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第15回 薬剤投与後の意識消失、原因は?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)アナフィラキシーはいつでも起こりうることを忘れずに!2)治療薬はアドレナリン! 適切なタイミング、適切な投与方法で!3)“くすりもりすく”を常に意識し対応を!【症例】62歳女性。数日前から倦怠感、発熱を認め、自宅で様子をみていたが、食事も取れなくなったため、心配した娘さんと共に救急外来を受診した。意識は清明であるが、頻呼吸、血圧の低下を認め、悪寒戦慄を伴う発熱の病歴も認めたため、点滴を行いつつ対応することとした。精査の結果、「急性腎盂腎炎」と診断し、全身状態から入院適応と判断し、救急外来で抗菌薬を投与し、病床の調整後入院予定であった。しかし、抗菌薬を投与し、付き添っていたところ、反応が乏しくなり、血圧低下を認めた。どのように対応するべきだろうか?●抗菌薬投与後のバイタルサイン意識10/JCS血圧88/52mmHg脈拍112回/分(整)呼吸28回/分SpO297%(RA)体温38.9℃瞳孔3/3mm+/+既往歴高血圧内服薬アジルサルタン(商品名:アジルバ)、アトルバスタチン(同:リピトール)アナフィラキシーの認識本症例の原因、これはわかりやすいですね。抗菌薬投与後に血圧低下を認める点から、アナフィラキシーであることは、誰もが認識できると思いますが、「アナフィラキシーであると早期に認識すること」が非常に大切であるため、いま一度整理しておきましょう。アナフィラキシーとは、「アレルゲンなどの侵入により、複数臓器に全身性のアレルギー症状が惹起され、生命に危機を与えうる過剰反応」と定義されます。また、アナフィラキシーショックとは、それに伴い血圧低下や意識障害を伴う場合とされます1)。アナフィラキシーの診断基準は表1のとおりですが、シンプルに言えば、「食べ物、蜂毒、薬などによって皮膚をはじめ、複数の臓器に何らかの症状が出た状態」と理解すればよいでしょう。表2が代表的な症状です。皮膚症状は必ずしも認めるとは限らないこと、消化器症状を忘れないことがポイントです。そして、本症例のような意識消失の原因がアナフィラキシーであることもあるため注意しましょう。表1 アナフィラキシーの診断基準画像を拡大する表2 アナフィラキシーの症状と頻度画像を拡大するアナフィラキシーの初期対応-注射薬によるアナフィラキシーは「あっ」という間!アナフィラキシー? と思ったら、迷っている時間はありません。とくに、抗菌薬や造影剤など、経静脈的に投与された薬剤によってアナフィラキシーの症状が出現した場合には、進行が早く「あっ」という間にショック、さらには心停止へと陥ります。今までそのような経験がない方のほうが多いと思いますが、本当に「あっ」という間です。万が一の際に困らないように確認しておきましょう。一般的に、アナフィラキシーによって、心停止、呼吸停止に至るまでの時間は、食物で30分、蜂毒で15分、薬剤で5分程度と言われていますが、前述のとおり、経静脈的に投与された薬剤の反応はものすごく早いのです4)。アドレナリンを適切なタイミングで適切に投与!アナフィラキシーに対する治療薬は“アドレナリン”、これのみです! 抗ヒスタミン薬やステロイドを使う場面もありますが、どちらも根本的な治療薬ではありません。とくに、本症例のように、注射薬によるアナフィラキシーの場合には、重症化しやすく、早期に対応する必要があるため、アドレナリン以外の薬剤で様子をみていては手遅れになります。ちなみに、「前も使用している薬だから大丈夫」とは限りません。いつでも起こりうることとして意識しておきましょう。日本医療安全調査機構から『注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析』が平成30年1月に報告されました。12例のアナフィラキシーショックによる死亡症例が分析されていますが、原因として多かったのが、造影剤、そして抗菌薬でした。また、どの症例もアナフィラキシーを疑わせる症状が出てからアドレナリンの投与までに時間がかかってしまっているのです5)。アドレナリンの投与を躊躇してしまう気持ちはわかります。アドレナリンというと心肺停止の際に用いるもので、あまり使用経験のない人も多いと思います。しかし、アナフィラキシーに関しては、治療薬は唯一アドレナリンだけです。正しく使用すれば恐い薬ではありません。どのタイミングで使用するのか、どこに、どれだけ、どのように投与するのかを正確に頭に入れておきましょう。アドレナリンの投与のタイミングアドレナリンは、皮膚症状もしくは本症例のように明らかなアレルゲンの曝露(注射薬が代表的)があり、そのうえで、喉頭浮腫や喘鳴、呼吸困難感などのairwayやbreathingの問題、または血圧低下や失神のような意識消失などcirculationの問題、あるいは嘔気・嘔吐、腹痛などの消化器症状を認める場合に投与します。大事なポイントは、造影剤や抗菌薬などの投与後に皮膚症状がなくても、呼吸、循環、消化器症状に異常があったら投与するということです。アドレナリンの投与方法アドレナリンは大腿外側広筋に0.3mg(体型が大きい場合には0.5mg)筋注します。肩ではありません。皮下注でも、静注でもありません。正しく打てば、それによって困ることはまずありません。皮下注では効果発現に時間がかかり、静注では頻脈など心臓への影響が大きく逆効果となります。まずは筋注です!さいごに抗菌薬、造影剤などの薬剤は医療現場ではしばしば使用されます。もちろん診断、治療に必要なために行うわけですが、それによって状態が悪化してしまうことは、極力避けなければなりません。ゼロにはできませんが、本当に必要な検査、治療なのかをいま一度吟味し、慎重に対応することを心掛けておく必要があります。救急の現場など急ぐ場合もありますが、どのような場合でも、常に起こりうる状態の変化を意識し、対応しましょう。1)日本アレルギー学会 Anaphylaxis対策特別委員会. アナフィラキシーガイドライン. 日本アレルギー学会;2014.2)Sampson HA, et al. J Allergy Clin Immunol. 2006;117:391-397.3)Joint Task Force on Practice Parameters, et al. J Allergy Clin Immunol. 2005;115:S483-523.4)Pumphrey RS. Clin Exp Allergy. 2000;30:1144-1150.5)日本医療安全調査機構. 医療事故の再発防止に向けた提言 第3号 注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析. 日本医療安全調査機構;2018.

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臨床的うつ病の補完代替療法~メタ解析

 うつ病に対する補完代替療法(CAM)の治療戦略や推奨事項は、臨床ガイドラインによって大きく異なる。ドイツ・デュースブルク・エッセン大学のHeidemarie Haller氏らは、臨床診断を受けたうつ病患者へのCAMに関するレベル1のエビデンスをシステマティックにレビューした。BMJ Open誌2019年8月5日号の報告。 2018年6月までのランダム化比較試験(RCT)のメタ解析を、PubMed、PsycInfo、Centralより検索した。うつ病の重症度、治療反応、寛解、再発、有害事象をアウトカムに含めた。エビデンスの質は、RCTおよびメタ解析などの方法論的質を考慮し、GRADEに基づいて評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・2002~18年に26件のメタ解析が実施されていた。・軽度~中等度のうつ病患者では、プラセボと比較し、セイヨウオトギリソウ(St. John's wort)の有効性が示唆された。さらに、セイヨウオトギリソウは、うつ病の重症度および治療反応に対する標準的な抗うつ薬治療との比較で有効性が示唆され、有害事象の有意な減少が認められた(エビデンスの質:中程度)。・再発うつ病患者では、うつ病の再発予防において、マインドフルネス認知療法が標準的な抗うつ薬治療よりも優れていることが示唆された(エビデンスの質:中程度)。・他のCAMに関するエビデンスは、エビデンスの質が低いまたは非常に低かった。 著者らは「2つを除き、臨床的うつ病に対するCAMは、エビデンスの質が低いまたは非常に低いことが示された。エビデンスは、主に元となるRCTやメタ解析の回避可能な方法論的欠陥のため、システマティックレビューおよびメタアナリシスのための優先的報告項目の基準に合致しないことから格下げする必要があり、さらなる研究が必要とされる」としている。

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HFrEF患者、降圧薬の至適用量に性差/Lancet

 駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者では、ACE阻害薬やARB、β遮断薬の至適用量に性差があり、女性患者は男性患者に比べ、これらの薬剤の用量を減量する必要があることが、オランダ・フローニンゲン大学医療センターのBernadet T. Santema氏らが実施したBIOSTAT-CHF試験の事後解析で明らかとなった。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2019年8月22日号に掲載された。ACE阻害薬、ARB、β遮断薬の薬物動態には性差があることが知られているが、ガイドラインで推奨されているこれらの薬剤の用量は、HFrEFの男女でほぼ同量だという。左室駆出率が低下した心不全患者で仮説を検証 研究グループは、HFrEF患者におけるACE阻害薬、ARB、β遮断薬の至適用量には性差が存在するとの仮説を検証する目的で、BIOSTAT-CHF試験の事後解析を行った(欧州委員会[EC]の助成による)。 BIOSTAT-CHF試験は、プロトコールによってACE阻害薬、ARB、β遮断薬の投与開始または漸増が推奨される心不全患者を対象とした前向き観察研究で、欧州の11ヵ国が参加し、2010~12年に患者登録が行われた。今回の事後解析には、左室駆出率<40%の患者のみが含まれ、試験開始から3ヵ月以内に死亡した患者は除外された。 主要評価項目は、全死因死亡および心不全による入院までの期間の複合とした。得られた知見は、アジアの11地域が参加した前向き観察研究であるASIAN-HF試験(男性3,539例、女性961例)のデータを用いて妥当性の検証が行われた。β遮断薬は推奨用量の60%、ACE阻害薬/ARBは40%が至適 HFrEF患者1,710例(男性1,308例、女性402例)が解析に含まれた。女性患者は男性患者よりも、ベースラインの平均年齢が高く(74[SD 12]歳vs.70[12]歳、p<0.0001)、体重が軽く(72[16]kg vs.85[18]kg、p<0.0001)、身長が低かった(162[7]cm vs.174[8]cm、p<0.0001)が、BMIに差はなかった(27.3[5.8]vs.27.9[5.2]、p=0.06)。 ガイドラインで推奨された目標用量へ到達した患者の割合は、ACE阻害薬/ARB(女性99例[25%]vs.男性304例[23%]、p=0.61)およびβ遮断薬(57例[14%]vs.168例[13%]、p=0.54)のいずれにおいても、男女間に差は認めなかった。 β遮断薬は、女性ではU字型のリスク曲線が示され、推奨される目標用量の約60%が至適用量であり、男性は推奨用量の30%と100%でリスクが最も低かった。ACE阻害薬/ARBは、女性では推奨用量の約40%で複合エンドポイントのリスクが最も低く、それ以上増量してもリスクは低下しなかったのに対し、男性は推奨用量の100%投与で最もリスクが低かった。これらの性差は、年齢や体表面積などの臨床的な共変量で補正しても存在していた。 ASIAN-HF試験のコホートは男女とも、BIOSTAT-CHF試験に比べ年齢が若く、体重が軽く身長が低かった。アジア人女性では、β遮断薬の用量と複合エンドポイントの関連は3次スプライン曲線を描き、推奨用量の40~50%でリスクが急激に低下し、それ以上増量してもリスクは低下しなかったのに対し、男性では推奨用量の100%を投与した場合にリスクが最も低かった。ACE阻害薬/ARBは、アジア人女性では推奨用量の約60%でリスクが最も低く、60%以上に増量してもそれ以上の保護効果を認めなかった。男性では、ACE阻害薬/ARBは推奨用量の50%以上を投与しないとほとんど効果はなく、用量の全体を通じて複合エンドポイントのリスクが女性よりも高かった。 著者は、「これらの知見は、女性患者にとって真に至適な薬物療法とは何かという疑問をもたらす。他の心血管疾患領域でも同様の調査を行う必要がある」としている。

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卵巣がんに対するBRCA1/2遺伝子検査、日本初の大規模研究

 遺伝性乳がん・卵巣がんの発症には、乳がん感受性遺伝子(BRCA遺伝子)の変異が大きく関わっている。アストラゼネカ株式会社が開催したメディアセミナー(共催)にて、吉原 弘祐氏(新潟大学 医学部産婦人科学教室 助教)が、生殖細胞系列BRCA(gBRCA)1/2>遺伝子変異の保有率に関する日本初の大規模調査であるJAPAN CHARLOTTE STUDY(以下、本研究とする)に関して、解説した。認定遺伝カウンセラー不足とその弊害 BRCA1、BRCA2はDNAの組み換え修復などの機能を有し、両親のどちらかがBRCA1あるいは2に病的変異がある場合、50%の確率で子に受け継がれる。その変異は卵巣がんなどの発症率を増加させるため、患者本人だけでなくその家族にも影響を与えうる。そのため遺伝子検査にあたっては、認定遺伝カウンセラー等によるカウンセリングが重要となる。 欧米ではガイドラインで、BRCA1/2遺伝子検査の実施を推奨しているが、日本では日常的に遺伝子検査を行う環境が整っていない。実際に、検査結果の説明などを担当する認定遺伝カウンセラーの数は全国で243人(2018年12月時点)にとどまっており、著しく不足している。また、カウンセラー不在の県もあるなど、地域にも偏りがある。 環境が整っていない日本では、卵巣がん患者におけるgBRCA1/2変異頻度に関するまとまったデータがきわめて少なかった。このような状況の中で行われた本研究は、日本初のBRCA1/2遺伝子変異に関する大規模調査である。日本初の大規模研究(JAPAN CHARLOTTE STUDY) 本研究では、日本人新規卵巣がん患者、約600例のgBRCA1/2変異陽性率とgBRCA1/2遺伝子検査前のカウンセリングに対する満足度を評価した。 gBRCA1/2変異陽性率は14.7%であり、欧米人を対象とした過去の研究報告と同程度であった。これまで、日本人のgBRCA1/2変異率は欧米人よりも低いという見方もある中で、注目すべき結果といえよう。また、gBRCA1/2変異は進行期のがんで見られることが多い。本試験においても進行卵巣がんの患者ではgBRCA1/2変異陽性率が24.1%と、早期卵巣がんよりも変異陽性率が高かった。 検査前のカウンセリングに対する満足度は、実施者の職種にかかわらず同等だったものの、検査結果がgBRCA1/2変異陽性もしくはVUSの場合、検査後のカウンセリングは全例、認定遺伝カウンセラーもしくは認定遺伝専門医が担当していた。認定遺伝カウンセラーの「ホスピタリティー」は、デリケートな内容を患者に告知する際にとても重要であるという。現状、臨床現場では遺伝子検査の結果を医師が患者に説明するケースが多いが、他の業務に追われる中で、医師がホスピタリティーにまで気を配ることは難しいケースが多々あるのではないだろうか。遺伝子検査が実施できる環境の整備 BRCA1/2陽性例にリスク低減卵管卵巣摘出術を実施した場合、実施していない場合と比べて、卵巣がんの発症率が80%低下し、全生存期間が有意に延長する。そのためBRCA1/2遺伝子検査を実施することでがんを予防できたり、治療の選択肢が増えたりするケースもあると考えられる。 卵巣がんを克服するために、治療の進歩は非常に重要であるが、それだけでなく、認定遺伝カウンセラーの育成など、遺伝子検査が実施できる環境を整えることも重要になってくるのではないだろうか。

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小児・思春期2型糖尿病患者におけるGLP-1受容体作動薬の有用性と安全性(解説:吉岡成人氏)-1111

 2019年6月、米国食品医薬品局(FDA)は10歳以上の2型糖尿病患者に対してGLP-1受容体作動薬であるリラグルチドの適応を承認した。米国において小児2型糖尿病治療薬が承認されるのは、2000年のメトホルミン以来のことである。 わが国における『糖尿病診療ガイドライン2016』(日本糖尿病学会編・著)には、小児・思春期における2型糖尿病の治療薬について、メトホルミン(10歳以上)とグリメピリドを除いた薬剤は「『小児などに対する安全性は確立していない』ことを本人ならびに保護者に伝え、使用に際しては説明に基づいた同意を得るようにする」と記載されている。 NEJM誌8月15日号に、基礎インスリンの併用の有無を問わず、メトホルミンによる治療を受けている小児・思春期2型糖尿病患者にリラグルチドを追加投与することの有用性について検討した成績が発表されている(Tamborlane WV, et al. N Engl J Med. 2019;381:637-646.)。10~16歳の患者135例を、リラグルチドを最大1.8mg/日まで追加投与する群とプラセボ群に分け、26週間二重盲検試験を行い、その後、非盲検試験として26週間延長して追跡を行っている。リラグルチド投与群では26週でHbA1cが0.64ポイント低下し、プラセボ群では0.42ポイント上昇しており、その差は-1.06ポイント、52週では群間の差が-1.30ポイントとなった。リラグルチド投与群では、嘔気、嘔吐、下痢など消化器系の有害事象が投与開始8週目までに多かったものの、小児・思春期糖尿病患者においてGLP-1受容体作動薬を併用することの血糖コントロール改善に対する有用性が確認されたと結論付けている。 2型糖尿病では経年的に膵β細胞の容積が減少し、それに伴い、インスリン分泌能が低下する。その要因として、膵β細胞のアポトーシスや分化転換(trans-differentiation)が関与していると想定されている。膵β細胞が脱分化し、α細胞などの非β細胞に分化するのではないかというのである。マウスのデータではあるが、GLP-1が膵α細胞を分化転換させ、膵β細胞を新生させるという実験成績もある(Lee YS, et al. Diabetes. 2018;67:2601-2614.)。膵細胞の分化転換に重要な役割を担っていると推定されるGLP-1 の受容体は多くの臓器に存在している。さまざまな臓器においてGLP-1受容体を長期にわたって刺激することの安全性は確立されておらず、膵腫瘍の発生リスクに関しても一定の結論は得られていない。 臨床の現場において、新たに、有用性が高い革新的な治療を行うことは重要であろうが、保守的であっても、安全性の高い医療を心掛ける姿勢も忘れてはならないのではなかろうか。

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家族性高コレステロール血症の基礎知識

 8月27日、日本動脈硬化学会は、疾患啓発を目的に「家族性高コレステロール血症」(以下「FH」と略す)に関するプレスセミナーを開催した。 FHは、単一遺伝子疾患であり、若年から冠動脈などの狭窄がみられ、循環器疾患を合併し、予後不良の疾患であるが、診療が放置されている例も多いという。 わが国では、世界的にみてFHの研究が進んでおり、社会啓発も広く行われている。今回のセミナーでは、成人と小児に分け、本症の概要と課題が解説された。意外に多いFHの患者数は50万人超 はじめに斯波 真理子氏(国立循環器病研究センター研究所 病態代謝部)を講師に迎え、成人FHについて疾患の概要、課題について説明が行われた。FHは大きくヘテロ結合体とホモ結合体に分類できる。 FHのヘテロ結合体は、LDL受容体遺伝子変異により起こり、200~500例に1例の頻度で患者が推定され、わが国では50万人以上とされている。生来LDL-C値が高い(230~500mg/dL)のが特徴で、40代(男性平均46.5歳、女性平均58.7歳)で冠動脈疾患などを発症し、患者の半数以上がこれが原因で死亡する。 診断では、(1)高LDL-C血症(未治療で180mg/dL以上)、(2)腱黄色腫あるいは皮膚結節性黄色腫、(3)FHあるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(2親等以内)の3項目中2項目が確認された場合にFHと診断する。 また、診断では、LDL-C値に加えて、臨床所見ではアキレス腱のX線画像が特徴的なこと(アキレス腱厚をエコーで測定することも有用)、角膜輪所見が若年からみられること、家族に高コレステロール血症や冠動脈疾患患者がみられることなど、詳細なポイントを説明するとともに、診断のコツとして「『目を見つめ よく聴き、話し 足触る』ことが大切」と同氏は強調した。 FH患者は、健康な人と比較すると、約15年~20年早く冠動脈疾患を発症することから、早期より厳格な脂質コントロールが必要となる。 本症の治療フローチャートでは、生活習慣改善・適正体重の指導と同時に脂質降下療法を開始し、LDL-C管理目標値を一次予防で100mg/dL未満あるいは治療前の50%未満(二次予防70mg/dL未満)にする。次に、スタチンの最大耐用量かつ/またはエゼチミブ併用し、効果が不十分であればPCSK9阻害薬エボロクマブかつ/またはレジンかつ/またはプロブコール、さらに効果が不十分であればLDL除去療法であるLDLアファレシスを行うとしている。医療者も社会も理解しておくべきFHの病態 次に指定難病であるホモ結合体について触れ、本症の患者数は100万例に1例以上と推定され、本症の所見としてコレステロール値が500~1,000mg/dL、著明な皮膚および腱黄色腫があると説明を行った。確定診断では、LDL受容体活性測定、LDL受容体遺伝子解析で診断される。 治療フローチャートでは、ヘテロ受容体と同じように生活習慣改善・適正体重の指導と同時に脂質降下療法を開始し、LDL-C管理目標値を一次予防で100mg/dL未満(二次予防70mg/dL未満)にする。次に、第1選択薬としてスタチンを速やかに最大耐用量まで増量し、つぎの段階ではエゼチミブ、PCSK9阻害薬エボロクマブ、MTP阻害薬ロミタピド、レジン、プロブコールの処方、または可及的速やかなるLDLアファレシスの実施が記載されている。ただ、ホモ結合体では、スタチンで細胞内コレステロール合成を阻害してもLDL受容体の発現を増加させることができず、薬剤治療が難しい疾患だという。その他、本症では冠動脈疾患に加え、大動脈弁疾患も好発するので、さらに注意する必要があると同氏は指摘する。 最後に同氏は「FHは、なるべく早く診断し、適切な治療を行うことで、確実に予後を良くすることができる。そのためには、本症を医療者だけでなく、社会もよく知る必要がある。とくにFHでPCSK9阻害薬の効果がみられない場合は、LDL受容体遺伝子解析を行いホモ接合体を見つける必要がある。しかし、このLDL受容体遺伝子解析が現在保険適応されていないなど課題も残されているので、学会としても厚生労働省などに働きかけを行っていく」と展望を語り、説明を終えた。小児の治療では成長も加味して指導が必要 続いて土橋 一重氏(山梨大学小児科、昭和大学小児科)が、次のように小児のFHについて解説を行った。 小児のヘテロ接合体の診断では、「(1)高LDL-C血症(未治療で140mg/dL以上、総コレステロール値が220mg/dL以上の場合はLDL-Cを測定する)、(2)FHあるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(2親等以内)の2項目でFHと診断する(小児の黄色腫所見はまれ)」と説明した。また、「小児では、血液検査が行われるケースが少なく、本症の発見になかなかつながらない。採血の機会があれば、脂質検査も併用して行い、早期発見につなげてほしい」と同氏は課題を指摘した。 治療では、確定診断後に早期に生活習慣指導を行い、LDL-C値低下を含めた動脈硬化リスクの低減に努め、効果不十分な場合は10歳を目安に薬物療法を開始する。 とくに生活習慣の改善は、今後の患児の成長も考慮に入れ、できるだけ早期に食事を含めた生活習慣について指導し、薬物療法開始後も指導は継続する必要がある。食事療法について、総摂取量は各年齢、体格に応じた量とし、エネルギー比率も考慮。具体的には、日本食を中心とし、野菜を十分に摂るようにする。また、適正体重を維持し、正しい食事習慣と同時に運動習慣もつける。そして、生涯にわたる禁煙と周囲の受動喫煙も防止することが必要としている。 薬物療法を考慮する基準として、10歳以上でLDL-C値180mg/dL以上が持続する場合とし、糖尿病、高血圧、家族歴などのリスクも考える。第1選択薬はスタチンであり、最小用量より開始し、肝機能、CK、血清脂質などをモニターし、成長、二次性徴についても観察する。 管理目標としては、LDL-C値140mg/dLとガイドラインでは記載されているが、とくにリスク因子がある場合は、しっかりと下げる必要があるとされているとレクチャーを行った。

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中高年の早期死亡リスクに座位時間が影響/BMJ

 若年死亡のリスクは、強度を問わず身体活動度が高いほど低く、また、座位時間が短いほど低いことが、ノルウェー・Norwegian School of Sport SciencesのUlf Ekelund氏らによるシステマティック・レビューとメタ解析で明らかにされた。いずれも、中高年成人では、非線形の用量反応の関連パターンが認められたという。身体活動度は、多くの慢性疾患や若年死亡と関連しており、座位時間が長いほどそのリスクが増す可能性を示すエビデンスが増えつつある。しかし、現行の身体活動ガイドラインは、妥当性に乏しい自己報告の試験に基づいているため、報告されている関連性の大きさは、過小評価されている可能性があり、また、用量反応の形状、特に軽強度身体活動は明らかになっていなかった。BMJ誌2019年8月21日号掲載の報告。2018年7月までに公表の試験をレビューし解析 研究グループは、PubMed、PsycINFO、Embase、Web of Science、Sport Discusのデータベースを基に、2018年7月までに発表された試験について、システマティック・レビューとメタ解析を行った。対象は、身体活動度や座位時間について加速度測定法で評価し、全死因死亡率との関連を評価した前向きコホート試験で、ハザード比やオッズ比、相対リスクを95%信頼区間(CI)とともに求めたものとした。解析の手法は、システマティック・レビューとメタ解析に関するガイドラインや、PRISMAガイドラインにのっとった。執筆者2人がそれぞれタイトルと要約をスクリーニングし、1人が全文のレビューを、もう1人がデータを抽出した。バイアスリスクは2人がそれぞれ評価した。 参加者個人レベルのデータを、複数の補正後モデルを用いた試験で集約・解析した。身体活動のデータは4つに分類し、全死因死亡率(主要評価項目)との関連についてCox比例ハザード回帰分析を用いて解析。ランダム効果メタ解析により試験に特異的な結果を要約した。軽強度身体活動でも、死亡率は約0.4倍まで低下 検索により全文レビューとなった39試験のうち、包含基準を満たしたのは10試験だった。うち3試験はデータの集約が困難(加速度計が手首タイプなど)のため、さらに1件は非参加のため除外された。代わりに、死亡率未公表のデータを含む2試験を包含し、計8試験の個人データを解析した。被験者総数は3万6,383例、平均年齢62.6歳、女性は72.8%だった。追跡期間の中央値は5.8年(範囲:3.0~14.5)で、死亡は2,149例(5.9%)だった。 身体活動はその強度にかかわらず死亡率の低下に関連しており、非線形用量反応が認められた。死亡に関するハザード比は、身体活動度の最も低い第1四分位群(参照群、1.00)に比べ、第2四分位群0.48(95%CI:0.43~0.54)、第3四分位群0.34(0.26~0.45)、身体活動度が最も高い第4四分位群は0.27(0.23~0.32)だった。 同様に軽強度身体活動では、第1四分位群に比べ、第2四分位群0.60(95%CI:0.54~0.68)、第3四分位群0.44(0.38~0.51)、第4四分位群0.38(0.28~0.51)だった。中強度~高強度身体活動では、それぞれ0.64(0.55~0.74)、0.55(0.40~0.74)、0.52(0.43~0.61)だった。 座位時間と死亡に関するハザード比についてみると、第1四分位群(参照群、1.00)に比べ、第2四分位群1.28(95%CI:1.09~1.51)、第3四分位群1.71(1.36~2.15)、第4四分位群2.63(1.94~3.56)だった。

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第2回 心房細動の早期発見、プライマリケア医の協力が不可欠

循環器疾患に関連した学会は数多く存在するが、そのなかでも教育活動に力を注いでいるのが日本心臓病学会である。9月13~15日の学術集会開催を前に、本学会の教育委員長を務める清水 渉氏(日本医科大学大学院医学研究科循環器内科学分野 大学院教授)が本学会の強みについて語った。若手医師、非専門医への心臓病診療の普及を目指すプライマリケアの現場で診療される先生方の患者には、糖尿病や脂質異常症を合併している方や高齢者が多くいらっしゃるのではないでしょうか。近年、心房細動と心原性脳梗塞の発症数は増加傾向にあります。どちらもQOLを低下させ、健康寿命を縮める要因になります。CKDや睡眠時無呼吸症候群などの既往がある患者で発症しやすい心房細動は、不整脈の1つです。国内では100万人もの患者が存在し、高齢者では10~20人に1人が発症しています。これ自体は命に関わるような危険な不整脈ではありませんが、長生きすることで心不全へ発展してしまうため、大きな問題になっています。高齢者の心房細動発症者は自覚症状に乏しく「疲れやすい」「動けないのは歳のせい」などの表現をする患者もいるため、早期発見が難しく、80~90歳代の患者が心不全を発症して、緊急搬送される事例もあります。また、心原性脳梗塞の患者の場合、治療により症状が安定すれば抗凝固療法を継続した状態で退院します。とくに高齢者の場合は、脳梗塞予防として抗凝固療法の長期継続が必要になるため、退院後のフォローにはプライマリケア医の協力、つまり、病診連携が頼みの綱となるわけです。このような現状を踏まえ、高齢者や合併症を有する患者を抱える非専門医の方々にも、心房細動などの自覚症状を見極める能力や問診力を培っていただける、診断や治療に役立つ知識を共有してもらえるように、日本心臓病学会では教育講演などの企画に努めています。プライマリケア医がおさえておくべき循環器疾患の現状もう一つ、心臓病診療のトレンドを多くの医療者にしっかり理解いただくことも本学会の大きな目的です。たとえば、私の専門である不整脈治療におけるカテーテルアブレーション実施件数は、2010年に約3.5万件だったのが、この10年で2倍以上も増加し、現在は約9万件も実施されています。一方で、心筋梗塞の治療法の1つであるPCI(経皮的冠動脈インターベンション)は、技術の進歩によって再狭窄リスクが低下したため、実施件数が横ばいになっています。なぜ、このようにアブレーション件数が増えているかというと、2012年に発表された「カテーテルアブレーションの適応と手技に関するガイドライン」から「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年版改訂)」に改訂された際に、適応疾患が拡大し、動悸などの症状を有していれば、カテーテルアブレーションを第1選択できるようになったためです。そのため、心房細動患者に対するアブレーション件数は年々増加を続け、この領域は薬物療法から非薬物療法へ変遷を経ています。非会員でも参加できる教育セミナー今回の学術集会とは離れますが、本学会は、日ごろから医療者に対する教育に力を入れています。会員のみならず非会員でも参加できる仕組みを作り、学術集会での教育講演のほかに、「教育セミナー」に注力しています。教育セミナーは年に2回、2月と6月に開催され、アドバンスコース(専門医向け)とファンダメンタルコース(非専門医、医療者向け)の2つのコースを設け、毎回200~300名の方が受講する盛況ぶりです。受講内容は毎年変わり、不整脈、虚血性心疾患、心不全、動脈疾患など循環器疾患全般を幅広く網羅しています。「脳卒中・循環器病対策基本法」が昨年12月に成立したことを踏まえ、今後は、本学会でも若手医師や非専門医の方々に、この法律の重要性を理解してもらえるような取り組みも行っていく予定です。メッセージ(動画)

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第27回 空飛ぶ心電図~患者さんの命を乗せて~(前編)【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第27回:空飛ぶ心電図~患者さんの命を乗せて~(前編)心電図と言えば、生理検査室や診療所、病棟などのベッド上で記録し、病院内で閲覧する“静”なイメージがありませんか? でも、最近では、大切なメッセージを届けてくれる伝書鳩のように、遠くで記録された心電図が病院に届く技術があるんです。いわば“空飛ぶ心電図”かな(笑)。正式には「伝送心電図」と言いますが、院外の救急現場で記録され、電子データとして心電図が病院に送られます。このシステムが、診療の質や効率を向上させることが確認されてきています。この、伝送心電図の活用法について、京都での実際の取り組みを谷口 琢也先生(京都府立医科大学循環器内科)へDr.ヒロが取材しました。2回シリーズの前編をどうぞ!◆聞き手:Dr.ヒロ(以下、ヒロ)◆ゲスト:谷口 琢也先生(以下、谷口)谷口 琢也氏京都府立医科大学医学部卒業。松下記念病院で心筋虚血(核医学)に関する薫陶を受け、2007年より国立循環器病センター心臓血管内科CCUに所属、モバイルテレメディシンシステムに触れる。2013年からは京都府立医科大学附属北部医療センターで心不全レジストリなどの臨床研究を主導すると共に、クラウド型12誘導心電図伝送システムを導入。2018年に京都大学大学院で臨床疫学の方法論を系統的に学び、現在、母校にて社会に還元できる臨床研究の推進に取り組む。医学博士、社会健康医学修士、総合内科専門医、循環器専門医、心血管カテーテル治療専門医を取得。趣味は美食探訪、得意な家事は皿洗い。(ヒロ)Willem Einthoven先生が発明した心電図は、100年以上も前から有用性が裏付けられており、今もなお臨床の最前線で活用されています。そんな歴史を有する“レジェンド検査”が、現代の情報技術(IT)と融合し、さらなる進化を遂げています。救急現場で12誘導心電図を記録し、いち早く専門医の元に届ける「伝送心電図システム」は、循環器系救急のトピックの一つでもありますが、“時間との闘い”的な側面の強い心血管疾患の診療に革新をもたらす可能性のある技術だと思います。心電図や不整脈に関して、ボクは普段から情報収集を怠っていないつもりでしたが、同システムを用いた救急診療を先導した経歴を持つ先生が学内にいるのを見落としていました(笑)。「一度、イイネ!と思った企画は必ずやる」-ボクの信条が今回も実現しました。全国の読者の方々にもきっとお役に立つかと思い、本日は、心電図の伝送システムの現状と課題について伺います。(谷口)よろしくお願いします。<質問内容>【質問1】伝送心電図の概略について教えてください。【質問2】この伝送心電図の取り組みは、どこの地域・どこの病院で行われていますか?【質問3】なぜ、この地域(京丹後医療圏)が選ばれたのでしょうか?【質問4】全国のほかの地域で同様な取り組みをしている場所はありますか?【質問5】心電図はどこでとるのですか? 【質問6】プライバシー面での配慮はありますか? 同意をとっていますか?【質問7】心電図検査の要否、クラウド送信などの判断は、どの時点で誰がするのでしょうか?【質問8】伝送された心電図は「誰」が「どこ」で読むのでしょうか?【質問9】心電図の記録、送信、到着までの時間は大体どれくらいですか?【質問10】心電図はいつ伝送しますか?救急車が出発してから送るのですか?【質問11】心電図の記録や送信に時間がかかったことで、診断や治療が遅れたケースはありますか?【質問12】この伝送心電図システムが最もターゲットとしている疾患は何でしょうか?【質問13】伝送心電図が有効だった典型例を教えて下さい。【質問14】“狙い通り”のSTEMI症例は、実際に年間どれくらいの件数がありますか?【質問1】伝送心電図の概略について教えてください。(谷口)正式名称は「クラウド型12誘導心電図伝送システム」といい、救急車に搭載されるものです。このシステムのポイントは、これまでの救急現場で心電図といえば3点モニターだけが定番であったのを、病院と同じ12誘導にしていることです。(ヒロ)いわゆる「プレホスピタル心電図」(病院前心電図)を12誘導で行おうということですね。(谷口)病院前心電図には、病院到着前の段階で、いち早く心電図診断を行い、治療が必要な患者を同定し、その準備も同時並行で行うことができるメリットがあります。(ヒロ)治療というのは、具体的には“心臓カテーテル検査・治療”のことですか?(谷口)はい。緊急冠動脈造影・カテーテル治療(CAG/PCI)が必要な急性心筋梗塞を含む急性冠症候群(ACS)の患者の血流再開までの時間を短くして、予後を改善するのが本システムの一番の目的です。(ヒロ)「胸痛」を訴えた患者ということですか?(谷口)いや。実はACSの症状は多岐にわたります。ですから、今回は、下顎から心窩部の範囲、これに両上肢も含めて何らかの症状があった場合に心電図を記録するよう救急隊にお願いしました。(ヒロ)なるほど。間口を広くとることで“漏れ”が少なくなりそうです。実際に記録された心電図は、その後どうなるのですか?(谷口)記録された心電図はMFER(Medical waveform Format Encoding Rules、医用波形記述規約)というデータ形式でクラウドに飛ばして、それを搬送先の病院医師が見る、という流れになります。オンコール医師は院外(自宅など)にいても、スマホからクラウドにアクセスして12誘導心電図を確認し、緊急性を判断することができます。なお、われわれが用いたのは株式会社メハーゲンのSCUNA(スクナ)というシステムで、キャリアはNTTドコモです(図1)。(図1)クラウド型12誘導心電図伝送システム画像を拡大する【質問2】この伝送心電図の取り組みは、どこの地域・どこの病院で行われていますか?(谷口)京都府の二次医療圏としては、最北の丹後医療圏*1にある京都府立医科大学附属北部医療センターで行われています。(ヒロ)有名な天橋立がある風光明媚な場所ですね。先生が以前そこにお勤めだったと聞いています。ほかに京丹後市のアピールポイントは?(谷口)実際に病院があるのは、京丹後市ではなく、与謝郡与謝野町です。ここは歌人与謝野 晶子が住んでいた場所であり、絹織物(丹後ちりめん)の名産地でもあります。食に関しても、あのブランド蟹である「間人ガニ」の漁港が近いなど、魚介類をはじめ、ご飯がとてもおいしい地域です。とくに宮津では、5~6月に収穫される「丹後とり貝」も有名です。(ヒロ)日本海が近いですから、海産物はテッパンでしょうね。とり貝はボクも大好きです。そして、“空”には心電図が飛び交っているわけですね(笑)。*1:人口約10万人。宮津市、与謝野町、伊根町、京丹後市の約845km2からなるエリア。【質問3】なぜ、この地域(京丹後医療圏)が選ばれたのでしょうか?(谷口)丹後医療圏は国内でも長寿地域の一つなんです。なかでも京丹後市は歴代最高齢の男性*2としてギネスに登録された方が暮らしていた場所としても知られています。(ヒロ)当科の的場 聖明教授が主導されている健康長寿に関するコホート研究が行われているのも、このエリアですよね?(谷口)ええ。的場教授のご指導もあり、同地域で救急領域での伝送心電図活用プロジェクトが立ち上がりました。*2:木村 次郎右衛門氏(きむら じろうえもん、116歳没)。【質問4】全国のほかの地域で同様な取り組みをしている場所はありますか?(谷口)最初に沖縄で導入された実績があります。あとは、八戸(青森県)、大分は県全域、岩手県、そして津(三重県)など、かなり広いエリアで同様の取り組みがされています。淡路島でも行われていると聞いています。【質問5】心電図はどこでとるのですか?(谷口)伝送システムは救急車内にあるので、救急隊が現着して、患者と接触後、救急車内に収容した段階で心電図を記録します。【質問6】プライバシー面での配慮はありますか? 同意をとっていますか?(谷口)現場で患者の心電図をとってそれを病院に送りますが、とくに患者や家族の同意をとらず、患者は救急車内に収容されたら、12誘導心電図をとられる仕組みになっています。顔は写りませんので、プライバシーの問題はクリアできていると思っています。(ヒロ)切迫した状況のことも多く、やむを得ない面があるのでしょうね。【質問7】心電図検査の要否、クラウド送信などの判断は、どの時点で誰がするのでしょうか?(谷口)心電図をとる必要性についての判断は、現場の救急隊が行っています。ちょっとでも疑わしければ心電図をとるようお願いしています。とった心電図はすべて病院に送信してもらい、必ず医師が確認するようにしています。(ヒロ)なるほど。ここでも“できるだけ漏らすまい”という姿勢がうかがえますね。【質問8】伝送された心電図は「誰」が「どこ」で読むのでしょうか?(谷口)読むのは循環器内科のオン・コール(またはファースト・コール)と呼ばれる役割の医師です。伝送心電図が病院に飛んでくると、救急ナースからその医師に「心電図を見てください」と一報が入り、その時点で医師が確認します。院内にいればもちろん、スマホさえあれば自宅でも屋外でも伝送された心電図を見ることができます。【質問9】心電図の記録、送信、到着までの時間は大体どれくらいですか?(谷口)心電図をとったらすぐに伝送できるので、実際には心電図をとるべきか判断して記録するまでの時間が律速になるかもしれません。現着から心電図伝送までは、85%のケースが12分以内に済んでいます。(ヒロ)ACSガイドラインにも記されている、「思わせぶりな胸部症状なら10分以内に心電図」がほぼ達成されているわけですね。【質問10】心電図はいつ伝送しますか?救急車が出発してから送るのですか?(谷口)伝送の約3/4(76%)は現場を出発する前でしたが、出発前に伝送したケースでは、現場の滞在時間が2分ほど長くなるなどのデメリットもありました。(ヒロ)難しいトレードオフ(trade-off)ですね。実際の所要時間は?(谷口)現着から医師の心電図確認までは、出発前伝送で14分、出発後伝送で20分でした。郊外型病院の特性で病院到着までの時間は患者が発生した場所次第でまちまちでしたが、心電図を確認した段階で、次にどう動くべきか判断できるので、救急車が病院に到着する頃には、受け入れ態勢(カテーテル室の立ち上げなど)がかなり整いました。(ヒロ)そういう意味でもできるだけ早く「出発前伝送」を心がけるべきなのでしょうね。事がスムーズに進めば、患者接触から15分程度で専門医が心電図にアクセスできるわけですから。【質問11】心電図の記録や送信に時間がかかったことで、診断や治療が遅れたケースはありますか? (谷口)現時点ではありません。(ヒロ)システムが優秀なこともあるのでしょうが、これは送る側と受ける側が1:1対応で“あうんの呼吸”だからですね。都心部のように受け取る病院が複数で、件数自体が増えればシステムトラブルなどが出てくる可能性もあるため、対策は必要だと思います。【質問12】この伝送心電図システムが最もターゲットとしている疾患は何でしょうか?(谷口)やはりACSです。最も早くカテーテル治療が必要で、救命効率が高い疾患ということになります。カテ室の準備にかなり時間がかかるものですから、そこを短縮するという意味でも、やはりACSが一番のターゲットになります。【質問13】伝送心電図が有効だった典型例を教えて下さい。(谷口)2016年10月~2017年1月までのトライアル期間において、17件の伝送例のうち3例で緊急カテーテルが行われました。このうちの1例がSTEMI(AMI:急性心筋梗塞)であり、その例を提示します。【症例1】58歳、男性。【主訴】胸部不快感、意識消失【現病歴】2016年11月X日、新聞配達の仕事中、午前3時頃にコンビニでタバコを買い、店を出た直後に胸が“えらく”なり、ムカムカして意識が遠のくような感じがした。その後、車を運転中に意識消失し、気がついたら電柱にぶつかっており、近隣住民によって救急要請された。救急搬送時にはNRS(Numerical Rating Scale)7/10の胸部症状が持続していた。【身体所見】意識清明、会話可能。脈拍数:49/分・不整、血圧95/61mmHg、呼吸音:清。(ヒロ)割合とリスクに乏しい男性の深夜の胸部症状ですか。車を電柱にぶつけていますから、意識がない時間があったのですね。心電図伝送の時間経過は?(谷口)3時13分に現着、車内収容が3時18分で心電図伝送が3時22分です。心電図確認は3時35分でした。3時23分に現地を出発し、病院搬入が3時40分(搬送距離9.1km)でした。(ヒロ)実際に伝送された心電図は?(谷口)図2です。II、III、aVF誘導でST上昇、胸部誘導で対側性ST変化があります。救急外来でとった心電図に比べてより振幅が大きいのですが、ノイズもなく、ほぼ遜色なく評価可能だと思います。(図2)伝送された12誘導心電図画像を拡大する(ヒロ)波形としては、同時相の12誘導波形ですね。3拍目は補充収縮でしょうから、「2度以上」、おそらくは「高度」の範疇に入る「房室ブロック」もありそうです。これが意識消失の原因ですかね。こういう場合、閉塞部位は大半が近位部ですし、V1誘導のST低下が相対的に軽めで血圧も低めですから、右室枝の関与(右室梗塞)も気になります。実際の心カテの様子はどうでしたか?(谷口)カテ室入室が4時12分、穿刺が4時20分です。右冠動脈が近位部(図内↗)で完全閉塞しており、左冠動脈にも狭窄がありましたが、当日はこちら(右冠動脈)を治療しています(図3)。血栓吸引をして、型通りのPCIにてTIMI 3を得て終了しています。peak CK 2,311U/Lでした。(図3)右冠動脈造影画像を拡大する(ヒロ)Door-to-Balloon-Time(DTBT)はいかがでしょう?(谷口)血栓吸引までが58分、バルーンまでですと69分で、これがDTBTになります。(ヒロ)DTBTは90分が一つの指標だと思いますが、余裕でクリアしていますね。“勝因”の一つは、伝送心電図の“事前情報”ですかね。(谷口)ええ。胸の症状があって心電図が送られてきたということで、われわれは“アラート”(alert)として受け止め、病院としても受け入れ体制で待ちます。プレホスピタル心電図のクラウド伝送を行うことで、診断が早くつき、病院到着後の流れが非常にスムーズになる可能性が十分あると思います。(ヒロ)まったくその通りですね。【質問14】“狙い通り”のSTEMI症例は、実際に年間どれくらいの件数がありますか?(谷口)2017年12月1日から1年間のデータがあります。心電図伝送されたのが152例(平均年齢79歳[29~96歳])あり、そのうちSTEMIの症例が11例であったという状況です。(ヒロ)割合としては7%が“ホンモノ”(本物)なんですね。いやー、今回のお話、非常に魅力的でした。“空飛ぶ心電図”の前半はここまでにしましょう。次回はプロジェクトの成功秘話や苦労した点について伺います。お楽しみに!【古都のこと~松花堂~】松花堂は、岩清水八幡宮に程近い、京都市中心部から電車でも車でも1時間弱の八幡市にあります。その社僧で瀧本坊なる寺坊の住職を務めた昭乗が晩年、泉坊一角に方丈の草庵*1を結び、「松花堂」と名付けたとされます。昭乗は今で言う“マルチ人間”で、書道(能書)*2、絵画、茶の湯などに優れた才能を発揮しました。敷地内には広大な庭園が広がっていますが、平成30年の大阪北部地震(6月)と台風21号(8月)による被害のため、一時閉園に追い込まれたという苦難の年がありました。懸命の復旧作業が行われ、同年10月下旬に再開されたものの、自然の猛威の爪痕は深く、令和元年2019年9月現在、外園のみ限定公開のため、草庵や書院、3つある茶室*3を目にすることはできません。ただ、その周囲を歩くだけでも優美さに心奪われ、いつまでも残したい名園だと誰しもが感じるでしょう。多数の竹とともに春は椿、秋は隠れ紅葉スポットとして、皆さんにもぜひ一度訪れてもらいたいです。*1:廃仏毀釈の際に現在の場所に移築され、旧地(松花堂跡)より南方に位置する。*2:光悦寺で有名な本阿弥光悦、近衛信尹とともに「寛永の三筆」とされ、将軍家の書道師範も務めた。*3:松隠・竹隠・梅隠が茶会に利用されていた。

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QRISK2スコアを用いた心血管リスク管理(解説:石川讓治氏)-1108

 英国においては、心血管リスク予測指標としてQRISK2スコアが使用されており、Framinghamリスクスコアよりも心血管イベントの予測率が高かったことが報告されている。本研究においては、Herrettらは、英国のプライマリーケアにおける122万2,670名の患者の医療情報の後ろ向きコホート研究において、QRISK2スコア、英国の高血圧治療ガイドライン(NICE2011およびNICE2019)、血圧閾値単独の4つの手法を用いて、10年後の心血管リスクを推定した。その結果、10年間における1心血管イベント抑制のためのNNT(number needed to treat)は、QRISK2スコア27名、NICE2011 28名、NICE2019 29名、血圧閾値38名であり、QRISK2を用いた心血管リスク評価および管理が最も効果的であると報告した。 心血管リスク因子の管理の目的は、イベント発症の抑制であり、血圧のみでなく総合的なリスク評価および管理を行うことのほうが心血管イベント抑制のためには重要である。QRISK2の計算機は英国のプライマリーケアで広く使用されていると論文には記載されているが、わが国の日常臨床においては、QRISK2スコアのような多くの因子を用いてリスクを計算することは煩雑であり、十分に普及しているとは言えない。NICEガイドラインのようなシンプルなアルゴリズムでもNNTの差はわずかであり、現在の実臨床では大きな差はないように思われる。今後、総合的なリスクを自動的に計算し、ガイドラインに沿って介入すべきリスクを自動に表示してくれるような、AIを持った電子カルテシステムなどの普及があれば、わが国における総合的な心血管リスク管理がより容易になる時代が来るのかもしれない。

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悪性黒色腫におけるBRAF阻害薬・MEK阻害薬併用の心血管リスク

 悪性黒色腫患者の治療におけるBRAF阻害薬・MEK阻害薬併用療法による心血管有害事象の特徴が明らかになった。ドイツ・エッセン大学病院のRaluca I. Mincu氏らによるシステマティックレビューおよびメタ解析の結果、BRAF阻害薬・MEK阻害薬併用療法はBRAF阻害薬単独療法と比較し心血管有害事象のリスクが高いことが示された。著者は「今回の結果は、悪性黒色腫治療の有益性と、心血管疾患の発症および死亡とのバランスをとるのに役立つと思われる」とまとめている。JAMA Network Open誌2019年8月2日号掲載の報告。 研究グループは、悪性黒色腫患者におけるBRAF阻害薬・MEK阻害薬併用療法と心血管有害事象との関連について、BRAF阻害薬単独療法と比較する目的で、システマティックレビューおよびメタ解析を行った。PubMed、Cochrane、およびWeb of Scienceを用い、2018年11月30日までに発表された論文について、ベムラフェニブ、ダブラフェニブ、エンコラフェニブ、トラメチニブ、ビニメチニブ、cobimetinibをキーワードとして検索した後、悪性黒色腫患者を対象にBRAF阻害薬単独療法とBRAF阻害薬・MEK阻害薬併用療法を比較し心血管有害事象について報告している無作為化臨床試験を解析に組み込んだ。データの評価はPRISMAガイドラインに従い、ランダム効果および固定効果分析を用いて相対リスク(pooled relative risk:RR)および95%信頼区間(CI)を算出した。また、心血管有害事象に関連する患者特性を評価する目的でサブグループ解析を行った。 主要評価項目は、肺塞栓症、左室駆出率低下、高血圧、心筋梗塞、心房細動およびQTc間隔延長であった。 主な結果は以下のとおり。・無作為化臨床試験5件、悪性黒色腫患者計2,317例が解析に組み込まれた。・BRAF阻害薬+MEK阻害薬併用療法はBRAF阻害薬単独療法と比較して、肺塞栓症のリスク増加(RR:4.36、95%CI:1.23~15.44、p=0.02)、左室駆出率低下(RR:3.72、95%CI:1.74~7.94、p<0.001)および高血圧(RR:1.49、95%CI:1.12~1.97、p=0.005)と関連することが認められた。・心筋梗塞、心房細動およびQTc間隔延長に関してはRRに有意差は認められなかった。・Grade3以上の心血管有害事象についても同様の結果であった。Grade3以上の左室駆出率のRR:2.79、95%CI:1.36~5.73、p=0.005、I2=29%、Grade3以上の高血圧のRR:1.54、95%CI:1.14~2.08、p=0.005、I2=0%。・Grade3以上の肺塞栓症に関しては、RRに有意差はなかった。・左室駆出率低下のリスクは平均年齢が55歳未満のサブグループで高く(RR:26.50、95%CI:3.58~196.10、p=0.001)、肺塞栓症のリスクは平均追跡期間が15ヵ月超のサブグループで高かった(RR:7.70、95%CI:1.40~42.12、p=0.02)。

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アナフィラキシーには周囲の理解が必要

 2019年8月21日、マイランEPD合同会社は、9月1日の「防災の日」を前に「災害時の食物アレルギー対策とは」をテーマにしたアナフィラキシー啓発のメディアセミナーを開催した。セミナーでは、アナフィラキシー症状についての講演のほか、患児の親の声も紹介された。アナフィラキシーの原因、小児は食物、成人は昆虫 セミナーでは、佐藤さくら氏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター 病態総合研究部)を講師に迎え、「アナフィラキシーの基礎知識とガイドラインに基づく正しい治療法について」をテーマに講演を行った。 アナフィラキシーとは「短時間に全身に現れる激しい急性のアレルギー反応」とされ、その原因として抗菌薬やNSAIDsなどの医薬品、手術関連、ラテックス、昆虫、食物などがある。とくに小児では食物が本症の一番大きな誘因となる(65%)のに対し、成人では昆虫刺傷が一番大きな誘因となる(48%)というデータが欧州では報告されている1)。 日本アレルギー学会が行った「全国アナフィラキシー症例集積研究」(n=767、平均年齢6歳[3~21歳])によれば、本症の誘因は食物(68.1%)、医薬品(11.6%)、食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA:5.2%)の順で多く、誘因が食物の場合、牛乳(21.5%)、鶏卵(19.7%)、小麦(12.5%)の順で発生があったと報告されている。また、アナフィラキシーショックによる死亡は毎年60例前後(多い年は70例超)が報告されている。必要ならば早くアドレナリン筋注を 診断として次の3項目のいずれかに該当すればアナフィラキシーと診断する。1)皮膚症状(全身の発疹、瘙痒または紅斑)または粘膜症状(口唇・舌・口蓋垂の腫脹など)のいずれかが存在し、急速(数分~数時間以内)発現する症状で、かつ呼吸症状(呼吸困難、喘鳴など)、循環器症状(血圧低下、意識障害)の少なくとも1つを伴う2)一般的にアレルゲンとなりうるものへの曝露後、急速に(数分~数時間以内)発現する皮膚・粘膜症状(全身の発疹、瘙痒、紅潮、浮腫)、呼吸器症状(呼吸困難、喘鳴など)、循環器症状(血圧低下、意識障害)、持続する消化器症状(腹部疝痛、嘔吐)のうち、2つ以上を伴う3)当該患者におけるアレルゲンへの曝露後の急速な(数分~数時間以内)な血圧低下。具体的には、収縮期血圧の場合、平常時血圧の70%未満、または生後1~11ヵ月まで(<70mmHg)、1~10歳(<70mmHg+2×年齢)、11歳~成人(<90mmHg) 以上の診断のあとグレード1(軽症)、2(中等症)、3(重症)の重症度を評価2)し、それぞれのグレードに応じた治療が行われる。 グレード1(軽症)であれば抗ヒスタミン薬やβ2アドレナリン受容体刺激薬、ステロイド薬が選択されるが、即効性はない。グレード3(重症)ならアドレナリン筋肉注射(商品名:エピペンなど)の適応となる(ただしグレード2[中等症]でも過去に重篤な本症の既往がある、病状進行が激烈な場合、気管支拡張薬吸入で改善しない呼吸症状では適応となる)。 佐藤氏は、本症の診療では「初期対応が大切で、軽いうちから治療していくことが重要。エピペンの使用率が低く、使用に対する教育・啓発も必要」と説明を行った。災害時の食物アレルギーのリスクを最低限に抑えるために つぎに大規模災害とアナフィラキシーについて触れ、とくに食物アレルギー患者への対応が重要と指摘した。 災害時には、患者の誤食リスクの上昇、アレルギー対応食品の入手困難、症状発症時の治療薬不足、周囲の病気への理解不足などリスクが生じるため、さまざまな対応が必要となる。現在は、「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」(平成25年8月内閣府作成)などが決められ、避難所にはアルファ米や特別ミルクなどの備蓄と配給上の配慮などが決められている。その一方で、熊本地震でのアレルギー対応食への取り組みについて自治体に聞いたアンケートでは、「十分取り組まれていた」がわずか3.1%など現場への浸透に課題があることも紹介された。 災害時の食物によるアナフィラキシーへの備えとして、地域公的機関での備蓄、ネットワーク作り、病気への理解、アレルギー情報の携帯、発症時の対応、炊き出し原材料の確認、アレルギー表示の確認、自宅での備蓄が必要であり、こうした情報は「アレルギーポータル」などのwebサイト、自治体の各種配布物に記されている。おわりに「こうした媒体で医療者も患者もよく学び、病気への理解を深めることが大切」と語り、佐藤氏は講演を終えた。 続いて、患者会代表の田野 成美氏が、実子の闘病経験を語り、親の目の届かない学校生活での不安や周囲の理解不足による発症の危険性、氾濫する診療情報などの問題点を指摘した。■参考「アレルギーポータル」(日本アレルギー学会)「アナフィラキシーってなあに.jp」(マイランEPD合同会社)

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ラムシルマブ適応拡大、肝細胞がんは薬を使い切る戦略が鍵に

 ラムシルマブの登場で、肝細胞がんの薬物治療は4剤が使用可能となったが、治療アルゴリズムはどう変化するのか。2019年6月、化学療法後に増悪した血清AFP値400ng/mL以上の切除不能な肝細胞がんに対して、ラムシルマブが適応拡大された。これを受けて8月1日、都内でメディアセミナー(主催:日本イーライリリー)が開催され、工藤 正俊氏(近畿大学医学部消化器内科 教授)が講演した。肝細胞がん薬物治療は、2次治療の選択肢が課題 本邦における肝がんの年間罹患数は約4万人、年間死亡数は約2万7,000人となっている。性別ごとの年間死亡数では、男性では肺、胃、大腸に次ぐ4番目、女性では大腸、肺、膵臓、胃、乳房に次ぐ6番目と、今もって死亡の多いがんといえる1)。肝がんの主要な背景疾患であるC型肝炎の新たな感染が減ったことで、死亡数は漸減の傾向にあるが、食事の欧米化などの影響から、B型/C型ウイルス由来ではない肝細胞がんが増加傾向にある。 肝細胞がんの治療アルゴリズムは、肝予備能(Child-Pugh分類)、肝外転移や脈管侵襲の有無、腫瘍数や腫瘍径から判断される。早期~中間期肝がんでは切除やラジオ波焼灼療法(RFA)、肝動脈化学塞栓療法(TACE)が検討され、進行期(肝外転移もしくは脈管侵襲あり)あるいは腫瘍数4個以上でTACE不応の場合は、分子標的薬による治療が行われる2)。 2009年、肝細胞がんで初めて生存延長を示した分子標的薬として、マルチチロシンキナーゼ阻害薬(mTKI)ソラフェニブが承認された。以降、2017年にソラフェニブ後の2次治療薬としてレゴラフェニブ、2018年にソラフェニブに対する非劣性を証明したレンバチニブが1次治療薬として承認されている。 しかし、ソラフェニブによる治療を受けた患者のうち、レゴラフェニブに適格となる症例は約3割に限られる。そのため、臨床試験は存在しないが、実臨床ではソラフェニブ後のレンバチニブもよく用いられている。また、1次治療でレンバチニブを投与した場合の2次治療薬についても、臨床試験が行われておらず、忍容性の高い2次治療の選択肢が求められている。ラムシルマブの臨床成績(REACH試験/ REACH-2試験) 抗VEGFR-2抗体ラムシルマブは、これまでに胃がん、結腸・直腸がん、非小細胞肺がんで承認されている血管新生阻害薬。投与方法は2週間に1回、60分の点滴静注となっている。肝細胞がんに対するラムシルマブの有効性を検討した最初の第III相試験であるREACH試験は、1次治療でソラフェニブ投与を受けた、BCLC Stage B/C、Child-Pugh分類A、PS 0~1の進行肝細胞がん患者を対象としている。主要評価項目の1つ、全体集団でのOS中央値は、ラムシルマブ群9.2ヵ月 vs.プラセボ群7.6ヵ月と有意差は認められなかった(ハザード比[HR]:0.87、95%信頼区間[CI]:0.72~1.05、p=0.14)。しかし、事前規定されたサブグループであるAFP(α-フェトプロテイン)≧400ng/mL以上の患者では、7.8ヵ月 vs.4.2ヵ月とラムシルマブ群でOS中央値を有意に延長した(HR:0.674、95%CI:0.508~0.895、p=0.0059)3)。 AFPは肝細胞がんの早期発見に有用とされる腫瘍マーカーの1つで、基準値は10.0ng/mL以下。AFP高値は強力な予後不良因子とされており、肝細胞がんの肝切除例についてみたデータでは、AFP値が高くなればなるほど、生存期間が短くなっている4)。これらのことから、REACH-2試験ではAFP≧400ng/mLの患者に対象を絞って、ラムシルマブの有効性が検討された。その結果、ベースライン時のAFP値が3,920ng/mL vs.2,741ng/mLとラムシルマブ群で高かったにもかかわらず、OS中央値は8.5ヵ月 vs.7.3ヵ月とラムシルマブ群で有意に延長した(HR:0.710、95%CI:0.531~0.949、p=0.0199)。 ラムシルマブ群で多くみられたGrade3以上の有害事象は、高血圧(12.2% vs.5.3%)、腹水(4.1% vs.2.1%)、肝性脳症(3.0% vs.0%)など5)。工藤氏は、高血圧については薬でコントロール可能とし、腹水や肝性脳症に注意が必要と話した。また、同氏はラムシルマブによる治療の大きな特徴として、dose-intensityの高さを挙げた。REACH-2試験では、ラムシルマブの投与期間中央値は12.0週間、投与サイクル数中央値は6.0サイクルで、相対dose-intensity中央値は97.9%と非常に高かった。他のTKI3剤で8~9割弱なことと比較して高いほか、日本人サブセットでも同等の高い数値が得られている。ラムシルマブ含めた分子標的薬をTACEを行うことなく選択 レンバチニブ後のラムシルマブ投与については、臨床試験で確認されたものではない。しかし、レンバチニブと比較してVEGFR-2に対する同薬の50%阻害濃度(IC50)が数倍高いこと、抗体薬であることなどから期待できるとし、工藤氏はAFP≧400ng/mL以上の患者に対して実臨床でその有用性を確認していく必要があると話した。 ラムシルマブを含め、肝細胞がん治療に使える4剤は、すべて適応がChild-Pugh分類Aの患者に限られる。つまり、肝予備能を維持しながら次の治療につなげて、薬剤を使い切ることが予後延長の鍵になる、と同氏は説明。これまでは、TACE不応となるのを待って分子標的薬を導入してきたが、今後はより早い段階から、場合によってはTACEを行うことなく薬物療法を選択していくようなケースも出てくるのではないかと話し、薬物療法開始の機会を逃さない戦略が必要になると指摘して締めくくった。 なお、肝癌治療ガイドラインは2021年改訂予定で作業が進められており、ラムシルマブの適応拡大については、日本肝臓学会のホームページ上での追加が予定されている。

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第26回 Stage IのNSCLC、術後補助療法実施の規準は?【肺がんインタビュー】

第26回 Stage IのNSCLC、術後補助療法実施の規準は?Stage Iの非小細胞肺がん(NSCLC)における術後補助療法は、議論の余地があるテーマである。そのような中、ASCO2019で術後補助療法の恩恵をリスク別に分析した研究が報告された。発表者である広島大学呼吸器外科の津谷 康大氏に、研究の背景と結果について聞いた。実臨床で迷うStage I NSCLCの術後補助療法導入この研究を行った背景について教えていただけますか。Stage IのNSCLCに術後補助療法をするか否かは、世界的にみても意見の分かれるところです。日本のデータでは2 cmを超えるStage Iの腺がんに対するUFTによる術後補助療法の有効性が示されており、ガイドラインでも推奨されています。しかし、この研究の2cmは腫瘍全体径での定義です。現在のTNM-8では、腫瘍サイズを浸潤径(浸潤がんだけの大きさ)で定義しており、新しい基準で考えると、違った結果になる可能性もあります。また、海外ではTNM-8によるStage Iの術後補助療法のエビデンスはありません。つまり、やらないという方向です。日本と海外のスタンダードはまったく異なっています。たとえば、実臨床で腫瘍径3 cmでも浸潤部分が1cmの腺がんに遭遇した場合、術後補助療法はどうすべきか。これほど浸潤がんの成分が小さければ、やらなくてよいという感覚の先生方が多いと思いますが、データはまったくありません。Stage Iの術後補助療法をやるべき患者とやらなくてよい患者をどう分けるべきか、後ろ向きに解析しました。どのようなデータを活用されたのですか?肺がんの手術症例についてさまざまな研究をするために、広島大学、神奈川県立がんセンター、東京医大の3施設で2010年から前向きに全例登録しているデータベースがあります。このデータベースには腺がんの浸潤がんと非浸潤がんの成分が別々に記録されているので、今回の研究では、それを用い、新しいデータに差し替えて研究しました。高リスク患者のStage I患者は術後補助療法の恩恵を受ける今回の試験の結果について紹介いただけますか。当該データベースにおけるStage IのNSCLC症例に対し、病理学的な再発因子を多変量解析したところ、浸潤径2 cm超、リンパ管侵襲、血管侵襲、臓側胸膜浸潤という4つの因子が再発に関わっていることがわかりました。そのうち1つでも該当した症例を高リスク、4項目どれも該当しない症例を低リスクと分類し解析を行いました。その結果、低リスク患者は再発をほとんど起こさず(5年無再発生存率[RFS]96%)、きわめて予後良好で、高リスク患者は低リスク患者に比べ予後不良(5年RFS 77%)でした。術後補助療法の有無と予後をみたところ、低リスク患者では、術後補助療法実施のいかんにかかわらず、きわめて予後良好でした(5年RFS:実施群98%対観察群96%)。一方、高リスク患者は術後補助療法実施により予後が改善しました(5年RFS:実施群81%対観察群74%)。同じStage Iでも、高リスクと低リスクに分けることによって、術後補助療法実施によるメリットが異なることがわかりました。高リスクの術後補助療法の内容をみると、併用化学療法よりも単剤化学療法のほうが、予後が良いという結果でしたが?この試験の結果だけでは何とも言えませんが、少なくともプラチナ併用のほうが良かったという結果ではありません。ただし、治療期間(UFTは2年間内服、プラチナ化学療法は長くて4サイクル[3~4ヵ月])なども影響している可能性があると思います。病理レポートがStage I術後補助療法導入の判断材料にこの試験での知見は、臨床でどう活かすことができるでしょうか。日本では腫瘍全体径2 cmを超えるStage Iの腺がんにはUFTの術後補助療法が推奨されますが、その中でも浸潤径2 cm以下の低リスクの患者に対しては、術後補助療法の導入は慎重に考えてよいかもしれません。逆に、腫瘍全体は小さくても、リンパ管侵襲や血管侵襲があるなど悪性度が高そうな患者では、術後補助療法導入の余地があるかもしれません。今回の研究で用いた再発リスク因子は、通常各施設の病理レポートに記載されています。それを参考にすることで、Stage I腺がんに術後補助療法をするか否かの判断基準になると思います。海外の医学メディアでも紹介されていましたが、海外からの反響はありましたか。ASCO発表の後、海外の病理医から連絡があり、今までリンパ侵襲や血管侵襲を測っていないが、どう測るのかという問い合わせがありました。Stage Iの術後補助療法は海外でも議論を呼ぶテーマなのだと、あらためて感じました。

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「医薬品の販売情報提供活動に関するGL」薬剤師への影響は?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第31回

厚生労働省が適切な診療、医薬品の処方を確保するために策定した「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」の運用が、一部を除いて2019年4月から開始されています。残りの一部であった、製薬会社内の情報提供活動を監視する部門の設立に関しては10月までの猶予期間がありましたので、本ガイドラインはいよいよすべての項目がスタートします。薬剤師として気になるのは、「情報提供の何が変わるの?」ということだと思いますので、今回は薬局に関係するポイントをピックアップして紹介します。なぜガイドラインが作られたのか?端的に言うと、医療用医薬品のプロモーション活動は自主ルールが定められているにもかかわらず、不適切な広告、プロモーション活動が横行していたためです。厚生労働省は2016年より、全国の医療機関の中からモニター医療機関を選定し、医療用医薬品の広告などの適切性に関する調査を実施していますが、製品説明会などのいわゆるクローズドな場において、不適切な情報提供(事実誤認の恐れのある表現やデータ加工、未承認の効能効果の情報提供など)の事例が多く報告されています。そのため、広告を適正化することで医療用医薬品の適正使用を確保し、保健衛生の向上を図るためにガイドラインが策定されました。何が変わったのか?今までは、MRが製品説明を行う際に、MR個人が作成したプレゼン資料を用いることがありました。しかし、それでは情報提供の内容や質を製薬会社として担保できず、不適切な情報提供が発生する可能性があるため、現在では原則として、しかるべき部門が作成した資材のみ使用可能です。また、記載できる内容は、科学的および客観的な根拠に基づく情報のみで、試験の設計や結果を正確に明示し、医薬品の品質、有効性、安全性に関してネガティブな情報であっても積極的に記載することが求められるようになりました。今後は、これらの内容を確認して情報提供活動の適切性を監督する部門(販売情報提供活動監督部門)による審査をクリアした資材でのみ情報提供活動を行うことになります。プレゼン資料だけでなく、パンフレット、ホームページ、MRのプレゼン自体まで監視の対象です。なお、製薬会社の情報提供活動について苦情があった場合のために、窓口を設置して事実関係の調査や必要な措置を講じることも求められています。この監督部門の設立や窓口の設置には準備が必要であるため、2019年10月1日からスタートすればよいとされています。今までどおり、医薬品に関する情報はもらえるのか?上記のように、製薬会社の社内チェックは厳しくなりますが、基本的には今までと同様に情報提供をする製薬会社がほとんどだと思います。ただし、未承認薬、適応外の用法用量や明確に添付文書に記載されていない内容などについてはかなり厳格化されます。医療者から情報を求められた場合は提供が可能ですが、販売部門であるMR以外からの回答が望ましいとされているため、タイムラグが生じると予想できます。また、製薬会社のホームページから資材を直接ダウンロードするという簡易的な提供方法ではなくなる企業が増えるかもしれません。必要になることがわかっている資料や情報は、時間に余裕を持って入手するとよいでしょう。患者さんに影響はあるのか?製薬会社から一般の方向けの情報提供に若干影響がありそうです。当然のことですが、疾患啓発では、医療用医薬品による治療のみを推奨することや特定の製薬会社の薬剤へ誘引するような内容は禁止されています。また、ガイドラインやQ&Aでもかなりあいまいな文言なので解釈次第ではありますが、製薬会社が今回のガイドライン策定の背景を鑑み、誤解されないよう新聞や雑誌などの一般紙の取材を受けない、などとなれば、一般の方が入手できる情報が減る可能性はあります。ざっくりとではありますが、「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」のポイントをまとめました。製薬会社が医薬品の情報を一番多く持っていることは確かですが、待っていても添付文書やインタビューフォーム以上の情報は提供されませんので、これまで以上に必要な情報は自発的に収集する必要がありそうです。

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short DAPTとlong DAPTの新しいメタ解析:この議論、いつまで続けるの?(解説:中野明彦氏)-1105

【はじめに】 PCI(ステント留置)後の適正DAPT期間の議論が、まだ、続いている。 ステントを留置することで高まる局所の血栓性や五月雨式に生じる他部位での血栓性イベントと、強力な抗血小板状態で危険に晒される全身の出血リスクの分水嶺を、ある程度のsafety marginをとって見極める作業である。幾多のランダム化試験やメタ解析によって改定され続けた世界の最新の見解は「2017 ESC ガイドライン」1)に集約されている。そのkey messageは、・安定型狭心症は1~6ヵ月、ACSでは12ヵ月間のDAPTを基本とするが、その延長は虚血/出血リスクにより個別的に検討されるべきである(DAPT score・PRECISE DAPT score)。・ステントの種類(BMS/DES)は考慮しない。・DAPTのアスピリンの相方として、安定型狭心症ではクロピドグレル、ACSではチカグレロル>プラスグレルが推奨される。 一方本邦のガイドラインは、安定型狭心症で6ヵ月、ACSでは6~12ヵ月間を標準治療とし、long DAPTには否定的である。 言うまでもないが、DAPTの直接の目的はステント血栓症予防である。ステント血栓症の原因は複合的で、病態(ACS vs.安定型狭心症)のほかにも、患者因子(抗血小板薬への反応性・糖尿病・慢性腎臓病・左室収縮能など)、病変因子(血管径・病変長・分岐部病変など)、ステントの種類(BMS、第1世代DES、第2世代以降のDES)、さらには手技的因子(stent underexpansion、malappositionなど)が関連すると報告されている。そしてステント血栓症は留置からの期間によって主たるメカニズムが異なり、頻度も変わる2)。1年以降(VLST:Very Late Stent Thrombosis)の発生頻度は1%をはるかに下回り、in-stent neoatherosclerosisが主役となる。またVLSTの数倍も他病変からのspontaneous MIが発症するといわれている。こうした点がDAPTの個別的対応の背景であろう。【本メタ解析について】 ステント留置後のadverse eventは時代とともに減少し、したがって数千例規模のRCT でもsmall sample sizeがlimitationになってしまう。これを補完すべく2014年頃からRCTのメタ解析が年2~3本のペースで誌上に登場してきた。本文はその最新版で、これまでで最多の17-RCT(n=46,864)を解析した。DAPTはアスピリン+クロピドグレルに限定し、単剤抗血小板療法(SAPT)はアスピリンである。従来の「short DAPT=12ヵ月以内」を細分化して「short(3~6ヵ月)」と「standard(12ヵ月)」に分離、これを「long(>12ヵ月)」と比較する3アーム方式で議論を進めている。 その結論・主張は、(1)総死亡・心臓死・脳卒中・net adverse clinical eventsはDAPT期間で差がない(2)long DAPTはshort DAPTに比して非心臓死や大出血を増やす(だからlong DAPTは極力避けたほうがいい)(3)short DAPTとstandard DAPTではACSであってもステント血栓症や心筋梗塞に差がない(だからshort DAPTでいい) などである。しかし一方、long DAPTの超遅発性ステント血栓症・心筋梗塞抑制効果についてはほとんど触れられておらず、short DAPTに肩入れしている印象を受ける。筆者が、おそらく虚血患者に接する機会が少ないであろう臨床薬理学センター所属のためだろうか? 本メタ解析の構図は「DAPTに関するACC/AHA systematic review report(2017)」3)に似ていて、これに2016年以降発表されたRCTを中心に6報加えて議論を展開している。long DAPTほど血栓性イベント抑制に勝り出血性合併症が増える結論は同じだが、ACC/AHA reportはテーラーメードを意識してかリスクによる選択の余地を強調している。 さらにいくつか気になる点がある。評者もご多分に漏れず統計音痴なので、その指摘は的を射ていないかもしれないけれど、できれば本文をダウンロードしてご意見をいただきたい。 たとえば、MIやステント血栓症はlong DAPTで有意に抑制しているのに心臓死はshort DAPTで少ない傾向にあったこと。あるいは非心臓死(有意差あり)・心臓死のOdd Ratioが共に総死亡より大きかったこと。これらは各エンドポイントが試験により含まれたり含まれなかったりしていたためらしい。 また、たとえば各試験でのevent ratioが大きく異なること。同じshort vs.standard DAPTの試験でも12ヵ月MI発症率が0%(IVUS-XPL)~3.9%(I-LOVE-IT2)と幅がある。調べてみるとperiprocedural MIを含めるかどうかなど、そもそも定義が異なるようである。 そして、例えばランダム化の時期である。short vs.standardのほとんどがPCI前後に振り分けているのに対し、standard vs.longはすべてで急性期イベントが終了した12ヵ月後に振り分けランドマーク解析している。これでもshort vs.longの図式が成り立つのだろうか?【まとめ】 DAPT有用性の議論はあのゴツイPalmaz-Schatz stentから始まった。第1世代DESも確かに分厚かった。しかし技術の粋を集め1年以内のステント血栓症が大幅に減少した現時点において、short DAPTにシフトするのは異論がないところであろう。とりわけcoronary imagingを駆使してoptimal stentingを目指すことができる本邦においては、なおさらである。しかし一方、心筋梗塞二次予防に特化したメタ解析4)では、long DAPTが致死性出血や非心臓死を増やすことなく心臓死やMI・脳卒中を有意に抑制した、との結果だった。 ステント血栓症が減ったからこそ、二次予防に抗血小板薬(DAPT)をどう活かすかという視点も必要であろう。解析の精度はさておき「short term DAPT could be considered for most patients after PCI with DES」と結論付けたSAPT(アスピリン)vs.DAPT(アスピリン+クロピドグレル)の議論はそろそろ終わりにしても良いのではないだろうか。 現在はアスピリンの代わりにクロピドグレルやP2Y12 receptor inhibitor(チカグレロル)によるSAPT、少量DOACの有効性も検討されて、PCI後の抗血栓療法は新しい時代に入ろうとしている。 木ばかりでなく森を見るようにしたいと思う。

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日本におけるベンゾジアゼピン長期使用に関連する要因

 ベンゾジアゼピンやZ薬(BZD)の長期使用は、現在の臨床ガイドラインで推奨されていないものの、実臨床において引き続き行われている。東京医科歯科大学の高野 歩氏らは、日本における長期BZD使用率とそのリスク因子について調査を行った。BMJ Open誌2019年7月26日号掲載の報告。 本研究は、健康保険データベースを用いたレトロスペクティブコホート研究である。対象は、2012年10月1日~2015年4月1日の期間にBZD使用を開始した18~65歳の外来患者8万6,909例。そのうち、初回BZD使用日に手術を行った患者762例および8ヵ月間フォローアップを行っていない患者1万2,103例を除く7万4,044例を分析した。新規BZD使用患者の8ヵ月以上の長期使用率を調査した。患者の人口統計、診断、新規BZD使用の特徴、長期BZD使用の潜在的な予測因子について評価を行った。長期使用と潜在的な予測因子との関連を評価するため、多変量ロジスティック回帰を用いた。 主な結果は以下のとおり。・新規BZD使用患者のうち、8ヵ月以上連続してBZDを使用していた患者は、6,687例(9.0%)であった。・長期処方は、気分障害、神経障害、がん、精神科医による処方、複数の処方箋、初回処方時の睡眠薬および中間型BZD使用と有意な関連が認められた。 著者らは「新規BZD使用患者の9%は、8ヵ月以上BZDが使用されていた。処方医は、初回BZD処方時に長期使用のリスク因子に注意する必要がある」としている。

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健康長寿の秘訣は「不飽和脂肪酸」―2型糖尿病患者でも明らかに(解説:小川大輔氏)-1104

 多くの疫学研究により、赤身肉、ラード、バターなどに含まれる飽和脂肪酸は動脈硬化症や死亡のリスクを上昇させ、反対にオリーブ油、キャノーラ油、大豆油などの植物油や魚油に含まれる不飽和脂肪酸はこれらのリスクを低下させることが知られている。しかしこれまでの報告では一般人を対象としており、糖尿病患者を対象とした研究はなかった。 今回米国の2つのコホートの解析により、2型糖尿病患者における食事中の脂肪酸と死亡率を調査した結果がBMJ誌に掲載された1)。2型糖尿病患者1万1,264例の解析により、多価不飽和脂肪酸(PUFA)の摂取は全炭水化物と比較し全死亡および心血管死のリスク低下と関連することが明らかになった。また、飽和脂肪酸からのエネルギーの2%を総PUFAに置き換えると、全死亡のリスクが12%低下すると報告された。 糖尿病のガイドラインでは飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に置き換えることが推奨されているが2)、これは一般集団のデータを基にしており、糖尿病患者における食事中の脂肪と心血管死および総死亡との関連は不明であった。今回の研究の著者の一部は、以前に今回と同じ2つのコホートを解析し、飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に置き換えると死亡リスクを下げられること、また不飽和脂肪酸を摂ることで、心血管疾患、がん、神経変性疾患、呼吸器疾患による死亡リスクも低下することを報告している3)。今回の研究では対象を2型糖尿病患者に絞ることにより、これまで不明であった点を明らかにした。 血糖コントロール状況や糖尿病の重症度が評価されていないことや、食事やライフスタイルが自己申告であることには注意が必要である。また米国での研究であり、わが国の糖尿病患者を対象とした大規模なコホート研究が望まれる。

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第12回 低血糖、シックデイ、アドヒア―注射剤にまつわる問題への対処法【高齢者糖尿病診療のコツ】

第12回 低血糖、シックデイ、アドヒア―注射剤にまつわる問題への対処法前回に引き続き、GLP-1受容体作動薬とインスリンそれぞれについて、高齢者での使い方のポイントをご紹介します。低血糖や、GLP-1受容体作動薬での消化器症状、そしてきちんと打てているかが心配な注射剤のアドヒアランスについて、状態を確認する方法と対処法をまとめます。Q1 低血糖や消化器症状、シックデイが心配。どのようにコントロールしますか?1)低血糖について高齢者では発汗・動悸といった典型的な低血糖症状が出づらく、めまいや脱力感が前面に出る場合が多く、低血糖症状が見逃されることがあります。また、低血糖症状がせん妄として現れることもあり、注意が必要です。インスリン使用者あるいはGLP-1製剤にSU薬やグリニド薬を併用している例では、低血糖のリスクがあるため、定期受診時に非典型的な症状も含めて症状の有無を確認します。また、HbA1cの下限も意識し、過度のコントロールにならないようにインスリンやSU薬、グリニド薬を減量します。2)消化器症状について肥満の非高齢者では好ましいGLP-1受容体作動薬の食欲低下作用ですが、高齢者では脱水やサルコペニアを惹起する可能性があり、食思不振や過度の体重減少に注意が必要です。そのため、筋肉量が少ないと予想される「やせ型」の高齢者にはあまりいい適応ではありません。週1回のGLP-1受容体作動薬は消化器症状が比較的出づらいといわれていますが、リスクはあるため、定期外来受診時は食欲と体重の推移に注意する必要があります。3)シックデイについて水分や炭水化物の摂取などの一般的なシックデイ対応が前提ですが、ここでは注射製剤の取扱いについて記述します。GLP-1受容体作動薬は血糖依存性にインスリン分泌を促進するため、基本的には食事量が少なくても中止する必要はありませんが、嘔気などの消化器症状が強い場合は増悪させる危険性があるため中止します。持効型や中間型などの作用時間の長いインスリンは中止しないことが原則です。とくに、1型糖尿病などインスリン依存状態の場合は、たとえ食事摂取ができなくとも持効型製剤は絶対に中止しないように指導します。2型糖尿病でインスリン分泌能が保たれている場合には投与量を減量する場合もあります。超即効型製剤は、食事(炭水化物)量に応じ調整(例:食事摂取量が半量ならインスリン半量など)するように指導し、紙に書いて渡していますが、高齢者では対応困難な場合が多く、強い症状が半日以上続く、24時間以上経口摂取ができないなどといった場合1)は医療機関を受診するように指導しています。Q2 手技指導のポイントがあれば、教えてください。1)自己注射の可否の判断認知機能の低下した高齢者にとって新たに注射手技を獲得することは非常に困難です。DASC-8や時計描画試験を含むMini-Cogなどを用いて認知機能をスクリーニングし(第4回参照)、本人への指導を行うかを検討します。本人が難しい場合には介護者への指導を行うことになりますが、老々介護の世帯も多く、介護者への指導も難しいこともあり、インスリン分泌能が保たれている場合には、訪問看護やデイケアの看護師が行う週1回のGLP-1製剤が有用な選択肢として考えられます。また、注射自体は患者本人が可能なものの、インスリンの準備やその単位設定が困難な場合があるので、注射手技の一部を介護者に依頼することもよくあります。2)自己血糖測定本人や介護者が注射手技は獲得できても、自己血糖測定が困難な場合もあるため、指導状況をみながら自己血糖測定の指導を行うかどうか検討します。GLP-1製剤のみを使用している場合で、低血糖リスクが少ないと判断した場合は、血糖測定は必須ではありません。インスリン注射の場合で血糖測定が困難なときには、低血糖回避のため、やむを得ず血糖コントロール目標を緩和することがあります。自己血糖測定が可能な場合には、低血糖を回避するために、食前または眠前の血糖値100mg/dL未満が継続する場合にその前の責任インスリンの減量(1~2単位)を考慮します。また、血糖値の変動が大きい場合には、インスリンボールができていないかどうかを確認し、固くない場所に注射するように指導します。3)注射のアドヒアランス自己注射を行えていた例でも、加齢に伴って打ち忘れがあったり、注射の実施が困難になったりする場合もあります。明らかな誘因がなくコントロールが悪化したときは、注射の打ち忘れと注射手技を確認します。とくに眠前の持効型インスリンは、つい早く寝てしまって、打ち忘れが起こりやすいので、朝食前や夕食後に変更することがあります。外出や旅行の際のインスリンの打ち忘れも起こりやすいので、あらかじめバッグに予備の注射薬を入れておくように指導します。インスリン注射は実施できていても単位を間違えることが懸念される場合は、多少の血糖上昇には目をつぶり、毎回のインスリン量を同じにする、10単位など覚えやすい単位数に設定するなどの工夫をすることもあります。インスリン単位数は処方箋の記載だけでなく、必ず紙に書いて(多くは自己血糖記録用紙に)渡すようにし、外来受診時に何単位打っているかを患者さんに答えてもらって、単位数の間違えがないかを確認しています。独居で介護者がいない場合は低血糖リスクを極力下げるため、血糖管理目標を緩和します。訪問看護を導入すると、インスリンの残量を確認することで実際に打てているかどうかをわかることがあります。インスリン注射が必要であるが、自己管理が困難で、かつ介護者が不在の場合は外来での対応は困難であり、入院あるいは短期入所のうえ環境調整が必要です。入院・入所を拒否された場合でも、説得を続けながら地域包括支援センターなどに相談します。1)日本老年医学会・日本糖尿病学会編著. 高齢者糖尿病診療ガイドライン2017.南江堂;2017.

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