覚醒剤使用受刑者の4人に3人は小児期に逆境体験があり、希死念慮と関連

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/09/19

 

 国内の覚醒剤使用による受刑者600人以上を対象とする調査から、小児期に逆境を体験している者の割合が高く、そのことが希死念慮や非自殺性の自傷行為のリスクの高さと関連していることが明らかになった。お茶の水女子大学生活科学部心理学科の高橋哲氏らの研究によるもので、詳細は「Child Abuse & Neglect」9月号に掲載された。

 小児期の逆境体験(adverse childhood experience;ACE)が、成人後の薬物使用リスクに関連のあることが報告されている。あらゆる犯罪の中で薬物使用は最も再犯率が高く、受刑者に対する治療介入に改善の余地がある可能性が指摘されている。一方、ACEは成人後の希死念慮や非自殺性の自傷行為(non-suicidal self-injury;NSSI)のリスクとも関連があり、また受刑者が釈放された後の主要な死因の一つが自殺であることも知られている。ただし、これらの関連は主として海外での研究から報告されたもので、国内での実態は不明点が多い。

 このような背景のもと、高橋氏らは法務省法務総合研究所と国立精神・神経医療研究センター薬物依存部が共同で行った薬物使用犯罪者を対象とする調査のデータを用いた解析を行った。解析対象は、2017年7~11月に覚醒剤(メタンフェタミン)使用により全国78カ所(医療刑務所以外)の刑務所に入所した受刑者のうち、調査への参加拒否者や回答に不備のあった者を除外した636人。

 質問票により、18歳以前のACE体験の有無を調査。家庭機能に関する7項目(保護者の飲酒、薬物乱用、精神疾患、死別や離婚、受刑、家庭内暴力など)と、虐待に関する5項目(身体的虐待、心理的虐待、性的虐待、ネグレクトなど)、計12項目を把握し、0~12点にスコア化して評価した。また、希死念慮およびNSSIの有無を把握した。NSSIについては、「自殺するつもりがなく、故意に自傷行為をしたことがあるか」との質問への回答で判断した。

 解析対象者は、平均年齢43.4±10.0歳、男性65.7%、累犯者73.7%であり、性別での比較からは、男性の方が高齢で未婚者が多く、累犯者率が高いという有意差が見られた。全体の4人に3人以上(76.1%)に一つ以上のACE体験が認められ、半数以上(54.1%)は複数のACE体験を報告していた。なお、先行研究によると、国内の一般人口のACE体験を有する割合は32%、世界21カ国の平均は38%とされており、今回の研究ではそれらよりもはるかに高い値が示された。

 ACEスコアは平均2.45±2.36で、女性(3.26±2.56)は男性(2.03±2.14)より有意に高値だった(P<0.01)。最も多く認められたACEは、親との死別または離婚であり、53.5%が該当した。希死念慮は28.9%(男性20.3%、女性45.4%)、NSSIは19.3%(男性8.1%、女性40.8%)が有しており、女性においてそれらの割合が高かった(いずれもP<0.001)。

 希死念慮を目的変数、年齢、性別、過去の受刑回数、ACEスコアを説明変数とするロジスティック回帰分析の結果、女性〔調整オッズ比(aOR)2.84(95%信頼区間1.94~4.16)〕、ACEスコア〔aOR1.18(同1.09~1.27)〕が、それぞれ独立して希死念慮を有することに関連していることが分かった。また、NSSIについては、女性〔aOR6.96(同4.39~11.18)〕とACEスコア〔aOR1.18(同1.08~1.28)〕が有意な正の関連因子、年齢〔aOR0.96(同0.93~0.99)〕が有意な負の関連因子として特定された。希死念慮とNSSIを統合した解析では、女性〔aOR5.84(同3.36~10.17)〕とACEスコア〔aOR1.21(同1.10~1.34)〕が有意な関連因子だった。

 著者らは、「われわれの研究結果は、トラウマ体験に対する早期の予防と介入の重要性を示唆している。また、世代間の虐待の連鎖を断ち切るために、特に女性受刑者に対してジェンダーの特性を考慮した介入が必要と考えられる」と述べている。さらに、「現在、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによりメンタルヘルス関連の問題が増加しており、違法薬物使用の潜在的なリスクが高まっているため、この問題への対策が急がれる」とも付け加えている。

[2022年8月29日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら