認知症の脳卒中患者は高度な治療を受ける確率が低い

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/09/20

 

 血管の閉塞により生じる脳卒中(急性虚血性脳卒中)を発症した認知症の人は、認知症のない人に比べて、機械的血栓回収療法を受ける確率が低いとする研究結果が報告された。この研究を率いた米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)David Geffen医学校のHamidreza Saber氏は、「この研究は、認知症の有無にかかわらず、急性虚血性脳卒中による入院に関して、全米規模で調べた最初の研究の1つだ」と述べている。詳細は、「Stroke: Vascular and Interventional Neurology」に8月24日掲載された。

 機械的血栓回収療法では、デバイスを使って大血管から血栓を取り除き、脳への血流を回復する。特に、脳卒中の発症から6時間以内にこの治療を行うことは、大きな血管の閉塞を伴う脳卒中患者にとって「意義のある絶対的なベネフィット」をもたらすことが、過去の研究で明らかにされている。

 今回の研究では、2016年10月から2017年12月までの急性虚血性脳卒中患者約18万人の入院データが調査された。その結果、急性虚血性脳卒中の重症度が上がるほど、そこに含まれる認知症患者の割合も増えることが明らかになった。また、機械的血栓回収療法が実施された患者の割合は、認知症のない患者で6%であったのに対して、認知症患者ではわずか3.4%にとどまっていた。これに対して、発症から4.5時間以内に静注血栓溶解薬が投与された患者の割合については、認知症のある患者とない患者の間で違いは認められなかった。

 さらに、機械的血栓回収療法を受けた認知症患者では、脳卒中の重症度や年齢、既往歴などを考慮した後でも、入院中の死亡率が上昇することはなく、また、退院時の転帰が良好となる可能性が低下することもなかった。

 こうした結果についてSaber氏は、「今回の研究から、認知症患者に機械的血栓回収療法を実施しても必ずしも転帰不良となるわけではないにもかかわらず、認知症患者は高確率でこの治療法から除外されていることが明らかになった」と主張する。

 米国心臓協会(AHA)/米国脳卒中学会(ASA)の最近の科学的声明によると、虚血性脳卒中患者の約10人に1人は認知症を患っている。同声明では、脳卒中対応チームが「治療ジレンマ」に直面していることが説明されている。「治療ジレンマ」とは、脳卒中の発症前から認知症や能力障害を持っていた人々に対する脳卒中のケアの指針となるような研究データが不足している状況を指す。

 また、脳卒中対応チームは、機械的血栓回収療法を行うことで、認知症の脳卒中患者に脳出血が生じる可能性を恐れていることも考えられる。実際にこの研究では、機械的血栓回収療法で治療された認知症患者では、脳を含む頭蓋内出血を発症する確率が高かった。研究グループは、「この出血リスクの増加は、認知症によって引き起こされた別の血管の変化に起因している可能性がある」と指摘している。

 研究グループは、今回の研究の限界点として、入院データからは、どの患者が機械的血栓回収療法の対象とされたのか、また、脳卒中の発症から病院でケアを受けるまでにどの程度の時間がかかったのかを特定できなかった点を挙げている。

 認知症患者の脳卒中治療に関する最近の科学的声明の著者の1人である、今回の研究には関与していない米マイアミ大学臨床神経学分野のGillian Gordon Perue氏は、「これは大変興味深く、また驚くべき結果だ。入院ケアに関する包括的な保険ベースのデータを用いて、認知症の有無にかかわらず、米国の病院での虚血性脳卒中治療に関する現実をスナップショット的に切り取った初めての研究だ」と高く評価する。

 Gordon Perue氏によると、脳卒中患者の血流を回復させる治療法に関するランダム化比較試験では通常、認知症患者は除外されている。そのため、「3カ月後に認知症患者がどうなるのかは不明」なのだという。同氏は、「今後の臨床試験には対象者に認知症患者を含め、長期的な転帰を見るべきだ」と主張している。

[2022年8月24日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.
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