LVEF軽度低下の心筋梗塞、β遮断薬の有用性は?/Lancet

提供元:ケアネット

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公開日:2025/09/17

 

 左室駆出率(LVEF)が低下した(<40%)心筋梗塞患者では、β遮断薬の有効性を強く支持するエビデンスがあるが、LVEFが低下していない(≧40%)心筋梗塞患者へのβ遮断薬療法に関しては、最近の4つの無作為化試験の結果は一致せず(有益性を認めたのは1試験のみ)、LVEFが軽度低下した(40~49%)サブグループにおける治療効果についてはどの試験も検出力不足であった。スペイン・Centro Nacional de Investigaciones Cardiovasculares Carlos III(CNIC)のXavier Rossello氏らは、LVEF軽度低下の心筋梗塞入院患者におけるβ遮断薬の有効性の評価を目的に行った個別の患者データを用いたメタ解析を実施。心不全の既往歴や臨床徴候がないLVEF軽度低下を伴う急性心筋梗塞患者において、β遮断薬療法は全死因死亡、新規心筋梗塞、心不全の複合エンドポイントの発生を減少させたことを示した。研究の成果は、Lancet誌2025年9月13日号で発表された。

LVEFが40~49%の患者、4試験・1,885例を解析

 研究チームは、心不全の既往歴や臨床徴候がなく、LVEFが軽度低下した(40~49%)心筋梗塞患者を対象に含め、発症後14日以内に無作為化を行い、経口β遮断薬療法の長期効果(追跡期間中央値1年超)を検討した無作為化対照比較試験の論文(2000年1月1日以降に発表)を調査した(本研究はCNICなどの助成を受けた)。

 LVEF≧40%の心筋梗塞患者を対象とした4つの試験(REBOOT、BETAMI、DANBLOCK、CAPITAL-RCT[日本の67施設の試験、801例])に参加したLVEFが40~49%の患者1,885例(全体1万4,418例の13%)を解析に含めた。

 主要エンドポイントは、全死因死亡、新規心筋梗塞、心不全の複合とした。

 β遮断薬群が991例(年齢中央値63歳[四分位範囲[IQR]:55~71]、男性791例[80%]、LVEF中央値45.0%、PCI 95%)、非β遮断薬群が894例(同62歳[55~71]、735例[82%]、45.0%、96%)であった。追跡期間中央値は3.5年(IQR:2.3~4.5)。

主要複合エンドポイントが有意に優れる

 主要複合エンドポイントの発生率は、非β遮断薬群が14%(129/894例、43.0/1,000人年)であったのに対し、β遮断薬群は11%(106/991例、32.6/1,000人年)と有意に低かった(ハザード比[HR]:0.75[95%信頼区間[CI]:0.58~0.97]、p=0.031)。4つの試験間(交互作用のp=0.95)、および患者を登録した5ヵ国間(スペイン、イタリア、デンマーク、ノルウェー、日本)(p=0.98)で、治療効果の異質性は認めなかった。

 5つの主な副次エンドポイントはいずれも、両群間に有意差はみられなかった。(1)全死因死亡(β遮断薬群6%[58例]vs.非β遮断薬群8%[69例]、HR:0.78[95%CI:0.55~1.11])、(2)新規心筋梗塞(4%[39例]vs.5%[46例]、0.77[0.50~1.18])、(3)心不全(3%[30例]vs.4%[39例]、0.71[0.44~1.14])、(4)心臓死(2%[14例]vs.3%[23例]、0.55[0.28~1.06])、(5)予期せぬ冠動脈血行再建術(4%[35例]vs.4%[38例]、0.83[0.52~1.31])。

2つの安全性エンドポイントに差はない

 2つの安全性のエンドポイントにも両群間で差はなかった。(1)脳卒中による入院(β遮断薬群1%[13例]vs.非β遮断薬群1%[7例]、HR:1.70[95%CI:0.68~4.25])。(2)症候性進行性(第2度または3度)房室ブロック(1%[12例]vs.1%[11例]、1.00[0.44~2.27])。

 著者は、「これらの結果は、LVEFが低下した心筋梗塞患者におけるβ遮断薬療法の既知の有益性を、軽度に低下した患者サブグループにまで拡張するものである」「今後の研究は、LVEFが保持された(LVEF≧50%)患者に焦点を当てるべきである」としている。

(医学ライター 菅野 守)

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コメンテーター : 佐田 政隆( さた まさたか ) 氏

徳島大学大学院 医歯薬学研究部 循環器内科学 教授

J-CLEAR評議員