血栓溶解療法後の早期tirofiban、脳梗塞の予後を改善/NEJM

提供元:ケアネット

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公開日:2025/07/23

 

 軽症~中等症の非心原性脳梗塞患者で、血栓回収療法が適応とならず、発症後4.5時間以内に静注血栓溶解療法を受けた患者において、その後1時間以内にプラセボを投与した群と比較して血小板糖蛋白IIb/IIIa受容体拮抗薬tirofiban投与群は、36時間以内の症候性頭蓋内出血のリスクがわずかに増加したものの、90日後の修正Rankinスケールで評価した機能的アウトカムが有意に改善されたことが、中国科学技術大学のChunrong Tao氏らASSET-IT Investigatorsが実施した「ASSET-IT試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年7月4日号で報告された。

中国の第III相無作為化プラセボ対照比較試験

 ASSET-IT試験は、脳梗塞における静注血栓溶解療法後の早期tirofiban投与の有効性と安全性の評価を目的とする第III相二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2024年3月~9月に中国の38施設で参加者を登録した(Fundamental Research Funds for Central Universitiesの助成を受けた)。

 年齢18歳以上、急性期非心原性脳梗塞と診断され、血栓回収療法が適応ではなく、NIHSSスコアが4~25点で、発症(または最終健常確認時刻)から4.5時間以内に静注血栓溶解療法(アルテプラーゼまたはtenecteplase)を受けた患者を対象とした。

 これらの患者を、静注血栓溶解療法終了から1時間以内にtirofibanまたはプラセボを24時間で静注する群に無作為に割り付けた(静注血栓溶解療法終了から55分以内に無作為化を行い、無作為化から5分以内に投与を開始)。

 有効性の主要アウトカムは、90日の時点での優れた機能的アウトカム(修正Rankinスケールスコアが0[まったく症状がない]または1[何らかの症状はあるが、日常的な活動はすべて行える]点と定義)の割合とした。安全性の主要アウトカムは、36時間以内の症候性頭蓋内出血(修正SITS-MOST基準で評価)および90日以内の死亡であった。

90日以内の死亡に差はない

 832例(年齢中央値69歳[四分位範囲[IQR]:59~76]、女性301例[36.2%]、NIHSSスコア中央値6点[IQR:5~9])を登録し、tirofiban群に414例、プラセボ群に418例を割り付けた。血栓溶解薬は、患者の75%でアルテプラーゼ、25%でtenecteplaseが使用された。

 また、健常確認時刻から静注血栓溶解療法開始までの時間中央値は、tirofiban群155分(IQR:111~206)、プラセボ群170分(129~220)、静注血栓溶解療法終了から無作為化までの時間中央値は、それぞれ29分(12~47)および30分(13~47)だった。プラセボ群の1例が90日経過前に追跡調査から脱落した。

 90日の時点で修正Rankinスケールスコア0/1点を達成した患者の割合は、プラセボ群が54.9%(229/417例)であったのに対し、tirofiban群は65.9%(273/414例)と有意に優れた(リスク比:1.20[95%信頼区間[CI]:1.07~1.34]、p=0.001)。

 36時間以内の症候性頭蓋内出血は、tirofiban群で1.7%(7/414例)に発現し、プラセボ群では0%であった(リスク差:1.71[95%CI:0.45~2.97])。90日以内の死亡は、それぞれ4.1%(17/414例)および3.8%(16/417例)に認めた(リスク比:1.07[0.55~2.09])

バーセルインデックス95~100点達成割合も良好

 副次アウトカムである90日時の修正Rankinスケールスコア0~2(2点:軽度の障害[発症前の活動がすべて行えるわけではないが、自分の身の回りのことは介助なしに行える])点の達成割合は、tirofiban群80.4%(333/414例)、プラセボ群72.7%(303/417例)であった(リスク比:1.11[95%CI:1.03~1.19])。

 また、90日時のバーセルインデックス(0~100点)が95~100点(日常的な活動に支障を来す障害がない)の達成割合は、それぞれ77.1%(319/414例)および70.5%(294/417例)だった(リスク比:1.09[1.01~1.19])。

 著者は、「本試験の知見は、プラセボに比べtirofibanは出血リスクを増加させる可能性があるものの、全般的な安全性プロファイルは血栓溶解療法を受ける患者で予想される範囲内であることを示唆する」「これらの結果の一般化可能性を制限する可能性のある要因として、(1)中国のみで実施された試験、(2)比較的軽症の脳卒中患者を登録、(3)心房細動の既往歴を有する患者を除外、(4)脳卒中の既往歴を有する患者の割合が高い、(5)適格例のかなりの数が試験への参加を拒否したため選択バイアスが生じた可能性がある点が挙げられる」としている。

(医学ライター 菅野 守)