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成人における抗うつ薬使用と副作用リスクに関するコホート研究

 抗うつ薬は、若年および中年成人に対し最も一般的に処方される薬剤の1つであるが、この年齢層における一連の有害なアウトカムについての安全性に関する情報は、あまり多くない。英国・ノッティンガム大学のCarol Coupland氏らは、うつ病と診断された20~64歳における抗うつ薬治療と有害なアウトカムとの関連を評価するため、検討を行った。BMC medicine誌2018年3月8日号の報告。 QResearchプライマリケアデータベースに登録されている英国全体の20~64歳の患者23万8,963例を対象にコホート研究を実施した。うつ病の初回診断を受けた患者だけが含まれた。アウトカムは、フォローアップ中に記録された転倒、骨折、上部消化管出血、道路交通事故、薬物治療による副作用、全死因死亡とした。潜在的な交絡変数で調整された抗うつ薬曝露に関連するハザード比を推定するため、Cox比例ハザードモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・5年間のフォローアップ期間中におけるアウトカムは、転倒4,651例、骨折4,796例、上部消化管出血1,066例、道路交通事故3,690例、薬物治療による副作用1,058例、死亡3,181例であった。・抗うつ薬を使用しなかった期間と比較し、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI、調整ハザード比[aHR]:1.30、95%CI:1.21~1.39)および他の抗うつ薬(aHR:1.28、95%CI:1.11~1.48)を使用した場合、骨折の割合が有意に増加した。・すべての抗うつ薬において、転倒の割合の有意な増加と関連が認められた。・SSRIと比較し、三環系および関連する抗うつ薬(aHR:1.54、95%CI:1.25~1.88)、他の抗うつ薬(aHR:1.61、95%CI:1.22~2.12)を使用した場合、副作用の割合が有意に高かった。・トラゾドンは、上部消化管出血リスク増加と有意な関連が認められた。・全死因死亡率は、SSRIと比較し、5年以上の三環系および関連する抗うつ薬(aHR:1.39、95%CI:1.22~1.59)、他の抗うつ薬(aHR:1.26、95%CI:1.08~1.47)で有意に高く、85日以上SSRI治療を行った後に減少した。・ミルタザピンは、1年および5年間のフォローアップにおいて、死亡率上昇と有意な関連が認められた。 著者らは「SSRIは、三環系および関連する抗うつ薬よりも骨折の割合が高かったが、他の抗うつ薬よりも死亡率および薬物治療による副作用の割合が低かった。ミルタザピンと死亡率との関連については、さらなる調査が必要である。抗うつ薬治療を決定する際には、これらのリスクを患者ごとに慎重に考慮し、潜在的なベネフィットとのバランスをとる必要がある」としている。■関連記事うつ病の薬物治療、死亡リスクの高い薬剤は韓国人うつ病患者における3種類の抗うつ薬の6週間ランダム化比較試験高齢者に不向きな抗うつ薬の使用とその後の認知症リスクとの関連

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チェリージュースによる不眠症治療とそのメカニズムを研究するためのパイロット研究

 不眠症は高齢者において頻繁に認められ、慢性疾患と関連している。高齢者に対する睡眠薬による不眠症治療は、転倒の発生率を増加させる恐れもある。自己報告質問票では、トリプトファン分解酵素を阻害するモンモランシータルトチェリージュースが不眠症を改善するといわれている。米国・ルイジアナ州立大学のJack N. Losso氏らは、睡眠ポリグラフ検査で睡眠状態を確認し、不眠症治療にトリプトファンが有用であるかについて検討を行った。American journal of therapeutics誌2018年3/4月号の報告。 50歳以上を対象としたバランスの取れたプラセボ対照クロスオーバー研究。参加者をプラセボまたはチェリージュース(1回240mLを1日2回、2週間)の2群にランダムに割り付け、2週間のウォッシュアウト期間を設けた。睡眠状態は、睡眠ポリグラフ検査と検証された5つの質問票により評価を行った。血清インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)、血清キヌレニン/トリプトファン比、プロスタグランジンE2を測定した。in vitroにおいて、Caco-2細胞をインターフェロンγで刺激し、トリプトファンを分解し、炎症を刺激するIDOを阻害するチェリージュースプロシアニジンの作用を測定した。チェリージュース中のプロシアニジンB-2および他の主要なアントシアニンの含有量を測定した。 主な結果は以下のとおり。・11例中、睡眠時無呼吸症候群の3例を除く8例をランダムに割り付けた。・試験を完了した8例は、睡眠ポリグラフ検査において睡眠時間が84分増加し(p=0.0182)、ピッツバーグ睡眠質問票において睡眠効率が上昇していた(p=0.03)。・その他の質問票では、有意な差は認められなかった。・血清キヌレニン/トリプトファン比は減少し(p<0.05)、同様にプロスタグランジンE2レベルも減少した(p<0.05)。・in vitroにおいて、チェリージュース中のプロシアニジンB-2は、用量依存的にIDOを阻害した。 著者らは「チェリージュースは、睡眠時間と睡眠効率を高めた。チェリージュース中のプロシアニジンB-2は、IDOを阻害し、トリプトファンの作用を増加させ、炎症を軽減し、不眠症の改善に対し部分的に関与している可能性がある」としている。■関連記事チェリージュースで認知機能が改善うつ病患者の食事療法、ポイントは「トリプトファン摂取」ADHD発症にトリプトファンが関連か

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統合失調症に対する抗精神病薬と抗うつ薬増強の有効性と安全性

 抗精神病薬で維持治療を行っている統合失調症患者に対する、抗うつ薬増強療法の有効性と安全性について、ドイツ・ベルリン大学附属シャリテ病院のB. Galling氏らが評価を行った。Acta psychiatrica Scandinavica誌2018年3月号の報告。 PubMed、MEDLINE、PsycINFO、Cochrane Libraryより、データベースの初めから2017年10月10日までの、統合失調症に対する抗うつ薬増強療法の有効性に焦点を当てたプラセボ対照ランダム化二重盲検比較試験を、システマティックに検索した。 主な結果は以下のとおり。・42件(1,934例、期間:10.1±8.1週)のランダム効果メタ解析では、抗うつ薬増強療法はプラセボと比較し、全体の症状に関して軽減が認められた(SMD:-0.37、95%CI:-0.57~-0.17、p<0.001)。これは陰性症状の改善(SMD:-0.25、95%CI:-0.44~-0.06、p=0.010)によるものであり、陽性症状(p=0.190)および全般症状(p=0.089)では改善が認められなかった。・第1世代抗精神病薬への抗うつ薬増強療法の研究において、陰性症状の優越性が認められたが(SMD:-0.42、95%CI:-0.77~-0.07、p=0.019)、第2世代抗精神病薬では認められなかった(p=0.144)。・NaSSAにおいてのみ、全体の症状軽減(SMD:-0.71、95%CI:-1.21~-0.20、p=0.006)の優越性は陰性症状(p=0.438)によるものではなく、陽性症状の改善(SMD:-0.43、95%CI:-0.77~-0.09、p=0.012)によりもたらされた。・抗うつ薬では、プラセボより優れたうつ症状の改善は認められなかった(p=0.185)。・抗うつ薬増強療法では、口渇(RR:1.57、95%CI:1.04~2.36、p=0.03)を除き、有害事象および全原因/特定の原因による試験中止との関連は認められなかった。 著者らは「抗精神病薬で維持治療を行っている統合失調症患者に対して、抗うつ薬の追加は、全体の症状(とくに陰性症状)の軽減に有用である。しかし、その効果は軽度~中程度であり、抗うつ薬によっても異なり、また陰性症状の改善は第1世代抗精神病薬への増強療法に限られるようである」としている。■関連記事統合失調症への抗うつ薬追加は有益なのか統合失調症患者への抗うつ薬併用、効果はどの程度か統合失調症の陰性症状に対し、抗うつ薬の有用性は示されるのか

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双極性うつ病に対する抗うつ薬補助療法による再入院率に関するコホート研究

 双極性うつ病に対し抗うつ薬が広く用いられているが、その有効性や安全性に関するエビデンスは弱い。また、双極性障害に対する抗うつ薬維持療法のリスク・ベネフィット比に関する研究は不十分である。イスラエル・テルアビブ大学のYahav Shvartzman氏らは、抗うつ薬補助療法の有無にかかわらず、気分安定薬や非定型抗精神病薬治療で退院したうつ病エピソードを有する双極I型障害患者の再入院率について比較検討を行った。European neuropsychopharmacology誌2018年3月号の報告。 2005~13年にうつ病エピソードで入院した双極I型障害患者98例を対象に、6ヵ月および1年後の再入院率についてレトロスペクティブに調査を行った。再入院までの期間だけでなく、退院時の治療(気分安定薬や非定型抗精神病薬、抗うつ薬の有無)に応じて検討を行った。検討には、再入院に影響する共変量で調整した多変量生存時間モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・抗うつ薬補助療法群は、非抗うつ薬補助療法群と比較して再入院率が有意に低く、6ヵ月後(9.2% vs.36.4%、p=0.001、power=0.87)、1年後(12.3% vs.42.4%、p=0.001、power=0.89)であった。・抗うつ薬補助療法群は、非抗うつ薬補助療法群と比較して再入院までの期間が有意に長く、6ヵ月以内(169.9日 vs.141日、p=0.001)、1年以内(335.6日 vs.252.3日、p=0.001)であった。・抗うつ薬補助療法は、調整された再入院リスクを有意に低下させ、6ヵ月以内(HR=0.081、95%CI:0.016~0.412、p=0.002)、1年以内(HR=0.149、95%CI:0.041~0.536、p=0.004)であった。・さらに、抗うつ薬補助療法は、躁病エピソードによる再入院率を増加させなかった。 著者らは「気分安定薬や非定型抗精神病薬治療で退院したうつ病エピソードを有する双極I型障害患者に対する抗うつ薬補助療法は、1年間のフォローアップ期間中の再入院率が低く、再入院までの期間を延長させる」としている。■関連記事双極性障害に抗うつ薬は使うべきでないのか双極性障害に対する抗うつ薬治療、その是非はラピッドサイクラー双極性障害、抗うつ薬は中止すべきか

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うつ病成人の自殺傾向に対するSSRIの影響

 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は、自殺念慮を誘発または悪化させることがあると報告されている。スウェーデン・ヨーテボリ大学のJakob Naslund氏らは、ハミルトンうつ病評価尺度(HRSD)の自殺傾向の項目を基準に、SSRIの影響について評価を行った。The British journal of psychiatry誌2018年3月号の報告。 対象は、セルトラリン、パロキセチン、citalopramの業界出資研究(industry sponsored study)に参加したうつ病成人。患者レベルのメガ解析を実施し、SSRI群5,681例およびプラセボ群2,581例を比較し、HRSDで自殺傾向率の評価を行った。また、18~24歳の若年成人(537例)と25歳以上の成人(7,725例)に分けて、それぞれ分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・25歳以上の成人において、SSRI群では平均自殺傾向率が大きく低下し、第1週目以降にSSRI投与を受けた患者で自殺傾向の悪化リスクは低かった。・若年成人において、SSRI群ではプラセボ群と比較し、エンドポイントにおける自殺傾向率の違いは認められなかった。 著者らは「自殺傾向に対するSSRIの影響は、25歳以上のうつ病患者において有益であり、18~24歳の患者では中立的であった」としている。■関連記事自殺リスクの危険因子の検証、年齢別のうつ症状との関係は?大うつ病性障害の若者へのSSRI、本当に投与すべきでないのか?小児の自殺企図リスク、SSRI/SNRI間で差はあるか

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絵画編【ムンクはなぜ叫んでいるの?】

今回のキーワード統合失調症過敏性侵入性妄想性創造性合理性産業革命人工知能みなさんは、ムンクの「叫び」を見たことはありますか? その絵を見ているだけでゾクゾクしませんでしたか? 以前に、オークションで100億円近い値が付いたことでも話題になりました。やはりそれくらいの価値があるほど、私たちの心を揺さぶる何かがあるのでしょうか?今回は、有名な絵画のムンクの「叫び」を取り上げます。いつもとは違い、シネマではなく、絵画から学ぶメンタルヘルスをお送りします。テーマは、ずばり統合失調症です。実は、ムンクは統合失調症を発症していたという説が有力で、この絵はそのムンクの自画像です(編注:絵の解釈には諸説あります)。実際に、この絵には統合失調症にまつわる3つの特徴が垣間見られます。その特徴を脳科学的そして進化精神医学的に掘り下げ、統合失調症の本質に迫っていきましょう。際立ち-過敏性ムンクの日記によると、「日が沈んだ時、突然空が血のように赤く染まり」「フィヨルドと町並みが青黒く彩られた」とあります。実際の絵の色使いは、赤、青、黒を主として、その取り合わせがとても際立っていて、まぶしいです。1つ目の特徴は、周りの世界が際立っていると感じる、つまり過敏性です。これを統合失調症の症状として見ると、見えるもの全てを鋭敏に見てしまい、感覚が研ぎ澄まされている状態です(気付き亢進)。そこから、不安感や緊迫感が煽られています(緊迫困惑気分)。さらに、何かとんでもないことが起きそうな不気味な雰囲気を醸し出していきます(妄想気分)。それでは、なぜ際立つのでしょうか? ここから脳科学的に考えてみましょう。際立つとは覚醒度が上がることです。この覚醒度が上がるのは、いつもと違う状況(新奇場面)が刺激となり、脳内ではドパミンという神経伝達物質が分泌される時です。さらに、その覚醒度を保つために、同じく神経伝達物質であるグルタミン酸が分泌されます。その後に、覚醒が度を超えないようにするために、視床という脳領域で入力情報の感度を下げるフィードバックが働きます(視床フィルター)。つまり、覚醒度を燃え上がる火に例えると、脳が暖炉、新奇場面が薪、ドパミンは点火装置、グルタミン酸は給油装置、そして視床は薪の入る数を調節する暖炉の扉と言えます。ここで、これらの点火装置や給油装置が過剰に作動したり、扉が閉まらなくなったらどうなるでしょう? 勝手に燃え上がってしまいます。いつもと同じ状況なのにいつもと違う状況に様変わりしてしまい、際立っていると感じてしまいます。これが、統合失調症の原因と考えられています。過剰作動を起こす原因としては、もともとの遺伝負因、胎児期や乳児期の感染症(神経発達障害仮説)、思春期以降の心理社会的ストレスなどによる相互作用が考えられています。ちなみに、ドパミンが急性的に過剰分泌された場合、興奮状態になった神経細胞は、損傷を避けるために、一時的に神経伝達を遮断するメカニズムがあります(脱感作)。例えるなら、暖炉が壊れないように点火装置のブレーカーが一時的に落ちてしまうことです。これは、統合失調症で興奮状態から突如動かなくって、刺激に反応しなくなる症状です(緊張病)。一方、ドパミンが慢性的に過剰分泌された場合は、興奮状態になった神経細胞は、損傷を避けられず、変性していき、脳が萎縮していきます(残遺症状)。例えるなら、暖炉が燃やし過ぎで消耗してしまうことです。これは、統合失調症で、感情的に鈍くなり(感情鈍麻)、特に何をすることもなく(無為)、ひきこもって暮らす(自閉)など、本来あるべき能力が失われていく一連の症状です(陰性症状)。そもそもなぜ際立ちは「ある」のでしょうか? さらに進化精神医学的に考えてみましょう。10数億年前に太古の原始生物が誕生してから、エサが近くにあることが臭いや見た目で分かったら、ドパミンによって覚醒度を上げて、必死に近付くように進化しました。5億年前に魚類が誕生してから、天敵の気配などいつもと違う状況で、ドパミンによって覚醒度を上げて、早くに離れるように進化しました。境目のなさ-侵入性ムンクの日記によると、「血のような炎を吐く舌のような空が青黒いフィヨルドと町並みに覆い被さるようであった」とあります。実際の絵の構成は、輪郭が重なり合い大きくうねるような筆遣いで、中心に置かれる本人は周りに飲み込まれて溶けてしまいそうです。2つ目の特徴は、自分と周りの世界の境目がなくなると感じる、つまり侵入性です。これを統合失調症の症状として見ると、自分と他人の境目(自我境界)がはっきりしなくなり、自分は自分であるという実感がなくなることです(自我障害)。体がスケスケなのと同じように、心もスケスケに感じてしまい、自分の考えが漏れていると思うようになります(自我漏洩体験)。周りの人の視線が自分に迫ってくるようにもなります(被注察感)。さらには、何か得体の知れない誰かに自分が操られている感覚に陥ります(作為体験)。それでは、なぜ境目がなくなるのでしょうか? ここから脳科学的に考えてみましょう。境目とは自分と周り(他人)を区別することで、前頭葉(前部傍帯状皮質)が司っています。これは、周りを認知している自分を認知する、つまり認知していることを認知することでもあります(メタ認知)。ここで、先ほどの過敏性によって境目はどうなるでしょうか? 周りの世界を認知する感度が上がり過ぎてしまい、自分の想像(内的体験)への認知も周りの現実(外的体験)への認知と誤認知(偽陽性)してしまい、自分への認知と周りへの認知を区別する精度が落ちてしまいます。つまり、周りの世界を過剰に認識してしまうと、逆に正確には認識できなくなってしまい、境目がはっきりなくなってしまうということです。これは、検査の検出の感度と分類の精度(特異度)の相関関係です。例えるなら、教科書でテストに出そうな箇所に赤線を引く時、全てが出そうに思えて、全てに赤線を引いてしまうことです。すると、本当に出そうな箇所とそうでない箇所の区別ができなくなってしまいます。境目がなくなることで、想像も現実の体験の一部として認識してしまいます。そこから、自分が世界に侵入されてしまう感覚に陥ります。例えば、自分の考えたことが声になって聞こえます(考想化声)。やがてそれは他人の声として聞こえてしまいます(幻聴)。そう考えると、先ほどの誰かに見られているという感覚(被注察感)や、誰かに操られているという感覚(作為体験)のその誰かとは、実は他でもない自分自身であるということが理解できるでしょう。そもそも、なぜ境目は「ある」のでしょうか? さらに進化精神医学的に考えてみましょう。人類は、約700万年前にアフリカの森に誕生し、約300~400万年前に草原(サバンナ)に出てから、助け合い(協力)と競い合い(競争)の狭間で、相手の心を読む、つまり相手の視点に立つ心理を進化させてきました(心の理論)。この心理から、自分自身を離れて自分自身を見る視点を持つようになり、自分と周りの世界を区別できるようになりました。さらに、この視点を手に入れたことで、周りの世界をより良く知りたいという好奇心の心理(新奇希求性)も進化したと考えられます。だからこそ、私たちは、新しかったり珍しかったりする状況(新奇場面)でも過敏になるのでしょう。つまり、境目という心の理論、さらには好奇心という新奇希求性は、人間の生存に必要だから「ある」のでしょう。逆に言えば、人間以外のほとんどの動物は、境目が最初からないわけなので、自分と周りはもともと一体であり、境目がなくなる危うさをそもそも感じることはないと言えるでしょう。意味付け-妄想性ムンクの日記によると、「2人の友人と歩道を歩いている時、やむことのない自然をつんざくような叫びを聞いた」とあります。実際の絵の状況は、実はムンクは叫んでいるわけではなく、叫びに恐れおののき、耳を塞いで、かろうじて突っ立っているだけなのでした。3つ目は、周りの誰かまたは世界が叫んでいると意味付ける、つまり妄想性です。これを統合失調症の症状として見ると、自分の心の中(内的世界)の「叫び」を、現実世界の誰か(外的体験)の「叫び」として聞いたとしています(幻聴)。さらに、何となく不気味な気分(妄想気分)や、自分が自分ではなくなり自分の存在が危うく感じる体験(自我障害)から、世界が終わってしまうと感じてしまいます(世界没落体験)。もはや2人の友人も、黒服で得体の知れない存在に見えてしまい、監視しているか、尾行しているかとも思ってしまいます(被害妄想)。それでは、なぜ意味付けるのでしょうか? ここから脳科学的に考えてみましょう。意味付けとは、それぞれの体験について、ある程度抽象的で大まかな言葉に置き換えること、つまり概念化です。これは、言葉を聞き取る能力を司る感覚性言語中枢(ウェルニッケ野)と言葉を話す能力を司る運動性言語中枢(ブローカー野)が司っています。そうすることで、過去の体験と関連付けをして、記憶に残しやすくなります。ここで、先ほどの過敏性よって意味付けはどうなるでしょうか? 意味付けがされ過ぎてしまいます。例えば、テーブルに携帯電話が置いてあったとしましょう。たまたま置いてあっただけなのに、「なぜあるの?」とその意味を考えるようになります。そして、意味が分からないことに違和感を覚えるようになり、何気ないことを何気なく思えなくなり、当たり前のことを当たり前に思えなくなります(自明性の喪失)。つまり、意味付けは、され過ぎると、逆に失われてしまうということです。全ての出来事に意味を求めてしまい、クタクタになってしまいます。その刺激を避けるために、統合失調症の人は、早い段階でひきこもりになることがよくあります。また、間違った意味を見いだしてしまうと、論理の飛躍が起こります。それが先ほどの世界没落体験や被害妄想です。さらに、意味付けが極端になり自覚がなくなれば、意味のつながりが失われて、話すことにまとまりがなくなります(滅裂思考)。また、侵入性に意味付けをするとどうなるでしょうか? 侵入する対象として言語化します。それが、統合失調症の人がよく言う「得体の知れない巨大なもの」です。さらに、この表現は時代や文化によって変わります。例えば、日本なら、現代は「悪の秘密結社」「ヤクザ・暴力団」が多いですが、昔は「狐憑き」などが多かったでしょう。欧米なら、現代は「テロ集団」、昔なら「悪魔」が多いでしょう。そもそも、なぜ意味付けは「ある」のでしょうか? さらに進化精神医学的に考えてみましょう。人類は、約10~20万年前に、喉の構造を進化させて、複雑な発声ができるようになり、言葉を話すようになりました。そして、人だけでなく、自然環境や様々な自然現象を名付けることによって、世界を区切り、関係付け、説明しようとしました。こうして、シンボルを使って抽象的思考をする概念化の心理が進化したと考えられます。概念化によって、道具、建築、美術、音楽、文学、宗教、政治などの文化が爆発的に発展していきました(文化のビッグバン)。これが、創造性です。こうして、人は、その文化を、神話や言い伝え、民謡などの様々な方法で子孫に伝えることができるようになりました。人は、約5000年前に文字を発明して、ようやく原因と結果をつなぐ論理的思考(システム化脳)の体系が可能になりました。それが、科学であり、合理性です。ということは、そもそも創造性には合理性があるわけではないと言えるでしょう。もっと言えば、創造性と妄想は、同じ概念化の心理として合理性がない点では、コインの表と裏ということです。まさに、ムンクの絵もその1つです。つまり、意味付けという概念化は、人間の生存、さらには文化の継承に必要だから「ある」のでしょう。統合失調症はいつ生まれたの? -産業革命これまでの際立ち(過敏性)、境目のなさ(侵入性)、意味付け(妄想性)という3つの特徴から、統合失調症は人類の心の進化の歴史と密接にかかわりがあることがわかります。そして、統合失調症が世界中のどの国や地域でもほぼ一定の割合で発症することから、統合失調症の心理には普遍性がありそうです。それでは、統合失調症という病はいつ生まれたのでしょうか? 正確には言えば、病として目立つようになったのはいつでしょうか?その答えは、18世紀の産業革命であると考えられています。それまで、幻聴は「神のお告げ」または「悪魔の囁き」であり、妄想は「神の思し召し」または「悪魔の仕業」であり、自我障害は「神との一体化」または「悪魔の憑依」と解釈されていました。そして、実際にこのような症状を持つ人は、シャーマン(巫女)や信心深い信者として社会的に一定のステータスがあり、文化の一部として、社会に溶け込んでいたでしょう。ところが、産業革命によって、生産性や効率性などの合理主義や、貨幣経済や民主政治によってはっきり個人を区別する個人主義が広く世の中に広がっていきました。社会構造の変化です。すると、根拠のない不合理な言動を繰り返す幻覚妄想や、自分らしさ(アイデンティティ)が危うくなる自我障害はネガティブで困ったもの、つまり病として認識されるようになったのでした。実際に、現代でも、農村地域よりも工業化や都市化が進む地域ほど、そして発展途上国よりも先進国ほど、統合失調症は回復しにくいことが統計的に分かっています。つまり、発症率は変わらなくても、社会構造の違いによって、回復率は変わるということです。統合失調症はどこに行くの? -人口知能創造性・妄想を生み出す概念化の心理が進化したのが10~20万年前に対して、産業革命により合理性に重きを置くように社会構造が変化したのはたかだか200年前です。つまり、創造性・妄想の心理の進化の歴史の方が、合理性の心理よりも圧倒的に長いと言えます。つまり、私たちは合理的であろうとしていますが、人類の心の進化の歴史から考えると、そこまで合理的ではないということです。さらに、これからはAI(人工知能)の時代です。近い将来には、合理的なことはほとんどAI化されるというさらに新しい社会構造への変化が予想されます。そうなると、私たちは、もはや合理的であることを追求する必要がなくなってしまいます。むしろ逆です。そもそも私たちに不合理な心理もあることを生かして、これからはその不合理さを楽しむ創造性が求められるでしょう。そう考えると、私たちは、ムンクの「叫び」から統合失調症の世界観を疑似体験する危うさと魅力を知るだけでなく、そこから私たちの創造性をくすぐりかき立てる何かがあり、そこに大きな価値があることをよく理解することができます。そして、AI化された将来の社会構造で統合失調症の創造性に再び目が向けられる時、もはや統合失調症は病ではなく、個性や多様性の1つになっているのではないでしょうか?1)井村裕夫:進化医学、羊土社、20132)臨床精神医学、心の進化と精神医学、アークメディア、2011年6月号3)岡田尊司:統合失調症、PHP新書、2010

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統合失調症に対するスタチン併用療法のメタ解析

 統合失調症の陰性症状に対するスタチン併用療法のベネフィットに関しては、相反する結果が報告されている。中国・南京医科大学のHong Shen氏らは、統合失調症の精神症状改善のために、スタチン併用療法が有用であるかについて検討を行った。Psychiatry research誌オンライン版2018年2月5日号の報告。 CENTRAL、PubMed、Embase、MEDLINEよりデータを検索した。検索に使用したキーワードは、スタチン、シンバスタチン、アトルバスタチン、フルバスタチン、lovastatin、mevastatin、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、cerivastatinおよび統合失調症、統合失調感情障害、精神病とした。包括基準は、統合失調症成人患者を対象とし、PANSSまたはSANSスコアにて評価を行った抗精神病薬とスタチンまたはプラセボのランダム化比較試験(RCT)とした。データの無い報告、同一研究による複数の報告は、除外対象とした。スタチン併用療法の有無にかかわらず、統合失調症患者の精神症状を比較するため、メタ解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・6件のRCTより、339例(治療群:169例、プラセボ群:170例)が抽出された。・全体的な効果については、スタチン併用療法を実施した患者において、PANSSの陽性および陰性症状スコアの有意な低下が認められた。 著者らは「本メタ解析により、スタチン併用療法は、精神症状(陰性症状または陽性症状)を改善可能であることが初めて明らかにされた」としている。■関連記事慢性期統合失調症、陰性症状に有効な補助療法統合失調症への補助療法、その影響は:昭和大認知症にスタチンは有用か

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認知症と自動車運転~高齢ドライバー5万人の診断にどう対処するか

 2017年3月の道路交通法改正により、75歳以上の高齢者ドライバーが運転免許証を更新する際、「認知症のおそれがある」と判断された場合、すべて専門医または主治医の診断(臨時適性検査)を受け、診断書を提出しなければならなくなった。高齢者による交通事故防止のため、認知症対策がより強化されたこの新制度により、医師による臨時適性検査および診断書作成の対象者は、5万人にまで膨れ上がっている。 法改正から1年。本稿は、先日開かれた日本精神神経学会のプレスセミナーで、池田 学氏(大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室)が、医療現場の現状と今後の見通しについて述べた内容をまとめたものである。かかりつけ医にも求められる認知症診断 2017年3月12日に施行された改正道路交通法により、新たな制度がスタートした。すべての75歳以上のドライバーを対象に、3年に1度の免許証更新時に認知機能検査を実施し、第1~3分類に分ける。このうち、第1分類(認知症のおそれがある者)に該当する人は5万人程度。旧制度では、診断書を求められるのが一定期間内での違反者や事故を起こした人に限定されていたため、年間おおむね1,200~1,500人程度だったが、新制度では認知機能検査で第1分類に該当した時点で、違反や事故の履歴に関係なく、運転をやめるか、医師の診断書を提出するか、どちらかを選択しなければならない。つまり、全員が運転継続を望むとすれば、第1分類に該当する5万人が診断書作成の対象となる。現在、認知症関連学会員(認知症診療の専門医)の数は約2,000人である。当然のことながら、専門医のみで対応できる人数ではないため、かかりつけ医にも診断を求めざるを得ないのが現状である。運転継続か返納かを決める難しい判断と曖昧な境界 現場の医師が最も迷うのが、軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)か、初期段階の認知症かの見極めである。軽度認知障害であれば運転は続行できるが、認知症と診断された場合には、原則として運転免許証を返納しなければならない。したがって、両者いずれかの判断が重要となってくるが、きわめて流動的で、専門医であっても線引きは非常に難しいところである。 例えば「健忘型MCI」の場合、物忘れに関しては同年齢と比べても明らかで、本人も自覚しており、周囲の家族も気付いているケースが多い。しかし、それ以外の認知機能は正常範囲で、日常生活動作(ADL)は必ずしも障害されていないというのがポイントである。ただ、MCIが認知症に移行するリスクは確実に高く、1年で10~15%がアルツハイマー型認知症に移行することもこれまでの研究でわかっている。 老年期のうつ病との鑑別も重要である。壮年期のそれとは異なり、抑うつや悲哀などの訴えは主ではなく、心気的、身体的な訴え(肩こりや頑固な便秘、全身倦怠、睡眠障害など)が多いのが特徴で、悪化するとほぼ必発で認知機能の障害を伴う。しかしこれはあくまでも仮性認知症であり、免許更新時の診断には、こうした人を慎重に除外しなければ重大なミスにつながりかねないので注意が必要である。半数以上が「6ヵ月後の診断書」判断に 公安委員会に提出する診断書では、(1)アルツハイマー型認知症、(2)レビー小体型認知症、(3)血管性認知症、(4)前頭側頭型認知症、(5)その他の認知症(慢性硬膜下血腫など治療可能な疾患。6ヵ月後に要再検査)、(6)軽度認知障害、(7)認知症ではない、のいずれに該当するかを判断する。その際、ミニメンタルステート検査(MMSE)または改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)による認知機能検査を必ず実施し、検査が実施できなかった場合にはその理由を明記しなければならない。さらに、可能な限り画像検査を実施し、所見を記入することも求められている。つまり、限りなく専門医の診断書に近い様式となっており、専門外の医師にとってはかなりの負担であろう。 警察庁が取りまとめた改正法施行から半年時点でのデータによると、認知機能検査で第1分類に該当し、医師の診断を受けて免許取り消しや停止になった人は全体の9.3%、条件なしで免許証の所持を継続できた人が22.2%、そして6ヵ月後の診断書提出となった人は56.6%にも上った。この結果から、いかに多くの医師が診断に迷っているかがわかる。この中には治療可能な疾患の人もいるが、MCIか初期の認知症かの判断に迷うため、6ヵ月後に再検査となったケースが相当数あるとみられる。こうした「判断の先送り」が経年的に累積していけば、今後の大きな問題になる懸念があり、次善策を講ずる必要がある。 高齢者ドライバーの中には、免許更新の検査で初めて認知症疑いが指摘されるケースも少なくない。これを前向きに捉え、早期発見・治療の機会と考えられれば良いが、一方で患者は診断名を告げられる心の準備ができていない状況であるため、非常にセンシティブな問題をはらんでいる。かかりつけ医の場合には、これまで経験していない対応を迫られる機会が今後増えることも予測される。このため、日本医師会がかなり詳細な対応マニュアル(かかりつけ医向け認知症高齢者の運転免許更新に関する診断書作成の手引き)を作成しており、診断の際の参考にしてほしい。9割近くが新制度認識するも、ほとんどが臨時適性検査は未経験 ケアネットでは、昨年の道路交通法改正について、会員医師にアンケート調査を行った(内科医および精神科/心療内科医を対象に、2017年3月8~9日、インターネット上で実施。有効回答数500)。 このうち、「75歳以上の高齢者ドライバーが運転免許証を更新する際、認知機能検査において『認知症のおそれがある』と判断された場合、過去の違反・事故歴の有無を問わず、すべて専門医または主治医の診断(臨時適性検査)を受けなければならない」という新たな制度については、86%(430人)が認識していた。 また、「昨年3月の法改正以降、75歳以上のドライバーの免許更新に伴う臨時適性検査を実施した患者数」については、「0人」(76.8%)が最も多く、以下、「1~5人」(14.8%)、「6~10人」(3.2%)、「11~20人」(2.4%)、「31人以上」(1.6%)、「21~30人」(1.2%)となった。今回の調査では、大半の医師が臨時適性検査について未経験だった一方、この1年間で検査を実施した患者数が、すでに200人を超えているという人もわずかながらいた。

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乳がんの手術方法とうつ病発症に関するメタ解析

 術後の平均期間1年以上の乳がん女性において、異なる術式により、うつ病の発症率に違いがあるかについて、中国・上海交通大学医学院のChengjiao Zhang氏らが、文献のシステマティックレビューとメタ解析を実施した。World journal of surgery誌オンライン版2018年2月9日号の報告。 PubMed、Web of Science、EMBASE、OvidSP、EBSCO、PsycARTICLESより、システマティックに文献検索を行った。異なる術式群におけるうつ病発症率を比較し、経験的な所見を確認した観察的臨床研究を行った。 主な結果は以下のとおり。・乳がん患者のうつ病に関する研究は、乳房全摘術と乳房温存術の比較研究5件、乳房全摘術と乳房再建術の比較研究4件、乳房温存術と乳房再建術の比較研究2件、すべての術式の比較研究5件の合計16件であった。・乳がん女性のうつ病に関して多変量解析を実施した5件中、うつ病発症に対する術式の有意な影響が認められた研究は1件のみであった。・本メタ解析の結果では、いずれの術式においても、うつ病発症に有意な影響は認められなかった。 ◆乳房温存術 vs.乳房全摘術(相対リスク:0.89、95%CI:0.78~1.01、p=0.06) ◆乳房再建術 vs.乳房全摘術(相対リスク:0.87、95%CI:0.71~1.06、p=0.16) ◆乳房温存術 vs.乳房再建術(相対リスク:1.10、95%CI:0.89~1.35、p=0.37) 著者らは「術後の平均期間1年以上の乳がん患者において、うつ病の発症に、3つの術式(乳房全摘術、乳房温存術、乳房再建術)による統計学的に有意な差は認められなかった」としている。■関連記事がん患者のうつ病を簡単にスクリーニングするには抗うつ薬治療は乳がんリスクに影響しているのか抑うつ症状は、がん罹患有無に関係なく高齢者の死亡に関連

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統合失調症におけるパリペリドンパルミチン酸とリスペリドンの持効性注射剤の比較

 統合失調症患者の初回入院期間、再入院リスク、治療期間に関して、パリペリドンパルミチン酸(PP)またはリスペリドン持効性注射剤(RLAI)による治療の影響を、フランス・Corentin-Celton HospitalのFrederic Limosin氏らが、比較検討を行った。Journal of clinical psychopharmacology誌2018年2月号の報告。 初回入院時にPPまたはRLAI治療を開始した統合失調症患者を対象に、フランスの43施設で観察的レトロスペクティブコホート研究を実施した。フォローアップは、RLAI群では2012年9月より開始し(フォローアップ期間中央値:233日間)、PP群では2013年6月より開始した(フォローアップ期間中央値:259日間)。統計分析は、患者の特性を考慮して傾向スコア加重を用い、Cox回帰モデルに基づいて実施された。 主な結果は以下のとおり。・分析には、347例(PP群197例、RLAI群150例)が含まれた。・PP群は、RLAI群と比較し、精神疾患以外の合併症の併発、過去に抗精神病薬での治療歴、前年に精神科治療のための入院歴を有する傾向が有意に強かった。・初回入院時の在院期間は、両群間に統計学的な有意差は認められなかった(ハザード比:1.13、95%CI:0.97~1.31)。・PP群の1回目の再入院までの期間は、RLAI群と比較し同様であった(ハザード比:0.92、95%CI:0.65~1.30)。 著者らは「潜在的な統計力の欠如のため、PP群とRLAI群の間に、初回入院期間および再入院までの期間に関する有意な差は認められなかった。治療中止までの期間に関しては、PP群において良い傾向が認められたものの、この結果は、RLAIからPPへの切り替えが行われた患者において低下した」としている。■関連記事統合失調症の再入院に対する抗精神病薬の比較2つの抗精神病薬持効性注射剤、その違いを分析パリペリドン持効性注射剤、国内市販後の死亡例分析結果

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男女における握力とうつ病との関連

 筋力は、高齢者のメンタルヘルスにおける、修正可能な保護的要因である。性差のエビデンスにおいて、メンタルヘルスとその関連は限られている。アイルランド・リムリック大学のCillian P. McDowell氏らは、握力とうつ症状やうつ状態との横断的および将来的な関連について、性差の評価を行った。Experimental gerontology誌オンライン版2018年2月14日号の報告。 対象は、50歳以上の一般成人4,505例(女性:56.5%)。筋力の尺度として、ベースライン時に、手持ち式の握力計を用いて利き手の握力(kg)を測定した。対象者は、握力別に三分位に振り分けられた。ベースライン時と2年後のうつ症状は、疫学研究用うつ病尺度(CES-D:Center for Epidemiological Studies Depression Scale)で評価し、16点以上をうつ病例とした。 主な結果は以下のとおり。・うつ症状は、ベースライン時では女性において有意に高かった(p<0.001)。・将来モデルは、年齢、性別、腹囲、社会階級、喫煙、健康状態で調整した。・男性におけるうつ病発症オッズは、三分位の中位で32.9%減少し(p=0.21)、上位で9.9%減少したが(p=0.74)、それぞれ有意な関連ではなかった。・女性におけるうつ病発症オッズは、三分位の中位で28.5%減少し(p=0.13)、有意な差は認められなかったが、上位では43.4%の有意な減少が認められた(p=0.01)。・全サンプルにおけるうつ病発症オッズは、三分位の中位で31.5%減少し(p=0.04)、上位で34.1%減少しており(p=0.02)、それぞれ有意な関連が認められた。・性別と握力の相互の影響は、統計学的に有意ではなかった(p=0.25)。 著者らは「高齢者において、握力とうつ病との逆相関が認められた。この関連は、男性よりも女性において強かった」としている。■関連記事少し歩くだけでもうつ病は予防できるうつ病患者への運動介入、脱落させないコツは高齢者うつ病患者への運動療法は有効

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統合失調症患者の自傷リスクに対する抗精神病薬の効果比較

 統合失調症患者の自傷行為による入院について、治療に用いられる抗精神病薬により違いがあるかについて、台湾・国立台湾大学のC-H. Ma氏らが、調査を行った。Acta psychiatrica Scandinavica誌オンライン版2018年2月11日号の報告。 台湾健康保険データベースに基づいて、レトロスペクティブコホート研究を行った。対象は、2001~12年に新規に統合失調症と診断された15~45歳の患者。アウトカムは、統合失調症診断後の自傷行為または原因不明の傷害による最初の入院とした。抗精神病薬の服薬状況は、時間依存性変数としてモデル化された。規定された1日投与量(defined daily dose:DDD)に基づく抗精神病薬の投与量により層別化し、分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・50万355患者年の追跡調査の結果、7万380例から2,272件の自傷行為による入院エピソードが抽出された。・DDDまたはそれ以上の用量での第2世代抗精神病薬(amisulpride、アリピプラゾール、クロザピン、リスペリドン、スルピリド)の使用は、未使用患者と比較し、自傷行為による入院リスクの低下と関連が認められ、中でもクロザピンが最も強い効果を示した(調整率比:0.26、95%CI:0.15~0.47)。 著者らは「自傷行為に対する保護効果は、抗精神病薬の種類により異なる可能性がある。本知見を再現するためには、さらなる研究が必要である」としている。■関連記事統合失調症患者の「自傷行為」に関連する予測因子統合失調症の再入院に対する抗精神病薬の比較統合失調症患者の再入院、ベンゾジアゼピンの影響を検証:東医大

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歯の残存数と認知症リスクに関するメタ解析

 高齢期の歯の損失は、認知症の発症率を高める可能性があることが示唆されている。韓国・SMG-SNU Boramae Medical CenterのBumjo Oh氏らは、高齢期の歯の残存数と認知症発症との関連について、現在のエビデンスからシステマティックレビューを行った。BMC geriatrics誌2018年2月17日号の報告。 2017年3月25日までに公表された文献を、複数の科学的論文データベースより、関連パラメータを用いて検索を行った。高齢期における認知症発症と歯の残存数に関して報告された複数のコホート研究における観察期間の範囲は、2.4~32年であった。高齢期における歯の残存数の多さと認知症リスク低下が関連しているかについて、ランダム効果のプールされたオッズ比[OR]と95%信頼区間[CI]を推定した。異質性は、I2を用いて測定した。GRADEシステムを用いて、全体的なエビデンスの質を評価した。 主な結果は以下のとおり。・文献検索では、最初に419報の論文が抽出され、最終的には11件の研究(試験開始時年齢:52~75歳、2万8,894例)が分析に含まれた。・歯の残存数が多い群では、少ない群と比較し、認知症リスクの約50%低下と関連が認められた(OR:0.483、95%CI:0.315~0.740、p<0.001、I2:92.421%)。・しかし、全体的なエビデンスの質は非常に低いと評価された。 著者らは「限られた科学的エビデンスではあるものの、現在のメタ解析では、高齢期において歯の残存数が多いほど、認知症発症リスクが低いこととの関連が示唆された」としている。■関連記事「歯は大切に」認知症発症にも影響:久山町研究高齢者に不向きな抗うつ薬の使用とその後の認知症リスクとの関連統合失調症患者の口腔ケア、その重要性は:東医大

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1994~2014年の30ヵ国におけるうつ病有病率調査

 うつ病の有病率は、過去20年間の精神医学的治療の変化やオンラインメンタルヘルス情報の入手による影響を受けている可能性がある。オーストラリア・モナッシュ大学のGrace Y. Lim氏らは、1994~2014年にかけて、異なる国と地域におけるうつ病の有病率を評価し、地理的、方法論的、社会経済的な要因によって層別化された有病率の変動を調査した。Scientific reports誌2018年2月12日号の報告。 合計90件の研究が特定され、成人111万2,573例が包括基準を満たした。調査の内訳は、時点有病率調査が68件、1年間の期間有病率調査が9件、生涯有病率調査が13件であった。 主な結果は以下のとおり。・ランダム効果モデルによるメタ解析では、うつ病の時点有病率は12.9%、1年間の期間有病率は7.2%、生涯有病率は10.8%であった。・時点有病率が有意に高かったのは、女性(14.4%)、人間開発指数(平均余命、教育、所得の複合統計指数:29.2%)、2004~14年に公表された研究(15.4%)、自己報告によるうつ病評価の場合(17.3%)であった。・異質性がメタ回帰分析、サブグループ解析により同定され、治療反応率、女性の割合、公表年は、それぞれうつ病の有病率に影響すると判断された。 著者らは「本メタ解析は、オンラインヘルス情報が出現したこの時代において、うつ病蔓延のベンチマークを可能とし、将来の比較を容易にするであろう」としている。■関連記事米国のうつ病、どのような患者で増加しているかこれからのうつ病治療、どんな介入を行うべきかうつ病再発予防へ、インターネット介入の可能性は

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統合失調症の維持治療に対するブレクスピプラゾールの長期安全性評価研究

 ブレクスピプラゾールは、統合失調症の急性期や再燃予防において有効性を発揮するセロトニン・ドパミンアクティビティモデュレーター(SDAM)である。米国・大塚ファーマシューティカルD&C Inc.のAndy Forbes氏らは、フェーズIIIの多施設共同研究において、ブレクスピプラゾールのフレキシブルドーズ1~4mg/日における長期安全性、忍容性、有効性の評価を行った。The international journal of neuropsychopharmacology誌オンライン版2018年2月3日号の報告。 対象は、3つのランダム化二重盲検プラセボ対照フェーズIII試験から、52週間(最終的に26週間へ変更)のオープンラベル試験へ移行した患者。対象患者は、これまでの研究の一部としてではなく、新たに登録を行った。主要アウトカムは、治療下で発現した有害事象(TEAE:treatment-emergent adverse event)の頻度と重要度とした。有効性は、PANSS(陽性・陰性症状評価尺度)、PSP(個人的・社会的機能遂行度尺度)を用いて、副次的目的として評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・合計1,072例(52週間:952例、26週間:120例)が登録され、そのうち47.4%が試験を完了した。・ブレクスピプラゾール投与を1回以上実施した患者において、TEAEにより投与を中止した患者は14.6%であった。その主な内訳は、統合失調症8.8%、精神病性障害1.5%であった。・発生率5%以上のTEAEは、統合失調症(11.6%)、不眠症(8.6%)、体重増加(7.8%)、頭痛(6.4%)、激越(5.4%)であった。・ほとんどのTEAEの重症度は、軽度または中等度であった。・平均体重増加は、ベースラインから26週目までで1.3kg、52週目までで2.1kgであった。・プロラクチン、脂質、グルコース、QT延長に関連する臨床的な知見は認められなかった。・患者の症状および機能は、継続的な改善がおおむね認められた。 著者らは「統合失調症患者に対するブレクスピプラゾール1~4mg/日による治療は、最大52週間の忍容性が良好であることが確認された」としている。■関連記事新しいドパミン受容体パーシャルアゴニスト、ブレクスピプラゾール開発中のブレクスピプラゾール、その実力はアリピプラゾール維持治療の52週RCT結果

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抗うつ薬は効果があるのか?(解説:岡村毅氏)-822

 抗うつ薬に関するネットワークアナリシスである。臨床的には納得できる点が多い。 「良薬口に苦し」とはよく言ったもので、いわゆる三環系抗うつ薬であるアミトリプチリンは効果が大きいが、抗コリン作用(口渇、眠気、便秘、不整脈等)が強く、高齢社会においてはますます使いにくい。SSRIの登場によりうつ病の薬物治療が新時代を迎えたころ、華々しく登場したfluoxetineやパロキセチンは、やはりスタディ数が圧倒的に多い。バランスが良いのはセルトラリンやエスシタロプラムであるが、従来いわれていた知見と合致する1)。 うつ病というのは複雑な現象であり、「抗うつ薬は効果があるのか?」は、「ライオンとシャチはどっちが強い?」みたいな答えにくい質問である。 たとえば会社で、毎日終電まで仕事が終わらないうえにほぼ最低賃金で、上司からは、ばかだ、能なしだとののしられ、部下は言うことを聞かない…そういう状況で徐々に不眠になり、考えがまとまらなくなり、興味を失い、体重が減って、という場合は、抗うつ薬では本質的にはよくならないだろう。まず休んで身の振り方を考えるべきである。この場合は環境調整が最も効果的なのである(並行して抗うつ薬による治療を行うことは十分に効果的であるので誤解なきよう)。 あるいは、このような状況にもかかわらず患者さんが「言われたことを断わってはいけない」「断ると自分の価値がなくなる」「求められることをこなすことが自分の価値である」と強く信じているような場合は、うまく断るやり方を考えたり、たとえ無理な依頼を断っても個人の価値は何ら棄損しないことを共有し、場合によっては頼まれたことをこなしてきた人生を振り返り、少し生き方を変えてもいいかもと語り合うことが良いかもしれない。つまり、精神療法が最も効果的なのである(並行して抗うつ薬による治療を行うことは十分に効果的であるので誤解なきよう)。 高齢者がちょっとした体の不調で元気がない場合、抗うつ薬も良いが、漢方薬程度にして、気晴らしができる場所や信頼できる人を見つけてもらうのが最良であろう。 しかし、若い人がストレッサーに曝露したことでみるみる元気をなくし、思考制止ともいうべき状況で活動量が低下して部屋で動かなくなっている場合は、個人的にはすぐに抗うつ薬による治療を勧める。 うつ病という現象はあまりにも変数が多く、また得られた情報が場合によっては歪んでいたりするので、意思決定は難しい。しかし、「こころの不調」や「子供の教育」は多くの人が経験するからだろうか、自分の経験のみを基にマスコミなどで発信している人が多いと感じるのは私だけだろうか。このコラムを「抗うつ薬は効果があるのか?」という挑戦的なタイトルにしたのも、その現象は本当にうつ病といえるのかということを考えないといけない、うつ病の治療では精神療法や環境調整も薬物治療と同じように重要である、年齢・既往歴・社会的状況によって抗うつ薬の適応は変化する、このように考えると「はい」「いいえ」で答えられない問題であるということを伝えたかったからである。冒頭の質問は「陸の上ならライオン、海の中はシャチ」というのが正解か。狭義のうつ病に対して抗うつ薬は効果があることは、(そして魔法ではないのでいわゆる「副作用」があることは)科学的事実であろう。そして、さまざまな判断に基づき抗うつ薬を使う場合には、効果と忍容性を勘案するべきであり、本論文の果たす役割はあまりにも大きい。

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ドンファン【どう愛する?】

今回のキーワード認知再構築(リフレーミング)妄想性障害統合失調症スペクトラム障害創造性夫婦カウンセリング(カップルセラピー)「ロマンス病」みなさんは、誰かを愛していますか? 愛とは何かと考えたことはありますか? 世の中には、あまたの「恋愛マニュアル」があります。そこには、どうしたら相手から愛されるか、モテるかというやり方が紹介されています。もちろん、それはそれで大事でしょう。ただそれ以上に大事なことは、どうしたら相手をうまく愛せるかという心のあり方ではないでしょうか?今回は、愛をテーマに、映画「ドンファン」を取り上げます。主人公は「愛の貴公子ドンファン」と名乗る青年。現代のニューヨークに、マント衣装に黒マスクという時代錯誤な格好で現れます。失恋を理由にビルの屋上に上がり、「名誉の死」を望むと言って騒ぎを起こしたことで、精神鑑定のために精神科病院に入院することになります。そこで彼は、主治医になったジャックに自分の愛の遍歴を語り始めます。彼の語る壮大な愛のストーリーにジャックは引き込まれ、やがてジャックも愛を語り始めるのです。それでは、「ドンファン」という恋愛ファンタジーを通して、創造性と妄想の二面性のメンタルヘルスを学びつつ、愛するとは何か、どうしたら相手をうまく愛せるのか、そして、より良いパートナーシップとは何かを探り、いっしょに愛の本質に迫っていきましょう。どう相手を見るの?ドンファンは、ジャックに「自分はドンファン。あなたはドンオクタビオ。ここはあなたの館だろう。」と言い、客人のように振る舞っています。ジャックが「もしここが精神科病院できみが患者で私が主治医だと言う人がいたら?」と問いかけると、ドンファンは「その人は狭いものの見方しかできないのだ」「私はものごとを心の目で見るからだ」と言い返します。彼は続けて、「例えば、私が美しいという女性を『美しくない』と言う人もいる。鼻が大きいとか、やれお尻が大きすぎるとか、胸が小さいとか。だが、私には女の真価が分かる。どの女性も美しく神々しく完璧だ。なぜなら、私は一面的な物の見方をしないからだ」と説きます。さらに、「女性は、私の前では素直だ。なぜなら、私が、女の奥に秘められた美しさを見いだし、それを愛するからだ。それと同じように、ここが病院だとしても、私の目にはあなたのすばらしい館なのだ。そして、あなたは私と同じ愛の貴公子。今は道を見失っているだけだ」と言い切ります。実は、ジャックは、初老を迎え、仕事への情熱を失い、数日後の引退を決意していました。妻とも倦怠期を迎え、人生に飽き飽きしていました。ドンファンは、そんなジャックの心の内を見抜き、言い当てたのでした。ものごとには、プラス面とマイナス面があります。問題なのは、マイナス面があることではなく、プラス面に目を向けない自分の考え方であり、心のあり方であるということです。そして、それは、ものごとだけでなく、人間にも当てはまります。相手をどう見るのか? どう見たいのか? もっと言えばどう見いだしたいのか? つまり、マイナスな点をいくつも探し出して不平不満を言い続けるのか、プラスな点を見いだしてより良い関係を築きたいのか? それは自分次第であるということです。ちなみに、ドンファンの考え方は、心理セラピーで行われている認知行動療法の認知再構築(リフレーミング)、ナラティブセラピーのオルタナティブストーリー、交流分析の脚本などに重なります。ドンファンは正常なの?ドンファンは、叙事詩やオペラに登場する伝説上の愛の貴公子になりきっていました。彼は、メキシコで生まれ育ち、家庭教師の人妻と不倫して、父親が愛と名誉の決闘で亡くなり、その後に母は修道女になったと語ります。続けて、彼は不運にも奴隷船でアラブの国に連れて行かれ、なりゆきでハーレムにいる1000人以上の女性と愛を交わします。そして、その後に乗った船が難破して彼一人だけエロス島に漂着し、最愛の恋人のドンナアナに巡り合い、激しく愛し合い、やがて失恋します。彼の語る生い立ちは、壮大なストーリーなのでした。一方で、ジャックが入手した情報によると、ドンファンには本名があります。アメリカの片田舎で生まれ育ち、父親は交通事故で亡くなり、母親は確かに修道女になっていますが、彼とのかかわりははっきりしません。3か月前から祖母宅で暮らし始めますが、彼の部屋の壁には黒マスクをしているグラビアアイドルの写真が張り巡らされ、机には「ドンファン」の叙事詩が置いてありました。ドンファンは、ジャックに「ここが精神科病院であなたが精神科医だということは私も承知している」とも言っています。強制入院が継続されるかを判定する審問会では、ドンファンは判事に「好きだったグラビアアイドルが連絡しても相手にしてくれなかった。生きる望みがなくなって死にたい気持ちになった。それをみんなに知ってもらいたくてハデな騒ぎを起こしただけです。本当に死のうと思ったわけではない」とまともな振る舞いをして、無事に自由の身になります。果たしてドンファンは正常なのでしょうか? 答えは、正常とは言えないです。客観的に考えれば、彼の話は事実と大きく異なっており、突飛で荒唐無稽です。体系化した誇大妄想があります。誇大妄想をもとにして自殺企図もみられていました。ただし、自殺企図は一度だけであり、反省を見せています。このように、ある程度の病識があり、周りに合わせることができている点で、社会生活は著しく障害されているとは言えなくなります。よって、診断は、妄想性障害となります。ドンファンには治療が必要なの?気難しい精神科病院の院長は、「ドンファンは統合失調症だ。早く薬を飲ませてほしい」とジャックに何度も迫ります。果たしてドンファンに薬物治療が必要でしょうか? 答えは、現時点では必ずしも必要ではないです。確かに、より広い診断では、統合失調症スペクトラム障害と言えますが、統合失調症と限定はできないです(グラフ1)。統合失調症は、妄想性障害よりも症状の種類が多く、また症状の程度が重いです。一方、ドンファンは妄想の世界と現実の世界の折り合いを付けて、社会生活を送っています。これが治療不要の理由です。ただし、今後に心理的なストレスが強まるなどで重症化して社会生活が難しくなれば、統合失調症に診断変更されます。このように、統合失調症スペクトラム障害は、「スペクトラム(連続体)」としてつながっていると理解することができます。なぜ妄想は「ある」の?それにしても、ドンファンが語る愛の言葉は神秘的で、聞く者の五感をしびれさせ、くすぐります。出会う女性たちを喜ばせるだけでなく、ジャックをも、妻を恋する男に変貌させます。そして、何より、完璧な愛の世界こそが、ドンファンの生きる支えになっています。彼の信念とも言えます。ジャックは、ドンファンの妄想のプラス面に気付いたのでした。そもそも、なぜ妄想は「ある」のでしょうか? 病気の症状と言ってしまえばそれまでですが、時代や場所を問わず、ある一定の人に見られ、普遍性があります。その答えを進化心理学的に掘り下げてみましょう。原始の時代、私たちヒトは、チンパンジーと共通の祖先と別れた700万年前から、体と同じく心(脳)も進化させました。特に、約10~20万年前に喉の構造が進化して、複雑な発声ができるようになり、言葉を話すようになりました。そして、言葉によって、抽象的な思考ができるようになりました。その時からです。道具、建築、芸術、文学、宗教、政治などの文化が爆発的に発展していきました(文化のビッグバン)。これが、創造性です。一方、この創造性の心理が過剰になれば、思い込みや思い入れとなり、合理性とは相容れないマイナス面が出てきます。この状態が妄想と呼ばれているのです。つまり、創造性と妄想はコインの表と裏ということです。そして、妄想という診断は、一面的なものの見方に過ぎないということです。愛するとは?ドンファンはジャックに説きます。「五感全てが愛で満たされるような女に出会ったことはあるか?」「心の安らぎを与えてくれる女だ」「彼女に出会ったことで私は生を受け、彼女を失うことは死を意味する」「人生で大切な問題は4つしかない。神聖とは何か?心は何からできているのか?何のために生きるのか?何のために死ぬのか?その答えは全て同じ。愛だけだ」と。ドンファンは情熱的です。彼には打算やコスパなどの合理的な発想はありません。まさに妄想とも言える相手への一途な思い入れこそが、結び付きをより強めます。進化心理学的に考えれば、創造性は、男女の仲を深め子孫を残すという恋愛において特に重要な役割を果たしてきたと言えるでしょう。「愛は盲目」とはよく言ったものです。これこそが人間らしさであり、恋愛の魅力でもあります。どう愛する?ドンファンは「愛の達人が本当の快楽を感じるのは、エクスタシーそのものよりも、彼の腕の中で女が花開いたと知る瞬間だ」と語ります。彼の語る愛とは、相手を満たすことに満たされることです。つまり、相手に喜びを与えることが大事であるということです。そんなドンファンの話を聞いていくうちに、やがてジャックは「情熱なくして人生はない」と言い始めます。ドンファンによって、ジャックの消えかけた情熱の心に火が点いたのでした。ジャックは30年以上連れ添った妻のマリリンへの情熱を取り戻し、愛を語るようになっていくのです。ジャックは、ドンファンを治そうとして、逆に治されたのでした。より良いパートナーシップとは?ここから、ジャックがマリリンにどう愛を伝えるようになったかを通して、夫婦関係(パートナーシップ)をより良いものするための夫婦カウンセリング(カップルセラピー)のエッセンスを主に3つ挙げてみましょう。(1)どう喜ばせる?-愛情表現-愛情の燃料タンクを満たす1つ目は、相手を喜ばせるための愛情表現です。その方法を具体的に5つ挙げてみましょう。ジャックは、マリリンを見つめ続け、「君の目がきれいだ」「きみは素晴らしい女性だ」と言い始めます。1つ目は相手への賞賛、感謝、思いやりなどの愛の言葉です。その後に、ジャックはマリリンを豪華なディナーに誘い、宝石を差し出します。2つ目はプレゼントです。プレゼントは愛情を形にするシンボルです。さらに、ジャックは、マリリンに「寝室に行こう」とよく誘うようになり、肌の触れ合いが増えます。3つ目は、手つなぎ、キス、ハグ、セックスなどのスキンシップです。また、ジャックは太っていますが、筋トレマシンを購入して筋トレに励むようになります。痩せて、マリリンに見直してもらうためです。4つ目は、相手のために労力をかけ尽くすサービスです。分かりやすいのは、家事や育児を率先してやることでもあります。ある時は、ジャックは勤務時間中にマリリンに会いたくなり、早退します。そして、家でマリリンとポップコーンを飛ばして遊びます。5つ目は、いっしょに充実した時を過ごす夫婦の時間です。これは、ただ話を聞く、ただそばにいることも含めて、相手を最優先にすることです。このように、5つの愛情表現を日々行うことで、相手とのパートナーシップをより強めることができます。例えるなら、愛情表現という燃料をこつこつ溜めることによって、相手の愛情の燃料タンクを満たしておくことができます。パートナーシップの強さは、この燃料タンクの満たされ具合であり、空っぽでは危ういというわけです。(2)どう向き合う?-愛情の決め事-愛情の羅針盤を持つジャックはマリリンに「今まで自分のことばかり考えてて、君が何を望んでいるか気付かなかったんだよ」と打ち明けます。2つ目は、相手と向き合うための愛情の決め事です。相手と本音で語り、相手が何を望んで、何を望んでいないかを理解し、受け入れることです。その方法を具体的に3つ挙げてみましょう。1つ目は、完遂です。これは、できる限り相手の望みを叶えると決めることです。これは、自分がしてあげたいことではなく、相手がしてもらいたいことをすることです。例えば、先ほどの5つの愛情表現について、女性が男性に望みやすいのは、愛の言葉やプレゼントです。一方、男性が女性に望みやすいのは、スキンシップやサービスです。さらに、子どもができれば、女性は男性に育児の分担のサービスをより望むようになるでしょう。男女ともにパートナーシップが長くなれば、夫婦の時間をより望むようになるでしょう。このように、性別やライフステージによって相手の望みが変わることを踏まえて、相手の望みを探り、できるだけ叶えると自発的に決めることです。中には、自分が自然にやりたくない相手の望みもあるでしょう。たとえそうだとしても、相手への愛のためにやるのです。やる価値があると信じることです。その分、それだけ大きな愛情表現となるのです。この意味でも、愛は妄想でもあり、信念でもあります。2つ目は、折り合いです。これは、どうしてもできないことには折り合いを付けることです。相手の望みでどうしてもできないこともあるでしょう。例えば、能力、体力、金銭、絶対的な時間においてできないこともあります。必ずしも相手の望みを全て受け入れることが愛ではないです。そうしてしまうと、一方が言いなりになり、もう一方がわがままになりやすくなります。このようなフラットではない関係(共依存)は危ういです。どうしてもできない場合は、お互いに歩み寄る理性的な話し合いをすることです。また、その時に一方が譲歩したとしても、その次はもう一方が譲歩するというバランス感覚が重要です。その時は不公平であっても、長い目で見たら公平になることを目指すことです。つまり、愛情の決意は、お互いに敬意を払うという対等な友情関係に根ざしていることです。そして、これを可能にするのは、やはり日々、相手の望みを叶えてパートナーシップを強めていることです。3つ目は、棚上げです。これは、どうしても折り合わないことは棚上げすることです。そもそも生まれ育った家族の文化はお互いに違います。特に、信条、信念、支持政党、時に宗教などの抽象的なことにまで、折り合いを付ける必要はないでしょう。折り合わなくても、理解することはできます。その話題に触れなければ良いだけの話です。折り合いを付けるのは、主に共同生活を心地良くするための具体的な行動です。大事なのは、折り合うことではなく、折り合わなくてもぶつからないようにすることです。また、たとえぶつかって言い合いになった時も、最後にはユーモアやおふざけをあえてして、場を和ませることです(リペアメントアテンプト)。このように、3つの愛情の決め事を意識することで、相手とのパートナーシップをより強めることができます。例えるなら、自分の愛情の羅針盤を持つことです。この羅針盤によって、進むべき道を知り、やるべきことがブレにくくないます。パートナーシップの強さは、この羅針盤の正確さであり、羅針盤を持たなければ危ういというわけです。(3)どう分かち合う?-愛情の再確認-愛情の航路を描くジャックはマリリンに「引退した日に、これから旅に出よう。きみの全てが知りたい。君の希望とか夢とか」と問いかけます。マリリンは「そう言ってくれるなんて今まで思わなかった」と微笑むのです。3つ目は、相手と分かり合うための愛情の再確認です。その方法を具体的に3つ挙げてみましょう。1つ目は、夫婦の歴史です。これは、これまで相手と苦楽を共にした過去を良い思い出として振り返ることです。それは、いっしょに苦しいことを乗り越えて楽しいことを分かち合えたという夫婦のロマンスの積み重ねでもあります。2つ目は、夫婦の心のつながりです。これは、今いっしょにいることが幸せであると相手に伝えることです。相手の今がんばっていることや逆に不安に思っていることに興味を持ち、相手をより良く知り、分かち合っていてつながっていることにロマンスを感じることです。3つ目は、夫婦の夢です。これは、これから相手といっしょに成し遂げたい未来に思いを馳せることです。夫婦としていっしょにいることは、それ自体が目的であると同時に、夫婦のこれからのロマンスを実現するための手段でもあると考えることです。このように、過去、現在、未来という3つの愛情の再確認をすることで、相手とのパートナーシップをより強めることができます。例えるなら、相手との愛情の航路を描くことです。そうすることによって、夫婦としていっしょにいる価値を見いだし、パートナーシップは揺るぎないものになるでしょう。愛とは「ロマンス病」ジャックはラストシーンで「私の名はドンオクタビオ。世界一の精神科医だ。1000人以上の患者を治療した」「妻は、麗しのドンナルシータ。私の人生の灯火だ」と語ります。そして、「ドンファンは『ロマンス病』だった。残念なことに治療法はない」「しかも困ったことに伝染性が高いのだ」と結びます。ドンファンのおかげで、ジャックも愛の貴公子になれたのでした。愛するとは、愛情の燃料タンクを満たし、愛情の羅針盤を頼りに、愛情の航路を描くことで、順風満帆な時や嵐の時を経て、人生という大海原をパートナーといっしょに進み続けることでしょう。そして、この古くて新しい「ドンファン」をより良く理解することで、私たちも「ロマンス病」に伝染して、明日から愛の貴公子を名乗ることができるのではないでしょうか?1)井村裕夫:進化医学、羊土社、20132)臨床精神医学、心の進化と精神医学、アークメディア、2011年6月号3)ジョン・M・ゴッドマン:結婚生活を成功させる七つの原則、第三文明社、20074)ゲーリー・チャップマン:愛を伝える5つの方法、いのちのことば社、2007

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自閉スペクトラム症小児のうつ病や発達障害併発と兄弟姉妹の関連

 兄や姉を持つ自閉スペクトラム症(ASD)の小児において、標準的なメンタルヘルスの社会的要因(家庭の収入、親の教育、小児期の逆境的体験など)を管理した後のうつ病、不安、行動の問題または注意欠如症(ADD)や注意欠如多動症(ADHD)の有病率について、米国・セント・ジョン・フィッシャー大学のGuillermo Montes氏が調査を行った。Maternal and child health journal誌オンライン版2018年2月10日号の報告。 2011~12年の米国子ども健康調査(National Survey of Children's Health)のデータを用いて、ASD小児1,624例を、一人っ子、長子、兄姉ありの3群に分類した。クロス集計の補正デザイン、単変量・多変量ロジスティック回帰を推定した。 主な結果は以下のとおり。・3群のASD小児は、年齢を除く人口統計学的特徴、小児期の逆境的体験、親によるASD重症度の報告について同程度であった。・兄姉のいるASD小児では、うつ病、不安、行動の問題を有する割合が有意に低かった。また、ADDまたはADHD診断率も低かった。・調整されたオッズ比は、0.12~0.53の範囲であり、強い関連性が示唆された。 著者らは「兄や姉のいるASD小児は、他のASD小児と比較し、メンタルヘルスの障害を併発する可能性が低かった。逆に、長子や一人っ子のASD小児は、これらのリスクが高かった。ASD小児においてこのことがどのように寄与するか理解するため、さらなる研究が必要である。また、一人っ子や長子のASD小児に対する介入に、それが適応できるかを検討することが求められる」としている。■関連記事自閉症とADHD症状併発患者に対する非定型抗精神病薬の比較ADHD発症しやすい家庭の傾向母親の体格がADHD、自閉症リスクと関連か

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抗うつ薬21種の有効性と忍容性を検討~522試験のメタ解析/Lancet

 うつ病(大うつ病性障害)成人患者において、検討した21種の抗うつ薬は、すべてプラセボより有効であることが確認された。ただし、プラセボに対するオッズ比は有効性が2.13~1.37、忍容性(中止率)が0.84~1.30と幅があった。英国・オックスフォード大学のAndrea Cipriani氏らが、これまでに実施された抗うつ薬21種に関する比較臨床試験計522件のシステマティックレビューとメタ解析で明らかにした。うつ病は、世界的に最も頻度が高く、疾病負荷が大きな、医療費がかかる精神障害の1つで、一般的に心理学的介入よりも抗うつ薬による治療が行われている。新規抗うつ薬の増加に伴い、個々の患者に最善の治療薬を選択するためのエビデンスが必要とされていた。著者は、「今回の結果は、エビデンスに基づいた治療を行ううえで患者と医師にとって重要なものであり、ガイドラインや医療政策の策定においてもさまざまな抗うつ薬の相対的なメリットを参照すべきである」とまとめている。Lancet誌オンライン版、2018年2月21日号掲載の報告。抗うつ薬の無作為化二重盲検比較試験のデータを統合 研究グループは、Cochrane Central Register of Controlled Trials、CINAHL、EMBASE、LILACS database、MEDLINE、MEDLINE In-Process、PsycINFO、規制当局のウェブサイトにて、2016年1月8日までに報告された抗うつ薬の無作為化二重盲検比較試験(非公表も含む)について検索し、うつ病成人患者(18歳以上の男女)の急性期治療として使用された第1および第2世代の抗うつ薬21種に関するプラセボまたは実薬対照比較試験を解析に組み込んだ。準ランダム化試験や、双極性障害、精神病性うつ病または治療抵抗性うつ病患者を20%以上組み込んだ試験などは除外した。 Cochrane Handbook for Systematic Reviews of Interventionsに従い試験のバイアスリスクを評価するとともに、GRADE frameworkを用いてエビデンスの質を評価した。主要評価項目は、有効性(奏効率)と忍容性(治療中止率:あらゆる理由で治療を中止した患者の割合)とし、ランダム効果モデルによるペアワイズおよびネットワーク・メタ解析を用い、要約オッズ比(ORs)を算出した。21種の抗うつ薬すべてがプラセボと比較すると有効 検索した論文2万8,552報から、適格試験522件(計11万6,477例)が解析に組み込まれた。有効性については、ネットワーク・メタ解析の結果、プラセボと比較すると21種の抗うつ薬すべてが有効であった。ORsはアミトリプチリンの2.13(95%確信区間[CrI]:1.89~2.41)が最も高く、reboxetineの1.37(95%CrI:1.16~1.63)が最も低かった。忍容性については、agomelatine(0.84、95%CrI:0.72~0.97)とfluoxetine(0.88、0.80~0.96)のみがプラセボより有意に中止が少なく、クロミプラミン(1.30、95%CrI:1.01~1.68)はプラセボより有意に中止が多かった。 実薬の直接比較では、agomelatine、アミトリプチリン、エスシタロプラム、ミルタザピン、パロキセチン、ベンラファキシン、vortioxetineは他の抗うつ薬よりも有効であったが(ORs範囲:1.19~1.96)、fluoxetine、フルボキサミン、reboxetine、トラゾドンは効果が低かった(ORs範囲:0.51~0.84)。 忍容性については、agomelatine、シタロプラム、エスシタロプラム、fluoxetine、セルトラリン、vortioxetineは他の抗うつ薬よりも良好であったが(ORs範囲:0.43~0.77)、アミトリプチリン、クロミプラミン、デュロキセチン、フルボキサミン、reboxetine、トラゾドン、ベンラファキシンは中止率が高かった(ORs範囲 1.30~2.32)。 522試験中、46試験(9%)はバイアスリスクが高く、エビデンスの質は「非常に低い」~「中」にわたるもので、380試験(73%)が「中」、96試験(18%)が「低」であった。

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新しいドパミン受容体パーシャルアゴニスト、ブレクスピプラゾール

 ブレクスピプラゾールは、アリピプラゾールと同クラスの新規ドパミン受容体パーシャルアゴニストの抗精神病薬である。オーストラリア・モナッシュ大学のJudy Hope氏らは、ブレクスピプラゾールについてのレビューを行い、アリピプラゾールとの比較を行った。Australasian psychiatry誌2018年2月号の報告。 主な結果は以下のとおり。・ブレクスピプラゾールは、アリピプラゾールと同様に、ドパミンD2およびセロトニン5-HT1A受容体に対しパーシャルアゴニストとして作用し、セロトニン5-HT2Aおよびノルアドレナリンα1B受容体に対しアンタゴニスト作用を示す薬剤である。・しかし、ブレクスピプラゾールとアリピプラゾールは、さまざまな受容体に対する作用の強さが有意に異なる。・ブレクスピプラゾールの抗精神病作用は、アリピプラゾールと同等であると予測されるが、アカシジア、錐体外路系副作用(EPS)、賦活化がより少ない可能性がある。・承認申請時の臨床試験において、ブレクスピプラゾールは、短期的および長期的な研究で、抗精神病作用が認められており、抗うつ薬治療抵抗性うつ病患者に対する補助療法として有効であることもわかっている。・アカシジアは、軽度の体重増加やプロラクチン上昇と同様に、治療早期に発現する。 著者らは「ブレクスピプラゾールは、承認申請時の臨床試験データから、アリピプラゾールと同等の有効性を有し、アカシジアを発現しづらいことが示唆されている。また、米国においては、アリピプラゾールと同様に、統合失調症および抗うつ薬治療抵抗性うつ病に対して承認されている。今後、より多くの臨床経験が必要ではあるが、ブレクスピプラゾールは、アリピプラゾールとは異なると考えられ、精神疾患や気分障害の治療における代謝機能への影響の少ない新たな抗精神病薬の治療選択肢となりうる」としている。■関連記事開発中のブレクスピプラゾール、その実力は本当にアリピプラゾールは代謝関連有害事象が少ないのか高プロラクチン血症、アリピプラゾール切り替えと追加はどちらが有効か

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