硬膜外脊髄電気刺激で完全運動対麻痺患者の起立、歩行が回復

提供元:ケアネット

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公開日:2011/06/16

 



硬膜外脊髄電気刺激により、完全運動対麻痺患者の脚運動の機能回復が得られたことが、米国・ルイビル大学ケンタッキー脊髄研究センターのSusan Harkema氏らの検討で示され、Lancet誌2011年6月4日号(オンライン版2011年5月20日号)で報告された。この介入法は、重篤な麻痺患者の機能回復に有用な臨床的アプローチとして期待されるという。脊髄損傷の動物モデルでは、脊髄に対する一定期間の反復刺激や特定のタスクに最適化された運動訓練によって、運動のコントロール能が向上することが示されている。

完全運動対麻痺の23歳男性に、硬膜外脊髄電気刺激を施行




研究グループは、硬膜外脊髄刺激はヒトの脊髄回路を生理学的に調節して起立や歩行運動の感覚入力を可能にし、これらのタスクを実行する神経コントロールの起点として作用するのではないかと考え、これを検証する症例研究を実施した。

対象は、2006年7月に交通事故でC7-T1亜脱臼による対麻痺をきたした23歳の男性で、臨床的に検出可能な随意運動機能は完全に喪失していたが、T1脊髄以下の感覚は部分的に保持されていた。

26ヵ月間で170セッションの運動訓練を行ったのち、2009年12月、外科的に16列の電極をL1-S1の硬膜外に埋め込んで長期的に電気刺激を与えられるようにし、最大で250分間の脊髄刺激を行った。起立と歩行を目標に29の新たな方法を試み、さまざまな刺激の組み合わせやパラメータについて検討を行った。

重篤な麻痺患者の機能回復に有用な可能性




硬膜外電気刺激によって、男性はバランスを保つための介助だけで、自分の全体重を支えて4.25分間起立することができた。患者は、起立に最適化されたパラメータを使用した刺激を与えられている間は起立していられるようになった。

刺激パラメータを歩行に最適化すると、運動様パターンを示すことも明らかになった。さらに、電極の埋め込みから7ヵ月後には、患者は脚運動の上脊髄性のコントロールを回復したが、これは硬膜外電気刺激の施行中に限定された。

著者は、「硬膜外電気刺激を用いた特定のタスクに最適化された訓練は、完全な損傷を免れた神経回路を復活させ、可塑性を促進する可能性がある」と結論し、「これらの介入は、重篤な麻痺患者の機能回復に向けた臨床的アプローチとして有用と考えられる」としている。

(菅野守:医学ライター)