第3回 そのコミュニケーション・エラー、本当に自分のせいですか?

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公開日:2019/12/27

患者と医療従事者の間に生じるコミュニケーションギャップ。誰もが少なからず感じたことがあるのではないでしょうか。2019年9月、神奈川県横浜市は、医療現場で生じるコミュニケーションギャップの改善を目的に、医療現場における「視点の違い」を描く「医療マンガ大賞」を募集しました。その受賞作決定を記念して、“SNS医療のカタチ”所属医師4人と写真家の幡野 広志氏が登壇したアフタートークイベントが12月に開催されたので、こちらで一部内容をご報告します。

第3回 そのコミュニケーション・エラー、本当に自分のせいですか?

患者・医療者それぞれの視点から描かれたコミュニケーション・エラー

エピソードNo.1 「転院/退院」(患者視点)
エピソードNo.1 「転院/退院」(医療者視点)

大塚:

このイベント、すごくおもしろいんですが、ただ1つ(いい意味での)不満があって。全員、医療現場のコミュニケーション・エラーを、全部自分の問題として落とし込んでいるんですよね。

市原(ヤンデル):

あぁ~、わかるなぁ…!

大塚:

これって、ある意味議論として成り立たないというか。もっと、人のせいにする人が世の中にはたくさんいますよね。自分が患者側としてできることはなんだろう? と考える幡野さんのような方もいらっしゃいますが、声が大きい人は「病院や医療従事者のせいだ」と言う人が多いと思いませんか?

幡野:

たしかに、コミュニケーション・エラーは医療者側ばかり責められがちですが、そもそもコミュニケーションは双方向のものですよね。僕が患者の立場で考えると、自分が悪いなと思ってしまいますし、患者側にも往々にして問題があるのではないかと感じています。お互いに相手の立場を考えることが1番大切で、そのうえで、コミュニケーション上の問題点が見えてくるのではないでしょうか。

僕はちょうど2年前に病気が発覚して、初めて入院しました。その病棟で、あるとき同年代の医師・看護師と雑談をしていたんですよ。そうしたら、80代前後の患者さんに「うるさいぞ! ここをどこだと思ってるんだ!」とすごく怒られてしまって。それ以降、“しゃべっていると怒られる”という雰囲気になってしまいました。

こういうことが続くと、初診の患者さんが来たとき、医療者は地雷を踏まないように、遠慮したコミュニケーションになってしまう。このように、患者や家族がコミュニケーションの弊害になるケースもありますよね。これにストレスを感じる医療従事者もいるでしょうし、そのストレスが患者さんにはね返ることもあります。お互いが嫌な気持ちになる環境で、悪循環に陥っているのではないかと、よく感じたのを覚えています。

第3回 患者とのコミュニケーション・エラーはどうすれば解消できるのか

幡野:

今だから言えますが、入院した当時、一人すごく苦手な看護師さんがいたんですよ。ほとんど相手にしてもらえなかったので、多分嫌われてたんですよね。僕が週末に外泊希望を出したときに、きちんと説明もなく拒否されてしまって、「まいったな」と思って。

そこで、怒ったり誰かに報告したりしてもよかったのですが、僕は「その人のことを周りに対してめちゃくちゃ褒める」という行動をとりました。「あの看護師さんとてもいい人で、すごくよくやってくれている」と、周りのスタッフに毎日伝えるんです。そうしたら、冷たい対応がぴたっと止まったんですよ。

参加者:

へえぇ…!

幡野:

そりゃそうですよね。自分のことを褒める人に対して、わざわざ嫌がることはしないです。その後、外泊ができるようになったんですよ(笑)。こういう一種の優しさから、全体が良い方向に変わるんだなと、この経験を通して思ったんです。 もしかしたら、患者さんも家族も医療者も、それぞれに少し嫌なことがあって、悪循環のなかで苦しんでいるのかもしれません。どこかで一つ優しさを始めれば、好循環が始まるんじゃないかな。

大塚:

それって、多分、優しさから始まった「スキル」の一つだと思うんですよ。僕がやっている例としては、「僕らは患者さんの病気だけじゃなくて、普段の生活にも興味を持っていますよ」と伝える一つの手段として、“カルテに患者さんと話した雑談の内容を書くこと”を意識しています。

たとえば、前回「孫の運動会に行く」と言っていた患者さんのカルテにメモしておいて、次来たときに「お孫さんの運動会はどうでしたか?」とひと言聞くんです。患者さんは、その後話しやすくなりますよね。こういう行動って、一種のスキルだと思うんですけど、表面的に捉えるだけで終わっちゃダメなんですよね。

市原(ヤンデル):

うんうん。言いたいことわかりますよ。

大塚:

幡野さんの行動も、発端が優しさであってとても素晴らしいのですが、それが「スキル」として一人歩きしてしまうと、単に「医者とうまくやるため」の手段になってしまうのが難しいところだと思います。

その行動は、お互いに「気持ちよく病院で過ごしたい」という思いがあってこそのものじゃないですか。それをしっかり言葉として伝えられる、幡野さんのような人はすごく貴重だと思います。

市原(ヤンデル):

大塚先生は、かなり慎重な言い方をしていますが、周りの人に広めるのは、直接言うのに比べて、声の総量を上げることになりますよね。つまり、幡野さんは病院のなかのネットワークを活用したんですよ。これは、得手不得手がある「スキル」と言うよりも、そこに存在する「ネットワーク」を使うかどうかという話じゃないですか? 誰にでもできるし、まさに、どこででも役に立ちそうな話ですが、それをすんなり言語化した幡野さんが素晴らしいですね。

―次回は、「医療マンガはどうあるべきか」について。白熱した議論は、どうまとまるのでしょうか。

市原 真【病理医ヤンデル@Dr_yandel】(SNS医療のカタチ/医師)

1978年生まれ。2003年北海道大学医学部卒、国立がんセンター中央病院(現国立がん研究センター中央病院)研修後、札幌厚生病院病理診断科。現在は主任部長。医学博士。病理専門医・研修指導医、臨床検査管理医、細胞診専門医。日本病理学会学術評議員(日本病理学会「社会への情報発信委員会」委員)。

堀向 健太【アレルギー専門医ほむほむ@ped_allergy】(SNS 医療のカタチ/医師)

1998年、鳥取大学医学部卒業。鳥取大学医学部附属病院および関連病院での勤務を経て、2007年、国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。日本小児科学会専門医/指導医。日本アレルギー学会専門医/指導医。日本小児アレルギー学会代議員。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初の保湿剤によるアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。2016年、ブログ「小児アレルギー科医の備忘録」を開設。

大塚 篤司【@otsukaman】(SNS医療のカタチ/医師)

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員を経て、京都大学医学部特定准教授として診療・研究・教育に取り組んでいる。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)『世界最高のエビデンスでやさしく伝える 最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)がある。2018年より、SNS時代の新しい医療の啓蒙活動を行う「SNS医療のカタチ」プロジェクト活動を行う。

山本 健人【外科医けいゆう@keiyou30】(SNS医療のカタチ/医師)

2010年京都大学医学部卒業。複数の市中病院勤務を経て、現在、京都大学大学院医学研究科博士課程在籍。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医など。「医師と患者の垣根をなくしたい」をモットーに、「外科医けいゆう」のペンネームで17年に医療情報サイト「外科医の視点」を開設。著書に『医者が教える正しい病院のかかり方』(幻冬舎)『外科医けいゆう先生が贈る初期研修の知恵』(シービーアール)がある。CareNet.comでは【外科医けいゆうの気になる話題】を連載。

幡野 広志【@hatanohiroshi】(写真家)

1983年東京生まれ。2004年日本写真芸術専門学校中退。2010年広告写真家高崎 勉氏に師事。「海上遺跡」Nikon Juna21受賞。2011年独立、結婚。2012年エプソンフォトグランプリ入賞。狩猟免許取得。2016年息子誕生。2017年に多発性骨髄腫を発病。cakesで「幡野広志の、なんで僕に聞くんだろう。」を連載中。著書に『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP研究所)『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』(ポプラ社)がある。

医療マンガ大賞

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