「未確定の潜在能を持つクローン性造血(clonal hematopoiesis of indeterminate potential:CHIP)」は加齢に伴う病態で、がん患者における死亡率の上昇と関連する。腫瘍で変異アレル頻度(VAF)の高いCHIP変異が検出されることがあり、英国・フランシス・クリック研究所のOriol Pich氏らは、この現象を「腫瘍浸潤性クローン性造血(tumor-infiltrating clonal hematopoiesis:TI-CH)」と呼ぶ。同氏らは、今回、TI-CHは非小細胞肺がん(NSCLC)患者のがん再発や死亡のリスクを高め、固形腫瘍患者で全死因死亡のリスクを上昇させ、腫瘍免疫微小環境をリモデリングし、腫瘍オルガノイドの増殖を促すことを示した。研究の成果は、NEJM誌2025年4月24日号で報告された。
TRACERx研究とMSK-IMPACTコホートの患者を解析
研究グループは、TRACERx研究に参加した未治療のStageIA~IIIAのNSCLC患者421例と、MSK-IMPACT汎がんコホートの75のがん種の患者4万9,351例(原発腫瘍3万1,556例、転移性腫瘍1万7,795例)において、CHIPおよびTI-CHの特徴を評価した(英国王立協会の助成を受けた)。
TI-CHと生存および再発との関連を調査し、肺腫瘍の生物学的特徴に及ぼす
TET2変異CHIPの機能的影響について検討した。
TI-CHにより固形腫瘍患者の死亡リスクが1.17倍に
NSCLC患者では、CHIPを有する集団の42%(60/143例)にTI-CHを認めた。TI-CHは、死亡または再発のリスクが高いことの独立の予測因子であり、補正後ハザード比は、CHIPを有さない場合との比較で1.80(95%信頼区間[CI]:1.23~2.63、p=0.003)、TI-CHがなくCHIPを有する場合との比較で1.62(1.02~2.56)であった。
固形腫瘍患者では、CHIPを有する集団の26%(1,974/7,450例)にTI-CHが存在した。TI-CHがある場合の全死因死亡のリスクは、TI-CHがなくCHIPを有する場合の1.17倍(95%CI:1.06~1.29)であった。
TET2変異―TI-CHの最も強力な遺伝的予測因子
TET2変異はTI-CHの最も強力な遺伝的予測因子であった。マウスでは、
TET2変異が肺腫瘍細胞への単球の遊走を増強し、骨髄系細胞に富む腫瘍微小環境を強化し、腫瘍オルガノイドの増殖を促進することが示された。
著者は、「これらの結果は、加齢に伴う血液のクローン性増殖が腫瘍の進展に影響を与えるという考えを支持する」「がん診断にTI-CHが有用である可能性が示唆される」としている。
(医学ライター 菅野 守)