来てもらう力 ――“受援力”の不足が命取りになることもある【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第5回

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公開日:2025/09/01

地震や豪雨など、予測できない災害。その時、地域の医療を担う医師として、戸惑いや不安を感じる先生も少なくないかもしれません。本連載では、岡山大学 救命救急・災害医学講座 主任教授 中尾 篤典氏監修のもと、災害発生時に被災地の医師が直面するであろう課題と、それに対する具体的な対応策を解説します。いざという時に冷静に対応するための実践的ガイドとして、ぜひご活用ください。

「支援を断ってしまった」現場のリアル

とある災害発生から数日が経過し、ある中規模病院では断水と停電が続く中、自家発電で最低限の機能を維持していました。しかしスタッフは疲弊し、外来は停止、入院患者への対応も限界を迎えていました。物資の枯渇や搬送困難な重症患者の滞留など、課題は山積みでした。

そんな状況下で、DMAT、日本赤十字、NGOなど複数の医療支援チームが到着し、「支援に入ります」と申し出ました。しかし現場責任者は、困惑しながら以下のように返答しました。

「申し訳ありません。今は受け入れ調整の余裕がなく、対応できません…」

支援が不要だったのではなく、支援チームを“受け止める”仕組みが整っていなかったため、自己紹介や物資配置、指揮命令系統の確認など受け入れ調整作業自体が大きな負担となり、断念せざるを得なかったのです。

この事例は、「支援が来ても、それを受け入れる余力がなければ活用できない」という受援側の構造的課題を示しています。

受援力とは何か──BCPへの組み込みと演習の重要性

災害が起きたとき、医師や看護師の多くは「支援する側」としての役割を想定しがちです。しかし、この災害大国・日本では、病院勤務医も、開業医も、福祉施設の関係者も、「支援される側」になることが十分にありえます。

支援チームを受け入れることは、単に「来た人に任せる」ことではありません。誰が案内し、どこに待機させ、どの業務を任せるのか。その想定ができていなければ、せっかくの支援も混乱の原因になりかねません。

“受援力”とは、外部支援を的確に受け入れ、医療体制に組み込み、機能させる能力を指します。被災地ではサージキャパシティを超えた状況が常態化するため(表1, 2)、平時からBCP(事業継続計画)に「受援計画」を明確に盛り込み、定期的な訓練や教育を通じて体験的に習熟しておくことが必要です1)

(参考文献1より引用)

信頼できる支援者を見極める視点

もうひとつ見落とされがちなポイントとして、支援者の信頼性評価があります。支援チームの中にはDMATのようにトレーニングされた組織だけでなく、被災地での活動経験が浅い組織や、連携体制が不十分なチームも玉石混交で集まっています。

支援チームが似たようなユニフォームや車両を用いて活動している場合、見た目だけでは識別が難しいです。だからこそ、災害救助法の改正により進められている「被災者援護協力団体の登録制度2)」や、EMT(Emergency Medical Team)国際ガイドライン3)に準じた認証制度のような、公的な裏付けを知ったうえで確認することも重要です。

また、支援チーム同士が集約され、被災地の医療・福祉・行政との調整を図る保健医療福祉調整本部のような体制があれば、窓口として連携することで混乱を最小化できます4~6)

支援を受ける覚悟と責任

「支援を受ける側の責任」という表現に抵抗を感じる方もいるかもしれません。しかし、支援チームは無尽蔵ではなく、来ることが「当然」ではありません。とくに南海トラフや首都直下地震のような広域同時多発災害が想定される場合、支援リソースは限られ、先着順で枯渇する可能性があります。

そのため、受援は準備と覚悟を要する「戦略的行動」です。支援を断るリスクは、医療の停滞だけでなく、スタッフの疲弊、患者への不利益、地域全体の対応力低下など、多方面に及びます。

「来てもらう力」は、命をつなぐ力

災害対応では、「助けてほしい」と言える勇気と、「助けを使いこなす」力が求められます。支援を受けるという行為は、無力さではなく、連携と合理性の象徴です。自分たちだけで乗り切ることが正義ではありません。限られた人員と資源のなかで、いかに外部の力を活かすか。これからの災害医療において、“受援力”こそが生死を分ける力となるのです。

複数の支援団体が被災地で活動する 写真提供:筆者

講師紹介

稲葉 基高 ( いなば もとたか ) 氏岡山大学病院 救命救急科 医員

[略歴]

2004年長崎大学医学部医学科卒業。大阪済生会千里病院千里救命救急センターなどでの勤務を経て、2013年岡山済生会総合病院救急科医長。2018年より特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン、「空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”」プロジェクトリーダー。2019年より現職。国際支援に加え、西日本豪雨や能登半島地震の被災地で医療機関や避難所の支援に入った。統括DMATなどの資格を持つ。救急専門医、消化器外科指導医。
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