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准教授 長谷部光泉 先生の答え

研究費の調達方法記事拝見しました。「アメリカからの帰国後、材料工学の研究を独学で始めました」とありますが、研究にかかる費用はどのように捻出したのでしょうか?研究費の調達方法に興味を持っております。是非ご教示ください。これは非常に苦労しました。私は医師になってから帰国するまでの間、米国の教育の方が長くなっていたため、最初は日本での資金調達の勝手がわからず、四苦八苦しました。最初は、少額の市や財団の公的資金を片っ端から応募し少額の研究費でなんとか研究をはじめました。少額の研究費を有効に使い、なんとか国内外の学会で研究を発表し研究をつなぎました。正直なところ、自分の給料をつぎ込み、研究を行っていた苦しい時期もかなりありました。帰国後の研究では、2000年以降、国際学会で賞をとったりすることで、ある程度の注目が集まった段階で、国内施設での共同研究を模索し、その分担研究者となることで資金を調達し、研究を続けていた時期もあります。その後は、慶應大学理工学部(鈴木哲也教授)や東京大学医学部(髙橋孝喜教授)、横浜市立大学(上條亜紀准教授)などとの共同研究を軌道にのせ、日本での医学博士、工学博士を取得し、論文発表を行い始めると、経済産業省(NEDO)の大型プロジェクトや文科省科研費、東邦学内でのプロジェクト研究費、医学部推進研究費などを頂くことができ、ようやく安定的な研究ができるようになりました。しかしこれはごく最近のことで、研究費の調達には常に四苦八苦しているというのが現状でしょうか・・(笑)。やはり日本での資金獲得は、粘り強く自分の研究方向に信念をもって結果をだし、その結果を基に、公的資金を獲得していく方法が一番だとは思います。あるいは、多くの研究費をもった研究室に所属するのも一つの方法でしょう。良い研究の仲間や指導していただける先輩や上司の先生、そして後輩との出会いと研究への熱い思いが研究費の獲得につながることはいうまでもありません。臨床経験は必要?私は医学部生です。実は大学に入るときに、工学部と迷いました。私の将来の希望としては、患者さんを治療するというよりは、より良い治療を行うための機械や道具を開発したいと思っています。なので、この先は研究重視で、と思っていました。しかし、長谷部准教授の記事をみると、臨床経験が大変重要だとあります。やはりそうなのでしょうか?また、工学博士も取得されていますが、そのときも臨床をやりながら取得されたのでしょうか?拙い質問で申し訳ありませんが、ご回答宜しくお願いします。医学部の学生さんでこのような考え方を持っていただける人は非常に貴重と言わざるを得ません。医療機器やデバイスの開発には、現場でのニーズが最も重要です。現場でニーズのないものを開発しても患者様には意味がないからです。そして、工学部の持っているシーズを的確に把握し、それをどのようにものにしていくのかというトレーニングが必要です。ですから、私は、やはりこのような境界領域で活躍するためには臨床経験は必須だと思っています。もし工学部の学生さんであれば、早い段階で医師と接し、現場を垣間見ることができるような環境が必要です。なかなか日本にはまだこういった教育システムはないのですが、今後は医学部学生と工学部学生がカフェテリアや学食で常にディスカッションできるような教育システムが望まれます。もう一つのご質問ですが、工学博士を取得したときは、もちろんフルに臨床を行い、数少ない研究日を研究にあて(バイトは辞めて)、週末や日曜日、夜などに研究を行い、論文を作成しと、必死にやった記憶があります。是非、医工連携を志す医学部の学生さんがもっと増えてくるとうれしいです。また、私の研究室を見学にきていただいても大歓迎です。仕事の進め方(時間の使い方)について臨床も研究も、というと、ほとんど時間が足りないかと推察いたします。仕事の進め方や、時間の使い方で普段心がけていることや、Tips的なことがあればご教示お願いします。おっしゃる通りです。臨床も研究もやるためには、非常に時間の使い方に苦労します。実際は、臨床:研究=8:2といった配分になってしまいますが、現在は医工連携チームで仕事を分担し、それを週1回の合同ミーティングですべての研究のプレゼンを行っていただき、方向性や実験の修正などを行っています。最近は、スカイプを利用したテレビ電話ミーティングも行うこともあります。もちろん、血管内治療(IVR)の緊急症例なども夜間であろうとも積極的に行っていますので、寝る暇がないこともあり、肉体的・精神的に非常につらいことも多々あります。ただ、そういったことも、すべて患者様のためだと思うと乗り切れることもありますし、いつもサポート・理解してくれる上司の先生、後輩の先生や学生、そして家族のアドバイスによって乗り切っているのが現状です。お聞きしにくいですが、報酬について先生のように医療機器や資材の開発に携わっている先生方には敬服しております。常に疑問に思っているのですが、面と向かって聞きにくいので、この場を借りて質問させていただきます。このように研究開発に携わっているときには報酬がでるのでしょうか?場合によりけりだとは思いますが、一般的にはどうなのか、教えていただけるとありがたいです。下世話の話で恐縮ですが宜しくお願いします。現在理工学部に最低、週1回は夜から夜中、朝方までのミーティングで医工連携チームの指導を行っていますが、これは無報酬です。企業との開発を行う場合、研究費が得られる場合もありますが、これは純粋に研究のための資金で給料ではありません。私の海外のボスであった教授は、多くの会社のコンサルタントなり、副収入を得ていましたし、研究費の中には給料も含まれるのも当然というのが海外での状況ですが、日本の研究費のほとんどがそのようなものはありません。そのかわり、日本のような安定的な地位というものも存在せず、すぐにクビになることも多々あります。日本では大学や研究施設などで安定的な地位が得られることもありますが、医師が行う研究という意味では、まだまだボランティア的な要素が多分にあるのが実情かと思います。開発の体制長谷部先生のように、素材や機器の研究開発を行う場合、どんな体制がとられるのでしょうか?どんな役割の人間が何人いるのか?どんなチーム体制で実施されているのか?そのようなことを知りたいです。この分野は素人なので、まさに素人質問で申し訳ないですが。私がチームリーダとなっている医工連携グループの構成は以下の通りです。1)炭素材料やセラミックス、薄膜などの専門:慶應大学鈴木哲也研究室のメンバー教授1名、博士課程2名、修士課程3名、大学生2名2) 高分子・ポリマーなどの専門家:堀田篤准教授研究室のメンバー准教授1名、修士課程2名3) 東邦大学医学部大学院博士課程:3名(+私)4) 横浜市立大学医学部 細胞治療・輸血部:上條亜紀准教授(部長)5) 東京大学附属病院輸血部:髙橋孝喜教授、田中助教6) 東京大学附属病院脳外科:斎藤教授、大学院生博士課程1名以上がコアなメンバーとなっております。この範囲でプロジェクトの内容が完遂できないものに関しては、産業総合研究所や物質材料研究機構、海外研究施設との共同研究によってプロジェクトを推進しています。もちろん、国内外の関連企業との共同研究も必須となります。医工連携のポイントメディトウキングの記事を読みました。医工連携のための通訳が必要とありましたが、他に医工連携を成功させるために必要なポイントがあればご教示いただきたい。やはり、若い人達の教育と互いの文化の違いを認識することが重要なポイントとなります。医学部の博士課程の学生も、最初は全く別の世界に飛び込んだような感覚になってしまうので、かなり面食らってしまい、あまり積極的な参加をしてくれない時期もありました。ただ、現在では、工学部の若い人達と医学部大学院生の間でのコミュニケーションがとれるに従い、積極的なプロジェクトがいくつも進行するようになってきていますし、業績や成果がでるようになってきました。後進を育てるポイント長谷部先生のように臨床だけでなく研究開発も成功させていく人材を育てるのに必要なことはありますでしょうか?長谷部先生のように新しいものをどんどん創り出していく先生が増えることを期待します!激励のお言葉ありがとうございます。やはり医師になってからすぐの段階で、研究や研究開発に慣れておく環境作りが重要だと思います。特に研究していなくとも、違う文化との接触を毎週行っていくことで、皮膚吸収ともいえるような波及効果があるようです。若い時から、急激に頭角を現す後輩も増えてきており、それが臨床にも役に立っているようです。但し、なかなか時間が制約されますので、チームの維持には多くの努力と精力と忍耐が必要です。忍耐が一番重要でしょうか…。これはなくしたいと思う規制日本の医工連携が欧米よりも遅れをとっている理由のひとつに、「様々な規制」があると聞きました。先生のご経験の中で、この制度はいらないなーと思われるものはありますでしょうか?もしあれば(全部かも知れませんが…)是非お話いただきたい。宜しくお願いします。確かに日本の規制が厳しいのはそのとおりではあります。日本は国民皆保険の制度が確立されている状況ですので、欧米とは国の責任の度合いが違うというのも許認可申請が厳しい理由ではあるのでしょう。国には、なるべく、日本が世界に先駆けてよい製品をだせるような、一番になれるようなバックアップを望みたいです。そうでないと、現在抱えているデバイスでの輸入超過の状況は変わらず、日本国民は常に海外ででた製品の型落ちの製品を使用することになり、大きな不利益を受けることになるでしょう。しかし、現在は、PMDA(医薬品医療機器総合機構)や厚生労働省も、早期の許認可申請を目指し、体制は変化してきているように思います。病院のサポート医工連携を進める上で、病院のサポートはあるのでしょうか?もしあるのであれば、どんなサポートかご教示ください。また、こんなサポートがあれば、というものがあれば合わせてご教示お願いします。当院では、私の上司である寺田教授や院長の多大なご理解とサポートがあります。また、東邦大学では、若手研究者に限ったプロジェクト研究費や、重点的な領域に関する医学部推進研究費など、資金に関するバックアップもあることは非常に助かります。病院に工学部の学生や研究者が適宜自由に出入りし、医学部研究者や医学部大学院生と一緒に研究できるのも非常にいい環境といえます。今後は、やはり、抜本的には、どのように早い段階で医学部・工学部若い人達をミックスし、お互いの垣根を早い段階でなくす教育が一番重要と考えます。但し、その医工連携ユニットを指導できる指導者が不足しているもの現状ではないでしょうか。指導者と若手の両方の育成が急務です。医工連携における海外と日本の違い記事を拝見しました。先生は海外でのご経験も豊富ですが、医工連携における海外と日本の違いはなんでしょうか?留学した先生方からは、よく「海外の方が研究しやすいんだよね。」と聞きます。先生もそうだったのでしょうか?これは一長一短です。システムという面では、欧米にかなわない部分もあると思います。欧米だけがいいのではないと思います。日本から留学して、大きな研究室で、一つの研究に没頭しているときには、非常に研究がしやすいと感じるでしょう。但し。欧米では、やはり自由競争の社会であり、研究費がなくなれば、そのまま研究室がつぶれ、全員解散ということもよくあります。その緊迫感と各国から集まる研究者が切磋琢磨しているという点では、とくに米国での研究はやりやすいと感じるのではないでしょうか。日本の研究費が少ないわけではないと思いますし、日本人が劣っているわけでもないと感じました。ある程度の海外経験は非常に役に立ちますが、最終的には国内からの人材の流失がないように、国も対策を考えるべきだとは思います。アジアでは特に、韓国、シンガポールにおいては、すでに欧米化が研究分野では進んできていいますので、現在すでに負けている分野もあると思いますし、今後、どんどん抜かされてしまうかもしれないという驚異を持つ分野も沢山あり、我々も心して研究を進めていかねばなりません。総括大変熱心なご質問、激励のお言葉ありがとうございました。このような医工連携の分野に興味をもっていただけることは大変うれしいですし、私自身励みになります。まだまだ私自身、未熟であり、これからもっと大きな成果を上げて、少しでも患者さまの幸せに貢献できたらと思う次第です。もちろん、私が臨床でやっている血管内治療・IVRの分野においても、国産のすばらしいデバイスがあふれ、それを海外の医師や研究者が学びに来る日を夢見てがんばりたいと思います。また、この記事を読んでいただき、実臨床に即した医工連携や研究に興味を持って頂いた若い先生がいらっしゃるとしたら、是非、私にお声をかけていただき遊びにきていだけることを祈っています。今後とも、皆様のご指導をいただきたいと思っています。よろしくお願い申し上げます。この度は、このような機会をお与えくださりありがとうございました。准教授 長谷部光泉 先生「すべては病気という敵と闘うために 医師としての強い気持ちを育みたい 」

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教授 福島統 先生「国民のための医者をつくる大学 この理念の下に医師を育成する」

1956年3月21日東京都生まれ。1981年東京慈恵会医科大学卒業。84年同大学第1解剖学専攻博士課程修了、自治医科大学第1解剖学講座国内留学。85年東京慈恵会医科大学第1解剖学講座講師。87年ペンシルバニア州立大学分子細胞生物学講座留学。95年東京慈恵会医科大学カリキュラム委員。97年Harvard-Macy Program:Physician Educators修了。99年同大学医学教育研究室助教授。01年同大学同教授。07年同大学教育センター長。(社)日本医学教育学会副理事長、(財)日本医学教育振興財団運営委員・編集委員長、(財)柔道整復試験研修財団理事長。繰り返される医師不足と地域偏在第二次世界大戦後、日本の医学部定員は1万人を超えていました。GHQは医師養成のあり方をみて「医師粗製乱造だ」と、発言しました。当時は戦時下の軍医養成のため教育年限が短く、臨床のトレーニングが十分なされないまま、医師となって巣立っていきました。医師のレベルが下がるということは、日本の医療レベルが下がるとして、定員の削減を断行しました。3 千数名の入学定員とすれば、需要と供給が保たれるうえに医学教育の質も保てるとし、このときにシステムを確立してしまったのです。ですが、昭和36年に国民皆保険が実施されたことによって、安定供給のバランスが崩れます。すべての国民が医療へのアクセスが楽になり、徐々に医師不足が騒がれ始めます。そこで行われたのが、昭和45年3校の私立医科大学、秋田大学医学部設立と1県1医大政策です。なぜ秋田に医大をつくったかというと、今でもそうですが東北地方は慢性的に医師不足だったからです。つまり、診療科の偏在、地域偏在、研究医が少ない、基礎医学に進む医学部出身者がいないという現在と同じことが、昭和30年代にも起きていたのです。問題は、いきなり医大を増やしたので、教員が足りなくなってしまったことです。特に基礎医学を教えられる人材が不足してしまった。当然ですが、十分な教育なくして医師は育ちません。医学生の教育体制を考慮せずに、不十分なままに、定員を増やしてしまったことを反省すべきでしょう。結局のところ、地域偏在だ、診療科偏在だ、医師不足だといって医大をつくってはみたものの、実際に問題の解消にはなりませんでした。 医療現場の変化を捉えシステムを構築する医師不足問題を解決するためには、医療現場がどのように変化しているかを適格に捉えることです。現在医師不足といわれる最大の理由は、専門分化しすぎたからです。昔は内科医だったら、呼吸器、腎臓、心臓の悪い患者さんを分け隔てなく診ていました。一人の患者さんが複数の疾患に罹患していた場合でも、昔は一人の医師でカバーしていました。ですが今は、疾患ごとに専門医が必要になっています。つまり、一人当たりに必要な医師の数が増えているのです。高齢化社会が進めば、多臓器にわたって疾患のある患者さんが増えて、医師の数はもっと必要になるでしょう。すると医師の数は青天井に必要となるのです。これは高度医療の現場で増えているわけです。国民皆保険というフリーアクセスの現状では、どんなささいな病気でも専門家に診てもらいたくなる。それを許してきた。医療に対してフリーアクセスを許してきた日本、患者さんに対して医療レベルの振り分けをしませんでした。高度医療においては、疾患ごとに専門医が細分化されています。多臓器にわたって疾患のある患者さんが増えれば、一人の患者さんに対して必要な医師はますます増えることになります。これから高齢化社会が進むにつれ、医師の数がどれほど必要になるのかを算出するのは難しいことです。医学先進国のほとんどが、高度医療が必要な患者さんとそうでない患者さんを一次医療で振り分けているのは、本当に必要な医療を必要な患者さんが速やかに受けられるようにするためです。ですが、国民皆保険の日本では、極端にいえば単なる風邪であっても、高度医療の現場にいる専門医への受診もフリーアクセスを許してきました。では、何が必要かというと一次医療、二次医療、三次医療のシステム化を体制としても供給する側としても、階層性を構築することが求められています。たとえばイギリスのジェネラルプラテクショナー[General Practitioner (GP)]のようにかかりつけ医がいて、すべての患者さんはそこで診察を受けなければ、二次医療、三次医療には進めない。GPがゲートコントローラーの役割を果たせれば、患者さんは高度医療が本当に必要な人のみが受診し、非常に高度な医療に携わる医師は、その医師にしかできない治療に専念できるのです。大学の存在意義は社会への貢献である大学の存在意義とは、高度な学術や技能を持った人を社会に供給することによって、国民のために存在するものであると考えます。つまり地域に貢献するために存在しているのです。東京慈恵会医科大学の理念は明確で『国民のための医者をつくること』です。ところが各々の大学が社会に対する責任を考えてきたかというと疑問があります。日本はドイツから大学制度を持ってくるのですが、学問の自由とか大学の自治は受け入れたが、なぜそれらが大学にとって必要なのかは忘れてきてしまった。大学とは社会的存在であるという理念を置き忘れてきてしまいました。医師不足についても、ただ増やせばよいのではなく、医療システムそのものを見直さなければ、医療は社会的共通資本であり、つまり国民が守るものだという意識をつくっていかない限り、また同じ過ちを繰り返すだけです。医療はこれからも変化していくでしょう。10年前のデータを基に医師数を算出できても、明日では無理。なぜならば、医学生が独り立ちするまでに11年かかります。つまり、11年後の需要供給計画など立つわけがないのです。地域の教育力を活かす医療者教育私は1年生を地域医療実習へ送り出す前に「君たちは医者になる。医者になったら診る患者の半数は女性で、1.2%は統合失調症で2~3%は知的障害者だ。そして診る患者の10%には人格に偏りがある」と言います。まず1年生には授産・厚生施設へ1週間行かせます。2年生は、重症心身障害児療育体験を1週間実施した次の週に、児童館や幼稚園、保育園などで地域子育て支援体験実習に行かせます。これには理由があって、重度の病気を持つ子どもと元気な子どもをみることによって、病気とは何かを考えてほしいからです。病気であるがゆえに、人間としての活動を障害するとはどのようなことなのかを知ってほしい。医療とは患者さんがその人らしい人生を送れるように、すべてをサポートすることです。病気だけ診ればいいのか……そこで我が校の理念「病気を診ずして病人を診よ」につながるわけです。3年生には医学部なのに訪問看護ステーションで実習してもらいます。ある学生が言いました。「同じ認知症でも、家庭によって違う」。たとえ同じレベルの認知症であっても、その家庭環境が違えば、治療の方法もサポートも変わります。つまり、患者さんを取り巻く環境によって求められる医療のニーズは違うことを学んでほしいのです。それぞれの患者さんのバックグラウンドまでを知り、日常生活を想像した上で治療のできる医師を育成したいのです。4年生では院内の看護部や栄養部、薬剤部などの他職種に配属されます。5年生になると学内の臨床実習だけでなく、家庭医実習というのがあります。これは地域の開業医の下に1週間実習に行かせ、大学病院とは違った医療の現場を見てもらいます。これは、3年次の訪問看護による在宅ケア実習につながるわけです。また、医大の付属病院は高度医療を求めた患者さんが来院するところです。高度医療を必要としている患者さんは1,000分の1に過ぎません。まして、この中に予防医学は入っていないのです。では、あとの999をどこで学ぶか。それは学外で学ぶしかないのです。この実習の実現のために大変だったのは、よい開業医を探すことでした。よい医師でなければ、良い教育はできないからです。そのためは、学閥も何ものにも縛られることなく、高い理想を持った師となっていただく方を探し、お会いし、お願いしました。今では65名の先生にご賛同いただきご協力いただいています。医師は患者さんに貢献して幸せになれる職業臨床の場でわれわれが直接教えることはできません。けれども、学ぶ環境を提供することはできます。その環境をどう活かすかは学生次第です。1年生をいきなり外に出すのは、学びは現場にこそあるからです。現場にいて、自分に何ができて何ができないかを自覚させるためです。また、学生の学びのために臨床実習をさせているのではなく、患者さんへの貢献をするためなのだと教えています。病棟に学生がいたら「まずは、患者さんのベッド下の掃除でもやってなさい」と言う。これは、感染防御の第一です。 学生が臨床実習で何をするか? それはできることの最大限の力で、患者さんに貢献することです。採血ができなくても、ベッドの下の掃除はできる。看護師が荷物運びに難儀していたら、率先して手伝えばいい。このように職場の中でできる責任を果たしていきながら、できることが増えていく。すなわち、患者貢献が拡大していくのです。 医師育成のために国が税金を使うのは、医師がいなくては国民が困るからです。解剖の献体にしても、臨床実習にしても、医師を育てているのは国民なのです。あらゆる助成を国民から受けているのだから、医学を学ぶ者に自由はない。学ぶ義務があるだけなのです。質問と回答を公開中!

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教授 福島統 先生の答え

診療所医師による医学教育のためのシステム人口8万都市で小児科医を開業している者です。診療所で研修医の「地域保健研修」を、また、出身医大で「外来小児科学」の講義を行っています。先生のご意見、医学生をプライマリ・ケアの場に出す動きには全面的に賛同します。診療の質を上げるためには、診療を人に見せて教える必要があると考えますが、この波が拡がるためにはどうすればよいでしょうか?優秀な開業医が医学教育に関わることができずにいる環境があります。初期研修が始まった時に医師会が率先してシステムを作ればよかったのでしょうが…全国レベルでの医学部でのプライマリ・ケア実習の動きはありますでしょうか。あるいは今後の、それぞれの学会に依存しない医学部としてのシステム作りは可能でしょうか。ことば足らずで回答しにくいかと思いますが、医学部の変化がないことには診療所医師の関与は難しいと思いましたので。すでに医学部という大学と特定機能病院という大学附属病院のみでは、国民が求める医療を教えることはできないことは自明です。大学は医学教育をコーディネートする「教育機関」です。医学部が様々な医療ニーズを学生に見せ、学生一人ひとりが自分の仕事を知る機会を作ることがcommunity-based medical education です。このcommunity-based medical education は世界的な流れです。日本が遅れているだけです。医学部の中には専門医療だけでなく、地域が求める医療を学生に見せようとカリキュラムを工夫するところが増えてきています。医療の世界では、どの医療機関に所属する人も「教育」をしていかなければなりません。教育の場は大学と附属病院だけではありません。診療所も、地域病院も、在宅で頑張っている医師も、医師とは本質的に医師を育てる人たちだと思います。大学で医学教育を考える人たちが、自分の専門だけでなく、「医療」を学ぶ学生のことを考える日は近いと思います。その時に、地域の医師が「医師の役割の一つ」としての教育に夢を持って欲しいと思います。政治と現場で意見反対なのは何故ですか?福島先生の解説を読んで、医師不足問題について大変理解が深まりました。まだ私は医学生なので考察が甘いかもしれませんが、福島先生の意見が正論だと思いました。ただ、福島先生の意見が正論だと思う一方で、では何故、日本は医学部新設に向かっているのか?というところが分かりません。政治と現場で意見が対立しているのでしょうか?何故、日本は医学部新設の流れにあるのでしょうか?昭和45年に秋田大学医学部と北里大学医学部、杏林大学医学部、川崎医科大学が出来ました。昭和46年は私立医大がさらにできた後に、昭和47年からの1県1医大が始まります。この時、私立医大ができたのは、戦後の医専の卒業の大量の医師(開業医)たちの後継者問題があったからです(昭和20年の医学部入学定員は1万人を超えていました)。この時、裏口入学の問題が世間を騒がせました。1県1医大政策は田中角栄首相が押し進めました。その時の理由は東北・北海道の医師不足、医師の地域偏在、診療科偏在、基礎医学者と公衆衛生に関わる医師の不足が問題となりました。まさに今、政治が論じている問題と全く同じです。医師数をただ増やせばこの問題が解決するというのは幻想です。問題があるから、「何かを」しなければいけないという風潮になり、医学部を新設すれば「きっとよくなる」という積極策の幻想(ペーター・センゲ)になっていると思います。何かをすればそれが解決へつながるという言い訳でもあります。これは危険な考え方です。今こそ、なぜ日本の医療がうまくいかないのかをみんなで考えるべきです。学外実習に必要な開業医の数は?私も、現場で学ぶ機会は多い方がよいと考えます。学外実習に協力している開業医の先生が65名いらっしゃるとのことですが、慈恵さんレベルの大学ではその人数で十分なのでしょうか?理想としてはどのくらいの先生方を確保するべきなのでしょうか?数年前、韓国の医学教育学会で慈恵医大の「家庭医実習」の話をしました。その時、どうやって指導医を集めているのか、との質問を受けました。私は次のように答えました「医者には二通りの医者がいる、good doctors とnot good doctors だ」。会場に大きな笑いを誘いました。でも、私はこれが真実だと思います。そして、いい医者は良い医者が誰かを知っています。慈恵医大では、素敵な指導医と学生が評価した開業医に、「良い開業医を紹介してください」とお願いし、指導医を集めました。素敵な指導医が最低30人いれば、1年間で100名の学生の臨床実習を行うことができます。でも、無理をしないで1年間で100名の臨床実習をするには、60名必要と経験的に考えています。 トータルの実習成果は?学生の中には学外実習が苦手というか社交的ではない者も多いかと。皆がみな学外実習で何かを掴んで帰ってくるとは思えないのですが、実際はいかがでしょうか?個別には成果をあげる学生もいるでしょうが、トータルでみたときの実習成果について、差し支えなければご教示ください。昔、私が学生時代は先生が「あの学生は口下手だが、まじめでいい子だよ」と言っていました。私は、それは間違いだと思います。臨床医になるなら、どうにかして口下手を克服すべきだと思いますし、口下手を拡幅するために大学はその学生に手をかけるべきだともいます。人と話ができない医者を作るのではなく、たとえ上手ではなくても患者さんの話を聞く態度を持つ医師に育て上げるべきと思います。今までの初等、中等教育では、「職場の中で学ぶ」力を生徒に養ってきませんでした。しかし、医師になる者には「職場の中で学ぶ」力が必要です。医学部がただ知識と技能を教えていればいいのではありません。その学生が病棟で、患者さんから医療チームのメンバーから「人から学ぶ」ことのできる力を持てるようにしなければなりません。学外実習に行って、多くの学生は「自分に足りないもの」を見つけてくるように思います。自分に足りないもの、これこそが学習課題です。学習課題に気づいた人は自ら学習するでしょう。でも気づくチャンスがなければ学習は進行しません。そして気づきは異文化の中で起こることが多いのです。学生を学外に出し、「無理やりさせられ体験」をさせることで医学部の中にいるだけでは気づけない自分自身の学習課題を知って欲しいと思います。しかしながら、気づきはその学生のレディネスに負うところが多いことも事実です。スキャモンの成長曲線を思い出してください。大器晩成型も、早熟型もあります。学生に気づきの機会を与えますが、その学生が気づくまで待つことも大事です。学生の成長を待つだけでなく、成長を促すためにも「無理やりさせられ体験」は必要だと考えます。学生の反応は?医学生であれば目の前の国試対策に意識が集中して、学外実習は二の次ではないかと思います。実際、学外実習に対する医学生の反応はどうでしょうか?学生を説得して実習に出す感じでしょうか?※医師として患者を診ている今となれば、慈恵さんの学外実習が如何に素晴らしいかよく分かります!本当人間って勝手ですよね(笑)学生は医者になりたがっています。決して国家試験のプロになろうとはしていません。これは真実だと信じます。そして学生は実り多い自分の人生を求めています。人間とは自分自身の成長に気づいたとき、それを嬉しいと思う存在です。しかし、学生には今どのような体験をすべきか自分では分からないと思います。カリキュラムで必修とするのは、「無理やりさせられ体験」として学生が理解できなくても「行かせる」ためです。もちろん、オリエンテーションはたくさんしますが、実体験のない学生には理解は困難だと思います。学外実習は3年か4年しないと安定しません。教員がいくら大事だと言っても学生が理解しませんが、先輩の学生は「行ってみろよ、経験になるぜ」と言ってくれるようになったら実習が安定します。彼らは身近な先輩の言うことは素直に信じるのでしょう。実習を経験し、臨床実習に出たときにこの実習の意味を理解してくれれば学生は「無理やりさせられ体験」から「意味のある経験学習」へと認識を変えてくれます。国試対策について場違いな質問であれば無視していただきたいのですが、現在息子の入学先を検討している者です。私は地方の国立大卒です。私大医学部出身の友人もおらず、私大医学部のことがよく分かりません。慈恵医大ならではの特別な国試対策カリキュラムなどあるのでしょうか?学外実習は完璧だと思いました。親として心配なのは国試対策だけです。宜しくお願いします。慈恵医大は特別な国試対策はしません。むしろ6年生の後半には学生に自由な時間を与えるようにしています。学習で重要なのは、自分自身の能力を自分で評価し、自分の不足しているところを自分が認識して、自分の方法で学ぶことです。医学部6年生に「教え込み」は通じません。彼らは立派な「成人学習者」ですから。自分の不足を振り返り、自律的に学習する機会と時間を与えれば、医師になれるものは「国家試験」に合格します。何時までも教え込まれなければ勉強できない人はむしろ医者になるべきではありません。医者に必要な能力は生涯学習力ですから。私が医学教育の仕事をするようになった時、留年者や国試浪人の人にインタビュー調査をしたことがありました。彼らの欠点は明らかでした、解剖と生理学、すなわち基礎医学を知らないのです。国家試験のための勉強は基礎医学にあります。基礎医学をまなんだ人は病態を暗記ではなく、論理として理解します。そして今の国家試験は昔と違い、病態を理解してそのうえで薬理学の知識を応用した治療の選択を聞いてきます。国家試験は既に暗記の世界から、理解の世界へと変わってきているのです。国家試験は心配なら、基礎医学教育をしっかりしている医学部を受験させるべきと思います。医学を学ぶ者の自由とは、それを否定する理由はなんですか義務のみで自由はないのでしょうか、腑に落ちません。一人の学生が医師になるためには6年間に約1億円の経費がかかります。国公立であろうが私立であろうが多量の税金を使って医者になります。私は納税者です。自分が払った税金が「金儲けしか考えない医師」の養成に使われたとした、損害賠償請求をします。私は献体者です。死んだら、この体は解剖学実習に使われます(それまでには痩せようと思っています)。阿部正和慈恵医大元学長が講義のたびに学生に言っていました「患者こそ最高の師」と。医者になるためにたくさんの期待がかけられています。だから医学生はエリートだと思います。もし、自由に学びたいのなら、その経費は自分で払うべきです。税金とご遺体の行為と患者さんの協力を頂いて医師になるなら、国民から期待される医師になる責任があると思います。自分の自由のために他者の心もお金も使う必要はないと思います。この道に進まれたきっかけを教えて下さい。先生が、臨床でもなく研究でもなく教育を専門にされた「きっかけ」に興味があります。産婦人科開業の長男として生まれ、私立医大に入学してっきり産婦人科開業医になると思っていました。しかし、卒業時には少子高齢化が始まっており、産婦人科開業医の道はなくなり、面白そうと思った解剖学に進みました。解剖で業績を上げている最中に、急に大学から医学教育の仕事をしろ!と命令されました。いざ、医学教育の世界に入ってみたら、したいことがたくさんあったのです。だからそれをしただけです。多分、どの分野に行っても良かったのでしょう。今したいことを、今の立場で出来れば何でもよかったのかもしれません。いまは、この分野の仕事ができることを嬉しいと思っています、そしてもっとしたいと思っています。実習を阻む障害に関して1年生から地域実習へ出すとなると結構大変だと思います。受け入れ先を探す他にも障害が多かったと推察しますが、どのような障害がありましたでしょうか?1年生の福祉体験実習を作るとき、最も困ったことは「医学部と地域福福祉」があまりにも遠かったことです。特定機能病院には、知的障害や精神障害者の就労支援のことを知っている人がいませんでした。2年生の重症心身障害児の実習を作るときも地域で子どもがどのように生活しているかを考えている小児科以外の医師はほとんどいませんでした。3年生の訪問看護ステーションの実習に至っては、一部の神経内科医は理解を示したものの、多くの専門医たちは在宅医療の存在すら想像してくれませんでした。でも低学年の学外実習は臨床医たちの利害とは離れていたので実習を作りことができました。実習を作るためには何足もの靴が必要でした。医学部とは遠い福祉や在宅には、足を運び理想を話し、夢を共有してもらい一緒に医師を作ろうと説得しまわりました。多くの実習施設は共感を示してくださり、快く学生実習を受けてくださいました。特に福祉施設では、「良い医者を私たちもメンバーさんのために作ってください」と励ましていただきました。臨床実習での「家庭医実習」を必修化できたのはひとえに、阿部正和元学長のおかげです。慈恵医大は全国に先駆けて昭和61年に選択科目として開業医実習を導入していました。阿部正和先生という方が、素晴らしい指導医がたくさんいる実地医家の会との連携を作ってくれていたので、解剖上がりの臨床を知らない私が「家庭医実習」を必修化できたのだと思います。実習先になりうる開業医とは?実習を引き受ける開業医に必要な素質はありますが?また高い理想とは?もう少し具体的にご教示ください。該当する先生がいたら是非紹介したいと考えます。良い医者は誰が見ても「良い医者」です。それは誰もそう思うと思います。教授 福島統 先生「国民のための医者をつくる大学 この理念の下に医師を育成する」

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青年~若年成人の死亡率低下は小児よりも小さい:WHOデータの解析結果

1955~2004年の50年間における青年および若年成人の死亡率の低下率は小児よりも小さく、伝統的な死亡率パターンの逆転が起きていることが、イギリス・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのRussell M Viner氏らの調査で明らかとなった。近年、ミレニアム開発目標4(MDG4)の達成に向けた取り組みによって5歳未満の小児の死亡率が低下したため5歳以上の小児や青年層が増加し、5~24歳が世界人口の5分の2以上を占めるが、これらの年齢層は人生で最も健康度が高い時期としてその死亡率が相対的に軽視されているという。Lancet誌2011年4月2日号(オンライン版2011年3月29日号)掲載の報告。過去50年間の1~24歳の死亡率の動向を調査研究グループは、WHOの50年間(1955~2004年)の死亡率データベースを用いて、1~24歳の死亡率の動向について調査した。解析は5つの年齢層(1~4歳、5~9歳、10~14歳、15~19歳、20~24歳)に分けて男女別に行った。死亡率の変動を解析するために、各5年の3期間(1955~1959年、1978~1982年、2000~2004年)の死亡率の平均値を算出し、伝染性および非伝染性の疾患や外傷に起因する死亡の傾向を調査した。全死因死亡率の低下率、1~4歳が85~93%、15~24歳の男性は41~48%50ヵ国(高所得国10、中所得国22、低所得国8、超低所得国7ヵ国、分類不能3)のデータを、経済協力開発機構(OECD)加盟国、中南米、東欧、旧ソ連、その他の地域に分けて解析した。1955年の死亡率は1~4歳の年齢層が最も高かった。調査期間を通じ、OECD加盟国、中南米、その他の諸国の全死因死亡率は1~4歳で85~93%低下し、5~9歳で80~87%、10~14歳では68~78%低下した。これに比べて15~24歳の男性の全死因死亡率の低下率は小さく(41~48%)、2000~2004年の15~24歳の男性の死亡率は1~4歳の男児の2~3倍であった。2000年以降の15~24歳の女性の死亡率は、1~4歳の女児と同等であった。伝染性疾患に起因する死亡率は全地域のすべての年齢層で大きく低下したが、伝染性および非伝染性疾患は1~9歳の小児および10~24歳の女性の主要な死因であった。1970年代末期までは、全地域における10~24歳の男性の主な死因は外傷であった。著者は、「青年および若年成人の死亡率の低下率は、小児よりも小さく、過去50年にそれ以前の伝統的な死亡率パターンの逆転が起きていた」と結論し、「今後の世界的な保健活動のターゲットに、10~24歳の健康問題への取り組みを加えるべき」と指摘する。(菅野守:医学ライター)

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ターナー症候群、成長ホルモン+小児期エストロゲン補充療法にベネフィットの可能性

低身長と卵巣機能不全を特徴とするターナー症候群について、成長ホルモン+小児期のエストロゲン補充療法の併用効果に関する二重盲検プラセボ対照臨床試験が、米国・トーマス・ジェファーソン大学のJudith L. Ross氏らにより行われた。低身長には一般に組換え型ヒト成長ホルモンが用いられるが、それにより成人身長が高くなるのかについてこれまで無作為化プラセボ対照試験は行われておらず、また小児期にエストロゲン補充療法を行うことによる付加的なベネフィットの検証も行われていなかった。NEJM誌2011年3月31日号掲載より。女児149例を対象に二重盲検プラセボ対照臨床試験Ross氏らは、ターナー症候群を有する女児を対象に、成長ホルモンと早期の超低用量エストロゲン補充療法の単独もしくは併用投与の、成人身長への効果を検討した。5.0~12.5歳の女児149例を、ダブルプラセボ群(39例)、エストロゲン単独群(40例)、成長ホルモン単独群(35例)、成長ホルモン+エストロゲン併用群(35例)の4群に無作為に割り付け追跡した。成長ホルモンは0.1mg/kg体重を週3回投与、エストロゲン(エチニルエストラジオール)は暦年齢と思春期状態により調整し投与した。エチニルエストラジオールは、12歳以後最初の受診時に、すべての治療群の患者に漸増投与が行われた。成長ホルモンの注射投与は成人身長に達した時点で終了された。プラセボとの比較で成長ホルモンの効果は標準偏差スコア0.78±0.13、5.0cm平均年齢17.0±1.0歳、平均試験期間7.2±2.5年後の成人身長に関する平均標準偏差スコアは、ダブルプラセボ群-2.81±0.85、エストロゲン単独群-3.39±0.74、成長ホルモン単独群-2.29±1.10、併用群-2.10±1.02だった(P<0.001)。成長ホルモンの成人身長に対する全体的な効果(対プラセボ)は、標準偏差スコア0.78±0.13、5.0cmだった(P<0.001)。成人身長は、併用群が成長ホルモン単独群よりも標準偏差スコアで0.32±0.17、2.1cm大きく(P=0.059)、わずかではあるが、小児期超低用量エチニルエストラジオールと成長ホルモンとの相乗効果が示唆された。Ross氏は、「本試験により、ターナー症候群患者への成長ホルモン治療により成人身長が高くなることが示された。また小児期超低用量エストロゲンの併用により成長改善の可能性があり、エストロゲン補充療法の早期開始によりその他のベネフィットが得られる可能性があることが示唆された」と結論している。(武藤まき:医療ライター)

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欧州系白人2型糖尿病患者、HMGA1遺伝子機能変異型の保有率が高率

欧州系白人の2型糖尿病患者は非糖尿病の人に比べ、HMGA1遺伝子機能変異型の保有率が有意に高率であることが、イタリア・カタンザーロ大学のEusebio Chiefari氏らによる欧州系白人3集団を対象としたケースコントロール試験の結果、明らかになった。HMGA1は、インスリン受容体(INSR)遺伝子発現のキーとなるタンパク質。Chiefari氏らは過去に、INSR発現低下がみられるインスリン治療抵抗性の2型糖尿病患者2名において、HMGA1遺伝子機能変異型が特定されたことを受け、HMGA1遺伝子機能変異型と2型糖尿病との関連について調査を行った。JAMA誌2011年3月2日号掲載より。イタリア、米国、フランスの2型糖尿病患者でIVS5-13insC保有率は7~8%対象となったのはイタリア、米国、フランスの3ヵ国3集団で、イタリア(カラブリアのカタンザーロ大学外来患者とその他医療施設)では2003~2009年にかけて2型糖尿病患者3,278人とそれに対する2グループの対照群3,328人が参加。米国では1994~2005年にかけて北カリフォルニアで同患者970人と、対照群は2004~2009年にかけて非糖尿病の高齢のアスリート958人が参加。フランスでは1992年にランス大学で登録された同患者354人と対照群50人が参加し、それぞれコントロール試験が行われた。被験者はHMGA1遺伝子機能変異型について、ゲノムDNAの分析が行われ、また、HMGA1遺伝子とINSR遺伝子のメッセンジャーRNAとタンパク質発現について測定された。結果、HMGA1遺伝子機能変異型の中で最も多いIVS5-13insCが、2型糖尿病患者における保有率はいずれの国の被験者集団でも7~8%にみられた。イタリアでは、IVS5-13insC保有率は糖尿病群が7.23%に対し対照群1では0.43%(オッズ比:15.77)、対照群2では3.32%(オッズ比:2.03)だった(p<0.001)。米国では糖尿病群のIVS5-13insC保有率7.7%に対し、対照群は4.7%だった(オッズ比:1.64、p=0.03)。フランスでは糖尿病群のIVS5-13insC保有率7.6%に対し、対照群では0%だった(p=0.046)。イタリア糖尿病群ではHMGA1遺伝子機能変異型が計4種、保有率9.8%またイタリアの被験者集団では、IVS5-13insC以外の3種のHMGA1遺伝子機能変異型も認められ、その保有率は糖尿病群で2.56%だった。その結果、イタリア被験者集団における計4種のHMGA1遺伝子機能変異型の保有率は、糖尿病群が9.8%、対照群が0.6%だった。さらに、2型糖尿病でIVS5-13insCを保有する人は、HMGA1とINSRのメッセンジャーRNAとタンパク質発現の値が、そうでない人に比べ40~50%低かった。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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肥満を加味しても、心血管疾患リスク予測能は向上しない:約22万人の解析

欧米、日本などの先進国では、心血管疾患の従来のリスク因子である収縮期血圧、糖尿病の既往歴、脂質値の情報がある場合に、さらに体格指数(BMI)や腹部肥満(ウエスト周囲長、ウエスト/ヒップ比)のデータを加えても、リスクの予測能はさほど改善されないことが、イギリス・ケンブリッジ大学公衆衛生/プライマリ・ケア科に運営センターを置くEmerging Risk Factors Collaboration(ERFC)の検討で明らかとなった。現行の各種ガイドラインは、心血管疾患リスクの評価における肥満の測定は不要とするものから、付加的な検査項目とするものや正規のリスク因子として測定を勧告するものまでさまざまだ。これら肥満の指標について長期的な再現性を評価した信頼性の高い調査がないことが、その一因となっているという。Lancet誌2011年3月26日号(オンライン版2011年3月11日号)掲載の報告。58のコホート試験の個々の患者データを解析研究グループは、BMI、ウエスト周囲長、ウエスト/ヒップ比と心血管疾患の初発リスクの関連性の評価を目的にプロスペクティブな解析を行った。58のコホート試験の個々の患者データを用いて、ベースラインの各因子が1 SD増加した場合(BMI:4.56kg/m2、ウエスト周囲長:12.6cm、ウエスト/ヒップ比:0.083)のハザード比(HR)を算出し、特異的な予測能の指標としてリスク識別能と再分類能の評価を行った。再現性の評価には、肥満の指標の測定値を用いて回帰希釈比(regression dilution ratio)を算出した。むしろ肥満コントロールの重要性を強調する知見17ヵ国22万1,934人[ヨーロッパ:12万9,326人(58%)、北米:7万3,707人(33%)、オーストラリア:9,204人(4%)、日本:9,697人(4%)]のデータが収集された。ベースラインの平均年齢は58歳(SD 9)、12万4,189人(56%)が女性であった。187万人・年当たり1万4,297人が心血管疾患を発症した。内訳は、冠動脈心疾患8,290人(非致死性心筋梗塞4,982人、冠動脈心疾患死3,308人)、虚血性脳卒中2,906人(非致死性2,763人、致死性143人)、出血性脳卒中596人、分類不能な脳卒中2,070人、その他の脳血管疾患435人であった。肥満の測定は6万3,821人で行われた。BMI 20kg/m2以上の人では、年齢、性別、喫煙状況で調整後の、心血管疾患のBMI 1 SD増加に対するHRは1.23(95%信頼区間:1.17~1.29)であり、ウエスト周囲長1 SD増加に対するHRは1.27(同:1.20~1.33)、ウエスト・ヒップ比1 SD増加に対するHRは1.25(同:1.19~1.31)であった。さらにベースラインの収縮期血圧、糖尿病の既往歴、総コレステロール、HDLコレステロールで調整後の、心血管疾患のBMI 1SD増加に対するHRは1.07(95%信頼区間:1.03~1.11)、ウエスト周囲長1 SD増加に対するHRは1.10(同:1.05~1.14)、ウエスト/ヒップ比1 SD増加に対するHRは1.12(同:1.08~1.15)であり、いずれも年齢、性別、喫煙状況のみで調整した場合よりも低下した。従来のリスク因子から成る心血管疾患リスクの予測モデルにBMI、ウエスト周囲長、ウエスト/ヒップ比の情報を加えても、リスク識別能は大幅には改善されず[C-indexの変化:BMI -0.0001(p=0.430)、ウエスト周囲長 -0.0001(p=0.816)、ウエスト/ヒップ比 0.0008(p=0.027)]、予測される10年リスクのカテゴリーへの再分類能もさほどの改善は得られなかった[net reclassification improvement:BMI -0.19%(p=0.461)、ウエスト周囲長 -0.05%(p=0.867)、ウエスト/ヒップ比 -0.05%(p=0.880)]。再現性は、ウエスト周囲長(回帰希釈比:0.86、95%信頼区間:0.83~0.89)やウエスト/ヒップ比(同:0.63、0.57~0.70)よりもBMI(同:0.95、0.93~0.97)で良好であった。ERFCの研究グループは、「先進国では、心血管疾患の従来のリスク因子である収縮期血圧、糖尿病の既往歴、脂質値に、新たにBMI、ウエスト周囲長、ウエスト/ヒップ比の情報を加えても、リスクの予測能はさほど改善されない」と結論したうえで、「これらの知見は心血管疾患における肥満の重要性を減弱させるものではない。過度の肥満は中等度のリスク因子の主要な決定因子であるため、むしろ心血管疾患の予防における肥満のコントロールの重要性を強調するものだ」と注意を促している。(菅野守:医学ライター)

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価値交換としての原発(なぜ医者の僕が原発の話をするか)

神戸大学感染症内科の岩田健太郎先生より、今回の原発事故について書かれた「価値交換としての原発(なぜ医者の僕が原発の話をするか)」を、先生のご厚意により転載させていただきました。僕は、感染症を専門にする内科医で原発の専門性はカケラほどもない。で、僕が原発についてなぜ語るのかをこれから説明する。池田信夫氏の説明は明快で傾聴に値する。たしかに、日本における原発の実被害は人命でいうとゼロ東海村事故(核燃料加工施設)を入れても2名である。自動車事故で死亡するのが年間5千人弱である。これは年々減少しているから、過去はもっと沢山の人が「毎年」交通事故で命を失ってきた。タバコに関連した死者数は年間10万人以上である。原発に比べると圧倒的に死亡に寄与している。今後、福島原発の事故が原因で亡くなる方は出てくる可能性がある(チェルノブイリの先例を考えると)。しかし、毎年出しているタバコ関連の死者に至ることは絶対にないはずだ。今後どんな天災がやってきて原発をゆさぶったとしても、毎年タバコがもたらしている被害には未来永劫、届くことはない(はず)。1兆ワット時のエネルギーあたりの死者数は石炭で161人、石油で36人、天然ガスで4人、原発で0.04人である。エネルギーあたりの人命という観点からも原発は死者が少ない。池田清彦先生が主張するように、ぼくも温暖化対策の価値にはとても懐疑的だが、かといって石炭に依存したエネルギーではもっとたくさんの死者がでてしまうので、その点では賛成できない。池田氏のようにデータをきちんと吟味する姿勢はとても大切だ。感傷的でデータを吟味しない(あるいは歪曲する)原発反対論は、説得力がない。しかし、(このようなデータをきちんと吟味した上で)それでも僕は今後日本で原発を推進するというわけにはいかないと思う。池田氏の議論の前提は「人の死はすべて等価である」という前提である。しかし、人の死は等価ではない、と僕は思う。人は必ず死ぬ。ロングタームでは人の死亡率は100%である。だれも死からは逃れられない。もし人の死が「等価」であるならば、誰もはいつかは1回死ぬのだから(そして1回以上は死なないのだから)、みな健康のことなど考えずに自由気ままに生きれば良いではないか(そういう人もいますね)。自動車事故で毎年何千人も人が死ぬのに人間が自動車を使うのを止めないのは、人間が自動車事故による死亡をある程度許容しているからだ。少なくとも、自動車との接触をゼロにすべく一切外出しないという人か、自動車にぶつかっても絶対に死なないと「勘違いしている」人以外は、半ば無意識下に許容している。少なくとも、ほとんどの自宅の隣に原発ができることよりもはるかに、我々は隣で自動車が走っていることを許容している。それは自動車があることとその事故による死亡の価値交換の結果である。原発は、その恩恵と安全性にかかわらず、うまく価値交換が出来ていない。すくなくとも311以降はそうである。我々は(たとえその可能性がどんなに小さくても)放射線、放射性物質の影響で死に至ることを欲していない。これは単純に価値観、好き嫌いの問題である。医療において、「人が死なない」ことを目標にしても人の死は100%訪れるのだから意味がない。医療の意味は、人が望まない死亡や苦痛を被らないようにサービスを提供する「価値交換」であるとぼくは「感染症は実在しない」という本に書いた。このコンセプトは今回の問題の理解にもっとも合致していると思う。喫煙がこれだけ健康被害を起しているのに喫煙が「禁止」されないのは、国内産業を保護するためでも税収のためでもないと僕は思う(少なくともそれだけではないと思う)。多くの国民はたばこが健康に良くないことを理解している。理解の程度はともかく、「体に悪くない」と本気で思っている人は少数派である。それでも多くの人は、タバコによる健康被害とタバコから受ける恩恵を天秤にかけて、そのリスクを許容しているのである。禁煙活動に熱心な医療者がその熱意にもかかわらず(いや、その熱意ゆえに)空回りしてしまうのは、医療の本質が「価値交換」にあることを理解せず、彼らが共有していない、自分の価値観を押し売りしようとしてしまうからくる不全感からなのである。僕たち医療者も案外、健康に悪いことを「許容」していることに自覚的でなければならない。寝不足、過労、ストレス、栄養過多、車の運転、飲酒、セックスなどなどなど。これらを許容しているのは僕らの恣意性と価値観(好み)以外に根拠はない。自分たちが原理的に体に良くないことをすべて排除していないのに、他者に原理的にそうあることを強要するのは、エゴである。僕は、医療者は、あくまでも医療は価値の交換作業であることに自覚的であり、謙虚であるべきだと思う。こんなことを書くと僕は「喫煙推進派である」とかいって責められる(かげで書き込みされる)ことがあるが、そういうことを言いたいのではない。もし日本の社会がタバコによる健康被害を価値として(好みとして)許容しなくなったならば、そのときに日本における喫煙者は激減するだろう。それはかつて許容されていたが今は許容されないリスク、、、例えばシートベルトなしの運転とか、お酒の一気飲みとか、飲酒運転とか、問診表なしの予防接種とか、、、の様な形でもたらされるだろう。禁煙活動とは、自らの価値観を押し付けるのではなく、他者の価値観が自主的に変換されていくことを促す活動であるべきだろう。かつては社会が許容したお酒の一気飲みや飲酒運転が許容されなくなったように。そんなわけで、原発もあくまでも価値の交換作業である。原発反対派の価値観は共有される人とされない人がいる。原発推進派も同様だ。そのバランスが原発の今後を決めると僕は思う。原発反対派も推進派も、究極的には自分たちの価値観を基準にしてものごとを主張しているのだと認識すべきだ。そして、自分の価値観を押し付けるのではなく、他者の価値観に耳を傾けるべきである。なぜならば、原発の未来は日本の価値観の総意が決めるのであり、総意は「聴く」こと以外からは得られないからである。おそらくは、今の価値観(好み)から考えると、原発を日本で推進していくことを「好む」人は少なかろう。かといって電気がない状態を好む人も少ないと思う(他のエネルギーに代えることが必ずしも解決策ではなさそうなのは、先に述べた通り)。その先にあるのは、、、、ここからは発電の専門家の領域なので、僕は沈黙します。 《関連書籍》 感染症は実在しない―構造構成的感染症学 《その他の岩田健太郎氏の関連書籍》リスコミWORKSHOP! ― 新型インフルエンザ・パンデミックを振り返る第3回新型インフルエンザ・リスクコミュニケーション・ワークショップから

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男性ビジネスマンの3人に1人が「自宅で朝食を食べない日がある」?

株式会社永谷園は24日、20~49歳の男性ビジネスマン1,800名に対して実施した「朝食」に関する実態調査の結果を報告した。調査結果からは、「時間がない」「食欲がない」といった理由から朝食がきちんととれていない実態や、「朝食と夫婦関係」との関連性が明らかになったという。「朝食を自宅で食べているかどうか」の質問に全体の71%が「いつも自宅で食べている」と回答したのに対し、「時々食べている」「全く食べていない」と答えた人は29%と、ビジネスマンの3人に1人は「自宅で朝食を食べない日がある」という結果だった。「自宅で朝食を食べない理由」としては、「時間がないから」(57%)、「食欲がないから」(32%)といった回答が多くあがった。一方で「朝食は自宅で食べた方が良いと思いますか?」という質問には、94%が「そう思う」と回答。さらに「自宅で朝食を食べるメリット」を聞いたところ、「食費の節約になる」(65%)、「健康管理ができる」(62%)といった回答が多くあがり、その他には「会話が増える」(38%)、「妻の愛情を感じる」(33%)といった夫婦関係にまつわる答えも多くあったとのこと。詳細はプレスリリース(PDF)へhttp://www.nagatanien.co.jp/company/news/pdf/news20110324135610.pdf

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薬剤溶出性ステントを用いたPCIとCABG、術後QOLはどちらが良好か

多枝血行再建術予定患者に対する、薬剤溶出性ステントを用いたPCIと冠動脈バイパス術(CABG)の、術後QOLを比較検討が、米国・ミズーリ大学カンザスシティー校Saint Luke's Mid America Heart InstituteのDavid J. Cohen氏らにより行われた。これまでの研究ではCABGが、バルーン血管形成術やベアメタルステントを用いたPCIと比較して、狭心症発作を大幅に軽減しQOLを改善することが示されているが、薬剤溶出性ステントを用いたPCIのQOLへの影響は明らかになっていなかった。NEJM誌2011年3月17日号より。1,800例をパクリタキセル溶出ステントを用いたPCIとCABGに無作為化検討は、パクリタキセル溶出ステントを用いたPCIとCABGのアウトカムを比較検討した大規模無作為化試験SYNTAX(Synergy between PCI with Taxus and Cardiac Surgery)のサブスタディとして行われた。SYNTAXでは、再血行再建を含む複合主要エンドポイント発生率ではCABG群の有意な低下が認められたが、不可逆的な転帰のみから成る複合エンドポイント発生率では両群に有意差は認められなかった。このことからCohen氏らは、血行再建術の選択には、狭心症発作の軽減を含むQOLが重要な指標になるとして、被験者の前向きQOLサブスタディを行った。被験者は、3枝病変または左冠動脈主幹部病変患者1,800例。パクリタキセル溶出ステントを用いたPCI群(903例)、もしくはCABG群(897例)に無作為化され、ベースライン時、1ヵ月後、6ヵ月後、12ヵ月後に、SAQ(シアトル狭心症質問票)と包括的QOL評価尺度であるSF-36を用いて健康関連QOLが評価された。主要エンドポイントは、SAQの狭心症発作頻度サブスケールスコア(0~100:スコアが高いほど健康状態は良好とされる)とした。狭心症発作頻度の軽減はCABGが大きいが、ベネフィットは小さいSAQとSF-36それぞれのサブスケールスコアは、両群ともベースライン時より6ヵ月後と12ヵ月後で有意に高かった。SAQの狭心症発作頻度サブスケールスコアは、CABGがPCI群より6ヵ月後と12ヵ月後により大きく増加した(それぞれP=0.04、P=0.03)。しかし群間差は小さく、両時点での治療効果の平均差はいずれも1.7ポイントだった。狭心症発作が起きなった患者の割合は、1ヵ月後と6ヵ月後では両群とも同程度だったが、12ヵ月後ではPCI群よりCABG群の方が高かった(76.3%対71.6%、P=0.05)。SAQとSF-36サブスケールのその他のスコアについては、主に1ヵ月後にPCI群が有意に高いスコアを示すものもみられたが、追跡期間全体を通しては有意差を示すものはなく両群で同程度であった。これらから研究グループは、「3枝病変または左冠動脈主幹部病変患者においては、CABGの方が6ヵ月後と12ヵ月後の狭心症発作の頻度はPCIと比べ大きく軽減したが、ベネフィットは小さかった」と結論づけた。(朝田哲明:医療ライター)

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都市部の小児喘息コントロール、抗IgE抗体omalizumab追加で改善

都市部に住む小児、青年、若年成人の喘息患者に対して、ガイドラインベースの治療に加えてヒト化抗ヒトIgEモノクローナル抗体omalizumabを投与することで、喘息コントロールを改善し、増悪の季節性ピークはほとんどなくなり、喘息コントロールのためのその他薬剤の必要性が低下したことが示された。米国・ウィスコンシン大学マディソン校医学・公衆衛生部のWilliam W. Busse氏らによるプラセボ対照無作為化試験の結果による。これまでに行われた都市部に住む小児の喘息患者の調査研究で、アレルゲンへの曝露やガイドラインベースの治療の徹底で増悪を減らせることは示されているが、重症例における疾患コントロールには限界があることが示されていた。NEJM誌2011年3月17日号掲載より。ガイドラインベースの治療にomalizumabを追加した場合の有効性を検討抗IgE抗体omalizumabは、最新の全米喘息教育・予防プログラム(NAEPP)ガイドラインで、より高次の治療ステップでもコントロールできない喘息患者への治療として推奨されており、投与した患者の一部で増悪や症状発現、疾患コントロール維持のための吸入ステロイド薬の投与量を減らすことが示されている。一方で、都市部住民における罹患率増加の背景には、アレルギー体質の人が多いことや、大量のアレルゲンに曝露されていることがあり、Busse氏らは、omalizumabが特にこれら住民にベネフィットをもたらすのではないかと考え試験を行った。2006年11月~2008年4月に、8施設から、都市部に住む持続性喘息を有する小児、青年、若年成人を登録し、無作為化二重盲検プラセボ対照パラレルグループ試験を行った。ガイドラインベースの治療に加えてomalizumabによる治療を行うことの有効性について検討した。試験は60週間行われ、主要アウトカムは喘息症状とされた。omalizumab 群では、症状発現、増悪が有意に低下、吸入ステロイド薬とLABAの使用も減少スクリーニング後無作為化されたのは419例(omalizumab群208例、プラセボ群211例)、平均年齢は10.8歳、58%が男子、60%が黒人、37%がヒスパニック系だった。また73%が、疾患分類が中等度または重度だった。結果、omalizumab群がプラセボ群と比べて、喘息症状発現日数が2週間で1.96日から1.48日へと有意に24.5%減少したことが認められた(P<0.001)。同様に1回以上の増悪を有した被験者の割合についても、omalizumab群では48.8%から30.3%へと有意な低下が認められた(P<0.001)。またomalizumab群では、吸入ステロイド薬およびLABA(長時間作用性β2刺激薬)の使用が減少した。しかしそれにもかかわらず改善が認められた。(武藤まき:医療ライター)

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避難場所における【感染予防のための8ヵ条】 東北感染症危機管理ネットワークより

診断学分野のご厚意により転載させていただきます。避難場所では、インフルエンザや風邪、嘔吐下痢症の流行が心配されています。【感染予防のための8ヵ条】vol.1.0 ~可能な限り守っていただきたいこと~(1)食事は可能な限り加熱したものをとるようにしましょう(2)安心して飲める水だけを飲用とし、きれいなコップで飲みましょう(3)ごはんの前、トイレの後には手を洗いましょう(水やアルコール手指消毒薬で洗ってください)(4)おむつは所定の場所に捨てて、よく手を洗いましょう~症状があるときは~(5)咳が出るときには、周りに飛ばさないようにクチを手でおおいましょう(マスクがあるときはマスクをつけてください)(6)熱っぽい、のどが痛い、咳、けが、嘔吐、下痢などがあるとき、特にまわりに同じような症状が増えているときには、医師や看護師、代表の方に相談してください。(7)熱や咳が出ている人、介護する人はなるべくマスクをしてください。(8)次の症状がある場合には、早めに医療機関での治療が必要かもしれません。医師や看護師、代表の方に相談してください。 ・咳がひどいとき、黄色い痰が多くなっている場合 ・息苦しい場合、呼吸が荒い場合 ・ぐったりしている、顔色が悪い場合 ※特に子供やお年寄りでは症状が現れにくいことがありますので、まわりの人から見て何かいつもと様子が違う場合には連絡してください。東北大学大学院内科病態学講座 感染制御・検査診断学分野東北大学大学院 感染症診療地域連携講座東北感染制御ネットワーク 平成23年3月17日東北感染症危機管理ネットワークホームページ 東北関東大震災感染症ホットラインよりその他の情報はこちら東北感染症危機管理ネットワークhttp://www.tohoku-icnet.ac/

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50歳以上の乳がんリスク、喫煙者で有意に増大、間接喫煙者でも増大示唆

閉経後女性における喫煙と侵襲性乳がんリスクとの関連について、直接喫煙者では有意なリスク増大が認められ、間接喫煙者でも増大が示唆されることが、米国・ウエスト・バージニア大学Mary Babb RandolphがんセンターのJuhua Luo氏らによる前向きコホート試験「Women's Health Initiative Observational Study」の結果、明らかにされた。BMJ誌2011年3月5日号(オンライン版2011年3月1日号)掲載より。乳がんリスク、非喫煙者と比べ元喫煙者1.09倍、現喫煙者1.16倍試験には、米国内40ヵ所のクリニックセンターから、1993~1998年の間に50~79歳の女性7万9,990例の被験者が登録した。主要評価項目は、自己報告による能動的または受動的喫煙状況、病理学的に診断された侵襲性乳がんとした。平均10.3年の追跡期間で、侵襲性乳がんと診断されたのは3,520例だった。非喫煙者と比べ、乳がんリスクは、元喫煙者は9%高く(ハザード比:1.09、95%信頼区間:1.02~1.17)、現喫煙者は16%高かった(同:1.16、1.00~1.34)。子どもの時から間接喫煙に曝露された最大曝露群、非間接喫煙群の1.32倍喫煙本数が多く、喫煙歴も長い能動的喫煙者、また喫煙開始年齢が10代であった人における乳がんリスクが有意に高かった。乳がんリスクが最も高かったのは、50歳以上の喫煙者で、生涯非喫煙者と比べ1.35倍(同:1.35、1.03~1.77)、生涯非喫煙者で非間接喫煙者と比べると1.45倍(同:1.45、1.06~1.98)だった。禁煙後も20年間、乳がんリスクは増大した。非喫煙者では、潜在的交絡因子補正後、間接喫煙曝露が最も多かった人(子どもの時に10年以上、成人後家庭内で20年以上、成人後職場で10年以上)の乳がんリスクは、間接喫煙曝露がなかった人に比べて32%超過(ハザード比:1.32、95%信頼区間:1.04~1.67)が認められた。しかし、その他の低曝露群との有意な関連は認められなかった。間接喫煙の累積に対するレスポンスも不明であった。

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糖尿病は独立リスク因子として血管疾患以外にも、がん、感染症などの早期死亡に関連する

糖尿病や高血糖が、がんやその他非血管系の疾患による死亡リスクと、どの程度関連しているのか明らかではなく、たとえば米国糖尿病学会、米国がん学会の共同コンセンサス・ステートメントでも不明であるとしている。英国ケンブリッジ大学のSeshasai SR氏らThe Emerging Risk Factors Collaboration(ERFC)は、糖尿病、空腹時血糖値と特異的死亡との関連について信頼たり得る評価を提供することを目的とした研究グループで、成人における糖尿病の寿命に対する影響を前向きに調査した結果を報告した。NEJM誌2011年3月3日号掲載より。糖尿病者の全死因死亡リスクは、非糖尿病者と比べ1.8倍ERFCが解析したのは、97件の前向き研究に参加した82万900例の被験者(平均年齢55±9歳、女性48%、ヨーロッパで登録58%、北米で登録36%)のうち、12万3,205例の死亡例(死亡までの期間中央値13.6年)に関するデータで、ベースラインの糖尿病の状態、空腹時血糖値に従い、死因別死亡のリスク(ハザード比)を算出した。結果、年齢、性、喫煙状況とBMIで補正後、糖尿病を有さない人(非糖尿病者)と比較した糖尿病を有する人(糖尿病者)のハザード比は、全死因死亡が1.80(95%信頼区間:1.71~1.90)、がんによる死亡1.25(同:1.19~1.31)、血管系の疾患による死亡2.32(同:2.11~2.56)、その他の原因による死亡1.73(同: 1.62~1.85)であった。50歳の糖尿病者、非糖尿病者より平均6年短命糖尿病者は非糖尿病者と比較して、肝臓、膵臓、卵巣、大腸、肺、膀胱、乳房のがんによる死亡と中程度の関連がみられた。また、がん、血管系疾患以外の、腎疾患、肝疾患、肺炎、その他感染症による死亡や、精神疾患、肝臓以外の消化器疾患、外因、意図的な自傷行為、神経系障害、さらに慢性閉塞性肺疾患による死亡とも関連していた。ハザード比は、血糖値による補正後は大幅に低下したが、収縮期血圧、脂質レベル、炎症マーカー、腎機能マーカーの値による補正では低下しなかった。一方、空腹時血糖値については、同値が100mg/dL(5.6mmol/L)を上回る場合は死亡との関連がみられたが、70~100mg/dL(3.9~5.6mmol/L)では死亡との関連はみられなかった。また、50歳の糖尿病者は非糖尿病者より平均6年早く死亡していた。その差の約40%は非血管系の疾患に起因していることも明らかになった。これらから研究グループは、「糖尿病は、いくつかの主要な危険因子とは独立して、血管疾患に加えて、いくつかのがん、感染症、外因、意図的な自傷行為、変性疾患による相当な早期死亡と関連する」と結論づけた。(朝田哲明:医療ライター)

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2008年のサルモネラ症集団発生、原因はトマトや青唐辛子の生食:米国

米国疾病予防管理センター(CDC)サルモネラ症発生調査チームが、2008年に全国規模で発生したサルモネラ症の集団感染について疫学的調査等の結果、トマトや青唐辛子の生食が原因であったことが報告された。サルモネラ症の発生要因として近年、食品の生食が徐々に認識されるようになっている。そうした背景で行われた本調査の結果について調査チームは「生食による汚染防止の重要性を強調するものだ」と結論している。NEJM誌2011年3月10日号(オンライン版2011年2月23日号)掲載より。2008年に発生したサルモネラ症1,500例を調査研究チームは、下痢症状を呈し、集団発生株であるSalmonella enterica血清型Saintpaulへの感染が確認された症例を特定し、疫学的調査、摂取食品の生産地等のトレース調査および環境調査を行った。評価対象となったのは1,500症例で、2008年4月16日~8月26日の間に発生、ピークは5月中旬から6月中旬だった。症例発生は、米国内43州とワシントンD.C.、カナダで、発生率が最も高率だったのはニューメキシコ州(58.4例/人口100万)、テキサス州(24.5例/人口100万)だった。入院を要したのは1,500症例の21%、死亡は2例だった。トマトの生食、メキシコ料理、サルサなどに有意な関連レストランにおける集団発生ではなかった症例を評価した3つの症例対照研究の結果、症例発生との有意な関連が認められたのは、トマトの生食(マッチさせたオッズ比:5.6、95%信頼区間:1.6~30.3)、メキシコ料理レストランでの食事(同:4.6、2.1~∞)、ピコ・デ・ガロ・サルサ*1(同:4.0、1.5~17.8)、コーン・トルティーヤ*2(同:2.3、1.2~5.0)、サルサ*3(同:2.1、1.1~3.9)だった。また、家庭でのハラペーニョ(青唐辛子の一種)の生食も有意であった(同:2.9、1.2~7.6)。レストランやイベント等における集団発生例9つの解析の結果では、食材との関連が示された3つの集団発生例すべてでハラペーニョが含まれていた。また、食材との関連が示されなかったその他3つの集団発生例でも、食材としてハラペーニョあるいはセラノペッパー(青唐辛子の一種)が含まれていた。トマトの生食については、3つの集団発生事例で食材として含まれていた。発生株が同定されたのは、テキサス州産のハラペーニョと、メキシコの農場における農業用水およびセラノペッパーだった。トマトについては、トレース調査で感染源を同定することはできなかった。調査チームは、「この調査の早期の段階ではトマトの生食との疫学的関連が認められたが、その後の疫学的・微生物学的エビデンスはハラペーニョやセラノペッパーとの関連を示した。いずれにせよ生食による感染予防の重大性を強調するものである」と結論している。 *1:生のトマト、タマネギ、青唐辛子などを刻んでレモン汁などで和えた新鮮な調味料(サルサ)*2:とうもろこし粉でつくるタコス(薄いパン)*3:新鮮および瓶詰のサルサすべてを指す(武藤まき:医療ライター)

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外傷患者の3年死亡率は16%、病院から高度看護施設への退院で死亡リスク増大

米国の病院に外傷で入院した患者の3年死亡率は16%で、退院後に高度看護施設(skilled nursing facility)に入所した人においては、年齢にかかわらず死亡リスクが増大することが示されたという。米国・ワシントン大学外科部門Harborview外傷予防研究センターのGiana H. Davidson氏らが、12万超の成人外傷患者について行った後ろ向きコホート試験の結果、明らかにしたもので、JAMA誌2011年3月9日号で発表した。院内死亡率は約3ポイント減だが、長期死亡率は2.7ポイント増研究グループは、ワシントン州外傷患者レジストリを基に、1995年1月~2008年12月にかけて、州内78ヵ所の病院に外傷で入院した、18歳以上の患者12万4,421人について、後ろ向きにコホート試験を行った。Kaplan-Meier法とCox比例ハザードモデル法を使って、退院後の長期死亡率について分析を行った。被験者のうち男性は58.6%、平均年齢は53.2歳(標準偏差:23)だった。外傷重症度スコアの平均値は10.9(標準偏差:10)だった。結果、被験者のうち、入院中に死亡したのは7,243人、退院後に死亡したのは2万1,045人だった。外傷後3年の累積死亡率は16%(95%信頼区間:15.8~16.2)だった。院内死亡率については、調査期間の14年間で8%から4.9%へと減少したものの、長期死亡率は4.7%から7.4%へと増加していた。退院後に高度看護施設に入所した患者、長期死亡リスクが1.4~2.0倍に交絡因子について補正後、高齢で、退院後に高度看護施設に入所した人が、最も死亡リスクが高かった。また年齢を問わず退院後に高度看護施設に入所した人は死亡リスクが高く、入所しなかった人に対する補正後ハザード比は、18~30歳が1.41(95%信頼区間:0.72~2.76)、31~45歳が1.92(同:1.36~2.73)、46~55歳が2.02(同:1.39~2.93)、56~65歳が1.93(同:1.40~2.64)、66~75歳が1.49(同:1.14~1.94)、76~80歳が1.54(同:1.27~1.87)、80歳超が1.38(同:1.09~1.74)だった。その他、退院後死亡のリスク因子として有意であったのは、最大頭部外傷の略式傷害尺度(AIS)スコア(ハザード比:1.20、同:1.13~1.26)、傷害の原因が転倒によるもの(同:1.43、同:1.30~1.58)、またメディケア加入者(同:1.28、1.15~1.43)、政府系保険加入者(同:1.65、1.47~1.85)だった。一方、外傷重症度スコア(同:0.98、0.97~0.98)、機能的自立度評価表(FIM、同:0.89、0.88~0.91)なども有意な予測因子だった。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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農家で育つ子どもは喘息、アトピーの有病率が低い:ドイツ

微生物に曝される環境下であることと、喘息や花粉症のようなアレルギー性疾患の発症が少ないこととの関連が繰り返し報告されているが、それらはロシアとフィンランドというように近接する生活環境が異なる集団からの知見であった。そこでドイツ・ミュンヘン大学小児病院のMarkus J. Ege氏ら「GABRIELA Transregio 22」研究グループは、同一地域に住んでいる子どもで、農家の子どもとそれ以外の子どもとの喘息・アトピー有病率を比較し、微生物に曝されることとの関連を調べた。NEJM誌2011年2月24日号掲載より。農家とそれ以外の子どもの喘息・アトピー有病率と微生物曝露のデータを解析研究グループは、二つのスタディデータを用いて、農家とそれ以外の子どもの喘息・アトピー有病率と微生物曝露について検討した。一つは「PARSIFAL」(アレルギー予防―農業とアントロポゾフィー〈人智学〉を基盤とした生活環境下にいる子どもの感作の危険因子)のデータ。PARSIFALでは、マットレスダストをサンプルに、細菌DNAのスクリーニングがSSCP法(培養法では測定できない環境細菌を検出するための解析法:一本鎖高次構造多型解析)にて行われた。もう一つは「GABRIELA」(欧州共同体における喘息の遺伝的・環境要因特定のための集学的研究「GABRIEL」の先端研究)のデータで、GABRIELAでは、子ども部屋の降下ダストをサンプルに、培養法にて細菌と真菌の分類評価が行われた。スタディ母集団は、PARSIFALはドイツ南部のバイエルン地方の6~13歳の児童6,843人、GABRIELAはオーストリア・ドイツ南部・スイスの6~12歳の児童9,668人だった。そのうち、両スタディのバイエルン地方に住む子どものデータ(PARSIFAL:489例、GABRIELA:444例)を解析した。曝される環境微生物が多様なほど、喘息リスクが低い結果、両スタディとも、喘息およびアトピーの有病率が、バイエルン地方の農家で暮らす子ども(PARSIFAL:52%、GABRIELA:16%)の方が、対照(農家以外の子ども)群と比べて低かった。喘息に関する補正後オッズ比は、PARSIFALでは0.49、GABRIELAでは0.76、アトピーに関する補正後オッズ比は両スタディ間でより開きが大きく、それぞれ0.24、0.51だった。また、農家の子どもの方が多様な環境微生物に曝露されていた。そして曝露される微生物が多様であるほど、喘息リスクが低くなるという逆相関の関連が認められた(PARSIFALでのオッズ比:0.62、GABRIELAのオッズ比:0.86)。さらに、特定の微生物への曝露について、喘息リスクとの逆相関が認められた。その微生物は、真菌分類群ユーロチウム属の種(補正後オッズ比:0.37)や、リステリア菌、桿菌、コリネバクテリウム属その他の細菌種(補正オッズ比:0.57)などだった。Ege氏は、「農家で暮らす子どもは、それ以外で暮らす子どもより広範な微生物に曝露されていた。そしてこの曝露が、喘息と農家で育つ子どもとの逆相関の関連について大部分の理由づけとなっている」と結論、また今後は、どのような種の微生物曝露が喘息予防に結びつくのかを特定するための試験に挑んでいくつもりだとまとめている。(武藤まき:医療ライター)

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BMIと死亡リスクとの関連、アジア人では?

世界保健機関(WHO)推定では、世界の10億人以上の成人が過体重であり、少なくとも3億人は太り過ぎとされ、一方で体重、とりわけBMIと健康アウトカムとの関連を広範囲に評価した疫学研究が行われている。それに対し米国ヴァンダービルト大学メディカルセンター疫学センターのWei Zheng氏らは、それら疫学研究の大半はヨーロッパ系のコホート集団で行われたもので、世界人口の60%以上を占めるアジア人全体のBMIと死亡リスクとの関連は明らかになっていないとして、アジアの19のコホート集団110万人以上を対象に、BMIと死亡リスクとの関連を評価するプール解析を行った。NEJM誌2011年2月24日号より。東アジア人のBMIと死亡リスクとの関連はU字型カーブを示す解析の対象としたコホート試験は1試験を除き、被験者1万人以上、追跡5年以上の基線にBMIデータを含むもので、平均追跡期間は9.2年、その間に約12万700件の死亡が含まれていた。解析は、交絡因子を補正しコックス回帰モデルを用い行われた。結果、中国人、日本人、韓国人を含む東アジアのコホート集団においては、BMIが22.6~27.5の範囲で死亡リスクが最も低かった。死亡リスクは、BMIレベルが同範囲より高い人でも低い人でも上昇し、BMIが35.0以上の人で1.5倍、BMIが15.0以下の人では2.8倍だった。同様のU字型カーブの関係は、BMIとがん並びに心血管疾患、その他の原因による死亡リスクとの間でもみられた。インド・バングラデシュのコホート集団では、高BMI関連死亡超過リスクは認められず一方、インド人とバングラデシュ人のコホート集団では、BMIが20.0以下の人はBMIが22.6~25.0の人と比較して、全死因死亡リスクと、がんまたは心血管疾患以外の原因による死亡リスクは増加したが、高BMIと関連する全死因死亡並びに死因別死亡の超過リスクは認められなかった。これらから研究グループは、「すべてのアジア人集団で、低体重は、死亡リスクの大幅な増加と関連していたとしたが、高BMIと関連する死亡の超過リスクは、東アジア人の集団では認められたが、インド人とバングラデシュ人の集団では認められなかった」とまとめている。(朝田哲明:医療ライター)

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早期乳がん歴のある人へのマンモグラフィスクリーニングの感度および特異度は?

早期乳がん歴のある人に対するマンモグラフィの検査精度と成果が明らかにされた。乳がん歴のある人には、第2の乳がんリスクへの懸念もありマンモグラフィのスクリーニングが推奨されるが、その成績についての信頼できる検証データはほとんどないという。オーストラリア・シドニー大学のNehmat Houssami氏らが、全米乳がんサーベイランス協会(BCSC)加盟施設でマンモグラフィを受けた2万人弱の早期乳がん歴のある人と、同乳がん歴のない人とのデータを分析し、JAMA誌2011年2月23日号で発表した。乳がん歴のある人の約6万件のマンモグラフィデータをコントロール群と比較研究グループは、1996~2007年にBSCS加盟施設で行われたマンモグラフィのうち、早期乳がん歴のある1万9,078人に行われた5万8,870件のデータと、コントロール群(乳房密度や年齢、実施年などをマッチングした乳がん歴のない)5万5,315人に行われた5万8,870件のデータについて比較した。乳がん歴は、上皮内がんまたは浸潤がんのステージIまたはIIだった。結果、マンモグラフィ実施後1年以内に乳がんが見つかった人は、乳がん歴あり群では655人(浸潤がん499人、上皮内がん156人)、乳がん歴なし群では342人(浸潤がん285人、上内皮がん57人)だった。感度、特異度ともに乳がん歴あり群の方が乳がん歴なし群に比べて低い乳がん歴なしと比較しての乳がん歴あり群のマンモグラフィの精度および成果については、がん発生率は乳がん歴あり群1,000スクリーニング当たり10.5、乳がん歴なし群1,000スクリーニング当たり5.8であり、がん検出率は1,000スクリーニング当たり6.8、乳がん歴なし群は1,000スクリーニング当たり4.4だった(p<0.001)。中間期がん発生率は、乳がん歴なし群が1.4/1,000スクリーニングに対し、乳がん歴あり群が3.6/1,000スクリーニングと有意に高率だった。検診の感度は、乳がん歴あり群65.4%に対し乳がん歴なし群76.5%、特異度は同99.0%に対し98.3%と、いずれも乳がん歴あり群の方が低かった(p<0.001)。その他、マンモグラム異常が認められたのは、乳がん歴あり群2.3%、乳がん歴なし群1.4%だった(p<0.001)。また、乳がん歴あり群では、上皮内がん検出に関する感度は78.7%だったのに対し、浸潤がんに関する感度は61.1%と低く(p

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CRPそのものは、冠動脈心疾患の原因か?:約19万5,000人の遺伝学的メタ解析

血中C反応性蛋白(CRP)濃度自体は冠動脈心疾患の原因因子ではないことが、C Reactive Protein Coronary Heart Disease Genetics Collaboration(CCGC)による検討で示された。CRPの血中濃度は将来的な冠動脈心疾患のリスクと強力かつ持続的に相関するが、この関連性が両者の因果関係を反映するかは不明だ。一方、CRP関連遺伝子の変異はCRP濃度の代替指標として因果関係の判定の一助に使用可能とされる。これまでに実施された試験は、冠動脈心疾患におけるCRPの因果的な役割の可能性を評価するにはパワー不足で精密性にも欠けるという。BMJ誌2011年2月19日号(オンライン版2011年2月15日号)掲載の報告。CRP遺伝子のSNP、血中CRP濃度、他のリスク因子の関連を評価CCGCの研究グループは、CRP関連遺伝子の変異は、冠動脈心疾患におけるCRPの因果的な役割の評価において、血中濃度の非交絡的な代替指標として使用可能か否かについて検討した。15ヵ国で実施された47の疫学試験の個々の患者データを用いて、遺伝学的なメタ解析を行った。冠動脈心疾患患者4万6,557人を含む19万4,418人において、CRP遺伝子の4つの一塩基多型(SNP)(rs3093077、rs1205、rs1130864、rs1800947)、血中CRP濃度、その他のリスク因子の程度の関連について解析を行った。主要評価項目は、従来のリスク因子および個人内のリスク因子レベルの変動で調整した上での、血中CRP濃度自体のequivalent differenceのリスク比に対する遺伝学的なCRP上昇に関連した冠動脈心疾患のリスク比とした。遺伝学的リスク比と、CRP濃度自体のリスク比に関連なし個々のCRP遺伝子変異は、血中CRP濃度と最大で30%までの関連が認められた[p<10(−34)]が、他のリスク因子との関連はみられなかった。CRP上昇と関連する対立遺伝子を一つ加えた場合の冠動脈心疾患のリスク比は、rs3093077が0.93(95%信頼区間:0.87~1.00)、rs1205が1.00(同:0.98~1.02)、rs1130864が0.98(同:0.96~1.00)、rs1800947は0.99(同:0.94~1.03)であり、有意な関連は認めなかった。複合解析では、血中CRP濃度の自然対数リスク比が遺伝学的に1SD上昇するごとの冠動脈心疾患のリスク比は1.00(95%信頼区間:0.90~1.13)であった。プロスペクティブ試験においては、血中CRP濃度の自然対数リスク比の1SD上昇ごとの冠動脈心疾患のリスク比は1.33(95%信頼区間:1.23~1.43)であった(差の検定:p=0.001)が、これは遺伝学的な知見とは一致しなかった。著者は、「遺伝学的データにより、血中CRP濃度そのものは冠動脈心疾患の原因となる因子ではないことが示された」と結論している。(菅野守:医学ライター)

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