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クロザピンとアリピプラゾールの併用療法は統合失調症患者の再入院リスクが最も低い

 統合失調症の再発予防に対する抗精神病薬多剤併用療法の有効性は疑問であり、複数の薬剤を使用することは、一般的に身体的健康状態に悪影響を及ぼすと考えられる。スウェーデン・カロリンスカ研究所のJari Tiihonen氏らは、精神医学的再入院と特定の抗精神病薬の組み合わせに関する研究を実施した。JAMA Psychiatry誌オンライン版2019年2月20日号の報告。クロザピンとアリピプラゾールの併用療法はクロザピン単剤療法より優れている 1996年1月~2015年12月に行われたフィンランドの全国コホート研究のデータを用い、統合失調症患者6万2,250例を対象に、クロザピンなど29種の抗精神病薬単剤療法および多剤併用療法のタイプについて、精神医学的再入院リスクの評価を行った。データ分析期間は、2018年4月24日~6月15日であった。再入院リスクは、選択バイアスを最小にするため、個別(within-individual)分析を用いて調査した。主要アウトカムは、個別の多剤併用療法 vs.単剤療法の精神医学的再入院のハザード比(HR)とした。 クロザピンなど29種の抗精神病薬単剤療法および多剤併用療法のタイプについて、精神医学的再入院リスクを評価した主な結果は以下のとおり。・対象患者6万2,250例中、3万1,257例が男性(50.2%)であり、年齢中央値は、45.6歳(四分位範囲:34.6~57.9歳)であった。・クロザピンとアリピプラゾールの併用療法は、精神医学的再入院リスクが最も低く、単剤療法の最良アウトカムであるクロザピン単剤療法よりも優れており、すべての多剤併用期間を含む分析においては14%(HR:0.86、95%CI:0.79~0.94)の差が認められ、90日未満の治療期間を除く多剤併用分析においては18%(HR:0.82、95%CI:0.75~0.89、p<0.001)の差が認められた。・初回エピソード統合失調症患者において、クロザピンとアリピプラゾールの併用療法は、クロザピン単剤療法と比較し、精神医学的再入院リスクの差がより大きかった。すべての多剤併用期間を含む分析においては22%(HR:0.78、95%CI:0.63~0.96)の差が認められ、90日未満の治療期間を除く多剤併用分析においては23%(HR:0.77、95%CI:0.63~0.95)の差が認められた。・総計レベルでは、抗精神病薬多剤併用療法は、単剤療法と比較し、精神医学的再入院リスクが7~13%低かった(範囲:[HR:0.87、95%CI:0.85~0.88]~[HR:0.93、95%CI:0.91~0.95]、p<0.001)。・精神医学的再入院リスクの低い治療法ベスト10の中で、唯一の単剤療法の薬剤はクロザピンであった。・すべての原因および身体的な入院、死亡率、その他の感受性分析に関する結果は、主要アウトカムと一致していた。 著者らは「クロザピンとアリピプラゾールの併用療法は、精神医学的再入院リスクが最も低く、統合失調症治療に特定の薬剤による多剤併用療法が適している可能性が示唆された。多剤併用療法は、単剤療法で効果不十分となった時点で行われるため、その効果は過小評価されている可能性もある。本結果は、すべての多剤併用療法が有用であることを示すわけではないが、統合失調症維持治療に対する抗精神病薬多剤併用療法を非推奨とする現在のガイドラインは、推奨の分類を修正すべきである」としている。■関連記事抗精神病薬の高用量投与は悪か統合失調症患者の再入院、ベンゾジアゼピンの影響を検証:東医大統合失調症患者の強制入院と再入院リスクとの関連~7年間のレトロスペクティブコホート研究

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日光角化症の治療薬4剤を比較/NEJM

 頭部の多発性日光角化症に対する治療において、治療終了後12ヵ月時では外用薬4剤のうち5%フルオロウラシルクリームが最も有効だという。オランダ・マーストリヒト大学医療センターのMaud H.E. Jansen氏らが、多施設共同単盲検無作為化試験の結果を報告した。日光角化症は、白人で最も頻度が高い皮膚前がん病変であるが、現在のガイドラインでは治療法について明確な推奨はなされていない。NEJM誌2019年3月7日号掲載の報告。フルオロウラシル、イミキモド、MAL-PDTおよびインゲノールの有効性を比較 研究グループは、オランダの4病院の皮膚科で、日光角化症に対する治療によく用いられる外用薬4剤の有効性を評価する目的で単盲検無作為化試験を行った。対象は、頭頸部の多発性日光角化症(25~100cm2の連続した1領域に5個以上の病変がある)と臨床的に診断された患者で、2014年11月~2017年3月に計624例が登録され、5%フルオロウラシルクリーム、5%イミキモドクリーム、アミノレブリン酸メチル光線力学的療法(MAL-PDT)、0.015%インゲノールメブテートゲルの4群に1対1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、最後の治療後12ヵ月までの追跡調査期間中に治療失敗がなかった患者の割合(治療失敗は、ベースラインからの日光角化症病変数減少が75%未満と定義。最後の治療後3ヵ月時または初回治療成功後12ヵ月時に評価)で、修正intention-to-treat解析とper-protocol解析の両方を実施した。治療終了後12ヵ月時で、フルオロウラシルクリームの治療成功率が最も高い 治療終了後12ヵ月時の累積治療成功率は、フルオロウラシル群74.7%(95%信頼区間[CI]:66.8~81.0)、イミキモド群53.9%(95%CI:45.4~61.6)、MAL-PDT群37.7%(95%CI:30.0~45.3)、インゲノール群28.9%(95%CI:21.8~36.3)であり、フルオロウラシル群で有意に高かった。 フルオロウラシル群に対する治療失敗のハザード比は、イミキモド群2.03(95%CI:1.36~3.04)、MAL-PDT群2.73(95%CI:1.87~3.99)、インゲノール群3.33(95%CI:2.29~4.85)であった(すべての比較でp≦0.001)。予期しない有害事象は認められなかった。 なお、本試験では適格患者の約半数が試験への参加を辞退しており、男女比が適格患者は4対1であったのに対し参加患者は9対1であったこと、用法用量による治療のアドヒアランスに差があったことなどの点で、結果は限定的であると著者は述べている。

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糖尿病患者の身体活動継続に行動介入は有効か/JAMA

 2型糖尿病患者において、行動介入戦略は、標準ケアと比較し身体活動の持続的な増加と座位時間の減少をもたらすことが示された。イタリア・ローマ・ラ・サピエンツァ大学のStefano Balducci氏らが、ローマの糖尿病クリニック3施設で実施した無作為化非盲検試験(評価者盲検優越性試験「Italian Diabetes and Exercise Study 2:IDES_2」)の結果を報告した。身体活動/座位行動の変化が、2型糖尿病患者で長期的に持続されうるかは不明であった。JAMA誌2019年3月5日号掲載の報告。行動介入群と標準ケア群で、身体活動と座位時間を比較 研究グループは、行動介入戦略により身体活動の増加が持続し座位時間が減少するかを検証する目的で、2012年10月~2014年2月に、あまり運動をせずいつも座ってばかりの生活をしている2型糖尿病患者300例を、行動介入群または標準ケア群に、施設、年齢および糖尿病治療で層別化して1対1の割合で無作為に割り付け、それぞれ3年間治療した(追跡調査期間2017年2月まで)。 全例に対して、米国糖尿病学会ガイドラインの推奨に準じたケアを行うとともに、行動介入群(150例)では、3年間毎年、糖尿病専門医による個別の理論的なカウンセリングを1回と認定運動療法士による個別の理論的・実践的カウンセリングを隔週8回実施した。標準ケア群(150例)は、一般医の推奨(日常の身体活動を増やし座位時間を減らすこと)のみとした。 複合主要評価項目は、身体活動量、軽強度ならびに中~強強度の身体活動時間、座位時間とし、加速度計によって測定した。行動介入により、持続的な身体活動の増加と座位時間の減少を確認 無作為化された300例(平均[±SD]年齢61.6±8.5歳、女性116例[38.7%])のうち、267例(行動介入群133例、標準ケア群134例)が試験を完遂した。追跡期間中央値は3年であった。 行動介入群と標準ケア群でそれぞれ、身体活動量(代謝当量[MET]、時間/週)は13.8 vs.10.5 MET(両群差:3.3、95%信頼区間[CI]:2.2~4.4、p<0.001)、1日の中~強強度の身体活動時間は18.9 vs.12.5分/日(6.4、5.0~7.8、p<0.001)、軽強度の身体活動時間は4.6 vs.3.8時間/日(0.8、0.5~1.1、p<0.001)、座位時間は10.9 vs.11.7時間/日(-0.8、-1.0~-0.5、p<0.001)であった。 両群の有意差は試験期間中持続していたが、1日の中~強強度の身体活動時間については、両群の差が6.5分/日から3年目には3.6分/日に低下した。セッション外での有害事象は、行動介入群で41例、標準ケア群で59例確認された。行動介入群におけるセッション中の有害事象は30件報告され、大半は一般的な筋骨格系の外傷/不快感と軽度の低血糖であった。 著者は、研究の限界として、食事に関する情報が解析データに含まれていないこと、加速度計の使用が標準ケア群での身体活動を増進する可能性があることなどを挙げたうえで、「今回の結果を一般化し臨床現場で介入を実施するには、さらなる検証が必要である」とまとめている。

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第11回 リスク比とオッズ比の違いは?【統計のそこが知りたい!】

第11回 リスク比とオッズ比の違いは?厚生労働省の疫学調査結果や、学会から発表されるガイドライン、そして医学論文でもよく目にする「リスク比(risk ratio)もしくは相対危険度(relative risk:RR)」。そして、リスク比とよく似た指標で「オッズ比(odds ratio:OR)」があります。名前が違うので、もちろんこれら2つの意味も異なりますが、この2つの指標の違いについて理解しているつもりでも混乱してしまうことがよくあります。今回は、この「リスク比とオッズ比の違い」について解説します。■リスク比(相対危険度)とはリスク比というのは、「ある状況下に置かれた人と、置かれなかった人とで、ある疾患にかかる危険度(リスク)の比を表すもの」といえます。ですから、ここでのリスクは、ある疾患にかかる割合(確率)のことです。たとえば、表1で喫煙する人は喫煙しない人と比べて、どれくらい高い割合で心血管疾患(脳卒中、心筋梗塞など)が原因で死亡するかを調べたとしましょう。表1 調査開始後10年間に心血管疾患で亡くなった人の割合(喫煙vs.非喫煙)この結果から、喫煙する人と喫煙しない人で、心血管疾患が原因で死亡した人の割合を計算してみましょう。理解しやすいように表2に分割表を作成しました。表2 表1の調査の分割表表2によれば、喫煙する人と喫煙しない人で心血管疾患が原因で死亡した人の割合は、喫煙者で7%、非喫煙者で3%となりました。喫煙者が非喫煙者に比べてどれくらい高い割合で、心血管疾患が原因で死亡するのかを知るには、喫煙者での割合を、非喫煙者の割合で割ればよいのです。「7(%)÷3(%)」で2.3になります。この値が「リスク比(risk ratio)」です。このようにリスク比は、とても簡単に求められますが、大切なことはリスク比の求め方ではなく、その解釈の仕方です。この事例では、リスク比は2.3ということから、「心血管疾患が原因で死亡する喫煙者のリスク(割合)は非喫煙者に比べ2.3倍である」と解釈できることになります。これが相対危険度で、医学論文では「RR=2.3」と表記されることもあります。このようにリスク比(相対危険度)の解釈は簡単です。その値が高いほど、ある状況下にある人は、その状況下にない人に比べて、ある疾患にかかるあるいはある疾患で死亡する危険度がより高くなると解釈できるのです。■オッズ比とはオッズは、競馬など賭け事でよく使われますので、こちらもなじみのある言葉です。オッズの意味は、「ある状況が他の状況に比べて起こりやすい割合(確率)」ということです。先ほどの事例を用いてオッズ比について解説します。喫煙者の心血管疾患での死亡者数を非喫煙者の死亡者数で割った値を「オッズ(odds)」といいます。同様に、喫煙者で死亡しなかった人数を非喫煙者の死亡しなかった人数で割った値もオッズといいます。表3をご覧ください。表3 事例のオッズ比算出のための分割表表にあるように心血管疾患が原因での死亡者数(死亡あり)に着目すると、喫煙者の死亡者数(700人)は非喫煙者の死亡者数(300人)に比べ2.3倍、すなわち、死亡者数オッズは2.3です。死亡しなかった人数(死亡なし)に着目すると、喫煙者は9,300人、非喫煙者の9,700人に比べると0.96倍、すなわち、非死亡者数オッズは0.96となります。ここからが大切なところですが、死亡者数(死亡あり)オッズと非死亡者数(死亡なし)オッズの比を「オッズ比(odds ratio)」といいます。オッズ比は2.3÷0.96で算出しますので、2.4となります。オッズ比の値は2.4となったので喫煙の有無は、心血管疾患による死亡の影響要因といえそうです。ここで重要なのは、「喫煙者が心血管疾患で死亡するリスクは、非喫煙者に比べ2.4倍だと言ってはいけない!」ということです。絶対に間違ってはいけません。つまり、喫煙は健康によくないことはわかりますが、喫煙者は非喫煙者と比べて何倍くらい心血管疾患で死亡する可能性が高いのか、ということはわかりません。なぜならば、「心血管疾患で死亡した人での喫煙に関するオッズ」と「死亡しなかった人での喫煙に関するオッズ」からは、「喫煙するとどのくらい心血管疾患で死亡する危険性が高まるのか」は導き出すことができず、それはリスク比(相対危険度)でしか解釈できないからです。このように解説していくと、オッズ比はリスク比と比べると臨床ではあまり使い道がないように思われるかもしれません。しかし、実際の臨床研究の論文では、オッズ比はよく使われています。このように理解しにくいオッズ比が、なぜ臨床研究で使われているのか疑問を持たれる方もいると思います。それはそれなりに、オッズ比の活用法があるからということです。次回は、この「オッズ比の活用法について」を解説します。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ「わかる統計教室」第2回 リスク比(相対危険度)とオッズ比セクション2 よくあるオッズ比の間違った解釈第4回 ギモンを解決!一問一答質問5 リスク比(相対危険度)とオッズ比の違いは?(その1)質問5 リスク比(相対危険度)とオッズ比の違いは?(その2)

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第10回 意識障害 その8 原因不明の意識障害の原因の鑑別に「痙攣」を!【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)原因不明の意識障害では“痙攣”の可能性を考えよう!2)“痙攣”の始まり方に注目し、てんかんか否かを見極めよう!3)バイタルサイン安定+乳酸値の上昇をみたら、痙攣の可能性を考えよう!【症例】80歳男性。息子さんが自宅へ戻ると、自室の机とベッドとの間に挟まるようにして倒れているところを発見した。呼び掛けに対して反応が乏しいため救急要請。●搬送時のバイタルサイン意識100/JCS血圧142/88mmHg脈拍90回/分(整)呼吸18回/分SpO295%(RA)体温36.2℃瞳孔3/3mm+/+今回は“痙攣”による意識障害に関して考えていきましょう。痙攣というと、目の前でガクガク震えているイメージがあるかもしれませんが、臨床の現場ではそう簡単ではありません。初療に当たる時には、すでに止まっていることが多く、痙攣の目撃がない場合には、とくに診断が難しいのが現状です。そのため、意識障害の原因が「痙攣かも?」と疑うことができるかが、初療の際のポイントとなります。痙攣の原因として、大きく2つ(てんかんor急性症候性発作)があります。ここでは、わが国でも100人に1人程度認める、てんかん(症候性てんかん含む)の患者さんの痙攣をいかにして見抜くかを中心に考えていきましょう。いつ痙攣を疑うのか?皆さんは、いつ意識障害の原因が痙攣と疑うでしょうか? 今まで述べてきたとおり、意識障害を認める場合には、ABCの安定をまずは目標とし、その後は原則として、低血糖、脳卒中、敗血症を念頭に対応していきます。これらは頻度が高いこと、血糖測定や画像検索で比較的診断が容易なこと、緊急性の高さが故の順番です。痙攣も今まさに起こっている場合には、早期に止めたほうがよいですが、明らかな痙攣を認めない場合には時間的猶予があります。痙攣の鑑別は10's rule(表)の9)で行います1)。●Rule9 疑わなければ診断できない! AIUEOTIPSを上手に利用せよ!AIUEOTIPSを意識障害の鑑別として上から順に鑑別していくのは、お勧めできません。なぜなら、頻度や緊急度が上から順とは限らないからです。また、患者背景からも原因は大きく異なります。そのため、AIUEOTIPSは鑑別し忘れがないかを確認するために用いるのがよいでしょう(意識障害 その2参照)。見逃しやすい原因の1つが痙攣(AIUEOTIPSの“S”)であり、採血や画像検査で特異的な所見を必ずしも認めるわけではないため、原因が同定できない場合には常に考慮する必要があるのです。「原因不明の意識障害を診たら、痙攣を考える」、これが1つ目のポイントです。画像を拡大する目撃者がいない場合痙攣を疑う病歴や身体所見としては、次の3点を抑えておくとよいでしょう。「(1)舌咬傷、(2)尿失禁、(3)不自然な姿勢で倒れていた」です。絶対的なものではなく、その他に認める所見もありますが、実際に救急外来で有用と考えられるトップ3かと思いますので、頭に入れておくとよいでしょう。(1)舌咬傷てんかんによる痙攣の場合には、20%程度に舌外側の咬傷を認めます。心因性の場合には、舌咬傷を認めたとしても先端のことが多いと報告されています2)。(2)尿失禁心因性や失神でも認めるため絶対的なものではありませんが、尿失禁を認める患者を診たら、「痙攣かも?」と思う癖を持っておくと、鑑別し忘れを防げるでしょう3)。(3)不自然な姿勢で倒れていたてんかん、とくに高齢者のてんかんは局在性であるため、痙攣は左右どちらかから始まります。左上肢の痙攣が始まり、その後全般化などが代表的でしょう。意識消失の鑑別として、失神か痙攣かは、鑑別に悩むこともありますが、失神は瞬間的な意識消失発作で姿勢保持筋が消失するため、素直に倒れます。脳血流が低下し、立っていられなくなり倒れるため、崩れ落ちるように横になってしまうわけです。それに対して、痙攣を認めた場合には、左右どちらかに引っ張られるようにして倒れることになるため、素直には倒れないのです。仰向けで倒れているものの、片手だけ背部に回っている、時には肩の後方脱臼を認めることもあります。「なんでこんな姿勢で? なんでこんなところで?」というような状況で発見された場合には、痙攣の関与を考えましょう。その他、痙攣を認める前に、「あー」と声を出す、口から泡を吹いていたなどは痙攣らしい所見です。そして、時間経過と共に意識状態が改善するようであれば、らしさが増します。目撃者がいる場合患者が倒れる際に目撃した人がいた場合、(1)どのように痙攣が始まったのか、(2)持続時間はどの程度であったか、(3)開眼していたか否かの3点を確認しましょう。(1)痙攣の始まり方この点はきわめて大切です。失神後速やかに脳血流が回復しない場合にも、痙攣を認めることがありますが、その場合には左右差は認めません。これに対して、てんかんの場合には、異常な信号は左右どちらかから発せられるため、上下肢左右どちらかから始まります。「痙攣は右手や左足などから始まりましたか?」と聞いてみましょう。(2)持続時間一般的に痙攣は2分以内、多くは1分以内に止まります。これに対して心因性の場合には2分以上続くことが珍しくありません。(3)開眼か閉眼かてんかんの場合には、痙攣中は開眼しています。閉眼している場合には心因性の可能性が高くなります4,5)。痙攣を示唆する検査所見痙攣の原因検索のためには、採血や頭部CT検査、てんかんの確定診断のためには脳波検査が必須の検査です。ここでは、救急外来など初療時に有用な検査として「乳酸値」を取り上げておきましょう。乳酸値が上昇する原因として、循環不全や腸管虚血の頻度が高いですが、その際は大抵バイタルサインが不安定なことが多いです。それに対して、意識以外のバイタルサインは安定しているにもかかわらず乳酸値が高い場合には、痙攣が起こったことを示唆すると考えるとよいでしょう。原因にかかわらず、乳酸値が高値を認めた場合には、初療によって改善が認められるか(低下したか)を確認しましょう。痙攣が治まっている場合には30分もすれば数値は正常化します。さいごに痙攣の原因はてんかんとは限りません。脳卒中に代表される急性症候性発作、アルコールやベンゾジアゼピン系などによる離脱、ギンナン摂取なんてこともあります。痙攣を認めたからといって、「てんかんでしょ」と安易に考えずに、きちんと原因検索を忘れないようにしましょう。ここでは詳細を割愛しますが、てんかんを適切に疑うためのポイントは理解しておいてください。本症例では、病歴や経過から痙攣の関与が考えられ、画像診断では陳旧性の脳梗塞所見を認めたことから、症候性てんかん後のpostictal stateであったと判断し対応、その後脳波など精査していく方針としました。次回は「原因が1つとは限らない! 確定診断するまでは安心するな!」を解説します。1)坂本壮. 救急外来 ただいま診断中!. 中外医学社;2015.2)Brigo F, et al. Epilepsy Behav. 2012;25:251-255.3)Brigo F, et al. Seizure. 2013;22:85-90.4)日本てんかん学会ガイドライン作成委員会. 心因性非てんかん性発作に関する診断・治療ガイドライン.てんかん研究. 2009;26:478-482.5)Chung SS, et al. Neurology. 2006;66:1730-1731.

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プライマリケアでの抗菌薬処方、推奨期間を超過/BMJ

 英国では、プライマリケアで治療されるほとんどの一般感染症に対し、抗菌薬の多くがガイドラインで推奨された期間を超えて処方されていたことが、英国公衆衛生庁(PHE)のKoen B. Pouwels氏らによる横断研究の結果、明らかとなった。プライマリケアにおける抗菌薬の使用削減戦略は、主に治療開始の決定に焦点が当てられており、抗菌薬の過剰な使用に、どの程度治療期間が寄与しているかは不明であった。著者は、「抗菌薬曝露の大幅な削減は、処方期間をガイドラインどおりにすることで達成できる」とまとめている。BMJ誌2019年2月27日号掲載の報告。13適応症に対する抗菌薬の実際の処方期間とガイドラインの推奨期間を比較 研究グループは、英国プライマリケアの大規模データベース(The Health Improvement Network:THIN)を用い、2013~15年にプライマリケアで13の適応症(急性副鼻腔炎、急性咽頭炎、急性咳嗽/気管支炎、肺炎、慢性閉塞性肺疾患の急性増悪、急性中耳炎、急性膀胱炎、急性前立腺炎、腎盂腎炎、蜂窩織炎、膿痂疹、猩紅熱、胃腸炎)のうち、いずれか1つに対して抗菌薬が処方された93万1,015件の診察を特定し、解析した。 主要評価項目は、ガイドラインの推奨期間よりも長く抗菌薬が処方された患者の割合と、各適応症に対する推奨期間を超えた合計処方日数であった。呼吸器感染症では80%以上がガイドラインの推奨期間超え 抗菌薬が処方された主な理由は、急性咳嗽/気管支炎(38万6,972件、41.6%)、急性咽頭炎(23万9,231件、25.7%)、急性中耳炎(8万3,054件、8.9%)、急性副鼻腔炎(7万6,683件、8.2%)であった。 上気道感染症と急性咳嗽/気管支炎への抗菌薬処方が、全体の3分の2以上を占めており、これらの治療の80%以上がガイドラインの推奨期間を超えていた。一方で、注目すべき例外としては、急性副鼻腔炎の治療で9.6%(95%CI:9.4~9.9%)のみが推奨期間の7日を超えており、急性咽頭炎については2.1%(95%CI:2.0~2.1%)のみが同10日を超えていた(最新の推奨期間は5日間)。女性の急性膀胱炎に対する抗菌薬の処方では、半分以上が推奨期間よりも長く処方されていた(54.6%、95%CI:54.1~55.0%)。 大半の非呼吸器感染症では、推奨期間を超えて抗菌薬が処方された割合は低値であった。抗菌薬を処方した診察93万1,015件において、ガイドラインの推奨期間を超えて抗菌薬が処方された期間は約130万日間であった。

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尿失禁が生命予後に影響?OABに早期介入の必要性

 わが国では、40歳以上の約7人に1人が過活動膀胱(OAB)を持ち、切迫性尿失禁を併せ持つ割合は70%を超えると推定されている。定期通院中の患者が症状を訴えるケースも多く、専門医以外でも適切な診療ができる環境が求められる。 2019年2月28日、OAB治療薬「ビベグロン錠50mg(商品名:ベオーバ)」の発売元であるキョーリン製薬とキッセイ薬品が共催したメディアセミナーにて、吉田 正貴氏(国立長寿医療研究センター 副院長 泌尿器外科部長)が講演を行った。本セミナーでは、「OABの病態と治療―新たな治療選択肢を探るー」をテーマに、高齢のOAB患者を取り巻く現状と薬物療法について語られた。“過活動膀胱”もしくは“低活動膀胱”を持つ高齢者が増加 OABとは、尿意切迫感を必須症状とし、しばしば昼間/夜間頻尿や切迫性尿失禁を伴う症状症候群である。発症率は加齢とともに上がり、ホルモン変化、神経疾患や局所性疾患、生活習慣病など、さまざまな要因が関与すると考えられている。とくに最近では、下部尿路への血流の悪さが発症要因の1つとして注目されている。 吉田氏は、高齢者におけるOAB診療の問題点として、加齢に伴う副作用(口内乾燥、便秘)の発生頻度増加、フレイルとサルコペニア、認知症への影響、多剤服用の4つを提起した。さらに、高度の慢性膀胱虚血は、排尿筋の活動低下“低活動膀胱”を引き起こす。これは、近年増加しているため、高齢者に抗コリン薬を使用する際にはとくに注意が必要だという。フレイルと尿失禁による生命予後の悪化が危惧される 続いて、高齢者のフレイルと尿失禁の併発による生命予後への影響が語られた。これまでに、65~89歳の尿失禁有症者は尿禁制者に比べ、フレイルへ分類される可能性が6.6倍にもなること1)や、フレイルは1年以内の尿失禁発症の予測因子となり、尿失禁は1年後の死亡リスク上昇につながる恐れがあること2)などが海外で報告されている。 尿失禁がある患者は、臭いやトイレの近さを気にするため引きこもりがちになり、筋力が低下しやすいことを指摘し、「高齢者のフレイルや尿失禁は、生命予後にかかわる可能性があり、OAB患者の尿失禁にはとくに早期に介入していく必要がある」と強調した。高齢者のOAB治療における薬剤選択は慎重に行うべき 今回紹介されたビベグロンは、国内で2番目のβ3受容体作動薬で、膀胱の伸展を増強する。国内第III相比較試験では、プラセボ群に対して、1日の平均排尿回数を有意に減らし、すべての排尿パラメータを改善するなどの結果を収め、世界で初めてわが国で承認された薬剤だ。長期投与における安全性と有効性も確認されており、過活動膀胱診療ガイドライン(2015)の次回改定では、既存の同効薬ミラベクロンと同様の推奨グレードになる見通しだという。 同氏は、高齢者OAB患者に対する薬物療法の注意点について、ガイドラインに記載される6項目を紹介した。1.少量で開始し、緩やかに増量する2.薬剤用量は若年者より少なくする(開始量の目安は成人量の4分の1~2分の1)3.薬効を短期間で評価する:効果に乏しい場合は漫然と増量せず、中止して別の薬に変更4.服薬方法を簡易にする:服薬回数を減らす5.多剤服用を避ける:認知症患者ではとくに注意が必要6.服薬アドヒアランスを確認する:在宅患者では、一元的な服薬管理と有害事象の早期発見が重要 最後に、「高齢社会でOAB患者は増加しているが、これは健康寿命の延伸を抑制する一因となっている。高齢者の診療に当たって、多剤服用はフレイルの増悪因子であり、安易な薬剤の追加には注意が必要。とくに、抗コリン薬は認知機能やせん妄にも影響する恐れがあるため、患者の状況をしっかり確認して、慎重に治療薬を選択してほしい。β3受容体作動薬は、抗コリン作用を持たないため、高齢者にも比較的安全に使用できる可能性がある」と締めくくった。

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ごく早期に発現するがん悪液質の食欲不振とグレリンの可能性/JSPEN

 本年(2019年)2月、第34回日本静脈経腸栄養学会学術集会(JSPEN2019)が開催された。その中から、がん悪液質に関する発表について、日本緩和医療学会との合同シンポジウム「悪液質を学ぶ」の伊賀市立上野総合市民病院 三木 誓雄氏、教育講演「がんの悪液質と関連病態」の鹿児島大学大学院 漢方薬理学講座 乾 明夫氏の発表の一部を報告する。前悪液質状態の前から起きている食欲不振 伊賀市立上野総合市民病院 三木 誓雄氏は「がん悪液質の病態評価と治療戦略」の中で次のように発表した。 がん悪液質の出現割合は全病期で50%、末期になると80%にもなる。また、がん患者の30%は悪液質が直接の原因で死亡する。EPCR(European Palliative Care Research Collaborative)のガイドラインでは、がん悪液質は前悪液質(Pre-Cachexia)、悪液質(Cachexia)、不可逆的悪液質(Refractory Cachexia)の3つのステージに分けられる。ESPEN(European Society for Clinical Nutrition and Metabolism:欧州静脈経腸栄養学会)のエキスパートグループは、食欲不振・食物摂取の制限は前悪液質となる前から現れると述べている。 この食欲不振の原因は全身性炎症反応である。McMahon氏らの研究では、未治療の肺がん患者のCRPは、手術侵襲のピーク時を超える高値で持続するとされる。全身性炎症反応の最も大きな原因は、腫瘍から放出されるTNFα、IL-6、IL-1などの炎症性サイトカイン。「炎症性サイトカインが中枢神経に働きかけて、まず食欲が失われ、それに伴って悪液質が始まり、代謝異化に向かい体重減少し、最後にはサルコペニアに至る」という。悪液質の発現で変わるがん治療効果 全身性炎症はまた、がんの治療効果にも影響を及ぼす。全身性炎症が亢進すると、薬物代謝酵素である肝臓のチトクロームP450活性が低下する。薬の代謝が抑制されるため薬物毒性が増える。一方、代謝を受けて薬効を示すプロドラッグなどは効果が減弱する。Carla氏らの報告では、非悪液質患者の抗がん剤の毒性出現頻度は約20%だが、悪液質患者では約50%と上昇する。抗がん剤の治療成功期間(Time to progression)も、非悪液質に比べ悪液質では約400日短縮する。 三木氏らは、伊賀市立上野総合市民病院で、5%以上の体重減少があるがん化学療法施行消化器がん患者179例に対して栄養療法(EPA 1g/日含有栄養剤:300kcal)のトライアルを行った。結果、栄養支持療法なし群だけをみると悪液質(体重減少5%以上かつCRP 0.5以上)は20%に発現し、この悪液質発現群では非発現群と同様の化学療法を受けていても全生存期間が有意に短かった(p<0.01)。また、栄養支持療法あり群では、がん化学療法施行時中もCRPは上昇せず、骨格筋量、除脂肪体重は増加した。栄養支持療法なし群ではCRPは上昇し、骨格筋量、除脂肪体重は増加しなかった。がん化学療法継続日数は栄養支持療法あり群で80日延長した(388.8日 vs.308.0日)。これら栄養支持療法による生命予後改善は、悪液質患者に限ってみられた(全患者:p=0.84、悪液質患者:p=0.0096)。「栄養支持療法をすることで、悪液質患者を非悪液質患者と同じ抗がん剤治療の土俵へ上げることができたことになる」と三木氏は述べる。がん悪液質におけるグレリンの役割 鹿児島大学大学院 漢方薬理学講座 乾 明夫氏は「がん悪液質と関連病態」の中でグレリンについて次のように述べた。 グレリンは胃から分泌され、摂食促進、エネルギー消費抑制に働く。グレリンはグレリン受容体(成長ホルモン分泌促進受容体)に結合し、食欲促進ペプチドである視床下部の神経ペプチドY(NPY)に作用し食欲を増やす。また、下垂体前葉において成長ホルモンの分泌を促進しサルコペニアを改善する。 がん悪液質では、グレリンの相対的分泌低下とレプチンの相対的上昇があり、食欲抑制系が優位状態となっていることが、動物実験で示されている。そのため「外部からグレリンを投与し補充することは理論的」と乾氏は言う。動物実験では実際に、グレリンを投与すると空腹期強収縮が起こり、胃の中に食物があっても空腹期様の強収縮を起こすことも示されている。 グレリン化合物には、多くの開発品がある。anamorelinは、グレリン受容体に強力な親和性を有する経口のグレリンアゴニストである。すでに4つの第II相試験と2つの第III相試験を実施している。StageIII/IVの悪液質を有する非小細胞肺がん患者174例を対象にした第III相試験においては、主要評価項目である除脂肪体重(p<0.0001)に加え、全体重も有意に改善した(p<0.001)。握力はp=0.08で有意な改善は示さなかったものの、「悪液質の診断がついて早期に使えば、より大きな効果を期待できるであろう」と乾氏。 さらに、グレリン・NPYを活性化するものに人参養栄湯がある。グレリン分泌の促進とグレリン非依存性のNPY活性化という2つの作用を有する。食欲、サルコペニア、疲労・抑うつの改善など、重症がん患者に対する支持療法としてさまざまな効果がある。「将来はグレリンアゴニストと人参養栄湯をドッキングして使われることもあると思う」と乾氏は言う。

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国内初のアルコール依存症に対する飲酒量低減薬「セリンクロ錠10mg」【下平博士のDIノート】第20回

国内初のアルコール依存症に対する飲酒量低減薬「セリンクロ錠10mg」今回は、「ナルメフェン塩酸塩水和物錠(商品名:セリンクロ錠10mg)」を紹介します。本剤は、中枢神経に作用して飲酒欲求を抑えることで、多量飲酒を繰り返すアルコール依存症患者の飲酒量を低減させることが期待されています。<効能・効果>本剤は、アルコール依存症患者における飲酒量の低減の適応で、2019年1月8日に承認され、2019年3月5日より販売されています。本剤は、選択的オピオイド受容体調節薬であり、鎮痛または麻酔目的で使用されるオピオイド系薬剤との併用は、緊急手術などのやむを得ない場合を除いて禁忌となっています。<用法・用量>通常、成人にはナルメフェン塩酸塩として1回10mgを飲酒の1~2時間前に経口投与します。服用は1日1回までです。症状により適宜増量できますが、最大量は20mgです。本剤を服用せずに飲酒を始めた場合は、気付いた時点で服用しますが、飲酒終了後には服用できません。本剤による治療の際には、服薬遵守および飲酒量の低減を目的とした心理社会的治療と併用する必要があります。<副作用>第III相二重盲検比較試験において、安全性解析の対象となった432例中307例(71.1%)に臨床検査値の異常を含む副作用が認められました。主な副作用は悪心(31.0%)、浮動性めまい(16.0%)、傾眠(12.7%)、頭痛(9.0%)、嘔吐(8.8%)、不眠症(6.9%)、倦怠感(6.7%)でした。<患者さんへの指導例>1.この薬は、中枢神経に作用して飲酒欲求を抑えることで、飲酒量を減らします。2.麻酔薬や強い痛み止め薬が効きづらくなってしまうことがあるので、手術などの予定がある場合には、事前にこの薬を使用していることを医師に伝えてください。3.注意力の低下、浮動性のめまい、強い眠気などが起こることがあるので、自動車の運転など、危険を伴う機械の操作はしないでください。4.悪心、吐き気、胸やけ、胃のむかつきなどの症状が現れることがあります。強い症状が現れたら、医師または薬剤師にお知らせください。<Shimo's eyes>「新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン(2018)1)」では、アルコール依存症の最終的な治療目標は「断酒の達成とその継続」と設定されています。治療の主体は心理社会的治療(認知行動療法、動機付け面接法など)ですが、補助的役割として薬物療法が行われます。既存薬としては、飲酒すると動悸や嘔気・嘔吐などの不快な症状を引き起こす抗酒薬であるジスルフィラム(商品名:ノックビン)とシアナミド(同:シアナマイド)、飲酒欲求を抑える断酒補助薬としてアカンプロサート(同:レグテクト)が承認されています。これらはいずれも断酒を目標とした治療薬ですが、軽症の依存症で臓器障害などの合併症がない場合や、本来は断酒すべきであってもゴールの高さから断酒の同意が得られない場合などでは、飲酒量低減を治療目標とすることがあります。本剤は、オピオイド受容体に拮抗して飲酒欲求を抑制し、飲酒量を減らす「飲酒量低減薬」であり、多量な飲酒を繰り返すアルコール依存症患者さんの飲酒量低減や断酒に至るための第一歩を補助する薬剤として期待されています。飲酒量低減の達成の目安は、男性では純アルコール量として1日平均40g以下、女性では20g以下、または飲酒に関連した健康問題や社会問題が顕著に改善された状態を3ヵ月間維持できることです。純アルコール量40gの例は、ビール(Alc.5%)500mL 2缶、チューハイ(7%)350mL 2缶、日本酒(15%)2合、ワイン(12%)グラス3杯などです。絶対的な飲酒量だけでなく、治療開始前後の飲酒量の差や、社会・家族に与える影響の軽減など、患者さんの状況を総合的に見て治療効果が判断されます。これまで、必ずしも断酒が必要ではなかった患者さんや、断酒に踏み切れなかった患者さんのアルコール依存症治療に、飲酒量低減という新たな選択肢が加わりました。適切な治療を受ける患者さんが増えることで、患者さんを取り巻く社会・家族の負担軽減にもつながるでしょう。なお、本剤を交付する際は「ナルメフェン塩酸塩水和物の使用に当たっての留意事項について2)」の通知が発出されているので、投薬前に確認するようにしましょう。参考1)一般社団法人 日本アルコール・アディクション医学会/日本アルコール関連問題学会 新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン2)厚生労働省 ナルメフェン塩酸塩水和物の使用に当たっての留意事項について

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第18回 花粉症患者に使える!こんなエビデンス、あんなエビデンス【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 インフルエンザがやっと落ち着いてきたと思ったら、花粉症が増える季節になりました。症状がひどい方は本当につらい季節で、身の回りでも花粉症の話題でもちきりとなっています。今回は、服薬指導で使える花粉症に関するお役立ち情報をピックアップして紹介します。アレルゲンを防ぐには?アレルギー性疾患では、アレルゲンを避けることが基本です1)。花粉が飛ぶピークタイムである昼前後と日没後、晴れて気温が高い日、空気が乾燥して風が強い日、雨上がりの翌日や気温の高い日が2~3日続いた後は外出を避けたり、マスクやメガネ、なるべくツルツルした素材の帽子などで防御したりしましょう。それ以外にも、鼻粘膜を通したアレルゲンの吸入を物理的にブロックするために、花粉ブロッククリームを直接鼻粘膜に塗布するという方法もあります。この方法は、ランダム化クロスオーバー試験で検証されており、アレルギー性鼻炎、ダニおよび他のアレルゲンに感受性のある成人および小児の被験者115例を、花粉ブロッククリーム群とプラセボ軟膏群に割り付けて比較検討しています。1日3回30日間の塗布で、治療群の鼻症状スコアが改善しています。ただし、必ずしも花粉ブロッククリームでないといけないわけではなく、プラセボ群でも症状改善効果が観測されています2)。ほかにも小規模な研究で鼻粘膜への軟膏塗布で有効性を示唆する研究3)がありますので、やってみる価値はあるかもしれません。症状を緩和する食材や栄養素は?n-3系脂肪酸大阪の母子健康調査で行われた、サバやイワシなどの青魚に多く含まれるn-3系脂肪酸の摂取量とアレルギー性鼻炎の有病率に関する研究で、魚の摂取量とアレルギー性鼻炎の間に逆の用量反応関係があることが指摘されています4)。ただし、急性の症状に対して明確な効果を期待できるほどの結果ではなさそうです。ビタミンEビタミンEがIgE抗体の産生を減少させる可能性があるとして、アレルギー性鼻炎患者63例を、ビタミンE 400IU/日群またはプラセボ群にランダムに割り付け、4週間継続(最初の2週間はロラタジン/プソイドエフェドリン(0.2/0.5/mg/kg)と併用)した研究があります。しかし、いずれの群も1週間で症状が改善し、症状スコアにも血清IgEにも有意差はありませんでした5)。カゼイ菌アレルギーは腸から起こるとよく言われており、近年乳酸菌やビフィズス菌が注目されています。これに関しては、カゼイ菌を含む発酵乳またはプラセボを2~5歳の未就学児童に12ヵ月間摂取してもらい、アレルギー性喘息または鼻炎の症状が改善するか検討した二重盲検ランダム化比較試験があります。187例が治療群と対照群に割り付けられ、アウトカムとして喘息/鼻炎の発症までの時間、発症数、発熱または下痢の発生数、血清免疫グロブリンの変化を評価しています。通年性の鼻炎エピソードの発生は治療群でやや少なく、その平均差は―0.81(―1.52~―0.10)日/年でした。鼻炎にわずかな効果が期待できるかもしれませんが、喘息には有効ではないとの結果です6)。薬物治療の効果は?薬物治療では、抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン薬、アレルゲン免疫療法が主な選択肢ですが、抗ヒスタミン薬にフォーカスして見ていきましょう。比較的分子量が小さく、脂溶性で中枢性の副作用を生じやすい第1世代よりも、眠気など中枢性の副作用が少ない第2世代の抗ヒスタミン薬がよく用いられています。種々の臨床試験から、第2世代抗ヒスタミン薬は種類によって効果に大きな差はないと思われます。たとえば、ビラスチンとセチリジンやフェキソフェナジンを比較した第II相試験7)では、効果はほぼ同等でビラスチンは1時間以内に作用が発現し、26時間を超える作用持続を示しています。なお、ルパタジンとオロパタジンの比較試験では、ルパタジンの症状の改善スコアはオロパタジンとほぼ同等ないしやや劣る可能性があります8)。また、眼のかゆみなど症状がない季節性のアレルギー性鼻炎であれば、抗ヒスタミン薬よりもステロイド点鼻薬の有効性が高いことや、ステロイド点鼻薬に抗ヒスタミン薬を上乗せしても有意な上乗せ効果は期待しづらいことから、点鼻薬を推奨すべきとするレビューもあります9)。副作用は?抗ヒスタミン薬の副作用で問題になるのがインペアード・パフォーマンスです。インペアード・パフォーマンスは集中力や生産性が低下した状態ですが、ほとんどの場合が無自覚なので運転を控えるようにすることなどの指導が大切です。フェキソフェナジン、ロラタジン、またそれを光学分割したデスロラタジンなどはそのような副作用が少ないとされています10)。口渇、乏尿、便秘など抗コリン性の副作用は、中枢移行性が低いものでも意識しておくとよいでしょう。頻度は少ないですが、第1世代、第2世代ともに痙攣の副作用がWHOで注意喚起されています11)。万が一、痙攣などが起こった場合には被疑薬である可能性に思考を巡らせるだけでも適切な対応が取りやすくなると思います。予防的治療の効果は?季節性アレルギー性鼻炎に対する抗ヒスタミン薬の予防的治療効果について検討した二重盲検ランダム化比較試験があります12)。レボセチリジン5mgまたはプラセボによるクロスオーバー試験で、症状発症直後の早期服用でも花粉飛散前からの予防服用と同等の効果が得られています。予防的に花粉飛散前からの服用を推奨する説明がされがちですが、症状が出てから服用しても遅くはないと伝えると安心していただけるでしょう。服用量が減らせるため、医療費抑制的観点でも大切なことだと思います。鼻アレルギー診療ガイドラインでも、抗ヒスタミン薬とロイコトリエン拮抗薬は花粉飛散予測日または症状が少しでも現れた時点で内服とする主旨の記載があります1)。以上、花粉症で服薬指導に役立ちそうな情報を紹介しました。花粉症対策については環境省の花粉症環境保健マニュアルによくまとまっています。また、同じく環境省による花粉情報サイトで各都道府県の花粉飛散情報が確認できますので、興味のある方は参照してみてください13)。1)鼻アレルギー診療ガイドライン2016年版2)Li Y, et al. Am J Rhinol Allergy. 2013;27:299-303.3)Schwetz S, et al. Arch Otolaryngol Head Neck Surg. 2004;130:979-984.4)Miyake Y, et al. J Am Coll Nutr. 2007;26:279-287.5)Montano BB, et al. Ann Allergy Asthma Immunol. 2006;96:45-50.6)Giovannini M, et al. Pediatr Res. 2007;62:215-220.7)Horak F, et al. Inflamm Res. 2010;59:391-398.8)Dakhale G. J Pharmacol Pharmacother. 2016 Oct-Dec 7:171–176.9)Stempel DA, et al. Am J Manag Care. 1998;4:89-96.10)Yanai K, et al. Pharmacol Ther. 2007 Jan 113:1-15.11)WHO Drug Information Vol.16, No.4, 200212)Yonekura S, et al. Int Arch Allergy Immunol. 2013;162:71-78.13)「環境省 花粉情報サイト」

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EGFR変異陽性NSCLC1次治療の新たな選択肢ダコミチニブ

 ファイザー株式会社は、ダコミチニブの承認にあたり、本年(2019年)2月、都内で記者会見を開催した。その中で近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門 中川 和彦氏と国立がん研究センター中央病院 先端医療科長/呼吸器内科 山本 昇氏がEGFR変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)治療とダコミチニブについて紹介した。 2000年時点のNSCLCの標準治療はプラチナ併用化学療法で、当時の全生存期間(OS)は約1年だった。昨年、オシメルチニブが1次治療薬に承認となったEGFR変異陽性NSCLCは、無増悪生存期間(PFS)でさえ19.1ヵ月1)となった。EGFR-TKI、化学療法と治療選択肢が増えるなか、「EGFR陽性NSCLCの今の問題は、治療シーケンスである」と、中川氏は述べる。ダコミチニブの効果と安全性 そのような中、2019年1月8日にダコミチニブ(商品名:ビジンプロ)が承認になった。ダコミチニブはEGFR(HER1、ErbB1)だけでなく、HER2、HER4も不可逆的に阻害する第2世代EGFR-TKI。今回の承認は、EGFR変異陽性NSCLCの1次治療における国際共同無作為化非盲検第III相ARCHER1050を中心とした複数の臨床結果に基づくもの。この試験でダコミチニブはゲフィチニブに比べPFS、OSの改善を示した。主要評価項目であるPFSは、全集団においてダコミチニブ群14.7ヵ月、ゲフィチニブ群9.2ヵ月(HR:0.59、95%CI:0.47~0.74、p<0.0001)。日本人集団では、ダコミチニブ群(n=40)18.2ヵ月、ゲフィチニブ群(n=41)9.3ヵ月(HR:0.544、95%CI:0.307~0.961、p=0.0163)と、いずれもダコミチニブ群で有意に改善した。全生存率はダコミチニブ群34.1ヵ月、ゲフィチニブ群26.8ヵ月と、ダコミチニブ群で良好であった(HR:0.780、95%CI:0.582~0.993)であった(日本人集団は未達)。 一方、安全性について。ダコミチニブ群は皮膚系統(爪囲炎、ざ瘡様皮膚炎など)の有害事象が多いことが特徴である。有害事象の発現時期は早く、代表的な副作用である下痢、口内炎、ざ瘡様皮膚炎の初回発現の時期は全集団で7~14日、日本人集団で5~10日であった。また、ダコミチニブ群では減量例が多くみられ、減量経験のある患者の割合は全集団で66.1%、日本人集団では85.0%であった。相対用量強度は全集団で平均73.3%、日本人集団では55.7%という数値であったが、「この用量強度でも十分な効果(PFS)を示すことから、十分な副作用管理と用量調整が重要」と山本氏は述べた。2018年ガイドラインの選択肢としていかに活用するか ダコミチニブは、「肺癌診療ガイドライン2018」にもEGFR変異陽性の1次治療に選択肢の1つとしてあげられている(CQ.51 b:ダコミチニブを行うよう提案する:2B)。 EGFR変異陽性NSCLCの生命予後は大きく向上しており、「複数の治療選択肢を効率よく適用することが、患者の予後改善、QOL維持に重要。ダコミチニブは新たな選択肢として期待できる薬剤」と山本氏は言う。 ダコミチニブの日本人集団におけるPFSはオシメルチニブに匹敵する。ダコミチニブを有効に活用するポイントとして山本氏は次のように述べる。まず治療前に治療の適用を見極めること。それにはARCHER1050試験の選択・除外規準が参考になる。そして、治療開始後には減量を含めた早期の副作用対策である。一方、中川氏は減量について、「用量強度が多少低くても長く続けられることが重要」だと述べる。国際臨床試験において、日本の医師は早期に減量・休薬する傾向にある(ARCHER1050試験でも減量開始時期は全体の12週に対し日本人では8.79週)。しかし、結果としてこれが日本人集団の有効性の高さにつながっている可能性があるという。 EGFR変異陽性NSCLCの1次治療にダコミチニブが参入した。さらなる予後改善のため、この後、より良い治療シークエンスの開発が期待される。1)Ohe Y, et al. Osimertinib versus standard-of-care EGFR-TKI as first-line treatment for EGFRm advanced NSCLC: FLAURA Japanese subset. Jpn J Clin Oncol. 2019;49:29-36.■関連記事dacomitinib、EGFR変異肺がん1次治療でOS延長(ARCHER1050)/ASCO2018FLAURA試験日本人サブセット、PFS19.1ヵ月/JJCOダコミチニブ、EGFR変異陽性NSCLCに国内承認/ファイザー

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第27回 特養での配薬与薬ミスを防ぐ9つの鉄則【週刊・川添ラヂオ】

動画解説多くの高齢者が入所する特別養護老人ホームでは薬の配り間違いや、飲み間違いが少なくありません。今回から3週にわたり特別養護老人ホームにおける介護事故予防ガイドラインをもとに、配薬与薬ミスの予防についてお話しします。まずは特養での投薬時、薬を与える患者さんの顔を一人ひとりちゃんと見ていますか?看護師さんと処方せんだけを確認してダンボールで届けるだけなんて言語道断です!

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重度の精神疾患患者における脂質異常症と抗精神病薬に関するメタ解析

 重度の精神疾患患者は、抗精神病薬の悪影響に関連している可能性のある代謝系の問題への罹患率やそれに伴う死亡率の上昇を来す。第2世代抗精神病薬(SGA)は、第1世代抗精神病薬(FGA)と比較し、脂質代謝異常とより関連が強いと考えられているが、このことに対するエビデンスは、システマティックレビューされていなかった。英国・East London NHS Foundation TrustのKurt Buhagiar氏らは、重度の精神疾患患者における脂質異常症リスクについて、SGAとFGAの評価を行った。Clinical Drug Investigation誌オンライン版2019年1月24日号の報告。 主要な電子データベースより2018年11月までの研究を検索した。対象研究は、重度の精神疾患患者に対するSGAとFGAを直接比較し、脂質代謝異常を主要アウトカムまたは第2次アウトカムとして評価した横断研究、コホート研究、症例対照研究、介入研究のいずれかとした。エビデンスは、PRISMA(システマティックレビューおよびメタ解析のための優先的報告項目)ガイドラインに従ってレビュー、評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・18件の研究が抽出された。・SGAとFGAにおける脂質異常症の報告は矛盾しており、研究間のばらつきが大きく、完全な定性的合成のみが実行可能であった。・クロザピン、オランザピン、リスペリドンについては、限られたメタ解析を実施するに十分なデータがあった。各薬剤ともに、FGAと比較し、脂質異常症の事例性(caseness)との関連が少し高かったが、異質性の高さが認められた(すべてI2>50%、p<0.05)。 ●クロザピン(オッズ比:1.26、95%信頼区間[CI]:1.16~1.38) ●オランザピン(オッズ比:1.29、95%CI:0.89~1.87) ●リスペリドン(オッズ比:1.05、95%CI:0.80~1.37)・クロザピンは、トリグリセリド増加とも関連が認められたが(標準平均差:0.51、95%CI:0.21~0.81、I2>=5.74%)、コレステロールとの関連は認められなかった。・オランザピンとリスペリドンは、ハロペリドールと比較し、コレステロールまたはトリグリセリドの統計学的に有意な増加との関連が認められなかった。 著者らは「研究デザインや方法論には、かなりの違いが認められた。抗精神病薬による脂質代謝異常への影響におけるSGAとFGAの相対リスクを決定するには、薬剤ごとにさまざまな悪影響を引き起こす可能性があるため、臨床的に明らかにすることは難しい可能性がある。したがって、SGAかFGAかの焦点を当てるよりも、特定の抗精神病薬の脂質代謝リスクを考慮することが重要である」としている。■関連記事非定型抗精神病薬による体重増加・脂質異常のメカニズム解明か抗精神病薬、日本人の脂質異常症リスク比較:PMDA統合失調症治療に用いられる抗精神病薬12種における代謝系副作用の分析

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第7回 異常かな?と思ったら…【薬剤師のためのバイタルサイン講座】

薬剤師である皆さんが患者さんのご自宅を訪問する時、患者さんは慢性的な病態であることが多く、容態の急変はないと思いがちです。しかし、慢性疾患であっても、急に容態が変化・悪化することはあります。そのような時、主治医や訪問看護師にすぐに連絡した方がよいかどうか迷うことがあるかもしれません。今回は、急を要するか否かの判断の仕方と、その判断に必要なバイタルサインの測定法について紹介します。異常かな?と思ったら家族に「いつもと比べていかがですか?」と尋ねてみてください。私たちは、家族が「いつもとちょっと違うんです」と言う時には、特に注意して患者さんを診るようにしています。患者さんの容態が変化して、主治医や看護師に連絡した方がよいかどうか迷った時、「忙しいのにこんなことで電話して」と思われてしまうのでは...、と躊躇してしまうことがあるかもしれません。しかし、迷った時は連絡しましょう!現場では、患者さんを実際よりも軽症と判断してしまうことよりも、実際よりも重症と判断することの方が安全であり、患者さんにとって有益です。まずは患者さんのことを考えてください。そして、患者さんにとって一番よいと思うことを実行してください。迷った時には連絡と相談です。この気持ちがあれば、主治医や看護師は、どんな些細な連絡であっても、きっと「連絡ありがとうございました」と言ってくれるはずです。日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編.高血圧治療ガイドライン2014.東京,ライフサイエンス出版,2014.太田富雄,他.急性期意識障害の新しいgradingとその表現方法.第3回脳卒中の外科研究会講演集.東京,にゅーろん社,1975,61-69.Teasdale G, et al. Assessment of coma and impaired consciousness: a practical scale. Lancet.1974; 2: 81-84.脳卒中合同ガイドライン委員会.脳卒中治療ガイドライン2009.東京,協和企画,2009.

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喫煙で子宮頸がんリスクが2倍~日本人女性

 喫煙による子宮頸がんのリスク上昇を示唆するエビデンスは多いが、日本人女性における関連の強さを調べた研究はない。今回、東北大学の菅原 由美氏らは「科学的根拠に基づく発がん性・がん予防効果の評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」において、日本人女性における喫煙と子宮頸がんリスクとの関連を系統的レビューにより評価した。その結果から、喫煙が日本人女性における子宮頸がんリスクを高めるエビデンスは確実であると結論している。Japanese Journal of Clinical Oncology誌2019年1月号に掲載。 本研究では、PubMedによるMEDLINE検索もしくは医中誌Webの検索、およびマニュアル検索によりデータを取得した。関連性については、国際がん研究機関(IARC)によって以前に評価された生物学的妥当性と共に、エビデンスの信頼性および関連の強さに基づいて評価した。さらに、メタ分析により喫煙による影響を推定した。 主な結果は以下のとおり。・2つのコホート研究と3つのケースコントロール研究を特定した。・5つの研究すべてが、喫煙と子宮頸がんリスクとの間に強い正の関連を示した。・要約推定によると、非喫煙者に対する喫煙経験者の相対リスクは2.03(95%信頼区間:1.49~2.57)であった。・4つの研究では、喫煙と子宮頸がんリスクとの用量反応関係も示された。

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パーキンソン病〔PD:Parkinson's disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義パーキンソン病(Parkinson's disease:PD)は、運動緩慢(無動)、振戦、筋強剛などのパーキンソニズムを呈し、緩徐に進行する神経変性疾患である。■ 疫学アルツハイマー病の次に頻度の高い神経変性疾患であり、平成26年に行われた厚生労働省の調査では、男性6万2千人、女性10万1千人の合計16万3千人と報告されている。65歳以上の患者数が13万8千人と全体の約85%を占め(有病率は1.5%以上)、加齢に伴い発症率が上昇する(ただし、若年性PDも存在しており、決して高齢者だけの疾患ではない)。症状は進行性で、歩行障害などの運動機能低下に伴い医療・介護を要し、社会的・経済的損失は著しい。超高齢社会から人生100年時代を迎えるにあたり、PD患者数は増え続けることが予想されており、本疾患の克服は一億総活躍社会を目指すわが国にとって喫緊の課題と言える。■ 病因これまでの研究により遺伝的因子と環境因子の関与、あるいはその相互作用で発症することが示唆されている。全体の約90%が孤発性であるが、10%程度に家族性PDを認める。1997年に初めてα-synucleinが家族性PDの原因遺伝子として同定され、その後当科から報告されたparkin、CHCHD2遺伝子を含め、これまでPARK23まで遺伝子座が、遺伝子については17原因遺伝子が同定されている。詳細はガイドラインなどを参照にしていただきたい。家族性PDの原因遺伝子が、同時に孤発性PDの感受性遺伝子となることが報告され、孤発性PDの発症に遺伝子が関与していることが明らかとなった。これら遺伝子の研究から、ミトコンドリア機能障害、神経炎症、タンパク分解障害、リソソーム障害、α-synucleinの沈着などがPDの発症に関与することがわかっている。環境因子では、性差、タバコ、カフェインの消費量などが重要な環境因子として検討されている。他にも農薬、職業、血清尿酸値、抗炎症薬の使用、頭部外傷の既往、運動など多くの因子がリスクとして報告されている。■ 病理PDの病理学的特徴は、中脳黒質の神経細胞脱落とレビー小体(Lewy body)の出現である。PDでは黒質緻密層のメラニン色素を持った黒質ドパミン神経細胞が脱落するため、肉眼でも黒質の黒い色調が失われる(図1-A、B)。レビー小体は、HE染色でエオジン好性に染まる封入体で、神経細胞内にみられる(図1-C、D)。レビー小体は脳幹の中脳黒質(ドパミン神経細胞)だけではなく、橋上部背側の青斑核(ノルアドレナリン神経細胞)、迷走神経背側運動核、脳幹に分布する縫線核(セロトニン神経細胞)、前脳基底部無名質にあるマイネルト基底核(コリン作動性神経)、大脳皮質だけではなく、嗅球、交感神経心臓枝の節後線維、消化管のアウエルバッハ神経叢、マイスナー神経叢にも認められる。脳幹の中脳黒質の障害はPDの運動障害を説明し、その他の脳幹の核、大脳皮質、嗅覚路、末梢の自律神経障害は非運動症状(うつ症状、不眠、認知症、嗅覚障害、起立性低血圧、便秘など)の責任病変である。PDのhallmarkであるレビー小体が全身の神経系から同定されることはPDが、多系統変性疾患でありかつ全身疾患であることを示しており、アルツハイマー病とはこの点で大きく異なる。家族性PDの原因遺伝子としてα-synuclein遺伝子(SNCA遺伝子)が同定された後に、レビー小体の主要構成成分が、α-synuclein蛋白であることがわかり、この遺伝子とその遺伝子産物がPDの病態に深く関わっていることが明らかとなった。図1 パーキンソン病における中脳黒質の神経脱落とレビー小体画像を拡大する■ 症状1)運動症状運動緩慢(無動)、振戦、筋強剛などのパーキンソニズムは、左右差が認められることが多く、優位側は初期から進行期まで不変であることが多い。初期から仮面様顔貌、小字症、箸の使いづらさなどの巧緻運動障害、腕振りの減少、小声などを認める。進行すると、姿勢保持障害・加速歩行・後方突進・すくみ足(最初の一歩が出ない、歩行時に足が地面に張り付いて離れなくなる)などを観察し、歩行時の易転倒性の原因となる。多くの症例で、進行期にはL-ドパの効果持続時間が短くなるウェアリングオフ現象を認める。そのためL-ドパを増量したり、頻回に内服する必要があるが、その一方でL-ドパ誘発性の不随意運動であるジスキネジア(体をくねらせるような動き。オフ時に認める振戦とは異なる)を認めるようになる。嚥下障害が進行すると、誤嚥性肺炎を来すことがある。2)非運動症状ほとんどの患者で非運動症状が認められ、前述の病理学的な神経変性、レビー小体の広がりが多彩な非運動症状の出現に関与している。非運動症状は、運動症状とは独立してQOLの低下を来す。非運動症状は、以下のように多彩であるが、睡眠障害、精神症状、自立神経症状、感覚障害の4つが柱となっている。(1)睡眠障害不眠、レム睡眠行動異常症(REM sleep behavior disorders:RBD)、日中過眠、突発性睡眠、下肢静止不能症候群(むずむず足症候群:restless legs syndrome)など(2)精神・認知・行動障害気分障害(うつ、不安、アパシー=無感情・意欲の低下、アンヘドニア=快感の消失・喜びが得られるような事柄への興味の喪失)、幻覚・妄想、認知機能障害、行動障害(衝動制御障害=病的賭博、性欲亢進、買い物依存、過食)など(3)自律神経症状消化管運動障害(便秘など)、排尿障害、起立性低血圧、発汗障害、性機能障害(勃起障害など)、流涎など(4)感覚障害嗅覚障害、痛み、視覚異常など(5)その他の非運動症状体重減少、疲労など嗅覚障害、RBD、便秘、気分障害は、PDの前駆症状(prodromal symptom)として重要な非運動症状であり、とくに嗅覚障害とRBDは後述するInternational Parkinson and Movement Disorder Society(MDS)の診断基準にもsupportive criteria(支持的基準)として記載されている。■ 分類病期についてはHoehn-Yahrの重症度分類が用いられる(表1)。表1 Hoehn-Yahr分類画像を拡大する■ 予後現在、PDの平均寿命は、全体の平均とほとんど変わらないレベルまで良くなっている一方で、健康寿命については十分満足のいくものとは言い難い。転倒による骨折をしないことがPDの経過に重要であり、誤嚥性肺炎などの感染症は生命予後にとって重要である。2 診断■ 診断基準2015年MDSよりPDの新たな診断基準が提唱され、さらにわが国の『パーキンソン病診療ガイドライン2018』により和訳・抜粋されたものを示す。これによるとまずパーキンソニズムとして運動緩慢(無動)がみられることが必須であり、加えて静止時振戦か筋強剛のどちらか1つ以上がみられるものと定義された。姿勢保持障害は、診断基準からは削除された。パーキンソン病の診断基準(MDS)■臨床的に確実なパーキンソン病(clinically established Parkinson's Disease)パーキンソニズムが存在し、さらに、1)絶対的な除外基準に抵触しない。2)少なくとも2つの支持的基準に合致する。

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低侵襲血腫除去は保存的治療を上回るか:ランダム化試験 "MISTIE III"

 現在、欧州脳卒中協会(ESO)ガイドラインは、非外傷性の頭蓋内出血に対するルーチンな外科的介入を推奨していない。支持するエビデンスが存在しないためだという。しかし2016年に報告されたMISTIE(Minimally Invasive Surgery Plus rt-PA for Intracerebral Hemorrhage Evacuation)II試験を含むランダム化試験のメタ解析からは、保存的治療を上回る機能自立度改善作用が示唆されている。そのような状況下、2019年2月6~8日に米国・ハワイで開催された国際脳卒中会議(ISC)では、頭蓋内出血例に対する、低侵襲手術を用いた血腫除去術と保存的療法の機能自立度改善作用を直接比較したランダム化試験“MISTIE III”が報告された。両治療間に改善作用の有意差は認めなかったが、血腫縮小に奏効した例では保存的治療に勝る改善作用が示唆される結果となった。7日のMain Eventセッションにて、Daniel F. Hanley氏(ジョンズ・ホプキンス大学、米国)とIssam A. Awad氏(シカゴ大学、米国)が報告した。 MISTIE III試験の対象は、発症後12~72時間で「修正Rankinスケール(mRS)≦1」、かつ「>30mLの血腫」を認めた頭蓋内出血499例である。アジアを含む全世界74施設で登録された。平均年齢は62歳、61%が男性だった。 これら499例は、「MISTIE治療」群(250例)と「標準治療」群(249例)にランダム化された。「MISTIE治療」群では、最低限の開頭下で、CTガイドにより経カテーテル的に血腫を除去し、その後、tPA洗浄を行った。血腫除去の目標は「≦15mL」である。 追跡はオープンラベルで行われたが、有用性評価者は治療群を盲検化されていた。1年間の死亡リスクはMISTIE治療群で有意に低い その結果、1次評価項目である「1年後mRS:0~3」の割合に、両群間で有意差は認められなかった。2次評価項目である「拡張グラスゴー転帰尺度」にも、有意差はなかった。ただし1年間の死亡リスクは、「MISTIE治療」群で有意に低くなっていた(ハザード比:0.67、95%信頼区間[CI]:0.45~0.98)。 安全性については、「30日間死亡」「72時間以内症候性脳出血」「脳感染症」のいずれも、両群間に有意差はなかった。ただし、72時間以内の無症候性脳出血は、「MISTIE治療」群で有意に多かった(32% vs.8%、P<0.0001)。一方、全重篤有害事象の発現数は、「MISTIE治療」群で126であり、「標準治療」群の142に比べ有意(p=0.012)に低値となっていた。血腫除去良好群ではより良い成績を示す さて、本試験参加医師中、試験前にMISTIE治療を経験していたのは12%にすぎなかった。そのため、血腫除去の成績には相当のバラツキが生じ、目標である「血腫≦15mL」が達成できていたのは59%(146例)のみだった。 そこで血腫を「≦15mL」まで縮小できた例のみで比較してみたところ、「1年後mRS:0~3」の割合は「MISTIE治療」群で「標準治療」群に比べ10.5%、有意(p=0.03)に高値となっていた(オッズ比[OR]:2.02、95%CI:1.05~3.89)。 また、血腫除去率が70%以上になると「1年後mRS:0〜3」達成率が大幅に改善する傾向が認められたため、「MISTIE治療」群の「血腫除去率≧70%」例のみで検討すると、「1年後mRS:0~3」のORは2.05(95%CI:1.09~3.85)で、「標準治療」群に比べ有意に高くなっていた。 Hanley氏報告の主要結果は報告当日Lancet誌にオンライン公開され、Awad氏が担当した血腫除去成績と転帰の関係はNeurosurgery誌に掲載予定である。 本試験はNational Institute of Neurological Disorders and Stroke and Genentechから資金提供を受け行われた。(医学レポーター/J-CLEAR会員 宇津 貴史(Takashi Utsu))「ISC 2019 速報」ページへのリンクはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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第13回 アナタはどうしてる? 術前心電図(後編)【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第13回:アナタはどうしてる? 術前心電図(後編)前回は非心臓手術として、整形外科の膝手術予定の患者さんを例示し、術前スクリーニング心電図のよし悪しを述べました。今回も同じ症例を用いて、Dr.ヒロなりの術前心電図に対する見解を示します。症例提示67歳、男性。変形性膝関節症に対して待機的手術が予定されている。整形外科から心電図異常に対するコンサルテーションがあった。既往歴:糖尿病、高血圧(ともに内服治療中)、喫煙:30本×約30年(10年前に禁煙)。コンサル時所見:血圧120/73mmHg、脈拍81/分・整。HbA1c:6.7%、ADLは自立。膝痛による多少の行動制限はあるが、階段昇降は可能で自転車にて通勤。仕事(事務職)も普通にこなせている。息切れや胸痛の自覚もなし。以下に術前の心電図を示す(図1)。(図1)術前心電図画像を拡大する【問題】依頼医に対し、心電図所見、耐術性・リスクをどのように返答するか。解答はこちら心電図所見:経過観察(術前心精査不要)。耐術性あり(年齢相応)、心合併症リスクも低い。解説はこちらまず、心電図所見。果たしてどのように所見に“重みづけ”をしたら良いのでしょう。どの所見ならヤバくて、どれなら安心なのか。外科医が(循環器)内科医に尋ねたいのは、主に耐術性とリスク(心臓や血管における合併症)の2点ではないでしょうか。耐術性は、合併疾患の状況はもちろん、“動ける度”(運動耐容能)で判定するのがポイント。決して心エコーの“EF”ではありませんよ(フレイル・寝たきりで手術がためらわれる方でも、左心機能が正常な方が多い)。今回のケースのように、高齢ではなく、心疾患の既往や思わせぶりな症状・徴候もなく 、そして何より心臓も血管もいじらない手術で「心血管系合併症が起きるのでは…」とリスクを考えるのは“杞憂”でしょう。誰も彼も術前“ルーチン”心電図を行うのは、ほとんど無意味で臨床判断に影響を与えないことは前回述べました。「どんな患者に術前心電図は必要なのでしょう?」「どんな所見なら問題視すべきでしょう?」このような問いかけに、アナタならどうしますか? Dr.ヒロならこうします。“心電図検査の妥当性はこれでチェック”ボクが術前コンサルトで心電図の相談を受けた時、参考にしているフローチャート(図2)を示します。(図2)術前心電図の要否をみるフローチャート画像を拡大するこれはもともと、術前心電図の要否を判断するものです。海外ではそもそも「検査すべきか・そうでないか」が重視されているんですね。ただ、日本では、“スクリーニング”的に術前心電図がなされるので、ボクはこれを利用して、コンサルトされた心電図に“意義がある”ものか“そうでない”ものかをまず考えます。ここでも、心電図を“解釈する”ための周辺情報として、心電図“以外”の情報とつけ合わせることが大切です。術前外来で言えば、患者さんの問診と診察ですね。一人の患者さんにかけられる時間は限られているので、術前外来で、ボクは以下の4つをチェックしています。“妥当性”からの判断◆心疾患の既往◆症状(symptom)・徴候(sign)◆手術自体のリスク(規模・侵襲性)◆Revised Cardiac Risk Index(RCRI)まず既往歴。これは心疾患を中心に聞きとります。続く2つ目は症状と症候です。症状は、ボクが考える心疾患の“5大症状”、1)動悸、2)息切れ、3)胸痛、4)めまい・ふらつき、5)失神を確認します。もちろん異論もあるでしょうし、100%の特異性はありません。1)や2)は年齢や運動不足、そのほかの理由で「ある」という人が多いですが、それが心臓病っぽいかそうでないかの判断には経験や総合力も必要です。あとは、聴診と下腿浮腫の症候を確認するだけにしています。聴診は心雑音と肺ラ音ね。この段階で心臓病の既往、症状や徴候のいずれかが「あり」なら、術前心電図をするのは妥当で、所見にも一定の“意義”が見込めます。でも、もし全て「なし」なら非特異的な所見である確率がグッと高くなるでしょう。次に手術リスクを考慮します。これは手術予定の部位(臓器)や所要時間、麻酔法、出血量などで決まるでしょう。リスト化してくれている文献*1もあります。これによると、心合併症の発生が1%未満と見込まれる低リスク手術(いわゆる“日帰り手術”や白内障、皮膚表層や内視鏡による手術など)の場合、心電図は「不要」なんです。一方、心合併症が5%以上の高リスク手術(大動脈、主要・末梢血管などの血管手術)なら、心電図は「必要」とされます。もともと、ベースに心臓病を合併しているケースも多いですし、その病態把握に加えて、術後に何か起きた時、術前検査が比較対象としても使えますからね。残るは、心合併症が1~5%の中リスク手術。全身麻酔で行われる非心臓手術の多くがここに該当します。今回の膝手術もまぁここかな。ここで、「RCRI:Revised Cardiac Risk Index」という指標*2を登場させましょう。非心臓手術における心合併症リスク評価の“草分け”として海外で汎用されているもの(図3)で、中リスク手術における術前心電図の妥当性が「あり」か「なし」を判定する重要なスコアなんです!(図3)Revised Cardiac Risk Index(RCRI)画像を拡大するRevised Cardiac Risk Index(RCRI)1)高リスク手術(腹腔内、胸腔内、血管手術[鼠径部上])*2)虚血性心疾患(陳旧性心筋梗塞、狭心痛、硝酸薬治療、異常Q波など)3)うっ血性心不全(肺水腫、両側ラ音・III音、発作性夜間呼吸困難など)4)脳血管疾患(TIAまたは脳卒中の既往)5)糖尿病(インスリン使用)6)腎機能障害(血清クレアチニン値>2mg/dL)*:RCRIでは血管手術以外に、胸腔・腹腔内の手術も含まれる点に注意1)のみ手術側、残り5つが患者側因子の計6項目からなり、ボクもこのページをブックマークしています(笑)。たとえば、全て「No」を選択すると、主要心血管イベントの発生率が「3.9%」と算出されます(注:2019年1月から数値改訂:旧版では「0.4%」と表示)。中リスク手術ならRCRIが1項目でも該当するかどうかがが大事ですが、今回の男性は全て「No」。つまり、チャートで「No ECG(術前心電図をする“意義はない”)」に該当しますから、たとえいくつか心電図所見があっても基本は重要視せず、これ以上の検査を追加する必要もないと判断してOKではないでしょうか。“active cardiac conditionの心電図か?”術前心電図としての妥当性の観点から、今回の症例は精査が不要そうです。では、仮にチャートで「ECG」(“意義あり”)となった時、2つ目のクエスチョン「問題視すべき所見は?」はどうでしょうか。患者さんは“非心臓”手術を受けるのが真の目的ですから、その前にボクらが“手出し”(精査や加療)するのは、よほどの緊急事態ととらえるのがクレバーです。そこでボクが重要視しているのは、“active cardiac condition”です。実はこれ、アメリカ(ACC/AHA)の旧版ガイドライン(2007)*3で明記されたものの、最新版(2014)*4では削除された概念なんです(わが国のガイドライン*5には残ってます)。active cardiac condition=緊急処置を要するような心病態、のような意味でしょうか。これを利用します。“緊急性”からの判断~active cardiac condition~(A)急性冠症候群(ACS)(B)非代償性心不全(いわゆる“デコった”状況)(C)“重大な”不整脈(房室ブロック、心室不整脈、コントロールされてない上室不整脈ほか)(D)弁膜症(重症AS[大動脈弁狭窄症]ほか)もちろん、ここでも心電図以外の検査所見も見て下さい。心電図の観点では、(A)や(C)の病態が疑われたら“激ヤバ”で、早急な対処、場合によっては手術を延期・中止する必要があります。既述のチャートで“全て「No」だった心電図”でも無視できず、むしろ、至急「循環器コール」です(まれですが術前にそう判明する患者さんがいます)。ただ、「左室肥大(疑い)」や「不完全右脚ブロック」などの波形異常の多くはactive cardiac conditionに該当せず、術前にあれこれ検索すべき所見ではありません。つまり、患者さんに対し、「手術を受けるのに、この心電図なら大丈夫」と“太鼓判”を押し、追加検査を「やらない」ほうがデキる医師だと示せるチャンスです!もちろん、コンサルティ(外科医)の意向もくんだ上で最終判断してくださいね。れっきとしたエビデンスがない分野ですが、このように自分なりの一定の見解を持っておくことは悪くないでしょう(気に入ってくれたら、今回の“Dr.ヒロ流ジャッジ”をどうぞ!)。今回のように必要ないとわかっていても、万が一で責任追及されては困ると“慣習”に従う形で、技師さんへ詫びながら心エコーを依頼する、そんな世の中が早く変わればいいなぁ。いつにも増して“熱く”なり過ぎましたかね(笑)。Take-home Message1)心電図所見に対して精査を追加すべきかどうかは、術前検査としての「妥当性」を考慮する2)Active Cardiac Conditionでなければ、非心臓手術より優先すべき検査・処置は不要なことが多い*1:Kristensen SD, et al.Eur Heart J.2014;35:2383-431.*2:Lee TH, Circulation.1999;100:1043-9.*3:Fleisher LA, et al.Circulation.2007;116:e418-99.*4:Fleisher LA, et al.Circulation.2014;130:e278-333.*5:日本循環器学会ほか:非心臓手術における合併心疾患の評価と管理に関するガイドライン2014年改訂版【古都のこと~天橋立~】「日本三景ってどこ?」松島、宮島、そして京都にある「天橋立」です。前回の京丹後の旅の帰りに寄りました。「オイオイ、っていうか写真、逆では?」とお思いでしょ? 実は、2016年のイグノーベル賞で有名になった“股のぞき効果”(股のぞきで眺めると、風景の距離感が不明瞭になり、ものが実際より小さく見える効果)を体験しながら撮影したんです。絶景に背を向け、股下から天橋立をのぞき込むと、そこは“天上世界”。海と空とが逆転し、天に舞い上がる龍のように見えるそうです(飛龍観)。ボクの想像力が豊かで、しかも、もっと雲が少なかったら…見えなくもないかな? ボクは天橋立ビューランドからでしたが、傘松公園バージョンもあるそうで。また今度行ってみようかなぁ。

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ハイリスク症例に絞って検討していたらどうだったのだろうか?(解説:野間重孝氏、下地顕一郎氏)-1005

 急性心筋梗塞においては、急性期緊急PCIが導入される前の院内死亡率は20%を超えていたが、PCIが導入されて以降、ほぼ確実に心表面の責任冠動脈を再灌流させることが可能となり、この疾患による急性期の死亡率は6%程度にまで劇的に改善した。しかし、昨年のCenko Eらによる報告でも、primary PCIを受けた群での急性期の死亡率は4%前半であり(JAMA Intern Med. 2018)、それ以上の目覚ましい改善は見られていない。微小循環障害の改善ができないことによって引き起こされると考えられる、急性期、慢性期の合併症の予防は、現在も解決できておらず、この問題が急性心筋梗塞のさらなる死亡率の改善を阻んでいるのではないかと考えられている。 微小循環障害には、distal embolization、再灌流障害、心筋浮腫などの機序が想定されている。このうちMcCartney PJらによる本論文では、手技中に冠動脈に由来するdistal embolizationを機序とした微小循環閉塞に着目し、PCIに低用量のアルテプラーゼを追加することで、これを予防することができるのか?という疑問を検証した。主要アウトカムは、試験開始後2~7日にコントラスト強調心臓MRIで評価した微小血管閉塞量(左室心筋体積に対する割合)が設定されたが、結果、手技中の20mg冠動脈内投与群とプラセボ群の間にも(3.5% vs.2.3%、p=0.32)、10mg冠動脈内投与群とプラセボ群の間にも(2.6% vs.2.3%、p=0.74)有意差は見られなかった。MACEはプラセボ群で10.1%、10mg投与群で12.9%、20mg投与群で8.2%であった。 これらの結果から、術中のアルテプラーゼ冠動脈投与の有用性は見られなかったというのが結論である。筆者らの問題意識については理解しつつも、評者らには微小循環障害を起こす可能性の高いハイリスク症例を選択的に検討するという方針がなかったことに不満が感じられた。 現状で急性心筋梗塞に対するPCI中の末梢塞栓を機序とした微小循環障害を予防する主な手段として概論すると、(1)本論文で論じられたアルテプラーゼなどによるfibrinolytic therapy、(2)血小板表面受容体のglycoprotein IIb/IIIaに対する特異的抗体であるabciximab、(3)血栓吸引デバイス、(4)末梢保護デバイスなどがある。現実には、これらの組み合わせの治療が現場では行われているため、本論文で検討されたfibrinolytic therapyに限定して論じることには無理があるので、やや長くなるが、以下これらを包括して概論してみたい。 末梢保護デバイスに関して評者らがここで強調したいのは、2005年のEMERALD試験から昨年のVAMPIRE 3試験に至るまでの流れである。これらの試験も同様に、手技中の冠動脈から由来するdistal embolizationを抑制することを念頭に、末梢保護デバイスの有用性を検討した試験である。以前、Stone GWらはSTEMIに対してルーチンで血栓吸引や末梢保護デバイスを使用して、有用性が得られなかったことを示した(EMERALD試験:JAMA. 2005)。この試験を根拠に、現行のガイドラインでは末梢保護デバイスのルーチンでの使用が推奨になっていない。 しかし一方では、Grube Eらは大伏在静脈グラフト(SVG)に対するPCIを対象とした試験で、末梢保護デバイスの有用性を示している(Am J Cardiol. 2002)。臨床的には、このようなno-reflow現象のハイリスク症例を選択して末梢保護デバイスを使用する有用性は、この間も認識されていた。とくに本邦では、各種imaging deviceの使用率が高いために、no-reflow現象のハイリスク症例を選択して末梢保護デバイスを使用する意義や有用性が認識されていたと思われる。 このような中で、横浜市立大学の日比 潔氏らによるVAMPIRE 3試験で、attenuated plaqueが5mm以上の長さにわたって存在する症例では、末梢保護デバイスが有用であることが報告された(JACC:Cardiovascular Intervention 2018)。この試験では、末梢保護デバイスを使用した群で、no-reflow現象の発生が有意に低く(26.5% vs.41.7%、p=0.026)、再灌流後のcorrected TIMI frame countが有意に低く(23 vs.30.5、p=0.0003)、再灌流後の心臓死、除細動/蘇生/ECMOの使用を要する心停止、心原性ショックの発生を有意に減じた(0% vs.5.2%、p=0.028)。 デバイスの使用の可否を画一的に判断するのではなく、ハイリスク症例を慎重に選択したうえで使用して合併症や有害事象を抑制するという判断は、われわれインターベンション医として臨床的に日常行っているところであり、これを裏付ける、非常に臨床の現状に即したデザインと結果である、というのが評者らの感想である。 この流れを振り返ると、McCartney PJらによる報告には、こうしたimaging deviceに関する記載はないことからも、アルテプラーゼによるfibrinolytic therapyにも、今後ハイリスク症例を選択して投与することで有用性が見いだされる可能性は十分にあるのではないかと考えられる。 glycoprotein IIb/IIIaに対する特異的抗体であるabciximabは、本邦では未承認だが、LAD近位部から中間部のSTEMIに対して、abciximab冠動脈内投与と血栓吸引デバイスの有用性を検討した研究が、2012年に前出のStone GWらから報告されている。この報告では、abciximab冠動脈内投与群と非投与群で有意差を観察したものの(15.1% vs.17.1%、p=0.03)、血栓吸引デバイスには有意差がなかった(17.0% vs.17.3%、p=0.51)。 これらの結果を踏まえると、インターベンション医が急性心筋梗塞の患者を目の前にして、PCI手技に際する微小循環閉塞を予防し、急性期、慢性期の予後を改善するためにできることは、まず必ずimaging deviceを用いてハイリスク症例を認識することである。本邦では残念ながらabciximabは使用できないが、その代わりimaging deviceをルーチンで使用可能である。ハイリスク症例であれば、末梢保護デバイスをはじめとした可能な手段を講じることが肝要で、決して不十分なアセスメントのもとに治療を開始してはいけない、と評者らは考えている。 ちなみに、前述のVAMPIRE 3試験に対して同誌にletter to the editorの項で出された反論は、そもそも末梢保護デバイスは世界的にみて“common”ではない、IVUSをみる前に行う血栓吸引やバルーン拡張でプラーク形態が変わるので評価はできない、などのやや感情的な内容であった。欧米では術前CTや術中imaging deviceに関して本邦ほど寛容ではない印象があり、PCIに関する臨床研究やそれらを根拠としたガイドラインも、その傾向は否めない。「ガイドライン」に準じて、すべての症例に画一的に末梢保護デバイスは意味がない、と切り捨てていたとすれば、これは誤りであったことをVAMPIRE 3試験が示している。 ACSに限らず待機的症例を含めたすべてのPCIにおいて、画一的に治療法やデバイスを選択するのではなく、症例ごとに可能なアセスメントを行い、症例ごとに最適な方法やデバイスを選択することが肝要である。当院でも可能な限り、そのような方針のもとで治療に当たっているのが現状である。

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高齢者HER2陽性乳がんに、安全かつ有効な化学療法を…JCOG1607(HERB TEA)【Oncologyインタビュー】第1回

抗HER2療法によってHER2陽性乳がんの生命予後は大きく改善した。しかし、高齢者のHER2陽性乳がんに対するエビデンスは少ない。そのような中、高齢の進行HER2陽性乳がんに対する毒性の軽い、新たな1次治療としてのTDM-1を評価するHERB TEA (JCOG1607)Studyが開始された。HERB TEA Studyの研究事務局である国立がん研究センター中央病院 乳腺・腫瘍内科 下村 昭彦氏に聞いた。試験を行った背景はどのようなものですか。日本の女性の平均寿命は87歳、乳がん患者の年齢も高くなっています。しかし、高齢者乳がんを対象とした臨床試験はとても少数です。HER2陽性乳がんは高齢者では若年と比較して少なく、高齢者を対象とした治療法の開発が行われていませんでした。HERB TEA Studyは、このHER2陽性進行乳がんを対象にしています。現在のHER2陽性乳がんの標準治療はHPD(トラスツズマブ+ペルツズマブ+ドセタキセル)療法で、高齢者でもこれがスタンダードです。HPDには、CLEOPATRAstudy1)という pivotal試験がありますが、この試験には65歳以上の高齢者が15%しか含まれておらず安全性が十分に評価されたとはいえません。しかし、サブ解析をみると、高齢者ではドセタキセルの投与回数や投与量が少ないことが示されています。さらに、アジア人では毒性が強く出ることが示されています。つまり、HPD療法は、アジア人の高齢者という対象に限ると、毒性面で適用しにくいケースがあるということが示唆されます。一方、2次治療以降でキードラッグになっているT-DM1には、毒性が軽いという特徴があります。高齢者はさまざまな合併症を有しており、がんだけで亡くなるわけではありません。また、有害事象の強い治療が入ることでQOLが低下することもあります。実臨床では、T-DM1を高齢者に投与した際でも、有害事象を理由に継続できない方は非常に少ないです。T-DM1が1次治療で使えるようになると、患者さんにとっては、より有害事象が軽い治療を選択しやすくなります。しかし、T-DM1とHPD療法を比較した試験はありません。このような背景から、高齢HER2陽性乳がんにおけるT-DM1とHPD療法の直接比較試験JCOG1607(HERB TEA)を開始しました。試験デザインについて教えてください。JCOG1607試験はHPD療法に対するT-DM1の非劣性を評価するランダム化比較第III相試験です。サンプルサイズは330例、対象は65~79歳の進行HER2陽性乳がん患者です。現在、年齢の上限を撤廃するプロトコール改訂を予定しています。登録患者は、試験群のT-DM1とコントロール群のHPD療法にランダムに割り付けされ、毒性中止か増悪まで治療します。なお、オリジナルのHPDのドセタキセルは75mg/m2ですが、この試験では安全を保つため、1コース目は60mg/m2でスタートし、毒性面で問題なければ2コース目から75mg/m2に増量します。実施可能な患者にはしっかりした治療が入り、毒性が強く出る患者には少ない用量の治療が入るデザインです。この試験が成功した場合、どのようことが実臨床にもたらされますか。HER2陽性乳がんの薬剤は数多く開発されています。しかし、その中で毒性が軽い薬剤は多くありません。一方、T-DM1はNCCNガイドラインではHPD療法に耐えられない、あるいは禁忌の患者さんに対するオプションとして推奨されています。HPD療法との直接比較で非劣性が証明されれば、高齢者における毒性の軽い標準治療の1つとして長く確立されることになるでしょう。読者の方にメッセージを高齢のHER2陽性乳がん患者は非常に少なく、JCOG施設であっても年間2~3例程度です。しかし、全国的にみればかなりの数の患者さんがおられると思います。JCOG参加施設は全国にありますので、HPDかT-DM1か迷う患者さんがおられる場合、ぜひJCOGの参加施設に紹介いただければと思います。臨床試験の元で治療を行っていただくことが、将来の患者さんへの貴重なエビデンスとなります。HERB TEA (JCOG1607)Study高齢者HER2陽性進行乳がんに対するT-DM1の臨床的有用性(全生存期間における非劣性)を標準療法であるHPD療法と比較する。多施設ランダム化比較第III相試験対象:69歳以上のHER2陽性進行乳がん患者(抗HER2療法未治療)試験薬:T-DM1 3.6mg/kg 3週ごと増悪まで対象薬:HPD療法(トラスツズマブ6mg/kg[初回8mg/kg]、ペルツズマブ 420mg[初回840mg]、ドセタキセル60mg/m2[増量規準満たす場合2コース目から75mg/m2]主要評価項目:全生存期間副次評価項目:無増悪生存期間、乳がん特異的死亡割合、奏効割合、安全性、高齢者機能評価など※HERB TEA (JCOG1607)Study:Shimomura A,Tamura K, Mizutani T, et al. A phase III study comparing trastuzumab emtansine with trastuzumab, pertuzumab, and docetaxel in elderly patients with advanced stage HER2-positive breast cancer (JCOG1607 HERB TEA study). Ann Oncol. 2018;29(8). doi: 10.1093/annonc/mdy272.349.1)Swain SM, eet al.N Engl J Med. 2015;372:724-734.

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