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末梢性めまいで“最も頻度の高い”良性発作性頭位めまい症、診療ガイドライン改訂

 『良性発作性頭位めまい症(BPPV)診療ガイドライン』の初版が2009年に発刊されて以来、15年ぶりとなる改訂が行わた。今回、本ガイドライン(GL)の作成委員長を務めた今井 貴夫氏(ベルランド総合病院)に専門医が押さえておくべきClinical Question(CQ)やGLでは触れられていない一般内科医が良性発作性頭位めまい症(benign paroxysmal positional vertigo、以下BPPV)を疑う際に役立つ方法などについて話を聞いた。一般内科医もBPPVを疑い、診断・治療は専門医が担う BPPVは末梢性めまいのなかで最も頻度が高い疾患である。治療法は確立しており予後は良好であるが、日常動作によって強いめまいが発現したり、症状が週単位で持続したりする点で患者を不安に追い込むことがある。また、BPPVはCa代謝の異常により耳石器の耳石膜から耳石がはがれやすくなって症状が出現することから、加齢(50代~)、骨粗鬆症のようなCa代謝異常が生じる疾患への罹患、高血圧、高脂血症、喫煙、肥満、脳卒中、片頭痛などの既往により好発するため、さまざまな診療科の医師による理解が必要になる。 よって、本ガイドラインは耳鼻咽喉科や神経内科などめまいを扱う医療者向けにMinds診療ガイドライン作成マニュアルに準拠し作成されているが、BPPVの疫学(p.20)や鑑別診断(p.25~27)はぜひ多くの医師に一読いただきたい。 以下、治療に関する全10項目のCQを示す。―――CQ1:後半規管型BPPVに耳石置換法は有効か?CQ2:後半規管型BPPVに対する耳石置換術中に乳突部バイブレーションを併用すると効果が高いか?CQ3:後半規管型BPPVに対する耳石置換法後に頭部の運動制限を行うと効果が高いか?CQ4:外側半規管型BPPV(半規管結石症)に耳石置換法は有効か?CQ5:外側半規管型BPPV(クプラ結石症)に耳石置換法は有効か?CQ6:BPPVは自然治癒するので経過観察のみでもよいか?CQ7:BPPV発症のリスクファクターは?CQ8:BPPVの再発率と再発防止法は?CQ9:BPPVに半規管遮断術は有効か?CQ10:BPPVに薬物治療は有効か?――― 今回、今井氏は「めまい診療を行う医師にはCQ5とCQ8に目を通して欲しい」と述べており、その理由として「両者に共通するのは、諸外国では積極的に行われているにもかかわらず日本ではまだ実績が少ない治療法という点」と話した。「たとえば、CQ8のBPPVの再発防止については、ビタミンDとカルシウム摂取が有効であると報告されているが、国内でのエビデンスがないため推奨度は低く設定された。次回の改訂までにエビデンスが得られ、推奨度が高くなることを期待する」とも話した。鑑別すべき疾患 めまいを伴う疾患はBPPVのほか、脳卒中やメニエール病をはじめ、前庭神経炎、めまいを伴う突発性難聴、起立性調節障害、起立性低血圧が挙げられる。とくに起立性低血圧はBPPVの34%で合併しており鑑別が困難であるので注意したい。なお、めまいの訴えが初回で単発性の場合、高血圧・心疾患・糖尿病が既往にある患者では脳卒中も鑑別診断に挙げるべきである。BPPVを疑う鍵は「めまいが5分以内で治まる」か否か BPPVの確定診断のためには特異的な“眼振”を確認することが必要であるので、フレンツェル眼鏡や赤外線CCDカメラといった特殊機材を有している施設でしか診断できないが、同氏は「ガイドラインには掲載されていないが、非専門医でもBPPVを疑うことは可能」とコメントしている。「眼振が確認できない施設では、われわれが開発した採点システム1)を用いて患者の症状をスコア化し、合計2点以上であればBPPVを疑って専門医に紹介して欲しい」と説明した。 本採点システムを開発するにあたり、同氏らは大阪大学医学部附属病院の耳鼻咽喉科およびその関連病院のめまい患者571例を対象に共通の問診を行い、χ2検定を実施。BPPV患者とそれ以外の患者で答えに有意差のあった問診項目を10個抽出した。同氏はこれについて「10個の項目に0~10点を付け、患者の答えから求めた合計点によりBPPVか否かを判断した際、感度、特異度の和が最も高くなるように点数を決定し、0点の項目を除外すると最終的に4項目に絞ることができた。なかでも“めまいが5分以内で治まる”は点数が2点と高く、BPPV診断で最も重要な問診項目であることも示された」と説明した。なお、本採点システムによる BPPVの診断の感度は81%、特異度は69%だった。 以下より、そのツールを基にケアネットで作成した患者向けスライドをダウンロードできるので、非専門医の方にはぜひ利用して欲しい。『良性発作性頭位めまい症の判別ツール』(患者向け説明スライド) なお、CareNeTVでは『ガイドラインから学ぶ良性発作性頭位めまい症(BPPV)診療のポイント』を配信中。話術でも定評のある新井 基洋氏(横浜市立みなと赤十字病院めまい平衡神経科 部長)が改訂ガイドラインを基に豊富な写真・イラストや動画を用いて解説している。

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良性発作性頭位めまい症の判別ツール

その症状、良性発作性頭位めまい症?良性発作性頭位めまい症(BPPV)とは末梢性めまいのなかで最も頻度が高く、治療法が確立しているため予後良好の疾患です。カルシウム代謝の異常により耳石器の耳石膜から耳石がはがれやすくなって症状が出現します。好発しやすい方の特徴は、加齢(50代以上)、高血圧、高脂血症などの既往、喫煙などです。めまいの原因には、BPPV以外にもメニエール病、起立性低血圧、脳卒中などがあり、鑑別して適切な治療を行う必要があります。まずは、以下の症状がないかチェックしてみましょう。合計が2点以上ならBPPVを疑い、そうではない場合はBPPV以外の疾患の可能性があります。自覚症状スコア□ぐるぐる回るような(回転性)めまいがある+1□めまいは寝返りすると起こる+1□めまいは5分以内でおさまる+2□今回のめまいと難聴、耳鳴り、耳閉感(蝸牛症状)が関連する、または以前から片側の耳で難聴がある-1監修:今井 貴夫氏(ベルランド総合病院めまい難聴センター センター長)出典:Imai T, et al. Acta Otolaryngol. 2016;136:283-288.Copyright © 2023 CareNet,Inc. All rights reserved.

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麻疹・風疹の違いは?

麻疹・風疹の違いは?麻疹(はしか)風疹(3日はしか)原因ウイルス 麻疹ウイルス(Paramyxovirus科Morbillivirus属)風疹ウイルス(Togavirus科Rubivirus属)感染経路空気感染、飛沫感染、接触感染感染力が非常に強い飛沫感染感染力が強い(1人の感染者が12~17人感染させる)(1人の感染者が5~7人感染させる)潜伏期間10~12日間14~21日間症状発熱(38℃前後、発疹期は39.5℃以上)、上気道炎症状(せき、鼻みず、のどの痛み)、結膜炎症状(結膜充血、目やに、まぶしさ)、消化器症状(下痢、腹痛)、発疹、コプリック斑(口腔内の白色の小斑点)など発熱(約半数)、発疹、リンパ節の腫れが3つの特徴的な症状とされる関節炎が出る場合もある(成人の5~30%)麻疹より症状は軽く、無症状が15~30%注意が必要な合併症肺炎、脳炎、亜急性硬化性全脳炎(麻疹の二大死因は肺炎と脳炎)中耳炎、クループ症候群(喉頭炎、喉頭気管支炎など)、心筋炎など先天性風疹症候群(妊娠20週までの妊婦さんが感染すると、生まれた子が発症して、先天異常など、さまざまな症状があらわれる)血小板減少性紫斑病、急性脳炎分類5類感染症国立感染症研究所. 風疹とは(https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/430-rubella-intro.html)国立感染症研究所. 麻疹とは(https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/518-measles.html)より作成Copyright © 2023 CareNet,Inc. All rights reserved.麻疹・風疹の発生状況(2023年5月24日現在)麻疹風疹(例)(例)3,0003,0002,5002,5002,0002,0001,5001,5001,000165 18602,2981,0007445002,9415002791066126129102016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023年101121552016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023年国立感染症研究所. 感染症発生動向調査(IDWR):2023年5月24日現在(https://www.niid.go.jp/niid/ja/hassei/575-measles-doko.html)(https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ha/rubella.html)より作成Copyright © 2023 CareNet,Inc. All rights reserved.

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境界性パーソナリティ障害に有効な治療は~リアルワールドデータより

 境界性パーソナリティ障害(BPD)患者の多くは精神薬理学的治療を受けているが、BPDに関する臨床ガイドラインには、薬物療法の役割についてのコンセンサスはない。東フィンランド大学のJohannes Lieslehto氏らは、BPDに対する薬物療法の有効性について比較検討を行った。その結果、注意欠如多動症(ADHD)の治療薬が、BPD患者の精神科再入院、すべての原因による入院または死亡のリスク低下と関連していることが示唆された。Acta Psychiatrica Scandinavica誌オンライン版2023年4月24日号の報告。 2006~18年に治療を行ったBPD患者をスウェーデンの全国レジストリデータベースより抽出した。選択バイアスを排除するため、個別(within-individual)デザインを用いて、薬物療法の有効性を比較した。各薬剤に関して、精神科入院、すべての原因による入院または死亡に対するハザード比(HR)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・対象は、BPD患者1万7,532例(男性:2,649例、平均年齢:29.8±9.9歳)。・精神科再入院リスクの増加と関連した治療は、ベンゾジアゼピン(HR:1.38、95%信頼区間[CI]:1.32~1.43)、抗精神病薬(HR:1.19、95%CI:1.14~1.24)、抗うつ薬(HR:1.18、95%CI:1.13~1.23)による治療であった。・同様に、すべての原因による入院または死亡リスクにおいても、ベンゾジアゼピン(HR:1.37、95%CI:1.33~1.42)、抗精神病薬(HR:1.21、95%CI:1.17~1.26)、抗うつ薬(HR:1.17、95%CI:1.14~1.21)による治療で増加が認められた。・気分安定薬による治療は、両アウトカムと統計学的に有意な関連が認められなかった。・ADHD治療薬による治療は、精神科入院リスクの減少(HR:0.88、95%CI:0.83~0.94)およびすべての原因による入院または死亡リスクの減少(HR:0.86、95%CI:0.82~0.91)との関連が認められた。・精神科再入院リスクの低下と関連した薬剤は、クロザピン(HR:0.54、95%CI:0.32~0.91)、リスデキサンフェタミン(HR:0.79、95%CI:0.69~0.91)、bupropion(HR:0.84、95%CI:0.74~0.96)、メチルフェニデート(HR:0.90、95%CI:0.84~0.96)であった。

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COVID-19の転帰に、レニン・アンジオテンシン系が重要な役割を果たしているのか?―(解説:石上友章氏)

 コロナ禍は収束に向かいつつある。とはいえ、人類がCOVID-19を制圧したとは、とうてい言い難い。SARS-COVID19に意思があるわけではないが、無限に思える遺伝子変異の末に、人類との共存を選択したかに思えてしまう。しかし、いついかなる時に強い感染性のままに、より毒性の高い変異を獲得して、再び人類に闘いを挑むことがないとは言えない。つかの間の休息のような日々が、永遠に続くわけではない。SARS-COVID19は、細胞表面に存在するACE2とSpike Proteinが結合することによって、肺胞上皮細胞や心筋細胞に侵入し感染を成立させるとともに、ACE2の活性を阻害する。ACE2はAngiotensin IIをAngiotensin 1-7へ変換させる酵素であり、Angiotensin 1-7にはanti-Angiotensin II作用があるとされている。 コロナ・パンデミックは、ほぼ全人類を未知の感染症による死の恐怖に陥れた。わらにもすがる思いとは、このことだろうか。ACE2とSARS-COVID19との関係から、既存のRA系阻害薬に治療効果を期待する声が上がった。事実、いくつかの報告は、RA系阻害薬とCOVID-19との間に、病態的な結合が存在することを示唆した。残念ながら、いずれも創薬の機会創出とするには不十分であり、「言葉遊び」ではないかと言ってしまっては、言い過ぎだろうか。 論より証拠である。米国・ヴァンダービルト大学医療センターのWesley H. Self氏らにより、2つの無作為化試験の結果が報告された。米国NHLBIの支援の下、ヴァンダービルト大学を中心とするコンソーシアムであるACTIV-4 Host Tissue Platformの手による本研究の結果では、合成Ang 1-7であるTXA-127、βアレスチンバイアス作動薬であるTRV-027は、ともに重症COVID-19患者の酸素フリー期間を短縮することができず、死亡率を下げることもできなかった。残念な結果ではあったが、このような質の高い臨床試験を遂行し、報告することができた研究グループの活動に、心底敬意を表します。しかしながら、そもそもの仮説にはエビデンスが乏しく、新規の化合物を使ったPOCとなる臨床試験を正当化することができるかどうか、疑義が残ることは記したい。

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コロナワクチンの有効性、40試験のメタ解析結果

 将来の第9波到来を見越した新型コロナ対策として、これまでのブースター接種のタイミングや接種用量などを評価しておく必要がある。伊・Fondazione Bruno Kessler(FBK)のFrancesco Menegale氏らはワクチンの有効性(VE)の経時的変化を数学的に説明できれば、流行時に応用できる可能性があると考え、新型コロナウイルスのデルタ株およびオミクロン株に対するVEとして、VEの半減期や効果減退率に関する調査を実施した。その結果、ワクチン初回接種とブースター接種後の時間経過とともにVEが急速に低下することを示唆した。JAMA Network Open誌2023年5月3日号掲載の報告。 本研究では論文検索データベースとしてPubMedとWeb of Scienceを使用。検索開始から2022年10月19日までの期間に、新型コロナウイルス感染や症候性疾患に対する経時的なVEの推定値を報告した論文からプレプリントまでを抽出してシステマティックレビューならびにメタ解析を行った。なお、各論文で使用されていた主なワクチンはBNT162b2(ファイザー社/ビオンテック社)、mRNA-1273(モデルナ社)だった。 主な結果は以下のとおり。・検索した結果、799件の論文、査読付きジャーナルに掲載された149件のレビュー、35件のプレプリントが該当し、そのうちの40件が分析に使用された。・オミクロン株感染と症候性疾患に対するワクチン初回接種のVEに関する推定値は、最終投与から6ヵ月で20%未満だった。・ブースター接種は、初回接種の投与直後に得られたレベルに匹敵するまでにVEを回復させた。しかし、ブースター接種9ヵ月後のオミクロン株に対するVEは、感染症および症候性疾患に対して30%未満だった。・症候性感染に対するVEが半減するのは、デルタ株では316日(95%信頼区間[CI]:240~470日)、オミクロン株では87日(95%CI:67~129日)と推定された。・また、VEを若年層(18歳未満)と高齢者(60歳以上)で比較したところ、推定値での差はみられなかった(39.2%[95%CI:34.0~44.4] vs.38.7%[95%CI:14.4~63.1])。 研究者らは「本結果は、将来のワクチン接種プログラムの適切な目標とタイミング構築に役立つ可能性がある」としている。

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研修医の長時間勤務が患者に危険をもたらす可能性

 長時間勤務をしている研修医はミスを犯す確率が高く、また患者に危険をもたらす可能性も高くなる実態を示すデータが報告された。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のLaura Barger氏らの研究によるもので、詳細は「BMJ Medicine」に4月12日掲載された。 医師の長時間勤務による安全上のリスクの懸念は、これまでにも報告されてきている。ただしBarger氏らによると、それらの報告の多くは、医師養成機関卒業後1年目の研修医を対象とした研究だという。同氏らは今回、比較的経験を積んだと考えられる卒後2年目以降の研修医を対象とする調査を実施。その結果、既に報告されている卒後1年目の研修医と同程度のリスクが認められたという。Barger氏は、「経験が豊富な医師であっても、経験の少ない医師と同様の睡眠が必要。われわれの研究結果は、医師の長時間勤務に関する国のガイドラインの再検討を促すものだ」と述べている。 米国では2011年に、全米医学アカデミー(NAM)の勧告に基づき卒後医学教育認定評議会(ACGME)が、卒後1年目の研修医の連続勤務を16時間までとするガイドラインを策定した。ただし、経験年数がより長い研修医には連続28時間という長時間勤務を認め、さらに全研修医の週当たりの勤務時間の上限は80時間とされている。一方、欧州では週48時間が上限。 Barger氏らの今回の研究では、8学年度にわたる4,800人以上の卒後2年目以降の研修医を対象として、自分自身および患者の安全性に関わる事象の発生と、長時間勤務との関連が調査された。その結果、1週間に48時間を超えて勤務することが、ミスや有害事象の増加と関連のあることが明らかになった。 具体的には、自己申告による医療ミス、予防可能な有害事象、致命的な予防可能な有害事象、放射線被ばく、皮膚の損傷などが有意に増加していた(全てP<0.001)。さらに、週60~70時間の勤務で医療ミスが2倍以上〔オッズ比(OR)2.36(95%信頼区間2.01~2.78)〕、予防可能な有害事象は約3倍〔OR2.93(同2.04~4.23)〕、致命的な予防可能な有害事象も3倍近く〔OR2.75(1.23~6.12)〕に増えていた。また、勤務明けの帰宅時の交通事故のリスクも上昇していた。 なお、この研究は自己報告に基づくものだが、調査時にはカフェイン摂取や運動習慣など、他の健康習慣の質問と合わせて安全性の問題を尋ねており、回答者は研究の目的を知らされていなかった。 論文の著者の1人である同院のCharles Czeisler氏は、付随短報(Opinion)を寄せている。その中で同氏は、「比較的経験を積んだ研修医であっても、長時間勤務により1年目の研修医と同じように有害事象のリスクが高くなり、その影響は患者にまで及んでいる。米国の外に目を向ければ、研修医は勤務時間の配慮された、より安全な環境でトレーニングを受けている国がある。われわれの調査結果は、米国のガイドラインを変更し、経験の豊かさにかかわりなく全ての研修医の勤務時間を、より安全性が確保されるように変更すべき時期にきていることを示している」と述べている。

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喘息診断で注目、タイプ2炎症バイオマーカーの手引き発刊/日本呼吸器学会

 タイプ2炎症は、主に2型ヘルパーT細胞(Th2細胞)や2型自然リンパ球(ILC2)が産生するIL-4、IL-5、IL-13などの2型サイトカインが作用する炎症である。気道・肺疾患と密接な関係にあり、診断や治療に直結する。とくに、生物学的製剤の治療選択や効果予測に重要な役割を果たすことから、近年注目を集めている。そのような背景から、「タイプ2炎症バイオマーカーの手引き」が2023年4月3日に発刊された1)。第63回日本呼吸器学会学術講演会において、本書の編集委員長を務めた松永 和人氏(山口大学大学院医学系研究科呼吸器・感染症内科学講座 教授)が「タイプ2炎症バイオマーカーが切り拓く未来」と題し、主に「喘息の診断と管理効率の向上」「疾患修飾による喘息寛解の展望」について、解説した。タイプ2気道炎症は喘息の診断、管理に有用 喘息の補助診断には、血中好酸球数、呼気NO濃度(FeNO)、IgEが有用である。そこで「タイプ2炎症バイオマーカーの手引き」では、血中好酸球数とFeNOについて、喘息の補助診断に関するカットオフ値が設定された1)。 血中好酸球数については、タイプ2炎症の有無を鑑別するカットオフ値が220cells/μLであったという報告2)、一般住民における75パーセンタイル値が210cells/μLであり、210cells/μL以上では喘息を有する割合が高かったという報告3)などがある。以上などから、喘息を疑う症状のある患者における、喘息の補助診断のカットオフ値は220cells/μL(喘息診断を支持)に設定された1)。詳細は、手引きを参照されたい。 FeNOについては、タイプ2炎症の有無を鑑別するカットオフ値が20ppbであったという報告2)、本邦で喘息患者と非喘息患者を鑑別する際のカットオフ値が22ppb(感度91%、特異度84%)であったという報告4)などがある。ただし、FeNO値22ppbを適用すると非喘息患者の約15%もこの範囲に当てはまってしまう。そこで、FeNO値37ppbを適用すると特異度は99%となる4)。以上などから、吸入ステロイド薬(ICS)未使用の喘息を疑う症状のある患者における、喘息の補助診断のカットオフ値は22ppb(喘息の可能性が高い)、35ppb(喘息診断の目安)に設定された1)。詳細は、手引きを参照されたい。 なお、血中好酸球数、FeNOを補助診断に用いる場合、いずれも最終的な喘息の診断は、治療による反応性、治療効果の再現性などの臨床経過や症状・呼吸機能の変動を含め総合的に判断する。 また、FeNOと血中好酸球数は喘息管理においても有用である。そこで「タイプ2炎症バイオマーカーの手引き」では、喘息管理における解釈に関するカットオフ値も設定された1)。 ICSによる治療前後のFeNOの変化と気流制限、気道過敏性には相関があり、治療効果予測への有用性が指摘されている5)。ICS/長時間作用性β2刺激薬(LABA)による治療中はFeNOが低下し、治療を中止するとFeNOが上昇することが報告されているため、FeNOによる炎症モニタリングは、アドヒアランスやステロイド抵抗性の評価にも有用とされる6)。また、現在の治療ステップにかかわらず、増悪歴やリスク因子(症状、呼吸機能など)に加えて血中好酸球数とFeNOが高値の患者では将来の増悪リスクが高いことが近年報告されている7)。 以上から、喘息管理におけるFeNOのカットオフ値は20ppb、35ppbに設定され、血中好酸球数のカットオフ値は150cells/μL、300cells/μLに設定された。症状がなく、これらに基づくタイプ2炎症が低レベルであれば、抗炎症治療は適切と考えられ、抗炎症薬の減量が考慮可能である。一方、高レベルであれば症状がなくとも、服薬アドヒアランス・吸入手技の不良や、抗炎症薬の減量で症状が悪化する可能性がある。また、現在の治療でも症状が続いており炎症が高レベルであれば、増悪や呼吸機能低下のリスクが高いため、抗炎症治療の強化が考慮される1)。詳細は、手引きを参照されたい。タイプ2炎症への早期介入で疾患修飾・喘息寛解の達成へ タイプ2炎症と気道機能障害は喘息の治療可能な臨床特性(Treatable Traits)であることが、近年提唱されている8)。とくに、タイプ2炎症型の重症喘息では、タイプ2炎症が強いほど喘息が重症化するという知見も得られている。重症喘息はICS抵抗性であることが多いことから、さまざまな生物学的製剤が開発され、使用可能となっている。 同じく複数の生物学的製剤の適応がある関節リウマチの治療戦略では、Bio-free-remission(生物学的製剤での早期介入によりdeep remission[臨床的寛解、機能的寛解、免疫学的寛解のすべて]を達成し、生物学的製剤なし、もしくは投与間隔を長くする)が目指されており、エビデンスも集積されつつある。しかし、重症喘息では生物学的製剤の中止に関する臨床研究のエビデンスが乏しいのが現状である。したがって、松永氏らの研究グループは、まず生物学的製剤による「疾患活動性の抑制」を達成し、「deep remission」を達成した患者ではBio-free-remissionを目指せる可能性を提唱している9)。 松永氏らの研究グループは1年間の生物学的製剤の使用により、喘息の臨床的寛解が69%、deep remissionが32%で達成できたこと、deep remissionが達成された患者の特徴は、早期かつ呼吸機能が保たれている段階での生物学的製剤の使用であったことを2023年4月に報告している10)。そのため、松永氏は「バイオマーカーを活用しながら、呼吸機能が保たれている患者に対して早期に生物学的製剤を導入し、疾患修飾をかけてほしい」と強調した。タイプ2炎症バイオマーカーの手引きはバイオマーカーと疾患を網羅 「タイプ2炎症バイオマーカーの手引き」は、タイプ2炎症のバイオマーカーとそれに関連する疾患を網羅した1冊となっている。松永氏は「さまざまな気道・肺疾患の診断や治療方針の決定に直結するため、タイプ2炎症が注目されている。本書は、実臨床の具体的な状況において簡便に活用できる臨床指針を提供することで、タイプ2炎症評価の適正な普及につなげ、気道・肺疾患のさらなる管理効率の向上を目指して作成したため、ぜひ活用いただきたい」とまとめた。タイプ2炎症バイオマーカーの手引き編集:タイプ2炎症バイオマーカーの手引き作成委員会/日本呼吸器学会肺生理専門委員会定価:3,190円(税込)発行日:2023年4月20日A4変型判・120頁■参考文献1)タイプ2炎症バイオマーカーの手引き作成委員会/日本呼吸器学会肺生理専門委員会編集. タイプ2炎症バイオマーカーの手引き. 南江堂;20232)McGrath KW, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2012;185:612-619.3)Hartl S, et al. Eur Respir J 2020;55:1901874.4)Matsunaga K, et al. Allergol Int. 2011;60:331-337.5)Ichinose M, et al. Eur Respir J. 2000;15:248-253.6)Bardsley G, et al. Respir Res. 2018;19:133.7)Couillard S, et al. Thorax. 2022;77:199-202.8)Shaw DE, et al. Lancet Respir Med. 2021;9:786-794.9)Hamada K, et al. J Asthma Allergy. 2021;14:1463-1471.10)Oishi K, et al. J Clin Med. 2023;12:2900.

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夢で記憶が定着、レム睡眠とノンレム睡眠はどちらが重要?

 脳は睡眠中に記憶の整理などを行っていることが、近年明らかになっている。また、睡眠中には起床時の記憶が夢に登場することがあるため、夢が記憶の定着に関連しているのではないかといわれている。そこで、米国・ファーマン大学のLauren Hudachek氏らは、学習課題に関連する夢と睡眠後の記憶との関連について、システマティックレビューおよび16試験のメタ解析を実施し、夢と記憶の間には関連があることが明らかになった。また、記憶はレム睡眠よりもノンレム睡眠との関連が大きいことも示唆された。Sleep誌オンライン版2023年4月14日号の報告。 Pubmed、PsycInfo、Google Scholarより、「睡眠前に学習課題を実施し、睡眠後の記憶を検討した研究」「睡眠後の記憶向上と、夢に学習課題の内容がどの程度組み込まれているかを関連付けた研究」を検索した。その結果、16試験(効果数:45)が抽出された。これらについてメタ解析を実施し、学習課題に関係する夢と記憶の向上との関連を検討した。また、睡眠の種類(レム睡眠、ノンレム睡眠)、記憶の種類(陳述記憶[イメージや言語として想起でき、内容を陳述できる記憶]、手続き記憶[技能・習慣などの記憶]、空間記憶[空間や場所に関する認知記憶])別のサブグループ解析を実施した。関連の強さは標準化平均差(SMD)および95%信頼区間(CI)を推定して評価した。 主な結果は以下のとおり。・学習課題に関連する夢と記憶について、有意かつ強い関連が認められた(SMD=0.51、95%CI:0.28~0.74、p<0.001)。・睡眠ポリグラフ検査を用いてレム睡眠中の夢(効果数:12)、ノンレム睡眠中の夢(効果数:10)と記憶の関連を検討した研究について解析した結果、ノンレム睡眠中の夢は記憶と有意な関連が認められたが(SMD=0.75、95%CI:0.23~1.28、p=0.010)、レム睡眠中の夢は記憶と有意な関連は認められなかった(SMD=0.32、95%CI:-0.09~0.74、p=0.116)。・記憶の種類(陳述記憶、手続き記憶、空間記憶)にかかわらず、学習課題に関連する夢と記憶について、有意な関連が認められた(いずれもp<0.05)。 著者らは「本研究により、学習課題に関する夢を見ることが記憶の増強と関連することが示され、夢の内容が記憶の定着の指標となる可能性が示唆された。さらに、夢と記憶の関係は、ノンレム睡眠のほうがレム睡眠と比較して強い可能性も示唆された」とまとめた。

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手持ち不足の薬剤の処方依頼前に継続の必要性を再検討【うまくいく!処方提案プラクティス】第53回

 今回は、手持ちの薬がなくなって服薬ができていなかった症例を紹介します。患者さんの希望で処方依頼をするシチュエーションは多々ありますが、状態によっては継続ではなく中止を提案することもあります。治療効果を意識して体調の変化を確認しましょう。患者情報80歳、男性(施設入居)基礎疾患気管支喘息、慢性気管支炎、前立腺肥大症、高血圧症、緑内障、便秘症、アレルギー性鼻炎介護度要介護2服薬管理施設職員が管理処方内容1.アジルサルタン錠40mg 1錠 分1 朝食後2.タムスロシン錠0.2mg 1錠 分1 朝食後3.ミラベグロン錠25mg 1錠 分1 朝食後4.アンブロキソール徐放錠45mg 1錠 分1 朝食後5.ベポタスチン錠10mg 2錠 分2 朝夕食後6.モンテルカスト錠10mg 1錠 分1 就寝前7.酸化マグネシウム錠330mg 3錠 分3 毎食後8.センノシド錠12mg 2錠 分1 就寝前9.ヒアルロン酸点眼液0.1% 1日3回 両眼10.タフルプロスト点眼液0.015% 1日1回 両眼本症例のポイントこの患者さんは、施設入居から4日目に当薬局に訪問介入の依頼がありました。入居前は薬剤を自己管理していたようですが、過去の飲み忘れも含めて約1ヵ月半分の持参薬があり、用法ごとの残数もそろっていない状況でした(朝:42、昼:66、夕:58、就寝前:70日分)。気管支喘息の診断を受けていたとのことで、ブデソニド・ホルモテロールの空容器を持参していましたが、夜間は不安だからプロカテロール吸入薬も吸入したいので処方してもらいたいという患者さんからの依頼がありました。よくよく話を聞いてみると入居3週間前からブデソニド・ホルモテロールもプロカテロールも残薬がなくなっていて、手元にないと不安なので処方してほしいとのことでした。情報分析これまでの情報から私なりに分析してみました。まず、大量かつ不均等の持参薬から患者さんの服薬アドヒアランスは不良であることが想像できます。薬に対する依存度が強く、患者さんから医師にさまざまな薬を要望している様子もあったため、使用していた薬剤の種類と処方理由を明確にしておく必要があると考えました。なお、患者さんが要望している吸入薬はどちらも約1ヵ月間使用していませんでしたが、喘息発作などは起きていません。前医の診療情報書に目を通したところ、小児喘息や成人時期の喘息発作の経験はなかったものの、患者によると喘息の素因があるとのことで、感冒の際に希望があり処方しているという文面を確認することができました。患者さんはその後、長期間にわたって吸入薬を使用していました。基礎疾患にある気管支喘息の診断情報に疑問をもち、訪問診療医に相談することにしました。処方提案と経過患者さんとの初回面談から3日目に訪問診療医の初診があったため同行することにしました。診察前に、医師に初回面談時のやりとりを共有しました。入居前は服薬アドヒアランスが安定していなかったと考えられ、患者さんの希望から吸入薬が追加されている可能性があるものの、約1ヵ月間使用していなくても発作症状はないことなどを伝えました。医師からは、診察時に呼吸音や病状を確認し、診断の見直しをするという返答がありました。その結果、気管支喘息を積極的に疑う所見ではないので、このまま吸入薬をやめて様子をみようという判断になりました。その2週間後の診療でもその間の喘息発作は認められませんでした。患者さんからは、吸入の負担が減って精神的に楽になったと聞き、その後も状態が悪化することなく施設で穏やかに生活されています。

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不眠症患者はどんな治療を望んでいるのか

 認知行動療法(CBT)を求める不眠症患者の睡眠薬使用に対する考えや、使用を減らしたいと願う予測因子について、米国・スタンフォード大学のIsabelle A. Tully氏らが調査を行った。その結果、CBTを望んでいる睡眠薬使用中の不眠症患者において、睡眠薬の必要性を強く示し、服用についての懸念が比較的少ないにもかかわらず、4分の3の患者が睡眠薬を減らしたいと望んでいることが示された。Journal of Clinical Sleep Medicine誌オンライン版2023年3月8日号の報告。 対象は「一般診療における段階的な睡眠療法の有効性に関するランダム化比較試験(RCT of the effectiveness of stepped-care sleep therapy in general practice:RESTING研究)」に登録された、50歳以上の不眠症患者245例。睡眠薬の使用患者と未使用患者の特性を比較するためt検定を実施した。睡眠薬の必要性および睡眠療法への懸念に関する考えの予測因子は、線形回帰を用いて評価した。睡眠薬への依存、薬物療法に対する考え、人口統計学的特徴を含め、睡眠薬を減らしたいと願う予測因子を患者間で調査した。 主な結果は以下のとおり。・睡眠薬を使用する患者は未使用の患者よりも、睡眠薬の必要性をより強く感じており、潜在的な害についての懸念が少なかった(p<0.01)。・睡眠に関連する認知のより強い機能不全は、睡眠薬を必要とする大きな信念や睡眠薬使用への懸念を予測した(p<0.01)。・睡眠薬を減らすことを望んでいる患者は、そうでない患者より、睡眠薬の依存度が高いことが報告されていた(p<0.001)。・自己報告による依存の重症度は、使用を減らしたいと望む最も強力な予測因子であった(p=0.002)。・CBTを望む睡眠薬使用中の不眠症患者は、睡眠薬の必要性を強く示し、服用についての懸念が比較的少ないにもかかわらず、その4分の3は睡眠薬を減らすことを望んでいた。・今後のRESTING研究では、セラピスト主導によるデジタルCBTが、不眠症患者の睡眠薬減少にどの程度貢献するか報告する予定である。

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重症コロナ患者へのRAS調節薬、酸素投与日数を短縮せず/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で入院し低酸素症を呈した重症の成人患者において、開発中の「TXA-127」(合成アンジオテンシン1-7)または「TRV-027」(アンジオテンシンII受容体タイプ1に対するβアレスチンバイアス作動薬)投与によるレニン-アンジオテンシン系(RAS)の調節は、プラセボ投与と比較して酸素投与日数を短縮しなかった。米国・ヴァンダービルト大学医療センターのWesley H. Self氏らが、2つの無作為化試験の結果を報告した。前臨床モデルで、SARS-CoV-2感染によってRASの調節不全(アンジオテンシン1-7に比べてIIの活性が増大)が引き起こされることが示唆され、新型コロナ病態生理の重要な要因である可能性が仮説として示されていた。今回の結果を踏まえて著者は、「重症COVID-19患者へのRAS調節薬投与を支持しないものであった」とまとめている。JAMA誌2023年4月11日号掲載の報告。「TXA-127」「TRV-027」をそれぞれ5日間静脈内投与 研究グループは2021年7月22日~2022年4月20日に米国35病院で、急性COVID-19で入院し低酸素血症を呈した成人を対象に、2つの無作為化比較試験(TXA-127試験、TRV-027試験)を行った。TXA-127試験では、開発中のTXA-127の静脈内投与(0.5mg/kg/日)を、TRV-027試験では同様に開発中のTRV-027の持続的静脈内投与(12mg/時)をいずれも5日間実施し、それぞれプラセボ投与と比較した。  主要アウトカムは酸素非投与日数で、28日時点における死亡と酸素投与期間に基づく患者の状態の分類序数的アウトカムを評価した(RAS調節薬vs.プラセボの優越性は調整オッズ比[aOR]が1.0超)。主要副次アウトカムは、28日全死因死亡だった。安全性アウトカムは、アレルギー反応、腎代替療法導入、低血圧などだった。酸素非投与日数は両群ともにプラセボと有意差なし 両試験ともに、事前規定の基準で両薬剤が有効である可能性は低いことが示唆され、早期に中止となった。 TXA-127試験は、被験者数343例(31~64歳226例[65.9%]、男性200例[58.3%]、白人225例[65.6%]、非ヒスパニック系274例[79.9%])で、TXA-127群170例、プラセボ群173例だった。TRV-027試験は、被験者数290例(31~64歳199例[68.6%]、男性168例[57.9%]、白人195例[67.2%]、非ヒスパニック系225例[77.6%])で、TRV-027群145例、プラセボ群145例だった。 プラセボ群と比較して、TXA-127群(調整前平均群間差:-2.3[95%信用区間[CrI]:-4.8~0.2]、aOR:0.88、95%CrI:0.59~1.30)、TRV-027群(調整前平均群間差:-2.4[95%CrI:-5.1~0.3]、aOR:0.74、95%CrI:0.48~1.13)ともに、主要アウトカムの酸素非投与日数について有意差は認められなかった。 TXA-127試験では、28日全死因死亡はTXA-127群22/163例(13.5%)、プラセボ群22/166例(13.3%)報告された(aOR:0.83、95%CrI:0.41~1.66)。TRV-027試験では、28日全死因死亡はTRV-027群29/141例(20.6%)、プラセボ群18/140例(12.9%)報告された(aOR:1.52、95%CrI:0.75~3.08)。 安全性アウトカムの発生頻度については、TXA-127、TRV-027ともに、対プラセボについて同程度だった。

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花より団子【Dr. 中島の 新・徒然草】(472)

四百七十二の段 花より団子新年度、新メンバー!どこでもそうでしょうが、ウチもようやく軌道に乗った感じです。さて、先日のこと。いきなり私を訪ねて、めまいの新患がやって来ました。残念ながら午後から出張があり診察したのはほかの先生。翌日にカルテで確認してみると、入院になっていました。30代の女性ですが、「髄液漏出症疑い」となっています。訪室してご本人にお話を伺うことに……中島「なんで私だったんですか?」患者「友達が同じような症状で、以前に中島先生に診てもらったって」その友達は半年ほど前に私が診て、髄液漏出症と診断していたみたいです。患者「彼女とそっくりだったんですよ、頭痛が」寝ていると1/10程度の頭痛が、起き上がると10/10になるそうです。病室でもベッドの上に座ったら頭が痛くなり、10秒もしたら寝てしまいました。まさしく髄液漏出症の症状です。患者「何でこんなことになってしまったんでしょうか?」以下、私なりの説明をしました。エビデンスはまったくなく、自分の経験と想像をもとにしたものです。が、まあ聞いてやってください。まず原因です。これはまさしく脳脊髄液、いわゆる髄液が漏れることによって起こります。私が思うに、漏れる場所は頚椎神経根のroot sleeveではないかと。そもそもroot sleeve(神経根の袖)というのも変な名称です。でも、その由来を知ると、これほどピッタリの呼び方もありません。長袖のワイシャツを着た人間を想像してみましょう。人間の胴体が脊髄そのものです。左右にのびた上肢が神経根。ワイシャツが脊髄を包む硬膜。そしてワイシャツと人間の間に水が貯まっていると想像してください。その水が硬膜と脊髄の間にある髄液です。で、長袖のワイシャツの袖口のボタンを留めていると水は漏れません。が、ボタンが留まっていないと袖口から水が漏れます。これが髄液漏出症の本態ではないでしょうか。私の勝手な想像ですが。髄液が漏れるメカニズムの次は、頭が痛くなるメカニズムです。これは金魚鉢の水の中に脳が浮かんでいると想像してください。金魚鉢の水が減ると、浮かんでいた脳が下に引っ張られて頭が痛くなるわけです。だから立つと頭痛がして、寝ると楽になる。そして朝は調子いいのに、昼から頭痛がひどくなるわけです。これが髄液漏出症による頭痛の正体ですね。じゃあ、何がキッカケで髄液がroot sleeveから漏れるのか?まず、まったくキッカケのない特発性のものもあります。が、よくよく聞くと、いろいろとキッカケらしいものがあったりするわけです。追突事故を食らった、遊園地でジェットコースターに乗った、手を勢いよく引っ張られた、重い荷物を持った、等々。頚を捻ったり手を引っ張られたりすることが、神経根に影響するのではないでしょうか。とくに追突事故の場合は、受傷後1ヵ月ほどで頭痛が出てきます。なので、事故との因果関係の有無で揉めがちです。これら頚の運動のほかに、急に痩せて髄液漏出症になった人も見たことがあります。神経根周囲の脂肪が減ってシールされなくなるのかもしれません。謎ですね。話をこの患者さんに戻します。中島「何か原因について思い当たることはありませんかね?」患者「いや、普通の社会人ですから、何もありませんよ」中島「たとえば、普段やりなれないスポーツをしたとか」患者「数日前にバレーボールをしたけど、そんなに真剣ではなかったです」久しぶりのバレーボールですか!この方にとっては真剣でなくても、結構激しい内容だったようです。中島「普段曲げない方向に頚を曲げたりしたのが原因かもしれませんね」患者「そう言われれば、そんな気もします」次に診断です。造影MRIとかRIシンチとかの画像診断もありますが、私はほとんどやっていません。やるのは交通事故で証拠を示す必要がある時くらいです。いつも病歴と身体所見だけで診断しています。立位や座位で頭痛が悪化し臥位で改善する、という病歴が典型的です。そのほか、湯船に浸かると頭痛が悪化する、という患者さんもいました。身体所見では以下のうちのいくつかをチェックしています。頚部の静脈を軽く圧迫するクエッケンシュテット試験で頭痛が改善する。上肢を指先に向かって引っ張る(下制)と、頭痛が悪化する。上肢を指先から肩に向かって押す(下制の逆運動)と、頭痛が改善する。上肢を挙上すると、頭痛が改善する。下制するとroot sleeveが開いて髄液が漏出するのかもしれません。挙上は下制の逆にあたる動きなので、髄液漏出が改善するのでしょうか。この患者さんの場合は、これら身体所見もピッタリ当てはまりました。なので、髄液漏出症で間違いないことと思います。最後に治療です。私の経験では30人中29人くらいは3ヵ月以内に自然に治りました。残る1人は難治性なので、ブラッドパッチをしている施設に紹介しています。自然に治るとはいえ、少しでも早く良くなりたいというのが人情です。私がお勧めしているのは、なるべくゴロゴロして暮らすというもの。ちょっと調子がいいからといって、散歩したらまた悪化します。家事は全部誰かに頼むこと。この患者さんの場合は、ご実家でゴロゴロすることに決めたようです。それと、痩せると発症するので、太ると早く治る気がします。root sleeve周辺の脂肪が増えて、シール効果が上がるのかもしれません。というわけで、半年前のカルテを確認してみました。この方のお友達にも、私は「よく食べるように」とアドバイスをしていたようです。でも、自分ではまったく記憶に残っていません。最近はいろいろと忘れてしまうことが多いですけど、ちょっと情けないですね。最後に1句漏れた水 花より団子で 治療する

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“睡眠”も心血管リスク因子に、循環器版「睡眠呼吸障害の診断・治療ガイドライン」改訂

 睡眠呼吸障害(sleep disordered breathing:SDB)が循環器疾患の重要なリスク因子であることが明らかになり、2010年に『循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン』が発刊された。あれから13年、3月11日に本ガイドライン(以下、GL)の2023年改訂版が発刊され、第87回日本循環器学会学術集会の「ガイドラインに学ぶ2」において、葛西 隆敏氏(順天堂大学大学院医学研究科 循環器内科 准教授)が改訂ポイントを6つに絞り、改訂の背景や臨床に役立つ点を発表した。循環器医も患者の“睡眠”を意識する時代 SDBは、さまざまな循環器疾患に合併し、循環器疾患の悪化に関与するだけではなく、循環器疾患の発症そのものに関与することも示唆されている1)。AHAは2010年にCardiovascular Health Promotionとして、7つの修正可能な因子(適正体重の維持、禁煙、運動習慣、健康的な食習慣、血圧・血清脂質・血糖値のコントロール)をLife’s Simple7として示してきたが、「睡眠」の重要性がエビデンスの構築により高まり、2022年の改訂では追加されLife‘s Essential 8になっている。 今回、本邦のガイドラインにもその点が反映され、以下の6項目が改訂された。葛西氏は「とくに診断における定義・スクリーニング、検査時のスコアリングルールがアップデートされており重要」と述べ、「以前から多くの先生に引用されていたであろう“心血管疾患ごとのSDB合併頻度”についても改訂し、HFpEFなどの疾患項目数を増やした」と説明した(本GL図8参照)。また、現状の循環器診療においてSDB診断がなされているかを知るために福島県立医科大学の医師らがJROAD-DPCからその傾向を調査したところ、「入院患者のみのデータではあるが、2012~19年の期間に急性心筋梗塞以外でのSDB診断は若干増加したものの、全体としては未診断が散見され、検査の実施率も心房細動以外では低下傾向」であったことを言及し、「入院中検査は点数が算定できないことも要因の1つだが、循環器医に対して、SDB診断の普及啓発が必要である」とも話した。<主な改訂点>1)正常睡眠と睡眠障害:より循環器領域の内容に特化する形へ変更2)診断:最近の定義・スコアリングルールに関する内容にupdate3)疫学:有病率などをより近年のデータにupdate4)病態:近年提唱された新たな病因・病態生理について言及5)治療:全体をupdateするとともに、エビデンスが出ている治療(舌下神経電気刺激療法[保険収載]、中枢性睡眠時無呼吸への横隔神経電気刺激療法[保険未収載]など)の可能性に関して言及6)各疾患との関連と治療:項目を拡充し、高血圧以外の循環器疾患リスク因子にも言及。多数のエビデンスが報告された不整脈(とくに心房細動)や心不全に関して、細分化し項目を分けた。 主な変更点は以下のとおり。1)正常睡眠と睡眠障害睡眠呼吸障害以外に循環器医が注意すべき睡眠問題として、睡眠過不足、睡眠関連運動障害(むずむず脚症候群[restless legs syndrome:RLS]、周期性四肢運動[periodic limb movement in sleep:PLMS])にもフォーカスを当てた。2)診断呼吸器学会が発行している「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020」同様にSDBの診断基準は国際睡眠障害分類の第3版(ICSD-3)に準じ、成人の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea:OSA)の診断基準の1つに「患者が高血圧、気分障害、認知機能障害、冠動脈疾患、脳卒中、うっ血性心不全、心房細動、あるいは2型糖尿病と診断されている」と書かれている点を踏襲。スクリーニングと診断の違いを明記した(表10参照)。なお、OSAの診断基準とCPAP治療の保険適用の基準が異なる点に注意が必要。また、心房細動や粗動、うっ血性心不全、あるいは神経疾患の存在は、中枢性睡眠時無呼吸(central sleep apnea with Cheyne-Stokes respiration:CSA-CSR)を合併しやすい点も重要。3)疫学各心血管疾患でのSDB合併頻度は肺高血圧症(89.0%)が最も高く、治療抵抗性高血圧(83.0%、AHI≧10)、心房細動(81.4%)、HFrEF(76.0%)と続く。これを踏まえ患者を診察してもらうことで、これまで以上にリスク患者をあぶりだせる可能性。4)病態OSAの機序の記載を大幅に変更し、「上気道の解剖学的異常、上気道の神経性調節異常、呼吸調節系の不安定性、覚醒閾値」について、具体的な説明を加えた。5)治療・OSAに対する舌下神経電気刺激療法(CPAPが受けられない患者に適用)の項が追加。・生活習慣是正については睡眠薬のうち非ベンゾジアゼピン系睡眠薬やオレキシン受容体拮抗薬の処方検討を考慮してもよい。・OSAの薬物療法については上気道解剖学的要因、上気道神経性調節異常などに対しそれぞれ言及。・CSR-CSA治療に対しては心不全治療薬ARNIが追加。・そのほかのSDB治療については弾性ストッキングが追加。6)各疾患との関連と治療これまで「各論」としていた項目の名称を変更し、高血圧をはじめとする13疾患にカテゴライズ。とくにSDBのリスク因子となる高血圧、糖尿病、CKD、高尿酸血症のほか、多数のエビデンスが報告された頻脈性不整脈(上室)などの内容を充実させた(表35~45参照)。

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肥満や男性だけでない、いびきをかく人の1/4は睡眠時無呼吸症候群/レスメド

 睡眠中に大きないびきと共に呼吸が止まったり、弱くなったりするという症状を呈する睡眠時無呼吸症候群(SAS)。いびきをかく人の25%(男性:3人に1人、女性:5人に1人)は睡眠時無呼吸を発生していたという報告もあり1)、SASの80%は未診断ともいわれる2)。しかし、SASは糖尿病・心血管疾患の発症や循環器系の疾患による死亡のリスクを上昇させるため、治療が必要である。一般的な治療法としてはCPAP(持続陽圧呼吸)治療、マウスピース治療、手術、生活習慣の改善がある。 そこで、レスメドは2023年3月16日に「CPAP治療の最前線と患者アドヒアランスの向上について」と題してメディアセミナーを実施した。前半で富田 康弘氏(虎の門病院 睡眠呼吸器科)が「CPAP治療の最前線と患者アドヒアランスの向上について」をテーマに講演し、後半では、レスメドの久保 慶郎氏が同日上市したPAP(気道陽圧)装置「Air Sense 11」について紹介した。健康の3本柱としての睡眠 富田氏は、「健康のために気を付けていることとして、食事や運動を挙げる人はいるが、睡眠を挙げる人は非常に少ない」と述べる。実際に、国民生活時間調査2020では日本人の平日の睡眠時間は7時間12分であったことが報告されており、年々短くなっている3)。また、経済協力開発機構(OECD)が実施した平均睡眠時間の調査では、OECD加盟国の中で日本が最も睡眠時間が短いことが明らかになっている。なお、National Sleep Foundation(米国睡眠財団)は18~64歳までの成人であれば7~9時間、65歳以上であれば7~8時間の睡眠を推奨している4)。 そこで、富田氏は7時間以上の睡眠を確保するために、睡眠を中心として生活を組み立てていくことを提案した。「たとえば、朝7時に起きるのがちょうどいいという人は24時に就寝するということを決めて、それを基に生活を組み立ててほしい」という。朝型、夜型は生まれ持ったものであるため、それに合わせた形で睡眠時間を確保することが重要ということも強調した。SASは肥満の人や男性だけの病気ではない しっかり睡眠をとっているにもかかわらず、日中に強い眠気があるという人もいる。そのような場合は、SASが隠れている可能性があるという。とくに「夜に大きないびきをかく」「日中に強い眠気がある」「ときどき呼吸が止まる」「起床時に頭痛やだるさがある」といった症状があったら要注意とのことである。 SASは上気道の閉塞によって生じるため、肥満が原因となる。しかし、日本人を含むアジア人は顎が小さいため、日本人は肥満がなくてもSASを発症することもあるという。SASの原因はさまざまであるが、SAS治療のゴールドスタンダードであるCPAP治療は上気道の閉塞を抑制することにより、原因によらず治療効果が期待できる。 NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)に基づくと、日本ではCPAP治療を受けている患者は60万人を超えるとされるが、未治療の患者は400万人以上いると推定されている。また、CPAP治療を受けている女性は9.1万人とされる5)。女性と男性のSASの有病率の比率は1:2~3といわれるため、女性では未診断・未治療の患者が多いと考えられる。これについて富田氏は「肥満の人や男性に多い病気であると捉えられているためではないか」と述べ、正しいメッセージを伝えていくことの重要性を強調した。CPAPは毎日4時間以上継続することが重要 SASは、糖尿病や循環器疾患のリスクとなる疾患である。「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020」では、閉塞性睡眠時無呼吸患者の高血圧や心血管イベントの抑制にはCPAPを4時間以上使用する日を70%以上とすること、日中の眠気の抑制にはCPAPを毎日4時間以上使用することが推奨されている6)。 このアドヒアランス目標を達成し、治療を継続するために、富田氏は「患者が受け身ではなく積極的に治療に取り組むことが必要である」と言う。そのような背景から「近年のCPAP治療では、遠隔モニタリング機能やスマートフォンアプリなどが利用可能であるため、患者エンゲージメントの向上に活用してほしい」と述べた。アドヒアランス・エンゲージメントの向上を目指しAirSense 11を上市 続いて、レスメドの久保氏が2023年3月16日に上市したPAP装置AirSense 11について紹介した。従来のAirSense 10では、治療へのエンゲージメントを高めることが期待されるアプリmyAirが併用可能となっている。myAirでは、使用時間やマスクの密閉性など、使用状況が100点満点でスコアリングされ、スマートフォン上に表示される。また、患者の使用状況に応じたコーチング機能も提供されている。しかし、CPAP治療を開始した患者のなかには「導入で説明された内容を覚えられない」「適切にデバイスやマスクを使用できているか不安」などの悩みを抱える患者もいる。 そこで、今回上市されるAirSense 11では、myAirと併用することで治療の「見える化」をサポートするPersonal Therapy Assistant、患者の主観的情報を医療者へ「見える化」するCare Check-Inという2つの機能が追加された。Personal Therapy Assistantでは、マスク装着などの手順についての解説動画を視聴することができ、実際にマスクが正確に装着されているか評価することもできる。Care Check-Inは患者の主観的感覚をデータとして医療者へ提供する。「眠気を感じていますか?」「治療は上手くいっていると感じていますか?」「何か課題は感じていますか?」という質問を患者に提示し、その回答を医療者に共有することができる。 久保氏は「AirSense 11は、とくにCPAP治療を開始する初期の患者にスムーズでポジティブな経験をしてもらうことを支援するデバイスである。対面や遠隔など、患者と医療者のタッチポイントが変化していく環境において、AirSense 11を通じて患者のアドヒアランス向上やエンゲージメント向上のサポートをしていきたい」とまとめた。■参考文献1)Peppard PE, et al. Am J Epidemiol. 2013;177:1006-1014.2)Benjafield AV, et al. Lancet Respir Med. 2019;7:687-698.3)NHK放送文化研究所.国民生活時間調査20204)Hirshkowitz M, et al. Sleep Health. 2015;1:233-243.5)厚生労働省. 第6回NDBオープンデータ6)睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン作成委員会 編集. 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020. 南江堂;2020.p.76.

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SLEへのバリシチニブ、SLE-BRAVE-II試験での有効性は?/Lancet

 全身性エリテマトーデス(SLE)の治療において、選択的ヤヌスキナーゼ(JAK)1/2阻害薬バリシチニブはプラセボと比較して、疾患活動性を改善せず、グルココルチコイド漸減の達成や初回の重度フレア発現までの時間の延長をもたらさないことが、米国・ジョンズホプキンズ大学のMichelle Petri氏らが実施した「SLE-BRAVE-II試験」で示された。Lancet誌オンライン版2023年2月24日号掲載の報告。15ヵ国の無作為化プラセボ対照第III相試験 SLE-BRAVE-II試験は、日本を含む15ヵ国162施設で実施された二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2018年8月~2020年8月の期間に参加者のスクリーニングが行われた(Eli Lilly and Companyの助成を受けた)。 年齢18歳以上で、スクリーニングの少なくとも24週前に臨床的にSLEと診断された患者が、標準治療に加え、バリシチニブ4mg、同2mg、プラセボを1日1回、52週間、経口投与する群に、1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、52週の時点における、プラセボ群と比較したバリシチニブ4mg群のSLE Responder Index 4(SRI-4)レスポンダーの割合とされた。安全性プロファイルは既知のものと一致 775例が登録され、バリシチニブ4mg群に258例、同2mg群に261例、プラセボ群に256例が割り付けられた。全体の94%が女性で、ベースラインの平均年齢は42.8(SD 12.9)歳であり、平均SLE罹患期間は8.72(SD 7.9)年だった。 52週時のSRI-4レスポンダーの割合は、バリシチニブ4mg群が47%(121/258例)、同2mg群が46%(120/261例)、プラセボ群は46%(116/256例)であった。プラセボ群と比較したバリシチニブ4mg群のSRI-4レスポンダーの割合のオッズ比(OR)は1.07(95%信頼区間[CI]:0.75~1.53)であり、両群間に有意な差は認められなかった(群間差:1.5、95%CI:-7.1~10.2、p=0.71)。また、プラセボ群と比較したバリシチニブ2mg群のORは1.05(95%CI:0.73~1.50)であった(群間差:0.8、95%CI:-7.9~9.4、p=0.79)。 24週時のSRI-4レスポンダーの割合やグルココルチコイド漸減の達成、初回の重度フレア発現までの時間の延長などの主要な副次エンドポイントでも、プラセボ群に比べてバリシチニブの2つの用量群で改善はみられなかった。 少なくとも1件の有害事象が発現した患者の割合は、バリシチニブ4mg群が78%(200例)、同2mg群が76%(199例)、プラセボ群は77%(198例)であり、多くは軽度または中等度であった。重篤な有害事象は、それぞれ11%(29例)、13%(35例)、9%(22例)で認められた。SLE患者におけるバリシチニブの安全性プロファイルは、既知のものと一致しており、新たな安全性シグナルは観察されなかった。 著者は、「第II相試験および第III相SLE-BRAVE-I試験で示されたバリシチニブの有効性は、本試験では再現されなかったことから、SLEにおける本薬の有効性のエビデンスについては結論が出ていない。事後解析により、本試験の失敗の原因が解明され、今後の臨床試験のデザインに有益な情報をもたらす可能性がある」としている。

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SLEへのバリシチニブ、第III相SLE-BRAVE-I試験の結果/Lancet

 オーストラリア・モナシュ大学のEric F. Morand氏らは、活動性全身性エリテマトーデス(SLE)患者を対象としたバリシチニブの無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験「SLE-BRAVE-I試験」の結果、主要エンドポイントは達成されたものの、主要な副次エンドポイントは達成されなかったことを報告した。ヤヌスキナーゼ(JAK)1/JAK2の選択的阻害薬であるバリシチニブは、関節リウマチ、アトピー性皮膚炎および円形脱毛症の治療薬として承認されている。SLE患者を対象にした24週間の第II相試験では、バリシチニブ4mgはプラセボと比較して、SLEの疾患活動性を有意に改善することが示されていた。Lancet誌オンライン版2023年2月24日号掲載の報告。SLE患者760例をバリシチニブ4mg群、2mg群、プラセボ群に無作為化 SLE-BRAVE-I試験は、アジア、欧州、北米、中米、南米の18ヵ国182施設で実施された。 研究グループは、スクリーニングの24週間以上前にSLEと診断され、標準治療を行うも疾患活動性が認められる18歳以上の患者を、バリシチニブ4mg群、バリシチニブ2mg群またはプラセボ群に1対1対1の割合で無作為に割り付け、標準治療との併用で52週間1日1回投与した。グルココルチコイドの漸減が推奨されたが、プロトコールで必須ではなかった。 主要エンドポイントは、52週時のSLE Responder Index-4(SRI-4)レスポンダーの割合で、ベースラインの疾患活動性、コルチコステロイド量、地域および治療群をモデルに組み込んだロジスティック回帰分析により、バリシチニブ4mg群とプラセボ群を比較した。 有効性解析対象集団は修正intention-to-treat(ITT)集団(無作為化され少なくとも1回治験薬の投与を受けたすべての患者)、安全性解析対象集団は無作為化され少なくとも1回治験薬を投与され、ベースライン後の最初の診察時に追跡調査不能の理由で試験を中止しなかったすべての患者とした。 760例が無作為に割り付けられ、修正ITT集団はバリシチニブ4mg群252例、バリシチニブ2mg群255例、プラセボ群253例であった。52週時のSRI-4レスポンダー率はバリシチニブ4mg群57%、プラセボ群46% 52週時のSRI-4レスポンダー率は、バリシチニブ4mg群57%(142/252例)、プラセボ群46%(116/253例)であり、オッズ比(OR)1.57(95%信頼区間[CI]:1.09~2.27)、群間差10.8(95%CI:2.0~19.6)で有意差が認められた(p=0.016)。バリシチニブ2mg群は50%(126/255例)で、プラセボ群との有意差はなかった(OR:1.14[95%CI:0.79~1.65]、群間差:3.9[95%CI:-4.9~12.6]、p=0.47)。 初回の重度SLE flareが発現するまでの時間やグルココルチコイド漸減など主要副次エンドポイントに関しては、バリシチニブ群のいずれにおいてもプラセボ群と比較して有意差は認められなかった。 重篤な有害事象は、バリシチニブ4mg群で26例(10%)、バリシチニブ2mg群で24例(9%)、プラセボ群で18例(7%)に発現した。SLE患者におけるバリシチニブの安全性プロファイルは、既知の安全性プロファイルと一致していた。

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ハチミツでなくとも甘くてトロリとしたものなら鎮咳効果がある?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第229回

【第229回】ハチミツでなくとも甘くてトロリとしたものなら鎮咳効果がある?Pixabayより使用ハチミツって咳をおさめる効果があるとされる唯一の食材なのですが、実はかなり議論の余地があります。私はハチミツの味が苦手なので使いませんが、子供の咳に対して有効とする報告はこれまでいくつもあります。たとえば、就寝前に「スプーン1杯(2.5mL)のハチミツを取るグループ」、「咳止めを飲むグループ」、「何もせず様子をみるグループ」のいずれかにランダムに割り付けた研究では、ハチミツを与えられた患児で、有意に咳が減少することが示されました1)。コクランレビューでも2018年の時点では、急性の咳に対するハチミツは、何もしないよりは咳止めの効果があり、「既存の咳止めと大差がないほど効果的だ」という結論になっています2)。Nishimura T, et al.Multicentre, randomised study found that honey had no pharmacological effect on nocturnal coughs and sleep quality at 1-5 years of age.Acta Paediatr. 2022 Nov;111(11):2157-2164.これは上気道炎による急性咳嗽を呈した1~5歳児を対象としたランダム化二重盲検プラセボ対照試験です。日本国内の複数の小児科クリニックから患児を登録しました。参加者には、ハチミツまたはハチミツ風味のシロップ(プラセボ)を2晩連続で、眠前1時間のタイミングで摂取してもらいました。夜間咳嗽と睡眠について、7段階のリッカート尺度で評価しました。161人が登録され、78人がハチミツ群、83人がプラセボ群にランダム化されました。この分野ではかなり多い登録数だと思います。結果、確かに夜間の咳嗽の改善はみられたのですが、ハチミツ群とプラセボ群の有意差が観察されなかったのです。つまり、ハチミツによる有効性はプラセボ効果をみているのか、あるいはシロップのような甘いものであれば鎮咳効果があるのか、どちらかの可能性が高そうです。過去の研究が正しいとするなら、後者のほうが妥当な解釈かなと思います。となると、甘くてトロリとしたものであれば、ハチミツでなくてもよいのかもしれませんね。1)Paul IM, et al. Effect of honey, dextromethorphan, and no treatment on nocturnal cough and sleep quality for coughing children and their parents. Arch Pediatr Adolesc Med. 2007 Dec;161(12):1140-1146.2)Oduwole O, et al. Honey for acute cough in children. Cochrane Database Syst Rev. 2018 Apr 10;4(4):CD007094.

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1日を快活にスタートするための三つの鍵

 朝、気持ち良く目覚めて1日を快活に過ごすためには三つの鍵があることが、新たな研究から明らかになった。前日に運動をして、いつもより少し遅めに起き、炭水化物が多めの朝食を取ると良いようだ。これらの3因子は、朝の覚醒レベルにそれぞれ独立した関連があるという。米カリフォルニア大学バークレー校のRaphael Vallat氏らの研究によるもので、詳細は「Nature Communications」に11月19日掲載された。 広告などでは、しばしば朝食のシーンとして、砂糖で甘くしたシリアルがテーブルに並んだ映像が登場する。ただ、砂糖などの単純糖質ばかりの食事は、1日のスタートには最悪のようであり、Vallat氏は、「摂取後に血糖値を急激に上昇させる食品は避けた方が良い」と話す。 覚醒レベルが低い状態では労働生産性が低下し、労災や交通事故のリスクの一因ともなる。Vallat氏らは、起床後の覚醒レベルに影響を及ぼす生活習慣と遺伝的な影響の検討を行った。研究対象は、340人の一卵性双生児、134人の二卵性双生児、および359人の非双生児、計833人。平均年齢46.20±11.93歳、男性28.0%、BMI25.83±5.12、臥床時間7.66±0.80時間。 研究参加者には、2週間にわたって加速度計と連続血糖測定(CGM)センサーを装着して生活してもらい、その間、全ての食事の摂取量を専用アプリに保存するとともに、覚醒レベル(0~100のビジュアルアナログスケール)を記録してもらった。なお、朝食は研究者が用意した高炭水化物食、高タンパク食、高脂肪食などを支給した。このような手法についてVallat氏は、「この領域の研究はこれまで研究施設内に宿泊してもらい行うことが多く、実生活に即した結果を得ることが困難だった。それに対して今回の研究では、リアルワールドでのデータを得ることができた」と述べている。 解析により、覚醒レベルの違いを遺伝的に説明可能なのは約25%どまりであって、その他の多くは生活習慣によって説明されることが分かった。検討した全ての因子の影響を互いに調整後、以下の三つの生活習慣に関わる因子が、覚醒レベルにそれぞれ独立して関連していることが明らかになった。 一つ目は前日の身体活動量であり、身体活動量の多い10時間の平均加速度が高いほど翌日の覚醒レベルが高いという関連が認められた(β=0.02、P=0.049)。反対に、活動量の低い5時間の平均加速度が高いことは翌日の覚醒レベルの低さと関連があり(β=-0.21、P=0.004)、夜間の中途覚醒の少なさが翌日の良い目覚めに関連していると考えられた。 二つ目は通常よりも長く眠ることであり(β=0.90、P<0.001)、また、通常より遅い時刻に起床することも睡眠時間とは独立して、朝の覚醒レベルの高さと関連していた(β=0.75、P<0.001)。一方、睡眠効率(臥床時間に占める睡眠時間の割合)は有意な関連がなかった。 三つ目は朝食の組成であり、高炭水化物食(炭水化物75.7%)を摂取した時の覚醒レベルが有意に高く(β=1.42、P=0.002)、反対に高タンパク食(タンパク質32.5%)を摂取した時の覚醒レベルは有意に低かった(β=-1.36、P=0.012)。なお、覚醒レベルの変化が最も大きかったのは、経口ブドウ糖負荷試験(75gのブドウ糖溶液を飲んだ後の血糖値の変化を見る検査)を行った日であり(β=-6.97、p<0.001)、単純糖質の摂取は覚醒レベルを下げることが示唆された。 これらの結果についてVallat氏は、「運動は基本的に多ければ多いほど翌朝の目覚めに良いようだ。ただし、高タンパクの朝食が覚醒レベルの低さと関連しているという結果には、正直に言って驚いた」と述べている。また、論文の上席著者である同大学のMatthew Walker氏は、「運動と覚醒レベルとの関連は常に一定ということではなく、多くの運動をすることで十分に睡眠ができた場合に、より大きな効果が生じる」と付け加えている。 なお、今回の研究報告の全てがこの領域の専門家に肯定的に捉えられているわけではない。例えば、睡眠習慣に関する啓発サイト(The Sleep Doctor.com)の立ち上げ時の指導にあたった臨床心理学者のMichael Breus氏は、「報告された結果の朝食に関する部分は、これまでの知見からややずれている。私の経験や既報論文によれば、高炭水化物食は眠気を誘発することが多いはずだ」と話す。そのBreus氏は、快適な目覚めのためのシンプルな方法として、以下の5項目を提案している。・毎日同じ時間に起きる。・カフェインの摂取は午後2時まで。・飲酒は就床の3時間前までにやめる。・毎日運動を。ただし、就床時刻の4時間以上前までに終了する。・起床後は深呼吸を15回、水を15オンス(400mL強)飲み、外に出て15分間日光を浴びる。

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第149回 コロナ感染に特有の罹患後症状は7つのみ

2020年に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)の世界的流行が始まって以降、その通常の感染期間後にもかかわらず長く続く症状を訴える患者が増えています。それらCOVID-19罹患後症状(コロナ罹患後症状)のうち疲労、脳のもやもや(brain fog)、息切れは広く検討されていますが、他は調べが足りません。感染症発症後の長患いはCOVID-19に限るものではありません。インフルエンザなどの他の呼吸器ウイルスも長期の影響を及ぼしうることが示されています。COVID-19ではあって他の一般的な呼吸器ウイルス感染では認められないCOVID-19に特有の罹患後症状を同定することはCOVID-19の健康への長期影響の理解に不可欠です。そこで米国・ミズーリ大学の研究チームはソフトウェア会社Oracleが提供するCerner Real-World Dataを使ってCOVID-19に特有の罹患後症状の同定を試みました。米国の122の医療団体の薬局、診療、臨床検査値、入院、請求情報から集めた5万例超(5万2,461例)のCerner Real-World Data収載情報が検討され、47の症状が以下の3群に分けて比較されました。COVID-19と診断され、他の一般的な呼吸器ウイルスには感染していない患者(COVID-19患者)COVID-19以外の一般的な呼吸器ウイルス(風邪、インフルエンザ、ウイルス性肺炎)に感染した患者(呼吸器ウイルス感染者)COVID-19にも一般的な呼吸器ウイルスにも感染していない患者(非感染者)SARS-CoV-2感染から30日以降1年後までの47の症状の生じやすさを比較したところ、呼吸器ウイルス感染者と非感染者に比べてCOVID-19患者により生じやすい罹患後症状は思いの外少なく、動悸・脱毛・疲労・胸痛・息切れ・関節痛・肥満の7つのみでした1,2)。無嗅覚(嗅覚障害)などの神経病態がSARS-CoV-2感染から回復した後も長く続きうると先立つ研究で示唆されていますが、今回の研究では一般的な呼吸器ウイルス感染に比べて有意に多くはありませんでした。無嗅覚は非感染者と比べるとCOVID-19患者に確かにより多く生じていましたが、COVID-19以外の呼吸器ウイルス感染者にもまた非感染者に比べて有意に多く発生していました。つまり無嗅覚はCOVID-19を含む呼吸器ウイルス感染症全般で生じやすくなるのかもしれません。一方、先立つ研究でCOVID-19罹患後症状として示唆されている末梢神経障害や耳鳴りは呼吸器ウイルス感染者と非感染者のどちらとの比較でも多くはありませんでした。全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)、1型糖尿病(T1D)などの免疫病態もSARS-CoV-2感染で生じやすくなると先立つ研究で示唆されていますが、今回の研究では神経症状と同様にCOVID-19に限って有意に多い症状はありませんでした。ただし、1型糖尿病との関連は注意が必要です。COVID-19患者の1型糖尿病は呼吸器ウイルス感染者と比べると有意に多く発生していたものの、非感染者との比較では有意差がありませんでした。呼吸器ウイルス感染者の1型糖尿病はCOVID-19患者とは逆に非感染者に比べて有意に少なく済んでいました。心血管や骨格筋の病態でも1型糖尿病のような関連がいくつか認められており、COVID-19患者の頻拍・貧血・心不全・高血圧症・高脂血症・筋力低下は呼吸器ウイルス感染者と比べるとより有意に多く、非感染者との比較ではそうではありませんでした。今回の研究でCOVID-19に特有の罹患後症状とされた脱毛はSARS-CoV-2感染から100日後くらいに最も生じやすく、250日を過ぎて元の状態に回復するようです。疲労や関節痛は今回の試験期間である感染後1年以内には元の状態に落ち着くようです。COVID-19患者により多く認められた肥満はダラダラ続くCOVID-19流行が原因の運動不足に端を発するのかもしれません。ただし今回の研究ではそうだとは断言できず、さらなる研究が必要です。参考1)Baskett WI, et al. Open Forum Infect Dis. 1011;10: ofac683.2)Study unexpectedly finds only 7 health symptoms directly related to ‘long COVID’ / Eurekalert

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