メタボの診断基準では心血管疾患や糖尿病を予測できない?

提供元:ケアネット

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公開日:2008/06/19

 

メタボリックシンドローム(MetS)とその構成因子は高齢者の2型糖尿病とは相関するものの、血管リスクとの関連はないか、あるいは弱いため、心血管疾患(CVD)と糖尿病のリスクを同時に予測するMetSの判定規準を策定する試みは有益でないことが、2つのプロスペクティブ試験の予後データの解析から明らかとなった。MetS診断基準はインスリン抵抗性と血管疾患の関連をよりよく理解できるように策定されたが、その臨床的な役割には疑問の声もあるという。英国Glasgow大学医学部のNaveed Sattar氏らによる報告で、Lancet誌2008年6月7日号(オンライン版2008年5月22日号)に掲載された。

PROSPERのデータを解析、BRHSで裏付け




研究グループは、MetSおよびその5つの構成因子[BMIあるいはウエスト周囲長、トリグリセライド(TG)、HDLコレステロール、空腹時血糖、血圧]が高齢者におけるCVDと糖尿病のリスクをどの程度まで予測できるかを調査した。MetSは、National Cholesterol Education Program第3報の判定規準に基づいて定義した。

Prospective Study of Pravastatin in the Elderly at Risk(PROSPER)に登録された70~82歳の非糖尿病患者4,612例において、MetSおよびその構成因子とCVDおよび2型糖尿病のイベント発生リスクの関連について解析した。次いで、得られた知見について、60~79歳の非糖尿病患者2,737例が参加したもうひとつのプロスペクティブ試験British Regional Heart Study(BRHS)のデータを用いて検証した。

個々の疾患の至適なリスクアルゴリズムの確立を目指すべき




PROSPERでは、3.2年間に772例がCVDをきたし、287例が糖尿病を発症した。MetSは、ベースライン時に疾患に罹患していない登録者のCVDリスクを上昇させなかったが(ハザード比:1.07 、95%信頼区間:0.86~1.32)、糖尿病のリスクは上昇させた(4.41、3.33~5.84)。糖尿病では、MetSのすべての構成因子のリスクが上昇したが、とくに空腹時血糖の異常が顕著であった(18.4、13.9~24.5)。CVDに罹患している参加者においても、同様の結果が得られた。

BRHSでは、7年間に440例がCVDを、105例が糖尿病を発症した。MetSはCVDリスクを中等度にしか上昇させなかったが(相対リスク:1.27、1.04~1.56)、糖尿病リスクは顕著に上昇させた(7.47、4.90~11.46)。両試験ともに、BMIあるいはウエスト周囲長、TG、血糖のカットオフ値はCVDリスクと相関しなかったが、5つの構成因子はいずれも糖尿病の新規発症との関連を示した。

Sattar氏は、「MetSとその構成因子は高齢者の2型糖尿病のリスクを上昇させるが、血管リスクとの関連はないか、あるいは弱いため、CVDと糖尿病のリスクを同時に予測するMetSの判定規準を策定する試みは有益でない」と結論し、「従来どおり、個々の疾患の至適なリスクアルゴリズムの確立に臨床的関心を向けるべきである」と指摘している。

(菅野守:医学ライター)