アミロイドβ(Aβ)およびリン酸化タウ(p-tau)タンパク質の蓄積を特徴とするアルツハイマー病の神経病理学的所見は、主に高齢者の検体のバイオマーカーを用いて評価しており、中年期の血漿バイオマーカーの状態や、その認知機能との関連はほとんど知られていないという。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のXiaqing Jiang氏らは、これらの血漿バイオマーカーによって定義されるアルツハイマー病の神経病理学的陽性所見は、相対的に頻度は低いものの、中年期にも検出可能であり、認知能力の低下やその加速と関連し、特定の集団においてより強い関連性を持つ可能性があることを示した。研究の成果はLancet誌2026年5月30日号で報告された。
米国の前向きコホート研究
研究グループは、中年期におけるアルツハイマー病の神経病理学的所見を示す血漿バイオマーカーの特徴と認知能力との関連を検証する目的で、地域ベースの前向きコホート研究を実施した(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]などの助成を受けた)。
解析には、Coronary Artery Risk Development in Young Adults(CARDIA)研究の参加者のデータを用いた。CARDIA研究では、1985~86年に米国の4市で年齢18~30歳の黒人と白人5,115人を登録した。
認知機能は、30年目と35年目に5つの標準化された検査で測定した。また、血漿中のAβ42、Aβ40、p-tau217濃度を測定し、p-tau217/Aβ42比とAβ42/Aβ40比を算出した。
アルツハイマー病の神経病理学的状態(陰性、中間的、陽性)は、各バイオマーカー(p-tau217/Aβ42、p-tau217、Aβ42/40)について、アミロイドPETで検証したカットオフ値に基づいて定義した。
アルツハイマー病の神経病理学的所見と、認知機能(Zスコア)および認知機能の急速な低下との関連を、多変量線形回帰とロジスティック回帰を用いて評価した。
処理速度と実行機能の能力低下と関連
1,350人が解析の対象となった。平均年齢は61(SD 3.6)歳(範囲:53.0~69.0)、779人(58%)が女性、613人(45%)が黒人、737人(55%)が白人であった。
アルツハイマー病の神経病理学的所見の、バイオマーカー別の陽性者は、p-tau217/Aβ42で86人(6%)、Aβ42/40で196人(15%)、p-tau217で48人(4%)であった。
これは、処理速度に関する能力低下と関連し(アルツハイマー病の神経病理学的所見の陽性群と陰性群を比較した標準化認知機能差が、Aβ42/40、p-tau217、p-tau217/Aβ42で-0.54~-0.25の範囲、p=0.0001~0.0048)、実行機能の能力低下とも関連した(-0.42~-0.19の範囲、p=0.0070~0.049)。
また、アルツハイマー病の神経病理学的所見の陽性者は陰性者と比較して、言語性記憶(Aβ42/40のオッズ比[OR]:4.31[95%信頼区間[CI]:1.71~10.9]、p-tau217/Aβ42のOR:2.44[1.16~5.13])、処理速度(p-tau217のOR:3.98[95%CI:1.71~9.3]、p-tau217/Aβ42のOR:3.35[1.77~6.35])の加速度的低下のオッズが上昇していた。
早期発見での価値を強調する知見
一方、これらの血漿バイオマーカーは、全般的認知機能(global cognition)や流暢性(fluency)とは関連しなかった。
また、一貫性はみられなかったが、血漿バイオマーカーと認知機能の関連にはいくつかの効果修飾が観察され、女性や黒人の参加者、およびAPOEε4保有者においてより強い関連性を認めた。
著者は、「これらの知見は、アルツハイマー病は臨床症状が現れる数十年前に始まっているという概念を裏付けており、一般住民における早期発見のための血漿バイオマーカーの潜在的な価値を強調するものである。血漿バイオマーカーを用いたアルツハイマー病の神経病理学的所見の早期検出は、リスクの低減や薬物療法などによる、中年期の成人に対する時宜にかなった予防や介入を可能にすると考えられる」としている。
また、「手軽な血液検査によってアルツハイマー病の初期の神経病理学的変化を有する個人を特定できれば、認知症の発症の遅延や予防を目的とした戦略や臨床試験の対象を絞り込むのに役立ち、臨床現場と公衆衛生施策の両方に重要な示唆を与える」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)