停電・断水下の避難所診療、現場の医師が迫られる判断は?【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第2回

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公開日:2025/07/16

地震や豪雨など、予測できない災害。その時、地域の医療を担う医師として、戸惑いや不安を感じる先生も少なくないかもしれません。本連載では、岡山大学 救命救急・災害医学講座 主任教授 中尾 篤典氏監修のもと、災害発生時に被災地の医師が直面するであろう課題と、それに対する具体的な対応策を解説します。いざという時に冷静に対応するための実践的ガイドとして、ぜひご活用ください。

停電・断水下の避難所診療、現場の医師が迫られる判断は?

大規模災害発生から2日目の夜。停電と断水が続く中、ある避難所に医療チームが臨時診療所を設置しました。避難者は300人以上、高齢者が多数を占め、冷え込んだ体育館に雑魚寝状態。照明もなく、トイレも使えない劣悪な環境です。

  • 停電・断水下の避難所の様子 写真提供:筆者

その中に、車椅子に座ったまま動けずにいる高齢女性がいました。避難後から排泄もできず、表情には疲弊の色が濃い状態でした。声をかけると意識は清明です。本人は「横になると、もう起きられなくなる」と訴えました。右下腿に痛みと軽度の腫脹を認めましたが、身体診察は困難でした。仰臥位も拒否し、視診・触診にも限界があります。診療スペースは避難者の目の前の一角であり、プライバシーも照明も十分に確保できない状況です。

この状況下で患者さんを診る場合、どのように評価し、判断し、次の行動につなげればよいでしょうか? 検査、処置、搬送判断、避難所内外のケアなど、現場の医師は多くの判断を迫られます。

限られた環境での診察

避難所では、通常の医療とはまったく異なる制約の中で判断と対応を迫られます。この事例では、持参したポータブルエコーを活用し、腓骨の遠位部に骨折を疑う所見を確認しました。X線が使えない環境においても、エコーによる骨折のスクリーニングは非常に有用で、とくに四肢長管骨骨折では感度93%、特異度92%という報告もあります1)

応急処置として、簡易シーネで患部を固定しましたが、問題はその後の対応でした。避難所にとどめておくことは不適切であり、まずは近隣病院に問い合わせました。しかし病院側もすでに手一杯で受け入れ困難でした。被災地外の医療機関までは6時間以上かかる道路状況です。結局、翌朝再評価のうえ、手術適応がなければ福祉避難所への移送を検討する方針としました。

診断のその先へ:適切な支援につなげるための連携

災害時には高齢者が自力で避難しない・できないケースが多いことは世界的にも報告されており2)、こうした複雑な調整が必要な場面では、DMAT本部や行政が設置する保健医療福祉調整本部との連携が重要です。患者の搬送先の調整や、リソースの割り振りを一元的に把握している本部が存在すれば、支援チームの動きも円滑になります。しかし現実には、その連携が整う前に、目の前の判断を迫られることも少なくありません。「誰かが搬送してくれるだろう」と考えるのではなく、自ら搬送先を確保し、手段を調整し、必要なら自分たちで搬送を行うという覚悟が求められます。

この症例から学べることは、「診断技術」よりも、「要支援者をいかに適切な支援につなげるか」という視点です。とくに高齢者や要介護者は災害時要配慮者であり、その生活の質や命に直結する判断を、きわめて限られた条件下で求められます。迷ったとき、「この人が自分の家族だったらどうするか」を問い直すことで、行動が変わることがあります。そして、その一歩を踏み出す覚悟が、医療者の災害対応を支える原動力になるのだと思います。

講師紹介

稲葉 基高 ( いなば もとたか ) 氏岡山大学病院 救命救急科 医員

[略歴]

2004年長崎大学医学部医学科卒業。大阪済生会千里病院千里救命救急センターなどでの勤務を経て、2013年岡山済生会総合病院救急科医長。2018年より特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン、「空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”」プロジェクトリーダー。2019年より現職。国際支援に加え、西日本豪雨や能登半島地震の被災地で医療機関や避難所の支援に入った。統括DMATなどの資格を持つ。救急専門医、消化器外科指導医。
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