進行・悪化している場合には、致命的な見逃しをなくすため、また、器質的な疾患をスクリーニングするためにも、脳画像検査を診療の早期に取り入れる視点が大切であろう。これによりカタストロフィックな見逃しは回避でき、患者の生命および機能予後の改善につなげることができるからである。強く疑わしい症例でなくとも、鑑別診断をするために、脳神経外科を紹介しておく心がけも重要である。 ■ 予後 標準治療、すなわち外科的な切除後にTMZを内服併用した放射線化学療法施行患者の全生存期間(OS)は、15ヵ月程度である。IDH1野生型で9.9ヵ月、IDH1変異型で24.0ヵ月である。ヒト化モノクロナール抗体のベバシズマブ(商品名: アバスチン)やインターフェロンの併用は、OSには寄与しない。組織学的にglioblastoma with oligodendroglioma component、giant cell GBM、 cystic GBMは悪性だが、古典的なGBMよりやや予後が良い傾向にある。分子基盤に基づいてMGMT非メチル化症例やIDH1野生型の予後不良例では、TMZに反応を示さない場合が多く、今後免疫療法や免疫チェックポイント阻害剤の応用が取り入れられるであろう。これらの治療には、腫瘍ペプチドワクチン療法WT1やさらに百日咳菌体をアジュバントしたWT1-W10、抗PD-1 (Programmed cell deah-1) 抗体療法などT細胞の免疫応答にかけられたブレーキを解除することでT細胞の活性化状態を維持し、がん細胞を細胞死に追いやる試みである。 同じくT細胞の表面に発現する抑制性因子CTLA (Cytotoxic T-lymphocyte-associated antigen 4 ) に対する抗体の併用も期待されている。 2 診断 (検査・鑑別診断も含む) ■ 検査 造影MRI、 脳血管撮影、 MRS、 PET(methionine、FDG)などの検査と合わせ、総合的に判断する。 ■ 鑑別診断 造影MRIや造影CTでは、不規則なリング状の造影効果を示す。GBM、転移性脳腫瘍、脳膿瘍との鑑別が必要である。GBMでは、造影部分は壊死を取り囲む血管新生を反映するので、より不規則なリング状になる。それに比べ脳膿瘍のリングは、円形でよりスムースである。転移性脳腫瘍は、GBMと脳膿瘍の中間を取るので目安になるが、さらに拡散強調MRIやMRスペクトルスコピーなど多種類の検査で、総合的に判断することが重要である。 術中迅速診断では、壊死を取り囲む偽柵状配列が明らかでないとHGG(high grade glioma)と診断されるので、確定診断は永久標本によることになる。摘出腔内にカルムスチン(脳内留置用徐放性製剤: BCNUウェハー[商品名: ギリアデル])の使用を予定するときは、時に悪性リンパ腫との鑑別が問題となる。 悪性リンパ腫では、血管中心性の腫瘍細胞の集簇に注目して診断するが、LCA、GFAP、MIB-1など免疫組織学的検査では、迅速標本の作成が必要となる症例もある。 転移性脳腫瘍との組織上の鑑別は容易であるが、きわめてまれにadenoid glioblastomaの症例で腺腔形成や扁平上皮性分化を示すので、注意が必要である。 3 治療 (治験中・研究中のものも含む) ■ 基本治療 腫瘍容量の減圧と確定診断を目的に、まず外科治療を行う。近年、ナビゲーションと術中MRIを用いた画像誘導による外科手術が、一般的となってきている。グリオーマの外科手術の目標は、機能を損なうことなく最大限の摘出をすることにある。 MRI Gd(Gadolinium)-DTPAにて造影された腫瘍塊が、全部摘出された症例の予後では期待でき、腫瘍摘出度が高いほど予後の改善に結び付くと、複数の報告がなされている。 次いで確定診断後には、TMZ併用の化学放射線療法が標準治療である。放射線療法は、拡大局所にtotal 60Gy(2Gy×30 fractions)を週5回、6週間かけて行うのが標準である。 最近は、周囲脳の保護を目的に強度変調放射線治療(Intensity Modulated Radiation Therapy: IMRT)を行うことが多い。 初期治療終了後には、TMZの内服を月5日間行う。再発時にはインターフェロンβの併用や、血管内皮増殖因子に対するベバシズマブの併用などが行われている。 ■ その他の治療 手術前日にタラポルフィンナトリウム(商品名: レザフィリン)を投与し、病巣部位に集積させ、手術により最大限の摘出後にレーザー光を照射する摘出断端の浸潤部位に対する光線力学的療法やカルムスチンの摘出腔留置などがある。 4 今後の展望 陽子線、炭素線やホウ素中性子補足療法などの、新しい線源を用いた悪性脳腫瘍への応用やウイルス療法、脳内標的部位への薬剤分布を高める技術として開発されたconvection-enhanced delivery(CED)、免疫療法などがある。 免疫療法には、がん免疫に抑制性に働くものに対する解除を目的とする、T細胞活性化抑制抗原に対する抗PD-1抗体による治療やがん遺伝子WT1(Wilms tumor 1)を抗原標的として、自己のTリンパ球にがん細胞を攻撃させるWT1ペプチドワクチン療法がある。後者は、脳腫瘍の最新治療法として安全性や有効性が確立されつつあり、ランダム化比較試験の結果が期待される。 5 主たる診療科 脳神経外科 ※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。 6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など) 診療、研究に関する情報 国立がん研究センター がん対策情報センター がん情報サービス (一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報) 一般社団法人 日本脳神経外科学会、日本脳神経外科コングレス 脳神経外科疾患情報ページ (一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報) 1)石田陽一. 北関東医. 1990;40:355-361.2)Cayre M, et al. Prog Neurobiol. 2009;88:41-63.3)Eriksson PS,et al. Nat Med. 1998;4:1313-1317.4)Sanai N, et al. Nature. 2004;427:740-744.5)Louis DN, et al. WHO Classification of Tumours of the Central Nervous System. Revised 4th Edition.Lyon;IARC Press:2016.pp52-56.6)Louis DN, et al. Acta Neuropathol. 2016;131:803-820.7)Yamaguchi N. Clin Neurosci. 2013;31:1145-1146.公開履歴初回2015年02月27日更新2017年03月21日

311.

血液透析下SHPTの新規治療薬「エテルカルセチド」―有効性、安全性は?

 二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)は、慢性腎疾患に伴う骨・ミネラル代謝異常の中で高頻度に発症し、生命予後やQOLに影響を与える病態である。 本研究では、SHPTを有する日本の血液透析患者における新規静脈内投与カルシウム受容体作動薬エテルカルセチド(商品名:パーサビブ、国内未発売)の有効性と安全性が検討された。Nephrology Dialysis Transplantation誌オンライン版2017年1月5日号掲載の報告。エテルカルセチドは血液透析下におけるSHPTの新たな治療選択肢<試験デザイン> 国内第III相プラセボ対照二重盲検比較試験<方法> 試験対象は、血液透析下の血清インタクト副甲状腺ホルモン(iPTH)濃度が300 pg/mL以上のSHPT患者155例。 対象者をエテルカルセチド群、プラセボ群に無作為に割り付けた。 エテルカルセチドおよびプラセボを初回用量5mg投与開始し、その後4週間隔で2.5〜15mgの範囲で用量調整を行い、週3回合計12週間、静脈投与した。 主要評価項目は、日本透析医学会が定めるiPTH 濃度の管理指針(60~240pg/mL)を達成した患者の割合とした。 副次評価項目は、ベースラインから血清iPTHが30%以上減少した患者の割合とした。 SHPTを有する血液透析患者におけるエテルカルセチドの有効性を検討した主な結果は以下のとおり。・主要評価項目に合致したSHPT患者の割合は、エテルカルセチド群で有意に高かった(エテルカルセチド群59.0%、プラセボ群1.3%)。・副次評価項目に合致したSHPT患者の割合も、エテルカルセチド群で有意に高かった(エテルカルセチド群76.9%、プラセボ群5.2%)。・血清アルブミン補正カルシウム、リンおよびインタクト線維芽細胞増殖因子23の濃度は、エテルカルセチド群で減少した。・エテルカルセチド群において認められた悪心、嘔吐および低カルシウム血症は軽度であった。・エテルカルセチドに関連する重大な有害事象は認められなかった。 本研究において、エテルカルセチドの有効性および安全性が実証された。エテルカルセチドは唯一の静脈内投与カルシウム感受性受容体作動薬として、血液透析下におけるSHPTの新たな治療選択肢となりうる。

312.

飽和脂肪酸の不飽和脂肪酸による置換は冠動脈疾患リスクを低下させる!(解説:島田 俊夫 氏)-631

 私たちは、炭水化物、脂肪、タンパク質と少量のミネラル、ビタミンを摂取することによりエネルギーを獲得している。しかしながら、炭水化物の過剰摂取と運動不足が糖尿病・肥満の主要因になっている。糖質制限は治療上重要だが、適切な供給カロリーを維持するためには炭水化物以外の栄養素からエネルギーを獲得することが必要となる1)。1g当たりの産生カロリーは、炭水化物4kcal、脂肪9kcal、タンパク質4kcalのエネルギーを産生する。単純計算から、糖質制限食は代替エネルギーを脂肪またはタンパク質から取らざるを得ない。飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸置換することは冠動脈疾患死を減らす 今回取り上げた、BMJ誌2016年11月23日号に掲載された米国・ハーバード大学公衆衛生大学院のGeng Zong氏らが、米国男女大規模コホート2試験で1984~2012年の看護師健康調査に参加した女性7万3,147例と、1986~2010年の医療従事者追跡調査に参加した4万2,635例の2つのコホートによる前向き縦断コホート試験により、飽和脂肪酸の冠動脈疾患への関与に対して解析を行った。本研究の被験者はベースラインでは主たる慢性疾患を認めない人のみを対象とした。 被験者のうち、冠動脈疾患の発生(n=7,035)は自己申告により、関連死は全米死亡記録や親戚縁者、郵便局からの報告により裏付けられた。冠動脈疾患症例については診療記録により確認が行われた。 その結果、追跡期間中の総エネルギー摂取量に占める飽和脂肪酸の割合は9.0~11.3%で、ラウリン酸(12:0)、ミリスチン酸(14:0)、パルミチン酸(16:0)とステアリン酸(18:0、8.8~10.7%エネルギー)が主な構成脂肪酸であった。これら4種の脂肪酸は、冠動脈疾患発症と強い相関を示し、スペアマンの順位相関係数は0.38~0.93(すべてのp<0.001)であった。 生活習慣要因と総エネルギー摂取量については多変量調整後、各々の飽和脂肪酸の摂取量の最高5分位数群 vs.最小5分位数群のハザード比は、タウリン酸が1.07(95%信頼区間[CI]:0.99~1.15、傾向p=0.05)、ミリスチン酸が1.13(1.05~1.22、傾向p<0.001)、パルミチン酸が1.18(1.09~1.27、傾向p<0.001)、ステアリン酸が1.18(1.09~1.28、傾向p<0.001)、4種複合飽和脂肪酸で1.18(同:1.09~1.28、傾向p<0.001)であった。 4種の飽和脂肪酸から摂取するエネルギーの1%相当分を、多価不飽和脂肪酸で置換することにより同ハザード比は0.92(p<0.001)に、また1価不飽和脂肪酸で置換すると0.95(p=0.08)、全粒炭水化物で0.94(p<0.001)、植物性タンパク質で0.93(p=0.01)とリスクの減少がみられた。また、単体ではパルミチン酸での置換がリスクを最も低下させ、ハザード比は多価不飽和脂肪酸の置換で0.88(p=0.002)、1価不飽和脂肪酸で0.92(p=0.01)、植物性タンパク質で0.89(p=0.01)であった。糖質制限食使用上の注意点 糖質制限食の重要性がクローズアップされている今日、代替エネルギーを脂肪から取ることは一見理にかなっているが、本論文の結果から脂肪酸の質が重要となり2)3)、飽和脂肪酸の摂取を抑え、多価不飽和脂肪酸または1価不飽和脂肪酸、植物性タンパク質を糖質代替エネルギー源とすることは、糖質制限食の弱点強化につながる可能性を示唆する。

313.

食事が喫煙者の肺機能保護に関わる可能性

 禁煙だけでなく、食事が喫煙者の肺機能保護に関わる可能性が、スペインのSorli-Aguilar M氏らによる研究で明らかになった。BMC Pulmonary Medicine誌2016年11月25日号掲載の報告。 食事が肺機能に対して与える影響はあまり知られていない。肺機能低下の主な原因は喫煙だが、食習慣との関連も示唆されている。野菜や果物に含まれる抗酸化ビタミン(C、D、E、β-カロテン)や各種ミネラル、食物繊維、フィトケミカル、そして魚介類に含まれるオメガ-3脂肪酸の摂取が呼吸器の健康と関連するとされる一方で、加工肉や過度のアルコール摂取は肺機能低下と関連するという報告も存在する。 本研究では、呼吸器疾患を持たない喫煙者(n=207、35~70歳)を対象に、食事パターンと肺機能の関連が検討された。対象者の食事パターンは、食物摂取頻度調査の結果を主成分分析(PCA)にかけることで決定された。肺機能の低下はFVC<80%、FEV1<80%、FEV1/FVC<0.7のいずれかまたは複数該当する場合とされ、 ロジスティック回帰分析によって解析が行われた。 主な結果は以下のとおり。・肺機能低下は47名(22.7%)の対象者でみられ、男性の対象者でより多くみられた(男性30.8%、女性16.4%)。・対象者の食事パターンは、主にアルコール摂取型、西洋型、地中海型の3つのパターンに区分された。 ◆アルコール摂取型:  ワイン、ビール、蒸留酒などアルコール飲料の摂取が多い群 ◆西洋型:  肉類、乳製品、甘い飲料、菓子類の摂取が多く、果物、野菜、魚の摂取が少ない群 ◆地中海型:  鶏肉、卵、魚、野菜、芋類、果物、ナッツ、ドライフルーツの摂取が多い群・アルコール摂取型の食事パターンで肺機能低下との関連がみられ(オッズ比[OR]:4.56、95%信頼区間[CI]:1.58~13.18)、とくに女性においてその影響が大きかった(OR:11.47、95%CI:2.25~58.47)。・西洋型の食事パターンは、女性においてのみ肺機能低下との関連がみられた(OR:5.62、95%CI:1.17~27.02)。・地中海型の食事パターンと肺機能低下には関連がみられなかった(OR:0.71、95%CI:0.28~1.79)。・禁煙に加えて、食事パターンの見直しが肺機能保護に役立つ可能性がある。

314.

オメガ3脂肪酸サプリでドライアイが改善!?

 経口長鎖オメガ3必須脂肪酸サプリメントは、ドライアイに対して効果があるかもしれない。オーストラリア・メルボルン大学のLaura A Deinema氏らが、無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験の結果、ドライアイ患者において、2種類の長鎖オメガ3 必須脂肪酸サプリメントを中等量、毎日3ヵ月間摂取することで、涙液浸透圧が低下し涙液安定性の改善が認められたと報告した。とくにオキアミ油は、プラセボと比較してドライアイ症状を改善するとともに、インターロイキン(IL)-17Aの涙液中濃度を低下させ、さらなる治療効果が得られる可能性が示唆されたという。Ophthalmology誌オンライン版2016年11月3日号掲載の報告。 研究グループは、オキアミ油(リン脂質やオメガ3脂肪酸を含む)製剤と魚油(トリアシルグリセリド)製剤の2種類のサプリメントのドライアイに対する治療効果を評価する目的で、単一施設にて無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験を実施した。 対象は、軽度~中等度ドライアイ患者60例(うち、試験完遂は54例)で、プラセボ群(オリーブ油)、オキアミ油製剤群または魚油製剤群に1対1対1の割合で無作為化された。プラセボ群はオリーブ油1,500mg/日、オキアミ油製剤群はエイコサペンタエン酸(EPA)945mg/日+ドコサヘキサエン酸(DHA)510mg/日、魚油製剤群はEPA 1,000mg/日+DHA 500mg/日を90日間摂取した。 主要評価項目は、涙液浸透圧ならびにドライアイ自覚症状(眼表面疾患指数:OSDI)の、ベースラインから90日目の平均変化であった。 主な結果は以下のとおり。・オキアミ油製剤群および魚油製剤群のいずれも、プラセボ群に比べ涙液浸透圧の低下が有意に大きかった。ベースライン~90日の変化量は、プラセボ群(17例)-1.5±4.4 mOsmol/Lに対し、オキアミ油製剤群(18例)-18.6±4.5 mOsmol/L(p<0.001)、魚油製剤群(19例)-19.8±3.9 mOsmol/L(p<0.001)。・OSDIスコアは、オキアミ油製剤群のみプラセボ群と比較して有意に低下した。ベースライン~90日のスコア変化量は、-18.6±2.4 vs.-10.5±3.3(p=0.02)。・副次的評価項目である涙液層破壊時間(TBUT)および眼球発赤も、プラセボ群と比較して2製剤とも相対的な改善が認められた。・90日目の涙液中炎症性サイトカイン(IL-17A)濃度は、プラセボ群と比較しオキアミ油製剤群で有意な減少を認めた(-27.1±10.9 vs.46.5±30.4pg/mL、p=0.02)。

315.

ルテインとゼアキサンチンのサプリ―美白に効果あり?

 ルテインとゼアキサンチンは食物に多く含まれる黄斑色素を構成するカロテノイドで、多くの野菜や果物が鮮やかな色彩となっているのはこれらを含有するためである。 これらカロテノイドはパソコンなどから発せられる高エネルギーのブルーライトをカットし、皮膚を保護する作用を有する。また、メラニンの生成を阻止し、サイトカインを減少させ、抗酸化物質を増加させる可能性がある。構造異性体・ルテインとゼアキサンチンを含有するサプリメント投与による肌トーンの改善と美白効果を調査した研究を紹介する。Clinical, Cosmetic and Investigational Dermatology誌9月号の掲載の報告。 被験者として50人の軽度~中程度の乾燥肌を有する健康成人(男女ともに年齢は18~45歳)が集められ、そのうちの46人が試験完了に至った。 被験者には、ルテイン10mgおよびゼアキサンチン2mgを含有する経口サプリメント、もしくはプラセボのいずれかを12週間連日投与した(無作為化二重盲検プラセボ対照試験)。 被験者の皮膚タイプは、フィッツパトリック(Fitzpatrick)スケール(スキンタイプII-IV)に基づき分類した。 最小紅斑量と美白度は、色彩色差計(Chromameter)を用いて計測した。皮膚の色や色素沈着の程度はIndividual Typological Angle(ITA)を用いて算出した。また、被験者による自己評価アンケートも行った。 主な結果は以下のとおり。・全体的な肌トーンは、プラセボ群と比較して、サプリメント投与群において有意に改善し(p<0.0237)、肌の美白も有意な上昇を示した。・平均最小紅斑量は12週後、サプリメント投与群において増加が認められた。・サプリメント投与群ではITAが有意に増加した。 以上の結果から、ルテインとゼアキサンチンを含有するサプリメントの摂取により美白効果が認められ、皮膚状態を改善することが示された。

316.

うつ病とビタミンDとの関連、どこまで研究は進んでいるのか

 ビタミンDの欠乏や不足がうつ病と関連しているのか、また、ビタミンD補充がうつ病の有効な治療法であるのかを、オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のGordon B Parker氏らが検討を行った。Journal of affective disorders誌オンライン版2016年10月11日号の報告。うつ病の病因と管理におけるビタミンDの役割 3つの検索エンジンとオンラインデータベース(PubMed、Google Scholar、コクランデータベース)を用いて、近年出版された経験的研究を抽出した。検索キーワードは、ビタミンD、うつ病、治療とし、ビタミンD欠乏/不足とうつ病との関連、うつ病治療薬としてビタミンDサプリメントやビタミンDを使用した文献を選択した。本レビューは、以前の研究も考慮したものの、2011年以降の最近の研究に比重を置いた。 主な結果は以下のとおり。・経験的研究では、ビタミンD欠乏とうつ病の関連、ビタミンD不足のうつ病患者に対するビタミンDサプリメントやビタミンD増強に関するエビデンスが増加していた。・多くの研究に関連する方法論的限界が述べられていた。・研究は、英語論文に限られており、出版バイアスは、肯定的な所見を持つ研究が多い可能性がある。・うつ病の病因と管理におけるビタミンDの役割を明らかにし、現在示唆されている関連が臨床的に適合されるのかを証明するために、横断的デザインを超え、無作為化された縦断研究を実施する必要がある。

317.

米国人のサプリ摂取、オメガ3が7倍に/JAMA

 米国成人の栄養補助食品「サプリメント」の摂取率の動向を調べた結果、1999~2012年にかけて摂取している人の割合は50%前後と安定的に推移していたが、種別にみると、複合ビタミン剤・複合ミネラル剤(MVMM)の摂取率は有意な減少を示した一方、さまざまなサプリメントを服用している傾向が増えており、なかでもオメガ3の摂取率が約7倍に増大していることが明らかになった。また年齢、性別、人種/民族、教育歴などの違いによる使用率の差が広がっていることも示されたという。米国・メモリアルスローンケタリングがんセンターのElizabeth D. Kantor氏らが、全国健康・栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey:NHANES)を基に行った横断研究の結果で、JAMA誌2016年10月11日号で発表した。直近の30日間に摂取したサプリメントを聞き取り調査 研究グループは、1999~2012年のNHANESを基に、米国成人のサプリメント摂取の傾向について、連続横断研究を行った。被験者は、施設入居者ではない米国居住成人。2年サイクルで7回にわたって行われた調査には、各サイクル4,863~6,213例の被験者が参加した。 研究グループは、家庭での聞き取り調査を行い、直前30日間に摂取したサプリメントについて質問し、各サイクルにおける摂取率を求め、そのうえでサイクル間での比較を行い、動向を調べた。 質問項目は、種類を問わないサプリメント摂取、10種以上のビタミンやミネラルを含むMVMM、単剤のビタミンやミネラル、非ビタミン、非ミネラルサプリメントなどの摂取だった。 MVMMの摂取率は減少、オメガ3の摂取率は約7倍に 被験者総数は3万7,958例で、年齢の加重平均値は46.4歳、女性は52.0%で、回答率は74%だった。サプリメントの摂取率は、1999~2012年にかけて安定的に推移し、1999~2000年(第1回)、2011~12年(第7回)の調査時ともに52%だった(傾向のp=0.19)。 一方で、MVMMの摂取率は、1999~2000年が37%に対し、2011~12年は31%と、有意な減少傾向がみられた(差:-5.7%[95%信頼区間[CI]:-8.6~-2.7]、傾向のp<0.001、率比:0.85[95%CI:0.78~0.92])。 一方で増加傾向がみられたのは、MVMM以外からのビタミンD摂取率で、同期間に5.1%から19%へと増大した(差:14%[12~17]、傾向のp<0.001、率比:3.8[3.0~4.6])。 非ビタミン・非ミネラルサプリメントでは、フィッシュオイルの摂取率の増大が最も大きく、1.3%から12%(差:11%[9.1~12]、傾向のp<0.001、率比:9.1[6.2~13.5])に増えていた。このフィッシュオイルとα-リノレン酸などを含むオメガ3脂肪酸としてみた摂取率も1.9~13%(差:11%[9.4~13]、傾向のp<0.001、率比:6.8[4.9~9.3])に増えていた。

318.

H.pylori除菌、第1選択は3剤療法よりビスマス4剤療法/Lancet

 Helicobacter pylori(ピロリ菌)の除菌療法は、ビスマス4剤療法(クエン酸ビスマス三カリウム+ランソプラゾール+テトラサイクリン+メトロニダゾール)のほうが、従来の3剤療法に比べ、除菌率が約7%有意に高く、第1選択として好ましいことが示された。背景には、クラリスロマイシン耐性のピロリ菌の増加があるという。台湾国立大学病院のJyh-Ming Liou氏らが、成人感染者1,620例を対象に行った非盲検無作為化比較試験の結果、明らかにした。Lancet誌オンライン版2016年10月18日号で発表した。被験者を3群に分け、レジメンを比較 研究グループは、2013年7月~2016年4月にかけて、台湾の9医療機関を通じ、20歳超のピロリ菌感染者1,620例を対象に試験を行った。登録被験者は、迅速ウレアーゼ試験、組織学的、血液培養または血清検査のうち2つ以上の試験で陽性を示したか、胃がんスクリーニングの尿素呼気テストで13C尿素値が陽性の患者だった。 被験者を無作為に3群に分け、第1群には併用療法(ランソプラゾール30mg+アモキシシリン1g、クラリスロマイシン500mg、メトロニダゾール500mgのいずれかを併用、1日2回)を10日間、第2群にはビスマス4剤療法(クエン酸ビスマス三カリウム300mg 1日4回+ランソプラゾール30mg 1日2回+テトラサイクリン500mg 1日4回+メトロニダゾール500mg 1日3回)を10日間、第3群には3剤療法(ランソプラゾール30mg+アモキシシリン1g+クラリスロマイシン500mg、いずれも1日2回)を14日間投与した。 主要評価項目は、intention-to-treat集団で評価した第1選択としてのピロリ菌除菌率だった。除菌率、ビスマス4剤療法群は90%、3剤療法群は84% その結果、ビスマス4剤療法群の除菌率は90.4%(540例中488例、95%信頼区間[CI]:87.6~92.6)、併用療法群は85.9%(540例中464例、同:82.7~88.6)、3剤療法群は83.7%(540例中452例、同:80.4~86.6)だった。 ビスマス4剤療法群の除菌率は、3剤療法群に比べ有意に高率だった(群間差:6.7%、95%CI:2.7~10.7、p=0.001)。一方、併用療法群に対する有意差はなかった。また、併用療法群と3剤療法群の間にも、除菌率に有意差はなかった。 有害事象発生率は、ビスマス4剤療法群が67%、併用療法群が58%、3剤療法群が47%だった。 これらの結果を踏まえて著者は、「クラリスロマイシン耐性ピロリ菌の罹患率が増加している現状では、ビスマス4剤療法群が除菌の第1選択として望ましい。10日間の併用療法は至適とはいえず、より長期の投与期間を考慮すべきであろう」と結論している。

319.

1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第31回

第31回:膝の痛みにおける非外科的治療監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 人口の高齢化に伴い、整形外科領域で保存的治療(非外科的治療)を行っている方を多く見かけます。また、プライマリケア医が遭遇する頻度の高い疾患・症候群としてかぜ症候群、胃腸炎などと並んで「痛み・関節炎症状」が挙げられており1)、今後ますます外来で関節痛、関節炎に対する保存的治療の重要性が増すことが予想されます。今回の記事では、膝の痛みの原因として「変形性膝関節症」「膝蓋大腿疼痛症候群」「半月板・腱・靱帯の損傷」が取り上げられ、それぞれの非外科的治療について解説されていますので、ご紹介します。 以下、American Family Physician 2015年11月15日号2) より1.変形性膝関節症理学療法・運動療法:非外科的治療の基礎であり、ストレッチ、筋力強化(大腿四頭筋訓練)、運動プログラムが効果的である。また、BMI25以上の患者には減量が推奨され、有酸素運動とストレッチを組み合わせるとさらに効果的とされている。自宅で行う運動療法は専門家によるものと同様の効果がある。薬物療法:アセトアミノフェンとNSAIDsが第1選択と考えられている。無作為化試験ではアセトアミノフェンは投与量に関係なくイブプロフェンと同程度に効果的であることが示され、さらに5つのRCTの系統的なレビューでは、アセトアミノフェンは、その効果と副作用がNSAIDsより少ないことから、第1選択薬として考慮すべきとされている。NSAIDsは長期に使用すべきでないが、短期間ならプラセボより効果があるとしている。ビタミンD、グルコサミン・コンドロイチンサプリメントについては、疼痛に対する効果が証明されていない。関節内注射:関節内ステロイド注射について、コクランレビューでは、疼痛緩和の効果は1~2週間のみとしている。アメリカ整形外科学会ではステロイド関節内注射を推奨しておらず、使用するとしても3か月に1回以上投与するべきではないとしている。ヒアルロン酸注射(viscosupplementation)については、2012年の質の高いシステマティックレビューでは、プラセボと比較して何ら臨床的な効果は示されなかったと結論されている。※いずれの場合も、人工関節のある患者には感染のリスクとなるため、関節穿刺は避けるべきである。装具療法:矯正装具 (足底板やサポーター)の使用が害を及ぼすというエビデンスはなく、変形性関節症を含めた膝の慢性的な摩耗による症状に対して、有用なオプションといえる。2.膝蓋大腿疼痛症候群(PFPS;Patellofemoral pain syndrome)理学療法・運動療法:筋力トレーニングとストレッチが第1選択の治療になる。テーピングはコクランレビューでは疼痛に顕著な効果がないとしているが、最近のメタ分析では早期のテーピングが疼痛を改善するという報告もある。経皮的電気刺激やバイオフィードバック、カイロプラクティックを支持するエビデンスはない。薬物療法:疼痛に対してNSAIDsの短期間投与が効果的だという限られたデータしかない。装具療法:理学療法併用の有無にかかわらず疼痛緩和に効果的である。しかし、膝蓋矯正装具の効果を臨床的に裏付けるエビデンスはなく、患者への有益性を裏付けるデータもないことに留意する。3.半月板、腱、靱帯の損傷理学療法・運動療法:第1選択の治療である。退行性の半月板損傷や変性は、変形性関節症の原因となる。ロッキングやキャッチングがあれば整形外科医に紹介する。薬物療法:NSAIDsは短期の疼痛緩和に有用だが、治療の効果はまだはっきりしていない。関節内注射:大腿四頭筋や膝蓋腱など、体重のかかる腱へのステロイド注射は避けるべきだが、保存的治療で効果がない場合は、腸脛靭帯摩擦症候群(ランナー膝)の患者へのステロイド投与は許容される治療法である。慢性膝蓋腱障害と変形性関節症の疼痛と機能をわずかに改善させたという報告がある。装具療法:短期間の使用は靭帯断裂や膝蓋骨骨折といった外傷の直後であれば膝の保護に役立つ。一度あるいは二度の内側側副靱帯損傷には、装具使用に加え、経口鎮痛薬と早期からの理学療法が効果的である。一般的に装具療法は、腸脛靭帯摩擦症候群(ランナー膝)または膝蓋下腱障害といった膝の使い過ぎに使用される。前十字靱帯部分損傷には、急性期に装具を使用すれば保存的治療に効果があるかもしれないが、完全断裂は専門医に紹介する。※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) 田中勝巳ほか. プライマリ・ケア. 2007;30:344-351. 2) Jones BQ, et al. Am Fam Physician. 2015;92:875-883.

検索結果 合計:434件 表示位置:301 - 320