小児期の被虐体験が成人後の心不全リスクを高める可能性―AHAニュース

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/10/27

 

 子どもの頃に受けたトラウマ、特に身体的虐待の体験が、後年の心不全リスクを高める可能性のあることが、新たな研究から明らかにされた。詳細は「Journal of the American Heart Association」に10月5日掲載された。

 これまでの研究から、子ども時代のトラウマと、成人後の心血管疾患やその他の健康リスクとの関連が報告されている。しかし、心不全との関連についてはほとんど研究されていなかった。心不全は、心臓が体の隅々に十分な血液を送り届けることができない状態であり、米国では約600万人の成人が該当すると考えられている。

 新たな研究では、英国の成人15万3,287人を対象に、小児期の被虐体験の有無や心不全の遺伝的素因と、心不全リスクとの関連が検討された。約12年間の追跡で、2,352人が心不全を発症。小児期の身体的虐待、情緒的虐待、性的虐待、ネグレクトなどの被虐体験がある人の心不全リスクは14%高く、3~5種類の虐待を受けた経験のある人は43%リスクが高かった。心不全の遺伝的リスクが低い人でも、小児期の被虐体験がある場合、心不全リスクの上昇が認められた。

 論文の共同責任著者の一人で心臓病専門医である広東省人民病院(中国)のQingshan Geng氏は、「われわれの研究結果は、子ども時代の被虐体験がその後の人生における心不全の新たな予測因子となり得ることを示唆している」と語っている。また、「心臓病専門医が精神科医や心理学者と緊密に協力して、心疾患の予防・治療戦略を改善する必要がある」と述べるとともに、被虐体験を持つ人々に対しては、自分の健康をより積極的に管理することを勧めている。もう一人の共同責任著者である広州医科大学附属病院(同)の精神科医であるJihui Zhang氏も、「小児期にトラウマとなるような体験をした人は、身体活動を増やして普通体重を維持するなど、ライフスタイルを改善して将来の心不全のリスクを抑制するように努めた方が良い」と語っている。

 この研究で示された心不全リスクの上昇を被虐体験のタイプ別に比較すると、身体的虐待が最も強い独立した関連があり(32%増)、続いて情緒的虐待(26%増)、身体的ネグレクト(23%増)、性的虐待(15%増)、情緒的ネグレクト(12%増)の順だった。なお、Zhang氏は本研究の限界点として、因果関係は不明であること、および、小児期の被虐体験を小児期に記録したのではなく、成人後の記憶を頼りに評価している点を挙げている。

 2017年に米国心臓協会(AHA)が、小児期の逆境と心血管代謝疾患との関連についてまとめた科学的ステートメントの作成委員会を統括した、米エモリー大学のShakira Suglia氏は、本研究について、「被虐体験の長期的な影響に関する新たなエビデンスであり、これまであまり着目されていなかった遺伝的リスクも考慮されている」と高く評価。その上で、「今後は小児期の被虐体験の影響を和らげる方法の研究が求められる」と語っている。なお、同氏自身は今回の研究に関与していない。

 Suglia氏はまた、「この研究は、安全で配慮の行き届いた育成の重要性を、両親や他の大人たちに再認識させるものだ。子どもたちは、そのような安定した環境で成長すべきであり、子どもが何らかのトラウマを体験した場合はその悪影響が現れないように、必要な全てのサポートを確実に行う必要がある。それは単に心疾患のリスク抑制のためだけでなく、子どもの精神的健康、幸福、健全な発育のために必要なことだ」と付け加えている。
[2022年10月5日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.
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