アナフィラキシーの認識と対応にはいまだ課題も

アナフィラキシーは、ごく微量であっても、ピーナッツなどの食物アレルゲンに対して突然生じる重篤なアレルギー反応で、生命を脅かすこともある。このほど、米国アレルギー・喘息・免疫学会年次総会(ACAAI 2024、10月24〜28日、米ボストン)で発表された2件の研究から、米国のアナフィラキシーへの対応プロトコルには州によりばらつきがあり、その多くは不完全で時代遅れであること、また、アレルギーを持つ人やその介護担当者の多くが、アナフィラキシーが生じた際に、どの時点で何をすべきかを正しく理解していないことが判明した。
1件目の研究は、米ベイラー医科大学の免疫学・アレルギー・レトロウイルス学部門のSasha Alvarado氏らが、アレルギークリニックの待合室で96人の患者を対象に実施した調査結果に基づくもの。この調査は、アナフィラキシーに対する知識やアナフィラキシーが起きた際に必要とされる行動計画の要素を評価するためのものだった。
その結果、95.8%の患者にエピネフリン(アドレナリンと同義、アナフィラキシーの症状悪化を抑える補助治療であるエピペンの有効成分)が処方されており、73%はアナフィラキシーの症状を認識することに「慣れている」と回答していた。しかし、エピネフリンが必要な症状について正しく把握できていたのはわずか14%に過ぎなかった。アレルゲンに曝露した可能性があり、発疹や喘鳴などの症状が現れている場合には、64.5%がエピネフリンを自己注射すると答えたが、10.8%は最初に救急治療室(ER)を受診すると回答した。エピネフリンの使用を躊躇する理由としては、どの症状を治療すべきか不明(40.6%)、ER受診への躊躇(24%)、911に電話することへの躊躇(17.7%)、エピネフリンの自己注射器の使用法が不明(11.5%)、注射針への恐怖心(5.2%)が挙げられた。
Alvarado氏は、「アナフィラキシーを早期に認識してエピネフリンで治療すれば、転帰改善につながることは分かっている。この調査結果は、アレルギー患者がアナフィラキシーを適切に認識して治療するために、より良い教育が必要であることを示している」と述べている。
米メモリアルヘルスケアシステムのCarly Gunderson氏らによる2件目の研究では、アナフィラキシー発生時に何をすべきか混乱するのは患者だけではないことが示された。この研究では、米国30州のアレルギー反応やアナフィラキシーへの対応プロトコルを調査し、アナフィラキシーの認識におけるギャップの有無や救急医療の改善点について評価した。
その結果、アナフィラキシーの定義さえも州によってさまざまであり、定義に胃腸症状を含めたプロトコルを採用していた州はわずか半数(50%)、発作の特定に役立つ神経症状を含めていた州はわずか40%であることが明らかになった。また、治療に関しても、州によって手順が異なっていることも判明した。97%の州が、アナフィラキシーの第一選択治療としてエピネフリンを推奨している一方で、エピネフリンの自己注射器の使用を認めている州は57%(17州)にとどまっていた。また、呼吸器症状がある場合の対応として、90%の州(27州)でアルブテロール、73%の州(22州)で点滴、60%の州(18州)でステロイドが推奨されていた。
研究グループは、「エピネフリン自己注射は便利で効果的であるにもかかわらず、多くのプロトコルでは許可されていない」と述べている。また、ステロイドの使用については「時代遅れの推奨だ」と指摘している。
なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。
[2024年10月25日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
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