急性期脳梗塞の欧州人患者、血管内治療前のアルテプラーゼは不要か/NEJM

欧州人の急性期脳梗塞患者の治療において、血管内治療(EVT)単独はアルテプラーゼ静注後にEVTを行う通常治療と比較して、90日後の修正Rankin尺度で評価した機能障害に関して優越性も非劣性もみられず、死亡や症候性脳出血の発生にも両群間に差はないことが、オランダ・アムステルダム大学のNatalie E. LeCouffe氏らが実施した「MR CLEAN-NO IV試験」で示された。研究の詳細は、NEJM誌2021年11月11日号に掲載された。
欧州3ヵ国の医師主導無作為化試験
本研究は、急性期脳梗塞の欧州人の患者の治療におけるEVT単独の有効性と非劣性をアルテプラーゼ静注後のEVTと比較する医師主導の非盲検(エンドポイント評価者盲検)無作為化試験であり、2018年1月~2020年10月の期間に、オランダ、ベルギー、フランスの20の病院で参加者の登録が行われた(オランダCollaboration for New Treatments of Acute Stroke consortiumなどの助成を受けた)。対象は、年齢18歳以上、前方循環の頭蓋内近位部閉塞による急性期脳梗塞を発症し、各地域のガイドラインに従って、症状発症後4.5時間以内のアルテプラーゼ静注とEVTが可能と判定され、EVTが施行可能な施設に直接入院した患者であった。被験者は、EVT単独群またはアルテプラーゼ静注後にEVTを受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。
主要エンドポイントは、90日の時点における修正Rankin尺度(0[障害なし]~6[死亡]点)で評価した身体機能のアウトカムとされた。EVT単独群のアルテプラーゼ+EVT群に対する優越性とともに、非劣性の評価が行われた。2つの群のオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)が算出され、95%CIの下限値0.8が非劣性マージンとされた。
アジアの試験とは対照的な結果
539例が修正intention-to-treat解析に含まれ、273例(年齢中央値72歳[IQR:62~80]、男性59.0%)がEVT単独群、266例(69歳[61~77]、54.1%)はアルテプラーゼ+EVT群であった。通常治療群の脳梗塞発症からアルテプラーゼ投与までの時間中央値は98分(75~156)だった。90日時における修正Rankin尺度スコア中央値は、EVT単独群が3点(IQR:2~5)、アルテプラーゼ+EVT群は2点(2~5)であった。補正後共通ORは0.84(95%CI:0.62~1.15、p=0.28)であり、EVT単独群の優越性と非劣性はいずれも示されなかった。
初回頭蓋内血管造影における再開通(EVT単独群2.8% vs.アルテプラーゼ+EVT群3.7%、OR:0.79、95%CI:0.42~1.47)や、最終頭蓋内血管造影における再灌流の成功(78.7% vs.83.1%、0.73、0.47~1.13)、24時間後のCTA/MRA上の再開通(78.2% vs.84.7%、0.82、0.52~1.28)の割合にも、両群間に差はなかった。
安全性のエンドポイントである90日時の死亡率は、EVT単独群が20.5%、アルテプラーゼ+EVT群は15.8%(補正後OR:1.39、95%CI:0.84~2.30)、症候性脳出血の発生率はそれぞれ5.9%および5.3%(1.30、0.60~2.81)であり、いずれも両群間に有意な差は認められなかった。
著者は、「前方循環脳梗塞のアジア人患者を対象とする既報の試験(中国のDIRECT-MT試験とDEVT試験)では、90日後の身体機能の転帰に関してEVT単独の非劣性が確認されているが、欧州人を対象とする本試験は対照的な結果となった」とまとめ、「この試験では、アルテプラーゼを投与されてから、EVTを受けるために他の病院へ転院した患者は除外されている。また、発症から病院到着までの時間が相対的に短いため、これらの知見の搬送に時間を要する環境への一般化可能性には限界がある」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)
関連記事

発症時間不明かつDWI-FLAIRミスマッチ脳梗塞、アルテプラーゼ投与は有益/Lancet
ジャーナル四天王(2020/11/19)

急性脳梗塞へのt-PA治療、door-to-needle timeが短いほど転帰良好/JAMA
ジャーナル四天王(2020/06/11)

血管内血栓摘出術前のrt-PA静注、有益かリスクか/NEJM
ジャーナル四天王(2020/05/14)
[ 最新ニュース ]

虚弱高齢者への運動+栄養介入、運動障害の発生を約2割減/BMJ(2022/05/26)

70歳以上の重症大動脈弁狭窄症、TAVI vs.大動脈弁置換術/JAMA(2022/05/26)

五月病の原因は人間関係がトップ/アイスタット(2022/05/26)

新型コロナ感染者、糖尿病リスクが高まる(2022/05/26)

抗原検査、感度のピークはいつ?再検査のタイミングは?(2022/05/26)

アルツハイマー病に対する抗認知症薬の安全性・有効性の比較~ネットワークメタ解析(2022/05/26)

米国では半数以上の親が子にサプリを与えている(2022/05/26)
[ あわせて読みたい ]
脳血管内治療STANDARD(2020/12/10)
第4回 現代の「医療マンガ」とはどうあるべきか(2019/12/27)
第3回 そのコミュニケーション・エラー、本当に自分のせいですか?(2019/12/27)
第2回 患者になって『ブラック・ジャック』を読んだらつらかった話(2019/12/25)
第1回 漫画から読み解く、患者と医療者の「視点の違い」(2019/12/20)
第4回 特別編 覚えておきたい熱中症の基本事項【救急診療の基礎知識】(2018/07/25)
今さら聞けない薬の作用~系統別にコンパクト解説~(2016/05/11)
スキンヘッド脳外科医 Dr. 中島の 新・徒然草(2016/01/14)
診療よろず相談TV シーズンII(2014/07/03)
スキンヘッド脳外科医 Dr. 中島の 新・徒然草(2014/01/20)
専門家はこう見る
欧州人では血管内治療前の血栓溶解療法は必要か?(解説:内山真一郎氏)
コメンテーター : 内山 真一郎( うちやま しんいちろう ) 氏
国際医療福祉大学臨床医学研究センター教授 山王メディカルセンター脳血管センター長
J-CLEAR評議員