CLEAR!ジャーナル四天王|page:9

妊娠高血圧腎症予防のための低用量アスピリン投与は今後妊娠28週までの投与が基本となるか(解説:前田裕斗氏)

妊娠高血圧腎症予防のため、発症ハイリスク妊婦への妊娠初期からの低用量アスピリン投与は、標準的な治療になってきている。アスピリンの妊娠高血圧腎症予防機序はまだ不明な点もあるが、抗炎症作用や酸化ストレスの軽減から胎盤形成の障害を予防する効果があるとされ、そのため胎盤形成が行われる妊娠初期からの投与が望ましいと考えられている。一方、投与終了期間については一定した報告がなく、分娩時出血が増える可能性が報告されていることから36週での投与終了としている国が多い。

推定GFR値を、より正確に知る―欧州腎機能コンソーシアムの報告―(解説:石上友章氏)

慢性腎臓病(CKD)は、21世紀になって医療化された概念である。その起源は、1996年アメリカ腎臓財団(NKF:National Kideny Foundation)による、DOQI(Dialysis Outcome Quality Initiative)の発足にまでさかのぼることができる。2003年には、ISN(International Society of Nephrology:国際腎臓学会)によりKDIGO(Kidney Disease Improving Global Outcomes)が設立され、翌2004年に第1回KDIGO Consensus Conference(CKDの定義、分類、評価法)が開催され、血中クレアチニン濃度の測定を統一し、estimated GFRを診断に使用することが提唱された。その結果、現代の腎臓内科学は、Virchow以来の細胞病理・臓器病理に由来する、原因疾患や、病態生理に基づく医学的な定義に加えて、血清クレアチニン値による推定糸球体濾過量(eGFR)を診断に用いる『慢性腎臓病(CKD)』診療に、大きく姿を変えた。CKDは、心腎連関によって、致死的な心血管合併症を発症する強い危険因子になり、本邦の成人の健康寿命を著しく脅かしていることが明らかになっている。KDIGOの基本理念として、CKDは糖尿病・高血圧に匹敵する主要な心血管疾患(CVD)のリスクファクターであり、全世界的対策が必要で、誰でも(医師でなくても)理解できる用語の国際的統一を呼び掛けた。したがって、CKD対策とは腎保護と心血管保護の両立にある。腎臓を標的臓器とする糖尿病、高血圧については、特異的な治療手段があり、原疾患に対する治療を提供することで、腎障害の解消が期待される。eGFRの減少は、CKDの中核的な病態であるが、その病態を解消する確実な医学的な手段はなかった。これまで、栄養や、代謝、生活習慣の改善を促すこと以外に、特異的な薬物治療は確立されていない。しかし、近年になって、糖尿病治療薬として創薬されたSGLT2阻害薬が、血糖降下作用・尿糖排泄作用といった薬理作用を超えた臓器保護効果として、心不全ならびに、CKDに有効な薬剤として臨床応用されている。SGLT2阻害薬は、セオリーにすぎなかった心腎連関を、リアル・ワールドで証明することができた薬剤といえるのではないか。推定GFRの評価は、CKD診療の基本中の基本であり、原点にほかならない。人種、性別、年齢による推定式が用いられているが、万能にして唯一の推定式とはいえなかった。Pottel氏らの研究グループは、「調整血清クレアチニン値」に代わって、「調整シスタチンC値」に置き換えた「EKFC eGFRcys式」の性能を評価した研究を報告した(Pottel H, et al. N Engl J Med. 2023;388:333-343.)。

転移性去勢抵抗性前立腺がんでPARP阻害薬rucaparibは有効(解説:宮嶋哲氏)

rucaparibはポリ(ADPリボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害薬であり、第II相試験ではBRCA遺伝子変異を伴う転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)患者で高い活性を示した。本研究は、BRCA1、BRCA2、またはATM変異を伴うmCRPC患者において、第2世代アンドロゲン受容体経路阻害薬(ARPI)治療後に病勢進行を認めた患者に対して、rucaparib、もしくはドセタキセルまたは第2世代ARPIを2:1で割り付けたランダム化第III相試験(TRITON3試験)である。主要評価項目は画像評価によるPFSである。スクリーニングを受けた4,855例のうち、270例がrucaparib投与群、135例が対照群に割り付けられた。各群でのBRCA変異症例は201例、101例に認められた。

オールシングスマストパス~高齢者の抗うつ薬の選択についての研究の難しさ(解説:岡村毅氏)

従来のRCTの論文とはずいぶん違う印象だ。無常(All Things Must Pass)を感じたのは私だけだろうか。この論文、老年医学を専門とする研究者には、突っ込みどころ満載のように思える。とはいえ現実世界で大規模研究をすることは大変であることもわかっている。順に説明していこう。2種類の抗うつ薬に反応しないものを治療抵抗性うつ病という。こういう場合、臨床的には「他の薬を追加する増強療法」(augmentation)か「他の種類の薬剤への変更」(switch)のどちらを選択するべきかというのは臨床的難問だ。これに対して、うつ病一般においてはSTAR*Dなどの大規模な研究が行われてきた。本研究はOPTIMUM研究と名付けられ、やはりNIH主導で大規模に行われた。

2つの血友病遺伝子治療、durability(耐久性)とanti-AAV5 capsid antibodiesがポイント(解説:長尾梓氏)

NEJM誌2023年2月23日号に血友病Aと血友病Bの遺伝子治療の結果が同時に掲載され、「NEJM、粋なことをするなぁ」と世界中が思っているはずだが、注目ポイントはdurability(耐久性)とanti-AAV5 capsid antibodiesの存在だ。valoctocogene roxaparvovecはBioMarin Pharmaceuticalが開発したAAV5ベースの血友病Aの遺伝子治療で、2022年に欧州医薬品庁(EMA)に承認されRoctavianという商品名で販売許可を得ている。残念ながら2023年3月11日時点では米国食品医薬品局(FDA)からの承認は得ていない。

多剤耐性抗結核治療薬を用いた薬剤感受性結核の治療期間短縮トライアル(解説:栗原宏氏)

結核は、発展途上国を中心に年間約1千万人が発症、約160万人が死亡する疾患である。日本国内では減少傾向ではあるものの、2021年には約1.1万人が新規に登録され、約2千人が死亡している。結核の治療は結核菌の耐性化予防が非常に重要であり、多剤併用、長期間投与が基本となる。一方、複雑な治療方法や長期間の治療は患者の服薬アドヒアランスの低下、ひいては治療失敗、耐性化の原因にもなり得る。このような背景の下、結核治療は治療期間の短縮が模索されてきた。

2022年11月以降の中国・北京における新型コロナウイルス流行株の特徴(解説:寺田教彦氏)

本研究は2022年1月から12月までに収集された新型コロナウイルスサンプルについて、次世代シーケンサーを用いた遺伝子解析結果を報告している。本研究結果からは、2022年11月14日以降の中国・北京における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行時の主流はBA.5.2とBF.7で、新規亜種は検出されなかったことが報告された(「北京では22年11月以降、新たな変異株は認められず/Lancet」、原著論文Pan Y, et al. Lancet. 2023;401:664-672.)。

軽症から中等症のCOVID-19外来患者において、フルボキサミンはプラセボと比較して症状改善までの期間を短縮せず(解説:寺田教彦氏)

本研究では、軽症から中等症のCOVID-19外来患者で、フルボキサミンが症状改善までの期間を短縮するか評価が行われたが、プラセボと比較して症状改善までの期間を短縮しなかったことが示された。フルボキサミンは、うつ病や強迫性障害などの精神疾患に使用される選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)であり、比較的安価な薬剤である。COVID-19流行初期において、このフルボキサミンは、サイトカインの産生を制御するσ-1受容体のアゴニストとして機能することから、臨床転帰の改善効果を期待して臨床試験が行われた。初期の臨床試験では有効性を示した報告もあり、ブラジルで行われたプラセボ対照無作為化適応プラットフォーム試験(TOGETHER試験)でも有効性が示されていた。そして、これらの研究に基づいたsystematic reviewやCochrane COVID-19 Study Registerでは、フルボキサミンは28日の全死因死亡率をわずかに低下させる可能性や、軽症COVID-19の外来および入院患者の死亡リスクを低下させる可能性があると評されていた。

パーキンソン病の淡蒼球超音波アブレーション試験(解説:内山真一郎氏)

パーキンソン病では黒質線条体ニューロンの鉄濃度が上昇しており、酸化ストレスや細胞死に関与していると考えられる。実際、初期の研究では鉄のキレート剤であるdeferiproneがパーキンソン病患者の鉄濃度を減少させることが示唆されているが、その効果については不明であった。FAIR PARK-II試験はドーパミン製剤をまだ投与されていない、パーキンソン病と新規に診断された372例においてdeferiproneの有効性と安全性を評価した第II相プラセボ対照無作為化比較試験であった。

左房後壁は隔離すべきなのか?(解説:高月誠司氏)

発作性心房細動に対するカテーテルアブレーションで確立された治療は電気的な肺静脈隔離術である。これは異論がない。ただし左心房と肺静脈は連続した組織であり、その境界を厳密に決めることは実は容易ではない。なるべく広範囲に肺静脈を隔離するということが大事なのだが、それは肺静脈内で焼灼すると肺静脈狭窄を起こす可能性があるのと、肺静脈と左房の接合部付近、前庭部と呼ばれる部分も十分に隔離するためでもある。

医療用医薬品の患者向け広告が米国では問題になっている(解説:折笠秀樹氏)

品物を販売する企業には販売促進費(広告宣伝費)があります。いくら良い品物でも宣伝しないと広く使われないためでしょう。販売促進費(販促費と略す)の総売上に対する割合は、分野によってずいぶん異なります。自動車・教育・外食産業などの数パーセント程度に対して、医薬品は5~15%程度と少し高いようです。最も高いとされるのが化粧品のようです。医療用医薬品は医師の処方箋が必要な医薬品で、それが主の企業では5~10%程度のようですが、一般用医薬品が主の企業では10~15%と少し高めです。一般用医薬品はドラッグストアなどで気軽に買えるということで、広告宣伝にかなり力を入れているのでしょう。処方箋なしで買える医薬品はOTC医薬品と呼ばれ、薬剤師の関与が必要なものと必要ないものに分かれています。後者がいわゆる一般用医薬品です。従来は大衆医薬品と呼んでいたものです。

妊婦の感染、オミクロン株でも重篤化や妊娠合併症増加と関連(解説:前田裕斗氏)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は妊娠中に母体および胎児への有害事象を引き起こすことが示されており、妊娠前および妊娠中にはワクチン接種が強く推奨されている。一方、現在主流となっているオミクロン株について、妊娠経過や胎児への影響およびワクチンの有効性についての大規模かつ多施設からの報告はなかった。今回の研究(INTERCOVID-2022試験)は18ヵ国41病院を通じて行われ、世界保健機関(WHO)がオミクロン株に対する懸念を表明した2021年11月27日から、2022年6月30日までに4,618人の妊婦が被験者として登録された。

線溶薬を変えても結果は変わらないかな?(解説:後藤信哉氏)

ストレプトキナーゼによる心筋梗塞症例の生命予後改善効果が示された後、フィブリン選択性のないストレプトキナーゼよりもフィブリン選択性のあるt-PAにすれば出血リスクが減ると想定された。分子生物学に基づく遺伝子改変が容易な時代になったので各種の線溶薬が開発された。しかし、循環器領域ではフィブリン選択性の改善により出血イベントリスク低減効果を臨床的に示すことはできなかった。本研究ではt-PAよりもさらに修飾されたtenecteplaseとの有効性、安全性の差異が検証された。tenecteplaseは野生型のt-PAよりも血液中の寿命が長いとされた。しかし、臨床試験にて差異を見出すことができなかった。

脳卒中治療は心筋梗塞治療の後追いをしているね(解説:後藤信哉氏)

心筋梗塞症例の院内死亡がアスピリン、ストレプトキナーゼにて減少できることは、ISIS-2試験により示された。原因が血栓なので、フィブリン選択的線溶薬を使い、各種抗凝固薬、抗血小板薬を併用したが、有効性イベントの減少を明確に示すことはできなかった。アルガトロバンは日本が開発した世界に誇る選択的トロンビン阻害薬である。経静脈投与できるので急性期の症例に使いやすい。線溶薬に抗トロンビン薬を追加すれば、急性脳梗塞を起こした血栓は再発しにくいと想定されるが、臨床試験ではアルガトロバン追加の効果を明確に示すことができなかった。

アルドステロン合成酵素に対する選択性を100倍にしたbaxdrostatによる第II相試験の結果は、治療抵抗性高血圧症に有効である可能性が示された―(解説:石上友章氏)

高血圧症は、本邦で4,000万人が罹患するといわれている、脳心血管病の最大の危険因子である。降圧薬は、市場規模の大きさから多くの製薬企業にとって、開発・販売に企業の持っているリソースの多くを必要とするカテゴリーの製品であった。医療サイドにとっては、その患者数の多さと健康寿命に与える影響の重要さから、確実で安全な医療の提供の実現が求められている。公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団の調査によると、あらゆる薬剤の中で、降圧薬の貢献度・満足度がきわめて高いことが示されている。降圧治療は、疾病の克服において、これまでに人類が手にした治療薬として、きわめて高い水準の完成度に達したといえる。

過渡期に差し掛かったコロナ感染症:今後の至適ワクチンは?(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

本論評ではWinokur氏らの論文をもとに先祖株(武漢原株)とOmicron株BA.1に対応する2価ワクチンの基礎的知見を整理すると共に先祖株/BA.5対応2価ワクチンの基礎的、臨床的意義に言及する(BA.4とBA.5のS蛋白塩基配列は同じで、厳密には“BA.4/5対応”という表現が正しいが本論評では“BA.5対応”と簡略表記する)。さらに、今後のコロナ感染制御に必要な近未来のワクチンについても考察する。

血友病A治療は新時代へ、スーパーイロクテイトの発売間近(解説:長尾梓氏)

BIVV001の名前で知られているefanesoctocog alfa(エフアネソクトコグ アルファ、国内で承認申請中)の第III相試験であるXTEND-1試験の結果がNEJM誌2023年1月26日号に掲載された。注目ポイントは、50 IU/kg週1回の定期投与で投与から約4日間は第VIII因子活性が40%を上回っており、7日目のトラフも15%(平均)と非常に高いこと。その結果、もちろんABRは低く抑えられ、試験開始前の定期補充療法への優越性が示されたこと(p<0.001)。さらに、出血イベントは74%がオンデマンド群でみられたが、出血の97%がefanesoctocog alfa(50 IU/kg)の1回の注射により消失したことである。

アスピリンでいいの?(解説:後藤信哉氏)

骨折症例は肺塞栓症などの致死的静脈血栓リスクが高いと認識されている。欧米諸国では静脈血栓予防の標準治療は低分子ヘパリンである。皮下注射といえども注射と経口の差異は大きい。血栓イベント予防が目的であれば経口薬が好ましい。静脈血栓予防におけるアスピリンの有効性については長年の議論がある。無効とも言いにくいが、抗凝固薬よりも有効性が乏しいと一般に理解されていると思う。しかし、本論文のintroductionに記載されているようにアスピリンと低分子ヘパリンとのしっかりしたランダム化比較試験が施行されてきてはいない。

経皮的脳血栓回収術後の血圧管理について1つの指標が示された(解説:高梨成彦氏)

経皮的脳血栓回収術はデバイスの改良に伴って8割程度の再開通率が見込まれるようになり、再開通後に出血性合併症に留意して管理する機会が増えた。急性期には出血を惹起する薬剤を併用する機会が多く、これには血栓回収術に先立って行われるアルテプラーゼ静注療法、手術中のヘパリン静注、術後の抗凝固薬・抗血小板薬の内服などがある。 出血性合併症を避けるためには降圧を行うべきであるが、どの程度の血圧が適切であるかについてはわかっていない。そのため脳卒中ガイドライン2021では、脳血栓回収術後には速やかな降圧を推奨しており、また過度な降圧を避けるように勧められているが具体的な数値は挙げられていない。

トラセミド、お前もか?―心不全における高用量利尿薬の功罪(解説:原田和昌氏)

心不全は心血管系の器質的および機能的不全であり、多くは体液量の異常と神経体液性因子の異常を伴う。過剰な体液量状態すなわちうっ血をとるため利尿薬を用いるが、急性心不全に利尿薬を大量投与するとWRFを起こし予後を悪化する可能性がある。また、長期の高用量利尿薬投与はRAS系の亢進を起こし心不全の予後を不良にする。これまで生命予後をエンドポイントとした利尿薬の大規模臨床試験は基本的にネガティブ・スタディであった。聞くところによると、利尿薬は心不全の予後改善治療ではないということで、2016年のESC心不全ガイドラインの最終稿の直前まで割愛されていたが、最後になって加えられたとか、Voors先生が担当したCKDの項が大幅に減らされたとぼやいておられたことは記憶に新しい。近年、多少の利尿作用を有し心不全の予後を改善する治療薬が使用可能になり、利尿薬に対する理解が深まってきた。