肥満治療では、近年、減量効果の高い薬物の導入が進み、治療の様相が急速に変化するとともに医療費も急増している。また、肥満は複雑な慢性疾患との認識が高まり、治療成功の尺度を減量のみに依存することは、有益性と有害性を過度に単純化するだけでなく、スティグマを助長する恐れが指摘されている。中国・四川大学のKailei Nong氏らは、各種の肥満治療薬は1年後の体重減少効果がさまざまで、全般的に効果が大きいほど有害事象や投与中止のリスクも高く、ほとんどの薬剤は生活の質(QOL)に意義のある改善をもたらさず、心血管系への有益性を認めるものはほとんどないことを示した。研究の成果は、BMJ誌2026年7月8日号で報告された。
ネットワークメタ解析による最新エビデンス
研究グループは、過体重または肥満の成人における肥満治療薬の有益性と有害性に関する最新のエビデンスの概要を提示し、施策立案者や臨床医、患者の意思決定に資することを目的に、関連文献の系統的レビューとネットワークメタ解析を行った(Noncommunicable Chronic Diseases-National Science and Technology Major Projectなどの助成を受けた)。
2025年11月12日の時点で、医学関連データベースに登録された文献を検索した。対象は、1つ以上の薬剤を、ライフスタイルの是正、プラセボ、または他の薬剤と比較し、試験期間が12週間以上の無作為化対照比較試験とした。
チルゼパチド、CagriSemaで約15%の減量効果
ネットワークメタ解析には、19種類の薬剤を評価し、追跡期間が12~172週間の262件の試験(参加者9万9,791例)が含まれた。全体の年齢中央値は49.0歳、女性の割合中央値は63.3%、BMI中央値は34.7、体重中央値は96.8kgであり、追跡期間中央値は26週間だった。102件の試験が、バイアスリスクが低いと判定された。
エビデンスの確実性が「中」から「高」の試験において、ライフスタイル是正単独の群と比較して、1年後の時点で有意な体重減少が得られた薬剤は次のとおりであった。
最も減量効果が高かったのは、チルゼパチド(平均差:-14.9%、95%信頼区間[CI]:-16.0~-13.9)およびcagrilintide-セマグルチド(商品名:CagriSema)(-14.8%、-16.9~-12.7)であった。
経口セマグルチド(平均差:-10.9%、95%CI:-12.7~-9.1)、orforglipron(-9.9%、-12.4~-7.5)、皮下セマグルチド(-9.8%、-10.6~-9.1)、phentermine-トピラマート(-8.1%、-9.7~-6.5)は、減量効果が中等度であった。
また、エビデンスの確実性が「非常に低」から「低」の試験において、新規薬剤(ecnoglutide、mazdutide、retatrutide)の高い減量効果(平均差の幅:13.1~14.6%)の可能性が示された。
有害事象による投与中止、消化器症状、疲労
エビデンスの確実性が「中」から「高」の試験において、有害事象による投与中止のリスクが最も高かったのは、orforglipron(リスク比:4.2、95%CI:2.3~7.6)であり、次いでnaltrexone-bupropion(2.3、1.8~2.9)、リラグルチド(2.2、1.8~2.9)、phentermine-topiramate(2.2、1.6~3.1)、CagriSema(2.1、1.4~3.4)、経口セマグルチド(1.9、1.1~3.3)の順であった。
また、消化器系有害事象のリスクは、naltrexone-bupropion(リスク比:4.2、95%CI:3.0~5.8)で最も高く、次いで経口セマグルチド(3.6、2.5~5.3)、orforglipron(3.2、2.0~5.2)、チルゼパチド(3.1、2.4~3.9)の順だった。
疲労のリスクは、とくにnaltrexone-bupropion(リスク比:8.9、95%CI:2.1~37.4、年間1,000人当たり331人の絶対増加)で高く、orforglipron(3.4、95%CI:1.9~6.0、100人の増加)とCagriSema(3.2、2.6~4.0、92人の増加)でも高かった。
死亡、心筋梗塞の減少は皮下セマグルチドのみ
チルゼパチドは、脂肪量を最も大幅に減少させた(平均差:-25.7%、95%CI:-30.8~-20.6)が、除脂肪量も大きく低下した(-8.3%、-12.9~-3.7)。
皮下セマグルチドのみが、全死因死亡率(リスク比:0.81、95%CI:0.72~0.93)および心筋梗塞(0.72、0.61~0.85)の減少と関連しており、これらの推定値は主に高リスク集団を対象とした心血管アウトカム試験によるものだった。
また、皮下セマグルチド(リスク比:0.43、95%CI:0.21~0.84)とチルゼパチド(0.49、0.27~0.88)は、心不全のリスクを低減させた。チルゼパチドは、心不全による入院のリスクが最も低かった(0.47、0.24~0.91)。
QOLを改善した薬剤はない、有益性と有害性のトレードオフを考慮すべき
エビデンスの確実性が「中」から「高」の43件の試験(参加者4万5,663例)において、1年後のQOL(SF-36で評価)が、確立された最小重要差(minimally important difference、ベースラインから10点の改善)を超えて改善した薬剤はなく、ライフスタイル是正単独群との変化量の平均差はすべて5点未満であった。
薬剤の投与量や主な患者特性に関するサブグループ解析では、長期間の試験(皮下セマグルチド)における大幅な体重減少を除き、治療の相対的な効果に、信頼に足る差は認めなかった。
著者は、「チルゼパチドとCagriSemaは、最大の体重減少を達成したが、全般的に、より大きな利益には、投与中止、消化器症状、疲労、除脂肪体重の減少のリスクが伴った」「体重減少を認めたにもかかわらず、どの薬剤も1年後のQOLが改善しなかった」とまとめている。
また、「これらの知見に基づき、臨床現場での判断においては、患者との共同意思決定の枠組みの中で、有益性と有害性のトレードオフを考慮すべきである」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)