進行パーキンソン病の遺伝子治療、世界的に注目を集める試験で一定の成果が

提供元:ケアネット

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公開日:2007/07/05

 

掲載誌の発行前からその成果が伝えられ、発表後は日本でも一般紙などがさかんに報じている注目の研究。

 パーキンソン病では黒質のドパミン作動性ニューロンの消失によって基底核回路に変化が起き、視床下核への抑制性のγ-アミノ酪酸(GABA)作動性インプットの低下などをきたす。そのため、運動開始困難、筋硬直、振戦を特徴とする運動障害が起きる。ドパミン作動性神経伝達薬の有効性は確立されているが、進行パーキンソン病ではジスキネジアやmotor fluctuationなど許容しえない薬剤関連合併症が多くみられる。

 アメリカNYにあるコーネル大学Weill 医学部脳神経外科のMichael G. Kaplitt氏らは、運動回路内に正常な脳活性を再確立すれば、パーキンソン病の運動障害は回復するとの仮説のもと、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いてGABAの産生を促進するグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)遺伝子を視床下核ニューロンへ直接導入する遺伝子治療を試みた。Lancet誌6月23日号の報告。

高、中、低用量のAAV-GADを視床下核の片側に手術的に注入


Kaplitt氏らは、パーキンソン病12例(男性11例、女性1例、平均年齢58.2歳)を対象に、GAD遺伝子を移入したアデノ随伴ウイルスベクター(AAV-GAD)を視床下核の片側(対側半身の運動機能に対応)に手術的に注入し、その安全性および認容性を検討するオープンラベル試験を実施した。

症例選択基準は、Hoehn and Yahr stage 3以上で、少なくとも5年以上の病歴があり、薬剤効果非発現時にmotor fluctuationがみられる70歳以下の症例とした。AAV-GADを低、中、高用量投与する3群に分け、それぞれに4例ずつを登録した。臨床評価は、ベースライン(併用薬の効果発現時、非発現時)、術後1、3、6、12ヵ月後に行い、日常生活動作(ADL)の評価にはUnified Parkinson’s Disease Rating Scale(UPDRS)を用い、神経心理学的検査、PET検査を施行した。

治療関連有害事象は認めず、3ヵ月後に運動能が有意に改善、1年後も持続


全登録例が手術を受け、脱落例やフォローアップ不能例はなかった。治療に関連した有害事象は認めなかった。遺伝子治療3ヵ月後には、視床化核のAAV-GAD注入側とは対側半身の運動関連UPDRSスコアが有意に改善し(併用薬効果非発現時:p=0.0015、同発現時:p=0.01)、その効果は12ヵ月後も持続していた。PET検査では、治療側に限定的な視床部代謝の減少が確認され、臨床的運動スコアと補足運動野の脳代謝に相関が認められた。

以上の結果により、Kaplitt氏は「進行パーキンソン病において、視床下核のAAV-GAD遺伝子治療は安全で良好な認容性を示し、成人脳に対するin vivo遺伝子治療は種々の神経変性疾患に対し安全に施行可能なことが示唆された」と結論した。

なお、現在、日本で進められている遺伝子治療(自治医大神経内科・中野今治氏)では、hAADC遺伝子を組み込んだAAV-2ベクターを線条体に注入するとともにL-DOPAを経口投与する方法が採用されている。

(菅野 守:医学ライター)