特許切れの悪夢(製薬企業にとって)と新薬開発(解説:後藤信哉氏)
製薬企業にとって自社製品の特許切れは大きな痛手である。直近ではARB、クロピドグレルなどの特許切れが業界に大きなインパクトを惹起した。日本ではあまり実感しないが、米国では特許切れと同時に価格が10分の1以下のジェネリック品に置き換わる。新薬開発メーカーは特許期間内に手厚く守られると同時に、特許切れショックを覚悟する必要がある。2019年、世界で最も売れた薬(AnswersNews)を見ると、アピキサバンが2位(134億ドル!)、リバーロキサバンが第4位(103億ドル)となっている。すなわち、両者ともに1兆円を超える売り上げが毎年ある。特許が切れれば売り上げは急速にゼロになる。現在の仕組みでは、利潤をゆっくり上げることはできない。投資の損失を短期間に回収し、同時に特許切れに備えた革新的新薬開発が必須である。DOACはいずれも、第III相試験の結果を「エビデンス」として特許期間内の販売戦略に利用してきた。Xa阻害薬を超える有効性、安全性を持つ新薬を開発しないと特許切れに耐えられないが、特許期間内にはXa阻害薬の欠点が論じられると売り上げが落ちる。抗血栓薬の開発メーカーは現在の膨大な利潤を保持しつつ、現在のXa阻害薬の欠点を明らかにして、その欠点を乗り越える新薬を速やかに開発しなければならないとの困難な状態に置かれている。