重症下肢虚血に対する血管内治療とバイパス術の予後比較

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/12/20

 

 末梢動脈疾患(PAD)に伴う重症下肢虚血(CLI)に対する血管内治療とバイパス術の予後を検討した結果から、大伏在静脈を使用できる状態ならバイパス術の方が予後が良い可能性が示された。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のMatthew Menard氏らが米国心臓協会(AHA)学術集会(Scientific Sessions 2022、11月5~7日、米シカゴ/バーチャル開催)で報告するとともに、「The New England Journal of Medicine」に論文が同時掲載された。

 米国内のPAD患者は1,000万人に上るとされている。PADでは、主として下肢の動脈の血流障害によって疼痛や歩行障害を来すだけでなく、患者の10%以上はCLIに該当していて下肢切断リスクが高く、また死亡リスクも高い。動脈硬化性疾患のうち、心筋虚血や脳卒中については、最適な治療法を選択するためのエビデンスが豊富に蓄積されているが、PADやCLIに関してはまだそのような知見が少ない。現在行われている、バルーンによる下肢動脈の拡張やステント留置などの血管内治療と、バイパス手術という二通りの治療を使い分ける基準も明確でない。

 Menard氏は、「PADの最も深刻な病態であるCLI患者の生活の質(QOL)は、一般的に非常に低下している」と解説する。このような背景の下で行われた本研究から、血管内治療とバイパス術はいずれも患者のQOLを向上させるが、バイパス術の方が予後が良いケースがあることが明らかになった。

 この研究には、米国、カナダ、フィンランド、イタリア、ニュージーランドの医療機関が参加し、国際多施設共同研究として実施された。研究対象は、18歳以上のCLI患者1,830人。大伏在静脈をバイパスに使用可能な患者はコホート1に割り当て、大伏在静脈を使用できずバイパス術の施行にはその他の代用血管が必要な患者はコホート2に割り当てた。その上でコホート1・2ともに無作為に、バイパス術群、血管内治療群のいずれかに割り付けて治療を行い、再治療の施行、足首からの上での下肢切断、および全死亡を主要評価項目として、両群を比較した。

 コホート1では中央値2.7年の追跡で、バイパス術群では709人中302人(42.6%)、血管内治療群では711人中408人(57.4%)に主要エンドポイントが発生し、バイパス群の方が良好だった〔ハザード比(HR)0.68(95%信頼区間0.59~0.79)、P<0.001〕。一方、コホート2では中央値1.6年の追跡で同順に、194人中83人(42.8%)、血管内治療群199人中95人(47.7%)にエンドポイントが発生し、有意差がなかった〔HR0.79(0.58~1.06)、P=0.12〕。有害事象の発生率は、コホート1・2ともに群間差はなかった。なお、術後の聞き取り調査により、両群ともに疼痛改善やQOL向上が認められた。

 この研究報告に関連して、米ボストン大学のNaomi Hamburg氏は、「いくつかの重要なポイントが浮かび上がった。まず、QOLについては、バイパス術と血管内治療の双方で向上することが分かった。また、バイパスに使用できる十分な大伏在静脈があるのであれば、低侵襲の血管内治療よりもバイパス術の方が長期的な予後が良いことが示された」と語っている。また、「医師はCLI患者に対して両方の治療を選択肢として示すべきだ」とし、さらに、「血行再建の手段が残されているにもかかわらず、それを提示されないまま下肢切断が施行されているケースも少なくない」と現状の課題を指摘。

 Hamburg氏はまた、「下肢切断が必要と言われたら、血流を回復させる方法がないか医師に質問すべき。医師はバイパス術か血管内治療か、どちらか一方の治療法を示すことが多いが、患者はほかに方法がないか確認して、どちらを選択すべきかを相談することが大切だ」とアドバイスしている。

[2022年11月9日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら