習慣的に運動をしていた健康な53歳の男性を襲った心臓発作―AHAニュース

53歳の米国人男性、Ed Frauenheimさんは、サンフランシスコの丘陵地帯をしばしばウォーキングしていた。ある夏の日、彼はお気に入りの公園の急な坂を、いつものように大股で上った。上りは息が切れたが下りは楽だった。しかし、下り坂の途中で胸が締め付けられ、吐き気とめまい、立ちくらみに襲われた。そのまま気を失ってしまうのではないかと心配になり、歩道の脇にそれて数分間休んだ。すると、それらの症状はなくなった。
家に帰り、妻のRowena Richieさんにそのことを話すと、彼女は深刻に捉えず、「朝食が少なかったか、水分が不足していたのでは?」と答えた。Frauenheimさんも「そうかもしれない」と思い、一度は仕事にとりかかったが、やはり気になり、健康保険会社が提供している電話相談に電話してみた。応対した看護師は、直ちに救急外来を受診するように勧めた。
血液検査の結果、トロポニンの上昇が分かり、心臓発作を起こしている可能性が示唆された。心電図の所見も同じことを示していた。医師は、「軽い心臓発作を起こしたようです」と話した。Frauenheimさんは、医師の目を見つめ次の言葉を待った。「あなたが今、多くのことを理解し受け入れるのは大変なことだと思います。大丈夫、われわれが付いています。あなたは最も安全な場所にいます」と医師は説明した。その瞬間まで、Frauenheimさんは、自分は強くあるべきだとストイックに考え続けていた。しかし、その感情のせきが切れると同時に、涙があふれ始めた。
彼は引き締まった体格を維持し、ウォーキングに加えて水泳やヨガも続けていた。心臓発作という診断に驚きつつ、恐怖が体を駆け巡った。妻と2人の10代の子どもを残して、自分は死ぬのだろうか?
翌日の心臓カテーテル検査の結果、Frauenheimさんの心臓発作は冠動脈の攣縮(血管の痙攣による閉塞)によるものと判明した。冠攣縮が長時間続くと心筋にダメージが生じることがある。Frauenheimさんの心臓にもそれが起きていた。少量のニトログリセリンの投与によって、冠攣縮が解除されることも確認された。
医師は、一般的な冠攣縮の原因として、薬物、喫煙、ストレスが挙げられると話した。最初の二つは彼には当てはまらなかったが、ストレスは確かに抱えていた。彼は長年、不安症を患っており、パニック発作を起こしたこともあった。また、半年ほど前に会社勤めをやめて、個人事業主として働くようになっていた。数多くのやりがいのあるプロジェクトに取り組んでいたが、その結果、仕事に膨大な時間を充てるようになっていた。
退院後にもFrauenheimさんの心臓発作再発に対する不安は続いた。その不安からパニック発作が起きてしまった。医師による徹底的な検査を受け、ようやく彼は、その症状の原因が心臓ではなく、不安によるものだと納得した。妻のRichieさんは、夫が悪循環に陥っていると感じていた。「Edは、『ストレスを感じてはいけない、絶対に感じてはいけない』と考え続けていた。もちろん、そのように考えることはストレスになる」。
Frauenheimさんはその後、仕事を減らして運動量を増やすなど、ライフスタイルをアレンジした。薬の服用を続けるとともに、精神科医の診察も受けた。彼は、男性はタフで疲れを知らない存在であるべきだという考え方にとらわれないことが、健康を取り戻す鍵だと考えている。昨年には、男性がより健康で充実した生活を送るための方法について、共著による本を出版した。その内容は、彼自身が周囲のアドバイスを受け入れる過程で経験したことだった。今では、以前とは態度や行動が変わり、人生がより充実して、より幸せになったという。「恐れを感じることが減って、家族や友人、同僚に対してより正直に、そして深く接するようになり、自分の夢を追いかけられるようになった」と彼は話している。
一方で、FrauenheimさんとRichieさんは、心臓発作を体験した後の精神的な面への影響について、もっと医師から情報を提供してほしかったと感じている。Frauenheimさんは現在、執筆活動などを通じて、心臓病を体験した男性に手を差し伸べ、“健全といえない男らしさ”を追求するために生じる問題を乗り越えるサポートをしている。「研究によると、心臓発作を含む冠動脈疾患は、男性としての自信を低下させやすいという。私の場合も、健康に対する不安を取り除くために、ただ薬を飲んでライフスタイルを変える以上のことが必要だった」とFrauenheimさんは話している。
[2023年7月5日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.
利用規定はこちら
関連記事

“睡眠”も心血管リスク因子に、循環器版「睡眠呼吸障害の診断・治療ガイドライン」改訂
医療一般(2023/04/11)

死亡・CVリスクを低下させる食事法は?40試験のメタ解析/BMJ
ジャーナル四天王(2023/04/06)

メタアナリシスで示される心血管系への緑茶の有効性【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第231回
Dr.倉原の“おどろき”医学論文(2023/04/07)
[ 最新ニュース ]

抗ヒスタミン薬が無効の慢性特発性蕁麻疹、ligelizumabの効果は?/Lancet(2023/12/08)

ACS疑い例の高感度心筋トロポニン測定、5年時の心筋梗塞/死亡を抑制/BMJ(2023/12/08)

早期TN乳がん術後化療にアテゾ追加、iDFSを改善せず中止(ALEXANDRA/IMpassion030)/SABCS2023(2023/12/08)

コロナ・インフル同時迅速検査キットを発売/Meiji Seika・ロート(2023/12/08)

ファイザーXBB.1.5対応コロナワクチン、流行中の各変異株に有効(2023/12/08)

オミクロン株感染で脳が変化、認知機能に影響か(2023/12/08)

日本の大学病院の外来における睡眠薬の処方傾向(2023/12/08)
[ あわせて読みたい ]
エキスパートが教える痛み診療のコツ(2018/10/11)
医療者向け『学校がん教育.com』(2022/12/01)
アトピー性皮膚炎・乾癬特集まとめインデックス(2022/11/11)
アトピー性皮膚炎・乾癬特集まとめインデックス(2022/11/11)
診療所売買に関心がある方に!マンガ連載をまとめた冊子プレゼント【ひつじ・ヤギ先生と学ぶ 医業承継キソの基礎 】第43回(2022/10/17)
今考える肺がん治療(2022/08/24)
あなたにとって、開業の「成功」「失敗」とは?【ひつじ・ヤギ先生と学ぶ 医業承継キソの基礎 】第42回(2022/08/09)
「後継者採用」という甘い誘いに乗ったら…【ひつじ・ヤギ先生と学ぶ 医業承継キソの基礎 】第41回(2022/07/08)
「診療所、知人に売るから大丈夫」、それ本当に大丈夫??【ひつじ・ヤギ先生と学ぶ 医業承継キソの基礎 】第40回(2022/06/06)
Dr.金井のCTクイズ 初級編(2022/05/17)