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高齢者がCOVID-19に感染する場所と感染対策/感染研

 国立感染症研究所実地疫学研究センターは、9月29日に同研究所のウェブサイト上で「高齢者の会合等、人が集う場面での新型コロナウイルス感染症に関する感染事例の所見と公民館や体育館等を利用する際の感染対策についての提案」を発表した。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第5波はピークアウトし、全国的に緊急事態宣言も解除され、今後秋祭りなどの行事がCOVID-19に警戒しながら行われていくことが予想されている。「とくに多くの高齢者は、新型コロナワクチンの接種も進んでいるが、高齢者が集った場合に発生したCOVID-19のクラスター事例を再度振り返り、これまでに得られた知見や必要な対策について考えてみたい」と同研究所は提案の目的を示している。<これまでに得られた主な所見>・高齢者が日常生活で集合して楽しむ場での感染としては、昼カラオケ、フィットネスクラブ、サークル・クラブ活動など、が知られていた。・主に高齢者を対象とした催事場(ショッピングモールでの対面販売など)での数週間程度の比較的長期間のイベントにおいて、アルファ株流行下より、複数のクラスター事例の発生を認めた。・イベントでは、物品の無料体験会、説明会などの場面で、地域の高齢者が連日、時に繰り返し訪れている様子が観察された。・上記のようなイベントでは、地域の高齢者が集まり、参加者(利用者)同士での談笑、飲食を通した憩いの場になっていた。そのプラス面を考慮する必要がある一方で、調査により、感染した高齢者が、他の感染機会を認めなかった場合も多く、対策上の重要性が認められた・利用者のマスクについては、一般に着用が推奨されていたが、とくに飲食時やそれ以外のマスク着用の状況は詳細な情報が得られていない。・説明会などにおける講師や他の大会関係者のマスク着用に関する情報は乏しかった。・とくに扱う対象が食品の場合、試飲や試食などマスクを外す機会があった。・一部密な状態(狭い空間に多数の者がいた状態)があったことが観察され、換気についても不十分であった可能性が見受けられた(CO2センサーなどでの測定情報無し)。・感染者の店舗利用日が共通していない事例があり、利用者間ではなく、感染した従業員が感染伝播に寄与した事例があった可能性が考えられた。<これまでの所見に基づく主な提案:公民館ガイドラインを踏まえて> 高齢者を含む地域住民が集う場としての公民館における新型コロナウイルスへの対応に関しては、公益社団法人全国公民館連合会により作成された、「公民館における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」(2020年10月2日)が同会ホームページ上で公開されている。本ガイドラインは、「感染防止のための基本的な考え方」の中で、いわゆる3つの密(密閉、密集、密接)を徹底して避けることの重要性について触れ、リスク評価の項では、接触感染・飛まつ感染それぞれの対策、集客施設としてのリスク評価、地域における感染状況のリスク評価の重要性について言及している。具体的には、イベント・講座などの実施で講じるべき具体的対策、公民館における公演などの開催に際して、公演主催者が講じるべき具体的対策(対人距離を最低1m(出来れば2m)確保する、入館時に検温する、直接手で触れることができる展示物などは展示しない、トイレの管理などの注意点が分かりやすく列挙されている。 以上を踏まえ、同研究所は、「利用者自身が注意すべき事項」「従業員の感染予防が重要であることに関する注意事項」「施設の換気に関する注意点」の3つに大別して注意事項を説明している。◯利用者に対して・屋内で複数の者が集まる機会では密集・密接になる場面を避けることを徹底する。具体的には、良好な換気への対策が十分に行われているイベントに参加することを心がける。マスク着用は必須である。イベント終了後の談笑や長時間の利用を避けることが必要。また、対人距離は最低1m(できるだけ2m)を確保する。座席の配置についても同様。高齢者では耳が聞こえにくい、見にくいなどで距離を保てない状況からどうしても近い距離の接触となりがちではあるが、適切なマスク着用をさらに徹底し、参加は短時間に留めるなどの工夫を行う。・試飲や試食を伴う屋内のイベントへは、できる限り参加を控える。参加する場合、マスクを外す時間を短時間に留め、その間は会話しない。適切なアルコール消毒剤を用いた手指衛生を適切に行う。◯運営者(開催されているイベントがある場合の主催者を含む)・従業員に対して・従業員は施設内感染拡大の要因となり得ることから感染予防ができるように指導を徹底する。・具体的には従来通りの基本として、適切なマスク着用、手指衛生、換気を徹底する。・説明会や講演会の開催にあたっては、運営者・主催者は、屋内で、長時間に渡り、参加者が集まってしまうことを避け、屋外での開催やオンラインを組み入れたイベントとなるように工夫する。換気が十分に実施できる環境の整備を行う。◯換気を十分に実施する具体的方法(林 基哉氏[北海道大学]による補足)・機械換気設備がある場合には、施設使用時には常時運転する。・寒さや暑さに配慮しながら、窓とドアをなるべく常時開放して、部屋の空気がこもらないようにする(暖冷房の利用や着衣に配慮しながら、より換気を確保する)。・扇風機、サーキュレーターなどで、屋内の空気を動かして空気の淀みを少なくする。・とくに換気が十分ではない場合、滞在時間を最小限にすることが望ましい。・二酸化炭素濃度の測定機器(CO2センサー)を利用して、換気の確認を行うことができる。杜撰な感染対策下では再度感染する恐れも 本提案では、最後に2021年9月末現在、新型コロナワクチンの接種が進む中での医療機関や高齢者施設における、いわゆる「ブレークスルー感染事例」やワクチンの有効性について触れ、「『適切なマスクの着用をしない、手指衛生を怠る、換気をきちんと行わない』などの杜撰な感染対策下においては、デルタ株はたやすく人々に感染し、大きな脅威をもたらす」と警鐘を鳴らすとともに、「高齢者を中心とする年齢層の方が集う場をどのように安全に運営するか、は運営者のみならず、利用者である市民も一体となって取り組むべき課題」と問題を提起している。 また、「屋外においても3つのうち1つの密でも発生すると、感染リスクが増大することが観察されている。付設する広場などにおいても、常に警戒を怠らず、十分な間隔をおきながら交流を楽しむことが求められる」とさらなる注意を促している。

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第78回 新百合ヶ丘総合病院の訴えで浮き彫り、地域医療構想調整会議の壁と限界

「第6波は必ず来る」と全国知事会こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。自民党の総裁選、白鵬引退、小室 圭さん帰国、緊急事態宣言の解除、日ハム・斎藤 佑樹投手の引退、大谷 翔平選手の本塁打王逃し、新しい総理大臣の就任…と、この1週間は各方面実にいろいろなことがありました。斎藤投手は早稲田実業高校時代の西東京大会から観ていたので、現役引退はなかなか感慨深いものがあります。NPBの記録を見てみると、11年間のプロ生活でなんと15勝しかしておらず、防御率は4.34。それでもその引退が白鵬並に大きく報じられるのは、やはり“持っている”からなのでしょうか。日ハムファンの私の娘は、「引退後は本社でシャウエッセンの営業かな」と言っていましたが、どうなることか。挫折を経験しているので指導者に向いているという声もあるようです。“持っている”男の今後がとても気になります。さて、政府が19都道府県に出していた緊急事態宣言と8県に適用していたまん延防止等重点措置が9月30日にやっと解除となったことは、個人的には歓迎すべきニュースでした。10月1日から都内の飲食店で夜8時まで、酒類の提供が可能となったからです。その1日金曜日、台風の強風が吹く中、とある焼鳥屋に友人と出かけました。17時に入店したのですが、お店は既にほぼ満員。皆、仕事を休んで来たのか、常連さんたちが既にいい感じで酔っ払っていました。飲み屋の賑わい自体が懐かしかったのですが、こんな具合で皆が飲み始めると、11月頃に第6波が来るのは必至でしょう。厚生労働省は1日、第6波に備え、医療提供体制を整備するよう都道府県に通知を出しました。10月中を目処に整備方針を作り、11月末までの体制づくりを求めるとのことです。一方、全国知事会は翌2日、第6波が必ず到来するとしたうえで、第5波の経過検証や感染拡大防止策の充実を政府に求める緊急提言をまとめています。第6波が来たとしても、国も都道府県も今度はバタバタしないよう、しっかりと準備を進めておいてほしいものです。今回は少し前の9月10日、政府の規制改革推進会議「医療・介護ワーキング・グループ(WG)」で突然議題に取り上げられた「地域医療構想調整会議のガバナンス向上」について書いてみたいと思います。「地域医療構想調整会議の透明性の向上を徹底せよ」とWG委員「ガバナンス」と聞いてもピンとこないでしょうが、要は、医師会中心にクローズドで行われている各地の地域医療構想調整会議について、議事の公開など、透明性の向上を徹底していくことが必要ではないか、という趣旨の問題提起がWG委員からなされたのです。この日、WGのオンライン会議のヒアリングには、神奈川県川崎市麻生区にある新百合ヶ丘総合病院の笹沼 仁一院長氏が招かれていました。同病院は3次救急指定に向け、 2016年から県と打ち合わせを開始し、20年度から計3回の調整会議で議論したもののコンセンサスが得られていない、というのです。 さらに3回の調整会議のうち2回は非公開だったそうです。新百合ヶ丘総合病院の訴えに対し、厚生労働省の担当者は、3次救急として認めるか否かはあくまで県の判断であること、指定の可否について調整会議の議論を国が求めているわけではないことなどを説明しましたが、委員の1人からは「地域医療の将来像について議論をするのは大事だが、他の病院からの反対で、指定が円滑に進まない状況を踏まえると、議事の公開など、透明性の向上を徹底していくことが必要ではないか」という意見が出たとのことです。新百合ヶ丘総合のケースはNHKニュースでも詳報このWGでの議論と新百合ヶ丘総合病院の訴えは9月13日のNHKのニュースウオッチ9でも「重症病床・“増やしたくても増やせない”」というタイトルで、コロナ関連のニュースとして大きく取り上げられました。このニュースでは、全国でコロナの重症病床が十分に増えていない、と前置きした上で、「新百合ヶ丘総合病院ではこの4月に、重症者も受け入れることのできる救命救急センターの開設を目指していたが、5ヵ月たった今も重症者の受け入れはできていない。導入したECMOも使われない状態が続いている」と報じ、その原因として地域医療構想調整会議を挙げたのです。さらに、「神奈川県は、救命救急センターを稼働させるにあたり、調整会議に諮問し合意が必要としている」と指摘し、実際の会議中の神奈川県医師会理事の「一番の問題はベッドではなく人の問題。取り合いが起こったり結果として(医療機関が)共倒れになってしまう」という生々しい発言も紹介。最後には調整会議に参加する川崎市の医務監の「非常に焦りを感じている。利害関係者にある者を議論させることがそもそも難しいのではないか」というコメントも伝えています。このニュースには慈恵会医科大学外科学講座の大木 隆生教授も反応しており、Twitterに「新百合ヶ丘総合病院は慈恵から外科医を8名派遣している関連病院で、半年前からコロナ重症者を受け入れる準備をしていましたが主に医師会(地域医療構想調整会議)の反対でまだ稼働できていません。この夏、神奈川県では東京以上に医療が逼迫していたと言うのに…」と記しています。日医もすぐに反応、WGの懸念は「無用」と中川会長事が大きくなりそうになったためか、あるいは規制改革会議のWGながら一見”規制”には見えない地域医療構想調整会議が取り上げられたためか、日本医師会もすぐに動きました。9月15日、中川 俊男会長は記者会見でこの問題に関してコメントしました。メディファクス等の報道によれば、中川会長は、「地域医療構想策定ガイドラインでは、協議の内容・結果は原則として周知・広報するとされている」と説明、その上で、「地域医療構想は自主的な収れんを理念としているため、地域医療構想調整会議で関係者が地域の実情を踏まえた議論を行う過程で、地域の医療関係者と共有すべき課題を地域住民にも理解してもらう必要があることから、適切な情報公開は既に行われている」と述べ、規制改革推進会議のWGの懸念は「無用という気もする」と述べたとのことです。東北地方有数のチェーン病院への私怨?コロナ禍の中、地域で必要とされている3次救急の指定が滞っている現状があるにも関わらず、懸念は「無用」とは、相変わらずのん気で問題に正対しないコメントです。地域医療構想や地域医療構想調整会議は、基本的に「規制」とは無関係で、「医療・介護ワーキング・グループ」の議題に相応しくない、との見方もあったようです。しかし、もしそこでの議論(地元医師会の意向など)が3次救急への新規参入を妨害する要因だとしたら、それは立派な規制と言えるでしょう。新百合ヶ丘総合病院もそこを突くために詳細な資料提出をしたのだと思われます。新百合ヶ丘総合病院は、2011年開院の急性期病院です。経営する医療法人社団三成会は、福島県郡山市に本拠を置く、南東北病院グループの一法人。2006年3月末に川崎市多摩区の稲田登戸病院が廃止となって北部地域の病床数が不足となり、川崎市が事業者を公募して三成会が選出された、という経緯があります。ここからはあくまで想像ですが、東北地方有数のチェーン病院の川崎市進出に、地元の医師会などはあまり良い印象を持っていなかったのではないでしょうか。患者だけではなく、看護師などの医療スタッフの争奪戦も繰り広げられたでしょう。地域医療構想調整会議の場では、そこで生まれた私怨が住民の医療ニーズよりも優先されたのかもしれません。「自主的な収れん」に任せる仕組みにもメスを中川会長の言葉でもう一つ気になったのは、「自主的な収れん」という言葉です。確かに地域医療構想は、行政が一方的に押し付けるのではなく、医療機関の自主的取り組みと協議を通じて地域のあるべき医療提供体制を実現するための制度です。中川会長の言う「自主的な収れんが理念」というのは、確かにその通りです。しかし、各地域で協議の場である地域医療構想調整会議が、利害ばかりを主張する場所となり、一向に調整が進まないのも事実です。コロナ禍において病床の調整がうまくいかなかったのは、「自主的な収れん」に任せるあまり、地域の医療機関の棲み分けがほとんど進んでいなかったことも大きな原因の一つです。医療法改正で2022年度からは、高度な医療機器など医療資源を重点的に活用する外来等について報告を求める「外来機能報告制度」が創設されます。報告を基に、地域医療構想と同様不足する外来医療機能の棲み分けや確保について「地域の協議の場」などで話し合い、調整することになります。この「地域の協議の場」をどうするかについて、現在議論が行われている最中ですが、9月15日に開催された「外来機能報告等に関するワーキング・グループ」(「第8次医療計画等に関する検討会」の下部組織)では、「地域の協議の場」に住民代表が参画することが重要、との指摘が多数あったとのことです。よくよく考えてみれば、外来機能では住民が必要で、入院機能は住民不要というのも変な話です。冒頭で紹介した、新百合ヶ丘総合病院の3次救急の議論にしても、地域医療構想会議のメンバーに住民代表が入り、議論が公開されていれば、3次救急指定もスムーズに進み、規制改革会議のWGの議題にもならなかったはずです。ポストコロナの医療提供体制構築に向けては、地域構想をどう実効性のあるものにしていくかがカギだと言われています。地元医師会の意向だけを反映した、住民無視の医療提供体制にしないために、地域医療構想調整会議での「自主的な収れん」に任せる仕組みにも、厳しいメスを入れるべきときではないでしょうか。

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脳卒中治療ガイドラインが6年ぶりに改訂、ポイントは?

 今年7月、『脳卒中治療ガイドライン2021』が発刊された。2015年の前版(2017年、2019年に追補発行)から6年ぶりの全面改訂ということで、表紙デザインから一新。脳卒中治療ガイドライン2021では追補の内容に加え、関連学会による各指針など最新の推奨が全面的に取り入れられている。そこで、脳卒中ガイドライン委員会(2021)の板橋 亮氏(岩手医科大学内科学講座脳神経内科・老年科分野 教授)に、近年目覚ましい変化を遂げる脳梗塞急性期の治療を中心として、主に内科領域の脳卒中治療ガイドライン2021の変更点について話をうかがった。脳卒中治療ガイドライン2021の変更点にエビデンスレベルの追加 まず脳卒中治療ガイドライン2021の1番大きな変更点としては、追補2019までは推奨文にエビデンスレベルはついておらず、文献のエビデンスを踏まえた推奨度のみが記載されていたが、2021年版では推奨文に推奨度(ABCDE)とエビデンス総体レベル(高中低)の両方が記載された。すべての引用文献に、エビデンスレベル(1~5)が示されている。 さらに、脳卒中治療ガイドライン2021では今回初めてクリニカルクエスチョン(CQ)方式が一部に採用され、重要な臨床課題をピックアップしている。利便性を考慮し、あえてCQ方式と従来の推奨文方式の両方にて記載した内容もある。 また、脳卒中治療ガイドライン2021の全般的な構成の変更点として、前版までリハビリテーション関連の内容はすべて後半のページにまとめられていたが、今回から急性期に関してのリハビリテーションは前半ページ(目次I「脳卒中全般」)に記載された。脳卒中治療ガイドライン2021脳梗塞急性期の変更点 脳卒中治療ガイドライン2021の具体的な内容に関しては、たとえば目次II「脳梗塞・一過性脳虚血発作(TIA)」項の冒頭に、CQ「脳梗塞軽症例でもrt-PA(アルテプラーゼ)は投与して良いか?」「狭窄度が軽度の症候性頸動脈狭窄患者に対して頸動脈内膜剥離術(CEA)は推奨されるか?」が追加された。 また、脳卒中治療ガイドライン2021では、脳梗塞急性期における抗血小板療法の推奨として、DAPT(抗血小板薬2剤併用療法)の推奨度が見直され、発症早期の軽症非心原性脳梗塞患者の亜急性期までの治療法として、推奨度BからA(エビデンスレベル高)に引き上げられた(なお、高リスクTIAの急性期に限定した同療法は、DAPTの効果の大きさと出血リスク上昇を総合的に勘案し、推奨度Bで据え置きとなっている)。これに伴い、従来経静脈投与で用いられていた抗凝固薬アルガトロバン、抗血小板薬オザグレルNaは、推奨度BからCに引き下げられている。 さらに、脳梗塞急性期の抗凝固療法における直接阻害型経口抗凝固薬(DOAC)についての推奨、脳梗塞慢性期の塞栓源不明の脳塞栓症における抗血栓療法についての推奨などが、脳卒中治療ガイドライン2021には新たに追加された。 全体的には、『静注血栓溶解(rt-PA)療法適正治療指針 第三版』『経皮経管的脳血栓回収用機器 適正使用指針 第4版』などの推奨に準じた内容で、目新しさには欠けるかもしれないが、それが脳卒中治療ガイドライン2021として1つにまとめられたことは大きな意義を持つだろう。 詳細は割愛するが、塞栓源となる心疾患に対するインターベンションについての記載も充実した。たとえば、脳梗塞慢性期の奇異性脳塞栓症(卵円孔開存を合併した塞栓源不明の脳塞栓症を含む)については、『潜因性脳梗塞に対する経皮的卵円孔開存閉鎖術の手引き』に準じた推奨が、出血の危険性が高い非弁膜症性心房細動患者については、『左心耳閉鎖システムに関する適正使用指針』に準じた推奨が追記されている。脳卒中治療ガイドライン2021にテネクテプラーゼを記載 機械的血栓回収療法は、急性期治療の中でもとくに注目されており、軽症例や単純CTで広範な早期虚血が見られる例に関して、国際的な無作為化試験が行なわれている。本治療に関するエビデンスはここ数年で変わる可能性が高い。 また、海外ではCTPT系P2Y12拮抗薬チカグレロルとアスピリンによるDAPTの臨床試験が行われ,米国ではすでに脳卒中領域の承認を得ているが、わが国で導入される見通しは不明である。このように、推奨文にするほどではない、もしくはわが国では保険適用がない場合でも、臨床医に知っておいてほしい情報は、脳卒中治療ガイドライン2021の解説文の中にコラム形式で記載されている。 推奨文としては書いていないが、脳卒中治療ガイドライン2021の脳梗塞急性期の経静脈的線溶療法の解説文には、海外の一部で使われ始めているテネクテプラーゼについても記載がある。おそらく、無作為化試験の結果が揃えば、今後アルテプラーゼに代わって使われるようになるだろう。国内での臨床試験も行われる予定だが、わが国で導入できる目途は立っていないため、こちらも今後の展開に注目されたい。脳卒中治療ガイドライン2021は読みやすさを重視した構成 驚くことに、脳卒中治療ガイドライン2021は、前版から解説文の文字数を半分近くに減らしたという。現場で参照することを第一に、各項目はできる限り2ページ以内に収めるなど、読みやすさを重視した工夫が凝らされている。板橋氏は、「推奨文だけ読めば最低限の重要事項が確認できるように作られてはいるが、推奨度そしてエビデンスの根拠となる解説文の内容も是非確認していただきたく、できるだけ読んでもらえるように短くまとめた」と語った。また、手元に置いておきたくなるような脳卒中治療ガイドライン2021のスタイリッシュなデザインは、委員会事務局の黒田 敏氏(富山大学脳神経外科 教授)が選んだこだわりの青色が採用されたという。脳卒中治療ガイドライン2021の電子版は11月に発売予定だ。『脳卒中治療ガイドライン2021』・発行日 2021年7月15日・編集 一般社団法人日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会・定価 8,800円(税込)・体裁 A4判、320ページ・発行 株式会社協和企画

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腹膜播種診療ガイドライン 2021年版

腹膜播種診療に本邦初となる臓器横断的なガイドライン登場!腹膜播種は、腫瘍細胞が腹腔内に散布された形で多数の転移を形成する予後不良の病態で、がん種や地域ごとに様々なアプローチで診断・治療がされており、統一した治療指針が確立されていない。日本腹膜播種研究会では臓器横断的な観点から腹膜播種患者の予後向上を目指し、本邦初となるガイドラインを策定。腹膜播種特有の手技(審査腹腔鏡、腹腔内温熱化学療法、CART)に対するCQ等、臨床で有用な推奨を明示した。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    腹膜播種診療ガイドライン 2021年版定価3,300円(税込)判型B5判頁数B5判・212頁・図数:3枚発行2021年8月編集日本腹膜播種研究会電子版でご購入の場合はこちら

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早期乳がんの術後トラスツズマブは6ヵ月で十分か?~メタ解析/ESMO2021

 HER2陽性早期乳がん患者に対するトラスツズマブ単剤での術後補助療法の無浸潤疾患生存期間(iDFS)について、これまでの無作為化非劣性試験の個々の患者データを用いてメタ解析を実施した結果、標準である12ヵ月投与に対して6ヵ月投与での非劣性が示された。英国・Cambridge University Hospitals NHS Foundation TrustのHelena M. Earl氏が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2021)で発表した。 Earl氏らは、系統的レビューを用いて5つの無作為化非劣性試験を特定した。そのうち、PERSEPHONE、PHARE、HORGの3試験は12ヵ月と6ヵ月の比較、SOLDとShort-HERの2試験は12ヵ月と9週の比較。主要評価項目はiDFSとし、ITT解析を行った。事前に絶対的非劣性マージンを2%と設定、5年iDFS率をランダム効果モデルおよび固定効果モデルで推定した。絶対的マージン2%でのハザード比(HR)の非劣性限界値は、12ヵ月と12ヵ月未満を比較する5試験では1.19、12ヵ月と6ヵ月を比較する3試験では1.20、12ヵ月と9週を比較する2試験では1.25と計算された。 主な結果は以下のとおり。・12ヵ月と12ヵ月未満の比較(5試験を結合したランダム効果モデル)では、5年iDFS率はそれぞれ88.46%と86.87%だった。調整HRは1.14(95%信頼区間[CI]:0.88~1.47)で、上限値の1.47は非劣性限界値の1.19を大きく上回り、非劣性は示されなかった(非劣性のp=0.37)。・12ヵ月と6ヵ月の比較(3試験を結合した固定効果モデル)では、5年iDFS率はそれぞれ89.26%と88.56%だった。調整HRは1.07(90%CI:0.98~1.17)で、上限値の1.17は非劣性限界値の1.2よりも小さく、非劣性が示された(非劣性のp=0.02)。・12ヵ月と9週の比較(2試験を結合した固定効果モデル)では、5年iDFS率はそれぞれ91.40%と89.22%だった。調整HRは1.27(90%CI:1.07~1.49)で、上限値の1.49は非劣性限界値の1.25を大幅に超え、非劣性は示されなかった(非劣性のp=0.56)。 Earl氏は、「個々の患者の選択を可能にするためにガイドラインの変更を検討すべきである。トラスツズマブ単剤での術後補助療法を6ヵ月実施後12ヵ月まで継続した場合、0.7%というわずかな上乗せベネフィットしか得られないというエビデンスを示すことができる。患者はオンコロジーチームと共に、12ヵ月まで継続するかどうかを選択可能」とした。

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迅速承認がん治療薬、確認試験が否定的でも推奨薬のまま?/BMJ

 米国食品医薬品局(FDA)の迅速承認を受けたがん治療薬の適応症は、法令で定められた承認後確認試験で有効性の主要エンドポイントの改善が得られなかった場合であっても、3分の1が添付文書に正式なFDAの承認を得たものとして記載され、数年にわたり診療ガイドラインで推奨されたままの薬剤もあることが、カナダ・クイーンズ大学のBishal Gyawali氏らの調査で示された。研究の詳細は、BMJ誌2021年9月8日号で報告された。承認後確認試験で否定的な迅速承認薬の後ろ向き観察研究 研究グループは、FDAの迅速承認を受けたものの、承認後確認試験で主要エンドポイントの改善が得られなかったがん治療薬の規制上の取り扱いを調査し、承認後確認試験の否定的な結果が診療ガイドラインでの推奨にどの程度影響を及ぼしているかを評価する目的で、後ろ向き観察研究を実施した(米国・Arnold Venturesの助成を受けた)。 FDAのDrugs@FDAデータベースを用いて、2020年12月までに迅速承認を受けたすべてのがん治療薬が系統的に検索された。また、FDAのPostmarketing Requirements and Commitmentsデータベースを検索し、これらの薬剤の適応症について、法令で定められた承認後確認試験の結果が調査された。 規制措置や確認試験の否定的な結果が臨床現場に及ぼす影響を評価するために、迅速承認された各薬剤の適応症について、全米包括的がんネットワーク(NCCN)の診療ガイドラインにおける、2021年5月の時点での推奨状況の確認が行われた。自主的に撤回は61%、1項目はFDAが承認を取り消し 迅速承認を受けたが承認後確認試験で主要エンドポイントが改善されなかったがん治療薬とその適応症として、10剤の18項目(免疫チェックポイント阻害薬 11項目、モノクローナル抗体 4項目、分子標的薬、化学療法薬、抗体薬物複合体 各1項目)が特定された。 18項目のうち、11項目(61%)が製薬会社によって自主的に撤回され、1項目(HER2陰性乳がんのベバシズマブ)はFDAにより承認を取り消されていた。11項目の自主的撤回のうち6項目は2021年に行われていた。また、18項目のうち残りの6項目(33%)は、添付文書に適応と記載された状態だった。 一方、NCCNガイドラインでは、承認の自主的撤回および取り消し後も一定の頻度で、これらの薬剤が高いレベルで推奨されており、1項目(PD-L1陽性トリプルネガティブ乳がんのアテゾリズマブ)がカテゴリー1(高レベルのエビデンスに基づき、NCCNの統一したコンセンサスがある)、7項目はカテゴリー2A(比較的低レベルのエビデンスに基づき、NCCNの統一したコンセンサスがある)であった。 著者は、「これらの知見は、迅速承認の行程を支える速度とエビデンスの妥結点が達成されていないことを表している。最近の規制措置の動きからは、FDAがこのような状況に多大な注意を払ってきたことがうかがわれるが、FDAが承認したすべての薬剤が患者にとって安全で有効であることを示すには、迅速承認の行程の新たなガイダンスと改革が求められる」としている。

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進行食道がん1次治療に免疫チェックポイント阻害薬の併用療法が参入(解説:上村直実氏)

 外科的に切除不能な進行・再発または転移のある食道扁平上皮がんに対して、一般的には放射線・化学療法が行われている。このうち化学療法に関しては30年前からフルオロウラシルとシスプラチン等のプラチナ製剤の併用療法(FP療法)が標準治療として用いられてきたが、最近、免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-L1阻害薬)の登場によって大きな変化が起こりつつある。すなわち、ニボルマブ(商品名:オプジーボ)やペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)など抗PD-L1阻害薬とFP療法の併用がFP療法単独に比べて、全生存期間(OS)や無増悪生存期間(PFS)を有意に延長するという研究結果が報告されている。 今回は切除不能進行・再発食道扁平上皮がんに対する1次治療の有用性を検討するために世界26ヵ国で実施された国際共同第III相試験(KEYNOTE-590試験)の結果がLancet誌に報告された。CPSが10以上の症例を対象とした本試験では、ペムブロリズマブとFPの併用療法がFP単独に比べてOSならびにPFSを有意に延長し、食道扁平上皮がんに対する標準化学療法に名乗りを上げる研究結果と思われる。今後、手術不能進行食道がんに対する標準治療は、抗PD-L1阻害薬とFP療法の併用療法もしくは異なる抗PD-L1阻害薬の併用療法と放射線治療を加えた集学的治療の有用性が検討された後、食道がんに対する初期化学療法が大きく変わるものと思われる。 なお、日本における保険診療の現場に対しては、9月にニボルマブとイピリムマブ(商品名:ヤーボイ)の併用療法およびニボルマブと化学療法の併用療法の有用性を示した国際共同RCTであるCheckMate-648試験の結果に基づいて食道がんの1次治療に使用できるようにするための一変申請が提出されている。今後、ペムブロリズマブに関しても同様の内容で申請されることが予想される。現時点におけるニボルマブとペムブロリズマブの違いは、前者はCPSにかかわりなく使用可能であるが後者にはCPSが5以上という条件が付される可能性がある。いずれにせよ、近いうちに食道がんに対する標準的化学療法が大きく変化して診療ガイドラインにも反映されるものと思われる。 さらに、今年の6月に発表されたCheckMate-649試験では、切除不能進行・再発胃がん/食道胃接合部がん/食道腺がんを対象としてニボルマブと化学療法の併用ないしはニボルマブとイピリムマブの併用療法が化学療法単独に比べて優越性を認めたことから、胃がんに対する標準治療にも抗PD-L1阻害薬が参入する可能性が出てきており、上部消化管領域の切除不能進行がんに対する化学療法が大きな変革を迎えようとしており、ひいては患者さんが大きな恩恵を受けることが期待される。

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降圧薬の心血管イベント予防効果、年齢や血圧で異なるか/Lancet

 薬理学的な降圧は高齢になっても効果的であり、主要心血管イベント予防の相対的なリスク低下が無作為化時点での収縮期または拡張期の血圧値によって異なるというエビデンスはなく、120/70mmHg未満でも有効であるという。英国・オックスフォード大学のKazem Rahimi氏らBlood Pressure Lowering Treatment Trialists' Collaboration(BPLTTC)のメンバーらが、MACEのリスクに関する降圧薬の有効性を比較検証した無作為化比較試験のメタ解析結果を報告した。70歳以上の高齢者において、とくに、血圧が十分に上昇していない場合の心血管アウトカムに対する降圧の薬物療法の有効性は明らかになっていなかった。結果を踏まえて著者は、「降圧薬による治療は年齢にかかわらず重要な治療選択肢として考慮すべきであり、国際的なガイドラインから年齢に関連した血圧の閾値を撤廃すべきである」と述べている。Lancet誌2021年9月18日号掲載の報告。無作為化試験51件、約35万9千例についてメタ解析 研究グループは、BPLTTCのデータから得られた降圧薬群とプラセボまたは他のクラスの降圧薬群との比較、あるいはより強力な降圧療法と強力でない降圧療法との比較を行った無作為化比較試験のうち、各群1,000人年以上追跡した試験を対象に、個人レベルのデータを用いてメタ解析を実施した。心不全既往の被験者は除外された。 主要評価項目は、致死的または非致死的脳卒中、致死的または非致死的心筋梗塞・虚血性心疾患、死亡または入院を必要とする心不全の複合(主要心血管イベント)であった。データを統合して、ベースラインの年齢(<55、55~64、65~74、75~84、≧85歳)、収縮期血圧(<120、120~129、130~139、140~149、150~159、160~169、≧170mmHg)、および拡張期血圧(<70、70~79、80~89、90~99、100~109、≧110mmHg)で分類し、固定効果モデルの一段階法を用いたCox比例ハザードモデル(試験で層別化)により解析した。 解析には無作為化臨床試験51件の計35万8,707例が組み込まれた。55歳未満から85歳以上まで幅広い年齢層で有効 無作為化時の被験者の年齢は、中央値65歳(範囲:21~105、IQR:59~75)で、<55歳が4万2,960例(12.0%)、55~64歳12万8,437例(35.8%)、65~74歳12万8,506例(35.8%)、75~84歳5万4,016例(15.1%)、≧85歳4,788例(1.3%)であった。 各年齢層における収縮期血圧5mmHg低下ごとの主要心血管イベントリスクのハザード比は、<55歳0.82(95%信頼区間[CI]:0.76~0.88)、55~64歳0.91(0.88~0.95)、65~74歳0.91(0.88~0.95)、75~84歳0.91(0.87~0.96)、≧85歳0.99(0.87~1.12)であった(補正後の相互作用のp=0.050)。 拡張期血圧3mmHg低下ごとについても、同様の傾向が認められた。 主要心血管イベントの絶対リスク低下は、年齢によって異なり、高齢者でより大きかった(補正後の相互作用のp=0.024)。一方で、いずれの年齢層においても、ベースラインでの血圧分類によって相対的な治療効果に臨床的に意味のある不均一性は確認できなかった。

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大腸がんガイドライン改訂案に関するパブリックコメント募集/大腸癌研究会

 大腸癌研究会は、治療ガイドライン改訂案についてのパブリックコメント募集を開始した。 募集しているのは「大腸癌治療ガイドライン医師用」2022年版に関するパブリックコメントで、大腸癌研究会のホームページ上に改訂案を公開している。 今回の改訂は、「薬物療法」と「Stage IV大腸癌の治療方針」に限定している。 パブリックコメントの受け付け期間は、2021年9月30日(木)まで。 コメントは、大腸癌研究会事務局ホームページの「コメント送付用フォーム」に記入のうえ、研究会事務局に送付する。大腸癌研究会事務局ホームページhttp://www.jsccr.jp/guideline/index.html

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特発性後天性全身性無汗症〔AIGA:acquired idiopathic generalized anhidrosis〕

1 疾患概要■ 定義発汗を促す環境(高温、多湿)においても発汗がみられないものを無汗症とよぶ。そして、「後天的に明確な原因なく発汗量が低下し、発汗異常以外の自律神経および神経学的異常を伴わない疾患」を特発性後天性全身性無汗症(acquired idiopathic generalized anhidrosis:AIGA)と定義する1)。■ 疫学2011年に国内の大学病院神経内科、皮膚科94施設を対象に行った調査では過去5年間のAIGA患者数は145例であった1)。男性が126例を占め、発症年齢は1~69歳まで幅広いものの、10~40歳代にかけて多くみられた。その後に報告された単施設で結果でもおおむね同様の傾向にある2-4)。また、症例報告のほとんどは本邦からの報告となっている。まれな疾患ではあるが、患者の生活環境によっては無汗に気付かれないこと、後述するようにコリン性蕁麻疹として治療されている例もあり、実際にはより多くの患者がいる可能性がある。しかし、最近ではAIGAの存在が徐々に認知されるようになってきたためか、受診・紹介患者は増えてきている印象もある。■ 病因全身無汗になる病態として次の3つがありうる。(1)交感神経の中の発汗神経の障害(Sudomotor neuropathy)(2)特発性純粋発汗不全(Idiopathic pure sudomotor failure:IPSF)(3)特発性汗腺不全(Sweat gland failure)しかし、臨床経験上(1)(3)はまれであり、またその証明も難しいことから、AIGAの多くが(2)に相当する。(2)の具体的機序としては汗腺分泌部とその周囲のマスト細胞上のアセチルコリン受容体の発現低下が推定されている5)。本病型(IPSF)には減汗性/無汗性コリン性蕁麻疹として主に皮膚科領域から報告されてきたものも含まれる。■ 症状激しい運動や暑熱環境にさらされると無汗による体温上昇のためにほてり感、顔面紅潮、めまい、悪心、動悸などの症状がみられ、容易に熱中症に陥る。手掌や足底、腋窩は障害されにくく、また、前額も発汗が保たれやすい傾向がある。四肢は無汗でも体幹は低汗にとどまっている例もみかける。患者の6~8割程度に発汗誘発時のコリン性蕁麻疹を伴う(IPSF)。明瞭な膨疹が出現せずピリピリとした痛痒さを訴えるだけのこともある。体幹・四肢の無汗のために代償性に生じた顔面の多汗が主訴となることがあり、問診に際して注意が必要となる。■ 予後長期予後に関する大規模な調査はないが生命予後は良い。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 鑑別のステップと検査無汗症の分類を図1に示す6)。先天性・遺伝性には無汗性/低汗性外胚葉形成不全症、先天性無痛無汗症、ファブリー病などがある。一方、後天性には種々の神経疾患、内分泌・代謝異常症、シェーグレン症候群、薬剤性などの要因による続発性のものがある。これらを除いた特発性とせざるをえない無汗症のうち、無汗部位が髄節性(分節性)でなくほぼ全身に及ぶものがAIGAとなる。診断基準を表6)に示す。図1 無汗症の分類画像を拡大する表 特発性後天性全身性無汗症(AIGA)の診断基準A明らかな原因なく後天性に非髄節性の広範な無汗/減汗(発汗低下)を呈するが、発汗以外の自律神経症候および神経学的症候を認めない。Bヨードデンプン反応を用いたミノール法などによる温熱発汗試験で黒色に変色しない領域もしくはサーモグラフィーによる高体温領域が全身の25%以上の範囲に無汗/減汗(発汗低下)がみられる。● 参考項目1.発汗誘発時に皮膚のピリピリする痛み・発疹(コリン性蕁麻疹)がしばしばみられる。2.発汗低下に左右差なく、腋窩の発汗ならびに手掌・足底の精神性発汗は保たれていることが多い。3.アトピー性皮膚炎はAIGA に合併することがあるので除外項目には含めない。4.病理組織学的所見:汗腺周囲のリンパ球浸潤、汗腺の委縮、汗孔に角栓なども認めることもある。5.アセチルコリン皮内テストもしくはQSARTで反応低下を認める。6.抗SS-A抗体陰性、抗SS-B抗体陰性、外分泌腺機能異常がないなどシェーグレン症候群は否定する。A+BをもってAIGA と診断する。(中里良彦ほか. 特発性後天性全身性無汗症診療ガイドライン改訂版. 自律神経.2015;52:352-359.より引用)■ 検査1)温熱発汗試験簡易サウナ、電気毛布などを用いて加温により患者の体温を上昇させて発汗を促し、ミノール法などで発汗の有無を評価する(図2)。正常人では15 分程度の加温により全身に発汗点を認める。サーモグラフィーでは、発汗のない領域に一致して体温の上昇が認められる。無汗部の面積の評価に有用。図2  AIGA患者でのミノール法所見画像を拡大する発汗反応(黒点部分)が低下している2)薬物性発汗試験(1)局所投与5%塩化アセチルコリン(オビソート:0.05~0.1mL)を皮内注射する。正常人では数秒後より立毛と発汗がみられ、5~15 分後までに注射部位を中心に発汗を認める。汗腺自体の発汗機能を評価できる。(2)定量的軸索反射性発汗試験(QSART:quantitative sudomotor axon reflex tests)アセチルコリンをイオントフォレーシスにより皮膚に導入し、軸索反射による発汗を定量する試験。AIGAでは、発汗が誘発されない。(3)皮膚生検AIGAのうち、特発性純粋発汗不全(IPSF)では光顕上、汗腺に顕著な形態異常を認めないが、汗腺周囲にリンパ球浸潤を認めるときがある。(4)血清総IgE値測定IPSF では血清総IgE値が高値の場合がある。(5)血清CEA値測定高値の症例でその値が発汗状態と相関することから、個々の症例における治療効果の指標になりうる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)1)ステロイド全身投与現存する治療法のうち最も効果が期待できる方法である。点滴パルス療法(メチルプレドニゾロン500~1000 mg/日、3日間連続投与)が用いられることが多い。後療法として30mg/日程度の経口投与を行う場合もある。また、経口内服療法(30~60mg/日)のみで開始して漸減する方法などもとられる。パルス療法の回数や後療法の適否・容量については一定の見解がない。反応がみられる例では、パルス療法直後から2週間程度までに効果が表れ、また、コリン性蕁麻疹や疼痛発作もみられなくなる。ステロイド治療によって寛解する例がある一方、部分寛解にとどまる例、症状が再燃する例、そして、ステロイドにまったく反応しない例がある。パルス療法はおおむね3回程度行われていることが多いが、まったく反応がえられない例では漫然と繰り返すよりも、他の治療法への切り替えまたは積極的に発汗トレーニングによる理学療法を取り入れる。2)抗ヒスタミン薬内服ヒスタミンがアセチルコリンによる発汗を抑制することから試みられる7)。ただし抗コリン作用のない好ヒスタミン薬を選択すること。効果が明瞭でない場合には通常量より増量してみることも必要。3)免疫抑制剤内服シクロスポリンの内服(2~5mg/kg/日)が効果を示すことが知られるが、報告症例数は少ない。4)その他の内服療法漢方薬である紫苓湯、葛根湯、または塩酸ピロカルピン(や塩酸セビメリン)などの投与も試みる価値がある。5)理学療法薬物療法に頼りがちであるが、発汗を刺激するための発汗トレーニングは補助療法として、また、再発予防として重要である。熱中症に陥らない範囲、また、コリン性蕁麻疹によるピリピリ感が苦痛にならない程度に、半身浴や徐々に運動負荷をかけるなど工夫する。5 主たる診療科皮膚科および神経内科。ただし、発汗異常を取り扱っている医療機関であることが必要。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 特発性後天性全身性無汗症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)中里良彦ほか. 特発性後天性全身性無汗症診療ガイドライン. 2013;50:67-74.2)柳下武士. 日本皮膚科学会雑誌. 2021;131:35-41.3)小野慧美ほか. 発汗学. 2016;23:23-25.4)中里良彦. 自律神経. 2018;55:86-90.5)Sawada Y, et al. J Invest Dermatol. 2010;130:2683-2686.6)中里良彦ほか. 特発性後天性全身性無汗症診療ガイドライン改訂版. 自律神経. 2015;52:352-359.7)Suma A, et al. Acta Derm Venereol. 2014;94:723-724.公開履歴初回2021年9月22日

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便秘からがんを疑うアラームサインを読み取る【Dr.山中の攻める!問診3step】第6回

第6回 便秘からがんを疑うアラームサインを読み取る―Key Point―大腸がんを疑うアラームサインに注意しよう薬剤が便秘の原因となっていることは多い下剤を処方する際、「酸化マグネシウム」は腎機能低下時に高マグネシウム血症を起こすので要注意!症例:76歳男性主訴)排便困難現病歴)12日前から便が突然出なくなった。4日前に近医で浣腸をしてもらったが排便なし。酸化マグネシウムと大腸刺激性下剤の処方を受けたが、やはり排便がないため当院を受診した。嘔吐はあるが腹痛はない。既往歴)老人性難聴薬剤歴)定期内服薬なし生活歴)たばこ:10本/日 x 55年間、酒:1合/日身体所見)意識清明、体温36.7℃、血圧120/50mmHg、心拍数92/分、SpO2:95%[室内気]直腸診を施行したところ、肛門から8cm、12時方向にカリフラワー様の約4×4cmの腫瘤を触知し易出血性であった。結局、直腸癌と診断され人工肛門増設のため緊急手術となった。大腸イレウスは珍しいが、穿孔すれば腹膜炎となるので緊急処置が必要となることも念頭に入れておくべき。◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!大腸がんを疑うアラームサイン1) ―大腸がんの可能性はないのか鉄欠乏性貧血体重減少便潜血陽性血便便の狭小化高齢者の急性便秘大腸がんの家族歴50歳以上で大腸内視鏡検査を受けたことがない【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】二次性の便秘を考える薬剤は二次性便秘の最大の原因である。薬剤歴の正確な聴取が大切である便秘を起こす薬剤2)3)はこちら降圧薬(カルシウム拮抗薬、利尿薬)、麻薬抗コリン薬(ブチルスコポラミン、抗うつ薬、抗精神病薬、抗パーキンソン病薬)抗ヒスタミン薬、NSAIDs、鉄剤高齢者の鉄欠乏性貧血は消化管の悪性腫瘍をまず考える便の狭小化+腹痛+液状便はS状結腸から直腸にかけての高度狭窄が示唆される症状である。大腸内視鏡の前処置で腸閉塞や腸管穿孔をきたす可能性があるため、腹部レントゲン検査と腹部CT検査を検査前にオーダーする甲状腺機能低下症、自律神経障害を起こす糖尿病やパーキンソン症候群、低カリウム血症、高カルシウム血症、うつ病、妊娠は便秘の原因となる【STEP3】治療1)を検討しよう毎日排便がないのは異常であるというイメージが TVコマーシャルなどによって作られているが、週に3回または1日3回の排便は正常である週3回以上排便があれば、病的ではないことを伝える。水分と食物繊維を十分にとる。朝食後15分間はトイレに座り、力まずに排便するよう指導する。改善がなければ、ポリエチレングリコール(商品名:モビコール)または酸化マグネシウムを処方する。酸化マグネシウムは腎機能低下時に高マグネシウム血症(嘔気・嘔吐、血圧低下、徐脈、筋力低下、意識障害)を起こす。効果が不十分ならルビプロストン(商品名:アミティーザ)を少量から検討する。大腸刺激性薬剤(センノシド、ピコスルファート)は習慣性や依存性が強いので頓用で用いる<参考文献・資料>1)山中 克郎企画. 総合診療 ヤブ化を防ぐ!総合診療基本のき. 医学書院.2019. p.1089-1091.(中野弘康 便秘)2)John P, et al. MKSAP18 Gastroenterology and Hepatology. 2018 .p.35-38.3)日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会編. 慢性便秘症診療ガイドライン. 2017.

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安定期統合失調症患者の再発予防に対する適切な抗精神病薬投与量~メタ解析

 統合失調症の再発予防に対し、どの程度の抗精神病薬の投与量が必要かは明らかになっていない。ドイツ・ミュンヘン工科大学のStefan Leucht氏らは、この疑問を解決するため、ランダム化臨床試験のメタ解析を実施した。JAMA Psychiatry誌オンライン版2021年8月18日号の報告。 Cochrane Schizophrenia Group's Study-Based Register of Trials(2020年3月9日)、PubMed(2021年1月1日)、過去のレビューを通じて該当研究を特定した。追加情報は、筆頭著者および/または製薬会社に問い合わせ、収集した。2人の独立したレビュアーにより、安定期統合失調症患者の再発予防に対し、固定用量の第2世代抗精神病薬、ハロペリドール、フルフェナジンを比較したランダム化臨床試験を抽出した。PRISMAガイドラインの優先報告項目に従って重複するすべてのパラメータを抽出し、頻度論的(frequentist)用量反応変量効果メタ解析を実施した。主要評価項目は、研究で定義された再発とし、再入院、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)または簡易精神症状評価尺度(BPRS)の合計スコアのベースラインからの減少、すべての原因による中止、有害事象による脱落についても評価した。 主な結果は以下のとおり。・26件の研究(4,776例)より得られた、72種類の用量群に関するエビデンスを分析した。・有用性については、用量反応曲線は双曲線形状であり、リスペリドン換算5mg/日まで再発率の急激な低下が認められたが(相対再発リスク:0.43[95%CI:0.31~0.57]、PANSS合計スコアの標準化平均差:-0.55[95%CI:-0.68~-0.41])、その後は平板化した。・有害事象による脱落については、対照的に5mg/日を超えるにつれ増加が認められた(5mg/日の相対リスク:1.38[95%CI:0.87~2.55]、15mg/日の相対リスク:2.68[95%CI:1.49~4.62])。・寛解患者におけるサブグループ解析では、約2.5mg/日で早期に安定状態に達していた。 著者らは「安定期統合失調症患者に対する抗精神病薬投与では、リスペリドン換算5mg/日超で再発予防にベネフィットがもたらされる一方、用量を増やし過ぎると有害事象の増加につながる可能性がある。寛解期の患者または強力な第1世代抗精神病薬で治療している患者においては、より低用量の2.5mg/日で十分である可能性が示唆されたが、低用量にし過ぎると有効性の減弱につながる可能性もあり注意が必要である。また、本結果はあくまで観察結果の平均値であり、代謝スピード、年齢、罹病期間、併存疾患、薬物相互作用などさまざまな要因を考慮した用量調節が必要である」としている。

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新治療が心臓にやさしいとは限らない~Onco-Cardiologyの一路平安~【見落とさない!がんの心毒性】第6回

新しい抗がん剤が続々と臨床に登場しています。厚生労働大臣によって承認された新医薬品のうち、抗悪性腫瘍用薬の数はこの3年で36もありました1)。効能追加は85もあり、新しい治療薬が増え、それらの適応も拡大しています。しかし、そのほとんどの薬剤は循環器疾患に注意して使う必要があり、そのうえで拠り所になるのが添付文書です。医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページの医療用医薬品情報検索画面2)から誰でもダウンロードできます。警告、禁忌、使用上の注意…と読み進めます。さらに、作用機序や警告、禁忌の理由を詳しく知りたいときは、インタビューフォーム(IF)を開きます。循環器医ががん診療に参加する際には、患者背景や治療薬のことをサッと頭に入れる必要がありますが、そんな時に便利です。前置きが長くなりましたが、今回は時間のない皆さまのために、添付文書の『警告』『禁忌』『重要な基本的注意』に循環器疾患を含んでいる抗がん剤をピックアップしてみました。『警告』に書かれていること(表1)の薬剤では重篤例や死亡例が報告されていることから、投与前に既往や危険因子の有無を確認のうえ、投与の可否を慎重に判断することを警告しています。infusion reaction、静脈血栓症、心不全、心筋梗塞や脳梗塞などの動脈血栓症、QT延長、高血圧性クリーゼなどが記載されています。副作用に備え観察し、副作用が起きたら適切な処置をし、重篤な場合は投与を中止するように警告しています。(表1)画像を拡大するこうした副作用でがん治療が中止になれば予後に影響するので、予防に努めます。『警告』で最も多かったのはinfusion reactionですが、主にモノクローナル抗体薬の投与中や投与後24時間以内に発症します。時に心筋梗塞様の心電図や血行動態を呈することもあり、循環器医へ鑑別診断を求めることもあります。これらの中には用法上、予防策が講じられているものもあり、推奨投与速度を遵守し、抗ヒスタミン薬やアセトアミノフェン、副腎皮質ステロイドをあらかじめ投与して予防します。過敏症とは似て非なる病態であり、発症しても『禁忌』にはならず、適切な処置により症状が治まったら、点滴速度を遅くするなどして再開します。学会によってはガイドラインで副作用の予防を推奨してるところもあります。日本血液学会の場合、サリドマイド、ポマリドミド、レナリドミドを含む免疫調節薬(iMiDs:immunomodulatory drugs)による治療では、深部静脈血栓症の予防のために低用量アスピリンの内服を推奨しています3)。欧州臨床腫瘍学会(ESMO)では、アントラサイクリンやトラスツズマブを含む治療では、心不全の進行予防に心保護薬(ACE阻害薬、ARB、および/またはβ遮断薬)を推奨しています。スニチニブ、ベバシズマブ、ラムシルマブなどの抗VEGF薬を含む治療では、血圧の管理を推奨しています4)。『禁忌』に書かれていること『禁忌』には、「本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者」が必ず記されています。禁忌に「心機能異常又はその既往歴のある患者」が記されているのは、アントラサイクリン系の抗がん剤です。QT延長や、血栓症が禁忌になるものもあります。(表2)画像を拡大するここで少し注意したいのは、それぞれの副作用の定義です。たとえば「心機能異常」とは何か?ということです。しばしば、がん医療の現場では、左室駆出率(LVEF)や脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)値だけが、一人歩きをはじめ、患者の実態とかけ離れた判断が行われることがあります。循環器医ががん患者の心機能を検討する場合、LVEFやBNPだけではなく、症状や心電図・心エコー所見や運動耐容能などを多角的に捉えています5)。心機能は単独で評価できる指標はないので、LVEFやBNP値だけで判断せず、心機能を厳密かつ多面的に測定して総合的に評価することをお勧めします。添付文書によく記載されている「心機能異常」。漠然としていますが、これの意味するところを「心不全入院や死亡のリスクが高い状態」と、私は理解しています。そこで、「心機能異常」診断の乱発を減らし、患者ががん治療から不必要に疎外されないよう努めます。その一方で、心保護薬でがん治療による心不全のリスクを最小限に抑えるチャンスを逃さないようにもします。上述の定義のことは「血栓症」にも当てはまります。血栓症では下腿静脈の小血栓と肺動脈本管の血栓を一様には扱いません。また、下肢エコーで見つかる米粒ほどの小血栓をもって血栓症とは診断しません。そこそこの大きさの血栓がDOACなどで制御されていれば、血栓症と言えるのかもしれませんが、それでも抗がん剤を継続することもあります。QT延長は次項で触れます。『重要な基本的注意』に書かれていることー意外に多いQT延長『重要な基本的注意』で多かったのは、心機能低下・心不全でした。アントラサイクリン系薬剤、チロシンキナーゼ阻害薬、抗HER2薬など25の抗がん剤で記載がありました。これらの対応策については既に本連載企画の第1~4回で取り上げられていますので割愛します。(表3)その1画像を拡大する(表3)その2画像を拡大する意外に多かったのは、QT延長です。21種類もありました。QT間隔(QTc)は男性で450ms、女性で460ms以上をQT延長と診断します。添付文書では「投与開始前及び投与中は定期的に心電図検査及び電解質検査 (カリウム、マグネシウム、カルシウム等)を行い、 患者の状態を十分に観察する」などと明記され、血清の電解質の補正が求められます。とくに分子標的薬で治療中の患者の心電図でたびたび遭遇します。それでも重度の延長(QTc>500ms)は稀ですし、torsade de pointes(TdP)や心臓突然死はもっと稀です。高頻度にQT延長が認められる薬剤でも、新薬を待ち望むがん患者は多いため、臨床試験で有効性が確認されれば、QT延長による心臓突然死の回避策が講じられた上で承認されています。測定法はQTcF(Fridericia法)だったりQTcB(Bazett法)だったり、薬剤によって異なりますが、FMS様チロシンキナーゼ3-遺伝子内縦列重複(FLT3-ITD)変異陽性の急性骨髄性白血病治療薬のキザルチニブのように、QTcFで480msを超えると減量、500msを超えると中止、450ms以下に正常化すると再開など、QT時間次第で用量・用法が変わる薬剤があるので、測定する側の責任も重大です。詳細は添付文書で確認してみてください。抗がん剤による心臓突然死のリスクを予測するスコアは残念ながら存在しません。添付文書に指示は無くても、循環器医はQTが延長した心電図ではT波の面構えも見ます。QT dispersion(12誘導心電図での最大QT間隔と最小QT間隔の差)は心室筋の再分極時間の不均一性を、T peak-end時間(T波頂点から終末点までの時間)は、その誘導が反映する心室筋の貫壁性(心内膜から心外膜)の再分極時間のバラツキ(TDR:transmural dispersion of repolarization)を反映しています。電気的不均一性がTdP/心室細動の発生源になるので注意しています。詳細については、本編の参考文献6)~8)をぜひ読んでみてください。3つ目に多かったのはinfusion reactionで、該当する抗がん剤は17もありました。抗体薬の中には用法及び用量の項でinfusion reaction対策を明記しているものの、『重要な基本注的意』に記載がないものがあるので、実際にはもっと多くの抗がん剤でinfusion reactionに注意喚起がなされているのではないでしょうか。血圧上昇/高血圧もかなりありますが、適正使用ガイドの中に対処法が示されているので、各薬剤のものを参考にしてみてください。そのほかの心臓病についても同様です。なお、適正使用ガイドとは、医薬品リスク管理計画(RPM:Risk Management Plan)に基づいて専門医の監修のもとに製薬会社が作成している資料のことです。抗がん剤だけではない、注目の新薬にもある循環器疾患についての『禁忌』今年1月、経口グレリン様作用薬アナモレリン(商品名:エドルミズ)が初の「がん悪液質」治療薬としてわが国で承認されました。がん悪液質は「通常の栄養サポートでは完全に回復することができず、進行性の機能障害に至る、骨格筋量の持続的な減少(脂肪量減少の有無を問わない)を特徴とする多因子性の症候群」と定義されています。その本質はタンパク質の異常な異化亢進であり、“病的なるい痩”が、がん患者のQOLやがん薬物療法への忍容性を低下させ、予後を悪化させます。アナモレリンは内服によりグレリン様作用を発揮し、がん悪液質患者の食欲を亢進させ、消耗に対抗します。切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん、胃がん、膵がん、大腸がんのがん悪液質患者のうち、いくつかの基準をクリアすると使用できるので、対象となる患者が多いのが特徴です。一方、添付文書やインタビューフォームを見ると、『禁忌』には以下のように心不全・虚血・不整脈に関する注意事項が明記されています。「アナモレリンはナトリウムチャネル阻害作用を有しており、うっ血性心不全、心筋梗塞、狭心症又は高度の刺激伝導系障害(完全房室ブロック等)のある患者では、重篤な副作用を起こすおそれがあることから、これらの患者を禁忌に設定した」9)。また、『重要な基本的注意』には、「心電図異常(顕著なPR間隔又はQRS幅の延長、QT間隔の延長等)があらわれることがあるので注意すること」とあります。ピルシカイニド投与時のように心電図に注意が必要です。実際、当院では「アナモレリン投与中」と書かれた心電図の依頼が最近増えています。薬だけではない!?注目の新治療にもある循環器疾患につながる『警告』免疫の知識が今日ほど国民に浸透した時代はありません。私たちの体は、病原体やがん細胞など、本来、体の中にあるべきでないものを見つけると、攻撃して排除する免疫によって守られていることを日常から学んでいます。昨今のパンデミックにおいては、遺伝子工学の技術を用いてワクチンを作り、免疫力で災禍に対抗しています。がん医療でも遺伝子工学の技術を用いて創薬された抗体薬を使って、目覚ましい効果を挙げる一方で、アナフィラキシーやinfusion reaction、サイトカイン放出症候群(CRS:cytokine release syndrome)などの副作用への対応に迫られています。免疫チェックポイント阻害薬の適応拡大に伴い、自己免疫性心筋炎など重篤な副作用も報告されており、循環器医も対応に駆り出されることが増えてきました(第5回参照)。チサゲンレクルユーセル(商品名:キムリア)は、採取した患者さんのT細胞を遺伝子操作によって、がん細胞を攻撃する腫瘍特異的T細胞(CAR-T細胞)に改変して再投与する「ヒト体細胞加工製品」です。PMDAホームページからの検索では、医療用「医薬品」とは別に設けてある再生医療等「製品」のバナーから入ると見つかります。「再発又は難治性のCD19陽性のB細胞性急性リンパ芽球性白血病」と「再発又は難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫」の一部に効果があります。ノバルティスファーマ株式会社のホームページで分かりやすく説明されています10)。この添付文書で警告しているのはCRSです。高頻度に現れ、頻脈、心房細動、心不全が発症することがあります。緊急時に備えて管理アルゴリズムがあらかじめ決められており、トシリズマブ(ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体、商品名:アクテムラ)を用意しておきます。AlviらはCAR-T細胞治療を受けた137例において、81名(59%)にCRSを認め、そのうち54例(39%)がグレード2以上で、56例(41%)にトシリズマブが投与されたと報告しています11)(図)。(図)画像を拡大するトロポニンの上昇は、測定患者53例中29例(54%)で発生し、LVEFの低下は29例中8例(28%)で発生しました。いずれもグレード2以上の患者でのみ発生しました。17例(12%)に心血管イベントが発生し、すべてがグレード2以上の患者で発生しました。その内訳は、心血管死が6例、非代償性心不全が6例、および不整脈が5例でした。CRSの発症から、トシリズマブ投与までの時間が短いほど、心血管イベントの発生率が低く抑えられました。これらの結果は、炎症が心血管イベントのトリガーになることを改めて世に知らしめました。おわりに本来であれば添付文書の『重大な副作用』なども参考にする必要がありますが、紙面の都合で割愛しました。腫瘍循環器診療ハンドブックにコンパクトにまとめてありますので、そちらをご覧ください12)13)。さまざまな新薬が登場しているがん医療の現場ですが、心電図は最も手軽に行える検査であるため、腫瘍科と循環器科の出会いの場になっています。QT延長等の心電図異常に遭遇した時、循環器医はさまざまな医療情報から適切な判断を試みます。しかし、新薬の使用経験は浅く、根拠となるのは臨床試験の数百人のデータだけです。そこへ来て私は自分の薄っぺらな知識と経験で患者さんを守れるのか不安になります。患者さんの一路平安を祈る時、腫瘍科医と循環器医の思いは一つになります。1)独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)新医薬品の承認品目一覧2)PMDA医療用医薬品 添付文書等情報検索3)日本血液学会編.造血器腫瘍診療ガイドライン2018年版. 金原出版.2018.p.366.4)Curigliano G, et al. Ann Oncol. 2020;31:171-190. 5)日本循環器学会編. 急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改訂版(班長:筒井裕之).6)Porta-Sanchez A, et al. J Am Heart Assoc. 2017;6:e007724.7)日本循環器学会編. 遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン2017 年改訂版(班長:青沼和隆)8)呼吸と循環. 医学書院. 2016;64.(庄司 正昭. がん診療における不整脈-心房細動、QT時間延長を中心に)9)医薬品インタビューフォーム:エドルミズ®錠50mg(2021年4月 第2版)10)ノバルティスファーマ:CAR-T細胞療法11)Alvi RM, et al. J Am Coll Cardiol. 2019;74:3099-3108. 12)腫瘍循環器診療ハンドブック. メジカルビュー社. 2020.p.207-210.(森本 竜太. がん治療薬による心血管合併症一覧)13)腫瘍循環器診療ハンドブック.メジカルビュー社. 2020.p.18-20.(岩佐 健史. 心機能障害/心不全 その他[アルキル化薬、微小管阻害薬、代謝拮抗薬など])講師紹介

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境界性パーソナリティ障害に対する薬理学的治療~20年間の変化

 境界性パーソナリティ障害(BPD)の治療では、承認されている精神科治療薬は存在しないにもかかわらず、日常的に薬物治療が行われている。スペイン・バルセロナ自治大学のJuan C. Pascual氏らは、スペインの外来特定ユニットで治療されたBPD患者の薬理学的マネジメントにおける20年間の変化および処方に関連する要因について調査を行った。CNS Drugs誌オンライン版2021年8月9日号の報告。 2001~20年にスペイン・バルセロナのBPD外来プログラムに連続して受診したBPD患者620例を対象に観察横断研究を行った。抗うつ薬、ベンゾジアゼピン、気分安定薬、抗精神病薬の処方傾向を調査した。処方データは5年ごとに4段階に分類し、データ分析を行った。薬理学的処方と多剤併用に関連する社会人口統計学的および臨床的変数を特定するため、ロジスティック回帰分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・薬物療法を実施している患者数は、時間とともに減少した。・研究期間中、抗うつ薬の処方率は高いまま維持されており(74%)、ベンゾジアゼピンの有意な減少(77%→36%)第2世代抗精神病薬の増加が認められた(15%→32%)。・精神医学的併存疾患は、薬理学的治療(オッズ比:2.5、95%信頼区間:1.5~4.2)および多剤併用に関連する主な要因であったが、併存疾患のない患者でも薬物治療の割合は高かった。 著者らは「BPD患者に対する薬理学的治療は、20年間で大きな変化を遂げており、とくにベンゾジアゼピンの減少と第2世代抗精神病薬の増加が認められた。多くの臨床ガイドラインで推奨されているよりも、BPD患者に対する薬物療法は普及していることが本結果より明らかとなった」としている。

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がん薬物療法時の制吐目的のデキサメタゾン使用に関する合同声明/日本癌治療学会・日本臨床腫瘍学会

 新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、デキサメタゾン製剤の供給が不足している。2021年8月27日に厚生労働省から発出された「デキサメタゾン製剤の安定供給について」の通知を受け、新型コロナウイルス感染症患者およびがん患者の薬物療法に関して、9月9日、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本感染症学会、日本呼吸器学会が合同声明文を発出した。 そのうち、がん患者の薬物療法に関する合同声明文では、がん患者の薬物療法に携わる医療関係者に対して、薬物療法によって発現する悪心・嘔吐(CINV)を制御するために使用されるデキサメタゾン製剤の適正使用およびデキサメタゾン内服薬の代替使用について、以下のように協力を呼びかけている。1. 制吐薬適正使用ガイドライン等、関連ガイドラインに従い、個々の症例の催吐リスクに応じて適切な制吐療法の提供を継続ください。2. 以下の例のように、経口デキサメタゾン等のステロイド製剤を減量できる、あるいは代替療法がある場合は、経口ステロイド製剤の使用量を可能な範囲で低減ください。例1)高度催吐性リスクの抗がん薬を使用する場合に、第 2 日目、第 3 日目の経口デキサメタゾンを省略する。例2)中等度催吐性リスクの抗がん薬を使用する場合に、5-HT3受容体拮抗薬、NK1受容体拮抗薬、多元受容体作用抗精神病薬を積極的に使用し、経口デキサメタゾンの使用を省略する。例3)中等度催吐性リスクの抗がん薬を使用する場合の、遅発性の悪心・嘔吐の予防には、5-HT3受容体拮抗薬を優先する。例4)軽度催吐性リスクの抗がん薬を投与する場合で制吐療法を行う場合は、経口デキサメタゾンの使用を避け、メトクロプラミドあるいはプロクロルペラジンを使用する。例5)多元受容体作用抗精神病薬であるオランザピンは、糖尿病性昏睡/糖尿病性ケトアシドーシスによる害よりもCINV対策が優先されると考えられる場合は、コントロール可能な糖尿病患者に限り、患者より同意を得た上で主治医が注意深く使用する場合には考慮してよい。3. 前サイクルのがん薬物療法で、CINVが認められなかった場合、経口デキサメタゾンの減量や省略を検討ください。4. 患者が経口デキサメタゾンを保有している場合、新たな処方を行わず、持参の経口デキサメタゾンの有効活用にご協力ください。

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世界初となるがん悪液質に対する栄養・運動・薬物の併用療法:NEXTAC-THREE試験 シリーズがん悪液質(8)【Oncologyインタビュー】第34回

がん悪液質は、薬剤をはじめとする治療の開発が進まず、長年にわたり問題となっていた。しかし2021年、アナモレリンが治療薬として認可され、がん悪液質は一躍注目を浴びることとなる。そのような中、栄養・運動療法にアナモレリンによる薬物療法を組み合わせた、がん悪液質治療の研究「NEXTAC-THREE試験」が始まる。栄養・運動療法に薬物療法を加えることで、どのような可能性があるのか。NEXTAC-THREE試験の責任者である静岡県立静岡がんセンターの内藤 立暁氏に聞いた。有効な治療法を模索するがん悪液質―がん悪液質の病態と、研究がどのように進んできたのか教えていただけますか。がん悪液質は、European Palliative Care Research Collaborative(EPCRC)で「通常の栄養サポートでは完全に回復することができず、骨格筋量の持続的な減少を特徴とし、進行性の機能障害に至る、多因子性の症候群」と定義されています。通常、食事から摂取する栄養素は筋肉や脂肪になります。しかし、がん悪液質では、栄養素が豊富にあっても、代謝障害により活用できずに痩せていきます。がん悪液質の代謝障害は、腫瘍由来のさまざまな液性因子で生じます。また、がんを異物と見なした宿主が生体反応として慢性の炎症を生じ、炎症性サイトカインによって食欲が減退し、体の痩せをさらに助長します。がん悪液質は、病理や画像所見などの肉眼で病因を確認することができない機能的疾患であるため、長く疾病として認識されず治療の進歩を妨げていたともいえます。画像を拡大するがん悪液質については世界的に多くの研究が行われてきましたが、有効性が確認されたものは非常に少ないのが現状です。1966~2019年の無作為化比較試験をレビューした2020年のASCOがん悪液質ガイドライン(Management of Cancer Cachexia: ASCO Guideline)は、今までのがん悪液質エビデンスが集約されたものです。ガイドラインの中で、栄養カウンセリングについていくつかの研究が取り上げられていますが、有効性のエビデンスレベルは「Low」という評価です。運動療法については、ほとんどエビデンスがありません。薬物療法についても、多数の研究が行われています。プロゲステロン、ステロイドなど、一時的に食欲改善、体重増加、QOL向上などを示すものもありますが、長期使用では有効性の低下や毒性の問題が出てしまうなど、総合的にみて推奨できるものはありませんでした。その中で、アナモレリンについては、身体機能の改善こそ証明されていませんが、複数の試験で食欲、体重、骨格筋量について、プラセボに対する有意な改善が認められ、2021年1月に日本で製造販売承認を取得しました。―わが国で行われている「NEXTAC研究」は、がん悪液質の集学的治療についての研究ですね。そのとおりです。栄養と運動のプログラムについては、皆が重要だと思っているものの標準プログラムがないため、この2つを組み合わせたオリジナルの栄養・運動プログラムを作ろうというプロジェクトです。NEXTAC(Nutrition and Exercise Treatment for Advanced Cancer)は、がん悪液質のリスクを有する患者さんの身体機能の維持・回復を目的とし、多職種の介入で進行がんの診断後に早期から運動療法と栄養療法を導入する集学的介入の名前です。2016年(平成28年)から国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の助成を受けて開発を始めました。海外で開発中の栄養・運動プログラムでは、高強度の介入のため患者さんが継続できず、多くが治療中に脱落してしまうため、NEXTACプログラムは高齢者が自宅で毎日行えるよう、低強度の運動と、患者教育を中心に設計されているのが特徴です。これまでに、NEXTAC-ONE試験(安全性と忍容性を見る第I相試験)とNEXTAC-TWO試験(効果を検証する第II相試験)を実施しています。画像を拡大するまず、NEXTAC-ONE試験についてです。この試験は、安全性・忍容性試験として京都府立医科大学、静岡県立静岡がんセンター、新潟県立がんセンター、国立がん研究センター東病院の4施設で行われ、すでに最終結果が公表されています。主要評価項目であるNEXTACプログラムへの参加率(栄養・運動療法の計6回のセッションのうち4回以上参加した患者数の割合)は97%、プログラムのコンプライアンス(サプリメント服用、筋トレ実施、歩数計装着)はいずれも9割を超えて良好でした。さらに、7割の患者さんが屋外活動を、8割の患者さんが屋内活動を増やし、教育的な介入の成果が行動変容に現れたことはとても重要な結果と感じています。次にNEXTACプログラムが健康寿命(自立した生存期間)を延長するか否かを検証する無作為化第II相試験のNEXTAC-TWO試験を行い。国内の16施設から131例の症例登録を完遂し、本年度中に主解析の結果を公表予定です。―栄養・運動療法に薬物療法を加えたNEXTAC-Three試験がスタートするそうですね。NEXTAC-ONEやNEXTAC-TWO試験では、がん悪液質の高リスクの患者さんに対する治療開発を行いました。一方で、がん悪液質を発症してしまった患者さんに対しては、別の戦略が必要です。がん悪液質の病態には多因子が関与しますので、栄養・運動・薬物療法それぞれ単独で行っても、効果が出づらいからです。そこで、薬剤を組み合わせた栄養・運動介入のプログラムを検討する、NEXTAC-THREE試験が開始されることとなりました。これはアナモレリンの発売を見込み、当初から計画していたものです。今まで行ってきたNEXTACの栄養・運動介入プログラムに薬物を組み合わせたらどうなるかを検討します。―3つのモダリティを併せることで予想される効果は?アナモレリンが骨格筋量を増やしても握力などの身体機能が改善しなかったのは、作った筋肉を有効に活用するための運動という介入がないことが主たる理由と推定されます。アナモレリンで骨格筋を増やし、そこに栄養療法で良質の蛋白質を摂取し、さらに継続的なトレーニングを加えることで、進行がんを有する高齢者で、すでにがん悪液質があったとしても、身体機能を改善できるのではないか、というのがNEXTAC-THREE試験の仮説です。3モダリティの併用は、がん悪液質の有効な介入プログラムとなるか―NEXTAC-THREEの試験デザインを教えてください。NEXTAC-THREE試験の正式名称は、「高齢者進行非小細胞肺がん/膵がんに対する早期栄養・運動介入とアナモレリン塩酸塩の併用療法の多施設共同ランダム化第二相試験」です。試験の対象は70歳以上の新規化学療法を開始する患者さんで、全員がん悪液質を有しています。コホート1は非小細胞肺がん(NSCLC)で、サンプルサイズは60例。コホート2は膵がんで、サンプルサイズは30例です。NSCLC患者さんは1次治療で、初回化学療法時からアナモレリンを投与した群と、そこにNEXTACプログラムの栄養・運動療法を併用した群を比較します。評価項目は歩行障害の発生率です。「6分間歩行距離40m以上減少」は臨床的意義のある歩行障害といわれ、身体機能の状態を表します。この障害の発生率を減らすかを見ることで、アナモレリンと栄養・運動療法の組み合わせが身体機能を改善するかを評価します。膵がんについては、今までの研究データがないため、2次治療患者でのアナモレリンと栄養・運動療法の組み合わせの安全性を評価項目としています。画像を拡大する―NEXTAC-THREE試験はどのようなスケジュールで進んでいく予定ですか。NEXTAC-THREE試験は、2021年、AMEDの助成を受けて開始されます。倫理審査で承認をうけ、試験担当者の研修や設備の準備を行い、9月以降に試験開始の予定です。患者さんはすべてがん悪液質を有する方ですし、初回治療なので治験も競合するため、患者登録も苦労すると予想されます。2023年度までに試験を完了し、2024年に主解析を報告の予定です。―今後、参加施設を拡大していくのですか。まずはは、静岡がんセンター、京都府立医科大学、国立がん研究センター東病院、新潟県立がんセンターの4施設で行い、その後、参加施設を徐々に拡大していく予定です。また、国際協力者として、英国のエディンバラ大学、グラスゴー大学と相互に協力していくこととしています。彼らは欧州を中心とした研究グループで、栄養・運動療法(MENACプログラム)を開発しているグループです。NEXTAC-ONEからTHREEまでの結果がそろう時期に、彼らの集学的治療の研究と統合解析して、国際的ながん悪液質のガイドラインを作ろうという計画をしています。日本が世界をリードするがん悪液質研究―CareNet.com会員の方にメッセージをお願いします。がん悪液質は昔からある病気ですが、病態が複雑でわかりにくいため、がんに対する薬物療法や制吐療法などと比べ、治療の開発が遅れていました。しかし、近年の科学の進歩によりその病態が次第に解明され、また2021年のアナモレリンの承認によりスポットライトが当たりました。アナモレリンは、世界に先駆け日本で承認された薬剤です。つまり、日本は一番の先進国といえます。若い研究者の方々には、この機会を活かして、一緒に世界に研究を発信していただければと思います。がんサポーティブケア学会には世界でも少ないがん悪液質に特化した研究グループがありますので、まずは、そこに参加していただきたいと思います。参考1)NEXTAC-TWO試験(UMIN)2)NEXTAC-THREE試験(jRCT)

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統合失調症患者におけるCOVID-19罹患率と死亡リスクへの影響

 精神疾患患者は、身体的健康アウトカムが不良であることが知られており、とくに統合失調症スペクトラム障害患者では、大きな問題となっている。最近の研究において、統合失調症患者では、とくにCOVID-19による影響が大きいともいわれている。ギリシャ・テッサリー大学のSokratis E. Karaoulanis氏らは、統合失調症スペクトラム障害患者におけるCOVID-19のアウトカム不良リスクに関して、システマティックレビューを行った。Psychiatriki誌オンライン版2021年8月5日号の報告。 統合失調症スペクトラム障害患者におけるCOVID-19の罹患および/または死亡率を調査したすべての研究を特定するため、PRISMAガイドラインに従ってPubMed、PsycINFO、Scopusのデータベースを用いて、システマティックレビューを実施した。スクリーニングプロセス実施後、選択基準を満たした研究は7件であった。これらの研究結果は、オッズ比または調整済みオッズ比を用いて報告されていた。 主な結果は以下のとおり。・全体的な結果として、統合失調症患者では中程度ではあるが、より高い感染率に対する統計学的に有意な影響およびより高い死亡率に対する強力な統計学的に有意な影響が認められた。・統合失調症患者は、一般集団と比較し、COVID-19への罹患リスクが高く、死亡率が有意に高いことが示唆された。・しかし、集中治療室の利用頻度など他のアウトカムについては、矛盾した結果が認められた。 著者らは「統合失調症患者は、COVID-19への罹患リスクが高く、死亡率が上昇する可能性があるものの、集中治療室の利用頻度はそれほど高くないことが示唆された。統合失調症患者に対するCOVID-19ワクチン接種プログラムの優先順位の見直しや迅速な集中治療室の利用などヘルスケアへのアクセスを改善する必要がある」としている。

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肺動脈圧遠隔モニタリングによる心不全管理、COVID-19影響分析の結果/Lancet

 肺動脈圧遠隔モニタリングによる血行動態ガイド下の心不全管理は、通常治療のみと比較して、試験全体では全死因死亡と心不全イベントの複合エンドポイントを改善しないものの、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を考慮した感度分析の結果に基づくpre-COVID-19影響分析では統計学的に有意に良好との研究結果が、米国・ヴァンダービルト大学医療センターのJoAnn Lindenfeld氏らが実施したGUIDE-HF試験で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2021年8月27日号に掲載された。北米118施設の単盲検無作為化対照比較試験 本研究は、症状の重症度が広範囲にわたる心不全患者において、肺動脈圧遠隔モニタリングによる血行動態ガイド下の心不全管理は、心不全イベントや死亡を低減するかの評価を目的とする単盲検無作為化対照比較試験であり、2018年3月~2019年12月の期間に、米国の114施設とカナダの4施設で患者登録が行われた(米国・Abbottの助成による)。 対象は、NYHA心機能分類クラスII~IVの心不全患者で、左室駆出率の値は問われなかった。また、試験前にナトリウム利尿ペプチドの上昇がみられるが、心不全による入院歴のない患者なども含まれた。 被験者は、ガイドラインで推奨された薬物療法による通常治療を受ける群(対照群)、または通常治療に加え肺動脈圧遠隔モニタリングによる血行動態ガイド下の心不全管理を受ける群(治療群)に1対1の割合で無作為に割り付けられた。治療群に割り付けられた患者は割り付け情報がマスクされた。担当医はマスクされなかったが、対照群の肺動脈圧データは知らされなかった。 主要エンドポイントは、12ヵ月時の全死因死亡と心不全イベント(心不全による入院、心不全専門病院への緊急受診)の複合とした。アウトカムに関するpre-COVID-19影響分析が、事前に規定された。デバイス/システム関連合併症は99%で発現せず 本研究には1,022例が登録され、このうち1,000例が肺動脈圧遠隔モニタリングデバイス(CardioMEMS、米国・Abbott製)の装着に成功した。治療群に497例(年齢中央値71歳、女性38%)、対照群には503例(70歳、37%)が割り付けられた。 主要エンドポイントのイベントは、治療群497例で253件(0.563/人年)、対照群503例で289件(0.640/人年)発生し、両群間に差は認められなかった(ハザード比[HR]:0.88、95%信頼区間[CI]:0.74~1.05、p=0.16)。心不全による入院にも差はみられなかった(0.83、0.68~1.01、p=0.064)。 一方、COVID-19の感度分析で、試験期間中のCOVID-19の世界的大流行期に主要エンドポイントのイベント発生に変化がみられたことから、pre-COVID-19影響分析を行ったところ、主要エンドポイントのイベント発生は治療群が177件(0.553/人年)、対照群は224件(0.682/人年)であり、治療群で有意に良好であった(HR:0.81、95%CI:0.66~1.00、p=0.049)。この治療群の有効性は、主に心不全による入院(0.72、0.57~0.92、p=0.007)が優れたことによるものだった。 この主要エンドポイントのイベント発生の差は、COVID-19の大流行期間中にほぼ消失し、対照群(0.536/人年)でCOVID-19前に比べ21%の低下がみられたのに対し、治療群(0.597/人年)では実質的にほぼ変化がなく、両群間に差はみられなかった(HR:1.11、95%CI:0.80~1.55、p=0.53)。 試験全体の解析では、治療群は心不全イベントの累積発生率が低下しなかった(HR:0.85、95%CI:0.70~1.03、p=0.096)が、pre-COVID-19影響分析では発生率が有意に減少した(0.76、0.61~0.95、p=0.014)。 安全性のエンドポイントであるデバイスまたはシステム関連の合併症は、99%(1,014/1,022例)には認められなかった。重篤な有害事象は、治療群57%(282/497例)、対照群53%(268/503例)で発現した。 著者は、「これらのデータは、慢性心不全患者における血行動態ガイド下の管理の有益性に関するエビデンスベースの支持を肯定し拡張するものであり、軽度~中等度の心不全や、ナトリウム利尿ペプチドの上昇がみられるが心不全による入院歴のない患者など、より幅広い患者への適用の可能性を示唆する」とまとめ、「COVID-19の世界的大流行中の臨床試験では、COVID-19の影響に関する感度分析を加える必要がある」と指摘している。

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用 その2【「実践的」臨床研究入門】第11回

UpToDate®―該当トピックの本文を読み込んでみるCQ:食事療法を遵守すると慢性腎臓病患者の腎予後は改善するのだろうか↓P:慢性腎臓病(CKD)患者E:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の遵守C:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の非遵守O:腎予後前回、これまでブラッシュアップしてきた、上記のCQとRQ(PECO)に関連するUpToDate®のトピックを検索したところ、人工透析を受けていない慢性腎臓病患者に推奨する食事療法Dietary recommendations for patients with nondialysis chronic kidney diseaseがヒットしました。このトピックには、”PROTEIN INTAKE(たんぱく質摂取量)”という項があり、われわれのRQに関連する先行研究について概説されていそうです。 該当トピックの解説を読み込む前に、このトピックの更新日付を確認してみましょう。トピックの標題の直下に、担当著者・編集者の氏名が明記されており、“All topics are updated as new evidence becomes available and our peer review process is complete.”「すべてのトピックは新しいエビデンスが入手可能になりわれわれのピア・レビューが完了すると更新されます(筆者による意訳)。」とのコメントとともに、Literature review current through:May 2021. |This topic last updated:Feb 21, 2020.との記載があります。本稿執筆時点(2021年7月)では、このトピックの関連文献レビューは2021年5月まで行っているが、このトピック本文の最終更新日は2020年2月21日である(筆者による意訳)、ということです。UpToDate®では、その分野の信頼できる専門家が年3回は関連研究レビューを行って都度改訂し、まさに”up-to-date”な2次情報を提供してくれているのです。今回は、このトピックの”PROTEIN INTAKE(たんぱく質摂取量)”の項を読み込んで、RQのさらなるブラッシュアップに活かしたいと思います。その概要を以下のようにまとめてみました(筆者による抜粋、意訳)。P(対象)をネフローゼ症候群患者*と非ネフローゼ症候群患者に分けて記述されている。*成人ネフローゼ症候群の診断基準1)1.尿たんぱく3.5g/日以上が持続する2.低アルブミン血症:血清アルブミン値3.0g/dL以下3.浮腫4.脂質異常症(高LDLコレステロール血症)1、2は診断必須条件、3、4は参考所見ネフローゼ症候群患者ではたんぱく質摂取量制限は有効性、安全性、双方の観点から推奨しない、との記述があり、われわれのRQのP(対象)からも除外した方が良さそうです。したがって、下記のまとめは非ネフローゼ症候群患者をP(対象)にしぼった関連研究のレビューに基づいたものです。推定糸球体濾過量(eGFR)<60mL/分/1.73m2未満の保存期CKD患者ではたんぱく質摂取量は0.8g/kg標準体重/日以下に制限することが推奨される。たんぱく質摂取制限はCKDの進行を遅延させる可能性があるが、その有益性は軽度であることが、ランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)の結果から示唆されている2-7)。たんぱく質摂取量は0.6g/kg標準体重/日までは安全性も保たれていることが示されているが8-10)、より厳格な低たんぱく質食事療法は長期的には死亡リスクの増加の懸念を示唆する研究報告3)もある。これらのRCTの結果を統合(メタ解析)した、システマティック・レビュー11)でも、たんぱく質摂取制限が有益である可能性が示唆されている。UpToDate®の記述からも、われわれがE(曝露要因)に設定している「厳格な」たんぱく質制限食(0.5g/kg標準体重/日)の臨床的有用性については、明確なエビデンスはないようです。また、UpToDate® が根拠とするエビデンスもRCTからの知見に基づいたものがほとんどであり、外的妥当性(連載第6回参照)の観点からも、われわれが行う観察研究にある程度の価値はありそうだと考えられます。また、上述したとおり、ネフローゼ症候群はP(対象)から除外するのが適切と判断し、冒頭のCQと RQ(PECO)を下記のように改訂しました。CQ:食事療法を遵守すると非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病患者の腎予後は改善するのだろうか↓P:非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病(CKD)患者E:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の遵守C:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の非遵守O:腎予後次回からは、もうひとつの質の高い2次情報源である、コクラン・ライブラリーの活用方法について解説したいと思います。1)エビデンスに基づくネフローゼ症候群診断ガイドライン2020, 東京医学社.2)Klahr S et al. N Engl J Med. 1994 Mar 31;330:877-884.3)Menon V et al. Am J Kidney Dis. 2009 Feb;53:208-17.4)Ihle BU et al.New Engl J Med. 1989 Dec 28;321:1773-7.5)Cianciaruso B et al.Nephrol Dial Transplant. 2008 Feb;23:636-44.6)Levey AS et al. Am J Kidney Dis.1996 May;27:652-63.7)Locatelli F et al. Lancet. 1991 Jun 1;337:1299-304.8)Kopple JD et al. Kidney Int.1997 Sep;52:778-91.9)Aparicio M et al. J Am Soc Nephrol.2000 Apr;11:708-716.10)Bernhard J et al. J Am Soc Nephrol. 2001 Jun;12:1249-1254.11)Fouque D et al.Cochrane Database Syst Rev. 2020 Oct 29;10(10):CD001892.

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「遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)ガイドライン」刊行、ポイントは?

 遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)の診療に関しては、2017年に「遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診療の手引き」が刊行されている。HBOC既発症者へのリスク低減手術の保険収載や、膵がん・前立腺がんへのPARP阻害薬の承認など、遺伝子検査に基づく治療・マネジメントがいっそう求められる中、Minds「診療ガイドライン作成マニュアル2017」を遵守する形で、今回新たにガイドラインがまとめられた。2021年8月7日、webセミナー「遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診療ガイドライン 2021年版の解説(主催:厚生労働科学研究費補助金[がん対策推進総合研究事業]「ゲノム情報を活用した遺伝性腫瘍の先制的医療提供体制の整備に関する研究」班)が開催され、各領域のポイントが解説された。遺伝子診断・遺伝カウンセリング領域のポイント 遺伝子診断・遺伝カウンセリング領域の最も重要なコンセプトは「がん未発症と既発症を区別せず、遺伝的な特性としてHBOCを捉えるという点」と平沢 晃氏(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科臨床遺伝子医療学)。BRCA遺伝情報を知ることのメリットは、(1)本人の治療法の選択、(2)本人のがん予防、(3)血縁者へのがん予防であると整理した。 現在、手術や検査の対象によって、保険収載と未収載が混在している状況がある。遺伝BQ1ではこれらの状況について整理している。遺伝BQ2では、表「NCCNガイドラインの遺伝学的検査の基準」を掲載し、どのようなクライエントにBRCA遺伝学的検査を推奨するかがまとめられている。平沢氏はこの表のうち、 乳がんの発症者で・45歳以下の発症・50歳以下の発症で条件に当てはまる場合・60歳以下のトリプルネガティブ乳がん・年齢を問わず1人以上の近親者が条件に当てはまる場合・卵巣がん発症者・男性乳がんについて、2020年よりBRCA遺伝学的検査が保険診療の対象となったことを解説。その他(既知のBRCA1/2の病的バリアントを保持する家系の個人、膵がん、高グレード前立腺がんで条件に当てはまる場合、腫瘍プロフィール検査でBRCA1/2の病的バリアントを認めた場合)は未収載となっている。 また今回のガイドラインでは、「遺伝BQ10 生殖に関する遺伝カウンセリングにはどのように対応するべきか?」を新設。BRCA病的バリアント保持女性の妊孕性温存への対応フローが掲載されている。乳がん領域のポイント 領域リーダーを務めた有賀 智之氏(都立駒込病院乳腺外科)はまず、BRCA遺伝学的検査を推奨する乳がん患者について、従来からの血縁者に乳がんまたは卵巣がん患者がいる場合のほか、膵がん患者がいる場合が追加されたことが大きな変更点とした(乳癌BQ1)。 BRCA病的バリアントを有する乳がん患者に対する乳房温存療法については、2017年版の手引きでは「推奨されない」となっていたのに対し、今回は「条件付きで行わないことを推奨する」と変更された(乳癌CQ3)。背景について同氏は、ガイドライン作成にあたり独自に実施されたメタアナリシスの結果、残存乳房内再発率が散発性乳がん患者と比較して高いこと、この傾向は観察期間が長くなるほど明確になることから、温存乳房内の新規発症リスクは長期に継続するものと推察されたと解説。一方で、生存率の悪化についてのデータは認められなかったことから、上記リスクや継続的なスクリーニングの必要性などを理解したうえで選択する場合は、否定しないという位置づけとした。 そのほか、RRMについては2020年4月に保険適応となり、乳がん既発症/未発症のいずれにおいても新規乳がんのリスク低減効果が示されている(乳癌CQ1、2)。造影乳房MRIについては、乳がん既発症/未発症のいずれも条件付きで推奨とされたが(乳癌CQ4、5)、乳がんも卵巣がんも未発症の場合BRCA病的バリアント保持者へのサーベイランスは保険未収載となっている。この点について同氏は、未発症者においてもMRIサーベイランスからのベネフィットは得られるので、早期に対応されることを期待したいと話した。卵巣がん領域のポイント 卵巣がん領域では、領域リーダーを務めた岡本 愛光氏(東京慈恵会医科大学産婦人科学講座)が登壇、解説を行った。BRCA病的バリアント保持者に対するRRSOについて、標準的な術式として低侵襲(腹腔鏡)手術が推奨され、術中播種を予防するための手術操作が箇条書きで示された(卵巣癌BQ2)。RRSOの際の卵管の病理検索については、SEE-FIMプロトコールに準じることが条件付きで推奨され、条件付きとされた理由として、「STIC検出の臨床的意義が現状不確実であること、標本作成等で病理医の負担が増加することがある」と説明した(卵巣癌CQ2)。 卵巣がんに対する初回薬物療法としては、BRCA病的バリアント保持者においてもプラチナ製剤併用レジメンによるOSの有意な延長がRCT1報、症例対象研究5報で示されており、本ガイドラインでも推奨が示された(卵巣癌CQ3)。PARP阻害薬については、プラチナ製剤を含む初回化学療法後に奏効した同患者に対し、維持療法としての使用を条件付きで推奨するとされた。条件付きとされた理由は、薬剤費が高額なこと、二次がんを含めた長期合併症に関するデータが乏しいこと、至適投薬期間については不確実性が残ることが挙げられた。前立腺がん領域のポイント 「BRCAバリアント陽性前立腺がんの大きな特徴は、診断時からのリンパ節転移・遠隔転移症例が有意に多いこと」と小坂 威雄氏(慶應義塾大学医学部泌尿器科教室)。前立腺がんの早期限局がんでの発見例の予後は非常によいことから、転移前にできるだけ早く見つけることが何よりも重要と話した。現在継続中の試験ではあるものの、大規模コホート研究であるIMPACT研究を根拠として、本ガイドラインでは未発症BRCAバリアントの男性保持者に対して、より低いPSAカットオフ値(3.0ng/mL)を用いて40歳からのサーベイランスを実施することを条件付きで推奨している(前立腺癌CQ1)。 また、前立腺がんにおいては生殖細胞系列だけでなく、体細胞系列のバリアントを有する症例が約半数いる。「家族歴が全くない転移前立腺がん患者さんの中にもBRCAバリアント保持者がいる可能性が指摘されている」と小坂氏は話し、BRCA遺伝学的検査の実施が推奨される前立腺がん患者の条件として、他のがん種で条件とされている家族歴のほか、「遠隔転移またはリンパ節転移を有する転移性前立腺がん患者」が加えられていることが大きな特徴とした(前立腺癌FQ1)。また治療については、2020年に新規内分泌療法後の転移を有する症例について、PARP阻害薬が保険収載された。同氏は、今後実臨床における有効性データが蓄積していくことが望まれると話した(前立腺癌FQ2)。膵がん領域のポイント 膵がんにおいて、BRCAバリアント陽性患者は4~7%と報告されている。BRCA遺伝学的検査の実施が推奨される膵がん患者の条件としては、家族歴のほか、「遠隔転移を有するまたは術後再発」であることが示されている(膵癌FQ1)。尾阪 将人氏(がん研有明病院肝胆膵内科)は、「膵がんの治療選択肢は非常に限られており、遺伝学検査を行うことで選択肢を広げることの意義は大きい」と話した。 BRCAバリアント保持者に対する膵がんのスクリーニングの考え方に関して、同氏は遺伝子変異+膵がん家族歴の聴取が非常に重要と指摘。第一度近親者内に膵がん患者が1人以上おりかつBRCA2陽性の場合SIR(標準化罹患比)が5倍以上、第一度近親者内に膵がん患者が2人以上おりかつBRCA2陽性の場合、SIRが30倍以上というデータを紹介した。本ガイドラインでは、「少なくとも1人の第一度近親者に膵がん家族歴のあるBRCA1、2病的バリアント保持者に対し、MRIまたは超音波内視鏡を用いたスクリーニングを考慮する」とされている(膵癌FQ2)。 治療については、POLO試験においてBRCA病的バリアントを有するプラチナ感受性切除不能膵がんに対する維持療法としてオラパリブがPFSを延長したことを根拠として、同患者に対する治療を条件付きで推奨している(膵癌CQ1)。同氏は留意点として、推奨文から下記を抜粋した:・OSの延長効果を認めていないことを患者と共有したうえで投与することが望ましい・BRCA病的バリアントを有する膵がん患者の家系に対しても、継続的な遺伝カウンセリングを実施していくことが望ましい

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