深い悲しみは心不全患者の心臓をさらに悪化させる可能性

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/08/01

 

 愛する人の死によってもたらされた深い悲しみが原因で死に至ることはあり得るのだろうか?
 このほど明らかになったスウェーデンの研究によると、もし深刻な心疾患があるなら、その答えは「イエス」と言えるようだ。カロリンスカ研究所(スウェーデン)のKrisztina László氏らによる50万人弱の心不全患者の約30年にわたるデータの解析から、家族を亡くす経験をした心不全患者は、その後約4年間に心不全が原因で死亡するリスクが5~20%高いことが示された。この研究結果は、「JACC: Heart Failure」に7月6日発表された。

 この研究結果についてLászló氏は、「近親者の死を経験した心不全患者、特にその経験から間もない患者には、家族や友人、医師たちがよりいっそうの注意を向ける必要があることが示唆された」と話している。

 心不全は進行性に悪化する慢性疾患で、心臓のポンプ機能が低下して身体が必要とする血液や酸素を十分に供給できなくなる病態だ。László氏らによると、現在、世界には6400万人以上の心不全患者がいると推定されているという。

 László氏らは今回、スウェーデンの心不全患者レジストリ(Swedish Heart Failure Registry)で収集された2000~2018年のデータと、スウェーデンの全患者レジストリ(Swedish Patient Register)の1987~2018年のデータを用いて、49万527人の心不全患者における家族(子どもやパートナー、孫、親、きょうだい)の死が心不全による死亡リスクに与える影響について調べた。

 平均追跡期間3.7年の間に5万8,949人(12%)が家族を亡くしていた。解析の結果、家族を亡くした経験がある心不全患者では、心不全による死亡リスクが有意に高いことが明らかになった。ただ、リスクの程度は死亡家族と患者との関係によって異なっていた。例えば、夫あるいは妻、パートナーを亡くした場合、心不全による死亡リスクは20%の上昇が認められたが、きょうだいを亡くした場合には13%、子どもを亡くした場合には10%、孫を亡くした場合には5%のリスク上昇であった。

 また、心不全による死亡のリスクが特に高まるのは家族を亡くした直後で、家族の死から7日以内に同リスクは78%上昇していたことも分かった。7日以内の同リスクの程度は、死亡した家族との関係によっても異なっており、子どもを亡くした場合で31%、配偶者あるいはパートナーを亡くした場合では113%上昇していた。

 さらに、家族を1人亡くした場合よりも2人亡くした場合の方が、心不全による死亡リスクが高いことも示された。同リスクは、1人亡くした後には28%、2人亡くした後には35%の上昇が認められた。

 その一方で、親の死に関しては、心不全による死亡リスクの上昇は認められなかった。この点について、László氏は「今回の解析対象となった心不全患者は年齢がある程度高く、親の死はライフサイクルを考えたときに予測の範囲内であったことが要因かもしれない」との見方を示している。

 László氏らは、家族を亡くした後の全般的な心不全による死亡リスクの上昇には、遺伝的要因や生活習慣に関わる要因が影響した可能性も考えられるとしている。その上で同氏は、「それでも、家族を亡くし、失意の状態に陥ったことで心不全に対する脆弱性がもたらされたことが考えられる。それには、“ストレス関連の機序”が関わっている可能性もある」と話している。

 この研究には関与していない米アーマンソンUCLA心筋症センター所長のGregg Fonarow氏は、「以前から多くの研究で、一般集団において配偶者などの近親者の死と死亡リスクの上昇との間に関連が示されていたが、心不全患者に絞って検討した研究はなかった」と説明。その上で、「家族を亡くした心不全患者に対してサポートを強化することで死亡リスクを低減できるかどうかを明らかにするために、さらなる研究が必要だ」と述べている。

[2022年7月6日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら