EU加盟国間にも健康格差が

提供元:ケアネット

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公開日:2009/01/15

 



欧州連合(EU)加盟25ヵ国間には50歳時の健康生存年(HLY)に実質的な格差が存在することが、イギリスLeicester大学健康科学科のCarol Jagger氏らの調査で明らかとなった。この知見は、EU全体の健康状態が大幅に改善されなければ、すべての国で高齢者の就業率を向上させるのは困難なことを示唆するという。Lancet誌2008年12月20/27日号(オンライン版2008年11月17日号)掲載の報告。

HLYは各国間のばらつきが大きく、GDPや高齢者ケア費用と正相関




EU加盟国では平均寿命が延長しているが、良好な健康状態で過ごす期間が増加しているかは明らかにされてない。これらの情報は高齢者の保健コストの抑制や就業率の向上の決め手となる可能性がある。

研究グループは、2005年のEU加盟25ヵ国の50歳時における寿命およびHLY、さらに高齢者の就業率向上の可能性について調査を行った。性別、国別の50歳時の寿命とHLYはEUの人口統計であるEurostatの生命表を適用したSullivan法で算出した。また、2005年の生活・所得状況調査の統計データから年齢別の身体活動の制限状況を算定した。

2005年のEU加盟25ヵ国においては、50歳時の身体活動の制限のない寿命は男性が67.3歳、女性が68.1歳であった。50歳時のHLYは、男女ともに寿命に比べて各国間のばらつきが大きかった(男性:エストニア9.1年~デンマーク23.6年、女性:エストニア10.4年~デンマーク24.1年)。

国内総生産(GDP)および高齢者ケアの費用は、男女ともに50歳時のHLYと有意な正の相関を示した(p<0.039)。一方、男性の長期失業率は50歳時のHLYが長いほど有意に低く(p=0.023)、生涯学習率は50歳時のHLYが長いほど有意に高かった(p=0.021)が、女性にはこのような有意な差は認めなかった。

これらの知見により、著者は「EU加盟国間には50歳時のHLYに実質的な格差が存在する」と結論したうえで、「国民の健康状態の大幅な改善が実現されなければ、EU加盟25ヵ国のすべてにおいて高齢者の就業率を向上させるのは困難なことが示唆される」と考察している。

(菅野守:医学ライター)