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どうやって信頼性を確保するか! 臨床試験成績の読み方!?

7月14日(土)NPO法人 臨床研究適正評価教育機構(J-CLEAR)が主催する「第3回 J-CLEARセミナー」が、東京大学医学部附属病院において開催された。当日は全国より会員、関係者など約60名が参加した。今回のテーマとして「臨床試験成績の読み方-信頼性の観点から-」が掲げられ、巷間で問題となっている医学論文の信頼性や研究データの解析手法の問題点など、テクニカルな面も含め講演が行われた。特別講演臨床研究のmisconduct特別講演として山崎茂明氏(愛知淑徳大学 人間情報学部 教授)を講師に迎え、「臨床研究のmisconduct」というテーマで講演が行われた。講演では、「misconduct(不正行為・違法行為)」をキーワードに、論文やトライアルの問題を「点」として捉えるのではなく、さまざまな要因に起因する「線」によるミスと捉え、理解していこうというものであった。Misconductといかに向き合うかについては、これを「病気」になぞらえ、防ぐためには個人や環境への介入と予防のための教育が重要だと述べた。次にmisconductの定義について、「科学におけるmisconduct」とは、「捏造、改ざん・偽造、盗用」のことを指し、その他の逸脱行為として「資金の不正流用、各種ハラスメント」等があると説明した。そして、misconductの発生率について、1997年には1万件あたり約5件(0.05%)であったが、2005年のある調査では、3,247名に調査した結果、うち33%がmisconductに何らかの関与をしたとのレポートを紹介した。次にmisconductを防止する鍵は、「発表倫理」を考えることであり、発表倫理はさらに2つに分けられると説明した。それは「オーサーシップ」と「レフェリーシステム」である。まず、「オーサーシップ」の種類4つとそれぞれ考え得るリスクを述べた。ギフトオーサーシップ:儀礼的に名前が共著として載るリスク→撤回論文になった場合、不名誉な記録が残る名誉オーサーシップ:慣例で名前が共著として載るリスク→撤回論文になった場合、不名誉な記録が残るゴーストオーサーシップ:著者資格があるのに著者に記載されないリスク→EBMの情報源でなくなるゲストオーサーシップ:著者資格はないがゲストの肩書などを利用して意図的に信頼性を高める。メーカの記事等で散見されるリスク→論文の信頼性の著しい低下その上で、たとえばこれからのオーサーシップは、貢献度に応じて、映画のエンドクレジットのように名前を表出させてはどうかと提案が行われた。次にレフェリーシステムについて、従来は“Peer Review”が信頼性を維持してきたことに触れ、最近ではこのやり方が揺らいできていること、そこで“Open Peer Review”が採用されるようになってきたと述べた。そこでは審査論文は親展文書として送られ、ライバル研究者への審査依頼禁止を要望できるなど、編集システムの段階でさらにmisconductを防止できるようにシステムが築かれていると説明し、講演を終えた。わが国の臨床試験の課題1)オープン試験における問題点はじめに、植田真一郎氏(琉球大学大学院 薬物作用制御分野 教授)が「オープン試験における問題点」と題して問題提起を行った。オープン試験は、元来、治療方針の比較(例.生活習慣指導の臨床試験)に適した試験であり、薬効の比較にはむかない試験である。薬剤の比較試験は二重盲検で行うべきであるが、わが国では治験を除いて、そのほとんどがオープン試験で行われているのが現状。また、本来エンドポイントは、試験の目的によって決まるはずであるが、現状は症例集積性と検出力から決まっている。その結果、複合エンドポイントが採用されることが多い。複合エンドポイントのコンポーネントとして、時に主観的なものが設定されることが多い。例えば、狭心症の発症、心不全による入院、経皮的冠動脈インターベーション(PCI)の施行などである。問題なのはオープン試験の複合エンドポイントのコンポーネントとして主観的なエンドポイントが含まれてしまっていることである。オープン試験では主治医は、患者がどちらの治療を受けているかを知っているので、対照群で主観的なエンドポイントがより多く発生することで結果に影響を及ぼすと指摘。また、イベント元(主治医)からデータセンターへの報告が担保されていないなど問題があると言及した。そこであるべき研究試験体制としての組織を説明後、OCTOPUS研究による質の保証を述べた。すなわち、「ランダム化は最小化法で、CRC(治験コーディネーター)を派遣し第三者によるデータ転記、独立したモニタリング委員会とイベント評価委員会、そして試験事務局の独立が担保されなければならない」と説明した。そして、わが国で多く実施されているオープン試験の質を担保する方策として、「研究目的の整合性、適正なモニタリング・監査、アウトカムの評価の厳密化、データ管理とトレーサビリティ、公的研究での資金サポートが重要だ」とのべ、発表を終えた。2)Spinについて桑島巌氏(東京都健康長寿医療センター 顧問)が、「Spinについて」と題して臨床試験の目的と結果の齟齬について説明した。「Spin」とは「回転させる」から転じた用語で、臨床試験において「主要なエンドポイントに関して統計学的には有意でなかったにも関わらず、試験薬が有効であったかのように印象付ける、あるいは有意でなかったことから注意を逸らせるような報告内容」であり、 2010年にJAMA誌に発表され、この報告によるとspin率は37.5%、本文の考察部分でのspin率は43.1%であったと紹介した(参考記事「RCT論文、『有意差なし』なのにタイトル曲解18%、要約結論曲解58%」)。次に2つの循環器系の臨床試験を例にspinの具体例を説明した。ある試験では、1次エンドポイントにおいて結果が出なかったために、2次エンドポイントを強調して発表した例や、別の試験では、有意差が得られなかった結果に対し、仮説が成立していた患者群だけの後付け解析を別の研究論文として発表された例等があると解説した。そして、「臨床研究論文は、プライマリエンドポイントを主眼に発表し、読者を惑わすことがあってはならない」と発表を終えた。3)オープン試験における信頼性保証の方策景山茂氏(東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター 薬物治療学研究室 教授)が、「オープン試験における信頼性保証の方策」と題して、わが国における心血管イベントを対象とした最近の自主臨床試験の特徴を中心に説明を行った。一つは、「複合エンドポイントの採用」で、利点として多重性を避け、サンプルサイズを小さくし、追跡期間を短くすることができる半面、結果の解釈が難しく、オープン試験に適さない情報が採用される場合もあると指摘した。もう一つは、「PROBEデザインの採用」であり、はじめにPROBEデザインで行われた欧米、日本の主な研究を例示。次に、PROBEデザインの課題として(1)適切なエンドポイントの選択、(2)エンドポイント委員会の機能強化、(3)第三者の介入(CRCのサポート)、(4)CONSORT声明の改善(オープン試験では責任医師の症例数を申告させるなど)、(5)モニタリングと監査の5つを挙げ、今後の改善すべき点を示した。また、医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)についても触れ、その目的は「被験者の人権、安全、福祉の保護」と「治験の科学的な質とデータの信頼性の確保」にある。両方を実現するためにも「臨床研究に関する倫理指針」へのデータの信頼性保証の方策の記載、試験機関でのモニタリングと監査部門の設置、ガイドラインに基づく不正行為告発等の受付体制の整備などを提起した。総合討論続いて総合討論となり、会場からさまざまな質問や問題提起が行われた。一例として「トライアル研究の問題点は何か」という質問に対して、「薬効の厳密評価と治療法の評価の方法は違う研究。前者は治験、後者は標準治療と厳格治療を比較したUKPDSに代表されるようなもの」という回答がなされた。また、「研究試験の外的妥当性を高める方策は?」と問われたところ「RCTそのものに制限があるので、例外を考える。現場で評価が出ない時は、それ以外で考えることも必要。検討される結果の事前確率を考えて、具体的には事前統計を見積もって、事後確率も考えていく」や「外的妥当性の向上として、サブブロック解析をした方がよい。層別解析で行う」など複数の回答が寄せられていた。最後に代表の桑島氏が「3時間半の盛り上がる研究会となった。今後も、今回の発表内容などを日ごろの研究試験の際に参考にしてもらいたい」と挨拶し、セミナーを終了した。※NPO法人 臨床研究適正評価教育機構とは、2010年に発足した臨床研究を適正に評価するために必要な啓発・教育活動を行い、我が国の臨床研究の健全な発展に寄与することをめざした組織。毎年セミナー、シンポジウムなどの勉強会が開催され、出版物の刊行も行っている。●詳しくはNPO法人 臨床研究適正評価教育機構まで http://j-clear.jp/

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医師900名が回答!「痛み」の診療に関する緊急アンケート その1

対象ケアネット会員の医師927名(内訳:内科45% 循環器19% 脳神経外科9% 神経内科8% 外科5% 消化器科3% 代謝内分泌3% その他9%)方法インターネット調査実施期間2012年7月31日~8月7日Q1.先生が診ていらっしゃる患者さんの中で、「何らかの痛み」を訴えて治療を行っている患者さんは月平均何名くらいいらっしゃいますか?Q2.Q1でお答えになった人数のうち、「神経障害性疼痛」だと思われる痛みをお持ちの患者さんはどのくらいいらっしゃいますか?

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第5回 損害の評価、素因減額:医師の責任を金銭にすると?

■今回のテーマのポイント1.身体損害の金銭への評価は、〔1〕治療費等積極的損害 +〔2〕逸失利益(消極的損害) + 〔3〕慰謝料で求められる2.不法行為の被害者が疾患を有する場合の損害額の減額方法として、逸失利益の減額(損害額の算定)と素因減額の方法がある3.良性疾患等回復可能な疾患においては、素因減額の方法をとる必要がある事件の概要患者(X)(48歳男性)は、平成12年5月23日、勤務中に右膝を負傷し、A病院にて局所麻酔下で異物(右膝の皮下組織と筋膜間に針金と砂様の異物、脛骨粗面付近の皮下組織内に鉛筆の芯用の異物)を除去しました。創部の痛みが強かったため、2日後の同月25日にXは、A病院に入院することとなりました。右膝の経過は順調であったものの、同月30日頃より、胸部不快感が生じるようになり、6月1日午前5時半頃、トイレから帰室する際に意識消失。すぐに意識を取り戻したものの、胸部不快感及び呼吸苦を訴えたことから、酸素投与及びニトロ舌下を行ったところ、胸部不快感及び呼吸苦は改善しましたが、心電図上、「II,III,aVF,V1,2 negative T,V3,4,5軽度ST上昇」を認めたため、Y1医師は、急性冠不全症又は急性心筋梗塞疑いと診断して精査加療のため、B病院に転院を指示しました。B病院転院後、医師Y2は、午前11時20分頃に冠動脈造影検査を施行したところ、器質的狭窄は認めなかったものの、エルゴノビン負荷テストにおいて、左前下行枝に90%狭窄を認め、同日朝の胸部不快感と同様の症状を認めたこと、ニトロール注入にて症状及び狭窄が改善したことから、冠攣縮性狭心症と診断しました。しかし、Xは、同日夜10時頃と翌午前3時頃に胸部不快感を訴え、翌朝午前6時50分頃、再び意識消失しました。同時点での血圧は80台、心拍数が48回/分、心電図上、右脚ブロック及びV2~4でST上昇を認めました。Y2医師は、心エコーを施行したところ、著明な右室の拡張及び心室中隔の奇異性運動を認めたことから、肺塞栓症を疑い、肺動脈造影検査を施行しようとXをベッド移動したところ、Xは、呼吸停止、高度除脈となりました。Y2医師は、心肺蘇生を行うと同時に、肺動脈造影を行ったところ、肺動脈内に血栓を認めたことから、肺塞栓症と診断し、血栓溶解剤の投与を行いましたが、6月4日午前6時24分に死亡確認となりました。原審(熊本地裁)では、Y1医師、Y2医師が肺塞栓症を疑わなかったことに過失は認められないとして、Xの遺族の請求を棄却しました。これに対し、福岡高裁は、Y1医師、Y2医師の過失を認め、下記の通り判示しました。なぜそうなったのかは、事件の経過からご覧ください。事件の経過患者(X)(48歳男性)は、平成12年5月23日、勤務中に右膝を負傷したため、同日勤務終了後、近医を受診しました。レントゲン写真上、右膝に異物が認められたことから、異物の摘出を試みるも、うまくいかなかったため、A病院に紹介しました。同日夕方、A病院にて局所麻酔下で異物(右膝の皮下組織と筋膜間に針金と砂様の異物、脛骨粗面付近の皮下組織内に鉛筆の芯用の異物)を除去し、ペンローズドレーンを留置し、外来フォローアップとしました。しかし、創部の痛みが強く、2日後の同月25日に患者X希望にてA病院に入院することとなりました。右膝の経過は順調であったものの、同月30日頃より、胸部不快感が生じるようになり、6月1日午前5時半頃、トイレから帰室する際に意識消失。すぐに意識を取り戻したものの、胸部不快感及び呼吸苦を訴えたことから、心電図を施行し、酸素投与及びニトロ舌下を行ったところ、胸部不快感及び呼吸苦は改善しました。同日午前9時頃に内科(医師Y1)紹介受診したところ、先に施行した心電図上、「II,III,aVF,V1,2 negative T,V3,4,5軽度ST上昇」を認めたことから、急性冠不全症又は急性心筋梗塞疑いにて精査加療のため、B病院に転院することとなりました。同日午前10時頃にB病院に到着。医師Y2は、午前11時20分頃に冠動脈造影検査を施行したところ、器質的狭窄は認めなかったものの、エルゴノビン負荷テストにおいて、左前下行枝に90%狭窄を認め、同日朝の胸部不快感と同様の症状を認めたこと、ニトロール注入にて症状及び狭窄が改善したことから、冠攣縮性狭心症と診断しました。しかし、Xは、同日夜10時頃と翌午前3時頃に胸部不快感を訴え、翌朝午前6時50分頃、再び意識消失しました。同時点での血圧は80台、心拍数が48回/分、心電図上、右脚ブロック及びV2~4でST上昇を認めました。Y2医師は、心エコーを施行したところ、著明な右室の拡張及び心室中隔の奇異性運動を認めたことから、肺塞栓症を疑い、肺動脈造影検査を施行しようとXをベッド移動したところ、Xは、呼吸停止、高度除脈となりました。Y2医師は、心肺蘇生を行うと同時に、肺動脈造影を行ったところ、肺動脈内に血栓を認めたことから、肺塞栓症と診断し、血栓溶解剤の投与を行いましたが、6月4日午前6時24分に死亡確認となりました。事件の判決判決では、遅くとも6月1日午前5時半頃の意識消失時(前医であるA病院入院時)には、Xが肺塞栓症を発症していたと認定し、「Y1医師が、Xの6月1日の意識消失等を虚血性心疾患によるものであると診断したのは、客観的には誤りであったものといわなければならない」とした上で、「もっとも、症状や心電図のみでは、肺塞栓症とその他の疾患、特に心疾患と鑑別診断することは極めて困難であるというのであるから、Y1医師が、6月1日午前9時ころまでにXにかかる上記のような所見を得ていたからといっても、Xが肺塞栓症に罹患していると診断することまで期待するのは無理である。とはいえ、急性肺血栓塞栓症においては、診断がつかず適切な治療が行われない場合には死亡の確率が高いこと、他方で、適切な治療がなされれば死亡率が顕著に低下することが知られていたのであるから、Y1医師としては、上記時点で、少なくとも肺塞栓症に罹患しているのではないかとの疑いを持つことが必要であり、それは十分可能であったといわなければならない」として、Y1が肺塞栓症を疑わず、その結果B病院転院時の診療情報提供書に肺塞栓症疑いと記載しなかったことを過失としました。Y2についても、「6月1日午後10時ころに至り、再び胸痛を訴えるに及び、また、その際行われた心電図検査の結果は、搬送された際に実施したものと同様に、肺塞栓症と考えても矛盾しないものであったということからすれば、遅くともこの時点では肺塞栓症を疑うべきであったといわなければならない」「しかるに、Y2医師は、上記Y1医師の診断結果を認識した後、もっぱらその疑いを念頭に置いて冠動脈造影検査、エルゴノビン負荷テストを施行したものであり、また、胸痛が持続する場合にはニトロペンを舌下投与すべき旨を指示しただけで、肺塞栓症を鑑別対象に入れることは6月2日朝に至るまでなかったというのであるから、この点につき、Y2医師には上記注意義務に違反した過失があるというべきである」として過失を認めました。その上で、「このような事情を考慮するならば、上記のとおり、Y1医師及びY2医師がともに過失責任を免れないとしても、直ちに全責任を負わしめるのはいかにも酷というべきである。そうであれば、結果に寄与したXの素因ないしは被害者(患者)側の事情として上記の諸事情を考慮し、上記不法行為と相当因果関係を有する損害額を一定の割合で減額するのが相当である」と判示し、過失相殺の法理を類推適用し、損害額の4割を控除し、約4,080万円の損害賠償責任を認めました。(福岡高裁平成18年7月13日判タ1227号303頁)ポイント解説不法行為責任が成立した場合、加害者は、当該過失によって生じた損害を金銭に評価した額を賠償する責任を負います。(1) 過失(2) 損害(3) (1)と(2)の間の因果関係↓不法行為責任成立↓生じた損害を金銭に評価↓当該評価額を賠償する責任を負う医療過誤訴訟においては、通常、「患者の死傷」が損害となります。この「人の死傷」という損害の金銭的評価は難しく、各国によって異なっているのですが、わが国においては、〔1〕積極的損害:入院・治療費、看護費用、交通費、葬祭費、弁護士費用等〔2〕消極的損害:逸失利益(被害者が生存していれば得たであろう利益(収入))〔3〕精神的損害:慰謝料の3つが認められることとなっています。この中で、最も高額となりがちなのが〔2〕の逸失利益であり、産科医療訴訟の賠償額が高額化する原因はここにあります(被害者の就労可能期間が最も長いため)。しかし、病院に治療に来る患者は、何らかの疾患を抱えています。したがって、たとえ医療過誤が発生し、患者が死亡した場合であっても、当該疾患により、就労不能であった場合には、逸失利益は“0”になります(損害額の算定の問題)。また、交通事故と被害者の疾患が競合して死亡という結果が生じた事案において、裁判所は、「被害者に対する加害行為と被害者のり患していた疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、民法722条2項の過失相殺の規定※1を類推適用して、被害者の当該疾患を斟酌することができるものと解するのが相当である。けだし、このような場合においてもなお、被害者に生じた損害の全部を加害者に賠償させるのは、損害の公平な分担を図る損害賠償法の理念に反するものといわなければならないからである」(最判平成4年6月25日民集46巻4号400頁)と判示しています。これは、「素因減額」と言われている考え方です。被害者が疾患を有していた場合の損害額の減額方法はこれら2つの方法がありますが、医療過誤訴訟においては、多くの場合、損害額の算定の方法で処理されています。たとえば、がん患者が医療過誤によって死亡した場合には、損害額の算定による方法では、「医療過誤がなかったとしても余命は○年であり、その間、就労することは不可能であるので逸失利益は認められない」となり、素因減額の方法では、「医療過誤とがんがともに原因となって死亡という損害を発生させており、加害者に損害の全部(健康な同年代と同額の逸失利益等損害)を賠償させることは公平を失するので、過失相殺の規定を類推適用して、損害額を減額する」となり、どちらの方法をとっても、結果として、同程度の損害額の減額が認められることとなります。しかし、進行がんなどの治療困難な疾患については、どちらの方法でも同程度の結果となりますが、本件のように、うまく治療がなされれば根治可能な良性疾患等に関しては結果が異なってきます。すなわち、「医療過誤がない」=「肺塞栓症と早期に診断」ができていれば、健康な状態で長期就労可能となりますので、損害額の算定の方法では、減額ができないからです。本判決では、Y1、Y2に過失があるといえるかはともかく、このような場合には、素因減額の方法をとり、損害額を減額することができるということを示した判決です。世界中で、民事医療訴訟を原因とした医療崩壊が生じており、その対応のため、無過失補償制度を各国が導入してきています。無過失補償制度を導入するにあたり、最大の鍵となるのが、補償額の多寡であり、訴訟を行った場合に得られる金額に近い額の補償額を給付しなければ、結局、訴訟が選択されてしまいます。逆相続※2を認めるわが国においては、損害賠償額が高額となるため、無過失補償制度の運営が困難といわれています。また、そもそも、医療提供体制においては、低額の皆保険制度をとっているにもかかわらず、紛争が生じると、他の一般民事事件と同様に高額な損害賠償額となるのは公平を失するといえます。今後、医療過誤訴訟は増加の一途をたどることが予想されます。訴訟による医療崩壊が生ずる前に速やかに無過失補償制度を作る必要があり、その前提として、素因減額の適用拡大が必要となるものと思われます。 ※1民法第722条2項:被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。※2子供が不法行為により死亡した場合に、子供の逸失利益を親に相続させること。子供が生存していた場合、親が子の財産を相続することは通常ないこと等から、EU諸国では認められていない。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。(出現順)福岡高裁平成18年7月13日判タ1227号303頁本事件の判決については、最高裁のサイトでまだ公開されておりません。最判平成4年6月25日民集46巻4号400頁

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患者指導、診療チーム力向上のカギはコーチングで鍛える「対話力」!

医療におけるコーチングの展望 日米の視点から日本コーチ協会主催の第14回年次大会が、2012年6月23日、日本橋三井ホールにおいて開催された。同大会は、各分野でのコーチング活用の発表の場として、また最新のコーチング情報を提供する目的で毎年開催されているものである。はじめに、日本コーチ協会理事長の桜井一紀氏より「コーチングは社会のさまざまな場面で取り入れられている。とくにリーダーが部下との関係性向上や、組織全体の活性化のためにコーチングを取り入れる例が多くみられている。具体例として、キリンビールや東北大学でコーチングが採用され、効果を上げている。医療現場では、名古屋第二赤十字病院などで導入され、病院スタッフの“対話力”が向上していると聞く。今日は、国内外のいろいろな事例を聞いて、参考にしてもらいたい」と開会の挨拶を行った。行動変容の基本原理 ~コーチング手法の活用~基調講演としてElizabeth Pegg Frates 氏(ハーバード大学 准教授)が「行動変容の基本原理 ~コーチング手法の活用~」と題して、基調講演を行った。はじめに米国の生活習慣病に関する概要を示した後、自身が経験した患者ヘの生活習慣指導のコーチングを例にわかりやすく解説した。氏がレジデントの頃、「患者に一方的に上から指導・アドバイスを行うことが患者のためになる」と思っていたが、それでは患者は従わず、医療者にも患者にもフラストレーションが溜まる結果となった。しかし、コーチングの手法を学んだことで、まず患者の声を傾聴し、表情や声色から患者の思いを読み取ることで、患者の行動変容を促していけるようになり、指導の実を挙げていると報告した。一例として肥満患者へのコーチングをあげ、ライフスタイルコーチングをすることでまず食習慣が改善され(肉食から野菜・魚食へ)、次に運動習慣も身についたと紹介した。「患者が最高のQOLで過ごせるようになること」がコーチングの成果であり、生活習慣指導の分野では非常に効果があるという。次に、コーチングに関する医学論文を紹介し、コーチングが多様な分野で活用されているとレポートした。疾患領域では、「ぜんそく、がん、うつ、脊髄小脳変性症、糖尿病、循環器系疾患、疼痛」などの分野で効果が報告されており、一例として循環器疾患領域でコレステロールの大幅な改善があったと紹介した。最後にこれからの展望として、コーチングによってどのような影響があったのか長期フォローアップと大規模化・集中化が求められる研究が必要だと述べ、講演を終えた。チーム医療にコーチングを活かす 患者中心の医療に向けてセッション1として、出江紳一氏(東北大学大学院医工学研究科 リハビリテーション医工学 教授)が、「チーム医療にコーチングを活かす 患者中心の医療に向けて」と題して自身の研究室で行ったコーチングをテーマに講演を行った。出江氏は、「コミュニケーションはキャチボール」というコーチングの概念を紹介し、日常診療で診断、予後、治療を扱う医療面接において「将来への希望となる質問や布石を行っている」と自身の貴重な臨床での経験を披露した。出江氏によると、コーチングの特徴は、「双方向のコミュニケーション」、「相手に合ったコミュニケーション」、「継続的なコミュニケーション」の3つを柱として行うもの。診療におけるコミュニケーションだけでなく、研究室の研修医・大学院生への教育にも活用している。講演では、医学部教員研修にコーチングスキルの修得を導入した経験と、脊髄小脳変性症患者へのコーチング介入のランダム化比較試験を紹介。前者では継続的なフォローによりコーチング指導の意義・継続を浸透させることができ、コミュニケーションに変化が生じたこと、後者では、患者の自己効力感が増大したことなどが報告された。また、チーム医療向上へのコーチング導入の例を紹介。「コーチング理論に基づく医療コミュニケーション教育法の確立」の研究成果をレポートした。従来の研修医教育システムにコーチングの手法を導入し、研修医のコミュニケーションを看護師が評価し、その結果をテーマとして指導医が研修医をコーチしたものである。指導医にはやや負担が増えるものの、手法の中で行われる研修医との面談でコミュニケーションの緊密化が図られた。その結果、研修医は他者からの評価が把握でき、指導医は臨床以外の場面でコミュニケーションができるため、院内コミュニケーションに関してお互いによい影響がでていると報告した。個人にコーチングを行うことで、組織内のコミュニケーションに変化が生じ、組織のパフォーマンスによい変化が生まれる。とりわけ医療の現場では、「コミュニケーション力の増大は、安全管理の向上とも相関する可能性があることから、今後も実践と研究の両面で行っていく」と講演を終えた。遅発型食物アレルギー陽性者に対するコーチングセッション2では、澤登雅一氏(三番町ごきげんクリニック 院長)が、「遅発型食物アレルギー陽性者に対するコーチング」として“対患者コーチング”をメインに講演を行った。

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大学病院勤務医に聞く!「時間治療」(クロノテラピー)、取り入れてますか?

臓器や組織の時刻依存的な機能性に着目し、治療効果を高め副作用を小さく留めるように一日の中の"時刻"を意識して行なう治療法が、「時間治療」(クロノテラピー)として注目されています。今回は大学病院勤務の先生方に対し、がん治療のほか糖尿病・高血圧など生活習慣病においても効果・活用方法が研究されつつあるこの考え方について、認知度や活用実態を尋ねてみました。結果概要はこちらコメントはこちら設問詳細「時間治療」(クロノテラピー)についてお尋ねします。あらゆる臓器や組織の機能性が、「サーカディアンリズム」と呼ばれる周期で時刻依存的に毎日の調節を受けているとされ、こうしたメカニズムから「どの時間帯にどのような疾患リスクが高まるか」といったことが徐々にわかってきています。こうした考えから、病気の治療に"時間のものさし"の視点を導入し、「治療効果を高め、副作用を小さく留めるように一日の中の"時刻"を意識して行なう治療法」が、「時間治療」(クロノテラピー)として注目されています。副作用の起きない範囲で大量に抗がん剤を投与するのが基本とされるがん治療に加え、腎臓疾患、その他糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病においても、時間治療の効果および活用方法が研究されています。そこで先生にお尋ねします。Q1. 「時間治療」(クロノテラピー)をご存知でしたか?知っている知らなかったQ2. (「知っている」とお答えになった先生のみ)「時間治療」(クロノテラピー)の考え方を治療に取り入れていますか。取り入れている今後取り入れたいと考えている取り入れていない自分の専門分野では対象外だと思うその他(       )Q3. コメントをお願いします(どのように取り入れているか、今後知りたいこと、患者からの要望などどういったことでも結構です)アンケート結果Q1. 「時間治療」(クロノテラピー)をご存知でしたか?Q2. (「知っている」とお答えになった先生のみ)「時間治療」(クロノテラピー)の考え方を治療に取り入れていますか。2012年7月20日(金)~26日(木)実施有効回答数:674件調査対象:CareNet.com医師会員のうち大学病院および関連施設の勤務医結果概要大学病院勤務医の3人に1人が"時間治療"を知っている全体の34.0%が時間治療(クロノテラピー)について「知っている」と回答。「知らなかった」と回答した医師からも、「エビデンスや具体例などを詳しく知りたい」といった声が多数寄せられた。20人に1人が「既に取り入れている」、10人に1人が「今後取り入れたい」と回答知っている医師のうち、時間治療の考え方を治療に取り入れているとした回答者は16.6%(全体の5.6%)。抗がん剤治療のほか、降圧剤の服用時間を夜間にするといったコメントが寄せられた。取り入れていない医師からも「今後の研究結果次第では積極的に取り入れたい」とした声が多く見られた。「自分の専門分野では対象外だと思う」と回答した医師は9.6%。また「抗がん剤使用は夜間の方が有効だが、点滴の煩雑さから夜勤看護師の協力は得難いと思われる」といった、実施する上での環境面の制約を挙げた声も見られた。CareNet.comの会員医師に尋ねてみたいテーマを募集中です。採用させて頂いた方へは300ポイント進呈!応募はこちらコメント抜粋 (一部割愛、簡略化しておりますことをご了承下さい)「抗癌剤治療のときに取り入れています。」(40代,内科)「プラセボ効果が大きいと思う。 」(50代,眼科)「どの時間帯に薬を投与した方が良いという考え方は新しいと思う」(30代,外科)「うつに対する光療法として取り入れている」(30代,精神・神経科)「ABPMや家庭血圧による血圧日内変動の評価を行った上で適応のある患者には降圧薬の一部の就眠前投与を行っている.」(40代,内科)「全く初めて聞きました。ベーシックなことから教えていただきたいです。」(50代,血液内科)「コンプライアンスの高い患者なら、時間治療の考え方は効果があるかも知れませんね。 ちなみに、ショートパルスみたいな使い方でステロイドを使うことが多いのですが、夜に飲むと不眠などの症状が問題になりやすいので、朝に飲んでもらっています。これ、時間治療ですね。」(40代,耳鼻咽喉科)「抗ガン剤治療などに取り入れてみたい」(60代,泌尿器科)「時間治療の効果が発揮できるように降圧剤を就寝前に投与する」(50代,循環器科)「発熱の副作用の多いサイトカイン療法は夜間に行う。」(40代,泌尿器科)「夜間の抗がん剤投与は病棟スタッフのサポート体制を考えると現実的ではない。従来通りの昼間の抗がん剤投与を行っている。」(30代,血液内科)「もっと一般的になれば実施したい。」(40代,小児科)「抗がん剤治療で有効性を高めるのと副作用を抑える効果が期待できる。具体例を教えてほしい」(40代,外科)「概日リズムも大切だが、それ以上に臨床上重要な部分が他にあると思う。」(40代,循環器科)「ACE阻害薬による乾咳を防ぐために、ACE阻害薬を夕方に投与している。」(60代,循環器科)「現時点で使わなくても良い状況にある。 対象となる患者の選択方法などがあると良い。」(50代,精神・神経科)「脳出血の発症がどうしても朝方に多いことと、降圧薬の内服が朝だとたとえ持続性であるとはいえ効果が切れてくるのが朝方になるのが重なってしまうため、持続型の降圧薬を基本的に夜に内服するように処方している。」(30代,脳神経外科)「医者のように不規則な生活リズムで生活していたら恩恵に預かれないのでしょうか」(30代,外科)「精神科では、よく話をきく。」(30代,アレルギー科)「現在の所は未解明な部分が多いが、解明が進むにつれて少しずつ取り入れたい。 ただ、時間治療について知るにつれ、自分の不摂生を大きく恥じるかもしれないのが辛い。」(20代,総合診療科)「降圧薬、スタチン、甲状腺ホルモン剤等の夕食後投与。ステロイド薬の午前中投与などで取り入れている。」(50代,代謝・内分泌科)「内分泌疾患では関連あると思っていましたが、がん治療で関係があるとは思いませんでした。」(40代,小児科)「興味はあり、今後の研究結果次第では積極的に活用してゆきたいと考えている。」(30代,小児科)「 高血圧などでは時間帯による変動の激しい人がいるので勉強したい。 」(50代,血液内科)「そもそも糖尿病や高血圧などの昔からの処方タイミング自体が時間治療にあたると思う」(30代,代謝・内分泌科)「サーカディアンリズムはともかく、これが治療に応用できるということは全く知らなかった」(40代,救急医療科)「もっと直感的に分かる名称がいいと思います。」(40代,脳神経外科)「心筋梗塞や脳梗塞の発症は、朝方に多いので、モーニングサージや朝方の交感神経の高まりを抑制するように、夕方に処方を変更したりなど行っています。」(40代,循環器科)「抗がん剤使用では夜間の方が有効だが、点滴の煩雑さから、夜勤の看護師の協力は得難いと思いわれる。」(40代,呼吸器科)「がん治療に実際どのように取り入れられているか知りたい」(30代,外科)「サーカディアンリズムに個人差がないのか、それによる治療効果の差がないのかが気になる」(30代,内科)「ある程度考慮しています。ただしケースバイケースです。」(40代,膠原病科)「クロノテラピーについて、根拠のある否定的な意見と肯定的・推進的意見を両方とも知りたい。」(30代,神経内科)「クリニカルパスと連動してできたら良いと思う。」(30代,血液内科)「現時点では効果は部分的なものだと思う.マスコミなどで画期的な方法のように取り上げられているのは違和感を感じる.」(50代,膠原病科)「時間により治療を行う方針は間違ってないと思うが、現在のようなエビデンスベースの医療ではそのエビデンスを示すことは難しいと考えます。」(40代,リウマチ科)「夜間に抗癌剤投与を行うほうがいいとする意見があったが、夜間投与中に副反応などが生じた時のリスク対処を考えるとベネフィットは少ないと思う」(30代,呼吸器科)「夕方・夜間の抗がん剤投与は、マンパワー不足で、現実的に無理」(30代,血液内科)「生体における個体差をどのように克服できるのかが不安でもあります。」(50代,外科)「もっと学術的な後押し、証明がなされたら取り入れる。テレビの影響で患者からの要望は多いが、より科学的なデータを望む。」(30代,消化器科)「患者からの要望はあるが、今後も取り入れる予定はない。」(40代,泌尿器科)「時間栄養学が提唱されており、夜間に食事をすると肥満しやすいことの理論的根拠が確立されてきた。 時計遺伝子が食事をはじめ体のリズムを調整している。スタチン製剤を夕方に処方するのも脂肪合成の日内リズムに基づいている」(60代,代謝・内分泌科)「サーカディアンリズムに従えば,有り得る治療と思う.」(40代,皮膚科)「睡眠覚醒リズムの補正が感情・情緒の改善に不可欠であると教育している。」(40代,精神・神経科)「H2 blockerは1回のときは夜に使用している。」(40代,外科)「神経疾患にも取り入れられているのか知りたい。特にステロイド大量療法(パルス療法)でも導入されているのか?」(40代,神経内科)「人間の体は不思議なもので、いつの間にか勝手に治るというのが、これで実証されていくのかと勝手に想像します。すべて知りたいです。」(30代,循環器科)

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n-3脂肪酸、2型糖尿病患者の心血管イベント予防効果認められず

 心筋梗塞や心不全患者において心血管イベント予防効果が示唆されている魚油に豊富なn-3脂肪酸について、2型糖尿病患者またはそのリスクを有する患者について検討した結果、心血管イベントの有意な減少はみられなかったことが報告された。糖尿病予備軍および早期糖尿病患者1万2,500例超を長期追跡する「ORIGIN」試験グループが報告した。NEJM誌7月26日号(オンライン版2012年6月11日号)掲載より。糖尿病治療中の1万2,536例をn-3脂肪酸群とプラセボ群に無作為化し中央値6.2年追跡 ORIGIN(Outcome Reduction with an Initial Glargine Intervention)はインスリン グラルギン(商品名:ランタス)治療と標準的治療が心血管系イベントの発生に及ぼす影響を比較するとともに、長期のn-3脂肪酸サプリメント服用についても検討した2×2要因二重盲検無作為化臨床試験。 被験者は、40ヵ国573施設から登録され、中央値6.2年(範囲:5.8~6.7)追跡された。心血管イベントが高リスク(ベースラインで59%が心筋梗塞、脳卒中、または血行再建術実施)の、空腹時血糖異常、耐糖能異常あるいは2型糖尿病を有する患者で、インスリン グラルギン(商品名:ランタス)[目標空腹時血糖値≦95mg/dL(5.3mmol/L)]または標準治療のいずれかを受けるように無作為化された。また、毎日n-3脂肪酸エチルエステル900mg以上(90%超)を含有する1gカプセルのサプリメントまたはプラセボを服用する群に無作為化され追跡された。 n-3脂肪酸服用に関する解析対象となった被験者は1万2,536例(平均年齢64歳、女性35%)で、服用群6,281例、プラセボ6,255例。主要アウトカムは、心血管系が原因の死亡だった。中性脂肪の値は有意に低下、しかし主要アウトカムの心血管死は有意差認められず 結果、追跡期間中の主要アウトカム(心血管死)の発生は、n-3脂肪酸群574例(9.1%)、プラセボ群581例(9.3%)で有意な差は認められなかった(ハザード比:0.98、95%信頼区間:0.87~1.10、p=0.72)。 n-3脂肪酸群はプラセボと比較して、重大血管性イベントの発生[1,034例(16.5%)対1,017例(16.3%)、ハザード比:1.01、0.93~1.10、p=0.81]、全死因死亡[951例(15.1%)対964例(15.4%)、同:0.98、0.89~1.07、p=0.63)、不整脈死[288例(4.6%)対259例(4.1%)、同:1.10、0.93~1.30、p=0.26)に対し有意な効果は認められなかった。 中性脂肪の低下については、n-3脂肪酸群がプラセボ群よりも14.5mg/dL(0.16mmol/L)有意に大きな低下が認められた。しかしその他の脂質には有意な影響は認められなかった。 有害事象の発生は両群で同程度だった。

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早期糖尿病患者に対するインスリン グラルギン

糖尿病予備軍および早期糖尿病患者1万2,500例超を長期追跡した「ORIGIN」試験グループは、インスリン グラルギン(商品名:ランタス)による6年超にわたる空腹時血糖正常化の心血管およびその他のアウトカムへの影響について発表した。心血管アウトカムとがんへの影響は中立的であったこと、低血糖エピソード増とわずかな体重増は認められたが糖尿病の新規発症は減少したという。結果を踏まえて研究グループは、さらに血糖正常化の微細血管などへの影響について検討する必要があるが、現段階ではインスリン グラルギンの標準療法としての位置づけ変更を支持しないとする見解を示している。NEJM誌7月26日号(オンライン版2012年6月11日号)掲載より。中央値6.2年追跡、インスリン グラルギン治療と標準治療を比較ORIGIN(Outcome Reduction with an Initial Glargine Intervention)はインスリン グラルギン(商品名:ランタス)治療と標準的治療が心血管系イベントの発生に及ぼす影響を比較するとともに、長期のn-3脂肪酸サプリメント服用についても検討した2×2要因二重盲検無作為化臨床試験。被験者は、40ヵ国573施設から登録され、中央値6.2年(範囲:5.8~6.7)追跡された。心血管イベントが高リスク(ベースラインで59%が心筋梗塞、脳卒中、または血行再建術実施)の、空腹時血糖異常、耐糖能異常あるいは2型糖尿病を有する患者で、インスリン グラルギン[目標空腹時血糖値≦95mg/dL(5.3mmol/L)]または標準治療のいずれかを受けるように無作為化された。また、毎日n-3脂肪酸エチルエステル900mg以上(90%超)を含有する1gカプセルのサプリメントまたはプラセボを服用する群に無作為化され追跡された。空腹時血糖正常化の心血管イベントへの影響についての解析は、被験者1万2,537例(平均63.5歳)で、インスリン グラルギン群6,264例、標準治療群6,273例。共通主要アウトカムは、第1は非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中または心血管死とし、第2は第1のイベントに加えて血行再建または心不全による入院とした。このほか、微小血管アウトカム、糖尿病の発症、低血糖の発生、体重、がんについても両群間で比較した。心血管アウトカム、がんの発生に有意差認められず、2型糖尿病の新規発症は有意に減少結果、両群の心血管アウトカムの発生率は同程度であった。第1共通主要アウトカムの発生率は100人・年当たり、インスリン グラルギン群2.94、標準治療群2.85で(ハザード比:1.02、95%信頼区間:0.94、~1.11、p=0.63)、第2共通主要アウトカムは5.52、5.28(同:1.04、0.97~1.11、p=0.27)だった。2型糖尿病の新規発症については、治療中止後3ヵ月時点での発生が、インスリン グラルギン群30%に対し、標準治療群は35%だった(オッズ比:0.80、95%信頼区間:0.64~1.00、p=0.05)。重症低血糖の発生率は100人・年当たり、インスリン グラルギン群1.00、標準治療群0.31。平均体重の変化は、インスリン グラルギン群が1.6kg増加、標準治療群は0.5kg減少だった。がんの発生については、両群間に有意差は認められなかった。発生率は100人・年当たり両群ともに1.32だった(オッズ比:1.00、95%信頼区間:0.88~1.13、p=0.97)。

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「第二世代抗精神病薬」長期投与の課題は…

 一般的に、抗精神病薬による代謝系の副作用は、第一世代抗精神病薬と比較し、第二世代抗精神病薬でより顕著に認められる。Schreiner氏らは代表的な第二世代抗精神病薬であるパリペリドンとオランザピンが、統合失調症患者の代謝系へ及ぼす影響と臨床効果を長期的に比較検討した。J Clin Psychopharmacol誌2012年8月号の報告。 統合失調症患者を対象とした6ヵ月間のオープンラベル多施設共同ランダム化並行群間比較試験。パリペリドン群(パリペリドンER錠を6-9㎎/日投与)239例、オランザピン群(オランザピン経口剤を10-15㎎/日投与)220例。主要評価項目は、インスリン抵抗性の指標であるTG/HDL比のベースラインからの平均変化量とした。その他の評価指標は、PANSSスコア、脂質とグルコース代謝の測定、体重とした。主な結果は以下のとおり。・両群ともに統合失調症症状の有意な改善が認められた(p

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運動不足の解消で寿命が0.68年延長

冠動脈心疾患や糖尿病、がんなどの主な非伝染性疾患の6~10%が運動不足に起因し、運動不足が解消されれば寿命が0.68年(約8ヵ月)延長することが、米国ハーバード大学医学校ブリガム・アンド・ウェイメンズ病院のI-Min Lee氏らLancet Physical Activity Series Working Groupの調査で明らかとなった。運動不足は、冠動脈心疾患、2型糖尿病、乳がん、結腸がんなどの非伝染性疾患のリスクを増大させ、余命を短縮することを示す高度なエビデンスが存在する。多くの国では国民の運動不足が指摘されているため、運動不足と非伝染性疾患の関連は保健医療上の重要な課題となっている。Lancet誌2012年7月21日号(オンライン版2012年7月18日号)掲載の報告。運動不足の影響を定量的に評価研究グループは、運動不足の集団が運動を行った場合に、どの程度疾患が回避され、余命の延長が得られるかを予測することで、主な非伝染性疾患に及ぼす運動不足の影響を定量的に評価した。疾病負担の解析では、運動不足が解消した場合の疾患回避率を予測するために、個々の非伝染性疾患に関する標準的な条件を用いて運動不足と関連する人口寄与割合(PAF)を国ごとに算出した。生命表分析を行って余命の延長を推算した。健康リスクは喫煙や肥満と同等冠動脈心疾患の疾病負担の6%(最低値は東南アジア地域の3.2%、最高値は地中海東部地域の7.8%)が運動不足に起因すると推定された。運動不足の2型糖尿病への寄与は7%(範囲:3.9~9.6%)、乳がんへの寄与は10%(5.6~14.1%)、結腸がんへの寄与は10%(5.7~13.8%)と推察された。2008年に世界で発生した若年死の9%(5.1~12.5%)、すなわち5,700万件の若年死のうち530万件が運動不足に起因していた。運動不足が、完全ではないまでも10%解消されれば年間に53万3,000件以上、25%解消された場合は130万件以上の死亡が回避されると推定された。運動不足が完全に解消されれば、世界の余命は中央値で0.68年(0.41~0.95年)延長すると予測された(ちなみに、日本は0.91年の延長)。著者は、「世界的に、運動不足の健康への影響は大きい。不健康な行動の低減や除去により、健康は実質的に改善される可能性がある」と結論づけ、「運動不足の健康リスクは、確立されたリスク因子である喫煙や肥満と同等なことがわかった。1日15~30分の早歩きなどの適度な運動が健康効果をもたらすことが知られており、運動不足の低減に向けたあらゆる尽力を支援すべきである」と指摘している。

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遠隔健康管理、慢性疾患患者の緊急入院、死亡を減少

 血圧や血糖モニタリングなど遠隔健康管理(telehealth)は慢性疾患患者の、緊急入院および死亡の減少に結びつくことが報告された。英国ヘルスケア指針の独立検証機関であるNuffield TrustのAdam Steventon氏らが、英国保健省による資金提供プロジェクトの無作為化試験「Whole System Demonstrator」を解析した結果による。同試験はtelehealthとtelecareの統合アプローチの有効性について検証することを目的とする、英国保健省プロジェクトの多地域クラスター無作為化試験だった。BMJ誌2012年7月14日号(オンライン版2012年6月21日号)掲載報告より。遠隔健康管理介入群と通常ケア群に無作為化し12ヵ月間追跡試験は、居宅ベースの遠隔健康管理の介入がその後の健康や死亡に及ぼす影響を通常ケアと比較することを目的とし、イングランドの3地域(コーンウォール、ケント、ニューアム)を対象に行われた。介入群または通常ケア(対照)群の無作為化は一般診療所単位で行い、同地域179件が参加。それら診療所を通じて2008年5月~2009年11月の間に、糖尿病、慢性閉塞性肺疾患または心不全を有する3,230例が集められた。遠隔健康管理群には、患者-医師間の診断と指導管理の一部が遠隔通信で行われ、通常ケア群には遠隔健康管理以外の各居住地域で利用可能な医療サービスが行われた。主要評価項目は、試験期間の12ヵ月間に入院した患者の割合とした。なお、ベースラインでの被験者特徴は両群で類似していた。入院、死亡が有意に低下結果、12ヵ月の追跡期間中の入院の割合は、介入群が対照群と比較して有意に低かった(オッズ比:0.82、95%信頼区間:0.70~0.97、p=0.017)。同12ヵ月間の死亡率も、介入群(4.6%)が対照群(8.3%)と比べて有意に低かった(同:0.54、0.39~0.75、p

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